アニ「なぜかこの世界では」(15)


アニ「飢えてる奴ほど食料が逃げていく。どうしてこんな茶番になると思う?」

サシャ「どうしてなんでしょうね!?」

アニ「それが人の本質だからでは?」

サシャ(! 深い……)

アニ「だから多少腹が減ったって、ああやって流すもんさ。ミカサを見なよ」

ミカサ(私は自分を完璧に支配できる。ので、このパンは育ちざかりのエレンのために!)

サシャ「信じられない…… なんで、あんなことができるんですか?」

アニ「さあね。でも私が言ったことは多分当たってると思うから、せいぜい頑張りな」

サシャ(ならば私も、食欲を完璧に支配しなければ! でないとパンが逃げていく!)


サシャ・ブラウスの断食1日目。


サシャ(とか何とか言ったっていきなり断食は無理! 食事はこの薄いスープだけにして、パンは…… やっぱりとっておこう)

コニー「どうしたんだサシャ、お前パン残してるじゃねえか」

サシャ「ああ、それは、ちょっと食欲が無いからですよ」

コニー「何だって? 雪が降らねえといいけどな! そういやぁ、ダズがメシ抜きにされたって泣いてぜ。そのパン要らねえんだろ?」

サシャ「そうですね要りませんよ、はは……」



~~食堂脇の廊下~~



ライナー「アニ…… いったい何をやったんだ」

アニ「ちょっとした人体実験だよ」

ベルトルト「サシャがミイラになるまで何日かかるかって実験かい?」

>>2泣いてぜ→泣いてたぜ


アニ「まさか。次の作戦実行してから、シーナの内側にローゼの難民がなだれ込んだら壁内がどれだけ持つのかって、見通しを立てたいと思ってね」

ライナー「お前鬼畜だな」

アニ「何言ってんのさ。お互い先の短い殺人鬼だろ? あの芋女みたいな奴が食欲を抑えきれずに食料の奪い合いが起きれば、任務も早く片付くってもんじゃないか」

ベルトルト「アニにも一理ある。残酷だけれど仕方がないよ」

ライナー「分かった。……お前に任せる」


教官「食事終わり! 後片付け始め!」

サシャ「アニ……」

アニ「どうした?」

サシャ「ダズにパンをあげました。ああやって、他の人に流すもんなんですよね?」

アニ「そうさ。……そうやって流すもんだ」


3日後!


???「サシャ! サシャ!」

サシャ「はっ? その声は女神クリスタ様では?」

クリスタ「女神かどうかはともかく、クリスタだよ! サシャ顔色が真っ青じゃない!」

サシャ「もう3日もパンを…… 口に入れてないんですよぅ……」

クリスタ「どうしてそんな無茶をするの?」

サシャ「いえ、これには思うところがあって…… ? なんかクリスタ、肌がつやつやしてませんか?」

クリスタ「え? そ、そうかしら」

サシャ「っていうより、ものすごく…… おいしそうです!」

クリスタ「サシャ何だか、目が怖い……」

サシャ「よく見たらクリスタ! あなたパンでできてるじゃないですか!」

クリスタ「そうなの…… 実は私は、パンの女神」

サシャ「ひとくち、味見だけ…… してよいですか?」

クリスタ「うん」

サシャ「かぁみぃーーーーーーー! いっただきまぁ~~すっ!」


  θ★○※△▼×ω@~~~!


サシャ「ふぅ~~ おいしゅうございました! あれ……クリスタどこへ行きました?」




ガバッ!


サシャ「はっ! 何ですかこの夢は!」

クリスタ「サシャおはよう!」

サシャ「! おは……ようございます…… って、特に、何も、問題ありませんか?」

クリスタ「問題…… って?」

サシャ「つまり、足が無いとか、お尻の肉がなくなってるとか」

クリスタ「ププッ、まったく、サシャったら朝から何を言い出すの!?」

サシャ「いやぁ、あまりにも現実味のある夢を見たもので。何とクリスタを食べてしまう夢だったんです」

クリスタ「やだ怖い…… でもおいしかった?」

サシャ「それはもう! 初めて貰ったパンの次くらいにおいしかったですよ!」

クリスタ「じゃあ、ごちそうさまは?」

サシャ「ごちそうさまでした!」

クリスタ「お粗末さまでした」

アニ「……」ポリポリ




~~消灯後~~



アニ「? 何か物音がする。……む! あの人影は」

???「うう~~」

アニ(サシャ・ブラウス! どこへ行くのだ…… これは尾行せずにはいられない)

サシャ「パァン……う"う"う"」

アニ(立体機動装置を着けて馬に? 門の外へ……だと?)



~~数十分後~~



アニ(何と壁際まで…… と思ったら壁を登り始めた!)

アニ(壁の外へ出やがった! 何してるんだ?)

サシャ「う"ぁぁ!」

アニ(!?)




~~翌朝・食堂~~



コニー「こりゃ…… いよいよ本物だな……」

サシャ「そうですとも!」

コニー「残したパンは?」

サシャ「全部、他の人に流してます。いずれ倍返ししてもらいますよ!」

マルコ「食欲が…… ないのかい?」

サシャ「何ですかねえ…… 3日目を過ぎたころから吹っ切れたっていうか、全然苦にならなくなって。いやぁ、やればできるもんですよ!」



アニ「あんたら。ちょっと聞いてくれ」

ライナー&ベルトルト「?」

アニ「見せたいものがある。明後日の消灯後、気付かれないように門の外に馬を繋いで待ってて。後で合流するから」




~~翌々日の夜。門外~~



ライナー「見せたいものって何だ。こんな夜更けに」

ベルトルト「サシャに関係あることらしいけど」

ライナー「あいつの何がそんなに重大なんだ…… うん? 来たな」

アニ「御苦労さん。ちょっと待ってな」

ライナー「…… 誰か出てきたな! あれは…… サシャじゃないか!」

アニ「静かに。気付かれないように後を尾けるんだ」



~~壁上~~



ライナー「サシャの奴何を…… 狂ったか? 壁を下り始めやがった!」

ベルトルト「活動中の巨人が集まってきたぞ!」

アニ「いいから黙って見てな」

ライナー「あいつ何をするつもりだ…… え! あれは」



サシャ「Gaaaaaaーーーーーー!!!」


ベルトルト「巨人化…… してるのか?」

アニ「いや、あれは違う。私らとは別物だ」

ライナー「10m級に飛び掛かったぞ!」

ベルトルト「うなじを切り裂いて……」

ライナー「巨人を…… 食ってるだと!」

アニ「見なよ。巨人どもが逃げていく。奴ら、あのサシャを天敵と見なしてるんだ」

ベルトルト「全身が毛に覆われてて、何か猛獣みたいだが……」

アニ「小さい頃聞いたことがある。狩猟民に伝わる『魔人』の伝説。深刻な飢饉に見舞われた時に現れるってやつさ。まさかと思ったけど、本当だったとはね」


ライナー「……厄介だな。下手に兵糧攻めを仕掛けると、こういう奴がわんさと発生しないとも限らんわけか」

アニ「どうやら例の…… 縦1メートル横10センチが好物みたいだよ」


サシャ(魔人モード)「Giiaaaaaaーーーーーーー!!」


ベルトルト「……あれは危険だ。ここで始末するかい?」

アニ「それはかわいそう。こうなったのは、そもそも私のせいだし」

ライナー「じゃあどうする? 見たところ無知性のようだし、何よりサシャ自身が覚えてないなら…… 早めに手を打った方がいいぞ」

アニ「私に考えがある。責任は取るよ。二度と発現しないように封印すればいいのさ」

ライナー「どうやって?」

アニ「朝を待とう。それから、……あんたら戦士だよね?」

ライナー「聞くまでもないだろう。俺たちは戦士だ」

アニ「なら、これも任務の一環として相応の負担をしてもらいたいんだけど」



~~翌朝~~



アニ「やぁサシャ。顔色がいいねえ。まだ断食が続いてるんだって?」

サシャ「スープはいただいてますけどね! でも、スープだって誰かに流してもいいくらいですよ」

アニ「またぁ、気味が悪いよ。いつものサシャはどこへ行ったんだい」

サシャ「私はきっと進化したんですよ!」

アニ「だといいけどね」

サシャ「でも何なんですかアニ、その微笑みは? あなたこそいつものアニじゃないような」

アニ「いやぁ、私がうっかり変なこと吹き込んだんじゃないかって、気になってさ。これ、あげるよ」

サシャ「これは、パン…… ですよね?」

アニ「うん。私もこの頃妙に食欲がなくって。よかったらアニに流してもいいかなって」

サシャ「はぁ…… 以前ほどパンに魅力を感じなくなってるきょうこの頃ではありますけれど……」

アニ「遠慮しなくていいって! ひとくち食べてみな」


サシャ「では、お言葉に甘えて……」

「!」


       ヴ
       ォ
       ヒ
       ヂ
       ヒ
       ィ
       ィ
       |
       |
       |
       !!!
       !!!
       !!!


サシャ「こっ! これがッ! パァンの味! 前に女神クリスタから貰った時の味をはるかに凌ぐ、この芳醇な香り、そして口の中から全身に染みわたる、この甘さ! ああ、わだぢは、ごのだめに生ぎでぎだのだなぁぁぁぁンン!!!」

バタッ

コニー「サシャ大丈夫か? 大いびきかいて寝てやがるが? おいアニ、お前いったい何を食わせたんだよ!」


アニ「? ただのパンだけど。久し振りに食べたんで参っちゃったんじゃ?」


ガバッ


サシャ「コニーにはあげませんよ! これは私のものです!」

コニー「盗りゃしねえよ! ……まあ、何だか、いつものサシャに戻ったみてえだ」

アニ「な? よかっただろ?」

サシャ「アニごちそうさまです! ああ、『人はパン無しで生きる者にあらず』という故郷の教えは間違いありませんでした! ありがたや、ありがたや……」


アニ(よかった…… 貯金はたいて貴族御用達の最高級パンを取り寄せた甲斐があったってもんだ。でも当分の間これで餌付けするのは…… 気が重いね)


ベルトルト「うまくいったみたいだよ」

ライナー「まったく。お陰で財布はすっからかんだ。情報収集もほどほどにしてもらいたいもんだな!」

ベルトルト「ライナー?」




~~しかし……翌日の食堂~~



アニ「なぜかこの世界では、好かれたいって思えば思うほど相手は離れていく。どうしてこんな茶番になると思う?」

ジャン「どうしてだ!?」

アニ「それが人の」



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