日本にもアウトバーンを! (312)

山田「それで、検査の結果は出ましたか?」

医者「はい。出ました」

山田「それで……、どうですかね?」

医者「はい…。残念ですが……、陽性ですね」

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山田「え?マジで?」

医者「はい。がっつりエイズに感染してます」

山田「いやぁ、嘘でしょ~」

医者「いやもうハッキリ反応出てますから。残念です」

山田「え、じゃあ俺死ぬの?」

医者「人は誰しもいつかは死にますから」

山田「治らないんですかね?」

医者「骨髄移植で治ったって報告もありましたが、まあ望み薄でしょう」

山田「マジかよ。俺もう死ぬのかよ」

医者「初期段階で来てくれれば良かったんですがねぇ。もう山田先生、エイズの症状出始めちゃってますからね~」

山田「俺まだ34なんですよ」

医者「一応、抗HIV薬を出しておきますけど、あんまり期待しないでくださいね」

山田「はぁ、俺死ぬのか」

医者「残念です」

山田「あ、一応言っておきますけど、俺ゲイじゃないですからね」

医者「ああ、分かってますよ。皆さん、最初はそうおっしゃられますから」

山田「ああ、全然分かってくれないんですね」

診察室を出た山田。

高橋「それでどうでしたか?」

山田「はぁ、マジツイてねぇよ。陽性だってさ」

高橋「うわぁ…」

山田「分かるよ。ドン引きだよな」

高橋「ドン引きですね。ちょっと近づかないでほしいですもん」

山田「言っとくけど、俺ゲイじゃないからね」

高橋「はははは……」

山田「ああ、信じてくれないのね」

同じ頃、とある病室にて

木村次郎「父さん!父さん!」

木村一太「ああ、わしゃもう駄目だ…」

木村次郎「そんな事言わないでよ!父さん!」

木村一太「次郎よ。わしゃもう逝くわ…」

木村次郎「そんなの嫌だよ、父さん!まだ生きなきゃ駄目だよ!」

木村一太「そんな事言われても無理じゃよ…。だって寿命だもん…」

木村次郎「生きてよ父さん!生きてよ父さん!」

木村一太「あっ、逝く!」

木村次郎「父ーさーん!」

木村一太「あっ、忘れてた」

木村次郎「え?」

木村一太「遠藤、例のものを」

遠藤「はい」

遠藤は一つのファイルを次郎に渡した。

木村次郎「これは?」

木村一太「わしが議員生活の集大成としてやり遂げようとした計画じゃ」

木村次郎「アウトバーン建設計画?」

木村一太「山田健を訪ねるんじゃ」

木村次郎「山田健って…、あ、あの山田議員!?」

木村一太「そうじゃ。自由党の山田じゃ」

木村次郎「で、でもあの人は!」

木村一太「次郎よ。わしを信じるんじゃ。山田健を訪ねろ。その計画書を持ってな」

木村次郎「で、でもどうしてあの人なんですか!?どうしてよりにもよってあの人なんですか!?
     それにアウトバーンって……!」

木村一太「次郎よ、伝えたい事は山ほどあるが…。もう、逝くっ!」

木村次郎「父さん!父ーさーん!」

とある建設会社にて

山田「そういや、ここの会社の社長危篤なんだってねぇ」

志摩専務「ええ、そうなんですよ。もう長くないそうで」

山田「あらそうなんだ、お気の毒に。ってことはもしかして、次期社長を巡って泥沼の争いになってたりするのかな?」

志摩専務「ははは…。まあ」

山田「それで志摩さんは社長になれそうなの?」

志摩専務「いやいや。僕なんか全然ですよ。人望もないですし」

山田「何を言ってんすか~。俺は志摩さんの長年の友達なんですよ~。その俺が断言します!
   志摩さんこそが社長に相応しい!志摩さんこそが社長の器です!」

志摩専務「ははは、そんな事言ってくれるの山田先生だけですよ」

山田「俺はずっと志摩さんの味方ですからね」

志摩専務「そう言ってもらえると心強いです」

志摩は山田に紙袋を手渡した。

中身を確認する山田。

山田「任せておいてください」

山田はニヤリと笑い、志摩は軽く一礼した。

山田「あ、一応言っておきますけど、俺ゲイじゃないですからね」

志摩「は、はぁ」

志摩は首を傾げた。

木村一太の葬儀を終えた次郎は考え込んでいた。

木村「どうして山田議員なんだ…」

自由党の山田には悪い噂があった。

遠藤「どうやら考え込んでいるようですね」

木村「あ、遠藤さん」

一礼する次郎。

木村「本当にお世話になりました。葬儀の手配までしてもらって」

遠藤「ああ、いいんですよ。木村先生の秘書として、最後までしっかりと仕事をしたかったので」

木村「本当にありがとうございます」

あげなくていいのか?

そしてまた次郎は考え始めた。

遠藤「どうして山田議員なのか。どうしてアウトバーンなのか」

木村「ええ。遠藤さん、父から何か聞いていませんか?」

遠藤「う~ん。聞いているといえば聞いていますかね」

木村「何か知っているんですか!」

遠藤「知っているといえば知っていますかね」

木村「なんですかそれ…」

遠藤「まあとにかく、私から言えるのは、山田議員を訪ねろ。それだけです」

木村「そうすれば自ずと分かると?」

遠藤「おそらくは」

木村「でも遠藤さんだって知ってますよね?山田議員のこと…。あの噂…」

遠藤「自由党の悪童ですか。まあ、あくまでただの噂ですよ」

木村「そ、そうですよね。ただの噂ですよね…!はははは…」

>>12
あげた方がいいのかな?

上げといたほうが見てくれる人増えるよ

トミタモーターズにて

山田「片桐さ~ん、最近調子はどうですかぁ~?」

片桐常務「まあ、上々ですよ」

山田「そりゃそうですよね~。レッグスの新車、評判良いですもんね~」

片桐常務「ええ、お蔭様で」

山田「俺も買っちゃおうかな~。丁度、格好良い車が欲しかったところなんですよね~」

片桐常務「何ならプレゼントしましょうか?」

山田「いやいや!それは駄目ですよ!賄賂を受け取ったと思われたら大変ですからね」

片桐常務「ははは、冗談ですよ」

山田「いやぁ、相変わらず片桐さんは面白いお人だ」

そうか、じゃああげとくかな

山田「そうだ、そういえば株式はどうなってますか?」

片桐常務「株価は割と安定してますかね」

山田「右肩上がりでの安定ですか?」

片桐常務「お蔭様で」

山田「そうかぁ、じゃあまだ売らない方が得策ですねぇ」

片桐常務「売る?山田先生、株取引やってるんですか?」

山田「いや、まさかぁ~。俺はギャンブルは嫌いなんですよ。株なんて危ない危ない~」

片桐常務「そうですか。まあでも、売らない方がいいんでしょうねぇ、今は」

山田「今は?」

片桐常務「ええ、今は。私なら少なくともあと一か月は持ってますよ」

山田「一か月?」

片桐常務「ええ、一か月。まあ、株をやってない山田先生には全然関係のない無い話ですけど」

山田「ははは、ほんとその通りですね!そういえば、片桐さんは株は?」

片桐常務「私も株式はさっぱりでして」

山田「じゃあこの会話全くの無意味ですね!ははは!」

片桐常務「ほんとその通りですね~」

事務所に戻って来た山田。

山田「いやぁ、今日も働いたねぇ~」

高橋「いや、まだ2時ですけど」

山田「充分じゃないか。よし、帰ろう!」

高橋「あの、これから先生に面会の予定が」

山田「は?面会?誰よ?」

高橋「もうそろそろ来るはずですが」

2度ノックが鳴る。

木村「失礼します」

扉が開く。

山田「まだ、はいどうぞと言ってなんだが」

木村「あ、それは失礼しました。やり直しましょうか?」

山田「いえ結構。それであんた誰?」

木村「はい、私、自由党参議院議員の木村次郎といいます」

山田「木村次郎?そんな議員いたか?」

高橋「確か一年生議員の…」

山田「ああ、比例区で滑り込みセーフ決めた奴か」

木村「はい、その通りでして」

山田「それで、何の用?」

木村「はい、今日はこれを読んでもらいたくて」

木村は例のファイルを手渡す。

山田「これは?」

木村「亡き父から渡されたものです。山田先生に見せるようにと」

山田「ふ~ん。アウトバーン建設計画?あんたの親父さん何やってた人なの?」

木村「父も同じく国会議員でした」

山田「え、マジで?」

高橋「あ、もしかして、木村一太議員の息子さん?」

木村「あ、はい、そうです」

山田「え!マジで!?」

高橋「あ!でも見てください!目そっくり!」

山田「ほんとだ!やべえ!めっちゃ似てる!」

木村「あ、父の事ご存じなんですね」

高橋「ええ、そりゃもう」

山田「正義の男、木村一太!弱きを助け、強きを挫く!市民の味方!まさにヒーロー!まあ、人気は無かったけどね」

高橋「すこぶる地味でしたからね」

木村「父は正義の味方だったんですか」

山田「なんだあんた、知らねえのかよ」

木村「はい、政治は疎くて…」

山田「それでよく政治家になれたな」

高橋「酷いもんですね」

山田「まあ、いいや。じゃあ、帰ってくれ」

ファイルを木村に投げ付け手を払う。

木村「え?ちょ、ちょっと!」

高橋「ささあ、今日のところはお引き取り下さい」

木村「え、なんでですか!?」

山田「おめえ、あの木村のおっさんの子供なんだろ?だったら話すことなんか何もねえよ!」

木村「ど、どういう事ですか?」

山田「俺はな、あのおっさんが大嫌いだったんだよ!さあ、帰れ!」

木村「え!?」

高橋「お父上は山田先生の天敵だったんですよ」

木村「そうだったんですか」

山田「さっさと出てけよ!鬼の子め!」

木村「鬼の子って…」

木村「あ、あのちょっと待ってもらえませんか!?」

山田「何でだよ?何をだよ?」

木村「一度だけでも良いんでちゃんとこの計画書に目通してもらえませんかね?」

山田「何で俺が読まなきゃいけねえんだよ。他の奴のとこに行きな」

木村「山田先生じゃないきゃ駄目なんです!」

山田「は?なんで?」

木村「それは分かりません。ただ、死に際の父さんが言ったんです。俺を信じて、山田先生に会えと。
   だからどうしても、先生じゃなきゃ駄目なんです」

山田「何で俺なんだ?」

木村「それは分かりません。行けば分かると」

山田「だってさ、俺の評判知ってるでしょ?いくら政治に疎くてもさ」

木村「ま、まぁ」

山田「それでなんて?」

木村「いや、その」

高橋「率直で構いませんよ」

木村「えーとですね…」

山田「さあ、言えよ」

木村「企業からリベートを受け取るしか能がない3流政治家だと…」

高橋「大体合ってますね」

山田「大体合ってるな」

木村「あ、あの…」

山田「それでどうするんだ?」

木村「え?」

山田「そんな3流政治家にそのファイルを見せるのか?」

木村「は、はい。もちろん。父の遺言ですから」

山田「あ、そう。しかし、何で俺なのかねぇ。まあ、いいや。ファイル寄こしな」

木村「あ、はい」

ファイルを渡す次郎。

それから30分ほど山田は計画書を睨み付ける様に読み込んだ。

山田「ほ~ん。こんな大それた計画をあのおっさんがねぇ」

木村「ほんと大それてますよね」

山田「金にならん案件でコツコツ点数稼ぎしてるだけのおっさんだと思ってたんだが意外だなぁ」

木村「議員生活の集大成にしようとしてたみたいです」

山田「死ぬ前に一発花火をってか」

木村「そうなのかもしれませんね。形のある何かを残したかったのかもしれません」

山田「だからってお前、北海道から九州まで日本列島縦断する高速道路って!
   自己顕示欲のバケモノか!」

木村「いくらなんでもやりすぎですよねぇ」

高橋「やりすぎですね」

山田「いや、面白い!」

木村「は?」

山田「金の匂いがぷんぷんするな!」

木村「そ、そうでしょうか?」

山田「昔、俺の父は中田丸栄大先生の秘書官を務めていてな」

木村「は、はぁ」

山田「そんな父に大先生はよくこう言っていたそうだ」

木村「なんと?」

山田「道路は金になる、とくに高速道路は。と」

木村「高速道路は金になるんですか?」

山田「ああ、そうだ。どうやら君の父上はただの頑固で貧乏な偏屈じじいではないらしい。
   しっかりと国の事を考えているではないか」

木村「アウトバーンはこの国のためになると?」

山田「ああ、間違いない!この超高速道路とも言うべき代物はこの国に莫大な利益をもたらすドル箱!
   オリンピック景気を一過性で終わらせないための楔の一撃だ!」

木村「ん?どういう事ですか?」

山田「説明している暇はない!タイムイズマネー!」

応接室を飛び出していく山田。それを追う秘書の高橋と次郎。

木村「一体、どこへ行くんですか!?」

山田「金の成るところへ!」

乙。
キャラ立てが上手くて見やすい気がするで

村おこしの人?

なぜ分かった

文体で。
ほかの作品も読みたいので、できればトリップをつけてくださいな。

警視庁

扉が開く。

市川警視「お呼びでしょうか」

東部長「来たか。まあ、掛けたまえ」

市川警視「今日はどのような用件で?」

東部長「ああ、君に是非紹介したい人物がいてな」

市川警視「こちらが?」

東部長「証券取引等監視委員会から来た目黒検事だ」

目黒検事「特別調査課の目黒です」

市川警視「調査課?」

目黒検事「ええ。山田議員の内部者取引について調査しています」

市川警視「なるほど、山田議員絡みですか」

東部長「標的は同じく山田議員だ。協力して証拠を見つけ出せ」

市川警視「了解です」

目黒検事「では、よろしく」

tes

トミタモーターズにて

山田「すいませ~ん、また来ちゃいました~」

片桐常務「先生、また来たんですか~」

山田「いやぁ、今日はね、是非是非お話ししたい事がありまして」

片桐常務「ほう、どのような話ですか?」

山田「まさに金の成る木ですよ」

片桐常務「金の成る木?先生はホントお金が好きですね~」

山田「俺はみんなが好いてるものを好きになる質でして」

片桐常務「それでどんな話なんですか?」

山田「では、これを見てください」

片桐常務「これは…、アウトバーン建設計画?」

山田「そうです。アウトバーンですよ」

片桐常務「アウトバーンって、あのアウトバーン?ドイツの?」

山田「そうですよ。あのアウトバーンをここ、日本に作るんです」

片桐常務「山田先生、正気ですか?」

山田「まあ、抗HIV薬の副作用のせいで少しふらふらはしますけどね。至って正気ですよ」

木村「え?」

片桐常務「抗HIV薬?」

山田「ああ、実はですね。最近、エイズになってることが判明しまして」

木村「え!?」

片桐常務「マジですか!?」

山田「あ、言っておきますけど、俺ゲイじゃないですからね」

木村「は、はぁ」

片桐常務「ハハハハ…」

山田「あ、これ全然信じてないや」

乙です。
トリップつけてくれてthxです。

ゲイじゃないです」の意味が全くわからん

エイズと関係ないよね?

山田「まあ、とにかくですね。日本列島を縦断するように、あのアウトバーンを作ろうという、
   それはそれは壮大な計画なんですわ。どうです?金の匂いがプンプンするでしょう?」

片桐常務「そりゃまた突拍子もない話ですね」

山田「そうですよね~。でもイメージしてみてください!トミタモーターズが誇る最新スポーツカー96が
   アウトバーンを200キロオーバーで爆走する姿を!もうたまらんでしょう!」

片桐常務「速度無制限なんて日本の法律で実現するとは思えないんですが」

山田「何をおっしゃられる。頑固でクソ真面目なドイツ人によって作られたものなんですよ?
   似たような気質の日本人に出来ないはずはありませんよ~」

片桐常務「そうは言ってもですね」

山田「片桐さ~ん、俺が今まで片桐さんを損させたことがありましたか~?」

片桐常務「いいえ、一度も」

山田「だったら一緒にやりましょうよ~。今まで新幹線や飛行機に支配されていた長距離移動を
   乗用車で奪い返すんですよ!このアウトバーンでね!」

片桐常務「ハハハハ…、ホントに実現すると思ってるんですか?」

山田「実現しましょ。片桐さんが協力してくれればね」

片桐常務「ハハハ、まぁ、応援しますよ。期待せずにね」

山田「今はそれで充分ですよ」

トミタモーターズを出た山田、次郎、高橋秘書の3人。

山田「上手くいったな」

木村「あれでですか?半ば呆れてましたよ」

山田「でも応援するって言ってただろ?今はあれで充分なのさ。なんせ最初だから」

木村「はぁ、そういうものですか」

山田「そういうもんだ」

木村「それで次はどこへ行くんですか?」

山田「次は木田カーズだ」

木田カーズにて

山田「上原さ~ん、どうも御無沙汰してます~」

上原副社長「ああ、いやいや、先日はどうも」

山田「この前のゴルフ楽しかったですね~。また誘ってくださいね!」

上原副社長「そうか。じゃあ、来週末なんてどうだ?」

山田「それ最高じゃないですか!是非お願いしますよ!」

上原副社長「ははは、それで今日は何の用で?」

山田「はい、実はですね、日本にアウトバーンを作ろうと思うんですよ」

上原副社長「は?」

山田「アウトバーンです。ドイツの、あの無制限速度でお馴染みの」

上原副社長「えっとだな…」

山田「ほらあれ、東京五輪決まったじゃないですか。だからあれの建設ラッシュに乗っかる感じでやろうと思うんですよ」

上原副社長「あの、さっきから何言ってんのか分からない。それ本気で言ってるのか?」

山田「実現不可能だと思いますか?」

上原副社長「いやまぁ、規模にもよるだろうけど」

山田「北は北海道、南は鹿児島までなんですけど」

上原副社長「じゃあ無理だわ。まさか海渡るとは思わなかったもんね」

山田「大間-函館間はたったの20キロメートルなんですよ?」

上原副社長「費用がどれほど掛かるか分かったもんじゃないな」

山田「ほぼ直線の道なんですよ?」

上原副社長「普通の高速道路と変わらんじゃないか」

山田「制限速度がないんですよ?」

上原副社長「事故が多発しそうだな。それに無制限速度なんて法律で通るはずがない」

山田「必ず木田カーズの利益になると思うんですがねぇ」

上原副社長「それは確かにそうだ」

山田「応援だけでもしてくれませんかねぇ?」

上原副社長「まぁ応援するぐらいならな」

山田「お?」

上原副社長「ん?」

木村「は?」

百菱株式会社にて

山田「高島ちゃ~ん、元気にしてた~?」

高島部長「この間はどうも!これ、お礼ね」

紙袋を手渡す。

その中身を確認し、にやりとする山田。

山田「いつも悪いね」

高島部長「いえいえ、お世話になってるのは私の方ですから」

山田「それでね、今日は耳よりの話があってね…………」

百菱株式会社を出た三人は次の目的地に向かっていた。

木村「あと何件回るんでしょうか?」

山田「あと五社だ。大手八社今日中に全部回るぞ」

木村「えぇ…」

山田「なんだ?もう嫌になったのか?」

木村「いや、そういう訳じゃないですけど…」

山田「こんなのは序の口だぞ。明日は建設会社を回るからな。その次は運送会社…」

木村「うわぁ…。あ、そういえば、高島部長から何貰ったんですか?」

山田「何って、ただのポケットティッシュだよ」

木村「絶対ウソじゃないですか!」

山田「なんだよ、金を受け取ったとでも思ってんのか?」

木村「え、いや、そういうわけでは…」

山田「受け取ったよ。300万」

木村「え…?え!?」

山田「………」

木村「え?ま、マジ…?」

山田「冗談だよ!そんな訳ないじゃん!超マジウケるんですけど!」

木村「え…」

高橋「ま、マジ…?ですって!反応いいですね~!木村先生~!」

木村「は、はは…、そうですよね…。そんなの貰ってるわけないですよね。だって貰ってたら犯罪ですもんね。ははは…」

八社全てを回り、三人は事務所に戻って来た。

山田「酷く疲れたな」

木村「もう12時過ぎちゃいましたしねぇ」

山田「だがその甲斐あって、手応えは抜群だったな!」

木村「どこがですか!みんなきょとんとしてたじゃないですか!」

山田「初回だから!あくまでも初回だから!徐々に現実のものとして受け入れ出して行けば、巨額の金が動く!
   金があれば何でも出来るぞ!金こそが力だ!」

木村「金ですか…」

山田「なんだよ、お前もそっち派か」

木村「僕はお金のための政治なんて…」

山田「親子揃って市民の味方気取りか。貧乏人め」

木村「でも政治の本質はそこに…!」

山田「いいか坊主。この国は国民主権の民主主義、つまり全国民が雇い主なわけだ。しかし、国民の多くは雇われている。
   会社だの公務員だのでな。そして彼らを雇ってる社長とかいう人たちは大抵金持ちなわけだ。総理大臣だってそう、
   年収5千万だぞ、決して安くはない。上に立つ人間は金を持っている。金を持っているものは権力を持つ。
   金こそが権力だ。つまり、力は金で買えるんだよ。実に単純だ」

木村「そんなのおかしいですよ」

山田「君のお父上もこの手の話が大嫌いだったね~。だから気が合わなかったんだよ。まあ、金はあればあるほど
   何事も有利に進む、ということは君にも分かるだろ~?」

木村「そんなに金が好きなんですか?」

山田「それは、あなたは水が好きなんですか?と同じような質問だな。
   それなら俺はこう答える。俺は必要としてるだけだと」

山田「そういえば、水を支配すれば世界を支配できるみたいな事を言ってるやつがいたな。
   まあ、どうでもいいけど」

翌日、とある建設会社にて

山田「志摩さ~ん、社長就任おめでとうございま~す」

志摩専務「まだ気が早いですよ」

山田「何を言ってるんですか~。もうほぼほぼ決まったようなもんじゃないですか~」

志摩専務「どれもこれも山田先生のお力添えのおかげです」

志摩が箱を差し出す。

山田「これは?」

志摩専務「面白い恋人詰め合わせです。山田先生、お好きだと聞いて」

山田「志摩さん、気が利くじゃないですか~。本家よりもこっちが好きでね~」

志摩専務「はははは…、それで、今日お話ししたかった事とは?」

山田「ああ、実は志摩さんに協力してほしい事がありましてねぇ」

志摩専務「どんな事でしょうか?」

山田「志摩社長、アウトバーンってご存知?」

志摩専務「アウトバーン?ドイツの?」

山田「そう。ドイツの」

次、大丘建設

山田「やっぱり高速道路建設と言ったら大丘建設ですよね~」

社長「山田先生、アウトバーンって、本気で言ってるの?」

山田「実現したら莫大な金が生まれると思うんですよ」

社長「ま、まあ、そりゃねぇ」

山田「ぜひ協力してもらえませんかねぇ?」

五件目、

山田「どうです?魅力的な話でしょ?」

専務「ちょっと地に足がついてないと言うか…」

山田「今はそうでしょう、今は。ですが、実現した時のことだけを考えてみてください!さあ、イメージして!
   どうですか?金の匂いがぷんぷんしてきませんか?」

専務「い、いや、どうでしょうか…?」

山田「少し想像力が足りないみたいですね。もっと強くイメージしてみましょう!」

専務「は、はぁ…」

翌日、白猫運輸

山田「高速道路は果たして高速なんでしょうか」

顧問「は?」

山田「アウトバーンなら制限速度無しですよ!」

顧問「本場のアウトバーンもトラックは制限速度が80キロと聞きましたが」

山田「ですよね~」

佐山急便

取締役「つまり、既存の高速道路を改修するのではなく、更に新しく道路を作ると?」

山田「おっしゃる通り!」

取締役「そんなに旨みのある話とも思えないんですがねぇ」

山田「札幌から博多まで車一つで行けちゃうんですよ?」

取締役「飛行機で行ったらいいじゃない」

事務所にて

山田「なかなかの手応えだな」

木村「なかなかに冷ややかでしたけどね」

山田「最初だから面喰っているだけさ。最初だからね」

木村「彼らの反応が変わることなんてありえるんでしょうかね、高橋さん?」

高橋「さあ、どうでしょうかねぇ」

山田「おい!次郎!これはおめえが持ってきた企画だろうがよ!何でそのおめえがそんなに冷めてんだよ!」

木村「そんな事言われましても、僕は父に言われて持ってきたまでで。
   本当にアウトバーンがこの国のためになるのかどうかは、いまいち僕には分からないんですよ」

山田「何言ってんだお前!いいか、お前の親父が議員生活の集大成としてこれを計画したんだ。
   人様の役に立ちたいと心から思ってた人間がだ。そんな奴が作ったこれが国の役に立たないはずはない!って
   どうして俺がおめえの親父の肩を持たなきゃならないんだよ!アホか!」

木村「アウトバーンは日本の役に立つ…?」

山田「ホントのところは知らん。ただアウトバーンは金になる。それだけだ」

高橋「本当に利益が生まれるんでしょうか?」

山田「故・中田丸栄大先生を信じろ」

これめちゃくちゃ面白いっす

警視庁にて

市川警視「SESCではいつから山田議員をマークしていたんですか?」」

目黒検事「本格的に動き出したのは2年前からです」

市川警視「ちょうど山田議員が派手に行動し始めてからですね」

目黒検事「そうです。それ以前は企業から少額のリベートを受け取るだけの小者ってイメージだったんですが、
     ここ数年ガラリと変わりましたから」

市川警視「ですね。ここ2,3日の間もかなり派手に動き回ってるようですし」

目黒検事「自動車業界、建設業界、運送業界…。何か始める気ですかね?」

市川警視「何か新しい金儲けの方法でも思いついたんでしょうな」

国会議事堂にて

大迫議員「おい山田、最近何やら派手に動き回ってるらしいな」

山田「実はですね、最近、新しい金儲けの方法を思いついたんですよ」

大迫議員「ほう、それはどんな方法なんだ?」

山田「知りたいですか?」

大迫議員「是非教えてもらいたいもんだ」

山田「今自由党が推し進めてるカジノ法案に、俺も加えてくれたら教えてあげても良いですよ~?」

大迫議員「嫌だね。お前、印象悪いもん」

山田「いいじゃないですか~。どうせカジノ誘致なんて端から印象最悪なんだから」

大迫議員「だからこそだよ。これ以上金の汚いところを見せるわけにはいかないんだよ。
     あくまでもクリーンなイメージでやらないとな」

山田「あ~あ、オレを仲間にしてくれたら、そのお礼に馬車馬の如く働いて差し上げますのに」

大迫議員「お前は大人しくしてた方が国のためになるよ」

大迫議員「で、この金魚のふんは一体誰なんだ?」

木村「あ…」

山田「ああ、この子は一年生議員の次郎ちゃん」

木村「自由党参議院議員の木村次郎です」

山田「ちなみに木村一太議員の息子さん」

大迫議員「え!?あの木村さんの!?どうしてあの人の息子がお前なんかとつるんでんだよ!?」

山田「お前なんかとは失礼ですね」

大迫議員「君、こんな奴とつるむのはやめた方がいいよ?あ、なんなら俺とカジノ誘致進めてみない?」
     今、仲間集めしてる最中なんだよね」

山田「やめておいた方がいいぞ、次郎。この大迫っていう男は金に意地汚いからな」

大迫議員「お前が言うな!」

木村「随分、お二人とも仲が良いんですね」

山田「ああ、大迫さんは大学の先輩でな。俺が議員になってから色々とお世話になってるんだよ」

木村「色々と…」

大迫議員「一応言っておくが、俺が教えたのは議員として必要な一般教養だけであって、
     こいつがこんなに落ちぶれたのは俺のせいじゃあないからな」

木村「は、はぁ」

同日午後2時、山田は六本木のカフェでささやかなランチを過ごしていた。

山田「ここのカフェ、クラブサンドだけはイケるんですよね~」

長谷川署長「私、トマトアレルギーだから食べられないんですわ」

山田「あら、それは残念。で、警察署長の仕事はどうです?」

長谷川署長「んん、何とも言いづらいのですが、張り合が無いと言いますか、やりがいが無いと言いますか…」

山田「おかしなもんですねぇ、あんなになりたがってたのに」

長谷川署長「ええ。山田先生のご尽力でやっとなれたというのに…。まあ、贅沢な悩みです」

山田「まあ、分からなくもないですよ。何ならもっと高い席をご用意しましょうか?」

長谷川署長「いえいえ!今の席で充分ですよ!これ以上は身に余ると言いますか…」

山田「そうですか」

長谷川署長「そんなことより大丈夫なんですか?」

山田「なにがです?」

長谷川署長「聞いた話じゃ、警視庁が本腰を入れて山田先生を逮捕しに来てるそうな」

山田「やはりそうでしたか。何だか最近マークがきついような気がしてたんですよ~」

長谷川署長「しかも今回、証券取引委員会の連中も捜査に協力してるそうな」

山田「証券屋が?」

長谷川署長「とにかく、今はあまり派手に動き回らない方が得策だと」

山田「今は大人しくですか」

長谷川署長「はい」

山田「でもどうでしょう?俺が大人しくしてるなんて何だか自分らしくない気がしませんか?」

長谷川署長「は?」

山田「自分らしくない自分が自分に相応しいとされる時、その時自分は死んでいるのかもしれない。
   そう思いませんか?」

長谷川署長「あの、そういう質問は警察官ではなく、カウンセラーにされるべきだと思うんですが?」

山田「確かにそうですね。ありがとうございます、長谷川さん。お礼に本部長にして差し上げますよ」

長谷川署長「いえ、結構です!今で充分ですから!」

同日午後7時頃、山田、次郎、高橋秘書の3人は車でとあるところに向かっていた。

木村「あの~、一体どこに向かっているんでしょうか?」

山田「今日はとあるお方のお食事パーティーにお呼ばれしているんだ」

木村「とあるお方とは?」

高橋「もう少しで着きますよ」

それから5分走らせたところで目的地に到着した。

木村「こ、ここは…!?」

山田「ここがそうだ」

木村「ほ、本当にここなんですか…!?」

山田「本当にここなんです」

お座敷に招かれた3人。

山田「お久しぶりです。佐藤組長」

佐藤「元気そうじゃの、山田。2ヵ月ぶりか?」

山田「そうですね、大体それくらいぶりですね」

佐藤「そうか。それでそっちの若いのは?」

山田「ああ、こっちは木村次郎君。僕のパートナーです」

佐藤「パートナー?」

山田「ええ。実は今、共同で事業を進めていまして。ほら、挨拶しろよ」

木村「あ、はい。は、初めまして。き、木村次郎です」

山田「なんだよお前。ガチガチじゃねえか」

木村「だ、だって!あの…」

山田「なんだよ」

木村「ここって、どこです…?」

佐藤「どこって?ここはわしの家じゃが」

木村「あの、そうではなくて」

佐藤「なんじゃ?哲学的な話がしたいのか?」

木村「いや、そうじゃなくて!あの、あなたは…?」

山田「この人は佐藤さん。十四代目佐藤組の佐藤組長さん」

木村「や、やっぱり……」

山田「ちなみにあそこに座ってるのが組長さんの息子で若頭の佐藤さん。
   で、その隣に座ってるのが佐藤さんの弟で総本部長の佐藤さん」

木村「ああ、そういう感じですか…。って、ヤバいですよ!帰りましょう!」

山田「一体何を言っているのかね?まだ前菜も出ていないというのに」

木村「何を呑気な事を言っているんですか!?ヤバいっすよ!
   佐藤組っていったら、指定暴力団ですよ!?ヤバいっすよ!」

山田「一体何がヤバいと言うのかね?指定だからか?暴力団だからか?」

木村「両方っすよ!」

山田「なんだね君、暴力団のお食事会にお呼ばれするのは初めてかね?」

木村「あるわけないでしょ!こちとら議員始めて三か月っすよ!?」

佐藤「ずいぶん元気がいいのう」

山田「普段はシャイなんですけどねぇ。舞い上がってるんじゃないですかね」

木村「ああ、まずいよ~。国会議員がやっさんとお食事会なんてまずいよ~」

佐藤「それで山田、共同で事業を進めていると言ったが、それはどんなものなんじゃ?」

山田「アウトバーンです」

佐藤「アウトバーン?」

山田「ドイツでお馴染みの速度無制限の高速道路です。まあ要するに公共事業です。それも大規模な」

佐藤「今ある高速道路の他に、更に高速道路を作ると?」

山田「ええ、その通り。間違いなくこれは莫大な金を生みますよ」

佐藤「しかし、そんなのが認可されるとは到底思えんがのう」

山田「そこは組長さんにお手伝いしてもらえれば幸いです」

佐藤「………」

山田「そうだ、最近仕事はどうです?儲かってますか?」

佐藤「ああ、おかげさんでな。だが、最近は元気の良すぎる若者が多くてなぁ」

山田「怖いもの知らずの向こう見ずですか」

佐藤「元気がいいのは良い事なんじゃがのう」

山田「組長と僕の仲だ。交通整理ならいつでも請け負いますよ」

佐藤「そうか……。まあ、仕事の話はこれくらいにして、さあ、食べようや」

山田「ええ、頂きます」

佐藤「ほら、そこの若いもんもいっぱい食べや」

木村「は、はい…」

山田「ほら、次郎。伊勢海老だぞ、お前伊勢海老好きだろ?」

木村「は、はい…」

事務所に戻って来た三人。

木村「はぁ…。これなら大迫議員の言う通り、カジノ誘致に加わった方がマシだったな…」

山田「おい次郎!お前それ本気で言ってんのか?あっちは泥沼だぞ!?」

木村「こっちは底なし沼じゃないですか!あ~あ、山田議員は結局世間様のイメージ通りの人だったんだ!あ~あ」

山田「なんだ?本当は良い人だったんだ!というのを期待してたのか?バカなやつめ!
   俺はゴミ拾いをして好感度アップするような不良とは一味も二味も違うんだよ」

木村「何て可愛げのない人なんだ!雨の日に捨て猫を拾ってあげるぐらいの可愛げがあってもいいはずなのに!」

山田「生憎俺は猫アレルギーなんだ」

木村「そんなんどうでもいいです」

高橋「あの、思ったんですが、警察にマークされている今、
   佐藤組のお食事パーティーに参加するのはまずかったんではないでしょうか?」

木村「え!?マークされてたんですか!?最悪だ!」

山田「別に困った事はありゃしないよ。ただ単にご飯を一緒に食べただけ。何もやましい事はない」

木村「でも交通整理がどうのと話していたじゃないですか?」

山田「あれは単なる人助けで」

木村「嘘だ!」

山田「ホントさ!俺は困っている人を助けてあげているだけよ」

木村「どういう事か教えて頂きましょうか?」

山田「はぁ…。次郎君、君はこの世界からドラッグの違法売買や銃器の密売を消し去る事が出来ると思うかね?」

木村「それは、世界中の人たちが本気を出せばイケると思います」

山田「お前マジか」

木村「は?」

山田「じゃ、じゃあ、現実的にはどうだ?この世からそれら一切を無くす事は出来るだろうか?」

木村「それは、難しいと思います」

山田「そうだろう、そうだろう。では、違法売買を無くす事は出来ない、大元の犯罪者を捕まえたところで
   違う奴がすぐに後釜に座ってしまう。それではいくら追いかけてもキリがない。それならどうする?」

木村「取締りを厳しくすればいいのではないでしょうか?」

山田「それも良い。だが、取締りは厳しくすればするほど相手は激化するぞ。こっちがピストルを持てば、
   相手はマシンガンを持つ。こっちがマシンガンを持てば、相手はライフルだ」

木村「では、どうすればいいと?」

山田「それで俺も考えた、逆にね」

木村「逆に?」

山田「どうせ犯罪を無くせないのなら、管理させたらいいんだって」

木村「誰に?」

山田「性の良い悪党に」

木村「なんすかそれ?」

山田「ルールとマナーを守る悪党の事だ」

木村「そんな悪党いるんですか?」

山田「派手に動けば締め付けは厳しくなる。今の俺のようにな。だが巧い奴は影も残さん。したたかだからだ。
   俺はそういう奴らこそが市場を管理するべきだと考えてるわけよ」

木村「それが佐藤組だと?」

山田「それは知らん。今日はお食事に呼ばれたから行っただけだし」

木村「何か白々しいですね」

高橋「あんまり追求しない方がいいですよ。今後の議員生活のためにも」

木村「そ、それもそうですね」

山田「そうそう。君の様な市民派議員は知る必要のない事だ」

木村「だったら何で連れて行かされたんでしょうか?」

翌日、麻布メンタルヘルス相談所にて

山田「先生、最近俺、ショックな事があって」

カウンセラー「何があったんですか?」

山田「実は……」

カウンセラー「言いたくないのなら無理に言わなくてもいいんですよ」

山田「俺エイズなんすよ」

カウンセラー「あっさり言いましたね」

山田「言っておきますけど、俺ゲイじゃないですからね」

カウンセラー「まあ、HIV感染者が全員同性愛者というわけではないですからね」

山田「おお、やっと分かってくれる人に巡り合えた。先生、俺泣きそうです」

カウンセラー「余程辛かったのですね。泣いてもいいんですよ」

山田「いや泣かないっす。もう泣かないって丘松さんに約束したんで」

カウンセラー「丘松さんとは?」

山田「師匠みたいなもんです」

カウンセラー「大切な人なんですね」

山田「そうなんです。あ、思い出したら涙がっ!」

カウンセラー「泣いてもいいんですよ?」

山田「いいえ、絶対に泣きませんからっ!」

それから一時間のカウンセリングを終え、

山田「ああ、だいぶ楽になったような気がします」

カウンセラー「そうですか」

山田「いや、気のせいかもしれません」

カウンセラー「そうですか」

山田「また来てもいいですかね?」

カウンセラー「いつでもどうぞ。あ、そうだ。酷く落ち込むような時があったら、こちらのお薬をお飲みください。
       割かし元気が出ますよ」

山田「あ、カウンセラーなのに薬出してくれるんですね、カウンセラーなのに。でも、助かります。
   ありがとうございました」

相談所を出た山田。

高橋「どうでしたか、カウンセリングは?」

山田「なんとなく元気になったような気がするよ。多分気のせいだけど」

高橋「あんまり効果なかったようですね」

山田「で、次の予定は?」

高橋「ええと、14時から衆議院第二議員会館で自由党員による社会保障制度に関する勉強会がありますね」

山田「うわ、それしちめんどくさい奴じゃん。うわ、サボろうかな」

高橋「でも出ないと、また色々と後が面倒ですよ」

山田「だよなぁ。あ、そうだ!インフルエンザに罹ったことにしよう!それなら出ずに済むだろ!」

高橋「でも、その手は先月も使いましたよ?」

山田「いや、今回のは鳥インフルエンザということで」

高橋「よし、それで行きましょう」

そこに二人の男が突如として現れた。

市川警視「山田議員ですよね?自由党衆議院議員の」

山田「そうですが。あなた方は?」

市川警視「警視庁捜査二課の市川です。こちらはSESCの目黒検事」

山田「な、なんて?」

高橋「証券取引等監視委員会ですよ」

山田「ああ、証券屋か。それで何か用?」

市川警視「一つお伺いしたいことがありまして」

山田「はい、なんでしょう?」

市川警視「昨日の午後7時頃、どこにおられましたか?」

山田「昨日の7時だったら、寝てたよ家で。なぁ?」

高橋「はいもう。それはぐっすりと」

市川警視「家で寝ていたと?午後7時に?」

山田「それはもうぐっすりと寝ていましたよ」

高橋「完全に熟睡でしたね」

目黒検事「それはいくらなんでも早すぎはしませんか?」

山田「いやぁ、僕はずっとそんなだけどね」

高橋「山田先生は普段めざましテレビの女子アナのような生活をしていますから」

市川警視「それはおかしいですねぇ。昨日の午後7時頃、車に乗って出かけて行く山田議員の姿を、
     私の部下が見てるんですがねぇ」

山田「見間違えでしょう」

市川警視「佐藤組の佐藤組長の御邸宅に入られる姿を私の部下が見ているんですがねぇ」

山田「それは多分私のそっくりさんでしょう。よく似た顔見掛けますし」

高橋「渋谷歩いてたら20分に一回はこんな顔見掛けますしね」

市川警視「まあ、立ち話も難ですし、続きは署の方でしませんか?」

山田「え?逮捕されるんですか?」

市川警視「いえ、任意で」

山田「あ、任意同行?だったら行きます」

市川警視「では、こちらへ」

車に乗り込む山田。

高橋「では山田先生、幹事長に行けなくなった旨伝えておきますので」

山田「おう、頼むわ」

乙です

警視庁取調室にて

市川警視「熊本県出身、現在34歳、鳥取大学農学部卒、国家公務員試験に合格し農林水産省入り。
     その時、同郷であった丘松議員と親しくなり、同議員の助けを借りて
     2005年、第44回衆議院議員総選挙に出馬し、ギリギリで当選。
     なんやかんやで今に至ると。ほぼ間違いないですね?」

山田「何か雑っすね」

目黒検事「丘松議員とはかなり親しかったようで」

山田「ええ。同郷でしかも出身大学も同じという事で、とてもよくしてもらいましたよ」

目黒検事「例えばどのような?」

山田「丘松先生は私にとって政治方面における師匠のような存在です。先生からはあらゆる事を教わりました」

市川警視「しかし、あの丘松議員ですよね?不正献金問題等の不祥事が発覚し、大臣就任中に自殺してしまわれた」

山田「惜しい人を亡くしました」

市川警視「余程大切な人だったようですねぇ」

山田「はい。尊敬してましたから」

市川警視「尊敬ですか」

目黒検事「確か、西の丘松、東の康男なんて言葉がありましたが?」

山田「そういえばそんな言葉もありましたねぇ」

市川警視「色々と教わったと仰られましたが、一体何を学んだ事やら」

目黒検事「賄賂の貰い方でも教えてもらったんですか?」

山田「賄賂って教わってやるもんなんすかね?」

目黒検事「では、教わらずともやっていたと?」

山田「とんでもな~い。私は実にクリーンな議員ですよ。賄賂なんて一度も受け取った事はありませ~ん」

市川警視「佐藤組のお食事会にお呼ばれするような議員がクリーンだと仰られる?」

山田「私はね、お食事会だのパーティーだのと名の付く会合が大好きなんですよ。
   お呼ばれしたら行かずにはいられないどうしようもない体質なんです」

市川警視「そうだとしても最低限相手は選んだ方がいいと思いますねぇ。なんせ相手は指定暴力団なんですから」

山田「一概に暴力団と仰られますが、私は佐藤のじいさんに暴力を振るわれた事なんて一度もないですよ?
   むしろ美味しい伊勢海老を振る舞ってくれる彼らは、私にとって指定伊勢海老団といったところでして」

市川警視「山田議員!私達はあなたのおふざけに付き合っている程暇ではないんですよ!」

山田「何を仰られるか!私だって予定があったんです!それを無理に変更してここに来たんですよ?
   本当なら今頃、議員会館で社会保障制度に関する勉強会をしていたはずなんです!
   あ~あ、行きたかったなぁ!勉強したかったわぁ!」

目黒検事「しちめんどくさいからサボろうかなと仰っていたのをもうお忘れですか?」

山田「なんだ。聞いてたんすか」

市川警視「山田議員、軽口で気を逸らそうとしたって無駄です。それから、貴方は
     貴方自身が立たされている状況が一体どういうものなのかよく考えた方が良い」

山田「状況ですか。それは私自身、未だによく分からないんですよねぇ。
   令状が無いって事は私が悪徳政治家であるという確たる証拠がないという事だ。
   任意で引っ張って少~し脅かせば、ペラペラ喋り出すなんて思ってもいないだろうし、
   一体今日私は、何のために呼ばれたんでしょうかねぇ?」

市川警視「山田さ~ん、私達は真実を知りたいんです。あなたが裏で何をこそこそやっているのか?
     本当のところを教えて頂きたいのです」

山田「真実ですか。ならば教えて差し上げましょう」

市川警視「御拝聴致しましょう」

山田「あなた、目黒検事でしたね?ご実家はどこです?」

目黒検事「は?」

山田「だから、実家はどこにあんのか聞いているんです」

目黒検事「名古屋です」

山田「おお、名古屋ですか、素晴らしい。名古屋のもつ煮込みうどんは最高ですからね」

目黒検事「もつ煮込みうどんは名古屋の名物ではないが」

山田「ではお尋ねしますが、東京から名古屋に帰郷される場合、片道いくらほどかかりますか?」

目黒検事「新幹線で1万円程度ではないでしょうか?」

山田「新幹線!出た出た、新幹線!ただただ生まれ育った我が家に帰るのに1万円もかかるなんて
   酷い話だとは思いませんか?」

目黒検事「は、はぁ」

市川警視「いやでも、夜行バスなら3千円程度で行けるんじゃないか?」

山田「1200円ならどうです?」

市川警視「は?」

山田「東京ー名古屋間を1200円で行けたらどう思います?」

目黒検事「それはすごいですね」

山田「そうでしょう。すごいでしょう」

市川警視「いやいや!、あなた一体何を言っているんですか?
     私は、山田議員が佐藤組でどんな会話をしたのかという事を聞いているんですよ?」

目黒検事「そ、そうですよ。どんな会話をしたのか、詳しくお聞かせ願いましょうか」

山田「ではお聞かせしましょう。市川さん、あなたはどこ出身でいらっしゃる?」

市川警視「いや、あのね、だから…」

山田「どこの生まれでいらっしゃるのか」

市川警視「はぁ…、大分ですけど」

山田「大分!そいつはド田舎ですね!確か下呂温泉が有名だったはずですが」

市川警視「下呂温泉は岐阜です」

山田「帰郷する際は専ら飛行機ですか?」

市川警視「ええ、そうですけど?」

山田「片道いくらで?」

市川警視「大体、15千円くらいでは?」

山田「酷い高いですね!法外だ!ぼったくりと言っても良いほどだ!」

市川警視「ではいくらなら適正だと?」

山田「1200円です」

目黒検事「なんですって!?」

市川警視「おい、あんた!ふざけてんのか!?」

山田「だが、本当にそれで行けたら素晴らしいと思いませんか~?」

市川警視「ま、まあ、それは確かに」

目黒検事「か、可能なんですか!?」

山田「可能なんです。そういう話を佐藤組長の邸宅でしたんです」

市川警視「いやいや!絶対嘘だろ!」

目黒検事「山田議員!本当の事を話なさい!」

山田「もう話した!これ以上の真実はない!以上!帰る!」

市川警視「何を言っているんですか!?帰す訳ないでしょう!」

目黒検事「そうですよ!こっちはまだ聞きたい事何一つ聞けていないんですから!」

山田「何を言っているのかね!私は任意で来たのだ!だから任意で帰るのだよ!
   それとも何かね?罪状もなしに勾留するかね?後で責任問題に問われるぞ~?」

市川警視「………」

目黒検事「参りましたねぇ」

山田「では、私は帰る。引き続き仕事を頑張りたまえよ」

山田が取調室を出る。

市川警視「ああ、山田議員」

山田「何か?」

市川警視「次会う時は必ず令状を持って参上しますよ」

山田「そうかね。では、期待せずに待っていよう」

警視庁を出た山田を高橋秘書が迎える。

高橋「どうでしたか?」

山田「物的証拠は無し。状況証拠はいくつかあるらしいがどれも弱い。当面の脅威とはならないだろう」

高橋「では、計画に変更は無しですね」

山田「ああ」

高橋「ではどこに向かいましょう?」

山田「保険屋だ。次郎にも来るように伝えろ。今日中に回れるだけ回るぞ」

ソーニー保険にて

山田「アウトバーン保険、なんてどうでしょう?」

部長「いやぁ、まだ存在すらしていない道路に保険と言われましてもねぇ」

山田「きっと命知らずの向こう見ずがバンバン事故を起こしてくれるでしょう。
   そうなりゃ儲かるのは、保険屋か病院か葬儀屋です」

部長「この話はまだ時期早尚なのでは?工事すら始まっていないんですよ?」

山田「何を仰られます!?他社との競争に乗り遅れても構わないというんですか!?」

部長「いや、そうではなくて」

山田「勘の良い担当者ならすぐ食いつくような話だと思ったんですけどねぇ。
   どうやら部長さんはそうではないらしい」

部長「いやぁ、参ったなぁ」

山田「部長さ~ん、俺が今まで部長さんを損させたことがあります~?」

部長「いえ、一度もないですけど…」

山田「だったら騙されたと思って一緒にやりましょうよ~」

部長「は、はぁ…」

山田「大丈夫ですよ~。アウトバーンは間違いなくドル箱です。寝転がりながらじゃがりこ食べてても
   莫大な利益を生み出しますよ」

部長「そ、そうでしょうか…?」

山田「信じてくださいよ。必ずうまく行きます」

部長「そ、そうですか。では、上司に打診してみます」

山田「さすが部長さん。話が分かる」

移動の車内にて

山田「次はアレクサンダイレクトへ」

高橋「了解です」

山田「そういえば次郎君、勉強会はどうだったかね?」

木村「あ、ええと…、とても勉強になりました!」

山田「こんなところで無意味な嘘をつくんじゃない。正直に言えよ」

木村「はい、退屈極まりました」

山田「正直でよろしい」

木村「そういえば、どうして山田先生は来なかったんですか?」

山田「あんな会合は無意味だと知っていたからだ。時間の無駄。
   あんなものに参加するくらいなら、近所で老人共とゲートボールに勤しむ方が遥かにマシだろう」

高橋「実際のところは警察に捕まっていたんですよ」

木村「え!?逮捕されたんですか!?ついに!?」

山田「ついにとはなんだ。任意で行っただけだよ。任意で行って、任意で帰って来た。それだけ」

木村「しかしよく行きましたねぇ。断れば良かったのに」

山田「敵情視察だよ。マッポが本腰入れたっていうからどんなもんかと思って観に行っただけ」

木村「それで、どうだったんですか?」

山田「必ず捕まえてやる!って息巻いていたぞ。仕事熱心なことで」

木村「だ、大丈夫なんですか?」

山田「もちろん大丈夫ではないが、司法が健全である証拠だからな。むしろ歓迎すべき事だ」

木村「何だか余裕ですね」

山田「そう見えるか?」

木村「そう見えますけど?」

山田「だとしたらそれは、カウンセラーから貰った薬のおかげだな。割かし効果があるらしい」

アレクサンダイレクトにて

山田「危機で保険加入者は増える。これは純然たる事実です!例の震災の折も、地震保険加入者がグイグイ増えたそうな」

取締役「はぁ」

山田「アウトバーンなんて危険な代物だと思いませんか?だって制限速度が無いんですよ?
   ああ、恐ろしいなぁ。私だったら恐ろしくて保険無しにはアウトバーンなんて乗りたくないですよ~」

取締役「はぁ」

山田「保険は有事の際に役立ちますね!でも、有事の際なんてそう滅多に来るもんじゃないし…。
   でもアウトバーンならいつも危険が付きものだから、アウトバーン保険は必須アイテムだよね~!
   さあ、どう思います?」

取締役「どう、とは?」

山田「危機感が保険加入を推し進めるんですよ。CMのアヒルがよくやってる手じゃないですか。
   あれをアウトバーンなら身を持って経験出来るんです。もう危機感バリバリっすよ!」

取締役「そんな危険なものに建設許可が下りるとは到底思えないんだが」

山田「日本人と似たような気質のドイツ人が平気な面して乗りこなしてるんですよ?
   危険な事なんて何一つないですよ」

取締役「先ほどの言葉と矛盾しているようだが?」

山田「あら、言われてみるとそうですね。でも不思議、この矛盾、何だかお金の匂いがしませんか?」

取締役「………」

山田「どうです?匂うでしょう~?」

なんでだろう? なんか面白い

次の保険会社に向かう途中の車内にて

山田「さあ、時間が無いぞ!急げ急げ!」

高橋「はい、了解」

木村「どうしてそんなに急いでいるんですか?」

山田「今日中に出来る限り多くの保険会社を説得し、明日からはついに日本各地を回ろうと思ってんだよ」

木村「何だか随分急ピッチですね」

山田「やることが多いからな。今は一分一秒が惜しい。まさにタイムイズマネー!」

木村「焦っても良いものは作れませんよ?」

山田「そんな悠長な事を言っているからいつまでも計画が実行に移らないんだ。
   お前の親父を見てみろ。呑気にのほほんとしてるから、計画書だけ作ってポックリ逝っちまったじゃねえか。
   人生は有限なんだ。何か成したい事があるなら、急いでるくらいが丁度良いんだよ」

高橋「その通りですね!では、フルスロットルで行きますよ!」

木村「あ、法定速度でお願いします」

翌日、3人は北海道にいた。

北海道庁にて

山田「初めまして、高山知事。お忙しいところ無理言ってお時間取らせてすみませ~ん」

高山「いえいえ、ようこそいらっしゃいました。お噂はかねがね伺っておりますよ」

山田「私の噂ですか?それはそれは。さぞや良い噂なんでしょうな」

高山「それで今日はどのような件で?」

山田「実は私、今日どうしても伝えたい事が一つありまして」

高山「それはなんでしょうか?」

山田「もしかしたらお気を悪くしてしまうかもしれませんが…」

高山「どうぞ御遠慮なさらず言ってみてください」

山田「北海道の鉄道はクソですね」

高山「そんなハッキリ言われると気分悪いですね」

山田「最近事故多発してますよねぇ。どうしてでしょうか?」

高山「それはやはり今までの企業体質が」

山田「企業体質を改善すると明言されてますけど、変わらないままズルズルいくのは明白ですよねぇ。
   どうしてこうなっちゃったんでしょう?」

高山「それはやはり…」

山田「ズバリ橋が無いからです」

高山「は?」

山田「歩いて来れない土地なんてただの島ですからね。北海道がいくらデカかろうが、本州から歩いて来れないなら
   ただの島です。沖ノ鳥島と同じジャンルですよ」

高山「まさかサンゴ礁と同じ扱いにされるとは」

山田「もし知事が、本気で体質改善を望まれるのであれば、迷わず橋を掛ける事です」

高山「相関関係がまるで見えてこないのですが」

山田「北海道は油断しています。穴で繋がっているから大丈夫。船で行き来出来るから大丈夫。
   飛行機で行き来出来るから大丈夫。しかし、当たり前の事が出来ない。歩いて来ることが出来ない。
   自家用車を普通に運転して来る事が出来ない。本州では当たり前の県またぎが北海道では出来ない。
   要するに孤立しているのですわ、ここ」

高山「言いたい放題ですね」

山田「もし大地震が首都を襲い、壊滅状態となってしまったとして、第2の首都はどこになると思いますか?
   そうです。北海道です」

高山「随分大胆な事を言いますね」

山田「北海道は日本で一番可能性を秘めている土地です。なんせ広いですから。
   ですがその多くは未開拓です。実質的に機能しているのは札幌周辺だけですからね。
   広さを殺しています。その原因は橋がない事です。橋が無ければ、第2首都計画もただのファンタジーです」

高山「随分、橋に期待しているんですね」

山田「そりゃそうです。福岡が栄えているのも橋があるからですよ。もしも関門橋なかったら、九州は今頃
   独立国家となっていたことでしょう」

高山「予想が大胆すぎますね」

山田「とにかく、北海道を第2の東京にしたいのであれば橋を掛ける事です。以上です。
   ありがとうございました」

高山「は、はぁ…」

知事室を出た山田。

高橋「どうでしたか?」

山田「やっちまった。橋のゴリ押ししすぎて、アウトバーンの宣伝するの忘れてた」

木村「まあ、橋がないならどっちにしろアウトバーンなんか作れないんですから、別にいいんじゃないですかね」

山田「それもそうだな」

高橋「何か適当ですね」

木村「それにしても、橋架かりますかね?」

山田「見知らぬ男がいきなりやって来て、橋架けろって訳分からん事言って橋架かるんだったら、
   少なくとも6年前には完成してただろうよ」

木村「ですよね~」


いいね

乙乙

木村「それで、次はどこへ行くんです?」

山田「大切な人に会いに行く」

木村「大切な人って?」

山田「北海道の裏の権力者だ」

大地党の事務所にて

山田「お久しぶりです。康男さん」

康男「なにやら派手に動き回ってるみたいだな。で、こちらの連れは?」

木村「あ、自由党参議院議員の木村です」

山田「俺のビジネスパートナーです」

康男「ビジネスパートナー?おい、今度は何を計画してるんだ?」

山田「アウトバーン」

康男「高速道路。公共事業か」

山田「それもかなり大規模な」

康男「どれくらい?」

山田「北海道から鹿児島まで」

康男「北海道から本州へは?」

山田「橋を架けます」

康男「それだけでもかなり費用が掛かるな」

山田「なに、端金ですよ」

康男「……、中田丸栄先生の真似事か?」

山田「いいえ、アドルフ・ヒッドラーの真似事です」

康男「……、今のところ仲間は何人だ?」

山田「木村議員だけです」

康男「……」

山田「どうします?」

康男「……」

山田「やりますか?」

康男「やるに決まってるだろ」

山田「……、つまり、大地党が全面的に協力してくれると言う事でよろしいですね?」

康男「……、もちろん」

山田「さすが康男さん。話が早い」

警視庁にて

市川警視「北海道にて高山知事と面会後、大地党の鈴村康男議員と接触したようです」

東部長「ついに接触したか」

市川警視「その後、青森県知事と面会。次に秋田県知事、その次は岩手県知事と面会…」

東部長「徐々に下って行っているわけか。面会の目的は何だ?」

目黒検事「アウトバーンです」

市川警視「アウトバーン?」

目黒検事「はい。先ほど調査課の仲間から情報が入りました。山田議員はどうやら、
     国内にアウトバーンを建設する計画を立てているようだと」

東部長「アウトバーンといえば、ドイツの?」

目黒検事「速度無制限で有名な高速道路です」

市川警視「なるほど、取り調べの時言っていたのはこの事だったのか」

目黒検事「汚職政治家と高速道路と暴力団、それに自動車業界、建設業界…」

市川警視「一気に繋がり始めましたね」

東部長「よし、更に情報を集めろ。慎重かつ大胆に…」

その頃、山田一行は福島県庁を訪れていた。

山田「どうですか、斉藤知事?復興、進んでますか?」

斉藤「いやぁ、なかなか難しくてね」

山田「そうですよねぇ。色々と大変ですよねぇ」

斉藤「そうなんだよ。ホント大変なんだよ」

山田「でも、いくらなんでも遅すぎやしませんかねぇ?阪神淡路大震災の時は5年ないし
   10年で復興したと言われていますが、東日本大震災では一体何年かかる事やら」

斉藤「まあ、やっぱり原発事故の影響が大きくてねぇ…」

山田「いいえ、そんなもん大した問題じゃないです」

斉藤「え?」

山田「知事、私は復興予算の使い方についてどうこう言うつもりはありません。
   震災の復興に何年かかろうが知ったこっちゃない」

木村「ちょっと、山田議員?」

山田「まあそんな事言っても、私だって復興のお手伝いはしたい。
   私に出来る事があるなら、そりゃもう出来る限り協力しますよ」

斉藤「山田議員は一体何が出来るんですお人なんです?」

山田「斉藤知事、もし瓦礫受け入れ問題をまるっと解決出来たら、私のお願い、聞いてもらえます?」

斉藤「どのようなお願いですかな?」

山田「アウトバーン建設計画に全面的に協力して頂きたい」

斉藤「アウトバーン?」

山田「知事、どうしてこんなに復興が遅れているんだと思いますか?」

斉藤「いや、だから原発問題が」

山田「福島がくっそド田舎だからですよ」

斉藤「何ですって?」

山田「東北は田舎です。距離的な話では無く、精神的な意味でくそド田舎なんです」

斉藤「一体どういう意味だ?」

山田「東京大阪間は400キロ。東京福島間は250キロ。大阪より福島の方が東京に近いに関わらず、
   福島の方がド田舎だ。東京福岡間は約900キロ。東京福島間より遙かに遠いにも関わらず、
   遙かに栄えている。」

斉藤「だからなんだというのだ?」

山田「栄えているところの復興は早い。関東大震災や阪神淡路大震災がそうだ。
   ハリケーン・カトリーナの被害に遭ったニューオリンズの復興は遅かった。だってド田舎だから
   だが、田舎かどうかは距離によって決まらない。では何によって決まるか?それは道路です」

斉藤「道路だ?」

山田「一日休みがあったら、福島と大阪どちらへ行きたいですか?」

高橋「大阪ですね」

山田「あら不思議!距離は倍近いのに遠い方に魅力を感じてしまうなんて!」

斉藤「さっきから君は何を言っているのかね?」

山田「精神的には大阪より福島の方が遠くにあるんです。それを解決する一番の方法が
   アウトバーンであると先ほどから説明しているのです」

斉藤「どうしてアウトバーンがその問題を解決すると?」

山田「ずばり速さと値段ですよ!従来の高速道路や新幹線や飛行機は金が掛かりすぎるし、何かと時間も掛かる。
   それに高い金を出してド田舎に観光へ行くくらいなら、都会へ行った方が何かお得感がある!
   だが低価格かつ高速で自家用車で行けるならば、その精神的ド田舎へ行くハードルもぐぐっと下がる!
   アウトバーンが完成した暁には、福島東京間は精神的距離にして千葉東京間になります!」

斉藤「そんなアホな!」

山田「被災地の復興が進まないのはマンパワーの不足によるものです。人が来なければ仕事にならない。
   だが人の往来がより楽になれば、仕事の効率も飛躍的に向上する事でしょう。
   それを可能にするのがアウトバーンです」

斉藤「そんなバカな…」

山田「誰かが言いました。福島はもう駄目だと。あそこは死の土地になったのだと。
   でも私はそうは思いません!福島は復活します!これからの日本を支えるのは地方だと!」

木村「斉藤知事、協力してください!アウトバーンは必ず被災地を助ける手になります!
   いや、日本を救う足となるでしょう!」

山田「どうかお願いします!」

斉藤「……、はぁ、話は瓦礫の受け入れ問題が片付いてからです。話はそれからです」

木村「や、やった!知事、ありがとうございます!」

山田「私に任せておいてください、知事。被災地の瓦礫など魔術師の如く消して御覧に入れましょう」

斉藤「不安だ…。頼む相手を間違えたかもしれない」

移動の車の中にて

山田「高橋急げよ~。一週間以内に47都道府県全部回るからな~」

高橋「はい、了解」

木村「どうしてそんなに急ぐんですか?」

山田「鉄は熱いうちに打て。そういう事だ」

木村「どういう事ですか?それに早く回りたいんだったら、
   仲間を先に集めて分担して回った方がいいんじゃないですかね?」

山田「君はアホなのか?一体何を言っているのかね?いいか、
   現段階でアウトバーンの有用性を理解出来る議員が一体何人いると思う?」

木村「それは…」

山田「物事を進めるには順序というものがあるんだ。正しくやらないと詰めない。
   それに、中央のやつらは信用出来ん。すぐ掌を返すからな」

警視庁にて

東部長「山田議員の動きは?」

市川警視「今もとんでもないペースで地方回りを続けてますよ」

目黒検事「この3日で20県以上回っているようですよ」

東部長「凄まじい体力だな」

福井県庁にて

山田「日本海側ってなんか、太平洋側に比べて地味すぎゃしないっすかね?」

西島知事「はぁ?」

山田「そういや福井県も相当地味っすよね。どうしてだと思います?」

西島知事「はぁ?」

山田「ずばり道路ですよ!アウトバーンがあれば今より遙かに多く人が行き来出来るようになるでしょう!
   人が動けば金が動く!金が動けば土地が栄える!土地が栄えれば国が潤う!どうです?良い事ずくめでしょう?」

西島知事「はぁ?」

こういう政財界を描くSSも良いな


ここ最近、量産型ファンタジーやラブコメSSばっかで飽き飽きしてたわ

香川県庁にて

山田「うどんブームで映画化もされましたけどどれぐらい儲けたんですかね?
   県名と同じ名前のサッカー選手がイギリスで頑張ってるみたいですけど、どれぐらい儲けたんですかね?」

浜崎知事「君は一体何を言っているの?」

山田「いつまでもうどんに縛られている訳にもいかないですからねぇ。まあ、オリーブハマチを
   海外に売り込むのもいいでしょう。ですが私は、もっと簡単に金儲けする方法を知っていますよ」

浜崎知事「ほう、それは是非聞きたいものですな」

山田「道路を作るんです」

浜崎知事「うわ…」

山田「しかもただの道路ではないですよ?なんとアウトバーンなんです!」

浜崎知事「うわうわ……」

山田「引いている場合じゃないですよ、浜崎知事。金儲けに重要なのは何と言っても人の数です。
   人の往来が多いところに金がたくさん集まります。田舎が閑散としてるのは人が少ないからです。
   アウトバーンなら気軽でなおかつ大量の人の往来が可能になります」

木村「ブームを一過性で終わらせるのは勿体なさすぎます。ブームからの継続的な人気こそ理想的だと思います」

山田「人が根付けば大都市の仲間入りだ。いつまでも五大都市圏にいいようにさせてはいけません。
   これからの主役は地方だ!五輪招致で浮かれているシティボーイ共の鼻っ面を引っ叩いてやりましょう!」

浜崎知事「急に来てそんな事言われても困るわ」

木村「ですよね~」

鹿児島県庁にて

山田「鹿児島って火山以外に何かありましたって?」

伊沢知事「おい、何か馬鹿にしてんのか?」

山田「高い金出して鹿児島に来る人なんているんすかねぇ?どうせ高い金出すんなら沖縄行っちゃいますよねぇ?」

伊沢知事「何だお前ケンカ売ってんのか?」

山田「だってここ遠すぎるんすもん。もう俺クタクタっすよ?それにここまで来るのに高速代いくらかかったと思います?」

伊沢知事「知らねえよ!」

山田「しかし鹿児島も地味になったもんっすねぇ。こんな有様になって、
   先代の島津斉彬公に申し訳が立たないとは思いませんかぁ?」

伊沢知事「先代っていつの話してんだよ!?今は21世紀だぞ!」

山田「悪い事は言いません。アウトバーン建設に協力なさい」

伊沢知事「どの立場で言ってるんだ君は!?」

山田「アウトバーンを作らない限り、ここはいつまでも辺境のコンクリートジャングルのままですよ?
   西郷どんに少しでも申し訳ないと思う気持ちがあるのなら、悪い事は言わない。
   アウトバーンを作りに協力しなさい」

木村「伊沢知事!共にかつての栄光を取り戻しましょう!」

伊沢知事「栄光もくそもあるか!ていうかアウトバーンって何なんだよ!説明雑すぎんだろ!」

民政党本部にて

松山議員「幹事長、少しお時間よろしいでしょうか?

大島幹事長「ああ、かまわないが」

松山議員「実は気になる話がありまして」

大島幹事長「なんだ?」

松山議員「自由党の山田議員をご存知ですか?」

大島幹事長「ああ。確か、自由党の悪童とか呼ばれてた…」

松山議員「そうです。その山田議員が何やら動き回ってるようで」

大島幹事長「目的は?」

松山議員「どうやら日本にアウトバーンを作るつもりでいるようです」

大島幹事長「アウトバーンだと?確かドイツの」

松山議員「そうです。あのドイツのやつです」

大島幹事長「あれを日本に作るつもりでいると?本気でか?」

松山議員「どうやらそのようです。全国47都道府県の知事全員に
     アウトバーンの有用性を説いて回ったそうですよ」

大島幹事長「何をおかしな事をしてるんだか」

松山議員「全くですね」

大島幹事長「しかし、議員の中にも変わった奴がいたものだな」

松山議員「その山田議員とかいう男、かなりの変わり種だそうですから」

大島幹事長「自由党内でも厄介者扱いか?」

松山議員「おそらくは」

大島幹事長「そうか。なら放置して問題はないだろう」

松山議員「でも万が一、このふざけた計画が通りでもしたらどうします?」

大島幹事長「その時は潰せばいい。民政党が全力を以って」

中金井カントリー倶楽部にて

山田「おお!上原さん、ナイスショット!」

上原副社長「やっぱりいいアイアン使ってるから!やっぱりいいアイアン使えば下手くそでも飛ぶわ!」

この日山田は先日約束した通り、木田カーズの上原副社長とゴルフしに来ていた。

上原副社長「それで山田君、最近ゴルフは?」

山田「あんまり出来てないんですよねぇ。最近なんだか忙しくて。
   でもまぁ、最低限練習はしてましたよ。なんせゴルフは政治家にとって義務みたいなものですからね」

上原副社長「そういえば聞いたよ。最近ご活躍だったそうじゃないか」

山田「ええまあ」

上原副社長「何でも知事全員に会って来たとか?」

山田「ええ、あれは久々に堪えましたよぉ」

上原副社長「それで成果は?」

山田「楽勝ですね。来月には着工し始めていることでしょう」

上原副社長「ほぼ惨敗か」

山田「現実は厳しいっす」

上原副社長「まあ、アウトバーン建設計画なんて相当無理のある話だったんだ。当然の結果だろうな」

山田「旨みのある話だと思うんですけどねぇ。皆さんにはもう少し想像の翼を羽ばたかせて頂ければと思ったんですが」

上原副社長「権力を持つ者は思考が硬くなっていくものだ。突拍子もないアイデアはそう受け入れられるものではない」

山田「上原さんはどうなんですか?」

上原副社長「わしは…」

山田「来年の4月の増税が決まって景気腰折れが危ぶまれる中、さてさてどうなる自動車業界」

上原副社長「どうなるんだろうねぇ」

山田「前回の増税の際は約15%の販売台数減でしたね。では、今回はどうなりますかねぇ?」

上原副社長「国内はかなりの痛手を食うだろうが、海外シェアは無傷だ。まあ、何とか乗り切れるだろう」

山田「そうですか、安心しましたよ。日本車はこの国を支えている一大産業ですからね。
   これからもしっかり稼いでもらわないと」

上原副社長「稼いで来いか?」

山田「たくさん稼いで来いです」

上原副社長「……、おい、山田君。今、どれくらい仲間が集まっているんだ?」

山田「そうですねぇ。大体千人くらいでしょうか?」

上原副社長「なるほど、十人にも満たないほどか」

山田「ええ、理解者が少なくて」

上原副社長「そうか、寂しいのう」

山田「はい、とても寂しいんですよ」

上原副社長「そうか。じゃあ、山田君。もし今日わしに勝てたら、君の好きなものをプレゼントしよう」

山田「プレゼントですか?」

上原副社長「だが負けたら、二度とわしの前に現れるな。いいな?」

山田「厳しいっすねぇ」

上原副社長「真剣勝負だからな。それで、何が欲しい?」

山田「友達が欲しいです。木田カーズ社員全員とお友達になりたいです」

この前フェスのやつ書いてた人か?

>>99
そうです

事務所に戻って来た山田。

山田「いやぁ、今日は最高のゴルフ日和だったなぁ」

木村「随分上機嫌ですね?」

山田「なぁ、次郎よ。政治家として大成したいのならゴルフの練習をする事だ。
   そしてスコア80を切るようになったら政治家として一流と言えよう」

木村「はぁ」

高橋「先生、そろそろお時間です」

山田「おお、そうか。では、行くとしようか」

木村「山田先生どちらへ?」

山田「ちょっと製薬会社へ」

木村「製薬会社?何のためにですか?」

山田「ちょっと頼み事があってな」

木村「アウトバーン関連で?」

山田「いいや、それとは別件」

木村「何か怪しいですね」

山田「何がだ?別にやましい事は何一つないぞ」

木村「怪しい」

石塚製薬にて

山田「小橋さ~ん、困った事に私、エイズになっちゃったんですよ~」

小橋取締役「あらぁ、風の噂には聞いてましたけど、本当だったんですねぇ」

山田「本当なんですよ~。本当だから困っちゃうんですよね~」

小橋取締役「誰に移されちゃったんでしょうねぇ」

山田「さあ、誰でしょうかね~。吉原のあの子か、名古屋のあの子か、すすきのか、金津園、熊本、
   もしくは上海、バンコク、ミラノ、キューバ…」

小橋取締役「あらあら、この人どうしようもない人ですねぇ」

山田「そうなんですよ。どうしようもないんですよ。だから助けてほしんですよね~」

小橋取締役「助けてと言われましても、うちの会社ではねぇ」

山田「それは分かっていますよ。私が助けてほしいのは、骨髄移植のドナー待ちの順番でして」

小橋取締役「なるほど、順番を引き上げてほしいと?」

山田「その通りです」

小橋取締役「いやぁ、それを私に言われましてもねぇ」

山田「出来ないと仰られる?」

小橋取締役「さあ、どうでしょう?」

山田「例の治験待ちの新薬の承認に協力すると言っても?」

小橋取締役「それなら話は別ですねぇ」

翌日、国会議事堂にて

大迫議員「よう山田、お前が思いついた新しい金儲けの方法ってアウトバーンの事だったんだな」

山田「あら大迫さん、知ってたんですか?」

大迫議員「今じゃ議員連中の間でちょっとした話題だからな」

山田「そうだったんですか」

大迫議員「全都道府県知事に会いに行ってアウトバーンの宣伝だもんなぁ。みんな笑ってたぞ」

山田「そんなん知りたくなかったですわ」

大迫議員「で、どうなんだ?手応えは?」

山田「ええ、そりゃもうバッチリでしたよ。もう大反響の大盛況でしたね」

大迫議員「ちょっと見ない間にすっかり脳内お花畑になっちまったな」

山田「言っておきますけど、カジノ誘致も同レベルですからね」

大迫議員「カジノ法案に加われなかったからって、そう僻むなよ」

山田「別に僻んでねえし」

大迫議員「しかしアウトバーンとはねぇ、随分突拍子もないアイディアだな」

山田「でもお金の匂いはぷんぷんするでしょう~?」

大迫議員「確かに匂うな。溝の様なひどい悪臭だが」

山田「またまた~。めちゃくちゃ興味あるくせに~」

大迫議員「何を言っているんだ?俺みたいなクリーンな政治家がそんなゼネコン汚職臭い事案に興味を持つわけないだろ?」

山田「自称クリーンな政治家である大迫議員がカジノ法案に真っ先に飛びついたというのは、
   自由党内ではなかなか有名な話であったと思いましたがねぇ」

大迫議員「カジノは大人のテーマパーク、ただの社交場だ。それはそれはクリーンなものさ」

山田「どうやら大迫さんも脳内お花畑のようですねぇ」

大迫議員「何だ?似た者同士だとでも言いたいのか?」

山田「実際その通りじゃないですかぁ?ただ大迫さんの方が俺よりもしたたかですけど」

大迫議員「お前が派手に動き過ぎなんだよ。一体何考えてんだ?」

山田「そういう役回りも必要ってことです」

大迫議員「………、かなりヤバいのか?」

山田「警察と証券屋に張り付かれています」

大迫議員「危ない橋だな」

山田「その方が大迫さんも何かと動きやすいでしょ?」

大迫議員「おいおい、面倒押し付ける気か?」

山田「じゃあ代わりに大迫さんがマーク引き付けてくださいます?そしたら俺も自由に動けるのに」

大迫議員「………、カジノ法案の方もあるから片手間になるぞ。それでもいいんだな?」

山田「十分です。大迫さんが協力してくれればこれに勝ることはない」

大迫議員「随分高く買ってくれるじゃないか」

山田「俺は金に意地汚い有能な議員は無条件で信用することにしてますから」

大迫議員「おいおい、何言ってんだ?俺は自由党きってのクリーンな政治家だぞ?」

山田「自称ですけどね」

その頃警視庁では

目黒検事「自由党の大迫議員をご存知ですか?」

市川警視「ええ、知ってますよ。山田議員とはかなり親しいようですな」

目黒検事「はい。同じ鳥取大卒で、2人とも丘松議員に師事していたようです」

市川警視「しかし、大迫議員についてはあまり良からぬ噂を聞きませんな」

目黒検事「そうですよね。彼が清廉潔白な議員だからなのか、もしくは巧くやりくりしているだけか」

市川警視「一応、マークすべきだと?」

目黒検事「そうすべきだと思いますが、今回のアウトバーン計画には加わっていないんですよね」

市川警視「ええ。ほぼ、カジノ法案に掛かりっきりですからな」

目黒検事「そうなると、私はどうしてもこっちの方が気になってしまうんですよね」

市川警視「木村次郎議員ですか」

目黒検事「はい」

市川警視「しかし、彼については何度も調べましたが、特に何も問題は見当たらなかったではないですか」

目黒検事「そうなんですが、どうして山田議員と行動を共にしているのか、やはり気になるんです」

市川警視「山田議員と犬猿の仲だった木村一太議員の息子。父が死んですぐに近付いたのは何故か」

目黒検事「何かありそうですね」

市川警視「ですな」

同じ頃、次郎は父・木村一太の秘書であった遠藤と共に墓参りに来ていた。

木村「父さーん。どうして死んじゃったの~?」

遠藤「寿命ですよ」

木村「僕を置いてかないでよ。父さーん」

遠藤「親というのは子より先に死んでいくものですよ」

木村「父さーん。父さーん。父さーん。ふぅ…」

遠藤「スッキリしましたか?」

木村「はい。父はもう逝ってしまったんです。いつまでも落ち込んでいるわけにはいきませんよね」

遠藤「そうですよ。木村先生は天国から息子の活躍を見ていることでしょうから、
   頑張っていかないと」

木村「なるほど、確かにそうかもしれませんね。よし頑張ろう!でもなぁ…」

遠藤「山田議員の事ですか?」

木村「ええ。噂に聞いてたよりも遙かにめちゃくちゃな人でした」

遠藤「そうでしたか。それで、木村先生がどうして山田議員に会うように言ったのか、分かりましたか?」

木村「さあ、さっぱり分かりませんね。それどころか会ったら益々分からなくなりましたよ。
   それにアウトバーンだって…。本当にあれはこの国の役に立つものなんでしょうか?」

遠藤「さあ、それはどうでしょうかねぇ。でも木村先生は常にこの国のため、国民の生活のために
   出来る事を真摯にやって来ました。それだけは本当です」

木村「ああ、もっと色々教わっていればなぁ。僕は知らなすぎる…」

遠藤「次郎君は本当にまっすぐに育ちましたね。それは素晴らしい才能ですよ」

木村「そ、そうでしょうか?」

遠藤「知識はいつだって集められます。お父様があなたにあの計画を引き継がせたのは、
   あなたが知識ではなく、真っ直ぐな心を持っているからこそだと、私は思います」

木村「真っ直ぐな心ですか…」

翌日、都庁にて山田達3人は犬瀬知事と二度目の面会を果たすのだった。

山田「これはこれは犬瀬知事!東京オリンピック開催おめでとうございます!」

犬瀬「君それ会う度いっつも言ってくるよね」

山田「2020年まで言い続けますよ!」

犬瀬「新手の嫌がらせか?」

山田「で、例の件考えてくれましたか?」

犬瀬「ああ、アウトバーンね。そりゃもう考えたよ。考えて考えて考え抜いたけど、やっぱりこれ無いよね」

山田「無いとはどういうことです!?」

犬瀬「いや、だからさ、現実的じゃないっていうか、それどころじゃないっていうか」

山田「現実的じゃないっていうのは分かります!しかし!それどころじゃないとはどういう事でしょうか!?」

犬瀬「だからね、7年後にはオリンピックなわけだ。その準備が…」

山田「犬瀬知事に於かれましては、東京五輪は東京都のお祭りだと思います?
   それとも国家のお祭りだと思います?」

犬瀬「そりゃあ、国家のお祭りでしょう」

山田「そうですか。残念ですが、このままでは東京都だけが盛り上がる祭りとなることでしょう」

犬瀬「どうしてなのか理由を聞こうか」

山田「金持ちの坊ちゃんは新車のフェラーリを買ってエンジン全開で吹かしてみたものの、
   車は一向に進みません。さてどうしてでしょうか?」

犬瀬「さあ?」

山田「正解はタイヤが付いていなかったからです」

犬瀬「なんじゃそりゃ!」

木村「買ったばかりの新車のフェラーリなのにタイヤが無いなんておかしいですよ!」

山田「これは今の日本の例えです。東京という高性能エンジンを搭載しているにも関わらず、
   地方にはその駆動は伝わらない。だから日本は停滞しているのです」

犬瀬「ではどうすればいいと?」

山田「そのためのアウトバーンです。前回も言いましたけど、都心と地方をダイレクトに繋ぐには
   やはりアウトバーン以外ありえないかと」

犬瀬「時間と値段設定ね。本当に採算は出るのかね?」

山田「驚くほどの利益が出るでしょう!驚き過ぎて声が出てしまうほどにね!
   そう、初めてチャイルドプレイを見た時の様に!」

犬瀬「なるほど、つまり驚くほど赤字が出て悲鳴を上げてしまう可能性もあると?」

山田「深読みしすぎです」

犬瀬「アウトバーンが日本にとって有益であると言う根拠を示してほしいのだが」

山田「根拠を示せと言われましても、なんせ日本でやるのは初めてですから。
   それでもどうしても示せと言われるのでしたら、ドイツを見てみろよ。としか言いようがありませんね!」

木村「ちなみにドイツはユーロ圏の稼ぎ頭ですよ!」

犬瀬「やはり何度言われてもリアリティがねぇ。日本にアウトバーンなんて」

山田「では犬瀬知事は五輪景気を一過性にしないためのリアリスティックなアイデアをお持ちなわけですな?
   ついでに過去最大と言われている赤字国債を全て解消するための
   リアリスティックな方法についても教えて頂きたいものですな!」

木村「ちなみにアウトバーンとかいうファンタスティックなアイデアを採用している
   ドイツとかいう国はユーロ圏の稼ぎ頭ですよ!」

山田「しかもそんなファンタスティックなアイデアを採用したのは悪名高い独裁者ですからね!
   なかなかハーケンクロイツ様様じゃないですか~?」

犬瀬「参ったね。君ら、何言っても引かなそうだね」

山田「協力すると一言行って下されば、2秒で引き下がりますよ」

木村「に、2秒でですか?」

山田「さあ、どうします?このトーキョーの大恩人たるこの私に、是非是非協力してはいただけませんかねぇ?」

犬瀬「協力ねぇ」

山田「犬瀬さ~ん、私がこのトーキョーを損させたことがありましたか~?」

犬瀬「無いね。おそらくは」

山田「だったらやりましょうよ~。さあ、私を信じて!」

犬瀬「はぁ…、参ったね。それで、まずは何からやるの?」

木村「い、犬瀬さん!」

山田「ドイツへ行きます。まずは本物を見ないと」

犬瀬「では頑張って」

そしてドイツへ。

ベルリンにて。

山田「まずはどこへ行くべきか」

木村「どうします?とりあえず壁観に行きましょうか?」

高橋「いいですねぇ!さあ、行きましょ!」

山田「おいおい!君らは何を言っているんだ!?観光か?観光気分なのか?」

木村「だって折角来たんだし」

高橋「初ドイツなんです」

山田「初ドイツとか知らねえよ!君ら一体ここに何しに来たの?ビジネスだよね?ビジネスのために来たんだよね?
   だったら遊んでないで仕事しなきゃ駄目だよね?」

木村「まさか汚職政治家にこんな事で説教されるとは」

高橋「悪徳政治家のくせに変なところで妙に真面目なんですよね」

民政党本部にて

松山議員「幹事長、自由党の山田議員についてまた情報が」

大島幹事長「山田議員?ああ、アウトバーンの」

松山議員「はい。どうやら今ドイツにいるようです」

大島幹事長「ドイツに?」

松山議員「はい。山田議員らはいくつかの大手自動車メーカーの本社に出向きそれぞれの重役たちと会談し、
     その後外務大臣、財務大臣、経済技術大臣と面会した模様です」

大島幹事長「また派手に動き回ってるようだな」

松山議員「会談の内容については分かっていませんが、間違いなくアウトバーン関連でしょう」

大島幹事長「まさか本場ドイツまで出向くとはな。本気で建設するつもりなのか?アウトバーンを?ありえない」

松山議員「ですが犬瀬知事が会議で言ったそうですよ。もしアウトバーンを作るという法案が通る様な事があるのなら、
     協力する事はいとわないと」

大島幹事長「そんな馬鹿な」

松山議員「信じがたい話ですが、この話ひょっとすると…」

大島幹事長「有り得ない事だ。どんなに動き回ろうと、この国民性だ。
      そんな突拍子もない法案、受け入れられるはずがない」

松山議員「ですよね。私もそうは思いますが…」

大島幹事長「松山君、有り得ない事を気にするよりも、もっとやるべき事があるのでは?」

松山議員「はい、そうですね。では話題を変えまして、秘密保護法案についてなんですが…」

警視庁にて

市川警視「山田議員らはドイツでの会談後、イギリス、フランス、イタリア、そしてアメリカを訪問したようです」

東部長「なんだ?観光か?」

市川警視「イギリスでは王室関係者と共に寿司を召し上がり、フランスでは国際自動車連盟に出向き…」

東部長「国際自動車連盟?」

目黒検事「確か、世界中の四輪モータースポーツの統轄機関でしたよね?F1とか世界ラリーとかの」

東部長「なんだ?おいおい、まさか日本にアウトバーンを作ってそこでレースでもしようって気なのか?冗談だろ?」

市川警視「しかしあの山田議員ですからね。有り得なくもないですよ」

目黒検事「建設すら決まっていないというのに、そんな話いくらなんでも時期尚早すぎますよ」

市川警視「そして、イタリアではフェラーリ本社を視察、アメリカでは国防総省を訪問したようです」

東部長「ペンタゴンにだと!?」

目黒検事「一体何の目的で?」

市川警視「訪問の目的については不明ですが、国防省を訪れたとなると…」

東部長「軍事目的か」

目黒検事「アウトバーンは軍事目的のために作られると言うんですか!?」

市川警視「今のところは何とも…」

東部長「山田議員の真意が分からんな。一体何を考えている?」

市川警視「更に深く調べ上げる必要がありますね」

東部長「そうだな。徹底的に調べ上げろ」

市川警視「了解」

その頃、大迫議員は小野防衛大臣に呼び出され自由党本部に来ていた。

大迫議員「失礼します」

小野「おお、来たか」

大迫議員「まさか防衛省のトップのお方に呼び出されるとは。今日一体どのような用件で?」

小野「ああ。大迫君、山田議員を知っているね?」

大迫議員「え、ええ。知っていますよ」

小野「よく知っていると?」

大迫議員「まぁ、そうですね」

小野「では、彼が先日アメリカ国防総省を訪問した事も知っているね?」

大迫議員「風の噂には聞いていましたが、本当だったんですね」

小野「訪問した目的について、何か分かる事は?」

大迫議員「彼が今動くとしたら、アウトバーン以外にはありえないでしょう」

小野「アウトバーンか。私も噂には聞いているよ。随分派手に飛び回ってるそうじゃないか」

大迫議員「どうやら彼は本気ですよ。本気でアウトバーンをここ日本に作る気でいるようです」

小野「一体何を考えているんだか。党の賛成も得ず、独断で国防総省にまで乗り込むとは」

大迫議員「まあきっと軍事目的で利用出来ると考えているのでしょうな。ああ、もしかしたら
     巧い事アメリカをけしかけて、政府にアウトバーンを作らせるよう外側から圧力を掛ける気かもしれませんね」

小野「小癪な事を」

大迫議員「山田はそういう男なんです」

小野「まあいい。続きは本人が日本に戻って来てからにしよう。大迫君、君の方からも彼に
   あまり派手な行動はしないように喚起してはもらえないかね?」

大迫議員「はい、分かりました」

小野「いや、今はカジノ法案で忙しいだろうにこんな事を頼んですまんね」

大迫議員「なに、容易いご用ですよ」

小野「では、頼みましたよ」

大迫議員「はい。ああ、でも用心してくださいね」

小野「何をだ?」

大迫議員「私がこの伝言を伝えれば、彼はおそらくここに飛び込んで来るでしょうから」

小野「はぁ」

大迫議員「どうか彼のペースに引きずり込まれないように」

何気無く読み始めたけど面白い

翌日、山田達3人が日本に帰国した。

成田空港、経成友膳にて

木村「やっぱり和食って最高っすねぇ!」

高橋「味噌汁ってこんなに美味かったんですねぇ!全然知らなかったなぁ!」

山田「俺はシュニッツェルの方が好きだけどな」

木村「だったらまたドイツに行ったら良いんじゃないですか?」

高橋「あ、だったら私お供しますよ。今度こそ壁観に行きましょうね」

山田「一人で行け」

木村「なんすか?何か冷めてますね?」

高橋「キレてるんですか?ちょっと血糖値高いんじゃないですかね?」

山田「私はね、君らがいつまでたっても観光気分でいるのが気に入らないんだ。
   やれブロードウェイに行きたいだの、やれトレビの泉に行きたいだの。
   一体君達は何をしに海外へと飛び立ったのか分かっているのかね?ビジネスだよ、ビジネス」

木村「まあいいじゃないですか。日本に帰ってきたら何かと忙しくなるんだから」

山田「あれおかしいね。俺は海外でもずっと忙しかったけど」

木村「それで、これからどうするんです?ついに政界に手を出します?」

山田「まあとりあえず仕掛けは済んだからな。そういう事になるだろう」

木村「何だかワクワクしますね!」

山田「一体何をワクワクするようなことがあるというんだ?ここからはより一層慎重にやらねばいけないというのに。
   俺なんかもうプレッシャーで胃に穴が開きそうだわ」

木村「そうなんですか。大変ですねぇ」

山田「他人事かよ」

3人は東京に戻るため、空港のタクシー乗り場まで来た。

高橋「ヘイ!タクシー!」

山田「しかしあれだな。成田東京間はいくらなんでも遠すぎはしないかね?」

木村「そうですねぇ。もっと近くあればいいですよねぇ」

山田「やっぱりアウトバーンが必要だな。アウトバーンがあれば精神的意味合いに於いて、
   成田東京間は新宿錦糸町間になるだろう」

木村「そんなアホな」

高橋「精神的意味合いの距離って一体どういう事なんでしょうかねぇ?」

山田達がタクシーを待っていたその時、2人の男が現れた。

市川警視「おかえりなさいませ、山田議員」

目黒検事「数日ぶりの日本はどうですか?」

山田「あら、こんなところで会うとは。」

市川警視「海外旅行はどうでしたか?」

高橋「とても楽しかったですよ」

山田「ここで一体何をしているんです?ここは千葉ですよ?」

市川警視「どうしてもお会いしたくなりましてね」

山田「ということは令状を持ってきたわけですか?」

市川警視「いいえ。今日はあなたに用はありませんから」

山田「おやおや?」

市川警視「木村次郎議員ですね?」

木村「は、はい。そうですけど?あ、あなたたちは…?」

市川警視「警視庁捜査二課の市川です。こちらはSESCの目黒検事」

木村「エ、エス…?」

高橋「証券取引等監視委員会ですよ」

木村「なんすかそれ?」

市川警視「木村議員、少しお時間よろしいですかね?」

木村「え?え!?」

目黒検事「少しお聞きしたことがあるんですよ」

木村「え、な、何を?」

山田「おいおい次郎ちゃ~ん、一体何やらかしたの~?」

木村「え、いや、僕、何も!」

山田「次郎ちゃんも隅に置けないな~。いつの間にそんな悪い子になっちゃったのかなぁ?」

木村「だから僕何もしてませんって!」

山田「そうかい。じゃあ何も心配する事無いだろう」

高橋「あ、先生。ちょうどタクシーが来ましたよ」

山田「おお、そうか。じゃあ頑張りたまえよ、次郎君。私達は先に帰ってるから」

木村「え!?そ、そんな!」

高橋「木村先生、ファイト!」

木村「ちょ!高橋さんまで!?」

山田と高橋秘書はタクシーに乗り込み、そそくさとその場を後にした。

木村「マジかよ…」

市川警視「木村議員、こちらへ」

目黒検事「そうお時間は取らせませんから」

木村「マジでか…」

成田国際空港警察署取調室にて

市川警視「木村議員、もしかして緊張されてます?」

木村「はい、もうガッチガチです」

市川警視「そうですか。そうだ、木村議員。国会議員としての生活はどうです?もうすぐ4か月ってところですけど?」

木村「最低です」

目黒検事「でしょうね」

市川警視「木村議員、2週間ほど前に山田議員と一緒に佐藤組組長の邸宅に入られましたね?」

木村「え?あ、いや、その…」

目黒検事「正直に」

木村「あ、はい。入られました」

市川警視「そうですか、正直でよろしい。では、そこでどのような会話が行われていたか、お話してもらえませんか?」

木村「ええと、あの、う~ん…」

目黒検事「正直に」

木村「アウトバーンです」

市川警視「他には?」

木村「ほ、他に?え、ええとですね…、ええと」

目黒検事「隠しても何もいい事はありませんよ?」

木村「いや別に隠す気なんか…!」

市川警視「ではお話し下さい」

木村「ええと何話したかなぁ…。結構前の事だし…。あ、そうだ!」

市川警視「何か思い出しましたか?」

木村「伊勢海老ですよ!美味しい伊勢海老振る舞ってもらったんですよ!」

市川警視「また伊勢海老ですか」

木村「またとは?」

木村「いやぁ、あれは美味しかったなぁ。あ、僕、伊勢海老好きじゃないですか?だから感動しちゃって」

目黒検事「いや知らねえし」

市川警視「木村議員、どうしてあなたは山田議員と一緒にいるのです?」

木村「どうしてと言われましても」

市川警視「私達はあなたの経歴も調べ上げました。ですが何も出なかった。交通違反の一つもない。まさに真っ白」

木村「何か、今までの人生何もやってこなかったみたいな感じで、それはそれで嫌ですね」

市川警視「あなたみたいなタイプの人物が、どうして山田議員なんかとつるんでいるんでしょう?」

木村「あれ?もしかして僕が呼ばれたのって、山田先生を…?」

市川警視「まあ、端的に言えばそうです」

目黒検事「私達は山田議員を追っています」

木村「そうでしたか」

市川警視「木村議員、私達に協力してもらえませんか?」

木村「いや、協力と言われましても…」

市川警視「あなたのお父上は正義の人でした。悪を許さず、いつだって困っている人の味方でした」

目黒検事「まさに市民派議員の鏡のような存在でしたね」

市川警視「もしそのお父上が今も存命でいらしたら、山田議員の汚職を許したでしょうか?いいや、許しはしない」

木村「お、反語ですね」

目黒検事「木村次郎さん、もしあなたに少しでもお父上を敬愛する気持ちがあるのなら、私達に協力してください」

市川警視「お父上は好きですか?」

木村「え、あ、はい」

市川警視「今も変わらず?」

木村「はい、もちろん」

市川警視「では協力してください」

木村「協力と言われましても、一体何をすればいいのやら…」

市川警視「山田議員に張り付いて、汚職の証拠を見つけてほしいのです」

木村「いや、それはなかなか…」

目黒検事「汚職の証拠に繋がる様な情報でもいいです。とにかく、山田議員を追い詰める条件が揃いさえすれば」

木村「証拠ですか…」

市川警視「一緒にクリーンな政治界を作りましょう、木村議員!」

目黒検事「あなたなら出来るはずだ!なんせあの木村一太議員の遺志を継いでいるのだから!そうでしょ?」

木村「は、はぁ。………山田先生を追い詰める…。僕が……」

事務所にて、先に戻っていた山田と高橋秘書はある相談をしていた。

山田「高橋君、秘書が必要だとは思わないか?」

高橋「秘書?秘書ならここに」

山田「私が言っているのは、若くて可愛くてスタイル抜群の秘書の事だよ」

高橋「ああ、なるほど。それに優秀な?」

山田「いいや、賢さはいらね。有能な秘書は一人で充分」

高橋「という事はいよいよですね」

山田「ああ。美人とはさみは使いよう」

高橋「いわゆる、目くらまし作戦」

山田「いやはや、政界が男ばかりで助かるよ!ハハハハ!」

高橋「ハハハハ!」

そこに次郎が帰って来た。

木村「今、戻りました」

山田「お、戻って来たか。どうだった?すっかり絞られたか?」

木村「いえ、全然」

高橋「精神的レイプ、いや精神的リンチは受けましたか?」

木村「いや、全く」

山田「こりゃだいぶダメージ喰らってるな」

高橋「やはり可視化法案を急ぐべきでしたね」

山田「しかし法案を通すとなると、なかなか事だぞ」

高橋「それなら、県の条例レベルで通したらいいんじゃないですかね?」

山田「確かに!それいいね!」

木村「あの、さっきから何を言っているんでしょうか?」

山田「おやおや?その様子だと、協力を申し込まれたな?」

木村「は?え、あ、何を言ってるんですか?」

山田「スパイするよう頼まれたんだろ?警察に」

木村「な、何を仰っているのかさっぱり分かりませんね」

山田「そして次郎ちゃんはその申し出を断らなかったと」

木村「なななな、何を仰っているのかさっぱり!」

山田「まあ、気にすることはない。警察に協力する事は良い事なんだから」

木村「え?あ、あの…」

山田「お前は正しい事をしていると、俺はそう言っているんだ」

木村「あの、ええとですね…」

山田はロッカーからヴィトンのバッグを取り出した。

山田「本物のヴィトンのバッグは重さ80キロまで耐えられるんだ」

バッグの中からいくつかの紙幣を取り出した。

木村「こ、これは…?」

山田「これは百菱の高島さんから貰った300万。こっちは建設会社の志摩専務の昇進のお返しに貰った700万。
   それにこっちは証券屋から貰った金の延べ棒20キロ分。それと…」

木村「これってもしかして…?」

山田「賄賂だよ」

木村「な、なんで僕に見せたんですか!?まずいですよ!」

山田「あ~あ、やっぱりスパイになっちゃったんだ」

高橋「あらら、木村先生、裏切り者なの~?」

木村「い、いや違うんです!あれは事の成り行きで!」

山田「やるって言っちゃったんでしょう~?」

木村「はい、その通りでして…」

山田「で、どうする?告発するか?」

木村「え?」

山田「俺は企業から不正献金を受け取ってるし、インサイダー取引もする。暴力団とも繋がってるし、
   資金洗浄に手を貸してるし、所得隠しも脱税もしている。それにエイズ持ちだ。
   お前はもう俺の恥部を知った。そのバッグを持って警察に行けば、いつでも俺を刑務所に送れる。
   その上で聞くが、お前はどうしたい?」

木村「どうって…」

山田「お前は政治家として正しい選択をしろ。目の前にいる汚職政治家を許せないのなら、
   今すぐそのバッグを警察に渡せ。お前はお前のしたい様にすればいい」

木村「はぁ、どうしてこんな事に…」

山田「さあ、どうする?見過ごすか、告発するか?」

木村「分かりません!」

山田「何が分からない?」

木村「山田先生という人が分かりません!こんな汚職政治家を頼る様に言った父の事も分かりません!
   僕の父が本当はどういう人だったのか、僕にはもう分からない…。
   一体何が正しいのか、僕には分からない…」

山田「じゃあどうする?」

木村「僕には分からないので、逆に考えてみる事にします」

山田「逆に?」

木村「つまり、正義の人だった僕の父がこんな汚職政治家を信用したのには何かしらの理由があり、
   山田先生が僕にこのバッグを見せたのもその何かしらの理由のためであると」

山田「その何かとは?」

木村「仮定の話で言えば、山田先生と僕の父とはコインの裏表であった」

山田「仮定の話か」

木村「仮定の話ですが、これなら先生と父が反発し合ったのも頷ける」

山田「俺があの偏屈頑固じじいと似た者同士だと言いたいのか?」

木村「お互いにとっては見栄えの悪い鏡だった事でしょうね」

山田「それでどうするんだ?俺を告発するか?」

木村「先生を告発するのはいつでも出来ます。ですが、アウトバーン建設は今しか出来ない。
   僕一人で実行出来るのであればそうしますが、そんな力はないので今は先生を生かす事にします」

山田「悪徳政治家を見逃すと言うのか?お前も悪に染まるのか?」

木村「火も毒も使い方によっては人を殺しますが、使い方によっては人を生かしますから。
   悪徳政治家とはさみは使いようですよ」

山田「なんだ?さっきの話聞いてたのか?」

木村「ええ、聞いてました。僕も美人には弱いので」

山田「そうか。政財界が男ばかりで救われたな!ハハハハハ!」

高橋「ハハハハハ!」

木村「はぁ、これで引くに引けなくなっちゃったなぁ」

山田「それでいい。覚悟を決めろよ。法案は生半可な気持ちでは通らん。なんせ国民の生活が懸かっているからな」

木村「はぁ…、何だか胃に穴が開きそうです」

翌日、国会議事堂にて

大迫議員「よう!山田!海外旅行はどうだった?」

山田「海外へは観光で行ったわけではありません。ビジネスですよビジネス」

大迫議員「そんな事は知ってるさ。ペンタゴンまで行ってアウトバーンの宣伝活動をしてきたそうじゃないか」

山田「ええ、おかげ様で国防総省の皆々様には大変ご好評でしてねぇ」

大迫議員「何で釣る気だ?」

山田「ヘリと航空機を幾つか」

大迫議員「オスプレイかよ。はぁ、やっぱそうなるかぁ…」

山田「お願いしますよ、大迫さん。そこら辺のコネはかなりのもんなんでしょ?」

大迫議員「全くもう…。俺はカジノに集中したいってのに」

山田「息抜き程度にやって下されば結構ですから」

大迫議員「息抜き程度でオスプレイ買えるかよ。まあ、何とかするさ」

山田「さすがは大迫さん。あまり期待せずに待っていますよ」

大迫議員「つまりは大きな期待を寄せているわけね」

山田「まあ、そういう事なんでよろしくお願いしますね。
   僕はアウトバーンの宣伝活動の方がとっても忙しいので、この辺で失礼します」

大迫議員「ああ、そうだ。大切な事を言い忘れていたよ。」

山田「なんですか?」

大迫議員「防衛省のトップがヒットだ」

山田「そうですか。どうやら僕らツイてるみたいですね」

大迫議員「一応言っておくが、相手はツキだけで落とせる相手じゃないからな」

山田「そうですか。そりゃまたツイてるみたいですね」

事務所にて

高橋「先生、例のものが届きましたよ」

山田「おお!来たか!」

木村「何が来たんです?」

高橋「では、こちらへ」

若い女性が入ってくる。

高橋「沖縄県から来た里美ちゃんです」

里美「里美です」

木村「か、かわいい…!」

山田「素晴らしい!」

高橋「年齢19歳、身長165㎝、Gカップ」

木村「Gだと…!?」

山田「逸材だ!」

高橋「那覇東高校卒、偏差値51。アイルランド系アメリカ人の祖母を持つクォーターで英語が少々話せる」

里美「日常会話程度ですが…」

木村「声までかわいいだと…!?」

山田「こいつ無敵か!?」

里美「よろしくお願いします」

木村「こ、こちらこそよろしく…」

山田「高橋君!よくやった!こんな掘り出し者をよく見つけてきたな!」

高橋「ええ、それはもう大変苦労致しましたよ」

山田「素晴らしい!君は有能だ!優秀過ぎる!」

高橋「お褒めの言葉、ありがとうございます」

山田「やぁ、里美君だったね。君は実に運が良い!うちは全ての政治家事務所の中でも一番の高給だからね!」

里美「そうなんですか!」

山田「ああ、そうだよ!それに厚生年金に健康保険に休業補償に有給休暇もバリバリついて、
   ボーナスだって出ちゃいますから!」

里美「そうなんですか!すごいですね!」

山田「そうだろ~?凄いだろう?」

木村「なんという可愛さだ…!」

山田「この勝負勝ったな」

高橋「勝利の女神ですね」

山田「よし!ではみんな行くぞ!」

木村「行くってどこへ?」

山田「釣りだよ釣り!」

防衛省にて

扉が勢いよく開く。

山田「小野防衛大臣閣下に於かれましてはご機嫌いかがでございましょうか!?」

小野「うおっ!?びっくりしたぁ…。ノックぐらいしろよ~」

山田「自己紹介遅れました。初めまして、山田です。こっちはビジネスパートナーの木村次郎議員」

木村「初めまして、閣下」

小野「閣下?」

山田「でこっちが秘書の高橋と里美ちゃんです」

小野「里美ちゃん?」

山田「可愛いでしょ?」

小野「お、おう」

山田「早速本題に入らせていただきますが、本当に本当にありがとうございます、小野防衛大臣閣下!」

木村「ありがとうございます、閣下!」

小野「え?何で感謝されるの?何でそんな呼び方なの?」

山田「じゃあ、小野さ~ん、大迫さんから聞きましたよ~?アウトバーンに興味津々だから
   是非是非協力したいと仰ったそうじゃないですか~」

小野「全然言ってねえわ!一体どんな伝わり方したらそんな事になるんだよ!?」

山田「小野さん、日本国憲法第9条についてどう思われます?」

小野「はい?」

山田「事や国防についての話になれば、ついて回るのが防衛省vs9条です。
   有事の際には自衛隊がいい様に使われ、平和な時には9条が持て囃され、自衛隊はゴミのような扱いをされる!
   分かります、クソむかつきますよね?」

小野「いや、そんな事もないけどね」

山田「私は腹立たしいです!自衛隊は雪だるま作るしか能がないなんて思われるのはもう真っ平です!」

小野「まあ、第11旅団は優秀だからねぇ」

山田「国防を支えているのはどっちだ!9条か!防衛省なのか!?一体どっちなんだ!私にはそんな事分からない!」

小野「分からないのかよ」

山田「しかしこれだけは分かります。お互いがお互いを弱め合っていると。お互いの力を削ぎ合い、
   本来の力を封じ込め合っていると」

木村「お互いに宙ぶらりんの状態になってしまっているんですね」

山田「このままでは、有事の際にとんでもない事になってしまう!決して来てはいけない有事の際に、
   自衛隊が本領発揮出来ないなんて事があっていいのでしょうか!いいや、あってはいけない!」

木村「お、反語!」

高橋「そうだ!そうだ!」

山田「私はこの国の平和のために、国防のために、少しは協力したいんです!」

小野「そのためのアウトバーンだと?」

山田「その通りです!アウトバーンは必ず国防の役に立ちます!」

小野「国防のために役立つと言う事は、つまり」

山田「航空機の滑走路として使用出来ます。私の試算では、全体の50%ないし85%を滑走路として利用出来ます」

木村「つまり、日本列島どこからでも戦闘機が飛び立てるんです!」

山田「それだけじゃあありません!函館大間間に橋を架けますから、
   戦車でも何でも日本中行き来出来るようになりますよ!」

乙です。
例えがマニアックだけど清水義範の作品を読んでいるみたいだ。

清水義範かぁ、国語入試のやつは読んだな

村おこしといいキャラのアクの強さが清水義範の作品と似ているw

小野「しかし、航空機に戦車って。かなりの道幅が必要になるだろ」

山田「はい。片道3車線ないし4車線。合わせて6から8車線を予定しています」

小野「そんなの造れるわけがないだろう」

山田「アウトバーンは長距離移動を旨とした道路です。都心を避ければいい。
   郊外にはまだまだ土地が有り余っていますから」

小野「そんな簡単には…」

山田「小野さん、何よりも国防を第一にアウトバーンを見てみてください。
   航空機の離着陸が出来る程道幅は広く、北海道から九州までを繋ぐ超高速道路で緊急時の出動にも適している。
   これは国防として有用でしょうか?それだけをお聞きしたい」

小野「いやぁ…」

木村「どうなんでしょうか?」

小野「どうって言われてもねぇ?」

里美「社長!がんばって!」

小野「え?しゃ、社長?」

里美「社長!しっかり!」

小野「え、あ、社長って俺のこと?いや、俺は社長じゃなくて」

山田「どうなんですか社長!?」

小野「え?」

木村「アウトバーンは有用なんですか?どうなんですか?答えてください!社長!」

小野「だから俺は社長じゃなくて」

高橋「社長!さっさと答えてくださいよ!」

小野「さっさととは何かね!さっさととは!」

山田「では、お答えください。アウトバーンは国防の役に立ちますか?」

小野「はぁ…、何なのかね君達は。はぁ…、国防からの観点ね。
   そりゃ役立つでしょ。航空機の話にしたって物資輸送の話にしたって、
   軍事上では、有って全く損はない話だからね」

木村「じゃ、じゃあ!」

小野「でも、協力はしないよ」

木村「何でですか!」

里美「協力してください、社長!」

小野「いや、だからね、私は社長じゃなくて」

里美「一緒に頑張りましょうよ?」

小野「いや、これは政治の上でとっても大切な話でね?」

山田「協力するって言わないといつまでも居座りますよ~」

小野「は?」

木村「生憎、僕たち暇なんすよ~。付き合ってもらえます~?」

小野「君達一体何言ってるのか分かってるのかね?警備員を呼ぶよ?」

里美「呼ばないでくださいよ社長~」

小野「え、えぇ…」

山田「一言、うん。と言って下されば、僕たち2秒で立ち去りますんで」

小野「に、2秒で…?」

木村「2秒でです」

小野「え、えぇ…」

翌日、大迫議員が小野防衛大臣の元を訪れた。

大迫議員「どうでしたか、山田は?」

小野「あれは一体何なんだ?まるで台風じゃないか」

大迫議員「ははは、やはり飛び込んできましたか」

小野「ああ。君の言った通り、彼のペースに引きずり込まれないように気を付けていたんだがね。
   結局は、うん。と言ってしまったよ」

大迫議員「まあ、彼の強引さに対抗できる人は少ないですからね。仕方ないですよ。
     それに、協力すると言ったところで、ただの口約束だ。いくらでも反故にすることは出来ますよ」

小野「ああ、私もそうは思うんだがね」

大迫議員「アウトバーンに可能性を感じてしまった?」

小野「バカげたアイディアだとは思うんだがねぇ」

大迫議員「話を聞いてどう思ったんです?」

小野「ああ、大迫君。君は例の震災の時の事を覚えているか?」

大迫議員「ええ、はっきりと覚えてますよ。あれはおそらく一生忘れないかもしれない」

小野「そうか、私もそうだ。あの時、被災者を救うために自衛隊にも出動要請が下りた。
   しかし行けなかった」

大迫議員「交通麻痺ですね」

小野「ああ。鉄道、飛行機、船舶、一般道、高速、歩道。全てが止まった。
   助けたくても助けに行けない。ヘリでの救助活動以外何も出来なかった。
   この国の交通網は弱い。有事の際に対して無防備すぎる」

大迫議員「もし戦争、なんて事になったらどれほどのパニックが起こることやら」

小野「ああ。今のままでは不十分だ。それを変えるには…」

大迫議員「アウトバーンですか」

小野「私も、政治家連中の笑い者になってしまうかね?」

大迫議員「いいえ。私だってカジノ法案が無かったら、そっちを手伝ってますよ」

小野「そうか……」

大迫議員「協力してあげてください、大臣。彼には今仲間が必要なんです」

小野「………、仕方ない」

その日の夜、千代田区のレストラン、カテンサスにてささやかや祝勝会が開かれていた。

山田「諸君、我々の勝利だ!」

木村「やりましたね!」

里美「おめでとうございます!」

高橋「では改めまして、山田先生、大迫先生、里美ちゃんに乾杯!」

木村「乾杯!」

山田「いやぁ、おめでたい!」

大迫議員「ちょいちょい、里美ちゃんて誰だよ?」

山田「ああ、この子が里美ちゃん。僕んとこの新人秘書です」

里美「初めまして、里美です」

大迫議員「か、可愛い…!」

山田「そうでしょ?可愛いでしょ?」

大迫議員「なるほど、目くらまし作戦か。それで大臣を釣ったと」

山田「いえいえ、僕と大迫さんのコンビネーションプレイで落としたんですよ。
   まさに完璧な二正面作戦!」

大迫議員「意味分かって言ってんの?」

木村「いやぁ、大迫議員が手伝ってくださってるとは思いもしませんでしたよ~!」

大迫議員「あ、俺が手伝ってんのはここだけの秘密ね?カジノ法案の方があるのに
     サボってると思われたら大変だから」

木村「あ、そうなんですか、大変なんですねぇ」

大迫議員「そうなんだよ、大変なんだよ。それなのに、この山田とかいう男が面倒な仕事押し付けてきやがって」

山田「またまた~、結構楽しんでるくせに~」

大迫議員「そんなわけあるか!お前のせいで睡眠時間は日に日に短くなって行ってるんだぞ!」

山田「お体には気を付けてください。健康第一ですよ」

木村「何だか言葉に重みがありますね」

大迫議員「それで、次はどうする気だ?」

山田「う~ん、とりあえずは国交省ですかね」

大迫議員「ほう、狙いは良いな」

山田「そうでしょう、そうでしょう?」

大迫議員「だが油断してると、全てが水泡に帰す可能性だってあるんだからな」

山田「大丈夫、分かってますよ。それに、俺達には勝利の女神がついてますから」

里美「私も皆さんのお役に立てるようがんばりますね!」

大迫議員「か、可愛いな…!」

木村「可愛過ぎる!」

山田「無敵か!?無敵なのか!?」


国土交通省にて

山田「赤字に増税に就職難に年金不正受給に予算削減!ただでさえヘロヘロなのに一生懸命働いても
   国民から白い目で見られる可哀想な行政機関ってどこだ~い?
   そう!国交省だよ!」

野中「………、山田、お前正気か?」

山田「野中国土交通省、副!大臣殿!ビッグマネーを掴むチャンスに興味はありませんか?」

野中「副を強調するなよ」

山田「お金大好き国交省の皆様方にとって、私達が天使に思えるような最高のプレゼントをお持ちしましたよ」

野中「ああ、アウトバーンだろ。話には聞いてるよ。大規模な公共工事。
   国土交通省が飛びつくだろうと短絡的に考えたわけか」

山田「その通りでございます!実は、国交省の皆様方が暇そうにコンクリをほじくっては埋め、ほじくっては埋めを
   繰り返しているのを見かけましてねぇ。それなら暇潰しに非情に簡単なお仕事でもどうかなぁ?
   と思い立った次第です」

野中「アウトバーン建設が非常に簡単なお仕事?」

山田「ハイ!その通り!北海道から鹿児島までバカでかい道路を敷くだけであります!」

野中「お前やっぱり正気じゃないだろ!」

山田「何を仰られます?仕事内容は実に簡単なものではありませんか。汚染水を飲み干せと言ってるわけでもあるまいし。
   規模がちょっぴり大きいからって、そう狼狽えないで頂きたいものですな」

野中「この規模でちょっぴりって!お前の定規のメモリ一体どうなっちまってるんだよ!?」

山田「この程度の公共工事なら、日本でもかつて経験済みだったかと?」

野中「あれの失敗のせいで、国土交通省はどれほど痛手を喰らったか知らないわけはあるまいな?」

山田「おやおや~?過去の失敗を今でも引きずっておられる~?
   未練深い男はモテないと、すすきののアキナちゃんが言ってましたよ~?」

野中「誰だよそいつ!それに俺は未練深くねえし!」

山田「だったらもう、過去の失敗は忘れましょう。これからは未来を見て行くのです」

野中「お前が振った話題だろうが!」

山田「野中国土交通、副!大臣殿。あなた、どうしてこんなところにいるのです?」

野中「はぁ?一体何を言っているの?」

山田「あなたほどの英傑であれば、さらに上を目指せると思うのですが、
   一体どうして何でこんなところで燻っていらっしゃるのか?」

野中「国交省のナンバー2だぞ?別に燻ってなんか」

山田「またまた~、無理しちゃって~!」

野中「何を言って…!」

山田「野中先生の野心家ぶりは自由党内でも有名な話ではありませんかぁ?
   40半ばにして国交省のナンバー2。そうですねぇ、50になる頃には…総理大臣なんてどうです?」

野中「そ、総理…!?」

山田「野・中・内・閣。個人的には素敵な響きだと思いますがぁ?」

野中「野中内閣…」

山田「どうやら気に入ったみたいですね~?しかし、どうやったらなれるものか…?」

野中「い、一体、どうやったら…!?」

山田「アウトバーンを建設なさい!さすれば総理大臣への最短コースが見えてきますよ!」

野中「アウトバーン…建設……。総理への…最短……コース………」

山田「野中内閣総理大臣殿!」

野中「は、はい!」

山田「アウトバーン建設に協力してくださいますでしょうか?」

野中「はい!もちろん!」

総務省にて

山田「須藤総務大臣は愛知出身でいらっしゃるとか?」

須藤「ええ、そうですが」

山田「という事は、好きな戦国武将は明智光秀でいらっしゃる?」

須藤「いえ、私は信長派でしてね。というか、好きな武将に光秀を上げる人ってかなり少ないと思うんですが」

山田「あら、須藤総務大臣に於かれましては織田信長がお好きでいらっしゃいましたか!
   確か織田信長といえば、明智光秀とかいう無能者に暗殺された更なる無能者…」

須藤「貴様!愚弄する気か!」

山田「あらやだ怖い。ファンはアイドルに似るという話でしたが、どうやら戦国武将にも当てはまるらしい」

須藤「山田議員、あなた一体何の話をしているんですか?というよりも何をしに来たんですか?」

山田「須藤総務大臣、あなた、織田信長公の事はお詳しい?」

須藤「え?まだ信長の話する気!?」

山田「それでどうなんです?」

須藤「え、まあ、それなりには」

山田「ではお聞きしますが、信長公のやった事で一番素晴らしかった事とはなんでしょうか?」

須藤「え、素晴らしかった事?何だろうな?」

山田「あ、天下統一がうんたらかんたらの事じゃないですからね」

須藤「えぇ、それ以外となると…、鉄砲?」

山田「残念。不正解です」

須藤「じゃあ、正解は?」

山田「敢えて語弊のある言い方をしますけど、坊主を殺して回ったことでしょう」

須藤「どうしてそんな語弊のある言い方をしたんですか!?」

山田「当時の坊主共は街道に何百という関所を設けて、交通料をふんだくっていたそうです。
   ありがたい事にそのおかげで、商人達は稼いでも稼いでも貧乏暮らし。本当にありがたい」

須藤「それのどこがありがたいんですか?全然ありがたくないじゃないですか」

山田「その通りなんです!ぜ~んぜん!ありがたくないんですよ!ほんと酷いもんですよ!クソッたれ!」

須藤「言葉が汚いですよ」

山田「しかし!残念な知らせがあるんです」

須藤「それは?」

山田「今話した事は全て、この時代に当て嵌まってしまうんです」

須藤「坊主の話がですか?どういう事でしょうか?」

山田「ズバリ高速道路ですよ!高い金払って、そこそこの速さで走らせてくれるあれの事ですよ!」

須藤「しかし、高速は国交省の管轄でしょ?信長公のように切り殺す訳には」

山田「いかないでしょうね~。だって切り殺さなくてもいいんですもん!」

須藤「なるほど、それで新しく作ると?」

山田「その通り!殺せないなら、低価格かつより高速に走れる道路を作ってしまえ、ホトトギスという事です。
   如何にも信長的発想だと思いませんか?」

須藤「確かに。しかし、本当に作れるんでしょうかね?そんな道路を」

山田「作れるか作れないか、それが問題だ。残念な事に私達には最大のキーマンがいないのです」

須藤「最大のキーマン?」

山田「それは、現代の織田信長公ですよ」

須藤「信長公!?確かに、こんな大それた改革を推し進められるのは信長公以外にはありえない!」

山田「私もそう思います。しかし、今の政界にそんな人物いるんでしょうか?」

須藤「強烈なカリスマ性と実行力を兼ね備えた国会議員ですか?そんな人、
   中田丸栄元首相以来見ていないですけど…」

山田「そうですよねぇ………。あ、いた」

須藤「え、誰です?」

山田「須藤総務大臣殿です」

須藤「え?は?え、私ですか!?」

山田「強烈なカリスマ性と実行力、そして健康な体を持つ須藤議員こそ現代の織田信長公に相応しい!」

須藤「え、いや、な、何言ってるんですかぁ?私なんか全然…」

山田「おやおや~?まんざらじゃないくせに~」

須藤「いやいや!私には強烈なカリスマ性も実行力も無いですし…」

山田「それらを持たない人が総務大臣という地位まで昇る事が出来ましょうか!いや、出来まい!」

須藤「ですが、私は…」

山田「よっ!御屋形様!是非ともこの神国日本を改革なさってください!」

須藤「よしてくださいよ、山田議員~」

山田「御屋形様意外にこの国は救えません!既得権益を打破し、楽市楽座を作り上げましょう!」

須藤「何を言うんです!?私はただの総務大臣ですよ!?そこまでの権力はないですよ!」

山田「しかし!アウトバーン建設のためには御屋形様のお力が必要なんです!
   どうか、地方で苦しんでいる商人たちを救うためにお力を貸してくださいませ!」

須藤「私の力があれば、地方の人たちを救える…?」

山田「そうです!アウトバーンが完成すれば、あなたが信長公です!」

須藤「私が…信長公……?」

山田「そうです!あなたが信長公です!」

須藤「私が……信長公………」

山田「そうです!あなたが…!」

須藤「私が………信………」


千代田区のレストラン、カテンサスにて

大迫議員「それは催眠術だな」

木村「催眠術?」

山田「だよなぁ。自分が織田信長だって思っちまうなんてどうかしてるよなぁ」

高橋「しかし、相変わらず素晴らしい話術ですね」

大迫議員「一体どんなこと言ってるんだよ?」

山田「別に特別な事は言ってませんよ。須藤総務大臣は信長が好きだって聞いたから、信長の話をしただけで」

木村「それがどうして、私が信長公。になっちゃうんですかね?」

山田「さあねぇ。それを俺に聞かれても分からないとしか言いようがないな」

里美「このリゾット美味しい!」

山田「そうだよねぇ!美味しいよね~!」

木村「分かる!分かるよ~!

里美「私このお店すごい好きかも!」

山田「そうなんだ~!好きなんだ~!」

木村「僕もこのお店好きです~!」

大迫議員「何なんだこいつら?」

高橋「魅了されてしまっているんですよ」

大迫議員「ミイラ取りがミイラにか」

高橋「彼らも本望でしょう」

大迫議員「おい、山田。アホ面かましてないで答えろよ。次はどうする?」

山田「へ?ああ。では、高橋君。次の計画に移ろうか」

高橋「はい、分かりました」

山田「では、オーナーを呼んで来てくれたまえ」

高橋「はい、今すぐ」

木村「次の計画って何の事でしょうね?」

大迫議員「さてねぇ。あいつが何考えているのかは見当がつかんよ」

奥からこの店のオーナーが出てくる。

山田「ああ、あなたこの店のオーナーさん?」

オーナー「はい、そうですが」

山田「ここの店は非常に料理も美味しく、店の雰囲気も素晴らしい」

オーナー「ありがとうございます」

里美「とっても美味しかったです!」

オーナー「喜んでいただけて光栄です」

山田「この子可愛いでしょ?」

オーナー「は、はぁ、そうですね?」

木村「はい!すごく可愛いと思います!」

オーナー「あの、それでどのような用件で?」

山田「ああ、この店はいくらかね?」

オーナー「ああ、お会計でしたら…」

山田「いやそうではなく、この店舗をいくらなら売ってくれるかと聞いているんだ」

オーナー「はい?」

翌日、山田の秘書官である里美が小野防衛大臣を訪ねるのであった。

里美「失礼します」

小野「ああ、よく来たね。今日はどのような件で?」

里美「今日はこれを預かって来たんです」

手紙を手渡す。

小野「これは?」

里美「山田先生からです。とても大切なものなので、小野社長以外には見せるなと言われてるんです」

小野「いや、私は社長ではなくてね…。まあ、いいや。それにしても、山田議員からの手紙とはな…」

里美「何が書かれているんです?」

小野「アウトバーン建設計画推進委員会へのご招待………」

里美「促進委員会?」

小野「山田め、一体何を考えている?」

里美「怒ってるんですか?」

小野「いやいや!そんな事はないけども。ああ、そうだ。ここに書かれてるカテンサスとは?」

里美「ああ、千代田区にあるレストランです」

小野「レストラン?」

里美「山田先生が買い取ったんです」

小野「は?」

里美「是非、来てくださいね?」

小野「は、はい」

千代田区のレストラン、カテンサスを小野防衛大臣が訪れた。

小野「ここか…」

山田「おお、来ましたね。小野さん」

里美「ちゃんと来てくれたんですね!」

小野「お、ああ。ちゃんと約束は守るよ」

野中「ぼ、防衛大臣!?」

小野「き、君は野中国土交通副大臣じゃないか!?それに須藤総務大臣まで!?一体どうしてここにいるのかね?」

須藤「小野防衛大臣こそどうしてここに!?」

山田「小野さん。そこに掛けて下さい」

小野「あ、ああ」

小野が円卓の椅子に座る。

小野「しかし驚いた。まさかこんなところで2人に会うとは」

野中「いやぁ、こちらこそ驚きましたよ」

須藤「全くですな」

山田「よし、全員揃いましたので、そろそろ始めますよ」

小野「今日は一体何をするのかね?」

山田「皆さん、お忙しいとこホント申し訳ありませんねぇ」

須藤「本当に忙しいからね」

野中「あまり時間は取れないからな」

山田「しかし、よくぞ集まって頂きました。ようこそ、アウトバーン建設計画推進委員会機密会議へ!」

小野「機密会議だぁ?」

須藤「え、何これ?シークレットなの?」

山田「そうです。あれ?手紙を渡された時、とても大切なものだから本人以外に見せるなと言われませんでしたか?」

小野「ああ、そういえば言われたなぁ、そんな事」

須藤「え、私普通にアウトバーン推進委員会行ってくるって言って来ちゃいましたけど?」

山田「え?」

野中「あ、俺も行って来ちゃったわ。だって手紙は見せるなとは言われたけど、内容を言うなとは言われてないし」

山田「何で言っちゃうんですか!?普通分かるでしょ!」

木村「説明不足ですよ」

山田「まあ、仕方ない。いずれバレる事だ」

小野「しかし、何故秘密にする必要があるのかね?」

野中「そもそも、許可も無く委員会なんか設立してもいいのかよ」

須藤「そうですよ。せめて自由党には知らせた方がいいのでは?」

木村「いいんです。アウトバーン建設計画推進委員会は当面の間は秘密結社ですから」

須藤「これ秘密結社だったの!?」

山田「それと、党に知らせる必要もありません。こちらが本格的に行動し始めれば、
   あちらから声を掛けてくるでしょうから」

小野「どうしてそこまで待つのかね?」

山田「それは…」

大迫議員「自由党に主導権を取られたくないんですよ、こいつは」

大迫議員が遅れて店にやって来た。

小野「大迫君、君もアウトバーン建設に協力する事にしたのかね?」

大迫議員「いいえ、私はただの見物客です。この法案がどこまで行けるのか、かなり興味がありましてね」

野中「それで、さっき言っていた主導権とは?」

大迫議員「今、党が介入してくれば、党が人事を決めて、もっとお偉方がこの法案の指揮を執るでしょう。
     そうなれば今までの様にこいつは好き勝手に動けなくなるし、
     下手すりゃこの法案から弾かれる可能性だってありますからね」

須藤「なるほど…」

山田「私、自由党に信用無いですからねぇ」

大迫議員「それは自由党に限った話じゃないだろ?」

山田「まあとにかく、自由党のいいなりにならないためにも、推進委員会に力があった方が良いってことですよ。
   そうですよね、木村委員長?」

木村「は、はぁ」

須藤「委員長!?」

野中「こいつが!?」

木村「申し訳ない」

小野「どうして木村議員なんでしょうか?彼は一年生議員でしょう?さすがに経験不足では?」

木村「おっしゃる通りで」

山田「理由は、3つあります。次郎がアウトバーン建設計画の発案者である父・木村一太から、
   直接この計画を引き継いでいるという事。そして、彼がこの法案に最も精通している人物の一人であるという事。
   更に、彼の経歴は真っ白であるという事。この3つです」

小野「アウトバーン建設は木村先生の発案だったのか」

山田「ええ。以外でしょ?」

小野「以外だな。あの真面目人間が」

須藤「1つ目2つ目は分かるとして、3つ目はやはり、世間体を意識してか?」

山田「はい、そうです。大規模公共事業というとどうしても悪いイメージが付き纏いますからね。
   その点彼なら、あの木村一太議員の息子ですし、新人議員ですから、痛くもない腹を探られずに済みますからね」

野中「なるほど」

木村「そういう事だったんですか」

山田「というのは建前でして、本当のところ、彼の役目はスケープゴートです。
   反対派のバッシング、世間様の罵詈雑言を受け止めるサンドバッグになるのが彼の仕事です」

野中「なるほどな」

須藤「ひどく納得しました」

小野「確かにこの仕事は彼以外には勤まりそうもないな」

木村「最悪だ…」

大迫議員「それにしても、山田が役付きじゃないとは意外だな。目立ちたがり屋なのに」

山田「俺はもうすでに目立ち過ぎてますからねぇ。まあ、強いて役職を付けるとするなら、
   カテンサスの現オーナーと言ったところでしょうか」

木村「本当にここ買い取る必要があったんでしょうか?」

山田「秘密基地が必要だったからね。ここでまさか会議してるなんて、あちらさんだって思わないだろ」

大迫議員「人気者は大変だねぇ」

山田「そうなんですよ。もう代わってあげたいくらい」

大迫議員「残念だが今回は遠慮しておこう」

小野「それで今後の予定については?」

山田「はい、アウトバーン法案の具体化と同時進行で仲間を集める事になります」

野中「仲間集めねぇ」

山田「皆さんには持てる全てのコネクションを生かして、一人でも多くの仲間を集めて頂きたい」

大迫議員「それをするとなると、かなり派手な動きになるな。おそらくメディアも動き出すだろ」

須藤「でしょうねぇ。この手の法案となると一体どんな報道のされ方をすることやら」

山田「メディア対策は私に任せて頂きたい。報道規制と情報操作は私の得意分野ですから」

木村「自慢するような事じゃないですよ」

山田「では小野防衛大臣、とりあえず国防に熱心な人達を煽ってみましょうか。少しは釣れるかもしれませんし」

小野「そうだな。やってみよう」

里美「がんばって下さいね!社長!」

小野「あ、ああ。頑張るよ」

野中「社長?」

須藤「小野さん、社長なんですか?」

山田「で、野中さんにはとりあえず、上司を説得してもらいましょうかね」

野中「和田国交大臣は公民党の人だからなぁ、少し苦労するかもしれんが、まあ何とかやってみるよ」

山田「さすがは野中次期首相。頼りになりますねぇ」

小野「次期首相?」

野中「ま、まあ、いつかはなりたいなぁっていう願望を込めましてね…は、ははは……」

小野「へぇ~」

山田「そして須藤さんには、こういう思い切った法案が好きそうな人を勧誘してもらいましょうかね」

須藤「よし、承知した。私の周りは革新派が多いですからね。期待してもらっていいですよ」

山田「さすがは御屋形様!いやはや心強いですねぇ」

小野「御屋形様?」

野中「何それ?」

須藤「私が、私が…信長公……。私が……信長公………」

野中「何かヤバくないですか、この人?」

小野「ああ。見て見ぬふりをしよう」

山田「そんで、大迫さん」

大迫議員「なんだ?」

山田「大迫さんみたいにこの法案面白がってる議員って他にいるんですか?」

大迫議員「ああ。かなりいるぞ。こんな面白い政策は地域振興券以来だからな」

山田「じゃあその人達を面白半分でいいんで勧誘してみてくださいよ」

大迫議員「もちろんいいさ。けど、頭のおかしい奴しか釣れないかもしれねえぞ~?」

山田「こんなイカれた法案を通そうっていうんですから、そういう人達は必要不可欠ですよ」

大迫議員「そうか、そりゃ益々面白くなりそうだ」

木村「あの、僕はどうしたら?」

山田「次郎は、お前と似たタイプの議員を勧誘しろ」

木村「僕と似たタイプ?」

山田「ああ。いわゆる市民派議員。特に無所属のやつなんかにそういうのいるだろ。
   そういう奴に話しかけてみろよ」

木村「無所属ですか」

山田「あと、親父の後援会の連中にも会ってみろよ。おそらく力を貸してくれるだろう」

木村「父さんの後援会ですか。そういえば、選挙の時以来会ってなかったなぁ」

山田「いいか、次郎。お前は何か話そうと考えた途端に駄目になるタイプだ。
   感じた事、思った事をそのままさらけ出せば、相手は必ず動く」

木村「心から話せと?」

山田「そう。お前の親父がお前にあの計画書を託したのも、お前にそれが出来るからだ」

山田「俺にはもう出来ん。議員生活が長くなればなるほど出来なくなる事だ」

木村「そういうものですか」

山田「しっかりやれよ、委員長」

木村「はい」

山田「では今日はこの辺にしましょう。健闘を祈ります」


翌日、とあるテレビ局にて

山田「バラエティはライバル局にお株を奪われ、報道はコント状態!漫画を映画化すりゃ原作者にキレられ、
   視聴率もグイグイ下がる!もうテレビの時代も終わったね…。なんて言ってたら、
   他局が倍返しで瞬間50%超え!一体何がいけなかったのか?一体何が足りなかったのか!?」

社長「面白さ?」

山田「金ですよ!金!昔のテレビにはロマンがあった!車は宙を飛び、家は爆破され、海外にヘリにバズーカ!
   それがテレビってもんでしょう?そうじゃなかったすかねぇ!?」

社長「ああ、そんな時代もあったねぇ」

山田「そんな時代を頑張って来た人が今もずっと引っ張てるじゃないですか!
   それでいいのか!それでいいのか若手!?」

社長「まあ、落ち着いて」

山田「これが落ち着いていられますか!テレビはみんなの憧れだったのに。今じゃ新宿のホストの方が高給取り。
   誰がなるねん!誰がテレビに出たい思うねん!」

社長「君、関西人なの?」

山田「雛壇に座ってビデオを見る番組が好きならそれでもいい!
   2流グルメをひたすら食べ続ける番組が好きならそれでもいい!
   しかし、今のテレビじゃ物足りないという人のために、革新的な何かをしようと思っていらっしゃるのなら
   是非是非私に協力させて頂きたい!」

社長「どのような協力ですか?」

山田「投資です」

社長「スポンサーになられると?」

山田「あ~、実はもうすでになっちゃてるんですよねぇ」

社長「は?」

山田が資料を渡す。

社長「こ、これは…!?」

山田「面白いバラエティが作れないのも、思い切った報道が出来ないのも全て金が無いせいです」

社長「見返りは?」

山田「アウトバーンを絶賛しなさい!思いつく限りのあらゆる言葉を駆使して褒めちぎるのですよ!」

国会議事堂、議員食堂にて

自由党議員A「全く政府の弱腰対応には困ったものだ」

自由党議員B「全くだ。もっとビシっと言った方がいいんだよ、ビシッと!」

小野「随分熱くなっているようだね」

自由党議員A「お、小野防衛大臣!?」

自由党議員B「どうしてここに!?」

小野「どうしてって、ここ食堂じゃない。食べに来たんだよ。まあまあ、二人ともそのままで」

自由党議員A「あの~、何かご用で…?」

小野「ああ、さっきの君たちの会話が聞こえてしまってね」

自由党議員B「あの、気を悪くされたのなら謝りますが…」

小野「いやいや!私は感心したんだよ。こうやって国を憂いてくれる者がいるというのは素晴らしい事だからね」

自由党議員A「そ、そうですか…」

小野「実はね、私も政府の対応にはしばしば苛立ちを感じていてね……」

自由党議員B「そうだったんですか!?それはまた…」

小野「しかしねぇ、強気の対応をしようにも自衛隊の力もまだまだ足りないからねぇ」

自由党議員A「9条の事もありますしね」

小野「それも確かにあるが、何よりも足りないのは、道なんだよ」

自由党議員B「道ですか?」

自由党議員A「どういう事です?」

小野「ああ。いやぁ、話したら君らはバカにするかもしれないしなぁ」

自由党議員A「何を仰るんです!」

自由党議員B「僕らが大臣を馬鹿にするわけないじゃないですか!」

小野「そうか。では聞いてくれるか?アウトバーンについてなんだが……」

国交省にて

和田国交大臣「野中君、アウトバーンを推すなんてどういうつもりだ?」

野中「超大型の高速道路ですよ!日本列島を縦断する大規模公共事業ですよ!
   国交省がこれほどの活躍が出来るのなんて本当にもう滅多にない機会なんですよ?」

和田国交大臣「しかしだね、これほどの規模となると…」

野中「この法案が通れば、10年間は国交省の予算は安泰です。
   今アウトバーンを手放せば、おそらくこれほどの機会はもう訪れないでしょう!」

和田国交大臣「いやぁ、国民が納得するかなぁ?」

野中「何よりもこの工事は、国民のためにやるのです!地方活性化のため、日本を元気にさせるためにやるのです!
   国交省がこの工事で潤うかどうかは2次的なものでしかないのです!」

和田国交大臣「いや、しかし…」

野中「分かります。恐ろしいですよね」

和田国交大臣「いや、そんなことは」

野中「かつての失敗がどうしても思い出される。分かります。私だってそりゃ恐ろしいです。
   でもあれは過去の事です。今とは状況が違う」

和田国交大臣「野中君…」

野中「和田さん、未来を見ましょう」


六本木のとあるバーにて

議員A「こうして会うのって久々だよな」

議員B「皆忙しくなったからなぁ」

議員C「須藤が連絡して来なかったらもう一生揃わなかったかもな」

議員D「だな。しかし珍しいよな。須藤が集まろうなんて言うなんて」

須藤「自分らしくない事をしてみたくなったんだよ。久々に同期を集めて飲みに来たり」

議員A「今じゃ須藤は総務大臣だもんなぁ。すっかり雲の上の人だな」

須藤「そんな事ないのにな。俺はずっと変わってないよ」

議員B「変わったのは容姿だけか?」

議員C「随分腹回りが太くなったんじゃないか?」

須藤「怠けすぎてたのかもしれないな」

議員D「大臣って仕事は怠けられるほど暇なものなのか?」

須藤「まさか、休む暇もないほどだよ」

議員A「だったら…」

須藤「なぁ、覚えてるか?議員になりたての頃、俺達は理想に燃えていた。
   この国を変えてやる。困っている人たちを助けるんだって」

議員B「ああ、そんな事も言ってたっけ?」

議員C「今となっては青臭い理想だな」

議員D「現実を知らなかったから言えた言葉だな」

議員A「そういう意味じゃ何も知らない方が幸せだったかもな」

須藤「俺はそう思わないよ。現実を知っているし、簡単には変えられないことも知っている。
   それでも理想はずっと変わってない。この国を変えられるって今でも信じてる」

議員B「おいおい、どうしたんだよ、須藤?飲み過ぎか?」

議員C「ほどほどにしとけよ」

須藤「お前ら、忘れちまったのか?ただ流れるがままに生活を続けるのか?それで満足なのか?」

議員D「おい、須藤、その辺にしとけよ」

須藤「いいや、俺は言うぞ。お前ら、」この国を変えられるって言っていたあの時の自分に、
   申し訳が立たないとは思わないのか?理想も無いのにどうやってこの国を変える事が出来るんだ?」

議員A「そんな事、お前に言われなくても分かってるよ、須藤!でもどうしようもなかったじゃないか。
    この国のシステムはそう簡単には崩せないんだ」

議員B「どうしようもなかったんだ。俺達だって抵抗したんだ。けど、どうにも出来なかったんだよ」

須藤「そんなもん、ただの言い訳じゃないか。そんなのただの負け犬の遠吠えじゃないか。
   戦う気持ちも無いのに、人の上に立っていいのかよ!」

議員C「じゃあ、どうすればいいんだよ!俺達だってどうにか頑張って来たんだ。
    でも、変えられなかったじゃないか!」

だんだんアウトバーンがリアルに素晴らしい事業に思えてきた(笑)

>>151
私(わたくし)もだ

須藤「じゃあ、今変えよう」

議員C「は?」

須藤「今、日本を大きく変えるであろう法案が準備中だ」

議員D「お前、もしかしてアウトバーンの事言ってるのか?」

須藤「そうだ」

議員A「須藤、お前…」

須藤「今、あの法案に関わっている人間全ては、この国を変えようと必死で戦っているんだ!
   俺達が理想としていた事を今まさに成し遂げようと戦っている人たちがそこにいるんだよ!」

議員B「何言ってるんだ。アウトバーンは俺達の理想ではなかっただろ?」

議員C「そうだ。あんなもん作ったって、得するのは建設業者と国交省くらいのもんだろ」

須藤「いいや、あれはただの道路じゃない。もしかしたらあれは地方を救う事が出来る唯一の方法かもしれない。
   俺はそう感じているんだ」

議員D「いや、さすがにそれは言いすぎだろ」

須藤「確かにこれは言いすぎたかもしれない。だけど、その通りかもしれない」

議員A「なぁ、須藤…」

須藤「お前らにはビジョンが見えるか?」

議員B「ビジョン?」

須藤「未来を見る目だよ。流れるまま生きてしまってる人間には決して見れない世界だ」

議員C「須藤、お前何言って…」

須藤「じゃあ、俺は帰るから」

議員D「え?もう帰るのかよ?」

須藤「もし、今のままじゃ駄目だと感じてるやつがいるなら電話してくれ。いつでも力になるから。じゃあ、またな」

須藤が店を出る。

議員A「またなってか」

議員B「おい、どうするよ?」

議員C「はぁ、参ったね」

議員D「今のままじゃ駄目か…」

国会議事堂にて

自由党議員C「大迫さん、それでアウトバーンはどんな感じです?」

大迫議員「ついに仲間集めを始めたぞ」

自由党議員C「マジですか?」

自由党議員D「絶対集まらねえだろ~」

大迫議員「それがよぉ、山田は絶対集まるって思い込んじゃっててさ~」

自由党議員C「あらら山田さ~ん、一体どうしちゃったんでしょうねぇ」

自由党議員D「急に真面目に働き出したもんだから反動が来ちゃってるんじゃないか?」

自由党議員C「はははは!」

大迫議員「そうだ、お前らも見学に来いよ。めちゃ面白いぞ」

自由党議員C「いや、遠慮しときます」

自由党議員D「途中で吹き出しちゃうかもしれないですし」

大迫議員「何なら推進委員会に入っちゃったら?」

自由党議員C「いやいや、そんなんやる訳ないじゃないですか~」

自由党議員D「そんなのやるの余程の物好きだけですよ~」

大迫議員「だよな~」

そこに一人の男が話しかけてきた。

桐原議員「失礼。自由党の大迫議員でいらっしゃるか?」

大迫議員「はい、そうですけど。そちらは?」

桐原議員「はい。私、日共党衆議の桐原です。お見知りおきを」

大迫議員「お、おう。それで何か用ですか?」

桐原議員「はい。大迫議員には山田議員の紹介をお願いしたく参上した次第です」

大迫議員「山田を?」

桐原議員「はい」

大迫議員「一体どうして?」

桐原議員「はい。私、いささかドイツを敬愛しておりまして、山田議員がアウトバーンを建設なさるおつもりだと
     聞き及び、一方ならぬ思いを抱いていたのでした」

大迫議員「は、はぁ。つまり、山田に協力したいと?」

桐原議員「左様です」

大迫議員「き、桐原議員はドイツが好きなの?」

桐原議員「はい」

大迫議員「どれくらい好きなの?」

桐原議員「いささか」

大迫議員「好きな戦車は?」

桐原議員「ケーニッヒス・ティーガー」

大迫議員「嫌いな軍人は?」

桐原議員「シュタウヘンベルク」

大迫議員「じゃあ、尊敬する政治家は?」

桐原議員「アドルフ・ヒッドラー大先生です」

大迫議員「頭のおかしい奴来たー!」

桐原議員「はい?」

大迫議員「君の事を歓迎するよ!君の様な人材を探していたんだ!」

桐原議員「そうでしたか」

大迫議員「ああ。山田も絶対喜ぶよ!間違いない!」

桐原議員「そうですか。それはなにより」

これはもう当選させちゃダメなレベルだろ

同じ頃、次郎は六本木のカフェで無所属の相澤衆議院議員と面談していた。

木村「こ、ここのクラブサンドはめちゃウマらしいんですよ」

相澤議員「緊張なさってるんですか?」

木村「はい、もうガチガチですいません」

相澤議員「あ、いえいえ」

木村「相澤さんは議員生活長いんですよね?」

相澤議員「確か13年でしたっけ。まあそう長くはないんじゃないですかね?」

木村「いえいえ!私から見たらもう大ベテランですよ!」

相澤議員「まあ、木村議員は新人さんですからね。皆、大きく感じるでしょう?」

木村「はい、その通りでして。どうしても萎縮してしまうんですよねぇ」

相澤議員「分かります。私もそうでしたから」

木村「そうなんですか。あ、そういえば、相澤さんは新潟の生まれでいらっしゃるとか?」

相澤議員「よくご存じなんですね?」

木村「あ、さっき相澤さんの事調べたんですよ。ウィキで」

相澤議員「ウィキですか」

木村「はい」

相澤議員「実は、僕も自分のウィキを見たことありまして」

木村「そうなんですか!」

相澤議員「全然大した事書いてないんですよね…」

木村「あ。いや、なんかすいません」

相澤議員「いやいや!謝らないでくださいよ!木村議員は何も悪くないんですから!」

木村「そ、そうですよね!はははは!」

相澤議員「でも、ホント書かれるような事何もしてきてないんですよね」

木村「相澤さん…」

相澤議員「13年もやって来たのに、ホント何にも…」

木村「何もって事はないでしょ?何回も当選してるんだから、それなりの評価は得て…」

相澤議員「そうじゃないんです。小さな案件でも数をこなしていれば、とりあえずは今の地位を確保出来るんです」

木村「あ、そういう事なんだ…」

相澤議員「そういうのをこなしてもさすがにウィキには乗らないですもんね」

木村「それで一発、大きな花火をって事か…」

相澤議員「はい?」

木村「相澤さん、僕とやりましょう!」

相澤議員「え?アウトバーンをですか?」

木村「そうです!やりましょう!」

相澤議員「いや、私は…そういう案件には…」

だんだんこちらにも山田の魔の手が……

木村「このままで駄目だと感じているなら、何かやるべきなんです!
   相澤さんに投票した人だってそれを望んでいるはずでしょ?」

相澤議員「でもアウトバーンは、かなり胡散臭いというかなんというか…」

木村「実は、僕少し前に新潟にも行ってきたんです。知事にアウトバーンを売り込むために」

相澤議員「へえ、そうだったんですか」

木村「はい。その時、少し驚いちゃったんですよね。新潟市ってあんなに都会なんですね。
   僕、もっと田舎だと思ってまして」

相澤議員「ああ、それよく言われますよ」

木村「それともう一つ驚いたことがありまして」

相澤議員「なんでしょう?」

木村「中田丸栄元首相の銅像があったんですよ」

相澤議員「ああ、新潟は中田丸栄先生の故郷ですからね。新潟市があそこまで発展したのは、
     あの人の力があってこそだったんじゃないかぁと私は思いますね」

木村「道路は文化ですか」

相澤議員「ええ。やはり都市は人が来てこそ栄えますから」

木村「だったら同じだ」

相澤議員「え?」

木村「アウトバーンを作る意味ですよ。都心から地方へ。遠すぎた地方への移動のハードルを下げる事」

相澤議員「ハードルを下げる?」

木村「そうです。この手の案件はどうしても悪く思われてしまいます。
   どうせ儲かるのは国交省と土建屋だけじゃないかとか。でもそうじゃなくて、アウトバーン建設の最大の目的は、
   地方を活性化する事にあると、僕は思うんです」

相澤議員「地方活性化ですか」

木村「はい。おそらくそれが父の悲願だったのではないかと思うんです」

相澤議員「お父様?」

木村「実はこの、アウトバーン建設計画は僕の父、木村一太の発案なんです」

相澤議員「木村先生がこれを?」

木村「ええ。あ、父の事ご存じなんですか?」

相澤議員「はい。自由党という大きな党に属していながらも、権力よりもまず市民、という
     確固たる姿勢を持っていた木村先生には私も敬服していたんです。まさか、あの人がなぁ」

木村「意外ですよね」

相澤議員「ええ、ほんとに」

木村「父はきっと、地方で暮らす中で苦労している人達を何とか助けてあげたかったんだと思います。
   そのためにはもっと地方に人が来るようにしなければいけないと」

相澤議員「アウトバーンならそれが出来ると?」

木村「恐らく父はそう確信していました」

相澤議員「はぁ………。私を支持してくれているのは新潟で暮らす人達です。
     その人達がどんな暮らしをしているか、私はよく分かっています。決して楽ではない暮らし。
     一向に景気は良くならない。都市部ばかりが優遇され、田舎は衰退していくばかり。
     何とかしてあげたいけど私には力が無い。この国で力を手にするには金が必要だ。
     でも、そっち側にはどうしてもいけなかった…」

木村「相澤さん…」

相澤議員「アウトバーンが本当に地方を活性化するのか、私にはよく分からない。
     でも、このまま何もしないでいるのはもう嫌だ。応援してくれる人達を助けられないのは辛すぎる…」

木村「じゃあやりましょうよ、相澤さん!」

相澤議員「本当に助けてあげられるかどうか分からないのに?」

木村「そんな事が分かるんだったら、国政はもっと上手く行ってるはずですよ。
   結局はみんな、自分の信じてる事をやるしかないんです」

相澤議員「信念があっても達成出来るものはごくわずか。しかし、信念がなければ何事も達成出来ない、か…」

木村「協力してくれますね?」

相澤議員「ええ。これがウィキに載るなら」

某新聞社にて。

山田「とある貧乏人がとある大富豪にこう尋ねました。
   『一体、あなたのようなお金持ちになるにはどうしたらいいんでしょうか?』
   そう聞かれた大富豪はこう答えました。
   『あなたみたいな人に会う事ですよ』と。
   何とその貧乏人は大富豪と面会するために100ドルも支払っていたのです。どうですか?」

本部長「どう、とは?」

山田「なんとですね、貧乏人は金持ちになるためにせっせと金持ちに貢いでいるわけですよ」

本部長「それが一体何だと言うんですか?」

山田「あれ?いまいち伝わっていない?」

本部長「いまいちどころか、全然伝わってないです」

山田「じゃあ、こんなのはいかがでしょう?5流メーカーが開発したテレビと1流メーカー西芝さんが開発したテレビがあり   ます。同じスペックで同じ保証で同じ値段。さあ、どちらを買います?」

本部長「さ、さあ?西芝さんの方かな?」

山田「ですよね~、私もそうです!同じ製品でもネームバリューで差が着いちゃうんですよね~!
   道理で金持ちは更に金を集められるわけだ!」

本部長「あの、だからその話と今日、山田先生がいらしたのと一体どのような関係が?」

山田「つまり言いたいのは、飛ばし記事を書きまくって国民から信用ズタズタの御社が更に衰退していく様が
   予言者の如く見えてしまったので、御社が失地回復するための協力を私が致しましょうという事です!」

本部長「ひどい言われ様ですなぁ」

山田「しかし!本当の事だから仕方がありません!今の御社の信用度は虚構新聞と同程度ですから!」

本部長「そんなですか!?」

山田「ここからの信用度アップは至難の業だと思いますね~。さてさてどうするやら~?」

本部長「い、一体どうすれば!?」

山田「まあ、私に任せ下さいよ。なんせ私はこの手の事案のプロフェッショナルですから。ふははは!」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「素晴らしい。3日で衆参合わせて20人も集めるとは」

木村「ほんとですね!最初は僕らしかいなかったってのに!」

小野「いやぁ、まさかあの笑われていた法案にこれほど支持者がつくとは思わなかったな」

山田「いえいえ、まだまだ増えますよ。3日で20人ですから、1か月で200人までは増えるでしょう」

野中「算数の計算やってるわけじゃないんだぞ!そんな簡単に行くわけないだろうが!」

須藤「ですがやはり、今のところ順調に来てるのは間違いないですね」

山田「ええ。どうやら私達ツイてるみたいですね」

大迫議員「ああ、そうだな。お前はツイてるよ、山田」

大迫議員が遅れてやって来た。

山田「あら、大迫さんじゃないですか」

小野「大迫君、また見学に来たのかね?」

野中「君、実は暇なのか?」

大迫議員「いや、今日はどうしても紹介したい人がいましてね。その人を連れて来たんですよ」

山田「お、誰か釣れたんですか?」

大迫議員「ああ、こいつは上物だぞ」

木村「本当ですか!どんな人だろう?」

大迫議員「素晴らしい逸材だよ。大いに期待してくれたまえ」

山田「では期待しましょう」

大迫議員「じゃあ、来てくれ」

桐原議員「はい」

桐原議員が入ってくる。

山田「あ…」

桐原議員「日共党衆議の桐原です。お見知りおきを」

山田「ど、ども…、山田です…」

桐原議員「山田議員には以前から是非ともお会いしたくありましたので、こうして面会する事叶いまして
     甚く感激しております」

山田「は、はぁ…、それはどうも…」

桐原議員「私、いささかドイツを敬愛しておりまして、アウトバーンがここ日本で造られると聞き
     喜びに打ちひしがれたのでありました。まさかここ日本にアウトバーンの有用性を理解出来る
     慧眼の持ち主がいるとは思いも致しませんでしたので」

山田「そ、そうっすか…」

桐原議員「山田議員には感謝してもしきれません。かつての同盟国にアウトバーンが建設されると知れば、
     総統閣下もさぞやお喜びになられる事でしょう」

山田「あ…、ちょっと失礼…」

山田が大迫を連れ、席を立つ。

山田「あの…、大迫さん」

大迫議員「どうだ?逸材だろ?」

山田「マジで頭おかしい奴連れて来ちゃ駄目でしょ!」

大迫議員「何言ってんだ!お前がそういう人材が必要不可欠だって言うから連れて来たんだろうが!」

山田「あれはジョーク!あれはただのジョークなんですから間に受けちゃ駄目でしょ!」

大迫議員「今更何を言ってるんだ!当の本人はやる気満々で来ちゃってるんだぞ!」

山田「連れ帰って下さいよ!大迫さんが責任を持って連れ帰って下さいよ!」

大迫議員「無理に決まってるだろ!もう遅い!仲良くやれよ!」

山田「はぁ…。マジツイてねえよ…」

山田と大迫が戻ってくる。

桐原議員「どうやら問題のようですね」

大迫議員「いやいやそんな事ないよ!君は何にも気にする事ないから」

桐原議員「そうですか」

木村「山田先生、桐原議員の事ご存じなんですか?」

山田「ああ、知ってるさ。日共党の異端児、知る人ぞ知る変人だ」

木村「変人?」

山田「それで桐原議員、日共党はどんな様子なのかな?」

桐原議員「どうとは?」

山田「日共党内にこちらになびきそうな議員はいるかな?」

桐原議員「おそらくいないでしょう。日共党内は大規模公共事業に反対し、
     アウトバーンの有用性を理解しない愚か者ばかりです」

山田「そ、そうっすか…。じゃ、じゃあ、桐原君は何が出来る人なのかな…?」

桐原議員「私はアウトバーンの盾となります」

木村「た、盾?」

桐原議員「この法案が更に勢いづけば、必ずや妨害工作を謀るものが出てくるでしょう。
     力によって阻もうとするもの、トラップを仕掛けようとするもの。
     私はそれらに対する予防策として大いに協力する事が出来るでしょう」

木村「な、何者…?」

山田「桐原議員、あ、あのぅ…、もしかして、公安出身でいらっしゃる…?」

桐原議員「いかにもそうですが?」

山田「や、やっぱり…!」

木村「山田先生…!この人もしかしてヤバい人なんじゃないですか…!?」

山田「もしかしなくてもヤバい人だよ!」

桐原議員「ご安心ください。アウトバーンは必ず守ります。
     ゲシュタポ仕込みの摘発技術を今こそ御覧に入れましょう」

木村「こえーよ!何でこんなヤバい人が議員になれたんですか!?」

山田「過激なお兄さん達から絶大な人気があるんだよ、この人は!」

木村「こえーよ!」

大迫議員「良かったな。仲良くなれそうじゃん」

山田「なれるか!」

大迫議員「でも役に立ちそうだろ?」

木村「活躍の機会がない事を祈りましょう」

山田「全くもう…、参っちゃったなぁ」

木村「あ、そうだ。山田先生、僕も紹介したい人が」

山田「お、誰だ?あ、言っておくが、もう頭のおかしい奴はいらないからな。
   もしそういう奴なら今すぐ帰ってもらえよ」

木村「いや、多分まともな人だと思いますけど…」

山田「そうか。じゃあ来てもらえ」

木村「あ、はい。さあ、どうぞ」

相澤議員が入ってくる。

相澤議員「初めまして、無所属の相澤です…」

山田「なんだ、相澤さんじゃないか!おい、次郎!緊張させんじゃないよ!」

木村「え!?僕のせいですか!?」

相澤議員「あのぉ、私の事ご存じで?」

山田「はい、もちろん。派手ではないが堅実で市民層から支持の高い議員。
   実は、あなたの様な議員を待っていたんですよ」

相澤議員「私みたいな議員を?」

山田「はい。この事業は市民のためになるという事を分かってもらいたいんですが、
   どうしても悪いイメージが付き纏いますからね」

相澤議員「でしょうね。私だってそう勘ぐってしまいましたから」

山田「ははは、そうでしたか。それで、国民の役に立つと分かってもらうために、
   相澤議員のような地方での暮らしというものをよく分かっている議員の協力が不可欠なんです」

相澤議員「どのような協力でしょうか?」

山田「直接地方に赴いて、そこで暮らす人達にアウトバーンの有用性を説いて回ってもらいたいのです」

木村「なんと!?」

相澤議員「なるほど」

山田「これは新潟に限った事ではありません」

相澤議員「日本全てですか」

山田「はい、そうです」

木村「なんと!?そんなの周りきれるわけないじゃないですか!」

相澤議員「さすがに一人では無理でしょうが、私にも仲間はいます」

山田「県議、市議、町議、地方議会にはかなりお友達がいらっしゃるのでしょ?」

相澤議員「ええ。何とか協力を頼んでみますよ」

山田「ですが、この作業には終わりとなる目安がなくてですね…」

相澤議員「法案が議会を通過したときか、着工し始めたときか、完成したときか…」

山田「かなり大変な作業になると思いますが…」

相澤議員「私はみんなに納得してもらえるまで続けるだけですよ。ずっとそうしてきましたし」

山田「お願いします」

相澤議員「喜んでお引き受けしましょう」

木村「相澤さん…」

相澤議員「絶対成功させましょうね、委員長」

木村「は、はい…!」

山田「よし!さあ、次だ。仲間は増えてきたし、メディアも動き出してきた。となると必要になるのが…」

木村「な、なんでしょう?」

山田「広告塔だよ!アウトバーンを宣伝してくれる議員さ!」

木村「それって必要ですかね?」

山田「何を言っているのかね?メディア戦略には必要不可欠だよ」

木村「そうなんですか」

大迫議員「それで、誰が良いと?」

山田「知名度があって、一般層に人気があり、爽やかで、経歴がクリーンな人です」

小野「となると彼か」

野中「彼しかいないでしょうな」

須藤「確かに彼なら最適だが…」

大迫議員「果たして引き受けてくれるかな?」

里美「彼って誰ですか?」

木村「誰でしょうね?」

翌日、国会議事堂にて

山田「あらら~?偶然?小出水新三郎議員じゃありませんか~」

小出水「あなたは確か、山田議員でしたっけ?」

山田「はい!そうでございます~!ほら、次郎!小出水様に挨拶せんか!」

小出水「様?」

木村「あ、はい!私、自由党参議院議員の木村次郎でございます!以後お見知りおきを!新三郎坊ちゃん!」

小出水「坊ちゃん?」

山田「こら!変な呼び方してんじゃないよ、次郎!すみませんね~、小出水議員。何せ1年坊なもんですから。
   ほら、ごめんなさいしなさい!次郎!」

木村「ごめんなさい、小出水議員」

小出水「は、はぁ」

山田「いやぁ、小出水議員。偶然会ったついでにちょっとお願いしたい事がありましてね?」

小出水「お断りします」

山田「は?まだ言ってな…」

小出水「用件の察しはついてます。では、これで」

山田「ちょっと待って下さい!話だけでも聞いてもらえませ…」

小出水「いえ、結構です。では」

山田「ちょ!待って!」

小出水「さよなら!」

走り去る小出水議員。

山田「お待ちくだされ~!」

木村「あ~あ、逃げちゃいましたね」

山田「追え、次郎!」

木村「はい?」

山田「何やってんだ!追うんだよ、次郎!」

木村「ま、マジですか!?」

山田「決して逃がすな!何としてでも捕まえろ!地の果てまで追いかけ回すんじゃ!」

木村「は、はい!」

山田「追え、次郎!」

木村「はい!」

山田「追え~!」

その4時間後、トミタモーターズにて

山田「お久しぶりです。片桐常務」

片桐常務「いやぁ、お久しぶりですね。1か月ぶりぐらいでしょうか」

山田「そうですね。それくらいだと思いますよ」

片桐常務「そうですか。あれ、何かお疲れです?」

山田「あ、ああ、思いのほか抵抗が強かったものでして」

片桐常務「抵抗?」

木村「さすがに若かったですね。あんなに逃げ回るとは思いもしませんでしたよ」

片桐常務「逃げ回る?先生方、一体何をしていたんですか?」

山田「ああ、猫が逃げたんです」

片桐常務「はぁ、猫ですか」

木村「まあ、大きさ的にはグレート・デーン並でしたけどね」

片桐常務「そんな猫いるんですか!?」

山田「あ、そうだ。先日はどうも」

片桐常務「ああ、いえいえ。どうですか?その後順調ですか?」

山田「ええ。それはもうバッチリですよ。それで、実はですね。私、車買っちゃったんですよ」

片桐常務「あ、そうなんですか!」

山田「ええ、そうなんです。何買ったと思います?」

片桐常務「さあ、なんでしょうか?」

山田「例のレッグスの新車ですよ。もうずっと欲しかったので」

片桐常務「あら、買ってくれたんですか!?ありがとうございます!」

山田「いやいや、ありがとうを言いたいのはこっちの方ですよ!本当にいい車だ」

片桐常務「そう言ってもらえると嬉しいですねぇ」

山田「片桐さんにはいくらかバックしないといけませんね」

片桐常務「いえいえ、私も美味しい思いをさせていただきましたから」

山田「あら、そうでしたか」

木村「あの~、一体何を話していらっしゃるんですか~?」

山田「ああ、そうだ。用があって来たのに、長々と無駄話をしてしまいました」

片桐常務「用ですか?」

山田「実はお願いがありましてね」

片桐常務「お願いですか?」

山田「はい。実は、アウトバーンを宣伝するためのCMを作ろうかと思っていましてね」

片桐常務「ほう、CMを」

山田「ええ。それで、車好きで尚且つ国民人気の高い有名人をキャスティングしたいなぁと考えていましてねぇ。
   片桐さん、そういった人物に心当たりはないですか?」

片桐常務「う~ん、そうですねぇ」

山田「出来ればその人を紹介して頂きたいんですが~」

片桐常務「紹介するのはやぶさかではないですが、誰がいいかなぁ」

山田「じっくり考えてみてください」

片桐常務「あ、そういえば、フランスで国際自動車連盟に行ったってほんとですか?」

山田「ああ、本当ですよ。アウトバーンを売り込んできたんです」

片桐常務「アウトバーンでレースでもする気なんですか?」

山田「はい、その通りです。日本列島を縦断する超高速レースをやりたいなぁと考えているんです」

片桐常務「それ本気なんですか?」

木村「フランスでも同じ事言われましたね」

山田「無論、本気ですよ。でもね、そう伝えたらじわじわと興味持ってもらいましてね」

木村「最終的にはアウトバーンが完成したら、視察に来てもらうって事に決まったんですよ」

片桐常務「それ本当ですか!?それめちゃくちゃ凄い事ですよ!?」

山田「アウトバーンは出来れば、2020年には完成させたいと思っているんですよねぇ。
   もしそうなれば、東京五輪と四輪レースの両方が楽しめる素晴らしい年になりますよねぇ」

片桐常務「そりゃまたとんでもない計画ですねぇ」

山田「でも素敵だと思いませんかぁ?」

片桐常務「確かにそうかもしれませんねぇ。あ、そうだ。思い出した」

山田「何をです?」

片桐常務「とっておきの人がいますよ」

おつ

移動の車内にて

木村「山田先生、いつ車買ったんですか?」

山田「つい先日。臨時収入が入ってね」

木村「臨時収入?」

山田「ああ。最近、株で大儲けしてな」

木村「株…。あの、まさかとは思うんですが…?」

山田「おお、察しが良いな。当然、インサイダーだよ」

木村「やっぱり…」

山田「なに、別にいいではないか。トミタ株で儲けた金でトミタの車を買う。一体何が問題だというのだ?」

木村「問題も何もガッツリ犯罪やっちゃってんじゃないすか!」

山田「私は消費に貢献しただけなのだよ!迫りくる増税に向けて少しでも企業に協力しなくてはならないのだ!」

木村「だからって犯罪に手染めていい理由にはならないでしょうが!それでいくら儲けたんですか?」

山田「2億」

木村「に、2億ですと!?」

山田「今はとにかく軍資金が必要なんだよ。なりふり構っていられるか!」

木村「絶対告発してやる!この計画が終わったら絶対告発しますからね!」

山田「ああ、好きにすればいいさ!警察怖くて汚職政治家やってられるかよ!」

木村「あんた開き直りすぎだろうが!」

とある日のニュース番組

キャスター「さて、今日最初にお伝えするのは、今国会議員の間で話題になりつつある、
      アウトバーン建設計画についてです。北島さん、このアウトバーン建設計画についてですが、
      これは一体どういうものなのでしょうか?」

知識人、北島が答える。

北島「う~ん、これね。あのぅ、ドイツのね。あのぅ有名な高速道路あるでしょ?あれをね、
   日本にも作っちゃおうっていうかなり大胆な計画なんですよね、うん」

キャスター「高速道路ですか?それは今あるものとは違ったものなのでしょうか?」

北島「まぁ、そうですね。違うところは大きく分けて2つ。制限速度が無いって事と、
   低価格で利用出来るって事。この二つでしょうかね、うん」

キャスター「低価格とはでの程度なのでしょうか?」

北島「ま、聞いた話によると1200円だそうです」

キャスター「1200円?区間はどれくらいででしょうか?」

北島「それが、区間は無いそうなんですよ」

キャスター「区間が無い?」

北島「ええ。一度乗ったらどこまで行っても1200円。北海道から鹿児島まで走っても
   1200円で利用出来るそうですよ。まあ、本当の事だかどうかは分かりませんけど」

キャスター「それは凄いですね!しかし、北海道からとはどういう事でしょうか?」

北島「どうやら函館と大間を橋で繋ぐというのも計画も中に取り込まれてるようなんです」

キャスター「北海道に橋が架かるんですか?」

北島「はい。そうなんです」

キャスター「何だか途轍もなくスケールの大きい計画のようですね」

北島「そうですね。これが実現すれば、日本はまた大きな変化を遂げることでしょうね」

キャスター「頻繁に長距離移動をする方にとっては朗報となりそうです。
      では、次のニュースです」

そのニュース番組を見ていた大島幹事長はテレビの電源を切った。

大島幹事長「どう思うかね?」

松山議員「どこのテレビ局も好意的に報道しているようですね」

大島幹事長「ああ。さっき局なんかは、アウトバーンを大絶賛していたな。地方経済を救う救世主だのと」

松山議員「好意的に報道しているのはテレビだけではありませんよ。ラジオ、新聞、雑誌、ネット。
     大手と呼ばれる企業はほぼ、建設派寄りと言って良いでしょう」

大島幹事長「一体いくらばら撒いたんだか?」

松山議員「これをやったのは山田議員でしょうか?」

大島幹事長「あの男がこれを?まさか。あの3流政治家にそれほどの資金があるとは思えん」

松山議員「裏で糸を引いている者がいるのでしょうか?」

大島幹事長「………。どうやらこちらも警戒した方が良さそうだな」


警視庁にて

市川警視「山田議員はかなり広範囲に金をばら撒いているようですね」

目黒検事「どうやら彼には大口のスポンサーがついているようですな」

市川警視「目黒検事、山田議員の政治資金の出所をご存じで?」

目黒検事「はい。確か、山田会とかいう在り来たりな名前の団体が資金を管理してましたよね。
     その収支報告によれば、自動車業界、製薬業界、建設業界、石油業界、メディア業界などなどから
     小口の寄付を受け取ってるようです」

市川警視「金の成るところへはお構いなしか。軍資金には苦労しないというわけですね」

目黒検事「そんなスポンサー達がいるにも拘らず、計上額はたったの2千5百万。
     これはもう、あからさますぎますね」

市川警視「なのに捕まえられないというのは、一体どうしたものかな…」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「金儲けが得意な議員の元に金は集まる。何故なら損しにくいから。国会議員を使って金儲けがしたい輩というのは
   一定数いて、そいつらは大体金持ちだ。金を更に効率よく稼ぐために国の仕組みを変えたいのさ」

木村「なんだかお金持ちばかりが優遇される政治になってしまいそうですね」

山田「それがもうなってしまっているんだよ。現に所得格差はどんどん広がっていて、地方は疲弊しきっているじゃないか」

木村「では、どうすればいいと?」

山田「更に金持ちに金を集めさせればいいのさ」

木村「はい?」

山田「金持ちに金が集中すればするほど、政治資金は集めやすくなる。大金があれば権力は強化されるから、
   デカい事業が出来るようになる。そうすれば、地方を救う道を作るにも都合が良いというわけだ。
   それに地方開拓は金持ちにとってもかなり興味のある話題なんだよ。
   都市部だけで頑張っても経営は苦しくなると、ここ数十年の間でだんだん分かって来たからね」

木村「でも、大口の献金って違法ですよね?」

山田「そうだな。だからお前みたいな市民派貧乏議員には全く関係ない話だ」

木村「でも、汚職までしないと地方を救えないなんて、おかしいっていうか哀しいですね」

山田「全くだな。お前が総理大臣になって国家の仕組みを変えてくれよ。まあ、一生無理だろうけど」

木村「なんでしょう、この何とも言えない苦い気持ちは」

山田「国会議員なんて要するに歩く銀行なんだよ。いや、歩く証券会社か?
   とにかくいい投資先になれば人気も出るぞ、良い奴からも悪い奴からもな」

木村「悪い奴からの人気はいらないと思うんですが」

山田「何を言ってるんだ。この国は一定の悪党には選挙権を認めているんだぞ?
   悪党だって議員から見れば立派な雇い主なんだ。そう冷たくしてやるなよ」

木村「山田先生は過保護にしすぎですけど」

山田「俺は人を差別しないだけさ。なんだ?もしかしてお前レイシストなのか?」

木村「僕は先生の灰色の世界について行けないだけです。寛大さと節操無しは別物ですよ」

山田「困っている人や助けを必要としている人に手を貸すのが議員の仕事だろ?
   悪党にだって守りたい家族はいるだろうし、どんな仕事だろうがプライドを持ってやってるんだろ?
   だったら俺は応援してやりたいね。俺は頑張っている人の味方だ。そう、愛だよ愛」

木村「それを立派な宗教学者が言ったのなら、さぞやありがたく聞こえるんでしょうが、
   ガッツリ犯罪犯しちゃってる3流議員に言われても、なんだかなぁって感じですね」

山田「あ、お前、人の見掛けに左右されるタイプだな?気を付けろよ。
   お前みたいのが一番ハニートラップに引っかけやすいんだから」

木村「その忠告だけは心に留めておきます」

大迫議員「それにしても、皆さんテレビ見ました?何ですか、あの報道の仕方は?」

須藤「見事にどの局もアウトバーンを褒めてましたよねぇ。何か違和感を通り越して気持ちが悪いと言いますか」

野中「ありゃ洗脳だよ洗脳」

大迫議員「金で買収されるメディアって一体何なんでしょうねぇ。報道人としてのプライドはないんでしょうか」

山田「元々メディアというのは、人が興味出る様にいかに面白く書くか、いかに金になる記事を書くか。
   という事を念頭にして考えていますからねぇ。つまり、金にならないが真実を書く記者よりも、
   金になるが嘘ばっかり書く記者の方が、メディアとしては正常なのかもしれませんよ?」

大迫議員「いかにも3流議員らしい、お粗末な考え方だな」

小野「それで一体どれくらいばら撒いたんだ?」

山田「なに、はした金ですよ。重要なのは金じゃなく、信頼関係ですからね。私が議員になりたての頃から、
   メディア関係者に種を蒔きまくっていたのが、こういう時に花開くんですよ」

大迫議員「まあ、ご立派ですこと。全ての議員志望の若者たちがこぞってお前を反面教師にする事だろうよ」

山田「俺の魂の片鱗が若い世代に受け継がれるかと思うと、何かこう胸が熱くなりますね」

大迫議員「胸やけでもしてんじゃねえのか?」

木村「でもやっぱり、メディアによる洗脳なんて僕には好きになれそうにもありません。
   アウトバーンが本当に魅力的なものなら、こんな方法を使わなくても伝わるはずじゃないですか?」

山田「何を言っているんだ?君は、国民がメディアが言った通りに動くアホだとでも思っているのか?」

木村「そんな事思うわけが無いでしょ!」

山田「じゃあ聞くが、君は女性が化粧することについてどう思う?スッピンの時とまるで違う。
   これは詐欺だ!洗脳だ!マインドコントロールだ!そう思うのかね?」

木村「いあや、さすがに洗脳とまでは思いませんよ」

山田「だったら同じだ。俺はアウトバーンに化粧を施しただけ。見栄えを少し良くするためにね。
   ほんのちょっとの乙女心だよ」

野中「物は言いようだな」

小野「ほとんど屁理屈じゃないか」

高橋「山田先生、やっぱりゲイなんですか?」

山田「ゲイじゃねえし!例えがちょっと女性的だったからって疑ってんじゃねえよ!」

高橋「そう必死になる所が逆に怪しいですね」

山田「やめろ!痛くもない腹を探るんじゃないよ!そこには何もないんだから!」

その時、小野防衛大臣の元に一本の電話が掛かって来た。

小野「はい、もしもし。はい…、あっ、はい、そうですか。はい、分かりました。そう伝えておきます」

電話を切る。

小野「はぁ…」

野中「どうかしましたか?」

須藤「誰からです?」

小野「山田議員」

山田「はい?」

小野「待ちに待った電話だ」

山田「ほう…」

木村「一体、誰からなんですか?」

小野「矢部内閣総理大臣からの御指名の電話だ」

山田「来ましたか…!」

木村「なんと!?」

須藤「いよいよですね!」

野中「ついに来たか!」

大迫議員「こりゃ益々面白くなって来たな」

桐原議員「山田議員」

山田「ん、ど、どうしたかな?」

桐原議員「このチャンスを落とせば、アウトバーン建設への道のりは一気に遠ざかります。
     決してミスを為されません様に」

山田「も、もしミスっちゃったら、ど、どうします…?」

桐原議員「その時は、無事に家に帰れるとは思わないでいただきたい」

山田「こえーよ!」

大迫議員「いいぞいいぞ!もっとプレッシャー掛けてけ!
     どうせもう引き下がれないんだ!背水の陣で行けよ!」

山田「あんた面白がってるだけでしょうが!」

小野「そういえば大迫君、今日も来てるんだね」

野中「やっぱり君、暇なのか?」

総理大臣官邸にて

山田「失礼します」

扉が開く。

矢部首相「来ましたね」

山田「初めまして、総理。山田です」

矢部首相「最近は大活躍ですね、山田議員」

山田「いえいえ、それほどでもないですよ。ああ、こちら紹介します。
   アウトバーン計画のリーダー、木村次郎議員です」

矢部首相「こちらがリーダー?」

木村「あ、僕リーダーだったんですか?」

山田「そうだよ。推進委員長でリーダー。え、知らなかったの?」

木村「完全に初耳なんですけど」

山田「ああ、そうか。まあ、いいや。じゃあほら、挨拶して」

木村「あ、はい。始めまして、自由党参議院議員の木村次郎です」

矢部首相「初めまして」

山田「で、こっちいるのが秘書の高橋と里美ちゃんです」

矢部首相「里美ちゃん?」

山田「そうです。可愛いでしょ?」

矢部首相「ええ。可愛いですね」

山田「あれれ?」

高橋「効果なしですね」

山田「さすが総理」

矢部首相「山田議員、近頃は随分と好き勝手にやっているようですね?
     党の賛成も得ずにアウトバーンを推し進め、うちの大臣たちをたぶらかし」

山田「別にたぶらかしてなどおりませんよ。皆さんには自分の意志で協力してもらっているのですから」

矢部首相「須藤総務大臣が、私は信長公…と呟くようになったのも、彼自身の意思によるものだと?」

山田「あれは不幸な事故でした」

木村「誰も催眠を解く術を知らないのです」

矢部首相「千代田区にあるレストランで、怪しげな会合を開いているようですね?」

山田「何を仰いますか?私共は決して怪しい集会など開いてはおりませんよ?」

木村「僕ら治安維持法に引っ掛かる様な事は一切しておりません!」

矢部首相「君らは学生運動家なのか?」

木村「違います!」

矢部首相「でしょうね。それで、今仲間はどれくらい集まったのかな?」

山田「衆参合わせて約60名ほどですな」

矢部首相「本当は?」

木村「衆参合わせて32名です、総理!」

山田「正直に言うな!」

矢部首相「正直でよろしい!」

山田「総理、今日私共が来たのは他でもない、あなたにプレゼントを持ってきたからです」

矢部首相「プレゼント?」

山田「4本目の矢です。しかもただの矢ではありませんよ?チタン合金で出来た決して折れる事の無い矢です!」

矢部首相「つまり、加工しにくい上に高上がりな矢を押し売りに来たと?」

山田「深読みしすぎです」

山田「総理、私共はアウトバーンが、政府が推し進めている矢部ノミクスと
   非常に相性が良いという事を発見してしまったのです。そう偶然にも」

矢部首相「というと?」

木村「ある種、必然だったかもしれませんね」

山田「そうかもしれないな」

木村「きっとそうですよ」

山田「そうに違いない」

矢部首相「話進めろよ!」

木村「すみません」

山田「2005年!ウォールストリートジャーナール!に於いて発表されたアメリンカンプレジデンテの
   学術調査ランキングです!1位ジョウジ・ワシントン!2位アブラハム・リンカーン!では3位は?」

木村「分かりません!」

矢部首相「ジェファーソン?」

山田「残念!ジェファーソン4位!」

木村「ああ、4位か!総理、残念!」

矢部首相「お、おう」

山田「3位はなんと、フランクリン・ローズベルトなんです!」

木村「なんですって!あのフランクがですか!?」

矢部首相「君ちょっとうるさいね」

木村「すいません!」

山田「やっぱりローズベルトといえばあれですよね~」

木村「ああ、あれですか~」

山田「そうそう!あれあれ~」

木村「やっぱあれですね~」

矢部首相「いい加減話進めなさいよ!」

木村「すいません」

山田「やはりローズベルトといえば、ニューディール政策。世界恐慌を克服するために行った経済政策。
   大規模な公共事業と雇用対策。そして、ヒッドラーとアウトバーン。こちらも大規模な公共事業と雇用対策
   そして今、矢部ノミクスと国土強靭化。10年で200兆円規模の公共事業」

木村「おやおや~?共通項が見えてきましたよ~?」

山田「そしてニューディールといえば、高橋是清のリフレ政策のパクリだと言われてますよね?
   そういや、是清先生は積極的に支出を増やそうとしてきましたな」

木村「矢部ノミクスの大胆な金融政策に通じるものがありますな!」

山田「そしてTPP!」

木村「環太平洋うんたらかんたら!」

山田「友達だけで仲良く貿易するあれですよねぇ。でもあれって要するにブロック経済ですよね?
   あれ?ブロック経済といえば…」

木村「世界恐慌!?」

山田「あれれ~?もしかして今って、世界恐慌真っただ中なんですかね~?」

木村「確かにアメリカも韓国もデフォルト寸前!ギリシャは破綻!スペインの若者の失業率はなんと60%!
   日本も赤字国債ヤバい事になってますし!完全失業者数は260万人!」

山田「これはもう完全に来ちゃってますね」

木村「ええ、これはもう来ちゃってますよ」

矢部首相「何が来てるの?」

山田「矢部さ~ん、アウトバーンを使って大規模雇用対策やっちゃいませんか~?」

木村「人材はかなり余っちゃってるみたいだしやる価値あると思うんですよね~」

山田「消費税増税で景気腰折れはないとエコノミストの皆さんは仰っているようですけど、私の試算聞きます~?」

木村「聞きたいで~す」

山田「腰折れする確率はなんと脅威の100%です~!」

矢部首相「一体どんな試算の仕方したらそうなるんだよ!?」

山田「しかし!それを回避する方法が一つだけあります!」

矢部首相「それがアウトバーン建設だと?」

山田「その通り!アウトバーンなら大規模な雇用対策になるし、景気対策になるし、地方活性化にも繋がるし、
   国防にも役立つし、災害時の復興支援にも役立つし、モータースポーツが楽しめるから娯楽にもなる!
   つまり、一石六鳥の超お得なフルコースという事なのです!」

木村「しかも北海道に橋が架かるんですものね!」

山田「どうです?この、ローズベルト的でヒッドラー的で是清的で中田丸栄的で織田信長的な政策は?」

矢部首相「どう、とは?」

山田「つまり、人柄はあれとしても、この5人に共通するのは超有能だって事です!」

木村「大規模な雇用対策を行った政治家はみ~んな国民からの高い人気を得たそうですよ~?」

山田「なりたくはありませんかぁ?カリスマに~?」

矢部首相「君らほんと言いたい放題だね。そんなにアウトバーン造りたいの?」

山田「そりゃもちろん!アウトバーンは金になりますから!」

木村「はい!父の悲願ですから!」

矢部首相「しかし、そんなの造る予算がどこにあるのよ?」

山田「大丈夫ですよ~!何せ200兆もあるんだし!それに建設国債だって実はもうちょい引っ張り出せるんでしょ~?
   アウトバーン建設が決まれば協力してくれる企業はたくさんありますし、まあ、何とかなりますよ!フハハハ!」

矢部首相「おいおい、適当過ぎるだろ!」

山田「とにかく建設は急がなくてはならないのです。東京五輪に間に合わなくなってしまったら意味がないので」

矢部首相「どういう事よ?」

山田「五輪は久々に巡って来た最高にビッグなビジネスチャンスなのです。
   このエネルギーを地方まで響かせるにはアウトバーン建設は必須なのですよ!」

矢部首相「アウトバーンが成功するという根拠は?」

山田「根拠だぁ?お言葉を返すようですが、矢部ノミクスが100%成功するという根拠はあるのでしょうか?
   消費税増税しても景気腰折れしないという100%の根拠はあるんでしょうか?お?お?」

木村「お?お?って…」

山田「極論、政治家なんて上手く行くかどうかなんてさっぱり分からないギャンブルを
   自分の信念の元続けて行くしかないんじゃろがい!だって仕方ないですやん!だって自分、神じゃないんで!」

矢部首相「………。言いたいのはそれだけですか?」

山田「はい!以上っす!」

矢部首相「では、続きは与党会議でやりましょう」

山田「え、あ、え?あ、そうっすか…」

木村「って事は…」

山田「とりあえず首はつながったな」

木村「やった!良かったですね!」

山田「ああ、これで無事に家に帰れる!」

山田恐るべしw

矢部首相「ああ、そうだ。最後に一ついいかね?」

山田「なんでしょう?」

矢部首相「復興庁の人間から聞いた話なんだが、被災地の瓦礫がいつの間にかどんどん消えていっているらしいのだよ。
     それについて何か知っている事はあるかね?」

山田「さあ?さっぱり知りませんね。消えるってのはどういう事でしょう?魔術か何かですか?」


千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「与党会議でアウトバーン建設計画の話し合いがなされるという事が決定しました」

大迫議員「マジでか!?」

小野「なんと!信じられん!」

野中「おお!よくやったな!」

須藤「次につながりましたね!」

山田「まあ、余裕でしたよ」

木村「かなりギリギリだったと思いますけど。やるって言ったわけじゃないし」

山田「まあ、いいではないか。次につながった事が大事なのだよ、ははは!」

桐原議員「山田議員」

山田「は、はい」

桐原議員「私の目に狂いはなかったようだ。さすがここ日本に於いてナチズムを理解している
     稀有な存在なだけはありませね」

木村「山田先生…、ナチズム理解してたんですか…?」

山田「いや全然…」

大迫議員「しかし、よく説得出来たな」

山田「やはり私のトークスキルが素晴らし過ぎるという事なのでしょね」

高橋「ですな。あれだけの暴論を総理大臣にぶつけられる人は山田先生と木村先生くらいなものでしょうから」

木村「暴論ですか…」

高橋「よっ!政財界の当たり屋!」

木村「あんなに頑張ったのに受けた評価が当たり屋とは…」

山田「まあ、いいではないか。当たり屋だって一生懸命頑張っているのだ。
   考えてもみろ。見知らぬ相手に自分からぶつかりに行くなんて相当勇気が要ることなんだぞ?」

木村「何故当たり屋の肩を持つのかがさっぱり分かりませんね。ただただ迷惑なだけでしょうに」

山田「その言葉、全て自分に帰って来ているのだという事を分かって言っているのかね~?」

木村「残念です」

木村「あ、そういえば、被災地の瓦礫ってどうやって処理したんですか?
   あれやったのって山田先生ですよね?」

山田「ああ、あれか。あれはな佐藤組に一任したんだよ。方法は問わないから全部消してくれって。
   だからどうやって処理したのかは知らね」

木村「ちょ、知らねって!さ、最悪だ…!よりによってやっさんに頼むなんて…!」

山田「まあ、別にいいじゃないか。原発作業員の手配だって佐藤組が絡んでるんだし。
   あの人たちはこの手の案件のプロなんだからさ、任せとけばまあ上手く行くって」

木村「やっぱ駄目だった!やっぱこんな人に任せちゃ駄目だったんだ!」

山田「俺だって努力したんだよ!でもどこも受け入れてくれないんだもん!」

木村「だもんじゃないっすよ!あ~あ、どうしてこんな人を頼れと言ったんだよクソ親父!」

山田「おい!父ちゃんには優しくしてやれよ!」

桐原議員「木村議員」

木村「は、はい…?」

桐原議員「大義を為すには、時として人の道を外れなければならない事もあるのです。
     それが出来ないあなたが山田議員を批判するのはいささかおかしいと言わざるを得ない」

木村「で、でも明らかに犯罪行為なんですよ…!?」

桐原議員「では、あなたが代わりに処理すれば良かったのです。山田議員に任せきりにせずにね」

木村「そ、それは…」

桐原議員「残念ながら、手段を選んで問題を放置しておくのがこの国の常。
     綺麗事なら誰にでも言えるのです。口だけ動かして何もしない無能になりたくなければ、
     行動によってそれを証明なさい」

木村「う、うう…」

高橋「ぐうの音も出ませんね」

山田「まあ、そういう事だよ、次郎!悪人だって一生懸命働いているのです!」

高橋「桐原議員は山田先生の事がよく分かるみたいですねぇ。似た者同士なのでしょうか?」

桐原議員「そうです」

山田「違うわ!俺ナチとか興味ないし!」

国会議事堂にて

山田「あらあら~、また会っちゃいましたねぇ。小出水様~?」

小出水「またあなた達ですか」

木村「新三郎さん、例の件考えてくれました?」

小出水「だから、先日も申し上げた通り、お断りします」

山田「本当にあなたは意志が固いというか頑固というか。その性格は父譲りですか?」

小出水「何度来たって同じです。私はアウトバーンの広告塔になんかなりませんよ!絶対に!」

木村「絶対にですか?」

小出水「ええ、絶対に」

小野「それは残念だなぁ、小出水君」

小出水「ぼ、防衛大臣!?」

小野「この仕事は君にしか出来ないというのに」

小出水「いや、しかしですね…!」

野中「一緒にやりましょうよ~、新三郎坊ちゃん」

小出水「ぼ、坊ちゃんって…!」

須藤「もう無理しないでこっち側に来ちゃいましょうよ。楽しいですよ~」

小出水「総務大臣まで!?」

桐原議員「小出水議員」

小出水「あ、あなたは…?」

桐原議員「あなたには是非協力をお願いしたい。ですがもし断ると言うのなら、夜道には気を付ける事です」

小出水「ちょっと!今の完全に脅迫じゃないか!」

山田「いえいえ違いますよ~。彼は、最近日が短くなっているから、
   夜歩くときは気を付けてねっていう老婆心で」

小出水「絶対嘘だろ!」

木村「お願いしますよ、小出水さ~ん」

野中「協力してくださいよ~、新三郎坊ちゃん」

小出水「その呼び方やめてくださいよ!」

小野「一緒にやろうじゃないか。なぁ?」

小出水「いや、だから!」

そこに、たまたま通り掛かった大迫議員が加わる。

大迫議員「おいおい、皆さん何やってるんですか?」

山田「何って、勧誘ですよ?」

大迫議員「本当に?傍から見たら集団で虐めてるようにか見えないぞ?」

山田「マジですか?そんな気はさらさら無かったんですがねぇ」

小出水「とにかく!私は絶対やりませんからね!」

山田「そんな事言わずに協力してよ~」

小出水「いやです!」

大迫議員「おいおい、嫌がってんじゃないか!」

山田「そんな事ないですよ。ツンデレなだけでしょう」

小出水「ツンデレじゃねえし!」

大迫議員「そんなね、無理に引き入れたって意味ないでしょ。
     本人の意思で協力して初めて仲間って言えるんだから」

小出水「大迫議員…!」

大迫議員「という事だからさ。小出水君、こんな怪しげな奴らなんか放っておいてさ、
     カジノ法案手伝ってくんないかなぁ?」

小出水「嫌です!」

大迫議員「そんな事言わずにさぁ、頼むよ~」

小出水「絶対に嫌です!」

大迫議員「どうして?」

小出水「どうしてもこうしてもないですよ!そんなのやるぐらいなら、
    アウトバーン手伝った方が万倍マシです!」

大迫議員「え?」 山田「え?」

木村「え?」 小野「え?」

須藤「え?」 野中「え?」

小出水「は?」

小野「そうかね。やってくれる気になったかね!」

小出水「は?いや…!」

木村「ありがとうございます、小出水さん!」

小出水「いや、やるなんて言ってないでしょ!」

須藤「え?でもさっき」

小出水「いや、カジノ手伝うくらいならアウトバーン手伝った方がマシって言っただけで」

野中「つまり手伝ってくれると?」

小出水「どうしてそうなるんですか!?」

木村「でもさっき、万倍マシって言いましたよね?」

小出水「いや、あれは勢いで…」

山田「万ってのはすごいぞ。なんせ1円が一万枚だからな」

小野「ああ、10キロだからなぁ」

小出水「一体何の話をしてるんですか!?」

山田「とにかく、小出水議員。ありがとうございます!」

小出水「いや、だから!」

木村「ありがとうございます!」

野中「ありがとう坊ちゃん」

小出水「その呼び方やめろ!」

山田「よし!感謝の気持ちを込めてみんなで小出水議員を胴上げしよう!」

小出水「は!?」

木村「よし、やりましょう」

小野「胴上げは選挙以来だな」

小出水「いや、何言ってんすか!?」

須藤「安心してください。僕ら胴上げ上手いんで」

小出水「謀ったな!大迫!」

大迫議員「いや、俺は全然関係ないよ」

山田「よし、行くぞ!せ~の!」

小出水「や、やめ…」

とあるニュース番組にて

女子アナ「小出水議員はアウトバーン建設についてどう思われますか?」

小出水「そうですね、いいと思いますよ」

女子アナ「どの辺りが良いと思われますか?」

小出水「今まで日本の長距離移動というものはとにかく高価だったんです。飛行機、新幹線、高速道路。
    全て高いですよね?もちろん一般道で遠出する事は出来ますけど、そちらはとにかく時間が掛かると。
    そこに安価でしかもより高速で移動出来る道路が造られれば、日本の長距離の概念は根底から覆りますよ」

女子アナ「しかし、わざわざアウトバーンを建設する必要があるんでしょうか?高速道路を無料化すれば、
   アウトバーンは必要なくなるのではありませんか?」

小出水「いいえ、それだけでは不十分なのです。何故ならアウトバーン建設には大規模雇用対策
    としての一面があるからです。それと災害時に交通網が麻痺した際の大きなオプションの一つとして、
    力を発揮するだろうと期待されているのです」

女子アナ「なるほど。非情に分かりやすい解説をありがとうございました」

小出水「ああ、いえいえ」

女子アナ「では一旦、CMです」

福村雅晴「アウトバーンが日本を救う」

アウトバーン推進委員会


その番組を観ていた山田たち。

山田「完璧だ」

木村「爽やかですね」

高橋「最高の広告塔ですな」

里美「素敵ですね」

山田「ああ、これは勝ったな」

木村「それにしても、よく福村をキャスティング出来ましたね?」

山田「ああ、アミョーズには前からコネがあってな。快諾してもらったよ」

高橋「さすが山田先生!」

山田「いいか、次郎。政治家の仕事の9割は人脈作りだ。
   あらゆる業界、味方は一人でも多く作ることだ」

木村「そうやっていくうちに悪い味方に囲まれてしまったわけですね」

山田「いやぁ、善い悪いの判断が苦手でねぇ。気付いた時にはもう暗黒面にいたよ!ははは!」

木村「なぜ笑っていられるのか、さっぱり分かりませんね」

山田「だってもう笑うしかないじゃん!笑わないともうやってけないじゃん!」

木村「ピエロだ…」

アウトバーン建設計画に関する政府与党会議にて

山田「うい、失礼しま~す」

北島公民党副代表「ん?」

木村「し、失礼します…」

北島公民党副代表「おい、ちょっと待て」

山田「うい、何でしょうか?」

北島公民党副代表「どうして君らがここにいるのかね?」

山田「うい、どうしてって?居ちゃ駄目ですかね?」

北島公民党副代表「駄目に決まってるだろ!ここは与党の代表、長レベルの者が集まる会議なんだぞ!
         君らみたいな平議員が来て良いはずもなかろうが!」

木村「ですよね~…」

溝口参議院自由党幹事長「それに木村議員に関しては、数か月前に議員になったばかりのド新人。
            ペーペーの一年坊ではないか」

木村「おっしゃる通りで…」

山田「うい、そんな事言われましても、僕らこの計画の推進者ですから。それにこの木村議員はこの計画のリーダーで、
   最もこの計画に精通しております。いわばパイオニア、アウトバーン界の嘉納治五郎です」

木村「いや、そんなんじゃないでしょ!?」

溝口参議院自由党幹事長「リーダーだぁ?たかが一年議員に何が出来るというのだ?」

木村「おっしゃる通りで」

山田「うい、確かに彼は議員としての経験は浅いです。ですが、アウトバーン法案に関しての手腕は折り紙付きです。
   なんせ、ドイツの大臣共や国防総省相手に派手にドンパチ繰り広げたやり手ですからね」

加賀内閣官房副長官「それは凄い!」

木村「変にハードル上げないでくださいよ!」

北島公民党副代表「では山田君、君はどうしてここにいるのかね?」

山田「うい、私は彼の懐刀ですから。それに、彼の父親から次郎君の後見役を務めるよう言われておりますから」

木村「マジっすか!?そんな話初めて聞きましたよ!?」

山田「うい、そうだろうな。だって嘘だもん」

木村「こんなところで変な嘘ついてんじゃねえよ!」

山田「うい」

北島公民党副代表「その変な返事やめろ!」

そこに遅れて矢部内閣総理大臣が到着した。

矢部首相「すみません、遅れました」

北島公民党副代表「総理、変な二人組が居座ってしまって困っているのですが」

木村「あ~あ、山田先生のせいで変な奴扱いされてますよ」

山田「大丈夫だよ。どんな奴が来てもどんな振る舞いしようとも、俺らの立場になったら変な奴に見えるって」

木村「そうは思いませんけど」

矢部首相「ああ、彼らは私が呼んだのです」

加賀内閣官房副長官「そうだったんですか!?」

山田「そぅ~ら見た事か!ふはははは!」

北島公民党副代表「ぐぬぬ…!」

矢部首相「では始めますね。今日の議題はアウトバーン建設計画についてです。
     皆さんもさぞやこの計画に興味をお持ちのことと思いますが、まずは私の個人の見解から申し上げますね」

山田「ほう、聞きたいものですな」

木村「口を慎みなさい。山田議員」

山田「うい」

矢部首相「私は、このアウトバーン建設計画の有用性を全面的に認め、矢部ノミクスを支える4本目の矢として
     正式採用したいと考えております」

山田「来たー!」 木村「うっそー」

小野「なんと!?」 須藤「信じられない」 野中「マジでか…」

溝口参議院自由党幹事長「なんですって!?」

北島公民党副代表「ええー!?」

石橋自由民主党幹事長「総理、本気なんですか?」

矢部首相「はい。私は本気です。それにあたって、皆さんには忌憚のない意見をお聞かせ願いたい」

石橋自由民主党幹事長「いや、忌憚のない意見と申されましてもですね…」

小野「では、私から」

矢部首相「どうぞ、防衛大臣」

小野「はい。ええ、国防の観点から申しますと、この計画は有用としか言いようがありません。
   全体の約8割を滑走路として使用できる設計、超高速の輸送路。
   これは近年稀にみる軍事的強化に繋がるでしょう」

矢部首相「そうですか。貴重なご意見をありがとうございます」

山田「さすが小野社長!やるじゃん!」

溝口参議院自由党幹事長「え?小野さん、社長さんなの?」

小野「いや、あの、それは色々あってね…」

野中「では次に私が」

矢部首相「野中国土交通副大臣、どうぞ」

野中「はい。私もアウトバーン建設を支持します。何と言ってもアウトバーンの良さは安さと速さです。
   かねてから、高速道路無料化の話は出ていましたが結局頓挫してしまいましたので、
   安価なアウトバーンを造る事は、無料化を望む層からの支持を拾える可能性が高いかと思います」

矢部首相「なるほど」

山田「さすが次期総理!」

矢部首相「次期総理?」

野中「いやあの、夢は大きくってことで…はははは…」

矢部首相「まあ、いいでしょう」

須藤「では次、私いいでしょうか?」

矢部首相「ええ。総務大臣どうぞ」

山田「御屋形様がんばって~」

須藤「私が信長公…私が……」

矢部首相「須藤君?」

須藤「あ、はい、失礼。ええ、では皆さん。ここ日本が尾張国だと考えてみてください」

石橋自由民主党幹事長「尾張だぁ?」

須藤「今日本は交通に高い制限が課せられています。料金の高さはそのまま自由な交易の妨げとなり、
   経済の停滞へとつながっているのです。これを解消するのは楽市楽座以外有り得ません!
   信長公が山一つまるまる城に出来たのも、楽市楽座で莫大な利益を生み出せたからです!
   皆さん!既得権益をぶっ壊して、新しい日本を作り上げましょう!」

山田「素晴らしい!」

矢部首相「でも、既得権益ってこの場合、私達の事ですよね?」

須藤「一理ある!」

木村「じゃあ、駄目じゃん!」

山田「じゃあ次私言いますね~」

北島公民党副代表「どうして君なんかが!」

山田「え、駄目ですかね?」

矢部首相「いえ、どうぞ」

山田「すみませんね~北島さ~ん。うほほほ!」

北島公民党副代表「ぐぬぬぬ…!」

山田「え~では、皆さんにクイズを一つ」

石橋自由民主党幹事長「クイズだぁ?」

山田「アラブの石油王は日本が大嫌い。さあ、どうしてでしょうか?」

野中「え、嫌われてたの?」

須藤「何か嫌われるような事しましたっけ?」

木村「なんでしょうね?」

山田「正解は世界一石油の使い方が上手いからで~す。要するに嫉妬ですよ」

木村「嫉妬?」

山田「いや、僻みかもしれませんね」

木村「絶対違うでしょ!」

山田「石油王にとって、たくさん石油を使ってくれる人こそが一番の友達なのです!
   アホみたいにバカバカ石油を燃やしてくれる人こそが信頼に足るのです!
   石油をケチって1リッターで20キロも30キロも走っちゃう車を作っちゃったり、
   二酸化炭素がどうのと言ったり、エコだエコだと叫んだりする国はダメダメなんですよ!
   石油王達からもう一度信頼を取り戻すには、いっぱい車を走らせ、プルトニウムで発電するのをやめて、
   石油で発電する事です!さすれば高度成長期の時の様に、石油王達と仲良く蹴鞠が出来るようになるでしょう!」

石橋自由民主党幹事長「蹴鞠だぁ?」

小野「高度経済成長の時に蹴鞠なんかしてたのか?」

須藤「さあ?知りませんけど?」

石橋自由党幹事長「しかし、そんなのやる予算が一体どこにあるんでしょうか?」

矢部首相「200兆のインフラ投資の中で重要度の低いものを取り除き、
     そこで浮いた分の予算と新たに国債を50兆円分追加し、アウトバーン建設に充てます」

石橋自由党幹事長「50兆も!?」

山崎公民党代表「ただでさえ200兆の大規模公共事業で非難を浴びているというのに、新たに50兆も追加となると
        どんなバッシングを受けるか分かったものではないですよ!?」

山田「な~に、バッシングなど受けるわけがありませんよ~」

山崎公民党代表「ど、どういう事だ?」

山田「その50兆分は全て雇用対策に充てるものだと言うんですよね?総理~?」

石橋自由党幹事長「そうなんですか総理!?」

山田「失業者260万人、非正規雇用者1900万人。み~んなを救うために50兆円もの大規模雇用対策を
   やっちゃうと言ったら、一体どれほどの人気が出ちゃうんですかね~?
   こんなのまさに美談ではありませんかぁ?」

石橋自由党幹事長「そんな簡単には行かんぞ」

山田「でもこれ、公民党さんが推し進めてるニューディールと基本的には同じ方向性ですよね?」

山崎公民党代表「まあ、確かに」

山田「今まさに日本は窮地に立たされているのです!今迄政府は守りに入りすぎた!
   しかし!矢部内閣はあくまで攻めです!矢部ノミクスは攻めの政策です!
   ここでさらに止めの一発を加える事によって!景気も人気も急激に右肩上がりですよ!」

北島公民党副代表「だが失敗すれば、景気も人気も地に落ちるぞ」

石橋自由党幹事長「日本経済が破綻しかねない危険な賭けだぞ?」

山田「まあ、失敗した時は、アメリカと一緒に仲良くデフォルトを叫んだらいいんですよ。
   どっちが先に逝こうが、どうせ結局は両方とも逝かざるを得ないんですから」

北島公民党副代表「なんと大それた事を言うんだ、この男は。国政を預かる人間として恥ずかしくないのか?」

山田「生憎、私の支持者達はぶっ飛んだひねくれ者ばかりでしてね。私はその中でもかなりマトモな方なんですよ」

北島公民党副代表「おいおい、こんな奴の持ってきた法案なんて絶対採用しちゃ駄目だろ!」

山田「まあまあ、そう言わないで下さいよ~。アウトバーンはホント魅力的な商品なんですから」

石橋自由党幹事長「商品だぁ?」

山田「アウトバーンは金になるし人気も取れるし人の役にも立てる!こんな魅力的な商品、ほかに有ったでしょうか?
   いや、無い!」

木村「山田先生はセールスマンになった方が自分の才能を生かせたんじゃないですかね?」

山田「議員の仕事の大半は営業なんだから、セールスマンも議員も大差ないだろ」

木村「普段どんな営業してるんだか」

山田「とにかく、こんな魅力的な買い取らないとなれば、名のある賢者たちからこう呼ばれることになるでしょう。
   アホ、だとね」

石橋自由党幹事長「アホだぁ?」

山田「いや、無能かな?」

北島公民党副代表「無能だと!?」

山田「いやもしくは、とんちんかん?天邪鬼?ツンデレ?躁うつ病?」

北島公民党副代表「躁うつ病はお前の事だろうが!」

山田「そんな事ありません!今ちょっとカウンセラーから貰った薬が効いてるだけで」

北島公民党副代表「やっぱ躁じゃねえか!薬処方されてる時点で気付けよ!」

山田「あ、そういう事だったんですか」

北島公民党副代表「お前が一番アホじゃねえか!」

山田「まあとにかく、総理はやりたいと仰っているんだ。あとは皆さん次第ですよ」

石橋自由党幹事長「しかしまだ総務会で同意を得てすらいないんだぞ?
         我々がやると言ったところでどうだというのかね?」

山田「ありがたい事にトップダウンですからねぇ。総務会なんて楽勝じゃないっすか。
   総理や大臣や公民党の皆さんがやると言うのに、自由党の一体誰が拒否出来るというのです?」

石橋自由党幹事長「しかしだな…」

山田「まあ、気持ちは分かりますけどね。しかし法案自体は魅力的、与党は過半数を確保してるし、
   メディアも味方につけた。こんな楽勝な案件そうはないと思いますけどねぇ?
   なんてったってネックになってるのは規模の大きさだけですからね。
   それもまあ、錚々たる大物政治家である皆様にとっては大した障害ではないのでしょうけど」

木村「煽りますねぇ」

山田「煽って損はないからね」

矢部首相「皆さん、他に意見はありませんか?」

山田「おい次郎、帰るぞ」

木村「え?帰るってまだ会議の途中ですよ?」

山田「俺達の仕事はもう終わったんだよ。後は皆さんの仕事」

木村「そう、ですか。分かりました」

山田「では皆さん!さよなら~!」

木村「お、お先に失礼します」

山田と次郎が会議室を去る。

小野「立つ鳥跡を濁さず、か」

野中「立つ前は濁しに濁しまくってましたけどね」

山田と次郎は会議が終わるのを待合室で待っていた。

木村「どうなりますかね?」

山田「さあねぇ。どうなる事やら」

木村「小野さんと野中さんと須藤さんがいるんだから大丈夫ですよね?きっと説得してくれてますよね?」

山田「さあ、どうだろうねぇ?あの人たちも変人の仲間だと思われている可能性が高いからねぇ。
   もう説得力の欠片も残ってないかもしれないねぇ」

木村「一体誰のせいでしょうね」

山田「推進委員長のせいでしょうねぇ」

木村「僕は傍若無人な悪徳議員のせいだと思いますけどねぇ」

山田「俺は一年坊のくせに威張り散らしてる貧乏議員のせいだと思うけどねぇ」

木村「僕は決して威張り散らしてなどいませんよ!」

山田「お前、大臣相手にちょいちょいタメ口になってんの気付いてないの?」

木村「え?マジっすか!?全然気づかなかった!」

山田「ああ、今頃天国にいるお父上が嘆いている事だろう。次郎には口の利き方ぐらいは教えておくべきだったと」

木村「ていうか、言葉遣いについてあなたにどうこう言われたくないんですけど!」

山田「これは教育なのだよ。親切な先輩が一年坊に節度と礼儀を教えてやってるに過ぎないのだよ」

木村「反面教師すぎて全然気が付きませんでしたわ」

小野「君ら一体何を話してるんだよ?」

会議を終えた小野防衛大臣が2人に話しかけてきた。

木村「小野さん!それでどうでしたか?」

小野「君らが退出してから、会議は荒れに荒れたよ」

木村「そ、そうだったんですか」

小野「だが、何とか意見はまとまった」

木村「それで!?」

小野「五日後に総務会だ」

木村「ってことは!」

小野「ああ、承認されたよ」

木村「や、やった!やりましたね、山田先生!」

山田「だから言っただろ?楽勝だって」

小野「いやそうでもなかったぞ。私達が何とか説得したから出来た事だ」

木村「そうだったんですか!やるじゃん!小野さん!」

小野「え?タメ口?」

凄いことになってきたなwktk

翌日、六本木のカフェにて

山田「ここのカフェのじゃがバターデシッシュは最高ですねぇ」

長谷川署長「あれ?クラブサンドがお好きだったんじゃなかったでしたっけ?」

山田「クラブサンドはもう飽きました」

長谷川署長「酷い飽き性なんですね」

山田「そうなんですよねぇ。本当に困ったもんです。それで、お仕事はどうです?順調ですか?」

長谷川署長「順調ですねぇ。まあ、それゆえに…」

山田「退屈であると?」

長谷川署長「ええ。ホント贅沢な悩みです」

山田「じゃあ、もう一つの仕事はどうです?退屈ですか?」

長谷川署長「いいえ。スリリングで非常に楽しい」

山田「長谷川さん、あなたスパイに転職した方が良いんじゃないですかね?
   密偵の仕事の方が断然生き生きしてるみたいですし」

長谷川署長「いやいや!私は結構世間体を気にするタイプでして」

山田「そうみたいですね。それで、捜査はどんな感じで?」

長谷川署長「難航してますねぇ。例の山田会から探りを入れているようですが、
      何せ汚職の証拠が出てこない」

山田「あんな見え透いたダミーに引っ掛かってくれるとは有り難いですなぁ。
   山田会から何か見つかるくらいなら、もう数年前には逮捕されてたでしょうに」

長谷川署長「それともう一つ。木村次郎議員の事はご存知ですか?」

山田「ああ。本人から聞いた。協力を頼まれたそうな」

長谷川署長「ええ。それで、木村議員はどの程度ご存知なんですか?」

山田「個人レベルの事は大体教えたかな?でも会社の事は言ってないですよ」

長谷川署長「それはさすがに教え過ぎではないですか?」

山田「ある程度言っとかないと信用してくれないでしょ、俺みたいな議員。
   それに知っといてもらった方が気にせず自由に動けますからね」

長谷川署長「しかしリスクが高すぎはしませんかね?
      木村議員はいつでも山田先生を崖から突き落とせる状態にあるんですよ?」

山田「大丈夫ですよ。少なくともアウトバーン法案が成立するまでの間は、奴は俺を売らない」

長谷川署長「しかしそのあとは?」

山田「ちゃんと考えてあります。まあ、長谷川さんが心配してるような事にはなりませんから安心してください」

長谷川署長「そうですか。では引き続き、監視しますので」

山田「やっぱ長谷川さんは優秀だなぁ。どうです?本部長になってみませんか?」

長谷川署長「いえいえ!結構です!私にはそんなの持て余しますから!」

同じ頃、次郎は父の秘書であった遠藤と共に父の後援会を訪ねていた。

木村「会長さん、お久しぶりです」

後援会長「おお!次郎君、よく来たね」

老婆「元気にしてたかい?」

木村「はい。皆さんもお元気そうで」

後援会長「お父さんの事は残念だったね」

木村「ええ。あ、葬儀の時はどうもありがとうございました。色々とお手伝いしてもらって」

後援会長「いやいや、いいんだよ!わしら、木村先生には本当によくしてもらったんだから!」

老婆「そうそう!せめてもの恩返しでね」

後援会長「それで次郎君は今どんな仕事をしてるのかな?」

木村「アウトバーンって知っていますかね?僕は今それを造るのに協力してるんですよ」

後援会長「アウトバーンって…、確か最近よくテレビで言ってるやつだよね?」

老婆「ああ、それなら聞いた事あるかも」

木村「そうですか。それで今日僕が来たのも、アウトバーンについて
   皆さんがどう思っているのか聞きたかったからなんです」

後援会長「そうだったんですか。アウトバーンについてねぇ」

老婆「う~ん、難しい事はよく分からないからねぇ。でも思うのは、本当にあれは役に立つのかって事だよねぇ」

後援会長「そうですなぁ。かなりの大金を使って造るんでしょ?それに見合った効果が出るんだろうか?」

老婆「たくさんお金を使って道路を作るぐらいなら、私達に直接役に立つものを作ってほしいもんだねぇ」

木村「やっぱりそう思いますよね。実は僕もそう思わなくもないんですよ」

後援会長「でも、次郎君は建設に協力してるんだろ?」

木村「はい、そうです」

老婆「だったらなんで?」

木村「実はこの計画、父が考案したものなんです」

後援会長「木村先生が!?本当に!?」

木村「はい。僕はそれを父から引き継いだんです」

後援会長「木村先生がこれを…。信じられんなぁ」

木村「何か父から聞いてませんか?きっと父は皆さんの役に立つものだと思ったから
   アウトバーンを造ろうとしたんです」

後援会長「そんな事言われてもねぇ」

老婆「何か聞かれたかしら」

木村「何か覚えてはいませんか?どんな些細な事でもいいんです。
   こんな会話したなぁとか、こんなお願い事をしたかな、とかでも良いので」

老婆「会話ねぇ…。木村先生にはよく愚痴を聞いてもらってたけど…」

木村「愚痴ですか?」

老婆「ええ。まあ、他愛もない話なんですけどね」

木村「それ、聞かせてもらえませんかね?」

老婆「え、ええ。もちろんいいですけど」

木村「どんな話をしたんですか?」

老婆「う~ん、最近孫に会ってないなぁとか…」

木村「お孫さんに?今、お孫さんはどちらに?」

老婆「息子と一緒に滋賀に住んでるんです」

木村「滋賀県ですか」

老婆「会いに行こうにもタクシーで行ける距離じゃないからねぇ」

木村「結構遠いですもんね」

老婆「そうなんですよねぇ。あっちから来るにもなかなか気軽に来れる距離じゃないでしょ?
   だからあんまり会えなくてねぇ」

木村「そうですか。もしかしたらお孫さんも会いたがってるかもしれないですね」

老婆「そう、なんですかね。それなら電話の一つでも掛けてみようかしら」

木村「ええ、いいと思いますよ。声を聞くだけでもだいぶ違うでしょうから」

老婆「あらやだ」

木村「え、何がです?」

老婆「今の次郎君、何かお父様みたいでしたよ」

木村「父さんみたい?」

後援会長「お父上はね、人を人として見てたんだ」

木村「人を人として?」

後援会長「偉くなると人は尊大になりがちだ。人が金に見えたり、票に見えたりするものだ。
     でも、木村先生は違った。あの人は人をちゃんと人として見てくれるんだ。
     だからわしらは、あの人を支えてあげたいと思った。人として接してくれるあの人こそが
     国会議員に相応しいと思った。でも違った…」

木村「金が力ですか」

後援会長「ああ。この国では、ただの良い人では足りないんだ。先生もそれは分かっていた。
     でも、一線だけは越えなかった」

遠藤「越えられなかったのかもしれません。力が人を怪物に変えるのを知っていたから」

後援会長「とにかく先生は最後まで人だった。人のままで死んでいったんだ。
     誰かが木村一太は何も出来ない男だとか、ただの貧乏議員だとか言うかもしれない。
     でも、それでもわしは、そんな議員を最後まで応援出来て良かった。そう思うよ」

木村「人としてですか。誰かさんに聞かせてやりたい言葉です…」

後援会長「あ、そうだ。わしも思い出したよ」

木村「何です?」

後援会長「いつだったか木村先生に言った事があってね。妻と一緒に箱根に行きたいと」

木村「箱根に?」

後援会長「そう。でもわしには時間もないし金もない。そう言ったら木村先生、なんて言ったと思う?」

木村「さあ?父はなんと?」

後援会長「1200円で行かせてやるって」

民政党本部にて

松山議員「先日、与党会議で承認されたアウトバーン法案についてですが、
     つい先ほど、一部退席した者が出たものの、自由党総務会で全会一致で決議されたようです」

大島幹事長「そうか、そこまで来たか。となると、次は委員会か」

松山議員「はい。おそらくアウトバーン建設法案に関する特別委員会が設置される事でしょう」

大島幹事長「まあそうなるだろうな。委員会のメンバーはまだ決まっていないんだな?」

松山議員「ええ」

大島幹事長「そうか。では、メンバーの一人に何とか君を推薦しておこう」

松山議員「私をですか?」

大島幹事長「君はこの件についてかなり前から注目していただろ?
      つまり、相手がどう出るかもそれなりには予測が出来るというわけだ」

松山議員「確かに、そうかもしれませんね」

大島幹事長「何も知らない者に任せきりにするのも不安だからな。
      松山君、君の役割は分かっているね?」

松山議員「はい。こんな馬鹿げた法案、通しはしませんよ」

大島幹事長「それでいい。何としてでも潰すんだ」

とある日、次郎は市川警視と目黒検事に呼び出され、代々木公園に来ていた。

市川警視「お待ちしていました、木村議員」

木村「ど、どうも」

市川警視「仕事はどうですか?順調にいってますか?」

木村「え?ええ…まあ」

市川警視「私が頼んだ仕事も順調に?」

木村「あ、いえ、その…あれは…」

目黒検事「山田議員はなかなか尻尾を出さないと?」

木村「いや。そのなんというか…。非情に言いづらいのですが…」

市川警視「何かあったんですか?」

木村「あの…、刑事さんから協力を申し込まれたのを見抜かれてしまいまして…」

目黒検事「何ですって!?」

市川警視「それは大変だ!命を狙われる可能性がありますから、あなたを警視庁で保護します!」

木村「いや大丈夫ですから」

市川警視「何を言ってるんです!?彼は暴力団ともつながっている危険な男なんですよ!
     あなただってそれは知っているはずだ!」

木村「いやまあそうなんですけどね…」

市川警視「だったら一緒に行きましょう!我々が必ず守りますから!」

木村「いやいや!そんなのホント大丈夫ですから!」

市川警視「何が大丈夫なんです!?」

目黒検事「こんな時に遠慮してるんですか!?」

木村「いや、遠慮とかじゃなくて」

市川警視「じゃあどうして?」

木村「今日ここに行くことも先生知ってるんですよ」

市川警視「なんですって!?」

目黒検事「どこかで監視してるのか!?」

木村「いや、してないと思いますけど…」

市川警視「どうして山田議員は私達と木村議員が接触するのを止めないのだろうか?」

目黒検事「まさか脅されているのでは!?協力はしないと伝えに行って来い!さもなくば殺す!
     そう言われていたのでは!?」

市川警視「何て不逞野郎だ!山田め!決して許しはせんぞ!」

木村「あの~、何か誤解してませんか~?」

市川警視「誤解?何をです?」

木村「僕、別に脅迫されてませんけど?」

市川警視「は?だったら何で君ここにいるの?」

木村「え?駄目ですか?」

目黒検事「だって、山田議員知ってるんでしょ?私達との関係?」

木村「ええ。そうですけど?」

市川警視「だったら私達が木村議員に近づくのを嫌がるはずではないですか?」

木村「そんな様子は無かったですね。普通にヤンマガ読みながら、行って来れば~って言ってましたし」

市川警視「ヤンマガ?何かの暗号か?それとも何かの隠語だろうか?」

目黒検事「分かりません。見当もつきませんね」

木村「あの~、やっぱり何か誤解してますよね~?」

市川警視「今あなたがどんな状況にいるのか、私にはよく理解出来ていませんが、
     これだけは言える。彼は危険です。絶対に一緒にいてはいけません」

木村「ホントに全然理解出来てないじゃないですか!」

市川警視「では何が違うというのです?」

木村「山田先生は僕の命は狙っていませんよ。今のところは、ですけど」

市川警視「狙ってないですと?」

木村「はい。それに今のところ、僕にはあの人が必要なんです。
   あの人がいなければアウトバーンは進められないし、僕もただの参議の一年坊に戻ってしまう」

市川警視「しかしですね…!」

木村「すみません。今のところ、あなた達には協力出来そうもありません」

市川警視「木村議員…」

木村「まあ、一緒にいても死ぬ事はないでしょうから安心してください」

市川警視「本当にそれでいいんですか?」

木村「はい」

目黒検事「相手は犯罪者なんですよ?」

木村「僕は父を信じてますから」

市川警視「そうですか。では、捜査協力の話は一旦水に流しましょう」

目黒検事「いいんですか!?」

市川警視「仕方ありませんよ。無理強いさせるわけにはいかないですからね」

目黒検事「まあ、そうですけど…」

市川警視「木村議員」

木村「はい」

市川警視「いつかは協力してくださるんですよね?」

木村「さあ、どうでしょう?それはいつか分かるんじゃないでしょうかね」

市川警視「そうですか。では私達は、そのいつか分からないその時を期待して待つ事にしましょう」

木村「はははは、期待に応えられればいいですけど」

アウトバーン建設法案に関する特別委員会にて

扉が開く。

山田「最近ゴルフやってないんですよねぇ」

大迫議員「とか言って隠れて練習するタイプだろ、お前」

松山議員「ん?」

山田「勝利の秘訣はまず相手を油断させる事ですからね」

大迫議員「そうだな。負けた時の言い訳にもなるしな」

松山議員「おい、ちょっと待て」

山田「はい?何か?」

松山議員「何で君がいるんだ?」

山田「何でって。居ちゃ駄目ですか?」

松山議員「いや、駄目っていうか」

山田「俺だって国会議員ですからね。委員会にはそりゃ出ますよ」

松山議員「いや、そういう事じゃないんだが」

山田「大迫さん、俺は負けた時の予防線のためにそう言ってるわけじゃなくてですね。
   あくまでも勝ちを追い求めた結果ですね…」

大迫議員「はいはい分かった分かった。負けた時もそういう長ったらしい言い訳を並べるんだろうな、お前は」

山田「そんな事ありませんよ。俺は負けた時は非常に潔いですからね」

大迫議員「いつも見苦しい姿を並べているお前が唯一潔くなる瞬間が負けた時とはね。
     こりゃお笑い草だな」

山田「さすが、失礼を笠に着ている大迫議員だけはある。暴言と軽口を言わせれば右に出る者なしですな」

大迫議員「お前がそれを言うかね」

松山議員「ちょっと待て!」

山田「今度は何でしょうか?」

松山議員「何でお前がそっちに座ってるんだ?」

山田「え、どういう事です?」

松山議員「どうしてお前みたいなもんが理事をやっているのかって聞いてるんだよ!」

山田「え?駄目ですか?」

松山議員「駄目に決まってるだろ!お前みたいなもんが!」

山田「さっきから失礼ですね。これ以上礼節を欠くような言動をなされるのなら、
   この場からつまみ出して差し上げますよ」

松山議員「お前にそんな権限はないだろうが!」

山田「じゃあ試してみましょうか?お?お?」

松山議員「この!クソ野郎が…!」

秋本委員長「あの、もう始めたいんで。静粛に、お願いします」

山田「あ、はい、失礼。松山委員も静かにしなきゃ駄目でしょ。小学校の昼休みじゃないんだから」

松山議員「て、てめえ!」

秋本委員長「松山君、落ち着いて!」

松山議員「は、はい…。失礼しました」

秋本委員長「はい。それでは定刻になりましたので、第1回のアウトバーン建設法案に関する特別委員会を
      始めたいと思います。では、資料1から説明を…」

山田「あの、委員長!」

秋本委員長「あ、はい。何でしょうか?」

山田「もう採決取っちゃいませんか?」

秋本委員長「はぁ?」

松山議員「おい!何を言ってんだ、お前!?」

山田「だから、もう面倒くさいから採決取っちゃいましょうって言ってるんすよ」

松山議員「そんなもん駄目に決まってるだろ!」

山田「え?駄目なんですか?」

松山議員「当たり前だろ!委員会を何だと思ってるんだ!」

山田「議員が尤もらしく仕事をしてますよ~ってアピールするための茶番?」

松山議員「貴様はこの委員会を侮辱しているのか!?」

山田「何を仰っているんですか?私は皆さんのためを思って言っているんですよ?」

松山議員「どういう事だ?」

山田「だってここで話す内容のほとんどが、また本会議で話す事なんですよね?
   だったら委員会なんかすっ飛ばして、本会議でじっくりコトコト話し合ったら良い。
   そうすりゃ手間が省けて、皆さんも早く家に帰れる」

松山議員「貴様!自分がどんな大それた事を言っているのか分かっているのかね!?」

山田「じゃあ逆に、そんな話し合いたい事があるんですか?」

松山議員「お前何言ってるんだ?」

仲川皆さん党議員「山田議員、法案というのは議論を重ね、吟味し合う事で作られる物です。
         そうでなければ、より良いものは出来ませんからね」

山田「吟味ねぇ。このパーフェクトな法案にそんな事する必要あるんでしょうか?」

松山議員「はぁ?」

山田「これは、かの有名な木村一太議員が草案を練り、与党・内閣・官僚が具体化し完成させたものです!
   この宝石のような輝きを魅せる法案に、一体修正個所などあるのだろうか!いや、ない!」

松山議員「修正個所以前に、その法案自体が問題だと言っているのだよ!」

山田「ほう、その仰り様、何かの方向性を感じますなぁ」

松山議員「方向性だぁ?」

山田「先ほど、皆さん党の仲川さんが言った、法案を吟味しより良い法案へ、という方向性とは明らかに違う。
   まるで、法案そのものを真っ向から否定し、議論も吟味も更々するつもりなど無いという方向性を感じました」

松山議員「君は何を言って…」

山田「松山さん。あなたがここにいる目的はなんです?」

松山議員「目的?」

山田「あなたが議論も吟味もするつもりではないとすると、あなたがここにいる目的は…。
   法案の採決をディレイさせる事ですね?」

松山議員「な、何を言ってるんだ?」

山田「時間稼ぎですか?時間を稼ぐ間に仲間を増やすことですか?議論をかき回すことですか?
   重箱の隅をつついて揚げ足を取ることですか?法案通過を阻止する事ですか?
   はたまた、それら全部ですか?」

松山議員「お、お前一体…?」

山田「誰の差し金でしょうねぇ。誰がこんな事考えたんでしょうねぇ。
   まあ、誰かは分かりませんけどこれだけは言えます」

松山議員「な、何だよ?」

山田「無駄ですよ」

松山議員「こ、こいつ…!」

山田「さあ、委員長。採決を取りましょう」

委員長「い、いやぁ…」

松山議員「だから!そんな事許されるわけないだろうが!」

山田「そうなんですかねぇ?だったら皆さんに聞いてみますか?」

松山議員「な、何だと?」

山田「では、皆さん!採決取ってもいいよ~!ていう人、ご起立ください」

大迫議員「はい」 桐原議員「はい」 自由党議員A「はい」

山田「ひ、ふ、み、よ…」

松山議員「おいおい…、何だこれは…!?」

山田「はい。賛成26名、反対14名で、採決承認案が可決されました」

松山議員「ば、馬鹿な!」

山田「何が馬鹿なのです?」

松山議員「よく見りゃそっちは推進派だらけじゃねえか!こんなおかしな事がまかり通って良いはずがない!
     この委員会は買収されている!」

山田「買収だぁ?人聞きの悪い事は言わないで頂きたいものですな。自由党はすでに総務会で
   全会一致でアウトバーン推進を決定しているし、公民党もそれに加わっている。
   買収などするまでもなく、人数の上で当然の結果ですよ」

松山議員「人数の多さで無理を通そうというのか!?議論もなしに法案を通す気なのか!?
     それでいいのか!それで良いのかよ自由党!」

山田「議論なら本会議でいくらでも出来るでしょう?それに人数の多さで無理を通してきたのは
   決して私達だけでは無かったと思いましたがねぇ。そうですよね?民政党の松山さん?」

松山議員「馬鹿な!アウトバーンなんかがこの国に出来ていいはずがないんだ!」

山田「あ、それは言ってはまずいですよ…」

桐原議員「松山議員」

松山議員「は、あ、あなたは…?」

桐原議員「今の発言は聞き捨てならない」

(あかん)

松山議員「い、今の…?」

桐原議員「あなたは、アウトバーンなんかがこの国に出来ていいはずがない。そう仰った」

松山議員「そ、それの何が悪いってんだ!」

山田「ああ、まずいなぁ」

桐原議員「かつての同盟をお忘れか?」

松山議員「は?」

桐原議員「かつての戦友達の墓前で同じ事が言えるのか?松山議員」

松山議員「一体君は何を言っているのかね?」

桐原議員「発言を撤回なさい。これは警告です」

松山議員「警告だぁ?」

山田「撤回した方がいいですよ?」

松山議員「どうして?」

桐原議員「もし撤回しないのならば…」

松山議員「しないのなら?」

桐原議員「もう2度と娘さんの笑顔は見られなくなる事でしょう」

松山議員「………おい、今のって…」

山田「ジョーク!桐原君のジョーク!この荒れた場を和ませるためのジョークですから!」

松山議員「絶対嘘だろ!ブラックユーモアの塊か!」

山田「彼はいささか笑いのセンスが人とは違っているようでして」

松山議員「お前、いささかの意味分かって言ってんのかよ!?」

山田「ああ、まずい!委員長!もう採決取っちゃいましょう!」

秋本委員長「え、今!?」

山田「そうです!もうこれ以上続けるのはマズすぎます!」

秋本委員長「しかしだね、採決というのは…」

山田「さっき、採決承認案は通ったでしょ!この機を逃したらもうチャンスはないんですよ!」

秋本委員長「しかし…」

大迫議員「いいんじゃないですか?やっちゃいましょうよ」

秋本委員長「お、大迫君…」

大迫議員「かなり異例の事ですが、まあそういうのも有りって事で。
     責任は全てこの山田に押し付けちゃえばいいんだし」

山田「喜んでお引き受けしますよ」

秋本委員長「は、はぁ」

松山議員「何故そんなに急ぐ?」

山田「はい?」

松山議員「こんな事までして急ぐ理由は何なんだ?いや、急いでるのではなく、焦っているのか?」

山田「焦っているかどうかはさておき、急いでいる理由は…、7年後にあります」

何というカオス…

上手いな。自分が有利に運べるように裏で動いて、不測の事態で不利になる前に話を進める…粘密に練られた計画は木村父のものか、それとも山田か…

乙。楽しみにしてます。

松山議員「東京五輪か。間に合うと思っているのか?」

山田「間に合わせますよ」

松山議員「そのために議論もすっ飛ばして、法案を通すと?それが法治国家のあるべき姿だと思っているのか!?」

山田「アウトバーンは今すぐにでも必要なものなのです。寄り道している暇は一切ない。
   もう定額給付金の時の様な茶番は懲り懲りなんですよ!」

松山議員「茶番だと?」

山田「必要な時に必要なものを与えなければ、効果が出ないのは当たり前。
   議論によって法案の精度を向上させるは大いに結構。しかしそれをやるのは
   時間的余裕があるときのみにして頂きたい。
   今、日本は非常時なのです。議論だけで救える状況ではないのですよ」

松山議員「超法規的措置のつもりか…?」

山田「いいえ、そんなつもりはありませんよ。ただ急いでるだけです。では委員長、採決をお願いします」

秋本委員長「………はい」

松山議員「ちょ、ちょっと待って下さい!」

秋本委員長「アウトバーン建設法案の設定について、山田理事の報告のとおり決するに賛成
      の議員の起立を求めます」

松山議員「ちょっと待ってくれ!」

大迫議員「はい」 桐原議員「はい」 自由党議員A「はい」 自由党議員B「はい」

秋本委員長「賛成29名。起立多数であります。よって、アウトバーン建設法案は、原案のとおり可決されました」

松山議員「そんな馬鹿な!こんな事があっていいはずがないんだ!」

山田「では、松山議員。本議会でお会いしましょう」

松山議員「こんな横暴が許されるはずはない!世間に知らしめてやる!」

山田「どうぞご勝手に。必死になって聞いてくれる耳を探すことですな。
   まあ、その間にも私達は前進しますけど」

松山議員「て、てめえ!」

大迫議員「あらあら、あんな見え透いた挑発に乗っちゃうなんて」

桐原議員「山田議員は本当に煽り上手でいらっしゃいますな」

大迫議員「案外、敵に回すと面倒臭い相手なのかね、山田って」

桐原議員「ですな」

民政党本部に戻った松山議員は委員会で起きた出来事を大島幹事長に報告した。

大島幹事長「まさかそんな強引な手を使うとはな」

松山議員「お役に立つ事叶わず、申し訳ありません、幹事長」

大島幹事長「仕方があるまい。さすがにこれは予測出来ないだろう」

松山議員「私は悔しいです!あんな3流政治家にいい様にされてしまうとは!」

大島幹事長「3流政治家か…。松山君、彼は本当に3流政治家なのかね?」

松山議員「というと?」

大島幹事長「彼の今迄の行動を鑑みるに、企業からリベートを受け取るしか能がない人間のものとは思えないのだが?」

松山議員「し、しかしですね…!」

大島幹事長「これは、あの人に頼んでみるのも悪くないかもしれんな…」

松山議員「あ、あの人って…まさか…!?」


翌日、山田は委員会での出来事について説明するよう矢部総理に呼び出され、首相官邸に来ていた。

矢部首相「昨日の件については聞いたよ。あれほど派手にやる必要があったのかね?」

山田「私は下手すりゃ数ヶ月掛かるであろうイベントを、たった1日で完了させたのです。
   これは褒められはしても、説教されるような事ではないと思いますが?」

矢部首相「あくまでもそのような態度を取り続けるつもりか?
     君は、それが自分で自分の首を絞める行為だと分かっているはずだ」

山田「ええ、分かっていますよ。ですがやらねば。もう手段を選んでいる場合ではないのです。
   それはあなただって分かっているはずだ」

矢部首相「………。これ以上は責任を取れんぞ?」

山田「大丈夫です。あのような搦め手は最初で最後ですから。
   それにこれからは、出来るだけ総理に迷惑を掛けないよう努力致しますし」

矢部首相「あまり信用出来ないが、今回は額面通りに受け取っておこう」

山田「助かります」

矢部首相「…………。勝算はあるんだろうな?」

山田「私は勝ち目のない戦いは一切致しません」

同じ頃、大島幹事長と松山議員は目的の人物に会うために活性党本部を訪れていた。

広沢代表「珍しい客だな」

大島幹事長「お久しぶりです、広沢さん」

広沢代表「わざわざ訪ねてきたのは、一緒にお茶でもするためかな?」

大島幹事長「ははは、そうだと言いたいところなんですがね…」

広沢代表「さて、目的はなんだろうねぇ」

大島幹事長「広沢さん、アウトバーン特別委員会での出来事については知ってますね?」

広沢代表「ああ、聞いてるよ。かなり思い切った事をする者がいるようじゃないか」

大島幹事長「その男、自由党の山田というそうです」

広沢代表「自由党の悪童か。随分張り切っているな」

大島幹事長「ええ。正直これほどやる男だとは思ってもみませんでした」

松山議員「あいつはただの3流政治家ですよ!今は図に乗ってるだけです!」

広沢代表「その三下にいい様にされたわけか。お笑い草だな」

松山議員「…………」

広沢代表「とはいえ、自由党の若造に好き勝手されるのも面白くはない」

大島幹事長「では協力してくださいますか?」

広沢代表「………。で、その若造が好きなものは何なんだ?」

大島幹事長「それは、金でしょうな。企業から定期的にリベートを受け取っていると噂されているくらいですし」

広沢代表「金か。どうやら政治家という職業を履き違えているタイプの輩らしい」

大島幹事長「広沢先生、どうかアウトバーン建設を阻止してください」

松山議員「どうかあの男を地獄に突き落としてください!」

広沢代表「まあ、地獄に落とすかはさておき、昔なじみのためだ。ささやかな協力をしようじゃないか」

大島幹事長「お願いします、広沢先生」

松山議員「お願いします!」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「総理に説教されてきました」

木村「そりゃ説教もされますよ!委員会をたった20分足らずで終わらすなんて前代未聞ですよ!?」

山田「実は以前から最短記録を狙っていましてね」

木村「あんた一体何目指してるんだよ!?」

山田「俺はね、良かれと思ってやってるんだよ?人のため、国のため、金のため、
   一刻でも早くアウトバーンを建設しなければならない!そう思って頑張ったんだよ!」

木村「99%金のためじゃないですか!この守銭奴め!」

山田「何を言うか!俺は守銭奴ではないぞ!貯金だって一切無いんだから!」

木村「いや、あるでしょ!例のヴィトンのバッグがあるでしょうが!」

山田「いや、あれは臨時用の軍資金だから」

木村「要はヘソクリじゃないですか!」

山田「ヘソクリちゃうわ!俺がそんな悪徳主婦の真似事するかよ!」

木村「あなたもっと質悪いでしょ!それに、あの2億はどうしたんです?」

山田「ああ、あれは投資に回してる」

木村「また株やってるんですか?もういい加減やめた方がいいですよ。
   いつか大損こいてやって来た事を後悔する日が来るんですから」

山田「何を言ってるんだ次郎。儲かる儲からないは関係ないんだよ」

木村「どういうことですか?」

山田「これは人助けなんだ。企業がより頑張っていくためにはより多くの軍資金が必要なんだ。
   俺が投資するのもそれが理由さ。企業を元気付けるため。そのためにやってるんだ」

木村「嘘くせえ!汚職の温床になってる気がぷんぷんしますね!」

山田「まあ、否定はしないけど」

木村「やっぱり!」

山田「まあとにかく、タンス預金だけはやめておけよ。あれは死に金だ。
   最低でも銀行に預けるんだ。もっと積極的に動くなら好きな企業に投資するでもいいけど」

木村「でも銀行に預けても全然利息つかないですしねぇ」

山田「そんなんどうでもいいわ」

木村「まあ確かにどうでもいいですけど」

山田「いや全然よくないわ。アホか」

木村「あんたが先に言ったんでしょうが!」

その時、秘書の高橋の元に一本の電話が鳴る。

高橋「はい、もしもし、山田議員の秘書の高橋ですけども。あ、はい……。あ、少々お待ちください。
   山田先生」

山田「どうした?」

高橋「今、活性党の広沢代表の秘書の方から連絡がございまして…」

山田「活性党の広沢ぁ?」

木村「広沢ってあの広沢ぁ!?」

高橋「はい。そうです」

山田「用件は何だ?」

高橋「はい、お食事のお誘いだそうです」

山田「お食事だぁ?」

木村「先生、広沢議員と面識があるんですか?」

山田「いや、一度も話した事ないと思うけど」

木村「それなのにお食事のお誘い?」

高橋「どうします?お断りしましょうか?」

山田「いや、行く」

木村「え?マジですか!?」

山田「いや、だって行かないと失礼にあたるでしょ」

木村「いやまあ、そうかもしれませんけど!」

山田「とにかく行くって伝えて頂戴」

高橋「あ、はい。分かりました」

木村「ホントに行くんですか?何か怪しくないですか?だってあの広沢議員ですよ?」

高橋「あ、どうもお待たせしました。それでですね………」

山田「さあ、どうだろうね。何が目的か…」

桐原議員「山田議員」

山田「あ、はい。な、なんでしょうか?」

桐原議員「これは見え透いたトラップです。行くと返答したのは得策ではなかったかもしれません」

木村「ト、トラップ!?」

桐原議員「敵の真意を探るために、むざむざ誘いに乗るというのは
     いささかリスクが高すぎるのではないですか?」

木村「そ、そんな狙いがあったんですか!?それは危険だ!」

山田「なぁに、ただ飯食って世間話して普通に帰って来るだけだって。何も心配いらない。楽勝だって」

桐原議員「そうは思いませんな。おそらく敵はあなたに何らかの交渉を持ち掛けるでしょう」

木村「交渉?一体どんな!?」

桐原議員「当然、アウトバーン建設を頓挫させるための交渉でしょうが、
     敵は、あなたを一体何で釣ろうとするか…」

電話を切った高橋秘書が答える。

高橋「おそらく金でしょうな」

木村「ああ、絶対そうですよ!先生お金大好きですし!」

山田「金かぁ…」

桐原議員「山田議員、分かっておられると思いますが、決して受け取ってはいけませんよ?」

山田「は、あ、うん…。わ、分かってるよ…!」

桐原議員「本当に分かっておられます?」

山田「も、もちろん…!」

桐原議員「もし受け取りでもしたら…」

山田「う、受け取ったら…?」

桐原議員「もう二度と朝日を拝む事は出来なくなるでしょう」

山田「こえーよ!」

木村「絶対に受け取っちゃ駄目ですよ!」

山田「わ、分かってるよ!」

高橋「先生、今晩7時からだそうです」

山田「一気に気が重くなってきた」

新宿のとある中華料理屋にて

広沢代表「やあ」

山田「は、初めまして」

広沢代表「よく来てくれたね」

山田「は、はい、来ちゃいました」

広沢代表「もしかしたら来てもらえないのではと、少し不安だったのだよ」

山田「私はお食事会だのパーティーだのと名の付く会合が大好きでして、
   お呼ばれしたら行かずにはいられない体質なんです」

広沢代表「それは素晴らしいじゃないか。人の誘いを断らないというのは長所だよ」

山田「広沢先生は褒め上手でいらっしゃいますね」

広沢代表「私は思った事を思いのままに口にしているだけだよ」

山田「なるほど。私はどうやら先生を誤解していたようです」

広沢代表「もっとあくどい人間だと思っていた?」

山田「え、ええ、まあ。政財界の裏番というイメージを持っていたので、
   さぞや恐ろしい人間だと…」

広沢代表「この業界で食っていくためには愛嬌も必要なのでね」

山田「同感です」

広沢代表「しかし、今日は本当に来てもらえて良かった。
     先日の君の武勇伝を聞いてな、是非とも会いたいと思っていたのだよ」

山田「まさかいつぞやの蛮行を武勇と評してくださるとは。
   あれは非難こそされ賞賛される事は無いと思っておりましたから」

広沢代表「いくら非難しようが法案通過を阻止出来なかった以上、
     君の行動はある意味適切だったという事になるからな。
     その点に於いては純粋に評価しなければなるまい」

山田「なるほど…。さすがは広沢大先生と言ったところですな。
   その歳にして純粋かつ柔軟な発想をお持ちでいらっしゃるとは」

広沢代表「まあそれもまた見る者によっては、無分別と非常識を重ね着した老人と映るようだがね」

山田「年齢に釣り合わない価値観は排除しなければならないと考えるのが世間というものですから」

広沢代表「集合的な価値観というものはなかなか優しくはないようだな」

山田「はみ出し者はいつだって冷遇されるものです」

広沢代表「好きではみ出している訳では無いというのに、全くもって酷な話だな」

山田「相手の側に立って考えるというのはあくまでも内々での話のようですから。
   外側の人間に共感するというのは恐怖の対象らしい」

広沢代表「ミイラ取りがミイラに、か。なるほど、結局分かり合えなどしないというわけか」

山田「それでも希望はありますよ」

広沢代表「どのような?」

山田「役割分担です」

広沢代表「AにはAを。BにはBを。という事か?」

山田「はい。はみ出し者とはさみは使いようというわけです」

広沢代表「割り切った考え方だと思うが、それに感情がついて来れるかね?」

山田「感情は変わるものです。愛し合っていた2人が憎み合うようになったり、
   ずっと嫌いだったものが何度も接していくうちに好きになっていったり」

広沢代表「では、はみ出し者が受け入れられる日もいずれ来ると?」

山田「ええ。価値観は常に広がり続けてますから。
   かつて市民権を得られなかった同性愛者も今じゃ受け入れられつつありますからね」

広沢代表「なるほど。君もまた柔軟な考え方を持っているようだ」

山田「物事が多面的であると知ってしまったら、どうやったって柔軟にならざるを得ないですからね」

広沢代表「そうだな。それゆえ君は厄介なのだろうな」

山田「はい?」

広沢代表「君に紹介したい人物がいる」

山田「誰でしょうか?」

広沢代表「おい、来たまえ」

奥から若い女性が出て来る。

山田「こ、この方は…?」

広沢代表「美咲ちゃん。22歳。どうだ?可愛いだろ?」

山田「は、はい!可愛いです!」

美咲「初めまして、美咲です」

山田「こ、声まで可愛いだと!?」

広沢代表「上知大卒、偏差値68、身長158㎝、Hカップ」

山田「え、Hだと!?こいつバケモノか!?」

広沢代表「英語、フランス語を自在に話すトリリンガルで、特技は錐揉み式回転尺八」

山田「き、錐揉み式…!?い、一体何なんですかそれは!?お、教えてください!」

広沢代表「嫌だね。教えない」

山田「だ、な、どうしてですか!?教えてくださいよ!」

広沢代表「そんなに知りたいのかね?」

山田「はい!知りたいです!」

広沢代表「では、頼み事を聞いてくれたら教えてあげてもいいがね?」

山田「ど、どのような頼みでしょうか!?」

広沢代表「アウトバーン建設を中止させるんだ」

山田「い、いやぁ、さすがにそれは…」

広沢代表「やってくれれば、あれを体験出来るんだよ?」

山田「た、体験ですと!?」

広沢代表「それだけじゃない。今なら特典付きだ」

山田「と、特典…?」

広沢代表「1億。これでどうだ?」

山田「い、1億ですと!?」

広沢代表「おや?まだ足りないかね?」

山田「いや、何も言ってないんですけど?」

広沢代表「では2億!これでどうかね?」

山田「いや…、しかしですね」

広沢代表「なんだ、まだ足りないというのかね?」

山田「いや、まだ何も言ってないんですけど!?」

広沢代表「更に倍!4億!」

山田「よ、よ、4億!?」

広沢代表「おいおい、まだ足りないのか!?」

山田「だから、まだ何も言ってないって言ってるでしょうが!」

広沢代表「では、更に倍!8億でどうだ!?」

山田「な、な、なんと!?」

広沢代表「え?8億じゃ半端だって!?君はホントに仕方が無いなぁ」

山田「だから何にも言ってないって言ってるだろうが!」

広沢代表「よし、10億!これでどうだ?」

山田「いや、どうだと言われましても…」

広沢代表「美咲ちゃんとの夢のひと時と共に10億が手に入るんだぞ?
     アウトバーン法案を頓挫させてくれればな」

山田「ですが…」

広沢代表「もちろんこれらは前金だ。実際にアウトバーン建設を中断させることが出来た暁には、
     ビッグな成功報酬が手に入るぞ~?」

山田「ビッグな成功報酬!?そ、それは一体…!?」

広沢代表「知りたいか?」

山田「は、はい!知りたいです!」

広沢代表「駄目だね!教えな~い!」

山田「なんだよ!期待させんなよ!」

広沢代表「しかし、我々に協力すると一言言ってくれれば、教えないでもないがねぇ?」

山田「うぅ…、気になるぅ…」

美咲「協力するって言って下さいよ~山田先生?」

山田「み、美咲ちゃん…!」

美咲「協力してくだされば、絶対に後悔はさせませんから」

山田「こ、後悔…?」

美咲「もうすでにホテルは取ってあります」

山田「ほ、ホテルぅ!?」

美咲「一緒に楽しみましょうよ~」

山田「た、楽しむって…、なにをして…?」

美咲「それは…、後のお楽しみです」

山田「なんじゃそりゃ!めっちゃ気になるやんけ!」

美咲「さあ、一言仰ってください。協力するって…」

山田「きょ、協力…」

美咲「そうです。協力する…」

山田「み、美咲ちゃん?」

美咲「はい、なんでしょうか?」

山田「きょ、協力するって言ったら、キスもしてくれるの…?」

美咲「はい、もちろん」

山田「本当にキスしてくれるの?」

美咲「ええ、喜んで」

山田「俺がっつりエイズなんだけど、ディープキスしてくれるんだよね?」

美咲「は?」

山田「俺とキスしたらHIV感染しちゃうかもしれないけど、
   それでもがっつりディープキスしてくれるんだよね!?」

美咲「え、いや…、あの…」

山田「どうなんだい?美咲ちゃん!?」

美咲「ええと、あの…」

山田「どうなの美咲ちゃん!?」

美咲「あ、今日、妹の誕生日だった」

山田「へ?」

美咲「すみませ~ん!すっかり忘れてました!今日、妹の誕生日だったんです~!
   という事で今日はもう帰らさせてもらいます!」

山田「ちょ、ちょっと!急に何言ってるんだよ!?」

美咲「ごめんなさい!妹が家でお腹を空かせて待っているんです!」

山田「そんなのお袋に任せておけばいいじゃん!美咲ちゃん、頼むから帰らんといてよ!」

美咲「申し訳ありません!妹と二人暮らしなので!では、さよなら!」

山田「美咲ちゃ~ん!」

美咲が店を飛び出していく。

山田「なんて事だ…」

広沢代表「ま、まあ、こういう日もあるよ…」

山田「いや無いでしょ!ハニートラップ仕掛けられてフラれるなんて事絶対無いでしょ!」

広沢代表「まあ、そう落ち込むなよ」

山田「落ち込むわ!こんなもんどうやったって落ち込むに決まってるわ!」

広沢代表「でも考えてみろ。これで君はハニートラップに一切引っ掛かる事の無い無敵の政治家になったんだぞ?
     むしろ喜ぶべきことではないか」

山田「こんな時に褒め上手発揮しないでくださいよ!」

広沢代表「まあ、そう言わずにだね」

山田「だっておかしいじゃないですか!ディープキス程度じゃエイズは移ることはないんですよ!?
   それなのに彼女は出て行った!逃げるようにして!しかも何ですか、妹の誕生日って!?
   だから帰りますって一体何なんですか!?」

広沢代表「妹想いの良い姉だったという事だろう」

山田「妹を想う心があるんだったらハニートラップなんて仕事やるんじゃねえよ!
   ていうかあんなもん見え透いた嘘じゃねえか!」

広沢代表「まあ、落ち着きたまえよ。今、別の子を呼ぶから」

山田「いえ、結構です。気持ちが萎えました」

広沢代表「そうか、それは残念だ。では10億だけ受け取って、今日のところは帰ると良い」

山田「いいえ、要りません」

広沢代表「なんだと?」

山田「要らないと言ったのです」

広沢代表「10億がいらないだと?」

山田「はい、そうです。ていうかこんな大金、どこから出て来たんでしょう?」

広沢代表「どこからとは?」

山田「活性党にこんな大金出せるはずないですもんねぇ。では、誰がこれを用意したんでしょうか?」

広沢代表「そんな事は君が気にする必要はない。さあ、10億を受け取って今日は帰りなさい」

山田「いいえ、結構です。今日は手ぶらで帰りますから」

広沢代表「本当に受け取らないつもりか?」

山田「私には必要のない金です」

広沢代表「受け取らなければ一生後悔するかもしれないとしても、これを受け取らないと?」

山田「例え、これを受け取らなければ一生後悔するかもしれないとしても、
   これを受け取れるわけにはいきません。何故なら、これを受け取れば、私は明日には後悔するだろうからです」

広沢代表「それはどういう意味だ?」

山田「これを受け取ったら、私はもう二度と朝日を拝む事が出来なくなるからです」

広沢代表「はぁ?」

帰りの車内にて

高橋「先生、よく受け取らずに帰って来ましたね」

山田「ああ、危なかったよ」

高橋「いやぁ、先生の事だから平気な面して買収されるかと思ったんですがねぇ」

山田「ああ、危なかったよ…」

高橋「あれ、先生?もしかして泣いてます?」

山田「いや、泣いてねえし!」

高橋「あ、そうですか…」

山田「………。高橋君?」

高橋「はい、何でしょうか?」

山田「二丁目に向かってくれ」

高橋「へ!?ど、どこ?」

山田「二丁目だ。二丁目へ向かってくれ」

高橋「二丁目ってあの…、あの!?」

山田「そう、新宿の」

高橋「あ、はい、分かりました…」

山田「……、高橋君?」

高橋「は、はい!なんでしょう?」

山田「おすすめのバーは知らないかね?」

高橋「ば、バーですか!?」

山田「そうだ、バーだ」

高橋「は、はい。とっておきを知ってますけど?」

山田「そうか。ではそこへ向かってくれ」

高橋「でもいいんですか?二丁目のバーっていったら」

山田「ああ、分かってる!分かってるから!」

高橋「せ、先生…」

山田「今はただ呑みたい気分なんだ…」

高橋「先生…」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

木村「まさか10億とは…」

山田「多すぎだよねぇ。あまりの額だから、危うく受け取ってしまうところだったよ」

木村「こんな3流政治家にそれほど支払う価値があるんですかね?」

山田「お前さんは俺を過小評価しているようだが、相手はそうではないという事だよ」

木村「そうみたいですね。完全に過大評価ですもの」

山田「お前は極端だな」

大迫議員「しかし、これほどの大金をどこが用意したんだろうな」

山田「それは俺も分かんないんですよねぇ。活性党にそれほどの資金力があるはずないですし、
   今回の事を仕組んだであろう民政党の方が、わざわざ俺なんかのために10億も
   用意してくれるとも思えないんですよねぇ」

木村「では、一体誰が?」

山田「さあねぇ。アウトバーン建設を頓挫させるために資金を提供してくれる
   大口のスポンサーなんて見当もつかんね」

大迫議員「まあ、裏で誰が協力してるのかは分からんが、これで終わりではないという事だけは分かるな」

山田「ですね。次は何を仕掛けてくるやら」

活性党本部にて

大島幹事長「それでどうでしたか?」

広沢代表「彼は受け取らなかったよ」

松山議員「あの銭ゲバ野郎が10億もの大金を受け取らなかったというんですか!?信じられません!」

広沢代表「むしろあの大金が、却って彼を疑心暗鬼にさせたのやもしれんな」

大島幹事長「作戦失敗というわけですか…」

広沢代表「いいや、そうではないよ。それほど簡単に事が運ぶとも思ってはいないしな」

大島幹事長「では思惑通りではあったと?」

広沢代表「そうとも言えるかもしれないな」

大島幹事長「どういう事でしょう?」

広沢代表「実のところ、金を受け取るかどうかは二の次の話題であって、
     私はただ彼と直接話をしてみたかっただけなんだよ」

大島幹事長「受け取ればそれで良し。受け取らなくても次があると考えていらっしゃった?」

広沢代表「そうだ。彼と直接話して分かったよ。山田という人間が一体どのような男なのかがね」

大島幹事長「つまり、奴に対抗しうる次の手もすでに考えてあると?」

広沢代表「ああ。そのためには君らにも可能な限り動いてもらわねばならんがね」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「衆院本会議に於いて、よもや私自身が答弁に立つ機会があるやもしれんな?」

木村「まあ、あるでしょうね」

山田「だがその答弁に立つこの私の評判はいかがなものだろうか?良いか、悪いか?」

木村「間違いなく悪いでしょうね」

山田「そうか。では、委員会での振る舞いによって、その評判はどうなったかね?」

木村「最悪になりましたね」

山田「ああ、その通りだ。そんな私が公衆の面前に立ってみろ。
   その行為自体がアウトバーン法案通過を頓挫させる要因となりかねないではないか!」

木村「確かになりかねないですねぇ」

山田「ではどうするべきか」

木村「今更ながらイメージアップに努めるべきなのではないでしょうか?」

山田「その通りだ!私はこれから自らのイメージアップに努めようと思う!」

木村「具体的には何をするので?」

山田「大きく分けて2つある!」

公民党本部にて

北島公民党副代表「代表!ちょっといいですか!?」

山崎公民党代表「どうした?そんな慌てて」

北島公民党副代表「厄介な客が来ました」

山崎公民党代表「厄介な客?」

山田「失礼しま~す」

扉が開く。

北島公民党副代表「うわ、来たよ来たよ…」

山田「先日はどうも」

山崎公民党代表「君か…」

山田「手厚い歓迎本当にありがとうございます」

北島公民党副代表「一体どこに歓迎ムードを感じたんだ?」

山田「北島さん、なんか怒ってるんすか?」

北島公民党副代表「別に怒ってはいねえよ。気に食わないだけだ」

山田「やっぱりまた与党会議での事引きずってるんですか?」

北島公民党副代表「別に引きずっちゃいねえよ。ていうかこないだの委員会、ありゃ一体なんだ?」

山田「裏技です」

北島公民党副代表「何が裏技だ、アホか!お前の愚かな振る舞いのせいで与党は野党から滅多打ちにされてるんだぞ?」

山田「安心してください。私がどうこうする前から与党は野党からバキ打ちにされてましたから」

北島公民党副代表「一体何を安心すればいいんだよ?」

山田「とは虚勢を張ってはみたものの、私自身、あれらの振る舞いにはとてもとても反省しているのです」

北島公民党副代表「本当かよ、信じ難いな」

山田「そう思われるでしょうが、今回は本気なのです」

北島公民党副代表「今回はねぇ」

山崎公民党代表「それで、私達に一体何の用なのかね?」

山田「是非、神を紹介して頂きたい」

北島公民党副代表「神だぁ?」

山田「あれ?もしかして仏の方でしたっけ?」

山崎公民党代表「君、もしかして…?」

山田「はい!私に宗教をください!」

山崎公民党代表「いや、くださいって…」

山田「ここって蓮華教の総本山なんですよね!?だったら入門者は拒まないはずですよね!?」

山崎公民党代表「いやまあ、そうだけれども」

山田「だったらお願いします!私を八百万の神々に救って頂きたいのです!」

山崎公民党代表「蓮華教は一神教なんだが」

山田「だったらその人でいいので」

北島公民党副代表「お前本当にやる気あんのか?冷やかしに来ただけなんじゃないのか?」

山田「何を仰られるか!私は今までの人生を振り返り、唖然としたのです!
   私は恥の多い生涯を送って来ました!それは何故か?そう、神に仕えていなかったからです!」

山崎公民党代表「蓮華教は神じゃなくて釈迦の方でやってるんだけども」

山田「じゃあ、釈迦に仕えます!」

山崎公民党代表「君はお坊さんにでもなるつもりなの?」

山田「私は反省しているのです!数々の身勝手な振る舞いは全て己がためにやった事でした!
   ですが今は、それではいけない!世のため人のためにやらねばいけないのだと!そう悟ったのです!」

北島公民党副代表「本当かよ、心底胡散臭いな」

山田「どうか山崎代表様!どうか私に!釈迦を紹介して頂けませんでしょうか!?」

山崎公民党代表「………」

北島公民党副代表「代表、どうします?非常に怪しいんですけど」

山崎公民党代表「よし!分かった!君を受け入れようじゃないか!」

山田「本当ですか!?ありがとうございます!山崎代表様!」

北島公民党副代表「代表!本気ですか!?」

山崎公民党代表「ああ、私は心打たれたよ。世のため人のために何かを成す。これこそ人のあるべき姿ではないか」

北島公民党副代表「しかしですね…!」

山田「さすがは代表様だ!副代表殿とは格が違っていらっしゃる!」

北島公民党副代表「なんだとコラァ!?」

山崎公民党代表「まあまあ落ち着きたまえ。争いからは何も生まれはしない。
        今日は新しい仲間の誕生を祝おうじゃないか」

山田「そうですよ。祝ってくださいよ、北島副代表殿。うほほほ!」

北島公民党副代表「ぐぬぬぬ…!」

創華学団本部にて

山田は大勢の学団員の前で演説をする事になっていた。

山崎公民党代表「さあ、皆さん!新しい仲間が来てくれました!自由党議員の山田君です!」

山田「はい、どうも!」

拍手喝采が巻き起こる。

山田「私は、今までの人生、恥ずべき行いを幾度となくしてきました。人の道を外れ、悪に染まりそうになった事も
   幾度となくあります。私は悔いているのです!私は、自らの行いを恥じているのです!
   しかし、そんな時に私の事を励ましてくれたのは、親父でもなく、お袋でもなく、そう、釈迦でした!」

北島公民党副代表「ん?」

拍手喝采が巻き起こる。

山田「ありがとうございます!皆さんに神の御加護を!」

北島公民党副代表「神じゃなくて、仏なんだけどねぇ」

山田「皆さんありがとうございます!本当にありがとうございます!」

再度拍手喝采が巻き起こる。

山田「………アウトバーンだ…。これでアウトバーンが……」

北島公民党副代表「プレインビューか……?」

HIV陽性者を支援する会にて

司会者「では登場して頂きましょう!自由党衆議院議員の山田さんです!」

壇上に登りスピーチをする山田。

山田「よろしくお願いします」

まばらな拍手が送られる。

山田「私も皆さんと同じくエイズに感染しています」

会場が少しざわつく。

山田「まあ、私の場合は自分のおいたが原因なのでなっても仕方が無かったのかもしれません。
   ですが、そうでない皆さんの事が私は不憫でなりません!
   真っ当に生きているにもかかわらず、あらぬ偏見に悩まされる方々が不文に思えて仕方が無いのです!
   私はそんな方々の力となりたい!支えてあげたいのです!どうか、私にささやかな協力をさせてください」

司会者「この度ですね、山田議員からなんと!5千万円もの寄付を頂いております!」

観客からの歓声の声が漏れる。

山田「いつの日か、正しい理解の元、この世から全ての偏見が無くなりますよう、心から願うばかりです!
   皆さん、今日はありがとうございました!」

拍手喝采が巻き起こる。

国会議事堂、議員食堂にて

木村「山田先生は一体何をしているんでしょうかね…」

大迫議員「今更ながら地に落ちた人気を回復させるために、
    ささやかなポイント稼ぎという名の金の浪費をしてるんだろうさ」

木村「宗教で人気って回復するんですかね?宗教を嫌ってる層も多少はいるでしょうに」

大迫議員「人気を回復させるっていうよりも、俺は以前とは違うんだっていう事をアピールしたいんじゃないか?」

木村「なるほど。そうすればもう悪徳議員じゃないと堂々と言い張れると考えたわけですね。
   なんかアホっぽいですね」

大迫議員「だな。なんせ中身は何にも変わってないからな」

木村「それにエイズ関連以外にもチャリティーイベントに出席してるようですね」

大迫議員「小児がんと闘う子どもたちを支援するイベント、性犯罪に悩む女性を支援するイベント、
     C型肝炎感染者の支援イベント、復興支援チャリティイベント、その他諸々…」

木村「なんでしょうねぇ、この感じ…」

大迫議員「ずっと思ってたけど、やっぱりあいつはアホなのかね?」

木村「やっぱりそうなんですかねぇ」

野党連合秘密会議にて

大島幹事長「皆さん、今日はようこそいらっしゃいました」

橋場日新党代表「今日は一体どのような用件で呼ばれたのでしょうか?」

田辺皆さん党代表「秘密の会合とはどういう事で?」

大島幹事長「今回お呼びした訳は他でもない、例のアウトバーン法案のためですよ」

志村日共党委員長「なるほど。そういう事ですか」

海原民政党代表「皆さんも、先日の特別委員会での出来事には相当な不満を持っているそうですな」

橋場日新党代表「あれほどの事をしたにも関わらず、メディアは未だにアウトバーン建設を支持している。
        そりゃ腹も立ちますよ」

吉木社会党代表「メディアの買収ですか。全く、金に物を言わせた政治には嫌気が差しますな」

大島幹事長「そうですか。どうやらここにいる全員、同じ思いを抱いているようだ」

海原民政党代表「ここは一つどうでしょう?横暴な政治を強行する与党に対し、こちらも連合して戦うべきでは?」

田辺皆さん党代表「しかし、徒党を組んだところで数での優劣は決していますよ?」

広沢代表「それは大した問題ではないのですよ」

田辺皆さん党代表「と、言いますと?」

広沢代表「与党が最も恐れるのはどのような抵抗だと思われますか?」

田辺皆さん党代表「さあ、なんでしょうか?」

志村日共党委員長「市民を巻き込んだ抵抗でしょうか?」

広沢代表「それもありますが、何よりも恐ろしいのは、統制の取れた抵抗です」

大島幹事長「つまりは組織的な抵抗」

広沢代表「その通り。政治が数による勝負なのですから、巨大与党に対抗するためにこちらも徒党を組むのは
     当然の結果です。そして、まとまった反対意見を持っていれば、市民を煽るにもやりやすいというものだ」

志村日共党委員長「なるほど。どうやらこの意見には賛同すべき点が多々有りそうですな」

橋場日新党代表「横暴な与党のやりようにアンチテーゼを示す意味としても、
        この連合には加わる価値がありそうですね」

田辺皆さん党代表「正直、野党での連合など気持ちの上では願い下げなのですが、
         今回の件についてはやらざるを得ないでしょうな」

吉木社会党代表「この件のためなら、社会党も微力ながらお力をお貸しいたしますよ」

海原民政党代表「そうですか。では、決まりですね」

大島幹事長「与党の無法者共に目に物見せてやりましょう」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「皆さん、いよいよ本会議ですよ。準備はいいですか?」

小野「準備も何ももうやる事は決まっているだろう」

野中「やり方は酷いものだったが、委員会が通ったんだ。何の問題も無いだろう」

須藤「そういう事ですね」

木村「僕は参議なんで関係ないです」

山田「なんか皆さん冷めてますね」

小野「冷静沈着に事を運ぶというのが成功の何よりの近道なんだよ」

須藤「そうそう、熱くなっては相手の思うつぼですから」

山田「なんでしょうかねぇ。その余裕な感じは」

桐原議員「確かに余裕を感じてる場合ではなくなったかもしれません」

小野「ん?どういう事かね?」

桐原議員「野党、特に民政党にいささか怪しい動きがあります」

野中「怪しい動きだぁ?」

桐原議員「はい。裏でこそこそと動き回ってるような気配があります」

大迫議員「裏でこそこそねぇ」

山田「このタイミングで動いてるって事は間違いなくアウトバーン関連なんですよね?」

桐原議員「でしょうな」

山田「と、なると。目的は…」

大迫議員「反対派の糾合か」

山田「ですね」

小野「野党連合か」

須藤「面倒な事になって来ましたね」

木村「ん?どういう事でしょうか?反対派がまとまった方が相手にしやすいんじゃないんですか?
   対策も練りやすいでしょうし」

大迫議員「いいや。実際は逆なんだよ」

木村「逆?」

山田「小規模な局地戦は大した問題じゃないんだ。都合が悪けりゃ無視する事も出来るしな」

野中「しかし、デカい声は無視する事が出来ないからな」

木村「でも、委員会で通ったんですから…」

須藤「あの委員会は眉唾もんですからね。不満を持ってる者は多い」

大迫議員「おそらく本会議では質疑でかなり突っ込んでくるでしょうなぁ」

須藤「ですねぇ」

山田「質疑応答の空中戦は私の最も得意とするところです!
   野党がいくら徒党を組もうが全員返り討ちにしてやりますよ!」

小野「君が得意でも、全員がそれを好む訳では無いからねぇ」

山田「一体何を言ってるんです?会議の基本は会話のキャッチボールでしょうよ。
   紙の読み合いの方が楽しいと思ってるんですか?」

野中「会議に楽しさ求めるんじゃないよ。全く、面倒な事になったなぁ」

大迫議員「一体誰のせいでしょうねぇ」

山田「私は良かれと思ってやって来たんですよ?みんなのためにね」

大迫議員「それが今じゃ相手を結託させる要因になっているというわけだ」

山田「まあ、何とかなりますよ。そうですよね、桐原君?」

桐原議員「はい」

山田「桐原君は以前こう言っていたね。私はアウトバーンを守る盾になると。
   もしかしてその力は、矛としても使えるのではないかな?」

桐原議員「無論です」

山田「では、反対派の糾合を阻止、もしくは分断をする事出来るかね?」

桐原議員「ええ。出来ますとも」

山田「では、お願いしようか」

衆院本会議にて

議長「まず、日程第一、アウトバーン建設法案を議題といたします。
   委員長の報告を求めます。アウトバーン建設法案に関する特別委員長秋本君」

秋本委員長「ただいま議題となりました法律案につきまして、アウトバーン建設法案に関する特別委員会における
      審査の経過及び結果を御報告申し上げます…」

須藤「いよいよ始まっちゃいましたねぇ」

小野「どうなることやら」

秋本委員長「ええ…、採決の結果、本案は賛成多数をもって可決され、本案は議決すべきものと決しました。
      以上…、御報告申し上げます」

山田「素晴らしい!」

拍手を送る山田。

議長「ええ、ただいまの委員長報告に対し質疑の通告があります。順次これを許します。橋場君」

橋場日新党代表「日新党の橋場です。ただいま議題となりましたアウトバーン建設に関する法律案につきまして、
        日新党を代表して質問いたします」

拍手が起こる。

橋場日新党代表「ええと、採決の結果、本案は賛成多数をもって可決され議決したとの事でしたが、
        委員会では具体的にどのような討論がなされたのか、秋本委員長、お聞かせ願えませんでしょうか?」

秋本委員長「はぁ、はい…」

議長「特別委員長秋元君」

小野「さあ、来た来た…」

須藤「これ答えるのしんどいでしょうねぇ」

大迫議員「あ~あ、可哀想」

山田「議長ー!その質問には私がお答えしまーーす!」

議長「は?」

北島公民党副代表「うわ、出た出た…」

野中「やっぱり出て来ちゃったよ」

山田「よろしいでしょうか?」

議長「いやぁ…」

橋場日新党代表「議長、私はそれでもかまいませんが」

議長「ええ…!?参りましたねぇ…」

山田「議長、ここは柔軟に行きましょうよ」

議長「はぁ…」

大迫議員「お前が柔らかすぎるんだろうが」

山田「さあさあ!」

議長「はぁ…、では、山田君」

山田「はい!先ほどの質問にお答えします!確か、どのような討論がなされたかでしたよね?」

橋場日新党代表「そうですが?」

山田「では、簡潔にお答えしましょう。討論など一切行われていません!」

どよめきが起こる。

大迫議員「あ~あ、言っちゃったよ」

野中「終わった…」

矢部首相「………」

橋場日新党代表「山田議員、あなた自分で何を仰っているか分かっているんですか?」

山田「ええ、もちろん分かっていますよ。逆に分かっていないと思われた事が遺憾であります」

橋場日新党代表「討論無しで採択されたとなれば、これは一体何のための委員会なのでしょうか?
        これは非常に大きな問題だと思いますがね?」

山田「でしょうね。これはとても大きな問題だ。そうです。これは問題提起なのですよ!」

橋場日新党代表「問題提起ですと?」

山田「そうです!今こそ委員会中心主義的な審議のあり方を離れ、本会議において熱い討論をすべきだと
   私は考えているのです!」

橋場日新党代表「あなたの主義主張などどうでもいいのです。
        今はあなたが委員会でやった事が問題となっているのですから」

山田「どうでもいいですと!?橋場さん、あなたは本会議をないがしろにしているのですか!?」

橋場日新党代表「どうしてそんな発想になるんです!?」

山田「橋場さん、あなたはどうせこう思っているのでしょう。法案なんて難しいからさっぱり分からん。
   そんなもん興味ある奴か専門家に任せて委員会で話し合わせておけばいいんだってね」

橋場日新党代表「そんな事…!」

山田「思ってはいないと?本会議中心主義でないここ日本において、そう思っていない議員なんているのでしょうかね?」

橋場日新党代表「しかし、事がアウトバーン建設となれば、専門家の意見がなければ到底議論は進められないでしょう」

山田「逆ですよ!むしろこういったデカい事業だからこそ、専門家だけで話し合わせてはいけないのです!」

橋場日新党代表「どういう事でしょうか?」

山田「事や、日本国民全員の生活に関わる事なのです。道路は生活の一部だ。
   そしてこのアウトバーンはその生活スタイルを劇的に変えてしまうかもしれない代物だ。
   だからこそ、広い意見を取り入れなければならない。分かるやつだけに任せていてはいけない。
   中田丸栄氏と同じ失敗をしないためにもね」

山田「この事業は全員に関わる事なのです。ここにいる全ての議員、そしてあなた達の全ての支持者、
   全員が関わらなければならない事案なのです」

橋場日新党代表「だからといって、あなたが委員会でやった事が正当化されるわけではありませんよ」

山田「そうでしょうね。さすがにあれはやりすぎだったと私自身反省しているのです。
   私は焦ってしまったのです。今すぐにでも国民を救わねばならないと!
   一刻でも早くこの国のため困っている人のために役に立ちたいと思ってしまったから!」

北島公民党副代表「嘘くせー」

山田「皆さんだってそうでしょう!?自分を応援してくれる人達のために役に立ちたいとそう願っているはずだ!
   だったら私と同じです!私は人を助けたいと願うあまり、線を踏み外してしまっただけなんです!
   96時間のリーアム・ニーソンと同じなんです!助けたくてついついムチャしちゃっただけなんです!
   そういう事ってありますよね?むしろそういう事を一度もした事がないタイプなんですかね、橋場さん?」

橋場日新党代表「いや、あのね…」

野中「立たない鳥跡を濁しまくる…」

山田「やっぱりないですかねぇ。人のために熱くなったり、大切な誰かのために必死になったりする事なんて、
   橋場さんにはないんですかねぇ」

橋場日新党代表「いや、それくらいありますよ!」

山田「だったら私と一緒だ!」

橋場日新党代表「いや、だからそれと委員会での事とは…!」

山田「皆さん聞きましたか!橋さんは私達とおんなじタイプの人間ですよ!」

与党側から拍手喝采が起こる。

大迫議員「さすが橋場さん!」

山崎公民党代表「彼は良い人間じゃないか!」

橋場日新党代表「いや…、だから…!」

山田「橋場さん、みんなと一緒に良い法律を作って、良い国をつくりましょうね!」

橋場日新党代表「は、はい…」

山田「皆さん!橋場さんに盛大な拍手を!」

本会議場内に拍手喝采が巻き起こる。

大島幹事長「な、なんだこれは………?」

松山議員「山田め……!」

広沢代表「はははは……」

野党連合秘密会議にて

大島幹事長「一体何なのだ!あの会議は!」

松山議員「山田め!国会を引っ掻き回しやがって!」

海原民政党代表「まあ、気持ちは分からなくもないが、落ち着きたまえ」

田辺皆さん党代表「まさかあのような事をやり出すとは」

志村日共党委員長「スタンドプレイ甚だしいですね」

海原民政党代表「あの山田とかいう男は余程の派手好きなようですな。それにしても遅い。
        日新党の橋場君と社会党の吉木君はまだ来ないのかね?」

秘書「ええと…、それがですね…」

田辺皆さん党代表「彼らは来ませんよ」

海原民政党代表「なんですと?」

秘書「野党連合を抜けるとの知らせが来てまして…」

大島幹事長「何だって!?」

松山議員「そんな馬鹿な!」

田辺皆さん党代表「今日の事を踏まえて、彼らは彼らなりに独自の対策案を練るつもりらしい」

大島幹事長「何を考えているんだ!数には数で対抗しなければならないというのに!」

松山議員「そうですよ!今一番大事なのは結束だというのに!」

志村日共党委員長「正攻法では敵わないと悟ったのでしょうな。相手はとんでもない変則変則ファイターですから」

大島幹事長「し、しかし…!」

広沢代表「仕方が無いではないか。皆それぞれに考えがあるのだから」

大島幹事長「広沢さん…」

広沢代表「こうなれば次の手を考えるだけだよ」

大島幹事長「次の手?」

広沢代表「全てはあの男から始まっている」

大島幹事長「山田、ですか…」

松山議員「あの3流ペテン師め!許せん!」

広沢代表「いつまで彼をそうだと思っているつもりかね?」

松山議員「え?」

広沢代表「あれは3流などではないよ。あれは…」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「つまり、能ある鷹は爪を隠すという事だよ」

大迫議員「どちらかといえば、鷹というよりも烏って感じだけどな」

高橋「なるほど。鷹じゃなくて烏だったから、爪があろうと無かろうと警戒されずに済んでいたという訳ですな」

木村「ああ!それ凄くしっくり来ますね!」

山田「君ら、俺を傷つけてそんなに楽しいのかね?」

大迫議員「まあ、そうは言っても序盤は何とか防ぎ切ったんだ。悪くないスタートだろ」

山田「そうでしょうそうでしょう」

野中「まあ、かなりヒヤヒヤもんだったけど」

須藤「そうですねぇ。もう終わったかと思いましたよ」

小野「あんな返し方があるとは思わなかったな」

山田「皆さん大絶賛ですな」

木村「そうでしょうか?」

山田「それで桐原君、野党連合なる賊徒共の動きはどうなってるかね?」

木村「賊ではないでしょうよ」

桐原議員「日新党と社会党が離反したようです」

山田「おお!仕事が早いねぇ、桐原君!」

桐原議員「今回の本会議での出来事が彼らを揺さぶる良き機会となったので、
     まずまずの成果を上げたのです」

山田「やはり、私の力か!ふははは!」

木村「自画自賛はほどほどにしといた方がいいですよ」

山田「ほどほどの定義があやふやで困るねぇ」

木村「大体で分かるでしょうが」

山田「大体ってどれくらいだよ?さっぱり分かりませんなぁ」

木村「全く、この人は…」

木村「それにしても、どうやって反対派を引き離したんですか?」

桐原議員「簡単に言えば、利益の不一致を示したのです」

木村「と言いますと?」

桐原議員「数には数で対抗すれば良いという共通の意識から、数で対抗しても勝てない、
     独自の方法で戦った方が得策だと思わせてやればいいのです」

大迫議員「そこに来て山田の変態的演説だ。正攻法では勝てんとどうやったって思うだろ」

木村「確かに」

桐原議員「それに彼らは寄せ集めでしかない。元々の結束は弱い。同床異夢。
     状況次第で切り離すのはそう難しくはない」

木村「なるほど…。ですがそれは恐ろしくもありますね。だってこっちにも当てはまる事じゃないですか。
   相手も同じように分断工作を…」

山田「それをさせないために桐原君がいるのだよ」

桐原議員「そういう事です」

木村「な、なるほど…」

山田「彼はこの手の事案のプロフェッショナルだからね」

桐原議員「その通りです」

木村「な、何故そのような人が国会議員になっているんでしょうか…?」

桐原議員「人の役に立ちたくて」

木村「嘘だ!」

衆院本会議にて

吉木社会党代表「アウトバーンは本当に必要な物なのでしょうか?
        他に予算の使い道があるのではあるのではありませんか?」

山田「他の使い道とは例えばどのようなものでしょうか?」

吉木社会党代表「例えば医療、介護、子育て支援といった福祉政策にこそ予算を回すべきではないでしょうか?」

山田「つまり吉木さんの言い様によると、働くお父さんよりも病人、爺婆、コブ付きに金を渡すべきだというのですね?」

吉木社会党代表「何て酷い言い様でしょう!?」

松山議員「今のは語弊があるぞ!」

山田「失礼しました。どうやら言い方は悪かったようです」

小野「いくらなんでも悪すぎるだろ」

山田「まあとにかく、病人に金を渡すくらいだったら、その病人の治療費を払ってやってる奴の
   給料を上げてやった方が良い。老人に金を渡しても貯蓄に回されるだけだから渡しても意味がない。
   子育てに大変なお母さんのために直接お金を渡すくらいだったら、働くお父さんの給料を上げた方が健全だ。
   そうすれば、家族に対して威厳も保てる。私は何よりも働くお父さんの味方でありたいものですな」

吉木社会党代表「アウトバーンを建設する事がどうして給与の増加に繋がるんでしょうか?」

山田「アウトバーン建設は大規模な雇用対策としての意味を持っています。雇用が増えれば金が動きます。
   金が動けば日本経済の大きな車輪が動き出す!積極的な金銭の流通こそが景気の良し悪しの
   判断材料なのですから、景気が良いイコール給料が良い!つまり給料が上がるアウトバーンこそが
   働くお父さんの味方なのです!」

吉木社会党代表「本当にそのような三段論法まがいの図式が成立すると思っておられるのですか?」

山田「ええ、するでしょうよ。少なくとも野党さんが目指しておられる小さな政府よりは
   経済に対して良き寄与の仕方を見せることでしょうよ」

吉木社会党代表「社会党が目指しているのは大きな政府なのですが?」

山田「だったら私達は仲間ではないですか!一緒にアウトバーンを造りましょうね!」

吉木社会党代表「いや、そういう事では…」

山田「話はもう終わり!以上!」

吉木社会党代表「えぇ…」

志村日共党委員長「国土交通省の皆様方がアウトバーン建設を支持するとは意外でした。
         目先のエサに釣られて、後は野となれ山となれという事ですか?」

野中「どういう意味でしょうか?」

志村日共党委員長「アウトバーンが建設されるとなれば、当面の予算は安泰ですものね。
         ですがその後はどうでしょう?低価格で利用出来るアウトバーンが作られれば、従来の高速道路の
         料金で得られる収入が減り、結果的に国交省の懐は寂しいものになるのではありませんか?」

野中「まさか日共党の方に国交省の懐具合を心配されるとは思いませんでした。
   お気遣いありがとうございます」

与党側から笑いが起きる。

野中「ええ、国交省が願っているのはいつだって一つです。国民の皆様のお役に立ちたい!それだけです」

笑いと拍手が起こる。

志村日共党委員長「信じ難いお話ですな。あの国交省が金よりも人を優先しているとは初耳だったもので」

野中「偏見とは恐ろしいものですね。どんなに悪いイメージを払拭しようと努力しても、なかなか消えるものではない」

志村日共党委員長「なかなか消える事が無いのは国交省の本性がそのまま悪いイメージだからではないですかね?」

野中「何か含む言い方をされているような気がしますので一応言っておきますが、
   もう国交省は中田丸栄時代のものとは違います。あの頃から変わったのです」

志村日共党委員長「本当にそうでしょうか?あの頃から引き継いできたものをそのまま踏襲してるように見えますが?」

野中「確かに、地方を救うという概念だけは共通しています。ですが、今造ろうとしているアウトバーンという代物は
   今迄と全く趣の違ったものです。かつて生み出されてあらゆる物とも違っているのです」

志村日共党委員長「何が違っていると?」

野中「国民の皆様のお役に立てるという事がです」

田辺皆さん党代表「アウトバーン建設計画は大規模な失業政策も兼ねているとの事でしたが、
         どの程度の人数を雇用する予定なのでしょうか?」

矢部首相「10万人以上を予定しています」

田辺皆さん党代表「10万人もですか!?」

矢部首相「いえ、20万人でも30万人でも、予算の許す限り雇えるだけ雇いたいと考えております」


松山議員「与党の皆様方はアウトバーンが地方を救う鍵となると考えておられるようですが、その根拠を教えて頂きたい」

須藤「商売繁盛の秘訣は何と言っても人が大勢来る事です。つまり、人が来ない地方は廃れて当然という訳です。
   ではそうならないためにはどうしたら良いか?それは人が気軽に来れるよう道を整備する事です。
   道と言ってもコンクリを敷いただけのあぜ道の事ではなく、自動車を最高速度で走らせたとしても安全と言える
   大型の道路の事を言います。つまりアウトバーンが完成してようやく、地方への道が整備されたと言えるのです」

松山議員「アウトバーンが作られたからといって、本当に地方へ人が行くのでしょうか?
     その辺りが私達にはよく理解出来ないのですが?」

須藤「地方に来てもらうよう努力するのは国ではなく、全国の自治体レベルの仕事です。あくまでも国が出来るのは
   魅力ある地方へ気軽に行けるよう道を整備する事だけです。ヒッドラーが唱えた、休日に低所得者層が
   自動車に乗ってピクニックに出られる暮らし。それを今日本で実現しようとしているのです」

松山議員「ナチスを手本に事業を進めるというのはあまり良い事には思えないのですがねぇ?」

須藤「それはナチスドイツが独裁国家であったからでしょうか?」

松山議員「平たく言えばそうです」

須藤「なるほど。どうやら民主的意味合いに於いて民主国家は独裁国家に劣るようですな」

松山議員「はい?」

野党連合秘密会議にて

田辺皆さん党代表「与党はさらに勢いづいて来ているように思えますな」

大島幹事長「この妙な流れを生み出しているのがあいつか…」

松山議員「山田め…!あいつが国会を掻き回さなければこんな事には!」

田辺皆さん党代表「このままではいけませんね。何か策を…」

海原民政党代表「そういえば日共党の志村委員長は?」

広沢代表「彼は来ないよ」

松山議員「何ですって!?」

大島幹事長「日共党まで!?」

広沢代表「どうやら分断工作に動いてる者がいるらしい」

松山議員「山田か…!またあいつが…!あいつさえいなければ…!」

大島幹事長「松山君、落ち着きたまえ」

松山議員「し、しかしですね…!」

田辺皆さん党代表「落ち着くのはいいですが、何か策を考えないと」

広沢代表「策ならもう整ってある」

大島幹事長「広沢さん…!」

広沢代表「今度はこちらの番だ…」

とある日のニュース

キャスター「ええ、続いてのニュースです。今話題のアウトバーン建設法案を巡って、今、中華朝鮮で
      アウトバーン建設反対を叫ぶ激しいデモ活動が起きている模様です」

VTRが流れる。

キャスター「ええ、反対派は、アウトバーン建設は日本の軍備拡張の一環であり、日本が再び軍国化
      するための大きな一歩を踏み出した、と主張しているようですが、小出水議員、
      アウトバーンは軍備増強に繋がるのでしょうか?」

小出水「これは全く以って見当外れな主張だと言えますね」

キャスター「では、アウトバーン建設に軍事的意味合いは全く無いという事ですね?」

小出水「そうです。アウトバーンはなんせただの道路ですから。ただの道路建設に海外の方があれこれ言うのは
    何だかおかしな事だと思いますがね」

キャスター「デモの参加者は今も増加していて、日本国内にも飛び火しそうな勢いだとの事ですが、
      小出水議員、それについてはどう思われますか?」

小出水「とにかく一刻も早く誤解が解ける事を願うばかりですね」

衆院本会議にて

大島幹事長「小野防衛大臣、今、中華朝鮮で起きているアウトバーン建設反対デモをご存知ですかね?」

小野「ええ、存じ上げてますよ」

大島幹事長「彼らの主張によると、アウトバーンは日本の軍備増強に繋がるとの事のようですが、
      これは本当でしょうか?」

小野「ええ、そのような事実はありません」

大島幹事長「本当にありませんか?」

小野「ありません」

大島幹事長「そうですか。では質問を変えましょう。小野防衛大臣はかなり熱心にアウトバーンを
     推進していると聞き及んでおりますが、これは本当でしょうか?」

小野「熱心かどうかはさておき、推進派の一人であることは事実です」

大島幹事長「アウトバーン建設法案の成立に向けて、かなり熱心に貢献なさったと聞き及んでおりますが、
      これは本当でしょうか?」

小野「熱心かどうかはさておき、貢献をしたのは事実です。しかし、法案成立に向けて議員が
   何らかの貢献に務めるのは当然の事だと思いますが?」

大島幹事長「貢献に努めたのは議員だからですか?本当は防衛省のトップとして、
      アウトバーンが軍事的価値を有すると認めたからこそ、熱心な貢献をなさったのではありませんか?」

小野「私が認めたのは軍事的価値ではなく、人道的価値です」

大島幹事長「と言いますと?」

小野「アウトバーンは被災時の支援活動においてこそ、その真価が発揮される。そう私は考えているのです。
   日本は例の震災の折に、交通網の脆弱さを露呈しました。この時私は道の強化こそが復興支援対策において
   必須である確信しました。私がアウトバーンを支持したのは戦うためではなく、人を救うためであります。
   そのためにこそと思い、かなり熱心な貢献をしたのです。それは議員として防衛大臣として人として
   そうしたのであります」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

木村「まさか反対デモが起きるなんて」

小野「厄介な事になったな」

山田「ですねぇ」

野中「軍事増強か、これはよく燃えそうな燃料だな」

山田「ですねぇ」

須藤「どこまで延焼するか分かったもんじゃないですね」

山田「ですよねぇ」

大迫議員「しかし、狙いすましたかの様なタイミングだな」

山田「どこかに放火魔でもいるんでしょうかねぇ」

大迫議員「さてね、どこかでほくそ笑んでいるかもしれんね」

山田「悪質だが、なかなか憎めない奴ですな」

大迫議員「じゃあ、敵に塩でも送るか?」

山田「代わりにアウトバーン法案の賛成票を頂けるのであれば、何トンでも送りましょう」

木村「一体何を言ってるんです?」

山田「桐原君、どう思うかね?」

桐原議員「どう、とは?」

山田「何か方向性を感じないかね?」

桐原議員「感じますな。ひしひしと」

木村「方向性?」

山田「これは市民がただ騒いでるってタイプのもんじゃない。確実に誰かが扇動している」

木村「い、一体誰が?」

桐原議員「おそらく、政府でしょうな」

木村「せ、政府が!?国を挙げて反対運動してるっていうんですか!?」

桐原議員「そのような一体感が見え隠れしていると言っているのです」

木村「では、そうではないかもしれないと?」

山田「いや、ほぼ確定だろうよ。それより問題なのは…」

木村「な、何が問題なんです…?」

大迫議員「それを仕掛けたのが日本にいる奴かもしれないって事よ」

木村「な、なんですって!?」

山田「反対派があちらさんの方々を利用してアウトバーン法案を潰そうとしている。という可能性がある」

木村「そ、そりゃまた突拍子もない話ですね…」

大迫議員「まあ確かに、定規とコンパスに通ずるレベルの話だからな」

山田「今回はそれよりも現実的である事を期待しましょう」

小野「それで、何か対策は?」

野中「さすがに何もしないのはマズいからなぁ」

山田「どうなんだい、桐原君?」

桐原議員「あります」

山田「どんな?」

桐原議員「楽で短時間で終わる方法。面倒で長時間掛かる方法。この2種類があります」

木村「そ、それもう2択になってないですよね…?」

桐原議員「ですが一つ目の方法には多少の犠牲と高度な技術が必要となります」

木村「それ全然楽ではないんじゃ…?」

桐原議員「工程自体は楽ですので」

山田「それぞれどの程度の期間を要するんだ?」

桐原議員「一つ目なら1ヶ月程度、2つ目なら2年程度でしょうか」

木村「随分差が出るんですね…」

桐原議員「やり方がかなり違ってきますので」

大迫議員「それでどうする?」

山田「今は時間が惜しいですからね。2年も待っていられないですよ。桐原君、2つ目は論外だ」

桐原議員「そうでしょうな」

大迫議員「それで、多少の犠牲って何なんだ?」

山田「桐原君、もしかしてあれを使う気なのかい?」

桐原議員「ご察しの通り」

木村「あれって…?」

山田「抜け道だよ」

木村「抜け道?」

大迫議員「ああ、透明マントか」

山田「そうです」

木村「透明マント?どういう事ですか?」

山田「アウトバーンには犯罪者が長距離逃走した場合に備えて、相当数の監視装置を取り付ける予定なんだ」

桐原議員「監視装置のデータは日々記録され、保管される。しかし、データは残す事も出来れば消す事も出来る」

木村「で、データを消すですって…!?」

山田「それでだ、この国には大陸から来た工作員がかなり来ていてだな…」

木村「ちょ、ちょっと待って下さい!この話はやばいっすよ!」

山田「確かにヤバイかもしれない」

木村「だってそんな、相手の国に有利になる様な…」

山田「大丈夫だって!どうせ透明になれるのはアウトバーンに乗ってる間だけなんだし!」

桐原議員「消されたデータは復元する事だって出来る」

木村「そ、そんな条件で、相手は乗ってくるでしょうか?」

山田「乗せるんだよ。そうしなきゃ話にならん」

大迫議員「だがあちらさんの事だぞ?抜け道の情報を逆手に取ってアウトバーン計画を頓挫させに来るかもしれんぞ?」

山田「その可能性はありますねぇ」

桐原議員「そうさせないようにあらゆる手を尽くします」

山田「桐原君、勝算はあるんだね?」

桐原議員「はい。私にこの件を一任させていただけるのなら」

山田「君以外に誰がこんなややこしい事案を解決出来るというのかね?」

桐原議員「外務省にこの手の取引に滅法強い交渉人がいます。彼なら出来るかと」

山田「あ、いるんじゃん」

桐原議員「それに追い風も吹いていますから」

木村「追い風?」

桐原議員「米国がアウトバーンを建設するよう圧力を掛け始めているという情報が届いています」

山田「どれもこれも大迫さんのおかげですな」

木村「大迫先生何かやったんですか?」

大迫議員「いいえ、何もやってませんよ」

桐原議員「兎にも角にも条件は揃っている。悪い結果にはならないでしょう」

山田「素晴らしいよ、桐原君!今日はお赤飯にしようか!」

桐原議員「いえ、結構。今日はうどんの口になっているので」

山田「あ、そうですか…」

衆院本会議にて

山田「スポーツカーに乗っている全員に投げかけられた言葉です。そんな速い車に乗って何の意味あるの?
   出す場所ないのに。私もこの言葉には同感です。出す場所がない。まさに宝の持ち腐れだ!私は悲しい!
   自動車メーカーの技術の粋を結集して作られたスーパーマシンがその力を発揮する事も無く生涯を終えてしまうのが
   私は悲しいのです!」

松山議員「君は一体何を言ってるのかね?」

山田「日本の自動車業界が妙に弱弱しくなっているのは、スポーツカーが売れないのが原因なのです!
   一方ドイツ車が今の元気に稼ぎまくっているのは、アウトバーンという車の性能を最大発揮する場が
   あるからなんですよ!日本にはそれが無いから弱弱しいのです!なんせ日本で本気出してるのは
   警官と救急隊員と消防隊員だけですからね」

松山議員「君、私の質問聞いてたかね?私は速度無制限という法律の危険性についての質問をしているわけで」

山田「だから今それに答えているではありませんか。何も言いていなかったんですか?」

松山議員「いや、聞いてたから逆に何も分からなかったんだろうが!」

山田「理解力の欠如甚だしいですね」

松山議員「お前が言うな!」

山田「私はずっとこう言っているのですよ!日本車は世界で一番安全なのです!ドイツ車よりも安全なのです!
   つまり、ドイツ車でのドイツのアウトバーンよりも日本車での日本のアウトバーンの方がずっと安全なのです!」

松山議員「だからそもそも速度無制限っていうのが危険だって言ってんだろうが!」

山田「何を言ってるんです?100キロ出そうが200キロ出そうが危険なのは変わらないじゃないですか」

松山議員「いや、そういう事を言っているんじゃないだろう」

山田「松山さんは怖がりでいらっしゃるな。もう車に乗るのはおよしなさい。新幹線にも飛行機にも。
   自転車だって危ないんだからもう乗ってはいけませんよ」

松山議員「てめえ!おちょくってんのか!?」

山田「何を仰られるか?私はビビりのまっつんに助言をしてあげているだけで」

松山議員「誰がビビりだ!コラァ!?」

山田「きゃーこわーい」

大島幹事長「松山君、落ち着きたまえ!」

小野「煽りすぎだ…」

須藤「知らないふりしましょう」

小出水「はぁ………」

一応
鈴鹿とかあるのだが………

六本木のとあるカフェにて

木村「ここのじゃがバターデニッシュが馬鹿ウマらしいんですよ」

小出水「それどころじゃないでしょうが!」

木村「す、すいません…」

小出水「いえ、こちらこそ失礼…」

木村「気が立っておられますね。やっぱりアウトバーン法案のせいですか?」

小出水「アウトバーンのせいっていうよりも、あの男のせいですよ!」

木村「ああ、やっぱり」

小出水「なんですか、あの議会での態度は!あの人は完全に議会を、いや民主主義を愚弄していますよ!」

木村「あ、そんなにですか?」

小出水「私が皆さんに協力しているのは、アウトバーンがただの成金の利権の道具なのではなく、
    国民の皆さんの役に立てるものだと自分なりに解釈出来たからなんです」

木村「ああ、いつもテレビでのご活躍は見ておりますよ」

小出水「そんな事はどうでもいいんです!」

木村「すみません」

小出水「私はアウトバーンに魅力を感じたから協力したんです。この魅力ある法案は手伝う価値のあるものだと
    思えたから協力したのに、何ですあの本会議は!?」

木村「何なんでしょうねぇ」

小出水「何なんです、あなた!?何でそんなに呑気なんですか!?」

木村「すみません」

小出水「謝ればいいと思ってるんですか?何も反論しないつもりなんですか!?」

木村「そんなつもりはなかったんですがね」

小出水「じゃあ、仰ってくださいよ!あなたはこれで良いと思っているんですか!?」

木村「そりゃ良くはないですよ。あの人のやり方はめちゃくちゃだし、日本にアウトバーンを造るってアイディアだって
   ぶっ飛んでる。まともな話し合いなんかしたら、丸め込まれるのは分かってるから敢えてピエロになるしかない。
   煽って論点をずらして話をぶった切る。そうしないと勝てないと分かってるからそうやらないといけない…」

小出水「なんで擁護してるんですか?」

木村「は、しまった!すみません!いつの間にやら擁護してしまいました!すみません!
   そんなつもりじゃなかったんです!あ、一応言っておきますけど、僕は山田に一切の影響は受けておりませんので!」

小出水「ガッツリ受けちゃってんじゃないか!」

木村「いえ、決して!」

小出水「はぁ…、とにかく、彼は暴走しています。この計画の影のリーダーであるあなたがそれを抑えるべきだ。
    それだけは伝えておきます」

木村「は、はい。分かりました。何とかします」

小出水「では、ご馳走さん」

木村「え、僕の奢りですか!?」

衆院本会議にて

山田「大企業優遇の何がいけないのです?皆さん、大企業はお好きでしょうに。そうだ田辺さん、
   あなた車は何をお持ちでいらっしゃいますか?」

田辺皆さん党代表「え、レッグスだけど…?」

山田「あら!奇遇ですね!私もレッグス乗ってるんですよ!いやぁ、気が合うなぁ!」

田辺皆さん党代表「いや、そんな雑談いらないから」

山田「雑談?これのどこが雑談だというのです?私は重要な事を確かめたのですよ」

田辺皆さん党代表「重要な事とは?」

山田「つまり、みんな大企業が大好きだって事をです!」

田辺皆さん党代表「それさっき言ってたやつじゃん!」

山田「そうです!みんな一流メーカーの一番売れている商品が大好きなんですよ!
   だって、ミツオカの大蛇に乗ってる人なんて滅多に見ないでしょ?」

田辺皆さん党代表「例えが極端すぎやしないか?」

山田「いえいえ車だけじゃありません!ゲーム機にしたって携帯電話にしたってパソコンのOSにしたって
   みんな名の知れた会社の物ではありませんか!」

田辺皆さん党代表「今度は電気製品に偏ってますけど?」

山田「みんな一流企業が大好きなのです!一流企業で働きたいと思っているのです!そうすれば、親兄弟友人に
   自慢出来るし、女にもモテる!婚活にも転職にも有利だ!何よりも給料が高い!」

田辺皆さん党代表「一体君は何を言って…?」

山田「大企業は電波塔なのです。高ければ高いほど遠くまで電波が届く。今日本に元気がないのはその電波が
   弱くなっているからです。再び電波が強くなれば日本はまた輝きだす!大企業から放出される強いエネルギーが
   アウトバーンによって地方にダイレクトに伝わるようになれば、日本はバブル期以上の輝きを見せる事でしょう!
   これぞまさに楽天イーグルス方式!」

田辺皆さん党代表「楽天?」

山田「楽天の強みは何と言っても、絶対的エースとチームの底力です!エースだけでは勝てない。
   それを支えるチームがあるからこそ強いのです!日本という国だって同じだと言えませんか?
   東京だけ頑張っても、他のところがそれについて行けなかったら勝てないのですよ。
   日本を強くするためには、チーム力の底上げは必須条件です!」

山田の事務所にて

木村「山田先生、あの…」

山田「どうしたかね、次郎君?あまりにも絶好調すぎて腹が痛いのかね?」

木村「いや、別に腹は痛くないですけど」

山田「そうかね。では、そんなに暗い顔をしているのは何故かね?恋わずらいかね?」

木村「え?あ、いや、違いますけど」

山田「おやおや?その感じは図星かね?」

木村「変な読みは止めて頂きたい。僕が懸念しているのは、最近の先生の飛ばし様についてですよ」

山田「飛ばし?俺が飛ばしているだと?」

木村「そうですよ。本会議でのあの立ち振る舞いは少々やりすぎだと思うのですが?」

山田「そうかぁ?もっと派手にやっても良いかと思ってたんだけど?」

木村「先生の独演会でもあるまいし、場所柄は弁えるべきでは?」

山田「つまり君の言い様によると、私は非常識で恥知らずの目立ちたがり屋であると、そう言うんだな?」

木村「正解です」

山田「しかしだな、ヒッドラーの演説や吉田さんのバカヤロー解散にも見られるように、本来、議会とは
   非常識で恥知らずの目立ちたがり屋が集まるパレードのようなものでな」

木村「何かとんでもない勘違いをなされているようですが?」

山田「必死なんだよ」

木村「はい?」

山田「お前は必死か?」

木村「と、言いますと?」

山田「俺はこの法案を通すためになら命だって賭けれるぞ。その点、お前はどうなのか聞いてるんだ」

木村「え…?」

山田「お前は必死にやってるか?」

木村「ぼ、僕は…」

山田「もう手段を選んではいられないんだ。あちらさんだって何でもありでやって来てるんだ。
   だったらこっちだって本気でやらないと、こんな法案すぐに潰されるぞ」

木村「せ、先生…」

山田「油断大敵火が亡々、いつ何時何が起こるやらわかったもんじゃない…」

木村「山田先生はどうしてそこまで本気になれるんですか…?」

山田「はい?」

木村「僕の父ならまだしも、先生は本来、アウトバーン計画とは何の関係もない人だ…。
   そんな人がどうしてそこまで本気になってくれるんですか?」

木村「逮捕される危険性だってある、命が狙われる可能性だってある。それなのにどうしてこの法案に
   そこまで必死になれるんですか?」

山田「知りたいか?」

木村「はい、知りたいです」

山田「本当に知りたいか?」

木村「はい、教えてください!」

山田「では、教えてやろう!」

木村「はい、お願いします!」

山田「そうすれば、俺の支持者が喜ぶからだよ!」

木村「はい?」

山田「議員は何よりも支持者のために尽せ!つまりはそういう事だ」

木村「はぁ?」

山田「しっかり人気さえ確保しておけば、来期の選挙も安心だからな」

木村「はぁ…」

山田「なんだよ?」

木村「いえ、何でもないです」

山田「何だよ?言いたい事があるなら言えよ」

木村「得に言いたい事はありません。だけど少し、父が先生を頼る様に言った訳が分かったような気がしました」

山田「ほう、それはどんな訳かな?」

木村「あ、いや、気のせいかもしれません」

山田「分からないなら分からないと言いやがれ!全く以ってややこしい!」

衆院本会議にて

大島幹事長「アウトバーン建設法案の中には大間函館間に橋を架けるという計画も織り交ぜられていますが、
      こちらで出した試算では、建設費だけで2兆円、年間の維持費だけで40億円は掛かるものと
      予想しています。これだけの支出を北海道、青森に負担させるのはいささか酷というものではありませんか?」

山田「一体どこの馬鹿がそんな試算出したんですかね?そんなもん民間に委託してご覧なさい。
   建設費はその三分の一、維持費はその五分の一程度には抑えてくれるでしょうよ」

大島幹事長「どうやら山田議員は楽観主義者でおられるようですな。この試算は帝国大学経済学部の西田教授に
      よって出されたものです。彼はこの方面におけるエキスパートですからね。まあ、どちらが間違え
      ているかは火を見るよりも明らかだと思いますが?」

山田「ほう、そうですか。では、一体どのような算出方法を取ったのか教えて頂きたいものですな」

大島幹事長「今日はその西田教授に来て頂いております。では直接話を聞いてみましょうか」

山田「あら、準備が良い事で」

大島幹事長「西田教授」

西田教授「はい」

大島幹事長「単刀直入にお聞きしますが、アウトバーンを建設するに一体どれくらいの費用が必要でしょうか?」

西田教授「100兆円です」

どよめきが起こる。

大島幹事長「100兆円もですか!?」

西田教授「少なくとも100兆円です」

大島幹事長「これは驚きましたねぇ。ではもう一つお聞きします。国土強靭化のための公共工事とアウトバーン
      建設のための費用、合わせて250兆円で与党側は予算を組んでいるようなのですが、
      この程度の予算で、アウトバーンを完成させる事が出来るのでしょうか?」

西田教授「出来ないと思いますね」

大島幹事長「では、どれくらいの予算が必要になると?」
   
西田教授「300兆円は必要になるでしょう」

更にどよめきが広がる。

大島幹事長「そんなにですか!?」

西田教授「いえ、少なくとも300兆円です」

大島幹事長「これは驚きました!これほどの予算を使って、ただの道路を建設する意味があるのでしょうか?
      それでも尚アウトバーン建設を強行するというのは、建設利権のばら撒きと見られても仕方が
      ないのではありませんか?」

山田「ええと、なんというべきか…。どうやらあなた方は揃いも揃ってエンペラー級のお馬鹿さんのようですね」

大島幹事長「今なんと?」

山田「ええと、実はですね、私も個人的に依頼を出してまして、アウトバーン建設費用に一体どれくらい掛かるのか
   計算してもらってたんですよ」

大島幹事長「一体誰に?」

山田「この方です。さあどうぞこちらへ」

緒方「ああ、すまんのぅ」

大島幹事長「あの…、そちらは?」

山田「はい、こちら台東区からお越しの緒方さん。御年71歳。職業、会計士。二十歳の頃から会計士の
   仕事を始めて今年で何と51年目。大ベテランですね」

大島幹事長「あの、ええと…」

山田「緒方さんは普段、浅草の下町で暮らしている人達や地元企業相手にお金の相談に
   乗ってあげているのです」

大島幹事長「ええと…、お言葉ですが、どうしてそんな人を連れて来たのでしょうか?」

山田「一体何が言いたいのです?緒方さんでは駄目だというのですか?」

大島幹事長「まあ、良くはないでしょうよ」

山田「何が良くないというのですか!?緒方さんが高校を中退しているからですか!?
   公認会計士ではないからですか!?」

緒方「高校中退してる事だけは言わんといてくれや」

山田「これは失礼致しました。ええと、それでですね、私はこの緒方さんにアウトバーン建設費用の
   見直しをしてもらったのです。では緒方さん、簡潔にお聞きしますが、
   建設費用は一体どのくらいになるのでしょうか?」

緒方「62兆円じゃ」

大島幹事長「何だって!?」

どよめきが起こる。

西田教授「そんなでたらめな!」

山田「あら、62兆円ですか?」

緒方「多くとも62兆円じゃ」

山田「多くとも62兆ですか。意外と安く造れちゃうんですねぇ」

緒方「まあ、決して安くはないけどのぅ」

山田「確かに」

松山議員「どうせ適当な事言わせたんだろ!山田!」

緒方「滅多な事を言うんじゃないわい!わしは依頼された仕事で手を抜いた事なんざ一度もないわい!」

山田「そういう事ですよ、松山さ~ん。うほほほ!」

松山議員「くそ…、山田め…!」

山田「ええ、実は緒方さんには、国土強靭化のための公共工事の方の予算の見直しも
   してもらっていたんです。ええと、緒方さん、この公共事業で無駄な部分はありましたかね?」

緒方「はい、いくつか」

山田「では、それらを削った結果、一体いくらになりましたか?」

緒方「160兆円じゃ」

松山議員「そんなアホな!」

西田教授「一体どんな計算してるんだ!?」

山田「という事は両方合わせると、締めて222兆円となるわけですな」

緒方「そういう事になりますのぅ」

山田「随分スリムになりましたね」

緒方「そうじゃのぅ」

大島幹事長「おいおい、これはおかしいだろ!」

西田教授「こんなの馬鹿げている!算出方法に問題があるんだ!」

山田「算出方法には何ら問題はありませんよ。ただやり方が違うだけです」

西田教授「どういう事ですか?」

山田「緒方さんは難しい理論は分からないし高度な計算なんて出来やしない。
   緒方さんは現場で身に着けた勘と経験に裏付けされた
   生きた技術によって現実に即した試算を出す事が出来るのですよ」

西田教授「ただの野巫じゃないか!」

山田「どうとでも仰るがいい。もうすでに結果は見えているのだから」

西田教授「どういう事ですか!?」

山田「財政難を叫ばれて久しいこの現代日本において、安い試算と高い試算を出す者、
   一体どちらが迎合されるのでしょうかねぇ?まあ、それもまた火を見るよりも明らか
   というものなのでしょうが。うほほほ!」
   
西田教授「そ、そんな馬鹿な…!」

大島幹事長「………」

広沢代表「ふ…、ははは…!」

大迫議員「相澤議員、あなたは実際に地方を回って、アウトバーンが本当に必要な物なのかどうか
     視察なさったんですよね?」

相澤議員「はい、そうです。知り合いの地方議員の方にもお手伝い頂きまして、実際に地方で暮らしている方々に
     アウトバーンを本当に必要としているのかどうかを聞いて回りました」

大迫議員「そうでしたか。それは大変骨の折れる作業だった事でしょうね」

相澤議員「いえ、必要な事でしたから」

大迫議員「それで実際会って話をしてみた結果、どのような反応を得られましたか?」

相澤議員「はい、当初はアウトバーンの有用性について懐疑的かつ否定的な意見がかなり多く聞かれましたが、
     更に話し込んでみますと、そういうのがあれば便利かもしれないといった比較的好意的な意見も聞ける様に
     なりました」

橋場日新党代表「彼は主観で物を言っているぞ!」

松山議員「君がそう言わせるために誘導したんじゃないのかね!?」

野党側から罵声が飛ぶ。

議長「静粛に」

大迫議員「相澤議員、野党側から指摘がされていますが、あなたの先ほどの発言は主観や誘導によって
     成り立っているものなのですか?」

相澤議員「私が地方の方達と会話したアウトバーンのやりとりについてはその大部分が音声や映像で
     記録として残してあります。そちらを確認して頂ければ、私の発言が決して主観や誘導に
     よって成立しているものではないという事が分かって頂けると思います」

大迫議員「そうですか。ありがとうございます」

相澤議員「いえいえ、こちらこそ」

松山議員「くそが…」

野党連合秘密会議にて

海原民政党代表「皆さん党の田辺さんはまだ来ないのかね?」

大島幹事長「遅いですな…」

松山議員「もしかして、皆さん党まで…」

海原民政党代表「離反したか」

広沢代表「どうやら完全に分断されたようだな」

松山議員「クソ!山田め!」

大島幹事長「どうします、広沢さん?もう数では対抗出来ない。このままでは与党に押し切られてしまいますぞ」

松山議員「そうですよ!アウトバーン建設反対デモだって今は一時期ほどの勢いもなくなっていますし」

広沢代表「ふ…、ふははははは!」

大島幹事長「ひ、広沢さん…?」

松山議員「い、一体どうしたんです?」

広沢代表「あんな若造にここまでやり込まれるとはな。こりゃ愉快じゃないか」

大島幹事長「愉快ですと?」

松山議員「全然愉快じゃないですよ!」

広沢代表「あの男はどうしてあれほどの振る舞いが出来るのだろうな?」

大島幹事長「どうしてとは?」

松山議員「あいつが向こう見ずで恥知らずなアホだからではないでしょうか?」

広沢代表「ふははは!確かにそれもあるやもしれんな!だがそれ以上に奴には力がある」

大島幹事長「力?」

松山議員「そうでしょうか?」

広沢代表「ああ。私には分かる。奴はすでに一人の国会議員には収まり切れないほどの力を有しているのだ。
     そうでなければあれほどの動きは出来まい」

大島幹事長「山田がそれほどの男だと?」

海原民政党代表「どうしてそんな奴が今まで目立った働きをしてこなかったのだろうか?」

広沢代表「この計画のために今まで影を潜めていた。もしくは議員になってからずっと、この壮大な計画のために
     今までその下準備をしてきた。そんなところではないかな?」

松山議員「まさか!そんな!?」

大島幹事長「もしそうなのだとしたら、奴は一体…!?」

広沢代表「まあ、心配は要らないさ。あの男は太陽に近づき過ぎた。
     所詮、蝋で出来た翼は太陽の熱によって溶かされてしまうのだから」

警視庁にて

東部長「捜査の状況はどうなっている?」

市川警視「残念ながら膠着しています」

目黒検事「山田議員は動きの派手さとは裏腹になかなか尻尾を出さないので」

東部長「手詰まりかぁ…」

市川警視「何か違う角度からの情報でもない限り突き崩せそうもないですね」

東部長「新しい情報か」

そこに一人の刑事が大型の封筒を手にやって来た。

刑事A「警視、これが二課あてに届いてました」

市川警視「これが?誰からだ?」

刑事A「差出人は不明です」

市川は封筒を開けた。その中には一つのファイルが入っていた。

市川はその最初のページを開いた。

目黒検事「何のファイルでしょうか?」

市川警視「大堂証券を調べろ…」

東部長「大堂証券?それは何だ?」

市川警視「分かりません。そう書いてあります…」

目黒検事「山田議員の汚職の証拠の手掛かりでしょうか?」

市川警視「おそらくは」

東部長「どこの誰だか分からんがありがたい事だな」

市川警視「ですね」

東部長「よし!大堂証券を徹底的に調べ上げろ。但し慎重にな」

市川警視「はい。内通者がいるかもしれませんので、信用出来る者のみで捜査を進めます」

東部長「それでいい。これが最後のチャンスになるやもしれん。決して逃すなよ」

市川警視「了解」

好きだよー
読んでる

山田いよいよピンチか?

衆院本会議にて

山田「アウトバーン建設は地方を救う唯一の手だと言っても過言ではありません!福島県知事が被災地復興のためには
   アウトバーンは必須だと仰っておりますし、北海道知事や熊本県知事もアウトバーンの有用性を認めております!
   何よりも地方がアウトバーンを望んでいるのです!賛同の声は日々強くなる一方!地方を救うために今こそ、
   政府が重い腰を上げるべきではありませんか?」

広沢代表「地方を救うためか」

山田「それだけではありません!建設が東京五輪までに間に合えば、アウトバーンは地方から多くの観光客を引き連れてくる
   事でしょう!2020年のリニアモータカー開業が困難となった今、それに代わる目玉企画が必要です!
   そしてモータースポーツも開催出来るアウトバーンならば、その大役だって担う事が出来るのです!
   五輪景気を最大限までに引き延ばす事の出来るキーアイテム!それがアウトバーンなのです!」

与党側から拍手が起こる。

広沢代表「山田君、君は素晴らしい演説家だ」

山田「お褒めの言葉、ありがとうございます」

広沢代表「それでな、君の演説をずっと聞いて一つ気付いた事があるんだ」

山田「ほう、何でしょうか?」

広沢代表「地方で暮らす者にはアウトバーンがあれば役に立つと説き、正しい事をしたい者には地方を救える説く。
     金儲けがしたい者にはアウトバーンは金になると説き、野心家には出世をチラつかせる。
     国の為になると声高に叫ぶ事によって問題を大きくし、論点をすり替え、細かい問題点や落とし穴に
     目を向かせないようにする。如何様にも姿を変え、本質を見えないようにする弁論術。
     こういった手法を一般的に何というか、山田君は知っているかね?」

山田「さあ?存じ上げませんな」

広沢代表「これはペテンと呼ばれるものだよ。いかさま、詐欺だ」

山田「これは酷い言われ様ですな」

広沢代表「君の演説はずっと聞いていたんだよ。聞こえの良い言葉で聴衆を魅了し、都合の悪い話題は煙に巻く。
     やりたい放題やっているようだが、実際はかなり計画的に進められているように見える」

山田「一体何を言ってるんです?」

広沢代表「君のセールストークは大したものだ。とは言っても、騙される者にも煽られる者にも同情の余地はないがね」
     
山田「セールストークですと?」

広沢代表「ああ、そうだ。君はぼったくり商品を売りつけに来た悪徳セールスマンでしかない」

山田「広沢代表殿の鏡には私がそのように映っておられるわけですか」

広沢代表「別にね、私は君を批判している訳では無いんだ。そういうタイプの政治家が一人くらいいたって
     構わないと思っているからね。ただ、一つだけ分からない事がある」

山田「何でしょう?」

広沢代表「どうしてこのような役回りを演じているんだ?」

山田「どういう意味でしょうか?」

広沢代表「今の君の立ち振る舞いは本来のものではないだろう?どうしてこんな事をする?」

山田「どうしてと言われましても」

広沢代表「今の君はピエロだ。哀れな道化師。少なくともアウトバーン建設計画が始まる前までの君は
     こんなではなかったはずだ」

山田「広沢代表殿は過去の私をよく知っておられるようですな」

広沢代表「そうやってまた茶化すつもりなのか?」

山田「何を仰られるか?」

広沢代表「君の目的は何だね?」

山田「目的ですか?」

広沢代表「何のためにここまでする?どうしてここまで出来るんだ?」

山田「いや、どうしてと言われましても…」

広沢代表「何故、政治家生命を脅かしかねない危険まで冒すのかね?」

山田「政治家生命…?」

広沢代表「君はこの法案と共に心中でもするつもりなのか?」

山田「………、あなた…、一体何を…?」

広沢代表「君は有能だった。だが目立ち過ぎた」

山田「………」

広沢代表「残念だが、もう王手だ」

山田「………。なるほど……」

広沢代表「もう諦めろ」

山田「はぁ………。やれやれ、面倒臭い爺だな…」

広沢代表「何だって?」

山田「あんた知りたいって言ったよな?」

広沢代表「目的か?」

山田「ああ、そうだ。目的だ。あんた、随分知りたがっていたな?」

広沢代表「ああ。是非知りたいね」

山田「そうか、なら教えてやるよ」

広沢代表「では、聞こうか」

山田「目的は………」

広沢代表「………」

山田「神のミッションだよ」

広沢代表「はぁ?」

山田「神のお告げがあったんだ。日本にアウトバーンを造れって。そうお告げがあったんだ」

広沢代表「一体君は何を言ってる?」

山田「神は言った。アウトバーンを造って日本を救え。困っている人達を助け出すんだって」

広沢代表「君は一体何を馬鹿な事を言っているんだね?」

山田「馬鹿?あなたは神を侮辱しているのか!?」

広沢代表「どうしてそんな話になるんだ!?」

山田「あなたが言ったんだ!神のお告げなど馬鹿な事だと!」

広沢代表「いや、そうではなくて…!」

山田「私を侮辱するのはいい!いくらでも罵詈雑言を浴びせるがいいさ!しかし!
   神を侮辱する事は決して許しはしないぞ!」

広沢代表「だからさっきから君を侮辱してんだろうが!」

山田「この数珠を見るがいい!」

拳を振り上げる。

山田「私は今や神に仕える身!私は神に従い、人類の幸福の享受にささやかな協力をするのみ!」

北島公民党副代表「あいつ絶対何か勘違いしてるだろ…」

山田「そんな神の代理人とも呼べる存在の私を侮辱するという事は!つまり、公民党員3千人と何らかの宗教を
   重んじる世界の人口の約8割の人達を侮辱するのと同じ事であります!」

広沢代表「話を大きくしすぎだろ!」

北島公民党副代表「俺達を巻き込むんじゃねえ!」

山田「私は変わったのです!神によって変えられたのです!私は今までの私ではない!
   今の私には何の私心もありません!私は自らの利益を追う者ではない!偏に人類の幸福のみを追う者であります!
   これも全て蓮華教のおかげ!ああ、ありがとう蓮華教!ああ、ありがとう神様!」

北島公民党副代表「蓮華教は神じゃなくて釈迦だから!」

広沢代表「君、本当に宗教をやっているのかね?口八丁で誤魔化そうとしているだけなんじゃないのかね?」

山田「おや?疑うんですかぁ?だったら今、ここで、蓮華教のお経でも暗唱致しましょうか?」

広沢代表「いや、結構。議事堂はお寺ではないのでな」

山田「あの、私も聞きたい事があるんですけど、いいですかね?」

広沢代表「なにかね?」

山田「あの、あなた神信じてます?」

広沢代表「はい?」

山田「この世界に神はいると思いますか?」

広沢代表「一体その質問に何の意味がある?」

山田「重要な質問です。是非お答え頂きたい。広沢さん、あなた神がこの世界に存在すると思いますか?」

広沢代表「…………」

山田「あれれ~?答えて頂けないのはどうしてでしょうか?あれ?もしかして広沢さん、
   神様なんていないと思っちゃってるタイプの人なんですか~?」」

広沢代表「それがどうした?」

山田「これは驚きましたねぇ。純粋かつ柔軟な発想をお持ちの広沢大先生が、なんとなんと!神の存在を信じないらしい!」

広沢代表「だからどうしたというのかね!?」

山田「この世界では神の存在を信じる者が多数派なんです。そして民主主義の原則は多数決。
   少数派のはみ出し者はいつだって冷遇されるのですよ」

広沢代表「はみ出し者は受け入れられるのではなかったかね?」

山田「いつかは受け入れられるでしょう。でも、今じゃない」

広沢代表「なるほど。分かり合うつもりすらないわけだ」

山田「こちら側に来て頂ければ仲良くして差し上げますよ」

広沢代表「お断りしよう」

山田「そうですか。手を差し伸べても払いのける。はみ出し者が何故はみ出してしまうのかがよく分かりますな」

広沢代表「君らの都合の良いようにはならんだけさ」

山田「何を仰られますか?私達は弱きに救いの手を差し伸べているだけですよ」

広沢代表「傲慢だな」

山田「強者だけが弱者を助けられるのです」

広沢代表「その考え方が傲慢だと言っているのだ!」

山田「ではどうしろと?弱者は放っておくのですか?弱者を切り捨てるのですか?
   自分の力だけで這い上がれ?助けを求める声を無視するのですか?」

広沢代表「アウトバーンが弱者を救う手になると?」

山田「そうです。私は先日、HIV陽性者を支援する会などの様々なチャリーティーイベントに参加し、
   寄付をしてきました。その時渡した寄付金は、アウトバーン建設に関わる会社、自動車メーカーや
   建設業界などから募ったものです」

広沢代表「安い人気取りだな。それで世間がなびくとでも?」

山田「そうではありません。これは所信表明です」

広沢代表「所信表明だぁ?」

山田「はい。アウトバーンを建設するのは自ずからの利益のためではなく、弱きを救うためにやるのだという事を
   表明するためにやったのです」

広沢代表「おかしな事を。一体誰がそんなもの信じる?寄付なんざ汚職の温床としか思わんだろうよ」

山田「信じるのは何よりも自分です」

広沢代表「何だと?」

山田「誰に何と言われようと、成し遂げる事に意味があるのです!汚職の温床だの安い人気取りだのと思われようが、
   傲慢だの馬鹿げてるだのと言われようが、やらなければ何も始まらない!始めなければ何も変わらないのです!」

北島公民党副代表「山田…」

山田「私達は決して弱者を放置したりしない!私達は決して失業者を見捨てない!私達は決して瀕死の地方に自分達だけの
   力で這い上がれなんて言わない!私達は決して切り捨てない…!」

山崎公民党代表「山田君…!」

山田「私達は本当に信じているんです。アウトバーンこそが救いの鍵であると。信じているからこそ突き進むのです」

広沢代表「………」

山田「法案を通すためなら私はピエロにもなりますよ。政治家生命を絶たれようが必ず実現させますから」

広沢代表「他にやりようがあっただろう。それにそれほどの理想があるのならアウトバーンに固執せんでも」

山田「確かに他にやらようがあったかもしれません。地方を救うより良い方法があったかもしれません。
   でも、考えても考えてもこれ以上のものは生まれなかった。だったらこれを信じてやる以外には
   もう無いじゃないですか」

広沢代表「地方経済を救うにはもっと別の手段があると思うがねぇ」

山田「そうかもしれませんね。じゃあそれは政権を奪った時に実現なさるがよろしいでしょう」

広沢代表「腹立たしい言い回しだが、尤もな意見だ」

山田「では、私達は先へ進みます」

広沢代表「上手くいく保証はあるのかね?」

山田「さあ?どうでしょうね?私達はそう信じていますが、実際どうなるかは分かったもんじゃない。
   でも、仕方ないじゃないですか。私達は神ではないので」

千代田区のレストラン、カテンサスにて

山田「どう思います?」

小野「どう、とは?」

山田「こんな事続けて何か実りがあるんでしょうかね?」

須藤「法案は何度も議論を重ね、それを繰り返していく中で磨き上げていくものですから」

山田「まあ普通はそうなんでしょうけど、アウトバーン法案に関しては議論するまでもなくピッカピカに
   磨かれてますからねぇ」

木村「そんな訳あるはずないでしょ」

山田「でもさぁ、会議の中で特に濃い議論が出来ているわけでもないでしょ~?」

大迫議員「それはお前が委員会をぶった斬ったからだろうが」

山田「やだなぁ、大迫さんだって共犯じゃないですかぁ?」

大迫議員「俺はお前に批難を集中させる事でスケープゴートとしての役割をしっかりと果せるようになると考えてだな」

山田「ちょっと待って下さい。本来なら生贄役は次郎がやるはずだったんですが」

木村「僕参議なんで今のところ活躍の場が無くてですね」

山田「そうか。ではその時は引き継ぎ頼むよ」

木村「ああ…、間違いなく胃潰瘍になりますね」

山田「いい胃薬紹介するよ」

木村「お願いします」

山田「よし、それで、皆さんに聞きたい事があるんですが」

野中「なんだ?」

山田「もう議論は面倒なので強行採決に行っちゃいたいと思うんですが、皆さんどうでしょう?」

小野「いやいやいやいや!」

須藤「さすがにまだ駄目でしょう!」

野中「そうだよ!まだ十分な議論がなされていない!」

山田「そうでしょうか?」

野中「いや、そうだろうが!」

大迫議員「山田、お前焦ってんのか?」

山田「焦り?一体何を言ってるんです?」

大迫議員「じゃあ何でこんなに急いでいるんだ?」

山田「時間の無駄だからです」

大迫議員「誰にとって?」

山田「アウトバーンを楽しみにしているやつ全員にとってですよ」

大迫議員「アウトバーンを楽しみにしてるやつ?そんなわんぱく坊主なんているのか?」

山田「そこにいるでしょう」

桐原議員「楽しみです」

大迫議員「あ、ああ…」

山田「なぁ、桐原君、もう議論の必要がないと思うんだけど、どう思う?」

桐原議員「もう必要ありません。今すぐにでも採決すべきです」

山田「だよなぁ!」

小野「おいおいちょっと待てよ!」

木村「彼に聞くのは的外れというものでしょ!」

山田「的外れ?どういう意味だぁ?」

木村「いや、だって彼は…」

山田「何だ?何が言いたい?」

木村「い、いえ、何でもありません…」

山田「そうか。それでいい」

山田「さあ皆さん、どうしますか?」

小野「どうしますと聞かれてもねぇ」

野中「もう少し慎重にやろうという気にはならんのかお前は」

須藤「そうですよ。急がば回れですよ」

山田「皆さんそれ本気で言ってるんですか!?」

野中「それは逆に俺らが聞きたいわ!」

山田「野中さん何うだうだ言ってんすか!そんな事言ってると総理の椅子が遠ざかって行きますよ!?」

野中「よっしゃ!強行採決だ!」

小野「おいおい野中君?」

須藤「落ち着いて下さいよ」

山田「さあやりましょう御屋形様!この国を救えるのは御屋形様だけなんです!」

須藤「強行採決じゃー!」

小野「えぇ!?」

木村「須藤さん、落ち着いて!」

山田「いつまで座っている気です、小野社長!今こそ重い腰を上げる時でしょう!」

里美「社長がんばって!」

小野「強行採決以外有り得ないだろうが!」

木村「ええ!?ちょ、ちょっと皆さん!落ち着いてよく考えてみてくださいよ!」

山田「次郎!そんな弱気な姿を見たらお父様が嘆くぞ!」

木村「強行採決で行きましょう!」

山田「よし、よく言った!」

大迫議員「あなた方本当にそれでいいんですか?」

山田「そういう大迫さんも協力してくださるんですよね?」

大迫議員「当然」

山田「よし決まった!全会一致!これは行けるぞ!」

木村「しかし、こんな勢い任せでいいんでしょうか?」

小野「確かに。最後の最後で捲られるのだけは勘弁してもいたいしな」

山田「大丈夫です。私には切り札がありますから」

高橋「先生、まさかあれを!?」

山田「そうだ。あれを使う」

木村「あ、あれとは!?」

山田「これだ!」

黒革の手帖を取り出す。

木村「こ、これは?」

山田「これが俺の切り札。この手帖には議員がいつどこでどんな汚職をしたかが詳細に書き込まれているんだ」

木村「な、何と恐ろしい!」

山田「これは丘松さんから直々に譲り受けたものでな。いわば悪徳政治家名鑑なのだよ」

木村「な、なるほど…!つまりこれを使って、協力するようその悪徳政治家たちを脅すわけですね!?」

山田「何を言ってるのかね、君は?」

高橋「木村先生、よくそんな恐ろしい事思いつきますね」

木村「お、恐ろしいって…。違うんですか?」

山田「彼らはね、お金さえ払えばこちらに味方してくれる良心的な人達なのだよ。これに載っている全員に
   協力を頼めば、間違っても票がひっくり返る事はない!断じてない!」

木村「それを良心的と言いますか…」

山田「悪そうなヤツは大体友達なんでな」

木村「そんなだから日本の政治は腐敗していると言われるんですよ!」

山田「何を言うか!政治は腐敗などしないよ!腐敗するのはあくまでも個人の問題だ!
   それに日本の政治がどうのと一括りに批判するのは如何なものかと思うね!それは偏見だ!
   名古屋人は性格が悪いって言うのと一緒じゃないか!」

大迫議員「ホントに性格悪いじゃねえか!」

山田「でもエビフライ美味しいじゃないですか!」

大迫議員「確かに」

木村「いや、性格悪いっていうのを否定してくださいよ!なにエビフライで誤魔化してるんですか!」

山田「ああ、そうだな。偏見は良くない。どこの世界にも性格が良い奴と悪い奴がいるし、どこの世界にも
   美味いエビフライを作る店と不味いエビフライを作る店があるだけだもんな」

木村「何で偏見について語るのにエビフライが出てくるんでしょうかね」

山田「そりゃ性格の良し悪しもエビフライの美味い不味いも同レベルの話題だからな」

木村「独特な価値観ですね」

その時、秘書の高橋の元に一本の電話が掛かってきた。

高橋「はいもしもし、山田議員の秘書の高橋ですが?」

その少し後に山田の携帯の着信が鳴った。

山田「はい、山田~」

長谷川署長「先生、急ぎです…!」

山田「あら、長谷川さんじゃないですかぁ。どうかしましたかぁ?」

長谷川署長「6番が割れました」

山田「ほう。他は?」

長谷川署長「無事です」

山田「そうか…」

長谷川署長「すみません、発見が遅れました。かなり内密に進められていたようでして」

山田「猶予は?」

長谷川署長「2時間あるかないかだと思います…」

山田「充分だ」

長谷川署長「お役に立てず申し訳ありません…」

山田「いやいや、だいぶ助かったよ、ありがとう。あ、そうだ」

長谷川署長「何でしょう?」

山田「長谷川さんを本部長に推薦しておきました」

長谷川署長「え!?」

山田「近いうちに辞令が出るでしょうからそのつもりで」

長谷川署長「え、いや、あの!困るんですけど!」

山田「じゃあがんばってね」

長谷川署長「ちょっと勘弁してくださいよ!」

山田が電話を切る。

ほの同じタイミングで高橋の電話も切れた。

高橋「何の電話だったんですか?」

山田「大堂証券を知られちゃったみたい」

高橋「他の会社は?」

山田「それは大丈夫」

高橋「このタイミングで知られたという事はやはり…」

山田「広沢さんだろうな。全く、やってくれるよ」

高橋「では、こちらも手筈通りで?」

山田「うん、頼むよ。で、そっちは?」

高橋「例のものが見つかったそうです」

山田「そうか…。やれやれ、運が良いんだか悪いんだか」

高橋「全くですね」

里美「例のものって何ですか?」

山田「うお!?里美ちゃん聞いてたのかい。いいかい、盗み聞きはダメよ」

里美「それで何なんですか?」

山田「エビフライだよ」

里美「エビフライ?」

山田「最高級エビフライ。天然伊勢海老のやつね」

里美「はぁ、そうですか。エビフライ…」

山田「届いたら里美ちゃんにも食べさせてあげるからね」

里美「ホントですか!」

山田「おう、いくらでもあげちゃうからね!」

里美「やった!ありがとうございます!」

山田「じゃあ私らお先に帰りますんで!皆さんお食事楽しんでってくださいね!」

大迫議員「は~い」

木村「もう帰るんですか?」

山田「おう、ちょっと野暮用が出来てね」

木村「そうですか。お気をつけて」

山田「お前もな」

桐原議員「…………」

活性党本部にて

大島幹事長「彼らはどう出るでしょうか?」

広沢代表「恐らくは採決を強行するだろうな」

大島幹事長「やはりそう来ますか」

松山議員「それはマズいですよ!もう一度反対派を糾合して対抗すべきです!」

広沢代表「もう遅い。どう足掻いても数で押し切られる」

松山議員「で、では…!」

広沢代表「もう手は打ってある」

大島幹事長「大堂証券ですね」

広沢代表「ああ。アウトバーン計画の第一人者の汚職事件。この大スクープが世に出回った時、
     あの法案は一体どうなるのだろうな」

大島幹事長「悪徳政治家と裏金と公共事業と利権。全てが揃ってますからね。国民が黙るはずがない。
      計画の見直し、もしくは計画を白紙に戻すという事も有り得るでしょうな」

広沢代表「すでに情報はリークしてあるんだろうね?」

大島幹事長「はい。明日の朝刊が楽しみです」

広沢代表「彼は勿体ない事をしたな。派手に動き過ぎたのだ。汚職に手を染めずとも良い政治家になれただろうに。
     やり方を間違えたせいでアウトバーンと人生、その両方を同時に失うとは」

松山議員「自業自得ですよ。奴にとっても周囲の者達にとっても良い教訓となる事でしょうよ」

広沢代表「汚職は政治家にとってドーピングのようなものだ。力が増し、さぞや強くなったような気がするだろうが、
     それは虚像に過ぎない」

松山議員「ついにあいつをこれで…!」

大島幹事長「チェックメイトだな」

広沢代表「ふはははは!」

事務所にて

2度ノックが鳴る。

市川警視「失礼します」

扉が開く。

山田「まだ、はいどうぞと言っていないんだが?」

市川警視「それは失礼。入ってもよろしかったですか?」

山田「いいや、よくないね。早く帰って下さいよ」

市川警視「お断りします。今日はいつぞやの約束を果たしに来たのですから」

山田「そうかね。期待してなかったんだけどなぁ」

市川警視「政治資金規正法違反並びに金融商品取引法違反、おまけに賄賂罪。
     裁判所から待ちに待った逮捕状が出ましたよ」

山田「有言実行か。君は出世出来るタイプの人間のようだね」

市川警視「私の処世などどうでもいいです。何よりもあなたとこうして対面出来るのが嬉しい」

山田「何だその言い草は?まるで私に惚れてるみたいじゃないか」

市川警視「ある意味ではそうなのかもしれませんね。なんせ私達はずっとあなたをマークしていたんですから」

山田「おいおい、何かこえーよ」

市川警視「そうでしょう恐ろしいでしょう。警察に捕まるというのはそれはそれは怖い事なんですよ」

山田「いや、そういう事ではないんだが」

市川警視「さあ、私とドライブに行きましょう。警視庁まで」

山田「やだよ!なんか一緒の車に乗りたくない!」

市川警視「そうですか。まあ、嫌だと言っても無理やり乗せるんですけどね」

山田「君、強引だね!」

市川警視「強引な男は嫌いですか?」

山田「なんなの君!?なんか怖いよ!?」

市川警視「まあそう怖がらないでください。優しくしますから」

山田「お前マジでなんなのさっきから!?」

警視庁取調室にて

市川警視「山田議員、大堂証券という会社をご存知ですか?」

山田「知りませんなぁ。何ですかそれ?」

目黒検事「どさんぴんの証券会社ですよ」

山田「へえ。それじゃあ知らないわけだ」

市川警視「でしょうね。つい先日まで私達もこの会社の事は完全にノーマークでしたから」

山田「ほう、最近お知りになったと。何がきっかけでですか?」

市川警視「山田議員、私達はあなたと討論するつもりはない。私達が質問し、あなたが答える。ただそれだけです」

山田「別に私だって討論する気なんて更々ないですよ。ちょっと気になったから聞いてみただけなのに」

市川警視「それが余計だと言っているのです。あなたは質問に答えればそれでいい」

山田「はい、分かりましたよ」

市川警視「それでですね、この会社を調べてみたんですよ」

目黒検事「去年だけで10億近く稼いでいます」

市川警視「なかなか大したものだと思いませんか?」

山田「まあ、そうですかね」

市川警視「そうでしょうよ。それで、少しこの会社の事が気に掛かりましてですね、社長に会いに会社へ向かったわけです」

山田「ほう、それで?」

市川警視「残念ながらその時社長は不在でして、面会する事が出来なかったんですよ」

山田「あら、それは残念」

市川警視「それどころかどうやら住所が違ってたらしく、会社にすら行けなかった」

山田「え?どういう事です?」

市川警視「会社があるはずの場所はただの空き家でした」

山田「空き家?」

市川警視「私達はこれに非常に大きな違和感を感じましてね、社長を必死になって探したんです。
     それはもう大変な作業でした。捜査員達が一生懸命、一生懸命に探しました。
     そしたらね……、山田議員……、見つかりましたよ」

山田「え?感動の再会ですか?」

市川警視「一体どこにいたと思いますか?」

山田「さあ?ちょっと分かりませんけど」

市川警視「荒川でホームレスやってましたよ」

山田「はぁ?」

市川警視「社長なのにホームレスですよ。これっておかしくないですか?」

山田「おかしいですね」

目黒検事「戸籍を売ったそうです」

山田「売ったですと?」

市川警視「とある夏の日に強面の2人組がやって来て売る様に迫ったそうです」

山田「可哀想に」

市川警視「可哀想ですよねぇ。しかしそうなると、一体誰が会社を回していたんでしょうねぇ?」

目黒検事「それにそもそも会社がないですからね」

市川警視「会社も無いのに10億はある。一体どこに?」

山田「さあ?ていうか全く話が見えて来ないんですが?」

市川警視「あらそうですか。ではこの女性に見覚えはありませんか?」

一枚の写真を差し出す。

山田「さあ?知りませんね」

目黒検事「本当に知らない?」

山田「知りません」

市川警視「ではこれは?」

更にもう一枚写真を差し出す。

市川警視「あなたとその女性が2人並んで映っていますが、本当にご存じない?」

山田「あ、思い出した」

市川警視「あら、本当ですか?」

山田「はい。この女性は親切な事に私のハンカチを届けて下さったんですよ」

市川警視「ハンカチを?」

山田「はいそうです。高嶋屋に行った時に落としてたのを偶然見掛けたようでして」

市川警視「偶然ですか?」

山田「はい、偶然です」

目黒検事「本当に偶然?」

山田「はい、そうです」

市川警視「そうですか…」

市川警視「ならおそらく、あなたとこの女性は運命の赤い糸で結ばれていますよ」

山田「はい?」

市川は更に10枚の写真を並べる。

市川警視「全てあなたとこの女性が2人並んで映っている写真ですね」

目黒検事「全部別の場所ですな」

市川警視「これでも偶然だと仰られる?」

山田「私この人と結婚しようかしら」

市川警視「それもいいかもしれませんね。じゃあこの女性についてもっと教えて差し上げましょう」

山田「いえ、結構です」

目黒検事「まあまあ、そう遠慮なさらずに」

山田「別に遠慮してるわけではないんだが」

市川警視「この女性、氏名は柏博美。東京都出身。現在31歳。世田谷区在住。個人投資家であり、
     大堂証券にとって1番の顧客です」

山田「1番の?」

市川警視「ええ。大堂証券の資金の約4割がこの柏の投資に寄るものなんですよ」

山田「4割も?」

目黒検事「4割程度で驚かれちゃ困りますねぇ。2011年時なんかはなんと8割近くが柏のものだったんですから」

山田「8割!?一体どういう事ですか?」

市川警視「さすがにおかしいですよねぇ。私達もそう思いましてね、柏を徹底的にマークしたんです。
     そうしたらですねぇ、彼女が頻繁にとある所に通っているという事が分かったんですよ」

山田「とある所とは?」

市川警視「東央第二銀行です」

山田「どこですそれ?初めて聞きましたけど?」

市川警視「あまり有名なところではないですからねぇ。知らないのも無理はない」

目黒検事「ではこの噂もご存じないでしょうな」

山田「噂とは?」

目黒検事「実は裏で犯罪組織の資金洗浄に手を貸してる。らしいという噂です」

市川警視「知る人ぞ知る噂ですよ。5流ゴシップ誌しか報じないようなレベルのね」

山田「何やら胡散臭い話ですな」

市川警視「まあ、そう思うでしょう。でも私達はこれらの話題に何かの関係性を感じたんです」

山田「全てがつながっていると?」

目黒検事「ええ、そうです。それで、柏本人に直接聞いてみる事にしました」

市川警視「彼女今、どこにいると思います?」

山田「さあ?どこですか?」

市川警視「留置場に勾留されてるんですよ」

山田「ほう、それはそれは」

市川警視「彼女なかなかお話をしてくれないんですよねぇ」

山田「そりゃ残念だ」

目黒検事「だが、大好きな山田先生が逮捕されたと知ったら状況は変わるかもしれませんね」

山田「一体何が変わるというのです?」

市川警視「柏は山田議員に見捨てられた。その事を知ってもなお彼女は、
     不安を押し殺して黙秘を続ける事が出来るんでしょうか?」

山田「私は何も言ってないですけど?」

目黒検事「だがそれを彼女が知る術はない」

市川警視「山田議員の保身のために切り捨てられたトカゲのしっぽであると、柏本人が気付いたら
     一体何を話してくれるんでしょうかねぇ」

目黒検事「楽しみですな」

市川警視「ええ。非常に楽しみです」

山田「狡い手を使いよってからに」

市川警視「それはお互い様でしょうに」

目黒検事「柏は見たところ打たれ強い女性ではない。長くは持たないでしょう」

市川警視「それに柏の事はただのきっかけでしかない。柏が何とか耐え抜いたとしても、ここから芋づる式です。
     何が出て来てもおかしくはない」

山田「…………」

市川警視「山田議員、もう時間切れですよ。あなたの政治生命はもう終わった。
     残念ながら、チェックメイトです」

山田「残念です」

目黒検事「罪を認めて楽になりましょう」

山田「それにしても、資金洗浄の何がいけないというんですかねぇ?」

市川警視「はい?」

山田「悪人だって金を稼いでるんだ。だがその金は国内じゃ使えないので海外へとどんどん流出していく。
   そうなると国のお金はどんどん減っていくので、税収は下がる一方。
   税金が集まらないとなれば、増税しなくちゃならないし、公務員の給料も下げなくちゃならない。
   それはあなた方警察も困るのではありませんか?」

市川警視「では自分の給料のために犯罪を見逃せというのですか?」

山田「見方の一つを示しているだけですよ。悪党にもきっちり耳を揃えて税金を払わせるべきだ。
   そのためには悪党共が稼いだ金を国内で使えるようにしなくてはならない。
   じゃあ使えるようにするにはどうするか?マネーロンダリングでしょ!そういう事です」

市川警視「つまり、あなたは資金洗浄に手を貸していた事を認めるんですね?」

山田「いや、まさか。全然。そんなん協力するわけないじゃない、僕みたいな善良な議員が。
   そもそも資金洗浄って一体どうやるんです?やり方も知らないのに協力なんて出来るはずもないじゃないですか」

目黒検事「山田議員、最後の最後に見苦しいですよ」

山田「見苦しさと粘り強さと根性と精神力は同一ですからね」

市川警視「この場合においてはその発言もただの現実逃避としか見れませんがね」

山田「目の前にある景色だけが現実であるというわけではありませんよ」

市川警視「どういう事でしょうか?」

ヤーマダ…

山田「残念ながら時間切れのようです」

市川警視「ん?」

取調室の扉が開く。

東部長「市川…」

市川警視「東部長、どうされたんです?」

東部長「山田議員を釈放しろ」

目黒検事「何ですって!?」

市川警視「一体何を言ってるんです!?」

東部長「捜査を今すぐ中断しろ」

市川警視「な、何を言ってるんですか!?あともう少しのところまで来てるというのに!」

目黒検事「そうですよ!どうして急に…!」

東部長「裁判所命令が取り消された。捜査を中止し、山田議員と柏博美を釈放しろ」

市川警視「そんな馬鹿な!」

目黒検事「一体どうしてそんな事に!?」

その時、目黒の携帯が鳴った。

目黒検事「はいもしもし…。はい…。え!?ど、どうしてですか!?」

市川警視「目黒検事、どうしたんです?」

目黒検事「は、はい…。分かりました…」

電話を切る。

目黒検事「上司からです。今すぐ戻って来いと」

市川警視「何ですって!?」

目黒検事「こちらの調査も終了だと…」

市川警視「そんな…」

東部長「市川、捜査は中止だ」

市川警視「東さん!」

東部長「これは命令だ」

市川警視「そんな事って…!」

山田「あなた方は良い人達だ」

市川警視「山田議員、あなた一体…?」

山田「あなた方のような人達がいる限り日本の司法は安泰です」

市川警視「一体あなたは何をしたんですか!?」

山田「今回の事は気にしなくて良い。これはただの異例なんですから」

市川警視「答えてください山田さん!」

山田「今回の事で腐らないで頂きたい。これからも今迄通り誠実に頑張っていってもらいたいんです」

市川警視「山田さん!」

山田「残念です。本当に…」

市川警視「あなたは…、一体……?」

警視庁を出た山田はその視線の先に、立ったまま待機していた秘書の高橋を見つけた。

高橋「お疲れ様でした」

山田「本当に疲れたよ」

高橋「間に合って良かったです」

山田「間に合わない方がこの国のためになったかもしれないけど」

高橋「損な役回りですね」

山田「全くだな」

高橋「じゃあ、帰りましょうか」

山田「ああ、そうしよう」

しばらく歩いたところで急に山田が立ち止った。

高橋「どうしたんですか?」

山田は口を手で押さえたまま激しく咳き込みその場に蹲った。

高橋「だ、大丈夫ですか!?」

山田「あ、これ、アカンやつやわ」

高橋「え、えぇ…」

それから少し後に、レストランカテンサスでフルコースを食していた里美の元に一本の知らせが届く。

里美「な、何ですって!?」

木村「ど、どうしたの里美ちゃん!?」

里美「や、山田先生が倒れられたそうです…!」

木村「え、えぇ…!?」



とある病室にて

木村「インフルでぶっ倒れるなんてざまぁないですね」

山田「君は今インフルエンザを罹った事のある世界中の人間を敵に回したのだがその事に気付いているかね?」

木村「それだけ話せれば何の問題も無いでしょう」

里美「ホント心配しちゃいましたよ~」

山田「心配してくれてありがとうね~!君だけだよ僕の事心配してくれるの!」

高橋「悲しい人生ですねぇ」

木村「自業自得ですよ」

山田「次郎君、君は目上の人間を敬うという事を知らないのかね?」

木村「僕は年齢に関わらず、尊敬に値する人だけを敬うんです」

山田「何故俺は君の選考から外れてしまったのかねぇ。あんなに世話してやったのに」

木村「それはご自分の胸に聞けば一発で分かる事でしょうに」

山田「あれおかしいな?俺の胸はアウトバーン建設を成功に導いた功績だけで尊敬ポイントはMAX
   まで届くはずだと言っているんだが」

木村「余程それ以外の減点が大きかったのでしょうなぁ」

山田「ただ単に君の度量が小さいだけと違うか?」

木村「器の大小に関わらず、最低限ルールを守らない人間は選考の対象外なんですよ」

山田「いつまでそうやって自分の殻に引きこもっているつもりだ?外に飛び出さないと何も得られやしないよ?」

木村「無計画で外に飛び出すとトンデモナイ事になるという事を、体を張って証明なさった方が身近にいましてね。
   その方を眺めていますと、どうしても外に出るのが億劫になってしまうのです」

山田「君、それは老化だよ?若さの素晴らしさは無計画の無鉄砲さにあるのだから」

木村「先生こそいつまで若者のつもりでいる気ですか?そろそろ年相応の価値観を身に着けてもよろしい頃なのでは?」

山田「年相応なんて守りに入った奴の事を言うんだろ?守りに入れば、攻められ、打倒されるだけじゃないか。
   俺はそんなの嫌だね。改革するにはあくまで攻めなきゃならんのだから」

木村「だからといって、ルールを破ってもいいという事にはならないと思いますが?」

山田「上の椅子でふんぞり返った奴等が勝手に作ったルールなんかに従う気はないね。
   校舎の窓ガラスはあくまでも割るためにあるのであって、磨くためにあるんじゃないんだよ」

木村「ガラスを割ればガラス職人が儲かるとでも言いたいんですか?」

山田「ああ、そうさ。壊す奴のおかげで作る奴の価値が高まるんだから」

木村「ですが、ガラスクリーナーは売れなくなりますよ?」

山田「そんなもん何か違う物でも磨かせておけばいいんだ。何もガラスに固執する事はない。
   何か新しい物を磨かせて、新しい発見をすればいい。そうやって人類は進化してきたんだ」

木村「ガラスは割るためにあるなんて言う人類の進化なんて底が見えてますけどね」

山田「あら言ってくれるじゃない。ガラスを割らない人類の代表たる次郎君が
   これからどれほどの進化を見せてくれるのか、そこそこ興味がありますな」

木村「代表かどうかはともかくとして、僕はこれから、本当にこの国の役に立てる議員になりますから」

山田「そうか。では多大な期待を寄せておこう」

木村「では僕は程々にその期待を受け取っておきます」

山田「それがいい。何事も程々が一番だからな」

木村「中庸ですね」

山田「そう。中庸と凡庸は違う。水のように柔軟であれ、という事だ」

木村「ではその点においては先生は落第点ですね。先生は水というよりも泥でしたから」

山田「何を言うか。泥だって柔軟じゃないか。及第点だよ」

木村「随分目標が低い事で」

山田「どう足掻いてもエリートにはなれんからな。とりあえず合格さえしとけば良いんだよ」

木村「向上心はもう捨ててしまったようですね」

山田「まあな。上を目指す役割はもうお前に譲るよ」

木村「あら、目立ちたがり屋の割りには随分あっさりしてるんですね?」

山田「もう充分目立っただろ。これ以上は目障りなだけだ」

木村「山田先生…?」

山田「後は任せた」

木村「何を言ってるんです?まだまだこれからでしょう?」

山田「ああ、そうだな。まだこれから…」

木村「先生?」

山田「いいか次郎、誰にも譲るなよ。自分で舵を取るんだ。誰に嫌われようと自分の信じる事をやれよ」

木村「は、はい…」

山田「じゃあ後は頼んだよ」

木村「あの…、先生、大丈夫なんですか…?」

山田「何が?」

木村「何がって…、だから…!」

山田「なぁに大丈夫だよ。インフルなんて楽勝じゃねえかこんなもん」

木村「そ、そうですよね!大丈夫ですね!」

山田「じゃあ、俺寝るから。おやすみ~」

木村「あ、はい。お大事に…」

山田・・・

山田……
お前……

衆院本会議にて

議長「ええそれでは、アウトバーン建設法案の採決をいたします…」

海原民政党代表「させるな!採決を阻止するんだ!」

松山議員「マイクを奪え!」

田辺皆さん党代表「全軍突撃!」

野党議員達「やっちまえ!」

議長「ちょ、ちょっと待って…!」

須藤「議長を守れ!野党共の進入を許すな!」

小野「全隊凹形陣に展開!敵を引き付けたのち包囲殲滅せよ!」

与党議員達「了解!」

北島公民党副代表「おいおい、何だこの茶番は」

小出水「皆さん落ち着いてください!これが議会政治の在り方ですか!?」

野党議員達「進め進め!」

与党議員達「絶対に通すな!」

広沢代表「山田議員の姿が見えないが?」

大島幹事長「あの男はインフルエンザで入院したそうです」

広沢代表「入院か。このタイミングで」

大島幹事長「広沢さん、あの話は聞きましたか?」

広沢代表「山田議員が即日釈放された話か?」

大島幹事長「そうです。一体どうしてそんな事になったのでしょうか?」

広沢代表「問題はどうしてそんな事になったかではなく、一体誰が山田議員を逃がしたかだ」

大島幹事長「一体誰が?」

広沢代表「そういえば、君は山田議員の汚職の情報をメディアに流したのだったよな?」

大島幹事長「ええ。間違いなく伝わっているはずですが…」

広沢代表「では何故、どこのメディアも報じないのだ?」

大島幹事長「どうやら、圧力が掛かっているようです。それもかなり大きな…」

広沢代表「山田め……!」

与党議員達「議長を守れ!」

議長「ええ、採決の結果…、本案を可決いたします!」

松山議員「そんな馬鹿な!」

大島幹事長「くそ…!」

小野「よし!やったぞ!」

野中「総理への最短コースだ!」

須藤「天は我に味方せり!」

大迫議員「おいおいホントに通っちゃったよ」

桐原議員「さすがは山田議員」

広沢代表「山田…、お前は一体何者なんだ…?」

この時次郎は後援会長らと共に、本会議の様子をテレビ中継で観ていた。

木村「やった…!ほ、ホントに通った…!」

後援会長「やったじゃないか次郎君!」

木村「は、はい!やりました!」

里美「木村先生、おめでとうございます!」

木村「ありがとう里美ちゃん!君はやっぱり勝利の女神だったんだ!」

遠藤「次郎君ありがとう。お父様もきっと喜んでいらっしゃる事でしょう」

木村「ははは、そうだと良いんですが」

後援会長「でも次郎君にとってはこれからが本番だね」

木村「そうですね。まだ衆議が通っただけですから。これからが本番…」

その時、秘書の里美の携帯が鳴った。

里美「はい、もしもし。はい……。…………………え?」

木村「どうしたの?」

里美「あ、あの………」

木村「何か…、あったの…?」

里美「や、山田先生が…!」

木村「や、山田先生に何かあったの…!?」

里美「山田先生が……、亡くなったそうです……」

木村「え……?」

里美「…………」

木村「え……、そ、そんな…!」

なんですと……

やっぱしか……

総理官邸にて

石橋自由党幹事長「総理…」

矢部首相「どうかしたかね?」

石橋自由党幹事長「山田議員が亡くなったようです」

矢部首相「死因は?」

石橋自由党幹事長「少し前からインフルエンザを患っていたようでして、それが昨日急激に悪化してそのまま…」

矢部首相「そうか…」

石橋自由党幹事長「それと、山田議員の政策担当秘書から伝言がありまして」

矢部首相「伝言?」

石橋自由党幹事長「はい。山田議員の最後の言葉だそうで」

矢部首相「山田はなんと?」

石橋自由党幹事長「矢部総理、日本国万歳、それとアウトバーンを頼むわ。だそうです」

矢部首相「やれやれ、最後の最後まであの男は…」

石橋自由党幹事長「全くですな」

矢部首相「出番を終えた役者は舞台を降りるのみか……」

石橋自由党幹事長「総理?」

矢部首相「いや何でもない。そうだな、彼のためにもアウトバーンは何とか完成させてやらねばならないな」

石橋自由党幹事長「木村一太議員のためにも、ですね」

矢部首相「ああ、そうだ。二人の偉大な市民派議員のために」

石橋自由党幹事長「偉大、ですかね?」

矢部首相「さすがにそれは褒めすぎか?」

石橋自由党幹事長「評価が分かれるところでしょうな」

矢部首相「そうだな」

警視庁のトイレにて

市川警視正「ふぅ…」

長谷川本部長「あ…」

市川警視正「あ、どうも」

長谷川本部長「どうも。何か、話すの久しぶりですよね?」

市川警視正「そうですね。あ、長谷川さん、本部長昇進おめでとうございます」

長谷川本部長「あ、ああ。いやいや、こちらこそありがとうございます」

市川警視正「どうですか?本部長になってみた感想は?」

長谷川本部長「う~ん、何と言うかねぇ。なってみると意外と張合いがないというか、やりがいがないというか」

市川警視正「そういうもんですか」

長谷川本部長「まあ、贅沢な悩みなんですけどね」

市川警視正「ホントにそうですね」

長谷川本部長「あ、そうだ。市川君も昇進おめでとうございます」

市川警視正「ありがとうございます」

長谷川本部長「どう?警視正は?」

市川警視正「おかしなもんですね。手柄を立てた訳でもないのに昇進だなんて。妙な力でも働いているんでしょうか?」

長谷川本部長「おいおい、そんな変な事大っぴらに言わない方がいいですよ。
       どこで誰が何を聞いてるか分かったもんじゃないですから」

市川警視正「確かに」

長谷川本部長「あ、そういえば聞いた?山田議員、亡くなったって?」

市川警視正「ええ、聞きましたよ。インフル拗らせたらしいですね」

長谷川本部長「市川君もかなり惜しいところまで追いつめたらしいじゃないですか。
       風の噂で聞きましたよ?」

市川警視正「はい。あのまま続ける事が出来たら、余裕で刑務所に入れられたでしょうねぇ」

長谷川本部長「そ、そうなんだ…」

市川警視正「あ、もしかして僕の昇進って、山田議員が使った妙な力について口を閉ざしていろって
      意味でも込められているんですかね?」

長谷川本部長「だとしたらそんな事絶対大っぴらに言っちゃ駄目ですよ!
       どこで誰が何を聞いているか分かんないんですから!」

市川警視正「ははは!そうですね!」

長谷川本部長「ホントに分かってのかな、この人は?」

長谷川本部長「それにしても、一体誰が山田議員を逃がしたんですかねぇ」

市川警視正「さあ、誰でしょうねぇ」

長谷川本部長「まあ、過ぎた事だし、気にしても仕方ない話なんだけどね」

市川警視正「…………。ここだけの話ですけどね、実は僕、あの後もひっそり柏博美の金の行方を追ってたんですよ」

長谷川本部長「ええ!?それ絶対駄目なヤツなじゃん!だって捜査は終了だって命令が出てるんでしょう!?」

市川警視正「まあ、個人的な趣味みたいなものですよ。どうせ告発したい相手はもう死んでるんだし」

長谷川本部長「まあ、そうですけど…。やめた方が良いと私は思いますけどねぇ」

市川警視正「それで長谷川さん、柏の金、最終的にどこに辿り着いたか知りたくないですか?」

長谷川本部長「いやいや!知りたくないよ!絶対危ない橋じゃん!」

市川警視正「そんな事言いながら目めっちゃ輝いてますよ?」

長谷川本部長「マジか」

市川警視正「本当は知りたいんでしょう?」

長谷川本部長「…………。ちょっとだけね…?」

市川警視正「やっぱり。それで、どこだと思います?」

長谷川本部長「さあ?どこかなぁ?」

市川警視正「ヒントはここです」

長谷川本部長「え!?警視庁!?」

市川警視正「それじゃヒントじゃなくモロ正解でしょう。そうじゃありません。ここです」

長谷川本部長「え?どこ?」

市川警視正「ここです」

長谷川本部長「え、警察庁?」

市川警視正「違います。ここです?」

長谷川本部長「ここってどこ?」

市川警視正「だからここですよ!」

長谷川本部長「ここってどこだよ!?」

市川警視正「だからここ!」

次郎、高橋、里美は山田の事務所の荷物整理をしていた。

木村「はぁ…。ここはもう使う事もなくなるんですね」

高橋「山田先生が亡くなられてしまった以上、もう必要のない場所ですからね」

木村「はぁ…、先生、生きてる時はあんなにジタバタしてたのに、死ぬ時はホントあっさりでしたねぇ」

高橋「免疫が弱ってる時にがっつりインフル感染しちゃいましたからねぇ。まあ運が無かったんですよ」

木村「運はアウトバーン法案成立のために使い果たしちゃったんですかね」

高橋「そうかもしれませんね」

木村「高橋さん…。一つ聞いてもいいですかね?」

高橋「何でしょう?」

木村「どうして先生はあれほどアウトバーン建設のために尽くしてくれたんでしょうか?」

高橋「どうしてって。あれは金になるって先生が言って…」

木村「でも死んだら金があっても使えないんですよ?」

高橋「まあ、そうですね」

木村「山田先生も父と同じだったのかなぁ」

高橋「同じとは?」

木村「何か形のあるものを残したかったんじゃないですかね?」

高橋「生きた証ですか?」

木村「今となってはそんな気がしますね。だって日本列島を縦断する大型の高速道路ですよ?
   いかにも派手好きな先生らしくないですか?」

里美「でもそれだと、アウトバーンを企画したのは山田先生って事になりますよね?」

高橋「は?」

木村「え?」

里美「あれ?私おかしな事言っちゃいましたかね?」

木村「いやいや!あれ?おかしいな。なんでだろう…。今、妙にしっくり来ましたね」

高橋「え?そうですかね?」

木村「高橋さん、一つ聞いてもいいですか?」

高橋「いえ、質問は一日一つまでなので」

木村「そんなルール今迄無かったでしょうが!」

高橋「そうでしょうね。だって今作ったんですから」

木村「高橋さん答えてください!父と山田先生はアウトバーン計画の共同計画者だった。そうなんでしょう?」

高橋「木村先生…。よくぞそこに辿りつきましたね…!」

木村「じゃあやっぱり!」

高橋「いえ、そんな事実は一切ありません。木村一太先生と山田先生は驚くほど不仲でしたから」

木村「紛らわしい!期待させるような事言うなや!」

高橋「まあ、誰が企画しようがそんな事どうでもいいじゃないですか。
   そんな事より里美ちゃん、これからどうするの?」

木村「そうだ!それは重要だ!」

里美「新しい就職先も見つからないので実家に帰るしかないと思います」

木村「何だって!?」

高橋「そうかぁ…。ごめんね。折角沖縄から来てもらったってのに、たった数ヶ月でリストラだなんて…」

里美「仕方ないですよ。先生死んじゃったんだし」

高橋「あ、じゃあ、これ持って行って」

ヴィトンのバッグを手渡す。

里美「これは?」

高橋「まあ、何と言うか、退職金?失業手当?みたいなものかな?」

里美「はぁ。それにしても何か凄い重たいですね?」

高橋「大丈夫。本物のヴィトンは80キロまでは耐えられるから。絶対にそこは抜けないよ」

里美「はぁ。これ、中に何が入ってるんですか?」

高橋「それは家に帰るまでのお楽しみ。途中で開けたら絶対駄目だよ。老けるから」

里美「玉手箱なんですかこれ!?」

高橋「そうです」

木村「おいおい…」

里美「じゃあ、家に帰るまで我慢します」

高橋「それが良いでしょう」

木村「里美ちゃん、ホントに帰っちゃうの?」

里美「私も続けたいんですけど、仕方ないです…」

木村「そっかぁ、寂しいなぁ」

高橋「だったら雇ってあげたらいいじゃないですか」

木村「へ?」

高橋「いや、へ?じゃなくて。だって木村先生、秘書いないんでしょ?だったらちょうど良いじゃないですか」

木村「え、ぼ、僕がですか!?」

里美「採用して頂けるんですか?」

木村「で、でも、僕は山田先生ほどの給料は出せませんけど…」

里美「そんなの構いませんよ!だって今就職難なんですから!」

木村「そ、そうだよね…。だったらお願いします…」

里美「本当ですか!ありがとうございます!」

木村「こ、こちらこそありがとうございます…」

高橋「いやぁ、ホント良かったですねぇ」

木村「あ、高橋さんはどうするんですか?もし当てがないのでしたら僕のところに…」

高橋「素敵な提案本当にありがとうございます。ですが当面は受けられそうもありません」

木村「何かご予定があるんですか?」

高橋「はい。ここ最近は働き詰めでしたしそれ以外にも色々あったので、アメリカへ旅行にでも行こうと思っていたんです」

木村「旅行ですか?」

里美「アメリカですか!?私も行きたいです!」

木村「え!?だったら僕も行きたいです!」

高橋「お、いいですねぇ!だったら3人で行きますか!」

里美「本当ですか!?やった!」

木村「よし!ハリウッドに、ブロードウェイ…」

高橋「あ、行くのはボストンですからね」

木村「へ?ボストン?ボストンったら何がありましたっけ?」

里美「レッドソックスにペイトリオッツにティーパーティーにハーバードなどなど」

木村「あれ?意外と詳しい人なの?」

里美「祖母がボストンの人なので」

木村「へえ、そうなんだ。それにしてもどうしてボストンに?」

高橋「何でも世紀的な瞬間が向こうで見られるとかで」

木村「なんすかそれ?」

高橋「それは行ってのお楽しみです」

とある日のテレビのインタビュー。

小出水「皆さん、不安に思っているかもしれません。アウトバーンなど汚職の温床になるだけではないのかと。
    でもどうか安心して頂きたいのです。あれは国民の皆様のものであって、決して汚い利権屋のものではありません。
    私がいる限り、アウトバーン建設において不正は一切起こさせません。皆さんに約束します!
    私が皆さんのアウトバーンを守ります!」

女性記者「力強い所信表明ですね。さすがは小出水議員!」

小出水「ありがとうございます。これがただの言葉で終わらないよう、
    これまで以上に身を引き締めていきたいと思っております」

女性記者「さすがは小出水議員!期待しています!」



参議院、アウトバーン建設法案に関する特別委員会にて

木村「ええと、当委員の皆様方も衆議院での出来事についてはご存知の事と思います。
   まあ、どう思っているかについては言わずとも察しがつきます」

委員達から思わず笑みがこぼれた。

木村「ええ、就きましては、参議院の特別委員会は衆議院の悪しき前例に倣わずに、議論討論を尽くして参議院らしい
   議会政治を目指す事にしましょう」

委員達から笑いと拍手が送られた。

木村「皆さんご安心ください。ここに山田はおりませんので」

委員達は爆笑した。



2014年3月、アウトバーン建設法案が参議院を通過し、当法案が成立。

同年8月、建設工事が開始される。

2015年9月、アウトバーン建設に参加した労働者が10万人に達する。

2016年4月、最初の区間が開通する。

結局2020年の完成には間に合わず、2023年、全面開通。

その2年後の2025年、リニアモーターカー営業運転開始。

2度目のバブル崩壊のカウントダウンが始まる?


終わり。


なおこのSSはフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切が関係ありません!

お疲れ様です
とても面白かった
ボストンで何があるのか気になる

終わってしまった…… スッキリしきらないまま

お疲れ様でした
ボストンでなにがあったんやろう……?
次回作を楽しみにしてます

乙です。
村おこしの時同様おもしろかったです。

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