高垣楓「私の誕生日なのにプロデューサーが帰って来ない」(78)

代行でごぜーます
ID:xYZXnwaA0

楓「うぅー…………」

あい「少し飲み過ぎじゃないかな……楓さん」

楓「良いんです……私、このまま……お酒に溺れてしまおうかなって……」

あい「せっかくの誕生日なんだ、飲み過ぎて体調を崩すのはあまりよろしくないように思う」

楓「大丈夫です……後もうちょっとだけ、もうちょっとだけですから……」

楓「誕生日なのに……プロデューサーさんは仕事から帰って来ないし……」

楓「もう夜だから大体の人は帰っちゃったし……」

楓「……寂しいんです」

あい(……参った)

あい(さっきプロデューサー君から来たメールを見る限り)

あい(彼が事務所に帰ってくるのは今から数十分後、場合によってはもっと遅くなることもあり得る)

あい(それまで……この、先ほどから只管日本酒を呷りつづける楓さんの相手を務めなくてはならない訳か)

楓「ごくごくっ……ぷは……」

あい(フッ……なかなか酷な仕事を課してくれる)

あい(……残業代は出るんだろうね、プロデューサー君)

楓「……今、何時ですか……?」

あい「11時を回ったところだね」

楓「あむっ……そうですか、もぐもぐ……」

あい(どこから取り出したんだろうか……その炙りイカは……)

楓「あいさん……イカはイカが……ふふっ……」

あい「あ、ああ……いや、遠慮しておくよ……」

楓「せめて一緒にお酒でも……」

あい「一応飲めはするが、楓さんほどお酒には強くないからね……それも遠慮しておこうかな」

楓「酒を、避ける……酒、避け……鮭、食べたいな……ふふっ……ふふふ」

あい(プロデューサー君が居ないのが寂しいのか、いつにも増して酔っている……)

あい(まあ、それほど祝って欲しかったのだろう)

あい(あともう少しで日付けも変わってしまうし……)

楓「あ……裂け……裂けるチーズも……食べたい……」

あい(早く帰って来てくれないかプロデューサー君……)

あい(このまま行くと私も無理やり飲まされて共倒れというオチが待っている予感しかしないんだが……)

あい(……とにかく、こちらからも会話をしていかなくては)

あい(主導権を握られては、そのままずるずると引きずられていってしまいかねない)

あい(あくまで会話の主導権を握るのは、この私だ……)

楓「はぁ……」

あい「楓さん」

楓「はい……?」

あい「最近、仕事の方は順調みたいだね。人気も出始めたし、最近ではテレビでもよく見るようになった」

楓「……ふふ、それも全部プロデューサーのおかげですよ」

楓「そんなプロデューサーが……今、この場には居ないんです……」

楓「昨日まであんなに元気だったのに……ぐすっ……」

あい(プロデューサー君がいつの間にか死んだことになっている……)

楓「あいさんは……どうですか?」

あい「私か……まあ、そこそこと言ったところだな……桜祭りの仕事の時から、多少人気は出てきたように思うが……」

楓「そうじゃなくて」

あい「……え」

楓「プロデューサーのこと……どう思ってますか……?」

あい(……ん?)

あい(なんだか話が1段階か2段階ぐらい飛んでいるような気がするんだが)

あい(……私は一応仕事についての話を振ったはずだぞ……?)

あい「どう思ってるか、と聞かれると……こ、好意を持っていることは違いない、かな……」

楓「私は大好きですけど……アイドルって立ち場がなかったらなぁ、って思います……」

楓「それに、最近ちょっと他の子のプロデュースとかで忙しいみたいで、あまり構ってくれないんです」

楓「この前、事務所にあった段ボールにマジックで『拾ってください』って書いて」

楓「その中に体育座りして、プロデューサーが帰ってくるのを待ってたんですけど」

あい「……う、うん」

楓「プロデューサーが帰ってきてこっちを見た瞬間、楓ねこですにゃん……って言ったんです」

楓「素通りされました」

あい「…………」

楓「一緒に帰ってきたみくちゃんは反応してくれましたけど」

あい(大方アイデンティティがクライシス云々と叫んでいたんだろうな)

楓「前はお酒にも付き合ってくれてたのに……」

楓「あの夜の事も……忘れてしまったんでしょうか……」

あい「!?」

楓「……? どうしました……?」

あい「あ……あの夜……とは、何だろうか……?」

楓「前にプロデューサーが仕事で遅くまで残った時……私も一緒に残ってたんですけど」

楓「お仕事を手伝ってたら、何だか良い雰囲気になって、そのまま……」

あい「そ、そのまま……」

楓「深夜までずっと仲良く2人でオセロしてました」

あい「…………」

楓「たのしかったです」

あい(……一体何を想像して焦っていたんだ私は……)

楓「凄く楽しかったんです……」

あい「…………」

楓「なのに、このままプロデューサーさんは……」

楓「私の誕生日が終わるまで、帰って来ないんでしょうか……」

あい「……彼は帰ってくるよ」

楓「本当ですか……?」

あい「ああ。私が保証しよう」

楓「……あいさんのお墨付きなら、信用できますね……ふふっ」

あい「……そうかな」

楓「そうですよ」

あい「私のお墨付きがなかったら、彼を信用しないのかい?」

楓「……それは……そうですね、どうでしょう」

あい「……少し意地悪な質問だったかな」

楓「いえ。でも……確かに、あいさんが何も言わなくても」

楓「心の中では、プロデューサーを信用している自分が居るんです」

楓「……それに気付けてホッとしました」

あい「ふむ……結果的には、さっきの質問はプラスに作用した、ということか」

あい「この事務所に、彼を信用していない人間など、きっといないさ」

楓「ええ、凛ちゃんや卯月ちゃん、未央ちゃん……私や、あいさん……他にも、いっぱい」

楓「つくづく幸せなプロデューサーですよね」

あい「全くその通り……っと、メールだ、失礼」

ピッ

P『もうちょっとで帰ります』

あい(予想よりも、割と早いな……もう少しか……)

楓「あいさん、あいさん」

あい「……?」

楓「飲みましょう」

あい「……だからお酒は」

楓「飲まないと、いじけます」

あい「…………」

楓「良いんですか? いじけても」

あい(さっきまでプロデューサーの話をしていたと思ったら……)

あい(この、話が次々と二転三転する様……まさしく酔った人間のそれだ)

あい「楓さん、あなたももう大人なんだから、そんな子供のようなことは言わずに」

楓「はい今いじけました。私もういじけましたから」

あい「…………」

楓「あいさんがお酒を飲んでくれないから……」

あい(今更ながら、実感する……)

あい(彼女は、私の手に負える人物では……ない……)

あい「ど、どうしてそこまで私にお酒を飲ませたがるんだ、楓さん……?」

楓「一緒に飲む人が居ないと、寂しいんです」

楓「高垣楓は、寂しいと死んじゃうんですよ」

あい(ウサギでもあるまいし……)

楓「それに、あいさんだってやることがなくて暇でしょう?」

楓「日本酒、いかがですか? 焼酎もありますよ」

楓「私、日本酒だけじゃなくて、焼酎もしょっちゅう飲むんですよ……ふふっ」

楓「カシューナッツなんかもあります、最後に食べたのはいつだったかな……」パクッ

楓「ああ……この味、ナッツかしい……ふふふふっ……」

あい「…………」

楓「そういえば、裂けるチーズはないですけど、6Pチーズならあります」

楓「写真撮りましょうか。はい、チーズ……ふふ、ふふふ」

あい(もうダメだ)

あい(志乃さん……彼女が居れば、どうとでもなるのだが……)

楓「ううーん……」

あい「……?」

楓「…………」クイクイ

あい(楓さんが、私の服の裾を引っ張っている……ついでに、上目遣いで私を見つめて……)

あい(男性に対しては破壊力抜群だろう……が、私としては困惑する他ない……)

楓「飲みましょうよぉ……」

あい「何度も言っているように、お酒は……」

楓「自分の壁を、超えたくないんですか……?」

あい「は……?」

楓「そうやって、自分の限界を決めつけて……」

楓「それでも、それでも……」

楓「それでも、アイドルなんですか、あいさん……!」

あい「…………」

あい(何で私は説教されているんだ?)

楓「私達のプロデューサーは、いつだって言ってくれたじゃないですか」

楓「『自分の限界を超えてこそ、アイドルなんだ!』って……」

あい(私の記憶の限りでは、彼はそんな言葉一度も言ったことが無いんだが……)

楓「あいさん……だから、飲みましょう」

楓「あの月を……ウサミン星を眺めながら……」

あい(事務所のカーテンが閉め切られている所為で、月どころか外が全く見えない……)

楓「さよなら、ウサミン……私、忘れません……」

あい(プロデューサー君に続いて菜々さんまで殺害されたか……)







菜々「へっくしょっ! ……あー、お母さん大丈夫、ちょっと鼻がむずむずして。誰かに噂されてるのかな」

菜々「あ、それよりまた落花生送ってきてたでしょ! もう送らないで良いって言ったのに――」

http://i.imgur.com/u5Q5VcS.jpg
高垣楓(25)
http://i.imgur.com/Di7Wyyl.jpg
東郷あい(23)

楓「ふふっ♪」

あい「……ふぅ」ゴクッ

あい(結局流されてしまった……少しずつ飲むようにしなければ……)

あい(酔い潰れてだらしない姿をプロデューサー君に晒すのは、勘弁願いたいからな)

楓「あいさん」

あい「ん?」

楓「2人で、トランプしませんか」

あい「……良いけど、トランプで何をするんだろうか」

楓「ソリティアを」

あい「何故よりによってそれを選んでしまったんだ」

楓「一応複数人で遊ぶルールもありますから……」

あい「とはいってもだな……」

楓「分かりました。トランプはやめましょう」

あい「いや、トランプで遊ぶこと自体には別に問題は……」

楓「オセロで」

あい「……まあ、良いだろう。何故ソファーの下からそれが出てきたのかはあえて問わないよ」

楓「プロデューサーを巡る戦い……オセロだけに、これで白黒つけましょう……」

あい「っ……いや、私は別にプロデューサー君を巡って戦っているわけではないんだが」

楓「そんな事言って。顔、赤いです」

あい「お酒の所為だ……」

楓「……そう言う考え方も出来ますね」

あい「実際にそうなんだが」

楓「…………」

あい「…………」

楓「…………王手」パチッ

あい「えっ」

楓「…………?」

あい「いや……何でもない」

楓「次、あいさんの番です」

楓「……あ、そこのおつまみは自由にどうぞ、お酒もまだおかわりありますから」

あい「ふむ……」ゴクッ

あい(……ん、この日本酒、なかなか美味しいな)

楓「やった、私の勝ち……ふふっ♪」

あい「…………」フラッ

あい(まずい、かなりアルコールが回ったぞ……)

あい(オセロに熱中している間に、随分と飲んでしまった)

あい(私がこうなることを計算してやっていたのなら……楓さん、やはりあなたは恐ろしい人だよ……)

楓「それで、次は何をしましょうか……あいさん?」

あい「あ、ああ……聞こえているよ……」

楓「大丈夫ですか……?」

あい「ら、らいじょうぶ……」

楓「じゃあ、もう一杯どうぞ」

あい(じゃあ、って……)

あい「…………」

あい「……頂くよ」

P「……すっかり遅くなっちゃったな」

P「でも予定よりは早く着いたし……」

P「よし、準備万端、行こう……あいさん、耐えてくれたかな?」

ガチャッ

P「ただい……ま……」

あい「…………」

P「……あい……さん……?」

あい「…………」

P(何で段ボール箱の中にあいさんが入ってるんだ?)

P(そして何故段ボール箱には「拾ってください」と書かれてるんだ?)

P(更に言うなら、俺はこの光景を見たことがある気がするんだが?)

あい「…………」

P「…………」

あい「……にゃあ」

P「!?」

P(ちょっと待て、状況を整理だ)

P(とりあえず目の前に広がるこの光景は現実のものであって)

P(もしかしなくても、あいさんはお酒で酔ってる)

P(そしてあいさんが自分から飲むとも思えないので、多分楓さんに飲まされたんだ)

P(……うん、知らないけどきっとそう)

あい「……にゃあ」

P「あ、あいさん……だ、大丈夫ですか……?」

あい「わたしは……らいじょうぶ……にゃあ……」

P「大丈夫なあいさんはそんな喋り方しません」

P(でも、みくより可愛いな)




みく「へっくしっ! ……何だか今日もどこかでみくのアイデンティティがクライシスしてる気がするにゃあ……」

みく「それはさておき、えーっと……私アイドル詳しくないけど前川みくって子が可愛いと思います、っと……」カタカタ

あい「なんだか……プロデューサー君に、甘えたい気分なんだ……」

あい「……良いかな」

あい「隣に居てくれるだけで良いんだ、隣に……」

P「いや、あの……そ、そうだ」

P「とりあえず、ソファーの方に座りま……」

楓「…………」ムスッ

P(もしかしなくてもいじけていらっしゃる)

楓「…………」プイッ

P(ついには顔を背けられてしまった)

P(そりゃ、そうだよな。こんなに待たせちゃって、日付けも変わっちゃったし……)

楓「プロデューサーさん、私が同じことやった時は反応してくれなかったのに……」

P「そこかよ」

楓「……良いんです、あの時はお仕事が忙しかったからって分かってますから」

楓「……でも私、そこまで大人になれないんですよ」

楓「プロデューサーさんともっと話したいし、お酒も飲みたいんです」

楓「だから……最近は、ちょっと寂しかった、かな……」

P「それは、すみません……」

楓「……私も、子供ですみません」

P「楓さんは謝らなくても良いんですよ」

P「俺は、そういう子供っぽいところがある楓さんが好きですから」

楓「……私は、そう言ってくれるプロデューサーさんが大好きですよ」

P「はは、めでたく両想いですね。……さてと、もう、6月14日は終わっちゃいましたけど」

楓「……はい」

P「これ、受け取ってください」スッ

楓「え……ワイン、ですか……これ」

P「志乃さんに選んで貰ったんですよ、選んだ当人はもう帰ってしまいましたが」

P(……お邪魔しちゃ、悪いから……って)

楓「……ありがとう、ございます」

P「どういたしまして……そこで、なんですけど」

楓「何ですか?」

P「今から、一緒にそれ、飲みませんか?」

楓「……良いんですか? 朝からまた仕事があるんじゃ……」

P「大丈夫ですよ! 俺のアイドルの為……いえ」

P「今だけは、楓さんの為に、俺も付き合いますから」

楓「……ふ、ふふっ」

P「楓さん?」

楓「私の誕生日、まだ終わってなかったみたいですね」

楓「ううん、むしろ、今からやっと……」

P「……さ、グラス用意しますから。ソファーに座っててください」

あい「ぷろでゅーさーくん……わたしも……」

P「あいさんは酔いが醒めるまでそこで待機!」

あい「……にゃあ……」

楓「あの、あいさんはソファーに寝かせてあげたらどうでしょうか」

楓「私、ちょっと飲ませすぎちゃって……」

あい「かえでさんは、わるくない……わたしが、さけによわいのがらめなのら……」

P「そうですね……あいさん、歩けます?」

あい「…………」

P「あいさん?」

あい「どうせなら……どうせなら、ぷろでゅーさーくんがわたしをはこんでくれ」

P「……?」

楓「プロデューサー、察してあげてください」

P「え」

あい「だっこだよ……」

P「……あー、はい……分かりました……」

あい「すぅ……」

P「即座に寝ましたね」

楓「本当に猫さんみたいですね」

P(お疲れ様、あいさん……本当に)

P「……では、あいさんもお休みになったことだし」

P「乾杯」

楓「ええ……乾杯」

P「……うん、いけますね。普段そこまでワイン飲まないんですけど」

楓「志乃さんが選んだものなら、当然でしょう?」

P「まあ、確かに」

楓「ワインにはチーズですよね、プロデューサーもどうぞ」

P「あ、頂きます」

楓「……ふふ」

P「どうしました?」

楓「いえ……ケーキも無いし、誕生日の歌もないですけど」

楓「こういう誕生日の祝い方も素敵だなって、思ったんです」

P「……でも実は、ケーキ食べたかったんじゃないですか?」

楓「景気(けーき)良くワンホール程食べたかったです……ふふっ」

P「今日も絶好調ですね……」

楓「プロデューサー」

P「はい」

楓「……私、凄く幸せですよ」

P「……そう言ってもらえると、こちらも嬉しいです」

楓「アイドルになって良かったなって、改めて思いました」

楓「初めてのライブの日」

楓「ファンから初めてファンレターを貰った日」

楓「初めてCDを出した日」

楓「そして今日の、今、このとき。私にとっては、全部大切な時間です」

楓「……らしくないこと、言っちゃいましたか?」

P「そんなことありませんよ。楓さんは、本当に立派なアイドルです」

P「あの時あなたをスカウトして良かった、出会えて良かったって、俺は思います」

楓「……そう言うことを言うのは、反則なんです。知ってましたか?」

P「いえ、知りませんでした」

楓「その調子じゃ、いつか女の人を勘違いさせちゃいますよ?」

P「はは……気を付けます」

楓「勘違いさせるのは……私だけにしておいてくださいね」

P「はい……はい?」

楓「……ふふ、さあ、これからもレッスンにライブに、頑張りましょう、プロデューサー」

P「それはもちろん。それと……言うのが遅れちゃいましたけど」

P「お誕生日、おめでとうございます……楓さん」

P「これからも全力で、楓さんをプロデュースしますからね!」

楓「……はい♪ よろしくお願いしますね……プロデューサー」






あい「ふたりとも……ご結婚おめでとう……にゃあ」

楓「ありがとうございます……私達、必ず幸せになりますから。 ね、あなた♪」

P「えっ」


おわり

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