ウチの妹はめんどくさい (115)

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テス

すみませんちょっとトリップ失敗しました。
地の文あり、二万字程度で完結、他サイトで投稿済みのヤツ投稿します。
気が向いたら読んで素直な感想ください。辛口歓迎。


「お兄ちゃん手伝ってっ!」

「いやなにを」

 その時の俺は、自室のベッドに寝転びながら携帯をいじっていた。

 風呂上がりのラフな格好でバーンと俺の部屋にやってきた我が妹、愛華(あいか)。
 なんの脈絡もなく飛び出してきたその言葉は、かなり具体性にかける。

 とはいえ、別に驚くことではない。ウチの妹が思いつきで行動を起こすのはよくあることだ。
 その度に振り回されるのは愛華の周囲にいる人たち。つまりクラスメイトや友人、家族である。そしてその中にはもちろん俺も含まれていた。

「今度は何なんだよ」

 俺はのっそり体を起こしながら、愛華の方に向かい合う。
 
 彼女の顔を見てすぐにわかったが、何だか楽しそうである。
 機嫌がいいのが一目で分かった。

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 当たり前のように愛華は部屋に侵入してくる。
 もし俺が彼女の部屋に入ったら二秒と経たず蹴り出された挙句「だからお兄ちゃんはモテないんじゃないの?」と、割とマジなトーンで吐き捨てられる。

 愛華は使用されない勉強机の前にあるクルクル回るイスを引き寄せると、背もたれを抱きしめるように逆向きに座った。
 
「なんかいいことでもあったのか?」

「ふふ、実はねー、好きな人が出来たんだー」

「ほーん。それで?」

 何気なく聞き返すが、正直嫌な予感がする。
 もう高校生にもなる訳だし、妹の恋路だって……まぁ、気にならないと言えばウソになるが、俺が口出しすることじゃない。
 いや、問題はそこではなく、今から愛華が俺にいう内容が果てしなくめんどくさいという気がしてならないのだ。

「それでねー」

 愛華はクルクル回るイスで、自分もクルクル回りながら、恥ずかしそうに?に手を当てる。
 たぶん、これは本気で恥ずかしがっている訳ではなく、そんな風に装ってるだけだろう。
 ウチの妹にはこういうところがある。


 なんていうか一言で言えば、自分を可愛く見せようとする。
 この年頃の女の子であれば普通のことなんだろうけど(まぁ実際はどうなのか知らんが)、愛華はそれを極自然にやるからすごいと思う。
 俺ですらそれが素なのか演技してるのかよく分からん時があるくらいだ。

「その好きな人ってのが、お兄ちゃんと同じクラスの人なの」

「マジかよ」

 別に妹の恋路を邪魔する気はないが、それは何か嫌である。
 ハッキリと説明はできないが、なんか嫌だ。

「え、誰?」

 それでも気になる。ていうか、どのみち聞かされてしまうだろう。
 てか、既に愛華が俺に何を頼もうとしているのか分かった。

「知ってるでしょ? テニス部の藍坂(あいざか)先輩。
 だからお兄ちゃんにちょっと手伝ってもらいなって」

 あー、あいつね、あいつ。まぁ、悪い奴ではないし、別に止めはしないけど、なんかなぁ。
 あいつ天性のイケメンだからな。顔もトップアイドル並みだし、性格もいい。
 まるで少女漫画の正統派ヒーローみたいな奴で、逆になんかなぁって思う。

 派手好きの愛華が好きになるのも分かる。


「でもお前と藍坂に接点なんかあったか?」

 俺ですらたまに喋るクラスメイトという感じで、メアドはお互い登録してるが、メールを交わしたことは一度か二度だけだ。

「いやないけど?」

「は?」

「やだなぁお兄ちゃんっ、世の中には一目惚れって言葉があるんだよ?」

「あー……、あー、はいはい」

 りょーかいしました。
 可愛い妹のためなら何とやらですね。






「よっす藍坂」

「おぉ、どうしたの立花くん。珍しいね」

 翌日の昼休み、妹様の想い人たるイケメン間違えた藍坂光輝に話しかけてみる。ちょうどいいタイミングで一人で居てくれた。
 普段は関わることなんてない俺に話しかけれて、藍坂は意外そうな反応を見せた。

「あぁちょっと用事があってだな。話したいことがあるんだけど」

「うん、別にいいよ。それで、話したいことって?」

「あー実はですね」

 妙な言い方をする俺に、藍坂は不思議そうな顔をする。

 くっそ、イケメンだなこいつ。仕草の一つ一つが様になってやがる。俳優でもやったらいいと真剣に思います。

 って、そんな話じゃなかったな。
 
 俺は何というべきか、少しばかり悩んだ挙句、こう口を開いた。

「なんかウチの妹が藍坂のこと気になってるみたいなんだけど」

 もうぶっちゃけてしまおう。愛華にはもっと慎重にやれと殴られるかもしれないが、こういうのはズバッと言った方がスッキリするよね。
 こいつイケメンだし、こういうのは慣れているはずだ。





「妹さん? え、立花くんって妹いたの?」

 この反応である。当たり前だが認知すらされていない。

「知らないか。俺の妹とは思えないほど顔だけはいいから、割と一年生の間では有名らしいが」

「んー、あ、そういえば部活の後輩が、同じクラスに立花ってすごく可愛い子がいるって言ってたような、いないような」

 顎先にツンツン指を当てて、上目に虚空を見つめるイケメン。
 何だそれは。狙ってやってんのか。しかしどうやら天然ものだなこれは。あざとい妹を毎日見てる俺には分かる。

「それでですね。一度会ってみてはもらえないでしょうか?」

「うーん、難しいかな。部活の練習も結構忙しいし」

 ですよねー。
 うーん、でもウチの妹も中々可愛いと思うんだけどなー。

「あ、やっぱ彼女とかいたりします?」

「いや、今はいないけど」

 聞きましたかみなさん。『今は』ですって。やはり言うことが違う。しかも全然嫌味な感じじゃない。
 
「そこを何とかお願いします! ウチの妹もクソがつくほど自己中な点を除けば、割と可愛い美少女ですしっ! ……おすし」

 しまったつい本音が。
 て言うか何で俺こんな熱心になってんだろうな。
 妹に嫌われないようにお兄ちゃんは必至です。


「んー、じゃあ今度お昼を一緒に食べるくらいなら」

「おぉマジか。すげぇ!」

 俺すげぇ! 天下のイケメンとのお食事デートを取り付けてやったぞ、妹よ!

「マジでありがとうな」

「いや、妹ちゃんもすごく可愛いらしいから、ちょっと期待してね?」

 冗談めかして笑う藍坂。眩しすぎて失明しそう。

 あー、これは出来たイケメンですわ。

 ウチの妹にはもったいないかもなこれ。





「えっホント? おぉ、お兄ちゃんすごい!」

「ハッハッハっ、もっと褒めろ」

「きゃーお兄ちゃんカッコイイっ。藍坂先輩の方がもっとかっこいいけど」

 ですよねー。異論はありません。

 そして当たり前のように俺の部屋に居座ってる愛華。
 妹に部屋に居られると、やりたいことも出来やしない。

 え、何がやりたいのかって? 

 色々だよ。

「というわけで妹よ。お兄ちゃんは頑張った」

「うん偉い偉い。褒めてあげるよお兄ちゃん」


 何でお前は偉そうやねん。なんて愛華に突っ込むのは野暮ですかね。

「だから部屋から出てってくれ。お兄ちゃんは宿題をしなかければいけないのだ」

「やーだ」

 俺のベッドを占領して、枕元に俺の漫画を山のように積み上げながら、漫画に視線を置いたまま即座に言い放つ愛華。

 あの……ここ俺の部屋なんですけど……。

 しかもラフな格好で寝転んでるから、胸元とかへそとか思いっきり俺に見えてるし。
 まぁだからと言って何も感じないんだが。自分でもびっくりするくらい。

 兄妹なんてこんなもんです。

 でも、さすがに鬱陶しいのでお兄ちゃんも反抗してみます。

「胸見えてんぞ」

「……え、キモい」

 …………割とダメージが大きいなこれは。胸が苦しい。
 そそくさと部屋から逃げ出した俺であった。

 
 

流石に二万字一気にあげるのはキツイので、明日以降、少しずつ進めて行くつもりです。
今日はここまでにします。

はい


「どうしても好きなんです!」

 現在、俺は告白されていた。
 後輩の男の子に。

 身長は少し高め。体型は痩せてるな。髪は短くて、顔は中の上といったところか。中々可愛い顔をしている。

「で、ウチの妹のどこが気に入ったんだ。顔か、やっぱり顔なのか」

 いや、分かってますよ。彼がなんの目的で俺に近づいてきたかくらい。
 ウチの妹は罪作りだ。
 基本的に可愛い自分を作りたがるから、弊害としてこう言ったことがよく起こる。

「ま、まぁ、その。顔が可愛らしいのもそうなんですけど、この前、僕が日直当番で黒板を消してる時に手伝ってくれて、優しいなって……」

 ……胸が痛い。
 そんなことでコロッとやられる後輩くんも後輩くんだと思うが、ウチの妹がすみませんね。
 たぶんそれは、『私案外優しいところもあるよアピール』を君じゃなくてクラスメイト全員にしてたんだ。


「いや、でも愛華好きな人がいるらしいけど?」

「僕は構いませんよ! お兄さん!」

 いや君の感想は聞いてないよ。
 望み薄であることを遠回しに示唆してるんだよ。察せよ。
 ていうかお兄さんって呼ぶな。

 このくらいの情熱があるなら、本人に直接ぶつけてほしいと思う。
 まぁ俺も男だから彼の気持ちも分からなくはないんですがね。

「どうしたら許してもらえますか、お兄さん」

「待て待て待て待て、今スリーステップくらい話が飛び上がったぞ」

 言ったよね? 俺、愛華には好きな人がいるって言ったよね?
 中々面白い冗談を言ってくれる。

「まず愛華の許可を取ってこいや」

 彼のためにも一刀両断した。






 イケメン藍坂と妹のお食事デートの日がやってまいりました、俺同伴の。
 さすがにいきなり二人きりっていうのはねー、ということでその辺りは愛華も納得していた。

 と言うわけで、場所は食堂の外にあるテラス席。
 いつも通りの母親手作り弁当を持ち込もうとしたら、妹に止められた。

「やめてお兄ちゃん」

「何がだ」

「今日は普通に食堂のご飯食べよう。そうしよう」

「母さんの弁当は?」

「あとで食べればいいでしょ」

「いや俺はいけるかもしらんが、お前は大丈夫なの?」

「何言ってるの? 私の分もお兄ちゃんが食べるんだよ」

「え……? え?」



 そして藍坂と合流し、テラス席に座る俺たち。

「はじめましてっ、一年生の立花愛華です。お兄ちゃんがいつもお世話になってますっ」

 出ました。妹のよそ行きモード。兄じゃなくて、あえてお兄ちゃんって言うとこがやっぱあざとい気がする。……考えすぎか。

 愛華の声が、普段俺と話す時よりもワントーン高い。あと笑顔が眩しい。化粧に気合が入ってる。
 基本的にウチの妹はナチュラルメイクだが、今日のはいつもの五倍くらいナチュラルだった(何言ってんだ俺)。

 え、君どこのアイドル?

 白けた顔で眺めているのがバレたのか、グリグリと愛華に足を踏まれる。ちょ、痛いです愛華さん。

「立花だとお兄ちゃんとかぶると思うので、私のことは遠慮なく愛華って呼んでください。私、全然そう言うの気にしないので」

「愛華」

 それならさっそく名前を呼んでみる、俺が。
 さらに強く踏まれた。

 そんな俺たちの様子を見てか、藍坂がクスリと笑った。


「愛華ちゃんは立花くんと仲良いんだね」

「はい、とてもっ。ね? お兄ちゃん」

「ですね」

 しかしすげーなこいつは、全然物怖じしてねぇ。緊張とかないの?

「実は私、藍坂先輩が出てたこのまえの試合見てたんですよ」

「あ、アレ見に来てくれてたんだ。嬉しいな」

「はいっ、藍坂先輩のことは前から知ってたんですけど、そこで本当にかっこいいなって。私なんかが釣り合わないなって思ったんですけど……」

「いやいや、愛華ちゃんもすごく可愛いと思うよ?」

「ホントですかっ」

 その後もすげぇ自然に喋り続ける美男美女。え、お前ら今初めて会ったんでしょ?
 なんでそんなに会話続くんですか。しかも中々な豪速球投げ合ってるし。

 てか俺いらねぇなこれ。俺いらなかったな。胸がキリキリして気まずいだけです。


「ではあとは若いもん同士で」

 さりげなく席から立とうとすると、愛華に腕を鷲掴みされた。

「どこいくの?」

「いや彼女が待ってるから」

「は?」

 待ってその顔こわい。

「え、立花くんって彼女いたんだ」

「すみません見栄はりました。今までいたことすらありません。……いや待て。そう言えば、一回あるな」

 小学校三年生くらいの時に、告白されて付き合ったはいいけど、具体的に何をすればいいのか分からず自然消滅したよく分からない経験が。
 てか、これ彼女いたことあるって言えるかどうか怪しいな。見栄張ってる感が半端ない。

「え、私その話聞いてないんだけど」

 なぜお前に報告しなければならない。

 で、そのあと愛華が不機嫌になった。
 マジで勘弁してください。藍坂がなんか戸惑ってるじゃん、無駄にイケメンな苦笑してるじゃん。やめてよ。二人を紹介して引き合わせた俺の身にもなってください。


 そのあともランチタイムが終わるまで愛華は機嫌が悪くて、居心地の悪さが尋常じゃなかった。

 終わった後で藍坂に謝ったが、「気にしなくていいよ。本当に妹さんと仲良いんだね」と気さくな笑顔で言っていた。あなたは天使ですか。ウチの妹がすみません。




「やっぱりもういい。なんか違う」

「は?」

 自宅に帰ると、まだ機嫌の悪いままの愛華が俺にそう言った。

「藍坂先輩、確かにすごいカッコいいけど、なんか違うと思った。だからもういい」

「えぇ……」

 途中までめっちゃ楽しそうに喋ってましたやん……。ウラではそんなこと考えてたんですか。俺でも分からんかったよ。

 ……え、女の子ってみんなこうなの? 待って怖い。いやいや、うちの妹が少々あざとすぎるだけだよな。

「それより、ねぇ。兄ちゃんに彼女いたなんて知らなかったんだけど」

「いや、つっても小3の時の話だぞ」

 愛華が意外そうに目を丸くする。しかし、すぐにさっきの不機嫌な顔に戻った。いや、ちょっとだけ柔らかくなったかも。

「…………だれ?」

「いや、お前は知らんと思うぞ」

「教えて」

「絶対知らないって」

「いいから」

 愛華に急かされ、俺は渋々その名前を口にする。

 くそ恥ずかしいぞこれ、何の公開処刑ですか。いや別に公開という訳ではないか。


「そんな人知らないんだけど」

 だから知らんと思うっていいましたやん……。
 そう思うが、口には出さない。言葉にしたらまた機嫌が悪くなる。

 なぜに俺だけがここまで丸裸にされなければならないのか。
 愛華は以前にも何度か彼氏を作っているようだが、俺はそのことを知らなかった。

 友達にそのことを知らされたり、外で妹が他の男子と手を繋いで歩いているのを見た時の衝撃ったらない。
 俺が鈍感すぎるだけかも知らんが。
 家族は普通に気付いてたみたいだし。

「まぁ、ないとは思うけど、お兄ちゃんに彼女が出来たら教えてね」

「いやです」

「は?」

「いや、いやいやさすがに嫌だ」

 妹にそこまで縛られるのは流石に遠慮させてもらいたい。

「……」

 愛華に睨まれる。

 仕方ない、奥の手を使うか。そろそろ賞味期限も切れそうだしな。

「……実はこの前買った有名店のクッキーが隠してあるんだけどさ、食べる?」

「…………食べる」








「ねぇ、流石にちょっとハッキリ言った方がいいんじゃない? 愛華ちゃんのためにもさ」

 別に相談したかった訳ではないが、「最近愛華ちゃんどうなの?」と聞かれ、適当に話したらそう言われた。

 少し厳しい目つきで俺を見るのは、中学の頃から何かと縁のある相川。
 中学の頃から合わせて五年連続同じクラスとくれば、女子であってもそこそこ話すようになった。
 女友達と言えるかも分からない、微妙なポジションの女の子である。

 愛華とも面識がある。愛華は加奈のことめっちゃ嫌ってるけど。しかも理由が何となく気に入らないとかなり暴力的。

「ブラコンも大概にしないと」

「いや、でも俺もシスコンだし」

「そういう問題じゃないでしょ。愛華ちゃんの将来のためにも良くないと思うなぁ」

 やけに『愛華のため』というのを主張する相川。んー、愛華のためねぇ……。確かにそうなんだろうけど。

 うん、まぁ、あのまま愛華が大人になったら、かなりの悪女になるな。周囲の男たちは、振り回されること間違いなし。

「でもあいつ俺のいうことなんか聞かないぞ」

「聞かせるんだよ」

「え、なにそれこわい」

「あのね。真面目に聞いてる? ハッキリ言わせてもらうとね、愛華ちゃん、女の目から見たら相当嫌な子だよ」

 うーん、やっぱそうなのか。まぁ、あくまで相川の一意見だが。

「……ん、あれ?」

 携帯がないぞ。おかしいな、ちゃんと鞄に入れたはずなのに。

「ちょっと? おーい聞いてる? ってなにしてるの?」

「いや、携帯が行方不明なんだけど」

 そうと分かると落ち着かないな。現代人がいかに携帯に依存してるかと分かるいい例です。

「愛華ちゃんが持ってるんじゃないの」

「え? いや、何でそうなるんだ」

 しかし相川は冗談で言ってる訳ではないようだ。

 ……え? マジで?


 と、思ってたら普通に見つかった。奥の方にあったよ携帯ちゃん。

「悪い、普通にあったわ」

「なーんだ、紛らわしいことしないでよ」

「紛らわしいって……。流石に愛華もそんなことはしないだろ。俺の携帯なんか見てもなにも面白くないし」

「どうなんだろうねー」

 含みのある言い方をされる。意味深ですね。





「なんかお前の妹、彼氏できたらしいな」

「なんでお前が知ってるんだ」

 友人の高坂祐飛が、当たり前のような口調で言ってきた。

 衝撃である。

「え、知らない? さすがにウソだろ。結構な噂になってるけど」

「だってウチの妹、そういうことあんま言わないし」

「いやいやいや、別に俺だってお前の妹から聞かされた訳じゃねぇよ。普通、気付くだろ。俺が知ってるくらいだぜ?」

「うーん……」

 だって気付かないものは、気付かないからな。
 愛華の様子は、特段いつもと変わりないし。

 てかあいつ彼氏できたのか。とんでもねぇな。藍坂と昼一緒に食べたのがせいぜい一週間くらい前だぞ。
 どうやってるんだよ。マジで気になる。俺にも教えて欲しい。


「あのな。前々から思ってたけどさ、お前はもうちょっと周りのことに目を向けた方がいいと思うぞ」

「いや普通だって」

「普通ではない。じゃあ聞くけどさ、お前、相川さんがこの前告白されたって話知ってるか?」

「えええぇっ、マジ?」

 え、うそ、めっちゃびっくりなんだけど。相川は俺と同類だと思ってた。なんかショックだ……。

 てか、全然そんな素振り見せてなかったよな?

「いつの話ですか」

「二週間くらい前」

「わりと前ですやん……」

「たぶんクラスの半分以上は知ってる。なのに、いつも相川さんと喋ってるお前が知らないのはおかしいだろ」

「いや、近すぎる故に気づけなかったという可能性も」

 ほら、ドラマとかでよくあるやつ。

「てか、相手は誰なんだ?」

「俺」

「…………」

「ウソじゃないぞ」

「えええっ」

 真顔で言わんでくれるか。マジで死ぬほどビビったんだけど。

「え、え、……マジか、マジか、なんかショックだわ」

 ひとりで取り残された感が半端ではない。いつの間にみんなはそんなに進んでいたんだ。


「え、で、せ、成功したの?」

 心臓がドキドキ跳ねる。

「成功してたらお前に二週間も黙ったりしない」

「おおぅ……それはなんというか、ドンマイ。てか好きだったのか」

「お前に言われるとなんかムカつくな。マジで気付いてなかったのか」

「いや、なんかここの所。お前が相川と話してる姿見ないな、とは思ってたけど」

「それだよそれ。そこで察せ」

 無茶を言うな無茶を。さすがに無理があるだろ。

明日に続きます。

近親相姦ですか

近親相姦ではないです。






 本日、愛華が彼氏を家に連れてきた。

 史上初の出来事である。と思って、俺がソワソワしていたら、母さんが俺にとある事実を告げた。
 母さんの話では、以前にも連れてきたことがあるらしい。あ、それはまた別の彼氏ね。
 ちなみにその時の俺は外出していたらしい。
 なら気付かなくてもしょうがないか。

 そして、愛華に「お兄ちゃんは部屋から出ないで」と申しつけられたので、部屋で大人しくゲームをしている俺である。

 てか、そう言うくらいなら外出してた方がいいよな。
 俺は外に行くことにした。

 ガチャリとトビラを開けて廊下を歩いていると、愛華の彼氏くんと遭遇してしまった。
 トイレに行く所だったらしい。


 ちなみに彼氏くんは、愛華と同学年の一年生。なかなかのイケメンで、好青年を具現化したような男の子であった。母さんの機嫌がよかった理由が分かりました。

 軽く会釈してその場を無言で通り過ぎようとしたら、むんずと彼氏くんに腕を掴まれた。

 なんぞですか。

「あの、少しいいですか?」

「どうぞ」

「あまり僕の口からこういうことは言いたくないんですけど。
 少し愛華から離れてもらえませんか?」

 質問の意味が分からぬ。離れるも何も、同じ家に住んでるんだから無理ですよ。

「えー、何が?」

「とぼけるんですか? 愛華も迷惑してるんです。愛華が可愛いのは分かりますけど」

 うん、わかるわかる。


「流石に気持ち悪いです。高校生にもなって妹離れできない兄ってどう思います?」

 別になんとも。
 と、返すのはマズイだろうなぁ。

 返答内容に悩んでいると、彼氏くんはそれを沈黙と受け取ったらしい。
 別に正解ではない。

「だんまりですか? ホントは自覚してるんですよね。それって余計にタチ悪いですよ」

 彼氏くんに軽蔑するような目で見られる。

「今まではどうなのか知りませんけど、今は愛華は俺の彼氏です。少しは自重してください」

 言いたいことだけを言うと、彼氏くんはさっさとその場から去っていった。

 見た目と中身が随分と違う印象を受けた。


 あと一つ思ったことは、いくら愛華のためと言ってるとはいえ、初対面の年上にあそこまでストレートに言っちゃうような彼は、好きになれないと思った。
 愛華がいいならそれでいいけど、できればやめてほしいと思ってしまう。
 なるほど、こういうところを気持ち悪いと言われてるのか。納得。

 ……軽く傷ついたぜ。

 ウッと胸を押さえながら、俺は自室に逃げ帰った。


 自販機にジュースを買いに来たところ、相川とばったり出会った。
 自然と、一緒に教室に帰る流れになった。

「なぁ俺って気持ち悪いの?」

「なに、いきなりどうしたの。悟りでも開いた?」

「俺がキモいことがセカイの真理とでも言いたいのか」

 そう返すと、相川はクスクス笑った。
 笑ってもらえてよかったです。

「また愛華ちゃん関連のことでしょ?」

「ですね」

「なに、お兄ちゃんなんて嫌いって言われた?」

「義弟にね」

「そういえば愛華ちゃん彼氏できたんだっけ」

 今ので分かってもらえたか。察しのいいやつである。


「まぁ、あんまり気にしなくていいと思うよ。これからも多分同じようなことが続くと思うし」

「お前はエスパーか何かか」

「そうかもね。まぁしょうがないよ。立花くんが愛華ちゃんから距離置かない限り、そういうことは続くよ」

「うーん、悩みどころだな」

「流石自称シスコン」

 本気で呆れたように相川が言った。

「そういや。あー、やっぱりなんでもない」

「おいこら、そこで止めるのは卑怯だぞ」

「じゃあ言うけど、相川って祐飛に告白されたの?」

「……やっと気付いたんだ」

「えーまぁ、うん」

 気付かされたと言う方が正しいが黙っておく。

「どうせ気付かされたんだろうけど」

「やはりエスパーかお前」

「ふふ、すごいでしょ? 本当に気付かなかったんだね。私も、高坂くんも、愛華ちゃんもこんなに近くにいるのに」

 口調こそいつもと変わらなかったが、何故か責められているような気になった。


「……なんでそこで愛華が出てくるんだ」

「なんでだろうね」

 いたずらっぽく笑う相川。その瞬間、頭に衝撃と痛みが走った。

「痛い」

 振り返ると、そこにいたのはなんと愛華だった。

 一目で彼女が不機嫌であることが察せられた。

「なんでこんなとこにいるの?」

「居たら悪いですかい」

 と思ったが、俺に言った訳ではないようだ。

「ごめんね愛華ちゃん。でも別にお兄ちゃんを取っちゃった訳じゃないから」

「……なんでそう言う話になるの? 意味分かんない」

「あっ、だったらよかった。じゃあもうそろそろ授業も始まるし、早く教室に戻ろっか立花くん」


 そう言われてしまっては仕方ない。俺は相川の背中を追うように足を踏み出したが、グッと後ろから襟を引き寄せられる。

 待って今一瞬死の世界が見えたんだけど。

 ゴホゴホ咳き込みながら、俺は乱暴をやらかした愛華を睨む。

「お兄ちゃんはここに残って」

「……ゲホ、悪い相川。そう言うことらしいからさっきに行ってくれ」

「じゃあしょうがないね」

 特に気にした様子もなく、相川はその場を離れた。
 愛華はその背中をずっと睨むばかりで、俺に何かを話す様子もない。

「あの、愛華さん?」

「あの女のこと好きなの?」

「え? えー……、あー……、どうだろうなー」

 曖昧な返事をすると、愛華にさらに強く睨まれる。

 うっ、妹が怖い。

 そのまま無言の視線に耐えていると、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。


「おい授業始まったぞ」

「……お兄ちゃん。あの女だけはやめておいた方がいいよ」

 それだけ言うと、愛華は俺の足を踏みつけてからその場を去った。

「……はぁ」

 頭を掻きながら嘆息して、俺は教室の方に向かう。普通に遅刻で怒られるな、これは。

 すると廊下を曲がった所で、相川とぶつかりそうになった。

「チャイムに助けられたね」

「先に帰ったんじゃないんですか」

「立花くんだけが怒られるのは可哀想だからね。
 っていうのは建前で、あの愛華ちゃんがなんて言うのか気になっただけ。
 私、やっぱり嫉妬されてるみたいだね」

「みたいだな」

「ショックだな。なんか、まぁしょうがないのかもしれないけど」

「そうだな」


 相川は「んーっ」と、その場で大きく伸びをした。
 決して彼女は大きい方ではないが、そんなことを間近でされると強調されて困る。ちょっと透けてるし。

「こら、そう言う時はさりげなく目を逸らすの」

 バレバレである。

「愛華ちゃんに殺されちゃうよ?」

「それは困る」

 俺がそう返した時には、相川はすでに俺に背を向けていた。

「じゃあ、一緒に怒られにいきますか」


 ◯


「あ、あの、好きです。付き合ってください!」

 一人の女の子が、一人の男子生徒に告白していた。
 そんな光景を偶然見てしまった俺。

「え、と、あの。ごめん。君のことは嫌いじゃないけど……。うん、ごめん。俺、実は彼女いるし……」

 しかもフラれていた。


 衝撃を受けたような顔で、何も言えなくなった女の子。完全に固まっていた。リボンの色からして、彼女は一年生だろう。
 対する男子の方(こちらもたぶん一年生)は何度か「ごめん」と言いながら、逃げるようにその場を去って行った。

 えー、あー、うん。

 幸いなことに、まだ女の子は俺の方に気付いてないし、今のうちに離れよう。
 そう思って、ゆっくりと足を後ろに運ぶ。
 その内に、女の子がポロポロと涙をこぼして泣いているのを視界に入れてしまう。

 非常に後ろ髪を引かれるが、面識のない俺があの女の子に接触して事態が好転する可能性はあり得ないので、迷わず立ち去る。

 ごめんね、と、せめても心の中で思っておいた。ただの自己満足である。

続きはまた明日

期待

掴み弱いし話も冗長でだから何感がすごい

当て付けで男と付き合うのはNG

感想ありがとうございます。

>>45 ありがとうございます。

>>46 味のある文章を書きたいのですが、やっぱり難しいですね。冗長で申し訳ないです。よかったらこれも何かの縁だと思って、最後まで読んでやってください。

>>47 NGですか……。すみません、こういうお話なんです。











『ねぇ、わたしのこと、きらいなの?』

「……なんだこれ、え、マジでなに」

 携帯のメッセージツールに、なんだかよく分からない文章が送られて来た。
 相手はクラスメイトの女の子。

 以前に何度かメッセージを交換したことはあるが、大して交流のない子である。
 実際この三、四週間くらいも、ほぼ会話なんてしてない。
 現在でも、携帯でも。
 挨拶だけはしている。というか、しなければならないような雰囲気になっているから、してるけど。

 それがいきなり『ねぇ、わたしのこときらいなの?』に繋がるか?

 送り間違いか。

 『間違えてますよ』と返信しようとして、俺は踏みとどまる

 ……いや、待て。

 もしかしたらまた俺が気付いてないだけなのかもしれない。
 自意識過剰かもしれないが、もしかしたら彼女は俺ことを気になっているのかもしれない。
 いわゆる『あれ、こいつ俺のこと好きなんじゃね?』的な気持ちになってみる。



 ……思い当たる節がない。
 仮にそうだとしても、いきなりこんなメッセージを送ってくるのは違う気がする。
 送るとしても、無難なところで恋人の有無を尋ねるくらいだろう。

 では、その真意やいかに。

 分からないので、誰かに聞いてみることにする。

 さて誰に聞くか。
 こういう相談が適任なのは、誰だろうか。

 母親、相川、愛華、祐飛くらいか。

 母親と愛華はやめておこう。面倒なことになる。
 祐飛はどうだろうな。こういうの得意じゃない気がする。

 ここは基本的に何でもソツなくこなす相川に聞くことにしよう。

 電話しよう。


 携帯で相川の連絡先を探していて気付くが、何気に彼女に電話をかけるのは初めてである。

 数回のコールの後、彼女が電話に出る。

『あれ、珍しい。立花くんが電話なんて』

「ちょっと相談したいことがありまして」

『なにかな、聞いてあげよう』

 俺は諸々の事情を話す。

『なるほど。私に相談したのは立花くんにしてはいい判断だったかもね』

「それはどうも」

『でも、なんだかなぁ』

 悩むような相川の声が聞こえてくる。

「どうしました」

『ぶっちゃけて言うとね、立花くんが思ってることは当たってるよ』

 さらりととんでもないことを言ってくれる相川。
 一瞬思考が停止する。


「あー、えっとつまりそれは、俺は気になられていると」

 ちょっと信じられない。でも別に相川はウソなんてつかないしなぁ。

『そう言うことだね』

「だとしたら、あのメッセージはどう言う意味なんですか」

『そこなんだけどね。別に私も確信があるわけじゃないんだけど、』

 その時、バーンっと背後で扉が開く音がした。
 振り返ると、そこには無断で俺の部屋に入り込んだ愛華がいた。

「誰と電話してるの?」

「えー、相川?」

 そう言うと、愛華が眉をひそめる。

「ねぇ、ちょっとあの人と話しさせて」

『ねぇ、立花くん。愛華ちゃんにかわってくれない?』

 時間差で、ほとんど同じ内容を口にする愛華と相川。


 俺は「ど、どうぞ」と、素直に愛華に携帯を渡すしかなかった。

 そのまま携帯を耳に当てる愛華。

 その数秒後ぐらいに、愛華が俺に有無を言わさない視線を向けてきた。

「出て行って」

「はい」

 すごすごと自分の部屋から退場する俺。
 そのあと五分ほど、部屋の前で正座待機をしていると、中から愛華の叫ぶような声が聞こえてきた。
 完全にキレている時の口調だった。幼い時からなにも変わってない。

 バンッと爆発するような勢いで扉が開いた。鼻先をドアがかすめる。
 危なかった。あと一センチでも前にいたら即死だった。

 中から出てきた愛華は、携帯を手に持っていなかった。
 おい、どこにやった。俺のマイフォン。


「ねぇ、お兄ちゃん」

 思ったより落ち着いた口調で、愛華が俺にそう言った。

「私とあの女、どっちの方が好き?」

「……。あー、それはもちろん、恋人になりたいとか、キスしたいとか、愛してるとかの方の意味ではないよな?」

「当たり前でしょ」

 なに言ってるの気持ち悪いとでも言いたげな目で見られる。

「だったら愛華の方が好きだぜ」

「本当に? ウソじゃないよね?」

「俺はお前にウソをついたことはない。冗談はいうけど」

「じゃあ、どのくらい私の方が好き?」

「残念ながら相川のために死ぬことはできないけど、愛華のためなら死ねる」

「……わかった。私は別にそこまでお兄ちゃんのこと好きじゃないけど」

「なんだと」

「ねぇ、私ってかわいい?」

「宇宙一かわいい」

「……、わかった」

 愛華はまだ不満そうだったが、一応納得はしたようで、自分の部屋に戻っていく。


 俺は自室に戻ると、部屋の隅に投げ捨てられていた携帯を見つけ出す。
 よかった。まだ繋がっている。

「お前なに言ったんだよ」

『ちょっとね。あそこまで過剰に反応されるとは思わなかったよ。
 それで? 自称シスコンの立花くんは、愛華ちゃんに愛してるとでも言ってあげたのかな』

 なぜ相川は、そこまで状況を察することができるのか。
 本当に凄いと思う。きっと俺は一生かかってもこんな風にはなれない。

「残念ながら少し違うけど」

『なに、まさか結婚しようとか言っちゃったの?』

「アホか。そんなこと言うわけないです」

『だよねー』

 可笑しそうな笑い声が、携帯の向こうから聞こえてくる。


「なぁ、一つ聞いていいか?」

『何でもどうぞ』

「俺って、どうしたらいいと思う?」

『それは、立花くんのことを気になっているクラスメイトの女の子の話だよね?』

「……あぁ、そうだと思う」

『君の好きにすればいいよ。うまくやれば、人生で初めて彼女ができる。やったね』

「今まで彼氏がいたことのない奴に言われてもな」

『私は作らないだけだよ。その気になれば、恋人の一人や二人、簡単にできる』

「俺もそう思ってたよ」

 そう言うと、相川はまた可笑しそうに笑っていた。

 そのあと俺は、相川曰く俺のことを気になっているらしい女子に、ドキドキしながらこう返信した。

『別に嫌いじゃないよ』と。

 色々と複雑な気持ちだった。





 最近どんどん暑くなってきている。先日、梅雨入りしたとニュースで言っていたが、もう夏としか思えない。
 雨なんて全然全く降る気配がない。

 雨でも降らないかなー、と思いながら頬杖をついて窓の外を眺めていると、誰かが俺の名前を呼んだ。

 ふとそちらの方に視線を向けてみると、先生が俺のことを睨んでいた。

「そんなに外が気になるなら、走ってきたらどうですか?」

「すみません。ちゃんと聞きます」

 当たり障りのない謝罪を口にすると、先生は納得できなような顔をしながらも授業を再開する。

 その後の授業は、何度も先生に当てられることとなった。
 自業自得である。


 そういえば、業ごうというものは、その人が背負っている運命のことを言うらしい。

 詳しいことは知らない。

 が、しかし、いつだったか、その業というものは、前世での行いが関係してくると聞いた。
 前世で悪いことをした分、今世で背負う業は苦しいモノとなる。
 だからみんな来世で幸せな人生を送るために、清く正しい人生を送ろうとするらしい。

 自業自得というのは、そのあたりから来た言葉とのことだ。

 まぁ、だからどうという訳でもないのだが。

 前世や来世がどうであれ、今ここにいる俺は、俺である。
 今の俺がどんな行動をとってどんな人生を送ったって、それは俺の責任だ。

 まぁ、もしそれで来世の俺が苦しい人生を送ることになったとしたら、勘弁してもらうしかない。
 すみません、






「ねー、お兄ちゃんー」

「んー、なんだ」

 自室のベッドで寝転びながら小説を読んでいると、俺の足元でベッドに背中を預けて携帯をいじっていた愛華が気だるそうな声をあげた。

「あつい」

「あぁ、暑いな」

「ホントにあつい」

「暑いな」

「お兄ちゃん、どうにかしてよ」

「無茶言うな。扇風機で我慢しろ」

 愛華はクーラーが苦手なので、基本的にウチの夏は扇風機で乗り越えることになる。
 毎年のことではあるが、それでもやはり暑い。
 暑いものは暑い。

「そういやお前、休日なのにあの彼氏くんとは遊ばなくていいのか」

「んー、別に。暑いし、めんどくさい。なんかいろいろ言ってたけど、知らない」

「それでいいのか」

 いや、彼氏彼女の関係なんて、俺には全く分からないんだが。
 まぁ、そう言うものなのかもしれない。俺が口出しすることでもない。


「ねぇ、ホントにあつい」

「じゃあお兄ちゃんとプールでもいくか」

「絶対にいや」

 即答される。

「はぁ……、じゃあコンビニ行ってアイスでも買って来てやるよ。お前も来るか?」

「えー……、外出るのいや」

「じゃあちょっと行って来るわ」

 ベッドからよっと起き上がって、サイフを取り出す俺。
 その時、後ろから愛華の声が聞こえて来る。

「……まって、私もいく」




「あつい、あつい、……あつい」

 燦々とした日光が照りつける中、コンビニを目指してひた歩く。
 背後からは、呪詛のような愛華の呟きが聞こえて来る。
 お前は『あつい』しか言えない機械かってくらい、ずっと暑い暑い口にしている。

 その言葉には、俺を恨むような念がこもっているように思われる。
 君が付いて来るって言ったんでしょう?

 コンビニにたどり着くと、一気にひんやりとした冷気が体を包み込む。
 砂漠の中でオアシスを見つけた旅人の気持ちが分かった気がする。

 あぁ、天国はここにあったのか。

 そんなことを考えていると、愛華がくしゅんとクシャミをした。

「早く出るか」

「うん」


 よりどりみどりのアイスを眺め、そのうちの一つを愛華が指差す。

「これがいい」

「あいよ」

 二人分のアイスを持ってレジに向かうと、そこに見知った顔があった。

 我が友人の高坂祐飛である。

「お、偶然だな」

 祐飛と目が合うと、愛華が軽く頭を下げた。
 愛華と祐飛も、以前に面識がある。

「妹と休日にコンビニなんて、仲良いよな」

「そうか?」

 このくらい、普通ではないだろうか。
 愛華の方を見てみるが、特に彼女も変には思っていない様子。

 レジで会計を済ませて、コンビニを出ると同時に祐飛と別れた。

「お兄ちゃん、あの人とも仲いいよね」

「ん、まーそうだな」

 高校にいて、一番よく話すのはおそらく彼だ。

「他には喋る人いないの?」

「いや、いるよ」

「誰?」

「いや、言ってもお前は分からんだろ」

「教えて」

 コンビニから家までの帰り道。愛華と並んで、アイスを舐めながら歩く。


「お兄ちゃんと私って仲良いの?」

「いや、普通だろ」

 相川いわく、お前はブラコンで俺は自称シスコンだけど、それ以外はきっと普通である。





「お兄ちゃんって告白とかされたことないの? あ、その、小学校の時のやつ以外で」

「ない」

「一度も?」

「ナッシングだ」

「え、それって逆にすごいね。お兄ちゃんってそこまでモテないんだ」

 妙に楽しそうな笑顔で、キツイことを言ってくれる我が妹。

「分かってないなお前は。男なら告白はされるんじゃなくて、するもんなんだよ」

「じゃあ告白したことはあるの?」

「ない」

「なんか、すごいね」

「楽しそうだなお前」

「お兄ちゃんがここまで恋愛経験ないのが面白くって」

「かなり切実なんだよなぁ。果たして俺は結婚とかできるのかな」

 現段階では想像すらつかない。高校二年生男子って、こんなものなのだろうか。
 少子化の一端を垣間見た気がする。あくまで気がするだけ。

「別にしなくていいよ」

「なんつーこと言うんだ」

「別に私は気にならないし」

「でも母さんは泣くと思うぞ」

「私はちゃんと結婚するから」

「余計に哀れになるな」

「私は笑ってあげるよ」

「ひどい妹だなおい」

「宇宙一可愛いんじゃないの?」

「じゃあ宇宙で一番可愛いくて酷い妹だ」

続きはまた明日

こういう雰囲気、好きよ

>>65
ありがとうございます。そういった意見をいただけると、すごく嬉しいです。





 妹が友達を連れてきた。

 その友達ちゃんと目を合わせた時、俺は「あっ」と思った。

 いつだったか、男子生徒に告白して、見事にフラれた挙句泣いていたあの女の子である。
 かなり衝撃的な光景だったので、よく覚えている。

 しかし彼女は、あの時の光景を俺に見られていたということを知らない。

 俺がついつい友達ちゃんのことをジッと見ていると、彼女が戸惑った表情を浮かべた。

「あ、あの、わたしの顔に何か付いてますか?」

「え? いや、別にそう言うわけではないです」

 友達ちゃんは、ますます不思議そうに首をかしげた。

「ちょっとお兄ちゃん見つめすぎ。トモちゃんが可愛いのはわかるけどヤメて。気持ち悪い」

 どうやら友達はトモちゃんと言うらしい。隣にいた愛華に、蔑むような目で見られる。

 はいはいお兄ちゃんは退場しましょう。

「ゆっくりしていってね」とトモちゃんに声をかけてから、俺は立ち去った。

 なぜか背後からトモちゃんからの視線を強く感じたような気がした。
 気のせい、もしくは自意識過剰という可能性がとても高いが。





 ある日のこと。
 その日は空が薄暗く曇って、どんよりとした天気であった。

 午前中の授業が終わってからの昼休み、廊下を歩いているとトモちゃんとバッタリ出会った。

 一応顔見知りなので、軽く目礼してから通り過ぎようとすると、トモちゃんに引き止められた。

「あの、少しお話しさせてもらっていいですか?」

「え?」

 振り返って立ち止まると、トモちゃんは言うか言うまいかと迷ったような顔をしていた。

「お兄さんに、ひ、ひとつ、聞きたいんですけど。その、えっと……あぁ、ぅぅ」

 キョロキョロと視線を彷徨わせて、唇を震わせる。
 相当な葛藤が見て取れた。
 そこまでして、何を俺言おうとしているのだろうか。

 どうすればいいか分からない俺は、ただジッと待つことしかできない。


 そしてようやく、トモちゃんは決心がついたらしい。

「お、お兄さんって、好きなんですか?」

 いや、何を。

「……あ、愛華ちゃんの、こと」

「え? いや、そりゃ好きだけど」

 俺がそう言うと、トモちゃんは衝撃を受けたような顔になって、「や、やっぱりそうなんだ……」と呟く。
 ?に両手を当てて、少し顔を赤くするトモちゃん。

 絶対に何か勘違いされてるな。

「あの、愛華から普段どんな話聞かされてるのか知らないけど、たぶん君が想像しているのとは違うよ」

「へ?」

「いや、だから。んー、なんて言えばいいのかな」

 頭を掻きながら、何を言うべきか迷う。


「とりあえず俺は愛華のことは好きだけど、愛華は俺の妹だから」

「えー、と、それはつまり。お兄さんは愛華ちゃんの恋人とかではないんですよね?」

 どうしてそんな話になる……。

 まぁ、なんとなく想像はつく。というか、それしかないだろうが、きっと愛華がトモちゃんに話している俺の内容が原因だろう。

「ていうかあいつ、彼氏いるだろ?」

「あー、いましたけど。もうとっくに別れたって言ってましたよ?」

「は?」

 いつもに増して唐突ですな。
 どうせまた愛華の方からフったのだろうけど。

 それよりも今は気になることがある。

「あのさ、ひとつ聞きたいんだけど」

「はい」

「愛華って、普段俺のことどういう風に話してる?」

「えっ、と、それは、……」


 少しばかり逡巡してから、トモちゃんは話してくれた。

 トモちゃん曰く、俺はこの歳になっても妹離れできていなくて、愛華が彼氏を作ったことにも過剰に反応して、愛華のことが好きで好きで堪らないってような兄貴らしい。

「まぁ、別に間違ってはないな」

「え……」

「でも、別に俺は愛華に恋人ができても何も言わないし、愛華は好きだけど、だからどうという訳でもない。
 愛華は俺の妹で、きっとそれが全てなんだと思う。だから俺は何があっても、周りがどう思っても愛華を嫌いになったりしないし、愛華の側を離れることはない。ただそれだけのことだよ」

 そう、きっとそれだけで、それが全部である。

「何があっても……、ですか?」

「そうだね」

「なるほど……、なんか理解できた気がします」

「それは光栄です」

 納得したようなトモちゃん。

「お時間とっていただいて、ありがとうございました」

 トモちゃんはぺこりと頭を下げた。
 礼儀正しい子だ。


「愛華はすげぇめんどくさくて、わがままで、どうしようもない女の子だと思うけどさ、これからも仲良くしてやってほしい」

「はい、もちろんですっ」

 良い子だなと、素直にそう思った。

>>69 『?に両手を当てて→?に両手を当てて』です。
すみません、ちょっと見たらなんか所々おかしいです。

なんか『ほお』の漢字使えないみたいですね。
?に入るのは、ほっぺたの『ほお』です。

 窓の外には、見ているのものの気持ちを暗くさせるような雲が広がっていた。
 しかし教室の中は普段と変わりない。

「なぁ、相川」

「なにかな、立花くん」

 俺が相川に話しかけると、相川は何気なく振り返る。

「相川ってさ、好きな奴とかいるの?」

「それはいわゆる結婚したいとか、恋人になりたいとかの好き?」

「普通こういう質問をする時は、そういうことだろ」

「いや、立花くんがそんなこと言うのは珍しいと思ってさ」

「まぁ、そうだろうな」

「また、愛華ちゃん関連?」

「相川にしては珍しいな。ハズレだ。愛華は全く関係ない」

「それはそれは。んー、でも、そうだね。私は好きな人は、いないことになるのかな」

「そうか。ならいいんだけど」


「なになに? なんかあったの?」

 興味ありげな相川。その声はどこか楽しそうだ。

「いや、ちょっとな」

「もしかしてアレ? 田中さんのこと?」

「うーん、ある意味。そうかもしれない」

 しかし正解ではない。流石の相川でも、これは分からないのだろうか。

 田中さんとは、どうしてか俺のことを気になっているらしい女の子のことだ。
 最近よく話しかけられるので、本当にそうなんだろう。それを認めるのは、なんだか妙な気分だ。

「いやなの?」

「いやではない」

 いやなはずがない。むしろ、俺の手には余る。

「戸惑いが大きい」

「情けないなぁ」

 ごもっともです。


「理由がわからないんだよ。一体俺のどこを気に入られたのか」

「理由なんてなくていいよ。好きだから好き。それでいいよ」

 それでいいらしい。

「根拠は?」

「根拠はない。でも、それでいいのは間違いない」

「無責任だな」

「無責任ですよ。人間なんてそんなものです」

 相川が妙に深そうなことを言ったところで、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。

「まぁ、頑張りなよ。私は応援するからさ」

 何を頑張ればいいのか?
 その正体は分からなかったが、俺は相川に聞き返すことはしなかった。
 別に、今しがた先生が教室に入ってきたことが理由ではない。




「ねぇお兄ちゃん、今日は一緒に帰らない」

 ある日の放課後、俺が帰宅しようと昇降口に向かうと、俺の下駄箱の前に愛華がいた。
 相当驚いた。愛華が俺と一緒に帰りたいなんて言うなんて、小学生以来である。

「なんかあったのか?」

 何気なく尋ねると、愛華の表情がほんの少しだけ硬くなった。

「別にー? で、一緒に帰るの? 帰らないの?」

「じゃあ、一緒に帰るか」

「うん」

 俺は下駄箱から靴を取り出して、履き替える。
 その時、背後から視線を感じて俺は振り返る。

「ほら、お兄ちゃん早く」

 愛華に服の裾を引っ張られる。そのせいで、結局視線の主を見つけることはできなかった。
 まぁどうせ大したことじゃないだろう。俺は楽観的にそう思って、愛華と一緒に帰路に着いた。

 それが実はとても大したことであったと言うことに俺が気付くのは、次の日のことである。





 珍しく愛華と一緒に仲良く帰宅した日の翌日、俺は教室にて多くの視線を集めていた。

 現在の時刻は、授業開始の五分前。ほとんどのクラスメイトが教室内にいた。

 教室のど真ん中にて、俺は一人の女子生徒と向かい合っていた。

 本気で怒った口調で、人を殺す目つきで、俺は一人の少女に睨まれる。
 ほとんど喋ったこともない女子だ。ただ、唯一、俺が彼女について知っている情報がある。

 先日から俺によく話しかけてくる、何故か俺のことが好きであるらしい田中さんの親友だ。いつも一緒にいるのを見かける。

「あんたなんか死ねばいいのに」


 ドライアイスのように冷え切った言葉と共に、俺の?に熱が走った。
 彼女に平手打ちをされたのだ。いわゆるビンタというやつ。
 たとえ相手が女子でも、本気でやられると相当に痛いということを実感した。

 しかし、俺には訳がわからなかった。こんなことをされる心当たりがない。

 彼女にビンタをされた衝撃で、よろけた俺は隣の机に寄りかかる。
 マジで痛い。ヒリヒリする。

 と、その時、俺と彼女の間に人影が割り込んでくる。

「ちょっと待ってよ、流石に暴力はいけないんじゃないかな。話し合いもしてないのに」

 相川だった。
 田中さんの親友が、相川を睨む。

「相川さんには関係ないでしょ」

>>80 何度もすみません、?はほっぺの『ほお』です。


「十分関係あるよ。ここは私のクラスでもあるし、もうすぐ授業だって始まる」

 冷静に相川が告げた。興奮したままの彼女は、それを聞き入れる気配がない。
 また怒りが爆発して抑えきれなくなったのか、彼女は相川を押しのけてもう一発俺に平手打ちをかましてきた。

 バシンと乾いた音が響く。
 何故かクラスの男子たちから「おぉ……」と小さな歓声が上がった。
 他人事だなおい。俺がこんな痛みを受けているというのに。ふざけんな。

「ちょっと!」

 相川が咎める声を上げた。

 そこで俺は、クラスメイトの数名の女子たちも、ゴミを見るような目つきで俺を見ていることに気付いた。

 何かがあったのだ。昨日の放課後から、今日の朝に至るまでの間に。


 まぁ、田中さんが本日登校していないことと、田中さんの親友がここまでキレていることを考えれば、何となく想像できる気がする。あくまで気がするだけ。

 生憎俺は名探偵ではないので、事の詳細など推測できるはずもない。

 ちょうどそのタイミングでいつも通りのチャイムが鳴って、先生が教室に入ってきた。

 教室の真ん中で?を腫らしている俺と、言い争いをしている田中さんの親友と相川。
 それを囲むようにしているクラスメイトたち。

 そんな光景を見て、大方の事情を把握したらしい先生は、バンと強く教卓を叩いて、俺たちの注意を寄せた。

「事情は後で聞きますが、今は授業を始めます。みなさん席について」

 落ち着いた対応だった。

また>>83でほおが?になってますね、すみません。

続きはまた明日にします。

果たし状を妹が捨てたのかな?
妹は可愛いなあ


おつ

>>87どうして私のほおは変換できないんでしょうか……

それでは続き投下します。今日で終わりにするつもりです。


 何故、田中さんの親友の彼女があんなに怒っていたのか、ようやく理由が分かった。

 昨日、俺の下駄箱の中には、田中さんが俺宛に書いたラブレターが入っていたらしい。
 今更なんて古典的な、と思う。
 彼女が何を思ってそんな手段に出たのか、俺には分からない。

 ともかく、昨日の放課後、帰宅の際に俺が気付くようにラブレターが入れられていたらしいのだが、俺はそんなことは知らなかった。

 そして、ラブレターの行方ではあるが、別に不明になった訳ではない。
 そのラブレターは、ハサミか何かで細かく切り刻まれた状態で、田中さんの下駄箱の中にばらまかれていたらしい。

 そりゃ、ビンタされても仕方ない。
 相当に酷いことだと思う。
 しかし、もちろん俺はそんなことはやっていない。

 で、そんなことを出来る人物など、一人しか思い当たらないわけで、

「愛華ちゃんだね」

 相川が断言する。

「やっぱりそうだよなぁ……」

「だから言ったのに。愛華ちゃんはそろそろ兄離れするべきだって、ハッキリ言うべきだって」


「や、でも、こんなことになるなんて思ってなかったですし」

「本当に?」

「……」

「少なくとも私はいつかこんなことが起こるんじゃないかなー、って思ってた」

「まぁ、それは置いておいて、とりあえず俺が謝るべきだな」

 露骨に話をそらすと、相川が睨むような目で俺を見た。
 彼女にそんな目を向けられる機会はなかなかない。

「田中さんの家に行こう」

 現在は昼休み。
 先程まで俺たちは、田中さんの親友と話をしていた。
 俺がラブレターを切り刻んだ訳ではないと訴えたところ、完全に信じてくれた訳ではなさそうだったが、彼女も落ち着いてくれた。
 俺に平手打ちしたことは謝ってくれなかったが。
 そして、一旦話を終えて、今に至る。

 もうすぐ昼休みは終わり、午後の授業が始まる。
 田中さんは未だ学校には来ていない。
 行くなら今だろう。

「今から? 授業はサボるの?」

「まぁ、仕方ない。でも一つ問題がある」

「君がクラスメイトの女子の自宅なんて知ってるはずがないよね」

「正解。と言う訳で、お願いします」

 俺は頭を下げた。

「今度なんかお礼するから」


「別にそれはどうでもいいし、君が行くって言うなら案内してあげてもいいけどさ」

 相川はそこで言葉を区切った。沈黙が落ちる。

 俺は僅かに顔を上げて、彼女と視線を合わせた。
 彼女は俺の瞳をジッと見つめる。

「愛華ちゃんには、何も言わないの? 君も分かってると思うけど、今回の件、一番悪いのは愛華ちゃんだよ? こんな酷いこと普通の常識のある女の子なら絶対にしない」

「つまりそれは、愛華が人としておかしいって?」

「それは少し違うかな」

「何がだ」

「おかしいのは君も同じだよ」

 それを言われると辛いです。

「まぁ、それは今は置いておいて。普通に考えたら、愛華ちゃんも田中さんの家に連れて行って、謝らせるべきだと思うんだけど?」

 少し厳しい目つきで、相川が俺を見た。


「……えー、と。
 どうせ愛華に今からそんなこと言っても、多分やったことを認めないし、余計に面倒くさいことになるし、何より一番優先すべきなのは、なるべく早く俺が田中さんに会って話すことだと思うからって理由で、とりあえず俺たちだけで行きません?」

「まぁ、しょうがないね」

 分かっていたように、呆れたように相川は頷いた。





 学校を抜け出すなんて人生で初めてのことである。
 実際にやってみると、案外あっさりとしていた。

 田中さんの家に着いた俺と相川。俺がインターホンを押してしばらくすると、スピーカーから彼女の声が聞こえた。

「はい」

 俺が返事をすると、驚いたような気配が伝わってきた。
 俺は「話したいことがあるから」と言って、彼女に家から出てきてもらった。


「……あ、あの、どうして……」

 彼女は困惑していた。俺と相川を交互に見やって、地面に視線を下ろす。

「アレをやったのは俺じゃないって説明するために来ました。
 あと、ごめん」

 俺は頭を下げる。

 数秒ほどがとても長く感じた。視線をあげると、彼女のキョトンとした顔が見えた。

「じゃあ、私の、その、手紙にあんなことしたのは、」

「うん、俺ではない」

 そう言うと、彼女が目に見えて安堵した。
 しかし、すぐに疑問の目を向けて来た。

「じゃあ、なんで、謝るの?」

「……」

 俺は視線をそらした。ほとんど無意識だった。自分でも驚く。

 相川と目があった。
 以外にも彼女は普通の表情をしていた。俺を責めるでもなく、呆れるでもなく、ただ俺がどうするのかを観察するように。

 俺は振り返って田中さんと目を合わせた。

「あのさ、ごめん。手紙を切ったのは俺じゃないけど、それとは関係なしに、君の気持ちには答えられないって言うためにここに来た」

 ウソだ。

 彼女は目を丸くする。何が起こったのかよく分かっていないような顔だ。

 数十秒ほどの沈黙があった。


 田中さんが口を開く。

「そっか、分かった。……ありがとうね、わざわざ、学校までサボらせて」

 思ったよりずっと彼女はアッサリしていた。
 よかった。
 俺の気持ちも軽くなる。

 しかし、ただ漠然とした申し訳ない気持ちが消えることはない。

「じゃあ私は、これで」

 胸の前で小さく手を振って、少しだけ無理のある笑顔を浮かべて、彼女は家の中に戻って行った。





「田中さん、泣いてたね」

「え?」

 帰り道、ふと相川が呟いた。

「え、泣く?」

「……気付いてなかったんだ」

 その時の視線は、俺を責めるようであった。

「目、赤かった。私たちが来るまで、ずっと泣いてたんだよ」

 気付かなかった。

「あと、たぶん今も泣いてる」

 相川が言うならきっとそうなのだろう。
 なら、案外アッサリしているように見えたのは、俺の感違いだったのかもしれない。

「……」

「どうしたの?」

 相川が、不思議そうに俺の目を覗き込む。


「あのさ、俺がお前のこと好きって言ったら、信じるか?」

「もちろん、信じるよ。でも、恋人になってくださいって言われて、それをオーケーするかどうかは知らないけどね」

「……そうか」

「君はさ、私と愛華ちゃんのどっちの方が好き?」

「愛華」

「君ってバカなの?」

 相川は苦笑した。

「ただシスコンです」

「まぁいいや、じゃ、戻ろっか」


「あのさ、愛華」

「なにー、お兄ちゃん」

 俺の部屋で漫画を読んでいた愛華に、俺は話しかける。

「なんで俺の下駄箱の中、覗こうと思ったんだ?」

 そう口にした途端、愛華の表情の雲行きが怪しくなった。
 一口に言えば、機嫌が悪くなった。

「……私のこと、怒るの?」

「いや別に。ただ、どうしてあんなことをしたのかな、と」

「別に、……なんとなく」

 愛華は俺と目を合わせない。

「なんとなくで、やることではないだろ。さすがに、」

「知らない! そんなの私の勝手じゃん!」

 愛華は立ち上がって、俺をひと睨みすると部屋から出て行った。

 俺は頭を掻きながら呟く。

「間違えたかな……」

 なんとなく、すれ違う、食い違う、噛み合わない。

 俺は別に愛華を責めたいわけでないと言うのに。
 だが、今の彼女に何を言っても無意味だろう。






 友人の高坂祐飛が、気になることを言ってきた。

「なぁ、お前の妹って、最近どうなんだ?」

「は?」

 いきなり、どういうことだろうか。

「いや、ちょっとな」

 祐飛の顔色は複雑だ。

「実はさ、俺って昨日、午後の授業にいなかっただろ?」

「そうだな」

「保健室でサボってたんだけどさ、ベッドで寝てた」

「何やってんだよ」

「寝過ごして、気付いたら放課後になっててさ。そしたらお前の妹が保健室に来たんだよ」

 彼が言うには、カーテンの裏にいたので、愛華にはバレていなかったらしい。

「で、なんか画鋲(がびょう)を踏んだらしいんだよ。スゲー怒ってた」

「画鋲って……」


「普通にしてて、学校でがびょうなんて踏むことないだろ。構内ではスリッパ履いてるし。
 つまり俺が思うにはさ、」

 帰宅しようと、外靴を履き替える際に、その中に画鋲がはいっていたのではないか、と。

「まぁ、お前の妹、何かと憎まれてそうだし。俺の想像だけどな」


 その三日後には、かつての愛華の想い人、かのイケメン藍坂にこんなことを言われた。

「さっきさ、一年生の廊下で、愛華ちゃんと他の女の子たちが言い争いしてたよ」

 彼が言うことには、愛華とその級友らしい5、6人が喧嘩をしていたと。
 かなり激化していたらしい。その場は、藍坂が収めてくれたらしいが、今後のことまでは保証できないと言っていた。

「愛華ちゃんにも、注意してあげてね。ちょっと不安だからさ」

「ありがとう。恩にきる」






「ねぇ、お兄ちゃん。私のこと好き?」

 唐突だった。
 いきなり俺の部屋にやって来て、愛華は俺の目を見る。

「好きだよ」

「本当に?」

「マジだよ」

「どのくらい」

「宇宙で一番」

 愛華は俺の目の前にやってくると、両手を広げた。

「抱きしめて」

 俺は愛華の背中に両手を回すと、軽く力を入れた。

「……もっと」

 力を入れる。

「もっと」

 思い切り抱きしめた。

「もっと」

「もう無理です」

「お兄ちゃんって力ないんだね」

「それは悪い」

「お兄ちゃんはさ、私が嫌な女だって思う?」

「思わない」

「お兄ちゃんはさ、私のこと嫌い?」

「さっき好きって言ったろ」

「私のこと、嫌いにならない?」

「ならない」

「絶対?」

「絶対」

「ずっと私のそばにいる?」

「いる」

「じゃあさ、これから私以外の女と喋らないで」

「それは厳しい、ちょっと無理がある」

 俺がそう言うと、愛華が俺の背中に爪を立てた。


「痛いって」

「じゃあ、恋人は作らないで」

「お前は彼氏作ってるのにか?」

「私はいいの。でもお兄ちゃんはダメ」

「俺が結婚しなくてもいいのか、母さん泣くぞ」

「私が結婚するからいいの」

「いや、理由になってないって」

「ねぇ、お願い」

 愛華が腕に力を込めた。

「私だけのお兄ちゃんでいてよ」

「……」

「ねぇ、お願い、お願い、お願いだから」

 泣きそうな声だった。

「なに? お前って俺のこと好きなの?」

「……べつに、そこまで好きじゃない」

 数秒の沈黙が落ちる。

「ウソ、好き。だから他の誰かに取られたくない」

「ワガママだなおい」

「うん」

「めんどくさい妹だな」

「うん、知ってる。でも、お兄ちゃんはそんな私を好きって言うんでしょ」

「そうだな」

 本当に、自分でも呆れる。


「……じゃあ、一つだけ約束して」

「……」

「ずっと、お兄ちゃんの一番は私にして。私のことを、最優先にして。それでなら、ギリギリ我慢してあげる」

「それはどうも。分かった。約束する」

「……もし破ったら、どうなっても知らないからね。なんなら、ころしてやる」

「了解です」








「愛華ちゃん、また彼氏作ったらしいね」

「へぇ」

 相川がそんなことを話してきた。
 ちなみに俺はその事実を今知った。

「なんか中学生らしいよ」

「……あいつ、年下に手出したのか」

 相手の子には同情する。
 同情するだけで、特にどうしようとも思わないが。言うなれば自業自得だ。

「そういえば、君、愛華ちゃんに何かしたの?」

「何かってなんだよ」

「うーん、実はね。この前、愛華ちゃんに話しかけたんだけどね」

「マジか、大丈夫だったのか」

「それがね、普通に返事を返してくれたの。ちょっとぶっきらぼうだったけど、普通に会話できた」


「……」

 俺は驚く。愛華が、どれだけ相川のことを嫌っていたかを知っていたからだ。

「だから君が何かしたのかなって」

「何か、したんだろうな」

「ふーん。まぁ、知ってたけどね」

「さすがです、相川さん」

「ふふ、さすがでしょ」

 その時、カラリと音が鳴って、教室の扉のところに愛華が立っているのが見えた。

「ねー、お兄ちゃーん」

 間延びした声と共に愛華がやってきて、俺にこう言った。

「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」






 おわり。

これにて完結です。
少しの間でしたが、付き合っていただいてありがとうございました。
またいつかここに来ると思います。その時は、またよろしくお願いします。

もし質問等があるのであれば、答えます。12時過ぎたら、html化します。

これで終わりなのか

>>105これで終わりになります。やっぱり、ちょっと唐突でしたかね……。

>>106
これじゃあめんどくさいというかワガママで自分が寂しくならないように男を作るビッチ、そして兄がキープ要因みたいな感じにしか見えないな
妹が兄を独占しようとする理由とかがよくわからないから物足りなく感じる

>>107なるほど、そういう風に受け取られるんですか……。
私としては、このお話の兄と妹の関係は、単純な兄妹愛が他人からは少し歪んで映ってるだけ、みたいな感じを想定してたんですよね。
妹はビッチですけど、別に兄はキープではないです。

ですけど、そういうのを正しく伝えるのって、やっぱり難しいですね。痛感しました。
貴重な意見ありがとうございました。参考にさせていただきます。

それでは皆さんありがとうございました。html化します。

乙、実に物足りない。
途中で飽きたから辞めたと言っていい程にあっさり終わる…

話の雰囲気は嫌いじゃないし、独特な兄弟愛の物語ってのも伝わったけど、やっぱりもう少し掘り下げた方が納得のいく物語になったんじゃないかなって思ったわ

これからも頑張ってほしいな

なんだこの消化不良感は・・・乙

妹がどうしてもヤバいやつにしか見えないなんか執着する理由かエピソードなんかあったらわかるけど

でも面白かったから次も見つけられたら必ず読みます乙

兄も周りの人も微妙にズレたり歪んだりしてた結果妹がこういう独占欲を抱くようになったのかなと思った
モテモテだけど鈍感で自分を優先してくれる兄、外見だけでモテるけど自分を偽らないといけない妹自身で

ただこの理不尽なワガママがむしろ普通の子にも見える
めっちゃ甘やかしてくれる姉を持った弟的な

雰囲気が良かったのでまた書いてほしいです

近親相姦やん結局

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