キース「……礼っ!」(51)


――はじめに――

進撃の巨人ss(短編)です。
「もしもちょっとだけ歯車が狂ったなら」がサブタイトルのパラレルワールド。

コミックスおよびアニメで放映されている範囲のネタバレと、セリフの引用あり。
前作の続編になりますが、今作のみでも読めるように書いたつもりです。

前作:エレン「なんだこの本?」
エレン「なんだこの本?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368937787/)



――教会――

駐屯兵「誰か!誰か助けてくれぇぇぇぇっ」

駐屯兵「家内が!高熱を出しているんです!」

神父「…はやりの病です。治療のすべがありません。自然回復を待つしか……」

駐屯兵「自然回復だって!?もう何人も何人も死んでいる。うちのだってこのままじゃ死んじまう!」

神父「ここに運び込まれた皆さんには、我々も懸命の介抱をしています。やれる事は全てしているんです」

駐屯兵「……っ!」


駐屯兵「…お、おまえ、どうしたっ!?苦しいのか?何…?」

駐屯兵「よしわかった。水だな!ほら!」

駐屯兵「…そう。ゆっくり飲むんだ。ああ」

駐屯兵「落ち着いたか?…そうか、よかった」

駐屯兵「きっと治るからな。ゆっくり寝ているんだぞ」

駐屯兵「………」

駐屯兵「すまねぇ…オレにはこのぐらいしかしてやれねぇ。オレに力がないばかりに」


駐屯兵(二年前に結婚したばかりじゃないか。まだまだ…これからだろう?オレたち…)

駐屯兵(きっと治るさ。治るに決まってる。なぁ)

駐屯兵「………誰か助けてくれよぉ」



―――どきなさい



駐屯兵「誰…だ?」


―――そこをどきなさい。ふむ

駐屯兵「あ、あんた。何してんだ」

―――水を汲んできなさい。それから清潔な布も

駐屯兵「は?……わ、わかった。だが、家内に変なことするんじゃねぇぞ」


駐屯兵「これでいいか?」

―――いいでしょう。それでは奥さんの袖をまくって腕を出してください

駐屯兵「……何する気だ」

―――薬です。今からこれを注射します

駐屯兵「なっ。薬だと!?嘘をつくんじゃねぇ!こいつには何も効かねぇんだ」

駐屯兵「もう何人死んだかわからねぇ。ここの教会だけだって三十人以上死んでんだ。そんなもんあるわけが」


―――これはこの病に対する抗体です。私を信じなさい

駐屯兵「いきなり来て、そんな話が信じられるわけねぇだろ!それとも他に治ったやつでもいるのかよ!変なもの打つんじゃねぇっ」

―――やれやれ。理解のない人だ、あなたは
―――そこまで分かっているなら、このままでは死ぬだけだって知ってるだろう?

―――何もせず死を待つか。コレにすがってみるか…選びなさい


駐屯兵「……嘘じゃねぇだろうな。もし嘘だったら、オレはおまえを…許さねぇ」

―――何事にも絶対はありませんから。失敗した時はいくらでも恨んでください

―――もとより、その覚悟なくして医者になる者なんていません

駐屯兵「………」

………

……




駐屯兵「もう家内はすっかり良くなりました」

駐屯兵「本当に…本当によかった。オレの周りの連中も皆先生に感謝してます」

駐屯兵「…先生。どうもありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

―――そんなにかしこまらなくてもかまいませんよ。私は私の仕事をしたまでです

駐屯兵「ですが」

―――……あなたの名は?

駐屯兵「オレは……ハン――……」


――十余年後・調査兵団本部――


キース団長「先生。今回も本当にありがとうございました」

―――いえ、大したことはしていません

キース団長「謙遜されるな。団員一人ひとりを懇切丁寧に診ていただき、感謝しております」

―――命の重さは皆等しいものです

キース団長「……先生にはいつも申し訳なく思っています」

―――なぜでしょうか


キース団長「先生は軽傷ですら丁寧な治療を施してくださる」

―――ええ

キース団長「我々の活動場所は壁外です。壁外で巨人を調査することです」

キース団長「先生が救ってくださった命、治してくださった腕、足」

キース団長「何ヶ月もかけて治癒したものを…巨人は一撃で奪っていく」

―――……


キース団長「治しては壊され、治しては壊され…それでも我々は行かねばならない」

キース団長「先生の仕事が無に帰すことになっても、行かねばならないのです」


―――無ではありませんよ


キース団長「ほう」


―――私が治療をした分だけ、その人は長く生きられます

―――その人の生きた証は、その分だけ長く他の者の心に刻まれます

―――あなた方の誰かが生き残っている限り、その人も忘れられる事はないでしょう

―――私も覚えています


キース団長「先生……」


キース団長「我々は運が良い。先生のような有能な医者に出会えたのですから」

―――私は有能ではありません

キース団長「なぜですかな?」


―――私は……

―――初めての患者の病状に十年間気づきませんでした


―――その人が体を痛めて苦しんでいる姿を見ていたのに、何もすることもなくその人の前から去りました

―――十年後に再会したとき、その人は

―――後遺症に苦しみながらの死が間近でした


キース団長「……」


―――ですが非常に幸運なことに、その人はそこから回復していったのです


―――奇跡と言うほかありませんでした

―――結局その人自身の回復力で死は遠ざかりましたが

―――私はそばにいること以外に、できることがありませんでした

―――そのとき私は自分の無力さを痛感しました


キース団長「……」


―――今でも自分が有能などと思えたことはありません


キース団長「……先生」

―――はい

キース団長「その奇跡は、先生がいたから起きたのではないですかな?」


―――……

―――……では失礼します


キース団長「……」


団員「きゃっ」

―――君は?

団員「あ、すみません。団長に話があって来たら部屋の中から声がしてたから」

―――聞いていたのですか

団員「盗み聞きするつもりはなかったんですけど……ごめんなさい」


―――まぁ、いいでしょう。それでは

団員「待ってください」

―――なんでしょう

団員「さっきの最後の話を詳しく聞かせてもらえませんか」

―――なぜですか


団員「私……いつか物書きになりたいと思っているんです」

団員「文章を書くのが好きで、調査報告書も私が書いたりしてるんです」

団員「でも、もし本を執筆する機会があったら、その、先生の本を書いてみたいなって思って」


―――私は本に載るほど立派な人間ではありませんので

―――それは遠慮願いたいですね

接続が切れてidが変わってしまったようです。
トリップ?というのをつけたほうがいいようですね。
名前欄に「#pass」と書けばいいんでしょうか。


団員「それなら物語のモデルになるだけでいいですから。是非お願いします」

―――モデルですか。まぁ、そのくらいならいいでしょう

団員「ありがとうございます!じゃあ、ちゃっちゃっと団長との用事を済ませてきちゃいますね!」

―――はい。ところであなたの名は?

団員「私は――ゼ・ラング――と言います」

―――そうですか


――845年・壁外――


キース団長「――総員、戦闘用意!!」

キース団長(ヤツは……これまで出会った巨人の中でも異形の存在。だがっ)

キース団長「目標は一体だ!!必ず仕留めるぞ!!」

キース団長(単独で行動していることが命取りだ)

エルヴィン「……目標との距離400!!こちらに向って来ます!!」

キース団長(奇行種がっ!)


キース団長「訓練通り5つに分かれろ!!囮は我々が引き受ける!!」

エルヴィン「目標距離100!!」

キース団長(今だっ)

キース団長「全攻撃班!!立体機動に移れ!!」


キース団長(団員たちが霧のように拡散していく)

統率の取れた、それでいて個々の動きを悟らせないランダム機動だ。

前回の怪我も皆しっかり治っている。

素晴らしい団員たちよ…先生、感謝しますぞ。



おまえたちを死なせはしない。

キース団長「我々は囮だ。もっと派手に動け!正面相対!!」


キース団長(こちらに食いついてきた。いけっ!)

攻撃班「全方向から同時に叩くぞ!!」



<人類の力を!!>

<思い知れッッ!!>


―――

バカな……バカなっ……。

伝令「第一班、第五班壊滅!」

我々がヤツを無人の森に追い詰めていたはずなんだっ。

エルヴィン「左前方、巨人二体ッ!」

周囲の平原には何もいなかったはずだっ。

エルヴィン「完全に!包囲されています!!」


なぜだっ……!

キース団長「散るなっ。全軍集合!撤退する!」

団員「七メートル級!後ろからきまぁぁぁすっ!」

キース団長「一点強行突破だ。私に続けーー!」


第三班班長「第三班!班長以下生存五名のみ!しんがりにつきますっ」

キース団長「無駄だっ。命を粗末にするな!全速で引けーー!!」

第三班班長「団長!どうかご無事でっ!」

第三班班員「仲間を頼みます!団長!」

<オオオオオッ>

バカ者どもがぁぁぁぁ!


ブラウン「後方より例の奇行種ッ!接近!速い!!」

化け物め……!

キース団長「ブラウンッ!左だ!!」

エルヴィン「七メートル級……っ!」

ブラウン「!?」


キース団長「ブラウンーーッ!こっちだ!つかまれ!!立ち止まるな!!」

ブラウン「団長ーーー!」

キース団長「ここだ!私の手を取れ!飲み込まれるぞっ」

ブラウン「団長ぉぉぉ……!」

キース団長「よし!引っ張る!!」

……軽い!?

キース団長「ブラ…ウン…?」


――ウォール・マリア正門――


<これだけしか帰ってこれなかったのか…>
<20人もいないぞ…>

ザワザワザワ


キース団長「………」

エルヴィン「………」

団員「………」


老婦人「ブラウン!!ブラウン!!」

キース団長「……!」

老婦人「あの…息子が…ブラウンが見当たらないんですが…」

老婦人「息子は…どこでしょうか…!?」


キース団長「……!!」

キース団長「ブラウンの母親だ…持ってこい……」

老婦人「……え?」

キース団長「……」

老婦人(右…手……)


キース団長「それだけしか…取り返せませんでした……」

老婦人「…うぅ……うぁ……」

キース団長(ブラウン……)

老婦人「うああああぁぁ…うぁああぁああ」

キース団長「……」


老婦人「…でも…息子は…役に立ったのですよね……」

キース団長「……!!」

老婦人「何か直接の手柄を立てたわけではなくても!!」

老婦人「息子の死は!!人類の反撃の糧になったのですよね!!?」

キース団長「……もちろん――…………」

ブラウン、私は……。


キース団長「………イヤ…」

おまえばかりか、得体の知れない奇行種に突っ込ませ、

キース団長「今回の調査で…我々は……今回も…」

皆を…共に過ごした…共に育った仲間たちを…

キース団長「なんの成果も!!」

殺したっ!

キース団長「得られませんでした!!」


キース団長「私が無能なばかりに……!!」

キース団長「ただ、いたずらに兵士を死なせ…!!」

おまえたち!先生!!

キース団長「ヤツらの正体を…!!」

すまなかっ……

キース団長「突きとめることができませんでした!!」

………申し訳ありませんでしたっ!!


――847年・第104期訓練兵団入団式――


キース教官「私が教官のキース・シャーディスである!」

キース教官「貴様らは不幸にも私が担当することになった!」


もう二度と…


キース教官「私の訓練はヌルくはない。今ここに半端な気持ちで立っている者は、半端な死に方をして終わるだけだ!」


おまえたちを散らせたくない。


キース教官「人類のために自分の命を差し出す覚悟を持つ者のみ立ち続けよ!」


おまえたちには私の持てる全てを叩き込んでやる。必ず生き残れ。


キース教官「……よろしい」


キース教官「それでは貴様らに敬礼の所作を教える」

キース教官「これは公に心臓を捧げる決意を示すものだ」


私もこれより三年間…一日も休まずおまえたちに心血を注ぐ決意を示そう。


キース教官「これは最初の訓練である。全員、私と同じように振舞うように」


キース教官「人類に対し」

おまえたち一人ひとりに対し、


キース教官「……礼っ!」



おわり


――さいごに――

前作でキース教官の人気が高かったようなので、教官の過去をイメージしてみました。
考える材料が少ないため、原作からの引用が非常に多くなってしまってすみません。

原作の人物設定を大切にしたかったので、創作した逸話の人物名は一部または全て伏せてみました。
もし今後、原作でこれらの人物設定が明かされた際は、パラレルワールド上の話ということで容赦願います。


支援ありがとうございました。

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