千早「プロデューサーは貧乳フェチなんですね、なるほど」(168)

千早「まぁ、そうでなければ、私なんか選びませんよね」

P「ち、千早……お前、いつの間に……」

千早「いま帰ってきたところです。予定よりはやくスケジュールが済んだので」

P「ごめん」

千早「どうしたんですか? 急に謝ったりして」

P「反省しています」

千早「ふふっ、へんなプロデューサー。私、何も怒ってなんかいないのに」

P「もう二度と観ないから……機嫌を直してくれないか」

千早「観ないって、何を?」

P「……」

P「この、ロリ貧乳モノのAV……」スッ

千早「……」

P「ごめんなさい……」


P(千早と結婚して数年)

P(またしてもやらかしてしまった)

千早「……」スタスタ

P「っ! 千早、どこに行くんだ?」

千早「どこにって、キッチンですよ。夜ご飯を作らないといけませんから」

P「あ、あの……てつだ」

千早「結構です。プロデューサーはお休みになっていてください」

P「了解しました……」

P(洒落にならないくらい怒っていらっしゃる)

P(家で千早が俺をプロデューサーと呼ぶとき、
 それは生理のときか激怒しているときなんだよな……)


  *  *  *

P「……い……いただきます」

千早「召し上がれ♪」

P「あは、あはは……なんか独創的だな! オムライスに、ケチャップでAAって文字を書くだなんて」

千早「うふふっ、プロデューサー、そういうの好きかと思って」

P「お、おう! 大好きだぞいろんな意味でな! あっはっは!」

アスキーアート?

>>7
ヒント:胸囲

>>10
知ってるよ!

          ,, -‐-、(    / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ∧
         /        /: : : : : : : l: : : : : l、::l: : : 、: : : :、: :ハ  如
         l   )    /: : :l: : l: : ::l: : : : :/ ^.|: : : l: : : : :l: : :ハ 月
          `ーノ    l: : : |: : {: : ::|: : : :/  ,,|-─|─: : :|: : : :l 千
         r─‐┴    |:/: :{: : :l-─: : ::/   l: :,,⊥_|: : ::|: :l : | 早
        /    ア  |'|: : l: : :ト、: :||: /    彳;;;;;;;;;;lヽ: :|_⊥、| で
        l     イ   |: : |: : |,イニァ、    lつ;;;;j|;| /l: |ィ- |l す
         ヽ-┐   ド  l: : lヽ:|{ P;;;;l     L三彡  リ b ノ:|
       _,rv-、 ヽ_,,_ ル  ヽ: | ∧ lミシ'  _   _ /// |_,イ: ::|
       l   └, /       .゙、| ヽl ///  ィ'": : :ノ  /: : :|: : :|
       ヽ__,,_ノ l   や      |>、__二二_ 「: :_|_::|: : :|
      r'ヽ_    \_  っ  人 .l : : : |: : ::_|_:_:|/   `「l   `ヽ::|
      {__,,_ノ   /   て <  >: : : |: :/  |:ト、  ノ |:|    l::|
      r、     |    ま   ∨|: : : : |:/ __/    _/::ト|    |::|
     (,__ノ     !、_   す   ./: : : ::/∠  /.,,ィエフ」::::ヒ{    |::l
    ,, -─- 、    {    。 / : : : /_\ミヽl//三三ミ::|    |:::|
  /: : : : : : l: :.ヽ ポ ゙、__   / : : : ∧_く∧ミ:|/,二(⌒ー':l    |::::l
. /: :|: ::l: :}´ーリ\:| ワ   \_/: : : : 弋三ニノ::::∨二ニ''::::::::| i   |::::l

. {::l: lノ:∨ ○ lr.、 |        `l: : : : :`lー┬''´`ー---‐'''|ノ`ー.┴.┴
 l:∨○  rヘ '''' ∨        l: : : : : :| >''ー─''ー─''゙´
 |: /l '''  l::::| ∩イ:|         `ー─''
 .l::`TTH∩フ| .|:|::l     イ   Eヨ     亡  相
  |: : |:|:| | |::::ノ_ノ:|::|     ̄l ̄ ‐┼‐ の  女  心 o

P「……もぐもぐ」

千早「いかがですか?」

P「あ、あぁうん! いやぁ、本当に美味いよ! たとえ胃が痛くてもいくらでも入るってもんさ!」

千早「ふふっ……、もう、大げさですよ」

P(……実際、千早の料理の腕はここ数年でメキメキ上達しているんだ)

P(結婚当初はまぁ、なんていうか、どうなることかと思ったけど……、
 とにかく、いま俺が食べているオムライスだってそう。実に美味しい)

P(ただひとつ、ここに書かれている文字さえ無ければ、言うことなしなんだけどな……)

P「そ、そういえば! 今朝もらったバレンタインのチョコレートもさ、すごくうまかったよ!
 あはは、事務所のみんなにもついつい自慢しちゃって……それで」

千早「プロデューサー?」

P「どうしたんだいマイワイフ?
 おおっといけない、つい向こうでの喋り方が出てしまったな! HAHAHA」

千早「食事が終わったら、あとで、じっくりお話しましょうね」ニコッ

P「はい……」

──────
────
──

 
  *  *  *

千早「……とりあえず、頭を上げてください」

P「うん……」スッ

千早「私が言いたいこと、わかりますか?」

P「よくわかっております。このたびは、真に申し訳ございませんでした」

千早「……もう二度とこんなビデオは借りないと、あなたは以前そう言いましたね」

P「きょ、巨乳モノは……な?」

千早「ジャンルの問題ではないと言っている!!!」

P「ごめんなさいですぅっ!」

千早「……これまで何度も言っているように、
   こういうものを観たくなってしまう気持ちは理解しているんです。あなたも男性ですから」

千早「でも……でもっ! なぜ、あなたが選ぶビデオはこう、極端なんですか……!?」

『妹は未成熟ボディ~お兄ちゃん、だーいすき~』

P「いやーはは……目と目が逢う瞬間ティンと来るものがあって」

千早「このツインテールに惹かれたんでしょう!? ちゃんとわかっていますからねっ!!」

千早「本当にもう……仮にそれをするにしても、
   もう少し、私の目の届かないところで出来ないんですか?」

P「ごもっともです……」

千早「……まだ、わかるんです」

P「え?」

千早「胸の大きい女性のビデオを借りるのは、百歩譲って、いえ千歩譲ってまだわかるんです。
   前に私が自分でも言ったように、それは私には足りないものだか──

千早「くっ……! 自分で言ってなんだか傷ついてきたわ……!」グッ

P「そ、そんなこと言わないでくれっ! 俺は千早の胸が一番好きだよ!」

千早「え……」

P「俺はな、千早……いつだってお前のことを一番に考えているんだ」

P「朝起きてから、夜眠るまで。常に俺の心の中にはお前がいる……。
 仕事で辛いことがあっても、千早の笑顔を思い浮かべれば、なんだって頑張れるんだよ」

千早「あなた……」

P「そして……こうやって、ひとりでシコ

千早「台無しよ。というか良い話っぽくしようとしても無駄です」

P「はい」

千早「……それで……し、したんですか?」

P「した? な、なにを?」

千早「私が帰ってきたときには、あなたはまだ下着を穿いていたから……。
   ビデオを使って、その……ひとりで、……を、したのかって聞いているんですっ」

P「いや……再生してインタビューの部分を楽しんでたところだったから、まだ……」

千早「……そうですか」

P「あ、ちょっとホッとした?」

千早「調子に乗らないの」

P「すみません」

千早「……」

P「……ごめんな」

千早「……もう、いいです。仕方の無いことだから」

P「仕方の無いって……」

千早「私が家庭に入って、毎日あなたの相手を出来ていれば、
   こんなことにはならなかったんですよね……」

P「……!」

P「ごめん千早っ!」

千早「な、なんですか? また土下座なんてして……」

P「本当ごめん……! このとおりだ!!」

千早「……ですから、ビデオのことはもういいって……私も少し──」

P「ちがう! あ、いや、もちろんそれもそうなんだけど……、
 なにより、千早にそんなことを言わせてしまったことを……謝りたい」

千早「……そんなこと、って?」

P「……『仕事をしていなければ良かったんですね』って、
 それだけは、お前の口から言わせちゃいけないことだった」

P「だから……本当に、すまなかった」

千早「……」

千早「……私も、ごめんなさい」

P「え……?」

千早「あなたがこんなに謝ってくれているのに、意地を張ってしまいました。
   だから……ごめんなさい」

P「千早……」

千早「きっと心のどこかで思っていたんです。こう言えば、あなたは反省してくれるって。
   あなたは今、そのことを私に言わせてはいけなかったって言ったけど……、
   それは私にとっても同じこと。そう簡単に言ってはいけないことでした」

千早「……ずるい手を、使っちゃったわね」

P「ずるいなんて……そんな風には思わないよ」

千早「……ホッとしたのは本当です。たとえ愛はなかったとしても、あなたが一瞬でも
   他の女性のことを考えているなんて……わ、私は……嫌。
   想像しただけで……っ、身が、引き裂かれそうになるんです……!」

P「……! 千早、お前──」

千早「だから!」

P「っ!」

千早「だから……、これだけ、確認させてください」

P「……確認?」

千早「……私の、こと……」

P「……」

千早「一番に、愛していますよね……?」

P「! な、何言ってるんだ、当たり前だよ!」ガシッ

千早「きゃっ……」

P「今こんなこと言ってもさ、信用できないかもしれないけど……、
 千早と付き合い始めたあの日から、千早以外の女性を好きになったことなんて、一度もない」

千早「……本当ですか?」

P「ああ……」

千早「……ふふっ。それなら、もういいです。
   あなたはちゃんと謝ってくれたし、私ももう、気にしないから」

P「……でも、俺が悪いのにこんなことを言うのも変だけど、
 千早はもっと俺のことを責めたって……」

千早「もう、責めたでしょう?」

P「そりゃそうだけど……あれくらいで」

千早「……確かに、悲しい気持ちにはなりました。
   だけど、いつまでも意地を張ってこんな空気のまま過ごすほうが、私は嫌だから」

千早「私はただ……このままふたりで幸せに、笑顔で一緒にいられれば、それで良いんです」

P「……本当に、ごめんな」

千早「私も、つまらないことでまた怒ってしまってごめんなさい。
   それと、あんなことを言ってしまったことも……ごめんなさい」

千早「もう私はアイドルではないけれど、私は、今の自分のことが好きです。
   あなたと一緒に、今の仕事をしている自分が好き。だから、さっき言ったことは撤回します」

千早「……はい。これでもう、この話はお終いにしましょう?」

P「……うん」

千早「もう、そんな顔をしないでください。そんなの、いつものあなたらしくないですから」

P「いつもの俺?」

千早「……自信満々で、いつもわけのわからないことを言ってくる……、
   私の大好きな、プロデューサーの顔ですよ」

【寝室】

P「……千早、こっちおいで」

千早「……はい」モゾモゾ

P「……最近、千早、変わったって思うよ」

千早「変わった? そうですか?」

P「うん。前はさ、なんていうか……
 素直になれずに、怒ったらしばらくそっぽ向いてたじゃないか」

千早「そ、そんなつもりも無かったんですけど……」

P「……何か、あったのか?」

千早「……いいえ、何も。ただ、優先順位が変わっただけです」

P「優先順位?」

千早「ええ。私が意地を張ることで、素直になれないせいで、この幸せな日常が崩されてしまうなんて……
   それこそ、いやだなって思うようになったんです」

ぎゅぅっ……

千早「……さっきも、それに以前にも言ったでしょう? 私は、今の私が好きだから。
   そして、今の私を形造っているものは……、なによりも、あなたの存在なんです」

P「……本当に嬉しいよ、そう言ってくれて。
 でもさ、そんな風に考えたら、色々と不満を溜め込んじゃうんじゃないか?」

千早「そんなことはありません。だって私、いやなものはいやだと、ちゃんと言いましたから」

千早「気持ちのすべてをしっかりと話した上で、あなたと仲直りする……。
   結局、それが一番の近道なんだっていうことに、気が付いたんです」

P「千早……」

千早「……でも、私が悲しくなったのは本当ですからね?」

P「う、うん」

千早「だから、あのビデオは明日にでも返してきてください。
   それと、ひとりでするならするで……せめて、私の目の届かないところでして」

P「……ああ、わかった。名残惜しいけど、あれは明日の朝、事務所に出勤するついでに返してくるよ」

千早「……今回のことはもういいけれど、これからも何度も何度もこんなことがあったら、
   また、私……泣いてしまいますからね」

P「……ごめんな」

千早「ふふっ、謝るのはもういいですから。……それより、その……」

P「ん? その……なんだ?」

千早「……だから、えっと……」モジモジ

P「千早……?」

千早「ま、まだですか?」

P「まだって……えっと、なんの話?」

千早「……まだ、言ってくれないんですか?」

P「言うって──あ」

P(……ああ、なるほど。千早が言いたいこと、なんとなくわかった気がする)

千早「わかってくれました……?」

P「いやー、ごめん。さっぱりわからないよ」

P(……でももう少し、様子を見よう。かわいいし)

千早「も、もうっ! どれだけ鈍感なのよ……!」

P「千早の口から言ってくれないか?」

千早「ええっ!? ほ、本当にわからないんですか? からかってる、とかじゃなくて……」

P「からかうなんてとんでもない! 俺はいつだって、千早に対しては誠実でいるつもりだよ!」キリッ

千早「…………じゃ、じゃあ」


千早「………………仲直りの、しるしに……………………、愛してるよ、って、言ってください」ボソッ

P「……ちは──」

千早「ちがいますからねっ!」

P「えっ」

千早「だ、だって! いつもだったらこういうとき、
   まるで『千早が怒ってもこう言えば誤魔化せるだろ』って勘違いしてるんじゃないかってくらい、
   えっと……わ、私のこと、大好きだよ、とか、愛してるよ、とか」グリグリ

P「あ、あの、ちょ待って、頭グリグリしないで、苦しい」

千早「だから変だなって! ど、どうして、いつまで経っても言ってくれないのかしら、って!
   もしかして、まだなにか後ろめたいことでも隠してるんじゃないかって……そう、確認をっ」

P「いや、後ろめたいことなんて、そんなわけ」

千早「で、ですから別にっ、深い意味なんてなくてですねっ……!」

P「千早っ!」

千早「はいっ!」

P「……落ち着いて。後ろめたいことなんて、もう何もないから」

千早「は、はい……」

P「こういうのは、まだ照れちゃうんだなぁ」

千早「て、照れてなんかいませんっ!」

P「ごめんな。からかっちゃったりして」

千早「い、いえ……、勝手に取り乱したのわた──え? からか……」

P「」ニヤニヤ

千早「っ!! や、やっぱり騙したのねっ!?」

P「あはは、悪い悪い! それで、えっと……」

千早「……もういいですっ」プイッ

P「愛してるよ、千早」

千早「……」

千早「……そ、そうですか。まぁ、私はあなたのこと、嫌いですけれど」ツーン

P「えっ!? ま、マジか……」ズーン

千早「え……」

P「……千早に嫌われた……もう終わりだぁ……」

千早「あ、あのっ! ちがくてっ! だってわかるでしょう、今のは、うそ──」クルッ

P「」ニヤニヤ

千早「……────~~~っ! ばかっ!」

P「おーい、機嫌を直してくれよ……」

千早「……」ツーン

P「悪かったって……慌てる千早が可愛くてさ、ついつい」

千早「か、可愛くなんてありませんっ。あんな姿……」

P「……うん、まぁ、確かにそうだな。慌てる千早が可愛いっていうのは、間違ってた」

千早「……え……」

P「……」

千早「な……それは、そうですけど……でも、いつもだったらあなたは──」

P「慌ててなくても、千早は常に世界一可愛いから」

千早「……!」

ぎゅうっ

千早「……ばか」グリグリ

P「あはは……」

P「……千早」

千早「なんですか……」

P「愛してるよ、本当に」

千早「…………。……じゃ、じゃあ……証拠、見せてください」

P「証拠?」

千早「言葉だけでは、なんとでも言えます。何が面白いのか知りませんけど、
   あなたはすぐからかってくるし……だから、愛してるって証拠を見せてくれないと、信じられません」

P「そうだな……どうしたらいい?」

千早「……まず、抱きしめてください。思いっきり」

ぎゅぅぅぅ

千早「! ……そ、それから……頭を撫でて」

P「うん……」ナデナデ

千早「……ばか、ばか」

P「はは……今日はやけにばかって言われる日だな」

千早「あなたのせいですからね……」

P「……うん、そうだな」

P「……なぁ、千早」

千早「え……?」

P「いいかな」

千早「……!! い、いいって、なにがですか」

P「パジャマ、脱がしてもいいか?」

千早「……それで、どうするんですか?」

P「キスをするんだよ」

千早「キスくらい、服を脱がなくたって……」

P「脱がせないとできないところにキスをしたいんだ」

千早「……な、なんであなたはそういうこと、サラっと言えるんですか……」

P「……だめ?」

千早「……だめです」

P「……」

千早「……」

千早「……うそ、です……」

千早「……しかたないですから」

P「しかたないって?」

千早「だから……さっきは、結局ひとりで出来なかったみたいだし……
   ああいうビデオを借りてくるってことは、あなたも今、我慢しているってことだろうし」

千早「……だからです」

P「……ひとりでするのより、千早とするときが、一番だよ」

千早「べ、べつにそんなこと聞いていませんっ!」

P「あはは……えっと、それじゃあ……ばんざいしてくれる?」

千早「うぅ……」カァァ

シュルシュル……

P「……千早」

千早「ま、待って! あの……おねがいが……」

P「え?」

千早「……する前に……部屋を真っ暗にして欲しいのと……あと」

千早「……ちゃんと、一番最初に……、私の唇に、キスをしてください」

P「……うん、もちろん」

千早「……ん……ぷは」

P「……千早、今日はごめんな」

千早「……こんなときにまで謝るのは、やめてください。
   謝るくらいなら……、本当に、申し訳ないって思っているなら……」

千早「その分、たくさん……私のことを、愛してください……」

P「……ああ、わかっ




(いぇーい高槻やよいです! 貧乏ですけどガンバりますけど、とりあえず今日は省略しまーす!)



──────
────
──

千早「……ってことが、昨日あって」

春香「ごちそうさまでした」

千早「春香、もう食べないの? 口に合わなかったかしら……」

春香「ちがうよっ、おいしいよ! じゃなくてっ!
   のろけ話をこんなに聞かされて、もう胸がいっぱいだって言ってるのよ!」

休憩しますぅ

春香「もー、千早ちゃんたち、結婚して何年経ったっけ?
   いつまで経ってもラブラブでいいなぁちくしょうめ!」

千早「何よその喋り方……というか、春香」

春香「へっ?」

千早「突然遊びに来てお昼ごはんをねだってくるのはいいけど、時間は大丈夫? 今日も仕事なんでしょう」

春香「あー、うん。十四時くらいまではね」

千早「そう……ところで、そう言うあなたは、いい加減に良い話ないの?」

春香「んー、私? ないない、全然ないって~……もぐもぐ」

千早「……本当? 人に言えないようなこと、してたりして……」

春香「っ!? けほっ、こほっ!」

千早「ああもう、いつまで経っても落ち着きがないんだからっ。
   誰も取ったりしないんだから、ゆっくり食べなさいよ」

春香「あたしのお母さんか! ……っていうか、
   言えないことなんてしてるわけないでしょっ! もう、どんなこと想像してるの?」

千早「ど、どんなことって……、それは…………」モジモジ

春香「……千早ちゃんってさ、意外とそういう話、好きだよね」

千早「ご、誤解よっ!」

千早「と、とにかく、私は嫌よ。ある日突然、春香を芸能以外のニュースで見ることになるなんて」

春香「だからぁ~……何かあったら、すぐ千早ちゃんに言うってば。
   それにさ、私は今でも、みんなに歌と夢と笑顔を届けるアイドル! なんですから!」

春香「天海春香、二十代中盤に差し掛かってもまだまだ現役っ! 若い子には負けませんよ!」

千早「……ふふっ、アイドルに恋愛はご法度だからね」

春香「えへへー……まぁ、あの頃口をすっぱくしてそんなこと言ってたプロデューサーさんと、
   あの真面目な千早ちゃんが、本当に結婚しちゃったんだけどねぇ」


  *  *  *

春香「ふぅー、お腹いっぱい。今度こそほんとに、ごちそう様でした」

千早「あの量、よく食べきったわね……」

春香「おいしかったからね! 千早ちゃん、本当にお料理の腕前上がったよねー。
   やっぱり食べてくれる人がいるからかな?」ゴロン

千早「ありがとう。まぁ……たしかに、料理を作る機会は、比較にならないほど増えたから」

春香「……あーあ、千早ちゃんが私の旦那さんだったら良かったのにな」ゴロゴロ

千早「何言ってるのよ。そういう台詞は、真に言ってなさい」

春香「本気で怒られちゃうもん……」

春香「それに真ったら、今ではすーっごく女の子らしいんだよ?
   さすが女優さんだよね、ほんっとに綺麗で可愛いんだから。王子様なんて昔言われてたのが嘘みたい」

千早「まぁ、そうね……というか、春香?」

春香「なにー?」ゴロゴロ

千早「食べてすぐ横になったら丸くなるわよ」

春香「いーんですー。もう映画の撮影終わったんだもーん」ゴロゴロ

千早「まったく……あなたのファンがこんな姿見たら、なんて思うかしらね」

春香「オンとオフの切り替えは大事だって、律子さんも言ってた。
   それにね、最近はこういう、生活感溢れるアイドルっていうのが受けるんですよっ」

千早「……ふふふっ」

春香「えへへー……」

千早「十四時までってことは、もう少しゆっくりできるんでしょう? お茶、いれるわね」

春香「おー、嬉しいっ! さっすが私の嫁!」

千早「さっきは旦那とか言ってなかった? それに私は、春香じゃなくてあの人の嫁です」

春香「ちぇー。千早ちゃん、結婚して色々性格変わったと思ったけど、
   そういうところは相変わらず真面目なんだから」

千早「春香のほうこそ色々変わったと思うけどね。それともそれが、あなたの素なのかしら」

コポポ……

春香「……ねー、千早ちゃん」

千早「どうしたの?」

春香「あのさ……、そんなにラブラブなら、もうそろそろ……」

千早「……」

春香「……ううん、やっぱりなんでもないや」ゴロゴロ

千早「……今更、気を遣わなくてもいいのよ? 私とあなたの仲じゃない」

春香「えへへー……私が言いたいこと、わかっちゃった?」

千早「わかるわよ。でも、まぁ……そうね。
   私も、考えてはいるんだけど……こればかりは、簡単に決めていいことじゃないから」


  *  *  *

千早「はい。ココアで良かったわよね」コトッ

春香「ん、ありがと。千早ちゃんは相変わらずコーヒーなんだね」

千早「ええ、まぁ──って、春香、その本……」

春香「ふっふっふ……さっきゴロゴロしてたら見つけちゃいました! 思い出のお菓子作りの本!」

春香「……千早ちゃんさ、これ読みながら、一生懸命バレンタインのチョコレート手作りしたんだよね。
   チョコ・フォンデュだっけ? 作ったの。たしかあの頃出した、千早ちゃんの新曲が……」

千早「……よく覚えてるわね、そんな昔のこと」

春香「だって、私が言い出したことだもん。プロデューサーさんにチョコあげなよ、って。
   それなのに千早ちゃんったら、『別に好きじゃないよぅ、恥ずかしいよぅ』なんて言っちゃって……」

千早「そ、そんな風には言ってなかったでしょうっ?」

春香「あれ、そーだったっけ? えへへ……」

パラララ……

春香「……あのとき、ついついしちゃった告白から、いろんなことが変わったんだよね」

千早「……そうね」

春香「あーあ、これでここにやよいがいたら、あの頃のユニットメンバー勢揃いなのになぁ」

千早「でも、たか……じゃなくて、やよい、大学生活で忙しそうだから、しかたないわよ」

春香「あははっ! また高槻さんって言いそうになった。
   『よそよそしい呼び方はもうやですーっ!』って、またやよいに怒られちゃうよ?」

千早「似てないわよ。……でも、まぁ、私はあの子の怒った顔も……だし……それはそれで……」ボソボソ

春香「えっ?」

千早「なんでもないわ」

  *  *  *

春香「……それでそのとき、美希ったら」

『千早さんとキスしたら、ハ……じゃなくて、プロデューサーとも間接キスしたことになるかな?』

春香「ってね、あの子なりに、わりと真剣に考えてたんだよ。
   あははっ、あの頃は結構、いやかなり大変だったけど、今思うとおかしいよねっ!」

千早「そ、そうだったの……だからあの頃、神妙な顔をしながらやたらとくっついてきてたのね。
   今度からどんな顔して会えばいいのかしら……」

春香「えへへー……でもほーんと、懐かしいなぁ。
   あ、あとあと! あのときさ、プロデューサーさんが千早ちゃんにプロポーズしたときも……」

春香「──って、いけないいけない」

千早「……? どうしたの?」

春香「なんだか、昔話ばかりになっちゃってたわね……最近はこればっかりだなぁ」ポリポリ

千早「ふふっ、でも、こういうのもいいじゃない。思い出はいくら語っても尽きないもの」

春香「……でもね、千早ちゃん。昔話に華を咲かせるようになると、それは年を取った証拠なのよ?」

千早「……それ、誰に言われたの?」

春香「小鳥さん」

千早「ああ……音無さんらしいわね」

春香「……ね、千早ちゃん」

千早「なに?」

春香「プロデューサーさん結婚して……、良かった?」

千早「……ええ、もちろん」


千早(……春香とは、私がアイドルだったあの頃から、ずっと一緒だった。
   人には話せないようなことも、上手に聞き出してくれて……、
   そしていつだって、私の味方だった)

千早(だから春香は、私がその頃に抱えていた悩みも、
   私たちの馴れ初めも、どんな風に過ごしてきたかも、すべて知っている。
   だから……)


千早「あの人と結婚して夫婦になったこと、それを後悔したことは……一度もないわ」

春香「……そっか! えへへ、それを聞けて良かったよ」


千早(だから、こんな風に笑ってくれる。心から、私達の幸せを喜んでくれる)

千早(……そして私は──)

ちょっと日本語が気になるので訂正
×春香「プロデューサーさん結婚して……、良かった?」
○春香「プロデューサーさんと結婚して……、良かった?」
でオナシャス

 
千早「……ありがとう、春香」

春香「えー? どうしたの、急にお礼なんて言っちゃって」


千早(……そして私は)

千早(あなたに出会えたことを、そんな親友を持てたことを、何よりも誇りに思う)



千早「なんでもないわ。ただなんとなく、そう思っただけ」

春香「ふふっ……へんな千早ちゃん」


千早(……恥ずかしいから、面と向かってこんなこと、言えないけれど)

千早(でもきっと、それは……言葉にしなくたって、あなたには伝わってしまっているんでしょうね)

春香「いやー、でも、結婚かぁ~。話を聞いてると、なんだか私まであこがれちゃ──」

ピピピ……

春香「ん……うわっ、もうこんな時間!?
   ご、ごめん千早ちゃん、私、そろそろスタジオ行かないと! 律子さんにまた怒られちゃうっ」

千早「そう……。それじゃあ、しゃちょ──じゃなくて、律子にもよろしく言っておいてね。
   あと……ごめんなさい、久しぶりに会いに来てくれたのに、
   今日は私の話ばかり聞かせてしまって」

春香「ううん、気にしないで。千早ちゃんとこんな風にお喋りできるときが、私、一番楽しいから」

千早「そ、そう……」

春香「あっ、照れてる~」

千早「そそ、そんなんじゃないったら!」

春香「えへへ……また家に呼んでね! 次に日本に帰ってくるのは、えーっと……」

千早「三月の末。あなたの誕生日までには、また帰国するわ」

春香「え……そんなに早く?
   も、もしかして……、スケジュール調整してくれたの? 私のために?」

千早「ふふっ、さぁ、どうかしらね? あの人に聞いてちょうだい」

春香「……あはは……そ、そっか……」ウルウル

春香「……も、もう、参っちゃうな。
   ふたりとも、相変わらず、ふいをついてくるんだから……」ゴシゴシ

千早「春香……」

春香「でも……本当に……、嬉しいよ……!」

ぎゅぅっ

春香「! ち、千早ちゃん……これ、ハグってやつ? さすが海外暮らししてるだけあるわね……」

千早「……春香。どんなに離れていたって、同じアイドルでは無くなったって……、そんなの関係ない」

千早「だって、私たちはずっと……──でしょう?」

春香「……うん……そうだね!」ギュー


  *  *  *

春香「……お昼ご飯、ごちそう様。すっごくおいしかったよ」

春香「プロデューサーさんにも、春香が会いたがってたって言っておいてね。
   忙しい忙しいなーんて言って、最近は765プロの方にはあんまり顔出してくれないんだもん」

千早「ええ、わかったわ。忙しい中、わざわざ来てくれてありがとう。
   それじゃあ……またね」

春香「うん、またねっ! 次会えるときまで、千早ちゃんの歌、日本で聴きながら待ってるから!」

  *  *  *

千早「……」

千早「……後片付け、しないと。春香の使った食器……」


ジャー……


千早(……春香が帰って、ひとりきりになって……
   改めて、この家の広さを……、身にしみて感じてしまう)

千早(私がこの家にいるとき、いつもはあの人がそばにいてくれて……
   今日は、私だけオフだったけど、ちょうど春香が会いに来てくれて……)


千早「……」


千早(いつから、こんなに、さみしがり屋になってしまったのかしら)

千早(元気で賑やかな春香が帰ってしまったから? それとも、昔話をしたせい?)


千早「……ううん。どれも……、ちがうわね」


千早(……いつから、とかじゃない。
   今思えば、私は最初から……、さみしがり屋だったのよ……)

千早(まだ十六歳だった、あの頃の如月千早も、
   結婚して苗字が変わった、今の千早も……)

千早(これまで生きてきたどんな私も……本当は、そうだった)


ジャー……
         キュ、キュ……


千早(私は、小さな子供だったときから、本当は、ずっとずっと……)

千早(ひとりになるのが、怖かったんだ)


     『……──えちゃん!』


千早「……っ!」

千早(──この手で繋いでいたはずの、大切な何かを失うのが……何よりも、怖かった)

千早(だからあの頃の私は……それを失うくらいなら、そんなもの、最初からなければいいって思って……)


……ポタ、ポタ


千早「……、……! ……──な、た……」

千早(……でも、今の私には……、失いたくない宝物がたくさんある)

千早(数え切れないほどの思い出を作ってきた、大切な仲間達と)

千早(そんな中で出会えた……私のことを世界で一番理解してくれる──大切な親友)

千早(私の人生そのものと言ってもいい、大切な歌の数々。そしてなにより……)


千早「……あなた……!」


千早(それまでの私の世界のすべてを変えてくれた、大切なプロデューサーであり……)

千早(そして、今の私のことを……、世界で一番愛してくれる──大切な夫)


ポタ、ポタ……


千早「……はやく……」

千早「はやく帰ってきて……」ポロポロ

──────
────
──

ガチャッ

P「ただいまー」

千早「!」

タッタッタ

千早「……おかえり、なさい」

P「うん。いやーごめんごめん、帰りにちょっと買い物してたら遅くなっちゃって……」

P「……って、千早?」

千早「は、はい……なんですか?」

P「……いや、玄関まで走って迎えに来てくれるなんて珍しいなって思って」

千早「……あなたの顔を、はやく見たかったんです。
   あの……だめ、でしたか?」

P「いやいや、そんなわけないって! もちろん嬉しいさ、旦那冥利に尽きるっていうか……」

P(……千早の目、赤くなってる……?)

千早「……えっと……」

P「……」

千早「……夕飯の準備、しちゃいますね。もうあと少しだから」

P「……いや、いいよ」

千早「でも……、お腹、空いてるんでしょう?」

P「たしかにそうだけど……でも、まだいい」

千早「なんで……」

P「……」テクテク

ぽふん

P「いやー、やっぱりこのソファはいいな。奮発したかいがあったってもんだ。
 事務所の安椅子とは大違いだよ」

千早「あなた……あの──っ」

P「千早」

千早「……っ」

P「……隣、おいで」

千早「……はい」

千早「……」

ぽふんっ

P「……ほら、これ。受け取ってくれ」スッ

千早「え? これって……」

P「帰りが遅くなったのはさ、これを買いに行ってたんだ」

千早「……チョコレート?」

P「うん。まぁ、バレンタインには一日遅くなったけど……たまには、男のほうからあげたっていいだろ?
 前に撮影で使わせてもらった店なんだけどさ、ちょー高級で美味しいやつなんだぞ、それ」

千早「……ふふっ、昨日のお詫びですか?」

P「あはは……バレたか」

千早「こんなプレゼント貰わなくても、もう、気にしてないのに……」

P「……一粒、食べてみてくれよ」

千早「……はい。それじゃあ……」

パクッ……

千早「……」

千早「……甘い……」

モグモグ……

千早「……美味しいです、とても」

P「……なぁ、千早」

千早「……?」

P「目、赤くなってた気がするんだけど」

千早「そ、そうですか? ゴミが入っちゃったのかしら」ゴシゴシ

P「……」

千早「……今日、春香が会いにきてくれたんです」

P「春香? なんだ、春香が家に来るなんて随分久しぶりだな」

千早「ええ。それで、少し昔の話を……」

P「……そっか」

千早「……ふふっ、あなたに会いたがってましたよ?
   日本にいるときくらい、私たちの事務所だけじゃなくて、
   たまには765プロの方にも顔を出してあげてください」

P「あはは、そうだな……」

P「……」

千早「……あの、あなた……」

P「ん?」

千早「……それ以上は、何も聞かないんですか?」

P「千早が話したくなったらでいいさ」

千早「……」

千早「……お願いが、あるんですけど」

P「お願い? なんだ、言ってみて」

千早「目が、まだ少し、痛いんです。
   だから……、目の中に入ったゴミを、取ってくれませんか?」

P「……うん、わかった。どれどれ──」クルッ

千早「……っ」

ちゅっ……

P「……ゴミなんて、見当たらないな」

千早「……それはそうです。だって、目が痛いなんて嘘」

千早「ただ……、こっちを向いて欲しかっただけですから」

 
ぎゅぅぅぅっ

千早「……あなた……あなたっ……!」ギュー

P「うん、うん……」

千早「わっ、私、なんだか、よくわからないけど……っ、
   春香が帰って、ひとりになったら……、急にさみしく、なっ……て……!」

P「そっか……よしよし」

千早「あなたが帰ってくるまで、ずっと私、ひとりで……!
   も、もしこのまま……あなたまで、帰ってこなかったら、どうしようって……!!」

P「……大丈夫、俺はいなくならないよ」

千早「でも──」

P「あのプロポーズのとき、こう言ったよな。
 生涯、千早をひとりぼっちになんてさせないってさ」

千早「……!」

P「……俺がその約束破ったこと、ないだろ?
 だからもう、何も言わなくていいよ。言わなくても、ちゃんと俺はわかってる」

千早「……う、う……!」

P「何も気にしないで、今は思いっきり泣いていい。泣き止むまで、頭を撫でてあげるから」

朝ごはん食べる

保守ありがとうございます
再開する

  *  *  *

千早「……ごめんなさい」ズビッ

P「気にしないでいいって。あーあー、鼻水が……ほら、ちーんして」

千早「こっ、子ども扱いしないでくださいっ!
   それくらい、あなたに頼らなくても、自分で出来ますから……」

ちーん!

P「……すっきりしたか?」

千早「……はい」

P「そっか……それなら良かった」

千早「……私、だめですね」

P「え? だめってなにが?」

千早「いつまで経っても、あなたに甘えて……。
   特に何があったというわけでもないのに、こんな風に、迷惑をかけてしまうから」

P「……迷惑なんかじゃないよ」

千早「でも……」

P「絶対、迷惑なんかじゃない。だってさ……、
 嬉しいことも、悲しいことも、ふたりで分かち合うのが、夫婦だろ?」

次回は何のジャンルでPは怒られるのだろうか

千早「……」

千早「……私、あなたと出会えて良かったです」

P「……急にどうした?」

千早「あなたに出会えてなかったら……、
   いま私の胸に生まれた気持ちを、知ることが出来なかったから」

P「……千早。それは、俺だって一緒だよ」

千早「え? いっしょ?」

P「うん。あのとき千早に出会ってさ、最初はなんていうか、
 千早をプロデュースするのは大変だなって思うときもあったけど……」

千早「……ふふっ、私、わがままばかりでしたからね」

P「あはは、今となっては良い思い出だよ」

P「……それからさ。だんだんと、少しずつ、千早との距離を近づけていって……
 アイドルとしてじゃない、千早本人の魅力っていうのを知っていった。
 そして……本当に、色々とあったけれど……、こうして夫婦になったんだ」

千早「……」

P「今の俺の原動力は、千早だ。
 千早の笑顔のためなら、なんだって頑張れる。だから……」

P「俺も、千早といっしょ。千早と出会えて……良かった」

>>111
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千早「……──」

ポロッポロ……

P「え!? な、なんでまた泣くんだ?」

千早「……」ゴシゴシ

千早「……泣くことならたやすいけれど、悲しみには……、流されない」

P「……? 蒼い鳥?」

千早「……あなたのプロポーズに返事をしたとき、私はこう決めたんです。
   もう、ひとりで涙を零して……、悲しみに流されるのはやめようって」

P「……」

千早「泣くときは、あなたの腕の中で……。
   そうすれば、きっと……、泣く前よりもずっと……私は強くなれるから」

千早「だからこれは、悲しくて泣いているんじゃありません。
   あなたの言葉が、嬉しくて……、泣いているんです」

P「……そっか」

千早「あなた……」

P「ん?」

千早「……愛しています。世界中の、誰よりも」

 
P「千早……」

ぎゅぅっ

千早「ん……」

P「……」

千早「……」ドキドキ

P「……千早の心臓の音が、よくわかるよ」

千早「……ふふっ、私も……。
   あなたの心臓の鼓動、あなたの熱い体温、そのすべてが……
   まるで、私とひとつになったみたいに感じます……」

P「……千早、あの──」


ピ──!!


P・千早「!?」

千早「い、いけない……お鍋が……」

P「あはは……そ、それじゃあ、いい加減、夕飯にしよっか」

千早「……はい」

タッタッタ……

千早「……あの……」チラッ

P「……続きは、夕飯のあとでな」

千早「も、もう……」プイッ

P「ふふふ、どんな顔してるんだー?」

千早「こ、こっちに来ないでくださいっ! 料理の邪魔ですっ!」

P「ひ、ひどいな」

千早「……ばか」

P「あはは……」

千早「……でも」


グツグツ……


千早「……好き」

P「んー?」

千早「ど、どうせ聞こえてるんでしょう? そういうところは、嫌いですっ」

──────
────
──

【寝室】

P「……千早」

千早「……」ツーン

P「あの、悪かったって……」

千早「……私が何を怒っているか、わかりますか?」

P「……」

P「さっき一緒に風呂に入ったとき、その……ついつい」

千早「……お風呂は、嫌なんです。明るいから……」

P「で、でも、ちょっといじくっただけだったし、それに千早だってまんざらじゃ──」

千早「……──~~!!」ポコポコ

P「ご、ごめんごめんっ!」

千早「……」

ぎゅっ

P「……ち、千早?」

千早「……いいから。はやく、抱き返してください」

P「あ、ああ……」

ぎゅぅっ……

千早「……やっぱり、ここにいるときが、一番好きです」

P「ここって?」

千早「ベッドの上で……、あなたの腕の中にいるとき」

P「……」

千早「夜眠りにつくときも、朝目が覚めるときも……
   いつもあなたがそばにいてくれるこの場所が……、私は、一番好き」

P「……うん」

千早「……あなた」

P「うん?」

千早「……愛して、ください。さみしさも全部、忘れてしまうくらいに……」

P「……千早……」

千早「……んっ……」

P「……それじゃあ、脱が──」

千早「……?」

P「あっ」

千早「な、なんですか?」

P「ご、ごめんっ、千早!」

千早「ごめんって……なにが?」

P「……アレ、切らしてるんだった」

千早「アレ? アレ、って……」

千早「……」

千早「……ええっ!?」

P「昨日、一箱まるまる使っちゃったんだったな……」

千早「たしかに、そういえば……で、でも……それじゃあ……」

ののワ「子・作・り!! 子・作・り!!」

のワの「」

P「……ちょっとコンビにまでひとっ走りして買ってくるよ」スック

千早「……! ま、待ってくださいっ」ガシッ

P「え?」

千早「行かないで……ひとりに、しないで」

P「……でも……」

千早「……、……!」

ドックン ドックン……

千早「……い、今から、私が言うこと……、ちゃんと聞いてください」

P「……うん」

千早「たしかに、こうなってしまってから言うけど……、
   私は、本当に真剣で……簡単な気持ちで言うつもりは……ないから」

P「……わかった。言ってみてくれ」

千早「…………きょ、今日は……」


千早「今日は、アレを……つけなくて、いいです」

P「……!」

『……ねー、千早ちゃん』

『あのさ……、そんなにラブラブなら、もうそろそろ……』


千早(……今日、春香からも、こう言われたけど)

千早(私は、私なりに……そのことを、ずっと考えていて……)


千早「……色んなこと、たくさん考えました。
   出来ることなら考えたくなかったことも……たくさん、考えました。
   大切なことだから、簡単に決断していてはいけないって……、わかっています」

千早「でも、それでも私は……!」



千早「私は、あなたのことを、世界中の誰よりも、愛しているから……」

千早「あなたと私の間にある、この愛を……
   はっきりとした形にして、この両手で抱きしめたいから……!」


ぎゅぅっ……


千早「──だから、私は……」

千早「あなたとの、赤ちゃんが欲しいんです」

千早「……」ドキドキ

P「……赤ちゃん、か」

千早「……あの、でも……あなたがだめというなら、私は……」

P「……だめなんかじゃないよ」

千早「! そ、それじゃあ……!」

P「……そうだね。俺達も、もう結婚して数年……
 そろそろ、いいのかもしれないな」


P(……まだだ)

P(まだ、──ちゃだめだ……)


千早「……あなた」

P「ん?」

千早「……ありがとう」

P「……なんで、ありがとうなんだ?」

千早「あなたはいつだって、私のことを気遣って……、
   『そのこと』を、言葉にしないでいてくれるから……」

P「……余計な言葉なんて、要らない。
 俺が千早に対して抱いている気持ちは、たったひとつだけなんだから」

千早「ひとつ……?」

P「……俺は、今の千早のことを愛している。世界中の、誰よりも……」

千早「……」

P「それは、千早もいっしょだろ?」

千早「……はい!」

P「それなら、なんにも心配することないよ。
 大丈夫、なにがあったって……俺達なら、きっとうまくいく」

千早「……あなた」

P「……」


ちゅっ……


千早「……──」


P(──もう俺達はこれまで、何度唇を重ね合わせたかもわからないけれど……)

P(千早の唇は、このとき、少しだけ……、震えていた)

P(……それなら、千早が震えているのなら……
 俺に出来ることは、たったひとつだけだ)

P(俺達なら、きっとうまくいく。それを千早に、心から信じさせてやること……)

P「……大丈夫、大丈夫だよ」

千早「……、……!」

P「そうと決まれば……ほら、ベッドに戻ろう」

千早「…………」コクン

P「……さみしい気持ちも、不安な気持ちも……。
 千早が抱えてるものは、俺が全部、消してあげるから」

P「だから……心配するな」

千早「……」

千早「……はい……!」

P「 千早との結婚生活」

 


(…………)



──────
────
──


P「ん……?」パチッ

千早「……すぅ……すぅ……」

P「……」


P(……真夜中に、ふと目が覚めて……、
 隣で寝ている、妻の顔を見た)

P(……とても幸せそうな寝顔だ)

P「……千早。いまお前は、どんな夢、見てるんだ?」ナデナデ

千早「ん……」

P「幸せな夢なら、いいんだけどな……」


P(……でも、結婚してから気づいたことだけど……)

P(幸せな夢を見ると、千早はときどき、
 どうしようもなく悲しい気持ちになってしまうときがあるんだ)


 『私のそばを……勝手に、離れないでください……!』


P(……そんなとき、彼女は少し混乱してしまって……
 この間も、こんな風に言われてしまった)

P(きっと、目が覚めるとき──目の前にあった幸せが消えるとき、
 その喪失感が、千早の心を、強く締め付けてしまうんだろう)


P「……」


P(だから俺は……喧嘩をしたときだって、いつだって……最後には千早と一緒に眠る)

P(目が覚めたときに隣にいてやることで、その喪失感は、少しだけ軽くなるから……)

 
『──だから、私は……』

『あなたとの、赤ちゃんが欲しいんです』


P(……まさか、千早の口からこんな言葉を聞ける日が来るなんて)

P(本当にあれから……千早と出会ったあのときから、長い時間が経ったんだな……)


P「……っ、……!」


P(……それまでの千早の人生のこと……千早の身に起きてしまった、様々な出来事のこと)

P(その言葉に含まれた、彼女の気持ちのこと、そして……彼女の心の変化のことを考えると……)

P(嬉しいはずなのに……、なぜか、強く胸が締め付けられてしまって……)



P「……千早……!」

ポロポロ……


P(そして、俺は……)

P(彼女が寝ているすぐそばで……声も出さずに、少しだけ泣いてしまった)

モゾモゾ……

千早「……? あなた……?」

P「──! ち、千早……ごめん、起こしちゃったか」

千早「……。泣いているんですか……?」

P「……」ゴシゴシ

P「……大丈夫、悲しいことがあったわけじゃないから」

千早「じゃあ、嬉しいこと?」

P「……ああ、そうだよ」

千早「……そうですか。でも……だめですよ」

ぎゅっ

P「……?」

千早「それだったら、なおさら、どうして泣いているのかを話してください」

P「なおさらって……」

千早「……だって、あなたもさっき、言ってくれたように……」

千早「嬉しいことも、悲しいことも……
   どんなことだって、ふたりで分かち合うのが……夫婦なんでしょう?」

P「千早……」

千早「……大丈夫。私だってもう……昔ほど、弱くはないから」

千早「今の私の隣には、あなたがいるから……
   だから、何も怖くありません。どんなことだって、話してください」

P「……うん、そうだな。
 それじゃあ、少し……、昔の話をしよっか」

千早「……はい」

P「あれは……、ああ、そうだ。千早と俺が、初めて出会ったとき──」


P(……これからも、俺たちはこんな風に生きていくんだろう)

P(きっとまた、喧嘩をしてしまうこともあるし、悲しい気持ちになってしまうこともある)

P(でも……そのたびに、俺たちはこうやって……
 なんだって伝え合って、一歩ずつ歩いていくんだろうな)

 
  *  *  *

P「それでさ……」

千早「……ふふっ、あなた?」

P「ん?」

千早「愛しています……世界中の、誰よりも」

P「……うん、俺もだよ」

千早「……だから……」



千早「これからも、いつまでも……」

千早「ふたりでいっしょに、歩いていきましょうね」

P「……ああ、もちろん!」

おわり

おわりです。読んでくれた方、支援してくれた方ありがとうございました
今更だけど、
千早「パイズリってこうやるんですね、なるほど」
というSSの続きでした 続きものでごめんなさちーちゃん世界一かわいい結婚したわ


良かったら他に書いてるの教えてくれ。

>>162
今月書いたのでパイズリのやつ以外だと、

P「へー、あずささんのミルクか」
貴音「はるかさんはなんでも口に入れてしまうようですね……」
やよい「プロデューサーのお布団……」クンクン
P「765プロ最高のツンデレと言ったら」

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