まどか「13日の金曜日のワルプルギスの夜」 (89)

さやか「おっはよーまどか!みんな!」

まどか「さやかちゃん、おはよう」

杏子「よーっす、それじゃ全員揃ったし早速出発しようよ」

まどか「楽しみだね、ほむらちゃん。みんなでキャンプなんて」

ほむら「そうね。今日は天気もいいみたいだし」

マミ「私が計画したんですもの。きっと素敵な一日になるわ」

まどか「私もそう思います。なんて言ったって」


(気をつけて…)


まどか「え?」

マミ「鹿目さん、どうかしたの?」

まどか「今、誰かの声が聞こえたような…」

マミ「?? 何も聞こえなかったわよ」




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杏子「ぷっはー、食った食った」ポンポン

マミ「こら、はしたない」

さやか「それにしても見滝原のはずれにこんないいキャンプ場があったなんてねー」

まどか「緑は綺麗だし空気は美味しいし」

ほむら「まどか、この後二人で散策でもどうかしら」

マミ「……そういえば皆、こんな話を知ってる?」

さやか「お? キャンプにはつきものの怪談話ですか? でもまだ明るいし、ちょっと早いんじゃないかなー」

マミ「このキャンプ場にはね、魔女が出るらしいの」


まどか「魔女…」

さやか「って、いくらなんでもファンタジー過ぎやしません?」

ほむら「そうね。噂話の類だとしても現実味が薄いわ」

マミ「いえ!これはどうやら本当にあった出来事らしいのよ。このキャンプ場のことを調べてる時に見つけたんだけどね」

杏子(まーた始まったよ、マミのやつ。こうなったマミは止められないからねえ)

マミ「みんなも魔法少女の都市伝説は知ってるでしょう?」

さやか「あー、人の不幸や呪いから生まれる魔女と、人知れず戦う魔法少女がいるって話ですか」

ほむら「自らの望みを叶えてもらった代償として、死ぬまで戦い続ける宿命を背負わされた少女たち」

ほむら「でも彼女らは知っている。自身も最期には敵だった魔女と同じ姿に成り果てるのだということを……だったかしら」

杏子「うさんくせー、超うさんくせー」モグモグ

まどか「そんなの酷いよ…あんまりだよ」

ほむら「大丈夫よまどか。よくある作り話よ」

マミ「そんなことないわ。現に彼女たちをこの目で見たって報告も各地で…」

杏子「マミさーそういう趣味は否定しないけどね、部屋でパソコンいじるより外で友達と遊んだほうが健康的じゃない?」

マミ「余計なお世話よ! それでね、その魔女の中でも特に強力なのがいてね」

マミ「無念にも散っていった魔法少女の怨念の集合体……その名もワルプルギスの夜!」

マミ「魔女は普通結界というものの中でしか殺人を行えないけど、彼女は別格」

マミ「好きな時に好きな場所で犠牲者を屠れる。そんな彼女が好んで犯行を行うのが…」

杏子「だからさぁ、都市伝説なのに何でそんな詳しく分かってるんだよ」

さやか「ひょっとしてこの前みたいに、マミさんが考えた設定とか」ニヤニヤ

マミ「だ、断じて違うわ! ……本当よ? あーもう分かったわ、確かな事実を一つ教えたげる!」

さやか「ほうほう…」

ほむら「……」ホムッ

まどか「」ドキドキ

マミ「……昔ね、このキャンプ場で何度か連続殺人事件があったの。決まって嵐の夜だったらしいわ」

マミ「キャンパーに監視員、警官や浮浪者まで、ここに近付いた者は誰彼構わず皆殺し」

マミ「犠牲者の死体は、人間には絶対不可能な殺し方をされていて、一切犯人につながる手がかりも残されてなかった」

マミ「ただ一つ、首筋に残された魔女の口づけ以外は……あら? みんなどこ行くの!? まだ続きが」

杏子「んな話聞かされてるより、暗くなる前にもうひと遊びした方が楽しいからね!さやか、行こうぜー」

さやか「あっ、待ちなさいよ杏子ー!」

まどか「ううっ、今の話でちょっと気分が…」

ほむら「私はまどかを連れてそこらを散歩してくるわ。しばらく新鮮な空気を吸えば彼女も落ち着くでしょう」

ほむら「それより…」ニジリ

マミ「な、なに…?」


ほむら「さっきの殺人の話、本当だとすればあなたの神経を疑うわ。
    まどかの前で話したこともそうだけど、どうしてそんな場所をキャンプ先に選んだのかしら」

マミ「うっ…だから本当は黙っているつもりだったのよ。それにもう大分昔の話よ? まさか本気で」

ほむら「とにかく、まどかはさっきみたいなヨタ話でも真に受けてしまう純粋な子なの。
    しばらく私たちに近づかないでもらえるかしら」

マミ「あ、う…」シュン

ほむら「はぁ……行きましょう、まどか」

まどか「ごめんなさい…マミさん、ほむらちゃん」

アナタガアヤマルヒツヨウハナイワ ゴメンネ…


マミ「」ポツーン

マミ「……BBQ、後片付けしましょう」

マミ「手がベトベト、服も汚れちゃったわ。シャワー浴びようっと」





シャァァァァァァァ

マミ「……」

『外で友達と遊んだ方が健康的じゃない?』

マミ「…だからここに来たんじゃない」

『待ちなさいよ杏子ー!』

マミ「なのに私は」ポタポタ…

『私たちに近づかないでもらえるかしら』

『ゴメンなさい、マミさん』



……ヒトリボッチジャナイ




ガタンッ

マミ「!?」


杏子「おおーすげー!ここ湖があるぞ!」

さやか「キレイだね、水が澄んでる。面積だけ馬鹿に広くて環境サイアクな某所とは大違いですなー」

杏子「これなら泳いでも問題なさそうだな」

さやか「そ-だね、水着持ってくればよか……て杏子アンタ何してんの!?」

杏子「何って…泳ぐから服脱いでんのさ」

さやか「そ、そーじゃなくて、もし誰かに見られてたら…」

杏子「大丈夫だって、ここ今日はあたしら以外に客いないみたいだし」

さやか(いや、あたしがいるんだけどな……そ、そりゃお風呂とか入れば普通に見ることになるんだけどさ)

さやか(人目が無いとは言えそれでも野外だし、ちょっとは恥じらいとかないのかなこいつは)

杏子「きゃっほぅー」バシャァァァァン

さやか(うわっ、飛び込む時丸見え…)

杏子「さやかも来いよ。どうした、恥ずかしがってんのか?」

さやか「や、別にそういうわけじゃないけど」

杏子「仕様がないねえ。パッと見アタシと同じでがさつっぽいのに、さやかは変なところで乙女モード入るからなぁ」ニヤニヤ

さやか「う、うっさい黙れ!分かったわよ、あたしも入りゃいいんでしょうが」

杏子「そーそ。早く来いよ、気持ちいいぞー」



キャアアアアアアアア!!!



さやか・杏子「!」

さやか「今の…」

まどか「マミさんの声…だよね」

ほむら「ええ…」

まどか「何かあったのかな? 考えたら私たち、マミさんを一人ぼっちで残してきちゃったよね」

ほむら(携帯は…ここじゃ電波が悪いようね)

ほむら「私が様子を見てくるわ」

まどか「ううん、私も行く。ほむらちゃん一人じゃ危ないかも」

ほむら「あなた、気分はもういいの?」

まどか「うん、もう大丈夫。それよりマミさんが心配だよ」

ほむら「そうね。一刻も早くコテージに戻りましょう」

さやか「あ、まどか!と、ほむらも」

まどか「さやかちゃん、マミさんは…」

さやか「あたしも悲鳴を聞いて今来たところだよ」

ほむら「ねえ、佐倉杏子がいないようだけど」

さやか「ああ…杏子はちょっと遅れて来ると思う。先に中に入ろうよ」

ガラガラ…

さやか「マミさーん!ゴキブリでも出たんですかー」

まどか「マミさん?」

ほむら「…返事がないわね」

ほむら「水の音……お風呂場かしら」

さやか「失礼しまーす…」オソルオソル

シャアアアアアア…

まどか「マ、マミさん? い…いるなら返事してもらえると嬉しいかなって…」

ほむら(巴マミ…またまどかを不安にして)

ほむら「タネは読めたわ。さっきの腹いせに、隠れて私たちを脅かすつもりかしら」

さやか「ちょっとほむら…」

ほむら「いい加減にして頂戴。そこにいるんでしょ?」ガラッ

ほむら「!?」

さやか「な、何だこれ…」

ほむら「っ……」

まどか「どうしたの二人とも、ねえ何があったの?」

ほむら「き、来ちゃ駄目よ。あなたは見ないで!」

まどか「!」

まどか「あ……いやっ……いやああああ!!!」



そこに残されていたのは、大量の血だまりとその中に浮かぶ朱に染まった頭髪の束
十中八九マミのものであろうそれは、出しっぱなしのシャワーの水に洗い流されながらもなお、
元の輝きを失ったままでいた――

ビュオオオオオオオ…

ほむら(風が強くなってきたわ…)

まどか「ひぐっ…ぐすっ」

ほむら(まどかは当然として、美樹さやかも相当ショックを受けてるみたいね)

さやか「まさか…ありえないよ…浴槽いっぱいに血が…」ブツブツ

ほむら「………そういえば、杏子がまだ戻ってないわ」

まどか・さやか「!!」

さやか「そうだよ…いくらなんでも遅すぎるよ!どうして早くそのことを言わないのさ!」

ほむら「あなたたちと同じ理由よ。私も少なからず動揺していたということ」

まどか「か、帰り道が分からなくなったとかじゃ、無いのかな…」

さやか「まさか、小学生じゃあるまいし……私、探してく」


ピシャアアアン!!!


まどか「ひっ…!」

ほむら「雷、嵐ね…」

ゴオオオオオオオオオオ


さやか「さっきまで穏やかだったのに……どうして!?」

ほむら「今彼女を探しに行けばあなたも危険よ。ひとまず落ち着きましょう」

さやか「これが落ち着いていられるかっつーの! 杏子はこの嵐の中、一人で取り残されてるかもなんだよ!?」

ほむら「そのことなんだけど…」

ほむら「この状況、さっきのマミの話に似てると思わない?」

まどか「!? ほむらちゃん、それって」

さやか「なんちゃらの夜とかいう都市伝説のこと?」

ほむら「魔女うんぬんはともかく、彼女によればここで猟奇殺人があったのは事実らしいわ」

ほむら「そして事件はまた起こった……私たちの目の前で」

さやか「!」

ほむら「あなたの言う通りよ。バスタブ一杯の血液なんて尋常じゃない、常軌を逸してるわ」

まどか「ほむらちゃんは、マミさんの話に出てきた殺人鬼がここらを彷徨いてるって言いたいの?」

ほむら「それは…断言できないわ。ただ、もし仮にそうだったとして」

ほむら「そいつは間違いなくクレイジーなサイコパスね」

ほむら「嵐だけじゃない、そんなやつがいるかもしれない外を出歩くのは危険が…」

さやか「……ざ…るな……」

さやか「ふざけんなっ!その言い分じゃ杏子のことを見捨てろって言ってるのと同じじゃん!」

ほむら「否定はしないわ……いえ、ここまで時間が経ってるのに戻らないことを考えると、或いは」

まどか「そっ、そんな…そんなことって」

さやか「……どうして」


さやか「どうしてあんたはそんなに冷静でいられるの!?」ガッ

まどか「さやかちゃ…」

ほむら「……離して」

さやか「初めて会った時からそう…一人だけ我関せず、どんな時でも澄ました表情を崩さない。今もね!」

まどか「やめてよぅ…今二人が争ったところで、杏子ちゃんは」オロオロ

さやか「まどかは黙って…」

ほむら「離してって言ってるでしょ…」グッ

さやか「!?」

ほむら「……全く」

さやか(思わず離しちゃった……ほむらの手も、微かに震えていた気がして…)

まどか「さやかちゃん…」

さやか「!……ふ、ふんっ」


パッ


三人「あっ!?」

まどか「停電……やだ、こんな時に」

さやか「なんにも見えない!」

ピカー

さやか「うお、まぶしっ」

ほむら「……美樹さやか、まどかをお願い」

ほむら(携帯を開くことすら忘れてる今の彼女に頼むのはいささか不安だけど…)

さやか「あんたどこに…」

ほむら「裏の発電機の様子を見てくるわ。夜目が効くのよ、私って」

さやか「えっ、ええ!? そんな、突然新しい設定言われても…」

ほむら「頼んだわよ、すぐ戻るわ」

さやか「待っ」

ガラガラ…ピシャン!

まどか・さやか「……」


さやか「あいつ、人には外出るなって言っておいて…」

まどか「」ガタガタガタ

さやか「だ、大丈夫よまどか。あんたは私が守るから…」

まどか(さやかちゃんも震えてる…私のために強がってくれてるんだ)

まどか(私が、もっとしっかりしてれば…)


ガタンッ!

まどか・さやか「「ひゃあっ!?」」

さやか「だ、誰!? ほむらなの?」

ガタン! ガタン、ガタン!!

まどか「ち、違うよ……ほむらちゃんだったらこんな、
    いたずらに私たちを不安がらせるようなことしない…」


ガンガンガンガンガンガンガン!!!!!

まどか(誰かが、壁を叩きながら走り回ってる…?)

さやか「やめてよ…マジで」

まどか(ほむらちゃんは? 無事なの? 一体何が起きてるの??)



パリィィィン!



さやか「ひぃっ!??」

まどか「お風呂場の方だ!」

さやか「わ……わああああああああああああ!!!!」

まどか「さ、さやかちゃん!?」

さやか「もう嫌ぁ!」

まどか「待って、行かないで! 危険だよさやかちゃん!」


ガラガラ…ピシャッ!


まどか「あ……」

まどか(後、追いかけなきゃ)

まどか「でも、でも……」

まどか「体が動かないよぅ」

タッタッタッタッタッ…

さやか(何やってるんだ、あたし…!)

さやか(親友見捨てて、たった一人で逃げ出して)

さやか(外に出て、ほむらがいるかロクに確認もせず、どこか分からない森の中を走ってる)

さやか(杏子を助けるだとか、偉そうなこと言ってほむらに当り散らして、その挙句がこのザマ…!)

さやか「もう救いようがないよ、あたし…」


ザザザザザザッ

さやか「あ……あれって」

さやか(バンガロー…ってやつ? あたしたちのよりだいぶ古くてちっちゃいけど)

さやか「杏子…お願いだからここにいて」

ゴロゴロゴロゴロ…


まどか(さやかちゃんが飛び出してから10分以上、ほむらちゃんはまだ戻らない)

まどか(一刻も早く様子を見に行くべきなのに……さっきから体が言う事を聞かない、震えが止まらない)

まどか「どうしてこんなことに…」


『警告はしたよ』


まどか「!」ビクッ

まどか「だ、誰、誰かいるのっ!? 出てきて!」


『うーん、ボクの声が聞こえるんだね。やはり君には素質があったか』


まどか「す、姿を見せて!」


『見ようと思えば見れるはずだよ。君がそれを望むなら』


まどか「……?」


ピョコッ

QB「やあ」

まどか「……猫?」

QB「ボクはキュウべぇ、よろしくね鹿目まどか」

まどか「喋ってる…猫が喋ってる」

QB「だから猫じゃないって。インキュベーター、略してキュウべぇだよ」

まどか「あはは……私、頭がおかしくなっちゃたのかなぁ」

QB「……まあそう思ってもらって構わないよ。どのみち、ボクの姿と声は普通の人間には認識されないからね」

まどか「それで……どうしたっていうの? あなたがこの事件の犯人なの?」

まどか「私を…殺しに来たの?」

QB「君はごくごく平凡な人間の割に随分突拍子もないことを言うね。ま、この状況では無理もないか」

QB「結論から言うと答えはノーだ。むしろ、その逆かな」

QB「ボクはこの現状から君を救い出す手段を提供できる。その説明をしに来たんだ」

QB「と、その前に…さっきまどかは、今一体何が起きているかを知りたがっていたね」

まどか「……」

QB「もう時間が無いだろうから簡潔に話すけど…」

QB「最初にいなくなった彼女、巴マミの言っていたことはおおむね真実だ」

まどか「………」

まどか「…………え?」


さやか(杏子、ここにはいないみたい)

さやか「……そうだ、携帯!」

さやか(あたしってホント馬鹿! 気が動転しすぎて忘れてた!これなら皆と連絡取れるし、警察も呼んで…)

さやか「嘘……何で、圏外!? ああもうっどうして!」

さやか(ちょっとサイアク過ぎじゃない…!? お約束すぎて逆に絶対無いと思ってたことが、どうして今日はこうも次々と…)


ガタッ


さやか「っ……きょ、杏子なの?」


ゴッ…ゴッ…


さやか「まどか……ほむら……?」



シーン…


さやか(誰かいる誰かいる、絶対に誰かいる! この家の中にあたし以外の誰かが!)

さやか(そうだ、ベッドの下に隠れて……まどか、助けに来てっ!)



ズリ…ズリ…



さやか(ううっ、狭い……あと半分、全身を隠さないと)



さやか「あと……もうちょい」



ぐにゃぁ



さやか「~~~~~!!!」

さやか(な、なにぃこの感触……ぶにぶにで、それでいて鳥肌が立つほど冷え切って…)



さやか(携帯のライトで…)ピカー



さやか「!!!!」




さやかよりも先にベッドの下に潜っていたもの――それは佐倉杏子の身体だった。
充血した目は虚ろに見開かれ、口の端からはちょろちょろと、まるで湧水のように一筋の線が垂れていた。
直感的に、さやかは彼女があの湖で溺死したのだと確信した。
そしてそれは正しかった。まぎれもなく杏子は死んでいた。


ただ、さやかは気付かなかったが、普段から血の気が多い子だなと思っていた杏子の血色のいい顔立ちも
自分ではがさつだと言いながらも密かな手入れを欠かさなかった、艶やかな赤毛のポニーテールも
さやかたち成長期の同年代に比べ、やや幼さの抜けきれない彼女の平坦な体躯も、


溺死したなら通常失われるであろう要素の全てが、そのままの形で保持されていることに
さやかが気付く前に、何者かが彼女の両足首を掴んでベッドの下から引きずり出した。



まどか「――じゃあ、魔女もそれを倒す魔法少女の話も本当で」

まどか「力尽きて魔女になった魔法少女たちが合体したワルプルギスの夜が、連続殺人鬼の正体?」

QB「ざっくり言うとそうなるね」

QB「魔女に対抗できるのは魔法少女だけ。そしてまどか、君にはその素質があるみたいだ」

QB「つまりボクと契約して魔法少女になれば、或いはこの悪夢から無事生還できるかもしれない」

まどか「ウェヒヒヒ…」

QB「…何を笑っているんだい? 人が笑うのは、自身の立ち位置の安寧を確信した時ではないのかい」

まどか「おかしいものはおかしいよ。わけのわからないこの状況に、私の頭が無理やり理屈をつけたのが
    行方不明になる前マミさんがみんなを脅かそうとした話のもじりだなんて……笑っちゃうよね」

QB「信じる信じないは個人の自由だけど、君が一言契約すると言ってくれれば、
  その時点でボクは君を魔法少女にしてあげられる」

QB「あとは自分で確かめてみるといい。君の身体には常人を遥かに凌ぐ力が備わているはずだから」

ガキンッ…ガチャガチャガチャ


QB「おや、誰かが鍵のかかった入口を力尽くでこじ開けようとしてるみたいだ」

QB「まどか、契約するなら今のうちだよ? これ以上は手遅れになっても」

まどか「しないよ、そんなの」

QB「…どうして?」

まどか「仮に、あなたとあなたの話が私の空想でないとして、魔法少女はいつか魔女になるんでしょ?」

まどか「そんなの死ぬと同じこと…ううん、もっと悪いことかも」

QB「今すぐ滅ぶよりはずっとマシだと思うんだけどねえ。
  確定した死に対して、何とか延命しようと足掻く努力をするのはいけないことかな」

まどか「…もう消えて」

まどか「私が望まないならあなたの姿も見えない声も聞こえない、そうでしょ?」


『やれやれ、つくづく人間という存在の感情は分からないなぁ』


まどか「私にも分かんないよ……私、どうしたいんだろ」

まどか「ねえキュウベぇ、さっきの今だけど、私が契約したら願い事を叶えてくれるんでしょ」

まどか「行方知れずの四人をこの場に揃えてくださいってお願いすれば、出来るの?」


『…難しいだろうね。君の素質はボクの存在を先頃やっと認識出来るようになったばかり、その程度のものさ』


『叶えられる願いの規模はその者の素質の強さに比例するんだ。死者の蘇生とか、世の理を捻じ曲げるには相応の因果が必要になる』


『君だと、せいぜい大きなケーキを出すとかそれくらいかな』

まどか「…だよね、良かった」


『?』


まどか「ありがとう、もう行っていいよ。まだ私、そこまでおかしくなったわけじゃない。
    それを確認出来ただけで…充分だから」


『……わけがわからないよ』



まどか(私には分かったよ。今の私の願いは誰かの側にいたい、誰かが私の側にいてほしい…)

まどか(でもそれは適わない。願いっていうのは、やすやすと実現しないからこそ願い事になるんだ)

まどか「大丈夫、私は正気だよ。この現実を認識出来てるうちはまだ…」


ガチャガチャガツン、パリィィンン!



まどか「わ、たしは……まだ……」







「まどかっ!」

まどか「ほ、ほむらちゃっ…」

ほむら「一体どうしたというの。入口は閉まっているし、美樹さやかの姿は見えな」

まどか「ほむらちゃあああん」

ほむら「ま、まどか…?」

まどか「ごめんなさい…でも私、ひとりぼっちで怖くてっ」

ほむら(ああ…温かい、まどかの体温…温もりを感じる)

ほむら(よっぽど怖い思いをしたのね。身体越しに伝わってくるまどかの震え方が半端じゃないわ)

ほむら「とにかく一度落ち着いて、お互い何があったか話しましょう」

まどか「う、うん……そうだね。でも…」

まどか「もうちょっとだけ…こうやって」





ほむら「発電機は……壊れていたわ。直そうとしたけど、無理だった」

ほむら(いえ、あれは壊れたというより壊されたような……どっちにしろ、彼女には言えない)

まどか「私の方は…外からの物音に驚いて、さやかちゃんがここを飛び出して……それからずっと一人ぼっちで」

まどか(さっきまで喋る白い猫と話していたなんてことは……言えないよね)

まどか(あれは幻覚、だったんだから)

ほむら「美樹さやか、どこまで愚かなの……いえ、そんなことより」

ほむら「彼女を驚かせた物音というのが気になるわね。どこから聞こえたの?」

まどか「それがね、この小屋の壁を叩きながら、周りをぐるーっと一周したみたいで…」

ほむら「変ね…? 私は裏手でずっと発電機の修復を試みていたのよ。その間、誰とも遭遇せずにね」

ほむら「……それに、さやかは慌てて飛び出して行ったのよね」

まどか「あっ…」

ほむら「あなたは部屋の隅で動けずに震えていた……なら一体誰が入口に鍵を掛けたというの?」

まどか・ほむら「……」

まどか「…ほむらちゃん、わたし嘘は」

ほむら「ええ、わかってるわ。私も同じよ、信じてほしい」

ほむら(だとすれば…)

まどか「ああっ…!」

ほむら「どうしたの? 何か思い出したのなら言って頂戴」

まどか「窓……お風呂の……」

ほむら「?」

まどか「割られたの……走り回っていた誰かに」

ほむら「なんですって…!」

ほむら(くっ…出来ればこれは使いたくなかったのだけど)

ほむら「贅沢言ってられる状況じゃなさそうね…!」チャキ

まどか「な、何それ…ピストル?」

ほむら「モデルガン……を趣味で改造したものよ」ボソボソ

ほむら「車のフロントガラスくらいなら余裕で撃ち抜けるわ……多分」

まどか「そうなんだ…」

ほむら(まどかの視線が痛い。気持ち悪いわよね、こんなの持ち歩いてるなんて)

ほむら(と、そんなことを気にするのは無事家に帰れてからよ)

ほむら(犯人は…恐らく窓からここに侵入して入口に鍵をかけた)

ほむら(私のいない間にまどかに手を出さなかった理由は分からない。でも、そんなことはどうでもいい)

ほむら「ここを出るわよ。私のあとについて来て」

ほむら「音を立てないように。犯人がどこに潜んでいるか分からないわ」ヒソヒソ

まどか「うん…」ドキドキ


カラカラカラ……ビュウウウウウウウウウウウウウ!!!!!


ほむら「走って!」

まどか「どこへ行くの!?」

ほむら(嵐は一向に収まる気配はない。二人で歩いて街までたどり着くのは難しい)

ほむら「散歩中に見かけたのだけど、この先に別のバンガローがあるの! 嵐が去るまで篭城するのよ!」

まどか「バンガロー……そこにさやかちゃんもいるといいんだけど」

ほむら(いくら何でもこの短時間で、殺人を行いつつ全ての建物の鍵や電源設備を破壊して回るのは無理でしょう)

ほむら(……最初にマミが行方不明になってから、まだ一時間も経ってないなんて嘘みたいね)

まどか「ねぇ…あれ、あそこ! 明かりがついてるの見える?」

ほむら(あっちは…確かアーチェリーの練習場があったはず)

まどか「もしかしたらさやかちゃんが…」

ほむら(可能性は無く……はないけど……くっ、まどか、あなたは優しすぎる)

ほむら「……分かったわ。様子を見るだけ、もしもさやかがいたら引っ張ってきましょう」



ザァァァァァァァァァ


まどか「嘘……そんな…」

ほむら「……降ろしましょう、彼女を」


そう言って、アーチェリーの的と並んで吊るされていた美樹さやかの遺体に手をかけたところで
ほむらは彼女の身体が明らかに軽くなっていることに気が付いた。

恐らく生きていた時の半分もないのではなかろうか………何故?

脈がない、と言うよりそもそも心臓が無くなってしまったさやかの身体は完全に生命活動を停止していたが、
見た目ではそうと分からぬほど外傷もなく、綺麗なままの彼女の中から
よもや一切の臓器が抜き取られてしまっているなど、ほむらは夢にも思わなかっただろう。


ほむら(まどかが襲われなかったのは……先に彼女を)

まどか「酷い…こんな、どうして……あんまりだよぉ…」

ほむら「………」



ブーーーーーーーーーーーーーー

突如響き渡るブザー音、射撃という趣味を持つほむらは一瞬でそれの意味するところを理解する。


ほむら「危ないまどかっ!」

まどか「へ…」


カシュン!

ほむら「……っ!!」


縺れようとする両足が泥を跳ね上げ、かろうじて踏みとどまった彼女は、
改造モデルガンの安全装置を外すと約20メートル後方の射座の方に素早く向き直る。

そして見た。明滅するライトに照らされたレーンの下、
ツナギ姿で面のようなものを被った人物が二本目の矢を引き絞るその姿を。


まどか「ほむらちゃぁん!!」


バン!バン!バン!バン!バン!


足元の水溜りに赤縁アンダーリムの眼鏡が跳ねる。
一気に低下した視力では、弾丸が敵を捉えたかどうか分からなかった。


ほむら(さい初から………っ……私を、狙っていたのね……)


腹部に生えた二本の矢と血と痛みと霞がかった視界は、ほむらの意識を酷くもやもやさせた。


まどか「しっかりしてぇ!」

ほむら「……まど……にっ、げっ……」

ほむら(痛い、イタい……うまく声が出せな…ああ、ダメよ……置いていって……)

ほむら「あしでっ…まと……ヒック…ぃや……」

まどか「安心して、絶対見捨てたりしないから…!」


決意に満ちた友の言葉、しかしその表情はどうなっているのだろうか。


ほむら(まどか、ああ、まどかっ……あなたの顔が、よく見えない……)


ほむらは今、怖がっていつまでもコンタクトに変えなかった臆病な自分を心底呪った。



まどか「頑張ってほむらちゃん……バンガローまで、もう少しだから」ズリズリ

ほむら「………」

まどか「……着いたよっ」ガチャッ

ほむら「……」

まどか「今、血を拭くもの探してくるから。それと何か温かいものがあれば…」

ほむら「…」

まどか「ううっ、やぱり矢が刺さりっぱなしは不味いよね。ねぇ、ほむらちゃん…………ほむらちゃん?」

ほむら「」

まどか「……ほ……むら、ちゃ…」



「誰かいるの?」

まどか「!」

マミ「鹿目さん……」

まどか「マ…ミ…さん……?」

マミ「それ、暁美さんなの…? 大変!」


訳が分からないことだらけだった。
てっきり死んだものと思っていた先輩が生きていたことにも驚いたが、
その彼女がコスプレのような衣装に身を包んでいるのはもっと理解に苦しんだ。


マミ「駄目ね……私の治癒魔法じゃ、ここまで死にかけてる生命を繋ぎ止めるのは無理」

まどか(魔…法…)

まどか「幻覚じゃ…なかったんだ」

マミ「鹿目さん…? 混乱するのは無理もないと思うけど、聞いて」

マミ「私ね……魔法少女なのよ。ずっと前から」

マミ「魔女と魔法少女の都市伝説は本当なの。私が今こうして生きているのも、魔法少女だから」

マミ「最大の誤算はワルプルギスの夜……あれは私たちの間でも噂レベルの存在だったから」

まどか「そうだったんですか……マミさんも、魔法少女だったんですね」

マミ「?……マミさんも、ってどういう」

まどか「私、ちょっと前に、キュウベぇっていう猫に会って……それで、魔法少女にならないかって言われて」

マミ「キュウベぇが、あなたの前にも現れたの!?」

まどか「知ってるんですか…」

マミ「ええ、全ての魔法少女は、彼と契約して魔法少女になるの。私もそうだった」

マミ「……そう。あれはちょうど今日と同じ、13日の金曜日だったわ」

まどか「………」

マミ「待っててね、今洗面所からタオルを取ってくる」

マミ「もう安心してちょうだい。魔法少女の私がいるからには、鹿目さんには指一本触れさせないから」


全てを理解したまどかを残して、マミは奥の方へ歩いて行った。


まどか「…ほむらちゃん」

ほむら「」

まどか「私、馬鹿な子だ。あの時契約してれば…」

まどか「そうすれば私、ほむらちゃんを守ることが出来たのに」

ほむら「」

まどか「……あなたを、失わずにすんだかもしれないのに」

ほむら「」



ほむら「」ピクッ

まどか「!!」


まどか(今、指が動いて…!)

パァァァン!   ビチャッ


まどか「ふぇっ…」



シュウウウウウウウウウウ…

マミ「あらあら、本当に息を吹き返すなんて。私の治癒魔法も捨てたものじゃないわね」

まどか「マミさん????? 一体、な、何がどうして…」


言いかけて、まどかは凍りついた。
洗面所からライフルのようなものを片手に現れたマミの頭、さっきまで両耳の近くで揺れていた
肩まで届く縦ロールはおろか、その頭髪が残らず無くなっているのを見て。


マミ「どうなっているの、って顔をしてるわね」

マミ「こう言えば分かるかしら? 私が、ワルプルギスの夜なの」

まどか「っ~~~!!!」

マミ「……いいえ、ちょっと違うわね。私も、ワルプルギスの夜に…といった方が正しいかしら」


その手からライフルが滑り落ち、代わりに懐から道化の面を取り出すと、顔に装着した。


マミ『巴マミという存在はもはや“個”ではなく、ワルプルギスの夜という“群体”の一部となった』

マミ「うん、もう私、一人ぼっちじゃない!」

ガッ!

まどか「ひいぃっ…」


まどかの足元に血塗れの剃刀が突き刺さる。刃に絡みついたままの数本の金毛が、彼女をさらに怯えさせた。


マミ「さあ、怖がらないで。私の側にいてちょうだい」

まどか「こ、来ないでぇ!!」

ピシャァァァァァン! ゴロゴロゴロ ビュオオオオオオオオオオ…


まどか「はっ……はっ……はぁ、はぁ…」

マミ『アハハハハハ!!!!「鹿目さぁん、待って~」』

まどか(どこにっ、逃げればっ、いいのっ???)


ガサッ


マミ「ばぁ」

まどか「きゃああ!!」

まどか(何で…どうして先回りされちゃうの!!??)


まどか「うわああぁぁぁん」

マミ「まだ逃げるの? ……いいわ、もう少しだけ鬼ごっこに付き合ったげる」


まどか「ハァ、ハァ……(私、もしかして遊ばれてる??)」


マミ『キャッキャッキャッ!「……それにしてもどうして教えてくれなかったの?」』

マミ「最初から彼女に資質があることが分かっていれば……ううん、どの道こうなっていたのに変わりはないか」

マミ「佐倉さんと美樹さん、美樹さんと鹿目さん、鹿目さんと暁美さん………ほらね、最初から私の入り込む余地なんてなかった」

マミ「ま、結果オーライってところかしらね。最後に一緒になれるのなら」


まどか(……誰と話しているの?)

まどか「………そうだっキュウベぇ!」

『契約する気になったのかい?』


まどか(マミさんが、私をすぐに殺さないのは……私を魔法少女にしてから、自分に取り込むためでしょ!?)


『察しがいいね』


まどか(私が魔法少女になれば、あのワルプルなんとかに、勝てる??)


『前例はないね。彼女の存在が噂の域を出なかったのは、それなりの理由がある』


『未だかつて、彼女と相対して無事朝を迎えられたものがいないからさ』


まどか「っ……」


(ただ、今回は…)


(……って、あれ、もう聞いてないね)


まどか「!」

まどか(ボート乗り場……行き止まりだ!)

まどか(このボートで逃げ……鎖で繋がれてる、ほどかないと…!)

まどか「これで…」


都合よくボートの側に立てかけてあった斧を持つと、
桟橋に幾重にも巻き付いた鋼鉄の鎖に向かって振り下ろす。
――そうしている間にも、背後からあの声が迫っていた。


「キ………キ………キ………マ………マ………」



まどか「はっ、はやく、切れてよっ!」ガッ!ガッ!ガッ!


「キ、キ、キ、キ、マ、マ、マ、マ、」


まどか「ううっ……お願い…」ガッ!ガッ!


「キル、マミ! キル、マミ! キル、マミ! キル、マミ! キル、マミ!」


まどか「……」

マミ『キル! マミ! キル! マミ! キル! マミ! キル! マミ!』


まどか「キュウベぇ…」

QB「ちゃんとここにいるよ……その顔だと、どうやら契約する気になったみたいだね」

まどか「………」

QB「願い事は“この鎖を解いてほしい”かな? それともケーキ…」

まどか「あの、マミさん…」


マミ『アハッ、アハハハ、ウフフフフフフフフ』


まどか「私、マミさんのこと、今まで誤解してました」

まどか「マミさんはカッコよくて、私にとって頼れる先輩で」

まどか「何の取り柄もない私の憧れだったんです」


マミ『キャハハハハハハ…』


まどか「でも、知りませんでした。マミさんが、心の内ではそんなに寂しさを感じていたなんて」


マミ『アハッ……ウフフ……』

QB「危ないよまどか、不用意に近づいちゃ…」


まどか「こんな私でも…側にいることは出来ます」


そう言って、まどかはマミが被った道化の仮面を外した。その下の表情が露になる。


マミ「………鹿目……さん」


その目が、涙ぐんでいた。


QB「マミの側にいる……それが君の願いかい?」


まどか「だから――」






まどか「ごめんなさい――っ!」


精一杯の力で、斧を振るった。


マミ「!!!」


魔女の目は驚愕に見開かれ、血と肉と涙の欠片が飛び散った。

ぼちゃん、と音を立てて黒い塊が湖に落下し、頭部を失ったことに遅れて気付いた身体が
慌てたように両足を動かし、何もない空間で両腕をばたつかせた。

そうしているうちに、片足を橋板の隙間に引っ掛け躓くようにして倒れると、ようやくその動きを止めた。


まどか「~~~~~~っ」


その異様な光景の一部始終を、とっくの昔に腰から力が抜けていたまどかは目を離さず見届けた。


これで終わった、もう何もかもが――――






ギュッ


まどか「ああっ!!」


マミの胴体「」グググッ


瞬間、キュウベぇの言葉を思い出す。
常人を超越した力を持つ魔法少女の身体――それが首をはねられただけで死ぬだろうか?


まどか「ひいぃぃっ、いやああああ!!!!」

――ふっ、と足首を掴む力が抜けた。


まどか「?」


同時に目もくらむ閃光が迸り、一瞬視界が奪われる。
程なくして目を開けると、もう動かなくなったマミの胴体は先程までとは異なる衣装を纏っていた。


まどか(作業用ツナギ…)


それが、脱衣所に衣服を残したまま消えたマミが、変身を解除した時のためにと
作業小屋で調達したものだということにまで、今の憔悴しきったまどかの考えが及ぶことはなかった。

『なるほど。ワルプルギスの夜ではなく、巴マミになら勝てると踏んだのかい』


まどか「キュウ…ベぇ…」


『驚いたよ。ただの人間が、曲がりなりにも魔女を退けるなんてね』


まどか「キュウベぇ、私…」


『無理しないで、君の精神はとっくに限界だ。今は休んだほうがいい』


『……休めるうちに、ね』


まどか「……」






ここは、どこ?

―――湖の真ん中、ボートの上



どうしてここに?

―――朝が来るまで、安全に過ごすため



ワルプルギスの夜は?

―――胴体は桟橋、首はこの湖に沈んだ



本当にそうかな?

―――えっ?





マミ『「ばぁ」』




まどか「いやぁあああああああ!!!!!」


まどか「いやぁあああああああ!!!!!」


救急隊員1「落ち着きなさい、落ち着くんだ!」

救急隊員2「バカ、何やってるんだ。遺体の近くに寝せとくなんて!」

救急隊員3「早く車に乗せろ!」


慌ただしく運ばれるストレッチャーの振動が、まどかの身体を揺さぶる。

公権力の制服たちが好き放題にがなり立てる現場の喧騒の中、
整然と並べられた三つの死体袋の脇に立つ巡査が警察無線に向かって
死亡3、生存1、不明1と報告するのを、彼女ははっきりと耳にした。







ゴボゴボゴボゴボゴボ………







キ………マ……







マミの首『!』ギョロッ





       声の出演

まどか(クリスティーン・M・カバノス)………………悠木 碧

ほむら(クリスティーナ・ヴィー)……………………斎藤 千和

さやか(サラ・ウィリアムズ)………………………喜多村 英梨

杏子(ローレン・ランダ)…………………………………野中 藍

マミ/ワルプルギスの夜(キャリー・ケラネン)……水橋 かおり

キュウベぇ(カサンドラ・リー・モリス)…………加藤 英美里

救急隊員 他………………………………………………松岡 禎丞

One Night Stand   

FIN



マミの首『!』ギョロッ

――――――――――――――――――――――――



恭介「ふぅん……ベタなオチ」

恭介「入院してる間暇だったから、さやかからオススメのDVDを貸してもらったけど」

恭介「流石に古い作品だけあって、展開がいちいちお約束すぎるかな」

恭介「でも映画をあまり見ない僕でも名前だけは知ってたし、有名なシリーズなんだろうね」

恭介「どれ、ちょっと調べてみるか…」カタカタカタ




ワルプルギスの夜(映画)


『ワルプルギスの夜』(わるぷるぎすのよる、原題 One Night Stand)は、日本の見滝原市を舞台としたスプラッタ・ホラー映画である。
これまでに12作品が制作されている長寿シリーズであるが、長期展開により作品間の設定が幾度も変更されているのが特徴。
時間軸も12作通して繋がっているわけではない。シリーズ13周年となる2013年には、第13作目の制作が発表された。


日本版タイトルについて

原題は『一夜興行』を意味する“One Night Stand”だったが、邦題である『ワルプルギスの夜』は二作目以降で逆輸入され、そのままシリーズ名として定着した。

ワルプルギスの夜パート2 7人の魔法少女 (原題 Walpurgis Night:Two Night Stand)


あらすじ

今度は戦争だ――前回の惨劇を生き延びた少女、鹿目まどかが謎の失踪を遂げてから一ヶ月。
舞台は見滝原の近隣に位置する街、あすなろ市。
記憶喪失の少女かずみは、6人の仲間と共にキャンプに出かける途中、謎の少女から忠告を受ける。

「キャンプに行けば、最悪の絶望があなたたちを襲う」と言う少女の予言通り、
かずみの仲間たちは一人、また一人と牛の仮面を付けた殺人鬼の餌食となっていく。
自身が魔法少女だったことを思い出したかずみは、生き残った仲間たちと共に殺人鬼に挑むが、
その正体は復活した連続魔法少女殺人鬼、ワルプルギスの夜だった。




ワルプルギスの夜3 ナイトメア・オブ・ワルプルギス (原題 Walpurgis Nightmare)


あらすじ

連続殺人鬼伝説の残る見滝原市のキャンプ場。
同市の中学校に通うまどかたち仲良しの5人組は、まどかの両親と連れ立ってここを訪れる。
しかしまどかの親友のさやかが行方不明になったのを皮切りに、次々と容赦ない惨劇が彼女たちを襲うのだった。

登場人物を一新した前作が思った程の興行収入を得られなかったことから、
本作は1作目と同じ人物設定を踏襲したリメイク版とも言える内容になっている。


ワルプルギルの夜 最終章 ワルプルギスの夜明け (原題 The Day After Walpurgis Night)


あらすじ

あの惨劇から1年、生き残ったまどかは未だにあの夜のトラウマに悩まされていた。
学校も不登校気味になっていた彼女だが、担任の勧めもあり、乗り気でないまま修学旅行へ参加する。
だが目的地に向かう船の中で、まどかのクラスメイトたちが何者かに惨殺された。犠牲者の首筋には魔女の口づけが――
逃げ場の無い洋上で、まどかは自身を苦しめる悪夢に永遠の決着を付ける覚悟を決める。

前々作、前作と低迷していたシリーズの完結編的な意味合いで制作された本作は、シリーズ中最大の興行成績を打ち出す結果となった。



新編:ワルプルギスの夜 イノセントマリス (原題 Walpurgis Night:Resurrection)


あらすじ

2作目から4作目の出来事はなかったことになり、物語は1作目の数年後という設定で始まる。
ワルプルギスの夜を生き延びたものの、精神のバランスを大きく崩してしまったまどかは
各地を放浪しては、トラブルを起こし病院と留置所を行き来する日々。
そしてとうとう収容された精神病院でも、初日から相部屋の和紗ミチルと揉め事を起こす。

まどかの唯一の心の支えは、空想の中に現れる話し相手のなぎさという幼女。
しかしここでも彼女は、延々と続く円環殺人の理からは逃れられないのであった。

完結編の予想外のヒットに乗じて制作された本作は、シリーズ中最低の興行収入を打ち出す結果となった。


ワルプルギスの夜パート6 ほむらは生きていた! (原題 Back←To Walpurgis Night)


あらすじ

時間軸は3作目の直後、ワルプルギスの夜に殺されたと思われたほむらは、実はまだ死んでいなかった。
時間遡行の魔法を持つほむらは、この惨劇を回避するために幾重ものワル夜を繰り返してした。
嵐の中、再び時間を巻き戻そうとするほむらを、1.21ジゴワットの稲妻が直撃する。
ほむらが意識を取り戻すとそこは、魔女たちが跳梁跋扈する中世の見滝原。
キャプテン・しまむらと名乗り、魔女ハンターとなったほむらは元の時代に戻る方法を模索するが…

マンネリ化打開のため大幅なテコ入れを受けた本作がヒットしたことが、以後のシリーズの方向性を決めたと言える。


ワルプルギスの夜 さやかは007度死ぬ (原題 SAYAKA MUST DIE)


あらすじ

数十世紀に一度、何十億人に一人の割合で発現すると言われている至高のソウルジェム“ダークオーブ”
国際的な犯罪組織『ワルプルギスの夜』に盗まれたダークオーブを奪還するため、
PMHQ所属のエージェント、コードネームピュエラ・マギ007の世界を股にかけた冒険が始まるのだった。

シリーズでほぼ毎回殺害される(※)キャラクターである美樹さやかにスポットを当てたスピンオフ作品。
※(2作目を除く、4,5作目では彼女が殺害されるシーンが回想で登場し、6作目では3回殺されている)


QB『この宇宙のためにまた死んでくれる気になったら、いつでも声をかけてくれ』


さやか『Never again! (二度とごめんよ!)』

ワルプルギスの夜パート8 ワルプルギス、グンマーへ (原題 Walpurgis V8 Gunma Drift)


あらすじ

中世から帰還したほむらを待っていたのは、核戦争により荒廃し砂漠と化した見滝原の姿だった。
大半の人類と共に魔女が消滅してしまった世界では、残り少ないグリーフシードを奪い合って
魔法少女たちが日夜命懸けのスピードレースを繰り広げていた。
まどかを助けるため、改造V8エンジンを搭載した「ニトロプラス」に乗り込んだほむらは、
縄張りを主張するあすなろ・風見野連合と、数少ない魔女の生き残り“ワルプルギスの夜”一座との三つ巴の戦いに巻き込まれていく。

ヒーローズネバーダイ-魔法少女たちの挽歌-/ワルプルギスの夜9 (原題 Walpurgis Nine:A Good Night to Die Hard)


あらすじ

西暦2××9年、世界は崩壊の危機を迎えていた。
繰り返された数々の時間遡行の結果、異なる設定がぶつかり合い、
歪みが生じた9つの世界は、破滅というただ一点を目指し収束しつつあった。

9つの世界の力を束ね、かつてないほど強大となったワルプルギスの夜に対抗するため、
異なる世界から最強の魔法少女たちを召喚したほむらは、全てを破壊し全てを繋ぐことを決意する。

ヴァルプルX (原題 Walpurgis Knight Returns)


あらすじ

遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

長きに渡るピュエラマギ同盟とプレイアデス帝国の争いは熾烈を極めていた。
そんな中、かつて魔法少女からソウルジェムの暗黒面へと転落したほむらは
強力な資質を秘めたまどかを自らの側へ引き込もうと、帝国の女帝マミと共謀する。
ほむらの良心を信じるまどかは、自らを囮に彼女をライトサイドへ帰還させようとするのだが…

ワルプルギスVSキリカ (原題 Walpurgis Nightmare on Mitakihara Town)


あらすじ

――見滝原に、二人の殺人鬼はいらない
連続魔法少女カギ爪殺人の犯人である呉キリカは、同盟を結んだ魔法少女たちの手によってとうとう倒される。
しかし怨念となった彼女の魂は消滅することなくワルプルギスの夜に取り込まれ、それを利用して彼女は新たな殺戮を開始する。

しかし次第に自分のコントロールを離れ魔法少女を殺害していくワルプルギスの夜に驚異を感じたキリカは、
唯一無限に有限な愛を注ぐ想い人の織莉子を狙われたことから、ワルプルギスからの分離を果たし、
ここに殺人鬼同士の直接対決が始まるのだった。


「ワル夜」シリーズと同じ見滝原を舞台とした「見滝原市の悪夢」シリーズの殺人鬼キリカが登場するスピンオフ作品。
同作のキャラである美国織莉子が「ワル夜」のパート2にカメオ出演していたことで、この企画が実現した。

ザ・リアルナイトメア・オブ・ワルプルギス (原題 Walpurgis)


あらすじ

「ワル夜」シリーズの最新作の撮影を終えたまどかたちは完成披露パーティに出席していた。
しかし会場で、同作の脚本家であるウロブチが何者かによって殺害される。
そして、彼の執筆していた次回作の脚本に書かれていた内容の通りに、現実世界でも殺人が起き始めた…

――2013年 某撮影所にて


杏子「おっす」

ほむら「久しぶりね、杏子」

杏子「他のやつらはまだ来てねーのか?」

ほむら「ええ、もうすぐ集合時間だというのに」

杏子「こうして呼び出されたってことは、また…」

ほむら「十中八九、新作の撮影のためでしょうね」

ほむら「重役たちも懲りないわね。観客も出演者である私たちも、このシリーズにはいい加減飽き飽きしてることに気付かないのかしら」

ほむら「ネタ切れを回避するためのメタ展開すらマンネリ化している始末。物語としての質よりも、短期的な展望に伴う金儲けのことしか考えていないんだわ」

ほむら「……私たちも、いい加減少女を演じられる歳ではなくなってきているというのに」

杏子「その点は否定しないけどさ。ならアンタ、どうして今日来たんだい」

ほむら「それは…」

ガチャッ

さやか「やーやーみんな待った? ワル夜のアイドルと言えばこの私、さやかちゃん参上!」

ほむら「少なくともあなたのためではないわ」ビシッ

さやか「はっ? 何よぶしつけに」

ほむら「あなた、まどかと一緒に来たのではないの?」

さやか「ああ、まどかならさっき…」

ドアガチャッ

まどか「遅れてごめんなさい、私が最後かな」

ほむら「まどか…!」パァァ

さやか「そこですれ違って、急いで来たからお化粧を直してから……てああ、来たわね」

まどか「聞いた?ほむらちゃん、ワル夜シリーズは今年で13周年なんだって! 」

ほむら「13年……そう、もうそんなに経ったのね」

まどか「私、ここに来るバスの中でずっとそのことを考えてたの。私たちが出会ってから、これまでのことが次々にフラッシュバックして。もちろん、映画と違って悪夢ってわけじゃないよ」

まどか「ほむらちゃんたちとの13年間の思い出は、どれも掛け替えのないもので……そしたら何だかこう、胸がきゅーっとなっちゃって」

まどか「私、このシリーズに出演し続けてよかったって、心から思ったの」

ほむら「……」

杏子「だってさ、ほむら」ポンポン

ほむら「杏子…」

杏子「な、長期シリーズ化ってのも案外悪いことだけじゃないのかもよ?」

ほむら「そうね。考えを改めるわ」

さやか「なになに何の話? さやかちゃんを仲間はずれにするなー」

杏子「あ、仲間はずれと言えばもう一人…」


ドタドタドタドタ

まどか(この騒々しい足音は…)

ドアガチャバタン!

マミ「みんなー!」

ほむら(うるさいわね、もっと静かにあけなさいよ…)

マミ「見て、寿司があるわ!ウニもよ!」

杏子「おほっ、マジだ! これがあるからハリウッドセレブはやめらんねー!」

ほむら「やめなさいよ、はしたない……巴マミ、随分遅かったじゃない」

マミ「ふふ、仕方ないでしょ。実はね、ここに来る途中プロデューサーから、いち早く13作目の概要を聞いてきちゃった」

マミ「今回は一作目から四作目までの美味しい所だけを抽出したリブート作品になるそうよ」

ほむら「あー…そう、もう何も言わないわ」

まどか「私は、また皆と一緒に出演できるのが嬉しいよ」

杏子「わはひっは、うはいほんふえるんだっはらほんくねー」モグモグ

さやか(うーん、さっきはワル夜のアイドルとか言っちゃったけど正直あの衣装着るのはキツイんだよなーって、これはマミさんの前じゃ言えねー)

マミ「こほん、では発表します……ワルプルシリーズ第13作目、その名も」

まどか「」ゴクリ

マミ「WXIII (Walpurgis Night the 13th)よ!」

四人「「「「またパクリじゃねーか!(じゃないですか!)(じゃない!)(ですよね?)」」」」



――ちなみに日本での邦題は、無難に「ワルプルギスの夜(2013)」で決まった。




おしまい

以上になります。

13日の金曜日(昨日)だったので、80年代に濫造されたコテコテのスラッシャー映画風。
まどかたちのキャラ付けが初期のSS風味なのは、第一作目だからということで(作品毎に徐々に現行の性格に近づいていく)

13金に限らず、シリーズを重ねる度に迷走していくのはホラー映画の醍醐味の一つですね。
まどマギは叛逆の後にいくつ続編が作られるのでしょうか。

では、失礼します。ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月25日 (水) 02:12:26   ID: yoy5skUS

くっはーッ!!
1とはうまい酒が飲めそうだw

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