杏「あなたのうた」 (26)

会うたび あなたに魅かれていきます

明日も ますます会いたくなります

あなたに会うたびそのたびに

会うたびふたたびそのたびに

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「おはよう、プロデューサー」

――また来たのか

「せっかく来てあげたのにその言い方は酷くない?」

――いや、毎日来てるから飽きないのかと思っただけだ

「好きで来てるのに飽きるも何もないでしょ」

――今気づいたが、その袋はなんだ?かなり膨らんでるけど

「お、さっそく気がついたね。これ、食べ物をどっさり入れて来たんだ」

――俺が食べれないものが入ってたり……?

「いくら杏でもそんなことはしないよ。ちゃ~んと食べれるかどうか調べてから持って来てるって。心配ご無用」

「えっと、どれから食べる?」

月火水木金土日 止まることない時間足早に

過ぎていく中で疲れて負けそうになって

でもいつも心にあなた居て

「今日もまた頑張ろう」って思えて

本当いつも支えてくれて感謝してるよ

「……おはよう、プロデューサー」

――どうした?少し顔色悪いぞ?

「……仕事がどっさりだからね。ちょっと疲れてる……のかも」

「今まで『何かを頑張って疲れた』って経験がないから、わからない」

――無理するなよ。頑張り過ぎは身体に毒だぞ

「わかってるって。体調管理も仕事のうち。どこかで休みとって1日だらだらしてみるよ」

「とれるかわからないけどね。最近杏、人気出てきたし」

――マネージャーの人に言ったら休みを調整してくれるんじゃないのか?

「……そうだね。一応ちひろさんに言ってみるよ」

――と言うより、俺に毎日会いにくる時間を休みにあてたほうがいいんじゃないか?

「それとこれは話が別。杏が会いたいから来てるんだよ」

「――お、もうこんな時間だ。仕事行ってくるね」

あなたと出会い強くなれた

あなたと出会い 毎日を生きる意味

見つけたよ 大切な人

「――おはよう、ちひろさん」

――杏ちゃん、大丈夫?昨日より顔色悪いですよ

「……大丈夫、全然問題ないよ」

――問題ないわけないでしょ。フラフラしてますよ。ほら、そこの椅子に座ってください。……はい、体温計

「大丈夫だって言ってるじゃん……」

――やっぱり熱がありますね。……今日の仕事は断りを入れましょう。

「ダメ。せっかくもらえた仕事なんだから、絶対にやる」

――確かに仕事は大切ですけど、杏ちゃんの身体のほうが大事ですよ

「それでもやる。今までやらなかったぶん、今やる」

「プロデューサーのためにも、やらなきゃいけないんだ」

会うたび あなたに魅かれていきます

明日も ますます会いたくなります

あなたに会うたびそのたびに

会うたびふたたびそのたびに

「おはよう、プロデューサー」

――まったく、ホントに飽きないな

「言ったでしょ、好きで来てるって。プロデューサーに会いたいから来てるんだよ」

――昨日も会ったじゃないか

「明日会えなくなるかも知れない。だから毎日会いたいんだよ」

――大げさだな

「……大げさなんかじゃない。大げさなんかじゃない!」

「また会えるかなんてわからないから、だから……!」

――……ごめん、君の気持ちを考えずに、酷いことを言ってしまった

「……杏こそごめんなさい。いきなり怒鳴っちゃって」

――…………

「……もう時間だね。今日は帰るよ」

「プロデューサー、またね。明日も来るよ」

――ああ、また明日

疲れたら僕の肩貸すから

迷ったら立ち止まればいいから

無理はしないで 強がらないで 僕は知ってるよ

頑張り屋で負けず嫌いだし

自分捨てても誰にでも優しい

だから涙隠したまま いつもの笑顔

――そういえば前から気になってたんだが

「どうしたの?プロデューサー」

――どうして君はいつも出会い頭の挨拶がおはようなんだ?

「…………」

――おーい?聞こえてるか?

「……あ、ごめん、聞こえてるよ」

「癖になってるんだよね」
――癖、か

「そう。仕事でそうだから、朝昼晩全部『おはよう』で挨拶しちゃうんだ」

「……もうそろそろ時間だね。行ってくるよ」

――おう。仕事頑張ってこいよ

「うん。また明日」



「教えてくれたのはプロデューサーじゃん」

「……プロデューサーのバカ」

そんないくつものエピソードが

僕の胸を焦がすから

いつも僕は歌うから あなたのうたを

――久しぶりだな、杏!

「……久しぶりだね、お兄さん」

――風の噂で引きこもってるって聞いたけど、ホントだったんだな。そんなお前にいい話がある

「学校にいく気もないし、働く気もない。お兄さんまで実の家族と同じこと言うの?余計なお世話だよ」

――いいのかな?そんなこと言っても

「……?」

――楽してお金を稼げる方法を持って来たんだが、残念だなぁ。この話は他の誰かに……

「待った。話だけでも聞こうじゃないか」

――よし、じゃあ杏。お前、アイドルになる気はないか?

「……」

「……アイドル?」

会うたび あなたに魅かれていきます

明日も ますます会いたくなります

あなたに会うたびそのたびに

会うたびふたたびそのたびに

「おはよう、プロデューサー」

――びっくりした。こんな時間に来るなんて

「仕事が遅くなって」

――それは仕方ないか。だけど、こんな時間に女の子の1人歩きは危ないぞ?特に君はアイドルなんだから

「心配ない。そのあたりは気をつけてるよ」

「プロデューサー、晩ごはんはもう食べた?」

――いや、まだだな。家の中と君からもらった書類に目を通してたら食べ忘れてた

「……あきれた。やっぱりプロデューサーはプロデューサーだね」

「杏がなにか適当に作るよ。そこで待ってて」

――そういえばさ

「なに?」

――こんな時間に君と話すのは初めてだと今気づいた

「……そうだね、昨日までは8時がタイムリミットだったし」

「うわぁ、冷蔵庫何もないよ」

「……そういえば、杏が片付けたんだった。忘れてたよ」

あなたの昨日が僕になって 僕の未来があなたになって

どんな時でも そうずっと 泣き笑い繰り返しながら

繋いだ手は離さないまま 幸せを探そう

――どうだ杏、アイドルやってみたくなっただろ?

「い、いきなりそんなこと言われても」

「どうせ、レッスンもたくさんやれって言われるんでしょ」

――大丈夫だ、心配するな。活動はお前のやりたいようにやればいい

「……どういうこと?」

――アイドルやるのに必要最低限のレッスンの指示はするけど、それ以外はお前の自由だ

――やりがいがあれば続ければいい。目標ができたら挑めばいい。しんどければやめればいい。強制なんてしない

「……」

――杏が楽しめれば、それでいいんだ

「……やってみるよ、お兄さん」

「家も出れるし、楽して稼げるなら話にのらない理由がないね」

――よし。じゃあ早速、荷物をまとめるぞ!

「うん!」

あなたと出会えて ほんとに良かった

いつでも思うよ ほんとにアリガトウ

「プロデューサー。杏、プロデューサーに出会えてよかった」

――どうしたんだ、いきなり

「杏が楽しいときはいっしょに笑ってくれて、辛いときは支えてくれた。……杏を、外の世界に連れ出してくれた」

「家族に意地はって、ただ無駄に時間を過ごしてた杏に手を差し伸べてくれた。」

「――本当に、本当に嬉しかった」

――いったい、なんの話を……

「わからなくてもいい。聞いてくれるだけでいいよ」

「今までずっと言えなかったから、言いたかったから、今伝えようと思ったんだ」


「――ホントは続きがあるんだけど」

「それは、『また会えたら』、会うことができたら、その時伝えるね」

会うたび あなたに魅かれていきます

明日も ますます会いたくなります

あなたに会うたびそのたびに

会うたびふたたびそのたびに

――えっと、あのファイルは……

「1段下、右から3つ目」

――あった。ありがとな

「どういたしまして」

「どう?仕事はなれた?」

――だいぶな。早く一人前のプロデューサーになれるように頑張るよ

「その心意気だね」

――よし、今日はこれで終わりだ。寮まで送ろうか?

「杏、まだやることがあるんだ」

――わかった、先に失礼するよ。お疲れさま

「お疲れさま、プロデューサー」

「また、明日」

とある雑誌の、インタビュー記事

――双葉さんの今後の目標はトップアイドルとのことですが、その理由を教えてください

「――会いたい人がいるんだ」

「杏をアイドルの道に導いてくれた人なんだけどさ。トップアイドルになったら、杏のことに気づいてくれるんじゃないかなって」

「会うことができたら、感謝の気持ちとか、いろいろ伝えたいことがあるんだ」

「それが、理由かな」

――どうした、杏。言いたいことがあるって聞いたけど

「……プロデューサー、憶えてる?『また会えたら』、続きを伝えるって杏が言ってたの」

――憶えてるさ

「そっか、よかった」

「じゃあ、今こそ伝えるね」

「プロデューサー……ううん、お兄さん」

「杏は、あなたのことが――」




おしまい

あなたのうたを聞いてたらふと頑張る杏が頭に浮かんだ。無性にssが書きたくなったから書いた。気がつけばこんな時間だが、反省も後悔もしてない。


だらける杏もかわいいけど、プロデューサーのために頑張る杏もかわいいと思うんだ。

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