魔王「今日一日魔王になりたい?」(56)

魔王城・魔王の間

側近「はい。今日一日私に魔王様の代わりをさせていただきたいのです」

魔王「そうか。でもなぜ突然そんなことを」

側近「先代魔王様の頃よりこの城でお仕えしておりますが、私も昔はやんちゃしていたのです」

魔王「そうなのか。とてもそうは見えないが」

側近「今は丸くなりましたからね。それまで負け知らずだった私を倒し、自分の部下になるよう誘ってくださったのが先代魔王様なのです」

魔王「なるほど、酔った父にそのような話を聞かされたことがあるかもしれん」

側近「私も昔は自分が魔王になってやろうと息巻いていましてね。せめて気分だけでも味わいたいと思いまして」

魔王「しかし、なにも今日でなくともいいだろう。そういうのは誕生日とかにするものだ」

側近「いえね。私ももう歳でして、自分の寿命が近いことも分かるのです。せめてまだ元気なうちにやっておきたいのです」

魔王「ぐ……歳のことを言われるときついな。いいだろう、今日一日私の代わりに魔王を務めるといい」

側近「ありがとうございます魔王様。では早速……。おお! やはり魔王の椅子はふかふかですな!」

魔王「ははは、それはよかったな。で、私は今日一日側近をやればいいのでしょうか魔王様?」

側近「いえいえ滅相もございません! 魔王様は散策にでも行かれてはどうですかな? ちょうど花が咲いている頃でございましょう」

魔王「そうだな、私は散歩でもしているよ。では今日一日頼んだぞ。……まあ特にすることもないだろうが」

側近「どうぞごゆっくり。……さて、行かれたか。黒騎士よ、あとは頼んだぞ」

黒騎士「本当によろしいのですか? 側近殿」

側近「魔王様には怒られてしまうだろうな。だが、魔王様をお守りすることは先代魔王様より命ぜられし使命なのだ。果たさない訳にはいくまい」

黒騎士「側近殿も含めて我々で逃げるという選択肢は無いのですか?」

側近「もはや逃げる場所などないだろう。きっとやつはどこまでも追ってくるさ。それが勇者というものだ」

黒騎士「そうですか……」

側近「なに、もしかすると私でも勇者に勝てるかもしれんぞ?」

黒騎士「…………」

側近「ははは、あきれて何も言えぬか」

黒騎士「そのようなことは」

側近「いやいや、分かっているさ。さて、ではそろそろ魔王様の所へ行ってくれ。もうじき勇者が来る頃だ」

黒騎士「分かりました。どうかお気をつけて」

側近「さて、そろそろ姿を変えておくかな……」

魔王城・庭園

魔王「まったく、側近はいったいどうしたのだろうか。それにしてもここの花は美しいな」

黒騎士「人間界の花でございますからね。私は魔界の花も好きなのですが、魔王様は違うのでしょうか?」

魔王「おお、黒騎士か。いや、魔界の花も好きは好きだがあちらは何というか……」

黒騎士「そうですね。繊細な人間界の花に対して魔界の花は力強いといった感じですからね」

魔王「そうそう、そうなんだ。しかし、人間界の花がよく育っているものだ」

黒騎士「この庭園は魔界の魔力を通さないようになっております。人間界の花はここの魔力に弱いので」

魔王「しかも、人間界の土を使っているのだろう? いったい誰がこの庭園を造ったのだろうな」

黒騎士「私がここにお仕えするときにはすでに」

魔王「そうなのか。ああ、そういえば聞いてくれ。さっき側近がな――」

魔王城・魔王の間

側近「さて、そろそろ――」

戦士「見つけたぞ魔王! 成敗してくれる!」

勇者「待て戦士! まずは話し合いをだな――」

戦士「でも! こいつをを倒せば全部終わりなんだろ? だったら――」

勇者「だから! ……ああ、もういい。僧侶、頼む」

僧侶「りょうかーい」

戦士「いてっ」

勇者「おい、もう落ち着いたか?」

戦士「落ち着いたけどよー。何も殴ることは――」

勇者「で、魔法使い。どうだ?」

魔法使い「違う、と思う。魔力もそこまで大きくないし。でもこの姿は……」

勇者「そうか……。さて、どうするか」

戦士「無視すんなよ!」

勇者「僧侶」

僧侶「二発目行っとくー?」

戦士「ごめん、黙るよ。だからもう殴らないでくれ」

側近「さて、コントは終わったかな?」

勇者「いや、コントじゃないんだが……。まあいいや。本当にお前が魔王なんだな?」

側近「いかにも。我が魔王である」

勇者「そうか。では、お前が魔物を操り人間界を襲わせているのか?」

側近「その通りだ。世界を我がものとするためにまずは人間どもを支配してやるのだ」

勇者「分かった……。じゃあ、お前を止めないといけないな」

戦士「よっしゃ! 攻撃は俺に任せろ!」

勇者「いや、まずは俺一人にやらせてくれ」

戦士「なんでだよ! 魔王は俺たちが束になっても勝てるかどうか分かんないんじゃなかったか? なのに――」

僧侶「何か、考えがあるんだね?」

勇者「ああ」

僧侶「じゃあ、私はこの馬鹿抑えてよっかなー? 魔法使いちゃんもそれでいいよね?」

魔法使い「うん。私は勇者を信じてるから」

戦士「だからどうし――むぐぐ……」

僧侶「はいはい黙ろうねー」

勇者「では行くぞ。魔王!」

側近「来い!」

魔王城・庭園

魔王「さっき側近がな? 魔王になりたいと言い出してな」

黒騎士「なんと! まさか謀反を」

魔王「いや、一度くらい魔王を体験したいとかなんとか」

黒騎士「そうでしたか。もし謀反でしたらすぐにでも側近殿を討たねばならないところでした」

魔王「それは困るな。側近がいないと話し相手がいなくなってしまう。黒騎士は城の警備もあるしな」

黒騎士「今は物騒ですしね」

魔王「そうだな。それにしても側近はなぜあんなことを言い出したのだろうな?」

黒騎士「さあ、私にも分かりません」

魔王「そうか。しかし本当に知らないのか? 最近側近と何か話しているようではないか」

黒騎士「私たちにもいろいろとあるのでございます」

魔王「この私に隠し事か」

黒騎士「そういうわけでは……」

魔王「さっきからな、胸騒ぎがしていてな。あの時と同じなんだ。父上が亡くなられた時と」

黒騎士「魔王様……」

魔王「頼む! 隠し事があるなら教えてくれ! 何かあってからでは遅いんだ!」

黒騎士「分かりました……。まだ間に合うかもしれません。魔王の間へ行きましょう!」

魔王城・魔王の間

側近「はぁ……はぁ……」

勇者「どうした魔王。息が上がっているぞ?」

側近「…………」

魔法使い「勇者! 城内に大きな魔力が二つ現れた!」

勇者「そうか。ではやはりこいつは偽物か」

側近「ばれてしまったか。ならもうこの姿でいる必要は無いな」

僧侶「なんかちっこいねー」

戦士「いや、見た目で判断しちゃだめだ。……でもなんか弱そうだな」

側近「ふふふ。あまりなめない方がいいぞ?」

勇者「これは……結界か!」

側近「私はこういうのが得意なのでね」

勇者「俺たちを足止めする気か」

側近「さあ、魔王様。どうか今のうちにお逃げください」

魔法使い「ねえ勇者。逃げるどころかこっちに向かって来てるよ」

側近「なんだと!? 結界に魔力を回していて感知できないが……。そうか、そうやって結界を解かせる気だな! その手には――」

魔王「側近! まだ生きているのか!?」

黒騎士「側近殿! ご無事ですか!?」

魔王「勇者たちは私が引き受ける! お前は側近を!」

黒騎士「分かりました!」

側近「なぜ来たのです! どうかお逃げください!」

戦士「おっ、結界が解けた!」

側近「しまった!」

黒騎士「側近殿! こちらへ!」

戦士「行かせるか――」

勇者「ほっとけ! 目的は魔王だ!」

魔王「よくも側近を……! 地獄の炎よ、勇者共を焼き尽くせ!」

勇者「くっ……さすがは魔王といったところか。よし! 僧侶あれやってくれ!」

僧侶「りょーかいっ! 食べちゃっていいよ、魔食の杖!」

魔王「なんだこれは……力が抜けていく……」

側近「あの杖はまさか! 封印されていたはずでは……」

僧侶「封印解いちゃった。ごめんねー」

戦士「くそっ……力が入らねえ……」

魔法使い「けっこうきついかも……」

黒騎士「魔王様……今助けに……」

勇者「うわ、かなりやばいなこれ。僧侶、もう止めてくれ」

僧侶「もう止まってるよ。お腹いっぱいになったみたい。それにしても勇者ずるいよー。一人だけ平気なんて」

勇者「まあ勇者だからな。色々と加護があるんだよ。ほら、魔力渡すから側近の回復頼む」

僧侶「りょうかーい」

側近「回復だと? 何のつもりだ」

僧侶「傷ついている者を癒やすのが僧侶の役目だからねー。ただそれだけのことだよ」

勇者「さて、じゃあ話し合いを始めさせてもらおうかな」

魔王「話し合い、だと?」

勇者「ああ。ただ、偽魔王が戦う気まんまんだったからちょっと戦っただけだ」

魔王「そうか。だが話とはなんだ? 降伏しろとでも言うのか?」

勇者「いや、そうじゃない。まずはお前に聞きたいことがある」

魔王「もう抵抗もできぬ。どんなことでも答えてやろう」

勇者「お前は本当に魔王なのか?」

魔王「それは……どういう意味だ?」

勇者「そうだな、言い方を変えよう。今この魔界を支配しているのはお前なのか?」

魔王「それは、違う。ああ、そうさ。私には魔王を名乗る資格などない」

側近「そんなことはありません! 魔王様こそが正当なる――」

魔王「いいんだ! 魔界では力こそ全て。力なき私には魔王など務まらぬのだ」

勇者「そんなことないぜ? 今まで何人もの魔王と戦って来たがそいつらより強いよ、お前は」

魔王「何人もの魔王か……。やはり魔界はそこまで荒れていたか」

勇者「俺たちは国王から魔界の調査を頼まれたんだ。魔王討伐はついでだ」

魔王「なぜそんなことを」

勇者「今でこそ魔物が人間界を襲っているが、それは百年ほど前に始まったらしい。それ以前は人間界と魔界で交流もあったらしい。で、国王は何かあったと考えた訳だ」

魔王「百年前か……。ちょうど父が亡くなった頃だろうか」

勇者「父上というと先代の魔王か。いったい何があったんだ?」

側近「それは私が話そう。よろしいでしょうか、魔王様」

魔王「ああ、私はまだ幼かったからな。ほとんど覚えていないんだ」

側近「あの日のことは今でもはっきりと覚えておる。魔王城で人間界の国王たちを招いてのパーティーが開かれたのだ。勇者が言った通り魔界と人間界で交流があった。そこまで盛んではなかったがな」

戦士「今じゃ考えられないぜ」

側近「そして、パーティーも終わろうとしていたときに城に火が放たれたのだ。私は黒騎士と共にまだ幼い魔王様を連れて城から逃げ出した」

勇者「犯人は誰だったんだ?」

側近「さあな。犯人が人間だったのか魔物だったのかそれも分からぬのだ。だが、誰が犯人だったにせよ、再び城に戻った時には全てが終わっていた」

魔法使い「あの魔王様が……。考えられない」

側近「魔法使いと言ったか? お主はいったい……」

勇者「ああ、こいつはエルフなんだ。旅の途中で仲間になったんだ」

側近「そうか、エルフか。それならば先代魔王様の強さは知っておろう。だが、どんな手を使ったか魔王様はすでに亡くなられていた」

黒騎士「私があの時残っていれば……。いや、あの魔王様が倒されたのだ。きっと私には何も……」

勇者「なんか暗くなってしまったな」

僧侶「まあこんな話したらねー」

勇者「よし。じゃあ本題に入るか」

魔王「本題?」

勇者「俺がお前を魔王にしてやる!」

魔王「………………は?」

勇者「いや、ここは喜ぶとこだろ? とにかくさ、俺たちと来いよ」

魔王「待て待て。話がみえないんだが?」

勇者「先代魔王はこの魔界を支配してたんだろ? だからお前もこの魔界を支配すればいいんだよ。手始めにそこらで暴れてる魔物を懲らしめに行こうぜ」

魔王「…………ははは」

勇者「いや、なんで笑うんだよ」

魔王「すまない……くく、あははははははっ!」

黒騎士「魔王様があのような笑顔を」

側近「ああ、いつぶりだろうな」

魔王「そうだ。何を引きこもっていたんだ私は! また支配し直せばいいんじゃないか! まったくこんなことにも気づかぬとは」

勇者「やれやれ、笑ったり叫んだり忙しいな。それで、一緒に来るか?」

魔王「もちろんだ! 勇者よ、私と共に魔界を支配しようではないか!」

勇者「いやいや、それじゃあ俺も魔王みたいじゃないか!」

側近「それでは魔王様。城は我々が守っていますので」

黒騎士「どうかお気をつけて」

魔王「何を言っておるのだ二人とも! 当然お前たちも付いてくるのだ! 主人の側におらずしてなにが側近か! なにが騎士か!」

勇者「いや、何を勝手に……。まあいいけど」

戦士「ん? もう戦わなくていいのか?」

僧侶「ほんとに馬鹿ねー戦士は。それにしても魔王ちゃんねぇ。すごいかわいいし強力なライバル出現なんじゃない? ね、魔法使いちゃん?」

魔法使い「……へ? ラ、ライバルってべべ別に私は勇者のことは!」

僧侶「誰も恋のライバルなんて言ってないけどな―」

魔法使い「……僧侶のいじわるーっ!」

魔王「さて、魔界は広いぞ! いますぐ出発するぞ勇者!」

勇者「なんでお前が仕切ってるんだよ魔王!」

おわり

1です。
新スレ立てるのもったいないのでここに続き書きます。
あと、今更ですが酉つけます。

魔王「よし、出発するぞ!」

魔王城・魔王の間

側近「お待ちください魔王様。出発は旅の準備を整えてからにしましょう」

魔王「おお、それもそうだな。すこし慌てていたようだ」

側近「それで勇者よ。お前たちはどうやってここまで来たのだ?」

勇者「馬車に乗ってきた。2台あるからお前らも乗れそうだな」

側近「荷台に空きはあるか? 城から食料など少し持って行こうと思うのだが」

勇者「人数も増えるしその方がいいな。まだ空きはあるよ」

側近「では食料庫に行くとしよう。誰か運ぶのを手伝ってくれぬか?」

戦士「じゃあ俺が行くよ。荷物運びなら任せろ」

僧侶「戦士が一番食べるもんねぇ。そのぐらいしないと。そうだね、私も行くよ。荷台の空きも考えないと行けないし」

勇者「じゃあ二人とも頼んだ。その間城の案内でもしてもらおうかな」

魔王「何か見たい物でもあるのか?」

勇者「書庫があったら見せてくれ。ちょっと昔の記録が見たいんだ」

魔王「分かった。じゃあ、行こうか」

魔法使い「私も一緒に行っていい?」

魔王「いいぞ。あと黒騎士も来てくれ。お前の方が書庫に詳しいだろう」

黒騎士「分かりました」

魔王「では行くぞ。付いてこい」

魔王城・書庫

魔王「さて、昔の記録だったか。黒騎士、どの辺りだっただろうか」

黒騎士「そうですね、奥の方だったと思います」

勇者「それにしても、人間界の書物が多いな」

魔法使い「魔界にはあまり書物がないから」

魔王「歴史書などもほとんど無いな。我々は人間より長命なので記録する必要があまり無いからな」

勇者「だよなー。できれば千年前くらいのものがあるといいんだが」

黒騎士「千年前ですか。無いかもしれないです」

魔王「私もここの書物はよく読むが、読んだ覚えが無いぞ」

勇者「そうか。じゃあなんか面白いのないか?」

魔法使い「もう諦めちゃうの?」

勇者「ほっといてもそのうち分かるからな」

魔法使い「どういうこと?」

勇者「……まあそれはいいだろ。で、面白いのあるか」

魔王「そうだな。じゃあ私がよく読んでいた物語を見せてやろう」

魔王城・食料庫

側近「着いたぞ。ここが食料庫だ」

戦士「なんだか思ってたより少ないな」

側近「もはやここには私と魔王様と黒騎士しかおらぬからな」

僧侶「それで、何を持って行く気なの?」

側近「そうだな。パンやチーズ、それに調味料など持って行こうと思うのだが」

僧侶「そうだね。その辺が妥当な所かな」

戦士「ところでよー。なんか腹減ってこねえか? 出発前に飯食ってこうぜ」

側近「確かにそろそろ昼食の時間だな。どうせ置いていくのだから少し消費していった方がよいだろう」

僧侶「じゃあお酒でもいただこうかな。何かいいのある?」

側近「お主僧侶なのだろう? 酒など飲んでよいのか?」

僧侶「いいんだよ。別に戒律なんて守らなくても。酔っ払って悪いことしたりしないし」

戦士「僧侶は酔ってもそんなに変わらないよな」

側近「そうか。ならいいのがあるぞ。それでは私は魔王様たちに話してくるからしばらくここで待っていてくれ」

魔王城・ダイニング

黒騎士「食事の用意ができました。魔法使い殿、手伝っていただきありがとうございます」

魔法使い「気にしないで。いつもやってることだから」

戦士「おお! 久しぶりだなこんな豪華な食事は」

勇者「普段はたいしたもん食べないよな」

僧侶「魔王ちゃんたちはいつもこんなの食べてるんだ。羨ましいなー」

魔王「いや、私もこんなに豪華なのは久しぶりだ」

黒騎士「しばらく城を留守にしますからね。あまり保存の効かないものは使い切ってしまおうと思いまして。それでもあまってしまいますが」

魔王「そうか。それは少しもったいないな」

側近「では魔王様。出発は明日の朝にしてはいかがですかな?」

勇者「そうだな。食い過ぎたまま出発するのもよくないしな」

魔王「私は勇者たちが良ければそれでいいが、どうだ?」

戦士「久しぶりにぐっすり寝たいしな。俺は賛成だ」

僧侶「私も賛成。お酒飲みたいし」

魔法使い「私もそれでいい」

勇者「じゃあ出発は明日の朝ということで。もう食おうぜ」

魔王「そうだな。では、いただきます」

全員『いただきます』

勇者「お前らもいただきますって言うんだな」

魔王「子供の頃からやっているぞ?」

側近「昔は人間と交流がありましたのでその名残でしょうな」

戦士「うめーなこの肉!」

僧侶「このワインも最高だね」

魔法使い「久しぶりに料理したけど味は大丈夫?」

勇者「いつもと変わらずおいしいよ」

魔法使い「よかった」

魔王「こんなに賑やかな食事も久しぶりだな」

側近「普段は三人での食事ですからな」

黒騎士「皆さんお口に合っているようでなによりです」

勇者「あ、そういえば」

魔王「どうしたんだ?」

勇者「いや、国王への報告をどうしようかと思ってな」

僧侶「そうだね。このまま報告も無しって訳にはいかないね」

戦士「じゃあ一旦引き返すか?」

魔王「引き返すにはどのくらいかかるんだ?」

勇者「行って戻ったら一年くらいかかりそうだな」

魔王「そうか……。そんなに待つのはいやだな」

僧侶「じゃあ二手に分かれるしかないかな」

勇者「そうだな。で、誰が行くかだが」

戦士「勇者はこのまま魔界を進んだ方がいいんじゃないか? 一番強いしよ」

勇者「分かった。なら、僧侶にも一緒に来てもらわないとな。治癒は僧侶しかできないからな」

僧侶「魔法使いちゃんは国王とは関係ないし」

魔法使い「なら、行くのは戦士?」

戦士「そうなるのかー。まあ一緒に行けないのは残念だけどしょうがないよな」

勇者「しかし戦士が行くとなると心配だな」

僧侶「そうだね。心配だね」

戦士「何が心配なんだ?」

魔法使い「戦士では今の状況を国王に説明できない?」

僧侶「魔法使いちゃんせいかーい」

戦士「いくらなんでもそんな、ことは……。あるかもな」

勇者「困ったな。二手に分かれるまではよかったんだが……」

側近「なら私がついて行こう」

勇者「お前が?」

側近「ああ。私なら人間の姿となることができるから人間界に行ってもいらぬ混乱は起こらぬだろう」

魔法使い「たしかに前魔王様の姿をほぼ完璧に再現してた」

側近「それに、今のうちから国王との交流を再開しておいた方が後々よいだろう」

勇者「まあそうだが。魔王はいいのか?」

魔王「……正直側近がこのようなことを言うとは思っていなかったが」

側近「魔王様。側近でありながら魔王様のお側を離れる無礼、どうか――」

魔王「いや。人間との交流の再会は魔界と人間界の双方に益となるだろう。その準備ならばこちらから頼むところだ」

側近「では」

魔王「ああ。側近よ、戦士と共に人間界に行き国王と話をしてきてくれ」

側近「ははっ」

戦士「じゃあよろしくな。側近のおっちゃん!」

側近「こちらこそよろしく頼む。何かあった時は頼りにしていいのだな?」

戦士「戦闘なら任せろ!」

魔王「なあ勇者。ああ言ってはいるが実際どうなんだ? 側近に何かあっては困るのだが」

勇者「それなら心配無いよ。力だけならあいつが俺たちの中で一番強いしな。それに来た道を戻るならそれほど驚異は無いはずだ」

僧侶「それに戦士は騎士団に顔が利くからねー。勇者もだけど」

魔王「なるほど。それなら安心できそうだな」

勇者「あと、二手に分かれるならもっと馬が必要だな」

黒騎士「馬ならいますよ。魔界の馬ですが」

勇者「それなら心配無い。こっちに来てからは魔界の馬だったからな」

魔王「確かに人間界の馬にはこちらはきついかもしれないな」

側近「どちらにしろ置いて行くわけにはいきませんからね。我々が乗っていきましょう」

魔王「ではとりあえず食事を片付けてしまおうか」

魔王城・宝物庫

勇者「さすがは魔王城だな」

僧侶「でもちょっと広さの割には少ないかもね」

魔王「今までここの宝物を売って暮らしていたからな。さて、いくらか持っていくとするか。お前たちも何かいいのが無いか探してくれ」

魔法使い「あまり重いのは持っていけない」

勇者「大きいのもな」

僧侶「じゃあこの指輪なんかどうかな」

黒騎士「その指輪ははめた物の生き血をすするという……」

僧侶「そうなの?」

黒騎士「封印が施されていたはずなのですが」

僧侶「ごめん破っちゃった」

勇者「杖の時もこんな感じだったな」

僧侶「なんか隠してあると気になってしょーがなくて。あはは」

黒騎士「とにかく元に――」

僧侶「いたたたたたっっ!!」

黒騎士「私の話を聞いていなかったのですか!?」

僧侶「もう……めっ! ……よしいい子いい子」

黒騎士「手懐けた!?」

僧侶「ねえ魔王ちゃん。この指輪貰っていいかな?」

魔王「ん? その指輪は確か呪われていたはずだが」

僧侶「私に懐いてくれたみたい」

魔王「ならいいぞ。そいつも外に出られて嬉しかろう」

僧侶「ありがとー」

魔法使い「これはどう?」

魔王「また指輪か。どうやら呪いはかかっていないようだな」

勇者「……その指輪ちょっと見せてくれないか」

魔法使い「? どうぞ」

勇者「これは……。なあ僧侶、これってやっぱり」

僧侶「うん。王家の紋章だね」

魔王「王家の紋章だと?」

勇者「ああ。きっと友好の証として贈られたものだろう」

魔王「そうか。なら側近に持たせてやろう。何かの役に立つかもしれない」

黒騎士「では魔王様。魔王家の紋章の入ったものも持って行っていただいてはどうでしょう。こちらからも何か贈っていると考えられます」

魔王「よし。ならば探してみるとしよう」

魔王城・馬小屋

側近「この馬に乗っていくぞ」

戦士「なんかかっこいいな! 毛が黒くて」

側近「そうか? この馬たちは気性がちと荒くてな。乗りこなすのは骨が折れるが」

戦士「でもこの馬に乗らなきゃなんないんだろ? なら乗りこなしてみせるぜ!」

側近「ふふふ、威勢が良いな。では早速乗ってみるか?」

戦士「ああ。よろしく頼むぜ馬!」

側近「おお。一発で乗るとはな。なかなかやるではないか」

戦士「へへへ。このくらい――うおっ」

側近「やれやれ。調子に乗るからだ」

戦士「いてて……」

側近「馬は頭がいいからな。ちゃんとしておらぬと乗せてくれぬぞ」

戦士「そうだったな。最近乗ってなかったもんでちょっと忘れてたぜ」

側近「昔はよく乗っておったのか?」

戦士「ああ。勇者と一緒に乗馬の訓練とかしてたぜ。さて……よっと」

側近「ほう、やればできるではないか。馬も落ち着いておる」

戦士「へへーん。どんなもんだ――うわっ」

側近「やれやれ……」

魔王城・ダイニング

黒騎士「皆様、夕食の準備が整いました」

魔法使い「戦士。運ぶの手伝って」

戦士「いいけどなんで俺なんだよー」

僧侶「一番食べるじゃないか」

勇者「俺も手伝うよ」

黒騎士「すみませんお客様ですのに」

勇者「何言ってる。もう仲間じゃないか」

魔王「うむ、仲間か。なかなか良い響きだな」

勇者「……で、どうしてお前はそこでふんぞり返ってるんだ?」

魔王「だってここの主人だし」

勇者「……まあいいや」

僧侶「さて、運び終わったね」

魔王「ではいただくとするか」

全員『いただきます』

戦士「うめーなこの肉!」

僧侶「このワインも最高だね」

勇者「なんかさっきも聞いた気がするな」

魔王「そうだ側近。ちょっと来てくれ」

側近「なんでございましょう魔王様」

魔王「この指輪なんだが、どうやら王家から友好の証として贈られたものらしい」

側近「なるほど。これがあれば交流の再開も少しばかり近づきそうですな」

魔王「ああ。だからこの指輪を持って行ってくれ」

側近「分かりました」

魔王「それとこっちの指輪は魔王家の紋章が入っている。これも持って行ってくれ」

側近「向こうにも魔王家から何か贈られているかもしれませんからね」

魔王「さすが側近だな」

僧侶「ねえねえ黒騎士ちゃん」

黒騎士「どうしました?」

僧侶「ここってお風呂あったりする?」

黒騎士「はい、ございますよ」

僧侶「じゃあさー。後でみんなで入らない?」

魔王「それはいいな。出発の前に裸の付き合いといこうじゃないか」

勇者「じゃあ俺たちもそうするか?」

戦士「え? 俺たちも入るのか? 僧侶たちと?」

勇者「いや、男女分かれてるだろう普通」

側近「ああ。分かれておるぞ」

僧侶「ん? 戦士は私たちと入りたいのかな?」

戦士「いや別に」

僧侶「からかいがいが無いなーもう」

魔王「では食べ終わったら風呂に入るとしよう」

魔王城・女湯

僧侶「おおー。さすがに広いね」

魔王「広すぎる気もするがな」

魔法使い「お風呂は久しぶり」

僧侶「それにしても、だよ」

黒騎士「そうしました?」

僧侶「どうしてあんな鎧着てるのかな! 黒騎士ちゃん!!」

黒騎士「いえ、それは騎士として――」

僧侶「髪サラサラじゃん! 何なのその胸は! あーもったいない!」

黒騎士「あのっ! そんなところ触らないでくださいっ!」

魔法使い「…………」

魔王「あーそのなんだ。分かるぞ魔法使い。あの胸はずるい」

魔法使い「……あなたとは仲良くなれそう」

僧侶「ふーっ。旅の間はあの鎧着るの禁止だからね?」

黒騎士「いえしかし――」

魔王「いいんじゃないか?」

黒騎士「……魔王様?」

魔王「いや。あんな鎧を着ていたら目立ってしまう気がしてな」

僧侶「そうそう。目立つよ」

黒騎士「魔王様がおっしゃるのならそうします」

魔王「それにその……。あの鎧きついんじゃないか? ……胸が」

黒騎士「…………少し」

魔法使い「っ!」

魔王「まあまあ魔法使い。抑えてくれ」

魔法使い「……分かった」

僧侶「いやーほんと魔法使いも大変だね―」

魔法使い「……炎よ」

僧侶「あつっ! ちょっと魔法はやめてー!」

魔王城・男湯

勇者「……まったく僧侶は」

戦士「それにしてもけっこう声が聞こえるんだな」

側近「まあ隣だからな」

勇者「そういえばここの湯はどうやって沸かしているんだ?」

側近「魔王様が魔法で沸かしておられるのだ」

勇者「なるほど。たしかにあの魔法はなかなかのもんだったな」

戦士「そうだおっちゃん。背中流してやるよ」

側近「そうか。では頼んだ」

戦士「しかしおっちゃんはほんとちっちゃいな」

側近「……馬鹿にしておるのか?」

戦士「いや、そんなんで魔王の側近やってるなんてすげーって思ってさ」

側近「……そうか」

勇者「なんか仲いいじゃないか。これなら二人旅でも大丈夫そうだな」

翌日

魔王城・玄関

魔王「側近よ。人間界との交流再開の件、ぜひとも頼んだぞ」

側近「お任せください。それでは魔王様、しばしの別れでございます」

黒騎士「側近殿。どうかご無事で」

側近「なに、心配するでない。それより黒騎士よ。魔王様のことくれぐれも頼むぞ?」

黒騎士「お任せください側近殿。この黒騎士、命に代えても魔王様をお守りします」

僧侶「ほら戦士、これ」

戦士「なんだこれ? 食い物か?」

僧侶「いや薬とか入れてあるから。怪我したらちゃんと薬つけるんだよ」

戦士「薬か。ありがとな」

僧侶「もう私はいないんだからちゃんと自分で治療するんだよ? あと変な物も食べないこと」

戦士「わーってるって! ……それにしても心配してくれるんだな」

僧侶「当たり前じゃないか。私たちはここまで一緒に旅してきた仲間なんだよ!」

戦士「そうだったな。……そうだ、じゃあこれ」

僧侶「……ナイフ?」

戦士「ああ。それは俺がガキの頃から使ってたやつで――」

僧侶「いらない」

戦士「何でだよ」

僧侶「……こういうの死亡フラグっていうんだよ?」

戦士「何だそれ」

僧侶「とにかく! こんなの無くても私たちはまた会えるの!」

戦士「お、おう」

僧侶「……約束だからね?」

戦士「……おう! 約束だ!」

魔法使い「私からはこれ」

戦士「何だこれ?」

魔法使い「お弁当。後で食べて」

戦士「おお! ありがとな!」

魔法使い「それよりも。あまり側近に迷惑をかけないように」

戦士「まあ分かってるけどよ……」

魔法使い「あと喧嘩はあまりしないように」

戦士「……なるべく気をつけるよ」

魔法使い「……約束」

戦士「……おう!」

勇者「じゃあ今度は俺だな」

戦士「勇者も何かくれるのか?」

勇者「悪い、特に用意してないんだ」

戦士「まあそんなこったろうと思ってたよ」

勇者「だからこれから何か探してくるよ」

戦士「お、土産か?」

勇者「ああ。魔界の探索が終わって王国に帰るまでに探しとく」

戦士「じゃあ絶対帰って来いよ。約束だ!」

勇者「ああ。約束だ」

魔王「挨拶は済んだな?」

勇者「おう」

戦士「じゃあ行くかおっちゃん」

側近「頼りにしておるぞ。戦士よ」

黒騎士「いよいよですね」

魔法使い「これから先は何があるか分からない」

僧侶「まあ私たちならなんとかなるんじゃないかな」

勇者「そうだな」

魔王「よし、出発するぞ!」

これでまた一旦終わりです。
続きは気が向いたら書くかもしれません。
どうか気長にお待ちください。

乙ー


続き期待

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