塞「えっ、シロ大樹になっちゃったの?」 (179)

塞「うそ、ほんとに?」

胡桃「ほんとに」

塞「え、え……大樹、って木のやつだよね…? えっと……いつから…?」

胡桃「塞が東京に出て、ちょっとしてから」

塞「……うそお」

胡桃「ほんとだってば!」

塞「だって……えー…」

胡桃「だからちょくちょく呼んでたのに!」

塞「あ、あはは…」

胡桃「そんなに仕事忙しいの?」

塞「まあ…結構ね」

胡桃「5年も顔だせないほど?」

塞「お、OLだって色々あるんだよ、ほんとに」

塞「にしても……大樹、って……」

胡桃「…まあ乗ってよ、車」

塞「…」

塞(街並み…昔のまんまだな…)

塞「…免許、取ったんだね」

胡桃「大学出てすぐだよ、それ」

塞「アクセル届くんだ」

胡桃「届くよ」

塞「…ブレーキも?」

胡桃「届く!」

塞「あはは」

高校を出てからも4年間、大学ではみんな一緒で…

その後もみんなは岩手に残ったけど、わたしだけは東京で職に就いた

胡桃「着いたよ」

久しぶりに帰省して、変わらないと思った景色のなかに、見覚えのない大樹がひとつ

塞「……」

この大樹がシロ、らしい

塞「…おっきいね」

胡桃「大樹だからね」

塞「それに…幹も葉も、真っ白…」

胡桃「シロだから」

塞「え、っと…このなかにシロがいるってこと…?」

胡桃「違うよ、これがシロそのもの この大樹がイコールシロなの」

塞「…信じられないよ」

胡桃「そのうち起きてしゃべるから、そしたら信じられるんじゃない?」

塞「え、しゃべるの?」

胡桃「シロだもん 1週間にいっぺんくらいだけど」

塞「1週間…」

胡桃「……起きるまでいればいいじゃん」

塞「いや、そういうわけにも…」

「サエー!」

塞「ん?」

エイスリン「サエッ!」ダキッ

塞「わっ、え、エイスリン!?」

エイスリン「ヒサシブリ、サエ!」

塞「う、うん、久しぶり」

豊音「わーエイスリンさんずるいよー!わたしもー!」ダキッ

塞「うわっ、トヨネまで!」

胡桃「そこ、滑るんだからはしゃがない!」

塞「わあっ!」ドテッ

豊音「わわっ、ごめんねー…?」

エイスリン「サエ、ダイジョウブ?」

塞「うん、へーきへーき みんなわざわざ来てくれたの?」

エイスリン「?」

豊音「あ、ううん、ちょっと違うかな」

塞「あれ?違う?」

豊音「えっとね、わたしたちの家すぐそこなんだー」

塞「家?」

豊音「うんっ ええっと…シェアハウス?」

塞「へー?この辺じゃ結構珍しいよね」

エイスリン「シロ、ミテル!」

塞「え…シロ?」

胡桃「…切り倒されたりしないようにね」

塞「ああ、なるほど…だから近くに家借りてるんだ」

豊音「みんなで暮らすのちょーたのしいよー」

塞「へえー、いいなあ」

エイスリン「サエハ、トウキョウタノシイ?」

塞「え、ああ…まあまあ楽しいかな、うん」

エイスリン「ヨカッタ!」パァッ

胡桃「…」

豊音「ううー、寒くなってきたねー 家入ろっか」

塞「うん、だね」

塞「おじゃましまーす」

豊音「どうぞどうぞー」

エイスリン「ドウゾー」

塞「わあ、いいかんじだね」

豊音「でしょー」

塞「うん、結構広いし」

胡桃「安いから、こっちは」

塞「どれくらい?」

胡桃「月――円くらい」

塞「え、それこっちにしても安くない?」

エイスリン「クルミガミツケタ!」

塞「おー、すごいじゃん!」

胡桃「…」

胡桃「…まあね」

塞「へー、みんなここに住んでるんだー」

胡桃「晩ごはん、お鍋でいい?」

塞「あ、うん 手伝うよ」

胡桃「ん、皮むいて」

塞「はいはーい」

豊音「わたしたちお買いもの行ってくるけどー」

胡桃「じゃあお肉と締めのうどんと…」

エイスリン「オサケ!」

トシ「それには及ばないよ」

塞「!」ビクッ

塞「い、いたんですか…」

トシ「塞が帰ってくるって聞いたからねえ、待たせてもらってたのよ」

塞「それはどうも…ご無沙汰してます」

トシ「ほんとよお、全然帰ってこないんだものねえ」

塞「あ、あはは」

胡桃「…あの、及ばないって?」

豊音「うわー!トランクいっぱいだよー!」

塞「これぜんぶお酒ですか…?」

トシ「そうよお、酒屋にいって積んでもらったのよ」

塞「へ、へえー」

エイスリン「センセイ、シュゴウ!」

トシ「なーに言ってるの、あんたたちも飲むのよ」

胡桃「!?」

塞「え、これをですか…?」

豊音「わー初めて飲むお酒ばっかりだよー!」

トシ「塞はまあまあイケるクチだったね?」

塞「まあ、少しは…」

トシ「少し飲めりゃ大丈夫よお、その少しを繰り返すだけだもの」

塞「いや、その発想はちょっと…」

トシ「胡桃なんかその少しもダメだもんねえ」

胡桃「むっ…ダメなんかじゃ…!」

胡桃「りゃめらんかりゃ、らいっ…!!」パタン

豊音「あははっ、顔真っ赤だよー」

塞「もー無茶しすぎだって…」

トシ「まったくねえ」

塞「先生も飲ませすぎですからね…?」

トシ「あらあ、まあ」

塞「はあ…まったく」

エイスリン「ミズ、イル?」

胡桃「うぃららい…」

塞「いやいや、意地張んないでもらいなよ」

胡桃「はっれらい…」

塞「もう…エイスリン、お水貸して」

エイスリン「ハイ」

塞「ほら胡桃、飲んで」

胡桃「……さえ?」

塞「え?」

胡桃「さえら……さえらよれ…?」

塞「う、うん、塞だけど…」

胡桃「…」ポーッ

塞「…?」

胡桃「…」

胡桃「……ん」ダキッ

塞「ちょ、胡桃!?」

胡桃「じゅーれん」

塞「いや、いいから水…」

胡桃「じゅーれんっ」

塞「えー…」

トシ「じゃあわたしたちはこの隙においしいお肉をいただこうかね」

塞「ちょっと!」

胡桃「…」ギュウゥ

胡桃「すぅ……すぅ……」Zzz

豊音「ふふっ、結局抱きついたまま寝ちゃったねー」

塞「もう、なんだったのやら…」

エイスリン「ヘヤ、ツレテク?」

塞「そうだね、ここじゃあ風邪ひいちゃうし」

塞「よいしょ、っと」カカエ

エイスリン「!」

トシ「ほー、なかなか力持ちだね」

塞「え?ああ、書類とか、よく運ぶから…」

豊音「手伝おうかー?」

塞「だいじょぶだいじょぶ、胡桃の部屋どれ?」

エイスリン「ロウカデテ、ミギ」

塞「りょーかい」

塞「ほら行くよ」

胡桃「すぅ……すぅ……」Zzz

塞「えーと、右みぎ…」

塞「…これかな」ガチャ

塞(広いとは思ってたけど…部屋もこれじゃ余ってるんじゃ…)

塞「…」

胡桃「んうぅ……んぅ…」

塞「あ、うん、もうベッド着くからね……よ、っと」オキ

胡桃「ん……すぅ…」

塞「ふう」

塞(書類よりは重かったなあ…当たり前だけど)

塞「はい、ふとん」

胡桃「う……みか…ん…」

塞「え、みかん?」

胡桃「みかん……ちょー…ら…」

塞「…はいはい、持ってくるから待ってて」

胡桃「んぅ……あいがと…おばぁ……」

塞「ふー…やっと寝たよ……って!」

塞「うどん食べてるっ!」

トシ「さすがに塞の分も取っといてるわよ」

豊音「あはははは!はいっ、どーぞっ!」

塞「あ、ありがと」

豊音「あははははっ、いーよーぜんぜんっ!」

塞(今度はトヨネが出来上がってきてるな…)

エイスリン「ミカン、ドウダッタ?」

塞「なーんかおいしそうに食べてたよ」

エイスリン「フフッ」

トシ「あの子、ずっと楽しみにしてたもんねえ」

塞「? なにをですか?」

トシ「そりゃああんたが帰ってくるのをよ」

塞「え…」

豊音「あはははっ、口には出さなかったけど、ずっとそわそわしてたよー」

塞「うそ…そんなに?」

エイスリン「カレンダー、ズットミテタ!」

豊音「ふふふっ、駅へ迎えに出たのもだいぶ早かったみたいだったよー?」

塞「へえ…」

トシ「まあいくらエイスリンと豊音がいるって言っても、あの子もあれで、結構さみしがりだからねえ」

トシ「あんたは東京だし…」

塞「…」

トシ「シロは大樹でしょう?」

塞「それですよ、それっ!」

エイスリン「?」

塞「シロがあの大樹って、ほんとなんですか…!」

トシ「ほんとよお?もしかしたら大学生くらいの時から、根っこぐらいは出てたんじゃない?」

塞「えっ……て、ていうか、なんで!」

トシ「さあねえ…事の始まりもその原因もさっぱり、そういうことが起こることもあるとしか言えない」

トシ「ここは遠野の地だからねえ」

塞「…」

トシ「あら、まだ疑ってるの?」

塞「いや…ただ、正直よく分かんないっていうか…しっくり来ないっていうか…」

豊音「わたしたちもだよー!気付いたら樹になってたんだもん!」

塞「そんなかんじなの…?」

トシ「気付いたらって言うなら、気付いたらシロがいなくなってたってかんじなのかねえ」

塞「…」

豊音「そうそうっ!それでみんなで街じゅう探したんだよー!」

エイスリン「クルミ、サエニメールシテタ」

塞「え……うそ、そんなのあったかな」

トシ「あったと思うよ 塞のところに行ったのかもって、みんな思ってたもの」

塞「…シロは、東京には来ませんでしたよ」

トシ「そりゃまあ、文字通りこの地に根を下ろしちゃってたわけだからねえ」

トシ「まあ呑みなよ」

塞「…いただきます」

豊音「でもほんとしゃべる樹でよかったよー」

塞「…」ゴクゴク

トシ「ほんとよねえ、じゃなきゃただの行方不明だったわ」

塞「それっ、それもですよ!それもよく分かんないんですけど!」

トシ「うん?」

塞「樹なのにしゃべるんですか!?なんで!」

トシ「さあねえ」

塞「分かんないことだらけじゃないですか!」

エイスリン「サエ、オサケドウゾ?」ソソギ

塞「あ ありがと」

トシ「樹って言っても普通の樹じゃないからねえ…見たでしょう、あの真っ白な姿」

トシ「あれはなんて言うのかねえ…もしかしたら樹に見えるだけで、違う何かなのかもねえ」

塞「…なにかって?」ゴクゴク

トシ「何かは、そりゃあなにかよお」

塞「……それ、ぜんぜん説明になってないですから!」グビグビ

塞「…………ん……あれ…?」

エイスリン「オキタ?」

塞「う、うん……え、いつの間に寝てたんだろ……みんなは?」

エイスリン「ミンナネテル」

塞「え? あ、ほんとだ…いま何時?」

エイスリン「3ジクライ」

塞「ん、そっか」

エイスリン「ヘヤ、ハコブ?」

塞「んー…胡桃ならともかく、持てるかなあ」

エイスリン「ウーン」

塞「ふとん持ってくるほうがいいかも」

エイスリン「ワカッタ」

塞「なんか久々に酔っぱらったなあ…」

塞「エイスリンはあんまり酔ってないね…?」

エイスリン「オサケ、ツヨクナッタ!」エヘン

エイスリン「サエ」

塞「うん?」

エイスリン「サエ、イツマデ、イラレルノ?」

塞「え? えっと…」

エイスリン「……」

塞「…あと3日、かな それ以上は休みが取れなくて…」

エイスリン「ミッカ…」

塞「うん…ごめんね」

エイスリン「! ウウン!」フルフル

エイスリン「…ア サエ、エ、ミル?」

塞「絵?」

エイスリン「ウン!シロ、カイタ!」

塞「! み、見たいっ!」

エイスリン「!」パアァ

エイスリン「スケッチブック、モッテクル!」

塞「わあ…これ全部、エイスリンが描いたの?」

エイスリン「ウン!」

塞「すごい!上手いね!」

エイスリン「エヘヘ」テレッ

塞「前からペンで書くのは上手だったけど、絵の具でもこんなに描けるんだ…」ペラッ

エイスリン「レンシュウシタ!」

塞「へええ…わたしも小学校でやったけど、全然だったなあ」ペラッ

塞(いろんなところから見た、あの大樹…)

塞(綺麗な、真っ白の樹…)

塞「ほんとに…」ペラッ

塞「…え?」

塞「え、エイスリンっ、これは!?」

エイスリン「? シロ?」

塞「い、いやだから、これ樹じゃなくて、人間の…!人間のころの、シロでしょ!?」

エイスリン「…」…ウーン

エイスリン「…!」カキカキ…バッ!

塞「え、えっと……ごめんっ、絵で描かれてもわかんない!」

エイスリン「エエト……コレ、コノマエカイタ」

塞「この前…? だって、シロは…」

エイスリン「シロ、ヨル、トキドキハナセルノ…シッテル?」

塞「あ…うん、胡桃から聞いたよ 夜とは言ってなかったけど…」

エイスリン「ヨル…シロガオキテ、オハナシデキル」

塞「起きて…」

エイスリン「コレハ、ハナシナガラ、カイタ」

塞「……」

エイスリン「シロノコエ、キイテ…カイタ」

塞「…そっか」

エイスリン「…エヘヘ」

エイスリン「ホントハ…モット、オハナシシタイ…」

塞「エイスリン…」

塞「そう、だよね…」

エイスリン「…? サエ?」

塞「会いたいよ、シロに」

エイスリン「…」

塞「会いたい…」

エイスリン「…」

塞「会って、話したいなあ」

エイスリン「…サエ」

塞「でも樹になっちゃってるんだもんね…あはは」

エイスリン「…」

塞「……会いたいね、シロに」

エイスリン「…ウン」

塞「…へへへ」

エイスリン「…フフッ」

塞「ふう、なんかしんみりしちゃったね」

塞「わたしたちも寝よっか」

エイスリン「ウン」

塞「えっと、わたしはどこで寝ればいいのかな」

エイスリン「ヘヤ、イッコアイテル!」

塞「あ、やっぱ空いてるの? じゃあそこで寝よっかな」

エイスリン「…」

塞「布団はこれ借りていいかな、エイス――」

エイスリン「サエ」

塞「…ん? なに?」

エイスリン「ア、アノ……アリガトウ、デシタ!」ペコン

塞「…?」

エイスリン「オヤスミナサイ」ガチャッ

塞「あ、うん おやすみ…」

塞(なんでお礼…?)

――次の日・朝

豊音「お礼?」ジュージュー(朝ごはん作ってる)

塞「うん、絵を見せてもらったあとに なんでだろうと思ってさ」

豊音「うーん…なんでだろー」

塞「むしろこっちがお礼言いたいくらいだったんだけど…」

豊音「お話できて嬉しかったのかもねー」

塞「…?」

豊音「エイスリンさん、あんまりお仕事先でシロのこと話せないみたいだから」

塞「え? えっと、エイスリンの仕事先ってたしか…」

トシ「英会話の塾だねえ」

塞「わっ!」

塞「びっくりしたー…起きてたんですか」

トシ「美味しそうなにおいがしたからねえ」

豊音「もうすぐ朝ごはんできますよー」ジュージュー

トシ「ありがとねえ」

塞「それで、えっと…エイスリン、職場でなんかあったんですか…?」

豊音「あ、ううん、お仕事自体はいいかんじなんだよ?」

トシ「友だちもたくさんいるのよ、日本人も外国人も」

塞「よかった…」ホッ

トシ「でもシロのことを話してもねえ、やっぱりちょっと信じられないでしょう?」

塞「ああ、そういう…」

トシ「何度か話したこともあったみたいだけど、何かの冗談みたいに思ったりして、相手のほうも困っちゃうみたいねえ」

豊音「だから、ここ以外ではあんまりシロの話しないんだよー」

塞「…そっか、それで」

トシ「その点、豊音は結構話してるわよねえ」

塞「トヨネは…幼稚園の保母さんだっけ?」

豊音「そうだよー」

トシ「子どもたちは割とすんなり信じるのよねえ」

塞「…へえ」

豊音「ふしぎだよねー あ、朝ごはんできたよっ」

塞「わっ、おいしそう!」

トシ「いただきます」

塞「い、いただきますっ」

豊音「めしあがれー」

塞「! おいしい!」

豊音「へへー 塞がいるから気合入れちゃったよー」

塞「え?…へへ、嬉しい」

豊音「あ、そうだ 塞」

塞「うん?」

豊音「後で一緒にお守り作ってくれないかな?」

塞「お守り?」

豊音「うんっ シロの葉っぱを入れたお守りなんだよー」

トシ「幼稚園で流行ってるんですって、ご利益があるとかないとか」

塞「へええー、なんかすごいですね」

豊音「シロの葉っぱ、ちょー綺麗なんだよー」

塞「うん、いいよ、手伝う」

豊音「わー、ありがと塞ー!助かるよー」

胡桃「おはよ…」ガチャ

塞「お、起きてきたかー トヨネのごはんすっごい美味しいよ」

胡桃「ごめんトヨネ…今日、朝ごはんいい…」

塞「ん、宿酔い?」

胡桃「たぶん…あたま、ガンガンする…」

豊音「だいじょうぶー? とりあえずお水どうぞ」

胡桃「ありがと…」

塞「うわーつらそうだね…部屋で寝てたほうがいいんじゃない?」

胡桃「そうする…ついでにエイスリン起こしてくる…」

塞「いやいやいいよ、わたし行くから!」ガタッ

胡桃「……でも…」フラフラ

塞「…ついでに部屋までおぶってってあげる、ほら」

胡桃「……ん」

塞「エイスリン起こしてきたよ」ガチャ

エイスリン「オハヨウ、デス」ウトウト

エイスリン「…? クルミハ?」

塞「宿酔いだって」

トシ「まあ結構飲んでたもんねえ」

塞「いやいや、先生が飲ませすぎなんですって…」

トシ「あら、でも普段はあんなには飲まないのよ?」

塞「え?そうなんですか?」

トシ「そうよお、ねえ?」

豊音「うーん……びみょーだよー」

塞&トシ「えっ」

豊音「まあでも、普段よりは飲んでたかなー」

エイスリン「クルミ、ゴキゲンダッタ!」

トシ「そう、そうでしょ? あの子ほんとに機嫌よかったからねえ!」

塞「……へえー?」

――大樹

塞「葉っぱ、それくらい拾えばいいのー?」

豊音「その袋いっぱいくらいー」

塞「はーい」

エイスリン「ハーイ」

塞「…」ガサ、ガサ

塞(この樹が……ほんとに…)

ひゅううう…

塞「ひゃっ!…やっぱりこっちは寒いね」

エイスリン「ウン、サムイ!」フフッ

塞「陽はちゃんと出てるのになー」

豊音「えっとー…この後、葉っぱを水洗いするんだけど…」

塞「!?」

豊音「あ、ううんっ、それはわたしがやるよー!さすがに悪いしねー」

塞「い…いや!わたしもやるよ、乗りかかった船だし!」

豊音「そんなにしっかり洗わなくても、軽く雪とか土を落とすくらいでいいからねっ」ジャブジャブ

塞「う、うん」…チャポ

塞「!」

豊音「だっ、だいじょうぶ…?」

塞「だ……だいじょうぶ…」

塞「…よし!洗うよっ!」

エイスリン「アラウ!」

塞「慣れちゃえばこれくらい…!」ジャブ、ジャブ

エイスリン「ヘッチャラ…!」ジャブ、ジャブ

豊音「ふたりともありがとー、洗った葉っぱはこのタオルの上に置いてねっ」ジャブジャブ

塞「オッケー」ジャブ、ジャブ

塞「……」ジャブ、ジャブ

塞(それにしても……ほんとに真っ白なんだな、葉っぱ…)

塞「…すごいなあ」…ボソッ

豊音「…」ジャブジャブ

塞「ふー…冷たかったー…」

豊音「あははっ、この季節はつらいよねー」

塞「その割にはあんまりこたえてないね?」

豊音「そうかなー まあ幼稚園で水はよく使うから」

エイスリン「ユタンポ、モッテキタ!」

塞「わーありがとエイスリン! うー、あったまるー…」

豊音「あとはこのまま干して、乾いたらお守りに入れるんだー」

塞「へええ」

豊音「葉っぱ、綺麗でしょ?」

塞「…うん、綺麗」コクン

豊音「乾いたあとも綺麗なんだけどね、洗ったあとの、ちょっと濡れてるのがいちばん綺麗なんだよー」

豊音「だからね、塞に見てもらいたいと思ったんだー」

塞「トヨネ…」

塞「あ…ありがと」

豊音「えへへ、どういたしましてー」

塞「さーて、お昼はわたしがつくっちゃおうかなっ!」

エイスリン「オオッ!」

豊音「期待大だよー!」

塞「い、いや、そんな大したものは作れないけどね?」

塞「…あれ、熊倉先生は?」

エイスリン「シゴト!」

豊音「夜にはまたお酒飲みに戻ってくるってー」

塞「まあ…まだかなり残ってるしね…」

胡桃「…おはよ」ガチャ

塞「お、もう大丈夫?」

胡桃「うん、まあ」ウト、ウト

塞「じゃあ4人前ね、なにがいい?」

豊音「塞がごはん作ってくれるんだってー」

胡桃「…らーめん」

塞「あー、なんか食べたくなるよね りょーかい」

エイスリン「ゴチソウサマ、デシタ」

胡桃「ごちそうさま」

豊音「ちょーおいしかったよー」

塞「お粗末さま」

豊音「ねえねえ、今日はみんなで晩ごはんの買いもの行こうよー」

塞「お、いいねー 今日は何にする?」

エイスリン「オナベ!」

塞「え、また!?」

豊音「簡単だもんねー」

塞「まあ、いいならいいけどさ…」

胡桃「2日続けてお鍋……」

塞「あ、やっぱダm――」

胡桃「なら!昨日より上等なお肉を買おう!」

豊音&エイスリン「オー!」

塞「あ、うん …オー」

――車

豊音「あっ、いいこと思いついた!あのさ、こーいうのはどうかな…」ヒソヒソヒソヒソ

エイスリン「フムフム」ヒソヒソ

胡桃「いいね!」ヒソヒソ

塞「え、なになにわたしにも…」

胡桃「塞は運転に集中っ!」ビシッ

塞「…はーい」

エイスリン「デモ、ジョートーオニクハ?」ヒソヒソ

豊音「あ、そっかー…もったいないねー」ヒソヒソ

胡桃「それを食べちゃった後にすればいいよ」ヒソヒソ

豊音「おおー」ヒソヒソ

エイスリン「メイアン!」ヒソヒソ

塞(よく聞こえないけど…絶対よからぬこと企んでる…)

胡桃「集中っ!」ビシッ

塞「してるってば」

――スーパー

塞「これでだいたい揃ったかな」

エイスリン「ウン!」

豊音「じゃー解散しよっか?」

塞「え?」

胡桃「解散っ!」

塞「……え?」

豊音「わー!」タッタッタッタ

胡桃「そこっ、お店のなかで走らない!」

エイスリン「ワー!」テクテクテクテク

塞「いや、えっ、みんな?」

胡桃「じゃっ」スタスタスタ

塞「あ、うん……え?」

塞「……」

塞「なにこれ!?」

ピロリロン!

塞「ん、メール?」

胡桃『好きなもの好きなだけ買っていいよ!食べもの限定!』

塞「…えっと?」

ピロリロン!

豊音『みんなそれぞれ好きな食べもの買うタイムだよー』

塞(内容かぶってる…)

ピロリロン!

エイスリン『すきなもの、かう:)』

塞「いやいや…みんな結局そんな気になっちゃうなら直接口で…!」

ピロリロン!

塞「4人目!?」

胡桃『各自で買い物すまして30分後に車集合ね!』

塞「あ、新情報…」

塞「……よく分かんないけど、なんか買ってけばいいのかな」

塞「とはいっても何を…好きなものって言われてもなー…」

塞「うーん…」

塞「……おつまみとか? でもまだ昨日の残りが結構……」

塞「お菓子とかのほうがいいのかな…」

塞「……」キョロキョロ

塞「あ、ねるねるねるねだ わー懐かしいなー」

塞「へええ、ボーロお徳用とかあるんだー」

塞「うわっ、キンダーサプライズだ!こんなのまだあるんだ!さすが岩手…」

塞「あとはー……ん、こっちアイスのコーナーか」

塞「アイスはなにかー……あ」

塞「雪見だいふく紅白版!これ、もう生産してないのに!」

塞「……」

塞「…とけちゃうかな」

塞「……」

塞「いいや、買っちゃお!」

――駐車場

胡桃「あ、来た」

塞「来たじゃないよ、なんだったのかちゃんと説明……ん?まだ胡桃だけ?」

胡桃「ふたりとも夢中になってるみたい」

塞「ふーん」

塞「…いや、ふーんじゃなくて!これなんだったのほんと」

胡桃「それは後のお楽しみ」

塞「えー」

胡桃「ぶーぶー言いながら結構買ってる」

塞「えっ、いや、これは別に…」

胡桃「なんだかんだ楽しんでるっ!」ビシッ

塞「いっ、いいでしょっ!」

塞「そ、そうだ!胡桃は何買ったの?」

胡桃「後のお楽しみ」

塞「えー…」

ピロリロン!

胡桃「あ、メール」

塞「トヨネ?エイスリン?」

胡桃「トヨネ トヨネもエイスリンもレジで並んでるって」

塞「じゃあもう少しかな」

胡桃「うん」

ピロリロン!

胡桃「!」

胡桃「…エイスリンから、おんなじ内容で」

塞「あはは、一緒に並んでるわけじゃないんだ」

胡桃「みたい」

胡桃「車にいるって返信しとくね」

塞「うん」

胡桃「…」カチカチカチ

塞「……あ、そうだ、胡桃」

胡桃「? なに?」カチカチ

塞「あ、いや…わたし、胡桃に謝らなきゃって思ってたことがあって…」

胡桃「……なにを?」

塞「えっと…昨日、ね、胡桃が寝たあとにみんなにいろいろ聞いたんだ、その……シロのこと」

胡桃「……」

塞「シロが大樹になっちゃって、みんなで探してるときに、胡桃がわたしにメールしたって聞いて…」

胡桃「……」

塞「ほんと言うと、ね……わたし、そのメールのこと、憶えてなくて……だからその、ちゃんとしたこと、なんにも言えないんだけど…」

塞「でもたぶん……返事もしてないよね…?」

胡桃「……」

塞「…ごっ、ごめんっ!」ペコッ

塞「シロがいなくなって、いちばん不安なときなのにわたし、メールも見ないd…――」

胡桃「……てない」

塞「……え?」

胡桃「……メールは…してない」

塞「え……でも、みんな…」

胡桃「…みんなにはそう言ったの」

塞「…」

胡桃「でも……ほんとは訊けなかった」

塞「…なんで」

胡桃「だって!」

塞「…」

胡桃「……だって、わたしは」

胡桃「わたしは本当に……シロは塞のところに行ったんだ、って……思ってたから…」

塞「……」

胡桃「シロも行っちゃったんだって……思ってたから……」

塞「胡桃…」

胡桃「そうだよ、って言われちゃったら……どう返せばいいのかも分からなかったから……訊けなかったの…」

塞「……」

胡桃「だから……メールは送ってない」

塞「……」

胡桃「……」

塞「…ぷっ」

塞「ふ、ふふっ…ふふふっ、あははははははっ!」

胡桃「…?」

塞「いやー、わたしも結構バカだと思ってたけど……胡桃も結構バカだよね」

胡桃「…なにが?」

塞「だって、ありえないよ……シロがわたしのところに来る、なんて…」

胡桃「そんなこと…!」

塞「ありえないんだよ、絶対」

塞「だってわたし、東京出るときにシロのこと誘って……断られてるんだもん」

…――5年前・大学

塞「あ、やっぱここにいたかー」

シロ「塞…」

塞「ほんといっつもここにいるよね、シロ」

シロ「…」

塞「だらけるにしてもさ、たまには違うとこ行ってみようとかないの?」

シロ「ダルい…」

塞「なーんか、最近ますますダルがるようになってない…?」

シロ「……」

塞「ま、まあいいんだけどさ、別に…」

シロ「…?」

塞「あ、あのさ、シロ…」

シロ「…なに?」

塞「シロは…大学出たら、その……どうするの?」

塞「就職とかも、決まってないんでしょ…?」

シロ「まあ、決まっては……」

塞「あ、ううん、別にお説教したいわけじゃなくてね!」

シロ「…違うの?」

塞「いや、その……てっ、提案、なんだけどさ…」

シロ「うん」

塞「その、何の予定もないなら……わたしと…」

シロ「……」

塞「わたしと一緒に……東京に…」

シロ「……塞」

塞「し、仕事もさ!あっちに行けばなにかあるかもしれないし…!」

シロ「塞」

塞「ルームシェアってやつ?わたしも1人よりはそっちのほうがぜんぜん――」

シロ「塞っ!」

塞「!」

シロ「……」

塞「……だっ」

シロ「…」

塞「ダメ、かな…」

シロ「…」

塞「……なんか、いってよ」

シロ「……」

シロ「…」…フルフル

塞「…」

塞「そっ、か…」

シロ「……ごめん」

塞「…う、ううん、いいんだ、それなら」

シロ「…塞」

塞「ほんと!言ってみただけだから!気にしなくていいからね!」

シロ「…」

塞「ほんと……気に、しないで…」

シロ「……」

シロ「…わかった」

塞「!」…ポロッ

シロ「…塞」

塞「ちっ、違う!違うから、ほんとに……ちがくて…」ゴシ、ゴシゴシ…

塞「ご…ごめんっ、わたし先帰るね!ごめんね、変な話して!」

シロ「……」

塞「…ばいばい、シロ」


――――……

塞「あ、あはは、バカだよね……わたしも、だいぶ…」

胡桃「…」

塞「…実を言うとさ、あんまり帰らなかったの、それがちょっと気まずかったからなんだよ」

塞「ここに来ちゃったら、シロに会うだろうから……でも、やっぱり会いたくてさ、わたし…」

胡桃「……」

塞「だから、今回来たのは、これでも結構勇気振り絞ったんだよ」

塞「でもやっぱ、遅すぎたよね…」

胡桃「…塞」

塞「だって帰ってみたら……大樹になっちゃってるんだもんね、シロ」

胡桃「……」

塞「…ほんと言うとね、嘘だと思ってたんだ」

塞「ああ、シロもわたしに会うの気まずくて、みんなで変な嘘ついてるんだなあ、って」

胡桃「…」

塞「でも、エイスリンが描いたシロの絵を見せてもらって……そうじゃないって分かった」

塞「みんなも、本当にシロに会いたいんだって、分かったから…」

塞「ねえ、胡桃…」

胡桃「…うん」

塞「本当に……シロは大樹になっちゃったんだね…」

胡桃「…」

塞「もう、人間には戻れないのかなあ…」

胡桃「…わからない」

塞「……会いたいよ」

胡桃「……」

塞「樹じゃなくて……人間のシロに、会いたいよ…」

胡桃「……」

塞「会いたい…」

胡桃「……」

塞「シロ…」

胡桃「…塞」

塞「……」

胡桃「…」

胡桃「…充電、していいよ」

塞「え…」

胡桃「言っとくけど、シロの代わりじゃないよ」

塞「…」

胡桃「でも……わたしは塞の、友だちだから」

塞「胡桃…」

胡桃「だから……充電させてあげる」

塞「…」

胡桃「ほら」

塞「……うん」…ダキッ

胡桃「…」ナデ、ナデ…

塞「……へへ、充電」ギュッ

――シェアハウス

塞「よーし今日はたくさん飲んでたくさん食べるぞーっ!」

胡桃「おーっ!」

トシ「あら、今日はなんだか昨日より元気なのね」

塞「いいお肉ですからね、昨日みたく好きにはさせませんよ!」

豊音「お肉投入だよー」

エイスリン「トウニュウ!」

トシ「まあまあ、とりあえず一杯どうぞ」

塞「あ、どうも」ゴクゴク

塞「うん、これはなかなかですね!」

トシ「いや…そんなにゴクゴク飲むようなお酒じゃないんだけどねえ…」

塞「ほら、おいしいよ、胡桃も飲む?」

胡桃「飲む!」

塞「よしきた!」

胡桃「いただきますっ!」ゴックン

胡桃「ぷはぁっ!」

塞「ね、おいしいでしょ?」

胡桃「おいしい!」

トシ「ほー…胡桃もついにこの味がわかるように…」

胡桃「でも不味い!」

トシ「!?」

塞「あははっ、だよねー!お酒だもんねっ!」

胡桃「もう一杯っ!」

塞「わたしもっ!」

胡桃&塞「かんぱーい!」

トシ「……」

胡桃「あ、お肉そろそろ!」

塞「お、どれどれ?」

塞「…」モグモグ

塞「うん、おいしいっ!」

塞「ふー、結構食べたね」

豊音「だねー」

トシ「あんたたち、ほんとにいいお肉買ってきたわねえ」

エイスリン「フンパツ!」

塞「うん、結構奮発したけど、たまにはこういうのも――」

胡桃「ほんわんはこえからっ!」

塞「……ん? なんて言ったの?」

トシ「本番はこれから、かねえ」

胡桃「りゅ、じゅんびっ、かいしっ!」

エイスリン「カッテキタノ、モッテキタ!」

豊音「じゃあ電気消すよー」パチッ

塞「えっ、ちょっと、なに!?」

トシ「ああ、なるほどねえ」

塞「ねえ、何するのったら!」

胡桃「闇鍋だーっ!!」

塞「え…… え?」

トシ「おや、塞は聞かされてなかったの?」

塞「わたしは何も……え、じゃあ、もしかして……」

豊音「そうそうっ、みんな好きなもの買っていいタイムあったでしょ?」

エイスリン「カッタモノ、イレル!」

胡桃「それれ、そえを、たべるっ!」

トシ「一度箸でつかんだものは絶対食べなきゃいけないんだよねえ」

胡桃「そうっ!」

塞「あ…あの、わたしが買ったやつは…」

豊音「え?当然入れるよー?」

塞「いっ、いや、入れないほうが…!」

トシ「いやあ、それはちょっと通らないだろうねえ」

塞「そんなっ!」

胡桃「投入っ!」

エイスリン「トウニュウー!」ドババババ

エイスリン「トウニュウ、オワッタ!」

豊音「じゃあグルグルに混ぜるねー」ジャボジャボ

塞「あ、あの、あんまり混ぜないほうが…」

豊音「あははっ、そうはいかないよー」グルグルグル

塞「で、でもっ…」

トシ「塞はすっかり酔いが醒めたみたいねえ」

塞「……先生も食べるんですよ?」

トシ「わたしはこれくらいどってことないよ」

豊音「あれ、なんかちょっと重たくなってきたよー?」グルグルグル

塞(ボーロとねるねるのせいだ…)

豊音「まあこれくらいでいいよねっ」

胡桃「とりじゃら、よーいっ!」

エイスリン「トリザラ、ヨウイカンリョウ!」

豊音「じゃあまず汁をいれるねー」ジャボジャボ

塞「うええ……においだけでもうキツいよ……」

胡桃「はじえるまえに、るーるかくにんっ!」

豊音「まずはみんなでスープをひとくち飲んで、それから順番に一品ずつ食べるんだよー」

エイスリン「オナベ、カラニナルマデ!」

トシ「まあ、普通の闇鍋ルールだね」

塞「順番って…誰から?」

豊音「あっ、どうしよっか?」

エイスリン「ジャンケン?」

豊音「でも暗いよー?」

胡桃「さえから!」

塞「なんで!?」

豊音「うん、それでいこっかー じゃあスープのむよー?」

塞「えっ、ちょっ、待ってよ」

胡桃「いただきますっ」ゴクンッ!

豊音&エイスリン&トシ「いただきまーす」ゴクゴク

塞「……い、いただきます」…ゴクッ

塞「う……ま、まずっ…」

胡桃&エイスリン&豊音「……」

トシ「ふー、まあこんなもんかね」

塞「いやいや…どんだけ闇鍋慣れして……あれ、みんな?」

豊音「ね…ねえ……これ……おもったより…」

エイスリン「ウン……コレ…タベルノ……?」

塞「!」

塞「そう、そうだよね! やっぱやめようよ、こんなこと!」

豊音「……う、うん…どうしよっかー…」

エイスリン「…ク、クルミ……」

胡桃「……うん」

胡桃「や、やみなべ…ちゅうs――」

トシ「おやあ?」

4人「!!!」

トシ「それはちょっと……通らないんじゃないのかい?」

トシ「ふむ、まあまあの闇鍋だったねえ」

塞「……これで、まあまあって…」

豊音「……わー…さっき食べれなかったプラスチック、中におもちゃ入ってたよー…」

エイスリン「……ヤミナベ…コワイ……」

胡桃「…………」

塞「おーい…生きてる?」

胡桃「……う……うえ…」

塞「ごめん…今日は部屋に運んであげられないわ…」

胡桃「だ……だいじょう、ぶ……」

塞「ふう……今日はもう寝ようか…」

豊音「そ、そうだねー…」

トシ「あら、もう? まだまだおいしいお酒あるわよ?」

塞「いや……ほんと、ぜったい無理ですから…」

トシ「そう? じゃあひとりで続けさせてもらうとするかねえ」

塞「そうしてください…」

塞「……」ブクブクブク

塞(いくら口ゆすいでも全然甘いの取れないや…)…ペッ

トシ「みんな本当に寝ちゃったねえ」

塞「…わたしも寝ますよ?」

トシ「ほんとに?」

塞「ほんとに」

トシ「残念だわ」

塞「おやすみなさい…」フラ、フラ…

塞(…そういえば……今夜はどうなんだろう……)

トシ「ああ、そうだ シロなら来たとき話しかけてみたけど、起きてなかったよ」

塞「!」

塞「…そう、ですか」

トシ「あさって東京に戻るんだってね」

塞「…はい」

トシ「あした、起きてくれるといいねえ… …おやすみ」

――次の日・昼

塞「……ん、んう…?」

塞「…うわあ、もうお昼だ……」

塞(みんな起きてるかな…)ガチャ

胡桃「…」ガチャ

塞「あれ、おはよう」

胡桃「おはよう 早くないけどね」

塞「あはは」

塞「外出てたの?」

胡桃「ちょっと外の空気吸ってきた」

塞「え、寒かったでしょ?」

胡桃「寒かったけど…リビング、空気が淀んでるから…」

塞「あー…昨日のすごかったもんね」

胡桃「いま換気してる」

塞「わ、リビングも寒っ!」

塞「うう、コタツコタツ…トヨネとエイスリンは?」

胡桃「まだ寝てる」

塞「そっか ふう、あったかーい」

胡桃「お昼ごはん、要る?」

塞「あー、今日はいいかな…まだちょっとおなかもたれてるかんじするんだよね…」

胡桃「じゃあミカン」コトン

塞「おお、いいね」

胡桃「あした東京戻るの?」

塞「うん、お昼くらいの電車に乗ろうと思ってる」

胡桃「駅まで送るよ」

塞「ありがと」

胡桃「うん」

胡桃「…それじゃあ、今日はあれやらないとね!」

塞「あれ?」

胡桃「マージャン!」

塞「わあ!雀卓買ったんだ!」

胡桃「さすがに全自動じゃないけどね」

塞「それでもすごいよ、わーいいなー!」

豊音「おはよー…ちょー寝坊しちゃったよー」ウトウト

豊音「!」

豊音「マージャンやるのっ!?」

胡桃「やるよ!」

豊音「やったー!エイスリンさん起こしてくるよー!」

塞「いつもは三麻やってるの?」

胡桃「それもあるけど、熊倉先生も結構な頻度で来るから」

塞「あー、なるほどね」

塞「あ、わたしモノクル取ってくるね」

胡桃「いいけど、あんまり塞ぎすぎてバテちゃわないでよ」

塞「…?」

胡桃「今日は1日じゅうやるんだから!」

塞「うわー、人と打つの久しぶりだなあ」ステ

エイスリン「ソウナノ?」ステ

塞「あんまり職場に打つ人いないんだよね」

豊音「チー」

塞「お、鳴いてきたか」

塞(とりあえず4副露したら塞いどくかな)ステ

エイスリン「ソレ、ロン!8000!」

塞「え、はやっ…はい」



エイスリン「コレッ」ステ

塞「うーん…」

塞(トヨネがいるからリーチはないんだよね…エイスリン、もう塞いだほうがいいのかなあ)ステ

豊音「ツモ!1000・2000だよー」

塞「えっ、今度はこっち!?」

塞(この卓……塞ぎようないじゃん!)

豊音「次は塞が親だねー」

塞「う、うん…」

塞(塞げないなら、普通にしっかり打とう…!)

塞(トヨネもエイスリンも昔よりちょっと早いんだと思って警戒しとけば…)

塞「…」ツモ

塞(よしテンパイ!ほんとはリーチかけたいとこだけど…)

塞(でも、わたしだってやられっぱなしじゃ…!)ステ

胡桃「ロン」

塞「!?」

胡桃「12000」

塞「うわ…高いし」

胡桃「伊達に先生に鍛えられてないからね!」

塞「わ…わたしだってネト麻で鍛えてるし!」

胡桃「ふーん?」

塞「ま、まあ見てなよ、ここからゴロッと逆転しちゃうからさ!」

――ゆうがた

塞「勝てないー…」グデーン

エイスリン「…!」カキカキ…バッ!

塞「えっと…?」

エイスリン「ドンマイ!」ニコッ

塞「あ、うん…」

豊音「あははっ、ちょっと休憩にしよっかー」

塞「だね、疲れたわ…」

塞「みんな、いっつもマージャン打ってるの?」

豊音「うんっ、休みの日はだいたい打ってるかなー」

塞「はあー道理で強いはずだわ…」

塞「よっ、こいしょ んっ、ずっと座ってたから体バキバキだわ」

エイスリン「サエ、センセイミタイ!」フフッ

塞「えっ、そんな、ひどっ…!」

胡桃「……塞」

塞「なっ、なに!? わたし、そんなおばあちゃんじゃ…!」

胡桃「ううん、そうじゃなくて…」

塞「…? なに?」

胡桃「……シロ」

塞「!」

胡桃「起きるなら、そろそろだよ」

塞「……」

塞「…そっか」

胡桃「…行かないの?」

塞「…ん、っと……」

胡桃「…わたしは、行ったほうがいいと思う」

塞「…」

胡桃「望むかたちじゃなくても……それでも、シロに会えるかもしれないんだから…」

胡桃「行ったほうが、いいと思う」

塞「胡桃…」

豊音「そうだよ、塞っ」

塞「…トヨネ」

豊音「シロだって、きっと塞に会いたいよっ!」

塞「…うん」

エイスリン「…」カキカキカキ…

エイスリン「!!」バッ!

塞「エイスリン…」

エイスリン「…」コクン、コクン

塞「そう、そうだよね…うんっ」

胡桃「塞」

塞「…」

胡桃「行って」

塞「…りょーかいっ!」

胡桃「…」…ニッ

塞「行ってくる!」

――大樹

塞「……」…ゴクッ

塞「…しっ、しっ……」

塞(…なに緊張してるんだろ……シャキッとしなきゃ!)パン、パン

塞「…シロっ!起きてる!?」

……

塞「ねえ、そこにいるの、シロっ!?」

……

塞「あっ、会いに来たよっ、シロっ!」

……

塞「ほんとは……ほんとはずっと、会いたかったの…!会いに来たかったの!」

塞「怖かったけど、わたし、わたしちゃんと会えるのかなって、怖かったけど、それでもやっぱり会いたかったの!」

塞「ねえ、いるなら出てきてよっ、シロっ!」

塞「シロっ!!」

…………

塞「……」

……

塞「…シロ」

……

塞「…」

塞「…はあ」

塞「やっぱ、ダメか」

……

塞「そうだよね、5年も帰らなかったんだもんね」

塞「つごう、よすぎるよね…」

塞「……なんか疲れちゃった……シロ、ちょっとよっかからせてよ」…スワリ

塞(…なんかここ、すっぽりハマって座り心地いいや)

塞「充電…ってかんじはしないけどさ」

…………さえ…?

塞「ひゃいっ!?」

塞「し、シロっ!?」

……

塞「いま、えっ、しっ……」

……

塞「……シロ、なの…?」

………うん…

塞「……」

………塞…?

塞「あ……ご、ごめん、こっ…ことばが出てこなくって…」

……

塞「い、いま起きたの…?」

………うん…

塞「え、えっと……わたし、いまこっち、来ててさ…」

塞「あっ…て言っても、明日には帰っちゃうんだけどね…?」

………うん…

塞「か、かえるってのは、東京で……電車と、新幹線で……」

………うん…

塞「あっ、あのっ……だから、その…」

………塞…

塞「ご、ごめんっ、わたし、動揺しちゃって、その…」…カアァ

…………

塞「えっと……えっとね…」

……胡桃から…聞いてた……

塞「…へ?」

………塞のこと…いろいろ…

塞「……」

塞「…そっか」

………今朝も…

塞「…えっ?」

……早く起きないと塞が帰っちゃうって…怒られた……

塞「え、えっと……あれ?」

………?

塞「それ、なんかおかしくない…?」

…………朝じゃなくて、お昼だったかも…

塞「い、いやっ、そんなんじゃなくてさ!」

…………

塞「だって、シロさっき起きたって……」

塞「なのに今朝って…?」

………ああ…

……ちょっと分かりにくいと思うけど…

塞「うん?」

……意識は…起きてるときだけだけど……記憶はずっと…開かれてる……

塞「えっと…」

………わかった…?

塞「…わかってないかも」

塞「ご、ごめん、もうちょっと分かりやすくお願い…」

………うん…

塞「…」

……いま、塞と話してるのはわたしで……わたしの意識があるのは…起きてるときだけ……

塞「うん」

……でも、記憶は…樹の記憶だから……わたしが寝てても…ずっとある……

塞「……」

塞「…なんか、それって」

………うん……樹とわたしは…一体だけど……別々なかんじ……

塞「じゃ、じゃあさ!」

………?

塞「感覚は!?」

塞「いまわたしが、樹に寄りかかって座ってるって感覚は……あるの?」

…………

……座ってるって知ることはできるけど……感覚は、ない……

塞「……」

塞「…そっか」

………ごめん…

塞「…謝んないでよ」

…………

塞「そりゃあ、さみしくないって言ったら嘘になっちゃうけどさ」

塞「…でも、こうやって話せるのは、やっぱり嬉しいんだから」

…………

塞「ほんとに…すごく嬉しいんだよ、シロ」

………うん…

塞「…ねえ、シロ?」

……なに…?

塞「わたし、東京でもちゃんとやってるよ」

…………

塞「シロがいなくても、ちゃんと、やれてるよ」

塞「変かな…いちばん最初に話すのがこんなことで」

…………

塞「でも…これだけは言おうって決めて、来たんだ」

………うん…

塞「なんか、それだけはちゃんと言わなきゃいけない気がしてさ…」

………塞らしいと思う…

塞「そうかな」

……うん…

塞「…そっか、わたしらしいか」

…………

塞「ふふっ、そっか」

…………

塞「…シロさ、あのシェアハウスのなかどうなってるか知ってる?」

………知らない…

塞「部屋がね、いっこ余ってるの」

………空き部屋ってこと…?

塞「そう」

塞「…あれたぶん、わたしの部屋なんだと思うんだ」

…………

塞「こんなこと言うと自惚れっぽいんだけどさ…胡桃、わたしに帰ってきてほしいんだと思うから…」

………うん…

塞「そうだって知ってわたしも少し…ううん、すっごく…帰ってきたくなっちゃったんだけど…」

…………

塞「…でも、やっぱりそれも違うかなって、思って」

…………

塞「いまやってることを、ちゃんとやらなきゃって……わたしだって、自分で決めて東京に出たんだから…」

…………

塞「だから、もうちょっと頑張ってみるよ」

………うん…

――夜

塞「それでね、胡桃が闇鍋だーっ!って、あの、あれ、昔のバンドの…」

………X JAPAN…?

塞「そうそれ!それみたいに言い出して、買ってきたの全部どばーって鍋に入れてさ…」

塞「みんなスープひとくち飲んだ時点ですっかり冷めちゃったんだけど、熊倉先生がやめさせてくれなくて」

………ダル…

塞「そう、超ダルかったの!」

塞「……せっかく雪見だいふく、紅白のだったのにさ…」

………紅白の…?

塞「!」

塞「な、なんでもないっ!今のなしっ!」…カアァ

………?

エイスリン「サエッ」ピトッ

塞「わっ! エイスリン……みんなも…?」

豊音「熱燗持ってきたよー」

塞「あははっ、それでね、その社長がさ、目だけ大沼プロになった熊倉先生みたいな顔なの!」

エイスリン「…」カキカキ…バッ!

塞「そう、そんなかんじ!わたしもう笑いこらえるの大変でさー」

豊音「あははははっ、ちょーうけるよー」

胡桃「あははははははっ!ちょーうけるっ!」

………胡桃…だいじょうぶ…?

胡桃「らいじょーぶっ!」

塞「あはは、なんかもう慣れたよ、胡桃が酔っぱらうのも」

胡桃「よっれらい、よっららこんなもんりゃないんらから!」

…………

塞「あははははっ」

塞「…あれ、その袋は? おつまみ?」

豊音「あ、ううん これは」

胡桃「まーじゃんっ!」

塞「えっ?」

塞「あーこれ、前みんなで旅行行った時の」

エイスリン「マージャンシート!」

………あったなあ…

塞「ね、懐かしいなー」

胡桃「さえっ、りべんじこいっ!」

塞「よーし望むところだっ!」

豊音「待ってね、いま汚れないようにレジャーシート敷くから」

………みんなもその上に座ったほうがいいんじゃ…

塞「!」

エイスリン「タシカニ!」

豊音「あっ、でもこのシートそんなに大きくないんだよー…」

胡桃「じゃーしょうがないかっ」

塞「え、そんなんでいいの?」

エイスリン「ショーガナイ」フフッ

…………

塞「胡桃っ、それロン!」

胡桃「!」

塞「7700の1本場で、8000ね」

エイスリン「サエ、トップ!」

豊音「綺麗にまくったねー」

塞「ま、上手くいけばこれくらいはね」

胡桃「もういっかい!」

塞「えー、どうしようかなあー」

胡桃「もういっかいっ!」

塞「はいはい、もう1回ね」

…………

塞「…あ、でもそれちょっと待って」

胡桃「…うん?」

塞「ねえ、シロもマージャンやりたくない?」

………?

塞「ずっと見てるだけじゃ、かわいそうかと思ってさ」

……まあ……でも、どうやって…?

塞「捨てる牌言ってもらって、わたしが代わりにやればできるんじゃない?」

豊音「そっか、鳴きとか和了りはシロが言えばいいんだもんねっ」

エイスリン「サエ、アタマイイ!」

塞「へへー、まあそれほどでもないけどさー」

…………

塞「…どうする、シロ」

…………

塞「マージャン、やる?」

………やる…

塞「よしっ、じゃあ自分とこの牌以外見ちゃダメだよ?」

……うん…

豊音「わー、シロと打つのちょー久しぶりだよー」

エイスリン「タノシミー」

塞「…」ツモリ

………中…

塞「はい」ステ

豊音「それポンっ」

塞「トヨネが鳴いてきたよ、シロ」

……うん…

エイスリン「リーチッ!」

塞「うわ、エイスリンまで!?」ツモリ

………八萬…

塞「うん」ステ

胡桃「…」ステ

豊音「チー」

エイスリン「ウーン…」ステ

豊音「ポン!」

塞「3副露…!」

塞「…」ツモリ

…………

塞「…? シロ、これだけど…」

………ちょいタンマ…

塞「!」

塞「う、うんっ…!」

…………

塞「…」…ドキ、ドキ

塞(うわ…すごいドキドキしてる、わたし…)

…………

塞(変なの…こんなの、ただ一緒にマージャンやってるだけなのに…)

………決めた…

塞(わたし、さっきよりずっと近くに、シロを感じてる…)

……塞、五策で…

塞「うんっ」ステッ

胡桃「……これ」ステ

塞(ねえ、シロ…わたし、今になってやっと、シロがちゃんといるんだって思えた気がするんだ)

豊音「…」ステ

塞(変だよね、あんなにいっぱい話しても、やっぱりちょっとシロが遠かったの)

エイスリン「…ン」ステ

塞(でも今…わたしの後ろにいるのは、シロだよ)

塞「…」ツモリ

塞(本当のシロだよ)

塞「…ふふっ」…ポロッ

………塞…?

塞「だって…ほんとに昔のまんまの、シロなんだもん…」ポロ、ポロ…

…………

塞「ね、次は?」

……四策で……リーチ…

塞「うんっ……リーチっ!」

豊音「わー、またシロの勝ちだよー!」

エイスリン「シロ、スゴイ!」

…………

胡桃「も…もーいっか、い…」クラ、クラ

……胡桃はもう寝たほうが…

胡桃「りゃめっ!もーいっかい!」

………ダル…

トシ「あら、こんなところでマージャンかい?」

塞「熊倉先生」

………こんばんは…

トシ「シロ、起きたんだね」

……まあ…

エイスリン「シロ、スゴクツヨイ!」

トシ「…?」

豊音「いま、塞がシロの代わりに打ってるんですよー」

トシ「ああ、なるほどねえ、考えたじゃないか」

エイスリン「サエノテイアン!」

塞「えへへ」

トシ「じゃあわたしも混ぜてもらうとするかねえ」

胡桃「いや、いま……4にん…いr……ぐう」…Zzz

豊音「わわっ、ダメだよー、こんなとこで寝ちゃー」

胡桃「ね、ねてな……ぐう」…Zzz

トシ「でもよかったねえシロ、マージャンなんてほんとに久しぶりでしょう?」

……はい…

トシ「それに、塞も」

塞「へ?」

トシ「なんか、随分スッキリした顔してるよ」

塞「!」

トシ「よかったねえ」

塞「……はいっ」

――次の日・お昼まえ

胡桃「忘れ物は?」

塞「ないかな、たぶん」

豊音「あれ、もう出るのー?」

塞「うん、遅くなるほどなんか去りがたくなっちゃいそうだからさ」

豊音「そっかー」

エイスリン「サエ、ジュウデンキ!」

塞「あっ、ありがとエイスリン、忘れてたよ」

胡桃「ほら、もう行くよ」

豊音「わっ、待って、わたし着替えてこなきゃ」

胡桃「いそいでっ」

豊音「はーいっ」

塞「……じゃあ、わたしちょっと出てていいかな?」

胡桃「…?」

塞「最後に、ちょっとシロ見ておきたいんだ」

――大樹

塞「おーい、シロー」

塞「…寝てるよね、やっぱり」…フフッ

塞「…」

塞「シロ、行ってくるね」

塞「……どうしよう…昨日はさ、ひさしぶりだったから、なんかカッコつけたこと言っちゃったけどさ…」

塞「あんなこと言っといて、ひょっこり戻ってきちゃうかもしんない……ほんとはもう、だいぶ去りがたいんだよね、実際」

塞「まあ、そうなってもあんま笑わないでよ」フフッ

塞「……それで、もしも、なんだけどさ」

塞「もしも…わたしがこっちに帰ってきちゃうまえに、シロが元に戻れるようなことがあったら…」

塞「その時は…あの空き部屋、シロが使いなよ」

塞「…」

塞「…うん、こんなものかな」

塞「じゃあ…ほんとに行ってくるよ」

塞「またね、シロ」

――駅

塞「よかった、まだ電車来てない」

胡桃「もうすぐみたい」

豊音「あの、塞…これ」

塞「え…? これ、お守り…?」

豊音「う、うんっ、つくってもらったやつ 1個あげるよ」

塞「いいの?」

豊音「うん…塞に、持っておいてもらいたいんだー」

塞「トヨネ…」

塞「…ありがとね、大事にするよ」

エイスリン「サエ、エ、オクル!」

塞「絵?」

エイスリン「サエトシロノエ、カイテ、オクル!」

塞「!」

塞「ありがとう…うわー、楽しみっ」

胡桃「わたしは特にあげるものないよっ!」

塞「え、うん、全然いいよ」

胡桃「…充電、しとく?」

塞「あー……いや、いいや」

胡桃「そう?」

塞「うん」

塞「…してもらいたくなったら、帰ってくるからさ」

胡桃「…うん、わかった」

塞「あっ、電車来た…」

豊音「じゃあね、塞っ」

エイスリン「オゲンキデ!」

胡桃「いつでも帰ってきていいからっ!」

塞「…うん」

塞「じゃあ、またっ」


――…………

――数週間後・東京

塞「まあ入ってよ」

同僚「おじゃましまーす」

同僚「へー、結構きれいにしてるのね」

塞「そ、そうかな、普通だよ」

同僚「いやーわたしなんかもう全然」

塞「へえー」

同僚「じゃーとりあえずビールね!」

塞「まだ飲むの…明日も仕事あるんだよ?」

同僚「へーきへーき、わたしあんまり引きずらないから!」

塞「いやいや嘘じゃん…はい、ビール」

同僚「おつまみは?」

塞「はいはい」

同僚「なんだかんだ言って出してくれるとこがいいわよね、塞は」

同僚「……あら?」

塞「おつまみ、こんなんでいい?」

同僚「ねえ塞、あの絵」ユビサシ

塞「…うん?」

塞「ああ、地元の友だちが送ってくれた絵なんだ」

同僚「あの赤い髪の子、塞?」

塞「うん、そう 綺麗でしょ?」

同僚「…」

同僚「…ええ」

塞「……あっ!」

塞「ち、ちがうよ、わたしがじゃなくて、絵が! 絵が綺麗、って意味で…!」

同僚「あら、そうなの?」

塞「そうなの!」

同僚「ふーん」

同僚「でも、ほんとに綺麗な絵ね」

シロが戻れないまま終わったら日曜の朝から切なすぎる…

同僚「後ろの白いのは……樹?」

塞「そう シロっていうの」

同僚「…? 名前つけてるの?」

塞「あー…いや、そういうのとはちょっと違うんだけど…」

塞「でも…大切な友だち、かな」

同僚「…?? よく分からないけど…でも、よかったわね」

塞「…なにが?」

同僚「絵のなかの塞、とっても幸せそうだから」

塞「!」

塞「う、うん…」…カアァ

同僚「それで、友だちってのはどういう意味なの?」

塞「えっ? えーっと、それは…」

塞「……」

塞「…秘密っ」


カン!

終わりっす
支援とか保守とかありがとう

>>168
日曜の朝からすまんかった

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