QB「僕と契約して魔法少女になってよ」 タツヤ(14)「いいだろう。ただし――」 (136)

・改変後の「パラレル」。さらに、それの十年後が舞台。ラブコメだよ
・魔法少女は基本魔獣狩るってので、魔女は存在しない
・話の都合上(というかややこしいから)、QB以外のテレパシー能力をカット
・その他、説明すべきところは流れで説明入れるから。よく議論される部分は私的解釈でいっちゃうね
・あと、オリキャラちょっと出すからやな人注意して

・ss投稿は慣れてないからだから、ちょいとまだ色々とよろしくお願いします
・とりあえずある程度書置きはしといてる。途中でいじるかもしれんけど前半ぐだぐだなってるけど
・数話程度で終わる短編で締めるつもり
・あ、あと。私はマミさんが一番っす。贔屓しても仕方ないね

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エラーなったのに立っている?

とりあえず書き込めるが報告しないでいいのかしらん

とりあえずかく

「あらすじ」

その年の四月は、桜の季節だと言うのに幕開けの頃から曇天続きであり、何やら肌寒い印象があった。街の賑わいもいつになく寂しく、春らしさと出会うことは未だにない。

テレビでは確かに開花を宣言していたけれど、厚い鈍色の雲の下に晒された花弁は桃色と言うよりは薄い茶色の印象で、幹はより黒く、陽気が樹皮の裏にこもっているようであった。
 (太陽はおろか)それを花見にする人間だって少々厚着をするわけで素直に春うららを謳歌することもない。酔ってほてれば寒さなど酒と共に忘れられるかもしれないが、それを出来ない『子供』はただ項垂れて萌芽の季節を待つだけである。


そんな清明の気がみなぎりきらない四月にこそ物語は始まるのであった――

暗く重苦しい曇り空の下、じっと佇むものがあった。
大きなビルが霞に届かんと黒々とそびえるところ、その頂きにコンクリート剥き出しの平坦な屋上がある。その空との境界に沿って囲う、錆びついた鉄柵の上に、見れば一人の少年が肱をのっけている。

この顎の細い美少年は、しかし、するどい両目を街の景色に向けたまま、まるで手足だけ別の生き物のようにヒクヒクと力を込めながら、鉄柵を離すまいとしていた。手と足で体を抑えることに一瞬でも気の集中をそがれれば、その体そのものを失うとでもいうのか、不気味な少年は視線を逸らせもせずに、まるで自動人形の様に空へと乗り出すわが身を抑えんとする。

少年「あぁ…………あぁ……」

潤いのある口は今は枯れ、苦しそうにあえいだ。絞められた首から声を絞るように。
生者の呻きか死者の呻きか判然のつかないまま、その声は曇り空の中に消え入ってゆく。
その儚い声は少年の心情を推し量るには十分のものがあった。

少年は今、その生を断とうとしている。
まだ若すぎる彼は何に殺されようとするのか、死によって太平を得ようというのであった。

少年「あぁ……アぁ…あぁ…あぁ…‥‥だめだッ!! そんなことして何になるっ」

少年は叫び、わが身を振り切って、柵から顔を離した。
そして、深呼吸をして調子を整えると、まだ声変わりのない幼い声で発する。

少年「闇に日光はまとわりつく。それができない部分が影だ」

その言葉は発せられ、手足の緊張は解ける。刹那の安寧に少年は目を閉じさせられる。

そうして、かごから放たれた小鳥の様に謳い出した。少女のような柔らかい声を少年の持つ強い口調にさせながら心の内を語っていった。

少年「僕は今、太陽に照らされることもなく自分の「影」に対峙している。そう、まるでそこにはじめから『あった』ように。これは幻想でないと僕に思わせようとしてくる」

少年「そう、僕に思わせる。最早自分の『影』なのか――『太陽』の影なのかはわからない。ただただ青白い影がそこにあり続ける、どちらとも見分けがつけがたく」

少年「いや、日はたしかに照っていた。だが――今はもう日は見えない。昔はあったはずなのに、濃い雲に遮られてしまっている。見えないんだ。影だけが残っている、ぽっかりと。
だから、『思わせてくる』と感じるんだ。ただ男が心の内に女を受け入れるが如く――その愛だとか慈悲だとか婚約を感じざるを得ない。訳も分からずに、ただ「感覚」や「思い」しかなく、確信はない。感情がただ囁く―非常に人の嫌うことだ。それは死んだ」

決して、死んでほしくはないのに――そうつけたし、目を見開いた。

少年「そうか……」

少年「空の青さがその目に染みることは『ない』っ!」

少年「――僕も人だ。その確信を得ようと思った。
しかし、何も得られなかった。待っていたのは『混乱』だけだった」

少年「いや、きっちりした混乱がそこにあった。まるで、この屋上の様にすっからかんの癖に上には大きく美しい空があって、そのくせ曇るときには曇りやがる。けれど、ちょっと外にいけば死んでしまうしかない。下には黒々とした森が、深い海のみなもの如く波立たせて手招きしている――うっそうとした木々を! そこに入ってしまったら、水を永遠に飲み続けるしかない、永遠とも一瞬ともつかない死の中で。そしたら、腹は満たされるし、惰眠をむさぼることも出来る。魔物の仲間入りをする条件つきでな」

少年「それは明け方くらいの心境に似ている。太陽が出て全てを照らし出すような時の、さっきまでの夜はどこいっちまった感。もう朝でしかないと伝えてくる視える世界の全て。
その中で腕を広げるんだ。そうして、昨日への「後悔」と共にまた来る日への忠誠、過ぎ去った日への裏切り、それをもってして晒されるんだ。日の下のもとで日に挨拶しながら。
それがついにどっかにいってしまった。時がさって彼女は消えたんだ。今はいない」

少年「人は所詮壁の向こうに他人を感じる孤独ゆえのものなんだ。挨拶は届かない。わかったことはとにかく気持ちを消して――いや、そうじゃない。気持ちなんて言葉じゃない。もっとだ。気持ちと言うのを語るにはイメージがいい。例えよう。イメージで、だ。」

少年「イメージとしては、星の角っこを消して丸くなるんだ。川の石が段々と小さくなるように丸っこくなるように。人生に翻弄され、結局みんな同じようになる。
そうして、丸めてちょうどよくなった後に「加工」するんだ。海まで流されるものは粒ほどに小さく、上流で留まる者は荒々しく、中流で止まる者は半端ななりに。水切りに使われるものは真っ平らに、綺麗なものは誰かに拾われ使われ、どうでもいいものは知らぬうちに海まで流され、醜いものは魚に飲みこまれる。そうあるべくして、そうあるようにするんだ。
そうして、上に上に積み上げられていく、時と共に重みに崩れていきながら」

少年「煉瓦の様に机を並べなくてはなるまい。そういう型に『よって』社会は秩序を保たれている。要は、その型に『はまる』しかないのだ。
それから逃れるには粘土を剥がす。関係はなくなりバラとなる。これじゃあだめだ。だめなんだよ。存在が存在しない、例えるならバラバラだ。バラバラという孤独は解決しない状態。そして、何も得ることはない、失うことですらも」

少年「なぜなら、机を持つ者が何かを得られる。並ぶという型であるゆえにそうでしかない。それが事実なんだ、少なくともそういう型であると考えている僕の中で。
損と得があって、差し出すのをやめれないのなら、得ることをやめられない。それが存在というものだ。差し出したものこそ得られるし、その気がないならどうでもいいだけだ。どうでもいい奴は真の孤独を得るだけだ。自分の影と戦うだけで終わってしまう人生を。自分ですらも得られない人生を。意志も希望もない「間」抜けな絶望へと向かって」

少年「しかし、僕は――。消え去った日はどこに入ったのか? 彼女が僕の存在理由だった。僕の空に曇りが続くまでは。
喪失した気分なんだ。影はどちらか判然がつかない。真の孤独に近い何かが僕を絶望のその先へと駆り立てている。希望はついえて、体がすぐそこの海へと向かうんだ」

少年「今まで生きてきて――何が――昔には――」ボソボソボソ……」

少年「ボソッ――。…あの輝きはいつの間にか消えたんだ。今は汚らしい姿の男がここにいるだけだ。もう取り戻せない。
そうあるべくしてあった、型にはめられてケースの中の氷の様に。それは自分の意志が招いた結果であるし、それ自体に文句垂れる気はない。自分から、机に居たいから座った。自分に自分の愚痴を言うほど落ちぶれていないさ」

少年「君がサヨナラをいった時のことは覚えている。けれど――」

少年「僕はこの場に留まっていたい。たぶん、そういう考えが浮かぶ時点であの頃の僕は死んだのさ。本当にちゃんと契りを守り続けていたのだろうか? その答えが「あの頃の僕は死んだ」、だ」

少年「本当に水の中にいるのか? 女神に底に引きずり込まれて――なのだろうか、はたして。誰に殺されたんだろうか? 彼女は死んだ――人が嫌うのと同時に」

少年「今、僕は既に水の中に居る。正直、これは僕じゃないと思いたい。既にいたんだ。
冷たいけれど、心地よいかもしれない。けれど、これは本心でないはずだ」

少年「この自己消失と形容すべき気持ちが実は気のせいで、水中から這い出て眩しくてふらっとしているだけでいてほしい。まだ子宮から出た赤ん坊とさして変わらぬ年であってほしい。まだ巻き返せるとそう信じたいんだ。
だが、涙は枯れ頭はからっぽのようだ。心情を例えると、海の底で静かに沈んでいる」

少年「僕はなんなんだ。何処へ行く、何処からきて、今、何処に居る。目的は何だ。
心が二つあるのか、単に心がここにあらずなのかわからないが、自分をしっかりと認識できない――はっきり一つあるべきである自分という者が見つからない」

少年「つまり、僕は馬鹿なのか? 愚鈍な奴だから人並みにもそれがわからないのだ!!」

少年「だけれど、見つけねばならない。それはきっとあるはずなんだ。意地でも愚か者を並みの人間い変えなければごくつぶしでしかいられない。
こうして――昔――街をさまよって、僕は何を得た? 混乱か? 愚かゆえに混乱しているんだろう!? 何故、僕は納得できない?」

少年「それこそが自分なのか? こんなに不満があるのにか!? このやるせない怒りはなんだ? 希望のついえたような怒りは?」

少年「そして、彼女はどこにいる? 温かみのある僕は!? 無垢な―イノセンス? 童心か? 慈悲や愛? とにかく、僕が彼女といっているそれはどこにいった!?
いまやこの心には狂人が居座るだけだ、信じがたい程に醜い姿をした男が!!」


少年「僕は――どこへ向かうべきであろうか? どこに、だ!?」

張り上げた声がラジオのボリュームをしぼるように消え入っていく。さーっという葉の擦れる音が下から響いていた。

このビルと隣のビルの間、その地上には五坪ほどの小さな森が見える。

少年「ビルの隙間にあるような――ああ、なんて忌々しいところだ。
あんなに挟まっていて、タイルの隙間のようでいて、何がそこには留まってるのだろうか? 埃か? 錆か? そうだろ?」バッ

少年は柵を飛び越え、空との臨界すれすれのところに立つ

少年「あそこは僕の嫌いな所だ。静かで何もない――だろう。今の僕には合っている。
体が心に合わせようとして僕はあそこに落ちようとしたのかもしれない。落ちぶれた人間にはお似合いのことだ。誰もが納得する」

腕を広げる

少年「それこそ僕ではないか。雑踏の中で『繋がり』との遮りを感じながらもその雑踏の中の一員であるのが僕じゃあないか。彼女はおろか人々とも疎通ができない。あの高邁な精神はうすれたのではなく、無情にも自然の摂理に乗っ取って塵となり消え去ったのだ」

少年「違うと反駁する気なら、自分が見れないなら、自身の部屋を見ろ。そこには蓄積がある。いまや部屋には何がある。曇ったガラス戸に、その敷居には埃が積もる。
そのごちゃごちゃした様は雑踏そのものではないか。ゴミが箱からは入りきらない紙屑があふれ出る。
そこにはゴミが残っている。まるで僕の心の内のものそのものじゃないか。そのごみの中でうごめくのだ、ウジ虫が。潰されながら。しかし、反抗して脳を食い散らかしながら。
そのあふれ出たごちゃごちゃに潰されるのだ。混沌がそこにある。そこに墓を掘るのか?」

少年「墓を掘るために生きるのか? だが、人々は墓を掘っても日々を生きている。
僕は人々より劣っているのだ。疎通がない。だから、墓を掘る以外に目をやれず墓を掘ることに満足ができない。どうでもいいことを考え込む羽目になるのだ
輪から外れる。こんな狭い所に――」ボソボソボソ…

少年「……」ボソボソ…ボソボソ…ボソ…

少年「うぅ…。ビルを駆け上って空へ空へと向かってきていたが、あの広いとこなんていけない。空なんて行かずに下へ落ちるのだ。上にあがることはない。ただ『落ちる』だけだ。
そして落ちる先には僕にぴったりな森がある。あそこには「影」が一杯溜まっている。そして、雑踏は存在しない。蛆虫の収まる型も存在しない。そこには何もないという自由が。0ですらなく単に無いとしておける。すべてを帳消しに」

いざ――と決心を固めた少年であったが、ある衝撃にその行為を止めた。見とれてしまい思いもせずに動きをとめてしまっていた。

少年の目に焼き付くものがあった。

少年「……。このタイミングで日が照りだす、厚い雲の間から顔を出して。それを今僕は我を忘れて拝んでいる。これはここに訪れて今まであったろうか――いや、日は今初めてここで僕の目の中でわかるほどに輝いた。今、永劫の彼方より長い冬を越え、日は僕の額を暖かく撫でた」

日が僅かな光を残しつつ――しかし、終いには――雲に隠されてしまう

少年「これは啓示だろうか、偶然だろうか。どうにせよ、やめたのは僕自身に違いはない」

少年「結局、僕は小心者だ。日に背こうとしたくせに日に助けられてしまう。自惚れ深い馬鹿を再びしてしまうところであった」

少年「日の光は幼いころの暖かい日々を思い出させてくれる。干した布団の香りににた暖かなものがその頃には満ちていた。今、思い出すのだ、あの温かみを、やさしさ、慈しみを。
遥か彼方にある思い出はまだ僕を縛り続ける。この世のあらゆる因縁よりもきつくぐるぐる巻きにされているようでもある。しかし、嫌悪はない。しかし――」

少年「しかし、それに甘えていてはこれから先つらくなるばかりだ。ぬるま湯につかっている場合ではないんだ。自分と同じ温かみを持つものに甘えているだけでは」

少年「また裸の心で寒く寂しく過ごすしかないのか。まるで悪魔に尻の毛まで引っこ抜かれたような気分だ。悪魔の凍えた手が、まるで冷めきった鉄の様な冷たさとやりようのなさが、僕から体温を奪っていく。あいつらに己をやるしかないのか、均一になるように」

少年、鉄格子を握る。その手をみつめる。牢の柵を握る者。次にその先を見つめる。

その先には、濁り水に沈めたような暗い空と、他のビル群が、錆びた色の摩天楼が、この世の終わりを訪仏させるようにそびえるのが見える。
まるで一人の豚が空に飛んでいそうなくらいに不気味な光景であった――翼を持ち何処かを目指す豚がこちらに尻を向けて。。

少年「いつの間にか地獄の門は消えてしまった。消えるべきだったのか。ならば、「どこへ」僕は行く気なのか……?」

日は雲の上からおぼろげに照っている

少年「なんだか嘘をついてるみたいだ。けど…今はとにかく日にちを稼ごう。とにかくがむしゃらにも生きるだけはやってみよう。例え、絶望しかなくとも。死で終わらせるのはまだ早い。もう手遅れだが、死ぬには若すぎる。
抗ってみせようじゃないか。今までだってそうやって、年だけを重ねて来たじゃないか」

少年「昔の様に世の中に何かを求めるのは避けて、さあ自分を動かそう。家には帰りたいものじゃないか。さあ、隠れ入るように家に居よう」

少年「つまり、何事もなく過ごそう。今日の混乱は忘れてしまえ」トコトコ…

少年「今日はいつも通りの日常だった。非日常じゃあない。これからも何も起こらず、「ベット」に着く。それでいい。もう帰る――僕はそう思い至って、この柵から離れたんだ。体と精神が拮抗することも消え、すんなりと終わった」トコトコ…

少年(すんなりいきすぎて怖い――とも思うが…… 例年通り、何もないのさ。無事、「家に帰れる」。どうせ、そうさ。何もない。これこそすんなりと)トコトコ…

少年「――! いや、待て。歩を止めろ」ピタリ

少年「向こうから―誰か、来る。このビルは勝手に登った知らないビルだ。不法侵入、これは危ないぞ」

鉛色に澱んだドアの向こうから確かにカツンカツンと高い音が響いてくる。

少年「一体……どうやって乗り気る?」ドドドドドド…

――ガチャ、扉が開かれる。OLが一人現れた。

OL「えっ?」

出会いがしらに驚く隙に少年はOLの横をすり抜ける。

少年「すみません。失礼します」スッ

突然の出来事に目を丸くしながらOLは返り見た。

OL「なんで子供がこんなところに?」

OL「??」きょとん

しかし、静かに閉じられた鉄製の『ドア』しか視界に入らない。
本当に子供がいたのかに彼女は確信がもてなかった。

彼女は気のせいかと余り気にとめず、少年が先程まで向いていた方向を向き腰をかける。
開いた弁当に手をつけた時には子供のことなどすっかり忘れてしまっていた。

無事にビルの外に出た際に少年は呟いた

少年「譲ってやった気分だ」

少年(『君何をしてるの』―とでも声をかけられただろう。そこで彼女とは『出会った』のかもしれない。見るからに昼飯を食うようであったのでそのゆとりはあったろう。
しかし、上手い具合に出会わずに別れた。出会いもしないから別れたともいえないかもしれない。怒られるのは嫌だが、寂しい感じはする。物足りない。あっけない。)

少年(そうだとしても、せめて『譲った』のだから何か心が落ち着く気がする。青空に近い綺麗なあそこにもう少し居たい気もしてたし、それの続きを見てくれる人がせめているなら安心さ。そうやって譲った気になるとあそこのことは無意味になりそうにない。
よし――本当に『良し』だ。よし、行こう)トコトコ

少年(にしても、美人だったなぁ。亜麻色の髪がのように日に照らされて美しい。今でも鮮明に思い出せるなぁ、あれは。あんな状況でも「ああ美しい」と思えたのが不思議だ。
彼女がとりわけ――というわけではないだろう。彼女が「偶然」あの場に居合わせただけだ。ただ美しいと思えるものはこの世にたくさんある。聞き入る音色、見入る景色、舌にとろける味、没頭する妄想――何でもいい。この世にありふれてるじゃないか)トコトコトコ

少年(そうかもしれない。これは生きる『希望』であるのかもしれない。
美しい――というのを一番僕は「もとめて」いるのかもしれない。人間にとって一番はっきりしてる感情だと何かで聞いた気もするし自ずとも納得もできる。大事に捨てずにいたいものだ。大人になってもそういう純粋――は残しておきたい。無垢に成熟を内包したいものだ。)トコトコトコ

少年(ん? なんだ?)

少年「なにか変な声が聞こえたような…」

???『タ……ツ………』

少年「?? 単なる空耳か。とっとと行こう」

???『タ………ツ……ヤ………』

少年「!!」バッ

少年(何か呼ばれたような――)

視線の先には、陰気そうにビル影に包まれた森がある

タツヤ「さっきの森か――こうしてみると薄気味悪いな。霊感があるっていう奴が来たら、やんちゃな奴が神輿担いだ時くらいに騒ぎ出しそうだ」

ヒューヒュー風が吹いて髪を掻きあげる

タツヤ「『ビルの隙間』なんて狭苦しいところだ。ビル風か、さっきのは」サラサラサラ…

タツヤ(馬鹿に騒ぐ要因にしかならない存在だから見るのですら遠慮したいな。無論、用もないし作る気もない。ほどほどに帰るか)サラサラ…サラ…

――風がやむ。その数秒後

???『……きて……… はやく…』

タツヤ(本当に風か? 空耳―だよな? ほんと気味が悪いな。瘴気があるっていうのはこういうところを――)

???『だれか…はやく……』

タツヤ(?? いや、呼んでるぞ…確かに! 聞いたぞ! この耳で!)

???『ねえ……だれか…きてよ……』

タツヤ(行くか行かないか。今日はゆっくり過ごすんだろ。けど、これはそんな単純に考えていいのか? 呼んでるんだぞ。何かヘルプを出してるのは人としてかけつけるべきでないか。)

???『………』

タツヤ(しかし、面倒事はいやだ!)

???『きて…ほんとに……きてよ…はやく………』

タツヤ(が、もどかしい。呼んでなくとも、何でそう聞こえたのか気になってしようがないッ!)ダッ

タツヤは森に入る。森の湿気(しっき)に触れたかと思うと声ははたと止まっていた。

見渡すとそこには誰も居ない。砂利が敷き詰められた地面の上、タツヤを囲むように木々がそびえている。木々の間から差し込む『外の光』はビル影に押しつぶされているようだ。

木々以外にあるものと言えば、少年の背程の石がひっそり森の奥に置かれていた。

タツヤ「記念碑――いや、『塚』か。線香が焚いてあるし、周りには花やらカエルの置物やら供え物が置いてある。字も――擦れて読めないが――彫って書いてある」

タツヤ(塚の後ろに隠れられるようなスペースはなさそうだな。となると、ここには木々以外に塚があるだけか。『塚』か。それが過去の礎か、風化した畏怖かは知らないがなんとも人を引き付けるものだ。この単なる岩に何かが宿っても信じてしまいそうだ)

タツヤ「うーむ、しかし誰も居ない。悪戯か、勘違いか… 塚が呼んだと頭がファンタジーな人はいうだろうけど、そんな夢に溺れそうな人間にはなりたくないな。一瞬だけそう浮かんだ自分がばかばかしい」

タツヤ(とにかく馬鹿な妄想から目を逸らせ。逸らせよう――
ふと思うことだが…… 同じ夢に溺れる―なら、麻薬やる方がましだろう。麻薬の幻覚は結局自分の夢なんだから。対し、借りた夢で遊ぶなんて女々しい限りだ)

タツヤ(ワーストスリーを述べるなら、ファンタジー脳、追っかけ、オタクだな。次点で恋愛脳と自称哲学者―いや、頭の無い哲学者だな)

タツヤ(ヤク中なんて日常で関わり合いは少ないが、夢見がちな人は何十人と会うことになるんだからな。たちが悪い。しかし、ヤク中も夢見がちも併発するからな)

タツヤ(自慰的な行為で終わるやつはほんとうに面倒じゃない。めでたいな
まあ、併発するだろうし、結局、個人の範疇で終わらない。クズはクズだけどな

タツヤ(本当にめでたい。人の事をいえるかどうか分からないが、クズになってるのは確かか。ならざるをえないが、されど自分でなった)

タツヤ(変わらないものなどあってはならないからな、誰に言わしたってそう言う。モラトリアムを感じない者への気休めか――誰かがそうとも言っていた気がする。臭い言葉だが)

タツヤ「他人の言葉とは不思議だな。まるで自分の言葉の様だ」

タツヤ(つまり、そうなのか――現在の反対で未来と過去のどちらかを問うようなものだ。一応わかるのは益々自分に嫌気がさすってことだけ。自分にかが問題だってのだが、あれは自分だったのか? 辞書を引いて、まやかしで片づけるのが良い。手間がかからない)

日差しの明りを頼りに、タツヤは手帳にめもる。
古ぼけた自己の日記に先のかすれた万年筆で言い尽くされた愚痴を綴っていく。

タツヤ「…ふう。まあ、単に幻聴だったろう――あの呼び声は。最近、疲れているからな。だったら、尚更こんなところから去ろう。今や馬鹿な妄想をしている」

改めて周りを見渡すと矢張り塚が目に止まった

タツヤ(賽銭箱――だ。とりあえず拝んでおくか。最近、羽振りが悪いからな)チャラン…パンッパンッ

タツヤ(臨時収入が入りますようにっと)ナームー

タツヤ(さてと、行くか)

タツヤ(――!! いや、待て!!)

眼を開けるふと自分を見つめている顔に気付く。

まず認識したのは、場違いに白い顔である。その中に二滴垂らしたように赤い眼があった。
その小さくまん丸のお目眼は猫のそれの様に静かにこちらをじっと見つめている――不気味に。

タツヤ「なんだ? さっきはきづかなかった…」

異様な光景にタツヤは観察するしかなかった。

よく見るとそいつは四肢を付いていて、小動物の様で、自分はそいつを見下ろしている。
白い毛並みであるが「何か」までは分からない――そいつの特徴として『長い耳』があったわけだけれど、それが頭の中のどの生き物の情報にも該当しない。

タツヤ「兎――じゃないな。耳が垂れている。珍獣か。幻覚でも見てるのか」

生物「幻覚じゃないよ」

タツヤ「喋ったか!? ――いや、それでも幻覚だ。耳の中から耳が生えてる生物など存在しない…人語を話す動物もな。冷静に考えるに」ドキドキ

タツヤ「そう。想像の産物だ。こんな気味悪いもの想像するなんて本当に僕はつかれているな。寝付けなくて二日ほど夜更かししてそれでだろうか…?」ドキ…ドキ…

生物「君は何か勘違いをしているね」

タツヤ「幻に実体はないと世間一般にいうが本当かどうか気になるな」ふぅ…

片膝をつき手を伸ばす。生物の鼻先でその手はふと止まった

生物「………」ドドド…

タツヤ(いや、こいつ、幻覚とは限らないんじゃ…… ま、まさか―なあ?)

生物「……」ドド…ドドドド…

タツヤ、すぐさま立ち上がって後ずさる

タツヤ「お前! さては幻覚じゃないな。危ういところだった。不用心すぎた。これこそ疲れているせいか。幻覚だとさっぱり勘違いしていた!! お前はなんなんだ!?」ビシンッ

生物「むぅ……」

タツヤ「おいッ! 何なんだ?」

生物「……まあ、とにかく勘違いを自己完結してくれてよかったよ」

タツヤ「ウソだろ? やっぱり喋ってやがるッ!?」

タツヤ、足元に落ちていた手ごろな木の棒を掴む

生物「何で構えてるんだい?」

タツヤ「そりゃあ…構えるさ。訳がわからない……意味不明なことに直面しているッ!」ブンッ

生物「棒を置こう。いきなり僕を叩こうなんて野蛮だよ」

タツヤ「そんなことはない、外したさ。とりあえずこのままだ。棒は構える。野犬かなんかが出たときだって誰だってこのぐらいはする…だろう……?」

生物「僕は猛獣みたいに獰猛じゃない。か弱いよ。その危ないものをおろしてくれ」

タツヤ「了解した。尚更このままだ―弱いんだからな。すぐにぶてるようにするべきだ」

生物「よしてくれ。いじめる気―かい?」

タツヤ「いじめる気はない。かといって、警戒を解く気もない」

生物「とにかくは――僕の話を聞いてくれるんだね?」

タツヤ「逃げはしない――そんな状況じゃない。だが、何かあったら躊躇なく殴る」

生物「…………」

タツヤ「何を黙ってるんだい? 話せと言ってるんだ」

生物「むぅ――とりあえず僕は何も危害をくわえないからね。そもそも牙もないし爪もない―猫より安心できる生物だ」

タツヤ「見ればわかる」

生物「こちらは平和に仲良く話したいんだ」

タツヤ「はい。だから、わかります」

生物「棒を置いてくれないか? 対等に話したいんだ。とても大事な話なんだ」

タツヤ「何を言ってるんだ?」

生物「じゃあ、いいよ。落ち着いてはいるようだから、用件だけ言っても構わないかな?」

タツヤ「構わないと言っている。だが――」チラ

タツヤ(見るに、さっきから塚は静まっているな)

タツヤ「僕を呼んだのは君か?」

生物「そうだよ」

タツヤ「塚の裏から出てきたが何かあるのか?」

生物「いや、それは関係ないよ」

タツヤ「(じゃあ――)何でここに呼んだんだ。こんなナメクジでも這ってそうな陰気な所へ」

生物「人気のないところで話したいことがあったんだ。人前で話すわけにもいくまい」

タツヤ「そうだな。こんな珍獣ならパシャパシャ撮られても文句言えないだろうな。
で、なら、お前は何者なんだ?」

生物「自己紹介からの方がいいね。僕はキュゥべえ。魔法少女の素質を持つ者を探しているんだ」

タツヤ、ぽかーんとする

タツヤ「? はい? 何の素質といいました?」

QB「魔法少女の素質だよ。魔法少女と言うのは―」

タツヤ「おい。魔法少女―君はそう言ったね?」

QB「そうだよ」

タツヤ「アニメであるような?」

QB「まぁ。イメージとしてはそんな感じかな」

タツヤ「」

QB「そんな馬鹿なとでも言いそうな顔だけど、どうかしたかい? 事実さ」

タツヤ(実際にいるか? いたとしても魔法少女なんてより、別の呼称使ってるだろ。それの方が女受けいいってか? でも、僕は男だ、抵抗がある。戦士だかヒーローだか言ってごまかしたほうがいいだろう――何が「大事な話」だ)

QB「…ほんと、どうかしたかい? 黙り込んで」

タツヤ(いいや、そうに違いない。こいつは偽物だ。今までのは設定の事で事実じゃない。誰かが偽っているんだ。ここには「偽り」がある、もちろんだ。誠意がない。そもそも「なに作り話を本気で語っちゃってるの?」、だ。
おそらく誰かが操っている――機械なんだこいつは。「誰か」が操っている『ロボット』としか納得できない)

QB「何かあるんなら言ってくれよ。黙ってちゃわからない」

タツヤ(確信はあるぞ。さっきから妙に生き物みたいな感じがしない――「今、この瞬間」でも、だ。確かに。『口が動いていないし』、『表情を読めないし』、『見たことない造形してるし』、今時似たような機械はごろごろしてるしな。科学の発展、まあ、まあ素晴らしいことだ。愚か者もつけあがられる)

結論に至り、タツヤは棒を茂みに投げつける

QB「勝手に納得してくれたんだね。僕は安心したよ」

タツヤ「ああ。納得したさ。理解不能なものが「理解可能」になった。幻想的なものじゃなくしっかり「現実」の物に即したものだってな。今やとても落ち着いていられる」

QB「? どういうことだい?」

タツヤ(ろくな奴じゃないな。誘拐を狙ってるんだろうか? 女を――というより『少女』を狙っているわけだ。偽善者に刺されても文句言えないことをやっちゃう気かい。
もしかしたら、こいつはマジで魔法少女云々を言いだしてるのかもしれないぞ。自分の空想に浸りすぎて現実見れなくなって遂に他人に手を出すようになったか。……糖質か?)

QB「黙られるのは困るよ。ねぇ」ハア…

タツヤ(となるとさっきの思考の模範例じゃないか。早速気持ち悪いことに)イラッ

QB「?」

タツヤ(純粋に金品や体が目的で誘拐するならこう足のつきそうなことはしない、魔法少女なんて回りくどいことしないしなぁ。これはクズの犯行で確定と見ようか。どっちにしろ悪行だがな。見逃せないことだ)ジロ

QB「睨まないで――くれないか?」

タツヤ「(まず何で声をかけたか――)僕は中性的な顔立ちだからな。それで間違えたのか、それとも、それを馬鹿にしてるのか。なんにせよ、なんか腹が立ってきたぞォ!」

QB「待ってくれ。ちょっと落ち着こう」

タツヤ「喋るな! いらいらしてくる」

QB「……」

タツヤ「――どこで操ってるか分からんな。誘き出すか(よし、慌てろ)」

QB「誘き出すってなんだい? 違うから何かするんならよしてよ」

タツヤ「本当だからよそうってのにしか思えないがな。根暗でひみずだ。人前に出たくなくてしようがないだろうさ。今や、やましいことしてるしな(よし、慌てたっぽい)」

タツヤ、QBに近づいていく

QB「僕になにか…する気かい? なら、その前に話を聞いてほしい」

タツヤ「(よし、このままだ。)妄想を実行し自己満足する為だけか、悪意で誘拐やらをねらってんのかは知らないが、見過ごすわけにもいかない。頭の中だけでこそこそやっておくべきだったな。変な機械まで使いやがって」トコトコトコ……

QB「分かったぞ。ずばり君は勘違いをしている。落ち着いて話を聞いておくれ。一旦歩を止めるんだ」

QBがうだうだ言ってるうちに目前で対峙する

タツヤ「さっきの質問だが――壊せばいい。安くはないだろうし、すぐに泣きついてくるだろう」

QB「よ、よs――」

タツヤ、QBを蹴り上げる

QB「ぐへっ」

QB、べちゃっと塚にぶつかる

QB「よすんだ。大体――」

タツヤ「その程度じゃ壊れないか。やれやれだ」トコトコ

QB「待て。僕が機械ってしょう――」

――ガッシボカッガッシボカッ
タツヤ、QBに構わず踏みつけまくる

タツヤ「こいつ、壊れない。胴体蹴っても四肢蹴ってもどたま蹴っても―予想以上に頑丈だな」がつがつ

タツヤ「もっと力入れるか」ガッガッ

QB「……」べちゃねちゃべちゃねちゃ…

数十秒後、ふと、踏みつけが止まる。ガムを噛むような柔らかい音に気付いた。

タツヤ(いや、おかし過ぎる。何やら蹴ってる感覚もおかしい)

腹に足の爪先を押し付けるが、弾力があるのかぶよぶよしている

タツヤ「こいつ、もしや!? 生き物なのか!!?」

QBがぴくりと動いたので、とりあえず片足でガッと抑えつける

QB「――!」じたばた

タツヤ「ちょっと、失礼」

QBの首筋に手を当てて確かめる

ドクッドクン。ドクッドクン‥‥‥

タツヤ「脈がある。体温もある。毛もふさふさ。この触覚が指先にまとわりつく感じ――生きてるぞ、何もんだか知らんが」

QB「ほ、本当にひどいよ…… 僕は、何も悪いことしてない」

タツヤ「すみません。大丈夫ですか?」

QB「それよりも、足を、足を、どけてくれないかい?」

タツヤ「あ。申し訳ない」バッ

QB、縛を解かれる

QB「よいしょっと。立てるから問題なさそうだよ」

QBは跳んでみたり尻尾を顧みたりと確かめている

タツヤ「あのぉ。あんなに手加減なく蹴ったのですが、けがはないですか? 勿論…あります…よね? 申し訳ない…本当に……」

QB「いいや。至って大丈夫そうだよ。安心して。ほら、足も動くし尻尾も動く。脈も、息も、意識も異常なし。それに、混乱されるのには慣れてるから気にしないでくれ」ピョンピョン

タツヤ「(手を出した手前――こいつが謎の生物だろうが――気にするなって方が無理なんだけどなぁ――)とりあえず、そこのベンチに行こう。砂利の上よりいい。しばらく安静にして様子を見た方がいい」

B「う、うん… それも、そうだね」イテテテ…

タツヤ「(虐待したみたいで心が痛むなぁ……)痛むのだったら、氷か何か買ってきましょうか?」

QB「そこまではいいよ。ベンチに行こう」イテテ…

タツヤ「(そう言うが痛そうだ。うーん、こちらの心も痛む)」

了承するなり、タツヤはQBを抱きかかえる。そうして森の隅のベンチに連れて行く

QB「色々とすまないね」ピョン

タツヤ「こちらの方が申し訳ない。手を出したのは僕ですから」

QB「勘違いされた僕も悪いよ。変に警戒されるのは当たり前なんだから、もう少し言葉を選んだりすればよかったかな――魔法とかそういう空想のものに抵抗があるんだろ?」

タツヤ「それ程じゃないです。言い訳がましいことですが、けっこう疲れていまして。いつもより気がたっていたといいますか、注意力が散漫したと言いますか」

QB「そうだとしても、僕がその苛立ちを表に引き出したわけだからね。ここはお互いさまってことで水に流そうよ」

タツヤ「わかりました」

タツヤ、耳のリングを不思議そうに眺める

タツヤ(どうくっついてるのかわからないな…… 不思議なものだ…)

QBは気持ちよさそうに日に当たっている…ように見える

タツヤ(それにしても――あんなに遠慮なく蹴りつけたにしては無事か。話は本当かもな。やったことはないが、猫とかなら確実に死んでいるし、あそこまでどんくさくはない)

QB「僕が気になるかい?」

タツヤ「そりゃあ、まあ」

QB「幻かどうか手で直に触ってみるかい? しっかりと確かめて」

タツヤ「…じゃあ、とりあえず」

長い耳を撫でつつリングに触れてみる

QB「犬か猫かなんか撫でてる感じだろう?」

タツヤ「そうですね」

リングは耳に離れているが、そこに固定されているような感触である

QB「でも、普通の生物じゃない。生物の定義に因っちゃ生物でもいいのかな」

タツヤ「じゃあ、君はなんなんだ?」

QB「君達の言うところの妖精って奴かな」

タツヤ「妖精―か。夢でも見ているようだ」

QB「実際に触れてるじゃないか。存在を疑う必要はない。受け入れてくれると助かるよ」

タツヤは受け入れますよと言って手を離す

タツヤ「――何か話を聞いてほしいようでしたが、何の用なんで?」

QB「さっきの自己紹介の話を覚えているね?」

タツヤ「君はキュゥべえと言って、なにやら魔法少女の素質を持つ者を探しているとか」

QB「うん。それでね。君に魔法少女になってみてほしいんだ。僕と契約して魔法少女になってよ」

タツヤ「僕とあなたが契約して魔法『少女』に?」

QB「そうだよ」

タツヤ「もしやと思ったが、誤解をされている。こんな顔立ちをしているが僕は男です。残念ながら他をあたってください」

QB「確かに中性的な顔立ちだ。確かに男だ――知ってる。そうはいっても素質はあるよ」

タツヤ「少女ではあないですからそんなこと言われてもですね」

QB「いやいや。それども、実際に君は魔法少女の素質があるんだ」

タツヤ「何を言ってるんだ、君は」

QB「男であってもなれるんだよ。逆に、女であってもなれない者もいる」

タツヤ「魔法少女っていうのだから勘違いしてましたよ」

QB「基本的に、第二次性徴期の少女が僕と契約出来、魔法少女になれるんだ。感情という要因で、そのくらいの少女の魔力が高い傾向にあるんだ。ほぼ限定的といっていいくらいにね」

タツヤ「ほぼ限定的……」

QB「でも、例外はある。だから、その時期の少女であってもなれない人は多くいるし、男でも感情の条件を満たせてる人もいる――そっちは非常にまれなケースに出くわしたことになるけどね。性差は大きな壁であるけれど、魔力さえ、素質さえあればいいんだ」

タツヤ「つまり――僕の精神は、女である、と? だから大丈夫、と?」

QB「そうだけど、気分を害すかもしれないけど、別に悪いことじゃないよ。なんたって、こうして僕と契約すれば――1つだけ願いをかなえられ、魔法を身につけることも出来るんだ」

タツヤ「願い?」

QB「魔法少女にする時、僕は相手の素質に見合った程度の願いを叶えてあげられるんだ。君の素質ならねぇ――あまりぶっ飛んだことじゃなければ大丈夫だよ」

タツヤ「はぁ―というと?」

QB「選択肢と可能性はたくさん広がっているんだから、言ってくれれば出来るか判定してあげるよ。そんぐらい自由な権利だよ。
君には、どんな音楽家も、小説家も、超えるくらいの希望が詰まっている。国を動かせる人になったり、もっと身近な家族とかを充実させたり、ただ自身の力を向上させたりも可能だろう。強い意志をもってすれば確実に幸福を掴めるよ。自由に願ってくれて構わない。それで、願いに関して僕に訊くなら具体的に言ってくれれば助かるよ」

タツヤ「(押してくるなぁ…)そうですねぇ。じゃあ例えで聞きますが―人を生き返らせたりとかは?」

QB「一人二人ならいけるね。ゾンビとかじゃなく、正常な人格と新鮮な肉体でね。記憶とかもある程度いじれるし、一から真っ白な人間をつくるのも可能だ」

タツヤ「不老不死――とかは?」

QB「不死は絶対にではないけど…近いものなら出来るよ。不老に関しては完璧にできる。
もっと具体的に訊いても構わないよ。そんな誰しもが言うのじゃなくてね」

タツヤ「そうだなぁ(具体的は危ないなぁ、望みがばれる。人々にネタにし尽された普遍的でありがちなのでいこう)。次は――過去をやり直したりとかは?」

QB「これは…そうだねぇ…… 戻した後にどうなるかは君次第だけど出来ないこともないよ。いや、実際に時を戻して、満足にやり直せる可能性が生まれると言ったらいいかな。そうだね。「前例」がある。頑張った人間は頑張った分だけちゃんとやり直せてるよ」

タツヤ「なんだ? 出来ないのか?」

QB「既に起こった運命を変えるなんて正に『神の所業』といえ不可能だ。だけど、時を戻して運命が確定する前に戻してやることは出来る。そこからは仕方なく自力でやるしかない」

タツヤ「限界もあるのか。「過去」を変えるのは難しいか」

QB「魔法少女とは希望を与えるものだけど、望みってのは未来にあるものだからね。過去を改変するとなると莫大なエネルギーが必要で現実的に無理だよ。恐らく君にもね」

タツヤ「そうですか。無理はあるとしても、要は、人が悩むも実現できないことが出来てしまうのか。すごいとしかいいようがなく、そうでありながら、怖いと思えるところが心の奥底にある。不信感も充分にある」

QB「こういうこと言うのはあれだけど―願いで釣ってるわけじゃなくて、善意で対価としてやってることだよ。仲間になってもらうんだからね。サービスと思ってもらっていい」

タツヤ「(口で言うだけならどいつもこいつも僕もやってるがな――)契約と言うんだから何かあるんだろう?」

QB「勿論説明する。魔法少女の仕事があって、魔女と魔獣という二種の化け物と戦ってほしいんだ」

タツヤ「魔女に魔獣――ですか。またもやファンタジーなものが」

QB「どちらも人間の負の感情から生まれるんだ。そいつらは人間界に害を及ぼすから狩ってほしい」

タツヤ「あなたはなんです? 駆除して何がしたいんです?」

QB「魔女や魔獣を倒すと落とすアイテムがあってね。僕はそれを集めてるんだ」

タツヤ「集めて何をするんです?」

QB「僕はそれを魔法少女から貰って食べるんだ。そこからエネルギーを取り出す」

タツヤ「? つまり、君は生きる為に魔法少女を生み出してるのか」

QB「うん。それに、地球は平和を保てるし、願いで少女を救えることもあるし、こうやって多くの人と出会えるし――あとも、色々とね。僕と魔法少女の関係はマイナスがなく良いことづくしだよ。更には、世界を救うためってのも大きいね。まさに空想通りの良き魔法少女だ」

タツヤ「それは本当にいいことですね。――だが、敵について、魔女と魔獣について、よくわからない」

QB「人間の呪いから――所謂負の感情から生まれてくるものだから、勿論乱暴で危険気回りない。その上、人間自体から生まれてくるから湧くのはどうしようもない。だから、魔法少女が駆除するしかないんだ」

タツヤ「魔女と魔獣でわかれてますが、(魔法少女の素質が感情で性別で云々言ってたし)負の元となる人間の性別の違いとか?」

QB「いいや。姿や戦闘スタイルが違うんだ。詳しくは契約後だったら話せるよ」

タツヤ「契約後…ですか?」

QB「うん。重要な話だから。でも、奴らが危険だってだけで絶対に騙すなんてことはないよ」

タツヤ「そうですか(契約後か。不可逆なことだろう、か? 怪しく思えるな……)」

タツヤ「―危険だと言う話ですが、どのくらいで?」

QB「ケースバイケースだけど、大体は生死にかかわるくらいだよ。ものによっては街一つの規模で被害を出すのもいる」

タツヤ「話しぶりにしては、魔女やらがニュースやらに出ているような気がしないのだが……そんなに大衆の面前に露呈しないようなことか?」

QB「魔女たちは普段から結界というものに隠れているから、一般人が視認するのは滅多にないよ。結果として起こる被害は、大体は災害や事故か行方不明なんかで認識されてるね」

タツヤ「滅多にねぇ…」

QB「この前の千葉の土砂災害もそれだよ――強大な魔女だった。君達一般人は嵐と思って過ぎ去っていくのをぼんやり見ていたと思うが、実際は魔法少女たちが頑張っていたんだ」

タツヤ「あの死傷者が何人かでたという?」

QB「そうだよ。悲しいことにね。ここ東京だと――大した被害が出る前に防がれたのも、何度もと言って良い程にあるよ。本当に何度もといっていいほど」

タツヤ「僕たちは知らぬ間に少女たちに助けられていたのか。ありがたいというか、なんというか―感謝としか言えませんね」

QB「だろう? その魔法少女になる素質が君にはあるんだ。救う側になるのも可能さ。守られるんじゃなく自衛もできる」

タツヤ「世の為、人の為――そういうのならばいい響きだ」

QB「既に契約してる子は、よくそう思って頑張ってる子が多いよ。ほんと良い子が多い」

タツヤ「だが、僕は――身勝手ですが、現を抜かして生きないと決めてるんです。…いや、現がといって魔法少女や君を馬鹿にしてるわけじゃない。ただ、そんなに余裕がないんです。魔女を狩っていくよりは堅実な暮らしを選ばないといけない立場にあるんです」

QB「生活がつらいんだっていうなら、その状況を願いで克服することも可能だよ」

タツヤ「そういう問題じゃないです。確かに良い暮らしぶりとはいえないけれど、願いに頼ることじゃない。色々と心に決めているんです」

QB「なにか事情があるようだね」

タツヤ「複雑な事情があるんです。家庭の事情とでも言って伏せさせてもらいます」

QB「どういう事情か問い詰める気はないけれど、とりあえず確かめるよ。本当に願いを叶えるという権利を放棄してもいいんだね?」

タツヤ「ここまで話を聞いてなんですが、きっぱりと断らせてもらいます。僕を魔法少女にするのなら、過酷で免れない運命を持っているような少女にでもしてやってください。僕には戦う意志も動機もない上に、してやる余裕もない」

QB「そうは言うけれど… 事情を抱えた子も多いけど、魔法少女としてやれてる子は多いよ。本当に出来る余裕はないのか判断する為にも、魔法少女の仕事を見学をしてみてもいいと思うよ?」

タツヤ「お断りします」

QB「もったいないなぁ。早々めぐってこないチャンスなのにぃ……
見学するだけでもいいんだよ。こちらは無償の見学会としてやってるだけだし、ちゃんとスケジュール組むから安全は保障するよ。その後、契約をどうしようと構わない」

タツヤ「お断りします(しつこいな。雲行き怪しいし帰ってもらうか)」

QB「そう――残念だよ。ところで、君は中学生かい?」

タツヤ「ええ。お断りします(強気に出てみるか。もっとはっきり伝えよう)」

QB「あ…うん」

タツヤ「………」

QB「………。ねえ。今の返事は――」

タツヤ「中学生です。もう一度言わさせてもらいます――」

タツヤ「――『お断り』します」ドン

QB「……」

タツヤ「……(こんだけ一つの事だけ言っとけばこの獣でも理解してくれるだろう)」ドヤ

QB「………うむ」

QB「そうか。名前も―いいかな?」

タツヤ「鹿目タツヤです(――ちぇ。物わかりの悪い奴だ)。それで…、耳の穴をよくかっぽじいて聞いてくれ。僕は――」

QB「そうか。じゃあ、今日は話を聞いてくれてありがとう。もし契約をする気になったらいつでも呼んでくれ」そそくさ

タツヤ「契約をする気は「ない」と言っています。何度も言わせないでくれ。おことわ――」

QB「一晩くらい考えてみてくれよ。じゃあ、また来るよ」トトトト……dash!!

QB「」ダッダッダ……

タツヤ「いっちまったか。やれやれ、物わかりの悪い―
どうしたものか? また来るとか言ってるが、関わりたくないものだ。素直に聞いてやったが、話の真偽も怪しいものだ」

プロローグ終わり。あとは本編の冒頭だけ書いて今日はもう落ちる

それよりも見ている人の気配がしないよぅ (ノД`)・゜・。

静かすぎて深夜の書き込み怖い ネタも悪いのか…

『第1話。1日が始まる』

~あらすじ~

鹿目タツヤは、洞窟の様に暗く湿る森の中で、毛のふさふさした不思議な動物に出会う。キュゥべえと名乗る彼は魔法少女となる者を探しているのであった。

彼との出会い頭には影にすら怯えるタツヤであったが、キュゥべえの踏ん張りにより平常心を取り戻していく。次第に摩訶不思議なその声に耳を澄ませるようになったのであった。
 話を聞くに、タツヤに魔法少女となる契約を結ぶことをもとめているとのことである。精神世界の遺物ともいえる妖精の言葉を枕にタツヤはこの晩無事にベットで眠ることとなる。

そうして、春の夜の夢は冷めきらず、舞台は春の夜明けへと移っていく――

黒髪の女がデスクトップに向かっている。キーボードが激しいタップ音を立て、画面には「そこ」を「埋める」ようめまぐるしい入力の信号が表示されていく。

その傍ら、白い生物が悩ましげな首かしげと共に女の端麗な横顔を眺めていた。

黒髪「はぁ…… 転勤なんて本当にやになっちゃうわ…」

女声の振動に、QBの潜めていた声があがる

QB「東京という新天地――持っていくなら期待の方がいいんじゃないかい?」

黒髪「どうせ、仕事が忙しくて暇もないのよ。期待するだけ野暮ね」

QB「もとから大人びた性格をしていたけれど、ほんと大人になったね」

黒髪「悪い意味でね。保身的になってるのはわかってるわよ…」

疲れも出やすいし――女は目をこする。

獣が見やると、四角の画面は彼女を挑発的に照らし出していた。多少は眩しくもあるのか

QB「じっくり話したいことがあるんだけど……」

黒髪「後にしてもらえる? ちょっと忙しいの」カタカタ

QB「まただよ……」

黒髪「………」カタカタ

QB「………」じー

黒髪「ん…? 待って。あなたから話って珍しい…わね」ピタリ

QB「東京に行くに当たっての魔法少女に関しての話なんだけど」

黒髪「なにか―あるのかしら?」

QB「縄張りと――あと、まあ、魔獣に関して」

黒髪「それね。私も訊こうとは思ってたけど― 何かあるの? 競争が激しいとか?」

QB「大体そんな感じだけど――忙しんだったら後でもいいよ。そこまで緊急なこともないし、東京に行ってからでもいい」

黒髪「じゃあ、そうしといて。今晩中に仕上げないといけないから」カタカタカタ…

女は仕事に没頭していく――その間中、白い生物は置物の様に黙りつづけた。
ただ時たまに尻尾を反応させるとき以外は、、、

その様に気付いたのか、女は話しかける。独り言のように目も向けずに。

黒髪「いつもありがとね。隣でどこまで支援してくれたことか…… 昔は全く信用してなかったけど、本当に誤解だったわ。友人相手のように腹をわることはできないけれど、魔獣狩りに関しては絶対に信頼できるのがあなた」カタ…カタカタ…

QB「僕も君の事はとりわけ信用しているよ。グリーフシードもよく回収してくれるし、ここまで年季の入った魔法少女はこちらも参考になることが多い」

黒髪「そう――相変わらずでよかったわ」カタカタ

QB「君が前に話してたビジネスパートナーとかいう奴に近いのかな? 僕と似てるとかなんとか言っていた」

黒髪「それもそうね。けど――」

女は舌打ちし、両手で髪をかきあげた。その一瞬に静けさに包まれる

黒髪「けど、アイツ、ろくでもないわよ。所謂仕事人間のあなたの方がましね。感情がない分、しっかりパートナーやってくれるから。あいつには見事に裏切られたわ」

QB「なにかあったのかい?」

黒髪「パワハラ。仕事仲間にも満たない奴だったわ。裏でごちゃごちゃ自分の懐ばっか温めていたのも割れてたし――自己中で欲の塊でそのくせ口だけの奴だった。こちらを『口先で騙す』ような私が一番嫌いな類の人間」

QB「お勤め大変なんだね」

黒髪「そう、大変。社会に出るって思いのほか大変。転勤も主にあいつが原因だからね」

QB「なんだ。そうだったんだね」

黒髪「ええ…」

QB「……」

黒髪「……」

QB「……」

会話が止まる。沈黙が走る中、黒髪の女はQBに視線を投げかける

QB「? どうしたんだい?」

黒髪「期待外れとも予想通りともいえないわね」

QB「なんのことだい?」

黒髪の女、溜息を漏らす

黒髪「あなたはあなたで感情がないから合わせずらいわ。ない分、ましかもしれないけど」

QB「口だけでも慰めればよかったかい? 野暮なことは君を逆に怒らせることになるとわかっている」

黒髪「ものは言いようというのがあるけれど…… それでも、あなたらしいはあなたらしい」

QB「何がかい?」

黒髪「そうね。――っと、無駄話してる場合じゃない。仕上げないと」カタカタ

朝陽に追われるようにデスクに没頭していく。街には既に陽気が戻りつつあった。

【introduction to...】

 『東京を愛し、
    東京を憎む、
      全ての人々に――』

始業式も終わり、日は舞い散るさくらを柔く照らしていた――

桃色のそれは暖かい春の象徴である。無論タツヤは好きであったけど、舞い散る姿は心に虚しい感じがして嫌いである。
花は一年ごとに咲きいずれ散る者であるけれど、常に咲いていてほしいものだ。

だが、所詮、「窓」の外の景色であって、直に寂しさを感じることもなかった……


だから、絶え間ない川の様に混雑する廊下をタツヤは進んでいく。
右には青髪をショートにした少女が、左には髪を緑に染めた少年が並ぶ。

三幸奏(みゆきかなで)と志筑文紀(しづきふみのり)であり、学校での友人であった。
三人ともクラス分けの結果は二年三組であり、お別れになることはない。仲がいいので文句なしであり、たわいもない話をすることになる。

奏「転校生の子、かっこよかったよね~」

文紀「隣のクラスの奴?」

奏「ううん。このクラスの方の」

文紀「転校生いたっけ?」

タツヤ「ほら、黒髪をなんか編み込んでた子。さっき佐藤だかがちょっかい出してた子」

文紀「ああ。女の話ね(男の話だと思ってた)。たしか、美空だっけ?」

奏「うん。美空さん。クールって感じだよね?」

文紀「なんというか、凛とした感じだよな。凛々しいし美形だしあれはモデルってレベル」

タツヤ「ベタだけど、生徒会長とかやりそうな感じだよな。上にたってみんなを引っ張りそうなそんな雰囲気」

奏「それ、あたしも思ったよ。大人って感じ。あたし達より数年先をいってる感じだよね。今は同じ学校だけど大学あたりでめっちゃ差をつけてそう」

奏「そういえば、壇上でずっこけてパンツ見えてたけど、あれで全校生徒の心をわしづかみしたね、てん!こー!せー!」

文紀「見てなかったわー。何色?」

奏「何色だっけ?」

タツヤ「……紫だったか茶色だったか。そんな地味な色で無地って感じ」

文紀「さすがめざとい」

タツヤ「席『前』だから嫌でも見えんだよ」

文紀「『俺も』だが」

タツヤ「お前は『見てなかった』ろう」

文紀「さいでした」

奏「――ふぅ。疲れた……」

教室に着く。奏の席の周りを取り囲む。

タツヤ「まあ、こいつはずっとケータイいじってたからな。今もだが」

文紀「……」ピッポ…ピポッ…パッピッ…

奏「またmixiやってんの? 飽きないね」

文紀「単なる暇つぶしだって。依存してんみてぇに言うなよー」パッピロ…パピロォ…

奏「まあ、校長の話、うざったいからしゃーないよ」

文紀「でも、あいつの話、時々面白いよな。卒業式でコーヒー豆の作り方力説しだした時は吹いたわ」ピポォー…

奏「今回は『クリスタルの魂』がベストバウトかな。言い出した時は、体育館がどっと笑いに包まれる直前になってたよ。『どっ』だけで笑わない感じ」

文紀「それ、なんとなく耳にした」携帯パタン

奏「クリスタルの魂を磨けだっけ。あれ? 宝石作れだっけ」

タツヤ「『君達はクリスタルの原石のようなものだ。今はまだ未熟だが、磨くと光り輝く者だ。クリスタルの魂をみがけ。君達の魂はクリスタルの宝石みたいなんだ』――みたいな感じ」

文紀「コーチョーに似てる喋り方するなって、お前」

奏「そうそれそれ。クリスタルの宝石みたいって何さ」

文紀「ぷぷw なんで同じこと何回も言ってんのかってのもな」

タツヤ「言葉重複させて、うまく言った気になってんだろ」

文紀「ってか、クリスタルってwwwガラスとww同じww」机バンバン

奏「クリスタルだから脆いかもしれないが云々言ってたよ」

文紀「それこそガラスじゃねぇか!」バシッ

タツヤ「『ガラスのハート』ってか?」

文紀「それだ! なんかおかしいと思ったがそれだわ。パクリってか単なる「言い換え」じゃねぇか」

タツヤ「こんな学校じゃ、あれでいいだろう。生徒も教師もろくなのいないしな」

奏「あたし、今日、理科の松田消えてすかっとしたよ」

タツヤ「でも、数学の松永が消えたのは最後の希望断たれた感じだな」

文紀「新任はわからんが、まだあんまぱっとしねぇし、ろくなの残ってもないわな」

文紀「かくいう俺らも生徒でね?」

タツヤ「? ああ。そう、俺もろくでなし」

奏「んじゃあ、あたしもー」

文紀「そりゃ、テストの順位下から五番目の奴は「確実」に、だろ」

奏「うっざ。あんた――は馬鹿じゃないのか。五位だっけ? 言い返せない」イライラ…

文紀「ふん。馬鹿は黙ればよろしい」

奏「家も「金持ち」とか非の打ちどころがない」

文紀「そう。生まれついての勝ち組って奴だ。フフフ……」

奏「性格は最悪なのにほんといやなやつ」

文紀「何を言ってんだ? 性格もいいだろ?」

タツヤ「いやいや」フルフル

文紀「そういや。理事長だっけ? 孫が大学『決まんない』ってのは笑ったわ。「教育者」の癖に、「接し方」が分からないとか言い出したからな」

タツヤ「大変だろうが、始業式で言い出すのはばかとしかいいようがないな。あれだけ進学にはうるさいからなぁ、この学校」

奏「金持ちだから何とかなりそうなのが透いて見えるのが気持ち悪いよね。仕事上、コネなんかも色々ありそうだし」

不意の理「それは言い過ぎだってww」

タツヤ「実際、そんな感じだろうけどなー(経営者だから「利用」するのは当たり前)」

文紀「お前までいうか」

タツヤ「そりゃあ、同情しろっていうなら『拒否』する。コネがあったって「子供」で損してるのは事実に違いないだろうが、情けないとは思うがな」

文紀「確かに情けないな、まさに的を射た――」

奏「」ごそごそ…がさごそ…

机の中を騒がしくあさっている(本人はうるさいときづかない様子でありもくもくと)

奏「」がしゃがしゃ……カチャン! ガチャン、じゃーん!

文紀「どした?」

奏「そうだ。CD返すよ」机にスッ

タツヤ「うん。どうだった?」

奏「えっと――スパニッシュな雰囲気が面白かった。うん」

文紀「かっこ、小学生並みの感想」ボソ

奏「でも、ほんとそんな感じじゃん」

文紀「それはさておき、これでアランパーソンズは聞き終わったってことか」

タツヤ「どのアルバムがよかった?」

奏「えっと、どれだろう…」

文紀「やっぱ名盤はアランポーだろ。大鴉は神曲だは」

タツヤ「あれは好かん。大からすは好きだが、どうも曲調が好きになれん」

文紀「またそれか」

タツヤ「そっちだって大鴉押し過ぎだ」

文紀「最初期の出し切った感がいいんだろ」

タツヤ「まだまだ荒いとこ多いじゃないか」

「あらくねぇよ。完成されてたろ」

「そうか?」 「そうだろ」

――ガヤガヤガヤ…… ガヤガヤガヤ……

奏(一つ決めろとかわかんない。あんま覚えてないし…)

「僕が思うに完成ってのは運命の――」 「長けりゃいいもんじゃねぇえよ。組曲(笑)コンセプト(笑)」

「アルバムで言ってるんだ。タイムとか良い」 「時は川の流れに、な。フロイドじゃあるまい」 

「邦題とかどうでもいいだろ」 「そうだな。ったく、そういうお前はなんなんだよ。アランで好きな盤」

タツヤ「アンモニア・アヴェニューだろ」

文紀「はぁ?あんな―― 奏「(そうだ!)あ、あたしはドント・アンサー・ミーが好きかな」

文紀「――うぁ。そうやってすぐ鹿目の方を持つぅう」

奏「え? どういうこと?」

文紀「アンモニア・アベニュー収録だろうが」

奏「そうだったっけ?」

タツヤ(全部聞いてるんだろうが……)

奏「へえ、そうなんだ。知らなかった。何かとタツヤとは―― 文紀「アンモニアにドントアンサー入ってるのは重要だ、なのに、ばっかでぇ」

奏「(人が喋ってんのに邪魔すんな!)」キッ

文紀「イーッだ。お前だってさっきな――」

キンコンカンコン――次は規律のベルがなる。それは皆を促すものであった。

文紀「おっと先公が来るのでドロンさせてもらいます」ニンニン

タツヤ「じゃあ、俺も戻るか」

二人は教室に並ぶ机のいずれかに戻っていく。

【extra】

「花を盛った桜は彼の目には一列の襤褸のように憂鬱だった」

飽きた 寝る

さてと書くか

もう書きだめきれたっぽい

彼らが「学生」としての日常を過ごす傍ら、街では同じくらいの齢の少女が魔物と戦っているのであった。この町新宿で一二を争うように空に近く近くへとそびえたつビル群の中、戦いは雲の流れさながらに静かに行われた。白髪の魔法少女と鈍色の魔物の対決――それはとあるホテルの屋上であった。

その彼女は華奢な体を添え木のように真直にさせては魔物の鈍重な動きを一遍に押さえつけている。彼女は組んだ腕を掲げ、そこを襲う重い一撃を静止させているのである。
いわばドアの「ストッパー」のように太い腕とコンクリの間に挟まって窮屈そうである。天高く雲が溜まりこみ、半途で光を包んで静止している。

これは止まっているように見える。しかし、魔物が加重を止めることはなく、女は女で筋の力をもってこれを浮かせんとまでする。
押し合いが二人の間には行われている。相撲の試合で現れるのと同等の静の動作があり、時間の経過が傾性を教えてくれる。

同じ姿勢を一分、二分と続けていくうちに傾性は現れてくる。

少女が苦しそうにあえいだ。

波に抗えぬ岸部の木ように緩慢に腰を曲げ、ただ相手の狼の目を恨めしそうに睨むだけとなった。汗はぬるりと皮膚を覆っていく。少しでも体を動かすと節々がみしみしと鳴っていた。



疲れたようにどっさり膝をついてしまうと、息をつく間もなく潰されてしまうのであった。声もなくただドシンと言うスタンプ音が、堰を切ったように辺りに響くのを聞くだけである。

屋上の端にやつれた女性が立っていた。幽霊のように生気のない女は危なっかしく空に背を向けながら、今までずっとこの戦いを眺めていた。それの終わりがついには訪れ、少女の消失をただ嘆く。

「うぁぁぁあぁっぁっぁあっぁぁっぁぁ……」

静まり返る中で、雑草が鬱蒼としげるような悲鳴が響き渡る。
魔物は少女の墓であるが如くにその場を動かない。ただ少女があった場所を抑え続ける。その蒼い悲鳴には気付いているはずなのだが……声の主を襲う訳でもなかった。

動けないのであった。魔物にはその声を取り払う使命があるのだけれど、少女の上に立つが故にそれが出来ないのであった。

魔物の手元が段々と盛り上がっていく。

そう、静寂な戦いは続いていたのである。


「しゃっきぃぃいぃぃ~ん!!」
そんな戯れた声が魔物の腕を押しのけ、あの少女が忽然として――且つ高速で動くような軌跡を見る者の視界に朦朧とながらも見せながら――現れたのであった。


魔物はその輝かしさに身じろぎしている。登場の勢いにのまれ体制を崩しながら。

女は少女の自信満々な笑みから何か機転を感じ取った。それであっと呟き嗚咽を止める。

わざわざ敵の剛腕に潰された訳はなんだろうか? 何を繰り出そうというのか? 今再び少女が姿を現したとき少女の手に溢れんばかりに煌めいていたのは大量のコインであった。

「じゃらじゃらじゃら」

その掛け声とともに少女はコインを地面にこぼしていく。

「でゅしでゅし」

その掛け声とともにコインが床を一回はね、真っ直ぐ一閃して魔物の方へとぶつかっていく。

魔物はコインを食らった。すかさず少女は掌を傾ける。

「じゃらじゃらじゃら」また零す。

「でゅしでゅし」また放つ。

「じゃらじゃらじゃら」ポロポロ

「でゅしでゅし」ズギャンズギャン

「じゃらじゃらじゃら」ぽろぽろ

「でゅしでゅし」ずぎゃんずぎゃん

休みなく繰り返し発せられる擬音はいつしか変則なリズムを刻んでいた。

怯える女はその声を勝利の歌として軽快に聞いた。
対して、魔物の方は敗者への冒涜の歌に訊いただろう。
右手を前にだすなら右手が射抜かれ、左手を差し出すなら次はそっちを射抜かれる。隙のないラッシュは圧倒的な勝利への兆しを見せつける。
支える力が減り、体が地上の方へと落ち込み、文字通り傾性となっていた。


攻防の末に魔物がビルから手を離す頃には、少女はビルの下を見下ろす姿勢に入っていた。

下の大通りで人が騒いでいた。車の真上に落ちたらしく、魔物がみえない一般人も騒げるところとなったのであろう。いきなり車が大破したのである。

少女は、まるで蟻みたいね――と所感を呟くだけであった。見るからには少なくとも交通が止まっているようであるのだから。


視線の先の魔物は跡形もなく消滅していく。

白髪の魔法少女「フッ。所詮使い魔か。たわいない。しっかり死んでいる」

QB「……。倒したね」

白髪「!! ――あーた、居たんだ。」

QB「影から見届けさせて貰ったよ。よくやったね」

白髪「それほどでもない。所詮は使い魔――こんなのやっても利益はないでしょ」

QB「そうとはいいがたい」

白髪「は?」

QB「人を一人救った」チラ

襲われた女「」ぽつーん

白髪「そーいや、いたね~。そんな奴」

QB「そうだ。アフターケアは忘れちゃならない」

白髪「あーたねぇ。えっと――大丈夫だった?」トコトコ…

女「ひぃ!!」

白髪「はぁ? なんで「ひぃ」? 助けてやったんだから」

女「てめぇ、なにもんだァァーッ!」

白髪「状況が呑み込めてないなら今から説明するから――」トコトコ…

女「こっちによるんじゃあ! ないッ!! この化け者共がーッ!」

白髪「そりゃあ、ごもっとも」スタスタ

女「」じりっ…

白髪「後ろに下がるのはやめた方がいい。地面にまっさかさまだあ」

女「ひぃぃい……近寄らないでッ!!」ブンッ

白髪「いてっ。なんだ、靴ねぇ…」

女「――!!(この隙に階段の方まで回り込むッ)」ダッ

白髪「既に脱いでたってことは、自殺かなんかしようとしていたんじゃん。やっぱり!」

女「(ドアノブを掴んだッ! これをひねればすぐそこに階段があるーッ!)」

白髪「とりあえず端っこから離れてくれたんなら一安心。馬鹿なことはされないってことだね」

女「なに!?」くるり

女「安心? 何を狙ってるぅ~ッ!」

白髪「あーたが魔女の使い魔に襲われてるとこを助けてあげたの~」

女「そんなわけあるか、バケモン! 逃げるッ!!」

白髪「にげんなって――あっしは思っちゃったりなんだったり。このままどっかいっちゃわないで事情だけでも聴いてくれたり、ねぇ~?」

女「」ガチャガチャ…ガチャガチャ…

女「あ、開かない! 狙われている!!」ガン!ガン!ガン!

白髪「その前に落ち着くのが先決のようだ。やれやれだわ…」

女「食われるッ!! 狙われている! 殺されるッ!」ガン!ガン!

女「追い詰められたーッ! 誰かッ!!」ガン!ガン!

女「」ガン!ガン!

白髪「……。」

白髪「面倒そうだしほっとこう」

QB「賢明な判断だろう」

白髪「それほどでもない」

QB「これからどうするんだい?」

白髪「使い魔がいるってことは魔女がいる。品の悪いガキがいたら近くに土人みてぇな保護者がいるから気をつけろってくらいに確実。でしょ?」

QB「そうなるだろうね」

白髪「とりあえずは、魔女の所まで辿れれば挽回できるかぁ。でしょ~?」

QB「辿るのは楽そうだけど、その魔女が難しいね。相当強いだろうと思うよ」

白髪「へぇー。私より~?」

QB「相性がちょっとだけ悪いかな」

白髪「ちゃんと答えてよ。私よりかって?」

QB「――やり方次第かな。万全を期せば勝てる。けれど、バッドコンディションなら負けてしまうだろう」

白髪「じゃあ、大体同じくらいでいいの? ねぇ」

QB「そうだね。それが相性のせいでね。こんな説明になってるんだ。実力は君のが上だけど相性が悪いからちょっとしたことで逆転されてしまう」

白髪「難しいのはわかんないって~いってんでしょ?」

QB「君の方が強いからって油断はしちゃだめってことさ。油断は命取りってね」

白髪「だから、どうなんだって聞いてるんだろーが。この」

QB「……」

QB「今の調子なら大丈夫だと思うよ」

白髪「………」じろ

QB「………」じー

女「ギャーギャー」ドン!ドン!

QB「………」

白髪「あ………」

白髪「あっはは。わっかりやすぅぅ~。あーたったらぁ。だったら最初ッからそう大丈夫っていっちゃえよー」うりうり

QB「…? 今度から気を付けよう」

白髪「そうそう。あっしはさぁ。不満なく行きたいんだよね。わかる?」なでなで

QB「僕も不満なく行きたいよ、お互いその方がいい」

白髪「そうそう。あーたと仲こじれると大変ジャン? だからさぁねぇ。あんまり安心できないようなこと言うといやんなっちゃうわ」なでなでなでなで

QB「でも、未来は「まだ不確定」だ。断言はできないよ。だから、思い込んで突っ走るのを僕は止めておきたいんだ、君の『安全』の為に。だから――」

白髪「」がしっ

QB「僕を持ち上げてどうかしたのかい?」

白髪「てめぇーの今度ってのはいつからだ?」

QB「気を付けろよ。どうかおろしてほしい」

白髪「――うっふふ。未来は確定するわけじゃん? 私が口を開こうとすると口が開いてるんじゃん。だから、その妨げになることは言わないでって言ってんの。
未来がどうとか安全がどうとかとんちんかんなことじゃないの――あっしがあーたを嫌悪したってだけ」

白髪「邪魔するならかえってよ」ぐい

ヒューヒュー――風がQBの耳をふわりとさせる

QB「君の言う通り帰ろうと思うけど、なんで、ビルから落とそうとしてるんだい? 帰れというならあの女の騒いでる方向に突き出すべきだ」

白髪「そりゃあ、こうするためでしょ」じゃらん

QB「そのコインで誰を仕留める気だい? 君の放とうとしている方向には僕とは無関係な女がいる」

白髪「その方向でいい」ズギャン

女「ひ、ひひぃ!」

ベッコンッ――金属扉のへこむ音が響く

女「――あれ。何…とも…ない…?」ひぃいぃぃ…

白髪「よし」

QB「わざと外したけれど何を狙ってるんだい?」

白髪「うっさいからぁ~、黙らそうかと」

QB「」チラ

白髪「たずげてぇぇええぇ…!」ガン! ガン!

QB「君は『さっきから独り言を言ってるように見える』ものだよ。さっきの使い魔は認知してないかもしれないし、もしかしたら君が襲ったと勘違いしてるのやも。いや、そんな区別すらつかずただ半狂乱になっているだけやも。今の脅しは逆効果だ」

白髪「じゃあ、助けてあげるか。脅しもしよう」

QB「どういう意味だい?」

白髪「両方でしょ。あったりまえ~のこと。彼女を見てれば変化がわかる」

QB「」ちらっ


女「――!!」ガチャリ

女「扉があいた! 脅しで攻撃してきた衝撃のせいだわ」

女「」ダッ



白髪「すわぁあぁぁあぁーー」

QB「?」

女「よし。外に出れた」

女「『外』に?」

白髪「そう。ビルの外側で浮いている
屋上より二間ばかし飛んだところの空中へ」

女「って、ビルの外って。あれあれ。ここって何階だっけ? ここは空?」

女「ドアを開けた瞬間何故かもうおちてましたァー。あはははー」ひゅーん

女「………」ガックシ

白髪「落ちながら気絶してやらあ。体を垂直に顔面を地面へと真っ先に向けて」

女「」ベチャ

白髪「うーん。ありゃ、即死だね~。うっふぅー。血だの歯だの飛び散ってる」

白髪「さいこーにザマーみやがれ。ホラー映画で足手まといの女が死んだ時のと全く同じにすがすがしい気分。悪党が死ぬ以上にスカッとした気分♪」

白髪「これでたぶんあの女が車を大破させたことになる。これでいいわ。元々助けなかったら死ぬ命だった。そもそも使い魔に狙われたってことは悩み多き人で、自殺なんてのはやるだろう。むしろ、使い魔に自殺させられてたのかもしれない。これで元通りで問題なし」

QB「ほっとけばいいだろうに」

白髪「んな、ことはどうでもいい。とにかくあの女は挙動不審で嫌なんだねぇー。いやぁ、すかっとするわ~」

白髪「あのおんな、ぎゃーぎゃー喚きやがって。うっるせぇんだよ。死ね」

QB「……」

白髪「死ね。ほんと、死ね。死ね死ね。ったく、死ねよ。ったく、死にやがれ。死ね」ブツブツ

白髪「うっせぇんだよ。不安そうにわめいて。死ね。死ねよ」ブツブツ

白髪「……」

白髪「ぶつぶつ…ぶつぶつ…」

QB「………。もう死んでるじゃないか」

白髪「ぶつぶつ……」

QB「………」

白髪「………」ぼそぼそ…

白髪「」…ぼ…そ……

QB「そろそろおろしてくれないか?」

白髪「……。」

白髪「あー。たく、『女』がよぉ。ぎゃーぎゃー喚きやがって。……んで、あーた。何か言うことでもある?」

QB「僕は喚いてないだろう? だから、こんなことは――」

白髪「命乞いしろって誰が言った? あっしはさぁ。さっきの話をどうぞって言ったの。立場、わかってる? おらッ、続き言えよ」

QB「君が思えば出来るってわけじゃないよ。戦いにおける勝ち負けなんてそれが顕著だ。今回は特に勝ちは断言できないくらい相性が微妙だ」

白髪「ああ? あっしが負けるって? ずっと勝ってるわけだからいきてるんじゃん? お?」

QB「傲慢になってはいけないよ。古くから戒められていることだろう?」

白髪「で?」

QB「君は『思い込み』が激しいからね。何か問題が起きねばいいけれど」

白髪「「問題」なんて起こすわけないじゃん」

QB「いいや。「こっち」の話だよ。君は関係ない。問題を起こされるこっちの身を――」

白髪「あー。あー。そうやって不安になることいいやがってよ。このゲボがッ。とっととおっちね」ぐぱっ

QB「うあ! 落ちる」ずいっ

白髪「……」ぐっ

QB(落ちていない。耳を『掴まれている』!)

白髪「――うっそぴょーん☆ この手を離さないって絶対」ぐぐぐぐぐぐ

QB「耳が体重乗ってちぎれそう」ぐぃいぃいぃぃぃ

白髪「『そういうもん』だねぇぇ。うっふふ♪ ちぎれるまでやってみるぅ~」

QB「いや、君は出来ないよ。飛び降り自殺の件でそろそろここに警察が来る」

白髪「運のいいやつめ。助かったな。なんにせよ帰ろっか♪」ひょい

きゅうべえを巾着袋みたいに肩に担いで去っていく……

【extra】

『が、彼はその桜に、――江戸以来の向島の桜にいつか彼自身を見出していた。』

飽きた 寝る

起きた 書く

『屋上』という学校の外とも中ともいえない場所があった。

そこの入り口には生徒が高いところにいかないよう安全の為に、頑丈な扉が拵えられ更には鍵で終日閉め切っている。一種の閉鎖空間と化した場に目的を持って訪れる者はいなかった。その場のあらゆる存在の影が一寸先の空気の裏に消えていき、開校当初からないがしろにされてきたフェンスの日焼けが幾日にも渡り冷めきった日の下で広がっていくだけである。

だが、唯一の設備と言える「花園」を覗けばの話である。

たった二人しかいない園芸部員の一人である鹿目タツヤはそこの鍵を持っている、のだ。鍵を開け放ち、寂れた屋上の園で空の半途で潰れるように育つ植物の世話をするために彼はそこに現れる。一日一回日課として彼は訪れ、又、一方で花にとっては彼が一日に於ける勇逸の来訪者であった。

こんにち、日の落ちぬ屋上に佇むタツヤには成長の証である開花が酷く憂鬱に思えた。はぁ、と感嘆とも悲嘆ともつかない情けない声を出しては花壇の前で佇み眺めたままでいる。
薔薇は褪せた色の蔓を柵を頼りに目一杯伸ばしていてその所々に寂びた花が咲いている。蕚をこちらに翻しては卵形に弁を波打たせて見事に咲いていた。その様が思いの外に静かであり、薄い光の下、その黒々とした影が花の匂いに道ずれになって消え行っていき、寂蒔たる風に吹かれ震えた余韻を残す。彼はやるせなく落胆するしかなかった。

日を欠かさずに育てた園が周りの景色と同じく錆びていくのがいやでいやで溜まらなかった。憂さ晴らしに空を見上げてみると、一番天近くに開く花冠が口の割れた陶器のように破片を零していた(そうしてまた薔薇は彼を憂鬱にさせるのであった)。

それの落ちるところに花弁が二枚ほど散っていた。部の片割れが用があって遅れてくるらしい。彼は先に一人で仕事を始めることにする。

タツヤが花に水をやっていると白いものが花壇の間を横切った。
その『正体』がわかったからこそタツヤはその存在を無視するのであった。否、(気持ち程度に)そうするしかなかった。

QB「やあ。今、ちょっといいかな」

タツヤ「」ジョロジョロジョロ…

QB「僕の姿は素質のない者には見えないから安心してくれ。学校だからって大丈夫だ。君が珍しい生き物と一緒にいたという噂はたたない」

タツヤ「(めんどくさいなぁ…)」ジョロ…ジョロジョロ…

QB「聞こえてるかい?」

タツヤ「」だんまり

タツヤ(鬱憤はたまるばかりだ。無視したら帰ってくれるだろうか?)ジョロ…ジョロ…

QB「ねぇ。気づいてるんだろう?」

タツヤ(よし。そうしよう)シカト

QB「………」

タツヤ「」

タツヤ「」ガチャ…ガタッ…

QB「……無視してるんだろう?」

タツヤ「」キュッキュッ…ジョロロロロ……

タツヤ「」ジョロロロロロ…ジョロロロロ…ジョロロロロロ…

QB「確かに君にしか見えない存在なんていかがわしい者かもしれない。だからって、無視しないでくれよ。少しでいいから話を聞いてくれ」

タツヤ「」ジョロロロ…ジョロロロロ…ジョロロロ…

タツヤ「」キュッキュッ…ガタ…ガタ…

QB「……」

タツヤ「」ジョロジョロ…ジョロジョロ…

QB「まさか本当に気づいてないのかい? 男で素質があるのは十分イレギュラーだ。もしかしたらその可能性は十二分にあるだろう」

タツヤ「」ジョロジョロ…ジョロジョロ…ジョロジョロ…

QB「本当に見えなくなってしまったようだね。本当に残念だよ」

タツヤ「(こちらも残念だ。見えなくなってしまったよ。とっととあきらめろ)」ジョロジョロ…

QB「けれど手の程化しようがないわけじゃないんだよ」

タツヤ「(なに…!? 何をする奇異だ?)」ジョロジョロ…

QB「刺激を与えているのが一番手っ取り早い。よしまずはこの手で――」

タツヤ「よしてくれ。わかってますって(殴られるのは簡便だ)」

QB「」ピタ

タツヤ「君の存在なんか、昨晩の夢の様にどうでもよく忘れかけていたところでしたよ」やれやれうるさいな~

QB「………」

断つあ「………」

QB「………」

タツヤ「どうしました?」

QB「いじわるだね」

タツヤ「そうですね」

タツヤ「誰か来るとあれなんで、あそこ上りましょうか」

QB「……」

QB「貯水水槽のところか。そこまで行く必要はあるかい? 屋上に人はあまり来ないし、さっきも言ったように――」

タツヤ「僕がただ上りたい気分なだけですよ。あそこが好きなんです。景色が落ち着く。(ストレスたまるクソ喰らえな)話に付き合うんだからそのぐらいいいだろ?」

QB「そうれもそうだね。興味もわいたから、その景色とやらを見させてもらおうかな」

肩に乗っけてもらう形で昇っていく。登りきる。

たつや「ふぅ… 意外と思いですね。軽い運動になりmしたよ」

すまないね「」

タツヤ「少々休みましょうか。景色を眺めながら」

QB「あそこは新宿のビル街か。空を削るように立ち並んでいる――こっちの方向は遮るものが多いね」

タツヤ「色々なものがごちゃごちゃしてて好きなんです。それに空が近い」

QB「高い所が好きかい?」

タツヤ「誰だって、低くて暗くてじめじめしたところよりはいいでしょう。四つん這いになって洞穴にこもっている、よりは、自分の脚で高みを目指している方が好感を持てる」

QB「そういくと確かに空に近い方がいいね。広々としている。よくわかるよ」

タツヤ「でも今は夕焼けがすごい」

QB「色合いがいいね」

タツヤ「………」

丸い夕日が全ての色を消し去っていた

そこに何を見出そうというのか少年は黙視し続ける

夕日に焼ける横顔は眩しそうである

その傍らで生物はその者の横顔をみつめつづけた

QB「さて。いいかい?」

タツヤ「…どうぞ」

QB「昨日の話の続きだけどしっかり考えてくれたかい?」

タツヤ「はい。きっぱりお断りします」

QB「考えての結論だね?」

タツヤ「ええ。そういいました」

QB「……」

タツヤ「……」

QB「契約はいいや。とにかく僕の存在を容認してくれているようであるし安心したよ」

タツヤ「それすらも、ですね。君は怪しい」

QB「そうかい? 機能に比べれば滞りなく話せてるよ。助かってる」

タツヤ「怪しいには違いありませんよ。君の存在は認めてもどこまで信じるかは別問題だ」

QB「そりゃ、話を聞くだけだからね」

タツヤ「話を聞く「だけ」でいいですよ。関わり合いたくない」

QB「定期的に訪れることにするよ。ただ単純に話し相手になってほしいんだ」

多雨や「(そうくるか。めんどくさいなぁ… しかし僕にしか見えないというこいつをどう穏便におっぱらったものか… とても困ったなぁ…)」

QB「分かり合うのが大事だと思うんだ。僕が怪しいなら話し相手から始めればいい。ちょっとした交流をしたいんだ。折角出会ったんだからね」

タツヤ「友達にとかいうこっぱすかしいものを言ってるのか? (そんなことはないとして何を狙っているんだ――)」

QB「そういうのじゃだめかい?」

タツヤ「(そうか。つまり――)腹の中では契約させる算段を?」

QB「そういうのじゃないよ。契約はすっかりあきらめた。正直に言うと性別が男でありながら素質を持つ君は珍しいから好奇心は湧くんだ。知っておいた方がいいとも思ってね。
もちろん君に害が及ぶことはない。今みたいに屋上で離したり、君を観察させてもらいたい」

タツヤ「そんなことしてなにか得になりますか? 単なる好奇心? それとも?」

QB「利害はなくもないね――」

QB「魔法少女がどうして魔法少女になれるのか――感情という要因の本質をあまり理解できていないんだ。さっき無視されて取り乱してた僕だけど、そうなる程に君は十分特殊で、そう、興味深い人間といえる。男なのに条件をクリアしている君から何かわかるかもしれないだろう?
もしかしたら、男でも魔法少女に――この場合は魔法少年でいいかな。男でも僕たちの助けになれるように契約の力を「発展」させられるかもしれないんだ。そうなって悪いことはないだろう? 色々と楽になると思うんだ。男の方が力があるから退治に向くと思うしね。太古の昔、狩りは男の仕事だったから、むしろ『あるべき姿』と言ってもいい」

タツヤ「……。うんうん、納得。ねじの回す方向を訊いてペットボトルの開け方を説明された時くらいにすんなり納得。
で、君が交流する意義はよく分かりました。で、僕は何の得を?」

QB「知れるってのは良いことだ。君も今さっき頷いた、ね」

タツヤ「そりゃそうかもしれませんね。はい」

QB「君は魔女や魔獣の存在を知った」

タツヤ「……ええ。ええ――「君のおかげ」ともいわせたいんでしょうね」

QB「その延長で、もっといいことを知らせられるよ。危険が迫った時は知らせることも出来る。
僕がいなければ知らず知らずの内に魔女から被害を受けるだろう。運よく魔法少女が来れば助かるかもしれないが、来れなければまず死ぬのは間違いないだろう。
勿論これは脅しじゃない。君の身を思ってのことさ。襲われるなんて偶然、早々ないけれど、これは保険と思ってもらっていい、無償のね。ただ君は僕と交流があればいい。そうしたらいついかなる時でも助けられる。僕の仕事だよ」

タツヤ(わからんが、僕を生かしてはおきたいのか。事故で殺すのは惜しいというところか)

タツヤ(しかし、彼の話はうさんくさい。まだ僕を巻き込む気ではないか?
見学会をどうのと言われた気もするが、こういうのは一度足を踏み入れたら危ないかもしれないからな――口ではどうとでもいえる。集団で迫られたら一たまりもない)

杞憂に過ぎないかもしれないが―とタツヤは空を一旦仰ぐ。暗い空が落ちるように視界を覆うなり再び日の方向を見た。

青い夜の影と夕日に焼けた赤、雲の霞み、日暮れの黄、それらの色が空の果てで襲なる。
そんな虹を埋め込んだような天辺に柔い光りの星が一つ輝いていた。

タツヤ(ふぅ。「一番星」見ぃつけたぁか。見つける気はさらさらなかったがな。上を見たからつい見つけてしまった)

QB「上ばっか見てどうかしたかい?」

タツヤ「関わって何かに巻き込まれるのはごめんです。関わらないのが一番の危機回避でしょう。魔女やら魔獣やらからの危機を知れるよりも、です」

QB「僕と関わったからって特別魔女に狙われるとかはないよ。
君が何処かしこに言いふらしたり――まあ、慎重そうな君はしないだろうけど――そんな軽薄なことさえしなければトラブルは起きないよ、絶対に。
なんたって、僕も無駄な問題は避けたいからね。僕は君の事を誰にも言わない」

タツヤ「それはいい話だ。お互い都合がいい。けどそんな話を飲む余裕はない。忙しんで断ります」

タツヤ「そう―今だって仕事ほったらかしてるんです。君に構ってる時間はない。君も今後僕に干渉しないでくれ」

QB「あとちょっとだけ。もう少しいいかな?」

タツヤ「もう時間はないです。相手がくるんでそんな時間は――」

タツヤ「――ちょうどいい。もう来てますね」

奏「おーい。タツヤ~。どこに隠れてんのよ~」わーわー

タツヤ「――とまあそういうことです」

QB「噂をすればという奴だね」

コテつけたよ!! あづみんって読んでね!!

飽きた 寝る

起きた 書く

奏「屋上にいるのは間違いないんだよね――鍵『空いた』ままだった。隠れられるとこそんなないし、そこも全部見回ったし、さては落ちちゃったのかなー?」どうかな~

奏「って、そんなこととなく、隠れるとこ見落としてるだけだね。おーい。タツヤー。どこー。やっと来たってのになんで隠れちゃうのかなー?」


QB「君のことを探しているね」

タツヤ「こんなところすぐに見つかってしまうな。どうするか…。
いやいや。とにかく君が居なくなればどうってことはないな。帰ってくれ」

QB「僕は帰る気はないよ」

タツヤ「ふざけてんじゃない」イラッ

QB「ふざけてないよ。慌てる必要はあるかい? 僕はいないものとしてればいい。逆に僕を意識してしまっては彼女に怪しまれてしまうよ」

タツヤ「見えないんでしたっけ? (―ったく)なら大丈夫ですね、態度が気に食わないが」

タツヤ「――ですが、お願いします。念のために隠れていてください。目障りになると困る」

QB「「目障り」になるのは確かにそうだね。隠れるよ」

奏「奏ちゃんの目はごまかせないのです。初めからわかってました」

奏「ふふふ。ここだ。ほら~!」ヒョコ

タツヤ「ついに見つかったか」

奏「屋上に隠れてるとみせかけて、屋上のさらに『上』に隠れるとはやりますな」

タツヤ「これ以上上はもうないからなぁ」

奏「私もその最上階とやらにいっていい?」

タツヤ「僕に拒否権はないさ。ここはでも学校なんだからな」

奏「うーん。けど秘密基地って感じはするね。よいしょっと」

タツヤ(やっぱりあがってきたな。キュゥべえの方はとっくに隠れてるみたいだし、セーフだろうか)

奏「おじゃましまーす、かな」

タツヤ「ようこそ」

奏「はじめて登ったけどなんか景色が一段と変わっていいね」

タツヤ「ああ。学校にいるくせにここが学校だって忘れさせてくれる」

奏「どっか別のビルに上ったみたいだね」

タツヤ「……そうだな」

奏「……」

タツヤ「……(ビルの…屋上、か…)」

奏「水やり、続きはあたしがやったから」

タツヤ「あっ。すまない。ありがとう」

奏「刺すのもやっといた」

タツヤ「そっちもか――。それじゃあ、今日の仕事は終わり?」

奏「うん。仕事やってればそのうちタツヤ戻ってくるかなって思ってたのになかなか戻ってこないから、さっさと終わらせちゃった。それでやることなくなったしで探しちゃった」

タツヤ「そうなのか。こんなとこで油をさし――」

奏「うんうん。それにしても仕事ほったらからせて。何かあった?」

タツヤ「……。(あの生物のことを言うわけにもいくまい)」さてと

タツヤ「…特には。夕日があまりに綺麗だから一休みしてたら忘れちゃってね。遊んでたわけだから申し訳ない」

奏「………。」じー

タツヤ「…」

奏「……」じー

タツヤ「どうした?」

奏「そんなにきれいなの?」

タツヤ「それなりには(怪しまれてるか?)」

奏「もうすっかり日が暮れてる… そんなにならみたかったなぁ…」はぁ

タツヤ「そうだな(……怪しまれてる…か?)」

タツヤ「またそのうち見れるさ。明日だって日は暮れる」

奏「それにしても――」ちら

奏「……?」ちら

タツヤ「………。なに?」

奏「それにしても、タツヤはいつも見てるよね、沈むお日様。毎日、水やりながら」

タツヤ「そういえばそうだな(気になるのは―僕の方今ちらちら見たな…)」

奏「時々手止まってんだよ。花が水にまみれてる時ある、土がぷにゃーって膨れちゃうまでいって」

タツヤ「それは悪いな。全く気付かなかった」

奏「以後、気をつけてね」

タツヤ「うん。気を付ける」

奏「あの土と水がどぐちゃーってなってるの放置したらほんと花は大変なんだよ。それを処理する人も大変」ちら

タツヤ「ああ。もうやらかさないさ。(また見たな。なんなんだ…? 嘘がばれてる?)」

飽きた 寝る

起きた 書く

奏「もう。で、夕日に見とれちゃって、そこにある花を見ないなんてなんかあれだね。灯台下暗しっているか、花より団子っていうか、手元がお留守っていうか」

タツヤ「言いたいことはなんとなくわかる」

奏「わかる?」

タツヤ「うん」

奏「///」もじもじ

タツヤ「…?」

奏「で、その夕日通のタツヤが見とれたお日様ってのは気になっちゃうな~、こんなとこまで登っちゃってー」キャイキャイ

タツヤ「……」

奏「ここ好きだよね。仕事終わった後とかお昼とかたまにいるよね。こんなとこ居るのタツヤくらいだよ」

タツヤ「えっと…屋上自体出入りできるのが僕たち「二人」だけだからなぁ」

奏「ふふ。そう言われれば確かにだよね。こんなとこ誰か喫煙所にしそう。そんなとこだから、私達二人が特別許可貰ってる形になってるんだけど」

タツヤ「そりゃそうだが――実は、時々だけど、『タバコ』が落ちてる。いつも掃除させられる羽目になっている。そいつとは鉢合わせしたことないがいることにはいるらしい」

奏「学校、監視ずさんだなぁ。どこから入ってくるんだろ? 「鍵」は『私とタツヤ』だけだしね」

タツヤ「合鍵でも作ったんじゃないか? 今は預かってるけど一時期は職員室に置いてたし隙はあることにはあっただろう」

奏「前にマスターキー盗まれたって聞いたことあるなぁ。噂だけど」チラ

タツヤ「マスターキーなら大抵のカギは開けられるな。そうだとしたら屋上がどうってレベルの話じゃないがな」

奏「でも密かに全部鍵かえたって聞いた気がする」

タツヤ「ぼくの持ってる鍵は一年の後期の頃から変わってないがな」

奏「そういわれてみれば私のも変わってない。当たり前か。まあ噂だし――ね」チラ

奏「」チラチラ

奏「」チラ…チラ…

タツヤ「?」

奏「うぅ…」チラ…チラ…

タツヤ(さっきから何チラチラ見てるんだ?)

奏「なんだ、これ?」

タツヤ「へ?」

タツヤ(僕の横を通って手を伸ばしていくッ! 後ろに『何が』ーッ!?)クルッ

奏「なんだ、これ?」ひょい

飽きた 寝る

起きた 書く

幸運でも呼びそうに白いふわふわの尻尾が露わになる

タツヤ(キュゥべえ――!!)ドッキンッ

奏「人形―かな? タツヤの……じゃあないか、さすがに」

引っ張り上げられるQB「……」ゴゴゴゴゴゴ……

タツヤ(見つかった。それよりも「見えてる」ぞ。『三幸』にキュゥべえが見えている)ドドドドドド…

タツヤ「………。」ドド…ドドド…

奏「ま、まさかさ?」

タツヤ「いや、違う……かな……?」ドドドドドド…

奏「え? な、なんか顔ひきつってる様に見えるけど、まさかさ――」ゴゴ…ゴゴゴゴ…

タツヤ「さっきの話の奴だったりして。な?」ドドドドドド…

奏「え? えっと――さっきの話って――」ゴゴゴゴゴ…ゴ……

タツヤ「ほら、さっきのタバコ吸ってる奴。僕ら以外にそいつしかいないだろ」

奏「あ、ああ。ヤンキーの忘れ物か。にしては、かあいいマスコットだね~」なるほど

タツヤ「そうだな。可愛い趣味している」あっけらかん

奏「ふふふ。変なヤンキーが居るんだねぇ。それとも、ゲーセンとかで暇つぶしにとったの捨てておいたのかな」

タツヤ「そもそもそいつが女連れか、そいつ自身が女ってパターンもあるだろ」

奏「そうだね。変なものが流行ったりもするしね。一時期、男の間でゴムで髪とメンのが流行ったよね」

タツヤ「前髪かかると邪魔だってな」

奏「そうやって、ジェンダーの様式?とか関係なくなるし、あるっちゃあるかもね。おかしくはないね」

タツヤ(持ち主はどうであれ、人形と思われてる。いいぞ。
このままやりすごせば問題ない……はず。キュゥべえまかせたぞ!)

QB「……」ドドドドドド…

奏「」ゴゴゴゴ…

奏「やけに驚いてたとか思っちゃったりぃぃ~」じー

タツヤ「…………」

奏「………」いぶかしげー

タツヤ「人形がこんなとこにぽつんとあると怖いだろ。そろそろ夜の帳が落ちだす時間だしな」

奏「そろそろそんな雰囲気だ。黄昏って奴?」

タツヤ「黄昏はもうとっくに終わった」

奏「ああれ? 黄昏って誰だかわからなくなる時間帯だよね? 真っ暗で」

タツヤ「『夕日の照り』具合と『影』の具合で分からなくなるやつだ」

奏「あの感じのやつか。なるほど。また一つ賢くなった」

タツヤ「そうか」

奏「まあ、どっちにしろお化けとか出そうな時間帯だね。そんな時間は怖いもんね」

タツヤ「おばけこわい」

奏「うん。こわい」

タツヤ「……(よし。このままバレすに行けばいい)」

奏「……」

QB「……」

奏「にしても、こんなところ置いてけぼりはかわいそうだから友達になってあげよっかな~(笑)」

タツヤ「こんなへんちくりんお見知りおきしておいても良いことないぞ」

奏「はぁ? あたしはへんちくりんなんかじゃないから」

タツヤ「人形が、だよ」

奏「ああ。そっちか――って、え? そっちだよね? あたし、変じゃない」

タツヤ「ああ。変じゃない。その人形、見るからに変だろ? 造形というかなんというか」

奏「たしかに。あれが出てるよね、耳の毛出てるよね。不潔。ばっちい。だから、一人ぼっちだったのかな。かわいそうに。こんな造形で作られたばっかりに」

奏「そういうの絶対女受けがいいよ。漫画とかそんなの多いよ、チョッパーみたいな感じ。グッズもぬいぐるみもその癖かわいい。ゲーセン一杯。需要たっぷり。みんな魅かれる。あたしも魅かれる」

タツヤ(話のためを与えてぢまった… 話が弾んでいる!)

タツヤ(…どうしにかして話をそらそう。こんな人形が出てれば話題にされるのはしごくごもっともなことだが今は新たな「話題」を振らなければ。不自然ではつっこまれそうだから『自然』な話題の転換を。
さて、何、を、話すものか…?)

奏「お友達になったげおうかなぁ。どうしよっかなぁ」

タツヤ「むぅ… (興味津々だ。疑ってる気持ちをひっくり返すくらいの何かをいわなければ)」

奏「意外とお友達いたりして。でも、どうしよっかなぁ…」

タツヤ「(気を反らすためにおちょくってみるかか、人形に興味なくなるように何か提示するかするか。はたまた何を利用するか?)」

タツヤ「(好意を利用するか―)今度の休日、暇?」

奏「!!」ピクン

タツヤ(かかった。釣り針がでかい気がするが三幸にはこれでいい)

奏「…え? なんで?」

タツヤ「バイト入ってなくてね。遊ばない?」

奏「いく! いく!」

奏「あたしも暇してたの!」ポイッ

QB「」ポトン…

タツヤ「」チラ

QB「」シーン…

タツヤ「それはよかった…」

奏「外に誰か来る?」

タツヤ「見たい映画あるとか言ってたから一緒に行こうかと思って……僕のおごりで。今日の水やり諸々のお礼に」

奏「サンキュウ! 小塚氏減らされてたから助かるよ」

タツヤ「そういえばそうだったな(…勿論わかってたが)」

奏「じゃああたしと二人か」

タツヤ「誰か呼ぶ?(…呼ばないだろう)」

奏「それはいいかな」

タツヤ「じゃあ、決まりだな」

タツヤ「(手帳の)予定に入れとくか」ペラ…ペラ…

奏「あたしも入れ渡航(ケータイのに)」ピポ…ピポ…

タツヤ「それがいい。時々すっぽかすからな」ペラ…ペラ…

奏「そういわれればそんな気もする」ピポ…ピポ…

タツヤ「さて、今週の日曜は三幸とデートっと」カキ…カキ…

奏「」シーン…

タツヤ「」カキ…カキ…

奏「」シーン…

タツヤ「……冗談だけど」パタン

奏「紛らわしいな。驚いちゃったじゃん」ピポ…ピポ…

タツヤ「ごめんごめん」

奏「言われれば、こんな美少女ほったかないだろうからなぁ、とか勘ぐっちゃったじゃん」

タツヤ「そうかそうか」

――シーン

奏(人形どうしたんだろ…)チラ

奏「そういえば――」

タツヤ「そろそろ下校時刻になるな」

奏「そうだけど、人形どうしよう。いつの間にかほっぽってあったよ」ヒョイ

タツヤ「そのままほっぽっておけばいいだろう」

奏「大丈夫かな?」

タツヤ「ああ。大丈夫だろ(これをさせればすんなり疑いは消える。『仕上げ』だ。これで「飽きる」はずだ――『人形』なのだ)

奏「早く帰らないと。あと、あしたはデートらしいですし、「おめかし」の準備しなくちゃですから早めに帰りたいね。しょうがない」

タツヤ「ああ。デートだ、冗談の(もうとっくにこいつの頭の中は「休日」だ! よし!)」

奏「そこまで冗談冗談いわれると逆に傷ついちゃう」

タツヤ「さあ。適当に挨拶して元の場所にポイすればいい。元の持ち主がまた来て拾ってくだろう」

奏「そうだね。あかった」

奏「でも、さようならはかわいそうだね。またね、かな」

タツヤ「また合うのか、こいつと」

奏「なんか怖いじゃん。呪われそう。人形って女の子の「気持ち」が移るっていうじゃん」

タツヤ「きいいたことないな。そうだとしても下手に挨拶するのも――」

奏「ぽいってだけするのも後味悪い詩」

タツヤ「人形に『情が移ってん』じゃないか?」

奏「挨拶はするよ。お人形ごっこ市内男子にはわからない心理。明日又ここで会うかもしれないし」

タツヤ「どんだけあいさつしたいんだ。人形風情にしかも至極変な存在の」

奏「いいの。ふふ、子供の頃みたいだなぁ。。
お人形さん、よろしくね。あたしは今日からお友達の三幸奏ちゃんだよ。やったね。でも、今日はもう――」

QB「やあ」

奏「ギャッ、しゃべったぁ!?」

タツヤ(な、なにィィー!?)冷や汗

QB「」ドドドドド…

奏「」ドドド…

タツヤ「」ゴゴゴゴ……ゴゴ…

タツヤ(何を考えているんだ? まさか)ドキドキ…ドキ…

奏「――って、そんなことないかー。何かの音がそう聞こえたかな。口動いてなかったしね」

タツヤ「」ホッ

タツヤ(いやいや。待て! ほっとするんじゃない!)

タツヤ(なんでこのタイミングで。今まで黙りこくっていたくせに。ふざけるような奴なのか?
こいつの利害をしっかり捉えるんだ。見えるということは普通の少女でなく――まさか契約を――狙ってるんじゃ)ドドド…ドドド…

QB「」ゴゴ……ゴゴ…

タツヤ(なんでこのタイミングでしゃべり始めた? 自分がうかつだった)

QB「」ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…

飽きた 寝る

QB「僕が見えるなんて君はまさに選ばれし少女だ。まさか僕が見えるなんて」

奏「生き……てる?」きょとん

奏(たしかに、なんか生暖かいかも)ドドドドドド…

QB「………」ゴゴゴ…ゴゴゴ…

QB「幻覚じゃないよ? 実際に触れて――」

奏「ふんぎゃー! い、生きてるよ、コレェーッ!」ブン

タツヤ「あっ(下に投げちまった… 幸い花壇がマットになるが――高さ、一階分はあるぞッ!)」

タツヤ、急いで屋上を覗き込む

ドチャっとしたQB「……」しーん

タツヤ(死んで…ないよな?)

QB「」むくり

奏「立ち上がったッ! やっぱり生きてるよ!! 生きてるんだよーッ、タツヤァ!」あわわわわあああぁー

タツヤ「…ああ。生きてるな。(――今ので死ななくてよかった)」ふぅー

QB「僕が見えるなんて君はまさに選ばれし少女だ。まさか僕が見えるなんて」

奏「生き……てる?」きょとん

奏(たしかに、なんか生暖かいかも)ドドドドドド…

QB「………」ゴゴゴ…ゴゴゴ…

QB「幻覚じゃないよ? 実際に触れて――」

奏「ふんぎゃー! い、生きてるよ、コレェーッ!」ブン

タツヤ「あっ(下に投げちまった… 幸い花壇がマットになるが――高さ、一階分はあるぞッ!)」

タツヤ、急いで屋上を覗き込む

ドチャっとしたQB「……」しーん

タツヤ(死んで…ないよな?)

QB「」むくり

奏「立ち上がったッ! やっぱり生きてるよ!! 生きてるんだよーッ、タツヤァ!」あわわわわあああぁー

タツヤ「…ああ。生きてるな。(――今ので死ななくてよかった)」ふぅー

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