エルフ「ここが奴隷市場ですか…」(128)

商人「へへ、お前くらい美人だと高値で売れるぜ」

エルフ「そうですか。よかったですね」

商人「お、おう」

商人(なんで怖がらねえんだ…?)


――――

男「ふむふむ。これはなかなか」

商人「今なら五十万で売りますよ」

男「買おう」

商人「毎度あり!」

エルフ「貴方がこれから私のご主人様になるのですね」

男「そうだ。…いやに聞き分けがいいな」

エルフ「よろしくお願いしますね」

男「もしかしてすでに調教済みか?」

エルフ「調教? …ああ、えっちなことですか。私はそんなことされてませんし、これからするつもりもありませんよ?」

男「うーん。淡々としてるというかなんというか。普通は、捕まった奴隷なんて悲壮な表情で俯いてるだけなのに」

エルフ「あ、ちょうちょだ」

男「どうしてこんなに元気なんだ」

エルフ「とりあえずご主人様の家に行きましょうか」

男「そうするか」


――男の家――

エルフ「狭くて汚いですね」

男「…歯に衣着せるということをしらんのか」

エルフ「事実ですし」

男「そうだけどさあ」

エルフ「これから二人で暮らすんですし、お片付けしましょう」

男「ええ…めんどくさいなあ。しかし二人で暮らすのはいいのかよ」

エルフ「さあ、箒を持って。私はあっちの部屋をきれいにします」

男「うう…」

エルフ「~♪」

男「……」

エルフ「あっ!」

男「なんだ、どうし…」

エルフ「これが噂に聞くえっちな本…!」

男「わっ、馬鹿やめろ」

エルフ「…緊縛趣味ですか」

男「早く本を閉じろ!」

エルフ「こんな本は…えいっ!」

男「ああああああちょっ…」

エルフ「ファイア!」

ボンッ!!

男「」

エルフ「焼却しちゃいました♪」

男「」

男「そんな…苦労して手に入れた貴重な一冊が…」

エルフ「もしかしてまだあります? なら」

男「ない! ないから!」

エルフ「どうでしょうかね…」

男「俺になんの恨みがあるんだよ…」

エルフ「私のことを買ったじゃないですか」

男「それは…」

エルフ「くすくす…後悔してますか?」

男「え?」

エルフ「ほとんどの奴隷は、人間の言うことを従順に聞く都合のいい召使いですものね」

男「……」

エルフ「うふ。魔法を見るのは初めてじゃないでしょう?」

男「ああ、そりゃあな。でも」

エルフ「エルフが魔法を使うのは初めて…ですか」

男「どういうことなんだ…」

エルフ「人間の科学力が著しく上昇した昨今、私たちエルフのような魔術呪術を使う種族は衰退しました」

男「……」

エルフ「人間が数を増やすに伴い、私たちは住み処を追われ、殺され、捕まり…奴隷になりました」

男「…わかった、俺が悪かったから…もう」

エルフ「人間に迫害されたエルフの長は、エルフ全員に魔法を使うことをやめさせ、その代わりに人間と講和」

男「エルフの使う魔法は、強力だからな…。人間側にも多大な死傷者が出た」

エルフ「しかし王国の目の届く範囲内はともかく、このような僻地では未だエルフは狩りの対象です」

男「…では、きみは」

エルフ「逃げるだけならいくらでもできます。復讐も。…でも、人間のことを少しでも知りたくて」

男「……」

エルフ「人間がエルフを狩るのなら、私が魔法を使ってもいいでしょう?」

男「……帰ってくれ、と言ったら?」

エルフ「嫌ですね。まだ人間の男一人ですら詳しく知らないんですから」

男「無茶苦茶だ…」

エルフ「人間の傲慢と増殖を私一人で止められるならいいのですが、どちらの長も頭でっかちですし」

男「…でも、なんで俺なんだ?」

エルフ「はい?」

男「他にも高値で買うやつは大勢いるだろうに」

エルフ「んー…」

男「そもそも、値が下がったと言ってもお前くらい美人なエルフなら五百万、いや一千万は固いだろう」

エルフ「うふふ。あの商人さん、けっこう気が弱かったんですよ。大金を出されても、私が嫌だと突っぱねたら」

男「そこまで値が落ちたってことか…」

エルフ「とんだ安物買いでしたね♪」

男「なけなしの五十万が…」

エルフ「暴走と言っても、たいていは薬漬けとか拘束とかされちゃいますし」

男「ん?」

エルフ「いえ、独り言です」

エルフ「ということでよろしくお願いしますね。この掃除が終ったら一休みにしましょう」

男「ああ…」

エルフ「ウインド!」

男「だから魔法使うなって!!」

エルフ「風魔法でお掃除とか贅沢ですよね」

男「いいからやめろ! ごほっ…ホコリが…」

男「だって奴隷買うの初めてだったし…美人だからあんまりきつくして傷つけるのも…」

エルフ「何の話? こっちはもう終わりましたよ」

男「ん、独り言だ」

エルフ「お茶入れますね」

――――

男「粗茶だな」

エルフ「ろくなお茶っ葉がないんですもの…」

男「買い物行かなきゃな…」

エルフ「私も行きたいな」

男「ええ? エルフを町に出す奴がいないこともないけど、あんまりおおっぴらにいても自警団とかあるし…」

エルフ「尖った耳と美しい金髪を隠せば大丈夫でしょう?」

男「自分で美しいって言うのかよ…」

エルフ「お茶っ葉と食料と、あとはなにが必要かなぁ…」

――町――

エルフ「わー、お店がいっぱいですね」

男「今日はこのへんを治める領主さまの生誕祭だからな、人も多いさ」

エルフ「…ろくな領主じゃありませんね」

男「え?」

エルフ「領主と言っても、王国の一部であり支配下。王の命令と力が行き届いていないということは」

男「…そう言うなよ。このあたりは隣国の影響力もあるしさ」

エルフ「人間は戦争と略奪ばっかり…ブツブツ」

男「ほら、はちみつパン買ってやるから」

エルフ「むう……甘いもので機嫌を取ろうとしてもダメですよ」もぐもぐ

男「しっかり食ってんじゃねえか…」

エルフ「あ、あれは」

男「どれどれ…って酒じゃないか」

エルフ「私、お酒って飲んだことないです」

男「エルフって酒飲まないのか?」

エルフ「お酒自体はあるんですけど、人間のつくるお酒はおいしすぎて、道徳として無理です」

男「美味過ぎてダメ?」

エルフ「自分を律するのが難しくなるでしょう、お酒って。なまじ知能と知識があるだけに、エルフはお酒を怖がるんです」

男「自分を保てなくなる…か」

エルフ「不良なんかは、こっそり飲んでますけどね。普通のエルフは、お酒で失敗する者の話を聞いてやりません」

男「そんなもんか…エルフの不良ってのも想像できないけどな」

エルフ「だから、買ってください」

男「……」

そんなにおかしいかな、敬語使っててもこれくらいは普通だと思うけど…

男「結局買ってしまった。不良エルフめ」

エルフ「飲むのが楽しみです」

男「あとは買うものないか?」

エルフ「あ、服もほしいです」

男「服か…そうだな、俺の着させるわけにもいかないしな」


――町の服屋――

エルフ「これどうですか?」

男「ん? いいんじゃないか」

エルフ「これは? かわいいですか?」

男「いいんじゃないか」

エルフ「…これは?」

男「うん、それでも…」

エルフ「……。もう、なんでもいいんですか」

男「ええ…なんで怒ってるんだ」

男「女の趣味はよくわからないしなぁ」

エルフ「私の趣味じゃなくて、男さん…じゃなかった、ご主人様が私に似合うと思うものを選んでください」

男「…じゃあ、これかな」

エルフ「それババ臭くないですか?」

男「どうしろってんだよホント」

――男の家――

エルフ「ただいま」

男「重い…疲れた…」

エルフ「町は賑やかでしたね」

男「少しくらい荷物持てよ」

エルフ「私の細腕じゃ酒瓶の一本が限界です」

男「魔法でなんとかすればそんなの…」

エルフ「一目があるところじゃ魔法使えないし…頼れる人がいますから」

男「ずるいなあ…」

エルフ「ご飯の用意しちゃいますね」

男「ん、任せた」

男(ひとに料理を作ってもらうなんて何年ぶりだろう)

男(エプロン姿かわいいなあ)

男(わがままだけど、美人だし)

男(五十万じゃ安い…安すぎるよなあ)

エルフ「つまみ食いしちゃお」

男(食い意地張ってるけど…まあいいか)

エルフ「できました」

男「うまそうだな、いただきます」

エルフ「召し上がれ」

男「…うん、美味い」

エルフ「そうですか。よかった」

男「…いいなあ、こういうのって」

エルフ「はい?」

男「俺、ずっと一人だったからさ」

エルフ「ずっと…?」

男「家族はみんな戦争で死んだし…」

エルフ「……」

男「こんなふうに誰かがメシつくってくれるなんて…」

エルフ「これからは、私がいますよ」

男「…うん。ありがとう」

エルフ「さあ、ご飯も食べたし」

男「風呂は沸いてるぞ。先に入るか?」

エルフ「…うふ、一緒に入りますか?」

男「えっ」

エルフ「冗談です。…先に入っちゃいますね」

男「あ、ああ」

エルフ「覗いちゃだめですよ?」

男「そんなことしねえよ!」

エルフ「ふふ」

男「くそ…」

――――

男「さて、風呂も入ったし」

エルフ「お酒飲んでもいいですか?」

男「飲みすぎるなよ?」

エルフ「ごくごくごく」

男「おい、一気にそんなに飲んだら…」

エルフ「けふっ…もう一杯」

男「……」

エルフ「ごくごくごくごく」

男「もう、ホントそのへんで」

エルフ「ごくごくごくごくごくごくごくごくごく」

男「…気持ち悪くないのか?」

エルフは女かよ

>>77
誰が得するんだよwww

エルフ「ごくごく…ぷはぁ」

男「うわばみエルフ…」

エルフ「…あれ、ごひゅじんさまじぇんじぇん飲んでないじゃないでふか」

男「呂律まわってないぞ。顔赤いし…もう寝ろ」

エルフ「これが酔う、というものなんですね…。なんだか…気持ちいいです」

男「ほら、あっちのベッドがお前の…」

エルフ「もう歩けません…だっこして…」

男「ッ……」

男「うわ、軽いな…」

エルフ「んー…」ぎゅっ

男「だ、抱きつくなよ。これ以上は…抑えきれないから…」

エルフ「……」

男「降ろすぞ。おやすみ」

エルフ「おやすみなさい…」

――――

男「これ、どうしよう…」

男「はあ…抜くか…」

男「エルフの体、柔らかかったな…」

――――

男「おはよう」

エルフ「お水…お水をください」

男「最悪の気分だろ」

エルフ「…まさかこれほどとは。森で戦ったモンスターよりもこちらのほうがきついです…」

男「お粥でもつくるよ」

エルフ「すみません、お手数かけます…」

男「できたぞ。ふーふー…あーん」

エルフ「いや、自分で食べられますよ」

男「あーん」

エルフ「なんですか、その目。わかりましたよ…あーん」

男「……どうだ?」

エルフ「あ、おいしいです」

男「おかわりあるからな」

エルフ「はい」

男「ちょっと出かけてくるけど…」

エルフ「あ、私は大丈夫ですよ。大人しくしてます」

男「うん。誰か来ても居留守してていいから」

エルフ「はい。お気をつけて」

男「行ってきます」

――――

エルフ「…どこに行ったんだろ」

エルフ「みんな、今頃何してるのかな…」

エルフ「……」

エルフ「……気分がよくなったら洗濯でもしようかな」


――――

エルフ「せっかくだからまとめてやっちゃおう。押入れも箪笥に入ってるのも全部……あ、この服かっこいい」

エルフ「これも…なんだ、けっこういい服持ってるじゃない」

エルフ「……ん?」

男「そうですか…はい、わかりました」

男「うーん…」

男「どうしたもんかなぁ…」

――――

エルフ「これは…剣?」

エルフ「錆が浮いてない…」

エルフ「どうしてこんなものが…」

男「あー、見つかっちゃったか」

エルフ「わっ!」

男「隠し場所が悪かったかな。まあ狭い家だからそれほど隠す場所もないんだけどさ」

エルフ「これ、どうして…」

男「…綺麗だろ?」

エルフ「はい」

男「綺麗なのは当たり前なんだよ。錆ひとつ、傷一つない」

男「それがなぜかって、その剣は人を斬ってないからな」

エルフ「え?」

男「戦争で家族が死んだって言ったろ? …復讐してやろうと思ったんだ。でもできなかった」

エルフ「……」

男「剣を買って、鎧を買って、訓練を積んで…戦争に参加したものの、結局…俺は人を斬れなかった」

男「ひどいもんだよ、戦争なんて。さっきまで一緒に飯を食ってたやつが骸になって、そのへんに転がってるんだ」

男「首が飛んで腕が飛んで、内臓まきちらされて…みんな死体になるんだ」

男「怖くて、すぐに逃げ出した。その後、鎧は売ったけど剣はなんとなく手放せなくてな。手入れだけはしてるんだ」

お兄ちゃん飽きてきたよ

だれか続き書きたい人いたらよろしく
さらば

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