継母「今日の食事、なにこれ?」シンデレラ「あ……あの……」(224)

継母「ちょっと、美味すぎなんですけど? なにこれ? お店でも開くつもりなの? え? どうなの?」

シンデレラ「そ、それは……あの……そのような予定はありません……」

継母「んまぁ!! もったないわね!! こんなに美味しいのにっ!!」ハフハフ

シンデレラ「……」

長女「シンデレラー? ちょっとぉー」

シンデレラ「な、なんですか、お姉様」

長女「洗濯物畳んでくれてありがとう。もう貴方が洗ってくれた服しか着れないようになってしまったわ。責任とってね」

シンデレラ「は、はぁ……」

次女「シンデレラぁー? トイレの掃除、もしかして貴方がやったの?」

シンデレラ「は、はい、何か、その、不手際が……?」

次女「やっぱりね。キレイすぎると思った。さっき扉を開けたときトイレを新調したかと思ったわ。ふざけないでもらえる?」

シンデレラ「も、申し訳ありません」

三女「シンデレラ?」

シンデレラ「なんでしょうか?」

三女「クマのヌイグルミが壊れていたはずなんだけど?」

シンデレラ「はい。耳が取れていましたので……その……私が修繕を……」

三女「はぁぁ? やっぱり、貴方だったのね!!」

シンデレラ「……」

三女「まあ、お姉様やお母様じゃ、ここまで美しく完璧に直せないから、シンデレラしかいないと思ってたけど」

シンデレラ「は、はい……」

三女「買った時より可愛くなってるわ。どうするつもり? もう私、このテディベアを抱いて寝るしかないじゃない」

シンデレラ「よ、よくお似合いです……お姉様……」

三女「ふん! そ、そんなこと言われても、別に嬉しくないんだからね!!」

シンデレラ「す、すいません……」

継母「そうだわ。お庭の掃除をしなくちゃいけないわね。ちょっと」

長女「なんですか?」

継母「お庭の掃除をお願いしたいのだけれど?」

長女「ええ。わかりました」

継母「草や木の枝で怪我をしないようにね」

長女「わかっています」

継母「よろしくね」

長女「さーてと。やりますかぁー」

長女「――あら?」

シンデレラ「ふぅ……」

長女「シンデレラ?」

シンデレラ「は、はい?」ビクッ

長女「何をしているのかしら?」

シンデレラ「あの……家事が全て終わったので……庭の手入れを……。雑草が伸びていたので……やろうかなと……」

長女「お母様に言われたの?」

シンデレラ「いえ……えっと……その……」

長女「勝手なことしないでもらえるかしら?」

シンデレラ「も、もうしわけありません……お姉様……」

長女「貴方ねえ、家事を全部やった上にこんなことまでするなんて、正気じゃないわよ」

シンデレラ「でも、あの……私はこのお家でお世話になっている身ですから……」

長女「黙りなさい」

シンデレラ「……」

長女「過労死がお望みなの? そんなの許さないわ。シンデレラは私たちの中で誰よりも遅く、笑顔で眠るように死ぬこと以外は絶対にダメよ? わかった?」

シンデレラ「それは……難しいような……」

長女「で、怪我はしてないわけ?」

シンデレラ「あ、えっと……」

長女「はっきりいいなさい!!!」

シンデレラ「し、してませんっ」

長女「それを真っ先に言いなさい!! 心配するでしょ!! 全く、シンデレラはトロいんだから」



シンデレラ「あの……食事の用意ができました……」

継母「まぁ! 相変わらず、美味しそうだこと!!」

長女「はぁ、今日も美味……。これではいつまでたっても外食にいけないわね」

次女「そうですわね。これも全部、シンデレラがこの家にきてからですわ」

三女「食費が浮いて家計も大助かりだわ」

シンデレラ「も、申し訳ありません……」

継母「全く!! もう少し不味くつくってもいいのよ!?」

長女「そうですね、お母様。常にレストランの味を越えられては、街のコックも困るでしょうし」

次女「シンデレラ!! このソースはなに!?」

シンデレラ「そ、それは、トマトを……つかった……」

次女「後でレシピを渡しなさい!!! 今度、真似するから!! いいわね!!」

シンデレラ「は、はい……わかりました……」

三女「シンデレラ!!! おかわりはあるの!?」

シンデレラ「い、いっぱいあります……すいません……」

継母「ごちそうさまでした」

シンデレラ「あの……では、お風呂の準備を……」

長女「お風呂の掃除もしてくれたんでしょうね?」

シンデレラ「はい、しました」

長女「なら、貴方から入ればいいじゃない」

シンデレラ「そ、そんな!! 滅相もありません!! お母様よりも先に入るなんて……!!」

次女「あなた、いつも最後に入ってるわよね? 理由でもあるの?」

シンデレラ「そ、それは……」

三女「私、知ってますよぉ、お姉様。この子が最後に入る訳を」

次女「あら? そうなの?」

シンデレラ「あ……あ……お姉様……」

三女「シンデレラ、出るときにカビが生えないようにきちんと床とか壁を拭いていますのよ? どう思います?」

長女「はぁ……なんてこと……。今日は私が最後に入るわ」

シンデレラ「で、でも……!!」

長女「姉に反論するつもり? 許さなくてよ?」

シンデレラ「わ、わかりました……。では……」

継母「早くでてきたら引っぱたから」

シンデレラ「えぇ……」

次女「お母様。好みの入浴時間は人それぞれですから」

継母「あら、そう? なら、好きにするといいわ」

シンデレラ「は、はい、失礼します……」

三女「ごゆっくり」

長女「……シンデレラがここに来てから今日で何日になるのかしら?」

次女「春先にお母様が等身大のお人形を持って帰ってきたと思ってしまったあの日から、既に3ヶ月以上が経過しています」

長女「もう4ヶ月になるというのに、シンデレラは一向に心を開いてくれず、私たちに遠慮ばかり」

三女「お姉様たちが素直に褒めないからではありませんこと?」

次女「ふんっ。知ってるんだから。ヌイグルミを直してくれたシンデレラに大声で怒鳴ったことはね」

三女「あ、あれは!! まさかそんなところまで気を回してくれるとは思ってなくて……それで……どう言っていいのか……」

長女「よく妹にそんなことがいえるわね。貴方だって、シンデレラに対してまともなお礼は一度も言ったことがない癖に」

次女「そ、それは、お姉様も同じのはずですわ!!」

長女「ぐっ……。でも、なんかこう、露骨に褒めるのは馴れ馴れしい気がするでしょ?」

次女「それは……そうですが……」

継母「やめなさい。見苦しい」

長女「しかし、お母様。お母様もシンデレラに対しては遠まわしに褒めるばかりで、逆にプレッシャーを与えていらっしゃるのでは?」

継母「……そうなの?」

次女「ええ」

継母「そ、そんな……そんなつもりは……」オロオロ

長女「どうして、私たちはこう褒めるのが下手なのかしら……」

次女「はぁ……」

三女「シンデレラぁ……」

シンデレラ「あのぉ……」

継母「あら!? もう出てきたの!? 早いわね!!」

長女「しっかり温もらないと風邪を引くわよ? その程度の知識もないの?」

シンデレラ「す、すいません!! お姉様が待ってると思うと……あの……」

長女「やっぱりそういう気の使い方をするのね。ふん。予想通りすぎて面白くないわね」

数日後

長女「シンデレラ!! ちょっといらっしゃい!!」

シンデレラ「は、はい」

長女「これをみなさい」ペラッ

シンデレラ「これは……?」

長女「役割分担をすることにしたわ。放っておいたら、貴方はいつまでも家の中を奔走するでしょ?」

シンデレラ「ご、ご迷惑でしたか……?」

長女「誰がそんなこと言ったわけ?」

シンデレラ「ひゃっ……」ビクッ

長女「こほんっ。今のは、怒ったわけじゃないのよ」

シンデレラ「はい……」

長女「貴方は料理だけしたらいいから。いいわね?」

シンデレラ「洗濯や掃除は?」

長女「頼れるお姉様たちがやりますわ。そもそもシンデレラに家事をやれなんていったかしら? 貴方が勝手に貢献してくれているだけでしょ?」

シンデレラ「す、すこしでも……私を引き取ってくれたお母様やお姉様に恩返しが……したいと……」

長女「……!」

シンデレラ「ですから……」

長女「ふ、ふんっ!! 今更、健気ぶっても周知の事実よ!!! 何言ってるのかしら!?」

シンデレラ「も、もうしわけあり――」

長女「謝るのもいい加減にしなさい。か、か、かぞ……く……にそんなこと言われても、耳障りなだけよ」

シンデレラ「……はい、申し訳ありません」

長女「ともかく。シンデレラの役目はキッチン!! いいこと?」

シンデレラ「は、はい。分かりました」

長女「いってよし」

シンデレラ「失礼しました」

長女「……シンデレラ? 今は何をしていたの?」

シンデレラ「えっと……トイレ掃除を……」

長女「ちょっと!! 毎日掃除してどうするわけ!? あなた、トイレの女神かなにか!?」

シンデレラ「あ、いえ……そんなつもりは……」

長女「あのズッコンバッコンするやつをお貸しなさい。私がやるわ」

リビング

シンデレラ「……」

シンデレラ「……」ソワソワ

シンデレラ「……窓拭きぐらいなら……きっと……」

次女「シンデレラ?」

シンデレラ「ひゃぁ!!」ビクッ

次女「……」

シンデレラ「あ……あの……ま、まどふきなら……いいかなって……何もしないのも……さすがに……あの……」

次女「洗濯物、上手く干せたと思う? ちょっと見なさいよ」

シンデレラ「え……?」

次女「どう? あんな感じでしょ?」

シンデレラ「は、はい、とてもいいと思います」

次女「ふん。そう。そうなの。へぇ、あれでいいのね。ふぅん……うんうん……よしよし……ふふっ……」

シンデレラ「……」

長女「シンデレラー? 混ぜると危険な洗剤はいつ使用すればいいの?」

三女「んしょ……んしょ……」ゴシゴシ

シンデレラ「あの、お姉様?」

三女「なによ? 貴方はリビングでうたた寝していればいいでしょ?」

シンデレラ「い、いえ、お手伝いを……」

三女「はぁぁ?」

シンデレラ「十分、休ませてもらいましたので……」

三女「動いていないと死んじゃう病気なの?」

シンデレラ「いえ、そんな病気は患ってないと思います」

三女「なら、朝はゆっくりしてなさい。今の貴方にはお似合いだわ」

シンデレラ「わかりました……。失礼しました」

三女「……」

三女「ちょ、ちょっと!! シンデレラー!? 貴方が手取り足取り教えてくれないから、全然捗らないでしょ!?」

シンデレラ「え……?」

三女「全く、それぐらいの気遣いもできなわけ? これだからシンデレラはトロいって言われちゃうのよ」

シンデレラ「は、はい! 申し訳ありません!! すぐに雑巾を持ってきます!!」

シンデレラ「よいしょ……よいしょ……」ゴシゴシ

三女「……シンデレラ?」

シンデレラ「なんでしょうか?」

三女「あの……クマの……あれ……」

シンデレラ「あの、なにか?」

三女「……ありがとう」

シンデレラ「え……」

三女「って、ヌイグルミが言っていましたわ」

シンデレラ「お姉様のヌイグルミ、しゃべるのですか?」

三女「そうよ? 文句ある?」

シンデレラ「いえ!! そんな!!」

三女「……ところで、シンデレラに訊いてみたいことがあったの」

シンデレラ「な、なんでしょうか?」

三女「お……お姉様のなかで、誰が一番、す、すきなの?」

シンデレラ「す、好きですか……? えっと……それは……」オロオロ

三女「どうなの?」

シンデレラ「そんな決められません……」

三女「全員嫌いなの!? はぁぁ!? なにそれ!? どこがダメなの!? いってごらん!! さぁ!! はやく!! すぐに矯正するから!!!」

シンデレラ「いえ、あの、心から感謝しています。こんな私をこの家に置いてくれているだけでなく、きちんとした部屋まで……」

三女「当然でしょ? 何を言っているの?」

シンデレラ「私はそれだけで胸がいっぱいで……」

三女「……」

シンデレラ「だから、決められません……誰が一番なんて……」

三女「で?」

シンデレラ「はい?」

三女「わ、わわ、私のことはどうおもってるザマス?」

シンデレラ「えっと……」

三女「正直に」

シンデレラ「か、可愛い……なって……」

三女「可愛い?」

三女「姉に向かって可愛い!? 可愛いですって!?」

シンデレラ「い、いえ、あのいい意味で可愛いと……!!」

三女「鏡を持ってきなさい」

シンデレラ「はい?」

三女「鏡を持ってきなさいって言ったのよ」

シンデレラ「は、はい!!」タタタッ

三女「……」

シンデレラ「――持って来ました!!」

三女「自分に向けなさい。ほら、早く」

シンデレラ「はい……」

三女「何が映ってるかしら?」

シンデレラ「私です」

三女「そう。シンデレラよ。その顔でよくもまぁ、私に可愛いだなんていえたものね。なんて答えていいかわからないわ」

シンデレラ「私もこの鏡の意味がさっぱりです」

三女「で? 私のどんなところが可愛いわけ?」

昼 リビング

次女「あら?」

三女「……」ギュッ

次女「食事の時間よ? そのクマは部屋に置いてきたらどうなの?」

三女「私の自由ですわ」キリッ

長女「お行儀が悪いこと。淑女には程遠いわね」

三女「なんとでも仰ってください。これはシンデレラの所為ですもの」

長女「なんですって?」

シンデレラ「食事の用意ができました」

長女「シンデレラ? この子に何を吹き込んだわけ?」

シンデレラ「え……」

三女「さぁ、食事の時間よ、セリーヌ?」

長女「ヌイグルミに名前までつけて……。どういうことなの?」

シンデレラ「お姉様の可愛いと思うところを訊かれたので……ヌイグルミを抱きしめているところだと言っただけなんですが……」

次女「そんなことを言ったの? シンデレラ、調子にのるのは私の長所を挙げてからにすることねっ」

夕方

継母「ただいま戻りましたわ」

シンデレラ「おかえりなさいませ、お母様」タタタッ

継母「……」

シンデレラ「あの……お母様……?」ビクッ

継母「あら、シンデレラだったの? ごめんなさい、あまりに綺麗なんで天使かと思って呆けてしまったわ。全く、もう少し可愛げがなくてもいいのよ?」

シンデレラ「はい、気をつけます」

継母「で、シンデレラの姉たちはいずこへ?」

シンデレラ「みなさん、私の代わりに家事を……」

継母「代わり? いつから貴方は召使になったの? そんな身分じゃないでしょう? いい加減にしなさい」

シンデレラ「は、はい」

継母「そう……。今日一日、あなたは何をしていたの、シンデレラ」

シンデレラ「朝は、リビングでウトウトして……昼食を作ったあとは……そのすることがないので、本を読んで……いました……」

継母「んまぁ!!! 普通じゃない!!! いつでもそうしなさい!!!」

シンデレラ「わ、わかりました!!」

リビング

継母「おや……? これは……?」

シンデレラ「あ、あの……その……」オロオロ

次女「シンデレラぁー? 服の畳み方、もっと詳しく教えってくれってたのでるわよねぇ?」

シンデレラ「は、はい!」

継母「ちょっと。なんですか、片足を立てて。はしたない」

次女「お母様。私は気づいてしまったのですわ」

継母「どういうこと?」

次女「ボーイッシュなところが素敵ということに」

継母「んまぁ!!」

次女「ねー? シンデレラー?」

シンデレラ「いえ、でも、そういうのはちょっと……」

次女「嘘だったの? ふーん、妹のくせに嘘を言うのね。いい加減にしないと、泣くわよ?」

シンデレラ「すいません……」

長女「おーっほっほっほ、シンデレラに少し褒められたぐらいで有頂天とは、姉としてのプライドがないのかしらねえ?」

継母「んまぁ!! 貴方まで!!」

次女「お姉様だって、気品ある女性だって言われてからそんなキャラクターを演じるようになったではありませんか」

長女「いーえ。わたくしは生まれてから今までこんな感じザマス」

三女「シンデレラー、ごはんまだー?」

シンデレラ「は、はい! ただいま!!」タタタッ

継母「貴方もシンデレラにヌイグルミを抱いておくように言われたの?」

三女「やですわ、お母様。これはヌイグルミではなく、セリーヌなのですわ」

継母「……」

シンデレラ「あ、あの!!」

継母「何かしら?」

シンデレラ「わ、私が悪いんですっ!! お姉様たちに余計なことを言ってしまったのが原因で……お姉様たちがおかしく……」

長女「おかしくないわ!! だって、これが普通ですもの!! おーっほっほっほっほ!!!」

次女「シンデレラー。ごはんー」

シンデレラ「は、はい!! あの、お母様!! 怒るなら私だけにしてください!!!」

継母「そうね……」

長女「うーん……。今日も美味ですわ。いつになったら、5つ星以外の評価を私たちにつけさせてくれるのかしらね。おーっほっほっほ」

次女「全くですわ、姉上。毎日毎晩星が5つ。何が面白くて、こんな夕食を出すのかしら?」

三女「才色兼備なんて、シンデレラのためにあるような言葉ですわね。ね、セリーヌ?」

シンデレラ「……」

継母「シンデレラの美味しい料理を堪能している最中に申し訳ないですが、私の話を聞いてくれるかしら?」

長女「なんでしょうか、お母様?」

継母「これをご覧あそばせ」ペラッ

次女「これは……。お城での舞踏会?」

継母「左様。噂ではこの舞踏会で王子様の未来の妃を決めるとか決めないとか」

三女「それはなんとまぁ……」

シンデレラ「すごいですね」

継母「貴方達も参加するのよ?」

シンデレラ「お姉様、がんばってください」

次女「何を言ってるの、シンデレラ? 貴方、頭悪いの? それとも目のほう?」

シンデレラ「あ、あの……それは……どういう……」

長女「鏡を」パチンッ

シンデレラ「は、はい」タタタッ

シンデレラ「――どうぞ、お姉様」

長女「鏡をごらんなさい」

シンデレラ「は、はい」

長女「鏡よ、この世で一番美しいのは、だぁれ?」

三女「シンデレラッ」

シンデレラ「えぇ!? そんな、そんなこと!! お姉様たちのほうがよっぽど……!!!」

長女「おだまりあそばせ!!!」ビシッ

シンデレラ「ひっ……」ビクッ

長女「貴方が醜いのはその卑屈なところだけですわ!!!」

シンデレラ「申し訳ありません……こ、こればかりは……どうにも……」

長女「そう。その部分だけが醜い。あとはこんなにも可憐、憐憫、端麗なのに。もったいない!! ああ!! もったないないザマス!!!」

シンデレラ「すいません……すいません……」

長女「と、いうわけで、貴方も出るのよ、この舞踏会に」

シンデレラ「あの……それとこれと、どのような関係が……」

長女「貴方の唯一の欠点である、その卑屈さを直してあげますわ」

シンデレラ「いや、でも、私、踊りなんてできませんし、ドレスも……」

次女「踊れないなら、練習すればいいじゃない。ドレスがないなら、買えばいいじゃない。シンデレラのお陰で無駄な出費はかなり抑えられているし、買えるわ」

シンデレラ「そんな……もったいないです……」

三女「セリーヌも出ろって言っているわ」

シンデレラ「そんな……セリーヌさん……」

継母「ふん。では、決まりですわね」

長女「ええ。お母様」

次女「異議なし、ですわ」

三女「私もよろしくてよ」

シンデレラ「あの……人前で……しかも王子様や王様がいる前で踊りたく……」

長女「心配することはないわ、シンデレラ。この姉が見っとも無い姿にだけはさせなくてよ!! おーっほっほっほっほ!!!」

シンデレラ「あぁ……そんなぁ……」

継母「――シンデレラは?」

長女「天使のような寝顔で寝ていましたわ。キスしておきました」

次女「言っておきますが、お姉様。右頬なら私と間接キスですからね」

長女「心配いりませんことよ。私が口付けしたのは右足の裏ですから」キリッ

三女「それはさすがに……」

継母「さて、今回の舞踏会。三人とも私の計画を察してくれたようなので、助かりました」

長女「すぐにわかりましたわ、お母様。少し強引ではありますが、シンデレラに自信をつけさせるにはいい機会だと思います」

次女「あのままではずっと人の顔色を見て生きていく嫌な美少女になってしまいますからね」

三女「シンデレラには幸せになってほしいですからね」

継母「舞踏会は3ヵ月後ですから、準備をするには十分ですわ」

長女「ドレスを新調しませんと……。シンデレラ用のドレスはまだありませんから」

次女「化粧も覚えさせたほうがいいですわね」

三女「ダンスの勉強もさせるべきでしょう」

長女「忙しくなりますわね、おーっほっほっほ」

継母「よしなに」

数日後

長女「さあ、シンデレラ!! この店で気に入ったドレスを選ぶがよろしいザマス!!」

シンデレラ「あの……」

長女「妹に拒否権などありませんわ!」

シンデレラ「はい……」

長女「(悪く思わないでね、シンデレラ。貴方のためなの……)」

シンデレラ「えっと……これ……あ、やっぱり、こっちに……」

長女「お待ちなさい」

シンデレラ「え……」ビクッ

長女「今、値札を見てやめましたわね?」

シンデレラ「さすがに桁が多くて……」

長女「妹がお金の心配なんて10年早い!!!」ビシッ

シンデレラ「す、すいません!!」

長女「好きなのを選ぶがいいわ」

シンデレラ「お姉様……」

別の日

次女「いいかしら、シンデレラ? 化粧とは女をより美しく化けさせるためにするもの。口紅一つでも女は一変するわ」

シンデレラ「そうですか」

次女「では、私のをあげるから。使いなさい」

シンデレラ「で、でも……お姉様の口紅なんて……恐れ多くて……!!」

次女「私が使えと言ったら?」

シンデレラ「……使います」

次女「そう。それでいいの」

シンデレラ「では……」ヌリヌリ

次女「(シンデレラが使用した口紅……)」

シンデレラ「ど、どうですか?」

次女「ふんっ!! まだまだ甘いですわ!! この程度の化粧ではシンデレラの魅力を5毛も引き出せてなくてよ!!!!」

シンデレラ「やはり、私に口紅は似合わないのでは……色つきのリップクリームぐらいが丁度よかったり……」

次女「次、行くわよ」

シンデレラ「おねえさま……」

別の日

三女「ワンツー、ワンツー」

シンデレラ「あぁ……」フラフラ

三女「何をやっているの!? それではただただ可愛い女の子がフラフラしてるだけじゃない!!!」

シンデレラ「申し訳ありません……」

三女「炊事洗濯掃除まで完璧にこなし、更に容姿まで最高なのに、それに飽き足らず踊りまで愛嬌がある下手糞っぷりってなに? あなた、どれだけ私を虜にするの?」

シンデレラ「申し訳ありません。そんなつもりは……なくて……」

三女「そんなの分かってるわよ!!! 貴方の一生懸命さなんて痛いほど伝わってくるの!!! バカ!!!」

シンデレラ「うぅ……」

三女「(泣く……!! まずいわ……。ここは……)」

三女「オイ、シンデレラッ」

シンデレラ「セリーヌさん……?」

三女「オマエナラ、ヤレルゼ。シッカリシロヨナッ」

シンデレラ「は、はい……」

三女「やる気が出たようね、シンデレラ。セリーヌにお礼を言うことね」

一ヵ月後

シンデレラ「はぁ……」

シンデレラ「(最近、お姉様たちが厳しい……。どうして私をそこまで舞踏会に……?)」

シンデレラ「(王子様が私を選ぶなんて、ありえるわけないのに……)」

継母「オーライ、オーライ」

シンデレラ「え……?」

業者「これ、本当に買っていただけるんですか?」

継母「ええ。勿論よ」

業者「買い手がついてよかったです。こんなの見世物以外に価値はないですからね」

継母「そうでもなくてよ」

業者「それでは、ありがとうございました」

継母「ようやく、手に入りましたわね……。ふっふっふっふ……」

シンデレラ「お母様!!」タタタッ

継母「ああ、シンデレラだったの。ヴィーナスが走ってきたかと思ったわ。紛らわしいからシンデレラですって言いながら近づいてくれない?」

シンデレラ「す、すいません!! それより、この大きなカボチャはなんですか!?」

継母「大きなカボチャよ。それ以上でも以下でもありませんわ」

シンデレラ「あの、一か月分の食糧ですか? やっぱり、私のドレスで家計が一気に火の車に……!!」

継母「何を言っているのやら、この娘は。だから、バカワイイって私に思われるのよ? 自覚ないでしょうけど」

シンデレラ「は、はぁ……」

継母「貴方は何も気にすることはないわ。いいこと? 貴方は今やるべきことをやっていればいいのよ? おわかり?」

シンデレラ「あの、どうしてそこまで……」

継母「私たちが貴方を舞踏会に参加させたいからに決まってるからでしょうが!! まだわかりませんの!? ゥキィー!!」

シンデレラ「申し訳ありません!!」

継母「失礼。ちょっと興奮しましたわ。自重しなければいけませんわね」

シンデレラ「……」

継母「シンデレラ?」

シンデレラ「は、はい?」

継母「さぁ、午後の休憩はもう終わりですよ。美人で素敵なお姉様のところに戻りなさい」

シンデレラ「わかりました」タタタッ

継母「(今は耐えるのよ、シンデレラ。きっと貴方を立派なレディにしてあげます)」

別の日

次女「ドレスはこれでいいとして。あとは髪飾りや靴ですわね」

長女「髪飾りはこれを。お母様から頂いた、私のティアラです」

シンデレラ「あの……こんなに素敵なものを……?」

長女「これはね、シンデレラ。私が結婚するときのために買っておいたものなの」

シンデレラ「そ、そんな貴重品を!!! だめです!! お姉様!!!」

長女「シャラップ!!」

シンデレラ「しかし!!」

長女「誰もあげるとは言ってませんわ。貸すだけですもの。万が一、壊したら体で支払ってもらいますわ。おーっほっほっほ!!!」

シンデレラ「体で……!?」ゾクッ

次女「そういうことなら、私のピアスも貸すわ。壊したら、そのけしからん肉体で払ってもらいますけどね」

シンデレラ「やめてください!!」

三女「セリーヌを貸してあげるわ。一日のレンタル料を体で払ってくれって、セリーヌも言っています」

シンデレラ「私の体がめちゃくちゃになりますからぁ!!」

長女「ふん。そこまでいうなら、仕方ないわね。こちらのシンデレラ用のティアラを渡すわ。全く、つまらないところで真面目なんだから。シンデレラのくせに」

次女「あとは靴ですわね」

長女「シンデレラ、これをあけてご覧なさい」

シンデレラ「……これは……!!」

三女「透明な靴……?」

長女「ええ。シンデレラの洗練された美脚、美足を見せるために透明の靴を特注で作ってもらいましたわ!」

次女「流石はお姉様。発想が変質者のようですわ」

長女「おーっほっほっほっほ!!!! 褒めても何もでないザマスよぉ!!!」

シンデレラ「素敵……」

長女「え?」

シンデレラ「この靴、素敵です!!」

長女「そ、そう?」

シンデレラ「はいっ。お姉様、こんなに素敵な靴をありがとうございますっ」

長女「ふんっ!! 別にシンデレラに感謝されても嬉しくないわ!!! ええ!! ちっとも嬉しくありませんもの!!!」

長女「なぜなら、私は長女!! どんなときでも気丈に振舞ってこそザマス!!!! おーっほっほっほっほっほ!!!! ほーっほっほっ……ごほっ!! ごほっ!!」

シンデレラ「綺麗な靴ぅ……」

舞踏会 前日

継母「全ての準備は整いましたか?」

長女「何も問題ありませんわ。当日にシンデレラが着飾るものは完璧、ですわ」

次女「化粧も申し分はありませんわ。あれで男が靡かないのであれば、もうシンデレラは私が養います」

三女「舞踊も完璧とは程遠いですが、あの拙さはきっと殿方だけでなく、同性すらも虜にすることでしょう」

長女「お母様のほうはよろしいのですか?」

継母「当然。抜かりはありません。シンデレラは大事な娘ですもの。失敗などできませんわ」

長女「ですね……」

次女「まだ半年ほどの付き合いではあるけれど、シンデレラは毎日毎日全てにおいて尽くしてくれていました」

三女「彼女はそれを恩返しと言っていました」

継母「家族に恩を返す義理はないことを知らなかったが故に行動ですわ。ですが、受けた恩を返さないのも女が廃るというもの」

長女「半年間、休むことなく私たちに尽くしてくれたシンデレラのためですわ。舞踏会で彼女が人として、女としての自信をつければ……」

長女「更に美しい女性になることは間違いなし!!! ですわっ!!!」

次女「やりましょう、お姉様」

三女「シンデレラを立派な女にするために」

舞踏会 当日

継母「シンデレラ。時間ですわよ」

シンデレラ「は、はい……」

継母「……」

シンデレラ「あの、シンデレラです」

継母「あ、ああ。ごめんなさい。絵本のから出てきたお姫様かと思ったわ。まさかシンデレラだったとは……」

シンデレラ「あの、お母様? お城まではどのようにして行かれるつもりなのですか?」

継母「何を心配しているかとおもいきや……。馬車は用意しております」

シンデレラ「馬車ですか!?」

継母「その大きなお目めでとくと見なさい!!!」

シンデレラ「わぁ……!」

長女「準備できましたわ。さ、カボチャにお乗りなさい」

シンデレラ「え……? あの……馬が巨大なカボチャを引っ張っているだけにしか見えませんけど……」

継母「貴方のその可愛い目は節穴!? 眼鏡も似合いそうね!! 全く!!! よくご覧、シンデレラ。きちんとカボチャは荷車に積んでいるでしょ?」

シンデレラ「これ、馬車ですか……?」

次女「カボチャが想像以上に硬くて中身をくり貫けなかったらしいわよ」

三女「まぁ、それはそれは」

継母「お黙りなさい! 他人の失敗をそうやってネチネチと突くのは淑女失格ですことよ!!」

長女「まぁ、でもインパクトはありますわ。巨大カボチャに乗ってくる女性などシンデレラの他にいないでしょうから」

次女「人の視線がシンデレラに集中するわけですわね」

長女「そう。そうなれば人目を気にしすぎるシンデレラにとってもいい薬になるやもしれませんわ」

三女「逆効果な可能性を考えないところがお姉様らしいですわ」

継母「さぁ、シンデレラ!!! 乗るのですよ!!!」

シンデレラ「でも、恥ずかしいです……」

長女「乗りなさい!! 遅刻したいの!?」

シンデレラ「だって、これ……特殊な業者さんみたいですし……」

次女「業者だろうが牛舎だろうが、乗っているのはシンデレラよ? どういう意味か分かるわね?」

シンデレラ「わかりません」

三女「つべこべ言わずに乗れよ、ハゲ。ってセリーヌもカンカンですわ」

シンデレラ「セリーヌさんにそういわれたら……乗るしかないですけど……はぁ……」

街中

シンデレラ「うぅ……」

「なんだあれー」

「あはははー」

「シンデレラちゃんはカボチャの上にいてもかわいいなー」

長女「そこ!! 当然のことを言わないでください!!!」

次女「耳にタコができるぐらい聞いた台詞ですことよ!!!」

シンデレラ「お姉様!! やめてください!!」

長女「姉に指図するとは、偉く可愛くなったものね、シンデレラ?」

シンデレラ「あ、いえ……そんなつもりは……」

三女「ふんっ。お姉様? どうせ、少し綺麗になったから調子に乗っているんですわ」

次女「そうなの? なら、もっと調子に乗りなさい。シンデレラにはそれだけの資格がありますわ」

長女「おーっほっほっほっほ!!! よくってよぉ!! よくってよぉ!!! 調子にのって、よくってよぉ!!!」

継母「この調子で行けば、余裕で間に合いますわね」

シンデレラ「あぁ……帰りたい……」

城内 舞踏会場

「王子様。楽しい一時、ありがとうございました」

王子「いえ。私も楽しいダンスを踊れて嬉しかったです」

「は、はいっ。それでは失礼しますっ」テテテッ

王子「ふぅ……」

王「先ほどの貴婦人はどうだ? 中々の美人だったが」

王子「父上。僕はまだ将来の相手を選ぶなんてことはできません。まだまだ知らないことも多く、人一人を幸せにすることなどできはしません」

王「そういうな。これは候補を決めるためのものでもある。妃といかずとも、側室として選ぶのも……」

王子「父上、ご冗談を」

王「ワシにも側室はおる。お前もそのうち――

「あ、あの、王子様、このわたくしと一緒に踊ってもらえませんか?」

王子「……はいっ。喜んで」

「まぁ、嬉しいですわ!」

王子「行きましょうか」

王子「(なんて不毛な……。どうせ、ここにいる者たちは僕の地位しかみてない……。その中から妃を選ぶなど、無理に決まっている……)」

城門

兵士「お、おい!! とまれ!!」

継母「なんでございましょう?」

兵士「カボチャを注文した覚えはない!!」

継母「何を言っているのやら。シンデレラ、言っておあげなさい。これが何かを」

シンデレラ「……カボチャの馬車ですぅ……すいません……」

兵士「な、なんだ、舞踏会参加者か……お……?」

長女「なんですか?」

兵士「い、いや、どうぞ。もう始まっています」

次女「ふふ、見ましたか、お姉様。あの男の顔」

長女「無理もありません。カボチャの上に絶世の美少女が鎮座していたら、息を呑むと言うものでわ」

三女「ねえ、シンデレラ? どう? 殿方を一目で魅了した気分は?」

シンデレラ「なんとも……いえません……」

三女「これから貴方は男女問わず何万人もの人に言い寄られるのだから、シャンっとなさい。でないと死ぬわよ?」

シンデレラ「死ぬんですか!?」

会場

継母「さあ、シンデレラ。こちらですよ」

シンデレラ「ひぇぇ……!!」

長女「なに? その泣き声? 抱きしめて欲しいって合図?」

シンデレラ「わ、わわ、私より綺麗な人が……たくさん……!!!」

次女「当然よ。王子様に近づけるチャンスなのですから、色んなところから人が集まるわ」

シンデレラ「うぅ……」

三女「あら、王子様も踊っているみたいですわね」

長女「当然ながら皆は王子のほうばかりを見ている。でも、今から颯爽とと天使がこの会場に舞い降りる」

長女「すると、王子様も嫉妬するほどの衆目をシンデレラが集めてしまう」

三女「まぁ、当然ですわね」

シンデレラ「や、やっぱり……こんなところで躍るなんて……私には無理です……」

長女「何を今更、ここまで来て我侭は許さないですわよ!!」

次女「そうよ、シンデレラ。私たちは貴方をここで躍らせるために連れて来たんだから」

シンデレラ「でも……みなさん、わたしよりも綺麗で……踊りもうまくて……ドレスも豪華で……」

継母「んまぁ!!! 腰が引けてるわね!!! これはまた可愛いわ!!! いい加減におし!!! 貴方のそれは天井知らずなの!?」

シンデレラ「すいません!! あの……帰りませんか……?」ウルウル

三女「シンデレラ? 姉に意見とはいい度胸ね。涙目で訴えられると、首を縦に振らずにいられないじゃないの」

シンデレラ「だって……だって……」

次女「お姉様、どうしますか?」

長女「シンデレラ? 姉の言うことが聞けないの?」

シンデレラ「……お姉様たちは……私を……玩具にしているだけではないのですか……?」

長女「……!」

次女「お姉様、もしやあの日の夜のことがバレて……」

長女「そんなはずは……」

シンデレラ「わ、私だって……お姉様たちみたいな……性格だったらって……思います……」

継母「シンデレラ……」

シンデレラ「誰にでも明るく接することができるお姉様とは……違うんです……だって……私は……」

シンデレラ「本当の姉妹じゃ……ありませんから……」

長女「シンデレラ……あなた……」

シンデレラ「私はこんな性格ですから、お姉様たちにきっと嫌な思いをさせるだけだって……」

シンデレラ「だから、私は雑用をこなすことで、家に置いてもらうことしかできませんっ」

シンデレラ「それ以外のことなんて……無理なんです……。こんな煌びやかで眩しい場所は……似合わないです……」

シンデレラ「だから……!!」

長女「なるほど。つまり、この三ヶ月間、私たちが貴方に強いてきたことは迷惑だった、というわけね?」

シンデレラ「そ、れは……」

次女「そ、そうですの?」オロオロ

三女「ゴメンヨッ、シンデレラッ。キヲワルクシナイデクレッテ」

シンデレラ「……」

継母「シンデレラ?」

シンデレラ「お母様……?」

継母「辛かったの?」

シンデレラ「私は……お母様やお姉様が傍にいてくれたら……それだけで……」

長女「そんなこと言われても私は別にうれしく――!!!」

シンデレラ「うぅ……ぐすっ……」ウルウル

長女「もう!! どうして嫌ならいやって言いませんの!?」

シンデレラ「だって、私お姉様に嫌われたくなくて……!!」

長女「嫌いになるわけないザマスわ!!」ギュッ

シンデレラ「お姉様……」

次女「やっと本音をいってくれましたわね。半年前からずっと待っていましたわ」

シンデレラ「え……?」

三女「この舞踏会に誘ったのも、実は言うと貴方の気持ちが聞きたかったからなの」

シンデレラ「どういうことですか?」

継母「たった半年。されどシンデレラの性格はよく理解しているつもりですわ」

長女「きっとこういうことは嫌がる。本当に追い詰められたら、貴方だって本音を言うしかないでしょう?」

シンデレラ「でも、あの……それでもし私がお姉様たちを心から嫌いになってしまったら……?」

長女「毎晩枕とシーツを濡らすだけですわ」

次女「私はひたすら謝り倒しますわ」

三女「セリーヌをあげていました」

シンデレラ「お、お姉様……」

継母「ごめんなさい、シンデレラ……」

シンデレラ「いえ……あの、この三ヶ月、色々楽しかったのは……本当ですし……」

長女「このお姉ちゃんウゼーとか思っていませんこと?」

シンデレラ「そんな!! ありえません!! こんなに素敵なドレスと靴まで用意してくれたのに……」

長女「よかったですわ、マジで」

次女「それはそうとお母様。シンデレラが嫌だというなら帰りましょうか」

継母「そうですわね。でも途中棄権の罰として、シンデレラにはこのドレスを着て家で舞ってもらいましょうか」

長女「大賛成ですわっ」

三女「セリーヌも私も大歓喜です」

次女「さ、行きますわよ」

シンデレラ「あ、あの……」

長女「どうしたの?」

シンデレラ「……お、おどってみたいです……少しだけ……」

長女「いいんですの? 無理に躍らなくてもいいですのよ?」

シンデレラ「私……踊ってみたいですっ。お姉様から貰った、このドレスと靴で」

王子「楽しかったです」

「いえ……では……」タタタッ

王子「(そろそろ切り上げるか……)」

シンデレラ「えぇぇ!?」

王子「ん?」

長女「さ、やりますわよ」

次女「う、うわー、なんだ、このお姫様はぁー」

三女「まぶしすぎるぅー」

ザワザワ……

王子「(誰だ……?)」

長女「さ、躍って。今、注目の的ですわ」

シンデレラ「いや、あのペアのかたもいませんし!!」

三女「貴方にはずっと一人で踊りの練習させてきたはずですわ」

シンデレラ「は、初めから……一人で躍らせるつもりだったんですか!?」

長女「何を小生意気な!!! シンデレラ!!! 貴方が男性と踊るなんて神様が許してもお姉様が許しませんわよ!!!」

継母「お母様もゆるしません」

シンデレラ「えぇ……?」

長女「さぁ!! シンデレラ!!! 蝶のように舞いがいいですわ!!! おーほっほっほっほ!!!!」

シンデレラ「うぅ……」

シンデレラ「……はいっ」

シンデレラ「えっと……えっと……」フラフラ

長女「ふん。シンデレラのくせに……強がりなんて……」

次女「素敵……」

三女「ほぉー……」

継母「……はっ!! シンデレラですのね。アルテミスが躍っているのかと……」

「なんだ、あの踊りは……まるでなってないぞ……」

「何て無様な踊りなんですの……でも……」

シンデレラ「ほっ……おっ……」フラフラ

王子「(懸命さが痛いほど伝わってくる……。それに……美しい……)」

シンデレラ「あぁ……」フラッ

王「あの少女は?」

兵士「シンデレラという名前ですね」

王「ふん……」

シンデレラ「うー……」クルッ

シンデレラ「――はいっ!」ビシッ

三女「キマッてないけど、別に問題ないですわ」パチパチ

次女「シンデレラ。流石は我が妹。その愛くるしさはもはや神の所業!!! 世界そのものを隷属にする日も近いですわね。シンデレラ、世界征服でもするつもりですの?」

シンデレラ「そんな大それたことは夢でも思ったことがありません」

長女「……全く。シンデレラ? 貴方の所為で私が行き遅れたら責任取ってもらいますわよ。いいこと!?」

シンデレラ「は、はぁ……やってみます……。そ、それより!! 恥ずかしいので帰りましょう!!!」

継母「そうね」

王子「――待ってくれ!!」

シンデレラ「え……?」

王子「あの、私と一緒に躍ってもらえませんか?」

シンデレラ「も、申し訳ありません。もう帰りたいので、帰りますっ。本当にすいませんっ、王子様っ」

王子「なっ……!!」

「王子様のお誘いを断りましたわ!!」

「あの娘、何しにきたのかしら!?」

長女「シンデレラの美しさを自慢するためですわ!!! おーっほっほっほっほっほ!!!」

シンデレラ「お姉様!!」

次女「王子様。身に余る光栄ですが夜も更けてまいりましたわ。12時までに褥につかねば肌が荒れてしまうで、失礼しますわ」

三女「オウジサマッ、ザンネンダッタナ。シンデレラハッ、ヤスイオンナジャネェンダヨ」

王子「君の名前はシンデレラというのか!!」

シンデレラ「は、はい」

王子「分かった……」

シンデレラ「それでは……」ペコッ

王子「シンデレラ……。なんて美しい女性だ……。外見だけでなく、心まで澄んでいる……」

王「――どうやら決まったようだな」

王子「父上……。はい。彼女しかいません」

王「(息子の妻になるにしろ、側室になるにしろ……ワシも楽しめそうだな……くくく……)」

城門

長女「シンデレラ。楽しかった?」

シンデレラ「恥ずかしかったですけど……楽しかったです、お姉様っ」

長女「そう。まぁ、別に貴方が喜んでも私にとってはなんのプラスにもなりませんが!!!」

兵士「お待ちください」

次女「なんでしょう?」

兵士「国王陛下が話したいと申されています」

三女「王様が? 用件はなんですの?」

兵士「シンデレラ様のために部屋も用意されていると」

継母「んまぁ!!! ピンクの予感しかしませんことよ」

長女「残念ですが、お断りですわ」

兵士「しかし!!」

長女「走りますわよ!! シンデレラ!!!」

シンデレラ「あ……!! お姉様……!! まって……!!」

兵士「待ってください!!! 国王陛下はぁ!!!」

城内 国王の部屋

王「(あのシンデレラ……。本当に美しかった……。ここではっきり気持ちのほどをきいて、我が息子と……)」

王「(そして、あのシンデレラに――)」


シンデレラ『お父様……。ご公務お疲れ様です』

王『ぬははぁ! シンデレラよ!! いつものを頼むぞぉ!!』

シンデレラ『はい……では……失礼します……うっ……かたいですね……』

王『あぁ……気持ちいいぞぉ……。すまんな、息子の嫁にこんなことをさせるなど……』

シンデレラ『いえ、お父様の肩揉みなら喜んでしますわ』


王「ぬふふふ……」

兵士「国王陛下!!」

王「どうした?」キリッ

兵士「シンデレラ様に断られてしまいました。やはり、誘い方が悪かったのでは……」

王「なんだと……!! うぬぬ……!!!」

兵士「それと、シンデレラ様がこれを落としていきました」

街道

シンデレラ「降ろしてください!!!」

長女「何を言っていますの!! 聞き分けのないことを言うものではありませんわ!!!」

シンデレラ「でも!! お姉様にもらった靴が……!!」

次女「兵士に捕まったらどうなるか、分からないの!?」

シンデレラ「せっかく……おねえさまが……わた、しの……ために……!」

長女「シンデレラ……。ま、また、作ってあげますわよ!!! 次は見えない靴にでもしてあげるでザマス!!! おーっほっほっほっほ!!!」

シンデレラ「うぅ……うぅぅ……」

長女「……」

三女「お姉様、シンデレラはバカワイイですが、今の状況は理解しているはずですわ」

次女「そっとしておきましょう」

長女「シンデレラ……私があのとき、無理やり引っ張らなければ……!!」

長女「どうして!!! どうしてあんなことを私はしてしまったのです!!!! あぁー!!!!」ゴンッゴンッゴンッ!!!

継母「こらこら、淑女たるもの頭突きでカボチャを割ろうとしない。淑女失格ですわよ」

長女「私の!! 私の所為で!! シンデレラが泣いたんですわぁ……!!!」ゴンッ!!!

翌日

長女「おはよう、シンデレラ」

シンデレラ「おはようございます……」

長女「ちょっと!!! 少し陰のある女の子を演出してますの!!! 全く!! シンデレラだから可愛いの一言に尽きることをお忘れにならないでちょうだい!!」

シンデレラ「す、すいません……」

長女「……」

次女「違う方向に落ち込んでしまいましたわね」

三女「オネエサマッ、シネッ」

長女「セリーヌ……!!! この!! 生意気な口ですわぁ!!!!」ギュゥゥ!!!

三女「お姉様ぁ!!! やめてください!!!」

次女「分かりましたわ。私があの靴を取りに行きましょう」

長女「妹のくせに、姉を差し置いてシンデレラのポイント稼ぎとはいい度胸ですわね」

三女「間をとって私が行きますわ」

継母「騒いだところで、シンデレラの靴は戻ってなど――」

シンデレラ「――お母様!! お姉様!! あの!! すぐそこまでお城の兵士さんがたくさんきてます!!!」

王子「この辺りで間違いないのか?」

兵士「はっ。シンデレラという名前で美しい少女というとこの街にしかいないと……」

王子「そうか」

「シンデレラちゃんの家なら、あの三軒先にある家だよ?」

王子「まことか? ありがとうございます。――急ごう」

兵士「御意」

王子「(全く。父上も気が早い。いくら義理の娘に肩揉みをしてもらうのが夢だからといって、僕の知らないところで……)」

長女「――王子様」

王子「貴方は。昨晩、シンデレラとともにいた……」

次女「シンデレラ? 我が家のシンデレラは昨日、一歩も外を出ませんでしたわ」

王子「なに?」

三女「誰かと勘違いされているのではありませんか?」

王子「そんなことは……。そこのヌイグルミを抱えた貴女も昨晩、城で見ている。間違いない」

長女「ともかくおかえりあそばせ。王子様」

兵士「貴様!! 無礼であるぞ!!!」

王子「よい。――では、確認したいことが」

長女「なんでしょう?」

王子「この透明な靴を履いていただきたい」

長女「……!!」

長女「(しまった……。あれは特注品ですから、シンデレラの足にジャストフィットしちゃいますわ!!!)」

王子「それだけでいいのです。お願いします」

次女「少しイケメンだからって、女が言うことを聞くと思ったら大間違いですわ!!!」

三女「ぶっちゃけ、私は少しタイプですけど」

次女「まぁ、嫌ってわけじゃないですわ……」

王子「お願いします。シンデレラに会わせてください」

長女「いやですわ!!!」

継母「――構いませんわ」

長女「お母様!!!」

継母「王子様、度重なるご無礼をお許しください」

王子「いや、無礼なのはこちらも同じことです。知らせもなく王族が現れれば混乱もするでしょう」

継母「シンデレラ」

シンデレラ「は、はい……」モジモジ

長女「ディーフェンス! ディーフェンス!!」

次女「鉄壁の守りですわ!! ネズミ一匹通さないですわ!!」

三女「クマのセリーヌの恐ろしさを知るがいいですわ」

シンデレラ「お姉様……通れませんから……」

長女「でも……いや、別にシンデレラの人生ですから? 好きにしちゃえばいいですわ!! でも、まだ人生の墓場へ駆け込むのはどうかなぁーって……思いまして……ね?」

シンデレラ「王子様……昨晩は大変失礼なことを……」

王子「とんでもない。私たちのほうこそ父……いえ、国王が貴方を拘束しようとしたと聞き……その……気分を害されたのではないかと……」

シンデレラ「いえ……少しびっくりしただけです……」

王子「それはよかった。それにしても、着飾ってないほうが魅力的ですね」

シンデレラ「え……あの……そんなこと……」モジモジ

長女「ディーフェンス! ディーフェンス!!」

次女「何人も侵入を許さない、鋼鉄の壁ですわっ!」

三女「イクラオウジサマデモ、シンデレラニテヲダシタラ、オレノゴウワンガウナルゼッ」

王子「それでは、疑っているわけではありませんが、この靴を履いてください」

シンデレラ「は、はい……」スッ

兵士「おぉ……この方こそ紛れもないシンデレラ様ですね」

王子「そのようだな。では――」

長女「ちょっと――」

シンデレラ「あの!!」

王子「なんですか?」

シンデレラ「わ、私、まだこの街に来て半年しか経ってないんですけど……。皆さん、こんな私に……その……あの……」

王子「……」

シンデレラ「温かく、して、くれて……。す、す……すきなんですっ!! この街のことを!! いえ!! 正確には最近好きになれたんですけど……」

王子「そうですか」

シンデレラ「それになにより……。とても大好きなお母様とお姉様が傍にいてくれるんです!!」

長女「好きって!? 好きって言いました!? 別に嬉しくないですけどぉー? えー? 全然、心に響かないですわー」

次女「ここではっきりさせておきます。私がシンデレラを好きなのではなく、シンデレラが私を好きということですわね」

三女「なによ、シンデレラ。私に一生の思い出をくれるっていうの? ふざけないでくださらない? もうシンデレラのことしか考えれないわ!」

シンデレラ「お母様もお姉様たちも私の料理をいつも褒めてくれて……褒め方は不器用なんですけど……それが……あの、嬉しくて……」

シンデレラ「ここにきてから、料理することが楽しくなって……褒められたらもっとがんばろうって……こっそり練習したりして……」

王子「……」

シンデレラ「がんばれば、その分だけお母様もお姉様も喜んでくれて……」

シンデレラ「わ、わ、私、今が一番幸せなんですっ!!!」

継母「シンデレラ……」

長女「……」

次女「なによ!! シンデレラ!! それ以上言ってみなさい!! もうね!! 大好き!!!」

三女「シンデレラ、セリーヌあげますわ」

シンデレラ「だ、だ、だから、あの……結婚とか考えられません!!! 申し訳ありませんっ!!! 靴を返していただき、ありがとうございますっ!!」

王子「……まいったな。フラれてしまったか。その気はなかったが、こう言われると存外に気持ちが沈むものだ」

シンデレラ「……え?」

王子「勘違いさせたようですね。私は昨晩のお詫びと、この落し物を届けにきただけなんです。僕も結婚はまだまだ考えていませんし、候補を作りたいとも思ってはいません」

シンデレラ「あ……え……?」

王子「まだ見聞が足りないのは自覚しています。人一人の人生を支えることなどできない、若輩者ですから」

シンデレラ「王子様……じゃあ……えっと……」

王子「貴女に惹かれたのは嘘じゃありません。もしも、この場で求婚されたら、さすがに断る自信はありませんよ」

シンデレラ「す、すいません!! わた、わたし!! と、とと、とんでもなく恥ずかしい勘違いを……!!!」

王子「頭をあげてください。私も最初に説明しておくべきでした」

シンデレラ「王子様……」

王子「それでは失礼します」

シンデレラ「は、はい……」

王子「……ですが」

シンデレラ「は、はい?」

王子「もしも、貴女とまた出会う日があるとするなら、それは私がシンデレラを迎えにきた日となるでしょう」

シンデレラ「お、王子様……」

王子「行くぞ!!!」

兵士「はっ!!」

シンデレラ「はぁ……王子様ぁ……」

長女「ちょっと!! シンデレラ!!! なにをデレーッとしてますの!!! あんな男、遊ばれて捨てられるだけですわ!!! 他の女にも同じこと言ってますわよ!!!」

シンデレラ「はぁぁ……」

継母「シンデレラの溜息をオークションに出品すれば高値で取引されますわよ。だから、出すんじゃありません!! もったいない!!」

シンデレラ「でも、私、あんな恥ずかしい勘違いを……」

次女「ふふんっ。自惚れもここまでくれば可愛いですわね。あ、シンデレラは元から可愛かったですわね。はっはっはっはっは」

シンデレラ「いぢめないでください……」

三女「まぁ、でも、あの舞踏会に出たからには、色んな貴族様たちから声はかかるかもしれませんわね」

シンデレラ「え? そ、そんな……困ります……」

長女「どうして? いいじゃありませんこと? 大金持ちから引く手数多なんて!!! まぁ、私の目が黒い内は誰も近づかせませんけど!! おーっほっほっほっほ!!!」

シンデレラ「いえ、その……お断りするのって……どっちも嫌な気分になりますから……」

次女「断るの? 勿体無いわね。その選択は正解だけども、勿体無いわね!! はんっ、バカデレラなんだからっ」

シンデレラ「だって、私、今以上の幸せってちょっと思いつかないので……えへへ……」

三女「シンデレラぁ!!!」

シンデレラ「はいぃ!? すいません!! 生意気なことをいって……!!!」

三女「もうね……理性が飛ぶからそういうことは言わないで……次、言ったら、襲いますからね……!! 覚悟してくださいましっ!!!」

シンデレラ「も、申し訳ありませんっ!!!」

数日後

継母「ちょっと、シンデレラ? 今日の食事、なにこれ? うますぎてほっぺたが落ちそうですけど? 落ちたらどうしてくれますの? 手術費、稼いできてくれますの?」

シンデレラ「お母様、料理でほっぺたは落ちませんよ?」

継母「そうなの? でも、万が一のときはお願いしますわね!!」ハフハフッ

シンデレラ「はいっ。なんとかします」

長女「シンデレラー? トイレ掃除とお風呂掃除、勝手にやりましたわね?」

シンデレラ「すいませんっ。でも、今日はお姉様が一番風呂の日ですから、気持ちよく入って欲しくて……」

長女「全くもう、勝手なことしないでくださる!? 今日の入浴は貴女の姿を妄想しながら入ることになるけど、いいわね!?」

シンデレラ「過激なのは控えてくださいね」

次女「シンデレラぁー? 洗濯物、取り込んでおきますわよー」

シンデレラ「はいっ! あとで一緒に畳みましょうね、お姉様っ」

次女「なにそれ? ちょー楽しみじゃないですわねっ!! ふ、ふふふんっ」タタタッ

三女「シンデレラー、おかわりくださる? セリーヌも喜んでますわ。――シンデレラッ、カワイイッ」

シンデレラ「どうも、セリーヌさん。おかわり、すぐに用意しますね」

――今日も私は幸せ者です。
                    END

佐天「完結しててもつまんない奴も多いんだね……」

初春「本文がよくても、後書きや合いの手で興醒めするのもですね」

初春「糞スレが伸びてる理由もわかりませんし」

初春「百番煎じのSSは、書いてる奴も読んでる奴も何考えてるんですかねえ」

初春「独自性出せないなら創作やるんじゃないっつーの」

初春「臭過ぎて鼻が曲がるわ」

佐天「初春?」

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