八幡と長門 (48)

平塚「君は今日から文芸部に入部してもらう」

八幡「いやです。お断りします」

平塚「即答だな。だが、君に拒否権はないよ」

八幡「意味がわかりません」

平塚「まあいいから、ちょっとついて来たまえ」

八幡「え・・っちょ」

八幡(凄い力だ・・振りほどけない)

平塚「入るぞ」

長門「・・・」チラッ

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平塚「長門、新入部員を連れてきた」

平塚「栄えある文芸部員第二号の比企谷だ」

八幡「いや、入部するなんて一言も・・・」

平塚「じゃあ、あとはませたぞ」

八幡「え?待ってくだ・・・」

ガラガラ

八幡(おいおいおい)

長門「・・・」

八幡(いきなり過ぎて頭の整理ができない)

八幡「座ってもいいか?」

長門「・・・」(首を縦に振る)

八幡「・・・」

長門「・・・・」

八幡(さっきから沈黙が続いて気まずい)

八幡「・・・」チラッ

八幡(完全に本に集中している。俺なんて眼中になしか)

八幡(俺はこの女を知っている)

八幡(情報技術科2年A組、男子が9割を占めるそのクラスは)

八幡(偏差値が高く、地味な理系男子が集まるクラスとして知られている)

八幡(その中で異彩を放っているのが、”長門有希” 学内誰もが知る有名人だ)

八幡(噂では、学内では誰とも接点がなく、いつも一人行動をしてるらしい)

八幡(しかし、その才能ゆえ男子からは一目おかれ、「姫」と呼ばれていると聞く)

八幡「何読んでるんだ?」

長門「・・・これ」

八幡「ハイぺリオン・・・面白いのか?」

長門「・・・ユニーク」

八幡「そうか」

長門「・・・そう」

八幡「・・・」

長門「・・・」

八幡(だあああ、次なんて続ければいいんだよ!)

八幡(そもそも、この状況はなんだ)

八幡(放課後の部室、夕焼け、健全な高校生男子と女子、眼鏡をかけた小柄な女の子)

八幡(おかしい、ベリーハードモードじゃないか)

八幡(なんか気分が悪くなってきた)

八幡(・・・帰ろう)

八幡「すまん、急用を思い出した。今日は帰るから」

長門「・・・そう」

八幡「ああ、じゃあな」

八幡(明日平塚先生に言って、やっぱり辞めさてもらおう)

長門「・・・待って」

八幡「え?」

長門「これ」

八幡「なんだこの紙は、・・・入部届け?」

長門「そう」

八幡「いや・・・でも俺は」

長門「・・・」

長門「明日も同じ時間に部室を開けておく」

八幡「・・・分かった」

八幡(なんで俺、分かったとか言っちゃってんの?馬鹿なの死ぬの?)

次の日の放課後

八幡(部室の前まで来てしまった)

八幡(一応は来てみたものの、やっぱりやめようたほうがいいのでは?)

八幡(そもそも、女子部員一人に対してなぜ男子部員が補充される)

八幡(増員するなら女子部員じゃないのか?)

八幡(仮に何かの間違いで男子部員が補充されるにしても)

八幡(俺はが選ばれるのは、明らかにおかしい)

八幡(さわやか系のイケメンとか、誰にでも分け隔てなく接するイケメンとか)

八幡(イケメンとかイケメンとかイケメンとかが適任だろう)

八幡(おかしい。これは間違いなく、陰謀だ、罠だ、詐)

長門「・・・入れない」

八幡「ん?」

長門「・・・中に入って」

八幡「すまん」

八幡(部室の前に仁王立ちになってたのか)

八幡(変な奴と思われただろうな)

長門「・・・」

八幡(また、本を読んでるのか)

八幡(・・・俺も何か読むかな)

八幡(確か、鞄に文庫本が入ってたな)ガサゴソ

八幡(ん?なんだこれ、紙?・・・あ、入部届)

八幡(すっかり忘れてた。さて、どうしたもんか)

八幡「長門、ちょっといいか?」

眼鏡の奥の大きな瞳が、こちらに向く。
長門は静かにコクリと頷いた。

八幡「平塚先生が俺のこと第二号って言ってたけど」

八幡「文芸部員って、長門ひとりなの?」

長門「そう、去年3年生の先輩が卒業してから、文芸部員は私一人」

八幡「いつもどんな活動しているんだ」

長門「放課後の16時~18時半まで、図書館で借りた本を読んでいる」

八幡「他には?」

長門「市民図書館で借りた本を読んでいる」

八幡「えっと・・・他は?」

長門「○×大学の図書館で借りた本を読んでいる」

八幡(大事なことなので三回言いました)

八幡(つまり、本しか読んでねぇのかよ!)

八幡「文芸部って読書以外にやることないのか?」

長門「知らない」

八幡「3年生の先輩がいたときはどうしてたんだよ」

長門「私はあったことがない」

八幡「へ?どういことだ」

長門「私がこの部屋で逢ったことがある人は二人」

長門「あなたと平塚先生だけ」

八幡「まさか・・・幽霊部員」

長門「そう」

八幡(「そう」って、そんな平然と。おそろしい子、有希)

八幡(つまり、こいつはこの1年間、正確には・・・今は10月だから1年半か)

八幡(放課後、ずっとこの部屋で一人きりだったことになる)

八幡「さびしくないのか?」

長門「別に」

八幡「・・・そうか」

八幡(平塚先生が俺をここに連れてきた理由が、なんとなく分かった気がする)

ガラガラ

平塚「開けるぞー!」

八幡「既にドア開けてから言ってるし」

平塚「比企谷、ちゃんと来ているな関心、関心」

平塚「どうだ?文芸部は?」

八幡「どうだと言われても・・・」

八幡(文芸部2日目、活動内容:読書、それ以外何もやっていない)

八幡「先生、そもそも俺は入るとはま・・・」

平塚「来月!君たちは、来月何があるか知っているか!!」

八幡「ボジョレヌーボーが解禁しますね」

平塚「ちがーう!そもそも君は未成年だろ!!」

八幡「まさか、平塚先生」

平塚「なんだね?」

八幡「ご結婚おめでとうございます!!」

平塚「よーし比企谷、歯をくいしばれ!!」

八幡「じょ、冗談ですって」

平塚「・・・」

八幡(やばい、目がマジだ・・・最後に小町の手料理が食いたかったよ)

長門「文化祭」

平塚「長門君、リーピートアフタミー」

長門「よーし比企谷、歯を食いしばれ」

八幡「!?」

八幡「先生、それだと、私の後に続けてもう一度言えってことですよ」

平塚「すまん、間違えた」

八幡(しかし、長門よ。真顔で言うから本気かと思ったぞ)

八幡「文化祭って言ってもらいたかったんですか」

平塚「そうだよ!文化祭だよ!高校生活最大のイベントにして、人生の思い出作りのピーク」

八幡「いや、それは人によってそれぞれでしょ」

平塚「いやそんなことはないぞ、私はかれこれ20ゴホッ、ゴホッ年い生きているが」

八幡(流石ににごしますよね。八幡は優しいから、そこは深く突っ込まないよ)

平塚「思い出と聞かれてすぐに思い浮かぶのは、高校の文化祭だ」

八幡「あきからに先生の価値観な気がするんですけど・・・」

平塚「どんな思い出か聞きたいか?」

八幡「いえ、特に」

平塚「どんな思い出か聞きたいか?(威圧」

八幡「・・・」

俺は返答に困って長門を見たが、長門は俺を見つめ返してくるだけで
特に何もしゃべってくれない。

「あひゃ」とか「うほっ」とか、なんでもいいから適当な奇声をあげてくれれば
どうにかなったものを。いや、無理か。俺は平塚先生に視線を向きなおし、心を決めた。
こうなっては道はひとつしかない。

平塚「どんな思いで(ry」

八幡「はい!!ぜひ、聞ききたいです!」

中学校の入学式で名前を呼ばれて以来、久々に腹からいい声が出た気がする。

平塚「あれは私が高校2年生のときだ」

八幡「わー(棒」

長門「・・・」

平塚「私には好きな人がいてな、初恋だった・・・同じクラスの中島君」

八幡(いそのー野球しようぜ!!)

平塚「前夜祭、クラスの出し物がお化け屋敷でな」

平塚「最終準備でみんな夜遅くまで残っていたんだ」

八幡(長門さん、読書に集中し出すのはやめようね)

平塚「その中に当然中島君もいた」

平塚「文化祭で柄にもなく、浮足立ってたんだろうな」

八幡(平塚先生はまぎれもなく、祭柄です)

平塚「中島君に告白するなら今しかないと思ってしまったんだ」

八幡「青春ですね(迫真」

八幡「で、どうなったんです?」

平塚「よく聞け、比企谷。一生懸命努力したから必ず結果はついてくる」

平塚「能力があるから出世する、なんてのは大間違いだ」

平塚「努力したって運がなくて、結果がでないときもある」

平塚「能力があっても、環境によっては評価されない場合だってある」

八幡(夢見る高校生に向かってなんてこと言ってんのこの人。俺は夢見てねぇか)

八幡「は、はぁ・・・どういことです?」

平塚「さっしが悪い男は、女にもてないぞ」

八幡「・・・」

八幡(今の話を総合すると、平塚先生は中島君に告白したけども)

八幡(結果がでなくて評価されなかったわけだから・・・つまり)

長門「振られた」

平塚「ぐはっ」

八幡(内角高めのストレート、いや頭部への危険球だな)

八幡「全然いい思い出じゃないですよね」

平塚「私はいい思い出などとは一言も言ってないぞ」

平塚「良くも悪くも高校時代は思い出作りのピークと言ったんだ」

八幡「自ら黒歴史を作りに行けって言うんですか」

平塚「何もないよりは、あったほうがいいだろ?致命傷にならない範囲でだがね」

八幡(平塚先生のは致命傷では・・・)

八幡(それに黒歴史については、これ以上傷を増やすしたくないんですが!)

平塚「ほら、よく誰かが言ってるじゃないか、若者は谷ライオンに谷底へ蹴り飛ばされろと」

八幡「ちょっと違う気が・・・」

平塚「とにかく、文化祭だ!!」

八幡「文化祭って言っても具体的に何やるんです」

八幡「何かやろうにも明らかにマンパワーが不足してますよ」

平塚「その点は抜かりない、すでに君たちがやることは決めてある」

八幡(達?やっぱり俺も頭数に入っちゃってる感じ!?)

平塚「ずばりだな、君たちには『お話』を1本作ってもらいたい」

八幡「『お話』・・・?」

長門「・・・」(平塚先生の方を向く)

平塚「そう、お話!君たちには脚本家になってもらう」

平塚先生は目を輝かせ、20ゴホゴホ歳とは思えない純真無垢な笑顔を浮かべていた

そこからは、先生の30分にわたるプレーゼンテーションが開始された。
俺はいつも以上に濁った目と引きつった顔で、先生の話聞き、
長門は長門で、涼しい表情を崩さず、饒舌に話す先生をじっと見つめていた。

つまりこういうことらしい。
総武高校の演劇部(通称:劇団チーバ)は、毎年文化祭で定期公演をやっているらしい。
なんでも30年前から続く伝統行事だそうで、これを楽しみに文化祭へ足を運ぶ人もい
るとかいないとか。1年通ってたけど、その部の存在すら気付かなかったな。

八幡「それで、その千葉さんがなんで文芸部に?」

平塚「チーバだぞ、比企谷」

八幡(正直どっちでもいい)・

長門「戦艦長門だ。よろしく頼む」

八幡「ああ、こちらこそ」

八幡(かくして俺は、提督になったのであった)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月07日 (火) 23:50:59   ID: uP3D32fo

面白い!最後まで頑張ってください!

2 :  SS好きの774さん   2014年10月17日 (金) 23:07:42   ID: tpgt786o

面白い。続き期待!

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