向日葵「狐面の少女」 (62)

一番最初に出会ったのは、確か放課後。


そう、あのときも、私は櫻子を探していた。

掃除が終わったら一緒に生徒会に行くはずだったのに、あの子がなかなかやってこない。


向日葵「全くどこをほっつき歩いているのかしら……」


あの子の担当掃除箇所を探しに行こうとした途中。

誰もいない、被服室の窓枠に。

その少女の姿はあった。


向日葵(な、何……あの子……?)


器用に窓枠に腰掛けながら、夕方の少し強い風に吹かれて外を眺めている。

さらさらと揺らめく髪、ぱたぱたとなびく制服。その顔は……白い狐のお面に隠れていてわからない。


でも、私はその仮面の奥の顔に心当たりがあった。

というより、それがさっきからずっと私が探していた子の姿と、感覚的に一致しているのだ。

だって私は、その風になびく髪を一番長く隣で見てきたのだから。


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向日葵「さ……櫻子!?」

「……!」ぴくっ


少女は私の声に反応して、窓の外にやっていた視線を、身体ごとこちら側へゆっくり向けた。


向日葵「櫻子……櫻子ですわよね? 何やってるんですのこんなところで……」

「…………」


少女は何も応えない。

ゆっくりと窓枠から降りて、こちら側へ少しずつ歩み寄る。


少し怖かった、けど、私は退かない。

だってそのシルエットも、身長も、私の知っている櫻子と全く同じものだったから。

私はその少女を櫻子と決めつけて、続けた。


向日葵「ほら、生徒会に行きますわよ。さあ、お面をとって……」


「私は櫻子ではない」

向日葵「えっ……?」


初めて少女が喋った。

凛とした、透き通る声。お面を通しているはずなのに、その声はくぐもらずに私の耳へと綺麗に届いた。


向日葵(櫻子……じゃ、ない……?)


目の前にあるその姿は、私にはお面を着けているだけの櫻子にしか見えない。

しかし今しっかりと耳に届いた声は、櫻子のものとは違う気がした。


向日葵(あれ……本当に違う人……?)

向日葵「し、失礼ですけど、お名前は……?」


「私は……」


少女は、その身体をまたゆっくりと元見ていた窓側の方へ向けた。

そして首ごと少し上に傾けて、空を見ながら呟く。


「……私の名前は……キツネ」


向日葵「キツネ……さん?」

キツネ「そう」

向日葵「…………」


放課後の喧騒が遠く聴こえる中、私たちはしばらく黙ったままの時をすごした。

秋の訪れを告げるような冷やかな風が窓から吹き込み、冷静な考えを向日葵に取り戻させる。


向日葵(この子が櫻子じゃないなら、私はこの子に用は無い……)

向日葵(そ、そうですわ! 確かに不思議な子ではあるけど、今の私には関係ないこと!)


向日葵「あのすみません、お時間をとらせてしまいました。わたくしそろそろ用事があるので、これで失礼いたしますわ」さささっ

キツネ「どんな用事?」

向日葵(えっ!?///)


まさかツっこまれるとは思っていなかった。

この部屋から、この人の前から一刻も早く逃げ出したいような気持ちだったのだが。

向日葵「えっと……人探しですわ。友達とはぐれてしまって……だから探しに行くところですの」

キツネ「ふーん……」


向日葵「……実は、その探している友達が、あなたにそっくりだったので……それで声をかけてしまったんですわ」

キツネ「それが “櫻子” か」

向日葵「はい……あの、あなたに本当によく似ている女の子なんですけど、心当たりあります?」

キツネ「さあ、わからないなあ」

向日葵「そうですか……」


無表情なお面を見つめて話していると、私は心の中までを見透かされているような気がして、恥ずかしくて、赤くなってしまう。

キツネ「……わかった、行きな」

向日葵「は……」

キツネ「探しに行ってあげな。きっと、その子も待ってるから」

向日葵「あ……そそ、そうですわよね! それでは失礼いたします」くるっ


ーーー櫻子に、よろしく。


向日葵「あっ、ありがとうございま………………あら?」


最後のセリフを背中で受け取り、振り返ったときにはもう少女の姿は無かった。

そこには開け放たれた窓と、吹き込む冷たい風と、部活の遠い喧騒しかなかった。


向日葵(なんか……幽霊みたいな子でしたわね)


向日葵(えっ、まさか……)


ほ、本当に幽霊だったんじゃ……??///


向日葵(えええええええええぇぇぇええ!!!)



向日葵「まったく、いつもの場所で待っててって言ったじゃない」

櫻子「ごめんごめーん」

向日葵「もう……」


結局櫻子は待ち合わせをすっぽかして先に生徒会に来ていた。


向日葵「……ところで櫻子、私さっきあなたを探している途中凄い物を見てしまったんですわ」

櫻子「凄い物……なになに!?」


向日葵「ふふ……」


向日葵「幽霊ですわ」

櫻子「えっ」

綾乃「…………」びくっ

千歳「あはは、綾乃ちゃんまで反応してもうてるで~」


綾乃「ふ、古谷さんがそんな話をするなんて珍しいわねぇ。あははは……///」

向日葵「ええまあ……だって、本当に見てしまったものですから」

綾乃「うそ……」かたーん

千歳「あらあら、古谷さん怖い話が上手やなぁ」

櫻子「ど、どんな幽霊なの……?」


向日葵「私たちと同じくらいの女の子で……」

向日葵「この学校の制服を着て……」

向日葵「誰もいない被服室で外を見ていたんですの」

綾乃「…………」ごくっ


向日葵「顔には白い狐のお面をつけていて……」

向日葵「その横から流れ出る髪の毛が……」


向日葵「櫻子にそっくりだったんですの!!!」

綾乃「いゃーーーーーー!!!」

櫻子「…………お、おう」



向日葵「…………」

櫻子「え、それだけ……?」

向日葵「えっと……それからちょっとお話をして、その子とはすぐに別れましたわ」

綾乃「……え? 本当にそれだけなの……?」


千歳「そんなに怖い話では……無かったなあ」

櫻子「なんだよ! 向日葵の話し方が怖いだけで、その話自体は全然怖くないんだけど!?」

綾乃(それでも叫んでしまった私はやっぱり怖がりなのかしら……)


千歳「もしかしてその子幽霊やなくて、普通の生徒さんなんちゃう?」

向日葵「……なんとなくそんな気はしたんですけど……でもサイズ感とかもぴったり櫻子と同じくらいで、ちょっと私が目を離したらいなくなってたんですわ! 絶対幽霊です!」


櫻子「そんなに私に似てるのか」

向日葵「というか櫻子がふざけてやってるんだとばっかり思ってましたわ……まあ、ちょっとあなたとは声が違ったんですけれど。あなたによろしく言っておいてくれって頼まれちゃいましたわ」

櫻子「私のことその人に教えたの!?」

向日葵「話の流れでそうなってしまって……」


千歳「最近は不思議なことする子も多いし、からかわれただけなんとちゃうかな~」

綾乃「そ、そうよそうよ! 今度見かけたら、生徒会としてしっかり古谷さんが注意してあげなきゃだめよ。学校にお面を持ってきてはいけませんって」

向日葵「わかりましたわ。でも、また会えるかしら……」



次の出会いは、それからそう遠くない日のことであった。


向日葵「まったく、昼休みは花壇の水やり当番ですからねって言ったのに……」


当番制の水やりの順番が回ってきたと朝言っておいたはずなのに、給食を食べ終えた櫻子はどこかへ遊びに行ってしまった。

やらないわけにもいかないし、正直ひとりでもなんとか間に合う程度のものなので、仕方なく私だけでやっている。


向日葵「人の話を聴いていないのか、聴いてもすぐに忘れてしまうのか……その両方かしら……」はぁ


「花か」

向日葵「えっ」


いつか耳にした透き通るような声が、隣から聴こえる。

驚いて振り向くと……あの狐面の少女が、私の後ろでしゃがんで花を眺めていた。

向日葵「きゃあああああっ!?///」

キツネ「……どうしたの?」

向日葵「で、ででで出た……」

キツネ「出たんじゃないよ、いたんだ」


ふっと笑って、花に手をやった。

お面で表情はわからないものの、気だるそうな態度でパンジーの花びらにたまったしずくをつついて落としている。


向日葵「ごめんなさい、全然気づかなくて……」


キツネ「……ひとりで水やり?」

向日葵「へっ?」

キツネ「この学校にはこんなに生徒がいるのに、花たちの世話をするのはキミ一人なのか」

向日葵「えっと……本当は、もう一人いたんですけど、どこかへ行ってしまったようで……///」


キツネ「……櫻子かな?」

向日葵「……はい、その通りですわ」

向日葵(なんでわかるのかしら……)

キツネはこちらに向けた視線をまたパンジーに戻すと、小さく笑い出した。


キツネ「キミはいつでも櫻子を探しているんだね」

向日葵「なっ……!!///」かああっ


キツネ「そしてその櫻子も……なかなか忙しいみたいだ」

向日葵「……あの子は忙しくなんかありませんわ。どうせ遊びに行っているだけだと思いますし」

キツネ「遊びに行ってるなら、一緒にやろうって誘えばいいのに」

向日葵「言いましたわよ。……それをすっぽかされたんですわ」

キツネ「ふーん……」

向日葵(はっ、つい砕けた言葉に……まだ先輩かどうかもわからないのに)


こうして上から見下ろすと……頭に隠れてお面部分が見えなくなる。

その姿はまさしく、櫻子のものと一致していた。


向日葵(こんなに似てるなんて……)

キツネ「あ、そういえばまだキミの名前を聴いてなかったんだった」

向日葵「えっ?」

キツネ「私はキツネと名乗った。でもキミは、まだ私に名前を教えてない」

向日葵「そ、そうでしたっけ……? では改めて、古谷向日葵と申しますわ」

キツネ「向日葵……」


キツネ「良い名前だね」

向日葵「あ……どうも……///」


キツネ「……櫻子には、普段から約束をすっぽかされちゃうの?」

向日葵「ええ。物覚えが悪いのか人の話を聴かないのか……しょっちゅうですわ」


キツネ「……じゃあ、それだけ目の前のことに一生懸命になれる子なんじゃないかな」

向日葵「えっ……」


キツネ「ひょっとしたら、今も遊んでるわけじゃないかもね」


向日葵(目の前のことに……一生懸命……)

キツネ「いや、それは私の想像だけどさ。……じゃあ、そろそろいくね」


向日葵「えっ、あ、ありがとうございました……!///」

キツネ「……私、何もしてないよ?」くっくっ

向日葵「い、良いんですのよ。お話し相手になってくださったんですから」

キツネ「そうかい」


キツネ「またね、向日葵」



びゅうううっ!

向日葵「きゃっ!」


キツネの声とともに、突然強い風が目の前を通り過ぎた。

目をつむって……再び開けたときにはもう、そこには誰もいなかった。

向日葵「あ、あれっ!?」キョロキョロ


見回してみても、誰もいない。

この短時間で校舎に隠れたとも思えない……


向日葵(……や、やっぱり……幽霊なんじゃ……)ドキドキ


「おーっす向日葵ー」

向日葵「きゃーー!!」びくうっ

櫻子「うわっ、ど、どしたんだよ……」

向日葵「あ、櫻子……?」


寒気がしていた背中をちょいとさわられ、思わず飛び上がってしまった。

そこにいたのはいつもの櫻子だった。


向日葵「あっ……あなたどこに行ってましたの!? 今日は一緒に水やりやるって言ってたじゃない!」

櫻子「だから私さっき言ったじゃんか。先生に頼まれて、体育館で行事のための椅子並べに行くから少し遅れるよーって」

向日葵「えっ、そんなこと言いました?」

櫻子「言ったよ……覚えてないの?」

向日葵(うそ……///)

櫻子「あー! もしかしてこの前の幽霊のこと考えてて聴いてなかったんじゃないのぉ?」くすくす

向日葵「ええっ!?///」

櫻子「図星の顔してる! やっぱりか!」

向日葵「いやっ、それは……どうだかわからないですけれど……話を聴いていなかったのはごめんなさい」

櫻子「いやいいけどさ」


櫻子「水やりどこまで終わったの?」

向日葵「……まだここだけですわ」

櫻子「えー!? やばいじゃん急がないと昼休み終わっちゃうぞ!?」

向日葵「う、うるさいですわね! 私もいろいろ人の相手をしたりして忙しかったんですの!」

櫻子「まったく……じゃあ私もじょうろ持ってくるね。ちゃっちゃと終わらせるぞー」

向日葵「え、ええ……ありがとう」


キツネに会っていたのは、言わないことにした。

なんだか、私だけの秘密のままでいいような気がして。


水やりをする櫻子の後ろ姿は、やっぱりキツネのそれとよく似ていた。



向日葵「えーと、レシピレシピ……」


また別の日の放課後。

今度ある調理実習は、自分たちでメニューを考えるところから行うというもので、その献立のアイデア出しのために図書室へ来ていた。

櫻子は今日はお友達と約束があるとかで、先に帰ってしまった。

もとより櫻子は、図書室に連れて来てもいつも退屈そうにしているだけだから、無理に誘わないのだけれど。


向日葵(学校の図書館にはあんまり良い本がありませんわね……)


「今度は料理か」

向日葵「えっ……あ!」


後ろからする綺麗な声は……キツネのものだった。


キツネ「やあ、向日葵」

向日葵「あ、どうも……!」

キツネ「…………」


向日葵「…………」じーっ

キツネ「どうしたの? 本を探してたんじゃないの?」

向日葵「えっと、まあそうなんですけど……」


まじまじと狐面を見つめる。

こうして見ている限りでは、ちゃんとした実体のある子に見える。


向日葵(……ええい、この際だから直接聴いてみませんと)

向日葵「あの、あなた、本当は幽


キツネ「今日も櫻子は一緒じゃないの?」

向日葵「あ……えっと、そうですけど」

キツネ「なんだ、今日も会えないのか」

向日葵「…………」


向日葵(明らかに私の言葉を遮って……なんかちゃんと聴いても答えてくれなそうですわね)

向日葵(こういう子は、自分の事を話したがらないのでしょう……)はぁ

キツネ「どこ行ったのかな、櫻子は」

向日葵「今日はお友達と買い物だそうで。すぐに帰ってしまいました」

キツネ「友達……向日葵は行かないの?」

向日葵「私はそこまで交流がないので……あの子は友達が多いんですわ」

キツネ「へぇ……」じっ

向日葵「な、なに?」


キツネ「本当は櫻子と一緒に出かけたいんじゃないの?」

向日葵「は、はあっ!?///」がたん

キツネ「しーっ……」

向日葵「あ、あっ、ごめんなさい……」


思わず椅子を倒すような勢いで飛び上がってしまった。

ほんの数人いる読書中の生徒何人かがこちらを見る。


向日葵「ちょっと、急に変なこと言わないでください……///」ひそひそ

キツネ「それってつまり図星ってことだね」くすくす

向日葵「……はあ、あなたといると何故か、櫻子のことを何でも相談してしまいそうで自分が怖いですわ」

キツネ「!」

キツネ「いいよ、なんでも言ってよ。私は誰にも言わないから」


首を傾けて、キツネは少しフレンドリーになった。

まだこの学校の誰にも言っていないことを、今初めて言ってしまう。


向日葵「私、実は櫻子と付き合っているんですの」


そう、私たちは、恋人同士。


向日葵「こんなこと、誰かに相談するのは初めてですわ」

キツネ「……大丈夫。驚いたりしないよ」


私たちは付き合っている。

少し前に、お互いに好きだと告白しあった。

それなのに、櫻子は今までと全然変わらないどころか、むしろ私の前からいなくなる時間が増えてるくらい。


向日葵「それが……心のどこかで、私を焦らせているんですわ」

キツネ「…………」

向日葵「私は確かに、櫻子のことが気になって仕方ないんです。いつも無意識に櫻子のことを考えてしまっている……」

向日葵「今だって、レシピの本を読みながらあの子の好きそうなものを自然と追ってしまっているし、私が少し落ち着きがないのは、櫻子が私以外の友達と遊んでいるから……」


キツネ「……どうしたいの?」

向日葵「えっ?」

キツネ「櫻子はそんな感じだけど、じゃあ向日葵はどうしてもらいたいの?」

向日葵「えっ、と……それは……」


向日葵「本当は……これといって何か具体的なことを望んでいるわけじゃないんですわ。ただ、あの子が私のことをどう思っているのか……いつもそれが気になっているんですの」

キツネ「じゃあ、たまにはそう言ってみたらいいんじゃない?」

向日葵「えっ……?」

キツネ「二人は付き合ってるんでしょ? 思ってることをそのまま伝えてみればいいじゃない。恥ずかしがることないよ」

向日葵「思ってることを、そのまま……」

キツネ「向日葵がこれだけ櫻子のことを考えてるんだもの。櫻子だってきっと、向日葵のことを考えてくれてると思うな」

向日葵「そ、そうでしょうか……///」


向日葵(……ふしぎ)

つい先日話すようになっただけの人が、今まで話してきた人の中で一番信頼できる人になっている。


向日葵「……ありがとうございます。帰ったら、櫻子と改めて話してみますわ」

キツネ「それがいいよ」


一番最初に会ったときのように、キツネはまた窓の外に目をやった。


ーーー今なら、ちょっと動けばその背中に触れる。


向日葵「…………」そーっ

キツネ「向日葵」

向日葵「はっ、はいっ!///」びくっ

キツネ「今開いてるページの料理、私も好きだよ」

向日葵「えっ、今開いてるページ……?」


びゅうううっ!

向日葵「きゃっ!!」


私がレシピに目を戻した瞬間、素早く窓の鍵が開けられる音がしたと思えば、突風がカーテンを大きく巻き上げ、もうそこにキツネの姿は無かった。


向日葵(と、飛び降りたのかしら!?)ばばっ


急いで窓の外に目をやるが、誰もいない。


向日葵「…………」


図書室にいる誰一人として、今の突風を気にしている者はいないようだった。


向日葵(……やっぱり、幽霊なのかしら)

向日葵「……あら?」


椅子に座り直すと、開いてあるページにメモが挟んであった。

恐る恐る開いてみる……

『ヒマワリへ

私のこと、幽霊だと思ってくれて構わないよ。

キツネ』


向日葵(なっ……!)

向日葵「……ふふ、不思議な子ですわ」


もう幽霊とか人間とか、どうでもいいかもしれない。

あの子は私の新しい友達。それだけ。


向日葵「このページのメニュー……これを作ってみましょうかしら」

向日葵「ちょうど、櫻子が好きなものと同じですしね」



向日葵「ただいま帰りましたわ」

楓「おねえちゃんおかえりなの!」

向日葵「ただいま楓、すぐ夕飯にしますからね」


楓「おねえちゃん、さっき櫻子おねえちゃんが来たの」

向日葵「えっ……櫻子が?」

楓「おみやげ持って来てくれたの! 部屋に置いてあるの」

向日葵「おみやげ……!///」


『向日葵がこれだけ櫻子のことを考えてるんだもの。櫻子だってきっと、向日葵のことを考えてくれてると思うな』

キツネの言葉を思い出す。


向日葵(あの子……ちゃんと私のことを考えてくれていたんですわ……!)


それだけで嬉しい。

今日一日抱えていたもやもやが、すぅっと晴れていく気がした。

机の上には、「おみやげです。」とだけ書かれたメモと一緒に、可愛いカチューシャが置かれていた。

向日葵「わぁ……///」


向日葵「…………ん?」

メモに目をやる。


向日葵(このメモ翌用紙……)

それは、先ほどキツネが残した本に挟んであったメモにと同じものであった。


向日葵「…………」



花子「あっ、ひま姉」

向日葵「こんばんは花子ちゃん。櫻子います?」

花子「部屋にいると思うし。上がって上がって」

向日葵「ありがとう。そうだ、おみやげにクッキー持って来ましたから、花子ちゃんにも一枚あげますわ」

花子「おおー、ありがとうし」



向日葵「…………」コンコン


「…………」


向日葵(……あら?)

向日葵「櫻子、入りますわよ?」ガチャ


向日葵(あれ、いない……)


「……んまり……いすぎちゃ……」

「たおれ…も…らないよ……」


向日葵「撫子さんの部屋から声がしますわね」

コンコン

撫子「はーい?……あ、ひま子!」

「えっ!?」


向日葵「こんばんは撫子さん……あ、櫻子! こっちにいたんですのね」


櫻子「ど、どうしたの向日葵……なんか用?」

向日葵「さっきのおみやげのお礼ですわ。クッキー持って来ましたから」

櫻子「えっ? も、もう、りちぎだなぁ……おみやげなんだから素直に受け取るだけでいいのに」

向日葵「それだと私の気がすまないんですわ。それならこのクッキーを素直に受け取ってくださる?」

櫻子「わかったよ。あとで食べるね」



向日葵「何か撫子さんに相談でもしてたんですの?」

櫻子「ん、んーと……まあそんなとこ。秘密の話なんだから向日葵は聴いちゃだめ!」

向日葵「えー? 余計に気になりますわね」


撫子「ごめんひま子。こればっかりはちょっとね……櫻子が恥ずかしくて死んじゃうような話だからさ、今日は遠慮してやってくれる?」

向日葵「まあ、そんな話を……!?///」

櫻子「違うぞ!? 想像してるのと違うと思うぞ!?」

向日葵「撫子さんが言うなら仕方ありませんわね。今日は勘弁してあげますわ」

撫子「ありがとね」


向日葵「それじゃあまた明日……あ、ひとつだけ」


『思ってることをそのまま伝えてみればいいじゃない。恥ずかしがることないよ』


向日葵「その……おみやげ、嬉しかったですわ。すごく……」

櫻子「え……?」

向日葵「他の友達と一緒にいるときでも、私のことを考えてくれてるんだって、そう感じられて、私……///」

櫻子「ど、どうしたの向日葵……」


向日葵「……とにかく嬉しかったんですわ! それだけ!」ぱたん


たたたたた……

櫻子「…………行ったかな」

撫子「ふーん、どうやら上手くいってるみたいだね」

櫻子「ま、まーね」


撫子「ひま子があんな嬉しそうにしてるの久しぶりに見たよ。良かったじゃん」

櫻子「うん……」


撫子「……でも櫻子、わかってるね? ほどほどにしないと……」

櫻子「わかってるよ……」



それから幾度か、キツネと話す日々は続いた。

私が一人のときにどこからともなく現れて、少しだけお話をすると、風とともにいなくなる。

付かず離れずの関係だったけど、それで充分だった。


向日葵「昔は櫻子も、すごく頼りがいのある子だったんですわ」

キツネ「じゃあ櫻子は、また昔みたいに頼られたいとか思ってるかもね」

向日葵「昔みたいに……?」


キツネのアドバイスを聴いた日は、必ず櫻子との関係がうまくいく。

この不思議な時間はいつまで続くのだろう。

そう思った矢先に、終わりの時間は来た。


キツネ「もう会えないかもしれない」

向日葵「え……なんでですの?」

キツネ「なんでかは言えないんだ……ごめん」


昼休み、誰にも言わず被服室へ来てみると、キツネは最初のときと同じように窓枠で空を眺めていた。


向日葵「そんな……嫌ですわ」

キツネ「嫌だっていったって仕方ない。私だって嫌なんだから」

向日葵「じゃあ、私たちはこれで終わりってことなんですの?」

キツネ「……そういうことになるね」

キツネ「でももう良いと思うんだ」

向日葵「?」

キツネ「向日葵は櫻子ととても上手くいってるみたいだし……もう私がいなくても、平気でしょ」


向日葵「……ちょっとそれ、どういうことですの? それじゃあまるであなたは、最初から私と櫻子のことが目的で近づいたみたいですわ」

キツネ「そんなつもりはなかったよ。話を聞くうちに、二人が放っておけなくなっただけ」

向日葵「それだけじゃない。あなたは櫻子に一度も会ったことがないのに、あなたが言い当てる櫻子の心情は毎回怖いくらいに当たるんですの……」

キツネ「当たってるなら、良いことじゃない」

向日葵「普通に考えておかしいですわ! あなたは……!」

キツネ「向日葵」

向日葵「えっ……」


キツネ「……最後なんだ。そんな怒った顔しないでよ」

向日葵「あ……ご、ごめんなさい……」

キツネ「今まで楽しかった。向日葵に会えて良かったと思ってる」

向日葵「…………」

キツネ「ひとつだけ、忘れないで欲しい。もう会うことがなくなっても……私はいつでも、向日葵を見守ってるよ」

向日葵「え……?」

キツネ「それじゃあ」

向日葵「ま、待って! 最後にひとつだけ……!あなたの正体は……!!」


キツネが手をあげると、どこからともなく風が渦巻きはじめ、まるで被服室の中で竜巻が発生したように凄まじい暴風が吹き荒れた。


ーーーさよなら、向日葵。


向日葵「待っ……! きゃあああああっ!!」


体勢を崩した向日葵は暴風に身体を攫われ、そのまま壁に身体を打ち付けた。

吹き荒れる暴風の中、もうキツネの姿はそこには無かった……



向日葵「う、うぅん……」

「あ、気がついた!!」

向日葵「あら、私……はっ!」

「良かったあ……やっと起きてくれた」

向日葵「きゃっ、櫻子!」

櫻子「きゃっ、櫻子! じゃないよ。まったく人騒がせなんだから……」

向日葵「えっと、ここは……」

櫻子「保健室。もうびっくりしたよ。昼休み終わっても向日葵が戻ってこないなーと思ったら、被服室で生徒が倒れてる!なんて噂になってて、私が呼ばれたから見に行ったら向日葵が寝てるんだもん!」

向日葵「え……寝てた……?」

櫻子「怪我したのかと思ってみんなで保健室まで運んだんだけど、保健の先生はどこも悪くないって。一体何があったんだか」

向日葵「何ってそれは……あ、被服室がめちゃめちゃだったはずですわ!」

櫻子「めちゃめちゃ……? 私が見たときは別になんともなかったけど」

向日葵「うそ…………」

櫻子「何があったの?」なでなで

向日葵「え……///」

櫻子「大丈夫。今ここ誰もいないから」


優しく私の髪を撫でながら、櫻子は笑った。

こんなに柔らかい表情の櫻子は久しぶりに見る。


向日葵「……なんだか、長い夢を見ていたようですわ」

櫻子「夢?」

向日葵「ええ……とても不思議で、でもとても楽しかった……」

櫻子「そっか。楽しかったなら、良かったじゃん」


もう時間は放課後だった。

部活の遠い喧騒と、赤い夕焼け。

あたたかなベッド、保健室に二人。


櫻子「帰ろっか」

向日葵「……ええ」


秋になり、だんだん人肌恋しくなっていく。



櫻子「あ、またここにいた……!」

向日葵「櫻子……」

櫻子「もう、また被服室に来てるの?」

向日葵「…………」

櫻子「この前ここで倒れたのはどなたでしたっけ? ……また倒れられても困るしさ、もう帰ろう?」


向日葵「……いつか、私が幽霊の話をしたことがあったでしょう?」

櫻子「幽霊……あ! あったねー」

向日葵「本当に、いるんですの。私はここで何度もおしゃべりしていた……」

櫻子「もう……なんか気味悪いな」

向日葵「…………」


櫻子「それで会いたいから、ここに来てるってわけね」

向日葵「でも、この前私がここで倒れた日……あの日が最後で、もう会えないかもしれないって言われた」

櫻子「じゃあもう会えないんじゃん」


向日葵「ええ。それでも……一度だけ、一度だけでいいから会いたいんですの」

櫻子「……なにかやり残したことがあるの?」

向日葵「そう……」

櫻子「……あほらし」きっ

向日葵「えっ」


櫻子の目が少し鋭くなった。

少し機嫌の悪そうな顔をしている。


櫻子「もう会えないって言われたんなら、その通りもう会えないってことでしょ。いつまでもそんな変なこと引きずってないでよ」

向日葵「…………」


櫻子「そうやって見えもしないものばっかり追いかけてたら、目の前のことが見えなくなっちゃうよ?」

向日葵「櫻子、あなたには寂しい思いをさせますけど、もう少しだけ私はここで待っていますわ。 あと一度だけ、なんとしても会わなければなりませんの」

櫻子「さ、寂しいって……///」


櫻子「もう知らない! 私帰るからね!」くるっ

向日葵「ごめんなさい。明日からは、ちゃんと一緒に帰りますから」

櫻子「ふん……///」すたすた



向日葵(……よし)



向日葵(あほらしいなんて、そんなのわかってますわ)

向日葵(でも、これからのことを考えたら、今のままでは……)


「櫻子を怒らせたみたいだね」

向日葵(きた!!)


背中から声がかけられる。


いつもと同じキツネがいた。


向日葵「良かった……来てくれて」

キツネ「最後かもしれないって言ったのに……私なんかのために櫻子をないがしろにしたら、全く意味がないじゃないか」

向日葵「意味って、どんな意味ですの?」

キツネ「…………」

向日葵「……まあ、いいですわ」ちゃっ

キツネ「??」


私は用意しておいた携帯電話を取り出し、素早く電話をかける。


ピリリリリ!


キツネ「!!!」


大きな着信音は……キツネのポケットから鳴り響いた。


向日葵「やっぱり……」

キツネ「な、なんで……!?」


向日葵「マナーモードも全部解除して、あなたのポケットに忍ばせておいたんですのよ……櫻子」

キツネ「それで、一度だけってことか……」たじたじ

向日葵「さあ、話してもらいますわよ。なんでこんなことをしているのか……」


向日葵「櫻子」ずいっ


じっと、お面の奥の見えない瞳を見据える。


キツネの正体は、紛れもない櫻子だ。


向日葵「不思議な幽霊のフリして私に近づいて、『櫻子はこう思ってるかもしれない』なんてアドバイスして……100%的中するはずですわ。全部あなた自身の考えなんですもの」


キツネ「………ぁ…」ふらっ


ばたっ!


向日葵「えっ!!」


突然、キツネは急に脱力したかのように前のめりに倒れた。

向日葵「ちょ、ちょっと!!」


慌てて身体を揺さぶる。

初めて、キツネに触った。

やっぱり幽霊なんかじゃない、ちゃんと実体を持った人だった。


向日葵「どうしたんですの……しっかりして!」

キツネ「ふ、ふふ……」


震えている身体を起こす。

……その肌はとても冷たかった。


キツネ「ねーちゃんに……止められたんだ……やりすぎると、逆に乗り移られるって……」はぁはぁ

向日葵「乗り移られる……!?」


キツネ「だからもう最後だって言ったのに……ばか、ひまわりのばか……」がくっ

向日葵「あっ、キツネさん!?」


力なく向日葵にもたれかかるキツネ。

もう力が残ってないとばかりに、ぐったりと倒れてしまった。

向日葵「…………」そっ


ずっと外したいと思っていた、その狐面を取り払う。


櫻子「…………」

向日葵「櫻子……」


狐面を外すと、安らかな櫻子の寝顔があった。


その頬を撫でる。

やはりほんのり冷たい。

ーーー事の真相はこうだ。


キツネの正体は、一番最初から櫻子だった。

“キツネ” という別人を演じていただけなのだ。

櫻子のことで相談にのり、「櫻子はこう思っているんじゃないか」とか、「きっと櫻子はこういう子なんだろう」と私に伝える。

別人になりきって、自分が普段言えないようなことを言っているだけだ。


今つけているカチューシャ。これを貰った日だって、友達と遊びに行くフリをしてキツネになって私に近づき、プレゼントを渡すことで「他の友達と遊んでいても私のことを忘れていない」と思わせられる。


これなら、櫻子との関係がうまく行くのは当たり前だ。


『キツネ「じゃあ櫻子は、また昔みたいに頼られたいとか思ってるかもね」』

向日葵(あれだって……櫻子本人の願望でしょう。あなたは私に、昔みたいに頼られたいと思っていた……)


恥ずかしくて普段言い出せないことを、別人のフリをして言っているだけなのだった。

向日葵(……どこまでも素直じゃないですわね)


額の髪をかきわける。


その唇にキスをした。


こんな子供じみたことをして、


本当に可愛い子。


自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしいのは、皆同じ。


でもそんな恥ずかしさは、自分の力だけで乗り切らなきゃいけないもの。


向日葵(この先もずっと、お面をつけて私の前に現れるつもりですの?)


それでは意味がない。


そんなことしなくても、言いたいことを言い合えるようにならなきゃ。


私は、あなたの全てを受け止めるつもり。


これからは、なんでも私に言ってちょうだいね。


ーーー重ねていた唇を離す。


いたずら好きの子狐は、相変わらず目を覚まさない。


そんな全てが愛しくて、もう一度強く抱きしめた。



向日葵(さて……)

向日葵「……撫子さん、流石ですわ」ごそごそ


ポケットから便箋を取り出す。


実は昨日の晩、撫子が静かに向日葵のもとを訪れていた。

何事かと思って話してみると、一通の便箋を手渡された。


撫子『今は何も言えないけど、これを渡しておくよ。もしかしたら、使うときが来るかもしれないからね』


向日葵(撫子さんは、こうなることも全部わかっていたんですわね)


便箋を開けると、折りたたまれたおふだが出てきた。


向日葵(乗り移られるとかなんとか言ってましたし……たぶんこういうことでしょう)


ぺいっ、と、おふだを櫻子の額に貼り付ける。


向日葵「……本当に起きるかしら」

櫻子「……ぅ、うう……?」ぱちぱち

向日葵「あっ、櫻子」


櫻子「あ、あれ……私……」

向日葵「目が覚めました? 全く無茶をして……」

櫻子「むちゃ…………あ!」がばっ


向日葵「あら、このお面はもう付けさせませんわよ?」くすくす


櫻子「な、な……!///」


さっきまで冷たかった顔が、信じられないくらい真っ赤になっている。

秋の夕暮れに負けないくらい真っ赤だ。

向日葵「櫻子、お話がありますわ」ぎゅっ

櫻子「ちょっ、抱きしめながら話すことないじゃんか!」

向日葵「いいえ、あなたは逃げてしまうかもしれませんもの」

櫻子「っ……///」


櫻子「誰かに見られたらどうするんだよ……」

向日葵「ふふ……放課後の被服室なんて誰も来ないですわよ」

櫻子「そうかもしれないけどさ……」



向日葵「櫻子……もう、このお面に頼るのはやめてちょうだい。言いたいことがあったら、私に直接言うこと」

櫻子「…………」


向日葵「どんなことを言ったって、私はあなたを受け入れますわ。だって私は……櫻子のことが大好きなんですから」

櫻子「…………///」


向日葵「言いたいことを素直に言い合える、そんな関係になりませんと」

櫻子「……わかったよ。ごめんね」

向日葵「でも、今回の件で嬉しかったことがひとつありますわ」

櫻子「?」

向日葵「告白してから、あなたが私から離れて行くような気がしてたんですけれど、こんなお面をつけてまで私に近づいて……ちゃんと私のことを想っていてくれてたんですわね」なでなで

櫻子「……当たり前じゃんか」


櫻子「私だって、向日葵のことが大好きなんだからさ」

向日葵「…………!」


目を潤ませた櫻子は、私に唇を重ねてきた。

やっぱりキスは、するよりもされる方が嬉しい。


櫻子「ふふ……キスしたの、久しぶりだね……///」

向日葵「あ、ごめんなさい。私さっきあなたが気を失ってるときにたくさんキスしちゃいましたわ」

櫻子「えええーーっ!?///」

向日葵「いえ、可愛かったのでつい……」

櫻子「ま、まったくぅ……///」

ひゅるるる……


向日葵「……風が、冷たくなって来ましたわね」

櫻子「夏も終わったからね……」


向日葵「初めてここでキツネさんに会ったときより、幾分冷えた気がしますわ」

櫻子「そう?」

向日葵「気温が下がったのもありますし……あの頃よりも人肌恋しくなったんですの」ぎゅっ

櫻子「……ふふ、そうかもね」


向日葵「……帰りましょうか」

櫻子「……うん」



少し冷え込む帰り道。

二人は身体を寄せ合って歩く。


櫻子「向日葵……手、繋ごう?」

向日葵「ええ」


日が落ちるのも早くなり、あたりはすっかり薄暗い。


櫻子「このお面には、本当に霊が宿ってるんだってさ。だからこれをつけるとその霊と一体化して、声が変わったり不思議な力が使えたりするんだって」

向日葵「へえ……というか、そんなお面をなんであなたが持ってるんですの?」

櫻子「ねーちゃんに貰ったんだよ。我が家に伝わる大事な狐面なんだってさ」

向日葵「撫子さんも……これを使っていたのかしら」

櫻子「色々詳しかったし……たぶん使ってたと思うな」

向日葵「でも口調とかも違いましたけど、あれはあなたの演技なんですの?」

櫻子「……うん……///」

向日葵「意外ですわ。あなた演技派なんですのね」

櫻子「お面にはそういう力があるんだと思うよ。自分じゃない誰かになりきると、自然と演技も上手になるんだよ」



向日葵「じゃあ、私もつけてみようかしら」

櫻子「だめ」きっぱり

向日葵「ええっ!? なんで!」

櫻子「向日葵がこのお面の力に耐えられる精神力を持ってるとは思えないもん! 取り憑かれちゃったらどうすんのさ!」

向日葵「あなた何回もつけてたじゃない! それなら一回くらい大丈夫ですわよ!」

櫻子「絶対ダメー! これは今日ねーちゃんに返すの!」


向日葵「全く……ま、いいですけどね。私にはそれを使う用事もありませんし」

櫻子「そーいうこった。諦めなさい♪」

向日葵「わたくしはどこかのだれかさんみたいに、『櫻子はまた昔みたいに頼られたいと思ってる』とか差し向けたりしないですし」

櫻子「わーわーわー!!///」あたふた


向日葵「あれなんだったんですの? 頼られたいと思ってるなら……こんな子供みたいなことしてないで、もっとしっかりものにならなきゃですわよ」

櫻子「うるさいなあ! そうやって私を子供扱いするからキツネさんにそんなこと言われたんでしょ!」

向日葵「私のせいだって言うんですの?」

櫻子「ふん!///」

向日葵「……大丈夫。あなたのこと、いつでも頼りにしてますから」


櫻子「えっ……」



向日葵「あなたが傍にいないと私、本当に倒れてしまいそうなくらい心細くなるんだって、最近わかりましたわ。だから……いつでも隣にいて欲しい」



櫻子「……言われなくたって、私はずっと隣にいるよ」


向日葵「ありがとう……///」ぎゅっ

櫻子「もうすぐ冬が来るね」

向日葵「ええ……秋は短いですわ」


櫻子「前に向日葵に編んでもらったマフラー、そろそろ出そうかな」

向日葵「あっ、それなら私新しいの作りますわよ?」

櫻子「いいよいいよ、マフラー何本も持ってても仕方ないじゃん」

向日葵「そうじゃなくて、二人で巻けるくらいの長さのやつを作ろうと思ってましたので」

櫻子「二人で!? それ巻いて一緒に学校行くの!?///」

向日葵「だめ?」

櫻子「恥ずかしいだろ!!///」

向日葵「うふふふ……///」



~fin~

櫻子ちゃんお誕生日おめでとう!

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