エレン「なんだこの本?」(186)

――はじめに――

「もしもちょっとだけ歯車が狂ったなら」がサブタイトルの世界。

ストーリー上のネタバレはありません。
要所でコミックからセリフを引用しているので、5巻ぐらいまでのセリフ的なネタバレは含みます。


――宿舎――

エレン「おーい、アルミン」
アルミン「ん?」
エレン「そこの廊下に本が落ちてたんだけどさ。ここの階で本持ってそうなのって」
アルミン「ああ、それでまず僕ってことか。持ち歩いたりしないから違うと思うけど。どんなの?」
エレン「これなんだけど、小さいしそんなに厚くもないから落とした方も気づかなかったのかもな」
アルミン「あ、これって…」
エレン「書庫の本って感じじゃなさそうだしさ」
アルミン「うん、小説だね。というか確かに同じ本を僕も持ってる」
エレン「なんだ。じゃあアルミンのか」
アルミン「待って確認してみるから」

ちょっと読みづらいですね。>>2を書き直します。

初ssなのですみません。


――宿舎――

エレン「おーい、アルミン」

アルミン「ん?」

エレン「そこの廊下に本が落ちてたんだけどさ。ここの階で本持ってそうなのって」

アルミン「ああ、それでまず僕ってことか。持ち歩いたりしないから違うと思うけど。どんなの?」

エレン「これなんだけど、小さいしそんなに厚くもないから落とした方も気づかなかったのかもな」

アルミン「あ、これって…」

エレン「書庫の本って感じじゃなさそうだしさ」

アルミン「うん、小説だね。というか確かに同じ本を僕も持ってる」

エレン「なんだ。じゃあアルミンのか」

アルミン「待って確認してみるから」


アルミン「違うみたい。僕のはちゃんとこっちにあったよ、ほら」

エレン「ほんとだ。じゃあ誰んだ。少なくともうちの部屋の奴じゃないよな」

アルミン「僕以外に本を持ってるのは見たことないしね。ただ今日はそろそろ就寝時間だし、明日にでも他の人に聞いてみたらいいんじゃないかな」

エレン「そうだな。そうするか」

アルミン「でもそれ結構面白いよ。興味あったら僕の貸すけど」

エレン「座学でもなければ本なんて読まないからなぁ。どんな内容なんだ?」

アルミン「読まないのは知ってるけどさ。内容言うのはちょっとアレだけど、まぁ恋愛物…かな」

エレン「ふーん、恋愛か」


エレン「アルミンは案外そういうの興味あったのな」

アルミン「そりゃあ僕だって人並みにはさ。むしろエレンみたいな方が珍しいと思うよ」

エレン「あー、そうかもな。巨人の駆逐が最優先だし、女子にドキッとした経験もないしな。ミカサとずっといるから慣れてるのかもしれないし」

アルミン「……」

エレン「ま、借りるのはやめとくよ。明日持ち主を探すわ。おやすみ」

アルミン「うん、わかった。おやすみ」


――次の晩・宿舎――

エレン(結局持ち主は見つからなかった)

まさか女子か?
いや、男子宿舎だしそんなわけないよな。忍び込んだのバレたら懲罰もんだ。


エレン(しかし恋愛物か。それってどんな感覚なんだか)パラパラ

思ったより文字は小さくないし、案外読みやすそうな感じはする。

エレン(……)
エレン(……少しだけ)パラ
エレン(……)

エレン(少年と少女の話か)


エレン(どっちもまだ幼い。毎日遊びまわってるんだな)パラ

―――鬼ごっこ。

俺も何回かやったよなぁ。アルミンとミカサとでさ。

あ~、思い出したぞミカサのやつ。
あいつが鬼のとき、いっつも俺に体ごとぶつかってきやがって。
あんまり暑苦しいから、しばらくしてやらなくなったんだっけ。


エレン(この二人は普通っぽいな)パラ

って、ぉい!バカ。
崖の近くで走ってるんじゃねぇ。危ねぇだろ。

ほらみろ少女が転んだ。
ああ?そのまま崖から落ちたのかよっ。


エレン(~~~っ!)パラ

早く行け少年!
いや、だが焦るな。お前も落ちる。

お、少女生きてる。怪我も無し。
良かったな!


エレン(と思ったら少女は脇腹を痛めて立てないのか)パラ

親を呼びに走った。
事件が起きてからの少年の対応はしっかりしてる。

エレン(……)パラ

……ん、少年は明日引越しだと。

おーい、少女どうなるんだよ。

……まぁ家の都合じゃしょうがないかもな。


エレン(で、一年に一度会うことを約束して少年は遠くにか…)パラ

なんだよ、こんな約束守れんのか。自力じゃ戻ってこれないだろ。
いや、二人が無事に生きてるなら別にいいけどさ。
なんだかな。

エレン(ここから先、場面は十年後に移動か)パラ

エレン(……はぁ、ハラハラさせられて疲れたな。でも、どうなるんだこれ)
エレン(って、時間やべぇぇぇっ)
エレン(寝よ)


――翌朝・食堂――

エレン「おはよう、アルミン、ミカサ」

ミカサ「おはよう。エレン、寝不足?」

アルミン「おはよう。ほんとだ。目の下にクマができてるよ。どうしたの」

エレン「ちょっと寝付けなくてな。心配いらねーよ」

ミカサ「悩み事があるなら相談してほしい」

エレン「いや、そんなんじゃないって」


ミカサ「そう」

エレン「…なぁ、アルミン」

エレン「成り行きで果たせない約束をするのって、やっぱり良くないよな」

アルミン「えっ?う、うん。そうだね」

ミカサ「……」

エレン「だよな」

アルミン(……んん?)


ミカサ『アルミン』ヒソヒソ

ミカサ『エレンやっぱり何か悩んでる。きっと何か私とした約束が果たせなくて一晩中自分を責めてたに違いない。どうしよう』

アルミン『たぶん違うと思う』ヒソヒソ

ミカサ『アルミンにだけ聞いて、私に聞かなかったのがその証拠。アルミンも私を気遣わなくていい』

アルミン『え』


ミカサ「エレン」

エレン「ん」

ミカサ「健康を損なうぐらいなら、そんな事は気にしなくていい。エレンの気持はよくわかる。私はいつでもそばにいるから」

エレン「はぁ?」

――夜・宿舎――

エレン(ええと、十年後だっけ)パラ

おう、内地の学校か。
ここと違って座学だけってきっついな……これ、上流階級のやつらの学校だよな。

あー、ここで少年と少女は再会するわけか。

すげぇ偶然。

でも、良かったじゃん。


ただ、結局約束は守れなくて十年ぶりだからな…。

少女怒ってら。そりゃそうだ。

エレン(……)ペラ

なんだかんだで仲直りして学校生活が始まった。


エレン(……)ペラ

何気ない毎日の描写が思ったより面白い。
いいコンビじゃないか、この二人。

幸せそうだな。

いや、二人にとったら充実してるだけなのか。

こうしていた時間が幸せだったことに気づくのって、たいてい後で振り返ってみてからだもんな。
巨人がいないってのは良いもんだ。

エレン(って、また時間やべぇぇぇっ。寝るっ)


――翌朝・食堂――

エレン「おはよう、アルミン、ミカサ」

アルミン「おはよう」

ミカサ「エレン、まだ寝不足?」

エレン「ん?あ、いや大丈夫だぞ」

ミカサ「そう」

アルミン「……」

エレン(考えてみたら俺もいま結構充実してるよな)
エレン(ただ巨人に怯えるだけの日々なんかじゃない。目標に向った毎日をすごせている)
エレン(そして)チラッ

ミカサ「?」

アルミン「ん?」

エレン(気の置けない親友に家族)チラッ

コニー、アサカラナニシテンダヨ!
ダーハッハッハ、バカジャネーノ
サシャ、ソレハノコリモンジャネェ!

エレン(良い仲間たち)


エレン(今が幸せなのかはわからねぇけど、悪くはない)
エレン(ただ、巨人がいるうちは幸福であることはありえねぇ)
エレン(巨人が駆逐できたときにはきっと)

エレン「幸せを感じるはずだ」ボソ

ミカサ「……」


ミカサ『アルミン。悩みが解消されなくてエレンは思いつめてるみたい。私と一緒にいる時間が増えれば解消されるはず』ヒソヒソ

アルミン『今のままでいいとおも…』

ミカサ「エレン」

エレン「ん」

ミカサ「なるべく訓練中ももっと近くにいれるようにするから、そんなに悲しまないで」

エレン「はぁ?」


――夜・宿舎――

エレン(明日は休暇だし少しぐらい夜更かししてもいいよな)

エレン(……)ペラ

しかしこれあれだ。少女は少年に惚れてるんだろ。
俺だってそのくらいはわかるぜ。

好きだけど、それを素直に言葉に出せないってか。
恥ずかしいのかね。まぁ、そうかもな。


エレン(……)ペラ

少年はどうなんだ?
いまいち反応が薄いし。

あー、これ照れてんのか!

照れながら戸惑ってるな。


エレン(……)ペラ

少年も少女のことが好きだけど、少女が自分をどう思っているかがわからない感じか。

他人から見たら、こんなにわかりやすい少女のアプローチも無いと思うんだが。

エレン(……)ペラ

少年はちょっと鈍感すぎるだろ。

くそ、なんかイライラするぜ。とっととくっついちまえよ。


エレン(……)ペラ

でも、なんで少女はときどき悲しげなんだ。
少年が気づいてくれないからか。

エレン(……)ペラ

違うな。

気づいて欲しくてアプローチはするけど、何かがひっかかってそれを貫けてない。なんだ?

お前が言うなよ鈍感野郎w


エレン(……)ペラ

お、おい。少女がいきなり倒れたぞ。

急いで救護室に運べ。

…そうそう。

こういうところの的確さは昔と変わってないな、少年。


エレン(……)ペラ

少女は自宅に移って療養か。

少年が見舞いに行って…ここで少女の親登場っと。

>>31ですよねw


エレン(……)ペラ

………は?

なんだよそれ。

……はああ?

十年前の転落で内臓に障害をおってて、いつ死んでもおかしくないだと。


エレン(……)ペラ

少女は少年にまた会いたい一心で、医者の見立てより長く生きてたのか。

一年に一回会う約束が守られなくても、ずっと焦がれて。

なんなんだよこれ。

……ひでぇ。


エレン(……)ペラ

少女が学校で少年と再会したのは偶然じゃなかったんだな。

少年が入学する事を知った親が、娘の願いをかなえるために無理して転居して同じ学校に行かせたんだ。

偶然にしちゃ出来すぎてたし納得だ。


エレン(……)ペラ

でも、少女自身は少年に会いたさ半々ってとこかね。

ああ、そうか。
だから少女はアプローチに徹しきれずにためらってたのか。

気持ちは伝えたいけど、自分の寿命を知っているから。
恋人の関係で死んだら少年を余計に深く悲しませるから。
本当なら再会しないでそのまま会えずに死んだほうがよかったと。

せつないな……。


エレン(……)ペラ

少年、もう腹くくれ。

こうなったら少女に自分の想いをぶつけろ。

ここでいかなかったら男じゃねぇよ。

ほら、少女が目を覚ましたぞ。
いけっ。
いけよ!


エレン(……)ペラ

よし、いった!

お、おお。
十年越しの初恋が実ったか。

良かったな少女!良かったな少年!

エレン(人間、死の間際って嘘はつけないんだよな…)ペラ

愛してるから生き延びて…そして結婚してくれってさ。

言うなー、少年。漢だぜ。


エレン(……)ペラ

お。

エレン(……)ペラ

お、お?

エレン(……)ペラ

あれ、これすげぇ。少女治ってきてるんじゃね。

人間って気持ちの持ちようでこんなに変わるもんなのか?


エレン(……)ペラ

で、三年間少女は療養しながら、少年は学校を卒業。

まじかよ。ほとんど治っちまったぞ。

エレン(…そして)ペラ

結婚した。

おめでとう!
お幸せに。


エレン(はぁ。やっと読み終わった)

ついに徹夜か。こんなこと初めてだ。
薄暗い中で読んでたから目がつらいし、テンションも何かおかしい気がする。

けど本って結構おもしろいな。アルミンが読書好きなのもわかったぜ。


エレン(あ、まだあとがきがあった)ペラ

……。

これ実話が元……だと?
その後、少年は少女のために医者になったのか。

エレン「すごいな」


――翌朝・食堂――

エレン「おはよう、アルミン、ミカサ」

アルミン「!?」

ミカサ「!?」

エレン「どうした?」

ミカサ「エレン。凄い顔してる」

エレン「そ、そうか?」

エレン(一睡もしてないからな。今日は寝て過ごすか)


エレン(ミカサが気にしてる)

なんか食べづらいな。

でもあれ実話が元っていうのが驚いた。
どこまで本当なのかわからねえけど。

まぁ何にせよ少女が死ななくてよかったよ。
死んでから後悔しても遅いからな。

……そう、死んでから気づいても遅いんだ。


エレン(今日の食事もパンと薄いスープ)

エレン(母さんもよくスープ作ってくれたっけ)ズズ

母さん…。

―――『どうしていつも母さんの言うこと聞かないの!』

―――『最後くらい言うこと聞いてよ!!』

エレン(………)


いつも感謝していた。

いつも言われたことに反発しちまってたけど、本当は母さんの気持ちだってわかっていたさ。

でも、母さんがいることが当たり前で……当たり前だったから、いつもいてくれるのが当然だったから。

感謝より先にうっとおしさがあったんだ。

それに素直になるのが恥ずかしかったし、照れくさかった。

いなくなってしまって、当たり前がなくなってしまって、やっと気づいたよ。

……俺はバカだ。


エレン(ミカサの視線を感じる)

考えたらおまえだってそうだ。

いつも一緒にいるのが当たり前で、いつも俺のことを気にしてくれるのが当たり前で。

だから嬉しいより先に煩わしい。

手のかかる弟のように見られている気もして悔しいんだ。


エレン(…おまえについつい反発してばかりだな)

なのに変わらず何年も俺のそばにいてくれる。
何があってもそばにいるって言い続けてくれる。

当たり前のうちはそれがどんなに貴重なことか気づけない。

ミカサ。
もしおまえがいなくなったら俺は……。


ミカサ「エレン!」ガタッ

エレン「う、お!?」

ミカサ「こっちきて」

エレン「な、なんだ?」

ミカサ ガ エレン ヲオオッテ デテイクゾ!
ウォ、ビックリシタ
ナンデ エレン ノカオカクシテンダ?


エレン「ミカサッ。いきなりなんだよ。こんな物陰に連れてきて」

ミカサ「……」

エレン「おまけに上着で俺の顔を覆ってよ」

ミカサ「……」


ミカサ「エレン?」

エレン「?」

ミカサ「どうして、泣いてるの?」

エレン「え…?」

エレン「え…!?」


―――『どうして、泣いてるの?』

そういえば前にも。

―――『言うなよ…誰にも。俺が泣いていたとか…』

―――『……言わない』


ミカサ「大丈夫。エレンの泣き顔は誰にも見られてない。アルミンにも」

ミカサ「私だけ」

ああ、だから急いで俺を覆って。

おまえはあの時に言ったことをまだ…。


―――『でも…理由もなく涙が出るなんて。一度おじさんに診てもらったら?』

―――『バカ言え!親父に言えるか、こんなこと』

ミカサ「昔もあった。理由もなく涙が出るなんて」

エレン「う」


ミカサ「これで気が済むなら」グイ

エレン「う、お」

ミカサ「私の陰で泣くといい」

エレン「あ…」


エレン(私の陰…か)

医者にってもう言わないのな。

俺に親父を思い出させるとでも思ったのか、ミカサ。

―――トクン

ミカサの鼓動……。


エレン「ミカサ」

ミカサ「なに」

エレン「その、いつも」

ミカサ「うん」

エレン「あり…がとぅ」

ミカサ「!?」

エレン「ありがとう」


ミカサ「エレン?どうしたの、そんなこと言うなんて変」

エレン「俺は、いつもおまえに突っかかってばかりいてさ」

エレン「それなのにいつでも俺を心配してくれる」

エレン「いつでもそばにいようとしてくれるよな」

ミカサ「私はエレンから離れない」


エレン「なんでそこまでしてくれるんだ」

ミカサ「……」

ミカサ「人生が続く限り…一度死んだ私を再び生き返らせた恩は忘れない」

ミカサ「エレンが私を家族と迎えてくれた。この世界に私の居場所を作ってくれた」

エレン「そう、か」


―――トクン

暖かい。

エレン「ミカサ。俺が居場所を作ったっていうけど」

ミカサ「?」

俺は何を言おうとしているんだ。
こんなこと言ったら怒るんじゃないか。


エレン「いつもおまえは俺を保護しようとしててさ」

エレン「逆に俺はおまえにゆりかごを作られているような気分だったよ。それが気に入らなかった」

ミカサ「……」

エレン「そんなに俺は危なっかしい子供みたいなのか」


ミカサ「おばさんに…言われたから。困った時は二人で助け合うんだよって」

エレン「母さんに?」

ミカサ「うん。もう遺言になっちゃったから。でも」

ミカサ「なにより…もうこれ以上家族を失いたくない…」

エレン「……」

ミカサ「だから、つい、いつもおせっかいを焼いて。それがエレンを傷つけてしまった…のね」


わかってはいたんだ。

俺を失いたくない。ただ、ただ、その想いからだったことを。

ミカサ「ごめんなさい」

謝らないでくれ。


気分が静まっていく。

―――トクン

落ち着く音。

エレン「いいよ。俺は自分が情けなかっただけなんだ」

ミカサ「エレンは情けなくなんかない」


エレン「でも俺は、何もかもがおまえに及ばない。一番得意な良い対人格闘術だって!」

ミカサ「違う」

エレン「何が?」

ミカサ「私に力をくれているのはエレン」

エレン「え」

ミカサ「私には…この世界に帰る場所がある。エレン…あなたがいれば私は何でもできる」


ミカサ「……だからエレン」ギュ

柔らかい感触が…強まる。

―――トクン

ミカサ「私のこと…嫌いにならないで」

ドキン!
うっ。


エレン「あ、ああ。ミカサ、おまえは大切な家族だもんな。嫌いになんてなるわけが」

なんだ、なんだ?この動悸。

ミカサ「よかった」

ドクン。

胸が苦しい。


う、まずい。

何かがまずい。

離れないと。

エレン「ミ、ミカサ。もう大丈夫だ」

ミカサ「うん」

エレン「戻ろう。今日は一日宿舎で休むよ。確かに最近寝不足だしな」

ミカサ「わかった」


――夜・食堂――

エレン「よお、アルミン、ミカサ」

アルミン「おはよう?エレン。今日ずっと寝てたみたいだけど体調大丈夫なの」

エレン「ああ、大丈夫だ」

ミカサ「もう無理はしないで」

エレン「お、おう」ドキ

まただ。
今朝のは寝不足のせいかと思ったが、違うらしい。


原因はミカサだよな。
ミカサの近くにいると胸が苦しい。

ミカサ「エレン。なんか手が震えてる」

エレン「ば、ばか。やめろ。手離せよ」

ミカサ「……」シュン


あ、れ?こいつこんなに可愛かったっけ。

客観的に見て美人なのはわかってたけど、女っぽい?

…やべぇ。

エレン「…アルミン。食事が終わったら聞きたいことがある。宿舎でいいか?」

アルミン「え?うん、いいけど」


――宿舎――

アルミン「で、どうしたのさ。エレンは最近おかしかったけど、そのことかい」

エレン「いや、それは寝不足だから大丈夫だ。それとは関係なくてさ」

アルミン「うん」

エレン「ぶっちゃけた話、アルミンいま好きな人っている?」


アルミン「へ?…エレン、いきなり何を」

エレン「いないのか」

アルミン「ぼ、僕はエレンやミカサの事がずっと好きだよ?」

エレン「そうじゃなくてさ。ほら、こ、恋ってやつ」

アルミン「う、いないこともないけど」


エレン「そうか。相手のことは聞かないから教えてくれ。好きな人と接しているときってどんな感じなんだ?」

アルミン「エ、エレン。もしかして好きな人ができたの…?」

エレン「いや、違うと思うがよくわかんねぇ」

アルミン「わかった、答えるよ。ええとね、まずその人を意識すると心臓がどきどきする」

エレン「…そ、それで?」


アルミン「どきどきしすぎて、なんか自分がうまく出せなくなるのが困るんだけど」

エレン「アルミンらしいな」

アルミン「その人がかけてくれた言葉、気持ち、渡してくれた物。そういうった全てが嬉しいんだ」

エレン「そうなのか」

アルミン「うん。まぁ、特定の女の人にどきどきするのは、だいたい恋の証だと思うよ」

エレン「マジか…。わかった、ありがとう」

アルミン「……」


嘘だろ…。

嘘だと思いたい。

だって家族だぜ?今までずっと一緒にいて、なんともなかったのに。
確かに血はつながってないが、家族は家族だ。

俺がミカサにその、こ、恋したとか?

ありえねぇ。
家族に恋とかありえねぇ。

気持ち悪いだろ。あの二人に知れたらドン引きだぜ。


そうだ。あれは何かの間違いだ。

落ち着け。俺には巨人を駆逐するって目標があるじゃないか。
そうだろ?恋だなんて。

ああ、落ち着いてきた。

明日になればまた全部元に戻るはずだ。

ミカサに恋したなんて気のせいだ。

寝よう。


――翌朝・食堂――

エレン「おはよう、アルミン、ミカサ」

アルミン「おはよう」

エレン「また今日から訓練だな。張り切っていこうぜ」

アルミン「うん、そうだね」

ミカサ「張り切りすぎても危ないから。そういうときこそ周りをちゃんと見て」スッ

エレン「お、おう。わかったから手をどけてくれ」


やべぇ。なんだこれ、やべぇ。

全然治ってねぇよ。というか悪化してら。

まともにミカサの顔を見れねぇよ。

だいたいなんで、いつもこんな近くにいるんだよ。

勘弁してくれ。

ミカサは家族。ミカサは家族。ミカサは家族。

……よし、もう大丈夫だ。


ミカサ「エレン。ちゃんと食べなければもたない」

エレン「わ、わかってるよ。顔近い」

ああ、無理。

大丈夫じゃねぇ。無理。

こうなったら…。

エレン「ミカサ。頼みがある」


エレン「俺のためを思うなら、ちょっとその…しばらく離れていてくれないか」

ミカサ「!?」

アルミン「!?」

エレン「嫌いになったとかじゃないから。俺の問題だ」

ミカサ「エレン?」

エレン「悪い。向こうのテーブルに行くわ」

ミカサ「そんな」


ミカサ「……」

アルミン(ああ…胃が痛い)

エ、エレン?
ナンデコンナトコロニ
メズラシイネ ケンカ?

アルミン(ミカサ、放心してる…っぽいね。僕もびっくりだよ)

ミカサ「……」

アルミン(でも、ちょっと静観してたほうがいいかな)


――翌朝・食堂――

アルミン(結局、昨日の昼も夜も、そして今もエレンは別席のままだ)

アルミン(訓練中もミカサを避けてたようだし、これは)チラ

ミカサ「……」

アルミン(そろそろくるよね)


ミカサ「アルミン」

アルミン(ほらきた)

ミカサ「エレンはひょっとして好きな女ができたのかも。アルミンはどう思う?」

アルミン「まさか。エレンのことだし」

ミカサ「アルミン。何か思うふしがあるならハッキリ言って」ゴゴゴ

アルミン「はは…」

アルミン(これは誤魔化せない)

ミカサの言うとおりだ。

たぶん、エレンに恋心が芽生えたんだと思う。

最近の様子はおかしかったし、こないだの質問のことを考えてもね。

そして僕は見てしまった。

エレンのベッドにあの本がずっと置いてあるのを。

今までのエレンだと考えられないけど、本に触発された可能性はある。


問題は、誰に?だ。相手は誰だろう。

食事や訓練中のそぶりを思い返すと、ミカサ以外の女子にはいつもどおりだったと思う。

好きな人ができたから、ミカサと距離を置いたっていうのは第一の可能性だけど、違う気がする。

でも、もし…もし仮にミカサがその相手だったとしたら?

距離を置いた理由は?

……。

………まさか。まさか。


アルミン「ミカサ」

ミカサ「何か心当たりあった?」

アルミン「今夜エレンに直接聞き出そうと思う」

ミカサ「…エレンが言うとは思えない」

アルミン「大丈夫。僕を信じて」


ミカサ「わかった。アルミンの報告を待つ」

アルミン「ミカサ」

ミカサ「?」

アルミン「今夜、夕食後に男子宿舎の裏手の茂みのあたりで聞くから」

ミカサ「…!…わかった」


――夜・宿舎裏――

エレン「なんだ聞きたいことって」

アルミン「率直に言うよ。なんでミカサを避けてるの」

エレン「ぐっ」


アルミン「避けてないとは言わせないよ。エレンのはあからさまだからね」

エレン「そうかもな」

アルミン「ミカサを嫌いになったわけじゃない。自分の問題だって言ってたけど」

エレン「ああ」

アルミン「エレン。好きな人ができたんでしょ」

エレン「う」


アルミン「だけど、初めての事だからどうしていいかわからない。気持ちの整理がつかない。違うかい?」

エレン「ったく、エスパーかよ」

アルミン「肯定と受け止めるよ。相手は誰なの?」

エレン「そればっかりはアルミンであろうと言えない」

アルミン「……」


アルミン「エレンにとってさ…」

エレン「おう」

アルミン「僕ってなんなのかな」

エレン「親友だろ」

アルミン「はっきり言うね。僕にとってもエレンは親友だよ」


アルミン「だけど」

エレン「ん?」

アルミン「……」

エレン「だけど、なんだ?」


アルミン(腹をくくれ、アルミン。自分の本音をぶつけずに、相手の本音を引き出せるわけないじゃないか)


アルミン「エレンとミカサの二人と僕は…対等の友人だと思ったことがないんだ」

エレン「は?」

アルミン「僕は臆病者以外の何かではなくて…僕は何度も二人に助けられたけど、僕が二人を助けたことは一度も無いんだ」


エレン「待てよ、なんだそりゃ」

アルミン「……」

エレン「お前ってやばい時ほど、どの行動が正解か当てることができるだろ?俺たちは何度もそれに救われてる」


アルミン「いつそんなことが?」

エレン「色々あっただろ?三年前なんか、お前がハンネスさんを呼んでくれなかったら、俺もミカサも巨人に食われて死んでた」

アルミン「―――あ」

エレン「だからここぞって時ほど、お前にすがりたいと思っている」

アルミン「エレン…」


アルミン「僕がバカだった。自分は無力で足手まといだと勝手に思い込んで。ごめんなさい」

エレン「いいんだ、アルミン。俺たちはお前を信頼しているからな」

アルミン「…ならば、また僕に二人を救わせて欲しい」

エレン「ん」


アルミン「エレンが好きな人って、ひょっとしてミカサ?」

エレン「なっ」

―――ざわ

アルミン「僕が信頼に足るなら隠さず話して」

エレン「そっ…」

アルミン「ミカサなんだね?」

エレン「…そ…うだ」


アルミン「最近抱え込んでいたのは、そのことだったんだね」

エレン「…ミカサは家族なんだ」

アルミン「うん」

エレン「ミカサもそう思っている。これからもずっとそのはずだ」

アルミン「うん」

エレン「なのにさ。家族を好きになっちまっただなんて、家族に恋しちまっただなんて」

エレン「有り得ないよな。気持ち悪いよな。ミカサがこのこと知ったら、俺を軽蔑するかもしれない」

エレン「でも、あいつがそばにいると気持ちが抑えられなくて…怖かったんだ」

アルミン「エレンの気持ちはよくわかったよ。そして僕はミカサの気持ちも知ってる」

エレン「アルミン…?」

アルミン「ミカサはね」

―――待って


ミカサ「その先は私に言わせて」

エレン「ミカサッ!?」

アルミン「…うん」

エレン「全部…聞いてたのか…」


ミカサ「エレン」

エレン「う」

ミカサ「エレンがずっと、私を家族として迎えてくれてたから、私もエレンの家族としてあろうとした」

ミカサ「だけど、エレンの今の気持ちを知ったから、私も正直になろうと思う」

ミカサ「私もエレンが好き。愛してる」

エレン「」

ミカサ「愛してるから…エレン…あなたがいれば私は何でもできる」


エレン「じゃ、じゃあさ、ミカサ」

ミカサ「うん」

エレン「……」

ミカサ「……」

エレン「俺の…恋人になってくれないか」

ミカサ「……うん。うんっ」


アルミン(二人とも顔がぐちゃぐちゃだよ。ああ、僕もかな)

想いがかなって良かったねミカサ、エレン。

あとは二人きりでごゆっくり。


エレン(ミカサの泣き顔は何度か見てるけど、これは)

こんなに目を潤ませて、なんだこの顔。

…ミカサってこんなに可愛かったのか。

ミカサ「エレン。目閉じて」

エレン「お、おう?」

―――唇が!?

…キ…ス…?


……。

柔らかい。
暖かい。

心臓が、
踊ってる。

腰から、
力が抜けそうだ。

ずっとこのままで、
いられたら。


キース(…むぅ)

物陰に気配があったから何者かと思えば。

まさかあの二人が。
いや、有り得なくは無いと思ってはいた。

そうかそうか。

キース(だが、しかし…)


――翌朝・食堂――

アルミン「あの。さすがの僕もいづらいというか」

昨日までとは一転。

エレンとミカサが元通り同じテーブルにつくようになったのはいいよ。よかったよ。
それが本当に元通りならばね。

アルミン「ずいぶん、その、二人の距離が近くない?」

二人が隣り合わせに座るのはいつもの事だけどっ。

それが、太ももが触れ合う距離っていうのはどうかと思うんだ!


エレン「そ、そうだよな。おい、ミカサ。もうちょっと離れようぜ」

ミカサ「嫌」

エレン「周りからも見られてるみたいだし」チラ

ナニアレ ドウナッテンノ
ナカナオリ シタノカ
ジャンガ チノナミダヲ!

ミカサ「問題ない」

エレン「でもアルミンも居心地悪そうだしさ」

ミカサ「…わかった」

アルミン(これはこれで疲れる)


――訓練場――

キース「イェーガー訓練兵!」

エレン「はっ」

キース「貴様、今日の訓練の腑抜けた動きはなんだっ」

キース「実戦でそんなことでは即死するだけだ。気合が戻るまで走っていろ!」

エレン「は!」

キース(やはりこうなったか。しかし、イェーガー訓練兵に比べてアッカーマン訓練兵のブレなさはさすがだ。だが、どうする)


エレン(くそ。どうしちまったんだよ、俺)

訓練に身が入らねぇ。こんなことは初めてだ。

ミカサの事をつい思い出して集中が途切れる。

とにかく今のままじゃ訓練どころじゃねぇ。

巨人を駆逐するっていう意思がかすんじまってるんだ。

なんとかしないとまずい。


――翌日・訓練場――

エレン(やっぱり今日もダメだ)

キース「イェーガー訓練兵!」

エレン「はっ」

キース「それから今日はアッカーマン訓練兵!」

ミカサ「はっ」

エレン(ミカサも?)


キース「イェーガー訓練兵!昨日に続けて、その緩慢な力の無い動きは何だ」

エレン「は!」

キース「アッカーマン訓練兵。貴様も今日の訓練では集中力を欠いているように見えた」

ミカサ「?」

キース「何か言いたいことでもあるのか」

ミカサ「…いえ、ありません」

エレン(いや、ミカサはそんなことは無かったはずだ)


キース「貴様らひょっとして…病気か?」

エレン「は?」

ミカサ「?」

キース「病を隠して無理をしてやっていないかと聞いているのだ」

エレン「そ、そんなことはありません。俺は健康です!」


キース「私の目が曇っていると言うのか?いい加減なことを口にしているとでも言うのか!?」

エレン「い、いえ」

ミカサ「……」

キース「では病であることを認めるのだな?どうなんだ!」

エレン「は…はぃ」

キース「アッカーマン訓練兵も認めるのだな?」

ミカサ「…はい」


キース「よろしい。それでは二人には明日から三日間の療養を命じる」

エレン「え?」

ミカサ「は…」


キース「これは教官命令であるから訓練成績へのペナルティは無い」

キース「また治療のための外出、および門限の超過は特例をもって許可する!」

キース「当然ながら二人とも就寝は救護室で行うこと。きっちり三日で体調を戻せ。何か質問!」

エレン・ミカサ「ありません!」

キース「では、本日はこれまで。解散っ」

エレン・ミカサ「は!」


――翌日・救護室――

軍医「皆訓練で出払っているしね。二人部屋だし静かなもんでしょ。まぁゆっくり療養することだね」

軍医「それじゃ私は衛生本部に行ってくるから」

エレン「はい。ありがとうございました」


エレン「ミカサ。隣いいか?」

ミカサ「うん」

エレン「療養つったってなぁ」

エレン「ベッドしかない部屋じゃ、座ってるか寝るかしかないじゃんか。調子狂っちまうよな」

ミカサ「うん」

エレン「……」


ミカサ「ひさし…ぶり」

エレン「ん?」

ミカサ「こうして二人で同じベッドに座るの」

エレン「そうだ…な」

ミカサ「……」

エレン「……」


ミカサ「静かね」

エレン「ああ」

ミカサ「……」

エレン「……」


ミカサ「こうしていても、突然巨人がくるかもしれない」

エレン「…っ」

ミカサ「みんないつ死ぬかなんて、わからない」

エレン「ああ」


ミカサ「それなのに私は自分の気持ちにフタをして生きていた」

エレン「……」

ミカサ「でも、エレンがそれを取り除いてくれた」

エレン「……」

ミカサ「思ったの。遣り残すことがないように毎日を生きようって」


ミカサ「エレン」

エレン「ん」

ミカサ「キス…して」

エレン「う、うん」

ミカサ「…ん」

ミカサ「…は…ぁ」

エレン「…ミ、カサ」


ミカサ「見て、エレン」

エレン「な、な、おい。何してんだ!」

ミカサ「……」

エレン「ばか。こんなところで脱ぐな」

ミカサ「……」

エレン「お、おぃぃ」

ミカサ「いいの。見てほしい」


ミカサ「私の腕、足、お腹…」

ミカサ「エレンを失いたくないから。力が欲しくて必死だった」

ミカサ「…こんなに筋肉ついちゃった。女らしくないと思う」


エレン「思ってたよりついてない」

ミカサ「え?」

エレン「思ってたよりついてねぇよ。正直もっとすげぇの想像してた」

ミカサ「え…」

エレン「考えたら年齢的にもそこまで筋肉がつくわけないよな。食事もあれだし」

エレン「出会ってからこの三年間ずっと、俺を大切にしてきてくれた想いの結晶なんだろ。その体は」

エレン「綺麗だよ」


その後はよく覚えていない。

ただひとつ言えるのは、俺はミカサを抱いたこと。

療養最終日の夜になるまで何度も抱いた。

いつ死ぬかわからない事実が動かせないなら、正直に生きようと思ったんだ。


――最終日夜・救護室――

エレン「これが最後の夜だな」

ミカサ「うん」

エレン「ミカサは、遣り残すことがないように毎日を生きようって思ったって言ってたよな」

ミカサ「うん」

エレン「この三日間はそうできたか?」

ミカサ「できた、と思う」

エレン「そうか」


エレン「俺にはまだ遣り残しがある」

ミカサ「なに?」

エレン「ミカサ、落ち着いて聞いてほしい」

ミカサ「ん」


エレン「俺とお前は家族から恋仲になった」

エレン「だがあと二年間の訓練が終わったら…俺は調査兵団に行く」

エレン「巨人を駆逐するためにな」

ミカサ「…うん」

エレン「だからミカサ。訓練が終わったら恋仲は終わりにしよう。そして、また家族になってくれ」


ミカサ「…え?」ジワ

ミカサ「私のこと、やっぱり好きじゃなかった?私じゃ恋人になれない?」ウルウル

エレン「いや、そうじゃないんだ」

ミカサ「どうして?どうして?」

エレン「落ち着いてくれ」


ミカサ「私にはエレンが何を言っているのかわからない!」

エレン「俺の言い方が悪かった。違うんだ。元に戻そうって言いたいんじゃない!」



エレン「ミカサ。訓練が終わったら…俺と結婚してくれないか」


ミカサ「え」

ミカサ「…えっ?」

エレン「俺と結婚して家族になってくれ。今度は夫婦だ」

ミカサ「」


―――『なんだよ?』

―――『ほら』

―――『早く帰ろうぜ』

―――『オレ達の家に』


ミカサ「…」ポロ

ミカサ「……」ポロポロ

エレン「なっ、なんだ。ごめん。やっぱりダメだったか?早すぎたか!?」

ミカサ「……ひ……ぐ」


エレン「いや、その、ダメだったらいいんだ。今のままだってお前がいてくれれば」

ミカサ「……ち…ぎゃ……ぅの」

エレン「ん?」

ミカサ「……違うの……」

エレン「ん」

ミカサ「嬉しい」

ミカサ「……嬉しい!!」


エレン「そ、そうか。じゃあ受けてくれるんだな!」

ミカサ「うん!うんっ!!」

エレン「ありがとう!」


両目をつむりながら何度もうなづくミカサが、たまらなく愛しい。

きっとマフラーの下では奥歯を思い切り噛んでいるんだろうな。



エレン「今まで俺は巨人を駆逐するために調査兵団を目指していた。とにかく殺戮するのが目的だった」

エレン「だけどもう違う。俺は調査兵団に入って巨人を駆逐して」

エレン「―――お前やアルミンと安心して暮らせる世界を作りたい」


ミカサ「…エレン」

エレン「だからミカサ」

エレン「平和な世界を迎えるために、なんとしてもそこまで生き延びるために」

エレン「明日から全力で訓練に打ち込もう。お前と俺はもう二人で一つだ!」

ミカサ「うん!」


――翌朝・食堂――

アルミン「おはよう、エレン、ミカサ」

エレン「おはよう」

ミカサ「おはよう」


アルミン「もう療養は終わったのかい。二人とも」

エレン「ああ」

オー、アレッテ エレン ト ミカサ ジャン?
ナオッタノカ-
ナンカ、イロイロモトドオリー?

アルミン「べったりくっつくのも、やめたんだね」

エレン「もうそんな必要ないからな」


アルミン「ん。どういうこと?」

エレン「うん、そのな。アルミンに報告がある」

アルミン「何?」

エレン「いや…そのだな。ええと」


アルミン「何さ。もったいぶらないで教えてよ」

オ、エレン ガナンカイウミタイダゾ
カオマッカダネー
ナニ?コクハク?キャー

エレン「俺とミカサな。ここを卒業したら結婚することにしたんだ」

アルミン「」


アルミン「ほ、本当かい、ミカサ?」

ミカサ「……はい」

アルミン「っ!」


―――そのとき目にした光景を僕は生涯忘れない。

エレンと目が合った。僕と同じ気持ちなんだろう。

ミカサが…ミカサがね。

どんな冗談を聞いても、どんな嬉しくても眉ひとつ動かす事ができなかったミカサがね。



……笑ったんだ。


――訓練場――

アルミン(なんだかエレンがいつもと違う)

なんだ、あの動き。なんだ、あの機動?
今までのエレンとはまったくの別物だ。

がむしゃらに突っ込むわけじゃない。
誰かと張り合うわけでもない。

目的のためにグループの力を引き出すかのような動き。

キース「むう…」


アルミン(そうか。エレンはきっと覚醒したんだ)

アルミン(タイプは違うけど…ミカサと同じように)

アルミン(たぶんこれからどんどん強くなる)

キース「療養成功か。一皮向けたようだな」

キース(グリシャ…今日お前の息子が…兵士になったぞ)


アルミン(ミカサも、エレンを保護する動きじゃなくて、フォローする動きに変わってる)

アルミン(相手が今なにをしたいのか。自分はどうあるべきか)

アルミン(凄い…や)

アルミン(はは……)

たった数日間でこんなに変わるなんてね。


この二人を最終的に仕上げたのはキース教官だ。
教官の療養指示の判断は間違ってなかった。

やっぱり教官は凄いなぁ。

僕は二人の間をちょっと取り持っただけ。大した事はして無いよ。

そもそもエレンが最初に自力で何かを考えて何かに気づいたから僕の出番があったわけだし。

だけど、一番の功労者はあの本を廊下に落とした人なのかもしれないね。



そうだ。…結局あれは誰の本だったんだろう。


キース(ここまで変わるものだとはな。大したものだ)

これも人間の精神が生み出した力だ。
人間は底知れぬ可能性を持っているんだな。

キース(……)


そういえば、あの本の内容も人間の精神の力を描いたものだったな。
あの先生の少年時代がモデルになったという噂があったから読んでみたが。

…ポケットに忍ばせていたら、見回り中にどこかに落としてしまった。

キース(また買いなおすか)

本は拾った者にくれてやろう。



おわり

支援ありがとうございました。

エレミカに幸あれ。

作者の設定ではグリシャとカルラのお話が本になったってことでおk?

違うか……

>>175

原作の設定を大切にしたかったので、生い立ちのわからないグリシャとカルラの名前は伏せ、キースにはあえて「あの先生」と言わせています。
なので想像におまかせします。

もしグリシャとカルラだったら、巨人に食べられるシーンはさらに悲しくなりますね。

なぜか勝手にスレが上がると思ったら、名前にsageが入ってました。
書きこみも初心者です。ご迷惑をおかけしました。

気が向いたらまた次作を書きます。
ありがとうございました。

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