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平和な時間がいつまでも続くと思った?

なんの変哲もない、ほのぼのとした

誰もが笑って過ごせる毎日が永遠だとでも思った?

バカじゃないの?

そんなことあり得るわけがないじゃない

でもね

正直言ってこんな終わり方するなんて思わなかったわよ。私はね

『あんたはどう? 春香』

『……………………………』

聞いても答えは返ってこない

というよりも

そもそもこの場に『春香』なんていないしね

考えているうちに、春香は手に持った大きな武器を振り上げる


――どうして、こうなっちゃったのかしらね



※このSSはアイドルマスターのSSです
※ホラーのつもりです
※過激な描写が含まれる可能性があるので、苦手な方はお帰りください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1409563191


side1 高槻 やよい


『おはよーございまーすっ!』

元気良く扉を開け放って事務所へと飛び込む

できるだけ早く来て事務所のお掃除をするのが毎日の日課の私ですが

誰よりも早く。ということはあまりありません

事務所の鍵が開いているのが殆どで

その場合は必ず小鳥さんが来ているからです

『……あれ?』

でも、小鳥さんの返事が返ってきません

鍵の締め忘れかもしれないけど

小鳥さんまたはプロデューサーがそんなミスをするはずがありません

泥棒かもしれない

そう思った途端、ドクンッドクンッと

心臓の音は跳ね上がるように大きくなりました


差し足忍び足……あと何か

とりあえず慎重に事務所の中を進む

大して広くないし、開け放った上に大声を出したので手遅れかもしれないけど

しないよりはまし……だよね?

『…………小鳥さーん』

給湯室を覗き込んで一声

――誰もいない

隣の部屋のドアをゆっくりと空けて

小鳥さんの名前を呼んでみても、やっぱり誰もいない

プロデューサーも、社長も、小鳥さんも

誰もいない

いよいよ怖くなって戻ることも考えたけど

背中を向けるのも怖くて、勇気を出して踏み出す

すると

デスクと給湯室の間にあるソファに人の頭が見えた

このスレタイで一発でアイマスだなんて分かるわけないだろいい加減にしろ!

俺はスレタイ見ただけで分かったよ

ただならぬスレタイと感じ取った


『……雪歩さん?』

茶色の髪ということで

この事務所の中で該当する名前を呼ぶ

でも、反応はない

もしかしたら寝てるだけなのかもしれないと

不審者や強盗

様々な怖い想像を振り払って一息つく

『座ったままこんな場所で寝てると風邪ひきますよー?』

起こさないくらいの小さな声で言いながら

横を通って正面に回り込み

怖がらせた仕返しというか、見てみたいなぁなんていう気分で顔を覗く

『……ん? やよい?』

『は、春香さん?』

予想外だった

座ってたのは雪歩さんではなく、春香さんで

寝ていたわけではなかったなんて

ただならぬスレタイと感じ取った


『よ、呼んだら返事してくださいっ』

『返事? あぁ……ごめんね。慣れてなくて』

春香さんはそう言いながら苦笑すると

ぐっと背中を伸ばして私を見る

なんだかいつもと違うような気がするけど

気のせいかな?

『あの、ところで春香さん』

『ん?』

『小鳥さんは買い出しですか?』

春香さんがいるのなら

留守番を任せて何か買い出しに行くというのもなくはないと思う

そう思って聞いたんだけど

『小鳥さん……? あー私以外はまだ来てないよ』

……じゃぁ、誰が鍵を開けたんだろう?


その疑問を感じ取ったのか

春香さんはカバンの中から事務所の鍵を取り出す

ついてるキーホルダーから小鳥さんのものだと直ぐに解った

『カバンの中にこれが入っててね。私が開けたんだよ』

『そうなんですか……』

春香さんも来るのが早い時は早い

というのも、

電車で結構時間がかかるみたいで

遅く来ると色々と混み合う時間になってしまうらしく

早く来るようにしているらしい

『小鳥さん、今日は遅いんでしょうか?』

『かもしれないね』

春香さんは苦笑してソファに深く座りこむ

ふと、机に置かれた携帯を見てみると

765プロのみんなのプロフィールページが表示されていた


『春香さん、どうしてプロフィール見てるんですか?』

『別に意味はないよ。ただの時間つぶし』

確かに早く来ても暇だよね

私は掃除をしたりするからあれだけど……

そうだ

『春香さんも一緒に掃除しませんか?』

『掃除? いつもやってるの?』

『そう、ですけど……してる途中に来た時は手伝ってくれてますよね?』

『あーごめん。今日はやよいに任せていいかな。疲れて頭が働いてないや』

そう言った春香さんは

顔の前で手を合わせて「ごめんね」と言うと

ソファの上で横になってしまった

……本当に疲れてるんだろうなぁ

終電ギリギリまで頑張ってるってプロデューサーも言ってたもんね

起こさないように気を付けよう

そう決めて静かに掃除を始めた

今日のところは終了
出来たら深夜にやるけど無理なら明日に続き

お疲れさん


小鳥さんの行方はいかに

荒らしかと思った俺を誰か殴ってくれ

なんか春香さん怪しいな…
続きも期待!

これは期待

>>15>>301ドゴォ

>>301「解せぬ」

なんてとばっちり


掃除の途中にプロデューサーと小鳥さんが来て

盗み聞きするつもりはなかったけど

小鳥さんと春香さんの話し声が聞こえた

『おはよう……春香ちゃん』

『辛そうですね、何かあったんですか? 小鳥さん』

『いやただの二日酔い……気にしないで』

明らかに気分悪そうに頭を抑えながら

小鳥さんは小さく笑って頭を軽く振る

『そういえば……春香ちゃんのカバンに鍵入ってなかったかしら? 私達のカバンには入ってなかったし、多分春香ちゃんだと思うの』

『鍵ですか? それならこれかな?』

春香さんは思い出したように答えて

ひよこのキーホルダーがついた鍵を渡す

『そうそう。良かったぁ……昨日プロデューサーさんの車の中でカバンに入れたはずなのになくて困ってたの。ありがとね』


『いえいえ、気にしなくていいですよ』

ふっと笑みを浮かべた春香さん

その笑にもう一度お礼を言った小鳥さんは

プロデューサーを見て自慢気に鍵をちらつかせる

『ありましたよ?』

『まだ酔ってます?』

そうかもしれません。と

小鳥さんはまた辛そうにため息をついて

自分の椅子に腰掛ける

お休みしたほうがよさそう……

『そういえば、プロデューサー』

『ん?』

『今日の私の仕事ってなんでしたっけ? ど忘れしちゃって』

『仕事は伊織と合わせて取材、あとは雑誌に載る写真撮影だ』

……あれ?


『伊織と一緒に取材。そのあと撮影かー……今のうちに休んでおこうかな』

『なんだ。お前も疲れてるのか? だからゆっくり休めとあれほど』

『休んではいますよ? ただちょっと慣れないっていうか、まぁ平気です』

……う~ん

疲れてるだけ、なのかな?

『やよい』

『あ、はい』

『私、またソファでねるけど、ほかの人が来て、もしも邪魔そうなら普通に起こしてくれていいからね?』

『はいっ』

そう、だよね?

うん、きっとそう

今の春香さんの顔は疲れてそうな顔だったもんね

思えば最初寝てて、小鳥さんたちが来たから起きただけで寝起きだった

だから別におかしくない……よね?

なんだこれは……期待してるぜ!


掃除が終わる頃に伊織ちゃんが来て

続くようにみんなが事務所に来た

『あれれ~? はるるんおねむ~?』

『んっふっふ~、これはチャンスというやつですぞ?』

亜美と真美のあからさまな笑みと言葉

やめなさいよと伊織ちゃんが言ったけど

それで止まる2人ではありません

『おでこにお肉は鉄板だよねー?』

『焼肉だねー』

そんな冗談を言いながら

亜美が落としやすいようにと水性マジックを忍ばせる

あと10cm

あと5cm

あと1cm

そこまで近づいたところで



   『 何 し よ う と し て る の ? 』



そんな低いような高いような、不安定な声がその場に響き

声のもとへと目を向けると

春香さんがパチっと目を開けて、怖い顔で亜美を睨んでいました

今回は終わり
続きは明日

期待

また荒らしかと思ったらかなり本格的だった


『は、はるる……ん?』

流石に亜美もその目に冗談を返せなかったのか

律子さんにイタズラがバレた時のような

少し怯えた声で春香さんの名前を呼ぶ


『……………………』


沈黙が怖い

見開かれた緑色の瞳が怖い

伊織ちゃん達でさえも

そのあまりの怖さに黙り込んでしまう


『あー邪魔だった? ごめんね』


ふとあたりを見渡した春香さんは

いつの間にか全員集合していると気づいて

ごめんごめん。と、苦笑しながら頭をかく

そこに今さっきの怖い春香さんの面影は全くありませんでした


春香さんが伊織ちゃんと仕事に向かったあと

残った私達で話し合うことになりました

議題? はさっきの春香さんについて

亜美と真美だけでなく

貴音さん達も違和感を感じたかららしいです

『では、この場はわたくしが取り仕切るということで』

『議長とか誰でもイイって。問題は春香が春香らしくなかったことだぞ』

『それとなく萩原さんに似ていたわね』

えぇっ!? と

雪歩さんは驚きながら「そんなことないよぉ」と手をパタパタと振る

雰囲気は全然違ってたけど

『髪型はそっくりでした』

『か、髪の色同じだからかな?』

『ボクの勘違いかもしれないけど、何か足りなかった気がするんだよね。さっきの春香』


『そ、それって私が春香ちゃんの下位互換ってことだよね……?』

『え、いやそうじゃ……』

『解ってるの……自分のことだから……いいよ。怒ったりしないから』

雪歩さんは違うってばって何度も否定する真さんに対して

ありがとう。となぜかお礼をいう

……もうお話に参加してないような気がする

『確かに真の言うとおりかもしれないわ』

『そうですね……普段とは確かに違っていました。元気があまりないというのもそうですが……』

『んーはるるんにとって大事なものがなかったような気がする』

『大事なもの……』

みんなそれぞれ呟いて

あれでもないこれでもないと言い合って

少しして「あっ、解ったの!」 と、美希さんが手を上げる

『リボンが無かったの! 春香の代名詞がない。あれはつまり偽物な――』

ポンッと美希さんの頭にファイルが置かれ

視線を上に上げると律子さんがため息をつく

『それだけで偽物だなんて言っちゃダメでしょ。髪の色変えたら美希じゃないって言われてるようなものよ?』

『メガネのない律っちゃんは』

『律っちゃんじゃないねっ!』

『怒るわよ!?』


普通だった

亜美真美のいたずらとか、からかった言葉に律子さんが怒って

2人はまた逃げろーって言ってはしゃいで

仕事は多くもなく少なくもない

まだ発展途上の765プロ

『……春香』

『貴音さん?』

響さん達みんなが笑う中で

貴音さんだけは、春香さんのことについて気になっているようでした

『普段の春香なら、疲れていても付き合ったと思うのですが……』

『ね、寝起きだったからじゃないですか?』

『ふむ……そういう理由ならば別に良いのですが。少々、気になります』

貴音さんの気にしすぎだって思いました

貴音さんは回転寿司ですら前は知らなかったらしいし

だから、ただちょっとした事に興味を持っただけだって。思いました

実際、伊織ちゃんとの仕事を終えて一旦戻ってきた春香さんは

白いリボンを頭にしっかりと付けて、今までと変わらない笑顔を見せてくれました


『んーっ! 気分爽快』

『もう夕方なのに元気ですねっ』

『だからこそだよ』

全部の仕事を終えた春香さんと私だけが残る事務所

もちろん、小鳥さんもいるけど

現在パソコンでお仕事しているみたいです

『そういえば、春香さん』

『なに?』

『あずささんが出た廃墟に行くホラー特番って録画してますか?』

なんの気もない

ただの話題のつもりだった

長介達が見たいって言ってたけど、見せてあげられなかったから

貸して欲しいかなーって

でも



『私、そういうの   大 嫌 い   なんだよね』


そう言って見せた微笑みは

どう見ても、笑ってなんかいなかった

またあとで


『は、春香さんって怖いの苦手でしたっけ……?』

『苦手なんじゃなくて大嫌いなんだよ。そこを間違えないで欲しいかなって』

苦手も嫌いも同じようなものじゃないのかな……?

違うって言うなら違う、のかな? わからないや

『ご、ごめんなさ――』

『本当にわかってる?』

『わ、解って……ます』

『解ってないから言ったのに?』

春香さんは睨むように私を見つめて

テーブルを避けて私の隣へと回ってくると、ぐっと肩を掴む

少し、痛い

『春香さん、い、痛いです……』

『痛いで済むなら良い方だよ。やよい』

『え?』

私には解らないけど

春香さんからは嫌な予感がした


   『痛いならなんとかできる。でも、いたいはどうしようもないからね』


耳元でそっと囁かれた言葉

痛いもいたいも同じはずなのに

全然違う意味のような気がした

『春香さん……?』

『………ま、やよいには難しい話だったかな~?』

ニコニコと

変な雰囲気を吹き飛ばした春香さんの笑みは

いつもと同じはずなのに、違う

なにがとか、ここがとか

そういうことは言えないけど、変な感じ

『あの、何が――』

『忠告』

春香さんは言いながら、人差し指を私の唇に押し当てる

『今日の夜に出かけちゃダメだよ? どんな理由があってもね』

『それってどういう……』

『そして、であった人に話しかけてはいけないよ』

亜美と真美みたいな

イタズラっぽい笑みでした

だから私は、ただの冗談かなにかだと思いました

だって、春香さんは怖い話とかが大嫌いって言ってたから

怖い話とかではないんだって、ただの冗談なんだって、思ってしまいました


その日の夜のこと

お父さんもお母さんも仕事でいない子供たちだけの夜

『あっ……』

調味料がない

昨日の時点では残ってたはずなのに

これじゃ……

『お姉ちゃん、どうかしたの?』

『かすみ、調味料が……ないんだけど』

今日の浩司達のお世話は誰だったっけ

というのは言うまでもなく、朝昼はいてくれたお母さんのはず

そこで使い切っちゃったのかな?

『んー仕方ないか。買ってくるから待ってて』

『お姉ちゃん一人じゃ危ないよ。私も』

『大丈夫、すぐだから』

かすみに少しだけ任せて家を出ていく

すぐとは言ったけど、すぐ近くじゃないお店

でも走ればすぐ――ん?

『………………』

街灯の下

暗い中で明るいその場所に、女の子が立っていた


『…………?』

こんな時間に女の子?

私も中学生の女の子だけど

同じく買い物のようには見えない

足は自然とその子へと向かう

春香さんが言っていたことを冗談だって思い切ってなければ

多分、そんなことはしないで

関わらないようにしようって

まっすぐお店に向かっていたかもしれない

『どうかしたの?』

『………………ふふっ』

でも私は近づいて、声をかけて、手を伸ばしてしまった

もしかしたらそれは、そうさせられたのかもしれない

そして女の子は笑って言いました


『うん、どうか したよ』


その声を聞いたとたん

なんだかとても眠くなって私はぎゅっと、目を瞑る

私の腕を掴んだ女の子の手はとても、冷たかった

やよいは 糸冬


次は貴音


投下はまたあとで

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