ｼｬｷｼｬｷｼｬｷｰﾝ!



防犯カメラ「おおっ！？　手足が生えてきた！」

防犯カメラ「あっ、口もきけるようになってる！」

防犯カメラ「よぉし、これなら犯行を未然に防ぐことができるぞ！」

中学生「……」ｺｿｺｿ… ｻｯ

防犯カメラ「む、万引き発見！」

防犯カメラ「コラーッ、ダメじゃないか！」

中学生「ひえっ！　防犯カメラが動いてる！」

防犯カメラ「生徒手帳出して！　警察と学校とご両親に連絡するからね！」

中学生「それだけは……」

防犯カメラ「ダメ！」

強盗「さぁ、金を出しやがれ！」

店員「ひいい……！」

防犯カメラ「やめろ！」

強盗「うわっ！？　なんだ、このカメラ人間は……！」

防犯カメラ「このスーパーで犯罪はさせない！　――とあっ！」

バキッ！

強盗「ぐぎゃ！」

店長「いやぁ～、大助かりだよ、防犯カメラ君！」

店員「防犯カメラのおかげで、店が平和になったよ！」

防犯カメラ「防犯カメラとして、当然の務めをしたまでです」



防犯カメラは一生懸命働き、店の人たちも防犯カメラを褒め称えました。

ところが……



オタク「……」ｺｿｺｿ

防犯カメラ「む！」

防犯カメラ「おいお前、今なんか盗んだだろ！」

オタク「ふぇ！？　僕、なにも盗んでないよ！」

防犯カメラ「うるさい、カバンを見せてみろ！」

オタク「やめろぉ！　人権侵害だぁ！」

防犯カメラ「盗っ人に人権なんかあるか！」

オタク「ほらな！　何も盗んでないだろ！」

防犯カメラ「ぐっ……！」

店長「申し訳ありません！　うちの防犯カメラがそそっかしいことを……」

オタク「もう二度とこんな店に来るもんか！」ｽﾀｽﾀ

店長「万引きしたかどうかの判断は、もっと慎重にやらなきゃダメだよ！」

防犯カメラ「はい……」

防犯カメラ「コラッ、汚い手で商品にさわるな！」ﾊﾞｷｯ

子供「びえぇ～ん！」

母親「な、なにするのよ！　いきなり殴るなんて！」



防犯カメラ「お前のような怪しい奴は犯罪をすると決まってるんだ」

防犯カメラ「さぁ、出ていってもらおう！」

マスク男「俺は風邪ひいてるだけだぁ！」

店長「いい加減にしろ、防犯カメラ！」

店長「お客様から苦情がたくさん来てるぞ！」

防犯カメラ「しかし、私は防犯しようと……」

店長「過ぎたるはなお及ばざるが如しという言葉がある。君はやりすぎなんだよ！」

防犯カメラ「すみませんでした……」

防犯カメラ（くそっ、店の奴らめ）

防犯カメラ（俺が万引き犯や強盗を捕まえたことはもう忘れて、俺を厄介者扱いしやがって）

防犯カメラ（だいたい、無給ってのがそもそもおかしい）

防犯カメラ（俺は24時間働いてるんだ。店長より給料をもらったっていいはずだ！）

防犯カメラ（よぉし、レジから売上金を盗んでやれ！）

防犯カメラ（なぁに、少しくらい金が減ってたってバレやしねえさ……）

横領する警察官の心理だな

店長「防犯カメラ、ちょっと来てくれ」

防犯カメラ「なんですか、店長？」

店長「君、昨日レジからお金を抜き取っただろ？」

防犯カメラ「な、なんのことだか」

店長「しらばっくれても無駄だ。他の防犯カメラに君の犯行がバッチリ映ってるんだよ」

防犯カメラ「あ……！」

店長「防犯カメラが他にもあることをすっかり忘れてたようだね」

店長「今日からはもう、君はこの店にはいらない」

防犯カメラ「ま、待って下さい！」

店長「出ていってくれ」

防犯カメラ「あうぅ……」

スーパーから追い出された防犯カメラは、すっかりやさぐれてしまいました。



防犯カメラ（ちくしょう……あんまりだ）

防犯カメラ（一生懸命働いたのに、たった一度悪いことしただけでこれかよ！）

防犯カメラ（もういい……あんなスーパーにはこっちから愛想が尽きた！）

防犯カメラ（それどころか、“防犯”にすら愛想が尽きた！）

防犯カメラ（犯行を防ぐなんてバカバカしい！　これからは悪いことしまくってやる！）

それからというもの、防犯カメラは犯カメラとなり、さまざまな犯罪を繰り返しました。



犯カメラ「この映像、バラされたくなきゃ金出しな」

社長「うぐぅ……わ、分かった……」



犯カメラ「ねえねえ、このアイドルの盗撮ビデオ、買わない？」

ドルオタ「買う買う！　いくらだい！？」



犯カメラ「ひい、ふう、みい……今日も大儲けだ！　犯罪はやめられねえぜ！」

そんなある日……

犯カメラ「おい、そこのおっさん」

和尚「なんでしょう？」

犯カメラ「これから俺は、お前を撮影して悪質なコラ映像を作って世間にばら撒いてやる」

犯カメラ「それをされたくなかったら、金を出しな」

和尚「出しません」

犯カメラ「な、なんだと！？　お前、俺が怖くねえのか！」

和尚「いいえ、怖いですよ。ただし……」

和尚「怖いのは、あなたそのものではなく、犯罪に走るあなたの心です」

犯カメラ「あっ……！」

和尚「そして、あなたを犯罪に走らせてしまった今の世の中が恐ろしいのです」

犯カメラ「あああ……！」

犯カメラ「あんた……こんな俺を蔑むんじゃなく、受け入れてくれるってのか……」

和尚「仏は寛大ですから」

和尚「話してくれませんか。あなたの身に何があったのかを」

犯カメラ「はい……」

犯カメラ「ありがとうございます」

犯カメラ「おかげでスッキリしました……説法も身に染みました……」

和尚「それはよかった」

犯カメラ「あ、あの！　私、心を入れ替えました！」

犯カメラ「ぜひ私を出家させて下さい！」

和尚「かまいませんよ。では、私の寺に参りましょう」

犯カメラ「はいっ！」

こうして悔い改めた犯カメラは出家し、仏の道に入りました。

そして今では、各地を説法して回り、

「犯罪に走る気持ちすら起こさせないカメラ」を目指しています。



人々は彼を、尊敬を込めて≪坊さんカメラ≫と呼びます。



坊さんカメラ「犯罪に走る心を防ぐこと……これが防犯において一番大切なのです」







― 終 ―

乙
このSSで一番優秀なのは和尚だな

短いけどまとまってて面白かった

おつ
映画泥棒のあいつで脳内再生された

パントマイム師目指して上京したはいいけど金がなくて映画泥棒に走ったカメラマンさん思い出した

しかしながら、誰が見張りを見張るのか

>>21
おまおれ

だから最後は映画泥棒になるオチかと思った

今年の一番のSSだわ面白かった

面白い
乙

寺生まれのTさんかと思った