御坂「それがあんたのやり方なの?」 レイ「そうよ」 (77)

上条「おまえは誰だ?」 カヲル「僕はカヲル。運命を仕組まれた子供さ」
上条「おまえは誰だ?」 カヲル「僕はカヲル。運命を仕組まれた子供さ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385216818/l50)

の続編にです。
このスレから読むとたぶんチンプンカンプンなので、前作を読むことをおススメします。

とある×エヴァのクロスになります。

時系列はエヴァ旧劇場版あたり。
注意書きは前作とあまり変わらないので、そちらを参照してください。

更新は数日に一回ぐらいはしたいかな。
けれど、リアルの忙しさによってまちまちです。

それでは第2部スタートです。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396956202

シンジ「もう、みんなが怖いんだ」

エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジは呟く。
シンジは通路を歩いている。
しかし、どうも様子がおかしい。

第17使徒である渚カヲルを、自らの手で倒してからもう数時間経っている。

第7ケージに戻った後、メディカルチェックやブリーフィングを行い、パイロットルームに帰った。
無駄に広いパイロットルームで制服に着替えた後、ミサトの家に帰らずフラフラと本部内を歩いていた。

第一種警戒態勢が敷かれているからではない。

今も右手に残る、カヲルの感触。
さっきの戦闘でカヲルを握りつぶしたのは、初号機のパイロットであった自分。

柔らかいカヲルの体に、憎悪に任せて力を込めた。
その瞬間が何度も何度も、頭の中で繰りかえされ……。

シンジ「うわあ!」

誰もいない通路で、一人悲鳴を上げるシンジ。

突然気配を感じて、後ろを振り返ってみても誰もいない。

それでも何か変な違和感が消えない。
一人で部屋にいるのが怖くて、ウロウロしているのだ。

確かに、あの時はカヲルを憎んでいた。
殺してやりたいと思った。

でも、血にまみれた初号機の右手を見た瞬間、一気に目が覚めた。
自分が、いったい何をしたのかを理解した。

渚カヲルを殺した。
友達を殺した。
この世でたった一人の存在を殺した。

一時の感情で流され、超えてはならない一線を越えてしまった。

その瞬間、自分の中で何かが壊れた。
取り返しのつかない何かが、壊れた。

シンジ「もう、どうでもいいや」

シンジはぼそぼそ呟く。

シンジ「何もしたくない」

シンジの徘徊は終わらない。

「何してんのよ」

シンジは声がした前の方を向く。

前にいたのは、明るい栗色の髪に青い目の少女。
シンジと同じ第一中学の制服を着ている、白人のハーフ。

自分の生きる目標を奪われ、壊され、自分を守るために心を閉ざした少女。
御坂美琴の助けを得て、もう一度生きる決心をした弐号機パイロット。

先ほど復活した、惣流アスカラングレーである。

アスカ「大丈夫? アンタ」

両手を腰に当て、片足に体重をかける体勢でアスカは尋ねる。

シンジ「……」

シンジは何も答えない。
目すら合わせようともしない。
いや、周りの様子に興味がないような反応だった。

いつものシンジなら、もっと違う反応をするのだろう。

何しろ、シンジとアスカが最後に会ったのは、アスカが心を閉ざす直前。
アスカがミサトの家を出ていった日だ。

それに、シンジは病室で廃人になってしまったアスカの姿も見ている。

だから、アスカの登場に驚くはずだ。
ましてや、アスカのことを心配していたのだから。

でも、もうそのシンジはいない。

アスカ「ったく、久しぶりの対面だってのに、何よ、その反応は。せっかくこのアスカ様が声をかけたってのに」

アスカはいつもの、明るく自信にあふれた調子でしゃべる。
シンジは何も答えない。

アスカ「この間は悪かったわね。心配かけてゴメン」

以前のアスカからは考えられないような発言が出る。
それでも、シンジは何も答えない。

アスカ「ちょっとね、自分の中でごちゃごちゃしてたのよ。けど、今はもう大丈夫だから」

今度は少し申し訳なさが見え隠れする。
けれども、シンジは何も答えない。

アスカ「弐号機も動かせるようになっ足し、次からはアタシも出撃するから。任せておきなさい!」

再び、いつもの調子に戻る。
だけども、シンジは何も答えない。

すると、アスカの表情が変わる。
さっきの明るさから一変し、真剣な表情に変わる。

アスカ「渚カヲルのことは聞いたわ」

シンジの体がピクリと動く。

アスカ「アンタは自分の仕事をしただけよ。何も悪いことなんてしてないわ」

シンジは逃げ出すようにアスカの横をすり抜けようとする。
アスカはシンジの腕をつかむ。

アスカ「これだけは言わせて。今度はアタシが出る。もう、アンタだけにつらい思いはさせない」

シンジ「……」

アスカ「それだけは、覚えておいて」

アスカは手を離す。

アスカ「無理矢理引き留めて悪かったわね。行っていいわよ」

アスカはシンジに背を向けたまま謝る。
シンジは振り向きもしないで、通路の角を曲がり立ち去る。

一人取り残されたアスカはため息をつく。

アスカ「重症ね。これは」

アスカは頭に手を当てる。

アスカ「さっきからおかしいと思っていたけど、マズいわね」

手を戻すと、シンジが去った方を見る。

アスカ「このままだと壊れてしまう。アタシよりも深刻だわ」

アスカはシンジを追いかけようかと思ったが、やめる。
今の状態では何を言っても無駄だ。分厚い壁に跳ね返される。
それどころか、ぎりぎりのラインで保たれている心をぶち壊す一押しになりかねない。

アスカ「目を離さないようにしないと」

そう言って、アスカは足を前へ向ける。
ちょっと寄りたい場所があるからだ。

アスカ「シンジも心配だけど、そっちも心配だもの」

アスカは歩き出した。

ネルフ本部 とある病室

対使徒戦の最前線であるネルフ本部には、最新の医療技術が集約されている。
国連直属の組織であり、一般の病院よりも人材や設備が揃っている。

パイロットのシンジやレイ、アスカも治療を受けたことがある。

その中のある病室に一人の少年が入院していた。
ツンツン頭が特徴の少年、上条当麻である。

彼は危険な状態だった。

カヲルとの戦闘で、上条の体は文字通りボロボロだった。
打撲や擦り傷は数知れず、骨のひびや筋肉の断裂が疑われる個所もあった。

が、それよりも深刻だったのが、大量の出血だった。
大量出血によって気を失い、救助隊や医師による治療のおかげで何とか死なずにすんでいるというレベルだ。
すぐに緊急手術が行われ、どうにか持ちこたえた。
現在は峠を越えたが、未だに目覚めてはいない。

口には酸素吸入器がつけられ、病室には心電図の音が響いている。

その傍でパイプ椅子に座っている少女がいる。

シャンパンゴールドのショートカットヘアーに花のヘアピン。
血がにじむ常盤台中学の制服を着た少女。
学園都市の超能力者(レベル5)第三位、御坂美琴である。

彼女は俯いていた。
一向に目覚めない目の前の少年を、見守ることしかできないからだ。

泣くこともなく、喚くこともなく、ただぼんやりと座っている。
しかし、その顔は若干赤くなっていて、特に目元はそれがはっきりとわかった。

アスカ「目、覚めた?」

後ろからかけられた声に御坂は振り向く。
知らぬ間に開けられていたドアに、アスカがもたれかかっていた。

御坂「見てのとおりよ」

御坂の声は少し震えている。
アスカは御坂の傍にまで近づく。

御坂「こんなにぐっすり寝ちゃって。全くもう」

アスカ「本当ね」

御坂「コイツったら、いつもこうなのよ。一人で厄介ごとに巻き込まれて、助けに行って、ボロボロになって帰ってくるの。もちろん、厄介ごとも解決して、助ける人も助けてね」

御坂の言葉を、アスカは黙って聞いている。

御坂「私もその一人だわ。でも、このバカはどうしようもないの。困った人を見たら、放っておけないのよ。呆れるくらいだわ」

アスカは上条を見る。

アスカと上条は最悪のタイミングで出会った。
上条との接触でアスカは壊れ、心を閉ざすこととなった。
もちろん、上条はほとんど関係ないのだが、偶然にも最後の引き金を引いてしまったというわけだ。

それをアスカは理解している。
だから、上条のことを悪く思ったり、恨んだりはしていない。

御坂「でも、本当に馬鹿だよ。当麻」

御坂の声が再び震える。

御坂「助けに行ったなら、ちゃんと帰ってきなさいよ。自分が死にかけてどうすんのよ。アンタの周りには、アンタのことを心配している人がいるってことを、ちゃんとわかりなさいよ!」

御坂の目から涙がこぼれる。

御坂「ちゃんと、分かってよ……」

アスカは御坂を抱きしめる。
腕の中で御坂を落ち着かせる。

さっきまで散々泣いてとっくに枯れたと思っていたのに、まだまだ涙は止まらない。
それでも、流せるうちは流しておいた方がいい。

アスカは知っている。
御坂は上条が好きだということを。

だから、御坂の心境は想像しなくてもわかる。
でも、その辛さを想像することはできない。
それぐらい辛い。

だから、アスカにできることは、御坂の傍にいて気持ちを落ち着かせてやることぐらいだ。

御坂「もう、駄目なのかな……」

アスカ「え?」

御坂「もう目覚めないかもしれない」

アスカ「そ、そんなことないわよ。ドクターも大丈夫だって……」

御坂「違う……。そんなんじゃない」

御坂は顔をうずめたまま答える。

御坂「嫌な予感がするの。治療はうまくいったんだろうけど、それ以外にも何かあるんじゃないかって……」

アスカ「まさか、そんな」

御坂「私、どうすればいいのよ……。教えて、アスカ?」

御坂は顔を上げる。
すっかりぐしゃぐしゃになった顔を見て、アスカは少し笑う。

アスカ「信じるのよ」

御坂「……信じる?」

アスカ「そう、信じるのよ。上条さんを。絶対に目覚めるって」

アスカは御坂の頭をなでる。

アスカ「美琴が信じなくて、誰が信じてあげるのよ」

御坂「……」

アスカ「同じ学園都市から飛ばされて再会できたんだから、この状況を共有できるのは美琴だけ。軽くでもいいから信じてみなさい」

御坂「……うん」

御坂は何とか納得したようだ。
同時に、アスカは唇をかむ。

自分の力のなさに。
気の利いた言葉すらかけてやれない自分に、腹が立つ。
少しでも多く御坂の苦しみを消してあげたいのに、できない。

けれど、それを顔に出すわけにはいかない。

一番つらいのは御坂、それに上条なのだから。
復活したばかりの自分が、そんな表情をしても仕方がない。

アスカ「ほら、顔を拭いて。せっかくのきれいな顔が台無しよ」

御坂にハンカチを渡し、顔を拭かせる。

御坂「ありがと。ちょっと楽になったわ」

アスカ「いいのよ。それよりも少し休んだら? ずっと付きっきりじゃない」

アスカは御坂の返事を分かっていながらも言う。

御坂「大丈夫よ。平気だわ」

アスカ「そうか、無理しないようにね。何かあったらいつでも言ってよ。手伝うから」

御坂「ありがとう」

そう返事をするが、御坂の顔に笑みはない。

アスカ「じゃあ、あたし、そろそろ行くから」

そう言って、ドアを開ける。

アスカ「またね」

そして廊下に出ようとしたとき、アスカは誰かとぶつかる。
そんなに勢いはなかったため転んだりはしなかったが、相手をムッとさせるには十分だろう。

アスカ「あ、ごめんなさい」

謝るアスカは相手の顔を見る。
それは、アスカもよく知る顔だった。

青い髪に赤い瞳のアルビノの少女。
アスカと同じ第一中学の制服を着ている。

レイ「久しぶりね、アスカ」

アスカ「……レイ」

久しぶりの再会だった。

ネルフ本部 第二発令所

マヤ「本部施設の出入りが全面禁止!?」

休憩中で静まり返っている発令所内に伊吹マヤの驚きの声が響く。
きっかけは同じオペレーターの青葉シゲルが言ったことだ。

それは、先ほど通達された命令だった。
本部施設の出入りの全面禁止。
それは、家に帰れないということだけでなく、何か別の問題が迫っているということを意味していた。

マコト「第一種警戒態勢のままか……」

もう一人のオペレーター、日向マコトは冷静に受け止めている。

マヤ「なぜ? 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が…」

シゲル「ああ、全ての使徒は消えたはずだ」

マコト「今や平和になったってことじゃないのか?」

さっき、ネルフ本部副司令の冬月から、使徒についての発表があったのだ。
使徒は渚カヲルで最後だ、と。

マヤ「じゃあここは……、エヴァはどうなるの? 先輩もいないのに」

シゲル「ネルフは組織解体されると思う。俺たちがどうなるのかは、見当もつかないな」

人類の脅威である使徒がいなくなった以上、ネルフの存在意義はない。
それはいいのだが、裏を返せば自分たちの失業を意味していた。

だが、それよりも今やらなければならないことがある。

マコト「補完計画の発動まで自分たちで粘るしかないか」

マコトは正面のスクリーンを見る。

スクリーンに表示されたカウントダウンが少しずつ少なくなっている。

マヤ「でも、補完計画っていったい何なのかな?」

マヤの疑問に2人は答えられない。
それは自分たちもよくわかってないからだ。

冬月から下されたもう一つの任務。
補完計画の発動であった。
それまでの間、異常や異変に対処するのが自分たちに与えられた任務である。

マコト「確かに、副司令は教えてくれなかったし」

シゲル「俺たちが知らなくてもいいことなんじゃないのか」

マヤ「けれど、変ですよ。部下にも教えられない仕事を、部下にさせるなんて」

シゲル「そうだよな」

マコト「とにかく、命令だからな。一つ一つこなしていかないと」

そう言うと、マコトは自分のコンソールに向き直る。
休憩時間中だが、さっきの戦闘で生じた残業が残っている。
少しでもやっておきたいのだ。

シゲル「全く、仕事熱心だな」

マコト「さっさと終わらせたいんだよ。早く帰りたいしな」

マヤ「まあ、帰れるのは本部の宿舎だけどね」

いくらか、三人の雰囲気が和む。

その時、後ろにあるドアが開く。
三人は振り返り、そして驚く。

そこに立っていたのは、数日前から姿を見せなくなっていたリツコであった。

マヤ「先輩!?」

固まる三人の中で、一番早く我に戻ったのはマヤだ。

マヤ「今までどこにいたんですか!?」

リツコ「ちょっとした野暮用でね。それがさっき終わったのよ」

リツコの返事に、マヤは嘘だと感じる。
ちょっとした野暮用なら、さっきの使徒戦でミサトとともにリツコも指揮を執ったはずだ。

でも、それをしなかった。
いや、できなかったのか?

何かマズいことにでも巻き込まれていたのではないかと、マヤは疑う。

リツコ「マヤ、ちょっと手伝ってちょうだい」

マヤ「え、何をですか?」

そんな事を考えていたので、マヤは聞き返す。

リツコ「これからMAGIの調整をするのよ」

リツコはサラッと言った。

MAGI(マギ)。ネルフ本部が有する世界最高のスーパーコンピュータ。
メルキオール (MELCHIOR)、バルタザール (BALTHASAR)、カスパー (CASPER) の異なる3つの思考システムを持ち、判断、決定には多数決を用いて決定する。
これまでの使徒戦でも活躍してきた、ネルフ本部最重要施設の一つだ。

だから、調整には徹底した準備や許可が必要なはずだ。
しかし、リツコの部下であるマヤには何の連絡も来ていない。

リツコが不在であった時は、事実上マヤが技術部のトップであったはずなのに。

リツコ「MAGIに不具合があるの。だからね」

マヤ「そう、なんですか?」

リツコ「そうよ。今からやるから」

リツコはすぐ下のフロアにあるMAGIを見下ろして言う。
MAGIの調整には、実際にMAGIの内部に入る必要がある。
リツコは下のフロアに降りるため、再び後ろのドアに向かう。

マヤ「ま、待ってください! 先輩!」

マヤはリツコを呼び止める。
リツコの様子がおかしい。

リツコを敬愛し、いつもそばにいたマヤには分かる。
リツコは動けるはずがない。
肉体的にも、精神的にも疲弊しきっているからだ。

少なくとも、マヤにはそう見えた。

マヤ「何があったんですか?」

リツコ「……いいからやるわよ」

しかし、マヤの詮索は一蹴される。

一番の部下である私にも言えないようなことなのか。
そんな感情を抱くマヤであったが、それをぐっと飲み込む。

敬愛する先輩の頼みだ。断る理由もない。

マヤは遅れないようにリツコの後を追った。

夜 ネルフ本部 

ネルフ本部は地下数百メートルにある。
箱根盆地の地下に存在する、直径6キロ、高さ0.9キロの広大な地下空間「ジオフロント」。

そこを開発して作られたのがネルフ本部である。
広々とした平原の中に、輸送道路や建物がさまざまな形を描いている。

そのジオフロントを見渡せる高台に、青いルノーが止まっている。

ハザードランプを点滅させている青いルノーの運転席に、葛城ミサトはいた。
ハンドルにもたれかかって前かがみに座っているミサトは、考え事をしていた。

地上の時間に合わせて真っ暗になっているジオフロントは、本部施設の明かりがそこらへんに散りばめられており、美しさを感じる。

しかし、明かりもつけず真っ暗な車内にいるミサトは、そんな景色を見ていない。

ミサト「出来損ないの群体として既に行き詰まった人類を完全な単体としての生物へと人工進化させる補完計画。まさに理想の世界ね」

一人きりの空間で自らの考えを口にする。

ミサト「そのためにまだ委員会は使うつもりなんだわ。アダムやネルフではなく、あのエヴァを。加持君の予想通りにね」

今は亡き恋人から託されたデータを調べ上げ、たどり着いた結論だ。
使徒迎撃という任務の裏で、ネルフが別の計画を密かに進めていたのをミサトは感じていた。
次第にそちらの方がメインだと確信を持った。

自分が調べていたデータ、それに加持リョウジが調べたデータを組み合わせることで、それは浮かび上がってきた。
マコト、マヤ、シゲルの三人が話題にしていた「補完計画」が。

ミサト「でも、もう一つ知りたいことがある」

それはミサトの人生を、この世界を大きく狂わせた、15年前のあの事件。

青いルノーにエンジンの小気味よい音が響き始める。

ミサト「今夜は徹夜ね」

青いルノーは高台を降りていった。

同時刻 ネルフ本部

その補完計画の内容についての会談が行われている。
そこは漆黒包まれた部屋だ。

闇に包まれ、天井や壁も全く見えない。
代わりに浮かび上がる、12個の巨大な直方体の「モノリス」。

「SOUND ONLY」の文字と1から12までの番号がふられたモノリスが、円形に等間隔で並んでおり、その中心にいるのはゲンドウと冬月である。

キール「約束の時が来た。ロンギヌスの槍を失った今、リリスによる補完は出来ん。唯一、リリスの分身たるエヴァ初号機による遂行を願うぞ」

番号1番のモノリスから音声が流れる。
キール・ローレンツ。国連をも牛耳る秘密結社「ゼーレ」のトップである。

碇「ゼーレのシナリオとは違いますが」

冬月「人はエヴァを生み出すためにその存在があったのです」

碇「人は新たな世界へと進むべきなのです。そのためのエヴァシリーズです」

ゲンドウはいつものポーズで答える。

ゼーレ2「我らは人の形を捨ててまでエヴァという名の箱船に乗ることはない」

ゼーレ3「これは通過儀式なのだ。閉塞した人類が再生するための」

ゼーレ4「滅びの宿命は新生の喜びでもある」

ゼーレ5「神も人も全ての生命が死をもってやがてひとつになるために」

碇「死は何も生みませんよ」

口々に言う他の委員たちに、ゲンドウは冷めたような言葉を向ける。

キール「死は君達に与えよう」

ゲンドウの言葉に腹が立ったのか、忌々しげに言い放つ。
そして、碇と冬月を残してモノリスはすべて消える。

冬月「いい宣戦布告だったな」

ゲンドウ「ああ」

完全に決別し修正不可能な関係になったのだが、2人は意に返さない。
そもそもこの会談は、決別するのが目的だ。

冬月「奴らのやり方では、わしらの目的が達成できんからな。仕方のない事だ」

ゲンドウ「もともとこうなる予定だったのだ。気にすることはない」

そんなゲンドウの言葉に付け足すように、冬月は言う。

冬月「人は生きて行こうとするところにその存在がある。それが自らエヴァに残った彼女の願いだからな」

ゲンドウ「……」

ゲンドウは何も答えない。
だが、それは肯定を示していた。

ゲンドウ「もうすぐ会えるよ、ユイ」

ゲンドウの呟きは部屋の静けさの中に消えていった。

御坂「綾波さん……」

突然の来客に御坂も驚く。
レイとはアスカの病室で、急にいなくなって以来だ。

レイはアスカの横を通り、上条のベットに近づき、立ち止まる。

レイ「ごめんなさい」

御坂「え?」

レイ「ごめんなさい。上条君を止められなかったの」

御坂「……どういうことよ?」

レイが思い出しているのは、弐号機ケージでの出来事。
上条に説き伏せられ、レイと同伴という条件でカヲルのもとまで導いた。

しかし、結果はこれだ。
カヲルの結界が強すぎ、上条一人を送り込むのが精いっぱいだった。

それが裏目に出てしまった。

レイ「私が止めていれば、こんなことにはならなかったの」

御坂「……」

レイ「責任は私にある。本当にごめんなさい」

レイは御坂に頭を下げる。
御坂はレイの謝罪に何も答えない。
ただし、レイを見つめるその目線は、冷ややかだった。

レイ「美琴にはな……」

御坂「……ごめん、綾波さん」

御坂は何か我慢するように口を開く。

御坂「その話は、あとにしてもらえるかな?」

御坂はレイから上条に視線を戻す。

御坂「今話されると、あんたを殺したくなりそうだから……」

殺気のこもった声に、遠巻きで見守っていたアスカが身震いする。

御坂「……だから、しばらく放っていて……」

レイ「違うわ、美琴……」

御坂「……出て行って……」

御坂は唇をかみしめ、拳を握りしめる。
レイは何か言いたそうだったが、踵を返し病室から出て行く。

アスカ「ちょっと、レイ…」

アスカは何もできなかった。
御坂の行動は八つ当たりだ。
上条が重傷を負ったのは、言うまでもなく上条の自業自得。

最終的にレイは通してしまったが、それでも上条を引き留めていた。
レイは悪くない。

しかし、御坂はそうせずにはいられなかった。
自分のこの辛さを、分かってほしかった。
普通なら絶対にしないはずなのに、きつく当たってしまった。

今の行動は理不尽なのは分かっている。
それなのに、レイの言葉を聞いた瞬間、自分の中に黒い感情が湧き出してきた。
それを、止められなかった。

御坂の心にぐるぐると渦巻く、さまざまな感情。

それを整理できるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。

一方、アスカは少し気になることがあった。

レイはなぜここに来たのか?
やっぱり御坂と上条のことを心配しているのだろうか?

アスカ(たぶんそうなんだわ。でも)

アスカは見た。
御坂に拒否される寸前、レイが何か言おうとしていたのを。

アスカ(何を言おうとしていたんだろう)

2人が残る病室を、静寂が包み込んだ。

一方、ネルフ本部のとある通路では、リツコが歩いていた。
数日ぶりに独房の外へ出たのだ。やっておきたいことは山ほどある。

つい先ほど、レイの手で独房から出ることができた。
始めは、なぜレイが自分を連れ出すのかが理解できなかったが、レイの目的を知り協力しようと思ったのだ。

向かう場所は自分の研究室。
レイに頼まれたあることを果たすため、そのための道具を取りに行く。

ヒールをコツコツ鳴らしながら歩いていると、前から近づいてくる人影がある。

ネルフ本部作戦部長であり大学時代からの友人、葛城ミサトである。

ミサト「リツコ!あんた何でここに!?」

リツコ「ちょっと野暮用でね。出てきたのよ」

ミサトの驚きをよそに、リツコは淡々と答える。

ミサト「嘘ね」

ミサトはリツコの嘘を見抜く。
リツコはゲンドウの手で監禁中だったはずだ。
リツコにしか手におえない事態が発生したならともかく、のこのこ出られる状況じゃなかったはずだ。

ミサト「碇司令の判断じゃないわね。どうやって出てきたのよ」

リツコ「裏の手っていうやつよ」

リツコは悪びれることもなく言う。
レイに出してもらったことを告げてもよかったが、面倒なことになるのを避けたのだ。

リツコ「保安部を呼んでもらっても結構よ。私は脱獄犯なわけだし。何ならミサトが捕まえてもいいわ」

ミサト「……やめとくわ。友達として」

ミサトはリツコのことを気にかけていた。
何日も独房に監禁され、放置されたリツコは明らかにやつれている。

ミサトには職員として脱走者を拘束する義務がある。
しかし、今は職員としての自分より、友人としての自分が優っている。

ミサト「早く独房に行きなさい。碇司令に知られたら終わりよ」

リツコ「その必要はないわ」

リツコの言葉にミサトは驚く。

ミサト「アンタ状況分かってんの! 今見つかったら今度こそ出られなくなるわよ!」

リツコ「碇司令は私のことなんて眼中にないわ。必要な時に使えればそれでいいの」

リツコの見透かしたような言葉にミサトは言葉が出ない。

リツコ「それに、ミサトもやっておきたいことがあるのでしょう?」

ミサト「……」

リツコ「あなたとリョウちゃんがずっと追いかけていた、セカンドインパクトの真実。調べるのなら今日中よ」

ミサト「……分かってるわよ」

ミサトは唇をかむ。

作戦部長としての職務を果たす陰で、密かに行っていた調査。
自分の人生を狂わせた、セカンドインパクトの真実。
消滅した南極で唯一の生存者だったミサトだが、何があったのか何一つわからない。

だから、調べていた。
時にはMAGIのハッキングを行ったりしたのだが、やっぱりリツコは知っていたのだ。

リツコ「じゃあ、行くわね」

ミサト「お互い、気を付けてね」

二人はそのまますれ違い、そのまま離れていく。
お互い振り返ることもなく、立ち止まることもなく。

それぞれの目的を果たすため、それぞれの場所へ向かっていった。

あぁ、なんだこれ。

どこだここ?

真っ暗で何もわかんねえや。

そもそも俺は立ってるのか? 座ってるのか?
それとも寝ているのか?

ああ、そんなことはどうでもいい。
なんかめちゃくちゃ疲れたわ。

腕は痛いし、足はしびれるし、胸は苦しいし。
とにかく、今は何もしたくない。

「そうだ、それでいい」

ああ、お前誰だよ。
ていうかなんだその格好。俺そっくりじゃねえか。

「気にするな」

気になるっての。
そもそもどこから出てきた? 

「元からここにいた」

はい、そうですか、ってそうは問屋がおろさねえよ。

「気にするな」

またそれかよ。俺に何の用だ。

「……」

だんまりかよ。あいつならすぐ教えてくれたぜ。

ん? あいつ?
あいつって誰だっけ?

ネルフ本部 とある病室

御坂「すみません。こんな夜遅くに」

御坂は目の前の人物にお礼を言う。
日付が変わるころに上条の病室に現れた女性。

さっきミサトとあったばかりのリツコである。
時間帯が時間帯であるため、御坂ははじめ警戒したものの、レイから頼まれたと聞くとすぐに納得した。

御坂はレイに対してとった態度を思い出す。

数時間前会ったときは八つ当たりをしてしまい、申し訳なさがある。
レイに対する御坂の感情は当然そんなものではない。
ただ、取り乱してしまった自分が未熟であるだけだ。

そんな気持ちもあって、リツコの訪問をすんなりと受け入れることができた。

リツコ「状態は安定しているわ。呼吸器もいらないしあとは目が覚めるのを待つだけね」

上条の容体を一通り診た後、リツコは正直な答えを伝える。

御坂「ありがとうございます」

リツコ「ただ、そこなのよね。問題が」

御坂「え?」

リツコの煮え切らない言葉に、御坂は不安を感じる。

リツコ「彼は使徒撃退の瞬間に立ち会ってるわ。つまり、渚カヲルの死を目の当たりにしているの」

リツコは御坂の目を見る。

リツコ「考えてみなさい。自分が助けようとした相手が目の前で殺されたとしたら?」

御坂「……」

リツコ「肉体的には治せても、精神的に受けたダメージが相当あるわね。それが自分の知り合いだったらなおさらよ」

御坂「……じゃあ」

リツコ「心に傷を負っているのなら、このまま目覚めない可能性も……」

リツコの残酷な宣告が、御坂の胸に突き刺さる。
本当はこの事実を隠しておくべきなのかもしれない。
しかし、これはレイから頼まれたことだった。

しっかり現実を見ること。
根拠のない希望的観測に惑わされずに、物事を論理的に把握し対処すること。

そして何より、御坂一人で背負い込み過ぎないこと。

これがリツコが頼まれた仕事だった。

リツコ「目覚めるかどうかは本人次第。私たちでどうこう出来る問題じゃないわ」

御坂「……じゃあ、私はここで祈ることしかできないんですか?」

リツコ「そうね、残念だけど」

御坂は全身の力が抜けるのを感じる。
へたり込むように椅子に座る。

御坂(本当だった)

御坂(私が感じた、あの気味の悪い感じは本当だったんだ。)

御坂は不安で押しつぶされそうになっている。

当麻がこのまま一生目覚めないこと。
その彼を支え続けることができるのか。
いつ終わるとも知れぬ看病を続けられるのか。
もしかしたら元の世界に帰れず、このパラレルワールドで一生を終えてしまうのではないか。

でも、やらなければならない。
同じ世界から飛ばされてきた人間として、上条当麻の知り合いとして。

何より、自分が好きな人なのだから……。

しかし、それぞれ一つ一つが御坂を苦しめるのに十分だった。
一つ一つが重い鉄球となって、御坂の肩にのしかかってくる。

リツコ「大丈夫?」

気がつけば、リツコが心配そうに顔を覗き込んでいる。

御坂「い、いえ。何でもないです」

震える声で答えたものだから、説得力も何もない。

リツコ「無理もないわ。これでも飲んで落ち着きなさい」

御坂はリツコが差し出したカップを受け取る。
いつの間に淹れてあったのだろうか、程よく冷えた麦茶を口に含み気持ちを落ち着かせる。

リツコ「少し休んだ方がいいわ。このままだと、あなたまで倒れてしまうわよ」

御坂「大丈夫です。私はまだ…」

リツコ「ずっと付き添ってロクに寝てもないんでしょう? 顔色も悪いわ」

御坂「ダメです。当麻の方がつらいんです。それなのに、私だけ休むわけには……」

その時、御坂の視界がぐらりと揺れる。
体の平衡感覚が失われ、体がふらつく。

リツコ「大丈夫。すぐに楽になるわ」

いつしかリツコに体を支えられていた。

御坂(どうしたんだろう? さっきまで何ともなかったはずなのに)

そして御坂は思い当たる。

さっきの麦茶。
そこに何か薬物を入れられたのではないか。

リツコ「ごめんなさい。こんな方法しかできないのよ」

リツコの口調を聞いて、やられた、と、御坂は歯噛みする。
そもそもこんな時間に訪問者がいること自体がおかしいのだ。
レイが関係しているからと言ってむやみに部屋に入れるべきでなかった。

けれど、それは後の祭りだ。
これがリツコの目的だったのだと悟った。

朦朧とする意識では演算もできず、一筋の電撃も散らせることができない。

リツコ「説得した方がよかったのだけれど、時間もないのよ」

なぜリツコはこんなことをするのか。
シャキッとしない頭をフル回転させてみるが、何も浮かんでこない。
ただ一つだけ思ったことがある。

もしリツコの狙いが上条だったら?

御坂はベッドの上条を見る。
まだ意識が戻らない今は、最も危険だ。

御坂(守らないと、私が……)

御坂(当…麻……を……)

そこで御坂の意識は途絶えた。

ベットに手を伸ばして眠った御坂を、リツコは見つめる。

リツコ「効くのに時間がかかったわね。もともとそんなに強くないやつだけれど」

リツコがあらかじめ麦茶に入れてあったのは、ただの睡眠薬だ。
御坂を殺すつもりは毛頭なく、ただ眠らせたかっただけだ。

リツコはドアの方へ顔を向ける。

リツコ「入ってきていいわよ、レイ」

するとドアが開き、レイが入ってくる。
ストレッチャーを押しながら。

レイ「ありがとうございました」

リツコ「いいのよ。あなたの頼みだもの」

レイ「では、早く運びましょう」

リツコは御坂の体を抱き上げ、慎重にストレッチャーに移す。

リツコ「でも、説得したらよかったんじゃないかしら? こんな回りくどい方法とらなくても」

レイ「美琴は納得しないわ。私のやり方は、正義感の強い美琴には到底受け入れられないものだから」

リツコ「……そう」

レイ「あとから私が説明する。赤木博士は何もしなくてもいい」

レイはストレッチャーを押して出入り口に向かう。

リツコ「で、レイ。私はこれで用済みなの?」

リツコの質問にレイは振り向く。

リツコ「あなたに頼まれたことは全て果たしたわ。ほかに何かあればやるけれど」

レイ「特にないです。赤木博士には十分助けられました。本当に感謝します」

リツコ「いいわ」

レイは廊下にストレッチャーを出すと、もう一つのストレッチャーを運び入れる。

レイ「もう自由にしてもらって結構です。赤木博士のやりたいようにしてください」

リツコ「ええ、分かったわ」

そう言うと、リツコは上条の体をストレッチャーに乗せる。

レイ「じゃあ、行きましょう」

レイとリツコはストレッチャーを押す。

廊下の暗闇で前が見にくいため、ゆっくりと進んでいく。
車輪の回る音がカラカラと響く。

その音がだんだん小さくなっていき、やがて消えた。

こんにちは、1です。

最近リアルが忙しくてつらいです。なかなか更新できなくてすいません。

モチベーション的にも限界です。
心折れかけです。

バックれる可能性が高いのでその時は察してください。

まだやる気のあるうちにちょっぴりですが投下しておきます。

深夜の第3新東京市は暗闇に包まれていた。
これまでの使徒との戦闘で、大部分の市街地が廃墟と化していたが、それでも生き残っている建物から漏れる光が、ぼんやりと街の輪郭を映し出していた。

生き残った街の住人がほとんどいない今、街は暗闇と静寂に包まれていた。
時折、芦ノ湖のさざ波が打ち寄せる音を聞くことができる。
それほど静かであった。

だが、それは第3新東京市での話だ。

箱根の街を作り替えた第3新東京市は、周りを山々に囲まれた盆地である。
数千年前の噴火でつくられた箱根カルデラ、いわゆる箱根火山の火口に包まれた街だ。

外輪山に囲まれたこの街は、外界から秘密を守るのに最適だ。
使徒迎撃用要塞都市という、機密の塊を隠すには絶好の場所である。

だが、これは諸刃の剣である。

外から中が見えないということは、当然逆もしかりである。
よって、静寂に包まれたこの街は、いつもより騒がしくなった外輪山の外の様子を知ることはなかった。

この静寂は、嵐の前の静けさだということも知ることはなかった。

今や第3新東京市は、外輪山の外にいる数万という人間によって包囲されていた。

彼らは全身を黒い色に包み、その両手には大きなサブマシンガン。
さらには、数多くの戦車や装甲車が待機している。

暗闇を利用して、草むらや藪の陰にうまく身を隠している。
気づいているのは、このあたりに住む野生動物だけだ。

息を潜みながら、彼らは待っていた。

作戦開始の命令を……。










そして不穏な夜が明け、新しい朝が始まった……。








AM6:00 ネルフ本部 サーバールーム

ネルフ本部にはMAGIと呼ばれる世界最高峰のコンピュータがある。
使徒戦や作戦立案においても使用されるMAGIは、ネルフ本部の頭脳と言っても過言ではない。
しかし、ネルフ本部の全てをMAGIが握っているわけではない。

別にMAGIほどの処理能力がなくても、他のスーパーコンピュータで管理できる部分もある。
そうした方がMAGIの処理能力を他の部分に回すことができ、より効率よく運営ができるからである。

そのスーパーコンピュータを集めて管理してあるサーバールームに、ミサトはいた。

ミサトは固い配管の上に座り、膝の上のPCを操作している。
もう何時間もいるのだろうか、ミサトの傍らには愛飲しているUCCの缶コーヒーがいくつも転がる。

サーバールームには、ミサトのタイピングの軽やかな音と、サーバーの冷却装置のブーンという重低音が響き合っているだけである。

そして、軽やかなタイピングの音が止まった。

ミサト「そう、これがセカンドインパクトの真意だったのね」

USBを口に咥え、白い息を吐きながら呟く。

パソコンには、セカンドインパクトの詳細情報が書き込まれていた。
概要、原因、被害……。そして、「目的」。

ミサトが長い間探し求めていたものだった。
自分の人生を狂わせることとなった、あの悪夢。
表向きは隕石の衝突によって引き起こされたとされているが、ミサトは嘘だと思っていた。

何しろ、ミサトは当時南極にいた人々の中で唯一の生存者である。

あの時、ミサトの父を隊長とする葛城調査隊のメンバーとして参加していた。
いや、ついていったといった方が正しいかもしれない。

当時十四歳の少女が遠足気分で行ける場所ではないのだから。
この時点でいろいろ仕組まれていたのかもしれない。

南極で発見されたある物を調査するため、送り込まれていた。

だが、ミサトにはあまり記憶がない。
家族のことを放り出し、ひたすら研究に没頭する父のことが嫌いだった。

住み慣れた日本を離れ、一人でぶらぶらする日々……。
だから、南極での出来事は全て退屈だった。

だが、あの日だけは違う。
突如鳴り響く警報音。
研究員の怒号。
急に強く吹き始めたブリザードに、ズシンズシンと揺れる大地。
そして、基地から現れた白い大きな巨人。

訳も分からない状況の中で、ミサトは気がつけばカプセル型の救命ボートに乗せられていた。
カプセルの中から見上げると、そこには父の顔があった。

どす黒い夜空を背景に浮かぶ顔は、周囲の暗闇で何も見えなかった。
ただ、額から流れた血が頬を伝っているのだけは分かった。

父はミサトの手を握ると、その手に何かを持たせる。

白い十字架のロザリオ。

そして、父はカプセルのふたを閉めた。
閉まる直前、暗闇に包まれていた父の顔が見えた気がした。

それは、優しく強い笑顔だった……。

数時間後、海上に飛ばされたカプセルのふたを開け周りの様子を見たころには、全てが終わっていた。
基地はおろか氷に閉ざされた大地さえなく、赤く染まった海に氷のような塩の結晶がそこらかしこに立っているだけだった。


それからのことはよく覚えていない。
ただ、ミサトにとってショックだったのは最期の父の行動だった。

母と自分を全く顧みず、憎しみさえ覚えていた父が最後に見せた愛情。
やはり父親なりに、ミサトに対して愛しむ心を持っていたのだ。

だから、ミサトは愕然とした。
自分が父を憎んでいたことに。
父の一面しか見ていなかったことに。
そして、もう二度と会うことができないことに。

だから、ミサトは使徒を憎んだ。
ネルフを憎んだ。
ゼーレを憎んだ。

ミサトの人生を狂わせた、父を奪った全てのものを憎んだ。

そして今、パソコンの画面を覗く。
セカンドインパクトの真実が、書かれていた。

内容はおおむねミサトが予想していたものだった。

記録を読んでいると、ゼーレ、ネルフの思惑がだんだん見えてくる。
そして、自分がどんなことをしていたのかを悟る。

ミサト「人類補完計画……、止めないと!」

その時、パソコンの画面が「delete」の文字で埋め尽くされる。

ミサト「!? 気づかれた!」

ミサトはすぐさま立ち上がり、拳銃を手にする。
周囲を警戒するが、特に何もない。

ハッキングを察知したネルフの保安部がいるのかと考えてみるが、すぐに考えを変える。

ミサト「……いえ、違うか」

ミサトは白い息を吐きながら呟く。
同時に、これから起こることを悟る。

ミサト「始まるわね……」

言い終わると同時に、サーバールームの電気が消えた。

1です。

もう書く気力がないです。
なので、このまま閉じさせてもらいます。

楽しみにしている方には申し訳ないです。

今までありがとうございました。

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