のび太「巨人が攻めてきた!!!」(375)

のび太の住む町、東京都練馬区の月見台に全長60メートル超の超大型巨人が現れた。

月見台の『ウォール・ノビタ』によって護られていたこの町に、再び悪夢がやってきた。

巨人「」ズシン…ズシン…

のび太「う、うわあああ!ど、ドラえもん!どうしよう!」

ドラえもん「あ、あわわわわ」


プチ


のび太「あ、ドラえもん死んだ」

【第一部】

しずか宅(風呂場)

ズシン…ズシン…

しずか「フンフンフーン……ん?何の音かしら」

ズシン…ズシン…

しずか「騒々しいわ」

ドーン!!!

しずか「きゃああああああ!!!」

しずか「私の家が破壊された!?」

巨人「」ヌッ

しずか「――――ッ」ドクン

しずか「キャアアアアアアアアアアアア!!!」タタタタッ



しずか「逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、」タタタタッ

しずか「そんな…巨人が…?まさか……」

しずか「ウォール・ノビタが、破壊されたって言うの?」


スネ夫宅前

スネ夫「今日は空き地に行ってラジコンで遊ぶんだ」

スネ夫「どれで遊ぼうかなあ…最近買ってもらったこれにしようかな」

スネ夫「そうだ、空き地まで操作していこう」

ブーン……

スネ夫「おお、よく飛ぶよく飛ぶ。やっぱりかっこい」

バァン!!

スネ夫「」


巨人「」ヌッ

スネ夫「ひ、ヒャアアアアアアアア!」

スネ夫「そ、そんな…まさか……!」

スネ夫「巨人じゃないかッ!」

巨人「」ズシン…ズシン…

スネ夫「う、うわあああ、殺されちゃうよ!ま、ママああああ!」

スネ夫ママ「なあに、スネちゃま」

プチ

スネ夫「あ、ママ死んだ」


しずか「キャアアアアアアアアアアアア」タタタタ

スネ夫「!?」

スネ夫「ろ、路上を裸で走る美少女がいる!追わねば!!」


ラジコン「」
スネ夫ママ「」チーン


スネ夫「…、……、」

スネ夫「今は裸の美少女が先だ!!」タタタタッ


空き地

ジャイアン「俺はジャイアン~ガキ大将~」ウォンウォン

ズシン…!ズシン!……

『じ、ジャイアンの歌声で天地が悲鳴を上げている…!』

『ついに地を震わせるほどの歌声を身に付けたのか……』

『バカ言え!あれを見ろ!!』

ジャイアン「~♪~♪」

『じ、ジャイアン!』

ジャイアン「――あ、何だ何だ、人が気持ち良く歌ってるところを」

『巨人だ!!!』


ジャイアン「何!?誰が巨人だってェ!?」

『み、皆、逃げろォ!!』

『う、うわああああ』

『ジャイアンも早く!』

ワーワー…

ジャイアン「な、何だってんだお前ら…巨人なんかいる訳ねえだろ。この町はウォール・ノビタのご加護が」

巨人「」ヌッ


ジャイアン「――――!」ドクン

巨人「」グオオオオ!!

『ジャイアンが!』

『あ、あの巨大な足で!』

『踏みつぶされる!!』

『逃げろジャイアーン!!』


ガシッ


巨人「……!」





ジャイアン「…………ふう」


『受け止めた…?』


ジャイアン「でえええやああああ!!」グオッ!!

巨人「ぬ…………ガ……」フラッ

ズシーン!!!

『し、信じられねえ!』

『ゆうに30メートルはある巨人を押し返しやがった!!』

『なんてパワーだ!』


ジャイアン「お前ら早く逃げろ!!俺はのび太と合流する!」


のび太宅付近

巨人「」ズシン…!ズシン!……


のび太「ドラえもんが…死んだ……」

のび太「そんな…」

のび太「これじゃ、唯一味方してくれるドラえもんがいないんじゃ…」

のび太「社畜の運命から逃れ、引きニートとして日々を優雅に過ごす未来が、僕の理想が、無くなってしまったことに…」

のび太「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!そんなの嫌だ!」

のび太「働きたくない!」


巨人「グアアアアアアアア!!!!」ズシン!ズシン!

のび太「……」

巨人「グアアアアアアアア!!!!」

のび太「……」

巨人「グアアアアアアアア!!!!」




のび太「…さっきから」

のび太「オレを上から見下してんじゃねェぞ」


ズバッ!!!


町中

巨人「ガアアアアアアア!!!!!」

しずか「きゃああああああ、変態ー!!追い掛けてこないでー!」

ズシン!ズシン!ズシン!

巨人「ガアアアアアアア!!!!!」

スネ夫「ガアアアアアアア!!!!」


しずか「きゃああああああ!!……」

しずか「あああああ…」

しずか「…」

スネ夫「ガアアアアアアア!!!!」

しずか「あァ?」


しずか「なんか妙なの混じってんじゃねェか…?あァ!?」

スネ夫「ガアアアアアアア……し、しまった。バレた!」


しずか「人様の裸見て鼻息荒くしてんなこのクソ猿がぁアアアア!!」ブオン!

スネ夫「」ヒュッ!

しずか「わ、私の蹴りを…いともたやすく」

スネ夫「」ヒュッ

モミモミ

しずか「きゃああああああ!!」

スネ夫「顔を赤くしてるところ悪いけど…」

スネ夫「遊んでる場合じゃ、ない」

しずか「ミンチにすんぞカッパああああああああああ」メラメラ


巨人「ガアアアアアアア!!!!!」ズシンズシン!!

スネ夫「さっきはよくも僕のラジコンを破壊してくれたね…(←ママは?)」

スネ夫「これはそのお礼だ!」ヒュッ

しずか「!」

ズバッ!!

巨人「ガアアアアアアア!!!!!」シュウウ…

しずか「唯一の弱点……。後頭部より下のうなじにかけての縦1m幅10cmを激しく損傷させると、傷口を再生させることなく巨人は消滅する…」

スネ夫「立体機動装置、たまたま取っておいて良かったよ」チャキッ


のび太宅付近

巨人「」チーン


ジャイアン「のび太!!」

のび太「ああ…ジャイアンか」

ジャイアン「やられちまったみたいだぞ、月見台……この町を巨人から守り続けてきた《ウォール・ノビタ》が」

のび太「巨人はとうに絶滅させてやったものかと思っていたがな」

ジャイアン「あ、ああ…そのはずだ」

ジャイアン「俺たち5人――伝説の対巨人殺戮兵団、人類の切り札と謳われた〝ノビターズ〟の手で、葬り去ってやったはずだ」


しずか「のび太さん!」タタタタッ

スネ夫「やあ」タタタタッ

ジャイアン「お前らっ」

のび太「しずかちゃんがスネ夫の私服を着ている件については一体どう説明をしてくれる?スネ夫」

スネ夫「風呂の最中だったらしいんだ、家は巨人によって全壊らしい。僕が服を貸した」

ジャイアン「で、お前はフルチンと」

スネ夫「フルチンなんか些細なことさ」プルン

のび太「とりあえずお前ら部屋に上がれ、話したいことが山積みだ」


のび太の部屋

のび太「これを着ろ」

フルチン「ありがとう」

しずか「駐屯兵団より連絡が入ったわ、現在月見台に侵入した巨人の数25、内7を撃退」

のび太「7か……調査兵団は何をしている」

ジャイアン「平和ボケってやつだな」

スネ夫「さっき、巨人の死体が転がってたみたいだけど」

のび太「俺がやった」

しずか「さすがね…腕は衰えてないのね」

のび太「だが……、ドラえもんをやられた」

ジャイアン「!」


スネ夫「そうか…あの、ドラえもんがか…」

しずか「死ぬ直前、彼は何を」

のび太「『あ、あわわわわ』と慌てふためき、そのまま踏み潰された」

ジャイアン「……」

スネ夫「……」

しずか「………………」



のび太「まあ死んだものはどうしようもない。平和ボケしたタヌキが一匹いようがいまいが世界は何も変わらない」

しずか「そうね」

のび太「問題は、ポケットだ」


スネ夫「やられたのか!?」

のび太「粉々だ…くそ、してやられた」

のび太「タヌキには毛ほどの遺憾も無いが、ポケットだけは残しておいてほしかった」

しずか「そうね」

ジャイアン「これからどうする」

のび太「決まっている。残さず撃退だ」

スネ夫「また暴れるのか」

のび太「それもいいが…」

のび太「戦闘力が圧倒的に不足している。まずはポケットをどうにかしなければならない」

ジャイアン「どうして」

のび太「現状、立体機動装置を有しているのはスネ夫の一人だけだ」

のび太「俺やジャイアンなら手刀で弱点を切り裂くなど容易だが、他はそうもいかないだろう」

のび太「ドラミを呼ぼう。こちらには未来勢力が付いている」


ウォール・ノビタ付近

ズバッ!!

巨人「ガ…ア…………ッ」

シュウウウウ…


出木杉「巨人の弱点も忘れたのか貴様ら!後頭部より下のうなじにかけての縦1m幅10cm、だ!!そこを損傷させてやれば再生することなく巨人は消滅する!!」

『し、しかし隊長。立体機動装置無しにはどうしようもありません!』

出木杉「何?立体機動装置はどうした!」

『ここ数年の油断が生じたようですね。もう生産そのものが停止されている模様です。在庫もありません!』

出木杉「……っ。未来勢力に頼み込むしかないのか。のび太達が手を回してくれているといいが」


未来

プープー…

ドラミ「!」

ドラミ「モニター、on」

ブオン

のび太『事態は急を要する。掻い摘んで要件を話すぞ、聞け』

ドラミ「は、はい」

のび太「巨人が再出現した」

ドラミ「!……そう」

のび太「やはり知っていたか。それもそのはずだ、未来の者は過去を把握している。しかし干渉は出来なかった――そうだな?」

ドラミ「……はい」

のび太「早々、連絡に対応したのも、こうなることが分かっていたからだろう」

ドラミ「はい」


のび太「ならば詫びも含め手早く用意してほしい。立体機動装置だ」

※立体機動装置とは(wikipedia引用)


憲兵団以外の兵士達が装備している特殊な装置(このssでは憲兵団も使用)。
人類が巨人に対抗するための現段階で最も効果的な手段が三次元的機動力を生かした格闘術であり、それを行うために必要不可欠な存在。

太い筒状の本体とアンカーの射出機、ガスを注入するボンベ、全身に張り巡らすベルト等で構成されており、附属する剣の柄の部分が操作装置となっている。使いこなすには細かな体重移動の技術や耐g能力が必要となる。

腰の射出機からアンカーを発射して巨人や建物などに突き刺し、高圧のガスでワイヤーを巻き取ることにより、立体的で高速な機動力をもって戦うことができる。
ボンベの中のガスが無くなれば使用不能となるため、随時補給を必要とする。

剣の刀身部分は付け替え式となっており、鞘に予備の刃が収納されている。
刀身は巨人の硬い肉を切るため、あえてしなるようにできており、折る刃式カッターナイフの刃のような外見と構造をしている。


ドラミ「分かりました。ではポケットを」

のび太「ポケットはない。巨人に破壊された、そちらで用意しろ」

ドラミ「……は?」

のび太「? 知らないのか、ドラえもんは死んだ」



ドラミ「」


ドラミ(ドラえもんが…死んだ……うそ、そんな)

のび太「…その反応、知らなかった風だな。どういう訳か知らんが」

ドラミ(未来が…変化している、と?)

のび太「おい」

ドラミ「……」

のび太「……おい!」

ドラミ「は、はい!」

のび太「未来の道具は巨人に対して全く効果を成さない、これは今も変わらないのか」

ドラミ「は、はい。立体機動装置のみが戦闘手段として有効になっています」

のび太「ち……」

のび太「後にまた連絡する。立体機動装置、早めに頼んだぞ」

ブツッ


のび太の部屋

のび太「二時間もすれば届く」

ジャイアン「二時間か…」

しずか「平和ボケした兵ばかりの上に、対抗手段の立体機動装置も無いんじゃ二時間もしない内に月見台はお終いだわ!」

スネ夫「おしマイケル」

のび太「潰すぞ」

スネ夫「すみません」

ジャイアン「じゃあ…」

のび太「ああ、時間稼ぎだ」


のび太「行くぞ、狩りの時間だ」


のび太宅付近

ヒュウウウ……

巨人「」
ドラえもん「」


?「……、」

?「あっけなかったな、ドラえもん」

?「あーあー、ポケットが粉々だ」

?「でもこうして拾い集めて…」

?「タイム風呂敷を使えば…」

?「はい元通り」

?「未来にならいくらでもポケットはあるけれど、どうしてもこれじゃなきゃいけないからね」

?「じゃあね、ドラえもん」



?「月見台を、潰させてもらうよ」


ウォール・ノビタ付近

出来杉「はぁ、はぁ……」

『隊長、ここはもう引き下がりましょう!』

出来杉「バッキャロウ!ここで引き下がったら男じゃねえ!!」

『く…、出来杉隊長、なんて熱い男……!』


出来杉(不可解な点がいくつかある)

出来杉(数年前と同様、巨人の目的もあるが…)

出来杉(どうしてここばかりを狙う?)

出来杉(近辺の町にも調査兵団を張り巡らしているはずだが、一つも連絡が入らない。そしてこの絶え間ない巨人の数々)

出来杉(この町に、何があるって言うんだ)


出来杉「ぬ、ぐ…ァァああああ!!」

ズバッ ズバッ ズバッ

巨人「アアアアアアア」

巨人「グガ………ァ」

巨人「」シュウウウウ……

出来杉(このままじゃ、保たない……)

『隊長後ろ!!!』

出来杉「!」


のび太の学校

キャーキャー

ワーワー

先生「至急非難を、至急非難を、押さないで!駆けないで!大丈夫だから!」

キャーキャー

ワーワー

先生「ぬ……この調子では、巨人ももうすぐここまで」

先生「野比よ…この状況を救えるのはお前だけだ」

先生「この町を、頼んだぞ……!」




ミニドラ「ドラドラー!」

のび太「南南西が最も敵勢力の集中する所か」

しずか「手分けしましょう」

ジャイアン「無理するなしずかちゃん!立体機動装置を持たせたら隊の中じゃのび太と一二を争う実力だが、素手じゃどうにもならねえよ!」

しずか「大丈夫よ、こいつがいるから」グイッ

スネ夫「僕!?」

しずか「つうかそれ寄越せ、立体起動装置さえあればいいのよこっちは」

スネ夫「嫌だ!これは僕んだ!」

しずか「じゃ来い」グイッ

スネ夫「アアアアアアア」

ジャイアン「なら二、一、一に分かれよう」

のび太「何かあったら携帯ですぐ通信だ」


ウォール・ノビタ付近

ズバッ!!


出来杉「…………、」

のび太母「待たせたわね」

出来杉「旧隊長!?」

出来杉「何故ここに…」

のび太母「不甲斐ないわね現隊長。この数年間何をしてきたの?お遊び?」

出来杉「すみません…」


『おお! 旧隊長だ、頼れる方がいらっしゃったぞ!』

『これで一気に巻き返せるぞ!』


のび太母「この町を護るわよ。あなたにも家族がいるでしょう?」

出来杉「は、はい!」


のび太宅付近

のび太父「ドラえもん!」

ドラえもん「」

のび太父「……やられたのか」

のび太父「見事、ぺっちゃんこにされたもんだな…」

のび太父「……」

のび太父「!」

のび太父「ポケットが、無い……!?」

のび太父「ポケットが…無い……」

のび太父「巨人の…進撃…」



のび太父「これは、まずい」


月見台、北側

しずか「ハアアアアア!!」

ズバッ ズバッ

スネ夫「おい!返すよ僕の立体機動装置!」

しずか「るせー潰すぞカッパァ!!」

スネ夫「だ、誰がカッ…」

ズシーン!

スネ夫「……とっと、」ズサァ!

巨人「…………」

しずか「ちっ、無駄に素早い…」

スネ夫「巨人の台詞を代弁しただけだよね?そうだよね!?」

巨人「ガアアアアアアア!」

スネ夫「……うるさいなあ!」


ズバッ


ズバッ ズバッ

しずか「……ねえ!」

スネ夫「何さ!」

しずか「どうして今になってこの町にまた巨人が襲撃してきたと思う!?」

スネ夫「そんなの知るもんか!巨人のみぞ知る、だよ!」

しずか「思考停止してんじゃねーぞカッパァ!!」

スネ夫「怖い!怖いよしずかちゃん!」

しずか「ちょっとばっかし素早いからっていい気になりやがって!!」

スネ夫「スピードは立派な武器だよ!」

しずか「そもそも、前々から思ってたんだけどお前なあ、」

スネ夫「え!?愚痴タイム始まるの!?」


バキッ

しずか「うっ…」

スネ夫「……ッ、しずかちゃん!!」

ズバッ

巨人「アアアアアアア」シュウウウウ…

しずか「あ、ありがとう」

スネ夫「別にいいけど、大丈夫?」

しずか「数年もまともに動いてなかったもの、体が鈍ってるのも仕方がないわ」

ズシーン!

巨人「ガアアアアアアア!!」

巨人「グオオオオオオッ!!!!」

スネ夫「20メートル級、30メートル級…まだ増えるのか」

しずか「おかしいわ…集中しすぎよ」


しずか「月見台に何かあるとしか思えないわ」

スネ夫「こんな事なら一方的にねじ伏せるだけじゃなくて、もっと巨人について研究するべきだったんだよ」

しずか「人を食らわなくても生き長らえる巨人が、人を襲う理由…」

しずか「その巨人が、今回はこの月見台に集中する理由…」

スネ夫「来るよ!!」


巨人「ガアアアアアアア!!」

巨人「グオオオオオオッ!!!」


月見台、東側

ジャイアン「うおおおおお!!!!」

ズバズバズバズバズバ…!

巨人「ガアアアアアアア!!」

巨人「グオオオオオオッ!!!」

巨人「ヴァァァァァァァ!」

ジャイアン「20メートル級、10メートル級、30メートル級……くそ、個体の平均身長が数年前より大きくなってるんじゃねえか?」

巨人「グボオオオ!!!」ズシンズシン!

ジャイアン「あ、こら待ちやがれ!敵はこの俺だぞ!」


一般市民「うわああああ!!」

巨人「グガアアアアア!!」ズシンズシン!

ジャイアン「おい!待てッ!!!」

巨人「アアアアアアア!」ガシッ

一般市民「わあああああ!」ジタバタ


ジャイアン「しまった、捕まった……!」





パ キ


ジャイアン「」



パキ、パキ、ゴキ、ゴキキキ、グシャリ、……ッパキ、グチュ、グチョリ…



ゴクリ


月見台、南側

タタタタタタタ

のび太「はっ、はっ……」

のび太「巨人出現地点まであとどれくらいだ…」

のび太「走っても走っても……!」

ピコーン!ピコーン!ピコーン!

のび太「!!」

のび太「先ほどドラミから受け取った、生命反応装置…」

のび太「月見台に範囲を設定して、外傷など、死因が巨人による襲撃の可能性が高い生命消失へ反応するよう作られた、未来の道具…」

のび太「反応、している。確かに」

のび太「早速、被害者を出したのか…」

のび太「…………、」

のび太「反応は」

のび太「……ジャイアン」


月見台、東側

ジャイアン「うがあああああああああ!!!」

ブチブチブチ!!!

ジャイアン「うがあああああああああ!!!」

ブチブチブチ!!!

――巨人による人の死を目の当たりにした時、それが引き金となりジャイアンは猛り狂う獣のごとく、巨人の弱点を自 ら の 歯で貪るように食いちぎっていく。その暴走する様を、数年前、人々は食人の獣と呼んだ。

ジャイアン「うがあああああああああ!!」




?「巨人がどう生まれてくるのかを知っているかい」


ジャイアン「! グルルル…」

ジャイアン「グルルル……」


?「ふ、何だ。何だ。もう正気を失ったのか、早いな。ということはもう一般人から死人が出たか。まあこの手数じゃそうなるかな」

ジャイアン「グルルル……」

?「僕はね、この月見台を滅さなくてはならない。とある目的を果たすために」

ジャイアン「グルルル……、」

?「その目的の前には、まず君たち対巨人殺戮兵団と謳われた君たちの存在が邪魔になる」

ジャイアン「グルルル、ガアアア!!!」

?「おっと」


カプ

ジャイアン「……ア?」

?「痛いなあ。アリに噛まれるよりは」

ジャイアン「! テ…メ、ェ」

ジャイアン「スモールライト……、」


?「はははは!これで君は無力化できた」

?「さて、どうしてやろうか」

?「踏み潰してあげようかな?今の君にとっては僕の存在もまた、巨人と何ら変わらないのだから」

?「くははは」


ジャイアン「…………、」


ジャイアン(誰だ、こいつ…知らねー顔だ)

ジャイアン(どうしてドラえもんの道具を持っている…)

ジャイアン(……!)

ジャイアン(そういえば、)

ジャイアン(のび太の奴)


ジャイアン(――スペアポケット、どこにやったんだ?)


ジャイアン(……、)

ジャイアン(と、とにかく…)


?「よし!こうしよう、僕が……」

ガブ

?「痛ッ!?」


ジャイアン「」スタタタタタタ


?「ぬ……ぐ、まるでネズミのような逃げ足だな」

?「まあいい、これで邪魔は一人減った」

?「次だ」


月見台、南側

のび太「――ふう」


巨人「グガ……アアアアア」シュウウウウ…

巨人「ヴォ…オ……」シュウウウウ……

巨人「ギャ………ア」シュウウウウ…

巨人「…………」シュウウウウ…

巨人「ッ……ア」シュウウウウ……


のび太「20体を七分二十三秒か。数年ぶりにしては上出来か」


ピコーン!ピコーン!ピコーン!

のび太「またジャイアンの方角から死人が…」


ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!


のび太「続々と……まさか、」

のび太「まさか、やられた?ジャイアンが?」


のび太「……ドラえもんに続いて、ジャイアンまでもが」

のび太「こんな事が…」

のび太「有り得ない」

のび太「タヌキはありにしても、ジャイアンがやられたなんて」

のび太「……、」


ミニドラ「ドラドラー!」タタタ


のび太「! ミニドラ…」


のび太「その口にくわえてるもの…!」

ミニドラ「ドラドラー」

のび太「タイム風呂敷じゃないか!」

のび太「どうして道具が?ポケットは……ん?待て、」

のび太「――スペアポケットはどうした」

のび太「いや、その前に…」

のび太「タイム風呂敷なら、破壊されたポケットも修復可能だ」

のび太「いや焦るな、こうだ。スペアポケットからタイム風呂敷を取り出したんだ」

のび太「……一度戻ろう」


のび太宅

のび太「やはりか。やられた…」

のび太「スペアポケットがない……」

のび太「それどころか、本物ポケットの残骸もない」

のび太「どうしてだ。スペアがあるならポケットを修復する必要がないじゃないか」

のび太「同じ手で…、未来から取り寄せたタイム風呂敷でポケットを修復させないため?」

のび太「そんなことをする意味がない、二度手間だ。俺たちが道具を欲するのなら、未来から受け取ればいいだけ」

のび太「…………、」

のび太「おそらくは、本物ポケットそのものに、何らかの価値があった…」

のび太「その価値は……?」


のび太「何よりも気になるのが……」

のび太「ドラえもんの残骸すら、無いということ」

のび太「ドラえもんは俺達のように人間じゃない、タイム風呂敷で蘇えらせることも或いは可能と思われたから、か」

のび太「くそ、抜かった。スペアポケットの存在に気付いておくべきだったんだ…。もしくはタイム風呂敷でドラえもんをさっさと蘇らせておけば…。間抜けすぎる。頭の回転が遅い…」

カプ

のび太「……痛ッ」

ジャイアン(小)「のび太!」



のび太「…………ジャイアン!」

月見台、北側

しずか「…………、」ゼイゼイ

スネ夫「……、……、」ゼイゼイ


巨人「ガアアアアアアア!!!」

巨人「グガアアアアアッ!!!!!」

巨人「ゴガァァァアアアアアアア!!」



しずか「20、30……ここにきて、40メートル級まで」

スネ夫「あとどの程度戦えそう?」

しずか「もう……」

スネ夫「だよね、僕もクタクタだ」


巨人「ガアアアアアアアアアア」ドドドド

しずか「……ぐ」

スネ夫「しずかちゃん!!!」



――ズバズバズバ!!!



巨人「」シュウウウウ…

巨人「」シュウウウウ…

巨人「」シュウウウウ…


スネ夫「おお……、あ!」

しずか「のび太さん!!」



のび太「これは…仕組まれた強襲だ。偶然なんかじゃない」チャキッ


しずか「へ…?」

のび太「誰かがこの状況を裏で操ってる。そら、見ろ」ヒョイ

ジャイアン(小)「……」

スネ夫「ジャイアン!?」

しずか「これは…、」

のび太「スモールライトだろう。家からスペアが盗まれていた。本物ポケットとドラえもんの残骸までなかった」


しずか「本物ポケットの残骸まで?」

スネ夫「どうして…」

のび太「未来の道具は巨人に対して効果は確かにない。巨人はどういう訳か道具を無力化する力を持っている。が、だからといって道具が全く使えない訳じゃない。少なからず戦法は生み出せる」

のび太「しかし、それを恐れてるとは思えない。こちらには未来勢力がある。道具はその気になれば使える」

のび太「問題なのは、推測だが……おそらく、ポケットそのものだ」

しずか「ポケットそのもの…」

のび太「あのポケットには何かあったということだ」

ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコーン!ピコーン!




のび太「……ッ」

しずか「!!」

スネ夫「…………、」

ジャイアン「!……」



のび太「…西だ」


ウォール・ノビタ付近(月見台、西側)

出来杉「」

『隊長、隊長、しっかりして下さい!!』

『まだ僕達にはあなたの存在が必要です、どうか諦めないで下さい!』

『た、隊長……!』

出来杉「」クフー、クフー

のび太母「……、」




のび太父「もう大丈夫だよ」



のび太母「あ、あなた!」

『あ、あなたは……かつて医療班で名を轟かせていた屈指の名医…』

『き、今日は不幸中の幸いだな!次々と以前の英雄が!』

のび太母「……どう?」

のび太父「ああ、ギリギリ間に合いそうだ。それと…ママ」

のび太父「のび太に急いで伝えてほしいことがある」


のび太母「急いで伝えてほしいこと?」

のび太父「ああ、ここにきて巨人が数多くここに集中してきた理由、だ。それは数年ぶりに巨人が再来してきた理由とイコールになる」

のび太母「え、ええ」

のび太父「いいかい?奴ら、巨人がどうやって生まれてくるかというとだね――」


グサリ


のび太母「」




のび太母「い、い、」


のび太母「いやァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」




?「ギリギリ間に合ったよ。余計な事を喋られては困る」


町中

タタタタタタタ…


しずか「巨人の研究者?」

のび太「ああ。父さんはトップクラスの技術を持つ名医であると共に、巨人の研究者でもあったんだ」

のび太「巨人が俺達の手で絶滅した、という話が広まってからも尚、父さんは研究に一人のめり込んだ」

ジャイアン(小)「未来の道具が効かない、とか。やたらに巨人についての知識があったのも、その親父さんからの受け売りってな訳か」

のび太「ああ」


スネ夫「その未来の道具が効かない、についてだけどさ」

スネ夫「例えば僕らがビッグライトで大きくなって、巨人と対抗する、って事にはならないの?」

のび太「……デカくなったところで、巨人の身体のどこか一部にでも触れた瞬間、身体はもとのサイズに戻る。道具の無力化というのは、そういう事だ。だから立体機動装置は重宝してやまない」

しずか「なるほど…」

ジャイアン(小)「巨人がまた襲ってくる理由については分かってねえのか?」

のび太「もしかしたら…ポケットの価値と何か関係があるのかもしれない。それこそ大きな推測だ」

スネ夫「何にしても、今の僕らにできるのは」

しずか「そうよ、巨人を可能な限り叩き潰すだけ」

スネ夫「それによって、町の死人の増加を食い止める」

のび太「ああ」


ピコーン!ピコーン!ピコーン!
ピコーン!ピコ……ン

…………




のび太「鳴り…止んだ」

しずか「……」

ジャイアン(小)「おい、あの巨人の群れ、あの辺りじゃないのか?」

スネ夫「…………なんだか、いっぱい、人が倒れてない?」

のび太「くそ…」


ウォール・ノビタ付近(月見台、西側)

のび太「」

ジャイアン(小)「」

しずか「」

スネ夫「」






『』『』『』『』
『』『』『』『』
のび太母「」
のび太父「」


のび太「…………、」

?「遅かったね」

のび太「……」

?「どうだい?これだけの死人に囲まれる気分は。数年前を思い出さないかい」

のび太「……」

?「何だ、だんまりか。つまらないな」

?「ここで君たちもジ、エンドだ」


ジャイアン(小)「ありゃあ…」
しずか「のび太さんのお父さんにお母さん……憲兵団まで、」
スネ夫「…………これじゃあ、皆殺しだ」



のび太「そのポケット…」

?「ん、気付いたかい。これがなくては月見台を滅ぼせないからね」

のび太「この惨状、やったのはお前か」

?「はて」

のび太「お前か」

?「さあ」

のび太「それを寄越せ。それはウチのタヌキのもんだ」

?「あげないよ」

のび太「寄越せ」

?「嫌だ」



ズバッ!!


?「ケケケケケケケケケケ」スウ――


しずか「消えた……」

ジャイアン(小)「道具を使ったんだ。あれは囮だ」

スネ夫「何て卑怯な…」


のび太母「」
のび太父「」


のび太「……ッ」


プルルルルル

のび太「…………何だ」

『事態を聞いた調査兵団、総名500人が帰還しました。指示を!!』

のび太「…、……、」

のび太「内部はほぼ一掃した。壁の外、ウォールノビタの外側を固めろ。巨人が来たら逃げていい。近い内に立体機動装置を送る」

『了解しました!』


ブツッ


のび太宅

のび太「モニター、on」

ブオン

ドラミ「遅くなりました、立体機動装置を1000ほど用意し――」

のび太「遅え!!!!」ドンッ!!


しずか「」ビクッ

スネ夫「……」

ジャイアン(小)「…………、」


のび太「何をしていた?こうなる事が分かってたんだろ?ならどうしてもっと早く用意できなかった。この役立たずが…!」

ドラミ「わ、私だって…」

ドラミ「私だって、うろたえてるんです!だってお兄ちゃんが死んじゃうなんて、そんな、そんな事になるなんて」

のび太「言い訳は聞きたくない。また連絡する」


ブツッ



~月見台、被害~


■一般市民、死亡者411人、負傷者1060人

■およそ地域内の半数の建物が半壊~全壊

■ウォール・ノビタの損壊

その他

■ポケット、スペアポケットの略奪

■数年前の英雄、数名の死亡確認

【第二部】

未来のとある場所――


『噂は本当か』

『ああ、例の猫型ロボットのいる時点にて、巨人が再出現したらしい』

『もう心配は無かったはずなのだが』

『だが、この状況はまずい。今頃になって、例の件が表に漏れてしまう』

『大丈夫だ。手は打ってある』

『それは信用してよいものか』

『ああ』

『ただ、町一つが犠牲になる。ただそれだけのことだ』


現代 のび太の部屋
(※巨人再出現より翌日の朝)

チュンチュン…

のび太「…………」

しずか「のび太さん、眠れた?」

のび太「巨人がまた現れ、隊が再形成された。もうその呼び方は止めろ」

しずか「はい…。隊、長」

のび太「……」

しずか「……」

しずか「あ、あの…」

ジャイアン「うーん……っ」

スネ夫「ふわぁ…」

のび太「ようやくお目覚めか」


しずか「……」ムスッ

スネ夫「え?起きて早々に僕なんで睨まれてるの?」

ジャイアン「ああー、やっぱ身体はこのサイズじゃなきゃな」(※元に戻った)

のび太「重傷者の死亡がいくらか検出されている。気を抜くな、こうしている間にも巨人の爪痕が人間に災いをもたらしている」スッ

ピコーン!…ピコーン!…

ジャイアン「あ、ああ」

スネ夫「もう立体機動装置は」

のび太「全ての隊に回した。急遽、付け焼き刃だが訓練も行わせている」

のび太「一日にして、また数年前に戻ったんだ。何もかもな」


スネ夫「でも、今回は…ドラえもんが……」

ポカッ

スネ夫「痛い!」

ジャイアン「余計なこと言って更に空気を重たくするんじゃねえ!」

スネ夫「すみません…」

のび太「」スッ

しずか「! それ」

スネ夫「……タイム風呂敷」

のび太「ミニドラが拾ってきてくれた。例の、謎の男が落としていったんだろう」

ジャイアン「それがあるなら、ドラえもんの残骸も残されてた時、もしかしたら、上手いこと修復できたかもしれねえのにな…」

スネ夫「ジャイアンだってまた空気重くすることを!」


ジャイアン「何を!」

スネ夫「何さ!!」


のび太「耳障りだ……黙れ」


ジャイアン「」ザワッ

スネ夫「」ビクッ


しずか(二人共、のび太さんの気も知らないで…。つい昨日、巨人に両親をやられたのに)

しずか(何でもなさそうに振る舞ってるけど…きっと――)



――
―――

のび太「まあ死んだものはどうしようもない。平和ボケしたタヌキが一匹いようがいまいが世界は何も変わらない」

しずか「そうね」



のび太「タヌキには毛ほどの遺憾も無いが、ポケットだけは残しておいてほしかった」

しずか「そうね」

―――
――



しずか(強がってるんだわ…)


しずか「今日はどうするの」

のび太「この元たった五人の、超少数精鋭、人類の切り札はどうやら無駄に顔が広い。ある程度の統率は取れると思う。三人はそれぞれ憲兵団、調査兵団、駐屯兵団まで姿を見せてほしい」

ジャイアン「隊長は」

のび太「俺は一度、未来まで調べものに行こうと思う」

スネ夫「未来?」

のび太「ああ」

のび太「未来人というものはとにかく情報力に長けている。過去を知りたいなら未来。道理だ」

のび太「と言ってもどうせ口を割らないだろう。独自に、勝手に調べさせてもらう」


憲兵団

『それにしても突然だよなあ』

『しかも、この町へ集中的に出現という話じゃねえか』

『おかしくねえか?この町に一体何が起きてるっていうんだ……』

『英雄も何人か亡くなられたらしい』

『マジか!そりゃ大きな痛手だ』

『苦しくなってくるな』

『お前、もう数年ぶりの立体機動装置、慣れたか?俺はてんで駄目だ。こりゃ食われる前にとんずらこくしかねえよ』

『俺も全く、だ。確かにこうなりゃ逃げるしか…』



ジャイアン「誰が、逃げるって?」


『あ、あなたは!』


調査兵団

『英雄が、三人も…』

『人類の切り札がやられちまったんだ。もう何もかもお終いよ』

『お、お俺、もう…逃げちまいたい…』ガクガク

『また命懸けの戦闘に駆り出されるなんてな。緊張感が保たない』

『もうこの隊からも数人は逃走者が出たって話だ』

『利口だと思うよ。こんなところでこんな時に、命を投げ打つ必要性はない』

『そもそも、数年前はどうしてあんなにまとまりが良かったんだろうな』

『それは…』



しずか「それは、隊長という存在がいたからよ」


『あ、あなたは!』


駐屯兵団

『もうこんな所にいられっか、巨人の餌になるのはごめんだ。俺は逃げるぞ!』

『そりゃ賢明だ。さっさと逃げればいい』

『お、お前はいい。何しろ数年ぶりだというのに立体機動装置を抜群に使いこなせている。巨人達もイチコロだろうさ』

『腰抜けにいくら上等な武器を持たせたところで、アリ一匹、殺せやしない』

『ん、んだと!いい気になりやがって!』

『や、止めろってお前ら…』



スネ夫「仲間内での争いは醜い。止めたまえ」


『…………あ、ああ』

『スネ夫さん、久し振りに見たなあ…』


スネ夫「あれ!?リアクション薄くない!?」


未来

のび太「この、乗り物が当たり前に空中を巡回してる様子は、何度見ても慣れないな…」

のび太「さて、どうするか。ドラミには頼れないだろうし」

のび太「まずは巨人の生態について調べるとしよう」

のび太「となれば、まずは膨大な情報を有する電子図書館まで足を運ぶとしよう」

のび太「…」

のび太「……」

のび太「どこにあるんだ」



のび太「へ、ヘイタクシー!」


現代 月見台付近

?(……)

?(駒は三つ潰した)

?(が、奴らの戦闘力を甘く見ていた。よもやこれほどまでに早く体系を整えるとは)

?(巨人は我が手にある)

?(これさえあれば、月見台を潰せる)

?(だが待て、むやみに巨人を遣い、全滅させてしまっては元も子もない。無限にいる訳ではないからな)

?(重要なのはタイミングだ)

?(そしてそのタイミングは、待っているだけではこない。僕自身の手で作り出す)

?(本来の用途ではないが、こういう時にこれは役立つな)

?(……道具だ)


未来

ドラミ「…」

ドラミ(お兄ちゃん……)


――のび太「? 知らないのか、ドラえもんは死んだ」


ドラミ(そんなはずない、そんなはずない…)

ドラミ(……、……、)

ドラミ(…)

ドラミ「」スクッ

ドラミ「決めた」

ドラミ「私ものび太さん達の時点に行って、真相を解き明かそう」

ドラミ「お兄ちゃんが、死ぬなんて、巨人に殺されるなんて、そんなはずないんだからっ」ダッ


未来 電子図書館

のび太「……」

のび太「使い勝手がまるで分からない」

のび太「過去の人間にこんな最先端のものが使えてたまるか!」

のび太「……」

のび太「こんな時、」

のび太「ドラえも…」

のび太「…………、」

?「はあい」

のび太「! は、はい…」

少女「お困りですか?」


のび太「あなたは一体…」

少女「特に何者というわけでも。それよりあなた、過去から来た人でしょ?」

のび太「ああ、まあ…」

少女「服装で分かるもん。何やら物騒なものまで隠し持ってるし。よくここまで検知されなかったものね」

のび太「ここに来ていること自体、危ない橋渡りで」

少女「危ない橋渡り?」

のび太「調べ物がある……んです。過去のこと。しかし情報制限がかかって、俺達には何も知るすべがない」


少女「! はあん…」

のび太「分かっていただけましたか」

少女「情報を盗み見ようと、そういう訳」

のび太「協力していただきたいのですが」

少女「…………断ったら?」

のび太「…」スッ

少女「……。はいはい、従います。だからその懐にしまった右手を出してください」

のび太「すまない…いや、すみません。本当、なりふり構っていられなくて」

少女「分かってるわ。だって、あなた。凄く根が優しそうな顔してる」

のび太「……」





カタカタカタ


のび太「あの」

少女「はい?」

のび太「根、優しそうに見えますか」

少女「さっきそう言ったはずじゃないですか」

のび太「え、あ、まあ。そうなんですけど」

少女「そう見えてほしくない理由でもあるんですか?」

のび太「……度々、鋭いですね」

少女「それほどでもございませんよホホホ」

のび太「こんな風ですけど、部下を率いて戦う、隊長をしているんです」

少女「へえ」

のび太「なんですが…」


のび太「その、時々、弱い面を垣間見られているような気がして」

少女「誰に?」

のび太「部下に」

少女「部下の、誰に?」

のび太「! ……」

少女「あははは。嘘ですよう、会ったばかりの人にここまで勘ぐるのは酷ですよね」

のび太「……、」

少女「私にも、同様に大切な人がいるんです」

のび太「大切な人…」

少女「でも、ある理由から離れ離れになってしまって」

のび太「大切な人と、離れ離れ…」


少女「早く会いたいんですけどね…」

のび太「……」

のび太「二度と、会えない訳じゃありませんよね」

少女「あ、はい、まあ。存命ですよー」

のび太「なら、きっといつか会えます。もちろん、行動を起こせばこそですけど」

少女「…ですよね」

のび太「すみません、数年前は毎日のように命懸けの戦いを繰り広げていたもので、多少現実主義なところが…」

少女「いえ、でも。その通りだと思います」

のび太「……」

ピピッ

少女「…………え?」


のび太「どうかしました?」

少女「情報、ロック」

少女「……?」カタカタカタ

少女「」カタカタカタ

ピピッ

少女「これは…」

少女「セキュリティーレベル100って……」

少女「」カタカタカタ

ピピッ
ピピッ
ピピッ
ピピッ
ピピッ

少女「関連情報のことごとくまでも…」

のび太「?」

少女「あ、あなた」

少女「何を知ろうとしているの?」


調査兵団

バラバラバラ……

『な、何だこの音』

『耳障りだなあ…』

『お、おい!あれ見ろ!』

『あれって――』


しずか「――!!」

しずか「皆!あの光に当てられちゃ駄目ッ!!!」


『は、はあ?』

『光って』


パアアアアアアアア


『う、うわああ!?』

『何だこりゃ!!』

『け、景色が広がって…?』

『馬鹿、縮んでるんだよ!』


しずか(大量のタケコプターに、スモールライトをくくりつけて……!)

しずか(こんな事をするのは……)


町中

タタタタタ…

?(ふふふ、これでよし)

?(憲兵団、調査兵団、駐屯兵団、全て無力化した)

?(月見台の対抗手段はあれら以外に存在しない。どうだ?道具ひとつで、これほどまで簡単に敵をねじ伏せることができる)

?(ははは、あはははははは)

?「アハハハハ!!!」





ドラミ「――お兄ちゃんの道具を使って、何をしてるの?」

?「ハハハハハ……、は」

?「ああ? 何だ、オマエ」


?(! ポケット…)

?(まあ見るからにそうだが、奴もこの時点にきた未来の猫型ロボット…)

?(流石にやってくれるな、奴らも。対抗手段としての最終兵器は、これか)

?(はは、ははははははは)

?「」クッ…クッ…

ドラミ「……何がおかしいの?」

ドラミ「ねえ、そのポケットを返して」

ドラミ「そして、そのポケットはどうやって手に入れたの?」

ドラミ「最後に、あなたは、誰?」

?「……く、く」

?「ああ、このポケットか?」


?「お前と似たようなロボットから手に入れた」

ドラミ「そのロボットは……どうしたの」

?「ああ、確か…」

?「ぺちゃんこだったぜ? かははははははははははははひひひはひひッ!!!!」


ドラミ「――ドカンッ!!」


ドォン!!


ドラミ「ハァ、ハァ…」

ドラミ「……!」

ドラミ「やっ、」

ドラミ「あ、あ……!」





巨人(超)「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ビリビリビリ!


ドラミ「あ、あ…」


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ビリビリビリ!


ドラミ「……あ、」


ペタン


ドラミ「あ……」

?「腰が抜けたか。ロボットにもあるんだな、そんな事が。いいね、精巧に造られていてさ」

ドラミ「ッ…!」

?「くくく。空気砲か。そんなものが巨人に通じれば世話ないな」

?「で、どうすんの?」

?「死ぬの?」


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ビリビリビリ!


出来杉「――殺させや、しねえ!」


?「!」

ドラミ「で、」

ドラミ「出来杉くん!」


出来杉「僕達が巨人に対抗する手段は憲兵団、調査兵団、駐屯兵団だけじゃない。のび太や僕のように、また別に行動してる隊もあるってことさ」

?「……」

?「格好良く現れてくれたところ悪いが、その満身創痍、ボロボロな状態でどう60メートル越えもの超大型巨人に対抗する」

出来杉「なめるんじゃねェ!!!!!」

?「!」



出来杉「旧隊長の恨み、ここで晴らさせてもらうぞォ!!」ジャキン!!


憲兵団

ジャイアン「そこだ、斬れェ!!」

ズバズバズバズバ!!

『やりました!』

『不可解なライト、全て切り落としてやりました!』

『縮んでしまった者は25名のみです!』


ジャイアン「しずかちゃんからのいち早い連絡が来なきゃ危ないところだった。間一髪ってところだな」


ズシーン!ズシーン!!


『……来ました!!』

『巨人です!』


ジャイアン(このタイミング……)


駐屯兵団

ズバッ!!


巨人「アアアアア」シュウウウウ…


スネ夫「耐gの感覚を思い出せ!一瞬たりとも気を緩めるな、続け!」


『怯むな怯むな!』

『スネ夫さんに続けェ!!』

『弱点のみを的確に狙うんだ!』

『縮んだ兵を非難させろ! ……手で運べるだろうが、ボサッとするんじゃねえ!』

『きたぞ!!』

ズシーン!ズシーン!

巨人「ガアアアアアアッ!!」

巨人「オオオオオオオオ!」


スネ夫(のび太、早く…)


未来 電子図書館

少女「――かかった!」

のび太「機械、強そうだな…。いや俺が弱すぎるのもあるが。これ、ハッキングだよな?」

少女「これ、は…」

のび太「何だ?」

少女「《身体人工育成計画》―― project『bpg』」

少女「何、この…実験」

のび太「…」

のび太「…………ッ!」ガバッ

少女「ち、ちょっと」

のび太「……」カタカタカタ

のび太「巨人の、生態…」


町中

巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ギュオッ!


出来杉「来るぞ!!ビル一つ粉砕しかねない拳が!」

ドラミ「タケコプター!最大スピード!!!」


ドォン!!


出来杉「こ、これなら」パラパラパラ…

ドラミ「ただしタケコプターが巨人の体の一部にでも触れた瞬間、飛行力を失って墜落するから気をつけて。道具の無効化よ」パラパラ…

出来杉「あんなパンチにかすりでもしたら、無力化が無くたって粉々だ、行くぞ!」


出来杉「でやああああ!!」ギュオン!!




?「立体機動装置の弱点はガス燃料にある」

?「刃も付け替え式とはいえ、いずれ限界がくる」

?「持久戦に持ち込めば、ただでさえあれほどズタズタな兵一人とロボット一匹、どうにでもなるが…」

?「それじゃあ面白くないだろう?」

?「一気に決めてしまえ!巨人ッ!!」


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ズシンズシンズシンズシン!!


出来杉「――! 速い…」

ドラミ「ドカン!!」スッ

ドォン!!!

巨人(超)「ヴォ、オオオ」フラッ


?「眼球に直接空気砲を…。目眩ましか。なるほどこれなら無効化されてもダメージこそないが十分な戦術サポートになる」


ドラミ「出来杉くん!」

出来杉「何だッ」

ドラミ「ガス燃料は、タケコプターで節約できる。だから、極力回避に専念して」

ドラミ「私がタイミングを見計らって空気砲を巨人の目に直接打つ。次は両腕二発。奴の目が眩んだ瞬間に背後に回って!弱点はそこなんでしょう?」

出来杉「……あ、ああ。ありがとう!助かる!」


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ビリビリビリ!


ドラミ「よけて!」ヴウウウウン!

出来杉「」ヴウウウウン!



ドォン!!!


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ギュオッ!


出来杉「――ぐッ」ヒュッ!

ドォン!!!

ドラミ「今!背後に回って!!」


出来杉「ああ!」ヴウウウウン!!


巨人(超)「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」ビリビリビリ!


ドラミ「ドカン!!!」

ドン! ドン!

巨人(超)「ヴォ、オオオ、オオオオ、オオオオオオオオッ!」フラッ


出来杉「今だあああああああああ!!!」ギュオッ!!!


ズバッ!!!!

?「――――」

出来杉「――――」

ドラミ「――――」

巨人(超)「――――」



巨人(超)「――――ガ、アッ……!」
巨人(超)「ア…………」
巨人(超)「」シュウウウウ……



出来杉「やったァ!」
ドラミ「私達の!」






?「負けだ」




巨人(奇)「」ヌッ



出来杉「」
ドラミ「」



?「敵は一体じゃない。それくらいは考慮しておきたまえ」



ガシッ!


――――パキッ


ゴキッ ゴキッ


ゴキキッ……!



グチャ…



グチャ、グチャ、グチャ、




パキキキキ、ゴキッ……グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ






ゴクリ


調査兵団

しずか「――――!?」



しずか「…………」



しずか「出来杉、さん?」


憲兵団

ジャイアン「――――ッ!?」



ジャイアン「…………」



ジャイアン「出来杉…?」


駐屯兵団

スネ夫「――――ッ!?」



スネ夫「…………」



スネ夫「……出来、杉」


未来 電子図書館

ピコーン!ピコーン!ピコーン!



のび太「ッ!!」

少女「わわっ!ビックリした……何それ、目覚ましですか?」

のび太「いや、これは…」

のび太「未来にいても、感知、するのか……?」

少女「え?」

のび太「いや、何でも、ない」

のび太「早く、しなければならない」

少女「急ぎますか?」

のび太「……ああ。人が、今も、」




のび太「――死んでいるんだっ……!」


町中

?「ふははははははひゃひゃひひひハハハハハハハ!!!」

巨人(奇)「――」


ドラミ「…………、」

ドラミ「……」

ドラミ「わ、私が、」

ドラミ「油断した、せいだ……」

ドラミ「お兄ちゃんの次に、また犠牲者を」

ドラミ「私のせいだ……」


?「うひゃひゃははははははひゃひゃひひひハハハハハハハ!!!!腹が、腹が痛い!おい、これ止めろよ!早く、早くゥ!ひひひハハハハハハハ!!」


ドラミ「……………………」


?「――オイ聞いたかよ、人の骨がバッキバキに砕かれる音をさ!響いたよ!綺麗ーにヒビイタヨ!ひゃ!ヒャ!あああああああああッははははははひゃひゃひひひ!!!」


ドラミ「…………………」


?「うひゃひゃ!ひゃははははははははははははひゃひゃ!!!!」


ドラミ「…………………」


?「はははははは……ハ、」


?「オイ」


?「場がしらける。少しは笑えよ」


ドラミ「…………………」


?「フン。もう生きる気力もないか」


?「殺れ」




――
―――


ドラえもん「もう…ドラミはいちいちお節介なんだよ!」


ドラえもん「僕の、僕の耳があああああ」


ドラえもん「今度という今度は許してあげないぞ!」


ドラえもん「あのね、またのび太くんがやらかしたんだ!!」


―――
――



ドラミ「…………お兄ちゃん、」

巨人(奇)「――――」ズシン!ズシン!

?「ソイツヲクッテシマエエエエエェー!!!!」

巨人(奇)「」スッ





ドラミ「どこでもドア!!!」

ヒュッ バタン!!


?「何ッ?」

?「ちっ。逃したか…」


別の町中

ジャイアン「……そっちはどうだった」

スネ夫「うん、昨日よりは侵攻を防いでみせたよ。でも…」

しずか(小)「…」

ジャイアン「また、沢山の死人を出しちまった」

スネ夫「……、」

ジャイアン「くそォ!くそォ!!」


ジャイアン「ふざけんな!何が人類の切り札だ!」

ジャイアン「俺達はまだまだ無力じゃねえか!くそったれ!」

ジャイアン「うああああああああ!!!」

スネ夫「……のび、隊長は」

しずか(小)「まだ連絡が来ないわ」

スネ夫「そっか」

ジャイアン「うああああああああ」

しずか(小)「戻りましょう」

スネ夫「うん…」


~被害~

■死亡者:一般市民より150人、兵より388人
■負傷者:一般市民より366人、兵より552人
■ウォール・ノビタ、更なる損壊

etc

【第三部】

未来 電子図書館


――カタカタッ


のび太「なるほど、そういう訳か」

少女「色々おっかない機密に触れてしまって、今とても手が震えてます…。こんな、こんな事が行われているなんて」

のび太「いつの時代も、便利には必ず裏がある。なまじ様々な分野の学問が進んでいる時代だからこそ、こんな、とんでもない計画が秘密裏に行われているものなんだろう」

少女「そ、それはそうなんですけど」

カチカチ

少女「! これ…」

のび太「?」

少女「このマーク…まさか……」











「ちょっと宜しいかな? そこのお二人」

現代 のび太の部屋

しずか「どう?帰ってきそう?」

ジャイアン「全然だな」

スネ夫「タイムマシンは戻ってくる気配なし、連絡も繋がらない」

しずか「何かあったのかしら」

ジャイアン「心配し過ぎなんじゃねえか」

スネ夫「タイムマシン以外に未来へ行ける手段があれば様子を見に行けるんだけど」

ジャイアン「まあそんな手はまずねえよ」

しずか「また巨人が襲ってきたらと思うと…」


スネ夫「兵もだいぶ減ったね」

ジャイアン「今残ってる兵も疲労困憊だぞ、情けねえな…」

しずか「兵どころか、一般人までも多数…」

ジャイアン「のび太が何か重大な手掛かりを掴んでくるまで耐えるしかねえ…」

スネ夫「……手掛かりって何さ。その手掛かりはこの状況を覆せるだけの効力を持ってるの?無理だ!巨人の弱点まで分かっててこのザマだ、もう月見台はお終いだよ!」

ジャイアン「…」

ジャイアン「テメエ、もういっぺん言ってみろ。これまでに何人の兵が犠牲になってると思ってやがる」

しずか「止めてよ!もう!!」


しずか「……、」グスッ

スネ夫「ごめん…」

ジャイアン「悪い……」


ウィーン… ガチャ


ジャイアン「どこでもドア! ……!?」

スネ夫「ど、」

しずか「ドラミちゃん!?」


ドラミ「た、助けて…」



スネ夫「き、傷だらけじゃないか!何があったの?巨人?」

ドラミ「……で、」

ドラミ「出来杉さんが、」

ドラミ「う…」グスッ

しずか「落ち着いて。出来杉さんがどうしたの?」

ドラミ「っ……、出来杉さんがぁ」


しずか「…………!」

ジャイアン「……、」

スネ夫「そ……んな」


ジャイアン「確かに、か」

ドラミ「はい…」

ドラミ「私の、目の前でっ、巨人に、食べられちゃいました……」


スネ夫「……、」

しずか「出来杉、さんが、」



ジャイアン「~ッ、ぁぁ、ちッくしょオオオオオオ!!!」ドン!ドン!

しずか「……ぇ、ぐ、」

スネ夫「また一人、身近な、友達が…」


ドラミ(……)

ドラミ(度重なる友人の死が、今までせき止めた感情を溢れ出させてしまった。もう、誰も、取り繕えない)

ドラミ(きっと今、三人は、私のお兄ちゃんの分も泣いてくれてる)

ドラミ(お兄ちゃん…)


町中

?(どうやら手持ちのビッグライトは一つのみのようだな。これなら再び全ての隊が体勢を整えることは難しいはず)

?(それどころか、また同じ手を使えば一気に攻め込める)

?(――が、こちらとしても二の足を踏む理由がいくつかある)

?(剛田武、骨川スネ夫、源静香)

?(この三人、それぞれ単体での巨人討伐数が尋常ではない)

?(一人辺り、ゆうに百を越す兵力に値するものを持っている)

?(さらに……)

?(野比、のび太)


?(なぜだ?なぜ奴が現れない。奴は何をしている)

?(最も恐れるべき相手が、あの時以来、一度も姿を現さない。少なくとも二度目の襲撃時に奴は戦線に加わらなかったはずだ)

?(負傷したか?そんな馬鹿な。もしかするとかすり傷一つ負っていないことすら考え得るというのに。まず有り得ない)

?(いつ動けばいい。どこがジャストタイミングだ。どう月見台を潰せばいい)

?(考えなしの愚かな特攻は駄目だ。情報を集めるしかない)


未来 幽閉所

ガシャン!

少女「出して!ここから出して!少なくともこっちの人は関係ないッ!!」

のび太「……、」

黒服の男「ハッ。関係がない?調べは付いている。貴様、野比のび太だな?」

のび太「……。ああ」

黒服の男「さしずめ対巨人の機密情報でも調べにくるつもりだったのだろう。味方するドラミとかいう個体番号8824の猫型ロボットも、情報制限を前にしては何も口にはできまい」

黒服の男「まあ、それ以前に、『ここ』の情報セキュリティーが存在する訳だが」

黒服の男「それもこいつに破られた訳だ」


のび太(……ここ?)

のび太「マーク、とか言ってたな。あれは…」

少女「この人属する、裏組織のロゴです」

黒服の男「偶然とは恐ろしいものだなミナミ。貴様がこの男と手を組んでいるとは」

ミナミ「……」(※以降、少女→ミナミで)

のび太「あんた、いや。二人はどういう関係だ」

黒服の男「敵に情報を与える馬鹿に見えるか?私が?ふん…」

のび太「だろうな…」


黒服の男「貴様らの口を縛っておこう。無論、人力では解除不可能な道具でな」


カチッ カチッ


ミナミ「ん――ぐっ」

のび太「……」

黒服の男「では貴様らの処分について検討をさせてもらう」


カツ、カツ、カツ……


ミナミ(ん、どうしよう。情報を渡そうにも話せないんじゃ…)

のび太「……」

ミナミ(それにしても、何で彼はこの人の事を知っていたの?野比のび太?有名人?うーん、知らないよ……)

のび太「……」

ミナミ(そしてあの身体人口育成計画の真相…。あれを知ったからには、私も今までの扱いにはしてもらえない)

のび太「……」

ミナミ(どんな情報隠蔽手段を用いても、私、そしてのび太さんごと消すつもりなんだ)


のび太「……」

ミナミ(のび太さん、凄い。こんな時でも冷静沈着だ)

のび太「……っ、」ギリ

ミナミ(……へ?)

のび太「…、……、」ギリ ギリ


バキン!!!


のび太「ふう」

ミナミ「」


のび太「さて、ここまできたらもう他人とは思えないな。もう敬語もよす。そして洗いざらい喋ってもらう」

ミナミ「は、はい…」

ミナミ(何か、ここにきて迫力増してない?この人…)

のび太「二人の関係は?」

ミナミ「二人と言うより、私と組織の関係説明になるんです、いやなるんだけど……」

ミナミ「早い話が、私は捕らわれの身。人質なの」

のび太「人質…? だがお前は」

ミナミ「実は、ここから抜け出して逃亡中の身だったりして……」

のび太「…………、」


のび太「呆れたな…一刻も早く遠くへ、あわよくば警察の方まで保護してもらうべきだったのに。見ず知らずの他人を助けるために足止めをくらっていたなんて」

のび太「挙げ句、手伝う相手の知りたがっていた機密情報が、君を捕らえていた組織のものだった……と」

ミナミ「えへへ」

のび太「はあ…………、」

ミナミ「あなたは?」

のび太「別に、有名人でも何でも……いや、俺の時代だったら少しは名が広がってるのかもしれないが」

のび太「先に言った通り、ただの隊長だ」


ミナミ「でも、そのただの隊長さんの名前を、しかもフルネームで、どうして彼らは知っているのかしら」

のび太「一番早い考えだと……ドラえもん、ドラミ経由になるのか」

ミナミ「ドラえもん?ドラミ?」

のび太「ああ、そうか……」

のび太「…………、」

ミナミ「お互い、何から話せばいいか分からないな」

のび太「そうだな」

のび太「少し長くなるかもしれない。声のボリューム少し落とそう。この口封じの道具も、いつ奴が来ても装着できるように備えておく」

ミナミ「うん」


現代 町中



「……派手に暴れまわっているようだな」


「現代に残る三英雄はしばしの休憩中か」


「まだ、動くなら先だな」


「しばらくは踊らせておけばいい」


別の町中

?「憲兵隊はあまり実戦的ではないと聞いていたが…一カ所へ集中的に巨人をぶつけると役割分担も何もない訳か」

?「どこでもドアで見て回ったところ、もうビッグライトはほぼ全域に行き渡っていると見た」

?「が、負傷者が目立つ」

?「こちらに都合の悪いことは何一つ起こっていない」

?「自分のダミーをまた送り込んでみるか?」

?「どうしても野比のび太の動向を知りたい」

?「奴は今どこで何をしている」


未来 とある場所

『どうやら、神はこちらに味方してくれているらしい』

『野比のび太が、わざわざ向こう側からやって来てくれた』

『これなら、向こうの時点、奴ら戦闘力は圧倒的に低下するだろう』

『ところが、だ。未だ奴らは粘っている』

『ほう。あの三人もやるじゃないか』

『この時点の猫型ロボットもまた、向こう側に加わっているらしいがな』

『なるほど、それなら互角に渡り合えるのも頷ける』


『呑気に頷いてる場合でもなかろう、事を早く進めなければ、いずれ銀河パトロールに察知されるのも時間の問題だ』

『分かっている。が、奴は少し待ってほしい、と』

『待つ? 何を』


『――野比のび太の動向を掴むまで、待ってほしいと』


『ほう…』ニヤリ

『ははははは、ならば何も迷う必要はないじゃないか』

『野比のび太は我々の手中にある』

『そう伝えろ』

『分かっている』



『これでいよいよ、月見台も終いだ。計画は無事に終了するだろう』


現代 のび太の部屋

プルルルル!

しずか「! ……はい」

『巨人が! 未だかつてないほどの数の巨人がッ……あ、あああああ』ブツッ

ツーツー…

ジャイアン「……未だかつてないほどの数、だ?」

スネ夫「ど、どうしよう。まだのび太が…」

しずか「行きましょう」

スネ夫「! そんな、無理だ」


ジャイアン「無理だ、はお前の口癖か?」

しずか「! また……、」

ジャイアン「やる時ゃ、やる奴なのによ。勿体無えぞ、それ」

スネ夫「う、うん……。うん!」

しずか「…」

ドラミ「のび太さんは私が呼びます。私が使ったタイムマシンがあるから」

ジャイアン「! そうか、頼んだぜ!」


月見台、北側

憲兵団


巨人「ガアアアアアアアアアッ!!!!!」ズシン!ズシン!

巨人「グオオオオオオオ!!!!」ズシン!ズシン!

巨人「ッアアアアア、ガアアアアアア!!!!」ズシン!ズシン!


『来るぞ、b隊、d隊、e隊構えろォ!!』ジャキッ

『おい待てよあれ何体いるんだ?1、2、3、4……』

『馬鹿!数えてる暇があるなら体勢を整えろ!』

『後方からも来るぞ!』

『軽傷者は戦線に加わらせろ、人手が圧倒的に足りない!!』

『急げ、急げ!!!』

『うわあああああ!!!』


月見台 西側

調査兵団


『来たぞ!ご、50メートル級が……そんな、な、七体…』

『奇行種だ!奇行種までいやがる、こっちは五体だ!!』

『20メートル級も相当な数が来てる、こちらは数えている隙すらない!』

『こ、こんなの…』

『いくら総力をこの町一つに結集させたところで適うはずがないじゃないかッ!』

『常識的に考えれば、デカい奴が勝つ。それが理にかなってる、て事だからな』

『迎え撃て!!ここで死ぬわけにはいかないっ』


月見台、東側

駐屯兵団


『やられた!30名がたった一撃で!!』

『英雄しかまともに戦ったことのない、超大型巨人。これほどの驚異だなんて…』

『ガス燃料が不足している!補給を急げ!!』

『今そんな事にまで手が回せるか!』

『立体機動装置も無しに巨人に立ち向かえというのか!?それも、60メートル級にだぞ!』

『残った英雄の方々の支援はッ』

『今一人がこっちに向かってます!』

『英雄一人…来たところで……』

『もう逃げよう!ここまでしてこの町一つ守らなければいけない理由が分からない!!』

『これだけの数を避けて逃げれるものなら、今すぐしてみせろ!』


町中

?「ヒャハハハハハハハハ、フヒャヒャはははははははハヒハハヒャヒ、くひ、ひ、ははははははは!!!!!!」

?「あははははははは、やれやれやれやれェ!!潰せェ!!!」

?「ふふ。巨人の肩に乗りゴミ共が散っていく様を眺めるのは実に楽しい。ハマりそうだ、このまま月見台を潰すのが惜しいと思ってしまわんばかりだ!はは!」

?「もっとだ!家々を集中的に殴れ!潰せ!そういうところにゴミは溜まるッ!」

?「ヒヒヒヒヒ、野比のび太は未来で幽閉されている!なんて間抜けな話だ!笑いすぎて腰が砕け散りそうだ!!」

?「やれやれやれやれやれェ!!!!」


「どの時代にも狂気にかられた馬鹿はいるもんだな」


?「………………アァ?」

?「今度のヒーローは誰かなぁ!えぇ?」


「……、」

?「何の変哲もないただの少年じゃないか!は、どこからやってきたのかな?」

「過去だ」

?「過去!?未来ではない?フン、どういう訳だか知らないが」


「こっちだって訳が分からない。まさか外の世界〝海〟を目にするより前に時代を越えちまうなんてよ」

?「んん?」

「妙な格好したオッサンに巨人への憎しみをぶつけたくはないか?なんて言われてさ。甘い誘いに乗ってみたはいいが、これはどうなってやがる」

?「……? 何者だ、貴様」

「ただ、こうなった理屈もこの惨状の理由も全く理解できねえが……」

「巨人は、全て、」






エレン「皆殺しだ」


別の町中

「――エレン・イェーガー」

「頼もしい助っ人だとは思わないか?」

「彼のいた時空こそ、自然に巨人が生息していた」

「ここに出現する巨人とはまた別の原因で、それらの巨人は生まれてくる」

「つまり、彼こそが『本物の主人公』だ」

「何もない時代、適いようもない巨人と相対する人々は、対抗するべく立体機動装置を生み出した」

「今の立体機動装置の元となるそれは、当然機能面では劣る」

「が――」

「彼は手ごわいと思うよ? 何しろ正真正銘、本物の、野生の巨人と戦ってきた真の戦士だ」

「時代を超えて助力を求めるに値する、心強い助っ人だ」


また別の町中

タタタタタタタ

ジャイアン「ここで三手に別れるぞ!」

スネ夫「気をつけて、敵は本当に相当な数みたいだよ!」

プルルルル

しずか「はい! ……え、その、何を言ってるの?」

しずか「この状況下で頭を打ったとか、そんなんじゃないんでしょうね。場所は?南側?」

しずか「……はい、分かりました。それならちょうどいいです、野比隊長がいない今、助太刀できる英雄は私含め三人のみですから。北、東、西と向かいます」

スネ夫「……どうしたの?」

しずか「落ち着いて、聞いて」

ジャイアン「な、何だよ」

しずか「巨人と巨人が、戦ってるそうよ」


未来 幽閉所

ミナミ「……へえ。そうやって、今までドラえもんに助けてもらってきたんだ」

のび太「ああ…」

ミナミ「残念、だったね。巨人のせいで…」

のび太「いや」

のび太「あんな平和ボケしたタヌキが一匹いようが二匹いようが、世界は何も変わらない」

のび太「特に俺が思うところはないよ」

ミナミ「……、」

ミナミ「ねえ」

ミナミ「その、さっき話に出てきた〝しずかちゃん〟なんだけど」

ミナミ「あなたが好いてる相手って、その人でしょ」


のび太「な、何だ。急に」

ミナミ「で、電子図書館で言ってた、特に弱みを見せたくない相手も多分、その〝しずかちゃん〟でビンゴだよね?」

のび太「…………ああ」

ミナミ「私とはまだ合ったばかりの、ほぼ他人」

のび太「何がいいたい」

ミナミ「泣いちゃいなよ、もう。一度、思い切り。ずっと我慢してるんでしょ」

のび太「何を、言ってる」

ミナミ「我慢、してるんでしょ?」

のび太「……」

のび太「…………、」




――ドラえもん「全くもう、仕方ないなあ。のび太くんは…」

――ドラえもん「このどら焼きは僕んだからね、ちゃんと取っておくんだよ!」

――ドラえもん「道具はそんな事のために使っちゃいけない!!」

――ドラえもん「僕は、のび太くんが大好きだよ」



のび太「……、」


のび太「………う…あ、」


のび太「……も……ン」


のび太「ドラえもん…」












のび太「ドラえもおおォんッ!!!!!!」

のび太「うわあああああああああ!!!!!」

のび太「馬鹿やろう、何勝手に死んでんだよ!何踏み潰されちゃったりしてんだよ!本当に君は間抜けだ!!!」

のび太「わああああああああ」







のび太「…………、」

ミナミ「おさまった?」

のび太「…、まあな」

ミナミ「驚いた。あなたまだまだ子供じゃない。まるで小学生みたいだった」

のび太「うるさいな、忘れろ」

ミナミ「忘れない」

のび太「……、ところで」

のび太「あの組織は何をしようとしてる。全てはそこに繋がる、そこが核心だ」

ミナミ「ああ、彼らは…」

ミナミ「――過去の身体人工育成計画を綺麗さっぱりもみ消すために、月見台を跡形もなく潰すつもりよ」


のび太「? 月見台を潰す事と、昔の計画が公にならないようもみ消す事が、どう繋がる?」

ミナミ「計画が公になって、何がまずくなるかと言うと、この時代のテクノロジーを悪用し〝巨人を生み出す〟ことが表沙汰になる点が一番の大きいところ」

ミナミ「だからその点を、誰か一人にでも全てなすりつけてしまえばいい。そう、話はまとまったの」

のび太「責任転嫁か。腐ってるな、つくづく。そんなことでもみ消せるものなら世の犯罪者は苦労しない」

ミナミ「でも」

ミナミ「元から、今その利用されてる人にも特異な破壊衝動があったの」


のび太「破壊衝動、ね…」

ミナミ「本能の赴くままに巨人を従え、町一つ破壊した人の言うことを誰が信じると思う?」

のび太「確かに…」

のび太「それなら、その今利用されてる人物は、まさしく責任をなすりつけるには適任だった訳だ」

ミナミ「……うん、」

のび太「? ……」

のび太「!」

のび太「繋がった。なるほど」

ミナミ「…」

のび太「図書館で言っていた君の〝大切な人〟が、その今利用されている人物」

のび太「君が人質として組織に捕らわれていた理由は、そこにある」

ミナミ「…………、」

ミナミ「そうだよ」


ミナミ「身体人工育成計画の失敗作が、巨人の生まれてきた理由よ」

ミナミ「彼らはその失敗作を四次元空間に幽閉――奥深くに閉じ込めた」

ミナミ「その際に使われた次元への入口ツール。それが、そう。さっきあなたの話してたドラえもんの使うポケット」

ミナミ「巨人にはいわゆる帰省本能がある。彼が巨人を従えていられるのは、おそらくはその盗まれたポケットにあると思う」

のび太「突然、月見台一つに巨人が集中したのはそれが原因か」


のび太「でも、何故またあれほどの数が」

ミナミ「次元の裂け目よ」

のび太「?」

ミナミ「急激な質量に耐えきれなかったのか、歪みが生まれ、やがて亀裂ができた。そこから巨人が解放されていった」

ミナミ「時間も空間も経て、未来の実験失敗作達はその時代にやってきた」

のび太「…………、」

のび太「数年前も、」

ミナミ「同じ理屈よ。でも二度は厳しかったんでしょう、組織ぐるみでたった一人を操って、責任をなすりつけるべく、彼にポケットを入手させ巨人を操り、月見台を滅ぼすシナリオを渡した」


のび太「……そんな、ことが」

ミナミ「ねえ! 止めて!」

ミナミ「お兄ちゃんを止めて!!」

ミナミ「今は確かに人格破綻して、しかも人をいっぱい殺して、もう、許されるべきじゃないかもしれないけれど……」

ミナミ「もう、これ以上は、罪を大きくしてほしくない、」

ミナミ「お兄ちゃんに会いたい……!」

のび太「…………、」

のび太「分かった、会わせる」

ミナミ「!」

のび太「俺が、君の兄に会わせる」

のび太「そうさせてやれなかった人……ロボットだが、そんな存在がいる。同じ過ちは二度と起こさない」

のび太「俺に任せろ」
























ドラミ「…………、」


月見台、北側

憲兵団

ジャイアン「があああああああああっ!!!」


ブチブチブチブチ!!!


ジャイアン「があああああああああっ!!!」


ブチブチブチブチ!!!


ジャイアン「があああああああああっ!!!」


ブチブチブチブチ!!!


巨人「ヴアアアアアアアアアガァァァァッッ!!!」ズシン!ズシン!

巨人「ゴオオォォォォォォアアアアアアア!!!」ズシン!ズシン!

巨人「グガアアアアアッッ!!!!」ズシン!ズシン!


ジャイアン「があああああああああっ!!!」


ブチブチブチブチ!!!


ジャイアン「があああああああああっ!!!」

ジャイアン「――ア、はっ、はっ、」


『まだ来ます!!』

『次!30メートル級が八体!』


ジャイアン「ッッ……はっ、はっ、キリがねえ……」

ジャイアン「数年前の比じゃねえ。何だってこんなに巨人が一カ所にうじゃうじゃ沸いてくるんだ!どうなってやがる!」

ジャイアン「くそ、巨人の目的は何だ…」

ジャイアン「ただの破壊衝動か?それとも誰かに操られでもしてるのか」

ジャイアン「何にせよ、守り抜かなきゃいけねえ…」

ジャイアン「のび太が来るまでは、もう英雄は一人も減らねえぞ!!」

ジャイアン「だからァ!!」


ブチブチブチブチ!!
ブチブチブチブチ!!



巨人「」シュウウウウ…

巨人「」シュウウウウ…

巨人「」シュウウウウ…


ジャイアン「さっさと戻ってこいのび太ぁぁぁああ!!!」


月見台 西側

調査兵団

ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ!!!!!……


『……!』

『す、すげえ…』

『立体機動装置を使わせたら、野比のび太に次いで実力のある英雄って噂、本当だったんだ』

『ぼやぼやするな!早く続けえ!!』



しずか「はっ、はっ、」


ズバズバズバズバズバ!!!!!…



巨人「ガァァァァッッアアアアアアア!!!!」ギュオッ!

巨人「グガアアアッッ!!!」ギュオッ!

巨人「グオオオオオオオ!」ギュオッ!


しずか「」ヒュヒュッ!ヒュ!


ズドドドドドン!!!!


しずか「――ハァ!!」ヒュ!


ズバ!ズバ!ズバ!



巨人「」シュウウウウ…

巨人「」シュウウウウ…

巨人「」シュウウウウ…


しずか(出来杉さんが、死んだ)

しずか(出来杉さんが、死んだ)

しずか(出来杉さんが、死んだ)


巨人「グガアアアッッ!!」

ズババッ!!

巨人「――――アァッ」シュウウウウ…



巨人「ヴォォオオオッッ!!!」

ズババッ!!

巨人「――――ォッ」シュウウウウ…



巨人「ガァァァァッッアアアアアアアアアアアア!!!!」

ズバババババッ!!!

巨人「――――アアッ」シュウウウウ…




しずか「あと、何体…」ゼイゼイ

しずか(ドラちゃんも、やられた)

しずか(のび太さんの両親も、やられた)

しずか(一般の人々も、たくさんやられた)

しずか(戦ってる兵も、たくさんやられた)

しずか(でも……)


ズババッ!!


しずか「もう、殺させ、ない……!」


月見台、東側

駐屯兵団

スネ夫「何してんだよのび太ァ!!」

ズババッ!

スネ夫「このままじゃ皆死んじゃうだろぉ!」

ズババッ

スネ夫「クール気取ってる場合かよ!ヒーロー気取ってる場合かよ!」

ズババッ

スネ夫「今いてくれないと困るんだよぉ!!」

ズババッ



『来ました!! 新たな超大型巨人です!』

『南西から20メートル級がおよそ十体!!』

『a隊とf隊を回せ!』

『重傷者に構うな!今は一体でも多くの巨人を倒せ!』

『ガスだ!ガスの補給を!』


巨人(超)「――――ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

ビリビリビリ!!!



スネ夫「ぐっ、雄叫びだけで何て地響き……!」

スネ夫「え、英雄なんて呼ばれていい気になってたけど」

スネ夫「僕は多分、その英雄の中じゃ一番弱い…」

スネ夫「でも、だからこそ、」

スネ夫「スピードと、諦めの悪さだけは、一番になるって!」

スネ夫「そう決めたんだ!」


スネ夫「来い!超大型巨人!!」

スネ夫「僕に傷を一つでも付けてみろッッ!!!当たらないぞ!絶対にだ!!」



巨人(超)「――――」

巨人(超)「」ズシン


スネ夫「! 来た……」


巨人(超)「」ズシン




ズシン


町中(月見台、南側)

ミナミ兄「ふ、ふふ。皆殺しか」(※以降、?→ミナミ兄で)

ミナミ兄「は、ははははははははは」

ミナミ兄「アヒャヒャひゃふふふふヒヒヒヒヒハハハハハハハハハッッ!!!」

ミナミ兄「――やってみろォ!!」



巨人(超)「ガアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」グオオォ!!



エレン「…………、」シュッ!!


ドォン!!


ミナミ兄「! 速い…」


ミナミ兄「もっとだ!もっと殴れェ!!!」


巨人(超)「ガアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」グオオォ!


エレン「……、」ヒュッ!

ドォン!!!

ミナミ兄「!? また回避した……一度ならず二度までもォ!」


巨人(超)「ガアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」グオオォ!


エレン「……、」ヒュッ


ドォン!!



ヒュッ!ドォン!ヒュッ!ドォン!ヒュッ!ドォン!……



ミナミ兄「アアアアアアア当たらないィィィいい何故だああああああ!!」


ヒュッ!

ミナミ兄「なっ!」ビクッ!

エレン「ふうん。見れば見るほど間抜けな顔してら」

ミナミ兄「い、いきなり目の前にィ……」

エレン「この巨人、お前が操ってんの?」

ミナミ兄「だ、だから何だァ!?」

エレン「トロいよ」


巨人(超)「ガアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」グオオォ!


エレン「」ヒュッ!


ドォン!!


ミナミ兄「あ……ぐっ、また…」


エレン「どういう経緯で生まれた巨人か知らねえが、俺のいた時代の巨人の方が百倍はマシな動きをしてたぜ!」


ドォン! ドォン!


ミナミ兄「ちょこまかと……!」


ミナミ兄「こォォォいつッッ……!」

ミナミ兄「叩き潰すううううううううううううううううううううゲヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!!!!!!」



エレン「何だ…あいつ、」ゾクッ


ミナミ兄「こォォォおいいい!!!ありったけの巨人よ!!」ガバッ!


エレン「? ポケット?」

エレン「そんなモン、何に……」


ズシン!



エレン「……は?」


ズシン!ズシン!


エレン「おいおい…」


ズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシン…………


エレン「…………マジかよ」


巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアアアアッッ!!!!」ビリビリビリ…

巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアアアアッッ!!!!」ビリビリビリ…

巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアアアアッッ!!!!」ビリビリビリ…

巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアアアアッッ!!!!」ビリビリビリ…



エレン「7、8、9、……」

エレン「超大型の巨人が十体……!?」

エレン「こりゃいくら何でも……」



ミナミ兄「やれェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!」



エレン「回避も無理、弱点を狙うも十を相手じゃ隙をつかれてあの世行き」

エレン「選択肢は…」

エレン「……」

エレン「……、……、」

エレン(正気を、保っていられるかどうか……)



エレン「」ガリッ…


ドクンッ


ドクンッ


ドクンッ


ドクンッ


ドクンッ


ドクンッ――





ミナミ兄「ば、馬鹿、な…」

バァン!!

巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアッッ――――」シュウウウウ……

バァン!!

巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアッッ――――」シュウウウウ……

バァン!!

巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアッッ――――」シュウウウウ……




ミナミ兄「次々、と…。超大型巨人が……、そんな」

ミナミ兄「聞いてないぞ、嘘だ…」

ミナミ兄「〝巨人化する人間〟がいるだなんて……」



エレン(巨人)「ッッガアアアアアアアアラアアアアアッッ!!!!!」


巨人(超)「バアアアアアアアアラアアアアアッッ――――」シュウウウウ……





ミナミ兄「あ…あ……っ」


エレン(巨人)「……」


ミナミ兄「超大型巨人が…全滅……?」


エレン(巨人)「……」


ミナミ兄「も、もう…」


ミナミ兄「これまでなのか……?」


ミナミ兄「この町を、破壊し、破壊、し……」


ミナミ兄「奴らを、認めさせ……」


ミナミ兄「い、いい妹を…」


ミナミ兄「妹をををっ」


ミナミ兄「ミナミを、ミナミを、取り戻……」


ミナミ兄「取り戻して……、」



エレン(巨人)「ガァァァァッッ!!!」ギュオッ!!

ミナミ兄「ッッ!!!」


ミナミ兄「…………」

ミナミ兄「………………?」

















のび太「間に、合った、か…」


ミナミ兄「……、貴様、野比のび太…………?」

ミナミ「……、」

ミナミ兄「あ……、み…」

ミナミ兄「ミナミ…!!」

ミナミ「お兄ちゃん。……馬鹿っ、」グスッ

ミナミ兄「ミナミぃ……」




のび太「」ザッ…ザッ…ザッ…


のび太「」ザッ…ザッ…


のび太「」ザッ…


のび太「」ピタリ

エレン(巨人)「――――、」
のび太「…………、」








エレン(巨人)「――――、」

のび太(何だ、こいつ? やけに大人しい。俺を探ってる……? 知性があるのか)

エレン(巨人)「――ア、グ、ア、」

のび太「! ……」

エレン(巨人)「ア」





ドォン!!!!

ヒュッ!――トッ


のび太「……!」

のび太(と思えばいきなり暴走?)

エレン(巨人)「アアアア……」

のび太「何かに、耐えているような…何だこの違和感」

のび太「あいつは巨人か?」

エレン(巨人)「アアアアアアア……」

のび太「……頭痛? 訳が分からない…」

エレン(巨人)「ガ、ア――――」

エレン(巨人)「」



のび太(…………来る!)




ドォン!ドォン!ドォン!!!


のび太「……おい!そこのお前ッッ!」タタタタ…

ミナミ兄「……え…?」

のび太「あいつは何だ!? どうして俺を攻撃する! まだお前が操っているのか!」

ミナミ兄「ち…が……」

ミナミ兄「あれ…は…」



エレン(巨人)「ガアアアアアアアッッッ!!!」ギュオッ!


ドォン!!!


――ヒュッ!


のび太「くそ…ちんたら喋りやがって……遠距離じゃ声も聞こえやしないっ」スタッ!

のび太「あの戦意喪失っぷりを見るに、奴の仕業じゃない」

のび太「こいつは何なんだ……!」


のび太「くそっ、やりづらい」

のび太「……ん?」

のび太「あの飛んでくる奴ら…」


――――タタタッ


しずか「はっ、はっ……」

ジャイアン「ハァ、はぁ…」

スネ夫「ふう…」


のび太「お前らッ」


しずか「巨人がいきなり攻撃の手を止めたの」

ジャイアン「どういう訳だが知らねえが……」

スネ夫「戦闘音が聞こえるから、気になって、こっちまで」

のび太「…」


エレン(巨人)「」ズシン!ズシン!


のび太「……おい、」

のび太「アレを、狩るぞ」


エレン(巨人)「――ア…………ガ」


ジャイアン「? 何だ、あの巨人」

しずか「……、」

スネ夫「頭を抱えて苦しんでるよ…」

のび太「また硬直を始めやがった…。本当に意味が分からないが、」


のび太「――危険因子は、残さず潰す」


エレン(巨人)「……れ」



のび太「!?」
しずか「――、」
スネ夫「なっ」
ジャイアン「!!」

エレン(巨人)「――や、レ」



エレン(巨人)「やれ!俺を……やれ!!」


のび太「」

しずか「」

スネ夫「」

ジャイアン「」


のび太「おい……、今のは空耳か」

しずか「い、いえ…」

スネ夫「は、話した」

ジャイアン「巨人が、意味のある言葉を……」


エレン(巨人)「――ガ、ッア」


スネ夫「ど、どうするの? 本当に仕留めるの?」

ジャイアン「じ、自分からやれって言ってるんだぜ? 奇妙で仕方ねえよ…」

しずか「もうすぐ抑制にも限界が来そうだけど……」

のび太「……、……、」












「――その必要は、ない」


エレン(巨人)「――アアアアアアアア、」



ピシュン!!



のび太「!」

ジャイアン「何!?」

しずか「巨人が…」

スネ夫「消えた……、」





「せっかく別時空から来てもらった主人公だったけれど、もうこうなれば用済みだ。彼に死なれたら、タイムパラドックスなど、色々と不都合が起こるからね。元の時点に返したよ」


のび太「…………!!」

しずか「」

スネ夫「」

ジャイアン「」



のび太「なっ…、」

のび太「と、」

のび太「父さん……?」




のび太父「やあ」

【第四部】

数年前、のび太の部屋


ガラッ


のび太「ドラえもおおんッ!!」ドタバタ

ドラえもん「……何だい、またジャイアンにいじめられたのかい」

のび太「そうなんだ、ジャイアンったら酷いんだ!」

ドラえもん「はあ。いつになったらのび太くんは成長するのやら…」

のび太「今回で僕はもう限界だよ、思いっきりこらしめられる道具を出してよ!」

ドラえもん「ううん…」


ドラえもん「ううん……、」

のび太「ドラえもんッ」

ドラえもん「仕方な…」


ズシーン!!


ドラえもん「!?」
のび太「わわっ」


ズシーン!ズシーン!!


のび太「な、ななな何だ」

ドラえもん「外だ、窓から様子を見てみよう」


ガラリ

のび太「」
ドラえもん「」


のび太「……ドラえもん、あの大きなのは何」

ドラえもん「きょ、巨人としか…」

ガラッ!

のび太母「大変よ!」

のび太「ママッ」

のび太母「ああ、見たのね。それより」

のび太母「あの巨人、こっちに向かってくるわ!」


のび太「何だって!?」

ドラえもん「……、」

ドラえもん「?」

ドラえもん「うぐっ!」ズキン!

ドラえもん「…………?」


のび太母「ど、ドラちゃん?」

のび太「ドラえもん?」

ドラえもん「な、何でもないよ。少しポケットに違和感があっただけ」

のび太「ポケット。そうだ、あの巨人をどうにかしてやろうドラえもん!このままじゃ僕たちぺちゃんこにされちゃうよ!」

ドラえもん「そうだね。迎え撃とう」

のび太母「た、頼んだわよドラちゃん」

ドラえもん「タケコプター!」


ヴウウ――――ン…

のび太「こ、これは」

ドラえもん「想像以上に、大きいね」

ズシーン!ズシーン!ズシーン!

のび太「ど、どどドラえもん……」

ドラえもん「く、空気砲ー!」

のび太「き、効くの?そんなもの…」

ドラえもん「まずは小手調べだよ、いくぞっ」

ドラえもん「ドカン!!」

ボンッ!

――バシュッ

巨人「」ズシーン!ズシーン!

ドラえもん「か、かき消された……」


ドラえもん「これならどうだっ」

――バシュッ

ドラえもん「ならこれだっ」

――バシュッ

ドラえもん「つ、次はこれだ!」

――バシュッ

ドラえもん「ま、まだまだ」

――バシュッ

ドラえもん「…………!」



のび太「ど、ドラえもん。もう道具も39個目だよ!」

ドラえもん「そんな。どんな道具も効かない…」


巨人「」ズシーン!ズシーン!

巨人「グアアアアアアアッ!」


のび太「う、うわあああああ!!」

ドラえもん「のび太くん危ない!! ――ドカンッ!」


ボンッ!


巨人「グ、オ……オ?」フラッ


のび太「……ッ」

ドラえもん「あ、あれ。効いた? いや、空気砲の軌道が眼に直接行って眼眩ましになっただけだ」

のび太「逃げようよ、ドラえもん!」

ドラえもん「で、でも」

のび太「このままじゃ死んじゃうよ!」

ドラえもん「う、うん」

ドラえもん「どこでもドア!」


町中

ジャイアン「な、何だってんだよありゃあ!」

スネ夫「お、お終いだ。この町も…日本、いや人類丸ごと……」

しずか「ど、ドラえもんの道具でどうにかならないの?」

のび太「それがどんな道具も効かないんだ…」

スネ夫「どんな道具も効かない……?」

しずか「そ、そんな」

ジャイアン「こうなりゃ、剣でも持って戦うしか」

のび太「ドラえもん」

ドラえもん「……」

ドラえもん「巨人に対しての道具が効かないなら…」

ドラえもん「もしもボックスー!」


ジャイアン「も、もしもボックス?」

しずか「巨人のいない世界を作るの?」

のび太「だ、駄目だよドラえもん。その道具は…」

ドラえもん「この道具は、使用者の望むままのパラレルワールドを探し出して、それを実体験しているような夢を見せる道具」

ドラえもん「い、違法だけど…緊急事態なら」

ドラえもん「道具を改造して、現実世界を作り替えるものにしてみせる」

のび太「改造……?」




カチャカチャ、カチャ……


ドラえもん「――で、出来た!」

しずか「これなら…」

ジャイアン「行けるか?」

スネ夫「やっちゃえやっちゃえ!」

ドラえもん「のび太くん、頼んだよ」

のび太「う、うん」


パタン


のび太「…………、」


ズシーン!ズシーン!


のび太(このままじゃパパもママも、友達も、ドラえもんも、僕も、皆やられちゃう)

のび太(そうならないためなら、いいよね)

のび太「も、もしも!」

のび太「巨人のいない平和な世界があったら!!」


……ズシーン!ズシーン!!


のび太「……!」

しずか「消えないわ…」

ドラえもん「こ、これも効かないのか」

ジャイアン「これじゃあ、打つ手なしだぜ…」

スネ夫「うわあああああもう駄目だぁ!」


ズシーン!ズシーン!!


のび太「こ、こうなったら」

ドラえもん「駄目だのび太くん!これは改造した道具なんだ。巨人以外に効果を及ぼすような『もしも』を唱えてしまったら、何がどうなるか分からないんだ!」


のび太「そ、そうだけど」


ズシーン!グシャアン!ドガアン!!


のび太「……い、家が」


ドーン!ガガガガ…ズシーン!!


のび太「町が…」


ドラえもん「早くボックスから出てきてのび太くんッ!!」


のび太「皆が…死んじゃうよ……」


ズシーン!ドドドド…グシャアン!


のび太「あ、ああ、」



ジャイアン「早く出てこいバカ!」


しずか「のび太さん!」


スネ夫「のび太ッ!」


ドラえもん「のび太くん!」


ズシーン!ズシーン!!


のび太「あれは、僕の家…」


ズシーン!…ズシーン!


巨人「」グオオオ…


のび太「――あ、」


ドラえもん「のび太くん!!!」





のび太「も、もしも」



のび太「もしも……」



のび太「巨人に、」



のび太「対抗できる世界が」



ドラえもん「のび太くん!!!」



のび太「――あったら」


――ズバッ!!


巨人「……ア、ガ」

巨人「」シュウウウ…


のび太「」

ドラえもん「」

しずか「」

スネ夫「」

ジャイアン「」


のび太「や、やっつけた」


のび太「僕の家が踏み潰される寸前で、あの巨人をやっつけた!!」

ドラえもん「の、のび太くん。君はなんてことを…」

ジャイアン「なりふり構ってられねえだろ!命がかかってんだぜ!?」

スネ夫「早く、この隙に逃げよう!」

のび太「ドラえもんっ」

ドラえもん「う、うん……」





タタタタ……


ジャイアン「それにしてもよ、逃げるったってどこに逃げるんだ!?」

スネ夫「ほ、ほら見てよ。町中を…巨人が何体も……」

しずか「しかし、こっちに向かって来ない……?」

のび太「ねえ、さっき寸前で巨人をやっつけてくれた人って誰なんだろう」

ジャイアン「んな事言ってる場合じゃねえだろ!」

のび太「ち、違うよ。お礼とか、そんなんじゃなくて」

のび太「どうやってあの巨人を倒したんだろうって」

スネ夫「な、なるほど」


ジャイアン「何だか、刃みたいなもので斬りつけてたように見えたけどな。巨人の後頭部あたりをズバッと」

しずか「あの大きな巨人の後頭部まで、どうやってジャンプしたの? タケコプターもないのに…」

スネ夫「きっと、巨人に対抗する武器があるんだよ。ドラえもんの道具とは、また根本的に違うものが」

のび太「み、見て!」

ジャイアン「何をっ」

のび太「む、向こう。うんと向こう!何か町を囲ってる大きな壁があるよ!」

しずか「ほ、本当」

スネ夫「何だ、あれ……」


ジャイアン「おい、もうちょい町を見渡せる高い場所に行こうぜ」

しずか「そうね…」

スネ夫「ドラえもんっ」

ドラえもん「う、うん…」

のび太「ごめんね、ドラえもん…僕……」

ドラえもん「いや。いいんだ、本当に、のび太くんの家ごとパパやママが踏み潰されちゃうところだったんだ。仕方ないよ。行こう」




タタタタ……





のび太「やっぱり…」

しずか「これは…」

スネ夫「ま、町全体を」

ジャイアン「囲ってやがる……!とんでもなくでっけえ壁が円状に町を囲ってやがる」

ドラえもん「多分、巨人が町へ侵攻してこないように、大きな壁を築いたんだ。そういう世界になってるんだ」

のび太「でも、巨人は町で暴れまわってるよ」

スネ夫「あ、あそこ! 壁に大きな穴が!」

ジャイアン「あの壁穴から巨人がぞろぞろ町へ侵入してる訳か」


タタタタ


兵「の、野比のび太様ですよね!?」

スネ夫「わっ」

しずか「その服…」

兵「は?こ、これは軍服ですが……。それより、わ、あなた達、ノビターズの面々でいらっしゃるじゃありませんか!」

しずか「の、ノビターズ?」

ジャイアン「ぶははは、だっせえネーミング」

のび太「どうして僕の名前が……」

兵「?? ……ええとにかく、町を巨人から守り続けた《ウォール・ノビタ》による損壊で」

のび太「う、ウォールノビタ?」

兵「は、……はっ?」

ドラえもん「ちょっと君。何も聞かないでこれまでの経緯を教えてよ。そう、僕らを何も知らない一般人として扱ってさ」


兵「……と、いう訳です」



のび太「…」

ドラえもん「…」

しずか「…」

スネ夫「…」

ジャイアン「…」


ジャイアン「あ、あまりの実力に」

スネ夫「僕らが英雄視され」

しずか「その中でも圧倒的な強さを誇るのび太さんの名前を」

ドラえもん「巨人対策に築いた壁や僕達に当てた」

のび太「巨人に対抗する手段は、立体機動装置…」



兵「??」

兵「は、早く」

兵「助太刀に来てください、このままじゃ保ちません!」


別の町中

兵「ぐ、軍服と立体機動装置です。急いでください、こうしている間にも巨人が」

のび太「わ、わわっ」

ドラえもん「こうなった以上は、とりあえず従おう」

ジャイアン「そうだ。本当に戦える力を身に付けたかもしれねえんだからな」

しずか「そういえば、何だか妙に体が軽いような…」

スネ夫「ぼ、僕も! 今ならとんでもない速さで走れそうな気がするよ」


ズシーン!ズシーン!!


ドラえもん「それにしても、凄まじい地響きだ」

のび太「急ごう、僕や皆の家が潰されちゃわないように」


ウォール・ノビタ付近

ズシーン!ズシーン!!


のび太「お、大きい…」

ジャイアン「とりあえず、立体機動装置の使い方と巨人の弱点も聞いた。後は」

しずか「本当に、私達に英雄視されるほどの力が備わっているか、ね」

スネ夫「で、出来るかな」

ドラえもん「やろう、町の皆を救うために」

のび太「でも、でも、やっぱり……いざ戦うとなると、」

ジャイアン「いつもこんなシチュエーションになった時は、ドラえもんの道具があったからな…」

スネ夫「今は、正真正銘、人類が生み出した道具を使っての戦闘だ」

しずか「あ、脚に力が入らない…」


ドラえもん「く、来るよ!」


ズシーン!ズシーン!!……


ズシーン!!!


のび太「あ、あわわわ」

のび太「こんな間近に…」

のび太「巨人が…」

のび太「巨人……が、」


巨人「ガアアアアアアアッ!!!」


のび太「巨人」

のび太「キョ、ジ……ン」

のび太「キョジン」

のび太「………………、」

のび太「」

のび太「――期限因子は残さず」








のび太「潰す」





ヒュウウウ…



巨人「」シュウウウ…

巨人「」シュウウウ…

巨人「」シュウウウ…



のび太「……やったか」

スネ夫「何体倒した」

しずか「およそ30弱よ」

ジャイアン「次は西側を固めるぞ」

ドラえもん「うん」

現代 町中(月見台、南側)

のび太父「やあ」

のび太「と、父さん……」

しずか「何が、どうなってるの」

ジャイアン「今、巨人を消し去ったよな?」

スネ夫「も、元の時空に返したって…」

のび太父「」ヒラヒラ

のび太「!! それは…」

しずか「ポケット!」

ジャイアン「本物のポケットはアイツが持ってる」

ミナミ兄「……」

スネ夫「それなら、あれは」

のび太「スペアポケット…」

のび太「――!」


ミナミ兄「……」

のび太「そうだ」

のび太「奴は、ミナミの兄」

のび太「組織に利用され、この時代にやってきた。つまり、紛うことなく奴は未来の人間」

のび太「ポケットを持たずとも、タイム風呂敷一つ持っていても何ら不思議じゃない」

のび太「本物のポケットでなければ巨人は操れない」

のび太「つまりスペアポケットはやはり、奴にとって必要物じゃなかった」

のび太「なのに、家からスペアポケットが無くなっていた理由」

のび太「それが…、」

のび太「父さんの仕業、だなんて」


しずか「待って。でも隊長のお父様は死んだんじゃ」

スネ夫「そんな偽装、未来の道具があればどうとでもなるよ」

ジャイアン「……、」

ミナミ兄「や、奴は俺が」

のび太父「僕は君にやられる寸前、ママに真相を話そうとした。それを覚えているかい」

ミナミ兄「…」

のび太父「しかし、巨人がやってきた理由を話され、そこから推測が進んでいけば、事態は君にとって不都合になってしまう」

ミナミ兄「――!」

のび太父「だからこそ、君は僕をやった。僕は、君が僕をやるよう誘導した」


ミナミ「お、お兄ちゃんは……組織からもアナタからも利用されたっていうの!?」

のび太父「そうなるね」

ミナミ「そ、んな」

ミナミ「う。うわああああ」

のび太「……、」

しずか「何のために、こんな事を」

のび太父「何から話せばいいかな。何も話す義理は無いんだけどね、もう僕の勝利は確信された。どんな質問にでも答えよう」

ジャイアン「目的は何だ!?」

のび太父「巨人の力を手にする事だ」


のび太父「数年前の襲撃時、僕は圧倒されたね。巨人の絶大な力に」

スネ夫「巨人の力を使って、何をしたいんだ」

のび太父「全ての頂点に立つ」

のび太「そんな個人の理想などどうだっていい。ドラえもんは、ドラえもんはどうしたんだ。隠したのは父さ……お前、だろう」

のび太父「ほう。何故?」

のび太「ドラえもんの残骸が無くなったタイミングだ」


のび太「一番始めに巨人が襲撃した時。……俺の目が、覚める前に、ドラえもんは……死んだ」

のび太「その後に、俺と三人が合流、立体機動装置の依頼を終えて、巨人を倒しに行く時まで、ドラえもんの残骸はそこにあった」

のび太「この事態はおそらく計算じゃない。組織とお前には何の接点もないはずだからだ。つまり、ミナミ兄が巨人を従え月見台を強襲してきたのは、お前にとって、言ってみれば棚からぼた餅という事だったんだ。思いがけない幸運が舞い降りたんだ」

のび太「機を逃さないべく、現状を伺いながら、どうミナミの兄を利用するか考えた」


のび太「俺が再び家に戻ってきた時には、ドラえもんの残骸は跡形も無かった。もちろんポケットもろとも」

のび太「となると、この事態から見て、この合間に、ミナミ兄とお前の二人がポケット、スペア、ドラえもんの残骸を持って行ったことになる」

のび太「ミナミ兄にとって必要なのは本物ポケットのみ。それをタイム風呂敷で修復、その場を去った」

のび太「その次のタイミングで、お前はドラえもんの残骸を発見した。そこで、事態を把握したんだ。そしてスペアポケットを奪った」


のび太「ここで重点を置くべきが、なぜ事態を瞬時に把握したかだ。答えは簡単だ、ヒントが存在したからだ」

のび太「巨人の襲撃、ポケットの消失」

のび太「お前は長年、巨人の研究を行っていたはずだ。何度かタイムマシンを使って未来にも行っているはずだ。それなら巨人の帰省本能も知ってて当然だ」

のび太「つまり、お前はポケットの価値を知っていたんだ」

のび太「数年ぶりに、また四次元に亀裂が生まれ、そこから多くの巨人が脱出しこの時代にやってきた」

のび太「未来の組織は、身体人工育成計画を公にしないため、ミナミ兄を派遣した」

のび太「都合良く死んだドラえもんを発見したミナミ兄は、ポケットを盗み、巨人の操作手段を獲得した。このシナリオは組織によるものだ」

のび太「つまり、それまでの過程を抽象的には捉え、機会を待った」


のび太「そして、その機会は訪れた」

のび太「俺達が覚醒し、ミナミ兄の率いる巨人と対立。お前からすれば邪魔者達が勝手に争いを繰り広げてくれて万々歳だったろう」

のび太「しかし人類側は劣勢に立たされていた。先ほどの巨人を呼び寄せたのは、実力の拮抗を図るためだ」

のび太「そして上手いタイミングで、ここまでたどり着いた」

のび太「そうだろう? おい、本物ポケットはどうした。本物ポケットはどうしたミナミ兄!」

ミナミ兄「え? あ…。あ!」

のび太「だろうな。もうポケットや奴の手中だ。遅かったんだ、気付くのに」

のび太父「」スッ

しずか「! ポケットが二つ…」

のび太「で、だ。まだ分からない事と言えば」

のび太「ドラえもんの残骸の行方だよ。うちのタヌキどこにやった!」


のび太父「……」

のび太父「ドラえもんは、道具を用いて異空間に閉じ込めた。残骸を修復されては困るからね、英雄の中で唯一のロボットなのだから」

のび太「生かしておけば巨人と人類の実力は互角だったかもしれないのに? わざわざ別時空の巨人を呼び寄せてまで、お前は何がしたかったんだ」

のび太父「それは、一つだけその推理に大きな穴がある事に繋がる」

のび太「穴?」

のび太父「巨人……いや、エレンをこの時代に呼んだ理由の本命は実力の拮抗だけじゃない」

のび太「…」

のび太父「交換条件を出したんだ」

のび太父「巨人を好き放題やっていい。ただし」

のび太父「君の血を、少し分けてほしい――と」


のび太「エレン? 血?」

のび太父「知ってるか、巨人が自然に生息していた時空では〝巨人化する人間〟が存在したんだよ」

のび太「!」

しずか「!?」

スネ夫「きょ、巨人化する…人間……!」

ジャイアン「! て事は、さっきの妙な巨人…」

のび太父「あれが、エレンだ」

のび太「…………、その巨人化する人間の血を手にして、どうするつもりだ」

のび太父「僕は長年、巨人の研究をしていた」

のび太父「その最中、特に目を付けた点が、巨人はどう生まれてくるのか、だ」


のび太父「現代と未来を往復し、いくら資料を漁っても巨人がどう生まれてくるかは分からなかった。そしてそのまま疑問の矛先は〝どう巨人を生み出せるか〟へと繋がった」

のび太父「結論は出なかった。だが、唯一掴めた真実があった」

のび太父「この時代に現れる巨人は、本来の生まれ方によって出現している訳ではない、と」

のび太父「そして、お前の言う組織の存在こそ掴めなかったためどういう理由でそうなっているのか理解出来なかったが、」

のび太父「別空間に幽閉されている、その事までたどり着いたんだ」


のび太父「そこからは推測だが、数年前の巨人出現は、その別空間が大量の巨人の質量に耐えきれず、漏れ出すように出てきたようなものだとしたら」

のび太父「別空間に、思い切り負担をかけてやれば、再び巨人が現れるのではないか――と」


のび太「………………!」

のび太「巨人再出現は、お前の仕業、と」

のび太「そんなはずはない、巨人の出現は計算じゃなかった!」

のび太父「だから言ったろう、推測だと。なので、四次元空間への大負担は実験的なものだった」

のび太父「しかし奴らは本当に出現した。ならば次はポケットを獲得しなければならない。だがポケットは既に何者かによって奪われていた」


のび太「……、……、」

のび太父「そういう意味でも、お前達は利用させてもらった。ポケットを手にするチャンスを掴むために」

のび太「まんまと、全てを手にした、か」

のび太父「そして話はエレンの血に戻る」

のび太父「これさえあれば、巨人に〝知性を与えることができる〟――僕の研究の、最大の成果だ」

のび太「知性を持った巨人の大群……まさしく最強だな」

のび太父「そうだ、最強だ」

のび太父「最強だァ!!」





のび太父「ははははははははは!!!!」


のび太父「ははははははははは!!!!」



しずか「……」

ジャイアン「……」

スネ夫「……」

のび太「最強だ」

のび太「――――が、」



のび太「司令塔を潰せば、何の問題もない」チャキ…


しずか「!! ……」

ジャイアン「のび…。隊長、」

スネ夫「だ、だって…」


のび太父「実の父親を、始末するか。のび太」

のび太「…………!」


ミナミ兄「おい、お前…」

ミナミ「のび太さん…」

のび太「……、」

のび太父「やれよ!のび太、残酷無慈悲、英雄の中でも最強、巨人殺し、生きる伝説、野比のび太!!」

のび太父「悪の元凶――実の父親を!」

のび太父「斬ってみろッ!!」





のび太「……」

のび太(ドラえもん…)

のび太(こんな時、)

のび太(君なら)


のび太(君なら…)

ドクン

のび太父「さあ!!」

ドクン

のび太(どうする?)

ドクン

しずか「隊…のび太さんッ!!」

ドクン

のび太(君は止める?)

ドクン

スネ夫「のび太っ」

ドクン


のび太(でも、君が死んだ理由はあいつにあるんだよ?)

ドクン

ジャイアン「のび太ァ!!」

ドクン

のび太(俺は……、僕は)

ドクン

のび太父「さあッ、やってみろ!!」

ドクン

のび太(あいつを……)



のび太(――許せないッ!!!!!)ギリッ





ダダッ!!


のび太「ああああああああああああァァ!!!」ジャキッ!

のび太父「――ッハハハハハハハハ!」



のび太父「不正解だ!のび太ァ!!」



のび太父「……グ、オ、ァ」ビキッ…

のび太「なっ!?」

のび太父「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



ミナミ「のび太さん下がってッ!!」

しずか「のび太さんっ!!」タタッ


ガシッ


のび太父「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」




のび太「……、」
しずか「」
スネ夫「」
ジャイアン「」
ミナミ「」
ミナミ兄「」



のび太父(巨人)「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」ビリビリビリ…



しずか「あ、あんな大きな巨人、見たことない…」

ジャイアン「超大型巨人を越えてやがる…」

スネ夫「か、顔が霞んでよく見えない…」

ミナミ「70…80……いえ90?」

ミナミ兄「あ、ががが」

のび太(これじゃ、弱点を付くのもひと苦労だ……)


ジャイアン「た、対抗できるか、のび太」

のび太「…………、」

のび太「……、」

のび太「隊長、だ」

ジャイアン「!」

のび太「当然だ。弱点を付けばそれで済む。知性があるとは言え、所詮、ただの一体の巨人に過ぎない」

しずか「…、」

しずか(弱みを、隠してる顔……)

スネ夫「そ、そうだよね。へっちゃらさ!僕ら英雄にかかればさ!」

ジャイアン「そうだ! 俺らには隊長がついてる!」

ミナミ「のび太さん…、」

のび太「お前とその兄は下がってろ、巻き添えをくらうぞ」


のび太父(巨人)「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」ビリビリビリ…



のび太「行くぞ、久し振りの連携だ」チャキ…

しずか「はいっ!」チャキ…

スネ夫「ようし、四人なら」チャキ…

ジャイアン「行けるぜ!」チャキ…



のび太(そう、四人)

のび太(……、)



のび太父(巨人)「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」ビリビリビリ…



のび太「行くぞ!」

他三人『はいッ!!』



のび太父(巨人)「」クルッ

のび太父(巨人)「」ドシンドシンドシン…!



のび太「なッ!?」

しずか「え?」

スネ夫「へ?」

ジャイアン「に、逃げやがった?」


のび太「…………?」

しずか(こ、困惑を、隠してる顔…)

スネ夫「ど、どうする?」

ジャイアン「どうするもこうするも…」

のび太「後を追う。逃げる理由があるとすれば、それは何らかの目的があるからだ。行くぞ、全速力だ!」



シャシャシャ…


ズシンズシンズシンズシンズシン!!!



しずか「は、速い…。追い付けない」

スネ夫「あの大きさでも自重に耐えた立派な人の走り方をしてるからねっ」

ジャイアン「野郎、逃げてどうするつもりだ!」

のび太「!」

のび太「何かを、右手につまんでいる……?」

のび太「…」

のび太「ポケットだ!!」


のび太「! そうか!」

のび太「エレンとやらの血液で巨人化を果たせるなら、さっき奴の言ってた〝巨人に知性を与える〟事も真実と考えられる!」

しずか「つ、つまり」

スネ夫「道具を使って、全ての巨人に知性を与えるつもりなんだ!」

ジャイアン「そ、そうなったら本当に最強の巨人軍団が出来上がっちまうぞ」

のび太「それだけじゃない、もう出し惜しみをする必要もないのだから、四次元に幽閉されている巨人全てを解放するつもりでもいるはずだ」

のび太「ポケットを、二つのポケットを奪取できればっ」


ズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシン!!…

ピタッ


のび太父(巨人)「」クルッ


のび太(? 振り返った…)


のび太父(巨人)「」スウウウッ


スネ夫「息を、吸って…?」

ジャイアン「まずい!」

しずか「何かくるわッ」





のび太父(巨人)「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」




ブアアアアアアアアアッ!!!!





のび太「!!」

ジャイアン「とんでもなく馬鹿でかい衝撃波、くんぞ!」

しずか「ふ、伏せて!!」

スネ夫「うわああああああ!」









――――ドドドドドドドドドド!!!!!…………







のび太「か、は……ッ」

しずか「皆……大丈夫?」

スネ夫「痛たた…」

ジャイアン「な、何てパワーだよ…」


のび太「!!」

のび太「お、おい」

のび太「周りを、見渡して、みろ」


しずか「え? !!」

スネ夫「あ……、」

ジャイアン「ま、町が…」


のび太「めちゃくちゃだ……!」


のび太「! 何をもそもそしている…」


のび太父(巨人)「……」

のび太父(巨人)「……、」

のび太父(巨人)「ク…は」

のび太父(巨人)「ははははははははは!」




――ヒュウウウッ




しずか「つ、次は何?」

スネ夫「空、見て!!」

ジャイアン「何か大量に降ってくるぞ!」




のび太「………………」

のび太「巨人だ」


















ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド………………


巨人(超)「――はははははは!」

巨人(超)「出られたのは貴様のおかげか!感謝するッ」

巨人(超)「ここはどこだァ!!」

巨人(超)「ふ、はははは!」


のび太「」
しずか「」
スネ夫「」
ジャイアン「」


のび太「無数の巨人が、知性を…」

しずか「……。全壊した月見台に、巨人の大群」

スネ夫「まるで人類の終焉、地獄絵図を見てるようだね」

ジャイアン「も、もう。お終い、か」




のび太父(巨人)「――お終いだ」

【最終部】

未来のとある場所――


ドンッ!!


『これはどういうことだ!』

『計画がめちゃくちゃだ!』

『なぜ野比のび太を逃したッ!!』

『くそ、油断した。思えば奴は人の域を超えた存在だ。あの程度の幽閉、何でもなかったのだ』

『抜かしてる場合か、しかも何なのだ奴は! 我々の失敗作を利用し人類を蹂躙しているではないかっ』

『知性を持たせることで最強の巨人軍団の完成、か。考えたものだ』

『お前は何を言っている!』

『タイムパトロールが黙ってはいないぞ!』

『そもそも、タイムパトロールごときがどうにかできるのか、あれらを』


『もう計画は隠しきれないだろう』

『ならばどうする!?』

『諦めるしかなかろう。我々はここで終わりだ』

『ふざけるな、どうにかしろ!』

『どうにか? できるものならとうにそうしているッ!』

『落ち着け』

『これが落ち着いていられるか!』

『計画の隠蔽が不可能となった今、タイムパトロールがあの時代の異変を察知するのも時間の問題だ』

『となれば、あの時空ごと滅するしかない』

『タイムパラドックスの問題はどうする。時間の矛盾が起こるぞ』

『計画が隠蔽出来ないのならタイムパラドックスなどどうでもよかろう。滅んだ世界と滅ばなかった世界、時空は分岐する。ただそれだけのことだ。いやむしろ、それを狙いに行くべきだ。時空ごと消滅できれば、もはやなだれ込んだ巨人という証拠もろとも全てを無にできる』

『ひ、一つの時空間を消滅など…』


『もう計画は隠しきれないだろう』

『ならばどうする!?』

『諦めるしかなかろう。我々はここで終わりだ』

『ふざけるな、どうにかしろ!』

『どうにか? できるものならとうにそうしているッ!』

『落ち着け』

『これが落ち着いていられるか!』

『計画の隠蔽が不可能となった今、タイムパトロールがあの時代の異変を察知するのも時間の問題だ』

『となれば、あの時空ごと滅するしかない』

『タイムパラドックスの問題はどうする。時間の矛盾が起こるぞ』

『計画が隠蔽出来ないのならタイムパラドックスなどどうでもよかろう。滅んだ世界と滅ばなかった世界、時空は分岐する。ただそれだけのことだ。いやむしろ、それを狙いに行くべきだ。時空ごと消滅できれば、もはやなだれ込んだ巨人という証拠もろとも全てを無にできる』

『ひ、一つの時空間を消滅など…』

書き込み反映が遅れたっぽい
262はミス

『あれを使うのか!』

『――時空破壊兵器、tdmだ』

『別実験の完成品か…』

『正気か!?』

『いやしかし、それで我々が助かるのなら…』

『そうなれば次は時空を消滅させた証拠を隠蔽せねばな』

『tdmは、一つの時空ごと滅するエネルギーを使うがために、発動後に欠片残さず消えてしまう、といった代物だ』

『き、貴様…』

『本気か? 一つの時空を、だぞ?』

『他に手段があるか? このままタイムパトロールに捕まりたいのなら話は別だが』

『しかし……』

『…………、』

『決まり、だ』


現代 月見台

巨人(超)「」ピクッ

巨人(超)「う……アア」

巨人(超)「あ、」



のび太「? 次は何だ…」

しずか「様子がおかしいわ」

ジャイアン「一斉に頭を抱えだしたぞ」

スネ夫「エレンみたいだ」

のび太「ああ…。……!?」

のび太「エレン…」

のび太「実験の失敗作…」

のび太「知性…」

のび太「もしかしたら、」

しずか「?」


巨人(超)「ああああああああああ!!!!」

巨人(超)「うわああああああっ!!!」

巨人(超)「うおおおおお!!」



のび太父(巨人)「何だ、どうした? お前らは知性を手にしたはずじゃ」


――ドォン!!!


のび太父(巨人)「……が、あ」


のび太父(巨人)「」ズシーン!!


しずか「な…」

スネ夫「知性を手にしたはずの巨人が、」

ジャイアン「のび太の親父さんを…倒した?」

のび太「やはりな…」

しずか「ど、どういう」

のび太「あいつ…父さんは結局巨人がどう生まれてきたかを掴めなかった。つまり、こうなるリスクを想定できなかったんだ」

のび太「実験の失敗作が巨人の正体だ。つまり、元は人間で、知性を失った状態が〝今までの巨人〟だ」


スネ夫「と、いう事は…」

のび太「ああ。人間としての、実験台としての自分を思い出したって事になる。早い話が、暴走だ」

しずか「そんなっ、ますます事態は悪化じゃない!」

ジャイアン「あの数の巨人が我を忘れて暴れ出すってのかよ!」

のび太「もはや俺達だけじゃどうしようも…」

のび太「…………、」

のび太(数にして、千未満か)

のび太(……)

ジャイアン「お、おい」

スネ夫「まさか…」

のび太「お前らじゃ適わないだろうが、俺ならやれる。別の町の住民を遠くに避難させるよう手配してくれ」

しずか「そんなの駄目ッ!!!」


のび太「……」

しずか「……!」

のび太「俺は、隊長だ」

しずか「はい」

のび太「お前は、俺に従う存在だ」

しずか「はい」

のび太「だから、命令を聞け」

しずか「聞けません」

のび太「聞け」

しずか「聞けません」

のび太「聞け!」

しずか「聞けません!!!」


スネ夫「しずかちゃん…」

ジャイアン「気持ちは、分かるけどよ…」

ジャイアン「俺も行かせたく、ないけどよ…」

ジャイアン「こんな事態、どうにかできる奇跡を起こせる人間なんて、もう、存在自体が奇跡のような実力を持つ隊長に頼る他、ねえよ」

しずか「奇跡なんかじゃないわ!!」


しずか「奇跡なんて一つも起きてないわ!」

しずか「ずっと我慢してただけよ!」

しずか「あなた達には分かってた? 今まで何食わぬ顔で隊長…のび太さんは全て背負ってくれたわ!」

しずか「ひょっとしたら死んでたかもしれない!」

しずか「もう少しで死ぬ思いをしたかもしれない!」

しずか「でも!彼は、無表情で当然だって…」

しずか「何が残酷無慈悲よ、何が生きる伝説よ、ふざけないでよ……ッ」

しずか「私達と何も変わらない、ただの人じゃない…」

しずか「少し、人より頑張り屋なだけじゃない…」

しずか「ここでまた私達は彼を頼るの!?」

しずか「あれだけの巨人の中に放り込むの!?」

しずか「全部やっつけてくれると思うの!?」

しずか「無理に決まってるじゃないッ!!! 少しは考えてよ、馬鹿!」


ジャイアン「わ、悪い…。本当、悪い……」

しずか「」グスッ…

スネ夫「…………、皆で戦おうよ、やっぱり」

のび太「…」



のび太(ドラえもん…)

のび太(やっぱり見抜かれてたよ、全然駄目だ)

のび太(強がってた風に見えてたんだ)

のび太(人類最強なのに、巨人殺しなのに、)

のび太(やっぱり分かっちゃうんだよ、どうしても)

のび太(僕が弱いからだ…)


のび太「…」

しずか「…」グスッ

スネ夫「なあ、隊長…」

ジャイアン「……、」













――――ドスッ!

しずか「…………、」


ジャイアン「!!」
スネ夫「…」


しずか「――卑怯、者…」

しずか「」ドサッ


ジャイアン「」ヒュッ!
のび太「」パシッ


ジャイアン「隊…のび太、いや、テメエ……!」

のび太「従わないならこうするしかない。当然の処置だ」

ジャイアン「確かにお前一人に頼るなんざ馬鹿げてた。俺はお前を過大評価してた。女に手ぇ出す奴なんざ男の風上にもおけねぇ、お前は最悪の戦士だ」ギリギリ…

のび太「……」ギリギリ…

ジャイアン「くそっ…くそっ…」



ドスッ!


ジャイアン「の、野郎……、」

ジャイアン「俺は、英雄、だぞ…」

ジャイアン「たった一撃で、やられ、て」

ジャイアン「たまっ、か……」

ジャイアン「」ドサッ








のび太「……」

のび太「」ザッ、ザッ、

のび太「」ピタリ





スネ夫「…………、」



のび太「どけ」

スネ夫「どかない」

のび太「お前が適うと思うか? 俺に」

スネ夫「適わない。でものび太のノロいパンチを全て避けるくらいならできる」

のび太「……やってみろ」





ヒュッ!

ドスッ!



スネ夫「……か…………ッ」

のび太「二回は回避したか。大したもんだ」

スネ夫「く、そ…」

スネ夫「」ドサッ



しずか「」
ジャイアン「」
スネ夫「」



のび太「……」

のび太「はは、」

のび太「こんなんで、隊長か」

のび太「こんなんで、こんなんで、」

のび太「う、う、」

のび太「……、」

のび太(誰も見てないなら、)

のび太(少しだけなら、泣いてもいいよね。ドラえもん)


のび太「う、」

のび太「うああああああああああああああああああああ!!!!」

のび太「嫌だああああああああああ!!!!」




のび太「死にたくないよおおおおおおおおおお!!!!」




のび太「あんな数、倒せる訳ないじゃないか!!!!」




のび太「ドラえもん!!!!」




のび太「君の道具でどうにかしてみせてよ!!!!」


のび太「君なら何でもできるだろッ!!!!」




のび太「うわああああああああああ!!!!」




のび太「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァ!!!!」




のび太「死にたくないよォォォッ!!!!」




のび太「うああああああああああ!!!!」


のび太「――――ッ、はっ、はっ、」

のび太「……、……、」

のび太「…」

のび太「」ザッ、ザッ、

のび太「!」



ミナミ兄「」



のび太「さっきの衝撃に巻き込まれたのか…。せめて元の時空で死ねればよかったのにな…」

のび太「……」

のび太「…………!!」



ミナミ「」





のび太「…………、」

のび太「嘘、だ、ろ……」

のび太「……ぐ、」

のび太「ちくしょう……ッ!」

のび太「……。…。エレンとかいう奴は、巨人への憎しみを餌にここへ連れてこられたらしいな」

のび太「なら、俺も」

のび太「復讐心を糧にして、」

のび太「奴らを」



のび太「皆殺しだ」ジャキン!


巨人(超)「うああああああああ!!」ズシンズシンズシンズシン


のび太「オイ」


巨人(超)「ああああああ?」


のび太「辛いか?」


巨人(超)「あああああああああああああああ!?」


のび太「楽にしてやる、今」


ズバッ!!


巨人(超)「あ…」


巨人(超)「――ガ、」シュウウ…

巨人(超)「あ、あ、」

のび太「?」








巨人(超)「――アリガトウ……」






のび太「」

巨人(超)「」シュウウウウ…



のび太「な、……く、」

のび太「くそ」

のび太「何が、ありがとうだよ…」

のび太「くそ……」


ズバッ!!


巨人(超)「――アリガトウ…」


ズバッ!!


巨人(超)「――アリガトウ…」


ズバッ!!


巨人(超)「――アリガトウ…」




のび太「はっ、はっ…」

のび太「どいつもこいつもアリガトウアリガトウ…」

のび太「マゾかよ、くそ、馬鹿だ、本当」



ズバッ ズバッ ズバッ


巨人(超)「うわああああああああああああッ!!」ズシンズシンズシンズシン!

巨人(超)「俺は、俺は、俺はァァァあああああ!!」ドドド…!

巨人(超)「ちくしょうォォォ、ちくしょうォォォ、があああああああ!!!」ドシン!ドシン!



のび太「――ぐッ、」



巨人(超)「やったのはお前かァァァ!?」ギュオオオ!

巨人(超)「誰だテメエはあああああ!!」ギュオオオ!

巨人(超)「うがあああああああ!!」ギュオオオ!


のび太「」ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!



ドン!ドン!!ドン!!!



のび太「――!!」ズバババッ!!



巨人(超)「――アリガト、ウ…」シュウウウウ…

巨人(超)「ラクニ、ナッ、タ……」シュウウウウ…

巨人(超)「ワルイ、ナ……」シュウウウウ…


ズシンズシンズシンズシン!!


ドン!ドゴン!ガガンッ!!


ズバッ!ズバッ!ズババッ!


シュウウウウ……


――アリガトウ


ズシンズシンズシンズシン!!


ドン!ドゴン!ガガンッ!!


ズバッ!ズバッ!ズババッ!


シュウウウウ……


――アリガトウ


ズシンズシンズシンズシン!!


ドン!ドゴン!ガガンッ!!


ズバッ!ズバッ!ズババッ!


シュウウウウ……


――アリガトウ


ズシンズシンズシンズシン!!


ドン!ドゴン!ガガンッ!!


ズバッ!ズバッ!ズババッ!


シュウウウウ……


――アリガトウ


ズシンズシンズシンズシン!!


ドン!ドゴン!ガガンッ!!


ズバッ!ズバッ!ズババッ!


シュウウウウ……


――アリガトウ


ズシンズシンズシンズシン!!


ドン!ドゴン!ガガンッ!!


ズバッ!ズバッ!ズババッ!


シュウウウウ……


――アリガトウ




のび太「はぁ、はっ、」

のび太「こ、こんな苦行は生まれて初めてだ……!」

のび太「殺しては感謝されて、そんなのをあといくら続ければいい」

のび太「いつまで心を鬼にすればいい」

のび太「頭がどうにかなりそうだっ」


巨人(超)「うわああああああああああああ!俺はっ、俺はっ、俺はっ、」ズシンズシンズシンズシン


ズバッ!!


巨人(超)「――アリ、ガトウ、ナ……」シュウウウウ…


のび太「くそっ、感謝するんじゃねえッ!!」

のび太「ふざけるな!せめて憎めよ!!何死に間際に笑ってんだよ!!!」

のび太「幸せそうに死んでくなよ!!」

のび太「うああああああああ!!!!」


ズバッ!!ズバッ!!

シュウウウウ…


のび太「うああああああああ!!!!」


ズバッ!!ズバッ!!

シュウウウウ…


のび太「うああああああああ!!!!」


ズバッ!!ズバッ!!

シュウウウウ…


のび太「うああああああああ!!!!」


ズバッ!!ズバッ!!

シュウウウウ…




のび太「これで、84体」

のび太「まだ、まだまだ…」


巨人(超)「」ズオオオ!!


のび太「――しまっ」












――――ズシーン!!!!


数年前、月見台


ズバババババ!!!


巨人「」シュウウウウ…
巨人「」シュウウウウ…
巨人「」シュウウウウ…


ジャイアン「そ、それにしても流石だな」

しずか「この中じゃ群を抜いてのび太さんが強いわね」

スネ夫「姿が見えなくなるほどのスピードで移動したと思ったら、巨人の血飛沫だもん。凄すぎるよ」


のび太「次だ」ゼイゼイ


ドラえもん「ちょっと疲れてるんじゃない?」

のび太「疲れてなんかいない。当然だ」

のび太「次だ」


のび太の部屋

のび太母「――それじゃあ、起き上がらないように見張るなり縄か鎖で縛り付けておくなり、宜しくね」

ドラえもん「了解」

パタン

のび太「離せ…くそ、何だこの道具……」

ドラえもん「しばらく安静にしてなきゃ駄目だよ。もう壁より内側より巨人はいないんだ。調査兵団に加わるなんて建て前で、実は一体でも多くの巨人を倒しにいくつもりなんだろう? 少し休まなきゃ駄目だ」

のび太「安静にしてられるかっ、今もこの地に巨人がはびこってるんだぞ…」


のび太「こんなもの…」

のび太「!」ズキッ

のび太「…あ……がッ」

ドラえもん「やっぱり。怪我もしてるんだ」

のび太「た、頼むからこれ…」

のび太「そうだ、トイレだ。トイレに行きたいからこれどかしてくれ」

ドラえもん「駄目。トイレより安静」

のび太「何!? 鬼畜! 死神!!」

ドラえもん「何とでもいいなよ」

のび太「タヌキ! ハゲ!」

ドラえもん「何!?ハゲ!?」

のび太「そうだハゲ!ハーゲ!ハーゲ!」

ドラえもん「一生そうしてるといいよ!」

のび太「何!? ……あ、トイレ! 今度こそトイレ!!」

ドラえもん「ばいばい」


パタン


のび太「ちょ!! トイレ、お前、おい!!!」

のび太「トイレ!!!」


月見台

ズババッ

のび太「はぁ、はっ、」

ドラえもん「今日の君ちょっと臭わない?」

のび太「誰のせいだ!誰の!!」

しずか「隊長?」

ジャイアン「何だどうした」

のび太「このタヌキ誰か土に埋めてこいッ!! 酷い目に合わされたんだ!」

ドラえもん「漏らしたんだよ。大の方を」

スネ夫「うわ…」

のび太「うわ!? こいつのせいだぞこいつの! まとめて埋めるぞ!!」

しずか「それは兵力の大幅な低下に繋がり、あまり好ましくない選択かと」

のび太「真面目だな!くそったれ!」

ジャイアン「クソだけに」

のび太「やかましいわ!」


またある日


ズババッ!!

巨人「」シュウウウウ…


のび太「…」ゼイゼイ

しずか「少し疲れが…」

のび太「まだやれる、当然だ。この地から一体残さず巨人を排除するために、もっともっと倒さなければならない」

しずか「…、」

パコン!

のび太「痛っ」

ドラえもん「無理するなって! 君はいつもそうだ!」

のび太「無理なんかしてない…」

パコン!


のび太「ぐっ。二度目は反撃するぞ!」

ドラえもん「お、やるかい!?」

兵「あの、すみません!」

のび太「そもそもお前はいつも!」

ドラえもん「君だって!」

のび太「隊長だ隊長!」


兵「あの…」

ジャイアン「やらせてやれ」

スネ夫「仲良いよねえ…」

しずか「用件なら私が承ります」

兵「はあ……」


またある日


ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!



スネ夫「40メートル級が五体も来たよ!!」

ジャイアン「五体なら手分けして討つぞ」

のび太「そうだな。行くぞ!」

しずか「了解!」

ドラえもん「タケコプター!」


のび太「! お前ッ」


ドラえもん「うおおおおッ!!」


巨人「ウガアアアアアアッ!!」ブオン!

ドラえもん「う、うわ!」


バキッ!!


スネ夫「!!」

しずか「――ド、」

ジャイアン「ドラえもん!」

のび太「あの馬鹿……!」ヒュッ


ズババッ!


巨人「カ……」シュウウウウ…


のび太の部屋

のび太「どうして道具を使った!」

ドラえもん「ごめん…」

のび太「すみません隊長だ!」

ドラえもん「すみません隊長…」

のび太「安易に道具に走るなとあれだけ言っただろう…。確かにタケコプターなら意味を成すが、そういう道具に頼ってしまう弱みにつけ込まれるんだ! 俺とスネ夫があの時カバーしてなかったらどうする!?」

ドラえもん「ごめんよ…」

のび太「ぐっ。隊長だって、言ってるだろ」


ドラえもん「ねえ、のび太くん」

のび太「だから、隊長だって、言ってるだろ……!」

ドラえもん「せめて二人だけの時は、その隊長の仮面、取ろうよ」

のび太「仮面って…」

ドラえもん「もしもボックスを使ったあの日から、君は何か無理に背負い込んで、弱みを隠そうとしてる。急に絶大な力を手にして、とてつもない使命感を持ってしまったんだ」

ドラえもん「よく今まで耐えたよ。少し肩の力、落とそう?」

のび太「…………、」

のび太「」スクッ

ドラえもん「どこに行くの?」

のび太「また我慢させる気か? トイレだ」


パタン


トイレ

のび太(僕……俺は、いつ何時も隊長でなければならない)

のび太(人類最強の力を手に入れてしまった)

のび太(もう数え切れないほどの巨人をこの手で葬ってきた)

のび太(それでもなお、虫のように奴らはうじゃうじゃ沸いてくる)

のび太(皆が安心して毎日を過ごせる世界に戻さなければならない)

のび太(だとしたら、それは最強である俺の役目だ)

のび太(今まで頼ってきたドラえもんですら、弱みを見せてはならない)

のび太(もう俺は頼る側じゃない、頼られる存在なんだ)

のび太(自覚しろ、)

のび太(そして巨人を無慈悲に狩って狩って狩りまくれ)

のび太(それが野比のび太だ)


またある日


ズババッ!ズババッ!ズババッ!


スネ夫「流石に…」

ジャイアン「止めるべきじゃないか」

しずか「いくら言っても聞いてくれないの…」

ドラえもん「……。ある日を境に、いきなり人類最強になるっていうのはどんな気分なんだろう」

ジャイアン「さてな…、まあ似たような気分を味わってる身としてはのび太の心中も察せるってもんだが」

しずか「そうね…」

ドラえもん「少なくとも、今までののび太くん…隊長だったら、おごり高ぶってたはずだよ」

ドラえもん「でも今は、あんなに頑張って巨人を相手に刃をふるってる」

ドラえもん「人類最強なんて関係無しに、変わったんだよ。隊長は」


バキッ

のび太「――がッ、」ドサッ

しずか「あっ!」

スネ夫「隊長!!」

ジャイアン「そら見ろやっぱり疲れてたんじゃねえか…!」


巨人「ガアアアアアアアアア!!!!」グオオオオ!!


ジャイアン「スネ夫!」

スネ夫「僕でも間に合わな――」



ズシーン!!!



しずか「……ッ」

ジャイアン「あ…」








のび太「…………、」パラパラパラ……





スネ夫「タケコプター、助かった…」




のび太「……」パラパラ…

ドラえもん「道具は使わない方がよかった?」パラパラ…

のび太「いや…、」

のび太「ありが、とう」

ドラえもん「うん」

現代


――――ズシーン!!!





のび太「……ッ」



のび太「………………あ、」



のび太「」パラパラパラ…



のび太「…タケコプター……」



のび太「ど、」



のび太「ドラえ、もん……!」




ドラえもん「道具は使わない方がよかった?」パラパラパラ…




のび太「…………、」




のび太「いや……」




のび太「ありがとう」




ドラえもん「うん」


ズババッ!!



巨人(超)「――アリガト、ウ」シュウウウウ…



のび太「ど、どうして」

ドラミ「私の頑張りに感謝しなさい!」

のび太「!」

のび太「ドラミ…」

ドラえもん「ドラミが僕を異次元から救い出してくれたんだ」

のび太「だが…」

ドラミ「修復?可能よ、22世紀をなめないで下さいっ」

のび太「……あ、」

のび太「」ガクッ

ドラミ「力抜けちゃった?」

のび太「すぐ、立てる…」


「――ほら、立てよ」




のび太「!」

のび太「ジャイアン…皆……」



ジャイアン「隊長が自分で立てないみたいだぜ!」

しずか「もう…」

スネ夫「人類最強になっても結局ヘタレだなあ、のび太は」



のび太「皆…」

スネ夫「蹴りが浅いよ」

しずか「仲間相手だもの、仕方ないわ」

ジャイアン「甘いぜ、のび太は」


ドラミ「何にしても、」

ドラミ「――五大英雄、勢揃いよ」




のび太「ああ」

しずか「やっぱり五人だと凄く落ち着くわ」

スネ夫「今なら巨人一万体でもやっつけられる自信があるよ!」

ジャイアン「調子に乗るな」

ドラえもん「さあ、行こう! 皆を守るんだ!!」


ズババッ!!



のび太「――右ッ!!」

しずか「はい!」

ヒュッ

ズババババッ!!


巨人「――アリガトウ…」シュウウウウ…

巨人「――アリガトウ…」シュウウウウ…

巨人「――アリガトウ…」シュウウウウ…


スネ夫「行ったよ!」

ジャイアン「おらァ!!」ギュオッ!


ズバッ!!


しずか「前方十四体!!」

のび太「目眩ましでいい、三秒の隙を作れ! 全て俺がやる!」

ドラえもん「空気砲!!」


ボン!ボン!ボン!


巨人(超)「う、あ、」

巨人(超)「うぐっ」

巨人(超)「!!」


のび太「」ヒュッ






ズバババババババババババババババッッッッ!!!!




のび太「」ゼイゼイ

しずか「…疲れた?」

のび太「……、」

のび太「ああ。少し」

しずか「! ……そっか」

のび太「何で嬉しそうな顔してるんだ、疲れてるんだぞこっちは」

しずか「いえ、何でも」

のび太「照れ隠ししている意味が分からないっ」

しずか「こ、こっち見ないで…」



ジャイアン「巨人もいいがこの二人もやるか?」

スネ夫「お、落ち着いてジャイアン」

ドラえもん「苦難をともに乗り越えると、途端に絆は深まるんだよ。ジャイアン」


ズバババババ!!!


のび太「はっ、はっ。今…何体目……だ」

しずか「隊長を救出してから、250を討伐してますっ」

スネ夫「見渡す限りまだまだ巨人はいるよ…」

ジャイアン「体力、保たないな…」

のび太「今までなら壁があったが…」

のび太「今回は月見台一点に集中してる訳じゃない。暴走した巨人が散り散りになってあちこちを破壊しに回ってる。こちらは休めない」

しずか「そうよ、こんな時こそ未来の道具よ!」

ジャイアン「そ、そうだ! 疲れない薬くらいあるだろドラえもん!」

ドラえもん「うんっ。それで行こう!」


――――ブツッ



のび太「!?」

しずか「!」

ジャイアン「ッ、」

スネ夫「……あれっ」

ドラえもん「!!」



――――ブツッ、ブツッ



のび太「何だ、この、感覚」


しずか「妙な脱力感が…」

スネ夫「この音は何?」

ジャイアン「か、体が重くなってきたぜ」

ドラえもん「………………まさか、」









―――ドラえもん「駄目だのび太くん!これは改造した道具なんだ。巨人以外に効果を及ぼすような『もしも』を唱えてしまったら、何がどうなるか分からないんだ!」


ドラえもん「…………タイムリミットだ」

ジャイアン「タイムリミット?」

ドラえもん「僕らがそもそもこうして人並み外れた力を持っていられるのは、数年前の改造したもしもボックスのおかげだ」

しずか「!! タイムリミットって…」

のび太「今になって、効き目が切れるのか……?」

ドラえもん「…」

ジャイアン「お、おいおい冗談じゃねえぞ」

しずか「もし効き目が切れたら、」

スネ夫「残りを倒しきるどころか…」

のび太「全滅…だ」


スネ夫「どう…しよう……」

ジャイアン「そんなの、全速力で残りの巨人を倒すしかねえだろ」

しずか「疲れない薬を使ったって、それは、流石に…」

ドラえもん「……、」

のび太「こうしてる間にも、巨人が町を破壊してる…」

のび太(くそ、どうしてこんな時に。何もかもが絶望的過ぎる。この世に神はいないのかっ)



のび太「…………」

のび太「そういえば、あのもしもボックスはまだあるのか」

ドラえもん「い、一応。でも二度使うのは危険過ぎるよ。そうでなくても、数年前の件で道具が悲鳴を上げてるんだ」

のび太「構わない、出せ」


ジャイアン「未来に返しちまったドラミをもう一度呼べばいいじゃねえか!」

ドラえもん「もしもボックスは、実を言うと僕一人しか持ってないんだ。未来の事情を話すとまた長くなるけど…」

のび太「だから構わない、早く」

ドラえもん「……も、もしもボックスー!」


ドカッ


のび太「入るぞ」ギィ…


しずか「ちょ、ちょっと」

ジャイアン「おい!」

スネ夫「隊長っ」

ドラえもん「ど、どんな『もしも』を言うつもりだいっ?」


のび太「任せろ。いいアイデアがある」パタン

しずか「いい、アイデア……?」

しずか「……ッ!」


のび太「もしも、」


ドン!ドン!


のび太「!」


しずか「――!――!!」


のび太(また顔に出たのかな。鋭いなあしずかちゃんは)


ドラえもん「――、――っ」


しずか「――!――!?」


のび太(ありがとう、ドラえもん。少しだけそのまましずかちゃんを食い止めててね)


のび太(皆、また)


のび太(会えたら、またいつものように、のび太って、そう呼んでね)


のび太「もしも、」











のび太「――僕一人で、巨人ら全てを倒せる絶対的な力があったら」


ドクンッ――



のび太(がっ……!!?)



のび太(く、苦しい……ッ)



のび太(うぁ、ぐっ、う…………!!)



のび太(ああああああ、)



のび太(そうだ、最初から、こうすればよかったんだ)


のび太(せっかく現実を作り替えられる最高な道具がありながら、)



のび太(どうして僕はあの時に世界を変えてしまったんだろう)



のび太(こうすればよかったんだ)



のび太(これなら巨人を一掃できる)



ドクンッ


ガチャ


ジャイアン「! 出てきたぞ!!」

スネ夫「……ねえ、何か」

しずか「のび太さん!」

ドラえもん「のび太くん!」

のび太「――――」

ドラえもん「のび太、くん?」

のび太「――――」

ジャイアン「お、おい。何を言ったんだ? これといった変化が見られないぜ」

のび太「――――」


スネ夫「目、虚ろだけど…大丈夫?」

のび太「――――」

しずか「や、もしかして…」

のび太「――――」

ドラえもん「君、自分だけ……」



のび太「――――」シュッ!!



ドラえもん「!?」

スネ夫「あ、あれ…?」

ジャイアン「消えた……」

しずか「……、……、」


ジャイアン「み、見ろ!! もう米粒くらいに見えるほど遠い所だが…」

スネ夫「次々と、巨人が消えていってる!」

しずか「やっぱり…」

ドラえもん「何が起こってもいいように、もしもボックスの効果を自分にかけたんだ」

しずか「どうして止めたの!?」

ドラえもん「……」

ドラえもん「僕を攻めて気が済むなら、攻めていいよ」

しずか「……そんな事言われたら、何も言えないじゃない…………!」

ドラえもん「…」

スネ夫「これで…世界は、救われるのかな」

ジャイアン「……」

ジャイアン「絶対、帰ってこい」

ジャイアン「のび太」


アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――ああ、もう


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――聞き飽きたよ


アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――もういいって

アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――分かったよ


アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――分かったから


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――どうしてそんな事言えるのさ

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――君は殺されたんだよ?


アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――自分を殺した相手にお礼って、変だよ


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――何だか、涙が出てきたよ

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――どうしてだろう


アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――ああ、


アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――うん、






















アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ


――ありがとう




























アリガトウ







ジャイアン「静かに、なった……?」

しずか「やったの?」

スネ夫「き、きっと巨人は全滅だ!のび太はやってくれたんだよ!人類の勝利だ!!」

ドラえもん「う、うん!」

ドラえもん「うん……、」

ドラえもん「」グスッ

ジャイアン「お、おい」

スネ夫「嬉し泣きにはまだ早いよ、月見台だってもう全壊だし、」

しずか「それこそ、道具を使えばあっという間よ! ……死んだ人達は、戻らないけれど……」

ドラえもん「」グスッ

ドラえもん「違うよっ……」

ドラえもん「のび太くんが、」グスッ

ドラえもん「帰ってこない気がするんだ…ァ」グスッ

ドラえもん「どうしようもないくらい、」グスッ

ドラえもん「うわあああああああ」


――――ズゥンッ!!!!!



ドラえもん「!?」

スネ夫「うわわっ」

ジャイアン「こ、今度は何だ!!」

しずか「く、空間が」

しずか「歪んでる……!」


ピー!ピー!ピー!


ドラえもん「こ、こんな時に……モニター、on」

ブオン

ドラミ『皆大変ッ!!』


しずか「ドラミちゃんっ」

ジャイアン「お、おい。これなんだよ」

スネ夫「景色がぐねぐね曲がって見えるんだけど……もしもボックスの不具合ッ?」


ドラミ「tdmよ!早く別の時空に逃げて!!」


ドラえもん「てぃ、tdmだって!!?」


しずか「tdm?」

ジャイアン「何だよ、それ」

スネ夫「どうなっちゃうの!?」

ドラえもん「よ、要は」

ドラえもん「この時空ごと、消滅しちゃうんだ」

しずか「!?」

スネ夫「じ、時空ごと…」

ジャイアン「のび太の親父さんが…?」


ドラミ「違う、22世紀の人間よ。それより早く! もう装置が発動してしまったわ!」


ドラえもん「で、でも…まだ……」


ドラえもん「のび太くんが…」


しずか「…………、」

スネ夫「の、のび太もそうだけど」

ジャイアン「時空ごと消えるって事は、地球にいる人間丸ごとお終いなんだろ!? 避難できっこねえよ!」


ドラミ「全タイムパトロールが緊急的に動き出したから大丈夫なの、さあ早く!!」


ドラえもん「の、のび太くんもタイムパトロールに…」


ドラミ「え? のび太さんそこにいないのッ?」


ジャイアン「地球のどこかには、いると思うんだけどよ」


ドラミ「なら心配ないわっ、早く!!」


ドラえもん「……………………、」


スネ夫「ドラえもん!」

ジャイアン「ドラえもん!!」

しずか「……、」


ドラえもん「い、嫌だあああああああ!!!」

ドラえもん「タケコプター!」


ブウウウウン!!


ジャイアン「ドラえもんっ!!」


ブウウウウン…………





ドラえもん「のび太くん、のび太くん、のび太くん……!!」


ドラえもん「君は、僕がいない間もずっと頑張って巨人と戦ってくれたね」


ドラえもん「だから、僕も……!」


ドラえもん「この地球のどこかにいる君を、必ず見つけ出してみせるっ」


ドラえもん「いるはずだ、絶対。生きてるはずだ」


ドラえもん「のび太くーん!のび太くーん!!」




ドラえもん「のび太くーん!!!!」








――――のび太くーん!!



……アレ?



――――のび太くーん!!



ダレカガボクヲヨンデル



――――のび太くーん!!



ダレダロウ




――――のび太くーん!!



キコエテルヨ



――――のび太くーん!!



デモ、チカラガハイラナインダ




――――のび太くーん!!



ドウシテダロウ

――――のび太くーん!!



ボク、シンジャッタノカナ



――――のび太くーん!!



イキタイノニ、コエニコタエタイノニ



――――のび太くーん!!



ヘンジガ、デキナイ

――――のび太くーん!!



ボクハ、ココニイルヨ




――――のび太くーん!!




ド、ラ、エ、モ、ン……?




――――のび太くーん!!

アア、モシモ


モシモ……


コノコエニ、コタエルコトガデキタラ


モシモ、


マタ、キミトアエタラ


モシモ、


マタ、シアワセナマイニチヲオクレタラ


ソレハ、ドンナニイイダロウ


ネ、ドラエモン


ドラエモン……

「――ドラえもん!!!」

























――――ドラえもん!!!!!

この物語は、あなたの、あなたにとっても『if』です。

あなたは、何をもって、あなたを、今を、世界を、確固たる物として認識していますか。

自分自身を肯定できるアイデンティティはありますか。

もしも。今までのあなたを否定する、死以上の、絶対的なものがやってきたら。

あなたは、あなたを『if』とする絶対的なものがやってきたら、それを否定できるだけの『あなた』を持っていますか。

生きながらにして死んでいませんか。

この世界は、あなたの、あなたにとっても『if』です。

全ては無に還ります。

『if』は、この物語であり、世界であり、あなたであり、無でもあります。

それだけです。

あなたはどうですか。

あなたは、どう思いますか。

――ジリリリリリリ…………



――ジリリリリリリ…………



――ジリリリリリリ…………



――――くん、……よ



う、ん…………。



――――の……た、……だ



ううん……。

――――……び、…………よ




っ……う…ん、




――――のび太くん、朝だよ!




ジリリリリリリ!!!!




「う、うわあああ!」

チュン…チュン……




のび太「…………?」

ドラえもん「もう!また寝坊だよ!早く学校!!」

のび太「学校?」

ドラえもん「そうだよ急いで!」

のび太「だって、僕は、もう…大学を……」

ドラえもん「大学!? 君がかい? 今日はまた一段と凄まじい寝言だね、早く顔洗って!!」

のび太「顔…、顔……」

パシャ、パシャ

――キュキュッ



のび太「…………、」

ドラえもん「洗い終わったら次は朝食だよ!」

のび太「朝食…、」

ドラえもん「そうだよ急いで!!」

のび太「ねえドラえもん」

ドラえもん「何っ」

のび太「今朝は、朝食一緒に取ろう」

ドラえもん「え、どうしたんだい急に」

のび太「聞いてほしい夢があるんだ。少し長くなる」





のび太「――どう思う?」

ドラえもん「そ、そんなの…話が大きすぎて何とも言えないよっ」

のび太「そっか。そうだよね……」

ドラえもん「……もし、その体験が真実だとしたら、その時間からそのままに帰ってこれた人間は、君一人って事になる。それを確かめるすべもない。何しろ、その数年間が〝もしも〟ひとつで無かった、って解釈も出来るんだから」

のび太「そうだよね。それなら夢でいい」

ドラえもん「…………、」

ドラえもん「はい、これ」

のび太「これは何かの道具?」

ドラえもん「ただの問題集だよ」

ドラえもん「ただし、大学レベルだ」





のび太「全然、分からない。あれ? これ……習ったはずなのに」

ドラえもん「それ見ろ、やっぱり寝ぼけてるか頭を打ったんだよ」

のび太「うーん、でも…」

のび太「も、もし」

ドラえもん「もしも、はもういいよ」

のび太「聞いてよ!」

のび太「もしも、その体験が本当だったなら」

のび太「僕はどうして、ここに、日常に、毎日に、帰ってこれたのかな。だって、単純に時を遡っただけなら、巨人はまた出てくるし…」


ドラえもん「……はあ」

ドラえもん「君は、巨人を全て倒したんだろ? そして最後に願った君の〝もしも〟は、僕の声に答え、僕に会って、幸せな毎日に帰ることだ」

ドラえもん「その改造したもしもボックスは、もしかしたら君と一体化してたのかもしれない。だから君の願いに答えたんだよ。そんな事ができたら、もはや神様みたいなものだけど」

ドラえもん「その巨人が初めて現れた日付は覚えているのかい? もし本当に、君が幸せな毎日に帰れたなら、君が巨人を全滅させたことで、もうそいつらは現れないことになるけど」

のび太「わ、忘れもしない。奴らが現れたのは10月28日…」ドタバタ

ドラえもん「カレンダーを見るまでもないよ、今日は10月29日だよ」

のび太「…………、」

のび太「そっか」

ドラえもん「いいから早く学校!! 君の夢話に付き合ってる場合じゃなかった!」

のび太「わ、分かったよ」


キーンコーンカーンコーン…


のび太「ああ…遠くから鐘の音が聞こえる」タタタタタ


のび太「また遅刻かぁ」タタタタタ


タタタタタ…


ピタリ


のび太「…………、」


のび太「これで、良かったのかな」


のび太「これで、ハッピーエンドなのかな」


のび太「僕があの時生きた証は、何もないのかな」


のび太「全部、何もかも、『もしも』で片付けて、それで、いいのかな」


のび太「……それは、何だか、嫌だ」


のび太「探そう、僕があの時に生きた、証を」


のび太「学校はサボっちゃおう」


タタタタタ


裏山



のび太「はぁ、はぁ、」


のび太「やっぱり、体力もガクンと落ちてるなあ。一気にお年寄りになったみたいだ」


のび太「そりゃそうさ、人類最強から平均の運動神経よりさらに下まで落ちちゃったんだから」


のび太「それにしてもどうしてここにきたんだろう」


のび太「直感というか、何というか…」


のび太「ここにある気がしてならないんだ」


のび太「探そう、証を」


夜中


のび太「はぁ、はぁ……」ガサガサ


のび太「何を探してるかもよく分からないのに何かが見つかるなんて、あり得る訳ないじゃないか」


のび太「つくづく馬鹿だよなあ、僕…」


キラッ


のび太「…………ん?」


のび太「何だろう…お金かな?」


のび太「……刃だ」


のび太「こ、これだよ、きっと!」


のび太「……そんな訳、ないか」


のび太「…………」


のび太「これは、持ち帰ろう」








「のび太くーん!!」


のび太「……ドラえもん」


のび太「そっか。もう夜中だ、心配して探してくれたんだ」


スネ夫「のび太ー!」


のび太「スネ夫…」


ジャイアン「のび太ァ!! こんな時間まで何してんだ、俺らまで探す羽目になったじゃねえか!」


のび太「ジャイアンっ。怒ってるよ…」


しずか「のび太さーん!!」


のび太「しずかちゃんまで…」


のび太「……この刃は、捨てよう。どうせゴミを持ち帰るなってママが怒るだろうから」


のび太「証は見つからなかったけど、僕を探してくれる友達がいるなら、今はそれでいいや」


ドラえもん「のび太くーん!!!」



のび太「――ドラえもーん!!」



end

ハルヒ「ここ一週間キョン見ないんだけど何か知らない?」
ハルヒ「ここ一週間キョン見ないんだけど何か知らない?」 - SSまとめ速報
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魔法使いのおかん
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同じ1です
今作品は、当時…というほど前じゃないけど、まどマギの最終話を見終えた直後に描いたものなんで、既視感にもし苛まれてたのなら、おそらくそれはガチです
とりあえずそんな感じ
読んでくれてありがとう!


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