穂乃果「センチメンタルな足取りで」 (179)

少しシリアス

各業界についてのことは全て私の妄想です。現実とはかけ離れていると思います。


自己解釈がたくさんあります。



珍しくドロドロしません。


よろしくお願いします。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406438776


穂乃果「はい! えっとこれはどこ……ってうわぁっ!!」



師匠「高坂! なにしてんだ、お前は!!」


穂乃果「す、すいません! えっと、えっと」


師匠「早く拾ってそこおいとけ!!!」


穂乃果「は、はいっ!!」



師匠「いい加減こんな簡単なことでつまづいてるんじゃねえ。お前もう五年目だろ」



穂乃果「はい……」



師匠「いくら高坂さんとこの娘さんとはいえ、俺だってそんなに寛容な人間じゃねえんだ」



師匠「この仕事、向いてないんじゃないのか」




穂乃果「っ……」

◇◇


穂乃果「はぁ……」


穂乃果「またやっちゃった」


穂乃果「……」


穂乃果「向いてない、のかな」



 アパートの階段をゆっくりと登る。一歩一歩踏みしめると老朽化からかギシギシと音を建てる。





穂乃果「はぁ」


 アパートの扉を開ける。もうただいまも言うことは無く成った。


穂乃果(一人暮らしだもんね……)


 家に帰っても一人っていうのは想像していた異常に寂しい。



穂乃果「疲れた」


穂乃果「お風呂の掃除も面倒だし……シャワーでいいや」


穂乃果「最後にお風呂入ったのは、いつだったっけ……まあ、いっか」


 私は服を乱雑に脱いでカゴの中に入れる。

 もうカゴの中もいっぱいだ。


穂乃果「洗濯は週末でいいや……」


 カゴの中の洗濯待ちの衣服から目を背け、私は浴室に入る。

 キュッとシャワーの栓を開けると弱々しい水圧の水が流れ出てきた。



穂乃果「つめた……」


 冷たい。シャワーが水からお湯になるまでの間、前までならぼーっと待っていた。


 でもなんでだろう、最近は頭から水を被ることが多かった。


穂乃果「……」


 頭が冷たく、身体が冷たく。

穂乃果「ぅぅ……ぅぅぁあああ」




 頭から被れば、きっと涙が流れても大丈夫。

穂乃果「……戻りたい」



 思い浮かぶのは高校時代のこと。
 スクールアイドルとして活躍していた、私が一番輝いていた時期。

 徐々に水がお湯へと変わってくる。



穂乃果「……あったかく、ないよ……」

 心が、冷え切っていた。

 なにをしても失敗ばかり。もう子供じゃいられない。笑ってばかりじゃ生きていけないんだ。


 一通り浴室ですることをして、居間に戻る。



 8畳一間のこの部屋が今の私にとっては全て。安心出来る場所。泣ける場所。笑える場所。


 小さな冷蔵庫を開けて、中から酎ハイの缶を二つ取り出す。

 人工甘味料とかその他諸々身体に良くないものがたくさん入ったお酒。すぐに酔えるように9%くらいの強めのお酒を選んでいる。



穂乃果「んぐ……んぐ……」


穂乃果「ひっぐ……ぅぅ」

 お酒を飲むと、自分を抑えられなくなる。感情が。


 自然と涙が出てくる日もある。


 ぁあ明日も仕事だ。


 早く飲んで早く寝なきゃ。



穂乃果「みんな……」


 二本のお酒を飲み干した私は、倒れるようにベッドにダイブする。



 枕も洗濯しなきゃ。泣きすぎて、もうダメになりそうだもん。




穂乃果「会いたいよ……」

◇◇


穂乃果「もぐもぐ」


 朝は適当に買ってきたパンをジュースと共に口に流し込む。五分で終わる。


 昔からのくせでたった五分でもテレビをつけてしまう。普段はすぐに朝食も終わるので、テレビもすぐ消すのだが、今回は少し状況が違った。




穂乃果「あ……」





穂乃果「――にこちゃん」






 朝の情報番組。それは比較的賑やかな番組で教育番組なんかとは違う。バラエティの紹介だったり、今話題のことについて特集が組まれる。



 ちょうど新しいドラマが始まる周期ということで、今はドラマの特集だ。



 何人か主要な出演者がインタビューを受けている。


穂乃果「……夢、叶えたんだね」




 そこには髪の毛を降ろして清楚なイメージの矢澤にこの姿があった。

 最初はどこかのアイドルグループに所属して、何年か経って卒業。そこから何故か演技力がとても評価されて、ドラマでちょくちょく見るようにはなっていた。




 ぶりっこのあの、にっこにっこにーと言っていた矢澤にこはもういない。



にこ「あ、はい。えっと今回は初めて主要な役をやらせていただけて本当に光栄です」



にこ「主演の桜井さんに迷惑をかけないよう精一杯最後まで頑張ろうと思います」


 桜井という人気俳優が真面目すぎるにこちゃんに対して、ゆるやかなフォローを入れる。


 それに対してにこちゃんも先ほどとは違い少し柔らかく反応していた。




穂乃果「……なんだか別人みたい」


 きっと今のにこちゃんは幸せなんだろう。現にアイドル時代はにっこにっこにーもやっていた。



 時々バラエティに出るとそのネタで弄られたり、とかもある。


 
 穂乃果「あっ、早く準備しなくちゃ!!!」


 見るともう少しで時間が来てしまう。髪の毛もボサボサ化粧もしていない。



 私はにこちゃんのインタビューを最後まで見ることなく洗面台へ向かった。

◇◇


 今日は無難に仕事をこなして怒られることも無かった。



 お昼休みだけど、比較的長い時間貰えたから、私は公園のベンチでお昼を取ることにした。……パンだけど。



穂乃果「もぐもぐ……うーん、あったかくなってきたなー」



穂乃果「むしろ熱い……?」


 ゴールデンウィークもつい先日終わって、世間は五月病とかなんとか言われている。

 パンを食べ終わって、お店から持ってきて和菓子の袋を取り出す。



 これは店長……まあ私の師匠が作ったもの。


 ただの水まんじゅうなんだけど、私が作ったものとは大違い。なんで、こんなに違うんだろう。



 お父さんにも全然負けていない。




 二つあるうちのひとつを食べ切ったところで、なにやら公園の隅から声が聞こえてきた。

「うっさいわね、もうついて来ないで」



「はあ? 早く離れてって言ってるのよ!」


「言わなきゃわからない? フッたの、あんたを。今、ここで」


「ちっ……うるさいって言ってるじゃない。仮にも医学生でしょ? ここには他の人もいる公共の施設。いちいち喚かないで」


「そんなんじゃ私以外にもどんどん逃げられるわよ。じゃあね」


 なにやら、恋人同士の言い争いみたいだ。女の子の方がフったらしい。


 贅沢な話。私なんてまだ恋愛したこと、ないのに……。


 あれ、でもなんだか聞いたことのある声。

 私が恋人が争っていたところを見る。



穂乃果「え……」





 少し離れたところにいたのは見知った顔。



 サングラスを胸元に掛けた、少しのつり目に恐ろしいほど整った顔とプロポーションの女性。遠目から見るとまさにモデルのようだ。





 ――真姫ちゃんだった。




 こちらに歩いて来ていた真姫ちゃんと目が会う。何年、ぶりだろう。癖毛で巻き髪だった髪の毛は、さらに伸ばしてストレートになっている。



真姫「……穂乃果……?」


真姫「穂乃果!!!」

穂乃果「真姫ちゃん!!!」



 私は久しぶりに会う当時の仲間に心が踊って、すぐに立ち上がった。



穂乃果「真姫ちゃーん!!!」ギュー

真姫「ちょ、いきなりなによー!」

穂乃果「えへへ、真姫ちゃん。真姫ちゃんだー!」



真姫「もー、久しぶりなのに台無しよー」

穂乃果「久しぶりだからだよー!!」



 久しぶりに笑った気がした。もっともっと可愛く美しくなった真姫ちゃんは見ているだけで幸せになった。


 真姫ちゃんがみんなに目立つから、とか言って私をベンチに誘導する。


真姫「本当に久しぶりね」



穂乃果「そうだね。元気にしてた?」


真姫「うーん、どうかしら」

 真姫ちゃんが足を組んで、頬杖をつきながら微笑む。少し小悪魔的でなんだか妖艶な雰囲気にどきりとする。



穂乃果「やっぱり医大って大変なの?」


真姫「大変よー」


真姫「ストレス発散しないとやってけないわよ」

 ストレス発散……。私は先ほどの真姫ちゃんと男の会話を思い出す。



穂乃果「……さっきのは彼氏?」


真姫「彼氏だった人」

穂乃果「そ、そうだったんだ」


真姫「なんかつまんなかったから四日でフっちゃった。まあ次の人探せばいいかなー。きっとすぐ誰か告白してくるでしょうし。」



穂乃果「す、すごいね……」

真姫「そう?」


穂乃果「いままで何人くらいと付き合ったの?」



 真姫ちゃんが指を折りながら数え始める。10を超えて20にさしかかったあたりで数えるのを辞めた。



真姫「んー覚えてないわ」


穂乃果「嘘でしょ……」



真姫「穂乃果は?」


穂乃果「え?」

真姫「彼氏とかいないの?」



穂乃果「うーん、そういうのはあんまり……」



真姫「そうなの? 私が男だったら穂乃果のことなんて放って置かないけど……。世の中の男って馬鹿ねー」



穂乃果「いや……私は真姫ちゃんみたいにモテないし……」



 先ほどの真姫ちゃんの仕草を思い出して、モテる理由がわかる。可愛いもん、そりゃモテるよ。


 女子校だったからわからないけど、真姫ちゃんは広い世界に出ると引く手あまたなんだね。


 私が俯くと、真姫ちゃんが大きなため息をついて頬を両手で掴んできた。



穂乃果「んぐぅ……な、なに?」



真姫「穂乃果はかわいいわよ。ほら自信持って。穂乃果らしくないわ」


 私、私らしく……?


 私らしくって、なんだっけ?


真姫「久しぶりに会えたんだから、これからどこか行かない?」


穂乃果「私は仕事が……」



真姫「あ、そうなんだ。じゃあまた今度にしましょう。穂乃果は和菓子屋さんで働いてるんだっけ?」



穂乃果「うん」


真姫「へえそれな――」



穂乃果「ねえねえテレビ見た!? にこちゃんの!」



 私の話なんてどうでもいい。
 もっと、違うことを。




真姫「え、ええ。にこちゃんからメール来たし。見なさいよーって」



穂乃果「まだ連絡取ってるんだ」




真姫「最近忙しいみたいだから全然会ってないけどね」

真姫「穂乃果だって海未とかと連絡取ってるでしょう?」



 ……。

 海未ちゃん、か。


穂乃果「あんまり……」

真姫「意外……」


穂乃果「今日真姫ちゃんに会ったので、µ’sのメンバーと会うのは花陽ちゃんの結婚式以来かな」


真姫「かなり前よ!?」

穂乃果「みんな忙しそうだったし……」



真姫「……まあ私もにこちゃんとたまに会うだけだけど」



穂乃果「……」



真姫「寂しい……?」


穂乃果「うん」

真姫「……今度みんなで――」


真姫「……ごめん、今は集まれないわね」


穂乃果「……みんな集まらないと、意味ないからね」



穂乃果「でも、みんな夢を追いかけて選んだ道だから」



真姫「そうね」

真姫「なら私と会いましょうよ。今度」



穂乃果「え、でも、忙しくない?」


真姫「一応大学生だし、暇くらい作れるわ」


穂乃果「本当? じゃあまた今度ね!」



真姫「ええ」



真姫「あ、後で住所教えて!」


穂乃果「え? あ、うん!」



◇◇

穂乃果のアパート






穂乃果「夢か……」


 真姫ちゃんに住所を送ってそんなことを思う。

穂乃果「私の夢って……」




穂乃果『ねえねえ! スクールアイドルだよ! スクールアイドル!!』

穂乃果『廃校を阻止するの!』


穂乃果『この講堂を満員にします!!』


穂乃果『ラブライブ! ラブライブ優勝するぞー!!!』






穂乃果「――ずっと、夢見てたんだ」


穂乃果「今は……?」



 浮かんで、来なかった。


穂乃果「……」


穂乃果「わかんないよ……」

◇◇




雪穂「ねえ絵里さんは元気?」



亜里沙「元気みたいだよ」



亜里沙「まあ昔はあっちに住んでいたし、慣れてるってのあるから」


 亜里沙はストローで飲み物をずずっ吸う。



雪穂「そうなんだ」



 大学も卒業して、私は事務として働き出した。
 亜里沙はアパレル関係で働いているんだって。

 ことりちゃんみたいだね。



雪穂「どう? お仕事」


亜里沙「うーん、なかなか大変。まあ一年目だしね」


亜里沙「あとね、服を用意するのが大変なの!!!」


雪穂「亜里沙ならなんでも似合うでしょ?」


 はっきり言って亜里沙のスタイルは魅力的だった。


 高校に入るまでは私よりどこも小さいくらいだったのに、いきなり背と手足が伸びだして、胸も大きくなった。



 まるで絵里さんを見ているみたい。


 これが血の力……?




亜里沙「そんなことないって」

 私も亜里沙もスクールアイドルだった時代がある。


 その時に比べたら充実している、とは言えないけど、今は今でそれなりに楽しい。


亜里沙「そういえば雪穂、彼氏出来たんでしょー?」



雪穂「あー、うん、そうなの」


雪穂「亜里沙は?」


亜里沙「私はまだいいかなーって」



雪穂「ふーん、いっぱい告白されてたのに、勿体無い」



亜里沙「あはは、もう少し落ち着いてからかな」


亜里沙「――あ……!!」


 亜里沙が突然、私を指差して驚いた表情を浮かべる。



雪穂「なに?」



亜里沙「後ろ、後ろ!」

 言われるがままに後ろを振り返る。







雪穂「あ――希さん?」


 私の目に入ったのは、二人組で取材? のようなものをしている希さんの姿。


亜里沙「すっごい久しぶり!」


雪穂「そうだね。もう何年か見て無かったから」


亜里沙「声かけてく――」



雪穂「仕事してるみたいだし、邪魔しちゃダメ」

亜里沙「えぇ……」



雪穂「手振ったら気がつくかも?」



 亜里沙は一瞬落ち込んでからぱあっと明るくなった。

 そして真剣に聞いている希さんに向かって手を振った。

 すると、希さんは気がついたのかこっちを一瞬見て大きく目を見開く。



 そして小さく手を振って、それを見られて申し訳なさそうに小さくなる。


雪穂「あ……気づいてくれたね」


亜里沙「うん、なんだかすっごい色っぽいね!」


雪穂「あはは」

 
 その後私たちは、希さんに話しかけるチャンスを伺いながら二人で会話を続けた。



 やっぱり亜里沙が友達で良かったって思える。


 そして亜里沙と話していると、突然肩を叩かれる。


希「――久しぶりだね」


雪穂「の、希さん!」


亜里沙「久しぶりです!」



希「亜里沙ちゃんも雪穂ちゃんも可愛くなってー」

希「今年大学卒業したとこ?」


雪穂「はい」


希「若いってええねー。ウチなんかそろそろおばさんになってまうよ、あはは」


雪穂「そんなことないですよ!!」


雪穂「さっきまでなにされてたんですか?」


希「あー雑誌の取材やね」

亜里沙「雑誌……?」


希「そう、超常現象とかを特集してる雑誌なんやけど」



 希さんがその雑誌の名前を口にすると、私と亜里沙はあーっと口にした。亜里沙も見たことはないが聞いたことはあったらしい。



亜里沙「有名な雑誌ですよね! 凄いです!」



希「まだまだ下っ端やけどね」



希「いつか編集長になって、自分の好きな超常現象とか取材してみたいなぁ」

希「亜里沙ちゃん、えりちは元気?」



亜里沙「はい、元気にやってます」


希「そっかー。もうえりちがあっちに行ってから四年くらいかー」


希「全く……花陽ちゃんの結婚式にも来ないで。ことりちゃんもやけど」


亜里沙「どうしても外せない用事があったとかで……」


希「花陽ちゃんの方が外せないはずやん!?」


亜里沙「ま、まあ」


希「帰ってきたら説教やね」


雪穂「あはは……」


希「今日久しぶりにえりちと連絡とってみようかなー」


亜里沙「きっとお姉ちゃんも喜びます」


希「そうかな、ありがと。またみんなで集まりたいなー。じゃあウチはまだ仕事あるからー」




 希さんは手をヒラヒラと振りながら、店を後にした。


前にあったSSとタイトル被ってるな
めっちゃ気になるから期待


>>23あちゃ……本当ですか?
出来れば教えて頂きたいです

◇◇

穂乃果「どうですか……?」

師匠「……」



 時々ウチの店長、師匠から指定されたお菓子を作れと言われることがある。それはうでだめしでもある。


 今まで学んだことを出す場。その為に修行している。

 最初に修行。始めた時はそこそこ褒められたりもした。でもここ最近は全くダメだ。


 今回作ったのは、さっき師匠から貰った水まんじゅう。



 なんとか今回も、無難に終わらせたい。

師匠「……」



師匠「――お前、和菓子舐めてるだろ」



 飛んできたのは罵声。

穂乃果「そ、そんなことは……!」


 嫌だ、もう、嫌だ。

師匠「……」

師匠「お前、しばらく来なくていい


穂乃果「え……」

師匠「振りとかじゃなくて、本当に来なくていいぞ」



師匠「今のままいられても迷惑だ」

穂乃果「……」


師匠「一体お前に何が足りないか、それを考えて来い」





穂乃果「っ……はい」

◇◇


凛「んっー」



同僚の先生「星空先生はいつも身体を動かしたそうにしてますね」


凛「それはそうですよ。一応体育科ですよ?」



同僚の先生「……大丈夫ですか?」

凛「何がです?」



同僚の先生「周りの体育科の先生ってみんな男ばかりだし、なんだか怖そうな人ばかりじゃないですか」


凛「体育会系ですからねー」


凛「でも私、男っぽいって言われることもあるんで」



同僚の先生「私から見れば可愛いですよ? 生徒からも可愛い体育の先生が来たって評判です」

凛「本当ですか? でも舐められないようにしないとだにゃ……」



同僚の先生「にゃ?」




凛「い、いえなんでもありませんよ。あはは」

 危ない、昔の癖が出るところだった。




凛「私も早く非常勤講師からランクアップしたいなー」



同僚の先生「そうですねー。お互い頑張りましょうね」

凛「そういえば聞きました? 今日日舞の人が来るらしいですよ」



同僚の先生「日舞……て日本の踊りでしたっけ。日本舞踊」



凛「はい、ちょうど今日授業が最後まであって、見られるんですよ」


凛「なんでも結構な大御所だとか」



同僚の先生「へー、興味がおありなんですか?」



凛「少しだけ」



 日舞と言えば懐かしい人を思い出す。今も修行を続けているのかな。




凛「先生も見ていきませんか?」



同僚の先生「いやあ私はいいです」



凛「そうですか?」

 腕時計で時間を確認する。


凛「あ、そろそろ第一体育館で始まるみたいなんで行ってきます」



 凛は同僚の先生に笑顔を向けてその場を後にする。



 第一体育館に向かうと、そこには移動を始めている生徒の姿があった。一斉に移動するもんだから混雑っぷりは尋常ではない。



生徒「こんにちは!!」

凛「こんにちはー」



 あちこちから挨拶が飛んでくる。基本的にこの学校は先生とすれ違ったらあいさつするってなっているけれど、体育科の先生にはそれが顕著だ。やっぱり厳しいってイメージがあるのかな?




 凛も凛なんて一人称使ってたら絶対馬鹿にされちゃうもんね。

 私でいいのかな? 俺にする?



 なんてことを考えながら生徒の波に揉まれていく。



 ちょ、今胸に手が……!

 小さいから別にいいけどさ!




 第一体育館に入るとむんとした熱気が凛を包みこんできた。



 うーん、夏がきたらやばそう。



体育科の先生「お、星空どうしたんだ」



凛「あ、こんにちはー。ちょっと日舞に興味があって」



体育科の先生「珍しいな。俺は多分寝ちまうかも」


凛「意外と面白いですよー?」



 体育科の先生は生徒の前以外では基本的に年下は呼び捨てにしてくる。



 体育会系ってのはそういう世界らしい。

 星空って呼ばれるのは違和感がある。

 星空って苗字なかなかいないもんね?




 それにしてもやっぱり日舞に興味がある人は少ないのかな。



 先生も言っていた通り、確かに動きは遅いしね。



体育科の先生「でも今回来るのはなんか若い人だとか」



凛「へー大御所が来るっていうんで期待してたのに」

 そんなことを聞いた後、体育館は静まり返る。



 拍手とともに、日舞の人が体育館に入ってくる。


凛「……!?」

凛「――海未ちゃん!?」

 見知った姿だった。



 かよちんの結婚式以来あっていないけど、あれは海未ちゃんだ。



 紺色の着物を見にまとって、キリッとした横顔。



体育科の先生「若いな」


凛「……海未ちゃんだったんだ」


 海未ちゃんがステージに登壇して、マイクをつかむ。



海未「みなさまこんにちは。えー今回この中学校に呼ばれてとても嬉しく思っています」



海未「わたくし自身まだまだ修行の身ですので、拙いこともあるかもしれませんが、皆様に日本舞踊について知って頂ければと思います」



海未「自己紹介が遅れました。園田流を継承しています、園田海未と申します」



 丁寧な物腰。美しい長い髪の毛。
整った顔。

 綺麗……。



凛「海未ちゃん……あんなに綺麗になってたんだ……」




 日舞についての説明を始めた後、音楽が流れ出した。
 

◇◇



凛「海未ちゃん!!!!」



 校長室から出てきた海未ちゃんに精一杯大きな声で叫ぶ。廊下で大声を出したので周りにいた生徒や先生が少し振り返る。

海未「え……」


海未「凛……!?」

凛「海未ちゃーん!!」



 久しぶりに会った。最高の仲間。思わず抱きついてしまった。



凛「凛ね、寂しかったよー! みんなに会いたかったけど、そういう機会もないし」



海未「ははは、凛たら変わりませんね」



凛「にゃんにゃんにゃー、にしし」

 完全に忘れようとした自分を出していた。



 周りの人の視線が痛い。スクールアイドル時代の凛を知っている人もいるみたいで、可愛い可愛いとかからかわれてしまう。


 やってしまった……。



凛「ちょっと、場所移そうか」



海未「分かりました」




 昼休みに突入した学校は喧騒に包まれている。

 人気の少ない校庭のベンチに座る。

凛「なんできたのー!」



海未「本当は私の親が来るはずだったのですが、体調を崩してしまいまして」



凛「そうなんだ。綺麗だったよ!」


海未「恥ずかしいですよ……」



海未「凛はどうですか? 体育教師というと大変そうですが」



凛「大変だねー。まだ正規教員じゃないからお金も全然貰えないし……」



凛「でも子供達と一緒に身体を動かすのは楽しいよ! もっともっと伝えていきたいんだ」



海未「凛なら出来ますよ」


凛「みんなで集まりたいな……」


海未「そうですね……」

 きっとみんなそう思ってる。なのに集まろうってならないのはなんでだろう。やっぱりことりちゃんと絵里ちゃんがいないから?


 それとも穂乃果ちゃんが言わないから?


凛「穂乃果ちゃんて今なにしてるの?」

海未「最近会ってないからわかりませんが……。和菓子屋で働いているとか」



凛「穂むら?」



海未「いえ、違うところで」


凛「そうなんだ」

凛「……」

海未「凛?」




凛「――凛達、大人になったんだね」



海未「……そうですね」

凛「楽しかったなー、高校の時」



海未「……」





凛「じゃ、凛仕事あるから!」



海未「はい、さようなら」



凛「うん!」



凛「あ、テレビみた!?」

凛「にこちゃん映ってたよ!」



海未「え!? 今度見てみます!」

◇◇


穂乃果「なんで……なにがダメなの」



穂乃果「……」



穂乃果「真姫ちゃん……」

 最近よく真姫ちゃんと連絡を取るようになっていた。

 今日は喫茶店で待ち合わせをしている。



真姫「ごめんね待った?」

穂乃果「ううん!」



真姫「そっか」

真姫「……元気ない?」


穂乃果「え……?」

真姫「穂乃果のことくらいわかるわよ」

穂乃果「……」



真姫「……何があったかわからないけど、やっぱり穂乃果らしく――」



穂乃果「私らしくってなに……私らしくして、何か変わるの」


真姫「穂乃果?」







穂乃果「――私たち、もう子供じゃないの……!」





穂乃果「常に笑って生きてられるならそうしてる。楽しいことだけしてれば、そうしてる! もう、もうわかんない。私どうすればいいの……」




真姫「……全部話してみて?」



穂乃果「……」

穂乃果「真姫ちゃん夢ってある?」



真姫「夢……?」



真姫「えっと……医者になることかな……?」




穂乃果「そっか……」



穂乃果「スクールアイドル辞めてから、私なにをしたいのか分からなくなっちゃった」


穂乃果「なんとなく家業を継ぐために、専門学校で和菓子の勉強して、なんとなく親に言われるまま知り合いの和菓子屋さんで修行を始めて……」



真姫「……穂乃果」


穂乃果「ごめんね、こんなこと愚痴っちゃって」

真姫「いいわよ別に」






にこ「――あんたそんなんでいいの?」





穂乃果「え……」


穂乃果「にこちゃん……!?」



真姫「私が呼んでおいたの」

 目立たないような地味な服にサングラス、オーラを完全に消し去ったにこちゃんがそこにはいた。




にこ「久しぶりね」

穂乃果「うん……!!!」


にこ「なんだかやつれた?」

穂乃果「そんなこと……」


にこ「前のあんたそんなんじゃなかったわよ?」

穂乃果「っ……」


穂乃果「にこちゃんも、真姫ちゃんもいいよね。夢があって。夢に向かって生きることが、出来て」




穂乃果「私たち……もう、大人になっちゃったんだよ!!」

 お金をおいて、私は立ち上がる。


真姫「穂乃果!」



にこ「放っておきなさい」



にこ「あんなの穂乃果じゃない」

真姫「でも」

にこ「……きっとまた穂乃果は戻ってくる」

真姫「……」


にこ「……真姫ちゃん」

真姫「ん?」

にこ「私ちょっとこれから海外で撮影があるの」

にこ「私がいない間、穂乃果のこと支えてあげて」

真姫「……わかった」






にこ「――あとこれは完全に別のことなんだけど」

真姫「なに?」


にこ「あんた、しばらく会わないうちに、ビッチ臭跳ね上がりすぎじゃない?」

にこ「相当男遊びしてるでしょ」


真姫「はぁ!?」


にこ「やりすぎなんじゃないのー? ほどほどにしときなさいよ」



真姫「う、うっさいわね! にこちゃんには関係ないでしょ!!」



にこ「はいはいー、怖い怖いっとー」

◇◇


穂乃果「……」


穂乃果「なんで私……八つ当たりしてるんだろう」


穂乃果「悪いのは私なのに……」

穂乃果「羨ましい……みんな」




 ゆらゆらとデパートの中を歩く。

 目指すのはお酒のコーナー。

 ゆらゆらと。



穂乃果「っ……」


「ご、ごめんなさい」



 肩がぶつかるけど、私は気にしない。別にどうでもいいこと。


「あっ……」






 お酒のコーナーに辿りつくと、私はいつも買っているやつを何個か手にとりカゴに放る。



 私の収入じゃ、安くて強い酎ハイくらいしか買えない。



 あーお昼だけど、もうお酒飲んじゃおうかな。

◇◇



花陽「出来たよー」



 私は作った夕御飯を食卓へと運ぶ。


 段々大きくなってくるお腹のせいで動くのも少し辛いかも。


 みんなには生まれたらサプライズで教えてあげようかな。


花陽「おいしい?」



 作った夕御飯を旦那さんが喜んで食べてくれるのはやっぱり嬉しい。

 ここにもう一人家族が増えるんだから、もっと幸せになるかも。



 ふふ、想像出来ないよ。

 スクールアイドルやってた時、自分が結婚して妊娠する、だなんて思いもしなかった。


 人生ってなにがあるかわからない。


花陽「……」


 スクールアイドルで思い出す。



 今日の夕御飯の食材を買い出しに行った時に見た光景。



 肩がぶつかった人。あれは穂乃果ちゃん、だったよね?



 なんだか雰囲気が随分と変わっていたような……。



 私とすれ違っても気がついてくれないなんて……声かければ良かったかな。



 急に寂しくなった。



 旦那さんも居て、子供も生まれる。


 ――でも、なんだか大切なものを失ってしまったような。




 電話、してみようかな。

◇◇


にこ「はい、あはは頑張りましょうね!」


 ディレクターだったり、出演者だったりに精一杯の愛想を振りまく。

 こういうことは慣れているから、問題はない。


 これから海外に行って、撮影が行われる。長期ではないからいいけど、よくそんな短期の撮影の為に脚本を書いたものね。


 費用もかさむでしょうし。



「ねえねえにこちゃん、あれやってよにっこにっこにー」


にこ「えー? 勘弁してくださいよー」



 私がスクールアイドルだった時、アイドルだった時、それを知っている人は決まってイジッてくる。

 別に構わないんだけど、なんだか私の学生時代を馬鹿にされているようであんまり好きではない。



にこ「飛行機乗るの嫌いなんですよねー」

 狭いし、耳がおかしくなるし。肌もあれる。


 飛行機に乗り込んで、席につく。やっぱりこの閉鎖的な空間は嫌い。


 やがて飛行機が飛び上がると、地上は遠くなって空は近くなっていく。


にこ「夢か……」


にこ「私は……」



 アイドルになるって夢は叶えた。トップアイドルになるってのは無理だったけど、多分女優としてトップを目指すのが今の夢。



 自分をいくら変えても、私は夢を叶えてみせる。



にこ「穂乃果……あんたなら、見つけられる」

◇◇



ことり「はい!」


ことり「本当ですか?」


ことり「またお願いします!」


ことり「ふぅ……」


 良かった。今回も認めて貰えた。


 正直、私が海外に来れるだなんて思いもしなかった。


 お母さんの話を蹴った時点でそういうチャンスは消え去ったはずだった。


 高校を卒業するってことを改めて考えて見て、私がやりたいこと、それはやっぱりデザインだとか服飾の仕事だった。



 一度はワガママで話を蹴ったのに、私はさらにワガママで服飾をやりたいだなんて。お母さんもよく許してくれたと思う。




ことり「さ、帰ってまた勉強しないと!」


 専門学校在学中に賞を貰えたのは私にとって、奇跡と言ってもいいくらいだった。




 でもそれはやっぱりずっと服のことについて勉強してきたからだと思う、だから私は海外に来ても服の勉強はずっとする。


 芸能系のところに衣装提供するところにスカウトしてもらったんだけど想像以上に厳しい世界だった。



 本当にずっとずっと勉強をしなくちゃついていけない。


 やっていけるか不安だったけど、なんとかなっている。



 芸能系だから自分がデザインした服を着て貰って、みんなに見てもらえる。

 これほど幸せなことはない。


ことり「あ……その前に制作を委託したとこいかなきゃ……」



 なんでも日本人の女優さんが来るみたいで、それの衣装を日本から委託されていた。

 そのデザインは結構前に終わらせて、後は業者さんが作るのを待つだけだった。



ことり「やっぱりデザインした人が見に行かないのは失礼だもんね」



ことり「どんな女優さんが着てくれるのかなー?」



 私はそういうところも楽しみだった。事前に確認したりするんだけど、私がデザインした服を着ているところを一番に見た方がいいもんね。

◇◇

穂乃果「うぅ……飲み過ぎた」


 六本の缶が転がっている。


穂乃果「……明日……そっか、行かなくていいんだっけ」


穂乃果「どうしよ……帰ろうかな……」



 ダメだ。どんな顔して帰ればいいんだ。

 お父さんが私の為に修業先紹介してくれたというのに。




穂乃果「……ねよ」



 私がベッドに入ってそのまま眠ろうとした時、携帯が鳴った。


穂乃果「誰? ――花陽ちゃん!?」



穂乃果「もしもし!!」


花陽『あ、もしもし』



穂乃果「どうしたの!?」

花陽『穂乃果ちゃん、酔ってる?』

穂乃果「そんなことないよー、えへへ」

花陽『酔ってるんだ。ねえ大丈夫?』

穂乃果「なにが?」


花陽『今日デパートで肩ぶつけてすれ違ったよね』

穂乃果「……え?」



穂乃果「花陽ちゃんだったの?」

花陽『気づかなかった?』

穂乃果「ごめん……」

花陽『……今日なに食べた?』

穂乃果「全部パン」


花陽『……明日穂乃果ちゃんの家に行っていい?』



穂乃果「え……?」



花陽『ご飯作りに行ってあげる。ちゃんと食べないとダメだよ』

穂乃果「いいの?」


花陽『もちろん、住所は教えてね』



 私と花陽ちゃんはその後一時間くらい会話をしていた。

 なんだろうやっぱり心が満たされる。

 そして電話を切って、住所を送る。

 嬉しいな、またµ’sのメンバーと会えるんだ。


穂乃果「えへへ」



 でも、私は気がつけなかった。



 すれ違っても気づかないくらい、私はやっぱり……花陽ちゃんは気がついたけど、それでも、みんなみんな――大人になっちゃったんだ。



 嬉しいことかもしれない、必然的なことだけれど、大人になるって辛いことなんだ。

◇◇


海未「講演会大丈夫だったでしょうか……やはり中学生には退屈なものだったとは思いますが……」


雪穂「うーん、海未ちゃんなら大丈夫じゃないかな」



海未「そうでしょうか」


 穂むらに饅頭を買いにきて、そのまま雪穂の部屋に通されました。



 雪穂とも大分話す機会はなかったので嬉しいのですが、まさか亜里沙もいるなんて。



亜里沙「海未さんの日舞私も見たかったです!!」

海未「そんな大層なものじゃありませんよ」



海未「そういえば穂乃果はどうしていますか?」



雪穂「わかんないなー。一人暮らし大丈夫かな」


海未「心配ですね」




亜里沙「――えっ……、えっ!?」

海未「どうしたのですか?」


亜里沙「お、お姉ちゃんが帰ってくるって!!!」

海未「本当ですか!!」

雪穂「絵里さんが……」



亜里沙「やった!! 帰ってきたら海未さんも一緒に遊びましょうよ!!」


海未「そうですね、なかなか無い機会ですからね」



海未「……絵里が帰ってくる。みんなで集まれないでしょうか」



海未「忙しいからと連絡を絶ったのは私ですが……」



海未「穂乃果に連絡してみます」

◇◇


絵里「んっー、そこは私は五郎のことが好きです。なぜなら彼はとても優しい人間だからです。よ」



 ロシアの大学で日本語を教えるのにも大分慣れてきた。

 
 大学に進学してから本気でロシア語を勉強した。

 昔住んでいたから会話には困ってはいなかったけれど、日本に居る時間が長かったから多少はなまってしまう。


 日本語に慣れていない学生を見るのは結構可愛い。



 自分が教えたことを覚えてきて貰えるっていうのもかなり嬉しいこと。


 日本にとってロシア語はかなり馴染みの無い言語だけど、それはロシアでも同じ。


 二つの国がもっと近くなってくれればいいのに。少しでも貢献出来るといいな。




絵里「私、これから日本に帰るからしばらくはイワンコフ先生が日本語の授業をしてくださいます」



絵里「ちゃんとがんばってくださいね」



 学生からはえーとかなんだか色々な声が飛んでくる。


 惜しんでくれてるのかしら嬉しい。



 さ、帰ったら亜里沙に連絡して、準備しなくちゃね。

◇◇


ことり「どんな人かなどんな人かな」

 昨日服のチェックも済ませて、私は出演者さん達が乗るバスが来る場所で待ち構える。

 もう違うところで撮影をしていて、次はここに来るらしい。


ことり「あ、あれかな」


 バスが止まって、出演者が出てくる。

 中には同僚がデザインした服を着ている人もいた。うーん、やっぱり凄い。

 私の服を着ているのはまだかな?



 見つめていると、ついに来た。私の服だ!!

 えっと、どんな人――。




ことり「――にこちゃん」




 嘘でしょ?

 にこちゃん?

 髪の毛は降ろしているけど、あれはにこちゃん。



 どういうこと?


 私がしばらく呆然としていると、撮影が始まった。



 その様子を見学していると、主要人物らしい。しかも立派に演技をしている様に見える。



ことり「そっか……にこちゃんだったんだ」


 まさか私がデザインした衣装を着てくれたのがにこちゃんだったなんて。



 撮影がひと段落住んで、ベンチで伸びているにこちゃん。今大丈夫かな。



 ディレクターさんにデザインした者ですと伝えて、意見を聞きたいということで接近することにした。




 近づいても雑誌を読んでいるみたいで、私には気がついていないようだ。


 
にこ「……」




ことり「その服どうですか」



にこ「あぁ……うん、すっごい可愛いわ」



 あれ目を合わせてくれない。


ことり「む……だーれだ」


にこ「なっ、なにす――」


にこ「この声は……」


にこ「ことり!?」


ことり「せーかい!」



 手を離すと、にこちゃんは勢いよく振り向いて私を舐め回すように見てくる。


にこ「本当にことりだ……」


にこ「なんでここに……あ――」


ことり「服飾関係の仕事でね」


にこ「もしかして、これあんたがデザインしたの!?」


ことり「うんっ」


にこ「すごい……あんた、本当すごいわね」


ことり「そうでもないよ、にこちゃんこそ」



にこ「まあ私も色々あったから。あんたもここまで来るのに色々あったでしょう?」

ことり「まぁね。でも、夢があれば私は頑張れるから」


にこ「――夢……」



にこ「……私も」


ことり「お互い頑張ろうね! 夢に向かって」

にこ「ええ……」


ことり「にこちゃん撮影終わったら、暇?」


にこ「いや……現地で出演者とかディレクターとご飯とか食べなくちゃだから……」


ことり「そっか……んー残念」


にこ「またいつかね」


にこ「……ねえことり、日本に戻ってこない?」


ことり「え? どうして?」

にこ(穂乃果のこと……ううんダメ。ことりだってがんばってる)


にこ「いや、聞かなかったことにして。じゃ撮影してくるから」


ことり「う、うん」

今回はここまでです。
また近いうちに。
そんなに長くなりません。

◇◇


穂乃果「……」



 何気なく過ごしていた。


 自室でお酒の缶を見つめながら、カーテンを閉めて日が落ちるのを待った。


 日が落ちれば、花陽ちゃんが来てくれる。

 そこでまた当時を思い出して……。



プルルルルルルルルル


穂乃果「ん?」


穂乃果「――海未ちゃん……」


 電話は海未ちゃんからだった。


 日舞で忙しいからとしばらく前に連絡が取れなくなった人。

 私は飛びつくように携帯を拾いあげる。

穂乃果「もしもし!」


海未『あ、穂乃果』



穂乃果「海未ちゃん、もう大丈夫なの? 連絡取っても大丈夫なの!?」

海未『はい、ひと段落したもので』


穂乃果「寂しかったよぉ!!」


海未『すみません』


海未『穂乃果、元気にしていましたか?』

穂乃果「まあ……」


海未『雪穂に連絡も取らないで、心配してましたよ』

穂乃果(連絡なんて、できないよ)



海未『穂乃果?』


穂乃果「あ、なんでもない。最近µ’sのメンバーに会う機会が多くて嬉しいんだ!」



海未『そうなのですか?』



穂乃果『うん、今日も花陽ちゃんがうちに来るの!! ――あ、海未ちゃんも来ない?』



海未『今日ですか?』


穂乃果「久しぶりに会いたいな」


海未『そうですね、わかりました』


穂乃果「やった! 住所知ってるよね!」


海未「はい」



 電話を切る。


 やった。やった。海未ちゃんと会える。


 最近楽しい。――高校時代に戻ったみたいで。

◇◇


絵里「んぅー」

絵里「にっぽぉぉん!!」


希「えりちうるさいよ」


絵里「いいじゃない何年振りかしら!!!」


希「連絡するのが遅いんよ!! おかしいやん! 一時間前に、もう少しで日本! とかさ!!」


絵里「忘れてたんだもん仕方ないしゃない」


希「もう! 花陽ちゃんの結婚式にも来ないで!」


絵里「あの日は……うぅごめんなさい」


希「許さない」


絵里「えぇ?」

希「もう……」



希「えりち、これからどうするん?」

絵里「私、理事長に呼ばれているの」

希「理事長に?」


絵里「ええまだそこそこ親交は会ってね。ことりの話とか良く聞かされたわ」


希「ことりちゃん確か成功してるんやっけ」


絵里「そうみたいね」

希「で、なんで呼ばれたん」


絵里「わからないの。取り敢えず話があるって」


希「ウチもついていってええかな」


絵里「いいんじゃないかしら」

◇◇


理事長「まさか、星空さんが教師になるなんて」


凛「やっぱり意外ですか?」


理事長「そうね。でも教師になる人なんてその人を知っている人から見ればみんな意外って思うものよ」


凛「そういうものですかね」


理事長「敬語も上手くなったわね」


凛「……もう大人ですから」


凛「今日はありがとうございました!」


理事長「ええいつでも顔を見せてね」


凛「報告が遅れてすいません!」

理事長「いいのよ。ここの卒業生が活躍しているのを聞くのは楽しいわ」



凛「あはは、ありがとうございます。では私は――」


理事長「ちょっと待った」


凛「はい?」


理事長「もう少しここにいないかしら。良い人を呼んでいるの」


凛「いい人?」


理事長「ええ、まさか今日あなたが来るなんて思わなかったけれど、いいタイミングだったわ」




凛「?」

◇◇


絵里「懐かしいわねー」


希「本当やね」



絵里「たしかアイドル研究部ってなくなったんだっけ?」


希「うん、スクールアイドルブームも終わったし」


絵里「亜里沙の次の代でなくなったって聞いたわ」


絵里「なんだか寂しいわね」


希「そうやね……」


 校門を見上げると、当時のことが蘇ってくるようなそんな感じがした。




 しかし決定的に違うところは後者に入る時に感じることになった。


 ウチらは生徒入口ではなくて、教師とか来客用の入口を使うことになった。


 そんなところで、高校生じゃないと実感させられる。

 そこから事務の人に挨拶して、理事長室へと向かう。


 大きく見えた理事長室の扉もなんだか少し大きく感じた。


 えりちが扉を開ける。


絵里「こんにちは」


希「こんにちは」

 そこには理事長がいつものように座っていた。雰囲気は全く変わっていない。


 しかしその横に居る人にウチらは驚いた。


絵里「――凛」

凛「絵里ちゃんと希ちゃん!!!」


希「ど、どうして凛ちゃんが!?」


凛「わた……凛ね、理事長に体育の先生になったっていう報告しに来たんだにゃ」


希「へーなるほど。ついに凛ちゃん先生になったんやね」


絵里「知ってたの?」


希「えりちがロシア行ってる間にね」

絵里「うぐっ……」

>>69

なんだか少し小さく感じた、の間違いです

理事長「ふふ、絢瀬さん、お帰りなさい」


理事長「東條さんもこんにちは。お久しぶり」


希「私も来て良かったでしょうか?」


理事長「構わないわ」

理事長「どうだった、ロシアの方は」



絵里「やっぱり落ち着きますよ。故郷は日本だと思っていますけど、やっぱりロシアもいいですね」



希「凛ちゃんもえりちも教師か……ウチ悪いこと出来んね」


絵里「ふふ、そうね」



凛「絵里ちゃぁん! 正規教員になるための試験難しいにゃー!!」



絵里「まだ非常勤なんだっけ、頑張らないとひもじいままよ?」



凛「それは嫌だにゃ……」


絵里「理事長、話というのは」



理事長「――そうね、一つ頼みたいことがあるの」



理事長「高坂穂乃果さんの連絡先を教えて頂きたいの」



絵里「なぜ?」



理事長「――高坂さんに頼みたいことがあるの」

理事長「講演会のこと」


絵里「講演会?」


理事長「そう、スクールアイドルµ’sのセンターとして激動の時代を駆け抜けた彼女のことは音ノ木では伝説みたいになってるのよ」



理事長「勿論あなた達もよ?」



理事長「でも高坂さんはµ’sの発起人だしね」

理事長「だから高坂さんにお願いしたいの」


絵里「なるほど……」



絵里「それなら私たちではなくて、高坂さんの家に連絡すればいいのでは?」



理事長「あ……」



 それもそうだ。わざわざ穂乃果ちゃんの友達であるウチらを頼らなくても、家に電話をかけて旨を伝えれば連絡先くらい教えてもらえるだろう。



 それを指摘されて理事長は少し頬を赤く染める。

理事長「ごめんなさい、気がつかなかったわ」

 そう言って微笑む。
 こうしてみるとことりちゃんに本当に似てる。


絵里「ふふ、珍しいですね。穂乃果の連絡先ですよね」


 えりちは紙を要求して、その紙にすらすらと電話番号を書き入れていった。


希「覚えてるん?」


絵里「ん? ええ、µ’sのみんなのは覚えてる」


凛「すごいにゃ……」


絵里「電話する機会なんてないけどね――これでいいですか」


理事長「本当にありがとう」


理事長「高坂さんの講演会が決まったら、あなた達も来る?」



絵里「都合が合えば是非!」



凛「凛も!!」

◇◇


真姫「で、話って?」

真姫「私のことが好き?」


真姫「ふーん……」


真姫(……なんか微妙ね。顔がいいわけでもないし)


真姫(……今まで色んな男と遊んできたけど……)


真姫(花陽みたいに結婚したいとか思える人に出会えたことがない)



にこ『やりすぎなんじゃないのー?』





真姫(悪かったわね……)



真姫(もう男遊びやめようかな……)


真姫「……気持ちは嬉しい、でも、ごめんなさい」



 初めて告白を断った。


 大学に入ってから相当な数告白されて、そのほとんどをオーケーしたせいで、いっぱい男遊びをした。



 人の好意を無駄にするわけにいかないって最初は思ってた。まだまだ子供だったのね。


真姫「またちょっと、大人になっちゃったかな……」

 告白してくれた男の背を見つめつぶやく。

 

 男と付き合っている時、確かに愛は注がれてるって思えるけど、なんだか物足りない。


 やっぱり、悪いことしちゃったかな。



 彼氏がいない時間てなかなか珍しい気がする。気がつけば居たし。



 思い返して見ると、男とばかり遊んでいたせいで女の友達はほとんどいなかった。


 なんだか寂しい。


真姫「高校生の時は、彼氏なんか欲しいなんて思わなかったのに……」



真姫「……楽しかったなぁ」




 思い浮かべるのは、ラブライブの舞台。

 あの時は本当に輝いていたと思う。あそこに立っていたみんなは私も含めて、間違いなく主人公で――。





真姫「戻れるわけ、ないのにね」


 自嘲気味に笑う。



 ――さ、勉強しなくちゃ。

今回の投下は本当に終わりです。時間が出来たので少しだけ投下しました。


今日の朝にでも完結させようかと思います。

>>24
穂乃果「センチメンタルな足取りで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401545057/)
多分これだと思う

>>89
全く同じなんですね……
まあ内容は被ってないので勘弁して頂きたいです……

◇◇

 花陽ちゃんにも海未ちゃんが来るということで話を通したら、快くオーケーしてくれた。



 夜が近づくに連れて私の意識も覚醒して行き、部屋が散らかりすぎて
いることに気がついた。



 とりあえず洗濯をして、服を片付けた。掃除機もかけたし、まあこんなものかな。




 あ、キッチンの掃除もしないと。キッチン使ってなかったからなー。


 
穂乃果「んしょ、んしょ、きたなぃぃ」


 掃除は大嫌いだったけど、みんなが来るっていうなら頑張れた。


 掃除を終えて、二人を待つ。


 ピンポーン。




穂乃果「きた!」

ガチャ

穂乃果「え――真姫ちゃん?」


真姫「こ、こんばんわ」


穂乃果「どうしてここが――あ、住所」



真姫「なんだか……勉強が手につかなくて……」



 真姫ちゃんはそう言ってストレートになった髪の毛をくるくると指で弄る。


真姫「れ、連絡も入れないでごめんなさい。迷惑だったわよね」



穂乃果「ううん!! 真姫ちゃんも一緒にご飯食べようよ!!!




真姫「ご飯? ならどこかへ――」


穂乃果「ううん今日ね花陽ちゃんと海未ちゃんが来てご飯作ってくれるの!」


真姫「本当!? 私もいいの?」



穂乃果「勿論!」


 真姫ちゃんを招き入れて扉を閉める。

 するとすぐにインターホンが鳴った。



真姫「もう来たのかしら?」

 扉を開けると、今回こそ本来のお客さんが立っていた。それも二人。



海未「こんばんは」


花陽「久しぶりだね、穂乃果ちゃん」

 二人は予定を合わせたのか同時に来た。


 私の顔を見て笑って、そして私の後ろを見て驚いた。


花陽「真姫ちゃん!?」

海未「どうして」

真姫「突然押しかけちゃって」


海未「ふふ、いいじゃないですか。花陽と材料の買い出しをしたんですけど、少し多めに買ってきましたし」



花陽「人数多い方が楽しいもんね!!」



◇◇



穂乃果「あはは、なにそれー!」


真姫「本当だって言ってるでしょー!」


 花陽ちゃんが作ってくれたご飯をみんなで食べながら話していると時間はすぐに過ぎた。


真姫「それにしても花陽がµ’sの中で結婚も子供も一番だったわね」


花陽「大学卒業してすぐに結婚したからね」



海未「妊娠したなら教えて下さいよ」


花陽「サプライズしようと思って」


真姫「私も今年で卒業だけれど結婚相手とかはいないわねー」


花陽「私はこの子を生むことが今の全てだから」


海未「なんだか実感が湧きませんね」



花陽「子供を生んで、幸せな家庭を作ることが夢だなんて、ちょっとおかしいかな」

真姫「……」チラッ

 夢か。私のしたいことは、本当に医者になること?



 わからなくなってきた。もう六年生だから、後戻りなんて出来ないけど。


穂乃果「……」


 穂乃果はこんな風に感じていたのかな。


穂乃果「ううん、全然変じゃない。すっごくいい夢だと思う」


穂乃果「海未ちゃんも日舞を広めたいっていう夢、真姫ちゃんの医者になりたいっていう夢。みんな凄い、凄すぎるよ」


 私は……医者に。



穂乃果「それに比べて、私はなにもない。なにも――」



プルルルルルルルル



穂乃果「電話だ……」


穂乃果「知らない番号……どうしよ」


海未「……一本の電話が人生を変えるともいいますし」


穂乃果「出てみようか」



 穂乃果が電話に向けて恐る恐る声をかける。



穂乃果「り、理事長!?」

真姫「え!?」

花陽「理事長!?」

海未「なぜ……」



穂乃果「はい、はい海未ちゃんと花陽ちゃんと真姫ちゃんと一緒です。はい、講演会……私が?」








穂乃果「――夢に、ついて……?」


穂乃果「……」

 穂乃果は電話を切らずにそこに置いて、私たちの顔を見る。



真姫「なんだったの?」



穂乃果「音ノ木坂で、夢に関する講演会をして欲しいって」



 夢……。

海未「夢ですか」

花陽「なんで穂乃果ちゃん?」


真姫「そりゃそうでしょ。µ’sの発起人なんて言えば音ノ木にとっては生きる伝説みたいなものよ」


真姫「与える影響もなかなか大きいんじゃないかしら」


真姫「どうするの?」


穂乃果「……出来ないよ」

海未「……」






穂乃果「――私には、何もないから」





真姫「いいの?」

穂乃果「うん……」


 落ち込んだ様子で穂乃果は電話を拾う。


穂乃果「はい、すみません。はい。……多分気が変わることはないと思います」






にこ『今のあの子は穂乃果じゃない』


 にこちゃんが言った言葉が私の脳をよぎり、悲しくなった。

◇◇



凛「ここだにゃ!!」



絵里「ここ?」

希「なんだかこってりしてそうなとこやね……」




凛「大丈夫大丈夫!」

 希が辟易としながら凛についていく。

希「太ってまうよー」


絵里「凛とほぼ変わらないじゃない」


 私は希にそんなことを言いながら、希に続く。


凛「親方、いつもの三つ! 大油ね!」


 凛は手慣れた様子で私たちの分も注文を済ませる。



絵里「私たちに選ぶ権利はないのね……」



希「そうみたいやね……大油とか言ってたけど大丈夫なんかな」



 凛はわくわくした表情で席に座る。



 店内は至るところから油の香りがする。こういう系のラーメンて食べたことないんだけど……。

希「凛ちゃんここって背脂?」


凛「うん!」


希「おーなるほどなるほど、匂いからして魚介系かな?」


凛「そうだよ! すごいね!」


 そんなことを話しているうちに、ラーメンが運ばれてきた。


 ハラショーよ。本当にハラショー。




絵里「やばくない?」


希「……まあいけそうやん」


凛「余裕余裕」



 希がスープを一口。油……ヤバイわよ油。



希「うまい……」


 嘘でしょ。

 凛はすでになん口かスープを飲んで、麺に手をつけていた。




希「こんなに大量の油が入っているのに、そこまでこってりとしていない。なんだろう魚介と……柚子かな」



凛「せーかい! すごいね希ちゃん」


 なんだか希も気に入ったようだ。


凛「絵里ちゃんも食べるにゃ」

絵里「う……いくわよ。んぐ……」





絵里「――おいしい……?」

 希の言った通りだ。ありえないくらいの背脂だけれど、なんだかあっさりとしている。不思議不思議ね。

絵里「穂乃果の講演会、大丈夫かしら」



希「夢についてか。やるんかな穂乃果ちゃん」


絵里「どうかしら。連絡取ってみましょうか?」

希「うん」



 突然ごめんなさい。
 理事長にあなたの電話番号教えたのは私なの。

 それで講演会やるの?




絵里「送信ー」


希「凛ちゃんはここの常連なん?」


凛「そうだよ、体育科の先生と一緒によく来るんだ」


絵里「流石体育会系ね……」


凛「男の人ばかりだらね。凛の職場は」


凛「女の人は国語とか英語とか多いけど」



絵里「確かに私も日本語の講師ね」



凛「でしょー」


希「ていうかえりちってロシア語喋れたんやね」


絵里「失礼ね、日常会話くらいならできるわよ――」


 穂乃果からメールが帰ってきた。





 あ! そうだったんだ、びっくりしたよ笑
 私はやらないかな、夢とか私には無いし、語る資格なんてないよ。





絵里「……穂乃果やらないって」

希「どうして?」


絵里「今の自分には夢がないから、そんなことをする資格はないって」

希「……なんか以外やね」

希「穂乃果ちゃんならやりそうやけど」



絵里「そうね……」

◇◇


穂乃果「うーん、朝かあ」


穂乃果「楽しかったぁ」

穂乃果「メール来てる」



穂乃果「師匠から……」


穂乃果「……今日の夜、和菓子をもう一回作ってみろ……か」




穂乃果「……無理だよ……」

 和菓子を作るのがいつからか嫌になっていた。



『穂乃果らしくない』

穂乃果「私らしくないってなにっ!? 今の私は私なのに!!」





穂乃果「……もう技術をどうあげればいいの? することは、してきたよ!!」




 改善の方法がわからない。

 無難に終わらせようとしていたとはいえ、精一杯作っていたのも事実。




穂乃果「どうしてだめなのか、わからない」



 どうすれば。どうすればいいの?


穂乃果「もう……家に帰ってみようかな」

◇◇
公園




真姫「……」

真姫「医者か……」


 パパとお母さんが医療関係の仕事についている。


 医者になる理由でこれは多い。私もそうだった。小さいころはピアニストになりたかった。



 ピアニストの夢は現実に押しつぶされたから、医者は夢というかならなければならないものになっていた。


 そんな時、私を救ってくれたのはスクールアイドルだった。


 私を見つけてくれた、穂乃果。



 でもそれを夢にして、夢が叶った後どうしようもなかった。


 アイドル研究部も今はない。多分衰退の原因は私たちが三年生になったからだ。


 穂乃果っていう損失は大きすぎた。



 スクールアイドルを辞めて、私に何がしたいか。わからなかった、なし崩し的に医者を目指して、これが自分の夢なんだと言い聞かせた。





真姫「どうしたいの、私は……」

 穂乃果は私を羨ましいと言ったけど、私は……。








「――きゃあああああ誰か!」


 女の人の悲鳴が聞こえた。


 顔を上げて見ると、そこには倒れた子供とそれに寄り添う母親。


真姫「っ……」



 一瞬の状況判断。

 自然に身体が動いていた。




真姫「大丈夫ですか!?」

「は、はい」


真姫「何がありました!?」


「急に倒れて」

真姫「聞こえますか!? 大丈夫ですか!?」



真姫「……息はある……いや違う! これは……死線期呼吸!?」




真姫「救急車呼んで下さい!」

「はい! あ、あなたは?」




真姫「――通りすがりの医学生です」

真姫「いいから早く!!」


 私は原因がわからないが、とりあえず心肺蘇生法を行うことにした。



真姫「死ぬな、死ぬな!」

真姫「逝くな逝くな逝くな!!!!」



 一通りの心肺蘇生法を行うが、息は戻らない。




真姫「戻ってこい……!」



 そんなことをしているうちに救急車の音がした。

 早い。



 病院の近くだからだろう、普通よりかなり早い。



 救急車が到着して、降りてきた人に一通りの説明をする。



真姫「心肺蘇生法をしましたが、戻りません。あと先ほどまで死線期呼吸をしてました!」



真姫「……はい、あとはお願いします」




 母親と子供を乗せて救急車は去っていった。

 死線期呼吸だったから、きっと助かる。


 あれ、なんだか足に力が入らない。
 その場にヘナヘナと座り込む。スカートが汚れちゃう。


真姫「はは……情けないわね。私」




 勉強は出来る、見た目もいい。なんでも出来るんじゃないかなんて言われることもある。



 でも実践ではこのざま。



 目の前で人が死にそうになっているところに、自分しか医療の知識がないっていう状況は初めてだった。

 いつもは周りに何人も研修医や医者もいる。



 ――怖かった。




真姫「でも身体は動いてくれた」


真姫「……ああいう人がたくさんいるのよね」




 ――助けたい、一人でも一人でも多く。私の手で、





真姫「――あれ、私……医者になりたいんだ」






 初めて自分から、心から、そう思ったことに気がついた。

◇◇


穂乃果「ただいまー……」



 おそるおそる入ってみる。


雪穂「お姉ちゃん!!??」


雪穂「どうしたの急に!!」

 雪穂が中から飛び出してくる。



穂乃果「うん……ちょっと……」



穂乃果「お父さん、いる?」

雪穂「……あっちに居るよ」




 雪穂が差した方向は和菓子を作るところ。やっぱりまだ作ってるのかな。




穂乃果「ただいまー……」


 お父さんの後ろ姿を捉える。




穂乃果「ただいま……お父さん」

穂乃果「何しに帰ってきたかって? それは……」



穂乃果「……わからなくなって……私が何をしたいのか」


穂乃果「師匠とは……うん」


穂乃果「何がダメなんだろう」


穂乃果「え? 今から私がやるの? ダメだよ、私が作ったら味落ちちゃうよ!」


穂乃果「そんなのは分かってるって……でも……」


穂乃果「わかった」



 私はお父さんと代わって作業を始める。

 自然と手は動く。そりゃそうだ、ずっとやってきたんだから。

 なんでこんなことさせるんだろう。



 そんなことを思いながら、一時間以上作業をして、完成した。



穂乃果「どうするの、これ」


穂乃果「え!? 無償で提供!?」


穂乃果「ま、まあ私が作ったものだし……」


穂乃果「分かった呼び込みしてくる」


穂乃果「ねえお父さん。なんでこんなことさせるの?」


穂乃果「やればわかる?」


穂乃果「……そっか」


穂乃果「ねえお父さん、私の和菓子、食べて見てよ」

 お父さんが和菓子をひょいと口に運ぶ。師匠の時はダメだったけど、お父さんなら……。




穂乃果「ダメ……? そうだよね……」




 なんで期待なんてしたんだろう。



 私が力不足なのは分かってるはずなのに。



 店を出て、呼び込みを開始する。



穂乃果「穂むらの和菓子いかがですかー、今なら試食できまーす」



 すると、一人の子供がやってきた。



子供「おばちゃんちょうだい」


穂乃果「おばちゃ……くっ、はいどーぞ」


 心底腹が立ったが、まあ仕方がない。私も小さい頃は20代がおじさんおばさんに見えたものだ。


子供「おいしー」


穂乃果「え……う、うんありがと」


 そう言って去って行った。



 ――おいしいって言われた。なんだろ嬉しい、すっごく嬉しい。

 その後も何人かが途中からだけど、私の作った和菓子を食べてはおいしいって言って笑顔を見せてくれた。


 その中には愛想笑いもあったかもしれないけど、嬉しかった。


 気づけばもう和菓子は無くなっていた。



穂乃果「……笑ってた。みんな……」


 なんだろう、この感覚。私の作ったものでみんなは一瞬でも幸せになって、くれたのかな。




穂乃果「――!!」



 ああそうか。分かった。

 お父さんが私に何を伝えたいのか。


 店に入ると、お父さんはまた作業をしていた。



穂乃果「お父さん!! 分かったよ。私。お父さんが何を伝えたいのか」




穂乃果「……ありがとう」







 ――見つかったよ、夢。

ママ「穂乃果!!」




穂乃果「お母さん!」

ママ「頑張ってきなさい」

穂乃果「うんっ!!」




 私は家を飛び出した。

 するとそこには――。




海未「穂乃果! なんでここに!!」

穂乃果「うん、色々あったの」



穂乃果「……海未ちゃん! 私やるよ! 講演会!」


海未「え?」



穂乃果「みんなに、伝えたいことがあるんだ!!!」

海未「ちょっと、穂乃果!!」





海未「ふふ……猪突猛進……穂乃果らしいですね」

◇◇

穂乃果「師匠!」


師匠「おう」



穂乃果「和菓子作りもう少し待って下さい!!」


師匠「なんだと?」



穂乃果「……分かったんです。私、なんで師匠にずっとダメだし受けていたか。技術もそうだけど、一番足りないものは他にもありました!」



師匠「……」


穂乃果「もう少しで、掴めそうなんです。この気持ちをみんなに伝えたい! お願いします、もう少し待って下さい!!」



師匠「……ふん、一週間以内だぞ」


穂乃果「ありがとうございます!!」

 私は店を飛び出して、履歴から理事長に電話をした。


理事長『もしもし』


穂乃果「理事長! 私やります、講演会やります! やらせて下さい!」



理事長『ふふ……そう言うと思った』


理事長『3日後』

穂乃果「え?」


理事長『3日後の月曜日でどうかしら』

穂乃果「近くないですか!?」

理事長「やると思って予定を入れてたの」




穂乃果「――うぅ……わかりました。それまでに考えておきます!!」

◇◇

 暇が出来たからってことでことりに連絡を入れてから少し遅れてしまった。


にこ「待ってるかしら」


 なんだか海外らしいオシャレな喫茶店に入って辺りを見回すと、ことりの姿が目に入る。


にこ「ごめん待った?」


ことり「大丈夫だよ」


ことり「忙しいんじゃなかったの?」


にこ「観光しようと思ってたんだけど、ことりがいるんだからことりと居た方が楽しいと思って」


ことり「もう……恥ずかしいなぁ」



にこ「それにしてもあんた海外行ったとは聞いてたけど、すごいわね。あそこの専属のデサイナーとして雇って貰えるなんて」


ことり「運が良かっただけだって」



にこ「運だけで入れるほどあまくないでしょ」

にこ「専門学校からどうやって海外まで来たの?」


ことり「専門学校にいる時に、デサイナーのコンテスト的なのに応募したらまあ、賞もらって……それでスカウトされたの」


にこ「へぇ……すごいわね」


ことり「にこちゃんこそ、アイドルしてたんじゃなかったの?」


にこ「ああ、もう辞めたの。流石に年齢には勝てないからね」


にこ「でも最近は女優としてなかなか調子いいのよ?」


ことり「すごいね!! 応援する!」

にこ「ありがと」



にこ「ねえあんた、夢ってある?」

ことり「夢?」



ことり「そうだね……すっごい利己的なことだけど、やっぱり私のデザインした物が評価されてもっともっと広く知れ渡ったら、独立してブランドを立ち上げたい」



にこ「へぇ……すごい」


にこ「ことりならできるわよ」



ことり「ありがとう、頑張るね!」

プルルルルルルルル


ことり「あ、お母さんだ」


にこ「出ていいわよ」

ことり「ごめんね」



ことり「もしもし」

ことり「うん、うん」

ことり「穂乃果ちゃんが?」

ことり「うん……考えとく」


にこ「穂乃果がどうしたの?」



ことり「音ノ木で講演会やるんだって」

にこ「なんの?」

ことり「そんなに長いものじゃないらしいけど――夢について」

にこ「……夢」

にこ「穂乃果……」


ことり「3日後にやるんだけど、見に来ないかって」


にこ「3日後……私は行くわよ」


ことり「私は……」


にこ「久しぶりにみんなで会えるかもしれないし」



にこ「――みんなでね」



ことり「……でも」

にこ「……好きにしなさい?」


ことり「……行く」

にこ「いいの?」

ことり「夢は大切だけど……µ’sっていうのは――私にとって今も夢だから」




にこ「――ふふ、そう言うと思った」

◇◇

絵里「お仕事はいいの?」


希「大丈夫やで」


希「えりちこそ、何日かしかいられない日本ウチと二人で過ごしていいん?」


絵里「なによ、別にいいでしょ」


希「彼氏とかは?」


絵里「いませーん、悪かったわねー」

希「ウチ居るよ」


絵里「え? 嘘でしょ?」



絵里「そのおっきいおっぱいはもう既に誰かのおもちゃなの!?」

絵里「もう何回も弄ばれているの!?」



希「嘘やけど」



絵里「ふざけないで」



希「えりちこそ。なんなんウチのおっぱいがおもちゃとかなんとか。サイズ的にはほとんど変わらないやん」



絵里「……待って穂乃果からメール」

希「あれ、ウチもや」





絵里「――ふふ……本当穂乃果ね」


希「うん。行くやろ?」


絵里「もちろん」

◇◇

 穂乃果のメールはみんなに送られたものでした。



海未「みんな、揃いますかね」



 月に向かって問う。




 当然答えは帰ってこないが、3日後µ’sがまた揃う。そんな気がしました。



海未「さあそろそろ寝ましょうか」

◇◇


3日後






穂乃果「すぅ……」






穂乃果「――ただいま、音ノ木坂」


 校門の前に立ち、深呼吸をする。




真姫「……どう?」

穂乃果「考えてない」


ことり「えぇ?」

海未「まったく……」



穂乃果「さっきみんなから聞いた話、それだけで十分話せる」



 みんなで語り合ったのは夢の話。

 海外にいたことりちゃんはわざわざこの日の為に帰ってきてくれた。

 絵里ちゃんも希ちゃんも凛ちゃんも何年降りだろう。



 なんだか恥ずかしいな、講演会だなんて。講演会といえば毎回体育座りをしながら眠っていた記憶しかない。



 でも中には聞いてくれる人もいる。



 第一µ’sのメンバーが聞いてくれるんだもん。

 私たちは職員玄関から理事長室に向かった。


穂乃果「ことりちゃん、お仕事とか大丈夫?」


ことり「大丈夫だよ、穂乃果ちゃんがそんな心配しないで?」


凛「良かったー午後授業入ってなくてぇ……今回ばかりは非常勤講師で良かったにゃー」

絵里「甘えないように」

凛「がんばるー」



海未「懐かしいですね……」



 前はずっとここに通っていた。
 もうこの景色なんかも見飽きたけど、でも……なんだか新鮮なんだ。



 理事長室に辿りついて、そのままドアを開ける。


穂乃果「失礼します」



理事長「いらっしゃい」

穂乃果「今日はよろしくお願いします」

理事長「こちらこそ」

理事長「まだ時間はあるから大丈夫よ。みたいところとか、あるんじゃない?」



穂乃果「……見たいところ……」

理事長「生徒は授業中だから静かにね」



 私は理事長にお礼を言って理事長室を出た。


 するとなんだかみんなが花陽ちゃんを取り囲んでいた。


穂乃果「なに?」


にこ「いま花陽の子供が生まれたらなんていう名前にしようか考えてたのよ」


にこ「そうだ、にこって名前にしなさいよ。あげるわよ、ほら私みたいになれるかも!」


真姫「すごいマイナスポイントじゃない」


にこ「なんですって?」


真姫「真姫って名前でもいいわよ?」



にこ「そんな名前つけたらガッチガッチの石頭になっちゃうじゃない!」


真姫「はぁ!?」


花陽「ま、まだ女の子とは決まってないんだけど……はは」



穂乃果「――ねえみんな、時間まだあるから屋上行こうよ!!」

◇◇


穂乃果「うわー懐かしいー!!!!」


希「ここは変わってないなぁ」


 屋上に辿りついた私達は、遊んだり踊ったり様々なことをした。


希「……穂乃果ちゃん!?」


 私はハシゴを登ってさらに高いところへ。

 ラブライブの前日、みんなで眺めた町の風景。


穂乃果「……変わっちゃった」



 高いビルなんてほとんど無かったのに、季節が変わる度に街の色を塗り替えていった。



 前のような下町の雰囲気は少しずつ消えていっている。



穂乃果「大人になってきてるんだね、君も……」



 一人で町に語りかける。



真姫「穂乃果ーなにしてるのよ!」



穂乃果「ごめんごめん、ねーねーみてーまだ私踊り覚えてるー!!」





希「穂乃果ちゃん、そろそろ時間やない?」

穂乃果「本当だ!! いこう!!!」

◇◇


ことり「穂乃果ちゃん、大丈夫かな」


絵里「うーん」

海未「また生徒会長だった時みたいに、なにも出てこない可能性も」


にこ「――大丈夫よ、いまの穂乃果なら」


真姫「もう夢もあるみたいだしね」

花陽「そうだね」

凛「楽しみだにゃー」




 始めにµ’sのライブとかこれまでのこととががスクリーンに映しだされた。


 それが終わると生徒の紹介を受け、私はステージにあがる。


 生徒会長としてここには何回も登ったなあ。




穂乃果「みなさん、こんにちは! ご紹介にあずかりました高坂穂乃果です」



穂乃果「さて、今回の講演会ですが。夢についてです」



穂乃果「夢っていうととても抽象的で、なんだかふわふわしているもの」






穂乃果「――私はずっと夢を見てきました」

穂乃果「私はスクールアイドルµ’sを立ち上げました。それは先ほどの映像で分かってくれているかなと思います。廃校を阻止したいそんな夢を持ってスクールアイドルを始めたんですけど、それに賛同してくれる仲間が集まって……」



穂乃果「辛いこともありました。µ’sを辞めるって言ったこともありました」



海未「……」


穂乃果「でも、ふふ……なんだろう。仲間のおかげなんです。夢に向かって、みんな同じ夢を見ていたから私は今ここにいられて……」



穂乃果「廃校を阻止した後は、ラブライブ出場が夢になりました」


穂乃果「私達の先輩と踊れる最後のチャンス」



穂乃果「私はまた――夢を見ることが出来ました」



穂乃果「やっぱり辛いこともあったし、悩んだこともありました。三年生が卒業する現実が受け止められないこともありました」



希「……」

絵里「……」

にこ「……」




穂乃果「でも、時間は止まってくれません。例え泣いてたって笑ってたって」



穂乃果「精一杯楽しもうって決めて……それでラブライブで優勝出来て、夢は叶いました。――みんなの夢は叶いました」

穂乃果「私は高校二年生から夢を見ました。それ以降は本当に日々がキラキラとしていて、今思い出してもかけがえのない日々だったと思います」



穂乃果「私という人間を語る上で夢というのは切り離せません」




穂乃果「夢なんていらない、夢なんてない。そういう人もいるとは思います。そういう人は、中学校や高校でかかされる将来の夢っていうのが大嫌いだったと思います。私もそうでした」




穂乃果「私が言う夢はそれとは違います。夢っていうのは大人になった時のことじゃなくて、自分が今一番やりたいことがそれはそのまま夢になるんだと思います」




穂乃果「――私は高校を卒業して、夢がありませんでした。私は和菓子屋の娘だったのでなんとなく和菓子業界に」



穂乃果「なんとなくだと、辛いことも苦しいことも乗り越えられない。それは私が弱いだけかもしれませんが……。――でも私はまた夢が出来ました」




穂乃果「没個性で、この業界にいる人には普通のことかもしれません」



穂乃果「――和菓子を通じて、みんなが笑顔になってもらいたい。少しでも幸せになってもらいたい」



穂乃果「そう考えたら一気に道は開けました!」



穂乃果「普通のことでいいんです。夢があるから頑張れる」





穂乃果「……夢があるから、私は私でいられる」

穂乃果「日舞を広めたい、デザイナーになりたい、外国と日本を近づけたい、子供達の笑顔がみたい、幸せな家庭を作りたい、雑誌の編集長になりたい、女優として華を咲かせたい、医者になってみんなを救いたい」


穂乃果「なんでもいいんです。昔は一つのことを夢にしていたけれど、今はみんな違うことを夢にしています。でも夢に向かうその気持ちはみんな同じ」


穂乃果「夢の形はそれぞれです。それぞれが好きなことで頑張れるならそこがゴールになると思うんです。でもそれは次の夢へとスタートライン」



穂乃果「後になって後悔しないように、戻りたいと思っても時間は戻ってくれません、私達はいまを生きて、今のなかで生きていくしかないんです」



穂乃果「みなさん、少しでも可能性を感じたら、それは夢です。夢を持って下さい!  そしたら世界はきっと輝いて――」



穂乃果「……ふふ」

穂乃果「私からは以上です!」



穂乃果「みんな――ファイトだよ!!」



 私が頭を下げると、大きな拍手に包まれた。
 顔を上げて、後ろに立っているみんなを見る。

 みんな微笑んで――。





絵里「穂乃果らしいわね」

真姫「そうね」

凛「凛達の夢言われちゃった……」


ことり「そういうことだったんだね」

希「いい講演会やん」

花陽「穂乃果ちゃん……」

海未「さすがです」






にこ「ふふ――おかえり、高坂穂乃果」

◇◇


 風が木々を揺らして木漏れ日が少し眩しい。

希「変わらんね」

穂乃果「うん」


 絵里ちゃん達の卒業式の日もそう言えばこうやったっけ。


 なんだかここは居心地が良くて私達の卒業式の時もこうやって並んで寝転んだ。


 サラサラと音を立てて揺れる木々は前よりも更に大きくなったようだ。前はここまで枝は無かった気がするんだけど。




 ――あぁ本当、落ち着く。

 この気持ちをとっておきたい、保存したい。



 そんなこと、考えたこともなかった。

 だって、みんなで笑って、泣いて、悩んだりの毎日がずっと続いてくってそう思ってた。



 季節は過ぎて私達は大人になった。

真姫「穂乃果かっこよかったわよ」


にこ「そうね」

穂乃果「ありがと、ちょっと綺麗事ばっかだったかな……」


絵里「そんなことないわ」


花陽「みんなの夢を聞いたのはそういうこと、だったんだね」


凛「ちょっと恥ずかしかったよ」


穂乃果「名前は出してないんだからいーじゃん」


海未「でも――なんだか懐かしいですね」


ことり「そうだね」

穂乃果「次はいつみんなで集まれるかな」

絵里「私は海外に住んでるからね」

ことり「私も」

穂乃果「――じゃ、また何年後かな」



穂乃果「あ! 花陽ちゃんが子供生まれたら集まれるかな?」



花陽「がんばるね!」




穂乃果「……みんな夢に向かってがんばろうね」


海未「はい」


ことり「うん!」


花陽「うん」


凛「もちろん!」


真姫「当たり前でしょ?」


絵里「ええ」


希「そうやね!」


にこ「ま、見てなさいよ」


穂乃果「えへへ……」




穂乃果「――みんなー!!! がんばれーっ!!!!!」

 木漏れ日のなかに叫んだ言葉は、不意に吹いた風によって掻き消された。


 でもみんなには届いている。だってこんなにみんな近くにいるんだから。


 揺れる木々に今までのことが映しだされているような、そんな感じがした。やっぱり、少し切ない。



穂乃果「よーしっ!! これからどこか寄って行こうよ!!」





 グイッと立ち上がって、一歩を踏み出す。







 ――こうやって、感傷的になって踏み出した一歩も、きっと悪くはないんだ。

◇◇


師匠「いいのか?」


穂乃果「はい」


穂乃果「私はいつの日からか、師匠の与える課題を無難に突破して、怒られないことだけを願って和菓子を作っていました」


穂乃果「それじゃあダメなんだって気がつきました」


 師匠が私の作った和菓子を一口。


穂乃果「みんなに喜んでもらいたい。笑顔にしたい、そんなことにも気がつけずに」


穂乃果「私は、自分の和菓子でみんなを幸せにしたいんです!」



師匠「――合格だ。やっぱ高坂さんとこの娘だな」



穂乃果「ありがとうございます! でもまだまだ技術が足りないことは自覚していま――」


師匠「――それなんだけどな、技術自体は全然悪かねえんだ」



穂乃果「え?」

師匠「ここに勤めだした時から中々技術はある方だったしなぁ。特にまんじゅう系統のは随所に穂むらの良さが出ている。相当作り込んできたことは想像できた」



師匠「ただ……他の和菓子はまだまだ全然、高坂さんの足元にも及びやしねえ」


師匠「技術は確かに悪くはないが、穂むらという看板を背負うには足りなすぎる」



師匠「高坂さんは本当に凄い人なんだ。知らなかっただろ?」

穂乃果「……」


師匠「一番の問題は……お前さんの和菓子には、なんていうのか、気持ちがこもってないような気がしてなぁ」



師匠「実は高坂さんに頼まれたのは、技術よりもお前の心をなんとかしてくれって言われてたんだ」


穂乃果「お父さんが……?」


師匠「技術は確かにどんどん上手くなっていった。ただ、それと引き換えに情熱はどんどんなくなっていった。そう思ったんだ」



師匠「こう言っちゃなんだが、技術なんて俺じゃなくて高坂さんが教えれば済むことだしな」




師匠「ま、結果として俺は何もしてないから、高坂さんに頭が上がらないんだけどな」


師匠「お前の経緯はわかんねえが、今までなんとなくなんとなく和菓子を作っていただろ?」



穂乃果「……はい」



師匠「そのなあなあな気持ちのせいで、和菓子作りもそして他の行動にも影響が出ていたんじゃないか」


穂乃果「……確かに、入ってきた時よりも失敗は多くなってます」


師匠「でも今回のことで気がつけた」



穂乃果「……はい!」

師匠「それならもう心配はいらねえな」



師匠「柄にもなく褒めちまったが今回限りだぞ。高坂さんとこに返すまで、またビシビシ厳しくするからな



師匠「このまま返しちまったら高坂さんに申し訳がたたねえしなあ」



師匠「俺のに耐えられないなら、高坂さんの修業には耐えられないからな」






穂乃果「――はい!! また、よろしくお願いします!!!!」





 夢は終わらない。

 私はようやくスタートラインに立ったんだ。

◇☆◇☆






「お母さーん!!」


「なに?」



「なんか変」



「最近咳してたもんね、大丈夫?」


「うーん」


「熱あるじゃない」


「微熱だから大丈夫だと思うけど」




「真姫ちゃ――西木野先生に見てもらう?」



「あの先生怖いー」



「あはは……あの人って本職は脳外科だったのに私が無理言っちゃったからね」



「薬飲んで寝てなさい」


「はーい」


「――ふぅ、みんなまだかな」



ガララッ






「こんにちは」


「――っ……ふふいらっしゃいませ」

「ご注文は?」



「じゃあそうやね、なににする?」


「おすすめでいいんじゃないの」

「えー」

「あんたは黙ってなさい」


「じゃあおすすめを……8個」

「いや――みんなで食べるんだから……ね?」



「……ふふ……かしこまりました!!」



「あれ!? ない!!」

「う、裏にあったかな」

「少々お待ち下さい!!」



「――変わらないわね」

「そうね」

「いいお母さんって感じ」

「本当久しぶりだなあ」





ダッダッダッダ









「――穂むら名物ほむまん9個、お待たせしました!!!!」





おわり

ここまで付き合って下さった方、ありがとうございます。最初にも書きましたが、各業界のことは全て妄想です。


穂乃果の演説は本当綺麗事ばっかになってしまいましたが、許して下さい。

ありがとうございました。

以下宣伝









にこ「真姫ちゃんが新しいことを覚えたらしい」※にこまき、エロ
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1394909747




真姫「海未が新しいことを覚えた?」ことり「なになになんのこと?」※エロ
真姫「海未が新しいことを覚えた?」ことり「なになになんのこと?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395428120/l50)




海未「両性具有?」 ふたなり ドロドロ
海未「両性具有?」 - SSまとめ速報
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次書くやつですが……ネタがなかなか切れました。


ドロドロでもエロでも普通のでもなんでもいいので、アイディアを下さい(切実


ありがとうございました。



ピュアピュアののぞにこを頼む

にこ「µ’sの性事情」
にこ「µ’sの性事情」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406567618/)

新しいの書き始めました……。次の普通のやつができるまでの繋ぎのエロです。


>>148

ピュア系とても苦手なのですが、挑戦してみようかと思います。(投稿出来るかはわかりません

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月29日 (火) 03:04:17   ID: X7Gz_NOF

センチメンタルステップを元にして書いたんですね。感動しました!

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