【ミリマス】杏奈「3匹の子豚」 (12)

 3年前のある日のことです。杏奈ちゃん、志保ちゃん、星梨花ちゃんの3人がプロデューサーさんに呼び出されました。
 「なんだろう。なんでこの3人なんだろう」と3人は思いました。
 プロデューサーさんは、3人にこういいました。

 「3人にはユニットを組んでもらう。でもな。ユニットとはいえいきなりCDデビューは難しいだろう……だから、お前達には経験を積むためにラジオをやってもらう!」

 3人にとってははじめてのレギュラーのお仕事です。3人はとても喜びました。

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 ラジオをはじめてすぐに、先輩たちのバックダンサーのお仕事が入りました。可奈ちゃん、奈緒ちゃん、美奈子ちゃん、百合子ちゃんとも一緒です。
 はじめての大きなステージで、壁にもぶつかりましたが、先輩たちの力と、仲間達の力を借りて乗り越えることが出来ました。
 杏奈ちゃん、志保ちゃん、星梨花ちゃんの3人は一緒に練習をすることも多く、3人の息の合ったパフォーマンスに多くの人達がファンになりました。

 先輩たちのステージに立った3ヶ月ほど後に、志保ちゃんのソロデビューが決まりました。
 志保ちゃんは驚きました。杏奈ちゃんと星梨花ちゃんはもっと驚きました。
 志保ちゃんは女優さんを目指していたからです。
 けど、2人が驚いたのは最初だけでした。
 なぜなら、志保ちゃんは3人の中の誰よりも歌がうまかったからです。

 3人の活躍は志保ちゃんの歌手デビューだけに留まりません。
 志保ちゃんのデビューによって勢いがついた3人はアイドルユニットしてデビューすることが決まりました。
 3人のための持ち歌もでき、3人のアイドル活動はまさに順風満帆と言った感じでした。

 ユニットが決まってしばらくのことです。
 劇場の屋上にあるベンチで、杏奈ちゃんは空を眺めていました。
 今日は珍しくゲームもせず、ただ空を見上げていました。
 杏奈ちゃんの中にあるのは、一つの考えです。
 「杏奈も、ソロデビューしたい」
 同期の志保ちゃんは早くにデビューしましたし、星梨花ちゃんも、親友の百合子ちゃんもデビューが決まりました。
 志保ちゃんの歌唱力、百合子ちゃんや星梨花ちゃんの歌声は天性のもので、杏奈ちゃんから見ても自分にはないものがあると思えるものです
 それでも、杏奈ちゃんは歌うことが好きで、アイドルが好きで。どうしても、歌手としてデビューしたかったのです。
 デビューしたい。もっとレッスンしたい。早くデビューしてみんなと、いっしょに。
 杏奈ちゃんの頭の中身がもやもやでいっぱいになっていると。

 「杏奈?」

 杏奈ちゃんを呼ぶ唐突な声が、そのもやもやをかき消しました。
 急なことに思わず振り向く杏奈ちゃん。そこにいたのは、杏奈ちゃん達のユニットを担当するプロデューサーさんでした。

 「プロデューサーさん……」
 「珍しいな。杏奈がゲームしてないなんて」

 自動販売機を指さしてなにがいい? と尋ねるプロデューサーさんに杏奈ちゃんは少し考えていちごオレと答えます。
 いちごオレを手渡したプロデューサーさんがポケットを触ろうとして不意に手が止まります。

 「……タバコ? いいよ……吸っても……」
 「……すまんな。助かる」

 ポケットから取り出したタバコを口に加え、ライターで火をつけます。プロデューサーさんの口から白い煙がふわりと浮かび上がりました。
 例え風上にいても、隣に座っているとかすかに匂いはするものです。静香ちゃんや志保ちゃんには不評でしたが、杏奈ちゃんは不思議とプロデューサーさんの吸うタバコの匂いが好きでした。

 「それで。どうしたんだ? 杏奈がゲームも持たずにWi-Fiもないところにいるなんて珍しいじゃないか」
 「……プロデューサーさん。杏奈をなんだと思ってるの……」

 いちごオレを飲みながら杏奈ちゃんが答えます。呆れたような声でしたが、顔にはかすかな笑顔が浮かんでいました。

 「冗談だよ冗談。で、なんかあったのか?」
 「ん……ちょっと、考えごと…………杏奈、いつソロデビューできるのかなって……」
 
 無言の空間が2人を包みます。プロデューサーさんも薄々気づいてたのでしょう。ついに聞かれたかという顔をしています。

 「……実はな。杏奈がソロデビューするならどういう曲にするかもう考えてあるんだよな」
 「……え?」
 「……もう少し志保や星梨花に勢いがついたらって考えてたんだけどな。杏奈の歌声は2人にも負けない。このユニットのソロデビューの3人目として……大トリとして爆発できると思ってたんだけどな」

 そこでプロデューサーさんはタバコを灰皿に捨てて杏奈ちゃんと向き合いました。

 「すまん。杏奈の気持ちを無視してた。杏奈がソロデビューしたいなら……そうだな。今度のライブで発表しようか。ちゃんと杏奈のMCの時間をいつもより多く取るからな」

 とんとん拍子に話が決まったことに、杏奈ちゃんは驚きを隠しきれませんでした。

 「あの、ね……プロデューサーさん……そんなに、簡単に、決めていいの……?」

 思わず確かめてしまいます。なんせ杏奈ちゃんには、途中でこれはもしかして自分が見ている夢なんじゃないかって感覚がありました。
 そんな杏奈ちゃんの質問に、プロデューサーさんは答えました。

 「あのな? 杏奈。プロデューサーの一番大事な仕事は、アイドルの夢を叶えることなんだ。だからこれは無茶でもなんでもないよ」

 「今までずっと待ってた。おめでとう。やっと3人一緒ね」

 志保ちゃんの言葉に戸惑っていると、星梨花ちゃんが横から2人に抱きついてきました。

 「杏奈ちゃん、今までさみしくさせてごめんね。私も、志保さんと一緒でずっと待ってたよ!」

 2人の温かな祝福に、杏奈ちゃんの目尻に自然と涙が浮かびます。
 それを志保ちゃんはポケットに入れておいたハンカチでそっと拭き取りました。

 「泣くのはまだ早いから……って、前にも言った気がするわね」
 「そうだよ杏奈ちゃん! がんばってね!」

重なったのか、おめでとう
乙です

望月杏奈(14)Vo
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北沢志保(14)Vi
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箱崎星梨花(13)Vo
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