千早「愛について、よく知らないけれど」 (18)

・アイマスSSです。
・地の文あります。
・短いです。

では、よろしくお願いします。

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私にとって、歌というものはかけがえの無いものであり、
これを無くせば私の存在意義は消失すると言っても過言ではない。

親しい者との別れを悲しむ哀歌や、ディヴェルティメントのような人を楽しませる歌。
どんなものでも歌詞を読み込み、その歌詞の主人公として歌った。

しかし、私でもどうしても理解が及ばない曲があった。
愛しい者へ想いを綴った、甘いポエムが詰まったラブソングだ。
あれだけは解らない。 理解できないのではない、及ばないのだ。
私の人生経験が足りないのが要因なのは、火を見るよりも明らかだろう。

だが、もう少しで私は、その恋愛感情というものを理解出来るようになるのかもしれない。





「ちーはーやーちゃんっ」

「はっ、春香!?」

声を掛けられたのは、事務所の応接間で机に広げた歌詞を睨んでいたとき。

「どうしたの?」

「……歌詞でちょっと、悩んでるところがあるの」

「どこどこ?」

顔を覗かせる春香から、離れるようにソファの席を空けた。
しかし、座ったものの依然変わらず春香の顔は近いまま。
近いから動揺しているのか、そもそもこの動揺の出所が解らないため、離れろとは言えなかった。


「ラブソングなのだけれど、感情移入できなくて……」

「ふーむむ……。 どう感情移入出来ないの?」

「この歌詞の主人公になりきれないと言うか、私恋愛経験が無いから……」

「………………てい」

乱雑に散らばった歌詞とメモを睨みつけていると、不意に視界に春香のブラウスが入ってきた。
反射的に上半身を離そうとするも、眉根に押し付けられた春香の人差し指にあえなく止められてしまう。

「えっ、な、何!?」

「眉、ずっと寄ってたよ? シワになっちゃう」

突然の出来事に目を白黒させている私とは反対に、いつもの日常の中の一動作のように落ち着いた春香。
彼女は、私のアイドルとしての体面を気にしての行動だったのだ。
頭の中で納得は出来たのに、いまだに心臓は高鳴ったままだ。


先程視界に映ってきた春香のブラウス。 重力に従って垂れるブラウスの襟から覗いた春香の鎖骨。
まるで思春期に突入した男子のような着眼点だ。 なんて浅ましい、顔が赤らむ。

「……………………あ」

「ん?」

「ありがとう…………」

「うん♪」

私が精一杯振り絞った私にとって100%の言葉でも、彼女は120%で返してくる。
春香がこの曲を歌うとしたら、一体どう歌うのだろう。

「…………春香、春香ならこの曲をどう歌うかしら」

「うぇっ、わ、私!?」

「えぇ、ちょっと気になって……」


「そ、そうだなぁ……。 私も、愛とかそういうのは解らないんだぁ」

「そうなの……」

安堵の息を漏らす。

ちょっと待て。 何故私は安堵しているんだ。

「でも……。 そうだなぁ、歌詞的には好きな人は居るけど、愛は知らないって感じに見えるし案外私達と歳一緒なのかも」

「私達と?」

「うん、大人の人なら愛とか知ってそうでしょ? それか、不器用な人なんじゃないかなぁ」

「不器用な人……、成る程ね」

「千早ちゃんなら、共感しやすいんじゃない?」

それは一体どういう意味なのだろうか。 言わずに飲み込むことにする。


「有難う春香。 お陰で解りそうな気がしてきた」

「え、本当に? 良かったぁ」

「何かお礼が出来ると良いのだけど」

「えっ、良いよ良いよ。 気にしないで?」

頑なに断ろうとするが、こうなれば私も引き下がれはしない。
礼というと、奢ったりなどの金が絡む物事になるのを見越しての優しさだろうが、それは私も一緒だ。

「そういう訳にはいかないわ。 世話になったからには返さないと」

「えぇ……? うぅん、そうだなぁ……」

なんとか春香を思考させる事に成功した。
この時点で春香の方が折れたというのが確信出来る。


「あっ、そうだ! 駅前に新しく出来たケーキバイキングのお店があってね?」

「それ、この前行かなかった?」

「また新しく出来たんだって!」

時がめまぐるしく変わっているのか、それとも駅前に展開する店の競争率が激しいのか。
移り変わりは激しいものだ、それに違う店だからと言って前行った店と味が変わるものなのか。
私には欠如した、女の子特有の感覚なのだろうか。 

そう、そうなんだ。

彼女は女の子であり、私から見て同性なんだ。
だから、彼女の服の内側を覗いてしまったり、恋を知らない姿に安堵の息を漏らすのは間違っているんだ。

「そこのモンブランが美味しいらしくって、出来たらレシピ聞ければなぁって!!」


「他のみんなも誘う?」

「んー……。 みんな急がしそうだし、今日は二人だけでこっそり行っちゃおっか♪」

間違っているんだ。
二人っきりで行けることに、私と一緒に行くことに嫌がる素振りを一つもしない姿に、
こんなにも喜びを覚えることは、絶対に間違っているんだ。

「私と行っても、つまらないかもしれないわよ?」

意地悪で姑息な質問だ。
何故なら、私は帰ってくる答えを知っていて質問しているからだ。

「えぇっ? そんな事ないよー、一緒に行こう?」

心の中では浮ついている私を彼女は見れない。
もし見られたらと思うだけで、たまらなく情けなくなる。

「……えぇ!」


ふと気付いた。
恋をするというのはこういう事では無いのだろうかと。

親しくなればなるほど、相手の魅力に気付き、一挙一動を目で追ってしまう。
それと同時に、嫌われたくなくて自分の情けない部分を見せたくなくなる。
きっと、これが恋という感情なのではないだろうか。

そうか、これが。 

これが。

私は、恋をしていたのか。

「……………………ぁ」

「…………ん?」

「……………………」

「千早ちゃん? どうかした?」

拝啓、お母様。
私は女なのにも関わらず、女の子を好きになってしまいました。

「千早ちゃん!? 顔真っ赤だよ!? 大丈夫!? 千早ちゃん、千早ちゃん!!!」

予言通り、恋愛感情を理解するのは、そう遠くない未来かもしれない。



おしまい

ここまで読んでくださってありがとう御座いました。

はるちはわっほいはるちはわっほい!!!

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