男「俺の個性は…」(13)

人には個性がある、当たり前の事だ。

だけど俺には個性が無かった。

――

配達屋「やぁ男さん。お手紙ですよ」

男「ありがとう、田舎の養父からか」

朝の一コマ。

目の前の小さな少女さえ配達屋という個性を持っている。

養父も今は現役から退いているものの、高名な賢人だ。

俺にはそういった個性が全く無い。

生まれついてそうだったのだ。

何か個性を身に着けようと努力した事がある、しかし無駄だった。

例えば魔法を習ってみたりした。目立とうとした事もある

しかし俺が身につけた個性はすぐに霞のように薄れてしまい、
人々の記憶から消え去って行くのだ。

目の前の少女の様に職についた事もある、しかし彼女は町で有名な配達屋だが、
俺の記憶が人々に残る事は無かった。

養父は度々、養子は誰か? と知人に聞かれている。

俺は存在そのものが空気の様な男だ。

――人に覚えられる様な個性を持てないのだ、俺は。

男(あの配達屋の少女も、前の配達屋と同じく違う区画の担当になったら俺の事を忘れてしまうんだろうな)

養父も今までやり取りした手紙を見て俺の事を思い出す日があるらしい

魔王の呪いでは無いか。

迷信の呪いにかかったのではと、本気で疑われた事もあった。




事が起こったのは一瞬だった。

その翌日人々が目を覚まし、顔を見合わせた時から混乱は始まった。

「あなたは誰?」

「君の様な人と約束をした覚えはないが・・・」

「関係者以外は立ち入り禁止です」

世界から個性が消失した。

「僕の顔を忘れたっていうのか?」

「なんですって!? この日の為に準備をしてきたのに・・・。・・・・・・あれ? そういわれれば、約束をしたのはあなたじゃなかったかも」

「私はここの責任者だぞ! その私を立ち入り禁止にするとはどういう了見だ!」

誰も他人を識別できない。

昨日家族だった者達は他人のあつまりに、

恋人も顔も知らない他人へと。

家のドアがノックされ、男が扉を開ける。

女「あの・・・・・・」

男「ああ、いつもの配達屋さん。今日はまた養父からの手紙かな? 今度は大分感覚が短いね」

女「えっ!? 私の事が分かるんですか・・・・・・?」

男「うん? どういう事? それは勿論分かるけど」

配達屋「よ、良かった・・・」

――

男「町の喧騒の原因はそういうことだったのか」

配達屋「ええ・・・・・・、私もいつも手紙を届けている人からは誰も分かって貰えませんでした」

男「・・・・・・」

配達屋「何が起こっているんでしょうか・・・? 職場でも、皆誰が誰だか分かっていないようでした」

配達屋「私にも、誰もが同じ・・・ 変わらない人に見えるんです」

個性の消滅により国はほとんどの機能を失った。

だが完全に国が機能しなくならなかったのは、男のような人間が複数存在したからだ。

――

大臣「ほ、本当にこの者等が国の兵士達で? 私にはそこらの一般人と見分けがつきませぬ…」

国王「何を言う大臣、この国王を疑おうというのか?」

調査隊隊長「…では国王、我らは陛下から与えられた特権と金貨により、この騒動の原因を調査してまいります」

国王「うむ……、行ってこい」

大臣(うむむ…。確かに我が国の甲冑を着込んだ男達ではあるが……ほんとうに王には彼らの見分けがついているのであろうか?)

目の前にいる国王によって選ばれた調査隊が、兵士になりすました別人ではないか?
という疑念を捨てきれない大臣だった。

国王(……わしには兵士共の見分けは全くついていない。だが、間違いは無いはずだ。この者等がわしの兵士達だ)

王はプライドによって目の前の男達を自分の兵士達だと断定せずにはいられなかったのだ。

盗賊頭(へへ……馬鹿な国王とその取り巻きよ。この機会を利用してがっぽり金を稼いでやる)

個性を無くした人々を見分ける才能を得ていたのは国王でも大臣でもなく、野盗の頭だった。

彼はそれを活かして国王の兵士達と自分の手下を入れ替えていた。

個性が消失した事件について国の頂点による対策はとられていたが、それは全く機能していなかった。

そのためこの騒動はしばらく続く事となる。

盗賊が特権や金を好き放題に使って国中をあらかた荒らし回ったころ、意外な形で事件の真相が明らかとなる。

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