とあるカッパと黄泉川家 (753)


とある魔術の禁書目録×カッパの飼い方クロスオーバー

メインは番外通行止め黄泉川家なので、カッパの飼い方知らん人でも違和感ないように書いていきます

地の文





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ここは奈良県吉野のとある山奥だ。『私』は二人と三匹で、今日もカッパの泉へと足を運んでいる。
人間はわたしと坂本さん。三匹というのは、我が家の仔ガッパ、かっくん、キューちゃん、かぁたん、である。

齢二十一にもなる老ガッパ・カーサンは、魂を吸い取られるといって、このカッパの泉を避けているので、農作業をしている母とお留守番だ。


カッパ喘息を発症して、東京育ちのかっくんはうちの子となった。
カッパに不思議な生命力を与えるこの泉に足繁く通い、かっくんの回復を促しているわけだが、
おまけのキューちゃんとかぁたんはまったくのお遊び気分だ。

「かっくーん、あんまりはしゃいじゃダメよー」
「キャッキャッ」

三匹で水中をはしゃぎ回り、兄貴分のかっくんを追いかけっこに巻き込んでいる。
見かねて坂本さんが注意しているのだが、泉の中の彼らには右から左だろう。

関係ないが、なんとはなしに、結婚の気配を漂わせている私と坂本さんだけど、私は未だに彼女を『坂本さん』としか呼べていない。


「クワっ」
「クパパパパパ」
「キャー」

おいおいおい、いくら かっくんが元気を取り戻しつつあるとはいえ、ちょっと無茶が過ぎるぞ。
私は水中相撲三つ巴を始めた三匹を引き離すべく、リュック片手に泉に突入した。
実際には坂本さんの『なんとかしなさい』という無言の圧力に屈したのだが。


「ほぉ〜らやめろー。イイコにはきゅうりあげるぞ。カッパ水(天然水のキュウリ漬)もあるよ〜」

やはりきゅうりは偉大だ。腰まで浸かりながら、リュックの中のおやつを見せると、
仔ガッパ達は一斉に私に跳びついてきやがった。

「うわぁー!」

急なことに私は後ろへひっくり返った。深くはない水の中で、上と下の感覚を一時的に失って混乱してしまう。
あ゛、今誰か踏んだぞ……。願わくば かぁたんでありますように。

「ごほっ、ごほっ。無事か かっくん!」
「クポっ」
「ごほっ、キューちゃんは!?」
「ケケケケ」

良かった。元より坂本さんのペットであるキューちゃんを踏んだとあっては彼女に申し訳ないし、
かっくんは言わずもがな。私にとっては かぁたんが一番遠慮がいらない仲なのだ。

「結構強く踏んだ気がするけど、かぁたんどこだ〜?」
「カー!」
「クワー」
「どーしたの? ねぇ、かぁたんは?」

坂本さんが岸辺から手を伸ばして私を引っ張り上げようとしてくれているが、私はそれを遮り水中を覗き込んだ。

い、いない。さっきまですぐそばにいた かぁたんが見当たらない! 
暴れて一瞬だけ濁った水は、もうほとんど澄んでいる。なのに かぁたんが……

「そういえばリュックも無いやん〜! どうなってんの。おーい、かぁたーん!」

かぁたんは消えてしまった……


遠い遠い、時代さえも違うどこかで、いたいけな仔ガッパが飼い主に踏まれて目を回した頃……

「ふっふーん!ってミサカはミサカはスキップしてみたり! 番外個体はスキップできるー?」
「出来るけどやんないよ。卵が割れるっつーの。最終信号が代わりに怒られてくれるなら披露してもいいかな」
「断固拒否する!ってミサカはミサカは卵とミサカの名誉を守ってみたり!」
「うるせェぞ。落ち着け。オマエの袋には瓶が入ってンだ」
「おぉーっと! お宝発見どんぶらこだぁ!!」
「聞いてンのかクソガキ」

手に提げた袋の中の瓶をがちゃがちゃ鳴らせ、打ち止めは土手を駆け下りて河原へと走る。
どんぶらこと言うからには、この幼女のお宝は川にあるのだろうと、視線を先行させていた番外個体が疑問の声をあげた。

「……ナニあれ?」

普段の悪意や嘲笑を感じさせない純粋なその声音に、一方通行も彼女と同じ場所を見る。


「キューン……」
「つんつんつん、ってミサカはミサカは謎の桃太郎ならぬリュック太郎を棒きれでつついてみる。生きてる? ねぇコレ生きてる!? ゲコ太!!?」

大人が一抱えもする大きくて古臭いカーキ色のリュックサックと、緑色のぬいぐるみが水際に落ちている。
一見ぬいぐるみかと思ったその緑色がもぞもぞ蠢き、声まで聞こえるものだから、打ち止めが興奮して両手をそれに伸ばす前に、

「馬鹿野郎ォ! 訳分かンねェモン触ってンじゃねェよ!」
「ふぎゃっ」

一方通行に襟を引っ張られて尻もち寸前の所をさらにチョップされ、打ち止めは頭を押さえてうずくまった。

「えーんえーん、ってミサカはミサカは嘘泣きしてみたり。あー、番外個体には怒らないんだずるい」
「生きてるねぇ。でも残念ながらゲコ太には見えない」

追いついて来た分別(?)のある二人が現状把握に乗り出す。
番外個体が両脇の下に後ろから手を差し込んで一方通行の眼前にソレを掲げる。

「……なンだこりゃ」

体長五十センチほどのぬいぐるみは生きていた。呼吸に合わせて肩や腹が動いている。
苦しげに歪められていた表情がピクピク動き、閉じられていた目がしばたいた。

ぱっちり開いた黒く丸い瞳と鋭く赤い瞳が交錯した。

「……パコン!」
「!?」
「うげ」

いきなりぬいぐるみのクチバシ(としか表現できない)が震え、微かな衝撃波と大きな音が。
一方通行は一歩退き、番外個体は謎の生き物を放り出した。

「知ってる! これは河童だよ!ってミサカはミサカはアニメから取り入れた知識をひけらかしてみる!」
「クパパ?」

それが、かぁたんと学園都市の子供達の出会いであった。


次回へ続く

変なモノとのクロスを始めてしまった……

一方さんにでれるヘラクレス…
あのカッパ軟弱体型好きだったよーな 

>>7 ヘラクレスはどっちかというと、子供好きだから打ち止めにデレるかも
そしたら「こら! そンなのと遊ンじゃいけませン!」ってママセラレータ必死になる

続きいきます


リビングにて、芳川桔梗は足を組み、腕も組み、指先を顎に当てて珍客を眺めていた。
子供達がお使いから帰って来たら、リストには無かった物が混ざっているのでそれを観察している。

「この生き物は一体何なのかしら?」
「河童ー」
「そうね。そうなのよね。……わたしは混乱しているわ」

打ち止めはタオルで河童の湿った髪を拭いてやっている。あと風通しの良くない首の裏と甲羅の中も念入りに。


一方通行と番外個体は、河童と一緒に落ちていたリュックサックから中身を出している。
ベランダに紙やバスタオルを敷き、水が効率よく捌けるように角度をつけながら色んなものを並べていった。

「マジかよ。見てよこれ、『世界河童大辞典』だってさ」
「こっちは『カッパの飼い方』だとよ……」

ハードカバーのその辞典と本は、聞いたことがない出版社の物であった。濡れているせいで開けるページは少ないが、
ちゃんとした活字が印刷されており、いかにもまっとうな学術書と思わせられる。……カッパ、カッパ書かれていなければ。


「お? 底の方にきゅうりがあンぞ」

一方通行がきゅうりを手にした途端、打ち止めの元からカッパが駆け寄ってきた。

「クパー。クパクパっ」
「な、なンだ?」

少年の足元で、目をキラキラさせて(いるように見える)カッパが跳びはねる。
小さな手を伸ばして「くれ、くれ」とアピール。

「カッパはきゅうりが大好物なのだよ、ってミサカはミサカは日本昔話の言うことが本当だったと感動していたり」
「食べたがってるってこと?」

番外個体がもう一本取り出してあげると、

「クハ〜」

うっとりと目を細めてきゅうりに頬ずりしたあと、カッパは美味しそうにポリポリ食べ始めた。

「昔話の伝承がひとつ裏付けされたからといって、簡単に結論に至るのは良くないわ、と桔梗は桔梗は慎重になってみる」
「落ち着け、芳川」


きゅうりを食べたあと、カッパはポンポンと腹を叩いて「ふー、満足満足」と人間臭い動作で四人を驚かせた。
ちなみに家主の黄泉川愛穂は仕事で、今は留守をしている。


「どうしたのかな、急にソワソワしだしたよ」
「なんか……、悲しそう? 不安そう?ってミサカはミサカは後をつけてみる」

カッパは二足歩行でチョロチョロ動き回り、それを番外個体と打ち止めが追う。ドアを開けては、

「くぅ〜ん、キュー」

と悲哀を感じさせる鳴声をあげた。

「おっとと、そこは玄関だから」

ドアノブにジャンプしていたカッパを再び後ろから抱き、番外個体がリビングへ戻ろうとする。

「キュウ……」
「そんな顔されてもなぁ」
「どんな顔なのミサカも見たーい」

打ち止めが番外個体のアオザイを引っ張る。「ホイ」と歩きながら手渡され、打ち止めはおっかなビックリで受け取った。

「ありゃりゃ。泣きそう、ってミサカはミサカはカッパを元気づけるためにはどうすればいいのか考えてみる。ねぇ尻子玉って売ってる?」
「何さソレ……」


リビングでは一方通行と芳川が、浸水被害の少ない物の調査を続けていた。
この『河童』と思われる生物の謎を少しでも明らかにできないかと、特に紙製の物を破損に注意しながら調べていく。

「あら……、手帳に写真が挟まっていたわ」

芳川の手には一枚のカラー写真。縁取りは白く、男性とあのカッパが写っていた。
木造建築物の入り口の前で、男性に抱っこされているカッパ。短い指で、どうにかピースサインをしている。

「飼い主かしらね」
「ペットだってェのか?」
「飼い方の教本まであるのでしょう? 実は学園都市外ではカッパをペットとしてるんじゃない?」
「馬鹿言え」
「……ウソ」
「あ? どォし……」

二人、同時に同じことに気づいて会話が止まった。

濡れて皺が寄り、色も所々禿げているが、左下隅の文字はしっかりと読み取れる。それはこう書かれていた。


S49/01/01


「ちょっと、二人ともフリーズして密着してなーにー? これから見つめ合ってキスでもするの?」
「ゆ、許さん! ミサカはそんなの許さんぞ!ってミサカはミサカは阻止すべく突進してみるー!!」

カッパを抱っこしたまま走る幼女の突進を受け、二人の時は再び動き出した。


次回へ続く

尻子玉とは、尻付近にある元気玉のようなもの。
河童はこれを尻の穴から抜くのが得意であり、やつらの大好物である
抜かれると死にかけのオクレ兄さんのようになってしまうので注意


「んんー! ふんんー!」

打ち止めの口と手足を拘束し、写真の確認は芳川に任せる一方通行。
彼女の手の中でそれが裏返され、『49年正月 かぁたんと』と手書きの文字が彼にも見えた。
ちなみにカッパは既に解放されて床に尻をつけて座っている。

「四十九年? まさか昭和四十九とか言ったりしないでよね」

三人の頭上から手を伸ばした番外個体が写真を取っていく。

「表の左下を見てみろ。偽造とは考え難い……」
「ふがー! ぷは……、それって何年前なの?ってミサカはミサカは計算してみたり。えっと」
「……わたしの両親の青春時代よ。ちょっと信じられないわね」
「待てよ。この写真のコレがソレとは限らねェだろ」
「えぇー、ソックリだよ?ってミサカはミサカはこのカッパはタイムスリップしてき」
「止めて最終信号。これ以上混乱するようなことを一度にわたしに与えないで」


どうしたものか、と各自溜息をついた。打ち止めだけは興奮の鼻息と思えないこともない。

「この写真の男が裏に『49年正月 かぁたんと』と書いたンだろう。コイツを探せば」
「パコン」

「「「……」」」

一方通行の言葉に、カッパが反応する。

「今の音はなに?」
「外でも一回鳴ったけど、どーもこの子の口かららしいよ。この人ったらビビってやんの」
「うっせェな。オマエこそ『うげェ』とか言ってたろォが」
「やーめーてー、ってミサカはミサカは喧嘩を仲裁してみる。かぁたんが怖がってるでしょ」

この程度の諍いは、最早この家では珍しくもなんともないのだが、
カッパはオロオロした様子で打ち止めの後ろへ身を隠している。顔だけ覗かせてなりゆきを見守っていた。


「かなり知能が高いようね。いちいち人間っぽい仕草だわ」
「ふっふっふー。すごいね! かぁたん!ってミサカはミサカはお鼻が高々」
「つーか名前それで当ってンのかよ」
「呼ばれて返事してんだから、そういうことなのかねぇ。やい かぁたん」
「……パコン!」

今度は右手で挙手までされた。これは、このカッパは かぁたんであるという流れである。
とするならば、かぁたんは打ち止めが言うように、昭和四十九年からナントカスリップしてきたのだろうか。

「待て、カッパなンざ民間伝承だ。迷信だ。それだけじゃ説明つかねェ」
「あー、ミサカもうどうでもいいよ。とりあえずオヤツ食べたいし」
「ヨミカワに飼わせて、ってお願いしよー、ってミサカはミサカは今から作戦を練ってみる。プリン食べながら」
「そうね。難しいことは君に任せるわ。わたしも今はとろとろプリンが気になるの」
「……」

一方通行以上に、細かいことは気にしない性格の彼女達である。

彼はオヤツを後回しにして、怪しい『世界河童大辞典』や『カッパの飼い方』を調べ始めた。


女性陣だけのオヤツタイムが終わって三十分ほど経った。

「芳川。ルーペとか、拡大鏡になるモン持ってねェか」
「あるけど、何に使うの?」

質問に答えず、一方通行は左手を揺らして催促した。芳川は自室からルーペを持ち出して彼に渡す。

食卓の椅子に座らされて、打ち止めのおままごとに付き合わされていたカッパに一方通行が近づいて行く。
かぁたんは切り方色々きゅうり御膳を食べていたが、横に立たれて何事かと少年を見上げた。

「クポ?」
「……一歳」

見上げてきたカッパの頭を押さえ、皿の部分をルーペで凝視しながら呟く。
打ち止めはまな板の前に踏み台を置き包丁を握っていたが、刻みかけのきゅうりをひとまず置き、
一方通行とカッパの所へ合流してきた。芳川と番外個体も加わり、椅子に座った かぁたんは右から左に忙しく視線を振る。

「一歳ってどーして分かるの、ってミサカはミサカはあなたに訊いてみる」
「カッパは一年成長するごとに、頭の皿に輪が増えていく。拡大鏡等で確認すると年が分かるそォだ」
「まるで樹木の年輪のようね」
「まったくだな。その名も皿年輪だとよ」


黒ゴマプリンを一人おあずけにして、一方通行は『カッパの飼い方』基礎知識編を勉強していたのである。
『世界河童大辞典』よりも紙質が硬く、厚くできており、
なんとか一枚一枚はがして読むことができたのだ。それでもたった数ページだが。

「最終信号が連れ帰ろうとしたら散々文句言ってたクセに。結局こうやって頑張っちゃう親御さんは相変わらずやっさしーい」
「俺に想定される被害を事前に回避するために、一番効率良い作業をしてるだけだ」

もしも かぁたんに万が一のことがあったら、打ち止めはきっと悲観する。それは一方通行にとって避けたいことだ。
ちなみに打ち止めの感情に振り回されている番外個体だって、その際には陰鬱とした悲しみに浸されるだろう。
彼女もそれは嫌なので、少年が苦労して取得した情報を共有しておきたいのは当然だ。簡潔に口頭で教えてもらいたく、先を促した。

「あとは? あんだけ読んでて歳しか分からないってことないでしょ?」

その生意気な物言いに、「オマエも読めばいいだろ」と返したくなったが、芳川と打ち止めにも教えておきたいことなので我慢した。
一方通行だって一度の手間で情報の共有を終わらせたい。

そういやピエールと愛穂さんの
料理対決はあるんでせうか


「……まァいい。まずコイツを飼うにあたり、気をつけることは食い物だ。呆れることに最適なのがドッグフードらしい」
「キャットフードではいけないの?」

そこが疑問に思うべきところだろうか。

「それも可だ。あときゅうり、魚介類等々」
「カッパフードは無いんだね、ってミサカはミサカは簡単に入手できるごはんなので安心してみる」
「主食が尻子玉だったら面白かったのにね」

尻子玉とは何ぞや、と幼女からご教授受けていた番外個体は、
力なく地に伏せる大勢の人々を想像して意地悪く笑った。その絵の中心にはもちろん一方通行がいる。

「博識な第一位サマは尻子玉って知ってる?」
「基本雑食だから何でも食うが、ネギはアウト。ワサビもアウト。拾い食いはさせない方が賢明」
「華麗に無視すんなよー」


その他、基礎知識編で分かったことは、


・カッパは少なくとも三歳をすぎるまでは雌雄の判別がつかない。

・個体差はあるが、六歳ぐらいまでは子供であり、それ以上が成獣。

・知能は高く、成長したカッパとなら、かなりの意思疎通が可能である。

・一般に温厚で人懐こく、きゅうりと相撲が好きなのは絶対。
 

「あとは……」
「待って、かぁたんが寝てしまっているわ」

「すー、すー……クペペパピ、すー」


寝言(?)を挟みつつ、かぁたんは椅子に座ったまま夢の世界へ。
一方通行先生の講釈は中断され、仔ガッパの寝床をしつらえなければならない。

打ち止め以外が毛布や枕といった寝具を思い浮かべたが、この幼女はさっさと仔ガッパを抱えてリビングへ。
食卓につくには背が足りないために尻の下に敷かせていた座布団ごと運び、部屋の隅にそっと寝かせる。

「あとはバスタオルを重ねて掛け布団にしちゃおう、ってミサカはミサカはテレビを消して安眠させてみる」

小さなお布団買わなきゃね、と無邪気に笑う打ち止め。飼う気満々である。
そりゃあの一方通行がエサの注意点まで調べるくらいなのだから、飼うことになるのだろうと空気を読んでいた他の面々ではあるが。

果たしてこの家の女主人、黄泉川愛穂はなんと言うだろうか……


次回へ続く

>>23 なんだそれ楽しそう。私も読みてぇです

審査員「カッパ茸だとォ!? カッパから生えたキノコが食えるかボケェェェェェ!!」

ピエール「ヒィ〜」



このミサワさんなら
お皿グリグリやりそうな予感

>>54 鼻の穴ウリウリもするよ、きっと

続きいきます


翌日、一方通行と番外個体、打ち止めと かぁたんは揃ってお出掛けした。
かぁたんに必要な物を買いそろえるためだ。
朝から先発部隊(芳川桔梗)が仔ガッパに着せる子供用の服を一着だけ入手し、それを身につけての外出となった。

「かぁたん似合ってるよ、ってミサカはミサカは褒めてみる。靴のサイズもいいみたいだね」
「クポ」

打ち止めがしっかりと かぁたんの手を握りお姉さんぶっている。
普段なら迷子をはじめ、率先して保護者と一方通行に面倒をかけるのに。小さな かぁたんが隣に居ることで気を張っているのだ。

「服着て帽子被って靴履くだけで、結構ごまかせるでしょ。基本、人型だし」
「つっこまれるコトがありゃ、クソガキのおもちゃで押し通せ」

例の写真に写っている かぁたんは暖かそうなセーターを着用していた。(真冬の正月だからか)
なので、ここでも衣服を纏えば街を歩いてもあまり気にされないのでは、との番外個体の意見だ。

例えば、打ち止めとまだまだ未知の生物カッパを家で留守番させるのは非常に不安だ。
黄泉川も芳川も自分達の用事や仕事で不在となる今日なので、いっそ子供達全員とカッパで買い物に繰り出した訳である。


「服はとりあえずこんだけあればいいでしょ。足りなきゃまた買えばいいし、あなたが」
「……」

まだ寝具や食器を買わなければいけないのに、黄泉川から渡された予算はもう残り少ない。
子供服が予想外に高かったのだ。
一方通行は金銭に困っている身ではないので、かぁたんに関する出費など取るに足らない。むしろ彼が気になっていることは、

「オマエが積極的にコイツのために出張るとはな」

かぁたんを一緒に連れて行こう、と強く主張したのは番外個体だった。
服を着せれば目立たない、先に一着だけ買って来よう、と提案したのも彼女。

「べーつにー? ミサカが言わなくたって、どうせ最終信号がダダこねてたし」
「ふン。その割にはヤケに指示が具体的だったじゃねェか」
「何が言いたいのよ」
「…………」


番外個体にしては、なんだか異様に……優しい気がする?

今は打ち止めと かぁたんが手を繋いで一行を先導しているが、
マンションのエレベーターを降りるまでは番外個体が胸にしっかりと抱いていたし。

違和感があると一方通行は思っていた。


「むむ、むむむー! あれに見えるはヒーローさん&シスターさん、ってミサカはミサカは知り合い発見!」
「あァ? なンであいつがこンな真昼間に……」
「今日は日曜だろ。やーだねー、曜日の感覚無くすほどぐぅたらしてるから」
「オマエが言うンじゃねェよ」

そういえば、私服の若者がだんだんと多くなってきている気がする。
午前中は惰眠を貪る者がいるのでこの程度だが、これから遊びに出る学生達で、街はもっと賑やかになるのだろう。

「パコンっ」
「そうだよ。あの二人はミサカ達のお友達、ってミサカはミサカはパコする かぁたんを又も褒めてみたり」

この音は『パコ』といい、主にカッパのコミュニケーション方法のひとつである。このように挨拶に多用されている。
打ち止めが嬉しそうに前方に手を振るので、かぁたんはパコで対応したのだ。

歩道を一方通行達に向かって歩いていた上条当麻とインデックスも彼らに気づいたようだ。
妙な音に周囲の幾人かが首をかしげているが、
その発生源が足元の仔ガッパとは思うまい。というか、まさかカッパがいるとは思うまい。



「よー! 買い物か? 俺達も……」


上条が打ち止めに応えて大きく右手を振る。そこで一方通行達はピタリと歩みを止めた。


右手。上条当麻の右手。


幻想殺しが かぁたんに触れたらどうなるの??


じりじり、と打ち止めが後ずさる。かぁたんを引きずるように一方通行の背後に隠れた。

「どうしたの? らすとおーだー?」

上条と共に近づいてきたインデックスが顔に疑問符を浮かべる。いつもの元気な笑顔はなりを潜め、打ち止めは警戒の眼差しであった。

それはそうだ。幻想殺しのせいで、もしも最悪かぁたんが消えてしまったらエライことだ。

「ちょっと止まれ。オマエらも止まれ」
「これ以上ミサカ達に近寄んないで。今はめちゃめちゃタイミングが悪い」
「え? え? なんで?」

いきなりの言葉に、上条も困惑する。
打ち止めが言うように『お友達』と気軽に呼び会える仲だとは彼も認識していない。でも、この態度は異常だと感じた。
時には協力して困難を乗り越えてきたじゃないか。道で会ったら雑談ぐらいしてもいいだろう。


「俺達はある理由で忙しい。このまますれ違うのが最適だ」
「どう見ても平和にお買い物してたように見えるんだよ」

インデックスは三人がそれぞれ手に持った袋を指さす。打ち止めはキャラクター物のリュックも背負っており、
閉まり切らない蓋の中身も購入した商品が入っているように見えた。ちなみにドッグフードである。

「あれ? その子はだぁれ? 私初めて会うよね」

一方通行の背後の打ち止めがさらに後ろに隠していた かぁたんに目をとめるインデックス。

「あぁ、この子のことで忙しいのか? ちっちゃいなー。黄泉川先生のお子さんだったりして? んなわけないか、独身だもんな」

上条が番外個体の側から回り込もうと一歩を踏み出す。かぁたんに近づいてくる。

「やめてよ!」
「わ!?」


耳慣れた音が鳴り、鋭い電撃の矢が番外個体から放たれる。
それは威嚇のためだったので、上条の右手どころか、体のどこにもかすることなく空中で消えた。

上条が感じた異常はいよいよ強まる。さきほどの拒否の言葉といい、この電撃といい、一体どうしたことか。

「な、なにか気に障りましたでせうか」

現在、貴方の右手に触れると、大変具合が悪くなってしまうかもしれない小動物を保護中です。
最悪生命に、いや、その存在自体に深刻な事態を及ぼすかもしれません。なので近寄らないでください。

こう告げればいいのだが、一方通行達はよく分かっている。上条当麻のたぐいまれな不幸体質を。
いつ何時、面倒事が彼の身に起こり、不測の事態が押し寄せるか……

一秒でも早く上条から遠ざかりたい。


ずりずりと、足を擦って距離を取る。
一方通行と番外個体が揃っているのに後退するという珍しい光景だった。
打ち止めに至っては、既に来た道を駆け戻り始めている。

「クポ? クポポ?」
「緊急事態であります! カミジョウは友達だけど、かぁたんにとっては超危険人物だったのだ!ってミサカはミサカは駆け足してみる!」

足早に去ろうとする顔馴染み達。上条はその後を追おうとする。

「待てよ! 理由ぐらい言ってけって!」
「うるせェばーかこっち来ンなァ!」
「!? な、な、なんだよ、なんだよーその小学生みたいなセリフは! 一方通行のクセにー!」
「あ、まってよとうまー!」


次回へ続く

一方さん、焦って小学(低学年)男児に

乙とか、感想をありがとう

続きいきます


「ごめんちょっと何言ってるのか分かんない」

聞かされたのは、打ち止めが拾ってきた河童を保護している、ということ。
上条当麻はファミリーレストランの一角で首を振った。

しつこく一方通行達に追いすがった彼は、しんがりを守る少年を易々と捕まえた。
当然だ、一方通行は杖をついているのだから。

一方通行は逃走の際に能力の使用も考えたが、一瞬の躊躇いの内に幻想殺しに肩を掴まれてしまったのだ。

御坂遺伝子を持つ大小の妹達が謎の子供をがっちりガードし、
赤い目に睨まれながら上条はこのファミレスへと誘われた。

番外個体が強引に店側に頼み、一番大きな席を陣取っている。
十人は座れるか、というテーブルの端と端で、カッパと上条のファーストコンタクトは成された。


「河童って昔話に出てくる妖怪だろ?」
「名前は かぁたんだよ、ってミサカはミサカはニューフェイスを紹介してみる」
「クポ!」

打ち止めが かぁたんに被せた帽子を数秒だけ脱がせる。そこには見事なお皿が。
よくよく見れば服から覗く肌は緑だし、クチバシがあってそれは黄色だし。

「……まじ河童? 本当?」
「妖怪って日本のフェアリーみたいな存在だよね? どうして学園都市にいるのかな」

メニュー表を見ながらインデックスが言う。 

「これ頼んでもいい?」
「家に帰ったら昼飯だろ。材料買ったじゃねぇか。今月はもう外食しません」
「えぇーっ、せっかくレストランに来たのに飲み物だけなのぉ……」

銀髪の少女は、ウルウル瞳を揺らして一方通行に圧力をかける。

「……ちっと早ェが俺達はここで昼を食うか」
「あうぅ〜…」
「……クソガキどものついでだ。一品だけなら」
「ありがとう! あくせられーた!」
「ハナシ進まねぇー」

文句を言いつつ、番外個体もメニューを選び始めるのであった。


「カッパという伝説上の生物の存在に驚くべきか、タイムスリップという現象に驚くべきか」
「そのどちらも真実という確証は無いがな」

結局上条も軽く食事を取った。
他の面々が食べているのに、自分だけ飲み物というのは寂しい。それに食べ盛りの胃袋には拷問だった。

「問題はそこじゃないんだね。あくせられーた達がとうまから逃げようとした理由が分かったよ」
「うーん……。うっかり触らないで本当に良かった」

番外個体と打ち止めに挟まれて、かぁたんは席の端でジュースを飲んでいる。クチバシがあるのでちょっと飲みづらそう。
テーブル対角線の一番遠いところから、上条はしげしげと不思議生物を観察した。

強制されてこの席に座らされたが、今なら納得だ。


「カッパ君の正体がハッキリしないうちは、俺の近くにいるのは危険だとは思う……が」

「?」

「一方通行達が良ければ、『こっち』で当たってみる?」

上条が隣のインデックスをアピール。なるほど、魔術師達に太いパイプを持つ彼と禁書目録なら何か分かるかもしれない。
正しく真実である知識や情報は得難いものだ。あるのと無いのとでは、いざという時の対応が変わってくる。

「コイツの存在が『ソッチ』に知れることによって、不都合が起こらねェなら」
「あぁ、もちろんだ。特に仲良いヤツだから心配すんな。実際かぁたんを見せた方がいいよな」

上条が「行こうぜ」と席を立つ。彼に真っ先に続くのはインデックス。

「帰ったらお昼作る?」
「今食っただろ。しかも奢りで」
「それはそれ、これはこれなんだよ」
「話が終わったらな。簡単なもんでよければ」

この二人は家に帰る気らしい。嫌な予感がした。


「ちょっと待っててな。あ、座布団足りねーかな」
「にゃ」
「クワー!」
「……にゃ?」
「ケケケケケ」

上条とインデックスが暮らす学生寮にやってきた。
部屋に上がるなり、かぁたんは猫に走り寄って嬉しそう。逃げずに触らせてくれると見るや、笑って撫で始めた。

「かぁたん笑ってる、ってミサカはミサカは初めて聞く笑い声にミサカも嬉しくなってみたり!」

インデックスが座布団を集めて敷く。上条はというと、鍵を開けるなり部屋にはあがらず出掛けてしまった。

猫をかまう仔ガッパを羨ましそうに眺める打ち止め。どこに座るか定まらないのか、
立ったままの番外個体は、一応「いい?」とシスターに訊いてからベッドの端に腰かけた。
一方通行はさっさと敷かれた座布団に胡坐をかく。

深々とした溜息をつき終わらないうちに、上条がもう一人連れて帰って来た。


「カミやん、これは一体どういう集まり?」
「特に名称は無い。それよりこの子見てくれよ。土御門はカッパのこと何か知らないか?」
「……どういう集まり?」

大して広くもない部屋に自分を含めて六人と、何より変な生物。
土御門元春のまったりした休日は、隣人によって中断された。


次回へ続く


いつも楽しみにしてますよ。


ミサカ一〇〇三二号とかの表記は公式だっけ?
公式なら問題ないどころか本来はそうしないといけないけど、作者が余りに見難いと判断した場合は個人の自由だと思う。

空行も作者が余りに見難いと判断した場合は自由だと思う。

それも含めてSS独自の形式をどのくらい取り入れるかは作者のさじ加減だと思う。
俺は昔、完全小説形式でSS書いたけど、書いた自分自身も見難くてしょうがなかった。
一ページあたり一行四十二文字、十七列、段落は字下げ、数字は固有名詞以外を漢数字で統一とか、紙媒体ならいいけどPCで見るもんじゃないね。

縦書きと横書きの違いだわな
縦書きだとアラビア数字の方が見づらいが、横書きだと漢数字の方が見づらいという

>>205 すごく的確なアドバイスだありがとう!

>>206 そういうわけでやっぱアラビア数字にする

続きいきます


一方通行と浜面の同居人達がようやくやってきた。

「キャッキャッ」
「走ると危ないわよ。滑るから」

芳川の警告空しく、かぁたんは早速転んだ。
甲羅で衝撃が軽減されて痛くはなさそうだが、うごうご蠢いて起き上がれない。
丸い甲羅が揺りかごのように作用して自由がきかないのだ。

「今こそ恩返しのチャンスだ!」

フレメアが駆け寄り、かぁたんを助け起こす。自分も転びそうになっていては世話は無い。
よろける幼女を見て、腰を抜かしかけていた浜面は恋人と被保護者の元へ。
おっかなびっくり振りかえった水面からは、妹達がゾロゾロ上がってくるところだった。

「実際にこの目で見ると小ささが際立ちますね、とミサカ10032号は抱っこ一番乗りを目論みます」
「無駄口叩いている間にこのミサカが……っ、とミサカ10039号は一足早くダッシュします」


全身から水をしたたらせた妹達が、べちゃりと足跡を残しながら近づいてくる。
浜面はよっぽど船幽霊に胆を冷やしたのか、滝壺の背に隠れた。

「クパパー!」

かぁたんは何本もの細い足の間をくぐり抜け、一直線にプールへ。早く水の中へ……

その歓喜と興奮がにじみ出る姿に、誰もが華麗な泳ぎを期待した。

「かぁたんに続け! ミサカ達も行くぞー! GOォォォ!」
「にゃあー!」
「こらー! 準備運動しろじゃんよー!」

黄泉川の叫びは二人が着水する水音にまぎれてしまった。
打ち止めとフレメアは素早く浮き輪を装着し、こちらも水面に向かって大ジャンプ。
このプールの最大深度は二メートルを超えるため、あらかじめ用意されていた。


甲高い少女達の歓声と、二人がまきあげる水しぶき。
浮き輪のおかげで溺れることはない。一方通行は かぁたんの姿を探す。
芳川や滝壺、水から上がっていた妹達も同様に、スイスイ泳ぐ仔ガッパを見ようと集まってくる。
まるで水族館で行われるイルカショーでも見に来た観客の様だ。

「……??」

見当たらない。どこにも。

打ち止めとフレメアそれに気づいた。きょろきょろ周囲に視線を巡らせる。
そこへ、ずっとプールの中にいたミサカ13577号が平泳ぎでギャラリーの元にやってきた。

「皆さま、足元をご覧ください、とミサカ13577号は観光ガイドのように案内します」

一行は反射的に下を見る。

「珍しい溺れるカッパです。それともこれがカッパという個体特有の潜水技術なのでしょうか、とミサカは希望的観測を呟きます」

水中、底の方で緑の塊が苦しげに手足をバタつかせていた。


「泳げないのかよっ!!」


心はひとつだった。
複雑で様々な因果関係を持った面々だったが、放たれた一声はほぼ同じもので。


「わぁー大変だ早く救助を!ってミサカはミサカはっ」
「待ってろ今行くぞ!」

するりと浮き輪から滑り落ち、二人の少女が救助という名の二次災害を自ら招く。

「! この馬鹿野郎ォが……っ」
「ちょちょちょ、待てっておい!」

この場でたった二人の男手が慌てて水に飛び込む。
風呂じゃないのだ。足がつかないここで、底に沈むかぁたんを助けることなど無理に決まっている。

案の定、打ち止めとフレメアは かぁたんに触ることもできずに、中途半端な深さでもがいているだけだった。
一方通行(能力使用モード)と浜面が、それぞれの被保護者を捕まえたところで、番外個体も水の中へ。
こちらは落ちついた風で、へりに手をかけたままゆっくりと。

かぁたんはほぼ飛び込んだ位置のまま沈んでいたので、少年達のようにする必要はない。

「ったくもう」
「ゲホゲホ! キュウ……」
「それでもカッパかよ。泳げないのになんで飛びこむのさ」

カッパでも泳ぎの得手不得手はあると、あらかじめ教本おかげで知ってはいたが、ここまで泳げないとは……

「こりゃチビチビにも浮き輪が必要だ」

番外個体の肩にしがみつき、かぁたんは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「テヘッ」


番外個体が かぁたんを助けたのを確認し、一方通行はたゆたっていた打ち止めの浮き輪に彼女を掴まらせる。
自身も手を掛けて、早々に首元のチョーカーへ手を伸ばした。もう大丈夫だろう。
視界の端では、浜面も同じようにしてひと息ついていた。

まったくこのクソガキどもには、いつもいつも冷や汗をかかされる。二人揃うと効果は抜群だ。

「んー」
「……」

濡れた髪を鬱陶しく振るっていると、眼前の少女が顔を寄せてくる。

「何だ」
「ミサカは溺れちゃったのよ、ってミサカはミサカは王道イベントを期待してみたり」

唇を尖らせて。

「あァ。早速世話ァ焼かせてくれやがったな、クソガキ」
「レスキューイベントはここからが本番!ってミサカはミサカは人工呼吸を求めてみる!」

一方通行がチョップをかまそうとしたが、何かが彼の背中に接触してバランスを取り損ねた。

「そこまでだ、このロリコンが、とミサカ19090号は上司を魔の手から守ります」
「手ぇ出しやがったらこの銃が火を吹くぜ、とミサカ10032号は狙いを定めます。まぁ水しか出ませんけどね」
「あ、俺のボートなのにっ」

浜面が放り出していたゴムボートに乗って、妹の『救助』にやってきた姉なのであった。


「人工こきゅー……! お、大人だ! にゃあにゃあ! 浜面!」
「アホなこと言ってないで、お前もさっさとボートに引きあげてもらえ」

まさかやりたいなんて言わないだろうな。

ここからならプールサイドよりゴムボートの方が近い。浜面は足と片腕で水をかき始めた。

と、そこへ。
陸からピンク色のワンピースタイプの水着を纏った少女が喧噪の中へ飛び込んでいく。
教師らしく「だーから準備運動!」と、まだ注意を促す黄泉川だったが、
今日集まった子供たちはどいつもこいつも言うこときかないワルイ子ばかりだ。

滝壺は今日一番の大跳躍を見せ、ざっぱぁぁあん! と恋人のすぐ傍に。
浮き輪に掴まる一方通行も、ボート上の下位個体に引きあげられようとしていた打ち止めも波に揺られた。

最も驚いたのは、衝撃を一番に受けた浜面とフレメアだ。

滝壺は勢いのままに深く沈み、プールの底を蹴ってこれまた勢いよく二人の前に浮き上がってくる。
ガシリ、と浮き輪を掴み、子供用の小さなそれは三人分の重さを受けてほとんど水に浸かりかけていた。


「わわ、アブねっ……」

自分と滝壺はともかく、このままではフレメアがまた溺れてしまうかもしれない。

直後、浜面の心配はフレメアから己が身の安全へと切り替わった。この滝壺の顔ときたら。

「人工呼吸……? はまづら?」
「なぁ!? ち、ちが」
「にー……。修羅場ってやつか」

ぎゃあぎゃあ喚く声は、音の反響が強いプールの中で誰の耳にもうるさく響く。

「おい、あいつらのとこにも『救助』に行ってやったらどォだ」
「ふむ。痴話喧嘩に介入するのは極めて煩わしく、また、見せつけてんのかコノヤローと不快に思うミサカ10032号ですが……」
「ま、あの金髪ロリは上司の友達だしな、とミサカ19090号は早く押せと一方通行にエンジン役を求めます」

一方通行は再度電極のスイッチをONにし、じゃれあうバカップルに向けてゴムボートを押した。


次回へ続く


テーブルは結局、一方通行と番外個体の協力を得て綺麗になった。
少しキズがついたが、保護者達が気づかないことを祈るばかりだ。

三人と一匹はリビングに落ち着き、丁寧にまとめられた画用紙を順々に眺めている。
二十枚ほどにもなる かぁたんのお絵描き。どれもこれも色が薄く、色彩の認識がやはり人間と違うらしい。

「でもでも、きゅうりの絵はちゃんと緑で濃く塗ってあるよ、ってミサカはミサカはその予測が当たっているとは限らないと証拠を見せてみる」
「ていうかさ、食べ物の絵は割と真っ当に描けてるんだよね。色も」
「じゃあなにか? 俺達ゃ食いモンより印象が薄いだけってか?」

それは、一緒に暮らして仲良くなった(と思っている)人間にとっては悲しき現実である。

「オマエ、何よりも食い気かよ」
「テヘッ」


残念な現実の他に、気になることがもうひとつ。

「この……、『目』みたいなのは一体なんなワケ?」

番外個体が自分の肖像画(?)の一部を指す。

楕円の中心あたりに黒丸と、まつ毛と思しきちょんちょんが数本。人間の目に見える。
肖像画自体にはちゃんと瞳が二つ描かれているので、抽象画のように顔面から目が飛び出ている、というデザインではない。

「ミサカの似顔絵にもあるけど、『目』は足の下だよ、ってミサカはミサカは謎のマークを探してみたり」

半分以上の絵に『目』が描かれていた。

花瓶に活けられた花にも、テレビの中の変身ヒーローらしきものにも。


「これはヨミカワとヨシカワだよね、ってミサカはミサカはマークを三つも発見してみる」
「この緑人間は、もしかしたら他のカッパか? コイツの知り合いかもしンねェな」
「カックン、カックン」

かぁたんが少年が持つ絵に、嬉しそうに手を伸ばす。「カックン」とは友達の名なのだろうか。
二・五等身の かぁたんだから、五等身のそれは自画像ではあるまい。
がその絵には『目』がない。

『目』は被写体に被っているとは限らず、紙の端ギリギリに描かれていたりと、数、大きさ共に統一性がない。
ただ確実なのは、

「第一位の絵だけやたらとたくさん描かれてるってのは、どーいう意味があんの?」
「謎ですなぁ、ってミサカはミサカは首をかしげてみたり」
「…………」

一方通行自身も不思議だ。

このマークは一体何だ、と仔ガッパに訊いても、

「クポポ? クパペ」

かぁたんはただ部屋のあちこち、あるいは一方通行達を指し示すだけだった。


保護者達が帰宅し、打ち止めは早速 かぁたんの作品を見せてみる。

最初は微笑ましく見ていた黄泉川愛穂と芳川桔梗だったが、
子供たちから『目』の指摘を受けると、やや顔を曇らせはじめた。

「桔梗……、これってもしかして」
「愛穂、余計なことは言わないのよ。気にしない気にしない」
「んー、そうじゃんね。悪い。気の持ちようじゃん」

二人は思い当たるふしがあるものの、勝手に結論に至り、意思を疎通させた。

「どーゆーことなの教えて、ってミサカはミサカは秘密にしないで情報開示を請求してみる」
「さーねー。かぁたん、私達も描いてくれてありがとじゃんよー」
「テヘヘ」
「でも」

バサリ、と画用紙の束をキッチンのテーブルに置く家主。

「テーブルにキズつけたな? あと同色だから見逃がしたんだろうけど、茶色が残ってるじゃん!」
「はいしばらくお絵描き禁止ー」

テーブルの端に置いてあった色鉛筆のセットを、芳川が自室に没収する。

「打ち止めと かぁたんは今夜のデザートおあずけの罰じゃんよ」
「ギャァアアア」
「ぎゃー!ってミサカはミサカは詰めの甘さを呪ってみるー!」

賑やかな黄泉川家。
奇妙なマーク、『目』の話題は大人達によって遠ざけられるのであった。


次回へ続く

業が深いよ一方さん

……え?
もしかして、一方さんの周りの目って、かぁたんの絵が上手かったら、打ち止めや番外の目とそっくりに書かれたりするのか……?


ある日の休日、キッチンにて。

かぁたんは椅子に座る芳川桔梗の膝に乗せられていた。
後ろから彼女が小さな緑の手を取り、ぱちん、ぱちんと爪を切る。

床には新聞紙が敷かれ、そのまま落ちた爪ごと処分できるようになっていた。

(あら……?)

爪切りを終え、曲げていた腰を伸ばす。そこで芳川はあることに気づいた。
確証を得るために、かぁたんを抱えたまま自分の部屋へルーペを取りに行く。

はやる心を抑え、リビングにいる三人の子供の元へと急いだ。

「ねぇねぇ」

片手にカッパ、片手にルーペという出で立ちの芳川を見て、思い思いに時を過ごしていた一方通行達が注目する。

「かぁたんがいつの間にか二歳になっているわ。多分」


どよめきを聞きつけ、昼食の準備をしていた黄泉川愛穂も駆けつけた。

「やっぱり。ほらみんな見て」

仔ガッパがひとつ歳を重ねたということを、一人抜け駆けせずにみんなで共有したいと思い、
あらためてルーペで頭の皿を拡大する芳川。

小さな頭部に、五人の視線が集まった。

「ほんとだ! 輪がふたつある!ってミサカはミサカは全然気づいてなかったり!」
「ウチに来た時は、既に二歳になる直前だったてことかにゃん。誕生日を境に、急に年輪が増えたんかね」

少女達が頭を突っつくので、かぁたんは逃げ出す。といっても黄泉川の足元だが。

「皿年輪が実際にどのように増えるのか確認できなかったが、コイツがつい最近満二歳になったことは間違いねェだろう。
 目視でも気づくぐらいだ」
「もしかしたら、昨日か今日かもしれない、ってことかじゃん?」

まさか芳川が かぁたんの爪を切っている瞬間だったりして……

いつかのように、自分を取り囲んで相談をしている人間達を不思議そうに眺める仔ガッパ。


「クポポ?」
「心配しなくても大丈夫。かぁたん、おめでとー!ってミサカはミサカは誕生日パーティーの開催を宣言してみたり!」

打ち止めの宣言に、他の者が目を丸くする。
黄泉川と芳川はすぐに顔をほころばせたが、一方通行と番外個体は戸惑いを隠せない。

誕生日パーティーなど、縁がなかった。

一方通行は言わずもがな。
少女二人は、見た目こそ小学生と高校生だが、生を受けてから一年で、誕生日も判然としない身の上だ。

「なにも、そンなことする必要は無ェだろ」
「まぁ、ウマイもんやケーキ食べて飲んで騒ぐだけでしょ? 楽勝ー」

勝ち負けなど無いのだが。

「二人とも考え違いをしていないかしら? 誕生日を祝う家族の行事よ。必要だし、気持ちが大切なんだから」
「プレゼントも用意しなくちゃね、ってミサカはミサカはスポンサーの活躍を期待してみる」

打ち止めが一方通行の服を引っ張る。今からお買い物に行く気だ。

「私は料理担当じゃん。桔梗はケーキ。打ち止め達は かぁたんのプレゼント係に任命するじゃんよ」


夕方までになんとかしてこい、と仰せつかって、子供達は昼食後外に放り出された。

「キューン」

一人置いていかれる かぁたんが寂しそうなので、あまり長いこと外出してはいられない。
スポンサーは打ち止めに引っ張られ、番外個体にせっつかれて道を急ぐ。

「テキトーに、また子供だましのおもちゃでいいンじゃねェの?」
「もう少し真面目に考えてよ、ってミサカはミサカは注意しつつも妙案が思い浮かばなかったり」
「ミサカもおもちゃでいいと思うけどさー。確実なのはやっぱ」

きゅうりだよなぁ……、と三人同時にスーパーマーケットへ足を向けた。

おもちゃ屋へは、後で行く。


「あんたらが誕生日パーティーってのを、一般的に認識してないのは分かってたじゃん」

言われたことをしただけなのに、なぜお説教のようなことをされるのか。

一方通行、番外個体、打ち止めは一様に不満顔だ。

「でも、さすがに子供の誕生日プレゼントに軽く五桁もかけるのは常識の範囲外じゃんよ。
 大体パーティー自体に疑問を呈しておきながら…… 矛盾してないか?」
「喜ンでンだからいいだろ、別に」



おもちゃ屋さんで、さて何を買えばいいのか番外個体と打ち止めが悩んでいると、一方通行が一人歩を進めて奥へ。
彼は以前ここへ かぁたんと二人で訪れたことがある。
その際、テレビ番組の変身ヒーローグッズのコーナーで盛り上がった仔ガッパのことは記憶に新しかった。

「このスーツを欲しがってたンだが……」
「あー、でもこれ、かぁたんには大きすぎだね、ってミサカはミサカは足の長さも足りないと判断してみる」
「甲羅も邪魔になるし。他にアテは?」

少女二人と同じ見解だったので、一方通行は変身ベルトで妥協するよう仔ガッパに言いきかせたのだ。

(確か、他に欲しがってたモンは)


「コレだな」
「ちょっとデカすぎない? 場所取ると黄泉川がヤな顔しないかね」
「んーと……、三つに分解して収納できるんだって、ってミサカはミサカは説明書を読んでみる」


それはヒーローが乗るバイクのミニチュアだった。
ミニチュアといっても子供が実際に乗って運転でいる代物だ。
大型の掃除機並みのサイズである。
幼児が転倒しないように、分かりにくく四輪になっていて、最高時速は三キロメートル。

お値段は数万円という、子供用のおもちゃの中ではトップクラスの価格だが、
ちょっと普通ではない彼らにとって、これくらいの値段は選択に影響を及ぼさない。

寂しそうな声で鳴いていたので、早く帰ってやらねばと、三人は「もうこれでいいや」と即決で購入してしまった。
スポンサーが大半の資金を提供したが、番外個体も打ち止めもちょっとずつ財布からカンパする。
これは三人からの贈り物にしたかったのだ。


「初めての事なのだから仕方ないわよ。今回は純粋にこの子たちを労ってあげましょうよ」

芳川が助け舟を出してくれた。黄泉川だって三人の心遣いは理解しているが、限度があると、つい嗜めてしまったのである。

「うん……、まあ、じゃん。実際かぁたんはあの調子だし」
「キャー! キャッキャッ! クワッパー!」

パーティーはこれからだというのに、かぁたんは一足先に渡されたプレゼントに大喜び。家中をバイクで疾走している。
時速三キロはぶつかっても何にも被害は無い。

「分かった分かった。黄泉川先生が悪かったじゃんよ。そんな恨めしそうな目で見るなじゃん」

善意の行動が全て吉と出るとは限らない。しかし今回の高額プレゼントで凶となった者がいるか、と問えばそれは否だ。
ただ、子供達の一般常識の無さを再確認して、ちょっと保護者の責任感が騒いだだけである。


「ほらねー、ってミサカはミサカはミサカ達の苦労が正解だったと胸を張ってみたり」
「だったら最初から文句言うな。細けェンだよ。年だな」
「腹減ったよー。もう食べれる?」

まったく反省のはの字もない子供達。
一方通行には特に強めにゲンコツを食らわせ、黄泉川は手を洗ってくるよう洗面所へと促した。


「かぁたん、ツーリングはそれくらいにしてこっちへいらっしゃいな」
「ほらほら、これからチビチビが主役の祭りだぜ? はっちゃけろよ」

楽しいおもちゃも貰えたし、今日はいつもと違うと感じていた かぁたん。
全員に呼ばれて、愛車から降りてキッチンへやってきた。
一方通行からでさえ、「来い」と目で語りかけられたような気がする。

黄泉川が抱き上げて幼児用の椅子に座らせると、いつもより豪勢な料理、テーブル中央に陣取る大きなケーキ。
ロウソクが二本立っていた。

「クハー」

ホールのケーキとは、心が踊る食べ物だ。それは仔ガッパも例外ではなく、かぁたんの目が輝き、涎が垂れ始めた。


ロウソクはまだ灯っていない。番外個体が指先からほんの僅かに放電し、火がつく。
黄泉川によって照明が消され、室内はぼんやりと、あたたかなオレンジに照らされた。

「さん、はいっ、じゃん」

ハッピーバースディ トゥーユー
ハッピーバースディ トゥーユー

お決まりの歌が歌われる。一方通行だってこの歌は知っていたが、声に出す気にはならない。あまりに似合わなさすぎるから。
そんな彼を、同居人達はロウソクの火のように見守るだけだ。番外個体は「あなたも歌えよ!」と合いの手を入れる。

やがて拍手が起き、きょときょとうろたえる かぁたんも、ようやく事の次第を把握した。
みんな自分のことをお祝いしてくれているのだと。
誕生日を理解しているかは不明だが、気持ちは伝わるものだ。

「さぁ、かぁたん火を吹き消して、ってミサカはミサカはケーキをずずい、っとな」

打ち止めがクチバシの先までケーキを持ってくる。

かぁたんは ちょっと火にビビりつつ、大きく息を吸い……」


「パコォンっ」


…………

沈黙が場を支配した。


てっきり「フー」で火が消されると思い込んでいた人間達。
カッパはこんな時でもパコを使うのか。

隣のリビングは明かりがついているので、ロウソクが消えても完全な暗闇ではない。視界は確保されている。

ケーキの上部は三分の一ほどの生クリームが吹っ飛び、辺りに白いシミとなって散乱した。
一方通行の髪は白いので分かりにくいが、たまたま正面にいた彼の被害が一番ひどい。

部屋の照明をつけると、その惨状がいっそう確かなものになって一同のテンションを急降下させた。

「クワァ……」

かぁたん、責任感じてうなだれる。わざとじゃないので勘弁してもらいたい。


「ぷは…… あーっははははははひゃっははー! あなたのその顔! チョ〜甘そうなんですけどー!!」

番外個体の大笑い。一気に下がったテンションが、それ以上の早さで戻ってくる。かぁたんはほっと一安心。

「確かに。もったいないから舐めてやろうかじゃん?」
「結構だ、馬鹿野郎ォ」

自分の指で拭い、自分で舐める。デザートが最初に口に入ることになってしまった。
各自一方通行を見習って、舐められるクリームは舐めてから、タオルやティッシュペーパーで一時的に体裁を取り繕う。

「おいしいわね、このケーキ。スタンダードに苺ショートにして正解だったわ」
「抉れたケーキをきっかり等分するのって難しいね、ってミサカはミサカは……」
「こらこら、そんな震えた手で刃物持つなじゃん!」

他の料理も生クリーム爆弾を被っていたが、些細なもので、味にそう影響は無い。
体や部屋をキレイにするのは後回しにして、パーティーの始まりだ。


テーブルの上の料理もほぼ片付き、各々見栄えの悪いケーキをたいらげたところだ。
保護者達は酒も入り、姿勢も顔もだらしない。

「いやぁー、かぁたんの誕生日のおかげで美味い酒が飲めたじゃーん」
「やーね、愛穂。それじゃあわたし達が誕生日を利用して飲んだくれたいダメ人間みたいじゃないの」
「クパポ?」
「酔っ払いの言うことなんて相手にしなくていいよ」

番外個体が、かぁたんを膝に呼ぶ。

「それにしてもチビチビが二歳たぁね。このミサカ達より年上だったんだー」
「言われてみれば!?ってミサカはミサカはお姉さんぶっていたのにその事実に衝撃を受けてみたり」

確かに、この世に産まれてからの純粋な日数だけなら、かぁたんの方が番外個体と打ち止めより長いことになる。
二人とも、それでも かぁたんを弟扱いするのを改めるつもりはもちろんない。

「こいつが一歳になった時は、どこにいたンだろォな……」

なんの気なしに口から出た言葉だが、みんな一方通行を見て動きを止めた。

一歳の誕生日は、かぁたんはあの写真の男に祝われたのだろうか。大事にされていたのだろうか。
『カックン』とやらの友達もいるようだし。


「本当は帰りたいのかな、ってミサカはミサカは寂しさを感じさせない健気な かぁたんを不憫に思ってみる」
「どうかしら。とっても能天気に、食い意地たっぷりに過ごしているように見えるけれど」
「……だからといって、ミサカ達にはどうしてやることも出来ないでしょ」

番外個体は、写真に写った飼い主らしき男を見て恋しそうに鳴く かぁたんを見ている。
帰れるなら、会えるならば、この仔ガッパは行ってしまうに違いない。

「暗い雰囲気嫌じゃーん! 大事なのは今! そしてこれから! 笑え! 飲めー!」
「そうだそうだー!ってミサカはミサカは飲酒というオトナな行為に憧れを抱いてみる!」
「ダメよ」
「ちぇー、酔ったヨミカワ、ヨシカワなら許してもらえると思ったのにな」
「いつか隙を見てミサカがおチビに教えてやんよ。かぁたんも飲みたい?」
「パコン」
「二人が酔い潰れてよォが、俺が許すはずねェだろォが。クソガキども」

カッパは大層酒が好きと、『カッパの飼い方』に記述があったが、成長するまで飲ませないのがいいとあった。それは人間と一緒だ。

「こんな楽しいパーティーならしょっちゅうやりたいじゃんね。次はいつにする?」

いつといっても……

「そぉいや、一方通行と番外個体と打ち止めの誕生日って? 去年はそんな暇なくて誕生日やんなかったけど」
「……いつかなぁ?ってミサカはミサカは唯一ハッキリしてそうなあなたに訊いてみたり」
「忘れた」


子供達三人の出自、事情は複雑だ。誕生日など意識したことはない。

黄泉川は友人に目で問う。問われても、芳川も返答に困ってしまう。三人の背景を良く知っているだけに。
明確に答えられないとみるや、黄泉川は景気良く両手を叩いた。

「うん! じゃあこうしようじゃん! 一方通行達が初めてウチに来た日を誕生日にしよう。そうなると……、次は番外個体じゃんねー」

あっさり決められた。

「わぁー、ミサカとあなたの誕生日同じだね!ってミサカはミサカは舞いあがってみたり!」
「俺、あの日ほとンどここにいなかったンだが」
「細けェことは気にするなじゃん! しまったな、もう少し早く決めてりゃ二人のお祝いできたのに……」

今は秋。一方通行と打ち止めが黄泉川愛穂のマンションに初めて来た日から、丁度一年が過ぎた頃であった。


「やっほう。ミサカへのプレゼントは気合い入れてもらわないと、満足してやんないよー?」
「かぁたんも、その時は番外個体をお祝いしてあげてね」

芳川の言葉に、しばし番外個体の膝の上で首を傾げる仔ガッパ。

「クポ」
「えぇー? きゅうりなの? しかも今じゃないし、食いかけだし」

ずっと手に握っていたきゅうり一本が、彼女に差し出された。今夜は嫌というほどきゅうりを食べた。

「そいつにとっちゃ、きゅうりをやることが最大限に祝いなンだろォよ」
「テヘヘ」

初めて開催される黄泉川家の誕生日パーティーの夜は、楽しく更けていくのであった。
これも かぁたんがやってきてくれたおかげだろう。


次回へ続く

>>267 絵が上手になると、写実的に描けるようになる。
かぁたんはヘタクソなので『目』で表すが、普通(?)の心霊写真みたいになるよ


打ち止め「ヨミカワとヨシカワの誕生日は?ってミサカはミサカはそれもお祝いしたかったり」

芳川「わたし達はもうお祝いされても嬉しくないのよね」

黄泉川「……じゃん」


他にもカッパには驚きの能力があるんだけど、それを紹介しきることなく終わりが近づいてきました。

続きいきます。


番外個体と打ち止めは、かぁたんを連れて散歩に行っている。
黄泉川も芳川も出掛けているので、家には一方通行ひとりきり。

彼はたった今、携帯端末で通話を終わらせたばかりだった。相手は土御門元春。

魔術サイドとしての土御門にカッパに関する情報の提供を(可能なら)頼んでいたので、経過報告を求めたのだ。
これは上条当麻の紹介でもある。良きにしろ悪きにしろ、土御門とは知った仲の彼である。
それなりの信頼でもって、科学とは対極的な観点からのアプローチを睨んでいたのだが、

『すまん。全然分からん。ねーちん……、こっちの重鎮な。河童がいるなら見たい、って言うくらいだ』
「役立たず」
『ちょっとは下手に出る、という処世術を覚えろ。この先困るぞ』


(病院での検査結果も、俺の予想の範囲内のものだった)

プールへ行く前に行った かぁたんの診察。冥土帰しの助力も得て、徹底的に調べたが、
圧倒的な謎や、新たな事実が明らかになった……わけではない。


血液型はA。人間と酷似する骨格、筋肉組織。高い知能。
遺伝子データも、まったくの未知ではなく、甲羅やクチバシがある生き物と似ている部分が見られた。
たとえば亀。たとえば鳥。
教本には卵で繁殖すると書かれていたので、産卵する生物と似ているのでは、との予測も当たった。


(完璧に、動物だ)

一方通行達が生きるこの世界に、たった一匹のカッパだけど。
思わず上条当麻の幻想殺しを警戒してしまったが、こんなにもあの仔ガッパは現実だ。

(きっと上条が触っても平気なはずだ)

少年はそう結論付けた。

切り離した毛と爪になんの変化も無かったように、本体も影響はないだろう。かぁたんは、幻想ではないのだ。

機会があれば、上条に かぁたんを接触させようと考えていた。


「多分とかおそらくで、わざわざ危険を冒す必要はないでしょ」

その提案を聞いた番外個体は良い顔をしなかった。

「確信はあるンだが。まァ……、こっちから三下に会いに行く気はねェよ」
「あなたがそう言うなら、きっと大丈夫なんだと思うけど、ってミサカはミサカは
 番外個体の心配も理解できるから無理強いはしなかったり」
「ふん」
「クハ、クハー」

不穏な空気を感じて かぁたんが慌てた。何でもないよ、と打ち止めは仔ガッパの気を逸らす。

「久しぶりに歯ブラシで甲羅をゴシゴシしてあげる、ってミサカはミサカは服を脱いで欲しかったり」
「クワ!」

かぁたんは大喜びで少女の前に転がった。静かで愛おしい時間だ。
この瞬間が続くなら、幻想殺しの問題はそんなに大事ではない。


そう思いつつも、同じ街に住み、浅くはない因縁を持つ上条当麻といつまでも会わないでいることは難しい。

一方通行が『接触』を許容できると判断してから半月が過ぎた。
ある日の夕方、彼の幻想殺しは黄泉川家に来ている。


いつかのように街中で会い、そのまま自宅へと誘うことにしたのだ。
一方通行は番外個体と一緒に買い出しの帰りであり、彼女はやはり危惧を抱いたようだが、

「ま、ミサカも大丈夫だとは思うけどさ……」
「だったらそンなシケた面、いつまでもしてンじゃねェよ」

(ねぇねぇとうま、みさかわーすともあくせられーたも様子が変だよ?)
(おう。急に『来い』って言われたけど、何なんだろうなぁ)

インデックスも一緒にいる。
彼らは玄関をくぐった所で内緒話をしており、廊下の向こうから一方通行に、早く来い、と呼ばれた。


「あー! ヒーローさんだ!ってミサカはミサカはいきなり決定的瞬間が訪れたことを察してみる!」
「パコン」

リビングでは打ち止めと かぁたんが留守番をしており、上条とインデックスを出迎えてくれた。
保護者二人は、まだ帰宅していない。

「おいおい、あぶねーぞ。こっち来るなよ」
「クポクポ」

一度だけしか会ったことのない人間二人を、かぁたんが覚えているか分からない。
だが親しげに近づいていく。上条は間違って右手で触れないように万歳しながら仔ガッパから距離を取った。

「いい」
「え?」
「触ってもそいつは消えない」

一方通行の言葉に、上条はぐるりと周囲を見回す。
打ち止めはアホ毛を揺らして頷き、番外個体も顎をしゃくって同意を示す。最後に目を合わせたインデックスは、

「あくせられーた達は、きっと確信があるんだよ」

一際大きく頷かれ、背中を押された。


「責任、取れないぞ」
「大丈夫だから責任追及なんてしないよ、てミサカはミサカは緊張を隠して余裕を装ってみる」
「万が一、ってことは? 俺が触って大丈夫だとしても……」

それになんの意味があるのか、と問おうとしてやめた。

この小さな生き物が幻想なのか、現実なのか。その違いは一緒に暮らす人にとって重要に決まっている。

「……大事にされてんだな、カッパ君は」

確かな存在として、共にありたいと。

その願いに応えるべく、かぁたんを抱き上げようと背をかがめ、両手を伸ばす。


「軽ーい」
「ッター!」

高い高ーい、と上下に揺らされ、かぁたんは上条の手の中でガッツポーズ。

リビングは自然と安堵のため息で満ちた。



しかし、それは長くは続かない。


次回へ続く



あっちの住人とからんでいくんですね
ワクワクしてきたわ 

>>310 そう言ってもらうとやる気がでる。あんがとね
禁書しか知らない人が大多数だから、そのへん気をつけていきます

番外通行止めの田舎ライフwithカッパ、はっじまーるよー


今のペースでは、あの集落に着くまで何時間もかかってしまう。
それに到着前に足を負傷するに違いなかった。

一方通行は背中に番外個体、両脇に打ち止めと かぁたんを抱えると、

「キャァァァアー!!」
「やっほー!!ってミサカはミサカは絶景かな絶景かなー!」
「背中に意識集中したら殺すかんね!」
「落とすぞ」

番外個体を背負っていては、竜巻を発生させて推進力を得ることは出来ない。
何度か跳躍を繰り返し、時に走って下山する。途中誰にも会うことなく山から降りられた。

道は今までよりもずっと道らしいが、アスファルトで舗装などされていない。
時々踏む小石に顔をしかめながら、かぁたんの後をついて行く。

「ほんのちょっとだけど、ミサカネットワークがまた、ってミサカはミサカは接続不能がさらに悪化したことを確認してみる」
「んー……、もう完全に下位個体の声が聞き取れない」
「…………」

代理演算の支障が何よりも不安材料だ。
もし一方通行が倒れてしまうなら、いっそいない方が番外個体と打ち止めの負担にならないだろう。


「あ、人だ!ってミサカはミサカは一安心してみたり!」

畑で農作業に従事する人影があった。背の高い作物に紛れているが、確かに人間だ。
崖肌から、もしくは大跳躍の空中から人工物は見えていたので人間はいると判断していたが、
あらためて無人ではないことを知る。

(当ォ然だ。ここにゃ例の写真の男がいるンだからな)

かぁたんの本来の飼い主が。

「パコーン! パコーン! パコーン!」
「あ、ちょっとー。待てよチビチビ」

いくらか歩くうち、突然かぁたんがパコを連発しながら走り出す。
もともと足も短く小さい彼は走るのが遅いが、靴を履かない三人にとっては同じ速さで後を追うのは困難だ。

慌てるが、かぁたんの姿が完全に見えなくなることはなかった。
遠くから、別のパコの音が返事のように響いてくる。それも複数。

かぁたんの他にカッパがいるのだ。

「カー! カー!」
「キュー!」
「カー!」
「キュー!!」

まず一番初めに現れたのは、かぁたんにソックリな仔ガッパ。
野球帽を被り、息を切らせて かぁたんにしがみ付いて転げる。お互いに泣き笑いでじゃれ合っているようだ。


「感動の再会ってヤツ?」
「ここって、もしかして かぁたんの故郷なの?ってミサカはミサカは衝撃の事実に眩暈を起こしてみたり」
「多分な」

「クワー!」
「カックン!」

さらにもう一匹。こっちらも帽子を被っているが、かぁたん達よりずっと大きい。
きっと年上なのだろう。身長は打ち止めに迫るほどだ。

あれが『カックン』かと、いつぞやの芸術作品を思い出した三人だった。

カックンはかぁたんを抱っこして、近づいてくる見慣れない人間に首を傾げる。

「クパパー、クパペピ」
「……パコン」
「パコン!」

どうやら かぁたんが簡単に一方通行達のことを紹介したようだ。二匹のカッパはパコで挨拶をしてくれた。

「まだ誰か来るよ、ってミサカはミサカは更なるカッパにもう驚きはしなかった、り……」
「……めっちゃジジイじゃん」


一方通行のように杖をついたカッパが現われた。
モンペに長靴、手拭を首に巻いた、お百姓さんスタイルが似合っている。腰は曲がり、顔は皺だらけ。
頭の皿は地上から百五十センチにもなるか。腰がまっすぐだったら、もう少し高いだろう。

「随分年寄りみてェだな。この歓迎のラッシュはやっと終いか?」
「クポ?」

年寄りガッパがひとしきり かぁたんを撫で回した後、少年少女を見て、これも首を傾げる。

カックンがじたばた暴れる かぁたんを地面に降ろす。彼は打ち止めの手を取ると、『早く、早く』と引っ張った。


人間達はカッパ四匹に先導されて土の上を行く。

「パコーン!」

かぁたんが大きくパコを鳴らし、打ち止めの手を離して走り出す。土手を駆け下りた先は畑。

ツナギを着た男性が農作業を中断して振り返り、持っていた野菜を落とす。代わりに かぁたんを抱きとめて、

「ど……、どこ行ってたんだ かぁたーん!! もぉ〜! 心配したぞー!」
「クワー!」


かぁたんはやっと、帰ってきたのだ……

一方通行と番外個体と打ち止めは、ひしと抱き合う彼らをしばし見下ろして動けなかった。



「ほいほい、カルピスいれたで〜」

大きな長方形のちゃぶ台。風鈴の音。青々しい畳みの香り。
庭への一面は雨戸が開け放たれ風通しの良い平屋の居間。

「ありがとうございます、ってミサカはミサカはおいしく頂いてみる」

確かに喉は乾いていた。白く、甘いジュースを飲む一方通行と番外個体と打ち止め。
机の反対側には かぁたん以外のカッパ三匹。
例の写真の男。彼の母だという年配の女。彼女がカルピスを用意してくれた。あとは男と同年代の女が一人。

「いやぁ、ありがとうね。かぁたんを連れて来てくれて」
「半月前に急にいなくなっちゃって心配してたのよ」
「ほんま、もうアカンと思っとったで。かぁたん小さいしなぁ」
「テヘッ」

『半月』という言葉に、客人は顔を見合わせる。自分達が かぁたんを拾ったのは三ヶ月以上も前だったからだ。

「ん? どうかしたかい?」
「いや……。何でも」

その事には、今は触れまい。


簡単な自己紹介を受けた。

男はやはり かぁたんの飼い主で、名を遠野という。年の頃は三十前後。
父は既に亡い。最近まで東京で会社勤めをしていたそうだ。(どうりで訛った標準語だ)

そして彼の母親。
遠野が東京に出てから十年間、ずっと老ガッパと二人暮らしをしていたが、今は見ての通り大所帯である。

遠野と同年代の女は坂本美沙子。
東京でペットショップの店員をしていたが、最近辞めてこの家に押し掛けている。遠野とは東京で知り合った。

カックンは、正しくは『かっくん』といい、現在五歳の雄。とても頭がいいらしい。
カッパ喘息を発症し、空気の悪い東京に居られなくなったため、ここ奈良県奥吉野に養子に出された。

かぁたんそっくりの仔ガッパはキューちゃん。坂本が東京から連れてきた彼女のペット。
野球帽がなければ かぁたんと見わけがつかないほどそっくりだ。

そして皺くちゃの老ガッパはカーサン。雄。
二十一年前に山から拾われてきた天然カッパ。
元々は彼が『カータン』だったが、その名は一方通行達が会った かぁたんに継承され、尊称も込めて『カーサン』と改名された。

(名前が一緒だとややこしいから、ってテキトーすぎな理由だよね、ってミサカはミサカはゆるさに脱力してみる)
(ミサカ達は一万人近くが『ミサカ』だし、その辺はノーコメントで)

二人だけのネットワークで会話する姉妹だった。


「天、然……?」
「そうだよ、珍しいだろう? どこのカッパも大抵養殖だからね〜」

養殖て……

カッパが犬猫のように繁殖されて、ペットショップで売られているのか?
思わず頭を抱えたくなる一方通行。

「ちなみに かぁたんもキューちゃんも、私がいたお店で売られてたの。同じケージにいたのよ〜。ねー」

坂本がキューちゃんを撫でる。更に溜息が出る予想的中だった。

この世界はとても身近にカッパが存在している。
首を巡らせてみれば、壁にはカレンダーが掛けられていて、『昭和50年9月』とあった。

例の写真は S49/01/01 だったので、辻褄は合う。

「ほんで? アンタらどこの子やねん」

遠野母が茶菓子を齧り、それを見慣れぬ子供達にもすすめながら聞いてくる。

「……」

困った。なんと説明したものか。

「へっきゅしゅっ、ってミサカはミサカは日陰に入ったせいで急に寒くなってきたり」
「あら、そういえばお譲さん達ちょっと濡れてない? どうしたの」
「ミサカ達池に落ちちゃってさー。外は日が照ってたけど、ここはちっと涼しいね」

それはいけない、と。すぐに風呂が沸かされることになった。
話題が逸れてくれた上に、「だから靴が無かったんだね」と勘違いまでしてくれたので助かる。


一人反射を使って乾いていた一方通行の上着を被った打ち止めと番外個体が、沸いた風呂へと案内される。

「うっへぇ、すげーレトロ感。シャワー無いし」
「でも大きいー!ってミサカはミサカはわくわくしてみる」


少女達が冷えてしまった体を温めている間、一方通行は縁側でぼんやりと庭を眺めていた。
この家の住人達は、それぞれ席を外していて一人である。

薪割をするための切株と斧がある。もちろん積み上げられた薪も。
手入れはされていないようだが、目に楽しい庭木と石。すぐそばを流れる小川から聞こえる水音。

「…………」

のどかである。

「おや、空になったかね。もう一杯いるかね?」

一方通行の手の中で空になったコップを見て遠野母が言う。少年は首を振った。

「そうかい。おばちゃんちょっと隣にお譲ちゃんの服借りに行ってくるでね〜」
「あァ……」
「大きい子のは、今、美沙子さんが見繕っとるよ」


「あんたの靴もどうにかしたるでちょっと待っとき」と、遠野母は縁側から降りて庭の外に消えていった。
ちなみに隣の家はここから見えない。一軒一軒が離れている。

それを見送っていた一方通行の虚ろな横顔にまた声がかかる。

「ねぇ、この靴どうだい。ちょっと大きいかな」

遠野が一足の運動靴を持って縁側を歩いてくる。何故か片手に かぁたんを抱っこしたまま。
一方通行は汚れた靴下を脱いで裸足だった。

「あー、やっぱり」
「別に。履けりゃなンでもいい」
「……えっと、そういえば君の名前は?」
「一方通行(アクセラレータ)」
「外人さん? 日本語通じてるよね?」
「こンなナリだが日本人だ。連れのでかいのは番外個体(ミサカワースト)。小さいのは打ち止め(ラストオーダー)」
「外人さん?」
「そンな名でも日本人だ」
「クポパポ」

埒が明かない会話を遮り、遠野に抱えられたままの かぁたんが、居間の隅に集まっていた仔カッパ二匹を手招きにする。


かっくん、キューちゃんは物珍しげに少年を眺めていた。
学園都市に来たばかりの かぁたんのように、少し一方通行を怖がっている。(ちなみにカーサンは畑仕事に戻った)

かぁたんに促され、かっくんとキューちゃんは遠野とは反対側の隣に座る。
この見慣れない客人の顔を見上げて反応を待った。

会ったばかりのカッパ二匹に見つめられて、一方通行は困る。何を言えばいいのか。

「ん〜、ん〜」
「なんだよ。どしたの かぁたん」

遠野の腕の中で かぁたんが暴れる。

「なンでずっと持ってンだ?」
「いやぁ、目を離すとまたどっか行っちゃわないか心配でねぇ」

遠野が かぁたんを廊下に降ろすと、仔ガッパはテテテ、と一方通行の膝に登った。
マンションのリビングにいると、時々こうして甘えてきたものだ。

「あらららら。なんだー、ずいぶん懐いてるじゃん」
「ケケケケ」

(ま。あンだけ一緒にいりゃあな)

「まったくぅ、こっちの心配も知らないで かぁたんは気楽だなぁ」

呆れた言い草だったが、遠野の表情はどこまでも穏やかだ。
かぁたんが無事に帰って来て、よっぽど喜んでいるのだ。


「あなたー見て見てー!ってミサカはミサカは大変身してみたりー!」

浴衣を着た打ち止めと、坂本のワンピースを着た番外個体がこちらへ近づいてくる。後には坂本も続いていた。

「女の子用の服が無かったんですって。浴衣ならあったみたいなの」
「こんな恰好、このミサカじゃなくて最終信号がお似合いなんだけどな」

確かに二人とも見慣れぬ姿だ。特に番外個体。
朝顔模様の浴衣の打ち止めはまだしも、花柄の黄色いワンピースの少女が……

「ナニその顔。ムッカつく〜。ちょっとこの人にも服貸してやってよ」

ランニングシャツと短パンとか?


次回へ続く

トイレはぼっとんです



とりあえずかっぱ水をみんなに
飲ませるべき

例のお祭りも期待してる

1975年の奥吉野…

カ−ドも紙幣も換わってるから使えない。

三人無一文に近い?

乙等、ありがとう

>>325 あの祭りかぁ…

>>326 ほぼ無一文です

続きいきます


慣れぬ山道、未舗装の道を歩いて来た一方通行達は少し疲れていた。
彼らの疲労を見てとった遠野達は、急がないのならゆっくり休んでいってと勧めた。
急ぐどころか、彼らは今帰るところさえ無い。

「そうするー、ってミサカはミサカはオコトバに甘えてみたり」
「じゃあ俺達はそこの畑にいるからね。なんかあったら呼んでよ」

既に畑仕事に戻っている遠野母を手伝うため、坂本と一緒に外に出掛けて行く。
家には仔ガッパ三人と人の子三人が残された。

かぁたんの懐き具合で信用を得たのだろうが、初対面なのにいささか不用心だと思う。

「このテレビ、どうやって点けんの?」
「リモコン無いね、ってミサカはミサカはきょろきょろしてみる」

無骨な箱。サイコロの如く奥行きがある。
これが昔のテレビだと知っている少女達だが、リモコンなど無く本体操作のみだとは思い及ばず。

「クポ」
「あ、点いた! ありがとう かっくん!ってミサカはミサカは親切にお礼を言ってみる」
「クパパ」

チャンネルの変え方も見せてくれる。
人間の五歳児よりも利口かも、と遠野は冗談交じりに評していたが、頭が良いのは確かなようだ。


一方通行もテレビの前にやってくる。一応カラーではあるが、映像は荒い。時代を感じさせた。
刑事ドラマ。時代劇。もういっちょ時代劇。

「それだ」

一方通行の声に、打ち止めがチャンネルを回す手を止める。情報番組のようで、ニュースが放映されていた。
事件事故、政治、為替、世界情勢……

「一ドル二百六十円以上だってよ」
「ここは本当に昭和五十年なんだね、ってミサカはミサカは実感してみたり」

画面には様々な最新の映像が映る。
だがそれは三人にとってはレトロと称していいほどのものばかりだった。

(テレビCMにカッパを起用してやがる。どンな世界だここはよォ)

『きゅうりの匂いもひと洗いでスッキリ! 新しくなった洗濯洗剤ナイエール!』


こんな所に来てしまってどうしようか、と三人はちゃぶ台に肘をついて黄昏た。

「大体あなたが幻想殺しに触らせるから」
「オマエだって最終的には黙認してただろォが」
「確信がある、って言ってたのは誰デスカー?」
「……」

ただでさえ悪い目つきが、さらに鋭くなって睨み合う一方通行と番外個体。
二人のいがみ合いに慣れていない かっくんとキューちゃんは震えあがった。さすが かぁたんは動じない。

「あーもう。こんな時にケンカしてもしょうがないでしょ!ってミサカはミサカは建設的な意見以外は禁止してみたり!」
「……」
「……」
「無いの!? 建設的な意見。……じゃあここはミサカが。こほん、カッパさん達集合〜」
「パコン」
「パコン」
「パコン」
「うむ。良いパコだ」

仔ガッパ三匹は行儀よく彼女の前に集まった。打ち止めが腰に手を当てふんぞり返る。

「さぁみんな、いきなり未知の世界というほど未知ではないけど、
 右も左も分からない異邦人なミサカ達にご近所を案内して!ってミサカはミサカは頼んでみる」


疲れてンだけど、という一方通行の意見は聞き入れられなかった。


かっくんがニコニコして頷く。
かぁたんとキューちゃんもお出掛けを察知してもろ手を挙げて喜んだ。
小さいの二匹は虫籠と虫取り網を持ち出す張り切りようだった。

かっくんとキューちゃんは普段から野球帽がトレードマークだが、かぁたんは普段何も被っていない。
お兄さん役の かっくんが小さな麦わら帽を与えて、三匹は玄関から客人を呼ぶ。

少女達も履き物を貸し与えられており、総勢六名は吉野の空の下へ。
まだ子供は学校の時間で、農作業に精を出す人以外は見受けられなかった。

家の敷地外へは小さな橋を渡った。
小川には鱗を光らせる魚が泳いでおり、打ち止めはそれに見入って置いていかれそうになる。

「最終信号ー、早くー」
「わぁ待って待って、ってミサカはミサカは草履に悪戦苦闘しながらダッシュしてみたり」


「あれー、散歩かねー?」
「ちょっとお散歩してきまーす、ってミサカはミサカは手を振ってみるー」

数十メートル歩いたところで、畑から遠野母の見送りに会う。
そばにはカーサンもいて、こちらにいってらっしゃいのパコをしてくれた。


まず一番初めに案内されたのは池。
時々波紋が浮かび、小川で見た魚よりも大物が潜んでいることを伺わせた。

「クポポ? クポ」

かっくんが水面を示した後で、両手を握り合わせて振る。
『釣り』のジェスチャーのようだ。ここでは釣りをして遊ぶらしい。

「そんなことを言葉が通じないのに伝えられる かっくんてスゴい、ってミサカはミサカは感心してみたり」
「おいおい、あいつ水に入っちまうぞ」

キューちゃんが帽子とシャツを脱いで池の中に。
一方通行達は かぁたんのカッパにあるまじき泳げなさを知っているので、少し焦る。
だが かっくんも かぁたんも平然としたもので、

「ほーう、上手いもんじゃん。あれが本来のカッパの姿だよねぇ? ねぇチビチビ」
「クハァ」

キューちゃんの産まれは、かぁたんとほぼ同じだと聞いた。なのにこの泳ぎの上手さはどうだ。
甲羅が水面を滑る早さに溜息が出た。
(かぁたんはフライングバースデーを迎えているが)同じ歳でこんなに明暗が分かれるとは。


「クパー!」

ほどなくキューちゃんは体長二十センチの魚を捕らえて戻ってた。
それを かぁたんに渡す。お帰りのお祝いみたいなものか。

「クポクポ」
「え、な、生だよ?ってミサカはミサカは衝撃を受けてみる!」

かぁたんは生のまま美味しそうに魚を食べてしまった。
かっくんが「平気、平気」と打ち止めを宥めるので、カッパとはそういうものだと心を落ち着ける。

「本には『雑食』と書いてあったから、悪影響は無いンだろ……」
「ウチじゃあ生で食べさせたことなんてなかったからねぇ。どっちがウマいのかな。まぁミサカ達だって刺身食べるけどさ」

生魚どころか、カッパはセミなどの昆虫も美味しくそのまま食べてしまう。
雑食とは、人間のような雑食ではなく、まさに野生動物でいうところの『雑食』なのだ。

カッパの飼い方とは懐かしい…
飼い主の人の声って確かカイジだよねェ?


次に訪れたのは川。家の前の小川と違って大きくて急流だ。
ゴツゴツした岩は一方通行にも草履の打ち止めにも歩きにくかった。
淵になっている流れの大人しい場所で、かぁたんとキューちゃんが泳ぎはじめる。

「かっくんは泳がないの?ってミサカはミサカは訊いてみる」
「ゴホゴホ」

かっくん、今度は咳をするジェスチャー。

「喘息を患ってる、って言ってたじゃねェか」
「そっか。大変だね、ってミサカはミサカは元気になることをお祈りしてみる」
「クポポ」

ありがとう、と かっくんは片手を掲げた。


「あー! チビチビが流されたよ!」

仔ガッパ二匹をずっと見守っていた番外個体が、声をあげて一方通行の腕を引っ張る。早く救助に行けと。

「キュキュ〜ン」
「カー!」

懐かしの故郷に、ついはしゃいでしまったのか。
かぁたんは淵からはみ出してしまい、あっという間に早い流れに捕まってしまった。

キューちゃんが慌てて助けようとするが、そんな彼の斜め上を横切る人影が。一方通行だ。

少年は流される かぁたんの少し先に着水する。腰まで急流に浸かりながらも能力を使っている彼は微動だにしない。

「クペペ……」
「オマエなァ、大して泳げないのにどうしてそう無茶すンだよ」
「テヘッ」

またもひとっ飛びで岸に戻ってきた一方通行。
岩の上に かぁたんを降ろすと、待っていたのはキューちゃんと かっくんの称賛と憧れの眼差しだった。

「クワッ、クワッ」
「クパー!」
「な、なンだよ……」

初日から懐かれた。


次回へ続く

昭和40年代製のテレビだと、リモコン機能付のやつもあるだろうな

今頃、上条が土御門辺り呼びだしててんやわんや……

というか、MNWが上位個体失ってえらいことになってるんじゃないだろうか

MNWは繋がってはいるんでしょ

>>342 >>343 かろうじて、かろうじてMNW繋がっている
でも下位個体達は慌ててんだろうなー 
もちろん上条さん達も

続きいきます


「もォ今日は水があるところは勘弁だ」
「クポポ……」
「クワ」
「クパ」

じゃあどこにする? えーっと……

三匹の仔ガッパは次なるスポットを相談し始める。

ほどなく かっくんが、ポンと手を鳴らす。良い場所を思いついたらしい。

「おいで、おいで」と手招きされて、来た道を戻る。
家屋が並ぶ場所まで来て、家とは違う方向へ。
「ここだよ」と指さされた看板には『石田商店』と書かれていた。

「パコーン」

そのパコはきっと「くーださーいなー」という意味。

「あいよ、いらっしゃい」

薄暗い部屋の中から老婆の声がする。
所狭しと土間に駄菓子やおもちゃが並べられ、埃臭さが鼻をつく。でもなんだか嫌とは感じない。

「おぉおおお! こ、この、心の奥底から込み上げてくる情熱は一体!?ってミサカはミサカは興奮してみたり!」
「駄菓子屋、ってヤツか。懐古趣味でわざとボロっちく作られたウケ狙いの店舗があるけど、これが本物の雰囲気ね」
「おい、クソガキども、勝手に……」


仔ガッパに続いて、打ち止めと番外個体も店の中へ突撃する。
この店の対象年齢を鑑みるに、明らかに異質な見た目の番外個体。
狭く入り組んだ店内で、お尻を使ってカッパと打ち止めを押しのける。

「ちょっとやーめーてー、ってミサカはミサカは脂肪の攻撃にヘキエキしてみる」
「あっは、ナニコレー。どうやって食べんの?」
「クパクパ」

ワンピースなのに、はしたなくヤンキー座りするお姉さん。かっくんが駄菓子の食べ方をレクチャーする。

(ったく。金も無ェのに……)

一方通行は財布を持っていた。が、ここは昭和五十年。カードも使えないし、紙幣も変わってしまっている。
使えるとするならば、

(昭和五十年以前の硬貨だな……)

一方通行の(使用可能な)所持金、しめて四百六十一円。

これまで金銭に困ったことはない身分の一方通行。(過去にどエライ借金をこさえたことはあるが)
この駄菓子屋での少女二人の買い物を凌ぐことは出来るが、いかにも寂しい懐具合であった。


「え、かっくんが奢ってくれるの?ってミサカはミサカは恐縮してみる」

店の外で財布を開けて頭を悩ませているうちに、太っ腹な五歳児が見せ場を攫っていく。
しっかり者の かっくんは、わずかだがお小遣いをもらっており、それをガマ口財布に貯金していた。
気前よく店主の老婆に代金を支払ってくれる。

「はいよぉ、ありがとさん。……娘さん達、学校はどうしたね」

かぁたん、キューちゃん、かっくんはこの店の常連客だ。
仲良さそうに彼らと一緒なので、見慣れないが怪しい子ではなかろうと、老婆の声はあくまで穏やかだった。

打ち止めが返答に困っていると、番外個体が事もなげにそれらしい理由を。

「ミサカ達、東京から観光に来てんだ。この子達のお家におじゃましてる」
「あれぇ、東京から。勉強はええの?」
「優秀だからねー。この旅行は情操教育の一環なの」

じょーそー教育? と首を傾げる老婆だったが、最終的には「偉いのぉ」と褒めてくれた。


「はい、あなたの分、ってミサカはミサカは分け前はちゃんと確保してあったり」
「年下の、しかもカッパに奢られるとはなァ」

入口から覗きこむだけで、ずっと外で待っていた少年に渡されたのは、
かなりの着色料が使用されている緑色のゼリー。
細長い棒状のビニールで包装されており、口で吸い上げるようにして食べる。

「オマエら、躊躇わずに買い物すンなよ」

いつも一方通行が(本意ではないにしろ)心強いスポンサーを努めてくれるので、
お金の心配はあまりしたことがない姉妹も、ここではそうはいかないと思い至る。

「そォいや財布は?」
「ミサカは部屋に置きっぱなし。大体、持っててもあなたと同じで何百円か何十円しか使えなかったよ」
「あうぅー。ミサカの百円玉貯金箱があれば、ってミサカはミサカはどうしようもないことを言ってみる」

お手伝いの度に貰っていた百円玉は、百枚に迫る勢いだった。
そのうち何枚が昭和五十年以前の硬貨なのかは不明だが、手元にあれば助かったことであろう。


学園都市どころか、元いた時代では、もうお目にかかることは難しいお菓子を齧りながら家に戻る。

小川の小さな橋を渡る時、あらためて外から家を眺めた。

「藁ぶき、っていうんでしょ?ってミサカはミサカは雨漏りしないのか不思議だったり」

トタン屋根の部分もあるが、大部分は藁で屋根が葺いてあった。
トタンのところは他より経過年数が少なく見え、増築と思われる。
藁葺きにも驚くが、この家には囲炉裏さえもある。
先程は何も掛かっていなかったが、真新しい焦げた薪と灰が、今でもそこで煮炊きをしていることの証明だ。

「冷蔵庫とガスはあったから、見た目より現代的なんだろうけど」
「金も無ェし、帰るアテも無ェ。しばらくの間はこの家に厄介になるしかない」
「じゃあ今度はミサカ達が かぁたんの家で飼われるんだね!ってミサカはミサカはまさかの立場逆転に開き直ってみたり」
「そーいうことになるよね。しっかりお世話してよ?」

足元の かぁたんに、嘘か本気か分からないお願いをする番外個体。

「グッ!」

かぁたんは「まかせとけ!」と力強く親指を立てた。


申し訳ないが、いくら かぁたんが「グ!」っとしてくれても、ここの主は遠野達である。
彼の心遣いはありがたいが、それは保証にはならない。

居間に戻ってきた人間三人は、『この家に厄介になる方法』を会議中だ。
家人が畑仕事から戻ってくる前に済ましておこうと、一方通行は電極の充電をしながら。
電気が通っている時代で本当に良かった。

「案その一。素直に全部ぶちまける」
「信じてくれるかな?ってミサカはミサカは心配してみる」
「無理に決まってんじゃん。頭イッちゃってる可哀そうな子認定で、しかるべき施設に強制連行かな」
「案その二。出来る限り不自然じゃない嘘を並べて居座る」
「さっきのお菓子屋さんで番外個体が言ってたみたいな?ってミサカはミサカは……、情操教育を目的とした観光客だっけ」
「その嘘には第三者、しかもミサカ達の身分を証明してくれる人物がいずれ必要不可欠となる」

それに、旅費もなく、宿泊先の宛もなく……。それでは不自然すぎだ。
数日は誤魔化せるかもしれないが、その後は不審がられて嘘だとバレる。

何日経ったら帰れるのか、そもそも帰宅の方法さえ分からないのに。


「案、その三……」
「……」
「……早く言えよ」
「俺ばっかじゃなく、オマエらもちったァ頭捻りやがれ!」

コンセントがある部屋の隅で、こそこそ話をしていたお客さんが怒鳴るものだから、夕方の子供番組を見ていた仔ガッパ三匹が驚く。

「大丈夫。なんでもないよ、ってミサカはミサカは異常無しを伝えてみる」
「実際、その二パターンしかないんじゃない? ミサカ達に残された策はさ」
「……はァ」

もうすぐ日が暮れて、遠野達が戻ってくる。早く言い訳を考えなければ。

「あのおじさんは、言っても大丈夫な気がするな、ってミサカはミサカは案その一を推してみる」
「その根拠は何だってーのよ」
「なんとなく」

またそれか。この子供の行動原理は、行き当たりばったりが多過ぎる。
しかしそれで積み上げてきた結果は——


「あーもぉっ、あーもぉ! ぶっちゃけるしかないかー? これ」
「あとあと、おじさんに かぁたんが二歳になってること教えないといけないし、ってミサカはミサカは
 あっちで三ヶ月、こっちで半月マジックを思い出してみる」

そうだった。かぁたんは一方通行達に保護されている間に二歳の誕生日を迎えてしまったのだ。
学園都市組は三ヶ月以上 かぁたんと過ごしていたが、遠野達は行方不明期間を半月だという。
彼らの中では、かぁたんはまだ一歳のはずだ。

「……心許ないが、それが俺達の立場を納得させる一助にはなるかもしンねェ」
「じゃ、……言うの? ミサカ達未来から来ましたー、って。行くトコないから助けてー、って」
「まず、あの男にだけは。……どォにかして」
「個別に接触できるかな、ってミサカはミサカは具体的なアクションを構想してみたり」

坂本と母親の目を盗んで、遠野本人にだけ伝えたい。

「デカい家だし、そこはなんとかなるっしょ。それよりも最終信号」
「なぁに?」
「おじさんじゃなくて、お兄さんね。その方が心象良いから」
「そういうものなの?ってミサカはミサカは効果に疑問を抱いてみる」
「あったりまえよー。黄泉川におばさん、って言ってみ? ぶっとばされるよ?」

こいつ、言ったことあンのか……、と一方通行は感心した。


次回へ続く

10円の怪しいヨーグルト食いたい!

聖徳太子の一万円札がさ、自分の思い込みよりも最近まで使われていて驚いたわ

>>335 あれ? アニメ化してたっけそういえば
……それどころかゲームまであんのかい。カッパ大出世だな




うまい棒の描写がないだと…

それはおいといてかぁ君マジ天使

外伝の子泣き爺の飼い方が好きだったな。
終わりが短命で余命いくばくもないとか切なかった。
河童もカーサンでもう老人なんだよな10年いや五年後あたりには……

>>355 うまい棒は学園都市にもあるだろうと思って特筆しませんでした
コンポタとめんたいこが好きです

>>356 カッパの作者さんは、もしかして(カーサンの)『死』『別れ』を
あからさまに『カッパの飼い方』で描写しなかったので、『子泣き』の方で表現したのかもね
ごめん『子泣き』読んでないからテキトー言いました

続きいきます


遠野が帰ってくるのを待っていたら、先に母親と坂本が戻ってきた。
夕食の準備のために、遠野に先駆けて仕事を切り上げてきたのだ。

「あんたら、ごはん食べていくやろ? 今日は若い子多いで沢山こさえな」

「はい」とも「いいえ」とも返事をしないうちに、二人は炊事場へ行ってしまった。

「これはおじ……、お兄さんに接触するチャンスだよ、ってミサカはミサカは待ち伏せを提案してみる」
「めんどいけど、行きますか」

縁側があり、しかも平屋だと出入りが楽だ。
仔ガッパ達についてこないよう言い含めてから、一方通行達はこっそり抜け出した。


遠野は農機具を納屋に戻し、カーサンと一緒に汗を拭き拭き家路を歩いていた。

「?……あれ、どーしたの」

目の前に、かぁたんの恩人であるお客さん三人が現れる。

「大事な話があるのです、ってミサカはミサカはお兄さんに告げてみたり」
「時間は……、取らせるかもしンねェが、ちょっと来てくれ」

(ええぇ〜、不良に呼び出されたイジメられっこみたいやん〜)

「クポ?」

固まってしまった遠野を、カーサンが小突く。

「あ、えっと、俺だけでいいの?」

頷いて、静かな場所へ誘おうとする三人の子供達。遠野は未練たらたらにカーサンを先に帰らせた。

「で、何かな? 話って」
「人に聞かれたくねェ。どっか……」
「それならこっちがいいよ」


遠野が道から外れ、林の中に姿を消す。見失わないように追いかけると、すぐに開けた場所に出た。

「ここって、アンタの家の庭じゃん?」
「裏の方はほとんど使ってないからさぁ。椅子もあるし」

椅子とは切株のこと。三つしかなかったので、打ち止めが一方通行の膝の上に乗ろうとする。

「邪魔だ、自分で何か探して来い。静かに、な」
「ぶーぶー、ってミサカはミサカは心の狭いあなたに不満を表してみる。番外個体……」
「やーだよ。最近、最終信号重いもん」

ツレない、そして失礼な拒否の言葉に打ち止めは頬を膨らまして砂を蹴る。結局、立ったまま一方通行の背中にもたれた。

本題はまだかな、と様子を伺っている遠野に一方通行が気づき、

「単刀直入に言う」
「ここでミサカ達を飼ってください、ってミサカはミサカは三食昼寝付きを希望してみる!」
「はぁ?」
「ちょっと黙ってろクソガキ」


この家の庭は広い。
声を出しても坂本達に届かないと思って、ここでの密談を始めたのだが、遠野自身は何も言えなかった。

「冗談にしては……」

腕を組んで、首をひねる。今この場で「信じろ」とは、無理だと分かっていたので、三人は焦らない。

「三十年以上未来からタイムスリップだなんて、まさかぁ」
「信じるか信じないかは置いといて、ミサカ達帰る手段が分かんないんだよねぇ。困ってんのよ」
「だから三食昼寝付き!ってミサカはミサカはそこに要約されると話を元に戻してみたり」
「色々、辻褄は合うと思うぜ。例えば……」

晩夏の空は暗くなりかけてきた。戸惑いの表情に、さらに影を落としていく遠野。
しかし子供達から聞く『証言』に、だんだんと声のトーンは上がっていった。


かぁたんと一緒に川に流れついていたリュックサック。

「確かにリュックと一緒に かぁたんは行方不明になったんだ」

S49/01/01 と記された、自分と かぁたんのツーショット。

「あー、撮った、撮った。確かに東京にいた頃のお正月に撮ったわ〜」

そしてなにより、かぁたんが二歳になっているという事実。

「えぇ!? まさかそんな。まだ先のはずだよ!?」
「嘘だと思うなら、後で確認してみるンだな」


「確認なら今しちゃえば?」

番外個体が指さす方。小さな影が、家の壁から半身を覗かせている。
かぁたんが盗み見をしていて、番外個体が手招きすると小走りにやってくる。

「かぁたんだけだろうな。カーサン達は?」
「クパポ」

家の中だよ、とかぁたんが居間の方角を指す。
遠野は仔ガッパを抱っこして、皿年輪を確かめようとするが、

「あ、もう暗くて見えないや」
「はい明かり、ってミサカはミサカはケータイで照らしてみる」
「ナニそれ。変な懐中電灯だな〜」
「携帯電話だよ。未来のテクノロジーなのだ、ってミサカはミサカは自慢してみたり」

ライトで照らされた かぁたんの頭の皿には、確かに輪がふたつあった。
遠野にとって、彼はまだ一歳のはずだ。だって二度目の誕生日はまだ二ヶ月近くも先のはずだから。

「これで俺達の言ってることが、完全に嘘じゃねェことだけは納得してくれよ」
「……お前本当に かぁたんか?」
「そこからかい!ってミサカはミサカはその発想は無かったり!」
「あんた本当に飼い主?」


ちょっとだけ、ちょっとだけ待っててと言い、遠野は林を抜けて出掛けてしまった。
本物の かぁたんだと証明する方法があるという。

「あんな飼い主で満足なの?」
「クハァ」

番外個体の膝の上で、かぁたんは肩をすくめた。


遠野は十分足らずで戻ってきた。手に何かを握っている。

「これ、これを食べさせれば分かるから」

それは駄菓子だった。先程、一方通行達も訪れた石田商店にひとっ走りしてきて、遠野が買ってきたものは、

わたパッチン。

わた菓子だが、口に入れると混ぜ込まれた飴が弾けるという刺激的なお菓子。

「かぁたんはこれを食べると耳から煙が出るのだ」

なんだその判別方法は……
偉そうに解説する遠野を、三人の子供が呆れ顔で眺める。

「はい、かぁたん、あーん」
「アーン……、パチパチ」

もくもくもく。

「本当に出やがった」
「間違いない、お前は かぁたんだ!」
「クポ!」

かぁたん元気に挙手。

「違うから、そこ。誇らしげにしてんじゃないよ。呆れろ」

この飼い主も大概である。


「いやでも、かぁたんは間違いなく本物だけど、タイムスリップ……!? う〜ん」
「キイィー! クポ、クポ!」
「イタタタ、痛いがな〜」

煮え切らない御主人様の足を、ペットが踏む。
番外個体にお世話するよう頼まれたので、こうして援護射撃をしているつもり。

「分かった、分かったよ。とにかくこの子達のことは俺がなんとかするから。かぁたんの恩人であることは確実なんだし」
「ウンウン」

それでいいのだ。かぁたんは大仰に首を振った。最早どっちが飼い主なのか。


飼われることは確定したが、あとは坂本と遠野母に対する言い訳を捏造しなければならない。

「お……姉さんにも言わない方がいいの?ってミサカはミサカは疑問を口にしてみたり」
「その方がいいよ。あの人の研究心に火がつくと手がつけらんないし」

かぁたんが駄菓子で煙を出すという珍妙な習性を発見したのも彼女だ。
普段からカッパで(というより かぁたんで)実験をするのが趣味なのだそうな。

「かぁたんも大変な目に遭ったのね、ってミサカはミサカは親近感が湧いてきたり」


旅行中に、池にはまってさぁ大変。お金も靴も無くしたよ。言い訳はこれにまとまった。
あとは細かい打ち合わせを重ねていこう。

「ねぇ、こんなのは? 実はこのミサカは大富豪のご令嬢で、
 政略結婚を強要されそうになったところを使用人のあなたにかっさらわれて逃避行中——というのはどうだろう」

番外個体が新しい提案を真面目な声で言う。

「どうだろう、じゃねェよボケ」
「ちょっとミサカのポジションは!?ってミサカはミサカは憤慨してみる!」

切株に座る三人の間を、打ち止めが忙しく動き回る。
一方通行にもたれたり、遠野に携帯を見せたり、妹に体当たりしたりなどしていると、台所から遠野母の大声が響いてきた。

「もうすぐごはんやでー! 手ぇ洗って来ぃやー!」
「もう行かなきゃ。お腹空いたでしょ? 詳しいことは次の機会に話そっか」

連れ立って戻っては怪しまれるので、まず かぁたんだけを帰らせ、
次いで一方通行達三人。最後に遠野という順番で食卓に集まった。


「お家の中でたき火できるんだ!ってミサカはミサカは合法的火遊びに興奮してみる」
「この辺の家はけっこう囲炉裏まだ残っとるよ」

物珍しい囲炉裏に、早速火が入っていた。いかにもな鉄製の鍋が掛けられて、中には豚汁が煮えている。

人間六人とカッパ四匹ではちょっと狭いので、ちゃぶ台を囲炉裏の傍に持ってきての食事となった。

旅行、池ドボン、泊めて、だけで通じるか心配だったが、坂本も遠野母も、いたって楽天家だ。あっさりと了承してくれた。

「ウチは何泊でもかまへんで。大変やったなぁ」
「ご両親たちに連絡入れなきゃね」

坂本が電話機をチラ見する。慌てて遠野が取り繕った。

「あ、明日俺がしときますよ」

一瞬焦った学園都市組であった。自分達が知るどの番号に掛けても、きっと誰にも繋がらない。


(冥土帰しはどォだろォな……)

淡い望みを抱くが、すぐ首を振った。薄々感づいているが、『ここ』には学園都市がおそらく無いのだ。
一方通行達の『あっち』にカッパがいなかったように。


シリアスな思考は長くは続かなかった。遠野母が有無を言わさず、

「え〜っと、あんたらの名前の事なんやけど」

とても呼びにくいので、

一方通行は あーくん
打ち止めは ミサカちゃん
番外個体は お姉ちゃん


に決定されてしまった。豚肉を箸で摘まんだまま、表情を固める一方通行。
打ち止めと番外個体の肩は震えていた。

「レータくんの方が良かったかねぇ」
「そういう問題やないで、おかん……」


次回へ続く


田舎はこういうものなのか。
この家はとても広く、急な宿泊客が三人も来たのに部屋が宛がわれ、布団が敷かれる。
姉妹と少年のために、襖を隔てて二部屋も用意してもらった。

「ふとんは明日干しとくわ。今夜はこれで勘弁してや」
「充分であります! ありがとうございます、ってミサカはミサカは優しくしてもらって恐縮してみる」

遠野母はミサカちゃんの頭を撫でて、

「今日は疲れたやろうで、早うおやすみ」

一人息子だし、カーサンも雄だったからか、小さい女の子がことさら可愛く感じられるのだ。


「おばちゃん行っちゃったよ、ってミサカはミサカはミーティング開始を許可してみたり……、ってもう寝るの!?」

一方通行も番外個体も布団に潜り込んでいた。少年は何も言わずに襖を閉めようとする。

「閉めなくてもいいじゃない、ってミサカはミサカは川の字というもので寝てみたいと訴えてみる」
「うるせェな。俺は疲れてンだよ。オマエもさっさと寝ろ」
「夜這いとか冗談じゃねぇから。ちゃんと閉めてよ」
「仲良く!ってミサカはミサカは三人で協力して困難を乗り越える必要を訴えてみたり!」
「だったらまず俺に安眠を提供しやがれってンだ」


三十センチほど、襖を開けておくことになった。
一方通行はピッチリ閉めたが、打ち止めがこっそり手を伸ばして静かにずらしてしまうのだ。
閉める、開けるの攻防を繰り返していたが、ここが妥協点らしい。

壁に照明のスイッチはない。電灯から下がる紐を引っ張って暗くし、打ち止めだけの挨拶で就寝する。


静かになると、代わりにある音が耳につく。虫の鳴き声だ。

「……第一位、起きてる?」
「おォ」
「ミサカも起きてるよ、っていうか寝れない、ってミサカはミサカはリンリンガチャガチャにストレスを感じてみる」

廊下への障子は閉めてあるが、雨戸は開け放されたままで、庭の物音はよく聞こえる。
泥棒や不審者はいないものとされているのか不用心である。田舎はこういうものなのか。

「ミサカは『ジーー』が一番ムカつく。あーうるさー」


初めて聞く虫の大合唱。
長く住んで慣れてしまえばいいのだが、初心者には辛い。どうしてもうるさくて眠れない。

雨戸を閉めてしまおうか、と思案していると、

「パコォォン!」

廊下からパコの音が。その衝撃を浴びて驚いた虫達の合唱がピタリと止んだ。
静かになったので、「フッ」という鼻を鳴らす気配も分かった。
そして得意げな足音が去っていく。

「今の かぁたんかな、ってミサカはミサカはミサカ達の安眠のために駆けつけてくれたのかと感激してみたり」
「いやぁー? 学園都市生活の夜が静かだったから、チビチビ自身もうるさくて寝られなかったんじゃね?」

動機はともあれ、チャンスだ。
羊を数えるような努力をしなくても、静寂さえ手に入れば、三人はすぐに眠りについた。

衝撃の一日目が終わった。


翌日の朝、三人は仔ガッパ三匹に起こされた。
疲れからかずいぶん深く寝入っていたようで、体を揺すられ、パコが鳴らされ。

それぞれ手を引かれ、味噌汁の香りがする食卓に呼ばれた。

寝間着(として用意された服)のまま、白飯の茶碗が手渡される。特に一方通行の分が山盛りだった。

(ちょっと多過ぎじゃねェかこれ)

「あーくんは細っこいで、いっぱい食べなアカンで!」

よそった本人、遠野母がピシャリと告げる。
華奢な少年を心配するおばちゃんは、とにかく食べさせなければと思っている。無理やりにでも。

「おまたせー、食べよー」
「クポ〜」

朝一の畑仕事に出ていた遠野とカーサンが野良着のまま席について、全員が揃った。
遠野母の「いただきます」で、朝食が始まる。


朝食後、遠野が、

「とりあえず今日もゆっくりしたら? 家の中のものは壊れなきゃ自由にしていいし、危なくなければ外で遊んでもいいけど」
「しかしお世話になる身としては、グータラするのは気が引ける、ってミサカはミサカはお手伝いを申し出てみたり」
「いいよぉ、気を遣わなくて。それに あーくんは足が悪いでしょ?」

女の子だけ仕事をして、少年はお留守番では彼の立つ瀬がなく、又、退屈だろう。
それにまったく農作業の経験がない素人の面倒を見る方が重労働だったりするのだ。

「このミサカの馬力はそこらのもやしと段違いだけど、オニーサンがそう言ってくれるなら遠慮しないよ」

生まれの由来もあって、番外個体の筋力は見た目をはるかに凌駕する。
能力を使えば一方通行だって何においても有効性を発揮するが、時間制限がある。
細く、腕力の乏しい少年をあざける少女は、彼ではなく打ち止めからお叱りを受けた。

「こら『お姉ちゃん』! いくら飼われてるからって贅沢し放題はダメなんだぞ!ってミサカはミサカは
 今後の暮らしのために配慮してみたり!」
「オマエの本音が割と腹黒で褒められねェよ」
「大体『飼う』って冗談じゃないの……?」

苦笑いの遠野。カッパの飼育は経験豊富だが、人間は飼ったことがない。


せめて仔ガッパ達のことを見てあげて、と言い残し、遠野は仕事に出掛けた。

「面倒見ろ、って言われてもにゃー。アイツら既にいないんだけど」

ごはんを食べたらもういない。と思ったら庭の方から声が。

「なんだ、お庭にいたのね、ってミサカはミサカは一安心」

かぁたん、キューちゃん、かっくんが居間にいる一方通行達の元に走ってくる。
虫取り網とバケツを持って、小川で何か捕まえたようだ。

「クパパー!」

誇らしげに見せられる。中には小魚とザリガニが入っていた。

「クポ、クパ」

かっくんがバケツを指し、囲炉裏を指し、クチバシをもぐもぐ動かした。

「まさかこれ食べるの!? 魚は分かるけどザリガニだよ!?ってミサカはミサカはたじろいでみる」

三匹は動じることなく頷いた。普通に食しているらしい。

「エ、エビみたいなもんなのかなー、ってミサカはミサカは今日のオカズだったらどうしよう……」


また小川に駆け戻る仔ガッパ達。打ち止めはウズウズする心を足踏みに表しながら、

「ミサカも一緒に遊んでくるー!ってミサカはミサカは突撃してみる! 待ってろ大物ー」
「……溺れるンじゃねェぞ」

背中から追ってくる声に、「浅いからへーき」と返事をした。
川遊びなんて、学園都市ではしたことがない。遊んだところで、魚やザリガニが捕れるとは思えなかった。

「子供は元気だねぇ。かぁたんなんてブランク全然感じさせないし」
「そォだな……」

…………

童心など既に無いのか、一方通行と番外個体は笑い声とセミの鳴き声の中、楽な姿勢で休み始めた。


現金の調達や、この世界と自分達の世界との共通点、相違点を調べたりなど、やった方が良いことはある。
が、そんな気が起こらない。

「おい、足こっちに向けンじゃねェよ」
「あなたがあっち向けばいいでしょ」

番外個体は今日も坂本から借りたワンピースだ。にもかかわらず、ゴロゴロと畳みの上を転がっている。
裾がめくれてきわどい。
ちなみに一方通行は遠野のシャツとズボン。打ち止めはまた浴衣(本日の柄は金魚)

ここには、一方通行達にとっての『敵』がいない。
打ち止めに害なす存在から完全に脱力できる現状に、いつもより険がない声と表情だった。
無論、いつまでもこうとはいかないが。


「平和だー退屈ー。ねー?」
「……」
「ミサカのスカートの中、気になっちゃうくらい?」
「見て欲しい、ってンなら頑張ってやるよ」
「やっぱり幼女のパンツがいいのか」
「反論が面倒臭ェ……」

意味のない、安らかなときが過ぎていく。
ところが小川から大切な少女の叫び声が聞こえ、一気に二人の普段が舞い戻ってきた。

「ぎゃあああああ! いやぁぁぁぁあああ!」

慣れない浴衣が災いして水にでも落ちた、にしては切迫している。
一方通行は杖さえ持たずに飛びだし、番外個体もそれに続いた。


「タイムターイム! こっち来ないでぇ!ってミサカはミサカは拒否してみるぅぅぅ」

草の上に尻もちついた打ち止めは、一方通行の姿を見るなり彼の腰にしがみついて後ろに隠れた。
無事な姿に安堵するが、一体なにが……

「クワッ、クワッ」
「キャハハハ」
「クポ〜」

かぁたんとキューちゃんが、得体の知れない塊を持って川の中から上がろうとしている。
かっくんは腰を抜かす打ち止めに少し済まなさそう。

「でっかぁ! トカゲ?」


やんちゃ仔ガッパが二匹がかりで抱えているものは、確かにトカゲに似ていた。しかしデカ過ぎる。
ここは秘境の南の島じゃなく、奈良県奥吉野だ。体長は明らかに五十センチを超えていた。

「オオサンショウウオ……だと思う」
「なにそれ、ってミサカはミサカはグロテスクな見た目にブルブルしてみたり……」

打ち止めがますます一方通行にしがみつき、彼のズボンが下がりそうになる。遠野の服は、特に横のサイズが合わない。

「離せ」
「やるねぇ最終信号! いっちゃえ、いっちゃえ!」

一方通行は少女二人にチョップをかまし、打ち止めに杖と靴を持って来させてから電極のスイッチを通常モードに戻した。

「ミサカのためにそんなに慌ててくれたのね、ってミサカはミサカはうおぉぉぉ!」

足元に、ベチャリとグロテスクな両生類が。打ち止めは飛び上がって逃げる。

「これトカゲじゃないの?」

さすがの番外個体も触れる気にならない。打ち止めの恐怖も伝わってくるし。


「個体数が少なくて、天然記念物になっている水辺の生物だ。……昭和五十年の時点でも、既に指定されてるハズだが」
「っへぇー! さすが昔の田舎。こんなもんが家の近くにいるんだ。ねぇ、こいつ売れば儲かるんじゃね?」

悪い子だ、番外個体は。
もっと捕ってきて、と言いだしそうな勢いに、打ち止めが、

「天然記念物なんて捕まえちゃ怒られるぞ!ってミサカはミサカは冗談じゃないと阻止してみたり!」
「馬鹿なこと言ってンなよ」

一方通行も一緒になって番外個体を説得してくれると思ったら、

「この世界じゃツテがねェし、大体、足がつきやすいから敬遠されるに決まってンだろ」
「その止め方もどうかと思う、ってミサカはミサカは良い子はミサカだけかと孤軍奮闘してみたり!」

はやくオオサンショウウオを逃がしてきて、と かぁたん達をせっつく打ち止めだった。


次回へ続く

食べると美味しいらしい、山椒魚

>>377で、童心の頃がない番外さんに気付いてちょっとしんみりした


「お小遣いちょーだい」

天然記念物でひと悶着があった後、やれやれと息をついた一方通行に片手を差し出した番外個体。

「百円でいいからー」
「……何に使うンだよ」
「お菓子買う」

駄菓子屋が気に入った彼女は、昨日はチョイスしなかったお菓子を食べようと、なけなしの資金をせがむ。

「あー、ミサカも!ってミサカはミサカは姉妹平等をうたってみたり」

たかだか数百円など、あっても無くても変わらないと思い至り、一方通行はそれぞれに百円ずつ渡した。

「あなたは行かないの?ってミサカはミサカはおみやげのリクエスト受付中だったり」

シッシッ、と手を振り、行って来いと促した。

「甘いのはいらねェ」
「じゃあ『みっちゃんイカ』ね、ってミサカはミサカはしょっぱい系を約束してみる」

仔ガッパ達と姉妹は少年を残して庭から出て行った。

一方通行は座布団を枕にして寝転んだが、ガサガサ鳴る音に身を起こす。
どこかと見渡せば、バケツの中のザリガニが足やハサミをぶつける音だった。

「……」

食用ということで打ち止めはビビっていたが、一方通行も好んで食べたいとは思わない。


昼になり、腹を空かせた子供と畑仕事に出ていた大人が戻ってくる。
そうめんが茹でられ、昼食となった。

「あーくんらは、午後は美沙子さんと街に行っといで」

食べながら、遠野母が言う。
荷物を全て無くしてしまった(という設定)なので、最低限の日用品を揃えてこいと。

その費用も世話になるしかなく心苦しいのだが、服から何から借り物なのも褒められない。
ここは素直に甘えることにした。


数が少ない電車に乗って街へ。
坂本に連れられて、一方通行達はお買い物。

「買い物なんて久ぶりだなぁ。ミサカちゃんはどんな服が好き?」
「ミサカはミサカワ……お姉ちゃんが着てるみたいなワンピースがいい、ってミサカはミサカは好みを明かしてみたり」
「あーくんは?」
「この人、結構ブランド物にうるさいんだよねぇ。とにかく白ければ満足だと思うよ」

番外個体が代わりにいらぬ返事をしてくれる。


駅を二つ過ぎた頃、少年に異変が起きた。

「あ、ゥ?……」

急に体がグラリと揺れ、隣の打ち止めに倒れ掛かる。

「ど、どうしたの あーくん!?」

坂本が慌てて助け起こす。
打ち止めも足りない力で少年を支えるが、異変の原因が分かっているので焦らない。

(最終信号……)
(ネットワークがほとんど繋がらなくなっちゃったからだね、ってミサカはミサカはこの人を心配してみる)
(昨日から変化ないから気楽にしてたんだけど、こりゃあ『距離』だ)

番外個体の予想に、打ち止めも頷いた。
奥吉野から遠ざかるほどに、僅かに接続されていたミサカネットワークがさらに調子が悪くなっていたからだ。

「だ、い」
「大丈夫じゃないでしょ、どう見ても。どうしよー、次で降りて救急車呼ぶ!?」

「あー、平気平気。この人、足の怪我したときの後遺症で、時々発作起こすんだ」
「安静にしてたらすぐ治るの、ってミサカはミサカはおねえさんの心配を払拭してみる」

とてもそうは見えないが、平然とした姉妹の様子に坂本も冷静を取り戻す。


「本当に? 本当に二人で帰れる?」
「逆の電車に乗るだけだから大丈夫、ってミサカはミサカは自信満々だったり」

次の駅で一方通行と打ち止めだけ降りて帰ることにした。

かろうじて歩ける程度の少年に不安を感じる坂本。
せめて一方通行に付き添わせるのが番外個体なら、と思うが、
これからする買い物の量を考えると、小さな打ち止めでは頼りない。

「だぁーいじょうぶだって。ほら、電車出るよ。あなたのパンツはこのミサカにおまかせだかんね」
「……、無理だろうが、オマエの良識とやらに、賭けとくぜ」

喋るのも精一杯なのに、憎まれ口とはいっそ見上げたものだ。
坂本を車内に引き戻し、番外個体は閉まるドアの向こうで手を振った。
打ち止めは一方通行に手を貸して、戻りの電車のホームへと歩く。

「次の電車はすぐ来るみたいで良かったね、ってミサカはミサカは気弱にならないでと励ましてみる」
「……アホ」

それでも彼女の肩に置かれた手は、出来るだけ負担を掛けないように気遣われていた。


奥吉野に近づくと、一方通行が普段の調子を取り戻す。

「……距離、か」
「ミサカがあそこにいればなんとか大丈夫みたいだね、ってミサカはミサカはお出掛けを諦めてみる」
「帰ったら試してェことがある。付き合え」

試したいことの見当がついている打ち止めは、デートだ、とはやし立てることはしなかった。


家に帰ることはなく、二人は山の方へと歩く。
人目が無くなる獣道への入り口に辿り着くと、一方通行は打ち止めを抱えて、飛んで駆けた。

初めて『こっち』に来てしまった時と同じように。でも道のりは逆だ。

二人はあの泉に向かっている。


「どうだ、ネットワークは」
「下位個体の声は何を言ってるのか分かんないけど、
 それでも確かに良くなってる、ってミサカはミサカは……集中してみたり」

爽やかな木漏れ日と、木々のざわめき。二人は静かに水面を眺めた。

こっちへ来た時のことを思い返せば、たしかにこの泉が無関係だとは考え難い。

しゃがんで水に触れてみる。ぴちゃぴちゃと水音と波紋が起こるだけ。

「向こうにオマエの話は通じてるか?」
「無理。でもミサカが無事だ、ってことは認識できてるはず、ってミサカはミサカは
 ヨミカワ達にも安否をお知らせしてほしかったり」
「そう、だな」

急にいなくなってしまって、その様子を上条から聞いた保護者達はきっと——


帰れる……だろうか。


次回へ続く

>>383 童心の頃は無くとも、今現在しっかり持ち合わせていたらかわいいよね
食い意地がはっているだけだろうか


「掃除の基本は何かな?ってミサカはミサカは番外個体が覚えてるか質問してみたり」
「『まず換気からじゃん』って黄泉川がいつも言ってたねー」
「クパパ」

かっくんが障子と襖を開ける。水が汲まれたバケツに雑巾を浸し、絞ろうとすると、

「ちょい待ち。もうちょっとであの人が帰ってくるから」
「そういえばそろそろ二時間になるね、ってミサカはミサカは楽しようとする番外個体に呆れてみたり」
「なんやかんやでさ、あの人はこーいう日常とかで自分の能力が効果的に役立つことに、自己の価値を肯定できて喜んでるんじゃん?」
「よけいな世話だ、クソッタレ」

本当にタイミングよく帰宅した少年。庭から直接廊下に上がった。

「掃除してンのか」
「番外個体が墓穴を掘っちゃったの、ってミサカはミサカは巻き添えを食らってしまったり」
「ほォ。素直に言うこと聞くとは珍しいじゃねェか」


一方通行は電極のスイッチを構い、能力を使って部屋の中の埃を撒きあげる。

「ほら、逃げないとばっちぃよ、ってミサカはミサカは かっくんを保護してみる」

あとは風を操って、それらを外に出すだけだ。

「やー、終わった終わった。あとはそれらしく雑巾汚しときゃOKっしょ」
「なンだ、そのセコイ隠蔽工作は」
「でもヨミカワにはすぐバレたよね。『能力使ってズルするな』って。
 ミサカはミサカはおばちゃんにも通じないことを予想してみたり」

真面目に掃除した雑巾と、そうじゃない雑巾は、玄人(?)の目には一目瞭然なのである。

「どうやって綺麗にしたのかつっこまれンのが面倒臭ェ。オマエらでテキトーにそこらを拭いとけよ…… あン?」

クイクイ、と少年の服を引っ張る かっくん。
今、目の前の思議が一方通行によってもたらされたことに、改めて憧れの眼差しを注ぐ。

「……遠野達にゃ、言うンじゃねェぞ」
「……ウンウン」
「オトコとオトコの約束なのだ、ってミサカはミサカは感動してみたり」
「あなたが『シー』ってやってんのが見れて、このミサカは爆笑寸前だよ」


昼飯の後、遠野母と坂本美沙子が片づけに台所に立ったのを見計らって、
一方通行はゴロ寝を再開したグータラ男を小突いた。

「イタ。なにさ、もう〜」
「ちょっと話があンだよ。顔貸せ」

(だからいちいち怖いんだよ、あーくん……)

カーサンは食後の一服。仔ガッパ達はお昼寝タイム。
遠野と学園都市組三人は、あの裏庭でまた顔を向き合わせる。
ただし、今日は前回と違って昼間である。残暑厳しい九月なので、切株の椅子を日陰に移動させた。

「で、何なの?」
「何なの、じゃねェだろ。まだまだ聞きてェことが山積みだ、俺達は」


聞かれるままに、遠野は記憶を手繰り寄せて答えた。

そもそも、かぁたんが失踪したときの状況を詳しく訊いていなかったので、そこを追求する。
すると、山中のあの怪しい泉が現場だというではないか。

「どーしてそういう大事な事を最初に言わないのかな!?ってミサカはミサカはおじさんの要領の悪さに憤慨してみる!」
「おじ、……だってぇ、君達訊かなかったや〜ん」
「ミサカ達も『こっち』に来たらあの泉の中だったし。あそこって一体何なワケ?」


あそこは地元住民の間では『カッパの泉』という、神秘的な力を持った場所であること。
カッパ限定だが傷や病を癒し、かっくんの喘息治療にも大きく役立っているらしい。

「定期的に かっくんを泳がせに行ってたんだけど、かぁたんが消えちゃったもんだから、あれ以来ご無沙汰だなぁ」
「俺と打ち止めは昨日行ってきたが、何も変わったことはなかったぜ」
「でも、ミサカネットワークは接続状態に改善がみられたよ、って
 ミサカはミサカはやはりあそこは怪しすぎる、って結論に至ってみたり」

聞き慣れない単語と、見た目に似合わない言葉を発する少女に、遠野が目を白黒させる。

「え? え? 行って来た? 昨日? だってあーくん、昨日は体調不良で……」
「嘘に決まってンだろ」
「えぇー!?」


もう少し、こちらの事情を明かさないと話がスムーズに進まない。
未来は未来でも、純粋な時間の経過を経ただけの未来ではないことを説明した。

「平行世界とか、パラレルワールド、ってヤツかね。聞いたことある? オニーサン」
「俺達が住ンでたのは学園都市、っつー…… あー……」
「簡単にいうと、超能力を人工的に開発する科学の街だよ、ってミサカはミサカは
 この世界に学園都市が存在しないことがパラレルワールドの証明だと力説してみる」
「超能力? ユリ・ゲラーがいっぱいってことっ?」
「誰よソレ……」

スプーン曲げの超能力者なんて、彼らは知らない。


「あの泉が大きく関係してンのは確実だ。今からでも、もう一回行きてェ」
「無理だよぅ。あそこまでは大人の足でも二時間はかかるし」
「だァーから、昨日も行って来た、っつってンだろォが」

一方通行はチョーカーの手を伸ばし……

「あーら、見せちゃっていいの? さっき かっくんに『シー』してたのにぃ?」
「うるせェな。こうでもしねェとこいつ、全然話信じねェし」
「あれ!? あーくん歩けるんじゃん!」

杖を置いて立ち上がる少年。
歩けるどころではない。彼は足元の拳大の石を拾うと、遠野の目の前で粉々に砕いて見せた。

「うへぇ!?」
「ベクトル操作…… まァ、詳しい原理は気にするな。俺は時間制限付きだが。こっちの二人の方が分かりやすいぞ」

一方通行に促され、番外個体と打ち止めが、紫電をバチバチと額の前、指先で躍らせた。

「ミサカ達は電撃使いなのだ。驚いたかエッヘン、ってミサカはミサカはふんぞり返ってみたり」
「停電したら供給してやんよ。ミサカの恩返しだね」
「!? !?」
「能力を使えば、あの程度の距離は大して関係ない。ここから泉までも数分で到着するし……」

仰天する遠野に、一方通行の声は右から左だった。打ち止めの指先から走る青い光の方が衝撃的で。

「触ってもいい?」
「あ、まって出力が」
「いったぁ——!!」
「話聞けェ! 子供かよ!」


余計な混乱を招かないように、母親と坂本には秘密にしておくよう重々言い含めた。

「ほんとだったんだー……」
「だから最初からそう言ってる」
「なんとかワールドといってもさ、この先の未来の事は大体分かってんでしょ?」

遠野の興味は、超能力から先の時代の出来事に移った。それはそうだろう、誰だって。

「オニーサンが興味あるようなことは知らないよ。
 ソ連が崩壊するとか、バブルが崩壊するとか、円高が百円以下にまで進むとか。どーでもいいでしょ?」
「う、うん。そういうのじゃなくってさぁ……」

やけに崩壊ばっかりする未来よりも、遠野には気になることがある。
だが彼の口は重い。頭を掻きながら俯いて、ボソボソと。

「あ? 聞こえねェよ」
「俺と坂本さんて、いつ結婚すんのかなぁ……と」
「……」
「……」
「……」
「そろそろじゃないかとは思ってんだけどね」


「早くプロポーズしろ」とアドバイスしておいた。


次回へ続く

まことに今さらながら、『遠野』とは私がこの作品を書く都合上考えた捏造名前です

原作では一人称『私』 
二人称『あなた』『かぁたんのパパ』等で通っています。本名不明

かぁたんの血統書に記載されている本名が 『遠野川太郎ジュンプライド』なので、『遠野』にした次第です



「クポポ」
「クッパー」
「キャッキャッ」

朝も早くから、遠野家の仔ガッパ三匹は緑が茂る土手に繰り出していた。
しゃがんでは何かを拾い、小さいの二匹は かっくんに走り寄る。お兄ちゃんに協力しているような素振りである。

「ケケケケ」

礼を言いながら かっくんが何かを受け取って帽子に入れた。

「カッパさんだ〜。おはよう」
「パコン」

部活の早朝練習に向かう学生が、可愛らしい彼らに挨拶をくれる。

「……ハッ!」

学生が歩いているということは、お家でも、もうすぐ朝ごはんの時間だ。間に合わなくなってしまう。
かっくん達は駆け足で戻った。両手に持った帽子の中身がこぼれてしまわないように。


「ごはんできたでー! みんな起きやー」

噌汁のいい匂いと、遠野母の呼声で目が覚める。番外個体も早起きにすっかり慣れた。

この昭和五十年の奈良県奥吉野には、夜遊びできるものがなんにも無い。
深夜営業の店も無い。自動販売機も無い。大きい通り以外には街灯さえも無い。
よって、番外個体も規則正しい生活にならざるを得なかった。

「あーっふぁ〜。きょーおの(味噌汁の)具はナーニかなぁ」

大根の葉なんて、この家に来て初めて食べた。
あきらかに野菜の多い食生活と夜にしっかりとした睡眠。
生活の変化は、若い盛りの番外個体の見た目にも変化を現わしていった。
肌は瑞々しく、荒れていた髪の毛は輝いてしなやかだ。爪も唇も桜色で美しい。


『なんだかキレイになったね、ってミサカはミサカは嬉しかったり』
『同じ顔してんのに、嬉しいもないでしょうが。自我自賛?』
『そうじゃなくって、ってミサカはミサカは本当に番外個体を褒めてるの!』

そんな話を小さな姉としたばかりだ。
言われなくても毎日鏡で見ていれば彼女も気づく。体長もすこぶる良い。


「起きて最終信号、飯だぞー」
「んんん……」
「どーせ、ゆうべあの人とイチャコラして寝てないんだろ。チビチビにくすぐられても知んないからね」

昨夜の一方通行と打ち止めの逢瀬に自分は気づいていると、堂々と言ってやった。
薄く開いた襖の向こうで一方通行が起きているかもしれないけれど、気にしない。

(顔でも洗ってくるか)

布団から抜け出そうと畳に手をつき、枕元のそれがやっと目に入る。

「花?」

青いの黄色いの白いの。色とりどりの草花が、麻紐で結ばれている。
きょろきょろと周囲を見回すが、どう見ても番外個体に宛がわれている。隣で寝る打ち止めではなく。

茎の長さもバラバラで彩りのバランスも悪いが、確かに花束だった。片手で簡単に握れる、小さな小さな。

「……なんで?」


もじもじ、もじもじ。

「かっくん、今日変ですね」
「坂本さんもそう思う? さっきからずーっとこうなんですよ」
「ケケケ」
「ウケケケケ」
「かぁたんとキューちゃんは何か知ってるみたいだなぁ」

遠野が起きた時には、仔ガッパ三匹は先に食卓に座っていた。
いつもは「早く食べたい」とやかましいのに、今日はみんな変だ。

「カーサンはなんか聞いてる?」
「クポポ〜?」

知らん知らん、とカーサンも首を振る。子供たちだけの秘密のようだ。


「なんや、あーくんとミサカちゃんはまだ寝とるん?」
「お姉ちゃんも……、あ来た来た」
「ハッ、クパパ〜……」
「かっくんがますます変になってるわ」

番外個体が現われたとたん、かっくんの様子が更に変になる。彼女が花束を手にしていたから。
手櫛で充分指が通る髪は多少跳ねている。番外個体はボリボリ頭を掻きながらあくび。

「おっはよーん」

パコと普通の挨拶が帰ってくる。
番外個体は定位置に座って味噌汁の具を確認する。最近の朝のお約束だった。

「かぁたん、キューちゃん、あと二人起こしてきてよ。くすぐっても噛んでもいいぜー」
「グッ」

お姉ちゃんの指令を受けて、二匹が目覚まし役の使命を果たしに行く。
全員揃わないと「いただきます」ができない。


「ひぃ、酷い目に遭った、ってミサカはミサカは朝から体力消耗してみたり」
「歯型がついたぞ、おい」

噛んでくすぐられて、寝ぼすけ二人も起こされた。さぁ今日も田舎の一日が始まる。


机の上のごはんが片付きつつある頃、

「あれ、番外個体の足の上に……花束?ってミサカはミサカは見慣れないものを発見してみたり」

腹が満たされてくると、打ち止めの注意力はごはん以外の物にも向けられる。

「んあ? あぁ忘れてた。これ置いたの誰? 朝起きたらミサカの寝床にあったんだけど」

起きぬけに見つけた素朴な花束を、番外個体が掲げる。

「クッハ〜……」
「クポクポ」
「キャー」

緑の皮膚でも、赤くなったと分かるものだ。かっくんは又もじもじもじ。
かぁたんと キューちゃんが「このこのー」と脇をつついた。

なんて分かりやすい子達だろう。遠野と坂本はすぐに合点がいった。

「ははぁ、なるほど」
「やるなぁ、かっくん。さすが五歳のオスだわ。この求愛行動は個体独自なのか、一般的なのか調べないと……」

求愛行動? 番外個体が花束と かっくんを見比べる。

「いやはや、年上好きは田舎に来ても相変わらずかぁ」

東京に住んでいる頃から、かっくんは女子高生に告白したりと、恋におませな一面があった。


「しかしあの時のプレゼントが棒付きキャンディーだったのに、今回は花束ですよ。成長の証……と」

遠野から、特にカッパの生態に対して研究熱心と評された坂本が、律儀にノートにメモを取る。

「テヘヘヘッ」
「…………」

照れて笑う かっくんと、どう反応したものか困る番外個体。
いつもなら鼻で笑ってやるのに。それでも見所があれば、たまにツルんでやる程度。
それがいつもの彼女だった。無邪気なこの好意に応える術を持たない。

「ど、どうしよう。どうすればいい!?」
「あァ? 知るか。オマエの好きにしやがれ」

遠野母におかわりを強制されたので、一方通行はそれを消化するのに忙しい。

「だってさ、だってさ、だってぇ」
「だーだーうるせェ野郎だな」
「ほれ、お姉ちゃん落ち着いて。お茶淹れてやろ。あーくんは後でコーヒーやな」
「……ン」

打ち止めが、「あの人は大のコーヒー党だよ」と暴露してくれたおかげで、
日に二杯までだが一方通行にコーヒーが提供されるようになった(飲み過ぎは子供の体に悪いから)。

口には出さねど、打ち止めにも遠野母にも結構感謝している少年なのである。


「ぷはー、食後の一杯は格別ですなぁ」

打ち止めの芝居がかった仕草とセリフ。珍しく戸惑う妹に、アドバイスを送った。

「まずはお友達から始めましょう、ってやるんだよ、ってミサカはミサカは軽い対応をオススメしてみる」
「……今までどおりでいいンだ。難しいこと考えンな」

一方通行も打ち止めと同じように言う。

「今までと?」
「そォだ」

「そうそう」と坂本も同意。

「女子高生にも女子中学生にも手ひどくフラれたからねぇ〜。優しくしてあげて?」
「意外に恋愛歴豊富なのね、ってミサカはミサカは番外個体が弄ばれていないか心配してみたり」
「あっはっは。そんなオトコじゃないよぉ、かっくんは」

遠野のあっけらかんとした笑い声。番外個体は、自分ひとりが重大に考えて突っ走っているだけだと思い至る。


「あっそ。……そんじゃあさ、ミサカ食後のデザートはアイスがいいなぁ。アイス食べたーい」
「クポ!」

まかせて、と かっくんが席を立とうとする。
きっと石田商店にひとっ走りする気だ。カッパはみんな純心なのだ。

打ち止めが純情かっくんのズボンの裾を引っ張り、

「冗談だよ冗談、ってミサカはミサカは引き止めてみる」
「ガキに貢がせンな!」
「やぁ〜ん! 暴力反対たすけてぇ」

(……変わったと思ったら大間違いだ、このクソガキめ)

チョップを振り上げる一方通行と、似合わない仕草で畳みに倒れ込む番外個体。
二人の間に かっくんが慌てて割り込む。

「クワッ、クワ」

お姉さんをいじめないで、という無垢な瞳の後ろで、いつもの意地悪な笑み。

艶やかに美しくなろうとも、本質は番外個体である。
一方通行も彼女の変化に気づいていたが、中身に大差ないことにほっとしたような、残念なような。

「ありがとー、かっくん。かっくんもこの人に噛みついちゃっていいんだゾ?」
「クポ〜」

いやぁ、さすがにそれは……

かっくんはお姉さんと あーくんの間で板挟みとなる。
番外個体は彼の頭を帽子越しに撫でた。皿を揺らさないように、優しく。

(いや、……ちったァ変わったか?)


朝食の後には、コップに活けられた素朴な花束が部屋の中を明るく彩っていた。


次回へ続く

>>487 沢蟹、素揚げで塩、酢醤油等につけて殻ごと食べた。

ビ−ルのつまみかな、身はどこにあるのか判らん。

乙や美味しいエピソード、感想をありがとう

>>493 みそ汁のダシにしても美味い

続きいきます


「すっげーねーちゃん連れてきよったな、井畑」
「やろ?」

同級生の感嘆の声に、井畑はなんだか鼻が高い。

番外個体が「やっほー、来たぞー」と野球部の部活中にやってきたのが半時ほど前。
井畑(二年一組)が慌てて部員に紹介した。
三年生の部員は、女が何を……と思わなかったでもないが、遠慮のない態度の姉御肌番外個体にタジタジ。
投げさせてみてもっとタジタジ。

監督は初老の教師で、井畑が言ったとおり部外者の乱入に異議を唱えたりしなかった。
どこでピッチング覚えてきたの、と気安く番外個体に話かける。

「ちょい前にそこの少年に。運動には自信あるんだよね。体動かすのは好きだしー」
「井畑は打者やっちゅうに大したもんや。ほんなら、バッティング練習につき合ってもろてもええか?」
「おっけー」
「ピッチャー不足やから助かるわぁ」


「番外個体ばっかりチヤホヤされて遺憾の意、ってミサカはミサカはつまんなかったり」
「クパ〜」

お姉ちゃんを盗られてしまったと感じているのか、かっくんも肩を落としている。

「どーせミサカには野球できないと思ってんだ、ってミサカはミサカの力をあなどるなと意気込んでみる」

打ち止めはグラウンドの隅で かっくんと部活を見学していたが、見ているだけでは流石に飽きてくる。
かっくんの手を引きながら、立てかけてあるバットを失敬した。
そして速球を待ち構えるバッターボックスに近づき、何食わぬ顔をして野球少年達に混ざって順番待ち。

「……ミサカちゃん、やっけ。まさか打つ気か? そっちのカッパも」
「当然だ、ってミサカはミサカは」
「やめとけー。チビには無理やで」
「ば、馬鹿にしてー! ミサカの方がほんとはお姉ちゃんだし、こう見えて強能力者(レベル3)だし!」

呆れた笑いの部員に大層憤慨する打ち止め。
かっくんは「無理しない方が……」と、わきまえているのでバットを持っていない。打ち止めに手を引かれて来ただけだ。


「いいよいいよー。手加減してやっから、打たしてみて」

白球を片手で軽やかに弄ぶ番外個体が、ほんの少しだから、と姉妹対決を受けて立つ。
部活動の邪魔なのだが、誰もそこには触れない。

「さぁこーい!ってミサカはミサカは狙うはホームランだったり!」

無理に決まっているホームラン宣言に、周囲から失笑が起こる。


見学中にバットの構え方は覚えたのだろう。なかなか様になっている打ち止めだったが、

「……っ、んわぁ!」

番外個体が放ったど真ん中ストライクがミットに収まってから、たっぷり一秒後に空を切るバット。しかも下から上へと。
危うく尻もちつきそうになる打ち止め。そして気が気ではないキャッチャーの少年。あと少しで当たるとこだった。

打ち止めはバットを地に叩きつけて悔しがり、そこだけはプロ選手の様だ。

「まだまだ、もう一回!」


まったく諦める気のない女の子に、ついに大きく吹き出す野球少年達。

番外個体は手加減するどころか、第一球よりも、さらに球威を上げて投げた。
今度はミットに収まるより早く腕を振った打ち止めだが、勢いがつき過ぎて手からすっぽん、とバットが抜けてしまった。
幸い誰もいないところに落下したバット。見かねた井畑が、

「な? あれじゃ誰かにぶつけて怪我させてまうで。もう少し大きくなってからや」
「…………」
「どうかしたんか」
「なんでもないよ、ってミサカはミサカは……今日のところは勘弁してやると捨てゼリフを吐いてみる」

かっくんがすっぽ抜けたバットを小走りに回収してくれて、打ち止めと二人で隅に戻った。


(手ぇ痛い? あの人怒るかもな。あーヤダヤダ)

二人だけのネットワークで番外個体が話かける。
打ち止めが手を痛めたことは、ネットワークを介さなくても、目ざとい彼女は把握していた。

(ちょっとシビれただけ、平気。ミサカは かっくんと学校探検に行く、ってミサカはミサカは疎外感ゆえに単独行動を取ってみたり)
(単独じゃねぇし……)


慣れないことをしたせいで、カッコ悪いし痛い目にも遭った。
実は痺れただけでなく、打ち止めの右人差し指の爪は、僅かに剥がれて血が滲んでいる。
軽傷なのだが、じくじくと気になる痛みだった。

「キュキュ〜ン」

打ち止めが指を見つめていたら、隣の かっくんが心配そうに鳴いた。絆創膏を持っていないかと、自分のポケットをまさぐっている。

「二、三日で治るから大丈夫だよ、ってミサカはミサカは大したことないのをアピールしてみる」
「クパパポ、クポ」

多分、「無理をしないように」と言われていると思い、打ち止めは笑顔で頷いた。


「シャリシャリシャリシャリ」
「ちょっとこっちの茶色と白にも分けてあげて、ってミサカはミサカは黒いのの強欲さに呆れてみたり」

さすがに校舎内に入るのはどうかと思い、外をうろついていたら校舎の裏でウサギ小屋を見つけた。

打ち止めと かっくんは辺りに生える草を摘み、金網の隙間からウサギに与えている。
わらわらと集まってきた毛の塊が、とても可愛い。

「よーし、かっくんはそっちから草入れて引きつけて、ってミサカはミサカはフェイント攻撃を仕掛けてみる」
「クポ」

強いウサギが他を押しのけるせいで、なかなか餌にありつけないコがいる。
不憫に感じた打ち止めは、どうにか食べさせてやろうと工夫して、

「ほら、ほらほら今だよ!ってミサカはミサカは白と茶色にやっと……っ」


どうやら、味の好みがあるらしく、せっかく摘んで集めた草の中には見向きもされない物があった。ぜひ今後に活かしたい。

「これなら家の周りにたくさん生えてた、ってミサカはミサカは今度持ってきてあげることを約束してみる」
「シャリシャリシャリ」
「ケケケケケ」


すっかりウサギの虜になってしまった。

金網の前でうずくまる女の子と仔ガッパに話しかけてくる生徒や教師がいたが、やはり咎められはしなかった。
どこから来たの、名前は? と訊く人も当然あったが、少女がウサギに夢中なので、まともな返事がないと見るや、すぐに離れてしまった。


そして夕暮れ前、バッティング練習に付き合っていた番外個体が迎えにやってくる。

「いたいた。そろそろ帰ろ……、なんだ、ウサギじゃん。中学で飼うか? 普通なの?」
「草あげてるの、ってミサカはミサカはこれ全部やるまでは帰れなかったり」
「しょうがねーなー」

かっくんと打ち止めの足元には、あと両手に乗せられる程度の草がある。
これならそんなに時間は掛からないと踏んだ番外個体だったのに……


「ねぇ、人気があるのってコレ?」
「違うよ、こっち。この辺のはミサカと かっくんが取り尽くしちゃったみたい、ってミサカはミサカは残念なお知らせをしてみる」
「んー、家ならたくさん生えてんのかぁ」

帰ってむしって、その足でまたここに戻ろうか、とさえ考える。
番外個体も、ついつい餌やりに夢中になってしまった。モコモコしている小動物も悪くない。


草が尽きかけては摘んでの繰り返しで、姉妹は中々帰ろうとしない。
そろそろマズイのでは……、と校舎に取り付けてある時計を気にするのは かっくんだけだった。もうすぐ五時だ。

「クポ〜、……ン?」

かっくんが耳に手をあてる。おなじみのパコが、自分を探しにきたようだ。

「パコーン!」

すぐにパコを返し、居場所を伝えた。

「急にビックリさせないでよ。どしたの」
「カー、カー。キュー」
「かぁたんと、キューちゃん?ってミサカはミサカは解読してみたり」
「ウンウン」
「もしかして近くに来てるとか?」

打ち止めと番外個体にも、離れた場所からのパコが聞こえるようになった。そこにきて、すでに五時が近いことに姉妹はようやく気づく。

「迎えに来てくれたのかな、ってミサカは……あ、あなたー!」


パンツの柄わろた
帰りの日が近そうで寂しくなってきたよ

一方さん、いつぞやの酒盛りで打ち止め&番外の飲酒を厳禁してたが
本人はビール失敬したことあったのねw

>>636 「俺はいいンだよ」の俺様理論

続きいきます


今日は番外個体がコーチをしている野球部の練習試合の日だ。

「オマエ、いつの間にコーチになってンだよ」
「いつの間にかそう呼ばれちゃってた」
「始まるよ、ってミサカはミサカは緊張してみたり」

じゃあベンチ戻るね、とコーチは背を向けた。頑張って、というパコに片手を挙げ、帽子を深く被り直す。

グラウンドの端っこで、一方通行と打ち止め、かっくん、キューちゃん、かぁたんが観戦している。
一方通行にとっては災いでしかないが、試合はこの村の中学校で行われるので、打ち止めと仔ガッパに無理やり連れてこられたのだ。

試合観戦に行くと言ったら遠野母が弁当とお茶を持たせてくれたので、それを摘まみながらなりゆきを見守った。

垣根「俺の変化球に常識は通用しねぇ」


中学校の生徒達にしてみれば、見慣れぬ少年と見たことある小さい女の子。
しかもカッパを三匹も引き連れていて目立っていたが、少年の人を寄せ付けぬ雰囲気が見えない壁を築いていた。

「ルール分かる?ってミサカはミサカは解説してあげようかと親切してみる」
「結構だ」

野球ぐらい、大体知っている。
それに遠野家では野球中継がお茶の間で幅を利かせていたので、彼もそれを見ることはあった。
もっとも、秋となった最近ではシーズンオフで中継はもうないけれど。

「キャー」
「クパクパ」
「おぉー! 一点入ったよあなた!ってミサカはミサカは興奮してみる!」

カッパ達も番外個体がコーチしているチームが識別できるので、その活躍に一喜一憂する。いや、喜ぶ瞬間が圧倒的に多い。


(楽勝じゃねェの、これ)

「あくせらくーん」

野球部員が一人駆け寄ってきた。一方通行をこう呼ぶのは一人だけだ。

「来てくれたんやなぁ。な、どうや。俺ら圧勝やろ」

井畑(二年一組)は誇らしげに汗を拭った。このイガグリ頭のおかげで、番外個体は野球にハマったのだ。
井畑と知り合いになったのは一方通行が最初なので、一方通行自身がきっかけともいえるか。

「良かったな」

世辞でも義理でもなく、純粋にそう思った。

「ミサカねーちゃんのおかげや。言うとおりに練習したら、みんなほんまに上手くなったもん」

昭和五十年には広く認知されていなかったスポーツ科学。
番外個体に植え着けられているのは戦闘方面の技術が主だったが、
人体が行う運動を効率良くするという目的においては、それでも役に立つ。

根性論だけでは得られない成果を、この小さな村の野球部にもたらした。


(よくもあンなやつに指導させたモンだ。教師どもは何考えてやがる?)

「もう、ずっとコーチしてもらいぐらいやけど……」

井畑の顔色が沈んでいく。ずっとは無い。それが分からない年齢ではない。

「ねぇ、もしかして あくせら君達ってもうすぐ帰るの?」

今は試合中なので、長居は出来ない。井畑は行儀悪くヤンキー座りで内緒話をするように囁いた。
声の大きさが、彼の心情を表している。

一方通行達は、東京から来た長期旅行者ということになっていた。
遠野家の大人達には(信じたかどうかは不明だが)正体を明かしている。でも流石にそこまでだ。中学生に言うわけにはいかない。

「どうしてそう思うの?ってミサカはミサカはイバタに質問してみたり」
「最近、ねーちゃんがたくさん部活に来るんや」
「……そォみてェだな」
「そんで、すげー熱心に練習してくんだよ」

焦ってるみたいに。


「……」
「おい、もう戻れ。呼ンでるぞ」

ハっと振り向けば、仲間の部員が手を振っている。井畑は慌てて駆けて行った。
それで巻き起こった風が、人間二人とカッパ三匹の頬を撫でる。

「ミサカ達、もうすぐ……帰るの?ってミサカはミサカはズバリ訊いてみる」

ほんの少し前、『帰れるのかなぁ』と不安げにしていたではないか。名残惜しそうに眉を垂れる打ち止め。

そんな表情をしているのは、果たして自分のせいではないかと勘繰るのは、もはや少年の癖だ。


ここには彼の、罪がない。罰もない。
ここは『楽』だ。真の意味で『楽』だ。


(あまり俺を甘やかしてくれるなよ)

「黄泉川、芳川」
「ふぇ?」
「オマエといい勝負にうるせェ金髪のクソガキ。あとカブト虫。妹達も心配してンだろ?」
「うん」
「会いたくねェのか」
「そうだね、ってミサカはミサカは故郷を懐かしんでみる!」

(ふるさと、ねェ)


あそこでしか生きていかれないのは事実だ。
番外個体と打ち止めの体は、安定してきているとはいえ、特別な調整が欠かせない。

「ク〜ン」
「キュキュウ」

ふと気づくと、かぁたんとキューちゃんが一方通行の膝に縋って彼を見上げている。寂しそうな眼差しで。
かっくんは膝の上で両の拳を握りしめていた。

カッパはとても純粋で、人を愛し、人と共に在りたがる。優しい、いきもの。

「悪ィなァ……」
「クゥゥ……」

順番に頭を撫でた。きもち悪くならないように、そっと。


次回へ続く

初めて垣根(カブト虫)の名前を書いたら>>639だったのでちょっと驚いた


番外個体と打ち止めは、わたわたと慌てながらミサカネットワークで下位個体との通信をしている。
「えーと、えーと」「あー、今こっちは……」など、立て続けに質問に答えているようだ。

「あなた、今から10032号がヨミカワのマンションに行ってくれるって」
「あァ」
「心配、してるんだって、ってミサカはミサカは報告してみる」
「……そォかい」

灯りは点けずに、一方通行は縁側から外を見る。
雨戸は真冬か嵐でも来ないと閉めていない。夜空と色を分けている山の稜線。あの付近に『カッパの泉』がある。

カッパの傷や病を治すという神秘の泉。そして、『向こう』と『こちら』を結ぶ鍵だと思われる泉。
自分達がこっちに流されてきたらあそこの中だったし、かぁたんは水中で遠野に(誤って)踏まれたら行方不明になった。
そして学園都市にやってきたのだろう。

あの泉は怪しすぎる。


「今から、行く気?」

番外個体が背後に立つ。暗いから表情はよく見えない。
もぞもぞ布団を抜け出して、転びそうになりながら打ち止めも傍にくる。瞳が不安げに揺れているのは分かった。

「ネットワークはいいのか」
「あっちの学園都市は夕方なんだとさ。寝るから静かにしろって言ってみたけど」
「あんまり効果ないけどね、ってミサカはミサカは……くぁ、あくびをかみ殺して接続を終了してみたり」
「今晩は、……寝ろ。明日の朝、とりあえずあの泉に行ってみる」
「……それでいいの?」
「あァ」

悠長に構えていて、帰還のチャンスを逃してしまったら大事だ。
それなのに番外個体の問いかけをあっさり肯定し、一方通行はさっさと自分の布団に戻った。姉妹もそれに倣う。

彼がそう言うなら、たぶんそれでいい。


翌朝、まだ日も登りらない早朝。一方通行はひとり『カッパの泉』に来ていた。

空けていく空の下、泉の中心が揺らめいていた。

(アレに接触すりゃいいのか……?)

一歩近づき、水際に立つ。

ゴボリ。底から勢いよく湧きだしているかのように。

「——分かりやすいじゃねェか」

道は開かれているようだった。

「さて、なンて言うかねェ」


下り道の途中までだが、少年はわざわざ落ち葉を踏みしめた。
きっと、こんな自然の中を静かに歩くことは、今後そうそうない。


遠野家では、すでに朝食を作る気配と匂いがしていた。こっそり縁側から戻る。
おかしなことに、番外個体と打ち止めは起きて着替えているにもかかわらず、
まだ敷きっぱなしの布団の上で座り込んでいた。

「何してンだ、オマエら」

いつもなら呼ばれるまで寝て、着替えも後回しで朝飯にありついているのに。

「……」
「……なんて言うの?ってミサカはミサカは大きな難題に頭を抱えてみたり」
「あァ、それか」

ふいに、初めて遠野家を訪れた時のことを思い出す。
当時は『どうやって居座るか』で悩んだ。居候になるための言い訳を大急ぎで考えて……

「来る時も去る時も、どっちにしろ面倒臭ェ」

姉妹も同じ光景を思い出したようで、苦笑いを浮かべる。

「あの日は暑かったね。ミサカ、ワンピースなんて初めて着たもん」
「まだ九月だったからね、ってミサカはミサカはカレンダーを眺めてみる」

もう十一月になっていた。


いつものように寝坊していない子供達だったが、不審には思われなかった。
できるだけ、普段と同じ態度で朝ご飯を食べる。食べたそばから、番外個体は かぁたんを膝に抱えた。

「ン〜、ン〜」

まだ食べ足りないのに、と かぁたんがメーワクそうにフォークを伸ばした。

「こぉら、大人しくしてろって。もうオシマイなんだから」
「は?」

さて、片付けるか、と腰を上げようとしていた遠野母と坂本美沙子の動きが止まる。

「……」

一方通行は何も言わず、コーヒーが入ったカップを持っている。その様子を見て打ち止めが、

「ミサカ達、帰る……ことになりました、ってミサカはミサカはお知らせしてみたり。今日……だよね?」

隣の少年は、茶色の液体に白い髪を映しながら頷く。

いきなりすぎる、今日なんて。
顔色を変えて焦るのは遠野達で、

「帰りたくても帰れないって言ってたやんか」
「例の泉に『道』が出来てる。今朝、確認してきた」
「えぇ、えぇ〜! 私まだまだ あーくんのこと調べ足りないのに」
「そりゃ残念だったな」

遠野と坂本に、軽い調子で淡々と答える。ちょっと思い切って顔を上げれば、悲しそうな表情の遠野母と目が合った。

(昨日の今日で、そンな顔かよ)

「午後には出る。今まで世話になった」

たくさんの乙と感想をありがとうございます。感激だなぁ

あー書いてよかった

小ネタいきます


「学園都市は」

いつもぶっきらぼうな声だが、普段は無い冷たさが含まれていた。
俯く顔には白い髪が掛かって表情は見えない。遠野と母親は続く言葉を待つ。

「俺がいた街は、……分かるだろ? こンな能力を人工的に生み出す狂った世界だ。ロクな事にはならねェ」

一瞬緩んだ手が、小刀を握り直す。シュ、シュ、と削りカスが新聞紙に落ちていく。

なぜこんな事を言うのだ。おびえさせ、混乱させるだけなのに。

「納屋直すとか、野菜運ぶなンてのァままごと……、俺の本質じゃねェンだ。勘違いだ」
「っ、あ……!」
「——!」

一方通行の左手が一瞬首へ。次いで新聞紙の上にその手の平を置く。右手は小刀を持ったまま頭上へと。
少年は喋り続けたまま、握っていた右手が開かれた。

小刀は重力に従って落ちていく。

左手へ一直線の刃物に、遠野達が息を飲んだ。危ない、と叫ぶ間もなく、

「え!?」

信じられない光景。小刀が畳に転がった。一方通行の左手は無傷で。

「……銃弾も、鈍器も、こんなモンも全部弾き返す。俺の指一本で人は死ぬ」

「なにそれケンシロウみたい」

「身の程ってのが……、……誰だよケンシロウ、って」

え!? 知らないの? と呆れられた。遠野に呆れられるなんて、とても不本意な一方通行だった。


ケンシロウは、『○斗の拳』という漫画の主人公とのこと。
遠野は「知らねェ」とのたまう少年に説明をしてあげた。

『北○の拳』とは——

誰もが知ってる超有名な漫画で、アニメにもなったらしい。

一方通行が言ったように、指先ひとつで悪漢どもをダウンさせる世紀末のマッチョが、
ストイックに運命に立ち向かい、恋人や力ない人々を守るというハードボイルドストーリー。


「漫画あったよ〜。良かった、捨てられてなくて」
「あんたのモンは カータンが捨てさせてくれへんでな」

ダンボールに押し込まれた漫画の単行本。埃を払いながら遠野が第一巻を一方通行に手渡す。


「あァ、なンか見たことあるわ、この眉毛の絵」

一方通行の世界には、○斗の拳が存在しないのか、と危惧した遠野だったが、そうではないようなので一安心。

「なーんだ、あーくんが読んだことがないだけか」

そういえば三十年以上も先の未来の子なんだっけ、と遠野は頭を掻いた。
むしろ一方通行が見覚えある時点で、北斗○拳の偉大さを痛感する。

「あーくんにとっては古臭い漫画かもしれないけど、面白いからぜひ読んでみて」
「もう読んどるで」
「…………」


胡坐をかき直し、膝の上に漫画を抱え、一方通行は初めて体験する感動に圧倒されていた。


(かっけェェェェ……)


「あーくん? ちょっと?」
「夢中やなぁ……」


もう何も聞こえない。一方通行の意識は、黄ばんだ紙に釘付けだ。

世紀末は、ひでぶであべしでアタタタタだった。

ケンシロウは傷つきながら、残酷な運命に抗い戦う。
愛する恋人を取り戻すために。修羅に堕ちた兄のために。

(これも、ヒーロー……。最高だぜ……)

「あーくん、俺ら先に寝るよ?」
「お茶置いとくでね。夜更かしはほどほどにな」

遠野と母親は、少年らしく瞳をキラキラさせる一方通行を居間に残して去った。
これで外野に邪魔されることなく集中できる。いや、外野など最初から意識していなかった。

俺も、ケンシロウのように——

そんな憧れが胸中をよぎる。

(つーか俺、北斗神拳使えるンじゃね? 秘孔つけるンじゃね?)

なにせ自分はベクトル操作のレベル5だ。

(余裕、北斗神拳余裕)

筋肉無いけど。


破いた一張羅は誰が縫ってンだ? という疑問も湧かないほど、一方通行は漫画に熱中していた。

「あなた、あなた、ネットワークが繋がったよー!ってミサカはミサカは、いたいた」
「ちょっと! 漫画なんか読んでる場合じゃないって!」

打ち止めと番外個体が大慌てで居間に駆け込んできた。

彼女達はミサカネットワークの完全回復を受けて、
一刻も早く一方通行に報告をと、明かりの点いている居間にやってきた。
そうしたら、一方通行が漫画を積み上げるという珍しい所業に出くわしたのである。

しかも、ノロノロと向けられた彼の表情が怪しい。

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