春香「今際の国?」 (271)

くだらない日常からの解放、現実逃避、中二病、ピーターパン症候群…

呼び方なんて関係ない…

どこでもいいから。

どっか知らない国にでも行きたいと思ったことはない?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395669536

審査員「それでは発表します。今回のオーディションの合格者は……」


3番……3番……お願いします……3番……!


審査員「……4番と6番!今呼ばれた人以外はもう帰っていいよ」

春香「そ、そんなぁ~」


私の名前は天海春香(17)
トップアイドル目指して邁進中の女子高生ですっ!

バタン


春香「千早ちゃぁ~ん!」

千早「お帰りなさい春香。その様子だと、やっぱり今回も駄目だったのね」


現在、私はFランク。
芸能界っていうのは、本当にキビしい世界で。
基本的には毎日レッスン漬けで時々営業、たまのオーディションでも落ちてばかり。
いつになったら大きいステージに立てるのかなあ、なんて将来に対する漠然とした不安に押しつぶされそうになる事もある。


春香「う~ん……何がいけないのかなぁ?」

千早「せっかくオーディションに出たんだから、それを自分で見つけてこなくちゃ意味が無いじゃない」

春香「千早ちゃんのいじわるぅ~……まぁ、確かにその通りなんだけどさあ」

千早「ええ、次は合格できるように頑張りましょう。ところで、電車は大丈夫なの?」

春香「へっ?……うわぁ!もうこんな時間?!どうしよう千早ちゃん!」

千早「まったく、春香ったら……私は律子に送ってもらうことになってるから、その時にお願いしてみましょう」


はあ、駄目だ。こういう日は何をやってもうまくいかない。
また律子さんに迷惑かけちゃうなあ。
何やってるんだろ、ほんと。


バタン

あずさ「ただいま戻りました~」

律子「千早ー、留守番ありがとう……って、春香?あんたまだ帰ってなかったの?」

千早「今日の反省会をしてたら終電を逃しちゃったのよ」

春香「律子さ~ん、お願いします」

律子「反省会、って事は今日も駄目だったのね……しょうがない、今すぐやっつけなきゃいけない書類があるから少しだけまっててちょうだい」

春香「ありがとうございます!」

あずさ「二人ともお疲れ様~」

千早「あずささんもお疲れ様です」

春香「あずささんはすごいですよね。もうすぐAランクアイドルだなんて」

あずさ「すごいのは私じゃないわ。律子さんや伊織ちゃん、亜美ちゃん。それに765プロのみんなのお陰よ」

春香「あはは、私もそういう事言えるくらい大きな人になりたいなあ」

千早「くっ……」

春香「あずささぁん、私の何がいけないんですかね?」

あずさ「春香ちゃんは今のままでも十分素敵よ。あきらめないで頑張れば、きっと努力が報われるときが来るわ」

春香「そうだといいんですけど……はぁ。どこでもいいから、どっか知らない国にでも行きたいなあ」

千早「どうしたのよ急に」

春香「こうやって仲間と他愛も無いお喋りしてさ。気が向いたら好きなように好きなだけ歌ってさ。そういう幸せもありじゃないかなって」

あずさ「あら~、それってすっごく楽しそうね」

千早「確かにそうね。でも……」

律子「お待たせー。ほら、もう遅いんだから片付けて」

春香「はーい!……って、あれ?」


ヒュルルルルル
              ドォーン!

   ドォーン!
                         ドォーン!

           ドォーン!


あずさ「あれは……花火?」

律子「随分と季節はずれな……」

春香「あっ、すっごい大きそうなヤツ来ましたよ!」

千早「ええ。でも、なんていうか……大き過ぎない?」



    カッ

――――――――――――――――
―――――――――――
――――――――


・・・・・・・・

春香「……ぷはぁっ!ゲホっ、ゴホっ!」

律子「ケホっ、何が、どうなってるの……?」

千早「コホっ!随分とホコリまみれね……」

あずさ「けほっ。ここは……事務所?」

春香「じゃあ、私たちはずっと寝てたって事ですか?!」

千早「それにしたって、どれだけ時間が経ったらこうなるのよ……?」

律子「うぅん……何だか頭がぼうっとするわ」

春香「わかりました!これはきっと夢です!……ってイタタタタ?!痛いよ千早ちゃん?!」

千早「痛いって事は夢じゃなさそうね」

春香「それ自分でやんなきゃ意味ないよね?!」

あずさ「とりあえず、外に出てみましょう?」


ギッ...



そこに広がっていたのは、さっきまで私たちがいたのと同じ、だけどまったく違う世界。
私たち以外の人がみーんないなくなって、それから何十年も経ったような、そんな世界でした。

千早「嘘……」

律子「一体どうなってるの……?」

あずさ「誰もいないみたいですね~」

春香「……もしかして、本当に来ちゃったのかな?」

千早「来たって、どこに?」

春香「知らない国に!」

律子「あまりにも馬鹿げてるけど、この事態を説明できる何かがあるわけでもないのよね……」

あずさ「よくわからないけど、何だかワクワクするわね~」

千早「ワクワク、ですか?」

春香「私も!何かこう、解放されたっていうか……自由!自由っていう気がしない?」

千早「自由……」

律子「……とにかく、辺りを調べてみましょう。まずは情報を得ないと」

あずさ「そうですね。まずはあっちの方を見に行ってみましょうか」

律子「あ、あずささん?!勝手に離れて行かないでください!」

春香「あっ、待ってくださーい!千早ちゃんもほら!」

千早「ちょっと、春香!もう……」


これは本当に夢なのかな?
そうじゃなかったら、私たちはこれからどうなっちゃうんだろう。
でも、今はそんなことどうでもいい。
とにかく、この新しい世界を満喫しなきゃ!

あずさ「うーん、おにぎりなんかは腐っちゃってるわね~」

春香「スナック菓子は大丈夫そうですよ!」

律子「勝手にコンビニの物を漁るなんて……って言いたいところだけど、場合が場合だしねぇ……」

千早「律子、これを見て。賞味期限が昨日のままだわ」

律子「本当……もう、何がなんだか」

春香「二人とも!難しい顔してないで、今を楽しみましょうよ!」

あずさ「そうよ~。ほら、これなんか美味しいわよ?」

律子「ちょ、あずささん?!今はお酒はやめてください!」


くだらない日常からの解放、現実逃避、中二病、ピーターパン症候群…

呼び方なんて関係ない…

もしかして、これが私の望んだ幸せなのかもしれない……

なんて短絡的な事を思っていた……

この時までは……

――――――――
――――


春香「うぅ~、もう歩けない~」

千早「はしゃぎ過ぎよ、春香」

あずさ「それにしても、もう夜よ。夢にしては随分長いのね~」

律子「……そろそろ、真剣に考えた方がいいのかもしれません。この世界がもしかしたら、現実かもしれないって事を」

三人「……!」

春香「……わ、私は、構いませんよ。みんながいてくれるなら、困ることなんてないですから」

あずさ「わ、私もです。何か他にわかるまで、4人でこうしているのも悪くないんじゃないかって……」

律子「私は別に難しいことを言いたいんじゃないわ。ただ……」

千早「思考を放棄するな、って事かしら?」

律子「ええ。二人も薄々は、わかってるんでしょう?」

あずさ「……」

春香「……あれ?」

千早「どうしたの、春香」

春香「あの辺……灯りついてない?」

律子「!……本当だわ」

千早「行ってみましょう!」

――――
――

千早「ここは……何のための場所なのかしら?」

あずさ「同じ形の建物が二つ並んでるなんて面白いわね~」

律子「灯りがついてるのは左側の建物だけですね……」

春香「とにかく、入ってみましょう!」

千早「あ、ちょっと!」

 ◇ ◇ ◇

律子「ここは……美術館か何かなのかしら」

あずさ「変わった絵や彫刻がいっぱい置いてあるわね~」

春香「わーっ、この鳥の絵綺麗だね千早ちゃん!」

千早「春香!どうしてそんなに軽率になれるの?!私だってまだ受け入れられないけど、これは明らかに異常よ!今に何かが……」


ジャー ゴボゴボ


律子「!……今、水の音が」

千早「トイレの方よ!」

カツ、カツ

???「ホンット、どこまでも悪趣味だよな。まともに水が流れるトイレは開催地だけだなんて」

あずさ「あら~、あなたは……」

春香「天ヶ崎竜馬!」

冬馬「天ヶ瀬冬馬だ!……って、てめぇら!まさかてめぇらも参加者なのか……?」

千早「参加者、って一体……?」

冬馬「なっ……しかも、初参加だぁ?……この国に来たばっかで、何も知らずにここに入ったって言うのか……?」

律子「……!出ましょう、みんな!ここはマズイわ!」

冬馬「よせ!それ以上進むんじゃねぇ!」

律子「え?」

冬馬「もう手遅れなんだよ……てめぇらは既にアイツらの『げぇむ』に乗っちまった……!」

あずさ「?……ゴミ箱の空き缶なんか拾って何を……」


ヒュッ

    バチバチバチィッ!

カンッ、カンカン...


千早「今のは……レーザーの壁?」

春香「な、何なのコレ?!」

冬馬「もしてめぇらがこの世界を夢か何かだと思ってんなら……そのままだと、死ぬぞ!!」

千早「……は?」


ブゥン


あずさ「こ、今度は何?」

律子「……音声ガイダンスが、勝手に起動したみたいね」


ザ...ガガッ...

『本日は当美術館にお越しいただきありがとうございます。』


千早「しゃ、喋った?」

冬馬「始まるぞ……」


『「げぇむ」の時間です。』


春香「げ……『げぇむ』……?!」

中断

アイマス×今際の国のアリスのクロスssになります
『Vault That Borderline!』のムービーとあの荒れた世界のイメージが重なったのでこの4人を主人公にチョイスしました
『げぇむ』ひとつ分ほど書き溜まる度に不定期に投稿していきます
アイマス側しか知らない方は決してほのぼのにはならないのでご注意ください

再開

『「げぇむ」難易度 くらぶの5 「まちがいさがし」』

『エントリー数 無制限  賞品 トランシーバー』

『るうるの説明。制限時間30分の間に会場のただひとつの「まちがい」を見つけ解答できれば「げぇむ」は「くりあ」』

『解答は一人一回まで。「まちがい」に触れた状態で「みーつけた」と叫ぶこと』

『なお、「まちがい」であればどれかひとつに触れているだけで構いません』

『「まちがい」を見つける前に時間切れになると「げぇむおおばあ」』

『「まちがい」は開始時点の状態によります。皆様の行動による変化は考慮しません』

『また、必要ならこのトランシーバーを使ってください』

『それでは「げぇむすたあと」』

残り時間 30:00

冬馬「くらぶの5……クソッ、微妙なラインだ」

律子「ねえ、そろそろ説明してもらえないかしら。『この国』だとか『げぇむ』だとか、それなりに情報は持ってるみたいだし」

冬馬「チッ。教えるのは構わねえが、なにしろ時間がねえ。『るうる』は聞いたろ?この『げぇむ』をくりあしたら知ってる限りの事は教えてやるよ」

千早「だから、『げぇむ』って何なのよ」

冬馬「……ここで生きてくための試練みてえなもんだ。マークはジャンル、数字は難易度。『げぇむおおばあ』は即ち『死』だ」

春香「死……?あ、あはは……冗談、だよね……?」

冬馬「そう思いたきゃ好きにしな。ただし足は引っ張るんじゃねーぞ」

律子「……とにかく、今は『まちがい』を見つけることに集中すればいいのね」

冬馬「ああ、気に食わねーが共同戦線だ。俺とあんたで下の階を探そう」

律子「わかったわ。千早、あずささんと春香を連れて上の階を探してちょうだい」

千早「ええ。上下階の連絡はこのトランシーバーでいいのね?」

冬馬「ああ、解答権は一人一回だからな……怪しいもんを見つけてもとりあえずは相談だ」

あずさ「そ、そうね~。慎重にいかないと……」

春香「ちょ、ちょっと待ってよ!どうしてみんなそんな冷静に……」

千早「春香。確かに今この状況は異常よ。でも、手をこまねいて待ってるだけじゃ何も変わらないわ」

春香「千早ちゃん……」

冬馬「グズグズしてる暇はねぇ!やる気がねえならそこでじっとしてろ!」

春香「うぅ……」


何で……?

何が起きてるの……?

体が動かない。動かなきゃいけないってわかってるのに。

このままじゃ本当に役立たずだ……


律子「春香。まずは心を落ち着けなさい。混乱したままじゃ何もできないわ」

あずさ「私もよくわからないけど……とにかく、頑張りましょう?」


ええと……そうだ、まずは状況を整理しよう。

私たちは灯りがついてるのが見えたからこの美術館に来て。

そこで冬馬くんに会って。何だかわからないうちに『げぇむ』って言うのが始まって。

冬馬くんが言うには、その『げぇむ』を『くりあ』できなければ……死ぬ?

ダメだ。訳わかんない。

残り時間 27:00

律子「天ヶ瀬さん?経験者としてアドバイスなんかはないのかしら」

冬馬「あぁ?そうだな……くらぶは協力と気付きが重要な『げぇむ』だ。些細な事にも気を配れ」

律子「了解。千早、聞こえてる?」

千早『ええ。作品の名前や解説なんかにも注意してみるわ』

律子「さて、こっちも頑張らなきゃ……1階は彫刻がメインなのね……『バベルの塔』に『幸せの青い鳥』……ねえ、ちょっと」

冬馬「何だ?」

律子「この彫刻、『獣の棲み処』……不自然じゃない?」

冬馬「確かに、彫刻そのものはただの天使でタイトルと何にも関連性がねえ……どう思う?!」

あずさ『作品と題名が「まちがい」って事なのかしら……』

千早『あまりに単純だけど……こっちでもそれらしいものは見つけてないわ。試してみてもいいんじゃないかしら』

律子「オーケー。どっちがいく?」

冬馬「俺がやってやるよ。何が起こるかわからねえから離れてろ」

律子「じゃあ頼むわね」

冬馬「いくぞ……『みーつけた』!」

ピシィッ バカーン!


冬馬「うぉあっ?!」

千早『どうしたの?!』

律子「答えた途端、彫刻が破裂したの!多分不正解って事なんだと思うわ」

あずさ『そんな……迂闊に答えられなくなっちゃったわ』

律子「大丈夫、天ヶ瀬さん?」

冬馬「ああ、何とかな……けど、解答権がひとつ減っちまったぜ」

律子「それにしても物騒ね……」

冬馬「この程度で物騒なんて言ってたら、この先いくつ命があっても足りねえぜ」

律子「春香?大丈夫?」

春香「ごめんなさい……まだ……」

律子「そう……無理はしないでね?」

春香「はい……」


律子さんたちの方が大変なのに、気まで遣わせちゃった。
せめて何か役に立たなきゃ。
でも、どうすれば……

書き忘れてた

建物は2階建てで下を入り口として正方形の1階に П って形で階段と2階が被さってる
入り口側と真ん中は吹き抜け

残り時間 22:00

千早「不正解ならそれなりの罰がある……恐ろしいですね」

あずさ「ええ……でも、答えないわけにはいかないわ」

千早「はい。2階は絵が多いみたいですね。『絶壁』、『ある婦人の胸像』……くっ」

あずさ「あら?この『ロンドンの双子』っていう絵、2枚1組なのね」

千早「まったく同じ絵のようですけど……あ、待ってください。目の色が違います。もしかして……」

あずさ「どうしたの?」

千早「本来『まちがいさがし』というものは、そっくりな二つの絵を見比べて違いを探す遊びです」

あずさ「ええ、そうだけど……あっ!」

千早「さっきは比較対象がなかったけれど、今回は……」

あずさ「そうね……律子さん、どう思いますか?」

律子『さっきよりは近い気もしますが……外したらどうなるかわかりませんよ』

あずさ「覚悟の上……です」

冬馬『そうか……時間も決して多くはねえ。そこまで言うなら止めねえよ』

千早「それじゃあ、いきますね」

あずさ「待って、千早ちゃん。ここは私にやらせて」

千早「ですが……」

あずさ「千早ちゃんが怪我でもしたらと思うと心配で……駄目?」ウルウル

千早「……そういう言い方をされたら、止められないじゃないですか。気をつけてくださいね」

あずさ「ありがとう。それじゃあ……『み~つけた』!」

ボォッ メラメラメラ...

あずさ「きゃあっ!」

千早「あずささん!大丈夫ですか?!」

あずさ「ええ……ちょっと指を火傷しただけよ」

千早「そんな!今手当てしますから、手を……」

あずさ「私の事はいいの。それより、早く『まちがい』を見つけて春香ちゃんたちを安心させてあげましょう?」

千早「あずささん……」

あずさ「ほら、早く残ってる場所を探しましょう?」

千早「……わかりました」

あずさ「あら?ねえ千早ちゃん、あれを見て」

千早「はい?あ、あれは……」


 ◇ ◇ ◇

残り時間 17:00

千早『律子!上に来て!』

律子「どうしたの?」

千早「この『げぇむ』の鍵になりそうなものを見つけたの!とにかく来てちょうだい!」

冬馬「行くぞ!上だ!」

律子「わかったわ!あ、春香……」

春香「ごめんなさい、その……」

律子「……とりあえずトランシーバーは渡しておくわ。何か思いついたらこっちに伝えて!」


タッタッタッタッ



手伝わなきゃ……早くこんなこと終わらせなきゃ……

って、思うのに。どうして体が動かないの?

こうしてる間にも、みんなは傷つきながら頑張ってるのに……

私は、私は……

ガー


千早『春香?聞こえる?』

春香「あっ、千早ちゃん……」

千早『……あまり、思いつめないでね?』

春香「え?」

千早『自分が行動できないでいることに、責任を感じてるんじゃないかと思って』

春香「……でも、私ばっかり」

千早『困ったときは助け合うのが私たち765プロでしょう?今は駄目でも、次私たちが困ったときに助けてくれればいい。違う?』

春香「そっか……そうだよね!ありがとう、千早ちゃん!」

千早『……元気になってくれたみたいね』

春香「うん!とりあえず、今の私にできることを精一杯やるよ!」

千早『ええ!頑張って!』


ザザッ


そうだ……今までの事は気にしなくていい。

仲間に頼るのは悪いことじゃない。

今できることをやろう。

今の私にできること……


――――冬馬「あぁ?そうだな……くらぶは協力と気付きが重要な『げぇむ』だ。些細な事にも気を配れ」


そう、大事なのは『気付き』。

今までのことをもう一度思い返してみよう。

何かヒントがあるはず。

えーっと……


――――『「げぇむ」難易度 くらぶの5 「まちがいさがし」』


そう。私たちが巻き込まれた『げぇむ』は『まちがいさがし』。

『まちがいさがし』って言うからには、そのほとんどがそっくりな『ただしいもの』と『まちがってるもの』があるはず。

でも、それらしいものがこの建物内にあればとっくに千早ちゃんたちが見つけてるだろうし……


――――あずさ「同じ形の建物が二つ並んでるなんて面白いわね~」


……そうか!

残り時間 12:00


律子「千早!いったい何があったの?」

千早「この防火扉を見て」

冬馬「あん?普通の防火扉じゃ……いや」

あずさ「ええ。今は閉まってるけど、これが開いたら向こう側は外のはずなんです」

律子「怪しさ満点ね……」

冬馬「で、如月。お前はこの先に何があると思うんだ?」

千早「恐らく渡り廊下……あっちの建物の2階に続く通路が」

あずさ「外からは暗くて見えなかったけど、きっと美術館だから工夫して渡り廊下を中心に左右対称のデザインにしてるんじゃないかって」

冬馬「って事は、あっち側もこの『げぇむ』の会場だって事か?」

律子「捜索範囲が倍になるとすると、一気に厳しくなるわね……」

千早「確かにそうなんだけど、問題はそれだけじゃないわ」

冬馬「何だよ?」

あずさ「開かないんです。この防火扉」

律子「え?」

千早「押しても引いても、横にスライドさせようとしても駄目。多分ロックがかかってるんだと思う」

冬馬「じゃあどうしろってんだよ?」

あずさ「多分、この『げぇむ』は最初から両方の建物に人がいないと駄目だったんです。トランシーバーで連絡を取り合って2つの建物を同時に探していく……そういう『げぇむ』なんです」

冬馬「打つ手なしって事かよ?!」

千早「だから二人にも来てもらったんじゃない!一緒にそれを考えてもらうために……」

冬馬「何だと!」

律子「落ち着いて。ねえ、冬馬。さっきあなたが彫刻を『まちがい』だと答えて外したとき、触れてた彫刻は砕け散ったわよね?」

冬馬「は?ああ、まあ……」

律子「そして、さっきあずささんが『まちがい』だと指摘して外した絵は燃えた」

あずさ「はい、そうです」

律子「だったら、この扉に触れて『まちがい』だと指摘したらどうなるかしら?」

冬馬「どうって、そりゃあ……!」

千早「扉が壊れるような何かが起こる……?」

律子「そう。もしかしたら、扉が溶けたり爆発したりする可能性もあるわよね?」

冬馬「そりゃ、無いとは言い切れねーが……危険だ。扉を開けるためにに一人死にましたじゃ話になんねーぞ」

律子「けど、こうしてグダグダ話して時間を浪費するよりはマシでしょう?」スッ

千早「律子!ちょっと……」

律子「いくわよ……『みーつけた』!」


そうか、隣の建物とこっちの建物は全く同じ外見。

きっと中も同じように……うん。きっと2つの建物は中で繋がってて、連絡を取り合いながら「まちがい」を探していく。

そういう「げぇむ」って事だよね……

あれ?でも、吹き抜けの2階建てとはいえ、この美術館はそれなりに広い。

小さい違いを一度見のがしたら多分「くりあ」はできない。

そんな厳しい条件の『げぇむ』の難易度が5って事はないよね……

きっと『まちがい』自体ももっとわかりやすくて大きな――――

ビリッ バチバチバチィッ!

あずさ「きゃあっ?!」

冬馬「うっ……!何だ?!」

律子「~!……~っ!かはっ……!」ビクンビクン

千早「律子?!くっ……!」ドンッ

律子「……っ!はーっ、はー、はぁ……」

冬馬「今のは……電流か?」

あずさ「律子さん!無茶しないでください!」

千早「何考えてるの!下手したら死んでたわよ?!」

律子「かはっ……ええ、気をつけるわ。それより、扉は?」

冬馬「駄目だ。壊れる気配もねえ」

律子「そんな……」

千早「くっ……このままこっちの建物だけで当てずっぽうでいくしかないの……?」

あずさ「でも、次外したら下手をすれば……」

冬馬「クソッ、万事休すか……!」

――――律子「灯りがついてるのは左側の建物だけですね……」


うん。「まちがい」はこれ以外に考えられない。

だけど、だとするともうひとつ問題が……

これを解決できないと、せっかく『まちがい』をみつけても『くりあ』はできない。

ここまで来て、それだけは絶対に嫌だ。

思い出せ。

他に何かヒントになるものは……


――――律子「答えた途端、彫刻が破裂したの!多分不正解って事なんだと思うわ」

――――千早『ええ。作品の名前や解説なんかにも注意してみるわ』

――――律子「さて、こっちも頑張らなきゃ……1階は彫刻がメインなのね……『バベルの塔』に『幸せの青い鳥』……ねえ、ちょっと」

……そうか。だから会場がここなんだ。

あれを調べて……うん、間違いない。

きっとこれしかない。

でも、この方法ができるかどうかは上の4人次第。

お願い、どうか――――!

残り時間 7:00


春香『みんな!聞こえる!?』

千早「春香?!」

冬馬「立ち直ったのか!」

あずさ「もう大丈夫なのね?」

律子「まったく、心配かけて……」

春香『遅くなってゴメンナサイ……って、そうだ!みんな、今すぐ降りてきて!わかったの、この『げぇむ』の答えが』

冬馬「何ぃっ?!」

律子「本当?!」

春香『うん……だけど、私一人じゃどうにもならない。みんなの力を貸して!』

あずさ「もちろん!」

千早「今行くわ!」

残り時間 4:00

千早「春香!」

春香「千早ちゃん!」

冬馬「おい、答えがわかったってどういうことだ!?説明しろ!」

春香「うん。まず、この『まちがいさがし』っていう『げぇむ』そのものについて。『まちがいさがし』って言うからには、比較するそっくりなものが必要だよね」

あずさ「だけど、2枚のそっくりな絵ははずれだったわ」

春香「はい。この建物だけからじゃ答えは見つかりません。隣の建物も合わせてひとつの『会場』なんです」

千早「そこまでは何となく察しがついてるわ。でも、隣の建物に移動する方法がないのよ」

春香「移動する必要なんてないの。私たちは既にその『まちがい』を見てるんだから」

冬馬「何?」

春香「律子さん。私たちがこっちの建物に入ったのはどうしてですか?」

律子「何でって、こっちの建物には灯りが……そうか!そういう事なのね!」

あずさ「え?え~っと……」

律子「つまり!この建物と隣の建物を外から見たとき、灯りがついているかいないかっていう大きな『まちがい』があったんですよ!」

千早「なるほど……一度建物に入ってしまった後は、隣の建物の様子は伺えない。建物内に『まちがい』があると思っている限りは辿り着けないのね」

冬馬「ちょっと待て!仮に灯りがついてるかどうかの違いだとしたら、答えるために触れてなきゃいけねえのは……」

あずさ「吹き抜けの上の、シャンデリア……?」

冬馬「クソッ!あんなのどうやったって届くはずねえ!『まちがい』がわかったところで『くりあ』できねえじゃねえか!」

律子「そんな……最初からこの『げぇむ』は『くりあ』不可能な出来レースだったの……?」

春香「いいえ、一つだけあるんです。あの天井に手が届く方法。そのためには、4人の中の誰かの解答権が残ってる必要があるんですけど……」

千早「わ、私はまだ解答権を使ってないわ!」

春香「良かった……それじゃあ、いくよ」

冬馬「おい、何するつもりだよ」

春香「こっちが天井まで行けないんだったらさ……向こうの方から降りてきてもらうしかないと思わない?」

律子「あんた、壁に触って何を……まさか?!」

春香「『みーつけた』!」


ゴゴゴゴゴゴ

    グラッ
         ガガッ
  ゴッ
      パラパラ

冬馬「お、おい、何だよコレ?!」

あずさ「この建物そのものを『まちがい』として答えて外したから……この建物が、崩れ始めてる?!」

千早「春香?!どうするの?!」

春香「みんな、こっち!」

律子「え?そんなところに行っても……」

春香「早く!」


ズズズズズズズズッ

  ズゥゥン.........

残り時間 0:10

パラ... パラ...


 ガラッ


千早「ふう……シャンデリアがわかりやすい場所に落ちてくれて助かったわ。これで、ようやく……『みーつけた』!」


ガガッ


『こんぐらちゅれいしょん。「げぇむくりあ」。』


ガラッ  
     ガラッ
 ガラッ
        ガラッ

4人「やっっったあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

冬馬「ったく、無茶するぜ。わざと外して建物をぶっ壊し、シャンデリアを地面に落とすなんてよ」

あずさ「たしかに『るうる』説明では『まちがい』は最初の状態によるとは言っていたけど……」

律子「それに、崩れる建物の中にいて無傷で生き残るなんて、普通じゃ考えられないでしょう」

春香「ヒントは美術館の中にあったんです。作品の解説に、ちゃんと書いてありました」

千早「『幸せの青い鳥。メーテルリンクの童話をモチーフとした作品で、傍にいるものに至上の幸運を与えると言われている』、ね」

冬馬「つっても、まさかあの彫刻の傍が都合よく瓦礫が落ちてこない構造になってるなんて思わねえぞ普通」

春香「実は建物を壊すっていうのも、『バベルの塔』から思いついてたり……」

律子「それは私も見たけど……そんなこと想像もつかなかったわ」


カタ カタ カタ


あずさ「あら、何の音かしら?」

冬馬「あのレジだよ。『びざ』の発行だ」

春香「『びざ』……?」

あずさ「確かにそう書いてあるわね……今回ポイント5?」

千早「それに……トランプ?」

律子「次々出てくるけど……名前が違うだけで内容は同じみたいね」

冬馬「それじゃあ、行くぞ」

律子「待って。『げぇむ』は『くりあ』したんだから約束通り知ってることを話してもらうわよ」

冬馬「わかってるよ。瓦礫の中もなんだから、まずは病院だ。三浦の火傷の事もあるしな」

律子「……なるほど。わかったわ」

春香「律子さん、レジの近くにトランシーバーが落ちてたんですけどどうしましょう?」

律子「確か賞品って書いてあったわね。せっかくだからもらっていきましょう」

冬馬「さて、知ってる限りだが、歩きながらぼちぼち話していくか。この『今際の国』と呼ばれる世界についてよ」

春香「い……『今際の国』……!?」

今回はここまで

ちょっとだけ投下

冬馬くんは最初にこう断った。

「これから話すことは以前の『げぇむ』に一緒に参加した人間から聞いた推測や噂で、確かなものがある訳じゃない」、と。

「今際の国」と皆が呼ぶこの世界には私たちの他にも大勢の人間がいて、皆に共通するのは同じようにあの花火を見て気付けばそこにいたという事だけ。

「げぇむ」は毎晩、日没後に開催される。その会場は学校、銀行、工場、駅のホームなど様々だが、日没とともにライトアップされすぐにみつけやすくなっているそうだ。

冬馬くんが話を聞いたという人たちとなぜ今一緒にいないのか……私たちの中にそれを訊く勇気のある人はいなかった。


ドォォォォン...


あずさ「今のは……」

千早「爆発音……かしら?」

冬馬「きっと、どこか別の『げぇむ』会場が時間切れで消滅したんだろうな。『げぇむおおばあ』……そこに生存者は誰もいない」

春香「『げぇむ……おおばあ』……」


夢じゃなければ、これはなんなんだろう?

「今際の国」って?

なんのためにこんな「げぇむ」を?

トランプの意味は?

それから、あの……「びざ」って何?

聞きたい事は山ほどあったけど、病院についた。

―――――――
――――


あずさ「あっ……」

律子「染みますか?少しだけ我慢してくださいね」

あずさ「ごめんなさい……ほとんど何もできなくて」

律子「何言ってるんですか。それを言ったら私だって今日は何もしてませんよ」

あずさ「でも……」

律子「もーっ!そんな事気にしなくていいんですよ。ネガティブなんて、あずささんらしくないですよ」

あずさ「そうですか……ねえ、律子さん。私らしい、って何でしょうね?」

律子「え?」

冬馬「おーい、食いモン見つけてきたぞ」

千早「缶詰ばかりだけど……多分他のものよりはマシだと思うわ」

律子「ありがとう、二人とも。さあ、あずささん。明日に備えてしっかり食べておきましょう」

あずさ「……ええ、そうですね」

千早「春香は?」

律子「少し散歩してくるって」

千早「そう。じゃあ探してくるわね」

律子「わかったわ」

あずさ「……ねえ、律子さん。ここってやっぱり未来なんですかね?」

律子「へ?」

あずさ「もしかしたら建物や彫刻を壊したのは宇宙人で、とっくに人類は滅ぼされてて……それで、生き残った人間たちで『げぇむ』を楽しんでたりするんでしょうか?」

律子「あずささん……」

あずさ「私、嫌です……!もうこれ以上、何も知りたくない……!」

 ◇ ◇ ◇

春香「ふぅ……」

病院の屋上から夜の街を見渡すと、溜め息がこぼれた。

さっきまでの事、全部夢だったみたい。

だけど、遠くから響いてくる爆発音が全て夢じゃなかったことを教えてくれる。

またどこかの会場が「げぇむおおばあ」になったんだ……


春香「ははっ、そっか……私、生き残ったんだ……」

千早「春香?」

春香「あれ、千早ちゃん?どうしたの?」

千早「春香を探しに来たのよ。缶詰が手に入ったから、みんなで食べましょう」

春香「おぉ!それは早く戻らなきゃ!」

千早「まったく……さっき命がけの『げぇむ』を『くりあ』に導いたのと同じ人間とは思えないわね」

春香「えへへ……でも、あの時千早ちゃんが声をかけてくれなかったら、きっと最後まであそこで座り込んでたと思う。ありがとう、千早ちゃん」

千早「どういたしまして」

春香「それじゃ、戻ろっか」

千早「ええ」


カツーン


春香「ん?」

女「……」ガタガタブルブル

千早「あの……もしかして、あなたも参加者なんですか?」

女「もう嫌……もう沢山……!」

春香「え?」

女「みんな……みんな死んだ!生き延びてもまた次……ずっとその繰り返し……もううんざり!だから私は……今日でこの『げぇむ』を降りるわ!」バタン

春香「ちょ、ちょっと!何する気ですか?!」

女「来ないで!」

冬馬「……もうすぐ今日が終わるな」

律子「それがどうかしたの?」

冬馬「まだ『びざ』の事を話してなかった。明日からもこの国で生きてくつもりなら、その目で見ておいたほうがいい」

 ◇ ◇ ◇

春香「どういう事ですか?!生き延びてもまた次、って!」

千早「教えてください!お願いします!」

女「私の『びざ』は……今日で切れる!わかる……?やっとこれで、終われるのよ」

ピィ- ズッ  バシャァ! 

女「」ドサッ

春香「ひぃっ?!」

千早「死ん……だ……?」


突然レーザーが降ってきて、女の人の頭を貫いた。

「びざ」……?「今際の国」への入国許可証明……!

私たちが「くりあ」した「げぇむ」の難易度はくらぶの5……

獲得したポイントは5ポイント……

5……5日……この国での滞在可能日数……

あと5日で、私たちの「びざ」は切れる……?!


春香「つまり、この国で生きていたければ私たちはこれからも……自主的に『げぇむ』に、参加し続けなきゃならないの……?!」

とりあえずこれだけ
続きは夜中にでも

再開します


亜美『あずさお姉ちゃん、遅いよ~!』

伊織『また迷子?次は気をつけなさいよね』

律子『さあ、時間ないですよ。急ぎましょう、あずささん』

あずさ『ええ。ごめんなさいね』


昔から、「あずさはマイペースだ」って言われてた。

それが、「運命の人」に出会うためにアイドルを始めて、竜宮小町に抜擢されて、どんどんお仕事が増えて……

それはとっても幸せな事。でも……

ごめんなさい。やっぱり私はみんなにペースを合わせるのが苦手みたい。

亜美ちゃんや伊織ちゃん、律子さんの進むペースは速すぎて、着いていくのに精一杯で。

いつの間にか、運命の人の事なんか考える余裕もなくなっていて。

私一人なら自転車を漕ぐのをやめて止まってしまう事もできたけど、みんなに迷惑をかけるわけにも行かなくて。

今日も私は、慣れない足取りでみんなを追いかけ続ける。

それって、本当に私の人生なのかしら……?

――――――――
――――

あずさ「うぅん……」

春香「あずささんも眠れないんですか?」

あずさ「あら、春香ちゃん」

春香「やっぱり、怖いですか?」

あずさ「ええ、それもあるわ。でもね、それだけじゃないの」

春香「と、言いますと?」

あずさ「少しね、悔しかったの。こんな状況でも、やっぱり私はみんなについていけてないんだなぁ、って」

春香「そ、そんな事ないですよ!私だって最初の方はぼーっとしてただけでしたし……」

あずさ「それでも、最後にみんなを助けたのは春香ちゃんよ」

春香「そんな……あの時はなんていうか、無我夢中で……」

あずさ「……ねぇ、春香ちゃん。これは今までの私自身を変えるチャンスなんじゃないかって、そう思ってしまうのは不謹慎かしら?」

春香「これまでの私を……」

あずさ「ごめんなさい。変なこと訊いちゃったわね。何とか眠れるよう頑張ってみるわ。お休みなさい」

春香「あっ、はい。お休みなさい」

審査員『……4番と6番!今呼ばれた人以外はもう帰っていいよ』

春香『そ、そんなぁ~』


もう何度目だろう。

そろそろ数えるのも面倒になってきちゃった。

やっぱり私は「落ちこぼれ」ってやつなのかな?

主人公は私じゃない他の誰かで、私はその誰かを引き立てるための脇役にすぎないのかな?

いや、もしかしたら名前すらもらえないモブキャラかもしれない。

私はきっと陰なんだ。眩しい太陽の反対側に、ひっそりといる陰。

それなのに、こうして未練がましくアイドルを続けて、本当に意味があるのかな?

いっそのこと、どこか知らない国に行きたい。

何もかも投げ捨てて、新しい世界に飛び込みたい。

どこでもいいから、ここじゃない世界に飛び込みたい。

――――――――
――――

そうだ。思い返せば、今までの私はダメダメだった。

しかも、その責任はどっかに放り捨てて、ただ嫌なことから目を背けてばっかりだった。

そんな中途半端なモヤモヤした人生を、私はずっと送ってたんだ。

でも、あの時。あの「げぇむ」を「くりあ」したとき。

確かに「生きてる」って感じがした。ちゃんと自分の足でここに立ってるって感じがした。

またあの「げぇむ」に参加すれば。もしかしたら、見つけられるかも。

私自身の生き方を。


春香「ふあぁ……寝よ」

冬馬『オッサン!どういう事だよ!』

黒井『どうした冬馬?』

冬馬『前回のオーディション!審査員を買収してたってのは本当なのか?!』

黒井『何だ、そんな事か。それがどうかしたか?』

冬馬『どうかしたか……だと?ふざけんな!真剣勝負で勝ってこそ意味があるんじゃねえか!』

黒井『冬馬。お前と私では少し訳が違う。私は何があっても、どんな手を使っても勝ち続けねばならんのだ。お前たちを信用していない訳ではないが、念には念を、という事だ』

冬馬『何だよそれ!クソッ!』

黒井『お、おい、冬馬!……まったく、話のわからんヤツだ』

何なんだよ……!俺は今まで、ずっと自分の力で勝ち進んできたと思ってた。それなのに……

結局、俺はオッサンにとって都合のいい駒でしかなかったって事か?

まるでピエロだ。

いつからだ?オッサンはいつから裏で手を回してた?

俺の力って、いったいどの程度なんだ?

俺って、何なんだ……?

――――――――
――――

冬馬「……朝か」ムクッ

あずさ「……」スヤスヤ

律子「……」スゥスゥ

春香「う~ん……ダメ、これ以上は……太っちゃうからぁ……」ムニャムニャ

冬馬「……チッ」

千早「おはよう」

冬馬「おぅ。起きてたのか」

千早「えぇ。随分うなされていたようだったけど、大丈夫?」

冬馬「……ヤな夢を見ただけだ」

千早「そう。あなたはこれからどうするつもり?」

冬馬「てめえが起きてなきゃ黙って出て行くつもりだったんだがな」

千早「何か目的が?」

冬馬「……翔太と北斗も一緒にここに来てんだ。とりあえず手分けして捜索、夜に改めて961プロに集合って話だったんだけどよ……」

千早「そう……ごめんなさい」

冬馬「何謝ってんだ。あいつらが簡単にくたばるわけねえ。必ず見つけ出してやるさ」

千早「……そうね。そうだ、これを持って行ってちょうだい」

冬馬「何だこりゃ……トランシーバー?」

千早「昨日の『げぇむ』の賞品よ。もしこっちで何か情報を得たら連絡するわ」

冬馬「これ何キロくらいまで通じるんだ?」

千早「えっ?えーと……あんまり重いのは駄目なんじゃないかしら」

冬馬「距離の話だ距離の!まあ、確かに今は少しでも手がかりが欲しい……ありがたくもらっとくぜ」

千早「ええ、それじゃあ……お互い、生き延びましょう」

冬馬「……ああ」

千早「……さて。今日の分の食料でも探して来ましょうか」

千早『ただいま』

シーン

家に帰るたびに、どうしても口にしてしまう。

誰もいないとわかっているはずなのに。

765プロに行けば、そこには私の居場所がある。

私を迎え入れてくれる、暖かくて素敵な場所。

だけど、いつまでもそこにいられる訳じゃない。

夜がくれば、この冷たく何も無い場所に帰ってこなければならない。

暖かい所にいた反動で、一層その孤独が私の中に染み込んでくる。

いつかアイドルを辞めなければいけない時がくる。

その時私は、どこに行けばいいの?

その先の私に、何があるの?

―――――――
――――

千早「ただいま」

あずさ「あら~、お帰りなさい千早ちゃん」

律子「さすが千早、朝は早いのね」

春香「どこ行ってたの?心配しちゃったよ」

千早「ちょっと食料を探しにね。とりあえず朝の分の缶詰と……それから、こんなものを見つけたわ」

あずさ「釣り竿?」

千早「はい。毎食毎食缶詰ではさすがに味気ないと思ったので」

律子「おっ、千早もそういう事気にするようになってくれたのね。嬉しいわ」

千早「もう……私だってそのくらいは考えます」

春香「あはは。そういえば、冬馬くんは?」

千早「朝早くに出て行ったわ。はぐれてしまったジュピターのメンバーを探すそうよ」

あずさ「そうなの……早く見つかるといいわね~」

律子「大丈夫ですよ。なんたって私たち竜宮小町のライバルなんですから」

春香「ねえ千早ちゃん!早速あっちの川に釣りに行ってみようよ!」

千早「申し訳ないのだけど、私実際に釣りをしたことはないの」

春香「大丈夫!やればすぐできるようになるって!」

律子「春香。楽しみなのはわかるけど、先に朝ごはん食べちゃいましょう」

あずさ「さあいっぱい食べよう♪ってね」

春香「は~い……」

千早「そんなにがっかりしなくても竿は逃げないわよ」

律子「千早……その言い方はちょっと」

千早「?」

春香「わー!律子さんムッツリスケベだー!」

あずさ「あらあら~」

律子「なっ?!違うわよ!私はただ……」

千早「ふふっ……ここにいていいのよね。少なくとも、今は」

伊織『律子。次のライブの事なんだけど……』

亜美『律っちゃーん!遊んで遊んで!』

あずさ『律子さん、すみません。また道に迷ってしまって……』

小鳥『律子さーん、先方から電話が……』

社長『律子君、いつもすまないね。だが、今はキミだけが頼りなんだ』

真美『律っちゃーん?』

やよい『律子さーん?』

美希『律子ー?』

…………


元々、好きで始めたプロデューサー業だった。

可愛いアイドルたちを世に送り出す。この仕事に、私は誇りを持っている。

みんな私を頼ってくれて、私自身それに応えられるよう毎日毎日働き続けてきた。

でも、最近少しだけ。ほんの少しだけ。みんなの期待を重荷に感じている自分がいる。

たいていの事はできるよう、努力はしてきたつもりだ。それでも、私は決して万能じゃない。

みんなが思うほど、何でもできるわけじゃない。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいから。

この重圧から、解放されたい。

――――――――
――――

春香「律子さん?」

律子「へっ?ああ、ごめんなさい。何だったかしら」

春香「これ、錘がすぐに取れちゃうんですけど……」

律子「貸してみなさい。これはね、ここをこう結べば……」

春香「なるほど!ありがとうございます!」

千早「春香!来て!かかった!かかったわ!」

春香「えぇっ?!ま、待って!落ち着いて!すぐ行くから……って、わわっ?!」ドボーン

律子「はぁ……駄目ね、もっとしっかりしなきゃ。弱音なんて吐いてられないわ」

――――――――
――――

春香「いやぁー釣れた釣れた!」ポタポタ

千早「春香が釣ったのは長靴だけでしょ」

春香「う……みんな合わせて4匹釣れたんだから細かいことはいいでしょ!」

あずさ「でも、生きた魚を捌いちゃうのはちょっと可哀想だったわね~」

律子「仕方ありませんよ。普段はその気持ちが薄れてるだけで、元々私たちは命を貰って生きてるんですから」

千早「……そうね。今まで貰ってきた命を無駄にしないためにも、私たちは強く生きないと」

春香「……うん!」

律子「さて、食べながら今後の事について話し合いましょ」

千早「まずは現状を整理しましょう。私たちの『びざ』は今日を入れて残り5日。それまでにまたあの『げぇむ』に参加しなくてはならない」

あずさ「そうねぇ……まだ少しだけど余裕はあるわね」

律子「『げぇむ』に参加しない日は辺りの探索にしましょう。この世界について少しでも手がかりを掴めるかもしれない」

千早「そうね。それには賛成よ」

あずさ「後は、いつ『げぇむ』に参加するかだけど……」

律子「どんな『げぇむ』に挑戦する事になるかは開始されるまでわからないですからね。難易度1や2の『げぇむ』で怪我を負う可能性も考えると、『びざ』切れの直前は避けるべきでしょう」

千早「となると、明後日か明々後日か……」

春香「あのっ!」

あずさ「どうしたの、春香ちゃん?」

春香「『げぇむ』に参加する日なんですけど。今日……って、どうですかね?」

律子「……理由を聞かせてもらえる?」

春香「えっとですね……その……何て言ったらいいんだろ。今、私たちってほっとしてるじゃないですか」

あずさ「え?ええと、それはまあ……」

春香「それが怖いっていうか、その~……」

千早「『命懸けの緊張感を忘れないように』……って事かしら」

春香「そう!そんな感じ!」

律子「なるほど……確かに、実際のところ私たちはたった1回、訳もわからず参加した『げぇむ』を運よく『くりあ』したに過ぎない」

あずさ「『げぇむ』に挑む覚悟やその上で参加する『げぇむ』の感覚を掴んでおきたい……そういう事ね」

春香「はいっ!どうでしょう!」

千早「私は……ありだと思う。目先の1日を安全に生きるよりも、『げぇむ』を繰り返し『くりあ』する努力をする方が有意義じゃないかと」

律子「そうね……概ね賛成よ。あずささんはどうですか?」

あずさ「私は……ごめんなさい。やっぱり、まだ怖いです」

千早「そうですか……まあ、無理は禁物です。それならそれで日を改めて……」

春香「うーん……でもなぁ……」

律子「なら、こういうのはどうかしら?今日は私と春香だけ参加する。その経験を元に、後日千早とあずささんを加えて4人で『げぇむ』に参加する」

春香「えっ?」

千早「それは少し危険じゃないかしら。それに、2人が参加するにしてもどうして律子と春香なの?」

律子「春香を選んだのは、昨日の事を鑑みてよ。最初はパニックで動けなかったけど、土壇場で脅威の機転を見せた。『げぇむ』に慣れてくれば一番の戦力になると思ったの」

春香「それじゃあ、千早ちゃんじゃなくて律子さんな理由は何ですか?」

律子「これは単純に私情ね。危険な『げぇむ』にアイドル二人だけで行かせたくない、って言うのが理由」

千早「律子……」

あずさ「……私が言うのもなんですけど、アイドル二人を残していくのは大丈夫なんですか?」

律子「『げぇむ』の間くらいなら、千早がいればある程度の事は大丈夫だと思いますよ」

あずさ「そういう事じゃありません!」

春香「あ、あずささん?」

あずさ「『げぇむ』を『くりあ』できるかは絶対じゃありません。もし二人だけで残されたら、私たちはどうすればいいんですか……?」

千早「……一番の問題はそこよ。律子はどう考えてるの?」

律子「……大丈夫よ。私があなたたちを残して死ぬはずないでしょう?」

千早「ふざけないで!そんないい加減な言葉で押し通せると思ったの?!駄目よ、行かせられないわ!」

律子「……4人で生き残るためには多少のリスクは冒さなきゃならないの。わかってちょうだい」

あずさ「律子さん!」

春香「ストーーーップ!」

千早「は、春香?」

春香「だったら、私も約束します!必ず律子さんと一緒に、生きて戻ります!だから、これからのために今日『げぇむ』に参加させてください!」

千早「春香まで……二人とも、自分が何を言ってるか……!」

あずさ「……千早ちゃん。諦めましょう……きっと、いくら止めても無駄よ」

千早「あ、あずささん?!どうして……」

あずさ「だって、ここにいるのはみんな一度決心したら考えを曲げない頑固者だもの。だったら、喧嘩したまま送り出すより、信じて待った方がいいと思わない?」

千早「そんな……あずささんまで……」

律子「千早、お願い。今日生きて帰ってこれたら、二度とこんな事はしないから」

千早「……約束よ。絶対生きて帰ってきなさい」

春香「千早ちゃん……!」

律子「……ありがとう、千早」

――――――――
――――

律子「『げぇむ』会場はこのビルでいいわね?」

春香「はい!行きましょう!」

あずさ「絶対、無事に帰ってきてくださいね」

千早「約束よ。もし破ったら顔を引っぱたくわ」

律子「それは勘弁して欲しいわね。それじゃあ……」

千早「ええ……気をつけて」

 ◇ ◇ ◇

春香「今回の参加者は全部で6人みたいですね」2

律子「そうみたいね。できれば協力できる『げぇむ』に来てほしいところだけど……」

ギャル女「……」クチャクチャ

眼鏡男「……」

ガリ男「……」ブルブル

中年女「……」

ブゥン

律子「!……そこのモニターね」


『エントリー受付終了。これより「げぇむ」を開始します。皆様、エレベーターで屋上へお上がりください。』

ギャル女「は?何コレ?」

眼鏡男「……生きたければキミも屋上に来るといい。説明はそこで為されるようだ」

ガリ男「ひぃぃ……簡単なヤツ……簡単なヤツ……」ブルブル

中年女「……」

律子「……私たちも乗りましょう」

春香「……はい!」

ブゥゥゥゥン


春香「それにしても……本当に良かったんですか?わざわざ今日『げぇむ』に参加なんて。言い出したのは私ですけど……」

律子「……自分じゃ気付いてなかったかもしれないけど。あんた、『げぇむ』に参加したくてうずうずしてたでしょ?」

春香「え?」

律子「ほっとくと一人でも『げぇむ』に参加しそうな勢いだったし……一人で行かせる訳にもいかなかったけど、二人を巻き込むのはもっと駄目だから」

春香「……私、そんなに挙動不審でした?」

律子「私は765プロのプロデューサーよ?アイドルの考える事くらいお見通しよ。まあ、春香は顔に出やすいのもあるけど」

春香「ははっ、やっぱり律子さんはすごいです。……迷惑かけちゃってごめんなさい」

律子「もういいわ。それより、今は『げぇむ』を『くりあ』する事に集中しましょう。でないと千早に顔を引っぱたかれちゃうものね」

春香「はい!……あ、もう着きますよ」

チーン


眼鏡男「キミ達が最後だ。あの掲示板に目を通しておきたまえ」

春香「あっ、はい!えぇと……え?」


『「げぇむ」難易度 すぺえどの2「はばとび」』

今回はここまでです

投下ー

『「るうる」 この会場を脱出できれば「げぇむくりあ」』


脱出、ってことはここから1階まで戻ればいいのかな?

エレベーターは使えなくなってるとか、そんな感じだろうか。

まあ、難易度2ならそのくらい……


律子「ちょっと待って。何か臭わない?」

春香「え?……本当だ。これって何の……」

ガリ男「うわあぁぁぁぁ?!あ、あ、アレ……」

眼鏡男「何だ!?」

律子「下に何かあるの?!」


みんなにつられて、私も下を覗き込む。
そこで見たのは……


春香「うっ……」


あまりの高さに、下を見たことをちょっと後悔。
でも、大事なのはそんな事じゃなくて……


中年女「も……燃えてる……このビル、燃えてるわ!」

ギャル女「ハァ?!何なの?!もうヤダ!」

眼鏡男「なるほど……これがタイムリミット。この屋上まで火が回る前にここを脱出しろという事か」

春香「だ、脱出って!これじゃ下に降りられませんし、ここは屋上ですよ?!」

眼鏡男「あるじゃないか、あそこに。『びざ』発行用のレジもあちら側に用意してあるようだ」

春香「『あちら側』、って……」


そう、確かに逃げ場はあった。

距離にしておよそ7メートル。

路地を挟んだ向こう側に、こちらより僅かに低いもうひとつのビルが。

春香「そ、そんな……ここ何階だと思ってるんですか!?落ちたら死んじゃいますよ!」

眼鏡男「それならここに残るか、階段を使って降りてみればいい。じきに煙と炎がじわじわと命を奪っていく事だろう」

春香「けど、いくらなんでもこの距離じゃ……!」

律子「春香、落ち着いて。あれを見てみなさい」

春香「あれ……?」


律子さんが指差す先には、向こうのビルに向かって突き出した幅2メートル、長さ5メートル程の足場。

そうか、あの足場のギリギリから跳べば向こうまでの距離は約2メートル。

助走をつければ、小学生でも跳べるくらいの距離だ。

一応、人並みの能力があれば大丈夫なようにできてるみたいで一安心。


春香「良かったあ……距離自体はどうにかなりそうですね」

眼鏡男「炎と高さの恐怖に打ち勝てればな」

律子「そのようですね……」


そうだ。確かにその通り。

他の人たちも足場には気付いているのに、一向に跳ぼうとしない。

怖いんだ。たとえ2メートルの距離でも、地上30メートル近い空中に飛び出すのは。

それに、あの足場だって本当に頼りになるとは限らない。

一見しっかりしてるように見えて、もしかしたら跳ぼうとした途端に崩れるかもしれない。

誰かが跳んで見せなきゃ、みんなここで炎に包まれて死んでしまう。

誰かが……

中年女「あの……」

眼鏡男「どうしました?」

中年女「わ、私から跳んでも、よろしいでしょうか……?」

律子「……そんなに震えて、大丈夫なんですか?」

中年女「娘が、元の世界で待ってるんです。この歳になって、やっと授かった娘が。あの子のためなら、こ、このくらい、跳んで見せますよ……」

眼鏡男「……ご立派です。わかりました。ただし、跳ぶ前に足場の安全だけは確認しておきましょう」


ここで名乗りを上げられない、意気地なしな私。

これじゃあ、何のために参加したんだかわからないや。

律子さんを巻き込んで、千早ちゃんとあずささんに心配かけて、結局昨日と変わってない。

あの女の人はすごいな。大切な人のために頑張ってる。

律子さんも眼鏡の男の人も、冷静に対応してる。

自分勝手で大馬鹿な私とは大違いだ。


眼鏡男「ええ。これなら崩れる心配はないでしょう」

律子「親切に1メートル毎にラインも引いてあるみたいですね……しかし、トップバッターを押し付ける形になってすみません」

中年女「いえ、いつかは跳ばなきゃいけませんから。このくらいでお役に立てるなら光栄です」

春香「……頑張ってください」

中年女「ええ。ありがとう、お嬢さん。それでは……行きます……!」

ダッダッダッダ...  バッ

律子「!……踏み込みが浅い!」

眼鏡男「どうだ……?」

春香「お願い……!」

      ドサッ ゴロゴロゴロ

律子「やった!」

眼鏡男「これで一人『くりあ』か……」

春香「良かったあ……」

ギャル女「ウソ……あのオバサン、マジで跳んだの?」

ガリ男「す、すごいっ!すごいっ!!」

中年女「や……やりました!皆さん、大丈夫です!後に……」

                     ガシャーンッ!!

春香「ひゃっ?!」

律子「な、何の音?」

ガリ男「あ、い、今、その足場が……」

眼鏡男「まさか……先端部分が落ちたのか?」

ギャル女「はぁぁぁぁぁ?!意味わかんない!」


向こうのビルに跳び移れば「げぇむくりあ」。

その距離が2メートルって、確かにちょっと簡単過ぎる気はしてたよ。

でもさ、後出しでそんな「るうる」が発覚するのはずるいんじゃないかな。

女の人が跳んだ後、足場の先端部分1メートルが切り離されて向こうのビルとの距離は3メートルになっていた。

眼鏡男「なるほど……一人跳ぶ毎に、跳ばねばならない距離が長くなる。最長7メートルといったところか」

ガリ男「そっ、そんな?!俺だ!次は俺が跳ぶ!」

ギャル女「ふざけんな!アタシが先よ!男なら女に先を譲るべきでしょ!?」

ガリ男「お、俺、運動はからっきしなんだよ!今を逃したらもう絶対跳べねえ!」

ギャル女「そんなのアタシだってそうよ!」

律子「ちょ、ちょっと!そんなところで揉み合ったら……」

ドンッ

ガリ男「え?」

ギャル女「あ」

ガリ男「ふ……ふざけんなちくしょぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」ヒュー...

春香「ひっ!」

ギャル女「え……う、ウソ?え?あ、アタシのせいじゃないわよ!アイツが無理矢理跳ぼうとするから……!」

律子「だ、大丈夫ですから!落ち着いて……」

ギャル「く、来るな!跳んでやる……跳んでやる……跳んで……」ダッ

春香「そ、そんな靴で走ったら……」

グキッ

ギャル女「イタッ!……あ」グラッ

律子「くっ……」

ギャル女「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」ヒュー...

春香「あぁ……!」

眼鏡男「……醜いな」


死んだ……あっという間に、二人も……

本当に……死んだ。

そういえば、昨日はなんだかんだ言ってみんな無事に「くりあ」できた。

そのせいで、私にはまだこの実感が欠けていたのかもしれない。

あずささん、これ、チャンスなんかじゃないです。

死と隣り合わせ。本当に、いつ死んでもおかしくない。

眼鏡男「さて、残るは我々3人だけだ。どうする?」

律子「……順調にいけば、最後の一人は5メートルを跳ぶことになるんですよね?」

眼鏡男「恐らくは」

律子「失礼ですが、走り幅跳びに自信は?」

眼鏡男「4メートルなら、どうにか跳べるだろうな。しかし5は無理だ」

律子「そうですか……でしたら、すみません。4メートルはあなたが跳んで構いませんから、3メートルのチャンスを譲っていただけないでしょうか?」

眼鏡男「私はそれでも構わない。しかし、あの子はいいのかね?どう見ても5メートルを跳べるようには見えないが」

律子「……いえ、5メートルは私が跳びます。春香に3メートルで跳ばせてやれませんか?」

春香「……へっ?」

眼鏡男「ほう……だ、そうだ。キミはそれでいいのかい?」

春香「えっ……ちょ、ちょっと待ってください!律子さん、5メートルなんて跳べるんですか?!」

律子「さあ?どうかしらね」

春香「さあ?って……」

眼鏡男「あまり時間が無い。キミが跳ばないのなら私が跳ぶぞ」

春香「ま、待って……」

律子「春香!早く行きなさい!あんたが生きて帰らなきゃこの『げぇむ』に参加した意味がないでしょ!」

春香「で、でも!」

律子「3メートル!中学生でも跳べるわよ!さっさと跳ぶ!」

春香「うぅ……でも」

律子「春香がこっちにいる限り、私は絶対跳ばないわ」

春香「律子さん……!」

酷いよ律子さん。

千早ちゃんもあずささんも、こんな気持ちだったんだね。

こんなに苦しくて胸が張り裂けそうな思いをしながら、二人は今も待ってるんだね。

生きて、帰らなきゃ。

帰って、二人に謝らなきゃ。


春香「律子さん……律子さんは何でも一人で勝手に決め過ぎです。こっちがどう思うかも考えてください」

律子「それは……そうね。悪かったわ」

春香「そうですよ……ちゃんと、下で待ってる二人にも謝ってくださいね」

律子「……ええ。わかった」

春香「律子さん……さっきの事ですけど。律子さんも一緒に生きて帰らなきゃ意味無いですから」

律子「……わかってるわ。必ず二人で、生きて帰りましょう」

春香「それじゃあ、先に行って待ってます……必ず、来てくださいね」

律子「もちろんよ。さあ、行ってらっしゃい!」

春香「はい!」

まずは深呼吸。焦げ臭いにおいも大分強くなってる。

炎がかなり上まで来てるんだ。下を確認した方が……

いや、よそう。下は見ちゃ駄目だ。

3メートル……3メートル……

アレ?3メートルってこんなに遠かったっけ……?

大したことないはずなのに、学校で測ったときは余裕で跳べたはずの距離なのに、やけに遠く感じる。

こ……怖い。

足が竦む。

震えが止まらない。

嫌だ。

逃げ出したい。

でも……



思わず後ろを振り返る。

律子さんも男の人も、黙ってこっちを見据えている。

そうだ。あの二人だって怖いに決まってる。

それなのに、私に一番短い距離をゆずってくれた。

ここで「やっぱり怖い」なんて、そんなの許されない!

もう一度前を向く。

向こうまでの距離は変わらない。それでも、今度は跳べる気がした。

行こう。この一歩で、甘えた私とはサヨナラだ。

絶対、跳ぶ――――――

春香「あああぁぁぁ!!!!」ダダダダ バッ

眼鏡男「よしっ!」

律子「行けっ!」


1秒……2秒……よしっ!

やった……!跳べた……


ダンッ...グラッ


あっ……やば、バランスが……


律子「春香!」


ガシッ グイッ


春香「あ……」

中年女「良かった……!本当に良かった……!」

眼鏡男「ふぅ。ヒヤヒヤさせる」

律子「……はぁ~。本当に、危なっかしいんだから」

春香「あの……ありがとうございます」

中年女「いいのよ……もう目の前で人が死ぬのはうんざりだもの」

                    ガシャーンッ!!

眼鏡男「……やはり来たな」

律子「次は……4メートル」

眼鏡男「さて、約束通り私がいかせてもらおう」

律子「はい。わかってます」

眼鏡男「……跳ぶ前に聞いておきたいんだが、あの子とはどういう関係が?」

律子「私、プロデューサーやってるんですよ。春香はうちの事務所のアイドルです」

眼鏡男「なるほど。つまりは赤の他人という事だ。そんな人間のために、どうして命を捨てられる?」

律子「他人じゃありません。春香は大切な仲間で、家族みたいなものですから」

眼鏡男「……変わった人だ。しかし、こんな世界でキミのような人間に会えた事を、私は光栄に思う」

律子「それなら、4メートルを私にゆずってくれてもいいんですよ?」

眼鏡男「それはできない。残念ながら、私はキミと違って自分の命が第一でね」

律子「冗談ですよ。あと、さっきから気になってたんですけど、私は別に死ぬつもりはありませんよ」

眼鏡男「……念のために言っておくが、陸上経験者でもなければ一発勝負で5メートルを出せる女性はそうはいない」

律子「そんなの関係ありません。生きて帰るって、約束なんです」

眼鏡男「そうか……せいぜい頑張ってくれ。では、私は行くぞ」ズッ

律子「ちょっ?!いきなり何脱いでるんですか?!」

眼鏡男「仕方ないだろう。スーツでは万全に跳べない」

律子「ああ、確かに……って!」

眼鏡男「ふっ……健闘を祈る」ダッ

バッ

ズザァァァァ

律子「さすが……自信満々なだけあって、うっかり落ちるようなへまはしないわよね……」

                  ガシャーンッ!!

律子「5メートル……やってやろうじゃない!」

落ちることなんて考えなくていい。

ここを跳ぶために、約束を果たすために、最善を尽くすだけ。

まずこの靴は駄目ね。それからズボンも……うぅ、どんな羞恥プレイよ。

助走をつける距離は十分。足を傷つけそうなものも特になし。

向こうの方が若干低くなってるから、実際に跳ぶのはは5メートルより少しだけ短い。

跳ぶ瞬間に最高速度に達するように調整して、ジャンプは真上に。

空中では足を体にひきつけて滞空時間を長く、着地は前に倒れるように。

あとは……よし。これ以上は、跳んで見なくちゃわからない。

煙で向こうが見え辛いのが怖いけど、晴れるのを待ってる間に炎が回ってきたら話にならない。


律子「……いくか!」ダッ

バッ

……助走は完璧。

踏み切りもバッチリ。

空中姿勢も問題なし。

間違いなく、今まで跳んだ中で最高の一回だ。



でも。

ギリギリで、足がビルの上に届かない。

良くて下半身、悪けりゃ全身が側面に激突ね。

できるだけの事はするけれど……

ごめんなさい、千早。ごめんなさい、あずささん。

ごめんなさい、春香。


律子「がはっ……!」ガッ


そりゃ、これだけ勢いがあればしがみつけるわけないわよね……

折れたわね、肋骨が何本か。

いや、それもどうでもいいか。

後はこのまま、落ちて死ぬだけ――――


ガシッ    ガシッ


春香「律子……さん!」

中年女「今……引き上げますから……!」


女二人じゃ無理よ。私の方に力が入らないもの。

さっさと放して、安全な場所に……

ガシッ


眼鏡男「まったく……大した人だ」

律子「あ……」

春香「いきますよ!せーのっ!」


グイッ ドサッ


律子「はーっ……がはっ!げほっ、ぐほっ!」

春香「律子さん!大丈夫ですか?!わかったら手を握ってください!」

ギュッ

春香「!」

中年女「良かった……!」

眼鏡男「火事場の馬鹿力……というやつか。とりあえず、すぐに手当てが必要だ。貴女、このビルに救急箱がないか探してきてください。あと、担架も」

中年女「は、はい!」

春香「うぅ……良かったぁ……りづござぁ~ん……!」

律子「がはっ、がはっ!……まっ、たく……二度と、ごめんよ……こんな、事……」

眼鏡男「あまり喋らない方がいい。下手をすれば内蔵が損傷しているかもしれない」

春香「そんな……」


ブゥン

春香「あ……」


『こんぐらちゅれいしょん。「げぇむくりあ」』

――――――――
――――

千早「もう……ビルが全焼してしまうわ」

あずさ「大丈夫よ、千早ちゃん……あっ!」

千早「……春香!?無事だったのね!!」

春香「うん……ただいま、千早ちゃん……」

あずさ「待って!律子さんは、律子さんはどこ……?」

春香「生きてます……でも……」

中年女「えーと……あなた達も、この人のお友達?」

あずさ「は、はい!」

眼鏡男「彼女は立派だった。しばらくは絶対安静だが、ひとまずは大丈夫だ」

あずさ「律子さん?!」

千早「律子?!」

律子「ごめん……なさい、ね……これじゃ、無事、とは……」

千早「いえ、いいの……!生きて帰ってきてくれたのなら、それで……!」

あずさ「律子さん……!良かった……!」

春香「……」


こうして、私の2回目の『げぇむ』は終わりを告げた。

私たちに大きな傷を残して……



~今際の国滞在2日目終了~
春香、律子 残り滞在可能日数…6日
千早、あずさ 残り滞在可能日数…4日

ひとまずここまでで

あと、『げぇむ』は基本的に原作で内容が明かされてない数字にオリジナルを当てはめてるんだけどどうだろう

原作好きとしては一向に構わんというか良いのではないでしょうか?
というか別に原作と同じ数字と絵柄でもオリジナルありなんじゃない?

世界観的に一度に複数の会場でげぇむしてれば絵柄かぶることだってあるだろうし

>>84
それもそうか
キューマの「全種類の『げぇむ』を『くりあ』されれば」って台詞が気になってたんだけど「全種類の(トランプの)『げぇむ』を」って解釈していいみたいだね

ちょっと投下

~今際の国 滞在3日目~

眼鏡男「痛みが酷くなるようだったらこの薬を……こんなものか。あとは、無理をさせないことだ」

千早「すみません……何から何まで、ありがとうございます」

眼鏡男「医師として……いや、人として当然の事だ。私も彼女の勇気に助けられた」

千早「その……昨日は何があったんですか?」

眼鏡男「『すぺえど』の『げぇむ』だ。今回は後になるほど厳しくなる仕様だったのだが……あの子を先に行かせるために、彼女は最後を選んだ」

千早「……本当に、無茶するんだから。ところで、『すぺえど』にはどんな特徴が?」

眼鏡男「肉体型だよ。純粋な体力や体格、体術が物を言う。『げぇむ』内で怪我を負うことも多い。しかし、それを知らないという事はこの国に来て日が浅いのか?」

千早「今日で3日目です。『げぇむ』の参加はあの二人が2回目、私とあずささんはまだ1回です」

眼鏡男「そうか……ならば、他の『げぇむ』についても知っておいた方がいいだろう」

千早「お願いします」

眼鏡男「『だいや』は知能型……知識や頭の回転が重要だ。『くらぶ』は『すぺえど』と『だいや』の中間でバランス型。協力し、補い合う事で『くりあ』が容易になる」

千早「なるほど……それじゃあ、『はあと』は?」

眼鏡男「『はあと』……これが一番悪趣味で残忍な『げぇむ』。心理型さ」

千早「心理型?」

眼鏡男「『生きたい』と願う人の心を巧みに利用し、弄び、壊す。それが『はあと』だ。一度やれば、その意味がわかるだろう」

千早「はあ……ありがとうございます」

眼鏡男「しかし、彼女の『びざ』にまだ余裕があってよかった。ギリギリまで待てば次の『げぇむ』を乗り越えられるくらいには回復するかもしれない」

千早「そう、ですね……」

眼鏡男「それじゃあ、私もこれで失礼するよ。彼女によろしく言っておいてくれたまえ。この世界でああいう人間は貴重だ」

千早「はい。本当に、ありがとうございました」

――――――――
――――


千早「あずささん、これ。今日の昼食です」

あずさ「ありがとうね、千早ちゃん」

千早「ほら、春香も。ちゃんと食べなさい」

春香「私は……律子さんが起きたら一緒に食べるよ」

千早「……そう」

あずさ「それで……これからどうしましょうか?」

千早「その事なんですけど……今日、私一人で『げぇむ』に挑戦してみようと思います」

あずさ「えっ?」

春香「ど、どうして?!」

千早「恐らく、律子が『げぇむ』に参加する事になるのは五日後か六日後……その時に律子をサポートするために、できるだけ早く『びざ』を確保しておきたいの」

春香「だ、だったら三人で一緒に行けば……」

千早「『げぇむ』に絶対はないわ。もし三人揃って『げぇむおおばあ』なんて事になれば、あの状態の律子を一人残すことになるのよ?」

あずさ「それなら、せめて片方だけでも……」

千早「……正直、春香もあずささんも危なっかしいところがありますから。仮に二人で挑んで『げぇむおおばあ』になった時、今の律子と二人で残されてこの世界でやっていけますか?」

春香「う……」

あずさ「それは……」

千早「もちろん『くりあ』するつもりで行く。だけど、万が一を考えたとき二人を連れて行くわけにはいかないの」

春香「でも……!」

千早「ねえ春香。もし昨日二人で『げぇむ』に参加なんてしなければ、こんな事をする必要もなかったのよ?」

春香「っ!」

あずさ「千早ちゃん!」

千早「あっ……ごめんなさい。言い過ぎたわ」

春香「う、ううん!いいんだよ別に!そうだよね、私に千早ちゃんを止める資格なんかないよね!」ダッ

あずさ「あ、春香ちゃん!あ……」

千早「……すみません、あずささん。お願いしてもいいですか?」

あずさ「え、ええ……ねえ、千早ちゃん。無理だけはしないでね?」

千早「……はい」

 ◇ ◇ ◇

あずさ「春香ちゃん、ここにいたのね。探しちゃったわ」

春香「あずささん……」

律子「……」スゥスゥ

あずさ「律子さん、早く良くなるといいわね」

春香「……私が、全部悪いんです」

あずさ「……そんな事ないわよ?」

春香「あります。私がわがままを言ったせいで、律子さんが……いえ、それだけじゃなくて、みんなの気持ちがバラバラになってしまって……」

あずさ「……春香ちゃん。わがままを言ったのは私も同じ。私が怖がったりしなければ、4人揃って『げぇむ』に参加できたんだもの」

春香「そ、そんな……それは仕方ないですよ……」

あずさ「私も、春香ちゃんに対して同じ事を思ってるわ。春香ちゃん一人が責任を負う必要なんてないのよ?」

春香「あずささん……私、もう一度『げぇむ』に参加すれば変われるかもって思って、でも、結局みんなを困らせただけで……うぁぁぁぁん……」

あずさ「よしよし……ねぇ、春香ちゃん。明日か明後日か、私も『げぇむ』に参加しなきゃいけないの。その時、力を貸してちょうだい。それでチャラにしましょう?」

春香「うぅ……あずささぁん……ありがとう、ございます……」

あずさ「きっとね、みんな心の一番奥にある気持ちは同じなの。『4人で生きて元の世界に帰りたい』……それだけよ」


――――――――
――――

……大丈夫。無事に『くりあ』して戻ればなんの問題もない。

今はあずささんが何とかしてくれてるはずだから、帰ってからもう一度謝れば大丈夫。

何度も考えたけど、やっぱりこれが最善。

律子が倒れてる今、私がしっかりしないと。

そのためにも、『びざ』には少し余裕をもっておきたい。

……良かった、会場はここで大丈夫そうね。


千早「スポーツ用品店……なのかしら?」


 ◇ ◇ ◇


中には既に4人の参加者がいた。

屈強な筋肉質の男性。

顔立ちの整ったホスト風の男性。

40代くらいの教員風の男性。

大学生らしき真面目そうな女性。

メンバーとしては、中々バランスがいいんじゃないだろうか。

協力しあえる「るうる」であれば、「すぺえど」だろうと「だいや」だろうとあまり死角はないように思える。

ザー

『店内放送。ただいまより、「げぇむ」の時間です』


スピーカーから声が流れてくる。

そして、運命を決める「げぇむ」の内容が知らされた。

『これから皆さんに参加していただく「げぇむ」は「ちきんれぇす」。エントリー数、無制限。賞品、なし。』



『「げぇむ」難易度……「はあとの3」。』

とりあえずここまで

チキンレースやチキンランは実は下手にブレーキ踏まない方が生き残れたりする。
…けど「はあとのげぇむ」だしそんな甘っちょろいわけがない。

律子はだいや向き、春香ははぁと?千早とあずささんはどうだろう
真か響あたりがいたらすぺぇど向きだろうけど

>>95
律子が「だいや」と「くらぶ」型?
秀才型の人間だし、プロデューサーとして引率術もあるから。

春香は「はあと」も行けるだろうけど「くらぶ」型だと思う。
「はあと」はアリスみたいに追い込まれてから乗り越えるだろうね。
「くらぶ」は言わずもがな。仲間を思いやり協調を大事にする子だからね。

千早は…「はあと」型。
生きたいとは思ってるだろうけど、如月優のこともあるし、死を一番身近においている人間故に死を恐れてはいなさそう。

あずささんは「すぺえど」型かな。当初にあずささんは竜宮でAラン近くって言ってるし。
ただし、仲間と一緒に参加しないとパニック起こす可能性もある。下がいれば年長者の気概が出ると思うけど。

と、俺は予想した。

再開

『まずは皆さん、カウンターの上の『すとっぷうぉっち』をお取りください。』


皆、指示通りそれぞれストップウォッチを手に取る。

一見何の変哲もないストップウォッチのようだけど、何か仕掛けがあるのだろう。


『「るうる」はいたって簡単。お手元の「すとっぷうぉっち」がこちらの合図で一斉にスタートしますので、05:00:00以内に止める事ができれば「げぇむくりあ」』


筋肉男「5分以内……下限はないのか?」

ホスト男「それだけで済むならラクショーでいいんだけどな……」


『ただし、05:00:00をオーバーした方、他人の「すとっぷうぉっち」を止めた方、一番最初に「すとっぷうぉっち」を止めた方は「げぇむおおばあ」となります』


大学生女「一番……最初?」

教員男「なるほど……それで『ちきんれぇす』という訳ですか」

千早「ま、待って。という事はつまり、この中の誰かが……」

筋肉男「……だろうな。いかにも『はあと』らしい」

ホスト男「かぁ~っ!オレ、蹴落としあいは好きじゃねぇんだよな~。寝覚めが悪いのなんの!」

千早「そんな……」


『また、特別るうるとして、誰か一人でも04:59:00~05:00:00の間に「すとっぷうぉっち」を止める事ができた場合、それぞれが「すとっぷうぉっち」を止めたタイミングに関わらず全員が「げぇむくりあ」となります』


千早「!」

教員男「救済措置……にしては、随分シビアな条件ですね」

大学生女「僅か1秒のタイミングでぴったり止めるなんて……できるわけないじゃない……!」


『「すとっぷうぉっち」は10秒が経過した時点で時間が表示されなくなり、全員が「すとっぷうぉっち」を止めた時点で結果が発表されます。「げぇむ」は2分後に開始されます』

ザザッ

……しばらくは言葉が出なかった。

これが「はあと」。

死ぬとわかっていて、最初に「すとっぷうぉっち」を止める人間などいないだろう。

結果、各々で5分ジャストを狙うしかないが、それでも他の誰かが押すまで待とうという気持ちが足を引っ張る。

最終的には誰一人「すとっぷうぉっち」を止めることなく「げぇむおおばあ」というシナリオだろう。

そんな思考を遮るように、ひとつの声が静寂を破った。


ホスト男「あのさ。こうやって黙~ってても仕方ないし、ちゃちゃっと決めちゃおうぜ」

大学生女「決める、って……何をですか?」

ホスト男「そんなのひとつしかないじゃん。『イケニエ』だよ」

筋肉男「イケニエ……だと?」

ホスト男「だってさぁ!このままいったらだ~れも『すとっぷうぉっち』止めないだろ?だったら公平な条件で決めた一人を犠牲にして、4人が生き残るのが筋ってもんじゃない?」

千早「犠牲って……!」

ホスト男「じゃあ、嬢ちゃんが5分ぴったりで止めてくれんの?」

千早「……」

教員男「確かに合理的ではありますが……どうやって決めます?」

ホスト男「ここはやっぱジャンケンっしょ!」

筋肉男「それしかあるまい……『げぇむ』が始まる前に終わらせよう」

大学生女「じゃ、ジャンケンで生きるか死ぬか決めろって言うの?!」

ホスト男「全員死ぬよかマシだろ?じゃ、いくぞー。ジャーンケーンポン!」

筋 パー  ホ パー  教 パー  大 グー  千 パー

大学生女「あ……ウソ……」

ホスト男「つーわけで、先陣ヨロシク!」

大学生女「な……い、イヤよ!そんな、絶対イヤ!」

千早「5分を狙います」

大学生女「えっ……?」

千早「私が5分ジャストで止めます。一度死んだ命をすくい上げます……だから、お願いします。あなたの命を一度預けてください」

大学生女「な、何言ってるのよ……」

教員男「確かに、それがベストでしょう。仮に少し早くても自分は死なないという安心感があれば、少しは5分ジャストの確率も上がる」

筋肉男「一応、残る4人で5分を狙うようにしよう。あんたは4分を目安に止めてくれ」

大学生女「何よそれ……他人事みたいに」


『それでは、まもなく「すとっぷうぉっち」が作動します。』


ホスト男「おい、来るぞ!」


『5、4、3、2、1、「げぇむすたあと」。』

筋肉男「……」

ホスト男「……」

教員男「……」

大学生女「……」ガクガク

千早「……」


♪~

大丈夫。ちゃんと頭の中で再生できてる。

この曲なら一曲終わるのに4分55秒。そこから5秒カウント……うん、問題ない。

集中しろ。

冷静に、ただ淡々と音楽を流せばいい。

恐怖に屈することこそ本当の負け。

必ずあの女の人を救う。

そして、生きてみんなの元に戻る。

そう難しい事じゃない。

ただ、落ち着いてやればいい。

筋肉男「……」

ホスト男「……」

教員男「……」

大学生女「うぅ……」

千早「……」

筋肉男「……」

ホスト男「……ちっ」

教員男「……」

大学生女「……」

千早「……」

筋肉男「……」

ホスト男「……」

教員男「ん……」

大学生女「……」

千早「……」

筋肉男「……」

ホスト男「……おい、そろそろ4分過ぎたんじゃねーか?」

大学生女「……」

ホスト男「おい!そろそろ止めろよ!」

大学生女「……ごめんなさい」

ホスト男「あ?」

大学生女「私……やっぱり押せない」

ホスト男「はぁ?!ふざけんなよ!全員合意で決めただろうが!」

大学生女「わ、私は賛成なんてしてないわ!止めたきゃ勝手に止めればいいじゃない!」

ホスト男「んだとこの……!」

教員男「お、落ち着いてください!」

ホスト男「じゃあどうすんだよ!」

千早「きゃっ」

筋肉男「4分30秒!」

教員男「え?」

筋肉男「今の時間だ!こうなったら全員で5分を狙うしかない!4分40秒!」

ホスト男「だ~っ!何でこうなんだよクソッ!」

教員男「うぅ……」

大学生女「お願い……!」

筋肉男「今だ!」

ピッ ピッ ピッ

大学生女「え……?」

教員男「あ、あなた……」

筋肉男「悪いな……15秒ほど鯖を読ませてもらった」ピッ

ホスト男「ふ、ふざけんな」

千早「静かに!」

筋肉男「何……?お前!なぜまだ押していない?!」

ホスト男「なっ……何でもいい!助けてくれ!」

大学生女「お願い!」

教員男「神様……!」


曲のタイミング的に、この男性が嘘をついているのはすぐにわかった。

けど、直前。ぶつかられた拍子にテンポが狂った。

早いか遅いか、恐らく1、2秒のズレがある。

どっち?もう時間が――――


ピッ


『全員が「すとっぷうぉっち」を止めました。これより、タイムの発表に移ります』


ホスト男「誰だ……誰が一番早かった……?」

大学生女「私じゃない……私じゃない……」

教員男「あああぁぁぁ……」

筋肉男「……あのパニックの中、オレの嘘を見抜けたとしても。他のヤツらが止めたのを見てすぐに止めなかったのは何故だ?」

千早「……一緒に生きて帰るって、約束した仲間がいるの。ここで裏切れば、その仲間さえ裏切ってしまう人間になってしまう気がしたから」

筋肉男「フン……それで『げぇむおおばあ』になったら元も子もないだろう」

千早「……その時はその時よ」

『では、順番に。竹内ソーイチ、4:51:91』


筋肉男「……よし」


『村上カンジ、4:44:75』


ホスト男「ぐっ……!」


『檜原ヨシオ、4:44:85』


教員男「い、生きた!生き残った!」


『吉井メグミ、4:44:83』


大学生女「やった!」

ホスト男「マジかよ……お、おい!マジで頼むぞ!」

千早「……」


『如月チハヤ――――


――――4:58:72』

『よって村上カンジ「げぇむおおばあ」、他の方は「げぇむくりあ」』


ホスト男「あ、ああ……!」

千早「……ごめんなさい」

ホスト男「お前、言ったじゃねえか!5分で止めるって!なのに……」


ピピピ... ズッ


バシャア


大学生女「キャアアァァァ!」ダッ

教員男「ひっ!」ダッ

ホスト男「」

千早「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

筋肉男「オマエはよくやったさ。だが、この国にいればこういう事もある」

千早「……」

筋肉男「まあ、オマエのようなヤツにはこの国はさぞ居心地が悪いのだろうな」ザッ

千早「……」


最後の一瞬、みんなの顔が頭をよぎった。

もし5分を過ぎれば、もうみんなに会えなくなるのだと思った。

死にたくないと思った。

その思いが、私の判断を鈍らせた。

偉そうな事を言っておきながら、結局は自分の身可愛さにこの人を死なせてしまった。

三人を騙して悠々と生き延びたあの男以上に、自分の事が許せなかった。


ガガッ


千早「3日分の……『びざ』……」


犠牲の上に与えられた3日分の命。

無駄にはできない。

ここから先は、自分のために使う命じゃない。

春香を、律子を、あずささんを、みんなを生き残らせるための命だ。

もう、誰も死なせない。


千早「……帰りましょう。みんなの元に」

ここまで

初期段階での自分のイメージ

春香→くらぶ 千早→はあと あずさ→くらぶ 律子→だいや

ただ、げぇむを乗り越えていくうちに色々と変化していくとは思う

今更ですがさっきの「るうる」に「『げぇむ』開始前の時計等の没収」を追加でお願いします

いずれは「かくれんぼ」的なのが繰るんだろうな…
この面子だと「おにごっこ」ですら全滅するかも

ちょっとだけ

――――――――
――――

春香「ん……」

律子「あら、おはよう春香」

春香「おはようございます……って、律子さん?!もう大丈夫なんですか!?」

律子「ええ。もうこの通り……っつ!」

春香「やっぱり大丈夫じゃないじゃないですか!治るまで大人しくしててください!」

律子「はぁ……悪いわね、心配かけちゃって」

春香「いえ……私こそ、ごめんなさい。私のわがままでこんなことになってしまって……」

律子「いいのよ。そのために私がついていったんだから」

春香「律子さんは良くても私が良くないんです。落とし前をつけさせてください」

律子「落とし前って……別に、次に一緒に『げぇむ』に挑むときに助けてくれればいいわよ」

春香「ダメです。そういう状況になったら、律子さんはまた同じようなことしますから。って言うか、それはそもそも当たり前の事なので却下です」

律子「えぇ~……?じゃあ、何をしてくれるの?」

春香「律子さんが回復するまでの間、律子さんのお世話は全部私がやります!」

律子「はぁ?!ちょ、ちょっと待って!何よそれ!」

春香「もう決めたんです。必要な物とかして欲しい事とかあったら何でも言ってください」

律子「決めたって……はぁ。わかったわ。こうなったらもう何言っても聞かないものね」

春香「わかってくれて嬉しいです。なんていうか、律子さんは一人で色々背負い過ぎなんです。もっと私たちを頼ってください」

律子「……そうね。ありがとう、春香。といっても、春香は危なっかしくて頼るのはちょっと怖いけど」

春香「なっ……酷いです律子さん!千早ちゃんにも同じこと……あっ!」

律子「どうしたの?」

春香「……今、千早ちゃんが一人で『げぇむ』に参加してるんです」

律子「何ですって?!どうして!?」

春香「その……怪我した律子さんをサポートするために余裕のあるうちに『びざ』を確保しておきたいけど、万が一を考えると私とあずささんを連れては行けないって」

律子「そんな……私が不甲斐ないせいで……」

春香「律子さんは悪くありません!律子さんが死んでたらもっと酷いことになってました」

律子「でも……」

春香「私だって不安です。責任も感じてます。でも、今は千早ちゃんを信じるしかないんです。だから、律子さんも」

律子「……そうね。千早ならきっと……」


ガチャ


あずさ「春香ちゃん!千早ちゃんが!」

二人「!」

春香「千早ちゃん!」

千早「……ただいま、春香」

春香「千早ちゃん、その血……?!」

千早「ああ、これ?私の血じゃないから心配しないで」

春香「ほっ、良かった……無事で、良かったぁ……」

千早「ふふっ、春香ったら大袈裟ね。そういえば、律子の方はどう?」

春香「あっ、そうだ!律子さん、さっき目を覚ましたよ!」

千早「本当?なら、律子とも少し話してくるわね」

春香「うん!律子さんも千早ちゃんの事心配してたから、早く元気なところ見せてあげて」

千早「……ええ、そうね」

あずさ「……千早ちゃん、大丈夫かしら?」

春香「何がですか?怪我はしてないって言ってましたよ?」

あずさ「……ねぇ、春香ちゃん。あれが千早ちゃんの血じゃないなら、一体誰の血なのかしら?」

春香「あっ……」

あずさ「一見平気そうに見えるけれど、千早ちゃんの中で何かが変わってしまったような……そんな気がするの」

春香「千早ちゃん……!」

――――
――

春香「律子さ~ん……?」

あずさ「お邪魔しま~す……」

律子「……二人揃って、いったい何事?」

春香「えっと……千早ちゃんは?」

律子「少し一人になりたいって出て行ったわ。あと、明日から誰かが『げぇむ』に参加するときは必ず一緒に行くって」

春香「そんな……!」

あずさ「千早ちゃん、やっぱり……」

律子「……一応言っておくけど、二人が考えてるようなことはないわ。ただ、目の前で人が死んだ事に少なからずショックを受けてるようだけど」

春香「なら……!」

律子「冷たいようだけど、今夜はそっとしておいてあげて。千早にも頭の中を整理する時間が必要なのよ」

あずさ「……そう、ですね」

律子「それより春香。早速で悪いんだけど、明日千早と一緒に動きやすい服と靴を探してきてくれないかしら?昨日屋上に置いてきちゃったもんだから、ね?」


 ◇ ◇ ◇


明日か明後日……あずささんには、春香じゃなく私がついていこう。

とりあえず律子が復活したから、春香を残していっても大丈夫なはず。

私は二度と大切な人を失いたくない。

けれど、この世界ではああも簡単に人が死ぬ。

だったら、私はみんなを助けるためにどんな事でもしてみせよう。

みんなを救うためなら、無関係な人間はいくらでも蹴落とそう。

すでに一人を犠牲にして生き延びているのだ。罪悪感などない。

必要とあらば、この命も差し出そう。

目の前でみんなに死なれるよりずっといい。

自分勝手な考えだってわかってる。

だけど、こうでもしなければ私の心がもたない。

あの男の言うとおり、この世界は私にはあまりにも生き辛い。



~今際の国滞在3日目終了~

千早 残り滞在可能日数…6日
春香、律子 残り滞在可能日数…5日
あずさ 残り滞在可能日数…3日

短いですけどここまで
次の「げぇむ」どうするか迷ってあんま進まんかった……

投下


――――――――
――――

あずさ「おはよう、千早ちゃん」

千早「おはようございます、あずささん」

あずさ「朝から釣りなんて頑張るわね~」

千早「集中力のトレーニングにもなりますし、缶詰より栄養もあると思いますから」

あずさ「そう……あら?……ねぇ千早ちゃん。こっちのバケツ1杯分、全部千早ちゃんが釣ったの?」

千早「はい、そうです。あまり釣り過ぎても食べ切れませんし、そろそろ切り上げますね」

あずさ「千早ちゃん……」

千早「あ、そういえば律子から聞きましたか?次の『げぇむ』には私がついていきます。安心してください、絶対死なせませんから」

あずさ「……そう。ありがとうね、千早ちゃん。春香ちゃんと律子さんも起きてる頃だし、そろそろ戻りましょう?」

千早「そうですね。わかりました」


 ◇ ◇ ◇


春香「お帰りーって、それどうしたの?!」

あずさ「すごいでしょ~?全部千早ちゃんが釣ったのよ」

律子「本当にあんたは、やることが極端ね……」

千早「そんな……こんなんじゃまだまだよ」

あずさ「とりあえず、朝ごはんにしましょう?それから、律子さんも交えてまたミーティングね」

――――
――

律子「ねぇ、春香。食事くらい自分でできるから……」

春香「ダメです。はい、あーん」

律子「ああもう……あーん」

千早「……さて、その様子だとやっぱり律子はギリギリまで『げぇむ』の参加は見送った方が良さそうね」

律子「私は別に平気……むぐっ」

春香「律子さんは怪我人なんですからちゃんとみんなの言う事聞いて大人しくしててください」

律子「わかったから焼き魚を人の口に突っ込むのはやめなさい」

千早「……それで、今一人だけ『びざ』が少ないあずささんがどうしたいかなんですけど……」

あずさ「う~ん……今日はお休みにしない?私もまだ3日余裕があるし、ここのところ毎日誰かが『げぇむ』に参加していて心を落ち着ける暇もなかったでしょう?」

律子「そうですね。あまり緊張しっぱなしでも体によくありませんし」

春香「私も賛成ですっ!」

千早「じゃあ、今日は『げぇむ』不参加。各自自由に休息をとり、心と体を休める。それでいいかしら?」

三人「異議なし!」

千早「それじゃあ、ひとまず解散ね」

春香「あ、そうだ千早ちゃん!後で付き合って欲しい事が……」

――――
――

律子「あずささん、ありがとうございます」

あずさ「あら~、何のことですか?」

律子「いえ、さっきの。千早を休ませようとしてくれたんですよね?」

あずさ「ああ。千早ちゃん、昔みたいにすごく張り詰めた顔をしてたものだから。あのままじゃ壊れちゃいそうで」

律子「そうですね。あの頃とはまた方向性が違いますけど」

あずさ「……千早ちゃんは、いったいどうしてしまったんでしょうか?」

律子「……千早はかつて一番身近な人を亡くしてますから。きっと私たちの誰より『死』に敏感なんです」

あずさ「それが昨日の『げぇむ』をきっかけに良くない方に作用してしまった……そういう事なんでしょうか?」

律子「恐らくは。ただ、最終的に乗り越えられるかは千早自身の問題です。悔しいけど、現状私たちがしてやれる事はほとんどないんです」

あずさ「でも、春香ちゃんなら……そう思ったから、春香ちゃんと千早ちゃんを一緒に行かせたんですよね?」

律子「あの子は、いつの間にか人の心に入り込んで元気にさせてくれる。そういう不思議な子ですから」

あずさ「そうですね~。律子さんが目を覚ますまでは本人が落ち込み気味だったけど、どうにか立ち直れたみたいですし」

律子「ええ。あとは、あの二人次第ってとこですかね……」

 ◇ ◇ ◇


春香「……うんっ!これだけあれば着替えにも困らないよね」

千早「そうね。思えば3日間ずっと同じ服だったし……他の事で頭がいっぱいで、気が回ってなかったわ」

春香「まあ、こんな経験初めてだもんね。普段なら一日着替えてなかっただけでもすごく気になるのに」

千早「……4日前にはあの平和な世界でアイドルやってたなんて、嘘みたいね」

春香「うん。この3日間で、ちょっと色々な事があり過ぎたよ」

千早「……」

春香「ねぇ千早ちゃん。千早ちゃんは、私たちの未来に何が見える?」

千早「え?」

春香「私はね……みんなで元の世界に戻って、またあの小さい事務所で楽しくお喋りして、お仕事もこなして……そういう、今まで通りの私が見えるよ」

千早「……」

春香「でもね?その時はもうこれまでの私とは違って、目をそらしたり逃げたりしない。全部受け止めて、転んでもまた立ち上がって、全力でトップアイドルを目指すんだ」

千早「……明日の命もわからないこの世界で、よくそんなに楽観できるわね」

春香「ダメかな?私はこんな世界だからこそ、今日を生き延びたその先の目標って必要だと思うんだ」

千早「生き延びた、その先……」

春香「だからさ、お願い。千早ちゃんも協力してよ。4人一緒じゃない未来なんて、私は想像できないから」

千早「……ごめんなさい。私はまだ春香のように前は向けない」

春香「……そっか」

千早「けど」

春香「ん?」

千早「その……最後のは、善処するわ。約束する。自棄になったりなんかしない」

春香「……ありがとう、千早ちゃん」

千早「……でも、良かった。何だか、昔の春香が戻ってきたみたいで」

春香「へ?」

千早「この世界に来る前の春香は、後ろ向きというか……とにかく、会った頃と違って悪い方にばかり考えるようになってたから」

春香「そうかなぁ……うん。何かそんな気がする」

千早「そうよ。孤独だった私を救ってくれた、私の大好きな春香が帰ってきてくれて嬉しいわ」

春香「だ、大好きって……面と向かってそういう事言われると恥ずかしいっていうか……」

千早「ふふっ。さあ、そろそろ二人のところに戻りましょう」

春香「あっ!待ってよ千早ちゃーん!」

伊織『だいや』
美希『くらぶ』
亜美と真美『すぺぇど』
響『すぺぇど』
雪歩『だいや』or『くらぶ』
真『すぺぇど』
貴音『はぁと』(てか、全部できそう)


残りのアイドルのゲームタイプまとめ
小鳥さんはマジで思いつかなかった

千早「ただいま戻りました」

律子「お帰り、千早」

春香「はぁ、私もです……ただいまー」

律子「その様子だと、上手くいったのね?」

春香「はい!」

千早「ごめんなさい。少し気持ちが逸ってたみたい」

あずさ「今のうちに気付いてくれたなら大丈夫よ~」

千早「ただ、みんなを助けるのを優先するのは変わらないわ。その上で、自分の命も最後まで諦めないだけ」

律子「それで十分よ。千早に生きる意志があるなら、あとは私たち全員で引き上げるわ」

春香「絶対、4人で生きて帰ろう!」

あずさ「千早ちゃん、明日は『げぇむ』に参加する事にしたわ。二人で頑張りましょう?」

千早「はい!」

――――――――
――――


今日、春香と二人で話す時間をもらえて良かった。

今日、春香と二人で話す機会をもらえて良かった。

今日、春香と二人で話す事ができて良かった。

大事なことに、気付けて良かった。

私と同じ想いを、みんなが持ってる。

私が欠ければ、その想いを打ち壊すことになる。

この世界に来たときから、私の命は私だけのものじゃなかったんだ。

もう間違えたりしない。

みんなを守って、私も生きる。

決して簡単な事ではないけれど、そうでなければ意味がない。

まずは明日。必ずあずささんを連れて帰る。4日後は律子と春香も。

そうして一日一日を、しっかり生きていけばいい――――




けれど、この理不尽な世界は。いつだって私に絶望を突きつける。


千早「……」

あずさ「……」

長髪男「……」

細目男「……」

黒髪女「……」

ドレッド男「……」


『「げぇむ」、「ぱずる」。エントリー数、1名ずつ。賞品、なし。』



『「げぇむ」難易度……だいやの9。』

ここまで

~今際の国滞在4日目終了~

千早 残り滞在可能日数…5日
春香、律子 残り滞在可能日数…4日
あずさ 残り滞在可能日数…2日

再開

 ◇ ◇ ◇

律子さん、春香ちゃん、千早ちゃん。

この不思議な世界に来てから、みんなひとつの壁を乗り越えてきた。

私だけが、その時を先延ばしにしてきた。

だけど、それも今日まで。

「びざ」の期限が迫っているからじゃない。

私が「追いつきたい」って、そう思ったから。

誰かに急かされたからじゃない、自分の意思で踏み出す一歩。

待っててね、みんな。

すぐにそこまで辿り着いてみせるから――――


――――――――
――――

あずさ「そろそろ行きましょうか、千早ちゃん」

千早「はい、あずささん。律子、留守の間春香をお願いね」

春香「ちょ、千早ちゃん!?普通逆じゃない?!」

律子「あはは、了解……気をつけてね」

春香「絶対無事に帰ってきてくださいね!」

千早「ええ、もちろんよ」

あずさ「……必ず」

律子「よし!……それじゃ、行ってらっしゃい!」

二人「……行ってきます!」

――――
――

千早「このカラオケボックスですね」

あずさ「どんな『げぇむ』が来るのかしらね~」

千早「わかりません……でも、絶対守りますから」

あずさ「ありがとう。でもね、私も自分の力でできるだけ頑張りたいの」

千早「……わかりました。ただし、危なくなったらすぐに助けますから」

あずさ「そうしてくれると助かるわ……あら、もう随分人がいるのね」

長髪男「……」

黒髪女「……」

ドレッド男「……」

細目男「君達で最後かな。もう受付が終わる」


ポーン


『えー只今より、「げぇむ」の時間です。』


ドレッド男「来たか……」

『「げぇむ」、「ぱずる」。エントリー数、1名ずつ。賞品、なし。』

『「げぇむ」難易度……だいやの9。』


千早「え……」

長髪男「へぇ……」


『この「げぇむ」のエントリーは1名ずつとなっておりますので、皆様お好きな部屋を選び入室してください。』


千早「あ、あずささん……」

あずさ「……大丈夫よ。大丈夫」キュッ

千早「っ……」


ごめんなさいね、千早ちゃん。

強がってみたけれど、私も動揺を隠すだけで精一杯なの。

ちょっとだけ、勇気を分けてちょうだい。

千早ちゃんみたいに、強い心を。


その後、それぞれ指示通りに手近な部屋を選んで入っていった。

私は千早ちゃんの隣のお部屋。

防音がしっかりしてるから声は聞こえないけど、そこにいてくれると思うだけで頑張れるから。

生きなきゃ、って思えるから。

 ◇ ◇ ◇


だいやの9。そう聞いたとき、足元が一気に崩れていくような感覚を覚えた。

私だけが挑戦するならまだ良かった。

しかし、今回はあずささんも一緒なのだ。

その上、この「げぇむ」は協力する事を許さないという。

壁一枚隔てた向こう側にあずささんがいるというのに、私はあずささんに何一つしてあげることができない。

無理だ……まだ2回目の「げぇむ」参加で、難易度9の「げぇむ」を「くりあ」できるはずがない。

第一、私自身「くりあ」できるかどうか……


パッ


暗い室内を、突然点いたテレビの光が照らす。


『デンモクで次の3つから「じゃんる」を選んでください』

『「にほんし」』 『「おんがく」』 『「ぶつり」』


「じゃんる」……?これから挑む「げぇむ」は「だいや」だから、問題のジャンルという事だろうか。

だとしたら、私が選ぶべきは「おんがく」しかない。

デンモク……というのは、テーブルの上においてあるこの機械の事だろう。

タッチパネル式のようなので、どうにか操作して「おんがく」を選ぶ。

すると、画面の表示が切り替わり、テレビにはところどころが空白になり代わりに番号が振られた楽譜、デンモクには無数の音符が映し出された。

その後、テレビ画面の前面に文字が出てくる。


『「るうる」』

『「ぴぃす」を当てはめベートーヴェン作「交響曲第5番 ハ短調」を完成させることができれば「げぇむくりあ」。』

『部屋には徐々に窒素が充満していくので、酸素濃度のチェックは欠かさないでくださいね。』

『なお、ドアのロックは「げぇむ」終了まで開きません。』

『それでは、「げぇむすたあと」。』


文字が消えると同時に、部屋の隅からシューシューと気体の漏れ出すような音が聞こえてきた。

これが「だいやの9」……

不可能じゃ、ないかもしれない。

素人であれば、記号が示す意味さえわからなかっただろう。

そうでなくても、全てを書き出せと言われれば無理だっただろう。

だが、答えはここに用意されている。

三択ではあるが、得意なジャンルを選ぶ余地も残されている。

私の選択肢の関係性のなさを考えると、ほぼランダムと見て間違いない。

……あずささんを信じよう。

あずささんなら、きっと得意な「じゃんる」を引ける。

「ぱずる」を解いて、私たちに元気な姿を見せてくれる。

そのためにも、今は目の前の楽譜に集中しよう。

「運命」なんかに屈するものか――――

 ◇ ◇ ◇

長髪男「……『だいやの9』、って言うからどんな『げぇむ』が来るかと思えば……拍子抜けだね」


『じゃんる「かがく」』

『「ぴぃす」を当てはめ「元素記号の周期表」を完成させることができれば「げぇむくりあ」。』


長髪男「こんなの、『くりあ』してくださいって言ってるようなもんじゃん♪」


 ◇ ◇ ◇


細目男「なるほど……そうきたか」


『じゃんる「じょうほう」』

『「ぴぃす」を当てはめ「109キーボード」を完成させることができれば「げぇむくりあ」。』


細目男「難解なプログラミングなんかだと少し厳しかったけど……これなら何とかなりそうだ」


 ◇ ◇ ◇


ドレッド男「……」


『じゃんる「たいいく」』

『「ぴぃす」を当てはめ「オリンピック競技の種目変遷年表」を完成させることができれば「げぇむくりあ」。』


ドレッド男「解答の回数に制限がないなら……いけるか」


 ◇ ◇ ◇


黒髪女「人ノ性ハ悪ナリ。其ノ善ナル者ハ偽ナリ。……」


『じゃんる「こてん」』

『「ぴぃす」を当てはめ、「性悪」(荀子)を完成させることができれば「げぇむくりあ」』


黒髪女「クスッ……」

 ◇ ◇ ◇


あずさ「……」


『じゃんる「ちがく」』

『「ぴぃす」を当てはめ「八十八正座早見表」を完成させることができれば「げぇむくりあ」。』


……一度、占いの為に覚えようとしたことがあった。

でも、とてもじゃないけど自分には無理だと思って断念した。

あの時、もうちょっと努力していればこのくらい簡単に「くりあ」できたのかもしれない。

だけど、今更そんな事を嘆いてもしょうがない。

もう、今の自分の知識と勘で勝負するしかないのだ。

他に頼れるものは何もない。

必ずみんなで生きるって、約束した。

少しずつでいい、思い出そう。

あの時見た写真を、そのまま画像として引っ張り出そう。

ぼんやりとだけど、なんとか思い出せるところもある。

思い出せたものからどんどん埋めて、その繰り返しで「くりあ」を目指すしかない。

何が何でも「くりあ」しなきゃ。

でないと、みんなを悲しませてしまう。

ああ、一人でいるのがこんなにも辛い――――

――――――――
――――

息が、苦しい。

呼吸が速くなってるのがわかる。

もう少し。もう少し。

これをはめれば……


ブブー

『答えが違います。』


えっ?

確かに全部はめたはず。どこを間違えたのだろう?

ここ?


ブブー

『答えが違います。』


まずい。まずいまずいまずい。

頭が回らない。

どこが違う?このままじゃ死ぬ。

空気が吹き込む音がうるさい。

嫌だ。死にたくない。まだ死ねない。

探さなきゃ。どこを間違えた?

これ?


ブブー


これか?


ブブー


まずい。どんどん崩れていってる。

ダメだ。もうどうにもならない。

このままじゃ、あずささんに合わせる顔が――――

……そうだ。すぐ隣の部屋で、あずささんも戦ってるんだ。

きっと私が出てくると信じて戦ってるはず。

それとも、もう「くりあ」して外で待ってるだろうか。

何でもいい。

とにかく、あずささんのために何としても「くりあ」しないと。

まずは落ち着こう。この「げぇむ」ではパニックが命取りになる。

…………

……よし。最初から全部見直そう。

まだ「げぇむおおばあ」までは時間がある。

やれるはずだ。やらなきゃ、いけないんだ。

 ◇ ◇ ◇


細目男「やあ、もう君達は『くりあ』してたんだね」

黒髪女「クスッ。ええ、あなたは少し苦戦したみたいね」

細目男「まあね。さすがに平仮名とアルファベットに分かれた『ぴぃす』をはめるのはしんどかったよ」

長髪男「それでも『くりあ』してくるあたり、さすがは『No.5』ってとこかな?」


ガチャッ


千早「はぁーっ、はぁーっ、はぁー、はぁ……」

黒髪女「あら、あの娘『だいやの9』を『くりあ』するなんて、大したものね」

細目男「酸素濃度14.3%……すごいね。もう力が入らなくなってくる頃なのに」

長髪男「ふうん……思ったよりレベル高ぇじゃん♪」

細目男「しかし、彼が出てこないね」

黒髪女「まあ、エントリー数1人の『だいや』だった時点で彼が生き残る目は低かったもの」

長髪男「弱いものが死ぬ。仕方ないよね♪」

細目男「そうか……」

ドレッド男「誰が死んだってェ……?」ゼーゼー

黒髪女「あら、おめでとう」

長髪男「よく『くりあ』できたね」

ドレッド男「穴埋めだったのが、幸いした……少しの知識と、根性で、どうにか……」

細目男「肩を貸すよ。さあ、トランプを取って早く帰ろう」

長髪男(この時間に出てこないって事は、あのお姉さんはまず助からない。けど、あっちの娘は……)

長髪男「……ヒントくらいは、残していってあげようか♪」

ドレッド"男"って表記されているけどまさか……
あと長神男はすぐにわかった

 ◇ ◇ ◇

どれくらいの時間が経過しただろう。

室内の酸素濃度をメーターは怖くて見られない。

画面上の星空は、未だ3分の1ほどが空白のままだ。

思い出すペースがどんどん遅くなってる。

下手をすれば頭に入ってさえいないのだから仕方ない。

もしかしたら、今までのどこかで間違えているかもしれない。

そうどとしたら、もう「げぇむおおばあ」は決定的だ。

そんな事はないと信じて、何とか残りを思い出そうとする。

えーと……

その時、ふっと目の前が暗くなった。

…………

あれ……?

だめ、だ……

あと、すこし、なのに……

もう……あたま、が……

みんな……ごめ、ん……なさ……

『諦めないでください、あずささん!』


はるか、ちゃん……?


『ほら、もうすぐですよ!私たちがサポートしますから、最後まで頑張ってください!』


りつこ、さん……


『あずささん、待ってますから。早くこないと、置いていっちゃいますよ?』


ちはや、ちゃん……

だ、め……それ、は……

おいつく、って、きめたんだ、から……


『だったら、こんなものさっさと片付けましょう。まず、ここにアンドロメダ座、こっちにレチクル座……』

『ここは御者座で、ここは牛飼い座です!』

『羅針盤座がここ、六分儀座はここですね』


みんなが、わたしをたすけてくれる……

ひとつ、また、ひとつ……「ぴぃす」が、はまっていく……


『さぁ、あと3つですよ!』

『残りは、もう言わなくてもわかりますよね』

『あずささん、決めちゃってください!』

ええ……まちがえたりなんか、するもんですか……

ありがとう、みんな……

おひつじざは……ここ……

うおざは……ここ……

さいご、かにざは――――――


 ◇ ◇ ◇


ガチャッ


千早「!」


モニターには「げぇむ」終了までロックは開かないと書かれていた。

つまり、鍵が開いたという事は「げぇむくりあ」か「げぇむおおばあ」どちらかの結果が出たという事に他ならない。

お願い、どうか、どうか――――!


千早「あずささん!」バタン

入り口から先へは、足が動いてくれなかった。

私の目に飛び込んできたのは、テーブルに突っ伏して倒れているあずささんの姿だった。


そんな……

結局、私はこうなってしまう運命なの……?

また、私だけが……


『こんぐらちゅれいしょん。「げぇむくりあ」。』


……え?

自分の耳が信じられなくて、テレビの方を見る。

確かに、「げぇむくりあ」と書かれている。

あずささんは、生きてる……?

はっとなって、すぐにあずささんに駆け寄り脈をとる。


千早「ぐっ……あずさ、さん……!」ボロボロ


あずささんは、生きていた。間違いなく生きていた。

私はあずささんを背負うと、部屋を出た。

背中に当たるその大きな胸が、心臓の鼓動を伝えてくれる。

部屋を振り返ると、テレビに映る「ぱずる」の完成図が目に付いた。


千早「きれい……」


画面には、あずささんが完成させた満点の星空が映っていた。

ここはどこなのかしら?

気付くと私は律子さん、春香ちゃん、千早ちゃんに、手を引かれて進んでいた。

そっか。また、助けてもらっちゃったのね。


『何言ってるんですかあずささん!あの「げぇむ」を「くりあ」できたのは、間違いなくあずささんの実力ですよ!』


え?でも……


『私たちじゃ、星座の問題なんて絶対解けませんでした。あずささんにしかできないことです』


そ、そうかしら~?


『はい。それからあずささん、「げぇむ」は帰ってくるまでが「げぇむ」ですよ。帰り道で迷ったりなんかしないでくださいね?』


うふふ、それなら心配いりませんよ。だって、私の帰る場所は決まってますから――――


――――――――
――――


あずさ「ん……」


あら~、いつの間にか寝ちゃってたのね。

何だか、いい夢を見てた気がするわ。

ゆっくり目を開けると、ぼんやりと3つの影。

えーと……ああ、そうか。私は。

もう迷ったりなんかしない。

いつだって、あなたたちが私を導いてくれるから。

私が起きたことに気がつくと、3つの影は泣きそうな笑いそうな顔になって、一斉に叫んだ。


三人「お帰りなさい、あずささん!」

ここまで
ドレッド男は一応「すうとり」に参加してるあいつではなく名前も出てないけど生きることに強い執着を見せるシーンが何度か描かれてるやつを想定して書いた

>>144
姉御じゃないのか……残念
結局、あの人は体は女だけど心は男っていうことでいいの?

>>145
一応得意ジャンル被り避けようと思ったとき素ですぺえどっぽくかつこの派閥と一緒に行動してそうな人間がパッと思いつかなかったもので(姉御は男として覚醒するまでくらぶだったし)
姉御の性別については最初体は男、心は女に生まれて家を出てから体も女にした

アリス原作で好きなのは故人ならカルベ、存命ならアン
ちょい投下

~今際の国滞在5日目終了~

千早 残り滞在可能日数…13日
あずさ 残り滞在可能日数…10日
春香、律子 残り滞在可能日数…3日

――――――――
――――


律子「『答え』?」

千早「ええ。私の『びざ』のレシートにメモ書きがしてあったの。『我々は答えを知っている。知りたかったら見つけてごらん』って」

あずさ「『答え』って何のことかしら?」

春香「もしかして、元の世界に戻る方法とか?!」

千早「詳しいことはわからないわ。でも、探してみる価値はあると思うの」

律子「そうね……これまではほとんど何も知らないままただ生き延びてきたけど、これをきっかけに新しい道が開けるかもしれない」

あずさ「でも、探そうにも手がかりが少なすぎるわ~」

千早「いえ、ヒントが全くないわけじゃありません」

あずさ「え?」

千早「まずこのメモ書きですが……これは明らかに『びざ』発行から私が受け取るまでに人の手で書かれたもの……つまり、あの時の私たち以外の参加者の誰かが書いたことになります」

律子「まあ、それはそうよね。でも、そこから先は?その中の誰なのかは特定しようがないし……」

千早「あの4人が帰るところをチラッと見たのだけど、あの様子だと恐らく彼らは仲間。だったら、あの中の誰が書いたかは大した問題じゃないわ」

春香「ほえ~……でも、その人たちをまた見つけるのって相当難しくない?」

千早「そこが問題なのよね……」

律子「あらら、さすがにそれ以上は無理か……まあ、同じ『げぇむ』に参加したって事は近くをうろついてる可能性もなくはないし、一応特徴を教えておいてもらえる?」

千早「そうね……まず一人目は長い黒髪の女性。人形みたいに不気味な表情で……あと、手首にロッカーか何かの鍵をつけてたわ」

春香「ふむふむ」

千早「それから、ツンツン頭の男性。目が細くて、それから……!」

律子「ど、どうしたの?!」

千早「待って!……そうよ、そうだわ!あずささん!確かあの4人は全員……」

あずさ「え?……ああ!?そうだわ!」

春香「あずささんまで?!な、何がわかったんですか!?」

千早「思い出したのよ……あの4人は全員、同じような鍵を手首につけてたの」

律子「え?……そうか、この『我々』っていうのがその4人だけじゃなくもっと大きな組織を差しているとしたら……!」

あずさ「その組織の人はみんな、同じ鍵をつけてる可能性が高い……!」

春香「じゃ、じゃあ!その鍵をつけてる人たちについていけば、『答え』がある場所に行けるってこと?!」

律子「……でかしたわ千早。そうとわかれば、早速今後の行動について……」

――――――――
――――

春香「日が暮れるのを待って『げぇむ』会場付近の参加者を探す。確かに、闇雲に探し回るよりはいいですね」

あずさ「そうね。みんな平等に『びざ』の期限がある以上、必ず参加者が集まってくれるもの」

春香「あっ、今5人入っていきますよ。どうですか、あずささん?」

あずさ「う~ん……あの人たちは違うわ。次をあたりましょう」

春香「そうですか……うーん、中々見つからないなあ……」

あずさ「焦っちゃだめよ、春香ちゃん。捜査は根性だって、前に出た刑事ドラマで言ってたわ」

春香「う~、そうですよね!もしかしたら千早ちゃんたちの方で見つけてるかもしれないし……」

あずさ「ええ。さあ、次の会場を探しましょう」

 ◇ ◇ ◇


律子「ここはまだ動きがないわね……」

千早「ええ……それにしても、春香の方は大丈夫かしら?あの二人をペアにして良かったの?」

律子「仕方ないのよ……私と春香はその鍵を直に見てないし、かと言ってダメージの残ってる私とあずささんで組むといざって時に困るし……」

千早「そうなのよね……まあ、二人とも厳しい『げぇむ』を乗り越えてきたんだし、心配しなくて大丈夫よね?」

律子「……ええ、きっと大丈夫よ」

千早「できれば即答して欲しかったわ」

律子「作戦にリスクはつきものよ。それよりほら、人が入っていくわ」

千早「そうね……あっ!あれよ律子!あの4人組、全員そうだわ!」

律子「オーケー。それじゃあ、後はあの人たちが無事出てくることを祈りましょうか」

千早「ええ。しかし、あの様子だとその組織では4人一組がルールなのかしら?」

律子「まあ、私たちだって最初はそうだったし。『げぇむ』の成功率を考えるとそれがいいのかもしれないわね」

千早「そうね……思えば、私たちが4人揃って参加したのって最初の『げぇむ』だけなのね」

律子「二日目に私がヘマしちゃったせいでね……本当、迷惑かけたわ」

千早「もうそれはいいのよ。それより、明後日こそ4人で挑戦するわよ」

律子「あなたたちは大分『びざ』に余裕があるんだから、無理に参加する必要はないのよ?」

千早「私もあずささんも、二人の力になりたいのよ。律子だって、何もできずにただ帰りを待つ辛さはわかるでしょう?」

律子「……そうだったわね。ちゃんと4人揃って、『げぇむくりあ』を目指しましょう」

――――
――

千早「!……出てきたわ」

律子「二人だけ……ちょっと心が痛むけど、後をつけましょう」

千早「それにしても、捜査一日目にしてヒットだなんてツイてるわね」

律子「そうね。あまりに上手くいきすぎな気もするけど……」


ブォンブォン


千早「何の音かしら?」

律子「角を曲がってすぐ……行ってみましょう」ダッ


ブロロロロロ...


千早「今のは……車?!」

律子「街の荒廃具合からすると知識のある人が修理、整備すれば走れなくはないでしょうけど……」

千早「……会場から距離を置いたところに車を停めたり、ライトを消して走行したり……随分警戒心が強いのね」

律子「一筋縄ではいかないって訳ね。しょうがない、春香たちと合流したらキャンプの位置をこの先に移して、徐々に捜索範囲を狭めていくしかないわね」

――――
――

春香「へぇ~、車が……」

千早「ええ。そのお陰でどこへ向かってるのかは見失ってしまったけど」

あずさ「でも、何だか希望が見えてきたわね~」

律子「はい。早いとこその場所を見つけて、『答え』とやらを聞き出しましょう!」

三人「はい!」



~今際の国滞在6日目終了~

千早 残り滞在可能日数…12日
あずさ 残り滞在可能日数…9日
春香、律子 残り滞在可能日数…2日

一旦これだけ

「かくれんぼ」で真にキツいのは担当を押し付けられたでぃいらぁの方だと思います
再開します

~今際の国滞在7日目~


千早「おはよう、春香。今日は随分早起きなのね」

春香「あ、おはよう千早ちゃん。もうすぐ元の世界に戻れるかもしれないと思ったら興奮しちゃって」

千早「もう……『答え』ってうのが私たちの求めるものだとは限らないのよ?『元の世界に戻る方法はない』って言われても『答え』には違いないのだし」

春香「そうかもしれないけどさ~……千早ちゃんだって、本当は期待してるんでしょ?」

千早「それは、まあ……って、そうじゃなくて。私が言いたいのは、あまり不確かな希望に頼り過ぎると、何かあったとき立ち直れなくなるって事」

春香「大丈夫だって。この春香さん、ここに来てから鋼のメンタルを手に入れましたからね!」

千早「もし、私たちの中の誰かが死んでも?」

春香「え?」

千早「忘れたの?あなたと律子の『びざ』は明日までなのよ?難易度にもよるけど、最低一回は『げぇむ』に挑まなきゃならない」

春香「心配しすぎだよ千早ちゃん。私たち4人が揃えば『くりあ』できない『げぇむ』なんかないって」

千早「……そうだと、いいのだけれど」

 ◇ ◇ ◇


あずさ「律子さん、そんなに体を動かして大丈夫なんですか?」

律子「昨日少し走っても何ともありませんでしたし。明日までに体の感覚を戻しておかないと」

あずさ「……明日は『げぇむ』ですものね」

律子「はい。しつこいですけど、『4人で生き残る』ためには私が足を引っ張る訳にはいきませんからね」

あずさ「大丈夫ですよ、みんなでフォローしますから」

律子「ありがとうございます……ただ、万が一誰かを犠牲にしなければならなくなった時は」

あずさ「めっ、ですよ律子さん」

律子「え?」

あずさ「誰が死ぬ、なんて話は無しです。私たち全員、誰かを見捨てられる人でもなければ、誰かを差し出せる人でもないんですから」

律子「……そうでしたね。すいません、弱気になってしまって」

あずさ「いいんですよ。不安なのは私も同じです。でも、今はそれ以上に前を向くべき時だと思うんです」

律子「はい。明日必ず4人で『げぇむ』を生き延びて、『答え』を手に入れましょう」

――――――――
――――


今日は、とても平和な一日でした。

明日の「げぇむ」に備えようという事で、トレーニング代わりに元の世界にいた頃のダンスを踊ってみたり。

浮かない顔の千早ちゃんを元気付けるために、4人で一緒に歌ってみたり。

私とあずささんで鍵の人物を見つけ、捜査がまた一歩前進したり。

夜は焚き火を囲んで、事務所での思い出を語りあったり。

もうすぐこんな日々が戻ってくるんだって、浮かれずにはいられませんでした。

後は明日だ。

明日の「げぇむ」さえ乗り切れば、私たちはきっと「答え」に辿り着ける。

大丈夫だよ千早ちゃん。油断なんかしない。

みんなで帰ろう。元の世界に。



~今際の国滞在7日目終了~

千早 残り滞在可能日数…11日
あずさ 残り滞在可能日数…8日
春香、律子 残り滞在可能日数…1日


――――ねえ、春香。

―――どうしたの、千早ちゃん。

――――「笑顔でさよなら」って、どういう気持ちなのかしら。

―――へ?

――――昨日ふと耳にした曲の一節なのだけど。もう二度と会えないかもしれないのに、どうして笑えるのかしら。

―――ああ、それはね。相手に見せる最後の顔を、泣き顔にしたくないからだよ。

――――相手に?

―――そう。もし相手が自分の事を思い出してくれたとき、それが泣き顔だったら悲しい事ばっかり思い出させちゃうでしょ?

――――……なるほど。だから笑うのね。

―――うん。本当はすごく悲しい。でも、相手には楽しかった事を思い出して欲しいから。だから涙をこらえて笑うんだよ。

――――わかったわ。ありがとう、春香。私も笑顔でさよならを言える人間になりたいわね。

―――えへへ。どういたしまして。


――――――――
――――


春香「ん……」

千早「おはよう、春香」

春香「うん、おはよう……」

千早「今日は『げぇむ』に参加する日よ。気を引き締めて……って、春香?もしかして、泣いてるの?」

春香「えっ?」

千早「怖がらなくて大丈夫よ。あなたを死なせはしないから」

春香「う、うん……ねえ。千早ちゃんは、死なないよね?」

千早「……ええ。もちろんよ」


随分懐かしい夢を見た。

いつだったか、千早ちゃんと事務所で話した時の記憶だ。

歌に真剣な千早ちゃんは、親友になった頃からよく歌詞の意味を尋ねてきたっけ。

しかし、何故だろう。

妙に嫌な感じがする。

けど、私の「びざ」は今日までだから、「げぇむ」に参加しないわけにはいかない。

それに、もう少しで「答え」に辿り着けるんだ。

嫌な感じなんて、気のせいに決まってる。

信じよう。千早ちゃんが大丈夫だって言ってるんだから。

――――――――
――――

千早「律子、一応確認しておくけど体は大丈夫なのね?」

律子「ええ。同じところをもう一度ぶつけたりしなければ問題ないわ」

あずさ「今日の会場は遊園地の巨大迷路……迷子にならないように気をつけなきゃね」


『エントリー数 無制限』

『制限時間 1時間』

『賞品 なし』

『首輪を装着して会場へお入りください。装着しない場合、参加資格ははく奪されます』


律子「首輪……何だか嫌な感じね」

千早「それからこれは……イヤホン?」

あずさ「他の参加者はいないみたいね……」

律子「迷路……『すぺえど』だと少しきついかしらね」

千早「その時は私たちでどうにかするわ……春香?」

春香「ふぇっ?!」

千早「大丈夫?顔色が悪いようだけど」

あずさ「困ったことがあれば遠慮なく言ってくれていいのよ?」

春香「だ、大丈夫です!何でもありませんから!」

律子「そう?ならいいんだけど……」


ピンポンパンポーン


『本日は当遊園地にお越しいただきまして真にありがとうございます。これより「げぇむ」の時間です。』


千早「来たわね……」

律子「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

『「げぇむ」難易度、はあとの6。「げぇむ」、「なびげぇと」。』


あずさ「6……嫌な数字ですね」

律子「でも、『くりあ』できれば『びざ』にだいぶ余裕ができます……千早?」

千早「『はあと』……いや、まだ……!」


『「るうる」を説明いたします。皆さんにはこの巨大迷路を進んでいただき、見事「ごおる」することができれば「げぇむくりあ」。』

『ただし、迷路の途中には「ちぇっくぽいんと」があり、そこを通ろうとするとセンサーが反応し首輪が爆発し、「げぇむおおばあ」となります。』

『また、「ちぇっくぽいんと」ごとに「あたり」ひとつ、「はずれ」ふたつの「すいっち」が用意されています。』

『「ちぇっくぽいんと」ごとに「なびげぇたぁ」が選ばれ、その方にはイヤホンを通じてどの「すいっち」が当たりかが知らされます。ただし、その方は「すいっち」を押すことはできません。』

『「はずれ」の「すいっち」を押した場合、センサーは解除され、皆さんは安全に「ちぇっくぽいんと」を通ることができます。』

『「あたり」の「すいっち」を押した場合、「なびげぇたぁ」以外の方の首輪が爆発し、「なびげぇたぁ」の方の首輪は外れます。』

『また、最後の「ちぇっくぽいんと」で「なびげぇたぁ」だった方は「ごおる」を通過する際にも首輪が爆発し、「げぇむおおばあ」となります。』

『つまり、「ごおる」まで辿り着ければ、その時「なびげぇたぁ」以外だった方が「げぇむくりあ」』

『「あたり」の「すいっち」が押されれば、その時「なびげぇたぁ」だった方が「げぇむくりあ」となるわけです。』

『「るうる」説明は以上です。それでは、「げぇむすたあと」。』


ブツッ

春香「え……」

千早「くっ……!」

あずさ「そんな……」

律子「……」

春香「あ、あの……私、『るうる』の意味がよく分からなかったんですけど……」

律子「……『なびげぇたぁ』に選ばれた人間は、二つの選択を迫られる。自分が死ぬかもしれない恐怖に負けずみんなを『げぇむくりあ』へと導くか」

千早「……最後に自分が『なびげぇたぁ』を引くことや、他の『なびげぇたぁ』に裏切られることを恐れて自分以外を『げぇむおおばあ』に導くか」

あずさ「それって、つまり……」

律子「……少なくとも、最後に『なびげぇたぁ』を引いた1人が。最悪、『なびげぇたぁ』以外の3人が死ぬことになります」


そんな事って、あるの?

希望はすぐ目の前なのに。

どうにもならない事実が私の前に突きつけられる。

この『げぇむ』は、参加者の誰かが必ず死ぬ。

4人で希望を掴むことは、できない。

明るかったはずの未来が、真っ黒に染まっていく。


千早「……とにかく、進みましょう。タイムオーバーだけは絶対にできないわ」


千早ちゃんの声を合図に、みんなゆっくりと歩き出した。

その顔に一切の光は無く、最初の「ちぇっくぽいんと」まで交わされる言葉はひとつとしてなかった。

今回はここまで

投下ー

――――
――

歩き始めて1分ほど経つと、最初の「ちぇっくぽいんと」が見えてきた。

駅の改札のようなゲートが両側に並び、2メートルほど手前側まで黄色と黒の斜線が引かれている。

ゲートの前には、腰の高さくらいの位置に赤、白、黒の3つの「すいっち」。


千早「……行くわよ」

律子「……ええ」


『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は秋月リツコさんです。』


律子「私か……」


急に体が強張るのを感じた。

大丈夫。屋上で私のために命を張ってくれた律子さんが、三人を見捨てるはずがない。

わかってる。わかってるのに。

心の奥で、もしかしたらと思ってしまっている自分がいる。

嫌だ。疑いたくなんてない。

きっと誰かが死ぬって聞いたショックで頭が混乱してるんだ。

でも。もしかしたら他のみんなだって……


千早「……律子、『あたり』の『すいっち』はどれ?」

律子「……黒よ。赤か白の『すいっち』を押せば4人で先に進めるわ」

千早「わかった。私は律子を信じて白の『すいっち』を押そうと思う。春香、あずささん、それでいいかしら?」


静かに、だけどはっきりした声でそう言うと、千早ちゃんはこちらを振り返った。

迷いも恐れもない、まっすぐな瞳だった。

律子さんを信じている、「げぇむくりあ」を確信している、そんな目だった。


あずさ「もちろんよ。春香ちゃん、どう?」

春香「……はい。私も、律子さんを信じます」

千早「……それじゃあ、押すわ」ポチッ

『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』


アナウンスと同時に、左右のゲートの光が消えた。

無事、最初の「ちぇっくぽいんと」通過だ。


律子「ありがとうね、信じてくれて」

あずさ「当たり前じゃないですか、律子さん」

千早「ええ。少しでも信頼にヒビが入れば3人が死ぬはめになる。私は何があっても、『なびげぇたぁ』のいう事を信じるわ」


少しでも死を意識してしまった自分が情けない。

千早ちゃんは、この場限りの事を聞いたんじゃない。

この先、「ごおる」に辿り着くまで互いに互いを信じあえるか、その覚悟を聞きたかったんだ。

あずささんはすぐにそれに応じた。

律子さんも行動でそれに応えた。

私は、すぐに返事をすることができなかった。

他の誰でもない自分自身に不安を抱いたまま、私たちは先へと進んでいった。

それから、2つ目の「ちぇっくぽいんと」ではあずささん、3つ目では千早ちゃんが「なびげぇたぁ」になった。

二人とも迷うことなく「あたり」の「すいっち」を教え、躊躇うことなく律子さんが「はずれ」の「すいっち」を押した。

ここまでは順調だった。このままいけば、3人は生き残ることができる。

異変は4つ目の「ちぇっくぽいんと」で訪れた。


『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は天海ハルカさん、如月チハヤさんです。』


春香「えっ?!」

千早「どういう事?!」


直後、イヤホンから「あたり」の「すいっち」が告げられる。


律子「……確かに、『なびげぇたぁ』が一人とは言ってなかったわね。一応、二人とも『あたり』がどれか教えてくれる?」

春香「わ、私の方は白が『あたり』だって言ってましたけど……」

千早「私もよ。『なびげぇたぁ』同士では違いはないみたいね」

律子「じゃあ、赤を押すわ。あずささん、いいですね?」

あずさ「はい、お願いします」


ポチッ


『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』


千早「どうやら、『げぇむ』の進行自体には影響はないみたいね」

律子「ただ……これで必ず3人生存とはいかなくなった」

あずさ「そう、ですね……」

春香「そんな……」

千早「状況はまた悪くなった……けど、やることは変わらないわ。確実にひとつずつ『ちぇっくぽいんと』を通過して『ごおる』に向かうだけよ」

律子「ええ。進みましょう。今できることはそれしかないわ」

またひとつ、希望が消えた。

こんな事、続けて意味あるのかな?

お互いに信頼しあっていても、最後の「なびげぇたぁ」だけはどうにもならない。

「なびげぇたぁ」になる度に自分が死ぬかもしれない恐怖に怯え、その上全員生還はありえない。

千早ちゃんは、律子さんは、どうして前に進めるんだろう。

もう、いっその事ここで――――


あずさ「春香ちゃん?」

春香「ふぇっ?」

あずさ「ほら、行きましょう?ぼーっとしてると、迷子になっちゃうわよ?」

春香「あ、えっと、あずささんには、言われたくない、です」

あずさ「まあ、春香ちゃん酷いわ……なんてね。さあ、手を貸して?」キュッ

春香「あ……」

あずさ「うふふ。お姉さんにしっかりついてきてちょうだいね?……千早ちゃ~ん、律子さ~ん!」


どうしてですか、あずささん。

どうしてこんな時に、笑ってられるんですか。

頭に浮かんだ無礼な質問は、握られた手の温もりに溶かされてしまった。

――――
――

『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は秋月リツコさんです。』


律子「『あたり』は赤の『すいっち』よ」

千早「それじゃあ、黒を押すわね」


『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』

――
――――
――

『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は天海ハルカさん、三浦アズサさんです。』


あずさ「黒の『すいっち』が『あたり』です。赤か白を押してくださいね」

律子「では、赤で」


『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』

――
――――
――

『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は三浦アズサさんです。』


あずさ「あら~、また私なのね……今度も黒が『あたり』です」

律子「なら、もう一度赤を」


『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』

――
――――
――

『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は秋月リツコさん、天海ハルカさん、三浦アズサさんです。』

あずさ「『なびげぇたぁ』が3人なんて事もあるんですね」

春香「……もしかしたら、『なびげぇたぁ』4人なんて事も」

律子「さすがにそれはないと思うわ。誰も『すいっち』を押せなくなってしまうもの」

千早「……いえ、『はあと』ならやりかねないわ。途中で犠牲を求めてくる事も十分にあり得る。特に、期待を裏切ってこんな風にしぶとく生き残るような相手にはね」

春香「……もう、やだ」

千早「希望を捨てないで、春香。それより、『あたり』の『すいっち』を教えてちょうだい」

あずさ「ああ、それなら……」

律子「待って。ここは私に任せてください」

あずさ「え?」

千早「どうしたの、律子?まあ、誰でもいいけれど」

律子「……赤の『すいっち』が『はずれ』よ。それを押して」

あずさ「……あの、律子さん?どうしてそんな言い方を……」

千早「そうよ。私は『あたり』を聞いたのよ」

律子「『はずれ』がひとつわかっていれば、先に進むには問題ないはずよ。それとも、私が信じられない?」

千早「……わかったわ」ポチッ


『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』


律子「千早。ひとつだけ言っておくわ。間違っても自分が死ぬ事で『げぇむ』を終わらせようだなんて考えないで」

あずさ「……だから、『あたり』を教えなかったんですね」

律子「はい。2分の1で生き延びてしまうのに、『はずれ』を知りながら他の『すいっち』を押すなんてあからさまな真似はしないと思いましたから」

千早「何でもお見通しなのね、律子は。最悪の事態になる前に、三人の生存を確定させたかったのに」

律子「まったく……まあ、もうこんな機会は来ないでしょうから、馬鹿なこと考えないでね」

千早「……検討するわ」

あずさ「でも、良かった。危うく千早ちゃんを死なせちゃうところだったわ」

千早「ご心配をお掛けしてすみませんでした」

あずさ「いいのよ、何事もなく済んだんだから。さあ、進みましょう?」

さっきの「ちぇっくぽいんと」が8つ目。

それなりにスムーズに進んで、残り時間が10分。

もしかしたら、そろそろ「ごおる」が見えてくる頃かな。

ひょっとすると、私たちは幸運だったのかもしれない。

誰一人疑い合うことなく、ここまでやってこれたんだから。

でも、でもね、やっぱりダメなんだよ。

4人揃って「くりあ」できないなら、生きる意味なんてないんだよ。


『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は天海ハルカさんです。』


だからさ、いいよね?


『「あたり」は黒の「すいっち」です。』


イヤホンから無機質な声が響いてくる。

そういえば、私一人で「なびげぇたぁ」になるのは初めてだっけ。


千早「春香?『あたり』の『すいっち』はどれ?」

春香「……赤だよ、千早ちゃん」

あずさ「それじゃあ、白か黒のどっちかね」

律子「なら、黒にしておきましょうか」


もう終わりにしても、いいよね?

ここまでー

投下

これでいい。

ごめんね、ちょっとだけ先に行ってて。

私もすぐに行くからさ。

これで、ずっと4人一緒にいられるから。

さあ、その「すいっち」を押して。

そうすれば首輪が爆発して一瞬で……


首輪が、爆発?

うん、首輪が爆発して頭が……


ちょっと待って。

目の前で三人がそんな死に方をして、私は正気でいられるの?

そもそも、今私は何をしようとしてるの?

みんなで死ぬのが、本当に正しいの?

もしかして、このままじゃ取り返しのつかない事に――――


律子「それじゃあ、いい?」


待って!

押しちゃダメ!

ごめんなさい!私、どうかしてた!

それを押したら、みんなが……

止めなきゃいけないのに、声が出ない。体が動かない。

ああ、もう駄目。

律子さんの手が「すいっち」に――――

あずさ「あの、律子さん……」

律子「はい?」


あずささんの呼びかけに、律子さんの手が止まった。


あずさ「私たち、もう大分進んできましたし……きっと、『ごおる』も近いですよね?」

律子「それはまあ、恐らくは」

あずさ「……この『ちぇっくぽいんと』が、最後かもしれないんですよね?」

律子「……その可能性は、十分にあります」

あずさ「本当に……これでいいんでしょうか?」

律子「……どうしたんですか、今更」

あずさ「最後はどうなるか……考えないようにしてここまで進んで来ました。でも、もう……」

律子「あずささん……」

あずさ「この『げぇむ』の先に、何があるんですか?4人一緒に生きられないのなら、いっそのこと……」

律子「あずささん!気をしっかり持ってください!」

あずさ「け、けど」

千早「ずっと一緒です!」

あずさ「ち、千早ちゃん?」

千早「誰が死ぬ事になっても、私たちはずっと一緒です!……だから、馬鹿なこと言わないでください」

あずさ「千早ちゃん……」

千早「……必ず誰かが死ぬこの『げぇむ』に、それでも勝ちがあるとするなら。それは騙しあいでも心中でもなく、思いを託された人が前を向いて進む事だと思うんです」

あずさ「……そう、よね。ごめんなさい、私ったら……」

律子「大丈夫ですよ。さあ、進みましょう。春香、赤が『あたり』でいいのよね?」

春香「ごめんなさいっ!」

律子「えっ?」

あずさ「は、春香ちゃん?」

春香「私、嘘つきました!みんなで死のうとして、違う『すいっち』を『あたり』だって言いました!本当の『あたり』は黒です!本当にごめんなさい!」

千早「春香……」


あんなタイミングで、あずささんが苦悩を吐き出してくれた。

私も悩んでいたところに、千早ちゃんが答えをくれた。

一度聞いたのに、律子さんがわざわざもう一度聞きなおしてくれた。

きっとこれは、神様がくれたチャンスなんだ。

軽蔑されて構わない。

許してもらえなくて構わない。

どんな状況であろうと、どんな理由があろうと、私は仲間を騙そうとした。

仲間を……殺そうとした。

ここが最後の「ちぇっくぽいんと」ならいいな。

これ以上、どんな顔してみんなと歩けばいいかわからないから。


千早「……こちらこそ、ごめんなさい。春香がそんなに苦しんでたのに、気付けなくて」

あずさ「私も……いつの間にか、自分の事で頭がいっぱいになっちゃってたわ」

律子「私も、ごめんなさい。進む事ばかり考えて、あなたたちの気持ちまで気が回らなかったわ」

千早「……でも、手遅れになる前に言ってくれてありがとう。それじゃあ、白を押すわね」ポチッ


『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』


……おかしいよ、みんな。

そこは、なんて事をしたんだって怒るところでしょ?

もう少しで死ぬところだったって、怖がるところでしょ?

どうして。どうしてそんなに。


あずさ「さあ、行きましょう春香ちゃん」

律子「次やったら、さすがに怒るわよ?」

春香「うぅ……なんで……なんで、みんなそんなに……」

千早「当たり前でしょう?だって、私たち――――」


そうか。そうだったね。

ありがとう、みんな。

――――
――


あずさ「ほら、春香ちゃん?そろそろ泣き止んで?」

春香「だっで、だっでぇ~……」グスグス

千早「まったく、春香ったら……」

律子「まあ、しょうがないんじゃない?それより問題は……っ!」

千早「どうしたの、律子……!」

あずさ「何かあったんですか?」

春香「もしかして、『ごおる』が……」


二人が見つめる曲がり角の先。

そこで私は目にした。

私たちが探してきた、この迷路の「ごおる」。

……そして、その前に立ち塞がる最後の「ちぇっくぽいんと」を。


律子「最後まで自分で選べ……そういう事かしら」

千早「行きましょう。この悪趣味な『げぇむ』を終わらせに」


『「ちぇっくぽいんと」に到達しました。「なびげぇたぁ」は如月チハヤさん、秋月リツコさんです。』

律子「はぁ……最後まで意地悪な『げぇむ』ね。千早、あんたはどうしたい?」

千早「律子……私は……」

律子「私の事なら気にしなくていいわ。あんたが思うように決めなさい。ただ、選べないって言うなら私が決めるわ」

千早「……ごめんなさい、律子。私は、春香とあずささんに生き残って欲しい」

春香「ち、千早ちゃん?!」

律子「そう……良かった、同じ考えで」

あずさ「り、律子さんまで……」

千早「教えるのは私に任せてもらってもいいかしら」

律子「ええ。責任重大よ?」

千早「わかってる……春香、あずささん。『あたり』は赤の『すいっち』です」


千早ちゃんは、まっすぐに私たちを見つめるとそう言った。

それが、二人の意思なんだね。

でも、ごめんね二人とも。


春香「あずささん……あずささんは、どう思いますか?」

あずさ「どちらかを選ばなきゃいけないのなら……春香ちゃんさえ良ければ、私は律子さんと千早ちゃんに生き残って欲しい」

春香「……あずささんならそう言うと思ってました。私も同じ気持ちです」


そう。

私たちだって、二人を死なせたくない。

この「ちぇっくぽいんと」は、さっきまでとは訳が違う。

「なびげぇたぁ」も、そうじゃない方も、どちらもこの1回の選択で相手側を生き残らせる事ができる。

ここまで辿り着いた時点で、私たち4人は「げぇむ」に勝ったんだ。

後は私たちと千早ちゃんたちの勝負。

相手の生き残りを賭けた、優しさと思いやりに満ちた騙し合い。

どっちが最後のわがままを通せるか。

負けないよ、千早ちゃん。

進み遅いけどここまで

「げぇむ」考えるのは意外といけるけど、文章にしてイメージが伝わってるかが心配
再開します

単純な確率で考えれば、「あたり」を引く確率は3分の1。

こっちにとって明らかに分が悪い。

だからこそ、千早ちゃんたちの考えを読みきらなければ二人を生き残らせることはできない。

考えろ。

千早ちゃんは「赤が『あたり』」だと言った。

そのまま信じるなら赤を押せばいい。

だけど、この局面で果たしてそこまでストレートに答えを教えるだろうか?

二人の狙いは私たちを生き残らせる事。

そして、私たちが千早ちゃんたちを生き残らせようとするのも多分向こうはわかってるはず。

だったら、ここで正直に「あたり」を教えるなんてリスクの高い事はしてこない。

ひとつを「あたり」だと嘘をつけば、私たちが素直に従ったり深読みしたりすれば確実に、そうでなくとも2分の1で「はずれ」を押させる事ができる。

そして、こちらがそこまで思い至ったとしても私たちにはその2分の1の先を知る術はない。

なぜ選ぶ側が死ぬ「すいっち」が「あたり」なのか、今になってようやくわかった。

ここで外すわけにはいかない。

運に任せて決めていい2択じゃない。

でも、判断の材料が足りない。

何か、他に手がかりになるものは――――

あずさ「春香ちゃん?」

春香「へ?あっ、はい!」

あずさ「考えてるところ邪魔しちゃってごめんなさいね。でも、ほら」


そういってあずささんは時計を示した。

残り時間は、もう5分を切っている。


あずさ「悔しいけど、駆け引きじゃあ私たちはあの二人に勝てないわ。このまま考えてても、きっと時間ギリギリで慌てて決める事になっちゃう」

春香「それはそうかもしれませんけど、でも……」

あずさ「ええ。最後にどうなるかはわからない。でも、時間だけは待ってくれないわ。だから、今のうちに……時間があるうちに、ちゃんとお別れをしておかない?」

春香「お別れ……」


そうか。

私は「すいっち」を押したらそれで終わりのつもりだった。

だけど、そうなれば必ずどちらかが死んで。どちらかが生き残って。

私はただ自分の考えを通したかったけど、あずささんはそうじゃない。

どっちが生き残っても、残された方に後悔をさせたくないんだ……

言いたい事を言えるのも、あと少し。

そんなのいっぱいありすぎて、全部言えるかわからないけど……


春香「……そうですね。私も賛成です」

あずさ「私からでいいかしら?その間に、春香ちゃんは言いたいことを考えておいて」

春香「はい!」

あずさ「……律子さん、千早ちゃん。これまでありがとうございました」

律子「……はい」

あずさ「まずは律子さん。律子さんにはもうずっとお世話になりっぱなしで……数えたらきりがないくらいです」

律子「いえ……私こそ、あずささんにいつも励まされてばかりでした。私一人だったら……」

あずさ「律子さん。私が律子さんに言いたい事のひとつはそれです。律子さんは、もっと自分を評価してあげてください」

律子「自分を……ですか?」

あずさ「はい。律子さんは自分の事になると弱気になっちゃう癖があるんです。もっと自信をもって、正しく自分を見てあげてください」

律子「自信を……」

あずさ「仕事ができて、働き者で、気が利いて、きれいで、仲間想いで……こんな立派なプロデューサー、他にいません。だから、もっと自分を褒めてあげてください」

律子「そんな……いえ。わかりました。あずささんにそんな風に見てもらえていたなんて、光栄です」

あずさ「うふふ……もうひとつはですね。もっとわがままになってください」

律子「それは、どういう……」

あずさ「律子さんは時々頑張り過ぎちゃうところがありますから……疲れたときは、もっと誰かを頼ってください。もっと自分の事を考えてあげてください」

律子「……わかり、ました。もし、もし私が生き残ったなら……必ず、そうします」

あずさ「ありがとう、律子さん……それから、千早ちゃん」

千早「……はい」

あずさ「千早ちゃんも、頑張り過ぎて周りが見えなくなっちゃう事があるでしょ?あんまり自分を追い込み過ぎないようにね」

千早「……はい」

あずさ「大変なときは、周りの声を聞いて。必ず、あなたの事を助けようとしてくれる人がいるから」

千早「っ……はい……!」

あずさ「ふふっ、いい子ね……最後に。私は二人の歌が好きよ。もし二人が生きて元の世界に戻れたら……一度でいいから、私たちだけのために歌ってくれるかしら?」

律子「一度だなんて……そんな、ケチな事言いませんよ……!歌いますよ……何度だって……!」

千早「あずささん……約束します……!絶対、絶対歌いますから……!」

あずさ「ありがとう……二人とも」

律子「私からも……いいですか……?」

あずさ「……はい」

律子「あずささんは、可愛いくせに無防備なんですから……悪い男には、気をつけてくださいね……?」

あずさ「……はい」

律子「もう……私は迎えに行けませんから、迷子にならないでくださいね」

あずさ「……はい。気をつけます」

律子「それから……トップアイドルになるまで傍にいられなくてすみません……戻ったら、伊織と亜美にも、伝えておいてください……!」

あずさ「はい……!」

律子「あと……春香……!」

春香「……はい!」

律子「あんたはその前向きさが取り柄なんだから……振り返っちゃ駄目よ」

春香「はい……!」

律子「お供え物には……何でもいいわ。あんたの手作りお菓子をちょうだい」

春香「……はい!」

律子「あと……あずささんをよろしくね」

春香「……はい!任せてください……!」

千早「私からも……あずささん。あずささんは、あずささんの生き方を貫いてください」

あずさ「ええ……」

千早「失礼かもしれませんけど……あずささんといると、母親に守られているみたいで、安心できました」

あずさ「そう……嬉しいわ」

千早「それから……春香を、お願いします」

あずさ「もちろんよ……わかってるわ」

千早「……ありがとうございます。あと、春香……」

春香「ごめん、千早ちゃん。先に私の分終わらせてもいいかな?みんな聞き終わっちゃったら、言葉が出なそうだから……」

千早「……ええ。いいわよ」

春香「それじゃあ……律子さん。失敗ばっかりの私でも、見捨てずに面倒見てくれて、ありがとうございました」

律子「……いいのよ」

春香「いつかプロデュースしてもらえるの……楽しみにしてました」

律子「……ごめんなさいね。叶えてあげられなくて」

春香「それから……いつかアイドルに復帰してくれたら、嬉しいです」

律子「……考えておくわ」

春香「それで……千早ちゃん」

千早「……春香」

春香「私、千早ちゃんはすごいなってずっと思ってた。千早ちゃんがいたから頑張れた」

千早「……」

春香「千早ちゃんに負けたくないと思った。いつか一緒にステージに立ちたいと思ってた」

千早「……」

春香「千早ちゃんが親友で良かった。ありがとう、千早ちゃん」

千早「……私もね?同じ事を春香に対して思ってたわ」

春香「え?」

千早「この世界に来る直前……あの事務所で春香が『好きなように、自分のために歌いたい』って言ったのに対して、私が何を言おうとしてたかわかる?」

春香「えーと……ごめん、わかんない」

千早「『あなたがアイドルを目指した、その理由を忘れないで』。そう言いたかったの」

春香「あ……」

千早「変わっていくのは悪い事じゃないわ。でも、最後まで変わらずに取っておいてほしいものもあるの」

春香「うん……そうだね」

千早「『げぇむ』なんかに負けないで。あなたはあなたのままでいて。これが、春香に最後に伝えたい事よ」

春香「……わかった。ありがとう、千早ちゃん」

律子「……1分を切ったわ。春香、あずささん」

あずさ「ええ……春香ちゃん、どうする?」

春香「決めました。でも、一人で押すのは怖いので……あずささん、手を重ねてもらえますか?」

あずさ「もちろんよ……一緒に押しましょう?」

春香「はい!」

ありがとう、あずささん。

もう、迷う事はない。

あずささんの言う通り、駆け引きじゃ二人には勝てない。

だったら私は私らしく、まっすぐ突き進むしかない。

私は、千早ちゃんを信じる。

律子さんを信じる。

赤だ。

小細工なんて一切なし。

もしそれで「はずれ」だったらその時はその時だ。

二人の分まで、私たちが生きる。

これでお別れだね、千早ちゃん、律子さん。

悲しいけど、すごく悲しいけど、寂しくはないよ。

だって、だってさ。

私たちはずっと…でしょう?

――――
――

『こんぐらちゅれいしょん。「げぇむくりあ」』

ここまでです

投下

――
――――

『「はずれ」の「すいっち」が押されました。センサーを解除します。』


春香「……そっか。赤じゃ、なかったんだね」

千早「……ええ」

春香「千早ちゃん嘘つくの下手だから……嘘だったら見破れると思ったんだけどなあ」

千早「春香ならきっと信じてくれると思ったから……だから、ごめんなさい」

春香「ううん、いいよ……でも。悔しいなあ……」

律子「……ほら、行きなさい」

春香「はい。行きましょう、あずささん」

あずさ「ええ……じゃあね、二人とも」

律子「はい、お気をつけて」


一歩、また一歩と進んでく。

二人との距離が、徐々に離れてく。

遠く、遠く離れてく。


千早「春香ー!あずささーん!いくらでも待つから!最後まで全力で生きて!そうしたら、こっちでまた会いましょう!」

春香「……うん!」

律子「あんまり早く来たら承知しませんからねー!」

あずさ「……はい!」


千早ちゃん、笑ってた。

律子さんも笑ってた。

これから死ぬなんてこと、微塵も感じさせないくらいに。

きっと、私たちのために。

二人の事を思い出したとき、それが枷じゃなくて力になるように。

私はちょっと振り向けないや。

きっと酷い顔してるから。

ありがとう、二人とも。

本当に、さようなら。

千早「律子……私、ちゃんと笑えてた?」

律子「ええ。今までで一番の笑顔だったわ」

千早「そう……なら、良かったわ」

律子「……もう我慢しなくていいのよ」

千早「……う、うぅぅ……うああぁぁぁ……!」

律子「よしよし。よく頑張ったわね」

千早「春香にっ、あずささんにっ……もう、会え、ない……」

律子「必ずまた会えるわ。あんたが言ったんでしょ?」

千早「うぅ……二人で、大丈夫、かしら……」

律子「当たり前じゃない。大丈夫、心配いらないわ」

千早「そう、よね……」

律子「ええ。少しは落ち着いた?」

千早「うん……ごめんなさい、こっち側に巻き込んでしまって……」

律子「気にしないで。あんたの事守ってあげられなかったから、せめて最期に傍にいるくらいの事はさせてちょうだい」

千早「……それはちょっと格好つけすぎよ」

律子「千早が怖がってるみたいだから、少しでも安心させようと思って」

千早「そういう律子こそ、そんなに震えて大丈夫なの?」

律子「あら、ばれてる」

千早「もう……ねえ、手を握っててもらえるかしら」

律子「……ええ。喜んで」

千早「ありがとう……ああ、落ち着くわ」

律子「私も。千早の手、思ったより温かいわ」

千早「……もう、時間ね」

律子「……そうみたいね」

千早「……お疲れ様、律子」

律子「……ええ。お疲れ様、千早」


ピンポンパンポーン

『「たいむあっぷ」。まだ「ごおる」していない参加者は「げぇむおおばあ」です。』

ピピピピピピ...



ボン


 ◇ ◇ ◇


「げぇむ」会場を出た後は、ひたすら泣いた。

泣いて泣いて、涙が涸れるまで泣いた。

涙が涸れても声を上げ続けて、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。


~今際の国滞在8日目終了~

あずさ 残り滞在可能日数…13日
春香 残り滞在可能日数…6日

目を覚ますと、私はあずささんの膝の上にいた。

辺りを見渡しても、いるのは私とあずささんの二人だけ。

あれはやはり夢などではなかったのだという事を、認めないわけにはいかなかった。

ふとあずささんの顔を覗くと、そこには涙の跡がくっきりと残っていた。

昨晩、子供のように泣きじゃくる私を慰めていたせいで拭う事もできなかったのだろう。

その跡をなぞるようにそっと指を滑らせると、あずささんはゆっくりと目を覚ました。

それから、昨日までの事、今日からの事、色々話した。

話し合った結果、悲しむのは今日まで。

明日からは気持ちを切り替えて、捜査を続けようという事になった。

一日やそこらで消える悲しみではないけれど、それでも前は向けるはずだ。

そうして持て余すことになった今日の午後を、私は手近なビルの屋上で過ごす事にした。

ここからだと遠くまでよく見渡せる。

やや生温かい風が私の頬を撫でる。

空を見上げれば、雲がゆっくりと流れていく。

今、私は生きてる。

二人の代わりに、生きてる。

感傷に浸る私の耳に、ガーガーと妙な音が聞こえてきた。

私の荷物から……?

出てきたのは見覚えのあるトランシーバー。

私たちが初めて参加した「げぇむ」の賞品だ。

あれももう一週間も前の事か、なんて再び思考が他所へ行こうとしたところをトランシーバーから響く怒声に呼び戻された。

『おい!生きてんのか?!おい!いたら返事しろ!』

春香「わっ?!ご、ゴメン!」

『……!その声は、天海か?』

春香「うん。私だよ、冬馬くん」

『良かった、生きてたか……これ、マジで通じるとはな』

春香「すっかり忘れてたから、私もびっくりしたよ……そうだ。二人は見つかった?」

『いや、まだだ。一応聞いとくが、そっちで何か掴んだりしてねえよね?』

春香「うーん……詳しい事はわからないんだけど、『答え』っていうのにもう少しで辿り着けるかもしれない」

『なに!?』

春香「ただ、本当に何もわからないから……もしもっとはっきりした事がわかったら連絡するよ」

『おう。期待しないで待ってるぜ』

春香「あはは……そういえば、冬馬くんは結局なんで連絡してきたの?」

『ん?ああ、そうだった。お前らの仲間を見かけたんでな。一応知らせておいてやろうと思ってよ』

春香「えっ?!私たちの他にも765プロのメンバーが来てるの?!」

『ああ。俺が会ったのは一人だけだったけどな』

春香「だ、誰?」

『……水瀬伊織だ』

春香「伊織が……何か話はした?」

『一応お前らに会った事は伝えといた。けど、その後「お前一人でここに来たのか?」って聞いたら……どうも地雷踏んじまったらしくてな』

春香「……それって、つまり」

『……だろうな。あいつは自分から一人になろうとしてるように見えた』

春香「そっか……」

『ただ、相当無理してるようには見えた。こんな事言うのはガラじゃねーが、見かけたら助けてやってくれ』

春香「うん、もちろん。わざわざありがとうね」

『べ、別にお前のためじゃねーからな!』

春香「あはは、わかってるって。それじゃあね」

『おう……死ぬなよ』


ザザッ


……冬馬くんに会った以上可能性はあったけど、まさか本当に私たち以外にも。

伊織……辛いよね。悲しいよね。

伊織は私より大人びた態度をとる事もあるけど、やっぱり中身はまだ幼い少女だもん。

こんな過酷な「げぇむ」を一人で生き延びている事だけでも奇跡的だ。

限界だってそう遠くないはず。

またひとつ、頑張らなきゃいけない理由ができちゃった。

待っててね、伊織。

ここまで

ちと投下

――――
――


伊織ちゃんがこちらに来ていることを春香ちゃんから聞かされたのは、今日の夕方のこと。

悲しいことに違いないのだけれど、なぜか少しだけ安心もしてしまって。

そんな自分にまた驚いて。

何にせよ、ショックが大きかった。

伊織ちゃんに会ったら、何て言えばいいのかしら。

律子さんを死なせてしまった私を、許してくれるかしら。

どうにも考えがまとまらなくて、気晴らしに占いをしてみることにした。


『明日、友達以上に大切な人と再会できる』


……占いは当たるときもあれば当たらないときもある。

久しぶりにやったし、環境も整ってはいないから、きっと今回は当たらない。

でも、やっぱり信じたくなっちゃうのが占いというもので。

友達以上に大切な人と言えば、家族以外では765プロの仲間くらいしか思い浮かばない。

もし、伊織ちゃんが一人で戦っているのなら。

もし、明日伊織ちゃんに会えるのなら。

……勝負は、明日だ。



~今際の国滞在9日目終了~

あずさ 残り滞在可能日数…12日
春香 残り滞在可能日数…5日

~今際の国滞在10日目~


春香「おはようございます!」

あずさ「おはよう、春香ちゃん」

春香「さて、今日の流れなんですが」

あずさ「はい」

春香「まず、午前中はそろそろ足りなくなってきた食料を探したいと思います」

あずさ「わかりました~」

春香「ただし、別々に行動するのは心配なので二人一緒にですよ!」

あずさ「わかったわ。うふふ、何だか今日の春香ちゃんは頼もしいわね~」

春香「律子さんとの約束ですから!あずささんが迷子にならないよう細心の注意を払わせてもらいます!」

あずさ「あ、あら~……私も気をつけるわね」

春香「はい。それで午後、日が暮れてきたらこの前のように捜査開始です。もちろん二人一緒です」

あずさ「ええ。その途中、もし伊織ちゃんを見つけたら」

春香「すかさずその『げぇむ』会場に突入。『げぇむ』が終わった後は無理矢理にでも一緒に行動させましょう」

あずさ「了解。無事でいてくれるといいけど……」

春香「大丈夫ですよ。伊織は強いですから」

あずさ「……そうね。今の私たちにできるのは、早く見つけてあげることだけだものね」

春香「はい。それじゃあ、早速行動開始といきましょう!」

――――――――
――――

あずさ「うーん……ここも駄目そうね~」

春香「そうですね~……次行きましょうか」

あずさ「この時間だとあと1、2箇所かしら」

春香「まあ、『びざ』の余裕はありますから。焦ることはないですよ」

あずさ「それはそうなんだけど……」


確かに「答え」も気になるけれど。

午前中の探索でも、これまでの捜査でも、伊織ちゃんらしき姿は見つからなかった。

やっぱり占いははずれちゃったのかしら。

まあ、そんなにあっさり見つかったら苦労しないわよね。

今はできることを確実に。

……なんて思っていたのだけれど。

次に向かった会場で、思わぬことが起きた。


あずさ「!春香ちゃん、今の見た?!」

春香「はい!ロッカーキー、当たりです!あの人たちが出てくるのを待って……」

あずさ「そ、そうじゃなくて……一番最初に入って行った子。見覚えなかった?」

春香「へ?いえ、顔はよく見えませんでしたけど……」

あずさ「……私、確認してくるわ」

春香「えぇっ?!ど、どうしたんですか急に!」

あずさ「髪型が少し変だったから確信は持てないけど……多分、たぶんあの子は……」

春香「……わかりました。ただし、私もついていきます」

あずさ「ええ。お願い……」

 ◇ ◇ ◇


あずささんに言われても、半信半疑だった。

ただ、可能性は捨てきれない以上確認しておかなくちゃいけない。

私たちが入った会場はゲームセンター。

規模は大きくもなく小さくもなく。

西側の壁に取り付けられた大きなモニターとその前の立て札が「げぇむ」の案内に使われている。

モニターの前には先ほど確認した4人の参加者たち。

金髪のチャラそうな男性。

眼鏡をかけたロングヘアの女性。

ドレッドヘアが目に付く色黒の女性。

そして――――

間近で見れば、確かにそうだ。

けど、けど……


春香「ねぇ……」

「ん?……えっ、はるるん?!あずさお姉ちゃんも?!」


呼びかけに対し振り返ったその顔は。

私たちを見るなり驚くその声は。

あの最強の双子に間違いない、それなのに。

どうしてツインテールなの?

その腕に巻いてるリボンはどうしたの?

帰ってくる答えが怖くて聞けなかった。

どう声をかけたものかと迷っていると、あずささんが口を開いた。


あずさ「亜美ちゃん……よね?」

「……うん」

春香「……えーと」

色黒女「……そろそろ始まんで」


ドレッドの女性の声でモニターの方を振り返る。

どうやら「げぇむ」の時間になってしまったらしい。

立て札には「エントリー数 無制限」「制限時間 60分」「賞品 なし」。

そしてモニターの方には……


『「げぇむ」難易度 くらぶの6「めだるげぇむ」』

ここまでで

少し投下

春香「亜美……」

亜美「……とりあえずさ、さっさと『げぇむ』終わらせちゃおうよ。その後で……全部、話すから」

あずさ「……わかったわ。私たちも、色々話さなきゃいけない事があるから」

亜美「うん。『くらぶ』だしそこまでキツくはないっしょ」

春香「まずは『るうる』を確認しないと……」


『「るうる」』

『「めだる」100枚を受付のケースに入れれば「げぇむくりあ」』

『「めだる」を全て失うか、制限時間を過ぎると「げぇむおおばあ」』

『「めだる」は受付にて1人10枚支給される』

『「めだる」は立て札のある「げぇむ」でのみ増やす事ができる』

『他の参加者の「めだる」を奪う、盗む等の行為は禁止』


チャラ男「『めだる』……っつーのはこれか」

眼鏡女「ケースはこれ……1人ごとに用意されてるのね」

色黒女「まずは手分けして『めだる』を増やせる『げぇむ』を探さんとな。あんたらも手伝ってくれるか?」

春香「は、はい!」

亜美「そんじゃ、レッツゴー!」

――


色黒女「んじゃ、報告といこか。こっちは奥にあった『だんすげぇむ』が対応。立て札には『×4 上限なし』って書いてあったで」

あずさ「入り口近くの『れぇしんぐげぇむ』も、立て札は『×4 上限なし』でした」

眼鏡女「UFOキャッチャーにも立て札があったけど……『10 1プレイ1枚』って書いてあったわ」

春香「競馬の『げぇむ』には『×2 上限3』っていう立て札がありました」

亜美「『くいずげぇむ』のとこには『×2 上限3』って書いてあったよー」

チャラ男「他には立て札は見当たんなかったな……『めだる』の増やし方はその5つで全部か」

色黒女「なるほどな……それぞれ挑戦する際に『めだる』を賭けて、『くりあ』できれば『めだる』を増やせるっちゅう訳や」

あずさ「でも、『だんすげぇむ』と『れぇしんぐげぇむ』以外はあんまり枚数を稼げそうにないですね……」

チャラ男「よしっ!なら、まずはオレが『だんすげぇむ』に挑戦してやるよ!」

亜美「えぇっ?!兄ちゃん踊れんの?」

チャラ男「任せとけって!様子見も兼ねてチャチャっと『くりあ』してやるよ」

色黒女「ほな、頼むわ。それで全員がいけそうなら、低いリスクで『くりあ』できる」

チャラ男「おう!」

チャラ男「まずは5枚くらいで挑戦してみるか」

眼鏡女「倍率は4倍……一筋縄じゃいかないわよ」

あずさ「音楽を選んで……始まるわ」


♪~


チャラ男「よっ!はっ!」

亜美「おおっ!いいカンジー!」

色黒女「このままイケるで!」

春香「あっ。でもちょっとズレて……」


ピピピ...


チャラ男「ぐああっ!?」ドサッ

眼鏡女「きゃあっ?!」

あずさ「お、遅れた場所にレーザーが……」

亜美「に、兄ちゃん!早く起きないと……」


ピピピ...

 ピピピ...


チャラ男「」ビクンビクン

春香「ひっ……し、死んだ……」

色黒女「なるほどな……ミスをすれば制裁、下手すりゃそれで死ぬ……」

眼鏡女「多分、倍率が低い方が危険度は低いんでしょうね。その代わり、今度は時間との勝負になる」

あずさ「……そうなると、多分『めだる』がジリジリ減っていく方が早いでしょうね」

春香「かと言って、あんなのを何度もやるなんて無茶ですよ!」

色黒女「んー……どうしたもんか」

亜美「……亜美、ひとつ思いついた」

眼鏡女「ほ、本当?!」

亜美「うん。ただ……ちょーっと危ない橋を渡んなきゃいけないけど……」

ここまでで
明日から旅行なので4,5日滞ります

すみません
中々時間が取れないので生存報告だけ

すみません
大分間隔が開いてしまいましたが生存報告です
今日は無理ですが少し余裕ができたので今週中には投下できるかもしれないです
待ってくれている方がいましたら申し訳ありませんがもう少々お待ちください

>>247
>今週中に投下できるかもしれない(今週中に投下できるとは言ってない)

……ほんとすいません。もう少し間があいてしまいそうです

ほとんど放置状態になってしまっていてすみません
8月中も無理そうです
きっと完結させますのでどうかよろしくお願いします

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom