千早「高槻さんには、笑顔が一番よく似合うんです」(145)

代行

ありがとう! SS初めてだけど頑張るね。


「千早の言いたいことはわかるさ。しかしだな……」


私とプロデューサーの論争は終わらない。
共に認め合い、切磋琢磨し高めあってきた仲間だと言うのに……!


「やよいの泣き顔、見てみたいと思わないか? きっとぞくぞくするぞ」

「だから、そんな誘惑には乗りません! 高槻さんを悲しませるなんてこと……あなたに誇りはないんですか!」


「しかしそんなことを言いながら、ここまでほいほい着いてきたのは誰かな?」

「……くっ」

「ここに雪歩特製ブレンドの魔法のお茶がある。なんでも真に飲ませてあげるために開発したものらしいんだが」

「それが……つまり、あれなんですね」

「ああ。ちょっとばかし利尿作用が強くなりすぎて……もはや催尿剤と言ってもいい代物になってしまったんだ」


萩原さんは一体なんの目的でこのお茶を作ったんだろう。
あまり深く考えたらドツボにはまりそうだったので、私は一旦そこで思考をストップさせる。

書き手も悪いが、ID:qjE+uE6V0の立てた千早スレが禁書になっちまってるじゃねぇか
どうすんだカス

>>6
被ってんだからどうでもいいだろクズ


「これを高槻さんに飲ませて、彼女の出方を見る。それがプロデューサーの目的なんですね」

「ああ。こうやって、3人で昼飯を食べにいくという名目で屋外に連れ出してな……」


肝心の高槻さんはというと、いまは私たちの前方5メートルあたりで『さんぽ』をうたいながらスキップしている。
牛丼を食べにいくだけだというのにとても嬉しそうだ。高槻さんかわいい。


「……勘違いしないでくださいね。私は、いざというときに高槻さんを助けられるようについてきたんです」

「はは、それはいいな。危ないと思ったらすぐに止めてくれ」


やよいの泣き顔を見たら、俺も自分自身を止められないかもしれないからな……。
そうつぶやいてから、プロデューサーは高槻さんに声をかけた。


「おーい、やよい! そっちの道じゃないぞ! 牛丼屋はな……」

「こ っ ち の、 人 気 が な い 公 園 を 通 る の が、 近 道 な ん だ」

――――――――――――
――――――
―――

「ふ~……今日は暑いですねぇー」


高槻さんがベンチに腰掛けながら、ハンカチで汗を拭っている。汗。珠の汗。


「いやーすまんすまん、こっちの方向で合ってるみたいだぞ!」

「もう、プロデューサーが近道と言ったのに公園の中で迷ってどうするんですか」


状況設定は、見ての通りだ。
プロデューサーがわざと公園内で迷ったふりをして、夏の太陽が照りつける中私たちを歩かせる。
そこでちょうどいい具合にベンチがあったので、私と高槻さんは少し休憩。
その間、彼が道を確認して戻ってくる。実際に確認したのはトイレの位置および人通りだ。

そして、彼が帰ってくるその頃には当然……。



「うっうー……なんだか喉が渇いちゃいましたぁー……」

「すまないな。牛丼屋まであとちょっとだから……あ、でもちょうどよくここに冷たいお茶の水筒があるぞ。飲むか?」

「うっうー! いいんですかあ!? ありがとうございまぁす!!」


となるわけである。
私は冒頭のやり取りの通り、この作戦にはあまり乗り気ではない……が。


(まあさすがに、そんなにすぐ効果は出ないでしょう。お手洗いを我慢する高槻さん、きっとかわいいんだろうな)


ということでここにいるのである。


「こくっ、こく……」


高槻さんは何も疑うことなく、プロデューサーから渡されたお茶を飲み始めた。
ふえぇ、両手で一生懸命に水筒を抱えている高槻さんかわいいよぉ……。


「ぷふぅ……キンキンに冷えてておいしぃーです! 千早さんも飲みませんか?」

「ありがとう、でも私は大丈夫よ。自分で持ってきた水筒があるから」


高槻さんが口をつけた水筒。高槻さんの唇のぬくもりがいまだ残っている水筒。はあ、はあ。
……いけない。誘惑に負けたら私まで魔茶の餌食になってしまうわ。まあちょっとくらいなら……いやでも。


「ありがとうございました! お返ししますねー、ぷろでゅー……さ、あ……」

「はわ」


ぶるりと音を立てて、高槻さんの体が少しだけ震えた。


「え? 高槻さん?」 「どうした、やよい?」


なんだか高槻さんの様子がおかしい。う、嘘でしょう。まさか……この短時間で!?


「うっうー……な、なんでもありません! さあ、ぎゅーどんやさんへ行きましょう!」


再び歩き出した高槻さんの顔は少しだけ赤くなっていて、汗ばんでいた。
これは暑さのせいでかいた汗なの? それとも……?

私はどうしても、膝小僧を合わせてぷるぷるしている彼女の下半身に注目せざるを得なかった。


ああ、なんてこと……萩原さんの作ったお茶は、もはやバイオ兵器の域へ達していたようだ。
高槻さん、ぷるぷるして、ゆでタコのように顔を真っ赤にして……ふふ、とってもかわいい。


(っていけないいけない! なんのためにここにきたのか、本当の目的を思い出して!)


そう、私は高槻さんを助けるためにここにいるのだ。
おしっこを我慢する彼女の姿はたっぷり堪能し、脳内はーどでぃすくの中にすでに永久保存してある。
はーどでぃすくって言葉の用法はこれで合ってるわよね、音無さんがこう言ってたし。

本当に漏らしてしまったら大変だから、私がさりげなく助け舟を出してあげなきゃ。


「た、高槻さん、もしかしてお手洗いに行きたいんじゃない? はあ、はあ。
 さ、さあ一緒に行きましょう、そこで思いっ切り出してしまいましょうね! シャーーって! ほほら、私の手を握って」

間違っちゃった。>>16の前にこれ入れるつもりだったんだ



「高槻さん、大丈夫? ひょっとして具合悪いんじゃ……」

「だだだ大丈夫でしゅよ! さあはやく!」


高槻さんは強がるようにそう言ったが、これはあきらかにおかしい。
目線は定まらず、その顔は一刻も早くお店に行きたい、行かなければならないという彼女の心象を物語っていた。


(やっぱり……高槻さんはいま、おしっこを我慢しているのね!)


「うー……(ちらっ)」


高槻さんは小さく震えながら、私の手をそっと握ろうとした。
しかし、その瞬間……彼女はプロデューサーのことをちらりと見たのだ。


(しまった! 彼のいる前で、こんな露骨にトイレの話をしてしまうなんて!)


――千早、グッジョブだ。


すっと親指を立てた彼の目は、そう語っていた。
一体なにがグッジョブだと言うのよ! 高槻さんはこんなに苦しそうにしているというのに……。
彼女を連れて、はやくトイレへと駆け込まないと!


「えへへ……おトイレなんて我慢、…し、してませんよ?」


高槻さんだって年頃の女の子である。
最近ではプロデューサーのことが少し気になりはじめているということを、
四六時中彼女のことを観察している私は知っていた。

それなのに、さっきのあの私の言い方はないわね。余計に行きづらくさせちゃったじゃない。


「だ、だいじょう、ぶです……んんっ……。い、行きましょう?」


口では強がっているが、いよいよ彼女の膀胱は限界が近いようだ。
ついに彼女は歩くこともできなくなり、その場にぺたりと座り込んでしまった。


「お、おいおいやよい。だいじょうぶかー(棒)」

「はあっ……はあ、……だ、だいじょうぶでぅ! でもちょっと、ちょっとだけきゅうけい……」


プロデューサーのことをなんて白々しい人なんだろうなと思いながらも、私にはもう何も言うことができなかった。
事態は一刻を争う。このままでは本当に、本当に取り返しのつかないことに……!

それでも私は、極限の状態の中で笑顔を無理やり作ろうとしている高槻さんから目が離せなかった。
ああ……高槻さん。


(今でさえこんなに愛おしいのに、漏らしてしまったら……どうなるのかしら?)


私の中の悪魔がささやく。高槻さんのおもらし……見てみたいと思わない?

はい


……そして私は、どこか確信めいた気持ちを抱いたまま、高槻さんの二の腕をつかむ。


「高槻さん」

「ち、ちはやさ……はあ、はあ。だめ、さわっちゃ……いまは……」

「そんなこと言っても、もう自分じゃ立てないでしょう? さあ、トイレに行きましょう。そして……」


大汗を掻きながら、意識の全てを膀胱に集中させている彼女の耳元で……私はそっとささやいた。


「……すっきり……しましょう?」

「はぁ……ん、す、すっきり……?」


……最後の仕上げだ。

私は思い切り力を込めて、ぐっと彼女の体をひっぱりあげる。
少しだけ抵抗したけれど、もうそれほど力が残っていなかったらしい。
高槻さんは、なす術もないまま再び立ち上げられた。


「!!!!」

「だ、だめぇっ!!」




……ちょろり……。


高槻さんはその場に立ち尽くしたまま、呆然としている。
いま何が起こっているのかなど、ずっと我慢してきた放尿の快感によって考えられなくなっているようだ。


「……あ」


ちょろ……ちょろちょろ……べろちょろ……。


漫画などで失禁の様子を表すときには、このような擬音を用いることが多い。
しかし私は、それが真っ赤なデタラメであるということを知った。
今まさにその様子を、この目で、この耳で確認しているのだから、間違いない。


「あ……あぁ……あ」


高槻さんの小水は、ちょっと短めのデニムスカートの下から真っ白なふとももを音も無く伝ってきていた。
状況をようやく理解し始めた彼女の顔が青ざめていくのと同時に、見る見る光色のまだら模様が描かれていく。

あまりにも衝撃的な映像を目の前にして、私はぼんやりとした頭でこんなことを考えていた。


(綺麗……これが、これがこの世に存在するものなの?)


「あ、あぁあ……。ぷ、ぷろじゅうさ、……ちはやさ、……!!」


「あ、ああ! あぁあ゛あああ!!! やだ、やだぁああ!!! み、見ないでぇええええ!!!」


我ながら、最低の感想だと思う。でも、やめられない。
自分でもコントロールがきかない。目が離せない。

高槻さんはその場に立ち尽くしたままお漏らしを続けてしまう。
やがて彼女は、ついに泣き出してしまった。


「や……やだぁ……なんで……なんで、ずっと見てるのぉ……。うっ…ぅぁあああああ゛あん!!」


(あ、なみだ……これがプロデューサーの言っていた、高槻さんの、泣き顔なのね……)


私の無い胸が締め付けられる。
だけどいくら泣く彼女を見ても、私には何も言うことができなかった……。


しかしながら、思考の一部すらも支配するそんな彼女のおしっこも無尽蔵ではない。
はっきりとしたことはわからないが、自らの経験的に言っておおよそ平均を少し上回るほどの量であったようだ。
高槻さんの放尿は、間も無く終わりのときを迎えようとしている。

そのとき……それは起こった。起こってしまった。


ぶるっ!


愕然としている高槻さんの体が小さく震えた。俗に言う、“おしっこをきる”動作だ。
そして、膀胱という故郷を捨て尿道という名の旅路を越えてきた最後の一滴が、
いつの間にか彼女の足元に作られていた黄金の水溜りへとダイブする。


ぽちゃん……。


私は確かに、その音を、この耳で聞いた。
そして世界は――再構築される。
私の意識は星の海を越え、ようやく私という体へと帰ってきたのだ。

それと同時にありとあらゆる感覚が、神経が、少しでも多くこの状況を記憶すべく動き出す。


「すぅ~~~……はぁ~~~……」


深呼吸をすると、強いアンモニア臭が鼻腔をこれでもかと刺激してくる。
私は女なので男性の事情はよくわからないけれど、自分以外の他人の尿の香りなどなかなか嗅ぐ機会はないだろう。
音無さんの持っていた漫画ではこれが良い匂いであるなどと書いてあったが、決してそのような幸せに満ちたものではないと思う。
単純に、不快な匂いなのだ。

こんなものが良い匂いですって?
こんなもの、高槻さんから出たものじゃなかったらすぐに目を背けてこの場を去ってしまうに決まっているわ。


そう……しかしながら、それこそが最大の問題。
これは、今私の目の前にある液体は、“高槻さんのおしっこ”。

ひとつ言葉が加わるだけで、私の意識はこんなにも簡単に揺るがされてしまう。
気が付けば、過呼吸かと思うほど私は一心不乱に呼吸をしていた。正確には、匂いを嗅いでいた。

だめ、また持っていかれる……! くっ……!


「や、やよい! 大丈夫か!?」


「はっ! わ、私は……」

「ぅ、うぅ……えぐっ、ひぐ」


プロデューサーの言葉によって、今度こそ私ははっきりと自分を取り戻した。
そして改めて高槻さんの泣きじゃくる顔を見て、頭ではなく心で私は理解する。

私の魅了していたものの正体は、決しておしっこなどではない。
私は……高槻さんが混乱し、涙するその姿に、この心を奪われていたのだ。
おしっこは原因ではなく、ただのオプションに過ぎなかった。

冷静になった私は、最後にもう一回だけ深呼吸をしてからこの場を収めるべく行動し始めた。

――――――――――――
――――――
―――

「高槻さん、先にあそこの女子トイレにいって待っていて。私は替えのショーツを買ってくるから」

「う……うぅ……わかり、ましたぁ……ぐすっ」


「プロデューサー……!」

高槻さんがトイレに向かうのを確認すると、私は彼の元に駆け寄りその手を強く強く掴んだ。


「さっきまでの非礼、謝ります。私は少し視野が狭くなっていたみたいです。不覚にも……イきかけました」

「かまわんさ……この状況だって、俺ひとりの力では実現できなかった」


「俺はもう、満足だよ……あとはお前にまかせる。ズボンの中もぐちゃぐちゃだしな……」

あそこで賢者タイムにならなかったら、きっと俺たちは永遠にあのままだったな。
そう言ってどこかすっきりした顔で笑いながら、彼は私を激励してくれた。


「思いっきり、楽しんでやってこい!」

「……はい!」


私はそのあと近くにあったコンビニで女児用下着を購入し、高槻さんが待つ女子トイレへと向かっていった。
待っててね、いま会いにいきます。


――――――――――――
――――――
―――

公衆トイレの蛍光灯が放つ無機質な光に照らされて、私と高槻さんは唇を重ねていた。

ちゅ。ちゅちゅー。ちゅば。


「!?」「!?」


え!? 私いま、何をしたの!? というか現在進行形でしている!!


「ん……ちゅぷ……んむ。ぷはぁ……。……え? え? ち、ちはあさん……?」


やってしまった……!
個室トイレの中、ひとりで涙を流していた高槻さんがあまりにも可愛くて、
あらあら~と思った私はついその唇を自らの唇で塞いでしまったのだ。

つまりキス。
一言も会話なく、せっかく買ってきた替えのパンツを与えることもなく、初手キス。
いくらなんでも楽しみすぎた。


(どうする!? どーする!?)


ここからどう取り返す!? だめ、私、高槻さんにとんでもないことをしてしまった!
高槻さん……とっても混乱してる。当然ね、こんな形でファースト・キス(多分)を奪われてしまったんだから。

高槻さんの唇……とっても柔らかかった。もう一回したいなぁげへへ。いやだめ、今はそれどころじゃない。
女の子が好きな変態だと思われた? それは誤解よ、私は女の子が好きなんじゃなくて、高槻さんが好きなの!
いや高槻さんはとても優しい子、そんな風にはきっと思わない……。

でも少なくとも、私に対して今までどおりには接してくれなくなる。高槻さん……!


こつこつと積み重ねてきた信頼が音を立てて崩れていく様子を、私にはただ見ていることしかできない……!


――千早、冷静になるんだ。


そのとき、頭の中にプロデューサーの言葉が浮かんできた。


――どうしようもない状況でこそ、わけのわからない状況でこそ冷静にならなくてはならない。
   クールに、そう氷のようにクールになるんだ。


でも私! もうどうしたらいいか……。


――やり方は問うな。やよいのことを必要以上に傷つけなければそれでいい。
   よく考えるんだ、お前は誰よりやよいのことを見てきた。
   お前にしか出来ない、そんなやり方があるはずだ……!


私にしか、出来ない方法……。高槻さんを、傷つけずに……。高槻さん……。


「!!」


そして私はたどり着く。私にしかできない……戦い方!!


「千早さん……えっとぉ……い、いまのは」


高槻さんはいまだ困惑の海の中にいるようね。
タイミングは……ここしかない!


「ご、ごめんなさい高槻さん! 私、なんてことを……!」




「昔……弟が、優が泣いていたとき……いつもこうしていたから……本当にごめんなさい!!」

「!!」


「う、うぅ……ひぐっ……本当にごめんなさい……! こんなのふつう、気持ち悪いわよね……」


いけるか……?


「ち、千早さぁん……」



「わ、私、大丈夫ですよ! えへへ、ちょっとびっくりしちゃいましたぁー!」

「(勝った)」


やはり家族思いの高槻さんに対して、優の話題は効くわね。

もちろん今のは半分作り話。
仲の良い姉弟だったからちゅっとすることはあったけど、私がさっきしたような、貪るような愛の口づけはしていない。


(優……見ててね! お姉ちゃん、頑張るからね!)


天国にいる優に固く誓い、私は再び考えをめぐらせる。


(高槻さんのこの反応……なかなか良好ね。少しだけど元気を取り戻したみたい。もう一度、いけるかしら?)


おそらく、針の穴をも通す精密なコントロールを必要とするだろう。
失敗すれば、今取り返した分の信頼を根こそぎ、いやそれ以上に失ってしまう。
ハイリスク・ハイリターン……。しかしこのようなチャンスは二度と……。


「千早さん……ごめんなさい、私のせいで、その……千早さんを、泣かせちゃいましたぁ……」


高槻さん……。
きっと私が、自分のせいで弟のことを思い出してしまって悲しんでいると考えているのね。
なんて思いやり深い子なんでしょう……そんなあなたの姿を見るだけで、私は自然と涙が出てくるのよ。

地上に舞い降りた天使を目の前にして、私は決意を新たにする。


(リスクを恐れてなどいられない! 天国の優のためにも!)


「う……ううん、だ、大丈夫よ。うぐ……えぐっ……あ、あれ、涙が止まらないわね……ひぐっ」

「千早さぁん……! う、うぅー……」


私もまだまだ未熟であるとはいえ、トップアイドルを目指すものの端くれ。涙腺のコントロールなんて造作も無いわ。
高槻さんのレスポンスは……ふむん、想像以上ね。私につられて泣きそうになっている……。

今よ……!


「う……ぅあ……う゛あぁああ゛ん……ゆう、ゆうぅうう……!!」

「ちはやさぁん!!」


私が本腰を入れて泣き始めると、高槻さんは小さな体でぎゅっと私の体を抱きしめてくれた。計算通り……!


「ご、ごめんなざいね……あ、あは、なんだかかっこ悪いわね……ぐすっ」

「そんなことない、そんなことないです!」


「んぐ……ね、ねえ、高槻さん……お願いしても、いい゛かしら……」

「なんでも言ってくださぁい……私にできることなら、なんでもしますぁ」


「優はね……私がこうやって泣いているとき、私と同じようにして慰めてくれたの……」

「……! そ、それって……」




「もう一回、キスをしても……いい? というか、高槻さんのほうからしてもらって……いい?」


もうどうにでもなあれ!! いっけぇえええええーー!!


高槻さんは、少しだけ顔を赤くしながらしばらく考えていた。
もうあとには引けない! おねがい……神SUMMER!!


「も、もっちろんです! で、でも……」




「やっぱりぃ……ちょっとだけは、はずかしぃから……ちはやさんから、ちゅ、してください……」

「!!!!!!」


 『迷える子羊よ……汝の罪を告白しなさい』

 『はい。わたくし如月千早は、生まれて初めて、何も触れずに絶頂を迎えるという体験をしてしまいました』

 『そ、それはまた』

 『でもしょうがなかったんです、神父さま! だってあんなこと、上目遣いで言われたら! わかるでしょう!?』

 『懺悔しにきたのか言い訳をしにきたのかはっきりしたまえ』

――――――――――――
――――――
―――

「おかえり千早。久しぶりのレコーディング、お疲れ様」

「ただいま帰りました。あなた」


あれから、プロデューサーとともにアイドルとしての極み――すなわちトップアイドルに到達した私は、
ファンの皆さんが涙する中、アイドルを電撃引退した。

今では自由気ままなシンガーソングライターとして、気の向くままに曲を作ったり歌を歌ったりして毎日を過ごしている。
アイドル時代に出したCDの印税があるので、私たちの生活はそれでも裕福であった。


「夕食がちょうどできあがったところだ。今日はあいつも手伝ってくれたんだぞ」

「まあ、それはとっても楽しみね!」


プロデューサー……ふふ、もう元だけどね。
決して明らかにしてはいけない秘められた恋をしていた私たちは、私の引退とともに、すぐに結婚を果たした。

彼にはいま専業主夫をしてもらっている。
だって、いつだって彼にはすぐそこにいてほしいから……それに、彼の作る料理は3つ星レストランに匹敵するほど素敵なのよ。
今では愛する娘もひとり。あら、噂をすれば……。


「あ、お母さぁーーーん! おかえりなさぁい! んーーー……」

「んーー……チュバっ! ただいま、やよい。ああ、あなたはまるで天使ね。どうしてこんなにもプリティなのかしら!」


私と、彼と、やよい。三人の家族は、完璧だった。
そしていつまでも、幸せに暮らしましたとさ。

おわり

――――――――――――
――――――
―――


仮そめの人生を一通り謳歌してから、私はようやく意識を取り戻した。


「んぶ……ぁんむ……ちゅちゅ…ちゅばっ」

「!?」


落ち着いて、千早。まず状況を確認するのよ。
ここは女子トイレの個室。暖かい季節だと言うのにどこか冷え切ったその場所で……
私は、再び高槻さんとキスをしていた。

さっきのような、唇と唇を触れ合わせるだけじゃない。
ディープなのを。


「た、高槻さん……わたし……なんてことを!」

「ん……ちゅぷ……ほぁあ……」


慌てて高槻さんのぷるりとした唇から離れる。
私と彼女の舌の間には、つつつ…と唾液のアーチがかかっていて、それはトイレの蛍光灯の光に照らされてとても綺麗に光っていた。

どどどどうしよう……さすがにディープなところまでする気はなかったのに……。
いやあわよくばという希望はまあ、ありましたけれど……。
高槻さんの舌……とっても小さくて、柔らかかったな……。


だらん、と口を開けたままの高槻さんは、少し熱っぽい目をしながら私にこう言った。


「ちはやさぁん……もう、離れちゃうんですかぁ……さみしい、よぉ……んむっ」

「!!!!!」


え、なんで!?
高槻さんのほうからキスをされてしまい、私は考える間も無く再び絶頂を迎える。
薄れ行く意識の中、たしか私はこんなことを思っていた。

                   ア ヴァ ロ ン
(そうだったのね……これが、全て遠き理想郷……)

――――――――――――
――――――
―――

「おはようございます、プロデューサー」

「ああ……おはよう、千早」


翌日。今度は妄想でもなんでもなく、本当に翌日だ。
朝7時に出勤した私は、同士であるプロデューサーにそっとあるものを手渡した。


「これ……高槻さんのショーツです。昨日家に帰ってすぐ真空パックしましたから、まだ新鮮そのもののはずです」


「ほうこれが……どれどれ。ははは、カエルさんのプリントパンツなんて、最高じゃないか!」


あれから私と高槻さんは、お互いを求めるようなキスを何度も繰り返した。
高槻さんのとろんとした表情がいまでも頭に焼き付いている。
そのせいで私は午後の仕事中、何度もひとりでトイレに駆け込んでしまったものだ。


「高槻さんには、汚れた下着はビニール袋にしまって捨てたと言ってあります。でも、そのことはよく理解できていなかったみたいですね」


高槻さんは、昨日の失態と私とのキスのことをよく覚えていないようだった。
萩原さんのお茶は、そんな不思議な力を持ったお茶だったのだ。
トイレでの高槻さんの様子もおかしくて、ちょっと興奮していたみたいだし……。

本当に、真に飲ませてなにをするつもりだったのかしら。


私とプロデューサーはそれから、朝の恒例となっている『やよい談義』に花を咲かせた。
やぁよい~うへへへへぇ! もう、やよいはかわいいなぁ!


「なあ千早。ちょっと真空パックの袋、開けてもいいかな」

「え! それは危険なんじゃ……昨日のあれで、よくわかっているでしょう?」

「ちょっと、ちょっとだけだからさ。みんなが来る前に、ほんの少しだけ活力を充電しないと――」

「おっはよーございまぁす!!」

「!?」「!?」


高槻さんが元気いっぱいに事務所へ入ってきた。え、うそ!?


(そんな、早すぎる!? そもそも高槻さんは今日オフのはず!!)


やよぱんつを中心に世界が回っていた私たちはとても慌ててしまう。
慌てすぎて、私は自分でも信じられない行動に出てしまった。


「え、ち、千早!?」


机の上に置かれていた下着パックを手に取り、プロデューサーのデスクの下に隠れる。
これで高槻さんからは死角になるはず、ひとまず安心ね。


(って何が安心なのよ! これじゃあばれたとき余計に言い訳のしようがなくなるじゃない! で、でも……)


手にはおしっこが染み付いた高槻さんのおぱんつ。目の前にはプロデューサーの股間。
あらあら、なんだかいきりたっているじゃない。ズボンの下からでもよくわかるわ。
まったく、気持ちはわからないでもないけれど、そんな風に高槻さんを汚さないでほしいわね。うふふ。

暗いデスクの下で、私は少しばかり興奮しながらこんなことを考えていた。一方デスクの上では……。


「お、おはよう。やよい」

「プロデューサー! あれ、なんだか疲れちゃってますかぁ?」

「そうなんだよ、ちょっと寝不足気味でな……」

「じゃーあ、私の元気を分けてあげます! はい、たーっち!」

ぱちん。

「いぇい!」


ああ、高槻さん! 私もはい、たーっち! したいよぉおおお!!


「あっはっは、ありがとうなやよい! 元気いっぱいになったぞー!」

「えへへー……」


ここからじゃよくわからないけれど、プロデューサーは高槻さんの頭をなでているようね。
実に羨ましいわ……どっちでもいいから代わってほしい。


「今日はどうしたんだ? 休みだろう?」

「それがぁ……ちょっと、プロデューサーに会いたくなって、来ちゃいました!」

「! それは……嬉しいなあ! 俺もやよいに会いたかったぞ!」


高槻さんの言葉を聞いて、私の目の前にあるプロデューサーの765エンジェルが、少しだけびくんと震えた。
その様子を見てなんだか面白くなってしまった私は、人差し指でそっと、彼の蒼い鳥をつついてみる。


つんつん。


「(ま・ぶ・た・をあけて さ・わ・や・かおめざめ)」

「んあ!」

「? ぷろでゅーさー?」


つんつん。なにこれ、楽しい!
つつくたびにプロデューサーの息が荒くなっていくのを、私はこの位置から察していた。
彼はいま、どんな顔をしているのかしら?

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