高森藍子「幸せな日」 (32)



藍子「Pさんは、どんなときに幸せを感じますか?」



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P「どうしたんだ? 藪から棒に」

藍子「いえ、ちょっと興味があったんです」

藍子「Pさんにとっての幸せって何かなって」

P「幸せ、幸せか…」

P「あんまり考えたことないな、そういえば」

P「ちひろさんはどうです?」


ちひろ「えっ」

ちひろ「私ですか?」


藍子「ちひろさんが幸せな気持ちになるのって、どんなときですか?」

ちひろ「そうですねぇ…」

P「やっぱり俺から搾取したときですか?」

ちひろ「あ?」

P「スイマセン」

ちひろ「…まあ、それはいいとして、私もちょっとピンときませんね」

ちひろ「普段幸せだって実感すること、あんまりないですからね」

藍子「でしたら、今日みたいな日はどうですか?」


P「?」

ちひろ「どういうこと? 藍子ちゃん」

藍子「今日、なんだかすごくいい感じだと思いませんか」

藍子「ずうっと降り続いていた雨が止んで」

藍子「空がからっと晴れあがって」

藍子「水たまりで遊ぶ子供たちの姿が見えたりなんかして」

藍子「ちょっと、素敵だと思いません?」

P「言われてみれば」

ちひろ「ここのところ雨続きでしたもんね」

ちひろ「確かに今日は気持ちがいいです。いつもよりお仕事が捗りますねっ」

P「書類の山で溢れたデスクを前によくそんなことが…」

ちひろ「Pさん」

P「スイマセン」


P「まあ、晴れやかな気分になるのは確かだな」

藍子「そうですよねっ」

P「藍子はそういうところ、よく気が付くよな」

藍子「ふふっ、いつもカメラを持ち歩いてるからかもしれませんね」

藍子「こういうささいなことが、私にとっては幸せなんです」

P「なるほどな」

P「幸せか…」

藍子「Pさん?」

P「いや、俺にとっての幸せってなんだろうなって思ってさ」


P「がむしゃらに仕事してきたせいか、そういうこと考える暇もなくってな」

P「今藍子に言われて、はっとしたよ」

P「幸せって何なんですかねー、ちひろさん」

ちひろ「金ですよ、金」

P「もう最悪の回答だもんなあ」

ちひろ「冗談ですよ! 本気にとらないでくださいっ!」

藍子「…でしたら、探しに行きませんか?」

P「え」

藍子「幸せ、探しに行きませんか。これから」

P「これから?」


――
――――


P「何かと思ったら、散歩に行くことを言ってたのか」

藍子「すみません。お忙しいところを」

P「いいよ。ひと区切りついたところだったし」

藍子「ちひろさん、ひとりになっちゃいますけど大丈夫でしょうか…」

P「誘ったけど、忙しくて来れないってさ」

P「さすが、空気の読める人だよ」

藍子「え?」

P「いや、なんでもない」

P「それで、どこ行くんだ?」

藍子「そうですね。公園に行きませんか」


――公園

P「おお、こんなところがあったとは」

藍子「都会のオアシスってやつですね」

P「木の葉が濃く色づいてる。もう夏なんだな」

P「普段オフィス街のど真ん中にいるから、そんなこと気にも留めなかったな」

藍子「ふふふ」

藍子「あ、ほらPさん、あそこにベンチがありますよ。座りませんか?」

P「おう」


藍子「風が気持ちいいですね」

P「ちょうど日陰になって、涼しいな」

藍子「Pさん。私お茶を持ってきたんです」

藍子「飲みませんか?」スッ

P「(水筒にお茶を入れてくる系女子…!)」

P「実在したのか」

藍子「?」

P「いや、いただくよ。ありがとう」



サワサワ…

チチチ…


藍子「……」

P「……」

藍子「なんだか時間がゆったり流れてる気がしますね」

P「…ああ」

藍子「Pさん、今何を考えてます?」

P「…仕事のことかな」

藍子「えっ。し、仕事のこと考えてたんですか?」


P「今度お得意先に挨拶に行かなきゃなとか、ここのスケジュールはどう調整しようかとか…」

P「どうしてもそういうことが頭をよぎってな」

藍子「えと、その。も、もう戻りますか?」

P「いや、そんな急を要することじゃないから大丈夫だ」

P「ただ、なんていうかな。そういう性分なんだよ」

P「こうやってまったりしてていいのかって、思っちゃうんだ」

藍子「……」

P「損な性格だよな」


藍子「Pさん。最近根を詰めすぎじゃないですか?」

P「そうかな」

藍子「そうですよ。夜遅くまで残ってお仕事して…」

藍子「事務所に泊まり込むこともあるらしいじゃないですか」

P「そんなこと、誰から聞いたんだ?」

藍子「まゆちゃんと、凛ちゃんが言ってました」

P「まゆはともかく、凛もか」

藍子「二人とも心配してましたよ。Pさんのこと」

P「俺は二人の今後が心配だよ…」


藍子「それに、お昼ごはんもちゃんと摂ってないですよね」

藍子「毎日コンビニのお弁当じゃ、体壊しちゃいますよ」

P「う、それは確かに…申し訳ない」

P「ただ、自炊する時間が取れなくてなあ。外食は高いし…」

藍子「でしたら、響子ちゃんに相談してみたらいかがですか?」

P「響子に?」

藍子「はい。Pさんにお弁当作ってあげたいって言っていましたよ」

藍子「このままじゃPさん倒れちゃうって、すごく心配してました」

P「知らないうちに、いろんな子に心配かけてたみたいだな」

P「全然気づかなかったよ」

藍子「響子ちゃんだけじゃないですよ。ありすちゃんや友紀ちゃんもです」

藍子「チャレンジクッキングの成果を見せるときだって、とっても張り切ってましたよ」

P「そ、そうか。ありすに友紀も…」

P「うれしいけど、気持ちだけ受け取っておこうかな」


藍子「私たちのためにお仕事してくれるのはうれしいですけど…」

藍子「たまにはお休みしてくださいね?」

P「うん、そうするよ」

P「しかし、今は大事なときだからな。ちょっと無理してでも頑張らないと」

藍子「大事なとき、ですか?」

P「ああ、最近はうちの事務所も有名になって、仕事も増えてきただろ」

P「小さい箱だけど、ライブもできるようになって」

P「みんなやっと、アイドルとして活躍できるようになったんだ」

P「今が、チャンスなんだよ」

藍子「それは、そうですけど」

藍子「Pさんが辛い思いをしてまで、やるようなことじゃ…」

P「いやいや、全然辛くなんてないぞ」

P「俺としても、みんながトップアイドルになって輝く姿を早く見たいんだ」



P「いってみりゃそれが、俺にとっての幸せってやつだからな」


藍子「私たちが、トップアイドルになること…」

藍子「それが、Pさんにとっての幸せですか?」

P「ああ」

P「大勢の観客を前に、俺がスカウトしたアイドルが歌うんだ」

P「だれもかれもが熱狂してさ、みんながみんな笑顔になるんだ」

P「プロデューサーにとってはこれ以上ない栄誉だし、最高の幸せだと思うよ」

藍子「…そうですね」

藍子「それはきっと、とっても大きな幸せなんでしょうね」

藍子「……」

P「藍子?」



藍子「Pさん。私、Pさんからいろんな幸せをもらったんです」

藍子「小さな幸せも大きな幸せも、両方とも」

P「…幸せに、大小があるのか?」

藍子「私なりの考えですけどね」

藍子「私、小さい幸せを見つけるのは得意だったんです」

藍子「こうやって散歩して、お昼寝している猫を撮ったりとか」

藍子「喫茶店に行って、お気に入りのケーキを食べたりとか」

藍子「そういうささいなことで、小さな幸せを感じることができたんです」

P「いいことだな、それは」

藍子「Pさんに誕生日をお祝いされたことだって、そうですよ」

藍子「私と、その周りの人だけが共有できる、小さいけど大事な幸せです」

P「……」



藍子「でも、Pさんはそれだけじゃなくって…」

藍子「私にステージで歌うっていう、大きな幸せを教えてくれました」

藍子「大勢の人を笑顔する…そういう幸せの形を与えてくれました」

藍子「だから私は、本当の意味で今幸せだって思います」

藍子「小さい幸せも、大きい幸せも知ることができたから……」


P「…なるほどな」

P「小さい幸せに、大きい幸せか」

P「そういう考えには、至らなかったな」


藍子「…Pさんはどうですか」

藍子「Pさんは今、幸せですか?」


P「…いや、どうかな」

P「さっきも言ったけど、プロデューサー業自体は辛くはない。むしろ楽しいくらいだ」

P「でも俺は、藍子の言う大きな幸せだけを追い求めてたのかもな」

藍子「…」

P「アイドルの動向に気付かなかったり、自己管理がなってなかったり」

P「大舞台の観客を夢見て、目の前の小さな幸せを見逃してたのかもないな」

P「…そういう意味で言うと、どうやら俺は幸せではなさそうだ」

藍子「Pさん…」


藍子「…私、Pさんにはとても感謝してるんです」

藍子「Pさんにも、笑顔になってほしい。幸せになってほしいって思ってます。だから」

藍子「私にしてあげられることなら、なんでもしてあげたいって、思います」

P「なんでもって…」

藍子「はい、なんでもです。…って、あっ」

藍子「へ、変な意味じゃないですよ!」

P「アッハイ」

P「(どういう意味なんですかね…)」


藍子「でも、私は茜ちゃんや未央ちゃんみたいに人を元気づけるパワーはないですから」

藍子「こうして一緒にお散歩に行くことぐらいしか、できないですけど…」

P「いや、そんなことない」

P「藍子のおかげで、大事なことに気づけたよ。ありがとう」

藍子「い、いえ。そんな…」

P「これからは、積極的に休むことにするよ」

P「休むのも、仕事のうちっていうしな」

藍子「ふふっ。そうしてくださいね」


P「そしたら、また今日みたいに散歩に行かないか?」

藍子「えっ。い、いいんですか?」

P「ああ、頼むよ。藍子と一緒なら楽しそうだ」

P「ダメかな?」

藍子「いいえ! 全然ダメじゃないです!」

藍子「是非、よろしくお願いします!」ズイッ

P「お、おう」

P「(こういうとこ、Paだよな)」


P「…って、もうこんな時間か」

藍子「え? あ、本当ですね。時間が過ぎるのって、早いですね…」

藍子「Pさん。もう戻られますか…?」

P「……」



P「いや」

P「藍子、もうちょっとここでゆっくりしていかないか?」

藍子「えっ?」

P「今なら仕事のことを忘れて、リラックスできそうな気がするんだ」

P「小さな幸せってやつかな、今ならわかりそうな気がするよ」

P「…藍子、もう少し一緒にいてくれないか?」

藍子「…はいっ」



藍子「私でよければ、いつまででも――」



サワサワ…

チチチ…


――
―――

――CGプロ


P「戻りましたー」

ちひろ「あ、Pさん。お帰りなさい」

藍子「すみません。遅くなっちゃって」

ちひろ「いえいえ。全然大丈夫ですよ」

ちひろ「それで、どうでしたか? 藍子ちゃんとのデート」

藍子「でっ…!?」

P「いやあ、良かったですよ。幸せな気持ちになれましたね」

藍子「Pさん。ちょっと、その」

ちひろ「あらあら、これは問題ですねえ。現役のアイドルがプロデューサーとデートだなんて」

P「すっぱ抜かれてなきゃいいですけどねえ」

藍子「ちひろさん。あの、これはデートじゃなくてですね」

P「えっ? デートじゃなかったのか、これはショックだなあ」

藍子「」

藍子「え、え?」

ちひろ「ふふふ。冗談ですよ、藍子ちゃん」

ちひろ「あんまり二人が幸せそうだから、からかっただけです」


藍子「も、もう! Pさんまで一緒になって!」


P「悪い悪い、反応がかわいかったからな」

藍子「んー…もう、知りませんっ」


P「いや、すまなかった。今日は楽しかったからさ、つい調子に乗っちゃって」

P「ありがとうな、藍子。おかげでリラックスできたよ」

藍子「……」

P「さっきも言ったけど、また一緒に散歩に行ってくれないか。いつでもいいからさ」


藍子「……」

藍子「…いいえ、もうお散歩には行きませんっ」

P「」

P「えっ」


P「う、え? あ、藍子?」

藍子「……」

P「さ、さっきはいいって言ってたじゃ…」

P「…藍子?」




藍子「…お散歩には、行きません」

藍子「でも、で、デートなら…」

P「え?」




藍子「…デートなら、また一緒に行きたいなって、思います」




終わり


お散歩デートがしたい人生だった。
html化依頼してきます。

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