唯「だいじょうぶ、あずにゃんのこと好きじゃないよ」(146)

唯「むしろあんまり好きじゃないみたいな」

澪「……」

律「……」

紬「……マドレーヌ、食べる?」

唯「わーい、食べる食べるー」

律「あずにゃんとか言ってるから、もはやすごい好きなのかと思ってた」

澪「ああ、梓が風邪で休んでて良かったよ……」

紬「それにしても、もう一週間? 長いわね」

唯「だいじょうぶだよー、風邪をひかない人間なんていないから」

律「今度お見舞いにでも行くか」

唯「私行かない、きっと練習はいいんですかとか言われちゃうだろうし」

澪「……そ、それでも私は行くよ、ムギも行くか?」

紬「え、ええ、心配だし」

唯「みんながあずにゃんのお見舞いに行くなら私は帰るよー」

律「あ、ああ、じゃ、じゃあまた明日な」

唯「うん、それじゃーねー」

ぱたん。

澪「……確かに、唯に対してすごい辛辣な部分も梓にはあったと思う」

律「でもそれは唯を思ってのことだと思ってたけど」

紬「唯ちゃんにはあまり伝わってなかったのね」

澪「梓も不器用だけど」

律「唯も鈍感なところあるからなあ」

梓の家

律「そういえば梓の家に来るのって初めてだ」

紬「そう? 私は何度か来てるけど」

澪「私も」

律「……部長なのに!?」

紬「まあまあ」

澪「呼び鈴を鳴らすってのも緊張するな、うん、押すぞ」

ぴんぽーん♪

澪「ごくり……」

律「何そんなに緊張してるんだよ」

がちゃ

梓「はい」

律「おおう!? 梓本人が出てきた!?」

澪「大丈夫なのか?」

梓「あ、ええ、もうすぐ学校には行けそうです」

紬「あまり顔色が良くないみたいね、中に入ってもいい?」

梓「あ、はい」

律「それじゃ、おじゃましまーす」

梓「お見舞いに来てくださらなくても良かったのに」

澪「一週間も休んでるんだぞ、そりゃ心配にもなるよ」

律「ご両親は……仕事か?」

紬「大丈夫? 食事はちゃんと採ってるの?」

梓「元々たいしたものじゃなかったんです、ただ、お医者さんに止められちゃって」

澪「酷いのか?」

梓「……いえ、ちょっと空気感染をするだけで薬を飲めばすぐに治る類のものです」

律「それでも、一週間も休むなんて大変だぞ」

梓「心配性なんですから、ところで唯先輩は?」

律「えーっと、そう、ちょっと体調悪そうだったから帰したんだよ」

澪「あ、ああ、そうだな」

梓「そうなんですか、唯先輩、“私がいなくっても”ちゃんと練習してるんですか?」

紬「(いなくなっても? ……気のせいかしら?)」

律「あー、いつも通りかな」

澪「すまん、私も言ってるんだが中々に難しくて」

梓「律先輩やムギ先輩が甘やかすからですよ!」

律「……甘やかしてるかなあ」

紬「そ、そうね、気をつけるわ」

二時間後!

紬「それじゃあそろそろお暇しましょうか」

梓「はい、今日はありがとうございました」

澪「明日は学校に行けるのか?」

梓「はい、部活にも行きたいと思ってます」

律「うえー、梓のお小言が明日から戻るのかー」

梓「休んでた分厳しくしますからね!」

澪「これなら大丈夫そうだな」

紬「ええ」

翌日の放課後

梓「ほら、唯先輩! また間違ってますよ!」

唯「今日は一段と厳しいよぉ!?」

梓「いいですか、テストも終わってこれから夏休み! そのあとは文化祭ですよ!」

唯「うぇー、まだ二ヶ月もあるよぉ!」

梓「二ヶ月なんかあっという間です!」

律「いつも通りだな」

澪「ああ」

紬「(心なしか顔色があまり良くないような……)」

梓「律先輩もさっきからドラムが走ってるですよ!」

律「うお!? 私にまで来た!」

ティータイム!

唯「あー、お茶が美味しいよぉ……」

律「今日は一段と美味しいな」

澪「梓が戻ってきてようやく真っ当な練習ができたよ」

紬「ふふ」

梓「もう、しっかりしてください! ただでさえお茶ばっかり飲んでる部活って言われてるんですから!」

唯「間違ってないねー」

律「まったくだな!」

梓「間違ってます!」

夏休み・合宿!

梓「ところで先輩たちは受験勉強はいいんですか」

律「電車内で聞くなよ、気分がもり下がるだろ」

梓「そんなんでちゃんと合格できるんですか?」

唯「だいじょうぶ、みんなで同じ大学に合格できるから!」

澪「その根拠のない自信は何なんだ……」

紬「みんなで勉強していけば大丈夫よ」

梓「練習もするですよ!」

律「はいはい」

梓「投げやりじゃダメですー!」

合宿!

梓「今年の別荘は一段と大きいですねー」

紬「ちょっと無理を言って、去年よりも数倍いいところにしたわ」

澪「去年も相当いいところだと……」

律「世界が違うんだよ澪」

澪「キッチン一つまともに触れる自信がない」

唯「蛇口からポンジュース出てきたりするのかな!」

澪「どこの四国だよ!」

梓「練習も存分にできそうですね!」

昼食!

梓「お昼を食べたらすぐに練習しましょう!」

澪「そうだな」

律「えー、私もう水着下に着てるんだけど」

唯「わたしもー」

澪「なんでだよ!」

律「おいおい澪ちゃん、水着を着て練習するわけ無いだろ?」

澪「胸張って言うな!」

昼食後!

梓「……」

紬「梓ちゃん」

梓「はひ!?」

紬「それ、お薬? ずいぶん量が多いみたいね」

梓「や、藪医者だって評判のところですから」

紬「ごめんなさい」

梓「え?」

紬「あの病院、琴吹病院って言うんだけど気がつかなかった?」

梓「あ」

紬「私の名字、覚えてる?」

梓「……」

梓「……い、いえ、でも、このお薬はえーっと、う、ウイルスを殺す類のお薬ですから」

紬「おなかの調子が悪いの?」

梓「そ、そうなんですよー、実は食中毒にかかりまして」

紬「みんなはきっと知らないと思う、それでもずっと黙ってるの?」

梓「ごめんなさい、でも、私は……」

紬「わかったわ、梓ちゃんの気持ちを汲んで私もできるだけフォローに回るから」

梓「……」

律「どこ行ってたんだ?」

梓「ちょっとトイレに」

律「ずいぶん長かったなー」

澪「てか、トイレまで長いな……」

唯「ムギちゃんも?」

紬「ええ!」

澪「なんで嬉しそうに言うんだ!」

律「よし、梓もムギも来たことだし、海で泳ぐぞ!」

唯「わーい!」

澪「待て待て待て!」

澪「何言ってるんだ、練習が先!」

律「よしよしよし! じゃあ多数決しようぜ! 海行きたい人!」

唯「はい!」

梓「練習がいいです!」

澪「私も練習だ!」

律「(よし、これでムギが遊ぶ方にまわれば!)」

紬「練習がいいでーす」

律「え?」

澪「え?」

唯「じゃあ、私両手をあげる! これで同点だよ!」

紬「じゃあ私も両手をあげる!」

唯「負けちゃったよぉ!?」

律「……? じゃ、じゃあ練習にするか、唯も諦めろ」

唯「多数決じゃしょうがないねー」

澪「あ、ああ、練習するか」

梓「さぁ、張り切って練習しましょう!」

紬「ふふふ」

――練習――

律「何か音の響きが違うような気がするな」

澪「ドラムの走りっぷりと唯のミスが目立ったけどな」

唯「そんなことないよー」

梓「あります! 唯先輩は何回同じミスをしてるんですか!」

唯「本番までに成功すればいいんだよ」

梓「本番に体調を崩したりしたら台無しになっちゃいますよ!」

唯「うう!? 痛いところを……」

澪ちゃん、ドラム走るばっかり言っちゃっちゃあ、りっちゃん可哀想だよ・・・
笑って流すけど傷ついてるんだぜ・・・

四時頃!

唯「練習したからちょっと海に行ってもいい?」

律「たっぷり練習してまだ海に行く元気があるのか……」

澪「誰か見てる人が必要だな」

梓「じゃあ、唯先輩行きましょう、先輩たちは受験勉強がありますもんね」

律「鬼がいる……」

澪「じゃあ、お言葉に甘えて」

紬「梓ちゃん、私も行ってもいい? りっちゃんは澪ちゃんが見てくれるもんね?」

澪「あ、ああ」

律「うげー、澪と二人で勉強かー」

澪「いやなのかよ!?」

>>30
作者に音楽の知識がまるでないから同じ指摘しかできないんだ、ごめん。

海!

唯「ふぉー! 海! 海! うーーーーーーーーみーーーーーー!」

梓「何してるんですか」

唯「海に来たら叫ぶんだよ! ほら、あずにゃんもムギちゃんも!」

紬「うーーみーー?」

梓「うみー」

唯「二人ともやる気無いよ!?」

梓「それじゃあ私は見てますから唯先輩は勝手に泳いでください」

唯「ローテンション!?」

唯「わかったよ、じゃあ一人でビーチバレーしてるから」

梓「どんな遊びですか!」

唯「一人レシーブだよ!」

梓「あーもう、仕方ないですねー、私もやります」

紬「ふふ、じゃあ私は審判をやるわね」

唯「負けないよあずにゃん」

梓「唯先輩に負けるほど鈍くさくないですよ!」

唯「純ちゃんくさい?」

梓「鈍くさいです!」

唯「隙あり!」

梓「あっ!?」

紬「ふふ、唯ちゃんの得点ね」

梓「くっ、次はやられないですよ!」

一時間後!

唯「はぁはぁ……あずにゃん……息が上がってるよ」

梓「……くっ……う……し、潮風にやられただけです」

紬「じゃあ、次に点を取られた方が罰ゲームね」

梓「え?」

唯「隙ありだよ!」

梓「と見せかけて私が決めるですよ!」

唯「ああ!?」

紬「梓ちゃんの得点ね、罰ゲームは唯ちゃん!」

梓「やりました!」

唯「うう、甘んじて罰ゲームを受けるよ」

紬「じゃあ、唯ちゃんは良いって言うまでギターの練習とお勉強ね」

唯「うわーん、ムギちゃんのおっぱいー!」

梓「どんな負け惜しみですか……」

律「梓は今年もま……って、そんなに色変わってないな」

澪「外に出て一時間だぞ」

梓「そういえばそうですね、私もてっきり焼けちゃうものだと」

紬「じゃあ、お夕飯の準備をしましょうか」

澪「で、なんで唯は泣いてるんだ?」

唯「あずにゃんとの勝負に負けて、これからムギちゃんが良いって言うまで練習とお勉強なの……」

律「なんていう策士!?」

澪「罰ゲームなら仕方ないな、律も罰ゲームやるか?」

律「何もしてないのに!?」

梓「部長なのに何もしてないのは罰ゲームに値しますね」

律「ちっくしょう!」

ゆうしょく!

唯「あれ、あずにゃんもうおなかいっぱいなの?」

律「だから小さいまんまなんだぞー」

澪「体調でも悪いのか?」

梓「いえ、ちょっと疲れてしまいまして」

唯「あずにゃんは体力無いね! 私はお夕飯を食べて絶好調だよ!」

紬「それじゃあ唯ちゃんは徹夜でお勉強ね」

唯「うう……持病のしゃくが……」

律「しゃくって何か知ってるか?」

唯「……持病の……持病が!」

澪「いいかげんにしろ」

澪「今年は部屋がみんな別々なのか」

律「寂しいからって夜這いするなよー」

唯「よばいって何?」

律「え!? え、えーっと、その……な、なんでもないんだよ!」

唯「ムギちゃんはどういう意味なのか知ってる?」

紬「夜にねお部屋の中に入る事よ」

唯「澪ちゃん、私に夜這いして良いよ!」

澪「するか!」

梓「それじゃあ部屋で」

唯「うん、それじゃあおやすみー」

紬「ふふふ、唯ちゃんはお勉強ね」

唯「ごまかせなかった!?」

唯「はー、仕方ないからお勉強するかー」

紬「ふふ」

唯「ムギちゃん、大丈夫だよ、お勉強するよ」

紬「だいじょうぶよ」

唯「ううん、ムギちゃん目が怖いんだよ?」

紬「そう?」

唯「うん、なんか、肉食動物さんみたい」

紬「ふふ、夜中に女の子と二人っきりってどきどきしちゃうわね」

唯「ふわふわ時間!?」

紬「うふふ」

梓「……」

梓「誰もいない……ですね?」

梓「はぁー」

梓「だいぶ遅くなっちゃいましたけど、お薬飲まないと」

梓「でも、お薬飲まなくても平気そうだな……」

梓「急に倒れちゃったりしたら困るから飲んどこうかな」

梓「相変わらず量が多い……」

梓「うえ、変な味ぃ……」

よくあさ!

唯「……」

澪「唯、クマがすごいぞ」

唯「結局三時間しか眠れなかった」

律「勉強してたのか?」

唯「うん、ギターも練習してた」

紬「うふふ」

澪「ムギは元気そうだな……」

律「梓はまだ起きてこないのか?」

澪「張り切って練習してしな、疲れたんだろ」

唯「私がこんなに眠い中起きてるんだから起こしに行こう!」

紬「唯ちゃんは私と一緒に朝ご飯の準備ね、りっちゃんお願い」

律「あ、うん」

梓の部屋

律「梓ー? 寝てるのか?」

律「ノックしても出ない、それはずばり寝起きドッキリオーケーってことか」

律「うふふー、りっちゃんのラブラブモーニングコールの時間だよー、えへへへ、おっきする時間ですよー」

律「梓ちゃーん、えへへへ、おっきした?」

律「……熟睡してやがる」

律「たく、お……ん? なんだこれ、薬か?」

律「ずいぶん量を飲んでるなー、それにしてもしまい忘れるとか」

律「調子もあんまりよくなさそうだし寝かせておくか」

律「なんて優しい律さん、感謝しろよ梓」

澪「梓は?」

律「よく寝てるみたいだから寝かせておいた」

澪「そうか、まあ、疲れたんだろ」

律「ところでさ澪、薬ってさ、普通どれくらい飲む?」

澪「ん? そりゃ三粒とかそんなもんでしょ」

律「なんか梓がえれー量飲んでるんだよ」

澪「律は大げさだからな」

律「どれくらいかわかんないけど、十粒くらいはあったと思う」

澪「……それは確かに多いな? 見間違いじゃないのか?」

律「でもさー、一回に二十粒くらい飲むおなかの薬もあるし、何とも言えないんだよな」

澪「あー、そういう薬なのかもしれないな、あんまり梓には無理させないようにしよう」

唯「えー、あずにゃんまだ寝てるの?」

紬「……」

澪「まあ、四人で食べるか」

律「だな」

唯「こうなったらあずにゃんの分まで食べる!」

紬「いただきましょうか」

澪「梓もそのうち起きてくる……よな?」

律「……」

唯「何か二人とも暗いよー?」

紬「そうよ、お寝坊さんの事なんてりっちゃんにも澪ちゃんにもあるでしょう?」

律「だな?」

澪「ああ」

おひる!

梓「うわ! 寝坊してしまいました!」

唯「もう、練習開始してるんだよ! しっかりあずにゃん!」

律「寝癖がついてるぞ梓、本当に猫みたいになってるぞー」

紬「ふふ、じゃあ、私が……」

澪「ムギはここにいてくれ、私が梓と一緒にいるから」

紬「う、うん、わ、わかったわ」

澪「ほら、顔を洗いに行こう梓」

梓「え、あ、はい」

廊下

澪「梓が私たちに知らないで欲しいって言うなら、私たちは知らないで良いことだよな」

梓「え?」

澪「いいや、梓にもプライベートはあるよなって話だ、他意はない」

梓「あ、は、はい、そうですね」

澪「疲れたり、きつかったりしたらいつでも言ってくれ」

梓「律先輩や唯先輩に練習してくださいって言って欲しいです」

澪「あはは、そうだったな」

梓「文化祭まであんまり時間内ですから……」

澪「……文化祭まで……なのか?」

梓「え? 何がですか?」

澪「ううん、なんでも」

内→無い

唯「あ、あずにゃんと澪ちゃん戻ってきた!」

澪「ごめん、ちょっと遅くなったな」

律「ご不浄で何してたんでしゅかー?」

澪「顔を洗いに行ってたって言ってるだろ!」

梓「さ、練習しましょう!」

唯「うえー、昨日から練習してばっかりだよー」

紬「ばっつげーむ♪ ばっつげーむ♪」

唯「あーん、あずにゃんのばかー!」

梓「どうして私が怒られてるんですか!?」

澪「ふう、まともに練習できたな、音がだんだんと揃ってた気がするよ」

律「集中できた気がするな、うん」

唯「魂が……抜けちゃう……」

紬「すーぅ、すーぅ!」

梓「何してるんですか?」

紬「唯ちゃんの魂を吸い込んであげようと思って」

梓「それでどうするんですか」

紬「口移しで……」

唯「元気いっぱい絶好調だよ!」

紬「ふふ、それじゃあお夕飯の準備にしましょうか」



律「そういえば、花火があったな」

澪「ああ、何かたくさんあったな、あれここにあったやつなのか?」

紬「ううん、今日用意したのよ」

律「(いつの間に!?)」

唯「じゃあ、これを食べ終わったら花火大会だね!」

梓「ん、じゃあ私は一度部屋に戻りますね」

唯「いいじゃんいいじゃん、花火しようよ!」

梓「一度戻るだけですって」

澪「そうだぞ唯、少しの間だけじゃないか」

唯「ぶーぶー、あずにゃんが戻ってくるまでに先に始めちゃうからね」

紬「唯ちゃんはお片付けが先ね」

律「頼んだぞー」

唯「罰ゲームが本当に罰になってる!?」

夜・外

唯「結局私が最後に到着しちゃった……」

梓「唯先輩遅いですよ、もう、花火しちゃってますから」

唯「あーん、私も混ぜてよー」

澪「ほら、唯の分だよ」

唯「ありがと澪ちゃーん!」

律「私に感謝の言葉がないな!」

唯「えーい、りっちゃんには花火ーム!」

律「くぉー! やったなー!」

澪「花火を人に向けちゃいけません!」

律「最後の締めは線香花火だな」

澪「ああ」

唯「ねえねえ知ってる? 線香花火が落ちるまでに願い事を三回言うと願いが叶うんだって」

澪「え? そんなのだっけ?」

律「ようし、じゃあやってみようぜ!」

梓「そうですね」

唯「あずにゃんは何をお願いするの?」

梓「……唯先輩がまともに演奏できるようになりますようにって」

唯「酷いよ! 私だって少しは上手になったでしょ!」

梓「少しだけですね、まだまだです」

唯「うえーん、りっちゃーん」

律「唯が上手にならないと困っちゃうー」

唯「りっちゃんは仲間だと信じてたのに!?」

梓「綺麗ですね、線香花火」

澪「……」

唯「澪ちゃん、泣いてる?」

澪「え!?」

律「どうしたー? 怖いのかー?」

澪「いや、な、なんていうかさ、線香花火って儚いだろ、か、感情移入しちゃってさ」

律「分かる分かる」

唯「そうかなー?」

律「唯にもそういう日本人の情緒が早く分かると良いのにな」

唯「さっきからりっちゃんが私に辛辣だよ……」

紬「ふふ、そうね」

梓「でも、受験生で線香花火って縁起悪いですね」

唯「……落ちるの!?」

二学期

唯「ふぁー、ムギちゃんのお菓子が恋しいよー」

紬「唯ちゃんちゃんと練習はしてた?」

唯「どぼじて、ムギちゃんは憂に私を練習させるように言ったのぉ!」

紬「ふふ、唯ちゃんもしっかりしないとね」

律「そうだぞー、ほら見ろ唯!」

唯「わ、りっちゃん手がぼろぼろ!」

律「ドラムの練習しすぎてシャーペンを持つことすらままならない!」

澪「受験勉強もしろ!」

紬「そういう澪ちゃんも目にクマができてるし、ペンだこみたいなのできてるよ」

澪「ああ、実は歌詞をたくさん書いてきてな」

唯「そうだねー、文化祭では最後のライブだもんね、気合いも入るよ!」

唯「そういえば今日あずにゃんはお休みなんだって」

澪「そ、そうか、せっかく部活開始なのにな」

律「あ、そう、だな」

唯「うー、みんなあずにゃんに甘いよー、ここは練習するように言わないと」

律「え? あ、うん、ま、そう、かもな?」

澪「ああ! うん、梓もきっとわ、分かってるって」

紬「合宿の疲れが出たのよ」

唯「せっかく上手になった私を見せられると思ったのに!」

一週間後!
平沢家夕食。

唯「あずにゃんまだお休みなの?」

憂「うん、心配だよ」

唯「人にあんなに練習練習って言ってるのに、もう、怒っちゃうよ!」

憂「身体の調子が悪いんだから仕方ないよ」

唯「よし、じゃあ明日襲撃しちゃう!」

憂「お、お見舞い?」

唯「しゅうげき!」

憂「そ、そう、明日はお休みだからね……」

翌日
日曜日、午前。

唯「じゃあ、行ってくるよ!」

憂「うん、お姉ちゃんだいじょうぶ?」

唯「あずにゃんの家に行ってまず、練習してくださいって言います!」

憂「梓ちゃんによろしくね」

唯「憂のケーキを食べてから帰ります!」

憂「(素直じゃないなあ……)」

唯「ふっふっふ、私の受けた苦しみを倍返しするんだ!」

梓の家

唯「あれ? あずにゃん? どこに行くんだろ?」

唯「あ、タクシーに乗っちゃう!」

唯「……むー」

唯「でもなんだか元気ないっぽい……って事は……」

唯「……わかんないや、帰ろうかなあ……」

唯「その前にムギちゃんに電話してみよう」

唯「……もしもしムギちゃん、緊急事態なんだよ!」

紬『え?』

唯「あずにゃんが大変なの!」

紬『それ、詳しく教えて、唯ちゃん今どこにいるの?』

唯「あずにゃんの家の前!」

紬『わかった、すぐに行くわね!』

唯「……あ、切れちゃった」

唯「わっ!」

紬「唯ちゃん! 梓ちゃんが、梓ちゃんが大変って?」

唯「そ、そうなの! タクシーに乗ってどこかに行っちゃったの!」

紬「……え?」

唯「せっかく私があずにゃんの家に行って、練習しなきゃダメって言おうとしたのに、どこかに行っちゃうなんてずるいよ!」

紬「あ、そ、そう……はぁー」

唯「ムギちゃん?」

紬「今日のところは帰りましょう? 送るわね」

唯「わーい!」

紬「(ん……憂ちゃんにも伝えるべきかしら……でも……)」

翌日・学校

唯「っていうわけなんだよ」

澪「そ、それで梓は?」

唯「わかんない、すぐに帰っちゃったし」

律「う、憂ちゃんは何か言ってなかったか?」

唯「そういえば昨日の夜はすごく元気がなかったなー」

律「そ、そっか」

唯「朝もね、ごはんがべちょべちょだったんだよ!」

澪「あ、うん」

唯「朝食はほとんど食べられなかったし、お昼も購買を利用しなきゃいけないんだよ……」

律「そ、そりゃ残念だったな」

紬「……」

一年・教室

憂「あ、梓ちゃん!」

純「梓!」

梓「あれ、どうしたのふたりとも?」

憂「え? あ、そ、え、あ、うん」

純「どうしたって、一週間も休んだらフツー心配するでしょ」

梓「あ、そ、そっか、そうだね?」

純「もしかして、ズル休み?」

梓「ま、まさかー」

純「怪しいなあ……」

憂「……」

憂「梓ちゃん」

梓「んー?」

憂「私は梓ちゃんの味方だからね」

純「私が敵みたいじゃん!」

梓「純はもういいよ」

純「いいの!?」

憂「そうだ、今日学校に来ましたってメールを送ったら、きっと心配してるって思うから」

梓「あ、そうだね」

純「うおう、スルー体制!?」

>>学年を間違えてた。梓たちは二年生。
三年教室

唯「あ、あずにゃんからメールだ」

律「何!」

澪「ななななななな、なんて書いてあるんだ!」

紬「みんな落ち着いて」

唯「今日から練習に参加します、よろしくお願いします。だって!」

律「梓登校してきたのか」

澪「はぁー」

紬「さすがに少し息が詰まっちゃったわね」

唯「私も一週間くらい休んだことあるよー、食中毒でさー……って、あれ?」

放課後・部室

唯「あずにゃん!」

梓「は、はい!」

唯「あずにゃんの実力を見せてもらうよ!」

梓「え、え?」

澪「唯は夏休み中ずっとギターの練習してたらしいんだ……勉強そっちのけで」

律「そしてここ一週間授業中寝てばっか」

梓「……唯先輩、卒業が危うくなりますよ」

唯「そんなことはどうでもいいんだよ! さああずにゃん、ムッたんとの絆を見せてもらうからね!」

梓「……は、はあ……」

唯「んまーい!」

梓「は、はあ……あ、ありがとうございます?」

律「特に大丈夫みたいだな?」

梓「はい、寝てばかりいたせいかちょっと体力は落ちましたが」

唯「ふふふ、私は寝ていたから充電は完了してるんだよ、さああずにゃん! 私の実力を見せてあげる!」

澪「大丈夫か梓、病み上がりなんだから無理はするなよ」

紬「お茶飲む?」

律「ほらほら、立ってないで座って座って」

唯「……疎外感!?」

梓「あ、でも本当にお上手になりましたね……」

澪「ああ、梓に聞かせるまで弾かないとかいうから、本当は上手になってないのかと思ったけど」

律「だが、私のパワーアップは唯どころじゃないぜ!」

澪「経歴的には唯以上でないと困るけどな……」

唯「ふっふっふ、見せてもらおうじゃない、りっちゃんの実力というものを……!」

澪「みんなで練習するんだよ!」

紬「気合いが入るわね!」

梓「私も一生懸命やります!」

唯「なんか、抜群の連帯感だったね!」

律「あー、何か驚くな」

澪「自分の実力以上のものを発揮できた気がするよ」

唯「これなら文化祭も大丈夫だね!」

澪「調子に乗るな!」

梓「……そうですよ、文化祭まではまだ時間があるんだからしっかりしないと」

唯「あずにゃんふらふらしてるよー? だいじょうぶー?」

澪「病み上がりだからな、大丈夫か梓」

梓「少し疲れましたね、ちょっと、座らせてく……」

紬「梓ちゃん!?」

唯「あずにゃん!」

澪「わ、わ、わ、あ、梓ぁ!」

律「ムギ、救急車!」

紬「う、うん」

唯「救急車?」

律「澪、梓をどこか安定しているところに……唯!」

唯「え? なに?」

律「保健室から毛布でもとりあえず人を寝させることができるもの持ってきて!」

唯「……あ、うん」

澪「律、足の方を持ってくれ」

律「唯、はやく!」

唯「……? うん、ちょっと待っててね!」

紬「すぐに来てくれるみたい、大丈夫よ梓ちゃん……お願いだから頑張って」

和「唯? どうしたのそんなに急いで」

唯「あ、和ちゃん、あずにゃんが倒れちゃって」

和「それで唯は、何をしに?」

唯「うん、とりあえず人を寝かせられるものを持って来てって」

和「ん……それじゃあお願い、私は部室に行くから」

唯「え? 生徒会は?」

和「私の想像だけど、そんなことはどうでも良さそうだわ、唯も急いで!」

唯「う、うん……」

和「律!」

律「ゆ……って、和、どうした?」

和「中野さんの体調は?」

律「え、と」

紬「救急車を呼んだわ」

和「そう、先生方には知らせた?」

紬「あ……」

和「それじゃあ私が話を通すわ、邪魔したわね」

律「……どういうこと?」

澪「た、確かに急に学校に救急車が来ても困るよなってことじゃないか?」

紬「……」

部室!

唯「はあはあ……も、持ってきた!」

律「そ、そっか」

澪「すまん唯、ちょっと遅かった」

紬「梓ちゃんが運ばれていったの、見なかった?」

唯「保健室が開いてなくて、鍵を借りて、はぁ……そんな余裕なかったよぉ」

律「あー、ん、まあ、結果オーライ?」

澪「かもな」

紬「唯ちゃん、よく聞いて欲しいんだけど」

唯「んー?」

紬「実は梓ちゃん、食中毒でね?」

唯「ほへ!?」

紬「急にお腹痛くしちゃって、でも救急隊員の人が言うにはすぐに治るって」

唯「そうなんだー」

澪「(いいのか……?)」

紬「(梓ちゃんの願いを叶えるためだもの)」

律「(だけど、知らないっていうのも辛いだろ)」

紬「(梓ちゃんは唯ちゃんにだけは知られたくない、そう思ってるはずだから)」

唯「どうしたのー?」

律「い、いやー、れ、練習どうしようかなーって」

唯「私も話に参加させてよー」

澪「……あ、ああ、これから練習どうする?」

唯「え、私が決めて良いの?」

律「これからティータイム禁止な」

唯「ふぉー!?」

律「文化祭のライブ、絶対成功させる、そして、受験にも受かる! だろ、唯」

唯「でも、お菓子食べないと力でないよ……」

澪「梓はお菓子食べられないんだぞ、それを先輩の唯が食べてていいのか?」

唯「うー……そ、そうだねー」

律「というわけで今は勉強するために解散、いいな!」

紬「一緒に帰りましょう唯ちゃん」

唯「え?」

紬「さ、帰りましょう、ね?」

唯「(んー、なんだか強引なような気がするよ……)」

帰り道

紬「ねえ、唯ちゃん」

唯「なあに?」

紬「梓ちゃん、元気になると良いわね」

唯「お腹痛いんだよね?」

紬「……ねえ、唯ちゃん」

唯「なあにー?」

紬「梓ちゃんのこと、今も苦手?」

唯「練習練習っていうのはねー、今も苦手かなー、でも、身体がそんなに強くないのに頑張ってるところとか、すごいなって思うよ」

紬「これは本来、私からいうべきじゃないと思うんだけど」

唯「?」

紬「梓ちゃんは元々、この高校を受験するつもりじゃなかったって知ってた?」

唯「初めて聞いたよー」

紬「桜高にはすごくギターの上手な先輩がいる」

唯「え?」

紬「そう聞いて、成績が厳しかったのに一生懸命勉強して入学したって」

唯「え、あ、もしかしてギターの上手なって」

紬「唯ちゃんに憧れてこの高校に入ったのよ」

唯「でも、あずにゃんの方がギターは上手だよ」

紬「憧れってそういうものじゃないわ、この人みたいになりたい、そんな純粋な気持ち」

唯「私みたいに?」

紬「梓ちゃんが理想の唯ちゃん像を持っていたのは否定しないけど、ね」

唯「いつでもギターが上手な先輩って事?」

紬「演奏を聴いた限りでは、自分にも他人にも厳しい人だって思ったのかもしれないわね」

唯「そんなことないのに……」

紬「だから、自分がなろうとした」

唯「え?」

紬「憧れの唯ちゃんのために、自分が理想とする唯先輩になってもらうために、梓ちゃんは頑張った」

紬「そして、頑張りすぎてしまった」

唯「……」

紬「勉強も、ギターも、練習も、きっと梓ちゃんも先輩にこんな風にいっていいのかって色々考えたでしょうね」

唯「気づかなかった」

紬「梓ちゃんも引け目があったと思うわ、だって理想の唯ちゃんはあくまで梓ちゃんの中の理想だもの」

唯「年下の女の子に、そんな風に思われてたんだ」

紬「無理してたと、私は思うわ」

唯「うん」

紬「でもね、私は気づいてたけど、何も言わなかった」

唯「え?」

紬「梓ちゃんが頑張っていたことを、頑張りすぎてどうしようもならなくなってしまってから気がついたの」

唯「どうしようも、ならない?」

紬「いつになるか分からないけど、病院に行って欲しいの、その時になったら連絡するから」

二週間後
平沢家。

唯「それじゃあ、あずにゃんのところに行くね」

憂「うん」

唯「憂は……」

憂「なあに?」

唯「ううん、なんでもない、あずにゃんに会ってくるね」

憂「うん、梓ちゃんによろしくね」

梓の病室。

梓「あれ……?」

唯「こ、こんにちはー」

梓「あ、え、と、こんにちは」

唯「お腹痛いんだって?」

梓「あ、は、そうですね」

唯「お腹出して寝てたりしたらダメだよ」

梓「唯先輩じゃないんですから、そんなことしてないです」

唯「……ねえ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「私、あずにゃんの憧れだったんだね!」

梓「え?」

唯「え?」

梓「あー、ムギ先輩ですか?」

唯「ここで憧れじゃないっていわれたらどうしようかと思った」

梓「そうですね、昔も今も、憧れですよ」

唯「今も?」

梓「ええ、どこがどうっていうワケじゃないですけど」

唯「なにそれー」

梓「私には持ってないものを、唯先輩は持ってます……だから、自信を持って良いです」

唯「自信?」

梓「たとえ私よりもギターがへたっぴでも、唯先輩には唯先輩らしさがあります」

唯「よくわかんないよー」

梓「だから、私がいなくても大丈夫ですよね」

唯「だめ、だよ、私はあずにゃんがいないと」

梓「私はもう、ダメです」

唯「ダメじゃないって、元気そうだよ?」

梓「たぶん私はもう、学校には行けません」

唯「諦めちゃ、ダメだよ」

梓「私には分かるんです、自分の身体のことですから」

唯「それが諦めっていうの!」

梓「ふふ、そう、ですね。諦めているのかもしれません」

唯「そうだよ、もう一度元気になって、学校にいこ? 文化祭でライブしようよ」

梓「だから私は願うんです、ライブが成功することを」

唯「あずにゃんがいないと、ライブだってままならないよ」

梓「身体が動かなくなっても、お願いすることくらいならできます」

唯「あず、にゃん?」

梓「私は夢見てますよ、軽音部のライブを、中学生の時に聴いた、憧れのライブのように」

唯「夢見てるのに、聴いてるの?」

梓「はい、私は夢の中で放課後ティータイムの演奏を聴くんです」

唯「実際に聴こうよ、元気になってさ!」

梓「元気でいられれば、テープか何かで聴けるかもしれませんね」

唯「もう、ほ、本当にダメなの?」

梓「ダメです」

唯「お、で、でも、ほら、医療が進歩してるっていうし!」

梓「宝くじの一等賞が当たるくらいの確率で助かるかもしれませんね」

唯「あ、当たるんでしょ?」

梓「当たりません」

唯「え?」

梓「当たらないです」

梓「諦めてください、唯先輩」

唯「どうして、どうしてそんなこというの?」

梓「私はもう絶対に助かりません、文化祭の前に私は死にます」

唯「そ、んなこと……」

梓「もしかしたら、これが最後の会話になってしまうかもしれませんね」

唯「あずにゃん、どうしてそんなこというの? みんな、みんなあずにゃんが助かるって、信じてるよ?」

梓「二つお願いがあるんです唯先輩」

唯「……なに?」

梓「私が助かることを期待をしないでください」

唯「……」

梓「それと、本当に私が死んでしまうって時には、みんなで見送って欲しいです」

唯「それが、あずにゃんの本当のお願いなの?」

梓「……そう、ですね」

唯「嘘だよ」

梓「嘘じゃ……ないです」

唯「嘘だよ! 絶対に嘘! 演奏したいって絶対思ってるよ!」

梓「私は皆さんの演奏を聴くだけで十分です……できることならですけど」

唯「そんなことない! あずにゃんは私たちの中に入って演奏したいって思ってる!」

梓「それはもう、無理なんです」

唯「無理じゃない、宝くじだって毎年当たってるよ!」

梓「どこかの誰かがですね、私たちじゃないです」

唯「当たる! 絶対に当たるから!」

梓「はい、分かりました、そういわないと唯先輩、認めてくれそうもないですもんね」

唯「分かってくれれば良いんだよ」

梓「……」

唯「あ、それとね」

梓「はい?」

唯「実はちょっと告白しなきゃいけないことがあってね」

唯「実はねー、私あずにゃんの事苦手だったんだー」

梓「あ、やっぱりそうだったんですね」

唯「二言目には練習練習って、あずにゃんは練習村の住人かって話だよ」

梓「はい、厳しかったですよね、反省してます」

唯「でもね」

梓「?」

唯「楽しかった」

梓「え?」

唯「あずにゃんが練習の時にいなくなっちゃったよね、その時ね、私は寂しかった」

梓「寂しく思ってくれたんですか? 清々しませんでした?」

唯「練習練習っていうあずにゃんがいて、澪ちゃんがいて、私とりっちゃんが反応して、ムギちゃんが微笑んでて」

梓「……」

唯「苦手なんかじゃなかった、大好きだったんだよ、みんながいる日常が」

梓「でも、私はもういなくなります」

唯「あずにゃんがいなくなったら、私の大好きな日々が壊れちゃうよ、あずにゃん、お願いだよ、元気に、なって欲しいんだよ」

梓「日常は、永遠じゃないです、いつまでも同じ日々が続くワケじゃないんです」

唯「でも、でも、高校生活は!」

梓「私が仮に病気にならなくても、きっと唯先輩は受験勉強で部活には来られなかったと思いますよ」

唯「楽しい毎日が……続いてたと思うよ」

梓「私がいなくても、きっと楽しいですよ」

唯「楽しくなんかないよ」

梓「いいえ、楽しくなってくれなきゃ困ります」

唯「……」

梓「私の大好きな人たちが、私がいなくなるだけで不幸せになっては困ります」

唯「不幸せになるよ、だってみんなあずにゃんの事が好きなんだよ?」

梓「唯先輩、唯先輩たちはこれからも生きるんです、幸せになるために生きるんです」

唯「幸せに?」

梓「確かに一時は悲しいかもしれませんけど、私は信じてます」

唯「無理だよ」

梓「信じてますから」

?月?日

唯「あずにゃん、みんな来たよ」

澪「梓、約束だもんな」

紬「梓ちゃん」

律「……あー、何言って良いのかわかんね」

憂「律さん、私もですよ」

純「梓……どうしてもっと早く言ってくれなかったの、昨日憂から電話もらってしこたまびっくりしたんだよ?」

唯「みんなで、見送るってことだったけど、違うよ」

澪「ああ、梓は絶対に助かる、私は信じてる」

紬「ね、梓ちゃん分かる? たくさんの人が来てるよ、みんな梓ちゃんが大好きなの」

律「この頼りない部長ととある部員のおしりをひっぱたくために目を開けてくれよ、な、梓」

憂「梓ちゃん、私たちお友達だよね、まだお友達らしいこと全然してないよ、ね」

純「梓、休んでておかしいなって思ってて、昨日病気のことを聞いて、今日の昼危篤とか私の気持ち分かる? ねえ、梓ってば!」

唯「ねえ、みんな大きな声出してるよ、うるさいよね、うるさいですって、言って欲しいな」

澪「信じられるか梓、唯がノーミスで演奏したんだぞ、ちゃんと録音だってしてあるんだぞ」

紬「でもね、梓ちゃんがいないと、やっぱりダメみたいなの」

律「そうだぞ、なんていうかなー、しまりがないっていうか、うん……」

憂「梓ちゃん、お願い、目を開けて、もう一度私の名前を呼んで!」

純「梓、私の名前覚えてる? 友達だったって思ってた? 私は梓のこと友達だって思ってたよ?」

唯「あずにゃん! ねえ! あずにゃんってば!」

?月?日

憂「おねーちゃーん、早く行かないとー」

唯「卒業式だから遅刻するわけにはいかないよね!」

憂「そうそう、梓ちゃんに怒られちゃうよ」

唯「うん、怒られちゃうね」

憂「私も後で行くから」

唯「遅刻しちゃダメだよ」

憂「お姉ちゃんこそ」

澪「唯ー!」

律「卒業式まで遅刻ぎりぎりってどういうことだよ」

唯「準備に手間取っちゃってさー」

律「どうせ準備したのは憂ちゃんなんだろ」

唯「すごい、どうして気づいたの?」

澪「これだよ、唯は全然変わらないな」

唯「えへへー」

紬「振り袖、よく似合ってるわ」

唯「そう? 一生懸命選んだからねー」

澪「それじゃあ、式に行くか」

卒業式終了後
部室

唯「この部室ともお別れなんだねー」

律「ああ、軽音部も今年でおしまいかー」

澪「来学年に誰かが復活させたりしてな」

紬「そうね、そうなるといいわね」

唯「でも、私たちみたいにはならないと思うね!」

律「私たちみたいなのが他にいてたまるか!」

澪「そうだな、私たちってどちらかというとオンリーワンだからな」

紬「ティーセットもなくなって、音楽室ってこんなに広かったのね」

澪「まあ、音楽室にティーセットがあるのは変だったけどな」

唯「はっ、今日はもしかしてお菓子は食べられない!?」

澪「食べるつもりで来たのか!」

律「実は私も、ムギが、ムギなら何とかしてくれると」

澪「そんなわけ」

紬「あるわよ♪」

和「……何してるの?」

唯「え、あ」

律「和も食べる?」

和「教室にはいないからどうしたのかと思ったら、あなたたちいつもとやってること変わらないじゃない」

唯「これから変わるんだから、今日まではそのままで良いんだよ」

澪「ん、これが最後、和、大目に見てくれないか?」

和「まあ、酒盛りしてるワケじゃないしね、でも、あまり騒ぎすぎないように」

紬「だいじょうぶだいじょうぶ」

和「……すごく心配ね……」

律「和もいればいいじゃん」

和「あいにく私は新しい生徒会のみんなに呼ばれてるの」

律「裏切り者め!」

和「唯も、憂が探してたわよ」

唯「はっ! すっかり忘れてた!」

憂「お姉ちゃーん」

唯「はあ、ごめんね憂」

憂「大丈夫だよ、それじゃあいこっか」

唯「うん、ちゃんと卒業したっていわないと」

憂「大学の合格の時以来?」

唯「うん、あんまり行かないようにしてるんだよね」

憂「そうなんだ」

唯「憂は行ってるの?」

憂「純ちゃんが毎日行ってるから、私も一週間に一度くらいかな」

唯「純ちゃんは本当に友達想いだねえ」

憂「裏切られたーっていつも言ってる」

唯「きっと純ちゃんが大事だったんだよ」

憂「……そ、うだね」

唯「それじゃあ、あずにゃんに会いに行こう、それで言うの、ちゃんと日常からも卒業したって、寂しくないよってね」

おしまい

本当はもっと長い話になる予定でしたが、保守してもらうのもあれだしなと思っていくらかカットしてあります。
梓と唯はもっと険悪な仲で梓が死んじゃうことになるのを聞いて後悔したりとか、
本当に最後の最後まで唯は食中毒だと思ってたりとか、
文化祭で演奏するシーンとか、
澪と律が梓の病気を知るタイミングが別々だとか、
別にあってもなくても変わらないよね、と思います。

支援とレス等々ありがとうございます。
次回はもっと短い、コメディ系のエロイ話にしたいです。
愛のあるセックスみたいな話が良いです。

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