財前時子「好きなものは……他人の涙かしら」 (37)

・・・
・・


P「ううむ……見てくれは素晴らしいのだがなぁ……他の子と上手くやっていけるのか、正直かなり不安だ」

P「おはようございま――」

シクシク

P「誰かのすすり泣く声が……」

ちひろ「……ぐっすん ひっぐ……ひどいよお」メソメソ

P「おn…ちひろさんが泣いている…だとッ?!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387645183

P「どうしたんですちひろさん!! いつもは悪魔とか鬼とか財布の破壊者とか言われているアナタが泣くだなんて!!」

ちひろ「……Pさんの言い方もひどくないですか? うわーん!!」

P「そんなことはどうでも良いんです! 何で泣いているんですか?」

ちひろ「ぐすん……時子さんが」

P「…!! あの女っ……マジでやりやがった!!」ギリッ

ちひろ「待って…違うのよPさん」

P「えっ?」

ちひろ「今朝の話なんですが」グスン

・・・

ちひろ『おはようございま――あれ、もう誰か来ているのかしら?』

時子『おはよう、ちひろ。貴方ってば朝からホント、御苦労様ねっ』バァーン

ちひろ『(うわあ…)そ、それはどうも』

ちひろ『あれ? 机が綺麗に整理整頓されている……?!』

時子『クックック…貴方ってアイドルやプロデューサーの管理をしている割には、自分に対しては疎かじゃなくて?
だから、私が身をもって、普段貴方がいかにズボラか…その机を以て教えてあげたのよ』ビシッ!!

ちひろ『!!!』ピシャアアアン

時子『アッハッハ……分かったでしょう、これに懲りて机の掃除くらい、自分でやることね!』

ちひろ『そ、そんな、私は』ガクッ

時子『いい?』スッ

ちひろ『!』

時子『他のボンクラ共は、長いこといる割には全く気付いていないようだけど、
この事務所の大部分は貴方なくしては成り立ってないようね。少なくとも……私は理解していてよ?』ボソッ

ちひろ『!!!!』

時子『長い付き合いになると思うけど、これからもよろしくね…それじゃ!』バタン

ちひろ『うっ…ううう…ときこさぁん』ポロポロ

・・・

ちひろ「私…最近、あんなに優しくされたこと…なかったから…うわあああん!!」

P「…」

P「…と、とりあえず…ちひろさん並みに早起きなんだな…うん、まだ判断には早い。

こうなったら他のアイドルの反応を聞いて、彼女の人間性を徹底的に見定めてやるぞっ」


メソメソ


P「ま、また誰かの泣く声が…こっちからか?」

若葉「ひっぐ…ぐすん…うぅう」

P「若葉ちゃ……日下部さん! どうしたんですか?!」

若葉「Pさんまた人の事をコドモ扱いして……うわああん」

P「俺の事はどうでも良いんです! それより、なぜ泣いているんですか?」


若葉「時子さんが…ううう」

P「!! またかあの女…よくも若葉ちゃんを!」グッ

若葉「待ってください、違うんです!」

P「えっ」

時子『あら、あなたは若葉ちゃんだったかしら?』

若葉『おはようございます、時子さん……でもこう見えても私、あなたと1歳しか違わないお姉さんなんですからね?』

時子『ハァ? ククッ…これはとんだ御笑い種ね! どこからどう見てもちんちくりんのコドモじゃない!』

若葉『!?』

・・・

P『おのれぇ財前時子め…何てことを言うんだ!!』

若葉『ちょっとPさんっ、まだ話には続きがあってですね…!』

時子『20の貴方と21の私じゃ大違いよ? それでなおもオトナぶろうとするのだから……本当に笑えるわねっ』

若葉『ううっ…ひどい…あんまりですよ時子さん……私は――』ポロポロ

時子『あのね若葉さん……大人ってのは、なろうとしてなれるものじゃないのよ?』

若葉『えっ』

時子『そういうのは言葉で伝えるものじゃなく、行動一つ一つで示していくものなの。
自分で言うから大人なんかじゃない……自分の行動を見た周りの人がそうだと認められての、大人なのよ?』

若葉『でも……私は』

時子『そうかしら? どうやら、アイドル活動をまじめにやっているだけじゃなく…聞くところによると、
事務所の他のお子様たちの面倒も見てやっているそうね。これは口だけのオトナには絶対に出来ないはずよ?』

若葉『!!』

時子『他の人が馬鹿にしようとも、私は貴方の持つ大人の魅力は知っているわ。さあ、もう涙をお拭き』スッ

若葉『と、ときこしゃあん…』

・・・

若葉「私…オトナって言われたの初めてかも…えっぐ…ぐすっ」

P「お…おう…」

P「うーん泣かせているには泣かせているのだがなあ」


グスン…ウウゥ


P「またか畜生…」

ありす「ひっぐ…ぐすん…めそめそ」

P「橘さん、なぜ泣いているんです?!」タタッ

ありす「ぐす…なんで敬語なんですか…名前で呼んでください」

P「呼び方は気にするな。それよりどうして泣いているんだ? 訳を聞かせてくれ」

ありす「時子さんが――」

P「時子が泣かせたのか? よしお仕置きしないとな――」

ありす「ち、ちがうんです。それが――」

ありす『さて……Pさんが来るまでの間、ネットサーフィンでも……あ、これはアイドルのSSをまとめているブログですね』

ありす『Pさんとアイドルのいちゃコメか…いいな…私もPさんと、こんな感じに仲良くなりたいかも』クスッ

ありす『あれ……何ですかこのコメント欄…私、こんなコメント…した覚えがない……』

ありす『ひ、ひどい…「タブレット割るぞ」とか「学校はどうした」とか…違います!! こんなの私じゃ…』ガタガタ

ありす『違う…私、こんなコメントしないもん…』


時子『あら、確か貴方は橘ありす、かしら? 気丈な娘と聞いてたけど…クク、何だ…ただの泣き虫じゃない? 所詮はコドモね』

ありす『ううっ…貴方に何が分かるっていうんです!』

時子『分からないわよ、お子ちゃまの頭の中なんか』スッ

ありす『あっ、私の…返してください!! 返して!! 返してよお……』ポロポロ


時子『ふーん、成程ね』ジーッ

ありす『ひどい…Pさんは何でこんな人をスカウトなんか』

時子『そうね、確かに私はひどい人かも。でも、世の中には、もっと酷い人がいて、それが現にあなたを苦しめてるのよ』

ありす『何が言いたいんですか』グス

時子『いい、この手の悪意は大抵嫉妬の現れよ。
そんなちっぽけな画面を眺めてばっかりで悲しんでなんかいないで、むしろ羨ましがられている事を大いに誇りなさい』

ありす『!』

時子『それに貴方の欲しがっているものは実際に近くにあるんだから……他の目や意見なんて気にせずただ頑張ればいいのよ』

ありす『と、ときこさぁん私……』

時子『さあ、これで涙をお拭き。あなたのストイックさは、大人のアイドル顔負けなんだから』ニコリ

ありす『うわあああん!!!』

・・・

ありす「Pさん、わたし…がんばりまずがら…」ズズッ

P「そ、そうか…応援してるよ」

P「明らかに口の利き方が悪いんだけどな……」

グスン…ヒッグ

P「これで結論出るだろうか」

千早「ううっ……裏切られた……」メソメソ

P「7n…765プロの如月千早さんじゃないですか……どうしてあなたのような方がウチに?」

千早「年末のご挨拶に各所へ……こちらのプロダクションには私が…だったんですが……
財前時子……あれは一体何者なんですか……! ううぅ」

P「(Coolアイドルの代名詞である千早さんまで泣かせるとは…)すみません、時子にはキツく言っておきますから」

千早「まっ、待ってください! 彼女は何も悪くないんですっ!!」バッ

P「えっ」

千早『(あれは…今度入ったという新人アイドルでしょうか。
 ファイルを睨んで…何だか少し、近寄りがたい空気を発していますね)』

時子『(及川雫に向井拓海……105は別格としても、次も95……)』ピラッ

時子『(私は……)ちっ』

時子『…あーあ、まったく…脳に行く栄養が胸に行ってる奴は絶滅すればいいのよ、本当にっ』ムスッ

千早『!!』

千早『ど、同感ですね!』ツカツカ

時子『わっ?! あなた…765プロの如月千早さん? どうしてここに……』

千早『年末のご挨拶ですよ。それよりも貴方のお名前は?』ツカツカ

時子『(ち、近い…)財前時子、最近うちのプロデューサーから誘われて来たの』

千早『時子さんと言うのですね。何だか私、貴方となら友達になれそうな――』ムニュッ

千早『?!』

時子『ん?』

千早『…あ……そんな……この感触……開きにして"11"…も…ですって?!』ガクガク

時子『ちょ、ちょっと貴方、大丈夫なの?!』

千早『だ、大丈夫です……何でもありません…』ポロポロ

・・・

千早「…信じていたのに……!」ウルウル

P「と、とりあえず765の担当プロデューサー呼んでおこう」ピポパポ

――その後も、時子によって泣かされたアイドルは続出した。


杉坂海「ううっ…」グス

P「ど、どうしたんだ杉坂? 抱きしめてるの…次のライブのゴスロリの衣装だよな……まさかお前も時子に」

海「……『こんな可愛い衣装、ガサツな貴方にはまったく考えられないわね』だって」グスン

P「と、時子め…」

海「…『だからこそのギャップで男どものハートをがっちり鷲掴みね』って。
『それでいて普段から家庭的なんだから、もっと自信持てばいい』って」ポロポロ

P「そうか…うん…俺もそう思うよ」

海「!! Pさあん!!」ダキッ

P「うおっ」


・・・


今井加奈「うえーん…」

P「どうしたんだ加奈……その飲み物が沢山入った買い物袋…まさかまたパsr おつかいだったのか?!」

加奈「違いますよプロデューサー! 確かに買い物は任されましたけど、何を買って来たら良いか忘れて…
全部買おうとしたら、偶然時子さんに会って『メモくらいしなさいよ、おつかいもロクに出来ないなんて、おバカね』って言われて」グスン

P「それでそれで?」

加奈「なんだかんだ言って買ったモノの大半を事務所まで一緒に持ってきてくれたんですぅ! わけがわからないですよー!!」アーン

P「よかったなァ(コレうれし涙じゃなく、前半で罵られたからだな)」ナデナデ


・・・


大沼くるみ「ううぅ…栄養が頭にいかないのがいけないんだもん…ぐすっ」

P「お、大沼…まさか時子に言われたんじゃないだろうな」

くるみ「うう…『脳に行く栄養が胸に行ってる奴は絶滅すればいいのよ、本当に』って」グシュ

P「これは駄目だわ。おい時子ォ!!!」



P「まったく……泣かせる分には(一部を除いて)そこまで問題ないが、あんまり騒がしいのは勘弁してくれよ?」

時子「ふん…『事務所の先輩アイドル達とコミュニケーションをとれ』
 と命令したのは貴方じゃない。あんなの渋々従っているだけよ」ツーン

P「あれは命令じゃなくってな……っていうか結構楽しんでないかお前?」

時子「どうかしら? ほら、無駄な言葉を垂れ流さないで、とっとと小用を済ます! あんまりトロトロしてるとお仕置きだからね?」

P「はーいはい…ったく」ガララ


凛「いらっしゃいま――プロデューサー!?」ビクッ

P「よっ…凛! オフでも顔を合わせちまって御免な。店の手伝いか?」

凛「そうだけど……来るのなら、予め連絡くらい…」

時子「あら、貴方だったらいくらめかし込んでも無駄よ?」フン

凛「ざ、財前さん?!」キッ

P「おいおい時子……」


時子「元の素材が良いんだから。これ以上の化粧なんてむしろアウト。
せっかくの…それ単体で美味しさが成り立っていた料理に、まるでマヨネーズをぶちまけるが如き所業よ」

凛「…くっ、そんな褒められたって……っていうか、何で時子さんはプロデューサーと腕組んでるんですかっ?!」

P「! あ、そういえば…」

時子「下僕だからよ。それ以上、それ以下でもない…クックック…」ギュッ

P「まあ凛……時子の事は許してやってくれ、それよりも…この予算内で花束を見繕ってくれないか? 用途はこういう…」

凛「ふぅん、結婚式…ね。プロデューサーの知り合いの?」

P「ああ。昔のプロデューサー仲間だったが、何と結婚相手は担当アイドルなんだよ――しかも年下の、な」

凛「年下か…ねえ、プロデューサーは年下とか……」


P「ん? 俺は……たぶんないかなぁー。今は仕事とかあるし、何より年の違いは価値観の違いとか、色々ねぇ」

凛「う…」

時子「…」ギュムッ

P「アオウッ?!!」

凛「!」


P「と、とと時子ォ!! 何でお前急につねったりするんだよッ」

時子「ふん、デリカシーに欠ける下僕に罰を与えただけよ。決して理不尽ではないわ」プイッ

P「な、なんでェ…?」

凛「(時子さん…!)」

凛「これとこれで……あとコレ、赤い薔薇の花もどうかな」

P「おお、良いアクセントになりそうだな…だったらちょっと奮発して」

時子「きゃあっ?!」

凛「!?」

P「どうした時子!」

時子「私のカバンが……アイツに!!」ガクガク

P「!?」


男「へへっちょろいぜ……」タタッ

P「や、野郎~ッ……待ちやがれっ!!!」ダダッ

時子「ちょっと、えっ?! プロデューサー!?」

凛「わ、私警察を呼びますっ」ガチャ

男「くっ……しつこい奴だ!!」

P「野郎の尻を追いかけるのは趣味じゃないが……脚に自信はあるんでねっ!!」ダダダ

P「オリャッ!!」ガシッ

男「うおっ?!」ドサァ

P「観念しろ…」

男「ぐうぅ…」ピクピク

P「ったーく、手間取らせちまって……こいつは返してもらうぞ?」


P「あーあ…すっかり埃だらけ。これは時子の性格からして弁償ものだなぁ…」ポンポン

時子「プロデューサー!」タタタ

P「お、時子…良かった、と言いたいところだけど……言いにくいんだが」

時子「!? ぷ、プロデューサー後ろッ!!」

P「えっ――」


グサッ

時子「きゃあああああ!!」

P「うっ…?!」ドサッ

男「ちっ……見られたか。まあ、このくらいにしといてやるよ」ダダッ


時子「プロデューサー!?」タッ

P「…な、なんじゃこりゃあ…俺の腹に…包丁が」ガクガク

時子「ふざけてる場合?! きゅ、救急車を」

P「と、時子……すまない、大事なバッグ……泥まみれにしちまった」

時子「馬鹿そんなのどうだって良いのよ?! それより貴方の方が……」

P「…そうか…短い間だったが…今までありがとうな……アイドル達と…それと最後に……俺の事、気遣ってくれて」

時子「えっ…嘘…何冗談言っているのよ? ふざけないでよ……!」

P「……あとついでに…たぶん大沼に罪はない…許してやってほしい」ガクンッ

時子「あっ……」


P「…」

時子「ねえ……ジョークにしては質が悪すぎる…お願い……返事してよ、
いつもみたいに、さっきまでみたいに『時子ォ!!』って呼んでよプロデューサー!」ジワ…

P「…」

時子「プロデューサーの馬鹿…ううう……ああああ…」ボロボロ

・・・
・・

二時間後

パチパチ
「それでは新郎の友人から言葉を――」

「えー僭越ながら挨拶を――昔彼はそっちに座っている友人と●●を取り合った仲で…」



P「なぁ時子……代わりのバッグなら幾らでも買ってやるから、機嫌直してくれよ?」ヒソヒソ

時子「――うるさい。スピーチが聞こえないでしょ?」

時子「本当に貴方って質が悪いわ。本気で死んだと思ったじゃない…」ギリッ

P「いや……まさかありすから没収していたタブレットに助けられるとはね、俺も予想すら……」



時子「お黙り。そういうことじゃないのよ……

 少しでも貴方の為に涙を見せた私が許せないの、何より私を泣かせた貴方が…」ズイッ


P「ななな、何を……」

時子「…私の涙……これを見た罪は重いわ……」ジー


時子「こうなったら貴方には、一生私の下僕として付き合ってもらうから……ね?」




お し ま い

その三時間くらい後

P「…」

ありす「…」

タブレット「」

P「……す、すいませんでしたァ!!」ズサァ

ありす「…ま、まあ良いでしょう。タブレットもタブレット、Pさんの命には変えられないですし…」クルッ

P「た、橘さぁんっ…!」ジ~ン

ありす「名字で呼ばないでください、もうっ…」

P「(し、しかしあっさり許してくれたなあ……?)」

ありす「(あの中にPさんとのいちゃコメを書いたSSのデータが入っていたなんて、言えないし…)」カアァ



 ちなみに、かの逃走中のひったくり男だが…
その後、千k何かの逆鱗に触れたかのように姿を消し、以後二度と人々の前に現れる事はなかったという。

<今度こそおしまい>

訂正
>>2
×:いつもは悪魔とか鬼とか
○:いつもは鬼とか悪魔とか

>>12
×:この手の悪意は大抵嫉妬の現れよ
○:この手の悪意は大抵嫉妬の表れよ

>>22
×:何で時子さんはプロデューサーと腕組んでるんですかっ
○:何で財前さんはプロデューサーと腕組んでるんですかっ

短い話を勢いだけで書いてしまいましたが、お付き合いいただき有難うございます。

HTML化も依頼しておきますね。

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