八幡(由比ヶ浜、お前に決めた!) (113)

結衣「ひ、ヒッキー!え、えっと…なんというか…あたし…その…頑張る」

八幡「だから何をだよ」

結衣「その…だから…で、デート?とか」

八幡(さて、誰にするべきか)

   (本来なら小町とか戸塚でお茶を濁したいところなんだが)

   (陽乃さんが許してくれなさそうだし)

   (となると…由比ヶ浜が妥当か)

   (雪ノ下は選んだら俺がひどい目にあいそうだ。さっきから色々俺に暴言はいてるし)

   (それに引き替え由比ヶ浜はいつものごとく友好的。条約とか結んじゃうレベル)

   (後々適当に誤魔化せる確率も高い)

   (俺を助けるために申し出ているようなものだろうから)

陽乃「誰にする?」

八幡「由比ヶ浜にしときます」

結衣「え!」

雪乃「!!」

川崎「!!」

小町(おぉっ。ついにお兄ちゃんが決断を)

陽乃「ほほぅ。ガハマちゃんかぁ…」

   「まぁしょうがないね」

   「じゃ、今回はここら辺で解散にしようか」

由比ヶ浜宅

結衣(ヒッキーがあたしを選んでくれた…むふふ)ニヤニヤ

   (絶対選んでくれないと思ってたのに)

   (ヒッキーシスコンだし)

   (陽乃さんに感謝かも)

   (…ヒッキーとデート)

   (まさかこんな日が来るなんて)

   (そ、そりゃ本当のデートじゃないけど)

   (前からヒッキーと二人でお出かけしたいなーって思ってたし)

   (お祭りのときは陽乃さんと合流しちゃったし)

   (だ、だってゆきのんだってヒッキーと買い物したことあるのにあたしはないし)

   (あ、でも別に具体的なプランは何もしてないや)

   (ヒッキー連絡してくれないし)

   (あれからもう数日たってるのに)

   (あ、あたしからメールしたほうがいいのかも)

結衣(ヒッキー基本なんもしないし)

   (ヒッキーメールとかも全然しないし)

   (たまに送ってくれてもすごい地味だし。黒いもん)

   (よ、よし。メールしよう)

   (女の子からデートに誘わせるなんて…ヒッキーダメダメだ。知ってたけど)

   (た、タイトルどうしよう)

   (デートとか言うのは恥ずかしいし)

   (…)クシクシ

   (ってあたしなんで髪型なんか整えてんの!もぅ…)

To:ヒッキー☆ 20:38

Title:nontitle

やっはろー!ヽ(^。^)ノ

あのさ、今週末空いてる?

ケーキが檄ウマなカフェ見つけたんだ!(>O<)

結衣(こ、こんな感じでいいよね。変じゃないし)

   (…)

   (…)

   (返事まだかなー)

   (…)

   (お風呂かな?)

   (…)

   (あたしもお風呂入っちゃお)

   (あ、でもその間にメールきちゃったら…)

   (も、もうちょっと待ってみようかな)

   (…)

   (…)

   (…)

   (来ない!全然来ない!)

   (ヒッキー携帯見てないのかなぁ)

   (オフになってる?)

   (充電器れても充電してないのかも。ヒッキー携帯使わないっぽいし)

   (…)

   (もうお風呂入る!)

ピロンッ

   (来た!)ガバッ

From:ヒッキー☆ 21:42

Title:Re:nontitle

誤送信してるぞ。俺雪ノ下じゃないし

それと檄じゃなくて激だ

結衣(…みじか!)

   (しかも間違いメールだと思われてるし!)

   (せっかく一時間以上も待ったのに!)

   (ヒッキーの馬鹿!)

To:ヒッキー☆ 21:44

Title:ヒッキーへ

違うし!ヒッキーにはなしてんの!(`Д´)

陽乃さんも言ってたし、お出かけ行かないと!\(゜ロ\)

ケーキでも食べようよ!゜*。(*´Д`)。*°

週末はどうせ暇でしょ!

結衣(もう!)

   (…)

   (…)

   (やっぱり遅い!)

   (携帯は手元にあるはずなのに…)

   (も、もしかしてヒッキー私にメール送るのに文面考えてたりするのかも)

   (だから時間がかかっちゃう…とか?)

ピロンッ

From:ヒッキー☆ 22:03

Title:Re:ヒッキーへ

実は俺今週末驚くほど忙しい

結衣(って一行だっ)

   (絶対考えてない。ならなんで返事に二十分も…もぉっ)

   (それに絶対嘘ついてる。ヒッキーが忙しいわけないし)

To:ヒッキー☆ 22:04

Title:嘘だ!

ヒッキーが忙しいわけないじゃん!\( ̄ ̄*)バシッ

何の予定があんの?

約束なんだから!陽乃さんに言われたじゃん!

お出かけしないと!\(◎o◎)/

   (…ふぅ)

   (また待たなきゃだ)

   (…)

   (別に携帯とにらめっこしてる必要ないんだった)

   (勉強とかしなきゃ)

   (…)

   (うぅ…なんか集中できない)

ピロンッ

From:ヒッキー☆ 22:28

Title:Re:嘘だ!

別に大丈夫だろ。陽乃さんが監視しているわけでもないし

それに俺は超絶忙しい

具体的には読書小町ゲーム戸塚買い物昼寝小町勉強読書小町カマクラ小町勉強小町小町…だな。

結衣(やっぱしすごい暇じゃん)

   (っていうか小町ちゃんばっかだし!特に最後の方)

   (やっぱシスコンだ)

   (それにしてもヒッキー誤魔化そうとしてる気がする)

   (そんなにデートがいやなのかなぁ…ヒッキーがあたしを選んでくれたのに)

   (あの後ありがとってひとこと言われただけだし)

   (ヒッキーいじわる…)

   (ちょっと強引に誘わないとダメなのかも)

   (お祭りのときだって小町ちゃんの助けがあってやっとだったし…そだ!)

To:小町ちゃん♫ 22:26

Title:ヘルプ!(≧⊿≦)ノ

小町ちゃん!

あのさ、小町ちゃんも知ってると思うけど桃太郎の時の約束をヒッキーが無効にしようとしてて…(´・ω・`)ショボーン

いやっ。その、約束は守らなきゃだし!

どうやったらヒッキーってお出かけするの?(*・∧・*)?

結衣(これでよし)

ピロンッ

From:小町ちゃん♫ 22:30

Title:小町アドバイス

お兄ちゃんはてこでも使わないと動きませんね

ですからもうだますしかない!

偶然をよそおっちゃったり!

それが嫌だったらもう追いつめるしか、大義名分を用意するしかでうかね~

弱みを握るのもありかも

あ、必要でしたらこの前のお祭りの時みたいに小町もお手伝いしますけど

   (あ、動物とかもいいかも)

   (ヒッキー猫かってるし。あたしは犬だけど)

   (動物園?ペットショップ?)

   (でもヒッキーがペットショップとかについてきてくれるとも思えないし)

   (動物園は…ちょっとハードルが高すぎる。恥ずかしくて誘えない)

   (だってなんか本当のデートみたいになるし。知り合いとかに会ったら誤魔化せないし)

   (…)

   (ふぁっ!ちょっと想像しちゃってた)

   (…行ってみたいけど。ま、まだ早いってやっぱ!)

   (どうしよう)

   (全然わかんない)

   (…)

   (…)

   (そうだ!)

――――――――――――――――――――…

部室にて

結衣「」ソワソワ

雪乃「」ペラッ

八幡「」ペラッ

結衣「あ、あのさ」

雪乃「?」

結衣「い、いや。最近相談メールとか見てないなーって」

雪乃「そういえばそうね」

八幡「見なくていいだろ。無駄に仕事増えそうだし」

   (千葉県横断の部分は気に入っていたが)

雪乃「ここは読書部、ではないのよ」

八幡「お前だって大概読書してるだろ」

   (逆に奉仕部とかアブノーマルな部活動があることの方が信じがたい)

   (部員の半数以上が読書してんだからもう読書部でいいと思います)

   (この状態で奉仕部だと言い張るのは赤いスーツ、黄色いネクタイ、顎まであるもみあげ、刈られた頭、サル顔をした男が「いえ、私は怪盗じゃないです」といっているようなものだ)

雪乃「それは依頼がない状態の話であって、私は積極的に部活動に勤しんでいるわ」

   「由比ヶ浜さん、メールを確認してくれるかしら?」

八幡(つまりは売れないラーメン屋みたいな状態ってことか)

結衣「う、うん」

   「えっと…一通きてるよ」

八幡「来てるのかよ。暇だなそいつ」

   「どんな内容だよ」

結衣「あたしが読むんだ」

   「えっと。消極的で休日も大体家にいて言い訳ばっかする友達をお出かけ誘いたいんだけどどうすればいいかって」

八幡「なんだそれ」

   「そんな奴誘わなくていいと思うがな」

   「亀を疾走させようと奮闘してるようなもんだろ」

雪乃「それではメールの解決にはなってないわ」

   「もう少し真面目に考えたらどうかしら。勿論あなたにこういった経験はほとんどないでしょうからあまり期待はしていないけれど」

八幡「だったらお前も大体一緒だろ」

   「つまり。このメールは由比ヶ浜担当だな」

結衣「えぇ!」

雪乃「あなたが言うとただ怠けたいだけのように聞こえてしまうけど…」

   「そうね。やはりこれは由比ヶ浜さんの得意分野のように思えるわ。頻繁にクラスメイトと交遊しているようだし」

結衣「で、でもあたしだってあんま自分からは誘わないというか」

雪乃「それでもやはり私たち二人、特に比企谷君に比べると随分と経験豊かだわ」

   「なにしろこの男は誘われることすらないのだから」

八幡「馬鹿にするな。俺だって誘われることくらいある」

   「大概断るけどな。そうするとあいつら残念そうにため息をつく」

   「人気者はつらいな」

雪乃「うぬぼれ過ぎよ。彼らは安堵のため息をついているの」

   「立場上仕方がなく誘ってくれたのでしょうし。苦渋の決断だったでしょうね」

   「勘違いも甚だしいわ」

八幡(んなの知ってるっつーの)

   「で?由比ヶ浜だったらどうすんだよ」

   (相手がメール内容のようなひきこもりだとこいつでも苦労しそうだ)

   (第一こいつは相手に合わせて態度を変える節があるから)

   (恐らく相手がひきこもりなら誘ったりはしないだろう)

結衣(うぅ。メールを送るなんて間違いだったかも)

   (どうにかしてヒッキーに答えさせなきゃ)

   「でもほら!このメールの消極的でって性格ヒッキーっぽくない?」

雪乃「…」

   「確かにそうね。条件はすべて当てはまっているわ」

八幡「そうでもないだろ。俺積極的だし」

結衣「は?どこが?」

八幡(こいつに呆れられるとなんか腹立つな)

   「どこがもなにも」

   「俺はいつも積極的に人とのかかわりあいを断ってる」

   「その結果がぼっちなら俺の積極性は中々のものだろ」

   「ベクトルが逆なんだよ。他の奴等とは」

結衣「よくわかんないけど…いっつも家にいるじゃん」

八幡「それだって選んで家にいるわけだ」

   「メールの中の奴はやることもなく積極性もないが故に仕方なく家でだらけているだけだろうが」

   「俺は選んで家にいるんだよ」

   「なにもしないのとなにもしないをする、の違いだな」

   (んでもって自宅勤務とかいっちゃったりするわけだが)

雪乃「…」

   「今のような言い訳とも呼べない駄弁を披露する点でも合っているわね」

結衣「でしょ!」

   「だからヒッキーが答えればいいじゃん」

   「ひ、ヒッキーだったらどう誘われればいいの?」

八幡(結局俺が働くのかよ)

   (積極的に労働からは逃げているつもなんだが)

   「方法よりも誰に誘われているかによるだろうな」

   「俺の場合戸塚と小町だったらどこにでも行くが他の奴だったら大概断る」

結衣(えぇ)

   (でもゆきのんとはお出かけしてたし!)

   「た、例えばだけど」

   「友達の誕生日プレゼント選ぶの手伝って、とかだったら?」

雪乃「…」

八幡「それだって人によるだろ」

   (戸塚だったら俺から持ちかけるまである)

   (やっぱり俺積極的だな。そろそろステキ!とか叫ばれちゃうレベル)

   (無論積極的に存在感を曖昧にしているわけだからそんなことは怒らないだろうが)

   (存在感なさ過ぎてキセキの世代とか呼ばれちゃう気がする)

結衣(ゆきのんだったらいいってことかぁ…)

八幡「まずはじめに、んな俺が知らないであろう第三者のプレゼント選びに労力を使うのは俺の信条に反する」

   「そして俺にプレゼント選びを頼む時点でそいつ少しおかしいだろ」

   「そりゃ自分より誕生日の奴と親しそうな奴に頼むならわかるが」

   「俺の場合はそれがあり得ない」

   「小町の誕生日だとしても俺のセンスが役に立つとは思えないしな」

   「だから俺にそんなお誘いが来ること自体間違ってんだよ」

   「いくら溺れる者だって石はつかまないだろ。なんせ沈むだけだからな。藁以上に役に立たない」

   「俺がそんな誘いに乗るとしたら俺がそいつのセンスというか常識が普通じゃないと俺自身が把握してる時だけだろうな」

    「んまぁ俺にセンスを把握するほどに距離の近い奴がいるとは思えないが」

雪乃「…」

結衣(ヒッキーマジ鈍感)

   (ゆきのんは気づいてるのかな)

雪乃(距離が…近い)

あれこれアニメ設定かな、プレゼントを買う為のデートの事は原作で知ってたっけか

>>24

多分。鉢合わせにはなってたし。

結衣(怒ってないから気づいてないのかな?)

   「そ、それよりもさ」

   「例えば。例えばだけどあたしだったら?」

八幡(変な質問ぶっこんできた)

   「まぁ…俺のコンディションによってだな」

   (あいまいに誤魔化すのが一番だろう)

   (なんなら政治家とか目指せちゃうレベル)

結衣「コンディション…」

   (なんかよくわかんない)

八幡「あのな、コンディションっつーのは状態というか」

結衣「そ、それくらい分かってるし!」

   「つまりヒッキーの気分が良いときはいいってことでしょ」

八幡「まぁそうだな」

   (つまりはやはり誰に誘われるかによる、ということなわけだが)

   (小町か戸塚に誘われれば俺のテンションはツイッターとただただ社名が似ていたあの会社の株価のごとく急上昇すするわけだが)

   (例えば材木座に誘われたら正直面倒くさいとしか思わないし、風邪でも引く可能性が高い)

   (外部からの干渉がなければ俺のコンディションなんて常時同じだし)

結衣(なんか具体的じゃないけど)

   (でもヒッキーこれ以上話してくれそうにもないし)

   (頑張るしかないのかなぁ…)

   (でもあたし頑張るって言ったし!)

   (…ちょっと違う感じだけど)

――――――――――――――――――――――――――――――…
由比ヶ浜宅

結衣「今夜こそヒッキーとお出かけの約束しなきゃ」

   (ヒッキーはコンディションがどーのこーのとか言ってたから)

   (まずはそれを確かめた方がいいのかも)

To:ヒッキー☆ 19:52

Title:やっはろー

やっはろー!(/*^^)/

げ元気?

   (あ、げが一個多いまま送信しちゃった)

結衣(で、でもやっぱりこれくらい踏み込まないと駄目だよね)

   (ヒッキーってば距離を近づけないどころか離れてくなんてこともあるし)

   (あたしからどんどん近づいてかないと)

   (よ、よし。電話しよう)

   (…ふー。緊張する)

   ()クシクシ

   (ってまたなんで髪型整えてんのあたし!)

   (ちょっと混乱してるのかも)

   (よ、よし。頑張れあたし!)

   (…)

   (コール音が長い)

   (…)

八幡「もしもし?」

結衣「あ、あたしだけどっ!」

八幡「声がでかい」

結衣「ご、ごめん」

   (落ち着かなきゃ)

八幡「んで?どうした急に電話なんて」

結衣「え、えっとね」

   「元気?」

八幡「お前どんだけ俺のこと心配なんだよ」

   「メールでも行ったが美少女は落ちてきていない」

結衣「美少女?何言ってんの?」

   「それに心配とかしてないし!」

八幡「じゃぁなんだよ」

結衣(もうちょっと考えてから電話すれば良かった…)

   (な、何の話をすればいいのか全然わかんない)

   (天気の話とか?…多分違う)

   「ひ、ヒッキーって…普段何してんの?」

八幡「これもメールで言ったと思うが…っつーか言っただろ」

   「読めない漢字でもあったか?」

結衣「そ、そーゆーわけじゃないし!」

八幡(電話の意図がよくわからん)

   (携帯が鳴った時はびくっとしてしまったが)

   (異常事態なわけだし)

   (それにしても俺より小町が驚いていた気がする)

   「んじゃどうしたんだよ」

結衣「だから…ヒッキーの趣味ってなんだろうなぁって」

八幡(電話の必要性がない)

   (無駄に緊張しちゃうからやめてほしい)

   (無論戸塚のエンジェルボイスなら着信音にしたいぐらいだが)

   (それにしても趣味か…)

   「読書と小町と遊ぶ、くらいだな」

結衣(一緒に小町ちゃんと遊ぶわけにもいかないし)

   (となるとやっぱ本かぁ…苦手なのに)

   (あ、本屋さんならいいかも。漫画もあるし)

   (でも本屋さんのデートって…何すんだろ)

   (立ち読みとか全然デートっぽくないし)

   (やっぱし基本的には喋らないじゃん!)

八幡「…」

   (切れてんのか?)

八幡「もしもし?」

結衣()ハッ

   「もしもし!」

八幡「だから叫ぶなよ。耳がいてぇ」

結衣「あはは…ごめんごめん」

   (直接なら部室とかでいっつも話してるのに)

   (なんで電話の方が緊張するんだろ)

   (耳元で喋られてるからかも)

   (ヒッキーが耳元で…)

   (うわっ!な、なんか想像したら超恥ずかしい…)

   (っていうかヒッキーにそういうの全然似合わない)

   (それよりもお出かけのことについて考えなきゃだ)

   (本屋さんデート…ふむ)

   (流石に本屋さんだけじゃ終われないから、そっから映画とかカフェとかに行けばいいのかも)

   (…)

   (や、やっぱ映画はまだなし。れ、レベルが高いというか)

   (やっぱりお買い物が簡単だしお手軽だし)

八幡(やっぱり切れてるな)

八幡「切るぞ?」

結衣「へ?」

   「ちょ、ちょっと!なんでだし!」

八幡「なんでって…結局何の用だよ」

結衣「えっと…だ、だから…」

   (どうしよう…な、なんか言わないと)

   (やっぱもっと考えてから電話すれば良かった)

   (えっと…えっと…)

   「ほ、本屋!」

八幡「…」

   「は?」

結衣「だ、だから本屋に…えっと…用があって」

八幡「はぁ」

結衣「で、でもあたし普段本屋とか行かないし…」

八幡(一体全体何の話を始めてるんだこいつ)

   (いや、そりゃ普段こんな高級なレストランとか来ないから、なんて台詞ならありそうだけど)

   (その場合はフィンガーボウルの使い方でも教えればいいのだろうが)

   (本屋に行ったことがないって。嘘だろ)

   (文庫本を立ち読みしたりと時間つぶしにはもってこいなのに)

   (それに本屋初心者なんて聞いたこともない。だからアドバイスとかも聞かれてもできそうにない)

   (18禁のところには踏み入れないようにしろよ、くらいしか思浮かばない)

   「で?」

結衣(うぅっ。ヒッキーさっきから急ぎすぎ)

   (「で」とか「は」とか言ってることちょー短いし!)

   (女の子との会話なんだからもうちょっと張り切ってくれてもいいのに)

   (まぁヒッキーにはそんな気遣い無理だろうけど…はぁ)

   (ぎゃ、逆にあたしにもチャンスがあるってことだよね!)

   (これが例えば隼人君だったら競争率高すぎてげんなりしちゃいそうだし)

八幡(…)

   (由比ヶ浜の奴地下にでもいるんじゃないだろうか)

八幡(…)

   「ん?」

   「あ、電池が切れた」

   「そういや全然充電してなかったな…充電器はどこだっけか」

   (由比ヶ浜には明日にでも説明しておけばいいか)

   (それよりも充電器と…)

結衣(それに比べるとヒッキークラスじゃなんかきょどってて変だし、口悪いし、黙ってるから…)

   (本当は犬のために車の前に飛び出したりできるんだけど)

   (頭も良いし、か、かっこいいし…)

   (そ、それよりも!)

   (本屋に誘わなくちゃだ)

   「だ、だから…その…一緒に本屋さんに行かないっ?」

ツーッツーッ

   「って切れてるし!」

   (なんで?!)

   (も、もしかしてあたしが気づかないうちに切っちゃった?)

   (だとしたら早くかけなおさなくちゃ!)

   (ヒッキー怒ってるかもだし)

結衣「…」

   「ってかかんないし!」

   (えっとぉ…どーゆーこと?)

   (ヒッキーが携帯の電源切ったのかも)

   (だとすると…あたしと電話したくなかった…とか?)

   (で、でも別にそんな嫌そうじゃなかったし!)

   (…でも考えてみればヒッキー電話そのものが苦手そうだから)

   (やっぱりあたし少し迷惑だったのかも)

   (だからヒッキーも嫌になっちゃって電源を…うぅ)

   (だって普通電話急に切らないし、電源も)

   (最近ヒッキーとの距離が縮まったと思ったのに)

   (…)

   (ま、まだ決まったわけじゃないし!)

   (もっとポジティブに考えなきゃ)

   (た、多分ヒッキーも本屋くらいならついてきてくれるし)

   (あ、そのあとも勉強を教えてもらうってことでカフェとか行けばいいのかも)

   (大丈夫。きっとうまくいく…よね?)

――――――――――――…
部室にて

結衣「やっはろー…ってあれ?ゆきのんは?」

八幡「なんか平塚先生に仕事を頼まれたらしい」

結衣「そ、そうなんだ」

   「…」

   (き、昨日のこと聞いた方がいいのかな)

八幡「…」ペラッ

結衣(聞かないともやもやしたまんまだし)

   (で、でももしそれであたしと話すのがいやだったとか言われたら…あたし立ち直れないかも)

   (だったら聞かない方が…)

   (違うかも。聞かなくてもあたしはもやもやしたまんまだし)

   (ちょっとぎくしゃくしちゃうかもだし)

   (だからやっぱり聞かなくちゃ…も、もしヒッキーに嫌われてたとしてもまた頑張ればいいし!)

   (ほ、ほら!好きの反対は嫌いじゃなくて無関心ってなんかで言ってた!)

   (…)

   (無関心…)

   (…)

   (も、もしかするとヒッキーあたしに興味がないのかも)

   (え、えっと、異性としてとかじゃなくて人として)

結衣(だってヒッキーから話しかけてくることってあんまないし)

   (あたしが話しかけても返事がそっけないし)

   (目があったりしてもすぐそらすし)

   (これって…無関心ってことなのかも…だとしたらあたし絶望的じゃん!)

   (どど、どうしよ)

   (あ、でもまだ決まったわけじゃないし)

   (聞かなきゃわかんないよね)

   (…)

   (ちょっと怖いかも)

   (お、落ち着いてから)

   (うぅ…勇気ださなきゃ)

   「ひ、ヒッキー」

八幡「ん?」

   (あ、そういえば昨日電話して途中で電源が切れたんだった)

   (あの後そういえば電話もかけなおさなかったし、メールもしてないしな)
 
   (少々失礼だったかもしれない)

   (謝らないとだな)

   「そういえば俺も話が…」

結衣「え?」

   (話って…)

   (も、もしかしてあたしに直接もう電話しないでとかっていうつもりなのかも!)

   (ヒッキーだったらそういうところはズバッと言っちゃいそうだし)

   「ちょ、ちょっと待った!」

八幡「…は?」

   (それにしても考えてみれば女子との電話なんて俺にとっては非常事態だったな)

   (なのに別段どもることなく話せた俺ってもしかすると素質あるのかも)

結衣「…それって…大切な事?」

八幡「いや、そうでもないな」

結衣(…)

   (それってあたしに興味がないって遠まわしに言ってるのかも…)

   (…考えすぎかな)

   (ヒッキーよく嘘つくし誤魔化すし屁理屈ばっか言うけど大事な時はきっちり喋るし)

   (ってことは本当に大したことじゃないのかも)

   (だ、だといいけど)

   (よ、よし)

   「えっと…何?」

八幡「いやな、昨日携帯の電池が切れて、一方的に電話を切ることになったから。すまん」

結衣「へ?」

   「…えっと、つまり」

   「昨日は電池が切れちゃったから電話切ったの?」

八幡「まぁそうだな」

結衣(そ、そうだったんだ)

   (やっぱあたし考えすぎだったし)

   (よかったぁ…嫌われてなかった)

   (にしても通話中に電池が切れるとか…ふつー充電しながらとか話すのに)

   (電池亡くなるまでほっとくとか…ヒッキーらしいけど)

   「電話迷惑じゃなかった?」

八幡「まぁ…不慣れだから体力の消耗は激しかったな」

結衣「やっぱヒッキー電話とかしないんだ」

八幡「ほっとけ。必要ないだろ電話なんて。メールがあるんだから」

   「言いたいことを文章に表せないボキャブラリー不足の奴が使う手段なんだよ、きっと」

   「グラハムさんは本が嫌いだったに違いない」

結衣「グラハム?」

   (ハムの種類的な…)

八幡「ちなみに言っておくがハムの種類じゃないからな。人名だ」

結衣「そ、それくらいわかってるし!バカにしすぎ!」

八幡「んで?」

結衣「ん?」

八幡「いやいや、お前が話しかけてきたんだろ」

   「何お前、鳥なの?ダチョウなの?」

結衣「なんかよくわかんないけど馬鹿にされてる気がする」

   「だってダチョウだし」

八幡「ダチョウさんに失礼だろ。熱いおでん食わされるぞ」

結衣「は?なんで急におでんがでてくんの?」

八幡「…いや別に」

   「話を戻すが、なんで俺に話しかけたんだ?」

結「えっとぉ」

   (あ、そうだ。昨日の電話のことを聞こうと思ってたんだ)

   (でもこれはもう解決したし)

八幡「それと昨日の電話の続きもあるんだったら聞くが」

結衣「ちょ、ちょっとタイム」

   (昨日の電話の続きって…)

   (ストレートに言っちゃえばデートというか買い物に一緒に行きたいだけなんだけど)

   (言っちゃったほうがいいのかなぁ)

   (でもコンディションは別によくなさそうだし)

   (…ってゆーかヒッキーで大体いっつもおんなじ感じだし)

八幡「…」

   (タイムって。なんでだよ)

   (ふむ。)

   「」ペラッ

結衣(あれっ。ヒッキー本読み始めちゃったし!)

   (会話の途中だったはずなのに)

   (どうしよう…誘えない)

   (会話の糸口を見つけなきゃ)

   (お、お天気?)

結衣(むむむ…)

   「ヒッキーって…本屋とかよく行くの?」

八幡「まぁな」

結衣「…」

八幡「…」

結衣(終わっちゃった!)

   (もぅ…せっかくヒッキーとデートの約束ができたと思ったのに)

   (どんどんあたしから近づいていくって決めたのに)

   (デートは大きすぎる一歩だもん)

   (でもせっかくきっかけがあるんだから頑張らないとなのに)

八幡(目の端でそわそわされるとなんか気になるな)

   (携帯でもいじってくれればこちらも楽なんだが)

   (話しかければいけないのかなとか思ってしまう)

八幡(ここは無視するしかないな)

   (いくら由比ヶ浜がそわそわしていようと俺にできることはおそらくないだろう)

   (もしかしたら何か悩み事がある、なんて一部の彼らが謳う青春において王道なイベントがあるのかもしれないが)

   (実際には悩み事を打ち明けるなんて弱点を晒しているだけに過ぎない)

   (相談相手のクラスメイトがその問題を解決する可能性なんてまずない)

   (そいつが解決できるくらいならそもそも悩み事とは呼べない)

   (つまり悩み事の告白は別段解決への近道を模索している者がとっている行動ではない)

   (ではなぜ彼らはああも頻繁に悩み事を打ち明けるのか)

   (それは彼らが絆と呼ぶ曖昧模糊とした存在に形を持たせようとするためだろう)

   (悩み事、弱点を自ら晒すことによって相手に自分が仲間であることを示しているのだ)

   (そこまでしないと友達になれないなんてサバイバルすぎるだろ。ゾンビがいるわけじゃあるまいし。落ち着けよ)

   (んでもってその絆ってやつはいとも簡単に壊れてしまう。きっかけがほんの些細なことであっても)

   (そして仲間のしるしとして打ち明けたはずの悩みは敵となった元仲間から凶器として使われるのだ)

   (るりるりも言ってたし。小学生でさえそんな空間の中に生きているのだ)

   (高校生ともなればさらにその駆け引きは繊細なのだろう)

   (失敗すれば変なあだ名をつけられるだけでは済まない。悪意だって高校生にもなれば知恵を持つ)

   (そんな殺伐とした空間に俺が入れるわけもない)

   (なんたって俺は人畜無害の草食動物だ)

   (存在感がないあたりもはや微生物のレベルまで達しているかもしれない)

   (故に俺はここに無干渉を宣言する。うむ)

   (無干渉こそが平和なり…おそらく百年後あたりには格言として世に広まっている違いない)

   (百年先を行っちゃうとか流石俺。道理で周囲になじめないわけだ)

るりるりじゃなくてルミルミね

>>57
ほんとだ。間違えました

結衣(よし!当たってくじけろ!)

   (…へ?くじけちゃだめじゃん!)

   (やっぱり焦ってるのかも)

   「ヒッキー」

八幡「…どうした?」

   (相談されちゃったりするのだろうか)

   (MAXコーヒーの一番おいしい飲み方しか教えられそうにないが)

結衣「こ、今度の週末暇?」

八幡「メールはこの会話の練習だったの?」

   「さっきからメールの内容を復習しすぎだろ」

   (会話を練習するなんていつぞやの俺かよ)

   (シミュレーションの中では完璧なハッピーエンドを迎えていたが…)

   (現実では話しかけるも眉を顰められて「ごめん、ちょっと急いでるの」と言われて終わりだったが)

   (まぁ急いでいたんだからしょうがないよな。話しかけるタイミングは練習してなかったし)

結衣「だ、だってヒッキー誤魔化してばっかだし」

八幡「いや、事実俺は随時忙しいんだよ」

   「忙しすぎて週休三日制を推進したくなるレベル」

結衣(やっぱり手ごわい…)

   「で、でも暇な時間とかもあるでしょ?」

八幡「ないな。大概休んでるから」

結衣「ん?休んでるなら暇じゃん」

八幡「お前な、休日ってのは休む日だろ」

   「つまり休むための用意された土日なんだから休むのが当たり前、というか休むべきだろ」

結衣「でも遊ぶと楽しいじゃんっ」

   (このままじゃヒッキー絶対家から出ないっぽい)

   (どうにかして説得しなきゃだ)

八幡「そりゃお前はコミュ力が高いからそうかもしれないが」

   「俺の場合はありえないな」

   「小町の場合は強制だし、戸塚の場合は疲れるどころか滋養強壮!って感じだな。栄養ドリンク顔負けの効果がある」

   「なんせ進むにつれ元気になる」

結衣(さいちゃんへの愛が深い…)

   「でもほら!ねこカフェとかもあるし!猫可愛くて癒されるよ?」

八幡「ほほぅ」

   (そういえばそんなカフェがあると耳にしたことはあるが言ったことは一度もないな)

結衣(や、やっぱり食いついてきた!)

   「ほら、ヒッキーって猫派だからリラックスできるんじゃない?」

八幡「そうだな」

   (最近は兎派に染まりがちな俺だが…)

   (やはり猫もいいよな)

   (今度小町といってみるか)

   (そうすれば八幡ポイントとかたまる気がする)

結衣「ね?」

八幡「あぁ」

   「…」

結衣「…」

八幡「…」ペラッ

結衣「…」

八幡「…」ペラッ

結衣(あれ?会話終わってる?)

   (おかしくない?ちょ、ちょっとねこカフェの話題で盛り上がってたと思ったのに…)

   (言いつの間にか本読み始めてるし)

>>67
言つの間にか→いつの間にか

結衣「でさっ、あたしもねこカフェとか行ったことないんだよねー」

八幡「そうか」

結衣「…」

八幡「…」

結衣「い、一回くらい行ってみたいなーって」

八幡「そうか」

   (おそらく雪ノ下は二つ返事でいくだろうな)

   (おそらくカフェなはずなのにただひたすら猫と戯れているだけになる気がする)

   (だとしたらあれだな、コーヒー一杯で粘る客以上のしぶとさになるな)

   (店側に迷惑がかかるから逆に連れて行かない方がいい気もするが)

   (まぁそこは空気を読む達人である由比ヶ浜がどうにかフォローするんだろう)

結衣(全然だ)

   (わかりやすく誘ってるのに…ヒッキー超鈍感)

   (でも考えてみれば今までだってずっとこんな感じだったし)

   (なんというか…ヒッキーはぐらかしてばっかだし)

   (人の好意もネガティブに考えたり)

   (変なところは勘が鋭かったりするのに)

結衣(あたしももっと攻めなきゃ!)

   (自分からどんどん近づくって決めたし)

   (じゃないとヒッキーとデートとか絶対無理だし)

   (…よし!)

   「ヒッキー!」

八幡「うおっ」

   「急に大声出すなよ」

結衣「あのさ…」

八幡(今度こそ相談されちゃいそうな雰囲気だ)

   (千葉動物公園の正しい回り方くらいなら教えられるが)

   「県外は無理だぞ?」

   (例外として京都は少しだけ詳しかったりする)

   ()

結衣「へ?県外?」

   (県外は無理って…)

   (えぇっ!)

   (もしかしてデートで県外にはいきたくないとかそういう…)

   (も、もしかしてさっきから心のうちが漏れてたりしたのかも)

   (だとしたら…うぅ、すごい恥ずかしい)

   (でも県外は駄目ってことは県内ならいいってこと?なんかあたしの想像とスケールが違う)

   (つまりヒッキーはデートに行きたくないってわけじゃ…)

   (ほんとに?え、な、なんかあっさりしすぎてて実感がないというか)

   (ちょっと落ち着かなきゃ。あたしのかんちがいかもしれないし)

結衣「えっと…猫カフェとかは?」

八幡「行ったことないから無理だな」

結衣(あ、行ったことあるところじゃないと駄目なんだ)

   「じゃぁ本屋さんは」

八幡「本屋か。駅周辺なら大丈夫だな」

   (っつーかそんなに俺からアドバイスが欲しいのか)

   (もしかして俺のことが好きなんじゃないの?…なんつって)

   (それにしてもねこカフェといい本屋といい、こいつ雪ノ下をデートにでも誘おうとしてるのかもしれない)

   (あれか、いままで甘いものばっか食べて回ってたら太ったのか。漫画とかにもよくあるよな。女子が体重を気にする話)

   (つまりここでの俺の役目はデリカシーのない発言をして女子を怒らせることだろうか)

   (…否。俺主人公じゃないし。教室の隅でぽっちゃりとの上限と下限を黙考する役が妥当だな)

結衣(駅周辺だけって…ヒッキー行動範囲が狭いなぁ)

   (で、でもあたし確実に前進してる!)

   (だって今までのヒッキーだったら絶対こんな話にはならなかったし)

   (お祭りのときだって最初は小町ちゃんにお誘いの話をふってたし)

結衣(今のうちに情報収集しとかなくちゃ)

   (コンディションがいいみたいだし)

   「ゲームセンターは?」

   (プリクラとか撮ったり…で、でもプリクラって結構狭いし。恥ずかしいかも)

八幡(ゲーセンか)

   (大概一人だが)

   (二人となるとまた機体の選び方も変わってくるのだろう)

   (戸塚といったときはプリクラなんかとっちゃったけど)

   (ほかに二人で楽しめるゲームと言ったらなんだ。エアホッケーとかか)

   (あれ遊んでるミニスカの女子高生はきわどい。うん。思わず見てしまう)

   (しかし大概何も見えない。流石は女子、計算しつくしている)

   (そういえばあいつパンさんが景品のUFOキャッチャーで随分金使ってたな)

   (よくよく考えてみれば雪ノ下は勝負事に一度乗ってしまうと俄然やる気を出すから案外ゲーセンは妥当なチョイスかもしれない)

   (由比ヶ浜もちょくちょく天然なんだろうが雪ノ下を挑発してるし)

   (一度載せれば後はふるぼっこにされるまで続くだろう。えーなにそれ、誘ったらぼこぼこにされるって。不憫)

八幡「いいんじゃないか?」

   「うまく乗せられれば結構楽しめるだろ」

結衣(なんか他人事みたい)

   (それにうまく乗せられればってどういう意味だろう)

八幡「ただあれだな、お前がリードしてやれよ」

   (さもないと迷子センターからお呼び出しがかかるに違いない)

結衣「り、リード?」

   (デートでリードって普通男子がやるんじゃ…)

   (ま、まぁヒッキーは普通の男子じゃないけど。女の子におごってもらおうとかするし)

   (でもリードって具体的に何するんだろう)

   (前を歩くとか?でもそれじゃおしゃべりできないし)

   (他には…手をつなぐ?)

   (…)

   (…)カァァ

   (いや、ちょ、ちょっとレベルが高すぎ。恥ずかしすぎる)

八幡「んじゃ頑張れよ」

結衣(また他人事みたいに)

   (もしかして話がずれてる?)

   「ヒッキー何の話してんの?」

八幡「なんのって。そりゃ遊びに行く話だろ?」

   「お前が始めたんだろ。鶏なの?もう三歩あるいちゃったの?」

結衣「ヒッキーすぐあたしのこと馬鹿にする」

   (なんで鶏が出てきたのかはわかんないけど)

   (それに一応話は合ってた)

   (なんで今日はこんなに乗り気なんだろう)

   (この前メールした時は全力ではぐらかしてたのに)

   (これもコンディション?)

   (何考えてんのか全然わかんない)

   「ヒッキーはさ、あ、あたしとお出かけして楽しいと思う?」

八幡「そこそこ楽しんじゃないか?」

   (空気を読むのがうまい奴だから場の雰囲気を壊すようなことはしないだろうし)

   (それに優しいから相手が喜ぶようなことを率先してしてくれるだろう)

   (あと天然で少しアホだから相手によってはイライラさせるかもしれないが、大概は少しやらかしても笑って済ませてくれるだろう)

>>75
楽しん→楽しいん

結衣「そ…そう」

   (言ってることと顔が全然あってない気がするけど)

   (だってあたしのこと見てすらいないし)

   (もうわけわかんない)

   (でもヒッキーがこんなに乗り気な時なんてそうそうないし)

   (約束はしておくべきだよね)

   「じゃ、じゃぁ待ち合わせは…」

八幡「そこまで俺に言わなくてもいいだろ」

   「流石に待ち合わせ場所のアドバイスまでは出来そうにない」

   「できるだけ目立つ目印がある方がいいとは思うが」

結衣「…は?」

八幡「だから、雪ノ下と待ち合わせするなら何かシンボルがあった方がいいんじゃねーの?」

結衣(なんで急にゆきのんが出てくんの?ふぇ?)

八幡(ふむ、当社日1.5倍、みたいな感じで由比ヶ浜がいつも以上にあほな顔をしている)

   (おそらく何か勘違いでもしてたんだろう)

八幡「お前雪ノ下を誘ってゲーセンやらねこカフェやらに行くんだろ?」

結衣「…」

   「い、いつからそんなことになってんの?!」

八幡「いつからって。最初からだろ」

結衣(…最初からって)

   (つまりヒッキーはずっとあたしとゆきのんがお出かけすると思って話してた…)

   (猫カフェもがーむセンターも)

   (ってことはやっぱりあたしの勘違いじゃん!)

   (うぅ、なんかあたしよく空回りしてる気がする)

   (ヒッキーにはばれてないみたいだけどすごい恥ずかしい…もぅ!)

   (すれ違ってばっか…)ショボン

八幡(おぅ。なんか由比ヶ浜の顔が(´・ω・`)っぽくなってる。いや、雰囲気が何となく)

   (すごいな。顔見ただけで感情がこうもわかりやすく読み取れるとは)

結衣(あたしこんなに頑張ってるのに)

   (ヒッキー自分はよく変な言い方すんのにあたしがちょっと遠回りになると全然気づかないし)

   (なのに時々ストレートに褒めてくれたりするし…なんかずるい)

   (あぁもぉ…なんであたしヒッキーのこと…)   

   「ヒッキー」

八幡「ん?」

結衣「この前さ、桃太郎の時、最後どうなったか覚えてる?」

八幡「最後か。陽乃さんがはちゃめちゃだったところまでは覚えてるが」

   (というか戸塚とのキスとかがインパクトありすぎて他の小さなイベントにさくメモリーがなかったというか)

結衣(やっぱり誤魔化した)

   (あたしがストレートにいかなきゃ)

   (じゃないとヒッキー永遠に気づかないし。気づいても誤魔化すし)

   「最後にヒッキー陽乃さんに聞かれてさ、あたしのこと選んでくれたじゃん」

八幡(ふむ。流石にこれは忘れた、では誤魔化せないよな。事実なわけだし)

   「あぁあれな。陽乃さんマジ怖かった」

   「ところでさー、今日のじゅぎょーまじ退屈だったわー」

結衣「話そらすの下手すぎるし!」

八幡(やはりか。もう少し練習を積む必要があったな)

   (にしてもどうして急にあんときのことを)

   (もしかすると…きょ、脅迫されちゃうのか?)

   (由比ヶ浜のコミュ力をもってすれば俺を脈のない女子に告白したキモ男に仕立て上げるのは造作ないだろう)

八幡(しかし由比ヶ浜がそんなことをするとは思えない)

   (となると…ふむ。これは青いタキシードの彼でも呼ばないと解決できない)

結衣「その、あの時あたしを選んでくれてさ…」

八幡(なんか雰囲気が青い春色に染まり始めている気がする)

   (もしだ。もし由比ヶ浜があの時の俺の発言で俺に対しておかしな意識というか感情を抱いてしまったのならば。)

   (俺はその誤った感情を解かなくてはならない)
 
   (何故なら俺は真剣に由比ヶ浜を選んだわけではないのだから)

   (俺が勘違いする分にはいい。俺が勘違いしたって一時的に浮かれてんでもって後日黒歴史に刻まれるだけだし)

   (しかしそんな俺が他人に同じような効果を与えていいはずがない)

   (由比ヶ浜は優しいから。だからこそ発言したのが俺であっても意味を深く考えてしまう)

   「なんだ。ほら、あの時は俺も混乱していたというか。お茶を濁すことが許されない状況だったからな」

結衣「そ、それでもあたしを選んでくれて…う、うれしかったなーって」

八幡(それは違う)

   (由比ヶ浜は俺からの好意でも喜んでくれるのだろうが…しかしあの選択には俺の好意など含まれていない)

   (あったのは俺の自己防衛本能だけだ。俺が、俺のためにもっとも安全な選択をしただけだ)

   (だから喜んでもらうのは間違っている)

   「それは陽乃さんがデートうんぬんと言い出したから…誤魔化そうと思ってお前を選んだ」

   「戸塚や小町は陽乃さんが許してくれそうになかったし」

   「雪ノ下や川崎のを選んだら後々攻撃されそうだったからな」

   「だからお前を選んだ」

結衣(やっぱり)

   (最初っからあんまし期待はしてなかったけど…それでもちょっとがっかりかも)

   「それでもあたしは嬉しかったの」

   「だってそんな理由でも選んでくれたってことはあたしのことを頼ったってことでしょ?」

八幡「まぁ…そうなるな」

結衣「だからあたしたちの距離が近づいてるのかなーって思って」

   (なんかあたしすごい恥ずかしいこと言ってる気がする)

   「だって前のヒッキーだったら誰も頼ろうとしなかったし」

   「その。だから…あ、あたしたち友達ってことで…いいよね?」

八幡(友達…か)

   (なんか改めて口にすると気恥ずかしい)

   (友達ってこうやってできるものなのだろうか)

   (えーっと。気まずいなこれ)

   (しかしこの状況で「はぁ、と、友達なんかじゃないんだから!」と否定するのもまたわざとらしいというか)

   (素直に考えて由比ヶ浜は俺の友達なのだろうか)

   (んなもん俺にわかるわけもないが。明確な境界線があるわけでもないし)

八幡「いいん…じゃないか?俺に友達の条件なんてわかるはずないが」

   「だったらお前みたいな経験値高そうなやつが友達っつーならそうなんだろ」

   (我ながら素直ではないが…今まで友達はいないといってきた分簡単に認めるのも躊躇される)

結衣(ヒッキーが認めてくれた…今度こそ大きな一歩っぽいかも)

   「だからさ…と、友達としてどっか遊びに行かない?!」

八幡(…)

   「あぁ、今度な」

結衣(今度って…なんか今度は永遠にこなさそうな雰囲気だ)

   (せっかくここまで来たんだから絶対に約束しないと!)

   「今度っていつ?」

八幡(追及はないと思ってたんだが)

   「今度は…今度だろ。暇なとき」

結衣「ヒッキーいっつも暇じゃん」

八幡「だからそれは違う」

   「それにほら、お前も暇じゃないだろ」

   「ほかにも大勢友達がいるわけだし」

結衣「ヒッキーだってその中の一人でしょ?」

八幡「そうかもしれないが…」

結衣「じゃぁ今週末どっか遊びにいこ?」

   「友達なら普通じゃん!」

八幡(…何を意識してるんだ俺は)

   (そうだ。ただ遊びに行くだけだ)

   (雪ノ下とだって買い物に行った。見方によればあれだって遊びに行った、だけだ)

   (今更俺が意識することなんてないはずだろ)

   (だからこんなむきになってはぐらかす必要もないんだ)

   (ただ。)

   (雪ノ下と違うところといえばこいつは相当コミュ力が高いところか)

   (だからこそ俺に対しても距離を詰めてくる)

   (パーソナルスペースがやたらと広いぼっちにとってそれはある意味天敵だ)

   (警戒もしてしまう、何故ならそういった女子は勘違いを誘発するから)

   (女子と普段まともにコミュニケーションをとらない男子は話しかけられただけでその女子を意識してしまうわけで)

   (プライベートで外出なんかしたらなおさらだ)

   (しかし勘違いは勘違いであって現実と合致していることはない)

   (そして俺もまたそんな残念な男子の一人)

   (自分の勘違いを抑えることは得意だけど)   

八幡(だから由比ヶ浜と外出するといろいろと危ない)

   (祭りのときだってそうだ。電車でちょっと接触しただけで危うく好きになりそうだった)

   (俺って初心なんだな)

   (勘違いをしたくないのならば、黒歴史を積み重ねたくなければそのきっかけを積極的につぶすしかない)

   「だがな、俺といてクラスメイトなんかに会ったらお前も色々大変だろ?」

結衣「そんなことないよ」

   「そ、そりゃ恋人とかに間違われたらちょっと困るけど!」

   「で、でもそれもそれほどでもないというか…」ゴニョゴニョ

   「って、ってゆーか一緒にいるだけなら別に大丈夫だから!」

八幡「…」

   「いつものことながら優しいなお前は」

結衣「へ?ちょっ。急に褒められても…」ハッ

   「あ、でも別に同情とかそういうのじゃないから!」

   「また勘違いしてんの?」ムゥ

八幡「しちゃうかもしれねーから危ないんだよ」

   「お前が思ってる以上に男子ってのは単純で馬鹿なのが多い」

   「ちょっとクールな俺だって例に漏れず、だ」

   「勘違いはする方は最終的にそれに気づいて落胆するが、されるほうも迷惑だと思うぞ?」

   「俺に経験はないが」

   「なんせ些細な行動一つ一つにおいて理由を妄想されるんだからな」

   「俺の信条の一つは近づきすぎずだ」

   「近づきすぎなければ勘違いすることもないし、もししたとしても相手方に迷惑をかけることもない」

   「俺だけで始まって、俺だけで終わるんだ」

結衣「で、でもあたし別に勘違いされても迷惑じゃないというか…」

八幡「お前じゃなくて俺の問題なんだよ」

   「俺だって馬鹿な勘違いは積み重ねたくないしな」

結衣「でも…」

   (どうにかしてヒッキーを納得させなきゃなんだけど)

   (ヒッキーあたしより頭いいし)

   「…」ムムム

   「!」

   「ひ、ヒッキーすごい迷惑!!」

八幡「はぁ?」

八幡「急になんだよ」

   「俺ほど他人に迷惑をかけない奴もいないだろう」

   「なんにせよ関わることすらしないんだからな」

結衣「違うし!」

八幡「何がだよ」

結衣「だってヒッキーはあたしたちと一緒にたくさんやってきたじゃん!」

   「さいちゃんを手伝ったり、大富豪したり、文化祭とか体育祭手伝ったり…色々やったじゃん」

   「だから距離が近くなるのも当たり前っていうか」

   「でもヒッキー人の気持ちは全然考えてない」

   「あたし達はもう関わっちゃってるの」

   「だからヒッキーの方からわざと離れていこうとするのは少しショックだなーって」

   「だ、だからヒッキー迷惑!」

八幡「…」

結衣「ヒッキーは気づいてないかもしれないけどあたしはヒッキーのことずっと前から大切な友達って思ってたし」

   「た、多分ゆきのんだって」

   「なのにヒッキー鈍感すぎ」

   「勘違いしたくないとか言ってるけど…勘違いしてんじゃん!!」

八幡(…)

   (つまりは俺は不干渉を貫けていなかったということか)

   (だとすると確かに俺の言動は腹立たしかっただろう)

   (特技の妄想を披露してさらにその妄想が周りにも多少の被害を…駄目だろ俺)

結衣「だからヒッキーはもっと周りの人の事考えて」

   「それでも離れたいなら…それはあたしには変えられないけど…」

   「あ、あたしは近づいてくから!」

八幡「お、おぅ」

   「そのなんだ…すまなかった」

   「そういう交友に慣れてないから、俺中心に考えてたかもしれない」

   (一人が楽だというのも事実だし)

結衣「うん」

八幡「客観的に見ればそりゃ俺は奉仕部の一員として色々とやってきたわけだし」

   「その過程において他の奴らと比べ確かにお前たちとの距離は近くなった」

   (そこを無理に否定するほど天邪鬼でもない)

   「んでもって俺は勘違いしてたのかもしれない」

   (勘違いをするかは俺一人の問題だ)

   (それを他人に押し付けるのはおこがましい)

   (俺は変わっているのだろうか)

   (否、周りが変わってきたのだろう)

   (ごく一部の周りが、主に奉仕部周辺が俺を排斥対象から除外しただけの話だ)

   (俺への特別扱い、が終わったということだ)

   (周囲との距離が少し縮まったのならば、俺がそれをまた広げる理由はない)

   (溝を積極的にほるほどのやる気も労力も俺にはない)

   (俺は変わらない。勘違いも繰り返さない)

   (俺の周り動説だ。それでも町は回っている的な。俺は動いていない)

   (なんなら俺だけ別の銀河にいるまである)

八幡(だからリア充の皆さんはあぁも遠くで輝いているのか…納得。そのうち爆発してくれればいい)

   (しかし結局俺だって一人の男子高校生だ)

   (いくら友達がいなくても、ぼっちを貫いてもそれは変わらない)

   (ちょっと俯瞰してみても難しい言葉を使ってみてもそれ以上には慣れない)

   (それ以下にならば簡単になれそうだけども)

   (あといくらごみだとか非生物だとか毒舌女王にさげすまれても)

   (だから女子とのコミュニケーションで浮かれてしまう)

   (しかし義務教育で勘違いのおそろしさまで勉強してしまった俺はある意味プロだ)

   (今までの高校生活でも幾度となく抑制してきた。並の高校生だったらもう二、三回くらい告白して玉砕してる)

   (ならこれからも抑制すればいい)

   (女子と二人きりでどこかに出かけようと)

   (逆にそれすらもこなせたらまさに俺最強)

   (単に住む世界が違うだけの話だ)

   (海外でハグされれば「え、何この過剰なボディコンタクト」とか言って勘違いしそうになりそうだが)

   (結局のところ常識が違うだけだ)

   (由比ヶ浜みたいな友達が本当に百人できちゃってそうなやつと俺とでは住む世界、というよりは見てきた世界が違うんだろう)

   (だから常識も違う)

   (そう割り切ってしまえば俺だって勘違いはしないし、必要以上にディフェンスを固めることもしない)

八幡「だから…本当に今度な」

   (遊びに行ったからって何かが変わるわけではない)

   (よくよく考えたら奉仕部の面々と千葉村行ったり買い物いったりゲーセンいたりカラオケ行ったり…色々しすぎている)

   (今更意識することなんてないだろ)

結衣「…今週末」

八幡「は?」

結衣「今週末遊びにいこ?」

八幡「いや、今週末は色々あって…」

   (ん、誘われれば断る習性というか条件反射がでてしまった)

結衣「」ジーッ

八幡「その、あれだな、なんというか…」

結衣「何?」

八幡(ぐっ)

   「…」

   「近場でお願いします」

結衣「オッケー」ニコッ

   (ふふふ、やっと約束できたっ)

   (友達同士だからデートじゃないけど)

   (それはこれから少しずつ…ね)

   (どこに遊びに行こっかなー)

   (映画は…ナシ!)

   (カラオケ?…は二人じゃちょっと恥ずかしいし)

   (お買い物はヒッキーが退屈しそうだからゲームセンターかな?)

   (う、運が良ければプリクラとかも…)

   (よし、ゲームセンターに決定!)

   (あとはカフェとかにもよってぇ…)

八幡(やけにうれしそうだが…もしかして俺のことが!)

   (なんつって。早々に勘違いしちゃダメだろ俺)

八幡「んじゃ適当にメールくれ」

結衣「わ、分かった」

―――――――――――――…

平塚「おや、雪ノ下。部室の前にたって何してるんだ?入らないのか?」

雪乃「そうですね、部活動、でしょうか」

平塚「ほぅ。それはただ立っているだけで達成されるのか」

雪乃「達成されるかどうかまでは私にはわかりませんが…」

   「私が今入らない方がいいと思います」 

平塚「妙な依頼だな。私自身がここを訪ねるよう送ったわけでもないからよっぽどな悩みなんだろうが」
 
雪乃「依頼はメールでしたけど」

平塚「そうか。なんにせよ部活動に邁進することは良いことだ」

   「私は仕事があるから失礼するよ」カツカツ

雪乃「…」フゥ

   「よく聞こえないけれど…きちんと誘えたかしら?」

END


デート編はないんですねえ…
次はゆきのんかな!?

あれ、終わり?

>>103 >>101

もし全員分ルート書き終えてなお気力が残っていたらデート編へと移行しようかと思ってます

気力があれば、ですが。あと体力と時間とやる気と糖分も。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom