【ミリマスR-18】秋月律子「私、悪い子になっちゃいました」 (27)

スレが立ったら書きます。

【概要】
・秋月律子@ミリオンライブシアターの時空
  19歳の設定のつもりで書いてますが解釈はお好きにどうぞ
・オナバレ
・初体験
・2回戦

30,000字近くあって、多分20レスぐらい使います。


 事務室の時計の針はさっき見た時からもう1時間経っていた。居残りレッスンをするアイドルの相手をしていたら、〆切の迫った書類がすっかり後回しになってしまっている。やっつけてもやっつけても、終わりが中々見えてこない。

「プロデューサー、ここの読点の位置、間違ったままになってますよ? 提出前に再修正、お願いします」
「ええ~マジかよ。さっき直したはずなのに」

 書類の校正を頼んだ律子から、無情にも朱入りの紙が突き返されてきた。減らしたはずの仕事は瞬く間に元通りだ。

「後は見た所大丈夫ですけど、まだ済んでないのがあるんですよね?」
「まぁ……そうだ。ただ、〆切が明日の書類はこれの修正だけだから、残りは一応明日でも……」
「そう言って、〆切を伸ばしてもらったことが、今まで何回ありましたっけ?」

 耳の痛い話だった。正確な数が分かるわけもなく、俺は肩をすくめるしかない。

「だけど律子、今日はもう遅いし、先に上がってくれ。明日来た時に書類は見られるようにしておくから」
「そう言って、泊まり込みになったりしませんよね? あずささんも心配してますよ」
「それは大丈夫だ。今晩済ませることだけ済ませたら、俺も帰るよ。長時間パソコンに向かい過ぎて作業効率が落ちてるから、一度まとまった睡眠を取ってリセットをかけた方が良さそうだ」

 夜の事務室のどこかぼやけた空気の中、朝から働き詰めだった頭がシャキッとしていないのが自分でも分かる。このままでは、時間を浪費した挙句作業は進んでいないという空虚な事態にもなりかねない。

「……分かりました。それじゃあ、お先に失礼します。プロデューサーも、早めに上がって下さいね」

 そう言って、律子は荷物を持って一礼し、事務室を後にしていった。青羽さんも定時で既に帰っていた。ドアの閉まる音を最後に、空間に流れるのはパソコンのファンの音ぐらいのものとなった。

 律子が退勤してからしばらく。朱入れされた書類の修正は無事に終わったが、残りの作業が難航していた。溜息が漏れる。頭の中がすっきりしていない原因が、椅子の上に乗せた尻の上でカチカチに硬直している。腹とデスクを密着させて机の陰に隠していたから、律子には悟られていないはずだ。不審な視線も感じなかった。
 解消法を求めて以前に調べてみたことがあるが、いわゆる疲れマラというのは本当に疲れが要因の一つであるようで、人体が体力の限界を感じた時に分泌されるホルモンの影響を受けているらしい。性的興奮が無くても男性器に血液が集まる現象というのは困ったものだ。その気が全くなくても、勃起していると脳が感じ取れば勝手に昂りを覚えてムラムラしてしまう。そういう対象としては見ないよう心掛けているとはいえ、こういう悶々とした気分の時に担当アイドルがすぐ近くにいたのも、いい状況とは言えなかった。
 PCのモニターはもう十分近く動いておらず、スリープモードに入ってしまった。最低限済ませなければならない作業はあと少しであったが、明日も出勤すればしたで、自分自身の業務は後回しになるに決まっている。出来るだけの事は今夜中に済ませておきたい。そうなると、限られた血液を奪い取って頭を使った作業の邪魔をするこの不届き者を、どうにかして鎮めなければならない。しかし、一人で鎮めるには、この事務室はあまりにも開けている。

 戸締りの完了していない劇場内だったが、もう残っている者は誰もいない。廊下の電灯こそ点いていたが、事務室の他は全て真っ暗になっていて、革靴の立てる足音が暗がりに吸い込まれていくようだ。事務室からここまで歩いてくる間、股間が突っ張って歩きづらいことこの上無かった。
 休憩室の電気をつけて、置かれていた椅子の上へ雑に腰かける。部屋の奥で丁寧に畳まれた、主に女性が使う布団を自分が使うわけにはいかなかった。スマートフォンでインターネットができるのだから、おかずになるようなものなんて探せばいくらでもあった。成人向けの動画サイトにそれらしい候補を打ち込んで、自分の性癖に刺さるようなものを適当に見繕う。サムネイルをちらっと見ただけですぐさま動画の再生ボタンをタップした。音声はさすがに絞った。
 早速、ファスナーを開いて、狭苦しく押し込められた性器を解放する。臭いを残すのもしのびなかったので、目薬や胃薬を入れている巾着に入れていたコンドームを被せた。学生の頃からそのまま使っている巾着だ。どうせ、ゴムも役目を果たせなくなっている。
 感傷など無かった。単なる性欲処理であり、ガス抜きに過ぎないのだから、さっさと発散させてしまうに限る。掌よりも高い熱を発するそれを握りしめ、何百と繰り返したルーティンワークを開始した。昂りをそのまま放置していた時間が長かったからか、擦り始めてすぐに、じんとした快感が込み上げてくる。最後に一人で処理したのはいつだっただろうか。

 数分経ったか、経たないか。動画のシークバーがまだそれ程大きく動かない内に、早くもピークに達しそうになっていた。もう少しでイけそうだ、と膝を突っ張らせた瞬間、突然、開くはずのない扉が開いた。

「え……っ!!」
「りっ……律子!?」

 先程退勤したはずだった律子が立ち尽くしていた。突然の事態に、俺の口からは言葉にならない呼吸が零れ出していく。
 なぜここに。見られた。担当アイドル。同僚。破綻。単語ばかりが脳の中をぐるぐると猛スピードで巡る。

「…………」

 すぐさま怒声や平手打ち――いや、拳骨かもしれない――が飛んでくるものと覚悟しつつ、土下座をするつもりで下着を上げていた俺だったが、律子からはそのどちらも飛んでこなかった。むしろ、俺と同様、あまりに予想外の状況に直面してしまい、困惑している。

「う……うーん、こういう時、どういうリアクションを取ればいいのかしら……」

 ゴムを外すことすら忘れていたが、見られてはならない所は隠した。だが律子はまだ、ドアの境目で、視線をぐるぐると泳がせている。

「いわゆる……男性の、生理現象、なんですよね?」
「まぁ、端的に言うと……そうだ。体が極度に疲れていると、勝手にこうなることが……」
「……お仕事する所で処理しなきゃならないほど、切羽詰まってたんですか?」
「あー……だいぶ思考の妨げになっちまってて、な」

 男子トイレを使えばよかった、とこの時に考え付いたが、時既に遅し、だった。状況は最悪という表現すら生ぬるいが、これ以上燃え広がる可能性をなくすため、せめて律子にだけは口止めを頼んでおかなければと考えながらも、全くその言葉が思いつかない。まごついていると、半身を隙間から乗り出していた律子は、後ろ手に休憩室の扉を閉めてしまった。かち、という金属音が、縦縞のブラウスの後ろで、冷ややかに響いた。

「……しましょうか?」
「えっ? 律子、何を……」

 耳がおかしくなったかと思った。お手伝いしましょうか、と聞こえた。

「仕事に支障が出てるんでしょう? だっ、だから、その、処理を!」
「律子が、か……?」

 視線を合わせないまま、律子は語り始めた。忘れ物をしたのに気づいて戻ってきたら、休憩室だけ灯りが点いていたから、誰か残っている人が他にいたのかと思っていた。事務室で仕事をしているはずのプロデューサーが休憩室にいるなんて、万に一つも思っていなかった。ドアを開ける前にノックするという当たり前の習慣を守ってさえいれば、プライバシーの最たる部分を隠して誤魔化すだけの時間は作れた。それをしなかったせいで、異性のデリケートな部分を直視してしまうというアクシデントを招いてしまった。だから、状況の責任の一端は自分にもある、と。

「お手伝いすれば私もある種の共犯になっちゃうし、口外もし辛くなります。お願いですから、こんな所を見られたからプロデューサーを辞めるなんて、言わないで下さいね?」

 こんな異様な展開を迎えているというのに、律子のもちかけてきた取引は理性的だった。それにひきかえ、あれだけ肝を冷やしたのに、俺のバカ息子と来たら、まだそのズボンの中で硬くなったままだ。ズボンの股を膨らませている所を、見られていないわけもなかった。

 選択権は無いようなものだった。律子からの提案を受け入れる旨を伝えて、先程しまったばかりの性器を再びファスナーから露出させた。屹立したそれは天井に頭を向けている。律子は眉をひそめこそすれど、目を背けなかった。

「あの、プロデューサー……。男の人って、一人でする時も、その……つけるんですか?」
「いや、つけるわけがない。ただ、臭いが残ったらまずいだろう」

 椅子に座る俺の足元に跪いた律子は、平常を装おうと努めているようだったが、顔に走った動揺は隠せていない。

「普段から持ち歩いてるんですか、それ?」
「学生の頃から薬袋に入れてたんだ。そういうのを使う機会もあったんだが、就職する前にフラれちまってな。もう使用期限も過ぎてるだろう」
「……生々しいですね」

 生きた虫にでも触るかのように、おそるおそる律子が手を局部へ伸ばしてきた。

「握る、んですよね?」
「……ああ」

 指の先端が、そっと触れた。心拍数が上がってくるのを感じる。くすぶっていた欲求不満が、その体積をぐんぐん膨らませている。指先が触れ、掌がそっと添えられて、握るというよりも、包み込むような力加減で、ペニスが捕らえられた。ちょっとした小物の受け渡しをした際に触れたことのある、柔らかくて、潤いを纏った肌の滑らかさが、薄いラバー越しにでも伝わってきた。

「うぅ、ここだけ、別の生き物みたい……」

 熱い。硬い。血管が浮き出てる。男性器の反応にいちいち新鮮なコメントを挟む律子は、男に慣れていないのが明らかだった。気が強くて男っ気も無いから、不思議ではなかった。しかし、そんな初心な様が、情欲の炎にメラメラと薪を投げ入れていく。軽く擦られているだけなのに、自慰とは比べ物にならない強い刺激が腰から脊椎へ駆けあがってくる。

「こう……ですよね? 力加減、どうですか?」
「……っ……もう少し、強くできるか?」
「あっ、はい……」

 男の性器に関して全くの無知ではないようで、爪が当たらないようにしてくれていた。真面目で、規律にも倫理道徳にも厳しい律子が、男の陰部を手で握ってマッサージしている。清楚な普段の姿からすれば不釣り合いも甚だしい光景だったが、酷く蠱惑的で、俺は平静な呼吸を保っていられなかった。自慰を手伝う、目の前に跪く少女に、劣情を催し始めている。襟がしっかり閉じられたブラウスの胸元の膨らみに視線が吸い込まれる。肌を見せない律子はどんな下着を着けているのか。乳首は何色なのか。陰毛はどの程度の濃さなのか。早く終わらせなければ大変なことになる、と理性が警鐘をけたたましく叩いていた。

「どんどん硬くなってくる……ちょっと、さっきより大きくなってません?」

 射精が近づくとそうなる、と律子に告げた。射精、という単語が小さな声で復唱され、ごくり、と唾を飲み込む音が俺の耳にまで聞こえていた。心なしか、律子の呼吸も浅くなっているように見えた。少し速度を上げるように頼むと、律子は驚くほど素直に応じてくれた。性欲が粘液の形を取り、発射の準備を始めている。早く出したいし、早く出してしまわなければ、とも思っていた。いつの間にか、包む力加減ではなくギュっと握りしめるようになっていた、親指と人差し指で作られた輪っかが、粘膜と皮膚の境目を何度も往復し、その度に湿った吐息が漏れるのを抑えることができなかった。

「っあ、律子……出るっ……!」

 体内でくすぶっていた、淫らな液体が排出されていく。痙攣するごとに、筋肉を動かす力までもが放たれていくようだった。気味の悪い呻き声が歯の隙間から絶えず漏れ出てしまう。次から次へと薄いラバーの中へ子種がムダ撃ちされていき、その様は、絶頂まで導いた張本人にじっと見られている。その恥辱が絶頂感を長引かせ、どくどくと吐き出されるねっとりしたザーメンが溜まっていく。
 止め時が分からないのか、それとも更なる吐精を促そうとしているのか、鈴口から最後の一滴がぷくりと滲みだし、拍動が治まる時まで、律子は手の責めを止めてくれなかった。一度の絶頂で、たっぷり二回分は精液を吐き出していたかもしれない。スキンの精液溜まりが、重力に引かれるままだらりと垂れ下がっている。

 射精の一部始終をじっと見ていた律子は、熱に浮かされたように顔を赤らめていた。

「一回で、こんなに出るんですね……すごいもの見ちゃった、かも」

 ゴムの口を縛って、持ち帰るゴミとしてレジ袋にしまう俺を見て、ポツリと呟いた。

「はー……とんでもないものを見られてしまった……」
「ほ、ホントですよ! 汚してないとはいえ、職場でそんなことしようとするなんて、もう、信じられない……!!」
「……俺としては、律子が手伝いを申し出たことの方が、もっと信じられなかったけどな」

 卑怯かもしれないとは思いつつそう言い切ると、律子は押し黙ってしまった。律子にしてみれば、俺を一方的に非難していたっていいはずなのに。

「さ、今度こそ俺は仕事に戻って、残りをさっさと片付けるよ」
「もう、落ち着いたんですか?」
「こういうのって、男が醒めるのは早いからな。賢者モードってヤツだ」
「ふうん……」
「律子も、忘れ物を確保したら今度こそ上がりな」

 でないと襲っちまうぞ、とほんの冗談混じりに付け足した。火照りが散逸していったとはいえ、目の前のメスに対してオスの本能がまだ舌なめずりをしているのは否定できなかった。肉体のプライバシーを暴露してしまったせいで、セクハラじみた発言にも随分ハードルが下がっていた。笑ってくれるとは思っていなかったし、引っぱたかれるぐらいは覚悟していたが、衝撃は来なかった。

「…………」
「律子?」
「プロデューサーの中で、私みたいなのってそういう対象になるんですか?」
「それは……」

 怒っているのかと思いきや、律子は俺の言葉を真面目に受け止めているようだった。「冗談だ」と言おうものなら、それこそ本当に逆鱗に触れてしまうかもしれない、真剣さがその表情に滲み出ていた。決して広くはない休憩室の空気が静止する。

「プロデューサーの恥ずかしい所を見ちゃったから、私もぶっちゃけますけど……その、プロデューサーのこと、ちょっと『いいな』って思ってます。だから……」
「えっ」

 今度は俺が言葉を失う番だった。口にしてから、律子は視線を外してしまった。これこそ、冗談で言っているとは思えなかった。

「でっ、でもでも、こんな、モヤモヤした気持ちのまま、その場の勢いで、みたいなのは、イヤです! ちゃんとお互い通じ合うものがないと!」

 よく通る声で律子がまくしたてる。さっき打ち明けられた『いいな』は俺の胸を貫き、精神に食い込んでいた。内心に秘めた特別な感情だったのかどうか、その確認をさせてくれる様子はなさそうだ。

「ですから面接! 面接試験を!」
「へ、面接?」
「プロデューサー、今度、私とあなたのオフの日が合うようにスケジュール調整して下さい!」
「な……何だいきなり。デートでもするのか?」
「デートじゃありません! 面接って言ってるじゃないですか! スケジュール決まったらすぐに連絡下さい、いいですね!! それじゃ!!」

 そこまで勢いよく、伝えるというよりも殴りつけるように畳みかけると、律子はそのまま扉を開けて出て行ってしまった。駆けていく足音が遠ざかっていく。どうか内密に頼む、と言うこともできなかったことに気づくまで、俺は茫然とその場で立ち尽くしていた。

 それから事務室に戻って真っ先にしたことは、スケジュールの確認と調整だった。本人も一部共犯ではあったし、あの様子ならついさっきのことを広めるようなことはしないだろうとは思ったが、他の人に何かを漏らされる前に、即刻調整をいれてすぐに連絡を入れてしまった方が口封じになるように思った。
 軽はずみな行動が厄介な燃え方をしてしまったものだった。大人の異性への憧れを滲ませるアイドルがいるから、そういった年頃の女の子との距離の取り方にも気を遣ってはいるのだが、そういった意識へのバリアをきちんと準備する前に、律子の不意打ちは内心に深々と刺さって、体組織と同化してしまっていた。

 参ったな。明日から、あの子を見る目が変わってしまうかもしれない。

【一次面接】

 俺の休日が元々少ない上に、律子のスケジュールも右肩上がりに忙しくなっていたため、オフの日を重ねるのは骨が折れた。あの日から三週間も経って、ようやく二人分のオフを確保することができた。面接試験、というのは律子なりに本気であったらしく、日程を連絡したら「面接試験実施要項」と仰々しいタイトルのついたメールが送られてきた。

 事務所よりも劇場にいる時間は長くなる一方で、ヒマになんてなることもなく仕事に没頭していたが、あの『いいな』はずっと心に残り続けていて、早く当日が来ないだろうか、と待ち遠しい気持ちが、自分の中で芽を出し始めていた。

 水曜日の昼下がり。待ち合わせ場所として律子が指定してきたのは、商店街の出口にあたる、大通りに面する交差点だった。集合場所として使われがちな駅前からは離れており、平日の昼間とはいえ人通りもそこそこあって変に悪目立ちすることも無いから、悪いアイデアでは無かった。自分のスマートフォンには「この格好ですからね」と、白のロングスカートらしき生地からちらりと見える足首と、そこへ黒いストラップが巻き付いたような黒のサンダルだけが、画像として送られてきていた。わざわざ足元だけ説明しなくても、一目見れば分かるに決まっている――そう思っていた。

「こんにちは。お待たせしました」
「え……?」

 振り向いたその場に立っていた女性を、俺は一瞬認識できなかった。足元を見れば確かにさっき送られてきた画像の通りだ。ひらっとしたロングスカートはワンピースだった。その上にパステルカラーのカーディガンを着て、袖口から見えた手の爪には薄い色のマニキュアも塗ってある。

「あ、ああ、なんだ律子か」
「なんだとは何ですか、もう」

 事務所や劇場で見かけるときよりもメイクがしっかり施された顔が、眉をひそめた。

「悪い、髪まで下ろしてるとは思わなくて、一瞬律子だと分からなかった」

 いつものお下げはそこには無く、ヘアアイロンをかけて真っすぐに伸ばした栗色の毛が、バケットハットの内側で風に揺れていた。

「折角なんで、ちょっと気合入れてみました。何かコメントはあってもいいんじゃないですか?」
「えーっと……」

 素直に褒めるのを俺は躊躇した。デビューした頃の律子は、自分の容姿を褒められるのを嫌がっていた。そのせいか、付き合いが長くなって態度が軟化した今でも、他の子にかけるような誉め言葉を、律子にはあまりかけていなかった。ただ……地味な恰好をしていることの多い律子が、こんなに花開いているのだ。機嫌を悪くするかも、という思いはあったが、率直に賞賛したくなる清楚な華やかさが、そこにはあった。

「……すごく可愛いな、正直、驚いた」
「……それだけ?」

 膨れっ面も格別だった。

「や、月並みな感想ですまん。ただ、あれこれ言葉で飾り立てたって、律子は喜ばないだろ」
「ま……おっしゃる通りですけど。よく分かってるじゃないですか」

 適切な言葉が浮かばなかったのが、本当は悔しかった。可愛い、なんてありふれた言葉で表すのは勿体なくて、ずっとこのまま眺めていたいぐらいだ。滅多に肌を見せないから、首元の白と、そのデコルテについ視線を奪われる。アイドル活動を続けてきた故だろうか、律子は自分の持ち味の魅せ方を熟知しているように思った。ワンピースの生地を持ち上げるふっくらした胸元も、谷間が見えそうで見えないようにしてあるのがいかにも彼女らしい。髪を下ろした姿もミスマッチではなく、見てみたいと密かに望んでいたギャップだった。しかしさすがに、眼鏡には矜持があったらしい。

「……そんなにじっと見ないで下さいよ」

 眉根を下げて、律子が居心地悪そうに笑った。
 
「見てちゃダメか?」
「見てるだけってのはダメです。ほら、行きましょう。面接試験の始まりですよ」
「なぁ、面接試験って言っても結局何をするんだよ。これってデ――」
「面接です、面接っ」

 何をするのか、どこに行くのか。そういったことを告げないまま、無目的に律子は歩き出した。

 面接、面接と律子は何度も繰り返していたが、自己PRを求められることも無かったし、志望動機を尋ねられたりもしなかった。神社に繋がる商店街をぶらぶら歩きまわったり、隣駅まで足を伸ばして公園を散歩したり、休憩がてら喫茶店に入ったり、まるで、無駄とも言える時間を共有することだけが目的であるようにすら思えた。真面目にアイドルを続けている律子だが、ただの女の子でいたい時がやはりある、ということなのだろうか。不思議なぐらい、律子の口から仕事の話は出てこなかった。街中で聞かれるには不自然な単語だったからか、俺のこともプロデューサーと呼ばずに名字で呼びかけてきた。だから俺も、努めて仕事に関することは口にしないようにして、食べ物の好み、旅に出るとしたら行きたい場所、最近見た面白い映画、尊敬する人、子供の頃の話……そういう他愛もないことを次から次へと尋ねてくる律子に相槌を打ちながら、時間を言葉に溶かしていた。

 律子がアイドルを始めて以来、プライベートで会うことを目的に休日を合わせたのなんて、初めてのことだった、と、コーヒーを飲みながら思い出していた。

 空がオレンジ色に変わり始めたと思ったら、すぐに日が落ちた。ちょうどいい具合に見かけた天ぷら屋で夕食を済ませて店を後にする頃には、もう結構な時間になっていた。腕時計から視線を上げると、律子と目があった。二人でいるから当然なのだろうが、今日は本当によく目が合った。結局面接試験とやらの内容は明らかにされなかったが、可愛らしさをめいっぱい振りまいて機嫌良くニコニコしている律子と一日過ごすのは、時間が過ぎるのが惜しいぐらいで、数週間前の失態を忘れて浮かれてしまう程に楽しかった。そして『いいな』に対する期待は一日中胸の内で膨らみ続けていて、別れ際には切なさを覚えている自分がいた。「次の面接試験の日程を」と言われた瞬間、次があるのか、とホッとしてしまったのが顔に出ていて、律子には苦笑いされてしまった。


 オスというものは本当に罪深い生き物だ。家に帰って一人きりになって、余韻が醒める頃になると、劇場の休憩室での一件を思い出して盛ってしまい、今日会った律子の痴態を思い描かずにはいられなかった。ピュアな一日を過ごしたと思ったらこの始末。催した性欲を一人で処理することに罪悪感を覚えたのは久しぶりだった。

【二次面接】

 オフを合わせるのに今回も手間取った。前回からまた何週間も経ってしまったが、律子曰く「二次面接」の日がやってきた。仕事中はあまり気にもならないが、胸の高鳴りは悪化の一途を辿っており、もはや病とさえ言えたかもしれない。劇場なり事務所なりを離れて家路につくときになり、少し気を抜くと、ヒラヒラしたあの日の律子の姿が脳裏に浮かぶ有様だった。

 こんな風に異性として意識させることがあの子の狙いだったのだとしたら、俺は見事に、律子の術中にハマっていた。

「すまん、待ったか」
「今日は私の方が先でしたね」

 花畑のよく似合うフェミニンな服装を期待して横浜の待ち合わせ場所に向かうと、前回よりは落ち着いた、いつもの雰囲気に近い律子がいた。
 ベレー帽の下で、三つ編みにした一本の房が肩に垂らされている。ブラウスの上に着たニットのベストは、ややタイトなサイズを選んでいたようだ。うっすらと女性の身体特有の曲線的なラインが浮き出ていて色気が漂い、ウエストにもカーブができている。

「……結構、あなたの視線って分かりやすいんですね」
「! いや、別にそういうつもりじゃ」

 律子にしては珍しいミニ丈のスカートにニ―ハイソックス。布地と布地の境目の太腿、俗に言う絶対領域についつい視線を奪われる。むっちりした太腿の下に伸びる脚も、黒いソックスがしなやかさを強調していて、どこか艶めかしい。前回は可憐で、今回は可愛らしさの中に色香も収められている。よく計算されている、と思ったのは確かだった。

 ヘンな所ばっかり見てるんだから、なんて、声では不満をこぼしながらも、体全体を眺める俺を、律子は咎めなかった。

 女日照りの日々が長すぎたからなのか、それとも、自分を魅力的に見せようと努力する律子の熱気にあてられたからなのか。映画を見に行きたいとせがむ律子を連れ歩きながら、俺は触れた手の甲へ指をさし伸ばしていた。ぴくりと一瞬だけ手を遠ざけようとしたが、律子はやや遠慮気味に指を絡ませてきてくれた。表情こそリラックスしているように見えたが、合わせた掌はしっとりと汗に濡れていた。

 * * * * * 

 屋内にいた時間が長かったせいか、気が付けば外は夕暮れ時だった。中華街で夕食をとった後、静かな所へ行きたいというリクエストを受けて、山下公園を散歩しながら大さん橋まで二人で歩いてくる頃には、日が落ちて辺り一面は薄暗くなっていた。

「ねぇ、あの時のこと、覚えてますか?」

 デッキの一角、都合のいい段差に腰を下ろしながら、律子が言った。遠くに見える夜景の光が、海の水面にきらきらと反射している。その光景を写真に収めようとするスマートフォンの光が、まばらに見えた。人の少ない所を選んだつもりだったが、平日とはいえ、夕方ともなればそこそこの人出はあるらしかった。

「あの時、だけじゃ分からないな。いつのことだ?」
「……私が、初めてオーディションに受かって、ステージに立った時のこと」
「ああ、よく覚えてるよ」
「ステージの袖で、顔をぐしゃぐしゃにして泣いてましたよね」
「デビュー当時のことを思えば、そりゃああもなるよ。オーディションに2回落ちた後でちょっと荒れ気味だったし。結構恥ずかしかったんだから、思い出させないでくれよ」

 律子がくすくすと含み笑いをした。

「……あの時は口に出しませんでしたけどね。感動してたんですよ、私」
「そうなのか? 『もう! 大のオトナが女の子の前で泣かないで下さいよ!』って叱られた記憶があるんだが」

 そうでしたっけ、と律子は口元を緩めた。懐かしむにはそれほど昔では無いようにも思うが、プロデューサーとして駆け出しだったあの頃は失敗だらけだったし、担当アイドルとのコミュニケーションだって上手くいかないことが多かった。律子だって、デビューをしてから苦労をかけ通しだったのに、よくここまで見限らずについてきてくれたものだ、と思う。

「素直でもない、可愛くもない私のために、こんな顔になって涙まで流してくれるなんて。そんなに大事に思われてたんだって。『私のプロデューサーはこの人しかいない、ずっとこの人と一緒に頑張っていきたい』って、あの瞬間思ったんです。そういう熱心な所、今でも尊敬してるんですよ?」
「そりゃ、光栄だな。ちょっと照れくさいが」
「……尊敬してるだけじゃ、ありませんけどね」

 左隣で、律子が、小さな声でぽつりと漏らした。海風が、切り揃えた前髪をさらさらと揺らしている。

「私、悪い子になっちゃいました」
「悪い子? 律子が?」

 そういうのがぴったり当てはまる子が、何人も頭に思い浮かぶ。「悪い子」なんていうのは、律子の生き方には到底当てはまらない。

「偶然握っちゃった弱みを利用して、わざわざオフの日を調整させて、あなたの自由な一日を、こんな風に独り占めしてる」

 俯いたまま、律子がこちらを見た。レンズ越しの瞳が上目遣いになって、こちらの目に矢を投げかけてくる。薄暗い中にあっても、その眼差しはキラキラと細かな光の粒をたたえていた。夜景の光を、円の中に収めたようだ。視界の遠くで、海の水面がざわついていた。

「あのモヤモヤにラベルを付けて、たっぷり熟成させてしまいました。抱いてはいけない気持ちを抱いて、理性では『いけないことだ』って分かっていながら、『自分の本心に正直になりたい、この熱い思いを受け止めてほしい……』って、思っちゃったんです」
「……律子」
「私のこといっぱい見てくれたし、可愛いって言ってくれたから、悔いは無いです。担当アイドルなんて好きになれないって言われても、仕方無いって思えます。タイプじゃないから、ってフラれちゃってもいいし、他に好きな人がいたっていい。口に出すの、怖いけど、これだけは、これだけは……私の口で言わせてください」

 夜風が止んだ。
 律子は、俺の耳元にゆっくりと口を寄せてきて、熱い吐息をかけながら、

「あなたが好き」

 と囁いた。そして、ほんのり触れた体温が遠ざかり、告白をやり遂げると、自分の両膝に顔を埋めてしまった。

 ここに座り込んで話し始めた時から、何となく雰囲気は匂わせていた。そんなことを言ってくるのではないか、という予測、あるいは希望を、持たないでも無かったが、いざ、律子の口からそんな甘い言葉を告げられると、頭がヤカンのように熱を放っているような気になってしまった。

「面接試験の結果……知りたいです。教えてください」
「え……? 面接試験って、俺に対する試験じゃなかったのか」
「あなたを試すとは一言も言ってませんよ。可愛い女の子いっぱい見てるから、きっと目が肥えてるんだろうと思って、おめかし、かなり頑張ったんですけど……私のこと、気に入ってくれましたか?」

 滲み出る、いじらしさや健気さ。元々持っていたものだったのか。アイドルとして生きる内に、身についたものだったのか。どちらかは分からなかった。だが、口元に笑みを浮かべているのにどこか自信無さげに揺れる律子の瞳――それを覗き見た瞬間、俺の中で何かが臨界点を振り切ってしまった。

「律子」

 華奢な肩を掴むと、律子は目を閉じた。鼻息がかかる。俺が――律子も――業を背負った瞬間だった。

「これが……俺の答えだ」
「……イエス、ってことですよね」
「ああ」

 よかった、とかすれた声で呟きながら、脱力した体がしなだれかかってきた。腰に手を回しても、律子は嫌がるそぶりを見せなかった。

「なけなしの勇気でしたけど、ちゃんと振り絞れました」
「ライブをたくさんやったおかげかな?」
「……そうかもしれませんね」

 甘い空気を吸い込んでいると、場に相応しくないビープ音が突如鳴った。昨日、夕方に仮眠をとるためセットして、止めたきり解除を忘れていたスマートフォンのアラームだった。ビープ音を停止させるために画面を見れば、自然と現在時刻が目に入った。視界の中にも、ちらほらと、その場を立ち去っていく人の姿が見える。

「もう、こんな時間か……」
「……あの……」

 立ち上がろうとする俺の膝に、小さな掌が被せられた。

「私、今日は……帰りたくないです」

 雲間から顔を出した月が、頬を照らしている。

「いいのか?」

 律子は、静かに頷くだけだった。

 * * * * *

 自分の家まで招いた方が良かったのかもしれない。今二人でラブホテルのエレベーターに乗っているのに、特別大きな理由は無かった。理性的な判断とは言えない。衝動的だった。フロントで鍵を受け取った時からずっと、律子は俺のジャケットの袖をつまんだまま、静かに俯いている。

「……え、広すぎませんか?」

 エレベーターから直通の部屋へ入った時の第一声が、それだった。建物の外観から想起される部屋のサイズの2倍はあった。クイーンサイズのベッドに、マッサージチェアやら、カラオケセットやら、ゲーム機まで置かれていて、寝たければ手軽に寝られる遊び場という見方もできた。屋内にある扉は浴室へと繋がっている。ブラインドを客室側から開けてしまえば、ガラス窓から内部が覗けるようになっていた。浴室自体もかなり広く、お風呂場でのプレイを楽しむ層のニーズも満たせる造りになっているようだった。

「一番値段の高い部屋を選んで正解だったな。こりゃ快適そうだ」
「そ……そう、ですね」

 律子は手近にあった皮張りのソファに腰かけた。勝手の分からない所に来た戸惑いが、落ち着きの無い視線に見て取れた。

「なあ律子、どうか見栄を張らず、正直に答えて欲しいんだが」

 ソファの前に跪いて目線の高さを合わせると、律子は俺の目から逃げようとした。

「そういう経験があるように見えます?」
「一応の確認だ。互いの認識が違っているのは避けたい」
「……お察しの通りですよ」

 はっきりした言葉による回答は無かった。だが、気まずそうに指先をもじもじさせているのを見れば、答えを告げているも同然だった。「おいで」と声をかけつつ肩に手を伸ばす。そっと触れてみると、身を固くしているのが伝わってきた。早く裸を見たい、ベッドの上で乱れさせたいという本能がせり出してくるが、あまりにも尚早だ。
 肩を抱いて立ち上がらせ、そのまま胸の内に招き入れるのを、恋人は拒まなかった。向こうから腕を回してくることは無かったが、ジャケットの裾をつまんでいる。ゆっくりと頭を撫でつつ、布地越しに背中から伝わってくる体温を掌で感じていると、おずおずとこちらの腰にも腕が回って来た。ハグを交わすのにも勇気を振り絞らなければならないようだ。こんな所に連れ込んでしまったが、今日は無理に最後までしないで、イチャイチャするだけで終わってもいいかもしれない、と俺は思い始めていた。

 しかし、「慣れてないので、優しくして下さい」と、消え入りそうな声で律子は懇願してきた。隠せない緊張をにじませながらも、セックスに対して消極的ではなかった。ならば、その思いには応えなければならなかった。ベッドに腰を下ろしたパートナーは、俯き気味であっても顔をこちらへ向けようと努力している。つやっとした唇に目を引かれたが、そこへ辿り着くまでに緊張をほぐしたくなって、頬を撫でる。耳の裏側へ指先を忍ばせてくすぐると、律子は身をよじった。

「ん、くすぐったい……」
「知ってるか? くすぐったいのって、大体は気持ちよさに繋がるんだぞ。ほら、こういう所とか」
「ひゃんっ!」

 普段からむき出しになっていることが多いうなじに指を這わせると、甲高い悲鳴があがった。そのまま細い首筋をさすっていると、自分の出した声に恥じ入ってしまったのか、律子は口を真一文字に閉じて耐えている。しかし、微かに鼻から漏れ出てくる小さい声が余計に興奮を煽っていることには、まるで気が付いていない。顎を摘まんで上を向かせると、何をされるのかを悟って、まぶたが閉じられた。唇が重なり、律子の鼻息が二度、三度とかかる。切り揃えた前髪の隙間からのぞく額に、さらさらした頬に、顎の下に、首に、うなじにも、触れるだけのキスを降らす。しっかり弱火で温めてから服の内側をまさぐられた時の反応を思うと、下半身がじくじくと疼いた。

「あの、プロデューサー、私、どうしてればいいですか?」
「ん? どうって……力を抜いて、身を任せてくれればいいよ」
「それだけで、いいんですか」
「リラックスは大事だぞ? まぁ、マッサージを受けてるようなものだと思ってくれれば」
「その、リラックスするのが、大変なのに……」

 愚痴るようにそう言いながらも、律子は俺の身体に寄りかかってきてくれた。呼吸をする度に甘ったるい香りがする。裾側を掴んで、ベストを脱がせる。まずは皮が一枚はがれた。薄手のブラウスからは、温もりというには熱くなった体温が伝わってくる。その熱くなった全身を、布地一枚越しに撫で回していると、呼吸の音が大きくなってきた。興奮の高まりが息遣いに表れていた。後ろから抱きかかえ、乱暴にしたくなる欲求を必死に押さえ込みながら、腹部に沿わせた掌を、膨らみの方へ登らせていく。

「ふ……っ……!」

 薄い布一枚の向こう側に、果実を支える下着の輪郭を感じ取れた。服の上からでは判り辛いなだらかなお腹から、大きな丘が二つ、そびえている。今はまだ、手を這わせるだけ。だが、触ってはいけない所を撫で回されていることに律子ははっきり昂りを覚えており、一回一回吐き出される息からしっとり荒い湿気が立ち上り、部屋の空気に溶け込んでいた。服の上からでも分かる柔らかさの表面をしばらく愉しませてもらい、生肌にも触れたくなってブラウスのボタンを一つ外したとき、律子がにわかに腕の中でモゾモゾし始めた。

「どうした?」
「……シャワー、浴びさせてもらえませんか? 日中暖かくて、ちょっと……汗、かいちゃってたから」
「俺は別に構わないけどな」
「お、お願い……」

 しおらしい声で、律子が請う。

「……いいよ。行っておいで」
「あっ、や……!」

 立ち上がろうとする律子の双丘を手放す前にぐにゅっと鷲掴みすると、不意をつかれて可愛らしい声があがった。

「もう、エッチ!」

 胸元を腕で隠しながら抗議の声をあげた所で、律子はバスルームへ小走りで駆けこんでいった。

 律子が体を洗っている間に、備品を確認しておく必要があった。ベッドの脇に置かれたキャビネットの引き出しを開くと、おもちゃの手錠、ピンクのローターといった、律子にはまだ早い大人のおもちゃに混じって、コンドームが一箱置いてあった。その脇に置かれたローションのボトルにお世話になる可能性は少し考慮しつつ、箱を開けてコンドームの小袋はすぐ取れる場所に忍ばせておいた。ベッドサイドに来てからずっと硬いままになっている局部が、解放を求めて何度も跳ねていた。

「あの……あがりましたよ」
「何だ律子、バスローブあったの気づかなかったのか?」
「え、あっ……! わわ、笑わないで下さいよ!」

 さっき少しだけ乱れさせたブラウスをしっかり着直して、律子は浴室から出てきた。きっと、ベッドに置き去りになったベストもあったら、それもちゃんと上に着ていたのだろう。備え付けてある物品の見落としをするぐらいだから、平常時の落ち着きは持てていないようだった。それが先程の軽いペッティングによる性的興奮から来ているのだとしたら、舌なめずりをしたくなった。

「じゃ、俺も軽く浴びてくるからな」

 すれ違いざまに細い体を抱き寄せると、ボディソープの香りが湯上りの湿気と共に立ち上ってきた。

 備えられていた歯ブラシの、残っていた1セットで歯を磨き、シャワーで体を洗っている間、股間はずっと天井を向き続けていた。掌にまだ女体の感触が残っている。局部を洗いながらそのまま抜いておこうかと思ったぐらいだったが、このたぎる熱を一度放ってしまったら、自分の昂りも醒めてしまう。我慢を続けるしかなかった。軽く泳げそうなバスタブは、湯を張ってのんびり入りたいぐらい広さだった。後で律子を誘ってみたら、乗ってくれるだろうか。むしろ、ここへ呼んで……いや、今はさっさとこの場を後にしなければ。

 客室へ戻ると、律子はベッドに腰かけたまま、スマートフォンを見ることもなくじっとしていた。どうせ脱ぐのだし、バスローブを身にまとっていればいいか、と俺は思ったが、律子一人に恥をかかせてしまうのも、と思って、脱衣所を出る前に着替え直した。シャツの襟が曲がっていないことを鏡で見て確かめてあったし、下半身の突起が目立たないよう、ポジションも修正済みだった。

「待ったか?」

 三つ編みの房が横に揺れた。

 隣に座って肩を抱くと、先程ほぐれていた緊張がまた戻りつつあるのが分かった。また火を入れ直す必要がありそうだ。背中の中心に指をつつっと滑らせると、律子はくすぐったさに思い切り体を前方へ突き出した。乳房の輪郭と、ブラウスの下に着けているもののシルエットが浮き出る。もう、体を抱き寄せて背中に回した腕で撫で回すことに、律子は抵抗もしなかった。首筋に鼻を埋めると、ソープ特有の香りがいっそう色濃くなる。その奥に、律子自身の体臭だろうか。柔らかな匂いが混じっていた。息がかかるのも相当こそばゆいようだ。唇を重ねて舌でノックすると、数秒の躊躇の後、向こうからもぬめったものが出迎えてくれた。

「っ……ん…ンン……あ……ッ!」

 同じミントの匂いがした。唇同士で塞がった空間の中で律子の舌はされるがままになっていて、こちらに応じようにも、戸惑いがあるようだった。リードするべきはこちらなのだから、それでいい。歯列をなぞって、口腔内の天井をくすぐって、そうしていると自然と互いの唾液が互いの体内へと飲み込まれていく。情欲の炎がどんどん大きくなっていって、雑多な器具が配置されたこの広い部屋の空気まで熱くしていくようだった。

 唇を離すと、舌同士の間に、銀色の糸が繋がっていた。口の中をもみくちゃにされて、律子の瞳はどこかぼんやりとしている。猫を愛でる時のように喉から顎を撫でると、心地よさそうに目を細めている。目元から頬までを赤く上気させたまま、律子は俺がブラウスのボタンをぷちんぷちんと外していくのを眺めていた。全てのボタンを外し終わる前から、襟の隙間に黒い紐が見えていた。女と少女の狭間の年代の律子に黒の下着は、大人らしさを想起させたし、少女にしては情熱的であるとも言えた。しかしながら、ブラウスの前身頃を開くと、そこにはもっと俺の予想を裏切る光景があった。

「……大胆だな」

 黒で縁取られた、紫のカップ。ベッドランプの灯りを反射して、その紫はつやつやとしていた。生地の光沢がひどく艶めかしい。寄せ上げられた乳肉は下着の内側に無理くり収められている。乳房の膨らみの割に肩紐は細く、頼りなかった。覆うべき所は覆っているが、少し激しい動きをしたら零れてしまいそうだ。

「下着選び、間違えちゃったかな……って、今更思ってます……もう、手遅れですけど」
「こんなブラ持ってるんだな。意外だ」
「う、上はまだいいんです。その……下が……」

 スカートを留めるベルトのバックルに思わず視線が行った。そんな言い方をされたら、ブラをめくるよりも先に、下半身のランジェリーが気になってしまうのは、当然のことだ。見てもいいか、と声をかける前に手が勝手に伸びて、バックルの留め金を外しにかかってしまった。

「あの……プロデューサー。私のこと、『慎みの無い、いやらしい女だ』って、軽蔑したり、がっかりしたり……しませんか?」

 いやらしい女、だと。あの生真面目な律子からそんな形容詞が出てくるだなんて、俺は想像すらしたことが無かった。生唾を飲み込む音が全身に響く。

「真面目で気の強い女の子が実はエッチでした、なんて、俺はそっちの方がむしろ好きだぞ」
「……そう、ですか?」
「もちろんだ。エロに関して男は嘘をつけないからな」
「……分かりました。じゃあ……でも……うぅ、やっぱり、もっと清楚なのにすればよかった……!」

 蚊の鳴くような声で悔いながらも、律子は自らの手でベルトを抜いた。スカートの留め金を外し、そのまま引き下ろすことを、俺に許可してくれたのだった。任されるままにスカートを下ろしていくと、ブラよりも更に小さな布面積のショーツが少しずつ姿を見せた。顔を覆ってしまうぐらいに律子が恥ずかしがるのも、これは納得だった。ブラとお揃いの、手触りのつるつるしていそうな紫に、腰に紐で留められただけのショーツが、そこにあった。膝から抜こうとしなくても、紐をほどいてしまえば、すぐさま大事な所が露わになってしまう。
 お尻の方に手を回してみると、そちらの方も僅かにしか皮膚が覆われていない。規律に厳しい律子と、男性の目を惹きつけるための進化を遂げた、妖艶極まるランジェリー。結び付けて考えることが困難な二者が、俺の理解を飛び越えて、ぴったりと融合して、目の前に存在している。こんな行為に及ぶことを予期して律子なりに考えて選んだ下着がこれだったのだ。内心で卑猥なことも考える、ある意味とても人間らしい一面を垣間見たことと、少しでも俺を昂らせようと準備してきた律子なりの気遣いに、頭の中が沸騰してしまいそうだった。

 冒険しすぎのようにも思えたが、グラマーな律子には色っぽい下着がよく似合っていた。裸にしてしまうのを迷うぐらいだ。自分の呼吸が落ち着きを失いつつある。ジャケットを雑に脱ぎ捨てて、自分の体で律子を覆い隠す。獲物を捕食する肉食獣が内心で暴れそうだったが、陰になった視線が怯えを含んでいるのを見ると、ヒビが入りつつあった理性を何とか持ちこたえさせることができた。

「……リラックスだぞ、律子」
「あっ……! はっ、はいっ……ひっ……!」

 唇に軽く触れて、愛撫の始まりを告げる。うっすら汗ばんだ首筋は、ほんのり塩気が浮き出ている。そのまま、耳の裏や、鎖骨の窪みに舌を這わせる。整わない呼吸に声が混じりだす。背中に回した掌にも、律子は敏感に反応した。緊張に固くなっていた体が、徐々にほぐれていって、体を隠そうとしていた腕からも力が抜けていく。

「っ……やっ……!」

 豊かな膨らみに掌を重ねると、デリケートな女性の象徴に触れられた驚きから、律子が1オクターブ高い声をあげた。搗きたての餅のような、しっとりした弾力。固いガードの内側には、こんなにいやらしい双丘が隠されている。今度は、さっきのように表面を撫で回すのではなく、たっぷりとした肉に指を沈め、こちらも愉しませてもらう。今はまだ、胸を揉まれること自体の気持ちよさではなく、自分の体をまさぐられている状況に対する背徳感から来る高翌揚感に酔っているようだ。乳房のどこを触っても、反応に大きな違いが見られない。ふにふにとしたソフトタッチから、全体が変形するぐらいに捏ねても、律子が痛がる様子はなかった。

 そろそろカップをずらそう。上から下か、下から上か。それとも、背中に手を回して、ホックを外してからにするか。

「さて、中を見せてもらおうかな」
「あっ……あ……!」

 少々迷ったが、ブラの底に指を引っ掛けて、ゆっくり引き上げる。見えてはいけない所が今にも見えそうになった瞬間、律子の声は上ずっていた。

 カップの底に引っかかった肉が、支えを失ってたぷんと弾んだ。やや色素の薄いベージュピンクが、丘の頂点にひっそりと佇んでいる。形良くツンとしている、というタイプではなく、密度の高い、むっちりして弄びたくなる乳房だった。少々意地が悪いとは分かりつつも、隠せないように両腕を掴んで、そっとベッドに沈めさせてもらった。

「や……やだ……見ないで、見ないでよっ……!」

 みるみる内に、律子の顔から首元までもが、羞恥の紅色に染まっていく。そんな顔をしたって、嗜虐心をそそり立てるだけだとも知らずに。

「恥ずかしいか」
「だって……ちょっぴり垂れてて、だらしないから……!」
「その方がいやらしくていい」

 律子は本当に嫌なことは真顔ではっきり告げるし、実力行使も辞さない。恥ずかしさから「やだ」とは言いつつも、本気で拒む様子はない。その証拠に、腕を解放しても、俺を突飛ばそうというそぶりは見せなかった。本人なりにこの先の愛撫を受け入れようとする意思表示なのか、両腕はおさえつけられていたところに投げ出されたままになっていた。

 乳房から一段ぷっくりと膨らんだ乳輪の根元へ、そっと舌を這わせる。律子がきゅっと目を閉じた。舌先でくすぐるように唾液をまぶしていると、ふにっとした柔らかさが、舌を弾き返す弾力をまといはじめる。充血していく乳の先端を舐って煽る。唾液を浴びた乳輪がてらてらとランプの灯りを反射するようになる頃には、まだ触れられていない突端が一回り大きくなっていた。そこと、ほんのちょっぴりのコンタクトを図っただけで、組み敷いた体がビクッと跳ねた。小指の爪の先ほどの大きさであろう乳首を唇で挟みこみ、口の中で転がす。吐息から浮き出る甲高い嬌声が響いた。舌の上で踊るそれに血液がどんどん集まってきて硬さを増していき、再び空気に触れさせる頃には、張り詰めてピンピンになっていた。掌の中でゆるゆると流れる乳房を寄せると、可愛がられて尖った乳首の大きさがより際立った。律子に目を開くように促して視線を合わせる。もう一方を指先でゆっくり弄んでいるとみるみる内に皮膚に触れる抵抗が高まっていき、自分の体のその様を見せつけられた律子は口を結んでこらえようとしていたが、たちまち甘い声を漏らし始めた。

「わ……私、ヘンな声、出してない……ですか?」
「そういう色っぽい声なら、もっと聞かせてくれ」
「うぅ……そう言われても……」
「我慢すること無いんだぞ? ここには俺しかいないんだから」
「でも、恥ずかし――ひぃんっ! あっ、やだ、あっ、あっ、あ……!」

 コリコリになった乳首の両方を指に挟みこまれ、律子の紡ごうとした言葉はいやらしく歪められてしまった。膨らみの頂点はすっかり膨れ上がっていて、ふわふわした胸には不似合いな程に硬い。たぷんたぷんと柔肉を手元で揺らしていると、きゅっと絞ったら母乳が滲み出てきそうな気がした。

 女性の象徴へのペッティングを続けている内に、律子は両脚をモジモジさせ始めていた。そろそろいい具合に下半身も温まっている頃合いかもしれなかった。すっきりさせたくて体を絞った、と言っていた腹部は、確かに本人の言葉通り、うっすら脂肪が乗った手触りがスベスベでふにっとしているが、柔らかさの奥には筋肉の隆起が微かに感じられた。体のコンディションを維持するために課していたトレーニングの蓄積が、こんな所に表れている。「寸胴」だなんて自己評価がこのお腹とウエストから出てくるのはおかしい、と考えつつ、窪んだ臍の周りを撫で回していると、心地良さそうに鼻を鳴らしつつも、「気にしてるから、そこはやめて欲しい……」と、やんわりと拒否されてしまった。

 トップレスになった流れでショーツの紐も引っ張ってすぐに外したくなったが、閉じられた両脚にはまだ若干の抵抗感があった。膝上まで伸びたソックスを脱がせていると、身長の割にすらりとした脚が剥き出しになる。脛をくすぐって、ふくらはぎの筋肉を揉みながら膝を伝い、むっちりと肉厚な太腿へ手を這わせる。ソックスの食い込んでいた太腿の肉はずっしりとした重みがありつつも引き締まっている。ステージの上でダンスをしながら歌うのだから、こうなるのも当然だった。

 内腿を掌で撫で回していると、やがて下半身が少しずつ弛緩してきた。そろそろ脱がすぞ、と目配せしながら尋ねると、部屋が静かでなければ到底聞き取れない音量で、肯定する声が聞こえてきた。それほど力を入れなくとも、紐はあっさりとほどけた。鼠径部の窪みを覆い隠す最後の一枚が重力に負けて、はらりとあっけなく落ちた。

「っ……!」

 律子が息を飲み込んだ。きわどい下着を選んで着けてくるぐらいだから予想はしていたが、陰毛は生えっぱなしにはされておらず、お堅い外見に反してきちんと処理されていた。クロッチの裏側と陰唇の間に糸が伸びている。表面を覆う愛液が、ランプの灯りに反射していた。

「よく濡れてるな」
「……言わないでよ」
「いいことなんだぞ? しっかり体が温まってる証拠だ」
「あ……あっ……触られちゃう……!」

 両脚の間に手を伸ばす俺を見て、律子の声が高くなった。

「なぁ律子、ちょっとセクハラするぞ」
「……何ですか、いきなり」
「一人ですることはあるか?」
「ホントにセクハラですね。……たまにはしますよ。私だって、それなりのお年頃ですから」
「指は入れるか?」
「……まぁ、はい……指ぐらいなら……あっ、あ……」

 [田島「チ○コ破裂するっ!」]の経験を自分の口で暴露させながら、潤った膣口から粘液を拝借して、指にまぶす。入口にぴとっと当ててから円を描くようにほぐしていくと、閉じていた孔が少しずつ緩んでいく。ここまでたっぷり時間をかけたおかげなのか、強く押し返すこともなく律子は俺の指を体内へ招き入れてくれた。指ぐらいなら、と確かに言った。布団の中で、ショーツの中に手を突っ込んで女性器をまさぐる律子の姿をふと脳裏に浮かべ、口の中が乾いた。この中に自分自身を埋没させる瞬間を思うと、自らを急き立てるオスが一際力強く暴れまわる。理性と本能の綱引きは、徐々に旗色が悪くなってきていた。

「痛むか?」

 律子は首を振った。差し入れた指は強い圧力で締め付けられているが、滑りが良い。元々濡れやすい体質なのか、それとも、ナカをこんなにしてしまうぐらいに、精神が昂りを覚えているのか。後者であってほしかった。軽く前後させるぐらいなら問題も無い。ゆっくりと抜き差ししていると、引き抜かれる時にも、押し込まれる時にも、律子は性感に嬌声をあげた。段々大きくなる声が恥ずかしくてたまらないのか、枕を抱えて口をふさごうとすらしている。膣内のマッサージを続ける内に指先にザラついたものが当たるようになってきて、そこを軽く圧迫すると、かくっと腰が浮いた。

「あう、そこ……」
「ここ、自分でも触るのか?」
「は、い……」
「じゃあ、いっぱい気持ちよくしてやるからな」

 ナカをほぐしながら、お気に入りのスポットへの刺激を続ける。ぷっくりし始めたそこをタップすれば狭い体内で愛液の分泌はますます加速され、指が出入りする度に収まりきらなくなった分が垂れてくるほどだった。タップがプッシュになり、やがてプレスになる頃、やだ、だめ、と言ったポーズだけの言葉は段々意味を成さない音声へと変わっていく。

「っん……うぅ……んん~~~~~っ!!」

 叫び声を無理矢理飲み込むような音が喉から噴き上げてきた瞬間、律子が抱き締めた枕にギュゥっときつく、皺が寄った。腰が震えて、女体の内部がビクビクと細かく痙攣する。肩で大きく呼吸する律子の額には、汗が浮かんでいた。女の匂いが湿気と共に立ち上ってくる。皮膚から伝わってくる体温が熱い。どろっとした粘液に包まれた膣内から指を引き抜くと、掌までべっとりと愛液にまみれていた。

「気持ちよかったか?」
「そんなの、言わなくたって分かるでしょう……」

 とろんとした目をして惚けていた律子は一瞬だけ眉間に皺を寄せたが、唇を求めればすぐに応じてくれた。せっかく高まった熱をこのまま下げるつもりはない。遠慮せずに舌を割り込ませて、口内で弄ぶ。呼吸が落ち着かないままの律子とディープキスを交わしながら、己のベルトを外した。目の前の痴態をずっと見続けてきたのだ。もういい加減に理性が限界を迎えていて、優しいセックスをこれ以上出来なくなってしまいそうだった。ジャケットも、シャツも。身に着けていたものを乱暴に脱ぎ捨てて行き、スラックスを下ろして、大きく前方に突き出したボクサーパンツも引き下げた。律子に覆いかぶさる前に手に取ったコンドームのおかげで、どうにか踏みとどまれた。年上の男性としての理性が、動物的な生殖行為へ突き進もうとするオスの足首に、枷をはめた。

 着せるものはきちんと着せた。一呼吸置いたおかげで、ほんの僅かに過ぎないが、ヒートアップしていた頭を冷ますことはできた。

「指より、ずっと大きい……そんなの、入るのかしら……」
「大丈夫だ。しっかり力を抜くんだぞ」

 不安を隠せない律子の頭をそっと撫でる。

「力を抜くって言っても、しっかりやったら力を抜けなくないですか?」
「そういうツッコミができるなら大丈夫だ。……入れるぞ」
「あっ、はい……」

 入口へ性器をあてがい、前方へ押し込む。絶頂を迎えた余韻がまだ残っている律子の体からは程好く力が抜けていて、門前払いを食らうようなことは無かった。薄いスキン一枚越しでも分かるヌルヌルと、粘膜から伝わってくる温かさに、下半身が包まれていく。まだ大丈夫そうだが、途中で引っかかったら、無理矢理にでも押し入らなければいけないかもしれない。そんな俺の危惧とは裏腹に、ゆっくりと押し入れ続けた肉茎は、思いの外あっさりと、根元まで埋没した。

「律子、入りきったけど、どうだ?」
「え、えっと……」

 快楽に酔うでもなく、顔を苦悶に歪ませるでもなく、律子は戸惑っていた。

「初めてってすっごい痛いんだろうな、って思ってたんですけど、痛くない……。異物感っていうか、ヘンな違和感はありますけど……」
「激しいダンスやってる人とかは、そういうこともあるらしいが……まぁ、苦痛が少ないなら何よりだ。あったかいな、律子の中」

 ここにあなたが入ってるんですよね、と言いながら、俺の下で、律子は自身の下腹部を撫でている。顔を覆っていた惑いが徐々に晴れ、うっとりした目が俺を見上げた。手を伸ばして頬を撫でてやると、口元に笑みがこぼれた。

「あの、プロデューサー。一つお願い、してもいいですか」
「ん? ああ、構わないぞ。どうした?」
「コドモみたいなこと言っちゃいますけど……抱っこして欲しいな、って……」
「随分可愛らしいお願いだな」

 突っ張って体を支えていた腕を回して、律子の背中を抱えた。ぬいぐるみみたいに抱えられていた枕が頭の後ろに戻り、細い腕が背中に回ってくる。

「私にだって……こういう願望ぐらい、あるんです」

 のしかかって体重をかけてしまわないよう、肘を突っ張る。首筋に律子が顔を埋めてきて、互いの体温がぴっとりとくっついた。その拍子に下半身がズレて粘膜同士が擦れ、甘い痺れが走って腰が震えた。

「動くからな。痛かったらちゃんと言えよ」
「うん……」

 こちらの宣言を聞いたのを確認して、腰を引いた。ひたすら狭い。入口まで退くのは許さない、とでもいうのか、押し込もうとする前に、奥へ奥へと引き込まれていく。一往復しただけで、律子は熱い溜息を漏らした。滑りがよくぬるっとしているが、奥の方は本当に窮屈だった。根元まで押し込めば、一番敏感な亀頭が膣肉にギュッと握られる。前戯を全く受けていなかったから、刺激に対する閾値が低下してしまっていて、数回出入りする頃にはもう、絶頂を迎えたくなっていた。

「あっ、はっ……んんっ、んっ……んぁ……!」

 重ね合った肌が、互いの体を熱くしていく。俺の体の下では、一糸まとわぬ姿になった律子が、初めてのセックスに声をあげている。腰が勝手にペースを上げ始めていたが、まだ痛がる様子はない。肌がぶつかる音に、餅を搗くような音が混ざりだした。摩擦の回数を重ねる度に、温かい膣内のぬかるみが増して、ドロドロになっていく。本人の口から直接は聞いていないが、豊満な肉体からは歓迎されていた。高まっていく興奮に、汗が滲む。この営みに暑さを覚えているのは律子も同様で、性器をぶつけ合う度に擦れる肌もさらさらした滑らかな触感だったが、汗でぬめりを帯び始めていた。

 こんなにすぐ近くにいるのに、手が届かないほど遠くにいるような気がする。魂なんてものが実在するのかは分からないが、込み上げた愛しさがもどかしくなって、すぐ傍にいる相手を求める欲求は高まる一方だ。俺がプロデューサーを始めてから。律子がアイドルとしてデビューしてから。ずっと苦楽を共にしてきた。39プロジェクトが始まってからは、後輩達を引っ張っていき、支えになってくれる仲間でもあった。

 真面目な堅物が精一杯気を引こうと努力して、熱意にほだされてすっかりその気になり、情熱的な愛の告白も受け入れてしまって、二人で悪者になってしまった。一体この先どうしようか。正解が思い浮かばないことも切なくて、抱いてしまった愛情を劣情とまぜこぜにして、気が付けば、その行き場のない想いを、ひたすらにぶつけていた。

「ん……あ……っ、プロデューサー……わたしっ、もう……!」
「う……! 律子……っ」

 背中に回された手が、爪を立ててきた。膣内がねじれる。先程指で感じた痙攣が、粘膜にびんびんと響く。裏筋を舐め回し、幹を扱き上げるようなその襞に誘われ、我慢することを忘れて精液が迸った。内部が収縮する度に、尿道の中を走る精子が急かされて、押し合いへし合い、決して広くは無い鈴口をこじ開けて弾けていく。俺ができたことといえば、性の奔流に身を任せて呼吸することだけだった。

「……すまん、律子。もっと優しくするつもりだったのに、つい夢中になっちまった」

 律子の呼吸はまだ整わず、前髪が額に張り付いている。レンズの奥の瞳には、うっすらと涙の膜が形成されていた。泣かせてしまっていたかもしれない。お詫びのつもりで、額に軽くキスをした。

「くすっ……謝るようなことなんてしてないのに。そんなに夢中だったんですか?」
「あっ……ああ」
「……あははっ! 女として、ちょっぴり自信ついちゃうかも」

 照れ臭さを覚えつつ、緊張の解けた膣内から腰を引き、まだ硬さの残る己を取り出す。吐き出した精液はしっかり受け止められており、たっぷりと浴びた愛液でてらてら輝く中に、やはり僅かな赤が混じっていた。

「あの時より、いっぱい出てたんですね」

 口を縛ったコンドームを摘まんで、律子がそれをしげしげと眺めている。あのゴムの中に入っているのは、睦みあいの残滓。抱き締めていた体の柔らかさや、腰を打ち付ける度に胸元でゆさゆさと揺れていた果実。掌に、腕に、性器に、まださっきまでの感覚は生々しく残っていて、発散したはずの情欲がその形を取り出すまでには、さほどの時間もかからなかった。

「あ……また大きくしてる……」

 勃起の途上にある性器に、律子の視線が注がれている。どくん、どくん、と心臓が鼓動を打つたびに、海綿体に血液が流れ込んで渋滞を起こす。触れられてもいないのに快感がビリビリと走り、たちまちの内に元の硬さを取り戻してしまった。もうそれ以上入らないのにまだ血液が送り込み続けられているのか、突っ張った血管が皮膚にくっきりと浮き出ていた。

 今から二回戦を求めたら、体を許してくれるだろうか。逡巡していると、眺めているだけだった律子がこちらに向き直った。ベッドサイドに腰かける俺の足元に裸体が下りて、手が伸びてきた。触ってもいいですか、と断りこそ入れてきたが、肯定されることが前提の質問なのは明らかだった。

「さっき、私からは何もしなかったから……」

 剛直が、細い手で、きゅっと握り締められた。そのまま手で奉仕してくれるのかと思いきや、顔が近づいてくる。

「おい律子、無理をするな」
「無理なんてしてません」

 ぷるっとした唇から、赤い舌が伸びてきた。数秒の躊躇の後、ぬめぬめしたものが亀頭の上を滑った。肺から空気が押し出される。いくらシャワーを浴びて綺麗にしていたとはいえ、さっきのセックスで分泌液も大量に出していたし、ゴムの中に放った精子の残りだってこびりついているはずだ。イヤな臭いがするに違いないのに、律子はちろちろと舌で粘膜をなぞっている。さっきまで自分の中に入っていたものに、愛おしげに口づけまで交わしている。上目遣いでこちらの様子を伺いながらの、たどたどしい口淫。俺を燃え上がらせるには十分……いや、それどころではなかった。

「思ったより大きくて、咥えたら歯が当たっちゃいそうなんで……すみません」

 アイスキャンディーにそうするみたいに肉茎を握って、律子はぺろぺろと、敏感な先端を舐め回している。幹を扱く手も、根元ではなく先端に近くなる所を責めてきていて、劇場の休憩室でされた時よりもツボを学習しているようだった。腰を振ってしまいそうになるのを、必死で辛抱する。刺激としては物足りないぐらいなのに、気分の昂りが刺激を何倍にも増幅させている。唾液をたっぷり含んだ舌が裏筋の縫い目を往復した瞬間には電気が走り、息が詰まった。この緩やかな快感に、俺は二度目の絶頂がこみあげてくるのを感じていた。

「ス、ストップ……」
「えっ」

 たまらず俺が制止すると、律子は「ごめんなさい」と顔を曇らせた。

「いや、違うんだ。イヤなんじゃなくて、気持ちよくなりすぎて、ちょっと」

 寸止めだった。射精目前のペニスがビクンビクンと震えている。息が浅くなっているのが自分でも分かる。ここで律子に射精させてもらうのも捨てがたかったが、それだけでは物足りなかった。男という生き物は、本当に度し難い。

「律子、『もう一回したい』って言ったら、しんどいか?」
「あ……い、いいですよ。私のこと、求めてくれるんだったら、その、何回でも……」

 肩を掴んでがっつく俺を見て、律子は恥じらいに頬を染めて照れ笑いを浮かべながら、OKをくれた。

 一声かけて、体の入口の様子を検めさせてもらうと、少し時間が経っていたにもかかわらず、そこはしとどに濡れそぼっていた。内壁に塗り込むように指で愛液をかき混ぜる間、べっとりと濡れた女性器は何度もひくひくと蠢いていた。指を開いて、分泌液が糸を引くのを俺が見せつけると「だって」と口ごもったが、頼んだ通りに律子は跨ってきてくれた。予備の小袋を裂いてさっさと準備を済ませると、位置合わせを終えた砲塔にぬくもりが被さってくる。

「う……ああっ……硬い……っ!」

 一気に突き入れてしまうことが無いよう、律子は俺の肩につかまって慎重に身を沈めてきた。ずぶずぶと侵入していくカリが、とろとろした空間の中で襞に舐められながら、深部へと引っ張り込まれる。深い挿入が果たされて陰毛同士が絡み合うと、先端が最奥の壁に突き当たった。対面座位になって、腕が巻き付いてくる。下の口でそうしているのと同じように、律子がキスをねだってきた。

 乳房同様の丸々としたお尻をぐっと掴んで、前後に揺する。洞穴の入口で粘液が圧し潰され、荒い律子の息に呼応して、ぐちゅっ、ぐちゅっ……と淫らな音が響いた。ぐぐっと指が沈み込むほど肉厚なのに、少し力を抜ければ指を弾き返してくる豊かな弾力を備える臀部。思わずぺちっぺちっと掌で軽く叩くと、恥ずかしいからやめて、と視線で抗議されたが、蜜壺の圧力は一段階強くなった。

 律子がしがみついて体重を預けているから、こちらの手で体を支える必要は無かった。こちらが腰を揺すって最深部をノックしながら、自由になった両手で全身を可愛がることができる。さっきの体勢ではいじれなかった、たっぷりした乳房も、両手で鷲掴みにして存分に捏ね回すことができた。ぴんと硬直したままの乳首を責めていると律子はかぶりを振って悶え、膣奥をざわめかせながらかくかくと腰を揺すり始めた。体の前面に垂れ下がった三つ編みがふわりふわりと宙を舞い、胸板に毛先が擦れてくすぐったかった。

「腰、動いちゃってるぞ。気持ちいいか?」

 はしたない声を我慢しようとして、くぐもった喘ぎ声を漏らしながら、律子が頷いた。

「はじめて……なのに、痛くなくって、気持ちいい……。こんな幸せな思いしちゃったら、病みつきになっちゃう……っ!」
「たっぷり温める時間をとってよかったな」
「う、ん……」
「奥の方ぐいぐいするの、好きか?」
「ん……あ……お腹の中、いっぱいで……いい、です……」

 正常位の時よりもピストン運動が抑えられている分、ペニスが擦れる感触は控えめだった。ただ、持続的な快楽がずっと続いていて、そろそろ限界点を迎えそうだった。このままふれあいを楽しんでいたかったが、エクスタシーを得たかったのも確かだった。背中を撫でていた両手で腰を掴み、奥へぶつかりながらグラインドを試みると、すぐに睾丸からの準備が整った。

「は、っ……あ、私、イっ……~~~~!!」

 根元から一気に絞りあげられて、堰き止めていた濁流が解き放たれた。ゴムに穴が開くんじゃないか、と錯覚するぐらい勢い良く、熱い白濁が飛び出ていく。びゅるっ、と射精する度に、喉の奥から声にならない何かが漏れた。ほぼ似たようなタイミングで深く絶頂した律子が脱力してもたれかかってきてからも、吐精は続いていた。

 * * * * *

 逢瀬の後始末も済み、火照った体の熱も治まってきていた。仰向けになってぼんやりしていると、隣に横たわる律子が腕に縋り付いてきた。

「私らしくなかったかもしれませんね。衝動の突き動かすままに動いて、こうなっちゃうなんて」
「そうか? ある意味律子らしいと思うけど。いつも何だかんだブツクサ言いつつも『開き直ったら一直線』じゃないか」

 はぁ、と、わざとらしい大きな溜息が聞こえた。

「よく見てるんですね、プロデューサー殿」
「そりゃあ、な」
「きっと普通のお付き合いはできないけど……今後とも、よろしくお願いします」
「ああ。……愛してるよ、律子」
「……『愛してる』っていうのがどういう気持ちなのか、まだ分からないけど……きっと、私もです」

 律子が、上腕に頬ずりした。

「なんていうか……律子って、意外と甘えんぼなのか?」
「今だけですよ。こんなこと、普段のテンションじゃ絶対できませんから。ま、私も一応女の子ですし、こんな願望を内心でささやかに持つこともある……とでも、時々思い出してもらえれば、ね」
「それなら、風呂入るか、一緒に」
「えっ? ……あっ、あの、その……お風呂でも、そういうコト……しちゃうんですか……?」
「ははっ、でっかい風呂にただ入るだけだよ。それとも律子、まだしたいのか――あいたっ!」

 手の甲をつねられて、鋭い痛みが走った。「勘違いしたってしょうがないじゃない」とこぼしたきり、律子は口を噤んでしまった。手近にあったタオルを手に取り、編んでいた髪をほどいて、そのままずかずかと浴室へ歩いていってしまった。

 初めて体験した夜の営みは、相当お気に召したようだった。途中から我慢できずにがっついてしまったが、理性的に時間をかけて可愛がった甲斐があったというものだ。今後肌を重ねる機会は多くなるかもしれないな、という下世話な期待を抱きながら、俺も浴室へ向かった。

 * * * * *

 事務室の時計の針はさっき見た時からもう1時間経っていた。今日は定時で帰れる、と心を躍らせていたのに、未処理のままの書類が複数見つかってしまい、正座させられた挙句説教までされて、残業を余儀なくされる始末だった。俺を叱りつけた当人は、隣の席で文句を言いながら会計処理の再計算を行っている。

「ホントに、何回目なんですか、プロデューサー!」
「……いや、面目ない。領収書を出した日の内に記録するよう習慣づけてはいたんだが」
「もう……定時で上がれる日だって言ってたじゃないですか……」

 定時で一緒に上がって、夜にちょっとしたお出かけをする約束が反故になってしまったこともあって、律子は機嫌を損ねていた。今回ばかりは、全面的に俺が悪かった。
 黙々と業務と格闘していると、みんな帰った劇場の、ひっそりとした事務室でひっきりなしに響いていたキーボードの音が、ぴたりと止んだ。

「さ、こっちはもう終わりましたよ。どうですか?」
「これにハンコ押して、あと二枚転記するものがあって、日報作れば終わりだ」
「まだ結構残ってるじゃないですか。転記ならこっちでやりますから、日報進めてください」
「ああ、助かる」

 空白だらけの書類を渡すやいなや、ガリガリとペンが紙を引っ掻き始めた。

「悪いな、手伝ってもらっちゃって」
「いいんです。それより、早く済ませましょうよ」

 こんな時ぐらいしか二人っきりになれないんですから、と零しながら、律子はさっきまでせかせかとキーボードを叩いていた指を休ませることもなく、ペンを走らせ続けている。ああ確かにそうだ、と、ハンコを押し終えた書類をフォルダにしまいながら、俺も気合を入れ直した。

「終わったら、メシでも行くか。埋め合わせって言っちゃなんだが」
「ご飯だけなんですか?」
「うーん、律子から希望はあるか?」
「……当ててみて下さい」

 業務日報を半分ほど作成し終えた所で、もうペンの置かれる音がした。

「ウチ、来るか?」

 安心できるテリトリーに置いておきたい。それは、相手の希望というより、自分の希望に近いかもしれなかった。転記後のドキュメントを、律子は何回もトントンと机にぶつけて体裁を揃えている。バラバラに保管するものだから、綺麗に整える必要なんてないのに。

「……来て欲しいんですか?」
「違ったか」

 くすくすと含み笑いが聞こえた。

「しょうがないなぁ。そういうことなら、お邪魔させてもらいますね。戸締りしてきますから、早く日報作っちゃってください」

 任せた仕事を全て俺に提出して、律子はおもむろに立ち上がり、事務室の扉の向こうへ消えていった。

 かつ、かつ、かつ。パンプスが床にぶつかる足音が、ドアの向こうでせっかちに響いていた。


 終わり

以上になります。ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。

[田島「チ○コ破裂するっ!」] ←すんません、こんな文字列入れてないんですがヘンな表記が……。


アイマス2が出るか出ないかって時期はよく律子さんのR-18な話を書いていたんですが、何年ぶりだったんだろう、こういうの。
これを読んだ人に何かしら響くものがあって欲しいな、と切に願うばかりです。感想とかもらえたら嬉し泣きします。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom