八幡「(俺が…桃太郎…だと?)」 (238)

平塚「鬼退治をしてきておくれ」

八幡「えー…」

   「鬼退治とか普通に考えて無理でしょ。俺よりでかいし、金棒振り回してるし」

   「ラミアスとかロトの剣とかないと無理」

「(だって本当の親は桃だぜ?すごい草食系男子も極めると植物から生まれてくるレベル)」

「(極めすぎた俺はもはや植物状態…ゆえに動かない!)」

平塚「行けよ」

八幡「いやだ」

   「(行くわけがない。そう考えると桃太郎って立派だよな)」

   「(ちょっと人並み以上の筋力があるからって鬼退治するとか)」

   「(調子のり過ぎだろ、まじ井の中の蛙。チョーリッパ)」

   「(大体犬と猿と雉を仲間にする時点でおつむが弱いのがわかる)」

   「(それに三匹とも黍団子ごときによってくるあたり相当な飢餓状態にいたに違いない。さらに弱い)」

   「(だって相手は鬼だぜ?ふつう狼とかゴリラとか鷹だろ、せめて)」

   「(自分の力を過信しすぎだ)」

平塚「さっさとしろよ」

八幡「それよりも平塚先生は母親役に抜擢されてんすね…やはりねんr」

平塚「」ブォンッ

八幡「ふごぅっ」メキッ

   「い、逝きます」

   「(鬼に会う前に、ってか出発する前にHPがほぼゼロ。俺の特性が「がんじょう」じゃなかったら瀕死だったな)」

   「(ってかそれよりも先生の方が断然戦闘力、というか破壊力高いだろ)」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382301758

平塚「それに君の妹が行方不明になっているからもしかすると鬼たちに…」

八幡「何ィィィィィィィィィッ!」

   「なぜそれを黙っていた!」

   「今こうしているうちにも小町の身に危険が迫っているかもしれないだろ!」

   「さっさと出発の準備しやがれ!」

平塚「自分でしたまえ」ギロッ

八幡「…はい」

   「(こえぇよ。何、鬼はここにいるんじゃないの?灯台もと暗すぎるだろ)」

   「(あ、でも今は東大は先もくらいらしいし)」

   「(やっぱ主夫が天職だな)」

   「(さてさて、適当に装備していくか)」

   「…」

   「あのさ」

平塚「何だね?」

八幡「武器らしい武器も防具らしい防具もないんだけど」

比企谷母「あ、だってお父さんが全部装備していったし」ガラッ

八幡「なんだよ、いきなり登場すんなよ」

平塚「これはこれは比企谷君のお母さん」

比企谷母「あら先生」

平塚「待てよ…実母が登場したということは…私の役は母親ではない!」

   「姉だ!」

八幡「いやそれは少し無理が…」

平塚「あぁ?」

八幡「い、いや、別に年齢の話をしているわけじゃなくてですね」

   「むしろ年齢はバッチグーなんですけど、だって俺桃から生まれてますし」

   「姉はいないでしょ」

平塚「なんだ比企谷。君は原作を知らないようだな」

八幡「原作?桃太郎の?あるんすかそんなの」

平塚「あぁ。オリジナルの桃太郎では、桃太郎は桃から生まれるわけではないのだよ」

八幡「えぇ…そしたらなんかもう根底から覆るじゃないですか」

   「いや、俺も思いましたけどね、いくらなんでも桃は無理だろと」

   「そりゃ形状がお尻に似てるから女性の象徴なのかなーとは思いましたがやはりサイズが」

   「せめてスイカでしょ。リア充どもが上流でバーベキューパーティー(笑)でもやってたんじゃないすか」

   「んで川に入れて冷やしておいたスイカが流れてしまった」

   「つまりこのおとぎ話の本当の教訓はリア充が損をしてボッチが強くなる」

平塚「この話にぼっちがいたか?」

八幡「いやいや、桃太郎とか凄いぼっちでしょ」

   「物語中に友達がいたなんて表記はありません」

   「それよりもなによりも最終的には動物とお友達、とか言い出すんですよ。しかも食い物でつった動物」

   「そんでもって最終的には暴力で鬼から宝物を強奪」

   「で、手に入れた財産を配って人望を得て、で結婚ですよ」

「多分結婚後はぐーたらしてたでしょうね。まさに超ヒモ。働かずして養うヒモ」

平塚「…さて、話を戻そう」

八幡「うわっ。結構語ったのに反応がそっけない」

平塚「川から桃が流れてくるところまでは同じなんだが、中に赤ん坊など入っていない」

八幡「(桃から生まれてないなら桃太郎草食系じゃないな)」

平塚「おばあさんは桃を家に持って帰り、おじいさんと一緒においしくいただいたらなんと!」

八幡「…」

平塚「…」

八幡「いや、ためないでいいんで」

平塚「そ、そうか。でだ、えーっと」

八幡「桃食べたじいさんばあさんはどうなったんすか」

平塚「そうだそうだ。なんと若返ったのだ!」

八幡「で?ここでしたり顔されても少し困るんですけど」

平塚「…その…若返って…ほら、な?」

八幡「いや、なって言われても。俺エスパーじゃないんで」

   「(ちなみにもし超能力が得れるとするならばもちろん透視能力)」

   「(一時期は透明になる能力にもあこがれたがいつの間にかその能力は習得していた。流石俺)」

平塚「…えっと、その…若返って…こ、子作りに励んで…桃太郎が生まれたんだ」カァッ

  「へ、変なことを言わせるな!」バシッ

八幡「いでっ。なんつー理不尽」

   「(にしても微妙に現実的すぎるだろう桃太郎)」

   「(そんなところにこだわらなくても…桃から生まれた!でいいだろ)」

   「(それにしても照れる平塚先生が可愛く思えてしまう)」

   「(ほんのり赤いし)」

平塚「ま、まぁこれで姉がいてもおかしくないだろ?」

続きはたまったら明日くらいにうpします

八幡「まぁそうっすね」

   「なんにせよ親父がでかけたんなら俺行かなくていいだろ」

「(流石は親父。小町の事となればすぐ飛び出すな)」

比企谷母「だとしたら最初から頼まないわよ」

八幡「でも親父が…」

比企谷母「だって彼全てだまし取られて帰ってきたから。三日後に」

八幡「んなっ…」

「まじかよ…父さん。何やってんだよ」

   「(我が父ながら情けない。どんなスピードだよ)」

   「(カモがねぎをせおって尚且つ豆腐をくわえてるようなことだったのか)」

   「(詐欺師ぼろもうけだろ)」

   「え、てことは俺丸腰?」

比企谷母「もちろん」

八幡「(おいおい、何その無理ゲー。敵チートなのに丸腰って)」

   「(え、この人は本当に俺に期待してんの?)」

   「(それとも俺を捨てたいの?ヘンゼルとグレーテル的な?だとしたら小町が俺と一緒にいないと)」

   「(あーもー。でも進めるしかないんだよなー)」

   「(なぜだろう。この旅の後に俺結婚するような気がしてきた。指輪とか買っちゃいそう)」

   「わかったよ。行ってくるから、黍団子頂戴」

比企谷母「え、要るの?」

八幡「いるだろ絶対。何、俺に餓死してほしいの?」

   「(え、黍団子ってお小遣いなの?すごいデジャブな感じ)」

   「(でもこれ命にかかわるからね?)」

   「(本当なら缶詰めとか干物とか日持ちが長いもの一年分は欲しいところだけど)」

   「(持てるわけないし、それに多分御都合主義な感じで進むだろうし)」

比企谷母「わかった。作るから待っといて」

数十分後

八幡「さてと。どっちだよ鬼ヶ島」

  「ま、歩けばその先が鬼ヶ島だろうな」テクテク

  「(恰好も近所のコンビニ行ってくるねスタイルだから敵だって強いのはでてこないだろう)」

  「(青いむにょむにょしたやつなら俺も倒せそうだけど)」

  「(Tシャツって防御力どれくらいなんだ…ジャンプでも挟んどけばよかった)」

  「(それか幼馴染のお守りだよな。あれかなりの確率で弾丸とか刃物とかとめる)」

  「(敵がピンポイントでお守り狙うとかありえないから恐らく引力がすごいんだろう)」

結衣「ひ、ヒッキー」

八幡「空気がきれいだなー」

結衣「ヒッキー!」

八幡「早く出てこないかな、ガンダムとか。黍団子を燃料として動く」

結衣「出るわけないし!」

八幡「ウッキーウッキーうるせえなぁ…あ、野生の猿か」

   「(野猿が仲間になりたそうにこちらを見ている…的な)」

   「(最初は青くて丸っこい、でも四次元ぽけっととかないあいつかと思ったけど)」

結衣「そうじゃないし!いや、そーだけど!」

八幡「なんだよ、キャラ設定ならちゃんとしとけよ。なんとか座…えっと…モザイク座かよ」

結衣「モザイク座ってなんか…それに中二の事?あれでしょ、モナリザ?」

八幡「うわ、さむッ!俺の高度なアナグラムに比べて何その星座を聞かれた時の小学生みたいな返答」

   「ちなみに俺の場合は便座だった」

結衣「そっちの方が寒いし!」

八幡「いや、俺の場合俺発信じゃないから」

結衣「…あ、えっと…ごめん」

八幡「で何、お前黍団子で俺に服従されにきたの?」

結衣「服従なんかしないし!なんか響き悪い!」

八幡「じゃぁ恭順?忍従?」

結衣「きょ…え?」

八幡「それじゃご奉仕?それならウェルカムなんだが」

結衣「それは違う!」

八幡「じゃぁなんだよ」

結衣「えっと…パートナー…とか?」テレテレ

八幡「パートタイマー?…時給黍団子一個でいいか?」

結衣「…パートタイマーじゃないし…もういいけど」

八幡「結局猿か。頭も力も弱そうだし」

結衣「失礼だ!」

八幡「だってお前鬼相手に何ができるわけ?」

結衣「…ひっかくとか?」

八幡「うん。頑張れな、色仕掛け」

結衣「言ってないし!」

八幡「(おそらくあと2匹か。4人パーティなんて)」

   「(あのRPGの起源が実はここに…!?)」

   「(にしてもこいつはすぐに棺桶になりそうだな。金の節約のために生き返らせないでおこう)」

結衣「でもヒッキーだって恰好超ラフじゃん。鬼とか倒せんの?」

八幡「まさか。適当なところでエスケープして養ってくれる人を探す。俺は」

結衣「最低だ?!しかも俺はってあたしは戦うの?!」

八幡「当たり前だろ。何のために雇ったと思ってるんだ」

   「(そろそろ次のが出てくる頃合いか)」

戸塚「はちま…」

八幡「戸塚!」

結衣「くい気味だ!あたしの時は無視したのに!」

八幡「戸塚、俺たちと一緒に旅してくれないか?黍団子でもなんでも好きな時に好きなだけやるから」

   「(やべぇ…養われることを目標とする俺が貢いでしまっている)」

   「(しかし戸塚ならばよし!養ってもらってその物資で戸塚を養ってやる!)」

戸塚「う、うん!」

八幡「(戸塚は犬か)」

   「(土佐犬とかを期待してたが…チワワでも許す!)」

   「(その分猿を酷使しなければならなくなるがまぁよい)」

戸塚「でも鬼退治…できるかな?」

八幡「(うっ、潤った上目遣い…)」

   「(なんだこの胸の高鳴りは…もしかして…恋?)」

   「(ある意味鬼よりも怖い、まじで、違うストーリーになっちゃう)」

   「(海老名さんようの18禁になってしまう)」

   「(あるいゎ少女漫画みたいな展開になるかもしれん。ってかあの『ゎ』ってどう発音すんだよ)」

   「大丈夫。安心しろ、俺が絶対守るから。鬼なんてへっちゃらだぜ!」

戸塚「八幡は勇気があるんだね。じゃぁ一緒に頑張ろうね!」

八幡「あぁ」

結衣「さっきはやる気ゼロだったのに?!」

八幡「うるせぇ…お前は疑問符と感嘆符しか使えない人なの?句点使えよ」

結衣「なんか失礼d…だぁ…」

八幡「いや、別に無理しなくてもいいから」

「(さて、残るところはあと一人か)」

雪乃「あら、そこの桃太郎?さん」

八幡「(雉だよな雉)」

雪乃「…聞こえないのかしら?もしかして耳までも腐っているの?」

八幡「(それにしても雉って国鳥の割には影薄いよなー)」

   「(天然記念物でもなんでもないし。動物園でもあんまし見かけない)」

   「(なんならトキとか鶴の方が目立ってる)」

   「(おそらくアメリカの首都をニューヨーク!と答えちゃうような人は日本の国鳥を鶴!と答えるだろうし)」

戸塚「八幡?」

結衣「ヒッキー、ゆきのんが…」

八幡「お前らはさ、日本の国鳥が何か知ってる?」

雪乃「消費期限を大幅に過ぎた桃太郎さん?蠅がたかってるわよ?」ギロッ

八幡「ひっ、もう鬼ヶ島についてたのか!」

戸塚「ち、違うよ八幡。雪ノ下さんだよ」

八幡「お、おう。知ってた知ってた。幽鬼ノ手下さんな」

雪乃「少し発音がおかしいのだけれど」

八幡「あ、黍団子ですね、はい。あげます。あげますからさようなら」

結衣「なんかすごいびびってるし」

八幡「は、はぁ?びびってるわけないだろ。あまりの展開の速さに膝が爆笑してるだけだ」

   「武者震い以上の将軍震いだ」

結衣「誤魔化せてないし」

雪乃「黍団子は別にいらないわ。その代わりに、鬼退治に付き合ってくれる?」

八幡「(あれれー?青いタキシードの彼もびっくりだ)」

   「(俺がお供になっちゃうの?動物が人より上?動物農場なのこれ…ちょっと違うか)」

   「いやいや、お前がお供になるプロットだろ?雉ノ下さん」

雪乃「あら、あなたに人を率いるだけの素質があるのかしら?ヒキガエル君?」

   「そもそもヒキガエルは桃太郎に出ないわよ?おとなしく井戸へ戻りなさい」

八幡「いや、どう考えても俺桃太郎でしょ。それにヒキガエルもキスで王様になるんだよ」

雪乃「さすがは井の中の蛙…現実を見なさい、あなた如きが主役を張れるわけがないじゃない」

八幡「(奇しくも桃太郎=井の中の蛙については同意見に)」

   「んなの解ってるよ。しかし!」

   「俺の妹がピンチなんだ!俺が行動を起こさないで誰が起こす!」

結衣「さっきはエスケープとかいってたのに…」

八幡「ってことで俺についてこい」

   「(なんか今の俺はカッコいい気がする…うん)」

戸塚「うんっ」

雪乃「さぁ行きましょうか、由比ヶ浜さん」

結衣「う、うん!」

数十分後

八幡「じゃ、漕ぐんだ!鬼ヶ島に向かって」

結衣「お供に押し付けた!普通は男子が漕ぐんじゃないの?」

八幡「おいおい、何で雇ってると思ってるんだ。俺が働かないためだ。労働のアウトソーシングだ」

   「ちなみに戸塚は漕がなくていい」

結衣「ふこーへーだ!」

八幡「おいおい、桃太郎の絵本読んだことあるか?小舟のシーンで桃太郎は先っちょで堂々と「すっすめ~」ってやってるだけだろ。」

「動物は黍団子で元気百倍だからこれくらいへっちゃらなんだよ」

雪乃「あら知らないの?最近の絵本は平等性を重んじているから、桃太郎もお供と一緒に漕いでいるのよ」

八幡「なに!流石横並び国日本…まさかそこまでとは」

雪乃「ちなみに私は最初の五分で疲れると思うわ。それに最新の絵本の中でも流石に雉は漕がないし」

八幡「使えねぇ…」

戸塚「僕も一緒に漕ぐから頑張ろ!」

八幡「おう!俺に任せろ!」

結衣「…ヒッキーまじ単純」

数十分後

八幡「ここが鬼ヶ島か…」

戸塚「なんか少し怖いね」

八幡「じゃ、由比ヶ浜、お前囮な」

結衣「うんおとり…ってはぁっ!」

「なんで!」

八幡「だって正面から攻めるわけないだろ?相手は鬼だし。太刀打ちできるわけがない」

雪乃「それもそうね、私たちは普通の動物なわけだし…」

結衣「ゆきのんまで!」

雪乃「でもあなたが囮になる必要はないわ。比企谷君、あなたが囮になりなさい」

八幡「いや、俺は囮にすらならない自信がある。第一俺に囮としての魅力はない」

   「戸塚はもちろんのこと囮にするわけにはいかないし、雪ノ下も体力がない」

   「必然的に囮に一番適切なのはお前になるんだ」

結衣「うぅ…言い返せない」

雪乃「筋は通っているわね」

結衣「ゆきのんに裏切られた?!」

三浦「なんかさーさっきからあんたらうるさいんだけど」

八幡「…出てきちゃったじゃん。鬼」

三浦「は?鬼?ちょっと失礼じゃね?」

戸部「あれ?ヒキタニ君じゃん」

葉山「君たちが桃太郎御一行役なのかな?」

八幡「多分な」

葉山「なるほど」

八幡「(鬼役は葉山達だったか)」

   「(三浦とかぴったりだし)」

   「(人か吹いてもおかしくない)」

葉山「じゃぁ勝負をするのかな」

雪乃「そういうことでしょうね。といっても鬼の役目はひっかかれてかみつかれて目をつつかれる程度なのだけれど」

八幡「(あれ、俺はいつの間に戦力外通告を受けていたのか…)」

   「(俺だって鬼をちぎってはなげちぎってはなげ…しないけど)」

三浦「いやでもさー。フツーに肉弾戦とかつまらなくない?だるいし」

八幡「(聞くなよ。どうせ俺らの意見なんか聞かないんだろうし)」

戸部「んじゃなんかゲームしよーぜ」

葉山「ヒキタニ君たちが勝てそうな勝負となると、体を動かさないようなゲームがいいよね」

八幡「(冷静な判断だが腹が立つ。っつーか改めて考えてみればほんとこのパーティー弱すぎるだろ)」

   「(孤高の勇者と、天使な小型犬と、おつむが弱い猿と体力がzつ某的にない雉)」

   「(駄目すぎるだろ、特に後半)」

戸部「んじゃ王様ゲームとか!」

八幡「(うぜぇ。そもそも勝負にならないだろ)」

   「(王様ゲームとかマジで頭悪い大学生のノリだろ)」

   「(つーか下心しかないだろ)」

三浦「いいんじゃね?あーしは命令するだけが良いけど」

八幡「(何その女王様ゲーム。ただの三浦のストレス発散法じゃん)」

海老名「わ、わたしも賛成!私が王様になって葉山君とヒキタニ君をくんずほぐれぶふぉぅっ!」

八幡「(た、たかが王様ゲームなはずなのに貞操の危機を感じる)」

   「(俺のリスク高すぎるだろ)」

三浦「だから擬態しなって」

   「で?すんの王様ゲーム。あーしも最近やってないんだけど。マジ久しぶり」

八幡「勝敗がねぇだろ」

戸部「別にいいんじゃね?楽しんでこーぜ!」

八幡「(安定してうぜぇ)」

雪乃「由比ヶ浜さん。王様ゲームって何なのかしら。確か総武線関係だったかしら?」

結衣「いや、そうじゃなくて。えっとね。くじ引きみたいなことをして、王様になった人が命令できるの」

  「この前のは全然違う」

雪乃「なるほど。室町幕府6代目将軍にちなんだゲームというわけね」

結衣「将軍?王様だよ?」

雪乃「わかっているわ。つまり私が王様になれば」

八幡「冷酷な独裁による絶対王権主義の時代が始まるな」

雪乃「そうね。王の特権でまず貴方を投獄するわね。他の住民に感染しなうちに」

八幡「別に何も振りまいてねぇよ。アイアムノットアヒーローオアレジェンド」

雪乃「つまり私が王様になって勝利を認めさせればいいわけよね」

八幡「(あれースルーですかー?花沢健吾は流石の雪ノ下もカバーしてないだろうと思ってメジャーな映画も織り交ぜてみたんだが)」

雪乃「では始めましょう。人数的に考えても二分の一の確立で勝利をつかみ取ることができるわ」

結衣「(も、もし私が王様になったら…も、もしかしたらヒッキーと…ちょっとだけ…)」

戸部「(おぉ!これってチャンスかもじゃん!燃えてくるーッ!)」

八幡「(王様ゲームか。戸塚がいなければ成立しないよな)」

   「(いや、戸塚の場合は王子様ゲームか。無邪気な感じがあふれ出ているな)」

   「(その、ぎゅっとするくらいなら…許してくれるよな…よ、よし!)」

葉山「じゃぁはじめよっか」

「「王様だーれだ」」

戸部「キタァァァァァッ!」

雪乃「由比ヶ浜さん、私のには4と書いてあるのだけど…」

結衣「言っちゃだめだよ!王様は番号で命令するの」

雪乃「なるほど…つまりあまり横暴なことはできないということね」

結衣「今のやり直しね!ゆきのんいっちゃったから!」

戸部「いや…それは許されない」

結衣「はぁ!?あんたゆきのんに変なことするつもりでしょ!」

戸部「いや、心配するな」

八幡「(なんか戸部がゲンドウっぽくなってる)」

戸部「(今のネタバレにより、海老名さんの数字が4ではないことが証明された)」

   「(同時に慌てた由比ヶ浜が慌てて手をぶんぶん振り回した時に7の数字が見えた)」

   「(となると残りは1,2、3,5,6,。)」

   「(ランダムに数字を選んでも海老名さんである可能性は低い)」

   「(これはさらに揺さぶりをかける必要がある)」

   「えっと…さ…」チラチラ

   「さ…!」

戸塚&三浦「」ピクッ

   「(今の簡単なミスリーディングで反応したのは戸塚君と優美子)」

   「(ヒキタニ君は何考えてんのかわかんないし、海老名さんもこっちをみてるけど無反応)」

   「(あ、もし優美子が3だったら苗字にも3あるしやばくね!?マジうける)」

   「(…さて。)」

「(ん?い、今海老名さんが二回連続で瞬きを…)」

「(こ、これはもしかして俺に自分の番号を教えているのか!)」

「(ま、まさか海老名さんからアプローチがあるなんて…うわマジで!?)」

「(さ、流石にキスはやりすぎだよな)」

「(でもは、ハグくらいなら)」

「(円陣の時に肩組めなかったから今度こそ!)」

「んじゃぁ2番と王様がハグ!」

八幡「(む、ハグが出てしまった)」

   「(もしこの後俺が王様になったら…同じ命令は禁止という不文律があるだろうし)」

   「(となると俺が最大限に戸塚といちゃつける方法は…)」

   「(番号指定だから無難な命令にしないといけないのも事実)」

   「(キスとか言ったら非難轟轟で王様なのに革命起こって権利剥奪されるだろうし)」

   「(一揆をおこさない程度の命令…王様ゲームこっそりと難しいな)」

葉山「2番は…俺だ」

戸部「…え?」

海老名「初っ端から男×男の構図が…これは…もぅこれからエスカレートするしかないわね…」

八幡「(このゲームってこんなにも怖いゲームだったのか)」

   「(海老名さん王様になったらカオスだろきっと)」

葉山戸部「」ギュッ

海老名「いつもはお調子者の戸部君が見せるしおらしい態度。いつもの自分はただの偽りの姿だったと告げる彼を葉山君は優しく受け止めて。二人の体はやがて一つにぃっ!」ブホァッ

三浦「ほれ、さっさと第二回始めるわよ」

「「王様だーれだ」」

三浦「ん、あーしだ」

   「じゃ3番と6番キス」

八幡「(おいおいマジかよ。流石女王様だ。自分以外の事考えてねぇ)」

   「(多分俺が同じ命令してたら帰れコール始まっちゃうよ)」

   「(ちなみにそんなおぞましいコールがある合コンには参加しないと決めている)」

   「(相手に帰れと言わせる暇も与えない、俺は一歩先をゆく最先端ぼっちなのだ)」

   「(それにしても普通に女子もいるのに適当にキスとか)」

   「(…はっ!もしや最近のきゃぴきゃぴ女子高生は唇を重ねるだけのキスなど日常茶飯事!)」

   「(ゲーム感覚なのか…いつの間に女子高生たちはアメリカンになっていたんだ)」

   「(いや、金髪が多いなーとは思いましたけど、まさかそれがアメリカナイズの兆候だったとは)」

   「(恐るべききゃぴきゃぴ女子高生、染まる能力が半端ない)」

   「(それにしてもきゃぴきゃぴとか案外言いにくい。多分誤五回くらい続けていったら噛む)」

結衣「き、キスっていきなり!…あたしは4番だけど」

八幡「…俺3番だ」

結衣「(ひ、ヒッキーがだ、誰かとキス…)」

   「(あーもー!なんであたしこういう時についてないんだろう)」

   「(ゆきのんとか姫菜にはしてほしくない…)」

   「(だ、男子同士なら気持ち悪いけど…女子よりはいいか)」

海老名「優美子…流石思い切ったわね。これでまたもBLペアなら!」

戸部「っぶねー俺5番。マジちょーセーフじゃん」

葉山「俺は2番」

海老名「私も7番だから」

雪乃「私は1番」

結衣「(ってことは…)」

戸塚「ぼ、僕が…6番だけど…」

海老名「き、来たぁぁぁぁ…はやはちではないけど、この展開、私得すぎるっ」

八幡「(ととと戸塚とキスだと!)」

   「(いつから俺のラブコメは正常に稼働しはじめ…いや、正常じゃないか。男ですし)」

   「(これは、このまま戸塚ルートを攻略するしかないだろ)」

   「(今の戸塚は一応犬なわけだが…)」

   「(犬男とハサミ女の最近アニメ化された話もあるわけだし)」

「(つまりもうフィクションの世界では種族の壁とか全然ないわけで)」

   「(言ってみれば桃太郎もフィクションなわけで)」

   「(となるともう逆に躊躇する理由が見当たらない!)」

戸塚「これって…絶対?」

三浦「当たり前じゃん。んじゃなきゃ面白くないっしょ」

八幡「(もうこれはやるしかない)」

   「(覚悟をするんだ八幡!)」

   「(無論ここは間接キスでお茶を濁す、なんて手がないわけでもないがあえて拒否する!)」

戸塚「は、八幡」

八幡「お、おぅ」

   「(あーほんと、キスとかすごいやだー。もー三浦さん何考えてんのー?いみふー)」

   「(しょ、しょーがない。る、ルールは絶対だからな。ほら、俺規則とか大事にするし)」

戸塚「目…つむって」

八幡「…ふぇ!」

   「(なんだこの甘い展開は!あのMAXコーヒーも真っ青、いや、実際は真っ黒だけど真っ青な甘さ!)」

   「(よ、よし。こ、これはただのゲームなんだ。初キッスにはならないから。うん。)」ゴクリ

   「…わかった」パチッ

   「(視覚は奪われたわけだが逆に…なんか…)」

戸塚「じゃ、じゃぁ行くよ」

八幡「(…おかしくなりそうだ。いや、もうなってるのか)」

戸塚「」チュッ

八幡「(ほっぺにやわっこい何かが!)」

   「(マシュマロとか足元にも及ばないこの弾力…もう少しで解説とかしそうになっちゃう)」

戸塚「男の子同士なのに…」カァァ

八幡「(心臓が爆発しそうだ…)」

  「(ん?つまり女子といちゃいちゃしてるリア充男子はそのうち本当に心拍数上がり過ぎて爆発するんじゃないか?)」

  「(つまりぼっちが放つ「爆ぜろリア充」には力があったということか。ぼっち最強だろ)」

  「(…いや、今の俺はいつの間にか俺もリア充(尊)に仲間入りした気がする)」

  「(もう、なんか死んでもいいな)」

  「(帰ったら戸塚と結婚しよう)」

海老名「ムファッ!」ブボッ

八幡「(なんか一名既に爆発しちゃってるし)」

雪乃「さて、早く次を始めましょう」

   「これ以上気持ち悪い表情を眺めているのも不快だもの」

結衣「……そ、そだね!」

  「(さいちゃん男子なのに…なんか複雑)」

三浦「おーい、姫菜ぁ…気絶?」

戸部「ん、んじゃ俺看病しとくべ!いや、一回王様にもなって俺ちょー満足してるし!」

三浦「はぁ?何言ってんの?」

戸部「い、いや、ほら。優美子とか王様ゲーム続けたいべ?…だから、その俺が」

三浦「いや、あーしがやっとくから。あんたらでつづけときなよ」

葉山「そうだな」

戸部「…お、そっか?なら別にいいけど」

八幡「(頑張ってる戸部不憫)」

雪乃「そろそろ先に進みたいのだけれど」

   「三浦さんと蛯名さんが棄権するということなら、私達が王様になる確率も上がるわけだし」

   「別に番号は二つだけしか指名できないということでもないのでしょう?」

結衣「う、うん」
 
   「(そうだったそうだった)」

   「(番号だからヒッキーを指名できるわけでもないし)」

   「(とべっちとか隼人君だったらやだし)」

八幡「(なんか雪ノ下さんの周囲の気温下がってるだろなんか)」

   「(よし、俺の目的も果たされたわけだし俺が王様になってもさっさと終わらせるか)」

   「(今後三浦さんには頭が上がらない…さすが女王、いつの間にか支配されていた)」

「「王様だーれだ」」

葉山「あ、俺だ」

   「じゃぁ4番と1番が、恋人つなぎ、っていうのはどうかな」

八幡「(流石は空気の流れを読みながら作る、ふしぎ風使いだな)」

   「(命令としてはレベルは高くないがそこそこ恥ずかしい)」

   「(さすがに小町ともそんながっちり拘束されているような手のつなぎ方はしないし)」

   「(所で俺は…)」   

   「ふぁっ!」

   「(4番だし。王様には俺の軍勢誰もならないのに被害者として俺が当たる確率高すぎるだろ)」

   「(俺に搭載されている高度ステルス機能を駆使しても運は避けられないということか)」

   「(そうすると気になるのは1番だが…また戸塚だといいなぁ…)」

   「(もし戸塚だとすると手をつなぐ前にキスとか順序があべこべな感じもするが)」

   「(問題ではない。回転寿司で寿司よりも先にデザートに手を伸ばすといった荒行と同じようなことだ)」

   「(背徳感は少々あるが逆に「あれ、俺なんか悪いことしてる」といった風に多少テンションが上がる)」

   「(それに銚子丸のかりんとう饅頭はうまい)」

結衣「あたし2番だ。よかったぁ~」

八幡「俺が1番だけど」

結衣「ふぇっ!?」

   「(ひ、ヒッキーだったなら…別に4番でもよかったのに)」

   「(うぅ、あたしくじ運とかないのかも)」

   「(で、でも今回は女子はあたしとゆきのんだけだし)」

雪乃「私が…4番だわ」

結衣「えっ」

八幡「おいおいい雪乃さん、眉間に渓谷できてますよ」

雪乃「私の心中を察してくれないかしら」

八幡「よかったな。普段ならCD買っても三秒しか握れないのに、今日は特別に好きなだけ握らせてやる」

雪乃「どう勘違いすれば自分の手にそこまでの価値があるという思考につながるのかしら」

   「強いて値段をつけるとするならば負の数になることは間違いないわね」

八幡「それじゃ俺が金払って握ってもらってるってことかよ、なにそれ、すごい悲しい」

   「(最近はお金さえ出せばそれ以上のことはしてくれるだろうに)」

   「(そ、それよりも妙に緊張してきてしまった)」

   「(て、手汗とか…)」

   「(べ、別にただ手つなぐだけだしー)」

   「(それにアメリカンな女子高生にとってそれはハグをしたくない時に使う手段に違いない)」

   「(それにこれはゲームだし、さっきのキスと同じでじょ、女子と手をつなぐからと言って特別なことは)」

   「(ほ、ほら。俺かわいい妹もいるし、手をつなぐとか慣れてるし)」

   「(いや、そらオクラホマミキサー事件はあるけどさ)」

   「(ほんと、あれはオクライリホンマカミサマーしてほしい)」

   「(…ちょっと意味も微妙だし強引だったか。口に出してたら超絶バカにされていただろう)」

   「(流石俺の危機回避能力)」

雪乃「あなたこそこの幸運に感謝するといいわ」

   「多くの男子が私と手を繋ぐことを切望しているというのに」

   「あなた如きがはじm…」

八幡「あぁ?」

雪乃「…なんでもないわ」

八幡「(なんか手を握ったらそのまま握りつぶされそうな感じだな)」

   「(しかしいくら雪ノ下でもそこまでの握力はないだろう)」

   「(平塚先生だったら必死すぎて有り得るが)」

三浦「つーかさ、はやくすれば?」

八幡「(女王さまはせっかちだな。アクセレータの異名を贈呈しよう)」

   「(そのうち言語野とか支配する)」

雪乃「そ、そうね。早く終わらせてしまいましょう」

   「ち、ちなみに…由比ヶ浜さん」

結衣「(ヒッキーとゆきのんが…うぅ)」

雪乃「由比ヶ浜さん?」

結衣「…えっ?あ、どしたの?」

雪乃「その、一つ質問があるのだけれど」

結衣「なになに?」

雪乃「恋人つなぎって何かしら?」ゴニョゴニョ

結衣「(はうっ!ゆきのん可愛い…)」

   「えっとね。こうやって」ギュッ

雪乃「べ、別に実際にやってみなくても」テレッ

結衣「えへへ」

八幡「(なんか向こうで」やってるじゃん。なんで?)」

   「(そんなゆりゆりゆるゆりしい光景見せられても八幡どうにもできない)」

   「(さっきは自分がBLっぽい光景を繰り広げてしまったわけだが)」

   「(自分のことを棚にあげるどころか押し入れに、記憶の深淵に仕舞い込むことは得意だ)」

   「(ときどきふっと周りが、主に由比ヶ浜とかがほじくり返したりするけど)」

雪乃「それにしても。まるでがっちりと拘束しているかのようね」

結衣「ん、まぁ恋人がやることだし」

雪乃「こ、恋人…そうよね」

雪乃「(といっても別に低俗なゲームなわけだし、特に意味なんて)」

   「(それに手をつなぐといった行為だって特別なことではないわ)」

   「(欧米では挨拶代わりに手を握るわけだし)」

   「(文化的にスキンシップがほとんどない日本人にとって抵抗があるのは当たり前だけど)」

   「(改めて考えれば皮膚が接触するだけであって)」

   「(べ、別にその接触方法の名称に恋人が入っているからと言って何かが変わるわけじゃ)」

八幡「(やっぱり拘束だよな、あのつなぎ方)」

   「(それほどに恋愛感情はもろいってことだろ)」

   「(そういえばスペイン語では「手錠」と「妻」は同じ言葉なんだっけか)」

   「(…スペイン人もう悟っちゃってんじゃん。そりゃ旦那さんは対外奥さんの尻に敷かれたりしますけど)」

   「(特に海外の映画とか奥さんが旦那さんを顎で使ってたりするのよく見るけど)」

   「(手錠と一緒にするとか…スペイン人一歩先を行ってるな)」

八幡「よ、よし」

   「んじゃ手つなぐか」

雪乃「そ、そうね」

結衣「(うわぁ、なんか二人ともぎくしゃくしてる)」

八幡「(落ち着くんだ俺。胸を見つめていたことがばれてしまったあの時に比べれば焦る必要などほぼない)」

   「(それと今まで雪ノ下から受けてきた数々の罵詈雑言を思い出せ)」

   「(そうすれば雪ノ下を女子として意識することはなくなるだろうし)」

雪乃「(やはり少し緊張するわね)」

   「(でもあまり時間をかけるのもそれが露呈してしまうようで不快だし…)」

   「(終わらせるなら早いほうがいいわ)」

ギュッ

八幡「(お、おぅ。なんか強気だ雪ノ下さん)」

   「(それにしても、戸塚の唇ほどではないがやわらかい)」

   「(駄目だ、勝手に心拍数が上がってゆく)」

   「(凄い大きい気がするけど俺の心臓の音ってホントみんな聞こえてないの?)」

   「(聞こえているにもかかわらずそれを無視して内心ほくそえんでいるように思えてしまう)」

   「(…よし、なかなかいい感じに思考から手の感触を排斥しつつある)」

   「(流石自意識過剰な妄想は隠れた特技な八幡さん)」

八幡「(じゅ、十秒くらいたったよな)」

   「(普通の握手でもこんなに握ることないし、充分だろ)」

   「(そろそろ手汗も心配になってきたし)」

   「(それにしても冷酷な氷の女王と全くもって凍えそうな字名を持つわりには案外あたたかい)」

   「(駄洒落好きな、とかついてたらもっと寒そうだけど)」

   「(うむ。あたっかいとやはり汗が心配だ)」

   「(カップルとか互いの汗とか我慢してるの?)」

   「(それともリア充って汗かかない人種なの?)」

   「(なんにせよ頭が沸騰しないうちに手を離そう)」

   「お、おい」

雪乃「…」

八幡「…雪ノ下?おーい」

雪乃「…」プシューッ

八幡「こんな時に無視しても仕方ないぞ?」

結衣「ゆきのん?」

雪乃「…」ハッ

八幡「そろそろ手を…」

雪乃「」シュバッ

八幡「(すごい勢いで離された。どんだけ我慢してたんだよ)」

   「(顔が少し赤い気もするし…どれだけ不快だったんだ)」

八幡「そんなに怒んなよ」

雪乃「怒っているわけじゃぁ…」

八幡「んじゃなんだよ」

雪乃「べ、別に。少々ふきゃ…

八幡「…」

雪乃「…」コホン

   「不快だっただけよ。あなたの手汗が」

八幡「え、まじで」

   「(うっそー、気づかれちゃってたじゃん)」

   「(繊細な男心が粉々だ)」

   「(それにしても雪ノ下が噛むなんて珍しい)」

   「(そこまでに俺の手汗が雪ノ下の心の平静を乱せるならば…)」

   「(今度っから雪ノ下の毒舌がさく裂し始めたら手を握ればいいのか…え、なにそれ恥ずかしい)」

雪乃「さて、早く再開しましょう」

「「王様だーれだ」」

結衣「あ、あたしだ!」

   「(な、なんでも命令できるんだよね)」

   「(ゆきのんだけ手つなげてうらやましいし)」

   「(でもヒッキーの番号わからない)」

   「(ハグとかしてみたけど…とべっちとかだったら最悪だし)」

   「(よくできてるなー、王様ゲームって)」

   「(ど、どうしよう)」

八幡「ん、これで終わりだな」

雪乃「そうね」

八幡「」ポイッ

結衣「(ヒッキー3番だ…)」

   「(で、でも終わりって…)」

雪乃「由比ヶ浜さん、あなたが命令すればこのゲームは終わり、先へ進めるの」

結衣「あ。そーだった」

   「(ん…ということは)」

   「(あたし何もできないじゃん!)」

   「(うぅ…せっかく王様でヒッキーの番号もわかってるのに…)」

雪乃「どうしたの?」

結衣「い、いや…」

   「(せっかくチャンスがあるのに)」
 
   「(うぬぬぬぬ…)」

   「王様と…」

八幡「」チラッ

雪乃「」チラッ

結衣「うぅ…」

   「(んもぅ!)」

   「じゃぁこれで王様ゲーム終わり!」

八幡「よし。これでやっと次のステージに進むわけか」

戸塚「やったねっ、八幡!」

八幡「お、おぅ」

   「(いつものことながらとつかわいい。かわゆすぐる)」

雪乃「奥に進みましょうか」

テクテク

八幡「結構暗いな」

結衣「ちょっと怖いかも」

戸塚「鬼とか出てくるのかなぁ…」

八幡「(そういえば戸塚って案外ホラーとか好きだよなぁ)」

   「(もうちょっと臆病な子だったらお化け屋敷とかではもっとうらやまけしからん展開を期待できたのに)」

   「(『きゃっ』『だ、抱きつくなよ!背中にあたってる!』みたいな)」

   「(まぁ戸塚に抱き着かれても何かが当たるわけでもないが)」


雪乃「そろそろ何かあってもよさそうだけど」

八幡「(…ん?)」

   「(なんか誰かうずくまってる。え、怖い)」

   「(暗闇でうずくまんなよ。もし顔あげたら血まみれ、なんてことだったらたぶん俺走り出しちゃうよ)」

   「(戸塚の手前あまりそういった一面は見せたくないんだけど)」

戸塚「な、なんかいるね」

八幡「(ふむ、スルーしようと思っていたんだが)」

雪乃「比企谷君」チラッ

八幡「(そんなに睨みつけるなよ、俺リーダーだよ?勇者だよ?)」

   「(名前と視線だけで人を操るとか。女子なら嘘泣きと上目使いで操りそうなものだが)」


結衣「ヒッキー…」チラッ

八幡「(い、いや。そんな上目づかいを使われても)」

   「(これはもう俺が行くしかないのか)」

   「(流石は勇者、自ら危険に立ち向かってゆくとは。俺が女だったら惚れてる)」

   「(…さて)」

テクテク

   「(なんか震えてるだろ)」

   「(これ震える岩?それとも震える牛?)」

   「(…いや、人か)」

   「(しかし大体の登場人物は出尽くしたはずだからこいつも鬼か)」

   「(ならこうしてうずくまっているうちに不意打ちで倒したほうがいいのか)」

   「(鬼の倒し方なんぞ知らないが…)」

八幡「(よし、不意打ちしよう)」

   「(いざ尋常に!)」

   「てい!漫画でよく見る敵を気絶させる手刀!」

パシッ

???「ひゃぁっ!」ガバッ

八幡「(ぬぉ!なんか襲いかかってきた!)」

   「(全然気絶しない。いや、なんとなくわかってたけどさ)」

   「(多分手刀で気絶なんて平塚先生位しかできない)」

   「…」

   「(ふむ、胸部にあたるこれは!)」

   「(おそらくあれだろ、俺がさっき妄想したシチュエーションだろ)」

   「(妄想を具現化できてしまうとは…いったいいつの間に俺は念の使い手になっていたんだ)」

   「(修行として妄想を幾度も幾度も紙に書いた甲斐があった…クラピカさんもびっくりだろう)」

   「(いや、嘘だけどね。流石にそんなことはしない。発売されているもので満足している)」

戸塚「八幡大丈夫!?」

八幡「ん、あぁ」

   「(このまま押し付けられ続けると危ないかもしれないが)」

   「(誠に惜しい気もするがここはいったん離れよう)」

   「(戸塚に浮気したって思われちゃうし!)」

   「おい、ちょっと離れろ」

   「(ん、こいつは)」

川崎「…ひ、比企谷」ウルッ

八幡「川…川…」

戸塚「八幡、川s」

八幡「待ってくれ、思い出せそうだ」

   「くしゃみがでそうででない感じだ。変に気持ち悪い」

   「確か赤バットがトレードマークなんだよな」

戸塚「違うと思うけど…」

八幡「じゃぁよく顔の画像が遊ばれてる有名シェフか」

戸塚「え?」

八幡「となると侍ジャパンの守護神か?」

戸塚「それは川島じゃない?違うよ」

八幡「ふむ。そうするとイチロー大好きなあの選手か」

戸塚「そう…かな?」

雪乃「あら、川崎さん」

八幡「やはりそうだったか。…んで、お前何してんの」

川崎「あ、あたしも鬼なんだよ」

八幡「だから急に襲いかかってきたのか。てっきり俺のこと好きになっちゃったのかと思ったぜ」

川崎「は、はぁっ!馬鹿じゃないの?あ、あれは驚いたからだし!なんかここ暗いし…」

八幡「んで?お前とは何すればいいの?山手線ゲーム?」

川崎「は?何言ってんのあんた」

八幡「いや、だって鬼なんだろ?だとすると俺たち桃太郎御一行と戦う筋書きだろ?」

川崎「あんたが桃太郎なわけ?」

八幡「…いや、似合ってないのは分かってるんだけどよ」

   「(日本一とか書いたのぼりでももっとけばよかったか)」

   「(というか生まれてすぐ育って鬼ヶ島が初めてのおつかいなはずなのにすでに日本一とか)」

   「(やっぱ蛙すぎる。いくらなんでも誇大評価だろ、しかも自称だし)」

   「(時代が時代だったらJAROとかに報告されてただろ)」

   「(…いや、のぼりを作ったのはおじいさんとおばあさんか)」

   「(となると親ばかすぎるだろあの二人)」

   「(の割には持たせた食料が黍団子だけだが)」

   「(あれか、かわいい子には旅させよってやつだな。それか獅子はわが子を千尋の谷に突き落とす、ということか)」

   「で?勝負内容はどうするよ」

川崎「そ、それよりももっと明るいところに出たいんだけど…」

結衣「うん。ここちょっと不気味だし」

八幡「(ふむ、まさか鬼がパーティに加わることになるとは)」

   「(もしかしてこれはあのRPGじゃなくてピッピカチューのほうだったか)」

   「(となると後二匹はパーティに加えられそうだが)」

   「(ここは洞窟、つまり歩いてればあらわれるわけか)」

   「(洞窟は草むらと違ってよけられないからやっかいだよな)」

   「(洞窟で虫よけスプレー頻繁に使うとかおかしいだろ)」

   「(タイプを当てはめてみるとすると…)」

   「(戸塚は言うまでもなくフェアリーだな)」

   「(あまえるとかしっぽをふるとかだけ覚えてればいいとおもいます)」

   「(尻尾を振ってる姿を想像するだけで可愛い)」

   「(由比ヶ浜は…ノーマルか)」

   「(案外特徴がない。いや、グラマラスとか天然というなにそれ無敵じゃない?と感じる属性はあるが)」

   「(多分わざとしてはなかよくするとどわすれが似合ってると思います)」

   「(空気を読むとか勘違い、なんて技があればもっとぴったりなんだが)」

八幡「(そして雪ノ下は…んま氷だわな。名前に雪とか入ってるし)」

   「(それと勿論毒もだな。いや、あくもいいかもしれない)」

   「(冷酷な悪意のある毒舌。…初の三タイプか!)」

   「(最新では名前五文字ルールも破られたみたいだし、有り得ないことじゃないな)」

   「(片仮名表記にしたらそれっぽいし)」

   「(ユキノシタ。氷毒あくタイプ。相手の弱点を即座に見極め、常に急所へ毒舌を放つ(オーキドボイス))」

   「(HPが必要以上に低そうだが)」

   「(得意技はふぶきと毒づきと挑発か。面倒な奴だ)」

   「(川なんとかさんは…あく格闘ってところか)」

   「(睨みつけるとか常時やってるし)」

   「(ん、そだ。とくせいもつけてみるか)」

結衣「ヒッキーさっきからぶつぶつ何言ってんの?」

八幡「いや、お前はてんねんかたんじゅんかノーてんきだなーと」

結衣「なんかけなされてる気がする!」

雪乃「急に何の話かしら?川崎さんに抱き着かれて思考回路がおかしく…いいえ、おかしいのはいつものことね」

八幡「自然にけなすなよ」

   「(雪ノ下はどくのトゲしかないだろ。てつではなくてどく)」

川崎「だ、抱き着いてないし!」カァッ

八幡「(川口はいかくか)」

結衣「あえて触れなかったのに…」

雪乃「鼻の下を伸ばしてないで早く先に進みましょう」

八幡「の、のばしてねーし。ちょ、ちょっともドキドキなんてしてないんだからね!」

結衣「したんだ!」

川崎「はぁっ!な、なにドキドキしてんだよ!ばかじゃないの!」

八幡「そんなに攻めんなよ。だって男の子だもん!」

雪乃「…」ギロッ

八幡「(し、視線が怖い)」

   「(言葉もなしに相手を委縮させるとは)」

   「(もう伝説級だろ。最近は伝説もぼこぼこいるらしいが)」

雪乃「行くわよ」

八幡「(雉が先頭を切る御一行ってどうなのよ)」

   「(んまいいけどさ。戦闘としんがりが一番死亡率高そうだし)」

   「(俺の場合身内にも敵がいそうなんだが)」

   「(こんなバラバラで鬼ボスに勝てんのかよ)」

   「(…しかし改めて考えてみると鬼は案外弱い)」

   「(つつかれてひっかかれてかみつかれれば参っちゃうんだから)」

   「(随分とか弱い鬼だ)」

   「(もしかしたら鬼ボスは案外童貞大岡だったりするかもしれない)」

   「(とするときっと雪ノ下の毒舌連射で倒せる気がする)」

   「(もしそうでなくても流れから見てボスともポッキーゲームとかするだけで済むかもしれない)」

   「(いつの間にかそんなギャルゲーになっていたんだ、桃太郎)」

   「(っつーか川なんとかさん握力強すぎるだろ。多分この暗闇を抜けたころ俺上半身裸になってる)」

   「(戸塚はそこんところはしっかりしちゃってるよなぁ…)」

ゆきのんは暗闇とか平気なんだろうか…

川崎「け、結構暗いのが続く…」

八幡「(引っ張りすぎだろだから)」

   「(俺の上半身裸なんて札束を積まなきゃ拝めない代物だぞ?)」

   「(無論野球拳などという特殊なシチュエーションとなったら躊躇はしないが)」

   「(あ、あとストリップ大富豪の時も男らしく脱ぎ去ってましたっけ俺)」

   「(賭け事に裸はつきものってことか)」

   「(つまり、最終戦は賭け事に限るということだな)」

   「(ボスにたどり着いたら主人公の権限でごり押ししよう)」

   「(この前パンイチにされた分仕返しせねばならない)」

   「(やられたらやり返す…パイ返しだ!)」

   「(…ん?ちょっと違ったかな?別に卑猥な妄想をしていたわけではないのだけどなー)」

陽乃「ひゃっはろーっ!」

川崎「ひゃ!」ガバッ

結衣「わっ!」ガシッ

戸塚「」ビクッ

八幡「ぐふっ」

   「(だ、誰かが首に)」

   「(俺を殺そうとしてるだろこいつ)」

   「(暗闇に乗じて襲うとかどこの忍者だよ)」

陽乃「あれ?驚かせちゃった?」

   「ちょっとまってね。確かここらへんにスイッチが…」ポチッ

八幡「(電気がついた…)」

   「(ってか蛍光灯が天井に…雰囲気も何もない)」

   「(学芸会レベルだろ。壁押してみたら案外倒れるかもしれない)」

陽乃「改めてひゃっはろー」

八幡「(それにしても陽乃さんかよ)」

   「(ラスボス来ちゃったよ)」

   「(にしてもパワーバランスがおかしい)」

   「(王様ゲームで鍛えたくらいで勝てる相手じゃない)」

   「(せめて独裁者ゲームでもしておくんだった)」

陽乃「それにしても比企谷君ハーレムだねぇ」

   「あまり節操がないのもよくないと思うけどなー」

八幡「は?」

八幡「…」

   「か、川……さん?」

   「(勘違いするな。こいつは俺を暗[ピーーー]るために首ったけに抱き着いている…じゃなくて締めているだけだ)」

   「(つまりこのシチュエーションは興奮するどころか命を危機を覚えるようなものであって)」

   「(だから落ち着くんだ俺)」

   「(女子のちょっとしたボディタッチで好きになっちゃうお年頃でももうないだろう)」

   「(ちょっと手が触れてどきっとなるのは漫画だけだ)」

   「(実際にはびくっと手を引かれてその後手を念入りに洗っているところを目撃するだけだ)」

   「(流行ってたからな、比企谷菌。もう少しで学級閉鎖するところだった)」

   「(だから川合さん、うつっちゃいますよ?)」

川崎「…」

   「…」パチッ

「…」ジーッ

「…」ハッ

「…」シュバッ

   「…」カァッ

八幡「(き、気まずい)」

戸塚「川崎さんって結構怖がりなんだね」

結衣「(…むぅ)」

   「(今の王様ゲームでできなかったことをするチャンスだったのかも)」

   「(うぅ。あたしも抱き着いてみればよかったかも…は、恥ずかしいけど)

陽乃「ゆきのちゃんまでこわがちゃって」

   「かわいーなーもう」

八幡「ん?」

   「(んぉ、裾掴んでの雪ノ下だった…)」

   「(その、なんつーか…最近俺の心臓がおかしい)」

雪乃「…」シュバッ

   「い、今のは反射的なもので、私の意識は関係ないのよ」

   「だから、特別な感情等を想像、もとい捏造するのはやめてくれるかしら?」ギロッ

八幡「いや、し、してねーし」

陽乃「比企谷君、日本でハーレムは作れないよ?」

八幡「いや、作ろうとしてないですし」

雪乃「それよりも、姉さんなんのようなの?」

陽乃「ん?先に進むには私を倒せ、みたいな?」

   「どうしよっか?私肉弾戦は得意じゃないなー」

八幡「(つっても心理戦にしたら絶対負ける)」

   「(負けるどころか再起不能なくらいにめためたにされる気がする)」

   「(俺も自信があるわけじゃないが肉弾戦のほうがいい気がする)」

   「(…でも雪ノ下敵に触れずに投げちゃうような奴だぞ?)」

   「(駄目じゃん。トータル勝てるとこないじゃん)」

   「(ぼっち比べとかないの?)」

   「(にしても構図的に五対一だからこれも勝てないか)」

   「(俺の唯一の長所さえも封じられちゃったよ)」

   「(何この人無敵?)」

陽乃「どんな勝負にしよっか?」

八幡「えっと…じゃんけん、とかですか」

   「(だとするとこっちは五人いるわけだし一回戦くらいは勝てるだろ)」

陽乃「え?野球拳?えっちだなー比企谷君は」

八幡「言ってませんよ。いやね、そりゃものすごく魅力的ですけど」

   「(だとすると俺は大将だから最後まででないよな。すごいお得)」

結衣「そ、そんなのするわけないし!」

八幡「そんなに怒んなよ」

   「俺だってこのまえ大富豪でパンイチになったんだから」

結衣「ヒッキーの裸関係ないし!」

八幡「おいおい、見ておいてそれはないだろ。本当なら金を払ってもらわないといけないところなんだぞ?」

結衣「見てないし!」

八幡「俺の輝く金色のパンツを見逃したなんて…お前不運だな」

結衣「光ってなかったし!」

八幡「見てんじゃねーかよ」

   「(自分でかまかけときながら恥ずかしい)」

   「(ん、そういえば戸塚には全裸も見られてるんだった!)」

   「(何、俺ちょっとHなラブコメディーのヒロインじゃん)」

陽乃「で?どうする?大富豪やっちゃう?」

八幡「やりませんよ」

   「もっとおとなしいのでお願いします」

陽乃「そんなの面白くないじゃない?」

   「じゃぁ…暴露大会とかはどうかな?」

   「一番相手に精神的ショックを与えた人の勝ち」

八幡「(えーなにそれ。恐ろしすぎるだろ)」

   「(無論この中に俺の過去を知る人間はいないから俺が被害をこうむる可能性は低いわけだが)」

   「(ん?となると由比ヶ浜も戸塚も川なんとかさんもそうか)」

   「(互いの過去しってるのって陽乃さんと雪ノ下だけだろ)」

   「(え、これ姉妹の血で血を洗う決戦だったの?)」

   「(怖い。見ることすらためらわれる)」

陽乃「あ、ちなみに私側にはもう一人スペシャルゲストがいまーす」

八幡「?」

小町「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」

八幡「こ、小町。お前…あれ?」

   「(さらわれたんじゃなかったの?)」

小町「やーやーお兄ちゃん。私を倒してごらん!」

八幡「いやだから違うだろ?お前誘拐されたんだろ?」

小町「ちっちっち」

   「甘いよお兄ちゃん。小町を見くびりすぎてるよ」

   「鬼さん、つまりはお兄さんの扱いに小町はなれてるからね」

   「懐柔なんてちょちょいのちょいなんだよ」

八幡「えー」

   「(ってことは俺の壮絶な旅の意味ないじゃん)」

小町「というわけで、第二十六回暴露大会、開催!」

八幡「そんなにやってたのかよ、暴露大会」

   「鬼ヶ島案外ぎすぎすしてんのかよ」

小町「ちなみに陽乃さんの担当は雪乃さん、小町の担当はお兄ちゃんになってます」

   「それと…えっと…川、かわぁ…」

大志「川崎大志っす!」

八幡「あん?なんでお前がいるんだよ」

川崎「あんんたなにしてんの」

大志「ねーちゃんこそ。ねーちゃん鬼なんじゃなかったの?」

川崎「そうだけど…」

大志「それに今は俺は小町さんのチームだから」

八幡「(よし、まずこいつを最初に潰そう)」

   「(無論小町がこいつのような男に気を向けるなどあり得ないことなのは重々承知しているが)」

   「(しかしあいつが一方的に小町に害を及ぼす可能性もあるからな)」

   「(摘む!)」

小町「由比ヶ浜さんと戸塚さんは暴露ができる知人が見当たらなかったので今回は審査員として参加してもらいます」

   「では始めましょう!トップバッターは小町!」

   「そして暴露の対象はもちろんお兄ちゃん!」

八幡「(っつーことは実質トップバッター俺じゃん)」

小町「これは小町が小学生のころのことです…」

   「当時私はこの愛くるしい容姿と朗らかな性格のおかげで入学早々絶大な人気を誇っていました」

八幡「(自分で言っちゃうのかよそれ。ってか覚えてるの?)」

小町「そんな小町は兄の評価も知らなかったので、うっかり、ついうっかり、不覚にも兄がいることを漏らしてしまったのです」

八幡「(おいおい、なんかすんげぇ過ち犯したみたいになってんじゃん)」

   「(お兄ちゃんのことは自慢したくなって当然だろ)」

   「(それにしても小町が一年生ってことは俺は三年生か)」

   「(となると…あれか、勘違いラブレターの件か比企谷菌大発生の件か…)」

   「(どちらにせよすでに自ら晒しているものもあるわけだし俺へのダメージは少ないな)」

小町「妹がこんなにもキュートなわけですから、当然私の周りが抱く私のお兄ちゃんのイメージは勝手に膨れ上がりました」

   「容姿は抜群だとか、運動で右に出る者はいないとか、えっと…墓場の王子様とか」

八幡「最後白馬だろ。まるで俺がゲゲゲの八幡みたいだろ」

   「(ちなみに俺のアンテナは常時立っている、つまり俺の周り妖怪だらけ)」

   「(怖すぎる)」

小町「まぁそんなわけでお兄ちゃん像が独り歩きし始めたんですよ」

小町「実際小町の周りも時々お兄ちゃんトークで盛り上がったりしました」

   「だがしかし!嘘は永遠ではありません!」

   「やがてイケメンで運動神経がよくて優しくて背の高いお兄ちゃんのイメージが砕かれる時が来たのです」

八幡「大体あってるだろ」

小町「…はぁ」

八幡「ため息つくなよ」

雪乃「迂遠な方法で真実を伝えているのよ。小町さんの心遣いに感謝するといいわ」

   「所詮あなたは目が腐っていて人とでぃて堕落している…生物?なのだから」

八幡「疑問符つけるところおかしいだろ」

   「俺も含めてみんなみんな生きているんだ、だろ?友達なんだだろ?」

小町「こほん、続けましょう」

   「ある日、私とおにいちゃんが一緒に帰っている所を目撃されてしまったんです」

八幡「万引き目撃されたみたいなトーンだな」

小町「次の日は怒涛の勢いで質問されました」

   「私が認めたことでこのことは波乱を呼び、最終的には短期間でしたけど、私にあだ名がつきました」

八幡「(し、知らなかった)」

   「(まさかこんなにもかっこいい兄がいたことで妹が嫉妬されていたとは)」

   「(つらい思いをしただろうに…なのに俺には知らせないとかなんて出来すぎた妹なんだ。泣けてくる)」

小町「そのあだ名は…「遺伝子の神秘」でした」

雪乃「…小学生にしてはハイセンスなあだ名ね」

八幡「(俺の妹はいつの間にか神秘扱いされていたのか)」

   「(まぁそうしたくなるほど可愛いのは分からないでもないが)」

   「ちょっと待て、俺関係ないだろ」

   「いや、俺の暴露話じゃないのはいんだが」

結衣「へ?」

雪乃「可愛そうに、過酷な環境にさらされ続けていたせいで感覚が麻痺しているのね」

八幡「いや、そんな憐みの目で見られてもですね」

小町「なんと!お兄ちゃんへのダメージはほぼゼロ!」

   「流石十何年も苦行を積んできた男!鉄、いや、ダイアモンドのハートの持ち主だぁぁぁぁっ!」

八幡「そこまで輝いているのか、俺。うすうす自分でも感づいてはいたが」

雪乃「現実を見なさい」

   「あなたに輝く要素なんて何一つないわ」

   「他人の輝きすらも消失させるほどの人間だもの」

八幡「俺ブラックホールかよ」

小町「審査員の感想は?」

結衣「え、えーっと…その、小町ちゃんは人気者だったんだね!」

小町「うぅ、兄のために必死に触れないでくれて…小町感激です。戸塚さんは?」

戸塚「ぼ、ぼくは八幡は優しくて男らしいと思うよ!」

小町「…お嫁候補の最有力者はいうことが違うますね」

八幡「(戸塚だけがおれにっ魅力に気づいてくれているのか)」

   「(結婚するほか選択肢はない気がする)」

小町「残念ながら私の暴露話はダメージを与えられなかったみたいですねー」

   「では続いては川…あり?なんだっけ?」

大志「大志っす!」

   「で、では俺はねーちゃんの話を一つ」

川崎「あんた余計なこと言ったら…わかってるわよね?」

八幡「んじゃスキップでいいだろ」

大志「ちょっちょ!俺も出番欲しいっす」

   「えっとっすね」

   「俺もよくわからない、いわば怪談的な話なんすけど」

   「高校の文化祭あたりからなんすけど、姉ちゃんの様子がおかしいところがあって」

   「なんというか、食事中とかに時々上の空になったりするんすよ」

   「んで急に表情がふやけたり、頭ぶんぶんふったり」

   「風呂場から鼻歌とか聞こえてくることもあって…」

   「正直言ってなんか最近の姉ちゃん怖いっす!」



八幡「(あの川っさんがにやにやしたり鼻歌歌ったり…だと?)」

   「(あいつがそんな陽気になるとなると…)」

   「(弟のことに違いない)」

   「(流石ブラコン、ひくわー)」

   「(小町に褒められたり頼られたりすると風呂場でプリティでキュアなの主題歌熱唱しちゃう俺でも引くわー)」

   「それは、怖いな」

川崎「あ、あんた何言ってんの!」アセアセ

   「べ、別に少し機嫌がよかっただけだし!」

小町「おっと、これは大ダメージの予感?!」

   「続ければこうポイントだよ川っくん!」

大志「はいっす!」

   「え、えっと」

   「そ、そうだ!そういえば!」

   「前に比べると身支度に時間がかかるようになりました!」

   「なんか洗面所にこもったり…俺も使いたいんで少し迷惑っす!」

小町「外見に気をかけるようになって、しかも上機嫌なことが多い…」

   「これは恋の予感!」

川崎「んなわけないじゃん!」

   「何勝手に言ってんの!あ、あたしが恋愛とかありえないし!」

   「それに文化祭とかも関係ないし」

   「気になる人がいるから外見を気にするとかマンガみたいなこともあたしがするわけないでしょ」

   「た、大志の勘違いなんじゃないの」

小町「お兄ちゃんお兄ちゃん、どう思う?」

八幡「俺に振るなよ」

   「恋愛話始まりそうになったから気配消してたのに」

   「別にいいんじゃないか?恋ぐらいしても」

   「(んで性格がマイルドになってくれたら更に良い)」

小町「成就すると思う?」

八幡「だから俺はいつから恋愛マスターになったんだよ」

   「いや、そりゃ一人で恋して失恋することには慣れてるけどよ」

   「周りを巻き込まずに恋愛するとか俺すごい良い奴」

陽乃「でも人の恋愛事は結構楽しいわよ?」

   「私自身は関係ないし」

   「それに色々と便利でもあるしね」

八幡「(便利ってどういうことだよ…発想がなんとなく怖い)」

結衣「ヒッキー自分でもう少し暴露してるし」

   「このゲームで一番強いかも」

小町「話を戻してお兄ちゃん、成就する?しない?」

八幡「この話題に固執しすぎだろ」

   「(適当にあしらうしか先に進めない気がする)」

   「(ギャルゲーでも台詞選択しないと先に進めないしな)」

   「するんじゃねぇの?」

小町「(おぉ!)」

   「(これでもうお兄ちゃんの次の台詞はほぼ決まった!)」

   「それは何故でしょう?」

八幡「そりゃ…」

   「(ここは性格を「優しい」とか無難に褒めるのが定石なんだが…)」

   「(普段から不良ぶってる川っさんにそんなこと言ったら皮肉に聞こえかねない)」

   「(そら「べ、別に優しくなんかねーし!」という不良が不意に褒められた時に恥ずかしがりながら言うセリフが聞けるかもだけど)」

   「(性格をほめるのが難しいとしたらあとは外見しかないか)」

   「(幸い川っさんも見た目は整っているわけだし)」

   「見た目がいいからだろ」

小町「(ふむぅ。ここはストレートに可愛いからさ!とか言ってほしいところだけど)」

   「(流石におにいちゃんにそこまで求めるのは無理かぁ)」

   「(でも…)」

川崎「…」カァァ

小町「(お、でも案外効いてるみたいですなぁ。むふふ)」

   「ごめんお兄ちゃん、よく聞こえなかった。もっかい言って」

八幡「(褒めるのが恥ずかしくて声が小さくなってたのか…)」

   「(だとすると更に恥ずかしい)」

   「(息をするように人をほめる俺なんだから…堂々と言ってやるか)」

   「だから、可愛いからだろ」

川崎「あ、あんた何言ってんだし!」

   「あたしが可愛いとか…な、ないから!」


八幡「そんな怒涛の勢いで反論しなくても」

   「逆に嫌われるぞ?同性から」

川崎「う、うるさい!」

小町「さてさて、第一ラウンドはここまで!」

   「お兄ちゃんチーム、というか川崎さんは大ダメージをくらった様子ですねー」

   「つまり小町チームリードです!!」

   「では今度はお兄ちゃんチームからの暴露をどうぞ!」

八幡「よし、俺から行くか」

   「(川っさんはダメージ受けてるし、陽乃さんは完璧すぎて暴露することなさそうだし)」

   「(可愛い妹の秘密を暴露するのは心が痛むが…)」

   「(しかし勝たないと先に進めないのだ!)」

   「(…あれ?俺なんで先に進もうとしてるんだっけ?)」

   「まぁいい」

   「これは俺も小町も中学生のころのことなんだが…」

   「当然のことながら、小町は結構な有名人だった」

雪乃「それは…そうでしょうね。兄が兄ですし」

八幡「まぁ孤高でクールな俺と陽気な小町ではギャップがあっただろうからな」

雪乃「途方もなくポジティブなのね」

八幡「さて」

   「小町が人気になると、俺のところにラブレターが届くようになるのは必然のことだ」

結衣「は?別に小町ちゃん人気でもヒッキー関係ないじゃん」

   「あ!そーじょーこーかだ!」

八幡「ちげぇよ」

   「俺宛じゃねぇから。言わせんな」

八幡「靴箱に封筒が入ってて舞い上がったのは最初の…十通くらいか。だが全部小町あてだった」

結衣「普通もっと早く諦めるし!」

八幡「男子ってのは心の隅で毎日靴箱の中に封筒を期待する」

   「んでもってバレンタインデーには当てがなくても心の中でドラムロール鳴らしながら机とか調べるんだよ」

   「ちなみに俺は念入りに隅々まで調べたな、中学生のころは」

結衣「机にそんな調べるところないし…」

八幡「ち、チロルチョコとか馬鹿に出来ないくらい小さいだろ!」

   「も、もしかしたら何かしらの突発的な手違いでクラス全員に配るチロルチョコがひょっとした偶然でたまたま俺の机に転がり込むことだってあるだろ!」

   「おにぎりがネズミの巣にころころ落ちる世の中だしな」

雪乃「可能性が限りなく低いことは認めているのね」

結衣「クラス全員にヒッキー入ってないんだ…」

戸塚「は、八幡!今年は僕があげるからっ」

   「ほら、友チョコっていうのもあるみたいだし…」テレッ

八幡「(あれ、視界がぼやけてる)」

   「(これがうわさに聞く目の汗か)」

   「(早く来ないかなー、バレンタインデー)」

   「(チョコじゃなくて戸塚をいただきますしちゃいそうなのが怖いが)」

   「(何言ってんだよ俺。落ち着けよ俺)」

陽乃「それで?」

八幡「そんなことが続いていたわけだが、もちろん俺はそのラブレターを小町に届けるなんて愚行はしなかった」

結衣「ひどっ!シスコンサイテー!」

八幡「別にひどくはねぇだろ」

   「本人に直接渡せない時点でもう小町に接近する資格なんてないんだよ」

   「そんなある日、遂に俺宛の封筒が届いていた」

結衣「うそっ」

八幡「俺はすぐさま男子トイレへと駆け込むと、個室の中に引きこもった」

   「公の場で勇気を振り絞って書いてくれた手紙を開封するのは俺のポリシーに反するからな」

雪乃「トイレ、というのもどうかと思うのだけれど」

八幡「内容は放課後、指定された時間に屋上に来てくれ、というものだった」

   「校舎裏ではなくて屋上、定番だな」

   「そしてピュアな俺は何も疑うことなく放課後できるだけ早く屋上へと向かった」

   「五分前が当たり前の日本人だが、日本人の中の日本人な俺はそうだな、一時間くらい前には屋上にいた」

結衣「うわー」

雪乃「オチが見えているような気がするのだけれど」

八幡「俺をなめるなよ」

   「悪戯ラブレターとか呪いの手紙の類は日常茶飯事だったからな、暴露にすらならない」

   「俺のレベルになるとその程度のことじゃ動じないんだよ」

雪乃「…呆れたわ」

   「貴方の負の経験値を見誤っていたみたい」

   「目が腐るのも頷けてしまうわね」

八幡「別に腐ってねーし」

   「それに腐っても鯛っていうだろ。つまり腐っても元々の価値は保たれるんだよ」

   「でだ」

   「俺は屋上で本を読みながら時間をつぶしていた」

   「同時に周囲に目を光らせてもいたが、俺をからかう男子の姿も見当たらなかった」

   「そして指定されていた時刻を少し過ぎてから彼女はやってきた」

   「先にくぎを刺しておくが、罰ゲームというわけでもなかった」

結衣「…」ゴクリ

八幡「夕日に顔を染めた彼女は、俺の姿を見つけると恥ずかしそうに手をもじもじとからませた」

   「そして、たっぷり一分間見つめあったころだろうか、彼女は風にかき消されそうなほど小さな音量でつぶやいた」

   「好きです…ってな」

   「ま、その彼女は翌日海外に転校してしまったが」

結衣「う…嘘だ」

小町「ま、まさかあのごみいちゃんが女子から告白されたことがあったなんて…」

   「お兄ちゃん観察眼に関しては右に出る者はいない小町も知らなかった…」

   「そんなリア充みたいな展開をお兄ちゃんが味わっていたなんて…」

   「嬉しいことがあれば風呂場で歌っちゃうわかりやすいお兄ちゃんなのに気づかなかった…」

   「小町ショック!」

   「(そりゃ今も結衣さんに好感持たれたりしてるけど)」

   「(なんか少し複雑)」

   「(いや、お兄ちゃんのことを好きになってくれる人なんてそうそういないんだから大事にしなきゃだけど…)」

   「(いつかお兄ちゃんにも彼女にかかりっきり、なんて日が来るのかなぁ)」

雪乃「…」

   「二人とも落ち着きなさい」

   「このような男に限ってそのような出来事が起こるわけがないでしょ」

   「妄想を人前で吐露するなんて…危険な癖の持ち主ね」

八幡「妄想じゃねえよ」

   「新人賞のためのプロットだよ」

小町「ふぇ?」

八幡「全裸の美少女が落ちてこないだけでもましだろ」

   「材木座なら多分三人は落ちてきてるだろうし」

   「ほら、目標決めるとなんとなく気分が高翌揚するだろ?」

   「んで勢い任せで書き始めたわけだが…結局ダラダラ書かなくなって応募の締め切りも忘れるようになって…」

   「具体的な行動は起こさなかった」

陽乃「いやー自分からそんな事いうなんて…やっぱり比企谷君お姉ちゃん的にポイント高いよ?」

結衣「…結局自虐だし」

雪乃「比企谷君はこのゲームに関しては自分の引き出しが多すぎて相手側まで手が回らないのでしょうね」

八幡「ふん、それよりもなによりも俺が小町にダメージを与えるわけがない!」

   「(もし与えたらおやじから倍返しされちゃうし)」

小町「お兄ちゃんにそんなに想われて小町嬉しい!」

   「…と今のは小町的にポイント高い」

八幡「となると今の俺の自分のアタックターンなのに自らがダメージを被るという妹思いな兄貴、はポイント高いな」

   「俺的に」

   「(俺的にも小町的にも、んでもって陽乃さん的にもポイント高かったら完璧だろ)」

雪乃「私はあなたが妄想をぐだぐだと語っているさまが気持ち悪くて鳥肌が立ったのだけれど」

戸塚「八幡は小説とか書けるの?」

八幡「(えーもー戸塚ピュアすぎる。ピュアすぎて辛い)」

   「(それに比べて雪ノ下の舌鋒は相変わらず鋭いな)」

   「(雉なんだから鳴いたら撃たれちゃうぞ?)」

小町「でも結果的にはあまり私たちにダメージは与えられなかったみたいですねー」

   「お兄ちゃん攻撃へたっぴ」

陽乃「防御力だけはすごいのにね」

   「まだまだだなぁ比企谷君も」

小町「雪乃さん、川崎さん、なんか暴露話ありますか?」

雪乃「私は…別に」

川崎「あたしも特にない」

八幡「(えぇー。ってことはおれのチーム攻撃翌力ゼロじゃん)」

   「(勝てないだろ絶対)」

   「(最強の毒舌雪ノ下と足技が強そうなヤンキー川っさんがパーティにいるはずなのに攻撃翌力ゼロ)」

   「(流石陽乃さん…ゲームのチョイスが酷い)」

陽乃「となると自動的に私のターンだね」

雪乃「同じ家に住んでいるわけでもないのだから…幼少期の話でもするつもり?」

陽乃「それはそれで面白いかもしれないけど、でもやっぱり近々の話題のほうがダメージは大きいでしょ?」

   「過去の話だと昔のことでしょ、なんてばっさり切り捨てられちゃうかもだし」

八幡「(勝敗は目に見えてるのに相手のHPがゼロになるまで続けるとか)」

   「(陽乃さんが鬼すぎる)」

陽乃「例えばお気に入りエプロンの話とか」

雪乃「…」

   「な、何の話かしら」

   「別にエプロンなんてどれも同じじゃない」

八幡「(絶対パンさんだろそれ)」

   「(それか猫)」

   「(もしかしたら手作りで両方ついてるのかもしれない)」

   「(うわ、俺味方の爆弾持ってるじゃん)」

   「(敵へダメージは与えられないのに射程距離圏内に味方しかいない爆弾って)」

   「(俺このゲーム向いてなさすぎる)」

陽乃「そうなの?だったら別に話しても大丈夫だよね?」

雪乃「勝手にしたらどうかしら?」

陽乃「あのエプロンはいつ買ったんだっけなー…」

   「確かガハマちゃんの誕生日プレゼントを買った時だっけなー」

雪乃「エプロンなんて何着も買うものではないでしょう」

   「実際私だって二枚しか持っていないし」

   「必要な場合にはそのどちらかを使うだけであって」

   「二回に一回は着ている、というとまるでお気に入りのようではあるけれど、二枚しかないのだからそれは必然のことなの」

   「つまりお気に入り、なんてものはないのよ」

   「もしかすると実際は片方をより頻繁に着用している可能性もあるけれど、それだって別に私情は関係ないわ」

   「どちらのエプロンを選ぶかなんて確率としては五分五分だけれども、利き腕の方におかれているのを無意識のうちに選びやすくなっている可能性もあるもの」

   「それにお気に入りだから頻繁に着る、という見解だって少々強引なところがあるわ」

   「お気に入りなら汚したくないと思うはずよ。そうすると着用回数は自然と少なくなるわ」

   「エプロンの場合は特に普通の洋服よりも汚れることが多いのだし」

八幡「(雪ノ下がまるで壊れたかのように語りだしたな)」

   「(陽乃さんは面白がってるみたいだが)」

   「(何、俺の知らないうちにもう何か暴露されてたの?)」

   「(まだお気に入りエプロンがあるんです、きゃぴっ!っと売れないアイドルのようなことしか言っていない気がするが)」

   「(ちなみに俺の好みのエプロンは「裸だと思った?残念!水着でした!」です)」

   「(裸はあからさますぎてえ、このキャラ痴女だったの?とか思っちゃうし)」

小町「おっと?これは雪乃さんはダメージを受けているようですねー」

   「さすが陽乃さん!」

陽乃「まだ序章の序章なんだけど、雪乃ちゃん可愛いなぁ」

八幡「(このゲーム本当に続くのかよ)」

   「(おそらく小町は残弾めっちゃ多いし、陽乃さんも余裕そうだし…)」

   「(川っさんがあのガキを打ちのめす何かを持ってくれていればいいんだが)」

   「(さっきないって公言してたし)」

   「(どうするよ俺)」

   「(ん、ガキを打ちのめす方法ならないでもないか)」

   「(陽乃さんは無敵だろうし、小町が傷つくなんてありえないし)」

   「(なるほど、敵チームの攻略のキーはあいつだったか)」

   「(巨人で言う首の裏のあそこ、みたいな)」

   「(言ってみればあいつはまだ闇を知らないピュアで繊細な思春期の男子)」

   「(壊すのは簡単だ。俺が小学生のころにでも経験したことを経験させてやればいいだけだ)」

陽乃「ほかにも人形のこととか色々あるんだけど、とっておこっか」

八幡「(人形と聞いただけで予想ができてしまう)」

   「(どうせこれもネコかパンさんなんだろう)」

   「(もしかすると抱き枕並にでかいのかもしれない)」

   「(そういえば時々店頭にでっかいぬいぐるみの熊とか立ってたりするけど…)」

   「(一度は抱き着いてみたいものだ。なんかすごい柔らかそうだし)」

   「(でもそうい店って大体でっかいショッピングモールの中にあったりするから人目が)」

   「(俺が小学生であるならば微笑ましいかもしれないが、今の俺では笑いごとどころかちょっとした事件だ)」

   「(ツイッターとかですぐに広がるかもしれない)」

   「(最近のツイッターは冷凍庫男とか線路男とか調味料男とかが多くいるらしいし…どうなってるんだよ)」

   「(しかしもし俺が何かの拍子でSNSを始めることになった場合には、冷凍庫男と友達になろう)」

   「(そうすればいくら腐敗の二文字が似合う男堂々の第一位の俺でも腐らないだろう)」

   「(さて、そろそろ反撃と行くか)」

   「ところででガキ」

大志「ガキって…俺のことっすか!」

八幡「決まってるだろ」

川崎「ちょっと、そういうのやめてくんない?」

八幡「(ちっ。出たなブラコン)」

   「(どっちの味方だよおい)」

   「(状況も見ずに弟の味方しちゃうとかひくわー)」




八幡「そこの男子」

大志「大志っす」

八幡「では少年」

大志「…はぁ」

八幡「お前、思いを寄せている女子がいるだろ?」

大志「それは!…そうっすけど」

八幡「別にそれ自体は悪いことではない。男子は誰もが一度は通る道だ」

   「(小町は別嬪さんでなおかつ性格も良いから惚れるな、という方が難しいかもしれない)」

   「(だが惚れるな)」

大志「は、はいっす!お兄さんに応援されてるなんて俺感激っす!」

八幡「してねぇよ。勘違いすんな」

   「むしろ妨害キャンペーンを行うまである」

大志「それはひどいっす!」

八幡「ではここで一つ有力な情報を教えてやろう」

   「情報源は俺なわけだから、信憑性は高い」

大志「は…はい」

八幡「お前の名前はよく覚えていないが…」

大志「川崎大志っす!」

八幡「その川崎大師とかいうなんか無駄に立派な名前のことだが…」

   「俺は家で一度も聞いたことがない!」

   「横浜なら聞いたことがあるが」

大志「まじっすか」

八幡「まじだ。まじでがちだ」

大志「きょ、今日はこんなことがあってさー、とかで登場ってこともないっすか」

八幡「ないな」

   「大体俺がお前の名前を覚えていない時点で我が家の会話にお前が登場することなどないことに気づけ」

   「(覚える気がないのも事実だが)」

大志「かすりもしないっすか」

八幡「しないな。完全な空振りだ」

大志「…そう…っすか」

八幡 「だが落ち込むことはない」

   「元々お前が分不相応な相手に恋焦がれてしまっただけの話だ」

   「自分を見つめなおせ、そして諦めろ」

大志「いや…」

   「俺諦めないっす!まだ時間はあるっす!挽回可能っす!」

八幡「…何言ってんだお前。無理だよ」

   「(俺が全身全霊で邪魔するし)」

八幡「無理だ!」

大志「できるっす!」

八幡「(あきらめが悪いというか無駄にポジティブというか…)」

   「んじゃお前自分の長所を上げてみろよ」

大志「ま、まず…明るい!…とかっすか」

八幡「(ほら、一つ目ですでにあやふやなの出てきちゃったよ)」

   「(フィジカルなものや、一目瞭然な長所が出てこない時点で他人を魅了できる点などこいつにはないことが証明された)」

   「それだけか?」

大志「えっと…努力家っす」

八幡「(あー駄目だこいつ。クラスに十人はいる「良い人」だ。全生徒のお友達、だ)」

   「(それ以上にはなりえない)」

   「そうか。頑張れよ、無理だろうけど」

大志「は…はいっす」

八幡「(適当なダメージを与えられたんじゃないか?)」

   「つーかさ、これどうやってダメージ測んだよ」

   「感覚便りなら俺たち圧勝してる気がするんだが」

小町「ちっちっち、心配無用です!」

   「なんと、心へのショックを数値化するマシンを用意しました!」

八幡「何その怖い装置」

   「(動揺したらすぐばれる)」

   「(これからは由比ヶ浜とか陽乃さんの胸とか見れないな…あと戸塚の顔とか)」

   「(かわゆすぎる)」

   「(よし、視線は雪ノ下の胸部に落ち着かせておくか)」

   「(開発しちゃだめな装置だろ)」

小町「ちょっと遅れましたが、装着してみましょう!」

   「ちなみにショック度は累積されるんで、ゼロには戻りませんよー」

カチャッ

陽乃「私はまだゼロだ。まぁ暴露とかされてないしね」

小町「小町は10ですね。さっきのお兄ちゃんの作り話が効いたのかなぁ」

八幡「ふ、俺もゼロか。流石他人とかかわりあうことで鋼鉄の心臓を鍛え上げてきた俺」

川崎「なんであたしは500なのよ…差が開きすぎてるでしょ」

   「これ壊れてんじゃないの?」

   「別にあたし動揺とかしてないし」

小町「では別に文化祭の時にお兄ちゃんに…」

川崎「…」ビクッ

   「な、なんのこと話してるわけ?」

ピピッ

   「な!急に600とか…ほんとこ、壊れてるんじゃないのっ?」アセアセ

八幡「(はて、 俺は文化祭の時に川ちゃんをここまで動揺させるようなことをしただろうか)」

   「(…)」

   「(えー何も思いつかない)」

   「(ん、もしかするとあれか。手芸能力を発揮したことが恥ずかしすぎて黒歴史として刻まれたのか)」

   「(だとしたら申し訳ないが…俺の歴史に比べると随分とあっさりしている)」

   「(昼ドラと朝ドラ程度には違う)」

   「(他には…)」

   「(ないな。特に触れ合わなかったし)」

雪乃「…納得がいかないわ」

   「何故私のショック度が既に800なのかしら」

八幡「(いつの間にか川ちゃん以上に動揺してたのか)」

陽乃「表情には出ないかもだけど、心は正直だからねー」

   「それにこの装置の正確性は私が保証するわよ」

八幡「(それは洗剤に99.9%殺菌!とか書いてあるのと同じ程度に心強い)」

   「(勿論いらない心強さなんだが)」

   「(ちなみにそろそろどこかの会社が99.99%とか出しそうだ)」

   「(他社に比べてなんと0.09%も殺菌率が高い!なんつって)」

大志「俺は1000っす」

八幡「おい、お前一応男子だろ。男らしく動じるなよ」

   「(強引なポジティブだったからダメージは少ないと思っていたが)」

   「(やはり根は繊細な男子だったか)」

   「(ほかの二人も無敵だからこいつを主に攻めるしかないな)」

川崎「あんたさ、うちの弟いじめんのやめてくれる?」

八幡「え、えぇー」

   「今俺たち仲間じゃん」

   「んでもってあいつ敵じゃん」

川崎「関係ないでしょ」

八幡「あるだろ」

川崎「んじゃあんたは自分の妹の暴露話でもしてればいいでしょ」

八幡「はぁ?」

八幡「俺が可愛い可愛い小町を傷つけるようなことをするはずがないだろ」

   「もししたら俺も親父に破滅させられるし」

川崎「…シスコン」

八幡「妹想いなお兄ちゃんと言え、ブラコン」

川崎「はぁ?あんたこそ家族想いっていったらどうなの?」

小町「(うぅむ)」

   「(ちょっと二人の間がぎすぎすしてきましたなー)」

   「(これはどうにかせねば)」

   「(どうせお兄ちゃん一人じゃ何もできないだろうし、小町がヘルプするしかないかなー)」

   「(全くもー、お兄ちゃんったら小町がいないとダメダメなんだから)」

   「(だから小町がずっと一緒にいてあげる!…お?今のは小町的にポイント高い?)」

   「(口に出して言っておくべきだったかも)」

   「(それよりも…)」

   「あーれー、急に眩暈がー、お兄ちゃんヘルプミー」ドンッ

八幡「んな!押すな!」ドテッ

   「…」ギュッ

   「(つ、躓いて反射的に目の前にいた川ヤンキーさんに抱き着く形になってしまった…)」

   「(えー何これすごい気まずい)」

   「(そらなんか柔らかいし、いい匂いだし状況そのものはウェルカムサンキューなんだが)」

   「(この後がおそらくものすごく気まずくなるに違いない)」

川崎「」カァァァァァッ

八幡「(…顔が赤い…これは噴火の兆候か…)」

   「(いや、これはだな。見ての通り不可抗力であって)」

   「勿論破廉恥な行為に及ぼうとしたなんてことは一切ないわけで」

   「ですから…そのですね。大変遺憾なことですが、責任の所在は曖昧なわけで…」

   「(…駄目な政治家のような台詞しか思い浮かばない)」

   「(ころされる)」

   「(桃太郎って結局仲間にやられちゃわけ?…あ、こいつは鬼だったか)」

川崎「ひゃ、はは、早く離れろ!」ジタバタ

八幡「お、おう。すまん」

川崎「きゅ、急に抱き着くとか…馬鹿じゃないの?!」

八幡「本当にすまん」

川崎「…この前だって急に愛してるとかわけわかんないし、今度は抱き着くとか…」ボソッ

  「…その割には全然そっけないし、意味わかんない…」ボソボソ

八幡「(…声が小さくて何言ってるのかよくわからないが聞き直すとかそういうことはやめておこう)」

   「(怒られるか殴られるかだし。きっと)」

小町「おっと!どうしてかはまーったくわかりませんが、川崎さんのショック度が2000まで急上昇!」

川崎「そ、そりゃ急に抱き着かれたら誰だって慌てるに決まってんじゃん!」

八幡「(策士小町の手によって一気に差が開いたな。小町は孔明タイプだったのか)」

   「(どうにかガキをすごぶる動揺させなきゃだな)」
   
   「(…それに俺も心を落ち着かせなくては)」

   「(今のハプニングで100まで上がってるし)」

   「(やはり女子の体は凶器だな)」

   「(それにしても女子ってきわどいスカートを履いてるわけだが)」

   「(あれなんで見えそうで見えないの)」

   「(光線が入るわけでもスカートの中は深い闇、なんてこともないのに見えない)」

   「(いつの間にか女子は男子も苦悶させる特殊技能を習得していたのか)」
 
   「(やはり女子の方が男子よりも先に成長するというのはうそではないらしい)」

   「(さて、目を雪ノ下さんに移動させなければ…ふぇっ!)」

雪に「…」ギロッ

八幡「(ふぇぇぇぇぇ、睨まれてるよぉ…、黙殺されちゃうよぉぉ…)」

   「(いや、黙殺ってそういう意味じゃないんだけども、いやほんとやられちゃいそう)」

   「(なんで睨まれてるんだよ俺)」

   「(そりゃ仲間内でショック度上げまくって腹立たしいかもしれないが)」

   「(もしかしたらプリンを食べたりしちゃったのかな?そういうよくある些細な大問題、というやつかな?)」

   「(そんな問題が起こせるほど親しくはないはずなんだが…)」

>>149
雪に→雪乃

八幡「(やべっ。目があった)」

雪乃「あら、比企谷くんどうしたのかしら?顔がだらしなく弛緩しているようだけど」

   「それにしても人目も構わず女性に突如抱き着くなんて…とうとう超えてはいけない一線を跨いでしまったのね」

   「やはり私が第一印象におぼえた危機感は正しかったということね」

   「襲われる可能性があるから、半径三メートル以内には近寄らないでくれるかしら?」

八幡「(やっぱ怒ってる)」

   「(下手なお世辞言っても通じなさそうだし)」

   「いや、だから今のは小町が…」

雪乃「あら?妹さんに責任を押し付けるのかしら?シスコンのあなたらしくないわね」

   「それにもしそうだとしてもあれだけの時間抱き着いている必要性があったのかしら?」

   「偶然だったとしてもそれを好機とみてあのようなことを…見下げた人間?ね」

   「私の意見を述べると、別に抱き着くことなく転べばよかったと思うわ」

八幡「(味方なはずなのに絶対味方じゃないだろこいつ)」

   「(さっきから俺にしか攻撃してこないじゃん)」

   「(流石にアイアンハートの俺も傷ついたのがいつの間にか105になってるし)」

   「(そんなに怒ることはないだろうに)」

   「(あ、もしかしたら雪ノ下は気が弱い女子を男子が泣かせてしまったときにその気弱女子の代わりに出てきて男子を糾弾する気の強いあの類の女子だったのかもしれない)」

   「(でもいくら「やーい、比企谷菌に感染してやんのー」とからかわれて泣いたからって俺に責任はないと思いますよ?)」

   「(第一俺現場にいなかったし)」

   「(教室に戻ったら修羅場でなおかつすぐさま俺に矛先が向けられるとか…当時の俺がかわいそうすぎる)」

八幡「そ、そんなに怒るなって。カルシウムが欠乏するぞ?」

   「(そうすると胸が育たなくなるかもしれないぞ?)」

   「(漫画によれば豊胸への秘術は牛乳と異性に胸をもんでもらうこと!、らしいし)」

   「(後者の手伝いならぜひやりたいのだが…そういうアルバイトとかないのかなー)」

雪乃「別に怒っているわけではないわ」

   「第一私はあなたに怒れるほどの感情を抱いていないもの」

   「怒るということは、期待をしていた、の裏返しでもあるわけでしょ」

   「私があなたに期待するなんてありえないじゃない」

   「そもそも知り合いかどうかも怪しいところだし…」

   「できることならば初めましてが言える関係まで戻したいところね」

   「変質者となんて関わり合いは一切持ちたくないもの」

八幡「(絶対怒ってるだろ)」

陽乃「よし。私も暴露じゃなくて口頭で動揺させてみよっかなー」

八幡「(うわー、一番心理戦に強そうな人が出陣しちゃったよ)」

陽乃「比企谷君さ、」

八幡「(ターゲット俺だし)」

陽乃「女の子の胸は大きいのと小さいの、どっちが好み?」

八幡「はい?」

   「(そういうのかー。そりゃ男の子が一度は通る道かもだけど)」

   「(でもそれって大概修学旅行の深夜の会話とかに取っておくものじゃないの?)」

   「(無論俺にそんな話をする相手はいないし、耳を澄ませば昼休みでもこんな会話聞こえてくるし)」

結衣「ヒッキー…えっと、別に、そんなに、あれだけど…」

   「えっと、どっちなのかなーみたいな」

八幡「(うぉい。審査員にまで追い込まれちゃってるよ俺)」

陽乃「どっちなの?」ニコッ

八幡「(え、笑顔が怖い)」

雪乃「貴方に、さらにこのようなくだらない質問に時間を費やすなんて馬鹿げているわ」

八幡「(おぉ、まさかの雪ノ下が味方だった)」

雪乃「ですからさっさと答えてしまいなさい」

八幡「だよな…え、は?」

   「(あれれれれれー)」

   「(おいおい、驚きすぎて腕時計から麻酔針発射しちゃうよ?)」

八幡「(これはもう答えるしかないな)」

   「(飲み会でほろ酔いの上司に「おい、面白いことやれよ」と命令されたのと同じだな。うん)」

   「(俺すでにそんなかわいそうなサラリーマンになってたの?)」

雪乃「早くしなさい」

八幡「え、えっとだな、ほら、俺好き嫌いはしないように教育されてるから」

   「どっちがいいとかそういう嗜好はないわけで」

陽乃「つまりなんでも行けちゃう鬼畜、ってこと?」

八幡「意訳に悪意がありすぎるだろ」

   「ほらあれだ、見た目よりも中身を大事にするってやつだ」

   「(しかし実際の社会は見た目が大きく関与するわけだが)」

陽乃「へぇ…でも大きい方が柔らかくて気持ちいと思うよ?…試してみる?」

八幡「ふぉぅっ」

   「(…って落ち着けよ俺。そりゃ柔らかいだろうけども)」

   「(だがしかしそれを堪能したところで良い展開が待っているはずがない)」

   「(ここは自制するんだ)」

   「…遠慮しておきます」

陽乃「じゃぁ小っちゃいのが好きなマニアックな男の子なのかな?」

八幡「いや、だから偏った性癖はないんですって」

陽乃「でもほら、よくあるじゃない?もしこの二人しか地球上にいなかったらどっちを選ぶ?みたいな」

八幡「ありますね、そんな質問する奴は嫌な奴だと思います」

   「どちらを選んでも良い展開が待ってる気がしないですし」

陽乃「そうなの。でもそういう質問は答えなきゃ質問をしてる方も満足しないのよねー」

八幡「べ、別に満足させる義理はないんじゃないですか?」

陽乃「でもほら、力ある者に逆らうのって勇気がいるじゃない?」

八幡「俺、勇気になら自信ありますよ。なんなら愛と勇気だけが友達さーとかいうまである」

陽乃「でも構図がよくないよ比企谷君。私たちは六人だし」

八幡「おかしいでしょ。だってチームは三人なわけだし…」

陽乃「がはまちゃんも気になるよね?」

結衣「へ?い、いや~…その…ちょっとだけなんというか。ま、まぁ」

八幡「(審査員巻き込んじゃダメでしょ。まさか敵に四人目のプレイヤーがいたとは)」

陽乃「それに雪乃ちゃんだって…ね?」

雪乃「べ、別に私はこの男の性癖などには微塵も興味がないのだけれど」

   「でもこれ以上この堂々巡りをしているかのような会話劇に時間を費やすもの無意味でしょ」

   「だから早く答えて頂戴」

八幡「(み、味方が味方じゃなかった。そりゃよくいるけどさ、実は味方じゃなかったキャラ)」

   「(でもそういうやつってしょぼい死に方するか改心して本当に仲間になるじゃん)」

   「(…雪ノ下にはそのどちかをたどる雰囲気なんてないわけだが)」

陽乃「川…なにちゃんだかも興味あるよね」

川崎「はぁっ?あ、あたしが興味あるわけないじゃん!」

陽乃「そんなに怒鳴ると上がっちゃうよ?」

小町「ではお兄ちゃん、どうぞ!」

八幡「促すな」

   「(こういうった下らない質問で雰囲気を変えたくないんだが)」

   「(無難な答えとしては鬼畜ぶって女の胸なら何でもいい!と叫ぶことだろうか)」

   「(いや、全く無難じゃないか。一部の代わりに全女子を敵に回すことになる)」

   「(なにそれすごい怖い。一日も生き延びれる気がしない)」

   「(きっと女子たちは直接手を下さずに俺を抹消するだろうな)」

   「(逆にガンジーを見習って自分から性を切り離してみるか)」

   「(草食どころか絶食まで行ってしまえばもはや男として扱われることもないかもしれない)」

小町「あれ、そういえばお兄ちゃんが小学生のころに隠し持ってたエッチな本はどんなだったけ」

八幡「おい、今の状態でさえピンチなのに更なる爆弾を投下するな」

結衣「ヒッキーでそんな小っちゃいころから…」

八幡「ま、まぁ大人びた子供だったからな」

八幡「(さて、どうにかしなければならない)」

   「(質問にはどんな形であれ回答を出さなければ終わらないだろうし)」

   「(しかし二択の片方選んでしまったらきっと地獄だ)」

   「(となると質問自体を覆す回答しかない)」

   「(同性愛者だとカミングアウトしてみてもいいが、おそらく冗談として一蹴されるだろう)」

   「(エッチな本の存在まで暴露されちゃってるし)」

   「(ショック度上がってるし)」

   「(戸塚を愛していることは変わりないが…だって戸塚は…男じゃ…)」

   「(…)」

   「(さて)」

   「(ではこうしよう)」

   「甘いですね陽乃さん」

陽乃「ん?」

八幡「女性の胸が魅力的なことには変わりありませんけど…」

   「やっぱり最大の魅力は太モモでしょう!!」

「「太腿?」」

八幡「あぁ。つまり胸など大きくても小さくても変わりはないってことだ」

雪乃「つまり、あなたはそういったフェティシズムがあって胸には興味がないと?」

八幡「そういうことだ」

   「(太ももなら誰だって大差ないだろう)」

   「(本物の太腿マイスターには怒られそうだけど)」

結衣「(太もも…あたしは…どうなんだろう)」

   「(胸には自信があったけど)」

   「(太ももは考えたことないなぁ)」

雪乃「あなた…変態ね」

八幡「改めて言うな」

大志「その気持ち男としてわかるっす!」

   「絶対領域のことっすよね!」

八幡「しらねぇよ。話を広げるな」

陽乃「じゃぁ私が膝枕してあげよっか?」

八幡「へ?」

陽乃「だから膝枕。太腿が好きなんでしょ?」

八幡「いや、えっと、そうですけど」

   「(すぐに追撃が…早すぎるだろ)」

   「(せっかくさっきの質問ごまかしたんだから休憩させてよ)」

陽乃「私の膝枕、結構貴重だと思うわよ?誰それ構わず提案しているわけでもないし」

八幡「そ、それはそうでしょうけど」

   「(太ももフェチと言ってしまった以上断りにくい)」

   「(だが俺の初膝枕を捧げちゃったら多分ショック度メーターが振り切れる)」

雪乃「姉さん、何ふざけたことを言っているのかしら?」

陽乃「別にふざけてないわよ、それにこれは勝負でしょ?」

   「どうする比企谷君。さっきの質問に逆戻り、っていうのもあるけど」

八幡「(なにこの負のループ)」

   「(逃げ道がない。八幡塞がり)」

   「えっと…お願いします」

川崎「はぁ!あんた何言ってんの?」

八幡「いや、いろいろあってだな」

雪乃「比企谷君?」

   「あなた、公の場でそのような痴態を晒すことに羞恥心を覚えないのかしら」

八幡「だって逃げられないだろ」

陽乃「私の魅力から?」

八幡「…違いますよ」

結衣「(ヒッキーがひざまくら…ヒッキーがひざまくら…)」

陽乃「じゃ、どうぞ?」

八幡「(ほ、本当にするのか)」
 
   「(そりゃ陽乃さんのことだから冗談でした、なんて展開はないよな)」

   「(まさか俺がこんな美人に膝枕をしてもらえる日が来るなんて…感無量でもある)」

   「(周りの目が厳しいわけだが)」

   「(しかし、こんな機会はに度々ないに違いない)」

   「(俺が選ぶべき選択肢はデビルやエンジェルが協議する前に決定しているな)」

八幡「(よし、もう行くしかない。こんな機会は二度と訪れないだろうし)」

   「(しかし油断はならないな。いざ、慎重に)」

   「(あ、あとから「え、きもいから」とか言っても知らないからな!)」

   「…」ゴクリ

「」ポスッ

陽乃「よしよし」

八幡「(おおおお、おぉ)」

   「(なんか緊張して何も感じられない)」

   「(右耳に神経を集中させなきゃなのに)」

小町「(うわー。お兄ちゃん変に緊張してる)」

   「っと!そんな間にもお兄ちゃんと川なんとかさんと雪乃さんのゲージが上昇中!」

川崎「あたしは別に、なんとも思ってないし!」

雪乃「比企谷君の顔が気持ち悪すぎたから動揺しているのかもしれないわね」

大志「う、うらやましいっす!」

   「美人の膝枕!」

小町「ついでにこっちでも上昇中!」

八幡「(お、落ち着けよ。俺を含めたみんな)」

陽乃「心地はどう?」

八幡「えっと…心地いいです」

陽乃「そりゃ太腿フェチなんだからね」

八幡「いやっそれは…」

   「そうっすね」

雪乃「いつまで醜態をさらし続ける気なのかしら?」

   「私自身がどう感じているかはさておき、形式上はあなたも私たちの仲間なのだから」

   「仲間の一人が膝枕をされながらだらしなくにやけているのを見るのは耐え難いわ」

   「それにあなたのショック度、というか動揺指数だって上がっているのだし…」

   「何故続けているのかしら?もはや人間を捨てて欲情にまみえた生物にまで成り下がったのかしら?」

八幡「そ、そうだな」

   「(そうだ。このままでいる必要性はないんだった)」

   「(だとしたら早いほうがいい。冬の早朝のベッド、いや、炬燵以上の引力がありそうだし)」

   「あの、そろそろ」

   「(うわすげー上を向いても顔が見えない)」

小町「お兄ちゃんのショック度がなんか急に上がった」

八幡「(えー、俺正直すぎる)」

   「(もう中学生じゃないんだから大きい胸見ただけでそんなに興奮するなよ)」

   「(奉仕部にいる限りすぐそばに転がってるわけだし)」

   「(無論こんな角度から見ることはそうそうないとは思うが)」

   「んじゃ、これでおわりってことで」

陽乃「そだね、私も満足したし」

八幡「…それは何よりで」

   「(結局自分のためにやっていたわけか。だろうな)」

   「(俺だって俺か小町のためじゃなきゃこんな面倒くさいことはしていない)」

   「(もはや自分のためにすらやらなくなるかもしれない)」

   「(小町のためならやるけど。お兄ちゃん頑張る)」

   「(荷物持ちにとどまらず前の晩から寝袋持参で店の前に並んじゃってあげるかもしれない)」

   「(お、おれの愛が深すぎる。これは将来いい主夫になるに違いない)」

   「(絶対に浮気をしない良物件でもあるし)」

   「(あれ、もしかしたら俺が一番嫁度高かったんじゃないの?)」

   「(流石にウェディングドレスを着たら悲鳴しか上がらないだろうけど)」

   「(小学生程度になら装備ゼロで悲鳴を上げさせる俺だが…な)」

小町「(ふむぅ。お兄ちゃんに膝枕…)」

   「(そだ。ここで一気に!レボリューション!)」

八幡「(…なんかお馬鹿なことを考えているんだろうなぁ…わが妹は)」

小町「みなさん!」

   「今ならお兄ちゃんに膝枕ができる権利がただですよ!」

八幡「どんなディスカウントだよ。え、なに、そんなに売れ残ってたの?」

小町「お兄ちゃんはシャラップ。どうですか、結衣さん?」

結衣「え、あたし!?ででで、でも、ヒッキーに膝枕とか…その…ちょっと…」

小町「(やっぱり大義名分が足りないかー)」

   「(やっぱり膝枕はレベル高いし)」

結衣「みんな見てるし、恥ずかしいし…」

小町「じゃぁ雪乃さんはどうですか?」

雪乃「ぐ、愚問ね。私があの心の腐敗具合が瞳に表れているような男にそのようなことをしたいわけないじゃない」

小町「奉仕部なのに」

八幡「意味が違うだろ」

小町「川ザキさんは?」

川崎「やや、やるわけないじゃん!そんな彼女みたいなこと!」

小町「お兄ちゃん全然モテないね」

八幡「おいおい、わざわざ確かめなくてもいいだろ、そこはぼかしとけよ」

小町「(どうにかして背中を押さないと)」

   「(でも難しい…)」

結衣「でで、でもどうしてもっていうなら…ちょ、ちょっとだけ興味がなくもないし…」

八幡「おいおい、本筋からずれてるぞ。別に膝枕大会じゃないだろこれ」

大志「そうっす!いくらなんでもこれ以上は俺が許せないっす!」

   「うらやましすぎて悶え死ぬっす!」

八幡「ほらほら、身内からも苦情が出てることだし、あおるな」

小町「ぶぅ。お兄ちゃんのためにやってるのに」

   「あ、今のは少しポイントが高いかも」

八幡「はいはい、すごい高い、もう少しで米十キロくらいもらえるんじゃないか?」

小町「ではここから質問タイムに入りましょう!」

   「審査員のお二方、何か質問はありますか?」

   「できるなら一歩踏み込んだ一問を」

結衣「膝枕くらいなら別に…そ、そんなに大したことじゃないかも…ってえ?何?質問?」

   「え、えっと。み、みんな兄弟だし、どんな話してんの?ほら、家とかで」

雪乃「私の場合は会話そのものがあまりないわね」

   「同居しているわけでもないのだし」

陽乃「あら、雪乃ちゃん冷たいなーもう」

   「私たちだって会話くらいするわよ。ね?」

雪乃「私は先ほど否定したじゃない」

   「同意を求められても困るわ」

陽乃「そりゃ最近は会う機会も少ないけど、小さいころは仲良かったじゃない」

   「一緒に映画を見に行ったこともあったし」

   「えっとぉ、あのディスティニーランドで人気なキャラの」

雪乃「む、昔話をしてくれと言われたわけじゃないのよ?」

   「由比ヶ浜さんが質問したのは姉妹間の会話よ」

   「聞いていなかったのかしら」

陽乃「はーい」

小町「小町は…どんな話してるっけ?」

八幡「そうだな。勉強の話とか」

小町「んまぁ小町受験生だしねー」

八幡「他にはカマクラか…俺の素晴らしさとかか」

結衣「うわぁ」

八幡「引くな。軽いジョークだ」

小町「せめて家で褒めてあげないと他には誰も褒めてくれないもんね?」

八幡「それを言っちゃダメだろ」

小町「まぁまぁ。あとは」

   「(お兄ちゃんとはテキトーな雑談しかしてないしなー)」

   「(ふぅむ)」

   「そだ!お兄ちゃんの学校の話とか!」

結衣「」ピクッ

雪乃「」ピクッ

川崎「」ピクッ

陽乃「」ニヤニヤ

大志「あ、俺も姉ちゃんと学校の話はしてるっす」

結衣「が、学校の話ってどんなの?」

小町「(やはり気になりますか結衣さん)」

   「そーですねー」

   「大概はお兄ちゃんの愚痴ですね」

   「でも時々結衣さんや雪乃さんの話とかもしますよ?」


結衣「えっそうなの?!」

   「そ、その…どんな?」

八幡「おいおい、駄目だろそれ」

   「家だからこそ話している事柄をこんなところで暴露しちゃ」

雪乃「比企谷君、少し黙って」

八幡「え…えぇ」

   「なんでだよ」

雪乃「も、もちろん私自身はあなたが家でどのような会話をしていようと全く興味がないのだけれど」

   「ただそこに私がかかわっているとなると話は別よ」

   「もしかすると私への誹謗中傷などが行われているのかもしれないのだし」

八幡「もししてたらどうなるんだよ」

   「家にはけ口があるから頃円滑に進む関係性だってあるだろ?」

   「相手の逃げ口までふさぎ込むようなことしたらそのうちひびが入る」

   「人間、っつーか高校生のの器はそこまででかくないからな」

   「だったらお友達をなくさないためにも多少目をつむることが大切なんだよ」

>>174
あるから頃→あるからこそ

雪乃「私はそのような上辺の関係の縋るようなことはしないわ」

   「もしここであなたとの関係が崩壊するとしてもそれを阻止しようとも思わないわ」

   「だから」

   「さっさと家での会話を吐きなさい」

八幡「えー」

小町「えっとですねー…」

八幡「(言うのかよ)」

小町「結衣さんは優しいといってたような気が…」

結衣「ほ、ほんと!?」

小町「うーん、ちょっと記憶があいまいですが。実際の商品とイメージとは多少異なります的ですけど…」

八幡「(多少異なりますって言われればずれも大差ないように思うんだが)」

   「(多かれ少なかれってことだからつまり全然違っても構わないということなのか)」

   「(えー、こんな言葉の綾で客を…なんて奴だ!通販とか)」

   「(今度から俺も多用、っつーか乱用しよう)」

結衣「そっか…あたし優しいかぁ…へへ」テレッ

雪乃「ち、ちなみに。念のために聞いておくけれど、比企谷君は私に対しての暴言を放ったりししていなかったかしら?」

小町「(正直言えばお兄ちゃん家でも雪乃さんの文句とかばりばり言ってるしなー)」

八幡「(言うな!言わないでくれ!)」

   「(た、たまにうっかり口が滑ってちょっとした悪口が出たりするけども)」

   「(あ、で、でもお胸のことについてはそんなに…)」

   「(いや、なんにせよ嘘で固めてくれ!こ、小町、お前に俺の命運はかかっている!)」

小町「えっとですね、雪乃さんは性格はともあれ容姿は綺麗だなって」

八幡「(お。おぅ?ど、どうなんだそれは)」

雪乃「…」

   「性格はともあれ、というのが多少気になるのだけど…」

八幡「(ですよねー)」

雪乃「ま、まぁ私の容姿が一般の女性に比べると大分すぐれていることは事実だし、謙遜するつもりもないわ。故にあなたなんかに言われたところで今更何の感慨もわかないわ。逆に日々不愉快なことに同じ部室にいるあなたが無口なくせに心中ではそのようなことを思っていたとわかってしまった今、貞操の危機が一層高まったわけで、つまり嬉しいどころか全く逆の感情を抱かざる負えないし。もう少し自分の存在というのをきっちりと認識して、それ相応な言動をしたらどうかしら?さ、さっきははぐらかしたようだけど、どうせ由比ヶ浜さんのように胸が大きい女性が好みなんでしょうから、わざわざ気を使って私を褒める必要などどこにもないのよ。私だってあなた如きからの賞賛なんて求めてはいないもの。第一…」

八幡「(雪ノ下が猛烈な勢いでぼしょぼしょつぶやいている)」

   「(しかしどうやら怒っているわけでもなさそうだし、よ、よかった)」

   「(雪ノ下が俺に矛先を向けなおす前に話をそらさなくては)」

小町「(雪乃さんの数値が微妙に、でも確実に上がってきてる…ムフフ)」

八幡「で?お前のところはどうなんだよ」

大志「俺っすか?」

   「えっとっすね」

   「普段の会話は…家族のこととかが一番多いっすね」

   「俺はよく命令されてるっす」

川崎「うるさい」

八幡「(このまま適当に和んですべてをうやむやにしてくれないかなー)」

   「(なんならこいつらのめでたしめでたしで終わってもいい)」

大志「でも最近は学校の話もよくするようになったっす」

   「俺は昔から学校のことは普通にしゃべってたんすけど、姉ちゃんはそこらへんは喋んなくて」

   「でも最近は会話によくあがるっす」

   「学校の行事にも参加するようになったみたいですし」

八幡「(そうだ、そのまま「心配してたけど、お姉ちゃんは良い方向にかわれたみたいっす」とかなんとかいえ)」

   「(んでもって感動の抱擁とかして全米を泣かせて終われ)」

川崎「べ、別に特に私自身は変わってないし」

大志「文化祭とか体育祭とか」

   「あ、そだ、お兄さんの話とかも時々しますよ」

八幡「お兄さん言うな、お前と俺は赤の他人だ!」

   「この先も永遠にな」

小町「へー、お兄ちゃんの話もするんだー」

大志「あぁ」

川崎「は、はぁっ!そ、そんなの全然してないし!」

小町「どんな話してんの?」

大志「(こ、小町さんが俺に興味を持ってくれている!)」

   「え、えっとっすね」

   「この間は体育祭でお兄さんがなんか委員会の一員って話をして」

   「んでもってその数日後に確か…お兄さんに頼られたとかなんとかってちょっと嬉しs」

川崎「だ、だからうるさい!あ、あんたも少し喋りすぎ!だ、黙ってれば?!」アタフタ

   「あ、あたしが何家で喋ってようと関係ないでしょ」ギロッ

結衣「ご、ごめん!」

八幡「(あんまり川の人を怒らせるなよ、怖いから)」

小町「ではでは、戸塚さんはなんか質問ありますか?」

戸塚「そうだなー」

   「みんなは宝物、というか大事にしてるものってあるの?」

   「ぼくは小さいころ一緒に寝てたすごいおっきいぬいぐるみとかは捨てられないんだけど…ちょ、ちょっと子供っぽいよね」テレッ

八幡「いや、すごくいいと思うぞ」

   「(というかイメージ通り過ぎてかわいすぎる)」

   「(俺ならぬいぐるみじゃなくて戸塚を抱いて寝ちゃうぜ!)」

結衣「へー」

   「あたしは…バッグとか?」

八幡「(ちっ)」

   「(せっかく戸塚の言葉が放つ癒しの余韻に浸っていたのに…急にビッチくさくなった)」

   「お前のバッグと戸塚のぬいぐるみとじゃ格が違うだろ」

結衣「なんかけなされてる気がする…」

   「あ!」

   「ゆきのんにもらったエプロンもすごい大事!」

雪乃「そ、そう」ポッ

結衣「えへへ」

八幡「(ゆりゆりだ…となれば俺は海老名さんが喜びそうな展開を戸塚と繰り広げるしかないな?)」

   「(これはもうしょうがないことだな?)」

結衣「あと…ヒッキーがくれた…ちょ、チョーカーも…ちゃんと使ってるから」

八幡「…そ、そらどうも」

   「(きゅ、急に言われてもだな)」

   「(戸塚とのラン[ピザ]ーしか頭になかったからその、ちょっと困りますというか)」

   「(す、好きになっちゃうとかじゃないんだからね!)」

   「(いや、ほんと。もうこのパターンはあきるほど経験しましたし)」

   「(多分小説化したらマンネリ八幡とか呼ばれるに違いない)」

小町「小町はお兄ちゃんからもらったもの全て!というかお兄ちゃんが宝物だよ!」

   「今の小町的にポイント高い!」

八幡「(なんだよーちょっとどきっとしちゃったじゃんかよー)」

   「(可愛くてプリティーで完璧だけどもうっとうしい妹だ)」

   「(ポイントとか言ってるけどそのうち俺おごらされたりしちゃうんだろうか…)」

   「(そうすると今度はポイントではなく株があがるかもだが)」

陽乃「雪乃ちゃんは?」

雪乃「わ、私は特に幼いころから大切にしてるものはないわ」

陽乃「別に小さい頃からじゃなくてもいいんじゃない?」

   「最近もらったものとかさ」

雪乃「そ、それだってないわよ」

   「人にものをもらうこと自体多くないし…」

陽乃「でもあることにはあるわよね?」

   「ほらー、お買い物に行ったときとか」

   「私にすら触らせてくれなかったじゃない?」

八幡「(静かな戦いが繰り広げられている)」

   「(俺のが有耶無耶になるといいが)」

雪乃「…」

   「な、何のことかしら?」

陽乃「とぼけちゃってー。ほらほら、あのお人形とか」

   「大事そうに抱えてたじゃない」

雪乃「御免なさい、記憶にないわ」

陽乃「むむぅ、なかなか認めないのね」

雪乃「認めるも何も、私の記憶にとどまっていないのだから私にとって大切ではないことは立証されたのよ」

陽乃「もう理屈こねちゃって…」

   「ほらほら、パンさんの」

結衣「パンさん?」

雪乃「姉さん、話すををそろそろやめたらどうかしら?」

八幡「(怖い、雪ノ下さんの顔が怖い)」

   「お、おい、落ち着けよ雪ノ下。みんな石になっちゃうぞ?」

雪乃「黙っていて。大体あなたが…はぁ」ギロッ

八幡「ひぃっ」

   「(なんで俺に怒ってんだよ)」

   「(姉妹間の抗争じゃなかったのかよ)」

陽乃「宝物、なんじゃないの?」

雪乃「…」

陽乃「この前雪乃ちゃんの家に突撃した時はベッドわきに置いてあったっけ」

   「一緒に寝ちゃったりしてるのー?もー、可愛いなぁ」ニヤニヤ

雪乃「お、憶測で話をするのはよしてくれるかしら?」

結衣「(ゆ、ゆきのんが困ってる…)」

   「ゆきのん!ぬいぐるみとか大事でも全然変じゃないと思う!」

   「あ、あたしだって部屋に可愛いやつとかあるし!」

八幡「(何これ少女漫画か何か?)」

   「(いじめっ子女子といじめられっこを助けようと奮闘する女子)」

   「(俺の出る幕は全くないな。よし)」

   「(路傍の石の役をしぶしぶながらするとするか)」

   「(非生物の役は何度も学芸会とかでやってきたし、俺ほどのベテランはいないんじゃないだろうか)」

   「(第一俺は常時空気を演じているわけだからレベルが違う)」

   「(残念なのは誰も空気である俺に気づくことがないから結局誰にも評価されないことだが)」

陽乃「(がはまちゃんに丸く収めてもらっちゃったらつまんないなぁ)」

   「比企谷君はどう思う?」

八幡「(あれれー、この人おかしー。空気に話しかけてるー。友達いないのかな?隣人部とかつくっちゃうのかな?)」

陽乃「比企谷君?」

八幡「(どうやら傍聴席にいさせてはくれないらしい)」

   「別に。いいんじゃないっすか?女子っぽくて」

   「(つまり雪ノ下らしくはないわけだが)」

陽乃「でもさ、普段の雪乃ちゃんを見てるとちょっと意外じゃない?」

八幡「それはそうですけど」

   「(なんか誘導されてる気もするが…)」

陽乃「だとすると理由と書きにならない?」

八幡「…」

   「そうでもないっすよ。急に壮絶な親子愛の物語とか語られても困るだけでしょうし」

   「ぬいぐるみ一つにそこまでこめられたらぬいぐるみもかわいそうでしょ」

陽乃「あら、言ってしまえばぬいぐるみは物じゃない?」

   「狩りとか、暴力みたいに他の生物に向かって感情は吐き出すよりは非生物の方がいいと思うけど」

八幡「(なんか急に難しい話になっている)」

陽乃「…というわけで。雪乃ちゃんのぬいぐるみにもさまざまな思いが込められているのです…気にならない?」

八幡「(終着点は変わらないのかよ)」

   「(もう少し沈黙が続いてたらぬいぐるみについて語りだすところだった)」

   「(無駄に黒歴史は増やしたくないんだが)」

   「(陽乃さんといたらおそらく俺の歴史は真っ黒になるだろう)」

   「(まるで何者かの手によって闇に葬られた…的で少々かっこいいかもしれないが)」

   「ですから、気にならないですよ」

   「他人の心なんかのぞいて良いことなんてないでしょ」

   「俺の場合は頼んでもいないのに見せつけてくる場合が多いんですけど」

   「(俺をどれだけ嫌ってるか自慢されても困る。そんなゲーム?が流行るとか小学生は残酷だ)」

   「(ピュアな分高校生よりもたちが悪いかもしれない)」

   「(そんな過酷な環境を耐え抜いてきた俺はやはり最強…か)」

陽乃「(なかなか強情)」

   「じゃぁ推理してみない?比企谷君得意でしょ?」

八幡「そうでもないですよ」

   「そりゃ暇なんでよく推理小説は読みますが…」

   「でもあれって結局探偵が説明してくれるから甘んじてよく考えもせずに読み進めてしまうというか」

   「あ、でも容疑者が二人のあの一冊は加賀恭一郎さん焦らしまくって最後は袋とじでしたからね」

   「あそこまでやられたら意地になって推理しましたけど」

   「それだってヒントは出尽くしてましたから」

陽乃「じゃぁ私がヒントを出してあげる」

八幡「(いつの間にかぬいぐるみに秘められた何かしらを探る方向に進んでいる)」

   「いや、別n」

陽乃「ヒント1。そのぬいぐるみは誰かからもらったものです!」

八幡「(もう止められないなこれ)」

   「はぁ」

雪乃「姉さん。何を勝手に始めているのかしら?」

陽乃「あら、だってこれ暴露大会でしょ?」

   「ってことは私が何をしゃべろうがルール違反にはならないわよね?」

   「それに雪乃ちゃんが今私を力ずくで止めるとも思わないし」

   「さて、比企谷君。もうわかった?」

八幡「(あとで俺雪ノ下に怒られそうなんだが)」

   「(陽乃さんはある意味雪ノ下より怖いし…雪ノ下家に巻き込まれたら終わりだな)」

   「(ってことは俺終わってるのか。あちゃー)」

   「んな分かりませんよ。亡くなった祖父母にもらった、くらいしか思いつきませんね」

陽乃「残念はずれ!」

陽乃「罰ゲームに…」

八幡「聞いてないですけど。罰ゲームとか」

陽乃「言ってないもの」

八幡「ハイリスクローリターンすぎるでしょ」

   「俺の夢はノーリスクハイリターンなんすけど」

陽乃「あら、そんな甘いこと言ってると食べられちゃうわよ?」

八幡「(それは怖い。陽乃さんが言うと妙にリアリティがあるから本当に怖い)」

陽乃「誰か一人に愛の告白!…でいこうか。嘘でいいから、予行演習みたいな」

八幡「なんですかその頭の悪い合コンみたいなの」

陽乃「比企谷君は合コンしたことある?」

八幡「ないですけど」

陽乃「なら頭が悪い、なんて形容詞はつけるべきじゃないわね」

   「経験もしていないのに書籍とかネット上での情報で知ったかぶって批評するのはよくないわよ?」

八幡「(ぐ、正論すぎる)」

   「…すみません」

陽乃「それに合コンそのものが頭の悪いイベントなんだから。頭の良い合コンなんてないの」

   「これは先輩としての意見」

八幡「はぁ」

   「(俺の場合は参加する機会がないだろうが)」

   「(誘われたとしても誰かの引き立て役か、頭数合わせかだ)」

   「(だがアホなリア充志願の奴の引き立て役なんぞやるわけがない)」

   「(無駄な労働は決してしない、エコ八幡はエネルギーを無駄にしないのだ)」

   「(俺クリーンだな。もしかしたら汚染の解決の糸口が案外俺のような人種なのかもしれない)」

陽乃「じゃ、どうぞ!」

八幡「(アリジゴクかよこの人)」

   「(絶対逃がしてくれないじゃん)」

   「(さて…愛の告白か)」

   「(無難にこなすしかないか)」

   「(相手役は指定されなかったわけだし)」

   「(女子は…まずないな)」

   「(引かれて俺へのダメージだけが倍増して終わるに違いない)」

   「(陽乃さんもこれを言質にとって後々面倒くさそうだし)」

   「(ん、小町でいいんじゃないか?)」

   「(ひ、引かれないよな。お兄ちゃん気持ち悪いとか言われたら即死するけど)」

   「(想像すらできない。ある意味で雪ノ下以上に怖い)」

   「(そ、そうだ。男子にすればいいじゃないか。落ち着けよ俺)」

結衣「(なんかヒッキーのゲージが上がってる…)」

   「(想像してんのかな?)」

八幡「(戸塚だ!戸塚がいるじゃないか!というか戸塚しかいないじゃないか!)」

   「(ガキは鼻から選択肢にはいないわけだし)」

   「(っつーか小町の近辺からもいなくなってくれないかなー)」

   「(なんにせよ戸塚だ!俺が愛を告げるにふさわしい相手は戸塚しかいない)」

   「(もー何この桃太郎、俺と戸塚をくっつけようとしてるお節介な友達にしか思えない)」

八幡「と、戸塚!」

戸塚「」ピクン

「は、はい」

八幡「俺は、お前のことが…」

戸塚「うん」

八幡「好きだ!愛している!」

   「(い、言ったぜ。まさか告白がここまで清々しいものだったとは)」

   「(ってことは小学生のころのあれは告白じゃないな)」

   「(勇気を振り絞ったのに主人公にならないとかおかしすぎるだろ)」

   「(だが今の俺は一味違う)」

   「(なんたって告白の相手が男なんだから味どころかジャンルとか年齢制限とかまで違う)」

   「(俺が理性を保たなければ海老名さん大満足な展開になりかねない)」

戸塚「え、えっと…その…嬉しい…かな」

八幡「ぐふぉぁっ!」

   「(か、かわいすぎる。もう結婚申し込んじゃえよ。性別の壁とか越えちゃえよ)」

戸塚「なんか照れるね」

八幡「(天使のほほえみとはこういうものをいうのか)」

   「(部活動で常時悪魔と接しているせいか忘れていた)」

結衣「(やっぱさいちゃんかー)」

   「(そりゃヒッキーだから期待とかはしてなかったけど…)」

   「(でも熱意がなんか…微妙)」

小町「(戸塚さんでしたか)」

   「(小町にするかなーと思ってたんだけど)」

   「(ま、まぁ陽乃さん女子に、なんて言わなかったから)」

   「(でも戸塚さんはお嫁さん候補には…なる?)」

陽乃「あら、なんか誤魔化したわね」

八幡「きちんと告白しましたよ。誠意をこめて」

陽乃「…では次のヒント!」

八幡「(続くのか)」

陽乃「その人形はクレーンゲームの景品でした!」

   「どお?また予想してみる?」

八幡「嫌ですよ。罰ゲームあるし」

   「(それにゲームの景品を雪ノ下にプレゼントとか、大胆不敵だなそいつ)」

   「(あれか、上流階級のお坊ちゃんお嬢ちゃんが庶民の暮らしを理解するために、社会勉強で、みたいなのか)」

   「(よくあるシチュエーションんだな。フィクションでは)」

   「(んでもって「あら、これはなにかしら?」とか言いながらクレーンゲームでもやったんだろう)」

   「(となると贈り主は雪ノ下の友人か…)」

   「(…)」

   「(俺としたことが…ありえないだろ、そんなの)」

雪乃「何かとても失礼なことを考えているような気がするのだけれど」ジトッ

八幡「(エスパーかよ)」

陽乃「もー、鈍いんだかわざとなのか」

八幡「クイズは終わりですか?」

雪乃「そもそも始まっていること自体おかしいのよ」

   「だって私はあの人形は別にそこまで大切にしているわけではないもの」

   「そ、それは異性、もとい他人に貰った初めての物品であることに変わりはないけれど…」

   「だからと言って特別扱いしているかというとそういうことは全くないわ」

   「い、一緒に寝ているなんてことは勿論ないし」

   「話しかけている、なんてことも決してないわ」

   「ね、姉さんも自分の想像を人前で披露するのはやめたらどうかしら?恥ずかしいわよ」

陽乃「あら、想像じゃなくて立派な推理よ?」

   「というか話しかけたりもするのね…雪乃ちゃんが自爆なんて珍しー」

雪乃「だから何の話かしら?」

八幡「(すぐに火花が散るな)」

八幡「(どうにかフェードアウトできないものか)」

雪乃「…何故及び腰なのかしら?」

   「だ、大体あなたが不用意にあのようなことをするから」

   「そ、それに人形そのものだってあなた自身が手に入れたものではないわけだし、つまり正確に言うとあれはあなたからの贈り物ですらないのよ。第一もう少しプレイ回数を重ねれば私自身の手に入れられたのよ。あ、あと先ほど姉さんがいろいろとあらぬことを言っていたようだけど、それらはすべて虚実なのはわかっているわよね?それともあなた自身が少し勘違いしているのかしら。もしあの人形を私に譲ったことで何かしらの感情を抱いているのならばそれは真っ先に排斥するべきね。だって私自身は何も感じていないのだから。だ、だからっといってでは人形を粗末に扱っているかというとそうういうわけではないわよ。お、贈り主が誰であれものを粗末に扱うのはいけないことじゃない?だからベッドの脇に普段飾ってあって、時折添い寝をしたりするとしても、あ、あくまで仮定なのだけど、あなたという存在はその事実には全く関係がないのよ。そう、それはパンさんだからであって…」

八幡「(怒涛の勢いだな。単語が一つも拾えない)」

   「(あれだ、英語のリスニングとかに味わう絶望感を思い出すな)」

   「(それにまるで吐き出した単語が雪ノ下の周囲に蓄積されて壁を構築してるみたいで近寄りがたい)」

   「(多分雪ノ下に近づきすぎたら斬られるな。ったくノブナガかよ)」

   「(無論雪ノ下の場合は物理的な攻撃ではなくて精神的な攻撃になるわけだが)」

   「(それにショック度とか圧倒的過ぎてもう誰も気にしてないだろ)」

   「(俺らのチーム動揺しすぎだろ)」

   「(なんか今雪ノ下のも急上昇してるし)」

   「(あの雪ノ下をここまで動揺させるとは…陽乃さん怖い)」

小町「さて、意外にも戸塚さんの質問がひと波乱巻き起こしましたねー」

戸塚「な、なんかごめんね」

小町「いえいえ」

八幡「おい、そろそろ終わりにしないか?」

   「まんねりになるぞ?」

   「それに同じパターンが許されるほど国民的でもないからな、俺たち」

   「桃太郎は国民的かもしれないが」

小町「でもこのまま決着つけるとお兄ちゃんたちの負けだよ?」

八幡「そらそうだけどよ」

   「どうせ疑似桃太郎なんだから。別にいいだろ」

   「勝てる気がしねぇし」

   「はなからパワーバランスがおかしいんだよ」

陽乃「あら?終わらせちゃうの?主人公権限で」

八幡「そんなのあるんですか」

陽乃「まぁね。でも本筋には沿わないと」

   「桃太郎のエンディングは知ってる?」

   「結婚してめでたしめでたし、だよ」

八幡「い、いやそれはちょっと」

陽乃「どうしたの?私たちを倒したら進むしかないじゃない?」

八幡「そりゃそうですけど」

   「(陽乃さん容赦なさすぎる)」

   「(どうする俺。円満な解決法はどこかにないのか…)」

   「桃太郎って結婚しましたっけ?」

   「わらしべ長者とかは確かに結婚してましたけど…」

   「よくよく考えてみたら結婚してないっすよ、桃太郎」

陽乃「でも想像してみて。鬼を倒して財宝を奪い返してきた英雄を女の子たちが放っておくわけないじゃない?」

   「桃太郎もきっと迫りくる女の子の猛攻に耐えきれなくなって選ぶわよ、一人」

八幡「(女子怖すぎるだろ。猛攻って。なぜかうらやましくない)」

   「(陽乃さんに土下座でもすれば許してくれるだろうか)」

   「(…いや、笑顔で選択を迫られる気がする)」

陽乃「さ。早く選んじゃいなよ!」

   「あ、私でもいいわよ?」

八幡「…」

八幡「(しかしもし俺が誰かを選んだ時点で物語が終わるというのであれば別に誰を選んでもいいということか)」

   「(何か支障が出るわけではないだろうし)」

陽乃「あ、そだ。比企谷君に選ばれた人は後日比企谷君とデート!ってことにしよう」

八幡「…主人公権限で撤回したいんですけど」

陽乃「残念。でも私がこのバーチャル世界の主なの」

   「私が暇な時間を費やして作った桃太郎体験装置、なかなかのものでしょ?」

八幡「(いや、そんな急にカミングアウトされても)」

   「(後からとってつけたような設定だなおい)」

   「(え、ヒットするなんて思わなかった、と作者自身が思っていた漫画にありがちだが)」

陽乃「誰にする?」

結衣「(ひ、ヒッキーとデート!)」

   「(そういえばゆきのんはヒッキーと二人でお買い物とかしたことあるみたいだし)」

   「(あたしはまだ…)」

   「(文化祭の約束だってなんかうやむやになりそうだし)」

   「(うぅ…選んでほしいけど…)」

小町「女の子を選ぶなんて…お兄ちゃんいつの間にかモテ男!」

八幡「いやいや」

   「苦行だろこれ。モテ男がしょっちゅうこんなことこなしてるとしたら尊敬するわ」

   「(だから時々刺されちゃうのか)」

   「(リスクが高い)」

陽乃「早く選ばないとあの中二君に強制的に決定されちゃうよ?」

八幡「(そ、それは何としてでも避けなければ)」

   「(あいつとデートとかありえない)」

   「(しかしながらルートはたやすく想像できてしまう…)」

陽乃「じれったいなー比企谷君。よし、アピールタイムを始めよう!」

八幡「(事態をどんどん面倒くさくするなこの人)」

陽乃「まず私からね。比企谷君、もし私を選んだら…」

   「お姉さんが色々良いことしてあげるわよ?」

八幡「い、色々…だと」

   「(色々って。おいおい、ちょっと淫らな事しか想像できない)」

   「(しかしこういったぼかした表現はのちに「は?何期待してたの?」みたいな展開になるのが一般的)」

   「(流石に俺でも女子から告白されるのかと思いきやチャックが開いてました、なんてべたすぎる展開には出くわしたことはないが)」

   「(だが勘違いなら数えきれないほど―なのに鮮明に覚えているわけだが―重ねてきている)」

   「(これだってどうせ男子高校生の健全な想像、妄想とは全く違うのだろう)」

結衣「あ、あたしも!」

八幡「あ?」

結衣「(うわわ!なんか変なこと言っちゃった!)」

   「(で、でも…アピールしないと他の人がヒッキーとデートにってことになっちゃうし)」

   「えっと…あ、あたしも頑張る!」

八幡「(何をだよ)」

   「(大切なところ抜かすと変な想像しちゃうだろ)」

   「(由比ヶ浜は優しいからなんか助けてくれようとしてるのかもしれないが)」

小町「(ふむふむー。みんなちょっとアグレッシブになってきたかも?)」

雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん、落ち着いてちょうだい」

   「あなたは優しいから今名乗り出ているかもしれないけれど、この男にそんな価値はないわよ?」

小町「(むふふー。お兄ちゃんにまさかの修羅場到来?)」


雪乃「ひ、比企谷君もまさか自分に本当に選択する権利があると思い込んでいるのかしら?」

   「自分を見つめ直しなさい」

   「選ばれることすらないのだから」

小町「まぁまぁ雪乃さん落ち着いて」

   「ところで川崎さんはどうですか?お兄ちゃんとデート?」

川崎「はぁ?あ、あたしは別にそういうの興味ないし…」

   「っつーかこいつとデートとか有り得ないし…」

   「べ、別に嫌とかそういうわけじゃないけど…いや!嫌だけど!…でも買い物とかするくらいなら…」

八幡「(ごにょってる。なんか可愛い)」

雪乃「と、ところでひきゃ…比企谷君はすでに誰かを選ぼうと心に決めているのかしら?」

八幡「い、いや」

雪乃「そう」

   「…」

八幡「…」

   「(な、なんなんだこの居心地の悪い沈黙は)」

   「(動いたら死ぬ雰囲気だ)」

小町「(なかなか白熱してるみたい)」

陽乃「ほら、雪乃ちゃんも川ちゃんもアピールしないとっ」

雪乃「だ、だから私はアピールなんて」

   「この男とデートなんて…考えただけで虫唾が走るわ」

結衣「じゃ、じゃぁあたしが…」

雪乃「由比ヶ浜さん。先ほども言ったと思うけど、一度冷静になってごらんなさい」

   「焦燥感の中で行った判断はのちに必ず後悔するわ」

   「いくらこの目が濁った男が不憫だと感じているからと言って、あなたが犠牲になることはないのよ」

八幡「(まるで俺とデートすると不幸になるかのようないいようだ)」

   「(そういえば小学生のころに不幸の手紙というのがあったが…)」

   「(幾度ラブレターと勘違いしたことか)」

   「(不幸の手紙なんだからもっとおどろおどろしい封筒にしてくれていればよかったのに)」

   「(ピンク色は絶対女子からだよな)」

   「(つまり俺は手紙を転送しなければならない五人に選ばれる確率が異常に高かったんだろう)」

   「(そりゃ周りの、そこそこ親しい人間に送ったら関係がぎくしゃくするだろうし)」

   「(その点俺は安心だったんだろう)」

   「(不幸の手紙を一手に引き受けるとか…小学生の俺善人すぎる。泣ける)」

ふむ。誰ルートにすべきか。煮え切らないのは避けたいけど

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom