八幡(川崎、お前に決めた!) (127)

八幡(どうする俺…)

   (ふむ、雪ノ下はまず論外だな)

   (由比ヶ浜も由比ヶ浜で危険だ。本当にデートしなければならなくなりそうだし)

   (小町か戸塚を選びたいんだけどなー)

   (しかし陽乃さんの視線が怖い)

   (…ん、そだ)

   (川の人がいいんじゃないか?)

   (だってあいつもぼっちな感じだし)

   (となると選んだとしても本人が全力拒否してデートはなしになる可能性が大きい)

   (しかしおそらくこの場面においてあいつに拒否権はない。だって俺が主人公だもの)

   (…え?俺って何でもできちゃうの?)

   (主人公であれば鬼畜であってもはぐれであってもいいということか)

   (何それ楽園じゃん)

   (つまりこの世界なら俺でも主夫勇者とかいって崇められちゃったりするのか)

   (斬新でいいと思います。主夫勇者。売れる気はしないけど)

   (なんにせよ川崎だな)

   「んじゃ川崎で」

「「!!」」

陽乃「おぉっ、ちょっと意外なチョイス」

小町(まさかの川さんかぁ。将来のお姉さん候補としては有力株じゃなかったのに)

   (大逆転だ)

沙希「あ、あんた何あたしのこと選んでんの!死にたいの?」

八幡(うぉぅ。蹴りの一つくらいは覚悟してたが…死ぬのはちょっと)

陽乃(雪乃ちゃんもがはまちゃんも選ばれなかったのはちょっと意外だけど)

   (しょうがないかな)

   「じゃぁ解散しましょうか」

――――――――…
川崎宅

沙希(なんなんだあいつ)

大志(なんか姉ちゃんがリビングでつっぷしている)

沙希(あたしを選ぶとか…)

   (…)

(んなぁ!)

   (いっつも急に変なこと言うし)

   (この前だって愛してる…とか…)

   (あ、愛してるって…)

   (…)カァァァ

   (…)プシューッ

大志(なんか湯気上がってる…風呂上りだっけか?)

沙希(ふ、普通は愛してるとか言わないよな…)

   (っつーか初めて聞いた。あんなに恥ずかしい台詞)

   (校内のアホみたいなカップルがす、好きとか言ってるのは聞いたことあるけど)

   (それにデートとかもあたし選んでくれたし)

   (もも、もしかしてあいつあたしの事が…)カァァ

   (はぁっ!馬鹿じゃないの!そ、そんなわけないし!)

   (ふざけてるだけでしょきっと。あいついつもそんな感じだし)

   (愛してるって言った後もなんもなかったみたいに…)

   (今回だってきっと…)

   (適当なことばっか)

   (あたしはなんかもやもやしてんのに…そう考えるとなんか腹立つ)

大志(宿題手伝ってほしいけど…話しかけづらい)

   (でも期限明日だし)

   「ね、姉ちゃん?」

沙希「あぁ?」イラッ

大志「い、いや、なんでもないです」

沙希「…」

   「あのさ」

大志「?」

沙希「…男子がさ、あ、愛してるっていうときってどんな時?」

大志「えっ?あ、愛してるって…」

   (どうしたんだ姉ちゃん急に)

   (ま、まさか姉ちゃんが恋を?…んなわけないかー)ハハハ

沙希「で?どういう意味なわけ?」

大志(どういう意味って言われてもなぁ…)

   (恥ずかしいから愛してるなんて俺は絶対言わないし)

   (いや、でも比企谷になら…)

   (俺だって男になるときはなる!)

   (でもそのためにお兄さんに味方になってほしいんだけどなぁ)

   (いっつも拒否されてる気がするし)

   (でも恋に障害はつきもの!俺はあきらめない!)

   「そ、そりゃ真剣に好きな時しかいわないよ」

沙希(真剣に…好き…)

   (…)カァァ

   (…)ボフンッ

大志「ね、姉ちゃん?」

沙希(で、でもあいついつも変なこと言ってるし)

   (将来は主夫になりたいとか言ってる馬鹿だし)

   (も、もし、万が一にあいつがあたしのことを…その…)

   (き、気になってたとしてもあたしは全然…嬉しいとかはあり得ないから)

   (第一あいつよく由比ヶ浜とか雪ノ下と一緒にいるし。確か奉仕部とかで一緒で…)

   (それとシスコンっぽいし)

   (あ、あとそういえば…あの時…あたしの…)

   (け、結局あいつただの変態じゃんっ!!)

大志「ねーちゃーん」

沙希(大体あいつとの接点なんてあんまりないし)

   (スカラシップの時はそりゃ少しは役に立ったし、頼りがいはあるとか思ったけど)

   (ほ、ほんとに少しだけだし)

   (あの後はほとんど…)

   (文化祭でも特になんにもなかったし)

   (愛してる…とかは言われたけど)

   (修学旅行も別に…少し行動は一緒にしたけど)

   (電車の中でも話しかけてきてくんなかったし)

   (いやっ、話しかけてほしいわけじゃないけど!)

大志「姉ちゃんっ!」

沙希「」ビクッ

   「な、何…急に大声出して」

大志「急じゃないよ、結構アイドリングしてたし」

   「っつーかどうしたの?顔赤いけど」

沙希「べ、別に!」

大志(なんか今日は感情の起伏が激しいというか)

   (あんまし触れないでおこう)

   (あ、でも宿題がやばいかも)

沙希(あーもぉっ!)

   (なんであたしこんなにイライラしてんだろ)

   (あいつが変なこと言ったせいに決まってるか)

   (あ、あたしは気にしてるとかいうわけじゃないけど…)

   (あんなこと、誰からだって言われたらちょっと考えるし)

   (だからあいつか特別とかそういうわけじゃ)

   (絶対ない!)

―――――――――――…
学校

沙希(…)チラッ

   (あいつすきあらば寝てる…)

   (睡眠不足なのかも)

   (そういえば目つき悪いし)

   (もし比企谷の目つきがよかったら…)

   (あれ、想像できない)

結衣「やっはろー!」

沙希(寝させといてやればいいのに)

八幡「…」ムクッ

   「…」チラッ

   「…」パタッ

結衣「む、無視された!」

八幡「なんだよ、静かにしてくれ。精神統一中なんだ」

結衣「せーしんとーい…なんか嘘っぽい」

沙希(精神統一とか…馬鹿じゃないの?)

八幡「で?なんだよ」

結衣「い、いや別に。挨拶?」

八幡「…そうか」

   (なんかさっきから川崎に睨まれてる気がする)

   (流石はぼっちの周囲観察スキル。常時誰かに見られてるという意識から生まれる超絶技能!)

   (なんつって)

   (もしかしたらこの前の桃太郎であのガキを攻撃したことにまだ怒ってるのかもしれない)

   (全く、ブラコンは怖いな。引いちゃうわー)

   (んっ。目があった気がするが…竜巻でも起こしそうな勢いで振り返ったな)

   (首の骨おれちゃうんじゃないか?)

沙希(目、目があった)

   (見てたのばれたかも…)

   (で、でもあたしただ由比ヶ浜が大声出すから見ただけで)

   (それで偶然目があっただけで)

   (それだけだし)

   (…)

   (そういえばデートはどうなるんだろう)

   (で、デートとかしたいわけないけど…)

   (でもあいつはあたしを選んで…選んだってことはデートがしたいとか思ってたり…)

   (あたしは嫌だけど)

   (もしあいつとデートすることになったら…映画…とか?)

   (…映画)

   (二人で…)

   (…って行くわけないから!)

結衣「と、ところでヒッキー」コショコショ

八幡「ん?」

結衣「デートとか行ったの?」

沙希()ピクッ

八幡「は?」

結衣「だ、だからさ…その…川崎さんと…デート行ったの?」

八幡「は?なんでだよ」

沙希(…)

結衣「なんでって…だって陽乃さんに言われてたじゃん」

八幡「あぁ。言われたな」

   「でも別に義務ってわけでもないだろ」

   「おそらく川崎自身ももう忘れてるだろうし」

結衣「そうなんだ」

   (流石ヒッキー…)

   「で、でも忘れてないと思うよ」

   (川崎さんだって女の子だし)

   (私だったら絶対忘れないと思うし)

八幡「そうか?」

   (まぁ言ってみれば勝手に選んでしまったわけだし)

   (それであいつに不都合があるとも思えないが…)

   (機会があれば感謝でもしておくか)

沙希(…あいつ)

   (あたしはこんなに悩んでたっつーか、考えてたっつーか)

   (なのに忘れてるみたいだし)

   (馬鹿じゃないの?…あたしがか)

   (あたしも忘れよ)

   (無駄に意識したって…何もないんだから)

   (…ほんと馬鹿みたい)

平塚「お、そうだ。比企谷…それと川崎も」

   「今日遅刻した罰として今日の放課後少々私に付き合いたまえ」

沙希(!)

   (比企谷と…)

八幡「付き合うって…デートですか?」

平塚「…」

八幡(む、怒らせてしまっただろうか)

   (やはり先生に対してこの手の単語は禁句だったか)

平塚「随分と…懐かしい言葉だな…」シンミリ

八幡(ま、まさかここまでとは)

   (もう乾いてんじゃないですか先生)

   (ほんと誰かもらってあげてよ。じゃないと俺がもらっちゃうよ?)

   (ここはダチョウ倶楽部さん形式でみんな手を上げるところだよ?)

平塚「…さて。付き合うといっても準備室の片づけだ。三十分もあれば終わるだろう」

八幡「はぁ。でも残念なんですけど俺放課後には予定が…」

平塚「ほぅ。言ってみたまえ」

八幡「えっとですね、今日あたり晩御飯を突撃されるかなって」

平塚「はぁ…」

   「もう少しまともな言い訳はないのかね」

   「私だって毎度毎度拳は使いたくないのだよ」

   「それに三十分だけだといったろ?晩御飯までには間に合うさ」

八幡「拳は決定なんですか」

平塚「川崎も、わかったな?」

沙希「ちょ、ちょっと…」

平塚「どうした。君の家も突撃されるのか?」

沙希「いや、ただこいつとは…」

平塚「安心したまえ。比企谷は意見怠惰な人間だが、義務づければきちんとやる奴だ」

   「それに襲う、なんてこともあるわけがない」

   「ひねくれてはいるが最低限の常識は持ち合わせているしな」

八幡「俺の印象悪すぎるでしょ」

   「俺ほど安全な人間もいないというのに」

   (働き者で安全とかパートナーに選ぶなら俺が適任すぎる)

   (あ、でも働く気はないけど)

   (そのかわり家の中にいても存在感がないから家が広く感じるという特典付き)

沙希「はぁ」

八幡(やはりさけられてるな)

   (さっき由比ヶ浜が言ってたように…変な選択をして距離を取り違えたか)

   (もう少し気を付けるか)

平塚「では頼むぞ」

―――――――――――――…

八幡「んじゃ片づけるか」

沙希「…あぁ」

八幡(ふむ)

   (状況を整理してしまってみれば狭い部屋で二人っきり)

   (素人なら胸がときめいてしまうような状況だ)

   (無論俺くらいになるとほんと胸が躍るとかない)

   (そもそも立ち上がってすらいない。ぐーたらしてる。流石は将来主夫になる男)

   (弾むほどの巨乳でもない)

   (…考えてみると奉仕部内でよく胸が躍ってるなーと思うのは由比ヶ浜だけだし)

   (やはり胸がないと踊らないのか。そう考えると雪ノ下がああも常時冷たいのにもうなずける)

   (平塚先生も時々変にハイになってることあるし)

   (陽乃さんに至っては常時踊っているどころかパレードまでして他人を巻き込むまである)

   (やはり胸があればあるほどよく踊る、ということか)

   (こんな時に新たな定理を発見してしまうとは。俺天才かも、薄々感づいてはいたが)

   (これは保健体育の本の隅っこに意味深な文句と一緒に書いておこう)

   (そうすれば四百年後くらいに誰かが勝手に解明してくれるかもしれない)

   (八幡の最終定理…悪くはない)

沙希(なんか気まずい)

   (そりゃこいつはこの前の事も完全に忘れてたみたいだし)

   (今だってただ黙々と作業してるし。少し微笑んでるのがきもいけど)

   (あたしも忘れられればいいのに。文化祭のも)

   (…なのに思い出しただけでちょっともやもやすいるというか)

   (はぁ…片づけに集中しよ)

八幡(む、となると川崎も心が躍るはずだが)

   (見たことないな)

   (あ、でもこいつ弟のことなら踊るかも。ブラコンだし)

   (ぼっちの胸はそう簡単には踊らないと思ったが…)

   (あ、でも俺はうれしいときは全身で踊るな。風呂場とかで)

   (ついでに歌ったりもしちゃうわけだから…)

   (普段はしゃがない分はじけちゃうんだよな、ぼっちって)

沙希(…)

   (…)

   (…)

八幡(…)

   (…)

   (…)

沙希(…)

   (…)

   (…)

八幡「おい」

沙希「」ビクッ

   「な、なに」

八幡「いや、これそっち置いといて」

沙希「あぁ」

八幡(…)

   「川崎だと気が楽だな…」ボソッ

沙希(!!)

   (い、今こいつ変なこと言った)

   (あたしといると楽?)

   (え、ど、どういう意味…)

八幡「…」

沙希(普通に作業再開してるし)

   (今のも…この前の愛してるみたいな…)

   (…なんでこいついつも急に変なことを)

   (心臓に悪いし)

八幡(ぼっちとぼっちは相性が良いのかもな)

   (…互いに干渉しないから相性というべきか悩みどころだが)

   (まぁ作業効率は良いな)

   (これが由比ヶ浜だったら仕事が進まないだろうし)

   (あ、でも戸塚だったら俺元気百倍で全部一人でやっちゃう)

沙希(あーまた変なこと言うから…意識するのはもうしょうがないというか)

   (別にあたしの感情がどうこうじゃなくて、どんな女子でもあんなこと言われれば)

八幡「…」

   「…」

沙希「…」

   「…」

八幡「あ、そうだ」

沙希「」ビクッ

八幡「この前は、なんだ、ありがとうな」

沙希「この…前?」

八幡「ほら、あの桃太郎の時にお前を選んだろ?」

   「だから…な」

沙希「別に…」

八幡「そうか。ならいんだけど」

沙希「あ、いや!」

八幡「あ?」

沙希「えっと、その、なんというか」

   (どうしよう…なんか大事な会話が終わりそうだったからつい)

   (まさか比企谷から話を振るなんて)

   「なんでもないことはないというか」

八幡(陽乃さんに目をつけられちゃったりしたんだろうか)

   (ま、まさか陽乃さんがきちんとデートを行ったか監視を!)

   (…まさかな。流石にそこまではないだろう)

   (…)

   (ない…よな?)

   「それはすまなかった」

沙希「いや、謝ってほしいわけじゃなくて」

   (何して欲しいんだろ)

   「その…」

八幡(どうすればいいんだ)

   (なんとなく怒っているような気がするが)

   (顔も赤い気がしないでもない)

   (しかし謝れば謝るで怒られたし)

   (答えが見当たらない)

沙希「…」

八幡「…」

沙希「なんであたしのこと選んだわけ?」

   (いらないこと質問したかも)ドキドキ

   (答え聞くのちょっと怖いし)

八幡「えっとですね」

   (正直答えるべきだろうか)

   (俺の都合で、なんていったら怒られそうだけども)

   (しかしまともな言い訳も思い浮かばないし)

   (となると正直に話して土下座すれば許してくれるかも)

   (桜の木を斧で切り倒したわけでもないし)

   (誠実な謝罪に土下座までついてたらおそらく許してくれるだろう)

   (なんなら誠実で正直すぎて金と銀の何かしらを取り出すまである)

八幡(ちなみに謙虚な俺は銀のエンジェル一枚でいい)

   (あと一枚なんだよ、カンヅメまで)

   (最初は何気なしに買っていただけなんだが)

   (四枚たまっていることに気づいてしまった時点から能動的に買うようになってしまった…恐ろしい)

   「陽乃さんがデートとかいってただろ?」

   「雪ノ下は選ぶの怖かったし、由比ヶ浜はそのデートに関して面倒くさそうだったから」

   「だからお前にした」

   「要するに俺のわがままだな」

沙希「…そう」

   (つまり誰ともデートがしたくなかったってことか)

   (最初っからそんなことだろうとは思ってたけど)

   (こいつが好きだから選ぶわけないじゃん)

八幡(ちなみに謙虚な俺は銀のエンジェル一枚でいい)

   (あと一枚なんだよ、カンヅメまで)

   (最初は何気なしに買っていただけなんだが)

   (四枚たまっていることに気づいてしまった時点から能動的に買うようになってしまった…恐ろしい)

   「陽乃さんがデートとかいってただろ?」

   「雪ノ下は選ぶの怖かったし、由比ヶ浜はそのデートに関して面倒くさそうだったから」

   「だからお前にした」

   「要するに俺のわがままだな」

沙希「…そう」

   (つまり誰ともデートがしたくなかったってことか)

   (最初っからそんなことだろうとは思ってたけど)

   (こいつが好きだから選ぶわけないじゃん)

八幡「その、すまん」

沙希「別に」

   (期待とかしてたわけじゃないし)

   (…)

   (…ほんと…馬鹿)

   「怒ってるとかないから」

八幡「そうか」

   (ふぅ。あの時死にたいの?とか聞かれたから殺されるかと思った)

   (流石は川崎、期待通りデートは自然消滅したな)

   (よし、仕事を終わらせるか)

沙希(…)

八幡「…」

沙希「…」

――――――――…
川崎宅

大志(ったく数学の先生宿題大好きだよなー)

   (今日もお姉ちゃんに教えてもらお)

   (昨日はあの後上機嫌で教えてくれたし)

   「姉ちゃ…ん?」

沙希「…はぁ」

大志(あ、あれ?)

   (なんかものすごくテンションが低い)

   (ため息ばっかでなんか空気がよどんでる気がする…)

沙希「…」

  「…」

  「はぁ」

大志(が、学校で何かあったのかも)

   (でも昨日は上機嫌だったのに)

   (そりゃ変な質問とされたけど)

   (どうしたんだろ)

   「ね、姉ちゃん?」

沙希「…」ハァ

大志(いつももそんなに元気なわけじゃないけど)

   (今日は特に)

   (どうしよう…しゅ、宿題が!)

―――――――…
比企谷宅

小町「お兄ちゃんお兄ちゃん」

八幡「ん?」

小町「えっと、か、かわ…デートはもう行ったの?」

八幡「お前もか」

   「行ってないしこれからもいかないと思うぞ?」

小町「およ?どして?」

   「陽乃さんにあれだけ脅されたのに」

八幡「別に脅されちゃいないだろ」

   「それにこの点に関しては川崎も承諾済みだし」

小町「うわぁ」

   「約束を解消することには積極的なお兄ちゃんて…」

   「ダメダメ!」

八幡「駄目じゃないだろ、川崎だって嫌がってるんだから」

小町(…流石はごみいちゃんだ)

   (変なところはよく勘違いするのに)

   (肝心なところは何もわかってない)

   (あの時のかわさき?さんの様子を見るにお兄ちゃんを嫌ってるわけじゃなさそうだし)

   「でもほら、ツンデレかもよ?」

   「お兄ちゃんが読んでる本に出てくるでしょ?」

八幡(…なんで小町が俺の読んでる本の中身とか知ってんだよ)

   (もしかして兄の部屋で探し物をするこんなに可愛いわけがない妹なのか)

   (ま、大丈夫か。やばいものはきちんと隠してあるし)

   (そして隠し場所はベッドの下などといった安易な場所ではない)

   「いや、ありえんだろ。ブラコンかもってのは認めるが」

   (第一デレを見たことがない、弟以外に向けられた)

小町(やっぱりお兄ちゃんを動かすのは難しいかも)

   (てこでも持ってこなくちゃだね)

   (でも今回は相手も素直に慣れてないみたいだし)

   (由比ヶ浜さんの時は比較的簡単だったけど)

   (難易度高い…アルティメットだ)

八幡(考え込んでいるような顔だが…)

   (おそらくしょうもないことを考えてるんだろう)

ピロンッ

小町「む?メールだ…大志君から」

八幡「」ピクンッ

   (あの野郎…)

   (しかし内容を確認するのは兄としてダメだろ)

   (引かれそうな気がする)

   (ここは我慢)

   (そして後日しめる)

小町(何々?お姉さんの元気がない…むむ?)

   「お兄ちゃん」

八幡「どうした?消すか?」

小町「けす?」

八幡(おっと。反射的に本音が漏れてしまった)

   「いや、なんでもない。で、どうした?」

小町「いつデートの約束は解消したの?」

八幡「デート?今日だな。放課後に」

小町「ほほーん」

   (なるほどなるほど)

   (もしかすると本当にツンツンさんかも)

   (よし、てこを二つ用意しよう!)

   「お兄ちゃん!」

八幡「ん?」

小町「実はね、小町陽乃さんから念を押されたんだよ」

八幡「それはつまり…」

小町「うん。きちんと約束守ってデートいったかどうかって。メールで」

八幡(本当に監視してたのかよ)

   (っつーか小町と陽乃さん繋がっちゃったのかよ)

   (だんだんと俺の周りが浸食されてゆく気がするが…)

   (怖すぎる…)

小町「もしきちんとデートしなかったら陽乃さんのお仕置きがあるらしいよ」

八幡「なんだよおしおきって」

   (幅が広すぎて怖いな)

   (陽乃さんだからお仕置きは本当にお仕置きなんだろう)

   (それはどうしても避けなくてはならない。俺の命の為にも)

   (つまり川崎とデートをしなければならないということか)

   (変なところで本気出しすぎだろあの人)

   (大体俺がデートしたところで何の得もないだろうに)

小町「だからお兄ちゃんデートしなきゃ!」

八幡「…はぁ」

   (なんかとてつもなく面倒くさい状況に置かれてしまった気がする)

   (今まで面倒くさいことは極力避けてきたから一気に来たのか)

   (やっぱためとくのは良くないな。宿題と一緒で)

   (そう思ってもやっぱり夏休みの宿題は最終日と始業式の朝で片づけるのが常だったが)

   (しかしそれだって昔のことで、今は宿題をどのようにして簡単にこなすかを覚えたから…俺無敵)

   (デートとかは専門外だけど)

   (大体友達と同じで境界線があいまいだろ)

   (俺だって雪ノ下と買い物にはいったことはあるがあれはデートじゃないし)

   (由比ヶ浜と祭りも行ったがあれだってデートとは違う)

八幡(…駄目だ、思いつかない)

   (伊達にぼっちやってない)

   (今回の場合デートといっても恋仲になる必要はないわけで)

   (つまり実際にやることといえば一緒にどこか出かけるだけだ)

   (それをレベルを下げるとなると…一緒に登下校?)

   (いや、どう考えてもそっちの方がレベル高いだろ。目立つ)

   (んでもって暇な連中の話の種にされるだけだ。不毛すぎる)

   (となるとなんだ。俺の家に呼ぶ、とかか)

   (俺が出かけなくて良い分随分とレベルは低い)

   (そりゃ俺の家は敷居が対巨人なの?ってほどに高いのだが)

   (別段本当に招き入れるわけじゃない)

   (一つ承諾を得てそれから要求をレベルアップ)

   (最終的に疑似デートまでたどり着ければいいだけの話だ)

川崎(なんで黙ってのあいつ)

   (自分から声かけてきたのに)

   (期待とかしないって決めたのにさ)

   (本人目の前にするとやっぱり…その…)

   (って違う!落ち着けあたし)ブンブン

   (今だってどうせくだらないこと言いに来ただけだろうし)

八幡(なんか俺が提案する前から猛烈な勢いで頭を横に振ってるし)

   (さらにレベルを下げるとしよう)

   (買い出しにつきあえ、とかか)

   (スーパーならあいつだって用があるかもしれないし、食品売り場なんてデートスポットではない)

   (食品売り場にまでカップルが出現するようになったら…何もできないけどさ)

   (よし、少しずつ距離を詰めるとするか)

   「川崎、お前明日の放課後とか暇か?」

沙希「…暇だけど」

   (なんで急にそんなこと)

   (あたしが暇かどうか聞くってことは何か一緒に…)

   (ってだから期待はナシ!)

   (き、きっと何か仕事を頼むとかそういうのでしょ)

   (もしかしたら奉仕部の手伝いかもしれないし)

   (それかまたなんか衣装づくりの手伝いとか)

八幡「そうか」

   (えっと、買い出しに誘えばいいんだっけ?)

   (出来るだけ迂遠な言い回しでいくか)

   「ちなみにどこの店の牛乳が一番安いか知ってるか?」

沙希「牛乳?」

   (さっきの暇かどうかとは全然関係ない)

   (…なんで牛乳?)

   (何考えてんのか全然わかんない)

沙希「まぁ…一応」

八幡(よし)

   「んじゃ教えてくれないか?その店」

   (すごい普通…なはず)

   (いや、屋上で牛乳の値段について語るんなんてはたから見れば不自然極まりないか)

   (しかしここはコミュニケーションを避けてきたボッチ二人だ)

   (自然も不自然も判断する材料がないし、第三者もいない)

   (つまるところ胸を張っていればいい)

沙希「なんで?」

   (ほんとなんなんだろ)

   (…だから落ち着かないと)

   (なにもないんだから、なのになんでこんなに心臓が…ドキドキというか)

   (あぁもぉっ!)

   「あんた何考えてんの?」

八幡(うぐっ、やはり不自然だったのか)

   (しかしここで折れてしまっては負け、そして偽りを認めることになり、洗いざらい話さなければならなくなる)

   (そうなると疑似デートの件はさらに難航するだろう)

   (ここは牛乳の値段にすごぶるこだわる男、を演じ続けなければ)

   「いや、だからただ牛乳の値段をだな、家計が火の車で」

沙希「そんなやつが主夫なんで希望するわけないじゃん」

   「バイトでもすれば?」

八幡(急に痛いところを突かれ始めた)

   (やはり話しかける前にうその土台は固めておくべきだった)

沙希「あのさ、何が目的か知らないけど…」

   「もっとましな嘘つきなよ」

   (そんなばかばかしい嘘つかれても…あたしが少し傷つくし)

   (本音を言ってくれればいいのに)

   (そうすればあたしのできることならなんだって…)

八幡(頑張れ俺)

   (俺が嘘を嘘だと認めない限りこの場において嘘は嘘じゃない)

   (だがそれでも川崎に信じさせることができなければ意味がない)

   (既に大分警戒されてしまってはいるが)

   (なら逆にだますというのはどうだろう)

   (デートを遂行しなければ川崎にもペナルティがあると信じさせることができれば協力してくれるかもしれない)

   (川崎なら陽乃さんに連絡することもないだろうしできないわけではない)

   (しかしながら後ろめたいな、やはり)

   (なら他人を交えてのデート、というのはどうだろう)

   (ダブルデートなんてのも存在してるらしいし)

   (男女二組、つまるところ川崎姉弟と比企谷兄妹で買い物にでも行けば)

   (…そうするとあのガキが調子の乗るか)

   (まぁ別に組み合わせはどうでもいい)

   (川崎を連れ出してデートっぽいことをするのが課題なわけだし)

八幡「わかった。家計は火の車じゃない」

   「実は買い物を頼まれて一定の金額を渡されたんだ」

   「んでもって釣りは小遣いとして貰っていいっていわれたんだよ」

   「だからできるだけお釣りを多くしたいから、安い牛乳の情報がだな…」

沙希「牛乳の値段なんて安くても数円でしょ」

八幡(そらそうなんだけども)

   「数円を馬鹿にすると数円に馬鹿にされるぞ!」

沙希「…は?」

八幡(ふむ。冷たい)

   (由比ヶ浜だったらつっこみをいれてくれるだろうし、雪ノ下だったら毒舌を吐かれるだろうが…)

   (これはこれでこたえるな)

   (小町の採点が思いのほか厳しかった時くらいのダメージはある)

   (しかし防御力だけは無駄に高いボッチなわけだが)

八幡(どうするよ俺)

   (もう結構ぼろぼろだ)

沙希(やっぱりあたしには本当の事は話してくれない)

   (まぁ…友達、でもないし当たり前なんだけどさ)

八幡(完全に準備不足だった。俺らしくもない)

   (陽乃さんのお仕置きが怖くて焦ってたのか)

   (ほんとお仕置きってなんだよ)

沙希「で?結局のところなんなの?」

八幡(そんなにせかさなくても…人生急ぐと損するぞ?)

   (無論急がなかったところで得する保証もないわけだが)

   (平塚先生なんて若いころに急がなかったから今壮絶に急いでる気がするし)

   (あ、今でも十分若いですよ?)

沙希「あのさ…」

八幡「いや、別にやましいことは何も…」

沙希「人って変われると思う?」

   (なんでこいつに聞いてんだろ)

八幡(急に哲学的な質問が飛び出てきたな)

   (しかし話題をそらすのにあhちょうどいい)

   (どういう風の吹き回しかは知らんが乗るしかない)

   「そう簡単には変われんだろ」

沙希(やっぱりか。ま、わかってたけどさ)

   (あたしが一歩踏み出すこともないだろうし)

八幡(できるだけ長く話して前の会話を有耶無耶にするか)

   「つってもそれは根っこの話だけどな」

沙希「?」

八幡「外面なら誰だって変えられるだろ?」

   「嫌いな相手にも愛想はよくできるし、昨日まで仲良くしていた奴を翌日には無視したりするだろ?」

   「そもそも人付き合いなんて大概は相手と折り合いつけてるわけだからな」

   「最初から自分を変えて付き合ってんだよ」

   「変わり身の早さに驚くまである」

   「俺はそこまで器用じゃないからこうなってるわけだが」

   「だが根本はそうそう変わらないだろ」

   「嫌いなものを好きになるのはほぼ無理だし、その逆もまたしかりだ」

   「自分の性格だって今までの経験で形なされてきたんだから今日明日で変わるわけがない」

   「一日で今までの人生分の経験値を得られたなら可能かもしれないが」

   「町の人が全員ゾンビになるとか」

沙希「…つまり臆病は臆病でそのまんまってことか」

八幡(何か悩みでもあるんだろうか)

   (それで何故間接的だが俺を巻き込んでいるのかはわからないが…いや、待てよ)

   (俺は口が堅い、というよりも秘密を打ち明けたところで俺にそれを漏らす相手がいないからか)

   (流石はぼっち。よくわかっている)

   (つまりは解決を求める系ではなくただ人に喋りたい系のやつだな?)

   (なら別段具体的な答えを出さなくとも適当にうなずいてればいいだけの事か)

八幡(人に悩みを話してるやつなんて大体人の話聞かないし)

   (自分の中でもう答えが決まってるのに他人に話す)

   (そして他人が自分の答えに反対しようものなら「でもぉ」とかいって長々とゆるい反論が始まる)

   (んでもって同意するまで粘る)

   (つまるところ自分の決断をしたまでは良いが自信が持てず、他人に責任を分けさせるマジで面倒な相談)

   (アリジゴクだな。よかった、相談される性質じゃなくて)

   「まぁそうだろうな」

   「臆病者が変われるのはそいつ自身が主人公になって人か世界を救う時だけと相場が決まってる」

   「それか自暴自棄になるとき」

沙希(あたしがそんな人を救うとかありえないし)

   (やんちゃもできないほど臆病だし)

   (告白とかそういうのもあたしのがらじゃないし)

   (諦める以前の問題じゃん)

八幡(こいつ自分の事が臆病だと思ってるんだろうか)

   (なわけないか)

   (だって年齢偽ってバイトしたりやさぐれたり衣装係になったり中々アクティブだし)
  
   「つっても俺の持論は俺の経験と作り物の結晶だからな」

   「耳を傾けない方がお得かもしれん」

   「まぁなんだ。臆病が一日でクラスの人気者にまでのし上がるのは無理かもしれんが」

   「少しくらいならできるんじゃないか?」

   「勇気なんて曖昧なものだから誰だって持ってるっちゃもってるだろうし」

   (最後は綺麗に曖昧に)

沙希(…)

   「た、例えばさ。あたしがわがまま言ったらどう思う?」

八幡(川崎がわがまま…確かに想像できない)

   (すごい堅実っぽいし)

   (逆に川崎がほっぺた膨らませて涙目になりながらわがままいったら可愛い気がする)

   (その前に変わりようにぎょっとするかもしれないが)

   (おそらくこいつは我慢し続けてるんだろう)

   (文化祭のときだって参加したがってたわけだし)

   (色々手作りしてるのだって我慢の延長線上っちゃそうかもしれない)

   (もしかするとこいつだってあの名前言うとき舌噛んじゃいそうなあの歌手の衣装を着てみたかったりするのかも)

   (…)

   (いや、あの衣装は違うか)

   (川崎が着たいと思ってるならおそらく普通の、ちょっとひらひらした服だろう)

   (そういうキャラってよくいるし。自分で自分の姿を試着室の鏡で見て赤面するキャラ)

   (んでもって主人公に似合ってるよ、とか言われてさらに赤面するキャラ)

   (うん。俺の主観からするとこいつにわがままは似合わない)

八幡(しかしだからと言ってしてはいけないわけではないだろう)

   (似合わなくたって結局は本人の勝手だろう)

   (俺だってサングラスをかけてかっこつけてみてもいいと思う)

   (思いっきりバカにはされそうだけど)

   (性格が変えられないという奴はつまり周りを気にしすぎている奴なわけで)

   (今まで組み立ててきた自分の像を壊してしまうのが怖くて縮こまってるだけ)

   (実際ははしゃいでみたくても今まではそうじゃなかったから…)

   (はしゃいだらキャラの違いに驚かれて周りに引かれてしまうかもしれないから…)

   (っつーかキャラってなんだよ。んなもん作って高校に通ってんのかよ)

   (最近の高校生大変すぎるだろ)

   (キャラなんて芸能人だけが必用としているものかと思っていた)

   (それに比べると川崎はそんな周りだっていないだろうし)

   (わがままを言わない、ってキャラでもないだろうし)

   「いいなじゃないか?たまには」

沙希(…駄目って、似合わないって言ってくれればよかったのに)

   (だってあたしの気持ちなんて迷惑なだけだろうから)

   (あぁもぅ!ほんともやもやする)

   (い、言っちゃえばすっきりするんじゃ…)

   (で、でもそしたらなんかぎくしゃくするだろうし)

   (だったら今のままの方が…時々しゃべるくらいがちょうどいいかも)

   (でもそしたらそれ以上は絶対にないし)

   (な、無くてもいいけど。…いいんだけど)

   (本当は…少しだけあこがれてるというか)

   (あ、あたしだって女子だし!その、そういうドラマとかも見るし)

   「あ、あのさ…」

>>93

いいなじゃないか?→いいんじゃないか?

八幡「ん?」

沙希「あ…」

   「あ、あぃ…あいs…」モゴモゴ

八幡(よく聞こえん)

沙希「あ、あいして…」カァァァ

   「なっ!なんでもない!」

   (いえるわけない!やっぱり一日で変わるとか無理!)

   (恥ずかしすぎる…)

   (なんであいつこんなセリフあんなに簡単に)

   (絶対おかしい)

   (愛してるとか絶対言わないし)

   (普通は好き、とか?)

   (そ、それだって言えないけど)

   (あたしもう少しですごい変なこと言いそうだったかも)

八幡(なんか慌てているように見える)

   (もしかすると俺が怒っているとでも思ったのだろうか)

   (普通の態度だと思うんだが)

   (気づいていないうちに額に十字の皺があったりするのかもしれない)

   (一度は作ってみたいと思っていたが)

   (まさか鼻ちょうちんよりも先に会得してしまうとは)

   (隠れた才能が恐ろしいな)

沙希(やっぱ変われないって)バクバク

   (ちょっとあたしおかしかった。心臓もなんか死にもの狂いで働いてるし)

   (寸前で止まれてよかった…ほんと)

   (でももし言ってたら。どうなったんだろう)

   (こいつがまともに返事をしてくれるとは思えないけど)

   (少しくらいは…喜ぶというか嬉しがってくれるのかな)

   (…)カァァ

   (ば、馬鹿じゃないの!あ、ありないし)

   (あたしの自分勝手な感情なんだから。こいつが別にどう思ったって)

   (あたしだって好きでもない、よく知らない男子に告白されたって迷惑なだけだろうし)

   (こいつにとっても多分)

   (…だから、関係ないから)

   (自分の気持ちくらい自分でけじめをつければいいだけじゃん)

   (わざわざわがままいって相手を巻き込まなくても)

ピロンッ

沙希()ビクッ

   (め、メールか)

   (…)

   (…)

   (なんで比企谷の妹があたしのメアドを…)

   (それよりもこのおしおきってなんなわけ?)

   (ん、もしかしてこいつ今あたしを…)

   「あのさ、これどういうわけ?」

八幡「ん?」

   (まるでどこかの副将軍のような携帯の持ち方だ)

   (ひれ伏さなきゃいけないのか?)

   (っつーかあの副将軍助さんと格さんで遊びすぎだろ)

   (最初っから印籠出せばいいのに)

   (流石は変わり者で名高い副将軍だな)

   (どれどれ。また嫌がらせチェーンメールだろうか)

   「…おいおい」

   (小町なにやってんだよ)

   (お仕置きされちゃうからお兄ちゃんを手伝ってあげてくださいって…)

   (折角俺が隠しながら奮闘してたのに)

   (小町の気遣いは時折斜め上で困るな)

   「悪戯メールじゃないか?」

沙希「…」

  「だからあんた変なことばっか言ってたの?」

  「牛乳とか…馬鹿じゃないの?」

八幡「ま、まぁそういうことだな」

   (流石に牛乳はきつかったよな)

   (ったく。もう少し粘ればかつ丼でも出てきたかもしれないが)

   (これで疑似デートは完全消滅だな)

   (なら時間で自然消滅に決定!)

   「でももう一応解決はしたというか。ほら、期日とかはないだろ?」

沙希「付け足されるかもよ?」

八幡(まぁ陽乃さんなら有り得そうだが)

   (雪ノ下と違ってとんちというか言質が通用しなさそうな相手だし)

   (あ、忘れれた!とかいって簡単に期日とか付け足すんだろう)

   (一休さんにでさえ「はい、橋を渡ったからペナルティ」とか言い出しそうだ)

   (そこで得意げに一休さんが「端はわたってませんよ?」と行ったところで無駄だろう)

   (「は?端じゃなくて橋の事だったんだけど、そんなこともわからなかった?」とか正論で潰しそうだ)

   「そうかもしれないけど時間稼ぎにはなるだろ」

沙希「…」

   (多分あたしは素直になるまでにはすごい時間がかかるだろうし)

   (愛してるとか好きとかは言えないし、自分からも誘えないけど)

   (でも、少しずつなら)

   (きっかけがあるんだから)

   (ちょっと前に踏み出してみても…)

   (時間をかければあたしだって変われるかもしれない)

   「あのさ」

   「別に…いいけど」

八幡「へ?」

沙希「だから…その、デート…」ゴニョゴニョ

八幡「えっと、つまり…」

沙希「だ、だから別にでで、デートしてもいいって言ってんの!」

   (何回も言わせんな!)

八幡「いや、別に無理しなくていいぞ」

   「時間稼いでるうちに別の言い訳考えるし」

   「陽乃さんだってそこまで俺たちにデートしてほしいわけでもないだろきっと」

沙希「…」

  (こ、こいつ)

  (人がせっかく勇気出して…死にそうになっていったのに)

  (別にいいって)プルプル

  「ふざけんな…」

八幡「ん?」

沙希「ふざけんなって!」

八幡「は、はい!」

沙希「あ、あたしは勇気をだしたのに!」

   「いっつもそうだけどあんたっていっつもわけわかんない!」

   「変なこと急に出だしたりして…」

   「あのさ、人の事考えたことあんの?」

   「あんたは逃げてないかもしれないけどさ…」

   「そうやって避けられるのだって…傷つくんだけど」

   「あたしはあんたみたいに強いわけじゃないから」

   「話しててもなんか実感ないし。嘘ってわかることばっか言ったりするし」

   「あんたに友達がいないというか好きじゃないのは何となくわかるけどさ」

   「せめてちゃんと受け取ってよ!」

   「あと…少しくらい頼ってよ」

八幡「…」

沙希「ほら、あたしあんたに借りとかあるじゃん?」

   「もう忘れてるかもしれないけどさ、あたしの気が済まないから」

   「ね?」

八幡「あ、あぁ」

   (深い関係を避けてきたのは確かだが)

   (深い関係を築いてしまえば必ず亀裂がどこかに生じるだろうし)

   (なら最初からはじめない方が傷を負わないで済む)

   (繰り返して学んだ…つまるところの経験則だな)

   (だが…)

   (確かに周りのことは気にかけず行動はしてきたが)

   (自分の事はどう思われても構わないと思ってたしな)

   (俺が周りに及ぼす影響なんぞたかが知れてるわけで)

   (だが間違っていたかもしれない)

   (他人に意見を求めたことなどないからわからないが)

   (…頼る、か)

   (なかなか難しそうだ)

   (で、でも貸しがあるみたいだし?)

   (べべ、別に頼るのが恥ずかしいとかそういうわけじゃないからね!)

   (いやほんと。ぼっち同士というレアな組み合わせだが)

   (川崎が裏切ることはないだろう)
 
   (何故なら彼女自身もまた恐れているだろうから)

   (恐れているどうし、容易に近づくことはないだろう)

   (だからこそ傷つけあうこともない)

八幡(おそらく俺たちの距離が急速に縮まる、なんて超常現象は起こらないだろう)

   (それでいい)

   (急速に縮まるならば急速に離れることだってあるわけだ)

   (なら鈍行の方がいいに決まっている)

   (スピードが出ていなければ事故にあっても被害は小さいわけで)

   (川崎との距離なんて互いに離れっている分普通のクラスメイトよりも遠いかもしれないわけだ)

   (それにしちゃ他の奴らと比べると一緒にいても苦にならないし)

   (無論距離があるからかもしれないが…)

   (少しくらい詰めてみてもいいんじゃないだろうか?)

沙希「それにほら、知ってると思うけどあたし人付き合いとか苦手だしさ」

   「あんただったら…その…楽というか」

   「普通にしたいっていうか」

   「やっぱりちょっと羨ましかったりしちゃうしさ」

   「馬鹿みたいだけど」

八幡(流石は同じボッチ科、考えることが似通っている)

沙希「…ん?」

  「」ハッ

  「も、勿論本気のカップルが羨ましいとかじゃないから!」

  「これだってそ、その、デートのふりで、あ、あたしが言ってるのは普通の友達っていうか」

  「ほ、本当に恋人とかそういうのはあり得ないから!」

八幡「お、おぅ。それは分かってる」

   「そこまでうぬぼれることはない」

沙希「な、ならいいけど」

   「さっきもいったけど借りがあるだけだし」

八幡「だから大丈夫だ。それに関しては修行を積んでるから問題ない」

   (なんなら疑似デートできゃっきゃうふふっぽいことしても勘違いしないだろう)

   (それにしてもこれでなんとかおしおきは免れたわけだ)

   (流石は小町)

   (帰ったら何かしらねだられそうだが…せ、千円以内なら)

沙希(へ、変なことは言ってないはず…)

   (今は言い訳で固めないと、きっかけがやってこないとダメだけど)

   (少しずつならきっと)

   (時間をかければ素直に言える日が来るかもしれない)

   (だから今はただのと、友達?)

   (…)カァ

   (クラスメイトで)

八幡(俺も頑なになりすぎていかもしれん)

   (ぼっちなんだから、なんて考えるのは本末転倒だったな)

   (自分は変わらぬまま、だからわざわざ曲げる必要もない。ベクトルがどうであれ、だ)

沙希「じゃ、じゃぁ…今度」

八幡「よ、よろしくお願いします」

沙希「…うん」プイッ

八幡(俺たちが近づいているスピードなんぞおそらく牛もびっくりのスピードだ)

   (今度から少数派の議員達はボッチ歩作戦と呼ぶべきだと思う)

   (疑似カップルなんてフィクションにはよくある設定だが)

   (ぼっちがやっちゃならんだろ。全く)

   (サッカー選手に野球をしろと言っているような…)

   (いや、引きこもりに野球でした)

   (あれだな、やはり俺の青春ラブコメは間違っている、な)

ヒュォッ

沙希「んっ」ヒラッ

八幡(屋上のお決まり、神風が!)

   「やっぱりくr」

沙希「なっ!」カァァァ
 
   「み、見るなぁ!」ビュン

八幡「ぐふぉぁっ!」

   (えぇ…結局蹴りは食らうのかよ…痛い)

   (っつーか川崎も当初のリアクションと比べると変わったというか…でも痛い)

   (さっきの俺の心の中の台詞で終わっておけばそれっぽかったものを…マジ痛い)

   (あれか、ちょっと迂遠に非難したから神様嫌がらせとしてイベントをよこしたのか…いや、ほんと、ただ痛い)

   (ラブコメの神様、イベントくれるなら俺にも主人公たちのような、いややっぱりR団のような防御力を…ぐふ)

END

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月06日 (月) 07:25:58   ID: iIb3bUin

途中までだけどさきさき可愛いわ

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