響「プロデューサーから美希の匂いがするぞ……」(366)


P「……え?」

響「ご、誤魔化しても無駄だぞ!プロデューサーって立場がありながらアイドルに手を出すなんて!」スリスリ

P「いや美希が勝手にくっ付いてくるからであって……」

響「じ、自分知ってるぞ!プロデューサーが美希に抱きつかれて胸押し付けられて喜んでた!」ギュー

P「よ、喜んでない!というか響……」

響「なんだ?」スリスリ

P「なんで俺に身体擦り付けてるの?」

響「これは……ま…マーキングだぞ」


響「プロデューサーに美希の匂いがこびり付いてるぞ。だから自分が除菌してあげるさー」スリスリ

P「そんな犬みたいなこと……」

響「……イヤなのか?」

P「まぁ懐かれてる感じがして嫌では無いが……仕事が出来ん。ほら離れた離れた」

響「ゔー」

P「唸るなよ……」


P「ほら、今日は貴音と撮影だろ?遅刻するなよ」

響「ゔっ……プロデューサーは?一緒に来てくれないのか?」

P「今日は……俺はあずささんの取材の付き添いだ」

響「そ、そんなー……お迎えは!?」

P「今日は直帰して良いから各自解散だな」

響「」

響「あ、あずさは自分より大人だぞ」

ミスった


響「あ、あずさは自分より大人だぞ!1人でもきっと平気だぞ!」

P「出版社の人と話があるんだよ。それにあずささんが道に迷うかも知れないだろ?」

響「じ、自分も道に迷うぞ!」

P「いつも世話になってるスタジオだ」

響「わ、忘れちゃったんだ……ぞ……」

P「先週1人で行けたじゃないか」


響「でもっ!」

P「響」

響「うっ……分かったさー……」

P「分かったなら仕事に……」

響「プロデューサーは自分よりあずさが好きなんだ……」ブツブツ

P「……は?」

響「行ってくるさー……」

P「ちょっ…ひび……行っちゃったか……」


◆ ◆ ◆

P「あ、あずささん?」

あずさ「なんですかぁ?」スリスリ

P「運転しにくいんですが……」

あずさ「今信号待ちじゃないですかぁ」ギュッ

P「それでも危ないですよ……」

あずさ「……危ないのはプロデューサーさんですよ」ボソッ

P「えっ?」

あずさ「信号青ですよぉ」




P「(結局、信号待ちになる度にあずささんが抱きついては響見たいに身体を擦り付けてきた)」

P「つ、着きましたよ」

あずさ「あら……でも時間に余裕はあるみたいですね。少しお話しませんか?」

P「えっ……俺は用事が……」

あずさ「最近、プロデューサーさんからは女の子の匂いがしますね」

P「(聞いてない……)」

P「……ま、まぁ事務所が女の子だらけですからね」

あずさ「……うふふ」ギュッ

P「あずさ……さん?」


P「事務所に女の子が一杯いるんですから!服にもこびり付きますよね!アハハ」

あずさ「じゃあ……多分後ろから抱きつかれた時に付着したと思われます、首筋からプンプンする美希ちゃんの臭いも、さっき事務所で引っ付かれてて擦り付けられた響ちゃんの臭いも私の気のせいなのかしらねぇ……」

P「 」

あずさ「……プロデューサーさん」

P「は、はい!」

あずさ「今から……マーキングします」


P「こ、こういうことは……ほら…ね?や、やめましょう!」

あずさ「響ちゃんは大丈夫で私はダメですかぁ……私、臭いですか?」

P「そんなことはありません!」

あずさ「ふふっ……じゃあ私の匂い着けても……」ヌギヌギ

P「なっ……なんで脱いでるんですか!?」

あずさ「直接の方が……うふふ」


あずさ「大丈夫ですよ……マーキングするだけですから……」ヌギヌギ

P「あ、あずささん…」

あずさ「うふふふふ…うふふふふふふ…うふふふふふふふふふふふふふ…」

P「あずささん!!」

あずさ「……えっ……あら……」

P「お、おかしいですよ……」

あずさ「おかしい……ですか……」


P「そうですよ……いきなり服を脱ぎ出して……」

あずさ「私は普通ですよー……貴方が狂わしてるだけです」

P「狂わす?」

あずさ「じゃあ私は先に行ってますね。プロデューサーさんもお仕事頑張ってくださいね」チュッ

P「!?」

P「あずささん!?」

P「行っちゃった……」


P「(あずささんは普通に仕事をこなし、帰りの車内も普通だった。強いて言うならスキンシップが多かったくらいだ。まぁ肩に触れたりする程度だが…)」

P「ただいま戻りまし…なっ!?」
響「プロデューサーっ!!」ダキッ

響「プロデューサー帰ってくるの遅いぞ!自分今日仕事頑張ったんだぞ!カメラマンにも褒められたぞ!貴音も今日の響は可愛いって褒めてくれたぞ!プロデューサーにも褒めて貰いたかったから事務所で待ってたんだぞ!」

P「oh……」


響「プロデューサー!早く褒め……ん?」クンクン

響「あずさの匂いがするぞ……どういうことさー!?やっぱり自分よりもあずさが好きなのか!?」

P「仕方ないだろ……同じ車内なんだから匂いくらい……」

響「プロデューサーはあずさのモノじゃないぞ……」スリスリ

P「お前のモノでも無いけどな。それとスリスリやめてくれ」



先が見えない
落とそう

それか誰か書いて

P「響、それはなんの冗談だ?」

響「冗談なんかじゃないぞ! こ、これ以上美希と一緒に居るって言うんなら……
  足を刺してでも止めて見せるからな!!」

P「OK、お前の覚悟はよく分かった。でもその前に……響、ちょいちょい」

響「えっ、なんだ?」

P「  ど  っ  せ  い  !  上  段  正  拳  !  」

  ぺしっ

響「あいたっ!! うー……えっ? ああ! プロデューサー、返してくれ!! それがないと……」

P「包丁は没収だ。これでもう滅多な事は出来ないだろう……」

響「う、うぅぅぅ!! だ、だったら!!」

  がしっ!

響「これで!」

P「……」

響「も、もしまだ美希の所に行こうとするなら、これで足を刺してでも……」

P「……響、それ大根……」

響「じ、自分は本気だぞ!! 本気だからな!!」

誰か書かんのか

ID真っ赤な奴が帰ってきて書き始める
俺の占いは当たる

美希「ハニー! お仕事終わったのー!」

P「あぁ、美希か。お疲れさま」

美希「あのね、ミキ今度のCMにも使ってもらえるかも知れないの!」

P「ん? 誰かに聞いたのか?」

美希「収録現場に、あのマスカラ作ってる会社のだいひょーとりしまりやく?
   の人が来てて、ミキのことたくさん誉めてくれたの」

P「そりゃ凄いな」

美希「それで、『次のCMも必ずお願いします』って!」

P「そうか。さすが天下のアイドル星井美希だ」

美希「えへへ、ミキえらい? ミキ、きらきらしてる?」

P「してるしてる。
  最近は一段とな」

美希「全部ハニーのおかげなの!
   もっとハニーがミキのこと誉めてくれたら、
   誉められた分だけ次も頑張れると思うな?」

P「そうだな。
  ここの所は結構ハードなスケジュールも元気にこなしてくれてるし、
  いろんな現場の人から美希の頑張りは良く聞いてる。
  俺が一番嬉しいのは、そんな風に美希達が現場のスタッフや、
  スポンサーの人に誉められてるのを聞くことなんだ。
  良くやったな、美希。俺も嬉しいぞ」

美希「じゃあ、えへへ……ミキ、ご褒美、欲しいな?」

P「ご褒美、か。
  まぁ一応リクエストは聞いてやろう。あんまり無茶は言うなよ?」

美希「簡単なの!
   あのね……ちょっと立って、後ろ向いてくれる?」

P「ん? こうか?」

美希「いいよ! そのまま、しばらくじっとしててね!」

P「あぁ。でも、一体何を」

美希「えいっ!」ムギュー

P「お、おい、美希」

美希「ハニーの背中、あったかいの……」スリスリ

P「やれやれ……」

美希「ミキ、次のお仕事も頑張るから。
   それで、いっぱいいろんな人から誉めてもらって、
   ハニーに喜んでもらうから。
   それから、ハニーにいっぱい誉めてもらうから……」

P「わかったわかった、その時はまたいっぱい誉めてやるよ」

美希「ハニー、大好きなの!」

美希「じゃあね、ハニー!
   また明日なのー」フリフリ

P「あぁ、また明日な」



……バタン。



P「全く美希のやつ、最近どんどん甘えん坊になってる気がするな……」

響「……お疲れさま、プロデューサー」

P「おぉ、響もお疲れさん。
  今日の収録はどうだった?」

響「……自分としてはよくやれたと思うけど、どうかな」

P「響がそう言うなら大丈夫だろう。
  お前も良くやってくれてるよ」

響「うん。自分、完璧だからな」

P「ははは。
  ほんとに、同じAランクアイドルでも美希と違って全然手が掛からないからな。
  俺としても、やりやすくてありがたいよ」

響「……うん」

P「まぁでも、あれだ。
  たまには何かちょっとぐらいのわがままなら聞いてやれるぞ?
  美希を引き合いに出すわけじゃないが、
  ちょっと響はストイック過ぎるように思えるんだが」

響「そうかな?
  別に自分は平気だけど……」

P「それならいいんだがな。
  でも、ほんとに何もないか?」

響「――――うん。今のところは」

P「そうか?
  別に無理にとは言わないが」

響「……何か思い付いたら、その時に相談してもいいか?」

P「あぁ、もちろんだ」

響「じゃあ、そうする。
  ……自分もそろそろ帰るぞ」

P「気を付けてな。また明日」

響「ばいばい、プロデューサー」フリフリ



……バタン。



響「……」

響(ほんとは、美希みたいに、プロデューサーにたくさんなでて欲しい。
  頑張ったなって、抱きしめてほしいぞ。

  ……でも、自分、家に色んな動物が居るから……
  きっと、どんなにお風呂に入っても、美希みたいに、
  良い匂いにはなれないんだ。
  それで、もしプロデューサーに変な匂いだって思われたら……

  ……それに……)

響「プロデューサーから、美希の匂いがしたら……
  ……きっと、自分、すっごく惨めな気持ちになっちゃうから……」



響「……」



響「……良いんだ、ちゃんと気にしてもらえるだけで。
  それで、自分はもう、満足なんだぞ、プロデューサー」



響「……」



響「……はぁ……」

響「……あ」



 『あなたの髪に、あの人を振り向かせる香りを――――』



響「美希のCMしてるシャンプー……

  ……うぅん、やめとこう。
  気にしないって、決めたんだ。
  自分は、自分のお仕事をしてれば……振り向いてもらえなくたって……

  ……」

響「……え? 美希と競演?」

P「あぁ、例のシャンプーのCMな。
  美希のオファーは決まってたんだが、
  せっかくだから他のアイドルも勧めたら、お前が指名されたわけだ」

響「そう、なのか。
  で、でも、自分そんな、美希みたいに出来るかどうか……」

P「なんだ、らしくないな?」

響「……」

P「俺は良い人選だと思うんだけどな。
  ほら、響、こんなに髪の毛綺麗だし」スッ

響「――――やっ」パシッ

P「お、おっと」

響「……あ、……ご、ごめん、プロデューサー!」

P「い、……いや、俺の方こそごめんな?
  不用意に触ろうとして、嫌だったよな?
  つい美希によくやるクセで、……すまん……」

響「――――……」

P「ほんとにすまなかった。
  もうしないから、許してくれ……」

響「……ちょっと驚いただけだから、別に怒ってるわけじゃないぞ、自分」

P「そうなのか?
  いや、でも、……とにかく、ごめんな、響。
  もし、嫌じゃなかったら、CMの件、考えておいてくれ」

響「……うん」

P「じゃあ、俺は美希を迎えに行ってくるから」

響「……気を付けて、いってらっしゃい」

P「あぁ」



……バタン。……



響「……違うんだ。プロデューサー。
  プロデューサーになでられるのは全然嫌なんかじゃないんだ。
  ただ、……ただ、プロデューサーに、変な匂いだって思われるのが……

  ……

  ……プロデューサー……」

美希「響、今日はよろしくなの!」

響「うん。よろしくな、美希」

P「もう説明があったと思うが、今回は二種類のシャンプーのCMだ。
  美希のはこないだのと同じで、響の方は新商品だな」

美希「美希も新しいやつがよかったのにー」

P「まぁそう言うな。
  新商品の方は、落ち着いたツヤと海のイメージだから、
  響の方がぴったりなんだよ」

美希「むー……それなら仕方ないの」

響「で、でも、自分ちょっとシャンプーのCMなんてよくわからないから、
  美希に色々教えて欲しいぞ」

美希「教えるって言っても、ミキは普通に家のお風呂でシャンプーしてるときと
   あんまり変わらないかなー。うーん、強いて言えば……」

響「言えば……?」

美希「ミキ、シャンプーの匂いって好きだから、
   あわあわーってなるだけで、楽しくなっちゃうんだよね。
   自分がどんどん可愛くなる感じ、って言うか」

響「……」

美希「だから、とにかく、シャンプーを楽しむようにすればいいと思うな!」

P「今回は特に香りが大事なコンセプトだしな」

美希「まぁ美希はハニーの匂いが一番好きだけどね!」

P「またお前はそう言うことを……」

美希「だってほんとなんだもーん」

響「……プロデューサーは、シャンプーの匂い、好きなのか?」

P「そうだな、うん、人並みには。
  と言うか、嫌いなやつはなかなか居ないと思うけど」

美希「よく言う『女の子っぽい匂い』だよね」

P「そうそう。不思議と安心すると言うかなんと言うか」

美希「美希の匂いだったら、好きなだけ嗅いで良いよ?」

P「変態か俺は。
  それにわざわざそんなことしなくても、近くに居たら普通に香ってくるよ」

響「――――え?」

P「ん? まぁ、こう、すぐ横をすれ違った時とかにな」

響「……そ……そう、なのか……」

P・美希「「?」」

響「……」

  「765プロさん、そろそろ準備お願いしまーす!」

P「あ、はーい!
  まぁそう言うことで、あとは頼んだぞ」

美希「えー! ハニー帰っちゃうの?」

P「お前ら二人とも収録で服脱ぐだろ。
  俺が居ていいのか?」

美希「ミキは全然いいよ?」

P「はぁ……お前はともかく、……響がだな。
  俺がいたら嫌だろ? 響」

響「さ、……さすがに恥ずかしいぞ……」

P「と言うわけで、俺はもう行くからな。
  二人とも、頑張れよ」

美希「ちぇー。はーいなのー」

響「……」

美希「あーあ。
   せっかく美希の入浴シーンでハニーを骨抜きにしようと思ったのに」

響「……美希はいつも良い匂いがするよな」

美希「最近は、一日に絶対二回はお風呂入ってるからねー」

響「……そうなんだ」

美希「乙女のたしなみなの。
   そう言う響は……」クンクン

響「あっ、や、やだぞっ!」

美希「……うん、響らしい、良い匂いがするの」

響「……私……らしい……?」

美希「そうだよ。響らしい匂い」

響「そ、それっつどう言う――――」

 「星井さん、我那覇さん、スタンバイお願いしまーす!」



美希「あっ、もう行かなきゃ!
   響も急いで!」

響「え? あ、う、うん」







響(自分の匂いって……やっぱり、変、なんだな……)

寝る

はいさーい!

響「プロデューサー……また、他のアイドルと会ってたのか?」

P「これが俺の仕事だからな」

響「―――――――――だ」

P「……ん?」

響「プロデューサーには自分以外の女なんて必要ないんだ!
  自分が、自分一人居ればプロデューサーだって満足だろ? 嬉しいだろ!? だから自分以外の女なんて……」

P「俺の母親が居ないと俺が生まれない件について一言」

響「……じ、自分がプロデューサーを産む!!」

P「そうか、じゃあ響は俺以外の男と結婚して俺を産むんだな」

響「ち、違うぞ! 自分はプロデューサーと結婚して、プロデューサーを産むからな!」

P「なるほどな……でも、響が生まれるためには響のお母さんが必要なわけだよな?
  だったら間接的にではあるけど俺には響のお母さんも必要ってことに……」

響「じゃあ、自分が自分を産んで、その生まれた自分がプロデューサーと結婚してプロデューサーを……」

P「……言ってておかしいなぁ、とかなんか変だなぁとか思わない?」

響「……お、おもわないぞ……」

P「そうか、じゃあ続けよう。そもそもお前と結婚する俺が生まれるのにも母親が必要なわけだが……」

なんくるないですか?

P「ほー、良く撮れてるじゃないか」

美希「思ったより健康的な感じでちょっと拍子抜けなの」

響「自分はこれでも充分恥ずかしいぞー……」

P「最近は色々うるさいからな。
  しかし、そうは言ってもやっぱりドキッとするものはあると思うが」

美希「えへへ、そうかな?
   ほらほら、実物もよく見るの!」ファサッ

P「おー、良い匂いだ」

響「……自分、ちょっと疲れたから、ちょっと控え室に戻ってるぞ」

P「ん? 響、大丈夫か?」

響「へーき。なんくるないさー」

P「……なら、良いんだけど、無理はするなよ」

響「うん。わかってるぞ、プロデューサー」

P「もうじき出発するからな」

響「はーい」

P「……」

P「……なぁ美希、今日の撮影、響の様子どうだった?」

美希「響? うーん……ちょっと恥ずかしがってたぐらいで、
   別に普通だったと思うけど……慣れない撮影で緊張したんじゃないかな。
   シャンプーとか化粧品のCM、初めてなんだよね?」

P「そうだと良いんだが……
  あぁ、それと、……」ナデナデ

美希「ん……あれっ、今日は言わなくてもなでなでしてくれたの!
   ハニーもついにミキの魅力に」

P「普通さ、いきなり男に髪の毛触られたら嫌だよな?」

美希「そりゃそうなの」

P「だよなー……」

美希「でも、例えばミキとか、事務所のみんななら基本的に
   ハニーのなでなではいつでも歓迎だと思うな」

P「みんな、って……千早とか、響もか?」

美希「うん。千早さんは照れて嫌がるかもしれないけど。
   ……響? 響は素直に喜ぶんじゃないの?」

P「そう……だったら良かったんだが」

美希「?」








響「……いいなぁ、美希は……」

響(でも……やっぱり美希みたいに、プロデューサーに甘えるのは……
  自分、どんなにお風呂に入っても、変な匂いだし……
  きっと、べたべたくっついたら、プロデューサーに嫌われちゃうんだぞ……

  ……イヌ美たちのせいじゃなくて、自分が元々変な匂いなのかもな……
  美希は、別にあのシャンプーじゃなくてもいつも良い匂いだし……)

響(……あれ、気にしないって決めたはずなのに……なんか変だな、自分。

  それに……もし、自分が変な匂いじゃなくても、
  きっとプロデューサーには、あんな風に甘えられないし……
  ……大好き、なんて、言えるはずないぞ……

  ……うん、だから自分は、一生懸命お仕事して、
  それで、プロデューサーにちょっとだけ誉めてもらえたら……)

  『ハニー、大好きなの!』



響(……プロデューサーも、自分なんかより、
  美希みたいなきらきらしてる子の方が良いに決まってるぞ。
  自分なんかより……美希の方が……



  プロデューサーって、美希のこと、どう思ってるのかな……?)

P「じゃあ、二人ともお疲れさん。
  もう暗いから、気を付けて帰るんだぞ」

美希「また明日ね、ハニー!」

P「おう、また明日。
  響も、気を付けてな?」

響「うん。明日もよろしく、な」

P「あぁ。一緒に頑張ろう」





響(美希と比べて、この距離感が……ちょっとだけ寂しいんだぞ、プロデューサー)

響(やっぱり、こないだのこと、気にしてるのかな……
  でも、あれはいきなりプロデューサーが……
  うぅん、あんなことしたら、距離を置かれても当然だぞ。

  ……髪の毛、触られてても、変な匂いって思われただろうし、
  結局どっちにしても……同じかな。

  ……お仕事、頑張ろう。
  これ以上、プロデューサーに嫌われないために……)

美希「ハニー! ミキ、やったの!」

P「あぁ。ソロアルバム、初登場オリコン一位。
  千早は悔しがってたが、間違い無く美希の実力だよ。
  頑張ったな、美希」ナデナデ

美希「んーっ、もっと! もっと誉めてなの!」

P「も、もっとって」

美希「……ぎゅっとしてほしいな?」

P「バカ、そんなこと出来るわけないだろ」

美希「でもやっちゃうもんねー!」ギュウッ

P「こ、こら、離れないか。まだ話は……

  あー、響。
  響のソロアルバムも僅差の二位だ。ほんとにほとんど差は無いんだけどな。
  実質、同着一位と考えて良い。良くやったな」

響「うん。プロデューサーのおかげだぞ」




響(……でも、美希を無理やり引き離したりはしないんだよな)

美希「んー……えへへ……」スリスリ

P「二人とも、例のシャンプーのCMのタイアップが……おい、いい加減にしろ」

美希「だって嬉しいんだもん!
   美希とハニーの力が認められたんだよ? ハニーは嬉しくないの?」

P「嬉しいに決まってるだろ。
  俺のアイドルが同着一位なんて、夢みたいだ」

美希「だったら、今日ぐらいいいでしょ?」

P「あー、もう、わかったわかった。
  今だけだからな。ちゃんと話は聞いてろよ」

美希「やったぁ! んふー」ムギュウ



響(……ほらな)



P「で、あー、二人はこれから更に忙しくなると思う。
  お前たちの勢いに引っ張られて、春香や千早、雪歩なんかもかなり好調だ。
  だから、二人とはこれまで以上に密な連携を取りたいと思う」

響「密な連携?」

P「あぁ。
  何かちょっとでも気になることがあったら、
  なんでも遠慮無く俺に相談してくれ。
  可能な限り力になるようにする」

美希「じゃあじゃあ、例えばどーしても二人っきりで落ち着いてお話したいな……
   って美希がお願いしたら、どうなるの?」

P「……まぁ、考えてやる」

美希「ほんとに!?」

P「美希も響も、今は特に自分で思ってる以上にハードワークになってるんだ。
  知らないうちに疲れが溜まることもある。
  それで体調崩したりしたら元も子も無いからな」

美希「それって要するに、
   お仕事頑張ったらハニーとデート出来るってことだよね?」

P「デートじゃない。仕事の一環」

美希「どっちでもいいの! 約束だからね、ハニー!」

P「響も、何かあれば、遠慮しないで言うんだぞ」

響「うん、……そうする」

美希「ねぇねぇ、響はハニーとデートしたくないの?」

響「えっ……そんな、自分は別に……」

P「響はお前と違って、仕事に対してストイックなんだよ。
  ちょっとは見習え。
  ……まぁ、だからこそ美希より心配ではあるんだが」

美希「えー! ハニーはミキのこと心配じゃないの?」

P「何かあればすぐわかるって意味ではな」

美希「うー……貴音みたいなミステリアスさがほしくなってきたの……」

P「美希には似合わないな。
  いつも通り、美希は素直な方が良いよ」

美希「ハニーが良いなら、それで全然かまわないの!」ギュッ

響「あはは。……」

響(……プロデューサー、やっぱり、
  ちゃんと自分のことも考えてくれてるんだな。

  でも、……美希があんな感じだから、
  自分はあんまりプロデューサーに迷惑掛けないようにしようと思ってたのに、
  なんだか逆効果だったみたいだ……

  どうしよう……どうしたらいいのかな……

  わからないよ、……自分には。プロデューサー……)

~♪
   ~♪
 ~♪

響「プロデューサー、また美希からメールか?」

P「あぁ。
  まったく美希のやつ、早速権利をフル活用しやがって……」

響「……でも、プロデューサーもまんざらじゃなさそうだな?」

P「そう見えるか?
  まぁ、……楽しいことは否定しないよ。
  美希にも響にも、俺の方が元気をもらうことは多いからな」

響「え? 美希はわかるけど……自分も?」

P「あぁ。響が一生懸命仕事を頑張ってくれてるのを見てると、
  俺も頑張らないとなーって思うわけだ。
  それに、何というか……こんな言い方したら嫌かも知れないが、
  響の場合、こう、……ほんとに大丈夫かな、と。
  頑張りすぎてないかって、どうしても気になっちゃってな」

響「……自分は、大丈夫だぞ、プロデューサー」

P「うーん……実は、美希に『仕事は響の方をよく見てあげて』って言われてな」

響「……え?」

P「美希から見ても、やっぱりちょっと心配なんだと思うぞ。
  だから、しばらくは響と同じ現場に行くことが多いと思う」

響「……美希……」

P「もちろん、響が嫌じゃなかったら、だが」

響「そんなの!……嫌じゃないに、決まってるぞ」

P「ん、そうか。そりゃ良かった。
  じゃあ、これからも一緒に、ますます頑張って行こうな」

響「あぁ、自分、もっともっと頑張るぞ!」

~♪
   ~♪
 ~♪

P「……はぁ、人が大事な話をしてるときに……」

響「ひょっとして、その……デートのお誘い、ってやつか?」

P「んー、まぁ、さすがにもう大っぴらに出歩けたりはしないから、
  ちょっと喫茶店で話したりするぐらいだけどな。

  仕事は響とか、他の子をよく見とく代わりに、
  こう言う……デートは、こまめにしてくれ、ってさ」

響「――――……」

響(自分がうじうじ悩んでる間に、美希はどんどんプロデューサーと……
  ……自分がどんなにお仕事を頑張っても、素直で女の子らしい美希に、
  勝てるわけないって、最初からわかってたのに……

  万に一つなんて、なんの根拠もなくぼんやり考えてた自分が、余計に情けないぞ。
  そりゃ美希の方が……プロデューサーも、楽しそうだったし……)

響(……自分も、今より、もうちょっとだけ、素直になっても、良いかも知れない。
  せっかく、プロデューサーと一緒にお仕事することは増えたんだし、
  美希みたいには出来なくても、美希に勝てなくても、
  もうちょっとだけ、……プロデューサーに甘えても、良いかも知れない。

  それでもしプロデューサーに嫌われたら……そのときは、仕事が恋人、さー)

P「おはよう、響。
  こんな早くからすまないな。
  車の中で寝て良いぞ」

響「おはよう、プロデューサー。
  今日はスキー場で収録だよな」

P「あぁ、そうだ。
  このところ特に寒いから、風邪とかひかないように気を付けろよ」

響「うん。ほんと、今日は寒いな……」

P「……あれ、響、マフラーはどうしたんだ?」

響「あ、あぁ、朝あせって家を出たから、うっかり忘れちゃって……」

P「おいおい、首もと冷やしちゃだめだろ。
  ほら、これ巻いとけ」シュルッ

響「え?……えっと、……」

P「……あ、嫌なら、もちろん無理にとは言わないけどさ」






響(プロデューサーの、マフラー……)

響「い、嫌じゃないぞ!
  ただ、その、えっと……えっと、だな……」

P「ん? どうした?」

響「そのマフラー、自分に巻いて!……ほしいぞ、プロデューサーに……」

P「俺が響に、これを巻くのか?
  そりゃ別に構わないが……良いのか?」

響「……」コクン

P「そ、そうか。じゃあ、もうちょっとこっちに来てくれ」

P「よっと」シュルシュル

響「……っ」ギュッ

P「ははは。
  そんな思いっきり目をつむるぐらいなら、自分でやればいいじゃないか。
  ほら、巻けたぞ。変になってるところは、自分で直してくれ」

響「……」





響(プロデューサーの匂い……これが……
  ふわってして、優しくて……あったかい……)

響「ぷ、プロデューサー」

P「なんだ?」

響「えいっ」ギュッ

P「ちょっ、ひ、響?」

響「さ、寒いから! 自分寒いのは苦手だから、ちょっとだけ――――」

P「おいおい、だからって」


――――パッ


P「……も、もう良いのか? いや、聞き分けがよくて助かるが」

響「うん……もう、良いよ」

響「あ、出発の前にちょっとお手洗い行って来て良い?」

P「まだ少し時間に余裕はあるから、構わないぞ」

響「うん。なるべく急ぐから」



タッタッタッ……







響「プロデューサーから美希の匂いがするぞ……
  プロデューサーも自分も朝一番で来たのに、なんで……?
  なんで、なんで、なんで、……」ポロポロ

響「……なんで、って……そんなの、わかってるけどさ……
  そっか、そうだよな、美希とプロデューサーだもんな……

  ……うん、もうぐちゃぐちゃだ。
  頭の中も、お化粧も……

  でも、……暖かいなぁ……プロデューサーのマフラー……暖かいなぁ……」ポロポロ…

P「そろそろ出発するか」

響「うん。遅刻したら、早起きしたのが無駄になっちゃうもんな」

P「だな。
  暖房が効き始めるまで寒いけど、我慢してくれよ」

響「平気だぞ。……平気だ」キュッ

P「ん……どうかしたか、響?」

響「別に、なんでもないぞ。ちょっと寝ていい?」

P「あぁ、もちろん。着いたら起こすよ」

響(……このマフラーのせいで、プロデューサーと一緒に寝てるみたい……
  すごく、安心する匂い……気持ちいい……暖かい……

  ……これが、もう、全部、美希のものなんだなぁ……
  自分なんか、こんなおこぼれをちょっとだけ貰えたら、ラッキーなんだな……

  良いんだ、それで……)

響(きっと、自分といるより、美希と居た方が、
  プロデューサーも良いだろうし……

  自分はやっぱり、プロデューサーにもう、迷惑を掛けないようにしよう。
  それで、二人を応援しよう……お仕事を一生懸命頑張って、
  プロデューサーが美希のお仕事も見てあげられるように、しよう。

  プロデューサーが幸せなら、自分も、それで……)

響(……わかってる。
  言い訳なんだ、これ。
  自分が美希みたいに、ちゃんと頑張らなかった、言い訳なんだ。
  ほんとは、悔しくて、羨ましくて、仕方ないんだ。

  これからはもう、美希がプロデューサーの、
  あの優しい言葉も、あの優しい暖かさも、あの優しい匂いも、
  好きなだけ全部、全部独り占めできるっていうのが)







響(……マフラーに、自分の変な匂いがついてたら、
  プロデューサー、自分のこと、嫌いになるかな……)







ラーメン食ってくる

P「響、響。もうすぐ到着するぞ」ユサユサ

響「……うん。運転お疲れさま、プロデューサー」

P「響にはこれから頑張ってもらわないといけないけどな。
  よく寝れたか?」

響「かなり熟睡出来たぞ。
  プロデューサー、安全運転だったし、それに、……」

P「ん?」

響「……なんでもない。
  マフラー、返すね」

P「別に、まだ着けてて良いぞ。
  外は雪だからな、事務所よりずっと寒い」

響「……でも、プロデューサーが風邪引いちゃったら……」

P「バカ、そんなこと気にするなよ。俺は平気だ。
  さぁ、着いたぞ。……お、おっと、地面が凍ってるなこれ。
  響、ちょっとそのまま待ってろ」

響「え? う、うん」

ガチャッ、



P「ほら、こけないように気をつけて降りろよ」

響「……ありがとう、プロデューサー」



……ギュッ、



P「ここから少し歩くから、ゆっくり行こう」

響「……うん」

響(このまま手をつないで、どこか遠く、
  もっと寒いところに、逃げられたらな……なんて。
  こんなこと考えてたら、プロデューサーに怒られちゃうかな)


P「……それにしても、寒いな。道路も凍るわけだ」


響(……。
  ……。
  ……、……)

響(やっぱり、やめとこう。
  今こけるふりしてプロデューサーに抱き付いたりなんかしたら、
  きっと、もう二度と離れられなくなる。
  ……どんなに惨めな気持ちになっても。

  今は……これで、充分すぎるぐらいだよな)



ギュッ……



P「お、雪も降ってきたな」

響「……そうだな」

P「……おい響、どうしたんだ?
  泣いてるのか?」

響「……雪が、目に入った、だけだぞ」

P「そうか……? それなら良いんだが……ほんとに大丈夫か?」

響「なぁ、プロデューサー」

P「ん、どうした?」





響「……やっぱり、マフラー返すよ」

P「え? いや、寒いだろ?」

響「いいから。ほら、こっち向いてくれ」グイッ

P「わっ、ちょっ、わっぷ」

響「……うん、これでよし」

P「な、なんだよいきなり」

響「プロデューサー、そのマフラー、何の匂いがする?」

P「なんのって……」

響「プロデューサー」

P「……響の匂いが、するよ。ちょっとだけ」

響「変な匂い? 嫌な匂い?
  ……ごめんな、プロデューサー。マフラー、そんなにして」

P「いや、いやいや、なに言ってんだ。
  そんな変な匂いなんかしないぞ」

響「……プロデューサーは優しいな」

P「ほんとだって。
  全然嫌じゃないぞ。
  響は……そうだな、元気な匂いと言うか、お日様の匂いがする」

響「……」

P「色んなことを一生懸命頑張ってる、響の匂いだ。
  俺は好きだよ、これ。変な匂いなんかじゃない」




響「……プロデューサーの、ばか」

P「え?」

響「なんでもない。行こ?」ギュッ

P「お、おい、響」

響「自分も好きだぞ、プロデューサーの匂い。

  ……大好きだ」

 数年続いた我那覇響と星井美希のトップアイドル争いは、
 星井美希の電撃入籍によって終結する。

 当時は下世話な週刊誌に酷く煽られたりしていたが、
 我那覇響が急遽開いた記者会見で二人を必死に擁護すると、
 誹謗は幻に消えていった。

 そして今やその座を不動のものにした我那覇響は、
 しかし、時折、あの雪の降る日の出来事を思い出し、――――

ペラ…

響「あはは、赤ちゃんはお母さん似だ。
  よかったな、プロデューサー。

  ……マフラー、やっぱり、あのときに無理言ってもらっておけば、よかったかな」





END

あかん、わしや……

(響が報われなくて)辛いです……

俺が響を書くといつも病んでしまう法則
なんでだろうね。でも好きなんだ。
ちょっと病める切ない響。
存外HAPPY ENDになることもあるし。


でもこの話はこれでおしまい。
分岐もないし、続きもない。
響の恋は、終わってないけど続かない。
そう言う話が書きたかったんだ。

はいさーい!

響「プロデューサー」

P「おぉ、なんだ響、もう帰ったんじゃなかったのか?
  みんな結構前に出て行っちゃったぞ」

響「あ、あのさ、……」

P「ん? 何か相談か?」

響「自分……こないだ、シャンプーのCMに出ただろ?」

P「あぁ、あれな。かなり評判が良いみたいじゃないか」

響「う、うん。それで、な……う、うぅ……あの……」

P「どうしたんだ、珍しく煮え切らないな」

響「……匂いを……」

P「え?」

響「じゃなくて、えっと……ほら、あの普段、よく美希にしてるみたいな……」

P「美希? なんのことだ?」

響「うぅー……プロデューサー! 手、だして! 手!」

P「うおっ、な、なんだいきなり」

響「いいから、早く!」

P「わ、わかったわかった。こうか?」スッ

響「もうちょっと上」

P「上?」ススッ

響「その辺。そこで掌を下に向けて、そのままな」

P「あぁ。
  それで、しゃがんでどうするつもりだ?」

響「えいっ」バッ


スカッ


響「あ、あれ?」

P「ほら、暴れるから書類落ちただろ」バサバサ

響「……」

響「そのままって言ったのに……」

P「それで、なんだったっけ。手?」

響「も、もういいっ!」フイッ

P「なんだそりゃ。
  ……ん、あ、なんか良い匂いがするな、響。
  あのシャンプー使ってみたのか?」

響「なっ、なっ、……」

P「これなら、あの人も振り向く、ってやつだな。ははは」

響「……プロデューサーの、ばか」

P「ところで、次は同じ会社のトリートメントのCMのオファーがあるんだが」

響「……自分でいいならやるぞ」

P「そうこなくっちゃな。
  響にぴったりの仕事だ。確か、海をイメージ商品でな」

響「へぇ、そうなのか。
  それはちょっと楽しみだぞ」

P「だろ?」

響「でも自分、そこまで髪の毛とか気にしてこなかったからよくわからないけど、
  自分なんかがやっていいのか? もっとこう、美希とか……」

P「なに言ってんだ。
  さっきも言ったけど、お前が適役だよ。
  髪の毛だってほら、さらさらだし」ナデナデ

響「あっ」

P「あ、嫌だったか?」

響「べ、べっ、べ、別に……」

P「さて、じゃあそろそろ帰るか」スッ

響「あっ……うん」

P「んー、ちょっと遅いけどなんか食べていくか?」

響「えっ、あ、うん、なんでも食べるぞ自分!」ガタッ

P「そんなに腹が減ってたのか」

P「おー、雪だなぁ。
  春分を過ぎても七回は積もるって言うが」

響「プロデューサーは、寒いのは好きか?」

P「んー、別に普通かな。
  暑いのも寒いのも苦手だ」

響「そっか。
  自分はこっちに来てから、結構寒いのも好きになってきたぞ」

P「へぇ。そりゃたくましいな」

響「前に雪がちょっとだけつもったときにさ」

P「うん」

響「雪だるまを作ってみたんだ。ちっちゃいやつだけど」

P「ほほう。響と雪だるまって、なんか結構新鮮な組み合わせだな」

響「でも、次の日からまた急に暖かくなっただろ?」

P「あぁ、確かそうだったかな」

響「そしたら、ベランダに置いてあった雪だるまがだんだん溶けて来ちゃって……」

P「まぁそう言うもんだしな。仕方無い」

響「……かわいそうだったから、冷凍庫に入れてあるんだ」

P「えっ、今も?」

響「うん」

P「マジかよ」

響「なんか、ほっとけなくて……」

P「ははは、響は優しいなぁ」

響「この雪が積もったら、仲間を作ってあげられるかな」

P「おいおい、冷凍庫が一杯になるぞ」

響「うぅ……だって……」

P「……まぁ俺も昔、同じことやって親に怒られたけどさ」

響「そうなのか?」

P「まだちっちゃかった時にな」

響「……ひょっとしてプロデューサーって、泥団子とか大切にするタイプ?」

P「正解」

響「それで、何食べよっか、プロデューサー」

P「俺も何でもいいんだけどな。
  あんまり高いものじゃなけりゃ」

響「うーん……今日はラーメンの気分な気がするぞ」

P「ラーメンか。いいな、それで行こう。
  実はこないだ結構うまい店を見つけてな」

響「貴音に教えてもらったのか?」

P「いやぁ、たまたま入った店だったよ。
  今度貴音を連れて行ってやろうと思ってたんだが、
  まずは響で事前調査だな」

響「むっ、自分も結構貴音に付き合ってラーメン食べてるから、
  きびしめに審査するぞ!」

P「もちろん、それを見越してのチョイスさ」

響「自信満々だなぁ。楽しみだぞ」

P「まぁ付いて来いって」

P「しかし、なんか冬の匂いってあるよな」

響「あぁ、冬の都会の匂いならわかるぞ。
  冷たい排気ガスの匂い」

P「それそれ。
  なんかちょっと切なくなるよな」

響「そうだな。自分はちょっと好きだけど」

P「変わってるな」

響「そうか?」

P「……あ、とんこつの匂い」グー

響「カレーっぽい匂いもするぞ」グゥ

響「二郎のにおいがするぞ…」

響「おえ」



貴音「おや、響ではありませんか」シジョッ

響「…………」

P「さぁ、ここだ」

響「こんな路地裏にあるんだな」

P「名店っぽいだろ?」

響「いかにもにわかっぽいコメントだな」

P「実際にわかだし良いんだよ別に。
  俺はチャーシュー麺だ」

響「自分は普通の醤油ラーメンで」

P「ほほう、シンプルに行くのか」

響「まずは基本からだぞ」

響「ごちそーさまだぞ」

P「ごちそうさま。で、どうだった?」

響「うーん……思いの外公正な審査が難しいかも」

P「ん? どうしてだ?」

響「だって、元々かなりお腹減ってたし、それに……
  ……プロデューサーと……久し振りの……ご飯だったし……」

P「? 久し振りのなんだって?」

響「なっ、ななっ、なんでもないぞ!」

P「響、ガムいるか?」

響「うん」

P「はい」スッ

響「まさかのバブリシャスだぞ……」

P「冗談だ。キスミントをやろう。おい、冗談だってば。そんな引くなよ」

響「いつも持ち歩いてるのか?」

P「たまたま見かけたから買っただけだって。
  たまに噛むとうまいんだよこれ」

響「ふぅん……」

P「まぁそう言うわけで、また明日な」

響「うん。今日はラーメン、ありがとうな、プロデューサー」

P「気にするな。俺も久し振りに響と飯食えて楽しかったよ」

響「……」

P「ん? なんだ、忘れ物か?」

響「……なんでもないぞ。
  それじゃ、おやすみなさい、プロデューサー」

P「あぁ、おやすみ。寒いから暖かくして寝ろよ」

ガチャッ、


響「ただいま。
  元気か? 形はあんまり変わってないけど……ひょっとしたら、
  明日になったら仲間が出来るかも知れないぞ。どうなるかな。

  ……お前、ひょっとしたら、
  プロデューサーの作った雪だるまの生まれ変わりなのかも……なんて」


……パタン。


響「……ラーメン、美味しかったな」

P「おはよう、響」

響「プロデューサー、おはよう」

P「残念だったな」

響「え? 何が?」

P「雪、積もってなくて」

響「あぁ……まぁ、仕方ないさ。
  こんなに寒いなら積もってくれてもいいのに、とは思ったけど」

P「だよな。
  今日もよく冷える」

響「昨日、寝てるときに思ったんだけどさ」

P「うん」

響「多分、美希だったら、
  『雪だるまを南極あたりまで連れて行けば良い』とかって言いそうだよな」

P「あー、多分な。
  っつーかあいつなら本気でやりかねん」

響「あはは。
  でも、冷凍庫の中よりはずっと良い環境かもな……」

P「すっかり情が移ってるな」

P「それはさておき、今日の仕事は……撮影だな。雑誌の表紙とカットの」

響「うん、昨日確認したぞ。
  前と同じスタジオだよな?」

P「そうだ。俺は今回、別件で顔を出せないが……響なら一人で大丈夫だろう」

響「自分、完璧だからな!」

P「よーし、その意気だ。
  じゃあ早速で悪いが、そろそろ出発してくれ」

響「はーい」

響「はぁ……なんかいつもと違う感じの撮影だったから、
  ちょっとくたびれたな……」

P「響、お疲れさん」

響「あれっ、プロデューサー? なんで?
  今日は来れないんじゃなかったっけ?」

P「予定より早く用が済んだからな。
  こっちの撮影も気になってたし。
  ほら……なんと言うか、アーティスティックな感じだっただろ?」

響「う、うん。
  なんか、こんな服、いつの間に用意したんだ?
  って感じの衣装で撮影だったぞ……」

P「だろうな。
  で、どれどれ、出来映えの方は」

響「だっ、ダメだぞっ!」バッ

P「おいおい、そりゃないだろう。せっかく来たのに」

響「ダメだったらダメだ!
  恥ずかしいんだから!」

P「まぁ結局使うカットは事務所に届くんだけどな」

響「うわぁああああっ!
  これ使わないって言ってたのにぃ……」

P「ははは、盛大にこけてるな。
  その後の恥ずかしそうな表情も良い。
  文句なしの完璧だな」

響「そんなじっくり見ないでってば!」

P「こっちのはこんなキメ顔なのにな」

響「ううううぅ……」

P「いやぁ、響の魅力全開だ。眼福眼福」

響「ひどいぞプロデューサー……人を笑い者にして……」

P「何を言ってる。
  思わず笑顔になっちゃうんだから仕方ないだろ。
  ほら、こんな可愛いんだぞ? 笑うなって方が無理だ」

響「なっ、まっ、またそうやってからかってるんだぞ!」

P「だから違うって。
  ……しかしまぁ、あれだな」

響「こ……今度は何を言うつもりさー……」

P「やっぱり写真より、実物の方が可愛いもんだよな、うん」

響「……っ、……プロデューサーのばか……もう知らないんだぞ……」プイッ

P「ははは、照れるな照れるな」

響「雪山でロケ?」

P「雪山っていってもスキー場だけどな。
  子供と雪合戦して、おいしい鍋を食べて、温泉に入るってやつだ」

響「おおっ! なんかすごい役得だな!」

P「だろ?
  日帰りだからちょっとバタバタするけど、まぁそんな感じの仕事だよ」

響「スキー場かぁ、初めてだなぁ」

P「そうなのか。じゃあまぁ、楽しみにな」

響「へぇー、このホテルに行くのかぁ……
  ほんとにこんな一面ずっと雪なのかな……
  今度一回スキーとかスノーボードもやってみたいぞ。
  765プロのみんなで旅行とか出来ないかなぁ。
  それにしても、やっぱり寒そうだぞ……

  ……あっ、そうだ!」ガタッ

P「響、響。もうすぐ到着するぞ」ユサユサ

響「う、うぅーん……もう着いたのか……ふぁーあ……」ゴシゴシ

P「見ろ、すっかり銀世界だぞ」

響「ん……うわっ、ほんとだ!」

P「雪焼けしないように日焼け止め塗っとかないとな」

響「プロデューサー! もう車から降りて良いかっ?」

P「おっと、こりゃ地面が凍ってるな。
  ちょっと待ってろ響」ガチャッ

響「早く早くっ! 早く外に出たいぞっ!」

P「そんなにはしゃいでたらこけるぞー。
  ほら、気をつけて降りろよ」スッ

響「あっ……うん、ありがとうな、プロデューサー」



ギュッ、

響「すごいな! ふわふわだぞ、ふわふわ!」ザクザク

P「新雪だな。昨日ちょっと降ってたんだろう。
  足元のは一旦溶けかかった雪だな」

響「ずっとこんなに雪があるのか……通りで……へくちょっ!」

P「お前マフラーはどうしたんだよ、寒いとこに行くなんてわかりきってただろ」

響「いや、朝寝坊しちゃってさ……それでうっかり」

P「まったく、はしゃぎすぎだっつーの。
  ほら、じっとしてろ」シュルッ

響「えっ、うわわっ」

P「帰ったら歌の仕事もあるんだから、喉元冷やしちゃいかんだろうが」クルクル

響「こ、これ……で、でも、プロデューサーの……」

P「安物のマフラーだが、無いよりずっと良いだろう。
  ……嫌だったか?」

響「そっ、そんなことないぞっ!」

P「じゃあ、しばらくそれで我慢してくれ」

響「……えへへ。暖かいぞ」

P「そうか、そりゃよかった」

響「……プロデューサーの匂い……」ボソッ

P「ん?」

響「あっ、いやっ、なっ、なんでもなっ」ツルッ

P「うわバカ、危ないぞっ」

P「じゃあ俺は、ちょっと用事を済ませてくるから」

響「わかったぞ。そんなに難しい仕事でもないし、
  楽しんでやるさー」

P「それが一番だ。頑張ってくれよ。
  ただし、無茶はしすぎないようにな」ナデナデ

響「も……もう、わかってるってば……」プイッ

響「さて、プロデューサーは……まだみたいだな。
  じゃあ、今のうちに……」ゴソゴソ



ザクッ、ザクッ、ザクッ、……



響「よし、この辺でいいかな」

パカッ

響「お、よかった、とけてないな。
  ほら、ここがお前の新しいおうちだぞ。
  冷凍庫よりずっと広いだろ? 南極ほどじゃないけどさ」

ザクッ、ザクッ、ギュッ、ギュッ、

響「……ほら、友達も作ったぞ。
  これで寂しくないな? ひとりぼっちじゃないもんな?
  仲良くしないとダメだぞ、二人とも。
  約束だからな」



P「おーい、響ー。
  そんなところで何やってるんだー?」

響「うっ、うわっ、プロデューサー!?
  い、今行くから待っててーっ」

P「あっ、こら、だから走るなって――――」

響「うわぁっ!」ツルッ

P「予想通りすぎる」ガシッ

響「……ぷ、プロデューサー……」

P「なんだよ、世話の焼けるアイドルだな」ギュッ

響「こ、これ、誰かに見られたら、その……」

P「それもそうだな」パッ

響「あっ……うぅ……そんなあっさり……ん?」

P「なんだ? どうかしたか?」

響「……」

P「響?」

響「……」ムギュッ

P「お、おいなにやってるんだ」

響「……」スンスン

P「響、こら、離れろって」

響「プロデューサーから美希の匂いがするぞ……」

P「なっ」

響「どういうことだ? なんで美希の匂いが……
  今日はプロデューサーと自分だけのお仕事じゃなかったのか……?」

P「い、いや、だからそれはだな……」

響「……」

P「……」

響「……」

P「……」

響「……」

P「いや、いつまで抱きついてるつもりだよ」





  「あーーーーっ!!」

美希「こらぁーっ!
   ハニーから離れるのーっ!」グイグイッ

響「うわぁっ! 美希!?」

P「あっ、おい、まだ出てくるなって言っただろ!」

美希「こんなの見過ごせるわけないの!
   でも……まさか響がここまで抜け目なかったなんて知らなかったの」

響「……えっ、あっ、そんな、べ、別に自分は……!」

響「って言うかなんで美希がこんなところにいるんだよっ!」

美希「響が抜け駆けしないようにと、ハニーが浮気しないように見張るためなの。
   まったく、みんな油断ならないの……こしたんたんってやつなの」

響「なにそれ? ラーメン?」

P「何もかも違うっての。

  あー、響、実はな……」

響「慰安旅行?」

P「そうだ。
  企画したは良いが、響だけどうしても予定が合わなくてな。
  だったらいっそ、ここにみんなを集めたら、ってことになったわけだ」

響「む……むちゃくちゃだぞ……」

P「社長と律子に言ってくれ」

美希「ちゃんと響の着替えも準備しといたから、今日の夜はみんなで女子会なの。
   ハニーも来る?」

P「やだよ。なんか怖い」

響「……なんかいきなりだけど、つまり、みんな来てるんだな?」

P「あぁ、上の部屋にいるぞ」

美希「響もはやく浴衣に着替えて、温泉に行くのっ!」グイッ

響「あっ、ちょ、美希っ、引っ張るなよーっ」

P「やれやれ、急に騒々しいな」

 響の家の冷凍庫から引っ越してきた小さな雪だるまと、
 その隣の、もうひとまわり小さな雪だるま。

 二つの雪だるまの首には、毛糸の小さなマフラーが一本巻かれていて、
 寄り添うようにして三人の後ろ姿を眺めていたと言う。







END

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom