憂「雲のお話」 (16)



憂「梓ちゃん、おはよう。涼しくなってきたね」

梓「おはよー、憂。うん、ようやく秋って感じ」

登校中に出会った梓ちゃんと並んで歩く。
空には小さな鳥が仲良く二羽飛んでいて、なんだか私達みたいだねと笑う。

梓「あれ?向こうで歩いてるの、純じゃない?」

憂「ホントだ。おーい、純ちゃーん」

純ちゃんの姿を見つけて二人で駆け寄ると、いつの間にかさっきの鳥さん達も一羽増えて三羽になっていた。
…ホントに私達みたい。鳥さん達も今から学校なのかな?

なんだか朝からいいものを見たような気分で、今日も一日頑張ろうと小さく拳を握りしめた。



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□ □ □



晶「こらぁ!唯!さっき起こしてやったのに二度寝してんじゃねえ!!」

唯「うわあああ!いつの間にこんな時間?!」

晶「知らねえよ!先行ってるからな!」

唯「ま、待って晶ちゃん!!」

やってしまった!ここしばらく寝坊しなかったのに油断してた。
もう!暑くも寒くもないこの時期は眠気の神様の力が強くなってるんじゃないの?
っとと、今はそれどころじゃない、急いで準備を!

唯「間に合わないよーー」



□ □ □



純「そ、そろそろ休憩しようよ…」

梓「そうだね、一旦休もうか」

文化祭も近づいてきたし練習にも自然と熱が入る。
最近は息をきらした純の台詞が休憩の合図になっていた。

憂「じゃあお茶淹れるね」

菫「お手伝いします」

直「あ、私も、…おや?」

めいめい席に戻ろうとする途中で不意に直が窓の前で立ち止まる。
空を見上げて一体どうしたんだろう。

梓「直、どうしたの?」

直「いえ、向こうに飛行機が見えてまして…」

純「おおっ!後ろから雲が出てる!」

憂「ほんとに?!」


窓の前に立つ私と直の後ろにいつの間にか来ていた純の声にも驚いたけど、憂の大きな声にはもっと驚いた。
憂と菫も窓際に集まり、皆で直の指差す方向を見ると、飛行機が空に線を引く仕事をしているみたいに跡をはっきりと残していく。

憂「…飛行機雲」

梓「だね」

菫「飛行機から出てくる所を見るのは珍しいですね」

純「どこから来たのかなー」

直「ふむ。あちらの方からでしたら方角でいえば北東辺りから?」

憂「このままずっと飛んで行ったらお姉ちゃん達も見たりするのかなあ」

菫「そうだと面白いですね!」

純「…先輩たちの大学ってあっちの方向だっけ?」

直「調べてみましょうか」カタカタ

憂「そうだ、写真写真」

今一緒に見ていない二人へと知らせるためだろうか、嬉しそうに憂は携帯を空に向けていた。


□ □ □



律「そういえば、唯。朝は間に合ったかー?」

唯「ぎりぎりどうにかなりました…」

澪「全く、二度寝なんかするからだぞ」

紬「でも間に合ったならよかったね」

唯「誰か起こしてくれたらよかったのに」

律「仕方ないだろー。晶が起こしてたから起きてるとしか思わないって」

唯「うー」

皆で待ち合わせて部室へ向かう途中、朝の出来事でつつかれた。
だいたい必修授業が朝一からあるのがいけないんだとぼやくと、責任転嫁するんじゃないと澪ちゃんに怒られた。
ちぇーっと思いつつ、ふと廊下の窓から空へ目をやると遠くに浮かぶ一筋の白い線が見えた。


唯「あ」

私の少々間の抜けた声にみんなも何だ何だと空を見上げる。

紬「唯ちゃん、どうしたの?」

律「んんー。お!あれ飛行機雲か?」

澪「そうみたいだな」

唯「うん、ひこーき雲だ…」

前に、憂と皆で見たいねと言ったのを思い出す。
「みんな」というには少し人数が足りないけれど。

唯「そうだ!」

せめて見たことだけでも伝えようと急いで携帯を空に向けたら、手の中で突然鳴りだして落としそうになっってしまった。

唯「び、びっくりしたよ~。あれ?憂からメールだ」


□ □ □



鞄の中で携帯が震える。すぐに振動がやんだので多分メールだろう。
しかし講義への集中力をほどかれてしまい、何となく視線を窓の外にやると、ほとんど消えかけの飛行機雲が目に入った。

和(あれは……)

かろうじてそう認識できる形を維持していた雲はどんどん薄れていく。
そうして空の色との区別が判らなくなるまでのしばらくの間、幼馴染の姉妹の顔を思い出しながら眺めていたけれど、
再度震えた携帯に意識を引き戻され、私はまた教授の話に耳を傾けた。


□ □ □



唯「おお…!」

律「どうした?」

唯「憂たちも部活中に飛行機雲見たんだって!」

澪「それはすごい偶然だな」

紬「ホントにすごいね!」

唯「ほらほら写メもついてる」

律「あっちの雲は飛行機付きだったのか」

紬「こっちでも見たよって知らせなきゃ!」

澪「まさか同じ雲だったり…、ってそれはさすがに無理があるか…」

同じ雲じゃなくっても、なんて偶然。すごいタイミング。
これはもう和ちゃんにもおすそ分けしなきゃだよ!

憂への返事を打ちながら、嬉しくて口元がうふふと緩むばかりだった。


□ □ □



皆とわかれて二人になった帰り道。
思い出したように梓ちゃんが口を開いた。

梓「そういえば、飛行機雲見たけど良い事あるかな?」

憂「いいこと?」

梓「うん。ほら、前に見たら良い事ある気がするって」

憂「あ…。うーん、でも毎日楽しいからわからないかも」

梓「毎日?」

憂「うん!部活も楽しいし、ほら、今も」

すっかり持ち慣れた肩のギターを揺すり、梓ちゃんの左手をとって顔の高さに上げると、
そう、と梓ちゃんが少し照れながら答える。
でしょ、と私が笑うと梓ちゃんが何か小さな声でつぶやいた。


梓「…全く、姉にも敵わないけど妹にも敵わないなぁ…」

憂「え?」

梓「ん、いや。確かに良い事ばっかりだなって」

そう言うと梓ちゃんは私の手を握り返して微笑んだ。
さっきと言ってた事が違った気がしたけれど、まあいいやと私も笑った。

憂「あれ?携帯が光ってる…」

サイレントにしていて着信に気が付かなかった携帯電話をポケットから取り出す。

憂「あ!お姉ちゃんからだ!」

またいいことあったね、という梓ちゃんの台詞に頷きながら私は急いでメールを開いた。


□ □ □



授業が終わり帰り支度をしながら、そういえばと携帯を確認すると二件メールがきていた。

一件目は憂から。

部活中に梓ちゃん達と見たよと、飛行機から雲が出ている写メがついている。
…憂も見たんだ。

ちょっと驚きながら二件目を見てみると、なんと唯からだった。

『from:唯
 題名:和ちゃん!!!
 本文:和ちゃん!ひこうき雲見たよ!りっちゃん達と四人で!
    そしてなんと!憂もひこうき雲見たんだって!すごいよね!!』

…まさか、

憂と同じタイミングでメールが来ただけでも驚きなのに、唯まで飛行機雲の写真を添付してある。

…皆それぞれ違う場所で違う飛行機雲を見てたんだ。

そんな事実に驚きながら、今でも雲を見たと報告してくれる幼馴染み達になんだかふんわりとした気持ちになっていると、後ろから肩をたたかれた。


女「真鍋さん、これこないだ借りたノート。ありがと、すっごく助かったよ」

和「そう?それならよかった」

女「でね。このあと時間ある?」

和「一応予定は無いけど」

女「じゃあ、お礼に夕飯奢るよ!」

和「え、でも」

女「いいから、いいから。遠慮しないで!」

…もしかして飛行機雲のおかげだろうか、なんて。そう思うとなんだか可笑しくてつい笑みがこぼれる。

女「真鍋さん、どうかした?」

和「ううん、何でもない」

さて、部屋に戻ったら唯と憂のどちらから電話をかけようかな、と考えながらひとまず友人の後を追った。



おしまい!

短いけどおわりです。

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