女「ここが……異世界?」 #3(903)

とりあえずこちらに移動。
おはよう、SS速報。低速更新だけど書いていくよ。

“魔法世界の軌跡を紡ぐ物語、まだここに――”

過去スレ

スレは立てたけど、五月に入るまで#2スレに投下していきます。

遅くなりしも、おはよう諸君。

風邪気味のなか自転車をこいでいると、何もない所で一人勝手に盛大に前のめりに転がって倒れた次第、暫く布団に潜り込んで不貞寝ていました。
まずは、そんな言い訳。

勇者「どういう事だ……? つまり……」

男「錬金兄弟子さんが、亡霊になって今でも“生きて”いると?」

錬金弟子「その通りです。全て兄さんが教えてくれました」

錬金弟子「兄さんが、魔の国へ赴くように師匠から言われた事」

錬金弟子「航海へ向かう途中、人気のない所で師匠に殺された事」

錬金弟子「兄さんを、ここへ埋めた事」

錬金弟子「そして、決して誰にも見つからないように、そして仮に亡霊化しても動けいないように」

錬金弟子「兄さんをこの地に封印した事」

錬金弟子「男さんを見たときは本当にびっくりしました。兄さんはここから動けないはずですから」

男「だから執拗に聞いてきたんだな。俺が錬金兄弟子さんかどうか」

錬金弟子「はい。最初は兄さんに試されてるんだと思いましたが」

勇者「聞いて良いかな?」

錬金弟子「何でしょう」

勇者「錬金師さんは何故、弟子である錬金兄弟子さんを殺さなければならなかったんだろうか」

錬金弟子「それは、はっきりとはわかりません……」

錬金弟子「でも兄さんは、多分自分の才能が師匠を上回るのが怖かったんだろうって言ってました」

勇者「……」

錬金弟子「何にせよ、兄さんは師匠を恨んでいます。殺されたのだから、無理はないでしょう?」

錬金弟子「私は、その復讐に協力したいだけです」

勇者「復讐、か」

勇者「もう一つ聞く。さっき『蘇生させる』って言ったけど、もう死んでるんだよね」

勇者「錬金弟子さんは蘇生魔法を使えるのか?」

錬金弟子「蘇生魔法は、残念ながら使えません……」

錬金弟子「『蘇生させる』と言うのも、言葉の綾かもしれません」

錬金弟子「兄さんが言うには、『亡霊となっても意思を持ち動くのは、生きると同じ。肉体があっても自由に動けなければ、死ぬと同じ』」

錬金弟子「つまり、この封印を解く事が兄さんにとっての『蘇生』なんだと思います」

勇者「成る程……」

錬金弟子「分かってくれましたか? 早く通して――」

男「俺からも良いか?」

錬金弟子「……どうぞ」

男「封印を解く方法はどのようにする? どこで知った?」

錬金弟子「六ヵ所に膨大な魔力を持つ魔法使いと簡単な詠唱をすれば封印は解けます。兄さんが言ってました」

錬金弟子「私は魔法使いの代わりに魔石を用意した方が良いって思ったからこうやったのですが」

男「幻覚魔法は錬金兄弟子さんから?」

錬金弟子「それ以外にいるはずありません。師匠は全然教えてくれませんから」

男「ふむ……」

錬金弟子「分かってくれましたか? では、通してくれます?」

勇者「いや、それは出来ないな」

男「俺も同意見だ。ここは通せない」

錬金弟子「どうしてですか! 分かってください。私にはこの賢者の石が必要なんです!」

錬金弟子「兄さんと一緒に師匠を倒したら、もう一つ作りますから! 私、近くで見てましたから作り方知ってますよ?」

勇者「確かに、俺自身賢者の石は必要だ。それも大陸連盟からの命令だ。その全権を任された俺が望めば、最優先にだって出来る」

勇者「でも、今はそれと関係ない」

勇者「賢者の石を使う事で結界は解けると分かったし、俺だって困ってる人は助けたいからね」

錬金弟子「じゃあ、どうして……っ!」

勇者「復讐は何も生まない。後に残るのは、ただの虚しさだよ」

勇者「それに、何か良くない気がしてならない」

錬金弟子「良くない……? 私と兄さん力合わせても、師匠に勝てないって事ですか?」

勇者「確かに、錬金師さんは強いだろうな。大魔法使いなんだから。でも、そんなのではない、何か……」

錬金弟子「……結局あれこれ理由をつけて、通したくないだけじゃないですか?」

勇者「違う! そうじゃない!」

錬金弟子「いいえ、そうに決まってます! こうやって足止めをして、師匠が来るのを待ってるんですよ! そうですよね!?」

勇者「だから、そうじゃな――」

錬金弟子「そうだ! 勇者さん達も兄さんに会って話すれば分かるはずです!」

錬金弟子「今呼びますから、二人ともついてきて――」

ガシッ

男「……」

錬金弟子「……離してください」

修正:
錬金弟子「……離してください」→錬金弟子「……放してください」

ホント些細な変換ミス。

男「だが断る」

錬金弟子「男さん、あなたも私と兄さんを邪魔するつもりですか?」

錬金弟子「見た目は兄さんなのに、それだけの偽物ですね」

男「俺は俺だ。錬金兄弟子さんの偽物でなく、男としてのオリジナルだな」

錬金弟子「そんなのどうでもいいです」

男「ああ、どうでもいい事だ。今重要なのはそれじゃない」

男「ただ言える事は、本当に錬金兄弟子さんが賢明な人なら、きっと今の俺と同じ事をしているはずだ」

錬金弟子「……兄さんを馬鹿にするつもりですか?」

男「いいや。俺は事実を言ったまでだ」

男「勇者さんも祠を中心とした六角形内には入らない方が良い」

勇者「分かってる」

男「それは、経験ってやつかな?」

勇者「そんなものだな。あそこは嫌な気がするんだ。男さんもよく気がついたな」

男「まぁ、論理と推理から導かれた……勘だ」

目を覚ますのだ!!(。・_・。)ノ

目を覚ますのだ!!(。・_・。)ノ

パクリスレがなんかあるな
早く起きろ

また長い間放置しててごめんなっさいぃぃぃい!!

>>20
むしろこっちがパクリじゃね?

錬金弟子「そうですか。通してくれませんか……」

錬金弟子「“――”」ブツブツ

勇者「男さん! 離れるんだ!」

男「えっ――」

錬金弟子「“風撃”!」ゴォォオッ

男「くっ……うわぁぁあっ!?」

勇者「男さん、大丈夫か!?」

男「あ、あぁ……どうやら、飛ばされただけのようだ」

勇者「錬金弟子さん、どういうつもりだ!」

錬金弟子「何言ってるんですか。兄さんの願い……私の願いを邪魔する人は」

錬金弟子「みんな敵です!」

錬金弟子「私は、賢者の石を兄さんに届けて、復活させるんです!」

勇者「そうか……。そっちがその気なら、全力で阻止させてもらうよ」

錬金弟子「どうしても、退いてくれないんですね。次からは飛ばすだけなんて事しませんよ」

勇者「……」

男「……どうするつもりだ?」

勇者「どうするも何も、あの祠に埋められてる“錬金兄弟子”さんは復活させちゃいけない」

勇者「そんな気がする。だから――」

男「しかし、実証がないのは確かだ」

勇者「だからと言って、男さんも嫌な予感はするんだろ?」

男「……確かに。俺もあれは阻止すべきだと考えている」

勇者「だけど、錬金弟子さんは錬金師さんの弟子……魔法の威力は凄まじいはずだ」

勇者「俺達二人で勝てるかどうか……」

男「その事なんだが、良い作戦がある」

勇者「本当か?」

男「それはだな――」ボソボソ

錬金弟子「退いてくれる気にはなりましたか? 私も出来れば、戦いたくはないんですよ」

勇者「残念だけど、やっぱり蘇生はさせない」

男「ここでその野望は阻止させてもらう」

錬金弟子「そうですか……本当に、残念です」

錬金弟子「“――”」ブツブツ

錬金弟子「“――”――っ!?」ジュッ

錬金弟子「な、何ですか、今の……」

男「レーザーだ。人体ならば、簡単に貫通する威力は持つから気を付けろ」

錬金弟子「詠唱もなしに……! それが、科学者の力ですか」

男「そんなものだ」

錬金弟子「でも、その筒の先が向けられてなければ、当たらないようですね」

錬金弟子「厄介ですが、避けながら詠唱すれば! “――”」ブツブツ

勇者「“雷撃”!」

錬金弟子「――っ!」

勇者「こっちは二人なんだ。それを忘れてもらったら困る」

錬金弟子「……でも、その程度の魔法では私は倒せませんよ」

錬金弟子「それに、狙いが外れているみたいじゃないですか。かの勇者様の実力なんてこんなもの――」

勇者「でも……」

錬金弟子「?」

勇者「詠唱は阻止できる」

錬金弟子「――っ!」

~  ~

勇者「錬金師さんの弟子であることを逆手に取る?」

男「その通り」

男「重要なのは、錬金師さんはどのように弟子を育てたかなんだ」

勇者「どういう事だ?」

男「錬金師さんは、恐らく短縮詠唱を教えていない」

男「短縮詠唱だと、通常の詩編詠唱よりも汎用性が低くなるからなんだ」

勇者「しかし……」

男「思い出してくれ。錬金弟子さんが短縮詠唱を使った所を、今まで見た事あるか?」

勇者「確かにないが、俺達と知り合ってからまだあまり経ってないぞ」

男「そうなんだが、それを仮定とせずに最初からまともに戦うのは効率が悪い気がする」

男「だから、まず様子を見よう。確定すれば、こっちは勝ったも同然だ」

~  ~

男「どうやら、俺の仮定は真であるようだ」

勇者「詩篇の詠唱中、詠唱者は集中しなければならない」

勇者「その中で、攻撃を掠らせたりギリギリを狙われたりすれば、集中力も途切れる」

勇者「つまり、詠唱も途切れさせざるを得ない」

男「俺も本で読んだことがある。詠唱中は始終集中しなければならないんだって?」

男「百戦錬磨の熟練者ならまだしも、戦闘経験の薄い人ならば簡単に集中力も途切れるだろうな」

錬金弟子「――くっ」

勇者「諦めるんだ、錬金弟子さん」

錬金弟子「まだ……負けてません……! “――”」ブツブツ

勇者「“雷撃”!」

錬金弟子「うぅっ……“――”」ブツブツ

男「無駄だ」チュオンッ

錬金弟子「――っ」

錬金弟子「そんな……詠唱させてもらえないなんて……」

男「ちなみに言うと、だ。勇者さんはともかく、俺はあまり戦い慣れていない」

男「今まで“偶然にも”攻撃は外しているが、次も外せるかどうか」

錬金弟子「……脅すつもりですか?」

男「そんなつもりはない。俺だって傷つけるつもりはないんだ」

勇者「こっちとしては、やはり大人しく賢者の石を渡してもらえれば嬉しいんだけどね」

錬金弟子「私は……兄さん、どうすれば……」

勇者「錬金弟子さん、お願いだ」

錬金弟子「兄さん……」

「錬金弟子よ、頼む。早く……してくれ……」

勇者「何!?」
男「だ、誰だ!」

錬金弟子「そ、その声は……兄さん?」

錬金兄弟子「ああ、そうだ。俺だ。錬金兄弟子だよ」

勇者「……嘘だろ?」

男「本当に俺とそっくりだな……と言う事は、まさか本物なのか……?」

錬金弟子「ほら、私の言った事は正しかったでしょ!? 早く兄さんを蘇生させないと……!」

勇者「し、しかし……」

錬金兄弟子「頼む……早く……! 結界の中は苦しい……!」

錬金弟子「もうすぐです! もうすぐの我慢ですよ、兄さん!」

錬金弟子「ほら、勇者さん男さん、早く通してくれませんか?」

男「……仕方ない。俺の勘が外れていたみたいだ」

男「まさか本当に錬金師さんが……そんなまさか……」ブツブツ

勇者「いや、待ってくれないか?」

錬金弟子「何ですか?」

錬金兄弟子「早くしてくれ! 錬金弟子、早く!」

錬金弟子「兄さんが苦しんでる! 早く通してください、勇者さん!」

勇者「だから、ちょっと待ってくれないかって言ってるんだ」

勇者「そこの錬金兄弟子さん。あなたはどうして復活しようとしているのですか?」

錬金兄弟子「……決まってる。あいつに、錬金師に復讐をするためだ!」

錬金兄弟子「そんな事より早――!」

勇者「まだ質問は終わってない」

錬金兄弟子「……」

勇者「あなたの復讐のために、錬金弟子さんは盗みを働いている」

錬金兄弟子「それがどうした?」

勇者「……いえ、何も」

錬金弟子「こんな問答、無意味です。早く蘇生の儀式を行わないと」

勇者「いや、結論は出たよ」

勇者〔どう思う?〕

魔剣〔怪しい。嫌な予感しかせぬな〕

勇者〔同感だ〕

勇者「やはり錬金弟子さん、あなたに儀式はさせない!」

錬金弟子「どうしてですか! 兄さんはそこにいるのに!」

錬金弟子「師匠の悪事が証明されたのに!」

勇者「俺はそうは思わない。男さんは?」

男「確かに物証がない限り、証明とは言えない。だが……」

勇者「俺には、それで十分だ」

勇者「まぁ仮に、本当に錬金師さんが錬金兄弟子さんを殺したとしても、俺はそこの錬金兄弟子さんを蘇生させるわけにはいかない」

錬金弟子「どうして……!」

勇者「妹弟子が自分のために罪を犯したのに、自分の復讐だけに執着している。妹弟子の事なんて、眼中にない」

勇者「今のあなたはそういう風に見える」

錬金弟子「そんな事はない!」

錬金兄弟子「そうだ。俺はいつだってお前を想っている」

勇者「言葉ではどうとでも言えるさ」

錬金兄弟子「言葉だけじゃない。本当の事だ」

魔剣〔――妙案がある〕

勇者「じゃあ、こうしよう」

勇者「俺はあくまであなたを疑っている」

勇者「仮にあなたの言う事が本当なら、蘇生は諦めるんだ。そうすれば、責任を持って錬金弟子さんを錬金師さんの魔の手から守ろう」

勇者「しかし、蘇生を諦めないならば、あくまで俺はそれを阻み、錬金弟子さんを殺す」

男「……! その案、俺は乗った」

錬金弟子「そんなバカな話が通ると思うんですか? 兄さんを困らせないでくださ――」

錬金兄弟子「いや、もう良い」

錬金弟子「……兄さん?」

錬金兄弟子「それならば、蘇生は諦めるしかない。可愛い妹弟子に死なれては困るからな」

錬金弟子「そんなっ、でも兄さんは……!」

錬金兄弟子「良いんだ。これで……」

錬金兄弟子「ただ、責任は取ってもらうぞ。錬金弟子を死なせでもすれば、復讐の矛先がお前にも向けられると思え」

錬金兄弟子「俺はお前の顔を、よく覚えておくからな」

勇者「ああ、約束する」

錬金弟子「兄さん……必ずまた会いに来ますから……」

錬金兄弟子「ああ、いつでも――」

勇者「それは無理だよ。その時にまた蘇生を図るかもしれないからね。蘇生は諦める約束だ」

男「錬金弟子さん、俺らはひとまず氷の街に戻ろう」

錬金弟子「で、でも……」

男「錬金兄弟子さんは、復讐よりも錬金弟子さんの命を選んだ。その想いを無駄にしてはならない」

勇者「じゃあ、行こうか」

男「ああ」

錬金弟子「は、はい……」

錬金兄弟子「……」

錬金弟子「兄さん……」

ザッザッザッザッザッ…

勇者〔本当にこれで良いのか?〕

魔剣〔ああ。順調だぞ〕

勇者〔だけど、これだと俺達が悪者みたいで……〕

魔剣〔男は我の策を理解しておると言うのに〕

ザッザッザッザッ…

ザッザッ…

ザッ…

錬金兄弟子「……待て」

魔剣〔掛かった!〕

勇者〔え? だからどういう……〕

魔剣〔キミは我の言葉を伝えれば良い〕

勇者「どうした?」

錬金兄弟子「そのまま行くのか?」

勇者「どういう事だ?」

錬金兄弟子「そのまま、錬金弟子を連れて行くのか?」

勇者「そういう約束だからな」

勇者「大丈夫だ。錬金師さんには見つからないよう、まずはこのまま氷の街へ行き、白の国へ連れて行く」

錬金兄弟子「そうじゃなくてだな……あの流れだと、『やはりお前の想いは本物だ』と解放する所では……」

勇者「そんな約束は、ないぞ?」

錬金兄弟子「……そうか」

錬金弟子「兄さん……」

錬金兄弟子「まぁ、良い。錬金弟子が無事ならば……」

錬金兄弟子「ここがどれ程つらくても、苦しくても……! 悲願が遂げられなくともっ……!」グッ

錬金弟子「兄さん……手から血が……! そんなに私の事を……」

錬金弟子「勇者さん男さん、私決めましたよ」

錬金弟子「私の命がどうなっても、兄さんは必ず私が助けます!」

錬金弟子「兄さん、すぐにこの賢者の石で……!」ザザッ

勇者〔えっ、ちょっ!?〕

男「っ!」ザザッ

魔剣〔よし、動くぞ〕

錬金弟子「男さん、すみませんが邪魔はさせませんよ。“――”」ブツブツ

魔剣〔呆けるな! 援護だ!〕

勇者〔ハッ!〕

魔剣〔早くするんだ! 彼女の詠唱が終わらないうちに!〕

勇者「ら、“雷撃”!」

錬金弟子「っ! また――っ!? うわわっ!」ドテッ

魔剣〔好機!〕

勇者「男さん、今だ!」

男「フォースランス放電モード。バッテリー残量確認。二回のフルパワーまで可能――」

錬金弟子「に、兄さ……今、助けに……!」

男「出力三十パーセント、放電!」

錬金弟子「あ゛、あ゛あ゛ぁぁぅあああっ!」バリバリバリバリバリッ!

寝る前にちょっとだけ書かせてもらう。

しかし、こんなに待たせても待ってくれる人はいるんだなぁ……。

男「はぁ……はぁ……」

錬金弟子「あ……ぅあ……」ピクッ…ピクッ…

勇者「まさか、殺したのか?」

男「まさか。失神しているだけだ」

勇者「そうか」ホッ

男「やっぱり……人にこういう事するのは嫌だな。魔物を殺すところを何度も見たから、少しは慣れたけど」

勇者「ところで……」

男「ああ、そうだ」

勇者「なぜ、助けなかった?」

錬金兄弟子「……無茶を言わないでくれ」

勇者「それもそうだ。そこに結界があるのだからな」

錬金兄弟子「なぜこんな事をした? ……そうか。俺を本当に信用して良いか確かめるためだな?」

勇者「……ああ」

錬金兄弟子「やり方に激怒は覚えるが……これで、信用してもらえただろうか」

勇者「いや、むしろ信用できなくなったね」

錬金兄弟子「……なぜ」

勇者「知っているか? 亡霊は血が出ない」

錬金兄弟子「……何を言い出すかと思えば」

勇者「あなたはわざわざ拳を強く握り、自分の爪を食い込ませて血を流した」

勇者「だけど、本当は流れるはずがないんだ。あなたが亡霊だからね」

錬金兄弟子「俺の手を見るか? しっかり流れているじゃないか!」

勇者「詰めが甘いな」

錬金兄弟子「……何?」

勇者「確かに手から血が流れているように見えるのに、どうして雪に血の跡がないのか」

勇者「答えは簡単。実際に血は流れていないからだ」

錬金兄弟子「……」

勇者「あなたは血を流す事で、錬金弟子さんが自分を助けに来るように煽った。そうじゃないか?」

錬金兄弟子「……なぜそんな事が分かる?」

勇者「この魔剣が教えてくれた。そして――」カチャッ

勇者「あなたの存在自体、もはや亡霊じゃない事も分かっている!」

錬金兄弟子「……」

男「あったぞ。賢者の石だ」ゴソゴソ

?「よくやった」

男「錬金師さん!」

錬金師「遅くなってすまない。急いだつもりなんだがな」

錬金師「とは言え、少し様子は見させてもらったぞ」

男「え?」

勇者「盗賊と剣士、それと狂人は?」

錬金師「小屋に残ってもらっている。俺が出た時は、狂人という娘は気を失ったままだったしな」

錬金弟子「……」

錬金師「錬金弟子を生かしてもらって、非常に嬉しい」

錬金師「最も、殺すつもりだったならその前にあなた達を殺していたけどな」

勇者「見ていたのですか。それならどうしてもっと早く姿を現してくれなかったのです」

錬金師「奴と錬金弟子の戯れ言に騙されたままだと、逆に混乱するだろう」

錬金師「最も、錬金弟子はそれが真実だと信じて疑っていなかったと思うが……」

錬金師「だがそれをはっきりと見抜いたようだな」

勇者「こいつのお陰です」

魔剣〔あはは……照れるな。それ程でもあるがな〕

錬金師「……成る程」

錬金師「さぁ、もう俺達の間に嘘はなしとして話そうじゃないか。なぁ、錬金兄弟子」

錬金師「いや、俺の弟子の名をかたり俺の弟子の姿をし、あまつさえ俺の弟子を騙すなど、これ程の侮辱はないぞ」

錬金師「なぁ、幻術師」

あれ? これ俺のスレか?
って思ったくらいレスがついてたw

おはようございます。またすぐ寝ますが。

錬金兄弟子「何を言ってるんだ? 俺はお前の弟子だった錬金兄弟子――」

錬金師「演技はやめておこうじゃないか。俺とお前の仲じゃないか」

錬金師「とは言え、一度会ったきりで随分久しぶりだな。ん? これでは仲も何もないな」

勇者「……どういう事ですか?」

錬金師「あぁ、奴は錬金兄弟子ではない。それはあなた達もわかっているだろう」

勇者「はあ」

錬金師「奴の本当の名は幻術師――最も、あれはただの幻覚でしかない」

男「幻覚? 俺は錬金兄弟子さんなんて知らなかったし、それにあんなに会話の成り立つ幻覚なんて……」

錬金師「祠を囲む六つの点がある。そのうち五つが魔石の置かれている場所だ」

錬金師「それらの点は幻術師を封じる特殊な結界を形作る陣詠唱の要なんだが、結界はその点を繋ぐようにして張られている」

錬金師「この結界は特殊と言ったが、その理由は詠唱者が封印対象を完全に指定出来る事だ。指定された対象は、結界が外から解かれない限り身動きする事すら出来ない」

錬金師「一方、対象以外は簡単に出入りできると言う欠点がある。幻術師はそこを利用したんだ」

錬金師「封印される寸前に詠唱したのだろう。結界内部に奴の幻覚魔法を最大限に飽和させた領域が発生している」

錬金師「その領域内では、身動き出来ないはずの幻術師が自由に幻覚を見せる事が可能であり、あれは錬金弟子の記憶から出た姿を領域内に投影しているに過ぎない」

勇者「でも、それでも封印されているはずでは……?」

錬金師「封印で身動きは出来ないとは言え、思考は可能なんだよ」

錬金師「つまり、あの姿は幻覚であるが、幻術師自身と話していると言って過言でない」

錬金師「戦乱期の大魔法使い幻術師である事に、変わりないんだ」

勇者「大……魔法使い……!?」

男「そんな昔の人が……まさか封印されているから生きたままであると言うのか?」

錬金兄弟子「……そうだな。実に久しぶりだ」スゥ…

幻術師「三十五年ぶりか、錬金師よ」スゥ…

錬金師「三十六年ぶりだ」

幻術師「一年の違いなど、悠久の時を生きた私には一秒と同じようなもの」

幻術師「だが私の幻覚から逃げた者はお前のみ。また会えて嬉しいぞ」

錬金師「俺の弟子を誑かして何を言うか」

幻術師「誑かしたなどと人聞きの悪い。心の隙間を埋めてやったと言ってくれないか」

錬金師「錬金兄弟子を偽り錬金弟子を騙す事をそういうのか? 違うな」

幻術師「しかし、お前の弟子は素晴らしかった。まさか大魔法使いの代用として魔石をあてようとは。お前の教えか?」

錬金師「問われている所悪いが、俺はお前と喋りに来たわけではない」

幻術師「……はぁ、そのくらい知っている。その小娘を取り戻しに来たのだろう」

幻術師「だが、その小娘はすでに私の手中にある。殺さない限り、私の解放の機会はあるのだ」

錬金師「承知の上だ」

錬金師「だから、俺は殺すと決めてここに来た」

幻術師「ほう」ニヤニヤ

錬金師「随分楽しそうだな」

幻術師「それはそうだ。私の手を逃れたお前が、自らの意思で自分の弟子を殺すのだからな」ニヤニヤ

勇者「ちょっと待って下さい! 錬金師さん、本気ですか!?」

錬金師「無論だ」

勇者「そんな……! 錬金弟子さんはあなたの弟子なのに」

錬金師「男さん、賢者の石を貸してくれないか」

男「……何に使うつもりですか」

錬金師「大丈夫だ。いくら使っても魔石は魔石のままだ。ただの石には戻らない」

男「だから――っ!」

バシッ

錬金師「遅い! 貸せと言っているだろう!」

錬金師「……すぐに返す」

男「くっ……」

幻術師「それが賢者の石というものか。凄まじい魔力を感じるぞ……!」

幻術師「さぁ、それでどうするつもりだ?」ニヤニヤ

錬金師「……」ポイッ

幻術師「……?」

錬金師「“――”」ブツブツ

幻術師「――! お前まさか――!」

シュウウウウ…

勇者「錬金師さん、なぜ……!」

男「これは……どうして……」

魔剣〔何故、奴の封印を解いた! 邪な気配を感じるぞ……!〕

錬金師「……」

シュウウウウウウウ…

幻術師「……まさか、お前が私の封印を解いてくれようとは」

幻術師「どういう風の吹き回しだ?」

錬金師「……」

幻術師「まぁ、良い。これで私が大陸を統べる時が来たのだ! 錬金師、お前ならば側近にもしてやろうぞ」

錬金師「まさか。そんな地位はいらないな」

幻術師「私もそれ程悪ではない。私を自由にしたお前に、礼を与えると言っているのだ」

錬金師「では……その命をもらおうか」

幻術師「……何と言った?」

錬金師「『殺すと決めて来た』と言っただろう。始めから、お前を殺すつもりでいた」

錬金師「さぁ、その命をもらおうか」

おはようございます!
また長い間空けてしまいましたが、懲りずに書いていきますよ。

勇者「……」
男「……」

幻術師「……私の命をもらうだと?」

錬金師「ああ、そうだ」

錬金師「俺は俺の弟子を殺すつもりなど、さらさら無い。道を外せば俺が正し、俺を殺すつもりならば軽くあしらってやる」

錬金師「それが師としての務めではないか」

幻術師「私を殺す事で、お前の弟子の道を正す。そう言いたいのだな?」

錬金師「他に何があると言うんだ?」

幻術師「ふふ……ふはははっはははっ! 若造如きが私を倒せると思うてか!」

錬金師「……」

幻術師「確かにお前は私が封じられて以来ただ一人、私の幻覚から逃げ果せた。しかし、それまでだ」

幻術師「封印された状態では、私の力は半分も出していないのだ」

錬金師「知っている。広範囲系幻覚魔法は、範囲の広さだけ効果が薄れる事もな」

幻術師「ほう。三十五年も経っていれば、幾分か勉強は出来たみたいだな」

錬金師「そう、幾分か勉強して来たんだ」

幻術師「……ほう」

幻術師「だが、そこの二人はどうかな?」

錬金師「! まさかっ!」

幻術師「“――”」ブツブツ

錬金師「勇者さん、男さん!」

勇者「錬金師さん、一体何が――!」

男「どういう事だ!? 周りの景色が急に歪み始めて――」

幻術師「“――”」ブツブツ

錬金師「でき――は――くへ――!」

勇者「――て――えな――!」

男「――ふむ」

錬金師「――そっ! ――たな――“イ――」

ガガ―ドガッ―ガガガ――

――――――

ブロロロロロッ

男「……!? ここは……?」

男「……」

男「やべぇ! まさか居眠り運転してたのか? 危なかった……」

男「今までそういう事なかったんだがな……日頃の疲れか」

男「給料は良くなったんだが、大学教授ってのも面倒な仕事だよな」

男「って、もうこんな時間か! まだまだ新任だってのに講義に遅れたら評判も悪くなるってのに」

男「……」

ブロロロロロッ

男「……」ゴシゴシ

男「……」

「あっこら! 待ちなさ――!!」

男「!? あぶ――!!」

キキイィィィッッ!
  ――ドンッ!

男「はぁ……はぁ……」バクバク

男「! 今の、まさかっ!」バッ

男「……あ、ああっ……!」

「マモルー! うぅ、マモル……!」

男「おい……冗談きついぞ……。何で……何で、子供轢いてしまってるんだよ……」

ザワザワ ガヤガヤ
 ザワザワ ガヤガヤ

「おい、あれ見て見ろよ」
「げぇ、グロいな。事故現場なんて始めて見たよ」
「子供轢いたんだって? かわいそーに」
「おいおい、何事故ってんだよ。後ろがつっかえてんだよ」
「ありゃあ死んでるぜ」
「親御さんもつらいだろうに」
「へぇ、これが事故かぁ」パシャッ パシャッ

「うっ、うぅっ、マモル……」

男「わ、悪いのは俺じゃない。そう! 子供が勝手に飛び出してきたんだ!」

男「俺は……俺は普通に運転してただけなんだ」

「何言ってるんですか! 私のマモルを轢いておいて!」

男「でもあなただってお子さんをしっかりと見てないから……!」

男「いや、それよりも早く救急車を――あっ、来てくれたんですか。早いですね。こっちですよ」

「いえ、もう手遅れです」

男「何を言ってるんですか? まだ見てないじゃないですか」

「即死ですよ。ほら、当人だって言ってるじゃないですか」

男「言ってるって、そんな事誰が……当人?」

「そうだよ、ぼくだよ。おじさんがころしたんだよね。いたかったよお」

男「まさか……そんな……」

「いたかったよおお、おおお、おおおおおお!」

――――――

勇者「――金師さ……あれ?」

勇者「ここは……どこだ?」

ピチャッ… ピチャッ…

勇者「ここは……どこかで見た事があるな」

勇者「洞窟の中か。しかし不思議だな。灯りがないのに明るい」

勇者「……! まさかここは……!」

「気付いたかい? そう。ここにはあまり良い思い出はないだろうね」

勇者「誰だ!」

「誰だとは酷いね。もしかして、俺を忘れたって言うんじゃないだろうな」

勇者「……友、か?」

友「正解!」

勇者「そんなはずはない! 友は……友は……!」

友「俺がどうした? 死んだはずだって言うのか?」

勇者「……ああ、そうだ」

友「その言葉は、少し間違ってるね、勇者」

友「あの時だって、俺を殺したのは勇者、君だよ」

勇者「あの時俺が殺したのは、“魔物の王”だ。俺は――」

友「俺を解放してやった、とでも言いたいのかい?」

勇者「勿論だ」

友「ふざけるな!」

勇者「……」

友「俺は、あの時生きていたんだ」

勇者「いいや、生かされていたんだ。奴はお前の脳を必要としていただけだ」

友「物は言い様だね。俺は生かしてもらってたんだ。俺の脳を必要としてくれるから」

勇者「友!」

友「ほら、見てみればわかるよ」

ズリュ… ズリュ…

勇者「おい、それ……」

友「今だってそうだ。ご主人様は、俺を必要としているだけなんだ。わかるかい、勇者」

勇者「っ!」

――――――

男「うああああぁぁぁぁあぁあああっ!」サッ

――――――

勇者「友を返せええぇぇえええええっ!!」チャキッ

――――――

「――“カイ”!」

男「!」ピタッ
勇者「!」ピタッ

錬金師「……」

男「これはどういう事だ……」

勇者「何で俺が錬金師さんに剣を……」

錬金師「良いから、二人とも武器を下ろしてくれないか」

男「あ、はい」

勇者「すみません」

幻術師「惜しいところまでいったのだがな。このくらいの幻覚は容易に解けるようになったか」

錬金師「三十六年も経つんだ。そのくらい出来なくて何が大魔法使いだ」

幻術師「成る程。私は少しお前を見くびりすぎていたようだ」

男「さっきのが、幻覚だと?」

錬金師「ああ。何を奴が何を見せたかは知らないが、二人が俺を殺すようにし向けた幻覚だ」

男「こっちの記憶が夢みたいに思えたくらいだったぞ……」

勇者「友の事を知っているとでも言うのか……!?」

錬金師「単純な幻覚だ。記憶のどこかにある恐怖を見せたのだろう。奴が知らない事も幻覚で見せる事が出来る」

錬金師「それがさっきの幻覚魔法だ」

幻術師「よくわかっているな」

錬金師「二度も見せられて理解出来ない方がおかしい」

幻術師「お前が見た恐怖とは、一体何だったのだ?」

錬金師「言うと思うか?」

幻術師「いや、言わないだろうな」

勇者「錬金師さんは、あんな強力な魔法に対抗する術があるのですか?」

錬金師「……ない事もない」

錬金師「しかし、これは諸刃の剣なんだ。出来れば使いたくはなかったが……奴の幻覚を解くのに時間が掛かった。やむを得まい」

錬金師「二人に、これを持っておいて欲しいんだ」

男「……これは?」

錬金師「解毒剤だ。今から出来るだけ遠く――この祠の広場が見えなくなるくらいで良い。遠くまで離れてくれ」

錬金師「その間に、俺は奴を倒す。暫くは俺の魔法で辺りに轟音が響くだろうから、それが鳴り終わったらもう一度ここへ来てくれ」

錬金師「ここに来たら、俺にその解毒剤を素早く飲ませるんだ。良いな?」

勇者「俺達も手伝います!」

男「あれ程危険な相手に一人じゃ厳しいですよ」

錬金師「率直に言う。足手纏いだ。わかったら、早く言う通りにしてくれ」

勇者「……そうですか。では男さん、錬金師さんを信じるとしようじゃないか」

男「……」

男「ああ、わかった」

幻術師「良いのか? 三対一なら私にも勝てるかもしれないだろうに」

錬金師「足手纏いと言うのは本音だ。先程のように操られるのがオチだ」

幻術師「では先程のように解いてやればいいではないか」

錬金師「あれは小手調べであるのは知っている」

幻術師「利口だな。それでもお前はやっとの思いで解いたようにも思えたが? えー……あれは何だったか。最近の魔法使いがよくやる……」

錬金師「短縮詠唱」

幻術師「そう、その劣化詠唱で精一杯だったな。それを理解した上でこの状況を作ったのだろうな」

幻術師「お前は本当に賢いのか阿呆なのか」

錬金師「劣化かどうかは使い手による」

幻術師「お前ならば、上手く使えるとでも? 弟子には教えていなかったはずだが」

錬金師「やってみればわかる」

錬金師「さて、始めるとしようか」キュポッ ゴクゴク…

幻術師「魔力を高める液薬か何かか? そのようなもの、私の幻覚の前では無意味だ」

錬金師「それもやってみればわかる。四十秒で終わらせるがな」

錬金師「“セクタ”! “ブレフィ”! “ブレフィ”!」

幻術師「っ!」

幻術師「……ハッ、どうやら何も起こっていないようだが」

錬金師「強化魔法というものくらい知っているだろう。教えてやる。今のは索敵魔法、そしてそれを二重に強化した」

幻術師「自らの感覚を鋭くしたわけだな」

錬金師「良いハンデではないか?」

幻術師「姑息な真似を……良いだろう。自ら枷を付けた事を後悔させてくれる!」


男「はぁ……はぁ……このくらいで良いか?」

勇者「ああ、多分。しかし解毒剤って、何のだろうか」

男「それよりも、本当に大丈夫だろうか」

ズガババドドガッガガガッ!!!!

男「何の音だ!?」

勇者「始まったんだ。錬金師さんと幻術師の戦いが」

勇者「色んな魔法の音が混ざり合ってる……錬金師さんは本気だ」

男「だが、二人分の魔法でここまで複雑な騒音なんて……」

勇者「錬金師さんが大魔法使いの称号を得た理由は何だと思う?」

男「膨大な魔力じゃないのか?」

勇者「それもある。しかし、要となったのは短縮詠唱の才とも言われてるんだ」

男「……何?」

男「でも、錬金師さんは錬金弟子さんに短縮詠唱を教えてないじゃないか」

勇者「そこは少し疑問に思った。もしかしたら、短縮詠唱を知り尽くした故の方針かもしれない」

勇者「それでも確かに、錬金師さんの短縮詠唱は普通じゃないんだ」

男「と、言うと?」

勇者「普通短縮詠唱の短縮詩篇を決める際に、詩篇を想起しやすい言葉を詩篇から抜粋するか分かりやすい――例えば魔法名を使うんだ」

勇者「そしてそれは日常で頻繁に使わない言葉でなければならない。でなければ、うっかりその言葉を言った時に魔法が発動するかもしれないからな」

男「つまり……短縮詠唱のキーワードはその言葉を口に出すだけで、勝手に頭の中で詩篇を思い出してしまうようになってるって事だな」

勇者「そうだ。だが、錬金師さんはそうじゃないんだ。無意味な言葉の羅列、一音、二音だけの詠唱詩篇を用いて多くの魔法を短縮詠唱出来んだ」

勇者「それでも、日常でその言葉を使っても魔法は発動しない。日常的に、凄まじい精神力を使っているんだよ」


錬金師「“カ”“ライ”“ミ”“カラ”“サ”“ザ”“ナ”“ミ”!」ドンガラガガガガドドバーンッ!

幻術師「“――”!」ブツブツ ザザザッ

錬金師「!? “カイ”!」

幻術師「はぁ……はぁ……」

錬金師「がふっ……ぜぇ……」

幻術師「随分な連撃をしてくるようだが、私の詠唱は止められんぞ。瀕死の状態でも詠唱くらい出来るからな」

錬金師「がはっ……はぁ……」

幻術師「私は幻覚魔法を当てているだけなのに、お前が何故か瀕死ではないか。無理もない。私の幻覚は痛覚まで支配する」

錬金師「何を、勘違いしている」

幻術師「ここに来てまだ強がるか! 見上げたものだ」

錬金師「有頂天になっている所悪いが、もはやお前の魔法など解くのも容易くなってきたんだ」

錬金師「暖房薬を飲んでいるにもかかわらず、身体は騙せないようだ。寒さで薬の効き目が悪い。もうすぐ四十秒経ってしまうな。残念だ」

幻術師「薬、だと?」

錬金師「もはや俺の勝利が見えた。だから教えてやろう。俺が飲んだのは強力な毒薬だ」

幻術師「気でも違えたか。負けて私に従うよりも、死を選ぶというのか」

錬金師「どちらも違うな。この毒薬はお前を倒すために特別に調合したもので、飲むと徐々に全身の感覚が麻痺していくんだ。勿論、感覚は麻痺しているが、身体の機能は暫く動くようにしてある」

錬金師「さっきから幻覚を解く早さが上がっているのに気付かなかったか?」

幻術師「まさか……!」

錬金師「そうだ。もはや手足の感覚はない。今、味覚もなくなった。おや? 腹に服が擦れる感覚が失せたな」

幻術師「……は、ははっ、成る程! 考えたものだ。幻覚を知るための感覚をなくすとは!」

幻術師「だが、やはりそれは自殺行為でしかないのはわからぬのか」

錬金師「どうしてだ?」

幻術師「何も感じなければ結局動けまい。私が何もしなくとも死ぬ。わざわざ私が殺す場合も、あまりにも容易だ。目も見えないし、耳も聞こえないのだからな!」

錬金師「では耳の聞こえない今、どうしてお前と会話出来てると思う?」

幻術師「……何だと?」

錬金師「感覚に障害を負った人は別の感覚が鋭くなっている例は多々ある。俺もそれに習って、感覚をなくす事によりある感覚を鋭くしているんだ」

幻術師「では最初の索敵魔法は……」

錬金師「そうだ。全ては感覚を鋭くするためだ。そして最後の感覚――目が見えなくなった今、幻覚を催す感覚は全て消えた」

錬金師「これで俺が頼りに出来る感覚は一つだけとなった。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいずれでもない感覚……直感だ」

一気にこの章を終わらせるつもりだったけど、眠くなってきたので寝ます。
べ、別に書いてくれって土下座されても寝るんだからねっ!

まぁ、起きたらまた書く。と思う。

お、はよ……ござま、す……!

皆さん、お久しぶり。
サークル誌の〆切から一ヶ月。漸く自由に書ける時間が出来ました。
この場を借りて編集係である代表様に謝罪とお礼を。
すみませんでした。そして、待ってくれてありがとうございます。

編集係「何で一ヶ月も遅れるの? そんなに書くの遅いはずないよね?」
俺「勿論です。睡眠時間削っていれば二十日は早く書けたはずです」
編集係「じゃあ削れば」
俺「いや、無理」

とか言うやり取りで苛立たせたりしましたが、
とりあえず、漸くこちらを進められます。

チュババーンッ!!!!

男「……」

勇者「……音が、止んだ?」

男「終わった、のか? 勇者さん、行ってみよう」


男「何だ!? 何も見えないじゃないか」ザッザッザッ

勇者「男さん、ちょっと待て」ザザッ

男「?」

勇者「あそこに人影が……」

シュゥゥゥウウウ…
   ゥゥウゥウウ…

勇者「……あれは」

男「錬金師さんだ!」

錬金師「……」

勇者「錬金師さん! 勝ったのですね!」

錬金師「勇者さんと男さんか……! 早く、解毒剤を!」

男「分かりました。今、解毒ざ……!」

勇者「錬金師さん……その姿は……、身体中から血を流して……!?」

錬金師「早く!」

男「は、はい!」

錬金師「……はぁ、間に合ったか」

勇者「れ、錬金師さん、幻術師は?」

錬金師「大丈夫だ。あいつの気配は完全に消えた。もう現れる事もないだろう」

男「錬金師さんでさえこれ程苦戦する相手だったとは……」

錬金師「そうでもない。幻覚魔法を封じた後は、かなり呆気なかった」

男「でも、その血は?」

錬金師「これは俺が飲んだ毒の副作用みたいなものだ」

錬金師「いや、本来の効果と言うべきか」

男「毒、ですか?」

錬金師「ああ。幻術師に勝つには幻覚魔法を封じる必要があったんだ」

錬金師「そのために、自身の感覚を完全に麻痺させ、幻覚を通らなくする手段を俺は選んだ」

錬金師「あらゆる感覚に麻痺させ、全身を破壊する。俺が飲んだのは、そういう猛毒なんだ」

錬金師「無論、解毒剤を飲まなければ死に至る」

勇者「大丈夫なのですか?」

錬金師「解毒剤を飲めばすぐに毒の進行は止まるが、すぐには回復しない。暫くは麻痺したままだ」

錬金師「麻痺が解けていけば身体中のあまりの痛みに死に至るとも聞くが……俺ならば大丈夫だろう。はっはっは!」

ひさしぶりおつ
スレ落ちが3ヶ月から2ヶ月に変わるみたいだから覚えといてね

おはよう。眠くなるまで書くよ!

>>84
まじで!?
まあ俺が頑張れば良いだけなんだろ?

ぜ、善処……しまひゅ……

勇者「視界が、晴れてきたな……」

錬金師「ところで」

勇者「何ですか?」

錬金師「錬金弟子を置いていっただろう」

勇者「あ……」
男「そういえば……」

錬金師「少しは気を利かせてもらいたかったな。幻覚の犠牲にならないから、問題ではないのだが」

勇者「すみません」
男「すいません……」

錬金師「まぁ、その事はもう良い。この祠の下の方、見えるか?」

勇者「祠の下、ですか?」

男「……これは!」

勇者「幻術師……いや、さっき死んだような姿じゃない……」

錬金師「大魔法使いは亡霊となって祟る、とはよく言ったものだ。こいつがまさしくそうなんだ」

男「しかし、さっきまで戦っていたじゃないですか!」

錬金師「封印されたからと言って、人の身体が悠久の時を過ごせるはずがない。そもそも食糧がないから餓死するのが当然だ」

錬金師「いや、この場所では凍死が早いか?」

錬金師「何にせよ、幻術師の身体がとっくの昔に死んでいたんだ。本当は、奴自身死んだ事に気付いていなかったのかもしれないな」

錬金師「さて、全ては終わった。帰るぞ」

錬金師「勇者さんは賢者の石と月の雫、それと氷の結晶を拾ってくれ」

勇者「え、でも幻術師復活に使ってしまったのでは……」

錬金師「何を言っている。魔石の魔力は半永久的だ。でなければ、魔法使いはみんな自分の魔石を変えなくてはならないだろ?」

勇者「あぁ、成る程」

錬金師「男さんは錬金弟子を運んでくれ」

男「わかりました」

勇者「! 男さん、その役割変わるぞ」

男「だが――」

勇者「大丈夫だ。これでも力には自信があってだな」

錬金師「悪いが、男さんがやってくれ。俺の直感が、男さんに運ばせた方が安心だと言っている」

男「?」

勇者「わ、わかりました……」

(半日後)

勇者「はぁ……はぁ……」ザッザッザッ

男「ぜぇ……ぜぇ……」ザッザッザッ

勇者「苦しそうだな。変わろうか」

錬金師「邪念を感じるぞ」

勇者「ぐっ……」

男「ははっ……まだ大丈夫だ。今どのくらい歩いた?」

勇者「どうだろう。辺り一面森だからよくわからないな」

錬金師「大体半分くらいだろう。もう一踏ん張りだ」

男「後半分って……」

勇者「そう言えば、錬金弟子さん、中々目が覚めないが大丈夫なのか?」

男「命の危険はない、はずだ」

勇者「はずって……」

錬金師「息をしているから大丈夫だ。心臓も……ぐふっ!?」ドサッ

男「!」

勇者「錬金師さん!」

男「大丈夫ですか!?」

錬金師「うっ……ぐぐ……くあぁっ……」

勇者「錬金師さん! しっかりしてください!」

錬金師「だ、大丈夫……くふっ……だ。解毒剤の効果……がはっ……ようや……出てき……」

男「解毒剤の効果……まさか!」

勇者「麻痺していた全身の感覚が戻ってきたって事か!」

錬金師「ふっ……ぐふっ……」コクリ

男「全身の細胞が破壊されていたのだったら、痛みは凄まじいはず」

勇者「ど、どうすれば……!」オロオロ

錬金師「俺の……っ……体も運んで……く……」ヨロッ

ドサッ

勇者「錬金師さん!」

錬金師「っ……ふっ……」

男「息はしている。大丈夫みたいだ」

勇者「そうか。よし、行けるところまで行くぞ」

男「ああ」

(数時間後)

錬金弟子「……ん」

ザッザッザ…

錬金弟子「ここ……は……?」

ザッザッザ
  ザッザッザッザッ…

男「はっ、はっ、はっ、はっ」ザッザッザッ

錬金弟子「兄さ……? いえ、男さん?」

男「ああ、やっと起きたのか」

錬金弟子「ここは、どこですか?」

男「まだ凍結の森の中だ。勇者さん、錬金弟子さんが起きたぞ!」

勇者「本当か!?」

錬金弟子「勇者さんもいるん……っ!?」

錬金師「……」

錬金弟子「し、師匠まで! 降ろしてください! 兄さんは、兄さんはどうしたんですか!?」

男「ちなみに言っておくが――」

錬金弟子「まさか……また兄さんを殺したんですね……!」

男「ちょっ、話をちゃんと聞いてくべはっ!?」ゲシッ

勇者「男さん!」

錬金弟子「男さんも勇者さんも、師匠の味方をするんですね……。もう何も信じられません!」ザザッ

勇者「止まれ!」

錬金弟子「!?」ピタ

勇者「そうだ。変な動きをしたら、電撃魔法を食らわせるからな」

勇者「とりあえず、こっちを向いてくれるかな?」

錬金弟子「……」クルッ

勇者「確かに、俺達は錬金師さんを味方している」

錬金弟子「やっぱ――!」

勇者「黙って聞け!」

錬金弟子「っ」ビクッ

勇者「でもな、錬金弟子さん、この錬金師さんの姿を見てくれ」

錬金師「……」

錬金弟子「それがどうし……えっ、なんでそんなに傷だらけで……」

勇者「意識を失う前に、錬金師さんから聞いた話なんだけど」

勇者「戦う時に、猛毒を飲んだらしいんだ。身体中を傷だらけにして、感覚全てを殺して。そうでなければ、勝てない相手だったと言うんだ」

勇者「一歩間違えていれば死んでいたはずだ。それ程までに守りたかったものは、何だったと思う?」

錬金弟子「それは……兄さんの存在を消したかったからで……」

勇者「違うな。俺も戦場に立った事のある人間だから、理解出来る。と思う」

勇者「死の可能性が高いなら、勝利よりも命を守るんだ。それでも戦うと言う事は、命よりも守りたいものがあるって事なんだよ」

錬金弟子「……」

勇者「それは誇りだったり、金だったり。時にはスリルを求める人だっている。でも、錬金師さんの場合は――」

勇者「あなただよ。他でもない、あなたと言う愛弟子を守るために戦ったんだ」

錬金弟子「で、でも……」

勇者「俺達だって、全てがわかっているわけじゃない」

勇者「分かる事と言えば――」

勇者「錬金弟子さんは幻術師と言う幻の祠に封印されていた魔法使いによって幻覚を見せられて洗脳させられた事」

勇者「幻術師が自分を錬金兄弟子だと錬金弟子さんに幻覚を見せ、誤認させていた事。そしてそれを利用した事」

勇者「あなたに関する事で言えば、このくらいだ」

錬金弟子「……」

勇者「勿論、納得しろなんて言わない。でも、信用してくれればそれで良いんだ」

勇者「俺と男さんと、そして何より錬金師さんを」

錬金弟子「……」

錬金弟子「……分かりました。今回の件は、ゆっくりと整理付けた方が良いかもしれませんね」

錬金弟子「師匠が目覚めた後で」

勇者「ああ、それが良い」ニッ

男「勇者さん……」

勇者「ん? どうした?」

男「人に説教するなんて勇者らしい事を……!」

勇者「いや、俺勇者なんだけど!?」

男「え」
錬金弟子「え」

勇者「錬金弟子さんまで……」

男「そう言えば勇者さんを見ていて、勇者って何だったかな、とかたまに思ってたから」

勇者「まぁ、何もなければボランティア同然だけどさ……」

男「ところで、錬金弟子さんは歩けるか? それとももう一度背負うべきか?」

錬金弟子「いえ、歩けますが……」

男「?」

錬金弟子「何だか、寒いです」

男「寒い? 常に雪が降って常に雪が積もってるようなこの場所だぞ。当たり前なんじゃないか?」

勇者「いや、おかしい」

男「どうしてだ? 俺だって寒いが」

勇者「今までは寒かったか?」

男「いや、別にそういうわけではなかった……あっ、そうか!」

勇者「俺達は暖房薬を飲んで外に出た。それから一日と数時は過ぎている。長続きした方だ」

男「そうか。効果が切れてきたのか。確か予備も持ってきていたよな?」

勇者「ああ。俺と男さんの分は持ってきてある。錬金師さんのポケットの中にも一つあった」

男「じゃあ、それを飲んでおくか。勇者さんは錬金師さんにも飲ませておいてくれ」

男「錬金弟子さんも暖房薬を飲んでおくんだ」

錬金弟子「あー……そのー……」

男「?」

錬金弟子「予備持ってくるの忘れてしまいまして……」テヘヘ

勇者「えっ」

錬金弟子「ほら、研究小屋を出る時急いでましたから」

男「『ほら』で済みそうもない話だけどな。勇者さん、どうする?」

勇者「……」

男「後どのくらいだろうか」

勇者「早く着いたとしても、四時は……」

勇者「……」ブツブツ…

男「仕方ないか……。ここは――」

勇者「俺の分を錬金弟子さんにあげてくれ」

おはよう皆様方。遅筆で有名な>>1だお。

体調は悪くありません。強いて言うなら人より少し寝過ぎてるだけで。
ただ、前々からツンツンしていたパソコンちゃんが、とうとう不良になってしまいました。
と言う事で、漸くパソコン専門店の開店時間に起きれたので、修理に出しています。
なので、今日は久しぶりにもしもしからもしもしするよー。

男「!? 勇者さん、ここは俺が……!」

勇者「はぁ……そんな華奢な体をしてよく言うよ」

男「なっ」

勇者「俺の方が確実に体力はある」

男「だが、いくら体力があっても、この寒さには……」

錬金弟子「そうですよ。私が悪いんですから、私が」

勇者「二人とも──」

勇者「ここは勇者である俺を立ててくれないか?」

錬金弟子「勇者さん……」

男「……俺らが何を言っても聞く気はないみたいだな」

勇者「勿論だ。例え、言い争ってこのまま凍死してもね」

男「それじゃあ意味ないだろ、はははっ」

男「なら、お言葉に甘えようか。錬金弟子さん、早く暖房薬を飲んで行こう」

錬金弟子「で、でも……」

男「勇者さんがああ言っているんだ。良いんだよ。だがな、勇者さん」

勇者「何だ?」

男「錬金師さんは俺が背負って行く。お前は前を進む事だけを考えろ。良いな?」

勇者「……」

勇者「ああ、わかった」

勇者「……なんて息巻いたは良いが」

勇者「痛い……」

男「寒いじゃないのか?」

勇者「何と言うか、寒いとか通り越して冷たくて痛いんだ」

錬金弟子「すみません……」

男「確かに吹雪いてきたからかなり寒そうだが、それ程とは」

男「暖房薬の効果もそうだが、凄いのはこの森だ。この寒さでよく立っていられるものだな」

錬金弟子「実はこの森の木々はみんな死んでるんですよ」

勇者「そうなのか? こんな青々としてるのに」

錬金弟子「生きていた当時の姿で凍っているだけなんです。腐る暇さえ、この場所にはありませんから」

勇者「それは……凄まじいな……」

男「穴を掘って進めば、腐るくらいには温度が上がるかもしれないな」

錬金弟子「男さん、それ、冗談になってません」

男「あ……いや、すまん」

勇者「しかし凄いよな。錬金弟子さん達はこんな所ですんでるんだろ?」

錬金弟子「研究小屋のお陰ですね。普通、ここは生き物が住める所ではありませんから」

男「確かに、ずっと生き物らしいものは見かけないな。熊くらいいても良いと思ってたんだが」

勇者「暖房薬があったから気付かなかったんだ」

男「ああ」

勇者〔ところで〕

魔剣〔?〕

勇者〔あれから何時くらい歩いたかな?〕

魔剣〔一時程度だが。どうして我に聞くのだ?〕

勇者〔そうか。そんなに歩いたのか〕

勇者〔いやさ、何と言うか……もう無理かもしれない〕ドサッ

男「!!」
錬金弟子「勇者さん!!」

魔剣〔……〕

魔剣〔成る程、そう言う事か〕

魔剣〔いや、初めからこうなる事を予想していたのかもしれんな〕

魔剣〔全く……勇者、キミは本当に仕方のない奴だ〕

錬金弟子「勇者さん! しっかりしてください、勇者さん!」

男「寝るな! おい、寝たら死ぬぞ!」ゲシゲシ

錬金弟子「ちょっ、いくならんでも蹴るのは……」

男「腕が塞がれているんだ。勇者さんも許してくれるだろう」ゲシゲシ

錬金弟子「でも……このままだと勇者さんは……」

勇者「……!」ムクリ

錬金弟子「勇者さん、大丈夫ですか!?」

男「まだ歩けそうか?」

勇者「……寒っ」

男「は?」
錬金弟子「えっ」

勇者「勇者の身体は我が引き受けた」

錬金弟子「え? えっ?」

男「まさか、英雄王さんか?」

勇者「いかにも。勇者が軟弱なあまり任されて来た」

男「成る程」

錬金弟子「ちょっ、待ってください! 私は置いてけぼりですか!?」

すみません……やっぱりもしもしで書くのつらいです。

半角仮名が何故か出ないし“ダッシュ(なぜか変換できない)” だし。
前作で使ってたもしもしと変えたのが間違いだったんだな、うん。

そういうわけだから、勝手ながら寝るよ。

さて皆様、おはようごzzz...

錬金弟子「へぇ、勇者さんには別の人格があるんですか」ザッザッザッ

勇者「いかにも。正確には私が普段この剣に宿っているだけなのだがな」ザッザッ

錬金弟子「これが亜法の力なんですね。驚きです」

男「俺もいずれはじっくり触らせてもらいたいものだな」

勇者「キミは変態か?」

男「どうしてそうなる!?」

勇者「剣をなで回す事は、もはや我が身体をなで回すと同様だ」

男「残念ながらそんな性癖はないぞ、英雄王さん」

勇者「ほう。まぁ良いがな」

勇者「我としては、人になで回されるなぞ気持ち悪くてかなわん。勇者には後々死ぬまで手放さぬよう言い聞かせておこう」

男「……それは残念だ」

錬金弟子「フられちゃいましたねー」クスクス

男「剣にフられようと悔しくないな」

勇者「そう言ってやるな。なれば、我に振り回されている勇者など極めて悲しき存在ではないか?」

男「いや、羨ましいね」

錬金弟子「同感です」

勇者「……あれ?」

男「それにしても」

勇者「?」

男「英雄王さんがいると勇者さんも心強そうだな」

勇者「どうしてだ?」

男「勇者さんがすぐ倒れたこの寒さにもかかわらず、あなたは平然としている」

男「もしかしたら、あなたがいれば無敵なのではないか、とか思ったりもしてるんだ」

錬金弟子「そう言えば、全然寒くなさそうですね。魔法か何か使っているんですか?」

勇者「いや、魔法など使っておらん。人よりも少し精神を鍛えているだけだ」

勇者「でなければ、この身――いや、生前の身を柱に大陸を統一できはしなかったからな」

勇者「事実、この勇者の身体は限界に近い」

錬金弟子「えっ!? でも今だって平然と歩いているじゃないですか」

勇者「我のような者でこそなせる業、なのかもしれんな」

勇者「自慢ではないが、我が生きていた頃は、槍の五本や六本貫いていようとも平然と戦って見せた事さえあるのだ」

錬金弟子「え……」

男「化け物だろ、それ……」

勇者「ふっ、よく言われた」

勇者「だが、身体の状態がわからぬ程愚かではない」

勇者「こやつ、小屋に着くまでに何とかせねば、確実に凍傷を起こすぞ」

男「なんだって!?」

錬金弟子「じゃ、じゃあ、早く急がなければ……!」

男「錬金弟子さん落ち着いて!」

勇者「ちなみに、今からずっと走って行った事を想定しても凍傷になる」

勇者「精々数十分と言ったところであろうな」

男「魔法では治せないのか?」

勇者「我の時代では不可能ではあったが……」

錬金弟子「治癒魔法の類いであれば、教会の高僧なら」

錬金弟子「でも、凍傷まで治せるかどうかは……大陸では極めて少ない事例ですし」

勇者「火炎魔法の類いでは、下手をすると燃える可能性もあるが、あるいは」

錬金弟子「私の魔法精度があればどうにかなる、と思いますが……」

男「火炎魔法……そうだ!」

勇者「どうした?」

男「フィーレは元々熱を操るものだ。錬金弟子さん、火ではなく熱だけを出すことは出来ますか?」

錬金弟子「不可能ですね。そのような魔法の詩篇は存在しませんので」

男「そうか……」

勇者「ふむ……」

勇者「では、やってくれ」

錬金弟子「火炎魔法、ですか?」

勇者「うむ。だが、注文がある」

錬金弟子「何です?」

勇者「炎で包まれれば瞬時に空気がなくなるだろう。かと言って小さき炎であれば火の当たらぬ場所で凍傷を起こす」

勇者「ある程度の大きさを持つ炎を全身に熱が回るよう移動もさせてほしい」

錬金弟子「……はい?」

勇者「だから――」

錬金弟子「いえ、意味は理解しています。ただ、そのような事を歩きながらしろと言うのは……」

勇者「無理な注文だったか?」

錬金弟子「何とか……やってみましょう」

錬金弟子「“――”」ブツブツ

ガササッ

勇者「何者っ!」ザッ

錬金弟子「あっ、動かないでください!」ゴォッ

勇者「熱っ!?」ジュッ

錬金弟子「大丈夫ですか!? 腕、火傷とかしてませんか?」

勇者「幸い衣服が一部燃えただけだ。問題はない」

勇者「だが、先程の物音――」

男「あれ、盗賊じゃないか」

盗賊「おう。迎えに来たぜ。どうやら無事に事は済んだみてぇだな」

盗賊「で、何やってたんだてめぇらは?」

錬金弟子「い、いえ、魔法で身体を暖めようとしたら」

盗賊「じゃあ勇者が暖房薬切れか。ほらよ」ポイッ

勇者「これは、暖房薬か?」

盗賊「ああ。凍傷にはなってねぇか?」

勇者「まだ大丈夫だ。助かった」

盗賊「じゃあ間に合ったってぇわけか」

男「準備が良いな」

盗賊「まぁな。予想以上にボロボロになってるそこの錬金師に頼まれてたんだ」

盗賊「『錬金弟子は暖房薬の予備を持って行かなかった。だとすれば、帰路では寒さに凍える人は一人は出るはずだ』ってな」

錬金弟子「師匠……」

男「ところで盗賊」

盗賊「何だ?」

男「なんで木の上にいるんだ?」

盗賊「枝伝いの方が足が雪に埋もれなくて済むだろうが」

便利キャラ盗賊
大人の都合キャラ盗賊

あとあと実はどっかの末裔とか混血とか同じく異世界人とか魔法や超能力など使えたりとかしないよな

>>119
どうしてわかっtt



なんて展開はないよ。便利キャラは否定できないけど、スペック以上の事は出来ないし。

(数時間後)
――錬金師の研究小屋

男「やっと戻ってきたか」

盗賊「一日くらいしか経ってねぇんだがな」

男「いや、随分長い感じがしたよ。一年くらいはあった気分だ」

盗賊「はははっ、そりゃ大袈裟だ!」

錬金弟子「……本当にすいませんでした。みなさんにも迷惑をかけてしまって」

勇者「全くだ」

男「まぁ、俺らがあの亜法具を持ってきたのが運の尽きだったな」

盗賊「いいじゃねぇか、英雄王。賢者の石は貰えるんだからよ」

男「それにどうやら量産も出来るみたいだからな。するかどうかは錬金師さんの判断に任せるつもりだが」

男「ところで、錬金師さんを早く安静にさせたいんだが」

錬金弟子「わかりました。寝室へ案内します」

勇者「出来れば勇者が目覚めるまでこの身体も休めさせておきたいのだが」

盗賊「今剣士と狂人とで客間を使わせてもらってるが、暫く使って良いか?」

錬金弟子「あ、はい。構いませんよ」

盗賊「じゃあ英雄王は俺が連れて行く」

盗賊「後、てめぇもしっかり休んでおけ。見るからに疲労してるじゃねえか。俺達がいる間の食事は任せてもらおう」

錬金弟子「えっ、でも……」

盗賊「大丈夫だ。食料庫の場所も教えてもらってるからな」

剣士「で、何とか見つけて帰ってこれたようだな」

狂人「うぶふぁはぁっ」キシシシ

盗賊「ああ。気味悪ぃくらいだ。錬金師の野郎の筋書き通りみてぇに」

剣士「彼は転ばぬ先の杖を用意したに過ぎない。念入りにな」

剣士「錬金弟子さんが暖房薬の予備を持っていない事に対して自分で用意しなかったのも、戦いの激化を危惧したものだと言っていたし」

盗賊「自分の予備が壊れてねぇ分、案外楽勝だったみてぇだがな」

剣士「全身ボロボロの状態で男さんに背負われていたと言ったじゃないか」

盗賊「毒を使わなければ惨敗、使えば圧勝。だろ?」

剣士「私に聞くな」

剣士「……英雄王、聞いているか?」

勇者「……」

剣士「聞いていないのか」

勇者「……なんだ」

剣士「特に用はない」

勇者「ふざけているのか?」

剣士「いや、そういうわけではないのだが」

勇者「?」

剣士「あなたがいてくれたから勇者様は助かったのかもしれない」

勇者「どのみち盗賊が来ていたから助かっただろう」

剣士「そういう事ではない。私は勇者様の仲間として礼を言いたいんだ。あなたの行動に」

剣士「そして、これからも勇者様を守って欲しい。私はあなたを信用する」

勇者「……」

勇者「……我も疲れた。意識を剣に戻させてもらう」

男「……こんなもので良いか?」

錬金弟子「不器用ですね」

男「何を言うか。俺は科学者だ。精密機械をごまんと扱っている」

錬金弟子「精密機械……ですか?」

錬金弟子「それがどのようなものかはわかりませんが、私が言ってるのは包帯ですよ」

男「……わかってるよ」

錬金弟子「まぁ、そんなもので良いでしょう」

錬金弟子「では男さんも休んでください。客間に案内しますので」

男「ああ」

男「……ちょっと良いかな?」

錬金弟子「なんです?」

男「錬金兄弟子さんの事なんだけど」

錬金弟子「……」

男「俺が……いや、誰から見ても錬金弟子さんの執着はただ事ならないものだった」

男「どうしてか、聞いても良いかな?」

錬金弟子「そんな事を聞いてどうするつもりですか?」

男「ちょっとした好奇心だよ。別に答えなくても――」

錬金弟子「大した事じゃないんです」

錬金弟子「私達はこんな辺鄙なところで過ごしてきました。だから、関わりと言えば師匠と兄さんくらいのものだったんです」

錬金弟子「ただ、家族みたいなものなんですよ。私にとっては。それに――」

男「……」

錬金弟子「兄さんは私にとても優しく接してくれたんです。いつでも。私はそんな兄さんが大好きだった」

錬金弟子「本当に、それだけなんですよ」ニコリ

そろそろ冬眠の時期か?
まだ早いよな?
起きて来るの待ってるぜ

目覚めよ…

>>126
少しその兆しはあるかも。毎日マジ眠い。
食事とノルマ分の仕事時間しか見つからない。

>>128
我が眠りを妨げるのは貴様か……?


起きたついでにちょっと書くよ!

(二日後)
――錬金師の研究小屋、客間

剣士「この数字は?」

狂人「うにゃむいー」ゴロゴロ

剣士「狂人、この数字は何か言ってみろ」

狂人「べばあ」ダラダラ

盗賊「うおっ!? ……ったく、危ねぇな。ズボンによだれが付きそうだったじゃねぇか」

剣士「……おかしいな」

勇者「剣士もそろそろ諦めたらどうだ?」

剣士「勇者様も見ただろう!?」

勇者「それは昨日も聞いた。と言うか今朝も聞いた」

剣士「狂人は本当は賢い子なんだ、きっと!」

盗賊「何度も言うけどよ、それは魔力が開放された衝撃でおかしくなっただけなんだよ」

盗賊「おかしい奴がおかしくなると普通になるだろ?」

男「それもまたおかしな話だろうがな。何にせよ……ふんっ!」ゲシッ

狂人「あうぅっ!」

剣士「いきなり何をする!」

男「俺の国では、昔から壊れたものは斜め四十五度で殴れば直るんだよ」

狂人「うひゃっ! ぬしししっ」ヘラヘラ

男「それで直らないのだから、何をしても無駄だ」

勇者「男さん、その方法は本当なのか?」

男「俗説だよ」

狂人「~♪」ヘラヘラ ダバー

魔剣〔しかし、気がかりであるのも確かではあるな〕

勇者〔そりゃそうだ。そもそも何者かさえも知らない〕

勇者〔漏れ出ている膨大な魔力、モーネの遺跡に住み着いていた事……〕

勇者〔見ている分にはそうは思えないが、ただ者じゃない事は確かだ〕

魔剣〔先日の事もあろう。並の魔法使いでは出来ん芸当だ〕

勇者〔俺だって無理だよ〕

魔剣〔キミが並の魔法使いとでも?〕

勇者〔……〕

男「小腹が空いたな……」

盗賊「何か作るか? 幸いここにはまだ食料はあるみてぇだし」

男「んー……」

コンコン

錬金弟子「皆さん、いらっしゃいますか? 開けますね-」ガチャ

勇者「何か用ですか、錬金弟子さ――!」

男「あ……!」

剣士「もう動いても良かったのですか、錬金師さん?」

錬金師「ああ。漸く意識が戻った。あれから二日も経ったらしいな」

盗賊「全く、二度と起きねぇかと思ったぜ」

錬金師「盗賊さん、先日はよく俺達をここへ誘導してくれた。礼を言う」

錬金師「勿論、勇者さんと男さんにも感謝する。お陰で錬金弟子もこうして戻ってきてくれた」

勇者「錬金弟子さんとはしっかりと仲直り出来たのですか?」

錬金師「まだだ」

勇者「えっ」
剣士「えっ」
男「えっ」
盗賊「は?」

錬金師「勇者さん達がまだ残ってくれていると聞いてね。まずはこちらの要件を済ます事にした」

錬金師「その点は錬金弟子と意見が一致している。俺達の事は、その後で話し合うつもりだ」

錬金弟子「それでも納得出来なかったら、一人でも戦いますからね」

錬金師「それで、錬金弟子から聞いたのだが、賢者の石をどうすべきか相談したいのだったな」

勇者「はい。本当にこのまま持って行って良いのだろうかとも考えて」

錬金師「別にそのまま持って行ってもらっても構わなかったのだが……そうだな……」

錬金師「今付けているフィーレとエレックスのように、そのガントレットにはまるよう加工してやろう。代わりに付けると良い」

勇者「良いのですか?」

錬金師「そんな無骨な形の魔石を持ち歩くのは面倒だろう」

勇者「ありがとうございます」

錬金師「では今すぐ取りかかる。そうだな……夕食後までには終わるだろう。もう暫くくつろいでくれ」

勇者「……って、それだけなのか?」

錬金弟子「あはは……すみません。ああいう性格なんで」

男「時間があれば仕事か。研究者の鑑だな」

盗賊「だが、大丈夫なのか? 目覚めたところなんだぜ?」

剣士「それもそうだな。頼んでおいて言うのもおかしいが」

錬金弟子「大丈夫ですよ。さっきも一人で食事が出来てましたし」

錬金弟子「男さんならわかるんじゃないですか?」

男「わからないでもない」

剣士「はっきりしないな」

盗賊「とりあえず、俺達は何の心配もしなくて良いって事だな」

錬金弟子「その通りです。お客さんはくつろぐのが仕事ですよ」ニコニコ

盗賊「じゃあ俺は厨房に行ってくるぜ。今晩は回復祝いだ」ガチャ

狂人「たははは~」トテテ

盗賊「……剣士、狂人には来ないように言い聞かせておけ」バタン

狂人「たははぶっ!?」バンッ

錬金弟子「だ、大丈夫なんですか!?」

剣士「はは……まあな」

剣士「言い聞かせても無駄な事くらいわかっているだろうに」

勇者「そう言えば」

錬金弟子「?」

勇者「錬金弟子さん、これから錬金師さんとどうするつもりなんだ?」

錬金弟子「……」

勇者「戦う、なんて本気で思ってないよね?」

剣士「錬金弟子さんはまだ心を決めかねているはずだ、勇者様。つい数日前までの話なのだからな」

勇者「いや、俺はこの数日の錬金弟子さんを見ていて、そうは思わなかった」

男「どういう事だ?」

勇者「……」

錬金弟子「……」

勇者「本当は戦うなんて選択肢は捨ててるんじゃないか?」

錬金弟子「まぁ、そうですね。でも、なんでそう思ったんです?」

勇者「表情が柔らかいんですよ。まるで何もかも吹っ切れたかのような」

錬金弟子「そうですね。そうかもしれません」

錬金弟子「でも、困惑してるのも事実ですよ。今まで信じてきた事を平然とひっくり返されるのが目に見えるようで……いえ、目に見えて……」

錬金弟子「結構、怖いんですよ」

勇者「成る程……」

勇者「さて、俺は剣の鍛錬でもしに出るか」

剣士「聞きっぱなしか!?」

勇者「俺が何をしても空回りするだけだからな」ガチャ

勇者「でも、今持っている考えがきっと正しいものだと俺は思ってる」バタン

錬金弟子「……ありがとうございます」

錬金弟子「では、私もそろそろ失礼しますね」

剣士「ああ。こちらこそ色々とすまなかったな」

錬金弟子「いえいえ。では」ニコリ

ガチャ… バタン

剣士「……」
男「……」
狂人「くるぁぁあああ~」ゴーロゴロゴロゴロ

剣士「男さんはどうするつもりだ?」

男「そうだな……」

狂人「あああぁぁぁああ~」ゴロゴロコツンッ

男「……」

狂人「ひゃう?」キョトン

男「……」グ…ゲシッ

狂人「ぅぅううう~」ゴーロゴロゴロゴロ

剣士「狂人で遊ぶな」

男「いや、つい」

男「特にやる事もないから、書庫で本でも漁るとするよ」

剣士「そうか。私も狂人がいなければ剣の腕を磨きたいものだが」

男「はっはっはっ、それは残念だ。まぁ、剣士さんが面倒を見るって言ったんだから仕方ないな」

ガチャ… バタンッ

剣士「さて……」

剣士「今日も室内で素振りだな」

今日はこのくらいで活動限界かな。
この先の話のプロットも整理しきれてないから、その辺りしっかり考えておく。

あーもう、うるさいな。今布団の中に行くから。

メリークリスマス!

サンタ「このスレの読者に起きている>>1をプレゼントじゃ」

サンタ「数時間しか起きてられないから気をつけるのだぞ」


と言うか、残り改行回数が表示されてる!? なんて便利な!

(夕食後)

勇者「では、俺達はそろそろ……」

勇者「錬金師さん錬金弟子さん、暫くの間色々とお世話になりました」

錬金弟子「いえいえ、私達の方がすごい迷惑かけてしまいましたし」

錬金師「その通りだ。もし俺達に借りを感じているならば、全て錬金弟子がかけた迷惑に対する詫びと思ってくれ」

錬金師「ところで、賢者の石の具合はどうだ?」

勇者「どうだと言われても……」グッパ グッパ

魔剣〔実に素晴らしい。このような調和のある魔力を感じた事があろうか〕

勇者〔……真面目に言ってるのか?〕

魔剣〔何!? 我が感性を愚弄する気か?〕

勇者「とても具合が良いそうです」

錬金師「そうか。伝聞調なのが気にかかるが、良しとしよう」

錬金師「男さん、あなたとはまた話をしたいと思っている」

男「俺もです。この数日間、本当に充実した情報が得られました」

男「俺の師匠と同じ感性でありながら、持っている土台の知識は違う。それだけで考え方も大きく違ってくる」

男「その点に関しても、個人的な面白味がありましたね」

錬金師「同感だ。男さんと錬金兄弟子も同様に」

男「また訪ねてきます」

男「……」

男「機会があれば」

錬金師「ああ……無理に来いとは言えない立地ではあるからな」

錬金師「剣士さん」

剣士「……」

錬金師「……には特に言う事はないな。機会があればまた訪ねて来い。暇なら丁重にもてなす」

剣士「なんだこの差は……」

錬金師「つい先程までただの子守役と思い込んでいたくらいだ」

剣士「その認識は……あまりに酷いと思うのだが……」

錬金師「そう言うな。とりあえず耳を貸せ」

剣士「?」

錬金師「勇者さんはまだ若く大きな力を秘めている。これからも大きく成長するだろう」ボソボソ

錬金師「が、その若さ故に危うい。賢者の石を手にしてからはどうなるか俺とてわからん」コソコソ

錬金師「そんな彼を支える役目は、古くから彼を知るあなたより他にいない。しっかりと助けてやってくれ」モソモソ

剣士「承知した!」パァァッ

錬金師「まぁ、あなたも若いがな。はっはっはっ」

剣士「それもそうだな。だが任せろ!」ニコニコ

勇者「?」

錬金師「次に盗賊さん」

盗賊「お、おう」

錬金師「食事、美味かったぞ。錬金弟子とは比べものにならん」

錬金弟子「上には上がいるんですねー」

錬金師「職に困ればここにくると良い。家事雑用として雇ってやる」

盗賊「ハッ、余計なお世話だ」

錬金師「さて……これからどうするつもりだ?」

勇者「白の国へ帰り、白国王様に結界の解除法を発見したと報告するつもりです」

錬金師「魔力を高精度で出力する事は出来たか?」

勇者「……いえ」

錬金師「そうか。残念ながら、俺からは何も助言出来ない。こればかりは鍛錬を積むしかないんだ」

勇者「錬金師さんが解除する事は出来ないんでしょうか」

錬金師「俺は先代魔王と繋がりを持っていた事は以前言っただろう」

錬金師「……あくまで中立的な立場なのだよ」

勇者「そうですか」

錬金師「落胆はしてないようだが」

勇者「予想は出来ていたので。賢者の石を俺に渡している事自体も、あなたの答えと思っています」

錬金弟子「氷の街に荷物とか置いてるんじゃないんですか?」

勇者「それは先に取りに帰るつもりです」

剣士「荷物は良いとして……」

勇者「?」

剣士「馬車はどうするつもりだ?」

盗賊「そういえばそんなものあったな……」

勇者「預けっぱなしはもったいないからな。二回連続の転移魔法になるけど、取りに行くか」

男「一回白の街に行ってから、勇者さんが取りに行けば良いんじゃないかな」

盗賊「俺も思った。二回連続とか俺達を殺す気か」

剣士「一度だけでもつらいと言うのに……」

勇者「そうか。その手があったか」

勇者「では、そろそろ行きますよ。早くしないと今日中に報告出来ませんし」

錬金師「そうだな。これ以上引き留めるのも野暮だな」

錬金弟子「じゃあ皆さん、円の中に入ってください」

盗賊「ほう。この粉でやると詠唱者が円の外にいても使えるのか」

錬金弟子「転移粉の良いところですね。簡略な陣詠唱ですから」

錬金弟子「良いですね? では行きますよ」

狂人「ぶへへへ」キャッキャッ

剣士「危ないから暴れるな、狂人」

錬金師「勇者さん、最後に」

勇者「はい」

錬金師「魔王を――大陸の未来を頼んだぞ」

勇者「……はい!」ニコッ

錬金弟子「“転移”!」

シュンッ

錬金師「……」

錬金弟子「……」

錬金師「……本当にこれで良かったのか?」ボソリ

錬金弟子「何か言いましたか?」

錬金師「いや、重要な事ではない」

錬金師「ところで錬金弟子、客人も行ったところで全ての真相を話しておこう」

錬金弟子「真相? 兄さんの事ですか?」

錬金師「ああ。だがそれを話すには、まずは俺の一番弟子の話からしておかなければならない」

錬金弟子「一番弟子?」

錬金師「そうだ。錬金兄弟子の兄弟子にあたる俺の一番弟子、魔王の話を――」

少ないけど、そろそろ寝る。
かなりキリも良いところだしね。
次は正月くらいに起きてくるよ!

……最近本当に時間が取れない。

あけまして!

(翌日)
――白の国、白の街、宿屋

男「……」カタタタタ…

男「……」カタタタタタ…

盗賊「……なぁ」

男「……どうした?」カタ…カタタ…

盗賊「何してんだ?」

男「錬金師さんの所で得た情報を整理してるんだよ」

盗賊「そうか……。それ、女のだろ?」

男「ああ。女さんが帰ってきた時に役立つだろ」

盗賊「そうか……」

男「……」カタカタカタタ

盗賊「ところで」

男「……どうした?」

盗賊「飯は食わねぇのか? もう昼食時だろう」

男「腹が減ったのか」

盗賊「俺の話じゃねぇよ。いや、確かに腹は減ってるが、食ったら吐く」グダァ

男「そのようだな。俺はまだ腹減ってないし」

盗賊「そうか……」

男「うむ」カタタタ…

コンコン

男「? どうぞ」カタ…

ガチャッ

勇者「こんにちは、男さん盗賊さん……あぁ、こっちもまだ治ってないのか」

盗賊「見ての通りだ」ウダー

男「転移酔いする人は悲惨だよな。あんな便利な魔法が不便だなんて」

盗賊「うるせぇ。これからの時代は転移粉なんだよ。転移粉を広めるべきだ」

勇者「剣士も同じような事を昨日から言ってるよ」

男「ところで、今日は何の用だ?」

勇者「あぁ。昨日帰ってきてから、俺が白国王様に謁見しに行ったのは知っているな?」

男「ああ」

勇者「その時に下された決定を一応伝えておこうと思ってな」

男「それは――」

盗賊「また手伝えって事なのか?」

勇者「別にそうは言っていないさ」

男「俺は別に良いんだがな」

勇者「こっちとしても遠出をする場合は一緒に来てくれた方がありがたい」

勇者「それは置いておいたとしても、この少しの間一緒に行動した仲間なのは確かだ。とりあえず伝えるべきだと思ってな」

盗賊「成る程、一理あるな」

勇者「……なぁ」

男「?」

勇者「こいつよく喋るけど、本当に酔ってるのか?」

男「みたいだね」

盗賊「ヘッ、余計なお世話だ」

男「まぁ、説明頼むよ」

勇者「ん? ああ、そうだった」

勇者「報告した内容は至って簡単だ。神――サナンから教えてもらった事と錬金師さんから教えてもらった事。勿論、魔の国の結界を破る方法についてだ」

勇者「まず一つ、賢者の石について。これは王様に俺のガントレットを見ていただいて、入手済みである事を確認してもらった」

勇者「そして賢者の石がある事を前提に可能となる二つの方法」

男「精度の高い武器強化魔法か英雄王とシンクロする事か、だな」

勇者「勿論、俺はどちらも修得出来ていない」

盗賊「じゃあ結界を破れねぇって事だよな」

勇者「そうなんだが、それについて猶予期間をもらう事が出来たんだ」

男「へぇ。どのくらい?」

勇者「兵が集まり次第だ」

男「えっと、それは……長いのか? 短いのか?」

勇者「長いと思うぞ」

勇者「大陸連盟各国に魔の国との冷戦を破り攻め入る事を伝え、採決を取り、賛同国で兵を募り、雪の国の港へ集める。勿論それまでに必要な分だけ船や物資なども集めなければならない」

勇者「それに今、白の国の精鋭部隊・白蛇騎士隊を筆頭に龍の国では“決着戦争”を行っている」

勇者「とまぁ、これらが全部終わってからだと思うけどな」

男「じゃあ、随分時間があると見て良いのか」

勇者「多分な」

盗賊「で、俺達はどうすりゃ良いんだ?」

勇者「それまでのんびりしててくれて良い、って聞いたぞ」

男「えっ」
盗賊「は?」

勇者「いや、だって精進しなきゃいけないのは俺だけみたいだから」

盗賊「そうは言うけどよ、そこは戦いに備えて訓練を怠るな、とかじゃねぇのか?」

勇者「多分そういう意味も含んでいるんだろうな」

勇者「でも、さっきも言ったように二人が手伝うかどうかはそっちが決める事だと俺は思ってるから」

男「だが、女さんが魔王に捕まったままなんだ。ただじっと待つって言うのも……」

勇者「……わかってる」

勇者「女さんに関しての情報は、俺がよく世話になってる情報屋にも探ってもらってる」

勇者「ただ、これだけは理解してもらいたいと思う。女さんの件はあくまで私事だから、それだけでは国も連盟も動かせない」

男「勿論、理解している」

盗賊「……チッ」

勇者「それともう一つ」

勇者「俺達――俺と剣士は、男さん達の味方だ。もし女さんの情報を掴んだ時、二人だけで動かずに俺達に相談してもらえると嬉しい。力も貸す」

男「そうか。それは助かる」

男「俺らだけだとどうみても頼りないしな」

盗賊「どうだか。俺一人でも魔王の一人や二人楽勝に勝ってやるぜ」

勇者「なら俺がいれば十人二十人は楽勝だな」

勇者「ああ、そうだ。盗賊さん」ゴソゴソ

盗賊「なんだ?」

勇者「ここに来る前に剣士の所に寄ったんだけど、その途中で……」ポイッ

盗賊「っとと。ん? なんだこれ?」

勇者「薬師って言うある筋では有名な薬剤師と会って、試作品をもらったんだよ」

盗賊「薬師って、子爵家に使えてるジジイか?」

勇者「あれ、知り合いなのか?」

男「まぁ、学者さんと同様黒の国での一件でな」

男「それで、試作品って事はそれも薬なのか。何の薬なんだ?」

勇者「酔い止めらしい。転移酔いにもしっかり効くはずだって言ってた」

盗賊「ほう……」ゴクリ

盗賊「……効かねぇじゃねーか」

勇者「すぐ効くわけないだろ」

男「しかし、試作品なんてものをよく通りすがりの人に渡すよな。やっぱり勇者だからか?」

勇者「丁度良い人間の検体を探してたって言うのもあったみたいだけど、通りすがりなりにも一応面識はあるからな」

男「流石、世界中を旅をしていると顔が広くなるもんなんだな」

勇者「いや、会った事があるのは子供の頃だぞ。俺のとこの屋敷で開いたパーティーでな」

盗賊「ちょっと待て。パーティーだって? てめぇそんなに金持ちの出なのか?」

勇者「あれ、言ってなかったっけ? 俺は侯爵家の三男なんだけど」

男「……」

盗賊「……は?」

勇者「あぁ、考えてみれば言ってなかったな。そう言えば」

盗賊「いや、もう一回言ってみろ」

勇者「侯爵家の三男」

盗賊「クソボンボンじゃねぇか……」

男「貴族出身だったのか。てっきり平民上がりの兵士から勇者になったものかと……」

勇者「勇者の証を持つって言う事は、あらゆるところで大きな権限を持つって言う事だからな。そのリーダーにはそれなりの信頼がいるんだよ」

男「それもそうか。納得した」

盗賊「貴族ってだけで信頼が最初からある世の中だから嫌いなんだよ……」ブツブツ

男「ところで、勇者さんはこれからどうするつもりなんだ?」

勇者「街の南の外れに農耕地があるんだけど、最近魔物の群れがよく荒らしにくるって言う苦情があるんだ」

勇者「本当は自衛隊や兵士が対応するんだけど、動かないもの相手に特訓ばかりも暇だから変わってもらったんだ」

勇者「まぁ、『特訓代わり』とか言うと聞こえはあまり良くないが、勇者らしい事はしておかないとってのもあるし」

男「働き者だな」

勇者「そういう男さんもな」

男「これは、生き甲斐みたいなもんだ。やってて楽しいからな」

勇者「俺も同じだよ。人の役に立って喜んでもらえるなら、それ以上に楽しい事はない」

――南門

勇者「さて、伝えたい事は伝えたし、人助けと行こうか」

魔剣〔ただの人助けとして行わないよう気をつけるのだぞ〕

勇者〔わかってる。あくまで特訓と兼ねてやらないと意味がない〕

魔剣〔何も魔法の精度を上げるだけが特訓ではない事を忘れるでないぞ〕

勇者〔それもわかってる。賢者の石がまだ馴染んでいないって事だろ〕

勇者〔魔法は使えるんだけどな……〕

魔剣〔賢者の石は我が生きた時代でも噂はあった〕

魔剣〔誰もが使えるが、誰もが極められるわけではない。極めるには全ての適正を賢者の石を扱う中で得よ〕

ザッザッザッザッ

勇者「?」

?「ったく……お前が道草食うから遠回りになったじゃないか」

??「本当にすまねぇと思ってますから」

?「お前、晩飯は野草でも食ってろ」

??「そんなに怒ってるんすか!?」

???「その辺に……してやれ……」

?「やれやれ、冗談だっつーの」

勇者「旅行者か? それにしても凄い人数だな」

魔剣〔傭兵団かもしれんな〕

勇者〔そんな感じはするな。顔はフードでみんな見えないのがかなり怪しいけど〕

?「ん? おい、あんた!」

勇者「俺か?」

?「そうそう。あんただよ、お兄さん」

?「これから街に入るんだけどさ」

勇者「そうみたいだね」

?「安くて良い宿屋、知ってたりしないかな?」

勇者「いくつかは知ってるけど、この人数だとどうだろうなぁ」

?「じゃあ全部教えてよ。入らなかったら分けて止まるから」

勇者「わかった。えっと、まずはこの通りをまっすぐ行った所にある――」

勇者「――で、後は広場に面してる宿屋。広場って言うのは六角時計のあるところだな」

?「ありがとう、お兄さん。恩に着るよ」

「兄ちゃんありがとうな!」
「助かったぜ。ここ最近野宿だったから早く休みてぇし」

???「……」

勇者「!?」ゾクッ

勇者〔な、何だ?〕

魔剣〔あやつだ、勇者。ローブから鎧がはみ出している奴だ〕

???「……」ジ…

???「……良い石……填めてるな……」

魔剣〔こやつ……賢者の石を……〕

勇者〔ただ者じゃなさそうだな〕

?「おい戦士、何をしてるの! 早く行くよ!」

戦士「ああ……」ドスドス

?「ああ、そうだ! お兄さん、名前は?」

勇者「えっ? ああ、勇者だ」

?「勇者って……へぇ、あんたがあの勇者なんだ」

少女「あたしは少女って言うの。またどこかで会ったら宜しくね」ニッ

キリも良いところでそろそろ寝ます。

今年もこの物語の応援を宜しくお願いします。

こっそり

(夕時)
――白の街繁華街

盗賊「いやー、勇者様々だな」

盗賊「それとも薬師様々か? まぁ、どっちでもいいか」

盗賊「まさかこうも早く転移酔いが治るとは……。近い将来は転移魔法代行が儲かるだろうなぁ」

盗賊「ん……。『用心棒募集! 日給銅貨五十』。へぇ、都会だってぇのにこんな安日給で働かせる所もあるってのか」

盗賊「短期の良い職場ねぇな……。仕方ねぇから前の食堂で手を打つか……」ブツブツ

ドンッ

少女「うわっ!?」ドサッ

盗賊「おっと」

少女「痛ったぁ~……! どこ見て歩いてんのよ!」

盗賊「あー……すまん」

少女「!」

盗賊「どうした?」

少女「……なんでも。ってか全然反省してないでしょ、あんた」

盗賊「だから、すまねぇって」

少女「それ、睨みながら言う台詞じゃない」

盗賊「人の人相にケチつけるんじゃねぇよ」

少女「あぁ……そう言う顔なんだ」

盗賊「うるせぇ」

盗賊「大体そっちこそふらふら歩いてたんじゃねぇのか? 避けて通りやがれ」

少女「やっぱり反省してないでしょ」

盗賊「……ったく、付き合いきれねぇ」ボソッ

少女「なんか言った?」

盗賊「で、どうしたら許してもらえるんだ?」

少女「そうだね……。あっ、こういうのはどう?」

少女「あたしにこの街を案内する」

盗賊「……は?」

少女「もしかして急ぎの用とかあった?」

盗賊「いや、特にないが」

少女「じゃあバイト代に銀貨三枚つけるから」

盗賊「ちょっと待て。てめぇみてぇな子供がなんでそんな大金持ってんだ」

少女「失礼な。これでも自立してるんだよ」

盗賊「あぁ、そうなのか。それにしても案内料にしては高くねぇか?」

少女「相場わからないから」

盗賊「成る程な。まぁ、案内くらいならしてやる。これも何かの縁だろうしな」

盗賊「但し、金はいらねぇ」

少女「えっ、良いの?」

盗賊「ああ。ただ、一つ約束してもらう。厄介事には巻き込むな」

少女「大丈夫。それともこんな小さい女の子が厄介事起こすように見えるんだ?」

盗賊「さぁな」

盗賊「で、いつにするんだ? 明日か? 明後日か?」

少女「今から」

盗賊「……てめぇ自分で何言ってるのかわかってんのか?」

少女「もちろんだよ」

盗賊「もう夕暮れだ。今からだと朝になっちまうぞ」

少女「大丈夫大丈夫。今日はこの街についてからずっと見て回ってるんだ。だから蔵書館の方とか博物館の方とか結構見てるの」

盗賊「一人で行けるんならどうして俺を巻き込む……」

少女「良いの良いの。さっ、早く行こう!」グイグイ

盗賊「おい! こっちの事情は……!」

少女「何かあるの?」

盗賊「……いや、あいつなら飯食わなくても大丈夫か。一日くらいなら」

少女「?」

盗賊「はぁ、仕方ねぇ。付き合ってやるか」

盗賊「ところで闘技場の方は回ったのか?」

少女「あ、あそこは行ってないけど、賭け事する所の周りって治安悪いって言うし」

少女「とりあえず、中央広場と王宮あたり案内してよ。それで満足するから」

盗賊「やれやれ……」


剣士「……む。あれは盗賊では……」

狂人「かっかー! くあっかー!」ブチャッ グチュイッ

店員「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん……商品で遊んじゃ……」

剣士「あっ、すまない。私が保護者だ。詫びとしてそこの饅頭を全て買い取らせてもらう」

――宿屋

剣士「――と言う事があったんだ」

男「盗賊が女の子となぁ」

男「晩飯がないと思ったらそう言う事だったのか」

剣士「いや、一瞬見ただけだから見間違いかもしれないが」

男「剣士さんくらいの動体視力なら見間違いじゃないだろう」

男「それに肉まんを持って来てくれて助かる。よくこんなに買えたな」モグモグ

剣士「勇者一行としての資金だ。普通に生活するくらいは四等分でも遊んで暮らせるだろうな」

男「勇者一行が国の金庫を空にするんじゃないかと心配するな」

剣士「そうならないはずと言う信頼も含めた上で決められた人だ、勇者様は」

男「で、盗賊がデートしてた話をしにきたわけでもないだろう」

剣士「とは言え、特に用事もないのだが」

男「じゃあ、なんで来たんだ?」

剣士「勇者様から今後の事は聞いただろう?」

男「まぁ」

剣士「元々は皆何をしているだろうかと見に来ただけだ」

男「俺は案の定魔石の研究をしているし、盗賊は酔いも治ってデートしてたってわけだ」

剣士「うむ」

男「あなたは何するつもりなんだ?」

剣士「狂人がいるからな。世話くらいしか出来ないだろう」

男「そうか」

剣士「ああ」

時々女と魔法使い?の存在を忘れそうになるな

男「……」

剣士「……」

男「それ、本心じゃないだろ」

剣士「……かもしれないな。だが、なぜわかる?」

男「俺が教授をしているって言ったっけ? 教授って言うのは、学院の教員みたいなものだ」

男「剣士さんの剣の腕は相当なものだけど、年齢で言えば俺の受け持つ学生くらいか、それ以下だな。多分」

男「世界が違うだけで人間の考え方とか大きく違ってこないならば、俺が察する事が出来て当たり前」

剣士「学院には行った事ないからよくわからないが、師匠みたいなものか?」

男「師匠か……。まぁ、そんなところか」

剣士「成る程。納得した」

剣士「……実を言うと、私は勇者様の役に立っていないのではと思っている」

男「どうしてだ? 神の宮殿では活躍していたじゃないか」

剣士「あれは勇者様……いや、英雄王の力を借りたからだ」

男「それはそうだが……」

剣士「私はこの剣二本で生きる一人の兵士だ。だが、あまりにも非力だ。騎士様のような怪力もなければ、勇者様のような器用さもない」

男「あぁ……騎士さんは比べてはならない対象だな……」

男「だが、あなたには素早さがあるのでは?」

剣士「素早かろうと、まだ遅い。これから相手をしていくのは魔物ではなく魔族だ。魔法を相手にするとなると、私の剣技は無意味だろうな」

男「……」

剣士「今までも、強い相手となると勇者様や魔法師に頼ってた節もあった。自分の非力さと比較して、怖くなっていたんだ」

剣士「さらには前の件で勇者様は賢者の石を手に入れた。さらに強くなったんだ」

剣士「一方、私はずっと同じままだ」

男「……強くなりたいのか」

剣士「その通りだ」

男「当てはあるのか? 猶予はあるとはいえ、地道に訓練を積める期間はないぞ」

剣士「渦の国には特殊な剣技があるという。それは極限にまで素早さを高め、風のように移動できるものだとか」

男「風のように……。神の宮殿で見せたような動きか?」

剣士「それが魔法もなしに出来るだろうと解釈している」

男「情報が曖昧だな」

剣士「渦の国とは、島の周りが渦で囲まれているせいで国交がない。私も蔵書館で偶然見つけた古い資料から知った事だ」

剣士「それに賭けてみようかと思っている」

男「そうか。頑張ってくれ」

男「としか俺には言えないな。何も協力出来ないだろうし」

剣士「……だろうな」

男「ああ、狂人を連れて行くなら閉じ込めてる間気絶する檻でも作るくらいは出来るぞ」

剣士「どうして狂人にはそう厳しいんだ」

男「子供が嫌いなだけなんでね。特にそのくらいの小さい子供は」

剣士「狂人を暫く預かってくれるところはないだろうか」

男「並の人に任せるとその人に迷惑かけるからな」

男「まぁ、俺も探しておこう」

剣士「助かる。……ところで」

狂人「ばうあうぶ~! うぶぶ!」ジタバタ

剣士「そろそろ狂人の縄、ほどいてやっていいか?」

男「部屋を出るまで駄目だ。今は精密な機材が山程あるからな」

>>171
かなり進行遅いですからね……。
俺もそのまま忘れそうで心配です。

――中央広場

少女「この六角時計、他の街のと比べても大きいね」

盗賊「流石は大陸の首都ってところか」

盗賊「そう言えば少女、どこの国の出身だ?」

少女「針の国。と言っても、父さんの仕事柄色んな所行ったし、本当の出身地はわからないんだけど」

少女「でも、針の国にいる事が一番多かったから、そこが故郷かな」

盗賊「行った事はねぇが、そこじゃこんなに大きな時計は見られねぇだろうな」

少女「本当に」

少女「それにしても人気がないね」

盗賊「当たり前だ。普通の子供は暗くなったら家に帰るだろうが」

少女「それもそっか」

少女「ところでこれ、中に入れそうだよね」

盗賊「入れるぞ」

少女「えっそうなの?」

盗賊「嘘だ。入れるようにしても意味ねぇよ。ただの日時計だぞ?」

少女「……そんな事だろうと思った。じゃあ次、王宮にでも――」

盗賊「まぁ、待て。そろそろ腹も減っただろ?」

少女「え? そこまでしてくれなくて良いのに」

盗賊「子供は素直に奢られておけ。人生損しないための生き方だ」

少女「じゃあ……一杯奢ってもらうね」

――酒場

少女「酒場じゃないの、ここ」

盗賊「それがどうしたってんだ? 飯の美味いとこは美味いんだよ」

少女「そうだけど」

盗賊「あ? 不服か?」

少女「女の子をこんなとこに連れてくるのはどうかと思っただけだよ」

盗賊「男も女もいずれはここに来るんだ。慣れておけ」

少女「まぁ、慣れてるんだけど」

盗賊「ほう。とりあえずここ空いてるみたいだから座ろうぜ」

少女「……」チョコン

盗賊「……早いな」

少女「店主! ここのオススメは?」

店主「酒か? 飯か?」

少女「んー、両方言って」

店主「酒なら土地ものの麦酒だな」

店主「飯なら白銀村辺り特産のスルブシープのステーキが自慢だ」

少女「じゃあそのステーキ。それと肉料理とサラダを適当にお願い。あと黒パン四切れくらい」

店主「嬢ちゃん、黒パンとはまた変わったもの頼むね。殆どの連中が白パンだって時世に」

店主「というか、お前もしかしなくても盗賊だよな?」

盗賊「今更気付いたのか」

店主「この嬢ちゃんは何だい。ええ?」

盗賊「何でもねぇよ。街案内してやってるだけだ」

店主「なんだ、つまらん。で?」

盗賊「麦酒とボイルミートパスタ」

店主「いつものだな。よし、ちょっと待っとけ」

少女「……」モグモグ

少女「……」ガフガフガツガツ

少女「……」ングング

盗賊「そんな慌てて食わねぇでも誰もとりゃしねぇよ」

少女「ふぉんなのふぃにんも――」バフバフ

盗賊「飲み込んでから喋りやがれ」

少女「……そんなの微塵も思ってないよ」

盗賊「じゃあなんだ。腹減ってたのか」

少女「まぁね。旅をするにもお金を使う。非常時お金がない事もあるから貯めとかなきゃいけない」

少女「あたしは簡単にお金使えないの」

盗賊「子供らしい考え方じゃねぇな」

少女「父さんが生きてた時だって生活は一人だったし」

盗賊「しかし、なんで白の街まで来たんだ? 遠かっただろうに」

少女「野暮用ってやつだね」

盗賊「言えない用なのか」

少女「それは……仮にも今日会ったばかりだし」

盗賊「それもそうだな」

盗賊「だが……なんだろうな。どこかで会った気がするんだよな」

少女「……まさか」

盗賊「俺がおかしいんだろうな。既視感ってやつか」

少女「……実はさ」

盗賊「?」

少女「驚いてるんだ。こんなによくしてもらってるのに」

盗賊「本当、図々しいくらいだな」

少女「何言ってんの。全部あんたの“善意”じゃないの?」

盗賊「“善意”ってとこに皮肉が感じられるんだが」

盗賊「……それもそうか。初対面で飯まで奢るやつなんざ、そういないだろうしな」

少女「何か、裏があるの?」

盗賊「あるわけねぇだろ。俺が根っからの善人だからだ」

少女「その台詞、睨んで言う事じゃない」

盗賊「睨んでねぇ」

少女「『ギロッ』って言う効果音つけられそうな感じだったよ」

少女「善人だからだ! ギロッ!」キリッ

盗賊「『ギロッ!』じゃねぇよ! あと睨めてねぇし」

少女「嘘!? 完璧だと思ったのに」

盗賊「残念だったな」

少女「ふん。……ごちそうさま」

盗賊「早ぇな」

少女「まぁね。でもあんたの方が早かったじゃない」

盗賊「量が違うだろうが。本当にいっぱい食いやがって」

少女「いいのいいの。じゃあ、王宮の方案内してよ」

――王宮周辺

少女「ここが王宮かぁ~」

盗賊「ああ。中々大きなものだろ」

少女「塀がね」

盗賊「近いと塀が邪魔して見れない。当たり前の事だろう」

少女「イメージと違うんだけど」

盗賊「って言われてもなぁ」

盗賊「あそこが正門だ。観光客なら衛兵の姿を見ただけで満足するもんだ」

少女「あたし別に観光に来てるわけじゃないし」

盗賊「じゃあなんで王宮なんて見に来るんだ?」

少女「観光」

盗賊「……どっちだよ」

少女「とにかく、見たいのは城で、衛兵なんかじゃないの!」

盗賊「そんな事言ったって、俺みたいな平民が頼んで入れるわけねぇからな」

少女「じゃあどうするの」

盗賊「見たけりゃ遠くから眺めるこった」

少女「えー……」

盗賊「……」ボリボリ

盗賊「何してでもこの中を見てぇか?」

少女「えっ、いけるの? 塀を上るくらいどうって事ないよ」

盗賊「黙ってるってなら案内してやる」

盗賊「ここだ」

少女「ここって……随分王宮から離れたんだけど」

盗賊「ここがどこかわかるか?」

少女「橋?」

盗賊「当たりだ」

少女「橋がどうしたっていうの?」

盗賊「橋の下には?」

少女「川」

盗賊「その通り」

少女「?」

盗賊「この川は北西にある山から流れてきてるんだが、その他に何種類かの生活排水が流されているんだ」

少女「洗濯とか?」

盗賊「ああ。風呂とかもな」

盗賊「橋の下を見てみろ」

少女「……穴があるね。これ、下水道ってやつ?」

盗賊「そうだ。白の国では下水道がある街だと、大体橋の下に排水口がある。景観を損なわないためなんだと」

少女「へぇ。よく知ってるね」

盗賊「まぁな。白の街の殆どは俺の庭のようなもんだ」

少女「でもこれ、王宮と関係ある?」

盗賊「王宮の中でも水は使うだろうが」

少女「成る程。で、どうやって降りるの?」

盗賊「そこに煉瓦の出っ張りがあるだろ」

少女「これで降りろって事なんだ……」

盗賊「清掃屋はいつもそうやってんだ。行くぞ」

少女「げっ……暗い……」

パッ

盗賊「これで大丈夫だろ?」

少女「眩し……。何それ!」

盗賊「携帯松明だ。明るいだろう」

少女「明るいなんてものじゃないよ! 熱くないし……えっ、魔法使えたの!?」

盗賊「いや、これはツレから拝借してきたもんだしな。どうなってるかはよくわかんねぇ」

少女「その人は魔法使い?」

盗賊「奴が学者って言ってたな。魔法は使えねぇみたいだが」

盗賊「まぁ、よくわからんが凄ぇ奴だ。俺に言わせるとただの引きこもりだがな」

少女「引きこもりなのに凄い人なんだ」

盗賊「ああ」

少女「ところでその人とはどういう関係なの?」

盗賊「特別なもんじゃねぇよ。少しばかり手伝ってるだけだ」

少女「でも何やってるかわからないんだ」

盗賊「手伝いって言っても資金集めに俺が働いたり、あとは家事全般だからな」

少女「っぷ。似合わない」クスクス

盗賊「これでも料理には自信あるんだぜ」

少女「だから……ぷふっ……似合わないって」クスクス

盗賊「酷ぇ言われようだな、おい」

少女「ねぇ、本当にこっちであってるの?」

盗賊「間違いねぇよ」

少女「どこからそんな自信が沸いてくるのよ……」

盗賊「直感だな」

少女「ちょっと、そんな怖い事言わないで!」

盗賊「経験も直感の一つってこった」

少女「な、なんだ……そういう意味……」

盗賊「とは言っても、そろそろだと思うんだが……あぁ、あった」

少女「鉄格子?」

盗賊「ああ。ここから先は普通の清掃屋じゃあ通れねぇんだ」

少女「じゃあ、この向こうは王宮に繋がってるんだ」

盗賊「物わかりがよくなってきたじゃねぇか」

少女「でも鉄格子が――」

スポッ

少女「――あ」

盗賊「見ての通り、十分人が通れるくれぇに抜けるんだ、この格子」スポッ スポッ

少女「なんで?」

盗賊「清掃屋は鉄格子に触れねぇし……。まぁ、なんでこうなってるのかって言うのもよくわかんねぇが」

少女「なんで知ってるの?」

盗賊「ああ。ちょっと噂で聞いただけだな。普通ならこんな場所に来る人もいねぇだろうし」

少女「……こんなに簡単に入れて、ここの王宮大丈夫なの?」

盗賊「こまけぇこたぁいいんだよ」

少女「はぁ……そうだね。先に進もう」

少女「それにしても、下水道の中って洞窟みたいだね」

盗賊「まぁな。明かりが入らないって言う意味では同じだろうな」

少女「洞窟って魔物とか動物とか住んでるじゃない?」

盗賊「ここにはいねぇよ。しっかり整備されてるからな。出たとしてもネズミかゴキブリかクモみてぇなもんだ」

少女「ゴキッ……!?」

盗賊「なんだ、怖ぇのか?」

少女「怖くないけど、汚いっていうか……」

盗賊「赤の国ではゴキブリを揚げて食ってるって話だ。思ってるよりは汚くねぇんじゃねぇか?」

少女「あんな僻地と一緒にしないで」

盗賊「……そろそろ声を小さくしておけ」

少女「どうしたの?」

盗賊「その角の向こう、見てみろ」

少女「……光が見える。夜でも外の方が明るいんだ」

盗賊「清掃屋の出入り口だ。ここからは松明を消して慎重にいくぞ」

少女「わかった」

盗賊「物わかりが良いじゃねぇか」

少女「そりゃあね。もう敷地内なんでしょ」

――王宮内

少女「……すごい」

盗賊「どうだ。これが王宮の中だ。見えてるのは庭園だがな。その向こうに建ってるのが離れだ」

少女「離れでこの大きさ……?」

盗賊「その向こうに塔だけ見えてるのが王城だな」

少女「さすが王族、って感じだね」

盗賊「そうだな。だが、ここには王族だけいるわけじゃねぇぞ」

少女「そりゃそうだよ。衛兵とか、メイドとか」

盗賊「その通り。だが城ってのは別に王族の住居ってわけでもねぇ」

盗賊「城ってのは言うなれば政治をする場所だ。ここで王族以外に何人も政治家が働いてる」

盗賊「まぁ、その殆どが貴族ってのは気に食わねぇが……だがそう考えてやると連中にとっては狭いくらいだろうな」

少女「そう……なのかな」

盗賊「当たり前だ。貴族ってのは贅を尽くして有り余る屋敷に住むもんだ」

少女「針の国ではそんな事はなかった」

盗賊「まぁ、ここは安全なところだしな」

盗賊「それに針の国が特別ってのもある。普通は貴族が苦しくなった分、同じくらい平民も苦しくなるもんだ」

少女「そういうものなんだ……」

盗賊「なんか重い話になったが……どうだ。満足か?」

少女「……」

盗賊「建物の中までとかは無理な相談だぜ?」

少女「ううん。満足したから。ちょっと文化の違いに驚いてるだけ」

少女「じゃ、戻ろっか。夜って言っても見つかっちゃまずいし」

――橋の上

少女「ふぅ~、疲れた疲れた」

盗賊「もう終わりか?」

少女「うん。もう十分」

盗賊「そうか。そりゃあ良かった」

少女「思いがけず王宮の中も見れたしね」

盗賊「てめぇがぐずったからだろうが」

少女「無理にとは言ってないし」

盗賊「態度がそう言ってたんだが」

少女「口には出してないし」

盗賊「んー……」ボリボリ

盗賊「まぁ、これで俺はお役ご免ってわけだ」

少女「……そっか」

少女「本当は一人で回るつもりだったから、本当に助かったよ。ありがとう」

少女「楽しかったし」

盗賊「苦労しがいもあったって事だな」

少女「あたし達、良い友達になれるんじゃない?」

盗賊「馬鹿言え。歳が違いすぎるだろうが」

少女「年齢なんて関係ないし。あたしはまた話しながら散歩したいけどね」

少女「……じゃあ、そろそろ宿に帰るよ。本当に今日はありがとう」

盗賊「おう。気をつけて帰れ」

盗賊「……さて、俺も」

――宿屋

盗賊「……おい」

男「ああ盗賊、帰ったのか」

盗賊「ああ」

男「デートはどうだったんだ?」

盗賊「……は?」

男「デートはどうだったんだ?」

盗賊「何の事だ?」

男「剣士さんからお前が女と歩いてるって聞いたから」

盗賊「見られてたのか」

男「事実なんだな。やはり剣士さんは目が良い」

盗賊「だが、てめぇらは勘違いしてるぞ」

盗賊「俺は街角でぶつかった成り行きで街案内をしてただけだ」

男「それはまた出来すぎた設定だな」

盗賊「設定じゃねぇ。事実だ」

盗賊「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて」

男「じゃあ何なんだ?」

盗賊「この饅頭の山は何なんだ?」

男「剣士さんからもらったんだ。狂人が散らかしてしまったらしくてな」

盗賊「食い切れないだろ、これ」

男「明後日までは食事に困らないぞ。喜ぶべき事じゃないか」

――(別の)宿屋

ガチャッ

??「あっ、やっと帰ってきましたか。遅かったっすね」

少女「すまん。ちょっと散歩しててね」

??「散歩? あれ、そう言えば頼んでたものは……」

少女「あ……」

??「まさか忘れたんすか!?」

少女「……」

??「聞いてます!?」

少女「聞いてないね」

??「聞こえてるじゃないすか!」

少女「それはそれ、これはこれ」

少女「ああ、そうそう。他のみんなにも伝えておいてくれない?」

??「何をですか?」

少女「作戦決行は明日の夜。人数分松明を用意する事」

??「思ったよりも早いんですね」

少女「まぁね」

戦士「策は……あるのか……?」

??「俺、今日王宮の方見に行ったんですが、ありゃ大変っすよ」

少女「大丈夫大丈夫。思いがけない方法があったから」

(翌晩)
――侯爵家屋敷

勇者「……」スタスタ

「お帰りなさいませ、勇者様」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」

勇者「ああ」

勇者「……」ハッ

勇者父「……」

勇者「ただいま戻りました」

勇者父「どこへ行っていた」

勇者「農場が荒らされていると言う噂がありましたので、魔物の退治に」

勇者父「どこだ?」

勇者「南方の郊外です」

勇者父「……そのような下級市民の手助けなど」

勇者「何人であろうとも、人に救いの手を差し伸べる。それが勇者の役割です」

勇者「これは父上が常日頃おっしゃっている、貴族たる義務でもあります」

勇者父「勘違いするな。無償で民を助ける義理などないのだ」

勇者「ですが――」

勇者父「薄汚れた姿をしているな。およそ依然変わらぬ醜い戦い方をしたのだろう」

勇者「父上!」

勇者父「湯浴みでもしてくるがよい。なりくらいは貴族らしくせよ」

勇者母「確かにみすぼらしい姿になってるわね」

勇者「母上……」

勇者母「そろそろ帰ってくる頃だと思ってたわ。疲れたでしょう。ここは言う通り、湯浴みしてきなさいな」

勇者母「食堂に食事も用意させておくわ。とりあえずしっかり休みなさい」

勇者「わかりました、母上。では」

スタスタ…

勇者母「……」キッ

勇者父「な、なんだ……!」

勇者母「全く、あなたはあのような言い方しか出来ないのですか」

勇者母「一昨日あの子が帰ってきた時だって……」グチグチ

勇者父「……あいつは正義感が強すぎるのだ」

勇者父「全ての人間を救う事は不可能だ。手に届くだけで良いというものを」

勇者父「先程のあいつを見ただろう。全身を返り血で汚して」

勇者父「農場荒らしなんぞの低級の魔物相手に上手く立ち回れていない証拠ではないか」

勇者母「……はぁ。心配ならそういってやれば良いですのに」

勇者父「そんな事はっ……!」

勇者母「なんですか?」

勇者父「いや、その……恥ずかしくて言えんだろうが」ボソボソ

勇者母「……」ジッ

勇者父「な、なんだその目は!」

勇者母「そのような女々しい姿だけはあの子に見せないでくださいね」

勇者父「めっ……!?」

勇者母「違いますか?」

勇者父「ふん。私は父として、貴族として威厳を保たねばならんのだ」

勇者父「女々しい態度など、あるわけがないだろう」

勇者母「どの口がそれを言いますか……」

――屋敷内の食堂

勇者「風呂っていうのは本当に気分が落ち着くな」

魔剣〔湯浴みは実に良い。我も身体があるならば浸かりたいものだ〕

勇者「お前も風呂はわかるのか」

魔剣〔無論だ。我が時代にも湯浴みの文化はあった〕

魔剣〔最も、今のような広い風呂はなく、それこそ沸かしたぬるま湯をかぶるだけではあったが〕

勇者「はははっ、それじゃあ寒いだろ」

魔剣〔そうでもない。水浴みが主流だった我が時代には贅沢な事であったからな〕

魔剣〔しかし美味そうな料理ではないか。今の時代の貴族とはこのようなものばかり食べているのか〕

勇者「まぁ、そうだね。基本的に素材から良いものばかりだし」

魔剣〔キミは幸せだな。家族はいるし、家に帰れば美味い料理に風呂がある〕

勇者「昔は、そうだったかな」

魔剣〔今はそうではないのか?〕

勇者「少し、苦痛なんだ。勇者になって、色んな所を旅してからは」

魔剣〔ほう〕

勇者「昔は凄く幸せだった。この幸せが当たり前だと思っていたよ」

勇者「ただ……例えば俺がこのような食事じゃなく、街の食堂で食べるような食事をするだけで、今まで見てきた貧しい街はどれ程救われるだろう」

勇者「そのように考えてしまうんだ」

勇者「俺にこの生活は贅沢すぎる」

魔剣〔確かにそのように考える事も出来るであろうな〕

魔剣〔だが、キミはこの贅沢を甘受すべきなのだ〕

勇者「どういう事だ?」

魔剣〔もし、ならば……そのような事はいくらでも考えられる〕

魔剣〔それでも、キミの前には確かに贅沢な料理が存在する〕

魔剣〔贅沢すぎる。そう思ってこれらの料理を食わなければ、どうなると思うのだ?〕

勇者「俺なら、貧しい人に分ける」

魔剣〔本当にそれで良いのか?〕

勇者「その方が良いだろう。飢えてる人にあげれば、その人の飢えは一時的にだが凌げる」

魔剣〔だが、そやつにくれてやったものは勇者が残した食事だ。言わば、ゴミであろう〕

魔剣〔キミは人にゴミを与えて満足か?〕

勇者「それは……いや、そもそもどうしてゴミなんて事になる!」

魔剣〔等しいと言う事だ〕

魔剣〔キミに出されたものをキミが受け取らない。これはそれがキミにとってゴミ同然なのだ〕

魔剣〔例え、飢えた人にとっては宝であってもな〕

勇者「……何が言いたい」

魔剣〔それは――〕

長男「何の事だ?」

勇者「うおあっ!?」

長男「な、なんだ!? 急に、失礼なやつだな」

勇者「なんだ……長男兄上か……」

長男「なんだ、とはこれまた失礼なやつだな」

長男「まぁ良い。帰ってきたと聞いてな。少し様子見に来たんだ」

勇者「えっ。でも、仕事は……」

長男「副隊長に任せてきた。まぁ、ほんの数日だ」

長男「ここだけの話、近衛騎士団ってのも暇でな!」

勇者「そんな事言ってると白国王様に怒鳴られるぞ……」

長男「クビにならないなら大丈夫だ」

勇者「そう言えば、次男兄上は?」

長男「ああ。あいつは仕事で忙しいらしくてな」

勇者「あぁ……やっぱり長男兄上と違って兵士は厳しいんだ」

次男「騎士だから優秀ってわけではない。兵士もまた優秀だ」

勇者「えっ!? あれ、仕事じゃ……!?」

長男「最後まで話を聞かないからだろ」

次男「有給をもらって帰ってきたんだ」

勇者「そうなんだ……」

次男「不出来な弟を持つと心配でたまらないからな」

長男「それが大陸の命運を握る勇者ときては尚更心配だからな」

勇者「兄上達より実力上だったよな!?」

次男「魔法が出来るくらいでいい気になってもらっては困るな」

長男「全くだ」

勇者「長男兄上、それ俺の台詞。剣の腕だけでも俺の方が上だから」

長男「で?」

勇者「何が?」

長男「いつまでこっちにいるんだって聞いているんだ」

勇者「どうだろう」

次男「どうせ開戦まで時間がある。それまでこいつは無職だ」

勇者「無職とは失礼だな」

次男「だが間違ってはいないはずだ」

勇者「あのな……いや、まぁそうだけど」

長男「そう言ってやるな、次男。何もなくても魔物退治の依頼とかは受けるんだろう?」

勇者「そうだね。最近は魔物増えてきているらしいし、また新種のものが送られてきてる可能性だってあるし」

長男「俺達兄弟の中だと一番下だって言うのに、全く、頭が下がる」

次男「そう言えば、勇者」

勇者「何?」

次男「魔物もそうだが、人にも気をつけた方が良い」

長男「ああ、そうだな」

勇者「近くに盗賊でも出るとか?」

次男「似たようなものだ」

長男「最近になって存在が明らかになってきているが……“月の使徒”という秘密結社があるらしい」

勇者「へぇ。それってどんな集団なんだ?」

長男「白羽教会の過激派ってとこだな。魔の国聖地説を信じる集団と聞いている」

勇者「と言う事は……大陸人でありながら魔族の味方って事か」

長男「そう思って良いと思う。とは言え、まだ噂程度のもので、本当にあるかどうかも疑わしい」

次男「月の使徒が存在するなら、魔の国と戦争を始めようとしているこれからが活発になってくるだろう」

次男「だが、目下の問題はそれじゃない」

勇者「えっ? 他に何かあるのか?」

次男「現在、竜の国と“最終戦争”をしているのは耳に入っているか?」

勇者「ああ。騎士の白蛇騎士団を筆頭に戦ってるあれの事だろ」

次男「そうだ。勿論、死傷者は出ているはずだ」

勇者「戦争だからな。悲しい事だけど」

次男「その通り。悲しいが、仕方ない事だ」

次男「だが、その“仕方ない事”に憤慨し、見当違いにも敵討ちをしようとこの国に攻め入る傭兵団がいるらしい」

次男「――いや、傭兵崩れか」

勇者「だけど、どうして白の国なんかに来るんだ? 竜の国は全く違う場所だろう」

長男「大陸連盟、とは言うが、実際その連盟会議で決定権を持ってるのは白の国だ」

長男「それはもはや周知の事実。白の国が肯けば他の国も肯く。それが常識だ」

勇者「成る程。だから白の国ってわけか」

次男「まぁ、狙われているのは白の国だけじゃないがな」

次男「傭兵団が雇われていた針の国から始まり、馬の国、火の国と戦争に関わる国の城を荒らしながらこちらに来ている」

長男「と言っても、今のところただ荒らし回っているだけらしいけどな。死者は一人もいないらしい」

勇者「何が目的なんだ……」

次男「それはわからないな。だが、情報が正しいならばそろそろここにも来る。理由はその時にでも聞けば良いだろう」

勇者「死者がないって言っても、国が三つも攻められてるんだよな?」

長男「そうだ。これは非常に厄介でな」

次男「とりあえず、北門と東門、西門の警備兵には怪しい者が入ってこないかしっかりと見張らせている」

次男「勇者、お前も街の外に魔物退治へ行くなら警戒しておいてくれ」

勇者「ああ、わかった」

勇者「……あ」

長男「どうした?」

勇者「怪しい集団、昨日見たかもしれない」

勇者「と言うか、あれは傭兵団だな。確実に」

次男「何!? どこで見た!」

勇者「南門の近く。魔物退治に出掛ける前だったかな」

次男「南門だと……!」

長男「見事に裏を読まれたな、兵士長殿」

次男「くっ……やかましい」

次男「休暇は終わりだ。早く城の守りを固めなければ!」

長男「俺も折角有給取ったのに、残念だな」

長男「じゃあ勇者、また後でな」

勇者「ちょっと待ってくれ!」

長男「どうした。俺達は急いでいるのだぞ」

勇者「俺も行く。自分の街も守れない奴が勇者じゃ駄目だろう」

勇者「それに……本当に兄上達の言ってる傭兵団がそれならかなり手強いかもしれない。明らかに桁違いな強さの奴がいた」

長男「そうか。助かる」

次男「足手まといにならないようにな」

勇者「さっきも言ったけど、俺の方が実力は上だからな」

――王宮近辺、女兵寮

剣士「いちっ! にっ!」ブォン ブォン

狂人「でゃー、でゃー」ゴロゴロ

剣士「いちっ! にっ!」ブン ブン

狂人「きゅあひゃひゃ」キャッキャッ

バンッ!

寮長「おい、ごるぁっ!」

剣士「あぁ、寮長か。何用だ?」

寮長「『何用だ?』じゃないよ! お前が帰ってきてから苦情が絶えないんだよ!」

剣士「狂人の事か? それはすまないと思っているが、暫くの事だからあなたも了承しただろう」

寮長「限度ってもんがあるよ!」

寮長「それになんだい。剣の稽古も室内でやって……ここを何階だと思っているんだよ!」

剣士「? 三階だが?」

寮長「隣室だけじゃない。響くんだよ、下の部屋にっ!」

剣士「狂人がいるのだから外で稽古するわけにはいかないからな……どうしようもない」

寮長「大体お前、帰ってから――」

剣士「……む」チラッ

剣士「勇者様とその兄上様ではないか! そんなに急いでどうした?」

寮長「人の話聞けぇ!」

勇者「ああ、剣士か!」

長男「勇者、何をしてる」

次男「急げ!」

勇者「ちょっと待って」

勇者「王宮を攻めてくる連中が街中に入ってしまったらしい! これから王宮の警備を固めるつもりだ!」

勇者「出来る限り守りを固めたい。寮にいる兵士にも言って回ってくれ!」

剣士「承知した! 私もすぐに向かう!」

勇者「すまない」

長男「大丈夫だ、多分。味方は多い方が良い」

次男「何をしている。急ぐぞ」

勇者「わかってる」ダダダッ

剣士「んー……」

寮長「聞こえていた」

剣士「なら話は早いな」

寮長「寮中の兵士に声を掛けて回りな。これも兵士の仕事だろ」

剣士「ああ。ついでに狂人の世話も頼む」

寮長「わかっ……らん! なんでそうなる!?」

剣士「私は不在なんだ。当たり前だろう。では」

バタンッ

寮長「おいっ、ちょっ待っ……!」

狂人「ぶえ~ぶえ~」ジュバジュバ

寮長「……どうしろと」

――王宮

長男「……間に合ったか」

衛兵A「おや、団長殿。どうしたんですか? 有給だったはずでは」

衛兵B「それに兵士長様や勇者様まで」

次男「お前達は傭兵崩れの件については聞いているな?」

衛兵A「勿論です」

次男「勇者から、既に街に入り込んでいるかもしれないと言う報告があった」

衛兵B「なんですと!? しかし、まだ変わりはありませんが……」

長男「変わってからでは遅いのだ! 門を開けてくれ。今から守りを徹底的に固めていく」

長男「例え、情報が誤りであったとしてもだ」

衛兵A「はっ!」
衛兵B「了解であります!」

ギギギギーッ…

勇者「!?」

衛兵A「何が……どうなっている……」

次男「……本当に、変わりはなかったのだな?」

衛兵B「え、ええ! 勿論です!」

次男「ではこの有様はなんだ!」

次男「なぜ中では人が倒れているんだ!」

衛兵B「そ、それはその……どうしてかわかり、かねましてっ……」

勇者「その人は本当に何も知らないと思う。説教は後にしてくれ、兄上」

勇者「それよりも、この異変を抑えるのが先決だ」

長男「勇者の言う通りだな。衛兵に気付かれず、宮内を制圧されては……いや、既にされているかもしれない」

長男「俺達が優先すべきは、国王の身を守る事。急ぐぞ、次男!」

次男「ああ!」

剣士「勇者様、追いつい――なんだこれは!?」

勇者「剣士か。先手を打たれたらしい」

剣士「衛兵は何をしていた!」

衛兵B「それが……なにもせず……いえ、なにもなく……」

勇者「衛兵を責めるのはよそう。これは確実な奇襲だ」

勇者「女性兵士のみんなもよく来てくれた!」

勇者「王宮内には既に敵が潜伏している。どこにいるかも不明だが、見つけ次第討伐にあたってくれ!」

「「了解しました!」」

勇者「お、おう……息がぴったりだな……」

剣士「兄上様達は?」

勇者「先に、恐らく玉座の間に向かっているはずだ」

剣士「そうか。寮の男性兵士は他の者に呼ばせに行っている。じきに来るだろう」

勇者「流石だな。ところで、剣士には頼みたい事がある」

剣士「何だ?」

勇者「攻められているにも関わらず警鐘が鳴っていないのはおかしい。恐らく警鐘塔は制圧されているのだろう」

勇者「こっちの手に取り戻して、鳴らしてきてくれ。まだ無事な人がいる場合、報せなくては」

剣士「私一人でか?」

勇者「お前なら出来るだろ?」

剣士「……承知した!」

勇者「よし、任せた!」

おはようございまし。
近々、一ヶ月程度パソコンのない場所に身を置くので、その間更新は確実に停滞すると思います。
一応携帯は持って行くけど、やる気上の問題で云々。

まぁ、それまでは少し更新しますよ!

剣士「何という事だ……」カツカツ

剣士「白の国王宮がこれほど容易く攻め入られるとは」

剣士「しかし、目的がわからないな。下僕や小間使いだけでなく、兵士さえも気絶にとどめて放っておくとは」

剣士「他にわからない事もある。なぜ誰もその侵入を知らなかったのか」

剣士「気絶した連中を見ても、争った形跡など一つもない。知られずに侵入をした事を物語っているようではないか」

剣士「……」カツカツ

剣士「ふむ」

剣士「警鐘の部屋も例外ではないようだな」

剣士「……」ペチペチ

警備兵「(返事がない。気絶しているようだ)」

剣士「ここまでくると、こちらが怠けていたから悪い感じではあるな」

剣士「さて、部屋の中の敵はどれ程の強者なのか」

剣士「願わくは、忍び足だけが得意な雑魚であってほしいな」

ガチャッ キィッ…

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……?」

剣士「いない?」

剣士「まぁ良い。それならそれで好都合だ」

剣士「警鐘の部屋に来るのは案外初めてかもしれないな。中々大きな鐘ではないか」

剣士「あの大槌で鐘を打てば良いのだな」

剣士「……」カツカツ

剣士「どうなる事かと思ったが、楽なものだ。こんなに早く任務が終わってしまうとは――」

ガキンッ!

剣士「――などと思う程、私は甘くないぞ。残念だったな」

??「何!?」ザザッ

剣士「なんだ。お前一人か?」

??「……それはどうかな。俺が掛け声一つかければぞろぞr――」

剣士「一人だけみたいだな」

??「最後まで言わせろ!」

剣士「ハッタリなんて聞く必要はないだろう」

??「チッ」

剣士「で、お前は誰だ。名を名乗ってもらおうか」

??「なに、しがない傭兵団の副団長さ」

剣士「……名乗ってもらおうか」

??「……冗談の通じねぇ奴だな」

剣士「通じる時ではないからな」

副長「俺の名は副長。しがない傭兵団の副団長さ」

副長「さぁ、俺は名乗った。そっちも名乗るのが礼儀じゃねぇのか?」

剣士「奇襲を掛けた奴に礼儀を教わるとは思わなかったな」

剣士「私は剣士。白の国の騎士であり、勇者一行の一人だ」

剣士「それにしても、不思議なものだな」

剣士「楽々とこの王宮に侵入した輩はどんな奴かと思えば、このような若い副団長を持つ傭兵団とは」

剣士「それに考えも足りないときている。どうしてこのような者に侵入されたのか」

副長「お前はよく俺が扉の後ろに隠れていると見破ったな」

剣士「警鐘の部屋は見通しが良い。正門などは見えて当たり前だ。私達が駆けつけたのをお前が見ていたのは予想できる」

剣士「それに気付かないふりをしていれば案の定早く出てきてくれた」

剣士「子供騙しには子供騙し。上手く隠れていると思い込んで、早く姿を現してくれて手間が省けたぞ」

副長「うぬぬ……」

剣士「とは言え、早く任務を終わらせたいのは本音だ。今すぐ出て行けば見逃してやる」

副長「見逃してやる、だと?」

副長「まだわかってないようだな。こっちが優勢だ」

剣士「優劣なんてものは時に従い変わるもの。今この時も、私達に勝機が傾いている」

副長「……自信満々じゃねぇか」

剣士「これでも多くの魔族や魔物と戦ってきた一人だ。その辺の傭兵に負けるつもりは毛頭ない」

副長「はっ、それはやってみなけりゃわかんねぇぜ!」ダダッ

ブォンッ

剣士「粗いな」サッ

副長「だろうよ。ふっ!」シュッ

剣士「!?」

キュインッ

副長「……やっぱ一筋縄じゃいかないか」

剣士「くっ」ザザッ

剣士「短剣もあるとは。油断した……っ」

副長「相手のモノが一つならこれで仕留められるんだけどなぁ……」

副長「俺も言ってみれば二刀流って奴だ。お前と同じだな」

元々遅スレなんだから
別に余裕だぜ!

後々忙しい時期が入るとわかっている直前に限って、急用的に忙しくなったりするんだよな……。
今月の更新は多分これが最後。

>>217
その言葉が痛いですwww

剣士「……」

副長「な、なんだその目は!」

剣士「あぁ、すまない。そうやって二刀流を自慢する輩には多くてな」

剣士「格好いいからとか言う理由だけでやっているのが」

副長「格好だけと思ってもらったら困るな」

剣士「謝っただろう。仮にも副隊長らしいからな」

剣士「さぁ、来い」チャキッ

副長「……」スゥ

副長「……」ハァァァ

副長「行くぞ!」キッ

剣士「来い!」

副長「……行くぞ!」

剣士「早く来い」イラッ

副長「――つぁあ!」ブォン

キンッ

副長「っ、っ、っつぁい!」ガンッ ガンッ ガンッ

カンッ カンッ カンッ

剣士「くっ……」

副長「どうした? 守ってばかりじゃねーか」

剣士「そうだな。だが、お前も決定打を打てない」

剣士「そうだろう?」

副長「それはどうかな」

剣士「お前の先方は既にわかっている」

剣士「片方の剣で陽動を行い隙を作り、もう片方で攻撃する。三流がよくする手だ」

副長「……」

剣士「手はわかった。次はこちらから攻めさせてもらおう」ダッ

剣士「ふっ!」ヒュンッ

副長「っ」キンッ

剣士「!?」

副長「つぁいやっ!」ガキンッ

剣士「っ!」ザザッ

カラン…カラン…

剣士「け、剣が……!」

副長「……俺は実力主義の中で副隊長まで上り詰めた男だ」

副長「そんな基本手だけの二刀流じゃねーんだよ!」

剣士「くっ」

副長「確かに基本手だけでも勝てる奴は多い」

副長「だが短剣で受け止め、長剣で剣を払い落とすくらいはできるんだよ。今みたいにな」

剣士「……まだもう一本ある」

副長「やってみるがいいさ」

カラン…カランカラン…

副長「これでそっちの獲物はなくなった」

剣士「……くぅっ」

副長「あんたの敗因は奢りだ」

副長「そもそも二刀流に慣れきった奴が今更剣一本でまともな戦いができるわけねーだろ」

剣士「……」

副長「……逃げないのか?」

剣士「逃げる理由はない。敗れる時も潔くあるのが騎士だ」

副長「見上げた根性だ」

剣士「それに、逃げたところで逃がすつもりもないだろう」

副長「その通り。とりあえず、騎士道精神に則って大人しく眠ってもらおうか」

副長「つぁぁああ――」ブォン

剣士「……ふっ」ガシッ

副長「――あああ?」

剣士「はぁぁあっ!」グイッ

ゴォォォオオオオンッ!
 ゴォオオン
  ゴーン…

副長「あ……え……?」バタッ

剣士「……お前の敗因は奢りだな」

剣士「騎士は負ければ潔いが、戦いの最後まで諦めないものだ」

剣士「最も、最初から負けるつもりはなかったのだがな」

剣士「剣を出した手前収めるのも侮辱に当たると思っていたから、落とされてやっただけだ」

剣士「……って、聞こえてないか」

剣士「警鐘も鳴らしたし、縛った後で勇者様のところへ急ごうか」

勇者「警鐘だ……。上手くやったみたいだな、剣士」

長男「今更だけどな」

勇者「まぁ、そうなんだけど……鳴らさないよりはマシだろう?」

次男「この分だと、宮内は全て占拠されているはずだが……ぐっ」

長男「大丈夫か? さっきの戦闘でかなり負傷してるみたいだが」

次男「このくらい……何ともない」

長男「さて、玉座の間の前までついたわけだが」

勇者「この様子だと、既に占拠されているよな」

次男「本当にどうしてこうなってしまったのか……」

「お主ら、国王様を放せ!」

勇者「大臣の声!」

長男「白国王様はどうやら無事のようだな」

長男「相手は強い。心して行くぞ」

勇者「わかってる」

次男「勿論だ」

長男「白国王様、無事ですか!」

大臣「おお、長男殿、次男殿、それに勇者殿まで……!」

戦士「……」

少女「思ったより早かったね、救援」

戦士「うむ……」

白国王「ゆ、勇者っ……!」

少女「ちょっと黙ってて」チャキッ

白国王「ぐっ……」

長男「まさかこんな子供が……」

長男「大臣、何があったんですか!」

大臣「私にもわからん……! 気がつけば既に攻め込まれていて……」

次男「奇襲とは卑怯な……」

少女「卑怯だから奇襲って言うの」

勇者「やっぱりお前達だったのか」

少女「久しぶり、勇者のお兄さん。こんなところでまた会うなんてね」

勇者「全くだ。だがなんでこんな事を……」

少女「復讐……みたいな?」

長男「復讐だと?」

少女「そう。あたしは“最終戦争”で不毛に命を落とした傭兵、傭兵長の娘」

少女「戦争の決定を下した無責任な王族を懲らしめて回ってるんだ」

白国王「傭兵長だと……お主がその娘か!」

少女「流石に知ってるみたいだね」

長男「傭兵長なら俺も知っている。傭兵としてなら、大陸一の強者と聞いている」

次男「噂は本当だったというわけか」

次男「だが彼は傭兵だ。いつ死んでもおかしくなかっただろう」

次男「それを各国の王族に責任を問うのは逆恨みというものだ」

少女「そうかもしれないね。でも、あの戦争では本当に命が無意味に散っていったと聞いている」

少女「そのような状況になったのは、早く竜の国を片付ける決定をしなかった王族にあるんだ」

少女「だから――!」ヒュンッ

白国王「……」

少女「あたしはこいつに罰を与える。白の国が最後だ」

長男「そうさせるわけにはいかないな」

次男「その通りだ」

少女「あたしだって簡単にいくとは思ってないよ」

少女「戦士、先にこいつらを片付けるぞ」

戦士「……承知」

勇者「兄上達は女の子の方を頼む」

長男「おい、俺達に女で子供と戦えって言うのか? しかも二人がかりで?」

勇者「周りを見てくれ。何十人と近衛兵がいるのに、皆倒されている」

勇者「子供だからといって侮ってはいけないと思う」

勇者「それに……」

戦士「……」

勇者「あの鎧で着固めている奴、多分別格に強い」

次男「それなら尚更そっちに加勢すべきじゃないか?」

勇者「兄上達なら二十人いても意味ないよ」

次男「言ってくれるな」

長男「勇者、大丈夫なのか?」

勇者「……自信ないな」

長男「まぁ……良いだろう。そっちは任せた」

少女「みんなで来ないみたいだから、役割決めてるんでしょ。決まった?」

長男「とりあえずはな」

戦士「俺……勇者と……」

勇者「安心しろ。お前の相手は俺一人だ」

少女「そっか。じゃあ、あたしはこっち片付ければいいのか」

長男「手加減なしだ」

次男「女子供でも容赦はしない」

とりあえずこの辺りで。
書きたいとこまで書けなかったけど、そろそろ出立しなきゃなので。

ただいま。
長い間起きてなきゃいけないだけでも苦痛なのに、コンピュータで気軽に文章書けないのもつらいね。

長い間一日八時間くらいしか睡眠とれてなかったから、次寝たら少し長い眠りにつきそうです。
でもそのまえに少し書かせてもらいましょう。

勇者「さて……」

戦士「……」

勇者「お前の目的は、何だ?」

戦士「……」

勇者「見たところただの傭兵じゃない。気配もあまりに奇妙だ」

戦士「勇者……」

勇者「……?」

戦士「勇者……自ら……信じるか……」

勇者「何が言いたい」

戦士「これ……正義だ」

戦士「手合わせ願おう」

勇者「!?」バッ

ガキィンッ!

戦士「……」ググ

勇者「ぐっ……なんて重い剣だ……!」

戦士「油断……するな……」

勇者「なんだと?」

戦士「……“爆炎”」

勇者「な――!?」

ドゴォォォンッ!!

長男「勇者!」

少女「よそ見は……禁物だよ!」バッ

長男「っ!」サッ

ガィンッ

少女「ちっ。はずしちゃったか」

少女「!?」バッ

キィンッ

少女「……危なかった」ホッ

次男「油断禁物。そっちにも言える事だ」

少女「でも、女の後ろから斬りかかるなんて騎士のする事じゃないね、おじさん」

次男「俺はただの兵士だ。騎士ではない」

長男「次男、お前“おじさん”って呼ばれたぞ」

次男「それは心外だ。まだ二十五だと言うのに」

次男「だが兄上もまた“おじさん”になるのではないか」

長男「俺は良いんだよ。三十過ぎれば立派なおじ様だ」

次男「右から行く」ボソリ

長男「では正面で止めよう」ボソッ

長男「さぁ、来い」

少女「全く、余裕なんだから……」ダッ

ガキィンッ

戦士「……防いだか」

勇者「危なかったけどな」

勇者「だけど、まさかこの大陸に剣と魔法両方使う奴が俺以外にいるとは思わなかった」

勇者「お前、何者だ?」

戦士「……」

勇者「答えるつもりはない、という事か」

勇者「なら、無理にでもその鎧をはがして、顔を拝んでやろうじゃないか」

魔剣〔勇者、試してみるか?〕

勇者〔あの鎧がどれ程のものかはわからないけど、やってみよう。修行の成果を、実践で〕

勇者〔ひびくらいはいれたいものだけどな〕

勇者「“――”」ブツブツ

戦士「……?」

勇者「さぁ、ここからが本番だ」

勇者「剣と魔法、共に駆使して戦おうではないか」

戦士「いい……だろう……」

勇者「“火炎壁”!」

戦士「“爆風塵”」

ズアァァァアッ

勇者「ふっ」ダダッ ヒュン

戦士「……」ダッ ブォンッ

ガキィンッ!

寝すぎる病気もあったよな
日常生活に支障がないならいいが、検査受けた方がいいかも

>>242
寝るのは好きだから日常生活は良いんだが、社会生活に支障きたしまくり。
ちなみに睡眠専門の医者じゃないけど、目立った睡眠障害じゃなくて性格の問題らしい。
もらった薬と共に睡魔を気長に撃退中であります。

大臣「侯爵家三兄弟が来たからにはもう安心ですな。歩けますか?」

白国王「うむ」

大臣「見ての通り、奴らも苦戦しております」

白国王「いや……恐ろしいのは彼らが勇者達と対等に戦っていると言う事だ」

白国王「対等、ではないかもしれん。あの二人、顔に余裕が見える」

大臣「まさか! 勇者は元より、長男、次男は騎士兵士の長を務める身ですぞ」

白国王「戦士とやらの力は底知れぬ。にもかかわらず、既に勇者は苦戦を強いられているようだ」

白国王「少女は傭兵長の娘らしく、その槍術も確かに傭兵長のものだ。だが、完璧ではない。わしが以前見たものの片鱗でしかないのだ」

大臣「考えすぎでは……」

大臣「しかし、そうですね。万が一という事もあります。早急に逃げた方がよろしいでしょう」

白国王「うむ」

少女「ちっ。待て!」

ガキィンッ

長男「よそ見は良くないな」ググ

少女「ああ、もう。二人相手はつらいなぁ」ググ

戦士「……“大火炎弾”」

大臣「!? 白国王様!」

ドガァァァアアアン!!
  ガラガラガラ…

白国王「くっ……」

大臣「ご無事ですか!?」

白国王「問題ない。だが出口が……ふさがってしまったな」

ガキィイインッ

勇者「よそ見とは余裕じゃないか」

戦士「安心しろ……片手間、だ……」グワキンッ

白国王「あやつ、何というやつだ」

少女「戦士、よくやった」

戦士「……時間」

少女「そうだね。警鐘が鳴ってからもう結構経つし、急がないと」

次男「知っているのか」

少女「魔法部隊でしょ?」

少女「あんなの来られたら、戦士はともかくあたしは厳しいだろうね」

少女「来る前に終わらせるけど」

長男「確かに君は強い。子供にしてはじゃなく、一人の戦士として、十分に強い」

長男「だが、せめて足止めくらいはさせてもらう」

少女「無理だよ」

次男「勝てると思っているのか」

少女「当然。あたしの槍は、父さんの槍だから」ダッ

シュッ

長男「焦ったか。さっきより突きが雑になって――!?」

ガィンッ

長男「ぐっ……まさか薙ぐとは」ググ

ドスッ

次男「うぐふっ」ドサッ

長男「次男!」

少女「今までの二人の連携、槍の死角をついてもう一人が攻撃してくるのは凄かった」

少女「でも、父さんの槍術に死角はないんだ」シュッ

長男「っ!」キィンッ

少女「突きの必殺、薙ぎの必殺、そして……」シュヒュヒュッ ブォンッ

ドカッ

長男「ぐ……あ……」ドサッ

少女「殴りの必殺。柄も武器なんだよ」

大臣「長男殿、次男殿!」

白国王「やはりそうか……。傭兵長の槍術をほぼ使いこなしている」

少女「大丈夫。二人とも気絶してるだけだよ」

少女「あたしは白国王に聞きたい事があるだけだからね」

勇者「白国王様!」

戦士「“火炎弾”」

勇者「!」

ドゥゥウンッ

戦士「……よそ見の……暇、ない」

勇者「くそっ……!」

少女「あたしはね。父さんがわざわざあんな戦争で死ななくても良かったと思ってる」スタスタ

少女「遅れに遅れた戦争の結果、父さんは死んだ」スタスタ

少女「父さんだけじゃない。傭兵団のみんなも死んでいった」チャキッ

少女「この責任、どう取るつもりなの?」

白国王「……っ」

大臣「や……」

少女「?」

大臣「やめるのだ、傭兵長の娘。白国王様も苦心したのだ。我が国の騎士や兵士も多く失っている」

少女「……それで?」

大臣「お主のやっている事は、八つ当たりというものだ。冷静に考えなされ」

少女「かもしれないね。でも、あたしの気持ちが収まらないと意味ないよ」

少女「全然、納得出来ない」

大臣「っ」

白国王「大臣、もうよい」

大臣「!? で、ですが……」

白国王「もうよいのだ、大臣。その子の言っている事に間違いはない」

白国王「少女、傭兵長の娘よ。お主がわしを罰するというならば受け入れよう」

白国王「さぁ、殺すならばそうするが良い」

大臣「白国王様!?」

勇者「国王、早まらないで下さい!」ググ

白国王「大臣、そして勇者。わしは長い間白の国の王として生きてきた。恨むものも多い」

白国王「恨みで死ぬならば、このような純粋な想いの恨みならば、嬉しい限りではないか」

大臣「例えそうだとしても、これからこの国をどうするおつもりですか!」

白国王「死は常に覚悟しておった。わしの死後、娘を呼び戻して即位させるのだ」

大臣「っ」

少女「覚悟は、出来てるの?」

白国王「無論だ。この首を落としても良い。胸を一突きにしても良い。さぁ、やれ」

少女「そう。せめてもの情けに、すぐ楽にさせてあげる」ス…

勇者「白国王!」ダッ

戦士「行かせない……」ブォンッ

勇者「っ!」キッ

勇者「あぁぁあああっ!!」ズアァッ!

戦士「!?」

ピキッ…

戦士「む……」

魔剣〔今、何をやった? 剣が触れてないにもかかわらず鎧にひびを――〕

勇者「“雷撃”!」ババッ

戦士「む……うぅ……」

魔剣〔勇者……聞こえてないのか?〕

魔剣〔先程の攻撃も、必死のあまり偶然出たものか……〕

勇者「白国王様!」ダダッ

大臣「白国王様を殺すならば、まず私を殺して――」

白国王「ならん。お主はわしの死後もこの国を支えていくんだ」

白国王「やるなら早くやる事だ、少女」

少女「……」

勇者「“火炎――”!」

パリーンッ!

少女「!?」

大臣「何事だ!」

クルクルクルクル タンッ

盗賊「……」ギロッ

少女「あんた……!」

勇者「盗賊!」

盗賊「……てめぇか」

少女「……」

盗賊「こんな所で何してやがる」

こっそりとやってきて

そのうちふらりと布団に戻る

白国王「お主は……」

大臣「確か、黒の国の一件で活躍した一組の用心棒ではないか」

白国王「先日氷の国での件で、勇者と共に旅をした者でもある」

大臣「では、彼が……盗賊ですか」

白国王「……あれ程高い窓から入ってくるとは。元盗賊だけあって型破りな」

勇者「盗賊、どうしてここに!?」

盗賊「警鐘を聞きつけてな。あれはとんでもねぇ時に鳴らすって言うじゃねぇか」

盗賊「悪い予感がしたと思えば」

少女「……っ」

盗賊「どういうつもりだ、てめぇ……!」

勇者「あれ? お前、そいつと知り合いなのか――」

魔剣〔後ろだ!〕

勇者「っ!?」

ギィンッ

戦士「……」グググッ

勇者「くっ……!」グィッ

勇者〔助かった〕

魔剣〔戦いの最中だと忘れていただろう〕

勇者〔あ、あのな……そんなわけ……〕

魔剣〔図星だな〕

勇者〔ぐっ……!〕

盗賊「……ったく、危なっかしいな、あいつ」

少女「他人の心配をしてる暇あるんだ」

盗賊「一対一だろ。隙が出来る程気は散らねぇよ」

少女「戦うつもり?」

盗賊「当たり前だ。責任取っててめぇを止めなけりゃ、気が収まらねぇ」

少女「何の事かよくわからないんだけど」

盗賊「とぼけるつもりか?」

少女「……」

盗賊「……一つ聞く。始めから利用するつもりだったのか?」

大臣「ど、どういう事だ?」

盗賊「すまねぇな。来る途中ここの様子を見たが、これ奇襲されてるんだろ?」

盗賊「多分、俺がこいつに抜け道を教え――」

少女「初対面に!」

少女「何言ってるのかよくわからないけど、あんたは大人しくそこをどいてくれないんだよね」

少女「大体初対面なんだから、あんたに利用価値があるかどうかもわからないでしょ。初対面なんだから」

盗賊「……それもそうだな」

少女「わかった?」

盗賊「元々利用するつもりじゃねぇってのはわかった」

盗賊「だが俺に責任はあるわけだし、王様に刃先を向けるのは感心しねぇな」

少女「……やっぱり戦うんだ」

少女「じゃあ、障害を取り除かないとね」

盗賊「……」サッ

大臣「短剣で槍に勝てるわけがない……!」

少女「っ」ヒュンッ

白国王「いや」

大臣「?」

白国王「勝機がなければ戦いは挑むまい」

少女「っ! っ!」ヒュンッ ヒュンッ

盗賊「……」サッ ザザッ

少女「どうしたの? 避けてばかりみたいだけど」ヒュンッ

盗賊「さぁな」

少女「……」ブォンッ

盗賊「!」ダッ

少女「……」ニヤ

盗賊「!?」ザザッ

ヒュオンッ

盗賊「……危ねぇ」

少女「……素早いね。しっかりと懐に入ってきたと思ったんだけど」

盗賊「入ってた。が、一瞬早く気付いただけだ」

盗賊「ずっと気になってたが、今の槍を棒にも鉾にもする扱い方でやっと思い出せた」

盗賊「てめぇだったんだな。ハリネズミ」

少女「……」

盗賊「どうなんだ」

少女「……よくわかったね、ミスター・シーフ」

盗賊「まぁ、あんなやり方は並の所じゃ教えてねぇだろうし、俺も初めてだったんでな」

盗賊「全く、何が初対面だ。嘘言いやがって」

少女「別に良いでしょ。闘技場でも今日この場でも――」

盗賊「敵同士だからな」

少女「よくわかってるね」

盗賊「わかりやすいってのは良いもんだ」

少女「……今日も勝たせてもらうよ」ザッ

盗賊「生憎だが――」シュッ

ザクッ

少女「っ!?」

盗賊「ほう。傷を負っても声一つ上げねぇのか。凄ぇな」

少女「……ナイフを投げてくるなんて、油断したよ。でも一発で仕留めるべきだったね。あたしはまだ十分に動けるよ」

少女「今、あんたは武器を持ってない。あたしの勝ちだね」

盗賊「流石俺の認めた女だ。そうでなけりゃ困る」

少女「……え? な、何を言って……!」

盗賊「だが――」

ジャラ…

少女「な……」

盗賊「短剣ならいくらでもあるんでな。俺の勝ちだ」

盗賊「闘技場では本調子じゃなかったんだよ。武器が限られてたからな。だが今は違う。そして――」

盗賊「てめぇの弱点は遠距離だ。そうだろ?」

少女「……はっ、当たらなけりゃ良いだけ――」

カツンッ

少女「っ」

盗賊「それ以上前に進むか、降参か。選ばせてやる」

少女「選ぶ? 何でそんな事しなけりゃならないの」カツ…

盗賊「……」シュッ

カツンッ

少女「……ほ、ほら、また外した」

盗賊「言い忘れてたが、俺が十回投げたら九回は必ず命中するぜ」シュッ

カツンッ

盗賊「それでも“外した”と言えるか?」

少女「くっ……そんな……嘘には……」

盗賊「……」

少女「……」

少女「……っはぁ。負けたよ。あたしはまだ死にたくないしね」

盗賊「良い判断だ。まぁ、俺も殺したくはなかったからな。折角の良い敵だ」

少女「敵に良いも悪いもないでしょ」

盗賊「そんな事はない。……ああ、そうだ。ちなみにさっきのは嘘だからな」

少女「なっ!?」

盗賊「俺は十回……いや、百回投げても百回当てる自信があるぜ」

大臣「終わ……ったのか?」

白国王「そのようだ」

大臣「でも、何故殺さない。早く殺さねば――」

白国王「その必要はない」

大臣「しかし……!」

白国王「彼女の目を見ろ。もはや殺気はない」

白国王「……問題は、勇者の方だな」

大臣「勇者ですか?」

勇者「はぁあああっ!!」ヒュンッ ヒュンッ

戦士「……っ」カキンッ カンッ

大臣「大丈夫でしょう。勇者が優勢のようです」

白国王「だと良いのだが……。嫌な予感しかしないのだ」

大臣「?」

魔剣〔もっと、もっと精度を高めろ!〕

勇者「集中だ……集中しろ……」ブツブツ

カキンッ ガチンッ

  ……ピシッ

戦士「!? ……まずい。剣……折れ――」

勇者「うおぉぉお!!」ブォンッ

戦士「“氷壁”!」パシッ

…パキンッ

勇者「はぁ……はぁ……」

戦士「……」

魔剣〔勝ったか。剣が折れては相手も戦意は沸くまい〕

盗賊「あっちも終わったか」

少女「はぁ。奇襲までしたのに失敗するなんて」

ピシッ

魔剣〔まさか……鎧まで……〕

魔剣〔そうか。先程入れたひびが耐えきれなくなったか〕

ミシ…ミシ… ピキッ
   ガラガラガラガラ…

勇者「なっ!」

盗賊「!?」

少女「へぇ、結構美形だったんだね。あたしもあいつの素顔は見た事なくてさ」

盗賊「……本当にあいつの正体知らなかったのか。仲間じゃねぇのか?」

少女「戦士は助っ人だよ。珍しい奴もいるんだなって思ったけど。……どうしたの?」

大臣「白国王様、あやつは確か……」

白国王「ああ、間違いない」

勇者「……魔王」

魔王「……」

戦闘シーンとかに入ると停滞する傾向があるらしい。
それはともかく、今日はここまで。早いけど。

少女「……なんだって?」

大臣「そんな馬鹿な……何故、あやつが……」

少女「ちょっと待って。さっき勇者はなんて言ったの?」

盗賊「聞き間違えじゃねぇ。確かに魔王だ」

盗賊「だがどうして奴が……戦士って言えば、木炭村では人を生き返らせてまで……」ブツブツ

盗賊「くそっ! 何がどうなってやがる!」

勇者「どうして魔王がここに……!」

魔王「……ばれたか」ボソリ

魔王「勇者よ!」

勇者「っ」ビクッ

魔王「強くなったではないか。我が鎧を砕くまでに至るとは」

魔王「まこと、嬉しいぞ」

勇者「魔王っ……どうして、ここに……!」

魔王「少しばかり野暮用でな」チラッ

白国王「っ!」ゾクッ

勇者「まさか、白国王様の命が目的か!」

魔王「……だったら、どうすると言うのだ」

勇者「俺が、止める!」シュバッ

魔王「ほう」

勇者「――っ!?」

ドンッ

勇者「ぐはっ――!」

大臣「今、何が起こったのだ!?」

盗賊「馬鹿な! さっきまで互角には戦っていたってぇのに!」

魔王「先程までは小手調べだ。我が鎧を砕くまでに至ったが、言うなれば未だそれまで」

魔王「鎧には我が力を十二分に抑える制御魔法が掛けられておったのだ」

勇者「何……っ」

魔王「今の勇者など、鎧を脱いだ我には折れた剣であろうと十分に勝てる」

魔王「それを証明したまでだ」

魔王「もし万全の状態で戦われては、多少苦戦はしたかもしれぬがな」

勇者「く、そ……!」

魔王「では、白国王よ。次はお主の――ん?」

少女「……今更あんたがあたし達を騙したとは思ってないけどさ」

少女「最後の最後までただの駒でいるつもりはないんだよね」

魔王「駒だと? 笑わせるな。我の方がお主達に手を貸してやったのだ」

少女「あんた、何て言って誘ってきたか憶えてる?」

魔王「『人の本性は死を覚悟した時に現れる』だったか」

少女「そう。でもあたし達は本当に命を奪うわけじゃない。根っからの悪人じゃない限りね」

大臣「なんと! 今まで死人がなかったのも、そういう事であったのか……!」

少女「それで、戦士。あんたは何をしようとしてる? 人を殺そうとしてるよね」

少女「あたしはそれが気に食わないんだよ!」チャキッ

魔王「我に刃を向けるか」

少女「そうなるね」

魔王「その足で、勝てるとでも?」

少女「どうだろうね。でも――」

少女「一矢報いれば良いと思ってるよ」ダダッ

魔王「愚かな……。お主の弱点はわかっておるのだぞ」

魔王「“雷撃”!」バリバリバリ

少女「――っ!」

ドギャンッ!

少女「きゃっ!? ……あれ?」

魔王「何!?」

少女「! 何で、あんた……!」

盗賊「無謀な奴とは思ってたが、ここまでとは思わなかったぜ」シュゥゥウ…

少女「あんたもでしょ。それより、大丈夫なの、それ?」

盗賊「初級魔法の一つや二つ、ナイフ一本ありゃあ殆ど防げる。それが盗賊ってもんだ」

盗賊「本職の傭兵もそのくらいしねぇと、すぐに死ぬんじゃねぇのか?」

少女「……言ってくれるね」

魔王「どうやら雑魚と甘くみておったようだ。非礼を詫びるべきか」

盗賊「ここから去ってくれりゃ一番嬉しいんだが」

魔王「否。それ相応の威力をもって持てなすべきか」ゴゴゴゴゴ

少女「あ、これやばいかも」

盗賊「同感だ。気が合うな」

ドドーンッ!!

シュゥゥゥウ…

魔王「……」

盗賊「ぐ……ぅ……!」

少女「く……っそ……。何て威力……!」

大臣「だ……丈夫で……か、王様……」

白国王「……むぅ」

勇者「痛ぇ……何が起こった、んだ……」

魔王「ほう。驚いた」

魔王「手加減をしたとは言え、皆意識があるのか」スタスタ

魔王「だが――」ガシッ

白国王「うぐぅっ!」

大臣「白国王……!」

魔王「もはや、動けまい」

勇者「やめっ……。ちくしょう……白国王様……!」

少女「まだ戦えるっ……戦えるのに……!」

魔王「人には過ぎた痛みであろう。無駄はやめ、大人しくするが良い。さて――」

白国王「……わしを殺すか」

魔王「無論だ」

白国王「……」
魔王「……」

白国王「良いだろう」

大臣「白国王様……!?」

白国王「だが一つ、頼みがある」

魔王「……聞き入れよう」

白国王「感謝する。頼みと言えども、ただの問答なのだが」

魔王「長くなるか?」

白国王「……いいや」

魔王「ならば、問うが良い」

白国王「何故、わしを殺すのか」

魔王「我が計略の妨げとなり得るからだ」

白国王「……わしは、長生きしすぎたのか」

魔王「……人を治めるには、あまりにも長い」

白国王「そうか……」

魔王「……問答は終わりか」

白国王「最後に一つ、大臣にある」

大臣「!?」

魔王「問うが良い」

白国王「娘を、頼めるか」

大臣「な、何を……っ」

大臣「……はい!」

白国王「そうか」

白国王「それは……安心した」

魔王「……」

白国王「……何をしている。問答は終わった。殺すが、良い」

魔王「白国王よ」

白国王「?」

魔王「我は一国の王であるが、お主もまた王である」

魔王「王に敬意を表し、望みの死に様で死ぬが良い」

白国王「死に様か……。はっはっは……この状況では限られると言うのに……」

白国王「胸を突くが良い。首をはねられては、まるで罪人の晒し首である故。わしを王として殺すならば、胸を突くが良い」

魔王「承った」スッ

大臣「白国王……!」

勇者「白国王様……。やめてくれ、魔王……!」

白国王「――思えば」

白国王「遠い昔に、こうなる事は決まっていたのかも知れぬな……」

~ ??年前 ~

白国王「誰だ、そこにおるのは」

魔王「声を掛ける前にばれてしまったか」

白国王「……何者だ」

魔王「申し遅れた。我が名は魔王。魔の国の新しい王である」

白国王「魔の国の王だと!?」ガタッ

魔王「警戒しないでいただきたい。ただ話をしにきただけなのだ」

白国王「……何だ。聞こう」

魔王「お主を大陸の統率者と見込んで聞く。我と組み、世界を手に入れる気はないか」

白国王「何を言うかと思えば……。断る」

白国王「お主が何を期待したかはわからぬが、白の国の王たる、お主の言葉を借りれば大陸の統率者たるわしには、責任がある」

白国王「何の脅しか惑わしかは知らぬが、その言葉、聞き入れる事は出来ん」

魔王「気持ちは変わらぬか」

白国王「無論だ」

魔王「ふむ……」サッ

魔王「ならば、お主の敵たる我から助言しよう」

魔王「大陸の中でも強く特異な力を持つ者を我に仕向けよ。その者が我らの戦いを終わらせるだろう」

~    ~

魔王「さぁ、死ね」

ザクッ

ポタッ…ポタッ…

勇者「あ……あぁ……っ」

盗賊「っ」

少女「なんて事を……」

大臣「王……様……。うぅ……」

ズルッ… ドサッ

白国王「 」

魔王「……」

少女「……盗賊、ごめん」

盗賊「何がだよ」

少女「こんな事に巻き込んで」

盗賊「……今言う事じゃねぇな」グッ

魔王「!? お主、もう立てるのか」

盗賊「何とかな」

勇者「ハッ! 俺も立てるぞ」ググッ

魔王「ほう」

魔王「とは言え、共に立つのが精一杯と言ったところか」

盗賊「な……にがだよ!」シュッ

魔王「強がっても無駄だ」スカッ

魔王「短剣の狙いが先程と比べて甘すぎる」

勇者「余裕だな。俺達を殺すのは稚児の手を捻るようなものと言う事か?」

魔王「殺すだと? そのようなつもりなどない」

盗賊「へっ、俺達は殺す価値もねぇってか?」

魔王「お主達は弱い。故に、強くなってもらわなければならぬのだ」

勇者「何を言って……」

魔王「それに、見込み通りならばそろそろ用を済ませた頃合いだろう」

剣士「しかし、まさか男さんが来ているとは思わなかった」タッタッタッ

男「俺は盗賊を追ってきただけだ」タッタッタッ

剣士「盗賊? あいつも来ているのか?」

男「多分だが」

男「部屋で研究してたんだが、あいつが急に『……この鐘は!』とか言って王宮の方に飛び出して行って」

男「ただ事じゃなさそうだったから、準備して追ってきたというわけだ」

剣士「それにしては姿が見えないが」

男「勇者さん達と一緒にいるんじゃないかな。身軽さはもの凄いからな」

剣士「鼻も良いしな」

男「ああ」

剣士「さぁ、玉座の間はもうすぐだ。そこを曲がってまっすぐ行けば良い」

男「わかった。――!?」ドタドタッ

剣士「……どうした」ササッ

男「誰かいる」

剣士「何? ……あれは、玉座の間の前だな」

?「――」ブツブツ
?「――」ブツブツ

男「何か言っているみたいだけど、聞きずらいな」

剣士「……」

男「どうした?」

剣士「あの姿、どこかで……」

男「ああ。俺も思ってた――」

?「――」キョロキョロ

男「――あっ!」

?「”――”」ブツブツ

ドカーンッ!

ガラ…ガラ…

魔王「……来たか」

盗賊「な、何だ?」

勇者「塞がってた出入り口が開いたのは良いが、まさかまだ敵が……!?」

?「ありがとうございます。助かりました」ブツブツ

?「ああ、すみません。でも声出してる方が喋ってるって感じがして」ブツブツ

少女「くっ……誰が来ても戦うだけさ」フラフラ

盗賊「お前、もう大丈夫なのか?」

少女「無理でも、大丈夫」

勇者「だが、この声どこかで……」

大臣「ごほっ……煙が……」

魔王「少し遅かったではないか」

?「すみません。思ったよりも時間が掛かって」ザッザッ

?「でも、あれを私一人に任せるのは結構酷いと思うんですが」

魔王「お主を信頼しての事だ」

盗賊「お、おい……あいつ……」

勇者「……間違いない」

?「でも魔王様も手こずったようですね。鎧が剥がれてるじゃないですか。」

?「流石勇者さんと言ったところ――」

ズザザーッ

男「女さん!」

女「……教授」

今回はこの辺りで寝させてもらいます。

今年は抱えてた仕事が一つ終わったので、そろそろ話を加速させたいな、とか。
もう本当「本気出す」と何回言ってるんだよ俺……。

まあ年10レスでも俺達は見るさ


このSSも長生きだな

数年ぶりに女登場wwww

>>283
折角こういった形で公開させてもらってるのだから、そうしてもらえると気力が沸く。

>>284
心がえぐられる言葉だようwww

>>287
順調に書いていれば、再登場なんて一ヶ月も経たないで出来たのになwww……すまない、女。

男「女さん、どうしてこんな所に……」

女「……」

剣士「……そうか。やはり女さんだったか」

剣士「!? な、なんだ。この状況は!」

勇者「剣士か……すまないな」

剣士「勇者様まで……」

剣士「魔王がここにいる以上、なぜこうなったのかは察しが付く」

剣士「そっちの意見を聞こうか、魔王」

魔王「現勇者一行が出揃ったか」

魔王「剣士よ。もしここで皆殺しにすると我が答えれば、お主はどうする?」

剣士「私では明らかに力不足だろうな」

魔王「ならば、逃げるか」

剣士「いや。私ならば、負けるとわかっていてもせめて一矢報いるつもりだ」

魔王「……」
剣士「……」

魔王「良い答えだ。だが安心するが良い。今は王以外の命は取るつもりはない」

女「さぁ、早く帰りましょう、魔王様」

魔王「うむ」

男「……待ってくれ」

男「女さん、帰ってくるんだ」

女「……」

男「また一緒に研究しよう。それに――」

男「俺らの世界は、ここじゃないだろう?」

女「……そうですね。いずれは自分の世界に帰らないといけませんから」

女「でも、断ります」

男「何?」

女「私は、暫く魔王様と一緒にいますので」

勇者「ばっ……そんな馬鹿な!」

男「勇者さん、落ち着いて!」

勇者「これが落ち着いていられる――!」

男「俺に質問させてくれ」

勇者「……わかった」

男「女さん、何か理由があるのか? それとも魔王に何かされたのか?」

魔王「我は何もしておらん。こやつは自らの意思で我についたのだ」

女「そうですね」

勇者「そんな……」

女「理由もしっかりとありますが……今はどうでも良いですね」

男「どうでも良くないが、まぁ良い」

盗賊「てめぇら、どういうやり取りしてやがる……」

盗賊「俺も一つ聞きたい事がある。影将軍は今どこにいやがる!」

女「いますよ。私の中に」

女「そう言えば盗賊さんの仲間の敵でしたっけ。殺せますよ。私を殺せば」

盗賊「! てめぇ……!」

男「以前の女さんなら、そんな事を言えるはずも……」

男「あるか」

盗賊「納得するのが癇に障るぜ」

盗賊「だが魔王の下にいる限り、命は狙われるだろうな。影将軍が居座り続けるってぇなら、俺も本気でてめぇを殺す」

男「おい、本気か!?」

盗賊「ああ、本気だ」

女「本気ですか?」

盗賊「ああ、本気だ」

男「本気なんだな?」

盗賊「てめぇら……」

女「……でも、覚悟出来ています。盗賊さんが私を殺そうとしても」

盗賊「……そうかよ」

魔王「男よ」

男「?」

魔王「お主が望むならば、我が傘下に加えてやっても良いのだぞ」

魔王「そうすれば、女と共に行動も出来よう」

男「どういう事だ?」

魔王「優秀な学者が欲しいのだ」

男「成る程。断る」

魔王「……」

男「女さんはすぐにでもこっちに連れ戻す。帰るためにもな」

魔王「……残念だ」

魔王「女、目的のものは持っているな」

女「これですね?」

勇者「……本?」

魔王「……それであっているのか?」

女「多分」

魔王「……」

魔王「勇者一行よ! 最後に一つ、試練を与えよう!」

勇者「何?」

盗賊「この後に及んで何をするつもりだ!」

魔王「“――”」ブツブツ

魔王「“召還・機械獣”」カッ

ズズ… ズズズズ…

機械獣「グギ……ギギ……」ウィーン

剣士「何だ、あの魔物は!?」

男「ロボット、ではなさそうだな」

女「この魔物は、私が作りました」

男「!?」
勇者「何!?」

女「と言っても、ここにいるのは不可制御のプロトタイプ。野性ばかり高い所為か、大体暴走しています」

魔王「それに中々力もある。勇者よ、お主ならばどう乗り越える」

勇者「この体で戦えと言うのか。結構でかいぞ」

女「っと。早くしないと私達も巻き込まれますよ」

魔王「そうであったな」

魔王「では、また相見えようぞ、勇者達よ!」

女「あっ。教授、私のパソ――」

魔王「“転移”!」

ヒュンッ

男「……え?」
勇者「……」
盗賊「……」
剣士「……」

機械獣「ギギ……ギギャーン!」グウィーン!

カィンッ

剣士「……くっ!」ギリッ

機械獣「グギ……ギギ……」ググッ

勇者「剣士!」

剣士「大臣は早く退去願う! ここは危険だ! ――のわっ!?」グイッ

機械獣「ギィ……」ブォンッ

大臣「剣士殿!」

勇者「はぁっ!」ガキン

剣士「くっ……早く行ってくれ。出来れば、白国王の遺体も連れて」

大臣「わ、わかった」

大臣「少女とやら、処罰は追って伝える! 逃げるでないぞ!」ズズッ

少女「ったく……逃げないっての」

盗賊「どうするつもりだ。ここは危険だぜ」

少女「あたしも戦うさ。罪滅ぼし、ってのには軽いけどね」

少女「大丈夫。罰は受けるよ。利用されてたとは言っても、ここまで来たのはあたしの意思だし、結果王様も死んでしまった」

少女「ま、どのみちここが最後だったし、良いんだけど」

盗賊「そうか――」

剣士「良い心構えだ。当座は私達は味方らしいな」

盗賊「てめぇ、しっかり戦えよ」

剣士「勇者様が足止めしてくれている。だが……」

勇者「はぁっ! “火炎弾”!」ガンッ ゴォッ

機械獣「ガガ……ギギ……」ヴィーン

盗賊「全然効いてる感じはしねぇな」

剣士「どうすれば倒せるか、考えなければならない」

剣士「さっき私があいつの攻撃を止めた時……いや、止めようと思った時」

剣士「こっちの力はお構いなしに押し返してきた」

男「恐らく、痛覚もない」

盗賊「おい、どういう事だ?」

男「あれは女さんが作ったと言っただろう。なら、あの外装も納得出来る」

男「多分、あれはロボット――からくり――ここでは何か当てはまる言葉がないな。鉄のゾンビと言ったところか。鉄の生ける死骸だ」

少女「ちょっと待って。死体が生きてるわけないし、鉄なわけないじゃない」

男「例えだって」

男「でもまぁ、見た感じ生体っぽいところもあるから、アンドロイド的な感じだろう」

剣士「いつも思うのだが、私達にわかるようにだな……」

男「すまん。要は、機械――鉄と魔物の融合体だ。並の攻撃じゃ効かないし、怯まない。力も相当なものだろう」

少女「じゃあ、どうすれば……」

男「セオリー通りなら口の中とか内蔵とか……」

盗賊「そんなもんねぇぞ?」

男「抜かりないな……流石、女さんだ」ボリボリ

男「まぁ、考えておくから、適当に攻撃しておいてくれ」

盗賊「はぁ?」

剣士「まぁ、仕方あるまい」ダッ

少女「無駄に戦わせる気?」

男「そこの二人は剣士さんを見習って欲しかったんだが」

男「大丈夫。基本的に間接は弱点になり得るから、そこを重点的に狙ってみてくれ」

盗賊「仕方ねぇ」ダダッ

少女「あんたは?」

男「俺は弱いからな。頭使うのと――」

男「遠距離攻撃専門だな」ウィーン カシャッ

機械獣「グギ……グギギ」ガスンッ ガスンッ

勇者「でかいし力は強いし」

盗賊「厄介だな。隙だらけなんだが」

機械獣「ガガ……ガガグゲ……」キュイーン…

男「!? 奴の“目”の直線上から避けろ!」

少女「えっ、何?」

機械獣「ゲゲゲゲ!」

チュイーンッ!

剣士「!」

勇者「少女さん!」


盗賊「……ったく、危ねぇ」

少女「た、助かった……」

盗賊「礼は後だ。体勢立て直せ」

少女「わかってるよ」スッ


剣士「……大丈夫か」

機械獣「ギギャギャギャッ」ガィンガィン

勇者「男さん、まだわからないのか!」

男「……いや、確証はないが」

勇者「それでも良いから!」

男「多分、さっきビームが出たところ。“目”が弱点だ」

盗賊「間接じゃねぇのか?」

男「あぁ、そこは意味ないってわかったし」

盗賊「はぁ!?」

男「冗長系って知ってるか? 一部壊れても全体は動くように――」

剣士「つまり、足とか切っても意味はないんだな。“目”をどうすれば良いんだ!」

男「少女さん、って言うんだっけ?」

少女「……何?」

男「その槍、投げれるかな?」

少女「?」

少女「あー、大丈夫だけど。安物だし」

少女「まさかあそこに向かって投げろって事じゃないよね? そんな命中ないよ」

男「大丈夫だ。盗賊が修正してくれる」

盗賊「はぁ? 無茶言うな!」

男「出来るよな」

盗賊「いや、そんなの――」

男「よし、次」

盗賊「おい!」

男「次は剣士さんだが、持ち前の速さであれを上って――」

剣士「ちょっと待て」

男「――槍をしっかり打ち込んで欲しい」

剣士「ちょっと待て。それは無茶と言うもので――」

男「で、次だが」

盗賊「おい」
剣士「話を聞け」

男「なんだ。これしか思いつかないんだが」

少女「ま、まぁ、やってみようよ」

盗賊「……失敗しても文句言うなよ」

剣士「危険なら離脱するが良いだろうな」

男「勿論だ」

男「では、やってみようか」

勇者「……本当にやるのか?」

男「出来なければ、何とかぶっ壊すだけだ」

少女「じゃあ、やってみるけど……ふっ!」ヒュンッ

機械獣「ギギギ……!」ガシンッ ガシンッ

盗賊「動いてる相手のあんな小せぇ所に当てるとか、無理な事を……」ヒュッ ヒュッ

カツンッ カツンッ

男「そう言ってる割には上手い軌道修正じゃないか」

盗賊「てめぇ、人の苦労も知らねぇで……!」ヒュッ

勇者「だが、思った以上の成果だと思うけどな。剣士!」ガキンッ

カツンッ

機械獣「グギギギ……」

剣士「承知した! はぁああっ!」カカカカカカンッ

少女「凄い……槍がどんどん打ち込まれてる……」

盗賊「あれで身じろぎしねぇこの魔物もおかしいもんだがな」

剣士「このくらいで良いか?」シュバッ

男「十分だろう。勇者さん!」

勇者「ああ、任せろ。……“雷撃”っ!!」

バババババッ

機械獣「ギギッ……グギギ……」

勇者「……」

機械獣「ギギ……キュイッ」

剣士「大丈夫……なのか……?」

盗賊「さっきとは違う変な音なったぜ?」

機械獣「キュイッ……キュルルル……」

男「大丈夫だ。多分」

少女「多分って……」

機械獣「キュルルル……キュイィィィイ……」

機械獣「」ドスンッ

勇者「……動かなくなった、のか?」

男「……そのようだ」


魔法兵「こ、これは……!」

剣士「警鐘を鳴らして随分経ったはずなのだが、遅かったな」

魔法兵「勇者様に剣士様!? も、申し訳ありません。これには……」

勇者「いや、もう大丈夫だ。見ての通り終わった」

魔法兵「それは良かった。大臣様も既に安全な場所に……しかし……」

勇者「わかっている。喪式の日程は大臣が決めるだろう。じゃあ、後処理は頼んだ」

魔法兵「わかり――」

勇者「ああ、それと」

魔法兵「?」

勇者「そこにいる槍使いの……少女って言うんだが、牢に入れておいてくれ。王宮中に倒れている仲間と一緒に」

盗賊「おい、それは今やる事じゃ……」

勇者「形式的なものだよ。今とかそういうのじゃない」

少女「……あたしは大丈夫。むしろ、死刑になっても納得出来るよ」

盗賊「てめっ……!」

少女「さて、あたしは誰が連れて行ってくれるの?」

魔法兵A「では私が……」

勇者「頼んだ。さて、俺達は撤退しようか」

(数日後、白国王の喪式の日)
――白の街、中央広場

「――であり、彼の方は天よりいつ何時も我らを――」

グスッ ヒック

「白国王様……」
「我らは良き王を亡くしたのか……」
「……これから」
「どうなるんだ……」

グスン グスッ


勇者「……」

盗賊「おう。やっぱり来てたか」

勇者「お前も来たのか。どういう領分だ?」

盗賊「おいおい。来ちゃいけないってのか? 王様ってのはそれだけで万人に尊ばれる存在なんだぜ」

勇者「言ってろ。別に咎めはしないし、白国王様もお喜びだろう」

盗賊「盗賊が葬式に来て喜ぶ王か」

勇者「お前はあの日、警鐘を聞いてすぐに駆けつけただろう。それだけで、王にとっては勇者の一人だよ、きっと」

盗賊「……本物に言われちゃ敵わねぇな」

盗賊「しっかし、葬式だってのに祭りみたい……ってわけじゃねぇか。雰囲気はしっかり葬式してやがるしな」

勇者「なんで中央広場でやるのか、って言いたいんだろ」

盗賊「俺はそこらの廃れた盗人とは違ぇんだよ。そのくらい知ってるぜ」

勇者「ほう」

盗賊「あの棺桶が前に置いてある六角時計――まぁ、街の連中は口に出すのもためらうみてぇだし、禁忌みたいなもんだが」

盗賊「あれ、王族の墓なんだろ」

勇者「本当に知ってたんだな。だが、禁忌って言うか、声にわざわざ出して言うのは罰当たり、って言うのかな」

盗賊「なんて言うか、俺が言いたかったのはな」

勇者「……」

盗賊「この国の王族ってのは、国民から慕われてるだけじゃなく、連中を心から信頼してんだな。って事だ」

勇者「……ああ。この国は、そうやって成り立ってるんだ」

勇者「ところで、男さんはどうしてる?」

盗賊「あいつらの言う、数学ってやつなのかな。暗号みたいな文字並べて、紙を無駄にしてる」

盗賊「端から見ればいつも通りなんだがな」

勇者「少しショックを受けていると言う事か」

盗賊「だが女は生きているし、今は魔王に預けているみてぇなもんだ」

盗賊「死んでるわけじゃねぇし、戻ってこないわけでもねぇ」

盗賊「で、剣士の奴こそどうしたんだ。こういう所には率先して顔を出すと思ったんだが」

勇者「あー……狂人のお守りしてる」

盗賊「連れてこねぇのか?」

勇者「狂人を連れてきたら、喪式の雰囲気を壊すかもしれないから。そういう配慮だ」

盗賊「あぁ……」

勇者「剣士も最後の挨拶に来れなくて残念そうだったんだけどな」

盗賊「その姿勢は男にも見習って欲しいもんだ」

勇者「彼は、いかにも物ぐさって感じだから」

大臣「おやおや、そこにいらっしゃるのは勇者殿と……」

勇者「ああ、大臣。そう言えばしっかり紹介してなかった気がしますね。腐れ縁で仲間になった盗賊です」

盗賊「どうも」

大臣「盗賊。ああ、そうでしたな。先日は助けに来て下さり、感謝申し上げる」

盗賊「困ってるなら助ける。当たり前の事をしただけだ」

大臣「勇者殿、勇者殿」チョイチョイ

勇者「?」

大臣「顔と言っている事が違う気がしてならないのですが」ヒソヒソ

勇者「実は前は盗人をしていた奴だが、そういうのは気にしないでやってくれ」ヒソヒソ

盗賊「おい、なんか失礼な事話してねぇか?」

勇者「ところで大臣、こう言う場で話す事じゃないと思いますが」

大臣「何でしょう」

勇者「次の王位は誰が?」

大臣「姫様になるでしょうな。現王族はあの方しかおりませんし、白国王の遺言でもある故」

勇者「やはりそうなるのか……。でも大丈夫なのか?」

大臣「どうでしょうね……あの方はいつどこに放ろ――もとい、巡礼されてるは良く掴めてないですし」

勇者「だろうな」

大臣「従者からは常々報告の頼りを送らせてありますので、ひとまずは最後にいた所へ使いを行かせましたが」

勇者「そうか。今日とは言わないでも、継承式までには間に合うか」

大臣「かと思います。何事も恙なく進められるよう手配しておりますので」

大臣「ところで、勇者殿方も花を添えてはいただけませぬか。白国王様もその方が喜ぶかと」

勇者「なら、そうさせてもらおうかな」

盗賊「俺も良いのか? そういうのは王に近い連中か上流貴族くらいだろ」

大臣「私が許しましょう。王様もその方が喜ばれると思って」

盗賊「……そうかよ」

「おい、あれは……」
「勇者様だ」
「勇者様……」
「王を追悼する勇者……これは絵になる」
「まさかこんな事になるとは、勇者様も思わなかっただろうな」

勇者「……白国王」

白国王「」

勇者「安心して眠って下さい。あなたの命は、この命を落とそうと必ず遂げてみせます」サッ

勇者「……」

「……悲しんでおられる」
「でも泣いてないぞ」
「馬鹿。我慢してるんだよ」
「そうだな。簡単に涙は見せられねぇ」
「絵になるなぁ……」
「――ってやつか」

勇者「……あれ? 教皇様、少し宜しいですか」

陽翔教皇「何ですかな」

勇者「白国王様がまだ王冠を被ってますが、もしや」

陽翔教皇「いえいえ、それは装飾です。最後まで王は王たるべきですから」

白羽教皇「無論、埋葬する前に外し、継承式で使えるように致します」

勇者「そうですか。些細な事を聞いて申し訳ない」

白羽教皇「いえ」

光夜教皇「彼の御霊が共にありますよう」

「おい、勇者様の次の奴、誰だよ」
「見るからにヤバそうな奴だぜぇ」
「いや、あれ悪人だろ」
「知らないのか。あの人いい人だよ」
「そうなの? ってか知ってるの?」

盗賊「……」

白国王「」

盗賊「俺から言えるべき事は特にねぇが……」

盗賊「守れなくてすまなかった。じゃあな」ポイッ

「おい、あいつ花を投げやがった!」
「なんて奴だ!」
「これは絵にならない」
「お前らうるさい。気持ちはわかるけどよ」

盗賊「こんなもんで良かったか?」

勇者「ああ、上出来だ。最後のはもっと丁寧にすべきだったけどな」

盗賊「出来るかよ」

勇者「何でだ?」

盗賊「……恥ずかしいんだよ」ボソッ

勇者「ほう」ニヤニヤ

盗賊「で、棺桶の脇にいた三人の坊主って」

勇者「察しが良いな。三大教会の教皇達だ」

盗賊「大変だな」

勇者「仕事だし、俺としてあの方達も悔やんでくれている事と願いたい」

ザワ…ザワザワ…

盗賊「?」

勇者「どうした?」

盗賊「いや、何か騒がしくなったと思ってな」

ガヤガヤ…ガヤ…

勇者「本当だ。……こっちだ」

?「ほら、ほら! さっさとどいて! 前、開けて!」

??「ちょっと待って下さい! 強引すぎます!」

?「はぁ? 今そんな事言ってる場合じゃないでしょ。わかる?」

??「え、えぇ、承知してますが……」

盗賊「な、なんだ……?」

勇者「人混みが割れていってるな。見に行かなくてもそろそろ見えるかもしれない」

盗賊「そういう問題なのか?」

「な、なんだよ……」

??「すみません。道を開けて下さい」

「どういう事なんだ?」
「あんた達なんだよ」
「仮にも葬式だぞ。汚ぇ服しやがって……」

?「服とかどうでもいいの。旅の帰りなんだから」

?「ほら、それより早く開ける! 早く動く!」パンパンッ

勇者「……あ」

盗賊「どうした? あの連中を知ってるのか?」

勇者「いや、最後に会った時とは随分違うが、面影が十分ある」

勇者「多分、白姫だ、あれ」

白姫「ん? 誰か呼んだ?」キョロキョロ

白姫「――あ」

勇者「あ……」

盗賊「こっち見てるぞ。どうするんだ?」

勇者「どうするも何も……」

白姫「従者、時計までの道の確保任せたわ」

従者「えぇ!?」

白姫「四の五の言わずやって。私、少し寄り道するから」

従者「寄り道って……あぁ、もしかして。はい、わかりました」

従者「皆さん、道を開けて通して下さい。すみません、通して下さい!」

白姫「……」スタスタ

「あそこにいるの、勇者様じゃないか?」
「一人が勇者様に近付いていってる? なんで?」

白姫「……勇者ね?」

勇者「まさかとは思うが、白姫だな」

白姫「ええ。久しぶりね」

勇者「何年ぶりだ? 十年? 二十年?」

白姫「そんなに経ってないわよ。精々、八年ってとこ?」

勇者「まぁ、久しぶりには変わりないか。いや、ここは『お帰り』と言う所か」

白姫「帰ってくるのも久しぶりだしね。ええ、ただいま」

シーン…

「あれ? 今、勇者様はなんて言ったんだ?」
「“白姫”って……」
「もしかして、姫様……?」

勇者「しかし、なんて格好してるんだ」

白姫「前は虫酸が走るくらい嫌だったけど、慣れたわ」

勇者「あのな……そういう問題じゃなくてだな……」

白姫「ぷっ。困った時にする口癖、治ってないわね」

勇者「うるせぇよ」

白姫「急いで戻ってきたから、着替えてる暇なかったの。わかる?」

勇者「わからないでもないが」

白姫「勇者、あなたとは色々話したい事が他にもあるんだけど……」

勇者「ああ、わかってる。ほら、もう通れるようになったみたいだし」

白姫「じゃ、また今度ね」クルッ

勇者「ああ」

スタスタスタ…

盗賊「あれが、この国の姫様か?」

勇者「まぁ、そうだな」

盗賊「旅って、今まで何してたんだ?」

勇者「特に何も。ただふらついてただけ」

盗賊「はぁ?」

勇者「……そういう奴なんだ」

大臣「お帰りなさいませ、姫様」

白姫「ただいま、大臣。アレは、そこの棺の中?」

大臣「ひ、姫様。白国王様を“アレ”などと……」

白姫「良いの良いの。私にも無様な死に顔を見せてもらおうじゃない」

大臣「姫様、民衆の前ですぞ!」

白姫「良いの良いの」ヒラヒラ

「あれが……姫様?」
「昔はもっと可愛らしかったのにのぉ」
「罰当たりな……!」

白姫「さて……」

白国王「」

白姫「……」

大臣「……」

「「……」」ゴクリ

白姫「はぁ……バカみたい」

大臣「なっ……!」

陽翔教皇「……」

白姫「ああ父上、こんな事で死んでしまうとは情けない」

大臣「いくら姫様でも言葉が――!」

白姫「あら? この王冠って一緒に埋めるの?」

光夜教皇「いえ、継承式にて受け継いでいただくため、埋葬の際にはこちらに残しておきます」

白姫「そう。なら、別にいっか」ヒョイッ

白羽教皇「な、何をなさいますか!?」
大臣「姫様!?」

白姫「何って、どうせ私がもらうものでしょ? 今もらっても問題ないでしょ」

大臣「しかs――」

白姫「白の国国民及びその他の者も良く聞け! 本日をもって私、白姫が、父上白国王に代わり白の国国王に継承する!」

「「……!」」

白姫「これからは私の言葉が全てだ! 父上のように甘くはない。覚悟しておけ!」

白姫「……こほん。以上! 従者、行くぞ」スタスタ

従者「え、あ……え? あ、はい」トタタタッ

大臣「ま、待って下され姫様! 今のはあまりにも――」

勇者「今回は許してやりましょう、大臣」スッ

大臣「ゆ、勇者様……しかし……!」

勇者「大臣は見えなかったかもしれないけど……」

勇者「白姫が棺桶の前に立った時、一瞬、泣いてました」

なんか元気だな最近
一体どうしたんだ!?何かあったのか!?

>>314
元気で良いじゃないか……。

まぁ、何かあったといえば大した事もなくあったとも言えるけど。

――魔の国、魔王城

女「....happy birthday to me. happy birthday to me♪」

女「happy birthday dear 私♪」

女「はぁ……」

ヒュオォォ…

女「....happy birthday to me」ポツリ

影将軍(その歌は?)

女(誕生日の歌。こっちでは祝わないんでしたっけ、誕生日)

影将軍(うむ。毎年のように祝っておったらキリがないからな)

影将軍(して、今日がお主の誕生日なのか。習慣がないとは言え、ここは祝うべきか?)

女(……いえ)

影将軍(?)

女(今日は、推定誕生日なんですよ。だから祝わなくても大丈夫です)

影将軍(推定、とな?)

女(私がいた所と時間の進み方が違うかもしれませんし、わかってるだけでも数え方は違います)

女(だから、私の世界の時間のままなら、今日が誕生日)

影将軍(ふむ……。数え方はともかく、時間の進み方が違うとはいまいち理解し難いものだな)

影将軍(見張りの夜が眠りの夜より長く感じるようなものか?)

女(違いますけど……それでも良いです)

影将軍(お主、まさか馬鹿にしてはおらぬだろうな?)

女(まさか)

影将軍(はぁ……私もどうしてこのような小娘に憑いてしまったのか……)

女(魔力を持ってないからですか?)

影将軍(訳のわからん戯れ言に良く付き合わされるからだ)

女(戯れ言とは酷い事を言いますね。実のある事ない事を楽しく話しているつもりですけど)

影将軍(それを戯れ言と言わずして何と言うか)

女(あはは、本人が思ってなければ違うんですよ)

女(まぁ、でも……実はですね、私は感謝してるんですよ。あなたは迷惑してるかもしれませんが)

影将軍(お主も迷惑しているのではなかったのか?)

女(最初はしていましたし、何か憑いてるなんて気付いた時は本当に怖かったです。でもですね)

女(あなたが憑いてくれなかったら、亜法を調べる事が出来なかったかもしれませんし)

女(何より、魔王さんを、他の魔族の皆さんも先入観で悪者と思い込んでいたはずです)

女(こうやって話してみたら、影将軍さんも忠誠心がおかしいくらい高いくらいで、ただのいい人じゃないですか)

影将軍(よくもそのような恥ずかしい事を言えるな)

女(言ってるんじゃなくて、“思っている”んですけど)

影将軍(また揚げ足を取りおる……)

女(本当は……教授や勇者さんにも見せてあげたいですよ。ここから見える、平和な街の営みを)

影将軍(……)

カツカツカツカツ…

側近「ここにいらっしゃいましたか、女様」

女「……側近さん、何の用ですか?」

側近「それはこっちの台詞です。何故、このような場所に?」

女「このテラスは、城内で一番良い風が当たりますから」

側近「そのような事を聞いているのではありません。あなたの仕事お忘れですか?」

女「休憩も大事ですよ。研究所の皆さんにも、いつもそう言ってます」

側近「……やはり、あなたの仕業でしたか」ゴゴゴゴ

女「落ち着いてもらえませんか?」

側近「これが落ち着いていられるとでも?」

側近「だから部外者を信用してはいけないと言ったのです。最近の彼らは目に見えてたるんでいます」

側近「内部崩壊を目論んでいますね」

女「いえ、そんなつもりは――」

側近「問答無用! “雷そ――!」

ガシッ

側近「!?」

魔王「よさぬか。何を仲間割れしておる」

側近「魔王様……」
女「……」ホッ

側近「何故、このような部外者を信用するのですか」

魔王「以前も言ったであろう。女の中には影将軍もいる。抵抗も出来まい」

側近「しかし、現に……」

魔王「研究所の体制が変わったようだな。だが、どうだ。確かにより多くの休養が与えられたが、滞りなどあるまい」

女「むしろ、前にも増して気分良く仕事が出来ると好評ですよ」

魔王「……だそうだ」

側近「……そうですか。それでは私の思い違いのようでした」

側近「ですが、あなたはすぐに戻るべきです。何せ、今の所長はあなたですから」

女「あー、そうですね。では戻りましょうか」

魔王「いや、その事なんだが、我は女を呼びに来たのだ。用事があってな」

女「じゃあ、そちらを優先した方が良いですか?」

魔王「そうしてくれるとありがたい」

側近「私も手伝いましょうか」

魔王「お主は自分の仕事に専念せよ」

側近「しかし……」

魔王「期待しておるぞ」

魔王「では、行くぞ」スタスタ

女「はい」スタスタ

女「それで、用事は何でしょうか、魔王様」

魔王「もう側近はおらん。呼び方を戻しても良いのではないか?」

女「こういうのは癖を付けておいた方が丁度良いんですよ。それにいつどこで誰が聞き耳を立てているかもわかりませんし」

魔王「うむ……そう言うなら致し方ない」

魔王「それで、頼みたい事なのだがな。本の翻訳を頼みたいのだ」

女「もしかして、先日白の国の王宮で盗んだあれですか?」

魔王「うむ」

女「帰ってから意気込んで『この程度我に掛かればどうという事はない!』と言ってそのまま自室に持って行った、あれですか?」

魔王「……う、む」

女「はぁ、仕方ないですね。でも期待はしないで下さい」

女「私だってあの古代語を習得出来ている自信がありません。こういうのは公爵さんの方が適任じゃないですか?」

魔王「白公か……。いや、あやつとの接触は出来るだけ避けるべきだと思うてな」

女「そんなの魔王様にかかれば揉み消せるでしょう。今までみたいに」

魔王「やり過ぎるのは、上手い手とは言えぬ。だろう?」

女「そうですね。白国王様を殺した事も、そうです」

魔王「……時には、手際を考える余裕もないのだ」

女「そう言えば、白の国の時期王様が決まったそうですね。白国王の娘さんの、白姫って言う人」

女「望み通りの結果ですか?」

魔王「まぁな」

――白の国、白の街、王宮

騎士「――今、何と?」

白姫「父は死んだ。どうやら魔王に殺されたらしい」

騎士「らしいって……」

白姫「七日前くらいだったかな。私が帰ってくる五日前くらい?」

大臣「正確には、九日前でございます」

白姫「ああ、そう」

騎士「姫様は、悲しくないのですか?」

白姫「全然」

大臣「ひ、姫様!?」

騎士「……」

白姫「あと、さっきから言ってるけど、“姫様”なんて固く呼ばなくてもいいのよ」

白姫「どうせ、今は大臣以外に臣下がいないんだし」

騎士「では、白姫。私から一つ申し上げます」

白姫「どうぞどうぞ」

騎士「……強くなりましたね」

白姫「……」ピクッ

騎士「君の耳たぶをいじる癖、治ってない」

白姫「あー……はは……。これは痛いとこを。勇者の事言えないなぁ」

騎士「勇者にも会ったのですか?」

白姫「ええ。父の葬式の日に」

白姫「二人とも元気で何よりよ」

騎士「そちらこそ」

白姫「そうそう。魔王に荷担した人達は地下牢に閉じ込めてあるんだけど、会っていく?」

騎士「そんな簡単に良いのですか?」

白姫「信頼してるから」

騎士「そうですか。では、面会させてもらいます」

白姫「じゃあ、また明日ね。報告ご苦労様」

うん、これって……最初の設定が……干渉し過ぎでは……ま、いっか……


おつ!

>>326
な、何……? また何かやらかしたか?

牢番「つかぬ事をお聞きしますが」

騎士「何だ?」

牢番「罪人達と会ってどうなさるつもりですか」

騎士「どうだろうな。流れで殴るかもしれないな」

牢番「ご冗談を! 彼らは牢に入っているのですよ」

騎士「牢ぐらい壊すさ」

牢番「……こ、困ります」

騎士「冗談だ。大した事はしない。ただ、話をしようと言うだけだ」

牢番「そ、そうですか。では」

騎士「ああ」


カツン… カツン…

少女「……?」

副長「誰か、来ましたね」

「どうせ見回りだろ」

「ああ、飯はまだだろうからな」

カツン カツン

騎士「君が少女かな?」

少女「……何の用? 牢番の人じゃないみたいだけど」

騎士「私は騎士という。白蛇騎士団の長を任されてる身だ」

少女「白へ――!?」

副長「そんな精鋭部隊の隊長さんがなんで……!」

少女「そんな事より、なんであんたみたいなのがここにいるの? だって……!」

騎士「竜の国で戦争をしてたはずなのに、か?」

少女「っ……」

騎士「あの戦争は終わった。思いも寄らない形で、だったがな」

少女「終わっ……た? 勝ったの、負けたの?」

騎士「……その前に、謝らせてくれないか」

少女「どういう、事?」

少女「ま、まさか負けたんじゃ……!」

騎士「そう焦るな。姫様と大臣様から、君の事は聞いている」

騎士「傭兵長の娘、だそうだな」

少女「そうだけど……何?」

騎士「あの戦争――巷で言う“最終戦争”は失うものが多すぎた」

騎士「私も多くの大切な人達を失った。傭兵長も、その一人だ」

騎士「ただ、私はこの戦争で、彼ら死んでいった者達に報いる事が出来なくてな。だから、まずここにいる君に謝りたい」

騎士「君の父上の死を、無駄にしてしまった。すまない」

少女「……で?」

騎士「?」

少女「勝ったの? 負けたの?」

騎士「……どちらでもない。強いて言うならば、どちらも負けたのだろう」

少女「どういう事?」

騎士「……いずれわかる事だ。先に君達に話しても良いだろう」

少女「話して」

騎士「君の父上の死因、知っているかな?」

少女「勿論よ。魔族が送り込んだ鉄の魔物が出す光線に焼かれたって……」

少女「多分、あたしが勇者達と戦ったあの魔物と同じやつね」

騎士「そう。竜の国はその魔物を主戦力にしていた。私達も必死で戦ったが、それでも被害はあまりにも多かった」

騎士「だが、十分に勝機のある戦いだった。だから私達は戦い続けていた」

少女「……知ってる」

騎士「だが、ある日突然、戦いは終わった」

少女「え?」

騎士「竜が来たんだ」

少女「竜って、あの竜?」

騎士「そうだ」

少女「でも伝説上の生き物なんじゃ……」

騎士「どうやらそうではなかったらしい」

騎士「まず竜が一匹やって来て、戦場で暴れ始めたんだ」

騎士「青い竜だった。その美しさに思わず一瞬見とれてしまったが」

騎士「奴は、敵味方構わず暴れ、敵兵を薙ぎ、魔物達を踏みつぶし、味方の兵達を噛み殺した」

少女「……」

騎士「その後、黒い竜が来て、青い竜を追い払って去って行った」

騎士「だが、気付けば全てが終わっていた。我々の兵も多少生き残った程度で、相手も壊滅状態」

騎士「戦場は、それ以上に地獄と化して、終わった」

少女「……」

騎士「……」

少女「……それは、仕方ない、か」

騎士「何がだ?」

少女「うーん……なんて言うか、父さんが無駄死にとかどうとか。だって、竜がいきなり暴れてどっか行ったんでしょ?」

少女「天災みたいなものだし、仕方ないよ」

騎士「だが……」

少女「それよりあんた、そんな罪人に情けかけて良いの? この国の王様殺しに来てたんだけど」

騎士「それまでの経緯も聞いている。元々、殺すつもりはなかったのだろう」

少女「それは、ちょっと違うかな」

騎士「では、白国王様だけ殺すつもりだったのか?」

少女「違う」

少女「あたしは、この計画を自己満足するためだけにやってたの」

少女「そのために、他のみんなに迷惑かけたけどね」

騎士「ふむ……」

副長「そんな……俺達は……」

少女「父さんが死んだのは鉄の魔物が現れたから。その前に、魔の国と決着をつけてれば良かったのに」

少女「だからそんな事をしなかった人達に『自分は間違っていた』『この決定は苦痛だった』って言ってもらうために」

少女「それだけ言ってもらえれば、十分だった」

騎士「もし、そうでなければ――君の父上やそのような人達の事を駒としか思っていなければ、殺していた、と」

少女「……」コクッ

騎士「そうか。だが、そのような事は、君の父上も望んでいないはず。それは――」

少女「わかってる。さっきも言ったけど、これは自己満足だから。父さんに関係なく、あたしのケジメだから」

騎士「……」

少女「よく、復讐なんて虚しいだけだからやらない方が良い、なんて言うでしょ」

少女「あれは死んだ人のためにやるから虚しくなるんだ。あたしみたいに全部自分のためにすれば、すっきりするのに。でも――」

少女「今は、ちょっとわからないかな……」

騎士「仕方ないさ。まさか魔王の手の上にいたとは思うまい」

騎士「君もそう思うだろ?」

少女「……どっち向いて言ってるの」

騎士「気付いてないのか? そこに盗み聞きをしている奴がいるんだ」

少女「盗み聞き?」

盗賊「……ったく。いつから気付いてやがった」

騎士「ずっとだ。私が入った時からいただろう」

少女「……来てたんだ」

騎士「? その口振りでは今までも何度か来ているようだな」

副長「ここ毎日来てるな。で、頼んでたもの持ってきてくれたか?」

盗賊「何言ってんだ、てめぇ。酒なんて持ってくるわけねぇだろ。バレたらどうする」

副長「バレてるから……」

騎士「酷く悪人面だが――」

盗賊「ほっとけ」

騎士「悪さをしようと言うわけではなさそうだ。しかし、どうやって入った? 外には牢屋番がいるのに。何者だ?」

少女「このおじさんは盗賊って言うの。住んでる周辺は調べないと気が済まないんだって」

盗賊「裏道の一つや二つくらいは知ってるぜ」

騎士「盗賊……あぁ、見覚えのある顔と思っていたら、やはりそうか。黒の国の件では世話になったな」

騎士「で、今回は裏道の手引きをした罪があったが、一般人の身で警鐘を聞き駆けつけた事で大臣様から免罪されたと言う強運者だな」

盗賊「一件の事はもう聞いていたのか。早いな」

騎士「主が亡くなってのうのうと生きていけるはずもあるまい」

騎士「で、君はここに来て何をしているんだ。脱獄させようと言うようには見えん。自分も牢に入ろうとしているようには見えるけど」

少女「あ、わかるんだ。こいつ見た目と違って小心者なんだよ」

少女「『一番悪いのは俺だ。俺が裏道を教えてなけりゃ……』って」

騎士「そんな事を言ってたのか? そんな柄には見えないが」

少女「そうそう。あたしもびっくり!」

盗賊「う、うるせぇ!」

少女「……ま、冗談はおいといて。あたし達が昔の仲間と重なったんだって。雰囲気が」

騎士「ふむ」

盗賊「てめっ……!」

少女「良いでしょ。減るものじゃないんだし」

副長「そうだぞ。とまぁ意味のわからん理由で親しまれてな。いつも外の噂話とか話してもらってんだ」

少女「ここは娯楽もないし、正直助かってるよ」

盗賊「……熱でもあるのか?」

少女「はぁ? 正直に感謝してやってんのに何なの!?」

騎士「仲良くやっているなら良い。抜け道で入って来てるくらい、問題にならなければ私は許す」

盗賊「話がわかる奴で良かったぜ」

騎士「だが、またその抜け道を誰かに漏らさないよう気を付けろ。何処を使ったかは知らないがな」

盗賊「わかってる。何なら王宮に続く裏道全部教えてやっても良い」

騎士「ふむ……いや、私は遠慮しておこう。しかしまたの機会にでも大臣様くらいには教えておいても良いだろう」

盗賊「白姫には?」

騎士「あまり姫様を呼び捨てにしては……。必要とあれば大臣様からお教えになるだろう」

盗賊「納得した」

騎士「……ああ、そうだ。君は勇者と関わりがあるのだったな」

盗賊「あいつがどうかしたのか?」

騎士「ああ。姫様から特別に任務が与えられるから、明日にでも謁見しに来るように伝えてくれ。今日でも良い」

盗賊「特別、ねぇ。突然って事はさっきの話と関係があるのか?」

騎士「そうだな。君も行くか?」

盗賊「……いいや、勇者に頼まれても遠慮するな。今回は、用事が出来たんだ」

騎士「ふむ。そうか。黒の国で活躍してくれた君達がいれば心強いと思ったのだが」

盗賊「そりゃ残念だったな。ここに来たのも暫く顔を出せねぇって伝えるためだったんだ」

少女「えっ」

盗賊「後で詳しく話す」

盗賊「勇者には今日中に伝えておくから、心配すんな」

騎士「ああ、頼んだ」

(翌日)
――侯爵家屋敷

勇者「朝早くから誰かと思えば……」

盗賊「おう」

男「……おはよう」

勇者「二人揃って何の用かな。まだ日も上ってきたところなのに」

盗賊「昨日話しただろ。そろそろ行こうと思ってな」

勇者「あぁ、男さんも行くんだ」

男「ちょっと煮詰まっててな。息抜きも必要だ」

勇者「蓮花の町に行くんだっけ」

男「らしいね」

勇者「俺は行った事がないんだけど、まぁ国自体は良いところだよ」

男「良いところでも魔物はいるみたいだがな。本当、どこにでもいる」

勇者「人が住む所に被害がなければ殆ど黙認されてるけどな」

勇者「実際は見えるよりも多くいる。今までの旅で俺はそれを見てきた」

勇者「そういうのは街中から外れた所で無防備になっている少人数の隙を見て襲ってくる。向こうも結構賢いよ」

勇者「まぁ、何が言いたいかって言うとだな……気を付けて行ってきてくれ」

男「わかってる。それはお互い様だろうしな」

盗賊「そっちは、結局一人なのか」

勇者「どうだろうな。他に兵士の何人かくらいはつけて欲しいものだけど」

男「剣士さんは?」

勇者「一人で行きたい所があるって昨日出て行った」

男「……あー」

勇者「何でも女兵寮の寮長さんのツテに良い養児施設があるらしくて、そこへ一時的に預けるらしい」

盗賊「気になったんだが、施設に預けるんなら最初からそうすれば良いと思うんだが」

勇者「剣士は狂人をかなり気に入ってるからな」

勇者「『寮長の紹介なら安心出来る』って凄い笑顔で言ってたし。一人旅に行くにも一番狂人の処遇が心配だったんだろう」

勇者「しかし、あなた達も律儀だな」

盗賊「へ?」
男「何が?」

勇者「出発の前に挨拶に来るなんて」

盗賊「あぁ、違うんだ」

勇者「?」

盗賊「馬を借りてぇんだよ」

勇者「は?」

盗賊「俺達は転移魔法が使えねぇからな。あれ、どこにやった?」

勇者「あ、あぁ……一応屋敷の馬倉にいるけど……」

勇者「えっ、もしかしてそのために来たのか?」

盗賊「それ以外に何がある」

男「大丈夫。俺はしっかり挨拶に来ただけだ。馬を借りに来るって言う“ついで”があったからな」

勇者「借りに来る必要がなかったら来ないんだな」

男「まぁ、そうだな。盗賊が昨日の中に要件は伝えてあるし、何より朝早くは迷惑だろ」

勇者「あれ……おかしいな。内容は同じなのに男さんの方が常識的に聞こえる」

男「酷いな。まるで俺が非常識に聞こえるんだが」

勇者「そうは言ってない。確かにまだ文化の違いとかたまに見え隠れするけど」

盗賊「そう言う意味で非常識ってのも言えるな」

男「こっちにも慣れたつもりなんだけどな……」

勇者「いや、そういう事じゃなくて、多分、あれだよ」

勇者「最近盗賊の方が常識人ぶってる」

男「成る程」

盗賊「それは喧嘩売ってんだよな。間違いねぇよな?」

ヒヒーン

勇者「あまり体調管理はしてないけど、手入れはしっかりしているから大丈夫だろう」

盗賊「十分だ。助かる」

勇者「男さんは馬の管理とか経験ないんだっけ」

男「そうだな。移動手段に馬はあまり主流じゃないんだ」

盗賊「自動車ってやつだっけ?」

勇者「男さん達はどんなものを使ってるのか興味はあるんだけどね」

男「バイクとか作ってみてやっても良いけど、街中は危ないからな。今度暇な時に自転車でも作ってみよう」

勇者「楽しみにしてるよ」

盗賊「まぁ、馬の管理は俺がしてやるから安心しな」

勇者「そういう事にしておこうか」

男「そう言えばこいつ以外に馬っているんだよな」

勇者「ああ。これより良い馬ばかりだぞ」

勇者「と言っても全部侯爵家のものだからな。俺の一存で貸せない」

男「借りようとしたわけじゃないけど……何と言うか、流石だな」

盗賊「何匹いるんだ?」

勇者「そうだな……十五頭くらいか?」

男「そんなに必要なのか?」

勇者「いや、体調によって使い分けてる事もあるけど、財力誇示って意味もあるからな」

勇者「そう言う意味では、他の貴族と比べれば控えめな方かもしれない」

勇者「白国公爵とかは例外で、必要最低限しか持ってないらしいけどな」

盗賊「こうやって話してると、やっぱりてめぇも貴族なんだな」

勇者「あれ、そんな大層な事話してたか?」

盗賊「そうじゃねぇが……雰囲気がな」

勇者「そういうものかな? あぁ、そうだ。荷車も必要だな。持ってこよう」

盗賊「……よし、こんなもんか。いやいや悪いな。馬も荷車も貸してもらって」

勇者「お前が借りに来たんだろうが」

男「図々しくて申し訳ない。歩いて行っても良かったんだが……」

勇者「いや、別に良いよ。あなた達なら多少の無茶も聞いて良いと思ってるから」

勇者「盗賊も悪い奴ではないってもう知っているからな」

男「人は見た目じゃない。その一例だ」

勇者「全くだ。ははは」

男「HAHAHA!」

盗賊「……釈然としねぇ」

勇者「まぁ、なんだ。大丈夫だろうが、気を付けて」

男「そちらも」
盗賊「てめぇもな」

ヒヒーン ガラガラガラ…

勇者「……はぁ」

勇者「さて、出発までもう一眠りするか。……ん?」

「あら、勇者様。おはようございます」

勇者「あぁ、使用人の。おはよう」

「いつもお早いですが、今日はいつもよりお早いですね。さっきの方達と何か?」

勇者「馬を借りに来たんだ。この前の旅から持って帰ったやつだ」

「ああ」

勇者「あなたはこんな朝早くに来てたのだな。確か家族がいたはず。大変だろうに」

「いえいえ。長男様、次男様、勇者様のご成長を見守るのも私の楽しみでございますから」

「……それはそうと、少し勇者様にお話ししようか迷ったのですが」

勇者「何かあったのか?」

「いえ。そう言えば今日からまた大きな仕事があるらしいですね。今はそれ以外で煩わせるわけには」

勇者「気になるだろう。言ってくれ」

「……わかりました。実は昨日の晩、帰り際に聞いた話なんですが、いつも利用している肉屋があるのですが――」

(数時間後)
――王宮、玉座の間

白姫「――と言うわけで……ん?」

白姫「勇者、勇者!」

勇者「はい?」

白姫「聞いてなかったよね?」

勇者「いえ」

白姫「ね?」

勇者「あの……すみません。寝不足で」

白姫「嘘ね。まぁ、良いけど。もう一回話すからちゃんと聞いてね」

勇者「はい」コク

白姫「あなたには竜の国へ行ってもらうわ。もう知っての通り、決着戦争は終了した」

白姫「大陸連盟も軍隊を退いて、竜の国には最低限の兵のみを置く事になってる」

白姫「処遇については連名で検討の元決定されるけど、国全体の調査が済んでからになるかな」

大臣「姫様、前置きは省いても……」

白姫「まぁ、調査は近隣の国々に任せるとして――後、大臣うるさい」

大臣「しかし姫さ――」

白姫「勇者にやってもらうのは他の調査」キッ

大臣「 」ビクッ

白姫「騎士から聞いているかもしれないけど、決着戦争が終わった原因に、竜があるのよ」

白姫「正直私は竜なんてお話の中の生き物って思ってたから、どう対処すればいいかわからないけど」

白姫「帰ってきた騎士兵士全員見てるから何かしらの竜がいるらしい」

白姫「と言うわけで、勇者には竜の調査をやってもらおうって事」

白姫「目撃者だし気も知れてるからって言うので騎士もつけるけど」

白姫「今回のはあくまで調査。危なくなる前に撤退するように。わかった?」

勇者「わかりました」

白姫「向こうでの行動については騎士に聞いて。転移法陣の準備は完了しているから、良ければすぐに出発してね」

白姫「じゃあ騎士、後はよろしくね」

騎士「了解した」

騎士「装備は整っているようだな。では勇者、行こうか」

勇者「……」

騎士「……どうした、さっきから?」

白姫「何か考え事かしら」

白姫「もしかして魔の国との事? その事なら今各国と話し合ってるから――」

勇者「いえ、それではなく……」

白姫「そうなの?」

勇者「すみません。どうにも放っておけない事がありまして。出発を少し遅らせても良いですか?」

騎士「これは仮にも王命だぞ。勇者の証を持つ君なら尚更――」

白姫「良いのよ。それで、どのくらい遅れるの?」

勇者「半時もかからないかと。恐らく」

白姫「なら先にそっちを終わらせてきなさい。転移師はそれまで待機させておくから」

勇者「ありがとうございます。では」スタスタスタ

騎士「ちょっと待て。どこへ行くかだけでも教えてくれないか?」

勇者「……」

騎士「……」

勇者「……南東にある、あの山だ」

騎士「えっ」
白姫「そこって……」

勇者「“転移”」ヒュンッ

白姫「……騎士」

騎士「わかってる」

白姫「あそこに今更何しに行くかわからないけど、一応見に行っておいて」

そう言えば最近全然書けてない事もあって、用語説明とかも全くしてないので一つ。

“六角時計”
基本的に各町村の広場に一つある。六角柱のただの日時計。
白の街ではかなりの大きさだが、小さい村なら六角の木の棒だけと言う事もしばしば。
この世界の時間は一日六時(とき)で、なので、各角が時間を表してくれている。
ちなみに二時間=半時であり、一時間は半々時、三時間は半時半と、日本語訳出来るらしい。

分秒の観念はよくわからん。

~   ~

「いつも利用している肉屋があるのですが、昨日の夜に前を通りがかった時に何かおかしな雰囲気だったのです」

「どうしたのだろうと尋ねてみたら、そこの主人は息子が南東の山に出掛けたきり帰ってこないと言うのです」

勇者「南東の山……? なんでそんなところに」

「あの事件以来、動物達も表立って住めるようになりましたからね。随分平和になりました」

勇者「……そうか。それで? いや、何となくわかるが……」

勇者「その息子さんは何歳だ?」

「確か、十二くらいだと」

「主人も三ヶ月前までは一緒についていっていたらしいのですが、もう慣れたと言う事で一人で行かせたようです」

勇者「ふむ」

「その時は、何かちょっとしたアクシデントがあって帰るのが遅れているだけでしょう、と宥めたのですが、今朝も寄ってみると……」

勇者「やはり帰っていなかった、か」

「はい」

勇者「肉屋も早起きだな」

「不謹慎ですよ。クマが出来ていました」

勇者「まぁ、それもそうか。しかし……あの山か」

「ええ。私もそれがどうにも気になって」

「何かの事故としても、悪い予感が当たらなければ良いのですが」

勇者「……」

~   ~

――南東の山

勇者「……あまり変わらないな、ここは」

魔剣〔やはり気になっていたのだな。あの使用人の話を〕

魔剣〔転移魔法ですぐさま来れる所という事は、余程思い入れがあるのか〕

魔剣〔この山……否、この洞窟と言うべきか〕

勇者「まぁ、そうだな。わざわざ記憶する程便利な所ではないし、憶えるのも難しいくらい特徴がない」

魔剣〔普通は、だな〕

勇者「ああ」

魔剣〔ここで何があった? それとも、何かあるのか?〕

勇者「何かあっては欲しくないな。それはあまり考えたくない。そうだな。ここでは何かあったんだ」

勇者「知りたいか?」

魔剣〔……〕

勇者「調べながらなら話しても良いかな。後で聞かれても面倒だし、良い機会だ」

勇者「少し昔の話になる。ここはな、俺が勇者になった場所だ」

~八年前~
――白の街、訓練所

騎士「はあぁぁぁっ!」

勇者「ちょっ、まっ!?」

ドゴォ

騎士「また素早くなったな、勇者」

勇者「そっちは怪力に拍車がかかったんじゃないか? 地面少しへこんでるぞ」ヒク…ヒク…

騎士「全力で叩き込んだからな」

勇者「殺す気か!?」

騎士「死ぬ気はないだろう?」

勇者「あぁ、わかった……そっちがその気なら」

勇者「こっちもその気で行くからな! “雷撃”!」バババッ

騎士「そうでなくては練習にならない!」ササッ

剣士「ひ、姫様、お二人を止めた方が……」オロオロ

白姫「大丈夫よ。あの二人、結構頑丈だから」

白姫「それと、しっかり二人の戦いを見ておいた方が良いわよ?」

剣士「へ?」

騎士「たあぁぁ!」

勇者「うおぉぉぉ!」

白姫「あの二人、自分達の練習だけじゃなくてあなたに見本を見せているつもりだから」

白姫「ねぇ――」

勇者「――あっ」コツッ グラッ

騎士「!? 危な――」ブォン

グワァン ドスンッ

白姫「友もそう思うでしょう?」

友「そうだとしたら、もっとまともな戦い方をして欲しいかな」

勇者「あ、あぁ、友来てたのか。助かった」

友「勇者は基礎が疎かになってるから躓くんだ。この前の任務でもドジっただろ」

友「その調子だとやっぱり魔法使いになった方が良かったんじゃないか?」

勇者「馬鹿言うな。男なら剣だって言ってるだろう」

白姫「一人くらい魔法使いがいても良いんじゃない? 家系にこだわらなくても……」

勇者「白姫まで!?」

剣士「勇者様は強いから大丈夫……」

勇者「……ありがとう。慰めてくれるのは剣士だけだ」

騎士「これだから勇者は――」

友「騎士もだよ」

騎士「何!?」

勇者「そうかそうか、騎士もか」ニヤニヤ

騎士「勇者……後で再戦だ」

勇者「望むところだ」

友「騎士は何でこう……身の丈にあった剣を使おうとしないんだ」

騎士「何度も言うようだが、剣術には力が全てで――」

友「いや、言いたい事はわかる」

友「でも模造剣とは言え、重さに負けて寸止めも出来ないようじゃな……」

騎士「本物なら出来る。これは重く作らせた特別製だ」

友「そんなでかいのが普通に売られてたまるか」

友「剣士ちゃんはこの二人みたいになっては駄目だぞー」ポンポン

剣士「なんで? 強いのに」

友「確かに歳にしては強いけどな。でもミスが多い。何でかわかる?」

剣士「ううん……」

友「勇者は無闇に魔法と一緒に使う。騎士は無駄に大きな剣を使う。二人とも基礎よりも派手さが表に出てる」

友「やっぱり剣術は堅実さだよ」

剣士「わかった!」

白姫「確かに友は目立ちませんが強いですしね」

友「目立たないは余計。あの規格外二人についていってるのを褒めて欲しいね」

白姫「素晴らしいです」

友「言ってから褒められるのは、何とも微妙だな」

勇者「まぁ、友もやっと来た事だし、早速調査に行くか」

騎士「そうだな。勝負はまた後だ」

剣士「また調査?」

勇者「そうだな。何事も小さな積み重ね。兵卒には兵卒に出来る事をやれば良いんだ」

勇者「隊を組まなくても良いだけで気楽だ」

白姫「平和の証拠よ。お父様に感謝しなさい」

友「全く、白国王様には頭が上がらないな」

騎士「では行こうか。その前に注意点を再確認だ」

騎士「山には入らないように」
勇者「山には入らないように」
友「山には入らないように」
剣士「山には入らないように」
白姫「山には入らないように」

友「いや、白姫は別に言わなくても……えっ、まさか」

白姫「私も行くわよ」

勇者「すまんな。何度止めても聞かないんだ」

騎士「まぁ、それは友もよくわかっているだろう」

友「幼馴染みって、荷の重い仕事なんだな」

勇者「言うな……」

騎士「気軽に考えるしかない。あれは姫じゃなくただの幼馴染みなんだ……ああ、そうだ」

騎士「今日はこの道か」

勇者「ああ。今日は半時程で復路につこうと思うのだけど……」

勇者「誰かさんがまた先行しなければ良いのだが」ギロ

白姫「き、気を付けるってば……」

友「しかし、また山に近付いたな」

勇者「近付いたって言うか、もう山の麓を通る道だな」

友「おぉ、危ない危ない」

勇者「入らなけりゃ良い話だ。問題ない」

騎士「だがな……白の国の精鋭を集めれば退治も出来るだろうに」

友「それは、誰もが思う事だけどな」

白姫「あの山の魔物はとても強大とは聞きますが、こちらが何もしなければ向こうも何もしてこないし」

白姫「父上も大臣も言ってるわ。アレは手を出さない限り無害だって」

友「焚き火の薪を拾うなかれ。無駄に犠牲は出せないよ」

騎士「わかっているさ。腑に落ちないだけでな」

ガラガラガラ…

剣士「ねぇ、勇者様、あれ」

勇者「行商人か。どうした、剣士?」

剣士「今までの調査でもいっぱい魔物倒したのに、商人の人達はどうやって色んなところ行き来してるの?」

勇者「あぁ、それか。魔物の多くは遭遇した時の敵愾性が高いだけで、基本的に普通の動物と変わらない」

勇者「だから鈴や大きな音の鳴るものを身に付けていれば向こうから近付かない、ってのは前に話したな」

剣士「うん」

勇者「行商人にとって荷馬車自体がそれに当たる」

剣士「そうなんだ。でも寄ってくる魔物もいるよね? 音に怯まないのとか、馬の臭いに寄ってくるのとか」

勇者「そういう時は行商人は逃げるか戦う」

剣士「戦うの? 兵士じゃないのに?」

勇者「行商人はリスクの大きい仕事なんだ。だから商会で戦い方を教わっている。らしい」

友「準備は良いか、勇者?」

勇者「ああ。剣士、話は歩きながらしようか」

剣士「うん」

魔物「グルルァッ」

友「よし、今だ!」ガキンッ

騎士「たあぁぁっ!」ブォンッ

ズドン!

魔物「グェッ……!」

騎士「勇者!」

勇者「おう!」

ザシュッ

魔物「グ……グル……」バタン

勇者「ふー。やっぱり三人でやると楽だな」

騎士「当たり前だ。三対一だぞ。相手が人なら非難されている所だ」

勇者「またお前の騎士道ってのか。勝てば良いと思うんだけどな」

騎士「魔法なんて兵士にあるまじき狡いものを使う奴にはわかるまい」

勇者「何だと? 背後から切ってやろうか」

白姫「まぁまぁ、その辺にしておきなさいよ」

白姫「でも鮮やかな手際ね。そろそろ昇進かな?」

勇者「白姫から頼んでくれたら楽なんだけどな」

白姫「ダメ。兵士の階級は王族の仕事じゃないからね。出来ない事もないんだけど」

剣士「勇者様、サボったらダメ」

勇者「剣士にまで言われては仕方ないな……」

友「……」

騎士「どうした、友? 何を考えて込んでいる?」

友「いや、気のせいなら良いんだけどな」

勇者「何か気になる事でも?」

友「今日は魔物に会うのが少ないような気がしてな」

騎士「そうか? そこそこ戦っている気はするが」

友「いや、今日だけじゃない。調査の度に少なくなってる気がするんだ」

勇者「ふむ。つまり、友はこう思ってるわけか」

勇者「この失踪事件と関係あるんじゃないか、と」

友「……まぁ」

勇者「考えすぎだ。多分な」

騎士「そうだ。今回の失踪事件は盗賊か人攫いかの仕業だろう」

友「でもな、お前達――いや、白姫も剣士も、薄々は気付いているんじゃないか?」

友「あの山に真相が隠されている」

勇者「……」
騎士「……」
剣士「……」

白姫「で、でも、あの山の魔物は無害だって……」

友「本来は、な」

友「……いや、勇者の言う通り考えすぎだ。すまない」

友「しかし、やはり用心に越した事はない。ここはもう山の麓だ。少し行けば山にも入る」

勇者「そうだな」

騎士「承知している」

…ガラガラガラ

騎士「あれは……」

剣士「……荷馬車の音がする。商人の人かな」

勇者「でも、何か様子がおかしい。みんな、警戒しろ」

友「剣士は白姫を頼む」

剣士「任せて!」

白姫「私には馬車が走ってるようにしか聞こえないんだけど……」

騎士「わからないか。まだ姿が見えていないのに音はしっかり聞こえる。しかも、かなり急ぎ足のようだ」

友「行商って言うのは品物の扱いも大変でね。普通あんなに急いだら並大抵の商品は傷物になるよ」

勇者「……見えた。みんな、少し道の脇に寄るぞ」

友「寄ってないのはお前だけだ。早くしろ」

騎士「危ないだろう。気を付けろ」

勇者「……すまん」

ガラガラガラガラ

勇者「お、おい。何だあれ」

白姫「嘘でしょ……」

ガラガラガラガラ!

馬「ビィァーッ!」ウジャウジャ

「おい、あんたら兵士か! 良かった! は、早く馬を止めてくれぇ!」

友「あまりあれは触りたくないけど……はあぁっ!」

ザシュッ

馬「ビァァアアッ!!」

「うわぁあああっ!」

ガガガガガドシャーン

友「うわ……やばい」

騎士「全く……殺したらああなる事くらい想像出来ただろうに」

勇者「大丈夫ですか!?」

「ぐぅ……痛ぇ……。いや、助かりました」

友「すみません。咄嗟でしたので、馬を……」

「いえ、良いのです。どのみちこいつは……」

馬「」ウジャウジャ

騎士「うわ、首を切られたのにまだ動いているのか。何なんだこれは。寄生虫か?」

勇者「体の方にもいるな。全身をやられているのか? でもこんな生き物見た事がない」

剣士「……うぷっ」

白姫「剣士、あなたは見ない方が良いかもしれないわね」

剣士「ええ、そうかもしれない」

友「どうやら致命傷はないようですね。すみませんが、何があったか話していただけますか?」

「え、えぇ……しかし申し上げにくい事ですが、私にも何が起こったのかよくわからないのです」

友「それでも見た事を、お願いします」

「わかりました」

「先程この馬に巣食っているこの触手みたいなものを寄生虫と言っていましたが」

騎士「ああ」

「実は少し前までこの馬に全く異常はなかったのです」

騎士「では、寄生虫じゃないのか?」

「いえ。しかし普通はゆっくりと侵食するはずですので……」

勇者「新手、か。だとすれば、対策を急がなくてはな」

「ただこのような状態になってしまう前に、茂みの方から何か伸びてきたのは憶えています」

「何かが伸びてきて、馬を刺してからこうなったのです」

騎士「何!?」

「最初は刺された痛みで暴れたのかと思っていましたが、次第にこいつの中で何かが蠢き始めて……」

友「こうなった、と」

「……ええ」

友「その茂みはどの方角のものですか?」

「右手ですね。えっと……」

勇者「山、か」

騎士「困ったな。案外友の心配は当たっているかもしれない」

友「となると……一旦退いて報告すべきだな」

騎士「行商人の方、あなたもしっかり送り届ける」

「面目な」

シュルルルッ

「い――」ガシッ

騎士「――なっ」
友「!?」

ズザザザザザ…

白姫「何、今の!?」

友「そんな事より、あの人が何かに引き込まれて――!」

勇者「“雷撃”!」バリバリッ

騎士「やめろ! あの人に当たったらどうするんだ!」

勇者「でもな……!」

友「やめろ。もう遅い」

勇者「っ!」

騎士「くっ……」

友「だけど、今のではっきりしたんじゃないか」

友「今回の事件――白の街郊外での多発失踪事件、その原因はあの山で間違いない」

勇者「……見たか、あの人を」

騎士「……」
友「……」

勇者「何が起こったかもわかってなかった。わかってなかったけど、引き込まれる時に俺達を見てた」

勇者「助けてくれ。そう言っていた、あの目は」

騎士「……目が良いな」

勇者「やめてくれ。冗談を言っている場合じゃない」

騎士「ああ……」

友「あの人には申し訳ないが、ひとまず戻ろう。対策は上が練るはずだ」

勇者「わかっ――」

剣士「勇者様、危ない!」

馬「」シュル…シュルル…

勇者「――っ!」

ザシュッ

友「油断するな! さっきの見ただろう!」

勇者「す、すまん」

騎士「まさか、この馬の中のやつ、まだ生きていたのか」

勇者「剣士、白姫と一緒に急いで戻れ!」

剣士「で、でも……」

勇者「早く!」

シュルルルルルッ

友「くそっ! 茂みの方からも次々と!」ザシュッ

騎士「うあぁああっ!」ブォンッ

剣士「あ、あ……」

白姫「剣士、心配なのはわかるけど今は――」

ウジャ…ウジャ…

友「やめろ! 離れろ!」グイグイ

白姫「友!」

勇者「友! 今助けてやる!」ブチッ ブチッ

友「勇者、やめろ! これに触るのは危険だ!」

勇者「何を言っている。早く一緒に逃げるぞ!」

友「いや、無理……だばはっ」ウジャウジャ

勇者「うっ……」

騎士「友……それは……!」

友「もう体が随分食われ――」グイッ

ズザザザザザッ

勇者「友!」

騎士「そんな……友まで……」

勇者「落ち込むのは後にしろ! 俺達も今は逃げるぞ!」

騎士「あ、ああ……」

シュルルルルッ

剣士「きゃあっ!」

勇者「白姫! 剣士!」

ザシュッ

剣士「はぁ……はぁ……」

勇者「……良かった。だが、こっちも一杯一杯か」

勇者「騎士、剣士、この触手達を牽制しながら退くぞ! どうか頑張ってくれ!」

騎士「ああ」
剣士「わかった!」

白姫「で、でも……!」

勇者「わかってる。相手も中々隙を与えてくれないみたいだな」

剣士「防ぐだけで手一杯だよ!」

騎士「動けない……!」

勇者「くっ……どうするか……」

シュルルルルッ パシッ

剣士「ひゃっ!?」ドサッ

勇者「!?」
騎士「剣士!」

白姫「剣士、危ない!」

シュルッ シュルルルッ

剣士「っ!」

勇者「はぁっ!」ザシュッ

勇者「くそっ、間に合うか……!」ダッ

剣士「たぁっ!」ザシュッ

白姫「やった!」

シュルルッ

剣士「ひっ……まだ……!?」

勇者「間に合わない――!」

剣士「あ……あ、あ……」コツン

剣士「! これはっ……!」ギュッ ヒュンッ

…ザシュッ

勇者「あれは……!」

騎士「友の剣、か」

剣士「はぁ……はぁ……」

勇者「よし、みんな、俺の合図で全速力で逃げろ! 良いな!」

騎士「何をするつもりだ!」

勇者「憶えたばかりの魔法を試すだけだ。上手くいけば全員逃げれる!」

勇者「じゃあ行くぞ!」

剣士「うん」
騎士「ちょっと待て! まだ準備が――」

勇者「さん! に! いち!」

シュルルルッ

勇者「ぜろ! “火炎壁”!」ゴオォォォ

剣士「はぁ……はぁ……」

騎士「やっと街に着いたか……。四人とも逃げ切れて良かった」

勇者「あ、ああ……」

白姫「……うぶっ」

騎士「し、白姫!?」

白姫「おろろろろろ……」ゲロォ

勇者「お、おい、大丈夫か!?」

白姫「だ、大丈夫……。安心したら急に……ね」

白姫「剣士は、大丈夫?」

剣士「えぇ。新米でも兵士だから……」

白姫「そう。強いわね」

白姫「……ごめん。私は先に帰る」

騎士「ああ……わかった。剣士、送ってやってくれないか」

剣士「……うん。白姫様、行こ」

白姫「本当に、ごめんね……」トボトボ

勇者「……どうせ俺達も城に戻るんだから、一緒に戻った方が」

騎士「その前に仕事があるだろう。門番に警戒するよう伝えておかなければ」

騎士「あの触手はどこまで伸びるかはわからない。ましてや友を捕らえた方は単独でも動くようだったしね」

勇者「馬に寄生してた方だな。あれは何だったんだ……」

騎士「わからない。だからな――怖いんだ」

勇者「男勝りの怪力が怖い、か」

騎士「私は……力しかないよ……」

騎士「それにしても、君はまた腕を上げたな」

勇者「……」

騎士「いつの間にあんな魔法を憶えたんだ?」

勇者「……つい最近だよ」

騎士「お得意の火属性魔法だったな」

勇者「俺の適正だからな」

勇者「火炎の壁――魔法名はフィーレワル。壁のように広く火を出すんだ」

勇者「防御としては役者不足だけど、目くらましと距離を取るのにも使えるから勝手が良い」

騎士「便利なものを憶えたな」

勇者「まぁな」

騎士「早く使えば友も逃げられただろうけどな……あ」

勇者「……いや、その通りだ。俺の機転が利かなかった」

勇者「もしかしたら、俺達三人ならなんとか出来ると自惚れていたのかもしれない」

勇者「……どっちでもいいか。結果がこれだ。俺が不甲斐ないばかりに」

騎士「自分を責めるな、勇者。君はよくやった。凄い。君がいなければみんなどうなっていたか知れない」

勇者「すまない……」

騎士「とにかく番所へ向かおう。それから王宮だ。悔やむのは全ての報告を終えてからにしよう」

騎士「……私達、二人共な」

勇者「ああ」

――城の街、王宮

勇者「……」
騎士「……」

白国王「ふむ……剣士から粗方聞いていたが、そういう事だったか」

白国王「どうりで娘も帰ってきてから閉じこもっているわけだ」

大臣「お主達、いかに幼馴染みとは言え姫様を連れ出すなど――!」

白国王「よい。これはわしにも責任はある」

大臣「しかしっ」

白国王「むしろ、よく白姫を無事戻らせた事を褒めてやるべきだと思わんか」

大臣「むむむ……」

白国王「まぁ、褒めてやるつもりはないがな」ギロッ

勇者「……」
騎士「……」

白国王「……褒められるつもりもない、か」

白国王「しかし、どうしたものか。今まで被害がなかったから良かったものの、これでは討伐するしかないが……」

大臣「山に住む魔物の主、ですね」

勇者「魔物の、主?」

大臣「南東の山には危険な魔物がいるから近付くな。それは子供の時から聞いているだろう」

大臣「我々王宮で働く者や兵士達はそやつを魔物の主と呼んで畏怖している」

白国王「お主達の報告にあった触手。恐らくこの主であろう」

白国王「いつから山に住み着いたかは知らん。だが過去に兵士や民間の手練れを向かわせたが、誰も帰って来なかった」

白国王「唯一、ある剣の達人を自称する男の付き添いが戻った時、証言として得られたのが――」

騎士「――触手」

勇者「相手の強さどころか全貌すら未知ってわけですか……」

白国王「だからわしも困っておってな。いざ討伐、と乗り出すのは良いが」

大臣「赤鷲騎士団団長を筆頭に自団より数人精鋭を選ばせては?」

白国王「赤鷲? 白蛇ではないのか?」

大臣「白蛇の団長は策略家ですから。このような戦闘には赤鷲の団長のような前衛派がよろしいかと」

白国王「ふむ……ではそうしよう」

大臣「ですが、戦力的にも不安ではないかと……」

白国王「一個小隊くらいで良いか?」

大臣「それは多すぎでは!?」

白国王「騎士団長が指揮するならば大丈夫であろう。相手は魔物の主だ。戦力は多い方が良い」

白国王「十五人ずつ程、近接兵と魔法兵を用意しよう」

勇者「白国王様!」

大臣「おっと、すまぬな。お主達はもう帰っていいぞ」

勇者「私もその討伐に向かわせてもらえないでしょうか」

騎士「わ、私もお願いします!」

大臣「……ふむ、兵卒とは言え二人とも稀代の才をもってるからな。どうしましょう?」

白国王「却下」

勇者「どうしてですか!?」

白国王「確かに才はある。が、まだまだ未熟だ」

白国王「わかったなら、帰るのだ」

勇者「……」

白国王「お主の無念はわかる。だが、思い詰めるでない」

白国王「二人は暫く休んでおけ」

勇者「――休んでおけ、か」ボソリ

騎士「何だ? まだ白国王様の言葉が気になってるのか?」

勇者「気になってると言うより、やっぱり腑に落ちないな」

騎士「そう言うな。言い換えれば『動くな』と言う命令だぞ」

勇者「しかしな……」

騎士「まぁ、討伐隊が編成されればすぐにでも敵をとってくれるさ」

騎士「もしかしたら、生きて帰ってくるかもしれない。私達はまだ死んだ所を見ていないからな」

勇者「そ……そう言えばそうだな! 討伐隊はいつ出発するんだ!」

騎士「一個小隊、しかも人員は各所から選抜されるみたいだから……」

騎士「早くて一週間くらいだろうな。とんでもなく早くても三日はするだろうし」

勇者「やっぱりそんなにかかるのか……」

勇者「もし友がまだ生きていたら、今頃どうしているか」

勇者「……友だけじゃない。あの行商人、その他にもいるかもしれない被害者達の安否も早く確かめるべきだと思うんだけどな」

勇者「――ってあれ? 騎士、どこだ?」

騎士「ああ、ここだ。すまんな。そこでパンを買っていた」

勇者「俺は一人で喋ってたのか。恥ずかしい目にあわせるなよ……」

騎士「大丈夫。ちゃんと聞いていたさ。それよりどうだ、君も。私の好きなビアンブリードだ」

勇者「豆入りのパン……ありがとう。借りはなしだぞ」

騎士「私達の仲だ。そんなものはない。ただな」モグモグ

勇者「何だ?」モグモグ

騎士「一応言っておく。私達は休めと言われてるんだ。一人でも友を助けに行かないようにな」

勇者「あのな、俺がそんな無謀な奴に見えるか?」

騎士「……そうか、それなら良い」

(その日の深夜)

勇者「……」ソロリソロリ

「――五と三のフルハウスだ」

「ははは、中々やるじゃねーか。次は俺だな」

勇者「……」サササッ

「おい、見ろ! 六のファイブダイスだぜ!」

「嘘だろ――!」

勇者「……ふう」

勇者「よし、待ってろよ、友」

騎士「やはりな」

勇者「!?」ビクッ

勇者「き、騎士……どうして……」

騎士「私には、君が無謀な奴に見えたからだ」

勇者「止めにきたのか?」

騎士「そうしたいが、どうせ聞かないだろうし、ここで暴れるのも後々面倒になりそうだ」

騎士「それに、私も友が心配だからな」

勇者「……そうか。助かる」

騎士「それにしても、ここの門番の怠慢は報告すべきだろうか」

勇者「気持ちはわからなくもないけどな」

剣士「わざわざ報告する必要はないかと」

勇者「!?」ビクッ
騎士「!?」ビククッ

勇者「剣士……いつからいたんだ?」

剣士「さっきからだけど」

剣士「騎士様が外出される姿を見たからついてきたら、やっぱりこう言う事だったんだ」

勇者「つけられてたのか」

騎士「面目ない……」

剣士「門番二人の怠慢は私達が勝手に討伐へ向かう事で露呈するんじゃないかな」

騎士「確かに。だが、剣士……行くのは私と勇者だけだ」

勇者「俺達がやろうとしているのはただの無茶だ。それがわからない程の頭じゃないだろう」

剣士「私もその無茶をさせて下さい。私は三人の弟子だから」

勇者「弟子と言うなら、師匠の言う事を聞いてくれ。友もそう望んでいるはずだ」

剣士「弟子だからこそ行動しなくちゃいけないって思ってる。師匠の命令でも聞けない時はある」

剣士「お二人が何と言おうとも、私はついて行くつもりだからね!」

勇者「……騎士、どうする?」

騎士「この頑固さは、白姫譲りかな」

勇者「ははは、師匠の類は剣の師だけではなかったのか」

勇者「だが剣士は置いていく」

剣士「それでも――!」

勇者「と言いたいところだが、今は縛るものがないしな」

勇者「危なくなったらすぐ逃げろ。良いな」

剣士「! わかった!」

騎士「はぁ……やむなしだな」

勇者「さて、行こうか」

騎士「ああ」

剣士「おー!」

この章は石川賢で再生すればいいですかね

>>375
ゲッターマンの人だっけ?
自分は読書量が少ないのでよくわかりませんけど、イメージは各自好きにやって下さいな。
ただ後々の展開でイメージがずれても憤慨しないようお願いいたします。

――南東の山

勇者「……」ザッザッ

騎士「……勇者」

勇者「わかってる」

勇者「まだ奴の居場所が掴めてないとは言っても、何も反応がないのは怪しい」

騎士「この山は主の国のようなものだからな」

剣士「それにしても不思議だよね」

剣士「山の主もそうだけど、出発してから動物も魔物も見ないって……」

騎士「確かにそれは不気味だな」

勇者「……もしかしたら」

騎士「何かあるのか?」

勇者「奴にとって、人間も動物も魔物も関係ないんじゃないかなって」

剣士「一理あるよね」

騎士「うむ。魔物はわからないが、馬に寄生したし、友と行商人を連れ去った」

騎士「いや、そもそもあの触手は本当に主のものかどうかも怪しいのだけど」

勇者「そうなんだよな。本体をしっかり見た人はいないらしいし」

剣士「と言うか、このまま手当たり次第探すつもりなの?」

勇者「……」
騎士「……」

剣士「どのくらい時間かけるつもりなの……」

勇者「仕方ないだろう。しかしどこかに手がかりが落ちてるはず」

剣士「勇者様……」

勇者「はず……」

ガサッ

騎士「しっ。二人とも静かに」

勇者「……」コク
剣士「……」コクリ

ガサガサッ

勇者「……」

ガササッ!

剣士「……っ」ダッ シャキンッ

?「わわっ!?」

剣士「……」ピタッ

騎士「剣士!」

剣士「わかってる」

?「な、何なんですか……!」

騎士「……人か」

勇者「こんな時間にこんな所で何をしている? あなたは何者だ?」

?「それはこっちの台詞ですけど……」

剣士「先に答えて」チャキッ

?「ひっ! わわわ、わかりました!」

魔法師「こ、この山を調査しに来ました、魔導連合の魔法師と言いますっ」

勇者「魔導連合の?」

魔法師「とと、とりあえず剣を収めてくれませんか……」

剣士「……」

騎士「……」コクッ

剣士「……」ス…

魔法師「それで、あなた達は?」ホッ

勇者「無礼を失礼しました。俺は白の街で兵士をしている勇者と言います」

騎士「同じく、騎士だ」

剣士「……剣士」

魔法師「兵士さんでしたか……。よく見たらそんな感じも」

勇者「一応、これが身分証明」サッ

魔法師「確かに本物ですね。これでお互い身分はわかったわけですが……」

魔法師「兵士の方がどうしてこんな所に? しかも――」

勇者「――こんな時間で、ですね。私的な事情ですけど――」

魔法師「――成る程。三人とも無謀な事をなさっている自覚はあるんですね」

騎士「そうですね。全部この勇者のせいですが」

魔法師「でも、その気持ちはわかります。私でもそうしてるでしょうし」

剣士「ところで、魔法師さんの調査って?」

魔法師「あなた達と大体同じですね。調査の方ですけど」

騎士「と言う事は、行方不明者の?」

魔法師「ええ。でも私達の方はそれだけじゃないんですよ」

勇者「?」

魔法師「もうお気付きかもしれませんが、この山の近辺に生き物が殆どいないんですよ」

魔法師「私が任されてるのはその原因を探る事ですね」

剣士「一人で?」

魔法師「少なくとも正体がしっかりわかるまでですね」

魔法師「こういうのは下っ端の役割ですし、私はその中でも優秀な方らしいので」

勇者「じゃあ、転移魔法とかは」

魔法師「勿論できますよ」

勇者「本当に優秀なのですね。あれはどうにも難しくて……」

魔法師「えっ!?」

騎士「こいつは変わり者でして、適正もあるし剣の腕も中々良い」

魔法師「へぇ、そんな人もいるんですね」

剣士「騎士様も変わってると思うけど」

勇者「ああ、こいつは人とは思えない怪力だな」

騎士「これ以上変に言うのだったら切り潰してもいいんだが」

剣士「……ごめん」

騎士「剣士は良いんだ」

勇者「それにしても、そちらの話を聞いた感じでもここはかなり危ないらしいけど」

勇者「こんなに話していて大丈夫なのですか?」

騎士「今更だな……」

魔法師「本当、今更ですね。でも大丈夫ですよ」

剣士「わかるの?」

魔法師「こちらの調査は昨日今日だけじゃないですからね」

魔法師「夜は触手を見た事がないんです。寝てるんでしょうかね」

魔法師「私が深夜に調査する理由もそれなんです。魔物もこの山の何かのおかげでいませんし」

騎士「言われてみれば、詳しく調べてなかっただけで、失踪者も日中に消えているのが殆どだな」

魔法師「理由がなかったらこんな暗い状態嫌ですよ」

勇者「……ここに来て分かれ道か」

騎士「では右に行こうか」

魔法師「いえ、左で。右は下山ルートです」

剣士「そっか。魔法師さんはわかるんだ」

勇者「では俺達は未調査のとこまで案内してもらった方が良いな。お願いできますか?」

魔法師「これも何かの縁ですから、元からそのつもりです」

勇者「それでさ――」

魔法師「そうなんですかー」アハハ

騎士「いくら触手が出ないからって……」

剣士「不用心すぎ」

騎士「魔法師さんが言ったから大丈夫なんだろうけど」

剣士「信じられるの?」

騎士「悪い人に見えないだろう?」

剣士「……うん」

魔法師「――っ!」ハッ

勇者「どうかしました?」

魔法師「ちょっと静かにして下さい。近くで魔力を感じます」

騎士「!」

勇者「……」コクリ

魔法師「……こっち」タタタッ

勇者「……」ザザッ
騎士「……」ザザザッ
剣士「……」サササッ

魔法師「……」

勇者「……あれか」

剣士「洞窟?」

魔法師「それも気になりますが、魔力はその前に座ってるローブ姿の……」

?「……」

騎士「よく見えないな」

勇者「闇に溶けやすい紺色だ。でも、何でこんな所に人が」

魔法師「私達と同じ……だったら良いですね」

騎士「用心に越した事はない」

勇者「ああ。剣士、行くぞ」

剣士「うん」コクッ

ザッザッザッ…

?「……そこにいるのは誰?」

剣士「……」ザッザッ

?「こんな所に女の子? なんで――」

?「ただの女の子ってわけじゃないみたいかな。……何者ですか?」

剣士「それは……」

勇者「こっちの台詞ですね」チャキッ

?「!?」

勇者「俺達は街の兵士だ。何の目的で洞窟の前にいるのか、話してもらおうか」

?「い……」

勇者「?」

?「嫌だなぁ。別に怪しいものじゃありませんよ」

僧侶「僕は僧侶と言う名前でして、ここに来たのも教会から調査の使命をいただいたからです」

勇者「……どこの教会だ?」

僧侶「三神教の白羽教会ですよ。ご存じでしょう?」

僧侶「ここにいたのも、先輩方が洞窟を探索している間待たせてもらっているだけです」

勇者「……証明は?」

僧侶「この首飾りでどうでしょう」

勇者「……ふむ」

剣士「……」コクリ

魔法師「良かった。安全だったみたいですね」

騎士「しかし偶然とはあるものだな。山を調査に来た人が二人もいるなんて」

僧侶「これはこれは……まさかまだいるんじゃ……」

勇者「いや、俺達はこれだけです。脅かしてすみませんでした」

僧侶「いえいえ。でもこちらは納得いってないのは確かです。そちらの事も聞いても?」

勇者「良いですよ。まず俺からですが――」

僧侶「ふむ。友人を魔物に連れ去られた方々と魔物の正体を調査しに来た方……」

僧侶「正直言いますと、前者は無謀としか」

魔法師「ですよね」

勇者「くっ……」

騎士「ところで白羽教会の使命とは?」

僧侶「調査ですね」

騎士「やはり魔物の?」

僧侶「ええ」

剣士「何で一人だけ待ってるの?」

僧侶「僕は予備人員だからね。何かあった時のために報告する役割もあるんだ」

騎士「何か、か」

僧侶「山の主を探しているのでしょう。それならこの中です。この奥が巣になっています」

魔法師「本当ですか!?」

勇者「……何で俺達に教えてくれるのですか?」

僧侶「さっきあなた達が言ったじゃないですか。探しているのでしょう?」

僧侶「それに、さっきから思ってる事があるんです」

僧侶「戻ってくるの、遅いなぁ、って」

騎士「いつから待ってるんですか?」

僧侶「随分前から。だから様子を見に行きたいけど、どうしようかって悩んでたんです」

僧侶「そこで丁度良いところに道連れが出てきたわけですね」

勇者「では、一緒に行くって事ですか?」

僧侶「ええ。ただ僕は危なくなったら逃げますので」

魔法師「危なくなったら私が脱出させますよ、みんな。気を引き締めて行きましょう」

また間があいてしまった。いい加減もっと暇を見つけたいな。

コツ…コツ…

騎士「本当に魔法は便利だな」

勇者「だろ? 憶えていて損はない。こうやって灯りもつけられるからな」

魔法師「そうですね。素質があるなら、ですけど」

僧侶「そうですね。素質がないと使えませんし」

騎士「羨ましい限りだ」

剣士「僧侶さんは灯りを点けないの?」

僧侶「ええ。修道士の使う魔法は特別ですからね。それに支障がないように他のは基本的に憶えないのです」

魔法師「祈祷、でしたっけ。詩篇が信仰心を読むって言うあれですよね」

僧侶「そうですね。他の詩篇を憶えるよりも信仰心を高める。僕達は一番それに時間をかけてますね」

勇者「漠然としているなぁ」

僧侶「あなたも入信するとわかるかもしれませんよ」

勇者「俺は信心深い方じゃないですし、厳しいかもしれませんね。そういう家系とも言えるけど」

騎士「そう言えば、僧侶や魔法使いって一応両方とも魔法の資質がありますよね」

魔法師「その違いって学院で習いますよ」

騎士「何だと!?」

勇者「兵士には魔法教育がないからな……」

魔法師「魔法使いは資質があれば誰でもなれるんですよ」

僧侶「僧侶は特別と言えば特別ですね。資質があるかどうか以前に僧侶ですから」

僧侶「だから祈祷を使えない僧だって――」

カツンッ

騎士「!」

剣士「……みんな止まって」

勇者「ああ。灯りを弱めるぞ」ボボッ

魔法師「いえ、強めて下さい」ゴオォッ!

僧侶「熱っ!」

魔法師「っとと、すみません」

勇者「強くすると見つかるだろ」

魔法師「相手は魔物ですよ。人間と同じと思わないで下さい」

魔法師「一方、私達は暗くなると動くにくくなります。明るくしないと、こっちが一方的に不利な状況になりますよ」

騎士「成る程。それは確かだ。見た感じ剣士くらいの歳だが、勇者よりは賢いようだ」

勇者「……文句は後で言うぞ」ゴォッ

僧侶「……っ!」

剣士「うっ……これは……」

騎士「休んでいる、ようには見えないな。僧侶さん、君の仲間ですか?」

僧侶「……そのようです」

魔法師「脈はないですね……」

勇者「僧侶さんの仲間は何人でしたっけ?」

僧侶「四人、です」

修道士A「……」
修道士B「……」
修道士C「……」

勇者「一人足りないな。もしかしたら、まだ生きているかもしれない」

僧侶「……」

剣士「……あれ? じゃあ、さっきの物音は?」

魔法師「生き残りの方でしょうか。いえ、でもそれだと……」

騎士「ああ。あの気配は近くにいるはずだ。仲間がいるとわかれば出てくるはず」

勇者「隠れられる場所もないし、足音もない。やはり魔物か!」

僧侶「……ん? 何だろう、これ」

…ウジャ

僧侶「!? うわぁあっ!」

勇者「どうした!?」

僧侶「あ、あれ……」

修道士A「……」ウジャウジャ
修道士B「……」ウネウネ
修道士C「……」グジュグジュ

騎士「っ! 下がれ!」ザザッ

剣士「……うぷっ」ザッ

勇者「剣士、大丈夫か?」ザザッ

魔法師「うわっ、グロっ……」ザザッ

僧侶「あれは……」ズササッ

騎士「あれが多分“魔物の主”……の片割れだろう」

魔法師「片割れって……何匹いるんですか……」

ウジャウジャウジャ…

勇者「だが、物音の正体はこれだろうな」

剣士「どうするの? このままだと襲ってくるかも」

魔法師「襲ってくるの!?」

騎士「確証はありませんが。どのみち放っておくわけにもいかないでしょう」

勇者「ふむ……僧侶さん」

僧侶「な、何ですか?」

勇者「ここで火葬させてもらっても良いですか?」

魔法師「その手が! でも……」

僧侶「いえ、構いません。僕もあれを見るのはつらいですし」

勇者「ありがとう。骨は残すよ。じゃあ――」

魔法師「ええ」コクッ

勇者「“火炎弾”」ゴオッ!
魔法師「“火炎放射”」ゴオオォッ!

シュウゥ…

勇者「綺麗に燃えてくれたな」

魔法師「ええ。火に耐えられる触手がいてたまるものですか」

僧侶「……」ブツブツ

剣士「……僧侶さん?」

僧侶「……ちょっと祈りを済ませていただけです。では、奥に行きましょうか」

騎士「あぁ……」

僧侶「やっぱり洞窟の中は空気がこもりますね。焦げ臭いです」

勇者「お、おい」

僧侶「はい?」

勇者「その、なんだ。良いのか、骨を拾わなくて?」

僧侶「持って帰っても、教会としては少し困りますからね。形のある遺体じゃないですし」

僧侶「それに、死者は墓に眠るべきと言う教義はありませんから」

勇者「あ、あぁ、そうですか」

騎士「行くか」

魔法師「そ、そうですね」

剣士「ここから先は注意した方が良いよね」

騎士「ああ。ここからは確実に魔物がいる」

勇者「灯りもより一層明るくしていこう」

魔法師「ええ」

コツコツ…

勇者「随分進んだつもりだけど、何もない。どういう事だ?」

魔法師「一本道ですからね。向こうも警戒しているのでしょう」

騎士「相手は魔物だぞ。そこまでの知性があるとは思えないが」

魔法師「魔物だからですよ。時として本能は理性を凌駕します」

僧侶「相手が本能だけと侮ってはいけませんよ。ここの魔物の行動は、少し意図的なものも感じます」

勇者「知性もしっかりあると?」

僧侶「僕達はそう結論付けてました」

騎士「剣士、疲れてないか?」

剣士「少し。でも大丈夫」

魔法師「でも、やっぱり何もないのは不気味ですね」

勇者「あぁ……。ん?」

騎士「どうかしたか?」

勇者「いや。何か違和感が……」

僧侶「人影でも見えましたか?」

勇者「そうじゃないと思いますが……」

魔法師「いつの間にか幻覚魔法をかけられたのでしょうか。気付かなかったのに……」

騎士「考えすぎだろう。……ああ、多分これだ」フミフミ

剣士「地面? ホント、少し柔らかくなってるみたい」

剣士「聞いた事があるよ。建物とかでわからないくらいに床が傾いたらめまいがするって」

魔法師「成る程。わかりにくい変化を違和感って思ったのですね」

騎士「地盤が緩くなっていると言う事は、それ程深くまで来ているのだろうな」

勇者「地面だけじゃないぞ。壁も脆くなってる」

騎士「困ったな。運が悪ければ埋められてしまうではないか」

魔法師「怖い事言わないでくださいよ……」

僧侶「全く、不吉です」

騎士「ははは、すみません」

騎士「でも、この脆さがどのくらいかわかれば安心して進めるでしょう」

剣士「どうやってわかるの?」

騎士「私の剣は丁度長いからな。こうやって刺せば……」ズブブ…

ブチッ グシュッ

騎士「……」

勇者「……今の、何だよ」

騎士「け、結構浅い所でしっかりしてるみたい」

魔法師「そうではなく、何かおかしな音が」

僧侶「不吉ですね」

シュルルルッ

剣士「んぐぅっ!?」グイッ

勇者「剣士!」
騎士「剣士!」

魔法師「何てこと……柔らかかったのは地盤じゃなくて、触手が埋まって――」ガシッ

魔法師「きゃあああぁ!」グイッ

勇者「魔法師さん! くっ……騎士、二人を追うぞ!」

勇者「って、あれ。騎士!?」

僧侶「騎士さんならいち早く捕まって行きましたよ」

勇者「なっ……!」

僧侶「だ、大丈夫です。わざわざ追わなくても僕達もすぐに――」グイッ

勇者「僧り――」グイッ

ズザザザザザ

ズザザザザ

勇者「ぐぅっ……容赦ないな。どこまで引きずられるんだ」

勇者「この地面の溝……騎士だな。あいつが抵抗しても止まらないのか」

勇者「ん……あそこは……」

勇者「よし。そろそろ放してもらおうか!」チャキン

ズバッ

勇者「うっ、ぐはっ」ドサッ ゴロゴロゴロ

魔法師「勇者さんも無事来れましたね」

騎士「君も機転が利いて助かった」

勇者「無事だったか! 剣士は!?」

剣士「ぐすっ……怖かった……」

騎士「腕も動かせないくらい巻かれてたからな。私が助けておいた」

魔法師「みんな剣士さんみたいになってると危なかったですよ」

勇者「僧侶さんは?」

魔法師「さっき来たとこですね。剣士さんと同じなら、向こうの方に……」

僧侶「んんーっ! んーっ!」ウネウネ

魔法師「僧侶さん!?」

勇者「早く助けないと!」

ズバッ ズシャッ

僧侶「た、助――んむーっ!」ウネウネ

勇者「触手がまたすぐに絡みつくなんて……」

魔法師「困りましたね。絡まってる以上燃やす事も出来ませんし……」

騎士「問題ない!」ブォンッ

ズバァンッ

騎士「次の触手が来る前に絡んでるやつごと離せ!」

勇者「ああ、わかった!」ガシッ

僧侶「んーっ」ドサッ

魔法師「待ってください。今、払いのけますから」

勇者「うわぁ……やっぱり触手の粘液は慣れないな……」

魔法師「そんなこと言ってる場合ですか……」

僧侶「ごほっごほっ……助かった。死ぬかと思った……」

騎士「無事で何よりだ」

剣士「……みんな、そうも言ってられないよ」

剣士「やっぱりここが魔物の住処みたい」

「グルルルル……」
「ヴヴ……ヴヴォオォ……」

魔法師「ちょっと待ってよ! 相手は触手だけじゃないの!?」

騎士「犬に馬に豚型の魔物に……この種類の多さは何だ」

勇者「逃げるか?」

魔法師「ま、まだ大丈夫」

騎士「体力はまだあるさ」

剣士「動けるよ」

僧侶「汚名返上と行きましょう」

勇者「よし。来るぞ!」

「ガウゥッ!」ダダッ

勇者「はぁっ!」ズバッ

シュルルルッ

魔法師「触手には……“火炎放射”!」ゴォォオ

ウネウネ ウネウネ

剣士「たぁあっ」シュバッ シュバッ

「グウォオ!」ドスドス

騎士「うおぉおっ!」ブォンッ

僧侶「“――”」ブツブツ

騎士「お、おい、みんな。倒した動物と魔物の死体を見てくれ!」

勇者「ああ。これは……」

ウネウネウネウネ…

魔法師「寄生、されてるの? 全部?」

剣士「このっ! このっ!」ヒュンッ ヒュンッ

騎士「勇者! 剣士が小さいのに襲われてるぞ!」

勇者「くっ! “火炎弾”!」ゴォッ

剣士「きゃあっ!」ジュッ

勇者「あっ!」

騎士「勇者! 君という奴は……!」

魔法師「“火炎放射”!」ゴォォッ

魔法師「仕方ないです。早くしなければ剣士さんも寄生されてたはずです」

魔法師「それよりここは何とかしないと――」

僧侶「“防御壁”!」キィンッ

「グォォオッ!」ガシガシ
「ヴヴ……ヴヴヴヴ……!」ガリガリ

勇者「……何だ?」

僧侶「白羽教会に伝わる聖なる壁を貼りました。これで暫くは外からは入って来れないでしょう」

魔法師「なら中にいるのは始末しなきゃね。“火炎放射”」ゴォォオッ

僧侶「ええ。助かります」

剣士「熱かった……でも、助かった。ありがとう勇者様」

勇者「いや、こっちこそすまなかった。しかし、これからどうしようか」

騎士「触手は切り落とすとしても、寄生されたものは切ると厄介だな」

勇者「ああ。中にいる小さい触手が新しい宿主を探し始めるみたいだ」

僧侶「と言うか、あれは触手ですか?」

剣士「蛇? みたいな? 長い蛭?」

騎士「今、それはどうでも良いだろう。火には弱いらしいが……」

勇者「魔法が使えるのは俺と魔法師さんだけか」

魔法師「流石にこの数は厳しいですね」

騎士「それだけじゃない。魔物や動物を任せるとしても、触手とわけて攻防を行うのは望ましくないでしょう」

僧侶「退いた方が良いのでは?」

魔法師「でも、魔物の本体も確かめられてないですし。ここまで来たのに……」

僧侶「そんな事言っていられる場合でしょうか? いや、確かに惜しいですけど」

「他に方法はある」

魔法師「本当ですか? って、あれ、誰?」

勇者「この声、まさか……」

騎士「勇者、剣士、あそこにいるのは」

友「三人とも、わざわざ来てくれたのか」

剣士「……友様?」

勇者「友! 友か!」

騎士「生きていたのだな!」

友「ああ。見ての通りな」

僧侶「あの方が三人が探していた……でも、ちょっとおかしいと思いませんか」

魔法師「そうですね。喜ぶには早いでしょう。どうしてあの人は、結界の外でも大丈夫なのでしょう」

勇者「……それもそうだ。おい、友。どうしてだ」

友「それは、さっき言った実は他の方法と言うのに関係していてな」

友「そうすれば魔物の本体に近づけて、ここの触手や動物達に襲われなくなる」

騎士「本当にそんな方法があるのか!?」

友「ああ。簡単な事だ」

友「俺達の仲間になれば良い」

剣士「……」ゴクリ

騎士「……」

魔法師「……くっ」

僧侶「……」

勇者「……何だって?」

騎士「ちょ……ちょっとよくわからないのだが……」

友「俺達の仲間になれば良い。そう言ったんだ。全部楽になる」

勇者「友、お前自分の言っている事がわかっているのか?」

友「勿論だ。お前こそわかっていないんじゃないか?」

勇者「当たり前だ! 仲間って、どういう事だ」

友「まぁ、この腕を見ればわかるだろう」ウジャウジャウジャ

勇者「っ!?」
剣士「うっ……」
騎士「……っ!」

友「魔物の本体――俺達のご主人様からいただいた隷属の証だ」

友「三人共、聞いてくれ。俺はこうなってから、もの凄く気分が良いんだ」

勇者「友、お前……!」

友「ん? 剣士、それは俺の剣か? 持ってきてくれたのか」

剣士「……今の友様にこれは返せない」

友「どうしてだ? また仲良くしよう」

騎士「君の今の主人の下で、か」

友「ああ」

勇者「……」
騎士「……」
剣士「……」

勇者「……二人共、俺と一緒の気持ちみたいで何よりだ」

友「ついに決心してくれたか! 良かった!」

勇者「残念だ、友。俺達の気持ちもわからないなんて。もう知っている友じゃないんだな」

友「?」

勇者「……ごめん、魔法師さんと僧侶さん。俺達はここに残ります。逃げるなら二人だけ行ってくれて構わない」

魔法師「そうですか」

僧侶「では」

魔法師「何だか癪なので残ります。あながち勝算がないとも言えないですし」

僧侶「ええ。これは気分が悪いです。僕は攻撃はからっきしですが、危ない時に役に立ちますよ」

勇者「二人共……!」

騎士「感謝する」

剣士「勇者様、周りは私と騎士様に任せて。あなたは友様を」

勇者「……ああ」

魔法師「私達も周りの殲滅ですね。これは流石の私でも魔力が切れるかもね~」

僧侶「敵は防御壁周辺に密集しているから、そのまま出たらやられます」

僧侶「それよりは一旦解除して空間に隙間を作る方が良いでしょう。合図で解除します」

魔法師「わかりました」
騎士「了解した」
剣士「……」コク

勇者「友……」

僧侶「3、2、1……ゼロ!」

剣士「っ!」ダッ

騎士「うおおおおぉぉっ!」ブォンッ!

魔法師「最大火力……“火炎放射”!」ゴオオオォォゥ!

グゴゴゴオ… グエェ…
   ググ…グ… …ゲル

友「……」

勇者「……」

友「どういう事だ?」

勇者「こういう事だ」

友「……どういう事だと言ってるんだ! よくもよよよくもよくも俺の俺達の同胞をっ!」

勇者「すまないな、友。今、楽にしてやる」チャキッ

友「勇者、俺が改心させてやる」チャキッ

勇者「剣、持っているんだな」

友「ご主人様は何でも持っている。従者に全てを与えてくれる」

友「勇者、お前もいずれわかるさ」

キンッ キンッキィンッ

勇者「く……っ」ズザザ

友「そう簡単にやられると思ったのか?」チャキ

勇者「今のお前なら……少しそう思っていた」

友「馬鹿言うな。お前が剣で一度でも勝った事があったか? はぁっ!」

勇者「っ!」サッ

勇者「“火炎壁”!」ゴォォォオッ

ウジャウジャウジャウジャ…

勇者「!? 小さい触手が、壁に……!」

友「……そうだな。魔法を使えば俺にも勝つな」

友「でも、忘れてもらっては困る。俺はご主人様と共に戦っているんだ」

勇者「……っ」

友「俺としても、親友を傷つけるのは悲しい。大人しく仲間になれ」

勇者「……俺は負けない」

友「……」

勇者「兵士としての信念を捨てたお前には、負ける気がしない」

友「そんな陳腐な信念……」

勇者「何だと!?」

友「今はもっと偉大な……ご主人様の従者としての信念がある」

友「ご主人様が、世界を統べるための手伝いをする。俺達の信念だ」

勇者「世界を……だと!?」

友「偉大だろ? 大丈夫だ。すぐにとどめをさしてやる。死なないようにな」ザッ

勇者「友ォっ!」ダダッ

ガキィンッ!

魔法師「あの二人……凄い……」ゴオォォ

騎士「二人とも有望な若手兵士ですからね。当たり前です」

騎士「いえ……一人は、『だった』ですね」

魔法師「しかし、どうしますか? 燃やしても燃やしても沸いてきますよ」

騎士「どこかにいる本体を何とかしなくてはならないのでしょうね、多分」

剣士「はっ! たぁっ!」ズバッ ズババッ

魔法師「剣士さんも凄いですね。“火炎放射”!」ゴォォ

騎士「あの子は、兵士だが扱いは訓練生でしてね。本当は危ない目に遭わせたくなかったのですが」

魔法師「あれで訓練生ですか……。白の国は粒揃いですね」

騎士「何。優秀なのが連んでいるだけです。私も含めて」

魔法師「あはは……」

剣士「魔法師さん、ここ一帯もお願いします」タタタッ

魔法師「はい! “火炎放射”!」ゴオォォッ

騎士「剣士、この辺りは任せた!」

剣士「えぇっ!?」

魔法師「どうするんですか?」

騎士「奥に行ってみようと思います」

剣士「でも、寄生されてるのが……」

騎士「そいつらは何とか避けながら行く。どうやらその方が生きていけそうだしな」

剣士「私も――!」

騎士「いや、君と魔法師さんは残ってもらう。勇者の邪魔を減らしてくれ」

騎士「友は本調子みたいだからな。一筋縄じゃいかない事くらい知っているだろう」

剣士「……わかった」コク

騎士「魔法師さん、剣士を頼みました」

魔法師「ええ。……お気を付けて」

僧侶「“――”」ブツブツ

ザッ ザッ

「あなたも来ていましたか」

僧侶「……」

僧侶「……修道士、先輩ですか」

修道士「迎えに来てくれたのですか?」

僧侶「まぁ、そんな所です。修道士A、修道士B、修道士C先輩は亡くなられました」

修道士「ええ、知っていますよ」

僧侶「……」

修道士「あの方達はご主人様の誘いに抗って、受け入れる前に死してしまいました」

修道士「可哀想な方達です」

僧侶「……そうですね」

修道士「僧侶、あなたは賢い。彼らとは違う」

僧侶「そう褒められると、照れますね」

修道士「ご主人様は何人も受け入れます。さぁ、こっちに来なさい」

僧侶「……」

修道士「迷っているのですか? 一緒に来た方達が心配ですか?」

僧侶「そうですね」

修道士「大丈夫。彼らにもすぐに改心していただけるでしょう」

修道士「さぁ、私とご主人様の元へ」スッ

僧侶「……そうですね」ギュッ

修道士「やはりあなたは賢い」

僧侶「本当に、あなたは最も犯してはならない罪を犯したらしい」

修道士「何をですか?」

僧侶「僕達の主はこのような所にはいない」

修道士「まだそんな間違いを言いますか。いいえ、それは間違いです」

修道士「我々が崇拝しなければならないものは、ご主人様です」

僧侶「それだから、こうも簡単に罰が下るのです」

修道士「罰?」

僧侶「寄生された動物や魔物、修道士A先輩達を見て思ったのです。あれだけ体の隅々まで侵されていれば――」

僧侶「――もしかして、痛みはないのではないですか?

修道士「ええ、その通りです。素晴らしい恩恵でしょう」

僧侶「だから、今のあなたは、僕が握った手から触手ごと腐っている事に気付かないのです」

修道士「……何ですって?」シュウゥウゥ

修道士「これは、まさか……」シュゥゥゥ

僧侶「あなたから教わった、腐食の祈りです」

僧侶「勇者さん達のご友人が出てきたのですから、他の人間や……あなたも出てくると思って唱えておいたのです」

修道士「やはり、あなたは賢い。もう少し警戒すべきでした」

僧侶「こうでもしなければ、あなたには勝てなかったでしょう」

修道士「ですが、憶えておいてください」

僧侶「……」

修道士「残るのはいつの世も、正しき者であるぁぇ……ぁ……」シュゥゥォオオ…

僧侶「喉と口が腐りました。残念ながら、全部聞けなかった――」

僧侶「――っ!? これは……!」

時間があまりないけど、今日も書くよ!

と言うか、本当遅筆でごめんなさい。
三年か……。それだけ時間があったら、普通に書けてれば今頃終盤あたりかな……。

勇者「“火炎弾”!」

ウジャウジャウジャ
   ゴオォォォオ!

友「魔法は効かない!」シュバッ

勇者「くぅっ!」キンッ

勇者「……剣じゃ友には勝てない……」

勇者「かと言って魔法は……触手に邪魔されて届かない。どうすれば……!」

友「!?」

勇者「っ!」

友「くそっ!」ダッ

勇者「……逃げた? どうしたんだ?」

魔法師「周りも同じです。撤退でしょうか……」

勇者「そんなまさか」

僧侶「勇者さん、驚くべき事がわかりました!」ザザッ

勇者「どうしました?」

僧侶「被寄生者の事ですが、あるべきものがないんですよ」

勇者「?」

僧侶「脳です。頭の中が空っぽなんですよ」

勇者「そんな馬鹿な! だって……じゃあさっき戦っていた友は……!」

僧侶「そこまでは……わかりませんが……」

ズシャッ

剣士「……本当だ。見て、この猪の死体」

剣士「脳どころか、体の中が空っぽだよ」

魔法師「となると、これらを動かしていたのは、寄生してた小さな触手……?」

魔法師「……! 騎士さんが危ない!」

勇者「騎士がどうしたって?」

魔法師「本体を探しに先に奥へ! ここにいたのが退却したと言う事は――」

勇者「そういう事か! 急ぐぞ!」

「油断も隙もない……」
「ご主人様の所へ来るとは」
「大丈夫。痛みは」
「――下らないその姿の時だけ」
「すぐに気分が良くなる」
「ふふふ……」
「くくく……」

騎士「くっ、まさかまだこれ程人間がいるとは……!」

騎士「そことそこと、後そこ、見覚えがあるな。やはり行方不明者はここの仕業か」

騎士「……困ったな。人間だけでもこの数……触手の数も増えている」

騎士「だが、触手の根元は見つけた。あれが本体だろうな」

友「勘が良いな」

騎士「友!? 勇者はどうした!」ザッ

友「さぁな」チャキッ

騎士「……っ」

騎士「一つ聞く。なぜ勇者ばかりを狙った。一対一の勝負をする理由はないだろう」

友「ご主人様がそう望んだからだ」

騎士「なぜ君の主人は――」

友「油断は禁物だ、騎士」

シュルルルル
  パシッ パシッ

騎士「なっ!?」

友「……捕まえた」

「ふふ……つかまえたー……」
「仲良く、仲良く……」
「へへへへ……」

騎士「くっ……離れないっ……!」グッ グッ

友「勇者を先に狙ったのは、俺の記憶によるとご主人様の一番の敵となるからだ」

友「勇者は頼りになるけど、今の勇者は恐ろしい」

友「騎士にも手伝ってもらうよ」

グイッ

騎士「うああぁぁあっ!」

たった2レスしかできなかった……。
けどそろそろ時間なので!

ごめんなさい。
また空けてしまいました。
反省は

しない。

ダダダダッ

勇者「騎士!」

「来た……」
「獲物……来た……」
「ふふ……仲間が……」

友「……早いね」

勇者「焦りすぎだ。バレバレなんだよ」

魔法師「どうやらあれが、本体みたいですね」

僧侶「……触手というのも頷けますね。枝葉こそないけど、木の幹みたいです」

魔法師「幹なんて単純なものなら良いのですが」

勇者「……騎士をどこへやった」

騎士「ああ、彼女ならあそこだ」

勇者「何!?」

触手の束「……」ウネウネウネウネ

勇者「っ!」

僧侶「そんな……!」

友「彼女もご主人様の側で改心する事だろう」

友「騎士も俺達の仲間だ。勇者達も――」

ズシャァッ!

友「――!?」

騎士「ああああああっ!!」ブォンッ

グシャァッ! ブチャァッ!

魔法師「騎士さん!」

勇者「無事なのは助かったが、怖いな……」

騎士「うああああっ!!」ブォンッ ドシャアァッ!

友「あ……あ……!」

僧侶「何か……様子がおかしいようです」

魔法師「よく見てください。騎士さんが斬っているところを」

僧侶「そうか。本体の幹を斬られてるから怒って――」

グチャッ ベチャッ

僧侶「――そうじゃない! 幹の中に、脳が詰まっている!?」

勇者「みんな、周りを見ろ!」

魔法師「!?」

「……っ」バタッ
「く……ぅ……」バタリ

僧侶「みんな倒れていく……」

友「わ……わた……ワタタ……!」
「タタ……ワタタタタ……!」
「シワ……タタタ……シシ……!」

友「ワタ……」
「……シヲ…」

友「怒らせたな……!」

魔法師「!」

魔法師「聞いて下さい! 多分、この人達はみんな生きてはいません!」

魔法師「体だけ操られ、意識はみんなこの幹に操られてるはずです!」

勇者「何! 騎士、もっと斬りつけろ! すぐ加勢する!」ダッ

友「……」ガシッ

勇者「くっ……邪魔するな、友!」

魔法師「駄目です! 今までと違って本気でかかってきてます!」

僧侶「うわわっ、無言で捕まえて来るんですが!」

魔法師「触手も次から次にんぐっ――!?」

勇者「騎士――!」シュルルルッ

騎士「ッ――!」シュルルルッ

ウネウネ…
 ウネウネ…
  ウネウネウネ…

>騎士「ああ、彼女ならあそこだ」
ここは友のセリフか?

>>423
うわわわ……その通りです……。
まさか俺がこんなミスをするとは……!

誤字はかなりしてるけど。

~  ~

勇者「……」

魔剣〔……〕

魔剣〔……ん、続きはどうした?〕

勇者「いや、終わりだけど」

魔剣〔待て。今ので終わってはキミどうして生きているのだ?〕

勇者「生きている? 馬鹿を言ってはいけないな」

魔剣〔……質の悪い冗談に付き合う程器は大きくないぞ〕

勇者「やっぱりバレるのか」

魔剣〔我を何だと思っている。キミの体を何度も動かしたのだぞ〕

勇者「……そう言うとお前も相当危ないな」

魔剣〔キミを守っているだけのつもりだが?〕

勇者「……」

魔剣〔……何故黙る〕

勇者「で、さっきの続きだけど」

魔剣〔何故黙った!?〕

勇者「その話はまた別の時にしようか。それでな――」

勇者「実は俺もよく憶えてないんだ」

魔剣〔どういう事だ?〕

勇者「みんなが触手に飲まれた後、すぐに俺も触手に巻かれて何も見えなくなり身動きもできなくなった」

勇者「そこまでは話したな」

魔剣〔ああ〕

勇者「その後で、俺はどこかに運ばれる感じがしたんだ。多分、あの幹の近くに」

勇者「もう必死で何かしようとして、無我夢中だった」

勇者「触手を切り落とそうともがいた。勿論、腕なんて全く動かなかったけどな」

魔剣〔……〕

勇者「それで、口ならまだ少し動いたから、わけもわからずに詠唱した。多分、エレックス系――雷撃の魔法だったと思う」

勇者「そこで俺は意識を失ったらしい」

魔剣〔意識を失った?〕

勇者「その辺りから記憶がないんだ」

魔剣〔恐怖で意識を飛ばしたのか? それとも――〕

勇者「気絶させられたのでもない、と思う」

勇者「俺が次に意識を取り戻した時には、全部終わっていたよ」

魔剣〔ふむ……〕

勇者「俺を起こしたのは、魔法師だった」

勇者「僧侶も無事に触手の残骸の上で待ってた」

勇者「騎士は、その時はまだ気を失っていたな。みんな外傷は少なからずあったけど、無事だったよ」

勇者「まぁ、友はあれだったが……」

魔剣〔魔物の本体は倒していたのか?〕

勇者「そうらしい。操られてた人達の脳も、魔物の幹と一緒に焦げてた」

魔剣〔何があったのかは――〕

勇者「魔法師と僧侶が一部始終見てた――と言うよりは感じていたようなものだな」

勇者「突然触手全体に大量の電撃が流れて、二人はその時に緩んだ隙に逃げたらしい」

勇者「触手から開放されると、どうやら俺がその電撃を魔法で起こしていたらしい。魔法師が言うには、一気に放出するにはおかしいくらいの魔力で」

魔剣〔ほう。それは勇者には潜在的に大きな魔力が眠っていたと言う事か?〕

勇者「そうじゃないな」

魔剣〔では?〕

勇者「これも魔法師の見解なんだけど」

魔剣〔ふむ〕

勇者「魔力って言うのは生命エネルギーに近いものだ、って言うのは知ってるよな」

魔剣〔うむ。なくなったからと言って死にはしないがな。激しく疲れる〕

勇者「だから魔法使いは自分の持ってる全魔力に合わせて、一回の魔法に使える魔力も大体決まっているのだそうだ」

勇者「魔法使いが決めるのではなく、体が自分の身を守るためにそう制限してるみたいに」

魔剣〔そうだ。そうでなければ低級の魔法使いが高位魔法を使って身を滅ぼしただろう〕

魔剣〔我が時代にはそのような例はない。この時代までにもないのだろう?〕

勇者「ああ。だけどな」

勇者「俺がその第一号だ」

魔剣〔……何だと?〕

勇者「魔法師は昔から優秀だった。だから俺の魔力の減り方もすぐにわかったんだ」

勇者「エレックス系の初級魔法、電撃……。あの時の危機は俺の全魔力でそれを放った事で乗り越えられたらしいんだ」

勇者「俺に自覚はないんだけどな」

魔剣〔では、『勇者になった』と言うのは……〕

勇者「それは、元々魔法使えるのにわざわざ兵士になった変わり者だったけど」

勇者「決定的だったのはそれだな。俺の魔法には体からの制限がないんだ」

魔剣〔それは……我も気付かなかった……〕

勇者「それはもっともな話だよ。普段は必要以上の魔力は使わないように気を付けてるし、そうできるように訓練もした」

勇者「そうなれば、後は他の魔法使いと同じなんだ」

魔剣〔成る程な。……あぁ、そう言えば、キミがその魔法を使っている時、騎士の様子は言ってなかったが」

勇者「あー……聞いて話だとな」

魔剣〔うむ〕

勇者「直撃だったらしい。脱出できずに」

魔剣〔なんと頑丈な……〕

ザリ…ザリ…

勇者「!」

魔剣〔来たか……!〕

勇者〔ひとまず話はここまでだ〕

魔剣〔言わずとも理解しておる〕

ザリ…ザリ…

勇者「……」ゴクリ

ザリ…ザリ…

魔剣〔大丈夫か? 昔のキミは必死で何とか勝てたらしいが〕

勇者〔正直……わからない〕

勇者〔これでも随分強くなったつもりだ。何とかなると思いたい〕

魔剣〔……もうすぐそこだな〕

ザリ…ザリ…

魔剣〔来るぞ!〕

「うああ……あー……」ズズズ…

勇者「……ん?」

魔剣〔どうした?〕

勇者「あぁ……この人は、肉屋の息子さんだ。聞いた容姿にそっくりだ」

肉屋の息子「あ……ぁー」ザリリ…

魔剣〔その肉屋の息子がどうしてこんな事になっている? 魔物に操られているにしても……〕

勇者「もしかして、別の魔物なのか?」

魔剣〔!? 気を――〕

勇者「いや――」シャキンッ ドス

ウネウネウネ…

魔剣〔――気付いていたか〕

勇者「この触手……同じような奴みたいだな。やけに細いけど」

勇者「これくらいの力なら何とかなりそうだ。触手を辿って行こう」

魔剣〔この人はどうするのだ?〕

勇者「残念ながら、もう手遅れだろうな……」

勇者「……」

魔剣〔……なぁ、勇者〕

勇者「何だ?」

魔剣〔キミはしっかり捕まえた触手を辿って来たのだろうな?〕

勇者「そのつもりだけど」

魔剣〔キミが話した魔物の幹とは、これか?〕

勇者「……多分」

魔剣〔まさかこのようなのに死にかけていたのではあるまいな?〕

勇者「いや、前はこの広間の天井に届くくらいに大きかったはずだ」

魔剣〔いや、こちらも一応確認しただけだ〕

魔剣〔周りに動きの覚束ない他の魔物や動物がキミを狙っているから、これであってるのだろう〕

勇者「幹というか、瘤だな」

魔剣〔うむ。両手で抱えられそうだ。持ってみるか?〕

勇者「……」

魔剣〔……〕

勇者「……嫌だね。気持ち悪い」

ドス ザシュッ ザシュッ

 ドサドサドサ…

勇者「一件落着だな」

魔剣〔そのようだな〕

勇者「あの後白の街に戻って白国王様に報告しに行った」

勇者「褒められる前に、まず怒鳴られたけどな」

魔剣〔……だろうな〕

勇者「魔法師や僧侶のお陰で随分軽くなったけど」

魔剣〔その後二人は?〕

勇者「あの二人は元々派遣元が違ったから、俺達の報告に付き合うと自分の所にさっさと帰ったよ」

勇者「後日、国の研究者が山に入って魔物を調べたらしい。その結論も俺達の耳に届いてる」

勇者「魔物の主、とか言われた魔物の正体は、やはり触手系の魔物の一種らしい」

勇者「ただ他の生き物を捕まえてその脳を自分のものにし、どんどん賢くなっていくのだとか」

魔剣〔そんな魔物までいるのか。考えるだけで恐ろしいな〕

勇者「まぁ、こいつくらいしか俺は知らないけどな」

勇者「それからの俺達はもう言わなくても大体想像つくだろう」

勇者「俺と騎士はこれを期により力をつけるよう励んだ。むしろそうしないと、友の事を思い出してつらかったんだけど」

魔剣〔……〕

勇者「そう言えば剣士もその頃から二刀流になったんだっけな」

勇者「今は自分の部屋に飾ってあるみたいだけど、友の形見の剣を暫く使い込んでたな」

勇者「で、白姫は友の事を知ると逃げるように国を出て行った」

勇者「……本当に、もう随分と昔の事みたいだよな」

魔剣〔……すまないな。つらい思い出を思い出させたようだ〕

勇者「別に良いよ。ここはどのみち思い出してしまう所だから」

勇者「……さて、騎士も待っている事だし、戻るとしようか」

魔剣〔そうだな〕

勇者「無用に緊張したせいで何だか疲れたな……」

魔剣〔そう言っている場合ではないと思うのだが。これから竜退治なのだろう〕

勇者「調査」

魔剣〔そう変わるまい。竜退治になったとしても、我がいるから安心すれば良い〕

勇者「そう言えば英雄王って竜を倒した事があるんだっけ」

魔剣〔うむ。手強かったぞ〕

勇者「調査にしろ退治にしろ、出発前にやっておかなくてはいけない事はあるけどな」

魔剣〔?〕

勇者「肉屋の主人に息子の遺体を届ける事と、この魔物の対策を考えてもらうように報告もしないと」

魔剣〔また新しくこの場に生まれるかもしれない、か〕

勇者「その通り」

ザッ…ザッ…

勇者「!?」

魔剣〔まさか……まだいたのか!?〕

ザッ…ザッ…

騎士「ああ、勇者。やはりここにいたのか。大丈夫か」

勇者「……騎士か。脅かすなよ」

騎士「すまないな。倒したとは言え、ここはあの場所だからな」

騎士「ところで、道中遺体を見つけたのだが、何かあったのか?」

勇者「大丈夫だ。全部終わった。またあいつがいただけだよ」

騎士「また!? い、いや、その前に終わった、って、一人でか!?」

勇者「焦りすぎだ。かなり小さい状態だったから楽だったよ」

騎士「そ、そうか……」

勇者「そう言えば何で騎士がここに?」

騎士「私も白姫様もこの件は知っているからな。心配したんだ」

勇者「……そうか。ありがとうな」

騎士「……いや」

勇者「だが一応その件は終わったからな。行こうか、竜の国へ」

ひとまず(珍しく本当の意味で)キリが良いので。
ちなみに回想編の途中からミスが発生しています。
ええ、うっかり忘れてたんですよ。すみません、剣士さん。
補足すると、四人がピンチの時、剣士は本体のいる広間までの通路に取り残されてました。
理由は各自脳内補完!

で、次の話は三つに分岐するので、最初に何からするのか安価で多数決とります。
 1.男と盗賊 依頼編(野の国)
 2.剣士 修行編(渦の国)
 3.勇者と騎士 調査編(竜の国)
>>~+5 or 2月突入まで

ストーリーの組み建て方的にそろそろメインストーリーが動くものをやって貰わないと

二月に入ってすぐ書くと思ったか?
……俺もそう思ってました。
しかし、剣士修行編の不人気っぷりは凄いな。
それでは 1→2→3の順でやっていきたいと思います。
1の場所は野の国。少しは進行してくれるで、あろう。
http://sssssssssssssss.web.fc2.com/img/img_a004.jpg

>>440
正直なところ、もっと無駄な話もしておきたかったり。
でもこの遅筆だし早く進行もしたかったり。そんな葛藤があります。
まぁ、ここからは暫く進行すると思いますので。

――野の国、蓮花の町

ガラガラガラ…

男「……やっと着いたか」

盗賊「ああ、蓮花の町だ」

男「遠くから見ても思ってたんだが」

盗賊「あ?」

男「村じゃないのか?」

盗賊「町だ。確かに町にしちゃあ田舎臭ぇがな」

盗賊「……相変わらず田舎臭ぇ。主力も変わらず大麦らしいしな」

男「周りの畑のあれか。小麦じゃなかったのか」

盗賊「大麦だ。そんな見分けもつかねぇのか」

男「生憎農業方面にはやや疎くてね」

男「で、相変わらずって言ったが」

盗賊「ちょいとばかり縁があってな」

男「盗賊稼業か」

盗賊「いや、そうじゃねぇが」

男「……ほう。興味があるな」

盗賊「いらねぇ所に関心持つんじゃねぇよ!」

男「……ほう」ニヤニヤ

盗賊「チッ。詮索はするなよ」

男「まぁ良いか。わざわざ来てるって事は、追々わかるって事だろうし」

盗賊「……さぁな」

男「それで、待ち合わせ場所はどこだったっけ?」

盗賊「ほら。あの宿屋だな」

男「……古いな」

盗賊「寝れりゃいいんだよ。広さは俺達の借部屋より少し小さいくらいだったはずだ」

男「持ってきた機材がおければ良い」

盗賊「だろうな……。ふんっ!」パシンッ

ヒヒーン ガララ…

盗賊「しかしまだ来てねぇな。早く来ちまったか」

男「交通手段が馬車じゃな……。ん、あの人じゃないか?」

盗賊「どれだよ」

男「宿屋の中からこっち見てる」

盗賊「……ああ、あいつだな」フリフリ

男「知ってる顔なのか」

盗賊「当たり前だ。情報屋って言ってな、ここの首都を拠点にしてる奴だ」

男「ほう」

ギィ… バタン

情報屋「いやあ、盗賊、こうして顔を合わせるのは久しぶりだね」

盗賊「おう。元気そうじゃねぇか」ガシッ

情報屋「君も思ってより元気じゃないか」ガシッ

盗賊「思ってたより?」

情報屋「盗賊団がつぶれて陰気になっていると思っててね」

盗賊「まぁ、吹っ切れてはいねぇがな。あいつらの分もしっかりしねぇと」

情報屋「そうだねぇ。それで、そちらがお連れの学者さんで?」

盗賊「ああ。男って奴だ」

男「ツレって……いや、今はそうなるのか」ブツブツ

情報屋「よろしくおねがいします」

男「ええ、こちらこそ」

情報屋「でも驚いたね。手紙での到着日が意外と早いから驚いていたんだけど、まさか馬車とは」

情報屋「これもお連れさんので?」

男「いえ、これは勇者さんから借りているものですよ」

情報屋「はぁ、勇者様のですか……!」

情報屋「半信半疑だったけど、凄いツテを持ったみたいだね」

盗賊「自分でも驚いてる」

情報屋「本当、偶然もあるものだねぇ」

情報屋「さて、まだ日が落ちるにも時間があるから、話だけでも進めようかな」

盗賊「ああ。だがその前に――」

情報屋「ええ。まずは荷物を部屋に置いてもらった方がいいかな。部屋は取ってあるよ」

盗賊「手配通りだな。助かる」

情報屋「この大荷物は予想外だったけど」

男「すみません」

情報屋「いえいえ。このくらいは入るでしょうし」

情報屋「後はこの馬車だね」

盗賊「この裏って荷台も置けたか?」

情報屋「ええ、大丈夫」

盗賊「って事だ。てめぇの荷物は自分で運べよ」

男「わかってる」

――酒場

「麦酒、おまたせしましたー」

盗賊「――よし、依頼を聞かせてもらおうじゃねぇか」

情報屋「その前に、とりあえず飲もうよ。折角ここまで来たんだ」

盗賊「?」

情報屋「男さんもどうぞ。蓮花の地酒は絶品ですよ」

男「……うめぇ」

情報屋「でしょう、でしょう!」

盗賊「いや、俺もそのくらい知ってるけど……」ゴク…

情報屋「……」

盗賊「何か訳ありか?」

情報屋「今回の件、二つ驚き所があるんだよね」

情報屋「まぁその一つは白羽教会が関わってきてるって事」

盗賊「教会が?」

情報屋「ええ。何でかは不明。でもこのくらいじゃ盗賊は驚かないだろうね」

盗賊「いや、少し驚いてる。そんな重大なものと思ってなかったんでな」

情報屋「で、もう一つが、蓮花の町外れの館に住んでいる領主、麦主の御息女が関係している」

盗賊「……!?」ピクッ

男「?」

盗賊「……麦娘か」

情報屋「ええ」

男「麦娘?」

盗賊「ここら一帯の領主の一人娘だ」

男「いや、それはさっき聞いたが」

盗賊「だからわざわざ俺を呼んだんだな」

情報屋「他でも良かったんだけど、君が適任だろうし」

盗賊「……はぁ。聞く前に飲みきって置くんだったぜ」

男「……麦酒うめぇ」グビグビ

盗賊「……はぁ」

情報屋「……」

男「……」ゴク…ゴク…

盗賊「とりあえず……詳しく聞かせろ」

情報屋「ええ」

情報屋「事の発端は、ある魔物の出現からなんだ」

情報屋「その魔物はいつからいたのかは知らないけど、麦主の御息女が関わってくるのは、大体半年前」

情報屋「ところで、この村の北側に草原が広がっているのはしっているかな?」

盗賊「ああ。遠くの山のてっぺんが地平線の上に見える、広いとこだな」

情報屋「その草原であってるよ。魔物はいつしかそこに住み着いていたんだ」

盗賊「あんなとこにか?」

情報屋「そう。しかも身の丈二人……いや、三人もある巨人だそうだよ」

盗賊「そりゃあ怖いな……。凶暴なのか?」

情報屋「いや、それがわからなくてねぇ」

盗賊「?」

情報屋「それで半年前くらいの話になるわけだよ」

盗賊「麦娘の話か」

情報屋「そう。それまでは特に害もなかったから、町の人は魔物を放っていたんだ」

盗賊「草原にもあまり行かねぇだろうしな」

情報屋「ところが、ある日御息女が姿を消して、暫く大騒ぎだ。町やその近郊を探しても見つからない。そこで草原にも捜索をあてたところ」

盗賊「見つかったわけか」

情報屋「御息女はその巨人と住んでいた」

盗賊「……は?」

情報屋「どこから材料を持ってきたのかわからないけど、大きな掘っ立て小屋を作ってね」

盗賊「……いや……は?」

情報屋「それを見つけた人は慌てて御息女を連れ戻そうとしたよ。そうすると巨人は暴れ出して、何人か重傷を負った」

情報屋「その報告を聞いた領主の麦主はどのように連れ戻すかずっと考えあぐねているんだ」

情報屋「それが、半年程前の話」

盗賊「ちょっと待て……混乱してきた……」

情報屋「奇妙な話だよねぇ」

男「ちょっと良いですか?」

情報屋「何でしょう」

男「聞いている分には、町の人が一方的に悪い気がするんですが」

情報屋「そうとも取れるんですけどね……相手は魔物ですし、御息女の身に何をしているか」

情報屋「彼女の服装も相当乱れていたと聞きます」

男「それは暫く着替えてないだけじゃ……」

情報屋「どうでしょうねぇ」

盗賊「よし。続きを頼む」

情報屋「大丈夫?」

盗賊「いまいち理解できねぇが、埒があかねぇ」

情報屋「だね。それで御息女の方も帰るつもりはないらしく――本当に大丈夫?」

盗賊「……続けろ」

情報屋「そんな状態だから、やはり魔物が何かをしているに違いないって言う話が出回り始めたんですね」

情報屋「脅迫か、洗脳か、催眠術か。そんな類です」

盗賊「あぁ……」

情報屋「その時はまだ噂程度だったんだけどねぇ。一ヶ月程前の事ですね、彼らが来たのは」

盗賊「教会の連中か」

情報屋「ええ。彼らは魔物の噂を聞いて来たらしく、すぐに殺さなければならないと説いたのです」

情報屋「そんな彼らでしたが、魔物の元に向かって、それから随分とボロボロになって戻ってきました」

盗賊「巨人はそんなに強ぇのか」

情報屋「いえ、御息女のせいだよ」

盗賊「~~っ!」

情報屋「大丈――」
盗賊「続けろ」
情報屋「――ええ」

情報屋「戻ってきた修道者達の話では、彼女は殺そうとしてきたそうだ」

男「なんでまた」

情報屋「さぁ? それ以上の話は伺ってませんので」

情報屋「最も、それからその魔物が御息女を手籠めにしている噂は、町の中でも信憑性の高い話になりました」

盗賊「で、結局俺達にどうしてもらいたいんだ? 巨人を倒せってか?」

情報屋「いやいや、依頼としては無事御息女を領主の館に戻っていただければ良いだけだよ」

盗賊「ぬるい依頼主だな」

情報屋「魔物の生死は問われてないけど」

情報屋「最も君に期待するのは、それ以上だけどね」

情報屋「事の真相を知り、物事を円滑に処理してほしい」

盗賊「無茶言いやがる」

情報屋「かもね」

男「そこまでして、あなたに得でもあるんですか?」

情報屋「あるにはありますね」

盗賊「一種のプライドみてぇなものだろうが」

情報屋「いや。常に正しい情報を得なければならない。これは信用問題にかかわるからね」

情報屋「情報屋は信用が第一」

盗賊「嘘でも稼げる奴は稼いでるさ」

情報屋「でも正しければ贔屓もしてくれる。君みたいにね」

盗賊「はっ、その通りだな」

盗賊「まぁ、やれるだけの事はやってやるぜ」

情報屋「期待してるよ」

盗賊「それに、今回は良い頭脳もあるからな」

情報屋「成る程、それで学者さんがついてきてるわけだ」

男「……」ゴクゴク…

――宿屋

男「ふー」ドサッ

盗賊「疲れてるみてぇだな」

男「長旅だったからな。酒のお陰で随分紛れたが」

盗賊「そりゃあ良かった」

男「それで、明日からの話だが」

盗賊「疲れてるんじゃねぇのか?」

男「いや、寝る前に少し話して置いた方が良いと思ってな」

盗賊「えらくやる気じゃねぇか」

男「いつも世話になってるからな。何か助けにはなれると良いが」

盗賊「……は? 何だ気持ち悪ぃ」

男「いやな、この辺りで一度日頃の家事手伝いの借りを返しても良いのではと思って」

盗賊「ありがてぇが、何か複雑な気分だぜ……」

男「で、明日は領主の麦主って人と会わずに草原に行くんだな」

盗賊「ああ。その分成功報酬のうち紹介料と仲介料は情報屋に引かれるがな」

男「お前が昔何かしなけりゃ紹介料だけで済んだだろうに」

盗賊「良いんだよ。今回は金のためじゃねぇんだ」

男「ほう。意味深だな」

盗賊「意味深も何もねぇよ。情報屋とは旧知の仲だしな」

男「麦娘という人のことは?」

盗賊「追々、少しずつ話せばいいか?」

男「仕方ない。それで手を打とう」

男「それでだな」ゴソゴソ

盗賊「ん?」

男「少し興味を持って蔵書館で借りてきたものがあるんだ」ドサ

盗賊「本――図鑑だな。『魔物大概説』?」

男「旅に出る時は道中に魔物が良く出るだろ?」

盗賊「ああ」

男「だから役に立つかと思って持って来てたんだ」

男「で、今回はどうやら魔物が関わりがあるらしいから、そういう意味でも役に立つんじゃないか?」

盗賊「確かに良いかもな」パラパラ

盗賊「ああ、確かにこんなんいたな!」

男「はは、面白そうだな」

盗賊「改めて見るとな」

盗賊「こんなもんあったんだな。結構な種類があるぜ?」

男「最近発行されたものらしい」

盗賊「でもやっぱり竜の国とか魔の国とかの魔物はないな」

男「当たり前だろう」

盗賊「麦娘のとこのは巨人だから……ヒトガタ種だな」

男「今調べても外見知らないんだからわからないだろう」

盗賊「こういうのは大体絞り込んでおいてだな……」

男「まぁ、そうだな。ヒトガタでも巨人はそれ程多くなかったはずだし」

盗賊「野の国に出るのは、こいつとか」

男「樹木の巨人、か。でもこれは北部地域だしな」

盗賊「違うのか?」

男「いや、そうは言わないが……ん? これは?」

盗賊「醜面の巨人? おいおい、冗談はよせよ」

盗賊「こいつには俺も対面した事はあるが、小屋を作るくれぇの知恵なんてねぇぞ」

男「そうなのか? あぁ、本当だ。書いてある」

盗賊「こいつかもしれねぇな。穴潜りの巨人」

男「葉の国が主な出没地域……野の国にも目撃例……」

男「可能性は少ないな」

盗賊「ない事はねぇな」

盗賊「それにしても、お前が急に魔物に興味を持つとはな」

男「あぁ……」

男「前に女さんと会った時あるだろ?」

盗賊「……魔王が攻めてきたときか」

男「ああ。あの時に置いていった鉄の魔物。あれに対して女さんが言った事が離れなくてな」

盗賊「……」

男「『この魔物は、私が作りました』って」

男「この世界の歴史を聞いたときも疑問に思ったが、あの一言でほぼ確信した」

男「魔物は人工物なんじゃないか?」

盗賊「俺達は魔王が呼び出した魔界の獣と聞いているがな」

盗賊「確かに女がそう言ったなら……いや、あの魔物だけの可能性もあるじゃねぇか」

男「そうだな。それを知りたくなった。そんな感じだ」

男「まぁ、この話はこのくらいにしておこう。もう少し図鑑を見ておこうか」

(翌朝)
――蓮花の町郊外

男「……」コクリコクリ

盗賊「……」ウトウト

男「……まさかこんなに眠くなるとは」

盗賊「……まさかあんなに話が弾むとは」

男「元はと言えば、お前が悪い。巨人でもないヒトガタの話をし始めて」

盗賊「食いついたてめぇも悪いだろうが」

男「その後にヒトガタ以外のページをめくったお前の方が悪い」

盗賊「それを言うなら動物との相関なんとかの話をし始めたてめぇも酷ぇぞ」

男「相関性だな」

盗賊「そんな事はどうでもいい」

男「全くだ」

盗賊「……」フラフラ

男「……」ウトウト

盗賊「……あそこだな」

男「ん?」

盗賊「あの麦畑の向こうに塀があるのはわかるか? あの向こう側から草原って言われてる」

男「石造りの塀か。あまり高くないが、意味はあるのか?」

盗賊「獣、魔物除けだが、大物がくりゃあ駄目だろうな」

男「こういう所、土地安そうだな」

盗賊「何考えてやがる」

男「最近、本当に俺らは帰れるのか不安になってきてな。それならいっそ大きい研究所でも構えようかと」

盗賊「……っは」

男「ところで、ここから掘っ立て小屋までどのくらいあるって言ってたっけ?」

盗賊「……しまった。聞いてねぇ」

男「だろうな。俺も今気付いた」

男「北にまっすぐ向かえば良いらしいが」

盗賊「北と言やぁ、野中山が見えるはずだ。そっちに向かえば良い」

男「目印があるのか。それは助かるな」

盗賊「草原に入ると目印が少ねぇから、気を付けねぇと――煙?」

男「煙? 火事か?」

盗賊「あの大きさは、多分焚き火だな。なんでこんな所に」

男「誰かいるのか?」

盗賊「どうだか。まぁそろそろ景色も開けるからな」

「何だろ……誰かいr――!?」ザッ バッ

盗賊「誰かいたな」

男「俺らの姿見てすぐに隠れたけどな。何か傷つく」

男「おっ、本当に焚き火だ。よくわかったな」

盗賊「経験の差ってやつだ。テントも張ってあるな。野宿でもしてたのか?」

「――?」
「――っ!」
「――」

男「二人はいるな。まぁ、ずっと前にいるのも野暮だし、行こうか」

盗賊「とは言ってもな、見られてるんだが」

男「え?」

「……あの、何か用でしょうか」

男「いえいえ、用と言うほどでもありません」

盗賊「なんかすまねぇな。これから草原を探索に行こうとしてただけだ」

「草原……?」ピクッ

「草原には近寄らない方が良いですよ」

盗賊「そうは言ってもな。用があるんだ」

「……そうですか。何やら既にご存じのようですね」ゴソゴソ

盗賊「!? てめっ、その服装……!」

修験者B「申し遅れました。私は白羽教会の修験者Bと言います」

修験者B「そして……」

修験者B「……」シーン

男「?」
盗賊「?」

修験者B「そして……」

修験者B「……」シーン

修験者B「こちらが、修験者A先輩です」グイッ

修験者A「なっ何を……!」

男「どうも」
盗賊「……」

修験者A「……」コクリ

男「人見知りなのかな? 外套も目深に被って、顔も見えない」ヒソヒソ

盗賊「俺に聞くな」ヒソヒソ

修験者B「草原に用という事は、巨人の魔物と領主様のお嬢様の事でしょう」

男「そうだと言ったらどうします?」

修験者B「やめておきなさい。並みの人達には手に負えないものです。私達に任せてください」

さて

盗賊「あぁ?」

修験者B「件の魔物の事は既にご存じと思いますが」

男「ええ。麦娘さんという方と一緒にいるのだとか」

修験者B「相手は魔物ですよ。そんな生易しいものじゃありません」

修験者B「何かしらの魔法か何か……を使って手籠めにしているのです」

男「何かしらの、ですか。あなた達もよくわかってないようですが」

修験者B「だから危険なのですよ」

盗賊「その前にだな、何でてめぇら教会の連中が出しゃばってきているんだ?」

修験者B「……民の生活を守るのも私達の役目ですので」

盗賊「ほう、殊勝なこった。だがな」

修験者B「?」

盗賊「麦娘には少し縁があってな。放っておくわけにはいかねぇんだ」

修験者B「しかしですね」

盗賊「ああ!?」

男「駄目だな。話が平行線だ」

盗賊「全くだ」

修験者B「私はあなた達に危険が及ばないように言っているだけです」

男「心配はありがたいのですが、俺らは行きますよ」

修験者B「……わかりました。では私達もすぐに準備しますので、ご一緒に――」

盗賊「断る」

男「えっ」

修験者B「……なぜですか?」

男「ついてきてくれるんだったら良いじゃないか。確かにその方が安全だ」

盗賊「気に食わねぇんだよ」

男「そんな根拠のない……」

修験者A「……」コクリ

修験者B「……はぁ、あなたがそう言うなら」

修験者B「良いですよ。もう私達は止めません」

男「なんかすみませんね」

修験者B「いえ……」

盗賊「おい、男。早く行くぞ」

男「ああ」

修験者B「……行きましたね。どうしたんですか、ずっと黙って?」

修験者A「ちょっとね」

修験者B「はぁ」

修験者A「それに、あまり強く引き留めるのも引き留める原因になるから」

修験者B「そうですか。信用は大切ですからね」

修験者A「その通り。僕達はあくまで神の使いだからね」

男「全く、あんなに食ってかかる事はないだろうに」

盗賊「良いんだよ。坊主は好きじゃねぇんだ。特にああ言う善人ぶった野郎は」

男「やめてくれ。イタいから」

盗賊「何だと!?」

男「でもまぁ、そう無下にしなくても良いのに」

盗賊「おかしいとは思わないのか?」

男「何が」

盗賊「魔物退治は兵士や魔法使いの仕事だ。教会が率先してやってるって話は聞いたことがねぇ」

男「でも……僧侶さんとかは勇者さん達について行ってただろ」

盗賊「ああ言う場合は教会に依頼が来るのが普通だ。だから教会の連中だけって言うのはない」

男「が、さっきのはそうだからって言うのか?」

盗賊「そうだな。ただそれだけでもない」

盗賊「例外ってのは確かにあるかもしれねぇ。だがな、今回のは魔物だけでも例外なんだ」

盗賊「魔物の例外さがどれくらいかってのはまだわからねぇが……」

男「例外に例外が重なる、か」

盗賊「怪しいだろ?」

男「確かに奇妙だが、そんなにお前が気にするとはな」

盗賊「うるせぇ。俺の鼻を信じやがれ。嫌な臭いがするってんだよ」

男「臭い、か」

盗賊「ああ」

男「さて、これからどのくらい歩くことになるのか」

盗賊「さぁな」

男「最近恐ろしい事によく気が付くんだ」スチャ

盗賊「何だ、唐突に」

男「俺もこの世界に慣れてきたんだな、と」

盗賊「慣れてきただ?」

男「ああ。魔物を倒すのも普通になってきたな」

魔物の死骸群「  」ズラア

盗賊「そういやそうだな。俺と会った時なんか吐いてた癖に」

盗賊「だけど、てめぇの方が凶悪だ。ボタン一つで殺せるんだからな」

男「一説には、こう言う発明は何かを殺すには最適らしい」

盗賊「ほう。そりゃあ遠い所から攻撃できるしな。魔法使いでもないくせに」

男「詠唱もいらないからな。でもそうじゃない」

男「素人でも簡単に使える。こんなに軽いボタン一つで殺せるんだ」

男「命の重さなんて無に等しい」

盗賊「次は俺の短剣でやってみるか? その命の重さってのがわかるぜ」

男「馬鹿言わないでくれ。俺の運動神経を知っているだろう」

男「それとな、盗賊」

盗賊「ん?」

男「やっぱり命の重さはないと思うな」

盗賊「俺の短剣でもてめぇの武器でも、死ぬのなら一緒ってことか?」

男「いや、結局は人の思い込みだと思うんだ」

盗賊「……そろそろ昼だな」

男「そのようだな。太陽の傾きから、そろそろ三時か」

男「本当に結構広いな、この草原は」

盗賊「とは言えまだまだ入り口だがな。全体はもっと広い」

盗賊「野中山もあまり大きくなってねぇだろ?」

男「……広いな」

盗賊「だがそろそろ見えても良いはずなんだがな、魔物の掘っ立て小屋」

男「……掘っ立て小屋は見つかってないけど」

男「あれ」

盗賊「あ? どれだ?」

男「左側に見える、あれ」

盗賊「……人陰?」

男「見た感じ結構遠いが、それにしては大きくないか?」

盗賊「確かに。って事は」

男「ああ、噂の巨人だろう」

盗賊「よし、行ってみるか。できるだけ気付かれないようにな」

男「気付かれないようにだと? 隠れる場所もないだろ」

盗賊「あまり大きな音を立てるなってこった。目視で見つかるなら仕方ねぇ」

男「了解」

巨人「……」ノシ…ノシ…

盗賊「よし、幸いこっち向きじゃねぇみてぇだな」ボソボソ

男「振り返ったら気付かれるけどな」

盗賊「……その時はその時だ」

男「しかし……あれは何だ?」

盗賊「巨人、だな」

男「そんな事はわかってるが――」

盗賊「ああ。言いたい事はわかってる」

盗賊「あんな巨人は図鑑に載ってなかったな」

男「一番近いのは醜面の巨人か。だがそれより高い」

盗賊「明らかに三イグ以上はあるな……」

男「遠くから見ても三メートル……四イグ以上はある。何だ、あれは」

盗賊「俺に聞くな」

巨人「……」ノシ…ノシ…

盗賊「さっきから何をしてるんだ?」

男「……多分、あれだ」

盗賊「野牛の群れか。あの図体で狩りでもするつもりか?」

男「そうじゃないのか?」

巨人「……」…ズンッ ドドドッ

男「!?」
盗賊「行ったか……!」

ブォー! ブモォーッ!

巨人「……っ!」ズン…ッ

ギュイィィ…

男「……」
盗賊「……」

巨人「……」ムンズッ

盗賊「……なんてこった」

男「あれ、相手にするのか? 牛一匹、あっという間におかしな姿勢になったぞ」

盗賊「姿勢どころじゃねぇな。あの拳で血が破裂して出てきたぜ」

男「……どうするか」

巨人「……!」ギョロッ

盗賊「考えている場合じゃねぇみたいだぞ」チャキン

男「お、おい! 戦うのか!?」

巨人「……」

盗賊「……」

巨人「……!?」ジロッ

巨人「ウオォォォオオッ!」ズンッ

盗賊「くそっ! 男は離れてろ!」ダダッ

男「わかった!」

巨人「ンンンッ!」グッ ブォンッ!

盗賊「――っ!」ザシュッ

巨人「!?」

男「よし、手に傷を!」

巨人「ン、ングアアアアッ!」ブンッ

盗賊「なっ……速――!」ドスッ

盗賊「う……が、ぁ……!」…ドサッ

男「盗賊! 今助け――!」スチャ

?「はい、終わり。動いたら刺すよ」

今年度は過去にもまして忙しくなりそうな。
書ける時にしっかり書いておけば、とか後悔してたり。

男「――!」

?「そうそう。わかってたら良いのよ」

男「女の声……もしかしてあなたが麦娘さん?」

麦娘「えっ、私の事を知ってるの? 初めて見る顔なのに」

男「まぁね」

麦娘「……そう。わかったわ。あなた達、巨人を始末しに来たんでしょ」

男「いや――」

麦娘「お父様かあの白羽のか知らないけど」

男「ちょっt――」

麦娘「私達は一緒に……何?」

男「別に始末しにきたわけじゃないんですが」

麦娘「それは嘘ね。巨人を襲ったのがその証拠じゃない」

男「それは誤解だ。向こうが先に襲ってきた」

麦娘「馬鹿なこと言わないで。あの子はおとなしい子よ」

男「それこそ嘘じゃないか?」

麦娘「本当よ」

男「……」

麦娘「……」

麦娘「……いいわ。信じちゃいないけど、変に疑うのもやめてあげる」

男「それはどっちなんだ……」

麦娘「巨人!」

巨人「……ウゥ?」ギョロッ

麦娘「そこに倒れてる男を慎重に持ってきてちょうだい」

巨人「……」コクリ

男「驚いた。あなたは魔物と会話ができるのか」

麦娘「あの子が特別なのよ。信じないだろうけど」

麦娘「残念ながら治療はできないけど、あの男と一緒にすぐに帰ってね」

巨人「……」ノシ…ノシ…

男「ところで」

麦娘「何?」

男「その槍、下ろしてくれないか。落ち着かないんだ」

麦娘「鋤よ」

男「え?」

麦娘「私が持ってるの。槍じゃなくて鋤。何で槍なんて思ったの?」

男「刃が複数背に当たってるからね」

麦娘「三つ叉の槍と思ったわけ?」

男「ああ」

麦娘「でもどっちみち下ろす気はないわ。あなたも武器を持っているから」

男「そうか。しかし、あの魔物も強いな」

麦娘「あの男が弱いだけじゃないの? 遠目で見てたけど、すぐに決着ついたじゃない」

男「油断はしてたかもな。盗賊も相当手練れだと思うから」

麦娘「……えっ、今なんて?」

男「油断してたから」

麦娘「あの男の名前よ!」

男「盗賊だ。……そう言えば、知り合いらしいこと言ってたな」

麦娘「まさか……!」ダッ

男「……本当なのか」

麦娘「巨人、その男の顔、見せて!」

巨人「……?」

麦娘「! 本当にあなたなのね……」

麦娘「予定変更よ。この男を小屋に連れて行くわ」

巨人「……」コクリ

男「待て! 帰してくれるんじゃなかったのか!」

麦娘「小屋の方が近いわ。十分じゃないけど、実は薬草もあるの」

麦娘「あなたの言ったこと信じるわ。さぁ、巨人の肩に乗って」

――草原の小屋

盗賊「……ん。……んあ?」

盗賊「ここは、どこだ? くそっ、体中痛ぇ……」

麦娘「あら、起きたみたいね」

盗賊「……麦娘か?」

麦娘「そうよ。久しぶり」

盗賊「それより、ここは?」

麦娘「私達の小屋よ。巨人が作ったからすごく大きいけど」

盗賊「巨人?」

麦娘「あなたが戦った魔物よ」

盗賊「!! てめぇ、男はどうした!」

麦娘「外で畑仕事手伝ってもらってるけど?」

盗賊「……あぁ、そうか」

麦娘「男さんから大体話は聞いたわ。駄目よ、あの子を脅かしちゃ」

麦娘「元々大人しいんだけど、あなたが短剣を見せたから怖がって暴れたの。わかる?」

麦娘「それに最近はあの子を殺そうとする人も多いから、神経過敏で」

盗賊「えらく奴の肩を持つな」

麦娘「そりゃそうよ。家族みたいなものなんだから」

盗賊「ほう。魔物が家族か。変わった趣味じゃねぇか」

麦娘「私もそう思うけどね。あの事は特別よ」

盗賊「あの家で娘がなぁ……。どうせ今回の騒動も家出が発端なんだろ?」

麦娘「うっ……」

盗賊「まぁ、だが……」

盗賊「良いツラしてるじゃねぇか。昔と違ってな。安心したぜ」

良いヅラに見えた

このスレ無関係でいられないから運営からのコピペするな

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>>477
お前のせいでヅラにしか見えなくなったどうしてくれる

>>478
ありがとうございます。
今回は一ヶ月空いてますから、このままだとやばいですね。気を付けます。
別の所でひっそりやった方が良いのかな(ブツブツ

移るなら誘導頼む

麦娘「そりゃあ、いつまでも無知な小娘ではいられないわ」

盗賊「だから、家出してる奴が言える台詞じゃねぇだろ」

麦娘「そうだけど……」

麦娘「ここで暮らし初めて、色々と考えも変わったの」

盗賊「……そうか。よいせっと」

麦娘「だ、駄目! まだ安静にしてなきゃ!」

盗賊「おいおい、心配のしすぎじゃねぇか? あのくらいの打ち身、寝たきりになるには軽すぎるぞ」

麦娘「腕、痣できてたけど」

盗賊「はっ、痣くれぇ」

盗賊「男は外にいるんだったな。あの扉で良いな?」

麦娘「ええ。ここには扉は一つしかないから」

盗賊「そうかそうか」

麦娘「……ねぇ、盗賊」

盗賊「あぁ?」

麦娘「何で、来たの?」

盗賊「てめぇを放っとけねぇからだ」

麦娘「え? それって――」

盗賊「仮にも領主の娘ってぇのに、無知で気まぐれで危なっかしい。最初に会った時もそう思ったぜ」

盗賊「昔の腐れ縁って奴かな。一度助けたら二度くらいどうってことねぇよ」

ギィ バタンッ

麦娘「……はぁ」

男「はー……肉体労働はやはり性に合わないな……」

盗賊「おう、いたいた」

男「ん? あぁ、盗賊か。具合はどうだ?」

盗賊「気を失ってただけだ。何てことねぇ」

男「凄い痣だったが」

盗賊「てめぇもか……。あのくれぇ何てことねぇよ」

盗賊「しかし、すげぇなここ」

男「ああ。俺も連れてこられた時は驚いた」

盗賊「草原の中なんだよな。ここまで畑が作れるとはな」

男「殆ど巨人が作ったらしいんだ」

盗賊「疑いたくもなるが……畑仕事してるのを見せられると信じないわけにはいかねぇな」

巨人「……」ザッザッ

盗賊「あいつは何してんだ?」

男「害虫の駆除。あの巨体でかなり繊細な指使いをするんだぞ」

盗賊「ほう」

男「女さんなら助手に欲しいとか言い出しそうだな」

盗賊「珍しいものには目がねぇからな」

男「向こうに井戸があるんだが、それも巨人が掘ったらしい」

男「あっち側に牛も放し飼いにされてるんだが、その管理も殆ど巨人がしてるらしいぞ」

盗賊「おい。ってことはあれか? 麦娘はあいつに養われてるってわけか?」

男「ははっ、そうとも言えるな」

男「だが不思議なのは、魔物がこうして人間と暮らしているということだ」

盗賊「あぁ」

男「それに、さっき話した」

盗賊「はぁ?」

男「農作業を教わったんだ。あれは知性もあるし言葉も喋れる」

男「少し思ったんだが、あれは人間か魔族の奇形種なんじゃないか?」

盗賊「奇形でもあれが人間であってたまるか。魔族がこれまでの姿を捨てたってんなら別だが」

男「だよな」

男「となると、俺らは認識から間違っていたのかもしれない」

盗賊「?」

男「まぁ、折角目を覚ましたんだ。巨人と話してみるといい。巨人!」

巨人「……? ナン……ダ……?」

盗賊「お、おお、言葉がわかるだと……」

男「改めて紹介する。盗賊だ」

盗賊「さっきは驚かせてすまなかったな」

巨人「コォチラコソ、ゴメン。麦娘ノ知リ合イト、ワカッテレバ」

盗賊「ちょっと待て」

巨人「?」

盗賊「誰だこの紳士は」ヒソヒソ

男「これが巨人という奴らしい」

巨人「デ、男」ギョロッ

男「な、何だ?」

巨人「手、動イテナイ。足、動イテナイ。働ク」

男「……わかったわかった」

巨人「盗賊ハ……」

盗賊「俺も手伝うか? 何でもやるぜ」

巨人「モウ少シ休ンデクレ」

盗賊「……てめぇもか。調子狂うな」

巨人「今日ハ泊マッテイクト、イイ。飯、フルマウ」

巨人「麦娘ガ信ジル人、初メテダカラ」ノシ…ノシ…

盗賊「あ、あぁ……。何だかな……」

男「今日のところは言葉に甘えようじゃないか」

盗賊「まぁ、そうするか」

男「さて、仕事に戻るか」

盗賊「なぁ、男」

男「何だ?」

盗賊「この件、どうするべきだと思う?」

男「そうだな。麦娘さんを領主の元に戻すのは確定だろう」

盗賊「だが――」

男「が、ただ依頼を遂行するのは惜しい状況なのも確か。だろう?」

男「認識的にも、学術的にも」

盗賊「てめぇは、これからどうするか決めているのか?」

男「いや。それはまだ。だから盗賊も考えてくれよ」

やばい! 一ヶ月!!

>>480
移るにしても地文付き化が追いついてないs……げふんげふん。
まぁ移る場所も考えられてないから、とりあえず居座り続ける。

麦娘「えー、わざわざ来てくれた二人を歓迎して、乾杯したいと思います」

男「おー!」パチパチ
巨人「ウオー!」バヂンバヂン
盗賊「……」

麦娘「何よ。ノリ悪いわね」

盗賊「いや、急に何を始めるかと思えば。しかも酒じゃねぇし」

麦娘「この草原にお酒はないの。水だって井戸から以外出ないんだから」

麦娘「じゃあ盗賊は放っておいて、乾杯!」

男「乾杯!」
巨人「カンパイ!」
盗賊「……乾杯」

麦娘「……」

盗賊「……どうした?」

麦娘「まぁ、食事は普通にしましょう」

巨人「騒グ必要、ナイ」

麦娘「そういうこと」

盗賊「はぁ」

男「良いじゃないか。こういう食事は静かに味わうものだ」

麦娘「おお、男さんはわかってるね」

盗賊「宴会には向かねぇような質素なもんってだけじゃねぇか」

麦娘「何か言った?」

盗賊「だが巨人の育てた野菜は美味いな」

巨人「光栄ダ」

男「気になるんだが、巨人はこんな料理で大丈夫なのか? 量も俺らより少ないんだが」

麦娘「彼は小食なの。体に似合わずね」

男「まぁ俺らは明日にでも一度宿に帰るつもりだが」

麦娘「ええ」

男「その前に色々聞いておきたい」

盗賊「そうだな。解決する手がかりがあるかもしれねぇし」

男「まずは盗賊と知り合った経緯でも」

盗賊「おいちょっと待て」

麦娘「ふふふ、それはね――」

盗賊「待て」

巨人「オィモ興味アル」

盗賊「おい」

麦娘「何よ、うるさいわね。今更恥ずかしがることもないでしょ」

男「それで?」

盗賊「はぁ、好きにしやがれ」モグモグ

麦娘「当時の私はまだ年端もいかない女の子で――」

盗賊「今も年端もいってねぇだろうが」

麦娘「話を折らないでよ。で、盗賊もまだ一人で盗みをしてた頃」

麦娘「家出をしてた私は、そんな隙をつかれて誘拐されてしまったの。家出の理由は割愛させてもらうけど」

麦娘「その犯人は当時父の領地を中心に荒らし回っていたならず者の集団」

麦娘「暴行、略奪、人売りなんてこともやってる結構大きなところで、警兵達も手こずってたらしいわ」

麦娘「きっと私も、身代金が手に入ったら売られてたかもしれないわね」

男「ほう。これは……」

麦娘「読めた? その通り、その時に助けにきてくれたのが盗賊なの」

盗賊「助けたわけじゃねぇよ」

麦娘「そうね。でも結果的に助けてもらってるの」

麦娘「連れ去られたその日に、盗賊は私の閉じ込められてた牢の前に現れて」

麦娘「『なんだこのガキ』って」

男「ははっ、一言目がそれか」

盗賊「仕方ねぇだろ。てかよく憶えてるな」

麦娘「そりゃあ、私の王子様だもの」

盗賊「てめっ……!」

男「お前結構モテるよな」

盗賊「からかうんじゃねぇよ……」

麦娘「それで、盗賊は誘拐犯達のアジトから持てる限りの金品と私を抱えて出て行ったわけ」

盗賊「途中見つかって死にかけたな」

麦娘「ええ、あの時は本当にダメかと思ったわ」

巨人「ドウヤッテ生キ延ビタ?」

麦娘「いつの間にか、何とか、って感じだったかな。一晩隠れてたから、町に戻ったのも次の日だったっけ」

麦娘「まぁ、それだけってことでもないんだけどね」

男「と言うと?」

麦娘「こいつ、それから暫くの間、私を心配して私の部屋にこっそり話にきてくれたのよ」

盗賊「わ、若気の至りって奴でだな」

男「ほおう」ニヤニヤ

盗賊「くっ……」

麦娘「あっ、このことは町の人には内緒よ。勿論、私の家の人にも」

男「しかし、いやはや面白い話があったものだな。なぁ、盗賊」

盗賊「う、うるせぇ。それよりも他に聞くべきことがあっただろうが」

男「あー。あぁ、そうだな。忘れてはいない」

麦娘「この子――巨人のことね」

盗賊「ああ」

麦娘「二人にはもう簡単に話したけど、この子と出会ったのは半年前、私が家出した時」

麦娘「その時のことを詳しく話すわ」

盗賊「頼む」

麦娘「正直、私もこのままこの生活を送るのはダメだと思っているの」

麦娘「それだけこの子は有名になってしまったから。その分、この子が危険に巻き込まれると思うから」

麦娘「だから盗賊、そして盗賊が信用してる男さんは何とか出来ると思って話すから、真面目に聞いてね」

麦娘「私の話から何か分かるかは知らないけど、ね」

麦娘「半年前の家出は、いつもみたいに変わり映えのない日々から逃げるためのものだったわ」

麦娘「だからこの草原をどこまで行けるか試してたの。もちろん非常食は持ってきてね」

盗賊「……」
男「……」

麦娘「呆れた顔しないで。私だって反省はするんだから」

麦娘「それで、丁度脚の限界がきはじめた頃だったかな。辺りも暗くなってきて、どうしようって思ったわ」

麦娘「草原にだって魔物はいるし、野獣も凶暴なのがいないわけじゃないから」

麦娘「そんな時、大きな人影を見たの。遠くからでもわかる、普通よりも大きな影。そう、この子の影よ」

麦娘「思い出してたのは、噂話ね。この草原、北からの行商人が通ることがあるのよ」

麦娘「『多分危険はないような、ただ草原の真ん中でぼうっとしてる巨人』の噂」

麦娘「ただこの噂話には派生もあってね。近付いたら食べられるとか、町を滅ぼす期を伺ってるとか」

巨人「ソンナコト……ナイ」

麦娘「うん。もう、わかってる。でもその時はそんなこともあって、実は怖かったのよ」

麦娘「だからその時も、根負けしてどうにかして帰り道に戻ろうとしてたわ」

麦娘「話がこれで終わってたらこの子とはそれっきりで、私も噂話を鵜呑みにしてたかもしれない」

麦娘「でも、そうならなかったのは、その時に草原牛の群れが走ってきたの。私に向かってね」

麦娘「後で巨人に教えてもらったけど、そこは丁度月に一回牛が縄張りを移動する道だったらしいの」

麦娘「脚が疲れ切ってる私は逃げることもできずに、悲鳴を上げながら近付いてくる牛を見て、終わりかなって思ってた」

麦娘「でもそんな時、声がしたの。『危ない!』ってね。そう、巨人の声」

麦娘「その時は巨人の声かは気にもしなかったけど。ただ誰かにそう言われて、すっと持ち上げられて、群れから助けてもらった」

麦娘「とりあえず、それだけしか理解できなかったわ」

麦娘「だけどそれから改めて巨人を見ても、恐怖はすっかり消えてたの。色々驚いてたけどね」

麦娘「それから巨人とは色々話したわ。危険な魔物から私を守ってくれるって言うから、安心してね」

麦娘「そうやって過ごしてたら、いつの間にか今みたいな状況になってしまったの」

盗賊「……あ?」

麦娘「ん?」

盗賊「それだけか? 最後省略しすぎだろうが」

麦娘「本当に色々あったからその辺りしっかり憶えてないのよ」

麦娘「憶えてるのは、その数日後に父の命で町の警兵が探しに来たこと。あの時は警兵達が威嚇したせいで巨人が暴れてしまったわね」

麦娘「後はそれから暫くして、白羽教団の修道士二人が巨人を殺そうとしに何度か来てることかな。私を殺すつもりはないみたいだから、しっかり追っ払ってるけどね」

盗賊「……てめぇはなんで巨人にそこまで入れ込むんだ」

麦娘「さぁ、なんでだろうね」

盗賊「その教団の二人も、いつ麦娘を殺しにかかるかわからねぇんだぞ」

麦娘「多分、巨人は私にとって、二人目の盗賊だから」

盗賊「は? 二人目の俺? 俺とこいつを一緒にするんじゃ――」

麦娘「あはは、深い意味はないよ。そうね……家出中の命の恩人ってとこ?」

麦娘「ただ、一人でも生きていけるような強そうな盗賊じゃなくて」

麦娘「巨人は一人にしてるとどこか危なっかしい、そんな放っておけない子だったから」

男「……一つ、疑問がある」

麦娘「何?」

男「噂話にあったけど、巨人はどうして一人で草原にいたんだ?」

男「群れない魔物でも、同じ種は近くにいるはずだ」

麦娘「あぁ、それは――」

巨人「仲間ニ見捨テラレタカラダ」

麦娘「巨人、あなた……」

巨人「今、麦娘イルカラ寂シクナイ。大丈夫」

男「……続けてくれ」

巨人「オィ、生マレツキ変ワリ者ダッタ。姿モミンナト違ウ。考エ方モ違ウ」

巨人「親モ仲間モ、考エズニ生キテタ。ダカラ、考エテルオィハ変ワリ者」

巨人「ソンナオィヲ仲間トセズ、親モ仲間モオィヲ殺ソウトシタ。オィハ逃ゲテキタ」

巨人「逃ゲテ、人間見ツケタ。優シソウダッタ。言葉必死ニオボエタ」

巨人「デモ、姿見セルト、殺ソウトシテキタ。ダカラ人間モ仲間モイナイ草原ニ逃ゲタ」

男「そうか。よくわかった」

男「蝙蝠みたいな奴なんだな」

麦娘「蝙蝠? あの洞窟とかに住んでるっていう?」

男「そう。俺の国の話で、空を飛べるのに鳥からは仲間はずれにされ、子を産むのに哺乳類から仲間はずれにされって奴だ」

男「巨人のは確実にその一方から生まれているから、質が悪いがな。醜いアヒルの子の方がぴったりだな」

盗賊「それもてめぇの国の話か?」

男「まぁな。アヒルが醜い子供を生んで、あまりにも醜いから見捨てたんだ。それで、その子が育ったら白鳥になったって話」

盗賊「そんな馬鹿な話が……」

巨人「……」

盗賊「成る程な」

麦娘「それで、何か役に立ちそうなことはある?」

盗賊「どうなんだろうな。男はどうだ?」

男「難しいところだな。考えてはみるけど」

男「この問題は、正直面倒なものなんだ」

麦娘「確かにそうよね。巨人を無事なままで、私のことも父の納得のいくようにするなんて」

盗賊「そうじゃねぇよ」

麦娘「?」

盗賊「結果そうなるようにしなけりゃならねぇってのは確かだが、問題の本質はそこじゃねぇ」

男「盗賊もわかってるか。そうだ。この問題には二つ中身がある」

男「一つは人の認識。もう一つは、二人の修道士の狙い」

(翌朝)

盗賊「世話になったな。蓮花の町にはこの方角で良いんだっけか?」

麦娘「ええ。まっすぐ行けば大丈夫よ」

男「対策が立てられたらまた来る。それまでは何とか凌いで欲しい」

麦娘「そうね。父の警兵なら大丈夫だけど、修道士の人達が来るとどうなるか……」

麦娘「できれば、四日後くらいまでには何とかできない?」

盗賊「四日後だぁ? 早すぎねぇか?」

麦娘「前に来たとき、次はそのくらいに来るって言ってたのよ」

男「その時に連中がどう出るか、か……」

麦娘「でも、その日に殺されるってわけじゃないんだから、きっと大丈夫。何とかするわ」

盗賊「俺達もできるだけ早く動く。安心しな」

麦娘「盗賊」

盗賊「あ?」

麦娘「本当に頼んだからね」

盗賊「おう。任せとけ」

男「作戦の大半は俺が考えるんだろうけどな」

盗賊「てめぇだけじゃなく俺も考えてるだろうが」

男「そういう事にしておこう。では、麦娘さん、巨人、また」

盗賊「じゃあな」

巨人「……」ズン…

麦娘「? どうしたの、巨人?」

巨人「少シ」ズン…ズン…

巨人「男、盗賊」

男「ん?」

盗賊「どうした。まだ何かあるってぇのか?」

巨人「特ニ大事ナ事ジャナイケド……」チラッ

麦娘「?」

巨人「モシ、難シカタラ、オィハドウナッテモイイ」

巨人「麦娘ダケ元ノ生活ニ戻シテアゲテ欲シイ」

盗賊「はぁ!? そんな事あいつが許すわけねぇだろ」

巨人「分カッテル。ダカラ、言ッテル。コッソリ」

盗賊「だがな――」

男「良いか、巨人」

巨人「ナンダ」

男「俺らは最善を尽くすつもりだ。勿論、理想は巨人が蓮花の町に受け入れられることだ」

男「だが、本当にそれが無理だった場合、俺らは二人を隠すのが最善と思っている」

巨人「デモ、ソンナ事シタラ麦娘ガ独リニナッテ……」

男「俺らは一日だけだが、お前達二人の暮らしを見た。そこにあったのは、何かわかるか?」

男「人並みに幸せな暮らしだ」

巨人「人並ミ? ソンナハズ……」

男「確かに麦娘さんにとって、同居人は人間じゃないし、町の生活と違って自給自足」

男「だが、人並みな幸せというのは、周りと同じことで手に入るものじゃない。麦娘さんにとってもね」

盗賊「昔の麦娘を知っている俺から言わせてもらうとな」

盗賊「半年も不満もなく一箇所に居座ってるあいつを俺は知らないぜ」

巨人「……」

盗賊「さっきも言ったが、安心しな。あいつはてめぇを見捨てねぇ、って意味でもな」

――蓮花の町郊外

盗賊「やっと戻って来れたぜ。一日で行けるって言っても長ぇな」

男「でも草原の奥の方じゃなくてまだ良かった。馬でも二日はかかりそうだ」

盗賊「違いねぇ」

盗賊「……っと。テントが近付いて来たぜ」

男「ああ」

修験者A「……!」コソコソ

修験者B「どうしたんですか、先輩。……あぁ、彼らですか」

修験者B「ご無事で何より。今お戻りですか?」

盗賊「ああ。おかげさまでな」

修験者B「どうでした?」

男「それが、見つかりませんでした。そのせいで余計に進んでしまって、戻るのがこんな時間になってしまったんですよ」

修験者B「そうでしたか。しかしそれは運が良い。巨人の魔物は凶暴ですから」

盗賊「草原の雑魚くらいは何とかなったんだがな」

修験者B「ほう」

男「折角なので、町でまた少し情報を整理しようかと。それから再び探しに行こうかと思っています」

修験者B「やはり、行くのですね」

男「縁もある仕事ですから」

修験者B「私達は四日後に彼女を訪ねるつもりです。そろそろ何とかしないといけないですしね」

修験者B「もし良ければ、その時に同行してはどうでしょう」

男「そうですね。……考えておきましょう」

盗賊「で、気になってたんだが、てめぇらはずっとここで何してんだ?」

修験者B「詳しい事はお話しできません」

盗賊「ほう」

修験者B「そうですね……。対巨人の作戦をじっくり練っているってところでしょうか。後は休養ですね」

盗賊「作戦には興味あるな。教えてくれねぇのか?」

修験者B「秘密ですので」

修験者B「……もし話した場合、それを先に行われて死なれてしまうと、私達の責任ですから」

盗賊「固いな」

男「良いじゃないか。彼らには彼らなりのやり方がある。俺らが曲げられないのと同じようにな」

男「すみません。変な事まで聞いてしまって」

修験者B「いえいえ」

男「では、我々は少し疲れが出てきましたので」

修験者B「あなた達にルナンの祝福があらんことを」

盗賊「……」ザッザッ

男「……もう大丈夫か?」ザッザッ

盗賊「ああ」

男「四日後に行くって言うのは本当らしい。しかも、状況は相当悪い」

盗賊「何とかしねぇとな」

男「情報屋さんの居場所はわかるか?」

盗賊「ああ。これから会いに行くか?」

男「勿論だ。宿に戻る前にな」

――蓮花の町

情報屋「それで、御息女の様子はどうだった?」

盗賊「どうもこうもねぇよ。元気すぎるくらいだ」

情報屋「と言うことは、やっぱり操られてはいなかったわけか」

男「やっぱり?」

情報屋「噂を鵜呑みにするほど素人ではありませんよ。本来は領主の世間体というものからのはずです」

盗賊「娘が魔物と暮らしてるってのが許せるわけがねぇってわけだな」

情報屋「そうだね。例えそれが野生の犬でも面目が立たない」

情報屋「巨人の魔物の方も聞いて良いかな?」

男「ああ。あれには驚きましたよ。そこらの人間より余程紳士です」

盗賊「人の言葉も喋りやがるしな」

情報屋「喋る魔物、か。成る程ね」

盗賊「ん? 驚かないんだな」

情報屋「こっちも調べ物はしているからね。喋るのには驚いたけど、納得する理由があるんだよ」

盗賊「何だそれは?」

情報屋「……“月の使徒”って知ってる?」

盗賊「名前くらいはな」

男「俺は聞いたこともない」

情報屋「では掻い摘んで説明しましょう」

情報屋「月の使徒は、白羽教会の派閥の一つです」

情報屋「元々は小さくかつ秘密裏に結成された裏の派閥でしたが、最近ではその活動も目立ってきていますね」

情報屋「と言っても、こうして情報を集めている人でない限り存在も知り得ない程度ですが」

盗賊「それで、その月の使徒がどうしたってんだ?」

情報屋「まぁ、待ちなよ。まだ説明終わってないんだから」

情報屋「で、この月の使徒というのは、第二月の神ルナンを信奉する集団――というのは白羽教会全体と変わらないんだけど」

情報屋「彼らは魔の国を聖地としている。つまり、魔王が神の使いと考えている危ない集団なんですよ」

男「『月の神様』の一節、『海の彼方に落ちた』ルナン、か」

情報屋「よく知っていますね」

情報屋「それで、彼らの活動内容ですが……ここからは多分、盗賊も知らないと思うけど」

盗賊「ああ」

情報屋「突然変異の魔物を駆除すること。それが主な活動になっているようです」

男「突然変異か……。成る程。確かにあの巨人が突然変異なら、人の言葉が喋れる魔物が巨人だけというのも納得がいく」

盗賊「ちょっと待て。なんで魔王を進行している連中が魔物を倒すって言うんだ」

男「確かにそれは引っ掛かるところだが……」

情報屋「おや、男さんは思い当たりがありますか?」

男「なくもない。程度のものですが」

男「恐らく、魔物は自然発生のものじゃない。盗賊、王宮での件で女さんが言った言葉を覚えてるか?」

盗賊「どれのことを言ってるんだよ」

男「あの魔物、自分が作った。って言ってただろ?」

盗賊「あぁ」

男「あの時の魔物は一部機械のようなものだったけど……もしこう考えれば、彼女の言った言葉も、その月の使徒の活動も合点がいくんだ」

男「魔物は魔の国で製造された――人工的に作られたものなんじゃないか」

盗賊「何だと!?」

情報屋「……それは考えてなかったですね」

男「あれ?」

情報屋「でも、間違ってないと思います」

情報屋「魔物は魔の国から送られています。てっきり向こうで養殖したものが送られているのだと思っていましたが」

情報屋「ただ、作られているとなると、違う種が増えたりするのも納得できます」

情報屋「それに、大陸全土に住み着いた種々の魔物が全部魔の国の生き物、と考えるより現実的ですしね」

盗賊「確かにそうだが……そうなると向こうはより強い魔物を送り込むかもしれねぇってことだろ」

男「そうなる、のかな」

情報屋「いえ。そうなっていますね。決着戦争の一件が物語っています」

情報屋「……話が逸れましたね」

盗賊「おお、そうだな」

情報屋「魔物は、作られているにしろ養殖されているにしろ、そうやって計画的に送り込まれているわけです」

情報屋「そこで突然変異種が現れたとなると、それは魔王の意に反する、とも取れますね」

男「そうなんですか?」

情報屋「ええ。魔王がそう言っているのか月の使徒がそう決め付けているのか。そこまでは明らかにはなってませんが」

盗賊「とにかく、そこでその突然変異種を消すってわけか」

男「となると、もしかしてあの二人も……」

情報屋「もう気付きましたね。この町に来ている白羽教会の僧侶二人。あの二人が月の使徒です」

情報屋「彼らが月の使徒なら、あの一件も納得がいくんだ」

盗賊「あの一件って言うと……」

情報屋「魔物が御息女を操っていることに信憑性を持たせたきっかけ」

情報屋「御息女が教会の二人を追い返した一件だね」

男「麦娘さん達から聞いた話だと、出会ってからわりとすぐに信頼関係を持っていたな」

情報屋「その通り。だから魔物を殺しに来た彼らから守ったんじゃないかな」

情報屋「そしてひとまず退散した彼らは、町の噂を確固たるものにして町を味方につけた」

盗賊「この件の全貌はそんなところか」

情報屋「ええ。さて、どうする?」

盗賊「時間があれば、てめぇに情報操作をしてもらうところだが、あと四日しかねぇ」

情報屋「四日?」

盗賊「教会の連中が動く」

情報屋「何だって? じゃあ御息女をどうするかも決まったということか」

盗賊「あいつを巨人から引っ剥がして連れて帰るのは簡単だがよ……」

情報屋「丸くは収まらないだろうね」

情報屋「どうせなら、月の使徒の二人が巨人を倒すところを町の人に見せるとか」

盗賊「はぁ? 馬鹿言ってるんじゃねぇ」

情報屋「『経験は説法に勝る』。どちらが正しかったか見ればわかると思ってね」

情報屋「何よりインパクトがある。深い信頼を築いている御息女と魔物の別れを見れば……」

盗賊「てめぇ、それで麦娘が納得すると思うのか?」

情報屋「でも丸く収めるには」

男「……インパクトか」

男「妙案がある」

盗賊「本当か!」
情報屋「本当ですか!?」

男「……かもしれない」

盗賊「はっきりしやがれ……」

男「自信があるかと言えば、ないんだ」

情報屋「まぁ、聞いてみようじゃないか」

盗賊「お、おう」

男「さっき情報屋さんが言ったけど、『経験は説法に勝る』」

男「幸い、町の人の大半は巨人を見ていない」

男「領主やその私兵達も巨人本来の姿を見ているとは言い難い。そこで――」

情報屋「そこで?」

男「巨人を町に連れてくるんだ。教会の二人と入れ替わりにね」

情報屋「入れ替わりなら町で討伐される危険性もなく、さらに時間稼ぎもできる。成る程」

盗賊「おいおい、待て。いきなり連れてきたら町中パニックだぜ」

男「そのパニックが更に印象を強くする……はず」

盗賊「だがよ、そんなので巨人が危険視されるのが消えるとは思えねぇな」

男「勿論、こんなおざなりの手で巨人を安全と証明するとは、俺も思えない」

男「かといって、四日間なんて短期間にその下地も作れる自信がない」

男「そこで、発想の転換をしてみたんだ。町の人に、彼が危険だと思われたままでいいんじゃないか、ってな」

男「その代わりに、こう印象づける」

男「巨人は、便利なんだ」

情報屋「あの魔物が、便利?」

男「ええ。俺達は巨人が農作業をしているのを見たし、草原の小屋を建てたのも彼だ」

男「その力と器用さは十分評価に値すると思っています」

情報屋「ふむ……」

盗賊「ちょ、ちょっと待て。俺はまだ納得できてねぇぞ」

情報屋「そうですね。例えそれを力説したとしても、信用に足るとは思えません」

男「そりゃあ、力説だけしても何ともなりませんよ。だから実演するんです」

情報屋「実演、ですか?」

男「丁度ここにはその土台は揃っています」

男「俺はこの大陸に住んでみて、不思議なことを知った。それがその土台」

盗賊「何が不思議って言うんだ」

男「魔法があるからなんだろうな。文化レベルはそこそこあるにも関わらず、俺のいた世界よりも科学の発展が遅い」

男「そこに付け入る隙があると思っている」

情報屋「何をするつもりかわからないですが、住民の心を掴むくらいのインパクトに長けたものがあるのですね」

男「それだけじゃなく、説得もスムーズにできると思う。これには麦主さんの許可が必要だと思いますし」

男「ただ問題が一つだけある」

盗賊「問題?」

男「材料の仕入れだ。これを作るとしたら、四日後までに相当な量の材木が必要になるはず」

情報屋「……どのくらいですか?」

男「そうですね……。多く見積もって、安宿が一つ建てれるくらいの」

情報屋「木の種類は?」

男「この際、柔くないものなら何でも。建築材として使えるものなら」

情報屋「……こちらで何とかしましょう」

男「正直な所、そう言ってもらえるのを期待してました。代金は後払いで大丈夫ですか?」

情報屋「はい」

男「では、少し時間もらえますか? 急ぎですからね。今から大まかな仕様を考えますから」

男「そうですね……半時くらいで」

情報屋「仕方ないですね。でも、半時で大丈夫なんですか?」

男「やりますよ」

盗賊「それで、何を作ろうってんだ?」

男「これ」

盗賊「……パン?」

男「後、盗賊にもやってもらいたい事があるからな」

男「一つは、明日麦主の屋敷に行くから、一応護衛に付いてきて欲しい」

盗賊「そのくれぇなら」

男「その後が大変だぞ。俺は設計で宿に篭もるつもりだから」

男「盗賊には色々やってもらいたい」

(翌日)
――麦主の屋敷

盗賊「護衛なんて必要なかったんじゃねぇのか?」

男「案外すんなり通してもらえたな。でも、念には念を、と言うことで」

男「それに、護衛がいた方が“らしい”からね」

盗賊「そうか? ずっと使用人に怪しまれてたみたいだが」

男「それはお前の顔が悪人面だからだろう」

盗賊「うるせぇ」

ガチャ

麦主「お待たせしました。領主の麦主です」

男「初めまして。男です。こちらは護衛の盗賊」

盗賊「……」

麦主「ええ。使用人から聞いております。何でも、学者様とか」

男「ええ」

麦主「しかし、聞き憶えのない名前ですね」

男「誰かに仕えているわけではありませんので」

麦主「成る程。ところで、最近草原の巨人について嗅ぎ回っている二人の男がいるらしいですが」

麦主「まさかあなた達では?」

男「多分、俺達ですね」

盗賊「……」チラッ

男「……」

麦主「ではあの件を知っているのですね」

男「ええ。ですが残念ながら今回は娘さんの話ではありません」

男「巨人の魔物については、噂に聞いて好奇心に駆られただけですので」

麦主「そうでしたか」

男「今回は本来の目的のために来たのです」

麦主「ほう。それはどのようなものですかな」

男「実証のために、この建築を許可願いたく」ガサリ

麦主「この絵の建物は?」

男「風車と言います」

麦主「風車?」

男「この四枚の羽が風を受けて回るようになっているんです」

麦主「中々大仕掛けな見世物ですな」

男「見世物ですか? それだけなら地味すぎますよ」ガサリ

麦主「……これは?」

男「風車の中身の簡易図です」

男「風で回す事により力を得て、この風車小屋の中にある装置を動かすのです」

麦主「この装置は?」

男「臼です」

麦主「臼? 麦を挽くあれか?」

男「ええ」

麦主「ではこの風車というのは……」

男「麦を挽く装置ですね。今まで人の手でやってきた事を、この風車が代わってやってくれるはずです」

麦主「ですが、この町の特産は麦酒です。大麦を粉にする必要はありませんよ」

男「酒はそうでもパンや菓子は、そうはいきませんから」

麦主「成る程。この町周辺では大麦のパンが主流」

男「風車を入れれば、生産効率が上がりますよ」

麦主「それで、どこに建てるつもりですか?」

男「まだ決めていないですね。場所によっては許可をいただけないと思いまして」

麦主「ほう。地図は持っていますか」

男「ええ」ガサリ

麦主「風車の建築を許可しましょう。但し、この辺りとこの辺り、この辺りはやめていただきたい。まだまだ貸せる土地ですから」

男「わかりました」

麦主「場所が決まれば、改めて連絡もらえますか?」

男「勿論です。三日後に建て始めるつもりですから、それまでに」

麦主「急ですね。しかし、三日後ですか……」

男「何か?」

麦主「白羽教会の方々がこの町に来ていましてね。彼らが娘を取り戻してくれるのもその日なのですよ」

男「……そう言えば」

男「先日、俺達も誘われてましたね」

麦主「そうなのですか?」

男「また会うような事があれば、行けなくなったと伝えてもらえますか?」

麦主「良いですよ。そのくらいなら」

麦主「ところで」

男「?」

麦主「大工は何人必要でしょうか。雇っておきましょう」

男「いえ、その必要はありません」

男「既にこちらで準備してますから」

前回の更新で男・盗賊ルート終わらせるつもりだったのに寝落ちしてしまった……。

(三日後、建築日)
――蓮花の町郊外

ドス… ドス…
 ドス… ドス…

男「……来たか」

麦娘「おーい!」フリフリ

巨人「……」ドス…ドス…

麦娘「お待たせ」

男「二人とも無事で何より。とりあえず計画は順調というところか」

巨人「アア」

麦娘「そりゃあ、ここまではね。無事じゃないと困るわ」

男「相手が相当な索敵範囲を持っていたり、もしくはこの事が既に知られていたら。そう考えてしまうとね」

麦娘「大丈夫よ。十分迂回してきたんだから」

男「盗賊に伝えた通りだな」

麦娘「洒落た事をしてくれたわ」

麦娘「教会の二人が張っている北側を避けて、この時間に着くように私達は西側のこの入り口から入る」

麦娘「教会の二人、今頃行き違いになってるなんて知らずに私達の小屋に向かってるはずよ」

男「町に入るならこれが一番簡単だからな。苦労するのはここからだ」

麦娘「それもしっかり聞いてるわよ。巨人が風車と言うものをあなたの指示で建てるんでしょ」

男「そして麦娘さんが時々仲介に入る。あたかも、あなたが巨人を飼い慣らしているようにね」

麦娘「……本当にこれで大丈夫なの?」

男「それは町民次第、としか良いようがないな。だがやらなければ町に受け入れられる活路はない」

巨人「麦娘、心配スルナ。オィハ使ワレテモ構ワナイ」

麦娘「うん……。もう少し我慢してね」

麦娘「それで? 風車は東側に建てるって聞いてるのだけれど」

男「ここから町中を通って移動する」

麦娘「正気!? そんなんじゃ町の人に叩いてくれって言ってるようなものじゃない!」

男「大丈夫。今日に備えて盗賊には噂を流してもらっていたからな」

麦娘「噂?」

男「今日この時間から東側で風車を建てること。これが一つ」

巨人「男、モシカシテ、ソレガ関係アルノカ」

男「勘が良いな。そう、もう一つはこれ」

麦娘「私もさっきから気になってたけど……その大きな岩は?」

男「これは風車小屋の中に取付ける臼の石材だ」

男「巨人には、これから東側までこの石材をこのソリで引いてもらう」

麦娘「何でそんな事を……?」

男「一緒に流したもう一つの噂は、臼の石材を引いて強力な助っ人が町を横断する、というものだ」

男「恐らく何人か見物に来る人もいるだろう。これにはそこに狙いがある」

麦娘「どういう事?」

男「使役されている者が重い物を運ぶ。これが一種の奴隷像となっているからだ」

麦娘「どれっ……!? 何言ってるかわかっているの!?」

男「落ち着け。これはあくまで巨人が“使える”と印象づけさせるためのものなんだ」

麦娘「だからって!!」

巨人「ワカッタ。ヤル」

麦娘「巨人!?」

男「町を通る時、麦娘さんは巨人に対して決して優しくしてはいけない。多少厳しく当たるくらいが良い」

麦娘「でも、そんなこと……」

男「どんな形であっても、まず町の人に受け入れられること。これが重要なんだ」

ザワザワ
  ザワザワ

「そろそろじゃねぇのか?」
「何か知らねぇ学者さんがよくわからねぇ小屋建てるってやつだろ」
「そういや、資材が運ばれてたな」
「てことは、あの本当なのか」
「でもこの通りを臼の材料が通るって本当なのか?」

ズッ… ズッ…

「しっ、静かに」
「何だ、この音?」

ズッ…
ワーワー! ギャー!
 ズッ…
ウワー!

「おい、悲鳴も聞こえないか?」
「もしかして、まずい状況なんじゃ……」
「み、見ろ、あれ!」

巨人「……」ズッ…ズッ…

「巨人の魔物!? そんな、何で町中に!」
「うわあぁぁあ! 逃げろ-!」
「ちょ、ちょっと待て。よく見ろよ」

男「……」

麦娘「……」

「近くに……人が……?」
「じゃあ、魔物を先導してるあの男が件の学者さんかね」
「と言うか、巨人の隣に歩いているの、領主様のお嬢さんじゃねぇか」
「あの魔物に操られてるって言う……」
「いや、本当に操られてるのか? 操られてるって言うより……」

麦娘「……」パシッ

巨人「ウゥ……」ズズッ

「ありゃあ、魔物ってより家畜みてぇだな。扱いが馬みたいだ」
「そ、そうか……?」

男「その調子だ。巨人も良い演技だぞ」ボソボソ

麦娘「……最悪」ボソボソ

ザワザワ
 ザワザワ

男「よし、着いたぞ」

麦娘「石を投げられずに済んだわ……」

男「思ったより上手くいったかもしれないな」

男「それに、馬が運べる程度の石材だと巨人はあまり疲れてないみたいだし」

巨人「……」

男「麦娘さん、周りの人に聞こえるよう巨人に指示しながら、石材をあの辺りに持って行ってくれ」

麦娘「人使い粗いんだから……。巨人、こっち! ついてきて!」

巨人「ヴゥ……」ズッ…

男「……巨人、想像以上に演技派だな」

情報屋「こんにちは、男さん。やっと来ましたね」

男「何とかなりましたね。そちらも今までお疲れ様でした」

情報屋「本当に疲れましたよ。材木に石材。休みなく馬を走らせていたんですから」

情報屋「情報屋をやっていて、こんな仕事初めてです」

男「盗賊のコネがなければ引き受けてくれなかったでしょうね」

情報屋「はははっ、本当ですよ。しかし、見返りはありますからね。コネがなくてもやってたでしょう」

情報屋「これが請求書です」

男「ありがたく頂戴します」

情報屋「ところで、あれが件の巨人ですか?」

男「ええ」

情報屋「凄いですね。演技には見えない」

男「正直な所、麦娘さんだけの演技なら不味かったでしょうね」

男「本来知能がないはずの魔物も演技に荷担する」

男「魔物が演技をするはずがない、と言う常識から、彼女らの演技が真実味を帯びてくる」

情報屋「成る程。彼だからこそできることですね」

男「彼?」

情報屋「えっ、“彼女”でしたか?」

男「いえ、“彼”で合ってます。……ん?」

麦主「見つけましたよ、学者さん。これはどういう事ですか!」

男「これは、領主様じゃないですか」

麦娘「あら、父様。久しぶり」

麦主「おぉ、麦娘、元気だったか!」

麦主「――じゃない! 確かに娘に帰ってきて欲しいが、魔物まで連れてくるなんて……!」

男「何を言いますか。むしろ巨人の魔物がメインです」

麦主「何だと!?」

男「俺が欲しいのは労働力。先日言ったはずですよ。こちらで準備をしていると」

麦主「それが、あれだというのですか!」

男「はい。力持ちですし、案外器用です」

麦主「それよりも、魔物がこちらにいるということは……教会の方々は?」

男「さぁ? 向こうで何とかしているんじゃないでしょうか」

――草原の小屋

修験者A「……何かおかしい」

修験者B「何がですか。もう小屋が目の前だって言うのに」

修験者A「気配がなさすぎる。そう思わない?」

修験者B「そう言われましても。向こうが殺気を放っているわけじゃないですし」

修験者A「そう言うのじゃないだろ。何て言えば良いのかな……」

修験者A「そう。昼間なのにどちらも外にいない」

修験者B「言われてみれば」

修験者B「昼食……というわけでもなさそうですね。生肉生野菜を食べてないなら」

修験者A「あり得るのは狩りに出てるくらいだけど……嫌な予感がするね」

修験者B「例えば?」

修験者A「僕達が来るのを知っている、とか」

修験者B「じゃあ逃げてますね」

修験者A「そうじゃない事を祈るだけかな。ひとまず小屋を覗いてみて、いなければ待ってみよう」

修験者B「そうですね」

ガチャッ

修験者A「……」

修験者B「……誰も、いないみたいですね」

盗賊「その通り。今は出払ってるぜ」

修験者A「!?」バッ

修験者B「何者!?」バッ

盗賊「俺か? ただの留守番だ」

修験者B「あなたは、確か……!」

修験者A「……もう一人はいないみたいだね」キョロキョロ

盗賊「おお? 普通に喋れるじゃねぇか」

修験者A「全く気配を読めなかった。思ったより、ただ者じゃないみたいだね」

盗賊「まぁ昔は裏の仕事をやってたからな。だが今じゃあただの――」

盗賊「学者助手兼家事手伝い兼しがない食堂のウェイター、ってとこだな」

修験者A「働き者ですね」

修験者B「一人でできる量なんでしょうか……」

修験者A「それで、ここにいるはずの魔物と囚われのお嬢さんの代わりにあなたがいる理由は?」

盗賊「今日はよく喋るな」

修験者A「答えろ。この場で殺しても良いんだ」

盗賊「僧侶が人殺しねぇ。世も末だぜ」

修験者A「僧も時に戦わなくてはいけない。特に、僕のような僧はね」

修験者A「僕は、“死呪の祈祷”を会得している」

修験者B「ちょっ、教えても良いんですか!?」

修験者A「不意打ちなんてするつもりはないよ」

盗賊「まさか……聞いた事はあったが、会得している人間に会ったのは初めてだな」

盗賊「狙った相手を即死にする呪い、か。厄介じゃねぇか」

修験者A「知っているなら話は早い。魔物をどこへやったんだ?」

盗賊「その前に、ちょっと良いか?」

修験者A「早く、答えろ」

盗賊「まぁ、そっちがどんな態度でも答える前に喋らせてもらうけどよ」

修験者A「……」

盗賊「仮に質問に答えたとしても、俺の命の保証はないわけだ」

修験者A「大丈夫。保証しよう」

盗賊「――ってぇ言われても、口約束じゃ信用できねぇ」

修験者A「……」

修験者B「そんな勝手な……」

盗賊「そう言うわけで、こっちもこれを用意してんだ。見えるか、このロープ」

修験者B「見えるますが、それが?」

修験者A「その紐、奇妙だね」

盗賊「そう。おかしな紐だ」

修験者B「何がですか?」

修験者A「わからないのか? 握っている所より上の方が張ってるんだ」

修験者B「!! そう言えばおかしい!」

盗賊「このロープの端には、ツレからもらった見えづらい糸がくくりつけてある。ロープはてめぇらにも見えやすいためのもんだ」

盗賊「そしてその糸を切ってやると――」スパッ

盗賊「勿論、ロープが離れて弛むって奴だ」

修験者A「……何をした」

盗賊「心配するな。小屋にいる限り安全だ」

修験者B「小屋の中にいる限り?」

盗賊「糸を切って発動するってのは粗方決まってんだよ」

盗賊「――この周囲に仕掛けた罠を発動させた」

修験者B「何ですって!?」

盗賊「自分の命は守らねぇとな」

盗賊「俺は罠を避けて通れる道を知っている。ここから生きて出てぇなら、俺を生かしておくことだな」

修験者A「甘いね、あなたは」

盗賊「あ?」

修験者A「僕は“治癒の祈祷”も会得している」

盗賊「……そうか」

修験者A「僕達が罠で傷つこうと、それは無意味なんだよ」

盗賊「甘いのはてめぇだ。死呪の祈祷には驚かされたが、治癒法ならまだ数は多い」

盗賊「想定して当たり前だ」

修験者A「……どういうこと?」

盗賊「仕掛けた罠は、掛かれば即死か餓死かの二択だ。すぐ死ななくても、脱出困難な落とし穴とかにしている」

盗賊「それを仕掛けるだけの時間はあったからな」

修験者A「……成る程ね」

修験者B「先輩、どうしましょう……」

盗賊「じゃあ、そろそろ質問に答えてやる」

盗賊「麦娘と巨人はある仕事に行っている。俺はその間の留守番」

盗賊「兼、てめぇらの足止めだ」

(三日後)
――蓮花の町郊外、風車建築場

男「……」ジジジッ ジジッ

麦娘「そこは、えっと……設計図では多分……」ガサガサ

巨人「ウム……」トンッカンッ

ザワザワ ザワザワ
 ザワザワ ザワザワ

情報屋「今日もやってますね。やはり、完成間近ですか?」

男「そうですね。予定より少し遅れ気味、と言ったら贅沢だけど」

情報屋「あの建物だけで、その辺の民家より大きいじゃないですか。それを三日でやって遅れていると?」

男「それだけ巨人の技量に期待していたんですよ」

情報屋「でも遅れているとなると」

男「早とちりしないでください。遅れていても一時くらいのものでしょう」

男「やっぱり巨人は期待通り力も器用さもずば抜けています」

情報屋「確かにそれは言えてますね。人間なら十人近くいてもまだ半分いっているか」

情報屋「そうそう。町では巨人の評判も上がってきてますよ」

男「それは良かった。人間が関わると得てして計画通りに行きづらいものですから」

情報屋「でもまだ排除派もいますけどね」

男「でしょうね。向こうで見ている麦主さんも納得できていない様子だし」

麦主「……」

情報屋「領主様の場合は、ご息女が魔物と一緒に働いているのを見ていて複雑な気持ちなのではないかと」

男「まぁ、切り札は最後まで残しておくものです」

情報屋「切り札、ですか?」

男「そう。巨人が町に居座ることに対して、ここに見に来ている大衆に有無を言わせない取って置きがあるんですよ」

情報屋「ほう」

男「そのためには見物者は多い方が良い。だから飽きないよう、早めに終わらせるのが最善なんですよ」

男「盗賊なら、きっといつまでも足止めをできると思いますけどね」

情報屋「盗賊も前職の割に強く信頼されているようですね」

男「あれがどんな奴かは知っているつもりです。あなた程付き合いが長いわけではないですが」

情報屋「そうだ。あなたも町では話題になっているんですよ」

男「……俺が?」

情報屋「石を彫る魔法使い、と」

男「あー……」

男「説明しないとわからない人だらけですからね。魔法使いの存在に慣れていると」

男「自分でもまさかフォースランスをこんな風に使うとは考えてなかったけど」

情報屋「並みの魔法使いの炎では石は溶けませんよ。その点、あなたのその杖の方が優秀です」

男「壊れなければ良いけどなぁ……」ブツブツ

男「それはともかく、この臼もそろそろ完成だから、後は風車の外形が作れれば良いだけです」

麦娘「ちょっと良いかしら」

男「?」

麦娘「図のここなんだけど……」

男「あぁ、そこはスピンドルを通す部分だからこうして……」カリカリ

麦娘「ん、ありがとう」スタスタ

情報屋「彼女も変わりましたね」

男「どうなんでしょう。俺と会ってからは別に変わってはないと思いますよ」

――草原の小屋

盗賊「よーし、昼飯にするぜ!」

修験者A「……いい加減に吐いてもらえないかな?」

盗賊「折角作った飯をいきなり吐けって言うのか?」

修験者A「そうじゃないよ。もう三日目。巨人もお嬢さんも帰ってこない」

盗賊「帰ってこれるはずねぇだろ。連中はまだ仕事をしているはずだ。終わったとしても、小屋の周りは罠だらけだ」

修験者B「そうですよ、先輩。私達も出られないんですから」

修験者A「向こうは罠の位置を知っているかもしれない」

盗賊「確かにな。少なくとも、てめぇらがここにいる事は知っているぜ」

修験者A「なら、戻ってこないか」

盗賊「わかったなら飯でも食っとけ」

修験者A「僕達はいつまでここにいれば良いのかな」

盗賊「何だ、俺の作った飯はまずいか?」

修験者A「美味しいよ!」バンッ

修験者B「ここの畑の野菜美味しいですよね」

修験者A「でもそうじゃない!」

盗賊「まず落ち着け。別に俺はてめぇらを殺すつもりはねぇんだ」

修験者B「前にも言ってましたね。『殺すつもりなら、罠を仕掛けたことを言わずに自分だけ町に戻ってる』って」

修験者A「あの時のあなたの殺気からは説得力の欠片もなかったけどね」

盗賊「てめぇらが信じずに町に戻ろうとしたからだろうが」

盗賊「だが、その通り。俺の役目はあくまで足止めで、てめぇらを殺すことじゃねぇ」

盗賊「だから折角飯も作って、快適な軟禁生活を送ってもらおうと思ったのによ」

修験者A「それにしても、早く解放して欲しいのだけど」

盗賊「だから昼飯を先に食えって言っているだろ。その後で話してやる」

修験者B「それにしてもここに閉じ込められて最も不思議なのは、あなたの技術ですね」

修験者B「この腕なら危険なんて殆ど知らずに生きる道もあったのに」

盗賊「人生人それぞれってこった。てめぇらだってそうだろうが」

修験者A「我々はルナンの使徒。この道より他に幸福はない」

盗賊「これだから聖職者って奴は嫌なんだ」

修験者A「それで、僕達はこれからどうなるんだ? 後何日同じ生活しなければいけないのかな」

盗賊「んー、そうだな……」

盗賊「そろそろ解放するぞ」

修験者B「本当ですか!」

修験者A「……嘘じゃないだろうね」

盗賊「嘘じゃねぇ」

修験者A「じゃあ、罠のない道筋を案内してもらうよ」

盗賊「それもねぇな」

修験者A「何!?」

盗賊「俺は先に出る。ついてきたら、てめぇらの足にナイフを刺してやる」

修験者B「なら、どうしろと言うのですか! 殺さないと言うのは、嘘だったのですか?」

盗賊「殺すつもりがねぇのも本当だ」

盗賊「実は、この小屋のどこかに紙切れを隠しておいてある」

修験者A「紙?」

盗賊「察しの通り、紙には罠の配置を書いておいた」

修験者B「そんなのがあったんですね……」

盗賊「後はわかるな。それを探して、自力で脱出しやがれ」

修験者B「と言ってましたけど」ガサガサ

修験者A「見つからないな。まさか罠の配置を記した紙はなくて、ずっと閉じ込めておく気では」ガサゴソ

修験者B「怖いこと言わないで下さいよ!」

修験者A「ごめん」

修験者A「でも、本当にあるのかな。あまり物もないのに、隠せる場所なんて……」

修験者B「そうですね。今まで私達が気付かなかったのもおかしいです」

修験者B「と言う事は、本当にないんじゃ……!」

修験者A「食えない男だな。何が本当で何が嘘かわからなかった」

修験者A「そのせいで、実際見てない罠も信じるしかなかったわけだけど」

修験者B「あの殺気は本物でしたからね……」

修験者B「でも、どうしましょう。このまま見つからなかったら」

修験者A「どちらかが死ぬ覚悟で罠地帯に進むしかないね」

修験者B「見つかると信じましょう!」

修験者B「物陰になくても、案外埋まってたりするんじゃないですか?」

修験者A「!」

修験者B「その場合、小屋の中全部掘り返すしかないですね」

修験者A「そうか。地面の中か。それなら僕達が今まで気付かなかったのも頷ける」

修験者B「えぇっ、まさか本当に全部掘り返すんですか?」

修験者A「その必要はないよ。よーく見れば……」

修験者A「あった! ここだけ土の質が微妙に違う。何かを埋めた証拠だよ」ザクザク

修験者B「ここは、彼の席ですね。座った時に足で隠しながら土を固めていたわけですか」

修験者A「本当、ただ者ではないね。……これが件の紙切れだな」ガサガサ

『罠なんて仕掛けてねぇよ』

修験者B「……」

修験者A「本当に、食えない男だよ」

――蓮花の町郊外、風車建築場

ザワザワ ザワザワ…

男「案外来たな。この町は暇人ばかりなのか?」

情報屋「農家が多いですからね。この時間帯は自由時間なのでしょう」

麦娘「情報屋さんの宣伝の賜物じゃないの?」

情報屋「私は裏方。噂を流しただけですよ。注文通り『そろそろ完成するらしい』と言うのをね」

麦娘「それでも噂の広がり方が尋常じゃないでしょ」

麦娘「情報操作をしてほしいことがあったら、今度から私も頼もうかしら」

情報屋「おやおや、地主様のご息女が裏の人間と仲良くしたいと?」

麦娘「私だって、裏の人間が表通りを堂々と歩いていることくらい知っているわ」

麦主「風車とやらが出来上がると言うのは本当ですかな」

麦娘「あら、父様」

麦主「……娘をこき使ってはいないでしょうな」

男「心配なく。巨人を動かしてもらっているだけですから」

麦主「魔物は?」

男「今あちらで休憩してます」

巨人「……」クター

男「なぜか人が集まってきているので、もう少ししたら建築記念に見世物でもやろうかと」

情報屋「“なぜか”ですって。白々しい」コソコソ

麦娘「本当に」コソコソ

麦主「見世物、ですと?」

男「ええ。後はそこにある臼を設置すれば風車は完成です」

男「それを据え付ける作業と、その後に麦を一袋挽く所を実演しようかと」

麦主「成る程。それでこの風車とやらの必要性を証明しようと言うことですか」

男「ええ」

麦主「しかし大丈夫ですかな?」

男「何がですか?」

麦主「魔物の怪力を使って建てているとは言え、これ程の短期間で建てた建物」

麦主「立派なナリをしていますが、物置小屋よりも脆くては困りますよ」

男「設計通りに建てられています。大丈夫ですよ」

麦娘「男さん、巨人も回復したみたい」

男「そうか。なら――」

盗賊「しまったな。まだ出来てねぇのか?」

麦娘「盗賊! 帰ってきたのね」

盗賊「ああ。今さっきな。だがどうする、男。連中ももうすぐ来やがると思うぜ」

男「問題ない。即殺されない程度には指示を得ている」

男「だが巻いて進めようか。麦娘さん、頼みますよ」

麦娘「わかったわ。巨人、仕事に戻るよ!」

巨人「ンガ」ムクリ

男「麦主さん、見物ならどこでも構いませんので。ここでも大丈夫ですよ」

麦主「あ、ああ」

男「さて――」

男「“なぜかお集まりの”皆さん! これよりこの風車は完成に向かいます」

男「今より巨人がそこの臼を風車の中に置くと、風車は完成します」

男「建築作業最後の瞬間をご覧あれ!」

ザワザワ ザワザワ…

麦娘「さぁ、巨人!」

「……」
「……」

麦娘「手順通りにやるのよ」

巨人「……ウム」コクリ

巨人「……」ガシッ ズシン

「……」

巨人「……」ズシンズシン

「……」

巨人「……」ドスン キュコッキュコッ

「……おい見えないぞ」ザワザワ
「中じゃなぁ……」ザワザワ

巨人「男、コッチ」クイクイ

男「どれ……」

「……」
「……」

巨人「……」

男「……良し!」

「おおー」ザワッ

男「完s――」

麦娘「できたー!」

「おおぉぉおおおー!」

麦娘「……あ」

男「いや、何か、良いよ。誰が言っても」

盗賊「全く……」

ザワザワザワ
  ザワザワザワ

男「コホン。では気を取り直して……」

男「この風車の力を見せましょう! ここに用意した麦一袋をすぐさま全て粉にして見せます!」

「すぐってどのくらいだ?」
「今小屋に入れた臼、ありゃあ動かすのも一苦労だ」
「それをこの小屋で動かすって話だ」

ガヤガヤ ガヤガヤ

男「じゃあ……盗賊、麦を臼に入れてくれ」

盗賊「何で俺が。草原を走ってきて疲れてるんだぜ?」

男「仕方ない。俺が行くか……」

修験者B「その前に少し話を聞かせて貰えないですか」

修験者A「……」

盗賊「――てめぇっ!?」

男「……早いですね」

修験者B「町に帰ってきたら騒がしい所があったものですから。何事かと思ってみれば」

修験者B「魔物を前に不用心な……」スッ

麦娘「巨人の前に私を相手にしたらどう?」ザッ

修験者B「我々にも時間がないのです。もう身の安全は保証できませんよ」

修験者B「……あれ、どうしたんですか、先輩?」

修験者A「……」フルフル

修験者B「手を出すなと言うことですか? なぜ!?」

男「そちらは状況を理解しているようですね」

麦主「これはこれは白羽教会の、来ておられたのですね」

修験者B「領主様、あれはどういうことですか」

麦主「魔物のことですかな?」

修験者B「ええ」

麦主「そこにいる学者の男さんと言う方の手伝いに小屋を作らせていたのですよ。男さんとは確か面識があるとか」

麦主「それで、これが滅法手際が良くてですな。あの大きな小屋を三日で――」

修験者B「わかりました。もう良いです」

男「巨人を退治するのは先送りですね。今の世間の目は、あの巨人のことを“使える家畜”と見ています。牛や馬みたいに」

男「そして、現在まで住民への危害は皆無」

男「これで殺せば、白羽教会の名を落とすことになりますよ」

修験者A「……」

修験者B「……あ、後で処理してやる」ボソリ

男「まぁ、折角ですから見物しておいてくださいよ」

麦主「そう言えば、風車とはあの羽が回るものだったはずでは? 今は回っていないですが」

男「使わない時は羽を風向きから逸らしているんですよ。四六時中風を受けていれば壊れますから」

麦主「そういうものなのか」

男「そういうものです」

男「じゃあ、麦を入れてくるから、盗賊は一応見張っておいてもらえるかな」

盗賊「任せとけ」

修験者A「……」

ザワザワ ガヤガヤ

男「麦を臼に入れてきました。これから風車を動かそうと思いますが」

男「動かすためには風車の羽を風に向けなければなりません!」

「……どういうことだ?」
「羽って、あれか? 布を張ったハリボテの」

男「羽を動かす仕組みとして――」スタスタ

男「小屋から突きだしたこの棒を動かす必要があります」

男「かなり力が必要なので、力自慢の方は前に出て動かしてみてください」

力自慢1「おう! じゃあオイラが。で、どうやって動かすんだい?」

男「これがロックになっていて、これを外してから……そう。後はこっちから押してください」

力自慢1「良し、やってやるぞ!」

力自慢1「ふぬぅうううう!」

「……動いてねぇぞ」
「力抜くんじゃねぇぞ!」

力自慢1「ぬぅうううっ! っはぁ、はぁ……駄目だ。固ぇ」

男「じゃあ、もう一人!」

力自慢2「はっはっはっ! 手伝ってやるぜ!」

力自慢1「ふぬぅううう!」
力自慢2「ぬんっっ!」

力自慢3「動いてねぇよ。俺も加わってやろう」

力自慢1「ぬぅううううんっ!」
力自慢2「んぐぅっ!」
力自慢3「おぉぉぉおおおっ!」

「おぉっ! 動いた!」
「でも全然駄目だな……」

力自慢4「じゃあ俺も――」

男「いや、もう十分です」

力自慢4「えぇ……」

力自慢1「駄目だ。固すぎらぁ」

力自慢2「学者さん、こりゃ失敗作だぜ」

力自慢3「ぜぇ……ぜぇ……」

麦主「動かないのでは駄目ですな。住む場所も作っていないようですし、ただの構造物になってしまいましたな」

男「……」

麦主「落ち込みなさるな。学者様でも人間。失敗はあるものです」

男「巨人、頼む」クイクイ

巨人「ワカッタ」

修験者A「……!」

麦主「何を……?」

男「それではみなさん、どうぞ小屋の中を自由に覗いてください」

男「これが自動製粉です!」

巨人「……」ギギ ギィーッ

「う、動いた!」
「見ろ、ハリボテが――」

修験者B「風を受けて、回ってる……」

情報屋「ほほう」

麦娘「これが風車……」

「おぉぉおおおっ! なんだこれ、なんだこれ!」
「どんどん麦粉が出てくるぞ!」
「おい、おい、早く見せろ。なんかもう終わりそうじゃねぇか!」

男「……どうですか、麦主さん」

麦主「確かに、凄い代物のようですな……」

麦主「ですが、力持ちの大人三人でも苦労して動かせるもの。これでは使い物になりませんぞ」

男「簡単に動かせる奴もいるじゃないですか。見たでしょう?」

麦主「まさか……」

男「巨人を風車守にすれば、この風車が町に貢献できるでしょう」

修験者B「そ、そんな馬鹿な話がありますか!」

男「そうですか? 風車を簡単に動かせるのは巨人しかいないんですよ」

修験者B「で、ですが……!」

男「それに、住民の殆ども、巨人が結局危険な存在じゃないのを知っています」

男「さらに言えば、巨人を町に置く事だけで麦娘さんも戻ってくる」

麦主「!」

男「悪い条件じゃないと思いますが」

麦主「まさか、それを見越してこの風車を……?」

男「さぁ?」

麦主「いや……麦娘、本当に帰ってきてくれるのか?」

麦娘「……巨人と一緒なら、良いわ」

修験者B「ま、待ってください! 正気ですか。あれは魔物ですよ!」

麦主「正気だよ。明らかに利が大きいですからね」

修験者B「ですが……!」

男「魔物だろうと……いや、魔物だからこそ、本質を外れた友好的なものも現れる確率もある」

男「それが、突然変異って奴でしょう?」

修験者B「あ、あなた、どこまで――!」

修験者A「……どうやら僕達の出る幕ではないようです」

男「!?」
修験者B「先輩!?」

修験者A「ここは退きましょう。流石、男さんですね」

修験者A「行くよ、修験者B」

修験者B「ちょ、待っ」

盗賊「……とりあえず、上手くいったか?」

男「ああ。だけど……」

盗賊「?」

男「あの声……どこかで……」

「よーし、もう一袋いくぞー!」
「次、回してくれ、巨人よ-!」
「どんだけ回すんだい。粉ばかりじゃ保存できないじゃないの!」

ガヤガヤ ガヤガヤ

麦娘「何だか、すごく馴染んでるね」

男「これは予想外だよ」

麦娘「本当に?」

男「嬉しい予想外ならどっちでも良いけどね」

盗賊「そうだな」

麦娘「うん」

麦娘「詳しく知らされてなかった私には、全部嬉しい予想外だよ」

麦娘「本当にありがとう。盗賊、男さん」

盗賊「何とかなって良かったぜ」

男「でも、これからは麦娘さん一人で巨人を守っていかなきゃいけない」

男「人間は心変わりが早いから」

麦娘「……そうだね」

男「ああ、後、麦主さんがいないうちにこれを渡しておくよ」

麦娘「何、これ?」

男「子供でも動かせる風車の設計図」

麦娘「えぇっ!?」

男「自分でずっと保管しても良い。公開しても良い」

男「ただ、公開する時は、巨人が“便利な家畜”じゃなく本当に町の一員になったと思った時だ」

麦娘「……わかった」

情報屋「これは私も聞いて大丈夫な話でしたか?」

盗賊「別に良いんじゃねぇか? タダでバラす質でもないだろ」

情報屋「ところで盗賊、暫くはここにいるつもりかい?」

盗賊「それなんだがな……報酬はどうするか」

麦娘「え、何、お金動いてるの?」

盗賊「いや、このこんなもん建てたら、普通大赤字だろうが」

情報屋「では私が話を通しておきますね。私の取り分を引いたものをそちらの宿舎に送る形で良いですか?」

男「それは助かります」

情報屋「多めに戴いておきますので」

麦娘「あれ、ちょっと黒い……」

情報屋「麦娘様とも長い付き合いになりそうですね」

麦娘「ぜ、前言撤回できる?」

男「まぁ、後一泊して帰るかな」

盗賊「そうするか。ここは落ち着いたんだろ? 俺は宿に戻っておくぜ」

男「ああ。俺は麦娘さんや巨人と風車の管理について話しておかなくちゃならないから」

盗賊「わかった」

麦娘「と、盗賊!」

盗賊「……何だ?」

麦娘「えっと、あれよ。せ、折角蓮花の町に来たんだから……あれよ」

麦娘「もうちょっと――」

盗賊「麦娘、てめぇ……」ポンッ

盗賊「もう家出するんじゃねぇぞ。心配させるな」ガシガシ

麦娘「……うん」

全然更新しないせいでかなりかかったけど、男・盗賊サイドは終了。
次回から剣士サイドに移りますぜ。

書く時間欲しい(ボソッ

(時期同じくして――)
――渦の国、???

剣士「……ん、んん……?」

剣士「……はっ。ここは、どこだ?」キョロキョロ

剣士「見知らぬ部屋……人が住んでいる気配はあるな」

剣士「捕まっている、わけではなさそうだし。確か私は……」

ガチャッ

?「お、気が付いたか、ねーちゃん」

剣士「ああ。どうやら助けてもらったようだな。礼を言う」

剣士「白の国から来た、剣士という者だ」

?「白の国から? ははーん、成る程。君は悪運が強いな」

剣士「少し航路を間違えてしまったらしくてな。渦潮に巻き込まれてしまったのだ」

剣士「運が良いと言うことは、ここは渦の国か?」

?「そうだが、悪運ってのはそういう意味じゃないぞ」

漁師「そうそう、おいらは漁師ってんだ。浜によく網を投げてるんだけどな」

剣士「ほう」

漁師「君もおいら達がよく使う浜に打ち上げられててな」

漁師「大方、一緒に打ち上げられてた船に乗ってきたんだろうけど、ありゃあいけないね」

漁師「あれはちょっと沖に出るくらいが精々ってくらいだろ」

剣士「十分いけると思ったんだが」

漁師「大体、身なりを見てたら、兵士さんだろ? 素人がそんな小さな船でここに来るなんて無茶ってもんだ」

剣士「操船術は少し囓っていてな。いけると思った」

剣士「そう言えば、船はどうなった?」

漁師「バラバラだよ。当たり前だって」

剣士「……そうか」シュン

漁師「まぁ、交易船に乗せてもらえば良いさ」

剣士「交易船?」

漁師「あぁ、そうか。知ってたらねーちゃん一人で来るわけねぇわな」

漁師「この渦の国は連盟にも入ってないし、交通手段も限られてっからな」

漁師「月に何回か、白の国、葉の国、野の国の一部の商人達と交易してるんだよ、ここは」

剣士「通りで。私が情報を得られたのもそういうことだったのか」

漁師「別に秘密にしてるってわけじゃないと思うけどね」

漁師「この舶道港の他は、まぁ伝統的な暮らしをしてるからかね。多分外の人らはあまり関わり合いにはなりたくないんだろうな」

剣士「では交易はここだけか」

漁師「ここしかできねぇんだよ。他の航路は潮の流れで渦ができてるからな」

漁師「それで? 兵士さんが仕事を放っぽってここにくるのはどういう理由か訊いてもいいかな?」

剣士「別に放棄したわけではないさ。訳あって、遊隊の配属でね。縛られた活動はないんだ」

漁師「へぇ」

剣士「今は休暇みたいなもので、私は修行に来たんだが……」

漁師「修行? こんな辺鄙な島にか?」

剣士「古い文献で読んだものだから、今はどうかは知らないが」

剣士「極限にまで速さを高めた剣技があるらしい。知っているか?」

漁師「速さを高めた剣技……うーん……」

漁師「もしかしたら、あれかもしれないな」

剣士「知っているのか!」

漁師「もしかしたら、だ」

漁師「門外不出の秘伝、ってわけじゃないなら、武闘会で見てるしな」

剣士「武闘会?」

漁師「年に一回、渦の国の部族間でやる伝統行事だよ。争いの為替に、ってやつだけどな」

漁師「剣技を使う部族ってのはいくつかあるんだけどよ、素早さってんならヌ族が一番だな」

剣士「ヌ族……」

漁師「まぁ、速いってより無駄がないって言うのかな。武闘会でも毎年上位だ」

剣士「ではそこに行ってみるとしよう。違っていても、良い修行にはなりそうだ」

漁師「じゃあ、村までの地図は書いてあげよう」

剣士「ありがたい」

漁師「だけど、今日は泊まって行った方が良い」

剣士「……今すぐじゃダメか?」

漁師「駄目だね。拾った先から出て行かれると心配する」

剣士「……」

漁師「……ああ、そういうことか! そっちの心配か!」

漁師「今は出ているが、こう見えても娘がいる」

漁師「それでも心配なら、ねーちゃんは娘に任せて、おいらは愛人の所に行っておくぞ」

剣士「いや、そこまでしてもらう必要は。お言葉に甘えさせてもらおう」

漁師「そうかそうか。今日は飯に滋養のつくものを作ってやる。娘がな」

剣士「何と言うか……複雑な家庭なのだな」

短いけど、とりあえず導入だけ。
放り投げていく。

一応今回使う地名が全部出たので、そっちも置いておくよ。
http://sssssssssssssss.web.fc2.com/img/img_a005.jpg

『白鯨の街 三日目

貸船屋から連絡が来た。漸く船の用意ができたらしい。

渦の国までの船はない。

あの周りの渦潮が邪魔で国交があまりないだけなのだけれど。

だが、聞き込みをするうちに渦の国まで行ける航路を教えてもらえた。

白の街の食堂で小耳に挟んで、その時に尋ねたものだ。

信憑性はあまりない。

とは言え、貴重な情報だ。剣術の修練のために試す他はない。

操船術は少しだけ覚えがある。多分問題はないだろう。

出港前となって、いよいよ狂人が心配だ。

寮長の伝手で、一時だけ善良な施設に預けたけれど、どうなっているだろう。

他の子に迷惑はかけていまいか。

いや、それよりも、あの子自身は大丈夫だろうか。

あんな性格だから、いじめられているかもしれない。

そうでなくとも、退屈していないだろうか。

良い友達ができれば良いのだが。

早く修行を終えて、迎えに行こう』

『舶道港 一日目?

気が付いたら、ベッドに寝かされていた。

浜に打ち上げられたところを助けてもらったようだ。

恩人の名は、漁師さんと言った。

一応、渦の国に到着した。

乗ってきた船は大破してしまったらしい。

しかし、話を聞いてみると、白の国を含む三国が細々と交易を行っているという。

渦の国で唯一交易をしている所。それが今私がいる舶道港だ。

帰国には、不定期に往来する交易船に同乗させてもらう他ないだろう。

剣術修行の方も問題はなさそうだ。

ヌ族という種族が、文献にあった剣術らしきものを習得しているらしい。

漁師さんにそのヌ族が住むと言う村までの地図を書いてもらった。

ひとまず、一日泊めてもらうことになる。

彼には娘が一人いる。私より年上だ。

彼女の作る魚のごっちゃ煮スープは非常に美味しい。

盗賊の料理と違ってものすごく豪快なのに、不思議だ。

娘さんにもとても親切にしてもらった。

他国の兵というのは、平和になった今でもやはり敬遠されている感じはあるのに。

交流の少ない渦の国だからだろうか。

姉貴分は騎士様くらいのものだったから、優しくされるのは新鮮だった。』

――ヌ族の村

剣士「……ここか。思ったよりもかかったな」

剣士「いや、徒歩だとこんなものか」

剣士「しかし困ったな。どう見ても弓で狙われているな……」

剣士「これ以上門に近付かなければ大丈夫らしいが……どうするか」

ゴゴゴ…ゴゴゴ…

剣士「……」

「……」
「……」
「……」

村男「見ない顔だな。他族の者でもなさそうだが、何者だ」

剣士「私は剣士と言う。あなたが村の代表か?」

村男「代表ではないが、自警の長を任されている」

村男「見たところ兵士のようだが、何用だ」

剣士「素早い剣術がこの国にあると聞き及び、はるばる白の国から来た」

剣士「この村にそれらしい剣術が伝わっていると聞いたのだ。本当ならば教えていただきたい」

村男「剣の修行、か?」

剣士「そうだ」

村男「それだけか?」

剣士「そうだ」

村男「……」

剣士「……」

村男「弓を下ろせ!」バッ

村男「剣士と言ったな。お前を信じよう」

剣士「ありがたい」

村男「まず族長に挨拶しろ。案内する」

族長「……」

剣士「……」

村男「白の国から来たという、剣士という名の者です」

族長「外が騒がしいと思ったら……お前さんか。この村に来た目的は何かねぃ」

剣士「剣術の修行をさせてもらいたい。そのために、このヌ族の剣術を参考にできないかと」

族長「我々ヌ族の剣かぃ……」

族長「見たところお前さんは二刀流のようだぃが、我々は長刀一本のみを使う」

剣士「構わない。ここの剣術は無駄のない動きだと聞き及んでいる。それに一刀も二刀も関係はないだろう」

族長「うむぃ……」

族長「村男よ、お前さんはどう思う」

村男「信用に値する人物ではあると考えます。元より、この国の部族には女戦士などいません」

族長「うむぃ」

村男「偵察でもないように思いますが」

族長「お前さんがそう言うなら、そうなのだろうの」

族長「ようし。剣士よ、お前さんの滞在を許そう」

剣士「はっ」

族長「外国の兵装はここでは目立からの。特別な印は必要ないだろうねぃ」

族長「剣士には……とりあえず戦士達の修練場に案内せぃ」

村男「わかりました」

族長「剣士よ、お前さんにはひとまずヌ族の剣を見てもらうかねぃ」

族長「剣そのものは武闘会で見せているから、それを見て参考に止めるか習得するかを決めよ」

族長「参考のみならば、修練場の近くで修行の場を与えよう」

剣士「習得を選んだ場合は、どうなる?」

族長「我々の秘密だからねぃ。その時は内密の誓いを立てに再びここに参られよ」

カンッ カンカンッ
 カツーン カツーン

村男「ここが修練場だ。ヌの戦士達はここで毎日剣技に磨きをかけている」

剣士「……ふむ」

村男「何か?」

剣士「ある程度熟練した者なら誰でもわかる。これが、剣技か?」

村男「見たところ、かなり若いようだが……」

剣士「師が良くてな。国の兵の中ではそこそこ腕はあると自負している」

剣士「だから、私にもすぐにわかる。ここの戦士達は、我流にしても酷い太刀筋だ」

村男「成る程」

剣士「あなたは自警長だったな。長のあなたでもこんなものなのか?」

村男「俺は戦士ではない。剣技は知らない」

剣士「……何?」

村男「この村の風習でな。戦士と指導者は異なる」

村男「剣士、お前の言ったことは正しい。戦士達は剣を知らない。教えも何もなく、ただひたすら我流だ」

村男「だからこそ、日々剣技を磨いているとも言えるだろう」

剣士「冗談はやめてくれ。これが本当にヌ族の剣というものなのか?」

村男「しかし、これが本物だ」

村男「だがよく見ればそれがわかる。お前は正しい剣技を知っているからこそ、ヌの剣が見えてこないのだ」

剣士「正しいことを知っているから、わからない……?」

村男「そうだな……、あそこで戦っている二人をじっくりと見ると良い」

剣士「……」

カンッ ザザザッ

カンッカンッ ズザッ

剣士「これは……」

村男「どうだ」

剣士「……いや、互いに素人のような動きだからだ」

村男「見えてはいるようだな。しかし、まだ信じ切れていない。そうだろう」

剣士「……」

村男「自分の腕で確かめたいか?」

剣士「良いのか?」

村男「もちろんだ。お前のような剣の道を求める者は嫌いではない」

村男「おい、ヌ戦士!」

ヌ戦士「……はい」

村男「この女と試合をしろ」

村男「そこそこのやり手らしいからな。お前くらい慣れた男じゃないとやられかねない」

ヌ戦士「わかりました」

村男「剣士、お前の相手はこいつだ」

村男「力で言えば、戦士の中で一番だろうな。見てわかるだろう」

剣士「ありがたい。ヌ族の剣、見極めさせてもらおう」

村男「剣はこの木剣を使え」

剣士「……二本? 相手は一本だが、良いのか?」

村男「構わない。ヌ戦士の木剣も特別製だ」

剣士「そうなのか」

村男「戦士に合った練習が良いからな。ヌ戦士のものは、特別硬くて重い」

剣士「見たまま、腕力にものを言わせて戦う形か」

剣士「……ここの戦士達は剣こそ素人だが、真面目だな」

剣士「白の国の兵士なら、こんな決闘が始まろうものなら、誰もが見物をするところだ」

村男「まぁ、無関心とも言うな」

村男「そろそろ始めようか。ヌ戦士、準備は良いか?」

ヌ戦士「大丈夫です。いつでも戦えます」

村男「剣士はどうだ?」

剣士「問題ない」

村男「どちらか降参するか俺が止めるまで戦ってもらう」

剣士「……」

ヌ戦士「……」

村男「始め!」

剣士「先手必勝っ!」ダッ

村男「……速いな」

剣士「はぁっ」スカッ

ヌ戦士「……」ブン

剣士「――っ!」サッ

剣士「今のは……。いや、考えるのは――後だ!」シュバッ

スババババババッ
 カカンッ スカッ カカカンッ

ヌ戦士「」カッ

ドスッ

剣士「っ……!」

村男「勝負あり! 止めい!」

剣士「おか、しい……」ガクッ

村男「……ヌ戦士の本気の突きを食らえば無理もないか。腑が壊れてなければ良いが」

村男「ヌ戦士、修練中悪いが、この女を運んでくれ」

ヌ戦士「わかりました」ガシッ

剣士「」

剣士「――はっ!」

村男「目が覚めたか」

剣士「こ、ここは? 試合は!?」

村男「お前は試合に負けた。ここは族長の家の客間だ」

村男「お前は運が良い。あの一撃を受けて痣ができている程度で済んだのだからな」

剣士「そうか……。気絶するとは、不覚だ」

村男「ヌ戦士にはそのくらいの力がある。気に病むことはない」

村男「それで、どうだった。実際に剣を交えてみて」

剣士「……手も足も出なかった。実際数分と持たなかったのだからな」

剣士「素人剣と評しておいて、呆れただろう」

村男「そうでもない。お前の剣は確かに素早く、優れていた」

剣士「私は、ヌ族の剣は無駄がない聞いていたが……どうやら素早いこととは違うらしい」

剣士「実の所、相対して負けておきながら、素人の剣という言葉は撤回するつもりはない」

村男「ほう」

剣士「だが、おかしいんだ。動きが」

剣士「当てたと思えば直前で躱される」

剣士「騙したと思えば直前で防がれる」

剣士「死角を取ったと思えば直前で受けられる」

剣士「どれも、人間がするには無茶な動きでな」

村男「……」

剣士「あれは、どうなっているんだ?」

族長「それこそが、ヌ族伝統の剣術」

族長「ヌ族の戦士は皆、その伝統の修練を終えた者達だぃ」

族長「それこそ、精練の儀」

村男「族長!」

剣士「精練の儀……」

族長「ヌの剣を見た今、お前さんはどうするかぃ」

族長「受けるか、止めるか」

剣士「……今一度問おう。こうも容易く秘密を教えて良いのか?」

族長「口外しなぃと約束さえあれば。秘密であって、門外不出ではないからねぃ」

村男「最も恐れているのは、この秘技が他の部族に伝わることだ」

族長「うむぃ」

剣士「では……受けさせてもらう」

族長「……後ろを向いてくれぃ」

剣士「? こうか?」

サクッ

剣士「な、何をやった」

族長「ホッホッホッ、少し髪をもらっただけぃだ」

族長「口約束だけでは不安だからねぃ。人に伝えられないように呪わせてもらうよ」

剣士「もし、破れば――」

族長「その腕で自らの首を貫くことになるだろう」

剣士「っ」ゾクッ

族長「村男、剣士に精練を受けさせてやってくれぃ」

剣士「ここは族長の部屋ではないか」

村男「族長の家は精練の間と繋がっているのだ」スタスタ

村男「いつもは族長が座している後ろのタペストリーを捲ると……」バサッ

剣士「隠し部屋……!」

村男「後についてこい」カツカツ

剣士「下に続く階段か……。本当に精練の間とやらに続いているのだろうな?」

村男「もちろんだ。この階段まで来た以上、もはや引き返せんぞ」

剣士「そんなつもりは毛頭ない」

剣士「しかし、族長の言っていた呪いとは本当なのか?」

村男「さぁな。俺が生まれてから一度もこのようなことはなかった」

剣士「私達の国には、彼の言ったような魔法など……」

村男「気になるならば、ここを出た時に試してみると良いだろう」

剣士「本当ならば、死んでしまうな」

村男「呪いの真偽を知るために、お前は剣を知りに来たのではないだろう」

剣士「その通りだ」

剣士「……成る程。呪ったと言う言葉そのものが、呪いなのか」

村男「止まれ」

剣士「? まだ階段は続いているが、着いたのか?」

村男「精練の間はまだ先だ。ここで荷物を預かる。剣もな」

――精練の間

村男「……ここが、精練の間だ」

剣士「ここが……? 冗談ではないのか?」

剣士「まるで牢獄ではないか……」

村男「兼用はしているが、俺が生まれてから牢として使われたことはない」

剣士「こんなところで剣の訓練ができるわけがないだろう!」

村男「ヌの剣はここから始まる」

村男「今は時期ないから、修練者はいない」

村男「ヌ族は成人した時に、一般住民になるか戦士になるか指導者になるかを決める」

村男「戦士の道を決めた者が最初に来るのがここだ」

剣士「では、修練場にいた者達は皆、ここに?」

村男「そうだ。お前と戦ったヌ戦士も、三十年くらい前にここを出ている」

剣士「あの男も……」

村男「そうだな……お前はこの部屋に入ると良い。まだ綺麗だ」

剣士「わかった」

村男「すまないな。本来客人が入ることもない上に、時期が外れているから掃除をしていないのだ」

剣士「いいや。こっちが頼んだのだ。そのくらい構わないさ」

剣士「わざわざ剣を預けたのだから、修練用の武器でもあると思っていたが……」

剣士「このような小さな部屋ではあまり動けないな」

村男「動く必要はない」

剣士「戦士の最初の修練と言っていたな」

剣士「と言うことは、瞑想のようなものか?」

村男「瞑想、か」

村男「寝るときはここで寝ると良い」

剣士「筵か……。いよいよ牢屋だな」

村男「修行場だからな。綿の布団ではおかしいだろう」

剣士「もっともだ」

村男「それと糞尿はその角ですると良い。穴があるだろう」

剣士「……あ、あぁ」

村男「大丈夫だ。中には溜まらないようになっているから」

剣士「確かに、臭くはないな……」

村男「部屋についてはこんなものだろう。早速だが、精練の儀を始めよう」

剣士「ああ。いつでも良いぞ」

村男「精練の儀は、本来成人になったばかりの戦士が半年掛けて行うものだ」

村男「お前は若いようだが……」

剣士「……」

村男「その体付き、成人していると見ても良いだろう」

剣士「ヌ族の成人は何歳からだ?」

村男「十二だ」

剣士「……そうか」

村男「しかし外国から来たのだから、何かしら事情もあるだろう」

村男「半年掛けても構わないか?」

剣士「できれば、早く終わるように頼む。多少の無茶は構わない」

村男「良いだろう」

村男「……とは言え、最初は慣らしていかなくてはな」ボソリ

剣士「?」

村男「覚悟ができたら、これを飲め」コトリ

剣士「……これは?」

村男「薬水だ。これを飲まなければ精練の儀は始まらない」

剣士「……」ゴクリ

剣士「良いだろう。受けて立つ」グイッ

剣士「……」ゴク…ゴク…

村男「……」

剣士「……飲んだぞ。次はどうする」

村男「次は……」

ギィ… バタン

村男「そこにいろ」

剣士「どういうことだ?」

村男「すぐに薬水の効果が現れる」カチャカチャ

剣士「何をしている! なぜ鍵を掛ける!」

剣士「これでは閉じ込――ッ!」ドクンッ

村男「閉じ込めなければ、収拾がつかないからな」

剣士「……っ……っ」プルプル

村男「気持ちが――」

剣士「はぁっ……はぁっ……」プルプル

村男「――高ぶってくるだろう?」

剣士「――っ」プツンッ

剣士「フフ、フフフフ……何だ、これ……なーんだ、これぇ!」ドンッ

剣士「私に何をしたぁああ! あっはははっ!!!」ドンッドンッ

剣士「よくわからんがぁ……ここから出せええ! ぶっ殺ぉおおす!!」バンバンッ

ドンッ ドンッ
 ガンッガンッガンッ

村男「……本当に凄いな、この効果は。いつ見ても」

剣士「はぁ……はぁ……」

剣士「何で……私は、あの、薬水は……」

カチャッ コト

剣士「……?」

村男「もう落ちついているだろう。飯にするといい」

剣士「はは……落ち着く、だと……?」

剣士「……そんなものじゃない。これは……無気力だ」

村男「……」

剣士「あれは、何だったのだ……?」

村男「薬水のことか?」

剣士「……」

村男「別に変なものではない。精練には必要なものなのは確かだ」

剣士「……」

村男「俺は飲んだわけではないが、気分が昂ぶるらしい。狂ってしまったように」

村男「体験しただろう?」

剣士「……ああ。今は……どうしてああなったのか……」

剣士「あれを抑えるのが、精練……なのか?」

剣士「私のあれは……未熟だから……なのか?」

村男「どうだろうな」

剣士「……」

村男「俺は精練の儀を行っていないから、わからん」

村男「今回のように立ち会ったことは幾度もあるが、決まったものを戦士に与えるだけだ」

剣士「……」

剣士「……私は――」

村男「……」

剣士「私は、自分が怖くなった。あのような自棄になって……いや……」

剣士「叫んで……憎んで、壊そうとして……」

剣士「それが、とても楽しくて……心地よくて仕方がなかった」

村男「……」

剣士「……あなたを殺す、と言ったな」

村男「ああ」

剣士「本気で……そう思っていたんだ。理由もなく、憎くて……」

剣士「……違うな。そうするのが、気持ちよかったからだ」

村男「……」

剣士「私の心には……悪魔が住んでいるのかも……」

村男「……飯は食べておけ。食い終わる頃には、もう一度様子を見に来る」

剣士「……」

コツ…コツ… コツ…コツ…

バサッ

族長「……どうだったぃ」

村男「精練の儀は、滞りなく始まりました」

族長「外国の兵士も、人であったということかねぃ」

族長「さて、どうなるものか」

村男「どうなる、とは?」

族長「ヌの剣とは、剣術のみに当てはまる言葉ではない」

族長「ヌの戦士もまたヌの剣だぃ」

村男「剣士もヌの戦士として迎えると?」

族長「それは剣士自身が決めることだねぃ。あくまで、そうなってくれれば、とな」

村男「女戦士など、前代未聞ですが」

族長「兵士だけあって、剣術はかなりのものだねぃ」

族長「それに加え、精練の儀を通過すれば、暫くは国で一番になれよう」

村男「武闘会、ですか」

族長「うむぃ」

族長「最も、精練の儀を通過した戦士は皆従順になりおるけどねぃ」

村男「では、精練を受けさせたのも企みですか?」

族長「……半分」

族長「精練の儀にてその心もヌの剣となるなら、それまでの者だというだけだ」

コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「……」

村男「調子はどうだ?」

剣士「……良くはない」

村男「……ほう」

剣士「どうした?」

村男「飯は全て食べたようだな。精練の儀を受ける者の殆どは手さえつけられないこともあるのだが」

剣士「詰め込むだけだ……。最も、いつまで……気力が持つか……」

村男「外国の兵士は余程訓練をされているらしい」

剣士「……どうだか」

村男「外はもう夜になっている」

剣士「……」

村男「寝る前に、もう一度薬水を飲んでもらおう」

剣士「……」ピクッ

剣士「……あの調子で、寝ろと……?」

村男「食後、朝昼晩に飲む。精練の儀の決まりだ」

剣士「……」

村男「置いていくぞ。しっかり飲んでおけ」

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……これも、試練か?」

剣士「不思議だ……。飲んでしまった後の姿を想像して恐れているのに――」

剣士「この薬水を目の前にすると……欲しくてたまらなくなる」

剣士「先程まで、あれほど無気力だったのに……」

剣士「……私は」

剣士「私は、打ち勝たなければならない。この誘惑に」

剣士「あの男が飲むのを見届けずに行ったのは……」

剣士「薬水を捨てると考えなかったのか?」

剣士「目の前に――この手に持っていると、ダメだ」

剣士「捨てて、耐えなければ……」

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……」

ゴクッ

あけおめー
もう4年近くの付き合いか
ここはログ読めるしまとめにも載ってるから
しばらく来れなくて落ちてしまっても立て直して続けて欲しい

あお。
今年も多分中途半端に進めていくよ。

>>584
なんだかんだで誰かが読んでくれてるってのは嬉しい。
反応一つあるだけで水が美味いです。

(数日後)

剣士「……」ブツブツ

剣士「……」ブツブツブツ

コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「!」ハッ

村男「剣s――」

剣士「おいっ!」ガンッ

村男「……」

剣士「薬水だ! 薬水、薬水!」ガチャガチャ

村男「飯だ!」

剣士「……は?」ガチャ…

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……」ブツブツ

村男「……入り口に置いておく。食っておけ」

剣士「……」ブツブツ

剣士「見るな……見るな……見るな……」ブツブツブツ

村男「うむ……この調子だと、一時後くらいにはまた来るか」

コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「……」ブツブツ

村男「……」コツコツ

族長「村男よ」

村男「これは族長。わざわざこんな所まで」

族長「様子が見たくてな。どうだぃ」

村男「予想より早く進んでいます」

族長「どれ……」チラ


剣士「……」ブツブツ


族長「……薬水はぃ?」

村男「一時半くらいに」

族長「それでも幻覚幻聴は続いている……かぃ」

村男「早めに儀を済ませるため、初め三日以外は濃くしているためでもあるのでしょうね」

族長「それにしてもぃ、あの馴染みは才でもあるだろうて」

村男「……そろそろ、“禊ぎ”を行おうかと」

族長「早過ぎるのではないかぃ?」

村男「しかし本来なら後十日は必要だったあの状態までいっているのです」

村男「差し障りはないかと」

族長「……よかろぃ」

(四時間後)


コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「……」

村男「落ち着いているな」

剣士「……すまなかった」

村男「ここ数日そう言ってばかりだ」

剣士「仕方ないだろう。本当に……本当にこれは何なんだ」

剣士「こんなので、剣は上手くなるのか」

村男「それはお前次第だ」

剣士「……ふふふっ」

村男「?」

剣士「真面目な顔をしているが、内心笑っているのだろう」

剣士「はっきり笑っても良いのだぞ」

村男「笑う必要があるのか?」

剣士「笑えぇっ!」

村男「……」

剣士「あんなに息巻いてた私がいつまでも薬水を絶てずにいるのだ……」

剣士「隠れて見えないが、私を嘲笑する視線と声はわかる」

剣士「そいつらを見返してやるつもりが、また薬水が欲しくなる」

村男「口は、饒舌だな」

剣士「……何?」

村男「隅で震えながらだと、より見窄らしく見えるぞ」

剣士「みす、ぼらしい……?」

剣士「私が、か?」

村男「ああ」

剣士「……そうか。そうかそうか、そうか」

剣士「私は、見窄らしいのか。遙々こんな所まで来て剣技を鍛えにきたというのに……」

剣士「さらに見窄らしく……」

村男「だが、精錬の儀は順調に進んでいる」

剣士「……そうなのか?」

村男「ヌの戦士なら誰もが通る道だ」

村男「そして、お前には一度目の禊ぎをしてもらう」

剣士「……禊ぎ?」

村男「そうだ。精錬の儀は禊ぎを三度行い、終了する」

剣士「何を、するんだ?」

村男「実は特に今までと変わりはない」

村男「薬水だ」

剣士「……」ゴクリ

村男「禊ぎ用の濃い薬水を飲むだけだ」

村男「禊ぎ用の薬水だ」コトリ

剣士「あ……あぁ……はぁっ……」

村男「これを飲めば、一度目の禊ぎが始まり、すぐに終わる」

村男「精錬の儀としては、折り返し地点と言っても良い」

剣士「はぁっ……んん……っ」ギュッ

村男「……どうした? 飲むんだ」

剣士「ここで……ここで自制しなければ……」

剣士「戻れない、気がするんだ……!」

村男「禊ぎを前にして儀を辞めるか? それでどこへ戻るつもりだ」

剣士「くっ……うぅ……」プルプル

村男「その、見窄らしいままで――」

剣士「あ、あ、うあああああっ!」ガッ

剣士「んぐっ、んぐっ」ゴクゴク

村男「……」

剣士「っはぁ。……はぁ、はぁ」

剣士「駄目だ……もう、私は……私は……!」

村男「……」

剣士「くる……くるぞ……! きた……キタ……キタア!」

剣士「アアアアアアアアアアアアッ!」

剣士「アアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!」

剣士「ア゛ッ――」

プツッ

依存性があるのはメラトニンで十分。
私も毎日使ってる。

~  ~

キラキラ…キラキラ…

剣士「……ここは何だ?」

剣士「私は……あれ、何をしていたんだったっけ?」

剣士「まぁ、良いか」

剣士「こんなに気持ちいいんだ」

剣士「勘繰るのは、やめた方が良い」

剣士「……それが良い」

キラキラ…キラキラ…

~  ~

剣士「……」ボー

剣士「……?」

剣士「えうー」

剣士「……」ボヘー

剣士「……うー」チラッ

剣士「……」ズリズリ

剣士「……」

剣士「あー……あああぁぁぁぁっ!」ゲシッ ガンガンッ

ガンッ ガンガンッ
  ガチャガチャ ガンッガンッ

剣士「ああああああああっ!」ガンガンガンッ

剣士「……ん」

剣士「……ん?」

剣士「私は、どうなって――痛っ」ビクッ

剣士「なんで脚に鉄片なんかが刺さって……」

剣士「!?」

剣士「部屋の、牢の外ではないか。じゃあこの鉄片は、この鉄格子の穴の……」

剣士「……」

剣士「……思い出してきた。僅かなほころびがあったから、滅茶苦茶に蹴ったんだった」

剣士「あんな傷、今まで気にしたこともなかったのだが……」

剣士「しかし、これは好機だな」

剣士「剣技は惜しいが……逃げよう。私が先に壊されてしまう」

剣士「まずは装備だな。確か階段の途中の倉庫にあるはずだ」

剣士「丁度服も着替えたいから丁度良い。誰にも見られていなくて良かった」

剣士「……あの男がいたか」カァァ

剣士「……」

剣士「一瞬でもこれで喉を潤そうと思った自分が恥ずかしい」

剣士「早く脱出して、水を探そう」

剣士「喉が渇いたな……」スタスタ…

族長「村男よ、もう夕餉の時間かぃ?」

村男「族長のじゃありませんよ」

族長「そうだろうてぃ。その粗末さは精練中の戦士用に決まっている」

村男「そろそろ目が覚めることだと」

族長「壊れておらんかな……」

村男「その時はそこまでの者。でしょう?」

族長「うむぃうむぃ。それが戦士のありようだねぃ」

村男「とは言っても、一回目の禊ぎは鬼門。戦士の三割は使い物にならなくなる儀式です」

村男「はたしてあの女は――」

バサァ

村男「――どう……か……?」

剣士「……あ」

族長「?」

村男「お前、どうやって――!」

剣士「――っ!!」チャキッ ザシュッ

族長「ぐぬいぃぃぃ!?」

村男「族長!」

剣士「しまった!」

村男「抜け出したと思えば……!」

村男「誰か! 村中の戦士を集めろ!」

剣士「す、すまない……。つい、反射的に……」

村男「は、反射的に、だと!?」

剣士「と、とにかくだ。精練の儀はやめさせてもらう」

村男「な、な、な……!」

剣士「意図せずとは言え、族長には……すまないことをした」ダッ

村男「剣士、待て!」

族長「む、村男いぃぃぃ……追うのだぃぃぃ……っ」

村男「ですが……!」

族長「傷は浅いぃぃっ……他を呼ん、で、手当ぃ……させるぃぃ」

村男「……わかりました」

村男「集めた戦士は村中を探させろ! 不届き者はまだ村の中だ!」スタスタ

族長「ふぃ……ふぃ……」

族長「剣士……あの剣の速さ……まさしく……」

「あっちだ! 向こうを探せ!」
「いたか? くそっ」

剣士「こうして見ると案外広い村だな」

剣士「と言っても、どうやらしっかりと塀で囲んでいるようだ。簡単には脱出できそうもないな」

剣士「やはり門から出るしかないか……?」

「向こうに不審な影が見えたぞ!」

「何!? おい、向こうだ!」

剣士「……まずいな」

剣士「! 暫くこの小屋に入ってやり過ごすか」

「こっちか?」

「多分こっちだ」

タッタッタッタッ…

剣士「……ひとまず過ぎたか」

剣士「戦士が二、三人に指揮が一人で一組か。非常時の兵としては使い勝手が悪そうだな」

剣士「……」キョロキョロ

剣士「倉庫、だろうか」

剣士「食料庫……にしては保存のことを考えてないな。同じような樽ばかり置いているし」

剣士「机もあるな。この上のものは……確か、薬研というものだったか」

剣士「……まさか」ハッ

剣士「この、樽の中身は……!」

剣士「薬水が、入っている……のか……」パカッ

剣士「……」

剣士「はぁ……思い過ごしか」

剣士「薬水と思ったが、こんな乾燥キノコばかりか」

剣士「まさかここにあるものは全部キノコなのか?」

剣士「なんてな。そんなキノコばかりあっても……」

剣士「……」

剣士「いや、ちょっと待て」

剣士「このキノコ、乾燥していたから一瞬わからなかったが、知っているぞ」

剣士「幻覚作用のある、モウタイルムスロム……」

剣士「大陸でも有名な猛毒キノコじゃないか」

剣士「これが……薬水の材料、なのか……?」

剣士「……」

剣士「……はむ」バリボリ

剣士「!」ボリボリボリッ

剣士「――っはぁ……なんて美味しいんだ」

剣士「乾燥しているのに、喉が潤う……ふふっ」

剣士「わかったぞ。ふふふ、ヌ族の真意が……」

剣士「私を薬水漬けにして服従させるつもりだったのだろう」

剣士「そうは、ふくくくっ、そうはいかない。ふふふっ」ニタリ

「いたか!?」
「いや……こっちには」
「何があったの?」
「族長が斬られたらしいわ。怖いわねー」
「女は危ないから家に」

村男「まだ見つからないのか」イライラ

ヌ戦士「警備長、こちらにもいませんでした」

村男「あの女……どこへ……」

「ぐわぁぁっ」

村男「何だ、今の悲鳴は!」

「んばっ」
「うわぁぁあっ!」
「ぐふぉあ!」

「や、やめろっ……俺は戦士では……」

村男「!」

シュンッ

「ぐはぁあああっ!」ドガッシャーン

剣士「邪魔するからだ。斬らなかっただけありがたいと思え」スタスタ

剣士「……ん?」

ヌ戦士「……」

村男「……見つけたぞ、剣士」

剣士「待ってただけじゃないのか?」

剣士「ここ、正門だろう」

村男「そうだ。他に出口はなかっただろう?」

剣士「全部見たわけじゃないのでな。知らない」

剣士「塀を越えていくとは考えなかったのか?」

村男「村の子供でもそんなことはしてないからな」

剣士「ほう。子供基準で考えるわけか」

村男「……」

剣士「……私は出て行く。どけ」

村男「ならん。族長を斬ったことを忘れたのか?」

剣士「手が滑ったんだ」

村男「……」

剣士「あそこにいたのが悪い」

村男「……その言葉が本気なら、しっかり償ってもらわねばならんな」

剣士「私だって悪いとは思っている。さっきのは、そうだな、言葉の綾というやつだ」

剣士「本当にすまない」

村男「……」

剣士「だが、それとこれとは別だろう。私は精練の儀をやめる」

剣士「いや、あんなのはもうやってられない」

剣士「もはやここにいつ必要はない。だから出て行くだけだ」

剣士「それを阻むのなら、お前達は私を監禁していることになるぞ」

村男「監禁か。精練の儀も同じようなものだが……」

村男「これからは意味合いも違ってくる。お前は客人ではなく、罪人となった」

剣士「……なら、力尽くで通るしかないな」

ヌ戦士「出番、ですか?」

村男「ああ。もう罪人だ。本気で行け」

村男「生死は問わない」

ヌ戦士「わかりました」ガチャ

剣士「重そうな剣だな。本当に死にそうだ」

村男「死んでも構わないぞ」

剣士「それは嫌だな」

剣士「さっきの戦士は木剣だったから素手でいったが――」

剣士「今回は本気でいくぞ」スラァ

村男「やれ!」

ヌ戦士「っ!」ダッ

剣士「っ」シュバッ

村男「そんな剣がヌ戦士に通ると思っているのか! もらった!」

ヌ戦士「んぬぅっ!」グイ ブォオンッ

剣士「……」

カチャ キュルルルルッ キキンッ

剣士「……」スタッ

ヌ戦士「ぐふ……ぅ……」ドサッ

村男「……」

村男「……!」ハッ

村男「な、何が……!」

剣士「これ以上邪魔をするなら、お前も斬るが……」

村男「……」ゴクッ

剣士「……その気はなさそうだな」スタスタ

剣士「簡単な話だ」

剣士「私の安易な剣筋をすんでの所で躱し、反撃の一撃を与えようとした」ガチャガチャ

剣士「そこから無理矢理体を捻って奴の剣を少し逸らし、さらに捻ってはね飛ばし――」

剣士「そのまま三回斬っただけのことだ」ゴトン

ゴゴゴ…ゴゴゴ…

剣士「これで一勝一敗一殺。私の勝ち越しだな」

村男「……お前には、女の身でありながら戦士の素質があったようだな」

村男「もう一度、精練の儀をやるつもりはないか?」

剣士「何だか調子が良くてな。そんな虫の良い話には乗れないな」

村男「罪人とは言え、惜しいな。ヌの戦士になればいいものを」

剣士「……」

村男「ここには、薬水があるぞ」

剣士「……やはりそういうことか」

村男「やはり?」

剣士「既にお前達の魂胆はわかっている」

剣士「おかしいと思っていたんだ。あの薬水はな」

村男「何がおかしい」

剣士「飲めば飲む程、欲しくなる。精神を強く持とうとしても、依存するんだ」

剣士「だが、お前達はそれが目的だったのだろう」

剣士「薬水で縛り付け、従順な戦士を作る。それが精練の儀の正体だ」

村男「何を馬鹿な――」

剣士「ここの戦士達が皆従順に指導者に従っているのにも、合点がいく」

剣士「薬水で縛られているんだ」

村男「……そう思うならそれでも良い」

村男「今まで薬水を飲んできたお前は、欲しくはないのか?」

村男「ここならそれが――」

剣士「これのことだろう?」スッ

村男「それは、神聖キノコ! 薬倉に行ったのか」

剣士「神聖、キノコ……?」

剣士「あっはっはっはっ、これが神聖? 何を言っているんだ」

剣士「これはただの幻覚山キノコだ」

村男「ただの、だと?」

剣士「大陸にも山程生えている」

剣士「残念だったな。ここの戦士のような無知ではなくて」スタスタ

村男「……」

剣士「神聖……これが、神聖……くくく……」ボリボリ

『舶道港 あれから何日後か

習慣は凄いものだ。

あのような目に遭っても、こうして書く気力があるのだから。

商船は二日後に来るらしい。

それに乗って(----



---紙が破損している---



----)くは、身を隠しているつもりだ。

白鯨の街まで持つだろうか。

白の町へ行く前に、やりたいこともある。

あの辺りの裏なら(----


---インクで滅茶苦茶にして文字が消えている---


----)

狂人はどうしているだろう。

勇者様は、こんな私をどう迎えてくれるだろうか。』

(二日後)
――舶道港

ガヤガヤガヤ
 ガヤガヤガヤ

「これで積み荷は全部か-!」

「ああ! それで終いだ!」

「よし、後は……ん?」

剣士「……」

「お、おい、お嬢ちゃん……いや、兵士さんか? 酷い格好だな」

剣士「この船は、白鯨の街へ行くか?」

「あ、あぁ」

剣士「帰りに乗せてくれ」

「良いけどよ。……あんた、誰だい?」

剣士「大陸の兵士だ」

「なんでこんなところ――」

剣士「野暮用だ」

「あ、あぁ。まぁいいや」

「俺らはこれからこの国の商会と話があるんでな。出向は後に――」

剣士「大丈夫だ」

「お、おう」

剣士「……」

「まだ何かあるのか?」

剣士「先に中で休みたいのだが……」

「良いぞ。そうだな……甲板か船内のダイニングで頼む」

剣士「わかった」フラフラ

剣士「モウ……ムルロ……ない……」ブツブツ

「……なんなんだ、ありゃ」

(時期同じくして――)
――竜の国

勇者「なぁ、煙の国を抜けてもう五日だぞ。まだなのか?」

騎士「急いても仕方ないだろ。もうすぐ調査団の陣営につくはずだ」

勇者「そう言って二日前、陣営が移動してただろうが」

騎士「仕方ないことだ」

勇者「そればかりじゃないか」

魔剣〔調査が進んでいる証拠だ。我はこうして異国に足を運ぶだけでも楽しいぞ〕

勇者〔そうか? こんなに荒れてるのに〕

魔剣〔昔を知っているからな。我の時代は、この辺りも栄えておった……〕

勇者「へぇ」

騎士「どうした?」

勇者「いや、何でもない」

騎士「ともあれ、こうして山の方に移るだけでもありがたいじゃないか」

騎士「前線だった方はまだ荒れ方も酷いはずだ。こうして馬車にも乗れないだろう」

勇者「そんなに酷かったのか、最終戦争は?」

騎士「酷いなんてものじゃなかったな。あちこちで地面が抉れるくらいだ」

騎士「それに竜が参戦して、もう何がなんだかわからなくなった」

勇者「……」

騎士「ん? 喜べ、勇者。陣営があったぞ」

剣士編が思ったよりあっさり終わったところで、続きは次回に。

次は勇者・騎士編! 舞台は竜の国!

忙しさにかまけて一ヶ月もサボってしまった。不覚。

今更な感じですけど……。

「隊長、応援が到着しました」

調査兵「そうか。入ってもらえ」

バサッ

騎士「失礼するぞ」

勇者「……」

魔剣〔……〕

調査兵「待っていましたよ」

調査兵「白蛇騎士団団長の騎士殿、連合調査遊軍の勇者殿、ですね」

調査兵「俺がこの調査の責を任された、調査兵というものです」

騎士「手助けに来ておきながら、遅れて申し訳ない」

調査兵「いえ、こちらも移動していましたしね」

調査兵「移動魔法の後、間髪入れずに煙の国から馳せてきたことは耳にいれています」

勇者「こっちは馬車に揺られていただけだからな」

勇者「何かあるならすぐにでも動けるぞ」

調査兵「それはありがたい!」

調査兵「……と言いたいところですけど」

騎士「何か、問題が?」

調査兵「竜はあの出現後、幾度となく姿を見せているのです」

調査兵「故に黒竜の足取りからここまで辿り着いたわけですが……」

騎士「暴れたのは青い竜だと聞いたが」

調査兵「ええ。しかし青竜は姿を中々見せず、あれから一度目にしたのですが調査する暇もできないのです」

騎士「その時の様子は?」

調査兵「青竜が一頻り街を破壊した後、黒竜が来て戦闘に」

調査兵「我々人間からすれば、どちらも暴走竜ですよ」

騎士「ふむ……」

調査兵「それで、この近辺の住人に聞いたところ――」

勇者「竜の国の人達が協力してくれているのか?」

調査兵「ええ。勿論、気持ちよくとは行かない場合が多いですが」

勇者「そうか。話を止めてすまなかった」

調査兵「全くです」

勇者「えっ」

調査兵「失礼。住人によると、この近辺では言い伝えがあって、三日月山脈の三番目に高い山が竜の住処らしいのです」

勇者「……」

騎士「調査には?」

調査兵「まだ。この二日、行くべきか悩んでいて……」

調査兵「山の麓には森があるのですが」

騎士「樹海、か?」

調査兵「いえ。確かに大きな森ではあるらしいのですが、樹海とまでは」

調査兵「ただその森、山に行こうとすると元の道に戻るようで」

勇者「結界……」

調査兵「でしょうね」

騎士「さっきの話しぶり、君は言ってなかったのでは?」

調査兵「先遣を数人行かせたのですよ」

騎士「ふむ、成る程」

騎士「結界と言えば勇者だが、どう思う?」

勇者「聞く話だと、幻覚系だろうな」

勇者「旅の中で数回経験はあるけど、そういうのは俺じゃなく魔法師が解決してたから」

騎士「勇者は無理なのか?」

勇者「殴って壊せないものはちょっと」

調査兵「……はぁ」

勇者「!?」
騎士「!?」

調査兵「しかし経験豊富なお二方が行けば、何かわかるかもしれませんよ」

騎士「……ということは、私達がもう一度山に向かって行けば良いのだな」

調査兵「そうですね」

勇者「まぁ、調査は実地の方がよくわかるからな。俺としてもその方が良い」

調査兵「では最初の仕事はそういうことで」

調査兵「成果がなくても別に良いですからね」

復活してますね。
落ちてる間の書き溜めはありません。いつも通り。

なので、いつも通り超低速更新でいきますね。

バタバタバタッ

バサッ

「報告、報告!」

調査兵「何だ。重要か?」

「北西の空に飛行物を観測! 目測ではまだ遠いようですが」

調査兵「何?」

「報告者によると、かなり高速で飛んでいるようです」

調査兵「成る程……」

「恐らく――」

調査兵「鳥ならお笑い種だな」

調査兵「お二方、聞いての通りです。俺は数人連れて見に行きますが」

勇者「ついて行っても?」

調査兵「……まぁ、良いでしょう」

魔剣〔……〕

調査兵「その代わり、鳥でも怒らないように」

騎士「それはないさ」

「隊長、早くしないと」

調査兵「あぁ、うん」

調査兵「ではお二方、ついてきてください。馬はこちらですので」

調査兵「あぁ、それと……残る兵士には退却準備をしておくように、と」

「はっ」

勇者「退却……?」

調査兵「念のためですよ」バサッ

調査兵「そんなこともわからないんですかね」ブツブツ

騎士「この馬、相当疲弊しているじゃないか」

ブルヒヒーン…

調査兵「仕方ないですよ。そんなのでもいなければ、我々の足はなくなってしまいます」

勇者「あそこの三人が同行する兵士ですね」

調査兵「時間がないので、紹介はなしで行きますよ」

調査兵「これよりこの六人で臨時調査に向かう。発見者、今も対象は見えるか?」

「はっ、あちらに」ビシッ

勇者「……あれか」ジッ

騎士「……」ジッ

調査兵「……見えんな」

調査兵「まぁ良い。その方角だと、水袋の丘だな」

「そうですね。視界が開けていて退路確保も容易なのは先日の周辺調査で――」

調査兵「行くぞ。ハッ!」ダダッダダッ

騎士「勇者、見えるか?」

勇者「一応な。あの影は、鳥ではなさそうだ」

騎士「竜……」

勇者「かもしれないな。俺達も急ぐぞ。あの人、意外と速い」

騎士「何? なっ、いつの間にあんな所まで……!」

勇者「馬の方もタフだよな」

魔剣〔……この気配、昔から変わってはいないようだな〕

勇者〔?〕

魔剣〔来るぞ。西の空だ!〕

ビュオォォォオオオッ

騎士「くっ、いきなり何て風だ!」

勇者「……!」

騎士「どうした。空なんか見てたら危な――!?」

勇者「みんな、西だ! 西の空だ!」

「何だって?」

「空がどうしたって……」

調査兵「あれは……!」

騎士「あれが、竜か……?」

「黒い……竜……!」

騎士「これだけ離れているのに、なんという威圧感だ……!」

「隊長、どうします!?」

調査兵「……変更はない! このまま水袋の丘へ向かう!」

勇者「賛成だ。あの黒い竜は向こうの飛行物に向かっているようだ」

調査兵「向こうにいるのも竜だ! 青い竜だ!」

「何だって!?」

「ただじゃ済まなさそうだな……」

調査兵「急ぐぞ。黒い奴に遅れを取るな。ハッ!」ダダッダダッ

――水袋の丘

調査兵「少し遠かったか。まぁ良い。見張るぞ」

「遠いくらいが丁度良いと思います。巻き添えは困りますからね」

「そうだなぁ」

勇者「でも十分な距離だ。竜の輪郭が見える」

「えぇ」

…ゴゴォ ズドォ…オン

騎士「相当離れているはずなのに……戦闘音がここまで聞こえるとは」

調査兵「雑音がないですからね」

騎士「……」

勇者「でも、どうして竜同士が戦っているんだ?」

調査兵「それを調べるのが我々でしょうが」

勇者「そうだけどな……」

魔剣〔少なくとも、悪竜は青い方だ〕

勇者〔わかるのか?〕

魔剣〔少し考えればわかるであろうが。黒い竜は竜の住む山の方から飛んできたのだ〕

魔剣〔ならばその黒い竜は竜の仲間。その黒い竜に攻撃されている青い竜は敵だ〕

勇者〔まるで人間みたいじゃないか〕

魔剣〔うむ。竜には人同様、意志がある〕

魔剣〔そもそも、竜は神々による恩恵以前より魔法を使う唯一の種族と言う〕

魔剣〔その竜がその辺の野獣と同じなわけはあるまい〕

勇者「……」

勇者〔じゃあ、尚更どうして――〕

調査兵「伏せろ!」

勇者「!?」

騎士「危ない!」ガシッ

ゴォォォオオオオゥ…

勇者「……な、何だ?」

騎士「流れ矢だ。何をぼーっとしている」

勇者「あ、あぁ。すまない」

「相当やばい火力だぞ、これ……」

「こりゃあ、あの周辺はもう駄目だな」

勇者「今の、火炎魔法か? あの距離から?」

騎士「ああ。私達人間のレベルなら規格外だ」

勇者「今回の任務は、対峙する前から命の危険を感じるな」

騎士「これがたった二匹だと考えると、私でも手が震える」

勇者「……ん?」

調査兵「どうしました?」

勇者「いや、ちょっと……」

調査兵「はっきりしませんか?」

勇者「いや、自分でもはっきりしなくて……」

調査兵「なら黙って観察した方が賢明ですよ」

勇者「……」

勇者「今回の竜の発見者、誰だっけ?」

「はっ、私です」

調査兵「?」

勇者「多分目が良いと思うから確認したいんだけれど……」ゴニョゴニョ

「……ふむ」ジッ

「そう言われると……確かに」

調査兵「何がですか?」

勇者「黒い方の竜、何かおかしいなと思ってね」

騎士「おかしい?」

勇者「俺を含めて二人の証人だ」

勇者「黒い方の竜から二つの魔法が一気に出ているんだ」

騎士「何?」

調査兵「……確かに……そう見えなくもないが……」

調査兵「これまでの調査で竜の詠唱速度は著しく速いことがわかっています」

調査兵「錯覚で一気にでているように見えるのではないですか?」

勇者「そうかもしれない」

勇者「でも、多分二つ、魔法が出ているように見えるんだ」

調査兵「……一応憶えておきましょう」

――調査陣営

調査兵「――以上が、今回の竜出現に関しての報告だ」

「うーむ……」
「青い竜が出ましたか。こんなに近いなんて……」

調査兵「……それで、だ」

勇者「……」
騎士「……」

調査兵「伍長達はこの状況をどう考える?」

「一度は決着戦争の戦場まで行った竜が戻ってきた、ということですね」

「これまでの黒竜の動きは、もしかしたら偵察の意味があったのかもしれない」

「ふむ……敵対関係にある、と」

「いや、そんなことは問題ではない。問題は青い竜がまたこの近辺で暴れるかもしれないということだろ」

調査兵「そうだ。そのような事態にもかかわらず、我々はまだ何も知らない」

調査兵「ついては――」

「……」ジッ

勇者「俺達の出番、ですか」

調査兵「そうです。事態は深刻かもしれず、早急に手を打たなければならなくなりました」

騎士「そうは言ってもだな。私達は何の手掛かりも掴んでいないのだぞ」

調査兵「ほう」

「その通りだ、隊長。いくら精鋭の隊長二人とは言え、お二方とも着いたばかりだ」

勇者「……いや、やってみよう」

騎士「勇者!? まさか意地になっているのではないな?」

勇者「そんなつもりはないよ。ちょっと思う所があるんだ」

調査兵「本当ですか? 先程は幻覚系結界は不得意だとおっしゃっていたではありませんか」

勇者「ああ、確かにそう言った」

勇者「だが、見に行く価値はあると思うんだ」

調査兵「……えらく自信がおありで」

勇者〔……大丈夫だよな?〕

魔剣〔昔と変わっていなければな〕

魔剣〔我とて竜を倒した一人だ。あの山にも入ったことがある。陣営に戻る時にそう言ったであろうが〕

騎士「大丈夫なのか?」

勇者「さあね。何にせよ、これが教えてくれるはず」カチャ

騎士「その剣が……?」

勇者「この剣は初代統一王が竜を斬った魔剣なんだ」

騎士「何!?」

調査兵「そんなもの凄い剣だったとは……!」

ザワ…ザワ…

魔剣〔この剣で我が竜を斬った!〕エッヘン

調査兵「しかし、それで?」

シーン…

勇者「この剣には、まだその魂が残っているんだ」

勇者〔で、良いのかな〕

魔剣〔我自身が残っているのだ〕

調査兵「何ですと?」

勇者「だから、きっとそれが正しい道を教えてくれるはずだよ」

乙ー!
>>630は誤爆です。
ageてしまいスミマセン

そこそこ強いはずなのに勇者が単なる称号持ちの凡人イメージ

>>633
私の遅い更新に保守してくれたのかと妄想してた

>>634
大陸の兵役従事の常識が「魔法適正が高い→魔法使い」「魔法適正が低い→兵士」に対して、
「魔法適正が高い→兵士」という理由で勇者の称号をもらった凡人の設定。
そこそこ強いのは、一族が騎士の血統とか、魔法の適正バランスの良さとか何とか。
剣術のみなら中の上くらい?

調査兵「……確証は、あるのですね?」

勇者「ある、と言えば嘘になるかと」

勇者「初代統一王は大昔の人間だからね。その時代から結界の方式が変わっていたらどうしようもないよ」

「確かに」
「一理ありますな」

調査兵「元より、あなた自身の力ではないのですが」

騎士「言葉が過ぎるな。剣の所持者は勇者だ」

調査兵「誤解しないでいただきたいです」

調査兵「ご自身の力でないということは、信じる確証もないということです」

勇者「まぁ……確かに」

「しかし、やってみる価値はあるかと」

調査兵「ほう」

調査兵「なら、お前がお二方を案内しろ、伍長。お前の部下五人全て連れて行っても構わん」

伍長「いえ、部下はここに預けるよ。周辺調査も楽じゃないんだろ」

調査兵「……じゃあ、頼んだぞ」

伍長「ええ」

調査兵「では、お二方にはこの伍長をつけ調査に行ってもらいます。良いですね?」

勇者「構わないよ」

騎士「ああ」

調査兵「では、臨時会議を終了する」

――麓の森

伍長「ここからが森になります」

勇者「また深そうな所だな」

騎士「この中の結界を抜けるのか。大丈夫か?」

勇者「はは……どうだろうな」

伍長「では行きましょうか。結界が発動する場所まで案内します」

魔剣〔まぁ、待て〕

勇者「ちょっと待って」

伍長「何か?」

勇者〔どういうことだ?〕

魔剣〔竜族の結界は入念だ。段階を経て進まねばならん〕

魔剣〔この森に踏み込んだ竜族以外全てが結界の対象だ〕

魔剣〔まずは森の裾を調べることだ。それで森に入る第一段階目の許可となろう〕

勇者〔ふむ……〕

伍長「勇者様、どこへ向かわれるのです!?」

勇者「結界を解く鍵の一つが森の周辺らしいんだ」

騎士「何? しかし、この広さ……とてもじゃないが見つけるのは困難ではないか?」

勇者「そう思うんだけどな」

勇者〔何か手掛かりはないのか?〕

魔剣〔ないな。もはや景色が違いすぎて、目印すら――〕

魔剣〔いや、あるぞ。木々との距離を平等に視界に入れたとき、その中央に一番高い山があった〕

勇者〔また大雑把な手掛かりだな〕

魔剣〔ないよりはマシであろうが〕

勇者「それもそうか」ボソリ

騎士「どうかしたか?」

勇者「この辺り一帯の一番高い山って、あれのことか?」

伍長「ええ、そこに見える山がそうですね」

伍長「大陸大山脈の中でも三番目に高い山、通称〈竜の山〉」

騎士「竜の山……」

伍長「この調査の中でも、黒い竜が頂上付近を出入りしている様子を見ています」

勇者「と言う事は、そこが住処なのか」

伍長「ええ。目的地ですね」

勇者「そうだな……こんなものか?」ザッザッ

騎士「何をしているんだ?」

勇者「森の裾を真正面にするように距離をおいているんだ」

勇者「……うん。良かった。あまり移動はしなくても済みそうだ」

伍長「何かわかったのですか?」

勇者「二人とも、ちょっとこっちに来てみてくれないかな?」

勇者「ここから竜の山が見えるだろ?」

騎士「ああ」
伍長「そうですね」

勇者「こうやって正面を見た時に、あの山が真ん中にくるような場所に移動する」

騎士「となると……右だな」

ザッザッ ザッザッ

伍長「……この辺り、ですかね?」

勇者「結構歩いたな……。近いと思ったのに」

騎士「山が遠いからな。見た目だけでも移動させるのには苦労する」

騎士「途中、森の裾が出っ張ったりして歩く方向も変わったからな」

伍長「とにかく、この辺りなんでしょう? 次はどうすれば?」

魔剣〔次は――〕

勇者「――森を少し入ったところに、石像があるはずだ」

勇者「それが第一の鍵らしい」

騎士「その石像とは、あれのことか?」

伍長「……森に入るどころか、少し離れたところにありますね」

魔剣〔我の時代では森の中だったのだがな……〕

伍長「この付近だと、少し離れた所に村があったはずですね」

伍長「廃村ですけどね」

騎士「そろそろ日も暮れるが、そこに身を寄せるか?」

勇者「それも悪くないが……」

勇者〔この結界を解いてから竜の住処に着くまで、どのくらい時間が必要なんだ?〕

魔剣〔一時半くらいだったか〕

魔剣〔道程が長いからな。中々に時間がかかるぞ〕

勇者「どうやら順調に結界をくぐっても一時半はかかるそうだ」

伍長「では、決まりですね」

勇者「村までの案内を頼む」

――廃村

勇者「……これも決着戦争の末路なのか?」

伍長「いえ。そうではないはずです」

伍長「いつまで人が住んでいたかまでは知りませんが、村としての形体を成していたのは百年以上前のこととか」

騎士「それも調査で知ったことなのか」

伍長「ええ。調査場所の周辺を調べるのも仕事ですので」

勇者「竜の国も一般国民がいるからな。これが戦争の結果だったらと思ってしまって……」

騎士「そんなことを言ってしまってはキリがないだろうが」

伍長「ははは、騎士様も手厳しいですね」

騎士「参加していた私が甘いことなど言ってられないさ」

伍長「村自体は随分前に廃れた所ですが……ほら、あそこを見てください」

伍長「あの地面の抉れ。あれは新しいものですよ。恐らく、竜の魔法がつけた傷跡かと」

勇者「あれは特に酷いな」

伍長「他の土地にあのような被害が出ないように、我々は動いているのですよ」

伍長「お忘れなきよう」

勇者「忘れないよ」

騎士「任務だ。忘れるはずもない」

勇者「さて、来てみたは良いけど、どこを寝床にしようかな」

勇者「家屋としての原型を留めてないのばかりだし……」

伍長「とりあえず探してみましょうか。結局野宿ということにもなりそうですけどね」

騎士「百年の廃村か……」

騎士「遠征の時に何度か廃村、廃墟は見てきたが、その時とは違う感覚ではあるな」

伍長「と言うと?」

騎士「これまで見てきたものは精々廃れて数十年の所だった」

騎士「そういう所は自然の強さに感心するんだ」

騎士「だがここのように長すぎると、どうだ」

騎士「むしろ家屋の跡が残ってる方に感心してしまう」

騎士「結局、どっちが強いのだろうな」

伍長「難しい問題ですね。元々、どちらが強いかなんて関係がないかもしれません」

騎士「自然には、関係ないのだろうな」

勇者「騎士の気持ちはわからなくはないな。旅をしていると似たような感じになることもあるよ」

勇者「……ん? この像はしっかりと立ってるな。傾いてもいないぞ」

魔剣〔この像は……〕

勇者〔何か憶えがあるのか?〕

騎士「今で言う六角時計みたいなものなら、ここが村の中心ということになるな」

伍長「もしそうなら、この規模の村にしては立派な石像ですね」

勇者「いや――」

魔剣〔――この石像は、あの時の村の――〕

勇者「――石像の……この面か?」

騎士「何かあるのか?」

勇者「この面に、魔力を集中させて――!」サワッ

キュイィィィイーンッ… ゴゴゴゴゴ

伍長「な、なんだ!?」

ゴゴゴゴゴ… ガタンッ

勇者「」ポカーン

騎士「……驚いた。像が動いて地下への階段が現れるとは」

伍長「勇者様はこれを知っていたのですか?」

勇者「いや……やってみろと言われてやってみたら……」

騎士「初代統一王にか?」

勇者「ああ」

伍長「これはますます本物ですね」

勇者「疑ってたんだな」

伍長「正直な所」

騎士「無理もないだろう。私だって半信半疑だ。今でもな」

伍長「それで、どうします? 入ってみますか?」

騎士「少なくとも、屋根はあるな」

伍長「こちらとしても少し興味はあります」

勇者「良いと思うぞ。危険はないはずだから」

勇者〔だよな?〕

魔剣〔断言はできぬな。百年前まで使われていたとしても、うっかり何かが入り込んでいるやもしれん〕

勇者〔で、ここは何なんだ?〕

魔剣〔……〕

伍長「では、入りましょう」

騎士「そうだな」

騎士「木の扉か……それにしては頑丈だな」ガチャガチャ

勇者「騎士でも開かないのか?」

騎士「何が言いたい」

勇者「別に」

騎士「大方私を怪力だと言いたいのだろうが、普段からそんなに力は使わない」

勇者「怪力は認めるのか」

騎士「自分で鍛えた力だ。むしろ誇りだな」

伍長「素晴らしいですね。女性兵士の鑑です」

伍長「とは言え、噂はかねがね、騎士様は別格でしょうが」

騎士「そうでもないさ。鍛えれば誰でもできる」ガチャガチャ

騎士「特に女兵士の場合、女を捨てた覚悟の者がいるが、それ以上に――ふんっ!」ブチィッ

カラン… ギィ…

騎士「女の方が強いときもある」

伍長「……」

勇者「……いや、お前は別格だ」

騎士「この扉、中身は鉄じゃないか。通りで頑丈なわけだ」

勇者「本当だな。結構厚いし、内側から閂もかかっていたみたいだな。これも相当大きい」

伍長「……」

騎士「見えるのか? 結構暗いぞ」

勇者「昔から俺の方が夜目は利いたからな」

騎士「ああ、そうだな」

勇者「灯りがいるな。“火炎”」ボゥ

?「……」

騎士「!?」ビクッ

伍長「な、何ですか!?」

?「……」

勇者「よく見ろ。あれは、骨だ」

伍長「……本当ですね」

騎士「驚かしてくれるな」スッ

勇者「この天井が低いところでお前の大物を振り回そうとしてたのか」

騎士「野獣や魔物なら危ないだろう」

騎士「それにしても、この骨は人間だろう? 閂も内側からなら、ここは牢獄か?」

伍長「そうではないかと。この死体は地面に座っています」

伍長「古くから苦行僧の最も徳の高い修行である生き仏というものかと」

勇者「あぁ……聞いた事はあるな。白羽教会でも一派しかやらないとかいうあれか」

伍長「今や大きなところですから、教義の解も多岐にわかれていますからね」

騎士「ということは、ここは白羽教会の?」

魔剣〔いや、ここは全く関係ないな。こやつは恐らく、竜巫女と呼ばれた者だ〕

勇者〔竜巫女?〕

魔剣〔ああ。我の時代にはまだ人間と竜の交流はあったのだ。この村だけな〕

魔剣〔但し、交流を許された人間もごく少数。それが竜巫女と呼ばれる者達だ〕

魔剣〔ここはその社でな。我も一度は訪れたことがある〕

伍長「竜巫女、ですって?」

勇者「竜族が表舞台に出なくなってからというもの、大陸で国家を築いた人間とは交流はしなかったらしい。理由はわからないけどな」

勇者「ただ、この村を除いて」

騎士「巫女と言っても、尼僧のような聖職者ではないのか」

伍長「いえ、こうして特別扱いされていた以上、神聖なものとされてたはずです」

騎士「ふむ」

騎士「こういう所に来るのだったら、剣士も連れてきた方が良かったな」

勇者「あいつは歴史が好きだからな。英雄王の墓の文字も読めたくらいだ」

勇者「まぁ、今度は魔の国との決着がついてから一緒にくると良いだろうな」

騎士「その前に、ここも青い竜に壊される前に今の件を片付けることだな」

伍長「……お二方、これ」

勇者「何だ?」

騎士「これは、手記か?」

伍長「竜巫女という者達の記録ではないかと」

騎士「随分と劣化しているな」

伍長「これでも保存状態は良い方ですよ」

勇者「わかるのか?」

伍長「数える程ですが、遺跡の調査の仕事もしたことがあります」

伍長「最も、解読などは学者任せでしたけどね」

伍長「でも、わかることはありますよ。この文字が古代大陸文字ということくらいですが」

勇者「古代大陸文字……」

騎士「と言うことは、竜巫女という風習も統一期までのものか」

伍長「そうなりますね」

騎士「内容まではわからないのか?」

伍長「流石にそこまでは……」

勇者「ちょっと貸してくれないか」

騎士「読めるのか?」

伍長「……そうか! 勇者様には初代統一王がついている!」

勇者「その通り」

勇者〔で、読めそうか?〕

魔剣〔……これで保存状態が良いというのか。泥水に浸した本の方がまだ読めるではないか〕

勇者〔そこまでか〕

魔剣〔どれ……我も気になるところだ。読んでみてやろう〕

『かの英雄王が訪れて以来――であったのだが――

追放竜の事件以来、竜族の中でも人との交流を良く思わない者も多くなった。

既に、私の訪問を良い目で見ない者も少なくない。

もはや、潮時かもしれない。

竜の知識はとても貴重なものだ。

せめて私は、この身と共に――』

勇者「……他は、単語の一部が掠れてうまく読めないようだ」

騎士「英雄王が関わってるのか? それとも関係ないのか」

伍長「間が空いていて、その辺りは何とも言い難いですね。一要因ではありそうですが」

魔剣〔……〕

勇者「今では伝説上の生物とまで言われていた竜だけど、こうして表舞台に出てきたなら……」

騎士「理由は何にせよ、交流断絶のままというわけにはいかないな」

(翌朝)
――麓の森

騎士「第一の鍵……と言ったが、こうして見るとやはりそのような感じは見られないな」

伍長「意匠も特別凝らしたわけでもなさそうですね。精巧でもなく、宗教敵でもなく」

騎士「人が座っているようにしか見えないな」

騎士「……そもそも、人なのか? 人型の何かではなく」

勇者「昨晩、あれから記録の読める部分を探ってみてたんだ」

勇者「第一の鍵の像。『人間の像』というらしい」

伍長「人間の像、ですか? ではやはり、人間」

勇者「だろうね」

伍長「それで、これをどうするんだ?」

勇者「こうする」スタスタスタ

騎士「?」
伍長「?」

勇者「これで俺はもう結界の中に入ったらしい」ピタッ

伍長「像の周りを歩いただけのように見えましたが……」

勇者「それだけだよ」

騎士「ん、どういうことだ? 説明してくれないか」

勇者「英雄王が言うにはだな……」

勇者「結界の出入り口にはそれぞれ鍵となる像がある」

勇者「人間の村側には人間の像、竜の住処側には竜の像」

勇者「両方とも像のすぐ側を、入るときには正面から左周りで一周、出るときには背面から右回りで一周する」

勇者「それから少し止まること」

勇者「ちなみに、止まらず一周以上したり、逆回りだと反応しないらしい」

騎士「……予想外だな。巫女がいたくらいだ。何か特別な方法で進むと考えていたのだが」

伍長「いえ……これは逆に入りづらいですよ」

伍長「知っていれば簡単にすぎる。ただ巨大な結界のあまり、進入方法も厳重だと邪推してしまう」

伍長「しかも条件を絞って、迷い込み防止をしっかりとしている」

伍長「これは人間の像を知っていても、我々調査隊が真面目にやっても解けるものじゃないです」

勇者「むしろ、真面目に考える方が解けない。そんな感じだな」

勇者「二人とも、早く行こう。順調に進めても向こう側に着く頃には昼も近いらしいから」

伍長「そうですね」スタスタスタ

騎士「……おい、これで入れているんだろうな?」ピタッ

伍長「確かに。幻覚系の結界を潜った時の微妙な感覚がありませんね」

勇者「大丈夫だと思うよ。俺も不安だけどな」

騎士「勇者もわからないのか……」

勇者「これから通る道は、結界の中――とかいう表現があってるけど、正しいのは結界の穴なんだ」

伍長「穴、ですか?」

勇者「竜族はこの結界の通り道として、わざと穴を作ったらしい。条件付きのね」

勇者「だから、その道を一歩でも間違えると、途中から結界が発動して森で迷うというもの」

勇者「らしい」

騎士「らしい、か」

伍長「ではその『らしい』を信用してみましょう」

伍長「ちなみに、この人間の像のような仕掛けは後いくつありますか?」

勇者「二つだな」

勇者「第二の鍵はここよりも簡単で、ここよりも気付きにくいぞ」

一話とまではいかなくても一場面くらい?
ある程度更新が無いとレス付けづらいけど執念深く見てるからなミテイルゾ

>>661
すまぬ……すまぬ……

勇者「……」スタスタ

騎士「次の石像か。右だな」スタスタ

勇者「ああ」

伍長「……この二つ目の鍵、聞いた時は、なんだそんなことか、と思いましたが」

伍長「想像以上につらいものがありますね」

騎士「そうだな。勇者、本当にこれであっているんだろうな?」

勇者「あってるさ」

魔剣〔我が記憶に間違いがなければな〕

勇者〔……怖いことを言うなよ〕

騎士「一直線に歩いて、見えた石碑の模様が右を指しているなら左を通り」

伍長「上を指しているなら右、ですね」

伍長「石像もそれほど大きくもないし、風化しているからか模様も微妙に見にくい」

騎士「戦場や訓練とは違う意味で疲れてくるな」

伍長「うっかり道をはずれてしまいそうです」

勇者「この面倒さは俺が旅をしてきた中でも一級品だと思うよ。断言していい」

勇者「……次も右だ」

騎士「おい、いつまで続くんだこれは」

勇者「知らないぞ」

伍長「手記にはどうだったんですか?」

勇者「読んだところには書いてなかったな」

騎士「それが最も疲れる原因だな……」

ザッザッザッザッ…

勇者〔……なぁ〕

魔剣〔……何だ〕

勇者〔随分進んだんだはずだが、出口はまだなのか?〕

騎士「……」ザッザッ
伍長「……」ザッザッ

魔剣〔……〕

勇者〔第二の鍵だけ何でこんなに長いんだよ〕

魔剣〔そんなもの、我に訊くでない〕

伍長「次の石碑ですね」

騎士「……右か? 左か?」

伍長「あれは……どっちでしょう?」

勇者「ん、どうしたんだ? ……あぁ」

騎士「右に左指示の石碑、左に右指示の石碑……」

伍長「つまり、間を通れば良いんでしょうか」

魔剣〔うむ。その通りだ〕

魔剣〔喜べ。第二の鍵は突破したぞ〕

勇者「あれが第二の最後か……」

騎士「本当か!」

伍長「油断は禁物ですよ。まだ第三、第四の鍵が……」

勇者「……とりあえず、石碑の間を通ってからにしよう」

伍長「おぉ……漸く森に切れ目が……!」

勇者「目的地はもう近そうだな」

騎士「……待て」

勇者「ああ、わかってる」

魔剣〔第三の鍵だ〕

騎士「今までと様子が違うな」

伍長「ええ。石像と石碑……しかしこれは、扉の形をしていますね」

騎士「これも右左どっちかを通れば良いのか?」

勇者「まさか。ここにきてそんな引っかけはないよ」

騎士「引っかけ? 今までそうしてきただろう」

伍長「……成る程。これは見た目そのままなのですね?」

騎士「どういうことだ?」

伍長「扉は開けて通るもの」

伍長「つまり、こういうことです。ふんっ」ググッ

騎士「あぁ、この石の扉は普通の扉なのか」

伍長「ぐぬ……開か、ない……!」

騎士「力が足りないのか? 私もやってみよう」ググッ

伍長「んぬうっ!」グググッ

騎士「くっ、想像以上に硬いな……!」ググググッ

勇者「……何やってんの?」

伍長「こうやって、扉を開けようとしているのではないですか!」ググッ

騎士「見てないでキミも手伝え」グググッ

勇者「んー……」

勇者「ちょっと二人とも、どいてくれるか?」

伍長「これを一人で開けるのですか!?」

騎士「私でも無理なのに、勇者一人でいけるのか?」

勇者「まぁ、見てなって」

勇者「……」カチャカチャ

伍長「えっ、何ですかそれは」

勇者「こんな感じだな」ガチャ

ギィー ゴゴゴゴゴ…

騎士「開いた……」

勇者「……ここには扉だけじゃない。そこに石碑があるだろ?」

騎士「あ、ああ」

勇者「あの裏の下の方に窪みがあって、そこに鍵があったんだよ」

勇者「鍵がないと扉は開かないだろ?」

騎士「鍵があるなんて言ってなかっただろう」

勇者「言う前に力業で開けようとしたんじゃないか……」

勇者「そもそも、この扉には魔法がかかっていて鍵なしじゃ開かないらしいんだ」

伍長「勇者様、扉の向こうに見えるのは……」

勇者「ああ」

魔剣〔竜の像だな〕

騎士「あれを右に一周すれば目的地か。どうやら日が昇りきる前に着けたようだ」

伍長「……これで、森を抜けたんですか?」スタスタ ピタッ

騎士「ああ、間違いない」

騎士「間違いなく、結界を突破したようだ。見ろ、後ろを」

伍長「後ろ?」

騎士「そこからだと木々が邪魔だろう。もう少し上がってこい」

伍長「……おぉ、本当ですね。石碑を見るのに集中して気付きませんでしたが、こんなに山を登ってたなんて」

勇者「そこまで急な坂もなかったからな。さて、ここからが竜の住処――」

勇者「なのかな?」

騎士「勇者、それはキミの方が知っているだろう」

伍長「森を抜けたのは良いですが、こう崖と草むらだけだとわかりにくいですね」

伍長「ここからは地道な探索になるでしょうか」

勇者〔どうなんだ?〕

魔剣〔ここから少し登ったところに、洞窟がある。何の危険もない洞窟だ〕

魔剣〔そこが住処の入り口となっていたはずだ〕

勇者「成る程」

騎士「どうなんだ?」

勇者「もう少し先に洞窟があって、そこを進めばあるらしい」

騎士「洞窟?」

勇者「そうらしいけど」

伍長「ここからは見えませんね。どのくらい先でしょうか」

勇者「それはこれから足で確かめるだけだな」

伍長「森を抜けた途端、傾斜がきつくなりましたね」

騎士「そうは言っても、疲れた様子はないな」

伍長「まぁ、兵士ですから」

勇者「……ここを通るのか」

騎士「どうした? ……あぁ、成る程」

ビュオォォオ…

伍長「崖沿いの道、ですね」

勇者「高い位置だから、風も強いな」

騎士「道は結構広いじゃないか。まさか、怖いのか?」

勇者「そういうわけじゃない。ただ、敵が出てきたらまずい地形だなと思って」

騎士「敵と言えば……ドラゴンか」

伍長「あの大きな身体で来られると、どこにいても回避不能ですね」

勇者「……ははっ、それもそうだな」

伍長「ん? ちょっと待ってください。誰か下りてきますよ」

勇者「何!?」

騎士「人……のように見えるが。何者だ?」

?「……」ザッザッ

勇者「一応、いつでも戦える準備をしておこう」

騎士「勿論だ」

伍長「仕方ないですね……」

?「……」ザッザッ

勇者「何者だ!」

?「それは俺の台詞だが」

?「ここは竜の住まう土地。結界まで越え尋ねてきたお前達は何者だ」

勇者「……戦う意志は?」

?「俺にはないが……お前達によるとでも言っておく」

勇者「そうか」チラッ

騎士「……」コクッ
伍長「……」コクッ

勇者「俺は勇者。こちらにも戦う意志はない」

勇者「こっちは騎士。そして伍長。共に白の国の兵士だ」

?「ふむ……ではこちらも名乗らせていただく」

黒竜「黒竜と言う。今は人の姿をしているが、歴とした竜族だ」

勇者「あなたが……竜?」

黒竜「真の姿は大きすぎてな。人の形は便利で竜には人気ある」

黒竜「して、ここには何用だ。結界の通過方法は既に人には忘れられたと思っていたが」

伍長「その件は私からお話ししましょう」

黒竜「そこの勇者とやらが代表と思っていたのだが」

伍長「確かにこちらのお二方の方が階級は上ですが、我々調査隊の助力として来ていただいている身です」

伍長「ここに赴いた理由を話すとなると、この中で代表は私となります」

黒竜「成る程。それで、調査隊と言ったな」

伍長「はい」

黒竜「俺達の住処を侵すならば、帰っていただく」

黒竜「無論、人族との交流も拒否している」

伍長「何故交流を拒むかはわかりませんが……今回はそう言った理由じゃありません」

黒竜「ほう」

伍長「最近、人間の住む土地で竜が暴れ、大きな被害が出ています。ご存じですか?」

黒竜「……あぁ、あの事か」

伍長「既に竜の国の街、二つが崩壊し、住民にも死傷者が」

黒竜「あれは異端竜と俺の戦闘の末だ」

伍長「……何ですって?」

黒竜「戦闘の目撃は?」

伍長「何度か」

黒竜「黒い竜と青い竜がいただろう。黒い方が俺だ。俺の本当の姿だ」

黒竜「人には迷惑をかけていると思っている。俺達の方から交流を絶っているというのにな」

黒竜「だが奴は早い内に処理せねばならない。でなければより大きな被害が生まれるだろう」

黒竜「都合の良い話なのは承知で、目を瞑っていただきたい」

伍長「事情は、説明してくれますか?」

黒竜「これは竜族の問題――」

勇者「こっちにも被害は出ている。それで済む問題じゃないと思わないか?」

伍長「ゆ、勇者様……」

黒竜「……」

黒竜「……俺も話の通じない奴ではない」

黒竜「これは竜族の問題。しかし、そちらも自らここに訪れる程、緊迫しているのだろう」

黒竜「事情は伝える。現状も伝える。それからはそちらが決めると良い」

伍長「ありがとうございます。では――」

黒竜「待て。話は少し長くなる。立ち話はやめておこう」

騎士「では、どうするんだ?」

黒竜「俺達の住処へ案内する。そこで詳しく話そう」

黒竜「それに、この件に関わるならば合わせておきたい者もいる」

勇者「俺達に?」

騎士「どういうことだ?」

黒竜「事情を知るだけか、俺達に協力するかの指標にもなりえるだろうからな」

伍長「私はひとまず事情は聞いて、報告しに戻らなければなりませんが……」

騎士「私達は多少勝手に動いても構わないだろう」

伍長「はは……どうですかね」

騎士「確かに相手が竜となると考えなければな。強大すぎる」

勇者「ちょっと待て。俺達にとって指標になるとは……」

黒竜「実は、既に一人協力者がいる」

黒竜「人間のな」

――竜の住処

伍長「あの崖の道から洞窟に入ったら、すぐに竜の住処だったなんて……」

騎士「意外だな。てっきり頂上付近だと思っていたのだが」

黒竜「山という地形上、下の方が広い」

黒竜「しかし俺達は確かに頂上近くから出ることもある。竜本来の姿となって飛ぶ時だ」

伍長「それは調査結果にもありましたね」

黒竜「理由の一つに、洞窟出入り口の道は狭いのだ」

黒竜「そして、この山の特別な地形だな。住処の中心に頂上付近まで通じている大きな穴がある」

黒竜「本来の姿で早急に出なければならない時、そこを使っている」

伍長「成る程……」

勇者「おかしいな。洞窟に入ってから他の竜に会ってないんだけど」

黒竜「既に数も減っているからな。全部で五十くらいの竜がここに住んでいる」

勇者「そんなにいるのか」

黒竜「そんなに? いいや、それだけ、だな」

黒竜「昔はここもかなりの賑わいを見せていた。この小さな住処から出て、人族に紛れて暮らす者もいたくらいだ」

勇者「どのくらい前の話だ?」

黒竜「さぁな……。百年を越えた辺りから数えていない」

黒竜「そうだな……英雄王、と言う者は知っているか?」

騎士「私達が初代統一王と呼んでいる人だな」

勇者「……あぁ、知ってる」

黒竜「少なくとも、その英雄王が来るまではそうだと聞いている」

魔剣〔……〕

黒竜「俺が生まれる前だ。よくは知らないがな」

黒竜「俺が物心ついた時もそこそこ賑わっていると思っていた」

勇者「それは……人のせいで廃れたということか?」

黒竜「全面的に違うとは言えないが――」

黒竜「――いや、後でまとめて詳しく話そう。関係ない話とも言えないのでな」

勇者「……そうか」

伍長「……」

騎士「……」

黒竜「後は、そうだな。俺達は皆、ここにいる時はこうして姿を変えている」

黒竜「本来の姿では五十と言えども、この洞窟は狭すぎるのだ」

黒竜「そのせいで、数が少ないように感じるのかもしれないな」

伍長「あぁ、成る程。今までのイメージという奴ですね」

ブーン

勇者「何だ、蠅がいるのか?」

騎士「別にいてもおかしくないだろう」

?「黒竜、どうしたんだその客人は」

勇者「ど、どこから声がしたんだ!」

?「お前の肩の上さ!」

勇者「!?」

黒竜「そんなところに止まっていたか、蠅竜。その姿は見つけにくいといつも言っているだろう」

蠅竜「これが過ごしやすいといつも言っているだろう」

騎士「ちょっと待ってくれ。まさか勇者の肩に乗っているこの蠅も……?」

黒竜「竜族だ」

勇者「は!?」

蠅竜「――成る程ねぇ。青竜の奴の件で、か」

黒竜「ところで、今日は……」

蠅竜「特に動きはないみたいだね」

黒竜「そうか」

蠅竜「ここに来て人間がやってくるなんて、これも何かの縁だろうね」

蠅竜「あの子のこともあるし」

騎士「あの子、とは?」

黒竜「先刻話した人間の協力者だ」

蠅竜「青竜の件より前に来た子だね。黒竜の家に住んでいるよ」

蠅竜「さて、俺は他にも青竜の動向を伝えに行かなけりゃ」

黒竜「動向なしなのだろう?」

蠅竜「報せなければ、あるのかないのかわからないからな」

蠅竜「客人、黒竜が連れてきたなら害はないのだろう」

蠅竜「ゆっくりしていくといいよ」ブゥーン

騎士「……行ったか」

勇者「あれが、竜、だって?」

黒竜「趣味の散策も手伝って、今回の件では偵察と伝達をしてもらっている」

黒竜「あの姿なら青竜にも簡単に見つからないしな」

伍長「竜にも色々いるんですね」

騎士「私は思ったよりものんびりしているのに驚きだな」

黒竜「時間を取らせたな。もうすぐ行くと俺の家がある」

――黒竜の家

騎士「洞窟に家なんて……とは思っていたが、横穴を掘って見事な部屋になっているな」

伍長「世の中には人間でも洞窟の中に住んでいる人はいるんですよ。こういう風に」

騎士「そうなのか?」

勇者「騎士は軍事遠征でしかあまり遠出はしないからな」

騎士「そういうお前はどうなんだ。旅で見たのか?」

勇者「ああ。見たのは一回だけだけどな。赤の国で」

伍長「へぇ、そんな所まで行かれたんですね」

伍長「確かにあそこは洞窟で暮らす文化のある国です。我々も一度調査に行きました」

騎士「くっ、私だけ無知みたいじゃないか」

黒竜「そうでもない。今知ったのだからな」

黒竜「すまない。あやつは今出かけているようだ」

勇者「人間の協力者?」

黒竜「そうだ」

黒竜「どのみち事情を話すのに時間は必要だ。話して待つとしよう」

伍長「お願いします」

黒竜「茶でも飲みながら話すとしよう。口に合えば良いが」コトッ

騎士「……大丈夫なのか?」

勇者「意外といけるぞ」ズズズッ

騎士「竜の飲み物だぞ。もう少し用心しないか」

勇者「敵じゃないなら毒は入れないさ」

黒竜「信用して貰えて助かる」

黒竜「それに安心して欲しい。種族が違うとは言え、味覚にそれ程の違いはない」

黒竜「では、何から話そうか」

伍長「青竜、でしたか? その竜との件を」

黒竜「それもそうなのだが、それには様々な前置きが必要だ……と思っている」

勇者「前置き?」

黒竜「今回の件は必ずしも今回だけのことではない」

黒竜「以前、俺達竜族の中で“異端”と呼ばれる者が現れたのが事の発端ではないか……竜族はそう考えている」

黒竜「と言うのも、以前の異端者は、青竜――今回の騒動の発端となった者の父親なのだ」

黒竜「異端者の息子は異端者だった、とな」

騎士「残り少ない仲間なのに、異端者か」

黒竜「訳がある」

黒竜「あとは、前置きを話す理由として……」

黒竜「単に俺が話し好きというのもあるな」

勇者「意外だな」

黒竜「あいつにも言われた」

黒竜「……では、事情を話そうと思うが、何よりも一つ、念頭に置いて欲しいことがある」

勇者「?」

黒竜「人族は俺達を神聖視しているらしいな」

黒竜「確かに本来の姿は巨大だ。確かにこの大陸では人族よりも前から魔法を使っていた」

黒竜「確かに、この数百年の間交流を絶ち、伝説上の生物と言われるまでとなってしまった」

黒竜「だが、俺達は特別賢いわけでもなく、特別偉大なわけではない」

黒竜「ただの野獣と変わらない、一種族だということを――」

黒竜「そもそも、竜族の中で“異端”という言葉が生まれたのは、青竜の父親がきっかけだったと言う」

黒竜「俺達竜族は、この大陸で古来より知性ある生物として生きてきた」

黒竜「魔法を使い、巨大な身体と強大な力の使い方を正しく知り、そしてどの生物よりも寿命は長い」

黒竜「昔はそんな自分達を、他の種とは違う特別なものだと皆考えていたらしい」

騎士「らしい、か」

黒竜「俺の生まれる前だ。歴史として今生きている者全員に教えられているがな」

黒竜「話を戻そう。人族はそんな竜族を長い間、神聖なものとして、強大な力の象徴として接してきた」

黒竜「竜族もまんざらではなく、知性として下等と見なす人族との交流を許していた」

黒竜「竜族には、支配欲や明確な法がないのもそうしていた要因だろう」

勇者「今でも、人間を下等と思っているのか?」

黒竜「どうだろうな……。それには答えかねる」

黒竜「長い間交流を断絶してきたのだ。優劣をつける意味もない」

黒竜「俺は、下等とは思わないがな」

勇者「そうか。それだけで十分だよ」

黒竜「ただ、今の竜族でも人族の中で理解し難いものがある」

伍長「理解し難いもの?」

黒竜「恋愛感情だ。一部のな。――いや、性癖と置き換えた方が明確だ」

伍長「……どういうことですか?」

黒竜「種族の繁栄は生物の性。それは同じ種の間で行われて然るべきものだ」

黒竜「竜族はそうしてきたし、それ以外ありえなかった」

黒竜「しかし人族は、別の種にも恋愛感情を持ち、性行さえする」

騎士「ちょっと待て、それは――!」

黒竜「わかっている。それはそちらでも一部の所行」

黒竜「しかし竜族にとってはありえないことだった。その点のみにおいて、人族を見下していた」

黒竜「しかしある時、竜族にも異種に恋をした竜がいた」

黒竜「それが、青竜の父親だ」

黒竜「彼は使節の一人だった。その折に目を付けた麓の国の王族の娘に惚れ込んだのだ」

伍長「だから“異端”ですか」

黒竜「ああ。竜が竜以外に恋愛感情を持つのは、それが初めてだった」

伍長「では、今回のその青竜という竜は、もしかして……」

黒竜「あやつは歴とした竜だ。王女に惚れた時には、既にその妻は身籠もっていたからな」

黒竜「異種に浮気……この二つが衝撃的で、彼を“異端”と称したそうだ」

勇者「竜が人間の姫に恋をするなんて童話みたいな話を聞かされるとは」

勇者「確かに俺達は竜をどこか神聖視している節があった」

勇者「そんな竜から、色恋沙汰の話なんて」

黒竜「これは殆どの人族が知らないだろうが、元来竜は生物の中で性欲が強い」

騎士「せ、性欲……」

黒竜「だが、その異端者が生まれるまで、それは全て同族の……一度番いになった者同士に向けられるものだった」

黒竜「もし、他種には強大な力を持つ竜族の性欲が、竜族以外に向けられるとすれば……」

伍長「まさかとは思いますが、その身体が耐えられないのでは……」ゴクッ

黒竜「そうだ。特に人族は竜族に比べれば身体の造りが脆い。それは、死を意味する」

黒竜「無論、異端者の彼もそれを知っていた。だがな――」

黒竜「抑えきれないまでの性の昂ぶりが、やがて彼を暴走竜へと変えたのだ」

どうにも一回一回の更新数が増やせないので、
試しに書きため方式に変えてみました。

するとどうだ! 書いただけで満足して更新し忘れそうになってたじゃないか!

とりあえず、溜めたうちのキリがいいこのくらいで。

>竜族の性欲が、竜族以外に向けられるとすれば……
ドラゴン 車 で検索しちゃ駄目だぞ

おつかれ~
一気に進んだからwwktkしながら待てるよ

最高!
そういや睡眠時間どうなったんだろ

黒竜「まずは麓の村々を蹂躙した」

黒竜「逃げ場のない性欲が暴力と変化し、辺り一面を氷漬けにしたのだ」

黒竜「その事件を切っ掛けに、異端者として彼はこの住処を追放される」

黒竜「当時の竜族が何を思ったかはわからないが……」

勇者「……」

黒竜「それから暫く後、彼は再び現れた」

黒竜「王女の住む城下街へと向かい、破壊の限りを尽くした」

黒竜「その時、城の兵士によって王女は守り撃退したが、彼には大した深手はなく――」

黒竜「――街は惨状と化した」

伍長「そんなことが……」ゴクリ

黒竜「そして、暴走竜の噂を聞きつけ、駆けつけた者がいた」

黒竜「英雄王という――後に大陸の人族を統一した者だ」

魔剣〔……〕

黒竜「英雄王は仲間を連れ、彼を探し出した」

黒竜「ここより北にある、煙高山という所だ」

黒竜「その話は当時の竜族も聞き伝えられただけだが、そこで戦闘は始まった」

黒竜「……いや、戦闘が始まったことくらいは知っていたのだ」

黒竜「黙認していた。彼が厄介者だったからな」

黒竜「しかし、人族に荷担するわけでもなかった」

黒竜「その時になって、初めて竜族は理解したと言う」

黒竜「それまで当たり前のように同族で殺し合わなかったことだが、ただ本能的に拒んでいただけなのだと」

黒竜「自らの手を汚すことを恐怖する種族ということを」

黒竜「無論、いくら相手が大勢でも、竜族が人族に破れることはあり得ない」

黒竜「そのような慢心もあっただろう」

黒竜「だが結果として……人族が、英雄王の軍勢が勝った」

黒竜「多くの犠牲の末、英雄王が振るった剣が、竜族の強固な鱗と表皮を貫き、彼に大きな傷を負わせた」

黒竜「満身創痍となった彼はさらに北の方へ飛んで逃げたが、英雄王らはそれを追った」

黒竜「彼にはもはや逃げる力すら残っていなかった」

黒竜「一日と持たず、その身を降ろしたのが、当時は活火山だった針溶山」

黒竜「身を休ませようとしたその時、追ってきた英雄王が現れた」

黒竜「英雄王もその軍勢も、既に疲れ果てていたと聞く」

黒竜「だが、英雄王にはそれでも十分だったのだろう」

黒竜「その剣で倒すことはできなかったが、彼はいよいよ火口に追い詰められ――」

黒竜「――溶岩の中に落ちていった」

勇者「……」
騎士「……」
伍長「……」

黒竜「……これが、凡そ千と三百年程前の話だ」

黒竜「この“異端者”で厄介者の青竜父と、これまでただ一人竜を退治した人族である英雄王の戦い」

黒竜「俺達竜族の現状に至る最初の出来事だ」

魔剣〔……結局、人も竜も変わらないのやもしれぬな〕

勇者〔こうして他人の口からお前の話を聞くと、やっぱり凄い奴だったんだなって実感するな〕

魔剣〔確かに……我にとって竜を斬ったのは誇りではあるが〕

魔剣〔ここであの時の話を聞くとは。改めて知性の残念さを覚えずにはいられん〕

勇者〔何、どういうことだ?〕

魔剣〔所詮、人も竜も知性を持つ生き物ということだ〕

魔剣〔竜はあの青き竜のみが異種に恋をしたと言ったが〕

魔剣〔そんなものは犬とてしていることなのだ〕

魔剣〔それをおかしいとかありえないとか、理性を謳って異端視することは人も竜も同じことなのやもしれぬ〕

勇者〔へぇ、妙に恋愛には寛大なんだな〕

魔剣〔……忘れたことなどない〕

勇者〔?〕

魔剣〔火口へ落ちていく青き竜の、あの寂しげな瞳はな……〕

勇者〔英雄王、お前……〕

黒竜「――それ以来、竜族は人族との接触を極力避けるようにした」

黒竜「これ以上、彼のような竜が生まれないように」

黒竜「他の種族に迷惑がかからなぬように、と」

黒竜「この世界から消え行く、種として滅びの道を選んだのだ」

伍長「しかし、今もあなた達は生きているのでは?」

黒竜「恥ずかしながらな」

伍長「恥ずかしい?」

黒竜「全竜族の決定として、子孫をなるべく作らないようにしているが……」

黒竜「青竜父のような暴走竜を生まないためにも、義務づけられてはいない」

黒竜「だから、俺のような奴も数いるのだ」

黒竜「それに、こうして生きているのでさえも、自ら死ぬことを拒み続けているからだ」

黒竜「絶滅の道を選んだというのに、自らの命を絶つこともできない」

黒竜「そんな臆病な種族なんだ」

伍長「そんなことを言わないでください……」

伍長「竜は我々にとってどこまでも尊大な存在。例え事実がそうだとしても」

伍長「――それは、悲しすぎます」

騎士「それは些か身勝手な意見だな」

黒竜「気持ちはわからないでもない。だが、竜族に関わる以上知っておくべきだろう」

魔剣〔……〕

勇者「……違うな」

騎士「何がだ?」

勇者「確かに竜は臆病な選択をしたかもしれないが」

勇者「それは本当に臆病な選択じゃない」

黒竜「これが臆病じゃなくて何だと言うんだ」

勇者「俺は旅の中で色々見てきたからな。本当の臆病者はそんな選択をしないんだ」

勇者「特に、強大な力を持つ者の逃げ方はそうじゃない」

黒竜「何が言いたい?」

勇者「自分達を律する決定はなかなか出来るものじゃない」

勇者「そういう意味では、竜は尊敬すべき決定をしたと思うよ」

黒竜「……言葉では何とでも言えるがな」

勇者「少なくとも、俺はそう思ってる」

騎士「勇者……」

勇者「話を切って悪かった。続きを話してくれないか」

黒竜「……良いだろう」

黒竜「竜族の現状とそれに至るまでを話した」

黒竜「次は、今起きている青竜の件について話そう」

黒竜「青竜は父の死百年程後に孵化した」

黒竜「俺よりも随分と年上の竜だ」

騎士「五十年? 遅くはないか?」

黒竜「ああ、竜の生態もよく知らないんだったな」

黒竜「竜は妊娠後、五十年程かけて卵を形成し、さらに五十年程かけて誕生する」

黒竜「人間には気の長い話だろう」

勇者「長生きの人が一人一生を迎えるな」

黒竜「母親は心労で体調を崩していたとかで、青竜の卵を産んだと同時に死を迎えたという」

黒竜「竜族の皆は、色々と不遇に生まれてきた彼を、特に温かく迎え入れた」

伍長「父親は異端と呼ばれて暴走し、母親には先立たれて生まれたのか。つらいな」

黒竜「ああ。竜族はそれらの罪や不幸は子に関係なしと考えて接してきたが」

黒竜「青竜には、そうは思えなかったのだろう」

黒竜「昔から自分を責め続けていたという」

黒竜「それ故か、自分の力である程度生きていけるようになる頃には、あまり他の竜族とも接することが少なくなったらしい」

黒竜「俺が生まれた頃には、既にそうなった状態だった」

黒竜「彼は、竜族の歴史の中で、群れの中では最も孤独な竜だったと思う」

勇者「だろうな。俺には……その心境を知ることはできないけど」

伍長「しかし、そんな竜がどうして今のように暴れているのですか?」

騎士「いや、今の話だけでは、青竜とやらに原因があるかはまだわからん」

黒竜「結果を言えば、人族に迷惑をかけているのは、青竜と他の竜族どちらとも言えるのだろう」

黒竜「元々、青竜はそういった劣等感を持っている事以外は、とても優しい竜だった」

黒竜「俺が幼少の頃、優しかった頃の青竜に何度も会っている」

黒竜「最も、俺が生まれた頃には既に数もかなり減っていたからな」

黒竜「青竜のように他の竜を避けていても、殆ど顔見知りにはなるのだ」

黒竜「そんな彼が変わってしまったのは、十年も前の話だ」

勇者「十年前?」

黒竜「竜族の長である老竜が青竜に提案したのだ」

黒竜「一度竜から離れて暮らすのはどうか、とな」

伍長「交流はなくなったのでは?」

黒竜「竜族としては、だな」

黒竜「先程、人族に紛れて暮らす竜もいたという話はしたと思うが」

騎士「そんなことも言ってたな」

黒竜「そういう時は、人の姿に変えて、人として暮らすようにしているのだ」

黒竜「丁度、俺みたいな姿でな」

騎士「成る程な」

黒竜「青竜も老竜のその言葉に従った」

黒竜「竜の国の首都、力の街で、青竜は人として過ごすこととなった」

勇者「十年前か。それだけ近ければ、魔の国の属国となってる状態だな」

黒竜「国としてはそうだったが、実の所、竜族にとってはどちらでも良いことだ」

黒竜「魔の国は知っている。竜族も危険視はしていた」

黒竜「しかし竜の国は魔の国と条約を交わした後も、民衆の暮らし自体はそれ程変わりはしなかった」

勇者「そうなのか」

黒竜「……いや、本当の所はわからない」

黒竜「人が何を考え、どうして暮らしているのか。それは竜族には理解できないところかもしれない」

黒竜「そして実際、竜族の理解とは食い違う部分があったのかもしれないと今では思っている」

勇者「……」

黒竜「青竜が力の街へ出てから凡そ一年――」

黒竜「人族の土地の様子を見に行った竜から報せがあった」

黒竜「どうやら青竜が街で犯罪を行っているらしい、とな」

騎士「犯罪だと?」

黒竜「連合側の国には伝わっていないだろうが、当時の力の街では話題になっていたようだ」

黒竜「昼夜問わず、人が無残に殺された」

黒竜「決まった殺し方はなかったが、いずれも酷い姿だったという」

黒竜「腕利きの賞金稼ぎすら返り討ちに遭い、手に付けられない状態だった」

黒竜「人族の間では明確に誰が犯人かはわかっていなかったようだったが」

黒竜「一部は犯人の住処に見当をつけていたのかもしれない」

黒竜「でなければ、風の噂でも青竜が犯人だということを聞かないはずなのだから」

騎士「それで、やはり犯人だったのか」

黒竜「ああ」

黒竜「勿論、最初は決めつけたりはしなかった」

黒竜「誰もが考えたのだ。あの謙虚で静かな青竜が、と」

黒竜「だが、呼び戻された青竜はすっかり変わっていた」

黒竜「冷酷な心の持ち主になっていたのだ」

黒竜「力の国で行ってきた犯罪の数々も、すんなりと自白した」

伍長「自分から、ですか?」

黒竜「そうだ。聞いたら素直に答えた」

黒竜「何の悪びれもなく、当然の行為だと言わんばかりに」

黒竜「力のある竜族には当然そうする権利がある、と主張した」

勇者「……」

黒竜「それに加え、信じられない真相を話したのだ」

黒竜「殺された人族は、いずれも無残な姿だと言ったな」

伍長「ええ」

黒竜「言葉のまま、肉塊としか形容できない姿が大半だったらしい」

黒竜「だが、そうなる前に」

黒竜「実際に死ぬまで犯した女もいたという」

騎士「なっ……!? 竜は同種族間でしか、確か……」

黒竜「通常、そのはずだった」

勇者「だけど、青竜の父親が前例にいる。そして今回はその息子、か」

黒竜「遺伝……なのだろうか。俺はそう思いたくはないな」

黒竜「青竜が人族の女を犯したとき、何て言ったと思う」

黒竜「『父さんの気持ちがわかった』とにこやかに言ったのだ」

黒竜「しかし、その根本は違うのがはっきりわかった。それを聞いていたどの竜もな」

黒竜「青竜の父親は、異端であったが確かに愛はあった」

黒竜「一方で、青竜は……ただ性欲処理の道具としか見ていない」

黒竜「奴はいつの間にか、竜族が生まれ持つ強大な力に慢心する者になっていた」

黒竜「老竜もそれをすぐに悟り、青竜を軟禁した」

黒竜「青竜はそれに反抗したが、全竜族の決定であるためやむを得ず従った」

黒竜「軟禁中、二度とこのようなことがないよう、諭してきたつもりだ」

黒竜「それでも、青竜の心が変わることがなかった」

伍長「それなら、牢に閉じ込めてしまえば良かったのでは?」

黒竜「竜族を閉じ込めることのできるものはないのだ」

黒竜「あるとすれば、魔の国の結界くらいか。あれは竜族でも入れない」

伍長「そうですか……」

黒竜「そもそも、同じ竜族を閉じ込めることはしたくなかった」

黒竜「というのが本音だな」

黒竜「そんな中途半端な心が、青竜を逃がすこととなってしまったのだが」

伍長「どういうことですか?」

黒竜「先日までは確かに大人しくしていたのだ」

黒竜「だからだろうな。いくら異端者であっても、同じ竜族なのだと考えていた」

黒竜「遺伝的なレベルで、同族を傷つけないという意識を持った同じ生物だと考えていた」

騎士「……成る程。だから竜族は青竜を速やかに処分しなかったのか」

黒竜「古くは、人族のそういった風習も卑下していたのだがな……」

黒竜「ここに来て、少しだけ理解してしまうこととなろうとは」

勇者「一体、何が?」

黒竜「自らの主張が一向に通らないと悟ったのだろう」

黒竜「軟禁中の鬱憤もあってか、奴は強硬手段に出た」

黒竜「ただ逃げ出したのなら現在のような状況にならなかったのだがな……」

黒竜「奴は、俺達の長である老竜を殺して出て行ったのだ」

黒竜「俺達は決断が遅すぎた」

黒竜「自らの強さをどこかで過信し、意志の弱さを血の所為にし」

黒竜「実の所、竜族の中にはまだ青竜を始末することを快く思っていない者もいる」

黒竜「反対こそしてはいないがな」

騎士「同じ竜族だから、か」

黒竜「ああ」

黒竜「だが、俺はもう奴を同じ種族と思わず、心を鬼にして殺すことにした」

黒竜「そうしなければ、昔に竜族が決断したことが無駄になってしまう」

黒竜「青竜を野放しにする程、人族に大きな迷惑をかけてしまう」

勇者「……」

黒竜「……いや、違うな」

黒竜「俺は、俺達は、これから人族がどうなるかよりも、怖いのだ」

黒竜「青竜に感化される竜族が、他に出るのではないかと」

黒竜「異端者は血筋ではない。誰もが異端者たり得るのだからな」

勇者「黒竜さんの話はわかった」

黒竜「……」

勇者「一言、言って良いか?」

黒竜「何だ」

勇者「あなた達の決断は正しい」

黒竜「……」

勇者「俺はそう思うよ。勿論、人間が助かるからっていうのもあるけどね」

勇者「ただ、俺はこの大陸中を旅してきて、色々なことの良し悪しを――」

勇者「人間だけじゃなく、考えることのできる動物の良い決定と悪い決定は理解できるつもりだ」

勇者「そんな俺が言うんだ。あなた達は正しい」

黒竜「勇者……」

勇者「ここまで話を聞いたんだ。協力させてくれないかな」

騎士「勇者がそう言うなら、私も参加するしかないな」

黒竜「ふっ……ふはははっ」

黒竜「正しいだと? 自ら正しいと思わなければ、同族は殺せまい!」

黒竜「……ただ、少し迷いがあったのは確かだ。礼を――」

「戻ったよ! あれ、出かけてるのかな」

黒竜「……戻ってきたようだな」

騎士「協力者の人間か」

黒竜「ああ。紹介しよう。少しここで待っててくれ」スタスタ

伍長「勇者様、どうかしました?」

勇者「いや、なんか……聞き覚えが……」

「あっ、いるじゃん」

「えっ、人間の!? 珍しいね。私以外に来るなんて」

「協力してくれるんだ。……うん。わかった」

黒竜「待たせた。これが今協力してくれている人間だ」

魔法師「初めまして。私、魔法師ってあれぇ~!?」

勇者「やっぱり魔法師か! こんな所で何をやってるんだ」

騎士「……驚いたな。見つからないと聞いていたが、こんな所で会うとは」

魔法師「騎士さんも久しぶりですね!」

魔法師「そっちは……」

伍長「調査隊所属の伍長です。初めまして」

魔法師「よかった。知り合いだけだと全然『初めまして』じゃなかったし」

魔法師「元魔導連合所属の魔法師です」

やっとキリの良い所まで書けたので更新!
剣士編に続き、書きたいところがやっと書けた感。
正確には書き始められた感。

>>683
車にも穴はあるんだよな……。

>>684
割と日常生活に支障をきたしてるレベル?

伍長「魔法師さん? どこかで聞き覚えが……」

魔法師「そ、その話は置いておいた方が……」

伍長「思い出した! 魔導連合に指名手配されている離反者の!」

騎士「有名だからな。私は顔馴染みだから素直に世間の言葉を受け止める気にはならないが」

騎士「事と次第によっては放ってはおけないだろう」

勇者「待て。魔法師は俺の仲間だぞ。後ろ暗いことをするはずがないだろう」

伍長「勇者様は何で彼女をそんなに庇えるのですか?」

伍長「彼女の裏切りで一度は死にかけたんじゃないんですか!」

魔法師「それはっ――」

勇者「違う。それは確実だ」

魔法師「……勇者」

伍長「どうしてそんなに……?」

勇者「実はな、俺達も疑いかけてたんだ。お前の手紙を読むまでは」

勇者「あれで確信したよ。俺達に不意打ちをかけたのは、やはり魔族だったってな」

魔法師「そっか……ん?」

勇者「どうした?」

魔法師「今、なんて? 手紙読んだの?」

勇者「ああ。魔導長さんに渡しただろ。勇者の証と一緒に」

魔法師「あー、そっか、そうなんだ。渡してくれたのね……」

勇者「?」

魔法師「ありがとう。何だか、一気に軽くなったよ」

騎士「どういうことだ。説明してくれるんだろうな」

魔法師「んー……」チラ

黒竜「今日は予定はないぞ」

魔法師「そっか。時間はあるんだね」

伍長「……ここは、勇者様達が信じるなら黙って見守ります」

魔法師「ありがとうね」

魔法師「えっとね。どこから話したら良いかわからないけど」

魔法師「まず、ここにいる理由から。簡単だから」

勇者「それは俺も気になっていた」

魔法師「勇者達から離れて修行を兼ねて旅をしてたんだよ」

魔法師「勿論、身を隠しながらだけどね」

騎士「だろうな。君の目撃は全くと言って良い程なかった。死んだものかと思っていたぞ」

魔法師「あはは、それは苦労した甲斐があったよ」

魔法師「で、旅をしてる間にここの結界を見つけたの」

騎士「と言う事は、魔法師も竜の国にいたのか?」

魔法師「竜の国? 違う違う。反対側だよ」

魔法師「その時私は、土の国を旅してたの」

勇者「えっ、だが結界は竜の国からしか開いてないはず……」

魔法師「らしいね。でも、なんでか通って来れたからここにいるんだよ」

魔法師「結界に気付いてさ、こう、燃えちゃって」

魔法師「ここを突破したらまた強くなるはずだ! ってね」

伍長「それで実際に突破してしまうのですか。正規じゃない方法で」

伍長「滅茶苦茶な……」

魔法師「勇者達との旅で鍛えられたからね!」

魔法師「ま、ここにいる経緯はこんな感じ?」

勇者「……大体わかったから良しとしよう」

魔法師「実はさ、一人旅の間はすっごく情報集めてたんだよ」

魔法師「勇者達のこと」

勇者「そうなのか?」

魔法師「だって、なかば理不尽に追い出されたし、未練凄くあったし」

魔法師「気になるじゃない」

勇者「すまないな……こっちは魔法師の情報を何も掴めなくて」

魔法師「いいんだって。追われてるんだし、わかったらまずいから」

魔法師「でさ、一緒にはいなかったけど、勇者達のことはよく知ってるよ」

魔法師「僧侶が死んじゃったこと」

魔法師「男さんと盗賊さんと一緒に旅をしてたこと」

魔法師「女さんが魔の国に行ったこと」

魔法師「魔の国の結界を解く方法がわかったこと」

魔法師「白国王様がお亡くなりになって、白姫様が即位したこと」

勇者「……」

魔法師「でも、私が一番気がかりだったのは、新しい魔法使いが一緒にいないことだったの」

騎士「それは……魔導連合の魔法使いが忙しいからと」

魔法師「そんなわけないじゃない」

魔法師「私が声かけられたときも忙しかったんだから」

魔法師「でも、そんなものは無視できるの。それが、魔導長の権限だから」

勇者「それって、どういう……」

魔法師「魔導長に勇者との旅をやめるよう言われたとき」

魔法師「凄く違和感があったのよ」

魔法師「ずっと引っかかってて、だからそっちも調べてた」

魔法師「すぐにわかったよ。魔導長が魔族と手を組んでること」

勇者「何!?」

騎士「……それは本当か?」

魔法師「沼の街で勇者達に不意打ちをかけた魔族、いたよね」

魔法師「あれが、その時の連絡役だったんだと思う」

魔法師「その魔族は、私が男さん達と倒したけど」

勇者「やはり、お前が……」

魔法師「私ね、魔導長が魔の国と繋がってるってわかったとき」

魔法師「本当に裏切られたと思ったよ」

魔法師「魔導連合の長になるくらいの人だし、何より私の恩師の一人だったから」

騎士「そうだとしたら、おかしい」

騎士「魔導長殿程の人がそのようなことになれば、噂だけでももっと騒がれているはずだ」

騎士「そうだろう?」

魔法師「……」

勇者「確かに」

魔法師「世間では、根も葉もない噂程度のものです」

魔法師「似たような人が、魔族らしい人と会っていた」

魔法師「っぽい」

魔法師「――とか、そんな感じのね。立ってもすぐに消えるような話題ね」

伍長「それだと、ただの勘違い……いや、八つ当たりや逆恨みでは」

魔法師「でも、私にはそれが本当に思えてしまうくらいの出来事だったの」

魔法師「沼の街での一件は」

勇者「……魔法師」

魔法師「でもね、勇者に別れの言葉を伝えてくれたのを聞いて、気付いたんだ」

魔法師「敵には回ったかもしれないけど」

魔法師「そうだとしても、裏切られたわけじゃないんだって」

勇者「どういうことだ? 本当に敵になったらな、裏切りだろう?」

魔法師「ううん。私もわからなくはないから。男さんや女さんと会ってから、特にね」

魔法師「魔導長は、研究者としての道を行っただけなんだって思ったから」

魔法師「本当に私を陥れようとしていたなら、勇者に本当の私の言葉を伝えていないはずだから」

勇者「??」

騎士「つまり、大陸を裏切ったとしても、魔法師や魔導連合を想っていると」

魔法師「今はそう思ってる」

魔法師「魔の国には亜法っていう、大陸の魔法とは違う形態の魔法があるの」

魔法師「愛国心とかそう言うのを抜きにすれば、私も調べてみたいと思わなくはないのよ」

魔法師「どっちが大きかったか。それだけの違いだと思う」

魔法師「魔導長と私……女さんと男さんもね」

騎士「そういうものなのか。私にはわからないな」

魔法師「あははっ、騎士さんは愛国心の塊みたいな人だからねぇ」

勇者「でもやはり、信憑性に欠けるな。魔導連合が大陸の敵になったなんて」

魔法師「魔導連合じゃなくて魔導長。この分だと、連合としては魔法使いの意思で戦闘に参加させるかもね」

魔法師「表向き高見の見物ってやつ? 魔導長の立場は、そのくらい中途半端だと思うよ」

魔法師「後ね、信憑性については……私の目で見たってのは駄目?」

勇者「見た?」

魔法師「確かめに行ったのよ。そうでもしないと今でも疑ってたままだって」

騎士「そうか……では魔導連合の力は借りれそうにないな」

騎士「魔の国との戦争の作戦は見直さなければ」

伍長「ちょ、ちょっと待ってください」

伍長「今まで話を聞いていて、悪い人のようには見えませんが」

伍長「昔馴染みというだけでそんなに信用して良いのですか?」

勇者「俺は信用する。“元”じゃない。俺の仲間だからな」

魔法師「……本当、勇者は変わらないね」

騎士「信用かは別としても、私は後の戦略にも一考の余地はあると考えている」

騎士「結局連合の力なしで戦うとなっても、早めに策を考えられるのは有利だ」

魔法師「私は勇者と騎士さんに認めてもらえるだけで十分だよ」

魔法師「だから、別に信用してもらわなくて良い」

勇者「魔法師、そういう言い方は……」

魔法師「信用出来ないって言ってるんだから仕方ないでしょ」

魔法師「でもね」

伍長「?」

魔法師「この件、協力してくれるんでしょ?」

伍長「この件って、青竜という竜のことですか?」

魔法師「そうそう。私と黒竜達は何としてでも倒しにいく」

魔法師「協力関係になるなら、少なくともその間は仲良くして欲しいな」

伍長「……」

伍長「……仕方ないですね。ひとまずこの件が片付くまでです」

伍長「但し、上には報告させてもらいますよ」

魔法師「それは駄目」

騎士「おや、そう言えば黒竜さんは……」

魔法師「あぁ~、別に気にしなくて良いのにね。気を遣って席を外したのよ」

騎士「ほう」

魔法師「こっちに来てそれなりだからね。多少のことはわかるよ」

魔法師「黒竜ー! 話終わったよー!」トタタタッ

騎士「勇者、思いがけない再開だが、良かったな」

勇者「……ああ。お前もそれなりの付き合いだろ」

騎士「そうだな。呼び捨てでないのが残念だがな」

勇者「呼び捨てじゃない人は尊敬してるんだよ。あいつは」

伍長「お二人とも深い付き合いなんですか?」

勇者「そりゃあな。特に俺とはここ三年程一緒に旅してきたし」

勇者「そうでなくとも、十年以上前から知り合いだから」

伍長「どうりで。あれ程信頼しているのも納得です」

勇者「ちなみに、騎士とは物心ついたときからの幼馴染みでな」

勇者「その時からこいつは怪力だった」

伍長「そうなんですか!?」

騎士「馬鹿言うな。これは訓練の賜物だ」

勇者「確かに大袈裟には言ったけど、少なくとも七歳の時には相当なものだったな」

勇者「これを努力というのは流石に……」

伍長「どんな環境で育ったらそんなに……?」

魔法師「なになに? 何の話?」

勇者「戻ったか。騎士の怪力の秘密について」

騎士「その話はもういいだろう!?」

黒竜「こうも賑やかになるのは久々だな。茶の替えを用意していた」

黒竜「これから人里に戻ると遅くなる。今日は泊まって行くと良い」

(夜)

伍長「……」サラサラサラ

魔法師「……?」ヒョコッ

魔法師「何やってるの?」

伍長「魔法師さんでしたか」

魔法師「まるで誰かがいたのはわかってた口振りだね」

伍長「人の気配くらいわかるつもりです」

魔法師「それで?」

伍長「少し今回の件を書き留めておこうと思いまして」

魔法師「報告書かぁ」

伍長「単なる覚え書きですよ」

魔法師「……私のことは?」

伍長「書いてないですって」

魔法師「……そっか。ありがとう」

伍長「今回はひとまず黙って『協力関係にある人間が一名』とだけ報告させてもらいますが」

伍長「その後、どうするつもりですか?」

魔法師「後、か。青竜の件が片付いた後だよね?」

魔法師「考えてないんだよね。また一人旅かなぁ」

魔法師「ここも居心地良いけど、事情が事情だしね。あっ、竜族の事情って聞いた?」

伍長「ええ」

伍長「無実を訴えることはしないんですね。既に白の国――いや、大陸連盟でも影響力のあるの二人が味方なのに」

魔法師「そうだね」

伍長「私はそこが釈然としません」

魔法師「ちなみにあの二人幼馴染みって言ってたよね」

伍長「そうですね」

魔法師「白姫様とも幼馴染みだから」

伍長「そうなん……えぇっ!?」

魔法師「だから頼み込めばいけるんじゃないかなぁ~……って思わなくはないんだけど」

魔法師「やっぱり、迷惑じゃない?」

伍長「……」

魔法師「二人が……ううん、他の人でも、迷惑じゃないって言ってくれたとしても」

魔法師「連合が私の指名手配を下げるまで、色々と動かなくちゃいけない」

魔法師「そんな手間を取らせたくないだけ……かな」

魔法師「そんな、私のわがままだよ」ニコッ

伍長「……成る程」

魔法師「一人旅もやってみて楽しんでる節もあったしね」

伍長「納得しました。さっきの言葉、嘘じゃないことを願います」

魔法師「あはは、嘘じゃないって」

伍長「それで、魔法師さんはどうしたのですか?」

魔法師「ああ、そうそう」

魔法師「特に理由はないんだけど、勇者と騎士さんはどこかなって」

伍長「夕食後、黒竜さんに剣を振れる広場はないか聞いてましたね」

伍長「鍛錬を欠かさないとは兵士の鑑です」

魔法師「そのアテは当たってそうだね」

カンッ ガンッキンッ

チュインッ

騎士「はぁっ!」ブォン

勇者「っ!」ダッ

ドゴンッ

騎士「素早くなったのではないか、勇者」

勇者「はぁ……はぁ……、そっちも怪力に磨きがかかったな」

騎士「次は本気で行くぞ! はぁっ!」ブォンッ

勇者「はっ! ならこっちも本気だ!」ヒュンッ

カンッガンカンッ

魔法師「おっ、やってるやってる」

黒竜「あの二人、人族の中でも相当な実力者だろう」

魔法師「見てるの?」

黒竜「洞窟が壊されないかと心配でな」

魔法師「あはは、冗談に聞こえないね」

魔法師「……実際、お互い五割くらいってところだね」

黒竜「だろうな。持っているのは真剣だ。本当に本気なら殺し合いになる」

魔法師「どう?」

黒竜「良い戦力になる。お前と同じくらいには役に立つはずだ」

黒竜「流石、お前の知り合いといったところか」

魔法師「私達三人いれば大丈夫そう?」

黒竜「……もう一人は戦力に数えないのだな」

魔法師「あの人は人として強そうだけど、竜には太刀打ちできるように見えないよ」

魔法師「階級も勇者と騎士さんより下だしね」

魔法師「数の力に期待、ってとこ」

黒竜「厳しいな」

黒竜「最も、そうでなければ命が足らないだろうが」

魔法師「だろうね。でも、いつになれば青竜の場所がわかるんだろ」

魔法師「今までみたいに、見つけたら出撃、っていうの繰り返しても逃げられるし」

黒竜「じきに来る」

魔法師「……そう?」

黒竜「この竜族の住処に人間が新たに三人も来たのだ」

黒竜「運命は回り始めている」

魔法師「……」

魔法師「そう上手くいくのかな」

黒竜「上手くはない。既に」

魔法師「そうだね」

勇者「おう、魔法師も来てたのか」

騎士「どうした、このような所まで」

魔法師「姿見ないから伍長さんに聞いたらここだって」

魔法師「どうせ剣でも合わせてるんだろうなぁって」

騎士「何か用だったか?」

魔法師「別に。久しぶりだから懐かしい話でもしようかなって思ってただけだから」

騎士「そうか。確かに久しいからな」

勇者「魔法師も一つ運動していくか?」

魔法師「遠慮しとくよ。旅で体力はついたけど、それでも頭を使うタイプだから」

黒竜「どちらにしろ、壁はあまり壊さないように」

黒竜「知っているか。派手に暴れ回っているから、見物者も集まってきているぞ」

忙しさにかまけてサボってました。
干し蟻

勇者「見物?」

コソ…コソ…

ニンゲンニシテハ…ウム…
イヤイヤ…ソレデモ…

勇者「確かに、微かに声が……」

騎士「気配もな」

勇者「ああ」

魔法師「ここに人間がいること自体珍しいの」

魔法師「私が来てすぐのときもそうだったし」

黒竜「別に危害を加えようというわけではなし。気にしないでくれ」

勇者「そう言うと、気になるのだが」

騎士「そうか? 勇者、もう一試合やるか」

勇者「根性も座ってるよな……」

魔法師「んー、あまり視線は向けないでね」

魔法師「人型に変身してるのだけでも、右の穴に三、左後ろに四」

魔法師「後はトカゲとコウモリで合わせて三人」

勇者「成る程。やっぱりこっちで認識してるのとしてないのとでは違うな」

魔法師「勇者はそういう所があるからね」

騎士「怖がりなだけだろう。さて、早くやるぞ」

勇者「ああ」

黒竜「……元気だな」

魔法師「そうだね。……あっ、もう一人いたんだね」

蠅竜「別に隠れるつもりはなかったさ」ブーン

黒竜「お前も見に来たのか」

蠅竜「それはついでだね。実はあれから、動きがあってさ」

黒竜「……」

魔法師「展開が早いんじゃない?」

蠅竜「……何の話?」

黒竜「いや、こっちの話だ。こうも人族が集まるということは、新しく進展がある兆しだ、とさっき話していた所でな」

蠅竜「ほうほう。それは確かかもしれないな」

蠅竜「……追い詰めるよ。いつにするかは、話を聞いた後に決めてくれ」

(翌朝)

騎士「おはよう。なのか?」

伍長「どうやらそのようです。おはようございます」

黒竜「ああ。既に日は昇っているぞ」

騎士「洞穴の中だと時間がわからないのが困るな」

黒竜「体内時計がある。人族はそれぞれらしいが、竜族は特に優れていてな」

伍長「竜の新たな生態ですね」

黒竜「それより、朝食を用意してあるぞ。食べると良い」

騎士「何から何まで……ありがたい」

黒竜「客なんて滅多に見ないからな。いや、同じ竜族の顔馴染みはよく来るのだが」

黒竜「それこそ人族は、外ではいくらでも見るが、こちらに来るのは魔法師で初めてだ」

黒竜「……それに、しっかりと準備をしてもらわねば。魔法師が起きるまでな」

騎士「どういうことだ?」

伍長「昨晩、動きがあったらしいのですよ」

騎士「ふむ。すぐに話さなかったのは私達を休ませるためか?」

黒竜「どうだろうな」

騎士「だが、皆集まってからと言うのは同意だな」

伍長「個別に行ってどうにかなる相手でもないようですし」

伍長「勇者様は?」

騎士「朝に弱い奴ではないが……この暗さだからな」

騎士「知る限り、体内時計は眼に持つ者と腹に持つ者、全身に持つ者がいる」

騎士「勇者が眼に体内時計を持っているなら、もしかしたら――」

勇者「おお、みんな起きていたのか。暗いから途中で目が醒めたのかと思ったのだが」

伍長「ご心配なく。朝ですよ。おはようございます」

勇者「ああ、おはよう」

黒竜「朝食は用意できてるぞ」

勇者「ありがたい。丁度小腹が空いてきたところだったんだ」

魔法師「ふわぁ……おはよー」

黒竜「集まったな」

魔法師「その前にご飯食べても良い?」

黒竜「……聞きながら食べてくれ」

魔法師「うん」

騎士「すまないな。起こしに行かせて」

勇者「いや。俺が一番慣れてるからな。本当は騎士が適任なんだけど」

騎士「そう言うな。私がやっても簡単には起きない」

勇者「命の危険がくれば起きるぞ」

魔法師「朝から物騒な話はやめてよ」

勇者「まぁ、コツは必要だな」

伍長「ここまで朝に弱い方だとは」

勇者「弱いというか……」

魔法師「一定時間は寝たいんだよね」

魔法師「ほら、私魔法使いだし。頭とか精神とか休ませないと」

黒竜「それもまた、一つの体内時計だろうな」コト

魔法師「ありがとう」モグ

黒竜「では、集まった所で話をさせてもらおう」

騎士「頼む」

黒竜「話と言うのは他でもない。青竜のことだ」

黒竜「三人にはまだ話していなかったが、昨日会った蠅竜という者がいただろう」

勇者「ああ」

黒竜「彼を中心に後二匹、青竜の居場所を探ってもらっていてな」

黒竜「昨晩にその新しい報告があった」

魔法師「勇者と騎士が試合している時ね」

黒竜「奴の居場所が判明したらしい。ひいては、俺達はそこへ向かう」

黒竜「首都、力の街だ」

魔法師「力の街……」

伍長「竜の国の首都ですね」

騎士「確か、青竜は暫くそこで住んでいたとか」

黒竜「ああ。昨日話した通りだ」

騎士「どうしてまたそんなところに」

騎士「先の戦争が終わってから、あそこはかなり荒廃していると聞くぞ」

黒竜「あの街も戦場となっていたからな。青竜と俺が暴れたこともあるが」

黒竜「それ以前より、魔の国より支援されたという機械兵が壊してしまっていた」

騎士「私も何日か力の街で戦っていた」

騎士「総力戦のため、結果戦場にしてしまったことは悪いと思っている」

黒竜「人間同士ならまだましだった。機械兵は都市の機能を完全に奪うまでに至った最大の原因だ」

伍長「私もそう聞いています。戦場になった街、村は全ては殆ど廃墟と化していると」

勇者「そんな所に身を隠しているのか? どうして」

魔法師「大方想像はつくよ。廃れても住んでる人は何人もいるからね」

魔法師「元々中心都市だった力の街は、竜の国の中では未だに人口は多い」

魔法師「でも昔と違って無法地帯になってるから――」

勇者「人を殺しやすい、か」

黒竜「そういうこと、なのだろうな」

黒竜「人族を殺さないにしても、今のあそこは青竜にとって住みやすい場所のはずだ」

黒竜「隠れるにしてもな」

伍長「人型に変身していれば、現在あの場所でおかしな挙動をしていても怪しまれることはありませんね」

黒竜「行くとなれば蠅竜も同行する。詳細は案内してくれるだろう」

魔法師「問題は、それをいつにするかだね」

勇者「ここから力の街まで……五、いや六日くらいか」

黒竜「一日あれば十分だ」

勇者「えっ?」

魔法師「そうだね。飛んでいけば早いし」

黒竜「俺が乗せていく」

黒竜「気付かれないように離れた所で降りるとしても、二日だな」

騎士「それならば、行動は早いほうが良いな」

騎士「これから準備をし、出来次第向かった方が良い」

勇者「それには賛成だな。二日あれば、その間に策を立てれる」

魔法師「作戦? 相手をよく知らないのに?」

勇者「荒廃したとは言え、街で戦うのは避けたいからな」

騎士「そうだな。どうやって外へおびき出すか考えねば」

黒竜「俺としても早めに青竜の動きを阻止したい」

魔法師「決定ね」

伍長「私は一度調査陣営に戻って報告しなければなりません」

伍長「近くに寄っていただけるとありがたいのですが」

黒竜「どうせ姿を見られているのだ。構わない。途中で降ろしていこう」

伍長「最終的には隊長の決定になりますが、後を追うようにかけあってみます」

黒竜「そうしてもらえるとありがたい」

騎士「今後の行動は決まったな。では、準備をしようか」

黒竜「そうしてくれ。その間、俺は蠅竜を呼んでこよう」

騎士「……まさかこんなに早く進むなんてな」

勇者「ああ。今から緊張してくるよ。竜を相手にするなんて初めてだからな」

勇者「――で、この広場で良いのか?」

黒竜「ああ」

伍長「出口は逆方向では……この広場は洞窟の中心辺りなのでは?」

魔法師「よくわかったね~」

伍長「上にこんな大きな穴が開いていれば予想はつきます」

伍長「見たところ、穴の上が山頂近くらしいですし」

魔法師「へぇ、目が良いのね」

黒竜「この穴は竜族が飛び立つ時に使う出入り口として開けたものだ」

黒竜「実は、自然なものではない」

騎士「そうだったのか」

黒竜「では、離れていてくれ。竜族本来の姿に戻る」

魔法師「この辺りまで下がっておいて」

勇者「そんなにか?」

魔法師「うん」

騎士「ここは言う通りにしておこう」

勇者「俺は使えないけど、変身魔法は知っている」

勇者「魔法を解いたところでこんなに下がる必要はないのでは?」

ゴゴゴゴゴ…

伍長「……なんですか、この音は」

魔法師「勇者の言ってるのは人間の変身魔法だね」

魔法師「変身魔法は幻覚魔法の一種だから、見た目だけ変わって実際の大きさまでは誤魔化せない」

魔法師「人間がねずみに変身しても、ねずみがようやく入れるくらいの穴は通れない」

魔法師「本当は人間の大きさだから」

ゴゴゴゴゴ…

騎士「な、何と言う……!」

勇者「……!」

魔法師「竜の変身魔法は、そうじゃないんだよ」

魔法師「自分の身体の大きさとか性質とか、そういう根本から全部変化させる魔法」

魔法師「言うなれば、変化魔法!」

ゴゴゴゴ…ズズン…

黒竜「……」

勇者「これが竜本来の姿……!」

騎士「大きいなんてものじゃない。規格外すぎる」

伍長「この大穴を辛うじて抜けられるくらいですね……本当にこの竜と戦うのですか」

蠅竜「そうだよ」

魔法師「蠅竜さん!」

蠅竜「姿形を本質から変える魔法」

蠅竜「進化の過程で巨大になりすぎた竜が、生きるために編み出した魔法なんだ」

勇者「生きるために……」

蠅竜「こんなに大きな身体では、食べるのにも苦労をするからね」

黒竜「来たか。これで全員揃ったな」グアァァン

騎士「~っ!」

勇者「うわっ!? 何だ?」

魔法師「あはは……」

蠅竜「その姿の時は声に気を付けろって。人型と同じように出すと喧しいだだろ」

黒竜「……すまない」

勇者「びっくりした……」

伍長「……あなたは元に戻らないのですか?」

蠅竜「この姿に慣れてしまったからね」

蠅竜「それに、この場所にはもう空きがないし」

伍長「それもそうですね」

黒竜「よし。では皆乗れ」

魔法師「ここに足をかけると乗りやすいんだよ!」

騎士「おぉ、本当だな」

伍長「……」オドオド

黒竜「乗れたら魔法師か蠅竜の言う通りにしろ。振り落とされたくなければな」

ビュオォォォ!

騎士「速いな! 凄いな!」キャッキャッ

魔法師「騎士さんにあんな一面があったんだね」

勇者「怖いもの知らずというか、スリル好きというか」

勇者「確かにそんな性格でもあるんだよな。いつもの堅物さからはわからないが」

騎士「誰が堅物だって?」

勇者「傍から見たらの話だ」

蠅竜「お前も見習わないとな」

伍長「  」ガクブル

勇者「伍長さんには刺激が強すぎるみたいだな」

騎士「楽しいのに」

魔法師「もう慣れたけど、私も最初はかなり怖かったんだけどなぁ」

勇者「それにしても、あれだな」

勇者「人間もかなり魔法を研究してきて、色々な魔法が使えるようになったと思ったけど」

勇者「存在するのに人間が知らない魔法があったんだな」

魔法師「そりゃあ、あるよ、一杯」

魔法師「竜の変化魔法以外にも、例えば魔族の亜法とか」

勇者「でも、調べれば俺達にも使えるように――」

蠅竜「無理、だろうな。恐らく」

勇者「……何でだ」

魔法師「でも、私もそう思うよ」

蠅竜「あれは、俺達竜が進化の過程で生まれたものだ」

蠅竜「少なくとも、魔法の研究として調べても、人間は使えないだろう」

蠅竜「古くは、竜巫女に教えた事もあったそうだ。しかし、彼女は使えなかった」

蠅竜「根拠はと言えば、それだな。俺達の誇りというのもあるけどね」

蠅竜「俺は、変化魔法は竜の血で発動できるものだと思ってる」

勇者「竜の血、か……」

魔法師「人間が魔法を使う前から魔法を知っていた種族だから。そういうのがないとは言い切れないね」

魔法師「魔法って、本当に説明出来ない。あの二人と会ってから、よくそう思うようになったの」

勇者「女さんと男さん?」

魔法師「うん」

魔法師「念じて、イメージして、魔石に伝えて、魔法が発動する」

魔法師「当たり前なんだよ。当たり前だった」

勇者「ああ」

魔法師「じゃあ何で当たり前にできるのかって考えると、わからなくなるのよ」

魔法師「それで思い通りになるなら、人の願いが全部叶うはずだから」

蠅竜「それは、難しい問題だね。何で俺達が生きているのかという問題くらいに」

勇者「魔法師は考えすぎだな。そういう時は、わかる時を待つのが一番だ」

魔法師「後ね」

勇者「?」

魔法師「魔族も特別な魔法を使うらしいんだよ」

勇者「亜法のことだろう?」

魔法師「違うみたい。旅の途中で聞いた話なんだけど」

勇者「そんな話、あったら大騒ぎになってるはずだ」

魔法師「どういう意図で噂が広まっていないのか知らないよ。嘘かもしれないし」

魔法師「でも、興味深いの。魔族の、それも一部の貴族の当主しか使えないっていう」

蠅竜「俺も知っているぞ。竜の国は魔の国の情報も入りやすいからな」

蠅竜「それぞれ違う種類の魔法。しかも他の魔法と違い、無詠唱で発動できる」

勇者「無詠唱で!? ……心当たりがあるな」

魔法師「本当に?」

勇者「ああ。お前達の言っていることが本当なら……」

勇者「あの時魔王が使ったのがそれだ」

勇者「王宮を襲撃されたとき、俺はわけもわからず吹っ飛ばされた」

魔法師「……やっぱり本当なんだね」

蠅竜「かと言って、無詠唱を習得しているわけでもない」

蠅竜「奴らはそれら以外は確実に詠唱して魔法を使う」

魔法師「だから特別なんだよ。しかも、全く知らない魔法だし」

魔法師「確か、魔法特恵」

勇者「特別な恩恵か……。それにしても、よくそんなこと知っているな」

魔法師「あくまで噂。でも、一人旅の間で知り合った人から聞いた話」

魔法師「確かなスジだって信頼してるから、今後は注意した方がいいかも」

勇者「魔法師が言うなら、そうしよう」

騎士「おい、それよりも今は目の前の敵に集中することだ」

魔法師「それもそうだね」

勇者「目の前の敵? 敵影はなさそうだけど」

騎士「勇者、冗談を言っている場合では……」

勇者「わかってる」

騎士「……」

勇者「ただ、少し現実逃避をさせてくれ」

勇者「これから相手にするのは、あまりに大きすぎる」

魔法師「勇者……その気持ちはわかるけど……」

蠅竜「落ち着け。別に倒せとは言ってない」

蠅竜「言い方は悪いだろうけど、そもそも人間には期待してないんだ」

蠅竜「攪乱してくれるだけでも十分な働きだと考えてるよ」

騎士「ははは、これは容赦がないな」

勇者「だが――」

黒竜「一度降りるぞ。調査隊に到着する」

――調査陣営

「ほ、報告、報告!」

調査兵「何だ、慌ただしいな」

「それが、竜が一匹こちらに向かってててっ!」

調査兵「少し落ち着……何!?」

ビュオオオオオッ

調査兵「この暴風、まさか既にここまで来ているのか!」ダッ

「そ、外は危険です!」

「竜が……竜がぁぁああ!」
「うわぁああああ!」
「駄目だぁ……もう終わりだぁ……」

調査兵「慌てるな! 冷静に対処を――」

黒竜「……」バサッバサッ

ズウゥゥゥン…

調査兵「――まじかよ」

黒竜「えっ、近い方が良いと思ったのだが」

伍長「だからって何で陣営の真ん中なんですか! みんな混乱してしまってるでしょう!」

黒竜「ううむ……」

調査兵「……ん?」

勇者「おっ、そこにいるのは調査兵さん!」

騎士「すまない。騒がせてしまったな」

調査兵「これはどういうことですか!」

調査兵「本当に厄介な」ボソッ

伍長「それは私から説明します」

調査兵「これが勇者様と騎士様の成果か?」

伍長「そうですね。それにつきまして、報告もありましたので寄らせていただきました」

調査兵「……どこかへ行く予定があったのか?」

伍長「力の街へ。勇者様達には先に向かっていただくつもりです」

調査兵「こいつは竜に乗ったのか」ボソッ

伍長「え?」

調査兵「いや、何でもない。……ところで、一人知らない人間がいるようだが」

魔法師「……目が合った」グッ

勇者「そうあからさまにフードで隠すと怪しいぞ」

伍長「竜側の協力者です」

調査兵「そうか。では報告を聞こう」

調査兵「勇者様達はどうやら決めている様子。先に行くと良いです!」

勇者「ああ、わかってくれてありがたい!」

黒竜「良い選択をしてくれることを期待している」

バサッバサッ ビュオォォォオオッ

――力の街近郊の小村

黒竜「……」ズズズズ…

勇者「竜の変身魔法、俺達の知ってる変身魔法がゆっくり解ける時とは違う不気味さがあるよな」

魔法師「どっちも生き物の見た目が変わるからね。仕方ないよ」

黒竜「やはりこっちの姿の方が慣れた感じがするな」

騎士「ここはどの辺りになるんだ?」

黒竜「……力の街から少し離れた村だ。後は歩いて一日もいらない」

蠅竜「村と言っても、元々数十人程度の本当に小さい村さ」

蠅竜「見ての通り、例外なく戦争の影響でもう住人はいないけどな」

黒竜「お陰で俺達の足休めにも丁度良い。この辺りで降りると、力の街からはまだ俺の姿は見えないだろうからな」

勇者「じゃあ今日は空き家のどこかを借りて休養か」

黒竜「そう