今井リサ「弟の日記を見つけた」 (35)


※リサ姉とその弟くんのほのぼの話です。

 弟くんに勝手なキャラ付けをしています。

 リサ姉と友希那さんはちょっとキャラ崩壊してます。


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 8月14日

 最近、俺に対する姉ちゃんの子供扱いっぷりに拍車がかかりまくっている。

 なんなんだよ、本当にあの姉は。気にかけてくれているんだろうことはなんとなく分からなくもないけど、どうしていつまでも俺をガキ扱いするのか。

 俺はもう14歳だ。中学2年生だ。切符だって大人料金だ。

 なのになんでアイツはいっつもいっつも俺をガキ扱いするのか。謎だ。謎過ぎる。

 正直もう我慢ならない。どうにか姉ちゃんを見返してやる。この日記はそのための活動日記だ。

 見てろよクソ姉貴。ぜってーもう俺がガキじゃないって思わせてやる。


 8月19日

 また子供扱いされた。

 一緒に飯に行って、どうしてか勝手にメニューを決められかけた。

「アンタ、これ好きでしょ? あと今日の気分的にこれとこれかなぁ?」じゃねーよ。勝手に決めんな。ファミレスの飯くらい自分で決めさせろよ。オカンか。

 確かにそれは俺の食いたいものだったけど、そうされたら反発するしかねーじゃねーか。ふざけんなこんちくしょう。おかげで大して食いたくもないハンバーグセットなんか頼んじまった。

 けどそれはそれでなかなか美味しかった。今度からは選択肢に入れよう。

 あーでも食べたかったなぁ、焼き魚定食……ほっけに白いご飯……はぁ~……。

 つーかなんで姉ちゃんは俺が食べたいもの分かるんだよ。謎だよ本当。


 8月23日

 姉ちゃんにまた服をおしつけられた。「バイト代、ちょっと多く入ったんだ~」って。

 まぁそれはいいよ。服をなんか買ってきてくれるのもちょっとウザいはウザいけどありがたいっちゃありがたい。

 けどなんでいつもあの姉はレディース買ってくんの? 俺のことを妹だと勘違いしてんの?

 って聞いたら

「いいじゃん、似合うんだし。アタシも着れるし」

 って言われた。

 姉ちゃん、頭おかしいんじゃないか。似合わねーよ。ふざけんなよ。ガキ扱いどころか弟だと思われてねーよ俺。妹だと思われてるよ。

 本当になに考えてんだあの人。

 ……けど、鏡の前で姉ちゃんが買ってきた服をあてがったら、すげー悔しいけど、確かに今回の服も俺に似合ってた。

 そう思った瞬間すっげー負けた気持ちになったから、あの服は押し入れの奥にしまった。ちくしょう、今に見てろ。


 8月28日

 散歩してたら友希那さんに会った。

 このクソ暑い街中を涼しい顔して歩いてた。やっぱカッケーなあの人。

 せっかくだから話しかけたら、今日は新曲の構想を練るために色んな場所を見て歩いている、って言われた。

 超クール。超ストイック。本当にカッコいいわあの人。男として憧れる。

 正直、友希那さんが俺の姉ちゃんだったらなぁとちょっと思った。

 これは言ったら姉ちゃんにすげー怒られそうな気がするから、心の中にしまっておこう。


 9月3日

 本格的に学校が始まった。2学期だ。

 宿題はきちんと終わらせたし、久しぶりに顔を合わせる友達と話したり、夏休み中もよくつるんでたやつらとまたはしゃげて楽しかった。

 けど姉ちゃんに強制的に持たされた弁当をみんなの前で広げるのはあんまり好きじゃない。

 キャラ弁、っていうやつだっけか。あのご飯の上にマークとか乗せるやつ。

 それがロゼリアのマークとかなら別に気にしないし、むしろカッコいいからみんなにも見せつける。

 だけど猫の顔を白いご飯の上に作るのは本当にやめてくれ。

「友希那に作ったついでだからさ~」じゃないよ、そんなおかわいい弁当を中学生男子に持たせるなよ。

 おかげで友達連中にめちゃくちゃからかわれた。女子からも「今井くんってやっぱり可愛いよね」なんて半笑いで言われた。軽く死にたいんだけど。ちくしょうめ。


 9月5日

 やばいことに気付いた。

 姉ちゃん対策のための日記なのに、気付いたら姉ちゃんにやられたことしか書いてない。

 これじゃあ俺の敗北の記録だ。こういう時はクールに音楽でも聞きながら、これからの方針をまとめないといけない。

 今日の気分は「RAZES」だ。音楽のことは全然分からないし、このバンドも超マイナーなバンドってことしか知らないけど、なんかカッコいいから好きだ。

 ロックンロールを鼻歌で歌ってると、姉ちゃんが部屋に来た。いつもけっこうずけすけとしてるけど、こういう時はちゃんとノックするのは非常にありがたい。おかげでさっさと日記を隠せた。

 何の用か聞いたら「筑前煮作ったから食べない?」と言われた。

 筑前煮。出た、筑前煮。姉ちゃんの大好物。暇さえあればクッキーと筑前煮作ってるよな、姉ちゃん。おかげで小学生の頃から「筑前煮」だけは絶対に漢字で書けるようになったわ。

 んなこと考えてたら「いらないの?」と聞かれたから「いる」って答えた。

 まぁ、あれで姉ちゃんはそこらの人より料理上手いし、俺も和食好きだし、育ち盛りにたくさん食べないと身体が成長しないって友希那さんが言ってたから、断る理由なんてない。

 筑前煮、うまかった。

 姉ちゃん対策はまた明日から考えよう。


 9月7日

 あんまり相談することでもないけれど、最近よく話しかけてくるクラスメイトの女子が作戦を考えたりするのが得意だって言うから、「強敵の倒し方」について聞いてみた。

 そいつ曰く、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」とのことだった。昔のすごい頭のいい人の言葉らしい。それなら参考になりそうだ。

 つまり姉ちゃんを知り、俺を知れば勝てるということか。

 俺のことは俺が一番よく知ってるから、じゃああとは俺が姉ちゃんを知ればいいということだ。


☆姉ちゃんのこと

・ロゼリアってバンドでベースをやってる
 たまにライブ見に行くけど、そういう時だけすげーカッコいいのは正直ズルい。

・無駄に家庭的で無駄にお節介
 しょっちゅう俺の世話を焼こうとご飯とかおやつ作ったり洋服作ったりしてくる。ありがたいはありがたいけど頻繁に来られるとやっぱウザい。

・気遣いが上手い
 なんか知らんけど昔から俺が真面目に悩んでる時とかだけは真剣に話聞いてくれる。エスパーか。

・友達が多い
 休みの日とかしょっちゅう姉ちゃんの友達が遊びに来る。ロゼリアの人たちはもう覚えたけど、毎週毎週ってレベルでいろんな人がウチにやってくる。コミュ力お化けか。

・たまに母さんっぽくなる
 いやたまにじゃねーや、ほぼほぼいつも母さんっぽいわ。なんなんその有り余る母性みたいのは。その矛先を俺に向けるの本当にやめろよ。恋人でも作ってそっちに向けろよ。

・怖いものが苦手
 ホラー映画とか心霊番組見てる時だけは絶対に近付いてこない。意地でも近付いてこない。


 あ、これだ! 姉ちゃん、ホラー苦手だしここから攻めればいいんだ!

 流石歴史好きの参謀系女子だぜ、完璧な強敵の倒し方を伝授してくれた。

 これを軸にこれからの作戦を練っていこう。


 9月12日

 この前の作戦は失敗した。

 姉ちゃんに軽くジャブのつもりで「最近ホラー映画に興味がある」って言ったら、青い顔をしながら「じゃあ後輩にそういうの好きな子がいるから、何か借りてきてあげるよ」って言ってきて、そこまではよかった。

 ただ、姉ちゃんが借りてきたホラー映画。それがまずかった。

 今まで別にそういうものは苦手じゃないし、台所の黒い生命体Gとかそういうのの方が怖いと思っていた。

 それが一気に覆された。

 なんなん、あのまがまがしい雰囲気を放つDVD集は。1本目でもうギブアップだよ。ふざけんなよ、なんでこんな怖い映画作るんだよ。何が目的だよ。もう部屋の電気消せねーよ。風呂入れねーよ。

 つーか何者だよこのDVD姉ちゃんに貸したやつは。ぜってー心臓に毛が生えまくった、なんか黒いローブとか身に付けた魔術師みたいなやつだろ。

 ああもう、その友達、姉ちゃんが家に連れてきたらどうしよう。もしも機嫌を損ねるようなことしちゃったら呪いみたいのでひどい目に遭うかもしれねぇ。まじで怖い。

 これじゃあ俺の苦手なものが増えただけじゃねーかよ、くそっ


 9月18日

 ここ数日あんまり眠れない。

 なんだか今日は夢の中でハサミのジャキンジャキンっていうでっかい音をずっと聞いてたような気がする。なんなんだ、あのやたら耳に残る音は。

 まぁそれはいいや。

 最近、この前の作戦を考えてくれた歴女とよく話をする。

 きっかけは、散々な目に遭ったって言ったら謝られたから、「いやヘマこいたの俺だし気にすんな」って言ったことだった。

 それからやけに親身に作戦を考えてくれるから、必然的によく話すようになった。

 影が薄い大人しいだけの女子だと思ってたけど、なんか普通に良いやつでちょっとびっくりした。人は見かけで判断しちゃいけないんだな。

 そいつが考案した作戦を今度試すことにした。

 題して、「疑似姉ちゃん模擬戦」。姉ちゃんを仮想してタイマンで出かけて、経験値を積むのが目的だ。

 その疑似姉ちゃん役は考案者の歴女がやってくれることになった。なんも見返りないのに本当にいいやつだな。今日からこっそり相棒と呼ぶことにしよう。

 実行日は9月22日に決まった。頑張ろう。


 9月20日

 またまた姉ちゃんに服をおしつけられた。今回は手編みのセーターだ。

 うん、まぁ、これから寒くなるからセーターはありがたいよ。けど姉ちゃんの手編みだと、どーしても友希那さんの好みに偏ることが多いから困る。

 いつも通りザ・女物って感じの色合いだし、袖にハートのアップリケが付いてるし……あの姉は弟をどの方向に持っていきたいんだよ。ほんと謎。

 つか友希那さん、ハートのアップリケとか嫌がるだろ。大人しく猫にしとけよ。それなら喜んで着るだろうし、俺におしつけられることもないだろうし。

 毎年のことだけどよく作るよな、姉ちゃんも。

 外じゃ恥ずかしくて着れないけど、今年のセーターも家の中用にしておこう。


 9月22日

 今日は「疑似姉ちゃん模擬戦」の実行日だった。駅で相棒と待ち合わせして、一緒に出かけた。

 今回の作戦は俺の臨機応変力を鍛えるのが第一目的らしいから、姉ちゃんの特徴を伝えたあいつに段取りは全て任せてあった。「頑張ってお姉さんっぽく振舞う」とか気合入った顔で言ってたから、俺もそれに負けないように頑張った。

 ふたりで行ったのは、水族館、ショッピングモール、猫カフェ、ゲーセン。

 一番驚いたのは、サラッと特徴伝えて写真を見せただけで姉ちゃんをなかなかの精度でコピーしてきた相棒のことだった。

 ただ、やっぱり無理してるのか、姉ちゃんらしいスキンシップをしてくる時はやたら顔が赤かった。

 こんなに手伝ってくれてるのに何もしないのは悪いから、流石に飯代と猫カフェ代くらいは奢った。そしたらやっぱり赤い顔をしてお礼を言われた。

 こうやって大人ぶってみるのも姉ちゃんには有効打なのかもしれない。今度やってみよう。

 あ、猫カフェといえば、猫と遊んでたら偶然姉ちゃんと友希那さんがお店に入ってきた。作戦だとバレてしまうと厄介だから、「ふたりで遊びに来たんだよ」と嘘をついておいた。相棒もそれに黙って勢いよく頷いてくれた。本当にいいやつだな。

 そういえば姉ちゃんが相棒を見て「キミが例の……」とかなんとか言ってたな。もしかして面識あったのか。……いや、そんな訳ないか。

 それからしばらく姉ちゃんと相棒がなんか話してたから、俺は友希那さんと一緒に猫におやつをあげた。そしたらやけに三毛猫に懐かれた。可愛かった。

 そんなこんなの作戦だったけど、これで姉ちゃんを打倒できるほどの経験がたまった訳じゃない。また今度も同じような作戦で経験値を貯めていこうということで、今日はお開きになった。

 ……けど、なんか引っかかるんだよなぁ。


 9月26日

 姉ちゃんはやっぱりなんだかんだ優しいよな。

 頼りになるし、家事も完璧だし。

 わざわざ俺の為に服を買ってきてくれたり、料理を作ってくれたりして、まぁ、うん、ありがたいよな。

 お礼のひとつもまともに言ったことなかったから、今度面と向かって言った方がいいかな。

 ああ、うん、その方がいいよな。でもやっぱ言葉にするのは勇気がいるし……ここに書いてみようかな。

 姉ちゃん、いつもありがとう。


――今井家 弟くんの部屋――

弟「……まさか、な」


――翌日 湊家リビング――

湊友希那「……で、家出してきた、と」

弟「……ああ」

友希那「そう……」

弟「…………」

友希那「……あなたの勘違いじゃなくて?」

弟「いーや、絶対に勘違いじゃない。姉ちゃん、今日めちゃくちゃ機嫌よくて気持ち悪いくらい俺に優しくしてきたから」

弟「おかしいと思ったんだよ、この前の作戦のこと。思い出してみると行く先々に姉ちゃんっぽい人がいたような気がするし」

弟「今日は今日で、べた褒めした後にあんなに機嫌がよかったんだ」

弟「絶対、姉ちゃんは俺の日記読んでる」

友希那「……そう」

友希那(……リサ、とうとうバレてしまったのね。こっそり弟くんの日記を読んでいたの……)

友希那(それにしても、ちょっと良く書かれたからってすぐ態度に出してしまうなんて……意外と抜けたところがあるわよね、あの子も)


友希那「それで、これからどうするの? 家出って言っても、隣じゃない」

弟「灯台下暗しだよ、友希那さん。『探さないで下さい』って書き置きまでしたんだ。まさかここにいるだなんて微塵も思わないだろう」

弟「もう俺も怒ったからな。友希那さんにはちょっとごめんなさいだけど、ここで時間を潰して、散々心配させてやる」

友希那「そう……」

友希那(30分くらい前にリサから、『ごめん、ウチの弟が友希那のとこ行くと思う』って連絡が来てることは黙ってあげておいた方がいいかしらね、この様子だと)

弟「はぁー……マジありえねぇよあの姉貴。なに? なにを考えて弟の日記を読もうと思うワケ?」

友希那「あれじゃないかしら、隠す場所とか……書いたノートが悪かったんじゃない? それでたまたま開いたら日記だったとか……」

弟「んなことないよ。ここはセオリー通り、本棚の中にそれとなく置いておくって感じでしまっておいたんだし」

友希那「……そうなのね」


友希那(その発想は悪くないと思う)

友希那(けれど、その日記帳って、リサが弟くんの誕生日にあげた結構しっかりしてる手帳だって言ってたわね)

友希那(そんなものを使うから……)


今井リサ『ホント、ウチの弟は素直じゃないなぁ。アタシがあげた手帳、こんなに大事に本棚にしまって。ふふっ』


友希那(……なんて、リサに目を付けられてしまうのよ)

友希那(いや、だからといって勝手に開くリサはどうなの? という話でもあるけれど……)


リサ『やばい、友希那。弟の日記見つけた。けっこう褒められてるよ、アタシ! わぁ、嬉しいなぁ』


友希那(……とか、本当嬉しそうに言われたら……まぁ、バレなければいいのかなって思ってしまうのよね)


弟「あーくそ、だから相棒のこと見て『キミが例の……』とか言ってたんだな。こそこそふたりで話してたし」

弟「……あれ、それじゃあもしかして相棒ももう既に姉ちゃんの手の中に……?」

友希那「それはないわね」

友希那(あれはただ単に弟くんの好みとかを教えてあげてただけだし)

弟「え、どうして分かるの?」

友希那「……女の勘よ」

弟「そっかぁ。友希那さんってやっぱすげー」

友希那「まぁ、ね」

友希那(それを私から言うのはマナー違反……だから適当に誤魔化したけど)

友希那(この子、もう14歳よね? ちょっと純粋過ぎないかしら?)

友希那(流石に私でも分かるわよ。例のあの子が弟くんに好意を寄せてることくらい)

友希那「……まぁ、いいのかしらね」

弟「どうかした?」

友希那「いえ、別に。青春ってそういうものよねって思っただけだから」

弟「はぁ……?」


友希那「それより、リサにも悪気があった訳じゃないと思うから、あまり心配させては駄目よ」

弟「そうは言うけどさぁ……過保護っていうか、世話焼きっていうか……あんだけ面倒みられると流石にうんざりするんだよ」

友希那「まぁ……そうね。日記を勝手に盗み見るって言うのは流石にアウトだと私も思うけれど、きっとあなたのことが可愛くて仕方ないのよ」

弟「まずそれだよ。あの人、俺のこと弟じゃなくて妹だと思ってる節があるんだよ」

友希那「そうかしら?」

弟「そうだよ。じゃなきゃ女物の服を俺に買い与えたりしないって」

友希那「……ああ」

友希那(確かに、弟くんって昔からよく女の子に間違われていたわね)

友希那(顔立ちもリサをちょっと生意気にしたような感じだし、背丈もまだ私より低いし)

友希那「でも似合いそうだし、いいんじゃないかしら」

弟「似合うのがまず問題だってば。あーあ……俺も湊さんみたいな渋くてクールな男になりてぇーなぁ……」

友希那「全然クールじゃないわよ、うちのお父さん」

弟「いやいやクールだよクール。憧れるもん、俺。まじかっけぇよ」

友希那「まぁ……ええ、そうね。そう思うのは自由だし、あなたも昔からよく懐いているものね」

友希那(そのせいかは知らないけど、お父さん、やたら弟くんには甘いのよね)

友希那(しょっちゅうキャッチボールとかしたがるし、やっぱり父親は息子を欲しがるものなのかしら)


友希那「それより、どれくらいここにいるつもりなの?」

弟「姉ちゃんが金輪際俺に女物の服とかを与えないって思うまで……かなぁ。俺だってやる時はやるんだって思い知らせてやる」

友希那「一生ここにいるつもりかしら?」

弟「え?」

友希那「……いえ、なんでもないわ」

友希那(気付いてないだろうけど……そういう風に跳ねっかえりが強かったりそっけなかったりするから、あれだけリサに世話を焼かれるのよ)

友希那(あの子、そういう人ほど放っておけないというか、無性に可愛がりたくなる性格してるし)

友希那(どうしてあんな面倒な趣向になってしまったのかしらね)

友希那(昔はそこまででもなかったはずなのに……不思議だわ)


弟「まぁ、でも、そうだなぁ……流石にここにずっといたら友希那さんにも迷惑だし、湊さんに挨拶したら帰るよ」

友希那「そう。一声かけてくれれば、お父さんも喜ぶと思うわ」

弟「湊さんってどれくらいに帰ってくるの?」

友希那「いつも通りなら……あと2、30分くらいかしらね」

弟「分かった。それまでちょっとここにいさせてもらいます」

友希那「ええ。ごゆっくり」

弟「うん、ありがとう。……あ、そうだ! この前のロゼリアのライブ、見に行ったよ!」

友希那「あら、そうなの? お楽しみ頂けたかしら?」

弟「ああ! 友希那さん、超カッコよかった!」

友希那「そう。ありがとう」

弟「おぉ……クールだなぁ……。俺もこうやってカッコよくお礼を言ってみたいなぁ」

友希那(……まぁ、確かにこうやってあこみたいに純粋に慕ってくれて、悪い気はしない)

友希那(けど……)


友希那「あなたの場合はクールよりキュートの方が似合いそうね。アイドルとか向いてるんじゃない?」

弟「は、はぁっ!? そんなことないからね!?」

友希那「そうだ。一度、ロゼリアの衣装を着てみる? 燐子に言えば簡単なのを作ってくれるだろうし」

弟「や、やだって! ロゼリアの衣装って、スカートばっかじゃねーかよ! 男が履いたら気色悪いってば!」

友希那「そう? きっと似合うわよ?」

弟「いやいやいや、だからそれが大問題なんだって! 友希那さん、俺のさっきの話聞いてた!?」

友希那「ええ、ちゃんと聞いていたわよ」

弟「じゃあなんでんなこと言うんだよぉ……」

友希那(……どうしてかしら。この子を見てると、無性にからかいたくなるのよね)

友希那(なんだろう。あんまり懐いてくれないけど物陰からこっちを窺って逃げようとしない野良猫みたいというか……)

友希那(…………)

友希那「猫、か……」ジー

弟「ん? どうかした?」


友希那「……ねえ、リサにいつもどんな服をすすめられるの?」

弟「どんな……えーっと、姉ちゃんが来てるあのギャルっぽいのをちょい大人しめにした感じ、かな」

友希那「なるほど。うーん……なるほど」

弟「それがどうかしたの?」

友希那「ええ。率直に言うと……あなたはそういう系統じゃないと思うのよね」

弟「当たり前でしょ!? 俺、ギャルでもギャル男でもなんでもねーから!」

弟「友希那さんからも姉ちゃんに言ってやってくれよっ、『リサは間違ってる』って!」

友希那「ええ。その件に関しては、きちんとリサに言っておくわ」

弟「マジ!? やったっ、友希那さんからなら姉ちゃん、絶対に聞いて――」

友希那「弟くんに似合うのは、猫耳系だって」

弟「――は?」


友希那「確か部屋に文化祭で使ったやつが残っていたわね。ちょっと待ってなさい、今持ってくるから」

弟「え、いや、は? あの、ゆ、友希那さん?」

友希那「大丈夫。大丈夫だから。私に任せておきなさい。リサにはちゃんときつく言っておくから。だからちょっと猫耳を付けてみましょうか。いいでしょう?」

弟「えっ、え……絶対に嫌、だけど……」

友希那「……昔はあんなに素直で優しい子だったのに、人は変わってしまうのね」

弟「いやそれを言ったら友希那さんの変わりようの方が」

友希那「まぁ、この際あなたの自由意思は後回しにするわ」

弟「はぁ!?」

友希那「大人しく待っていなさい、いい子だから。10秒で戻ってくるから」ガチャ、バタバタ...

弟「え、マジで取りに行ったの!? ちょ、ここいたら絶対やべー目に遭わされる!」

弟(逃げなきゃ、え、でも今からどこに……)

弟(こんな時間に遠く行くと本気で心配させちまうし、だけどここにいれば猫耳の刑だし、家に帰れば姉ちゃんがまた色々世話焼いて……)

弟「……あれ、家に帰るのが一番ダメージ少なくね?」


――バタバタバタ...!

弟「やっべ友希那さん戻ってくる! 家に逃げよう!」シュバッ、タタタ

友希那「待ちなさい、弟くん。あなたにはこれを付けてみる義務があるのよっ」バタバタ

弟「嫌だ! それだけは本気で、マジで、死んでも嫌だ!」タタタ

友希那「往生際が悪いわね。でもそこも猫みたいで……いいわねっ」バタバタ

弟「友希那さん猫キチが過ぎない!? お、お邪魔しましたっ!!」ガチャ

友希那「待ちなさいっ」

弟「待たない! 追ってこないでよ!」


――今井家 門前――

リサ「んー……アタシの勘だとそろそろ友希那のとこから帰ってくる頃だけど……」

弟「はぁ、はぁ……!」

リサ「あ、やっぱり。おかえりー☆ いやぁごめんね。ちょっとさぁ、アタシもどうかと思ったんだけど気になっちゃって――」

弟「ね、姉ちゃん、助けて!」

リサ「え、どったの?」

弟「猫キチに襲われる!」

リサ「猫キチって、友希那?」

友希那「くっ……靴を履くのに手間取ってしまったわね……」

リサ「あ、友希那」

弟「ひぃっ!」サッ

リサ「本当にどうしたのさ?」

友希那「リサ。その後ろに隠した弟くんをこちらに渡しなさい」

リサ「え、友希那まで……何の遊び?」

友希那「遊びではないわ。これは私とリサの方向性を懸けたジハードなの」

リサ「いや、意味が分かんないんだけど」

友希那「私の猫耳と、あなたのギャル系統。どちらが弟くんに相応しいかの真剣勝負よ」

リサ「……あー、そういう……」

リサ(だから友希那は猫耳を両手で持ってるのかぁ……)


弟「ちょ、姉ちゃん、あのやばい友希那さんになんとか言ってやってくれよぉ……」

リサ「あー……こうなった友希那は可愛いけど面倒だからなぁ」

弟(あれを可愛いって真顔で言える姉ちゃんもやべーよぉ……)

リサ「……けど」チラ

弟「え……?」

リサ「弟に頼りにされたらおねーちゃんは頑張らないといけない生き物だから、どうにかしてみるよ」

弟「ね、姉ちゃん……!」

友希那「いい度胸ね、リサ。今の私は本気よ」

リサ「あー、まぁー、日記見ちゃった負い目もあるし、ちょっとはね?」

リサ「ほら、アンタは家に避難してなさい。アタシが友希那と話つけるから」

弟「う、うん……! 悪いけどお願い……!」タタタ、ガチャ

弟(猫キチと化した友希那さんを任せて、俺は一目散に自宅に逃げ込んだ。そして玄関で息をついて、思う)

弟(姉ちゃんって、なんだかんだやっぱり姉ちゃんなんだなー……なんて)

弟(……俺ももうちょっと、姉ちゃんの気持ちとか考えた方がいいのかな)


……………………


 9月27日

 姉ちゃんはやっぱり姉ちゃんなんだな、と思い知らされた一日だった。

 あの猫キチ騒動のあと、30分くらいで姉ちゃんは家に戻ってきた。

『ちゃんと話はつけてきたからヘーキだよ☆』

 と、いつもの笑顔で言ってくれた。

 ……まぁ、日記を見られたことは嫌だったけれど、そうやっていつも俺のことを気にかけてくれることは、実際、嫌じゃない。ちゃんと加減を考えてくれるなら、嬉しい。

 弟のことが可愛くて仕方ない、というような友希那さんの言葉を思い出す。

 うん、まぁ、うん。

 俺も姉ちゃんのことが嫌いな訳じゃないから、今度からはもうちょっと正直に、というか、嫌なものは嫌って、嬉しいことは嬉しいって、柔らかめに口にしようと思う。

 姉ちゃんの対策は、きっと、そうするのが一番だ。

 今日で日記は終わりにしよう。


 9月29日!!

 マジでありえねぇよあのクソ姉貴!!

 ないわ、本当にないわっ! なんだよ何が『話をつけてきたから』だよ!!

 それ、ただ単に姉ちゃんと友希那さんで俺に似合うものを考えるってだけじゃねーかよ!! あやうく猫耳メイド服の刑に処されるところだったわ!!

 ふざけんなよなんなんだよあの2人は!! 俺のことをおもちゃか何かと勘違いしてんじゃねーか!?

 あーもう怒った、今回ばかりは本気の本気で怒った!

 今度はぜってーバレない日記帳にしてぜってーバレないとこに隠して、クソ姉貴と猫キチをぎゃふんって言わせてやる!!

 今日から相棒とマンツーマンで作戦会議&特訓の日々だ!! ぜってー俺はまけねーからな!!

 とりあえず今日はアドバイス通り『臥薪嘗胆』って書いた紙を部屋の扉に張り付けておいた!!

 宣戦布告だ!! 今に見てろよ、俺と相棒のタッグで姉ちゃんと友希那さんに目にもの見せてやるからなっ!!!



 おわり


リサ姉に弟がいるならきっとこんな感じの仲良し姉弟だろうなぁと妄想を書き出していたら公式からアナウンスが飛んできました。少し切なくなりました。

でも書いちゃったものはしょうがないしまぁいいかと思いました。

そんな話でした。


HTML化依頼出してきます。

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