【オリジナル】SPECIAL district No.10 (47)

名有りキャラのオリジナルで
手探り進行
着地点不明

世界観の下地として

アラン・ムーアの『トップ10』
荻野純『γ -ガンマ-』
わらいなく『KEYMAN…』

とかあんな感じ
二次創作ではないので


一応前作というか前回書いたss↓
地獄より玩具箱を
地獄より玩具箱を - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406672069/)
こっちは上記の『トップ10』の二次創作
まあ硬くて良いくらいの印象しかなかったようで

退屈、ツマンネ、大いに結構
でも荒らしと「なろうでやれ」は勘弁

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407490633


さる世の中は唐突なことに、
スーパーパワーを持つ人で溢れかえっていた。

なんとまあ陳腐なことであろうかと誰かが悲嘆するヒマもなく
その増加は数年で過熱過剰の一途を辿り


何のかんのと力を与えられた人々があまりにも増えすぎたものだから

その内に"スーパー"という言葉はその優位性という意味をことごとく失い、
代わりに"サイエンスパワー"という名称が定着するくらいであった。


そんな世相のなか

日本のとある地方都市、"第10特区"内の役所にそれはあった。


特殊市民生活安全課

略して "特市課"

かしこまった呼び名と役職を与えられているであろうこの部署だが

ありていに言ってつまるところ
要するに、
爪弾きにされた者たちの集まりであった。



epi:[ネコ少女 と 運転手]


その部署は区役所の二階にて、
ある種の晒し者のようにして設置されていた。

見るからに普通の職員とは違う雰囲気を放つ男女が数人、うだつの上がらなそうな上司らしき男性を中心にして組織されていたのだった。



その中の一人、長身かつスマートな出で立ちをした女性

"高江 エル" は

その上司を目の前にして
なおスキットルの容器を両手で弄んでいた。


「……キミさぁ、高江クン」


エル「……はい?」


「よくもまあそこまで堂々とできるよね……まあ、そこが魅力でもあるんだけど」


エル「………何ですか課長、セクハラですか、上に報告しますよ?」


「ちょい待ち、いやぁ流石に…それは勘弁して欲しいなあ」


上司と部下として、この部署でのそういった力関係はそう機能していないのか

この二人のやりとりからは、そんなことが窺い知れたのだった。



「高江さん、コーヒー入りました」


そんなピリピリというか、チリチリするような会話の間に

一つ能天気というか
朗らかな声が割って入った。


声の主の名は "鮭川 イサナ"

ネコのような風貌をした小柄な女性で高江 エルの後輩にあたる。

彼女はこの世間でいう所の動物人間 ( 獣人という呼び方は今や差別的であるとして、使用すると誰かから酷いバッシングを受ける ) というものであった。


エル「ありがとうイサナさん……ゴクリ、ようやく目が覚めた気がする」


イサナ「あはは、しっかりしてくださいよ、これから車を運転するんですから」


エル「そうね……あなたを乗せる以上は万が一にも事故を起こすことはできないわね」


イサナ「誰を乗せていなくてもですよ、高江さん」


その視線を送られている彼女を含め、周囲の人間は知るよしもなかったのだが

高江 エルは所謂 レズ というやつであった。

完全に余談

レズ、正しくはレズビアン

広義では日本で親しまれるところの百合も含まれるのだが

この百合、深くはレズな女性に惹かれる男性も一定量存在するわけで。



さて、男には女性のそれに処女性というものを求める傾向にある輩もおるのだが

百合な女性とは、それだけ男性とまぐわう機会が制限されるというものであり

そうするところ、逆算すればある程度の処女性が確保されているという発想もなくはない


処女性とは、まるで地に降り積もった初雪のようなものであると例える人がいた。

一面真っ白な雪が、こともあろうに野暮なスニーカーなんぞにドカドカと踏み荒らされた泥まみれの風景を見て、ゲンナリする人間は少なくないだろうということなのであった。


しかしながら、そこにレズビアンを見た時に
雪の地面に着いた足跡といえば、せいぜい女物のブーツの形が残ったくらいである

それはそれで、まあある意味
情緒があると言えなくもないと


まあそんな感じである。



さて、話は脱線したが

どうやらそのエルとイサナは
これから二人だって車に乗るらしい

もちろん海岸沿いを行くようなムーディなドライブではなく、仕事である。


エル「それでは、少しそこまでドライブしてきます」


「いやいや仕事だかんね、そこ履き違えないようにしてよ」


イサナ「仕事ですよ、高江さん」


エル「………………うん」


明らかにそれは、男の言は無視したような態度であった。

これでよく彼女がレズでないとバレないものである
もしくは、ある程度の嫌疑はかかっているのかもしれないが




区役所に隣接している立体駐車場にて

エルは車体の横に" 区役所 特市課 L"と書かれた黒のセダンの鍵を開けると

さも当然のように助手席のドアを開けて、イサナが先に乗るよう促した。


エル「さ、どうぞ」

イサナ「どうも、いつもすみません」

エル「……いいえ」


どうやらこれは二人のいつものやりとりのようなのであった。


暑く、湿気がひどくむっとする車内にあって
彼女は、少しばかりエンジンをかけるのを不自然でない程度に遅らせると

隣に座った女性の横顔を盗み見た。


車内の熱気に当てられて、ほんのりと上気したその朱色の頬

実のところ、猫の毛が生えてよく見えるわけでもないのだが


イサナ「うあぁ、あついですね…高江さん」

エル「………そうですね」


イサナ「?」


ほんの数秒ないくらいの時間、
それを堪能してから

彼女は車にキーを差し込んでエンジンをかけた。



エンジンを始動させるだけでえらく時間がかかったような気がするが


それ以降は驚くほどスムーズに車は街中を走りぬけて
あっという間に目的地に到着した。


イサナ「相変わらず、運転上手ですよねエルさん」


エル「……ええ、そうね」


市街地から離れ、畑の中の田舎道に入った先

道端に一本立った標識のそばに車は止まった。


その標識の板には"小人注意"の文字が書いてあった。


イサナ「これ、ですか?」


エル「そうね…これね」


目的地はまさしくこれなのだった。


掲げられた"小人注意"の文言のごとく、この周囲の畑には
実は彼らの集落がそこかしこ点在していたのだった。


「おっ、また役所の人間か、いつもたいへんだな」


「おうっ、その看板付け替えちまうのか、今度のデザインは気に入ってたのによぉ……っと」



何人かの小人達が草むらから這い出てきては役所の人間を物珍しげに眺め

女性らの下着でも覗けないものかとウロチョロしたのだが、あいにく二人ともパンツルックであった。



イサナ「こんにちは、小人さん」


「ひえっ!?猫だ!追い立てられて食われちまうぞ!」


イサナ「ひ、ひどいっ」


ちなみにネズミほどの大きさしかない彼らは、よく猫に追い立てられるので
誰しも程度の差はあるがトラウマになっている節があった。


エル「…………」


さて、件の表式であるが

その昔は夏の暑さに意識を奪われ
不用心に車道をさまよう小人達が、無残に轢かれてヒキガエルの死骸の横で息絶える事例が頻発したために

市民の要望があって設置することとなったのだが


この度、とある事情から撤去することとなったのだ

然るにその理由というのは


エル「ダメよイサナさん……役所の人間がそんな差別する言い方をしては」


イサナ「あ、そうでした、ごめんなさい"インセクタン"さん」


小人の "小" という字が差別意識を惹起させるとして何処ぞの人権団体からの抗議の声があがった

というの訳なのであった。


「なんでぇ、今度はまた随分とシャレたネーミングだなおい」


「おらァ前の"アントメン"ってのが気に入ってたんだがなぉ」


「俺は"ワスピー"ってのも良かったと思うで」


「いやいや"バグズライヴス"てのもなかなか」


「「「…ねーな」」」


とはいえ、実はこの名称を変更する作業というのも
もう何度目だよ、というくらいにやり慣れた事なのであった。

有り体にいって
飯の種、または議員になるためのダシ、
もしくは絵に描いたやうな偽善活動とかトントン


現場の人間はいつだって使いっ走りなのであった。


工具と脚立を車のトランクから持ち出して、
エルは手早くもその標識を道に埋まった鉄柱から取り外す作業にかかった。


イサナ「あの、私……何か手伝えることはありませんか?」


エル「いえ……ああ、脚立に登るからそれを押さえてて……手が汚れないように気をつけてね」


イサナ「はいっ、分かりました」


彼女が脚立に登り、金具を全部外して、標識の鉄板を小脇に抱えるまで一分とかからなかった。

本当に慣れた手つきである。


エル「じゃあこれ、脚立を片付けて……イサナさん」


イサナ「はい、高江さん」



この鉄板を持ち帰り、表の文言を書き換えてまた使い回す。

そして今度は何ヶ月もつのだろうか

なんて、そんな辟易するような
先の仕事のことはできるだけ考えずに

エルはまた、キーを回す手をほんの少しだけ遅らせるのだった。


イサナ「?…どうかしましたか?」


エル「い、いえ…なんでもないわ」




epi:
[ ネコ少女 と ドライバー ]

END

~標識を外すまでに~


エル「………あ、イサナさん見て…猫じゃらし」


イサナ「高江さん、いくら私がネコみたいっていっても流石にそれは……」


エル「……反応……しないの?」


イサナ「ええ、しません」


エル「……こう」

ヒョイっ


イサナ「?っ……」


エル「……それともこう」

クルクルっ


イサナ「ぐなぬぬ…」


エル「……イサナさん、あなた」


イサナ「違うんですっ!高江さん…これは、ほ、本能なので…!」


エル「………そう…」

クルクルクルポイっ


イサナ「にゃっ!」


エル「………………」


end



とくし-か
【特市課】
第10特区役所内設置の特殊市民生活安全課の略称、
もしくはその通称


【篤志家】
篤志ある人。
特に社会奉仕、慈善事業などを熱心に実行 又は支援する人


ーーー


「あっ見ろ!スーパーダンディだ!」


「いや、バットジェットだ!」


「いや……って、なんだ飛行機か」


そんなことが日常化している世の中で

与えられた特異な能力をもって公共の利益のために安月給で働く公僕達が存在していた。

その望む望まずは別として……


彼らは、果敢にも巨悪と戦う組織ではない

異世界からやってきた侵略者とも

夜に蔓延る魔物たちとだって関わりたくはないのであった。



NEXT episode:
[トクシカ歩く、奔走せず]


epi:
[トクシカ歩く、奔走せず]



『でっへっへっへ!!がーっははっはっはっは!!!』


農地もちらほらと見える、街の中心から少し外れた住宅街

そこのそこそこ広い公園で、酒に酔ったような笑い声をスピーカーで響かせて


"ヴィラン"らしき輩がヤケにでもなったかのように
自慢の多脚戦車マシンでオラオラと暴れまわっていた。


背の高い機体から脚やアームが幾つも伸びてあちこち暴れまわる。

木だの電柱だのとを壊しまくり、辺りに迷惑を振りまいていたのだった。



『どーーだー!!思い知ったか!!テメエらなんか全員ぶっこわしてやるよぉお!!ちきしょーーがーー!!』



何故ここまで自棄になっているのかといえば

この男、齢50歳にして職を追われており、その鬱憤がつい爆発してしまったからなのであった。


しからばと自前の超人的な頭脳を活かし、長年の経験で培った技術を無駄に存分に発揮して、


この"タコ脚戦車"ともいうべきマシンを作り上げた。という経緯があるというのだが


これは逮捕した後に、尋問してなって分かったことであるし

たといこの時点で分かったとしても、それで同情できるかといえばそれもなし



「この糞ヴィランがー!知るかー!何がぶっ壊すだチキショー!!」


特に住宅ローンで買ったようなマイホームを壊されたとなれば
その憎さたるや、ひとしお といったところであろうか



『うるせぇえっ!!てめえみてえな家庭も家もある奴なんぞに分かってたまるかー!!』


「だから知らないっていってんだろうが!!このXXX、どわあっ?!」


『死ねーーーっ!!!』



「ったくこの、警官隊前へっ!」


「「はーっ!!」」


そんなヴィランに食ってかかる市民を避難させるためにも警官隊が前に出てマシンを取り囲むものの

なんら特別な能力のない彼らの威嚇など梨の礫であり、構わずヴィランの凶行は止まるとこ知らずであった。


『雑魚めが!』


「「うわーっ」」

「くっ、撤退だ!」


よって蜘蛛の子を散らすように、方々へ警官が命からがらといった風に逃げまわるだけであった。



「おーおーおー……何だかどうも大変なことになってなあ、ったく」


その様子を、一歩下がった場所からみていた男がそう呟いた。

男は30代手前のガッチリした体に支給されたであろう制服を着て、
シャツの腕には腕章をつけていた。

赤地に白い文字で "トクシカ"と書かれた腕章を


「まいった、早く話をつけないとだな」


男の名は"阿智 コウイチ"


彼の仕事は、目の前に立っているマッチョな男にいくらでカマを掘ってくれるかを相談することであった。


阿智「……そろそろ決めて欲しいんですけど、いくらならヤってくれるんで?」


「……う~む」



眼前のマッチョ男は全身にカラフルなタイツを着てマントを羽織り

遠くから見ても「彼はヒーローだ」と分かるような格好をしていた。


要は、彼は"ヒーロー"なのであった。

一応ではあるが


阿智「こっちとしても中々高待遇の報酬をしていると思ってるんですけど…まだ引き上げるつもりなんで?」


「さてな、それは互いに相談次第じゃないのか?」


阿智「………ふん」


一応というのは、
彼はいうなれば雇われヒーローというヤツなのであった。



いくら特殊なパワーを持つものと言えど、
殴られれば痛いし撃たれれば死ぬ


そんななかで、自ずから
しかも「無償で正義を為します」なんて物好きは、

まあ熱血ヤンキー少年かゴッサムのお金持ちくらいに限られるのであって


しからば、こういう荒事となると税金を投入してでも
政府はお雇いヒーローを外注するハメになるのであった。


阿智「(……メンドくさい役回りだなぁ、ったく)」


そして阿智という男は、その際にヒーローとの交渉役として使われる立場にいるのであった。


何故か、それは彼が法学部卒なので
というそれだけの理由であった。



阿智「そっちの要求額は高すぎですよ、せめてこの5割で……」


「それじゃあ動けない、こっちにも都合ってものがあってよ」


阿智「都合、ね……」


「来年から上の娘が大学いくってんでな、その学費が余計にかかることもあってよ」


阿智「……なら、コチラとしても他の方を当たる方向でも」


彼の役割としては、流れ出る出費をいかに低く済ませられるかということなのだが


それは、いかに相手のヒーローと駆け引きを巧妙に運べるのかが重要となるのだ。


阿智「……………」


だから、こうして今のように

後ろで暴れるヴィランを背にして、
面前のヒーローとの腹の探り合いをするというのが日頃の阿智の仕事であった。




阿智「……では、こちらの書類にサインを」


「……むう」


ヒーロー側の要求が10とするならば
阿智の言い分が5であったのだが


結果として払われる報酬は7ということになったのだった。


両者の平均をして、やや勝ちといったところであった。


阿智「では、よろしくお願いします」


「……うむ、仕方ないなっ!」



金の話さえ抜きにすれば、
中々に格好良く颯爽とヒーローは駆け出していった。


『むっ?!なんだ貴様は!!』


「観念しろ悪党、俺は…そういう人間だ!」



阿智「……子持ちのヒーローってのは、苦労しそうだよな」


敵のアームに殴られながらも、逆にそれを破壊しもぎ取っていくヒーローの姿を見て

彼は、同情というか
哀れみにも似た気持ちになっていたのだった。


ーーー


パワーを持った者は、法律によりその就職を制限される

かつて法曹界を目指した阿智は、
そのことをおよそ人一倍よく知る人間であった。



たとえば、未来視の力を持つ者は証券取引等の職には就けないし


頭脳に秀でる者はその知識の提供に一定の制限が設けられる


腕力やスピードに自信のある者は肉体労働に従事することは
原則としてこれも制限、または禁止になることも多々ある



なぜか



「超人的能力を有するものは、

就労に際し、その能力如何によって多大な利益を受ける場合、

又はその就労によって周囲の労働者の権利を著しく侵害する恐れのある場合は

その雇用を原則として無効とする」


というのが全国的に一般の考え方であったからだ


それはひとえに

職にあぶれることを危惧した、全ての労働者たちの安寧と権利保護のためなのであった。


ーーー


「…終わった…ぞ、ハァ…ハァ…」


阿智「ありがとうございました、ではこちらが報酬になります」


約束の金額を記入された小切手を、そのヒーローは泥と血に汚れた指先でうけとった。


「…ああ」


対戦相手のマシーンはというと

粉微塵とはいかないまでもアームのいくつかを引き千切られて畑のど真ん中で沈黙していた。


「くそっ!ちくしょう!ふざけやがって!この!この!!」


「こらっ!大人しくしろヴィランが!」


その操縦者だった男は、無力なまでに警官に押さえつけられ手錠とともにパトカーに押し込められていた。

それはそれはひどい恨み言を吐き散らしながら


阿智「……パワーのためにクビになって、そしてパワーによって逮捕される…か」



もしかしたら、彼もそのサイエンスパワーたる頭脳のためにクビになったのかと思うと…


なんて、それで何かを考え感傷に浸る段階は

この阿智という男はとっくの昔に済ませていたのだった。


他人なんぞの生活よりも、自分の明日のおまんまが余程大事なのであった。


加えてそんな感傷よりも、目の前のお仕事を片付けなければならなかった。


阿智「どうすっかな…あれ」


畑の真ん中に倒れ伏した敵のメカであったが

その姿が晒されてから数分ともたぬうちに、その土地の主が現れ


「こら公僕が!はようワシの土地からあの邪魔で暑苦しいものをどかさんか!!」


そのうちに、私有地の持ち主からは
公の奴隷だの税金ドロだのとありがたいお言葉を頂戴したのだった。


阿智「……ハァ、あの」


「…何か用か?役所の人間」


阿智「阿智です、折り入って頼みたいことがあるんですが」


事の解決としては、まだそばにいた
さっきのこのヒーロー然とした男に頼むのが手っ取り早いのだが

そのことを話せば、当然この男も難色を示すのだった。


「悪いがな、これから四番目の娘の誕生日のプレゼントを買いに行く約束があるんだよ、そんな時間はとれない」


阿智「さいですか、それはまた生活感溢れるお言葉で…」


確かに、あの象よりデカくて重い鉄の塊を持ち上げ歩いて


何処か適当な場所まで延々運ぶのは
常人であっても考えただけでウンザリする。



「じゃあな、俺はそういう人間だ」


とはいえ、そのことを踏まえて

台詞だけを残して飛び去っていく男の事情全てに納得できるほど

精神の出来上がった人間は少ない。


「ガミガミガキガミガミゴミゴミガミガミガミガミガキガミガミゴミゴミガミガミ!!!!!!」


激しい叱咤と、衆人環視の冷たい視線の中
彼はただ、誰とも視線を合わさず

必死になにも考えないようにしながら
持っていた携帯電話を取り出すのだった。


阿智「ああもしもし、高江さんですか?」


ーーーー
ーー



エル「……………」


電話によって現場に呼び出された高江 エルは、酷くストレスを感じ

そのことを惜しげも無く表情に出しているのだった。


阿智「スミマセン高江さん、まあ言うまでもなくヘルプってやつです」


エル「言わなくてもいいわ……大体のことは見てわかったから」


彼女の考えていることはただ一つ

可愛い後輩とのせっかくのドライブを取りやめて

どうして自分は冴えない30前の男といなければならないのか、ということだった。


エル「…………」


阿智「……あ~、今度ゴハンでも奢りますんで、それで手打ちにしてください」


それに何かを察して彼としては何ぞフォローをいれたつもりだったのだが、
それは文字通りに、むしろ逆効果であった。


エル「別にいいわ、それに……そのことで得するのは貴方の方でしょう?」


阿智「………ですかね」


エル「そういうこと話す時は…もう少し下心を隠す努力をしなさい」


阿智「あらら……なるほど、ね」


エル「そうすればお酒の一杯でも付き合ってあげないこともないわ……」


阿智「へえ、本当に?」


エル「ええ……」


勿論これは嘘である。




阿智「こう足場の緩い農地だと大型クレーンもマトモに入れないらしくて、それにまあ出動にもお金かかるので」


エル「なら、解体すればいいじゃない……こんなガラクタ」


阿智「一応、事件の証拠品扱いなんで、手荒なことはちょっと」


エル「……ハァ、結局は安月給の職員の使い回しってことね、いつもの」


阿智「なんだか、ノーギャラでバラエティにでる局アナみたいですよねぇ、こういうの」


私有地の中心にて、なお鎮座なさる機体に二人でよじ登って中を確認した。


コクピットはさっきのヒーロー様が操縦者を引きづり出した時に出入り口が壊されていたが

中は存外無事なようで、多少無理はしても動かせないことはなさそうであった。


脚の何本かが折れてはいるが


阿智「いけそうですか?」


エル「多分ね」


阿智「じゃあ、お願いします」


エル「…………ハァ」


言われ溜息をつきながらも
彼女は操縦席に無理やり入り込んで、

目の前の機材の電源を入れた。




高江 エルは、その天賦の才ともいうべき類稀な能力として

超人的に卓越した操縦技術を生まれながらにして持ちあわせていた。


車、バイク、飛行機、船舶、
その他全ての乗り物においての操縦が著しく高い水準で可能ということであった。


それは、たとえば造った本人でしか操縦できないような自作の機体においても例外ではない。


阿智「……おお、こんなんでも動かせるもんですね」


エル『当然よ、ただ……ここ男臭いわ、それにお酒も』


阿智「それはまあ、仕方ないですね」


エル『…………はぁ』


内蔵スピーカーから聞こえる声色にしても、やはり操縦面では問題なさそうであった。


関節をガタピシいわせながら機体が動きだすと、まばらな野次馬から声があがった。


別段賞賛の声でもないのだが


阿智「それじゃあいいですか?この先に市の駐車場がありますんでそこまで誘導します!」


エル『分かったわ……それじゃそふぎゃぁぁぁぁああああっ!!!』


途端、スピーカーから拡声された悲鳴が響いたと思ったら機体が傾いて倒れ始めた。


「きゃああっ!?」

「う、うわぁああっ!!」


あわや大惨事、野次馬に突っ込みそうになったところを何とか修正して誰もいないところに倒れたのだった。


阿智「どうかしたんですか?!高江さん!」


エル「…………………なん、でも、ない、わよ……」


それでも、粉々になったコンクリの地面を見て

また税金の無駄づかいか!、なんて思う市民も少なくはなかったのだった。




唐突な悲鳴の理由は、駐車場で機体を降りてから、
その姿を見てからはっきりした。


エル「…………」


阿智「…高江さん、その格好は」


中のコクピットで何かしらの油圧パイプが破裂したのか、

外に出た彼女は頭の先から黒い機械油にまみれていたのだった。


なんとも自作らしい、保証なきハプニングというやつである。


エル「…………」


阿智「…………」


エル「…………どう?笑えるでしょう」


阿智「……むりです」


油の滴る前髪の奥で、冷たい眼光がギラギラしていた。

それを見ながらでは、たとえ上等なジョークを聞いたとしても笑えないだろう。



エル「……こんな格好で、歩いて戻れっていうのかしら…」


阿智「タクシー呼んでも嫌な顔されそうですよね、それ」


エル「……………」


仕方なく、文句一つ言わずに黒い足跡を残しながらトボトボと足を動かした。


傾き始めた陽の下で、二人は見世物であるかのような視線を受けつつ
歩き続けるのだった。


実に慣れた様子で




[トクシカ歩く、奔走せず]

END

~電話をうけてから~

エル「……………………………………………………………………………そう………分かったわ、すぐ行く……」


阿智『今だいぶ考えましたね、高江さ』

ピッ

エル「……………」


イサナ「何かトラブルですか?エルさん」


エル「ハァ……ええ、何とやらを操縦しろって…呼び出しよ……」


イサナ「あぁ……えと、が、頑張ってくださいエルさん!エルさんなら大丈夫ですよ!だって運転上手ですし、それに…」


エル「……ありがとう、とりあえず近くまで行かせてもらってから、あとはこの車をあなたに任せてもいいかしら?イサナさん」


イサナ「はい!あ……すみません、私こんなだからバスとかにも乗れなくて……その」


エル「気にしないでいいわ、あとシートについた抜け毛も片付けなくていいから……あなたなら仕方ないことなのだから」


イサナ「いえ、それぐらいはさせてもらいます、ガムテープは常備していますので!」



エル「………そう、本当にいいのに、悪いわね」


イサナ「いえいえ、当然です!」


end


ーーー
高江 エル

性別:女性
年齢:27歳

超人的な運転テクニックを有し、
その人間離れかつ洗練され過ぎた操縦スキルは全てにおいて常人の理解を超えているとも


長身で線は細い
ならびに同性愛者である。

ーーー



著名なヒーローとなると、それなりにいい稼ぎをする者も多く


なんとならんや、めぼしい能力を持った奴らは


「誰が好き好んで安月給の公務員なんぞ、なってたまるか!」と

ほとんどが公僕試験にそっぽを向いてしまうのだった

なんともバブリーな話である。


ところで、パワーを持つものは得てして尊敬されもするのだが

それは裏返しに妬みの対象になることも少なくないということでもあった。


大人の社会においてそれはやや複雑に、込み入った事情において現れてくるのだが


こと子供の世界では、それは思うよりも単純に

そしてずっと顕著に表面化するのであった。


ちなみに、公僕はそのパワーの有無に関わらず
妬みやっかみは茶飯事である。



NEXT episode:
[こちら"特市課相談窓口"]

ぬぉおあ、世界観解説[田島「チ○コ破裂するっ!」]きもぢいいのぉぉおおっほおおおお!!!!
……もう読む側にしてみれば「だからなんだ」だろうね
読みづらくて目の滑ること滑ること
ああ離れる離れる

二又一成のナレーションで薔薇の形の爆煙の話聞き続けるみたいな…


epi:
[こちら"特市課相談窓口"]


特市課、

市民生活安全という題目を掲げるだけあって
その仕事には市民の健全な生活を推進していく義務がある。


もちろん、ノーマルとは程遠い特殊なケースにおいて
という意味だが



瀬箕「どうも、相談役の瀬箕です、よろしく」


窓口に座った"瀬箕"という男は、名は体を表すのごとく

頭だけはまるきりセミのような形をしていた。


それはさながら古き良き東宝特撮を彷彿とさせる姿である。


頭の両端にギョロリとした目がついていて口元には口吻という針のような管が伸びていた。

初見だと少々たじろぐかもしれないが、よくよく見ると愛嬌のある顔に見えなくもない




瀬箕「今日はどういったご相談でしょうか」


その彼が、カウンターの向かいに座った相手に物腰柔らかに話しかける。

今日の相手は小学校高学年くらいの女子であった。


「その、今日はその……学校のことでチョット、相談したいことがあって…」


ここには、たまにだがこうして悩みを抱えた学生が訪れることもある

その資質から、彼女のような生徒たちは教師では相談にのってもらえないのだった。


瀬箕「ではとりあえず名前を……苗字だけでも結構ですよ」


ミユリ「いえ……沢木です、沢木 ミユリ」


瀬箕「では沢木さん、あなたは学校生活について相談したいとのことですが、それは…能力のためにですか?」


ミユリ「…………」


そう言われ、少女は伏し目がちに頷いた。



瀬箕「沢木さんは、いわゆる普通の学校に通ってますか?」


ミユリ「はい、あの……お母さんがそうしろって」


瀬箕「なるほど、貴方は普通の子供なんだから、そう言われてですか?」


ミユリ「………はい」


瀬箕「…………ふむ…」


こういうことは、よく聞くことだった。

つまり、能力持ちと思われたくなくて特殊なパワーを持った人々の学校 (大抵は山奥にある全寮制の学校) にいれず、

近所の学校に子供を通わせる親の話だったが、


大抵そういうのは親が思うような方向へは運んでくれないのだった。


そう、多くのケースでは子供同士の関係に軋轢が生じるのがほとんどである。


瀬箕「なるほど、なるほど……」


瀬箕「……具体的に何かあったのか聞いても?」


ミユリ「……あの、私その」


瀬箕「はい……」


ミユリ「時々、スゴく……爆発しそうになるんです、感情が」


瀬箕「というと?」


ミユリ「…お父さんは"衝動"っていってました、能力がある人はかならずそうなるって……」


瀬箕「ええ、自らを発散させたくてウズウズするんですよね、分かりますよ……うちの知り合いにも何人かいますから」


ミユリ「でも私のは……すごく危ないんです、だれかを傷つけたくて……その、ガマンできなくなるような」


瀬箕「………ふむ」


ミユリ「ときどき、頭に浮かぶんです……100通り以上も、人を傷つけられる方法が…想像できて、全部言えるんです」


瀬箕「それは、誰かに教えてもらったということは?」


ミユリ「……ないです、そういう内容の映画だって…みたこともないのに」


瀬箕「……………」



恐ろしく難儀なことだと、彼は素直にそう思った。


こんな小さな体で、そんな欲求を日々押さえつけいるのかと思うとゾッとする。


誰も望んだわけでもないのだが

彼女だって


ミユリ「このあいだ、下校途中に同じクラスの子が……男の人にからまれてて…それで」


瀬箕「…………」


ミユリ「誘拐、されそうだったから……気がついたら筆入れからボールペンをだしてて、その人のノドに…」


瀬箕「…………」


それ以上、彼女は言葉を続けられなかった。
そこが限界だった。


だが幸いにも、この近所でボールペンがノドに刺さって死んだ人間のことは聞いてない


きっと他所の方で内々に処理したのだろうと、
彼はとりあえずそう思うことにした。


ミユリ「…………うぅ」


しかし人の口に蓋はできない、

噂はどこからか伝播して彼女は学校で孤立してしまっているのだろう


危ない奴だとか、気狂いだとか
周囲から距離を置かれて一人、教師だって手に余るはずだ




瀬箕「……すべきことしては…とにかくそれをコントロールすることです、専門の機関ならば当然にそういった教育を受けているはずなのですが」


ミユリ「…………はい」


瀬箕「……あなたの場合は、事情が事情ですから……しかし、ふむ」



こういう時、彼は己の限界を感じるのだった。

何十年も相談役として、日常の中で能力に苦しむ人々の相談を聞いてきたが


いかんせん、若い子の考えが分らなくなってきていた。


事務的なことならばいくらでもスラスラと言える、

だがしかしこういう子には、
そんなことを言っても詮無いことだと
それだけは、彼にも分かっていたのだった。


ミユリ「…………」


学校にも社会にも、親でさえ彼女の味方にはなってくれない


そういう子供が、ヴィラン達に取り込まれて悪事に走ることだってあり得る。

それだけは防がなければ、なのであるが



さてどうしたものかと暮れていた最中に、
そこへ明るげな足取りとともに若々しい気配がやってきた。



イサナ「ただいま戻りました…ってあれ?お客さんですか?瀬箕さん」


瀬箕「ん?お、おお、鮭川ちゃんか…おかえり」


「お、戻ったのか若いの、高江さんの方はどうだ?」


イサナ「はい、車は私に任せて阿智さんとは歩いて帰ってくるそうです、課長さん」


「そ、ならいいけど、きちんと仕事しとるようで結構けっこう」


ミユリ「……猫?」


イサナ「え、はい?なんですか?」


ミユリ「猫の人?も、ここのお仕事の人、なんですか?」


イサナ「猫の人じゃなくて、鮭…じゃなくて、イサナっていいます」


ミユリ「イサナ、さん?」


イサナ「はい、お嬢さん」



瀬箕「鮭川さん、こちら沢木 ミユリさん、今日は相談事があるとのことだったんだがちょっと相手してはくれないかな?」


イサナ「はい、えと」


彼女は平均より小柄ではあるが
猫らしい骨格の要素が混じっているので多少背の高い爪先立ちをしている。


椅子に座って、自分のことをジッと見上げる少女を
彼女も見つめかえした。


純粋な、キラキラした子供の無垢な瞳

それが、目の前の可愛い可愛い珍しい愛玩動物を見つめていた

ネコを見るように、そうまるで
ペットを見るような

人間として扱っていない目だ


イサナ「ミユリちゃん、あっちのソファでお姉ちゃんとお話ししよっか」


ミユリ「う、うん…あ……はい」


イサナ「えへへ~、ネコさん相手に遠慮はいらないよ~」


ミユリ「えと、じ、じゃあ…」



手をつないで歩く姿は、姉妹か
先生と生徒のようにも見えた。

その様子を後ろからみて、瀬箕は今さら嫉妬するわけでもないが、自分の至らない部分を再確認していた。


瀬箕「……ふぅ、なんというか、あれだな、課長」


「ん?なにが?」


瀬箕「相談役なんてやってるが、もう引退かねえ、そんな気がするよ」


「なに言ってるんですか、亀の甲よりなんとやら…含蓄ある御仁の言葉に安心する人もいるんですから」


瀬箕「だがなぁ、阿智のするような法律の話はイマイチ分らんし……子供との話は出来んしではな」


「ああ、鮭川さんね…ここに来る前は保育の先生になりたかったそうで……だからあれで子供の相手は好きなんだそうですよ、あの子」


瀬箕「……………そうか」


「……彼女もあれでいろいろあるんですよ、ねえ」



時代に取り残されつつある老年というか

年上の部下というのは扱いづらいなと、課長とやらもまたつくづく痛感する


瀬箕「硬い殻にはいったまま60うん年、いつになったら羽化するものかね…」


「でも羽化したら死ぬんじゃないの?7日くらいで、瀬箕さんも」


瀬箕「だろうな、ああ……今のは比喩だ」


「あっ、比喩ね…なるほど、殻を破りましょうってことですか」


瀬箕「解説せんでいい」


「いっそ硬いついでに今度は前線で地雷探しでもしてみますか?まだまだ体がご健在なら」


瀬箕「地雷探しとは、なんと物騒な………あっ、比喩か」


「ええ、そうです」



ミユリ「あの、頭…なでてみてもいいですか?」


イサナ「どうぞ、服に毛が付かないように気をつけてね」


ミユリ「はい、あ…なんかすごいサラサラしてる」


イサナ「うん、ここの先輩にね、シャンプーの上手な人がいてよくその人に洗ってもらうんだ~」


ミユリ「へぇ…あ、そういえば…いい匂いもする」


イサナ「でしょ~」


さらさら、ナデナデと

ネコが猫なで声をあげて

いっときのことではあるけれど、多少は少女の悩みも和らいでいるようにも思えた。



[こちら"特市課相談窓口"]

END

~体を洗え~

阿智「すみません、ありがとうございました」


「いいえ、いいんですよこれくらい、それじゃあ」


エル「……………」

ポタ ポタ


阿智「よ、よかったですね、近くで体洗うのに水道を貸してくれる人がいて」


エル「園芸用の水道シャワーで体洗う羽目になったけれどね……へっくし!」


阿智「着替えとか、しなくていいんですか?」


エル「いいわよ……別に、夏なんだし、乾くのを待つから」


阿智「はあ…」


エル「それに、あなたに下着を買いにいかせる訳にもいかないでしょう?」


阿智「それもそうですよね」


エル「………へっくし!」


end

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