('A`)ドクオは異世界でも社畜になるようです (57)

(*゚ー゚)「体力:D、筋力:D、魔翌力:なし、俊敏:E、器用さは……」

('A`)「……」


 ドクオは異世界にきて早々職業案内所に案内されていた。
 この街では異世界から転移してきた人は珍しくないらしく、異世界人に対しての職業斡旋の体制が整えられていた。
 その職業斡旋の形がこの案内所だ。
 案内所で自分のステータスを調べてもらうと職業を斡旋してもらえるとのことだ。
 ステータスによって適正が合わない職もあるため、この世界に迷い込んだ異世界転移者のほぼすべてがこの案内所を利用している。


(*゚ー゚)「……前の世界でのご職業は営業…商人でよろしかったですか?」

('A`)「え?商人とは違うと思います」

(*゚ー゚)「商人といってもこちらの世界では商品の作成・販売などにかかわっていれば商人と扱っています」

('A`)「なるほど。なら商人でお願いします」

(*゚ー゚)「はい。続いて経験値の確認をします」

(*゚ー゚)「えーと…武道経験なし、格闘技経験なし、軍経験なし、音楽活動経験なし、建設業経験なし……」

(*゚ー゚)「はい!これですべてのステータス確認が終わりましたのでこれより職業適性のほどを案内させていただきます」

('A`)「はい」

(*^ー^)「第一希望に挙げられていました【魔法使い】ですが、魔翌力がなく適正がまるでないため残念ですが対象外とさせてください!」

('A`)「……」

 異世界でも就職活動は厳しいようだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1531303651

(*゚ー゚)「続けますね!第二希望に挙げられていました【戦士】ですが体力・筋力が低めなこと、武道等の近接戦闘の経験がないことから厳しくなります」

(*゚ー゚)「第三希望に挙げられていました【シーフ】ですが、あなた様のシーフとしての基本スキルは無いに等しいですね」

(*゚ー゚)「窃盗経験や空き巣経験があれば【強奪】【鍵開け】などのスキルが手に入ったのですが、一回も経験がないため習得できません」

('A`;)(あるわけがない……)

(*゚ー゚)「ステータス、元々のご職業的に考えると、運動力やスキルが重要な【戦士】【シーフ】ともに推奨はできません」

(*^ー^)「ですがなれないことはありません!『これがやりたい!』という強い意思があれば当案内所ではサポートできる体制があります!」

('A`;)「……」

 営業の仕事に嫌気がさし、転職を志したとき同じようなことを言われあきらめた記憶がよみがえった。
 そもそも戦士やシーフをやりたいと考えたことはなく、消去法で第二・第三希望に入れただけである。
 『これがやりたい!』という強い意志などまるでない。

 しかし、ドクオが魔法使いを希望したのには『かっこいいから』以外にも目論見があった。

('A`)「質問ですが、後々魔翌力に目覚めるといったことは」

(*゚ー゚)「ありません。魔翌力は才能ですので」

('A`)「……」

 30まで貞操を守ればよいということではなかった。

('A`)「うーん……」

 ここで職を決めれなければの土地勘のない異世界で無職になるのだろうか。
 保険もない、衣食住もまともにないこの状態で収入がないという恐怖。
 このままではせっかく異世界来たのに冒険はできなくなる。

('A`)「ちなみに適正的に私に合った職業は何でしょうか」

(*゚ー゚)「ふふふ、そのセリフを待っていましたよ!!」

(*^ー^)「ご安心ください!『当案内所は就職率100%!!異世界人であっても就職まで完全サポート』がウリです!」

('A`)「おお!」

(*゚ー゚)「あなたのステータス・経験値・希望職から最も適した職業は」

(*゚ー゚)「運搬職です!!」

('A`)「え?地味」

(*゚ー゚)「運搬職は地味ではありません!!」
(*゚ー゚)「剣士などの冒険者と違い、都市間の物資の運送のために街には必須と言っていい職業です」
(*゚ー゚)「都市間だけでなく、都市内の物資運送も重要です」
(*゚ー゚)「町にいる運搬職の質が豊かさにつながるのです!」
(*゚ー゚)「大規模な戦争などがある際には都市-拠点間の物資輸送にも重宝されています」
(*゚ー゚)「冒険者がダンジョンから素材や宝物を多く持ち帰るために使われもします」

('A`)「裏方ばっかりじゃん」

(*゚ー゚)「また、運搬職からの上級職が多いのも特徴です」
(*゚ー゚)「商人(荷馬車)、行商人、商人(船舶)、商人(郵便)、商人(開発)、商人(建設)、商人……」

('A`)(もはやつっこむまい)

(*゚ー゚)「と、冗談はここまでにしまして、私がドクオ様に運送業を斡旋するのには理由があります」

('A`)「ほう、聞こう」

(*゚ー゚)「ドクオ様は冒険者になりたいということでよかったですよね?」

('A`)「うむ」

(*゚ー゚)「ぶっちゃけて申し上げますとドクオ様のステータス、スキルからいきなり冒険者職は無謀です」

(*゚ー゚)「なってもすぐ死ぬでしょう」

('A`;)「おおぅ」

(*゚ー゚)「パーティーを組むのも難しいと思います」

(*゚ー゚)「適性のない初心者をパーティーに入れたいといった需要もそうそうありませんし」

(*゚ー゚)「この世界に冒険者の知人もいらっしゃいますか?」

('A`;)「いません……」

(*゚ー゚)「ドクオ様は異世界からの転移者ですのでそれは仕方ありません」

(*゚ー゚)「しかし、ほかの冒険者がドクオ様に配慮してパーティーに入れてくれることはそうないでしょう」

(*゚ー゚)「ドクオ様が追い詰められ生活のために無謀なクエストに挑みお亡くなりになることは避けたいです」

(*゚ー゚)「そのための当案内所です」

(*゚ー゚)「運搬職では主に体力・筋力が伸びる傾向にあります」

(*゚ー゚)「魔翌力のないドクオ様には必須のステータスです」

(*゚ー゚)「また、運搬職ではどんなステータスでも少なからず需要があります」

(*゚ー゚)「生活費はなんとかなるはずです」

(*゚ー゚)「前に言った通り冒険者からの依頼であれば経験値も入ります」

(*゚ー゚)「少なからずクエスト経験もできるため、転職して改めてクエストに挑戦するときにきっと役に立ちます」

('A`)「な、なるほど?」

(*゚ー゚)「不満があればまた来ていただければ喜んで斡旋させていただきます」

(*゚ー゚)「運搬職から転職は前例が多いのでお任せください」

('A`;)「そ、そうですか」

(*゚ー゚)「いまならやさしいマスターが運営している運搬ギルドも紹介できますよ!」

('A`;)「な、なら試しになってみようかな…って」

(*゚ー゚)「……」

(*^ー^)「わかりました!【運搬職】で登録しますね」

(*^ー^)「職業カードが発行されたました。これはこの世界の身分証明書にもなりますので大事にしてくださいね」

(*^ー^)「運搬職に合ったスキルもありますのでご確認ください」

(*^ー^)「早速ですがギルドのほうを紹介させていただきます」

(*゚ー゚)「運搬ギルドは3つありますが、先ほど言ったやさしいマスターのギルドでいいですよね?」

('A`)(ここが紹介された運搬ギルド……)

('A`)(……普通に普通な家だ)

('A`)「ええぃ!迷っても仕方ない!」


('A`)「たのもー!!」バン!!

ξ゚⊿゚)ξ「ひゃい!!な、なに!?」ビクッ

('A`)「あ、すみません。案内所でここを紹介されたんですが」

ξ゚⊿゚)ξ「いきなり脅かさないでよ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「……案内所でここを紹介されたってことは、ここで働きたいってことでいいの?」

('A`)「はい」

ξ゚⊿゚)ξ「もしかしてあなた異世界人? 名前は?」

('A`)「ドクオです」

ξ゚⊿゚)ξ「ふーん、私はツン。よろしくね」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃ職業カードみせて」

('A`)「はい」

ξ゚⊿゚)ξ「ふんふん」

ξ゚⊿゚)ξ「ステータスは低いけど運搬スキル意外と高いのね」

 小学生のころ複数のランドセルをもって下校した経験と、
 中学・高校と辞典すらも置き勉せずに毎日重い荷物を持ち帰ったことが評価された結果、【運搬:C】というスキルを習得することができた。
 運搬スキルは荷物を運ぶことにおいて、筋力と体力を上昇させるスキルである。
 運搬職に運搬スキルは必須といってもいいスキル。
 このスキルを習得できたことはドクオにとって幸運なことであった。

ξ゚⊿゚)ξ「とりあえずは馬術スキルを習得してもらおうかしら」

ξ゚⊿゚)ξ「馬車を運転できれば仕事広がるし」

('A`)「馬車かぁ……かっこいいかも」

ξ゚⊿゚)ξ「ゆくゆくは行商人と一緒に都市間の輸送について行ってもらうから」

('A`)「行商人……なんかすごそう」

ξ゚⊿゚)ξ「覚えてもらうまでは町内の仕事ね」

('A`)「町内の仕事?」

ξ゚⊿゚)ξ「昼から新聞配達してもらうから」

('A`)「え? 地味」

ξ゚⊿゚)ξ「今日は私と一緒に回るけど明日からは一人でやってよね」

('A`)「新聞配達なんて一人でできるけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あのねぇ……あなたこの世界にきて何日?」

('A`)「一日目であります」

ξ゚⊿゚)ξ「町の地理さえ頭にないのにできるわけないでしょ」

('A`)「確かに」

ξ゚⊿゚)ξ「ギルドマスターの私が教えてあげるんだから少しはありがたく思いなさいよね!」

('A`)「え? マスターだったの?」

ξ゚⊿゚)ξ「なんだと思ってたのよ!!」

ガチャ

彡(゚)(゚)「邪魔するで」

ξ゚⊿゚)ξ「何か御用ですか?」

彡(゚)(゚)「おう。都市間の運送で一人貸してくれんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「申し訳ございません。しばらく動かせる人がいないんです」

彡(゚)(゚)「さよか…」

彡(゚)(゚)「ん?そこにおるのはギルドメンバーじゃないんか?」

('A`)「自分ですか?」

彡(゚)(゚)「せやで」

ξ゚⊿゚)ξ「その人はまだ始めたばかりなので城内の仕事しかできないの」

彡(゚)(゚)「初心者なんか」

彡(^)(^)「ちょうどええやんけ!今回の仕事は【イチノ村】までの輸送やから楽勝やで!!」

ξ゚⊿゚)ξ「でも」

彡(^)(^)「過保護すぎやで!何事も経験や!!」

ξ゚⊿゚)ξ「う~ん」

('A`)「やりますよ」

('A`)(新聞配達よりは面白そうだし)

ξ゚⊿゚)ξ「勝手なこといわないの!」

彡(^)(^)「まあええやん!じゃあここにサインして」

('A`)「はいよ」カキカキ

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと!!」

彡(^)(^)「よっしゃ!契約成立や!!」

彡(^)(^)「一度交わした契約は反故できへんで!」

ξ゚⊿゚)ξ「うぅ……!!」

彡(^)(^)「一緒にがんばろうや!」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたねえ!なんで勝手に契約しちゃうのよ!」

('A`)「だって簡単って言ってたし……」

ξ゚⊿゚)ξ「この……ッ!!」

('A`)「ひっ!?」

ξ゚⊿゚)ξ「……まあいいわ」

ξ゚⊿゚)ξ「契約書にもへんなとこは無いし、荷物も普通」

ξ゚⊿゚)ξ「契約料も悪くないわ」

ξ゚⊿゚)ξ「確かにイチノ村までの輸送だったらいい経験になるかも」

ξ゚⊿゚)ξ「彼は冒険者みたいだし大丈夫……よね?」

('A`)「あの、行っても……?」

ξ゚⊿゚)ξ「……大丈夫だと思うけど気を付けてね」

('A`)「は、はい」

彡(゚)(゚)「仕事は隣村までこのリヤカー引くだけやで。荷物は食料らしいわ」

彡(゚)(゚)「本来は馬で運ぶ仕事やが全部出てしまっとるからな」

彡(゚)(゚)「森1つ抜けなきゃならんが道は整備されとるから安心してええで」

('A`)「思ったより重そう」

彡(゚)(゚)「こいつは原ちゃんや」

(´・ω・`)「よろしくね」

('A`)「よ、よろしくお願いします」

彡(゚)(゚)「ワイらは2人がリヤカーの護衛やな」

ゴロゴロ

('A`)(き、きつい…手伝ってくれないし)

(´・ω・`)「いい散歩日和だね、兄ちゃん」

彡(゚)(゚)「せやな」

彡(゚)(゚)「そろそろ森やから警戒せぇよ」

彡(゚)(゚)「食料のにおいに釣られて魔物がガンガン来るで」

('A`)(えぇ…)

(U^ω^)ワンワン

彡(゚)(゚)「早速きよったか」

('A`)「ひ、ひぇぇ」

彡(゚)(゚)「なんや? わんこ一匹だけか?」

彡(゚)(゚)「よっこらしょ」

              ̄ ̄ ̄ ̄-----________ \ | /  -- ̄
      ---------------------------------  。
           _______----------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    彡( )( )    / / |  \   イ

                    彡   と  /  ./  |    \ /
                 _ /    )/   /  |     /|
                 ぅ/ /   //    /   |    / .|
                ノ  ,/   /'    /    |│ /|
 _____      ,./ /∠__|     /   .─┼─ |
(_____二二二二)  ノ (\__,/|    / ┼┐─┼─
              ^^^'  ヽ, |  |   /.  ││  .│


 気の抜ける掛け声とともにフルスイングで叩きつけられる金棒。
 加速した金棒は、無防備であった野犬の頭を直撃する。
 野犬の頭はその破壊力に耐え切れずに鈍い音を立て脳漿をまき散らしながら身体ごと吹っ飛ばされた。

彡(゚)(゚)「ホームランや!!」

('A`)「ぐろい!」オエェェ

(´・ω・`)「にいちゃんのあほ!頭に直撃させたら牙回収できないじゃん!牙はお金になるのに!!」

(´・ω・`)「……あーあ、やっぱり牙折れてる」

('A`)(よく死体触れるな)キモチワルイ

(=ФωФ)ニャーン

('A`)「あ、にゃんこだ。かわいー」ヨシヨシ

(´・ω・`)「せいや」

           _∧_∧

        / ̄ (´・ω・`)⌒\ 
   __    /  _|     |   |
   ヽヽ   /  /  \    |   |           ,,,,,,,iiiiillllll!!!!!!!lllllliiiii,,,,,,,
    \\|  |____|   .|   |           .,llll゙゙゙゙゙        ゙゙゙゙゙lllll,
     \/  \       |   |           .|!!!!,,,,,,,,       ,,,,,,,,,!!!!|
     | ヽ_「\      |   |、         |  ゙゙゙゙!!!!llllliiiiiiiiiilllll!!!!゙゙゙゙ .|
     |    \ \――、. |   | ヽ         .|     .゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙     |
     |   / \ "-、,  `|  |  ヽ       |               |
  _/   /    "-, "' (_  ヽ  ヽ      .|               |
/    __ノ      "'m__`\ヽ_,,,, ヽ       |               |
`ー― ̄          ヽ、__`/ー_ ,,,, ゙゙゙゙!!!!!!!lllllllliii|               |
                    \゙゙゙゙゙゙゙!!!!!lllllllliiiii|               |
                      \   ヽ   |               |
                       ヽ   \  |               |
                        |     \.|               |
                        `ヽ、,,_ノ|               |
                              ゙゙!!!,,,,,,,,       ,,,,,,,,,!!!゙゙
                                   ゙゙゙゙!!!!llllliiiiiiiiiilllll!!!!゙゙゙゙



 叩きつけられる大槌
 長い柄により加速した大槌は、にゃんこの腹部をえぐりくぐもった鳴き声とともに内臓を飛び出させた

(=ФωФ)ニ゛ャア

(´・ω・`)「浅かった」

 腹が潰れ動けなくなったところにハンマーを落としとどめを刺す。

('A`)「なんで!」

彡(゚)(゚)「なんでって、ワイら護衛やしな」

 寄ってきたモンスターを数度蹴散らし森を抜けると小さな集落が見えてきた。

彡(゚)(゚)「見えたで、楽勝やったな」

('A`)「気持ち悪い」ハァハァ

(^)(^)「その荷物を渡したら終わりやから先に宿いっといてええで」

(´・ω・`)「やったー!」

(´・ω・`)「ごはんごはん!」

('A`)「食欲無い」ハァハァ

彡(゚)(゚)「だいぶまいっとるな」

(´・ω・`)「食べないの?」ムシャムシャ

('A`)「ええ、ちょっと……」

彡(゚)(゚)「そんなんで帰り大丈夫かいな」

彡(゚)(゚)「荷物ないとはいえ一人やぞ」

('A`)「え? 一人?」

彡(゚)(゚)「契約に書いとったろ? ワイらはここからツギノ町行くんやで。モトノ街には一人で戻り」

('A`)「そんな!!」

(´・ω・`)「へー、ツギノ町いくんだ」

彡(゚)(゚)「お前も確認しとけや! ほら、契約書のここに書いとるやろ」

('A`)(この世界の文字よめねぇ)

彡(゚)(゚)(あかん……書いとらんかったわ……)

彡(^)(^)「ま、ええか!」

読んでくれてサンクス
地の文消せなかったから読みにくくなります

 イチノ村を離れてドクオは一人で街に戻っていた。
 森は一本道。
 道に迷うことはないが木々が太陽の光を遮り、森の中はすでに日が落ちているかのような暗さだ。
 道が見えないといった暗さではないがドクオに心細さを感じさせるには十分だった。

ガサガサ

('A`)「ヒィ!!」

 物音が経つたびに足がすくむ。
 今のドクオにとっては風切り音すら恐怖の対象である。


 そんな中森に一つの人影が見えた。

('A`)(あっ、人だ!助かった!!)

('A`)「おーい!!」

((・))「……」ズシン

 その人影に近づくうちに奇妙なことに気が付いた。
 大きすぎる。
 小柄なドクオの倍、ゆうに3mは超えているように見える。
 太い手には丸太のような巨大なこん棒。
 頭には一本の角を備えている。
 それはドクオでも知っている有名な一つ目の巨人、サイクロプスであった。


 声を掛けてしまったためか、すでにサイクロプスはすでにドクオに気が付いているようである。
 一歩、また一歩とゆっくり近づいてくる。

('A`)「ま、まずい!」

 道は一本道。
 逃げようにもドクオよりはるかに巨大なサイクロプスが本気になれば追いつくのはわけないだろう。
 戦うにも武器はおろか防具すら装備していないドクオでは勝負は目に見えている。
 勝って切り抜けることなど不可能である。

((・))「オオオォォォォォ!」

('A`)「ひぃぃい!!」

 サイクロプスの雄たけび。
 どうやらこちらを見逃す気はないらしい。
 先ほどより速度を上げて近づいてくる。

 ドクオには森に隠れてやり過ごすしか選択肢がなかった。

('A`)(逃げきれない……見つからないように隠れないと)

('A`)(気配を[ピーーー]んだ……そう休み時間に寝たふりをするかのように静かになるんだ!)

('A`)(そうだ!俺はいつだって気配を殺して生きて来た!)

('A`)(こんな図体で界だけの一つ目に見つかってたまるか!!)


   ――スキル習得『気配遮断』

((・))「……」ズシン

 サイクロプスもドクオを追って森に入ってくる。
 地響きを鳴らしながら一歩、また一歩と近づいてくるその巨体はすでに視界に入りきらないほど大きなものとなっていた。
 対してドクオの頼みの綱は、今隠れている茂みのみ。
 相手からはこちらの姿は見えないはず……そう願うしかなかった。

 その願いは通じたようだ。
 サイクロプスはドクオの隠れている茂みを横切り森の奥へと進んでいく。

('A`)「よ、よかった。通り過ぎた」

 危ないところだった。
 一度は完全に捕捉されたが、森のおかげで切り抜けることができた。
 イチノ村に向かった時に遭遇した魔物とはけた違いの魔物だった。
 木を容易にへし折るような怪物なんて相手にはできない。
 今のうちにとっとと退散してしまおう。

((・))「……」ズシン

('A`)「は?」

 サイクロプスが背中をみせたことで完全に油断してしまっていた。
 なにかの拍子に振り向いたサイクロプスに捕捉されてしまったのだろう。
 サイクロプスはドクオに対し再び接近してきていた。
 サイクロプスとドクオの間に障害となるものはなく、すでにドクオは巨人の間合いの中である。

((・))「オオオォォォォォ!」

 振りかぶられるこん棒。
 ドクオには逃げる時間も手段もない。

「伏せなさい!!」

('A`)「へ?」

 咄嗟に地面にうつぶせに倒れるドクオ。
 その頭上をかすめて、乱入者がサイクロプスに襲い掛かった。
 乱入者が持っていた武器は、金属棒の先に棘のついた鉄球がついている武器、メイスだ。
 サイクロプスに横薙ぎの一撃が襲い掛かる。
 十分な加速のついた金属の塊は、サイクロプスが振った巨大なこん棒と激突し、勢いのままにこん棒を根元からへし折った。
 激突の衝撃を吸収しきれなかったサイクロプスは、その衝撃で体制を大きく崩す。
 
 乱入者はその隙を見逃さない。
 
 乱入者は身体を軸に回転し、さらにメイスを加速させる。
 こん棒をへし折っただけでは勢いを失わなかったメイスは、先ほどの一撃より破壊力を増して、再度サイクロプスに襲い掛かった。
 
 鈍い音が森に轟く。

 加速したメイスはサイクロプスの腹部を半ばまでえぐり削いだ。
 悲鳴のような咆哮を上げるも、既に抵抗する力はなく、腹の半分を失い支える力を失ったサイクロプスはそのままうずくまるように倒れた。
 
 その電光石火のような戦闘にドクオは声を上げるのを忘れ、なすすべなく打ち倒されたサイクロプスを見つめるしかなかった。

「これで終わり」

 止めとばかりにメイスがサイクロプスの頭部に叩きつけられる。
 既に動けななかったサイクロプスは為すすべなくその一撃を後頭部に受け入れる
 金属の塊と頭蓋が衝突し、再び鈍い音が響く。
 スイカのように割られ飛び散る肉片。どう見ても生きてはいまい。

ξ゚⊿゚)ξ「ふう、案外あっさり倒せたわね」

ξ゚⊿゚)ξ「って、ドクオじゃない? 一人で何してるの?」

 先ほどまでの戦闘がなかったかのように、軽い調子で声を掛けられる。
 メイスを持った乱入者は我が運搬ギルドのマスター、ツンだった。

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど。依頼者は別の街に行くから一人で戻ってたと」

('A`)「……はい」

ξ゚⊿゚)ξ「確かに一緒にモトノ街に帰るとは契約書には書いてなかったわ……私がちゃんと確認しとくべきだったわね」

 契約書に記載されていないことは守る必要はない。
 帰還の際に同行するとは一切書いていなかったため、一人で戻ることになったのは契約違反ではない。
 よってあの二人を恨むのは筋違い。
 恨むのであれば、うかつに契約をしてしまった自分になる。

ξ゚⊿゚)ξ「私が別の依頼で通り過ぎなかったら死んでたかもしれない。運がよかったわね」

('A`)「もし死んでたらどうなってたんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「蘇生屋に行くしかないわね。私、蘇生魔法なんてつかえないし」

ξ゚⊿゚)ξ「でもあなたは高額な蘇生料払うほどお金もってないし、死んだらそのままだったかもね」

('A`)「ひえぇ」

 ドクオを蘇生してくれるような知人はこの世界にいない。
 これからは死なないように逃げられるようにならないといけない。

ξ゚⊿゚)ξ「そういえばあなた丸腰なのね……」

('A`)「え? 運搬業って武器いるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「街の外では自分の身を守るために武器をもつのは常識よ!」

('A`)「でも、買うお金持ってないです」

ξ゚⊿゚)ξ「ふむ……それもそうだったわね」

ξ゚⊿゚)ξ「死なれたら困るし、出世払いでいいわ。帰ったら武器を買いに行きましょう」

('A`)「ほんとに!やったー!ありがとう!」

ξ゚⊿゚)ξ「別にあなたのためじゃないわ。私のギルドのためよ」

ξ゚⊿゚)ξ「サイクロプスぐらい倒せるようになってもらわないとね」

('A`)「いや、それは無理」

 振り返るとサイクロプスの死体が血で地面を黒く染めていた。
 止めの一撃のせいで頭は直視できないような有様である。
 死にたくはないがこのようなグロいものは見たくない。
 ましては自分の手で生物を[ピーーー]ことなんて想像もつかなかった。

 そもそもドクオにはツンのような動きなどできる気がしないのだが。

ξ゚⊿゚)ξ「……それにしてもなんでこんなところにサイクロプスがいたのかしら」

ξ゚⊿゚)ξ「これいいわね! あっ!こっちは新作かしら!!」

( ・∀・)「お、さすがいいところに気が付くねぇ!これはあの有名な剛腕鍛冶師が作った最新作!!」

('A`)「……」

 ドクオとツンはモトノ街に戻ったその日のうちに武器屋に訪れていた。
 目的はドクオが使う武器の選定。
 武器を買ってもらえるドクオは当然うれしいのであるが、問題はツンに連れられてきた武器屋にあった。

( ・∀・)「これなら鋼鉄製の鎧を着ている騎士だって倒せるよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「持ってみてもいいかしら!……うーん、この重さ!! いい仕事してるわ!!」

('A`)「……」

 見渡す限り鈍器しか置いていない。
 そう、ここは武器屋は武器屋だがメイス専門。
 ドクオが期待していた剣や槍などは現物はおろか文字すら見当たらない。

 厄介なのはツンが興奮していること。
 お金を持ってくれる相手に「俺、鈍器には興味ないんだ」とは言い出せず、ドクオは肩身が狭い思いをしていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ!これ面白いわ!持ってみて!」

('A`)「……はい」

 ツンが持ってるのは今まで見ていたメイスとは違い、棘のついた鉄球が鎖を介して柄とつながっているものであった。
 モーニングスターといわれるものらしい。
 鉄球を鎖でつなぐことにより打撃の間合いが広がり、相手にとっては受けにくい武器だが、恐ろしく扱いにくい武器である。
 名前と形が違うにせよ、鈍器は鈍器。
 ドクオにとっては興味のない武器であった。

('A`)(振り回すなら普通にかっこいい剣がいいな)

('A`)(まあ持ってみるだけならタダだし、試しに)

ズシン

('A`;)「……えっ?」

 ツンに手渡された瞬間、鉄球は重力に従うままに石畳の床へ落下した。
 低い音が静かな店内に鳴り響く。

ξ゚⊿゚)ξ「? どうしたの?」

('A`;)「え?、ちょっと……あれ?」

 改めて持ち上げようと何度も力を込めても鉄球は少しも持ち上がらなかった。
 恐ろしく重い。
 ツンは軽々と手渡してきたため、ドクオでも扱える武器と思っていたがそうでは無いようだ。
 そもそもツンはあのサイクロプスを軽々と打ち倒す化け物であったことを忘れていた。
 ただの女の子に見えるが、この分だとドクオと比べ物にならないほどの筋力がありそうだ。

( ・∀・)「もしかして筋力値足りてないのかな? ちょっとステータス見せてみて」

( ・∀・)「あー、やっぱりだ。うちの武器は筋力C未満は装備できないんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだったの?」

('A`;)「そんな店あんの!?」

( ・∀・)「ツンちゃんは最初っから全部装備できたから気づかなくても仕方ないね」

('A`;)「つまり、俺にこの武器は装備できないと」

( ・∀・)「この武器どころか店中のあらゆる武器が装備できないよ」

( ・∀・)「別の店で探してね」

ξ゚⊿゚)ξ「ど、どうしよう……私、ここ以外知らないんだけど」

( ・∀・)「うーん、残念だけど、うちじゃどうしようもないからね」

( ・∀・)「なんなら別の武器屋紹介するよ」

( ・∀・)「鈍器の良さをあんまり理解してないとこだけど、剣とか刃物の品ぞろえはなかなかだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「助かるわ! ありがとう」

('A`)「剣あるんだ! やった!」

ξ゚⊿゚)ξ「? あなた剣がよかったの?」

('A`;)「いや、その、メイスが悪かったわけじゃないんだけど……」

('A`;)「やっぱ、こう、あの、切れたほうが便利かなって……」

ξ゚⊿゚)ξ「? なんか歯切れ悪いわね」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、剣かぁ……私も詳しくはないんだけど、うーん」

('A`;)「な、何かもんだいでも……?」

ξ゚⊿゚)ξ「確か剣を装備するのって資格いるのよね」

( ´∀`)「うん、君じゃ剣は装備できないね」

 紹介された武器屋にきて早々に告げられた。
 まだステータスを確認しただけである。剣に触れてもいない。

('A`;)「な、なんでですか!?」

( ´∀`)「剣や槍は装備するのに適正かスキルなどの資格が必要なんだ」

( ´∀`)「素人が大きい刃物を扱うと危険だからね」

( ´∀`)「だから【剣技】スキルなどを持っていない人には売ることができないんだ」

('A`;)「うぅ!?」

( ´∀`)「資格がなくても装備できる刃物はあるよ。あそこから選んでほしい」

 店主が指さした先は、ショーケーズから遠く離れた店の片隅。
 あまり売れていませんよ、と言わんばかりに雑に飾られたナイフ群であった。

('A`)(か、かっこいい!!)

 しかし、先ほどまで鈍器ばかり見てきたドクオにとって、手のひら程度の大きさの刃であっても魅力的に見えていた。
 代わる代わる手に取り眺める姿はナイフに憧れている中学生のようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「やめときなさい」

('A`)「なんで!?」

ξ゚⊿゚)ξ「そこにあるのはシーフ系の職が対人用にもつ武器よ」

ξ゚⊿゚)ξ「リーチが短いから魔物相手からの自衛用には向かないわ」

 言われた通り、周りの武器とくらべ攻撃翌力はわずかしかないものばかりであった。
 対人用。そういわれるとこの小さな刃で魔物と戦える気がしない。
 ツンは運搬ギルドのマスターでドクオよりも遥かに経験があるのだ。
 ここはツンの意見を取り入れるべきだろう。

('A`)「でも、俺に扱える武器はここしかないって」

ξ゚⊿゚)ξ「それは違うわ!」

ξ゚⊿゚)ξ「確かにあなたに扱える剣は確かにその一角にあるものだけかもしれない」

ξ゚⊿゚)ξ「でも待って。限定されたのは剣だけ」

ξ゚⊿゚)ξ「これなら資格に縛られることないわ!!」

 ツンの手にはその辺のホームセンターにでも買えそうな大きめのトンカチが握られていた。
 どうやら鈍器を推したいだけのようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「攻撃翌力はそのナイフより2倍以上! 重量も軽く扱いやすい!」

('A`)「……地味」

 先ほど『魔物相手からの自衛用』といったことは忘れているのだろうか。
 柄が30cmほどしかないトンカチで魔物と渡り合える気はまるでしない。
 ゾンビ映画で小さなトンカチで戦おうとしているシーンを連想してしまう。
 当然だがその映画でトンカチは役に立たたなかった。
 これならバールなどの大き目の大工用具を買ったほうがまだ心強く感じるだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「? 反応悪いわね?」

('A`)「剣でお願いします」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだった……忘れてた」

ξ゚⊿゚)ξ「もう一回考え直しましょう」

 ツンは改めてナイフを一つ一つてに取り念入りに確認し始めた。
 しかし先ほどのトンカチは棚に戻されておらず、手に握られたままだ。
 よほど気に入ったのか、しきりに握り手を持ち替えたり、手首のスナップで軽く素振りをしている。
 はやく決めなければあのトンカチを使うことになりそうだ。

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、やっぱりここにあるのは弱いわね」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりこのハンマーが……」

('A`)「すみません! 魔物用に使える刃物ありませんか!」

( ´∀`)「え? 対魔物用ですか?」

( ´∀`)「お客さん、シーフ系の職じゃないんで?」

ξ゚⊿゚)ξ「なんでシーフなの? どう見ても運搬職でしょ」

( ´∀`)「なんでって【気配遮断】スキル持ってたんで……」

ξ゚⊿゚)ξ「へ? 誰が?」

( ´∀`)「誰って……この方が」

('A`)「俺?」

 ドクオの職業カード確認するとスキル欄に【気配遮断:B】が追加されていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとにスキル習得してるわね」

ξ゚⊿゚)ξ「このスキルって暗殺者とかのスキルよ? いつ覚えたの?」

('A`)「さぁ?」

ξ゚⊿゚)ξ「なんで自分でわからないのよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「まあいいわ。それよりシーフ用じゃない剣みせてちょうだい」

( ´∀`)「そうですね。シーフ職じゃないなら、このショートソードとかどうですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「普通ね」

( ´∀`)「普通です」

ξ゚⊿゚)ξ「もっといいのないの?」

( ´∀`)「これ以上は資格が必要になりますので」

('A`)「か、かっこいい……ッ!」

ξ゚⊿゚)ξ「はい?」

('A`)「これ!これにします!!」

ξ゚⊿゚)ξ「こんな安物でいいの?」

('A`)「これがいいんです!」

ξ゚⊿゚)ξ「ふーん……まあいいわ」

( ´∀`)「毎度あり!」

('A`)「やべぇ! かっこいい!!」

ξ゚⊿゚)ξ「……」


ξ゚⊿゚)ξ「……この値段だと一か月も働けば代金払えちゃうわね」

ξ゚⊿゚)ξ「逃げられないように別の手を打たないと」

(メール欄にsaga入れるといいよ)

面白い

>>41
ルール知らんかったわ
サンクス

>>42
頑張るわ

 初めての依頼を終えたドクオは通常のギルドの仕事をこなすようになっていた。
 ギルドですでに一週間ほど働いたが、 初めての依頼以降は一回も街から外に出ていない。
 買ってもらったショートソードは一度も鞘から抜かれることなく、すでに埃をかぶっている。

 しかしドクオには町外に出ていないことよりも重大な問題があった。


('A`)「戻りました」

ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ次はこれを案内所に届けて」

('A`)「……はい」

 配送が終わりギルドに戻って早々にまた仕事。
 休憩時間は与えられないようだ。

('A`;)(忙しすぎる! 自由時間が無いに等しい!)

 早朝から昼までは新聞配達などの定期便を、昼からは商人やギルド向けの荷物を運送している。
 荷物や宛先を問わない配送は、既にドクオだけでは消化できない仕事量となっていた。
 仕事をさぼって休むという思考のない変に勤勉なドクオは、肉体的・精神的に追い込まれて始めていた。

('A`;)(このままだと異世界で過労死する!! だれかにヘルプ求めないと)

('A`;)(というか、このギルド俺以外誰もいねぇ!! どうなってるんだ!?)

('A`)「届け物です」

(*゚ー゚)「お疲れ様です」

(*゚ー゚)「あら? この間案内所にきた」

('A`)「はい。ドクオです」

(*゚ー゚)「仕事続いてるんですね」

('A`)「ははは……きついですけどなんとか」

(*゚ー゚)「人少なくないですか?」

('A`)「はい。 ってなんで知ってるんですか」

(*゚ー゚)「人少ないから運送業に送り込んでますし、知ってて当然です」

('A`)「そうなんですか」

('A`)(このアマ、よくもこんな仕事紹介しやがったな)

('A`)「そういえば転職って簡単にできるんですよね」

(*゚ー゚)「はい」

(*゚ー゚)「ですが運送業がドクオ様にベストなのは変わらないです」

('A`)「いえ、俺が転職したいってわけじゃ……」

('A`)「それに選択肢があったほうが気が楽だと思うんですが」

(*゚ー゚)「運送業は今景気がいいのでよく考えたほうがいいですよ」

(*゚ー゚)「仕事がなくて困るよりはいいです」

('A`)「まあ、確かに」

('A`)「この世界にも慣れたし結果オーライか。冒険者なれそうにもないし」

(*゚ー゚)「冒険者諦めたんですか?」

('A`)「グロいのはちょっと苦手で」

(*゚ー゚)「血が苦手なんですか? たまにいますよね」

(*゚ー゚)「そんな人にはこのメイスがおススメです」

('A`)「なんで持ってるの」

(*゚ー゚)「メイスは剣などの刃と違って打ち合っても血が出にくい武器と言われてるんです」
(*゚ー゚)「相手を傷つけずに倒すことができる平和的な武器で、聖職者や位の高い人が好んで持ってるんです」
(*゚ー゚)「相手に血を流させたらいけない聖職者が使ってると知ると安心ですよね」
(*゚ー゚)「それにかっこいいです」

('A`)「いや、結構です」

('A`)「肉えぐれてましたし。血がドバドバ出てましたし。骨砕ける音がグロかったですし」

(*゚ー゚)「残念です……」

(*゚ー゚)「でも、血が苦手ぐらいで冒険者をあきらめるのは早計だと思います」

('A`)「そもそも俺のステータスじゃ無理じゃないですかね」

(*゚ー゚)「そのうち成長しますよ」

(*゚ー゚)「オタクのギルドマスターだって運送業なのに強いですよ」

('A`)「あれは人間じゃなくてゴリラでしょ」

(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「まあ気長に見てください」

('A`)「そうですかね」

(*゚ー゚)「それに今は大規模な魔王軍討伐で冒険者需要アリです」

('A`)「なんですかそれ」

(*゚ー゚)「? 運送業なのに知らないんですか?」

(*゚ー゚)「この街の近くに魔王軍幹部が一人陣取ってるんですが、その討伐のため近くの街から騎士や傭兵、冒険者を募ってるんです」

(*゚ー゚)「慢性的に戦力不足なので、加入は歓迎されてます」

('A`)「運送業関係ないじゃん」

(*゚ー゚)「運送はこの討伐で一番重要です」

(*゚ー゚)「今、この街に運送職の人がいないのは、この討伐のための物資を運んでるからなんです」

(*゚ー゚)「この物資運送で運送界はいまてんやわんやです」

(*゚ー゚)「あなたのギルドも今は人少ないでしょ?」

('A`)「なるほど、確かに。人がいないのはツンに人望がないのかと」

(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「討伐が終わったら人が増えて楽になりますよ」

('A`)「そうなのか」

('A`)「じゃあもうちょっと頑張ろうかな」

(*゚ー゚)「……」

(*^ー^)「はい! 頑張ってくださいね!!」

('A`)「とは言っても、今人が足りてない事実は変わらない」

('A`)「すでに俺だけじゃ限界だ」


('A`)「戻りました」

ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ次は……」

('A`)「ちょ、ちょっと待ってください!」

ξ゚⊿゚)ξ「? なに?」

('A`)「人を増やせませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「唐突ね」

('A`)「いやいやいや、唐突じゃないです。 全然人いないじゃないですか」

('A`)「俺一人だともう限界です」

ξ゚⊿゚)ξ「そう?」

('A`)「そうです!」

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、でも難しいかも」

('A`)「なんで?」

ξ゚⊿゚)ξ「実感ないかもだけど運搬業って地味なの」

('A`)「それは俺も思ってる」

ξ゚⊿゚)ξ「人気ないから人も入ってこないのよ」

ξ゚⊿゚)ξ「求人は出してるんだけど……」

('A`)「じゃあせめて仕事減らしてください」

ξ゚⊿゚)ξ「それも考えてる」

('A`)「仕事減るんですか!?」

ξ゚⊿゚)ξ「考えてるんだけどね。なぜか仕事が減らないの」

('A`)「なぜか?」

('A`)「とりあえず次の契約は断りましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。そのつもりよ」

ξ゚⊿゚)ξ「今日も人が来ることになってるから、そこで」

( ´Д`)「すみません。今日会う約束をしていたイチです」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょうど来たわね」

( ´Д`)「緊急で一週間以内に運送を依頼させてください。契約料は……」

ξ゚⊿゚)ξ「ダメよ。うちのギルドも忙しいの。ほかを当たって頂戴」

( ´Д`)「そうですか」

( ´Д`)「では契約料を上げます」

ξ゚⊿゚)ξ「人手が足りないの! 無理よ」

(;´Д`)「そんなこと言われてもこちらも困るんです!」

(;´Д`)「流通が重要なのはギルドマスターなら理解していただけるでしょう!」

ξ゚⊿゚)ξ「そ、それはわかるけど……」

(;´Д`)「運送できなくなると多くのお客様にも迷惑がかかるんです!」

(;´Д`)「ここで運送の契約が結べないと私はクビになってしまいます!」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなの?」

( ´Д`)「そうなのです! なので契約書にサインを」

ξ゚⊿゚)ξ「……仕方ないわね」


('A`)「ダメだこいつ」

ξ゚⊿゚)ξ「というわけで仕事が増えたわ」

('A`)「すみません。 別のギルドに異動します」

ξ゚⊿゚)ξ「待ってよ! お願いだから!」

ξ゚⊿゚)ξ「断れなくて悪かったと思ってるわ! でも仕方ないじゃない?」

ξ゚⊿゚)ξ「私も手伝うから! 一緒に頑張りましょう!?」

('A`)「……」

('A`)「お客にちょろいって言われてませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「い、言われたことないわよ!?」

('A`)「そうですか」

('A`)(このお人好しにギルド運営させてたら、契約を断るなんてことはないな)

('A`)(転職先も見つけてないし、ここでギルドをやめることは自殺行為だろう)

('A`)(これ以上労働環境を悪化させないためには……)

('A`)「次から契約の時は同席します。俺に発言させてください」

ξ゚⊿゚)ξ「わかった……」

ξ゚⊿゚)ξ「……ん? 次?」

ξ゚⊿゚)ξ「ギルドにいてくれるの?」

('A`)「そうですね」

('A`)「他に行くとこないし」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとう」

ξ゚⊿゚)ξ(こいつ、ちょろいわ!!)

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