エルサ「ありの、ままで」 (13)

「エルサ!」

真夜中に妹が私を起こす。寝たふりしても。

「起きて起きて起きてよぅ!」

しつこい。妹のアナは甘えん坊でずる賢い。

「雪だるま作るのはどーお?」

その提案を断るべきだった。私の魔法でアナを傷つけてしまった。その日を境に、私は外界から隔離され、お城に幽閉されて過ごす。

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「雪だるまつくろう」

事故の記憶を封印してアナは元気になった。

「ドアを開けて」

開けられない。開けたらまた傷つけるから。

「一緒に遊ぼう」

ダメ。今度こそ取り返しのつかないことに。

「どうして出てこないの?」

魔女だから。生まれつき、魔力が強いから。

「前は仲良くしてたのになぜ会えないの?」

感情が高まると、魔法が制御出来なくなる。

「雪だるまつくろう。大きな雪だるま」
「あっち行って、アナ」

雪だるまなんて作らない。私が拒絶すると。

「わかったよぉ……」

ああ、アナ。ごめんなさい。本当に悲しい。
あなたは何も覚えていないのに。酷い姉だ。
それでもアナは、何度も何度も扉を叩いた。

「雪だるまつくろう。自転車に乗ろう」

アナはもう自転車に乗れるのね。羨ましい。

「ずっと1人でいると、壁の絵とお喋りしちゃう。寂しい部屋で、柱時計見てたりするの」

ごめんなさい、アナ。私はお姉さんなのに、妹の相手もしてあげられない。自転車にも乗れない。ある日、両親が遠くへ外遊に出た。

「どうしてもいくの?」
「すぐに戻るから。大丈夫」

すぐに戻ると行ったのに帰ってこなかった。
両親が乗った船は嵐に遭って沈没したのだ。
魔女の私を愛してくれた両親はもういない。

「……エルサ」

昔、傷つけた妹がドアの向こうで懇願する。

「ねえ、ドアを開けて」

開けられない。何も出来ない。慰める事も。

「……心配してるの」

妹に心配されてしまうような姉の存在意義。

「……会いたいわ」

会って傷つけたら、アナまで失ってしまう。

「そばにいれば、支え合える。2人で。あたし達だけで……これからどうしていくの?」

どうしようもなかった。両親はもういない。

「雪だるまつくろう……」

雪だるまをつくるよりも、やるべきことが多すぎた。父である国王に代わり、私が女王となるのだ。魔女のこの私が。不安しかない。

「やめてって言ったの!!」

やってしまった。戴冠式で久しぶりに顔を会わせた妹がさっき会ったばかりの男といきなり結婚すると抜かしたのが原因だ。最悪だ。

「エルサ! 待って!!」

私は待たない。最初からこうすれば良かったのだ。私はこれから独りで生きていくべき。
それなら誰も傷つけずに済む。雪のお城で。

「ありの、ままで」

私は生まれつき、強力な魔法を使える魔女。
そうだ。何を悩み、恐れることがあるのか。
私はなんだって出来る。氷のお城を作って。

「これで、いいの」

誰もいなければ、誰も傷つけずに済むから。
たった独り、君臨しよう。この氷の王国に。
今日から私は雪の女王。それが本来の姿だ。

扉を閉め切ると、すこしも寒くはなかった。

「エルサ! あたしよ、アナよ!」

ある日、アナが私の氷のお城にやってきた。

「うわぁ~! エルサ、なんだか……変わったね。もちろん、良い意味で!」

こちらの機嫌を伺うアナ。もう怒ってない。

「気にしないで、謝る必要はないわ。だからもう帰って。私はここにいる……独りで」
「エルサ行かないで。ねえ、お願いよ。私から離れないで。生まれて初めて力になれる」

私は力になれない。生まれてから、ずっと。

「2人で山を下りようよ!」

山を降りたらまた街を氷漬けにしてしまう。

「1人だけ残して帰れない……」
「お願いよ。帰りなさい。太陽が輝く国へ」
「うん……でも……」

アナはあの温かな国で。私はこの氷の国で。

「いいの。ここでは独りだけど、自由に生きられるの。だから、もう私に近づかないで」

ここなら私は私でいられる。ありのままで。

「それは無理」
「なぜ無理なの?」
「ものすごい雪よ」
「なんのこと?」

きょとんとして問い返すと言いづらそうに。

「エルサの力で国中が雪と氷に包まれたの」
「国中が……?」

なんてこと。ああ、そんな。なんて、酷い。

「エルサなら元に戻せるでしょ?」
「いいえ、やりかたがわからない」

ああ酷いわ。悲しい。何もかも無駄だった。
無意味だった。私に出来ることは何もない。
危険なだけ。独りでここにいることすらも。

どこにも私の居場所なんてない。酷すぎる。

「アナ!?」
「うぅ……大丈夫、平気」

私の絶望が、波動となって、アナを襲った。
胸を押さえて、苦しそうに山を下りていく。
アナの心はゆっくりと冷たく凍ってしまう。

「助けようとしたんだが、手遅れだった!」

ハンスが妹の最期を語る。そんな、アナが。

「肌は凍り、髪は白くなっていた……!!」
「あ、ああ……ああっ……そんな! アナが」

アナが。私の妹が。私のたった1人の家族が。

「へへっ……馬鹿が! くたばれ雪の女王!」
「だめぇええええええええええっ!!!!」

アナは凶刃から私を守り氷の彫像と化した。
彼女は生きていた。最後の力を振り絞って。
私は救われた。アナの愛によって。ならば。

「愛は氷を溶かす……愛! そうよ!」

私の愛。真実の愛により全ての氷は溶ける。

「やっぱり、2人のほうが寒くないわ」
「ふふっ。そうね……ところでハンス王子」
「あ! ああ、いや! 全てこの私の計画通り、妹君も王国も救われてよかったよかった!」
「アナ、まだこんな彼と結婚したいの?」
「エルサ、私が間違ってた。ごめんなさい」

温かな気持ちが冷めていく。嘘つき王子め。

「よくも私の妹をっ!!」

両手に力を漲らせる。ハンスはしゃがんで。

「ひっ」

ぶりゅっ! っと。勢いよく、彼は脱糞した。

「フハッ!」
「ひぃっ!? お赦しを! 糞の女王様ぁ!!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「素敵な香り。チョコレートかな? ありのまま。生まれて初めて、愉悦に浸り、愛を知れて……よかったね、エルサ」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

愛は氷を溶かす。そしてフハッンスが漏らした糞もまた、ホカホカと氷を溶かせるのだ。
糞だるまつくろう。大きな愛しい糞だるま。


【アナと糞の女王】


FIN

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