阿笠「できたぞスイッチ!新一を殺す光彦じゃ!」 (20)

光彦「ええ、ありがとうございます博士」

阿笠「いいんじゃ。新一には散々ひどい目にあわされてきたんじゃろう。この機会に復讐してこい。なあスイッチ」

光彦「その前に、スイッチ君と話させてください。これで、最後になるかもしれませんから…」

阿笠「ああ。行って来い、スイッチ」

光彦「今日はどこ行きましょうか、スイッチ君」

スイッチは答えない。それでも僕には、なんとなく彼が行くべき方向を示してくれているように思えた。

「ええ、あそこへ行きましょう」

僕は博士のスイッチで何度も、何度も殺された。

「光彦君を犯人に仕立て上げるスイッチ」
「光彦君と居場所を入れ替えるスイッチ」
「光彦の脳みそを少しずつ削るスイッチ」・・・あげるときりがない。

もう何度殺されたかわからない頃、僕は聞いた、ほかでもない、スイッチの声を。

スイッチは僕が殺された数だけ、その機能を改造されていた。ゆえに、僕を殺したスイッチはみんな同じだった。

スイッチは悲しんでいた。何度改造されても、自分が人を、たった一人の人を殺すためにしか使われないことを悲しんでいた。

スイッチに罪はないんだ。僕と同じ回数だけ苦しんでいるんだ。僕はスイッチと心を通わせるようになった。

それは友達のいない僕の感じた初めての「友情」だったのかもしれない。

スイッチの声が聞こえるようになったことを博士に話すと、博士は憐れむような視線で僕を見た。

残酷だったはずの博士の、あんな温かい目を見るのは初めてだった。

「もういやです。僕もスイッチもこんな仕打ちは嫌なんです。コナン君を殺したいです。でも、スイッチを改造するのはもうやめてください」

そう訴えると博士は僕を改造して、「新一君を殺す光彦」を作ってくれた。

「いろいろなことがありましたね」

僕とスイッチはガードレールの上から海を見つめていた。

僕がコナン君を殺せば警察に捕まる。その覚悟はありましたが、やっぱりスイッチと別れるのは惜しいです。

独房の中にもスイッチは持ち込めるのでしょうか…?

「もう終わるんですよ…スイッチが改造されることも…僕が殺されることも」

「それはどうかな?」

その声がして、気が付くと僕の隣にスイッチはいない。

振り向くと、コナン君が見慣れた笑いをしながらスイッチを片手に立っていた。

「俺は今からこのスイッチを押す。そしたらお前は死ぬんだ」

そんな…どうしてスイッチ君。信じていたのに。

コナン君の手にあるのが、嫌なんじゃなかったんですか?

ああ、そうか。僕は…本当に馬鹿ですね。

スイッチは機械。機械に感情はない。

友達のいない僕は、スイッチと語り合うという妄想で自分を慰めていただけなんです。

「じゃあな光彦…」

コナン君がスイッチを押す瞬間、僕は確かに聞いたんです。

『光彦、飛べ!』

(えっ・・・スイッチ?)

『そのガードレールを乗り越えて飛べ!早く!』

(スイッチ…)

僕はすぐ理解しました。やっぱりスイッチは僕の友達だった。

スイッチは僕を殺したくないんだ。

それくらいなら…スイッチの手を汚させるくらいなら、僕のほうから死ぬ。

僕はガードレールを乗り越え、海へと飛びました。

ポチッ

「――えっ」

うわああああああああああ!!!

次の瞬間、僕はちゃんと地面に立っていました。それもスイッチを持って。

響く悲鳴。それは、コナン君のものでした。

「コナン君!」

コナン君は、音を立てて海へと落ちました。

『僕は、「光彦君と居場所を入れ替えるスイッチ」』

「スイッチ君…」

そうか、スイッチ君はこれを狙って…。

あ、コナン君が海から上がりました。すごく苦しそうです。このままだと死ぬのも時間の問題でしょう。

『さあ光彦、あいつにとどめを刺すんだ』

「え、でも・・・」

『行け!君は、「新一君を殺す光彦」だろう?』

「・・・はい!」

スイッチの友情にこたえるため、僕はコナン君のもとへ向かいました。

ピーポーピーポー

「円谷光彦、殺人容疑で逮捕する」

逮捕されたにもかかわらず、僕の心はさわやかでした。

スイッチはしゃべらなくなりました。それでも僕は満足でした。

(よかったですねスイッチ。君は、解放されたんです)


 


「ひひ、『光彦君をそそのかして殺人を犯させるスイッチ』、大成功じゃわい」

終わり

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