苗木「青い光、黄色い光、赤い光」 (497)


大和田くんの見事の一撃で意識を失い、

ボクが目を覚ましたのは知らない部屋だった

備え付けのメモ帳、

引き出しの中の工具、

監視カメラとモニターがあり、

シャワールームもあるみたいだけど……なぜか開かない

「……これは」

机の上にあったどっかのホテルで使うようなキーホルダー付きの鍵

そのキーホルダーには部屋番号の代わりにボクの名前が書かれている

つまり、ここはボクの部屋。と、いうことだろう

少し不安に思いつつも、鍵をポケットにしまい、

外へと出るための扉を見つめた

多分、ここは寄宿舎で、

気絶したボクを誰かが運んでくれたんだろう。

「……………」

みんなのことが気がかりだけど、

それを知る方法は1つ。この部屋を出ることだけだ

覚悟してドアノブを握ると、

不意に視界を青い光が埋め尽くした

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セリフ前の名前忘れてました……



苗木「な、なんだ!?」

ギュッと目を瞑って光が消えるのを待ち、

その光は、扉が自動ドアのように開いたことで掻き消えた

舞園「あ、苗木君」

苗木「舞園さん? どうして?」

舞園「ど、どうしてってその……忘れちゃったんですか?」

舞園さんは困ったように首をかしげた

苗木「大丈夫だよ、覚えてる」

あんな痛みをそう簡単に忘れられるわけがなく、

軽く頬をなでると、

舞園さんは安心したような、悲しそうな、

いろんな感情のこもった笑みを浮かべた

舞園「なら……良かったです? でも、痛いなら良くないですよね?」

苗木「う、ううん。全然。すっかり痛みも引いたから大丈夫!」

実際に痛くはなかった。

本心からだったからか、舞園さんの瞳がボクを見つめて数秒。

納得したように彼女は頷いた

舞園「なら良かったです……心配したんですよ?」

苗木「う、うん……ところで、舞園さんはどうしてここに?」


謎の青い光のことは黙っておこうと話を戻すと、

舞園さんは真面目な表情で答えた

舞園「苗木君を呼びに来たんですよ」

舞園さん曰く、

僕が気を失っている間に、手分けして校内を調査することになったらしく、

それを終えたら集まっての調査報告が食堂にてあるらしい

苗木「ボクも手伝えたら良かったんだけど……」

舞園「仕方ないですよ。倒れちゃってたんですから」

舞園さんはくすっと笑い、髪を靡かせて振り向く

舞園「じゃあ、先に食堂で待ってますね」

彼女はそう残して去っていく

……どうせなら一緒に行きたかった。なんて

ヘタレる自分の心にため息をつきながら、ボクは食堂へと向かった


寄宿舎の食堂は意外と清潔そうな感じだった

見た限りだと、舞園さんとボク以外はまだ来ていないらしい

少し待つしかないかな――

舞園「そうですね、待ってましょう」

苗木「……そうだね――……ん? えっ!?」

あまりにも自然に入ってきた。

いや、ある意味では不自然に入ってきた舞園さんの言葉。

驚くボクを見つめ、彼女は微笑む。

舞園「エスパーですから」

苗木「ほ、本当?」

舞園「ふふっ、冗談です。ただの勘です」

本当なのか嘘なのか……

聞いても多分同じ答えだろうし、

ここは流しておいたほうがいいかな


さて、どうしようかな

食堂の奥にも部屋があるみたいだし――?

超高校級のアイドルである舞園さんを直視するなんていうのはできない。

それはまぁ、ボクがただの一般人といっても差し支えない人間だからなのだけれど、

今はそれは関係なく、舞園さんを直視できなかった

彼女自身がそうであるわけじゃない……と、思う

苗木「……青」

ボクから見える舞園さんは青く発光していたのだ

彼女自身がそうあるのではない。というのは、

その青い光によって、周りのものに影が出来たりなんだりの影響がない事からの推測

どうするべきだろう……

とりあえず話しかけてみようかな

そう思い立ったのも束の間、

先に口を開いたのは舞園さんだった


舞園「苗木君、もしかしたら。なんですけど……六中じゃないですか?」

苗木「え?」

青い光が消え、

視覚よりも聴覚が優先される

六中とは、

ボクが通っていた中学……根黒六中のことだろうか?

そしてそこには、舞園さんもいた

舞園「それで二組だったり……」

苗木「う、うん……」

もしかしたらと思うと、胸が高鳴ってしまう

ただの一般人であるボクを、

超高校級の舞園さんが覚えていてくれたかもしれないという奇跡

そんな奇跡が叶うなら、僕は自分が超高校級の幸運だと自負しても良い

舞園「やっぱり! 私は四組だったんですけど……知ってます?」

苗木「当たり前だよ。知らないわけない」


舞園「そうですか?」

苗木「そうだよ、超高校級のアイドルが同じ中学にいたら知らないわけないよ」

そういうたびに嬉しそうにする舞園さんは可愛いと思った……素直に

いや、もちろん素直になるならない以前に可愛いと思っていたけど

苗木「で、でもさ……ボクはただの一般人だったんだよ? よく覚えてたね……」

嬉しい半面、自分を卑下するようにいうと、

舞園さんは首を横に振った

舞園「覚えてるに決まってるじゃないですか。同じ中学だったんですから」

そんな理由で。と、言いそうになりながらも押さえ込み、

ボクは舞園さんに別の言葉を向けた

苗木「ありがとう……覚えていてくれて」

舞園「あはは、私こそありがとうございます……って、言うべきじゃないかもしれないですけど」

笑って、また少し暗い表情になって言葉を続け、

舞園「知ってる人が居てくれて良かったです……それに、苗木くんと話していたら元気になれたかも」

また少し元気な笑みを見せてくれた

寝落ちしました、少しですが、投下します


苗木「ボ、ボクなんかと話してて元気になれたの? 超高校級なんて言われるみんなとは――」

それでも。と、舞園さんはボクの言葉を切った

まるで言わんとしていることを理解しているかのように。

舞園「私を勇気づけてくれたのは苗木君で、ほかの超高校級の人には出来なかったことですよ?」

彼女の笑みは最高という言葉ですらたらないような。それくらいに良い笑顔で、

そして続けざまに宣言してきた

舞園「勇気づけてくれたお礼に、超高校級の助手になります!」

苗木「助手?」

舞園「はい、助手です。苗木君の」

あっけにとられるボクを尻目に、

舞園さんの話は続いていく

舞園「私も精一杯頑張りますから、一緒にここからでましょうね!」

苗木「うん、僕も頑張るよ!」

元気よくそう返せたのは、

ボク自身も、舞園さんに勇気づけられ、元気づけられたからだ


それにしてもみんな中々戻ってこないな……

いや、そもそも今は――7時!?

気を失ったのが午前8時過ぎ……つまり今は夜の!?

それともまさか……

舞園「今は夜の方ですよ、朝だったら大変です」

苗木「そ、そうだよね、朝までだったら……ん?」

やっぱりエスパーだったりするんじゃないかと、

ボクが疑わしく思った時だった

扉が開け放たれ、石丸くんが食堂へと入ってきた

石丸「苗木くんに舞園くん、君たちが先だったか! 僕が一番乗りだと思ったが……残念だ」

舞園さんはともかく、

ボクは調査をしていたわけでもないし……

一番乗りじゃなかったら、それはそれで問題な気もする

苗木「みんなもそろそろ戻ってくるかな?」

石丸「もうすぐ集まるはずだ! しばしの辛抱だぞ、苗木くん!」

自己紹介で分かっていたけど……

かなり熱血漢というか……なんというか……元気な人だなぁ


それから暫くして、みんなが集まってきた……といっても、

江ノ島「銀髪の彼女……」

朝日奈「霧切ちゃん? あ、そういえばいないね……誰か見た人いない?」

朝日奈さんがぐるっと見渡し、ため息をつく

どうやら、誰も見ていないらしい

苗木「……………」

口には出せないけれど、

もしかしたら殺されてしまったんじゃないか……と、

不安になった

でも……考え過ぎかもしれない

今はまだ調査をするだけだったはず

まだ調査も終わらない段階でなんてありえない……よね

石丸「仕方あるまい……第一回希望ヶ峰学園定例報告会の開催を宣言する!」

超高校級の風紀委員である石丸君の進行の元、

ボクら……いや、みんなはそれぞれの報告を始めた


その中で気になったのは、

女子の部屋にしか鍵はない。という点だ

なら、なんでボクの部屋のはしまっていたんだろう?

後でもう一度確認してみるべきかな

みんなの話が終わり、雑談みたいになりつつあった会議に一つの声が割り込んだ

霧切「随分騒がしいのね」

苗木「霧切さん、どこに行ってたの?」

霧切さんは言葉では返さず、

テーブルの上に一枚の紙を投げた

大和田「んだぁ? これ」

山田「見たところなにかの案内図ですな」

霧切「希望ヶ峰学園の案内図らしいわよ。そして、見取り図的にはここは希望ヶ峰学園と同じ構造らしいわ」

霧切さんの言葉で一瞬だけ部屋が静まり、

最初に口を出したのはボクだった

苗木「つまり、ここは希望ヶ峰学園ってこと?」

霧切「構造だけはね。でも、色々と妙な改築が解かされているみたいよ」

不安がさらに募っていく

そんな中で、彼女は。

セレスさんはこの場の空気に合ってしまうような笑い声を漏らした


腐川「あんたは……何を笑ってんのよ……!」

セレス「よかったではありませんか。みなさんで調査した甲斐があったようですわ」

桑田「はぁ!? 何言ってんだ! 逃げ道はみつからない、犯人も解らない。なんにも――」

怒鳴る桑田君にも動じず、

セレスさんは笑顔で答えた

セレス「調査したおかげで判明したではありませんか」

そこまでは、だったけれど。

少し間を置いたセレスさんは目を見開き、

その赤い瞳で全員を捉えていた

セレス「逃げ場のない密室に閉じ込められたということが。紛れもない事実であると」

黙り込むしかなかった

認めたくはない、でも。認めざるを得ない現実

不二咲「そ、そんな……どうしたら……」

十神「簡単だ。出たければ殺せば良い」

十神君の直球すぎる言葉に不二咲さんは小さく震えた

大神「十神、もう少し優しくものは言えぬのか?」

十神「ふん。オブラートに包んでどうなる」

現実だから……。

現実をごまかしても、何も変わらないよね……


セレス「適応すればいいのです」

苗木「え?」

セレス「適応力の欠如は生命力の欠如。生き残れるのは変化を遂げられる者だけなのですよ」

舞園「……確かに、動物とかはその変化に対する適応力で生き残ってきてますから」

舞園さんはそう言って頷いたけれど、

ここから出ることを諦めたわけではないのは、

その目を見れば解った

そのあと、セレスさんの「夜は出歩かないようにする」という校則ではない縛りを、

いつの間にか男子代表になっていた石丸くんが受け入れ、

セレスさんが退室したことによって会議は終了となり、

ボクらはそれぞれ拭えない不安を抱いたまま、部屋へと戻ることになった


苗木「寝る前に……」

女子の部屋にしか鍵はないはず

なら、なぜ開かないんだろうと気になったシャワールームの扉

それに触れようとした時だった

背後から青い光がさし、

慌てて振り向くと、ちょうどモノクマが出口の方から歩いてきた

モノクマ「あれ? 入ってきたの気づいた?」

苗木「う、うん……」

モノクマ「ふーん。まぁそんなことよりマジヤバだよ! マジカルなヤバさだよ!」

と、大げさな感じで伝えてきたのは、

シャワールームの扉が立て付けが悪い。という不運なことだった

開け方は意外と簡単で、

ドアノブをひねりつつ、上に持ち上げるようにして開けるだけ

苗木「……鍵をかけた気分になれる。って幸運に考えるよ」

モノクマ「確かに! そう考えると幸運だったね、 さすが超高校級のポジティブ!」

モノクマはふざけてそう言いながら、さっさと立ち去っていく

そのあと、モノクマの校内放送で夜10時だと流れ、

モノクマに色々言いたいこともあったけれど、

肉体的にではなく精神的に疲れていたボクは、すぐに眠ることにした

ここまでで中断します


翌朝、僕が最初に見たのは黄色い光だった

目を覚まし、目的もなかったボクは、

助手になると言ってくれた舞園さんに会おうと部屋に向かったのだ

そこで見たのが黄色い光

扉は黄色く光り、ボクの行動を迷わせる

青い光はなんともなかった

なら、この黄色い光もなんともないんじゃないだろうか?

もしくは……危ない可能性はあるけれど、

注意をすれば大丈夫。という、

信号機みたいな意味があるのかもしれない

苗木「……なんにせよ、注意すれば大丈夫なら」

ボクは覚悟を決め、

インターホンをおした


インターホンを押すと黄色い光は消え、

少しして舞園さんが部屋から出てきた

舞園「はい……ぁ、苗木君」

苗木「おはよう、舞園さん」

舞園さんに危険が迫っていたわけじゃない……のかな?

彼女自身は何も変わらない感じだった

苗木「えっと……大丈夫?」

舞園「不安ではあるんですけど……大丈夫です」

舞園さんはにこっと笑う

昨日元気づけられたときと似たような笑顔

きっと嘘じゃない。大丈夫だ

舞園「でもやっぱり不安だから、苗木君……ちょっと付き合ってくれませんか?」

苗木「良いけど、どこに行くの?」

舞園「その……護身用になる武器はないかなって……」

舞園さんは自分達を閉じ込め、その上殺しのルールとかを提示してくる黒幕がいつ襲ってくるかわからないから。と、

不安そうに、怖そうに呟く


それなら、協力しないわけがない

とはいえ……昨日の調査に参加は……

いや、待って。

たしか、殴られる前にいた体育館

その前のホールに――

舞園「体育館前のホールですね。行きましょう」

苗木「え……」

舞園「ふふっエスパーですから」

苗木「正直、信じちゃいそうだよ」

舞園「冗談ですよ? ただの勘です」

とは言うけれど、

原理はいずれにしても、舞園さんは言わなくても気づきやすいみたいだ

助手は交代するべきじゃないかな?

優秀すぎるよ……舞園さん


舞園さんの目的を優先するために、

まっすぐ体育館前ホールへと向かう

舞園「……思えば、ちょっと気味悪いですよね」

苗木「え?」

舞園「ほら、その……薄暗いじゃないですか」

体育館ホールに行くまでの道は、

薄いピンク色だとか、薄緑色だとか黄色だとか、

色とりどりで、

ボクらの寄宿舎の部屋前通路なんかは赤い色で、

場所によっては薄暗く、それでなくても気味が悪いのは確かだった

苗木「そうだね……太陽の光が懐かしいよ」

舞園「日焼けするからってちょっと嫌ってましたけど……ないとこうも不安になるんですね」

ここから出る以外で太陽を拝むことはきっとできない

苗木「……頑張ろう舞園さん。頑張ってここから出て、太陽の光をみよう!」

舞園「はいっ」

少しだけ元気そうな返事だった

それに合わせるように体育館の扉が見え、

開けた瞬間見えたのは真っ赤な光だった


苗木「っ!?」

舞園「苗木君……?」

あまりの眩しさにボクだけが目を逸らす。

ボクだけ……そう。

舞園さんはまるで見えていないかのように無反応だった

苗木「……ま、舞園さん」

未だに光り続ける場所に背を向け、舞園さんを見つめる

そうしなければ、まともに喋ることさえ難しい

それくらいに目障りな赤だった

舞園「ど、どうしたんですか? 頭が痛むんですか?」

苗木「ううん。それよりも聞きたいんだ」

舞園「それよりって……」

不安そうな舞園さんに問う

苗木「今、眩しい?」

ボクの背後は真っ赤な光が太陽のごとく輝いている

もしも見えているなら、眩しいって答えるはず――だけど、彼女は首を横に振った

舞園「いえ、全然眩しくないですよ……?」

……光が見えるのはボクだけなのかもしれない


こんなにも眩しい光が見えていない

みんなはまだ解らないけれど、

舞園さんが見えていないのは事実だ

舞園「な、苗木くん……部屋に戻りましょう? 辛そうですし」

苗木「ごめん……」

赤は信号で言えば停止信号

それは危険を示す警戒色

それを発するのはボクが思い出した護身用になりそうだったもの

金色の模擬刀だった

それを護身用として持ち出した場合、

なにか大変なことが起きる。ということだったのだろうか

模擬刀は無視し、

舞園さんに肩を貸されるような情けない形でその部屋を出た今、

持ち帰った場合のことは推測することしかできない

いや……推測なんて。しないほうが良いのかもしれない


舞園「ごめんなさい、付き合わせて」

苗木「ううん、ボクこそごめん。護身用の武器探すはずだったのに」

黄色はやっぱり注意して。という意味があるんだろう

体育館以外が目的だったなら、

それは何の問題もなく終わったはず

でも、ボクらは体育館に行き、

赤い光の模擬刀の元へ来てしまった

赤い光の危険性があるから、

舞園さんの部屋の扉はあの時光っていたんだ

舞園「――苗木君」

苗木「え、わぁっ!?」

気づけば、舞園さんの顔は目の前だった

舞園「やっぱり、上の空だったんですね」

考えにふけっていたせいで舞園さんを忘れてしまっていたらしい……


舞園「何考えてたんですか?」

苗木「迷惑かけちゃったな……って」

実際、

黄色信号の時点で警戒しておけば良かったんだ

流れるように進む思考自体が注意するべきものだったと、

気づけていれば、こんな風にもならなかったのに……。

迷惑かけたし、心配かけたし散々だった

舞園「そんなことはないですよ。心配はしましたけど、迷惑だなんて思ってません」

苗木「でも――」

舞園「助手ですから」

舞園さんは笑顔でそう言ってくれる……なのに。

ボクは……。

そんな何もできない自分が嫌で、

ボク以上に不安で、怖いであろう舞園さんを見つめた

苗木「……舞園さんはボクが守るよ」


舞園「え?」

苗木「護身用の武器なんてなくたって……ボクが守るから」

されるだけは嫌だった

でも、それだけでなく舞園さんが心配で、

加えて、舞園さんが護身用の武器を持つこと自体が危険なのかもしれない。

そう思ったからこそ、ボクは言い、

舞園「ありがとうございます……苗木くんが守ってくれる。味方でいてくれる」

舞園さんは嬉しそうに笑った

舞園「それなら……護身用の武器なんていりませんね」

この笑顔を守りたい

ボクに勇気をくれる。

ボクに元気をくれるこの笑顔を……

と、格好よく閉めることは許されないらしい

ぐ~っと、

ボクのお腹が鳴ってしまったのだ……恥ずかしい


舞園「ふふっ、そういえば朝食前でしたね。苗木君」

苗木「あはは……」

舞園「ご飯食べに行きませんか?」

舞園さんからの誘い

断るわけもなく、さらに嬉しいことを言ってくれた

舞園「私が作りますよ、意外と得意なんです」

苗木「え? 本当? 何が得意なの?」

舞園「ラー油です」

ラー油?

ラー油って……

苗木「調味料!?」

舞園「冗談ですよ、ふふっ苗木君ってからかい甲斐がありますね」

嬉しくない褒め言葉だったけど、

それで舞園さんが喜んでくれるなら、悪くないかな……


でも、そんな笑いあえるような状況ではないと。

ボクは忘れかけてしまっていた……。

食後の雑談のように夢について話していた舞園さんは、

段々と表情は暗く、そして体は震えていく

常に全力でいなければいけない。

そう言うほど大変な芸能業界で生きてきた舞園さんは、

それでも楽しい。と言い、怖いと言う

大切な仲間たちと叶えた夢……

苦労して手に入れた最高の夢を失うことが……恐い。と

ボクは彼女に何も言えない

彼女の声を、気持ちを聞いていることしかできない

舞園「私がここに来たのも卒業できれば間違いなく成功できると言われているからなんです」

苗木「……そうすれば、みんなとずっと活躍できるから?」

舞園「はい……でも、こんな場所に閉じ込められて……」

舞園さんは寒いわけでもなく、震えを止めるように力強く自分の体を抱きしめた


舞園「こうしている間にも忘れられていく……みんなから私たちが消えていく……」

不意に舞園さんの声が消える

それは言葉にし難い空白

刹那、舞園さんの見開いた瞳がボクを捕らえた

舞園「私にはっ! こんなことをしている余裕はないのにッ!」

強く、そして大きく怒鳴る

怒り、不安、嘆き……いろいろな感情が含まれた心からの叫び

同情を許さない。

経験していないボクには理解さえできないような、

壮絶な経験を経て手にした仲間との夢を、彼女は失いかけているんだ……

舞園「ごめんなさい……愚痴なんて……」

苗木「ううん、全然いいよ。ボクでいいなら愚痴くらいいつでも聞くよ」

舞園「……ふふっ苗木君が味方で良かったです」

その笑顔はさっきまでの勇気づけられる、元気づけられるような、

本物ではないような気がしたけれど、

ボクは何もいうことができず、何もできないまま別れ、部屋へと戻った


舞園さんの心境話を終えられたので、一旦中断します


舞園が前園になりそうで怖い


苗木「……どうしよう」

自由時間を与えられても、

目的がない以上はなにも……いや。

ボクだけは調査をしていなかったし、

色々と回ってみるべきだよね……ん?

かなり気付きにくいけれど、

ベッドの下からわずかに青い光が漏れてきていた

青は安全である証拠。

疑いもなく手を伸ばし、全てを掻き出すと、

数十枚のコインが集まった

モノクマの絵が書かれたゲームコイン見たいなもの

そういったものを利用するなら恐らくは購買部

ちがかった場合は、少し嫌だけどモノクマを呼んで聞いてみるかな……とりあえず、

苗木「行ってみよう」

ボクは部屋を出て、購買部へと向かった


予想通り、

そのコインを使う機械は購買部に設置されていた

苗木「そのまんまガチャガチャじゃないか……」

回す部分がモノクマで、

周りはパチンコみたいに電球がいくつもついているけれど、

クリアケースのように透けている景品入れには、

ガチャと同じく丸いカプセルが入っていた

もっとも、カプセルに比べて出口の大きさがおかしいから、

おそらく、上部は見た目だけであり、

景品は別の場所から送られてくるのだろうけど。

苗木「……黄色い光?」

電球ではなく、

取っ手が回せというかのように黄色く光る

黄色は注意勧告

何もないか、もしくは赤の警告色の前触れか……

少し考えて、ボクはコインを入れてガチャを回した


黄色い光でボクは昨日痛い目を見た

でも、黄色い光だったからと、

続く赤い光によって危険は回避することができる

こんな場所に閉じ込められている現状、

赤い光は逃げるべきだけど、

黄色い光からは逃げるべきじゃない

挑戦しなければ何も判らず、何も変わらない……

苗木「……これは」

出てきたのは金色の銃

律儀に付属されている説明書によれば、

部品が足りず発射機構が正常に動かないらしい

がっかりしていると、

景品が出てから光っていた電球が一気に光り、

微妙なファンファーレと共にluckyと無機質な音声が聞こえた

苗木「えっと、もう一回回せるのか……」

機械横の説明ではそうなっている……けど。

黄色い光は絶えず光っている

ボクがそれを回すと光は消え、

出てきたのはまたしても黄金銃

これもある意味では幸運と言えるのかもしれない……


ボクが1種類だけど2つの景品を手にすると黄色い光は消えた

ここからはボクの行動によって赤い光になるか、

または何事もなく終わるかが決まる

できるなら赤い光は見ずに終わりたい

というのも……ボクに対するペナルティとでも言うかのように、

あの赤い光は目に毒だったんだよね……

苗木「……よし、出るよ」

覚悟を決めて扉を開ける

どうやら、今のところ赤い光は見えない

あそこまで眩しければ少し離れたところからでも見えるだろうし。

――と、油断していたせいだろう

校舎から寄宿舎に戻ろうとしたところを、

赤い光を携えた江ノ島さんに捕まってしまった


江ノ島「苗木、その膨らみなんか隠してるっしょ!」

苗木「ぁ、いや……」

パーカーのポケットの見事な膨らみはごまかせず、

ボクは彼女に黄金銃を半ば奪われるような形で渡した

江ノ島「これ、どこで手に入れたの? あの購買部の機械?」

苗木「う、うん」

赤い光は絶えることなく残ったままだ

その光はあまり強くはないけれど、目を逸らさずにはいられない

江ノ島「マジで? ねぇ苗木。コレと交換しない?」

江ノ島さんはそう言いつつ、子猫のヘアピンを取り出した

……いやいや、女の子は黄金銃よりもヘアピンじゃないの?

なんていうツッコミはしないほうが良いんだろうか?

戸惑っていると、江ノ島さんは否定するようにつぶやいた

江ノ島「あ、別にコレだから欲しいとかじゃなくて、ヘアピンダブったし、暇だし、こっちのほうが面白いかなって思っただけなんだから」

苗木「そ、そうなんだ……」

江ノ島「そ。だから私がこんなの好きなんて勘違いとかしないでよ? ちょー変だし!」


江ノ島「つーわけで、はい。交換!」

強引だなぁ……。

でも、黄金銃がダブって出たのはこれが理由なんだろうか?

苗木「一応、説明書も渡しておくよ」

江ノ島「サンキュー!」

明らかに嬉しそうに去っていく

……本当に黄金銃が好きだとかいう理由じゃないのかな?

ほかの人の趣味に口出しとかするつもりはないし、

江ノ島さんみたいな人がそういうのを好きなのは驚きではあるけど、

ギャップというかなんというか……

そういうのは別に悪いことではないと思うんだよなぁ。

超高校級のギャルっていう肩書き上、

そこらへんも気にしているのかな。

苗木「……さて。と」

赤い光は自然消滅したし、多分大丈夫だろう

部屋に……ううん。まだ少し時間はある。舞園さんと話そう……


舞園「……苗木君」

部屋から出てきた舞園さんはあまり元気がなく、

見るからに不安そうで。

そして、彼女自身が不安だと呟いた

苗木「……夜時間まではまだ少し時間あるし、少し話さない?」

舞園「気を使わせちゃってごめんなさい……」

苗木「ううん、言ったはずだよ。ボクで良ければ愚痴でもなんでも聞くって」

ボクが笑顔でそう言うと、

舞園さんも少しだけ笑ってくれた

苗木「食堂に行く?」

舞園「ううん、私の部屋で話すのは嫌ですか?」

苗木「そ、そんなことないよ! むしろ嬉しいけど……良いの?」

舞園「護身用の苗木君なら、大丈夫です」

ボクは誘いを断らず、舞園さんの部屋へと入ることにした


内装はボクの部屋とほとんど変わりはないらしい

とはいえ、舞園さんの部屋というだけあって、

舞園さんらしい匂いが部屋一杯に漂っているような感じがした

……けど。

シャワールームが赤く光っているのはどういうわけだろう

いや、うん。解る

女の子の部屋にあるシャワールームに近づくなんて最低だよね

やっぱり、3色の光はボクの考え通りの役割だ

舞園「楽にして良いですよ」

苗木「う、うん」

緊張しつつ、ボクは舞園さんのイスに座り込み、

早速話題を切り出した

苗木「へ、部屋はボクのところと変わらないんだね」

舞園「そうですね。寄宿舎ですから、これといって変化がないのは当然だと思いますよ」

ち、違う……そんなすぐ終わる話題じゃダメだ……


……結局。

努力賞程度の慰め方しかできなかった。と、

ボクが落ち込むのに対し、

舞園さんは少しだけ元気になったようだった

舞園「ふふっ、苗木君のおかげで少し気が楽になりました」

苗木「そ、そっか。役にたてて嬉しいよ」

舞園さんが喜んでくれているなら――ぁ、そうだ

ポケットをまさぐると、出てくるのは子猫のヘアピン

なんだかわらしべ長者みたいだなと思いつつ、

舞園さんへと手渡した

舞園「これ……頂けるんですか?」

苗木「うん。ボクが持ってても仕方がないしね」

舞園「ありがとうございます……素敵なものをもらえたこと。それ以上に、苗木君から貰えたってことが一番嬉しいです」

すごく喜んでくれた。

前みたいな心からの笑顔が見れた

それだけでボクも嬉しくなってくる……。

江ノ島さんには明日にでも改めてお礼を言おう


舞園「不思議ですよね。苗木君とこんな風に話すことができるなんて思っていませんでしたから」

苗木「それはボクもだよ……舞園さんは有名人だしさ」

中学の時なんかは気にはなっても、話しかける勇気なんて微塵もなかったし……

舞園「目を合わせてもくれなかったのもそれが理由ですか?」

苗木「う……ん? なんで知ってるの?」

ボクが聞くと、

舞園さんはクスッと笑って答えてくれた

舞園「私は見てたからですよ。苗木君のこと」

それはかなり嬉しいことだけど……なんで僕なんかを……

困惑するボクの疑問を、

舞園さんは持ち前のエスパーまたは勘の鋭さで感じて答えてくれた

舞園「話したかったんです。苗木君と。1年生の時に迷い込んできた鳥……」

苗木「確か鶴だったっけ」

舞園「そうです。大きくて、先生たちでさえ唖然とする中、苗木君が逃がしてくれたんですよね」


苗木「うん、そうだよ」

飼育委員だったからっていう理由もあるけど……

舞園「そんな姿に感心して。だから話してみたいなぁって……3年間できず。こんな形でなんてちょっとあれですけど……」

苗木「ボクも出来るなら普通の街中とかで。出来るなら本当の希望ヶ峰学園でしたかった」

本当なら、こんな監禁生活なんてなかった

でも……これが現実なんだ

囚われているということが……

暗くなっていく思考に、光が指すかのように、

舞園さんの声が入り込む

舞園「でも私はあの時の鶴みたいに、苗木君が救ってくれるんじゃないかって思うんです」

舞園さんは両手を胸元で重ね合わせ、優しく笑う

舞園「ただの勘かもしれないですけどね」

ううん、そんなことない

ただの勘じゃない。

苗木「舞園さんはエスパーなんでしょ?」

舞園「ふふっ言おうとしたことを言うなんて……苗木君もエスパーですねっ」

上手く慰められたみたいだし、

加えてかなり仲良くなれた……気がする

校内放送で夜時間が知らされたボク達は解散し、

部屋へと戻ったボクはゆっくりと休むことにした


とりあえずここまで


翌朝は最初から自由行動となっているけれど、

当然、脱出する方法を探すんだけど……どうしよう。

そんなことを考えている時だった

ピンポーンとインターホンが響いた

避けるべきなのか……避けるべきだ

模擬刀に負けず劣らずの赤い光

これに接触するのは危険だと強く警告を放つ

江ノ島「苗木ー」

来訪者は江ノ島さんらしい

ドアに耳をつけてみると、声が微妙に聞こえてくる

どうして江ノ島さんを全力で警戒するんだろう?

江ノ島さんがボクにとって危険なの?

それとも、江ノ島さんに危険が迫ってるの?

解らない……でも……

連続で赤っていうことは……最悪の展開もあり得る

どうする……どうしたら……

江ノ島「苗木……いないの?」


江ノ島さんのションボリとした声が嫌に残る

何か話したいことがあったのかもしれない

何かしたいことがあったのかもしれない……

でも、そうすることで

ボクか江ノ島さんに危険が……でも。

ボクは昨日、江ノ島さんの赤色に触れた

それは流れて消えたのではなく、

次のステップへのフラグみたいなものだとしたら?

そして、これこそが次のステップなのだとしたら……

ボクが危険な場合、これは流れて消えるはず

でも、江ノ島さんの危険だったら?

……3色じゃなくてもっとたくさんの色があれば。

江ノ島「まぁ、後ででいっか。いないならしゃーないっしょ……」

江ノ島さんの足音が遠ざかり、

赤い光が扉から消えていく

ごめん……江ノ島さん

ボクは無力だ……あまりにも……無力だった


下手に出て江ノ島さんに遭遇することを避けるために、

ボクは昼間は様子見で外出を避けていたものの、

空腹には勝てず、夕食の場に出てきてしまった……のだけど。

食堂入口が真っ赤に光っていたらどうする?

……入れるわけないよね

諦めて戻ろうとすると、

不運なことに舞園さんに見つかってしまった

舞園「苗木君、どこにいたんですか?」

苗木「え?」

舞園「江ノ島さんが探してましたよ? 黄金銃がなんとかって言いながら」

黄金銃。

やっぱり黄金銃を渡す……というか奪われることがフラグの一歩目だったんだ

黄色から赤。そして赤

これはもう……かなりまずいレベルまで来ているかもしれない


舞園「と、ところで苗木君」

苗木「なに?」

舞園「その……気づきませんか?」

舞園さんはそう言いつつ髪に触れる

その瞬間、

舞園さんの2つある髪留めの一つが、

青く光っているいことに気がついた

それはボクが昨日江ノ島さんからもらった子猫のヘアピン

苗木「着けてくれてるんだ……ありがとう」

舞園「苗木君からせっかく頂いたものですから。肌身離さず持っておきたいと思ったんです」

嬉しかった。

あこがれのアイドルである舞園さんとここまで仲良く話すことができることが。

そして、彼女を笑顔にさせることができたのは、

あのヘアピンをプレゼントできたからでもある

それは江ノ島さんが居なければ出来なかったこと……

なのに……ボクは彼女を見捨てるのか?


苗木「舞園さん。似合ってるよ」

舞園「ふふっ……嬉しいです」

苗木「……中、入ろっか」

舞園「はい、一緒に食べましょう」

そんなわけには行かない

江ノ島さんを、仲間を。

見捨てるなんてダメだ

赤い警告?

怖いよ。それは怖い

だけど……誰かが死ぬことのほうが怖い

覚悟を決めよう。

一つ目の赤を避けられなかった時点で、

ボクはもう逃げるわけには行かなくなったんだ

1が警告だとしたら、

2はもう……衝突寸前といったところかもしれない

助けるんだ……絶対!

覚悟を決め、ボクは舞園さんと共に食堂へと入っていった


真っ赤だった。

目を瞑ってしまいたいほどに真っ赤だった

けれど、ボクは首を振る

どんな結果でも受け入れるから、

ボクに戦うチャンスをくれと。光に願う

すると段々と赤い光は薄れていき、

しっかりと直視できるようになったボクの瞳に映るのは、

江ノ島「苗木、アンタさぁ。あたしに探させるってどういうつもりしてんの?」

明らかに落胆している江ノ島さんだった

苗木「ごめん……部屋にいたんだけど疲れててさ」

江ノ島「疲れてた? あたしは今超疲れちゃったんだけどー。どぉしてくれんの?」

そういう江ノ島さんの前のテーブルに置かれているのは、

ボクが昨日奪われたようなそうでないような黄金銃だった

苗木「ごめん、このあとは夜時間までずっと付き合うから許してくれないかな」

それが許可してもらえれば、今日。寝るまではずっと江ノ島さんの周囲を警戒できる

でも、受け入れてもらえ――

江ノ島「へぇーじゃぁ付き合って貰っちゃおうかな。元々そういうつもりだったし……」

意外と乗り気だった

と、いうか初めからそのつもりだったらしい


舞園「夜までって一体何するつもりなんですか?」

江ノ島「んー暇つぶし? ほら、苗木もまだ持ってるでしょ? コレ」

コレ。というのは、黄金銃のこと

苗木「う、うん」

江ノ島「探索も兼ねてさぁ、サバゲー的な事してみたらどうかなって思ってるんだけど」

サバゲー……?

サバゲーって

サバイバルゲーム?

超高校級のギャルが?

江ノ島「あー……前にCMとかで見てちょっとさ」

舞園「で、でもそんなの……」

江ノ島「こんな窮屈な場所でなんの意味もなく探索なんて気が滅入るつーの! 遊びながらでもじゃなきゃやってられないって!」

それは確かにそうかもしれない

それに、断れば一緒にいることすら出来なくなるかもしれない

幸い、黄金銃が赤く光ることはなく、

サバゲーをやることに危険はないようだった


苗木「いいよ。調査をしつつやろう。でもあくまで調査だよ?」

江ノ島「わかってるって、それじゃ、建物の両端から再開。審判ヨロシク!」

舞園「えっ、私!?」

有無を言わせずに江ノ島さんは去っていく

舞園「……どうするんですか?」

苗木「ボクはやるよ。やるって言っちゃったし」

舞園「解りました。ちょっと待っててください」

舞園さんはそう言うやいなや食堂の奥へと消えていき、

戻ってきたかと思えばおにぎりを3つほど持ってきてくれた

苗木「それは……」

舞園「朝もお昼も食べてないんでしょう? 倒れちゃわないように私も同行します」

苗木「で、でも」

舞園「私はなんですか? 苗木君!」

助手……だよね

舞園「そうですよ。助手です」

……舞園さんはどうしても付いてくるつもりらしい

苗木「ありがとう。でも、出来るならボクじゃなくて江ノ島さんを見て欲しいんだ」


舞園「どうして――……いえ、良いですよ。解りました」

舞園さんは何も言っていないのに、

納得したように頷いてくれた

舞園「苗木君、気をつけてくださいね」

苗木「うん、ごめん。ありがとう」

舞園さんは快く引き受けて、食堂を出ていく

ボクは残されたおにぎりをひとつ食べ、

2つはラップにくるんだままポケットへと忍ばせてから食堂からスタート

これで江ノ島さんに危険はないはず。

ごめん、舞園さん。

もしもボクがこれで黒幕に殺されたりしても、

江ノ島さんを恨んだりしないで欲しい

そう願いつつ、

ボクは黄金銃を握り締めた


とりあえず今日はこのあたりで中断します


苗木「……さて」

遊びとは言え、

死ぬ可能性もあるこんな場所でサバゲーなんて普通はしない

けど、普通じゃないからこそ、普通じゃないことをする必要がある時もある……かな。

江ノ島さんに付き合うって言っちゃったし、

かなわないかもしれないけど、真面目にやろう

調査も、サバゲーも。

時刻は夕方も過ぎた……と思う8時ころ

ボクのスタート地点は寄宿舎1階

一方、両端ということは、江ノ島さんは学園校舎1階

体育館前辺りからのスタートだ

苗木「……大浴場的なところはまだ入れないみたいだ」

仕方ない……まずはランドリーに行こう

あたりを警戒し、

江ノ島さんや舞園さんの姿がないことを確認してから、

ランドリーへと飛び込んだ


朝日奈「わぁっ!?」

苗木「っと……ごめん、驚かせて」

ランドリーには朝日奈さんだけしかいないみたい。

……ぶつからなくてよかった

ほっと息を吐き、あたりを見渡す

特に怪しいものはないけど……うん。

動いてる洗濯機の一つが真っ赤だ

見るべきじゃないかな

朝日奈「そ、そんな金ピカの銃なんてあったっけ?」

驚きを口にしながら、

朝日奈さんは一歩後ずさっていく

苗木「購買部のガチャガチャで手に入れたんだよ。まぁ、欠陥品で撃てないんだけどね」

不安がらせちゃダメだ。

説明書をちゃんと提示し、本当だと教えると、

朝日奈さんは安心したように笑い、

朝日奈「えへへ~――……ごめん、疑うなんて……」

すぐに暗い表情になってしまった


苗木「う、ううん。怪しいボクが悪かっただけだから!」

朝日奈「でも……苗木はそんなことしそうにないのに……」

苗木「……疑っちゃうのも仕方ないよ。今確実に出られる方法として判ってるのは誰かを殺すってものなんだから」

否定しても、

否定に否定を重ね、会話は平行線を築くだけ。

なら、朝日奈さんの不安要素を受けながらも、

そんな心配はいらないって突き返してあげればいい

……出来るか解らないけど。

このまま朝日奈さんを落ち込ませておくのはダメな気がする

朝日奈「……どうやったら出られるんだろ……警察が来てくれたりしないのかな?」

苗木「来てくれる可能性は――っ!」

背後から迫る黄色い光

それは注意の信号

ばっと振り向くと、モノクマが姿を現した


モノクマ「警察? うぷぷぷぷっ。警察なんてあてにしてんの?」

そう言いながら、モノクマは朝日奈さんを見つめた

朝日奈「っ……」

モノクマ「警察は所詮引き立て役だよ。悪者達のね。そんなザコキャラをあてにするなんてどうかと思うなぁ」

それに納得したわけじゃない。

でも、警察が助けに来ることはない。と、

なんとなく分かっていた

今日でもうすでに3日目の夜

なのに、なんの音沙汰もない。

つまり……外からの助けには期待できない可能性は極めて高い

朝日奈「な、苗木……」

モノクマ「あれれ~? 苗木君は落ち込んじゃったのかな?」

苗木「ううん。むしろ……やる気が出てきたよ」

モノクマの奇妙な笑みに笑顔を返す

舞園さんのくれた勇気を振り絞って対抗する

苗木「ボク達は絶対にここから出て、モノクマ……いや、黒幕のお前を捕まえる!」


モノクマ「ボク達の達は無理だよ。クロ以外はみんな――ぁ」

モノクマは失敗した。

とでも言うかのように口を抑えて逃げようとしたけれど、

ボクがそれを許すわけがなかった

苗木「クロ以外は何? 答えてよ。モノクマ」

朝日奈「そ、そうだよ! クロっていうのが関わるってことは大事なことなんでしょ!?」

モノクマ「あーもうわかったよ……ちぇっ。校則に追加しておくからオマエラで確認してよ!」

モノクマはそう言うやいなや、一目散に逃げていく

苗木「……新しい校則って」

7:生徒内で殺人が起きた場合は、一定時間後に生徒全員参加義務の学級裁判が行われます

8:学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロだけが処刑されます

9:学級裁判でクロを指摘できなかった場合は、クロだけが卒業となり、残りは全員処刑です

朝日奈「っ……こ、こんなこと隠してたの!?」

苗木「そう、みたいだね……最低だよ……クロがバレちゃいけないのは載ってたけど。これはもっと大事なことなのに」


黄色い光でも、

場合によっては青以上に有益になる……と。

苗木「朝日奈さん。この情報のおかげでみんなが殺す可能性はかなり低くなったはずだよ」

朝日奈「う、うん……そうだよねっ」

朝日奈さんは少しだけ元気を取り戻したらしく、にこっと笑う

苗木「朝日奈さんが警察の話ししたおかげだよね」

朝日奈「そ、そうなのかな……誰だって気になってたと思うけど……」

苗木「でも、話してくれたのは朝日奈さんだよ。他の誰でもない」

……って受け売りな言葉だ

朝日奈「そ、そっかなっ。えへへ~褒められたみたいでちょっと嬉しい」

朝日奈さんはいつものように嬉しそうに笑う

ま、まぁ朝日奈さんが喜んでくれたんだし、

良いよね? 良いのかな……多分。

苗木「それじゃ、ボクはちょっと用事があるから」

朝日奈「苗木!」

苗木「え?」

朝日奈「……その。ありがと」

朝日奈さんの笑顔を背に、ボクはランドリーをあとにする

……朝日奈さんと少し仲良くなれたみたいだ


2階にはいけないみたいだ

その隣の部屋も鍵が掛かっていて入ることは出来ない

トラッシュルームには入れるけど、

すぐに鉄格子があって奥までは入れないらしい

床にある扉っぽいところにも鍵がついてて入れない。

苗木「……奥に行くには鍵が必要だね」

ゴミ捨て場なんだし、床はともかく、

奥に行くために何かアクションを起こさないとダメ。というわけではないはず。

誰かがゴミ係になってるんだろうか?

あとで誰かにあったら聞いておこう

さて……次は……っ!?

部屋を出た瞬間、

あたり一面が黄色く染まり、

その中で一つ。男子トイレのみが青く光る

苗木「っ……間に合え!」

慌ててトイレへと駆け込んだ


桑田「お、おいおい……苗木。どーしたんだよ。漏らしそうなのか?」

苗木「それは違うよ! とりあえず、誰か来てもボクはいないって言って!」

桑田「お、おう?」

急いで奥の個室へと駆け込み、扉を閉める

その瞬間、勢いよく扉が開いた

舞園「えっ、ここ男子トイレですよ!?」

江ノ島「サバイバルに男女の壁なんてないの! 苗木ーっここに居るんでしょ!」

よもや江ノ島さんだとは……

っていうか、舞園さんの声が聞こえた気がする

桑田「お、おい! 女が入ってくんなよ!」

江ノ島「あ、居たんだ」

桑田「目の前にいるだろうが!」

舞園「江ノ島さん……誰かいるなら早く出たほうが良いですよ! 早く、早急に!」

江ノ島「まだ個室確かめてないのに……しゃーない。外で待たせて貰うからねぇ」

声を残して扉の閉まる音が響く

見てなくてもにやっと笑っているのが判る

それほどに楽しそうな声だった

苗木「……やっぱり、こういうの好きなんじゃないのかな」

少しだけ確信を得た瞬間だった


桑田「……おい、苗木ィ」

苗木「な、なにかな……」

個室を出た瞬間、

桑田くんの物凄く怖い表情が目の前にあった

桑田「どういうことだよ。今の! 舞園と江ノ島が来たぞ! お前を探して! だ!」

苗木「い、いやその……探してるのは江ノ島さんだけで、舞園さんは付き添いっていうか……」

桑田「んなことはどうでもいーんだよ! なんだ、モテ期か!? どっち狙いなんだよ! あ? 江ノ島だよな? な、な!?」

昨日の黄金銃を奪う時の江ノ島さん以上に強引な会話だった

苗木「どっち狙いって……そんなつもりはないよ。大体、ボクのことをそういう目では見てないって」

桑田「はぁ……これだから童貞は」

苗木「えー……」

桑田「好意のねぇやつと遊んでてあの笑顔はねぇて。舞園は見えなかったけどよ。江ノ島は間違いなく、少しは好意持ってるぞ」

そんな嬉しそうだったんだろうか。

苗木「そうかな? ただ江ノ島さんのやりたいことに付き合ってるからだと思う」

桑田「おい、苗木……いや童貞。よく聞け」

その呼び名だけは止めて欲しいなぁ……。


桑田「そもそも、微塵も好きでもないやつとは遊ばないんだよ。女ってのはな」

苗木「そうなの?」

桑田「おうよ。つまり、江ノ島は少なからずオメーに好意があるってわけだ」

どういう判断なんだろう?

仲が良ければ遊びはするだろうし……?

でも、仲が良いってことは少なからず好意があるってことなのかな?

桑田「だから……な?」

がしっと肩を組まれ、

ボクは逃げることはできなかった

もっとも、逃げられる唯一の出口は黄色く染まり、

サバゲー敗北を知らせているわけなんだけど。

桑田「舞園にオレを紹介してくんね? その逆でもイイぞ」

舞園さんに紹介……か。

いや……ちょっと待った

それはまずいんじゃないかな……


苗木「桑田君は野球好きなの?」

桑田「嫌いに決まってんだろ。汚ねーし、汗くせぇし」

苗木「そ、そうかもしれないけど……」

せっかく超高校級の才能を持ってるのに、

嫌いだなんて……勿体無い

そう思う僕の思考を停止させるほど。

舞園さんには絶対に聞かせられない言葉を、彼は吐いた

桑田「たかが野球だぜ? 練習なんかしなくても楽勝じゃん」

苗木「っ……」

桑田「大体……流行んねーんだよ。汗まみれ泥まみれの努力と根性で練習とかよ」

苗木「それは違うよ」

それは違う。

同じ超高校級の称号を持つ人だって、

小さい頃の夢で、計り知れないほどの努力をしている人がいる

苗木「努力は大切だよ。桑田君が思っている以上に大切なものなんだ」

あの舞園さんの叫びは……それほどに大切なものだってボクに教えてくれた

だから……。

強く拳を握り、桑田くんを見つめる

苗木「努力をバカにするような人に彼女を紹介なんてしない」


桑田「はぁ? オメー何言ってんだ?」

苗木「そんな顔してもダメだよ」

最初見て怖いと思った彼の表情。

でも、不思議と怖くはなくなっていた

怖がって、仕方がないなんて妥協できることじゃないから。

桑田君は知らない。

桑田君には解らない。

ボクも同じかもしれない。でも。

ボクは聞いた。見た。

だから……引けない

苗木「悪いけど……舞園さんと話したかったりするなら自分で頑張って」

もっとも、

舞園さん本人に拒絶されるかもしれないけど。

だって舞園さんが頑張ってきたことを、

桑田君はダサいって馬鹿にしているようなものだし、

自己紹介の時に練習は一度もしたことないとか、ダサいって言っちゃったからね


桑田「調子にのんなよ!」

苗木「っ!」

右脇腹の黄色い光

慌てて逸らすと、桑田くんの拳が通り過ぎていく

注意、危険、安全

これが全部判るっていうのはものすごくずるい……けど。

ほかの人から見たら、全部『運』なのかな

……運。

超高校級の幸運

事の善し悪しがみえるのはもう、超高校級の枠じゃないかな

体を反らせて桑田くんの攻撃すべてを回避していく

桑田「ちっ……うぜぇ」

桑田君はそう悪態をつくと、

トイレから出ていく

……桑田くんとは仲が悪くなっちゃった。かな


苗木「それにしても……」

喧嘩? をするにはボクは体力不足らしく、

呼吸は乱れてしまっていて。

落ち着かせようとした瞬間、部屋全体が赤く染まった

気づいて間を置くことなく、

扉は勢い良く開き、江ノ島さんが飛び込んできて――

江ノ島「苗木―っ!?」

苗木「うわぁっ!?」

扉のすぐ傍にいたボク達は避けることもできずに衝突し、

互いの黄金銃が床を転がった

舞園「だ、だからいきなり危ないって言ったんです! 苗木君、大丈夫ですか!?」

舞園さんは江ノ島さんよりも先にボクを助け起こし、

江ノ島さんは「ごめん。ごめん」と笑いながら立ち上がった


苗木「あはは、ボクの負け――」

江ノ島「そんなことより、桑田と何してたの? めっちゃ不機嫌だったよ、桑田」

舞園「だから喧嘩でもしたんじゃないかって思って……」

舞園さんは心配そうにボクを見つめてくる

どうやら、話は聞かれてないらしい

苗木「喧嘩はしてないよ。桑田君が舞園さん紹介してくれって言うから断っただけなんだ」

かと言って嘘は付けず、

大元のことを言うと、舞園さんは困ったように首をかしげた

舞園「私……ですか?」

江ノ島「舞園は超高校級のアイドルだし? 仲良くなりたいんじゃないの?」

まさにその通りだったんだろうけど、

目的は多分仲良くなることの先……かな。

苗木「うん……それで、自分で頑張ってって言ったら怒っちゃって」

江ノ島「自分から行けないとかちょーヘタレじゃん」

江ノ島さんは本人がいないからか、そう言うとクスクスっと笑った


苗木「あはは……?」

江ノ島さんに合わせて小さく笑う

けれど、舞園さんは笑うこともなくボクを見ていた

苗木「ど、どうかしたの?」

舞園「……その、私。桑田君はあまり……なんて言えばいいか」

アイドルという肩書き上、

直接的に嫌いだとか、仲良くできないとは言えないんだろう

なんでも我慢してきた。というのは、

そういう人たちとも仲良くしていかなきゃいけなかった。ということかもしれない。

江ノ島「まぁねぇ。あたしも桑田は寄せ付けたくないし、正直に言っちゃえば?」

舞園「でも、そうしたら桑田君傷ついちゃいますし……」

江ノ島「それで自分傷つけてたら意味なくない?」

舞園「……そう、ですよね」

やっぱり、自分と正反対で。

それに加えて努力を笑う桑田君は、

舞園さんでも受け入れられないらしい


江ノ島「もしあれなら、苗木がガードすればいいし」

苗木「ボク?」

江ノ島「だって、断ったんでしょ?」

そう。

ボクは舞園さんのために断った

舞園さんのために、

桑田くんに怒られても拒否した

苗木「そうだね、舞園さんはボクが守るよ」

舞園「で、でも」

苗木「ボクは舞園さんの何なんだっけ?」

さっき舞園さんに言われたことを返す。

舞園「それは……」

苗木「護身用武器の代わり。だよね? なら任せてよ」

そう言うと、舞園さんは自分が同じように言ったことを思い出したのか、

苦笑し、ボクを見つめた

舞園「苗木君には敵わないですね。ふふっ」

二度目の笑みは本当に嬉しそうな笑みだった


江ノ島「じゃぁ、あたしは苗木を守ってあげようかー?」

苗木「え、そこは守ってて言うべきじゃないのかな……」

困った笑みとともに返すと、

江ノ島さんはにやっと笑った

江ノ島「こう見えてあたし強いんだからね? 野宿だって……してみよっかなぁなんて考えたことあるんだから」

舞園「本当はしたんじゃないんですか?」

江ノ島「な、何言ってんの!? そんなわけないじゃん」

江ノ島さんがあからさまに慌てた感じで否定する

本当にやったことがありそうだなぁ……この言い方だと。

追求しようとしたボクが口を開く前に、

モノクマによる10時を知らせる放送が始まった

江ノ島「さ、さぁ、帰るよ! ほら! 黄金銃忘れてるよ!」

苗木「あ、うん」

2つの内片方を受け取り、ポケットへと入れるとその重みでパーカーが下に伸びた

舞園「そういえば、それってモデルガンですか?」

苗木「うん。だから本物に近い重さなんだよね。本物を知らないから解らないけど」

絶えない会話を続けながらボク達はトイレを出ていく

そういえば、トイレで女の子と会話してたんだ。しかも男子トイレで。

舞園「野宿の際に使ったりしたんですか?」

江ノ島「うん、つか――ってない、マジでやろうとしただけなんだって!」

舞園「ふふっ……そういうことにしておきましょうか」

やろうとしただけで問題なのは、

この際スルーするべきなんだろうか

部屋に戻るあいだも、ボク達は楽しく会話していた


一旦ここまで。

DVD鑑賞前日がこれで終了……


石丸君の協力するために仲良くなるべき。

そのために食事はみんなでしようという提案で食堂に集まったボク達。

何事もない。

ある意味では平和で、ある意味では平和ではない1日が、

いつものように始まる……みんながそう思っていたはず。

けれど、殺し合い生活なんていうものを提示するようなやつが、

ただのらりくらりと過ごすボクらをそのままにしてくれるはずはなかったんだ

彼はやっぱり突然現れた。

モノクマ「まったく、ボクはガッカリだよ。超高校級のガッカリだよ」

苗木「……やっぱり、来たね。モノクマ」

モノクマ「苗木君はボクが狂って事前にわかっていたみたいだね」

それはもちろん、

後光……というか、黄色い光がみえたからね。

ここにはいなかったモノクマが現れるっていうのは判るよ

舞園「それで……一体何のようなんですか? 解放してくれるんですか?」

モノクマ「いやね。ボクは気づいたんだよ! オマエラがどうして殺し合いをしないのかってその理由に!」

江ノ島「…………………」


霧切「……理由?」

モノクマ「そう。理由。理由だよ! オマエラには殺し合う理由。動機がなかったのさッ!」

十神「だからお前が俺達に動機になるようなものを提示しようってわけか」

モノクマ「まぁね~オマエラに見せたいのは学園の外の映像だよ? R18とかじゃないよ!」

あくまで冗談めかしてモノクマは言う。

でも、そのないようはきっと冗談では済まされないようなものだ

ボク達が殺し合う動機になり得るような映像

まともなモノのわけがない

モノクマはそれをある場所で見られるようになってる。とだけ残して去ろう身を翻す。

けど、モノクマと同じくらいに謎めいた彼女がそれを止めた

霧切「あなたは何者なの? どうしてこんなことをするの? あなたは私達に何をさせたいの?」

彼女の問いはみんなが聞きたいと思っていたこと。

モノクマは最後の質問にだけ答えた

モノクマ「ボクがオマエラにさせたいこと? あぁ、それはね……絶望。それだけだよ……」

そして、続く。

あとのことが知りたければ自分達で突き止めろ。と。

この学園の謎を知りたければ好きにしろ。止めはしない。と。

それだけ言い、モノクマは去っていった


朝日奈「行っちゃった……」

桑田「結局何も聞けなかったじゃねーか!」

霧切「そうかしら」

不二咲「え?」

不二咲さんが不思議そうに首をかしげると、

霧切さんは答えた。

霧切「良い事を聞けたじゃない。真実を追い求めるのは自由。止めはしないって」

腐川「そ、それのどこがいいことなのよ……」

石丸「今は言い争う時ではないぞ、腐川くん!」

大神「そうだな……。学園の外の映像。気にかかるな」

食堂がざわつく中、

見渡す大和田くんの目がボクを捉えた

大和田「苗木! ちょっと調べてみてくれや!」

苗木「え? なんでボクが……」

大和田「オメェが扉の近くにいるからだ。決まりだろ?」


理不尽極まりない理由

それに言葉を返す前に、

ずっとだんまりだった江ノ島さんがボクの腕を引いた

江ノ島「あたしも行く。あいつに動機がないから殺し合いなんてしないって言ったの……あたしだから」

苗木「え?」

大和田「おう、じゃぁ頼むわ」

舞園「待ってください、私も行きます」

ボクは江ノ島さんに引っ張られる形で食堂を出ることになった

舞園「……どういうことですか、江ノ島さん」

江ノ島「あいつに会った時に言われたんだよね。なぜ殺し合いしないのかって」

舞園「………………」

江ノ島「それで、動機がないからって言ったら。じゃぁ用意してあげるって……あたしのせいだよ」

落ち込む江ノ島さんを、

舞園さんは責めたりすることはなかった

舞園「用意できるってことは、用意してたってことですから。いずれ予定してた事なんだと思います」

苗木「……そうだね。江ノ島さんは悪くないよ」

江ノ島「っ……ありがと」

そうだ。江ノ島さんは悪くない。

こんな生活を強要した黒幕が全部悪いんだ


舞園「映像ってことは視聴覚室ですよね?」

苗木「うん、多分そうだよ」

江ノ島「……………」

苗木「江ノ島さん、行くよ」

舞園「確かめに行くんじゃないんですか?」

ボクと舞園さんが彼女を呼ぶ。

いまだ落ち込み気味の江ノ島さんは顔を上げ、

ボク達を見つめる

その表情にはなにか深い意味がありそうで、

舞園さんだけは、それがなんなのかうっすらと感じ取ったように、

小さく首を振り、

舞園「江ノ島さんは悪くありませんよ。黒幕が全部悪いんです。ですよね? 苗木君」

さらっとボクの心の内を読み、

舞園さんは江ノ島さんの手を強引に引いた

舞園「確かめに行きましょう。ね?」

江ノ島「そう、だね……確かめなきゃ何にもわからないし!」

から元気な笑みだった。

でも、ボク達は追求することはせず、視聴覚室へと向かった


そこには、

予想通りダンボールに入れられたDVDが置いてあった。

江ノ島「それぞれに名前が書かれたラベルが貼ってあるし……」

苗木「間違いないね。それだよ」

ボクは直視できず、

2人の言葉に返すほかなかった

入った瞬間、視界がブラックアウト

もといレッドアウトしたのだ。

赤い下敷きを通して周りを見てみたとかいうレベルではない。

舞園「苗木くん、大丈夫ですか?」

苗木「う、うん……それより、みんなを」

舞園「解りました……江ノ島さん、お願いします!」

舞園さんは慌てて飛び出していく

……どうする?

どうしたらいい?

この最悪の状況を、ボクは。


考えてもなにも浮かばない。

諦めるしかない。

この赤い警告は避けられない?

いや……諦めるなんてダメだ!

苗木「っ……DVDを壊す!」

江ノ島「な、苗木!?」

DVDを乱雑に床へとばらまき、

全身の体重を載せて踏み潰す

バキッパキッとDVDが割れていく

苗木「こんなの見ちゃダメだ! 大変なことになる!」

外のことは知りたい

知りたくて仕方がない。

けれど、この真っ赤な警告は無視できなかった

苗木「はぁっ……はぁっ……」

全部踏み潰した……のに。

苗木「なんで、なんでまだ赤いんだ……」

赤い光は絶えることなく光っていた


赤い警告は消えなかった。

消すことができなかった。

消す方法を思いつく前に、みんながたどり着いてしまった

舞園「な、苗木君!?」

山田「苗木誠殿……これは一体……?」

十神「見て分からないのか、愚民め。苗木がDVDを踏み潰したんだよ」

でも。

でも……DNDは――

モノクマ「アハハハハハハハッ! 滑稽だよ苗木君。すごく惨めだよ!」

高笑いが耳元で響く

モノクマ「DVDだよ? とーぜん複製があるに決まってるじゃん!」

苗木「っ!」

そんな当然なことにボクは気付けなかった

みんながモノクマから直接DVDを受け取ってしまった


モノクマ「学園の外の情報を知りたいよね~?」

黙り込む人もいれば、微かに頷く人もいて……

その中で舞園さんはボクを見つめていた

赤い光が消えていく

もう、避けることはできずにフラグを完成させてしまったのかもしれない。

諦めかけるボクに、黄色い光がさす。

それを目だけでおっていくと、

光の発信源はボクを見つめる前園さん自身だった。

舞園「……苗木君。これは見ない方が良いんですか?」

苗木「……うん。見ない方が良い」

赤かったから。

絶対に何かしらの危険があることを示していたから。

でも、そんなことは舞園さんには伝わらない

苗木「学園の外の情報だから、舞園さんが――」

疲れきって座り込み、俯くボクに届いた返事

それは舞園さんの声ではなく、

バキッパキッというさっきまで聞き続けた破壊音だった


舞園「なら、私は見ません」

モノクマ「えぇぇぇ~っ!? 学園の外の情報だよ!? 知りたくないの!?」

舞園「知りたいです。でも……苗木君がこんなになってまで見るなって言うなら、見ません」

黄色い光が消えていく

今はもう、視界に3色のどの光もなかった。

モノクマ「なんだよもう! 私、信じてる! みたいなだっさい恋愛漫画じゃないんだぞぉ!」

腐川「イヤァ! ここから出してぇ!」

朝日奈「こ、これ本物じゃないよね……?」

桑田「そんなわけねーって……そんな訳……」

絶望する人たち

霧切「私達の出たいという気持ちを煽って殺し合いさせようとしているのね……」

セレス「囚人のジレンマ……ですわね」

絶望せず、冷静な人たち

ボク達のきっと殺されることはないだろうという考えが崩され、

もしかしたら殺されるかもしれないという絶えることのない恐怖が続く

昨日のあの朝日奈さんのように、

疑うことに自己嫌悪しながらも、疑うしかないという緊張状態

舞園「……見なくて正解。ですね」

苗木「舞園さん……」

舞園「私は苗木君を信じてます。殺すことなく、ここから出してくれるって」

彼女の笑みがボクに力をくれる

ボクは守れたんだろうか……彼女を。


江ノ島「………………」

モノクマ「さぁて、どうなるかな~」

愉しそうにモノクマは去っていく

残されたみんなは押し黙り、

みんなの様子を疑う目で観察しているようで、

嫌な気分になってくる

舞園「……とりあえず、一旦部屋に戻りませんか?」

霧切「そうね。部屋にいればとりあえずは安全だわ」

霧切さんが部屋を出ていき、

続いてセレスさんが、十神くんが、葉隠くんが……

次々と部屋を出ていき、

残されたのは調査に出たボク達3人だった

江ノ島「……あたしのせいだ」

苗木「そんなことない、悪いのは黒幕だよ」

江ノ島「あるよ。あたしが余計なこと言わなければこうならなかった……ごめん。責任は取るから」

江ノ島さんは去っていく

僅かな赤い光を靡かせて、去っていく

全力でDVDを踏み潰したボクは立つことができず、

呼び止めることもできなかった……


ここまで。

今日は多分終わりです


舞園「立てますか? 苗木君」

苗木「う、うん……ごめん」

ボク一人のチカラでは避けられないほどの驚異

この力があれば大丈夫だと過信していた。

……最悪だ。最低だ。

やっぱりボクは――

舞園「苗木君は私を守ってくれたじゃないですか」

苗木「え……?」

舞園「DVDを見てたら、私はきっと冷静で居られなくなってると思います」

そういう舞園さんは平然を装いながらも、

見なかった外の世界を気にしているようだった

舞園「外の世界を知りたい。でも、だからこそ冷静でいられなければいけないこの場所で。です」

苗木「……見ないって決めたのは舞園さんだよ」

ボクがなにか出来たわけじゃない

ボクはただ無意味にDVDを壊し、疲れきって座り込んでいただけ

舞園「それは違います!」

ビシッという音が聞こえるような勢いで、舞園さんはボクを指差す

舞園「苗木君の一生懸命さを感じたからこそ、情報よりも苗木君を優先したんです。ですから、無意味じゃないですよ」


舞園さんはまたボクの……。

苗木「あはは……超高校級のエスパー、舞園さんには敵わないよ」

思わず笑みが溢れる。

舞園さんは僕を気遣ってくれている。

それだけでなく、本心からボクに対して感謝を述べてくれている。

それをボクは、自分は無力だ無意味だ。と、

卑屈になって否定していたんだ。

舞園「ふふっ、気づいてくれたならそれで良いんです。苗木君は私の……」

舞園さんには珍しく、

中途半端な言葉だった。

言おうかどうか迷って、

でもやっぱり言うのは止めておこうという歯切れの悪い言葉。

舞園「苗木君は私のボディーガードなんですからね」

苗木「護身用からランクアップしてる?」

舞園「ふふっ、少しだけしてますよ。昇格おめでとうございます」

今だけは悲劇を忘れて笑うことができる。

でも、この視聴覚室を出たらそれは一旦終わりにしよう。

逃げずに立ち向かうんだ

苗木「舞園さん、手伝ってくれる?」

舞園「はい、もちろんです」

舞園さんと……江ノ島さんと。みんなと!


ボク達はボクの部屋で集まり、

作戦会議のようなものをすることにした。

ボクと舞園さん。

呆然としていた江ノ島さんだけはDVDを見ていない

なのに、見ていないはずの江ノ島さんは赤い光を帯びていた

そして赤い輝きをしていたDVDを見た全員を警戒する必要もある。

全員には手が回らない。

どうしよう……このままじゃ誰かが――

舞園「苗木君、まずは考えを全部捨ててください」

不意にボクの体が揺らされ、彼女と視線がぶつかった。

苗木「え?」

舞園「いろいろなことを一気に考えるから、一つ一つが甘くなるんです」

舞園さんはニコッと笑う

舞園「二兎を追うものは一兎をも得ず」

苗木「う……」

舞園「どんなことでも必要なのはコツコツと1つずつ全力で。ですよ」

舞園さんは小さい頃からその積み重ねで生きてきて、

その積み重ねで今の大成功を収めたのだろう。

舞園さんの言葉には重みと、強い説得力を感じた

苗木「舞園さんの言う通りだよね……一旦思考をクリアにして、みつけよう。一番優先するべきことを」


今までの経験上、

赤色は緊急警告ではない。はず。

次の危険へのフラグのようなもの

色分けすればこうだ。

・青→安全

・黄→赤へのフラグ、注意報

・赤→次の危険へのフラグ、警告

ようするに、

DVDを見た全員が今すぐ危険。というわけではない……と思う

つまり、優先するべきは――

苗木「江ノ島さんを助けなきゃ」

舞園「……その理由はなんですか?」

苗木「………………」

言うべきだろうか?

ボクには行動の良し悪しの光が見える。なんて。

信じてもらえるだろうか、そんなこと

舞園「私は苗木君を信じます。だから、苗木君は私を信じて下さい。頼ってください」

苗木「ぁ……」

馬鹿だ。大馬鹿だ。

舞園さんはボクを信じて情報を捨ててくれたじゃないか。

今更何をためらう必要があるんだ

信じてもらえるか? じゃない……ボクが舞園さんを信じなくてどうするんだ

苗木「舞園さん。実は――」

ボクは躊躇わず、舞園さんにボクが見える光の話をした


舞園「なるほど……光。ですか」

苗木「うん」

舞園「解りました。江ノ島さんと話に行きましょう」

苗木「うん――え?」

実にあっさりと舞園さんは受け入れてくれた

信じられないような話を、

舞園さんはどうしてこんな簡単に――

舞園「苗木君の言葉だからです。苗木君の言葉なら、実はここが外から守るための要塞だなんて話でも信じちゃいます」

苗木「要塞って……そんなことも信じちゃうの?」

苦笑しながら返すと、

舞園さんは小さく笑った

舞園「それくらいの信頼してるってことですよ」

嬉しかった。ありがたかった

全員が敵と疑わなければいけないようなこの状況で、

ここまで信頼してくれる仲間がいることが。

苗木「ありがとう。ボクも……舞園さん。キミを信じる」

舞園「じゃぁ、江ノ島さんを助けるために!」

ボク達は部屋を出て、江ノ島さんの元へと向かった


苗木「待って、舞園さん」

舞園「見えるんですか?」

苗木「うん、黄色いよ……注意色だ」

赤ではないことはありがたいけど、

江ノ島さんの赤を何度か見ている以上、

黄色でさえもはや警戒色と同義。

舞園「とりあえず、インターホンを押しましょう」

苗木「ボクが押すよ、舞園さんは下がってて」

もしも誰かが飛び出してくるとかなら、

舞園さんが前にいるのは危険すぎる

舞園「気をつけて下さい」

苗木「大丈夫」

インターホンを押した瞬間から一気に緊張が体をほとばしり、

ゴクッと生唾を飲み込む

江ノ島「ん――ぁ、苗木。舞園……どしたの?」

良かった……無事だ

押さないことが悪い事に繋がったのかもしれないな……


苗木「えっと、江ノ島さんが心配だったんだ」

江ノ島「何言ってんのさ、あたしはこの通り元気だし、大丈夫死にはしないって」

あははっと笑う江ノ島さん

本当に何事もなさそうだとホッとする一方、

舞園さんが前へと歩み出た

舞園「笑い事じゃないんです。あんな置き台詞……死にに行くって言ってるようなものじゃないですか」

江ノ島「でもさ、このとおり――」

舞園「江ノ島さん! 今無事でいれば良いわけじゃないんです」

江ノ島「………………」

舞園「これからも、無事でいて欲しいんです。私も苗木君も」

本当はなにか無茶をするつもりだったのだろう、

江ノ島さんは急に表情を暗くし、

俯き気味になってしまった

江ノ島「あたしが均衡を崩しちゃったんだ……だから」

舞園「だから無茶するなんてことは許せません。いずれ崩れることだった。その引き金が江ノ島さんだった」

舞園さんは江ノ島さんの表情を下から覗き込むように身をかがめ、

言葉を続けた

舞園「ただ運が悪かっただけです。だから、無茶なんてしないでください。苗木君が悲しむじゃないですか」

そこでなんでボクを登場させるんだろう

確かに、江ノ島さんが死んだりしたら悲しいけど……


江ノ島「……本当?」

苗木「え?」

江ノ島「ゎ……ぁたしが死んだら悲しんでくれるの?」

ギャルとは思えないような口調。

その素振りに戸惑いながらも、

ボクは彼女を見つめ、首を縦に振る

苗木「当然だよ。ボクたちの仲間だし、まだサバゲーのリベンジしてないじゃないか」

江ノ島「サバゲー……あは。あははははっ」

苗木「えっ」

変なことだったろうか?

正直に言っただけなのに。

そう思うボクに対し、こぼれそうだった涙を拭った江ノ島さんが顔を上げた

江ノ島「負けるつもりなんて……ないっつーの!」

笑顔だった。

舞園さんに負けず劣らずの、

ボクに勇気をくれる、元気をくれる、力をくれる笑み。

舞園「……江ノ島さん、苗木君の部屋に行きましょう」

江ノ島「え?」

苗木「え?」

舞園「ふふっ。私に考えがあります」

舞園さんの考え

それを聞くために、ボク達はまたボクの部屋に集まった


一旦中断。

中断ばっかりでごめん


苗木「それで舞園さん。考えって?」

舞園「一緒に寝ましょう。3人同じ部屋で」

江ノ島「えっ……?」

一緒に寝る?

2人が?

いや、舞園さんは3人って……

舞園さん、江ノ島さん……あとひとりは?

あと一人……えっ

苗木「そ、それはまずいよ!」

江ノ島「う、うん。それはマズいと思うかな……ほら。あたし達は女で、苗木は男なわけで」

舞園「安全のためです。黒幕が各部屋のマスターキーを持っているならどの部屋にでも入れてしまいますから」

たしかに、それは不安だ。

不安だけど……でも。

苗木「やっぱり、それは舞園さんにも、江ノ島さんにも悪いよ」


舞園「……ふふっ。苗木君ならそう言うだろうと思ってました」

舞園さんは予め解っていたかのように答え、

ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべた

舞園「私と江ノ島さんの2人で寝ることにします」

苗木「か、からかったの!?」

舞園「言ったじゃないですか。苗木君をからかうのは楽しいって」

苗木「ひどいよ舞園さん!」

超高校級のアイドルと、超高校級のギャル

そんな2人と一緒に寝るかどうかという話で慌てない男子も、驚かない男子もいないわけがないのに。

そんなボクたちの会話を聞きながら、

苦笑してくれるのは江ノ島さんだった

江ノ島「あんた達良いコンビになると思うよ。超高校級の漫才師。とか」

舞園「あれ? でも、超高校級の漫才師だとソロじゃないですか? そこはコンビ芸人とかどうですか?」

いつの間にか始まる雑談。

考えって結局2人で寝るっていうことだったんだろうか。

でも、それをわざわざボクの部屋でしなくても――

舞園「あ、苗木君。まだ終わりじゃないんです」

苗木「え?」

舞園「部屋を交換しませんか? 私と」

苗木「えっ?」


苗木「どうしてそんなこと……」

舞園「江ノ島さんが許可してくれるなら、江ノ島さんの部屋が一番なんですが……」

江ノ島「そ、それは無理無理無理、絶対ダメ!」

江ノ島さんは全力で拒絶し、

舞園さんは困ったように笑う。

……なるほど。

危険である江ノ島さんの部屋で待機すれば、

もしも黒幕や殺人を行おうとする人がいた時にボクが対処できるから……

でも、この様子じゃ無理かな

苗木「けど、駄目なら交換する意味はないよね?」

舞園「それはそうかもしれないですけど」

舞園さんは言葉を区切り、ボクを見つめた

舞園「DVDを見ず、周りを疑う危ない状態に陥っていない私か江ノ島さんが狙われる可能性が高いと思うんです」

苗木「あ……確かに可能性はある」

舞園「危険ですし、悪いお願いだと思うので嫌なら嫌と――」

ううん、嫌じゃない。

ボクは舞園さんを守ると決めた。

逃げないって決めた

苗木「うん、交換しよう。舞園さんたちの安全を優先させたいからね」


舞園「それじゃ、決まって早々悪いんですけど……一旦部屋を片付けたいんです」

舞園さんは少し気恥ずかしそうに言うと、

ボク達を見渡した

江ノ島「あたしは特にないよ。苗木に見せるわけじゃないし、そもそも荷物とか全部どっかいっちゃったし」

思えば、

着ていた服以外は全部なくなってたんだよね。

黒幕に取られたのは確実だ。

舞園「じゃぁ悪いんですけど、少しだけ部屋の前で待っていて貰えますか?」

苗木「解った。いいかな?」

江ノ島「そんなに時間かけないでくれるならいーけど」

すっかり元の調子の江ノ島さん。

なんとか立ち直らせることができたってことだよね?

舞園「呼ぶ場合はインターホンを苗字の数の間隔を開けたあとに連続で押してください」

苗木「ボクの場合は、3秒、江ノ島さん、舞園さんは4秒だね」

江ノ島「そんな面倒な事する必要あんの?」

舞園「誰が来たか解らないから一応ですよ。夜なんかは特に危ないですから」

舞園さんはそれだけ残して部屋の中へと戻っていった


江ノ島「……苗木」

苗木「なに?」

江ノ島「あたしさ……今までずっと超高校級って呼ばれて調子に乗ってさ。ずっと突っ走ってきたんだよね」

舞園さんがいないからこそなのか、

江ノ島さんはボクに対して何かを口にしようとする

でも、

それは聞くべきではない。と、赤い光が灯り、

ボクと江ノ島さんを包み込んだ

江ノ島「でも、本当にこれでいいのかなーって思う自分がいるんだよね……」

それでも、ボクは止められなかった

彼女の悲しそうな、寂しそうな表情が、

制止させることを拒んでいるような……いや違う。

それはまるで『固定イベント』であるかのように止まることはなかった

どんなことをしてでも避けることのできない、

フラグを完成させてしまったイベントのように、

ボクの制止に対して首を振り、彼女は続けた


夢は成長するたびに変わるものだよね。と、彼女は問う

それなのに、自分はずっと変わらなかった。

自分の夢に迷うことはなかった。と、彼女は言う

止めることのできないイベント

ボクは耳をふさぐことはせず、黙って聞いた

聞くしかなかった

彼女の遺言になる可能性さえあるこのフラグを。

ボクは折れなかった。

回収するしか……なかった。

江ノ島「迷わないこと、ブレないことはいいことだと思ってた。けどさ……」

苗木「………………」

江ノ島「ブレるからこそ可能性が広がって、色んなものが見えて、いろんな可能性が生まれるわけで……」

でも。と、

江ノ島さんは続け、首を横に振る

江ノ島「あたしはそれをしなかった。自分の狭い世界しか見ず、信じてこなかった」


江ノ島「だから……不安なんだよね。本当にこれしかないのかなって。他に出来ることないのかなって」

江ノ島さんは俯き気味の顔を上げ、ボクを見つめる

それは不安と恐れが入り乱れ、

悲しさと悔しさが混ざり込んでいる複雑な表情だった

江ノ島「これってへんかな? 甘えてるのかな……私」

そんな彼女に対し、

ボクは今、自分が考えられる限りの答えを返すことにした。

そうすることで、彼女に会えなくなったボクが余計に苦しむとしても、

最後まで付き合ってあげたかった。

苗木「そんなことはないと思う。ボクだって探してる最中だし……」

夢だけじゃない、

出来ることだってボクは未だに探し続けてるし、

見つけたと思えば失敗ばかりで、その度に舞園さんに助けられて、救われて……でも。

苗木「……その中で解ったのは、見つける見つけないじゃなくて探すことが大事だってこと」

探さなければ気付けなかったことがある。

諦めていたら得られなかったものがある。

救えなかったものだってある。

江ノ島「……苗木、あんたの言うとおりかもね」

気落ちしていくボクとは対照的に、彼女は小さく笑った


江ノ島「迷って上等、探し続けて上等、探さないでいるよりは幸せになれる!」

彼女は言う。

ボクの考えから導いた彼女自身の答えを。

でも、違う。

それだけじゃ、ダメだ

もっと早くボクは気づいているべきだった。

出来ることを探して悩むだけじゃダメなんだって

それで見つけた答えを自分一人で頑張ろうだなんて愚かな事なんだって。

そんな考えだったから、

ボクは動機の提示を止められなくて、舞園さんまで絶望させてしまうところだったんだから。

でも、そうならなかった。

愚かなボクを彼女は信じてくれていたから。

そんな彼女が言ってくれた、本当に大切な言葉

『私は苗木君を信じます。だから、苗木君は私を信じて下さい。頼ってください』

苗木「江ノ島さん……ボクはキミを信じる。だから江ノ島さんもボクを信じて、頼って欲しい」

江ノ島「苗木……」

苗木「1人で探すより、2人で探そう。その方が。絶対に幸せになれるから」

ボクの言葉が正しかったのかはわからない。

それでも……恐怖と不安を残して赤い光は消えた。


江ノ島「……ありがと。苗木」

気恥ずかしそうに頬をかきながら、

江ノ島さんは目をそらしてそう呟く

その姿には『超高校級のギャル』というものは感じられなかった

本当に迷っているんだろう。

自分がどうあるべきか。

思えば、サバゲー好きで、銃が好きで

ギャルというよりミリタリーマニア的な雰囲気があるし。

自分の趣味に素直になりたかったのかな……

舞園「おまたせしまし――あれ?」

苗木「お、お帰り。もう平気なの?」

舞園「もともとそこまで散らかっていたわけじゃないので……それより、何かあったんですか?」

江ノ島「え?」

舞園さんの瞳がボクらを捉え、じぃっと見つめる

舞園「ふふっ。仲良きことは美しきかな。ですね。でも、私もいるんですからね?」

彼女は聞かずとも察したようにそう呟く

江ノ島「ありがと、じゃぁ早速だけど。お腹すいたし何か作ってくれちゃったりしてくれるのかな?」

にやっと笑って江ノ島さんが言うと、舞園さんはくすっと笑う

舞園「はいはい。私は苗木君の助手ですから。美味しいの作って見せますよ」

仲のいい女子の会話。

もしかしたら消えてしまうその中の一人、江ノ島さん。

ボクはもうどうすることもできないのかな……

このまま、江ノ島さんを殺されちゃうのかな……。

嫌な思考を振り払い、ボクは2人について食堂へと向かった


結局。

江ノ島さんは夜時間になっても死ぬことはなく、

それどころか狙われることさえなかった

苗木「良かったよ、無事で」

舞園「まだ初日です。安心はできませんよ」

江ノ島「それじゃおやすみ。苗木」

舞園「おやすみなさい、苗木君」

この2人にお休み。と言ってもらえるなんて、

男子としてはかなり……と、

昼間も似たような思考に陥ったような……

そんな平和ボケしていると言えなくもないボクの腕を、舞園さんが引いた

苗木「うわっ」

江ノ島「!」

舞園「……枕カバーの中」

ぼそっと舞園さんはつぶやき、

またしてもいたずらっぽい笑みを浮かべた

舞園「お休みのキスするかと思いました? ふふっお休みなさい」

江ノ島「ちょっ、今のはやり過ぎでしょ……」

呆然とするボクを残して2人は部屋へと消えていった


ここまで。

舞園さんはアイドルだから……


苗木「……さて」

枕カバーの中って舞園さんは言ってたよね

知るべき……こと。なのかな

舞園さんのくれた情報は青でもなく、赤でもなく。

そのどちらか不明瞭な黄色

舞園さんはボクを信じてくれている

その舞園さんが与えてくれる情報

見ないわけにはいかないよね

防犯カメラの死角になるようにベッドに寝そべると、

舞園さんが寝ていたということもあって、

その香りに誘惑される……けど。

苗木「今は喜んでる場合じゃない」

チャックをあけ、枕カバーの中へと手を忍ばせる

見つけたのは、

備え付けのメモ帳の切れ端だった


苗木「……え?」

思わず声を洩らしてしまうような内容。

それは大切な仲間であり、

現在進行形で舞園さんが2人きりになっている、江ノ島さんについての内容。

《江ノ島さんは江ノ島さんであって江ノ島さんじゃないと思います》

どういうことだろう?

江ノ島さんであって江ノ島さんではない……?

つまり、江ノ島さんに見せかけた偽物?

さすがエスパーというべきか、

僕の疑問に答えるように、

裏面にそれは書かれていた

《江ノ島さんの偽物かもしれません。少なくとも、雑誌の江ノ島さんと目の前の江ノ島さんは同一人物ではないと思います》

どうして。と問う

そしてやっぱり彼女は答えを残し、

《理由はギャルらしくないこと。雑誌との編集とは思えない違いなど確実な証拠とは言えませんから。一応お伝えするだけです》

メモはそこで終わっていた


江ノ島さんが偽物?

だとしたら、あの江ノ島さんは一体誰なんだろう?

……疑う。のか?

舞園さんは疑えって言ってるのか……?

苗木「いや、そうじゃない」

舞園さんはそんなことは望まない

だからこそ、

確実じゃない。一応伝えるだけ。なんていう風に付け足したんだ

普通なら注意してくださいって言うはずなんだ。

苗木「ボクは信じるよ」

彼女が誰であろうと、

ボクが知る江ノ島さんはあの江ノ島さんだ

江ノ島という名前が変わるだけで、それ以外は何も変わらない。

あの言葉も、あの涙も、あの笑顔も。全部あの子の本心だ。だから……

ボクは江ノ島さんの言葉を待つよ、舞園さん。

キミもそのつもりなんだよね?

目をつぶると、頭に浮かぶのは彼女たちの笑顔。

ボクが守るべき大切な――……思考は闇に染まり、

ボクはゆっくりと、小さな寝息を立てて眠る……。


早く寝たせいか、

時計はまだ6時になったばかり

だというのに目を覚ましてしまった

苗木「舞園さん達は確実に寝てるよね……っと」

黄色い光が扉を包む

……黄色は注意

でもいい方向に行くかもしれないし、

黄色はまだ大丈夫のはず。

希望を抱きつつ扉を開けたボクの視界に映ったのは、

大神さんと朝日奈さんだった

苗木「あ、おは――」

ちょっと待った

ボクは今誰の部屋から出てきてるんだっけ

考える必要……あるかな

朝日奈「おはよう、 苗木もトレーニングする?」

苗木「え、あ……その」

大神「不安で寝付けなかったのだろう? 体を動かせば自然と眠ることができるはずだ」

気づいて……ない?

慌てて扉のパネルを確認すると、

なぜかマイゾノからナエギに変わっていた。

昨日の夜、2人が変えておいてくれたんだろうか……ありがとう


朝日奈「ねぇ、どうかな。一緒にやらない?」

苗木「ボ、ボクがいても足手纏いにならないかな?」

超高校級のスイマーと、超高校級の格闘家

その2人のトレーニングにただの一般人のボクが付き合う?

付き合ったら多分……死ぬよね

そんな不安で首を横に振ると、

大神は朝日奈さんを見つめた

大神「強制は止めておいた方が良い……我らと苗木では身体能力が違うのだからな」

朝日奈「でも……合わせるからさ。ね? 1人よりも2人。2人よりも3人だと思うでしょ? ね!」

朝日奈さんはきっと気遣ってくれているんだ

あのDVDを見た内の一人だっていうのに、

自分だけでなく、周りのことを考えて……。

苗木「うん、解った。遅いかもしれないけど頑張るよ」

大神「ふむ……無理だと感じたらすぐに申し出て欲しい。我が部屋まで運ぼう」

大神さんって女の子……だよね?


わかっていたよ、うん。

ほら、はじめから言ったよね?

付き合ったら多分死ぬって

でも、手加減してくれたおかげで死ぬことはなかったんだ。

ボクってやっぱり幸運だ……そうかなぁ?

大神「すまぬ……我らが勝手に盛り上がったせいで」

朝日奈「湿布とか探して持ってきてあげるからね!」

ボクは結局途中でリタイアした

リタイアといっても、

酸欠に近い感じで倒れたのであって、

自主的に抜けられたわけじゃなかったり……ともかく。

大神さんに部屋まで運んでもらうという男子としては情けない形で彼女たちとのトレーニングは終わった。

そして……

湿布を取りに行った朝日奈さん。

残ったのはボクと大神さん。

……気不味い


大神「……苗木よ」

苗木「な、なに……かな?」

大柄である大神さんを、

立った状態でさえ見上げるしかないボクは、

今現在ベッドに横になったまま見上げるという怖さ2割増の状況にいた

そのせいか、声が意図せず震えてしまう

大神「お主は誰かを殺す気はあるか?」

苗木「え?」

大神「ここから出たいと思い、そのためならば誰かを殺める勇気はあるか?」

大神さんの真面目な問い

ボクは体を起こし、首を振る

苗木「誰かを守る勇気しかボクは持ってないよ」

大神「……外にいる自分の家族の安否を知りたいとは思わぬのか?」

苗木「思うよ……それは。でも……人を殺してまで知りたくない」

なにより、妹たちがそれを望まないだろうし。

苗木「それに、守るって、助けるって心に誓った人達がいるんだ」

大神「そうか……強いのだな。お主は」

大神さんはふっ……と笑う

何か意味があるような気がした。

でも、解らない、察することのできない僕には追求することはできない。

朝日奈「戻ったよー」

大神「うむ、では、苗木よ足を出せ」

朝日奈「えへへ~ついでにマッサージしてあげるからね~」

朝日奈さんの優しくも強いマッサージを受けながら、

ボクはその心地よさに誘われ……2度目の眠りについてしまった


時間なので今日は終わりです

誤字脱字が見え見え隠れ見え見えになってきましたが、見逃してください


舞園「おはよう、苗木君」

苗木「……おはよう舞園さ……舞園さん!?」

慌てて飛び起きると、

舞園さんだけでなく、

江ノ島さんの姿も見えた

江ノ島「遅いっつーの。しかもあたしのこと眼中に入ってなかったみたいだしぃ」

なぜかちょっと怒ってる?

ボクが起きるの遅かったせいだろうか。

時間はもう、モノクマの起床放送のある7時を過ぎ、

9時を回っていた

苗木「ごめん……朝早く起きてさ。朝日奈さんたちのトレーニングに付き合ったんだ」

舞園「聞いてますよ。頑張ってたって」

江ノ島「でも途中でダウンしちゃうあたり苗木だよねぇ」

舞園さんとは別の意味で笑う江ノ島さん

幸せそうだ。

けど……キミはまだ探してるのかな、迷っているのかな。

江ノ島「な、なにじっと見てんのよ! あんたは!」

黄色い光が見えた。と、

気づいた瞬間にはもう、左頬に加えられた衝撃で、

ボクは右側へと視点移動していた

苗木「っ!」

叩かれた頬が痛む。

しかも割と痛い。割とというか……尋常じゃなく痛い


江ノ島「あっご、ごめん! ちょっとやりすぎた……」

苗木「あ、あはは……いや、ボクが悪いし」

いつもの江ノ島さんと変わりはない。

ギャルっぽかったり、

そうじゃなさそうだったりする彼女だ。

ボクを気にかける江ノ島さんと、江ノ島さんを気にかけるボク

舞園「ふふっ、仲がイイみたいで何よりです」

その間に声が割って入った

江ノ島「はぁ!? こんなひょろいのはちょっと……」

舞園「別にそこまでは言ってな――」

江ノ島「わーっ!」

苗木「?」

昨夜にはボク抜きで何か話でもしたんだろうか。

かなり仲良くなっている気がする

舞園「ふふっとりあえず初日はクリアですね」

舞園さんが苦笑しつつ言うと、江ノ島さんは少し不服そうにしながらも、

舞園さんの話に言葉をつなげた

江ノ島「あぁ……そうだね。話しとくけど、今のところ全員生存確認済みだからって言っても……ねぇ?」

江ノ島さんは意味ありげに言葉を区切ると、舞園さんと顔を見合わせた


苗木「何かあったの?」

舞園「あったわけじゃないんです。むしろ……何もなかったんです」

苗木「どういうこと?」

ボクの疑問に答えたのは、江ノ島さんだった

江ノ島「朝日奈と大神の組はともかく、みんな疑い合ってるというか、警戒し合ってるっていうか……」

苗木「つまり?」

舞園「にらみ合って互いに動こうとしないんです。食事は全員……だったんですが、いなくてよかったですよ」

舞園さんの困った表情からも伺うことのできるその場の空気

ギスギスした重苦しい空気だったってことだ。

それもそうだ。

真っ赤な警告を示すDVDを見たみんなが、

今まで通り平然と過ごせるわけがないんだから。

江ノ島「でも、霧切とか、セレスとか。平然としてんのもいたけどねー。かなり少数の変わり者だけどさ」

苗木「……そっか」

変わり者……なのかな。

いや、DVDをみて平然としてるなら変わり者かもしれないけど、

でも、冷静でいられない他の人よりは取り付く島くらいありそうだ


舞園「そうですね、まずはそういう人たちに話を聞いてみたほうがいいかもしれませんね」

苗木「う~ん……慣れてしまった」

舞園さんに対して何も言っていないのに、

疑問に答えてくれる舞園さん

もう何かいうことさえ必要ない気がしてくる

江ノ島「なぁに以心伝心してんのさ! どうせあたしは高校からの付き合いだよ!」

舞園「そ、そんな怒らないでください。私が超高校級の超能力者だから出来るだけなんですから」

江ノ島「嘘っマジで? 他に何かできんの? 浮いたりとか!」

舞園「ふふっ冗談ですけどね」

江ノ島「えっ」

舞園さんがボクをからかっている時ってこういう気持ちなんだろうか。

だとしたら……うん。解るよ。

江ノ島さんが笑ったり驚いたりして、嘘だって言ったら唖然として

……確かに。面白い。

でも、江ノ島さんってなんていうか……純粋っぽいし。

苗木「舞園さん、程ほどにね?」

舞園「ふふっ解ってますよ」

解っててもやめてくれなそう……頑張れ。江ノ島さん!


今日はちょっと無理……ここまでにします


葉隠「台風は東京からそれるべ! 俺の占いは3割当たる!」


舞園「苗木君、まず朝食を食べちゃいましょう」

苗木「舞園さん達は食べちゃったんだよね?」

江ノ島「あんな空気で食べてられないって。喉通らないよ」

それにたいして、舞園さんが笑う

舞園「ふふっ」

江ノ島「何よ、何笑ってんのよ!」

舞園「いいえ~。別に何でもないですよ~?」

新しいおもちゃを与えられた子供のように、

嬉しそうに笑う。

江ノ島さんはその理由がわかっているのか、

言葉では怒りを示しつつも、

本気ではなく、じゃれているような感じで。

幸せそうな感じだった……けど。

今一番危険なのは江ノ島さん。

ボクは、ボク達は……いや。

守れるか守れないかじゃない。守るんだ


舞園「苗木君、大丈夫ですか?」

苗木「うん、平気」

食堂には警告も注意もなし

舞園「なら、行きましょう」

江ノ島「歩けなくなったらあつぃがおんぶしたげるからね?」

苗木「それはさすがに……」

男としてのプライドが傷つくっていうか……

そもそも、江ノ島さんにオンブできるのかな、ボク

そんなに重くはないとは言え、江ノ島さん女の子だし

江ノ島「あはは、冗談だよ。あたしがそんなことするわけないっつーの」

苗木「冗談じゃなくてもして貰うわけにはいかないけどね。ボクだって男なんだから」

江ノ島「ふ~ん」

にやっと笑う江ノ島さんはなんだか怪しい

江ノ島「苗木って男なんだ」

苗木「っそ、それはひどくないかな!?」

江ノ島「ごめんね、ごめんね~っ」

笑いながら、舞園さんとともに食堂の奥。調理場へと消えていく

ひ弱そうに見えるのは否定できないけどさ……はぁ。

それが否定できない時点でなんだか悲しくなる


桑田「……見せつけてくれるじゃねーか」

苗木「っ!」

声が聞こえ、慌てて視線を向ける

光が見えないからって気を抜いてしまっていた……?

いや、光が見えないってことは危険がないってことだけど、でも。

苗木「……桑田君も食べてないの?」

桑田「いや、食った。苗木に話があっから待ってたんだよ」

苗木「ボクに……?」

赤い光はない。

黄色い光もない。

桑田「この前はなんつーかよぉ……悪かったな。嫉妬してたんだよ。あの2人ってスペックたけーじゃん?」

彼は笑いながら頭をかき、

ボクの返答を待つことなく話を続けた

桑田「だからよ、ちょっと頭に血が昇っちまったんだ。許してくんね?」

そっか……彼も恐いんだ

殺される可能性は僅かなものだって消したいんだね……


苗木「ううん、ボクこそちょっときつい言い方だったし」

桑田「まっ紹介されなくても、自力でなんとかできちまうのがオレだからよ」

ハハハッと彼は笑う。

でも、舞園さんは……いや。うん。

知らないほうがいいことだってあると思うんだよね。

桑田「つーわけで、今後とも仲良く行こうぜ。な?」

苗木「そうだね、ここから出るためにはみんなの団結は不可欠だから」

桑田「おうっ! じゃ、用も済んだしいくわ。オメーは後ろから刺されないように気をつけろよ」

最後に怖いことを言い残し、桑田君は食堂から出ていく

後ろから刺されるってそんなことあるのかな。

あるとしても、赤い光が見えたりするだろうし、

大丈夫だとは思うけど……。

江ノ島「お待たせ~」

舞園「お待たせしちゃいましたね」

苗木「う、ううん……」

超高校級のアイドルとギャルの手料理……たしかに。

確かに、恨まれて後ろから刺されるかもしれないな……


朝はここまで


江ノ島「ねぇ、2人はさぁ……」

舞園「はい?」

苗木「ん?」

真剣な表情、真剣な声

江ノ島さんは食事を止め、呟くように聞いてきた

江ノ島「ここから出たいよね?」

それは当然な答えしかない。

選択肢があるようでない、二者択一の質問。

舞園「それはもちろん出たいです。みんなのことも心配ですから」

苗木「………………」

赤い光の一線が浮かぶ。

ボクの言葉が彼女を殺す?

江ノ島「苗木は?」

苗木「っ……」

黙り込むことは江ノ島さんを傷つけてしまう……


苗木「……どうして、そんなことを聞くの?」

江ノ島「ただちょっと気になって……」

違う。

ボクには舞園さんみたいなことは出来ないけど、

でも……江ノ島さんはただ気になったからってだけじゃない

そう思えた

舞園「江ノ島さん。無茶とかしませんよね?」

ボクの不安を感じ取ったのか、

舞園さんが代わりに訊ね、鋭く見つめる

江ノ島「あははっそんなわけないって。あたしに無茶なんて合わないし」

舞園「でも、なんか無茶しそうな顔してますよ?」

江ノ島「疑いすぎだっつーの」

彼女はそう言いつつ、

物悲しげな様子でボクを見つめた


江ノ島「ただ……あたしにも何か出来ることあればなって思っただけでさ」

苗木「江ノ島さん……」

ボクらは彼女が危険であると知っている。

でも、江ノ島さん自身がそれを知らない

言うべきなんだろうか。危険だと

誰かに。

または黒幕に殺される可能性があるって――っ!

考えただけで、

赤い光が頭を破裂させそうな程激しく頭の中で輝き、

その影響は視界にまで影響し、

苗木「っ!?」

江ノ島「な、苗木!?」

突然の衝撃に倒れこみかけたボクは、

江ノ島さんによって支えられた

苗木「だ、大丈夫……大丈夫だから」

黒幕に殺される可能性があると伝えることが危険なんて……

そんなこと、ありえるのか……?

未だにズキズキと痛む頭を抑え、江ノ島さんを見つめる

江ノ島さんは偽物の可能性がある。

それと何か関係あるんだろうか……

舞園「部屋に戻りましょう。苗木君、歩けますか?」

苗木「うん。大丈夫」

舞園さんには話すべき……だろうけど。

そうするには江ノ島さんを欺かなくちゃいけない


江ノ島「料理がダメだったのかな……?」

舞園「そんなことはないかと……味見もしましたし、ちゃんとした材料を使ったんですから」

ベッドで横になるボクを心配そうに囲い、

2人はボクが倒れかけた原因を話す。

舞園さんは多分解ってる

でも、江ノ島産には解らない。

ボクが光が見えることも、

江ノ島さんが現状もっとも危険であることも、

何も知らない。

何も教えていない……。

江ノ島「で、でもさ……それ以外考えられないじゃん。あたしが余計なことしなきゃ……」

舞園「大丈夫です! 私も江ノ島さんも平気じゃないですか」

江ノ島「それはそうだけど……」

不安そうに彼女は呟く

いつまでも黙ってるわけにはいかないよね……。


ボクはそれを口にはせず、

ただ舞園さんに視線を向ける。

舞園「はい」

苗木「あはは……だよね」

たったそれだけで十分なのだから、

舞園さんは本当にエスパーだと思うし、

最高の助手だって思える

舞園「ふふっ」

江ノ島「ちょ、なんなの? ドッキリとかだったらあたし許さないからね? 本気で心配してるっていうのにさ!」

とか言いつつ安心しそうな表情。

ボクらは思わず笑ってしまった

江ノ島「何よ! 馬鹿にしてんの!?」

苗木「う、ううん。違うんだ。江ノ島さんがなんていうか……判りやすいから」

江ノ島「えっ?」

舞園「嘘とかあんまり合わなそうですから、止めた方が良いですね」

舞園さんに笑われながら言われたことがちょっと悲しかったのか、

江ノ島「マ、マジで……?」

少し表情を暗くし、小さく呟いた


苗木「……あのさ、江ノ島さん」

江ノ島「な、なに?」

次は何を言われるのかと気になって仕方がないのか、

彼女はピクッと体を震わせ、

ボクを食い入るように見つめた

苗木「実は話してないことがあるんだ」

江ノ島「話してないこと?」

舞園「………………」

舞園さんは見られても首を縦に振るだけで、

ボクを見つめ、彼女の視線を誘導した

苗木「信じられないかもしれないけど、ボクには光が見えるんだ」

江ノ島「そんなの誰だって見えるでしょ? ま、まさか死兆星とか?」

苗木「ここって室内だよね?」

江ノ島「そ、そっか。そうだね、あははは……」

照れくさそうに彼女は笑う。

そんな彼女に対し、ボクは真剣に告げた

ボクが見える3色の光。その意味を。

そして……江ノ島さんが今、もっとも多くのレッドフラグを回収してしまっている。ということを。


江ノ島「そ、そんなオカルトありえないっつーの」

舞園「でも、実際。私はそれでDVDから逃れましたし、あの不可解なDVD破壊の意味も納得できますよね?」

江ノ島「だ、だって光でしょ? それで危険か安全か判るなんてさ……普通あり得ないって!」

この反応が一番正しいのはわかる。

舞園さんの反応がありえなかっただけで、

江ノ島さんみたいな反応が普通なんだって。

でも、信じてもらわなきゃ困るんだ

苗木「江ノ島さん、ボクを殴って」

江ノ島「え?」

苗木「ボクはそれを避けるよ」

江ノ島「な、何言ってんの!? あんた倒れかけたじゃん!」

彼女はボクを心配しえくれているからそういう。

でも、ボクだってキミが心配なんだ。不安なんだ。

だから……なんとしてでもボクのこれを本物だって信じてもらわなきゃいけない

苗木「そんなボクがキミのパンチをよけられたら凄いって思わない?」

江ノ島「そりゃ……あたしは普通の人よりもアレだけど……でも。無理! 万が一のことがあったら嫌だし」

苗木「そっか……キミが駄目なら大神さんにやって貰うよ」

ベッドから降りた瞬間、江ノ島さんに止められてしまった

江ノ島「それこそ死ぬってば! 解った、わかったよ! あたしが殴る、それでいいんだよね!? 馬鹿!」


江ノ島さんのフォームは、

素人の目で見てるとしても見事と言わざるを得なかった

まるでプロボクサーとか、

格闘家のように、しっかりとした構え

やっぱり、超高校級のミリタリーマニアとかだったりするんじゃないだろうか

江ノ島「……行くよ? 本当に避けるんだよね?」

苗木「うん、ボクを信じて欲しい」

あとは体がそれに反応できるかどうかだ

とはいえ……桑田君のに反応できたんだ

できないとは――……って。

思えばあの平手打ちには反応できなかったような……

苗木「っ!?」

江ノ島「どうなってもしんないからね! せ、責任は取るけど……」

彼女がボクを見つめる。

狩人のような瞳……でも、見える。光が見える。

一撃必殺に近いのか、赤い光がボクの顔の数ミリ横に輝き、

それは次第にボクの腕へと向かっていき、

部分的問題からか、黄色い光へと変わって止まった

ここまで中断します


その見とれかねない姿に気を取られていたら、

きっと一瞬で殴り飛ばされる

舞園「苗木君……信じてます」

苗木「うん」

彼女は不安そうにしながらも、

ボクへとそう言葉を投げかける

大丈夫。大丈夫だ。

こんなところで失敗なんかできない

江ノ島「ふぅ――……」

深い呼吸

江ノ島さんの姿勢が僅かに低くなった。瞬間、

黄色い光は赤へと変わった

苗木「っ!」

慌てて逸らした部分を、拳が横切り風が吹く

江ノ島「っ!? ならっ!」

苗木「ちょっ――」

あの速さの拳は受け止められないのは確実

躱すしかないというのに……2箇所に赤い光が迸った


1発目を躱し、

2発目が服をかすって後方へと消えていく

苗木「江ノ島さんっ!」

江ノ島「苗木くんなんかにっ!」

見て避けるのは不可能な速度

赤い光が出てからほんの数秒で繰り出される拳は、

1度なら確実。

苗木「もう無理だよ!」

2度ならなんとか、3度目ならギリギリ

そこまでは行ける。

でもさ、ボクはそんな激しい運動に耐えられるわけはないし、

朝のトレーニングが祟ったのだろう

江ノ島「ふ――っ!」

苗木「っ!」

江ノ島さんの4度目の鋭い拳は、

見事ボクの腹部にめり込んだ

苗木「えぐっ!?」

江ノ島「っしゃ――……ってあぁっ! ご、ごめん!」


舞園「しゃ、喋っちゃダメですよ!? 江ノ島さん、謝ってください!」

江ノ島「ご、ごめんね! く、悔しくて……ゎたあたし、その……とにかくごめん!」

今朝食べたものをリバースしてしまいそうな、

この這い上がってくる感覚

苗木「っ……っ!」

江ノ島「ごめん……本当にごめん……」

床にしゃがみ込むボクに対し、彼女は深く頭を下げた

そんな懇願する彼女に対して、

ボクは何も返せない

いま口を開けば間違いなく中身をぶちまける

脳内アナウンスが、

『まもなく、喉仏、喉仏。です』

と、どこかの放送のように頭に響く

時間が経ってもお腹の痛みは引かない。でも、

昇ってきていたそれらは段々と下降していった


それが元の位置にまで戻ってきてようやく、

僕は小さい呼吸だけを許された

苗木「きょ、強烈……だった……」

舞園「……冷やした方がいいのかな。でも、冷やしたらお腹壊しちゃいますよね……?」

舞園さんは必死に思考を巡らせながらも、

背中を撫でる優しい手は止まらない

正直、それだけで十分と言えてしまうほど、

心地いいものだった

江ノ島「え、えっと……とりあえず、まだ、痛い……?」

苗木「う、うん」

江ノ島「だったら、苗木が楽な姿勢に……吐き気がないなら横になった方が……」

江ノ島さんの指示に従って体勢を調節し、

ベッドへと横になった

江ノ島「ごめん苗木……一応、手加減はしたけどさ……あはは……はは」

傷みもだいぶ引いてきたから内蔵とかまでは響かなかった……はず。

舞園「笑い事じゃないんですよ?」

江ノ島「本当にごめん……」

かなり反省しているみたいだし、

許してあげてもいいんじゃないかな……言いだしたのは僕だし


舞園「それは……うぅ。止められなかった私にも責任はありますから……」

舞園さんは察したようにそう答えると、

ボクへと視線を移し、頷いた

舞園「苗木君に判断は任せます」

苗木「ありがと……」

小さく笑い、江ノ島さんを見つめる

俯いてはいても、

ベッドに横になったボクからは、

立っている江ノ島さんの表情を見ることはできるわけで。

その瞳がボクを見て、ぎゅっと瞑られ、

江ノ島「ごめん、なんでもするから許して……ね? もう関わらないとかそういうの意外なら……」

彼女の瞼が開かれ、懇願するような瞳がボクを捉えた

江ノ島「なんなら殴ってもいいから! ほら、甘んじて受けるから!」

舞園「苗木君がそんなことするはずないじゃないですか」

江ノ島「わ、解ってるけどさ! 謝るだけじゃだめだって思うってゆーか……その、ごめん」


本当に反省しているみたいだし、

正直言って江ノ島さんを殴るとか、

それ以前に女の子を殴るなんていうのは論外だ

でも……そうだなぁ

苗木「江ノ島さん、そのなんでもっていう命令権は維持でいいかな?」

江ノ島「えっ?」

舞園「え……え?」

苗木「キミが無茶をしようとしたとき、その絶対命令を聞いてくれる?」

光は見えないけれど、

こういう万能な切り札は残しておいたほうが良いはず。

江ノ島「わ、解った。仕方ないしね……で、でも! あたしこーみえて貞操観念強いっつーか……そういうのは受け付けないから!」

苗木「解ってるよ。キミを止めるための切り札だからね。そんなことには使えないよ」

真面目にそう返したのに、

江ノ島さんは少しだけ残念そうな気がしたのは……気のせいだろう


舞園「とにかく、今日は絶対安静ですよ?」

苗木「うん、ごめん」

江ノ島「舞園は部屋を出ていいからね? あたしのせいだし、苗木の面倒はあたしが見とくから」

舞園「ふふっ。お願いしちゃっても良いですか?」

その確認でなんでボクを見るのか。

返事を待たずに彼女はもう一度笑った

舞園「飲み物持ってきますね?」

苗木「うん、大丈夫」

舞園さんの言動に光はなく、

安全であることは明確

それを確認し、舞園さんは部屋を出ていった

江ノ島「………………」

苗木「……………」

江ノ島「……な、なんかして欲しいことある? あんなら特別にあたしがやってあげるよ」

江ノ島さんはそう言ってくれたけれど、

この何もない部屋ではして貰うようなものはなかったりする……話でもしようかな


とりあえずここまでです

江ノ島さんへの絶対命令権……


  ..三<(^o^)>  <(^o^)>  <(^o^)>  <(^o^)> <(^o^)>  三
 ..三   ( )    ( )    ( )    ( )   ( )  三
..三   //   //   //   //  // 三

ソレガキミノキボウカイ?  ソレガキミノキボウカイ? ソレガキミノキボウカイ?
..三   <(^o^)> <(^o^)>  <(^o^)>  <(^o^)> <(^o^)> 三
 .三    ( )    ( )    ( )    ( )    ( )    三 
  ..三   \\   \\   \\   \\    \\    三
      ソレガキミノキボウカイ?     ソレガキミノキボウカイ?

  ..三<(^o^)> <(^o^)>  <(^o^)>  <(^o^)> <(^o^)>  三
 ..三   ( )    ( )    ( )    ( )   ( )  三
..三   //   //   //   //  // 三

ソレガキミノキボウカイ? ソレガキミノキボウカイ? キボウハマエニススムンダ!


舞園さんの考えでは、

目の前の江ノ島さんは江ノ島さんではなく、

別の誰か。らしい。

もっともそれは推測の域を出ない可能性でしかないらしいけど、

超高校級のギャルらしからぬ言動を省みるに、

その可能性は意外と高いのかもしれない。

でも……その指摘は許されないらしい

その確認を考えただけで、

彼女が赤く染まっていく……いや。

これは多分、ボクが赤く染まって視界が赤くなっているという線もある。

つまり危険なのはボクであり、江ノ島さんでもあるということ。

江ノ島「っ……なんなのよ。あんた」

苗木「えっ?」

彼女は不意に自分の体を守るように抱きしめた


江ノ島「い、言ってあるけど! あたしは軽くないから!」

苗木「い、いやいやいや、何考えてるのか解らないけどその考えは違うよ!」

江ノ島「じゃぁなんであたしのことじっと見てたのさ……」

苗木「それは……」

君の正体が気になったから。

なんて馬鹿げたこと言えるわけないし……

答えに迷った瞬間、

黄色い注意光が煌き、

苗木「モノクマ!」

やっぱりモノクマが現れた

モノクマ「おやおや。もしかして隠れて交際ですか? 舞園さんに隠れて2人でキャッキャウフフですか!?」

江ノ島「ち、違うって!」

モノクマ「別に先生に隠す必要はないのです。先生には全てお見通しなのですから。うぷぷぷぷっ」

江ノ島「っ……」

江ノ島さんは慌てて防犯カメラを見つめ、ボクを見つめ、モノクマを見つめた

モノクマ「うぷぷぷっ実にラブラブな雰囲気でしたねぇ。江ノ島さん」

江ノ島「そ、そんなんじゃないっつーの!」


モノクマの目的は何だ?

なんでこんなところに来たんだ?

ボク達を茶化すため?

いや、それならボクにだって言葉を向けたっていい

なのに、江ノ島さんにばかり集中してるのはまさか……

モノクマ「でも、見られて嬉しそうでしたよね~? 女としてみて貰えてる~みたいに」

江ノ島「ぅ、うるさい……出てって!」

彼女にしては珍しく、

本当の怒りの篭っているような怒鳴り声

モノクマ「怒った! 江ノ島さんが怒ってるよ~助けて苗木く~ん!」

江ノ島「いいから早く出てってって言ってんの!」

モノクマ「はぁ……仕方ないなぁ。僕はカメラで我慢するとするよぅ」

モノクマはそう言い残し、去っていく

江ノ島さんはそれを確認すると、小さくため息をついた


モノクマは完全に江ノ島さんを煽ってた……。

彼女の言動が気に食わなかったんだろうか?

江ノ島「……引いた?」

苗木「ううん、全然そんなことないよ」

そもそも、

怒る場面を見たからって引くなら、

ミリタリー趣味っぽいのを露見した時点で引いてる……とは。

言わないでおいて上げるのが優しさだよね

苗木「あのさ……江ノ島さん」

江ノ島「な、なに?」

苗木「……モノクマに手を出しちゃダメだよ? 当然足も」

江ノ島「え?」

モノクマの目的は解らないけど、

掲示板とかだって煽る目的は相手を怒らせることにある

怒れば怒るほどに理性は損なわれていく

そして暴力を振るってしまう可能性がある。

ここの場合はそれは校則違反としてオシオキされる。

苗木「校則違反は絶対にダメだ」

江ノ島「解ってるって、そのくらい……」


江ノ島「あたしだってそこまで馬鹿じゃないし」

苗木「それは知ってるよ、でも……注意して欲しい」

今一番死ぬ可能性が高いのは江ノ島さん。

そして、モノクマは彼女を煽ってきた……つまり。

黒幕が狙っているのは江ノ島さんだって可能性が高い。

江ノ島「な、なんていうか……あたしのこと心配してんの?」

苗木「え?」

なんで彼女はそんな驚いて言うんだろう?

いや、驚いているというよりも、

少し焦っているようにも見える

苗木「当たり前だよ! 大事な仲間なんだから!」

正直な僕の答え、対する答えは苦笑

江ノ島「あははっあたしに殴られて解んなかった? 超強いんだよ? あたし」

それはわかってる。

身に染みて解ってる……でも。

苗木「江ノ島さんを心配するのに強いとか弱いとか関係ないよ。キミは大事な仲間なんだから」

江ノ島「っ……仲間……」

彼女は喜ぶこともなく、

少し複雑そうな表情でボクに背を向けてしまった


仲間というワードでなんで暗くなってしまうのか、

ボクには分からず、

かと言って追求することもできず。

しばらくの沈黙の後に彼女が笑った

江ノ島「……なんなの苗木ってば。ちょっとかっこいいコト言っちゃったってやつ?」

苗木「い、いや……ボクは真面目に――」

江ノ島「解ってる」

苗木「え?」

江ノ島「苗木が真面目だって……解ってる」

そう言いつつ、

彼女はにやにやと笑いながら振り向く

江ノ島「でもさ、しょーじき苗木にはそんな台詞似合わないっていうか……ねぇ?」

嘘っぽいと思った

彼女は作り物っぽい笑顔でそう言った。ような気がした

自信はない。だけど、

勇気をくれる、元気をくれる。そんな温かいものではないとなんとなく感じた。


苗木「酷いなぁ……」

江ノ島「でも、嬉しいよ」

そして打って変わった暖かな笑顔

江ノ島「あたしは超高校級って肩書きのせいかさ……いつも独りだったからさ」

苗木「そ、そうなの? 江ノ島さんくらいの人だったらたくさん――」

江ノ島「でもそうじゃない。確かにあたしの肩書きとか能力とかを期待する人間はたくさんいたよ」

江ノ島さんは少し遠くを見ているような感じで、

それがボクには儚い女の子のように思えた

江ノ島「でも、あたし自身を思ってくれる人は一人もいなかった。だから、独りだった」

苗木「江ノ島さん……」

江ノ島「っ……ご、ごめん、忘れて。こんな辛気臭い話、あたしの性にあってないし!」

彼女の締めの言葉。

ボクが何かを返す前に舞園さんが戻ってきて、

有耶無耶のまま、江ノ島さんとの会話は終わってしまった


とりあえずここまで。


光の話の続きは舞園さんが戻ってから


舞園「大丈夫でした?」

江ノ島「あ、うん。全然問題なし。モノクマ来たけど」

舞園「何か話したんですか?」

舞園さんのごく当たり前の質問に対して、

彼女は数秒視線を逸らし、小さく首を振った

江ノ島「あ、あたし達がその、さ。えっと……ら、らぶらぶ……だねぇ。とか言ってきただけ」

舞園「ふふっらぶらぶですね。顔真っ赤です」

江ノ島「や、止めてよ!」

舞園「……ところで、江ノ島さん。苗木君の件については信じてくれますか?」

不意に真剣な声色になり、

わたわたしていた江ノ島さんは一瞬だけ硬直し、

真面目に頷いてくれた

江ノ島「本気じゃないとは言え、苗木に3発よけられたなら信じる他ないでしょ。あれは未来予知か何か?」

苗木「未来予知っていっても差し支えないかもしれない」

青は良い未来

黄は良悪均衡の未来

赤は悪い未来

江ノ島「じゃぁ、黒幕とかもわかんの?」


苗木「ううん、そこまで万能じゃないよ。言ったよね? 光が見えるだけなんだ」

江ノ島「そっか……」

舞園「……………」

苗木「はは。判れば良かったのにね。残念だよ」

彼女の落ち込んだような声に対して笑って返す

本当に……分かればよかったのに。

江ノ島「ね、ねぇ! あたしの攻撃も部分的に光が見えたってこと?」

ボクまで落ち込んでしまっていたのか、

彼女の大きな声がさらに大きく響いた

苗木「うん。そうなるね」

江ノ島「なにそれずるくない!? チートだよ! チート!」

これでボクに身体能力が備わっていれば、

確かにチートかもしれない。

けれど、ボクは江ノ島さんにも言われるほどのひょろさ。

苗木「制限付きだよ。江ノ島さんの4回目を躱せないほどの体力しかない」

江ノ島「付ければいいじゃん。なんなら特訓する? 協力するよ?」

苗木「ん~……」

いまでも舞園さんがいてくれてるし、そうでなくてもボク達は普通に一緒にいるし……

いざって時に疲れて動けないなんて情けない終わりなんて嫌だ

苗木「遠慮しておくよ」

江ノ島「だからひょろいんだけどなー」

苗木「うぐっ」


苗木「い、今は関係なから!」

江ノ島「はぁーい」

舞園「とにかく、信じて頂けたなら。お話しておくことがあるんです」

しばらく黙り込んでいた舞園さんが口を開き、

緊張した空気に一気に変わる

江ノ島「なに?」

苗木「……言ったよね? キミが一番危険だって」

江ノ島「そうだったね。っていうことはさ2人があたしの部屋に来たのって」

舞園「はい。ご想像の通りです」

今一番危険なのが自分だと知った彼女は、

怯える様子もなく、

ただ微笑んだだけだった

江ノ島「なら安心じゃん」

苗木「え?」

江ノ島「あたしのこと殺せるやつなんていないし。殺人は起きない。平穏。やったね苗木!」

苗木「それは違うよ!」

安心なんてできない。

だって、キミはあんなにも赤いフラグを回収してしまったんだから

苗木「もしかしたらがあるかもしれないんだ。安心なんてできないよ!」

江ノ島「そ、そんな怒った風に言わなくても良くない?」

舞園「苗木君にとってそれほど大事って事なんじゃないですか? らぶらぶですからね?」

江ノ島「それは違うっつーの!」


大事なのは事実なんだけど……というか、

やっぱり舞園さんは玩具にしてるよね? 江ノ島さんのこと。

苗木「とにかくさ、江ノ島さんは今一番危険なんだ」

江ノ島「でもさ。本当に危険なら一人になった方が良いんじゃないの?」

苗木「それは……」

それはある意味では正論だ。

危険なら一緒にいるよりも隔離するべきなのかもしれない

そうせず一緒にいることで、

一緒にいる人にまで危険が及ぶかもしれないんだから

苗木「でも、ボクは解るんだ。わかるからこそ、隔離措置なんて取りたくない」

馬鹿げているというか、

自分の力に酔って調子に乗っているのかもしれない。

でも、嫌なんだ

苗木「出来ることはやりたいんだ。それでボクが危険になるとしても」

舞園「私も同じ気持ちです。だから一人になるなんてさせませんから」

江ノ島「なんつーか……あはは。まぁ、ありがと。嬉しいよ」

彼女は照れくさそうにそう言って笑った


現在はお昼。

他のみんなはどうしてるんだろうか

やっぱり、ギスギスした空気に耐え兼ねて部屋にいるのかな?

江ノ島「ずっと部屋で無意味に過ごすわけにもいかないし、どうすんの?」

舞園「今はみんなが警戒し合っている状態だから……」

それが難しい

たとえ「ボクは平気」「私は平気」なんて話したとしても、

相手からしたら油断させるためでしかない。と、思われかねない

疑心暗鬼の解消方法

それは互いに信じあうこと……でも。

そのためには自分を信じてくれというしかないし、

それを油断させるためだなんて思われたらもうどうしようもない

苗木「……ほかにも協力者が必要かな」

舞園「安全そうなのは、霧切さん、十神君、朝日奈さん、大神さん……かな?」

江ノ島「ん? あのゴスロリさんは?」


ゴスロリさん……セレスさんのことかな?

舞園「セレスさんは平静を装っているような感じがして……」

苗木「え? でも、適応したほうがいいって言ってるのは他でもないセレスさんだよ?」

舞園「そうなんですけど……あの気迫のある言い方はそうあるように強要しているように感じたんです」

江ノ島「って言っても、あんな状況だったし。そうなるのも仕方ないんじゃないの?」

舞園さんが言ってることが必ずしも正しいとは限らない。

でも、

舞園さんの勘もしくはエスパーは確証がないにしても、

一考に値するほどに重要なものだ

舞園「あくまで感じただけですよ」

江ノ島「じゃぁ、注意しておくってことで」

苗木「山田くん達が対象外なのには理由あるの?」

舞園「DVDを見て冷静でいられたかどうかです。朝日奈さんは取り乱しましたけど、見た感じでは平気そうなので」

色々と見てるんだな……舞園さんは。

こんな人が助手なんて普通ありえないよ


苗木「じゃぁ、舞園さんが安全だって思う人たちから話す相手を決めよう」

江ノ島「全員集めて話しちゃうっていうのはどう?」

舞園「う~ん。それが楽だとは思うんですけど……」

舞園さんはそこでボクへと視線を移す

それが危険かどうかを確認してほしいってことかな……でも。

苗木「全員を集めるっていうこと自体に危険はないみたいだよ」

思考に光が指すことはなかった

苗木「でも、ボクのこれだけを信じていたらダメだ。失敗するかもしれないから」

あのDVDだって過信していたから……。

江ノ島「なら一人ずつ確実に味方にする?」

舞園「それに賛成です。一人ずつの方が濃密な話ができますから」

苗木「なら、まずは誰に話をするかなんだけど……」

謎めいた霧切さんか、

超高校級の御曹司である十神くんか、

超高校級のスイマーの朝日奈さんか、超高校級の格闘家である大神さんか……


苗木「朝日奈さんと大神さんは仲が良いから、切り離して話すのは無理だと思う」

江ノ島「じゃぁ……十神?」

舞園「話……聞いてくれるでしょうか?」

あまり話してはいないけれど、

ほかの人と話していたりする時の十神くんは、

かなり上から目線というか、なんというか。

つまり、ボク達の呼び出しに応じてくれない可能性があるし、

なにより……光が見えるんだ。なんて言ったら鼻で笑われそうだ

苗木「消去法みたいであれだけどさ……霧切さんに話そう」

舞園「一応は真剣に話を聞いてくれそうですし、賛成です」

江ノ島「霧切かぁ……」

江ノ島さんのちょっと不安そうな呟きが漏れた

舞園「どうかしたんですか?」

江ノ島「どうかしたっていうか、霧切は謎過ぎて逆にアレじゃない?」

それはわかる。ボクもそう思う。

だけど、霧切さんまで外したら相手がいなくなってしまう

苗木「話せる相手に話してみよう。危険なら……ボクが止めるから」

江ノ島「……解った。とりあえず行ってみるしかないね」


一旦ここまで


舞園さんが万能過ぎて辛い……少し弱くしないと


舞園「どうですか?」

苗木「うん……無色だよ。とりあえずは安全だと思う」

江ノ島「じゃぁとりあえず呼んでみよっか」

江ノ島さんはそう言い、

インターホンを押し、彼女を呼ぶ。

自己紹介ですら名前くらいしか教えてくれなかった霧切さん。

ここに完全に閉じ込められていると解った時も、

DVDを見てしまっても、

彼女はずっと冷静だった

霧切「……3人揃ってなんの用事なの?」

苗木「霧切さんに話したいことがるんだ」

霧切「私に? みんなを揃えてではなく?」

霧切さんの疑念の瞳がボクを見つめ、

舞園さん、江ノ島さんと動いていく

舞園「罠に嵌めるとか言うつもりはないんです。ただ、まともに話せるのが霧切さんだけかなって」

霧切「……良いわ。どこで話すの?」

苗木「ボク……いや、正確には舞園さんの部屋でだよ」

江ノ島「………………」

霧切「何を見ているの?」

江ノ島「ううん? べっつにぃ?」

2人の相性は悪いのかな……?


霧切「それで、話したいことって?」

苗木「ここから出る方法とかだよ」

霧切「黒幕の正体を暴いて開けさせたりするぐらいしかないと思うけれど……」

ボクの言葉にすぐ返されたのは、そんな現実。

それはボクだってわかっているし、

舞園さん、江ノ島さんもわかっていることだ

舞園「でも、現状見れる場所、調べられることは全て調べ終わっちゃってますよね?」

江ノ島「1階しか回れないしね……ったく一生過ごせーとか言いながらどういうつもりしてんだか」

苗木「確かに……2階とかには行けないよね。それってどうすれば開けてもらえるんだろう?」

霧切「黒幕が求めていることをすれば良いんじゃないかしら」

苗木「え?」

黒幕が求めていること。

それは……ボク達による殺し合い


苗木「そんな……でも、他に方法はあるはずだよ」

霧切「なら、苗木君。貴方はそのほかの方法というものを提示できるのかしら?」

苗木「それは……頼んでみるとか……」

霧切「それで動いてくれるほど良心的だと思う?」

それに対してボクは静かに首を横に振った。

そんな良心的な黒幕ではないことは明らかだから。

……ほかの方法なんてあるのかな。

考えてもそのほかの案は出てこず、

黙り込んだボクの代わりに舞園さんが口を開いた

舞園「いっそここでの生活を受け入れてみますか?」

江ノ島「え?」

霧切「……それも一応モノクマの求めたことよね」

モノクマが言ったのは、

ここから出たいなら誰かを殺せ。

それが嫌ならここの生活を受け入れろ。この2つ

江ノ島「っても無理に決まってんじゃん! 1階限定。携帯も何も無し。暇過ぎて死ぬって!」


霧切「その割には、苗木君とのモデルガン遊びを楽しんでいたみたいだけど?」

江ノ島「それはそれ! これはこれ!」

やっぱり好きなんだ……。

それはともかく、

ここでの生活を受け入れる……か。

なにかが引っかかるけど、

殺し合いたくないなら外はもう望まないべき。だよね……

舞園「でも、それも恐らくは無理です」

苗木「舞園さん?」

言った本人なのにも関わらず、舞園さんは否定し、

霧切さんは同意したように頷いた

霧切「殺し合いをするか、生活を受け入れるか。2択あるように見えるけれど、黒幕が望んでいるのは1つだけよ」

江ノ島「1つ?」

霧切「つい昨日のことを忘れたわけじゃないでしょう?」

彼女が言っているのは、ボクが阻止できなかった動機の提示の件

ボクや舞園さん。江ノ島さんは見なかったけれど、

ほかのみんなが見てしまったDVDのことだ……。

江ノ島「当たり前でしょ。そこまで馬鹿じゃないっつーの」


霧切「それなら解るはずだわ。セレスさんの言葉というわけではないけれど、私たちは殺し合うつもりはなかった」

そうだ。

諦めていたり、

諦めず出口を探していたり、

していたことは色々だけど、誰も殺そうとはしていなかった。

舞園「なのに動機の提示をしてきたっていうことは……黒幕の目的は私達に殺し合わせることだけなんです」

舞園さんの言葉が、

重くのしかかってくる。

部屋が不安と恐怖に包まれていくわけじゃない。

ボクだけがそれらに押しつぶされてしまいそうなほど敏感に感じてしまっているだけ。

DVDが阻止できなかった

そのせいで、みんなは赤いフラグを一つ持っている

なのに、さらに増える……?

そんなことされたら……。

江ノ島「じゃぁどうしろっていうのよ。 苗木の提案否定するんだからなんかあんでしょ!?」

霧切「ないわ。現状では何もわからないし何もできない。正直に言ってお手上げ状態よ」

江ノ島「はぁ!? じゃぁこのまま指くわえて見てろって言うの!?」

苗木「お、落ち着いてよ江ノ島さん!」


江ノ島「って言ったって……」

霧切「なら逆に聞くけれど。江ノ島さんはどうなの?」

江ノ島「それは……ないけどさ、あんたなんか偉そうだし」

霧切「高圧的な態度をとる貴方に言われたくはないわ」

なんでこう……。

舞園「喧嘩している場合じゃないですよ」

江ノ島「解ってるよ……ごめん。色々と溜まっちゃって」

江ノ島さんはそう返し、黙り込んでしまった

霧切さんもまた小さく謝罪を述べて黙り込む

江ノ島さんの気持ちがわからないわけじゃない。

きっとみんなもこの閉鎖空間のせいでストレスが溜まってきているはず。

苗木「……なんとかしないと不味いね」

霧切「本人に聞いてみましょう」

モノクマ「やっほー! 呼んだかい?」

防犯カメラで見ていたらしい

モノクマは霧切さんがカメラを見た瞬間、急に現れた


霧切「単刀直入に聞くわ」

モノクマ「な、なんだい? す、スリーサイズは秘密だよぉ?」

モノクマの挑発するような言動を完全に無視し、

霧切さんは訊ねた

霧切「他の階へはどうすれば行かせてもらえるのかしら?」

モノクマ「教えるわけないじゃ~ん」

舞園「なら、ここの生活を受け入れた場合はどうなんですか?」

モノクマ「黙秘権を行使しまーす。うぷぷぷっ」

そのあからさまに馬鹿にした態度に、

舞園さんも、霧切さんも反応はしなかった。けれど、

彼女だけは反応してしまった

江ノ島「いい加減にしなよ、あんた」

モノクマ「なに? おこなの? 激おこなの? うぷぷぷぷぷっ」

江ノ島「っ……うざいっての!」

赤いペンキに顔を突っ込んだというほど厚い赤い警告光

江ノ島さんの振り上げた足がモノクマへと向かっていく

苗木「それはダメだ!」

後先考えずに止めにいったボクの背中に、

彼女の靴がめり込んだ


モノクマ「うわぁ……」

江ノ島「ちょっ苗木! 邪魔しないでよ!」

苗木「ダメだよ、どんなにイラついても……校則違反でオシオキを受けることになるんだから……」

ヒールの部分が突き刺さった部分をさすりながらゆっくりと体を起こす。

幸い、肉を貫いただとかいうことはなかったらしく、

打撲のような痛みが走るというだけで済んだ

モノクマ「そうだ、そうだ! 苗木君に感謝感激するんだよ? おしおきから守ってくれたんだからさぁ」

江ノ島「本当にムカツク……」

舞園「……モノクマさん、一つだけ良いですか?」

モノクマ「んー?」

舞園「校則はモノクマさん、そしてその裏にいる黒幕にも適用されますか?」

モノクマ「当たり前だよ! 僕は学園長なんだよ?」

モノクマのその答えに満足したのか、

彼女は満面の笑みでありがとうございます。と答えた

モノクマ「……? 何かわからないけどいい情報だったみたいだね。これ以上はもう何も言わなーい聞こえなーい」

モノクマはそう言い残して去っていった

霧切「舞園さん、何かわかったの?」

舞園「校則は学園長にも適用されるということが解りましたよ」

どういう事なんだろう?

舞園さんは一体……何を考えているんだろう?


一旦ここまで


もっ先したいけど……なかなか進まない


江ノ島「ごめん苗木。まだ痛い?」

苗木「ううん、平気だよ。心配しなくていいって」

江ノ島「で、でもヒールだったし……」

苗木「ツボ押しマッサージだって似たような突き方するし、平気だよ」

落ち着いた江ノ島さんは、

今度はボクを踏みつけたというか蹴ったというか……

そのことについて不安そうにしていた

霧切「随分と仲が良くなっているのね。遊びのこともあるし、本当に諦めてるのかしら?」

苗木「そんなわけないじゃないか。ここから出るつもりだよ」

霧切「だったら。遊びに時間を費やすなんて無駄なことはするべきではないわ。もっとも……」

彼女はボクや江ノ島さんを見て、

すぐにどこかへと目をそらしてしまった

霧切「貴方達は邪魔になるだけかもしれないけれど」

舞園「それはないですね」

霧切「………………」

舞園「苗木君も江ノ島さんも大切な仲間ですから。人手があることに越したことはありません」


霧切「それはどうかしら」

舞園「どうしてですか?」

霧切「人手が多いのは良い事かもしれない。けれど、ずぼらな調査しかできないなら無駄なだけよ」

霧切さんはかなり厳しいことを言っているけれど、

それは間違っていないし、むしろ正しい

でも……ボクらはみんな素人だ

超高校級だけど、警察とか、探偵とか、

鑑識とか……調べることに長けているような人達ではない。

それは霧切さんも解っている事のはずだし、

わかっているからこそ、その言葉は……

苗木「霧切さんは誰とも協力する気がないの?」

霧切「……そういうわけではないわ。ただ」

彼女は言葉を切り、

誰しもが理解している現実を突きつけた

霧切「信じられるのは自分しかいないだけよ」

裏切られるかもしれないという不安

殺されるかもしれないという恐怖。

そんな中で、信じろ、頼れ。そんな言葉に委ねられるほど、

ボク達は互いのことを全くしらないんだ……


霧切「……ところで苗木君。貴方には私も聞きたいことがあるのよ」

苗木「え?」

霧切「貴方、DVDを踏み砕いたみたいだけれど……自分のは見たのかしら?」

苗木「いや……見てないけど……」

ボクの答えが不味かったのかどうか、

霧切さんの表情からは読み取れない。

けれど、僅かな黄色い光が注意を促していた

霧切「ならどうしてDVDを壊したの? 自分のだけでなく全員の分を」

苗木「黒幕が見せたいものなんて良い物な訳ないと思ったから……」

霧切「――本当にそうかしら」

彼女の鋭い瞳が、ボクを射抜き、

体が少しこわばって震えた

苗木「な……なに? ボクを疑ってるの?」

霧切「そういうわけではないわ。ただ気になっているだけよ」


江ノ島「動機の提示って言ってたんだし、良い物だって思うわけなくない?」

霧切「家族のことだったり大切なもののことだったり……知りたい情報ではあったはず」

江ノ島「はぁ? どーして言い切れんのよ」

霧切「出たいという気持ちを煽るなら、大切に思っていたり、心配な人やモノを見せるはずだから」

彼女は冷静に答える。

知らないDVDの内容を、

ボク達が思わず想像してしまいそうなほどの説得力を添えて。

舞園「っ……」

舞園さんの大切なものは間違いなくアイドルの仲間たち。

彼女はそれを知りたかったはずで、

でも、ボクを信じてそれを見ないことにしてくれた。でも。

こんなことを言われたら不安になってしまう……。

俯いた舞園さんを尻目に、彼女は続けた

霧切「それが予想できたにせよ、出来なかったにせよ。苗木君はDVDを踏み砕いた」

苗木「……………」

霧切「見てもいないのにあんなにも切迫した雰囲気で、表情で……」

教えるべきなんだろうか。

そうした理由を……ボクの秘密を。


霧切「どうしてあんなことができたの?」

苗木「………………」

霧切「話せないのかしら?」

苗木「そういうわけじゃないんだけど……」

正直。

一番信じてもらえない人を選んでしまった気がする

冷静に話をできるという点では、

決してミスではなかったはず。

でも冷静すぎるんだ。霧切さんは。

冗談とかを全く受け付けないような論理的な人なんだ

霧切「……もう良いわ。別にここの謎には無関係なのだから」

霧切さんの無関心に戻った言葉が冷たく響く

話すべきか、話さないべきか。

光は黄色いままだ……けど。

苗木「ボクには光が見えるんだ、安全、注意、危険を示す3色の光が」


本当のことを答えたというのに、

霧切さんは無表情のまま舞園さん達を見回し、

再びボクを見つめた

霧切「……冗談を言われても困るのだけど」

苗木「じょ、冗談じゃないんだよ。本当に見えるんだ」

霧切「証拠のないそんな言葉を信じられるわけないわ」

うん、解ってるよ

江ノ島さんだって最初は疑ってたんだから

苗木「なら、ボクを殴ってくれれば――」

霧切「嫌よ」

あ……うん。

だよね、普通そうだよね。

急に殴ってなんて言われても……困るよね

江ノ島さんはやっぱり特殊だったんだ。若干本気で連撃するギャルなんていないよね普通


江ノ島「あ、あたしも信じられなかったけどさ……本当なんだよ」

霧切「言葉では何とでも言えるわ。だからこそ証拠を見せてって言ったのよ」

江ノ島「解った。苗木! 殴るから避けて!」

江ノ島さんは生き生きとした表情言ったものの、

当の霧切さんは呆れ返ってため息をついた

霧切「もう良い。私は部屋に戻るわ」

苗木「あっ……」

呼び止めてどうする?

どうもできない。

説明する方法なんてないんだから。

彼女にさらに嫌われてしまうだけ。

舞園「…………………」

霧切さんがいなくなっても、

舞園さんは黙り込み、俯いたままだった


苗木「ま、舞園さん」

舞園「自分で選んだことだってわかってます。でも……」

江ノ島「なら俯いてないで欲しいんだけど」

舞園「………………」

江ノ島さんのきつい言葉。

霧切さんの言葉が生み出した重い空気

それらを跳ね除ける選択肢を……ボクは思いつけなかった

その一方で江ノ島さんは首を振る。

江ノ島「あんたがその行動を後悔するってことは」

江ノ島さんの物悲しげな表情。

黙り込んだままの舞園さんに言い放つ

江ノ島「苗木を信じたことを後悔するってことなんだよ?」

舞園「え……?」

江ノ島「舞園はなんで見なかったのよ。苗木を信じたからでしょ? 違うの?」


舞園「それは……っ」

舞園さんは物言いたげな表情で江ノ島さんを見つめ、

2人の視線がぶつかった

江ノ島「だったら信じてなよ。前向いてなよ。あんたの後ろ向きは苗木にも影響するんだから」

舞園「っ…………」

舞園さんの瞳がボクへと向けられる。

そのあまりにも悲しそうで、申し訳なさそうな表情に、

ボクはどう返せばいいか分からず黙って見つめ合ってしまった

江ノ島「……ほらね?」

舞園「そう……ですね」

舞園さんは小さく笑って江ノ島さんへと視線を移す

舞園「ふふっ……ごめんなさい。一度信じたなら最後まで信じなきゃダメですよね」

江ノ島「そうそう。過程を間違えたって思うなら結果を変えれば良いだけなんだから。化粧だってそういうもんじゃん?」

江ノ島さんの言葉で舞園さんは立ち直ってくれた……と、思う。

江ノ島さんが良い人で良かった。そう思いつつ、

こんな人が本当に江ノ島盾子の振りをしているのかどうか不安になって、

もし偽物ならどうしてそんなことをしているのか……。

ボクは疑いそうになる心を制し、彼女たちに向けて微笑んだ


ここまで


霧切さんが悪役っぽくなってしまった……すまぬ。霧切よ


江ノ島「霧切もアレだよねぇ、もうちょっと言い方ってもんがあるだろうにさぁ」

舞園「それだけ現状に対して正々堂々と立ち向かってるってことだと思いますよ」

江ノ島「だとしてもだよ……」

江ノ島さんは軽い呼吸をし、腕を組む……って

それは霧切さんの――

江ノ島「言葉では何とでも言えるわ。だからこそ証拠を見せてって言ったのよ」

苗木「ちょ、ちょっと江ノ島さん、馬鹿にしてない!?」

江ノ島「いいえ、そんなことないわ。私は至って真面目よ苗木君」

してる、してるよ絶対

江ノ島さんと霧切さんは相性が悪いみたいだ……。

まぁ……霧切さんの態度は他の人を寄せ付けたくないって感じだし、

フレンドリーに行きたい江ノ島さんや朝日奈さん達とは相性が悪いのかもしれない

舞園「でも……なんだか可哀想です」

江ノ島「誰が?」

舞園「霧切さんです。仕方がないこととはいえ、何にも頼れないなんて辛すぎですよ……」


江ノ島「でもさ……あたし達にはほぼ無関心って感じだったじゃん? なんかちょっと嫌だよね」

舞園「信じられるのは自分しかいないだけ。そう言ってましたよね……」

霧切さんは協力する気がないのかという質問に対して、

そういうわけではないって答えた

なのに、信じられるのは自分しかいないとも付け加えた

苗木「対人恐怖症とかなのかな……?」

江ノ島「それはないでしょ……霧切の態度は恐れてるとかそういう感じはしなかったし」

舞園「もしかしたら、誰かと親しくなったせいでトラウマになったことがあるのかもしれませんね」

江ノ島「……あぁ、だから寄せ付けたくないって?」

江ノ島さんが小さく頷くと、舞園さんは話を続けた

舞園「表情を全く変えず、あくまで無感情で通したのは自分は一人でも平気だって意思表示かも……」

苗木「そこまで分かるの?」

舞園「いえ、以前見たドラマの家政婦さんに似たような感じだと思っただけです……だから何かトラウマがあるんじゃないかと」

江ノ島「ドラマを参考にって……いやいや、確かにこの現実自体フィクションっぽいけどさぁ」

舞園「あくまで推測ですよ。でも、それすらもあり得なくないって思えてしまうのがこの現実ですから」


霧切さんともっと親しくなればわかるかもしれないけど、

そもそも親しくなるためには霧切さんを理解してあげないといけないわけで、

本末転倒というか、なんというか……うん。

今は考えるだけ無駄だよね。

苗木「ところでさ、このあとはどうする?」

江ノ島「朝食食べたの遅めだし、お昼はまだいいでしょ」

舞園「そうですね……一応見回りしますか?」

見回り……。

誰かが誰かを殺したりするようなことはないって思ってるし、信じたいけど。

苗木「そうだね、行こう」

江ノ島「んじゃ、あたしは一人で――」

苗木「それはダメだよ」

江ノ島「でもさ、あたしにも女の子の時間が欲しいっつーか……」

舞園「なら私が一緒にいますよ」

江ノ島さんは舞園さんの申し出に少し困った表情をしつつ承諾した

苗木「じゃぁボクは寄宿舎を見てまわるから、2人は校舎の方をお願いしていいかな?」

江ノ島「はーい」

舞園「苗木君、お気を付けて」


2人が校舎に向かうのを見送り、

それが危険色も警戒色も示さないことを確認してから当たりを見渡す

どうやら、

それぞれどこかの部屋にいるらしく、

広間を歩いている人は一人もいなかった

苗木「今はお昼時だし……とりあえず食堂かな」

ボクの考えが正しければ、

規則正しい生活を送る面々は食事中のはずだ

苗木「石丸君、朝日奈さん、大神さん、不二咲さん……いつもの人たちだ」

不二咲「あ、苗木君もお昼を食べに来たのぉ?」

苗木「ううん、ボクは見回りをね」

正直、

規則正しい面々に含まれる男子がボクを除いて石丸君しかいないっていうのはどうかとも思う。

いや、たしかに男子はこういうことには適当だけど――?

そんなことを言おうとした瞬間、黄色い光が不二咲さんに現れた

不二咲「な、何かな? ぼ、僕の顔になにか付いてるのかなぁ?」

苗木「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……」

男子云々の話で不二咲さんに黄色い光って……なんでだろう?

実は男の子ですとかいうドラマ的展開……いや、

それはもはやアニメ・漫画の世界だよ

大神「舞園、江ノ島の2人はどうしたのだ?」

苗木「2人は校舎の方に行ってるよ。さすがに2人組を襲うような人はいないだろうからね」

朝日奈「で、でもさ、どっちかが――」

苗木「それはないよ。それはない。2人は互いに殺し合おうとなんて絶対にしない」

朝日奈さんが言い終える前に、ボクははっきりと否定した


石丸「苗木君は2人を信頼しているのだな! 君達のように全員が一丸となってくれれば良いのだが」

大神「……それは難しいことだろう。あんなものを見せられたのだからな」

あんなもの……。

ボクが阻止できなかったDVD……。

苗木「ごめん……」

石丸「どうして苗木君が謝るのだ? 何も悪いことなどしていないではないか!」

朝日奈「そうだよ! 苗木の必死な姿に習って見なければよかったのを見たのは私達自身なんだから!」

不二咲「そうだよぉ。だから謝らなくて良いよ……何も悪くないんだから……ねぇ?」

みんな優しい。

みんなボクのせいではないって言ってくれる……

苗木「……ありがとう。みんな」

大神「もしも次お主が似たような言動をした時は我らも従おう」

苗木「え……?」

大神「苗木よ。舞園と江ノ島の強い信頼を得ているお主の言葉は孤独な我らよりはずっと安心できるものなのだ」

大神さんがそう言うと、石丸君達は強く頷いてボクを見つめた

朝日奈「そうだよ。2人を見てれば信じて良いってそうした方が良いって。本当に思えるもん!」

石丸「僕も異論はない。苗木君! 男子代表……いや、生徒代表は君だ!」

苗木「え、ちょっ……そんな大役任されても困るよ!」

正直に言えば嬉しいけれど、

もしも間違えたらという不安がボクに拒絶を吐かせ、後ろからその言葉は飛んできた

十神「ふん。そんなものこっちから願い下げだ。お前のようなヤツに任せられるわけがない」


十神君はボクに見向きもせず横を通り過ぎていき、

その前に朝日奈さんが立ちはだかった

朝日奈「十神、あんたねぇっ」

十神「なんだ。本当のことを言っただけだろう? 一々騒ぐな。耳障りだそして邪魔だ」

朝日奈「十神の方が任せられないよ!」

十神「任せられるつもりは毛頭ない。さっさとどけ」

2人の言い争いが始まってしまった。

苗木「朝日奈さん、止めるんだ!」

朝日奈「で、でもさっ馬鹿にしてるんだよ!?」

苗木「そうだけど……」

大神「どんなことがあろうと、強要は良くないのだ。朝日奈よ」

大神さんの一言で、

朝日奈さんは悔しそうに、悲しそうに十神を一瞬だけ睨み、元の席へと戻っていく

十神「……………」

そして、彼は彼で興味がないとでも言うかのように本来の目的通りに調理場へと向かう

不二咲「……仲良くできれば良いのになぁ」

不二咲の悲しげな一言が、食堂に消えていく

苗木「……それじゃ、ボクは行くよ」

石丸「苗木君。君は自信を持っていいぞ。この僕が認めているんだからな」

苗木「うん、ありがと」

ボクは4人の優しい視線を背中に受けながら、食堂をあとにした


とりあえずここまで。


不二咲さんの口調が難しい。

そしてまた十神が悪役に……


>>385

×>不二咲の悲しげな一言が、食堂に消えていく

○>不二咲さんの悲しげな一言が、食堂に消えていく


誰もいないホールにボクの足音だけが響く

それが今の自分が置かれている状況を意識させる……。

今は独り。そして、

それが今だけではなくなる可能性がある。と。

そんな嫌な未来を想像させるのが、

背後に迫り、ついてくる黄色い光の元、モノクマだ

苗木「………………なにしに来たの?」

そう言い、振り向くとやっぱりモノクマがいた

モノクマ「クマッ!? 足音さえ出さなかったのに気づくなんて苗木君はエスパーなのかい?」

苗木「うん、ボクは超高校級のエスパーだからね。モノクマの目的だってお見通しだよ」

モノクマ「な、なんだって―!? ぼ、僕の思考も丸見えなのかもしれない! に、逃げなきゃ、ひぇぇぇっ」

そんなふざけたことを言いながらも、

モノクマは逃げたりせずにボクを見つめていた


苗木「逃げるんじゃなかったの?」

モノクマ「……つまらないなぁ。まるで滑ったみたいじゃないか!」

苗木「用があるわけじゃないなら、ボクは見回りに戻りたいんだけど……」

関わるだけ無駄。

関われば関わるほどに、

モノクマは神経を逆なでし、怒らせるような言動をする

モノクマ「むきーッ! なんだ、なんなんだよぉ。僕は学園長なんだぞー!」

苗木「……そっか」

モノクマ「あぁそっか、そういう反応ばっかりするんだ、もういいもんねぇ。江ノ島さんでもそそのかして――」

苗木「!」

モノクマが江ノ島さんの名前を出した瞬間、

周囲が強い警戒光を発した

モノクマ「舞園さんとか? 殺しちゃうかもねぇ」

警戒色が気になったけれど、否定せずにはいられない

苗木「それはありえないよ!」

モノクマ「へぇ? なんで断言できるの?」


関わってしまったことに後悔はしない。

だって、大切な仲間を貶そうとしているんだから

苗木「江ノ島さんは優しい人だから、決して悪にはなりきれない人だから」

モノクマ「ふ~ん……で?」

苗木「怒ったり、笑ったり、泣いたり、悔しがったり、ムキになったり……」

そうだ。

ボクは分かってるはずだ

短い付き合いの中で、

彼女が悪いことをできないような人であることを

苗木「純粋で、天然で、隠し事の苦手な人だから! だから、江ノ島さんは――」

ボクの言葉を聞きながら、

モノクマは愉快そうに笑っていた

小馬鹿にするような笑み

そして、モノクマは唐突に言葉を挟んだ

モノクマ「わかんないよ? 仲間のふりして裏切るかもしれないよ?」

苗木「え……?」

それは真っ赤な警戒色だった


モノクマ「ほら、よくある設定だよね? 純情な子とか、天然な子が裏切って――とかさ?」

苗木「な、何言ってるんだよ……」

赤い警戒光は強く輝き、

ボクの思考を真っ赤に染めていく

その間も、モノクマは続けた

モノクマ「江ノ島さん……本当に仲間なのかな? 隠してることとか、ないのかな?」

苗木「っ!」

《江ノ島さんは江ノ島さんであって江ノ島さんじゃないと思います》

《江ノ島さんの偽物かもしれません。少なくとも、雑誌の江ノ島さんと目の前の江ノ島さんは同一人物ではないと思います》

舞園さんのメモの言葉が……視界を埋め尽くす

苗木「そ、そんなこと……」

モノクマ「あれ?どうしたのさ苗木君! 冷や汗が出てるよ!? もしかして藪蛇だった? うぷぷぷっ」

苗木「煩い……っ」

モノクマ「うぷぷぷぷっかっくしごと~はなんだろな、あっそれなんだろなったら、なんだろな~」

苗木「っ……江ノ島さんは――裏切ったりしない!」

モノクマ「だといいね、アハハハハハッ、見回りの邪魔だろうし、僕は行くよ~」

モノクマは笑いながら去っていく

裏切ったりしないんだ……隠し事なんて……ないんだ

江ノ島さんは……江ノ島さんは……

不安が募る。

江ノ島さんが本当に江ノ島さんなのかどうかが解らなくて――怖くなってきていた


ごめん、中断


江ノ島「なーえぎ~!」

苗木「!」

いつの間にか合流予定時間だったらしい

校舎の方から舞園さんたちが戻ってきた

舞園「どうでしたか? 何か発見ありました?」

苗木「ううん、ダメだったよ。でも、殺し合いするつもりない人も多いみたいだった」

今は考えないようにしよう

考えたら舞園さんに追求されかねないしね……

舞園「本当ですか!?」

舞園さんはそれが本当に嬉しそうに見える……でも。

江ノ島「やったじゃん! 多少安心でき……?」

江ノ島さんのそれが嘘に見えた、嘘に聞こえた

光の警告も注意もないのに、

ボクは江ノ島さんを警戒していた……

江ノ島「……苗木?」

苗木「何?」

江ノ島「い、いや……ちょっと苗木らしくない雰囲気だったなぁ……なんて」

江ノ島さんはボクを心配そうに見てくれている。

なのに……なのにボクは……

ボクはそれさえも嘘じゃないかって疑ってしまっていた……


舞園「……もしかし、モノクマさんに何か言われたんですか?」

苗木「え……?」

舞園「動機を提示するような方ですから、私達の仲を壊そうとする可能性も考えられますから」

舞園さんはボクの心を読んだ訳じゃない

これはただの予想、推測でしかない

苗木「……………」

ボクを疑心暗鬼にさせたのはモノクマの言葉ではある。

でも、その軸になってるのは舞園さんのメモ。推測……。

江ノ島「……モノクマがあたしについて変なこと言ったの? あ、あんたはさ……それであたしを疑ってるの?」

江ノ島さんの悲しそうな声。

声だけでなく表情も悲しそうだった。

赤い警告光はボク達の関係が壊れるから?

それとも、江ノ島さんが本当に裏切り者だから?

苗木「江ノ島さ――」

江ノ島「良いよ! 良い……言わなくていいっ!」

聞いてきた本人が、拒絶した


江ノ島「……言わないで、怖いから」

真っ赤な警告は消えない。

舞園「江ノ島さん……」

江ノ島「あはは……だよね。野宿云々、黄金銃云々、そりゃギャルらしくないし……」

江ノ島さんはうつむき、

トボトボと悲しげな背中をボクらに向けて歩いていく

江ノ島「……怪しいよね。仲間らしくないよね」

苗木「江ノ島さん!」

追いかけるべきなのかどうかわからない。

赤い警戒光は未だに強く輝き、

今まで助けてくれてたそれが迷わせる

行けば不幸? 行かねば不幸?

決めかねるボクに届く彼女の言葉

江ノ島「苗木!」

苗木「……………江ノ島さん」

それは明らかな偽りの笑顔

そんな表情で、彼女は告げた

江ノ島「モノクマってか……黒幕のことなんとかしたらさ……また、サバゲーやろうよ」

彼女は一人で去っていく

舞園さんは悲しそうに首を振り、監視カメラを睨んでいた


舞園「苗木君」

苗木「……………」

舞園「苗木君!」

苗木「っ」

舞園さんの声が頭に響き、

止まっていた思考を動かして行く

舞園「しっかりしてください、なんて言われたかを教えてください」

苗木「でも――」

舞園「苗木君、江ノ島さんを疑ってる理由に私が関わってるんじゃないんですか?」

舞園さんは申し訳なさそうに呟き、

カメラを見つめた

舞園「……メモがバレたバレてないに関わらず、江ノ島さんがなにか隠しているんじゃないかって言ったんでしょう?」

苗木「えっ……」

舞園「そのくらい解りますよ。誰だって隠し事はありますから……万能すぎる言葉ですからね」

万能な言葉

そんなものに……ボクは――

舞園「自分を責めるよりもまず、やるべきことがあるんじゃないですか?」


苗木「舞園さん……」

ボクが考えをまとめるよりも早く、

舞園さんは訊ねてくる

舞園「苗木君、何も考えないでください」

苗木「え?」

考えるべきことだ。

悩むべきことだ。

なのに、舞園さんは何も考えるなっていう

苗木「……………」

舞園「頭を空っぽにして周りを見てください。足りてますか? 満足していますか?」

苗木「それは……」

そんなわけない。

派手で、ちょっと大げさな喋り方で、

でも、純粋で、優しくて、ギャルよりもミリタリーマニアな彼女がいない

舞園「……苗木君、どうしますか?」

苗木「……行こう。江ノ島さんのところに」

光は未だ赤い。でも……選ぶべきだと思った

誰に対する警告であれ……行かなければいけないと思った


ここまで。


残姉と妹様どっちを救うべきだろう……


苗木「っ――赤い!」

舞園「インターホンを押してください」

完全防音って言うのが厄介だった

中の声は聞こえないし、外からの声は中に届かない

血のように赤く染まった扉をたたいても反応はない

インターホンを何度押しても、江ノ島さんは出てきてくれない

扉を強く叩き、彼女の反応を催促する

そんな忙しい時に、

またしても現れたのはモノクマだった

モノクマ「コラコラー! ストーカーは校則違反でお仕置きしちゃうぞ!」

苗木「ただの安全確認だよ!」

舞園「……江ノ島さんはまだ生きているんですね?」

モノクマ「はい?」

焦るボクとは対照的に、

舞園さんは冷静に訊ねた


苗木「舞園さん、今は――」

舞園「もし中で死んでいた場合、入れなければ死体は永遠に未発見。つまり、扉は開けてくれているはず」

モノクマ「…………」

舞園「しかし、この扉は鍵が締まっている、つまり、中では江ノ島さんが生きている。違いますか?」

モノクマ「えーっと……格好良く探偵の真似事しちゃったのかな?」

馬鹿にするようなモノクマの言葉

それに対して、舞園さんは頷く

舞園「そう思うならそうかもしれません。それで、どうなんですか?」

モノクマ「あったりまえじゃん。生きてるよ? シャワーでもあびてんじゃないかなー?」

シャワー……?

じゃぁ、今は外に出てきたりはできない?

苗木「良かった……」

モノクマ「自分で仲間から外しておいて良く言うよ。果てしない改行の後にさよならメールが来るよ?」

舞園「……モノクマさん、消える前に一つ」

モノクマ「なんだい? 名探偵舞園さん」

舞園「学園長は男性ですか? 女性ですか?」

モノクマ「うわーぉ! そんなこと言えると思ってるの? おめでただよ、頭がおめでたすぎるよ!」

モノクマのその怒りさえ覚えかねない反応でも、

舞園さんは微笑を浮かべるだけだった

舞園「なるほど、女性ですね。ありがとうございました」

モノクマ「……僕のこの体に男の子のあれがないからってそう見られても困るんだけどなぁ」


舞園「じゃぁ男性なんですね」

モノクマ「舞園さ~ん? 僕の話きいてますか~?」

舞園「はい、聞いてます。性別に対し黙秘、女性に困る。男性はどうですか?」

舞園さんの一貫した冷静さに、

モノクマ自身が怒りをあらわにし、

モノクマ「そう思うならそうなんだろ! オマエん中ではな!」

怒鳴るやいなやさっさと走り去っていく

舞園「ふふっ、後ろ姿は愛着が湧きますよね」

えー……。

舞園さん逞しすぎるよ……。

苗木「それより、江ノ島さんを――」

もう一度だけ扉をたたいたつもりだった

けれど、振り下ろした瞬間扉が開き、

叩いたのは無機質な扉ではなく、

硬いどころか柔らかいものだった

苗木「……あ、れ?」

江ノ島「な、なぁえぇぎぃぃぃっ!」

視界でスパークが起き、遅れて響くスパァンッという音

気づけばボクの体は背後の壁へと向かっていて、

衝突して背中に強い鈍痛を感じてようやく、頬の張り裂けそうな痛みが走った

苗木「っ~~~~っ、っ!!!」

悶絶するということを、

ボクは初めて経験した


江ノ島「はぁっはぁっはぁっ……」

舞園「お、落ち着いてください……ね?」

江ノ島「触ったぁ! 誰にも触らせたことないのに!」

江ノ島さんの女の子らしい恥じらいのある表情がボクを見下ろす

どうやら、叩こうとした瞬間に扉を開けてくれたらしい

その結果

ボクの手は扉ではなく江ノ島さんの胸を……つまり、

ボクが感じたあの柔らかさは江ノ島さんの――っ!

苗木「ごめん! 悪気はなかったんだ! ただ扉をたたこうとしただけなんだ!」

江ノ島「うぅ~っ……どうせ、どうせぇ!」

舞園「え、江ノ島さん?」

江ノ島「どうせ胸ないよっ! 雑誌とちがくて悪かったねぇっ!」

苗木「い、いや、ボクは別に――」

なんだか話がめちゃくちゃに……でも。

扉の赤い光は消えていたし、

江ノ島さんは普通に生きてるから一安心だ

ボクの頬と背中は未だに痛いけれど、

それが扉が赤い理由だったのかな……?


舞園「ふふっ……赤いもみじです」

苗木「えっ、これは恥ずかしすぎるよ……」

痛みは引いてきているものの、

まだ触るだけでピリッと痛みが走る、頬の赤い手形

漫画とかだけだと思ってたのに……。

江ノ島「胸を触られた私の方が恥ずかしいんだけど?」

苗木「ごめん……で、でもさ」

江ノ島「でも何? 小さくて胸じゃなかったって言いたいわけ!?」

苗木「それは違うよ!」

思わず否定し、

中途半端に止めることもできずに言葉は漏れていく

苗木「ボクはそういう経験ないから解らないけど、確かに柔らかかった……罪悪感が凄く湧くくらい!」

だから、そう。

苗木「ボクが叩いたのは間違いなく胸だよ、本当にごめん!」

江ノ島「っ……そこまで言われると恥ずかしすぎて死ぬ! 意識しちゃうじゃんかぁ!」

舞園「なら、この件はもう終わりにしましょう。忘れた方が、ね?」

舞園さんのその提案に頷きながらも、

忘れるなんて到底無理な衝撃だったし、

江ノ島さんは江ノ島さんで顔を赤くしたままチラチラとボクを見てくるのだった


舞園「……とりあえず、江ノ島さんは私たちと一緒にいましょう」

江ノ島「で、でも! あたしってすごく怪しいんでしょ!」

舞園「そんなことはないですよ、貴女は江ノ島さんです。私たちが知る江ノ島さんです」

江ノ島「っ……そ、そう?」

江ノ島さんの不安そうな声に、

ボク達は頷いて答え、笑う

苗木「そうだよ、江ノ島さんは江ノ島さんだ」

真実がどうであれ、

今目の前にいる江ノ島さんが、

自分からそうではないと言わない限り、

ボク達からすれば江ノ島盾子は目の前にいる彼女なんだ

苗木「モノクマのせいで……なんて言わないよ。疑ってごめん。何を言われたって、ボクはキミを信じるべきなのに」

江ノ島「そこまであたしを信じてんの……? なんでよ……怪しいって思うでしょ?」

黄色い光が見える。

注意色、言動に気をつけてってことかな……でも。

ボクはボクが彼女に思うことをいうだけだ


苗木「あの相談は本心からだってボクは思ってる」

江ノ島「………………」

苗木「それに、サバゲーとかをしてる時のキミの嬉しそうな姿も本物だって思ってる」

江ノ島「………………」

苗木「そして、さっきの悲しそうな表情も無理やりな作り笑いも本物だって思ってる」

前から何度も思っているし、

それだけは偽りじゃないと思ってることがある

それは、

苗木「優しい人で、純粋な人で、天然が入っていて、ちょっと困る人で、銃とかサバゲーが好きな人」

江ノ島「ぅ……」

江ノ島さんは目を逸らし、布団で口元を隠した

苗木「そこまで自分を見せてくれる人を、疑うなんてしちゃいけないよ!」

江ノ島「バカじゃないのバカじゃないの、ばっかじゃないの!?」

苗木「馬鹿かも……でも、馬鹿だからこそ前向きになれる。不確定な未来に――希望を持つことができるんだ!」

黄色い光は消えて、光はなくなった

結果はわからない……でも、解らないなら希望は捨てない。

悪い結果だとしても、最後の最後までボクはあきらめない。

絶対にキミを、舞園さんを……助けるんだ!


ここまで、中断


江ノ島「でもさ……その先に希望を見つけられなかったら?」

苗木「え?」

江ノ島「どうあがいても絶望しかなかったら? そんな人はどうしたらいいの?」

江ノ島さんの質問は、

果たして目の前の江ノ島さんのことなんだろうか。

いや、確かに自分のことを相談する際に、

別の誰かを架空で作り出してその人が~と、言うこともある

でも……光がそうじゃないって光るんだ

江ノ島さんがそんな辛い経験をしてるんだって思った。

でも、

心で黄色い光がうるさく響くんだ

注意をしろって――

舞園「……その人は本当に絶望しかないのでしょうか?」

苗木「え?」

ボクよりも先に、舞園さんが口を開いた


江ノ島「どういうこと?」

舞園「そのままの意味です。友人に恵まれなかったかもしれません。環境に恵まれなかったかもしれません」

でも。と、すぐに続け、

舞園さんはボク達に口を挟む隙を与えなかった

舞園「ご両親は? 兄、姉、弟、妹は? 誰か一人は……いるんじゃないですか?」

江ノ島「……いや、その人は絶望に囲まれすぎてより強い絶望を求めるようになっちゃんだ」

苗木「そんな……」

江ノ島「嘘じゃないんだよね。そのあまりに自分を想ってくれる友人ですら――」

モノクマ「おやおや~? もう仲直りしたクマー?」

また、邪魔をする。

江ノ島さんが話している時に限ってではないけれど、

高確率で邪魔をしに来る

……何か関係あるのかな?


舞園「何をしに来たんですか?」

モノクマ「えっ酷い、酷いよ舞園さん! まるで僕がこれから悪さをするみたいじゃないか!」

舞園「物理的なことはしないと思いますけど……精神的なことはするつもりですよね?」

そういった舞園さんは黙り込んでモノクマを見つめ、

それに負けじと対抗心を燃やしているかのように、

モノクマもまた舞園さんを見つめる

そんな中、

江ノ島さんだけは悲しそうな瞳でモノクマを見ていた

江ノ島「ねぇ、アンタさ……こんな下らない事止めてアタシ達を解放しなさいよ」

モノクマ「いきなり何を言うかと思えば――却下だよ却下! そんなことするわけないよ!」

江ノ島「こんなことしても何も楽しくないし、何の解決にもならない。黒幕が本気で――」

モノクマ「あーあーっ! きーこーえーなーいー」

モノクマのそんなふざけた態度に怒る素振りもなく、

江ノ島さんは悲しそうな表情で呟く

江ノ島「聞こえないって言うなら、アタシは言っちゃうかもしれない」

モノクマ「は? 江ノ島さんどーしちゃったわけ? ギャルじゃないぞー?」

江ノ島「……もう止めた方が良いよ。あんたはあたしに似てる気がする。このままじゃ、後悔するよ」

モノクマ「後悔? いーじゃない! さいこーだよ!」


舞園「……そうですか」

モノクマ「ん?」

舞園「いえ、なんでも」

舞園さんは何かに気づいた

そして、それは多分ボクが気づいたことと同じだ

絶望を求める江ノ島さんの知り合い

それと似ているモノクマの絶望を求める言動

そこから導かれるのは

江ノ島さんの知り合い=黒幕

ということだ

江ノ島「……あたしは変わったよ。だから、アンタもきっと」

モノクマ「うわわわわわわっ! 全身鳥肌だよ! クマ肌だよ!」

江ノ島「…………………」

モノクマ「生まれ変わっちゃいましたとかいうのは、絶望的に臭い少年漫画だよ! それで十分だよ!」

モノクマはそう言い、逃げるように去っていく

残されたボク達。そこにポツンと消えるように流れた江ノ島さんの言葉

江ノ島「……こういう、ことなんだよね」

それは自分が裏切りものであるということが

紛れもない事実であったということを、認めたようなものだった


短いですがここまで


残姉と妹様が対峙した瞬間でした


舞園「黒幕がその知り合いなんですね?」

江ノ島「……そう」

苗木「江ノ島さん……」

江ノ島さんはきっと、

すごく迷って、悩んで、苦しんだ末に、

この選択を選んだんだ

自分の知り合いが黒幕であるということ、

自分自身がボク達の裏切り者であるということを。

江ノ島「そんな顔しないでよ、苗木くん、これは私が選んだことなんだから」

苗木「江ノ島さん?」

江ノ島「私は決めた。あの子のためにあの子に従うんじゃなくて、あの子のためにあの子の敵になるって」

舞園「後悔しませんか? それは人生を変えちゃうような大きな――」

江ノ島「変えたい。私の人生も、あの子の人生も。変えたいの……思い出せば思い出すほどに苦しい過去しかないから」

江ノ島さんはそう言いながら、

辛そうな表情を笑みへと変えていく

江ノ島「欲しいんだ、あの過去を経験してよかったっていう喜びを。させてあげたいんだ。あの子にも」

江ノ島さんは選んだ。

黒幕の敵になるということ

自らもまた、殺されてしまう可能性を得ることになると知りながら。


江ノ島「ごめんね? でも……私は決めたよ。もう偽らないって」

江ノ島さんはカメラを見つめ、指を指す

江ノ島「私は江ノ島盾子を辞める。本当の私でみんなと接する」

苗木「え――」

色鮮やかなゴールドピンクの髪ではなく、

比べる必要すらなく地味と言われそうだけど、

艶やかな黒髪を、彼女はさらけ出した

舞園「やっぱり……」

江ノ島盾子になるためのカツラを、

彼女はカメラへと掲げた

戦刃「私は戦刃むくろ。盾子ちゃんの姉であり、超高校級の軍人――希望ヶ峰学園16人目の高校生!」

苗木「戦刃……むくろ? ま、待って、それじゃ」

戦刃「そうだよ。黒幕は存在するはずなのにしていない私の妹。江ノ島盾子」

その言葉の直後現れる黄色い光、

出てくるのはやっぱりモノクマだった


モノクマ「それはさすがにないかなーって」

戦刃「ううん、あるんだよ。盾子ちゃん」

モノクマ「あぁもう、さっさと殺し合い始めないから中途半端すぎるネタバレだよ!」

戦刃「そうだね……もっと早く、私はこうしておくべきだったんだね」

戦刃さん? は、

モノクマをやっぱり儚げに見つめていた

戦刃「そうすれば、あの人だって」

モノクマ「なに言ってるのかな? 戦刃さんはまったく……本当に残念な人だね」

2人の過去には何かがあって、

戦刃さんはそれを悔やんでいるようだった

戦刃「盾子ちゃん、あのね――」

モノクマ「何度言ったって僕はこの生活を止めないよ?」

戦刃「ううん、違う。そうじゃないよ……私、希望はあるんだってわかったんだ」

モノクマ「…………………」

戦刃「それを私は教えてあげる、見せてあげる。お姉ちゃんとして――妹に幸せになって欲しいから」

モノクマ「アッハッハッハ! つまらない、くだらない、気持ち悪い、なんだいそれ、希望(笑)? 僕はそんなの要らないよ!」


戦刃「盾子ちゃん……っ」

モノクマ「あ~絶望的だよ。練にねった計画が残念な姉によって中途半端にネタバレ」

モノクマは絶望的という割には、

すごく嬉しそうで、

すごく楽しそうで、

もはや狂気を感じてしまうようなものだった

モノクマ「みんなを裏切るはずの姉が私様を裏切っちゃうなんて――あぁーもうっ絶望的すぎるっ!」

モノクマの叫びに近いような声

それが途切れ、赤い光が輝き、煙が部屋を包み込む

苗木「っ! 気をつけて!」

舞園「!」

戦刃「うん」

そして現れたのは、本物の江ノ島盾子だった

江ノ島「まさかお姉ちゃんにこれほどまでに絶望させて頂けるとは思いませんでした」

戦刃「謝らないよ。もう、敵だから」


江ノ島「うぅっ……絶望的ですね……大神さんに戦刃さん。戦闘能力は段違いです……」

舞園「ふざけているんですか……?」

江ノ島「べっつにふざけてるわけじゃーないんだけどねー?」

戦刃「盾子ちゃんはその飽きっぽさから同じ口調を続けたりしないの」

江ノ島「ご解説ありがとうございます。そういうわけなのです」

江ノ島さんはコロコロと口調を変える。

まるでこの3対1を楽しんでいるかのように

苗木「江ノ島さん、ボクらは殺し合いをしない。黒幕の正体も解ったもう止めよう?」

江ノ島「えー残念ですが、それは無理な話ですね」

舞園「でも、学級裁判さえ起きないこの膠着した状態をどうするんですか?」

江ノ島「こ、この学園……の、謎を解き明かしてもら、もらおうと、おもいます……」

この学園の謎……?

戦刃「……私が知らないところで勝負をするってことだね?」

江ノ島「そう、です……お姉ちゃんがどこかで何かしているあいだに行われたこの学園の出来事もあるということです」

舞園「勝利条件、敗北条件は?」

江ノ島「はぁ? んな説明めんどくさいって! こういう時のために電子手帳渡したんじゃなかっただっけー?」


苗木「あ……更新され――!?」

電子手帳へと意識が向き、

また江ノ島さんの方を向いたときには既にその姿はなかった

そして、

その代わりにモニターが映像を映し出す

モノクマ『えーただいまより、オマエラにはこの学園の謎を解き明かしていただくことになりました』

舞園「…………」

モノクマ『施錠されていたすべてのフロアを開放するので、存分に調べあげましょう』

戦刃「一定時間……」

苗木「全フロアって――5階!?」

舞園「ゆっくりしてる暇はないみたいですね」

唐突に始まった謎を解き明かす為の捜査

勝利条件は謎を正しく解き明かすこと

敗北条件は謎を解けないこと

苗木「行こう、舞園さん、戦刃さん」

戦刃「ちょっとまって、私のこと――」

舞園「大丈夫です、私たちの仲間じゃないですか」

苗木「戦刃さんのおかげで一気に解決へと迎えるんだ。みんなが悪く言っても、ボク達は味方だよ」

そう返すと、戦刃さんは嬉しそうに笑う

戦刃「ありがとう」

戦刃さんが決意してくれたからこそ、

コロシアイを止め、学園の謎を解き明かすという大詰めのような展開に移った

……きっと謎を解き明かすことはできる。

大丈夫、信じるんだ。みんなのことを、自分のことを

苗木「行こう!」


とりあえずここまで


大神さんの戦闘力は53万です

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