【Vシネ版】 京太郎「……変、身ッ」 【仮面ライダー】 (492)


                                            ,.ー-‐.、
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 /K A M E N  R I D E R _   _ .           ,.'⌒   `,. l   !  ー"ヽ  ヽ
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              ._______| |ヽ ヽ_ヽ.∨ /__.ゝ ー’ノ___゙、`'   / ___
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                                  / ./.               ヽノ
                                     ̄

・京太郎主人公
・電王/W/オーズルート後日談
・まとめ http://www60.atwiki.jp/maskedriderkyo/pages/1.html


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397914364


番宣の時間すらないとは吹いた

ちょっと待ってね、うん。色々待って
キャラ名書いてないし改めて安価取り直すかも。OK? ※このスレで出す安価はこれだけ


★戦闘技能引き継ぎ
★鋼メンタル
★和・優希・まこ生存
★好きなキャラを一般人枠として選択(ただし松実宥は指定不可能)
 ※ 清澄・龍門渕・鶴賀・風越・姫松・宮守・永水・阿知賀・白糸台・千里山・新道寺・その他(荒川憩、小走やえ等)


で、次にステータス張ります。その次に安価
ちょっと思った以上に人が多かったんで、安価範囲とか諸々弄りますがご了承を

で、キャラ名書くのを忘れないでね? 無効になるからね?

ステータス

【ファイズ】
技能:
HP:
スタミナ:
気力:
ATK:35
DEF:35

(レンジ:至近~中距離)
★グランインパクト:使用宣言時の判定勝利によって発動。相手にATK+戦闘判定差分/5の固定HPダメージ。DEFによる減衰が可能
★スパークルカット:使用宣言時、戦闘判定+5。勝利にて発動。相手にATK+20+秒数の合計+コンマの合計の固定HPダメージ。DEFによる減衰が可能
★クリムゾンスマッシュ:使用宣言時、戦闘判定+10。戦闘判定が自分以下の相手にATKの2倍のHPダメージ。DEFによる減衰が可能
★フォームチェンジ:使用宣言の次のターン、以下のフォームに変換
 《アクセルフォーム》:ATK・DEF+10。3ターンの間持続し、解除される
  ●Start up:宣言により、1ターンの間、戦闘・撤退・追撃・奇襲判定+40。高速。使用後にフォームは解除される
 《ブラスターフォーム》:ATK・DEF+20、戦闘判定+10。飛行。ATK・DEF40未満の対象は、使用者に触れる事ができずに戦闘不能。(レンジ:~超遠距離)
◆オートバジン:使用宣言時、呼び出し。戦闘判定+5、以降毎ターン+10。レンジ:~遠距離
          本体のHPの8割近くに相当するダメージが発生した場合、身代わりとなってダメージを無効化。オートバジンは破損する。
◇ジェットスライガー(飛行):使用宣言時、呼び出し。毎ターン、戦闘判定+20。戦闘判定敗北にて破壊される。
                 【距離を詰める】【距離をあける】で一度に2つのレンジを移動。攻撃しながら距離の移動(1レンジ)も可能。
                 レンジ:至近距離~超遠距離
※アクセルフォーム使用では寿命値が2倍減、ブラスターフォームでは4倍減


【デルタ】
技能:
HP:
スタミナ:
気力:
ATK:40
DEF:40
(レンジ:至近~遠距離)
・《デモンズスレート》:気力値+20、与ダメージ+2
★ルシファーズハンマー:使用宣言時、戦闘判定+10。戦闘判定が自分以下の相手にATKの2倍+5のHPダメージ。DEFによる減衰が可能
◇ジェットスライガー(飛行):使用宣言時、呼び出し。毎ターン、戦闘判定+20。戦闘判定敗北にて破壊される。
                 【距離を詰める】【距離をあける】で一度に2つのレンジを移動。攻撃しながら距離の移動(1レンジ)も可能。
                 レンジ:至近距離~超遠距離


【量産型カイザ】
技能:
HP:
スタミナ:
気力:
ATK:35
DEF:35

(レンジ:至近~遠距離)
・特殊エネルギー溶液:戦闘判定+5。スタミナの上限値+20
★グランインパクト:使用宣言時の判定勝利によって発動。相手にATK+戦闘判定差分/5の固定HPダメージ。DEFによる減衰が可能
★ゼノスラッシュ:使用宣言時、戦闘判定+5。勝利にて発動。相手にATK+20+秒数の合計+コンマの合計の固定HPダメージ。DEFによる減衰が可能
★ゴルドスマッシュ:使用宣言時、戦闘判定+10。戦闘判定が自分以下の相手にATKの2倍のHPダメージ。DEFによる減衰が可能
☆ジャイロアタッカー:【距離を詰める】【距離をあける】で一度に2つのレンジを移動。1レンジまでなら、移動しながらの攻撃が可能
☆量産型サイドバッシャー:使用宣言時、呼び出し。次ターンから戦闘判定+5


【ライオトルーパー】
技能:
HP:
スタミナ:
気力:
ATK:10
DEF:10

(レンジ:至近~遠距離)
・オルフェノクの鎧:オルフェノクが装着した場合、ATK&DEFに、元来のオルフェノクが持つATK&DEFの半分を上乗せする
☆ジャイロアタッカー:【距離を詰める】【距離をあける】で一度に2つのレンジを移動。1レンジまでなら、移動しながらの攻撃が可能
☆量産型サイドバッシャー:使用宣言時、呼び出し。次ターンから戦闘判定+5
☆量産型ジェットスライガー:使用宣言時、呼び出し。毎ターン、戦闘判定+15。戦闘判定敗北にて破壊される
             【距離を詰める】【距離をあける】で一度に2つのレンジを移動。攻撃しながら距離の移動(1レンジ)も可能
             レンジ:至近距離~超遠距離
☆量産型フライングアタッカー:戦闘・撤退・追撃・奇襲判定+10。飛行を得る

ハギヨシさんありすよねっ!?

【仮面ライダーV3(The next)】
技能:
HP:
スタミナ:
気力:
ATK:45
DEF:45

(至近距離)
・ダブルタイフーン:戦闘判定+10
・特殊スプリング筋肉:判定差8以内の攻撃に際し、DEFを60としてダメージ計算する
・グライディングマフラー:戦闘判定に15以上差を付けて勝利した場合、飛行の持つ補正と効果を1ターン消失させる
・マトリックスアイ:クリティカルの範囲+2。ゾロ目時、その数の分の戦闘補正を受け、更に追加ダメージ(33なら3。00なら10)
☆レッドランプパワー:使用ターンの戦闘判定+10
☆V3キック:『ATK+戦闘判定差分/3』の固定HPダメージ。DEFにて減衰可能
☆V3サンダー:戦闘判定-10。射程、『~遠距離』。コンマの合計をダメージに上乗せする
※☆逆ダブルタイフーン:『HPの最大値+スタミナの最大値+ATK+戦闘補正』の固定HPダメージ。DEFにて減衰可能。敵全体にダメージ
※☆火柱キック:命と引き換えに、『HPの最大値+スタミナの最大値+気力の最大値+ATK+DEF+技能+戦闘判定補正』の固定HPダメージ。DEFによる減衰可能

※逆ダブルタイフーンは使用後三時間、変身不可能に
※火柱キックは通常戦闘では使用不能

・ルートの定義
☆ルートの仮面ライダーの要素を咲-saki-にブッ込んだもの(電王/W/オーズルートと同じ)

デルタ……以前のトレイラー通り
量産型カイザ……京太郎は改造人間スタート。若干というか、京淡がW並の空気
ライオトルーパー……京太郎はオルフェノク。スマートブレイン所属スタート。555本編の空気


★ルートの仮面ライダーの要素を咲-saki-にブッ込んだものに、更にもう1つ要素を追加

V3(Next)……京太郎は一人だけ改造人間スタート。あんま暗くはなく、オーズルートの終盤やナスカVS処刑チームのノリ


◎ルートの仮面ライダーと咲の世界のクロスオーバー(原作それぞれが繋がっていたらという話)

555……やっぱり主人公は主人公ライダーって人に向けて。原作キャラ一部登場
G4……プロスレに投下したアレに近いよ


>>15
ないで

なお、会話とか文章とかキャッチコピーとかイメージとしては以下なので




【デルタ】 ☆いつもの平成ライダー

「逃げろ! いいから、早く!」

「でも……!」

「早くしろ、俺は大丈夫だから!」



「……戦い、怖くないの?」

「やっぱり、好きにはなれないけど……でも、1つだけは好きなところがありますね」

「……どんなところ?」

「人の笑顔を守れるところ――ですかね。あはは、なんて言ってみたり……」



【量産型カイザ】 ☆石ノ森寄り

「なぁ……京太郎。あんたはなんで戦っとるん?」

「……さぁ。忘れました」

「……そか」

「ただ……この身体が、動き続ける内は戦うしかないんじゃないですかね」


「……荒川先輩。やめましょうよ、こんなこと」

「そうできたらえーなぁ。皆、手を取り合って……笑顔笑顔ってなーぁ」

「……」

「……でも、うちがいなきゃ駄目なんよ」



【ライオトルーパー】 ☆弱い

「殺されるのは嫌だし、戦うのは怖いけど……俺はこれ以上、罪を重ねたくない!」

「こんな身体になっても――やっぱり、心だけは人間のままで居たいんだよ……!」

「……なんで、オルフェノクと人は殺し合わなくちゃいけないんだ?」


「……嫌だ。俺は死にたくないし、もう殺したくない!」

「メイレイ、ゼッタイ」

「嫌だ……俺はもう、スマートブレインを信じられない」

【V3(Next)】   ☆古い少年漫画とか、ヒーローもののノリ


「お前は、記録にあった……確か――TYPE:Masked Rider、Version-3」

「……」

「ガラクタ風情が、今更何の用?」

「……違う。俺は――仮面ライダーV3だ。
 仮面ライダーって名前は、俺が受け継いだんだ。……人々の夢を守る為にな」


「松実先輩は……俺のこと、やっぱり化け物だと思いますか?
 こんな、血も通わない機械の身体で気持ち悪いと思わないんですか?」

「そんな訳ないよ! 京太郎くんは、人間だよ! 絶対に……誰がなんて言っても、人間――」

「それ、俺が今松実先輩に思ってるのと一緒ですよ。
 さっきの質問――それが答えじゃ、駄目なんですか? ……俺はそう思いますけど」





【555】  ☆たっくんは出ない。草加くんも出ない。部長は555にならない


「……555って、闇を切り裂き光を齎すんだってさ」

「闇を切り裂き、光を齎す……?」

「又聞きだけど……」


「夢がないなら……俺が、夢になる。誰かの夢になっていい」

「……」

「……人を守れるのが夢みたいだって言われたんだ。昔さ」





【G4】   ☆マジ暗い。翔一くんも氷川さんも出ない


「京ちゃん、私ネット麻雀でも勝てるようになったんだよね」

「へー。そりゃ、やったな! 色々特訓が活きてきたってとこか?」

「えーっと……ネット麻雀でも、牌が判るようになったって言うのかな?」

「……普通わからねーからな」


 ――それが、覚えている限りの最後の会話だ。

 宮永咲は、死んだ。それはそれは無残に。それはそれは残酷に。それはそれは悲惨に。
 ――不可能殺人。
 世間を賑わすそんな殺人事件の、対象となったのだ。宮永咲は。

ライダー変身キャラ

・松実玄
・園城寺怜
・末原恭子
・宮永照
・竹井久
・福路美穂子
・エイスリン・ウィッシュアート
・荒川憩

となります。では次に、安価を出します。2250ですね

ちゃうよ。これ以外のキャラから選んでーなってことやねん


>好きなキャラクター(ライダー・宮永咲・松実宥を除く)を一般人枠として出しますのでお名前を

>京太郎が変身するライダーを




↓5~10 ※ライダーはコンマ高いもの ※キャラは反転コンマ高いものを ※ゾロ目最優先

デルタ 高鴨穏乃になりました

っていうか強いなお前……>>89

別世界線:高鴨穏乃 高校時代恋人
この世界線:高鴨穏乃 一般人ヒロイン


来たわ! 来たわ……!

ッシャア君たち、没になったV3を投下するけどいいかなー?

っていうか完結時点のV3の人気ようから、スッカリV3でプロット作ってたよ畜生!




没案:第一話 「炎の男」





「園城寺先輩……!」

「ごめん、私はここまでや……せめてあんただけでも、逃げてくれへん……?」

「……そんなこと、できません! それに京太郎が……!」

「あの子にも、悪いことしたな……でもせめてあんただけでも逃げてくれへんと……あの子はきっと喜ばへんから」

「――ッ、断ります! そんなの、絶対に! 京太郎なら、きっと!」

「……はは、辛いなぁ――生きるのって」

「園城寺先輩! 早く――」

「――でも、生きれんのはもっと辛いなぁ」

「先輩……」

「ごめんな、行こか……心臓破裂するまで、走らんと」


 そう、二人手を取った瞬間――巻き起こる爆発。吹き上がる爆炎。襲い来る爆音。

 須賀京太郎の残ったその方向。
 彼が、襲い掛かってきた怪物を相手にしていた――そんな方向。
 つまり、それは……。


「京太郎……っ」

「……ッ、これ、あかん」


 絶望が足に纏わり付く。二人の歩みが止まる。
 その時――彼女たちの人生の終焉を意味する、足音が響いた。
 怪人。園城寺怜に襲い掛かった、異形の人型。死の象徴。

 須賀京太郎の姿は勿論――ない。


「よくも……! よくも、京太郎を……!」

「――、穏乃ちゃん」

「先輩! 逃げてください! 私が、せめて私が時間を稼ぐッ!」

「無理や……あんたまで……死んでまう」

「――――ッ、京太郎は、死んでない! きっと、いつもみたいに生きてる! だからッ!」



(……なんでそんな風に、強くなれるん?)


 叫び上げる穏乃の眩しさに、園城寺怜は目を逸らさずにはいられなかった。
 あの須賀京太郎にしてもそうだ。何故、彼は――彼女は――立ち向かえるのだ。こんな化け物に。
 自分がここまで臆病者だとは思ってもみなかったが、同時に彼女たちが何故そうも勇敢で居られるのか不思議で仕方なかった。

 だが、そこで気付く。

 高鴨穏乃の足は震えていた。
 手は白くなり、爪が掌に食い込むほど強く握られていて――その目には涙。
 違う。自分が考えていたのとは違う。
 彼女だって怖くて――それでも、なけなしの勇気を振り絞って、怒りを支えにしてこうして立っているのだ。


「――穏乃ちゃん!」

「うわっ」


 思考がどこか冷めていた――冷静だったからこそ、気が付くことができた。
 或いはその身に宿る、彼女自身も認識していない未知の力からか。
 咄嗟に穏乃の身体を引き倒し、その攻撃の射線から逃れた。

 刹那、背後から襲い来る衝撃。

 怜と穏乃が逃れようとしていたその方向。怪人が放った攻撃が直撃し、車を弾き飛ばしていた。
 人間が耐えられるものではない。そして、車も。
 廃車に残っていたガソリン。気化していたそれが、衝撃で引火。


 即座に作り出された――炎の格子。


 退路を断たれてしまった。
 そして勿論、自分たちがたった今来た方向にも火焔の柱。そしてそれ以上に恐ろしい、怪人。
 二人が生き残れる道理などある筈がない。

 その衝撃に突き動かされるように、少女二人は膝を折った。
 眼前に迫るは絶望。周囲を取り囲むは絶望。
 この場に希望など――ある筈がなかった。祈りを聞き入れてくれる神などいない。


「憧、京太郎……っ」

「……ごめんな、竜華」


 少女たちは涙を浮かべて、親しいものの名前を呼んだ。
 命乞いは、しなかった。
 しても意味があるとは思えないし――何よりも、最期のその瞬間まで屈したくはなかったから。


 ――ひとつ、訂正するとしよう。

 この場に確かに神はいなくとも、人々の願いを聞き届ける者はいた。
 そしてこの場にあるのは絶望だけなどではなく、希望というのも確かにあった。
 そう――希望の象徴というものは確かに存在するのだ。神などが居なくとも。


「――――変身、V3」


 炎が弾けて掻き鳴らす音、空気が膨張して震える音、燃焼した素材の水分が爆裂する音の中――確かにその声は聞こえた。
 まるで、鋼。
 鋼の落ち着きと力強さを孕みながらも――しかし声色に緊張や気負いはなく、吹き抜ける一陣の風が如く静寂を湛えた清涼さ。

 聴く者の心の吹き溜まりを訪れ安心を与える響きに、怜は己の心臓の騒音を忘れた。
 声の元は――炎上する廃車の山。
 既に火勢は業火を為し、炎の壁を作り上げる。逃げられぬと理解するには十分。
 如何な人間とて、生存を許されない灼熱地獄。棚引く黒煙が、彼女の生存を絶望視させる。

 怪人の手から逃れたとて、最早死は免れまい。巻き上がる火の粉が希望を塗り潰していく。
 今更何かと、諦観しか抱かぬ瞳を向け――。


 そして――炎が踊った。


 暴れるのみに留まっていた緋色が統制され、一点目掛けて集中する――刹那、弾けて飛び退く焔の荊。
 それは、炎の覇者だった。


 火の壁を砕いて現れた人型。

 周囲の火炎が、腰のベルト――そのバックルに雪崩れ込む。
 回転する二つの風車=ダブルエンジン/ダブルタイフーン――――二つに連なる暴風を意味する、力と技のベルト。
 風を呑み、炎を食み、そのベルトはエネルギーを精製する。

 循環系/神経節に連動した体内のエネルギーラインを通じて駆け巡るその力が、彼の人型の全身に活力を漲らせた。
 動力の充填に伴い、全身の遺伝改造組織/外科置換人造臓器が駆動を始める。


 身に纏うは黒深緑のライダースーツ=強化皮膚/強化外骨格。

 スマートな四肢とマッシブなボディ。
 盛り上がった胸部は白銀の輝き。燃え盛る炎を寄せ付けない。
 ダークな体色とは対照的に光を放つは、マスクとグローブ。
 手足のグローブとブーツは、焔を弾いて金色/紅色を湛える。


 とりわけ特徴的なのは、その――炎に煌めく赤い仮面=フルフェイスヘルメット。

 赤いマスクを左右に割る、白色のクラッシャー。
 顎先から頭頂まで波形に通った数多のラインは、機械的でありながら生物的。
 額から二本直線的に伸びたアンテナは――――その、髑髏を思わせるマスクの意匠と相俟って、
 何よりも雄弁に、まさしく昆虫と人間の合一を連想させた。

 二条の暗緑色のマフラーが肩から棚引き、そして、二つの複眼が――――緑の光を灯す。


 「何者だ――」と、誰もが問うた。

 有声、無声の違いはあったが――その突然の闖入者に関して思うところは一つである。
 敵なのか味方なのか。そもそも何者なのか。

 アンノウンでなく、オルフェノクでなく――アギトでもない。
 人ならぬ者を殺害する神の遣いか、はたまた人を超えた生きる屍か、神の力を宿した人類か。
 その実、だがどれも不正解だ。


 問いかけに対し、仮面の男は――


「――仮面ライダー、V3」


 ――端的に、そう答えた。

V3はワンチャンももうないで
丁度ナノロボットの設定がアギト/555ルートに合致してたから書こうと思っただけで。没ネタで終わりやねん


じゃあ、次の没ネタに行こうかー




 没案:第零話「仮面ライダーV3、誕生」




 ――長野。雪原。


「京ちゃん……私ごと、お願い」


 その言葉に、須賀京太郎は瞠目した。三つの意味で。

 一つ――京太郎に、ン・ダグバ・ゼバを殺傷する技があると、気付いていること。
 二つ――ン・ダグバ・ゼバを撃破する役目を京太郎に託したこと。それも万感の信頼を寄せて。
 三つ――ン・ダグバ・ゼバを倒しきる技を確信しているのなら、そうならば、ダグバを背後から拘束した状態の宮永咲=仮面ライダークウガはどうなるのか。

 それを彼女は理解して、その上でまさに彼女の言葉通り――敵の首魁を己ごと打ち砕けと要求していた。


「――――ッ、そんなの……!」

「お願い、京ちゃん……。私の中の“泉”が枯れちゃう前に……お願い」


 この言葉にどれほどの覚悟が込められているかなど――考えずとも、即座に理解できた。
 ライダーとしては短くとも、この少女とは長い付き合いなのだ。
 お互いにこんな身体になる前から――宮永咲と須賀京太郎は、友人だった。

 彼女の臆病さは知っている。争いを好まない穏和さも、柔和で心優しき性根も。
 然り気無く頑固なところも、親しくなっても遠慮がちなところも、根暗ではなくそれなりに負けん気が強いところも。
 押しに弱いところも、なんだかんだと付き合いが良いところも、豊かな表情を見せてくれるところも――何もかも。


 だから、どれほど彼女が戦いに心を悼めていて――――どれだけ恐怖を抱いているか、どんなに彼女が死にたくないかだって、当然。

 きっと、仮面の下では泣いている。
 視ずとも聴こえずとも、造作もない。それぐらい判る。
 ライダーの力なんかに頼らなくとも、十二分に。

 それでも――――言った。自分ごとやれと。
 ならば、その覚悟――受け取るのみ。それしか己にできることなぞない。


「判った。……絶対にお前を――咲を一人になんか、しないからな」



 言って、京太郎=V3は跳び上がった。

 石火、マスクの中央のランプが灯る。
 次いで、胴体中央を走るレッドボーンが輝き、ダブルタイフーンがフル回転。ベルトのランプに、光。
 雪原に咲く赤の花。森林限界を超えるかはともかく、花などないこの時期に開く光の花弁。

 Type:Masked Rider Version 3――V3は。
 その身体に備えられたエネルギー精製/充填/増幅装置=ダブルタイフーンの力によって、吹き荒ぶ風や燃え広がる炎を己のエネルギーとして変換/使用する。
 ならば――逆に言うなら。
 己のエネルギーを、風や炎という形に、再変換するのも可能ということ。


 複眼が、一際強く光を放つ。
 宛らその仮面の内にある心と命の燈し火が、燃え盛るのに呼応するように。
 否――事実として京太郎は、己の命を燃やしていた。最後の、その一片までもを。

 蝋燭の急速なる燃焼。一気火勢の大花火。
 身に蓄えられた灼熱が陽炎を為し、大気を歪めて叫びを上げた。
 上昇するV3に呼応して、温度を上げる機械の身体。加速度的/或いはそれを超えて産声を上げる灼熱の激情。
 膨張した大気が炸裂し爆風を巻き起こす。V3を中心とした一つの台風。


「あはは……!」


 死に迫らんとする必殺の気配を感じ取ったン・ダグバ・ゼバの動きは早かった。
 己の身は封じられてしまっている――が、まだ武器はある。
 超自然発火能力――物体を構成する分子に干渉し、プラズマ化。或いは超短周期に高震動させることで発火させる。

 同等の能力を持つ、クウガ・アルティメットフォームを前には相互に打ち消しあって通用しないが――それ以外のものなど、一睨みで発火/絶命せしむる最強の魔眼。
 そう、事実三万人ほどこの力で容易く焼き尽くした。

 だというのに――――。


「――――――――ッ」


 返ってきたのは雄叫びのみ。
 ン・ダグバ・ゼバは歓喜と共に、驚愕を覚える自分を認識した。
 この改造人間は、まさにリントがグロンギに近付いた証明。その証。
 それにしても通用しない――、それとも耐えきっているか。

 しかし、答えはそのどちらでもない。


 実際、V3の身体には自然発火現象が巻き起こり、彼を執拗に攻め立てている。
 そして無論、V3は、ダグバやクウガのごとき他者を一目で殺傷せしむる能力など持ち合わせてはいない。

 ならば――何故。


「これで、終わりだ……。咲、ずっと一緒だからな」


 答えは単純。

 身体が焼け付くその傍から、エネルギーとして吸収され、そして再変換されV3の炎となるから。
 京太郎にとっては幸いなことに、ダグバにとっては不幸なことに――。
 ダグバの攻撃は呪いが如く須賀京太郎の肉体を蝕み――翻って、己を死に追いやる破魔の嚆矢となる。


 ――火柱キック。


 通常とは真逆の動力経路でV3の持つ全エネルギーを、炎として放つ大技。
 まさに全てのエネルギー――生命維持に関わるエネルギーすらも使用する。
 何より、V3自身がその熱量に耐えられないのだ。

 白熱状態から、更なる高温を帯びるV3の肉体。
 空中で両拳を腰だめに握った身体は、一つの炎――一つの恒星と化した。
 まさに命懸け。命と引き換えに放つ、必殺技であった。

 死ぬなら同じ時、同じ場所で――――彼女を一人にしない。
 孤独な戦いを強いられた彼女と、せめて最期は。
 脳改造を受け、彼女と敵対してしまった事実は消せない。その行為が宮永咲をどれほど苛んだかも、覚えている。

 でも――そうだとしても。叶うなら彼女の隣で。彼女の傍で。彼女と共に。


「京ちゃん……!」

「咲――もうお前は、一人じゃないから」


 太陽に及び、或いは凌駕するほどの熱と光を孕むV3=京太郎の蹴撃が、ン・ダグバ・ゼバの胸に叩き込まれた。
 衝撃だけで周囲の地形が変形する。
 大気が爆裂し――それよりも大声で咆哮を上げる腰のベルト/二つの風車。

 巻き上がる火柱は、一つの戦いと二つの命の終わりを意味していた。


 ◇ ◆ ◇


 雪が――――いや、土も岩も草も全てが蒸発した荒れ地の内。
 一人の少女が、倒れた少年に寄り添っていた。
 舞い落ちる雪は放射する熱に煽られ、雨となって少女の頬に降り注ぐ。


「京ちゃん……。起きて、京ちゃん……」


 髑髏を思わせる赤い仮面を外して、その少年に呼び掛ける。
 しかし、瞳は閉じられたまま。返事もない。
 白貌が更に色を失い、瞼は僅かも動かない。

 余程の大技を持っているのは察していた。闘いに挑む態度から鑑みれば、それは自明であった。
 長い付き合いなのだ。こうなる前からの。


「……向こうで一緒って言ってくれて、嬉しかったよ。
 今まであんまり素直になれなかったのに……変だよね、こんなときだなんて」


 彼と一緒に居られると――自分のことを一人にしないと言ってくれて、嬉しかった。
 戦いは辛いものだったけど、最後で一つ……優しい思い出が生まれたのだ。
 それだけで、幸せな気分だった。

 だけど――。


「でも、京ちゃんは生きてなきゃ……。
 V3は――、仮面ライダーV3は――――死んじゃ駄目」


 ――やっぱり彼には、生きていて欲しい。

 たとえこの命と、引き換えでも。
 彼に、仮面ライダーという名を背負わせてしまうことになったとしても。
 それでも、須賀京太郎の命が失われるのには耐えられないのだ。


 己の腹部のバックルに手をやる。

 霊石アマダムを納めたクウガのベルト――の下のアマダムに、指をかける。
 既に砕けかけている霊石だが、まだ最低限の働きは期待できそうだ。……こうして自分が未だ生きていることが、何よりの証左。
 指先に、力を込めた。


「好きだよ……。…………ずっと、言えなかったけど」


 腹腔を貫き、自分の神経に絡み付いた霊石アマダムを引き抜いた。
 絶叫せんばかりの激痛を堪えて、そのままアマダムを京太郎の腹部に押し当てる。
 同時に、クウガの持つモーフィング機能――――物体の分子を操作する能力を発動。

 彼の体内に、ほぼ損壊状態のアマダムを組み込んだ。
 これで、十全でなくともアマダムの力が多少なりとも働けば……。
 少なくとも彼は一命をとりとめ、意識を取り戻すだろう。


「――大好き、京ちゃん」


 そして口付けの態勢のまま、宮永咲は須賀京太郎に重なり倒れる形で絶命した。





「……俺、は?」


 数多降りしきる雪が、二人を静寂の下に押し込める。
 やがて――痛みに呻き、動き出す一つの影。
 己に身を預けた死体を抱いて、男は慟哭した。仮面は涙を流さない/涙を流せない。


 これが――不死身の男、仮面ライダーV3誕生の物語。

 既に終わってしまった一つの戦いと、一つの悲恋と、一人の英雄に関する物語だ。

というので、力と技と“命”のベルトというV3でした
咲ちゃんの最期を極めてるから心は超強いヒーローやねん。呪いもない

ちなみにV3はもう書かれんし、ディケイドルートなんてないし、そもそもアギト/555ルートの続きは(今んとこ完全に)ないのでなー



  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  MASKED RIDER DATA
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                 i;     l!
                  i;     l!
                  i;    ,l!.::'"´, ̄.`::::...、
          _       i; .,.:',.l!  ,.:'::::::::::::::::::::ヽ
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         /`/-/     i:::il´l `i!´:.:.:.:.:.ヽ_:::`¨´::::::}     〃´
      /ヽ'.v/´ト、    弋!个、!、:.:.:.:.:.:.:,'_,ィ-::::::::V  ,..r :' /
.      ト、ヾ\i/_ノ     .{l!,゚-ヽヾニ=-':::::::,.ィ:::::/- /_/ r'
.      | ヽ、_/i! :i}      ヾ,iー`=-ィ-'//",.ト-': : : :y}}i'             __ ,、
.      ト 、 _ソ`、!    __  ゝ`三'-=彡´/_イニ`‐"´:/         _,...-''"´ ,  ' ´
    ,-、j、_: : : : /    ,.ィf-:':`{::ヾー='-ィf::´:::"´::::.:.:.:/.._-‐-.、  ,.rー///´, ´             ┌────────────┐
     ト、ヾ::::ニ=-{  、ィ〃:.:.:/´r、{::`i!'"´7/:::::::::::::::ノ/:.:.:.:.`:....、ー.:'、:._... '"´./               │  身長:190cm       ...│
    !´ー-r--!l  /:.:.:.:.:l!,-=、::ヾ::::::_/....--.、ー ':.:.:.:.:.:.:.:.:.::_.-==、_..ー'"´                 │  体重:78kg        ....│
    .j: : : : `ヽ/| ,.ィ::.:.:.:.:/    .ト=-trー-=--' 、-''":_:.:.:.:.:, `-、、::::::::::ヽ.                     │  パンチ力:4t         │
   /: : : :.:.:.:.:.:.:{-..、:.:.:.:.l     l::三:/       ヽ:.:.:.:.〃.:.:,.:':l::!::::::::::∧                    │  キック力:12t      ......│
  ./: : : : :.:.:.:.:.:.}!-、::ヽ:.:{ヽ ' ̄``!三/,- .._   . . : :.!::::/.:.:,.:':.:.,:.ヾ:、o::::::::l                    │  V3キック:30t        │
 iヾ、=-...._..r-.、,イ:::.:',:.:l}:::'. . . . : : j三l   ヽ_ _..._ol:::,':.,.:':.:.:.:.:.:.:.:.ヾv=、::j                    │  火柱キック:500t      │
  iヽ`:.、:.:.:.::`r-ヽ!::.:.l!:l/.∨: : ,r:'ーr!、 . . . : : : : :`!'::i;.:':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/!::j                   │  ジャンプ力:18.00m    │
.  ト 、/=,ー-' 、 l!:.:,r'   lヾ/ミ-',r-!=ヽ、: : : : : //:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./'` ¨´                   │  走力:100mを4.0秒   ....│
.  ヾ.i!  lト、 ヽ、㍉i´ _    ∨{. ¨  j:三::l!`rr:.´:.,r'__:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.,.′                     └────────────┘
   `l  l! ',  7¨'´.ト- ..._l::ハ  ,l三三! !:.ヽ:/::.:.:.::.:ヽ、:.:.:.:.:.:.,.′
    ヽ、!_.ノ /- '、 /: : : : . . . /``t--==.!_,...-:'、`゙ヾ.、:.:.:ヽ:.:.:./
      `"{{´oヾ.、!: : : : : : :,': : /.:.:.::.:.l:.:.:.ヽ:.:.:.:.:ヽ:.:.:.ヾ、:.:.l!,.′

        ``'' .、ヽ、: : : : : !: :.i.:.:.:.:.:.:.}:.:.:.:.:.',:.:.:.:.:.:',:.:.:.:.li/

            ``'' 、: 、.!: :.l.:.:.:.:.:._i:.:._:_:_:i_:.:._.... -ィ-;イ!
              /`'':..、_.i!__/..r==-.:/ o   ト-':..!
             ,r:':.:.:.:.:.:`ヾ、ー'ー==‐.'  o ィ!、_...j
              /:.:.:.:.:.、:.:.:.:.:.:.:.:.rー―':r――'"´:.:.:.ト、


 ┏──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──┓

     仮面ライダーとしての須賀京太郎の姿
     熱と風をダブルタイフーンに取り込むことで、自身のエネルギーとして活用する
     二本のマフラー=グライディングマフラーからエネルギーを風として変換することで、空中での再加速が可能

     グロンギの体組織の解析・研究を以て作成された第三世代《改造人間》=Type:Masked Rider Version 3
     グロンギ由来のモーフィング機能(能力)により、スーツとベルトを収納しており、自在に展開可能
     変身前の状態でも、常人を遥かに超えた身体能力を発揮する

     ナノロボットによる遺伝子改造、人造臓器への置換によるパーフェクトサイボーグ
     オルフェノクの記号を人間の体内に効果的に埋め込むためのナノロボットの実験体であり、
     オルフェノクの延命のための人造臓器の実験体であった

     現存する霊石を持つ仮面ライダークウガを捕獲・研究するために彼女の元へと遣わされた
     だが、クウガに敗れ、そして脳改造を解除されたために彼女と共に戦うこととなる
     お互いに自分は人をやめてしまったものとして、その思いを伝えられずに戦っていた

     クウガ諸共、究極の闇=ン・ダグバ・ゼバへと火柱キックを打ち込み絶命したかに思われたが
     クウガの持つ霊石アマダムの移植により一命をとりとめ、“仮面ライダー”の名を受け継いだ

     ン・ダグバ・ゼバとの戦い、火柱キックそのものの後遺症に、超自然発火能力を受けて強化された火柱キック
     更には霊石アマダムと遺伝改造/人工改造された組織の鬩ぎあいで、本来のスペックを発揮できない粗悪品
     最強の必殺技は、霊石アマダムを暴走させて放つ火柱キック。その破壊力は1000t

     彼にとって仮面ライダーとは、愛した少女との絆。そして夢の護人という覚悟の証である

 ┗──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──━──┛


V3の歌思い出したら、照とかの妹のいるキャラクターがV3になるのもありかな?
って思った

ほい、ちょっと没案投下ー

G4ですー



 ――後から振り返れば。

 ――人生が代わる瞬間というのは確かにある。


「京ちゃん、見て見て!」

「……あん? なんだよ、咲」

「これ! 私、一位になったんだよ! ネット麻雀で!」

「どれどれ……お、マジだ」

「ね? すごいでしょ?」

「おーおー、すごいすごい。マグレだとしてもな」

「むっ……」

「……なんだよ、その顔。お前がネット麻雀で一位とるなんて、マグレしかないだろ」

「……自分は部活だと一位とれない癖に」

「そんなこと言うのはこの口かぁー?」

「ちょ、やめてよ! やめてってば!」

「……ったく」

「それはこっちの台詞! 女の子の顔に来やすく触らないでよ……デリカシーないんだから!」

「へーへー」

「……もう」




 ――善きにしろ、悪きにしろ……。


「それに、マグレじゃないんだから」

「どういうことだよ」

「最近ね、ネットでも見えるようになったんだ」

「……見えるって、まさか」

「うん、普通に打ってるみたいに」

「マジかよ……」

「へへへ、すごいでしょ」

「……インハイ終わったのに、どこまで強くなるんですかね」

「でも、このアプリだけなんだよね」

「そうなのか?」

「うん」

「不思議なこともあるもんだなー」

「ねー。京ちゃんも登録してみる?」

「え……いや、俺はいいよ」

「えー? 一緒に楽しもうよ」

「せめてネットの中ぐらい、オカなしの安息をくれよ……」



 ――人はいつだって、後から気が付く。


「……はい、須賀ですけど」


 ――失いがたい、大切な存在に。


「えっ……。はは、冗談ですよね?」

『……』

「まだ、エイプリルフールには遠いっすよ?」

『……』

「部長が……いや、竹井先輩が冗談すきなのは知ってますけど」

『……須賀くん』

「流石にこれは、冗談でも悪質過ぎますよ……」

『……須賀くん!』


 ――それを、失ってしまった後になってから。


「……はは、ははは」

『……認めたくないかもしれないけど、落ち着いて聞いて』

「嘘だ……そんなことが、あるはずない」



 ――どれほど、大切だったのかに、気付く。


「咲が――咲が、死んだなんて……」

『……』

「そんなバカなこと、あるわけないだろ……!」

『……』

「だってあいつ、笑ってたんですよ?」

『……』

「最近、ネット麻雀でも勝てるようになったって……」

『……』

「京ちゃんも、やってみないかって……」

『……』

「ど、どうせあいつのことだから……道か何かに迷ってて……」

『須賀くん……』

「そんで、おじさんが勘違いして……早とちりしちまって……」

『ショックかもしれないけど、言うわ』

「だから、だからこんなんきっと何かの間違いで――」


『――死体が、発見されたわ』



 ――まだ何か残っていても。


「……京太郎くん」

「なんすか……?」

「この度のことは……なんとお悔やみを申し上げたらよいのか」

「……放っといて下さい」

「……」

「俺には……やらなくちゃならないことがある」


 ――総てを失ったと表現するには、過ぎるほど。


「……件の、アプリケーションのことですか?」

「――ッ。なんで、それを……!」

「……」

「答えてくれ、ハギヨシさん! あなたは何を知ってるんだ!」

「……亡くなられました。いえ、何者かに命を奪われました」

「まさか……」

「ええ……衣様が。宮永様と同じように」

「……そん、な」

「私の痛みは私にしか判らない。貴方の痛みも、貴方にしか判らない」



 ――それほどまでに、大きすぎる彼女の存在。


「……ですが」

「……」

「きっと貴方は、私と同じ気持ちの筈だ」

「それは……」

「私どもの方でも、あのアプリケーションについて調べてみました」

「……っ!」

「会社やソフトについては、巧妙に隠蔽されているのか……目立った点は見付からなかった」


 ――決着を付けねば、前には進めない。


「ですがひとつ……この会社の通信に、不審な点がありました」

「な、何ですか……ッ!」

「防衛省隷下の研究所に……定期的にデータを送信しているのです」

「防衛省……?」

「……ええ」


 ――『動き出せ/Read to Go.』。


「プロジェクト名は――G4」


 ――『カウントダウンはもう終わっただろう?/Count Zero.』。


「アプリケーションの正式名称は――『AGITΩ』です」



 AΩAΩAΩAΩAΩAΩAΩ


「それでは、龍門渕様。この施設の見学という話でしたが……」


 言いながら、女は訝しげな瞳を向けた。

 龍門渕家――日本でも有数の財閥から、研究所の見学の依頼。

 人の口には戸が立てられぬと言うが、まさしくそれである。

 依頼というよりは脅迫や恫喝じみたもので、不承不承頷かざるを得なかった。

 一体、どこからこの施設の情報を手に入れたというのか。金持ちというのには、心底驚かされる。

 まあ、その情報収集能力は魅力的であるし……。

 龍門渕の協力により、何かしらの人材や分野などのコネクションを得て、計画を促進させる。

 そのことの方が、望ましい。

 だが……。


「何かしら……?」


 この、学生服の少年の存在は――異物だった。

 学生服が、という話ではない。

 少年が、という話ではない。

 単純に、その瞳に湛えられた――


「……答えてくれ。あなたたちが、殺人アプリを作ったのか」


 ――あまりの殺気が、人間離れしすぎていた。



 隣に並んだ燕尾服の青年の制止も聞かず、少年が踏み出した。

 明らかなる異常を感じ取った戦闘服の隊員が銃を突き付け、間に割り込み、


「退いてくれ」


 払った腕で、容易く壁へと叩き付けられた。

 護衛の隊員が、色めき立った。

 人が容易く宙に舞う現象など、彼らの中では二つに限られるからだ。

 そしてそのどちらも、生身の彼らには警戒して然るべきもの。

 しかし彼女は、


(これは、当たりかしら?)


 と、内心、ほくそ笑んだ。


「プロジェクトG4って、なんだ! AGITΩってなんなんだ!」

「……そうね」


 と、一呼吸置いて、


「いいわ。ついてきて」


 女は答えた。

 少年が――須賀京太郎が目を見開いた。兵士もそれに続いた。

 誰もが、女がその答えを出すとは思っていなかったらしい。



「そんなことが……」

「その……あなたの知り合いの娘については、ごめんなさい」

「いえ……」


 連続変死事件――。

 その被害者に共通した点は、誰もが少なからず、超常現象に類する力を持っているというのだ。

 特に顕著に表れるのが、麻雀での不自然な偏り――所謂オカルト能力。

 念動力や自然発火現象という超次元的な、直接の出力こそ持たないものの――察知や類推や認識という、センシティブな機能として発現する。

 その被害者を便宜上、『AGITΩ』と名付け――。

 そんな被害者を予め選別するために、アプリケーションを開発したというらしい。

 そして、G4とは――


「我々が、その殺人者と戦う唯一の鎧にして――牙」


 超常現象を有する人々を殺害するアンノウンと戦うための、強化装甲スーツ。

 陸上自衛隊と防衛省技術研究開発本部が極秘利に開発した、人類の牙にして盾。

 究極の防衛兵器。


「……まだ、問題があるのだけれど」


 と、女はひとつ置いて。


「ただ、あなたの先ほどの力――あれは素質があると、私は思うわ」


 だから、と。


「彼女の仇を――とりたいとは思わない?」


 女は、京太郎は笑いかけた。

                                           ,.ー-‐.、
                                          ヽ、   ヽ  __
                                          /,..-ニ‐- '"_,..)
                                          ' ´/  , _ 、´
      .:_______.: . . . . . . . . . . . . . : '          ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\
    .:/ / r─‐'‐ァ r─‐'ニニニニ7:.,ィ─ァ‐===‐‐二/   , ',. -一' ./..'/     .}
   .:/ /'  = フ'¨,r ュ,rフ/二二フ/  7´' ∠/ ∠¨_ / ,. '′  ,..,.  ,/    ./
   7 / /ク r'/ / 三/ /´//ー‐/ /-'´//─‐,≠/ /    {  \ヽ      i'
  /─'ー‐‐^ー―――^ー―´   '==='  'ー‐´       ー'´        `´\ ヽヽ   !
 /M A S K E D  R I D E R_   _ .           ,.'⌒   `,. l   !  ー"ヽ  ヽ
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l l  //.          ! ゝ-‐'´ /l  .!  `ー-、   }
                         | |//         __. \  /  }  .}    ヽ/
                               l  、 ヽ   、-、 ,.-, ,' r‐、ヽ `ヽヽ  j  ノ
              ._______| |ヽ ヽ_ヽ.∨ /__.ゝ ー’ノ___゙、`'   / ___
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄〉 ./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ }   ./  ̄ ̄ ̄ PROJECT G4
                                  / ./.               ヽノ



 そこから先の毎日は、充実していたと言っていいだろう。

 彼女は――宮永咲は、還ってこないが……。

 彼女と同じく、麻雀に置いて超常的な力を発揮する少女たちを助けることができたのだから。


 強化外部装甲、G4の力は強力だった。

 これまで喧嘩をしたこともない少年を、一端の戦闘者に変えるほどに。

 それでも本来なら、ともすれば死亡してしまうほどに危険性が高い装備らしい。

 そんな事実を聞いたときは、素人になんてものを着せるのだと憤慨したが、結果としてなんの問題もないし、アンノウンから人々を守れているのでよいではないかと丸め込まれた。

 何か釈然としないものを感じつつ、人を守れるのでよいかと結論付けた。


 G4の特に強力な機能は、未来予知に通じるほどの先読みだ。

 この力があるがゆえに、京太郎はこれまで苦戦という苦戦を味わっていない。


 それでも。

 鍛えるべきだと、研究所の警備にあたる自衛隊員からしごかれた。

 彼らとしても、人々を守りたくてこの場所にいるのだという。

 それこそ、己が身体をG4の死の危険に晒したとしても――。

 そんな彼らは、京太郎の登場により……待機役と言う名前の、晴れてお役御免となった。


 しかし、そこには嫉妬はなかった。

 一般人の、民間の少年ということを訝しんでいた彼らも、京太郎を弟分として、一人の年若い戦士として、目的を共にする仲間として、京太郎の世話を焼いていた。

 この頃は、充実していた。




「なんだよ、これ……!」


 その研究所で行われていた、非人道行為を――。

 己が頼りにしていた未来予知の力が犠牲の上に成り立っていることを――。

 アプリケーションには、別の目的があったことを――知ってしまうまでは。


「誰や……? あんまり、見へん顔やけど……」


 未来予知能力の核となる少女。

 身動きひとつとれない揺り籠に囚われた少女。

 ある種――いや、確実に犠牲者と呼んで然るべき少女。

 その名を――園城寺怜といった。


 件のアプリケーションはG4の未来予知のコアとなる超能力者を発見するために作られたものであり――。

 そのコアとなってしまった超能力者は、多大なる負荷により遠からず脳が融解して死亡するという、禁断の武器であった。

 額に汗を浮かべ、乱れた髪で虚ろな笑みを浮かべる少女を前に、京太郎は決意した。



「……なんで私のことを、助けてくれたん?」

「……」

「あいつらの仲間で……アンノウンのことを、憎んどるんやないんか?」

「アンノウンは憎いし、俺には力が必要だけどな……」

「……うん」

「これじゃあ、あいつは笑ってくれない」

「ふぅん」

「だから――助けるんだ。あなたを」


 目を閉じて浮かぶのは、

 京太郎の日常で、平穏の象徴で、最愛であると気付いた――喪ってから自覚した少女の笑顔。

 取り返せるとは思わない。やり直せるとは思えない。

 こんなのがただの感傷で、自己満足でしかないと判っている。

 それでも、心に残った宮永咲の笑顔を曇らせたくはなかった。

 故に少年は、


「明日がどうなるか判らないけど……俺と来るか?」


 組織を――裏切った。


「未来のことなら――――うちが見たるわ」



 組織の追っ手と、襲い来るアンノウン。

 メンテナンスができず、未来も知れないが故に積み重なる損傷に、G4は機能を停止した。

 終わりの見えない逃避行。

 帰る場所など、もうなかった。例え明日の未来が視えたとしても、二人に帰るべき昨日はない。

 そして――遂に追い詰められた二人の前に現れたのは、


「アギト……いや、ギルス? の力は渡して貰う」

「チャ、チャンピオン……?」

「私が最強のアギトになる。アギトは、私一人でいい」


 元、インターハイチャンピオン。

 最強の雀士、宮永照。

 その身を異形に変じて、アンノウンの群れを蹴散らすと、二人の前に立ちはだかった。

 これは助けでは、なかった。


「ギルスの力……まったく使いこなせてないみたいだから」


 受け渡しもできないだろうと、宮永照は目を閉じて。


「殺して――奪い取る」


 有無を言わさぬその視線に、怜は立ち上がった。

 邪魔をするなら、怜の有する超能力とはまるで関係ないこの少年にも容赦しないだろう。

 ここまで守られた。

 彼はその身を盾にして、怜を庇い続けた。亡き少女との笑顔の為に、命を削りながら。


 別に、どうという話ではない。

 彼に恋をしているかどうかなんて判らない。彼の目には、死んだ少女しか映っていない。

 その思いだけを胸に、彼は数多の戦闘を潜り抜けた。怜を護り切った。

 よしんば彼を想ったとしても、勝ち目などある筈がなかった。未来がいくら視えたとしても――彼は過去しか視ていないのだから。


 それでも、京太郎が怜を庇い続けたというのは紛れもない事実。

 だから今度は自分の番だと――


「久しぶりだな、照姉ちゃん」


 進もうとした怜の前に割り込む、一人の少年。

 園城寺怜を助け、守り、運命を共にした少年。

 喪った少女の笑顔を胸に、総てを投げ出し己の一分を貫く男。


「……初対面の筈だけど」

「…………ああ、こうなったら判らないよな」


 幼少の頃は身体が弱かったが故に、彼の両親はある迷信にすがった。

 かつて男児は女児に比べて死にやすく、それを神に連れていかれると考えた故に、

 男子を女装させて、神の目を免れるという風習があった。


「あの娘は車椅子で……それに、死んだ筈じゃ……」

「……ああ、そうだよ」


 学生服を脱ぎ捨てて、片手をコキリと鳴らす京太郎。

 その顔に、薄墨のごとき隈取りが浮かび上がる。


「俺は火事で死んで――甦ったんだ」



 超能力の力――アギトとは異なり。

 もうひとつ、アンノウンから狙われる存在があった。

 アギトと同じく、人の身を捨て去る怪物。人間を“やめた”人間。

 動く死者。灰色の怪人。

 その名を――


「まさか……オルフェノク……」

「そうだよ。一度死んでいるから、俺はG4じゃ死ななかった」


 ――オルフェノクと呼んだ。

 或いはこれは、アギトの力の変種なのかもしれない。

 一度死亡した素質ある人間が、オルフェノクとして甦る。

 人の身に過ぎた膂力と、地球上に存在する――或いは想像上の生物の特性を兼ね備えて。

 種としての根底に、人間への殺意を以て甦る。

 その身は既に朽ちていると、生命を感じさせない灰色一色に身体を染め上げて。


「咲は、俺を人間にしてくれた」

「……ッ」

「あいつといたから、俺は人間でいられた。
 あいつの笑顔があったから、俺は人間を守ろうと思えた」


 オルフェノクとして目覚めた須賀京太郎には、人間への数多の殺意が宿っていた。

 頭の奥で本能が呼び鳴らす声/鼓動――人間を殺せ。

 当然、彼が殺そうと企んだのは――もっとも近しく、そして己の死の遠因ともなった宮永咲。

 しかし彼女は――自らを付け狙った、薄汚いオルフェノクを庇った。

 対岸の歩道に見つけた宮永咲を絞殺せしめんと道路に飛び出した須賀京太郎に向かうトラックに気付き――咄嗟に道路に飛び出て、逆に京太郎を跳ね飛ばしたのだ。

 京太郎はトラックに跳ねられても何の問題もない。むしろ少女の方こそ、命の危険があるというのに。

 少女は言った。死んじゃだめだ――と。

 大切な友達を失って、涙に暮れた少女にとっては、見知らぬ少年の命さえも尊いものだったらしい。


 既に自分は死んでいて、オルフェノクであるはずなのに――それに目掛けて死んじゃ駄目だなんて、あまりにも馬鹿馬鹿しい言葉。

 馬鹿馬鹿しくて――馬鹿馬鹿しすぎてひとしきり笑って、それからいつの間にか声が消えていた。

 その後京太郎は、自らの過去を偽って宮永咲と接した。
 
 それでも――オルフェノクであるが故に、笑顔の仮面で何かと人を遠ざけがちな京太郎にだって真摯に接してくれた。

 彼女が居たから自分は、オルフェノクではなく人間として生きられたのだ。


「もう、俺は嘘を吐かないで生きる――俺は、オルフェノクだ。薄汚い人殺しの、怪人だ」


 あれほど疎んでいた衝動/消え入りたいほどの羞恥心と罪悪感の入り混じった化け物の姿を解き放つ。

 バチリと、京太郎の傍で電撃が跳ねた。

 同時に零れる、灰。


「……怜」

「何? それと、年上を呼び捨てにするなって――」

「最後だから、許してくれよ」

「最後って……!」

「――俺を見ないでくれ」


 なお、オルフェノクという種は――。

 急激に変化する力に細胞が耐えきれず、非常に短命な種族である。

 最後はその全身を灰に変えて、ただ風に吹き飛ばされるしかない。


「……死ぬ気なん?」

「俺が生きてるか――確かめたいだけだよ」

「きょ、京太郎……あんた……!」


 凄まじい勢いで、京太郎の手足が灰と化す。

 塞き止められていたG4装着の負荷が、オルフェノクへの変貌により噴出したのだ。

 1秒毎に削られていく、命の蝋燭。

 燃え尽きて、ただの灰として吹き散らされていく。


「怜――」

「な、何……?」

「――俺の分、咲の分も生きてくれ。1秒でも長く」


 そうして少年は――怪人は。

 亡き少女への思いを胸に、最強のアギト目掛けて駆け出した――。

という京咲です。やっぱり京咲がナンバーワン
没るかなーと、当時あっちに投下したけど加筆修正しました

G4ルートなら「インハイ後」「咲はクウガじゃない」「スマブレ学園ない」という形になってました

書き溜めの為に、あとで1900ぐらいに安価出しに来ます

そうか、携帯でスレ立ててないやん
改めてお待たせー

登場人物は結構出たりしますが、ルート入れるのは

・高鴨穏乃
・松実玄
・園城寺怜
・末原恭子
・宮永照
・竹井久
・福路美穂子
・エイスリン・ウィッシュアート
・荒川憩

というあたりになります。ご了承を

では、システムというか説明を

まず、登場ライダー及び登場人物はこちらのプロットに添って現れます
そこである程度選択肢がある場合、【登場ライダー安価】をします。選ばれたキャラによってストーリー展開が変化します
なお、選ばれてなくとも登場したりしますのでお許しを

次、会話対象選択
要するに自由行動のときに誰に話しかけるか、みたいなもんです。選ばれたキャラと日常を送ります
ストーリーに関わる会話や、或いは好感度などに関わらない日常会話をこちらで行う場合があるのでお許しを


じゃあ、登場ライダーと会話対象安価出すでー


>まず、登場ライダー安価


1:金の角を持つ、赤い瞳の仮面の戦士
2:緑色のフォルムをした、赤い瞳の仮面の戦士
3:メカニカルで近代的な強化装甲服の仮面の戦士
4:四つに割れた紫の複眼を持つ仮面の戦士


>↓5



                   -―……―-
                ...:.:.::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. ヽ

                /.....:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
               /....::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
                ....::::::::::::::::|::::::::::::|:::::::::\::::::::ヽ:::::::::ヽ:.:.:.
           ' :::::::::::::::::::: |::::::::::::l:::::::::::::::ヽ::::::::'::::::::::::':.:.:.
.          /   ::::::::::/::/|::::::::::::l:::::::::::::::::::::::::::::i::::::::::::i:.:.l  黒髪王道ヒロインだよっ!(ドヤッ
         /..../::::: !......〃/ .!:::::::::: l\:ヽ::::::::::i::::::::|::i:::::::::l:.:.|
           ′::::i::::::|\:|.{:|  ::ト::::::::ト、 \::/:i::::::::|::|::::::::|:.:.|
        |:: '::: i:::::乂:::ト{:|_、{ \::{__ 斗へ:::::i::::::::|::|::::::::|:.:.|

        |::|l:::::i:::::::::ト::{ `   \. ヾ      ヾ|::::::::l::|::::::::|:.:.|
        |::|l::::ハ::::::::ハ  ___-     、___ ,、|::::::::|イ::::::::|:.:.|
        |::|l::/ ::::::l:::} ´` ̄´      ̄´ .|::::::::| }::::::::l:.:.:l

        |::|l:{  i::::::l:::| 、、、、   ,   、、、、 |::::::::|/::::::::i:.:.:.l
         `O′ |::::::l从             j:::::::〃:::::::ィ::.:.:.l
        /::j  |::::::|::i::>   `   ′  . ィ:::::::/i::::::::::|::.:.:.:l
          {:::/   |::::::|::|:::::::::|>     < {::::|:::::/:/::::::::::|:.:.:.:.:l
          |::{  .从:::Ⅵ:::::::|l:::: r‐}`´ __ ノ }/:::/:/:::::::/:::|:.:.:.:.:.l
          Ⅵ  /::::ヾ::::{:::::::|l::ノ ∧__∧ ∠::::/_'::::::::/:::::|:.:.:.:.:.:l
          /.::::::::::\r‐ '〃/レ  〃ヽ 厶イ /:::::::/\_|:.:.:.:.:.:.l
             '::::::::::::::/ ` 厂 ̄`r=く  ̄}/  /::::::::/  ⌒ヽ:.:.:.:.:l
           /::/:::::::::/   廴_ 八    {  /::::::::/   /  V.:.:.::l
        /:ィ:::::::::/   く __ ノ 辷=- _〉/::::::::/  /     V:.:.:.l
      /〃 j::::::::/ レ        } /   ̄ ./::::::::/  /     }:.:.:.:.l


>という訳で、登場は仮面ライダーアギトに決定しました

>次に、日常会話対象者を選択します
>番号または名前でお書き下さい


1:高鴨穏乃
2:松実玄
3:園城寺怜
4:末原恭子
5:宮永照
6:福路美穂子
7:エイスリン・ウィッシュアート
8:荒川憩


>3~8 反転コンマ高い者&コンマ高い者、それぞれ一名。ゾロ目なら片方確定

という訳で

・登場ライダー:仮面ライダーアギト
・日常会話対象者:高鴨穏乃、宮永照

となりました


GW中にVシネを投下して
アギト/555ルートはその後となりますのでお待ちください
形式としては、書き溜め→投下を予期してください

ちなみにそれぞれプロットではストーリー中にこんな台詞が



穏乃「大丈夫! なんかは判らないけど――私が保証する! 京太郎は、大丈夫!」


穏乃「信じてるからさ、京太郎のこと」


穏乃「……手を伸ばすよ。これでお別れなんて、私が許さない」



玄「私はね、皆を護れるんなら……嬉しいなぁ、って」


玄「えへへ、このアギトにお任せあれ!」


玄「もう……やだよ……一人に、一人にしないで……」



怜「……はは、なんで私ばっかり」


怜「死にたくないって、そう思うのも……あかんのかな?」


怜「まー、うち元々病弱やったし」



恭子「『できるかできないか』やなくて――『やるかやらないか』や」


恭子「なんで、あんたが……!」


恭子「……凡人の意地、人間の意地を見せたるわ」



照「……私の邪魔をしないで」


照「笑い方なんて――――もう随分前に、忘れた」


照「……やっぱり、そうなったら死んで貰うしかない。私は謝らない」



美穂子「大丈夫よ、私が護るから」


美穂子「……オルフェノクは人間の敵よ。人の心なんて期待しても、どうにもならないわ」


美穂子「……そう」

美穂子「お願いだから、考え直して……? ……お願い、だから」



エイスリン「……シンデ?」


エイスリン「……ジャアネ」


エイスリン「I ... I wanna leave here ! I wanna meet my mam! Why !? Why I have such horrible situation!?」



憩「ベルト、返して貰えへんかなーぁ? 駄目なら、もう手足もぐしかないんやけど」


憩「……人間とオルフェノクの共存なんて、夢でしかないよーぅ」


憩「うちならまだ我が儘聞くから、協力してくれるんなら……襲わせんように、伝えるから」

鋼メンタルなら何しても構わないよね?
まあ、しずがライダーじゃないヒロイン枠だから大丈夫なはず


鬱度としてはルート設定時点でのメイン格ライダー咲キャラの争い度数で設定してます

龍騎/剣(メイン格ライダー同士バトロワ)
>>アギト/555(メイン格ライダー同士一部殺し合い)
>>>響鬼/カブト/キバ(メイン格ライダーバトル)
>>>(ライダーは助け合いでしょの壁)>>>電王/W/オーズ
>>>(鬱フラグブレイカーの壁)>>>>アギト/555/theFirst&theNext

こんなん

実際のところだと、展開としては電王/W/オーズルートは重苦しいですが
原作が明るいだけに謎
そういう意味で、アギト/555ルートは原作のノリを再現しようと思いますのでご安心を

あと……

・戦闘技能強い
・メンタル強い

ので、爽快感はそれなりに出せると思います

ファースト、ネクスト混じると一気に鬱度が下がるね

明日の2200辺りに、Vシネ&アギト/555ルートまでの繋ぎとして、アギト/555ルートの冒頭を投下しますので
まあこんな空気かー、と安心してくれたら幸いです

デルタなわけだけど生身状態でも電撃出せたりするのん?

>>162
映画はどっちも明るくないけど、そこらへんV3というネームバリューが強いですね
設定として後戻りできない改造済み&咲と一緒に戦って「仮面ライダー」の名前受け継ぎ済みなんで

>>164
出せるキャラと出せないキャラが居たよね(ニッコリ

ほいお待たせー
では、アギト/555ルートの空気を味わって貰いましょーかねーということで

なお、前回と違ってそこそこ学園に絡んでるので、日常書く為にも一般人ヒロイン以外にもわりと一般人が出ますよ、と(攻略不可)




 ――深夜。或いは夜間。


 街頭の明かりが明滅する。
 暗闇に浮かび上がる、羽虫の影。
 街の静寂。
 地鳴りの如く、低音のエグゾーストノイズが宵闇に伸びて唸り声を広める。

 動くものなどほとんどない、そんな夜半近く。


「……遅くなっちゃったなぁ、うーもー」


 ボヤく少女は、部活動――麻雀部――の練習帰り。

 インターハイ再開の噂に、思った以上に練習に力が入り過ぎてしまった。
 理由にはまた、途中で雀卓がマシントラブルを起こしたというのもある。
 部活動数が多く顧問が行き渡らぬが為に自由度が高いことに、その場の空気で悪乗りしてしまった。


 途中まで皆で一緒に帰っていたのだが、彼女たちは寮生活ではなく下宿暮らしだった。
 それ故、帰路にあっては一人二人と数を減らして行き、ついには少女だけとなる。
 時折背後を振り返りながら家路を急ぐ少女は、確認するように自らの心に言い聞かせた。


 幸いにしてこの学園都市の夜は、他所に比べてそう悪くはない。

 勿論、その手の連中はいることはいるが――大体、集まる場所が限られているというのもあるし……。
 何よりも、“あの事件”があってから人は、多少なりとも変わっていた。

 人間同士の助け合いが増えた、という訳ではなく――――確かに全体としてはそんな兆しもあるし、メディアや社会はそんな風潮を作りつつあるが――――、
 単純にどこか厭世的なムードが人々の心の奥底に漂い、未だ抜けきれずにいる。
 要するにあまり無駄なことをする気力はない、ということである。

 復興の為に、皆が同じ方向を向く熱意。
 そんな理由も、あるのだろうか。



(嫌だなー、もー)


 とはいって――だからこそ、そんな状況であるからこそ、反社会的な方に傾く人間というのもいる。
 だから、“事件”に関わらず、やはり夜歩き夜遊びの類いは控えた方が利口であった。
 流石に今度ばかりは、自分の行いを悔いた。


 とはいえ少女の頭を悩ませている問題は、それだけではない。

 現実味を帯びた都市伝説。
 尽きることのないフォークロア。
 真しやかに今日もどこかで語られる、噂。

 この学園の――スマートブレイン学園の生徒に纏わる、とある伝奇。


 まあ、そんなものを信じきって、それが故に恐怖するというほど少女は幼くない。
 どちらかと言えば、不良や変質者の方が恐ろしい。
 年頃の少女であるため、こちらの方が余程の死活問題だ。

 ただやはり、どことなく――不気味さを拭えず、身を震わせて無意識の内に大股になる。


 もう少し明るい場所に出るべきか――。

 明るい、言わば繁華街の方が不良少年の類いと遭遇する可能性というのは高くなるが……。
 よくよく考えれば、人気のない道で出会った方が、ことだ。
 人混みなら紛れて逃げることだってできるし、ともすれば正義感の強い誰かが助けに入ってくれるだろう。


 普通に考えれば判ったのに、何故そんなことにも自分は気付かなかったのか。

 いつからか意識の外で――“あの事件”のせいで――人が集まる場所こそ、“狩り”の対象となり危険。
 そんな風に、刷り込まれてしまっていたのだろうか。
 大袈裟に頭を振って、少女は踵を返した――そこで。


「えっ……」


 仮面の男――大きな複眼を四つに割る“χ”の文字。
 体中を走る、黄色のエネルギーライン。
 暗黒に灯る、紫の複眼。その手にも同じく十字の――χの形を思わせる、武器。

 一目ではわからない。
 火花を吹く姿を捉えて初めて、それが銃だと認識できた。


 放たれた弾丸が、人型に殺到する。

 その人型というのは――少女と同じく、スマートブレイン学園の制服を纏った少年。
 撃ち込まれるたびに、浮き上がる青い炎。着弾と同時に弾ける砂――いや、灰。
 少年の身体が燃えていた――否、焔そのものと化していた。


「ひっ」


 意図せず、声が漏れた。
 男子生徒が撃ちぬかれたことも確かにそうであったが――その生徒が灰と化して、崩れ落ちたこと。
 そして、仮面の人間の足元に倒れていた少女までもが、灰と消える。

 この男は――仮面の人型は――。


「ひ、ぁ、ああぁ……ああぁぁぁ……」


 転げ出すように、その場に背を向ける。
 一刻も早くこの場から逃げ出さなければならない。
 あれはディティールとリアリティを以て囁かれる都市伝説であると――、そう思っていたが……。

 実在したのだ。
 災いを齎す、怪物が。
 この学園に存在する――闇が。


 ――――生徒を襲う、『灰色の怪物と仮面の男』。


 少女の悲鳴が、学園の闇に木霊した。
 同時に巻き起こる銃声がすぐさまそれを塗り潰し、街はまた静寂に包まれる。

 何事もないように。



 ◇ ◆ ◇


 ある少女の話をしよう。

 彼女はどこにでもいる少女――ではなかった。
 端的にいうならば、彼女は異常なほどまでに影が薄いのだ。
 いや、その言葉で片付けるのはあまりに容易すぎて――そして説明しきれない。

 彼女はほとんど、人の目に映らない。


 視界にいるのに認識されない。まるで石ころや何かみたいに、基本的にその少女は受け流されてしまう。
 いや、石ころの方がましであろうか。もしも石ころが音を出したのなら、少なくとも人は「何か」と目線をやる。
 ちょっとやそっとの発声では、人は少女を見てくれない。
 余程の大声を上げるか、それとも唐突に踊り出すかしない限り――少女の姿は、他人には如何ともしがたいほどに意識の外に置かれてしまうのであった。


 しかしそれでも、自分を求めてくれた人が居た。

 見えない/見られないという――自分を受け入れて肯定してくれる人が居た。
 他者との係わりとかどうでもよくて、自分はきっとこのままで、世界はいつだって変わらない――なんて思ってたけど。
 ちょっとだけこの世界のことが好きになれそうな、そんな出会いだった。

 これは、ちょっとやそっとじゃ覆せない。

 見える見えない関係なしに――いや、というか見えない自分目掛けて叫びを上げて、自分を求めてきたのである。
 仮にまあ、少女のことを見える人間がいたとしても……それは、見えるから話しかけたというだけに過ぎない。
 重要なのはそこだ。
 見えないというディスアドバンテージを持つ少女に、普通なら奇怪に思われるのにも構わず、呼びかけた。
 その心が大切だった。



 ――なんて、言っても。

 自分のことを普通に見てくれる人間というのは、それもまた嬉しいのが人情。
 一番とは言えないけど、まあ、日本じゃ二番目ぐらいに置いてあげてもいいんじゃないだろうか。
 なんて、上から目線で考えてみる。
 そして視線を動かす――その、少女=東横桃子を唯一認識できる少年、須賀京太郎へと。

 金髪。今は目を閉じているが、普段は褐色の瞳を開いて柔和に微笑む。
 コミュニケーション能力は、そう悪くはない。話してみると中々愉快だ。
 身長は百八十オーバー。
 高校一年生でこれであるから、将来はどれほどだという話だ。

 きっと運動部からも欲しがられる人材だろうが――生憎と彼は帰宅部所属である。趣味ぐらい持ったらいいのに。

 さて、彼との出会いについて話してみようか。



 出会いは、こうだ。

 我がスマートブレイン学園(後述する)の――普通の高校とは違う、季節外れの入学式。
 生まれ故郷を離れなくてはならないことへの不満と不安と。
 どうせ場所が変わってもクラスに友人なんてできないんだろうなーという諦観から。
 ホームルームをサボろうと思って、目的なく明後日の方向へ、廊下を歩いていたそのときだ。


京太郎「なあ、同じクラスだったよな? そっち、教室とは真逆だけどいいのか?」


 方向音痴なのか、と笑いかける金髪の少年。
 見覚えはあった。少年の言うように、自分と彼とは同じクラスであった。
 だが……。


桃子「そ、それ……私に……? 私に、言ってる……? まさか……? 本当に、っすか……?」

京太郎「そのサボり方は……新しいな」

桃子「さ、触っていいっすか!? これ何本に見えます!? 私綺麗っすか!? ポマードポマードっす!」

京太郎「へっ?」

桃子「な、名前! 名前を教えて欲しいっす! うわー、キョドっちゃうっす! うわーっ! うわーっ!」

京太郎「……そっか、そういえば保健室はあっちだったっけ。お大事にな」

桃子「ご丁寧にどうもどうも……って、違う! 逃がさないっすよ!」

京太郎「い゛っ!?」

桃子「乙女座の私としてはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないっす! 獅子座っすけど!」

京太郎「どっちだよ!?」


 それから、冷や汗を浮かべて距離を取ろうとする彼に食らい付き、なんとか自己紹介をした。
 それこそ例の、自分を求めて恥ずかしい告白をした先輩――彼女のような、ド恥ずかしい告白だ。

 何しろ、舞い上がっていた。
 自分のことを完全に認識できるがいるなど、まさに瓢箪から駒だ。
 詳しく聞いたところ、彼――須賀京太郎も長野出身であると言う。
 これは正しく、運命であろう。
 友人になるべくして、自分たちは出会ったのだ。少しはこの学園のことが好きになれそうだった。


 ――美しき思い出の回想終わり。



穏乃「きょーう! たっ! ろー!」

桃子「あ、穏乃っちさん」

穏乃「……って、寝てるのか。珍しいなぁ」

穏乃「………………うん? 東横さん、いる?」

桃子「いるいる、超いるっすよー! ほらほら、ここにここにー!」

穏乃「うーん…………。そこにいる! 間違いない!」

桃子「おっ、大正解っす。……っていうか、実は私の声聞こえてるからそう答えたんじゃないっすか?」

穏乃「いやいや、気配だよ。気配」

桃子「……会話が成立してる時点で、インチキだって判るっすよ」

穏乃「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


 やってしまったと、額に手を当てる少女。
 動きに呼応して、後頭部で纏めた茶色の長髪が揺れる。いわゆるポニーテール。
 下まで下したらどれぐらいになるんだろうなー、なんて想像させるほどには長い。
 流石に地面には付かないだろうが。

 小柄な体のどこに元気を充電しているか、というぐらいの元気少女。
 ちなみに格好はジャージ――ではなく青と白のセパレーションカラーのパーカー。
 流石に共学校でジャージ一枚はまずいと友人に言われたらしい。ごもっともだ。ちなみにパンツは履いてる。確認した。

 ……というかそもそも制服を着ろと言う話である。


 彼女は――彼女もなんていうか、例外の一人。

 須賀京太郎ほど正確に桃子を察知することはできないが……それでも、桃子のことを認識してくれる貴重な存在。
 なんでも昔、山に籠っていたらしい。
 籠っていたというか浸っていたというか、兎に角彼女はそんな感じで過ごしていた。
 山というのは動植物のざわめきがありながら静寂で――彼女曰く「人間とは別」――他の気配が感じられない、一種の異界。
 だからこそ、なんだかんだと気配を察するのが上手くなったのだとか。なにそれ。

 ちなみにこの街に来て、山に中々登れないことが彼女の不満の一つだったり。



桃子「で、どうしちゃったんすか……こんな朝っぱらから」

穏乃「いやー、実は京太郎に用事があったんだけど……寝てるからさ」

桃子「珍しいっすよね、寝てるの。いつもさりげなく起きてるのに」

穏乃「あ、そうなんだ……違うクラスだからなー」

桃子「そうなんすよ、チャラっぽそうな外見してる癖に……なんだかんだ真面目っすよねー」

穏乃「外見は……まあ、うん、そうだけど」


 例えば血液型占い――というのがある。

 似たように、髪の色占いというのもあるのであるのである。
 それによれば金髪は――“お調子者”だとか。
 桃子の狭い交友関係でも、知っている限りで例外があるが。


 他には昔少年誌で連載されていた漫画や、黎明期の映画や、一台流行したアニメで金髪の不良が出ていた。
 それが原因かは判らないが、金髪というのは即ち素行不良などを表す代名詞として使われ、実際不良の方々が金髪に染めなおすのだから性質が悪い。
 おかげで金髪の人間は相当に苦労しているだろう。黒髪の桃子には及び知らぬところであるが。

 或いは金髪にすればもっと目立つかもしれないが――そんな悪目立ちはごめんであるし、
 何より親から貰った大事な体に手を入れるというのには抵抗がある。
 ピアスを空けるのなんて無理。お化粧はまあオッケー。
 マスカラぐらいはやってもいいかもしれない。


 まあ、あんまり縁のない話である。

 ……というのは置いておこう。割とどうでもいい。


穏乃「京太郎は、外見だけじゃ判断できない男だから!」

桃子「熱いっすねー」

穏乃「そりゃ、夏だからね!」

桃子「……ちなみに大声出すと、イケメンさんが起きるっすけど」

穏乃「あわわわわ、しまったぁぁぁぁぁあああ!?」

桃子「また叫んでるっすよ」


 騒々しいなぁ……と思いつつも、悪い気はしない。
 この学園に来て、人の輪が繋がった――以前は部活に限られていたから、そう考えると新鮮である。
 こうして同級生と他愛無い会話に興じられるのも、机の上で船を漕ぐ須賀京太郎のおかげだろう。

 ……と。


淡「うるさいなー、もー」

穏乃「ご、ごめんっ! 大星さん!」

淡「べーつーにーいーけどー、須賀の奴寝かしといたげた方がいいんじゃないかーって」

桃子「……そういうあんたも声がでかいっすけど」

淡「だーって、そーじゃないと宿題写せないじゃん!」

穏乃「その手があったか! ……っていやそれダメでしょ!」

淡「いやいや、許可は取ってるから……夢の中で!」

穏乃「なるほど…………って、夢!? いや、確かに京太郎寝てるけどさ!?」

桃子「もうあんたら黙れっす、いやマジ」


 お調子者の方の金髪、大星淡。

 いかにも今時といった風貌の、ウェーブのかかった腰ほどまでの金髪碧眼。快活な笑みを浮かべる少女。
 須賀京太郎とは、席が隣同士で日直が一緒だとか。その縁で、よく話すようになったのだとか。
 とは言ってもほとんど大星淡が話しかけて、須賀京太郎は静かに応じているだけだ。

 ……あ、いや、時々ツッコミ入れてるけど。

 …………いや、結構そこそこツッコミ入れてるけど。


 ……と。



憧「ちょっと、しーずー! ……あ、その、すみません」

桃子「……もう一人増えたっす」

淡「あー、あの茶髪ー。うっさいの増えたなー」

桃子「いや、それを言ったらあんたは金髪っすよね。しかもやっぱりうっさい」

穏乃「あ、憧ー! こっちこっちー!」

桃子「……ツッコミしても反応されないって非常に悲しいっすね」

憧「こっちこっちー、じゃないわよ! 何してるのよ!」

穏乃「京太郎に用事があってさ!」

憧「それぐらいしか、こっちに来る用事ないじゃない! ……あ、ごめんなさい。大声出して」

淡「……あー、うっさい」

桃子「マジ騒がしいっすね」


 更に増えた人間――教室の扉を勢いよく開く桃色に近い茶髪をツーサイドアップにした少女=新子憧。
 高鴨穏乃の親友で、ちなみに京太郎の取り巻きではない。
 なお、京太郎を取り巻いているのは主に桃子と穏乃だ。

 何でも男が苦手らしい。

 外見はいかにも今時――ってこの言葉二度目だ――で、オシャレにも気を遣っている風貌であるのに、何とも勿体ない話である。
 大体男子の間で上がる、イケてる少女という話題では大体名を連ねる新子憧。
 何でも別の学年の男子から告白されたりしているそうだが――全部お断り、だそうだ。


 ちなみに大声を出すたびに頭を下げている姿というのは、何ともシュールだ。
 本人は非常に居心地悪そうに、肩身が狭そうに謝罪する。
 穏乃への態度を鑑みると、根が消極的という訳ではあるまいし――――あれか、内弁慶タイプなのか。



桃子「あーあ、ツッコミにも同意にも相手してくんないってのは超つまんないっす」

憧「ほら、帰るわよシズ!」

穏乃「痛たたたたたたたた、ちょ、ひ、引っ張らないで! 髪っ、引っ張らないで、憧!」

淡「帰れ、帰れー」

桃子「あーでも、こうやって騒いでたら私にも注目が……集まってもしょーがないっすね。いらないっす、こんなの」

憧「宿題は自分でやる! ほら、迷惑かけない!」

穏乃「いひゃい、いひゃい、いひゃい! いひゃいっひぇばっ!  あひょ! あひょ! いひゃいっ! ひっひゃらないひぇよー!」

桃子「あー、やっぱり一人の方が気楽でいいかも……。ツッコミ不在ってどうしようもないから、京ちゃんさん起きてくれないっすかなーって」


 そんな、桃子の声に応じたのだろうか。
 なんて都合がいい話があるはずがない。
 きっと、あまりに大星淡・新子憧・高鴨穏乃が煩かったためだ。

 だからきっとこれは自分のせいであるはずがない。
 いや、自分のせいである訳がないだろう。超ない筈だ。超あってはならない。
 というか、他の騒音で気付かない癖に桃子の呟きで目覚めるとは一体どういうことだ。なんだ、愛なのか。


 いや、それは困る。

 須賀京太郎は友人としては申し分ないが、恋人にしたいかと言われると首を傾げざるを得ない。
 というかそこまで打ち解けてない。
 あくまで敬愛するのは、自身の先輩加治木ゆみであり――それ以上でも以下でも以外でもないのである。

 いや割と冗談ではなく、マジ困る。



京太郎「……ん、あれ?」

穏乃「ひょはひょ……ひょーひゃひょー」

憧「だーかーらー、いくわよっ、しず! ……………………って、えっ、あっ、す、須賀君?」

淡「おはよ、須賀。ついでにノート見せる権利を上げよーう!」

桃子「……どうもーっす」


 目を二三度しばたたかせたのちに、京太郎が辺りを見回す。

 眠りの途中で起こされたことへの不機嫌さはない。
 どうやら眠りは浅かったらしい。ということはまあ、桃子が原因ではないだろう。
 放っておいても勝手に目覚めたはずだ。


京太郎「あれ、俺……寝てたのか?」

淡「そーだよー。で、お願いがあるんだけどさ」

桃子「そうっすよー。もうそりゃばりっばり寝てたっすよ」

穏乃「珍しいよね、京太郎が居眠りするなんて!」

憧「…………………………ふ」

京太郎「そうだなぁ。これでも、優等生だからなー」

淡「うんうん、実はそんな優等生の須賀に宿題を見せてもらおうと思ってたりしちゃったり!」

京太郎「……いや、自分でやれよ」

桃子「実に正論っすね」

穏乃「だよねー、やっぱりそう都合よくはいかないかぁ……」

憧「……………………きゅ」

淡「けーちーだーなー。そっちの薄い人はー?」

桃子「生憎っすね。私も須賀っちに見せて貰おうと思ってたっす」

京太郎「……今からやれば、間に合うんじゃないか?」

憧「…………ぅぅ」

穏乃「……? 憧、どうしたの?」


京太郎「あー、夢か」

京太郎「夢だよなぁ……うん」


 欠伸を塞ぎつつ、頭を掻く須賀京太郎。
 その視線が延びる先は新子憧。
 穏乃の頬を摘まんだ態勢のまま――もう指先から力は抜けたので、憧だけが硬直している。
 現に高鴨穏乃は、なんだろうと首を捻るのみ。

 訝しげに眉を潜めながら、須賀京太郎が新子憧に声をかける――。
 

京太郎「新子さんは宿題――」

憧「――し、ししし、失礼しまひゅた! い……行くわよ、シズ!」

穏乃「ちょっ、うわぉぉぉぉぉあ!?」

淡「……」

京太郎「……」

桃子「……」

淡「……噛んだ」

京太郎「……噛んでたな」

桃子「……噛んでたっすね」


 ……やっぱり、男苦手なのだろうか。あれ。



 ◇ ◆ ◇


穏乃「京太郎ー!」

京太郎「おー、どうした?」

穏乃「お昼一緒に食べない? よかったら、東横さんと大星さんも!」

桃子「穏乃っちマジ天使っす! 行きます行きます! ご一緒させて頂くっすよ!」

桃子「これでやっと、給食以外で同級生とご飯一緒に食べるをクリアっす! ぼっち解消っすよ!」

穏乃「……オーバーだなぁ、東横さん」


穏乃「大星さんは……ってあれ、いないや」

京太郎「じゃあ、探して呼んでくるか。ついでに購買に行ってくるけど……なんかいるか?」

穏乃「ううーん……うん、大丈夫」

桃子「私も大丈夫っすよー」

京太郎「そっか。じゃあ、先に行っててくれよな」


 ナチュラルに買い出しめいた行動を選択しようとする自分に驚愕しつつ、京太郎は首を回した。
 やがて大まかな見当を付けて、手摺に体重をかけつつ階段を下る。
 そして――いた。


 校舎裏。

 もうひとつある、人の気配。
 放課後ではなく昼休みというのは何ともレアだなと思いつつ、やっぱりモテるのかなと首を傾げる。
 まあ、そんな理由ならば昼飯を誘うというのも野暮だろうと――踵を返そうとした、そのとき。

 聴くつもりはなかったが、二人の会話が飛び込んだ。
 なんだか、様子がおかしい。
 片手で学生服の前を押さえつつ、影から辺りを伺ってみる――。



淡「なんで!? どうしてなの、テルー!?」

照「……さっき、言ったよね」

淡「だって――――だって折角、私たち五人でここの高校に来たんだよ!?」

淡「た、確かに結構強そうな奴とか居て……選抜とか面倒そうだけど、それはあっちでも一緒だったよね?」

淡「それに、そんな奴ら――私とテルなら、問題ないでしょ!? テル、最近もっと強くなってるし――」

照「……」


 ――だからだよ、と。

 大星淡に対する、赤髪の少女が呟いたのを京太郎は聞き漏らさなかった。
 ただの一言ながらそれには、万感の想いが込められている気がした。
 何か事情があるのは確実だが――それは京太郎とて同じ。

 この学園に通うものは、少なからず、何かしらの過去を持っているのだから。


京太郎(俺が聞くような話じゃ、ないか)


 これ以上、立ち入るのは宜しくない。

 プライベートに関わる問題であり、大星淡と友人とは言え、第三者が迂闊に踏み込むべき話題ではない。
 何らか相談や愚痴、不満を打ち明けたいというのであれば付き合うのも吝かではないが……。
 ああ見えてプライドが高い淡には、友人相手にこんな場面を見られるというのも致命的だろう。

 ――見えず、喋らず、聞かず。

 今日のことは他言無用で、踏み込まぬようにしよう。
 穏乃たちには、見付からなかったとでも告げるかと頭を働かせた、そこで――。


京太郎(……見てる!? こっちを!?)


 突き刺すような視線が、校舎の角越しに襲いかかってきた。
 そんな気配を感じつつ、京太郎は頭を振って足早にその場を立ち去ることを決意する。
 麻雀打ちの大半がそうである例に漏れず、彼女も余程に勘がいいのか――。

 それとも――――。


京太郎(……)



京太郎「よ。悪いな、お待たせ」

憧「……ひぇっ!? しゅ、す、須賀きゅん!?」

穏乃(噛んでる)

桃子(噛んでるっすね)

京太郎(噛んでるよな)


憧「ししし、しず! ちょっとこっち!」

穏乃「うわっ、な、何!?」

憧(……ななな、なんで須賀くんがいるのよ!?)

穏乃(折角だから京太郎も……って思ったんだけど、嫌だった?)

憧(い、いや……別に嫌じゃないけど……)

穏乃(いや? 嫌じゃない? ……えっと、どっち?)

憧(う、うっさい! あとでお仕置きよ!)

穏乃(うぇぇぇぇぇぇぇえい、なんで!? そんなの絶対おかしいよ!?)


京太郎「うーん……」

桃子「どうしたんすか?」

京太郎「いや、俺……この場に居ていいもんかなーって」

桃子「女ばっかりだからって、遠慮っすか?」

桃子「別になんでもないんだから……気にしないでもいいじゃないっすか」

京太郎「……そこまで言われると、逆に凹みますね」

桃子「空気さんが空気っぽいから、別に大丈夫って話っすよ?」

京太郎「……空気、て」

桃子「それぐらい、別に害にはならないってことっす」

京太郎「……」

京太郎「……新子さんには?」

桃子「……」

桃子「……アレは空気アレルギーっす」

京太郎「いや、駄目だよなソレは」




憧「おおお、お待た、お待た、お待たせ、お待たせをばいたしました」

穏乃「……おまた?」

憧「ふきゅっ」

桃子「……清々しいまでに挙動不振っす」

京太郎「あー、まぁ……仕方ないよな。うん」

桃子「須賀だけに、清々しい」

京太郎「……それは仕方なくないな」


 さて。

 須賀京太郎と東横桃子は長野出身。
 高鴨穏乃と新子憧は奈良出身で、この場にいない大星淡は東京出身。
 何故、そんな生まれも育ちも違う――本来なら、僅かな可能性を除いて、邂逅し得ない者たちがこうして昼食を共にするか。

 とある事件があって、須賀京太郎の――いや、この国の人々の生活は一変したのだ。


桃子「また冷やし中華っすか? 片寄りすぎっすよ」

京太郎「……いいだろ、別に」

穏乃「夏だからなー。美味しいよね、冷やし中華!」

京太郎「いや、名前が涼しそうだったから……」

穏乃「それだけ!?」



 “ある事件”の発生の後、一つの学園が作り出された。

 複数の企業やファウンデーションが出資しあった私立高校。
 それが――出資企業の内の一つから取って――“スマートブレイン学園”。
 京太郎たちが通い、暮らす――――学園都市を形成する一大学習機関である。


 入学方法は今のところ編入のみの、全国規模で生徒を集めているマンモス校だ。
 希望者全員に入寮。さらに家族を連れてくる事も可能であるらしい。
 企業倫理だのコンプライアンスだのという言葉があるが、何とも豪勢な事だと思う。

 須賀京太郎も今は、この学園の生徒だ。


桃子「猫舌の男は甲斐性なしって聞きますけど……」

穏乃「へー」

京太郎「……そうかぁ? 噂だろ、そんなの」

桃子「結構噂とか、バカには出来ないっすよー?」


 鴻上ファウンデーション・スマートブレインなど、そうそうたる企業が出資者として名を連ねており……。
 校舎から外れた学園の敷地内には、人類基盤史研究所とかよくわからない施設や。
 或いは、博物館――ミュージアム――といったものまである。



桃子「あ、穏乃っち。そっちの麻雀部で何か流行ってる噂とかあります?」

穏乃「こっちの? ……うーん」

穏乃「憧がこの間、50通目のラブレター貰っ――もがががが」

憧「そ、そうそう! あるわよ、取って置きなのが!」

桃子「なんか急に元気になったっすね」

京太郎「へー、どんなのなんだ?」

憧「ひゅぇ……え、えっとその……えーっと……」

桃子「麻雀部によっても、興味とか別れるから……気になるっすねー」


 これがある種、スマートブレイン学園の特徴。
 桃子や憧の会話の通り、この学園には麻雀部が複数しているのである。

 確かにスマートブレイン学園は、広大な面積と日本有数の企業を資本としている。
 だがしかし、いくら都市を形成し――マンモス校と言っても、この地区の出場枠は1つ。
 それ故に、レギュラーメンバーとして大会に出られるのはただの5人。

 このレギュラーの座を争って。 各高校に存在した麻雀部のコミュニティを集めたメンバーとした集団たちと、  元の学校のメンバーを揃えられず、この学校での――いわばあぶれもの――を集めたスマートブレイン学園麻雀部。

 その中で、学内の大会を行って出場する5人を決定する方式となっていた。


憧「えーっと、あれは確か――」

憧「生徒を襲う、『灰色の怪物と仮面の怪人』だったっけ?」

桃子「あー、うちでも話されてるメジャー都市伝説っすね」

憧「あれ、実は怪物は灰色だけじゃなかった……とか」

京太郎「……」

穏乃「……京太郎? 何かあった?」

京太郎「……いや、なんでもない」



 ◇ ◆ ◇


京太郎「ん……?」

穏乃「京太郎! 一緒に帰ろうー!」

京太郎「おー、帰るか」


 放課後。

 背中を叩かれ、振り向いた先に居たのは高鴨穏乃。
 頭一つ分以上、自分より下の少女の身には未だに気力が充実している。
 どうやら、学校の授業程度ではこの天真爛漫パーカー少女の元気を封じることはできないらしい。

 まあ、こうして誰かと一緒に帰るというのは悪くない。


穏乃「あ、京太郎。憧から伝言!」

京太郎「新子さんか……なんて?」

穏乃「『うちのシズがご迷惑をおかけします。何かあったら、すぐに言いにきて下さい』ってさ」

京太郎「そうか……って、本人を伝言役にしちゃったよ」

穏乃「しちゃってるよ、憧」

京太郎「いや、これ穏乃の話だからな?」

穏乃「そうなんだよねー、うーん……困ったな」


 首を傾げる穏乃に、京太郎も息を漏らす。

 その度にぴょこぴょことポニーテールが踊って、何とも見ていて心が暖かくなる。
 こちらに来てから出来た新しい友人は、全身で喜怒哀楽を表す少女。
 一緒に居て悪い気はしないどころか、楽しませてくれるタイプだ。


 そう思うと――この街での生活も、悪い気がしない。
 “あの事件”があって、この街には――ある種の学園都市には、全国から生徒が集められていた。
 だからこそ、本来なら出会う筈のない縁が出来た。

 ――同時に、本来の縁も途切れることを意味しているが。



京太郎「……」

穏乃「……あー、それとも、迷惑だったりする? 私、そこらへん気を使うの苦手だからさ」

京太郎「いや、別に迷惑でもないぞ。というか、楽しいしな」

穏乃「そっか、ならよかった! 私も楽しいんだよね、京太郎といるのはさ!」

京太郎「ははは。おだてても、何も奢らないけどな」

穏乃「いやー。いらないよ、そんなの」

京太郎「じゃあ、代わりに……帰り道のエスコートをさせていただきますね?」

穏乃「うむ、苦しゅうない! ……とか、言ってみたりして」

京太郎「あんまり穏乃には似合わないよな、そういうキャラ」

穏乃「なんだよなー、残念ながらさー」


 あの事件――。

 日本全土を震撼させた、正に絶望的な事件だ。
 正式な名称は何であったか覚えてはいないが――確か『未確認生命体による連続多発テロ事件』だったか。
 まあ、そんなようなものだ。
 そして名称を知らなくても、その名前で概要は掴める。


 要するに、未確認の生命体が日本全土で大規模なテロリズム的被害を生み出したという、そんな事件。
 武装集団ではないのは、彼らがなんらか特殊な“形態”に姿を変えた事から由来する。
 これまで地球の歴史に――人類の知識には存在しなかった脅威。
 故に、未確認生命体とそれを称する。
 警察や自衛隊の尽力によってそれら生命体は駆逐され、事件は終焉を迎えた――とされている。


 大きな傷跡を残しはしたものの。
 人類は――以前と変わらずとは言えないが――平穏を取り戻したのだ。
 ……そういうことに、されていた。



京太郎「それにしても、部活はいいのか? ひょっとしたら、秋ぐらいにインハイ再開されるかもって話だけど」

穏乃「んー、それなんだけどさ……」

京太郎「……どうかしたのか?」

穏乃「実は私たちさ、半分ぐらい――――夢、叶っちゃってるんだ」

京太郎「へー、叶ってるのか」

京太郎「……聞いてもいいか、その夢?」


穏乃「うーん」

穏乃「何て言うか……その……私たちは、インハイそのものもそうだけど……。インハイに、目的があったんだよね」

京太郎「……それ、どう違うんだ? 俺には同じに聞こえるんだけど……」

穏乃「うーん……実はインハイで、会いたい人が居たんだ。そこに行けば、また昔みたいに一緒に遊べるって」

京太郎「また一緒に遊ぶ……か。なんかいいな、そういうの」

京太郎「でも、半分は叶ったってことは……会えたのか?」

穏乃「うん」


 と、それきり穏乃が口を噤んだ。

 何か問題あることだったのだろうか。
 それとも、人には聞かせたくない話だとか。
 穏乃がこんな顔をするということは――その人とやらが、余程変わっていてしまったということか。
 それとも、あまり言いたくはないが……思ったほど楽しくなかったか、相手が穏乃のことを忘れてしまったか。


 何にしても――。

 いつも元気に溢れてる穏乃がこのように歯切れの悪い、奇妙な沈黙を生んだのだ。
 聞いて楽しい話ではないだろうが――、気にならないと言ったら嘘になる。
 何か相談に乗るくらいなら、できるかも知れない。



穏乃「……和なんだ、その友達」

京太郎「……そう、か」

京太郎「うん、それならよかったよな。ああ……だから今、合同で部活やってるのか」

穏乃「そうそう、丁度よかったんだ!」

穏乃「お互い、団体戦には出られない人数だからさ――、…………って、あ、ごめん京太郎」

京太郎「いいって、気にするなよ」

穏乃「うん、でも……本当にごめん」


 元・清澄高校麻雀部。
 元・阿知賀女子麻雀部。

 どちらも――――団体戦のメンバー五人には、届かない人数しかいなかった。


 元・清澄高校麻雀部は、現在の所属は三人。
 即ち――原村和、片岡優希、染谷まこ。
 このスマートブレイン学園に集められる以前の麻雀部のメンバーからは二人欠ける。

 元々の清澄高校麻雀部の部長であった、悪戯っぽい笑みの似合う女性――竹井久と。
 最後の団体戦メンバーとして滑り込んだ、おとなしい文学少女――宮永咲。
 この二人がいなかった。

 ……京太郎を加えたなら、元々の麻雀部から三人いない計算になる。


 この、いなくなった宮永咲は――須賀京太郎の幼馴染みであった。
 竹井久に頼まれて、それとなく麻雀部に新たなメンバーを加えようとしていた矢先、偶々京太郎は――幼馴染みの宮永咲が麻雀を打てることを知った。
 それから彼女を押しきる形で麻雀部へと連れていき、実際に宮永咲の超常的な闘牌を目にし――。

 紆余曲折の末、宮永咲は麻雀部のメンバーとなった。
 全て、この街に来る以前の出来事である。



京太郎「謝られてもな……。それより穏乃が塩らしい方が、らしくなくて落ち着かないって」

穏乃「……う、ん」

京太郎「第一それを言ったら穏乃のとこもそうなんだから――――お互い様だよな、実際さ」

穏乃「――――っ、だから……!」

京太郎「へ?」

穏乃「だから尚更っ、その気持ちが判る私が……! …………私が言っちゃ駄目なんだよ、京太郎」

京太郎「……」


 溜め息一つ、やおら右手を持ち上げた。
 俯き加減であった穏乃が顔を上げ、身を竦めて瞼を固く握る。肩が震える。

 そこへ――。


穏乃「うわっ、うわわわわっ!?」

京太郎「だーかーらー、気にするなって! 俺が部活に顔出してないのは、別の理由だから!」

穏乃「ちょ、きょ、京太郎!? 髪! 髪ぃ!? というか激しすぎて、痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――!?」

京太郎「あ、悪い……力入れすぎてた?」

穏乃「うー、それはそうだけど……それはそうじゃなくて……うー」

穏乃「まー、いいけどさー。こんな格好でも、私だって女の子なんだよ?」

穏乃「流石にこんな風に頭に手を置かれて髪の毛弄られるのは、ちょっとさ……」

京太郎「……あ。悪いな、本当ごめん」



穏乃「いや……まー、痛くしないで優しくしてくれるっていうなら……別にいいよ?」

京太郎「……あ、ああ」


 なんだかこれはこれで、微妙な空気になってしまった。

 須賀京太郎が、勝手にそう感じてしまっているだけかもしれないが――。
 涙目で髪の毛が乱れた女の子が、それっぽい風にも聞こえる言葉を口にしながら、上目遣いで見上げてくる――という状況に何も感じないほど大人ではない。


 違う意味で気まずい。
 別の理由で気まずい。
 他の原因で気まずい。

 ……まぁ、咳払い一つ。話を続けるとしよう。


京太郎「前にも言ったと思うけど……」

京太郎「咲と部長のことには――――ま、俺なりに整理は付けてるから大丈夫だからな?」

穏乃「……」

京太郎「それより――」

京太郎「『私は高鴨穏乃! 和の友達です、よろしく!』」

京太郎「『須賀京太郎さん、貴方とお友達になりにきました!』」

京太郎「『私が勝ったら、麻雀部に戻って貰いますから!』」

京太郎「――って、勢いよく教室の扉を開けて、早とちりで早合点で早分かりでお節介焼きで無駄元気で友達思いな方がさ」

京太郎「穏乃には似合ってるんだから、あんまり暗い顔するなって」

穏乃「……ううぅ、そのときの話は恥ずかしいからカットで」



 高鴨穏乃との出会いはこうだ。


 まず、いきなり教室に乱入。
 ちなみに、新子憧はその背後を追いかけてきた。それが初対面。

 で、いきなり机の前に来たと思ったらさっきの台詞。
 東横桃子は「恥ずかしい台詞仲間が出来たっす!」と若干期待に満ちた眼差しを向け、
 大星淡は「朝からなーにー? もー、うっさいなー」と気だるそうに突っ伏した机から頭を上げた。
 唐突な事態に硬直する京太郎とクラスメイト。鼻息を荒くする穏乃。
 まぁ……それから、穏乃は憧に引きずられて去っていったのだが。

 なんだありゃ……と、そう思った。正直。

 直後、東横桃子は「修羅場っすか!? 修羅場っすか!?」と目を輝かせて、隣の席の大星淡は「なんか面白そうなことしてるねー」と話掛けてきた。
 なんだか騒がしくなった――というのが、正直な印象。


 以後、時間を変えて昼休み。

 再び、京太郎は呼び出された。今度は屋上に。
 またか、と思いつつ足を運ぶ自分は――まぁ我ながら律儀だった。
 が、屋上は仲良しグループやいちゃこらカップルが居たので、二人は足を揃えて回れ右。

 そのまま、今度は校舎裏に向かった。
 そこでは偶々、ラブレターの受け渡しがされていた。
 とても部外者が会話をする空気ではない。二人揃って無言で頷き、退散する。

 どうしようかと考えて、結局校舎近くの定食屋に向かう。
 校則に抵触するかは微妙なラインだが――取り合えず昼休みの、外への買い出しは許されているので善しとして、店に入る。
 「なんだか……こう、悪いことしてるみたいでドキドキするなぁ……」とは穏乃の談。



 昼飯時だが、流石に学生はいない。

 話をするのは持ってこいだとして、取り合えずラーメン注文。
 そうしたら、ドデカイのが来た。伝統を破壊するような冒涜的なのが。
 京太郎は色々な理由で食べきれなかった。穏乃は汁まで飲み干した。

 あーだこーだと、ラーメンの味について論じながら校舎に戻る。
 そうしたら予鈴。
 じゃあまたと、お互いに頭を下げて別れた。それでその日はお仕舞い。

 翌日、普通に会話するようになって――今に至る。


穏乃「あのラーメン、また食べにいこっか?」

京太郎「化学調味料凄いし……俺、猫舌だからパスじゃ駄目か?」

穏乃「うーん、別にお気に入りじゃないけど……リベンジしたいとか、京太郎は思わないの?」

京太郎「いや、別に……」

穏乃「ま、ならしょうがないっか!」


 明るい笑顔を向ける穏乃に、嘆息する。

 今さっき和の幼馴染みと知って、若干印象は変わったが……結局思うところは同じだ。
 和に、この学園に来てそんなに早く友人が出来て――しかもそれが、多少勢いで行動しがちだが、友人思いの人間であった。
 これに対して京太郎は、素直に良かったと感じていたのだ。


 あの未確認生命体による虐殺事件で――京太郎たちの日々は一変した。

 京太郎は――――古くからの馴染みと、悪戯好きな先輩を。
 和と優希は――――新しく出来た友人と、目的を共にする先輩を。
 染谷まこは――――最後のチームメンバーの後輩と、これまで支え合ってきた部長を。

 それぞれ、失ったのだ。



 京太郎たちが顔を合わせたのなら、少なくともその事実を直視せざるを得ない。
 それ故、足が遠ざかってしまっていた。
 辛い思い出には触れたくないと――皆が、思っているのだ。

 いや、或いは……。

 単に、遠慮をしているのかもしれない。
 自惚れる訳ではないが、個々人の悲しみの受け止め方や感じ方を度外視して語った場合、客観的に見て最も失ったものが大きいのは京太郎だ。
 一朝一夕の友人などではなく――――それでも目標を共にする仲間というのを考えれば、なんら遜色ないと京太郎は考えているが――――昔からの馴染みを喪失した。
 故に、和や優希から向けられる目は必然、相応のものとなる。

 そんな空気の変化が――以前との隔たりが、京太郎の足を部活から遠退かせていた。


 ただ或いは――。

 高鴨穏乃がこうしてアプローチを仕掛け続けているということは、和たちにも京太郎を受け入れる意思というのはあるのかもしれない。
 それとも、痛みを分かち合おうという優しさか。
 だけど何にせよ――京太郎は、幼馴染みを失った男という扱いを受けるというのは確実。
 事実であるし、そんな気遣いを有り難いと思いこそすれ、苦とは思わないが……。


 一度顔を出してみるかと思いつつ、しかし結局はあの部活に戻ることはできない。
 そう考えると――やはり、改めてどうしても顔を合わせようとは思えなかった。


穏乃「ところでさ、京太郎」


 ……まあ。

 きっともう高鴨穏乃は、和たちの為に京太郎と接触するというよりは――。
 純粋に、自分と接してくれているのだと思いたかったし、事実この少女には、そんな打算などないだろう。
 ともすれば和たちから逆に、やめてくれと言われているのも有り得るかもしれない。


 それでも――。

 余計な義務感とか使命感とか、そんなものは感じない。
 単純に高鴨穏乃は、須賀京太郎と友人になった。
 それだけで済む――話なのだろう、きっと。


穏乃「そういう京太郎には、夢とかないの?」



京太郎「……ないな、夢とか」

穏乃「へー。冷めてるんだ、京太郎」

京太郎「……というか、なんていうか、別に夢とかなくてもいいんだよな。気楽で」

穏乃「そう? 勿体ないよ、それって」

京太郎「勿体ない……?」

穏乃「こう、夢があるとさ……」

穏乃「燃え上がれーって感じでガーって熱くなって! ぐぁぁぁぁあって悶えて、それで今度は時々すっごく切なくなってさ!」

京太郎「……なんだ、そりゃ」

穏乃「とにかくまぁ……夢と今の自分が全然違うせいで辛かったりするけど、夢の為に頑張れるのは幸せってことだよ!」

穏乃「それは――嘘じゃない! 私が保証する!」

京太郎「……穏乃が保証してもな」


 夢――というのを、穏乃が言うようなそれを、自分は以前から持ち合わせていない。
 未確認生命体による虐殺事件があってもなくても、多分そこだけは変わらない。
 特段の事情や、特別な理由があるわけではなく――単純に須賀京太郎は、その手の熱中するようなものがなかっただけだ。


 麻雀は好きだし、楽しいと思う。

 だからと言って以前の竹井久らの如く、まさか本気で――インターハイ優勝を目指すほどではない。
 強くなったら楽しいだろう。勝てたらもっと面白いだろうという、そこ止まり。
 必死に切磋琢磨して、全力の不撓不屈で勝負に臨むというほど――京太郎は激しい闘争心を持ち合わせていない
のだ。

 彼の本質は、お調子者な面もある穏やかな気性な持ち主であった。



京太郎「夢っていえば――そういえば、前に言われたんだよな」

穏乃「なんて?」

京太郎「『助けられて、夢みたいだ』って……『生きててくれて、夢みたいだ』って」

穏乃「うーん、それはなんか微妙に違うような……」

京太郎「はは、かもな」


 太陽に透かした手を握って、開いてみる。
 その言葉の感触を確かめるように。

 そこで――。


穏乃「それに、それどんな状況…………って、京太郎?」

京太郎「……穏乃、運動得意か?」

穏乃「まあ、それなりだけど……いきなり、どうしたの?」

京太郎「走るぞ」


 え、と問い返す穏乃は――京太郎の視線を辿り、ハッとした。

 倒れた女子生徒。
 その制服から察するに――確実に、スマートブレイン学園生。
 そう認識した瞬間、身体は彼女の元へと突き動かされていた。


京太郎「――ッ、穏乃!」


 背中にかかる京太郎の声に構わず、駆け寄り女子生徒を助け起こす。
 そのまま、虚ろな表情の女子に呼び掛ける。



穏乃「大丈夫ですか!? しっかりして下さい! 大丈夫ですか!?」

穏乃「今、救急車を――、……………………………………え?」


 抱いた肩の感触を、失った。
 何故ならば、その少女の肩が灰と崩れてしまったから。

 立ち上がる青い炎。
 色を失う、少女の肉体。
 そして零れ落ちる――――灰/灰/灰/灰/灰/灰/灰。


 最後に少女が向けた、恐怖の表情。その目線の先。
 路地裏――。
 そこに居たのは、烏賊が如き意匠の彫刻じみた灰色の怪物。

 杖の穂先が、穏乃目掛けて向けられた。
 瞬間、確信した。
 ああ、自分の命は――――これまでだ、と。


 全てが、スローモーションに見える。
 杖の先端から放たれた、墨汁めいた何かの溶解液の目指す先は穏乃の顔面。
 浴びることで何がどうなるかも知れないが――――きっと、この少女のように灰と化すであろう。

 思えば、短い人生だった。

 お別れも言えてはないし――言いたくないし――やり残したことも沢山ある。
 京太郎の手前、また、穏乃自身も喪ってしまった悲しみの為、諸手を挙げて喜べなかったが――やっと和と打てると思ったのに。
 漸く、再び彼女と遊べると思ったのに。

 残り半分とは言っても夢があって――いや、新たにまた夢が出来たというのに。


 それも、ここまでか――。



 転瞬。

 電光石火の勢いで、高鴨穏乃の視界は移り変わった。
 眼前に迫る黒死の濁液は掻き消え、代わりに何かの感触。
 鼻先が埋まった。
 直撃してしまったのか――と考えるも、苦痛は一切訪れない。


 それから、背中に回された何か。
 柔らかくとも力強い、安心を感じさせるしなやかなそれ。
 これは、腕で。

 つまりは――。


穏乃「……京、太郎?」

京太郎「……猫舌だけどさ。穏乃とラーメン行くの、少しは楽しみなんだよ」

穏乃「え?」


 彼の腕の中に、すっぽりと収まり抱き締められていた。
 どうやら咄嗟にあの瞬間、彼は穏乃を庇ってくれたらしい。
 命が助かった――そう思うと、今にもこの場にへたり込み、彼に縋り付いて息を漏らしたくなる。

 だがそれは、許されない。
 京太郎の眼差しの先に立つは、たった今獲物を仕留め損なったことを悔やむかのような、灰色の怪物。
 危機は未だ――去ってはいない。


 そして――。


京太郎「穏乃、逃げろ」

京太郎「ここは俺が――――何とかするから」


 穏乃の身体を立て直すと、彼は――――須賀京太郎は、両拳を握りながら。

 背後に穏乃を庇ったまま、灰色の怪物目掛けて突撃を開始した。

という、普通にギャルゲーみたいなアギト/555編
今回はわりと普通に平成ライダー×美少女麻雀×攻略もの安価スレだから安心して欲しい

やたら攻略出来ないくせに一般人枠の女の子が多い理由?
それは、見ての通り画面を明るくする為であってそれ以外の理由なんてある訳ないよ?ないよ?(アギト/555ルート)


おやすみー

GWっていつだっけ……?

進行度は今大体半分くらい、大体100kb超えると思うのでお気軽に合いの手入れてくださいね。その方が楽しいから
あ、そんなに鬱々としてないので安心してください。普通のVシネです

おこんばんは


はい、ちょっとVシネ版のトレイラー流しまーす

BGM: 「Cyclone Effect」 https://www.youtube.com/watch?v=kolBIglU_HQ


    ┌───────────────┐
    │  ――スマートブレイン学園都市 .│
    └───────────────┘

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     「l 「l ll |!『ll|: |「|゙.|lllllll|―─────────────‐l| 'lll「「「|:.|ll「「『|!l i====i ll――――┘|lll|lll|l
     「l 「l ll |!『ll|‐'「.!:.|ll' ,‐''lニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニl゙‐, l「「|:.|ll「「『|!lllニニニニll|l|;:.| ̄|ノフ|lll|lll|lll|l
     「l 「l ll |!『!  .,,、‐'゙_‐'ii ii i| ̄|ii ii ii ii ii ii ii| ̄| ii ii ii‐_'‐, .'.! |ll「「『|!l|「「「「「「||l|;:.|  |―‐|lll|lll|lll|l
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     ________________________________________
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     二_l三三三三三三三三三三三三三三三三三.l l 三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三

     ゙゙「、-'i  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l. /  ゙、 .l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l .i''‐-、_ ̄ ̄ ̄
     _,l,、‐'i  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l l___,l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l  l .i''‐-、_ "''‐-、_
     : ..  i~゙゙゙゙""> <""゙゙゙゙~~~~~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  .   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~~~~~゙゙゙゙""> <""゙゙゙゙~i .. . ::"''‐-、_
     :: .. .. i,;;;;;;;;「 ̄ ̄l゙ /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ゙「 ̄ ̄l;;;;;;;;;;i . . .: : : ::

     ::. .. ..i,;;:;:;l    l/:;:::;:;:;:;::;:;:;:;:;::;:;:::;:;:;:;:;:;;:;:;:;:;:;::;:;:;::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::;::;:゙、l    l;;;;;;;;;i . .   : :: ::




   ┌───────────────────┐
   │   この街には――――ある秘密がある  .│
   └───────────────────┘


三三|    |: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
三三|__|: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ::γ  ̄ ヽ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
三三|    | : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : i    .::i: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
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三三|    |__: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ̄ : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
三三|__|  |_\_: : : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ: :,...-┬ 、: : : : : : : : : : : : : : :
三三|    |  |___|\: : : : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :: ∨::::::::ll::::l: : : : : : : : : : : : : : :
三三|__|  | | | | l \\: : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : . ゙:',:::;ィlト/: : : : : : : : : : : : : : :
三三|    |  | | | | |   \|: : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : =--≧=彡=ァrr‐ 、: : : : : : : :
三三|__|  | | | | |     | : : : : : : : : : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /i´:::::::|ト-‐:::::ll Ⅵ:::::l: : : : : : : :
三三|    |  | | | | |     |: : : : : : : :<\: : | |: : />: : : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : ,.ィ7!:::::::::||:::::::::::`l ',\ノ: : : : : : : :
三三|__|  | | | | |     |: : : : : : : : :\\| |//: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :: /::::::ハー-‐ll ‐-‐ Y: ',:::::',:..:..: > ´|
三三|    |  | | | | |     | : : : : : : lニニニ( Ο)ニニニl: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : lミ、/: :∨_:」|___/_: : ',彡{ ´ .| |  |
三三|__|  | | | | |     |\: : : : : : ://| |\\: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ::{\l: : ::[......┬― ヘ  | /} .| |  |
三三|    |  | | | | |     |[]l: : : : : </] |_|: : :\> : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : l:::::l: : :/:‐-::||::::-‐ ∨. l:::::l  .| |  |
三三|__|  | | | | |     |[]|⌒ヽ: : : : [二]: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ::[二]: :l::::‐-::||-‐:::::::ヘ [二] ..| |  |
三三|    |  | | | | |     |[]|_ イ: : : : {III}: : __: : : : : : : : : : : : : : : : : : _____l::r:l: :l:、丶、:||_, ´:::::l_rュ ハ .| |  |
三三|__|  | | | | |     |[]|HHH| : : /TT',::|=|: : : r┐.: : : : : : : : : : : :.|ニ|[][][]`¨´][l::::\_/ロl_::::/lゝー'  .| |  |
三三|    |  | | | | |     |[]|HHH| : ://| |, ',|=|: :r┼┼‐┐__ __ __ __ __|ニ|[][][][][]lト:::::::/][]l:::::::/l     | |  |
三三|__|  | | | | |     |[]|HHH| ://:l圭l:「 ̄|_lH|H|HH||_|__|__|__|__|ニ|[][][][][]ト:::::::l[][]l::::::/l   . | |  |
三三|    |  | | | | |     |[]| ̄ ̄|/lエエエエl二二\=|HH|| __lニニl__|==|ニ|[][][][][]}ミ彡l[][][}ミ彡{    | |  |
三三|__|  | | | | |     |[]|    |: |エエエエ|二二二|}|HH| | ロ ロ ロ |==|ニ|[][][][][/:::::::::l[][][l:::::::::ハ     | |  |
三三|__|  | | | | |     |[]|    |: |エエエエ|二二二|}|HH|_| ロ ロ ロ |==|ニ|[][][][][ト::::::::l][][][l:::::/::l    | |  |
二二二 ̄二二二二二二二二二二二二二二二二二二二 ̄二二二二二二二二ニニl::::\l二二二l/::::l> _ | |  |

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./:.:.:.:.:::::::::i ::.、 ::.丶:::::::::ヽ:::::::::::::::::::::::::.:.:、
i:.::/::/  i |、::::i、:::::::i、::::::::i::i::::::::::::::::::::::::::.:、ヽ
! ! |...::::i、-、:::i、::::::}ハ:::::::|::}:::::::::::::::::::::::::.:.}、|
i......!:::i:::::::::!>ィ!:}、!};ノ |:!:::}:ノ-、::::::::::::::::::::::::lリ   ……お久しぶりです、京太郎くん

 、:{、::{、\|´ !:::::i   !ハ/ '^ ヽ::::::::::::::::::::::!
  `丶` }  <;ン         /:::::::::::::::::::::/
      ノ  ""     r<::::::::::::::::::::::/
      \          /  }::::://::::::/
        ー'           }:;/:/::/
         \_,..-‐r、   //7"´ ̄`ヽ
             /::::iイ::::::::/        \
           /:://:::::::/-― '' " ´  ̄ |
         /:::/ /:.:.:.:イ        } |
       /:://  ;ハ:.:./!{     _   ノ_ |
      /::/'" /! !:/ |:!/ ̄      |

        iハ//  i! !:! !|             |
      //       |! :!/            |
     /         ::i!          |
      /         ::|ー--「`ヽrr'´ヽ   |
     f:           ::|/´ ̄ ̄7ハ.!ヽノニニ|



                ┌──────────────────────────────────────┐
                │   学園都市を、いや日本全土――全世界を揺るがしたとある事件から時は流れ。    .│
                └──────────────────────────────────────┘



               /⌒ _>、/⌒ Y¨¨¨  、
             /´> ´   ,    }      \
             , ´    /     :    、   ヽ
            /     /  '      |  |   ∨    :.
          ー‐イ' /  /  | | l     }  | |  |     .
                / '   ' / |{ |    / /| }  l  |    |
           // / { |-+-|、  | ,-}/-}/- /  }    {
             / ,..イ , 从,ィ=从{ l / ィ=tミ}イ/ /_   从
            ̄´  |∧  {  Vリ ∨'   Vり /' /- }  / }    ……お久しぶりです、小蒔さん
               / 从ム   ,      ム,イ-、/l ,
                  :.            r ' /|/
                 八   __ _     / /
                     、         イ Ⅵ
                    \___  イ   |ヽ
                   「 、 |    r <///|

                   |/}_」    |//////|_

               , <///〈      ,」////イ////> 、
          r--- <////////∧   /////////////////> 、_
         //////////////〈/ }---{///////////////////////ハ






                _. .-. . . . ̄. .゙. . . 、
             , '´: . . . . /. . . . . . . . . .ヽ

            /:;ィ´: : : : :/: : : : : : . . . .ヽ. .\
        _,-─tァヽゝL:_/_:,': : : : : :|: : : : . . .゙ . . ヽ
      ,〃,r‐'7ハ: レ!__,'_ : ;イ | : : : /!!: : : : : ヽ. l . . .、

      /:〃  l: ト、|:.|: ハ Tハ!:|: : : :{ ||: : : :.|: |:゙. .!_l |ミヽ、
     ,':./   !: |: :|::LL_ヽ| !:||: : : ! |'T:‐:-|、: :|: ト、 !| \:ヽ     夜には帰って来なさいよ? ……大事な約束、忘れちゃいないわよね?

     ,':/    .|:.:|: :| ハチ≧ト、|ハ: : :!土_ヽ: :|: |: !:.|. .ヽ!!  ヾ.、
    ,'/     λ:.r=|: |.{:;;::Cヾ  ヽ|チ不≧!/! |: !. ./,'|    ヾ:、
    |l     ハ: | (!: !`ー''     { {゚:;;:C |>|:.!:.|,:'./|j     ヽl
    ||    |: :|ヽト、!:.!"""   '   ` ー'' ,イハ|: |:/.:l      ||
    |:!.    |N:l:.ミト、!:.|  、     """ /ノノ !:.|: _;|      |:!
    |:l  r、 .N:.ト {ヽ: !、    ー    ,イf.l´.:.:|:.j//ハ      l:.|
     i!:|  \\:|:゙、| |:ヽ:|:>、_ .... -≦|:.:.:.| !:.:.:.|,.'/:.:∧      .|:.|
.    从!   l\\:| |: :l: !:|      |ヽ|: !:.:.:.| |: :/ ,イ|:゙、:ヘ      !:.|
    ハ:ト:l   Lf~ヽ `_ヽ_:!|ヽ    ||、-、ヽ:_L`_r"∠!: :!:∧    |:.:!
   ,' :|::!ミ、 | >、ゝ.|´ヽ ヽヽ:ヽ-、 ,.r!::>‐'{ | |ノ|ノ7: |:.:.ヘ.   ,':.:|!
   |,' |!| ヾ,へ.ヽハノ、/ ̄`ヽヾ´ ̄`|::::\_ヽ_!__! .| /|: :.!:.: ∧ ./:.:.:!i!

   |i| !:|  |\,ゝ       |: :ヽ  |::::/´   /` ̄ヽ: |:.: :.∧/:.:.:.:||i!



          ┌────────────────────────────────────────────┐
          │   関係者以外の記憶からは薄れ、その事件を知らぬ少年少女が成長するには程よい頃合い。     .│
          └────────────────────────────────────────────┘



                ,. --- 、        ____
                  /,  ´ ̄ ̄` '⌒´     \
           、_/_/⌒ヽ , /            ヽ
            ,---、  / //    :       ヽ :.
           ,  / ̄-/ /' {   | |       | :
          / __   ̄,./ /-' l| l | |___ l |    |
            .:' /   ,イ _| | |ア__l { { | / }`| |    |
       /       ,:´ | { | l\{从 ∨ィ斧ミ、 |    |   ……流石に未来の伴侶との約束忘れるほど、老けちゃいないって
    /\'´        /{  | 从{__,. \∨Vソ }イ ト、 ∧{
    ////\ r---  ´八 !∧  ̄   ,:  :.:.:  }/ノ/ リ
.   ///////\      \}∧         u 八/
  //////////〉        込、  __    ,.: /
  ///////// /          }>、   ` イ |从
 ,'//////// /   _      /--、l ` ̄ :,   |--、
.///////// /  イ/////\   {////}   /  「///|
'//////// /´// {////////ー '|////|   ,   |///l|
///////////// |l///////////ヽ// \    |////> 、
////////{/////{!/////////////////}--- /////////> 、





     > : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : __

    /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :\
.  /: : : : :/: : : : : :.|: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \
/: : : : : :./:/: : : : :/|: : : : : ト、: : : : : : : : : : : : : : : ヽ

: : :./: : /: : : : : :/ |: | : : : | V : : : : : : : :.ト、 : : : : :.

:/ /: : : : :|: : :.:十―八: : :.:|  V─一: : : :.|: :\: : : :.
  /: : : : : :|: /|:/=ミ、 \: | r=≠ミ、: : : :.|: : : :\ : :.
. /: : : : : : :|/: 〈{ rし心    "rし心}〉: : :.八: : : : |\|   名前は確か――原村和やったな

/ : : : : : 7:/: : : 弋ぅツ     弋ぅツ |: :/^:: : : : :.|
 ̄ ̄  //|: : :|       ,     ,,, |:/ ,:.|\: : |
      |: 从_}              /: |  \|
      |:./ 八    r- ,    /|: /\|
          \        イ /j/
           _>  _ <   |
         f´    |   r=≦ニ三|
         |   >―i   |ニニ三三|__
     ,=≦ニニ/ニ/__   _|三三三三三≧=-




             ┌──────────────────────┐
             │   人に曰く――最後の希望。最強の切り札。     │
             └──────────────────────┘



    __,.ィ ̄ ̄`ヽ/ヽ__

      > ´ ̄  /   `   `、  、
、 -  ´    /   '     } ヽ ヽ\  \
 `  ̄ >'  /   ,: |    ∧/! |   } ヽ  ヽ
   /,ィ  / ' / /|   _/,.ム斗}-/  ハ   :.
  {/.'   ,| ,.|-}/-{ | / ,ィチ斧ミ }/ }  |    .
  /  イ/{ : ! ィ斧从}/   Vzソ ノ /イ ,:          ……原村、和
<__  ´// 从{ Vソ /         / イ- 、  |
     {'{  { ,    '           /' ⌒ }  |
      从Ⅵ              /.: ノ  |
       叭   v_ ̄ヽ      ,rー'   从
         、           イj   / /
            :.          < |'  /}/
            、__   ´    } イ从/
               |        |/
              「 ̄|     「 ̄ ̄ ̄ ̄}
              |//l|     |//////// 、
        ,. <// ∧      |//////////> 、






.         : ´.: .: .: .: .: .: .: .::` 、
     /.:/.: .:/.: .: .: .: .: .: .: .: . \
.    :' .: .:': .: :'========/ハ.: .: .: .丶

   /.: .:::::i.: .: .{.: .: .:/|.: .:/   ',.: .: .: .:`、
.   : .: :: :: !.: .:├‐-:' :|l .;′  |: |.: .: .: :
   i.: .: :: ::|.: .: .ト、.::{_.八{:     |/|‐|.: : l:|
   |.: .: :: ::|.: .: .|ィ竹气        |/| .:/|:|    ……強か男になったな、京太郎
   |.: .: :: ::|.: .: .| 乂:リ     ,示、ノ ' |:|
   |.: .: .:::(|.: .: .|   ,,       vソ ,′ |:|
   |i: .: :: ::|.: .: .|         ' ,,     }'
  八.: .::::::|i: .: .|       _     /
  ___∨/::八 .: ト、

  |  〉=|F`ヽ:|::::::......__,.... イ__

  └‐/ .: |_/ :'}   :;__ト|=〈   |
  ,.  -‐=  \   / ト、.: .l\_|



                   ┌──────────────┐
                   │   静かに噂される希望。     │
                   └──────────────┘



                ,.  ⌒ヽ、/⌒ 、-- 、
               /_,..-         ヽ  `  、
             / /´     /    ∨   \
                ,  ´      / ,'     :    、 ヽ
           /   ,    , / /|  |  :.  | | |    ∨
         _/   / /  |_|__'_|  |   _}_|_|_| |  | :
         ̄ ̄´/ イ '  { ´| |/__{  |: , ´/}/_}∧ |  | |
            / / , rⅥィ笊 从 {∨ /ィ笊_ヽ}/、 | |

            / イ ∧{ 从 Vり \∨' Vり /' / ∧{
            ´/イ }从lム     ; \     ,ノ /  \   ……護りたいもの増えましたからね
                    | ∧          ∧,イ
                   Ⅵム    -  -    イ //
                _ヽl\       //イ__
                |////} `  ー  ´「////|
                |////|  :.   / |/[__}/|
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          , <///////////\   ///////////> 、
        , </////////////////}____{/////////////////> 、
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: : : : : |. : : : : :i |: : : :i:|. : : : ∧: :、.i. .i: : . ` 、
.: : : : : !: : : : : | |、: : :| | : : i | !: :|:| : |:、: : : : : : >
: : : : : :| : : |: i 「! ヽート!、: : リ  !: |ハ: ト : | ̄ ̄
.: : :,..-、|: : :i: :|: !゙、 _、!二゙、-| イ: リ ! |ヽ:|
: : / へ.゙、 :丶ヾヽ<´{::::i` ヽ! 1!|:/| :!ノ゙、リ

: :ヽ    \ : :!丶   ̄     Vイ:ハ |\:i
.: : 丶    \゙、        `> リ  `     ……なあ、いい年して魔法少女って名乗っていいのか?
ヽ: : :`┬ 、  ヾ          /
  i: ;ィノ          ,....-ィ /
,,:‐レリ    _       ̄ /
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::::::゛== 、 \   / ̄ヽ、
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           ┌─────────────────────────────┐
           │   絶望に抗うものが、最後に身に纏う事が出来る最強の武器。   │
           └─────────────────────────────┘



      /   / ,r ====ヾi/r=' ´ ̄ ̄`ヽ、:`:ヽ、
     /    / ム--,-,- :/: ヾ: :'´: :/ :ヾ: -、. r-、
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    /:イ: :i: : :|: : : : :l: : : : ト ,r'//i}゙ヽ     _/__|:/ |: :l: : : :i.|   名乗ってないっての、バカ兄貴!
    l:/|: :|: : : l:__ : : ヽ: : :|  ゙ー' '       イ/r-、, |:/: : /l:|
    !' .|: :l: : :,>,-、ヽ:|ヽ: :| ヽヽヽ       !,-'リ ' /: : :/ |:!
    | .l: :|: : { { /,>  ヽ{         '  `゙゙  /: : /  /
    |  l: :l゙、:ヽ 、_ ゝ,      ,. -- 、    ヽヽ/: :/
    !  ヽ!ヽ: :ヽ二´__    / ´   `,ゝ   -'イ
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            __/:/ : \::/ : : : : /|.:.: : : :.l\: : :\/:、:\
         _____/: : : : :/:./: :/ |:|: : : : l  \: : l: : : \:.:\
      //    /: : : : :./:.//___,ノ|:|:: : :./\_|:.:∧: : : : \:.:\
.     〈八  /: : : : : :.∧:.{ァ斧==ミ|:|:.:/ァ==斧ミ/ ∧:: : : : ::\:/〉   きょーたろ君の泣き顔ってそそるけん……よかよ?

      \ヽ/: : : : : : /、 ∨ 乂)炒'^ノ'   乂炒 |_/: :‘, : : : : :∨
          ∨:/: : : /:l : 个ヘ ´:/:/:/:/:/、/:/:/:` 从: :/:∧: : : : : :;
.        /:/: :/./\八:.:.| : : :.    /⌒=- 、_ .:: : :.:/:/ }:.|:.|: : /
.         l八:/l/  / ̄ \/〕iト ノ==--    \/}/ ,ノイノ}: /
            /      \ ∨==--       \\   .ノ '
             |         |└┬‐ 、‐、―‐    ∨!
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             │   人の手に負えず、人の身に耐えきれず、人の心を食い荒らす怪物と戦う仮面の戦士。  │
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            ,.  ´ ̄ ̄ `  、__
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     /イ ,.. 、イ /}/⌒ヽ、/´   // /   、   、
       { { Ⅵ /   Vオ {从 /-}/-、  }  、 \
       | |  {/       ∨ィ=、}/  ,  |、 }  ̄
       / 乂   u      ::::::: Vソ' ,l ∧l |
        /イ , 八   ,...、    '   /ムイ,'∧ |        ……なんて時代だ
      /\ /  、 〈- 、\__     ム/ /   \
>----イ///\   .  `  ー '  イ/从
////////\///    、   .  ´
//////////\{    /`¨¨ 、

////////////>、  {、     〉
/////////////(_)}   ∨、_,イ/\
///////////////`¨¨¨|/\////\

//////_,. --- 、//|    |///\////>--、
/> ´   --、 ∨ム  //////////////}
     ´¨¨ヽ\〉 ∧///,イ/////////// |
        - \///{/イ//r- 、///////∧


┌────────────┐
│   その名も――――    .│
└────────────┘


/     ,     /   /   / /             |   |  :.   .   :.
    /     /   /    '    |   |     |   |  i|   |    .
  イ        '   /|    /|  l   |   |     |   |  l|   |    |
// /      |   | {   ' :.     |   |     }   |  l|   |   {
 ' 〃         |   |  | |   ト,  :     /| /| /|    '  ∧|
/ / .'   ,:  ' Ⅵ |_'. |  | |   | l   |     ' }/ }/ :  /  .イ `\
{/ /   / /  / {  |  Ⅵ≧!、,|   | 、 |   _/ム斗七    /:. / }'        いるさ、ここに一人な!
 '   ,イ / | { 从 | イ  {::しメ∧   l  Ⅵ   イ {::し刈 `ヽ'  ' }/
'  / /イ Ⅵ :.  Ⅵ    Vzり \  、 }  /  Vzり   }/  /
/        | 从   |            \ ∨/        ,  /
       _∨∧ :.             ` \           ,:_ノ> 、_
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          /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |
       / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | |
.      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |         任せてくれ。最後の切り札は、俺だ
     /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{
       /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__
.      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:.
.       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.
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   .:/ /'  = フ'¨,r ュ,rフ/二二フ/  7´' ∠/ ∠¨_ / ,. '′  ,..,.  ,/    ./    ,..'.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:_ ,._-==== ァ
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という訳で以上です


投下については、5/3または5/5の2000をお待ちください
近くなったらまた、改めて書きます

連絡遅れました
5/5でお願いしまーす

予定通り、2000から開始しますー

20時から始めます
大体2分間隔で落としていくので、合いの手とか適当に挟んじゃってください。このスレで終わる内容なので

っしゃあ、行きましょうかー


V死ね版の投下でございー








           「第一章:Jという二つ名/最後の切り札」








 

 

 ――スマートブレイン学園都市。


 都内に存在するその学園は、中学から大学。

 最近は付属の小学校や幼稚園をも設立させ、まさに一大教育都市を建設させている。

 そんな学園の存在する街の、とあるビルの一角。


 そこに彼は――彼らは居た。



 年代じみたタイプライターを前に、黒い学生服を思わせるスーツの青年。

 英字新聞を広げて、顔に被せるようにしつつデスクに足を投げ出し、目を閉じる。

 そのほど近くのデスクに腰掛ける女性は、パソコンを前に眉を寄せる。


 最新式のタブレット、スマートフォンを卓上に並べて時折クリック音を交えながらタイピングを行うその指は細く白く、

 桜色の爪からは彼女の瀟洒さや或いは垢抜けた様を察するには容易い。

 憂鬱そうに髪を掻き上げてコーヒーを啜る様子は、それだけで一枚の絵になるような美しさを伴っている。



 一つの部屋に同居する現代と過去。


 青年の鎮座する一角は古風――悪く言えば時代遅れや時代外れと言った風貌であり、ともすれば胡散臭さを感じるほど。

 一方の女性が形成する一角は正しく現代風であり、弁護士事務所や或いは会計監査・司法書士の事務所を思わせる。

 それらの対立が、ますますこの探偵事務所を胡乱としてそこはかとない信用の無さを作り出す。




 というより、正確に全体を描写してみよう。


 まず、部屋自体はそう新しいものではなく、壁紙も燻んでおりレトロ風。

 証明もそう明るいものではなく、今は窓から入る陽光の方が強い。

 しかし、置いてある機材はどれも新しい。黒革の来客用ソファーも、テーブルも、作業用のデスクも。

 古いのは青年の周囲だけ。

 そこは置いて行かれた物悲しさや、或いは青年の静かなる頑固さを主張している風。


 何ともちぐはぐな内観であった。



 しかしこの探偵事務所には――ある秘密がある。


 学園都市を、いや日本全土――全世界を揺るがしたとある事件から十年。

 関係者以外の記憶からは薄れ、その事件を知らぬ少年少女が成長するには程よい頃合い。

 静かに噂される希望。絶望に抗うものが、最後に身に纏う事が出来る最強の武器。


 人の手に負えず、人の身に耐えきれず、人の心を食い荒らす怪物と戦う仮面の戦士。


 人に曰く――最後の希望。

 そう、“最後の希望”……だ。






                                            ,.ー-‐.、
                                          ヽ、   ヽ  __
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      .:_______.: . . . . . . . . . . . . . : '          ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\       /.:.:.:/,.r ''´.:.:.:.:.:.:.: ̄` ー .''´.:.:.:.:.:.:/
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 /K A M E N  R I D E R _   _ .           ,.'⌒   `,. l   !  ー"ヽ ^  ,'.:.:.:/         l.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ__/ ,'
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                               l  、 ヽ   、-、 ,.-, ,' r‐、ヽ `ヽヽ  j  ノ                    ,'.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,.'
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「京太郎!」

「おう、どーした?」


 緩やかに身を起こし、青年は新聞を畳む。

 それから、淹れてあった珈琲を啜り、首を鳴らす。

 彼こそが――この探偵事務所の所長である。


 百八十を超える長身に、すらりと伸びた手足。

 くすんだ金髪と赤褐色の瞳からは、その人の好さや温和さが見て取れる。

 しなやかな肢体からは、見る人間が見れば、控えめな主張ながらも彼が荒事慣れしていることを感じさせる。

 誠実さというには若干の調子の良さが滲んで出るあたり、友人としたら楽しいだろうが、頼りがいのある男と言われたら小首を傾げる風情。


 実際のところ彼は、依頼者からも初めは軽んじられて見られがちだ。


「警察から依頼よ。……例の、行方不明者関係」

「警察か……まだまだ、笛吹さんも大変ってことだよな」


 彼に依頼を告げるのは、桃色がかった茶髪の女性――新子憧。

 勝気さが滲む猫の如き瞳からは、信念と気前の良さと知性が覗く。

 計算の高さや或いは処世術の巧みさといったものも窺えるあたり、彼女を見たなら誰もが「出来るいい女」と考えるであろう。


 腰ほどまで伸ばした長髪は左右に止められている、ツーサイドアップ。

 ここだけは、十年以上変わらない彼女のトレードマーク。触角みたいだと呟いた須賀京太郎は、鉄拳制裁を受けていた。

 赤い縁の眼鏡をずらして身体を伸ばす動作は何とも様になっており、それだけでやはりどこかのドラマのワンシーンのよう。


「セーラには感謝しなきゃね。おかげで、こんな零細探偵事務所がやってけるんだから」

「……その零細探偵に借金してるスタッフがそれを言いますか」

「あたしは出してなんて言ってないもーん。あんたが貢いでくれてるだけ」

「いや、そうだけどさ……」

「細かいこと気にする男はモテないわよ? お金関係とか、特に」

「……いい性格してるな、本当」



 やれやれと、溜め息を漏らす京太郎。

 とある事情から新子憧が背負った膨大な借金を、彼は肩代わりしていた。

 こうして話題に出すのはあくまでも彼らなりの諧謔であり、ちょっとした小突き合い。


 須賀京太郎は本気で新子憧に借金について恩を着せるつもりなどはなかった――それに見合うだけの対価を、彼女からは借りていた。

 もっとも新子憧もそれに甘えるつもりなどはなく、あくまでも仕事の成果で彼に返済する気概である。



 朝には遠く、昼とも呼べないそんな時間。

 言うなれば午前だろうが――デスクの上で足を組んでいた京太郎は、立ち上がりコーヒーを飲み干した。

 行儀が悪いから止めろと言われているが、退屈な日は顔を帽子で塞ぐか新聞を被るかして、こうやって過ごしていた。


 いつも変わらぬ、学生服染みた黒のスーツ姿。

 それが青年――私立探偵、須賀京太郎のスタイルだ。



「今から行くの?」

「ああ、悪い予感が本物になる前にな」

「何格好をつけてんのよ。似合わないって言ってるじゃない、そーゆーのはさ」

「……はい。行ってきます、はい」

「あ、ご飯はどうするの?」

「外で食うからいいって。なんか適当に」

「夜には帰って来なさいよ? ……大事な約束、忘れちゃいないわよね?」

「……流石に未来の伴侶との約束忘れるほど、老けちゃいないさ」


 笑いを零し、帽子を突っ掛ける。

 ロートルばりの、典型的な探偵ファッション。

 むしろあからさますぎて、ドラマや映画の撮影に間違われかねないほどの、あまりに型に填まったスタイルである。


 その所為か、柔和な風貌と相俟って二枚目半の雰囲気を纏っていた。



「……はぁ。格好つけ」

BGM: 「俺たち二人で一人」 https://www.youtube.com/watch?v=e-EouE0vmeg



「あれ、須賀君……仕事?」

「ああはい、これからちょっと」

「そ、頑張って」


 須賀京太郎の借り受ける探偵事務所の真下はボウリング場。

 鷺森ボウル――その店長、鷺森灼は箒片手に階段を降る京太郎へと笑いかけた。

 彼も彼女も、十年前の事件の関係者。


 灼は変わらずの外見。妙齢の女性と言うには幼すぎて、ひょっとすれば未だに学生と言っても通じそうな体躯。

 違いと言えば、かつてはおかっぱであったその黒髪を肩に掛かるまで伸ばしているところか。

 掃除をするときも嵌めているボウリンググローブに、知らず京太郎は顔を綻ばせた。


 何度か慰安として、探偵事務所のメンバーとボウリングに向かう。

 まあ、メンバーと言っても先ほどの新子憧しかおらず、大概は憧に負けてしまってそれで終わり。

 鷺森灼と、この街に来る以前からの馴染みである憧は、どうやら密かにボウリングのコツを教えて貰っているらしかった。

 ちょっとズルくないかと思うが、そういうちゃっかりとした要領の良さが彼女の魅力であるので、黙る。



「そう言えば」

「はい」

「なんだか最近、色々とよくない噂を聞くんだけど……それ絡み?」

「それは後で聞かせて貰いますとして……。えーっと、その……守秘義務で」

「それ、答えているのと同じだと思……」



 困ったなと笑う京太郎に、灼が溜め息で返す。

 それじゃあと手を上げて、京太郎は灼の横を颯爽と通り抜けた――が、水を巻かれていた下の段に滑り、転びそうになった。

 困ったような笑みに、灼は再びやれやれと返すのだった。


 ボウリング場。

 これも中々古めかしい遊びと言えば遊びであるが、体を適度に動かすのに行える手軽さと言ったらない。

 故に未だに学生やサラリーマンの客は絶えず、灼の耳にも街の噂話を届けるのだった。


 だから今は、情報源として須賀京太郎の手伝いを行う形となっていた。



(行方不明者は……スマートブレイン学園の生徒、中等部の一年生か。名前は……青山士栗。家族構成は姉との二人暮らし)


 プリンターから印刷された依頼用紙を眺める。


 個人情報保護の観点からそれは秘匿されてしかるべきものだが――ともすれば大事に発展する可能性もあるこの事件、多少の法の逸脱には目を瞑って貰おう。

 簡単な履歴書程度のそれは、警察に提出された捜索願以上の意味はない。

 写真を眺める――桃色の長髪、腰まで。瞳は青みがかったグリーン。中学生一年生とは思えないナイスバディ。

 昔ならどうか判らないが、流石にいい年齢。

 少女にその手の目線を向けると言うのは論外と言うのもあるし、何よりも愛する人一筋なので特段思うところはない。


 ただ――それとなく人気があるだろうなとか。優しそうだなとか。あまり派手な遊びはしないなとか。自分から事件に巻き込まれる立場にはありそうにないなとか。


 その手の、冷静な分析を行うだけ。

 物事に対して先入観を以って捜査――調査に当たるのは、この手の職業については鬼門。

 故に見たままの印象は見たままの印象として脳に留めて、本格的に考慮に入れるのはその他の情報。


 しかし、自分がどう見たか――即ち「他人がこの少女をどう見るか」と言うのは、何を探すにあたっても有用となり得る情報である。



 基本的に人間は、まずは見た目で判断する。

 そしてその判断を基に評価を下すのだ。この女は大人しそうだとか――或いは派手そうだとか、そういった具合に。

 そんな評価にそぐわない行動が行われていた場合、人は脳に強くその違和感を焼き付ける。派手な印象として現れる。


 たとえばヤクザ者がファンシーグッズの前に居たのなら、誰かしらは友人との会話でその事を話題に上げるだろうし。

 或いは、年配のサラリーマンが昼間から公園に佇んでいれば、何かしらの不幸を連想する。

 もしくは、落ち着いた進学校生がスタンガンを購入していれば、何事かと不審に思うだろう。


 思った以上に人は人を気にしないし、人は人を気にしている。

 だからこの手の第一印象というのは――調査するに当たっては、手がかりの一因を担う事も多い。

 外見は京太郎の判断道具にはならないが、しかし調査道具とはなるのだ。

 



(やるとしたら――まず、セーラさんから詳しい話を聞いて、次には担任教師に。それから、家族のところか)


 用紙を畳み、手帳にしまう。

 これまで起きた事件が簡易に記された手帳。京太郎の戦いの日々。

 探偵は足で稼ぐのが基本だ。捜査百篇。警察もそう、代わらない。

 取り出したるスマートフォンで、早速アポイントメントを取得する。


 十年前の知人/十年来の友人。


 共に苦難を乗り越えた仲間――その絆は、安くはない。

 もっとも流石にお互い、顔パスで出来るほど容易い立場ではなくなってしまっているが。






 待ち合わせの喫茶店に訪れた。

 待ち人は――まだいない。


「お、須賀さん」

「どうも、マスター。ちょっと待たせて貰ってるけど、大丈夫ですか?」

「俺の方は構わないよ。折角のお客さんだしね」


 広川大地――その青年は、京太郎に笑いかける。

 かつてはサッカーを行っていて、インターハイでもいいところに言ってプロ入りしたが、脚の怪我にて引退。

 それから、こうして趣味の喫茶店を始めたのだ。この街に戻って。


 京太郎とは顔なじみ。

 喫茶店というだけあり、やはり情報や噂話を耳にする事も多いため、京太郎もしばしば情報収集に利用する。

 大地は京太郎の情報提供者――というだけではない。


 かつて、凶暴化した同級生――森永幸平と言う名の――に襲われているときに、京太郎が助けた。

 それ以来、十年。

 そのときは御互いの名前も知らなかったが、つい先日顔を合わせて、それから交友が始まった。

 



「いらっしゃい、京太郎さん」

「あ、ありがとう。いつもので」

「マスター、いつものだってー」


 ライダースペシャルと名付けられたそれ。

 それはこの店で働く二人――そして京太郎にとっても、馴染み深いものだ。

 このウェイトレスの少女、仁科武美と京太郎に直接の面識はなく、お互いの関係は単純に客とウェイトレスでしかない。


 しかし武美はかつて、救われた。

 京太郎ではなく、京太郎が灯した炎に導かれて己の命を燃やした、一人の男によって。

 その男は、風になった――この街に吹く風に。


 かつては同郷であり、敵味方となり、最期には戦友だった一人の男。

 内木一太――――仮面の下に躰の/心の火傷を隠した、一人の戦士だ。

 直接その最期は見ていない。だけれども、きっと彼ならば最後まで前のめりだったとは、想像がついた。



「マスター、何か変な話とか入ってないですか?」

「うーん。……やけに家出人が増えてるとか、知り合いがいなくなったとは聞くけど」

「……。話題に上がった人物の名前とか、判ります?」

「ちょっと待ってくれるか? 一応、メモはしてるから」


 金属製の鈍色を放つポットが火にかけられる。

 取り出したるコーヒー豆を引きながら大地が戸棚を開けるのを、京太郎はカウンター越しに眺める。

 深入りのマンデリンとモカのブレンド――香りと苦み、そしてコクと僅かな甘味を感じさせるブレンド。

 矛盾や或いはどことない物悲しさ、そしてガツンと襲い来るコーヒー豆の風味。それが頼んだ、ライダーブレンドだった。


 さてどうなることかと、店内を見回す。

 流石に平日の昼に至らないこの時間に学生が要るはずもなく、看板娘である武美が常連らしきサラリーマンと談笑しているのみ。

 彼女が身に着けた、「N」を思わせる古代文字を表す髪止めを眺めながら、京太郎は店内を満たす珈琲の香りを鼻腔に満たした。

 




 この街に来て、暮らしてから長い。

 ここに住む人々とはそれなりに顔を合わせてきてはいるし、自分自身第二の故郷と呼んで差し支えないほど愛着が湧いた。

 十年経てば、街としても落ち着きが生まれる。

 だからこそ、街に潜む悪の気配に――その兆候に、京太郎は眉間に皺を寄せざるを得ない。


 十年。


 この街は、未だ年若い。

 故に街としても成熟に至らないための不便もある。同時に、熱意や活気に満ち溢れている。

 暮らす人々もまた同様で、昔日の想いは押し流されて、前へ前へと進んでいく。



 在りし日、こう言われた。


 ――この街は欲望に満ちている、と。


 欲望故に衝突し、衝突は摩擦や軋轢を生む。そして摩擦や軋轢は再び欲望へと還元される。

 欲望――即ちは願望や希望。

 そして、希望があればそこに絶望が生まれるのもまた必然であった。


「お待たせ。読み上げた方がいいか?」

「いや、ちょっと見させて貰えばそれで十分です」


 メモに目をやる。


 そこには話題に上がった名前と、そして話題に上げていた人物たちの簡単な特徴が記されている。

 ざっと眺めて、記憶。いずれ自分のところに、何らかの形としてそれが訪れる可能性もあり得る。

 しかしながら、目当ての人物は見当たらない。

 という事は――少なくとも、ここに記された客層が当たるような場所には向かっていないとも言えた。


 もっとも、この街の全ての人間がこの店に顔を出すわけではない。決めつけるのは、早計だが。

 








 「第ニ章:失われたO/過去からの追想」







「ちわーっす……って、もう京太郎来とるんか」

「女性に待たされる趣味はあっても、女性を待たせる趣味はないんで」

「はは、その格好らしくてええ台詞やな」


 水を勢いよく飲み干す江口セーラの、その快活さは変わらない。

 その赤い目を不敵に輝かせてあたりを見回す彼女は、今では、特殊犯罪や特殊事件に対する警察官だった。

 ぼさぼさと跳ねたライトブラウンの茶髪。後ろ髪は伸ばしているらしいが、今は纏めて結わえてある。

 やはり活発的な気風のいい良くも悪くも男前の女性であるが――一度、丁寧に憧によって髪を梳かれたときは、どこにでもいる長髪の美女となった。


 当人は二度とやらないと言っていたが、どうやら尾行に変装を用いる時などには使用しているらしかった。


「とりあえず、今回の件について手短に纏めるで?」

「お願いします」

「この――青山士栗が失踪したのは三日前。失踪届を出したのは、姉の青山和。
 妹が姉に言わず急にどこかに行くなどと言う事はないので、そもそも帰宅しなかった当日に届を出したかったらしいんやけど――まぁ」

「一日で失踪なんていうのは、無茶がすぎますね」

「そーなんやなァ……ま、真っ当な警察なら動かへんな。実際姉の和も、知人にそう言われて待つ事に決めたらしい」

「……そこらへん、制度的な問題ですね。ひょっとしたらそれが命取りになるかも知れないとしても」

「わぁってる……やけどまあ、失踪者を一々受理してたら警察も回らんくなる。最低限、ある程度見させて貰わんとな」

「……ええ、俺も分かってます。無茶だってのは」

「家族がどう思ったって、結局ただの家出とか夜遊びってせんもあるからなァ……こればっかりは、警察じゃどうにもならんわ」


「ま、自分から言っておいてアレですけど……警察に出来ない事をするために、俺みたいのがいるんですしね」

「京太郎は身軽やもんなー」

「逆に不便もありますけどね。……どこまで行っても、私立探偵ですから」

「ま、そのために俺がおるんやけどな」

「……これ、警察と民間業者の癒着になりませんかね?」

「なら、コーヒー経費で落としにかかるか?」

「まさか。駄目ですよ、お巡りさんが法を犯しちゃ」

「俺らは取り締まる側やもんな。……今なら笛吹のおっさんが言ってた気持ちがよー分かるわ」


 「まだ口煩いんやで、あの人」――とセーラが笑う。

 どうやら件の眼鏡の警視(今は警視長で部長である)は、直接の上役である。

 しかしその笑みが満更ではなさそうなあたり、いい関係なのだろうと思う。ひょっとしたらいずれ彼と結婚するかもしれないな――なんて。

 まあ、十三歳差は色々ヤバそうだが(確実に男に向けられる目が)。


 そうなったら、出来る限り祝福しようとは思っている。

 




(……和か)


 失踪した少女の外見。そして、その姉の名前は京太郎の胸に言いようのない寂寥感を齎す。


 結局あれから十年、京太郎は清澄メンバーを探せず終いだ。

 探す手段など山ほどあるし、己が探偵業をしているというのもそう。だけれども手を出しがたい。

 どこかでやはり、失うことへの無意識的な忌諱反応があった。正確に言うのなら、失ってしまったと明確に分かってしまうことへの。


 どうにも感傷的な性質は抜けない。

 それでも前ほど浸らなくなったのは大人になった証か。それとも単に、こうして人は痛みに鈍くなっていくのだろうか。

 なんて思考を即座に打ち切る。

 それよりはこの少女を見つけ出す事が先決で、彼女の姉の不安を拭う事が何よりも優先されるべき事。



「それで、どうするん?」

「そうですね……当座は聞き込みしかないですね。現時点じゃ情報が足らない」

「って言うと、街の情報屋と……それとこの、青山士栗の家族か? 俺らの方でも話は聞いとるんやけど……」

「俺の方からも、改めて聞いてみたいんですよ。……あとは学校の担任ですかね。クラスメイトから聞ければ万々歳だけど」

「中学生相手は、難しいな。そこは京太郎の腕に期待ってとことして……担任って言うと――」


 天井を仰ぐ江口セーラ。

 考えるのは不得意と言っている彼女であるが、それは「意味もない事を考えるのが苦手」であって、大事な場所は外さない。

 特にこの手の仕事に関わる事、事件に関わる事なら猶更。

 まさか担当教諭の名前を忘れているなどという事はないだろうが――。


 そこで彼女は、詰まっていた骨が取れたかのように目を開いて、手を叩いた。

 それから発せられた一言は、京太郎を驚愕させるには十分すぎる言葉。

 



「あれや。原村和やった、そうそう」

「――――。はらむら、のどか」

「な、教師と姉の名前が同じなんておもろいなー。事件が事件なだけに笑えんけど、おかしな偶然もあったもんやな」


 そこから先の、彼女の言葉は耳に入らない。

 幾度となく京太郎の頭の中では、セーラの発した言葉がリフレインされているから。

 原村和が生きていて、いつの間にか教師としてこの街で働いており、そして――今回の事件の関係者。



 生きていたのなら、せめて連絡の一つでも入れてくれたらよかったんじゃないだろうか。

 ――――これは京太郎も同じだ。和に対して自分の生存を伝えてない。


 どうして巡り合う事がなかったのか。

 ――――これだけ狭くて広い街だ。自分と職業が異なる彼女が、出会う確率というのはそう高くない。


 とにかく彼女は元気でいるのか。

 ――――教師をやっているのだから、そうに決まっている。



 いくつもの問答を頭の中で行い、それを咀嚼し、同時に混乱し、そしてまた咀嚼するというルーチンワーク。

 思う事は沢山あるし、言いたいことだって聞きたいことだって同じだけ。

 彼女の十年、自分の十年――何があったのか、是非とも話してみたくて一杯になる。


 だけどもそこで、自分を諌める。


 確かに感傷的な性質であり、どうにも非情に徹しきれない一面もあるが――これは仕事だ。

 実際に年頃の少女が一人失踪している。そんな事件。

 その最中に私情を交えて思い出に浸り、過去に酔うなどとという事はあってはならない。


 終わった後でいい。

 この少女を見付けて真相を突き止め、それからの話でいい。

 



「……セーラさん」

「ん、どした?」

「アポイントメントを取って貰えますか? 青山和と、原村和それぞれに」

「……せやな。俺も同行した方がええかなって思っとってんねんけど、これからちょっとやらなきゃアカン仕事があるし……任せてもえーか?」

「一応、警察からの紹介ってことにしてください」

「りょーかい、や」

「まずはこの事件を見極めないと……これがただの家出なのか、事件に巻き込まれているのか。それとも……」

「……“そっち”の可能性にしても、件の士栗ちゃんがどうなってるかによる――ってとこやな」

「ええ。下手したら、被害者ではなく既に加害者のパターンもあり得るんで……。そこを見極め損ねると、最悪になる」


 失踪者の探索に於いては、むしろそのパターンの方が多かった。――これまで京太郎が見てきた数々の事例では。

 初めてそれに出会ったのは、探偵業もある程度続いてきたと思ったその日。

 横流し品であるガイアメモリを使用したドーパントが起こす怪事件、或いは時より迷い込む逸れイマジンに当たるために探偵になった。


 そんなある日だ。


 音信不通になってしまった恋人を探してほしいという、そんな依頼。

 仕事自体はいつもと変わりない。

 かつて作った人脈を生かし情報を集め、そして推理して行動を類推する――それだけの話である。

 しかし、いつものように進まない。まるで網に掛からない。

 不審に感じた。人間というのはある程度の行動のパターンを持つはずなのであるのだが……。


 そのあたりで、事件性が高いと京太郎は判断した。


 初めは――言い方は悪いが、そのような強制的な自然消滅での破局という形を選んだというのもあり得るから。

 しかしそれでも、全く以前の思考と同じ行動を行わないというのはあまりにも異常過ぎた。

 監禁か、それともともすれば死亡しているか――それも考慮に入れるべきだった。



 そして、まるでその人物と関係のなさそうな場所で遭遇したその女は――恋人である男から聞いた人間とは大きく異なっていた。

 怪物に姿を変え、人を襲おうとしていたのだ。

 ドーパントとは異なる力の持ち主。大きく隔たる怪物。

 地球上の伝承の内にしか存在せず、この星にそのように刻まれた記憶はない。

 となれば、契約した誰かのイメージによって実体を得る怪物イマジンか。


 しかし――イマジンか、それとも……。


 その時は辛くも撃退に成功したが、撃破には至らなかった。

 それから京太郎は、問いかけた。

 イマジンと言えば――彼女しかいなかった。

 




「お久しぶりです、小蒔さん」

「お久しぶりです、京太郎くん」


 神をその身に降し、人と神を繋ぐ憑代となる巫女。

 そんな生まれ持った特性と共に――彼女は“時を記憶する特異点”として、時間を守るために戦っていた少女。

 心優しく、そして強い女性であった。

 たとえ弱くとも、恵まれなくとも、運がなくとも何かを諦める理由にはならないと――そんな信念で戦った女性。


 彼女は卒業と同時に、生家である霧島神宮へと戻っていた。その眷属である六女仙と共に。

 そして以前と同じく、心霊的な事象の相談を受け付けていた。

 その時に彼女は、ある事例と出会う。すなわち――。


「……ファントム?」

「ええ……。人の希望を喰らい、絶望へと導く――そんな怪物です」


 魔力を持つ人間=ゲートの心にある希望を全て破壊し、絶望の淵へと叩き落とす事で――人はファントムと言う魔人として再臨。

 ファントムは同族を増やすために人を襲い、人々の希望を踏みにじっていく。

 それが去った後に遺されるのは絶望。希望という名の苗は枯れ果て、掘り起こされ、刈り取られる――心の終焉。


 麻雀に於いてのオカルト能力というのは、ある種魔力に通づる――――というよりも、どちらも不可分なほど似ているし、ともすればオカルトというのは魔力の発現の形。

 例えば神代小蒔はその身の上に神を降ろすし、姉帯豊音はその身の内に魔を飼っている。

 どちらが先なのかは判らないにしても、とにかく通じ合うものらしかった。



「……なるほど」

「私たちは運よく、ファントムに変わる前の人を助ける事が出来ましたが……ですが」

「そんな力もないし、オーズとしての力を失ってる俺じゃ――太刀打ちできない、って言いたいんですよね?」

「……はい」


 元より除霊などの超自然的な力を持っていた小蒔たちだ。

 希望を砕かれ、あわや絶望に飲まれようとしていた被害者を助ける事ができたのは――彼女たちが、以前より手にしていた力の為。

 勿論、京太郎にそんな力はない。ある筈がなかった。


 それどころか京太郎は――オーズという、小蒔やセーラと共に戦っていたときの、欲望を力に変えて戦う戦士としての力を失っていた。

 欲望と希望というのは、実に似ている。

 生きるうちに何かを手に入れたいと思う事や、或いは守りたいと言う事――つまり自分の希望を叶えたいと思うのは得てして欲望。

 希望と絶望が不可分のように、希望と欲望もまた密接に関わっている。



 かつてオーズとして戦っていた京太郎は、欲望の強大さを知っている。

 その力は容易く空間を引き裂き、雷を巻き起こし、音を置き去りにし、瀑布をしたため、重力を操り、火炎を撒き散らした。

 地球上のあらゆる兵器の及ばぬ――人間の力では並ぶこともできないほど強大なパワー。

 ならば、そんな希望と天秤の真逆に属している絶望――そしてファントムの力は、推して知るべし。


 しかし本質は、そこではない。


 小蒔のような力があれば、絶望に飲み込まれかけた人を救う事が出来る。

 或いは失ってしまったオーズの力があれば、もしかしたら希望が全て失われるという事に歯止めをかけられたかもしれない。

 でも――そのどちらも、京太郎にはない。



「だけど……小蒔さん。俺は、仮面ライダーなんです」

「……」

「たとえオーズとしての力を失っていても……俺はあの日誓ったんです。最後の希望だ、って」

「……京太郎くん」

「だから……、絶望なんてものがあるなら――――誰かから希望を奪い、絶望を与えようとする奴がいるなら……」

「……」

「俺は、戦う。須賀京太郎として……、仮面ライダーとして……」


 この身一つになっても、悪と闘う――。

 勿論、自殺願望はない。あくまで心構えの話だ。簡単に死を選べるほど、須賀京太郎の命は安くないのだ。

 交わした約束もあるし、護りたい人間だっている――何よりも自分自身、死にたいはずがある訳なかった。


 だけどそんなのは、皆同じだ。


 ドーパントに襲われる人間。イマジンの改変によって消滅する人間。ファントムに陥れられる人間――皆京太郎と変わりない。誰もが明日を望むのだ。

 だからこそ、護りたい。

 仮面ライダーオーズの力があろうとなかろうと、そんな気持ちは変わらない。

 人間の自由と尊厳を踏みにじり、舌なめずりをして牙を光らせる――絶望をほくそ笑む悪魔など、許せる筈がなかった。

 



「……相変わらずですね、京太郎くん」

「すみません……でも」

「うん、いいのではないでしょうか。京太郎くんらしくて――素敵だと思いますよ、私は」

「……ありがとうございます」


 困ったように零す彼女に、苦笑で返す。

 相変わらず、神代小蒔という人は――京太郎にとって姉のような人だった。

 弱いからこそ、強さを諦めない。

 逆に、強さを言い訳に何かを捨てる事がない――そんな、尊敬できる女性だ。



「では、二つほど――簡単にそちらに行くことができないので、京太郎くんに気を付けてもらいたいことがあります」

「なんですか……?」

「京太郎くんでは、《絶望による崩壊》が始まってしまったとき……止める事ができません。だから、その前に食い止めないと」

「早期発見、早期解決……判りました」

「それと、くれぐれも無茶はしない事! 言い方は悪いですが……そうなってしまった時には、諦める事も考えてくださいね」


 希望を満たされ、絶望を与えられた時――正しく卵から雛が孵化するかの如く、ファントムは生まれる。

 そしてその、殻であった人間は罅割れて、そして弾き飛ばされ死に至る。

 比喩ではなく、現実としてそんな現象が巻き起こるらしい。物理的に。

 除霊などを用いれば、ともすればそんな現象は止められるらしい――だが。


「……小蒔さん、探偵ってのは――――諦めが悪いんですよ」

「京太郎くん!」

「……。……そういう小蒔さんも、もう電王として戦えないんじゃないんですか?」

「……私はまだ、ライダーとしての力がなくなっても――モモさんたちと別れても、払う事が出来ますから」

「……。……まあ、二つとも分かりました。憶えておきます」

 




 その時の会話を思い返す。

 あれからも、時間が経った。時折彼女と連絡は取っている。


 その中で判った事だが……何とも皮肉なことに、イマジンやドーパントの存在が、ファントムへの対抗手段となってしまっている事実があった。

 イマジンは願い=希望を叶える。

 つまりイマジンにとって希望を破壊されると言う事は――破壊するファントムというのは、利益を損なわせる敵。

 宿主がファントムに変化してしまったら――言わばイマジンと契約した、人としてのその人物も死する為――彼らにとっては邪魔者なのだ。


 戦いは以前よりも、複雑さを増していた。

 倒すべきかそうじゃないのか――そんな判断すら、綺麗に決まる事もない。


「それじゃあ……あとは任せてええか?」

「ええ。……まぁ、逆にこっちが後で頼る事になるかもしれないですけど」

「ははっ、なら――お互い様って奴やな」

「ですね」


 笑いあいながら、手を上げて別れる。

 直後に会計を済ませた京太郎は、歩きながら方針を作り上げていた。一刻も惜しい。


 情報は得た。

 ならこうしている間にも、事件は動き出しているのだ。速やかに行動に移るほかあるまい。

 件の青山士栗がもうファントムとなってしまっているのなら、新たな犠牲者を生まぬ為にも――。

 或いは、青山士栗がファントムに狙われているのならば、一刻も早く彼女の身柄を確保する為にも――。



(……ってなると、和か。すぐにでも家族に面通ししたいけど、いきなり俺一人で行くよりは担任でも一緒に行ってくれた方がいいよな)


 心理的な警戒の度合いだ。

 和は京太郎と以前の知り合いであり、また、教師だ。仕事上の関係以上の気持ちを生徒には抱いているであろう――それが都合がいい。

 警察からの紹介で来たと言ったならば、おそらくはすんなりと受け入れてくれるはず。


 だが、失踪者青山士栗の姉はそうもいかない。

 身内が居なくなった異常事態への動揺もあるだろう。そんなところの、「警察の紹介だ」と私立探偵がやってくる。

 間違いなく――いくら専門家だと言ったところでも、不信の目は拭えないであろうし、ともすれば警察が丸投げしたとも思うはず。

 そこに、担任の教師が居れば多少なりとも反応は変わるはずだ。


 少なくとも一人でホイホイと顔を出すよりかは、よっぽどマシだ。


(それにしても……二人とも和って、なんか紛らわしいな)


 のどっちだけに、どっちも。


 なんて言っても笑いが返ってくる筈はない。或いは新子憧なら、「馬鹿じゃないの?」と頭を叩いてくるだろうか。

 そんな彼女の様子を思い返して笑いを零し、心を落ち着けたところでイグニッションキーを捻る。

 目指すは、スマートブレイン学園中等部だ――。





 ◇ ◆ ◇






 一歩ごとにリノリウムの床が、来客用スリッパと相俟って張り付くような音を立てる。

 スマートブレイン学園中等部。

 清潔な校舎。内側の壁は白く落ち着いていて、単なる学び舎というよりはもっと高尚なものを感じさせるほど。

 ただ今は授業中。時折にぎやかな笑い声が響いてくる。


 アポイントメント自体は、すんなりと受け入れられた。警察からの依頼――勿論前後関係を明かした――ところ、教頭から、逆に頼まれた。

 どうにも話を聞く限り、青山士栗というのは悪い遊びに手を出すような人間ではないらしい。

 それだけに教師としても事件性を心配している――調査については、向こうから申し出たいほどだと。

 或いは、卒業生だけに警察よりも融通が利くと思ったのか――まあ、互いに悪い話ではなかった。


 校舎を見て回る。

 授業中である為、特に得られるものが多い訳ではないが……。

 雰囲気としては、京太郎の知る普通の学校に近い。この街での普通と言うのは、他と異なっているが……それにしても。

 特段校舎内で喫煙や飲酒、或いは合法・非合法のドラッグが蔓延していると言った様子はない。


 まあ、どこにでも跳ねっ返りやカーストというのはあるもので、それはこの学園にしても例外ではないだろうが――。

 一先ず、荒れてはいない。

 それが確認できただけで、いいだろう。



 それから、元の応接室に戻る。

 離席していた原村和は、折よく今日は授業が入っていないらしい。

 その呼び出しまで待っていてくれという話だったが――生憎と断って、こうして校舎を見回る事に決めた。

 若干の警戒を滲ませながらも了承した教頭は、とにかく早期の解決を願っているようであった。


 そして、扉を開いたそこには――

 



「……えっ。……もしかして、探偵というのは?」

「久しぶりだな、和」


 軽く手を上げて、笑いかける。


 その鳶色の目を見開いていた彼女――桃色の髪を一房、側頭部にて赤いリボンで結わえて、腰まで伸ばしていた女性=原村和は、応じるように小さな笑いを零した。

 相変わらず、いや、ますます美貌に磨きがかかっているようであった。

 当時はどちらかと言えば温和な、護りたいという印象を受けるような表情であったが……今はそこに年相応の静謐さが含まれている。

 なるほど、教師だと言うのも分かる責任感に満ちた顔つきだ。


 長らく顔を合わせていなかっただけに、彼女に対する印象の変化に、些か戸惑うものが残るのもまた事実だ。

 その、特段一目を集めるであろうスーツの上からも分かるほど盛り上がった乳房の前で、祈るように両手を握った和が窺うように眉を上げた。


「須賀君……そちらこそお元気でしたか?」

「まあ、それなりに。……和の方は?」

「元気……と言えたら、よかったんですが」


 ま、だろうな――と思う。


 生徒の突然の失踪に、眉を顰めぬ教師がいるはずがない。

 互いに言いたいことは色々とあるものの、肩をすくめて手帳を取り出した。

 早速、仕事に取り掛かるとしよう。





「……じゃあ、素行的には問題がなかったのか」

「はい。……青山さんに限って、悪いグループと付き合っているとか、夜遊びとかは。連絡を入れない、というのもおかしいです」

「そっか、ありがとう。……なるほどな」


 つまりいよいよ、ファントムがらみである線は濃厚になってきた訳だ。

 或いはドーパントの犯罪者に捕まったか、それともイマジンとの契約の影響で――その願いに絡む被害者となったか。

 もしくは単純に、犯罪に巻き込まれたか。


 なんにせよ、事件性が高いと認めざるを得ない。喜ばしくないことに。


「何か、悩みとかはあったりしないか? 家庭環境とか、校内のグループとか……勉強とか」

「……いえ。いつも快濶としていますね。友達は、特に仲が良い子が二人ほど」

「運動が苦手とか、そういうのは?」

「……体育教師顔負けです。元々は、私たちみたいに長野で育って……山で遊んでいたそうなので」

「山育ち、ね……どこも一緒なのか、山育ち」

「え?」

「いや、こっちの話」


 そう言えば京太郎の知る限りでもかなりの身体能力を持っている高鴨穏乃(山育ち)と、和は友人であったと聞く。

 ちなみに高鴨穏乃は新子憧の友人で、原村和も同じだ。小学校の一定時期から中学校なので、幼馴染に近いかもしれない。

 憧からは、「元々麻雀で全国大会を目指したのも原村和と再会するため」だとか。


 ……教えてあげたら、彼女も喜ぶかもしれない。原村和が生存していたことに。



「どちらかと言えば、正義感も強く……負けず嫌いな方で」

「負けず嫌い……か」


 負けず嫌いな人間――いわば困難の内に合っても好戦意欲を保てる人間というのは、本質的に強い。

 それが生来的な資質にせよ、あるいは後天的な環境にせよ、得てしてそういう人間というのは悩みがあっても自分で乗り越えられる。

 或いは、障害というのは突破するためにある――だなんて嘯くかもしれない。


 となると、人間関係による悩み。修学に対する悩み。ないしは健康に関する悩みというのは不適当であろう。


 彼女を絶望させるとしたのなら――きっと手間だと思う。


 資料にあったが、彼女の祖父の一人はノルウェー人、だそうだ。

 士栗という中々一般的でない名もそのあたりに由来していて、それが故に衝突や軋轢というのも少なからずあっただろう。

 そのあたりで排除されるというのも、あり得ない話ではない。

 


「その、間違っていると思ったのなら……或いは上級生とも衝突する事もありますが、基本的に優しい子で」

「……」

「そうですね。……喧嘩していたはずなのに、ちょっとしたらその相手と笑い合ってるというのもあります」

「……なるほどな」


 話だけ聞くなら、皆に愛されている娘だろうが――。


 特に仲が良いのが二人――という言葉には、多少なりとも引っかかる。

 逆に言ってしまうなら、皆の輪に溶け込んでいる訳ではない……という言葉の裏返しともなるのだ。

 まあ、額面通りに受け取っても問題ないかと考えてみる。

 聞いたところの人物では、たとえそんな状態でも絶望しきることはないだろう。


 別に、友達が百人いるから孤独でない訳ではない。

 話す相手も遊ぶ相手も多いが孤独感を味わっているという人間もいるし――逆に、一人でも平気な人間はいる。

 単純な数では、図れない問題だ。


 ただ、正義感の強さと人間性の良さが、友人関係を保障してくれる訳ではない。

 特にこの時期はそうであるが、中学生ほどの多感な年齢に於いて、“正しさ”は即ち“良さ”とは結びつかない。

 逆にそんな“人の好い”態度で在ったり、“正義感”が疎まれるという話も、往々にして成り立ちえる。


 もっとも、京太郎は別に学習指導の専門家ではないし――。

 担任教師であるのがこの原村和である限りは、それが故に排斥されているというのは特に考えずともよいか。

 特に和も、その青山士栗ほど活発ではないものの……似通ったところのある少女であったし。



「……よし、分かった。頼みがあるんだけど、いいか?」

「なんでしょうか? 私に出来る事で、青山さんが見つかるなら――なんでもします!」

「……じゃあ、その青山士栗の家族のところに行きたいんだけど。付いてきて貰えるか?」

「判りました。今すぐ準備しますけど……その」


 教頭に伺いを立て、了承のサインを貰って部屋を出る和。

 静かにメモを取り出して、青山士栗に関する情報を改めて整理する。

 こうしていると確かに、家族や周囲が受ける衝撃は相当なものであったろう。今のところ、自分から失踪する理由が見られない。


 ――或いは、彼女本人ではなく彼女の周囲にゲートがいるのかもしれない。


 そう考えながら京太郎は、メモ帳を閉じた。



 ファントムは、ゲートを絶望させるために手練手管を用いる。

 そのために無関係な人間を攫う事や、或いは殺す事など毛ほどにも思っていない――どころか必要と褒め称えるだろう。

 ならば、士栗本人ではなくたとえばその友人や姉がゲートという可能性もあり得た。


 聞く限りでは身体能力に優れる為に、単純なる事件に巻き込まれたという可能性が減っていく。

 何事も決めつけるのは、探偵としてご法度であるが……。

 それでもこうして様々な証拠が並べ立てられるに従って、京太郎の内で、ファントム絡みではないかという思いは強くなっていくのだった。
 




「須賀君は、どうして探偵に?」

「……んー、まぁ色々あったけど。それでも、なんか困ってる人の役に立てたなら、それっていいよなーって」

「……須賀君らしいですね」

「和は?」

「私の将来の夢は、小学校の先生かお嫁さんだったんですよ?」

「本当か!? もっと、バリバリ両親のあとを継ぐか……麻雀プロにでもなるのかと思ってたけど」

「……どんな目で私の事を見ていたんですか?」


 ハハハ、と力ない笑いで返す。

 到底男に興味がある風ではなく、目下気になっているのは麻雀のみ――というある種のストイックさの持ち主。

 ただ、だからと言って感情に乏しいとかコミュニケーション能力に難があると言った事はなく、京太郎とも普通に接していた。

 あと、実は、私服は少女趣味で……麻雀の最中にも、エトペンと呼ばれる縫ぐるみを膝に抱いて卓に臨んでいたので、そういう面はあるのかも知れなかった。


 なお、当時京太郎はそこはかとなく和の事を「いいな……」と思っていた。

 明らかにスタイルが良く、美人で、おしとやかで、何かの真剣さや信念を持っていたからだ。

 ……まぁ、あのオカルトに対して頑なな態度は、内心どうかとも思ってたが。


 それも、昔の話だ。



「結局は中学校の先生になっちゃいましたけど……これも、いいものですね。誰かに、何かを教えるっていうのは……凄く」

「へー、まぁ……清澄のときも、和には何回か教えてもらったよな」

「……ええ。随分ともう、昔のことになってしまいましたけど」


 しんみりとした言葉に、京太郎は唾を飲み込んだ。

 やはり――思い出を思い出として消化する為に、彼女は過去との関わりを絶ったのだろうか。

 そうして整理をつけて前に進もうとするのが、和なりのやり方なのかもしれない。


 小さく喉を鳴らして、そんな空気を払拭する為におどけて見せる。


「それにしても、先生か……俺は逆に教えられてばっかりだな」

「探偵さんなら、確かに教えて貰わないとどうしようもないですよね」

「そうなんだよな。……なんか、いつまで経っても生徒みたいだよなぁ」

「ふふ、なら課外授業でもやりましょうか?」


 女教師、原村和。


 眼鏡を上げて、しかも何故かセーラー服で――と。なかなか魅力的な提案だ。

 が、残念ながらその申し出を受けるわけにはいかないし……。

 ましてや仮に、よしんば冗談で飛ばしたところで……憧から「浮気とか信じらんない。最低!」と言われるだろう。

 ひょっとしたら、殴られるかもしれない。それは御免だ。思った以上に、憧の拳は痛いのだから。

 





「それじゃあ、部屋の方を見せて貰っても?」


 原村和同じく、和という名前の少女の姉――青山和に頭を下げる。

 やはり、青山士栗が和に似ていて……そしてその姉妹だけあって非常に、二人とも似ていた。

 服装を変えれば、親しい人間以外は騙せるのではないだろうか――などと思うほど。


 これが映画や演劇の世界だったら、一々演じる役者が大変だろうな……なんてくだらないことを考えるぐらいに。

 きっと巧みにカメラワークを駆使して、上手いところ二人が同じところに立つシーンを撮影するであろう。


「須賀さん……あの」

「……大丈夫です、青山さん。妹さんは俺が必ず見つけ出します」


 しっかりと目を見て――これは本心だ。

 多分、探偵だろうと探偵でなかろうと変わらないだろう。

 頭を下げて、二人を連れて士栗の部屋へ。


 男が無断で少女の部屋に入ると言うのは――――今は緊急事態である為、仕方ないにしても――――あまり褒められた行為ではない。

 その姉が付いてきたいと思うのは当然であるし、手持無沙汰になる和が同行するというのも頷けた。

 本当のところを言うなら、仕事である以上は他の介在をさせたくないものであるが……。


 家族の反応や、円滑な捜査の為であったなら受け入れるしかない。

 そのあたりは、警察と違って強気には出られないのが悲しいところである。



 士栗の姉から、解説を受けながら部屋を除く。

 年頃の少女という割に、あまり少女趣味が見られるものは少ない。

 唯一と言ったら……デフォルメした白猫の上半身に、白蛇の下半身を合わせた縫ぐるみ――確か、セアミィと言ったか。

 以前見覚えがあるこれ、実は流行っているのだろうかなんて考えながら視線を移す。


 ……特に、一際強く景色に映り込んだ物体に。


「これは……舞姫コンビのポスターか」


 戦友――白水哩と鶴田姫子は、麻雀プロになっていた。

 あのとき背負わされた十字架を乗り越えて、見事彼女たちは新しい人生を獲得した。

 テレビに映り日本中に広められるその姿は、言わば人々の希望である。


 そんな彼女たちは京太郎の誇りであり、一片でも彼女たちの人生に関われた事もまた、誇らしい。


 同時にプロになったのは、片岡優希と南浦数絵。

 彼女たちも――コンビ。それも、哩と姫子と同じ立場である。

 そこらへん、何とも因縁深いんだな……と思う。この間だって、コンビ麻雀戦で鎬を削っていた。

 どちらが日本一のコンビか、それを証明しようというらしい。

 




 しかし、これが意味するところに――京太郎は半ば背筋が寒くなるものを覚えた。


 ファントムは、ゲートと呼ばれる人々を絶望させ、ファントムを生み出そうとしている。

 そこでは人の希望を踏みにじられることが当然の如く発生し、その為の姦計が張り巡らされる。

 となれば。

 青山士栗が哩と姫子のファンだとするなら――彼女を絶望させるために、哩と姫子に魔の手が及びこともあり得た。


 しかし、当人にとって容易いものであってはならない。

 まさに絶望を与える為の乾坤一擲で、相応の希望でなくてはならない。

 故に、青山士栗にとってどこまで哩と姫子が重要であるか――という話だが。



「……やばいな、これ」


 部屋を見渡した。


 その限りで存在していたのは、舞姫。或いは都市伝説の本。

 そこまで調べているのか――相当にコアだと、京太郎は小さく笑いを零した。


 白水哩と鶴田姫子は、かつて仮面ライダーWと呼ばれる戦士だった。


 彼女たちは、自身らを攫い改造したミュージアムへの復讐の為に戦い、その途中で京太郎と衝突した。

 紆余曲折の末に、彼女らと手を取る事になった京太郎は――お互いを助け合い、そして囚われていた哩と姫子の友人を救出した。

 同時にまた、京太郎が絶望に飲まれかけたときに、彼女らに助け出されたと言うのもある。


 かけがえのない仲間だが――今はそこはいい。



 ミュージアムと、そしてそのミュージアムが販売する怪人製造機のガイアメモリ。

 ガイアメモリが生み出したドーパントという怪人と戦う際に、彼女たちが用いていた方法。

 それは、依頼と検索。

 先ほどコンビ麻雀プロとして話題に上げた、南浦数絵=地球の本棚――検索エンジンの全地球版だと思ってほしい――が検索をかける。

 その対象は、この街にある森鴎外の舞姫。


 被害者或いは相談者が舞姫に助けを求める紙を挟む事で、彼女たちは事件を知りドーパントを調べ、そして戦闘する。

 曰く――経験を積むためというのと、ミュージアムに自分たちの存在を知らしめるため。加えるなら、ミュージアムの被害者を減らすためだそうだ。


 まさか、そこまで知っているとは――。


 つまりは哩と姫子が仮面ライダーであると確信には至っていなくとも、彼女たちと「舞姫」そして「仮面ライダーW」に辿り着いているとは。

 これはちょっとしたファンでは難しいだろう。相応に、熱意を持っているという事。

 確かに、この学園の都市伝説を調べれば「舞姫と怪人と仮面の男」に行き着くのは難しくない。

 哩と姫子はこの学園の出身であるから――そこから辿れはするだろうが、関連付けるというのは些か困難。

 



「……悪いな、和。――ってああ、違います、青山さんの方じゃなくて」

「なんでしょうか?」

「ちょっと心当たりが出来たんだ――悪い、急がなきゃいけない」

「判りましたけど……その……」


 不安げに瞳を揺らす和に、頷いて返す。


「何か判ったら、そのときは連絡する。――青山さんにも、勿論」


 どこまで話していいのか――そんなのは、その時に考えて決める。

 帽子を改めて被り直し、そのまま飛び出した。同時に、スマートフォンを操作して連絡。

 これから向かう、仲間のところへ。

 そして、事件を共に解決する立場である、新子憧と江口セーラのところへ。


「すみません、あの、俺です! 京太郎です! ちょっと二人にお願いがあるんですけど――」


 幸いにして、電話はすぐに繋がった。

 麻雀プロというのは人気職業であり、簡単に掴まったり予定が空いたりするものではない。

 この街に来ていて――そして、イベントに臨んでいると言う事だった。


 何とも実に、都合がいい。


 あとは――逆に言えば、チャンスであるがピンチとも言えた。

 青山士栗がゲートであるなら、その希望ともいえる白水哩と鶴田姫子が狙われる可能性だって、格段に上昇する。

 こうしている間にも、彼女たちは襲撃を受けるかもしれない。



 イグニッションキーを勢いよく捻り、ヘルメットのバイザーを降ろすとともに急発進。

 あまり褒められた方法ではないが、とにかく今は――先へ。




 ◇ ◆ ◇



 



 そして京太郎がその場に駆けつけていたときには――既に事件が起こっていた。

 逃げ出してくる人の波。

 時折車道に食み出そうとしているそれを躱しながらバイクを走らせるが、しかし京太郎が回避したところで渋滞は生まれる。


 思ったほど、バイクが進みそうにない。ここが限界か――と臍を噛む。



 赤信号、止まるタクシー。鳴らされるクラクション。急ブレーキのトラック。

 倒れる自転車の女性。何事かと呆けるコンビニの店員。首を傾げる大学生に、サラリーマン。

 人の群れが逃げ出してきたその方向は、公園。


 公園でイベントをすると言っていたので――間違いなく、白水哩と鶴田姫子が狙われていると考えてよいだろう。

 どうするか。

 公園の大きな石畳の通路には、未だに人の流れが出来ている。

 よしんばバイクを降りたとて、この流れに逆らうのは一苦労だ。


 ……仕方がないと、溜息を漏らす。



「……悪いな。見逃してくれよ」


 誰に対するわけでもなく呟き、バイクを急加速。


 後輪の爆発的な膂力に逆らわず、ハンドルを引き上げウィリー。そのまま、公園を囲むフェンスを飛び越える。

 着地しようとしたその瞬間――完全に現れる木の枝を、頭をよじって回避。

 落ち葉や枝が形成した腐葉土が、バイクの衝撃に耐えかねて盛大な煙を上げた。


 構わず疾走。


 枝にハンドルを取られそうになりつつも、車体を捻ってバランスを。

 林を走行する自分を尻目に、批難を続ける人々の先を見る――おそらくは、あのあたり。

 



(――哩さん! 姫子さん!)


 ――居た。


 グールと呼ばれる、ファントムの持つ尖兵。

 正しく石と言える体色の所々に金色のラインを入れた、怪人。その額には金の角が二本覗き、顔にはスリットの入った仮面。

 その無表情さこそが、何よりも雄弁に人間と彼らの間を隔てている。



 対するは、二人の女性――白水哩と鶴田姫子。


 白水哩は深緑の長髪を、向かって左側だけ垂らしている。背後で二つに結んだ髪が、彼女の動きに合わせて揺れる。

 麻雀プロとしていても、昔培った戦士としての勘は薄れてはいないらしい。

 相手の持つ武器を奪い取り、巧みに立ち回っていた。その真紅の瞳が、凛として灯る。


 相変わらずの短いスカートから除いた上段蹴りが、グールの頭部を弾き飛ばしていた。


「部長!」


 哩に迫った槍の穂先を、横から蹴りつける一つの影。

 鶴田姫子――赤色がかった茶髪のセミロング/薄緑の瞳/長い下睫毛が小悪魔的な風情を浮かべる。

 相も変わらず袖口を弛ませた灰色のカーディガンから、指先が外界と僅かに触れ合う小さな手。


 その手が、グールの顔面を真芯でとらえるが……ほんの少し身じろぎしただけで、未だ顕在。



 奮戦虚しく、やがて追い詰められる。

 さながら古代ローマのアリーナを小さくしたかのようなステージの隅へ。


 そこへ、京太郎のバイクが躍り込んだ。

 二人を追い詰めようとするグールを跳ねのけ、バイザーを上げる。


「……お待たせしました」

「京太郎!」

「きょーたろ君!」

「あとは、俺がやります!」


 バイクの衝撃にも健在なグールを見て、京太郎は好戦的に頬を釣り上げた。

 

BGM: 「ハードボイルド」 https://www.youtube.com/watch?v=PMw0f8znD7k



「握手会なら後にしてくれ。忙しいんだ」


 呟いた須賀京太郎が、懐から取り出したるのは――異形の銃。

 赤を基調とした、角ばった近未来的な拳銃。ともすれば玩具や映画の撮影道具にも思えるだろうそれ。

 グリップとトリガーの手前には小窓。その先には、アサルトライフルのマガジンを思わせるような斜めに生えた突起。

 しかしこちらもまた、銃口である。

 たった今火を噴いた黒い銃口の斜め下に存在しているそれは、連動するギミックを搭載し、京太郎がその気になれば即座に爆裂するだろう長方形。



 哩と姫子を背後に庇い、京太郎は単身グールの群れに踊りかかる。


 右手の内で暴れるマグナム。放たれる弾丸が、グールの胸で跳ねた。

 怯んだそこに浴びせられるのは、左足での痛烈な回し蹴り。

 グールの頭部を跳ね飛ばし、しかし止まらずに半回転。迫る右の踵が、よろけるグールの側頭部に突き刺さる。


 迫り来るグールに、敢えて京太郎は近寄った。

 繰り出される槍の横薙ぎを潜り避けて、相手の左足の甲に射撃。

 砕ける装甲。呻くグールに構わず殴りあげ、後続のグールに叩き込む。

 さながら、プロレスの試合で弾き飛ばされる相方に巻き込まれたパートナーよろしく、揃ってロープ際――壁へと追い詰められる。



 瞬間、京太郎は転身。

 銃を放り投げ、右手で背後のグールの槍の側面を叩いて攻撃を往なし――左アッパー/右フックのワンツー。

 踏鞴を踏むグールに背を向けて、落下するマグナムを右手で受け取り――ダブルタップ/トリプルタップ。

 脇の下を通して、標的を視界に収める事なく連続射撃。その目は、新たなグールを捉えていた。


 前方から襲い掛かるグールの拳を、首を捻って躱す。薄皮一枚。

 直後に胴体に接射。一切の距離なく弾ける弾丸に、突き動かされるグール――目掛けて米噛みへの左の肘打ち。

 返す刀で裏拳を浴びせ、続いて顔面での接射――電流が走ったように震えた後、沈黙するグール。

 



「うおっ、っと」


 袈裟懸けに振り下ろされた、右腕が肥大したグールの一撃。

 バックステップとダッキングを駆使しながら――躱す/躱す/躱す/躱す/躱す。

 その間も腰だめで、さながらダンスの為の演奏が如く砲声を上げるマグナム。

 機先を制し、初動を殺し、速度を砕き――偏に京太郎が回避しているのも、これが理由。


 積み重なるダメージに、グールの膝が居れた。


 そこへ飛びかかる、両足での飛び膝蹴り。

 さながら肩に跨るかのようにグールの顎を打ち砕き、同時に挟み込む形で両肘が振り下ろされる。

 人間なら頭蓋が陥没するだろう衝撃に、たまらずグールは膝を折る。

 飛び退いた京太郎のステップからの痛烈な横蹴り。壁際から復帰しようとしていたグールの真ん中に躍り込み、そのまま彼らを引き倒した。



 そして京太郎が懐から取り出した長方形の――ガイアメモリ。

 クリアーな赤のボディに刻まれているのは、爆弾を思わせる「B」の文字。

 これがボムメモリ。仮面ライダーオーズとして戦う力を失ってしまった京太郎の、切り札。


 確かに生身で彼らとやり合うのは、無謀が過ぎる。

 一撃でも受ければ――ともすれば骨が砕け、肉が裂かれ、それだけで絶命する。上手く受けたところで、痛烈な打撲は間違いない。

 また彼らの装甲は、拳銃弾をも通さない。

 言うまでもなく生身の拳では、人類最強のヘビィ級ボクサーとて拳銃弾並み。

 しかも拳の面積は弾丸のそれよりも広いので、貫くと言う意味では拳銃に足らない。


 言うまでもなく京太郎は、ヘビィ級ボクサーでもなければ人類最強でもない。

 その身の持ちうる攻撃を動員しても――最も強固で鋭い肘骨や膝を打ち込んでも、破壊力には開きがある。



 しかしながら、怪人からの攻撃を受けて絶命しないためには――ただ躱せばいい。

 当たらなければどうということはないという真理。

 縦横無尽、変幻自在に緩急を織り交ぜれば、たとえ生身に出しうる速度だとしても惑わせてこれを回避するには十分。


 そして生身で敵の装甲を貫けないのなら、武器を持てばいい。

 それがこのマグナムであり、そしてこのガイアメモリだ。

 



「これで、お開きだ」


 ――《BOMB》!
 ――《BOMB》! 《MAXIMUM DRIVE》!


 タップされたガイアメモリ。

 囁く地球の声に耳を傾けつつ、マグナムへと挿入――同時にさながら弾倉めいていた銃身を掴み、斜めに引き上げ。

 嵌り込む音と共に慣らされたのは、最後を告げる音声。小窓に浮かぶはBの文字。


 直後、唸りを上げる銃身。放たれた光球が、グールへと迫り――分裂。

 それぞれが立ち上がりかけたグールに激突し、爆炎を撒いた。

 これが《爆発の記憶》を収めた、ボムメモリの力だ。




「……ふう」


 拳銃を一回転、そのまま懐にしまう。

 額に滲む汗を拭いながら、思考に戻る。

 哩と姫子が狙われたということは――ここに来て真実、青山士栗はゲートであり、そして未だにファントムには至っていない事を告げた。


 つまり、まだ間に合う。

 フィナーレには遥かに遠い、ということだ。


(……待っててくれ。必ず、俺が助けるから)


 静かに拳を強く握る。

 人の希望を奪い、絶望を与えて――そして怪物を作り出すなど、到底許せるものではない。

 奪われたならそれ以上の希望を持って、絶望を吹き飛ばせばいい。

 あの夜から受け継いだ思いは変わらない。


 ――俺が、最後の希望になる。


 青臭いと言われようと、筋違いと言われようと……こればっかりは譲れないのだ。

 オーズとしての力を失ったとしても、全てがフイになった訳ではない。

 鍛えた技術と勇気と信念があれば、人の身に圧倒的な絶望の怪物とだって戦える。

 



「……憧に連絡を取りますから、事件が終わるまで外出とかは控えて下さい」

「そいはよかと……。そいよい、強か男になったな……京太郎」

「そりゃあ、まあ……色々と守りたいものが増えたんで」


 スマートフォンをタップして、新子憧にコール。


 京太郎は調査を進ませなければならぬ以上、ここで頼りにできるのは彼女以外の誰もいない。

 すぐさま、彼女は呼び出しに応じた。

 二三言告げれば、即座に返る了承の声。

 伊達に仕事慣れはしていないというのもあるし、それよりも彼女と自分の長らくの付き合いの賜物である。



「そいよい、聞きました? ぶちょー」

「『握手会なら後にしてくれよ。忙しいんだ(キリッ)』……変わるもんやな、京太郎も」

「そーですか? 前から、色々格好つけしか男やったかとー」

「『握手会なら後にしてくれよ。忙しいんだ』……なんかツボに入りよるかも」

「『握手会なら後にしてくれよ。忙しいんだ(ドヤッ)』ですから、そいは勿論ツボに入ってん何の可笑しくなかとですよ」

「……やめてくれよ。ねえ、泣きますよ?」


 このキャラ付、そんなに駄目か。駄目なのか。

 おかしい。

 もっとこう……ハードボイルドでスタイリッシュな感じになる筈だったのに。これじゃあハーフボイルドでフーリッシュじゃないか。

 酷い虐めだ。


「あはっ、きょーたろ君の泣き顔ってそそるけん……よかよ?」

「姫子がこうゆーとるから、ほれ」

「なんて時代なんだ……これが麻雀プロだなんて」



 ゲートよりも先に絶望するかもしれない。なんてこった。

 





ごめん、ちょっとリアル事情です!
中断と言いたいですが遅くなりそうなので来週(今週末)にオナシャッス!

ここまでが前編。京太郎の使用戦闘法は「ムエタイ+エクストリームマーシャル+ガンカタ」のステキスタイリッシュ戦闘法です!
次週はWよろしく解決編なので、よろしくお願いします


あー、穏乃から僕も相談受けたいです

昭和VS平成を後れ馳せながら見てきました
ちょっと変更したいので、来週になるけどよろしいか?

たっくん全般はよかったので、たっくん好きなら観に行ってもいいと思います。はい

来週になった……はい、終わってないです、ご免なさい
お待ち下さい

ところで、フェイタライザーはどの程度把握されてるんだろうか

了解です。ちょっと外見描写増やしますね
では

お待たせ申し訳ない
来週末~再来週末を目処にお待ちください。またアナウンスします

まとまった時間がとれなくて申し訳ない
夏休み入るまでお待ち下さい

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5303975.jpg.html


画質悪いけど今こんなんです(ある意味グロ画像)
もうちょっと待ってな……書き直すから……

今分けるとしたら

アギト/555/the First&the Next
龍騎/剣
響鬼/キバ/鎧武
カブト/フォーゼ
電王/W/オーズ/ウィザード

になりますかね、きっと

中々パソコン触る時間がなくて碌にイデった分のサベージできてなくて申し訳ないんですが
近日中に、多分もう陽の目見ないなって、響鬼/カブト/キバルートのプロローグをスマホからちょこっと投下させて貰います

京咲純愛です



 ――――英雄は既に亡い。


 ――――此の世に神無く、仏無く、奇跡など無いので在れば。


 ――――ならば己は鬼と為ろう。


 ――――魔を断ち、鬼を縊り、修羅をも屠る悪鬼と為ろう。


 ――――己は地獄の飛蝗。


 ――――地獄に光は届かない。



 ――――これは英雄の物語ではない。


 ――――英雄は既に喪われてしまっている。


 ――――彼女の祈りは、届かなかった。


 ――――だから己は、鬼となった。

はい、つーわけで明日投下します
くれぐれも京咲純愛です。咲ちゃんの好感度はマックスです

1800頃にスタートできるんじゃないでしょうかね

お待たせー

京咲純愛ですー



【#0 Prologe/Full Metal Daemon】






 ――――英雄は既に亡い。


 ――――此の世に神無く、仏無く、奇跡など無いので在れば。


 ――――ならば己は鬼と為ろう。


 ――――魔を断ち、鬼を縊り、修羅をも屠る悪鬼と為ろう。


 ――――己は地獄の飛蝗。


 ――――地獄に光は届かない。



 ――――これは英雄の物語ではない。


 ――――英雄は既に喪われてしまっている。


 ――――彼女の祈りは、届かなかった。


 ――――だから己は、鬼と為った。



 街角、漆黒の闇の中。女性が一人、震えていた。

 スーツ姿。タイトなスカート。黒いハイヒールが折れて、足を投げ出してへたり込む。足を覆うストッキングは無残にも破けている。

 その眼前に立つのは――そう、河童だ。

 伊達や酔狂ではない。無論、比喩でもない。

 真実そこにはカッパが居り――――そして倒れた女性を見下し、醜悪な声で嗤っていた。

 その名を魔化魍。人を襲う異種の刺客。本能ではない、理性でもない。そもそもこれは生物ではない。ただの土くれに邪気が固まり出来た現象である。


 そう、まさしくこれは現象だ。

 台風や雷、或いは土砂崩れに等しい。

 人の意によらず発生し、人の意を介さず動き出し、人の意に関わらず殺戮する――そんな現象。机上に並べられた数学や物理の方程式に等しい、単純にして明快な摂理。

 ……尤も、数学や物理が直接人を殺す事はないだろうが。


 そして魔の手が伸ばされた。女性目掛けて、その手が振るわれんとする。

 女性の躰は震え、顔には笑み。

 混乱か恐慌か――はたまた現実逃避か。彼女はどこか虚ろな視線のまま、その指を震えさせていた。

 同時、カッパが女性目掛けて飛びかかり――


「言っときますけど……」


 それから、何かが顔面に激突し、仰け反った。

 床に転がる金属のオブジェ。そして、背後で着地音。

 女性が振り返ったその先に居たのは――――人型。声から察するには年若い、未だ少年。

 どうやら彼は、跳びつつもその金属の何かを河童目掛けて叩きつけたらしかった。そんなスポーツがあったなと、彼女はどこか落ち着いた思考でそれを捉えた。


「いくら呼んだって、助けなんて来ないっすよ」




 妖怪と呼べる化け物は現世に罷り出ても、この世には神様も仏様もいない。

 痛み喚く子供に手が差し伸べられる筈もなければ、啜り泣く少女に足を止める者もいない。目を閉じて遣り過ごすことも出来ぬほど、この世には地獄が溢れる。

 その少年は知っている。身を以て識っている。


「だから……誰もいないってんなら……」


 コツコツと、革靴が音を鳴らす。

 両側を壁に挟まれ、別の地面が天井を為す風穴めいた道路。都市部に出来た簡素なトンネル。

 我知らぬ体で通り過ぎる車のヘッドライトが時折浮かび上がらせる光の壁画は、しかしここには届かない。

 夏の夜の、湿気を孕んだ空気が足音を飲み込んでいく。


「……俺がその、助けって奴になってやる」


 少年が――そこまで来て漸く金髪だと判る少年が、細身の長身、腕を伸ばして学生服の前を肌蹴た。瞬間宵闇に躍り出た、白銀のベルト。

 ZECTと記されたその六角形のバックルを押し込めば、宛ら台座が如く前方へと倒れ込み展開した。

 宛ら、ではない。正しくそれは台座であった。


 つい先ほど、少年によって投じられた金属製のオブジェ――――否、違う。それは物言わぬ形代ではない。鋼の昆虫は身を震わせ、動き出した。

 デフォルメされた光沢のある飛蝗。僅かな明かりの中にぬらりと輝く。半身ごとに色の異なるその姿は、最早キメラがごとき印象を抱かせる。

 後脚が異常に発達した機械の飛蝗。深遠な森を思わせる深緑の左半身と、その全てが枯れ尽きた後の茶褐色の右半身。輝く黄金色の脚部。

 地を跳ね少年の元へ向かうと、まるで投げ付けたことに抗議するかの如く幾度か地団駄を踏んでその周りを跳び跳ねる飛蝗。

 小さく笑うと、彼はその飛蝗を掌に納め――台座へと挿入した。



「変、身……!」

 《HEN-SIN》


 “変身”――。

 Sin――罪の証にその身を変えると言う宣言とも取れる皹割れた電子音声。

 赤銅色の面を晒した金属の飛蝗は、産声を高らかに謳い上げる。しかしその声は余りに砕け切っており、恰も叫び続け枯れ果てた喉が鳴らす唸りに等しい。

 直後、少年が罪科/災禍を纏う。


 足先から展開される装甲。

 六角形の金属板が少年の身体を覆い尽くす。先ずは爪先。それから脹ら脛。膝を隠し、上腿を覆い、腰に至り、上体を飲み込む。

 頭部や胸部、四肢の先以外の稼働部はライダースーツじみた肌に張り付く黒色の衣装を装着。軽量化された鎧/拡張化された第二の皮膚。


 《CHANGE Punch-Hopper!》


 俺は地獄から生まれた、と――。

 暗闇に光を発した灰色の複眼は、そう告げているようであった。


 頭部から延びたるは反り返った一本の角。その刃宛らの弧を正面へと向ける他には、その角の左右の脇に飛蝗の脚部の意匠の突起が。

 感情なきグレーの複眼と、金のクラッシャー。ダークグレー/或いは枯れ葉色のマスク。

 両肩に備え付けられたる鋭角的なショルダーアーマー=突角が、その仮面の男の物々しさを上乗せする。

 そう、その姿……これは、鬼だ。紛れもなく誰もがこれを見れば、鬼と感ずる。理屈や理合ではなく、鬼と。

 闇に浮かぶは、装甲を纏いし――――悪鬼だ。


「大丈夫ですか? すぐ、俺が助けますから……!」



「行くぜ……覚悟しろよ」


 握りしめた拳。黒色の人工皮膚が音を立てた。

 あきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ――と、笑いまわるカッパ目掛けて跳躍。振りかぶった右手を――ボールを叩きつけるかの如く、投げ打つ。

 衝撃と同じく、カッパが踏鞴を踏んだ。そこへワンツー。左のジャブと右のストレート。腰を切り出し、一歩踏み出してのスタンダードなジャブ。

 カッパが繰り出す、大ぶりな薙ぎ払いを潜って避ける。右手を振るって体勢が崩れたそのボディ目掛け、右/左/右――連続攻撃から置いて後方へとステップ。

 一打の度のノックバックは確認できる。衝撃は確かに伝わっている。だが――足りない。圧倒的に足りない。

 命が失われる感覚。一撃ごとに削られていく生命の鼓動が伝わらない。反動はある。怯みはする。だけれども、死に追いやるという感覚を少年は掴めなかった。

 ――彼が知る由もない事であるが。

 魔化魍というのは、自然物に邪気が蓄積して生まれる超自然的な魔物。彼の纏う装甲は強力であるが、所詮は科学の力。

 科学では、未だ自然を克服には至れない。

 確かに殺されない事は可能であるが――それこそ台風や地震と同じく、免れる事や食い止める事は可能であっても、抜本から消す事は出来ない。

 これは限界である。

 人間と言う種では克服なし得ない。脅威足り得ない。天敵に為り得ない。

 邪気は、鬼道を以って払われなくてはならないのだ。


 続く連撃。巧みなダッキングで、カッパの攻撃を裁くパンチホッパー。

 しかし、不利なのは明らかに少年。対する相手は疲れ知らず、痛み知らずの化け物だ。人間では化け物を倒せない。

 既に幾合かにもなる打ち合いの末、疲労感から少年のステップに陰りが見えた。

 そこへ――


「……ッ」


 組み付くカッパ。

 両肩を抑えて、少年をコンクリートの路壁目掛けて叩きつけんと足に力を込める。

 直後、少年が掴まれた両肩を――即座に切る。

 それは反射の域に達していた。

 いや、反射の域に達していなければ意味はなかった。意図してからの行動では相手の方が明らかに有利であるのだから。



 内側を取る。

 彼我の間隔を横切るように、対角線に突き出された右腕。即座にその手はカッパの右肩を握った。そして――寄せるのだ。

 曲がる少年の右肘に押し上げられたカッパの左肘。拘束が緩む。半身が開放される――と思ったその時には既に技。

 というよりはこれは技の一部。既に攻撃態勢は出来上がっていた。

 回転した右膝が、水月にめり込んだ。カッパの肩を頼りに腰の捻りを加えた分、威力は桁違いだ。

 そして――膝蹴りに並行して次の仕込みは終わっている。否。攻撃に移る際にはもう繰り出されていた。

 カッパの右肘を押し上げた左掌底。ロックが外れる。

 反動で降り曲がった肘をそのまま押し込んで――そこで丁度膝蹴りが命中――折り畳み極めつつ、背後から被さるように倒れ込んだ。

 しかし、折れず。尋常なる人型ならばこれで顎や顔面を打ち付け、さらには肩と肘の関節や靭帯を破壊され戦闘不能であるが――――壊れぬからこその魔化魍。

 強靭な膂力で、極めたその右腕を振り回される。振りほどかれ、宙を舞う少年。

 背中を強かにコンクリート壁に打ち付けた。砕ける壁面。朦朧とした意識の中、迫り来る魔化魍。


 背後には下がれない。眼前から迫り来るは無比の怪物。

 呼吸一つ、少年は咄嗟に右足での上段回し蹴りを敢行するが――それも首筋へと命中したものの、何の痛苦ともならなかった。

 常人なら頸椎を捻挫或いは脱臼や骨折するほどのハイキックであるが、悲しいほどに魔化魍には通用しなかった。

 そう、人間では及ばない。人間では魔を打ち払えない。人間に化け物は倒せない。

 カッパが、己の肩口に掛かった少年の右足を取った。正しくこれで絶体絶命。


「なあ、お前……さっき必死に生きようとしてる人を笑ってたよな」


 ――しかし、悪鬼は嗤う。

 少年は人に非ず。人の形をした別の何か。科学の力を纏った装甲の鬼。闇の息吹で体を洗った地獄の飛蝗。

 そう、人では及ばない。人では魔を打ち払えない。人間に化け物は倒せない。

 ――ならば、悪鬼ならば。鬼ならば。


「俺のことも、笑ってみろよ」



 右足を高く掲げ、相手の肩に担がれた片足立ちで少年は左手を動かした。握るは飛蝗の足。

 ホッパーゼクターと呼ばれるその飛蝗の、後肢を掴み、左へと引く。

 半瞬――否、まるで同時。引くが早いか、電子音声と共に――


 《Rider Jump!》


 装甲に包まれた少年の身体が、宙を舞う。対して――魔化魍・カッパは地面へとめり込まされていた。

 何も少年は、無意味に無謀な上段回し蹴りを狙った訳ではない。総てはこの為、必殺のタイミングの為。

 ゼクターの能力の使用に合わせて、己の脚部から跳躍の為の波動が発生すると知っていた。故にそれを放ち相手へと叩き付け、即死の為の布石に変えた。

 動きとしては、踵落としの形での踏み付け。

 如何に平常の攻撃により傷付かぬ魔化魍とはいえ、これまでの闘いの通り衝撃は受ける。

 そのまま地面目掛けて猛烈な勢いで激突するが早いか、追撃が如く踏みにじられ、更に少年は魔化魍を足場に跳躍――アスファルトに亀裂と共に埋没する魔化魍。


 そこへ目掛けて――


「ライダー、パンチ」

 《Rider Punch!》


 落下の勢いに、更に波動で空間を蹴り付けた飛蝗の下段正拳突きが刺さった。

 逃れようとうつ伏せから頭部を起こしていた河童の頭蓋が破裂。更にそれだけでは済まない。

 右腕の前腕部に装着された金の飛蝗の脚――アンカージャッキがスライド/コッキング。方膝を付く少年から迸るタキオンの波動。

 魔化魍は――――この妖怪じみた存在の魔化魍は、悪しき気が泥や土などの自然物に滞積して出来上がる。

 故に、その悪気を祓う浄めの音でなければ撃破は敵わぬが……。


「……終わりだぜ、これでな」


 しかし、浄霊と除霊の違いがあるように――。

 滞積した泥そのものを、全くまるで完全にこの世から消滅せしめたのであれば。

 例え浄めの音を用いる“鬼”でなくとも、魔化魍を殺し抜けることは可能であり――。

 何よりもそれ故、あらゆる原子そのものを破壊し消滅させる力を持つマスクドライダーシステムであれば。

 ――爆発。

 なんの問題もなく、魔化魍を“消滅”可能であった。

 歪んで積もった気を浄めることもなく、ただ一方的に、ただ力で、ただ己の無理で払い除ける。

 鬼でなくとも、鬼が如く魔化魍を倒すことができるこの少年を――


「……大丈夫ですか?」


 果たして悪鬼と呼ばずして、何と言い表すべきなのだろうか。

 爆発に一瞬だけ照らし出される、角を生やした仮面の戦士は――――正しく装甲を纏った悪鬼であった。



 そして、悪鬼は消える。鋼鉄のバッタ=ホッパーゼクターを引き抜くとともに、少年はごく普通の少年へと帰還する。

 中々の長身。すらりと伸びた手足。快活そうな印象を受ける整った目鼻立ちに、人懐っこい赤褐色の瞳。やや落ち着きがなさそうに見えるのはその金髪が故か。

 差し出した指。そこだけ不相応に乾いた桃色に変色している。日に焼けたというよりは、大やけどでも負ったというべきか。

 笑いかけつつ、少年は倒れた女性へと手を伸ばす。伸ばしたのだが、肝心の彼女はその手を取ろうとしない。怯えたかのように竦むだ。


「……って、無理もないよな、そりゃ」


 あれほどの事があったのだから無理はない、と少年は頭を掻き、それからしゃがみ込み女性へと目線を合わせる。


「大丈夫。俺は味方です。あー、そのー……――あなたを助けに来ました」


 先ほどまでの様子はどこへやら。半ば躊躇いがちに自分を伺う少年の動きに、女性は小さく笑いを零した。

 釣られて、少年も破顔。そこへ――――



>「麗容とした月は窈窕と路を惑わせる。……そう思わないか?」

>「お祖母ちゃんが言っていた……『ボウリングはピンを倒すまで終わらない』って」

>「こっちに反応! ……って、ええ!? 鬼!? 凄い機械みたいな鬼!?」

>「……なんだお前、ファンガイアか?」

>「はぐれのライダーね、見付けたわ!」

>「……京、ちゃん?」




→天江衣 【#01 Kiva/Dark Blue Moon】

 



「麗容とした月は窈窕と路を惑わせる。……そう思わないか?」


 鈴を鳴らすかの如く、宵闇を咲く少女の声。

 月を背後にした少女。やけに明るい月の光――――今夜は満月だったらしい。そこで漸く気付いた少年と、身を固くする女性。

 ただならぬ雰囲気を感じ取った少年は直ちに戦闘態勢を取る。視たところその体躯は小学校中学年あたりの矮躯。

 別段畏れるべきではないが――。

 だからこそ、少年にはそれが恐ろしかった。


 体格からの判断なら、己より下であると結論付けられたが……少年には少女の強さが判らなかった。

 弱いのか、弱くないのか。強いのか、強くないのか。怖いのか、怖くないのか。

 そのどれもが理解できないからこそ――――であるが故に、それは何よりもおかしい。

 常識的には己に並ぶべくもない肉体だと認識しつつも、その印象は“不明”の一点に係る。宛ら月光の柔らかい狂気の波動に目を眩まされるように。


 或いは幼き姿ながらも、それに擬態した怪物には独特の油断ならなさ――というのが滲み出ている。半ば嫌悪感にも似た本能の警鐘が。

 だけれども、眼前のそれには何もない。

 そう。恰も、それが巨大すぎて仰ぎ量るのも烏滸がましいと言わぬばかりの、正体不明な少女。


「でも、花鳥風月――――月に叢雲、花に風。些かの不粋……厚顔無恥、愚昧蒙昧さもそこまで来ると、衣も吃驚だぞ」


 少女は少年を見ない。

 いや、初めからこれは見えていないのだ。見る気がないとも言えよう。

 彼女は楚々と嗤う。あくまでその対象は――倒れた女性。


「黄泉路への徒花だ。六銭代わりに――――王が、衣が、手ずから夜摩の裁定を下す!」


 漸く、そこに来て少年は気付いた。

 曇っていた――――月を隠していた群雲が取り払われたのだ。

 対するは圧倒的な光量。奥歯を噛み締め、ゼクターを手中に納めようとし――――


「キバって、い――ぶべらっ!?」


 ゼクターと“何か”が激突。明後日の方に弾き飛ばされた。失われる、跳ねる術。

 そのまま、何かは高速で旋回飛行を行い、少年には目眩ましを。女性には直接牙を突き立てる。


   ◇ ◆ ◇


 果たしてその救出劇は、悲劇に終わった。

 少女が彼と同じく禍々しい仮面を身に纏うのと同じくして、彼も変身を完了した。直ぐ様に打ち合う――そう意図はすれ、実行はされず。

 魔化魍カッパ。複数発生したそれが、少年へと襲い掛かったのである。

 斯くして彼は魔化魍との戦いを余儀無くされ、その間に女性は砕けたヒールで駆け出した。

 そして――。


「……なんで、殺してんだ。“助けて”って、そう……言ってたのに……」

「――――粛正だ。王の理に叛したなら、王の法理に裁かれるのは必定。同胞異種、有象無象の区別なく……衣は衣の道理を通すよ」

「そうかよ……」


 目の前で破片が如く砕け散った女性の肉体。少年はまたしても護れなかった。

 命が喪われる。生きようと――生きたいと願った命が、嗤い飛ばされ踏みにじられる。

 少年には事情が見えない。

 先ほどまで魔化魍に襲われていた女性が、ステンドグラスが如き怪物に変化するなどとは。

 そしてこの金髪の少女。

 腰より延びた金髪に、赤いリボンが付いたカチューシャ――宛ら鬼めいて二本伸ばしたそれが、満月を背に角の影を為す。

 この少女が如何なる論理と共に女性を殺したのかは定かではない。怪物には怪物の規範があるのかもしれないが――。


 正を希う命を嗤うのならば、それは少年の敵だった。


「だったらお前は、俺の敵ってことだよな。……変身ッ!」


 ――悪鬼、顕現。




→中盤山場:宮永咲ルート 【#09 Echos】





「知ってたんだ……咲じゃないって、咲は死んだんだって……誰よりも俺が!」

「……そ。なら退いて」

「でも……こいつは咲だ! あの日『生きたい』って……『死にたくない』って俺に言った咲なんだ!」

「……」

「……京ちゃん」


 叫びを上げた少年は、少女を――ただその残響でしかない怪物を庇う。

 彼とて理解していた。ワームは人間の記憶に擬態し、それを隠れ蓑に人を襲う怪物であると。

 だが、少女は少女だった。

 初めから彼には判っていた。他ならぬ少女の最期を看取ったのは彼であった。故に都合の良い奇跡などではなく、優しい夢に見せ掛けた悪夢だと。

 だけれども少女は少年を襲わなかった。幾度となく隙を見せても、害意を露にすることはなかったのだ。

 優しい少女は――やはり、悪夢でも優しかった。


 彼女がライダーと戦っているのにはきっと意味がある。そう、咲だけど咲ではないこの少女だって胸を痛めているはずだ。

 なら、今度は――――今度こそは、己がその軛から解き放つべきであるのだ。

 迫り来る追っ手がいるなら倒す。彼女の命を狙うものがいるなら潰す。彼女を再びあの暗い風穴へと落とさんとするものがいるなら――叩き伏せる。

 その為に少年は鬼となった。装甲を纏う悪鬼となった。

 神も、鬼も、仏も、修羅も、ライダーも――――何もかもを、逢った傍から切り捨てる!


「太陽の光なんて……俺の地獄には届かないッ! 通してくれよ……戦う気はない!」

「幸せでも、夢は夢。醒めた後には虚しさしか、な……」

「それでも、俺は咲の夢を……咲の願いを守る! 何が残らなくても、想い出だけは守ったっていい!」

「……わからず屋。なら、無理にでも止めるだけ」

「――ッ、なら……だったら、太陽なんて俺が堕とす!」

「太陽を落とそうとして近付きすぎて……墜ちるのはそっちだと思……」

「ははっ、俺にはこれ以上、堕ちるところなんてないんだよ……!」




→ヒロイン好感度最大イベント(過去回想) 【#00 Zero / Ground-Zero】


 



 ――雪が降り積もる。


 いや――これは灰だ。巻き上がり千々に乱れる灰塵の幕が、風に翻弄されているのだ。

 当然だ。真夏に雪が降るはずがない。幾重もの陽炎の薄衣に歪められた光の中、男が佇む。

 宛ら爆心地。焼け焦げた生木が出す独特の香り。呼吸と共に喉にへばりつく煤。辺りを彩るは光沢なき炭化の黒と燃焼の赤。


「京ちゃん、私……頑張った、よ……」

「……」

「皆を、守った……から」


 グラウンドゼロ――その煉獄の渦の中心地。横たわる少女がいた。

 既に色彩の判別もできず、皮膚との境も区別付かぬほど焼き付いた着衣。辛うじて茶髪と判るショートカット。

 大方が焼け爛れて収縮した茶色や黒色に変化している皹割れた皮膚。裂け目から覗く深紅が痛ましい。

 少女は訥々と語り続ける。その度に咳き込み、喉だけが別の生き物が如く蠢いて震えた。

 対する少年は、無言だった。

 少女が憎いわけではない。疎ましい訳ではない。ただ、彼には判らなかった。こんなときどうすればいいのか――その回答だけが思考から抜け落ち、手足の関節が錆び付いたシリンダー宜しく沈黙する。

 また、少女には少年が見えていなかった。

 瞳は開かれているがその視線は虚空をさ迷い、幻影の中の少年へと語りかける。


「これで……もう、戦わなくて……いいんだよね……」


 幾度もひきつりながら、息が零された。安堵。戦いの終焉に溜飲を下げた少女はしかし、命の灯火さえも終息に向かわせていた。

 少年は答えない。答えられない。

 ただ、競り上がる吐き気にも似た焦燥感、共に加速する動悸に喧しく米噛みで鳴り謳う鼓動音の中、努めて一言一句聞き逃すまいと耳だけを働かせた。



「もう、戦いなんて嫌だよ……誰かの悲しい顔なんて、見たくないよ」


 少女は続けた。

 彼女の持つ平和への祈りを。英雄が支えとした願いを。

 如何に闘いを怖がっていた彼女が、争いを嫌がっていた彼女が闘い続けたか。その柱。

 自分が戦うなんて嫌だけど、闘い合うのも嫌だけど。それ以上に、誰かが悲しみに顔を覆う所を見たくなくて。痛みに叫ぶ様を聞きたくなくて。

 だから彼女は、悪と戦ったのだ――と。


「これで、世の中が……平和になったら……それで……」


 正しくこれは、英雄だ。

 特別ではない。誰もが持ちうる――或いはそれより深いかも知れぬが――人間の優しさで。彼女は、余人にはできぬ闘いを続け、終わらせた。

 泣き顔や怯え顔を見せぬ為に。仮面に隠して闘い切った。

 それを果たして英雄と呼ばずして、なんと言い表すのだろうか。


 最早声を掛けることさえ叶わぬその高潔さを前に、少年の手足はなお硬直した。いや、正確に言うなら硬直ではなく弛緩。

 先ほどとは違う意味で、少年は言葉を発せられなかった。

 だけどせめてその優しき戦士の生き様だけは、生き様だけでも見届けなければと決意した少年は――――。







「京ちゃん……」



 ――――続く少女の言葉に、己の過ちを知った。



「やだよ……死にたくないよぉ……」




 



 何が、英雄だ! 何が戦士だ!

 そんな筈がない。そんな事がある筈がない。

 この少女は、世間で騒がれる仮面の戦士などではない。誰もを護る仮面の英雄などではない。

 自分がよく知る幼馴染みの少女だ。控えめで、大人しくて、押しに弱くて、でもその癖意地っ張りで、泣き虫の女の子だ。

 何が英雄だ! 何が戦士だ!

 自分がすべきは聴くことでも見届けることでもなかった。いつも通り話し掛けて、いつも通り連れ出すことだったのだ!


「咲、咲っ! 今病院に連れていってやるからな! 待ってろ! 待ってろよ!」

「京……ちゃん……? なんで……?」

「大丈夫! 大丈夫だ! 大丈夫だからな!」


 しゃがんで少女の腕を取り、少年は背中に担ぎ上げた。動かしていいか、悪いかは知らない。

 だが、動かさなければどうにもならない。こんな山に、放って置いて救助が来る筈がない。

 何としても少女を連れて山を駆け降りる。医者に預けて、細かい事情を訊くのはあとでいい。

 今は、早く――と。

 踏み出そうとした一歩のまま、少年は崩れ落ちた。

 



「なんだよ……なんで……!」

「京……ちゃん……?」


 少年は、今の今まで気付かなかった。

 熱せられた泥に岩にとうにスニーカーの底は融解し、挙げ句少年の足の皮そのものも熱に晒されていたと。

 剥がれて石に貼り付いた表皮に気付かず、それでも少年は進まんとする。



「京ちゃん、こんなところまで……ありがとう……」


 動け。動いてくれ――。

 翅があれば。羽ばたく為の翼があれば。

 高温の石に腹這いに倒れる。

 起き上がろうと突いた手が熱にひきつり、また不様に倒れる。掌の皮膚が剥がれた。



「京ちゃん、最後に会えて……京ちゃんの顔を見れて……よか、った……」


 誰か。誰か――。

 助けを喚ぶ声。それすらが熱に痛め付けられ、渇きとなって喉に舞い戻る。

 太陽の中心が如き熱の中。少年はもがき続けた。



「だから……もう、置いていって……京ちゃん……」


 お願いだ。お願いだ――。

 そこは地獄だった。

 少年は、背中の少女の魂の重みが徐々に失われていくのを感じながらもがき続けた。



「京ちゃんのこと……護れたなら……えへへ……もう、それで十分だよ」


 頼む。誰か、咲を助けてくれ。誰でもいいんだ。誰か。咲が。咲が――。

 宛ら、飛蝗。

 飛べない飛蝗。跳ねるばかりで、逃れられない飛蝗。



「実はね……前から、好きだったんだ。京ちゃんのこと」


 やめてくれ。やめてくれ。やめてくれ。咲を、助けてくれ。神様でも、仏様でも、誰でもいいから――。

 飛蝗は地獄で跳ね続けた。

 やっと翔べたそのときには、背中にあった翅は永久に喪われてしまっていた。

























「――――じゃあね、京ちゃん」


                         ヒメイ
 ――――飛蝗は、その地獄で絶望の“産声”を上げた。

 

はい、という訳で京咲純愛ホッパールートです

必殺技は踵落とし踏みつけライダージャンプからの下段正拳突きライダーパンチと、シャイニングウィザードライダーキックのホッパーです
咲ちゃんワームを庇って全ライダーと殺し合う事もできるステッキーなルートです

なお、衣以外とでは


→小走やえ/花田煌 【#02 Killer Queen】

やえ「一度しか言わないからよーく聴きなさい?」

やえ「私は仮面ライダーザビー、小走やえ。あんたも私の下でパーフェクトハーモニーしてみない?」

京太郎「……え、なんです?」

やえ「……ッッッ、一度しか言わないっつってんでしょ!」

京太郎「えぇ!?」


煌「まぁまぁ、一度や二度の間違いは人なら誰しもあります。それでお怒りになるのはすばらくないかと」

やえ「う……」

煌「という訳でそこのお方! ゼクターに選ばれるとは何かの縁! 私たちと正義の味方をやりませんか?」

京太郎「正義……なんて……その、俺には無理です。すみません」

煌「なんとぉ!?」




→高鴨穏乃 【#03 Crazy Diamond】


穏乃「す、凄い! どれだけ鍛えたらそうなるんですか!?」

京太郎「へ? え、俺ェ?」

穏乃「うわー、かっこいい! 凄いなぁ……硬い! うわわ、硬いなぁ!」

京太郎「俺ェ?」


穏乃「あ、すみません! 私は高鴨穏乃! 響鬼です、よろしく!」

京太郎「え、あ、その……よろしく……なのか?」

穏乃「よろしくお願いします! それで、なんて名前の鬼なんですかー?」

京太郎(……今さら違うとか言い出せないよなぁ、これ)




→鷺森灼 【#05 King Crimson】


灼「お祖母ちゃんが言っていた……『私は天の道を往き、総てを灼き付くす女』」

京太郎「……お前が、カブト」

灼「ちなみに天道はお祖母ちゃんの旧姓だったり……」

京太郎「あ、はい」

灼「……ぶい」


的な

他にはまぁ、没案として
昔のガタックの有資格者→咲ちゃんワーム庇って逃げる→赤い靴システム暴走で咲ちゃん斬り殺す→ガタック捨てる→レイプ目ホッパー→妖怪ゼクター置いてけ
的なのもね


【没案:妖怪ゼクターおいてけ】

「ガタックゼクターか……懐かしいな」

「あなたは……?」

「ああいや、前に使ってたんですよ。そのゼクター」

「なるほど……」

「ただ、俺は資格を喪ったんです。……ゼクターの所有者である資格を」

「へっ?」

「……俺ももう、そいつを使いたくなかった。時限爆弾があるそいつなんて……もう」

「え、あのー……時限爆弾……って」

「“赤い靴”――――ワームを殺すまで、止まらないシステムらしいです」


 ――やめろ。やめてくれ。

 ――やめてくれ。逃げてくれ、咲。逃げてくれよ。

 ――嫌だ。もう咲が居なくなるなんて嫌だ。

 ――やめてくれ。逃げるんだよ、咲。なあ……!

 ――なあ、頼むよ。逃げろよ、咲……逃げろよ……!

 ――笑うなよ……笑うな、笑うな。そんな顔しないでくれよ。

 ――止まれ。なんでだよ、止まれよ。頼む。止まってくれよ。なんなんだよ。

 ――咲。やめろ。聞きたくない。聞きたくないんだ、そんな事。

 ――俺は構わない。お前がまた、戻ってきてくれただけで構わないんだから。戦いなんて……戦いなんて、俺は……。

 ――咲、逃げろ。逃げてくれ。

 ――俺は、いいんだ。お前を狙うワームを倒して、ZECTの追っ手だって倒す! 俺は構わないんだ。構わないんだよ、咲。

 ――止まれよ。なんなんだよ。なんでなんだよ。クソッ、止まってくれよ。

 ――咲、笑ってないで、逃げろよ。逃げろって……! なあ、なあ……!

 ――なんでだよ、どうして……どうしてお前を殺さなきゃいけないんだよ……!

 ――クソッ、止まれ! 止まってくれ! 止まれよコイツ、止まれ……!

 ――あ、あ……あ、ああ……咲……! 逃げろ……逃げろ、咲……!

 ――やめろ……止せ、やめろ……やめてくれ……! やめろ、やめろよッ! やめろぉ!

 ――咲……咲ィィィィィィィィィィ!


「花田さん……折角のところを悪いんですが」

「あ、はい、何でしょうか?」

「死んでもらえますか? ……俺にはハイパーゼクターが必要なんです、ごめんなさい」

という訳で、まぁもう実現不能であろう響鬼/カブト/キバルートのオープニングでした

それでは。Vシネ版は頑張って書き溜めるのをお待ちください。1ヶ月に4日しかパソコン触れないんだ

落ち回避

始めます







 「第三章:誇り高き名前/Kは止まらない」






 ◇ ◆ ◇




「……よし。セーラさんに保護を……っと」


 白水哩、鶴田姫子と別れた京太郎は肩を撫で下ろしながらスマートフォンをタップ。


 未だに怪人などというのが公に認められてはいないが、それでも人々は知っている。

 あの十年前の事件が、皆の心に焼き付いている。特に治安関係者にとっては顕著である。

 マスメディアもまた、同じだろう。危うく全国民、全世界目掛けて“絶望”という名の番組が配信されエンドロールを迎えそうになったのだからしかるべき。

 麻雀プロは何かと忙しい――特に女性はアイドル的な立ち位置にもある――が、事情が事情なだけにスケジュールキャンセルは受け入れられそうだ。

 鶴田姫子と白水哩のマネージャーとそのあたりの調整を済ませた京太郎は、やれやれと頭を掻いた。


「一件はとりあえず落着だけど……」


 そうは言ったが、どうしたものか。

 京太郎は静かに溜め息を漏らした。

 使える手がかりとしては、原村和・青山和の両方とも使い切ってしまっており――結果として分かったのは、青山士栗がファントムに狙われているというそれだけ。

 とりあえず、彼女がゲートとして――狙われており、そして未だにファントムとして目覚めない。

 そこはいい。


 しかし、手掛かりとなるものは見付からない。

 一先ずは、彼女はファントムの手に堕ちてはいないという収穫は得たが――ならば果たして、今度はどこにいるという話だ。

 高々十二歳そこらの少女が、まさか三日も隠れ続けるとは思えない。


 それこそ、それはそれで別件の犯罪に巻き込まれては居やしないか、という話だ。


 もう一度、彼女の交友関係を洗い出してみる必要があるだろう。

 捜査は振り出しに戻った――とまでは言わない。

 哩と姫子が襲撃されたという事は、少なくとも士栗が狙われる立場であると判明させたのだから。


「……青山士栗がゲート」


 目を閉じる。

 白水哩と鶴田姫子が狙われたということは、即ちそういうことだ。

 だが、逆にいうのなら青山士栗はまだ生きている。人間のまま、ファントムにならず。

 生きているからこそ、彼女の希望である白水哩と鶴田姫子が狙われたのだ。そう考えるのが自然。

 しかし、ならば一体どこに潜んでいるというのか。しかも、姉を一人きりにして。


(……)


 思考に没頭しようとする京太郎。胸の内には、ある不安が渦巻いていた。

 そんな彼の思索に、電話口の声が割り入る。



『……ああ、そうや、京太郎』

「なんですか、セーラさん?」

『頼まれ取った原村和やけどな……ざっと調べた感じじゃ、失踪届は出とらんかったわ』

「……和の家族の方は?」

『そっちも。
 まぁ、なんか悪いことしたわけでもあらへんし、法律関係者ってんで調べるにしても変に勘ぐられるから二の足踏んどったんやけど……セーフっちゅうことで』

「そうですか。……ありがとうございます、セーラさん」

『ほななー』


 スマートフォンを操作。溜飲を漏らす。

 これで少なくとも、原村和に対する幾ばくかの懸念は消えたのだ。

 白水哩と鶴田姫子が襲われる――――しかもこのタイミングで、というのが引っかかったが、どうやらただの杞憂らしい。

 ……と、そんな折に和からの着信が入った。


『須賀君、あの……』

「どうした? あ、とりあえず今のところ、士栗って子が無事……ってのは分かったけど」

『そうですか? その、では私はこれから……』

「そのまま、青山さんと一緒に――」


 いや、と一つ息を漏らす。


「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど、付き合ってくれるか?」

『判りました……けど』

「……何かあったのか?」


 含みのある声色の原村和。



 何事かと、顎に手を当てて続きを促した。

 どうしても急ぎの案件である以上、即座に飛び出してきてしまっていたが――あの場に残った彼女が、ひょっとしたら何か発見したのかもしれない。

 もう一度現場を確かめに行くべきかとも考えたが、どうやらその必要はなかったらしい。


『実は……ここに置いてある本なんですが、うちの学校の本なんです』

「……森鴎外の舞姫だよな?」

『ええ。でも、確か今……授業に使うということで、図書室に戻されているはずなんです。全部、有ったはずです』

「……本当か?」

『ええ。今日はHR以外授業の予定もなくて、国語の先生に整理と確保を頼まれていたから――覚えています』


 二冊ある本。


 いや、実際は二冊どころではないが――ある筈の場所に、確かにあるのに。無い筈の場所にも、ある。

 これは一体どういうことだろうかと……顎に手を当てて考える。

 その時、京太郎の頭で閃くものがあった。


「……和、学校の図書室に――ってそっちの方が遠いか……仕方ないな」

『須賀君?』

「とりあえず、俺が学校に向かう。和は俺の指示に従って、そこから離れてといてくれないか?」

『は、はい……』



 バイクで急行。

 先ほど訪れたばかりのスマートブレイン学園中等部に乗り入れ、玄関前にバイクを止めてヘルメットを投げる。

 何事かとこちらを疑う生徒に構わず、京太郎は校舎の棟と棟を繋ぐ廊下疾走する。

 その途中、携帯電話が勢い良く鳴った。

 走りながらポケットから取り出すと、画面を見ずに通話状態に切り替える。


「もしもし?」

『あ、あたしなんだけど……さっき調べてた結果出たわよ』

「どうだったんだ?」

『基本的に夜――歓楽街とかで見かけた人はいないみたい。朝から今まで掛けて調べてたから、かなり信憑性はあると思う』

「そうか……分かった。ありがとな、憧。愛してる!」

『京太郎、それよりあんた今どこに――』

「――おかげで、大体事件が分かった! あとは確かめるだけだ!」

『流石、仕事は早いわね……、……でも、お願いだから無茶はしないでよ?』

「無茶と無謀は探偵の特権って言うけどな。――大丈夫だ。結婚を前にして、死ぬわけないっつーの」

『……そう、ならいいけど。夜には間に合いそう?』

「それは事件の方に聞いてくれない?」


 軽口を叩いて、電話を切る。

 もう一つ、憧に指示を送るとしたらメールになるだろうが――それでも彼女は今、別件についている。

 護衛をしながら捜索をしろというのは、無茶な話でしかない。


 こんな時、南浦数絵が居たのなら――地球の本棚による検索を行えていたであろう。

 だけれどもそれこそ、高望みというもの。

 彼女と片岡優希も……どちらも日本代表の一員として、麻雀の世界大会への出場を行おうとしていた。

 呼びつけても現地時間などとの差もあるし、何よりおそらく今は通じないだろう。


 階段を駆け上がり、図書室へと押し入る。

 丁度昼休みも終わった後の時間。生徒の利用者というのは、少ない。

 突然の闖入者に驚く司書に構わず、京太郎は目的の棚を目指した。

 そして目標の本を取り上げる。


「……なるほどな」


 当然の事ながら、ここにあるのは中等部の蔵書ではない。

 その裏に記された図書館の名前を見て、京太郎は溜め息を零した。

 勘違いをしていた。彼は重大な、思い違いを。


「よし」



 夜歩きをしていない理由。

 まず第一、彼女はファントムから逃れているが故に、夜歩きどころか出歩かない――というのは常識である。

 だが、その常識の内側に入り込んでみるとしよう。


 他に夜歩きを避けるとしては、治安の問題だ。

 しかし、彼女――――青山士栗は体育教師顔負けの身体能力を持っている。よしんば絡まれたとて逃げ切るのは容易い。

 さて、では他に。

 彼女が補導を恐れるのならばそれも判るが――だが、他ならぬ士栗自身が理解している筈だ。

 自分の行動が、どれほど通常通りではなく、そしてそれを肉親がどれだけ心配するかなんて。

 つまり、捜索願が出されるのは必然であるし、また、年頃の少女がぶらぶらと出歩いても他人から注意を受けずに済むのは放課後だけだ。

 ここで誰からも「そういえば……」という話が上がらなかったのなら、彼女は放課後に出歩いていないということになる。

 やはりどうしても、籠り切りと考えるのが――こうも長々と回り道を辿らなくても自明として現れるのだが――。


「やれやれ……やっぱりか」


 そして京太郎は、そうでない証左を手に入れた。

 巡る数件目の図書館に於いて、青山士栗の目撃情報を得たのだ。

 それに続くように、携帯へのコール。

 司書が露骨に顔を顰めるのに会釈で応じて、図書館の外へ。着信の主は原村和である。


「和、そっちはどうだった?」

『ええ、須賀君の言ったとおりに図書館に向かいましたけど……』

「当たり、って感じだよな。その分じゃ」

『はい』

「じゃあ、一度合流するか。……詳しく話聞かせてくれるか」




 ◇ ◆ ◇




 その後、ほどなくして彼は原村和と合流した。

 街中の一角。傍から見れば、デートにも思えなくもないが……生憎とそんな色っぽい話ではない。

 和に手を上げて、駆け寄る。


「悪いな、お待たせ」

「いえ、私も今来たところですから。……ところで」

「……なあ、和。一つ聞いておきたいんだけどいいか?」

「なんでしょうか?」

「青山士栗の姉……青山和さんって、どうして家にいたんだ?」

「……? それは、妹さんがいなくなったから……」

「ああ、じゃなくて……仕事はしてるんだよな?」

「そうですね、それは勿論ですけど……」


 困惑気味の和を尻目に、京太郎はふむと呟く。

 変わらず置いてきぼり気味の和は、手持ち無沙汰に掌を合わせて彼を見る。

 真剣な面持ちの須賀京太郎の姿など、和の中にある記憶を探ってもあまり見当たらないそれ。

 まさしくこの十年で、須賀京太郎という少年は立派な探偵へと変化を遂げたのであろう。


(……この分なら、きっと見付かりますよね)


 やれやれと、和はその豊満な胸を撫で下ろした。

 対する京太郎と言えば、


(……そうか、仕事か)


 思案げな表情の後、顔を上げて和を見る。

 彼女はといえば、京太郎に説明を求めている風にも、或いは自分がたった今しがた行ったことの報告を従っている風にも見える。

 嘆息して、右手を拝み手に軽く頭を下げる京太郎。


「悪い、ちょっと待ってくれ。ちょっと電話したいんだけど、いいよな?」

「はい……わかりました」


 断りを入れて、アドレス帳を開く。

 短縮ダイヤルにも記載された少女の電話番号。

 あて先は――佐倉杏子。


「もしもし、杏子か?」

『……何にさ、京兄。あたしになんか用?』

「いや、そのー」


 言葉を選ぶ。

 彼女は勘が鋭いので、京太郎が行っている事を知ったらきっと眉を顰めるに違いないし、それどころでは済まないのは請け合い。

 家族が危険に身を投じるというのを、快くは思っていないのだ。……京太郎も同じく。

訂正

×『……何にさ、京兄。あたしになんか用?』

○『……何さ、京兄。あたしになんか用?』



 電話越しの少女――佐倉杏子は、十年前の事件の被害者だ。

 京太郎と同じく、家族を失った。

 違いがあるとしたらそこには京太郎の戦いが間接的に関わっており、そして、その被害の遠因は京太郎の家族。

 一時的に憑依したグリードの置き土産――己の頭に残された情報を頼りに杏子が家族を失っている事を知った京太郎は、彼女を引き取った。

 それから兄妹として、今日までやってきていた。


「なんか、その……変な噂とか聞かないか?」

『変な噂。……って、ああ、また仕事がらみ?』

「……。言葉選んだら情報が聞けないし、情報聞こうと思ったら言葉選べねーよなぁ」

『何ぶつくさ言ってるのさ』


 それなりに衝突はあり、相応に問題や軋轢はあった。

 だけれども今では二人は、普通の兄妹として接している――はずだ。きっと。

 ただ、どこかぎこちなさが抜けないというのは事実。

 現に京太郎の職業を杏子が手放しで喜んでいる訳ではないし、また、彼女は大学の学費まで捻出する京太郎に対しての負い目を感じていた。


 それはまあ、京太郎も同じだ。


 ただそれ以上に、家族として大事にしている。

 彼女もまた、失ってしまった家族とは別に――京太郎との兄妹関係を始めていた。

 身寄りがなくなったもの同士の関係は、欺瞞とそれ以上の優しさで満ちている。


『別に、いつも通りだよ。この街は昔からいつも変わらない』

「……」

『っていうか、変な噂じゃ判んないって。聞きたいならちゃんと詳しく説明しなよ!』

「……夕飯でな」

『……顔出せっての?』

「嫌なのか?」

『あのさぁ……だからそーゆーのが、ウザいんだって』


 うん、でも、反抗期かもしれない。


 そりゃあ、年頃の少女と同じ家は不味いと思う。不味いと思った。

 だからまあ、必然的に独り暮らしを選択するのは間違いではない。京太郎も同意した。

 だけど、こう……大切な義妹のことが、心配であるのも事実だ。


 だから邪険にされるとそこはかとなく物悲しい。


『っていうかさ、京兄。それって、魔法使いの出番じゃないの?』

「……なぁ。大学四年生にもなって、魔法少女とか名乗って良いのか?」

『名乗ってない!』


 「そういうとこ、あんた昔からウザいままだ」と言われて――今の一言は余計だったかと悩む。

 だけれども、彼としても杏子に首を突っ込んで欲しくはないのだ。

 年がたった二つほどしか離れてないとはいえ――彼女はフリーターをしてから大学に行った――、大切な妹。家族を危険に晒したくない。

 この手の危険なんてのは、仕事をして金を得るからの対価。学生である彼女は、触れるべきではない。


 だからわざと怒らせて、会話を打ち切らせるほか無かった。


『まー、今ので誤魔化そうったってそうはいかないよ。……夕飯、顔出すから詳しく聞かせて貰う』

「……分かった。夕飯でな」

『逃げたらどーなるか、判らない京兄じゃないよねぇ……?』

「……家庭裁判所に、家庭内暴力って訴える以外は分からねーよ」


 が、結局は話題の中断には失敗した。

 流石に彼女もそこまで単純ではないし、何よりも京太郎との付き合いが長い。やり方なんて、察されて当然だ。

 仕方なしに適当な諧謔を交えて、通話画面終了に指を運ぶ。


『じゃ……、夕飯でね』

「ああ、ちゃんと講義に出ろよ」

『わざわざ言われなくてもそんな勿体ないことしないって』


 どうやら――夕飯前に、この事件を片づけねばならなくなったらしい。


「今のは……」

「ああ、妹なんだ」

「須賀君に、妹さんが居たんですか……?」

「ああ――――まあ、なんていうか義理の、なのか……?」


 あの事件の後、京太郎はアンクが憑依していた少女――佐倉杏子を引き取った。

 引き取ったというか、同居という形ではあるが……不慣れな二人三脚での共同生活を送ってきたのも事実。

 互いに身寄りがなかった。だからだろうか、思ったよりもすんなりと杏子も京太郎の提案を受け入れたのだ。

 それからこうして十年。本当の兄妹とは言えずとも、不器用なりに家族という体はなしているはずだ。


 ……ちなみに同居に当たっては、女性陣からの反対。それも、憧から超集中砲火を浴びたというのは言うまでもない。

 彼女曰く、「いくつも違わない女の子と同居するって何考えてんのよ!?」だそうだ。

 「彼女いるのに」――と。

 まぁ、そうと懸念されたが、結局のところ間違いは起きなかった。

 杏子もそういった色恋沙汰にあまり興味がないというのもそうであるし、なんとなく京太郎に対して反発しているというのもある。

 同じく京太郎も、愛する恋人以外が目に入らなかったのだから間違いになりようがない。


「色々、あったんですね……」

「まぁな。……って、和の方もそうだろ?」

「……はい。十年とは、やはり長いものですね」


 目を伏せる原村和。誰しもがあの事件を境に生活を壊され、それから十年という歳月だ――変わらぬ方がおかしい。

 いつまでも、子供のままではいられないというのは誰の言葉だったか。

 湿っぽい空気が流れそうになるのを咳払いで直し、努めて平静な声を上げる。


「それで、そっちはどうだった?」

「はい、須賀君の言うように図書館を探してみましたが……」


 和から齎された情報――――京太郎の指示で、数件の図書館を巡った彼女も手に入れていた。

 複数の図書館にて、“舞姫”を借り入れようとした。或いは、閉架書庫のものを含めて、閲覧を行おうとしていた青山士栗の目撃情報を。


 知っている――だから京太郎は思い違いをしていた。

 白水哩と鶴田姫子は仮面ライダーであると、彼は知っていた。

 故に、青山士栗が二人のファンで、そして「仮面ライダーWと舞姫」についても調べていたと判ったとき、京太郎は彼女が舞姫コンビの熱心なファンだと考えた。

 そこまで行き着く者なのか――という驚愕を交えて。



 しかしこれらはそもそもが別物だった。

 ――そう考える方が、この場合は正しい。

 彼女が仮面ライダーWを探しているのと、彼女が哩と姫子のファンだというのは別の問題。

 ならば、何故彼女は姿を消していたのか。

 そして、仮面ライダーWを探していたのかなんて、決まっている。


「じゃあ、他にも図書館を探してれば……この時間なら、多分どっかで見つかるはずだ」

「図書館……先ほどからよく判らないのですが、図書館に何が?」

「あー、まー……その辺はちょっと説明しづらいんだけど……」

「学校を休んでまで、調べ物ですか。……そんな風な娘には見えませんでしたけど」

「色々事情、って奴なんだよな。……とにかく、無事ではいるけど青山士栗は危険な位置にあるって考えてくれ」

「……判りました」


 昼間に出歩いていたのは、その時間帯しか図書館が開いていないから――だろう。

 彼女は助けを求めていたのだ。仮面ライダーに。

 身を隠していることから言うまでもないが、彼女は己がファントムに狙われていると知っている。故に身を隠し、そして……ライダーへと助けを求めた。

 放課後を選ばない理由は、自分の目撃証言を可能な限り抑える為だろう。


 身を隠したのはファントムから逃れる為。

 そして彼女が、己がファントムに狙われていると知りながらも肉親を残していった理由は――。



『もしもし、京太郎か?』

「セーラさん? どうしたんですか?」

『青山士栗の姉が消えた。見張りに残してた警官曰く、それこそ本当に――瞬間移動や何かみたいに、消えたっちゅう話や』

「……判りました。付近の捜索、お願いします」

『俺の方の用事も終わったから、そっちに向かう!』

「頼みます! じゃあ!」


 言うなり、京太郎はスマートフォンを畳んだ。

 それから、和へと向き直る。多量の×印をつけた地図を取り出して。

 ここから先は、互いに猶予のないチェイスとなろう。


「和。……残りの図書館が、これだけある」

「多いですね」

「悪いけど……そう、こっちに行ってもらえるか? 俺はこっちに」

「二手に分かれる、ということですか? なら、警察には――」

「いや、警察は駄目だ」


 万が一ファントムと遭遇したのならば、対抗する手段を持ち得ぬから。

 いくら警察が優秀だとしても、グールはまだしもファントム相手には些か辛いことがある。

 スマートフォンに浮かべた地図に、時刻とポインティングを済ませる。


「兎に角、頼んだから……見付けたら連絡してくれ」

「ええ、須賀君も」



 ◇ ◆ ◇




「……ここも外れか。そっちは?」

『私の方もそうです。では……』

「ああ、次頼む」

『はい。須賀くんが向かうのは――』

「こっからだったら……」

『E‐4ですね』

「りょーかい!」


 原村和からの応答に従って、ポインティングを済ませる京太郎。

 その顔は渋い。

 彼としても――そう、これが本当に時間との勝負だと理解しているから。

 掛け金は京太郎だけではない。その咎は京太郎に向かっても、罰を負うのは彼ではないのだ。

 その脳裏で、ある言葉がリフレインする。


 ――……ごめんね、京ちゃん。

 ――あのとき、私が間に合わなかったから……おじさんとおばさんが……。

 ――京ちゃんのお父さんとお母さん、助けられなかったの……。

 ――私が……ちゃんと、戦う決心してれば……。

 ――ごめんね、京ちゃん……。


 一体、あの少女が――仮面ライダークウガが今の彼を見たら何と言うだろうか。

 嘆くだろうか。怒るだろうか。褒めるだろうか。悲しむだろうか。

 そればかりは確かめようがない。何故ならクウガは――――宮永咲はもうこの世には居ないから。

 ただ、京太郎の胸にはいる。いつだっている。

 全てを仮面の下に仕舞い込んで、悲痛を圧し殺して、苦痛を背負って孤独なヒーローとして“絶望”と戦い続けた幼馴染みが。


 ある夜、宣言した。

 彼女の手から零れ落ちた希望を、彼女の腕が阻むことができなかった絶望を受け止めると。

 全てが絶望の炎に包まれても、希望の光として戦い続けた少女の――その灯火を受け継ぐと。

 だから負けてはならない。今を生きている人の為にも、今を生きたかった人の為にも。



「……この分じゃ」


 原村和からの連絡を元に、画面に描かれた三角形。いよいよポイントは絞られてきた。

 真実、正念場であった。

 須賀京太郎が探偵となったのも――オーズの力を失ってなおも戦いを続けているのも全てはその為。

 邪悪に蝕まれる日常を見逃さない。

 理不尽に踏みにじられる命を許さない。

 不条理に押しやられる嘆きを捨て置かない。

 誰もが欲しがっている――当たり前の明日という欲望を、希望を守る為に――――。

 人々の自由の為に戦う。それが彼の持つ信念であり、覚悟だった。


「急がねーと……!」


 奥歯を噛み締める。地図上に表示された点の数は、都会の欲望に曇る星空が如く。

 既に確信へと至った――故に、危機感と焦燥感が胸を衝くその事態へとひた走るしかない。

 フルスロットル。

 エグゾーストノイズが高らかに歌い上げる。

 川沿いの舗装路。工場脇の道路。所々に景観を維持する為の街路樹。人気はない。

 ここを通るのが最も近道であると、流れる景色の中、汗滲む掌を殺しつつ――


(――っ!?)


 突如飛び出した人影に、京太郎はバイクを急停止させた。

 道の中程に躍り出た影。両手を広げて、京太郎の進行方向に立つ。

 バイザーを押し上げる京太郎へと、投げ掛けられた声。



「お前が噂の仮面ライダー、って奴か……」

「……あんたは?」

「なんでもいい。お前は楽しませてくれる奴だ――って話だけどな。ヒマツブシ程度には」


 舌打ち一つ。

 こんな状況で現れるものが、碌でもない相手などと――京太郎でなくとも察しが付く。

 懐からマグナムを取り出し、眼前の男目掛けて構えた。


 年のころは、二十代中盤から三十代ほど。

 長い手足と黒いポロシャツ。ある意味知性を感じさせる眼鏡。しかしながら一目で感じる印象は粗暴――と言ったところ。

 黒をベースとして、全体的にトーンが暗い。

 しかもその半袖のシャツやズボンなどの裾が千切れていることから、尚の事京太郎はこの男に対しての危険を認識する。


 一見すればおとなしそうでも、この手の輩は得てして好戦的だ。


「退いてくれ。急いでるんだよ、俺は」

「そんな連れない事は言うなよ。……なぁ、仮面ライダー!」


 叫び声と同時に発せられた灼熱。男の体が、即座に化け物へと変化する。

 そこにあったのは、炎を纏いし怪人――言うなれば不死鳥・フェニックス。

 ガイアメモリを使った痕跡はなく、同様に、イマジンであるなら人がこうも変化するはずがない。


 こいつが、青山士栗を追い詰めている――ファントム。


 その頭部は、不死鳥が羽を広げた意匠の冑。

 変身前と変わって赤色を基調としながらも、甲冑がごとき胴体の内、その両肩は嘴を思わせる尖角の金色。

 超高温で蒼く燃焼する炎が如き瞳が――喜色を湛えて、京太郎を捕えた。



 緩やかに掲げた右手――ファントム、フェニックスの掌から翻った多量の火炎。

 咄嗟にフルスロットルのバイクで以って急前進。

 ウィリー状態から、逆に前輪を即座に地面に叩きつけて後輪を持ち上げ――勢いのまま回転し、回る後輪で弾きにかかる。


 小手調べのつもりだったのだろう。

 そうでなければ今頃、バイクごと京太郎は焼き払われている。それほどまでに――たった一合介しただけでも分かるほどの実力。

 マグナムのトリガーを立て続けに放つも、無意味。

 その灼熱の障壁に阻まれて――高笑いと共に、弾丸が消し飛ばされる。


「ハハッ、どうした! そんなよわっちい攻撃なんて、《希望(おまえ)》ごと焼き払ってやるぜ?」

「……クソッ」


 捻る、スロットル。

 こうしている間にも事件はその真相ごと闇に消えようとしている――絶望の闇へと。

 明らかなる強敵。全身全霊でぶつかっても勝てるともしれず、簡単には踏破できない絶望のクレヴァス。

 何とかして相手の隙を突いて、この場から離脱しなければならない。


 その手のマグナムが、甲高い遠吠えを上げた。



「おい、どうしたんだ仮面ライダー!」

「幾らなんでも、しつこ過ぎだろ……!」


 鳥類がごとく飛来する火炎を弾丸で叩き落し、京太郎は口元を拭う。

 即座にターン。

 切り返しのジャックナイフで、追撃の鳥群を振り払う。


 背後には燃え盛る炎。別のルートは選べない。


 唯一間に合うとすれば――可能なのは、目の前の怪物を倒して切り抜ける事。

 しかし、あまりにもリスクが高い。

 あの自信。今まで京太郎が戦ってきたあらゆるファントムよりも上位。事実、ボムメモリとマグナムでの撃破が不可能。


 よしんば正面から激突したとしても、打ち砕くことは容易ではない地獄の業火。

 きっとまともに戦えば、ここで足止めを喰らう事は請け合いだ。

 既にかなりの時間を取られてしまっているが、それすらも、奴と正面からぶつかったのなら凌駕する事に比べればマシなほど。


 というのも――京太郎のこれまでの戦闘経験が告げている。


 確かに奴は強力だ。

 あの火炎もそうであるし、容易くコンクリートを破砕するその豪腕とて同様。

 だが、それ以上に何か得体の知れない隠し玉を持っているという気配が、如実に伝わってくるのだ。



(イチか、バチか――――)


 奥歯を噛み締めて、京太郎はシートに身を引き倒し寄り付ける。

 二〇〇〇CCにも届き――いや、度重なるチューンアップの末にそれを超えた大排気量のエンジンが雄たけびを上げた。

 次の車検はどう誤魔化そうかなんて、まるで関係のないことを考えながらも、カウル越しに敵を見やる。


 放たれた火炎を、車体ごと身を捩って左に回避――直後に、全身の筋肉に物を言わせて逆側へと転化。

 右ハンドルがアスファルトと紙一重となる車体とは真逆の方向へと体を倒し、左腕一本で車体と自分を繋ぎ、右腕に構えたマグナムを――撃つ/撃つ/撃つ。


「おお、煙幕って奴かヨ……!」


 まさしくファントム・フェニックスの言葉どおり粉塵を上げるコンクリートだが――京太郎の狙いは違う。

 止めとばかりにボムメモリへと換装。

 挿入され、囁きを大声で高らかに謳うボムメモリ。


 ――《BOMB》! 《MAXIMUM DRIVE》!



「んなのが、通じるか――――ってな!」


 高威力/高密度/高火力の火炎が、迫りくる爆発の記憶の弾丸を――それすらも爆裂させて焼き尽くす。

 地獄の紅蓮をつかさどる己に、そんなものが通じるかと顔を上げるファントム=フェニックス。

 そこへ――


「――――通じるんだよ、それが」


 宙を舞う車体と、ファントム目掛けて銃口を向ける須賀京太郎の姿が映った。

 ――あの煙幕と、マキシマムドライブは攻撃の為ではなかった。

 分裂するボムのマキシマムドライブの弾丸で、京太郎は道路を砕いた。


 煙幕というのも、全てはこの為――攻撃する為ではなかったのだ。


 ボムメモリで道路を砕き、作ったのは即席の発射台。

 全力のバイクで突撃してきたのも、その巨体に見合った質量のそれを浮かせて跳ばせる為。

 つまりやはり京太郎は、フェニックスとこの場で遣り合うつもりなどはなく、全ては青山士栗の元へ向かうためにこれほどの命懸けの特攻を演じたというのだ。


 そのまま、吐き出される弾丸がフェニックスの体を打ち据える。

 まさに不死鳥の頭上を跳び越し、須賀京太郎は絶望のクレヴァスを飛び越え――



「いいや、やっぱり通じねぇけどな!」


 ――られない。


 ファントムの身体を中心に、巻き起こる爆裂。

 憤怒の炎が一気呵成で燃え上がるそれは大気を食み、高熱と衝撃の落とし仔を生んだ。

 たった先ほど、車体の巨大さに見合うほどの質量を持つと言ったばかりではあるが――。


「――――っ」


 その車体ごと纏めて、京太郎の体を弾き飛ばすだけの憤懣が、そこにはあった。

 脇道に落下する。逃れる術は――ない。このままでは。

 そう判断した京太郎は咄嗟に車体を蹴りつけ、空中での離脱を図った。

 その先には――川。

 場違いな川の反射光が、京太郎とフェニックスを映し出している。


(っ、クソ――――!)



 ◇ ◆ ◇


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