ハンニバル*レクター「……アイドルプロデュース、ねぇ」(77)

ハンニバル「……ふっ、世間的には逃亡中の殺人鬼なのだがね。私は……」

ハンニバル「とはいえ、こんな極東の島国にわざわざ流れてきたんだ。多少は楽しむとするか」

ハンニバル「……モノに、よっては。食えるしな…………」

ピッポッパ

765プロダクション

律子「……ええ!勿論です。それでは明日、顔写真を張り付けた履歴書をもって、ビルに来ていただければ」

律子「……はい、それでは」

社長「……ん?プロデューサーの応募に引っかかったか?その様子だと」

律子「ええ。なんでも外国の方らしいんですが。最近日本に流れて来たらしくて、すぐにでも仕事が欲しい。明日面接をさせてくれないか……と」

社長「外国人か……体力はありそうだな」

律子「頭もすごく良さそうでしたよ?日本語流暢でしたし」

社長「…………」

律子「……やっぱり、前のプロデューサーが忘れられませんか?」

社長「……やはりな、うむ。こうやって彼がやっていた仕事を私が代わりに引き受けていれば、そのうち戻って来るんじゃないかと思ってしまう」

律子「……」

律子「…………私も、です」

夜、繁華街

ハンニバル「……フゥむ」

ハンニバル「……あまり、食で私の心をくすぐるものはないねぇ……」

ハンニバル「腐らした豆、豆の搾りかすでだしをとるスープ……」

ハンニバル「微妙だ……」

ハンニバル「……む?」

?「……やめろよっ!ちょっと肩がぶつかっただけじゃないか!!」

雑魚1「いやいやほら。ね?やっぱさ、最近牛乳とか飲んでねーからさ?わかる?骨がスカスカなんだよ」

雑魚2「そーそー。だから折れちまったんだよな―」

ハンニバル「…………」

ハンニバル「……喰らう価値すら発生しないな……」

ハンニバル「……この国に来たのは、少し失敗かもしれないな」

ハンニバル「……まぁいい」

ハンニバル「家畜どもに、少し身の程を解らせるとするかな……」

我那覇響は、今日自分が結構不運なことを知った。
理由は簡単、目の前にいる知性の欠片もなさそうな二人組。
タバコと安っぽい香水の匂いが、汗と混ざって据えた匂いを響に伝えてくる。
「折れたって……そんなことあるわけ無いだろ!ピンピンしてるじゃん!」

「――――そうだねぇ。もし骨が折れたらそんなにピンピンとはしていられないな。……こんな風に」
べきご。
奇妙な音が響いた。
「あっ!?ぎゃあああああッ!!!?」
そして、響の目の前にいる二人組の1人が肩を抑えて倒れ込む。
そして、倒れ込んだ男の背後にいつの間にかたっていた男が、やれやれと肩をすくめた。
――――奇妙な、男だった。
髪の毛は一寸の乱れもないオールバック、仕立ての良さそうなスーツ。これまたそのヘンの雑貨屋で売っているレベルのものとは違うとひと目でわかる色眼鏡。
理知的な光を宿す美貌に、ぐぱりと裂ける様に笑みが浮かぶ。

「具体的に今君にやったのは脱臼だがね……骨折よりは痛くて、やる方にとっては手軽だ。関節を本来曲がらない方向に思い切り引っ張るだけでいい―――更にだ」
ぐりっ、と美貌の男が肩を抑えて倒れ込んでいた男の肩を踵で踏みにじる。
「あひっ!?あひあいいいたい!いてええよぉ!!」
「随分笑わせてくれるな?骨折してもつっ立ってへらへらとレディを虐める余裕のあるお方が、この程度でギャンギャン喚くとは……それとね、もう少し匂いには気を使え、タバコならまだ許せるが、そのヘンのディスカウントショップで売られてる屁にも劣るコロンの匂いが私は好きになれない」

だから、少し灸をすえさせてもらおうか―――と男が呟き、男のほっそりとした左手が閃いた。
――――ぼとり、と倒れ込んだ男の耳が削げ、繁華街の裏路地のじめっとした地に落ちる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ」
「……あ……?…………」
二人組の無傷な方は、目の前で起こる自体に全く現実味が沸かず、唖然としている。
それもそうだ、響だって全く何が起こってるのか分からない。
「ほら、相方」
耳をそいだ男は、ひいひいと泣きわめく男をうるさそうに首根っこを持って立たせ、無傷な方に押す。
「とっとと行け……死にたいか?」
「ひっ……ひぃ!!」
相方を担ぎ、無傷な男は裏路地を駆け抜けていった。
―――響は、目の前に立つオールバックの男と目が合い、背筋が凍るような感覚に襲われた。
その、色眼鏡から除く瞳は、響の頭から胸から太腿から秘部まで――――一瞬で閃き、値踏みしているように見えたから。
「……怪我はないかね?小さくて可愛らしいレディ」
話しかけられ、びくっと強ばる。今気づいたが、男は外国人のようだ。
「あー……うん、平気。ありがとうございます」
「礼には及ばんよ。……ところで、この辺に美味な食材を置いている店は無いかなァ?」
「美味な食材?……つまり、美味しいものって事か?」
「そうだ。この国の定食とやらを一度食ったんだがね……微妙なんだ」
「……そ、それなら……美味しいお店、っていうのが普通じゃないのか?なんで食材」
「なに、滞在先に小さいながらもキッチンがあったのでね……ネットでレシピを検索して、自分なりに作ってみようと思ったのさ」

「つ、作る。か……」
響は少し考え込む。
(自分の作るソーキソバとかなら、地元でアメリカの人とかにもウケがいいから……食えるとは思うけど……)
それは裏を返せば、見ず知らずの外国人男性を部屋に上がらせてしまうということであり……先程の値踏みするような視線から察するに、下の方は何となく信用できないし……
――――何より、この男は危険だ。
必死に意識から締め出しているが、響の視界の端には切り落とされた耳が野ざらしにされている。
(あれ……?そう考えると自分、結構危ない……?)
たらり、と額を汗が流れるのを感じながら、響は言った。
「そ、その……自分の地元は、オキナワってとこなんだけどさ……」
「ふむ」
「そこの……ソーキソバ、とかなら……家で作れると思う……」
「ソーキソバ?………ソバ、とは日本の麺だったな」
「ん、まぁそれもそうだけど、ソーキソバってのはちょっと違う。カップヌードル知ってるでしょ?アレのスープを、豚肉ベースにした感じ」
「肉……!!」
ぎらり、と男の目が輝いたような気がした。
「…………う、うん。だからその…………食べたければ、自分の家で」
「ぜひ!!」
ぐわ!と男の顔が響に肉薄する。
「ひっ……」
「ぜひ頂こうかな!」

響は、何から後悔すれば良いのかを自宅に着くまで考え続けた。

ハンニバル「(運がいい……)」

ハンニバル「(非常にキューティで、性的欲求を掻き立てるレディだ……と言ってもまだティーンズのようだが……)」

ハンニバル「(クク……身長の低さがまた、可愛らしさを助長している……それに不釣り合いなバストの大きさ……非対称の美しさ……)」

ハンニバル「(喰いたいねェ)」

響「(うう、なんかすごく背中に汗がでるぞ……)」

響宅

ハンニバル「ほう……ひとり暮らしか?ミス響」

響「うん、自分はオキナワから上京してきたから……」

ハンニバル「フゥむ……ティーンズにしては身の回りのことができてるじゃぁないか……素晴らしい!!」

響「あ、ありがと……じゃ、作るね」

ハンニバル「(*´ω`* )待たせてもらう」

調理中

響「できたぞ」

ハンニバル「フゥむ!!グッドスメルだ!!豚肉の出汁がよく出ているがイヤミにならない程度に抑えてあるし、ヌードルも噛みごたえがありそうな茹で加減だな!エクセレント!ディ、モールト!」

何故この2つを混ぜる発想がうまれたのか

響「褒めすぎだぞ……」

( ゚д゚)ンマッ!

食後

ハンニバル「……ふぅ、美味だった。済まないねミス響。初対面の私にここまでしてもらって。値段は……」サイフポスッ

ハンニバル「……言い値で構わない」

響「いや……別にいらないぞ……自分も助けてもらったし、おあいこだ」

ハンニバル「なんだい、全く聖母のようなレディだね」

響「……と、とりあえず。何時までいるんだ?自分、風呂に入るんだけど……」

ハンニバル「なるほど……おや?おかしくないかねミス響?」

響「え?」

ハンニバル「汗をかいていないじゃないか……得てして風呂は汗をかいた後に浴びる物だろ?」カベドン

響「え!?ちょっ、あのっ!!」

響「(三十分前の自分のバカああああああああああああああああああああああああああああああ)」

ハンニバル「どうだい?……1つ、アダルティなレスリングでも……」

響「……あ……あ」

で、どっちがいいのおまいら?

響殺人鬼博士とヤラせる?
それともここはお預け?

どうする?

今日また顔出すからそんときまでによろ

>>9
ハンニバルのノベライズよんだ直後ゆえに

引っ張る要望が出たからその通りに

響は、自分の数センチ手前で色眼鏡を外す男を涙目で注視した。
男の顔は目玉が飛び出るほどの美貌で、よく鼻を使ってみれば、シュミのいいコロンの匂いがイヤミにならない程度に漂ってくる。
(やばい……くらくらしてきた……)
逃げられない。
その栗色の瞳に見つめられると、どうしても体が服従してしまいそうになる。
「……」
男が、ゆっくりと唇を寄せてくる―――――
―――――が、響と男の唇が触れ合うその一瞬、小さな影が男の肩によじ登り、耳にカプリと噛み付いた。
「むぅ!?」
耳を抑えて響から男が離れると、小さな影は男の肩から跳躍し響の頭に着地。
「……あー、ハム蔵か……助かったぞ……」
頭に乗っかり、男に威嚇の前歯を向けている家族の一人に、響はため息をつきながら礼を言う。
「……面妖な……」
耳を抑えて、些か驚愕した、と言う感じの表情で耳を抑える対面の男の背後に、今度は大きい影がかかる。
「む?……ぐお!!」
大きい影は男の背中にのしかかり、その体重をもってして床に押しつぶした。
「いぬ美、……噛み付いちゃだめだぞ?」
ぐるると歯をむき低く唸る大きい犬に、響は待て、と手をかざす。
「ぐる……」
いつの間にか、響の部屋には大小さまざまな動物が溢れていた。
蛇、イグアナ、etc……
あるものは台所の調理台から、あるものは冷蔵庫の頂上でとぐろを巻いて、男に威嚇の意を示している。
犬にのしかかられたままの男―――ハンニバル・レクター博士は、彼らしくもない顎の落ちた表情で再度呟いた
「め、面妖な…………」

響「お前、何者なんだ?」

響「助けてもらったし、あえて突っ込まなかったけどさ……何か信用ならないぞ」

ハンニバル「ふふww気にすることは無いさ、……ところで、お誘いははねつけられたということでいいのかね?」

響「当たり前だ。何処の馬の骨とも解らない男に処女をやれるかって話だぞ」

ハンニバル「ヴァージンか!!ふふwwふふふwww」

響「(いぬ美にチンコ齧らせたろうかこのスケベ)」

響家玄関前

響「……ほれ、とっとと帰れ」

ハンニバル「フゥむ、今回はとてもいい経験をさせてもらった、礼を言うよ」

響「あっそ」

ハンニバル「……つれないレデイだねェ」クビスジチュッ

響「ひっ……!」

ハンニバル「不意打ちに驚愕して身を竦めるその表情もまた……」

響「がーっ!帰れ!」バタン!!

「……はぁ……はぁ……」
玄関前でへたりと座り込み、しばらく荒い息をつく。
頭の上のハム蔵が、心配そうにちょろちょろと走り回る。
「平気、だぞ……」
口では言うものの、じわりと涙が浮き出て来るし、胸の中では言いようのない恐怖がわだかまっている。
「……なんなんだろう、あの目」
栗色の、抗い難い気配を放つあの男の瞳。
それを思い出し、響は一つの答えにたどり着いた。

「獣、だ…………」
響は、その後のシャワーでも、己の身をかき抱いて、怯えながら一晩を過ごした。

翌日、765事務所社長室。

社長「……えー、名前はラプター・ヴィスコンティさん、年は48、元医者で、貯蓄を切り崩しながら世界を放浪するのが趣味……と」

ハンニバル(ラプター)「ええ、お恥ずかしい話なのですが、いい加減貯蓄も底を付いてきましてね。喉から手が出るほど仕事が欲しいのです」

社長「なるほど……それにしても元医者とは、中々に素晴らしい経歴をお持ちなのですね。見た目もきりっとしてなさる」

ハンニバル(ラプター)「ふふwwそんなに褒めなくてもよろしい、三流大学で教師の話を聞き流していたらたまたま取れた免許ですしね」

社長「これはこれは、ジョークにも富んでなさる、ふふふ……ところで、医者ということは医師免許を持ってなさるのですよね?それなら職種の幅も多様でしょうに……」

ハンニバル(ラプター)「なに、私は常に赴くままにがモットーでしてね。アイドルのプロデュースも悪くは無いかなと……私は元医者ですから、彼女らの体調なども顔色をみれば把握できますから、現場の途中でバタン……なんてことも無くなります」

社長「なるほど……」

ハンニバル(ラプター)「それに、医者は入院する患者などを扱うときに、かなり細かいスケジュールを組みます。この薬がいついつ、この処置がいついつ……と言った具合にね。だから、スケジュール立てにも抵抗はありませんし、ある程度の域には纏めることができます」

社長「(……これは……入れる理由がありすぎて、突っ込みどころが見つからないな……)」

社長「(願望は、されど現実には映されず……か)」

社長「(『彼』のことはもう忘れて、765も新しい一歩を踏み出す時が来たのかもな……)」

社長「わかりました……それでは、とりあえず3ヶ月、仮採用と言う事で……」

ハンニバル(ラプター)「グラッツェ(ありがとう)。プレジデント」

社長「いえ……貴方がどう言ったプロデュースをするのか、私も気になってきましてね」

ハンニバル(ラプター)「ええ、それは光栄な事です……ところでプレジデント。私にはあだ名があるのですよ」

社長「あだ名?」

ハンニバル「ええ、中世の知将、カルタゴの戦略家からもじって……」

ハンニバル「ハンニバル、とね」

―――――オープニングテーマ
「その血の運命」

~♪~♪

あとは深夜来れたら書く。
要望なんかは叶えていく意向だからあるやつは言って

質問もどうぞ

続ける

秋月律子は、些か心臓の鼓動を抑えるのに苦労した。
(嘘でしょ……めちゃくちゃイケメン……)
目の前に立つ外国人の男は、ゆったりと律子に手を差し出してくる。
「……雰囲気から察するに、昨日の電話を受けたのは君かね。よろしく頼む」
その様は穿った見方をすれば採用された先の先輩に対する傲岸不遜さを滲ませているが、この男の場合、なぜか全く気にならない。
「え、ええ……社長秘書の秋月律子です。よろしく」
差し出された手を握る。
その動作には必然的に近づくことを要求されるため、律子は鼓動がより早まるのを押さえ込むのがいよいよ限界に達していた。
「……じゃ!じゃあ……事務室に行きましょう。貴方がプロデュースするべきアイドル達も、そこで待ってるからね。顔合わせよ」
やや強引に握手をとき、二、3歩不自然に思われない程度の動作で離れつつ律子は伝える。
「ふむ……ブリーフィングか……楽しみだ」

事務室
天海春香は、やや落ち込み気味の気分を雪歩の煎れた緑茶で紛らす。
「……今日は、プロデューサー候補の人が面接にきてるんだったよね……」
誰ともなくそうつぶやくと、対面にいた如月千早が片耳を音楽に傾けたまま答える。
「そうね、面接の結果如何では終わり次第ここに来るはずだけど」
千早と春香の周りには、765プロの稼ぎ頭たるアイドル達がより集まって思い思いの事をしながら時をやり過ごしている。

ソファに寝転がり、大してためにもならないTVのバラエティを見つめていた星井美希がぼそりと呟く。
「……次に来るのがどんな有能なプロデューサーでも、ダーリンには敵わないの」
「その話はやめて」
千早が、瞬時に顔をしかめ吐き捨てるように言う。
「……何時まで過去に囚われてるの。もうあの人はいないのよ、美希。わかってる?」
「……だれも、戻ってきたら何て言ってないの。単に、前よりはモチベーションがさがるかなーって」
「そのモチベーションが下がるって点が問題なのよ。どんなプロデューサーであれ、私たちに与えてくれる実務的な要因は変わらない」
「実務的な要因?あの人が与えてくれてた癒しとかさ、安らぎとかさ、そういうのが私たちのアイドルとしての活動に影響を与えてくれてたと美希は思ってるんだけど」
「……精神的に寄りかかるものがなければ、何もできないのっ!?」
千早が怒鳴ると、春香を含めた数名が慌てて止めにかかる。
「千早、落ち着いて」
「落ち着いてるわよ!単に私は美希の脆弱さに意見を申し立ててるだけ!……美希、あなたあの人が居なくなってから、あからさまに仕事が減ってるわよね?この際だから言わせてもらうけど、必至に頑張ってる他の皆に申し訳ないと思わないの?」

「はぁ?意味わかんないの。何を根拠に美希がサボってるとか――――」
「私は一言もサボってるなんて言ってないわよ?思わず口から出ちゃうなんて自分でも自覚してるのね」
「……っざ、けんな!!」
ばしゃん!と美希の寝転がっていたソファに置かれていたペットボトルが千早に当たり、中身が事務室にぶちまけられる。
「……ッ!」
千早は顔を瞬時に怒りに紅潮させ、お茶の入った湯のみを美希になげかえす。
ぱりん!と湯のみが美希の額にぶち当たり、砕けると同時に決して温くない温度のお茶が美希に降りかかる。
「……いったいの、何してくれんの?」
「いい薬でしょ?これを期に少しは怠けぐせ直したら?」
千早ちゃん―――!と静止をする春香他数名を完璧に無視し、二人は睨み合う。
「皆、新しいプロデューサーが……って、何してんの貴方達!」
律子が事務室に入ってきてあまりの惨状に目を剥くが、二人は一切目を向けない。
「よくよく考えれば昔から気に入らなかったの……歌うことしか能のない地味子な癖してやたらでしゃばるし」
「あら、歌うことしか能がないって?むしろそれは私にとって褒め言葉よ。無駄に肥太った体で媚売るしか能のないあんたよりよっぽどまし」
それを聞いた瞬間、美希の顔が歪み、右手を振り上げる。

――――ぱん!
と、音が響く。
が、美希の平手が叩いたのは千早の頬では無かった。
「……いけないなァ。ん?共に歩むべき仲間を張るなんて、ね」
美希の平手を受け止めたハンニバルは、にやりと微笑む。
「……あんた、誰なの」
怒りに染まった顔でそうきいてくる美希に、ハンニバルは悠々と返した。

「ラプター・ヴィスコンティ。君たちの新しいプロデューサーさ。気安くハンニバルとでも呼んでくれ。……さて、何時までも睨み合ってないで、茶でも飲んで落ち着いたらどうだい?」

美希「……貴方が新しいプロデューサーっていうのは解ったけど、ハンニバルってなんなの?明らかに本名とずれてるの」

ハンニバル「ふふww、気にしなくていい。私があまりにもチェスが得意でね。そこから中世の戦略家のファーストネームを当てつけられてしまったのさ」

律子「……とりあえず座りなさい。美希、千早、後で話は聞くわ」

ハンニバル「……ま、入社十五分後から中々のトラブルに巻き込まれたが……」

ハンニバル「たいしたことじゃあない……さて、今日この時をもって私は君たちのプロデューサーと相成るわけだが、質問はあるかい?」

一同「…………」

亜美真美「……はーい」

ハンニバル「ふむ、これはまた可愛らしい子猫たちだ、なんだい?」

亜美「……えと、その……お年は?」

ハンニバル「当年とって48だ、他には」

響「……はい(死ねええええええなんなんだよ巡り合わせ悪すぎだろおおお)」

ハンニバル「(おやおや……神よ、与えられた幸運に感謝します)なんだい?ミス響」

響「(名前呼ぶんじゃねーよ顔見知りってバレるだろがああああ)ま、前の職業は……?」

ハンニバル「ふむ、気取って言えばあちらこちらの文化に触れる事を生業とした旅人……といったところかな。要は無職だ。一時期医者もやっていた」

疲れた

いつもどうり質問要望あったらどぞ、

続きは明日

ハンニバルは、方方から浴びせられる質問に事務的に答えながら、部屋に集まっているアイドル達を一望する。
(素晴らしいねぇ……んん?中々に粒ぞろいじゃないか)
彼の中にある高水準の美的感覚をくすぐる雰囲気と見た目を持つものもいる。
戯れに訪れ、戯れに首を突っ込んだアイドルプロデュースの世界だが……なるほど、捨てたものではない。
やがて、質問の嵐は過ぎ去り、沈黙が部屋を襲った。
「……質問は、以上かね?」
ハンニバルのハリのある声が部屋に響く。
「……あなたさま」
それに答えるように、琴のような声が響いた。
腰までの銀髪に、超然とした雰囲気をまとった少女である。
(……ディモールト)
ハンニバルは心の中で密かに呟く。
それほど迄に、目の前の少女の美しさは郡を抜いていた。
まるで、ギリシャ神話に伝わる月の女神アテナのように。
「……なにかね?」
「本意、なのでございますか?」
澄んだ瞳で、こちらを見据えてくる少女。
ハンニバルが、戯れにこの世界に首を突っ込んだ事を半ば看破している。
「というと?」
「あなたさまは、ここに志を持ってやってきたとは思えないのです」
「……」
「なんとなくおもしろそうだから、なんとなく己の琴線に引っかかったから……そんな雰囲気を、あなたさまからは感じます……きっと、あなたさまはとても頭がよろしいでしょうね。でもそれ故に、何処かで人を小馬鹿にはしておりませんか?」
「貴音、失礼よ」
「律子嬢は少しお静かに、私はこの人とお話をしているのです――――もう一度聞きます。あなたさま、志を持っておられますか?」
そう言って、銀髪の少女は俯く。
「……もし、持っておられない、ただ、戯れにこの世界に首を突っ込んだだけなのであれば」
立ち去りなさい―――と、少女は言った。
俯いていた顔を上げ、その澄んだ瞳にわずかに激情を滲ませながら。
(……ふむ……彼女は……)
おそらく、過去に囚われているな―――とハンニバルは予測する。

(……アイドルと言う職業に誇りを持ってはいるが、その誇りの源泉となる『何か』を失った……そんなところだろうか)
近接の情報から推測するに、前職を受け持っていたプロデューサーと深い関係だったのだろうか……とハンニバルは邪推する。
だからこそ、『誇り』に敏感である彼女は、わずかに感じたハンニバルの『遊び』を嗅ぎ取ったのだろう。
――――そして、怒っているのだろう。彼ないしは彼女と共に築き上げた『誇り』を汚すな、と。
「……失礼、お美しいレディ。名前を教えていただいてよいだろうか?」
「……四条貴音、ともうします。ハンニバル殿」
「ふむ……ミス貴音。あなたは私がこの世界に真剣味を持って入ってきたとは思えない。故に即刻立ち去るか、真剣味を帯びた根拠を示せ、と要求しているので間違いはないかね?」
「……ええ、概ね」
「なるほど……ミス貴音、私は確かにひとところに留まったことがあまりない。停滞は個人的に好かぬのでね。医者という経歴をバッグの中で腐らせ、世界を放浪してしまうような風来坊だ。――――たしかに、そう言う観点で見れば、戯れに首を突っ込んだだけと見られても仕方はない」
だがね、とハンニバルは繋ぐ。
「……私は元医者だ。体を病魔に犯された患者を見るには、それなりの責任感が必要になるし、己の内包する責任感に見合った仕事をセレクトする能力も必要なのだよ」
「……よく、おしゃべりになりますね。わたくしには、詭弁にしか聞こえませぬが」
「だからこそだ」
貴音の横槍を無視し、ハンニバルは続ける。
「……ミス貴音。私を見くびるな」
そう言って、ハンニバルは貴音に肉薄し、顔を突きつける。
「私に、その壊れかけの誇りを押し付けるな」
「……なんとおっしゃいました?」
「壊れかけの誇り、だよ。ミス貴音――――何を失ったか知らないが、門を叩き、心づくしのプロデュースを届けようとしている若輩に向って、随分と無礼千万じゃあないか?」
「……心尽くしのプロデュース?笑わせるのも大概にしてくださると嬉しいのですが。貴方からは『心』など感じませぬ。楽しいか楽しくないか、それだけで物事を決め、好き勝手に掻き回す道楽者の匂いしか感じませぬ」
「口を謹め」

傍から見れば、ハンニバルは貴音の不躾とも取れる追求に苛立ちを覚える人間に見えていたろうが、心の中は驚くほどに冷え切って、必至に笑い転げるのを耐えていた。
実際問題、貴音の追求は間違ったものではないし、彼はこの世界に誇りも何もない。さっき貴音に医者という経歴を交えて話をしたが、あれだってものの見事に詭弁だ。
だが、ハンニバルはこの状態を鎮静化しなければ、いつ笑いの感情が腹を突き破って出てくるか―――そういう意味では、彼は気が気ではなかった。
「もう一度言うぞ、口を謹め。ミス貴音。私はぎゃんぎゃんと怒鳴ったりはしないが、その壊れかけの誇りは君がアイドルを続けていく上では要らないものだ――――現に私は、君のそれで非常に不愉快な気分をこうむっている」

不愉快もクソもない。ハンニバルはただ貴音の壊れかけのプライドを大声で笑い飛ばしたい気分に浸っているだけだ。
「ッ!!」
貴音が下唇を噛む。
ハンニバルは憤慨しているポーズを取りながらも、貴音から発散される負と悲しみのオーラをゆっくりと舌先で味わう。
(美味なり……ふふ、本当に、人間の悲しみは美味だ……)
しばらく沈黙の空気と共に堪能していると、唐突に貴音が一気呵成にがなり飛ばす。
「……あなたに管理されるなど、わたくしには耐えられません!あの方にくらべればッ……!!」
言葉が突然ぶつ切れになり、やがて黙ってしまう。
「フゥむ……」
ハンニバルは、少しづつメスを入れる部分を探り当ててきていた。
(やはり、過去のプロデューサー……か。しかもこのミス貴音の様子だと、只のプロデューサーに抱く思いとはだいぶ質が違うようだ……)
恋か、とハンニバルは見当をつける。
(なるほど……少しづつ核が見えてきた……)
ゆっくりと、ゆっくりと、人体に指を這わせるように、ハンニバルは切り込むポイントを吟味していく。
――――「切りこむ」
「……先程のレディ二人も、このことについて争っていたのではないかね?」
黙りこくったまま俯く貴音から視線を外し、ハンニバルは室内に集まるアイドル全員に問いかけた。

千早と美希の二人が、気まずそうにハンニバルから目を逸らした。
「教えてくれないかね?私の前のプロデューサーの事を……でなければ、とてもじゃないがプロデュースなどできない……病魔が巣食っている場所がわからなければ、メスを入れられないのと同じにね」
しばし、沈黙が流れた。
肌を焼くような空気の中、律子がゆっくりと口を開く。
「お教えします……」

(律子説明中)
ハンニバル「まとめると……」
ハンニバル「765プロの前職プロデューサー……名前は確か、Pだったな」
ハンニバル「……彼は有能なプロデューサーであり、ここにいる彼女たちの心の拠り所でもあり……」

ハンニバル「さらに、この765プロの業務の中核をほぼ担っていた。が……」

ハンニバル「失踪したと。何の頼りも残さず、別れの一言すら置いていかずに」

ハンニバル「なる……ほ……くっ……くくっ……」

ククッ

一同「!?」

クハックハハハハハ!!!

一同「!!??」

ハンニバル「くくっ……ひ、くはっ……笑ってしまう、な」

律子「は……ハンニバル、さ……」

ハンニバル「ミス律子。そして765プロのアイドルの皆様方……結論から言おう」

ハンニバル「思わず笑ってしまうほど、くだらないな」

一同「なっ……!?」

ハンニバル「そう気色ばむなよ。なんだ、私が可哀相だったね辛かったねとベタ甘なカウンセラーの様に慰めてくれると思ったか?」

ハンニバル「たかが、その程度で?」
ハンニバル「その程度で?君達は?……こんなところで腐っているのかい?」
ハンニバル「……くだらなすぎて、あくびも出ないね」
ハンニバル「君達に一言も残さず消えていった前職プロデューサーもくだらないが、たかがその程度で歩みを止める君たちも総じてくだらない」
ハンニバル「すごいな。ここまでくだらないを活用出来る人間共は中々居ないぞ?くくっ……」

春香「あなた……何様、ですか」

ハンニバル「ふむ?」

春香「……あなた、何様なんですかっ!!」
春香「なんであなたにくだらないとかわかるんですか、なんであなたがあの人の価値を決めるんですか!?なんでも見透かしたみたいな態度して!ほんのさっきここにきたばかりなのに!」
春香「貴音の言う通りですよ……」
春香「……自分の事、神様だとでも思ってるのッ!?」

ハンニバル「…………」

ハンニバル「(中々に、深刻だ……)」
ハンニバル「(前職、随分と大きな置き土産を残してくれた物だな……)」
ハンニバル「(いままで寄りかかっていたものが、急になくなれば彼女達がこうなってしまうことも予測できなかったのか?)」
ハンニバル「(それとも……予測していてものっぴきならない状況であったか……)」

千早「……春香、もうやめて」

春香「千早ちゃん……!?なんでそんなに冷静でいられるの!?」

春香「馬鹿にされてるんだよ!?あの人が、こんな……わけのわからない男なんかに!」

千早「……残念だけどね、春香」

千早「私は、この人に全面的に同意するわ」

春香「……っはぁ!?」

千早「だって、間違ってないもの。ハンニバルさんの言ってる事」
千早「……春香、一度頭を冷やして考えてみて」
千早「あの人はたしかに色んなものを私達に与えてくれた。私達のいろんなところをサポートしてくれた」
千早「……でもね、もう、いないのよ」

千早「あの人は、もういないの」

春香「……そんなの、わかっ」
ハンニバル「わかってないなぁ」
千早「わかってないわね」

ハン千「…………」
ハン千「ゴホン」

千早「……どうぞ、ハンニバルさん」

ハンニバル「それでは失礼して、さて、ミス春香。君は――――いつまで仮染めの前職クンに縋っているつもりだい?」
春香「……なんの、事ですか」
ハンニバル「言葉の通りだよ。君は何時までも期待している。前職クンが君の元に舞い戻ってきて、また甲斐甲斐しくサポートしてくれるのをね」
ハンニバル「まぁ、案外ここにいるミス千早を覗いた全員に言えるかもしれんが……最初に噛み付いてくるあたり、君が一番彼に依存していたのではないかな?」
春香「依存なんか、してない!」
春香「私はあの人と――――」
千早「……そこであの人が出てくる時点で、充分に依存してるのよ。春香」

疲れた。

質問要望以下略

春香「……なんでよ!なんでそんなに……」

ハンニバル「冷静でいられるの、か。まるで壊れたテープレコーダーだな。ミス春香」

ハンニバル「君は確かに大切なモノを失ったのだろう」

ハンニバル「だがな」

ハンニバル「もっと重いものを失っている人間のことは考えた事はあるか?ん?」

ハンニバル「たとえば私は、妹を食用肉にされる形で失っている」

春香「……え?」

ハンニバル「言葉の通りだよ、ミス春香。私は妹を殺された挙句、喰われたのさ」

ハンニバル「……いまでもありありと思い出せるよ。糞壺にぽつりとうかぶまだ幼かった妹の乳歯をね」

ハンニバル「そんな私から言わせてもらえば、君の失ったものなぞ微々たるものなんだがねぇ?」

ハンニバル「少なくともミス千早は、失った物は仕方ないのスタンスで、当たり障りなく自分のなすべきことをこなしてる様じゃないか」

春香「……ッ!」

ハンニバル「そこに私の失ったものを鑑みて答えを示すと……あら不思議、大したこともない障害の前でまごついている愚鈍な豚の出来上がりだ」

春香「…………」

春香「……すいません、でした」

ハンニバル「構わぬよ、降伏兵に重ねて切りつけるほど私はサディストではない」

ハンニバル「……おや?そう言えばミス貴音から謝罪を貰っていないな?ん?」

貴音「…………」

貴音「もうしわけありませぬ。少し取り乱してしまいました」

ハンニバル「よろしい」

ハンニバル「さて、だ……突発的に発生した反乱軍も鎮圧できた」

ハンニバル「『心尽くしのプロデュース』の……第一弾を始めようか」

ハンニバル「ミス律子、そこにある私の鞄を取って頂けるかな?」

律子「……え、あ、はい……」ズシッ

律子「(お、重い……)」

よろよろとよろける律子から鞄を軽々と受け取ったハンニバルは、中身を事務所の机に広げていく。
「これ……ティーカップなの」
美希が不可解そうに呟き、ハンニバルはそれに答えるように滔々鞄から取り出した紅茶の茶葉の名を読み上げる。
「アッサムさ。私はノンシュガーノンミルクで飲むのが好きだがね……今回は君達の舌に合わせてミルクも用意してある」事務所の卓上にあったボットを引き寄せ、ハンニバルはこぽこぽとティーポットで茶葉を漉す。
しばしポットの前で沈思黙考し、やがて事務所に並ぶアイドル達の前に並べられたティーカップに紅茶を注いで回る。
「……あ……」
「いい、匂い…………」
小声でそんな声が上がるが、ハンニバルは当然だ、とでも言いたげに全てのティーカップに紅茶を注ぎ終える。
「……ミルクだ、好みで入れろ。砂糖は角砂糖を用意してある」
鞄の中からミルクの小瓶と角砂糖の入った袋を取り出し、机の中央に放る。
「…………」
一同沈黙。
何となく、目の前の紅茶に手を出すことをためらっている雰囲気だ。
「とっとと飲むといい、冷えると不味い」
そう言ってハンニバルは己の分をストレートティーで啜る。
その様子を見て、一人、また一人とティーカップに砂糖やミルクを思い思いに入れ、かき混ぜる音が響く。
奇しくも、その場にいるアイドル達全員の最初の一口目のタイミングが重なる。
ごくり、と紅茶を嚥下する音が室内に響き――――
―――――喰われた。と、その場全員が知覚するのは同時であった。
「…………ぁッ!!つ!」
律子が立ち上がり、驚愕の声を上げる。
「………おい、しい」
小さくつぶやかれたその声は、周りのアイドル達の心の声を代弁しているようであった。それほど迄に、ハンニバルの淹れた紅茶は美味であった。
喰われた、完璧に完膚無きまでに、喰われたのだ。
たった紅茶一杯で、この部屋の空気を全て掌握された。
「さて、お嬢様方……」
ハンニバルは、酷薄に笑う。
ぐぱぁ、と肉が避けるように唇が弧を描き、見るものすべてを支配し喰らい尽くす獣の光が彼のつけた色眼鏡に乱反射する。
「……ファーストプロデュースは……君達の反応を見れば、結果は分かりきっていねぇ……」
「心しろ、765プロのアイドル達よ……私が、君達のプロデューサーだ」

「……叩き直してくれるわ、腑抜けどもめ」

ハンニバルは言い切った。
その瞳は、珍しく正の感情――――使命感、を滲ませながら

眠い以下略

Hannibal of produce

ケース1

『双海亜美・双海真美』

亜美真美家

真美「ねー亜美ー」

亜美「んー?なんさ真美ー」

真美「今日来てた新しいプロデューサーの人いたじゃーん」

亜美「……ん、ハンニバルさんだっけ」

真美「……怖かった?」

亜美「とっても」

亜美「お姫ちんとかすっげー怒ってたじゃん?」

真美「うん……なんでだろ」

亜美「なんとなくわかるよ。あの人ね、なんか普通の人と見てるポイントが違う」

亜美「……実際、春香が切れた時も、おもっくそ理詰めで黙らせたじゃん」

真美「……ホントなのかなー。妹さん殺されたとかさ」

亜美「そこまでは解んないけどさ」

亜美「あんまり、腹を割って話せそうにはないな……うん」

真美「わかるわ……」

亜美真美「…………」

亜美「……ねる?」

真美「そっすね」

翌日

亜美真美「はよざいまーす」

ハンニバル「good morning!!」

亜美真美「(うわ……)」

ハンニバル「ところでだ」

亜美真美「え?」

ハンニバル「提案があるのだよ」

亜美「……提案?」

真美「ですか……?」

ハンニバルは、目の前に並ぶ双子の少女を交互に見比べながら額を抑えた。
(幼いねェ。確か13.4だったか……くくっ、私にロリータコンプレックスの気は無いんだがね)
じっとりの二人の体に目を走らせると、ハンニバルはさんざん温めておいた提案を二人にぶつけた。
「そう、提案だ。……が、その前に質問がある。――――君達の今までのスケジュールを見させてもらったが……あまり二人で組んでいないな?双子とくれば息はピッタリだろうから仕事もやりやすいだろうに」
すると、髪の毛のを右側で結わえている少女―――亜美が頬を書きながら答える。

「あー……私は事務所の中の『竜宮小町』ってユニットに入ってるから、だな」
「それまでは二人の仕事ばっかりだったんだけどねー」
「ねー」
「……ふむ」
ハンニバルはしばし考え込む。
(この双子は余り前職を失った影響を受けてないみたいだな……となると、それ程禍根を残しているわけではないのか?)
「……君達は、前職君とはどれ程の付き合いをしてたんだ?」
思い切って尋ねるハンニバルに、髪の毛の左を結んだ双子の片割れ――――真美が答える。
「……んー、どれ程の付き合いっていってもなぁ。兄ちゃんあんま喋んなかったんだよ」
「……寡黙なタイプ、ということか?」
「そそ、それそれ。とにかく黙って仕事を片付けて、残った時間でほかの人達の話聞いたり、あふたーさぽーとをしたり……ってタイプ」
中途を引き継ぐように、亜美が会話に加わる。
「春香とかお姫ちん―――貴音とかはいつも積極的に話しかけてたけど、私達はそれ程アクティブに付き合ってたわけじゃないんだよねー」
「良い人だったとは思うけど……やっぱり、居なくなったらそれまでの人だった、と思うしかないっつーか……」

(「思うしかない」か……成程、自己感情と現実の住み分けがしっかりできている。―――年不相応な程に)
「……それにさ、兄ちゃんよく言ってたし。『人生は失うことのほうが多いから、失った後をどうするかが大事』って……」
「あ、確かに言ってたよねー」
(前職……貴様は……)
ハンニバルは、とても珍しい感情が胸中に渦巻いているのを感じていた。
(……「ロボット」を、作りたかったのか?ん?貴様はッ……)
それは、怒り。
様々な感情を押し込めて、必死に『大したことないよ』と振舞う、亜美と真美への哀れみから来た、怒り。
二人は、気付いて居るのだろうか。
――――前職の話しをするときに限り、表情豊かな己の顔が、無表情になっている事に。

全く何も感じさせない。
ポッカリと穴があいた、虚ろな無表情。
(……ロボットだな。今の彼女達は、ただ、己はアイドルである、と言うプログラムに従って動くだけの――――)
人形だ。とハンニバルは二人に聞こえない程度の声で呟いた。

「……そう言えばさ、提案がどうとか言ってたよね?」
「あー、そだそだ!なに?」
ハンニバルは二人の声で思考の螺旋から帰還し、そういえば、と思い返しながら提案を二人に投げかける。
「なに、大した事じゃない……今日明日と、二人の欠員がある仕事があるのを――あの、オフィスレディ……そう、ミス小鳥から聞いてね。コンビで出てみないか?と言う話さ」
「ん……」
亜美がしばらく考えるような仕草をしていると、真美が僅かに引きつった微笑で答えた。
「……やめとく、かなぁ」
「それならそれで無理強いはしないが……理由を聞かせてはくれないか」
「やっぱほら……亜美は竜宮の方が大事だから」

「え?いや別に今日は竜宮のレッスンないから平気だけど……」
どうやら真美の独断で返答がなされたようで、亜美が慌てた様に言う。
「いやー、そんなら個人でレッスンしとくとかさ。いろいろやりようはあるっしょ」
「……そりゃ、そうだけどさ」
「……いや、それならそれで構わない。ミス真美、とりあえず君だけは参加してくれるかい?」
「うん、平気だよ」

(……)
ハンニバルは、思考する。
ホワイトボードに英字でスケジュールを書き込みながら、思考する。
「……劣等感、か」
やがてぽつりと呟いて、彼は前職も座っていたであろう席に身を沈め、他のアイドル達が来るのを待った。

ハンニバル「……と、言うわけなんだが。誰か時間の空いてる者は居ないかね?」

やがて集まった全員に、ハンニバルは問いかける。

春香「……真美がいるんなら、亜美と二人で行かせればいいんじゃないですか?」

沈黙する一同の中、開口一番つっけんどんに言ってくる春香。

ハンニバル「……ああ、その手が一番なのかもしれないが、ミス亜美は既にスケジュールの空きがないようでね」

ハンニバル「ここで聞くに至った次第だ」

もう無理wwwwwwwwwwwww
ネタ切れ。

乗っ取るか落としで

続ける

?「それなら、私がいくわ」

ハンニバル「……イオリ・ミナセ、だったか?君は」

伊織「そうよ、覚えてて頂いて光栄だわ」

ハンニバル「一緒に行ってくれるのかい?」

伊織「かまやしないわよ、どうせ今日はレッスンもないから暇してたし」

ハンニバル「分かった。感謝する」

伊織「……当然のことを、したまでよ」

伊織「……レクター博士」ボソッ

ハンニバル「…………!?」

ハンニバル「………………くく」

伊織「……」ギリッ

ハンニバル「……水瀬財閥、か」

ハンニバル「君とは、近いうちに話をしておく必要があるかもな」

伊織「……ええ」

伊織「それじゃ、行きましょうか」

車中

ハンニバル「……ま、統合するとだ、テレビ番組の尺埋めさ」

ハンニバル「さっきも言ったように、欠員が出たことでこっちに話が回ってきた」

伊織「……真美」

真美「ん?なにさデコちゃん」

伊織「誰がデコちゃんよ!……竜宮のsmoke Thillは歌える?」

真美「……ん、平気かな」

伊織「レク……ハンニバルさん?あっちでいきなり出演ってわけじゃないんでしょ?」

ハンニバル「問題ない。君達は大トリ、つまり最後さ」

伊織「ん、リハは少しはできそうね」

ハンニバル「……だが、とてもミス真美に竜宮とやらの曲が歌えるとは思えないがねェ?」

伊織「……は?」

真美「……ッ!」

ハンニバル「おや?気付かんかねミス伊織。―――そいつは、姉に嫉妬しているんだぜ?」

真美「……!!」

ハンニバル「……大方、二人でコンビを組んでいた時代の空気を引きずったままなのだろうよ」

ハンニバル「共依存って奴だと思ってたが、実際は違った訳だ」

ハンニバル「実際ミス亜美は、コンビを組まなくても上手くやれてるみたいじゃないか?」

ハンニバル「その劣等感がつのりにつのった結果が今日の欠員の理由でもある」

ハンニバル「……疑問に思わなかったかね?ミス伊織。君と同じでレッスンの無いミス亜美が今日来なかった理由が?」

伊織「勝手なこといわないで……!」

伊織「気づいてるわよそんな事!気づいてるからこそ私が来たんだから!」

伊織「……わざわざ傷口をかっぴらいてつつく様な事をして……噂通り趣味が悪いわね!?」

ハンニバル「そこまでだ」

ハンニバル「ミス伊織、私に愚かな行為をさせないでくれ……」

ハンニバル「それ以上口を開くようなら、私もそれなりの事をしなきゃいけなくなる」

伊織「……くっ……!!」

真美「……大丈夫だから、二人とも喧嘩しないで」

伊織「真美……!」

真美「……平気だから」

真美「チャントデキルカラ」

――――にい、ちゃん

ハンニバル「……ついたぞ」キキッ

ハンニバル「見させてもらうよ……姉と前職、二人の人間に強く依存していた人間の歌をね」

伊織「……ゲス、が!」

真美「デキルカラ……デキルカラ」

――――ミテル?ニイチャン

疲れた

また近日中に

続ける

ハンニバル「……(テレビの内容は、何処にでもある様な低俗な音楽宣伝番組だった)」

ハンニバル「(最初は五人組の若造共がなにやら女に媚を売るように歌い)」

ハンニバル「(次は三人組のレディがこれまた低俗な恋愛を題材にした歌を歌った)」

ハンニバル「(そこに2、3個のシングルアルバムを挟み……遂に、最後となった)」

司会「皆様に楽しんでいただいたミュージ〇クステーションもこれで最後となりました!」

司会「今回は、メンバーの急病で参加辞退となりました〇〇〇に変わって……」

司会「……765プロ!竜宮小町の水瀬伊織さんと、同じく765プロの双海真美さんにお越しいただいております!」

エキストラ「ワァァァァァ!!!」

モブ1「おい!デコちゃん来てるってよ!」

モブ2「いやぁ……パ〇ュームを身に来たつもりが、まさかの真美氏が来なさるとは!!棚からぼた餅ですな!デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポォw」

ハンニバル「(……私は、控え室に設置されたテレビでスタジオの状況を見ている)」

司会「それでは!皆様!大トリをしっかりとご堪能下さい!765プロ竜宮小町の「smoke thrill」!!」

~♪

ハンニバル「(ミス伊織と、双子の片割れは直前までリハーサルをしていた)」

ハンニバル「(ミス伊織は、片割れの歌と踊りを見て問題なしと判断したようだが……)」

ハンニバル「(果たして正しいのかな?私には壊れかけのマリオネットが必死に踊っているようにしか見えなかったがね)」

他プロのP「……なぁ、あの人さっきから何ブツブツ言ってるんだ?」

他プロのP2「さぁ?765の新しいプロデューサーらしいけど」

伊織「~♪(うん……大丈夫。ちゃんと歌えてるし、踊れてる)」

伊織「~♪(あの『殺人鬼』は何か妙なことを言ってたけど……取り越し苦労ってやつね)」

伊織「~♪(……それにしても……なんであいつはここにいるんだろう)」

伊織「~♪(欧州、欧米を股に掛ける殺人博士「ハンニバル・レクター」)」

伊織「~♪(すぐに、あいつの経歴とかを調べておいて良かったわね……)」

伊織「~♪(調べなかったら、いつ誰があいつの毒牙にかかるか……)」

伊織「~♪(……今頃、ライブ中継をふんぞり返って見てるんでしょうけど……)」

伊織「~♪(何時までも、そこにのさばっていられると思わないでよね、カニバリズム野郎)」

真美「~♪」ガクッ

真美「~……~~……!?」

伊織「~♪(え……?)」

伊織「~♪(真美!?)」

真美「(あれ……?)」

―――――ナンデダロ

―――――コエガ、デナイヤ

ハンニバル「……ほうら、始まった」

ハンニバル「憐れな憐れな」

ハンニバル「縋るしか能のないお人形の」

ハンニバル「崩壊だ……」

―――――スタジオから、音が消えた。
真美は歌うのをやめて立ち尽くし。
伊織もまた、目の前の状況が分からず立ち尽くす。
「真美……!?どうしたの!?」
伊織が流れを断ち切る様に尋ねる。
それに対して、真美は暗い瞳で笑いかけてきた。
「……ひっ」
空虚
空虚だった。

双海真美の笑顔には、何もなかった。

そう、例えるならば、能面のような。
作られた、無機質な笑顔。
――――場の空気を察し、カメラが止まる。

疲れた以下略

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