五月伊織生誕大歌舞伎 夕霧伊左衛門 『廓文章』(くるわぶんしょう) <吉田屋> (42)

あらすじ:ここは大阪新町の吉田屋。冬編笠に紙衣姿のみすぼらしい男が主人の喜左衛門に会いたいと取次を頼む。店の者は男を追い返そうとするがここへ当の喜左衛門が現れ、編笠の中を見て驚く。男は放蕩の末勘当された藤屋伊左衛門であった

出演

藤屋伊左衛門:水瀬伊織

吉田屋若い者:双海亜美
同     :双海真美
阿波の大尽:如月千早
太鼓持豊作:日高愛

吉田屋主人 喜左衛門:音無小鳥

吉田屋女房 おきさ:秋月律子

扇屋夕霧:高槻やよい

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千早「早く夕霧太夫を連れて来なさいよ!」

亜美「お大尽様、夕霧太夫を連れてくるなら、花が必要なんだよ→」

千早「花?」

真美「勿論、山吹色の花の事だけどね→」

千早「それならそうと早く言いなさいよ!ほら!」

亜美「んっふっふ~♪話のわかるお人だね~こっちだよ→こっちこっち!」

〽冬編笠の垢ばりて紙子の火打ひざの皿 笠吹きしのぐ忍ぶ草忍ぶとすれど古の


「……」


〽今日の寒さを喰いしばる はみ出し鍔も神寂びて 鐺つまりし師走の日

「喜左衛門は居る…喜左!喜左!」

亜美「ん?何だこいつ、みすぼらしい格好して」

真美「旦那様の事を喜左!喜左!って、随分となれなれしい奴だね」

亜美「百両や二百両を使うお大尽様ならわかるけど、どう見てもそんな風には見えないよね」

真美「お前みたいな横柄な奴に会わせる人はいないよ!帰った帰った!」

「百両や二百両がそんなに尊い物なの?何でもいいから早く喜左衛門に会わせなさいよ!」

亜美「…そんなに言うなら、会わせてあげるよ。真美…」

真美「んっふっふ~♪二人であいつを痛い目にあわせてやるんだね!合点承知の助だよ→!」

「何二人でぼそぼそ話してるのよ。早く…」

亜美「お望み通り会わせてやるよ!」

「うわ!?な、何するのよ!」

真美「痛い目にあわせてやるわい!」

小鳥「二人とも待ちなさい!」

亜美真美「だ、旦那様!?」

小鳥「これは一体どういう事なの?」

亜美「あのみすぼらしい格好をした奴が、喜左衛門に会わせろ会わせろってうるさいから、追い返そうとしてたところでございます!」

小鳥「そうなの…喜左衛門に会いたいというのなら、このあたしが会いましょう。二人とも下がってなさい」

亜美真美「へ、へい…」

小鳥「さて、この喜左衛門に会いたいというのはどなたでござりましょうか?」

「喜左…私よ!」

小鳥「あ、あなたは藤屋の若旦那!?よくぞおいでくださりました!こら、二人とも!このお方は藤屋の若旦那、伊左衛門様ですよ!」

亜美真美「うぇっ!?」

真美「ま、真美は、こんな事するのは駄目だって言ったもん!」

亜美「こ、この裏切り者→!」

小鳥「早く謝りなさい!」

亜美真美「は、はい!…どうかお許しなされてくださりませ…」

伊織「私だったから良かったけど、他の客にこんな事をするんじゃないわよ」

亜美真美「へ、へい!」

小鳥「それなら、許してくださりまするか?」

伊織「うん」

小鳥「ありがとうござりまする!二人とも、若旦那様のお気に入りの座敷の支度をして来なさい」

亜美真美「はい!」

小鳥「若旦那様、お久しゅうござりまする…さあ、早く奥の座敷へ!」

伊織「ちょ、ちょっと!引っ張らないで!」

小鳥「え?」

伊織「喜左衛門としたことがさりとては、紙衣ざわりが、荒い…荒い…」

小鳥「この紙衣…若旦那様…」

伊織「惨めよね…着る物も無くなっちゃったから、夕霧との手紙を貼り付けて服の代わりにしてるなんて…引っ張られるとすぐ破けちゃうし、掴まれるとあとが付いちゃうのよ…」

小鳥「若旦那様、寒いでしょうから早く中へ行きましょう」

伊織「…私なんかが入っていいの?」

小鳥「あなたには本当にお世話になりました。これはあたしの気持ちです。さあ早く中へ」

伊織「喜左、ありがとう…じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうわね!」

小鳥「やれやれ、相変わらずみたいね」

伊織「ここへ来るのも本当に久しぶりね」

小鳥「若旦那様、改めて今日はよくおいでくださいました。あなたが親御様から勘当されたと聞いた日から、ずっとご案じ申しておりましたが、思いがけない今日のおいで…このような嬉しいことはござりませぬ」

伊織「あまりの懐かしさに恥を忍んで…来ちゃった!」

小鳥「ありがとうござりまする!しかし、そのお姿ではお寒かろう…あたしの羽織をお召しなされませ」

伊織「あなたの親切…頂くわ。ありがとう喜左」

小鳥「藤屋の若旦那、伊左衛門様ともあろうお方があたしの羽織を頂いて着るなんて…浮世ですね…」

伊織「愚痴なんて聞きたくないわ。百両や二百両、いえ七百両の借金を作っても、ビクともしないのがこの私、藤屋伊左衛門よ!この身が金、総身が金なのよ!」

小鳥「総身が金とは…良い事を言ってくださいました!このめでたい日に総身が金のお大尽が来てくださるとは、こんなに嬉しいことはありませぬ!」

伊織「よう物喜びする男やなぁ」

小鳥「若旦那が来られた事を知れば、女房も喜ぶ事でしょう。ちょっとお待ちなされてくださりませ…おきさ!おきさ!」

「はい、今行きます」

伊織「懐かしい声ねぇ…」

小鳥「女房に誰が来たか当てさせますので、後を向いててくださりませ」

伊織「わかったわ」

律子「はい、何か御用ですか?」

小鳥「あなたが会いたい会いたいと常日頃から言っていた人が来たんですよ」

律子「会いたい人?…赤羽根の旦那様ですか?」

小鳥「ふふ、違います」

律子「それなら、間島のお大尽ですか?」

小鳥「それも違います」

律子「う~ん…それも違うとなると…」

小鳥「ささ、早く御挨拶して」

律子「はい…さて、どなた様ですか?」

伊織「おきさ…私よ!」

律子「あっ!?ふ、藤屋の若旦那!よくおいでくださりました!」

伊織「久しぶりね」

律子「お変わりないようで安心いたしました…あ、ちょっと聞いてください若旦那様」

律子「この間、初めてお江戸へ行ったんですよ。それで浅草の辺りを歩いていたら、目の前を羽織を着て、うさぎの人形を持って、しゃなりしゃなりと行くお方が、まぁ若旦那様にそっくりでしてね。つい私も後ろから、もし藤屋の若旦那!ってお袖をちょっと引きまして、振り向いたお顔を見たら…765プロの水瀬伊織さんだったんですよ!うわぁどうしよう!?ってなりましたけど、まぁ知らぬ仲でもありませんから、これはどうもすいません、そういえば今月は『THE IDOLM@STER ONE FOR ALL』の発売日ですねって御挨拶しておきました。でも、間違った時はさすがに照れくさかったです」

伊織「あなたも変わらず達者そうで安心したわ。あ、そうそうあなたに頼みたい事があるんだけど、ゆう!…ゆ、ゆう…ゆゆゆ…太鼓持の夕子はどうしてる?」

律子「夕子ですか?達者にしてますよ」

伊織「そ、そう…それでその、私が頼みたいのは…ゆ、ゆう…芸子の夕吉はどうしてる?」

律子「夕吉?夕吉ならお内儀さんになりましたよ。喜んでやってくださいませ」

伊織「……」

律子「若旦那?」

伊織「何なのよあなた達は!こういう稼業をしてるなら、私が言いたい事くらいわかるでしょ!それなのに、あなた達は夕とも…霧とも言わないで…聞いた話じゃ、夕霧は私の事を気に病んで患ってるって話じゃない…もし夕霧に何かあったら、私は…」

律子「若旦那…」

伊織「な、泣いてなんかいないわよ!私は泣いてなんか……泣いてなんか……夕霧……」

律子「ちょっとちょっと!あなた若旦那に霧様のこと何も話して無かったの?」

小鳥「いや、あの、それは…つい言いそびれちゃって…」

律子「私はあなたがもう話してると思ってたのに」

小鳥「あ、あたしはあなたが全部話すと思ってたのよ!」

律子「あなたが先に言ってくれれば良かったじゃないの!」

小鳥「こ、こういうのはあたしよりあなたが言った方が良いんですよ!早く若旦那様に言って来てください!」

律子「ちょ、ちょっと!うう…ほほ…おほほほほほ!」

伊織「ちょ~っともおかしい事あらへんやん…ふんっ!」

律子「私とした事が、申し訳ございません。夫がもう霧様の事を言っていると思ってたので、どうか御料簡してくださりませ。確かに霧様はあなた様の事を思い煩って伏せっておりました。でも安心してください、もう随分と良くなりましたよ」

伊織「うん…うんうんうん!それで今はどうしてるの!」

律子「う、うちへ来ております…」

伊織「ええ!?そ、それなら夕霧は病も治って、しかも今はここへ来ているの!?」

律子「若旦那、あの…」

伊織「うん、うん…そうなのね…そうなのねそうなのね!で、霧は今どの部屋に居るの?」

律子「え?あの…」

伊織「梅の間?桐の間?どこに居るの?どこに居るの!」

小鳥「ま、松の間でござりまする…」

伊織「松の間に居るのね!夕霧―!!!」

律子「ど、どうするのよ…」

小鳥「どうしようもない…」

伊織「あっ!?喜左!……居た!」

小鳥「は、はい…」

伊織「…って何なのよあれは!!!あいつは私と張り合ってた阿波の平大尽じゃないのよ!!!」

小鳥「ち、違いますよ」

伊織「いいえ、そうよ!何なのよ!もういいわ私は帰る!!!」

小鳥「ま、待ってくださいませ!あれは平様ではござりませぬ!」

伊織「もう帰る!退きなさい!」

小鳥「待ってくださいませ!」

伊織「退きなさいよ!」

律子「わ、若旦那様、それはいくらなんでも慳貪と言うものです!」

伊織「慳貪より私は蕎麦切りが良いわ!退きなさい!」

律子「若旦那!」

伊織「私も藤屋の伊左衛門、帰ると言ったらもう、つつつつっつー!と帰ってやるわ!……止めても止まらないわよ…あの…帰るわよ…本当に帰るわよ!帰っちゃうわよ~……帰るわよ~……それ帰る!!」

律ピヨ「待って!」

伊織「……」

伊織「それか~える♪」

律ピヨ「あっ!」

伊織「……もう何なのよ!さっきから私が帰ろうとすると、あっ!待って!みたいにして、拍子が抜けちゃったじゃないのよ♪もう一回だけ顔見てから…」

小鳥「はぁ…」

律子「疲れた…」

伊織「うわあああ!!何であんな奴と遊んでるのよ!!許せない!!やっぱり帰る!!」

小鳥「待ってください!総身が金の若旦那様がこのめでたい日に吉田屋から帰ったとなると、せっかくのめでたい日が台無しになってしまう。どうかもう少しだけでも」

伊織「総身が金の私が帰ると、めでたくなくなるっての…そ、それは気の毒ね…もう少しだけ居ましょうか…」

小鳥「いやぁ、良かったわね。はははははは!!」

伊織「…やっぱり帰るわ」

小鳥「え!?な、何故ですか!」

伊織「さっき私は散々帰る帰るって言っておきながら、ここに居るのをあなた達は笑ったじゃない!だから帰る!」

小鳥「わ、笑ってなんかいませんよ!」

伊織「本当に?…笑わないって言うのなら居ましょうか」

小鳥「ありがとうござりまする!良かったわね、あはははははは!!」

伊織「あっ!笑った!」

小鳥「あ!も、もう決して笑いませんからどうか!」

伊織「それならこうしましょう、私が手を叩いたその瞬間に、思い思いに怖い顔をしましょう」

律子「そんな、勘弁してくださいよ若旦那」

伊織「出来ないの?出来ないのなら帰るわよ!」

小鳥「やります!やります!」

伊織「それじゃ、やるわよ…パパンがパン!それ!」

小鳥「……」

律子「……」

伊織「……」

小鳥「ぷっ…ぷはははは!!」

律子「あはははは!!」

伊織「あ…笑った…笑ったわね!あっちを見れば腹が立ち、こっちを見れば笑われるし…いっその事…もう寝ちゃいましょう…」

小鳥「ふぅ…おきさ、ちょっと」

律子「はい?…それなら霧様を」

小鳥「しぃー!」

律子「あっ…呼んできますね…」

小鳥「…若旦那、ただいまこちらへ霧様を連れてきます。病み上がりのお体でございますから、必ず短気を出してくださりまするな。よろしゅうござりまするか?…どれ、首尾してこうか…」

伊織「……」

〽可愛い男に逢う坂の 関より辛い世の習い


伊織「あの唄を聞いて思い出す…二人で月を見ている時だったかな、私が夕霧の手を引いた時に…ふふ…夕霧…何で…何で…」


〽思わぬ人にせきとめられ 今は野沢の一つ水


伊織「あ…濡れちゃった…繋ぎ目が取れないうちに乾かさないと……やっぱり帰ろう、ここに居ちゃ辛いだけだ……でも、ここで帰っちゃ喜左衛門夫婦の気遣いを無駄にしちゃう…それは胸が…」


〽すまぬ心の中にも暫し すむは縁の月の影

伊織「あ!来た!来た来た来た!どうしよう…まず髪を整えて……夕霧……」

やよい「伊左衛門様…伊左衛門様…」

伊織「……」

やよい「私は…患うてなぁ…」

〽とうに死ぬる筈なれど 今日迄命永らえたは 神仏のひかえ綱これ懐かしうはないかいな 顔が見とうは無いかいのと ゆり起こしゆり起こしいだき起こせば

伊織「よ、寄るな寄るな!ゆ、夕霧だか夕飯だか何だか知らないけど、私はあなたと違って暇じゃないのよ!夜昼働かなくちゃならないのよ!こういう時に寝とかないと寝る暇がないの!ふんっ!」

やよい「何で…何でそんなこと言うの伊左衛門様?…やっと会えたのに、寝るなんて許しません!」

伊織「寄るな寄るな!」

やよい「伊左衛門様!」

伊織「ふんだっ!」

愛「やっぱり喧嘩してる…ここはあたしの出番です!!!」

愛「よっ!!!はぁ!!!はいはい!!!」

愛「夕霧さんは癪持ちで~旦那さんは癇癪持ち~♪もちゃつく始めは焼餅で~思いやり餅、草履持、金もち~…え、あたしは誰かって?ふふふ、よくぞ聞いてくれました!!!えっへん!!!た、い、こ、もち~♪」

愛「もし旦那様、どうすればよろしゅうござりまするか?」

伊織「ごめんね気を使わせちゃって……二人にさせて」

愛「はい!!!」

伊織「ありがとう……夕霧」

やよい「伊左衛門様…」

伊織「ごめんね…」

やよい「ううん、私もごめんなさい。伊左衛門様の気持ちも考えないで…」

伊織「良いのよ、こうしてあなたにまた会えただけでも嬉しい…」

やよい「私もです…伊左衛門様…」

伊織「夕霧…」

伊織「もう、朝か…お別れね…」

やよい「いや…帰らないで…」

伊織「駄目よ、私みたいなのが居たんじゃ、吉田屋に迷惑をかけちゃう。これ以上ここには居られない…」

やよい「やだよ…やだ!帰っちゃ駄目!お願い…」

伊織「夕霧…」

やよい「ずっと、ずっとこの時間が続けばいいのに…」

伊織「二人だけでずっと一緒に居られればどれだけ幸せか…でも…」

小鳥「若旦那!若旦那!」

伊織「うわ!?どうしたのよ喜左」

小鳥「あ、お楽しみのところ申し訳ありませぬ…それよりも、お喜びなされませ!御勘当が許されましたぞ!」

律子「しかも夕霧さんの身請けのお金も届いていますよ!」

伊織「ほ、本当!?」

小鳥「ただいまこれへ!」

涼「若旦那様!身請けの金を持参いたしました!」

小鳥「若旦那!おめでとう」

「「「「ござりまする!!!」」」」

伊織「夕霧、早速支度をしましょう!」

やよい「はい…まるで、夢のようです…」

伊織「夢なんかじゃないわ、これからはずっとずっと一緒よ。絶対に離したりしない」

やよい「嬉しい…今最高に幸せです…」

伊織「私もよ…なお万代の春の花!めでたかりける!」

愛「旦那様!!!おめでとうござりまする!!!」

伊織「これで万事めでたしめでたし!なんてね、にひひっ♪」


夕霧伊左衛門『廓文章』 <吉田屋>  終幕

終わりです。いおりん誕生日おめでとう!やっぱりやよいおりは最高です

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