将軍「『100m徒競走』と謳っておきながら、実際には1着も最下位も存在しない。マルクス主義の支配する世界において、差をつけることは許されないのだ」

軍曹「こんな暴挙が野放しにされているとは……保護者は何をしているんだ！」

将軍「調べによると、彼らの親や祖父母の中には学生時分に共産主義に傾倒し、革命を起こそうとして逮捕された者もいるらしい」

軍曹「なんと……」

将軍「恐らくは、定年を迎え潤沢な資金を蓄えた今こそ再び共産革命を起こさんとする老人たちが働きかけたのだろう。この生徒たちは犠牲者ということだな」

軍曹「くっ……いつの時代も弱者が食い物にされていくんだ……！」

将軍「もう分かったな。貴様の任務は日本に潜入した後、日本が共産化しつつある原因を特定し……取り除くことだ」

軍曹「名誉ある大任です。必ずや悪しき共産主義者をいぶりだし、かつての日本の姿を取り戻してご覧に入れます！」

将軍「頼むぞ、軍曹。現地での指示は私の部下を通して通達する」

軍曹「はっ！　失礼致します！」

―日本?

軍曹「……」

軍曹「意外だな。もっと憲兵がうろついているかと思っていたが、割と平和そうだ」

軍曹「いや、油断するな。共産主義者はいないのではない。隠れているだけだ。常に、どこかに、いるんだ」

軍曹「ところで私の拠点はどこだ？　このあたりのはず……」

軍曹「……ハイツポラリス、ここだな。見た感じ普通のアパートだが、この方が目立たなくて良いかもしれない」

軍曹「101号室……と、こっちか」

ｶﾞﾁｬｶﾞﾁｬ　ｶﾞﾁｬﾝ

軍曹「ふう、やっと一息つける。向こうを出国してから落ち着く暇なんてなかったからな」

軍曹「生活用品は一通り揃っているのか。閣下の根回しのおかげだ」

軍曹「さて、少し休んだら家の周囲の地理を確認しておかないと……」

ﾋﾟﾘﾘﾘ

軍曹「電話だ。ハロー？」

『軍曹だな。今回将軍の命で貴様のサポートをすることになった少尉だ。よろしく頼む』

軍曹「はっ、よろしくお願い致します、少尉殿！」

少尉『アパートには着いたか？』

軍曹「つい先ほど到着したところであります」

少尉『そうか。調度品は備えてあるはずだが、何か不足があれば私に報告しろ。予算の範囲でなんとかしよう』

軍曹「了解」

少尉『さて。日本に着いたばかりで悪いが、貴様には早速任務に従事してもらう』

軍曹「イエス、サー！」

少尉『私は女だ。サーはやめろ』

少尉『そのアパートから数kmほどのところに、公立高校がある。確認してくれ』

軍曹「地図は……あった。ここがアパートで……」

軍曹「『市立境山高等学校』ですね」

少尉『ああ。貴様は来週からこの学校に編入するんだ』

軍曹「は……」

少尉『聞こえなかったか？』

軍曹「いえ……編入、ですか……」

少尉『不満か？　手続きはこちらで済ませてあるし、貴様は……16だったな？　ごく自然だろう。法律上も問題ない』

軍曹「……はい」

少尉『じきに制服や勉強道具一式が届く。それまでに町の状況を確認しておけ』

軍曹「アイ、サー」

少尉『次に私をサーと呼んだら、そのアパートにB52をよこすぞ。いいな、健闘を祈る』

軍曹「は」

少尉『あっ、待て！　切るな！』

軍曹「な、なんでしょうか？」

少尉『キッチンの戸棚に日本のヌードル……ソバが入っているだろう』

軍曹「はい」

少尉『日本では、引っ越しをすると隣人にソバを振る舞うらしい。隣人の様子を見て、持って行くんだ』

軍曹「了解」

少尉『地元の人間と親交を深めておいて損はしない。ただし深入りはするな。笑顔の隣人が善良な市民とは限らない』

軍曹「イエス、マム」

少尉『よし。通信終わり』

ﾌﾞﾂ

軍曹「……学校か……不安だな」

―数時間後?

軍曹「むぅ……」

軍曹「……はっ、まずい！　横になって考え事をしていたら、つい眠ってしまったらしい」

軍曹「日が暮れてしまった……くそっ、偵察は明日以降に延期するしか」

ｶﾞﾁｬｶﾞﾁｬ

軍曹「？　今の音は……隣の部屋か。帰ってきたようだな」

軍曹「……そうだ、ソバだ！」ﾀﾞｯ

ｶﾞﾁｬｯ

軍曹「間に合わなかったか……この機会を逃すと次がいつになるか分からないから、ソバだけ受け取ってもらおう」

軍曹「そういえば、隣人の名は―?」

>>11

1.（普段は穏和な革命家）下原（げばら）

2.（お金大好き無政府資本主義者）穴空（あなあき）さん

3.（ごく普通の女子高生）布津（ふつ）さん