姉「弟がかわいいので吊したった」(175)

私の弟はかわいい。

とてもかわいい。

かわいくてしかたがない。

辛抱たまらんので、拉致っていじめてみることにした。

しかたないよね。

弟、かわいいんだから。

思い立ったが吉日。

さっそく友人に電話をする。

裕福な家だから、なにか伝手があるはず。

聞いてみるとやっぱりあるらしい。

でも、渋られた。

ここで引き下がる訳にはいかない、無理をいって話を聞いてもらう。

ごにょごにょ。

よし。

交渉成立。

流石にちょっとした対価を要求されたけれど。

弟をいじめられるなら安いものだ。

休日に一日かけて、計画を立てる。

机に向かってがりがりと、弟をなぶる企てをする。

途中、弟がコーヒーを持ってきてくれた。

よくできた弟だ。

そろそろ思春期だろうに、よくなついてくれている。

撫でてあげようとしたら、逃げられた。

恥ずかしがらなくていいのに。

すこし寂しい。

そんなこんなで計画完成。

よし、できた。

すぐに友人にメールをする。

待つことしばし、返信が来る。

若干の手直し。

なるほど、なるほど。

確かにこちらの方がいい。

ふふっ

楽しみだ。

二日後、私宛に封筒が届いた。

消印はなし。

これこれ。

さっそく開封する。

中には粉薬、それと使用上の注意。

親切なことだ。

早速決行。

両親はしばらく帰ってこないし、明日から休日。

うん。

問題なし。

あとは弟の帰宅を待つだけ。

今日は、友達と遊んでくるらしい。

もっと私と遊んでくれてもいいのに。

日が暮れるころに、ようやく帰ってきた。

こら、遅いぞ。

ごめんなさい、と弟。

かわいいなあ。

ちょっと汗くさい。

いい匂いだなあ。

でも最近、帰ってきたらすぐにシャワー浴びるのよね。

お姉ちゃん、ちょっと残念。

シャワーの水音がうっすら聞こえる。

弟はシャワーの後にたいてい牛乳を飲む。

身長が気になってるらしい。

そのままでもかわいいのに。

でもコンプレックスな弟もかわいい。

うんうん、思春期だねえ。

お風呂から出る前に、さらさらと粉薬。

パックのふたを指でつまんで、振っておく。

ふふっ、一服盛っちゃった。

ほどなくして、パジャマ姿の弟、登場。

気が早いというか、子供っぽいというかなんというか。

まあ、かわいいから良し。

良しじゃない、最高。

やばいやばい、めちゃんこかわいい!

石鹸の香りふわふわで、お姉ちゃんの頭までふわふわだよこんちしょう!

ちょっと上気した頬とか殺人ものだね!

うはぁ!

と、心の中でのたうちまわっとく。

むろん顔には出さない。

怖がられちゃいそうだし。

出てないよね?

うん。

ばれてない、ばれてない。

冷蔵庫、のぞいてる。

お風呂あがったよー、なんてのんきなこと言いながら。

かわいいなあ。

いつも通りにコップに牛乳注いで…

そうそう。ちょうど一杯分しか入ってないし、全部飲んじゃうんだよ。

ごくごくって。

うん、いい飲みっぷり。

えらいぞ。

牛乳をのんだ後はのんびり。

たいてい、漫画読んでるけど。

今日は珍しく、一緒にオセロやろって誘ってきた。

最近、学校で流行っているそうだ。

薬はすぐ効くらしいけれど、一勝負くらいはできるかな?

いいよ、勝負したげる。

わーい。

ぱたぱたと取りに行った。

かわいい。

けど、走るとすぐにクスリ、まわっちゃうよ?

オセロを始めて数分。

盤面は半分くらい埋まってる。

今のとこは、私が劣勢。

最初からあんまりとばすと、後で大変だよ?

ほら、角取った。

ね?

対戦しつつもさりげなく弟を観察。

ちょっとぼーっとしてる、かな?

いい感じに効いてるみたい。

更に盤面が八割ほど埋まる。

弟の手はもうずいぶん遅い。

考えてるっていうより、意識が飛んでる感じ。

大丈夫? ねむいの?

返事、なし。

ぐらんぐらんぐらん

ばたん。

ふふっ

おやすみ。

しばらく観察する。

うん、よく寝ているようだ。

頬をつついてみる。

反応なし。

身体をゆする。

深い寝息。

抱きついて、ほっぺすりすり。

起きない。

ああ、弟かわいい。

かわいい、かわいい、かわいい、かわい…

はっ!

いかんいかん。

落ち着こう。

よし、落ち着いた。

友人に電話。

うん、よく眠ってるよ。じゃ、おねがい。

通話終了。

まとめておいた荷物を確認。

よし。

後は待つだけだ。

ほどなくして、チャイムの音。

来た来た。

扉を開けると、黒服の人たち。

こういうのってお約束なのかな?

弟を運ぶのを手伝ってもらう。

最小限のことしか話さないのが、よし。

てきぱきと弟を担架に乗せる。

そう。やさしく扱ってくださいね。

弟を先に車に乗っけて、私は最後の確認。

火の元よし、電気よし。

戸締まりをして、いってきます。

家の前にどうにもそぐわない高級車。

胴が長くて黒塗りで。

近づくにもちょっと緊張する。

そうか、あの人に頼むと車までこうなるのか。

すこし身震い。

黒服の人に進められるままに乗り込む。

革張りの広い車内に、弟発見。

高級車でもやっぱりかわいい。

うまいこと座らされている。

弟の隣に乗り込む。

なんとなく、密着。

そうして弟を私にもたせかける。

車のはしっこにふたりだけ。

やっぱりこの車は広すぎる。

扉が閉まり、出発進行。

窓は全部填めごろし。

運転席とも仕切りで隔てられていて、外は見えない。

防音もしっかりしてるのかな。

とても静か。

振動もほとんどない。

することもない。

しかたがないので、弟の寝顔を堪能する。

かわいい。

体温も心地よくて、眠くなる。

着くまでにすこし時間がかかるらしいし、寝ておこうかな。

腰を少しずらして、弟にもたれる。

おやすみ。

着いたら、楽しみだね。

ん……

ん?

暗い。

ここ、どこだっけ?

ああ。

そうか、車の中。

このあったかいのは弟。

ふふっ、よく寝てる。

かわいい。

私、どのくらい寝てたんだろ?

まだ、つかないのかな?

インターホンで聞いてみる。

ほどなく到着いたします、って事務的な声。

そう。

受話器を置く。

深呼吸。

もうすぐだってさ。

動悸が止まないね。

減速して、停車。

車のドアが開く。

外の光、まぶしいな。

目の前に、立派なお屋敷。

これは……すごいなあ。

ちょっとびっくり。

黒服の人の案内のまま、お屋敷の中へ。

弟はまた担架で運ばれて、一足先に部屋に。

ふふっ

また、後でね。

入ってすぐに、友人がでてきた。

いつもと同じ格好なのに、妙にお屋敷となじんでる。

おもわず敬語をつかってしまって、笑われた。

うるさい、だまれ、ごめんなさい。

ああ、なんか調子が狂う。

友人もここにくるのは久しぶりだって。

本家やら分家やら言っていた。

なにかお金持ちも大変らしい。

お茶に誘われたのでほいほいついてゆく。

こじんまりとした部屋について、ちょっと落ち着く。

座って程なくメイドさん出現。

お菓子と紅茶を用意してくれた。

うん。おいしい。

お茶を飲みながら、友人と約束の確認。

ほんとにいいの? ってなんども念押しされた。

もちろんだよ。

だって、弟かわいいからね。

かわいいでしょう?

うんうん。

でも、あげないからね。

用件もおわり、お茶もおしまい。

友人の案内で、地下へ。

金持ちって、みんなこんな地下室をもってるのかな?

いかにもな雰囲気に妄想が現実に近づいて行く。

薄暗い廊下を少し歩いて、大仰な鍵の着いた部屋に通される。

中はホテルみたいなふつうの家具付きの部屋。

シャワーとトイレもついていて、ここで暮らすこともできるらしい。

食事はエレベーターで下ろすとのこと。

誰かここで飼ったことあるの? と聞いたら笑ってごまかされた。

部屋の奥にも扉がある。

開けてごらん、と促されたので開けてみる。

すこしきしんで、意外と重い扉がゆっくりと開く。

扉の向こうにはすこし広めの空間が広がってた。

暗色を基調とした部屋に、棚やベッド、弟。

ベッドの上で、相変わらず寝息をたてている。

かわいい。

そろそろ、薬も切れるころかな?

ふふっ、いいね。

まさに望み通り。

思わず、にやけてしまう。

じゃあ、なにかあったらそこのベルで、と言い置いて友人、去る。

ああ。無理いって、わるかったね。

君も、まあ頑張れ。

扉が閉まる。

ベル?

ああ、このボタンか。

今のところ用事はないので放っておく。

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