苗木「僕は君に恋をした」 (355)

あらゆる分野において超高校級の才能を持つ者しか入学する事の許されない、私立希望ヶ峰学園。

そんなエリート中のエリート高校に、何の才能も持たないボク――苗木誠が入れたのは本当に、本当に幸運な事だった。

一応名義上は超高校級の幸運という事になってはいるけれど、自分がそう呼ばれる程幸運だと思った事は無いに等しい。

それにその超高校級の幸運も、希望ヶ峰学園に入学出来た事で尽きたと思っている。

これから一体どんな不幸が代償として待ち受けているのか……なんてマイナス思考は流石に無いけれど。

前向きなのが唯一の取り柄だと自負している位には、ボクはプラス思考な人物だと思っている。

でも、けれども、実際は、現実は。

幸運の代償は、存在したんだ。

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希望ヶ峰学園に足を踏み入れた瞬間、唐突な目眩がボクを襲う。

とても立ってはいられない程に視界が揺らいで、意識が段々と霞んでいく。

そして気付いた時には、ボクは不気味な教室の中で眠っていた。

「ここ、は……」

依然として安定しない景色に吐き気を感じながらも、ボクは重い身体を起こす。

希望ヶ峰学園の玄関に足を踏み入れた所までは覚えている。だけど、そこから先が全然だ。

ここが何処なのか、どの位時間が経ったのか、自分の身に何が起きたのかすら記憶に無い。

「よかったぁ、やっと起きてくれた」

思考に耽っていると、唐突にそんな声が聞こえてきた。ボクはその声の主を探して、寝ぼけ眼で辺りを見回す。

窓に打ち付けられた鉄板や監視カメラが一瞬目に入ってきたが、それらを疑問に思う前に、ボクは彼女の姿を捉えた。

「気分悪そうにしてたけど……平気?」

一目見た瞬間に、ボクの視線は茶色の髪の少女に釘付けになる。

その可愛らしい目に、柔らかそうな唇に、小動物を思わせる仕草に視線を根こそぎ奪われる。

「……?」

余りにもじっと眺め過ぎたのだろう、ボクの視線を不思議に思ったのか、彼女は首を傾げた。

その仕草にすら心を奪われそうになり、ボクは慌てて視線を下へ向ける。しかし今度は、彼女の服装に視線が釘付けになってしまう。

露出の一切無い清潔感のある深緑色の服装と、パラソルみたいに広がった焦茶色のパンプキンスカート。

決して派手では無いけれど、彼女の魅力を引き出すようなその服装が、仕草の愛らしさに拍車をかけていた。

ちょっと期待してたのにホモスレかよ

「えっと、その……ごめんなさい……」

突然、彼女はボクに頭を下げた。

目には涙を浮かべて、ボクに対して怯えを含んだ表情で謝ってくる。

「何か、怒らせるような事したかなって……ずっと見てるから……」

「え!? いや、そんな事は無いよ! 怒ってない怒ってない!」

「そう、なの……えへへ、よかったぁ」

どうやらじっと見過ぎた所為で変な誤解を生んだらしい。予想外過ぎてボクは素っ頓狂な声を出してしまった。

ボクは動揺を誤魔化すように、極力冷静を装って彼女に名前を聞いた。

「えっと……キミの名前は?」

「どうも、始めまして。不二咲千尋ですぅ」

「不二咲、千尋……」

ボクはその名前に、心当たりがあった。

テレビに出るような有名人では無いものの、彼女についてある程度知識を持っていた。

そのほとんどの情報源が2chの希望ヶ峰学園スレから得た知識なので、信憑性が高いのかは分からないけれど。

彼女は、数々の革新的なプログラムを作った実績のある超高校級のプログラマー。

そのプログラムスキルを応用してデータ解析なども行えるため、転じて超高校級のハッカーとも呼ばれている。

容姿は高校生なのに小学生と間違われる程小柄で、更にその雰囲気も相まってか、一部には熱狂的なファンが存在するらしい。

その一部の熱狂的なファンから、彼女は超高校級の天使、または超高校級の小動物と呼ばれる事もあるそうだ。

残念ながらボクはスレに貼られた写真が見れなかったのだけれど、こうして本人を見てみると確かに可愛らしい女の子だ。

熱狂的なファンが存在するのも、超高校級の天使、小動物の愛称も納得というものだ。

「君は何て名前なの?」

不二咲さんはボクに自己紹介を促す。

「ぼ、ボクは苗木誠……です」

たかが自己紹介だけだというのに、必要以上に緊張してしまった所為で若干声が裏返ってしまった。

これは恥ずかしい……穴があるなら入りたいとはまさにこの事を指す言葉だろう。

「えへへ、よろしくね」

ボクの内心を知ってか知らずか、不二咲さんは微笑みながらそう返した。

挙動の一つ一つがボクの冷静さを消していくけれど、そろそろボクの頭にも周囲を見る余裕位は生まれている。

「えっと、ここは……希望ヶ峰学園、なのかな?」

そう、今自分が置かれている現状についてだ。

ボクの知る限りでは少なくとも希望ヶ峰学園の窓にはこんな鉄板は貼り付けられてなかったし、普通の教室に監視カメラなんて存在しなかった筈だ。

もしそんな特徴的な設備であったなら、希望ヶ峰学園スレで話題になっていない訳がない。

「えっと、その……うぅ、ごめんなさい……」

不二咲さんはまた、俯いて謝罪した。

「それが僕にも分からないんだぁ……」

「そうなんだ……いや、不二咲さんが謝る事じゃないよ」

超高校級の人物がいる時点でここが希望ヶ峰学園、或いはそれに類する何かの場所だとは思うのだけれど……。

駄目だ、この場所じゃいくら考えても答えは出てこない。一度外に出る必要がありそうだ。

「……あれ?」

ふと、不二咲さんが呟く。何か気付いた事があるのかと、ボクは尋ねた。

「苗木君って……何処かで会った事無いかな?」

「いや、初めての筈だよ」

「ふーん……」

依然として小首を傾げる不二咲さん。

普通に考えて、他人の空似だと思うんだけどなぁ……。

仮に会った事があったとしても、ボクがそれを忘れる訳が無い。

ボクだって男だ、こんな可愛い女の子に会ったなら覚えているに決まっている。

そんな雑談を切り上げて、ボクと不二咲さんは教室を出て辺りを探索を始めた。

購買部や視聴覚室等の看板がある所から考える限り、ここが希望ヶ峰学園なのは十中八九間違いないだろう。

「希望ヶ峰学園ってこんな牢獄みたいな雰囲気の学校だったっけ……」

「苗木君は希望ヶ峰学園について詳しいんだね」

「ん? あぁ、入学が決まってから急いで調べてたから……まぁ、多少はね?」

その調べたって言っても、2chスレを流し読みしただけだが。

だけど、それにしたってここは異質過ぎるんだ。

ここが本当の希望ヶ峰学園じゃなくて、それっぽい場所だとしても。

「……あ、希望ヶ峰学園と言えばさ」

「何かな」

「苗木君はどういう才能を持ってるの?」

「あー……ボクのは才能っていうか、その……」

思わず言葉が詰まる。

負い目がある訳じゃないけど、幸運なんて堂々と胸を張って言える才能じゃない。

いや、正直負い目は多少なりともあるし幸運が才能とも思ってないし。

それでも答えない訳にはいかないので、ボクは渋々と正直に答えた。

「幸運、らしいんだ……」

「へぇ~、何だかかっこいいね!」

まるで穢れを知らないと言わんばかりに目を輝かせて、不二咲さんはボクに質問を続ける。

他の超高校級の生徒からしてみれば、ボクはただの抽選で入った一般人。

血の滲む努力をした人、文字通り才能に愛された人からすれば僕を好いてくれるとは思えない。

才能も無く、努力をした訳じゃない、たった一回の抽選で選ばれたボクを。

むしろ幸運だなんて冗談にしても笑えないと思ってる人の方が多いんじゃないだろうか。

……ちょっとマイナス思考が過ぎる気もするけど、やっぱりボクは幸運じゃなくて不運なんじゃ?

段々持ち前の長所が消えそうな気がしてきた。

わた霧切さんに苗木くんが恋をするSSかと思ったのにガッカリだわ

ちーたんはやはりヒロインでこそ輝く

「その幸運って、どんな才能なの?」

不二咲さんは興味津々に聞いてくる。

そんな目で見つめられると、期待を裏切れないじゃないか。

どう答えたものかと考えていたその時。


キーン、コーン……カーン、コーン……


突如、学校らしきチャイムが鳴った。

正直言って助かったと思ったのもつかの間。

『あー、あー……! マイクテスッ、マイクテスッ! 校内放送、校内放送……!』

全身に、鳥肌が立った。

『大丈夫? 聞こえてるよね? えーっ、ではでは……』

聞こえてくるのは、場違いな程に能天気で明るい声。

まるで某国民的に愛されている超有名キャラのような、特徴的な声だというのに。

『えー、新入生の皆さん……今から、入学式を執り行いたいと思いますので……』

ボクはその声に、強烈な悪意を感じた。

『至急、体育館までお集まりくださ~い』

例えるなら、事故現場で鳴り響く笑い声のように、思わず眉をしかめたくなるような不快感……。

この状況が理解出来ている訳でもないけれど、本能がこの声を聞けば不幸になると警鐘を鳴らす程の嫌悪感……。

それこそ子供の中の残酷な側面のような、純粋な狂気をボクは感じた。

『……って事で、ヨロシク!』

念を押すような台詞と共に、校内放送が途切れる。

今まで全然気付かなかったが、全身から嫌な汗が流れていた。

「今のって……」

不二咲さんも怯えて、ボクの手を掴んでこちらを見る。

「体育館、だよね……」

再確認するように、ボクは呟いた。

正直、ボクは行きたくない。

何か危険じゃ済まないような――あえて形容するなら、絶望が待っているような気がするからだ。

だけど、進まない事には自分の身に何が起こっているのかは分からないだろう。

嫌だろうが怖かろうが、今は進むしかない。

「――行こうか」

自分に言い聞かせるように、ボクは不二咲さんに手を差し伸べる。

「……うん」

不二咲さんは震えている小さな手を、ボクの手の平に乗せた。

>>7霧切さんは虫眼鏡でも見ていてください。
それよりもわた舞園ちゃんという可愛い子に苗木君が恋するssかと思ったのに・・・残念です

やっぱりホモじゃないか(憤怒)

これはムゴイ......
しかし、作者の発想は素晴らしいと思う
がんばれ

ホモだけど地の文の力でキレイなホモに昇華されている

体育館に辿り着くと、ボク達とは別に13人の高校生が集まっていた。

何故高校生かと分かったかと言うと、何人か顔を知っている超高校級の生徒が居たからだ。

超高校級の野球選手、超高校級のギャル、そして超高校級のアイドル……。

そんな彼等が、超高校級の才能を持つ高校生が今、一堂に会している。

状況が状況だけれど、その光景は圧巻と言えるものだった。

だが、感慨を覚えている暇は無い。

気持ちを切り替えて、誰かこの状況について詳しく理解している人はいないかと聞こうとした。

「オーイ、全員集まった~!? それじゃあ、そろそろ始めよっか!」

だが、それは例の声に阻まれる。

それを合図に、この場にいる全員が声の聞こえる方向――体育館のステージ上を見た。

体育館が緊張した空気に包まれていく。

一体誰が出てくる? 覆面を被った銃を持った男か? 希望ヶ峰学園の関係者か?

ボクが様々な予想を張り巡らせている中、それは姿を表した。

「え……ヌイグルミ?」

不二咲さんがそう呟いた。

そう、出てきたのはヌイグルミだった。

予測不能、常識の一切通じない、予想の斜め上を遥か彼方へ突き抜けていく登場人物にボク達は全員呆気に取られてしまった。

しかし、ただのヌイグルミじゃない事は次の瞬間で理解出来る。

「ヌイグルミじゃないよ」

近くにいたボクでもかろうじて聞こえた位の小声だったが、不気味な熊のヌイグルミはそれを聞き逃さずに律儀にも質問に答えた。

その事実が、初めて声を聞いた時のような得体の知れない恐ろしさを改めてボクに感じさせる。

「ボクはモノクマだよ」

片や白色の可愛らしい、一般的な白熊のヌイグルミのような顔。

片や黒色の禍々しい、不気味なデザインの赤色に光る目をした顔。

正中線を境にその正反対のヌイグルミが合体したかのようなデザインのヌイグルミ――モノクマは、自らをこう評した。

「キミ達の、この学園の、学園長なのだ!」

余りにも明るい声、余りにも能天気な振る舞い。

どれを取っても場違いなそのヌイグルミの出現に、全員が驚愕する。

「な、なんなのぉおおおおおお!?」

「ウワァアアアアアアシャベッタァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

当然、声に出して驚く人もいた。

だって当然だ、何せヌイグルミが動いて喋っているんだから。

ボクはと言うと……驚き過ぎて声すら出せなかった。

「お、落ち着くんだ!」

白い学生服の人が、冷静を装ってそう告げる。

「どうせラジコンか何かだ。ヌイグルミの中にスピーカーが仕込んであるだけだろう……!」

実際、オカルトめいた事を言わないだけ冷静に現実を見れているのかもしれない。

「だからさぁ、ヌイグルミじゃなくて……モノクマなんですけど! しかも、学園長なんですけど!」

しかし、モノクマはおどけた口調で否定した。

「ボクにはNASAも真っ青の遠隔操作システムが搭載されてて……って何言わせるクマ!」

コミカルに動くモノクマは、機械で動くそれとは到底思えないけれど。

だったら尚更、ラジコンよりも厄介な存在だろう。

「ていうか、そろそろ時間も押してるから始めたいんですけど!」

雑談に飽きたモノクマが、呆れた表情でそう告げる。

そうだ、ボク達だってダラダラと喋る為にここにいるんじゃない。

いい加減、ここに呼び出された理由を聞かなければならないんだ。

ここが何処なのか、自分の身に何があったのか知る為にもボクは情報が欲しかった。

「えー、単刀直入に言います」

シリアスに成りきれない声でモノクマは。

「キミ達には、ここでコロシアイをしてもらいます!」

ボク達に絶望を与えた。

コロシアイ?

言ってる意味が分からない。

誰と誰がだ?

まさか、ボク達がか?

「とは言っても強制じゃないよ。むしろ希望ヶ峰学園に永住出来るなんて幸運なんじゃない?」

ただでさえ混乱しているのに、モノクマは訳の分からない事を繰り返す。

今度はここに永住と来たもんだ。

それも、ボク達がか?

「ま、どうしても永住が嫌な人は誰でもいいから殺して『卒業』すればいいんだよ!」

ここに永住したら、どうなる?

まず、家族には会えないだろう。父さんにも母さんにも、こまるにも。

「詳しくは電子生徒手帳の校則を確認してね!」

ならモノクマの言う通りコロシアイをすれば?

考えられない。自分が誰かを殺すなんて……想像すら出来ない。

「本当はもうちょい説明したいんだけど、何処かの誰かさん二人が遅れてきたから、巻き進行しなきゃなんだよね」

モノクマはボクと不二咲さんを交互に見る。

ギラリと光る赤い左目に見つめられると、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。

「まぁ愚痴はいいや、それじゃあ清く健全なコロシアイ学園生活を!」

不気味な笑い声だけを残して、モノクマは消えていった……。

モノクマが消えてから、しばらくは全員動けなかった。

現状に対して怯える人、冷静に物事を見る人、むしろ楽しそうな人と様々だったが、誰もが動こうとしなかった。

超高校級の風紀委員である、石丸清多夏クンが探索を始めてから考えようと提案した事でその場は落ち着いた。

校則を確認し、校舎や寄宿舎を練り歩き、その成果を全員で情報を共有する為に食堂で会議。

結果だけを言えば、ここが完全に封鎖された希望ヶ峰学園だという事しか分からなかった。

様子を見る限りじゃ、外に出たい人はほぼ全員。

そしてその中で誰かを殺そうかと考えている人は……残念ながら、自分の観察眼だけじゃ分からなかった。

それでも、皆が疑心暗鬼になって空気が段々と悪くなっているのは分かる。

どうしたものかと考えていると、誰かが切り出した。

「それで、これからどうする気?」

声の主は、霧切響子。

唯一探索中に自己紹介をしていないのでどんな人かは分からないが、見た限り冷静な性格のようだ。

それはこの重い空気の中でも変わらず、彼女は言葉を続ける。

「このまま……ずっと、にらめっこしている気?」

棘のある台詞だけれど、その棘はボク達を現実に戻してくれた。

「えっと……じゃあさ、一つ提案したい事があるんだけれど……」

ボクは自分の電子生徒手帳を取り出し、二つ目の校則の表示する。

「この夜時間の事なんだけどさ……この時間は皆出歩き禁止にしない?」

「はて、一体何故でしょうか?」

超高校級の同人作家、山田一二三クンが頭に疑問符を浮かべる。

その事に関してボクの考えを説明しようとした所で、思わぬ手助けが現れた。

「夜時間の出歩きを許してしまえば、わたくし達は毎晩怯えながら眠る事になりますわよ?」

発言をしたのは超高校級のギャンブラーであるセレスティア・ルーデンベルク――通称セレスさん。

「誰かが自分を殺しにくるんじゃないか、と……」

何を考えているか普通の人以上に分かりにくい人だが、どうやら彼女もボクとほとんど同じ考えを持っていたようだ。

「誰かが殺しを企むなんて、そんな事は無いとは思いたいけど……それでも、全く疑わないのは危険だと思うんだ」

「うむ、実にいい心がけだ!」

ボクの発言に、石丸クンが同調してくれた。

「寝不足は肌の敵だし、あたしは賛成」

「オレも賛成だぜ」

「我も賛成だ……」

皆も、次々に賛成してくれる。

「では、今日の会議はここまでとする! 以後の活動は校則を守り、明日に備えるとしよう!」

石丸クンの号令を最後に、ボク達は全員食堂を後にした。

この苗木なんJ民だろ

寄宿舎には、各個人の為の部屋がある。

超高校級の格闘家、大神さくらさんによればここは完全防音らしい。

聴いた瞬間は騒音で寝れないなんて事は無いと安心していたが、普通に考えれば殺しの舞台としてそうなっているだけだった。

その証拠かどうかは微妙なラインだが、個室にも監視カメラが設置されている。

モノクマの立場から考えれば、折角殺人が起きようとしているのに音の所為で誰かでバレて止められるのは面白くないって事だろう。

「……あれ」

モノクマの所為で汗をかいたし、気分をリフレッシュさせる為にもシャワーを浴びようとする。

だが、部屋のシャワールームのドアノブに手をかけた所で異変に気付いた。

「くっ、この……駄目だ、ビクともしない」

シャワールームが、開かないのだ。

おかしいな、シャワールームに鍵があるのは女子の部屋だけだった筈なんだけど。

「……仕方ない」

凄く、物凄く気が進まないけれど。

ボクは監視カメラの方を向いて奴を呼んだ。

「モノクマ! 見てるんだろ!」

「はいはい呼んだぁ?」

呼んだ瞬間に足元から声が聞こえる。

見れば、いつの間にかモノクマがそこにいた。

……なんか、何でもあり過ぎて突っ込む気力すら失せてしまった。

「モノクマ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「おやおや奇遇だね、ボクもシャワールームの事で言う事があったんだよ!」

シャワールームの事で、という事はボクの行動を見ていたのだろう。

「実は、キミの部屋のシャワールームだけ、ドアの建付けが悪いのです!」

「……は? 建付け?」

「そういう訳で、開けるにはちょっとしたと、コツがいるんだよね」

モノクマはそう言うと、僕に向かって何かのジェスチャーをする。

どうやら持ち上げろという意味らしい。

気が進まなかったけれど、ボクはモノクマを持ち上げる。

……やっぱり機械仕掛けだけあって、相当重いな。

「ここをこうして……苗木クンちょい右、そう右。はい、ここで真っ直ぐ」

モノクマはボクに指示を飛ばしながら、シャワールームのドアを開けるコツを教えてくれた。

それにしても建付けが悪いって……しかもボクだけって、肩書き的に嫌な気持ちだなぁ……。

「うぷぷ、超高校級の幸運なのにツイてないね!」

モノクマが的確にボクの心を抉りにくる。

言われなくたって分かっているっての……!

「じゃあ、ボクは唐突な感じで帰るねッ!」

ドアを開けたモノクマはボクの腕から飛び降り、そのまま部屋から出て行った。

やっぱりと言うか、ちょっと話すだけでも嫌な気分になるなぁ。

「……さっさとシャワーを浴びるか」


キーン、コーン……カーン、コーン……


『えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより夜時間になります』

……え?

『ではでは、いい夢を。お休みなさい……』

……どうやらシャワーに入れなくなってしまった様なので、ボクは不貞寝をした。

>>6
本編でも何処かで会ってない?って言ってたっけかちーたん



「不二咲――、本当にいいの?」


「うん……僕の方こそ、いい――なって」


「不二咲――が……不二咲――じゃなきゃ、嫌――だ」


「……えへへ、ありが――」


「――てるよ、千尋」


「僕もだよ、誠君」

『オマエラ、おはようございます! 朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!』

「………………」

翌日。

ボクはモノクマの校内放送に起こされ、目が覚めた。

「……何て恥ずかしい夢を見てるんだよ。ボクは」

寝起きの頭に羞恥心がグルグル回る。

放課後、誰も居ない教室で二人きりなんてシチュエーション。

そこで二人は幸せなキスをして終了。

常時脳内ピンク色なのは男子高校生として正常だと自分に言い聞かせていても、これは余りにも恥ずかしい。

しかもお互いの名前を呼び合うだなんて、自分の夢ながらベタも程々にしろよと。

「……シャワーを浴びておこうか」

冷水を被って気持ちを切り替えよう。昨日浴びれなかった所為で若干汗臭いし。

それが終わったら、さっさと部屋から出てしまおう。

「探索をサボってるって言われないように、さっさと浴びるか」

……と、ボクが言ったその直後だった。


ピンポーン……


部屋に、来客のインターホンが鳴り響いた。

誰だか知らないが昨日のモノクマに続いて、そんなにボクのシャワーを邪魔したいのか。

若干の苛立ちを込めて、ボクはドアを開く。

「グッモーニンッだぞ、苗木君!」

現れたのは、石丸クンだった。

「では、お邪魔するぞ!」

ボクの返答も待たず、石丸クンはずかずかと部屋に入ってきた。

わざわざ部屋に入るなんて何かあったのだろうか。

この様子じゃ緊急という訳じゃ無さそうだけれど……。

「――でるよ、千尋」に見えた。

「こんな朝早くにどうしたの? 石丸クン」

「いくら荒波に揉まれようとも、両足をしっかりと着いていれば倒れる事は無い……君もそう思うだろう?」

前置きが長い、というか鬱陶しい。早く本題に入って欲しい。

「一人で荒波を持ち堪えるのが困難なら、互いに支え合えば良い。そうやって嵐を乗り越えるのだッ!」

「頭に響くから大声出さないで。それで何が言いたいの?」

余りの鬱陶しさについ口に出してしまった。

だってこの人某テニスプレイヤーみたいなんだもん。

「し、失礼した…・・・苗木君、ボクは昨日からずっと考えていたんだ。僕達はもっと固く協力し合うべきだってね」

「それは……うん、そうだね」

昨日ボクは疑わないのは危険と言ったけれど、同じように疑い過ぎるのも良くないとも思う。

何事にも、バランスが存在するんだ。

「そこでだ……これから毎日、起床時間後に皆で朝食を共にしようと思う」

「それはいいね。うん、それに賛成だよ」

全員が揃う機会があれば、もし何かあった時にすぐに気付ける筈。

親交を深めるのも大事だけれど、そうじゃなくても朝食会にはそういうメリットがある。

「そして今日をその記念すべき最初の日にするのだッ! だから、すぐに食堂に集まってくれたまえ!」

「うん、ボクもシャワーを浴びたらすぐに行くよ」

「では僕はこれで失礼するぞ! 他の皆にも知らせて回らねばならないのでな!」

ま、まだ全員に聞いてもいなかったのか……。

皆参加してくれるか怪しいな……特に十神クンはコロシアイ学園生活に肯定的な上、単独行動派だし。

「石丸クン、もしかしてボクは最初の方に呼ばれたのかな?」

「うむ、僕はまだ霧切君と大和田君にしか声をかけてない! 故に急いでいる!」

まぁ、部屋割りから考えて当然か。

となると、彼女は次辺りに呼ぶ事になるな。

「なら舞園さんにも頼むといいよ。急いでるなら誰かの手を借りた方がいいし、彼女なら手伝ってくれる筈だよ」

「そうか? では頼んでみるとしよう! 助言感謝するぞ!」

石丸クンはそう言って、早足でボクの部屋から出て行った。

少なくとも、あの調子の石丸クンが呼ぶより舞園さんが呼ぶ方が人が集まるだろう。

実体験だから確信を持って言えるが、あの大声は寝起きには辛い。

「さ、急いでシャワーを浴びよっと」

遅れて皆に迷惑をかける訳にはいかないからね。

シャワーを浴び終えて、ボクは急ぎ足で食堂へ向かった。

どうやら皆が集まってからほんの少し時間が経っているらしい。

「良かった、少し心配したんですよ?」

超高校級のアイドル、舞園さやかさんがそう言ってくれる。

ボクは待たせてゴメンと会釈をして、空いていた席に座った。

「えへへ、おはよう」

席に座れば、たまたま向かい側に居た不二咲さんが挨拶をしてくれた。

「あ……うん、おはよう」

普通に挨拶を返そうにも、どうしてもさっき見た夢を思い出してしまってぎこちなくなってしまう。

そもそもの話、どうしてボクはあんな夢を見たのだろうか。

まだ会ってから何日も経ってないぞ。

「……?」

不二咲さんは、ボクの様子を不思議そうに見ている。

目を合わせると夢の中の不二咲さんと重なってしまい、申し訳なさからボクは思わず目を逸らしてしまった。

「えっ……?」

理由も分からずに目を逸らされた不二咲さんは、驚いたような表情をすぐに曇らせてしまう。

口に含んだルアックコーヒーはいつもより苦く感じた。

苦い(意味深)

あ~これ

朝食後、ボク達は探索を開始した。

最も探索とは言っても、出口や学園のヒントは昨日の時点で調べ尽くしてある。

だから実質この時間は皆が皆好きな事をしているのだ。

「……不二咲さんに謝らないとな」

食堂から出たボクは、真っ先に不二咲さんを探し始めた。

取り合えず手始めにボクは、食堂から一番近いランドリーの扉を開ける。

「あっ……」

どうやら、あちこち探し回る必要は無くなったようだ。

「不二咲さん……」

後ろ手でランドリーの扉を閉め、ボクは不二咲さんを見る。

申し訳無さそうな、少し怯えているような目をしていた。

そうさせてしまったのが自分だと思うと、こっちが申し訳無くなってくる。

「その、さっきはごめん!」

ボクは迷わず頭を下げた。

「ぼ、僕の方こそごめんなさい……」

不二咲さんも、ボクに謝る。

「不二咲さんが謝る事じゃないよ、ボクが変な態度取っちゃったから……」

「苗木君は悪くないよ、ジロジロ見ちゃった僕が悪いんだし……」

「いやいや、ボクが目を逸らしたから不二咲さんに嫌な思いを……」

「でも、やっぱり僕の所為だよ……」

お互い、一歩も譲らずに謝罪を述べる。

「……ぷっ」

「……えへっ」

それが、何だか可笑しかった。

「い、何時まで謝ってるんだろうねボク達っ。あは、あははっ!」

「えへへ、可笑しいねぇ」

二人して快活に、止まらない笑いを続けた。

こう考えるんだ
どっちかがどっちかの部屋に移って常に寝泊りしていれば
二回目の学級裁判の悲劇は起こらなかったと

暫くしてようやくお互いに笑いが収まり、ボクと不二咲さんはランドリーにあるベンチに座った。

「それにしても本当にごめんね、不二咲さん」

「ううん、僕もジロジロ見ちゃったから」

「それじゃあお互い様、って事で」

先ほどまでの少し遠慮しがちな空気はもう無く、こんな状況も忘れさせてくれる程の居心地の良い空気に変わっていた。

「苗木君はこれからどうするのぉ?」

笑い疲れた表情で、不二咲さんは僕に問う。

謝れたから目的は達成しているけれど、このまま別の場所に行くのも何か勿体無い気がする。

「折角だから、一緒に過ごしてもいいかな?」

だから、特に何かする訳でもなく二人でのんびり過ごすのも悪くない。

「じゃあさ、一緒にお話でもしよっか」

そう思っていると、不二咲さんの方から誘ってきてくれた。

ほんの小さな事だけれども、これも幸運なのかもしれない。

「そうだなぁ……何の話をしよっか」

「不二咲さんの事が知りたいな。プログラマーってどういう事するのか、興味があるし」

一口にプログラミングと言っても、彼女は超高校級。

一体どんなプログラムを作っているのか気にならない人は居ないだろう。

まぁ、有名過ぎて皆知っている可能性もあるので聞くのは失礼なのかもしれないけれど。

「えっと、実はその事については言えないんだ……」

「え? まさか、作ってないとか?」

「そういう訳じゃないんだけど……ごめんなさい」

……あぁ、何となく予想が付いた。恐らく企業秘密という奴だろう。

完成するまで公表出来ないだとか、他社に技術漏洩しないようにだとかの理由で緘口令が布かれているのでは無いだろうか。

「こっちこそごめん。答えられない質問なんかしちゃって」

「苗木君は悪くないよぉ。悪いのは僕だから……」

「理由があるんでしょう? なら仕方ないさ」

「でも……うぅ、ごめんなさい……」

……しまった、折角の空気が悪くなってしまった。

「じゃあさ、不二咲さんがプログラミングを始めたきっかけが知りたいな」

「僕がプログラミングを始めたきっかけ?」

「うん、さっきの質問の代わりと言ったらアレだけど、よかったら教えてくれないかな?」

「えっと……きっかけはそんなに大した事じゃなかったんだ」

そう呟いてから、不二咲さんは語り始めた。

子供の頃から身体が弱かった彼女は、暇潰しのつもりで家にあったパソコンで遊んでいたとの事。

それが思った以上に楽しかったらしく、遂にはシステムエンジニアの父親が開発中だったプログラミングを遊びのつもりで改造。

そうして出来たのが彼女が初めて作成したプログラム。

しかもそれがとても優秀な出来で、父親曰く『情報検索の歴史が変わる』程の出来栄えだったそうだ。

「こんな自分でも人を喜ばせられたって事が、嬉しくって!」

彼女は満面の笑みでそう締めくくる。その笑顔は、今まで見た中で一番輝いていた。

やっぱり、人って好きな事が関わる時が一番輝くんだなぁ。

「……あ、ごめんね! 一人で勝手に喋り過ぎちゃった!」

「いや、凄く面白かったよ。不二咲さんの話」

「え? 本当に……?」

「だからさ、また不二咲さんの話聞かせてよ」

実際、不二咲さんの話は見ていて、聞いていて、飽きなかった。

出来ればもう少し話を聞いていたいが、あまり長く話させると不二咲さんにも迷惑がかかってしまう。

だから、また今度。

「うん! じゃあ、また一緒にお話しようね!」

そう言いながら、不二咲さんはボクの正面に小指を突き出す。

「えへへ、約束だよぉ?」

彼女は、上目遣いで、そう言った。

「う、うん!」

上ずった声で返事をして、ボクも小指を突き出し、指切りをする。

不二咲さんの手に触れていて、僕の鼓動が明らかに早くなったのが分かった。

そしてぎこちなくも指切りを終わらせた後、僕は確信した。






――どうやらボクは、キミに恋をしたようだ。




自分の部屋に戻ったボクは、ベットに寝転がって天井を見ていた。

「恋、か……」

一人そう呟いては、物思いに耽る。

「一目惚れって本当にあるんだなぁ」

そんな事を冷静に考えているつもりでも、内心は不二咲さんの事で一杯だ。

瞼を閉じれば、彼女の顔が真っ先に思い浮かぶ。

部屋の無音が、彼女の声を脳内に響かせる。

そうしてこうして、今朝の夢を思い出す。

「うわぁああああああ! うわ、うわぁああああああ!」

最終的には凄く恥ずかしくなり、モジモジとベット上をのた打ち回る。

どうしよう、これから彼女にどんな顔して会えって言うんだ。

「……本気でどうしよ」

ここから脱出する事よりも、そっちが優先的に考えられる。

自分の中の冷静な部分がいいのかそれでと言っているが、今はそれどころでは無いのだ。

極力長く一緒に居たいな。でもあまりにしつこいと嫌われるかな。

少しずつ仲良くなれればいいかな。でもそんな奥手じゃ想いを伝えられないな。

「……悩む」

悶々と考えていると、不意に耳にチャイムの音が届いた。どうやらもう夜時間になったらしい。

シャワーでも浴びてリフレッシュさせようと思ったのだけれど、今日は出来そうにないな。

「……寝てから考えよう」

そうしてボクは布団を被り、数百匹の羊を数えた。

「本当に、不二咲――選ぶん――か?」

「……うん」

「どうしてです! 何で――にもよって不二――なんか!」

「――さん!」

「だって! 何で、どうして……!」

「……それ以上――と、いくらボクでも――よ?」

「……本気、なん――ね……」

「苗木君が本気だからって、納得出――訳――じゃない……」

「――さん……ごめん、もう――ちゃったから……」

「……せめて、理由を教え――ださい。このままじゃ、納得――ません」

「……好きになったから、かな」









【選択肢】
1,長く一緒の時間を過ごしたい
2,少しずつお話を聞ければいい


※ 物語に大きく影響します。
  安易に選ばず、先を予測し、相談した上で選びましょう








2

多数決ってことか?
なら1
少しでも長く一緒にいればそれだけ殺されにくくなるだろ

1

1

1

1

1

⇒ 1,長く一緒の時間を過ごしたい
 2,少しずつお話を聞ければいい


よろしいですか?

はい

「また夢かよ!」

目覚めと共に枕を監視カメラに投げ付けた。

大丈夫、壊れてない。いや違う、問題はそこじゃない。

「ハーレム目指してるんじゃないんだよ!」

昨日不二咲さんの事ばかり考えていたからと言ってこれはどうなんだと言う話だ。

一応名誉の為に弁明しておくけれど、ボクは決して昼ドラがしたい訳じゃない。女性を三人も侍らすなんて性欲旺盛にも程がある。

部屋が完全防音なのをいい事に、ボクは気持ちが落ち着くまで暴れ回った。

「はぁ……はぁ……」

落ち着きを取り戻すと、考える余裕が出てきた。

何故そんな夢を見たのかというよりは、どんな内容の夢だったのかが気になっていた。

「誰がボクを取り合ってたんだろう……」

正直な話、もしあんな状況になったら男としては悪い気はしない。最悪死ぬかもしれないけれど。

だからこそ誰だったか気になるのだが、不二咲さんを選んだボクを責めていた二人の女性の顔がどうしたって思い出せない。

うーん、夢だから曖昧なのだろうか。でも自分の知らない人って事は無い筈だ。むしろ身近に居る女性の筈……。

「……こまるとか?」

自分で言ってて強烈な寒気がした。

こまるがボクの奪い合いに参加するなんて天変地異があっても有り得ないし、そもそもあいつ清楚な喋り方もクールな喋り方もしない。

朝起きて第一声が『誠死ね』でも全く違和感が無い位あいつはボクを嫌っている。しかも親にはそれを悟られないよう演技した上で。

想像していくと、何だか腹が立ってきた。

「……まぁ、出てこないのは諦めるか」

夢の中の登場人物だから実在する人物かどうかも怪しい、漫画とかアニメのキャラかもしれない。

それでも、こまるよりはマシだけれど。

桐乃かな

↑同意

多くの回数を重ねた訳では無いが、朝食会での皆の席はある程度決まっている。

ボクの隣に石丸クンと大和田クン。目の前の席に不二咲さん。

不二咲さんの左に舞園さん、右は順番に朝日奈さん、セレスさん、葉隠クン。

そのままテーブルを回るようにして山田クン、大神さん、桑田クン、江ノ島さん、大和田クン。

そして、離れた席に座る十神クンと腐川さん。

その順番が、朝食会の定位置になっていた。

何処かギスギスしたような空気の中、ボク達は同じ空間で朝食を食べる。

ボクはその空気が嫌いで、気分を紛らわせる為に不二咲さんを見る。

見ると言っても、目と目が合うのが恥ずかしいからチラチラと覗き見みたいな真似をしているのだけど。

そんな事をしているから、ボクは皆の中で一番食べるのが遅いのだろう。

因みに一番速いのは不二咲さんだ。食べる速度は遅いけれど、あまり朝食を多く食べない分速いのだ。

「……はぁ」

ボクは思わず、溜め息を吐いた。

昨日の夜に恋心を自覚こそしたものの、これじゃまるでストーカーだよ。

かといって今のボクに彼女と普通に話せる訳が無いし……。

「……はぁ」

天井を見上げ、もう一度溜め息をする。

たまたま白くなった吐息が、幸せのように雲散霧消した。

ホモストーカー
最悪じゃねーか

やっぱりちーたんはメインヒロイン

まだ女の子だと信じてるし、まぁ多少はね?
というかこれ目覚めるエンドか絶望エンドになるのか……?

ホモォ



なえぎくんはおとこのこなのにおとこのこがすきなの?

「オメーさ、何でそんな溜め息してんの?」

食堂から出る時、ボクは桑田クンに捕まった。

「いや、ちょっと悩み事があるだけだって……」

相談に乗ってやると言って無理やり彼の部屋に連れてこられたが、正直少し警戒している。

彼を信用してない訳では無いけれど、状況が状況なので警戒しない訳にもいかない。

「女か?」

……え?

「な、何でそれを!? 誰から、誰から聞いたの!?」

まさか言い当てられるとは思っていなかったボクの思考回路はショート寸前だ。

何で? 何で知ってるの!? まさか朝食会の時に知らず知らずの内に恥ずかしい妄想を口走ってたか!?

「態度でバレバレだっての。霧切なんか絶対分かってるぜ」

「嘘でしょ!?」

「嘘吐いてどうすんだよ……で、相手は誰なんだ? まさか、舞園ちゃんじゃねーだろうなぁ!?」

「そ、それは違うよ!」

「じゃあ不二咲か?」

絶句。

「……当たりか」

「あ、あばばばば……」

あぁ……きっと口から泡吹いてるんだろうなぁボク。畜生、穴があったらホールインワンだよ。いっそ殺せ!

「まぁ舞園ちゃんじゃねーならオレ的には安心かな。でよ、不二咲の何処を好きになったんだよ」

ボクの心情なんか露ほども知らない桑田クンは、ボクへ質問を続ける。

「……一目惚れ」

ボクは渋々答えた。

桑田クンは、そんなボクに対して呆れたような口調でこう言った。

「乙女かオメーは」

「そ、そういう桑田クンはどうなんだよ! 一目惚れじゃないってんだったら何が決め手だって言うんだ!」

「んなもんおっぱいに決まってるだろうが!」

「最低だ!」

「大体おっ……胸の大きさだったら朝日奈さんの方が大きいじゃないか」

「なーに今更恥らってんだよ。まぁ確かにおっぱいの大きさなら朝日奈が一番だと思うぜ?」

桑田クンは、急に真面目な表情になって語りだした。

「でもな、あいつのは大きすぎるんだ」

「ぜ、贅沢な……」

っていうか真面目な顔で何語ってるんだ。

「舞園ちゃんはもっとこう……美乳って言うのかな、そんな感じじゃね?」

「それはまぁ……そう、だけど……」

ボクも中学時代に同じ事を考えていただけあって、非常に返事に困る。

「大き過ぎず、小さ過ぎず、それこそ超高校級って言えるようなバランスでよ……」

「……それ、本人の前で言ったら?」

「殺されるわ」

あ、ちゃんと状況と自分の言ってる事については理解出来てるんだ。

「そもそも、桑田クンはボクにそんな話聞かせる為に部屋まで連れ込んだの?」

「ん? あーいや、そんな訳無ぇだろ」

桑田クンは何故か、恥ずかしそうに頬を掻いた。

「オメーが溜め息してたからよ……」

「えっ……?」

もしかして、本当にボクの心配をしてくれて?

「か、勘違いすんじゃねーぞ! オレは飯時に辛気臭ぇ顔されるのが迷惑なだけだからな!」

「桑田クン……ありがとう」

はは、何だか情けないな……こんな状況なのに心配されてるなんて……。

「それじゃあ、ちょっと相談に乗ってもらっていいかな?」

やっぱりホモじゃないか!

ホモでもいいじゃん

「不二咲とどう接するかだって?」

「うん……」

どう接するか、と表現するよりは個人的な距離の取り方と言った方が適切だろうか……。

「同じだんなもん」

とにかくボクは、不二咲さんとどう接していいか分からないのだ。

それについて、真剣に悩んでいる。

「苗木って意外と面倒な奴だな……」

「面倒とは失礼な、ボクは真剣に悩んでるんだよ」

じゃないと桑田クンになんか相談しない。

「面倒な上に失礼な奴だな! 何で舞園ちゃんはオメーなんかを……」

「ん? 舞園さんが何だって?」

「……あー、いや、気にすんな。こっちの話だ」

何かを誤魔化すように、桑田クンは軽く咳払いをする。

「で、結論言うけどよ。そんなのオメーの好きな距離でいいんじゃね?」

「そ、そんな単純な!」

余りにも単純過ぎる、答えにもなっていないような答えを返されてボクは反論する。

「単純なんだよ恋ってもんは!」

しかし、ボクの意見は反論されてしまった。

「グダグダ悩んで答えが出るのか? 頭で考えりゃそれが正解か?」

「そ、それは……」

……正直、分からない。

悩んだ末に不正解なんて事も、あるのかもしれない。

「あのなぁ苗木……それは違うぜ」

でも桑田クンは、ボクの考えを論破した。

「恋愛に正解も不正解も無いっつーの。ブーデーとか見てみろ、豚子ちゃんとかが嫁だって言い張ってんだぞ」

「あぁうん、プリンセスぶー子ね」

こまるが見ていたなぁ……外道天使☆もちもちプリンセス。

「恋愛なんつーもんはな自分に正直なんのが一番なんだよ。なぁ苗木、お前は不二咲と一緒に過ごしたくないのか?」

「そ、そんなの……」

そんなの……。

「……がいい」

「あぁ? 何つった?」

「一緒の方が、いい」

好きだから、一緒に過ごしたい。

そんなの当たり前じゃ――

「じゃあ何でオメーは当たり前の事を我慢してんだ?」

「――!」

「はぁ……かったりぃ」

桑田クンは心底面倒臭そうな表情で溜め息を吐いた。

けれど、すぐに満足そうな表情になる。

「もう自分の答えは出てたじゃねーか。後はそれに正直になるだけだぜ」

自分の、答え――。

それを認めてみると、不思議と身体が軽くなったように感じた。

「……ありがとう、桑田クン」

「礼なんて言われるような事してねーよ」

桑田クンは、ニヒルに笑った。

桑田がイケメンだと……

NEGはホモ

最近、桑田がイケメンなSSが増えてヤバイ(歓喜)

あぽ?

「それじゃ、ボクは行くね」

桑田クンに見送られて、ボクは彼の部屋から退出した。

「おう、頑張れよ」

そう言いながら見送ってくれる桑田クンを背に、ボクは不二咲さんの居る場所へ向かおうとする。

だから自然と、早足になっていた。

「きゃっ!」

「うわっ!」

その所為か不二咲さんの部屋の目の前、丁度ボクから見れば曲がり角の死角に歩いていた人と衝突してしまったのだ。

突然の出来事だったのでボクは受け身も取れず、情けなく尻餅をついてしまう。

「えっと、大丈夫?」

ボクは痛む尻を擦りながら、立ち上がって手を差し伸べる。

「舞園さん」

衝突したのは、舞園さんだった。

「えぇ、怪我は無いです……苗木君は大丈夫ですか?」

「ちょっとお尻が痛いけど、これは自業自得だから」

今回は舞園さんに怪我が無かったのが不幸中の幸いだけれど、打ち所が悪かったらお互い怪我していたかもしれない。

廊下を走るな。小学生の頃から言われている事の意味を今改めて実感した。

「急いでるようですけど、これから用事でもあるんですか?」

舞園さんがボクに質問をする。

「急ぎの用では……無いかな、うん」

「じゃあ、ちょっと付き合ってくれませんか?」

「つ、付き合う……付き合う!?」

一瞬理解出来なくて、頭の中で反芻したらようやく理解出来た。

付き合うって、ボクと舞園さんが!? 待て待て落ち着け苗木誠! それは違うよ! 現実を見失っちゃ駄目だ!

付き合うって言っても恋人になる方の付き合うじゃないのは分かってるだろう?

何か手伝ってほしい事があるからこう言ってるだけで、そんな含みのある台詞じゃないんだ!

まぁ、それにしたって舞園さんに頼られるなんて幸運な話ではあるけれど。

「えっと、何を手伝えばいいのかな?」

「何処かに、護身用になる武器は無いかって探してるんです」

護身用の武器、ねぇ。

「だって、何時、誰が襲ってくるか分からないじゃないですか……」

まぁ、舞園さんの言う事は理に適っている。

あんなコロシアイのルールを提示されている以上、僕達の中の誰かが殺しを計画していても不思議は無い。

それは勿論、目の前の彼女にだって言える事だ。

「酷い事考えますね。そんな事考えてませんよ?」

少しだけ膨れっ面で、舞園さんはボクを咎めた。

「……よく分かったね」

「エスパーですから」

舞園さんは小悪魔的に笑う。

「冗談です、ただの勘です」

まだ?

舞園さんと校内を歩き回り、護身用の武器を探していく。

最初は購買部で甲冑をと思っていたが、舞園さんから全力で拒否された。

曰く、アイドルがそれを着たらそれはもうアイドルじゃなくなりそうとの事。

「ごめんごめん、冷静に考えればこれは違うね」

甲冑の篭手を元の位置に戻し、購買部の中を見渡す。

「うーん、他にいいのもありませんね……」

「どうする? 他の所に行こうか?」

正直、もうここは調べ尽くしたような気がする。

他に護身用の範疇に収まるような物が置いてある場所は……。

「そういえば、体育館前に模擬刀があったよね」

「あの金色のですか?」

「うん、あれが本物じゃなければ充分自衛に役立つと思うんだ」

「そうですね……じゃあ見るだけでも」

舞園さんの許可を取り、ボク達は体育館前ホールへ向かった。

模擬塔ならもう持ってるだろ

体育館前ホールに入ってすぐの左側。そこにはトロフィーや表彰盾が数多く置かれている。

過去、この学園で成果を残してきた先輩方の物が全て飾られているのか、その数はショーウィンドウが埋め尽くされている程だ。

「えっと、これの事ですか?」

そんな希望ヶ峰学園にとって名誉の象徴であろう場所に、何故か置かれている金色の模擬刀。

それと個人的にもっと気になる、隣の『愛』の字の兜。確か……直江兼続って武将が使っていた兜じゃないか?

「一応聞いておくけど舞園さん、護身用ならこの兜は」

「駄目です、嫌です」

食い気味で断られた。まぁ、仕方ないね。

本音を言えば鎧とか兜の方が間違っても殺さずに済むからそっちをオススメしておきたいのだけれど。

ボクは兜から視線を外し、徐に模擬刀を手に取る。

「うわっ、手に金箔が……」

握った瞬間に分かる程に、模擬刀に貼られた金箔は簡単に剥がれ落ちた。あぁ、ボクの手がカネゴンみたいに……。

「あー、流石にこれは嫌ですね」

「女の子にこれは駄目だね……いいと思ってたのになぁ」

うーん、選り好みすると意外と無いものだ。いや、本当は選り好みする余裕なんて無いのだけれど。

「苗木君が持っていたらどうですか? 意外なインテリアとして活躍するかもしれませんよ?」

「いくらボクの部屋が質素だからってそんな意外性求めてないよ」

舞園さんは天然なのかそうで無いのか、時々こんな冗談を言う。

中学校とか出てた番組でこんなキャラだった覚え無いんだけどなぁ……。

「そういえば苗木君は、護身用の物とか必要じゃないんですか?」

「いやボクは――っていうか男子は工具セット配られてるから……あ」

そうだ、工具セットがあるじゃないか。ドライバーとかハンマーとか種類はあるし、一番凶器になりそうなハンマーは撲殺系だ。

舞園さんみたいな華奢な女の子が使う分には、自衛の域を超えない筈だ……多分、きっと。

「じゃあ、ボクの工具セットをあげるよ」

「えっと、いいんですか?」

「うん、ボクが持っていても使わないから。それにほら」

ボクは掴んだままの模擬刀を振るう。金箔さえ気にしなければ、これでも充分護身に役立つ。

舞園さんが使わないなら、ボクが使えばいいだけだ。

「……本当に部屋にそれを飾るんですか?」

「提案したの舞園さんだよねぇ!?」

ボクは思わず突っ込んだ。さっきからずっと彼女の冗談に翻弄されっぱなしだ。

何だか知っていたキャラと変わっているような気もするけれど……これが彼女の本当の意味での素なのだろうか。

その素をボクに見せてくれていると考えれると、何だか嬉しく感じてしまった。男って単純なんだなぁ。

〉〉68 模擬刀今回出るのが初めてじゃね?

男なら誰でも持ってる方のことだろ

それは尻尾じゃああああああああああ!!

その後、ボクの部屋にあった工具セットを渡して、ボクと舞園さんは別れた。

本人も満足しているようだし、工具セットの代わりは見つかったし、一件落着と思おう。

ボクはカネゴン化した手をシャワーで洗い、今度こそ不二咲さんの元へ向かう途中。

「おい苗木!」

後ろから、桑田クンに声をかけられた。

「あれ、桑田クン? どうしたの?」

ボクがそう問いかけるとほぼ同時に、桑田クンはガシッと音がする程強い力でボクの両肩を掴んだ。

「何で舞園ちゃんと一緒に行動してんだよぉおおおおおお!」

「ええええええぇ!?」

そして、予想外の事で怒られた。

「何だよお前! さっさと不二咲に会いに行けよ! 食堂にいるからよぉ! 大体舞園ちゃんと一緒に何してたんだよ!」

「え、いや、その、それは、えっと……」

どうしよう、正直に言って良いような事だろうか。

ボクでさえ護身用の武器を探していると言われて警戒してしまったのだ、あまり他の人にその事を言うのは全体の不和に繋がるんじゃ……。

「オメーが不二咲と仲良くしれてば舞園ちゃんも諦めると思ったのによ……」

……え? 舞園さんが諦める? 桑田クンは何を言ってるんだ。

別に舞園さんがボクに話しかけたのは偶然だったし、そうじゃなくたって同じ中学出身だったから他よりは話しやすいってだけだろうし……。

いや、でもそれはボクと舞園さんしか知らない事だから傍から見ればそうは見えないのかも……ん?

「まさかとは思うけれど、桑田クン……」

ボクは桑田クンの目を見て問いかける。

「な、何だよ……」

「もしかして、舞園さんがボクと親しげだから、舞園さん以外の女子を好きにさせて引き離そうとボクとさっき話したの?」

「……ファッ!?」

誰がどう見ても、図星の反応だった。

「あ、いやいや! 三割くらいはマジで心配してたって!」

「そんな生々しい数字聞きたくなかった!」

三割って! ほとんどオマケみたいなもんじゃないか!

「まぁでも、納得は出来たかな。桑田クンって明らかにチャラ男だし、気遣いが出来るような人じゃ無さそうだもんね」

「いきなり辛辣だな!? オレだって気遣い位出来るわ!」

「それは違うよ(笑)」

「笑うな!」

KWTもホモだったか

あのさぁ…

桑田クンの人間性はさておくとして。

このまま勘違いされたままなのは悪い気はしなくても、舞園さんに対して非常に申し訳無い。

「ボクと舞園さんはお互い昔知っていたってだけで、そういう仲じゃないから安心してよ」

それに舞園さんだってボクよりも釣り合う人が居る筈だ。釣り合う人が桑田クンかどうかは確約しないけれど。

「うーん……さっきの見るといまいち信用出来ないな……」

「ボクは不二咲さん一筋だから、これから先ずっとね。だから安心して舞園さんにアタックしていいと思うよ?」

依然として信用してくれない桑田クンに対して、ボクは少し強い言い方でそう言い切った。

「お、おう……そこまで言うか」

桑田クンが驚く位に断言したのが少し気恥ずかしくなり、ボクは咳払いをして空気を戻す。

「桑田クンみたいに明るい人が話しかけてくれれば、舞園さんもきっと気が楽になると思うからさ。ボクからもよろしく頼むよ」

「おっ、嬉しい事言ってくれるじゃねーか。さっきも言ったけどよ、不二咲なら食堂に居るからな。さっさと仲良くしてこい」

「分かった、ありがとね桑田クン」

桑田クンに礼を言って、今度こそボクは不二咲さんの元へ急ぐ為に駆け出す。

「……あのさぁ、苗木!」

その背中を、桑田クンの声が呼び止めた。

「仮にさ、舞園ちゃんがオメーに告白したら……オメーはまた断るのか?」

舞園さんに告白されたら。

そんな未来があるとは今のボクには到底思えないけれど、もし告白されたとしてもボクは自分の気持ちに嘘は――。

「――また?」

またって……どういう意味だ?

「へ? またって……股!? まさかオメー不二咲と舞園ちゃんで二股するつもりか!?」

桑田クンが何か騒いでいるけれど。

「桑田クン……また断るって、どういう事?」

今のボクには、その言葉がどうしても引っかかった。

「あ? オレ今またなんて付けて言ってたか? 」

けれど、当の本人は全く覚えていないと言う。

「……いや、何でもない。二股はしないよ、舞園さんの告白は断るさ」

「そっか、ならいいんだけどよ」

それを聞いて満足したのか、桑田クンは自分の部屋の方へと戻って行ってしまった。

早く不二咲さんの元へ向かおうと思っていた筈なのに、ボクはその場で考え込んでしまう。

「聞き間違い……なのか?」

単なる聞き間違いだと思っても、ボクの心には形容し難い違和感が残り続けた。

あのさぁ

復活

復活

食堂に向かう最中、ずっとボクの心の中には桑田クンの言葉が回っていた。

本人は言っていないと言っていたから、きっとボクの聞き間違いなのだろうけれど……。

「……夢の所為、かな」

今朝の夢でボクは二人の女性を振ってしまった。

夢の中の相手が舞園さんか、はたまた別の誰かかどうかは分からないが、女性を振る事に既視感を覚えていても可笑しくは無い。

だからこそボクは桑田クンに『また』と言われて、過剰反応しているのだろう。

少し無理矢理な気がするけれど、いくら考えてもそうとしか説明が付かなくて、ボクは自分にそう言い聞かせた。

「あんまり皆の前で、難しい顔はしたくないしね」

特に、不二咲さん相手には。

思考を切り替えて、ボクは食堂の扉を開く。

「あー! 苗木じゃーん!」

入って早々、朝日奈さんがボクに気付いてくれる。幸運な事に不二咲さんは、朝日奈さんと一緒に過ごしていた。

「苗木君、こんにちはぁ」

不二咲さんもボクに会釈してくれる。

「こんにちは二人とも、何をしてるの?」

ボクがそう聞くと、二人は自分の手に持っている物を見せてくれた。

朝日奈さんの手にも不二咲さんの手にも、見覚えのあるお菓子が握られている。

テーブルに視線を向ければ、それが山のように積まれた大皿もあった。

「えっと……どうしたのこの量?」

「全部食べようと思って作ったんだけど、食い過ぎは駄目だってさくらちゃんが……」

「えっと、さくらちゃんって……大神さん?」

「うん、そうだよ。ほら」

言われて食堂を見渡せば、大神さんがドーナツの皿を持って山田クンや江ノ島さんの所へ向かっていた。

っていうか、このテーブル分だけじゃ無かったのか……それは大神さんじゃなくても止めろと言うだろう。

「ボクも食べていいかな?」

「うん、いいよ! ほら、ここ座って!」

朝日奈さんが指差す席は、不二咲さんの隣だった。

内心ガッツポーズをしたけれど、ちゃんと不二咲さんに許可を取ってから座る。

「しっかし、本当に凄い量だね……一人で作ったの?」

「うん、昔バイトで同じ位作ってたからこの位楽勝だよ!」

バイトでこんな量のドーナツを作る店となると……あの店か。

ってか朝日奈さんバイトした事あるんだ、どんだけ好きなんですかドーナツ。

「足りない材料もあったから店のと味は違うけど……美味しいから早く食べてよ!」

「あぁうん、じゃあこのオールドファッション似のドーナツを……」

ドーナツの山から一つ取り、一口サイズに千切って食べる。

「……うん! 美味しいよ、朝日奈さん!」

「本当? 皆褒めてくれて嬉しいなぁ」

朝日奈さんは満面の笑みを浮かべて喜んだ。

「良かったな、朝日奈よ」

「本当に美味しいですなぁ……僕はおかわりを要求しますぞ!」

気が付けば、大神さんが山田クンと江ノ島さんを連れて戻ってきた。

どうやら全部食べ切ったらしい。早さにちょっと驚いたけど山田クンならなんとなく納得だ。

どうでもいいけど山田クン、目線が明らかに朝日奈さんの胸に固定されてるよ。

「こんな美味しいの、アメリカで食べた以来だよ」

江ノ島さんも、フレンチクルーラー似のドーナツを頬張りながら朝日奈さんのドーナツを褒める。

「へぇ、江ノ島さんってアメリカ行った事あるんだ」

「撮影でちょっとだけね。つーかアメリカ位なら誰だって行った事あるんじゃないの?」

「ボクは国内旅行しかした事無いな……」

しかも飛行機に乗るような場所には行ってない。修学旅行で京都と日光だったり、家族揃って熱海だったりだ。

「他の皆は?」

「アメリカの即売会の為に単身で行きましたぞ!」

「我は交流のあった道場の手練れと勝負の為に」

さ、流石は超高校級だ……活躍してるのは日本だけじゃ無いんだ……。

「うーん、私もアメリカは無いなぁ」

「僕はあんまり外に出ないから……」

朝日奈さんと不二咲さんがそれぞれ答える。良かった、海外旅行未経験者はボクだけじゃなかった。

二人に親近感を覚えながらも、ボクはポン・デ・リング似のドーナツを手に取る。

美味しいし食べやすいサイズに千切りやすいしで、ボクはこのドーナツが大好きだ。

「うん、美味しい」

「ご満悦ですなぁ、苗木誠殿」

皆と話しながら、二個、三個と口に放り込む。

そんなボクの様子を、何故か不二咲さんはチラチラと見ていた。

「……不二咲よ、どうしたのだ?」

様子に気付いた大神さんが、不二咲さんに問いかける。

見られる事自体は悪い気分では無かったが(むしろ御褒美です)理由はずっと気になっていたので、ボクも便乗して聞いてみた。

「ボク、何かしちゃったかな?」

「そ、それは違うよぉ。ただ、その……」

不二咲さんはばつの悪そうな顔をして、口を開いた。

「えっと……苗木君、一口欲しいんだけど……」

ボクの持っていた千切れた状態のドーナツを指差す。

……なるほど、そういう事ね。

食の細い不二咲さんの事だから、一つ丸ごとを食べ切る自信が無かった訳だ。

だから千切れたボクのドーナツが欲しかったけれど、言い出すタイミングも無かったと……そんな感じかな?

まぁ深い詮索は野暮だし、ボクの予想だけに留めておこう。

「これ位でいいかな? はいどうぞ」

ボクは千切った中で一番見た目の良い物を不二咲さんに渡す。

「わぁ、ありがとう苗木君!」

不二咲さんはそう言いながら、ボクの持っていたドーナツをそのまま食べた。

「はは、どういたし――」

――は?

あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

ボクは不二咲さんにドーナツを渡したと思ったら何時の間にか俗に言う『あーん』をしていた……。

何を言っているのか分からないと思うがボクも何が起きたのか分からなかった……。

小動物だとか天使だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……。

「ふ、不二咲も大胆だね……」

江ノ島さんの声で、ボクは正気に戻った。

「な、何をするだァーッ!?」

訂正、戻りきってなかった。

「あっ、ごめんなさい!」

不二咲さんが慌ててボクの手から口を離して謝る。

っていうか、ボクの人差し指と中指が不二咲さんのく、口の中に……!

「べ、別に怒ってる訳じゃ無いから! ただ、他の人に同じ事すると勘違いされちゃうから気を付けてね、はは、はははは……」

冷静を装って不二咲さんに忠告なんてしてるけど、実際ボクは絶賛勘違い中だ。いやもう勘違いでも構わないです。

ありがとう幸運、ありがとう希望ヶ峰学園。アイラブちーたんビバ希望。

「なーんか、今の苗木誠殿からは僕と同じ雰囲気がしますな」

「き、気のせいじゃないかな? あはははははは……」

自分でもその通りだと思ったので笑って誤魔化した。

「……苗木さ、アンタってやっぱりショタコンなの?」

突如、江ノ島さんからそんな事を言われる。

「えっ、ショタコ……えっ?」

予想外の方向から予想外の指摘を受けたボクは、ポカンと口を開ける事しか出来なかった。

「江ノ島盾子殿、ショタコンは幼い男の子が好きな人を指す言葉ですぞ。不二咲千尋殿は女の子なので、この場合苗木誠殿はロリコンになりますな!」

「いや、それは違うよ!」

ようやく自分がどういう扱いを受けているか理解出来たボクは、声を荒げて山田クンの言葉を否定した。

確かに鼻の下は伸ばしてるかもしれないけど……けれど、だけれども、だ!

「ちょっと山田! 不二咲ちゃんは同い年じゃん! いくら不二咲ちゃんが小さいからって失礼だよ!」

「悪いけど朝日奈さんも大概だからね!?」

「しかし朝日奈葵殿、彼女程の幼児体型を愛でている苗木誠殿にロリコンの素養があるのは確定的に明らか!」

「山田ぁああああああ!」

この江ノ島は一体

ポロッと言っちゃうのも残念だし、面白がってさり気なくバラしたかったにしても切り出し方が残念だから……

ボクは山田クンの襟首を掴んで大きく揺さぶる。

と言っても、ボクの力じゃ彼の体重は大きく動かせないので、彼の首元に張り付いているだけなのだが。

「な、何故そのような阿修羅をも凌駕しそうな形相で我を睨むか!?」

山田クンの方も、睨まれてる程度にしか認識していない。

「苗木よ、一体どうしたと言うのだ」

大神さんが止めに入ろうとするけれど、それよりも早くボクは山田クンに言いたい事を言った。

「睨まないでか! 自分が何したかちゃんと見てよほら!」

山田クンの顔をがっちり掴んで、なんとかして不二咲さんの方へ向かせる。

「よ、幼児体型……」

小さいだの幼児体系だの、散々な評価を貰った不二咲さんは、今にも泣き出しそうな程俯いていた。

余りにショック過ぎたのか、ボクの凶行も見えていない様子である。

「酷ーい! 女の子泣かすなんて山田最低!」

「だから朝日奈さんも大概だったからね!?」

朝日奈さんの場合は自覚が無いのが尚の事性質が悪い。頼むから大神さんも友達として止めてあげてください。

「も、申し訳ありませんぞ……」

ようやく自覚したのか、山田クンは不二咲さんに土下座する。

誰もそこまでしろとは言ってないし少々大袈裟に見えるのではないかと思ったが、ボクとしては誠意がちゃんと伝わったので良しとした。

「あ……そ、そこまでしなくてもいいよぉ」

不二咲さん本人は、逆に申し訳無くなっているようだけれど。

でも、まだ彼女の表情は暗い。

「不二咲さん、本当に気にしなくていいから。そのままのキミでも充分魅力的だから」

それを慰めたくて、自分でも歯の浮くような台詞を言ったけれど、暗に幼児体系を認めてる事に今更ながら気が付いた。

「う、うん……ありがとう、苗木君」

いっそボクも土下座しようかと思った所で、意外にも不二咲さんは笑顔を取り戻してくれる。

どうやらボクの深読みし過ぎだったようで安心した。

「ほほう、どうやらロリコンだけでなくタラシの才能もあるようですな」

「山田ぁああああああ!」

ボクは山田クンに飛び蹴りをした。

その後、ドーナツを完食したボク達はそのまま流れで解散になった。

「甘いのお腹一杯食べたら、身体を動かさないとね!」

そう言った朝日奈さんは大神さんと一緒に学園へ。恐らく体育館で何かスポーツをするんだろう。

「ロリとショタを間違えるなんて残念過ぎますぞ! そんな間違った知識、修正してやる!」

そう言って拳を握り締めていた山田クンは、江ノ島さんを捕まえてそのまま食堂で『教えて! ひふみん先生』をしている。

意外にも、江ノ島さんはそんなに抵抗しないで話を聞いていた。残念と言われたのがそんなに嫌だったのだろうか。

そんな感じで、食堂でドーナツを一緒に食べた六人が自然と二人一組になるように解散する。

余ったボクと不二咲さんも、その流れに乗って一緒に過ごす事になった。

好都合とほくそ笑みながら、ボクは今、不二咲さんと一緒に寄宿舎を散歩している。

「一杯食べたから、少し位動かないとねぇ」

「そうだね。朝日奈さんの言う通り、運動しないと太っちゃうからね」

まぁ大神さんみたいに体力がある訳じゃないし、朝日奈さんみたいにスポーツが好きな訳じゃないから、程々にだけれど。

「筋肉も付けなきゃ、だもんね!」

そう言いながら不二咲さんは、両腕でガッツポーズをした……いや、これは力こぶを作っているのか?

どちらにしても微笑ましくて可愛らしい事には変わらないか。

縺?♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀

不二咲さんと会話している途中、ボク達は見慣れない物を見つけた。

通路の真ん中に、一つだけポツンと落ちていたそれは、何処にでもある金貨のように見える。

しかし、不二咲さんはその金貨に描かれたアイツの姿をしっかりと捉えていた。

「……モノクマ?」

出来る事ならば、一生顔を見たくない奴が描かれた金貨。何故こんな物が存在するのか、純粋に不思議に思った。

「うぷぷ、見つけちゃった?」

突如、背後から耳障りな笑い声が聞こえてくる。

金貨の方にばかり意識を向け過ぎた所為で、アイツが現れた事に気付くのが遅れてしまった。

「……っ! 何の用だモノクマ!」

急いで不二咲さんを護るようにモノクマの前に立つ。

そんなボクの様子を、モノクマは滑稽と言わんばかりに笑っていた。

「そんな警戒しなくたって、ボクは君達に危害を加えないのに」

「質問に答えろ! 何の用だって言ってるんだよ!」

無駄話をさせるとそれだけ面倒な事になる。少し怖いけれど、頑張って強気な態度で話を進めさせた。

「ボクはそのメダルについて説明しに来たんだよ」

「これ、何に使うのぉ……?」

モノクマの話題に、不二咲さんが食い付く。

それを聞いたモノクマはまるで水を得た魚のように、意気揚々と語り始めた。

「このボク、スーパープリティー万能学園長のクマをモチーフにしたメダル……その名も、モノクマメダル!」

……そのまんまじゃないか。ボクだけじゃなく、不二咲さんもそう思っただろう。

「苗木君ったら、これを知らずに購買部行くなんて勿体無いんじゃない?」

「……もしかして、購買部であったガチャで使うのか?」

舞園さんが少し興味を示していたから、ボクはそのガチャの姿形を明確に覚えている。

「ご名答! このモノクマメダルでしか回せないガチャマシーン……その名も、モノモノマシーン!」

だから、そのまんまじゃないか。どうやらモノクマにはネーミングセンスが無いらしい。

モノクマにメダルを数枚渡されたボク達は、そのまま購買部へと向かった。

「じゃあ、ボクから回すよ」

本当はレディファーストで不二咲さんに先を譲りたいのだが、ボクにはどうしてもモノクマの罠の可能性が捨て切れなかった。

幸いにも、メダルはさっきモノクマから貰った分もある。罠じゃなければ不二咲さんにも回させてあげよう。

メダルを入れて、モノモノマシーンを回す。ボクの心配とは裏腹に、モノモノマシーンはちゃんとカプセルを出してくれた。

罠じゃない事に安堵したボクはカプセルを開ける。

中身は、高級そうな香水だった。

「ブルべリの香水……知らない名前だなぁ」

ボクはこういうのに詳しくは無いけれど、個人的には良い香りとは思えない。

女の子はこういう香りが好きなんだろうか。うーん、女心っていうのは難しいものだ。

まぁ何にせよ、罠じゃなくて何よりだ。ラインナップが分からないのが多少怖いが、これなら不二咲さんも普通に楽しめそうかな。

「不二咲さんも回す?」

「うん、じゃあ一回だけ」

不二咲さんにメダルを渡して、ボクはマシーンの横に退けた。さて、香水の次は何が出るのか。

彼女はメダルを入れて、マシーンと睨めっこをする。

その姿はやはり、子供らしくて可愛かった。

「あっ、カメラが出たよぉ!」

出てきたカプセルを開けて、嬉しそうに中身を取り出す。

ボクはその笑顔を撮ってみたいと思ったけれど、言い出すのが恥ずかしくって心の内に留めた。

不二咲さんと購買部で別れ、ボクは自室へ戻った。

ベットの上に飛び込んで寝転がり、今日の出来事を振り返る。

桑田クンに励まされ、舞園さんの不安を和らげる努力をし、朝日奈さん達と一緒にドーナツを食べた。

何より不二咲さんと一緒に過ごせたのが、一番嬉しかった。

「……何時まで、こんな生活が続くんだろう」

でも、現状は変わらない。

閉じ込められている環境も、疑心暗鬼が渦巻く状況も、何一つとして好転しちゃくれないんだ。

けれどもゲームに参加はしたくないし、ここで適応もしたくない。

出来る事ならこのままコロシアイなんて起きず、全員で脱出が出来ればいいのだけれど。

そんなモノクマにとって面白くない展開、奴が許してくれる訳が無い。

きっと、この膠着状態を壊す為、近い内に動き出す。

はたしてボク達はその絶望を、乗り越えられるだろうか?

「何があったって、あんな奴には負けない……」

呟くように、決意を固める。

冗長な平和が続く事を願って。

「なぁ、何で――は不二咲を選――んだ?」


「それがさ……自分でもよく――らな――だよね」


「はぁ? な――よそれ」


「一目惚れ――ちょっと違う――けど……不二咲――と話してたら、何時の間にか好きになって――だ」


「おいおい、相手は――ぞ?」


「好きだって自覚――時は――なかったんだけどね……でも、知ってから――好きだった」


「で、理由は何だよ。おっぱいも――んだぜ?」


「……もしかしたら理由が無いのか――れない」


「理由が無い……? いやいや、理由なんていくら――あるだろ! 可愛い――とかおっぱいが――いとかさぁ!」


「……そんな――聞くような後付けの理由じゃ無くてさ」


「じゃあ、何だよ」


「好きって思ったから、好きな――よ」


「……訳分かんねぇ」


「はは、だよね。でもボクにとっては当――前の事過ぎて、それ以外言い表す言葉が無いんだ」

PROLOGUE...


[さよなら希望学園]...


END...


to be continued...

やっぱりホモじゃないか(憤怒)

「また、夢か……」

ゆっくりと起き上がり、眠気に負けそうな瞼を擦る。

このコロシアイ学園生活が始まってから、ずっと夢を見続けている。

内容は連動しているようで連動してないような、訳の分からない物語。

出てくる人は毎回違うものの、不二咲さんの話題なのが共通している。

記憶に無い筈の、懐かしさすら感じさせるような夢。

「……はは。懐かしいって言うには早過ぎるね」

今回の登場人物が桑田クンだったのは、昨日相談に乗ってもらったからだろう。

話している内容も似たような感じだった気がする。だから懐かしく感じたのではないか?

「……行かなきゃ」

下らない考察を終えて、ボクはベットから飛び出る。

時計の針が、もうすぐ朝食会の始まる時間を指していた。

皆が心配する前に、食堂へ向かってしまおう。

「よーし、皆集まったな! では早速、朝食会を始めるとしようか!」

石丸クンの号令で、皆が朝食を食べ始める。まぁ何人かは自分勝手に食べ始めてるけどね……何人かって言うか、半分位。

それでもめげずに号令をする石丸クンの精神力にはある種の憧れすら抱く。

いや、あんな山田クンの体型レベルに太い神経が欲しいとは欠片程にも思わないけど。

「……ふん、下らなんな」

しかし、そんな石丸クンの神経にも負けない程の彼が、唐突に呟く。

特に今まで行動らしい行動を起こさなかった十神クンが、ここに来てとうとう動き出したのだ。

「と、十神白夜殿……何が下らないと言うのでしょうか……?」

山田クンの質問に、十神クンは呆れを感じられる笑いで返した。

「毎日よくもまぁこんな無意味な事が出来る……貴様等は自分の行動が恥ずかしく無いのか?」

「恥ずかしいだと!? 親睦を深める事の何処が恥ずかしいと言うのかね!?」

「そうだよ! 皆が協力して脱出する為に絆を深めてるんだよ!?」

石丸クンと朝日奈さんが反論するけれど、それを聞いた十神クンは更に高笑いをする。

親睦とか、協力とか、絆とか。

それが彼にとっての下らないモノと、すぐに分かる位に。

「馬鹿もここまでくれば傑作だな……この期に及んでまだそんな事が言えたのか」

「さっきから君は何が言いたいのかね! もっと分かりやすく言ったらどうなんだ!」

「だったら単刀直入に聞いてやろう。あれから手掛かりを掴んだのはいないのか?」

その言葉に、熱を帯びていた食堂全体が、何とも言えない冷たさに満たされた。

十神クンの指摘に、誰も、何も言わなかった。

……言えなかった。

「マジで!? 何も進展無し!?」

居心地の悪い沈黙に、江ノ島さんが声を荒げた。

しかしその発言内容は、残念な事に空気を悪くするだけだった。

「犯人に関しても、逃げ道に関してでもいいから、誰か言いなさいよ……!」

悪い空気に釣られるように、腐川さんもヒステリックな叫びを上げる。

誰もが混乱しそうになったその時。

「で、でもそろそろ警察だって動いてくれてんじゃね?」

桑田クンが、ボソリと呟いた言葉に、全員が反応した。

「だってほら、考えてみろよ! 閉じ込められてもう数日も経ってんだぜ?」

真っ先に取り乱しそうな彼にしては珍しく、極めて冷静な推測。

例えそれが自分を安心させる為に言い聞かせている言葉だったとしても、間違いなくその言葉は皆が冷静になる切欠になっている。

もう少しで外からの助けが来る……そんな彼の言葉に呼応するように、全員の目に希望が戻ったような気がした。

――けれど。

「警察ぅ? け・い・さ・つぅ~う?」

ボクらのちっぽけな希望すら、奴は残らず絶望へと塗り潰す。

「何だよオマエラ、警察なんて当てにしてんの?」

突如としてボクの隣から響く、聞き慣れた耳障りな声。

モノクマは、薄気味の悪い笑い声をあげて現れた。

「オマエラさぁ……警察って引き立て役だよ? 悪の組織やダークヒーローの」

心底呆れた様子のモノクマは、あくびをするような仕草で言う。

「そんな訳に立たない警察を当てにするなんて……馬鹿じゃないの? てか、馬鹿じゃないの?」

「二回も言う必要があるのかね!」

「って言うかさぁ、そんなに出たいならさっさと殺しちゃえばいいじゃーん!」

殺せばいいという言葉に、皆の顔色が青く染まった。

――彼一人を除いて。

「同感だ、それがここのルールだからな」

十神クンだけは、僕達にもモノクマ相手にも物怖じする事も無く、自信満々に言い放つ。

それが失敗するとは微塵も思っていない様子に強さを感じこそすれ、共感は出来なかった。

「おっと、勘違いするなよモノクマ? 俺がゲームに勝った時、次に殺すのはお前だ」

一切の怯えの無い声色で、十神クンはモノクマに言い放つ。

「ふーん、勝手にすればぁ?」

当の本人は、何処吹く風と言った様子だった。

「でも不思議だよね。こんなに用意したのに何で十神クン以外はコロシアイしようとしないの?」

まるでそれが常識だとでも思っているかのような口ぶりで、モノクマはボク達に問う。

けれども、即答してくれる人はいなかった。

誰もが皆、もしかしたらボクすらも、その最悪な選択を頭の片隅に残しているのかもしれない。

そうだとすれば……それはとても悲しい事だ。

「何を言われたって、ボク達はコロシアイなんか――」

「あ、わかった! ピコーン、閃いたのだ!」

言い聞かせるように口に出したボクの言葉に被せて、モノクマは大きな声でそう言う。

そして大袈裟な動きでテーブルの上に飛び乗って、全員の視線を集める。

「場所と人と環境と凶器と、ミステリー要素は揃えたつもりだけどまだ肝心なのを忘れていたね!」

場所と、人と、環境と、凶器……と。絶対に欠かす事の出来ない最後の一つ。

ボク達がその欠けていた重要な因子が何なのか理解するのに。

「ところでオマエラさぁ……」

時間は、数秒もかからなかった。

「外がどうなってるか気にならない?」

動機――人が意志を決めたり、行動を起こしたりする直接の原因、根拠。

ボク風に言うなら、そうだな……他人を殺す為の、出来損ないの免罪符と言った所か。

それが無かった、いや、薄かったからこそ、ボク達は今日までコロシアイをしなかった。

だってそうだろう? 外へ出る為だけに人を殺すなんて、普通の人間じゃ有り得ない。

第一、モノクマが本当に外へ出してくれるかも怪しいんだ。ハイリスク過ぎて、ローリターン過ぎる。

そんな事を考える位なら、全員で脱出する努力をした方がよっぽど有意義で、賢く、健全だ。

でも……その足りない部分を補ってしまったら?

もっと強く心を動かす動機……例えば、外では大事な人が人質に取られている――とか。

ボク達の精神を揺さ振って、欲望を刺激し、正常な判断を下せなくするような動機を与えられてしまったら?

「視聴覚室に行ってみなよ。そこにボクからの素敵なプレゼントがあるからさ」

うぷぷぷぷ、と。

モノクマは笑いながら、食堂から出て行く。

「見るのも見ないのも、信じるのも信じないのもオマエラ次第だからね?」

去り際に呟いたその言葉が、食堂の中で木霊したようだった。

真っ先に視聴覚室へ向かったボクと霧切さんの眼に映ったのは、無造作に置かれた一つのダンボール箱だった。

中身を見ると、一番上に大和田クンの名前が書かれたラベルの貼ってあるDVDディスクが入っている。

どうやら全員分の動機が用意されているようだ。

「霧切さん、皆を呼んできて」

「分かったわ」

霧切さんはそう言って、視聴覚室から出て行く。

彼女が完全にドアを閉めたのを確認して、ボクは自分の分のDVDディスクを取り出した。

『見るのも見ないのも、信じるのも信じないのもオマエラ次第だからね?』

瞬間、モノクマの言葉が脳裏にフラッシュバックする。

見なければいいと思うけれど、外の様子が気になるのも事実だ。

覚悟を決めて、視聴覚室に備え付けられた映像再生機器にディスクを挿入する。

暫くしてモニターに映し出されたのは、見慣れたリビングのソファーに座っている、ボクの家族だった。

「誠くん、あなたが希望ヶ峰学園に選ばれるだなんて夢みたいだわ……頑張ってね」

どんなに忙しくても、笑顔でボクを育ててくれた母さん。

「自分の息子として誇りに思うぞ。まぁ、でも……無理し過ぎないようにな」

優しく、時に厳しく、ボクの模範であり続ける父さん。

「お兄ちゃーん! 見てる~? 頑張ってねー!」

生意気で腹黒だけど、それでも大切な妹。

そんなボクにとってかけがえのない家族達からの、応援メッセージ。

こんな状況である事も忘れ、ボクはそのメッセージを嬉しく感じる。

会いたい、素直にそう思った。

……その思いを抱く事が、どんな結果になるとも知らずに。

「……なっ!」

突如として画面にノイズが走り、映像が切り替わる。

そこに映っていたのは……信じられないような光景だった。

「な、何だよ……何なんだよ、これ!」

燃え盛る庭の植物、割れ切った窓ガラス、ボロボロに切り刻まれたソファー、血痕が付着した壁、消えた家族。

まるでそこだけ戦場になってしまったかのような、荒れ果てた我が家がそこにあった。

『希望ヶ峰学園に入学した苗木誠クン……そんな彼を応援していたご家族の身に、どうやら何か起きたようですね?』

まるで他人事のように喋るモノクマの声。それでも隠し切れない笑い声が、ボクの不快感を加速させる。

『ではここで問題です! 苗木誠クンのご家族に、一体何があったのでしょうかっ!?』

正解発表は"卒業"の後で!

可愛らしいフォントで書かれたその言葉を最後に、映像は再生を終了した。

「……出なきゃ、急いでここから出なきゃ……!」

恐怖や怒り、生々しい感情がマグマのように湧き上がって、ボクの身体を支配する。

それでも最後の理性だけは残ってくれて、殺意だけは浮かばなかった。

その代わりに、行き場の無い嘆きが爆発する。

「ここから出せよ、モノクマ! ここから、出してくれよぉおおおおおお!」

視聴覚室に響き渡るボクの悲鳴。モノクマが、笑っているような気がした。

「苗木……君……?」

ドアの方から聞こえた声。見れば、舞園さんが困惑したような表情でボクを見ていた。

きっと、ボクの叫び声を聞いたのだろう。

「おいおい、今の声はどうしたんだよ……何があったんだ?」

続けて、桑田クンが視聴覚室へ入ってくる。

「ほう……それが奴のプレゼントという訳か」

十神クンが、ボクの横に置かれたダンボール箱に目を向けた。

……待て、よ?

「一体何が入っているかは知らないが……断言しよう! どんな事があっても我々はコロシアイなどしないと!」

皆のDVDも、こんな内容だとすれば……?

「して苗木よ、一体どんな内容だったいうのだ?」

だとすれば。

「な、何よ……無視してないで答えなさいよ!」

そうだとしたら。

「……苗木君?」

――絶対に、見せちゃ駄目だ。

ホモはせっかち

「来るな!」

気付いた時には、ボクは叫んでいた。

ヒリヒリと痛んでいる筈の喉を使って、皆に訴える。

だけど、ボクの奇行は皆の関心をモノクマからのプレゼントに向ける結果にしかならなくて。

「煩い奴だ、いいからその箱の中身を渡せ」

真っ先にダンボール箱に手を伸ばそうとする十神クンの手を、ボクは急いで払い除けた。

「な、何をしているのかね!?」

誰かが何かを言っているけれど、ボクの耳には入ってこない。そんな事を確認する余裕は無いんだ。

「くっそぉおおおおおお!」

ダンボール箱を目一杯まで持ち上げて、床へ思い切り叩きつける。

ケースから覗く砕け散ったディスクの裏面が、虹色の光を映した。

「こんな、こんな物!」

それでも全部壊すには足りなくて、ボクはその残骸を踏み割って、踏み壊す。

誰にも向けられない怒りの矛先を、この動機に向けてぶつけ続ける。

全員分の動機を壊したおかげである程度落ち着きを取り戻せたボクの耳に、誰かの心配そうな声が入る。

「苗木君、一体どうしちゃったんですか?」

「……何でもないよ、何でも……何でもないんだ」

舞園さんの問いに、ボクは上手く誤魔化す事は出来なかった。

こんな事して、何でもない訳無いじゃないか。

「苗木……貴様よくも俺の手を!」

放心状態のボクの胸倉を、十神クンが掴んで揺さ振る。少し息苦しいと感じたが、振り払う気力は無い。

乾いた笑いと一緒に、謝るしか出来なかった。

「はは、ごめんね十神クン……ちょっと混乱しててさ。でもプレゼントは壊れちゃったし、もう見る事は出来ないよ」

でもこれでいい。これなら誰も傷付かなくて済むんだ。あんな映像見たら、皆冷静じゃいられなくなる。

だから、これでいいんだ。

「苗木クン、ちょっと詰めが甘過ぎんよ~?」

突然、ボクの後ろのモニターから音声が流れ始める。

一瞬自分のDVDを取り出し忘れたかと思ったが、聞いた覚えの無い台詞に違和感を覚える。

そこでボクはようやく、自分が冷静じゃなかった事を再認識した。

「今時さぁ、バックアップなんて赤ん坊でも取ってる時代だよ?」

視聴覚室のモニターを埋め尽くすモノクマの顔と、全てのスピーカーから流れるモノクマの声。

「ごめんねオマエラ! 苗木クンがプレゼント壊しちゃったから作り直してるよ!」

ボクの行動を嘲笑するような顔と、ボクの行動を無意味と言い切る声。

「全員分出来上がるまでちょっと時間あるし、適当な誰か宛の映像でも流しておくね」

「――っ!」

そして、二度目の妨害が不可能と告げる声。

何で、何でこうなってしまった?

ボクが全部壊さなければこうならなかったか? ボクがした事は結局問題の先送りだったのか?

どうする、どうすればモノクマを止められるんだ?

対象は誰だ? いや、そんなの誰だって関係無い。誰のが流れたって危険だ。

モニターを壊すか? 数が多過ぎて間に合わないし、上に設置されたモニターを使われたら壊せない。

……畜生っ!

「皆、見ちゃ駄目だ! 今すぐここから出て!」

ボクは皆の目を見て、懇願するかのように伝えた。

せめて、少しでも皆に伝えられれば、映像を見る人が一人でも減れば。

こんな物見ちゃ駄目なんだ。見ない方が幸せだ。見てしまえばきっと……!

「――それじゃあ、舞園さやかさんへのプレゼントでも流そうかな!」

あくしろよ

ホモもホモ以外のとこも面白いね。期待

TVで見た覚えがある、舞園さんのコンサート映像。

中心に立つ舞園さんは勿論、その横に立つ四人も名前位は知っている。

「超高校級のアイドルである舞園さやかさんが、センターマイクを務める国民的アイドルグループ」

仲間が大切だと言う舞園さんにとって、彼女達はどれ位大切なのだろうか。

自分以上? 或いは、家族以上?

「そんな彼女達には、華やかなスポットライトが本当によく似合いますね。ですが……」

ボクには、それが分からない。

彼女にとっての大切がどれ程の重みを持つのか、ボクには想像する事すら出来ない。

「訳あって、この国民的アイドルグループは解散しました!」

それが消えたら、どれだけ悲しむかも。

それを穢されたら、どれだけ怒り狂うかも。

「彼女達が、アイドルとして活動する事も、スポットライトを浴びる事も二度とありません!」

分からない。

分かっちゃ、いけない。

「つまり、舞園さやかさんの帰る場所は――」

一体彼女は、超高校級のアイドルは、舞園さやかは。

「――何処にも無くなったのです!」

どんな気持ちで、この映像を見ている?

「う、嘘だべ……?」

「国民的アイドルグループが、壊滅ですと!?」

彼女達とは直接関係の無いボク達ですら、その苛烈な内容に言葉を失った。

鮮血を思わせるようなライトアップがチカチカとボク達の眼に入り込む。

それが彼女達の死を暗示しているようで、ボクは凍えるような寒気を覚えた。

「こ、こんなの合成だよ! そうだよね不二咲ちゃん!」

ただ一人、朝日奈さんがそんな暗示を振り払うかのように言う。

合成だと思いたいし、合成じゃなきゃ有り得ない。

「う、うん……合成……だと、思う……」

けれども、不二咲さんの態度でボクは察してしまった。

これが合成じゃない、本当に起こっていた事だと言う事を。

そしてそれが分かってしまうのは、ボクだけじゃない。

「い、嫌ぁああああああ!」

金切り声にも似た悲鳴が木霊して響く。

声の方向を振り向けば、舞園さんは座り込んで震えていた。

桑田クンが彼女の肩にそっと手を乗せようとする。

「やめてっ!!」

けれど、その手は狼狽した彼女に振り解かれた。

いつもの綺麗な笑顔は欠片すら残さず消え、その顔は青白く染まっている。

落ち着いて――なんて言える筈が無かった。

ボク達が呆然としていると、舞園さんは視聴覚室から飛び出していく。

「ま、舞園ちゃん!」

いち早く冷静さを取り戻した桑田クンが、真っ先に舞園さんを追い駆けた。

ボクもその後を追い駆けようとするが、その前に皆に言う事がある。

「ボクの映像も、あんな感じだった」

舞園さんの映像が本当だったという事は、十中八九ボクの映像も本当の事だろう。

思い出すだけで吐き気がしてくるが、それを堪えてボクは皆に問いかけた。。

「それでも、見たいって言える?」

返事を聞く必要は無い。見て欲しくは無いが、知る権利だって有って然るべきと霧切さん辺りが言うだろうから。

言い捨てるだけ言い捨てて、ボクは舞園さんと桑田クンを追い駆けた。

外へ出ると、微かにだか桑田クンの声が聞こえた。

音のした方向へ向かって走ると、教室のドアの隙間から舞園さんの声が漏れる。

ボクは開いたドアの隙間を静かに覗いた。

「出して! 今すぐ私をここから出してよ!」

見れば、暴れる舞園さんを桑田クンが抑えていた。

目には涙を浮かべ、桑田クンの手を必死に振り解こうとして。

正直、見ていられるような光景じゃなかった。

「あいつがそんな事する訳無いだろ! いいから落ち着けって!」

「助けだって来ないし、脱出する道も無い! だったら、もう――!」

誰かを殺すしかないじゃないか。

そう言外に叫ぶ舞園さんの迫力に、ボクは無意識に一歩距離を取っていた。

けれど、桑田クンはボクと正反対に。

「こっの――大馬鹿野郎!」

そう叫びながら、一歩前に進んでいた。

頭突きをするんじゃないかと思う程近くまで、その目を大きく開いて。

「だったら、俺がここから出してやる!」

桑田クンは、そう宣言した。

「約束する! どんな手を使ってでも、絶対にだ!」

出来る筈が無いけれど、自信満々に言うそれは不思議と心に響く。

真っ直ぐに通る声が、確かに舞園さんの恐怖を和らげていた。

「だから……もうそんな顔しないでくれよ」

桑田クンが呟いた言葉に、舞園さんは膝を突いて泣き始めた。

舞園さんの事は桑田クンに任せれば大丈夫だろう。

そう考えながら視聴覚室に戻ると、そこには不二咲さんしか居なかった。

「……他の皆は?」

そう聞いてみたものの、不二咲さんの隣に置いてある見覚えの無い段ボール箱を見れば、大体の察しは付いた。

「映像を見た後、皆何処かへ行っちゃった……」

予想通り、映像を見てしまったらしい。

「僕の映像ね、お父さんの映像だったんだ」

呟くように、不二咲さんが語り始める。

「舞園さんの映像みたいに、僕の家で倒れてて……」

その家も、ボロボロになっていて。

生きているか死んでいるかも分からない映像を、延々と見せ付けられて。

「ボクの映像も、ほとんど同じさ」

それが慰めにもならない事は分かりきっていたけれど、何か言わずにはいられなかった。

「苗木君の言ってた通りだったよ。あんな映像見て、冷静になんてなれないよね」

そう呟く彼女の背中が、いつもより小さく感じる。

その背中に何か言葉を投げかけたったけれど、うってつけの言葉は見つからない。

「どうしてあんな映像があるの……? 分かんない、分かんないよぉ……」

震える彼女の身体を見つめ、ボクはゆっくりと不二咲さんに近付いて。

「……苗木、クン?」

そっと、抱き寄せた。

「ごめん。こんな事しか、出来ないけど……」

ボクは、臆病だ。

好きな人に大丈夫の一言も言えやしない。

桑田クンのように堂々と振舞えない、本当にちっぽけな人間。

そんな自分が、許せない位に情けない。

「……ありがとう」

不二咲さんがボクの胸を涙で濡らす。

そんな彼女を抱き締める事しか出来ない自分が、酷く惨めだった。

やっぱりホモじゃないか(憤怒)
ノンケはないんですか!?

>>113
桑田がいるじゃあないか。死亡フラグ立った気もするけど

今後どうなっちまうんだべ

その日の夜時間。

当然すぐに眠れる筈が無くって、布団の中で纏まらない思考が燻った。

「生きてるのかな……父さんも、母さんも、こまるも……」

人を殺してまで外に出る勇気が無くたって、大切な家族の事をそう簡単に諦められる訳が無い。

そうやって少しずつ、理性が狂気に変わっていき、コロシアイが始まってしまうのだろう。

それは明日の話か、明後日の話か、その次の日の話か。

「嫌な話だ」

吐き捨てる言葉が部屋に小さく響く。

本当に、嫌な話だ。

もう何も考えたくなくて、ボクは布団に潜る。

そのまま夢の中へ逃げようとしたボクの耳に、インターホンの音が聞こえてきた。

「……誰?」

こんな時間に、何の用だろうか。

先程までも思考で脳味噌が疲れていたのか、警戒心の欠片も無くドアを開ける。

「ごめんなさい、こんな夜遅くに……」

ドアの先に居たのは、舞園さんだった。

「えっと、こんな時間にどうし――」

そこまで言って、ボクは彼女の様子に気付く。

舞園さんの様子が、何処かおかしい事に。

身体は分かりやすい位小刻みに震え、顔を青くし、目には薄っすらと涙を浮かべて。

舞園さんは、明らかに怯えていた。

「……何があったの?」

ボクは緊張した声で、舞園さんに問いかける。

彼女は、肺から空気を搾り出すような声で言った。

「部屋で寝ていたら、ドアが急にガタガタと揺れ出して……」

「それって、誰かが無理矢理ドアを開けようとしたって事?」

「はい……暫くしたら収まったんですけど……」

このタイミングでそういう事が起きたんだ。舞園さんが狙われてると思うのが自然だろう。

「皆を疑うって訳じゃないんですけど……ても、やっぱり怖くて……」

口に出すのは憚られるのか、遠回しに舞園さんは言う。

それでも夜時間になれば大丈夫だと言おうとした段階で、ボクはそれが強制力のある校則じゃなくただの口約束である事を思い出す。

くそ、自分で言い出した事なのに何で忘れてたんだ。やっぱりまだ冷静な思考が出来ていない。

「それで、お願いなんですけれど……部屋を交換してもらえませんか?」

「部屋を?」

「はい……お願い出来ませんか?」

別に僕自身は構わないのだが、一体それに何のメリットがあるのだろうか。

「あの部屋に居たら、また誰かがドアを乱暴に抉じ開けようとして、最悪ドアが開いちゃうんじゃないかって……」

なるほど、確かにそんな環境に女の子一人置いておくのは見過ごせないな。

とは言えなぁ……ボクがそのドアを開けようとした犯人の対処が出来るというのは別問題だし……。

「それに、苗木君だったら誰かが襲ってきても返り討ちに出来ますよね?」

「まぁ来ると分かっていれば多少の覚悟は出来るけど」

別にボクは喧嘩が得意な訳じゃないんだけどなぁ。正直、朝日奈さんにすら勝てる自信は無い。

でも、もしそれを今言ってしまったら不安にさせてしまうので、ここは黙っておこう。

「そういえば工具セットは?」

「慌てて来たんで、部屋に置いてあります……ごめんなさい、折角貰ったのに」

じゃあ舞園さんには防衛手段が無いのか……とはいえこの場合はボクが工具セットを持っていないとボクの身が危ないし……。

うーん、やっぱりカネゴンになるのを我慢してあの模擬刀をここへ持ってくるべきだったか。

まぁ、普通だったら殺すなら体力のある男子より体力の無い女子を優先的に狙うから大丈夫だろう。

……大丈夫かな、不二咲さん。部屋から出たら真っ先に様子を見に行こうか。

「分かった。部屋を交換しよう」

「本当ですか? ありがとうございます!」

そう言って舞園さんは、心底安心した顔で胸を撫で下ろした。

「あー……その代わりと言っちゃ何だけど、舞園さん」

「はい、何ですか?」

「少しでいいから、ボクの話し相手になってくれないかな?」

先に言い訳をしておくと、別にボクはやらしい気持ちなんか持っていない。

大体ボクがそっち方面の感情を抱くのは不二咲さんだ、本人には言えないし悟られないようにしてるけど。

純粋に、ただ純粋に怯える舞園さんが心配だったから。

ボクに出来る事なんて高が知れてるけど、それでも何かせずにはいられなかった。

「お話ですか? いいですけど、どうしたんです?」

「そうだなぁ、最期の思い出かな?」

「……そういうのは冗談でもやめてください」

「ごめんごめん、もう言わないよ」

「もう、次はげんこつですからね?」

舞園さんに少しだけ笑みが戻る。

それだけで、ボクの心も安心出来た。

そのままの流れで、探索ついでの自己紹介の時は時間が無くてほとんど出来なかった会話をしていく。

中学時代の他愛も無い出来事を。今はもう見る事が出来るかも分からない日常の話を。

「なんだか苗木君、変わりましたね」

話せる事はもうほとんど話した辺りで、舞園さんは唐突に呟いた。

「えっ、そうかな?」

「そうですよ。中学の頃よりも頼れる感じがします」

自分ではそんな実感が無いから、そう評価されるのは嬉しく感じる。

「何か切欠でもあったんですか?」

切欠、か……正直言うとそんなものは無い。

ボク自身、中学の時と比べて変わったなんて自覚は無い訳で――いや。

「一つだけ、あるかな」

今でも思い出せる、彼の言葉。

「ゴミ屑なボクだからこそ出来る事がある――」

酷く後ろ向きで、だからこそ前向きな言葉。

「そう言ってた人が居たんだ。流石にボクは自分の事をゴミ屑とは思わないけど……」

それでも、超高校級の皆に釣り合うような人間ではない。

何処にでも存在する、普通の人間だ。

でも、それでも、だからこそ。

「前向きに生きていこうって、もう一度思えた言葉なんだ」

そっち方面の感情(意味深)

舞園さんと部屋の鍵を交換し、ボクは自分の部屋を出た。

静まり返った廊下は、確かに不気味さを感じさせる。

「舞園さんが怯えるのも仕方ないな……」

そう呟きながら、ボクは不二咲さんの部屋へ向かう。

インターホンを鳴らすと、寝巻きを着た不二咲さんが出てきてくれた。

「ごめんね、こんな時間に」

「今から寝る所だったから大丈夫だよぉ。それでどうしたの?」

「実はさ、さっき舞園さんと話して――」

ボクは舞園さんと部屋を交換した事だけを隠しながら、不二咲さんにドアを叩く音があったか聞いた。

「ドアを叩く音なんて無かったよぉ? インターホンだって苗木君が初めてだし……」

しかし、不二咲さんの所には特に何も無かったらしい。良かった……不安は残るけど取り敢えずは大丈夫だろう。

「そっか……ごめんね、寝る邪魔をしちゃって」

「夜更かしは慣れてるから気にしないで? それじゃあ、お休みなさい」

「うん、お休み」

不二咲さんの部屋を離れ、今度こそ舞園さんの部屋に入る。

――さて。

「ベットで寝てもいいものか……」

舞園さんに迷惑をかけない程度に、工夫をしなきゃいけなさそうだ。

「ボクは皆と違って、ただの――ってだけの人間だ」


「そうな――すか? じゃあ、ボクと同じ――ですね」


「ハハ、キミと違ってボクはゴミ屑だけどね」


「そんな事無いですよ、先輩の――は本物じゃないですか」


「慰めて――てるのかい? あり――う、苗木クン」


「慰め――ないですよ、ボクは本心から――言ってます」


「でもね、ゴミ――から分かる事だってある――よ? 苗木クンが――だと思って――からこそ分かる事が――ように」


「――普通だ――こそ分かる事? それって……」


「同じように、ゴミ屑なボクだからこそ出来る事もある」


「――先輩……」


「苗木クン、ボクはね? 皆の――を輝かせ――る為なら何だってやろうと思えるんだ。それが例え、皆――どう見られようとね」

ん?今何だってやろうって言ったよね?

身体の節々が痛む中、ボクは目を覚ました。

「結局あの後、床で寝たんだっけ……」

曖昧な記憶を探りながら、ゆっくりと起き上がる。

「……あ」

その際、下半身に感じる窮屈さから自分の身に起きている変化を察し、ボクは大きな溜息を吐いた。

はぁ……ゴホン。

今更説明するまでも無いし昨日の時点で既に言っていると思うけれど念には念を入れて弁解おくが苗木誠の恋愛対象は
不二咲千尋一択であると同時にボク自身は正常かつ普通な男子高校生でもある訳で不本意ながらも興奮してしまったら
対象が何処の誰であろうと身体が恥ずかしくも反応してしまうのはどんなに足掻いた所で抗う事の出来ない運命であり
とどのつまり何が言いたいのかと言うと超高校級のアイドルである舞園さんの使っている個室に一人きりなんて状況に
置かれれば誰だろうと下半身の波動エンジンがエクストリームでフルブーストなヘヴン状態になってしまったとしても
それは不可抗力じみた必然としか言い表せないから決してボクだけが変態と口汚く罵られる事は断じてある筈が無い!

……うん、うん。

なんかもう、死にたい。

誰に言うでもない自己弁護が、自分の愚かしさを雄弁に物語っていた。

「さーて、どうしようかなぁ……」

すぐにとは言えなくてもちょっと時間が経てば落ち着くだろうが……ついでだし汗を流しておきたい。

「流石にここのシャワーを借りるのは駄目だよな、うん」

それは明らかに踏み越えちゃいけないラインを逸脱してしまうだろう。

もうすぐ朝食会が始まる時間だから舞園さんがもう向かってるかもしれないが、駄目元で部屋に寄ってからでも遅くは無いだろう。

そうと決めたボクは、そそくさと舞園さんの部屋から出て、自分の部屋のインターホンを鳴らした。

しばらくしても反応が無いからもう一度インターホンを鳴らして待つけれど、それでも反応は帰ってこない。

やっぱりこの時間だともう朝食会に行ってしまってるか? 仕方がないな、残念だけどシャワーは諦めよう。

「苗木君、自分の部屋のインターホンを鳴らしてどうしたのかね?」

うわぁしまった、面倒な人に捕まっちゃった。

ただでさえ部屋の交換とか説明しにくい事なのに、不純異性交遊とか言われたらどうしたものか。

「おはよう石丸クン。朝食会は?」

巧妙に話題を逸らしつつ、石丸クンに挨拶する。

「勿論もう始まっている! しかしだね……」

どうやら普段は五分前から来ている舞園さんが、未だに食堂へ来ないらしい。

食堂にも居なかったのか……じゃあ反応が無いのはまだ熟睡中だからなのか?

まぁ確かに昨日はモノクマの所為で酷い心理状態に陥ったんだ、怯え疲れてたとしても不思議ではない。

「そういう訳で舞園くんを呼びに来たのだ。苗木君も早く食堂へ向かいたまえ」

「あぁうん、分かった」

石丸クンに促されて、ボクは食堂と向かう足を速める。

さっきの事を聞かれる前に食事を終わらせて有耶無耶にするとしよう。

そう思いながら早歩きしていると。

「むっ? よくよく見たらこっちが舞園君の部屋か。苗木君すまない! どうやら僕の勘違いだったらしい!」

石丸クンが、変な事を言い出した。

「勘違いって、石丸クン何を言って――」

否定しようとして後ろを振り向いた所で、ボクは違和感を覚えた。

石丸クンは今、何て言った? こっちが舞園さんの部屋だって?

話の流れから察してこっちと言うのはボクの部屋の事だろうけど、それはおかしい。

だって、ネームプレートにボクの部屋だって書いてある筈なんだから。

だから石丸クンが勘違いするような事なんて何も無い筈……。

「――っ!」

それが視界に入って、ボクは絶句してしまった。

ボクが出た部屋のネームプレートに貼り付けられた、ボクの名前を。

その意味を認識した瞬間、前触れも無くボクに寒気が走る。

ボクにはそれが悪い予感じみた何かに感じられて、不気味さを加速させた。

「石丸クン、ちょっとどいて!」

ボクは石丸クンを押し退けて、ドアノブを乱暴に動かす。

それだけでドアは、何の違和感も無く開いた。

寒気が一層、強くなる。

「鍵をしていないのか? 舞園君は防犯意識が低いようだな、これはしっかり忠告しておかないと――」

石丸クンが何か言っているが、その言葉もボクには入ってこない。

……いや、これは聞こえてないんじゃなくて、彼も喋ってないのだろう。

歯と歯が小刻みにぶつかり合う音だけは、今もハッキリと聞こえる。

ボクも石丸クンも、見てしまったのだ。

「あ、あれは……あの色は……!」

……いや、まだ決まった訳じゃない。まだ救いはあるかもしれない。

ボクは恐る恐る、部屋の中へと入っていく。

入り口からの死角、シャワールームの方から流れている液体の後を追うように。

「舞園さ――」

そして、知る。







――舞園さんが、死んでいる事を。





http://ct.webcomic-eb.com/viewer/EB/touyahazim_001/danganronp_002/0001-0/index.html#page=1

不二咲死ぬと思ってた

「舞園、さん……」

開いた口から何か漏れて、その次が出てこない。

呼びかけたって答えが返る訳が無いと思ってしまっているのに、どうしてかボクは呼びかけていた。

いや、そんな事をしている場合じゃない。すぐにでも皆に知らせなきゃ駄目だ。

そう考えて実行しようとしても、ボクの身体はピクリとも動かない。

何で、何でなんだ。

頭の中は残酷過ぎて気持ち悪くなる位に冷静なのに、身体は全然言う事を聞いてくれない。

まるで、動かない死体のように。

「――うっ」

舞園さんの死体と自分の肉体が重なったかのような錯覚が、胃液が逆流する感覚がボクを覚えさせる。

ボクはその感覚に耐え切れなくって、膝から崩れ落ちてしまった。

「ごぼっ……が、はぁ!」

こんなの、我慢出来る訳が無い。

制御の効かない身体は、現場の保全なんてお構い無しに吐き散らす。

目と鼻の先にある舞園さんの血液が、ボクの吐瀉物と混じり合う。

充満している鉄の臭いと胃酸の酸っぱさが、意識を奪おうと襲いかかった。

駄目だ、倒れちゃ駄目なんだ、ここで倒れる訳には――







――暗転




「どうしても、なん――か?」


「どうしても、なんだよ」


「何で不二咲――を選んだんですか?」


「好きだから、愛しているから」


「どう――私じゃ、駄目――ですか?」


「――さんには、ボクより相応しい人がいる。だけど不二咲――には、ボクしかいない」


「違う、違う筈です……違うって言ってください、苗木君……」

シリアスホモとは…

……また、夢?

「――君! 苗木君!」

舞園さんが……呼んでる?

「舞、園……さん?」

「何を言っているのかね苗木君! 目を醒ましたまえ!」

その耳に響く声が、ボクの目を醒まさせた。

「石丸クン……? あれ、皆も……」

身体を起こすと、視界には皆が映り込む。

こんな人数がボクの部屋に? それは無理が……いや、ここはボクの部屋じゃない。

「体育館? 何でこんな所で……」

自分の身に何が起きたのか未だに理解出来ず、ボクは困惑した。

「そうだ、舞園さんは? さっきまでボクを呼んでいたような……」

さっきまで呼んでいた声の主を探す。けれど、体育館の何処にも姿が見えない。

おかしいな、何処に行ったんだろう……?

「舞園さやかは死んだわ」

「……え?」

霧切さんの言葉に、ボクの心臓は動きを止めた。

そんな、嘘だ。有り得ない。

だって昨日、ボクは部屋を交換して……それからどうした?

それから、ボクは今朝――

「――うっ!」

喉元まで出かかった物を今度こそ抑える。

思い出した、思い出してしまった。

死体も、血溜まりも、吐瀉物も、色も、臭いも、空気も。

笑顔だった舞園さんの顔と一緒に、サブリミナルのように再生される。

「ふん、ようやくまともになったようだな」

十神クンがそう言いながらボクを嘲笑する。

人死にが出たのにも関わらず、普段と一切変わらないその態度が、酷く癪に障った。

「何で十神クンはそんなに冷静なんだよ! 舞園さんが、舞園さんが……!」

そこから先の言葉は、喉がつっかえて言えなかった。

頭で理解していたって、認められる訳が無いじゃないか……!

「私達だって好きでここにいる訳じゃないわ。モノクマに呼び出されたのよ」

モノクマに呼び出された……?

「なんだよそれ……そんな理由でここにいるって言うの?」

「奴はゲームの説明と言っていた。お前が落ち着かないと説明が始まらん」

「そんな事を聞いてるんじゃないよ! どうして皆大人しく言いなりになってるのさ!?」

「お黙りなさい」

声を荒げるボクに対し、冷ややかな目を向けてセレスさんが語りかける。

その全身から感じるような冷たさに、ボクの頭も話を聞く余裕が生まれた。

「モノクマに逆らえばその場で殺される……それを知っても貴方は同じ事を言えますか?」

その場で殺される……モノクマの目的はあくまでボク達にコロシアイ学園生活を送らせる事だ。

確かに校則で自身への暴力を禁じてはいたが、わざわざ生徒を減らすなんて信じられる訳が無い。

「モノクマには自爆機能があって、爆発してもスペアが次々現れる」

「……本当に?」

けれど、嘘にしては堂々とし過ぎている。

そうじゃなくたって、誰もセレスさんの話に異議を唱えていない。

「そこのトウモロコシが証明してくれたのです」

「大和田クンが?」

「おい、トウモロコシと俺をイコールで結び付けるんじゃねぇ」

「うぷぷ、セレスさんの言っている事は本当だよ」

噂をすればなんとやら。体育館のステージから奴の声が聞こえてくる。

見れば、鮭を持って踊っているモノクマの姿があった。

「モノクマぁ……!」

ボクの怒りなんて初めから相手にしてないかのような仕草で、モノクマは話し始めた。

「始業式の時もそうだけど、苗木クンはボクの予定を狂わすのが好きだよねぇ~」

そう言いながら、モノクマはボクの目を見て踊り始める。

そのクネクネとした動きの踊りが挑発行為なのは、誰から見ても明らかだ。

「マンガにはページが、テレビには尺が、スレッドには残りレス数があるの知ってる?」

「だったら無駄話なんてしてないでさっさと本題に入れ」

十神クンの促しで、モノクマは渋々といった表情で頷いた。

「仲間の誰かを殺したクロは卒業となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません……この校則は覚えてるかな?」

「えぇ、覚えているわ……話と言うのは、この条件が満たされているかの査定するシステムがあるって所かしら?」

「察しが良い生徒のお陰でスムーズに話が進むねぇ……涙が出ますよ」

何処から取り出したのか分からないハンカチで目を当て、わざとらしい涙声で話すモノクマ。

ボクが気絶してなくたって自分で進行を遅くさせてるじゃないか。

「霧切さんの予想通り、本当に他の生徒に知られてないかを判断するシステムをボクは用意しています」

今から説明する事がそんなに楽しいのか、モノクマはいつも以上にニヤニヤとして語り始める。

「オマエラ、電子生徒手帳の校則欄をご確認下さい!」

言われるがままに電子生徒手帳を起動させる。そこには見覚えの無い項目が追加されていた。

「生徒内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に生徒全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます……」

「見事舞園さんを殺したクロを見つけられたらそのクロをオシオキ、見つけられなかったらクロ以外を全員オシオキ。ね、簡単でしょう?」

モノクマは何処から取り出したのか、画材を持って楽しそうに説明を続ける。

キャンバスに飾られた舞園さんのポスターに、鮮やかなピンク色の×印が付けられた。

「それと学級裁判の為の捜査を効率良く進める為に、オマエラにプレゼントがあります! もう一度電子生徒手帳を見てください!」

見れば確かに、校則の下にモノクマファイルと書かれた項目がある。

「オマエラさぁ、超高校級って言っても殺人事件の捜査とかした事無い素人でしょう?」

人の死を間近で見た人は数人いそうだけどね。

何かを呟いたかと思うと、モノクマは何事も無かったかのように話を進める。

「死因とか死亡推定時刻とか必要最低限の情報を纏めておいたから、有効に使ってよ!」

今ので全て説明し終わったのか、満足気な表情を浮かべるモノクマ。

「それじゃあそろそろ始めようか! クロもそれ以外も精々頑張って、ボクを楽しませてね」

その言葉をといつもの笑い声を最後に残して、モノクマは軽快な足取りでこの場を去っていった。

モノクマが去り、すぐに学級裁判に向けての捜査が始まるかと思った。

けれど、誰一人として体育館から出ようとしない。それどころか一歩も動こうとする気配が無い。

電子生徒手帳を黙々と読んでいる人もいれば、ただただ呆然と立ち尽くしている人もいる。

そりゃそうだ、そんな人の命を軽く扱うようなゲームに対して、本当に自分の命が係っていると強く実感する方が無茶な話なんだ。

超高校級と称えられようが所詮は人間、しかも高校生。

ボクと同じように、目まぐるしく変化する展開に思考が追い付かないんだろう。

閉じ込められて、コロシアイを強要されて、実際に死人が出て。

適応なんて、出来るものか。

「え、嘘……」

そんな静寂を、誰かの声が破いた。

その声の主は――朝日奈さんはボクの方を向き、こう言い放った。

「苗木が、犯人なの?」

「……は?」

ボクが? 舞園さんを?

「朝日奈さん、一体何を根拠にそんな事……」

そこまで言って、ボクは気が付いた。

ボクは慌てて確認するように、モノクマファイルを読み進める。

そこには、こう書かれていた。

被害者――舞園さやか。

死因――腹部の傷による失血死。

死亡推定時刻――12:30。

死亡場所――苗木誠の部屋。

「あら、個室の鍵は一つしか無い筈でしたよね?」

セレスさんが何気なく呟いたそれが、今のボクが陥った状況を言外に説明していた。

殺されたのがボクの部屋なら、ボクが疑われるのは火を見るより明らか。

それに気付いている全員が、ボクに疑いと軽蔑の視線を送っている。

だけど、ボクが犯人じゃないのは舞園さんと、ボク自身が一番良く理解している。

ここでボクがクロに指定されて、皆を――不二咲さんを殺してしまう訳にはいかない。

そう思うと、口が勝手に動いていた。

「違う! 犯人はボクじゃない!」

「で、でもよぉ……苗木っち以外に誰が苗木っちの部屋に入れるんだべ?」

「それは舞園さんが夜時間前に部屋を交換してって頼みに来て!」

「あんなに怖がっていた舞園さやか殿がですか? ちょ~っと作り話臭いですなぁ……」

「でも、本当に……!」

駄目だ、何を言ってもこんな状況じゃ信用される訳が無い。

突破口が無ければ、打開策も思い付かない。

終わった……そう思い始めたボクの耳に。

「……苗木が犯人って、難しくね?」

救いの声が、聞こえたような気がした。

「あ? 何か言った桑田?」

江ノ島さんが桑田クンを睨むように聞く。

「え? あ、いや、だからさ……苗木が犯人って、お前ら想像出来るのかって……」

歯切れの悪い口調で、桑田クンはそう言ってくれた。

「僕は苗木君が舞園君の死体を見た時の反応を知っている、彼が犯人なら気絶までするとは思えないな」

「実際に間近で見てる奴が言うなら……まぁ、そうなんじゃねーのか?」

少しずつだけれど、その意見に賛同してくれる人が増えていく。

微かにだが、希望が見えた気がした。

「それが演技という可能性は? そんな根拠でこいつの容疑は晴れないぞ」

「演技じゃないという可能性も同じように無いわ。今の情報だけで判断は出来ないでしょうね」

十神クンの指摘に、霧切さんが反論する。

それ以上は水掛け論になるのが分かったのか、十神クンは舌打ちしながら黙った。

十神クンの様子を見て、霧切さんはニヤリと笑う。

「真実は捜査して、裁判で決めましょう」

その言葉が、捜査開始の合図となった。

犯行現場であるボクの部屋は、大和田クンと大神さんが二人で見張りをしている。

提案したセレスさん曰く、頭脳労働が苦手なら証拠隠滅をさせない努力をしろとの事。

適材適所ではあるかもしれないが、同時に二人に対して失礼なんじゃないかと思った。

「それで霧切さん、何でボクを捜査に?」

ボクの部屋のメモ帳に何かを書き込んでいる霧切さんに、ボクはなんとなく聞いてみる。

目下一番怪しいボクとわざわざ一緒に捜査するなんて、何を考えているのだろうか。

確かに三人もいればここで細工しようと思う犯人はいないだろうけれど……。

「自分で真相を突き止めないと、後悔すると思うから」

メモ帳から視線を一切外さずに、霧切さんはそう言いながらペンを走らせる。

「それはそうと、苗木君はここに来てからメモ帳を使ったかしら?」

「どうしたのいきなり?」

「後、潔癖症?」

「だからどうしたのってば……えっと、どっちも無いです」

ボクの答えに満足そうな表情を浮かべて、霧切さんはメモ帳を一枚破いてそれを自分のポケットに入れた。

「苗木クンはベットの下を調べて、私は死体を調べるわ」

ボクにそう言って、霧切さんは動揺する様子も無く、舞園さんの死体を弄るように調べ始めた。

「死体って……霧切さん、調べられるの?」

「多分出来るわ。貴方よりずっとね」

少々……いや、結構心配だけれどボクだとまた吐いてしまって、まともに捜査が出来る訳も無いので素直にベットの下を手探りで調べた。

「……うぇ」

右手に濡れたハンカチを触った時のような独特の感触が伝わる。

一旦腕を引っこ抜くと、予想通り赤い液体が付着していた。

既に触ってしまったと諦めて、ボクは素手でその物体を取り出す。

それは、血で染まった破れたシャツの袖だった。

「真っ赤過ぎてこれ誰のかもう分からないなぁ……」

「包丁ね……」

霧切さんが割り込む様に呟く。

「これが?」

「使われた凶器がよ」

検死は終わったのか、霧切さんは立ち上がってボクの方を見る。

「苗木君、無理かもしれないけど死体を調べなさい。直前まで会っていた貴方にしか分からない事があるかもしれないわ」

「おい霧切、流石にそれは無茶なんじゃねぇか?」

霧切さんの提案を聞いて、今まで口を挟んでこなかった大和田クンが止めた。

「苗木よ、無理はするな。お主には辛過ぎるだろう」

大神さんがボクの事を心配して、そう言ってくれる。

けれど、あるかもしれないボクにしか分からない事を見逃したら、霧切さんの言う『後悔』をしてしまう気がした。

自分の為にも、舞園さんの為にも、皆の為にも、無理してでも我慢しなきゃいけない。

「ありがとう大和田クン、大神さん……ボクならもう大丈夫だよ」

それでも止めようとする二人を払い除ける様に、ボクは舞園さんの死体を注意深く調べていく。

見れば見る程に、生きてる姿を思い出して、目の前の舞園さんの死体と重なってしまう。

「……あっ」

迫る吐き気と戦う中、ボクは一つだけ相違点を見つけた。

「右手に、丸い痣がある……」

ボクの記憶が確かなら、部屋を交換した時にこんな痣は無かった。

証拠になり得るか分からないけれど、一歩真相に近付く事が出来たのだろうか?

「お手柄ね、苗木君」

霧切さんがそう言ってくれる。それだけで自分も役に立っていると思えた。

「でも、ごめん……そろそろ限界かも……」

そこまで言って、ボクは口を抑えた。やはり、そう簡単に慣れる訳が無い。

「お、おい! シャワールーム入れ!」

「……むっ、このドア開かぬぞ!」

開くのにコツがあると言いたかったけれど、今口を開いてしまうと吐き出しそうだ。

「大神さん、苗木君を男子トイレまで運んで」

「見張りは任せたぞ」

慣れた手付きで大神さんはボクを運ぶ。

その巨躯からは想像出来ない位に繊細な運び方のお陰で、辿り着くまでにリバースする事は無かった。

洋式のトイレに気兼ねなく吐き出して、流そうとする。

しかし、詰まっていた所為で水で薄まった吐瀉物が便器から漏れ出しそうになった。

「超高校級の幸運って、何なんだろう……」

二重の意味での非常事態から逃避するように呟いて、トイレから出て行く。

その後、ボクは霧切さんと合流して食堂に向かい、使われた凶器が包丁である事の裏取りをした。


キーン、コーン……カーン、コーン……


そこまで調べた所で、突如アナウンスが鳴り始める。

『えー、そろそろボクも待ち疲れたんで……そろそろ始めちゃいますか?』

気怠るそうな声が段々と嬉々とした声に変わっていき、スピーカーの音量が心なしか大きくなっていく。

そして、高らかに宣言する。

『お待ちかねの……学級裁判を!』

集合場所の、校舎一階にある赤い扉の先。既に全員が集まって、何かを話し合っていた。

一瞬聞こえた腐川さんの台詞から察するに、どうやらボクが怖気づいてここに来ないと思っていたらしい。

「苗木君! 遅かったじゃないか! それに霧切さんはどうしたのだね!」

それを反論しようとした所で、石丸クンがボクが入ってくるなり詰め寄ってくる。

「あ、あの……すぐ戻るって行ってたから、すぐ来るよ」

出鼻を挫かれた感じがして、ボクは反論する事を諦めながら石丸クンを引き離した。

「何処に行くのかは聞いてないのですか?」

「うん……返事も聞かずに行っちゃって……」

どうしても気になる事があると言って霧切さんは何処かへ行ってしまったけれど、何処に行くかは教えてくれなかった。

「待たせたわね」

噂をすれば、霧切さんが戻ってきた。

特に何か変わった様子は無い……本当に何をしに何処へ行ったんだ?

「い、今更何処に行ってたって言うのよ……どうせ証拠を隠滅しに行ったんでしょう?」

「全員ここに集まっているのに、わざわざ証拠を隠滅しに行く必要があるの? 少しは考えてから発言する事ね」

腐川さんはともかく、どういう訳か霧切さんまで毒を吐いて睨み合いを始めた。

……何か、さっきよりも機嫌が悪い?

『はいはい、そういうのは学級裁判でやってよね』

スピーカーからモノクマの声が聞こえる。見上げれば、モニターからソワソワしたモノクマが見えた。

その様子からして、もう待ちきれないのだろう。

『それでは正面に見えるエレベーターにお乗りください。そいつがオマエラを裁判場まで連れてってくれるよ!』

オマエラの、運命を決める裁判場にね。

呟いたモノクマの台詞に、思わず息を呑んだ。

そう、ここでボク達の運命が決まる。

勝ちか、負けか、生きるか、死ぬか、希望か、絶望か。

『うぷぷ……ボクは一足先に行って待ってるからね~!』

スピーカーの音声とモニターの映像が終わると同時に、物々しい音と共にエレベーターの扉が開く。

このエレベーターに、乗り込めばいいんだな……。

「では、行くとするぞ……」

「……そうですわね」

ぞろぞろと皆が広いエレベーターに入っていく。

「怖いの?」

後ろから、霧切さんが話しかけてきた。

「そりゃ……ね」

「もう一度言うけれど、この事件の謎は貴方が突き止めるべきよ」

「そうしないと、後悔したまま終わるから?」

「……そうよ」

言いたい事を言い切って、霧切さんもエレベーターに乗り込む。

「……言われなくたって、そのつもりだ」

そう呟いて、ボクも急いで乗り込む。

既に全員が乗り込んだエレベーター、最後のボクが足を踏み入れたところで扉は閉じ、エレベーターは動き始めた。

不快な揺れと耳障りな音と共に、エレベーターは下へ下へと潜っていく。

辿り着いた先は、全部が被告席の裁判場。

全員の表情が見れる配置は、互いの緊張感が互いへと飛び交う事を意識した作りだろう。

それぞれが、ネームプレートを頼りに自分の席へと向かう。

全員が配置に付くと、空気は一気に重苦しいものへと変わった。

そして、幕は開く。

命がけの裁判……

命がけの騙し合い……

命がけの裏切り……

命がけの謎解き……

命がけの言い訳……

命がけの信頼……

命がけの、学級裁判。

【コトダマ一覧:苗木誠視点】

・モノクマファイル01
被害者:舞園さやか。
死因:腹部の傷による失血死。
死亡推定時刻:12:30。
死亡場所:苗木誠の部屋。

・ネームプレート
苗木と舞園が部屋を交換した時には入れ替わっていなかった

・部屋の状況
特に争った形跡は無し

・血のついた袖
ベットの下に落ちていた

・凶器
食堂の包丁が使われている

・痣
最後に話した時には無かった丸い痣が右手にある

石丸は男女問わず君をつける

学級裁判は、モノクマの簡単な説明から始めまった。

学級裁判の結果はボク達の投票により決定され、正しいクロを指摘出来ればクロだけがオシオキ。

もし間違った人物を――この場合、ボクを指摘してしまった場合は……。

「クロ以外の全員がオシオキされ、皆を欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!」

そう……モノクマの言う通り、クロ以外は殺されてしまう。

「本当に……この中に犯人がいるんだよな?」

今でも信じられない。あの舞園さんを殺した人間が、この中に居るなんて。

「よし、皆で目を閉じよう! そして犯人は挙手したまえ!」

「アホか、挙げる訳ねーだろ」

そしてこの期に及んで、緊張感の無い人が存在する事に。

「ちょっといい? 議論の前に聞いておきたいんだけど……あれって、どういう意味?」

霧切さんが、ボクの隣にある舞園さんの遺影を指差した。

体育館でモノクマが使っていた舞園さんのポスターを流用した物ではなく、もっとしっかりした遺影。

白黒の顔写真に、ショッキングピンクの脱落印。

これが全員分用意されていると思うと、嫌悪感が湧き出てくる。

「死んだからって仲間外れにするのは可哀想でしょ? 友情は生死を飛び越えるんだよ!」

「精子が……飛び……超える!?」

「黙ってよ山田クン」

隣からそんな台詞を聞かされただけに、ボクの脳内不快指数は既に臨界点に近い。

「それでしたら……あの空席は?」

セレスさんがモノクマに問う。朝日奈さんと葉隠クンの間に、余分に一つ席が空いている。

ボク達の人数を数え間違えたのか……? いや、モノクマに限ってそれは無いだろう。

何か別の意味――別の意図がある筈だ。

「特に意味は無いよ? っていうか前置き長くない? そろそろ始めてよ!」

でも、今はそれを追及する場面じゃない。

ボク達が求めているのは、舞園さんを殺したクロの正体だけだ。

「じゃあ議論を始めて、はい、ヨロシクゥ!」

「殺人が起きたのは苗木の部屋だったな」

十神クンの台詞を皮切りに、議論は殺人現場の話になる。

「具体的に言えば、シャワールームの扉の前で死んでいた……」

見張りをしていた大神さんが、付け足すように言う。

「部屋で争った形跡も無いんでしょ?」

そこで更に江ノ島さんの発言が発展し、腐川さんの言葉がボクに突き刺さる。

「ど、どうせ舞園は苗木に殺されたのよ……!」

「部屋に連れ込んで油断していた所をブスリ! ですなぁ……」

山田クンの台詞に、皆が納得したような顔をしている。

困った事に、矛盾は今の所何一つ見つからない。

ボクが第三者なら、ボクだってそう思っても不思議じゃない。

「待って、苗木クンが犯人だと結論付けるのはまだ早いわ」

「そ、そうだぜ! こんなお人好しが人殺しなんて出来る訳無いだろ!」

霧切さんと桑田クンがフォローしてくれるけれど、それ以上の同調は出ない。

「それを証明する為にも、まずは凶器の包丁について話しましょう」

議論はテンポ良く、けれど五里霧中に進んでいく。

「凶器の包丁と言われましても……」

「えっと、一番小さい包丁が使われてたんだよね?」

不二咲さんの言う通り、使われた包丁は確かに一番小さい物だ。

けれど、それがボクの無罪を証明する突破口になるとは思えない。

「きっと、苗木が誰もいない時に持ち出したのよ。小さいのは運ぶ時バレないからとでも思ったんじゃないの?」

「それは有り得ないわ。食堂が閉まる寸前まで、大神さんと朝日奈さんが一緒に居たわよ」

霧切さんのその情報は初耳だった。ボクと一緒に捜査する前に事前にアリバイを聞いていたのだろうか。

だとすれば、二人は知っている事になる。

「それじゃあ、バレないようにこっそり持ち出したのよ!」

「いや、我と朝日奈が厨房で包丁を使った時から苗木は食堂に来ていない……」

「無くなったのはその後からだから、苗木は包丁を持ち出せないよ!」

ボクが反論するよりも前に、二人はボクが包丁を持ち出していない根拠を説明してくれた。

霧切さんは、これが分かっていたから議論を凶器の話に誘導させたのか?

「じゃ、じゃあこういうのはどうかしら?」

自分の意見を否定された割には珍しく、腐川さんはヒステリックを起こす事無く次の可能性を示す。

「そこの筋肉女と乳牛と苗木誠は共犯関係にあって嘘の証言をしているとか……」

とはいえやっぱりイラついてはいるらしい。

「丁度良い、そこのヌイグルミに聞いておきたいんだが、共犯者が存在した場合はそいつもクロになるのか?」

「無いです」

十神クンの質問に、モノクマは素っ気無く答えた。

「つまり、いくら殺人を手伝ったところで実行犯しか卒業出来ないのね……」

「そんなの今聞いた話じゃない! 知らなかったら共犯だって――」

モノクマの足りない説明を聞いてもまだ、腐川さんは反論する。

そんなにボクを犯人にしたいのか。

「面倒臭いなぁもう! 今回の事件に共犯者はいないんだよ!」

ゲームマスターとしての考えか、モノクマは共犯者がいない事を明かした。

「あっ……言っちゃった」

と思ったら、ただの失言だった。

「共犯者が有り得ないのでしたら、朝日奈さんか大神さんも包丁を持ち出している可能性は低いですわね」

セレスさんがボクの代わりに犯人候補になりそうな二人を見て、そう呟く。

けれど、可能性が低い?

「はぁ? 低いんじゃなくて無いんじゃねーの?」

桑田クンも同じ考えを持ったのか、セレスさんに問いただす。

「彼女達は仲睦まじい間柄ですわ。お互いがお互いを庇っても不思議はありませんわ」

セレスさんの補足を聞いて、ボクは妙に納得してしまった。

確かに二人なら、それもしても不思議は無い。とはいえ、今それを考慮する必要性は皆無だろう。

「ふん、有り得ん」

「いいえ、有り得なくは無いわ」

十神クンと霧切さんが正反対の意見を言うけれど、どちらもそれについて話すつもりは無いようだ。

二人とも睨み合いをやめ、すぐに議論の方へと話は進んだ。

「他の人物は来なかったのかね?」

石丸クンが大神さんに尋ねる。恐らく、その包丁を持ち出した人物が犯人だ。

「確かに一人来たが……」

予想通り、包丁を持ち出した人が存在したらしい。

しかしどういう訳か、大神さんはそれが誰なのか言おうとしなかった。

「どうした、まさかそいつを庇っているのか?」

「そういう訳じゃないんだけど……」

朝日奈さんの方も歯切れが悪い。一体何が彼女達の口を動かそうとしないのか。

「まさか……舞園さんなの?」

不二咲さんの呟きに、大神さんと朝日奈さんは無言で頷く。

……ちょっと待て。それって、つまり……そういう事、なのか?

「包丁を持ち出したのは、舞園さんって事?」

「そうとしか考えられまい……」

一瞬、自分の足元が崩れ落ちるような錯覚を覚えた。

脳裏に最悪の可能性が過ぎるけれど、両足に力を入れて何とか持ち直す。

「そうだ……きっと、護身用にしようとしたんだ!」

そうだ、きっとそうに違いない、そうじゃないとまるで……。

……いや、今は裁判に集中しよう。きっと、違う筈だから。

「つまり、舞園は自分で持ち出した包丁を犯人に奪われ、それで殺されたんだな?」

「包丁を持ち出していないからと言って容疑が晴れたとは言えない訳ですな」

「ほ、ほら見なさい……! やっぱり、苗木が犯人なんじゃない……!」

それは全員に同じ事が言える筈なのに、部屋の持ち主がボクであるだけに容疑は一気にボクへと集まる。

否定したくても、自分の持っているコトダマでは現状を打破する事は出来ない。

でも、ボクには出来なくとも彼女には出来る。

「残念だけど、苗木クンだけは絶対に犯人じゃないわ」

霧切さんが罵詈雑言じみたボクへの糾弾を切り裂くように宣言した。

「今回の犯人は、部屋の持ち主では有り得ない行動を取っていたのよ」

「ありえねー行動? なんだそりゃ?」

「現場には、あって当然の物が存在してなかったのよ」

あって当然の物……? それがボクの無実を証明するのか?

「苗木君、ここまで言えば分かるわね?」

きてたか

今回の犯人は11037ではないのか…

ダイイングメッセージが無いんだよな?それじゃあ犯人は一体……

「それって、霧切さんがボクに潔癖症か聞いた事と関係あるの?」

ボクがそう聞くと、霧切さんは無言で頷いた。

あって当然の物で、潔癖症かどうか関係していて、それが無罪の証明となると……そうか、分かったぞ!

「それって……髪の毛、だよね?」

「上出来よ、苗木君」

なるほど……あの時霧切さんは舞園さんの死体を調べていただけじゃなくて、部屋全体の様子も調べていたのか。

それに比べてボクは何をしていたんだろう。まともな捜査が出来ていないじゃないか。

本当は次が無いのが一番だけれど、次があってしまったらボクももう少し頑張らなくちゃ。

それに、遅れは今から取り戻せば良い。

「ど、どうして髪の毛が無かったら苗木が犯人じゃないってなるのよ……!」

腐川さんが憎々しげな表情で霧切さんを睨み付ける。

霧切さんが詳しい説明をするよりも先に、石丸クンがその理由に気付いた。

「そうか! もし苗木君が犯人だとすれば髪の毛を証拠隠滅する必要が無いのか!」

それに便乗する形で、ボクは説明を続ける。

「ボクが犯人なら髪の毛を処理する必要も無いし、処理するにしたって髪の毛よりも舞園さんの死体が先なのは明白だよね?」

「筋は……通っていますわね。私が彼の立場なら実際そうしているでしょうし」

損得勘定が得意なセレスさんのお墨付きを貰えた事で、ボクに向けられる視線が変わったのが分かる。

これで、ボクが犯人じゃない事は理解してもらえただろう。

「そもそも何で舞園はよぉ、苗木の部屋で死んでたんだ?」

大和田クンの疑問に対し、ボクは昨日あった出来事を皆に説明した。

舞園さんが部屋に訪れた事、舞園さんと部屋を交換した事……事件に関係ありそうな事は、全て。

「あれ? でもそれなら苗木と舞園ちゃんしか苗木の部屋に入れないよね?」

朝日奈さんの言う通り、そればかりはボクと舞園さんしか有り得ないだろう。

そうなれば、残された可能性は。

「舞園さやか殿が誰かを招いた……なんて可能性はどうですかな?」

山田クンが提示した可能性しか、ボクの視点には残っていない。

「……いや、それは有り得ないよ」

けれど、ボクはそれを否定した。

「ボクが舞園さんと部屋を交換する時……彼女は震えていたんだ。あんなに怯えているのに誰かを呼び出すなんて……する訳が無いよ」

誰かに殺されるんじゃないかという強迫観念に取り付かれていた舞園さんが心配で、ボクは彼女の緊張を解す為に他愛の無い会話を続けたんだ。

その会話でどれだけ心が安らいだかは今となっては分からないけれど、それで舞園さんが誰かを呼び出すのは有り得ない。

有り得ない、有り得ないと思いたい筈なのに。

「怯えている事自体が嘘だとしたら?」

その言葉で、全て崩れた。

「な、何を言ってるんだよ霧切さん……」

そんな前提がそもそも間違っていたら。

一度は否定した最悪の可能性が、もう一度脳裏にこびり付く。

「石丸君、今朝貴方は舞園さんを呼びに向かったそうね」

舞園さんがボクの部屋を訪れた本当の理由は、包丁を持ち出した本当の理由は。

「その時、何故貴方は苗木君と舞園さんの部屋を間違えたのかしら?」

否定したい。嘘だと言いたい。

けれど、それが出来るようなコトダマは、無い。

「苗木君が舞園君の部屋から出てきたから……それと、ネームプレートが入れ替わっていたからだな」

「ね、ネームプレートが入れ替わってたのはきっと犯人が――」

「いいえ、残念だけど舞園さんよ。証拠があるの」

霧切さんは自分のポケットから、一枚の紙切れを取り出す。

その紙切れ全体に薄く塗られた黒鉛が、本来なら書かれていない文字を浮き彫りにしていた。

a

『二人っきりで話があります。三十分後に私の部屋へ来てください』

書かれている文字は、俄かには信じられない内容だった。

『部屋を間違えないように、ちゃんとネームプレートを確認してくださいね』

ボクじゃない誰かを呼び出す、殺意の見えない誘惑。

部屋の交換の意味も、ネームプレートの交換の意味も、このメモ一つで変わってしまう。

霧切さんはこのメモの出所を告げて、ボクの目を見つめる。

「それが……そのメモがボクの部屋のメモ帳から出たって言うなら……」

勿論ボクはそんな物を書いた覚えは無い。そしてそれを書けたのは彼女だけ。

もう、否定は出来ない。

「殺すつもりが殺されたか……ふっ、滑稽だな」

誰もがボクに同情的な視線を送る中、十神クンは分かりやすく嘲笑した。

「ちょっと! そんな言い方しなくてもいいじゃん!」

「貴様は馬鹿か? それとも、殺人を犯そうとした舞園を擁護するつもりか?」

「だからって言い方ってもんがあるでしょ!? そんなのも分からないの!?」

朝日奈さんと十神クンが言い合い、裁判とは全く関係無い罵詈雑言が飛び交う。

「二人とも、裁判の邪魔よ。弁えて」

霧切さんが止めなければ、ずっと続いていたかもしれなかった。

「しかし、そのメモは誰を呼び出したかは書かれていないのですよね?」

「な、なによ! 結局何の解決にもなってないじゃない!」

そう、順調に真実へと進んでいたかに見えた裁判は結局、犯人が分からないという結論に至った。

これ以上の手がかりは、無い。

誰だ

「……真面目な話よぉ」

膠着状態に陥った裁判、桑田クンは徐にそう呟いた。

「呼び出されたのも、舞園ちゃんを殺した犯人も……十神じゃね?」

桑田クンの言葉を受け、皆の視線が十神クンに向けられる。

「貴様……! 何を根拠にそんな事を言う!」

名指しで犯人扱いされた本人は、当然のように激昂した。

それが焦りから生まれた感情かは分からない。正直、どちらとも言える反応だ。

「だってもう証拠とか出てこないじゃねーか。だったらアプローチの仕方変えて考えようぜ」

押して駄目なら引いてみろ、フォークが駄目ならストレートだ。

そう言った彼は、持論を展開し始めた。

「舞園ちゃんが誰を殺そうとしたかじゃなくて、舞園ちゃんなら誰を殺すか、さ」

舞園さんなら誰を殺すか。誰が、狙われたか。その議論は、完全な憶測で進む裁判になる。

証拠も無いのにその場の空気で決まるなんて事にならなければいいが……。

けれど、この議論で何か手がかりが見つかる可能性も捨て切れない。

ボクは静かに、耳を傾けた。

「確実に失敗しないように考えれば、狙われるのは体育系の才能じゃない奴なんじゃないの? 石丸とか不二咲とか……後は一般人の苗木とか」

江ノ島さんが真っ先に、末恐ろしい事を口に出した。

やはりと言うか、ボクと不二咲さんはそういう枠組みに入っていたか。

何よりも悲しいのは、その意見に頷ける事だ。舞園さんじゃないけれど、自衛の手段を手に入れた方が良いかもしれない。

「そ、そうやって除け者にするのね……」

憎々しげに腐川さんが呟く。山田クンもセレスさんも葉隠クンも言われてないのに……自意識過剰過ぎやしないだろうか。

「どの道、十神を狙う理由が無かろう……」

大神さんの言う通り、計画殺人ならわざわざ十神クンを狙う理由が無い。

桑田クンは一体何を思って、彼が犯人だと思ったのだろうか。

「その理屈は分かるぜ。そっちの方が成功率高いのは馬鹿な俺でも分かる」

そう言いながら頷く桑田クンは、本当に分かっているようだった。

ならば、何故? 冷静な彼の様子が、尚更疑念を加速させる。

「でもそれってさ、罪悪感湧かないか?」

――罪悪感?

罪悪感が、どうして十神クンが犯人という根拠に繋がるんだ?

それに殺人を計画しているのに、罪悪感を感じるのか?

「殺人を企てたのにですか? 矛盾してますわね」

同じ事を思ったのか、セレスさんが指摘する。

「……オメーや十神は割り切れるだろうけどよ、普通の奴はそうじゃねーだろ」

そう言いながら桑田クンは、セレスさんと十神クンを睨む。

……そうだ、肝心な事を忘れていた。

舞園さんは確かにボクを騙して誰かを殺そうとしたかもしれない。けれど、その決断をするのに苦しまなかった訳でも無い筈だ。

霧切さんやセレスさんのように冷静な人や、十神クンのように冷酷な人の方が異常な筈なのに。

こんな非常事態でも頼れる雰囲気を持つ彼等に、ボクは安心感を覚えると同時にそれを当然と捉え、自分もそうあるべきと思っていた。

怒り、嘆き、叫び、泣き、狂って……そっちの方が当然なんだ。

変わったと、言われる筈だ。

「つまり舞園はよぉ、殺しに乗り気な十神を殺して罪悪感を紛らわせようとしたって事か?」

大和田クンが桑田クンの言いたい事を見事言い当てたらしく、桑田クンは親指を上へ立てて大和田クンに向ける。

確かに、同じ命を奪うなら人間性の悪い奴を殺した方が自分に言い訳がしやすそうではある。

そう考えれば、それなりに辻褄が合ってくるような気もしてくるから不思議だ。

冷静な判断をしていたら部屋に入った辞典でボクを殺そうとしただろうし、冷静じゃなかったから十神クンを選んでも違和感は無い。

「ば、馬鹿もここまでくると哀れね……どの道学級裁判で自分以外を殺すじゃない!」

「俺達がそれを知ったのは舞園ちゃんが死んでからじゃねーか。馬鹿はどっちだよ」

「だ、誰が馬鹿ですって……!」

いや、今回ばかりは馬鹿じゃないか?

思わず口に出してしまいそうになったけど、音になる寸前で止める。

「なっ? ちょっとっつーか、結構十神怪しいだろ?」

桑田クンが念を押すように繰り返す。

否定する証拠が無いからか、十神クンは黙ったままだ。

半数以上が、十神クンを睨んでいる。

――けれど。

「それは、違うよ」

「あ? 何が違うってんだよ」

大和田クンの目が、ボクの言葉を否定しようと突き刺さる。

けれど、その視線に負けてはならない。

十神クンが犯人じゃないと否定する証拠は無い。そして同じように、犯人だと肯定する証拠も無い。

こんな重要な事を感覚的な事で決めるのは、駄目だ。

『もう一度言うけれど、この事件の謎は貴方が突き止めるべきよ』

裁判前、霧切さんが言ってくれた言葉を思い出す。

舞園さんを悪者にしたくない桑田クンの気持ちも分かるし、彼の持論は耳障りが良くてそっちに逃げたくなる。

でもそれは、逃げになる。それが真実だとしても、今決断するのは逃げに他ならない。

「それは、違うよ」

もう一度呟く。それは違う、と。

「皆、まだ話して無い事がある筈だ。それを話してからじゃないと、犯人は決められない筈だよ」

ボクは皆に向けて、裁判の続行を告げる。

十神クンを疑う視線は消えなかったけれど、話を聞く姿勢にはなってくれた。

「話してない事? そんなのあったかなぁ……」

「思い出してほしい。今までの話で、まだ一回も触れられてない謎がある筈だよ」

ボクのヒントを受けてか、不二咲さんが首を傾げてボクの眼を見る。

そして彼女は、ボクの視線の先を辿った。

「霧切、さん……?」

「苗木君は、私が犯人だと思っているのかしら?」

不適な表情を浮かべ、霧切さんはボクを見つめ返す。

「霧切さんが犯人だとは思ってないよ」

その視線を受けて、ボクの中は憶測は確信に変わった。

「けど、霧切さんは犯人を知っていると思うんだ」

腐川さんの言っていた通り、あの時に証拠隠滅なんてした所で意味は無い。

だったら彼女は、皆を待たせてまで一体何処で何をしていたのだろうか?

答えは簡単だ。彼女は、真逆の事をしていたんだ。

「彼女にしか知らない事が、何かある筈だよ」

霧切響子という人物は決して無意味な事をしない、そんな確信がボクの中にあった。

「話してくれないかな、霧切さん」

ボクは霧切さんに強く問う。

「……そうね、今が話すタイミングなのかもしれないわ」

霧切さんは、何処か満足したような表情で口を開いた。

「予め言っておくわ。私は決定的な証拠を持っている」

霧切さんは、そう前置きした。

「けれど、それを皆に信じさせるには裁判の展開を考える必要があったのよ」

「裁判の展開を……考える?」

「例え裁判の最初に、いきなりこの証拠を出した所で誰も信用しないのは目に見えている」

むしろ私が犯人だと思われてしまう、と。

霧切さんは、何処か呆れを感じさせる口調でそう言った。

「前提条件を整えて初めて、犯人を追い詰める決定的な根拠になり得るの」

何も話し合ってない状態では使えない、前提条件を整えて初めて成り立つ決定的な証拠。

まさかそれって……物的証拠だろうか?

霧切さんが裁判直前に何処かへ行っていたのは、それを手に入れる為?

「もう! 勿体振らないで早く教えてよ!」

痺れを切らした朝日奈さんが、霧切さんを急かす。

正直、ボクも気になって仕方ない。

「分かった、話すわ――」

霧切さんは、ポケットから何かを取り出して。

「――これが、答えよ」

それを、桑田クンに投げつけた。

桑田クンは投げられたそれを慣れた手付きでキャッチする。

そして受け取った物が何なのか理解したところで――

「なっ……! 何で、持ってんだよっ……!」

桑田クンは、狼狽する。

霧切さんが投げたのは、何処にでもありそうな野球ボールだった。

本当にそれ以外の特徴は見られない、ありふれた物だった。

一体何故、桑田クンは焦っているのだろうか?

「それは男子トイレに入ってすぐの個室に捨てられていたわ」

入ってすぐの個室……? って、それってボクが吐いた場所じゃないか!?

「そ、そんなのがあの場所の何処に――」

そこまで言って、ボクは思い出す。

あの時トイレを流したら、詰まっていたのか水が溢れ出してきたじゃないか!

まさか霧切さんは、それを取りに行ってて遅れたのか……? いや、そうとしか考えられない。

エレベーターの前で何処か不機嫌だったのも、胃酸臭いトイレで証拠を探していたからなんだ……!

「でも、そのボールが何で証拠になるのぉ?」

不二咲さんが霧切さんに問いかける。

確かにこれだけでは、これが決定的証拠とは思えない。

けれど、霧切さんの言葉で全てが繋がった。

「桑田君、貴方の最大球速は……確か、時速170kmだったかしら?」

トイレに捨てられた野球ボール。最大球速と丸い痣。決定的な証拠。

連想ゲームで、この事件の全貌を予測する。

状況と物証を組み立てて、何が起こった事のかをシュミレーションする。

「お、おいおい……何の話だよ! それが裁判と何の関係があるってんだよ……!」

そして桑田クンの焦りようで、ボクの予測は確信へと変わった。

なるほど確かに、霧切さんの言う通りだ。これは条件が整わないと信用されない。

けれど、こんな事があるのか? どうしてボクは、何度も誰かに裏切られるんだ?

言いたくない。認めたくない。信じたくない。

……けど、進まなきゃいけない。

ボクは深呼吸をして、桑田クンを見据える。

そして、告げた。






「桑田クン……このボールは、キミが犯人だという証拠だよ」




桑田相変わらず犯人なんだwwww

ダイイングメッセージが無いんだよな?それじゃあ犯人は一体……

今回の犯人は11037ではないのか…

「……苗木、それマジで言ってんのか?」

桑田クンは、ボクの発言を信じられないといった様子で狼狽える。

演技では、無い。本気で有り得ないと考えているのだろう。

ボクが桑田クンを、犯人と決めた事が。

「ま、待てって! ボール一つで俺が犯人っておかしいだろ!? ボールなんて誰でも投げられるじゃねーか!」

桑田クンの言っている事も正しい。投げるだけなら誰でも出来る。

けれど、舞園さんの腕にあの痣を作れる人間は、桑田クンだけだ。

「一つ言い忘れていたわ」

不意に、霧切さんが告げる。

「髪の毛の事なのだけれど、何故かドアから一直線のエリアとシャワールームの入り口周りしか掃除されてなかったのよ」

その言葉は、ボクの推理が正しい事を裏付ける内容だった。

「決まり……だね」

「何がだよ……何が決まりだってんだよ! 分かるように説明しろよ苗木!」

桑田クンは軽度のパニックに陥っている。

周りの皆も、ボクと霧切さんの会話の内容に首を傾げては訝しんでいる。

つまり、この事件の全貌を証明しない限りこの裁判は終わらないのだろう。

桑田クンも認めないし、皆も納得しない。何より、舞園さんが救われない。

ボクが、後悔してしまわない為にも。

「……これが事件の全貌だよ」

ボクは、全てを話し始めた。

保守

「ボクの部屋を借りた舞園さんは、メモを使って犯人を呼び出した」

そこは皆裁判で理解している部分ではあるが、全体の流れを説明する為に必要だから省略せずに話す。

長くなるけれど、避けては説明出来ない。

「犯人は疑う事無く、舞園さんの待つボクの部屋へと入っていった筈だよ。舞園さんに殺されるなんて……思わなかったから」

同じ立場ならボクだって微塵も思わない。殺せるとも思わないかもしれない。

「舞園さんは、入ってきた直後の無防備な所を狙ったけど、舞園さんにとっては予想外な事に、犯人は何とか包丁を回避したんだよ」

けれど犯人も犯人で失敗をした。もしここですぐに外に出ていれば、誰も死ななかったかもしれないのに。

「咄嗟の事だから、ボクの部屋の中へと……ね」

そうなれば、扉の前にいる舞園さんを退かさなければ外に出る事は出来ない。

「一旦距離を取ったとはいえ、包丁相手に素手で挑む事が危ないと悟った犯人は、偶然持っていたボールを使う事を思いついた」

そのボールが、霧切さんがさっき投げた野球のボール。桑田クンが狼狽した理由。

「犯人は包丁を持っている手を狙って全力で投げた……それが命中したから、舞園さんの手には痣が出来たんだろうね」

たかが野球のボールとはいえ、それが当たれば激痛を伴う。包丁なんか持っていれば、たちまち落としてしまうだろう。

「急いで包丁を拾おうとした筈だよ。凶器が無ければ、犯人には勝てないからね」

犯人も同じタイミングで包丁を奪おうとした。そして包丁を取り合って揉み合う内に、悲劇は起きた。

「これが……事件の全貌だよ」

そして、犯人は。

舞園さんが相手に警戒心を抱かせる事無く呼び出せて。

舞園さんの奇襲を避けられる運動神経を持ち。

狙った場所にボールを当てられる制球力と舞園さんの手に痣を作れる豪腕を兼ね備えた人物。

「そうだよね――桑田怜恩クン」

ボクの推理を受けて、桑田クンは俯いて黙った。

「はは、ははははは……」

そして薄っすらと笑い始めたかと思うと。

「そんな推理――認められる訳が無ぇだろうがよぉおおおおおお!」

血走った目で、叫び始めた。

「苗木の推理は憶測ばっかじゃねーか! そんなんでオレが犯人だぁ!?」

そう、憶測だけだ。けれど、辻褄は合わせているからこそ皆から一定の信用を得ている。

「舞園ちゃんが玄関で待ち伏せしてただぁ? 証拠も無ぇのに何でそんなの分かるんだよ!」

だが辻褄が合っているだけで、証拠は無い。

「ボールをたまたま持ってただぁ? 誰がボールなんか持ち運ぶんだよ! 部屋にあったって言われた方が納得出来るわ!」

反論されてしまえば、それが正しいかどうか議論になってしまう。

流れを全て、桑田クンに奪われてしまう。

「痣を作れんのがオレだけだぁ? んなもん実際にやってねーのに何で断言出来んだよ!」

「た、確かにどれも一理ありますな……」

「包丁を拾おうとしただぁ? さっさと逃げれば良かっただろうがよぉ!」

「うーん、そう言われるとそうかもしれない……」

「むしろ憶測だけであんなペラペラと話せる苗木君の方が、逆に怪しく感じられますわね」

桑田クンが反論していく毎に、それに賛同する人も増えていく。

霧切さんはボクよりも知っている事が多いからか、何が真実が知っているような様子だ。

むしろ、ボクがここからどう動くか見守っているようにすら感じられる。

ボクにはもう、証拠も、発言力も、助けも無い。

だったら、最後に残ったコトダマを撃ち込もう。

実体の無い、他人を殺す弾丸を解き放とう。

「……桑田クンも皆もさ。本当に気付いてないの?」

照準を向けるように、桑田クンの胸を指差して。

「ネックレスに返り血、こびり付いてるよ」

一発目を、皆に向けて打ち込んだ。

撃ち込まれた全員が桑田クンのペンダントを凝視して、当の本人は慌てた様子でペンダントを握って確かめる。

そしてボクは、二発目を装填して構えた。

「あぁ、ごめんね?」

最後の一発は、桑田クンにだけ向けて。


「――法螺話だよ」

何で、何でこうなったんだよ。

霧切と苗木が気持ち悪い程にオレの犯行を暴いて、段々皆がオレを疑い始めて。

でも証拠はそんなに揃ってなかったから、無い頭絞って反論して。

そしたら苗木が、反論した内容を論破してこなくて。

助かったって、思ったら。

「ネックレスに返り血、こびり付いてるよ」

いきなり、そんな事言って。

ここまで来て、そんな初歩的なミスかよって焦って。

慌ててペンダントを確認したら。

「あぁ、ごめんね? ――法螺話だよ」

なんだよ、なんなんだよ。

「ねぇ、桑田クンは犯人じゃないんだよね?」

何で、オレはペンダントを握っちまったんだよ。

「だったらペンダントに返り血なんて付く筈無いじゃん」

こんなの、オレが犯人だって自白したもんじゃねーか。

「どうして、ペンダントを握ってるのかな?」

何で、何でこんな――。

ボクの嘘に撃ち抜かれた桑田クンは、何も言わずに膝を折った。

「あ、ああああああ……」

身体中が振るえ、強張っているその姿が、同情を誘う。

「桑田クン……」

自分でした事とは言え、ボクは心が痛くなる。何処かで嘘であってほしかったと思っていた。

キミが舞園さんを殺した犯人だなんて、思いたくなかった。不謹慎だが、十神クンだったらどんなに良かったかと思った。

舞園さんに追い込まれ、望まぬ殺しをしてしまった彼を、ボクが壊してしまった。

「これで終わり……のようですわね」

セレスさんが切り出さなければ、誰も動けなかっただろう。

それ程までに今の桑田クンは、見ていられない様子だった。

「議論の結論が出たみたいですね。では、そろそろ投票タイムといきましょうか!」

モノクマに促され、ボク達は裁判の結果を投票する。

結果は、自分で見るまでもモノクマから聞くまでも無く。

「今回、舞園さやかさんを殺したクロは……桑田怜恩クンでしたー!」

その事実が、ボクの心に深く傷を付けた。

モノクマが悪いと思っても、ボクの頭の片隅には舞園さんにも桑田クンにも裏切られたという考えが離れなかった。

「……何故だ」

ボクの声が漏れた、そう思った。

けれどその声は聞き慣れたボクの声じゃなく、ボクの喉から聞こえる声でも無くって。

「何故だ! 何故貴様は苗木を犯人にしようとしなかった!」

叫んだのは、十神クンだった。

何の話をしているのか、どうして叫んでいるの分からなかったけれど、それを遅れて理解する。

「何故貴様は一番最初に、苗木が犯人じゃないと言った! それどころか、俺を犯人にしようとした!」

そうだ、桑田クンが犯人と決まった今だからこそ不可解な点が一つある。

「あの状況で一番怪しかったのは苗木だ! 黙っていれば貴様の犯行が明かされる確立は限りなく低かった筈だ!」

十神クンの言う通り、何故桑田クンはボクに濡れ衣を着せようとしなかった?

「嫌だったんだよ……」

聞かれた桑田クンは、静かに答える。

耳を澄まさなければ聞こえない位の声量で、ポツリと呟く。

「苗木を犯人にすんのは……嫌だったんだ」

ボクを犯人にするのが、嫌だった?

正直、それを聞いた瞬間には意味が全く分からなかった。

「舞園だって、本当は殺したくなんかなかった……」

けれど、桑田クンの目を見た時に、何を言わんとしているのか理解した。

「考え直してほしくて、落とした包丁捨てようとして……」

そうしてボクは桑田クンの葛藤を理解して――共感した。

「なぁ! 何で俺が殺さなきゃなんなかったんだ!?」

理解してしまったから、ただただ、桑田クンの叫び声が痛い。

「素直に殺されてれば良かったのか!? 殺した後自首すれば良かったのか!?」

学級裁判に勝って皆を殺したくないけれど、自首すれば殺してしまった舞園さんが無駄死にと化す。

「俺はどうすれば良かったんだよ! なぁ、教えてくれよ苗木!」

自分の都合だけで皆を騙して生き残るのも。

殺した舞園さんの、その死を冒涜する事も。

「死にたくねぇ……これ以上殺したくねぇよ……!」

桑田クンは、選べなかった。

ただただ状況に流されるまま、学級裁判を迎えるしかなかった。

死にたくないし、殺したくない。こんなの、悲し過ぎる。

「……それは違うわね」

突然、霧切さんが口を挟んできた。

「貴方程の運動神経があれば、舞園さやかから包丁だけを奪って逃げる事が出来たんじゃないかしら?」

霧切さんはそう言うけれど、それが出来なかったからこそ桑田クンは苦しんでいて――。

「それは……揉み合ってる内に事故で……」

――いや、待て。

確かに出来るだろうけれど、でも、それって、つまりはそういう事になるんだよな?

いくら何でも、それを自覚させてしまうのは……酷過ぎるんじゃないか?

もし自覚してしまったら、今度こそ桑田クンは壊れてしまう。

「……いや、違うか」

ボクに今更遅いと告げるように、桑田クンは呟く。

その表情は、自らの黒い感情を自覚してしまった顔だった。

「オレ、殺してやるって、思っちゃったんだ」

うぷぷと笑うモノクマの声が裁判場に響く。

――あぁ、そうか。

これがお前の望む、絶望って奴なのか。

「舞園ちゃん……ごめんよ……」

届かない懺悔と、不快な笑い声が混ざって溶ける。

桑田クンの呟きを最後に、学級裁判は今度こそ閉廷した。

そこは、野球場を模した処刑場。

磔にされた桑田クンが、虚ろな瞳で天井を仰ぐ。

そんな桑田クンに狙いを付けながら、ピッチングマシーンが動き出し始めた。

――千本ノック

一球目、放たれた軟球が桑田クンの腹に当たる。

二球目、もう一度同じ場所に命中する。

三球目、桑田クンの呻き声が聞こえる。

四球目、五球目、六球目、七球目八球目九球目十球目――。

瞬きする間に、発射される軟球のペースが加速度的に増加する。

眼で追えないその球の数を、後ろの得点板の点数が同じようなめまぐるしい速度で更新されていく。

桑田クンの全身という全身に、余す所無く軟球が襲いかかる。

機関銃のように大き過ぎる発射音が、聞こえる筈の悲鳴を掻き消して。

目の前で起こっている事が何かの映像なんじゃないかと錯覚する程に、非現実的な処刑が続く。

やがてピッチングマシーンが動きを止めて、全体に静けさが戻ってきた。

誰もが、息を呑む。

静寂の向こうには桑田クンが――桑田クンだったものが存在していた。

変形した四肢、面影の欠片も無い顔面、全身から滴り落ちる血液、どの部位かすらも分からない千切れた肉塊。

その余りにもグロテスクで、余りにも絶望的な光景に、ボクは思わず目を足元へ逸らす。

足元に落ちていたボールには、血が付着していた。

絶句。

それ以外に表現が出来ない程、オシオキは悲惨で凄惨で残酷だった。

死も尊厳も思い出も、何もかもを冒涜するオシオキに。

モノクマだけは、心からの悦びを口にしていた。

「エキストリーム! アドレナリンが、染み渡るぅうううううう!」

堪えろ、堪えるんだ苗木誠。

今ここでこいつに当たった所で、何の解決にも――。

「そういえば苗木クンさぁ、昨日だったかボクに対して何か言いかけてたよね?」

「――何だよ」

「ボク達はコロシアイなんか……えっと、何だっけ? 最後の方聞いてなかったから教えてほしいなぁ!」

……その一言で、ボクの堪忍袋の尾が切れた。

「モっっっノクマぁああああああ!」

許せない、絶対に許せない。壊してやる! 殺してやる!

爆発なんて知るもんか。こいつだけは、こいつだけは!

「やめて! 苗木君!」

怒りに我を忘れたボクを、誰かの声が止めてくれた。

「不二咲、さん……」

「悲しいのは分かるけど、苗木君が死んじゃうのも嫌だよぉ……」

だから、耐えて。

不二咲さんにそう泣き付かれてしまっては、ボクもそれを振り払う訳にもいかない。

「……つまんねーの。不二咲さんに助けられたね、苗木君!」

面白く無さそうな声でモノクマは呟く。

嘲笑うモノクマの声を聞くだけしか出来ない現状に、ボクは拳を握って嘆いた。

CHAPTER 01...


[イキキレ]...


END...


to be continued...

「……盾子ちゃん、ちょっと気になる事があるんだけど」

「んー? もしかしなくても苗木の事?」

「うん……」

「あの裁判で霧切とかセレスとかから教わった技術をしっかり実践してたよなー。二年前とは別人レベルじゃね?」

「私が教えた早撃ちも覚えてるといいなぁ――じゃなくて、記憶は消したんじゃないの?」

「消えてるさ、じゃないと初日で計画はPON☆だっての。つか残姉は何勝手に教えてんだ」

「ごめんなさい……でも、記憶が消えてないならどうして習った事を覚えてるの?」

「記憶と知識は別なんだよ。極端な例を言うとジェノサイダーと同じって事」

「……放っておいて平気なの?」

「大丈夫だって安心しろよ、苗木が二年間で培った事だけでこの計画は覆せないって」

「盾子ちゃんが言うならそうだんだろうけど……」

「じゃあ私はいろいろやる事があるから、残姉はさっさと寝な」

「あ、うん……お休み盾子ちゃん」

「おう、お休み」

ああ、スキルを習得するのってそういう風に解釈できるのか……

眠れない。

眠気を感じても、瞼を閉じる事が出来ない。

閉じてしまうと瞼の裏に、二人の死体が鮮明に映るから。

「舞園さん……桑田クン……」

二人の名を呟いて、シャワールームの方を見る。

そこには目を覆い尽くす血痕も無ければ、鼻を苦しめる鉄の臭いすら存在しない。

何一つ痕跡の残っていないボクの部屋は、何処か寂しさすら感じさせた。

「……くそっ」

ボク達には、死者を弔う事すら許されない。

モノクマに命を弄ばれてる感覚が、ボクの怒りを募らせる。

それが悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて。

ボクは無意識の内に、意識を手放していた。

願わくば、これが悪夢であるようにと。

「苗――って、こ――うの嫌いだと思――た」


「嫌――て、何で?」


「だって、そ――人を――武器だよ?」


「……そ――ね。人殺――なん――クは出来――な――くないかな」


「じゃあ、どう――早――なんて教――欲――ったの?」


「大事な人――ンチの時に、何も出――いの――っと嫌――ら」


「……それで、私――いに――ても?」


「構わない。人――でも絶――も、不二咲――を護れる――何に――てなるさ」

やっぱりホモじゃないか(憤怒)

まだ?

「苗木君って、こういうの嫌いだと思ってた」


「嫌いって、何で?」


「だって、それは人を掘る武器(ちんこ)だよ?」


「……そうだね。人殺し(掘ってイかせる)だなんてボクは出来ればなりたくないかな」


「じゃあ、どうして早漏かなんて教えて欲しがったの?」


「大事な人のウンチの時に、何も出来ないのはもっと嫌なのら」

つまりウンチを出させて直腸洗浄をさせ、アナルsexの準備をしてるってことになる

『いつしか雨は止み、そこには虹がかかるんだよなぁ……』

モニターから流れ出るモノクマの声で、ボクは目を醒ました。

『てな訳でオマエラ! 学級裁判を乗り越えた御褒美に二階を開放したよ!』

顔に見覚えも、声に聞き覚えも無い女の子の夢。

『脱出の手掛かりを見つけるとかは無理だと思うけどぉ、精々探してみればぁ?』

けれど、ボクにはそれが何故か懐かしく思えた。

「幼馴染とか?」

いや、そんなのはいなかった筈だ。そうなると……捏造だろうか。

「……病んでるな、ボク」

二人が死んだショックから心が逃げようとしている。

だから、存在しない懐かしさを覚えてしまうんだ。

「忘れちゃ駄目だろ、苗木誠……引き摺って、抱えながら前に進まなきゃ」

それがボクに出来る、二人への祈りだから。

「……行かなきゃ」

ベットの中から飛び出し、準備を済ませ、扉を開ける。

そこでボクはシャワールームの方を向き直り、一言だけ呟いた。

「行ってきます、舞園さん」

ボクが食堂に着いた時には、半分近くが放送を聴いて開放された区域に向かっていたらしい。

集まりが悪いと嘆いていた石丸クンの暑苦しい顔がとても印象的だった。

あんな裁判があった後でもこうしていつも通りなのは、少し頼もしく感じる。

ボクもパンを一切れだけ食べて、使えるようになった大浴場や倉庫などの近場だけでも探索を始めた。

大浴場は文字通り泳げる程の浴場に水風呂、サウナなどがあり、個室のシャワーなんかよりも疲れが取れそうな設備が高水準で整っていた。

「うわぁ、すっごい大きいねぇ!」

「不二咲千尋殿……今の台詞、もう一回言ってくれませんかねぇ?」

山田クンには飛び蹴りをした。

「苗木! レーションあるよ! レーション!」

「ドーナツもあるよ! これで作らなくてもすぐ食べれるね!」

倉庫の中は無い物は存在しないと思える程、物に満ち溢れていた。

特に食料や嗜好品に関しては多種多様を極めており、モノクマの不自由はさせないという言葉に偽りを感じさせないラインナップだった。

「舞園ちゃんと桑田にも、食べてほしかったな……」

朝日奈さんが、悲しそうに呟いた。

その呟きにボクは、石丸クンとは違った方向で安心を覚える。

死んだ事を悲しんでくれる人がいる、それで彼らがどれだけ救われる事だろうか。

「……そろそろ戻ろうよ、石丸の馬鹿が待ってるよ」

重い空気に耐えられなかった江ノ島さんが、時計を指しながら話を戻してくれる。

それに答えるように、朝日奈さんも笑顔を取り戻しながら倉庫を後にする。

「引き摺るのは、難しいな……」

ポツリと呟いて、ボクもその後を追った。

MNKMはホモ

早く

結果として、二階や大浴場を隅々まで調べても出口や外部への連絡手段は見つからなかった。

最初の捜査の時にセレスさんが言った言葉を借りるなら、閉じ込められている事が紛れも無い真実だという事が明確になっただけだ。

これが、二人の死と引き換えに得た物なのか? こんなの、何になるって言うんだよ。

「ふざやがって……!」

重苦しい空気の中、大和田クンが歯軋りと共に吐き捨てる。

その言葉は、ここにいる半数の心情を表しているかのようだった。

「あれ、そういえば十神っちと腐川っちは何処へ行ったんだべ?」

葉隠クンの発言で、この会議に不在がいる事に僕を含め皆がようやく気付いた。

普段ならこの辺りで石丸クンとは違った空気の読めない発言が聞こえてくる筈なのに。

「二人なら図書室で見かけたわ。脱出の手がかりを探している……といいのだけれど」

「あら、案外本当に脱出の手がかりかもしれませんわよ?」

セレスさんはクスクスと笑いながら、霧切さんの発言に異議を唱える。

その脱出の手がかりは間違いなく、自分だけが脱出する為の手がかりだろうと言いたいのだろう。

彼の存在は、今後のコロシアイ学園生活においても、モノクマの次に警戒しなければならない存在に成り得るだろう。

「何!? 十神君は今も皆が脱出出来る手がかりを探しているというのか!? だとしたら僕達も手伝わなければなるまい!」

時々、いや、割と頻繁に石丸クンは馬鹿なんじゃないかと思えてくる。

そりゃあボクだって言葉の裏を読むのは得意じゃないけれど、流石にここまで酷くはない……筈。

「皆そんなに呆然としていてどうしたのだ? 急いで図書室へ向かおうではないか! あれだけの量の書物を十神君と腐川君に任せきりにするつもりかね!」

呆然としている理由は十中八九キミにあるよ、石丸クン。ボクは口に出しかけた言葉を寸前で飲み込んだ。

しかし二人の手伝いはともかく、コロシアイに肯定的な十神クンが図書室に篭って何をしているのか、気にならないと言えば嘘になる。

仕方無く、ボクは石丸クンの後を追う事にした。

石丸クンが図書室の扉を開けると、そこには優雅に読書を嗜む高貴な人物が存在していた。

スタンドライトがまるでスポットライトのように、十神クンの姿を照らしている。

いやいや男相手に何考えてるんだボクは、これじゃまるでホモじゃないか。

けれどそれを抜きにしても、十神クンは理知的な表情がとても様になっていて見惚れてしまいそうになった。

黙っていれば女子が黙っていない位カッコイイのに……。

「……読書の邪魔だ、消えろ」

ほれ見た事か。なんて言うかもう、いろんな意味でずっと黙っててほしい。

「そんな邪推に扱わないでくれたまえ。ここに居る皆は君の手伝いがしたくてきたのだから」

「俺の手伝いだと? そうか、わざわざ殺される相手に立候補してくるとは物好きな奴らだな」

「なっ……どういう事かね!? 君は脱出の手がかりを探していたんじゃなかったのか!?」

ついでに石丸クンも黙っててほしい。こちらも勿論、いろんな意味で。

「何を愉快な勘違いをしたが知らないが……俺は貴様等の為に労働などしていない」

そう言って十神クンは、聞いてもいない事までペラペラと話してくれた。

自分が読んでいるのは推理小説だとか、トリックをアレンジして使うとか、だから馴れ合うつもりは無いとか。

ボクとしては、正直言ってそんなアピールはどうでもいい。

彼は口で説明する位なら牙を向けって諺を知らないんだろうか……実際に牙を向かれても困るけど。

「お前らも少しは本腰を入れてゲームに取り組んだらどうだ? 雑魚とはいえ、相手にならな過ぎるのも興醒めだ」

喋り終えた十神クンが、不敵に挑発する。その表情から、今までの発言は本心からだという事は誰が見ても明らかだ。

反論したくても、怒らせてターゲットにされたくない……そんな空気が流れているのを感じ取れる。

ボクは頭を抱えて溜め息を吐く。別にボクは彼の言っている事が理解出来ない訳じゃない。

セレスさんもそうだろうが、確立の低い事――全員で脱出する事に力を出すより、自分が出る為だけに力を入れた方が確実だと理解出来る。

けれどボクはそれでも、これ以上誰も死なせずに脱出したい。

綺麗事だと自覚しているが、ボクは不二咲さんの悲しむ顔をこれ以上見たくないからだ。

「……嫌、だ」

ボクが頭を悩ましていると、か細い声で誰かが呟いたのが耳に入った。

「駄目だよ……仲間同士で殺し合うなんて……そんなの……」

意外な事に、誰よりも先に反論をしたのは不二咲さんだった。

誰も彼に反論しようとしない中、彼女だけは口を開いて十神クンを否定しようとしている。

「そんな絶対駄目だよぉ!」

その声は、普段温厚な不二咲さんから発せられた声とは思えない位に、力の篭った声で。

不二咲さんは、十神クンに訴えた。

「仲間同士……? 貴様等の言う仲間の舞園さやかと桑田怜恩は、お互いを殺し合ったじゃないか」

けれど、十神クンにその言葉は、勇気は届かない。

それどころか、不二咲さんの心を痛めつけるが如く責め立てる。

「それにお前達だって、裁判の時に仲間の桑田に投票して殺したのを忘れたか?」

「そ、それはあの時桑田に投票しなかったら、逆に私達が……」

「心苦しい事ですが……あればかりは致し方無いとしか言い様がありませんぞ」

それが飛び火して、他の皆も罪悪感をぶり返していく。

心が痛いが、正論だ。正論だからこそ、心が痛む。

「違う! 舞園君にも桑田君にも責任はあれど、根本的に悪いのはモノクマではないか!」

「綺麗事を言った所で事実は変わらん」

石丸クンの言葉も、取り付く島も無く一蹴されてしまった。

「既にゲームは始まっている。貴様等如き弱者が、仲間同士仲良くだなんて下らん意見を言うな」

……違う、余りにもボク達と十神クンは違い過ぎる。同じ人間なのに、どうしてここまで価値観が違う?

十神に見惚れそうになる

やっぱりホモじゃないか(憤怒)

心理描写が丁寧で気に入ってるよ
更新まだかな

「で、でも……やっぱり……」

「でも? やっぱり? 何だ、言ってみろ。貴様の言葉に、何か意味があるのならな」

不二咲さんが何か言おうとしても、十神クンはそれを威圧して潰す。

次第に不二咲さんは、ポロポロと涙を流し始めた。

「お、おい……お前が泣く必要は――」

「ふん、また仲良しごっこが始まったか?」

大和田クンが慰めようと不二咲さんに声をかけるが、それすらも十神クンが無駄だと切り捨てる。

今までよりも挑発的なその態度に、大和田クンがとうとうプツンと切れた。

「てっめぇ……! ふざけんのも大概にしろやゴルァ!」

大和田クンの大きな拳が、十神クンの腹部へ向けて放たれる――が。

「待って」

ボクはギリギリ、その拳を受け止める事に成功した。

受け止めた左腕がジンジンするし、ボクの行動に皆が驚いてるけれど、それは今は後回しだ。

「落ち着いてよ、大和田クン」

息を荒げる大和田クンを諭す為に、自身の怒りを抑えて声を出す。

「何で止めんだよ苗木! こいつは一発殴っておかねぇと気が済まねぇんだよ!」

「いいから!」

聞き分けの無い大和田クンを一喝して、十神クンから距離を取らせる。

悪いけど、その役をキミに任せる訳にはいかないんだ。

「十神クン……キミが何を言おうが、それはキミの勝手だ」

ボクは十神クンの方を向き直り、その目を見つめる。

十神クンの冷たい眼が、ボクを品定めするように動いていく。

「な、苗木誠殿? まさか十神白夜殿を庇うおつもりで……?」

山田クンが怯えた声色でボクに問いかけたが、ボクはそれを無視して話を続けた。

「君の言う仲良しごっこを強制する権利は、誰にも無いよ」

威圧感を出し続ける十神クンに臆する事無く、その距離を詰める。

「けどね」

静かに呟いたボクは、十神クンの胸倉を思い切り掴み。

「なっ!? 何のつもりだ貴――」

そして、彼にだけ聞こえるように宣言した。






「もう一度不二咲さんを泣かせてみろ……ボクはキミを許さない」




更新きたー!!


大和田見せ場減ってカワイソス
ここからどう持っていくんだろう

ホモは短気

皺が付く位に握り締めていた十神クンの首元から手を離して、彼を解放してあげる。

息苦しそうにしていた十神クンが凄く睨んできたけれど、ボクは無視して話を続けた。

「分かってくれたかな? 十神クン」

いつも通りの口調に戻して、再確認をするように問いかける。

十神クン以外の皆から見えない表情がどうなっているかは、自分でも分からない。

彼は剥き出しの闘争心を睨みに乗せながら、薄っすらと笑みを浮かべてこう言った。

「貴様のような人間は初めてだ、苗木誠……!」

どうやらあくまでも、コロシアイをやめるつもりは無いらしい。

こんな誰にでも出来るような威圧じゃ、十神クンの牙は折れないか。

少なくとも今は、この場はこれでお仕舞いにしておく方が無難だ。

「……分かってくれた、って事にしておくよ」

それだけ伝えて、ボクは皆の方を向き直る。

十神クンは納得してないけれど、皆が協力すれば大丈夫だと伝えて。

「犠牲なんて出さずに脱出の手がかりを掴めば、きっと十神クンも分かってくれるさ」

ボクは希望を捨てちゃ駄目だと締め括る。

自分の口から吐き出された台詞が、本心の筈なのに白々しく感じた。

この苗木かっこいいな

図書室を出た後、もう一度探索が行われたが、結局収穫は一つも存在しなかった。

食堂で行われた二度目の報告会も、意気消沈とした雰囲気で終わってしまう。

十神クンを説得出来るような何かはおろか、学園の手掛かりすら見つからなくて。

状況への絶望、内なる敵への恐怖、開放への渇望……殺人への誘惑。

そんなドロドロとした感情が可視化したかのような錯覚を覚える程に、場の空気は最悪を極める。

自分の言い出した事が原因だと思うと、心が痛まずにはいられなかった。

食堂から逃げ出すようにやってきた購買部で、現実を忘れようとモノモノマシーンを回す。

「希望ヶ峰学園の指輪、か……」

希望……本当にそんなものがここに在るのだろうか。

本心の筈なのに、本心だった筈なのに。あの時感じた白々しさが、ボクの胸を苦しめる。

「くそっ!」

空になったカプセルを壁にぶつけても、返ってくるのは軽い音だけ。

八つ当たりなんて餓鬼のような行動をしてしまった自分を更に苛立たせるだけだった。

購買部から出て自分の部屋に戻る途中、浴場から出てきた不二咲さんと出くわした。

チラリと見えた、何時にも増して不安そうな表情がボクの目に映る。

浴場で何かあったのだろうか……見た所怪我をしてる様子じゃなさそうだけれど、やっぱり心配だ。

「不二咲さん!」

ボクは不二咲さんの元へ駆け寄り、彼女の顔色を注視する。

「あ、苗木君。こんにちはぁ」

不二咲さんは笑顔で挨拶を返してくれる。

顔色が悪い訳じゃないけれど、元気がある様子でもない。

「浴場で何かあったの?」

遠回りに聞いても彼女はハッキリとは言わないだろうと予想し、単刀直入に聞く。

けれど本当に何かあった訳では無く、脱衣所に用があっただけだったらしい。

ボクはその言葉を信じたが、その割には顔色が悪いとも感じる。

となれば、脱衣所の用件とは関係無い事が不二咲さんの表情を曇らせているのだろう。

幸いな事に不二咲さんの悩みには心当たりがある。きっと、さっきの事だ。

「……十神クンの事?」

不二咲さんは無言で、小さく頷く。

十神クンめ、やっぱりあの時一発位殴っておくべきだった。

「ボクなんかで良ければ、話くらいは聞けるよ?」

ボクは少しでも不二咲さんの力になりたくて、そんな提案をした。

不二咲さんは少しだけ躊躇う様子を見せて、お願いすると言ってくれる。

ボクは落ち着いて話が出来るように、不二咲さんを連れて自分の部屋へ向かった。

毎回毎回1投稿じゃなあ

この調子で進めてくれるなら、1レス毎でも書き溜めて数レス投下でもどっちでもいいよ
続きが読めなくなるのが一番怖い
>>1の好きに進めてほしい

片思いしている女性が自分の部屋にいる。

普段のボクだったら、テンションが上がって脳内で狂喜乱舞していただろう。

あくまでも、普段のボクなら。

今の不二咲さんの前でそんな事を考える気は毛頭無い。

ボクはボクの、役目を果たすだけだ。

「不二咲さんのタイミングで話していいよ。待ってるから」

それだけ伝えて、ボクは不二咲さんの口が開くのを待つ。

時計の針が15度程傾いた所で、不二咲さんは少しずつ語り始めた。

「十神君に、言い返せなかった」

図書室で行われた十神クンの演説。

コロシアイ学園生活を受け入れ、自らが外に出る為の殺人に疑問を持たない彼の宣言。

同じ人間とは思えない程に価値観が違い過ぎて、分かり合える未来が見えない存在。

そんな彼の目が恐ろしくて、誰もが口を閉じて目を背け。

でも不二咲さんだけは、それでも勇気を出して否定した。

「言わなきゃ駄目だって思った。伝えなきゃ、絶対に伝わらないから」

だけどその先に待っていたのは、冷酷な視線が自分一人に向けられた時の恐怖だけ。

蛇に睨まれた蛙のように、萎縮して何も喋れなくなってしまい。

自分は泣き出し、結果的に大和田クンやボクに護られただけになってしまった。

「僕は……弱いね……」

今にも泣いてしまいそうな彼女は、それでも涙を流す事は無かった。

そんな彼女が堪らなく愛おしくて。

ボクは彼女の手を引いて、自らの胸に寄せた。

「えっ!? 苗木君、いきなりどうしたのぉ?」

戸惑う不二咲さんを無視して抱き締め、ボクは言葉を続ける。

「不二咲さんは、強いよ」

彼女は違うと言うかもしれないけれど、ボクは確かに不二咲さんに強さを感じた。

「誰も十神クンに反論しようとしなかった中、不二咲さんだけは駄目だって言えたんだ」

殺しを是とする彼を誰もが恐れた。それは暗に、皆の心の奥底でそれが正しいのを認めてしまったという事。

そんな中でも彼女は、それでもと正しくあろうとした。

自分を決めるたった一つの部品に、正直に従えたのだ。

「不二咲さんは、皆が出来なかった事を出来たんだ。そんな君が、弱い筈なんて無いさ」

むしろ彼女は、きっと誰よりも強い。

もしも弱いとするならば、それは強さを誇れないというだけの話。

強さに気付ければ、強さを認められれば、彼女は今の悩みを解決出来るだろう。

「……ありがとぉ、苗木君」

ボクの真意が伝わったがは分からないが、不二咲さんは満足そうに呟いた。

ボクは少しだけ、彼女を抱き締める力を強める。

優しく抱き締めているつもりでも、間違えばすぐに壊れてしまいそうな程弱々しく感じる身体の細さ。

そんな彼女の儚さが、ボクの心に保護欲を覚えさせる。

けれどそんな中でも確かに感じる、彼女の優しさを感じる様な柔らかな温もりが、ボクに安らぎを与えてくれるようだ。

そして何故か、感じる事の全てがとても懐かしい。

不思議な感情に戸惑いはあるが、今はただ、彼女を抱き締めていたかった。

不二咲さんは抵抗もせず、されるがままになっている。

「えへへ、二回目だねぇ」

「……えっと、何がかな?」

不二咲さんが呟いた言葉の意味が分からず、ボクは首を傾げた。

「苗木君に、こうして抱き締めてもらうの」

不二咲さんに言われて、ようやくボクはこの既視感の正体を思い出した。

確か、動機を提示された後の視聴覚室でボクは彼女に……彼女を……あぁっ!?

「ご、ごめん! あの時もつい……」

つい? ついって何だよついって!

何であの時のボクはあんな大胆な行動をしたんだ! 何で今のボクもこんな大胆な行動をしてるんだ……!

うわ、冷静になればなる程恥ずかしくなってきた。よくもまぁ堂々と出来たもんだよボク。

ってか何よりも問題なのは不二咲さんを抱き締めた事を忘れていたって事だよ! おいどういうつもりだ説明しろ苗木誠!

うわ……うわぁ……凄い自己嫌悪だ。穴があったら入りたい……埋まりたい……。

「あの時はありがとう。僕、凄く嬉しかったんだぁ」

ボクの心の中の叫びを否定するかのように、不二咲さんはそう言ってボクを抱き締め返してくれる。

突然の御褒美な出来事に驚きと感動が爆発寸前だけれど、意思の力で冷静さを保つ。

「苗木君って、意外と筋肉あるね……なんだか安心するよぉ」

頑張ってる中でこの台詞である。アカンこれじゃ理性が死んでしまう……!

「なんだか、懐かしいなぁ……」

不二咲さんは子犬の様に目を細めて、ボクの胸板に顔を埋めてくる。

その表情はコロシアイを強要されている状況だというのに、警戒心を欠片も感じさせない。

そんな不二咲さんを見ていると、一人で慌ただしく心を動かしているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

下卑た感情が緩やかに溶けて、純粋な思いだけが心の中心となっていく。

そしてボクは決意を改める。

彼女と共に、ボクは生きてここから抜け出す。不二咲さんが望むのなら、今生きている皆でこの学園から脱出する。

それがボクだからこそ出来る事で、ボクがやらなきゃいけない事だから。

(そうですよね――狛枝先輩)

消えかけていた心の火がもう一度灯ったのを感じる。

その為ならばボクは、何だってやってみせるさ。

ボクの希望は、ここに在るのだから。

食堂で俺――大和田紋土は、麦茶を何杯も飲み干していた。

本当なら缶ビールとしこたま飲み干したかった所だが、あの五月蝿い白学ランに見つかれば面倒な事になる。

そもそも冷蔵庫に缶ビールが一本も無かったから、諦めて麦茶にしていた。

同じ材料(だった筈)だから気分にだけでも浸れるかと思ったが、全然そんな事は無い。

それでも俺は、飲まずにいられなかった。

空になったコップを見つめていると、脳裏に図書室での出来事が映り出す。

「苗木、か……」

あの時、俺は本気で喧嘩する時のような拳を十神にぶつけるつもりだった。

弱い奴を、それも女を泣かせる十神が許せなかったから。

だから俺はあいつを半殺しにしてやろうと思ったし、実際に実行しようと拳を振り上げた。

本気だった。正真正銘、全力の拳だった。

けど苗木は、それを軽々と受け止めやがった。

あの距離だ、踏み込みが足りなかった訳でもねぇ。止められるまで気付かなかったから、いきなり入った苗木にビビった訳でもねぇ。

その筈だってのに、苗木は涼しい顔して俺の拳を受け止めてみせた。

「苗木って、何者なんだろうな……」

「それは我も気になる話だ」

俺の呟きに反応して、プロテインコーヒーとかいうのを飲んでいた大神が話しかけてくる。珍しく隣には、朝日奈が居ない。

「大神、お前から見て苗木の動きってどうだ?」

もし受け止めたのが大神だったら普通だと納得出来た。死んじまったが、桑田だったとしても少し驚く程度で納得したと自分でも思う。

大神は武術に通じた本物だし、桑田だって超高校級の野球選手だ。

けど、あの時受け止めたのは苗木だ。男の中じゃ一番弱そうで、女の不二咲と同じ位弱いんじゃないかって疑ってた奴が、俺の本気を受け止めた。

超高校級の幸運だからたまたまあんな動きが出来たっつーのは……ちょっと話に無理があるだろ?

「苗木の動き方は何かしらの武道の動きが入っているようにも思える」

専門家の大神は話を続ける。やっぱり苗木には何か武術の心得があったらしい。

「と言うより……」

「と言うより?」

大神は言ってもいいのかどうか悩んでいる様子を見せる。

しばらくして意を決したのか、大神は話を続けた。

「形容し難いのだが……我の道場で教えている技と別の技術を足して二で割れば、丁度あのような動きになると思うのだ」

しかしその半分が何の技術なのかが分からない。大神はそう言って何が使われているのかもう一度考え始めた。

「その半分ってCQCじゃね?」

そんな中、口を挟んできたのは意外にも江ノ島だった。

こういう話題とは無縁と思っていたが、俺と大神の間に割って入ってきて急に生き生きと目を輝かせて話し始める。

「クロス・クォーター・コンバット、通称CQC。個々の兵士が敵と接触、もしくは接触寸前の極めて近い距離に接近した状況を想定した格闘術の事だよ」

大神なら聞いた事あるんじゃないかと、江ノ島は大神に話の続きを促した。

「確かに聞いた事はある。警察や軍隊でも使われているらしいな」

「そそ。基が柔術や中国武術とかを参考に編み出された技術だし、あんたの道場で教えてる技術と相性が良かったんじゃない?」

「しかし我の道場はあくまでを決闘を想定した技術基盤だ。無力化を主眼に置いたCQCとは相性が悪い筈であろう?」

「そうとも限らないから苗木があんな事出来たんじゃ? 決闘だって結局は一対一の戦闘じゃん」

現役女子高生二人が格闘技術を真剣に議論している様子は、観察していて不思議な気分になる光景だった。

「江ノ島さぁ、何でそんなに詳しいんだ?」

オレがそう聞くと、江ノ島は素っ頓狂な顔をしてオレを見た。

「ん? あぁ、えっと……そだそだ。ギャル仲間が好きなゲームに出てきてさ、それで覚えてた。メタルギアなんとかっての」

「あー、メタルギアソリッドか。オレも名前だけなら聞いた事あるわ」

でもオレの記憶だとそのゲームって銃とか使うゲームだぞ。江ノ島のギャル仲間はどういう趣味してんだ?

そんでもって江ノ島は江ノ島で何でそこまで詳しく覚えてたんだ?

「格闘術の教えが入っているゲームか……興味が出てきたな」

意外にも大神はゲームに食い付いた。どうやらゲームには疎いが格ゲーだけは得意らしい。

なんでも新しい技を編み出す参考にやってたら得意になったとの事だ。

大神も鉄拳とかストファイをやんのか、人間って見かけによらねぇもんだな。

「しかしCQCを混ぜたとしても、それでも苗木は不思議な男よ」

逸れ始めた話題を大神が戻す。その表情はさっき見せたような、喋って良い事なのか悩んでいるような表情だ。

「江ノ島の言う通り、苗木の動きはCQCと我の道場の教えを混ぜたものであろう。問題はそれを何処で覚えたかだ」

それを聞いたオレは、大神の言っている事の意味が分からなくなる。

「苗木がお前ん所の門下生だったって事なんじゃねーか? 別に不思議でも何ともないだろ」

オレがそう指摘しても、大神は首を振って否定した。

「いや、あの時苗木が使っていた技は我とケンイチロウ……我のライバルしか伝承されなかった奥義だ」

「はぁっ!?」

大神と大神のライバルって事は、相当な手練れって事じゃねーか!

その二人にしか知らない奥義を何で苗木が知ってたんだよ!?

「詳しい説明は教えられないが……いや、そもそも教えても簡単に出来るような技では無いのだ」

だからこそそれを実践されればすぐに分かる。例えCQCの技術を混ぜていたとしても。

大神はそう言って、その奥義が何処から知り得たのか一人で推理し始めた。

「本当、苗木って何者なんだよ……」

超高校級の幸運、苗木誠。本人曰く、抽選で選ばれただけの一般人。

けれどその実態は底知れなくて、話し合っても謎は深まるばかり。

得体の知れない不気味さに、少しだけ手が震えた。

おっ続き来てたのか

食堂から出たオレは部屋に戻る途中、苗木の部屋から出てくる不二咲を見つけた。

何だか分からないが、どこか幸せそうな表情だ。

「よっ、不二咲」

なんとなく声をかけてみる。

不二咲はオレの方を向くと、笑顔で近付いてきた。

「大和田君。こんにちはぁ」

「随分と幸せそうじゃねーか。苗木になんか貰ったのか?」

「えっとね……元気!」

「ははっ、なんじゃそりゃ」

オレが笑うと、不二咲はさっき何があったのか説明を始めた。

割と長々と話してくれたが、要は十神にビビってる所を苗木に慰められたって事らしい。

良かったじゃないかと、言おうとした。

「十神君に言い返せた僕は強いって、苗木君が言ってくれたんだぁ」

だけど、不二咲の言葉にチクリと胸が痛んだからか、その台詞は出なかった。

それはあれか? 言い返せなかったオレが弱いって苗木とお前は言いたいのか?

自分でも馬鹿馬鹿しいと感じながらも、オレはその感情を止められなかった。

「お世辞だったとしても、嬉しかったなぁ」

「……いや、お前は強いよ」

不二咲の頭を乱暴気味に撫でる。謙遜に苛立ちを覚えながら、それを悟られないように顔を伏せて。

「えへへ、大和田君にも言われるなんて……嬉しいなぁ」

不二咲はオレの内心には全く気付いてないようだ。

警戒心も無く、オレに頭を撫でられ続けている。

「でもやっぱり、大和田君の方が強いよね!」

不二咲は顔を上げ、目を輝かせて断言する。

それが今のオレには、ただ馬鹿にされているようにしか感じられなかった。

分からねぇ、自分でも何でこんな気持ちになっているか訳が分からねぇ。

突如、両手に痛みが走る。チラリと見れば、俺は拳を無意識の内に握り締めていた。

オレの内心を最後まで察する事は無く、不二咲は去っていった。

オレは不二咲に苛立ちをぶつけられなかった事を悔やみ、同時にオレが暴れる前に居なくなってくれてホッとした。

「くっ、そぉ……!」

女を泣かせる奴は屑だ。そう十神に対して思ったばかりなのに、オレは不二咲を殴ろうとしていた。

オレが本気で殴ってしまえば、最悪あいつはもしかしたら死んじまうかもしれないってのに。

その事実が、決定的にオレの弱さを自覚させた。

「なんで、どいつもこいつも……!」

苗木も不二咲も、どうしてオレより強い?

どうしてオレの弱さを自覚させるような事ばっかりしやがる!

オレは大神みてぇに力の使い方を知らねぇ。

オレは霧切みてぇに頭が良くねぇ。

オレは不二咲みてぇに心が強くねぇ。

オレは苗木みてぇに、強くねぇ!

「……いや、んな訳ねぇ」

オレは強い、強いんだ。

苗木なんかよりも、不二咲なんかよりも、ずっと、ずっとずっとずっとずっと。

「オレは強い……!」

自分に言い聞かせながら、オレは部屋に戻ろうと足を動かす。

そこから先の記憶は、次の日には全く無くなっていた。

「苗木……なんでお前はそんなに――んだ?」


「えっ? ボクが――だなんてキミが――なんて……何の冗談?」


「茶化すな、オレは真剣に聞いてんだ」


「別にボクは――自覚なんて――んだけどなぁ……でも、強いて言うなら」


「強いて――なら?」


「愛、かな」


「……茶化すんじゃねーって、もう――言わなきゃ分からねぇか?」


「いや、至極真剣さ。ボクが――とするなら、それは愛がある――だよ」


「不二咲を、護りたいからか?」


「そうさ、その為ならボクは何だってするって決めた。不二咲――を護れるボクで――為に、不二咲――に誇れる――である為にね」

何度目かも分からない夢を見る。

大和田クンがボクの強さを問う……夢らしい突拍子も無い内容だ。

ボクが強い? 平凡でしかないボクが? 大和田クンが羨む位に?

夢の言葉を借りれば、それこそ何の冗談かって言いたくなる。

現実じゃ、精々拳を受け止めるのが精一杯だと言うのに。

「……はっ」

思わず乾いた笑いが出てしまう。コロシアイ学園生活が始まってからどうも、長所と自負していた前向きさが無くなっているからだ。

それすらも無くなってしまったら、ボクは没個性化してしまうというのに。

「大事な個性を忘れちゃ、駄目だよな」

前向きさってのは、要は心の持ちようだ。希望を捨てなければ何とでもなる。

きっとそれが、ボクの強さに繋がるから。

「さっ、朝食会に行こっと」

今日は不二咲さんと何を話せるだろうか。

それを考えるだけで、ボクの心が明るくなっていくようだった。

今日も今日とて、点呼代わりの朝食会は何の進展も無く終わった。

精々不二咲サンがいつも通り可愛くて素敵なのと、いつもより大和田クンの表情が暗く感じた位だろう。

大和田クンは何かあったのだろうか……心なしか目元に隈が出来ているようにも思える。

まぁどうせ夜更かしでもしたのだろう。男子高校生なんて大体そんな生き物だ。

「むっ? どうしたのだ大和田君! 顔色が悪いぞ!」

あぁ、例外中の例外がそこに居たんだった……。

「きちんと睡眠を取らないからそうなるのではないかね? もっと自分の健康を考えて時間を使いたまえ」

長々と健康がどうだのと語り始める石丸クン。

言っている事は合っているけれど、そんなクドクドと説明されて簡単にはいと頷ける程、高校生は大人じゃないだろうに。

ちょっと違うかもしれないが、所謂『知ってるがお前の態度が気に入らない』ってやつだ。

「……うっせぇなぁ。てめぇには関係無いだろうが! てめぇはオレの親か、あぁん!?」

それな。

「なら誰が君の健康を心配すると言うのだね? ここには親は居ないのだぞ!」

「んな事聞いてんじゃねーよ! 大体てめぇはなぁ!」

「何!? ではそういう君はどうなのかね!?」

口論がヒートアップして、とうとう皆を余所に喧嘩を始めてしまっている。

こうなる前に止めるべきだったな。あぁ、折角の朝食が不味くなっていく……。

いや、今からでも遅くないから止めるべきだな。

「二人とも、それ位にしてご飯食べなよ。冷めるよ?」

「「そんな台詞で喧嘩が止まるか! 続行だ!」」

「いやおかしいでしょそれは」

なんでそこだけ息ピッタリなんだよ。というか石丸クン、キミは超高校級の風紀委員だろう? 自力で止まってよ。

「よぉーし、だったらどっちが根性無しか我慢比べで決めようじゃねーか!」

「いいだろう! 後で泣きを見ても知らないからな!」

どうやらサウナで我慢比べをするらしい。よかった、これで朝御飯が落ち着いて食べられる。

「では苗木君! 審判として同行を頼む!」

待て、どうしてそうなる。

「今ボクご飯食べてるんだけど……」

「つべこべ言わねぇで来いホラ!」

大和田クンに襟首を掴まれ、食堂の出口の方へと連れ去られる。

少々息苦しい程度で済んでいるが、それよりも連行されている事の方が問題だ。

「ちょっ!? 誰か助けて! 誰か、誰かぁ!」

助けを求めようと不二咲さんを呼ぼうと思ったが、ここで彼女の名を呼べば被害が及ぶかもしれない。

「そうだ、霧切さ――サムズアップなんかしないでよ!? キャラ違い過ぎでしょ!?」

真顔で親指を立てている様子が非常にシュールだ。

彼女はそのままの表情で、静かに呟いた。

「グットラック」

「霧切さぁん!?」

さっぱり訳が分からない霧切さんの行動に、脳味噌の処理が追い付かない。

気付いた時には、ボクは二人に連れ去られてしまっていた。

皆さんどうもこんにちは、希望ヶ峰学園放送部、リポーターの苗木誠です。

「顔が真っ赤じゃねーか、温泉の猿かてめぇはぁ?」

「顔が赤いのは生まれつきだ……!」

ボクは現在、大和田紋土と石丸清多夏による我慢大会の実況と解説の任を任されています。帰りたい。

「痩せ我慢してんじゃねぇ!」

「ハッハッハ! 僕はまだまだ余裕だよ、鍋焼きうどんでも食べたいくらいさ! そういう君はどうなのかね?」

だってさぁ考えてもみなよ。こんな暑苦しい光景見たって喜ぶ奴なんているか? いや、いない。断じて否だ。

「全然屁でもねぇな! 分厚い上着でも持ってきてぇと思ってる所だぜ!」

「そうかそうか! 君も随分と痩せ我慢を言うものだなぁ! なら後二時間はくつろいでいこうじゃないか!」

服の上からも分かるような筋骨隆々の大男と中肉中背ながらシッカリとした筋肉をした男が二人並んで大粒の汗を滝のように流している。

「言ったなぁ? お前言っちゃったなぁ!? 上等だぁ! 地獄の果てまで付き合ってやんよぉ!」

「望む所だぁああああああ!」

文字列にするだけで滲み出るこの暑苦しさは視覚的に暑苦しい炎の妖精にも匹敵し得るとボクの中で専らの評判だ。fuckin'! そんな評判は消し飛ばしてしまえ。

「……ボクもう帰っていいかなぁ?」

「「ふざけるな! 最後まで見届けろ!」」

「さいですか……」

見れば暑苦しく、聞けば鬱陶しい。耳と目を塞いでも蒸発した汗が空気に流れて鼻と喉を襲ってくる。

これは既に五感への暴力と言っても過言では無いだろう。大概にしてほしいものだ。

ボクがハッキリとNOと言えればこんな事にはならなかったんだろうけど……自分の押しの弱さが恨めしい。

今すぐ逃げ出して不二咲さんに会いに行ければどんなに良いだろうか。尚、実行した場合大和田クンの鉄拳制裁が付録に付いてきます。

けれどここでこの場を離れてしまえば、二人は脱水症状になるまで勝負を続けるだろう。最悪、それが原因で死ぬ可能性もある。

自分で言うのも変な話だが、ボクは所謂お人好しって奴なのだろう。

結局、二人がサウナから出てきたのはそれから一時間も後になった。

茹で上がった蛸状態の二人の看病(+制裁)は大神さんと朝日奈さんに任せ、ボクは一旦身体を洗う為に自分の部屋へ向かう事にした。

こんな汗臭い状態で歩き回って、ボクの苦悩を皆に共有させる趣味は無いからね。

愛が人を強くするとかオリバさんかよ

自室でシャワーを浴び終え、ボクは不二咲さんに会う為に部屋を出た。

ドアを閉めた瞬間、ボクは唐突にある事を閃く。

「プレゼント、用意しておこうかな」

幸い、しょっちゅう皆からモノクマメダルを貰う(正確には押し付けられている)のでメダルはかなり枚数が溜まっている。

確か昨日の時点で三桁はあった筈だ。ラインナップが一切分からないのが怖いが、それだけあれば一つか二つ位は不二咲さんが好みそうな物が出てくれるだろう。

……超高校級の幸運って何だっけ。いや、よそう。そんな事考えても周りと比べて惨めになるだけだ。

「よし、そうと決まれば」

ボクはもう一度ドアを開き、モノクマメダルが大量に入ったゴミ箱を抱えて部屋から出る。

ジャラジャラと五月蝿い音を出していると、何だかメダルゲーをやりに行く気分になってきた。

「うっし、やってやるぞ! おー!」

変にテンションが高くなったボクは、誰に言うでもなく叫んでいた。

結論から言うと、モノモノマシーンのラインナップは明らかに無節操だった。

例をあげると、食品としてレーション、コラコーラ、最速カップラーメン。

本がオモプラッタの極意、超技林、愛蔵リアクション芸集。植物系統にイン・ビトロ・ローズ、無限タンポポ。

その他、新品のサラシ、水晶のドクロ、永遠のミサンガ、もちプリのフィギュア、隕石の矢、動くこけし、etc、etc……。

「何処から仕入れてるんだよこれ……」

ただでさえゴチャゴチャした購買部の中が、戦利品の所為で小規模なドン・キホーテと化してしまっていた。

で、肝心の不二咲さんが喜びそうなアイテムは、と。

「難しいな……うーん、超技林と無限タンポポでいいかな?」

女の子に贈り物をするなんて機会はほとんど無かったので正直自信は無いが……こういうのは気持ちが大切だと偉い人が言っていた。

さて、贈り物以外の戦利品はどうしようか。食べ物系と本系は自分で消化するとして、問題は他だな……。

ミサンガとサラシはまだいいとして、水晶のドクロとか隕石の矢とかゴミ同然だろ。何処に活躍の機会があるって言うんだ。

「それと、これもなぁ……」

しかめっ面で動くこけしを握り締める。スイッチを入れると、小刻みにバイブレーションし始めた。

……やっぱりこれ、そういう道具だよね?

低身長ではあるがボクだって立派な男子高校生。異性に興味深々だ。

山田クン程妄想垂れ流しにはしてないが、それでもしない訳じゃない。

自慰行為だってするし、自慢じゃないがオカズを求めてブラクラを踏んだ経験だってある。

とはいえ、本物は実際に間近で見た事は道具も女体も一切無い。

だから、こうしてそういう道具を手にしていれば思考がそういう方向になるのは自然な流れだった。

「こ、これがあそこに入って動くのか……」

ゴクリと、生唾を飲む。

震えるこけしを見つめていると、下腹部に血が流れていくのが自分でも感じられた。

(太いぃぃ……っ!! 太……っい……よ……おぉお!)

「!?」

突如、何処からか不二咲さんの喘ぎ声が聞こえてくる。

しかし周りを見渡しても不二咲さんはおろか誰一人として見当たらない。

どうやら妄想を拗らせて幻聴まで発生したようだ。

「いかん、危ない危ない危ない……」

これ以上そういう事を考えてたら今度こそ息子が起きてしまう。

しっかし、この動くこけしは本当に小刻みにバイブするな……。

(もぉ……うっ! 駄……っ目! 駄目なぁのぉ……! ボクイっちゃ…イっちゃうから……ぁっ!)

(いいよ、可愛い醜態をボクにだけ見せて……)

(あぁ、あっ……見てっ……見ててぇ!)

だぁああああああああああああ! 何やってんだよボクはぁああああああああああああ!!

「消えろ! 消えろ消えろ消えろ消えろぉおおおおおお!」

脳内で出来たイメージを振り払うように付けっ放しの動くこけしを投げ捨てる。

壁や天井、監視カメラや水晶のドクロにも当たったがそんなのは些細な問題だ。

「失せよ煩悩! 滅せよ邪淫! 悪霊退散悪霊退散!」

周りから見れば奇行以外の何物でも無いが、それでもボクは叫び続けた。

そうしなければ、ボクは罪悪感で二度と不二咲さんの顔を見れない!

「ぬぁああああああ! 消えてぇええええええ!!」

いくら叫んでも消えない空想の情事に、とうとう温厚なボクもキレた。

ボクは投げつけても尚バイブする動くこけしをもう一度拾い、両手で持つ。

そして息を整え、それを一思いにへし折った。

「ふんすっ!」

折れたこけしの中から機械のパーツや火花が飛び散る様を見ていると、心が達成感で満ちてくる。

もう不二咲さんの快感で蕩けた顔は浮かんでこない。全ての元凶は滅んだ、もういない!

「……ふぅ」

やったぜ。

雲行きが怪しくなってきましたね……(震え声)

やっぱりホモじゃないか(憤怒)

「しっかし、よくあんな太いのへし折れたな……」

プレゼントを持って不二咲さんの元へ向かう途中、ボクは購買部での出来事を思い出す。

普通のこけしは木製がほとんどだが、あれは一応機械の類である。

大神さんは勿論、大和田クン辺りなら簡単に折れるだろうけど、平均的な筋力しか無いボクがよくもあそこまで出来たものだ。

「所謂、火事場の馬鹿力って奴か」

我ながらあの力は驚かされた。ボクだってやれば出来るものなんだなぁ。

「さて、不二咲さんは……と」

部屋や食堂、ランドリーを探してみるが全然見当たらない。どうやら寄宿舎には居ないようだ。

となると学園の方か……十神クンと鉢合わせなんてしなきゃいいんだけど。

ボクが、でもあるが不二咲さんが、でもある。

「大丈夫かなぁ……」

何かあったら嫌だし、急いで探す事にしよう。

無駄に無駄なプライドが高い十神クンに限って、カッとなって暴力を振るうなんて事だけはしないとは思うけど。

「不二咲さんが怪我してたら半殺しにでもするか」

裁判が起こらない程度の、良心的なオシオキでもしておこう。

プレゼントが傷付かないように、ボクは足を急いだ。

待ってるから早く

2-Bの教室。不二咲さんは何故か、この場所にいた。

「こんな所でどうしたの?」

声をかけてみても、何故か反応してくれない。

何だか心此処に在らずと言った感じだ、一体何があったと言うのだろうか。

「不二咲さん、不二咲さんってば」

「……えっ?」

不二咲さんがこちらを見る。

しばらく無言が続いたが、突然不二咲さんが顔を真っ赤になった。

「あ、あわ、あわわわわ……」

「泡……?」

何だ、泡がどうしたと言うのだろうか。

「な、なんでここにいるのぉ!?」

「いや、何でって……そういう不二咲さんは?」

「何でもないよ! うん、何でも……」

大きく手を振り、何かから視線を逸らすように不二咲さんは誤魔化した。

何か、黒板の端の方向を見ていたような……まぁいいや、今は不二咲さんとの会話が最優先事項だ。

続き待ってる

「これさ、ちょっとモノモノマシーン回してたら当てたんだけど……良かったら不二咲さん、いるかい?」

実際は何度も回して、喜びそうなのを選出してるが、その事実は絶対に言わない。

自分の不二咲さんへの愛が重いのは認めるが、それを本人に見せないのが出来る男って奴だろう。

「超技林と……無限タンポポ?」

差し出されたプレゼントを見て、不二咲さんは目を輝かせ始める。どうやらお気に召したようだ。

「ねぇ、この無限たんぽぽ、今使ってみてもいいかな?」

「勿論! 不二咲さんの自由にしてくれて構わないよ」

ボクがそう言うと、不二咲さんは満面の笑みを浮かべて無限タンポポに息を吹きかける。

不二咲さんの息が微風のようにボクの身体にかかっていると思うと、こう……はっはー、我ながら気色悪いぜ。

「えへへっ、楽しいねぇ」

「そうだね、見てるだけでも楽しそうだよ」

そんな後ろめたい感情も、不二咲さんを見ていれば浄化されていくようだ。

何て言うんだろう……会えない時は喜ばせたいだとか悦ばせたいとかの、清濁合わせた感情で一杯なのに。

側に居てくれると、そんな感情が消えてただ愛しいって思いだけが残るこの気持ちは。

「そういえば、こうして二人きりで話すのは何だか久しぶりな気がするね」

そんな事を考えながら無言で彼女を見つめていると、不二咲さんがそう切り出してきた。

「確かにそうかも。この前は不二咲さんがプログラミングを始めた切っ掛けを教えてもらったんだよね」

あの時の不二咲さんは、とっても楽しそうで、輝いていたなぁ。

こんな状況とはいえ、そういう表情が全然見れないのは勿体無い事だとボクは思う。

出来る事ならば、毎日でも彼女の笑顔を眺めていたいよ。

「あの時はごめんねぇ。作ってる物を教えてあげられなくて……」

不二咲さんが気にする事じゃないと言おうとしたが、言っても彼女は申し訳無さそうに謝るだけだろう。

ボクが仕方ないよとだけ言って微笑むと、不二咲さんは安心したように笑ってくれた。

暫くそうしていると、急に不二咲さんはモジモジと両手の指同士を合わせ、ボクをチラチラと見てきた。

「どうしたの?」

ボクの方から話題を振ってあげると、不二咲さんは嬉しそうに会話を続けてくれた。

「あのさ、苗木君が嫌じゃなければだけど……また一緒にお話しない?」

「いいよ、ボクで良ければいくらでも付き合うよ」

彼女にこんな風に頼まれて、断れる人間は早々存在しないだろう……既に学園内に2~3人いるんだけどね。

待ってたよ

「あれからね、僕も少し考えたんだけど……」

「ん、何の話?」

あれからって、もしかして十神クンとの事かな。

昨日の今日で本当は心配だが、不二咲さんが強くなりたいならボクがそれを止める理由は無い。

「ちょっとだけヒントを言う位なら、多分大丈夫だから……」

違った、無意味にシリアスしてしまった。

ヒントって事は……あれか、企業秘密で作ってる不二咲さんの作品の事か。それしか思い当たる節が存在しない。

あの話題を今ヒントだけでも教えてくれるとは……それだけ信頼されていると思うと、感慨深いものがあるな。

「アルファベットで、AIって言うんだぁ」

AIか……不二咲さんってAI作ってるんだ――え、AI!?

「AIって、人工知能のAI?」

恐る恐る聞いてみる。不二咲さんは驚きと焦りが綯い交ぜになったような表情を浮かべ――おい待て、これボクまた地雷踏んだんじゃないか!?

「あ! バレちゃった!? ヒント言い過ぎちゃったかなぁ……」

言い過ぎちゃったっていうか……それはヒントじゃなくてアンサーって奴だよ不二咲さん。

「うぅ、約束破ったのバレたら、怒られちゃうよぉ……」

しまった、不二咲さんが今にも泣き出しそうだ。何度目だ苗木誠、反省しろ!

「だ、大丈夫! 絶対誰にも言わないから! もしバレたらボク、何でもするから!」

ボクに出来る事なんて限られているだろうけど……それでも言わずにはいられなかった。

そうだな、毎日の家事手伝いを住み込みでする位なら何とか――おい、待て。これじゃ御褒美じゃないか。

「う、うん……そうだよね……苗木君だし、大丈夫だよね……」

どうやら普段の行いが功を奏したらしい。不二咲さんはボクの言葉を信用してくれたようだ。

「それにしても不二咲さんって人工知能なんて作ってるのかい!? 凄い、凄過ぎるよ!」

そんな凄いものを作れるだなんて、改めて不二咲さんって凄い人物なんだなと再認識する。

こうして会話しているだけじゃ忘れそうになるけれど、彼女だって立派な超高校級の才能を持つ人間なんだ。

本来ならこうして話す事も出来ない事を考えると、今話せる事を幸運に思ったり、自分の平凡さに辟易したりする。

「でも、やっぱり上手く行かないんだぁ……今作ってるのは、ちゃんと人間と同じ思考回路で同じ仕事がこなせる様な強いAIなんだけど」

「強いAI……?」

「うん。人工知能研究の分野では『強いAIと弱いAI』って問題があってね――」

不二咲さんは、ボクにも分かりやすく言葉を選びながら説明してくれた。

弱いAIは人間的な認知能力(パターン認識や高度な判断力)を必要としない程度の問題解決をするソフトウェアの事らしい。

このAIはあくまでプログラミングに従って処理をしているだけで、機械が本当に思考している訳では無い。

一方の強いAIというのは、真の自意識や自我を持つコンピューター。不二咲さんが今製作しているのがこっちだ。

この強いAIの観点から見れば、正しいプログラムは精神を持つ事になるのだが、この考え方に否定的な学者も一定数存在するらしい。

どの道、未だに研究段階でしかない分野なので実際に完成した時にどうなるかは不二咲さんにも予想が出来ないとの事だ。

……まるでSFの世界観だな。プログラミングの知識が全く無い身としてはそんな薄っぺらい感想しか出てこない。

くそ、こんな事になるんだったら猛勉強しておくんだった。ボク、アルゴリズムの基本構造しか知らないぞ。

「人間並みの知識や知性を持つプログラミングに関してはかなり進んでると思うんだけど……」

不二咲さんは話を続ける。

「自我や自意識となるとまだまだ先……もしかしたら、ずっと完成しないかもしれない」

「完成しないって、不二咲さんでも?」

普段から弱気な彼女でも、ここまで自信が無さそうに語るのは珍しかった。

「どんなに技術が進歩しても、それでもまだ足りないモノがあるって、僕は思うんだ」

どんなにプログラムを優秀にしても、複雑にしても。

人間の脳モデルのシュミレーションが可能な程のハードウェアやソフトウェアがあったとしても。

それらが合わさって人間の思考に限りなく近いプログラムが出来たとしても。

それだけじゃ足りない、決定的に足りない物とは――。

「――心、かな」

「うん……僕も、そう思う」

人間にすらそれがどういうものか正しく理解している訳じゃないものを、早々簡単に作れる訳が無い。

だから不二咲さんは、こんなにも弱気なんだろう。

「でも心とか魂とか、プログラマーが言う言葉じゃないよね……」

そう言って不二咲さんはまたシュンとしてしまった。

何かしらフォローの言葉を入れようと思っていたら、彼女の方から今のは忘れてと言われてしまった。

どうやら気を使わせてしまったみたいで、ボクも申し訳なくなる。

それにしても人工知能か……素人のボクには難しかったけど、それでもやっぱり興味深い話だったな。

「また長々とつまらない話をしちゃったね……苗木君、退屈だったでしょ?」

不二咲さんは申し訳なさからか、また俯いてしまう。

「ううん。退屈どころか凄く面白かったよ!」

勿論お世辞では無い。正直今のボクはプログラミングに、それも人工知能の問題に大きな興味を抱いている。

それ程までに不二咲さんの話は興味深くて、面白い話だった。

「……え? 本当に?」

不二咲さんは半分涙目になりながらも、上目遣いで確認してくる。

「本当だとも! だから」

また今度不二咲さんの話を聞かせてほしいな。

そう、ボクがそう言い切る前に。

「じゃあさ! 今度お話する時は苗木君の話を聞かせてよ!」

不二咲さんは、そう提案した。

……え、ちょっと待って? ボ、ボクの話? え、嘘、んな馬鹿な。

「いや、ボクの話なんて不二咲さんと違って本当に退屈なだけだから……」

不二咲さんの話が聞きたい欲望とツマラナイ話をして幻滅されたくないという思いから、ボクはそれを拒否しようと反論してみる。

「……駄目なの! 次は苗木君の番なの!」

けれども、彼女の満面の笑みを前にボクの反論は微塵切りにされてしまった。

これは卑怯だ、敵う訳が無い。こんな頼まれ方をして断る奴は、今回ばかりはそれこそ心の無い人工知能しかいないと断言出来る。

「わ、分かったよ……」

渋々ながら、ボクはそれを了承した。

「……えへへ、やった」

不二咲さんは小さくガッツポーズをして、満面の笑みを浮かべたまま「じゃあまたね」と教室から出て行ってしまった。

ボクは何とかそれに返事をしたものの、予想外の出来事にあっけに取られて足が動かせずにいた。

「次はボクの番、か……」

困ったな……何を話せばいいのだろうか。

平々凡々、王道という言葉も裸足で逃げ出す程の、至ってノーマルな、一般人Aであるボクの話なんて面白味があるのだろうか?

「何話すか、考えておこう」

まだまだ十数年しか生きてないボクだけれど、思い出せば多少は面白い話や苦労話が存在する筈だ。

もう決まった事だ。折角ボクの話が聞きたいと言ってくれたんだから、楽しんでもらえるように頑張るしかない。

そうだな……中学校の時に学校に鶴が迷い込んできた話なんてどうだろう?

お前学園入学する前にバスジャックあったりしただろwwwwwwwwww

あんまり恐い話するとちーたん泣いちゃうから…

不二咲さんと別れ、メダルを探し、飯を食べ、モノモノマシーンを回し、探索をする。

一日でやれる事を全てやったような気がする。時間だってもうすぐ夜時間だ。

「鶴の話か、バスジャックの話か、こまるの話か……」

シャワーを浴びながら、話のネタを記憶から探し出す。けれどどれも不二咲さんを楽しませられるような話では無さそうだ。

鶴はよくよく考えれば逃がしただけだし、バスジャックの件については思い出したくも無い。

こまるの話は……ただの愚痴になりそうだ。そんなのツマラナイにも程がある。

そういえば昔は一緒の風呂に入ったり一緒の布団で寝たりしたけど、流石にあいつが中学生になってからはしなくなったなぁ。

背中を流してやったり、同じ湯船で顔にお湯をぶつけて遊んだ日々が懐かしい。

少なくとも、あいつの愚痴を言うような仲では無かった筈だ。一体どの辺りから関係が変わってしまったのかは分からないけれど。

「……会って、理由を聞きたいな」

ポロリと漏れた声から、ボクはボロボロになっていた家を思い出す。瞬間、心の奥が黒く染まるのを感じた。

「は、はは……」

思わず乾いた笑いが零れてしまう。やっぱり、ボクには舞園さんを責める権利は無いな。

例えどんなに大切なものが心配だろうと、そんな状況まで追い込んだモノクマが悪かろうと。

彼女がやろうとした事は、彼がしてしまった事は、許される事じゃない。

それを理解していても、ボクの心には黒い感情が侵蝕してくる。

「割と本気で、不二咲さんが居なかったら大変だったかもな」

ボクには彼女と一緒に脱出するという目標がある、不二咲千尋という拠り所がある。

だからボクは、今日も間違わないでいられる。

「……拠り所、か」

シャワーを浴び終えたボクは呟いて、湯冷めしていく身体を冷たいベットに潜り込んだ。

「ボクは、キミの拠り所になれなかったのかな……桑田クンは、キミの拠り所になれなかったのかな?」

返事が無い事が分かっていても、どうしても聞かずにはいられなかった。

シャワールームの方に背を向けて、懺悔のように居ない人物へ語りかける。

部屋を静寂が包み込む。答えない――それが返事のように思えた。

「―――――――――――」


「――――覚――――――」


「ここ――――はいけ――――」


「――約束――――」


「ボクは――――――、――――――いけない――――」

『オマエラ、至急体育館までお越しください』

「……っ」

今日は珍しく、モノクマのアナウンスで起こされた。

起きぬけの身体にズキズキと頭痛が走る。湯冷めして風邪でも引いたのだろうか。

いや大丈夫だ、熱も目眩も無い。少し時間が経てば問題無く動ける筈だ。

「何だか、奇妙な夢を見たような気がする……」

上も下も分からない真っ暗な空間の中、ノイズで擦れた誰かの声がボクに何かを伝えようとしていたような気がする。

でも、そんな夢を見たと言い切る事すら出来ない位に、酷く不鮮明な夢だった。

例えるのならそう、TVの砂嵐をずっと見つめ続けているような……。

「……至急、体育館に集合か」

夢の解析はコロシアイ学園生活が始まってからのボクの癖だが、今日ばかりはここで切り上げておこう。

急いで体育館へ向かわないと皆に迷惑がかかるし、何よりも、わざわざモノクマが呼び出す程の事があるというのが危機感を覚える。

「何事も無ければいいんだけどなぁ……」

それが有り得ない事と分かっていながら、ボクは体育館へと足を進めた。

体育館へ入ると、茶封筒でトランプタワーを作っているモノクマがそこにはいた。

相変わらず精密動作性が凄いな……見た目からは想像も出来ない。

って関心してる場合じゃない。ボクが最後のようだし、そろそろ本題に入れって促さないと。

「40秒待って」

ボクが茶々を入れようとした瞬間、真剣そうな声でモノクマに言われてしまった。

「いつまでも下らない事で俺の時間を使うな……!」

そう言って十神クンは、右端の封筒を抜き取ってモノクマの前に投げ捨てた。

「アッー!?」

バタバタと連鎖的に壊れていくトランプタワーを、モノクマの悲痛な叫びをBGMに眺めていく。

……ちょっと楽しくなってきたのは内緒だ。

「グスッ、じゃあ本題に入ります……」

封筒タワーを倒されたモノクマは泣きながら、鳴きながら用件を言い始めた。

余程ショックだったのか、いつものハイテンションさは鳴りを潜めている。

「今日は皆に、学園長からプレゼントを送ろうと思います」

「プレゼントって、どうせ動機だろ?」

「そうですとも! さっきトランプタワー作るのに使ってた封筒に、皆の隠したい秘密が書かれた紙が入ってるよ」

そんな大事なものでトランプタワーなんか作るなよ。

「じゃあ正解した褒美に、苗木クンから渡してあげようかな」

どうやら今回はまとめて渡すのでは無く、一人ずつ順番に手渡ししていくらしい。

ボクはモノクマの前まで歩き、差し出された封筒を渋々と受け取る。

「うぷぷ、今回は動機を壊そうとはしないんだね」

そう言ってモノクマが嘲笑するけれど、一瞥するだけに留めておいた。

本当は今すぐにでもこの封筒全部をトラッシュルームで燃やしたいが、前のDVDのように予備が準備されてあるだろう。

ここで暴れても皆からの奇異の視線を集めるだけだ。そんなの意味が無い。

「はいはーい、次は……目が合ったから石丸クンねー」

モノクマは一人ずつ呼んでは丁寧に手渡ししていく。

その光景を尻目に、ボクは自身の名が大きく書かれた封筒を開けた。

中には三つ折りにされたA4用紙が一枚だけ入っている。

別段隠したい事なんてボクには無いが……それだけに、何が書かれてるのか気になってしまう。

恐る恐る、意を決して紙を展開する。

「――えっ?」

そして、戦慄が走った。


『苗木誠は同性愛者である』


それはボクが隠し続けていた――文字通りの、最大の秘密だった。

「ってんな訳あるかぁああああああ!!」

ボクは思い切り叫びながら、動機の書かれた紙を動くこけしの如く爆発四散させる。

ここで暴れても皆からの奇異の視線を集める? 知った事か畜生ふざけんな!

え、動機ってこれ? こんなアホみたいな濡れ衣でコロシアイをしろと?

馬鹿にするのも大概にしろ! こんな小学生の悪戯みたいな動機で動く小学生みたいな高校生が何処に……いや、おいおい嘘でしょ?

何で皆そんなに深刻そうな表情浮かべてるのさ。まるで、書かれている事が本当のような……。

「封筒に記載した内容は、誰一人として嘘偽りはありません! 全てが真実です!」

「だからちょっと待てやぁああああああ!!」

戸惑いながら大声を出しても、モノクマはボクを無視して話を進めていく。

いや、あの、待って、モノクマ待って、マジで待って。

誰一人として嘘偽りは無いだって? 嘘800%しか書かれてないぞこの動機!

しかしよく見れば、周りの皆は文字通り顔面蒼白だ。あのセレスさんまでもが額に青筋を立てている。

少なくとも、皆何かしら心当たりがある事が書かれているのだろう……じゃあ何でボクだけこんな的外れな事が書いてあるんだ?

いや、よくよく観察してみれば十神クンと霧切さんも比較的いつも通りの表情だ。二人とも表情を顔に浮かべないタイプだからか?

でもそれならセレスさんだってそうだし、十神クンは怒ってる時はしかめ面するし相手を馬鹿にする時は鼻で笑ったりと意外にも表情は顔に出る。

となると……ボクを含めた三人の秘密は見つからなかったと考えるのが妥当だろう。

霧切さんは2chで名前すら見なかった上、未だにどういう才能で希望々峰学園に来たか分かってない。

十神クンは自分の秘密なんて――いや、例え十神財閥の秘密だろうと簡単に揉み消す事が出来るだろう。

ボクに関しては、ただの一般人の情報なんてそれほど集まらなかったと考えれば自然だ。そもそもバラされたくない秘密自体が存在しない。

……存在しないって言ったら存在しないんだからな。決して小学五年生の頃まである事が直らなかったとか無いからな。

でもそれにしたって同性愛者って酷く説得力の薄い内容だな。黒幕は今までボクの何を見ていたんだよ、ボクは不二咲さんにベッタリだったじゃないか。

そろそろ更新来るかな
またアグレッシブな苗木を見たい

動揺する皆や困惑するボクを置き去りにして、モノクマは改めて宣言した。

「今から24時間以内に殺人が起こらなければ、そこに書いてある秘密を全世界へ発信します!」

全世界へ発信って……ボクが同性愛者ってデマが全世界で流れるのか?

それ、ボクが受信する側だったら凄くどうでもいいって思う。村人Aが実はホモでしたなんて情報、何処に需要があるってんだ。

「池袋駅前でビラを配って、マスコミにタレコミ、TwitterでふぁぼRTして拡散しちゃうからね! 情報化社会を舐めない方がいいよ!」

しかしどうでもいいと言ってもそれはあくまでボクの秘密がであって皆の視点ではそうじゃない。

認めたくなくても、中には誰かを殺してでも秘密を守り通したい人だっているんだ。

「そんなもの、今この場で暴露してしまえば何も恐れる事は無いではないか!」

声を荒げて石丸クンがそう提案する。彼自身、隠したい秘密を抱えている筈なのに。

「そうだよ! 今言っちゃえば絶対怖くないって!」

朝日奈さんもそれに便乗して、他の皆に訴えかける。

もしこの場にいるのが二人以外はボクだけならばそれに賛成する所だが、残念ながらこの場では不正解だ。

「残念だけど、皆が皆そんな勇気がある訳じゃ無いんだよ」

ポツリとボクは呟いた。

二人は意外そうな表情を浮かべ、ボクを見つめている。

「苗木の言う通りだ、貴様の価値観だけで物事を判断するな」

十神クンがボクに便乗して、石丸クンを糾弾する。お前が言うなって凄く言いたいがそこは忍耐で我慢。

「し、しかしだね!」

「っていうか苗木、十神の味方するつもり!?」

石丸クンは狼狽し、朝日奈さんはヒステリーを起こす。

気持ちは分かるが……十神クンの味方になんかなる訳無いでしょ。

ボクは冷静さを失わないよう深呼吸をして、二人を諭す。

「石丸クンの秘密は石丸クンだけの問題だし、朝日奈さんの問題は朝日奈さんだけの問題だ」

でも、全員がそうだは限らない。秘密の真偽は勿論の事、秘密の重さだって人それぞれだ。

自分一人の問題かもしれないし、関わる人全ての問題かもしれない。

「自分は大丈夫だからって皆にそれを押し付けるのは、ただの独り善がりだよ」

ボクがそう言うと、石丸クンと朝日奈さんは今度こそ黙り込んでしまった。

……ちょっと言い過ぎてしまったな。これでは十神クンの味方をしてると思われても仕方ない。

「まぁ、個人的には嘘だって言い張れば問題無いと思うんだけどね」

生まれた疑念は払えないかもしれないが、結局真偽なんてものは神の、いや、本人のみぞ知るって事だ。

っていうか実際嘘の情報が一つある時点で他も嘘だって言い切れてしまうだろう。存外、モノクマも甘い所があるじゃないか。

「ま、秘密をどうするかはオマエラに任せるよ。ボクはスピーカーの調整する仕事があるから帰るねー」

モノクマはそう言って体育館から去っていく。残されたボク達はそれを追うように、思い思いの足取りで去っていった。

今朝の動機提示にて、ボクは皆とはベクトルの違う衝撃を受けた訳だが、その所為か他の皆と比べて纏った空気が浮いてしまっている。

そりゃそうだ、一人だけ深刻そうな表情浮かべて無ければそうもなる。うーん、ここでボクだけ嘘っぱちだと言っても信用されないよなぁ。

「……ねぇ霧切さん」

たまたま向かい側で飯を食べていた霧切さんに話しかける。

「霧切さんは、どんなデマが書かれてたの?」

「デマ……? ごめんなさい、何の事?」

ボクがそう言うと、霧切さんは訝しげにボクを見てきた。

「ハハッ、またまたぁとぼけちゃってぇ♪」

「ふざけないで」

「すいません」

怒られてしまった。ボクは蛇のように睨んでくる霧切さんに萎縮しながら、真面目に話し始めた。

「霧切さんってミステリアスだし、ボクみたいに動機には嘘しか書かれてないだろうと思ってさ」

「動機が嘘……? 苗木君の動機は無かったって事?」

「う、うん。霧切さんも……後そうだなぁ、十神クンもそうでしょう? 渡された時に大して動じなかったしさ」

「なるほど……あの時の苗木君の奇行はそういう意味だったのね」

苗木君って自分が関わると暴走するわよね。

霧切さんはそう言って溜め息を吐いた……はい、その通りです。反省してます。

「残念だけど、私は嘘なんて書かれてなかったわ。殺人をしようとは思わないけどね」

「あっ、そっか……そっちの方かぁ」

言われて今更ながらそっちの可能性に気付く。取り乱してなくとも、石丸クンや朝日奈さんみたいに、秘密が大した事無いパターンだってあるじゃないか。

少し考えれば誰だって分かる筈なのに……あの時のボクは秘密自体が嘘の人を見つけようと、ある種の恐慌状態だったのかもしれない。

「それにしても嘘ね……何が書いてあったのかしら?」

「見れば納得すると思うけど? はい封筒」

ボクが封筒ごと渡すと、霧切さんは慣れた手つきで封筒を開け、中に入っていた動機を確認した。

封筒の文字を見つめ、ボクの顔を見て、もう一度封筒を見つめている。そして一言、こう呟いた。

「苗木君、貴方ってそういう人だったのね……」

「霧切さん?」

ボク、事前に嘘の内容だと伝えましたよね? そんな風に道理でねぇ、みたいな表情されるのはドン引きされるより心に刺さるんですが。

「ジョークよジョーク、霧切ジョーク」

無表情でそう言う霧切さん。前のサムズアップの件もそうだが、周りが困惑するだけだから止めた方がいいと思う。

「それにしても不思議ね、苗木君の動機だけ虚偽の内容だなんて」

「まぁただの一般人の秘密とか、下手したら十神財閥の秘密を探るより困難だろうし……そういう事なんじゃない?」

存在しないものはどう足掻いても手に入らない、無を取得出来るのはゲームの中だけって事だろう。

「全く、黒幕は一体ボクの行動をどう見てたんだろうね。あんなに不二咲さんにベッタリだったのに」

ボクは小声で霧切さんに言う。対する霧切さんは、小声でこう返してくれた。

「あら、苗木君は不二咲さんが好きなのね。初めて知ったわ」

桑田クン絶対許さない、ボクが死んだらあの世で反省会を開いてやる。

まだ?

まーだかな

あけおめ
更新待ってるよ

ボクが盛大な自爆をした事なぞほとんどの人が知る事も無く、朝食会は幕を閉じた。

さて、今日もまた自由時間が始まった訳だが、ボクがするべき事は勿論一つしかない。

「不二咲さん、大丈夫かな」

彼女は動機を提示された時、特に顔を蒼白くしていた人物の一人だった。

それはボクみたいに嘘だった訳じゃなく、大した秘密しか無かった訳でもなく、文字通りの抱えた秘密を持っている証拠。

動機足り得る事実が、あの忌々しい茶封筒に書かれていた事に他ならない。

だとしたら、ボクは彼女を慰めたいし、彼女の力になりたかった。

本人からしたらありがた迷惑かもしれないけれど、それでもボクは動かずにはいられない。

普通なボクだからこそ出来る事がある。自分の気持ちに正直になる。

一人の先輩と一人の友達が伝えてくれた、ボクの芯が今こそ動けと脈動している。

愛する人の笑顔を取り戻せ、絶望を取り除け。それが出来るのはボクしかいない、そうボクの心が叫んでいるんだ。

「……行こうか」

不二咲さんの部屋の前に立つ。思えば何度か話してはいるが彼女の部屋に入った事は無かった。

というより、同年代の女の子の部屋に入ろうとする事そのものが、今この瞬間が初めてだ。

自然と身体に力が入って、姿勢は鉄骨を入れられたかのように真っ直ぐになる。

全身が硬直している筈なのに、インターホンを指差す手だけは小刻みに震えてしまうけど。

落ち着け苗木誠、深呼吸をしよう。邪な気持ちは捨てろ、今のボクは不二咲さんの涙を拭う為だけの存在なんだ。

「すぅ……はぁ……」

一息吸う度に心拍数が落ち着いていくのが実感出来る。一息吐く度に絡まった思考が纏まっていく。

二回、三回と肺の中の空気を入れ替える……これだけやればもう充分だろう。

「……よし」

ボクはインターホンを押す。ほんの数秒が、長い。

「こんにちはぁ、苗木君」

不二咲さんは、努めて明るく振る舞いながら部屋のドアを開けてくれた。既に気を遣わせてるが理解出来るだけに、ボクの心は痛む。

「こんにちは不二咲さん、お話したくて来ちゃった」

彼女の気遣いに応えるように、ボクも同じように明るく振舞う。

「お話って……苗木君、約束覚えててくれたんだぁ」

約束――勿論忘れる訳が無い。ボクの話をするって約束を、前に2-Bの教室であった時にしている。

「構わないけど、本当にいいの?」

「約束したもん、今度は苗木君の事を話してくれるって」

不二咲さんの表情から薄っすらと感じていた暗さが消える、本心からボクの話を心待ちにしていたようだ。

まぁ、それで不二咲さんの心が安らぐというのなら……ボクはいくらでも過去の出来事だろうが秘密だろうが語ろうじゃないか。

「狭くてごめんねぇ……散らかっちゃってるよね?」

不二咲さんの言う通り、確かに部屋は散らかっていた。

「いや、この程度だったらそうでもないよ」

しかし散らかっていたといっても、ボクや舞園さんの必要最低限の荷物しか無い部屋と比較した場合の話だ。

散らかっているという印象は単純に物量が多いというだけであって、むしろ荷物の量の割には整理整頓が行き届いている。

その証拠に観察すれば、よく使用しているのであろう机ですら整頓されている。使用感から察するに、これが一番作業が捗る配置なのだろう。

それにしても流石は超高校級のプログラマー、ディスプレイが三つも同じ机に存在している……こんな感じのは映画でしか見た事無い。

「立ちっ放しも疲れるし……苗木君、椅子に座る?」

「不二咲さんは? ボクが座ったら椅子が無くなっちゃうけど」

「僕はベットの上に座るよぉ」

不二咲さんはベットの上に乗りペタンと座り込んだ。ボクは机の目の前にあった椅子まで歩き、腰を下ろす。

いざ話を始めようと彼女の目を見ようとしたその時。彼女の後ろ、入った時には死角だった場所にある物が見えた。

「……望遠鏡?」

それは大きめの天体望遠鏡だった。シャワールーム前の壁には星空や名も知らぬ惑星の写真が飾られている。

「不二咲さんは天体観測が趣味なの?」

「そうなんだぁ。見てて綺麗だし、何だか心が落ち着くから……」

不二咲さんは何処か遠くを見るように目を細める。その目には一体、どれだけの星が見えていたのだろうか。

「こんな環境じゃ、写真で満足するしかないんだけどね」

そう言って彼女は、自虐するように微笑む。そんな風に弱気になった彼女に返す言葉がボクには見つからなくて、口を噤んだ。

更新来た!
乙乙

「僕の事ばっかり聞いてもう……今日は苗木君の事をお話してくれるんでしょう?」

「ごめんごめん、それじゃあ話すよ」

ボクはただ、過去に起きた話を出来るだけ詳しく語った。

家族の事、友達の事、自分の好きな事、苦労した事、語れる事を。

不二咲さんはそんなボクの話を、静かに聞いてくれた。

時には笑って、泣いて、身を乗り出して、目を輝かせて、話に合った相槌をして。

元気付けようとしていたボクが逆に元気付けられている様だったけれど、ボクにはそれが嬉しくって、出来る限り話を続けた。

話し上手で聞き上手な不二咲さんと一緒にいると、一秒が短い。

「そうだ、不二咲さんは何かボクに質問とかあったりする?」

けれど薄っぺらなボクの事、話せる事もすぐに尽きてしまった。

話を続けたかったボクは、不二咲さんが今までの話の中で何か気になっている事が無いか確認ついでにそう促した。

不二咲さんは指を唇に添えて少し考えている。そして何かハッと気が付いたような表情をしたかと思うと、こう聞いてきた。

「苗木君はさ、コンプレックスって持ってたりする?」

コンプレックス……か。それを聞くという事は不二咲さんにもそれが存在しているのだろう。

気にならないと言えば嘘になるが、ボクがそれを聞くのは憚られるし、何よりボクに投げかけられた質問だ。

「ボクにだって、あるよ」

ボクは正直に、語りだした。

皆が超高校級の肩書きに相応しい実績を持っているのに、ボクにはそれが無い。それがボクのコンプレックスだ。

そりゃ当然だ、だってボクは抽選で選ばれただけなんだから。疎外感を感じるなという方が無理がある。

普段気にしていない――気にしないよう意識しているだけで、無い訳じゃない。

平凡だからこそ出来る事があると狛枝先輩は言ってくれたけど、それは普通である事が自分の自信になる訳じゃない。

自分の力で何かをするには、ボクの才能は不確か過ぎる。

「だから、ボクは気にしないようにしているよ」

努力すれば解消されるような問題じゃないから。一朝一夕で解決出来るような問題じゃないから。

だったら仕方ないねと。代わりに自分が出来る事をして、役に立っている気になって。

そうやって言い聞かせ、騙し、見ない振りをして、現実に折り合いを付けてるんだ。

「気にしない、かぁ……」

不二咲さんは。

「強いね、苗木君は」

そんなボクを強いと、称してくれた。

「……でも、それだって結局は逃げてるだけだからね」

でも、ボク自身は。

「逃げちゃ駄目だ……とは言わないけど、自分で情けなく感じる事はあるよ」

こんなボクは弱いと、感じている。

大胆な告白はホモの特権

何で淫夢厨が沸いてるんですか!?このスレはホモ翌要素一切無しの
健全な苗木×不二咲スレですよ!!

「強さって、何なんだろうね……」

強さ……か。恐らくそれが不二咲さんのコンプレックスなんだろう。

十神クンと立ち向かえた君は、あの時誰よりも強かったのに。彼女はまだ、自分の強さを自覚出来ていない。

「……昔、ボクの先輩に狛枝凪斗って人がいてさ」

ボクは自分でも気付かない内に、口を動かしていた。どうしても今、伝えなければと思った。

「その人は皆の為に、希望の為にと信じてずっと行動してたんだ」

時にはボクでも首を傾げるような事もしたし、その行動が目に見える成果として出なかったのも少なくなかった。

それでも、自分が気味悪がられようと先輩はずっと行動していた。

希望の為と口にしては、己の不幸すら喜んだ。それら全てが、皆の希望へと繋がると信じて。

「その人の背中を見て、思ったんだ」

この世にはいろんな強さがあるけど、結局は自分を――自分の信じる道を本気で信じ抜く事が、自分の求める強さに繋がるんじゃないかなって。

「だから皆が揃って口に出す強さって、信じる事の強さを指してるんじゃないかな」

そしてその強さなら不二咲さんも誇れる。こうして傷付けないよう遠回しにしか伝えられないけれど。

「自分を信じる強さ……僕にも持てるかな」

不二咲さんはボクの目を見て、問いかける。

「……既に持ってるよ、不二咲さんは」

ボクの言葉に不二咲さんはただ頷き、微笑むだけだった。

ホモは前向き

何だかんだと時間が経つのは早いもので、夜時間まで残り一時間になってしまった。

どうにも不二咲さんはこの後、大和田クンと約束をしているらしいので、ボクはここでおさらばしなければならない。

「じゃあ苗木君、また明日ね」

「うん、また明日」

別れの挨拶を済ませ、後ろ髪を引かれながら自身の部屋へと戻っていく。

一抹の寂しさが増幅されて、足に重しを括り付けてくる。

「……不二咲さん!」

ボクはドアが閉まる寸での所で彼女を呼び止めた。不二咲さんは不思議そうな表情でボクを見ている。

不二咲さんの目の前まで戻り、ボクは彼女の瞳を見つめた。

「ここから脱出、出来たら、さ……」

今更ながら言おうとする事が急に恥ずかしく感じ、言葉が尻すぼみになる。

そんな自分の頬を指で掻きながら、次の言葉を言う為に息を吸った。

「ボクと一緒に、星を見に行ってくれないかな?」

不二咲さんがキョトンとした顔でボクを見る。

……やっぱり、こんなキザったらしい台詞吐くもんじゃないな。そう思ったその時。

「ふふ、えへへへ……」

不二咲さんは天使のような笑顔を見せてくれた。

「……じゃあ、約束しなきゃね」

赤く染めた頬のまま、彼女は小指を出してボクの前にその手を伸ばす。

ボクはそれに応え、自分の小指を不二咲さんの細い指と絡めた。

「うん……約束する」

キュッと結んで、約束の合図。

「忘れちゃ、嫌だよぉ?」

「うん、約束だ」

絶対に忘れない。

……忘れるもんか。

「……ボクは、知っている」


「ボクは、覚えている……」


「ここから出てはいけない……」


「……約束したんだ」


「ボクは不二咲クンを、守らなくちゃいけないんだ……」

「……何だ、今の夢」

訳が分からない。予知夢か何かか? それにしたって『ここから出るな』は不自然だろう。

まぁ、夢に理解を求める方が不自然な話か。

それにしても頭が痛い。昨日の不二咲さんとの会話で気疲れでもしたのだろうか……。

「おはよーございます」

五月蝿いだけのモノクマの挨拶もやけに頭に響く……まるで目の前にモノクマがいるみたいな――!?

「げげぇ!? モノクマ!?」

「まぁ、人を寝床を襲う化け物みたいに」

「読んで字の如くだろうが!」

ベットの横で、編み物を嗜んでいるモノクマが存在していた。

相変わらず気味の悪い位器用に動く奴だ……まぁそんな事はさておきだ。

「今日は何の用だよ、さっさと済ませて帰ってよ……」

痛む頭を抱え、ボクはモノクマにあっち行けと身振りをする。当然、モノクマはそれを聞いてくれない。

「つれないなぁ……折角耳寄りな情報を持ってきてあげたのに」

どうせろくでもない事だろう。そう言う前にモノクマは話を続けた。

「しっかしまぁあんなにノンビリ寝ちゃってて大丈夫な訳?」

「大丈夫って……まだ朝食会には時間が――」

そこまで言った所で、モノクマの口元が大きくニヤけたような気がした。

背筋が、凍る。

異常にゆっくりと流れる一秒の中で、モノクマの目が怪しく光った。

「大好きなクラスメイトの誰かさんに何かあったみたいなのにさぁ!」

大好きなクラスメイトの誰かに何かあった――モノクマから伝えられた情報は、ボクの痛む脳味噌を一瞬で真っ白にした。

邪魔なモノクマを跳ね除けて部屋を出たボクは、急いで食堂へと向かう。

「あ、苗木だー! おはよー!」

食堂に着いた途端、朝日奈さんが挨拶をしてくれた。けれど今のボクにそれを返す時間は無い。

ボクは食堂を隅々まで見渡す。不二咲さんは、居ない。

「……不二咲さんは?」

ボクは今にも叫びそうな心を抑えて、冷静に聞く。

「残念だけど、今朝から誰も彼女を見てないわ」

霧切さんがそう告げた瞬間、ボクは頭を殴られたかのような衝撃に襲われた。

頭の中でモノクマの言葉がグルグル廻っていく。

加速度的に増していく不安が、絶望的な未来を瞼の裏にチラつかせる。

もしかしたら。

その可能性が存在するだけで、自分の心拍数が大きくなっていくのを実感出来た。

「……苗木よ、一体どうしたのだ?」

大神さんが震えるボクに向けて声をかけてくれる。それでも、焦燥は止まらない。

まさか、いやまさか、そんな事は。

有り得ない――そう、叫びたかった。

「……探してくる!」

ボクはそう言って、食堂のドアを乱暴に開ける。

大丈夫だ。だってボクは、超高校級の幸運なんだ。

大好きな人が死ぬなんて、そんな不幸が存在する訳が無い。

根拠の無いと分かっている。けれど、そう自分に言い聞かせてないと、ボクは不安に壊されてしまいそうだった。

不二咲さんの部屋の前、乱暴にドアを叩いているけど返事が無い。

「不二咲さん、不二咲さん!」

個室は防音がしっかりしている事も忘れ、大声を出して呼びかける。思わず手をかけたドアノブは、すんなりと動いてくれた。

「――っ!」

瞬間、舞園さんの死体が脳裏を過ぎる。

「不二咲さんっ!」

大急ぎで部屋に入り、死角となっているシャワールームを開ける。

「ハァ、ハァ……」

其処に不二咲さんは、居なかった。ほんの一瞬だけ安堵するが、依然として不安は拭えない。

「一体何処に……!」

ボクは部屋を出て、寄宿舎を駆ける。

トラッシュルーム、ランドリー、倉庫。

不二咲さんどころか、誰かがさっきまで居たような痕跡も無い。

脱衣室、大浴場、サウナ。

走り回るけれど、何処にも居ない。

教室、視聴覚室、男女トイレ。

手当たり次第に中を見るけど、誰も居ない。

玄関ホール、購買部、体育館。

何処にも、何処にも、何処にも居ない。

「探してない場所は、後は二階だけか……」

呼吸をする度に薄い鉄の味がする。それでも、休める暇なんて無い。

ボクは階段を駆け上がる。足を滑らせそうになっても、二段飛ばしで駆け上がる。

プール前ホール。

そこに入ったボクは、女子更衣室のドアが不自然に開いているのを見つけた。

ボクは迷わず、その扉を開いて――




扉――を――開い――て――





ピンポンパンポーン――

「死体が発見されました! 一定の捜査時間後、学級裁判を開きます!」


悲しいなぁ(諸行無常)

まだちーたんとは決まってないし(震)

まだちーたんとは決まってないし(震)

不二咲スレだから死ぬわけないだろ!!!!


アルターエゴがいた
おしまいだぁ

モノクマが、死体発見アナウンスを鳴らした。

嘘だ、こんなの嘘に決まっている。

「不二咲、さん……?」

返事は無い。

俯いて、無言のままだ。

「はは、そんな格好してどうしたのさ……」

お願いだから無視しないでよ、嫌われたかと思うじゃないか。

またいつもみたいにお話しようよ。また笑顔を見せてくれよ。

だから、早く返事をしてよ。ボクの名前を呼んでくれよ。

「ねぇ……ねぇ、不二咲さん! 不二咲さんってば!」

ボクは不二咲さんの死体を掴んで乱暴に起こそうとする。それでも彼女は、目を覚まさない。

何度呼び掛けても返事なんてある筈無い。いや、きっと目を覚ましてくれる。

そんな事分かっている。いや、分かりたくない。

死んでいる。いや、生きている。

「見苦しいぞ苗木。既にこいつは――」

「黙れッ!!」

誰かが何か言ったけど、そんなの聞きたくない。

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

信じない、認めない、有り得ない。

死んじゃ嫌だ、死なないで、ボクを置いて逝かないで。

「不二咲さん!」

ボクの目に彼女の瞳が映り込む。

瞳孔を開き切った、生気の感じられない眼には、ボクの顔が映っていて。

それはまるで、あの時の舞園さんのような――。

「あ、ああああああああああああああああああ!!!!!!」

二人は幸せな指切りをして終了

本当に終了しちゃったからワロエナイ

いつしか雨はやみ、そこには虹がかかるんだよなあ…

残念だな

「……苗木っち、気持ちは分かっけどよ……その……」

後ろから葉隠クンの声が聞こえる。

振り向けば彼の他にも、十神クンや大神さん、大和田クンが現場に集まっていた。

「気持ちが分かるって何だよ! 本当に分かってるなら……!」

嘘だと言えよ、彼女を生き返らせろよ。言葉にしようと喉に詰まったそれらが、頭の中をグルグル回る。

それは不二咲さんが死んだ事を、自分が認めているのを同意義で。

それすらも認めたくないボクは子供のように喚き散らしたかった……けれど。

「いい加減にしろ!」

十神クンの二度目の喝が、ボクを含めた全員をしんとさせた。

「不二咲千尋は死んだ、貴様だって死体発見アナウンスを聞いただろう!」

死体発見アナウンス……一回目の裁判が終わった後石丸クンから教えてもらった。

三人以上が死体を発見すると流れるとモノクマが言っていたらしい。

それが流れたと言う事は、確実に不二咲さんが死んでいる事の証明で。

現実から逃げ出そうとするボクの事を、嫌な事実が何処までも追い詰めてくる。

「貴様がそうしている限り、捜査が始まらん。この中にこいつを殺したクロが居るんだぞ?」

その言葉を聞いて、ボクの身体の震えが止まった。

そうだ、不二咲さんが死んでしまっている以上、ボク達の中に殺した犯人が存在する。

「不二咲千尋の仇を取ろうとは思わないのか?」

……悔しいけど十神クンの言う通りだ。このままじゃ何も調べられずに学級裁判が始まってしまう。

不二咲さんの仇も、取る事が出来ない。

「……十神クンに言われるまでも無いよ」

嗚咽を吐きながら、ボクは立ち上がる。不思議と立ち上がってしまえば、煮え滾った脳が冷え切ってくれる。

「絶対に、この事件は解決してみせる」

ボクは宣言して、改めて不二咲さんの死体を見た。

彼女の血液で書かれたチミドロフィーバーという言葉。

見せしめのように貼り付けられ、嘲笑うかのように彩られている。

……許せない、許さない。

どうして彼女がこんな目に合わなきゃならないんだ、どうしてこんな酷い仕打ちが出来るんだ。

誰が犯人だか知らないが、お前はボクを怒らせた。

ギシリと歯が軋む音がする。

「……生きて出れると思うなよ」

無意識に零れた言葉を、ボクの意識は否定しなかった。

彼女(大嘘)

もう書いてくれないのかな?

生存報告 次回更新は来月予定

良かった生きてた
待ってるよ

ホモは短命

まだかな?

ホモの生命は墓無い

モノクマから今回の事件のファイルを貰い、それぞれが自分の持ち場へと移動する。

例えば大神さんと大和田クンは現場の見張りを、十神クンや霧切さんは捜索や推理を。

コロシアイとはいえ二回目となれば、皆の動きも多少なりともスムーズになっている。

セレスさんに言わせれば、これも適応なのだろうか……悲しい事だ。

しかし、どれだけ悲しい事だろうと今に限っては心底助かるのは身勝手な感想だろうか?

ま、どうでもいいや。ボクはそんな事を思いながら、図書室の書庫へ足を進めていた。

「十神クンの言っていた事が本当なら、確かこの辺に……」

書庫に入ってすぐの右側、そこにある人物についての機密情報がある……らしい。

その人物の名は、ジェノサイダー翔。

ボクが希望ヶ峰学園に入学する前から世間を騒がしている謎の連続殺人鬼。

被害者は主に10~20代の男性で共通していて、その特徴は現場に被害者の血で「チミドロフィーバー」の血文字を残すという猟奇的な犯行声明。

ボクも一度ジェノサイダー翔に殺されたと思われる死体を発見した事があるので、その存在についてはいろいろと知っていたが……だが、しかし。

「ボクの知ってる情報と、今回の事件じゃ一致しないんだよな……」

勿論、死体を一回だけ見たしか見てない素人が感じた違和感だ。ただの思い違いの方が確率としては高いだろう。

だとしても調べない事には何も始まらない。もしボク達の中に本物のジェノサイダー翔が存在していて、尚且つ今回の事件の犯人だったとしたら。

そんな事普通じゃ在り得ないだろうがそもそもボク達が置かれている状況自体普通じゃない、可能性は潰せるだけ潰した方が真実には近付けるのだ。

……とは言ってもジェノサイダー事件の詳細な情報を見るのは精神衛生上良くないな。今まで殺害された人物を見ていくと気持ち悪くなってくる。

でも耐えなければ。ここで気を失うようじゃ不二咲さんの仇は絶対に取れない。

ボクは絶対に犯人を見つけて、モノクマのオシオキをこの目に焼き付けなければならないんだ……!

あっ、ホモだ

やった来た!
乙乙

度々迫ってくる吐き気を堪えながらも、ボクはジェノサイダー翔にまつわる情報を何とか正確に理解出来た。

「犯人は恐らく解離性同一性障害の学生で、殺害方法も磔方法にも必ず鋏を使う……か」

解離性同一性障害……分かりやすく言ってしまえば二重人格。

尚且つ学生の可能性が高いなら、皆の中にジェノサイダー翔がいるのは確実だろう。

不二咲さんの手に突き刺さっていた鋏が、その証拠だ。だがそれだけでジェノサイダー翔が犯人と決め付けるのは早計だ。

資料を読み進め、記憶を掘り起こし、疑惑が確証になるにつれ。同時に見過ごせない点がいくつも出てきた。

殺害方法にも磔方法にも鋏を使うなら、不二咲さんの首に存在した絞殺痕と女子更衣室に落ちていた延長ケーブルはどう説明すればいい?

モノクマファイルに書かれていた死因の撲殺と傍に落ちていたダンベルは?

そもそも何故不二咲さんを殺した? 今迄男性しか狙わなかったのにどうして今になって女性を狙う?

猟奇的殺戮犯が今迄通りに犯行を行える条件下で、どうしてこうもイレギュラーが発生している?

「うーん、思った以上にややこしい事件かも……」

だけど全く事件の跡を辿れない訳でもない。少しずつだが、ボクは真相に近付けている筈だ。

僕らの内誰がジェノサイダー翔なのか、イレギュラーの原因は、そして誰が真犯人なのか……平凡なボクでも、本気で調べていけばきっと真相に迫れる。

そろそろ霧切さんの検死も終わってる筈だ、更衣室に向かって捜査結果とまとめて聞いておこう。

もう許せるぞオイ

更衣室へ向かう道中、口論をしている石丸クンとセレスさんに会った。こんな時に一体何に対して揉めてるのだろうか。

「そもそも何故夜時間に部屋から出たのかね! 折角苗木くんが皆の為に提案してくれたというのに、君もそれが分かっていて同意したのでは無かったのか!」

「乙女には色々と事情があるのです……それ以上根掘り葉掘り聞くのなら、風紀委員からの直接的なセクハラだと認定しますが?」

「セ、セク、セクシャルハラスメントだとっ!?」

あぁ……大体察したかな。でも石丸クンの口振りから察するにセレスさんが出歩いた時に何か見たか聞いたかしたんだろう。

「セレスさん、夜時間に出歩いて何か気になる事があったの?」

「あら、苗木君では無いですか。貴方もこの石頭に淑女への礼節というものを教えてくださらないかしら?」

「裁判が終わったらね、考えてあげるよ。で、昨日の夜時間に何が?」

「別に大した事じゃありませんわ。倉庫で不二咲さんと会っただけです」

夜時間に会ったって……そんな重要な事を大した事じゃないって、セレスさん本当は馬鹿なのか?

「……苗木君、随分とピリピリしてますのね。人に向かってそんな事思うなんて普段の貴方らしくないですわ」

「えっ!? いや、何の事やらボクにはさっぱり……それで、不二咲さんは普段と何か変わった様子は?」

「青いジャージを詰め込んだバックを持って倉庫から出ようとしてましたわ。何だか慌てた様子でしたが」

不二咲さんの事だから、夜時間に出歩いたのを見つかって慌ててたんだろうな。

「それと『急いでるから』と言ってましたわ。誰かと待ち合わせしてたんじゃないでしょうか?」

待ち合わせか……大和田クンと約束してるって言ってたけど、それの事か? まぁそれは後々調べれば分かるだろう。

「で、石丸クンにそれを聞かれて答えたら石丸クンの発作が起きたと」

「僕は発作を起こすような持病は無いぞ! 風紀委員として模範的な健康に良い生活を心がけている!」

「あぁ、うん。そうだね」

控えめに言って、凄く鬱陶しい。あぁでも石丸クンも何か情報を持ってるかもしれないな、聞いてみるか。

「石丸クンは何か分かった事はある?」

「うむ! 残念だが何一つ分かった事は無い!」

何をどうこうしらたそれを自慢げに言う事か出来るのだろうか。

「そういえば苗木くんには聞いてないな。不二咲くんの電子生徒手帳は知ってるかね?」

「いや、全然……現場に無かったの?」

「その通りだ。霧切くんに頼まれて探してはいるのだが……何処を探しても誰に聞いてもサッパリだ」

電子生徒手帳か……覚えておけば何かの手掛かりになるかもしれないな。

「分かった、ボクも探してみるよ。何か進展があったらボクか霧切さんにお願いね」

「了解した。よろしく頼むぞ!」

石丸クンとセレスさんと別れて更衣室へ着くと、霧切さんが大神さんと何か話しているのが見えた。

どうやら男子更衣室と女子更衣室に違和感があるらしい。

「発端は我がこの前プロテインコーヒーを零してしまった時の染みが無いのに気付いた所だな」

霧切さんが調べても血痕に隠れた訳じゃないようで、まさかと思って男子更衣室を調べたらそこに染みがあったそうだ。

因みに間違っても大神さんが更衣室を間違えたなんてオチでは無い、決して。

とにかくそれを引き金に、霧切さんが更衣室の違和感に気付いたらしい。

「苗木君、男性から見てポスターを貼るならグラビアアイドルがいい? それともやっぱりジャニーズとか?」

「やっぱりって何だよやっぱりって。ボクをホ……例外みたいに扱わないでよ。グラビアアイドルに決まってるさ」

ボクにしか伝わらない霧切ジョークは勘弁してほしい。大神さんだって何の話してるのか分からなくて困ってるじゃないか。

「やっぱりそうよね……じゃあ決まったようなものかしら」

霧切さんは一人で納得した様子で頷いている。頭の回転の速い彼女の事だ、何か気付いたのだろう。

「霧切さん、思わせぶりな台詞はやめて教えてよ。何が分かったんだい?」

「貴方がそれを聞くの? この事件は自力で解決したいんじゃなかったのかしら?」

「そりゃそうだけど、だからと言って犯人を逃がすのは本末転倒だからさ。最悪ちゃんと犯人見つけて犯人がオシオキされればそれだけでいいよ」

ボクがそう言うと、霧切さんは怪訝そうな表情を浮かべた。ボク、何か変な事を言っただろうか?

「……まぁいいわ。それじゃあ血の付着した所を見てもらえるかしら?」

霧切さんにそう言われ、ボクと大神さんはそれぞれカーペット、ポスター、チミドロフィーバーと書かれた壁に注視した。

「女子更衣室で飲み物を零した染み付きのカーペットは男子更衣室にあって、ポスターは同性のアイドルのもの……」

なるほど、そういう事か。ボクが納得した数秒後、大神さんも霧切さんが何を言いたいのか理解する。

「いや、待て」

それと同時に、大神さんは疑問を感じたようだ。そしてそれはボクも感じている事だろう。

「だとしたら何故、この場所にダイイングメッセージが存在するのだ?」

ダイイングメッセージ……正確には、不二咲さん以外の誰かが残したチミドロフィーバーの血文字。

「恐らくその謎の答えが、この事件を難解にしている正体よ」

霧切さんも、どうやらボクの推理と似たような推理をしているらしい。

裁判に向けて、彼女とはしっかり情報共有をしておいた方が良さそうだ。

シュバルゴ!

やめんな!
なんのためにここまで来たんや!
俺に最後のチャンスをちょうだい

「霧切さん、情報交換しておきたいんだけどいいかな? 後出来れば一緒に推理してほしい」

「どちらも構わないわ。それじゃあ私から話すわね」

霧切さんは更衣室や死体の詳しい状況、ボクは図書室やセレスさんの話。集めた情報とその推測を話し、更にお互いの情報に対しての考察を交わす。

そして導き出したボクと霧切さんの仮説、それは複数犯の可能性だった。

勿論、複数犯だったとしても実行犯しか卒業出来ないこのコロシアイ学園生活では共犯者に一切のメリットは無いのはボクも霧切さんも承知の上だ。

その上で複数犯が成り立つのは、共犯者が犯人を生かす為に自己犠牲で動いているパターンか、それぞれが別の思惑、タイミングで同じ対象を殺すパターン。

そしてこの状況で最も自然に考えられるのは、後者のパターンだった。たった一人の犯行にしては、無駄な事をやり過ぎている。

「私は彼が関わってると思うわ。ただ恐らく簡単には尻尾を掴ませないでしょうね……」

そこに関してはボクも同意見だったが、ここで話し合うよりは学級裁判での出方も含めて観察しておいた方が良いだろう。

「あら、ちょっと時間を使い過ぎたわね……私はジェノサイダー翔の資料を見てくるわ」

霧切さんはそう言って、女子更衣室から出ようとした。

「え? でもボク資料に関しては説明したよね?」

「ちょっと引っかかる所があるの。実物が見れるならそれに越した事は無いわ」

そう言い残して、霧切さんはスタスタと出て行く。女子更衣室には、ボクと大神さんだけが残った。

「……ボクも、現場を調べるかな」

霧切さんの説明に引っかかった所は無かったが、それでも自分の目で確かめるならそれに越した事は無いのだろう。

結局、どれだけ調べても霧切さんから教えてもらった以上の情報は得られなかった。

収穫は不二咲さんの死体がどれ程酷い状態なのか改めて再確認出来た程度。

嗚咽を漏らさずには、いられなかった。

「大神さん……なんで犯人はこんな事が出来るんだろう……」

どうして、不二咲さんじゃなきゃ駄目だったんだ。ボクが代わりじゃ駄目だったのか。

大神さんは問いかけには答えない。ただ俯いて、ボクの話を聞いてくれている。

「不二咲さんは皆で脱出したいって願ってたし、その為に自分が何も出来ないのを悔しがってた」

自分は役立たずだなんて彼女は言っていたけれど、少なくともボクにとってはそうじゃなかった。

「十神クン相手に真正面から反論した時は勇気を貰ったよ……ボクは、不二咲さんが居たから今まで頑張ってこれたんだ」

そうじゃなければ、舞園さんと桑田クンの死を引き摺ったまま前には進めなかっただろう。

その優しさに、その強さに。ボクは希望と勇気を貰っていた。なのに、どうして。

「ボクは今、こんな状況にボク達を閉じ込めてるモノクマよりも……不二咲さんを殺した犯人が憎いよ」

どんなに考えてもそう思ってしまうのは、間違ってると思うかな。答えなんか分かっている筈のに、ボクは大神さんに問いかけていた。

『オマエラ! そろそろ学級裁判を始めるよ! 全員赤い扉の前に集合しろー!』

しかし大神さんが何か言う前に、モノクマが学級裁判の開始を告げる。

どうやら話をし過ぎてしまったようだ。ボク達は、もう行かなければならない。

「……ごめんね大神さん、変な事聞いちゃったね。それじゃあ行こうか」

作り笑いを浮かべて、ボクは女子更衣室から出ようとする。

ここを出てしまえばもう二度と不二咲さんとは会えない。そう思うと、また涙が流れた。

「あ、れ……?」

ボクは自分の頬が湿るのを感じ、不思議に思う。

何故ボクは泣いている? 泣いてる場合じゃ無いのに。一刻も早く学級裁判で不二咲さんの仇を取らなきゃいけないのに。

自分の身体の筈なのに言う事を聞いてくれない。足が一歩も動いてくれない。涙がポロポロと、止まらない。

「……苗木よ。やはりお主には辛いか」

大神さんがボクの肩に手をそっと置く。固く大きいその手から感じる体温を、どうしても細く柔らかい不二咲さんの冷たい手と対比させてしまう。

そうか、辛いんだ。ここで学級裁判に向かえば、ボクは彼女の死体にすら永遠に会えなくなる。

仇を取っても、弔ってあげる事が出来なくなる。

「ごめ……ん……先に、行ってて……」

ボクがそうお願いすると、大神さんは黙って女子更衣室の扉を閉めてくれた。

誰も居ない更衣室で、不二咲さんの死体を見つめる。

「不二咲さん……」

もう会えない、ボクはもう彼女に会えない。

「不二咲さん……不二咲、さん……」

まるで何かに取り憑かれているかのように、左手に血が付着するのも構わず、ボクは不二咲さんの頬を撫でた。

好きになった。好きだった。今も好きだ。もうキミの笑顔に会えないと思うだけで胸が苦しいんだ。

ボクは、キミに恋をした。学園生活も、キミさえ居れば良かった。それだけで幸せだった。

「ちひ、ろ……」

呼ぶ事も叶わなくなったその名前を呼ぶ。

ボクは、彼女の唇に――

初めてのキスは血の味がした(ジェイソン遠野並みの感想)

裁判場前のエレベーターに、既に皆は集まっていた。

遅れてきたボクに対し、石丸クンは時間を守れと言うし、大神さんは心配そうに話しかけてくれるし、十神クンは相変わらずイラついている。

裁判が始まる前だからだろうか……そんなブレない皆を見て心苦しくなってしまった。

この変わらない皆の姿の中に、どうしたって存在しない彼女の幻が瞼にチラついてしまうから。

不変であってほしかった夢と変わってしまった現実が、ボクの首筋に噛み付いてくるようだ。

ボクはそんな憂いを決して顔には出さないよう、ボクは皆に遅刻を謝罪し、エレベーターに乗り込む。エレベーターの扉はすぐ閉まり、稼動する。

ゴウン、ゴウンと重い音を立てながら下へ降りて行くエレベーターの中。ふと、隣にいた霧切さんがボクに話しかけてきた。

「苗木クン、口元から血の臭いがするわよ……何かあったのかしら?」

「ちょっと口の中切っちゃって。そんなに臭うかな? ごめんね」

「……いえ、大丈夫よ。裁判中に悪化しないよう気を付けて」

霧切さんは少々訝しげな表情を浮かべたものの、それ以上は詮索しなかった。

多分、霧切さんは気付いているのだろう。それでも追求しないのは彼女の優しさ故か、それとも単にどうでもいいからか。

ボク程度の観察眼ではそれは見抜けないし、仮に後者だったとしてもボクにとってはそれで充分救いになる。

『はーいお待たせー! 裁判場に到着だよー』

モノクマの声と共にエレベーターの扉が開け放たれる。目の前に広がるは、前回と少しだけ違うお馴染みの裁判場。

内装も変更が加えられているが何処がどう変わったかは明確には分からない。ただ確実に前とは違うと言えるのは、その遺影の数。

桑田クンにも不二咲さんにも、舞園さんと同じようにショッキングピンクの×印が顔に大きく描かれている。

「相も変わらず、悪趣味ですわね……」

それだけ呟いたと思うと、セレスさんはさっさと自分の名が書かれた場所へ向かっていった。

悪趣味と思いこそすれ、それ以上何か感じる事は無いのだろう。興味外の事にはとことんドライなセレスさんらしい。

彼女に続くように、それぞれがそれぞれの席へと移動する。ボクもそれに倣い、モノクマを正面とする位置へと向かう。

不思議な事に、正面に相対してもそれ程憎しみは湧いてこない。この状況を作った黒幕こそが諸悪の根源だと分かっているのに。

不二咲さんが死んだ間接的な原因なのに、今はモノクマに何も思えない。どうやらボクの心は、既に答えを決めているらしい。

ボクは軽く、深呼吸をする。肺の空気を入れ替えると、怒りで霞んだ視界が少しだけ澄んだように感じた。

そして、幕が開く。

犯人が逃げ切る為の学級裁判。

全員が生き残る為の学級裁判。

不二咲さんの仇の学級裁判。

ボクの自己満足の学級裁判。

クロを殺す為の――学級裁判。

【コトダマ一覧:苗木誠視点】

・モノクマファイル02
被害者:不二咲千尋。
死因:頭部打撲による撲殺。
備考:首に絞殺痕有り。

・ジェノサイダー翔
世間を騒がしている謎の連続殺人鬼、被害者は主に10~20代の男性で共通。
現場に被害者の血で「チミドロフィーバー」の血文字を残す、殺害と磔に共通の鋏を使う等の特徴がある。
解離性同一性障害の可能性有り

・セレスの証言
夜時間に倉庫にて不二咲千尋と遭遇。青いジャージを持って慌てた様子で去っていった。

・更衣室の状況
側には延長コード、ダンベルが落ちていた。
ポスターとカーペットが入れ替えられている。

・電子生徒手帳
不二咲千尋の電子生徒手帳が見当たらない。

二人は不幸せなキスをしてお別れ

おつ

「学級裁判の判決はお前らの投票により決定されます」

前回と同じように、モノクマの説明から裁判は始まった。

「正しい人物をクロと指摘出来ればクロだけがオシオキ、間違った人物をクロと指摘した場合は……」

ルールは前回の学級裁判で理解していたつもりだったけれど、改めて聞かされると如何にこの状況が狂っているのかがよく分かる。

「クロ以外の全員がオシオキされ、皆を欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!」

人の命と尊厳を弄ぶゲームに巻き込まれて、ボクは仲間を、友達を、愛する人を失った。

未然に防げなかったのか、ボクが護れたんじゃないか。そんな考えが頭の片隅で渦巻くけれど、思考の九割は目の前の裁判に集中していてくれる。

事件を起こしたクロを殺す、不二咲さんを殺した犯人を殺す、殺す、殺す、絶対に殺す。

明確な目的意識が、思考のブレから護ってくれる。そうじゃないと、殺せないから。

「えー、長ったらしい説明はここまでにしときまして……お前ら! やりたくなったらやっチャイナ! やっチャイナさいな!?」

前置きを終えたモノクマがボク達を煽るように裁判の開始を告げる。初めに声を出したのは石丸クンだった。

「被害者は不二咲千尋、死因は頭部の傷に起因する撲殺……この認識に齟齬、または異議がある人は手を挙げてくれたまえ」

石丸クンの声に応じて手を上げた人がいた。朝日奈さんだ。

異議というか疑問なんだけど……そう前置きして朝日奈さんは続けた。

「えっと、不二咲ちゃんは頭を殴られて死んじゃったんだよね? 何でコードとか鋏とかあったの?」

ボクが見ただけでも、あの犯行に使われた凶器と思われる物の数々は捜査していなくとも強烈な違和感を残す事は容易に想像出来た。

モノクマファイルにも死因として撲殺と書いてあった分、余計に謎に思うだろう。ボクや霧切さんだって、それに関して未だ仮説の域を出ていないのだから。

「確かにそれは気になりますな。不二咲千尋殿を殺すのに念を入れたというには……」

そこまで言って山田クンは口ごもる。言いたい事は分かる、不二咲さんみたいに華奢な少女を殺すのにあそこまでする理由が見当たらないという事だろう。

あれ程の凶器の数で捜査を撹乱させようとも、モノクマがほぼ確実に死因を明確にしてしまうこのコロシアイ学園生活では徒に自分の痕跡を残すだけだ。

人間の感情に則して考えて、余程恨まれていたのか……いや、不二咲さんに限ってその確率は無に等しい。

十神クン……次点で腐川さん、葉隠クンじゃあるまいし、攻撃的でもヒステリックでも屑でも無い彼女が彼らを差し置いて恨まれる事態が起こり得るか?

少なくともボクには想像する事すら不可能だ。彼女は余りにも無害で、優し過ぎる。

「ムムッ! ティンと来たべ!!」

突如葉隠クンが叫ぶ。それだけで皆の表情がまともな事言わないだろうなといった感情で埋め尽くされた。

「安心するべ、俺の占いは三割当たる!」

そんな寒々しい空気にも負けず、葉隠クンは自分の推理を続ける。

「犯人があの場の凶器を全部一人で使ったと考えるから混乱するんだべ! 一人一個、つまり複数犯が同時に殺したと考えるべ!!」

……へぁ!? 葉隠クンがボク達と近い推理をしているだとぉ!?

「霧切さん、ボク達思い切り間違えたかも……」

「慌てないで苗木君、今からでも他の可能性を考えましょう」

「苗木っちと霧切っちから全く信用を感じないべ……」

しまった、小声で話してたつもりだったけど聞こえてたか。

「っていうか二人も同じ推理してるなら間違い無いべ! 三割どころか八割増しだべ!!」

「あのさぁ……共犯は成立しないんだよ? それでどうして複数犯なのさ」

江ノ島さんの疑問が、この場の全員の疑問を代弁していた。

あくまでボクと霧切さんの仮説は『複数犯が別々のタイミングで殺害した』というもの。

葉隠クンの言う仮説は『複数犯が同じタイミングで殺害した』かどうか。

それは似ているようで全く違う。だって後者は確実に、犯行に関わった人物同士が顔を合わせているのだから。

モノクマは前回の学級裁判で共犯が成立しない事を明言している。一体葉隠クンの直感は、その矛盾をどうやって説明する?

「犯人達はそう、ギャンブルをしたんだべ!!」

葉隠クンはそう言うと、ドヤ顔でセレスさんを指差した。

うん……うん。

やっぱり、葉隠クンは葉隠クンか。関心して損したよ。

「……大方私が一、二人を言いくるめて『一斉に殺して誰が殺したか』なんて賭けを持ち出したと?」

「そうだべ! 間違い無いべ!! 大当たりだべ!!!」

「確かに、分の悪い賭けは嫌いでは無いですが……そんなリスキーでスリリングな賭けに乗る馬鹿が私以外に二人、誰がいるのでしょう?」

「それはえっと、あれだべ、あのー……」

「それと、結局誰がその賭けに勝ったのですか?」

「えーっと、その……だべ?」

「つーかそれ賭けに負けた奴が白状するだろ」

「………………」

「おっとと、グーの音も出ないくらいに凹ませてしまった感」

大和田クンに指摘され、山田クンに煽られてしまい、葉隠クンは黙り込んでしまった。

しかもどうやら本気で落ち込んでいるようだ。あれで自信満々だったのか……呆れを通り越して畏怖の念すら覚えるね。

まだかい

追いついた
待ってるよ

貴重な時間を無駄に使ってしまった、仕切り直して話を進めなければ。

「葉隠クンを擁護するつもりは微塵も無いんだけどさ、複数って線はボクと霧切さんも考えたんだ」

「一応葉隠に同じ質問したけどさ、複数犯って有り得るの?」

「安心してよ江ノ島さん。葉隠クンのガバガバな推理とも言えない法螺話じゃなくて、ちゃんと考えた上での予測だから」

「苗木っちさっきから酷過ぎねぇか!? 待遇改善を要求するべ!」

「だったらボクはキミの人格改善を要求するよ」

「人格から否定された!?」

こればっかりはボク個人の意見というより葉隠クン以外の総意だと思う。

「葉隠君の推理みたく、同時では有り得ないわね。別タイミングなら……と言った所かしら」

危うく脱線しかけた裁判を、霧切さんが説明を付け加える事で軌道を戻してくれた。

「でも、別タイミングだと何か変わるの? 不二咲ちゃん死んじゃってたんでしょ……?」

朝日奈さんの疑問も尤もだ。ここまでのボクや霧切さんの台詞ではそう感じてしまっても仕方ないだろう。

殺した本人ではない第三者が、死んだ相手を更に傷付ける事に何の意味があるのか?

その前提条件で考えるのならば、犯人が起こした行動を理解するには常人では到底理解出来ない思考回路が必要になってくる。

「二人目が不二咲千尋を見つけた時に、息がまだあったならどうだ?」

だが――その前提から間違っていたとしたら、どうだろうか?

「十神白夜殿、それってつまり……」

十神クンの発言に全員が息を飲む。山田クンは恐る恐る言葉を続けた。

「どういう事だってばよ?」

……察しが悪いなぁ。

「苗木、説明しろ」

呆れ顔の十神クンがボクに説明を丸投げしてくる。

霧切さんにも説明の丸投げはされるけれど、信頼している彼女にされるのと嫌いな彼にされるのじゃ酷く印象が変わるなぁ。

「えっと、皆はコロシアイ学園生活のルールはどれ位把握してる?」

「そ、そんなの全部把握してるのが当たり前じゃない……」

「じゃあ、卒業の条件は?」

「仲間の誰かを殺したクロが卒業……そうか!」

石丸クンの言葉に、今度こそ全員が納得したという表情を浮かべる。

「そう、殺したクロが卒業ってルールなんだよ」

卒業出来るのは『殺した』クロ……分かりやすく言ってしまえば、トドメを刺した人間がクロとして認められる。

モノクマファイルの記述には死因は撲殺、首には絞殺痕……実に辻褄の合った解釈だ。

「……でもそれって、結局何か変わるの?」

皆がボク達の言いたい事を納得してくれた辺りで、朝日奈さんが疑問を口にした。

「朝日奈っち何言ってるんだべ? 不二咲っちを殴った奴が犯人だって分かったじゃねーか」

何時の間にか立ち直っていた葉隠クンが説明する。確かにその通りではあるのだが。

「いやだって、それが誰かは分かってないじゃん」

そう、今までの議論はあくまで殺害方法の裏付けと複数の傷が存在する説明をしただけだ。

肝心な事はこの議論では何一つとして解明されていない。

「朝日奈さんの言う通り、不二咲さんを殺した真犯人だけは分からないね」

「……ほう? 苗木、まるで自分は真犯人以外は分かっているような口振りじゃないか」

十神クンが小馬鹿にするような口調でボクに問う。その言葉にボクは――。

「――うん、その通りだよ」

自信満々に、答えてみせた。

ピクリと、ほんの僅かに彼の眉が引きつるのが見える。どうやらボクと霧切さんの推理は間違ってなさそうだ。

「だから今から、この事件をややこしくした『二人』について話すよ」

待機

待ってるよ

生存報告。次回更新は未定。投稿する気は有り。今後も1~2レス更新。感想もっと欲しい

感想が欲しいってなんか晴れ時々雨の作者を思い出すな
台詞の前に名前も書いてないしもしかして同じ人かな?

「二人……?」

「苗木誠殿、まさか既に真犯人と愉快犯が誰なのか分かっているのですか!?」

「えっ、真犯人は分かってないってさっき言ってたじゃん!」

ボクの発言に、霧切さんを除いた皆が大きく揺らぐ。

……皆ボクよりずっと優秀なんだから、もっと自分の脳みそで考えてほしいんだけどなぁ。

説明に対して『な、なんだってーっ!?』って驚くのは本来ボクみたいな奴の役目なんだよ。

「皆落ち着いて。一連の発言をしっかり組み立てれば苗木君の言いたい事は見えてくる筈よ」

「一連の発言って、苗木っちの事件をややこしくした二人って奴か?」

「でも苗木は真犯人が誰かは分からなくて……あれ?」

霧切さんからの助け舟で、少しずつだけれど推測が広まっていく。

「つまりそれって……愉快犯が、二人……って事でしょうか?」

やがて個人の推測は音として全体に波紋の如く伝わり、その姿を理解へと変える。

「はぁ!? 他にまだ事件に関わってる奴がいるってのかよ!?」

真犯人が一人と愉快犯が二人――それが、この事件に直接関与した人間の数。

「もしかして苗木、その二人の内一人って……ジェノサイダー翔?」

そしてここで、朝比奈さんの直感が光る。

「何とビックリ大正解。そう、信じられない事にジェノサイダー翔はこの中に存在するんだよ!」

ボクの発言に霧切さん、そして悔しそうではあるが十神クンも頷く。

半信半疑、いやそれ以上に信じられないと思っていてもそれを肯定する存在に皆は動揺を隠せない様子だ。

思い付いた朝比奈さんですら信じられないといった様子でこちらを見ている。

「いや、いやいやそれはねーだろ苗木」

そんな中、大和田クンだけが異議を唱えた。

「ジェノサイダー翔がこん中にいたとしても、不二咲を殺す理由がねーじゃねーか!」

そう、確かにジェノサイダー翔に不二咲さんを殺す理由は無い。何故ならばジェノサイダー翔は男性を磔にする殺人鬼だから。

だからこそ――そこに二人目が絡んでくるのだ。

それにしても、てっきりジェノサイダー自体が居る訳無いと言うと思ってたんだけどなぁ……ちょっと意外だな。

「顔に出てるぞ苗木ィ……俺だってなんとかファイル位読めんだよ」

「ちょっと名前忘れないでよ! これの名前はTHE・モノクマファイルって言ってね!!」

「そっちじゃねーよ黙ってろモノクマ」

「どいひー!!」

大和田クン、極秘って漢字読めないんだ……。

ファイル位読めると豪語してたけどそれで本当に内容を理解してるんだろうか。


苗木が辛辣なのは狛枝リスペクトだからだろうか

感想欲しいならマルチ投稿するのが一番だな
台本書きじゃなくてちゃんとした文章だしハーメルンあたりにでも投稿したら感想がたくさん来ると思う
面白いから応援してるで

「あ、因みに聞いておきたいんだけど……この中で図書室の書庫にあったジェノサイダー翔の極秘ファイルの存在を知ってるのは?」

ボクの質問に対し真っ先に十神クンが、続けて霧切さんと大和田クンが手を挙げる。これにボクを足して四人、か。

十神クンは書庫を漁っていたら、霧切さんは十神クンから教えられたボク伝いに、大和田クンは霧切さんと一緒に読んだと……。

「なるほどなるほど、なるほどなるほど……」

それなら大和田クンはジェノサイダー翔の事を理解出来ているだろう。きっと霧切さんが解説を挟んでくれている筈だ。

その上であの発言をしているなら……霧切さんが大和田クンを怪しんでいるって事なんだろう。

ボクとしては、不二咲さんが信用した大和田クンを疑うのは忍びないのだけれど……。

いや、今それを考えるのは止めておこう。今は裁判に集中しなければならない。

「話を戻そうか」

まず一般に報道されたジェノサイダー翔についての情報、及びネットで持ち上がる程度の規制された情報しか持たない皆とボク達四人では、

ジェノサイダー翔について抱えている情報量が違う事を説明した。

「へぇ、ジェノサイダー翔って男の人しか殺さないんだ……じゃあジェノサイダー翔って男なの?」

「鋏だけで磔するのも初耳ですな。確かに江ノ島盾子殿の言う通り、それだけの力を持ってる女性というのは考え難いですな」

「で、でもここにそれが出来る女が一人いるべ……きっとオーガがジェノサイダー翔なんだべ!」

「ちょっと葉隠! 力があるからってさくらちゃんがジェノサイダー翔だって証拠にはならないじゃん!」

「……話を戻してもいいかしら?」

霧切さんの声で、逸れかけた議論が修正される。

続けて説明したのは、ジェノサイダー翔は鋏以外の凶器を使う事例は一切無かったという統計だ。

この統計の存在が、今までの事件と今回の事件をジェノサイダー翔が行ったという説で進めるのに待ったをかける。

今まで使われなかった延長コードやダンベルが今回の事件には存在し、不二咲さんの死体には複数の痕跡が――直接の死因である撲殺痕と、謎の絞殺痕がある。

そして何より、切り傷が一切存在しない。

「これが、ジェノサイダー翔が事件に関与していて尚且つ、真犯人じゃない根拠だよ」

ボクが言い終わると、裁判場は再び信じられないといった空気で包まれた。それでも異議や反論は出てこない。

正直勢いで押し切った感はあるが、全員が全く納得していない訳でもなさそうだしそこは結果オーライだ。

ホモ特有の論破

裁判大変だろうけど頑張ってな
ここの不二咲は原作っぽくて魅力的だった
選択肢が出た時に別の方を選べば死ななかったのだろうか

生存報告。次回更新は未定ですが近い内に出来るよう努力します
感想ありがとうございます、励みにしてこれからも頑張ります

あくしろよ

了解
待ってるよ

あけおめ

「一人目がジェノサイダー翔なのはまぁ……納得、出来たけど……結局二人目って誰なの?」

内心納得出来てないであろう江ノ島さんが本題に戻す。

そうだなぁ……折角の質問だし、裁判の流れをボクが動かせている間にそこを攻めておこうか。

「それは使われた凶器で一人見えてくるんじゃないかな?」

「使われた凶器って鋏? それともダンベルと延長コードの事?」

「鋏ならジェノサイダー翔ですから……ダンベルか延長コードですな」

「その通り。そしてその片方についてはここにいる全員が、それが何処で誰に使われてたか知ってる筈だよ」

さて、ここで皆に問題です。そうだなぁ……回答者は全員を代表して――。

「十神クン」

現場の更衣室に落ちていた延長コードは、事件前、一体誰が使っていたものでしょうか?

「苗木、貴様……」

ボクの問題に、十神クンの不機嫌そうな表情がより一層深くなる。

「ハッハー、そんなに睨んで一体どうしたのさ十神クン」

超高校級の完璧を自負するキミが、このコロシアイ学園生活を唯一人だけゲームとして楽しんでいるキミが、まさかまさかあろう事か。

「自分の使ってた備品を、忘れただなんて言わないよね?」

全員の視線が十神クンに向けられる。十神クンは機嫌の悪い表情を浮かべこそすれ、余裕そうな態度はあくまでも崩さない。

ボクにはそれが、不思議で不快で堪らなかった。

「そうだな――あのコードは確かに俺の使っていた物だ」

十神クンはあっさりと白状する。それで自分に疑いの目が向く事が分からない彼では無い筈なのに。

「……それを使って不二咲さんの首を絞めたのも?」

「それは『ジェノサイダー翔が愉快犯の一人である』以上の発想の飛躍だな。根拠が無い」

いや、違う。分かっていて白状している。彼がしているのは油断ではなく確信だ。

愉快犯が二人だとボクが推測し、霧切さんが肯定している。そしてそれが正しい事だと当事者だからこそ分かっている。

前回の裁判で活躍したボクと霧切さん、二人の説が一定の信頼が置かれているからこそ、十神クンはこうして威風堂々と構えていられるんだ。

このまま流れに任せていても、自分の仕掛けは解かれるから。

「……もっと醜く取り乱してくれると思ってたんだけどなぁ」

誰にも聞こえないよう、小さく呟く。けれども、どうやら十神クンには聞こえてしまったらしい。

不快感を鼻音に乗せて、発言を続けろとつまらなそうな目で訴えている。

糾弾されていると分かった上でこの態度を貫けるのだから、真犯人相手程では無いが殺意が沸いてくる。

真犯人を見つけて殺すついでに、不二咲さんを弄んだ罰でも与えようと思ってたんだけど……。

この様子じゃあ、ボクと霧切さんがどう動くかを見る為にわざわざ仕掛けた可能性も出てきたな。

中々どうして、十神クンの狙いを崩すのはボクの技量では難しいようだ。むしろここまでは掌の上で踊らされてる事になる。


苗木すさんでるなあ

ホモの恨みは深い

まぁ、いいだろう。真犯人さえ見つけてしまえばボクの目的は達成出来る。悔しいがここはこのまま踊らされていよう。

「腐川さんなら知っていると思うんだけれど、図書室って十神クン以外は誰か来たりしたの?」

「そ、それをあたしが言うとでも思ってるの……?」

問いかけてみるが、腐川さんはボクの質問には答えないと睨み付けてくる。

望ましい答えはそう簡単に出してくれないだろう。まるで警戒心の強い子犬のようだ。

「別に言わなくてもいいよ? 証拠が無いなら十神クンが愉快犯候補から真犯人候補になるだけだし」

「ぐっ……卑しいわね、足元見て……!」

「ここは素直に答えてさ、十神クンに恩を売るチャンスじゃないかなぁ?」

「ぐぬぬっ……! あ、あたしと白夜様以外、図書室には来てないわよ!」

とはいえ飴と鞭を使えばこの通りである。腐川さんは十神クンが絡むとチョロいのだ。

「それなら、図書館にあった延長コードを使えるのは……いや、愉快犯候補は十神クンだけになるね」

仮に他の人だとして、わざわざ延長コードを使う理由が無い。倉庫に行って縄でもスズランテープでも調達すればいい。

十神クンに罪を擦り付ける人が居ないのは、腐川さんの証言があるから存在しない。

唯一の例外である腐川さんは、十神クンを庇いこそすれ陥れる事はしないだろう。

「ここまで言われて、根拠が無いなんて妄言吐かないよね?」

「……いいだろう、それも認めてやる」

そうして十神クンは、白状した。

不二咲さんを延長コードで縛り吊るした事。それだけを。

「げ、解せないぞ! 何故わざわざそのような事をしたのだ!?」

石丸クンの指摘通り、十神クンはわざわざ自分が疑われるような事を問うた。

『二人目以降が不二咲千尋を見つけた時に、息がまだあったかもしれない』と。

その行動は、クロだったのにボクを庇った桑田クンに、似ているようで異なる、何かを感じる。

「それを貴様が知る必要は無い。霧切と苗木は……分かっているようだからな」

だがガッカリだぞ苗木、そんな台詞と共に十神クンは言葉を続ける。

「不二咲千尋の仇の正体はまだ分からないか?」

それは仇を取らないのかとボクに問うた声色と、全く同じで。

「……まさか、そんな理由で、なの……?」

理解した、ボクは理解した。彼は学級裁判時に全体の、そして何より霧切さんとボクの推理力を測る為に。

たったそれだけの為に、分かりやすい『罠』をこの事件に仕掛けたんだ。

本当に、たったそれだけの、下らない目的の為に!

「そんな理由で、不二咲さんをっ! お前はぁ!!」

「おいおい、矛先を間違ってるぞ苗木……それはクロ相手に対してとっておけ」

そのニタついた笑い声は、激昂する理由としては充分だった。

「ま、待ってくれ十神っち!」

けれど、ボクが叫ぶ前に。葉隠クンの声が、ボクの言葉を遮った。

「十神っち、本当に弄った時にジェノサイダー翔の真似してねぇのか?」

行き場を無くされた怒りが、少しずつだけれど落ち着いてしまっている。

「苗木っちはあぁ言ったけど、俺にはどうにも十神っちが全部細工したようにしか思えねーんだ」

苗木君大丈夫

告訴

俺タワーンゴ【メンテナンスンゴ】

ひつじ×クロニクル【腐外道女子改変】穢されたシスターンゴ

ようこそ画面黒い【全アイテムカンスト】要求ンゴ

ロード永遠ダークネスンゴ終了

ロード遅いヤル気と課金要素邪魔

ダンジョン×プリンセス終了~他衰退 併 婦女子シネ

ハーレムカンパニー【何】空気

ラビリンスPLAYンゴ【婦女子シネ】ツイート荒し

パンツクラッシュンゴ

僅か半年の出来事【悲壮】

ようこそ画面黒い【全アイテムカンスト】要求ンゴ

これらに限らず須玖PLAY出来ない&ロード永遠ダークネスンゴ終了作者と声優終わったな

水納のトラウマトラブルダークロード永遠ダークネスンゴ終了

全イベント永久PLAYカードドロップ要求ンゴ俺タワーンゴ【メンテナンスンゴ】

小父さんの妄想邪魔ンゴ

髭邪魔

ホモ邪魔

イケメン金髪美男子須賀京太郎【名誉種馬】「失敬冷ややかな小蒔ちゃんと冷ややか子供間違えて婚活候補に入れました」

勘違いでしたねンゴ流

アンチョビ様殺害犯

此奴の性でドレダケの犠牲と子孫根絶ユルサン

洗車洗えバレー部ミタイニさぁ

何が戦車だ生身で闘え陛下命令だ

↑此れ全部西住流シラン継続PLAY神様出来ない分ナッシュ宇宙生き方学ば仕手ゴミにして人間に生まれて生んでクレテありがとうございました不滅のシャカちゃん10歳【処女膜【VIRGIN】万歳】

「十神財閥なら、資料にも書かれてないマジもんの極秘情報があっても……なんなら財閥の人間が殺人鬼でも、完璧に匿える筈だべ」

珍しい事に、葉隠クンのその発言は、皆に支持された。

勝手な想像ではあったが、確かにその内容には説得力があるからだろう。

誰だって、自分の知らない世界でなら出来るのではと思うのは自然な事だ。

それは一般人のボク自身が、一番理解出来る感情だった。

「ほう……貴様は俺が、十神白夜がジェノサイダー翔だと、本気で考えているのか?」

「いや、全く思ってないべ。むしろジェノサイダー翔じゃないでほしいと思ってるべ」

「ならば何故だ?」

「お、俺は……」

自然と、葉隠クンの発言に注目が集まる。彼はモゴモゴと口を動かした後、こう続けた。

「コロシアイ学園生活だけでも一杯一杯なのに、その面子にマジモンの殺人鬼がいるなんて思いたくねーだけだべ!」

それは彼らしく、なんとも自分勝手な内容だった。発言力のゲージがみるみる減っていく様子が幻視出来る程度には。

まぁ……理解は出来る、出来るけれど……本当に、何処までも自分の事しか考えていないんだなぁ。

呆れてしまい、さっきまで抱えていた十神クンへの怒りが何処かへ行ってしまった。

怒りが何処かへというよりは、タイミングを逃したという方が適切だろうけれど。

しょうがない、十神クンへの怒りは裁判終わったらぶつけよう。

「……まぁ、潮時ではあるな。いいだろう、貴様の質問に答えてやろう。鋏の磔は俺がやったものではない」

意外な事に十神クンは葉隠クンの質問には答えてくれた。その内容を聞いた葉隠クンは顔を青ざめていく。

つまりそれは、ボクの推理の通りにジェノサイダー翔がこの場にいるという事で。当然、信じたくないと思う葉隠クンは暴れだした。

「う、嘘だと言ってくれ十神っち!」

「だったら本人に質問してやるよ。杜撰な磔はそんなに腹立たしかったか? なぁジェノサイダー翔?」

そこまで言って、十神クンは彼女の方を――腐川冬子の眼を見た。

誰もが、十神クンの視線を追う。腐川さんは当然、オドオドと困惑している。

「なっ……ど、どうして……? 黙っててくれるって……」

「お前が勝手に喋り出しただけだろう。俺はあの時黙ってやるとも、考えておくとも言っていない」

腐川さんは動揺を隠そうともせず、ただ十神クンに問いかける。

信じられない事に、どうやら本当に腐川さんがジェノサイダー翔の正体らしい。

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そういや鋏使われてたんだっけな
原作と違う展開になりそうで楽しみだ

保守

生存報告。次回更新は未定

生きてたか!待ってるよー

はよ

生存報告。次回更新未定。正直就活なんで割と止まる

待ってる

age

生存報告。次更新が無ければpixivとかその辺で校正改めて投稿されてると思うんで
追いたい人はよろしく、どうせ同じタイトルやで。すまんな

生存報告乙
待っとるで

死ね お前には何も成し遂げられない

 

おつ

あげ

0816

流石に厳しいか

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月29日 (水) 23:31:52   ID: ecjaYomo

続きがすごく気になるから更新してほしい

2 :  SS好きの774さん   2015年05月02日 (土) 00:11:28   ID: Nqwi-hU5

不二咲さん……

3 :  SS好きの774さん   2015年08月18日 (火) 19:12:43   ID: MQw5UOR1

ここまで不二咲の死を痛々しいほど健気に悼む苗木クンがかつてあっただろうか、いや、無い。

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