女「娘さんから通報を受けました」(29)


男「娘から?婦警さんにですか?」

女「私にではないですが、交番に直接来られまして」

男「はぁ....それで、娘は一体何故通報したのですか?」

女「お子さんはあなたから虐待を受けていると訴えて来ました」

男「.....」

男「そうですか....」


男「それで、娘は今何処に?」

女「今は署で預かっています」

男「そりゃ御迷惑をお掛けしました」

女「いえ、それより詳しい話を聞かせてもらっていいですか?」

男「詳しくと言われても....僕は虐待などしていません」

女「確かに身体に仇など目立つ傷は見受けられませんでした」

男「....」

女「しかし娘さんの訴えは暴力による虐待ではなく、セクシャルに関する訴えです」


男「....」

女「毎日裸にさせられて身体を触られると訴えていました。心当たりはありませんか?」

男「....」

女「どうされました?質問に答えて欲しいのですが」

男「そうですね。娘が言っていることは事実です」

女「....」

男「ただ、僕は決してセクハラをするつもりで娘を触っているのではありません」

女「では、何故ですか」

男「娘に不備がないか点検するためです」


男「娘の身体に仇がないか確認されたと言うことは既にお気付きではないですか?」

女「....」

女「背中に大きな蓋のような物がありましたね」

男「あそこから電池を取り替えるんです。娘の電池は三日ほどしか保ちませんので」

女「....娘さんはロボット、ということですか?」

男「そうなりますね。僕が自作しました」

女「....」

男「もしよろしければ中に入ってじっくり話を聞いてください」


女「おじゃまします」

男「どうぞ、そちらのテーブルにお掛けください」

女「どうも、ありがとうございます」

女「....」

女「物凄い発明の数々ですね」

男「どれもこれも失敗作ですけどね。娘を発明するための過程のようなものですよ」

女「娘さんは本当にロボットなのですか?まさか改造人間とか」

男「ハハッ、流石に僕もそんな犯罪紛いなことはしませんよ。僕はただ純粋に娘が欲しかっただけです」

女「....」


男「勿論、僕が娘を手に入れた方法が正攻法でないことは十分承知しています」

女「....」

男「もしよければ、僕が娘を作ったきっかけを聞いてくれませんか?」

男「少し昔の話になりますけど」

女「....」

女「....どうぞ」

男「ありがとうございます」

男「恥ずかしい話ですが僕が娘を作ろうと思ったのは、僕自身が誰からも愛されない存在だったからです」

女「....」


男「何と無く察しがつくでしょ?歯はボロボロで髪は抜けている。その上痩せ細った骸骨のような人間」

男「そんな僕が誰かに求められる理由がないんですよ」

女「....」

男「そうでなくても、親にすら求められることのない存在だったのですからね」

女「と、言いますと」

男「僕は物心ついた時から虐待を受けていました」

女「虐待....」

男「今思えば地獄のような日々でした。ってすみません、愚痴っぽくなってしまって」

女「いえ、気にせず続けてください」


男「....」

男「当時の僕は毎日両親に殴られたり家を追い出されたりしていました。三日三晩家に入れないようなこともありました」

女「三日三晩....ですか」

男「はい、ゴミを漁ったりしてなんとか食いつなぎました」

女「....」

男「結局何故こんな虐待を受けていたのかは今でも分かりません。やはり見た目が原因なのかもしれませんね」

女「....」

男「虐待が終わったのは僕が十四歳の誕生日を迎えた日のことでした」


女「....」

男「両親が交通事故で亡くなったんです。正直最高の誕生日プレゼントでしたよ」

女「....」

男「まあその後が大変でしたけどね。親戚にはたらいまわしにされるどころか拒絶されてしまいまして」

女「....」

男「僕は養護施設で生活することになりました」

女「....」


男「そこで僕は過食症に近い病を患うことになりましてね」

女「過食症?」

男「ご存知ないですか?ストレスなどが原因で過食してしまう病気のことです。僕は嘔吐が伴いました」

女「いえ、過食症は普通女性が多いと聞いたことがあったので」

男「確かにそうですね。しかし僕の場合は少々変わったケースでして」

女「....」

男「与えられた一人分の食事が僕にとって多過ぎたんです。しかし残す訳にもいかず無理に詰め込んで」

女「....結局吐いてしまう」

男「そうです。皮肉なことに虐待で食事量が必要最低限であることに慣れてしまっていたんです」


女「....なるほど」

男「嘔吐の影響で僕の歯はボロボロになりました。そして吐くことへのストレスで毛が抜けてしまい」

女「....」

男「十五になる頃には今に近い見た目へと変貌していましたね」

女「....」

男「それ故に僕は誰からも愛されることがありませんでした」

女「....」

女「そんなことはないんじゃないですか」


男「....」

女「失礼なのは承知して言いますが確かに同世代に恋愛対象として見られるかどうかは私にも分かりません」

男「....」

女「しかし、家族や友人として愛してくれる人はいたのではないでしょうか。施設の方々や学校の友人とか」

男「....」

男「なかったですね。学校では僕がそこにいないかのような清々しい無視をくらい、施設では常に悪愚痴を吐き捨てられていましたから」

女「....そうですか。すみません」


男「いえ、思ったことを言ってもらえる方が同情されるよりも気が楽になります」

女「....」

男「....」

男「娘が欲しいと思ったのはそんな人たちのことを反面教師にして自分なら上手く育てていけると思ったからです」

女「....なるほど」

男「そして自分が誰かから求められる存在でありたかったのです」

女「....」

男「でもどうやらそれも徒労に終わりそうですね」


男「金がないから高校にも行けず、その代わり図書館に通い詰めて工学を学びました」

女「....」

男「十五の頃から私は娘を作り出す気でいました。そして苦節三十年、叶った夢はやはり夢幻でしたね」

男「本当に娘のことを機械だと思ったことは一度もありません。愛娘は自分で学ぶことができる一人の人間だと信じていました」

男「そして、私の愛情を受け入れ私を愛してくれると信じていました」

男「しかし、どうやらそれは私の勘違いだったようです。虐待を経験した人間が子供に虐待をしていると訴えられるとは。哀れな末路です」


女「....」

女「私はそうは思いません」

男「....」

女「私は、あなたの努力が無駄だとは決して思いません。娘さんは思春期の女児のように多感になっていたんだと思います」

男「あなたにそう言われても私は一体何を信じればいいのか分からなくなってしまった」

女「....」

女「二つ、謝らなくてはいけないことがあります」


男「なんですか」

女「娘さんに頼まれてましてね、今までの会話受話器越しに彼女に届いているんですよ」

男「....盗聴ですか。警察官が」

女「申し訳ございません。そしてもう一つ、実は娘さんはすぐ側で待機しているんですよ」

女「私がドアを開ければ、いや、もうこの会話を聞いているならすぐに入ってくると思います」

男「....」

ガチャ

娘「....」


娘「ごめんなさい、父さん」

男「....」

娘「私、怖かったの。父さんがいつか私を壊すんじゃないかって」

男「....」

娘「点検と称して解体されるかもしれない。電池を外してそのまま放置されるかもしれない。そう思うととても怖かったの」

男「....」

娘「電池が取り替えられる瞬間、私の意識がなくなって何も考えられなくなるのが怖かったの」

娘「私は一人の人間として生きていたい」


男「....」

男「そんなの、決まってるじゃないか。私にとってお前は人間と同じだ。私一人がどうこうしていい命じゃない」

娘「でも私は父さんを裏切ったわ。何よりも大事な信頼を失ってしまった」

男「....確かにそうかもしれない」

男「でもそれは父さんがお前に何も話さなかったってのが原因だろ?どうして僕がお前を作ったのか。その理由を知らないまま生きていくお前はとても不安だったと思う」

娘「....」

男「すまなかった。お前の気持ちに気付いてやれなくて」


娘「私の方こそ、ごめんなさい」

娘「....本当に、ごめんなさい」ポロポロ

男「泣かなくていいよ。またお互いに信頼できる存在になっていこう」

女「私はお邪魔みたいですね。度々の無礼、本当に申し訳ございませんでした」

男「いえ、その、ありがとうございました」

女「事情は把握致しましたので今後この件で私がここに来ることはないと思います。それでは、失礼します」

ガチャ


男「....」

娘「....」

男「....さて、それじゃご飯にするか。何がいい?」

娘「....カレーライス」

男「そうか。じゃっ、買い物に行くか。今夜は夏野菜のカレーライスだ」

娘「うん!」

~完~

終わりです。ありがとうございました

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